約 2,086,415 件
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/761.html
肌がちりつくような、変な感触がした。不思議に思って振り返ると、窓の向こうに赤い光が見える。火事でも起きたのかなと外を見てみたけど、街に変わった様子はない。赤い光はどこにも見えない。 「あれ、気のせいかしら」 「違う、気のせいなんかじゃない。今のは宝具だ。それも、かなり強力なやつだ」 女の子が真剣な表情で言った。ぶすっと突き出していた口は引っ込めて、狩人のような精悍さで窓の向こう、海を見ている。 「もう動き出した奴が居るなんて、もしかして俺が最後だったのか? くそ……っ」 窓に足をかけて飛び出そうとする女の子。わたしは彼女を後ろから抱きかかえて、持ち上げた。うーん、思ったよりずっと軽いのね、この子。 「こ、こら! 何をする! 放せ!」 「馬鹿を言うんじゃありません。お家がどこにあるのか言うまで放しませんよ」 「家なんて無いって言ってるだろう! いつになったら分かるんだ!?」 「大体逃げようとしても無駄ですから。さっきお巡りさんに電話したから、観念なさい」 「お……俺のことを喋ったのか!? 散々聖杯戦争について説明しただろう! 居場所を知られたら間違いなく襲われるぞ!」 わたしはため息をついた。この子はたっぷり強情で家の場所も電話番号も話そうとしないから、仕方なくわたしの家に連れて帰ったのだけど、ずっとありもしない空想ばかりを並べている。 「この街にはすごい仕掛けが張り巡らされてて、呼び出されたお話のヒーローや怪物が戦うんでしょう? うん、そうね。夢を持つのは悪い事じゃないわ。でも考えてみなさい。そんなすごい仕掛けがあるなら、誰も気付かないわけがないでしょう」 「そんなことまで知るか! 何か隠す仕掛けがあるんだろ!」 こういうとき一人っ子だと辛い。弟か妹がいれば宥め方もわかるんだろうけど、わたしは小さい子をあやした経験がまるで無い。どちらかというと、いつもわたしがあやされる側だったのだ。 そうだ。わたしがどうあやされてたかを思い出せばいいんだ。お母さんはどうやってわたしの相手をしてただろう。いつも、そう、一緒に動物と遊ぶことが多かった気がする。 ちょうどいいところに、塀の上を黒猫がモデルさんみたいにキャットウォークで歩いていた。 「あ、ほら。あそこに猫がいるわよ」 「……ああ。それで?」 それで、と言われても困る。でも他に方策もないから、もうちょっと粘ってみることにした。 「可愛いと思わない?」 「そうか?」 「あら、跳んだわ。バランスいいわよね、猫って」 「そうか?」 わたしはここで諦めた。やだなあ。最近は気温が下がってきてる気がする。 「で、猫の話は終わり?」 「……うん、そうかな」 「わかった。じゃあ聖杯戦争の話に戻そう。おまえは信じてないみたいだけど、すごく大事な事なんだからな。あんなどこにでも居るような猫よりずっと」 みゃー、と猫が鳴く。まるで女の子に抗議するみたいに、塀から降りて、わたしたちの方へ向ってくる。 「怒ったのかしら」 「まさか。妖怪ならともかく普通の猫が怒るなんて」 にゃー、と猫が鳴く。 「やっぱり怒ってるんじゃない?」 「あのな。猫がどうだっていうんだ。全然大事なことじゃないだろう」 なーご、と猫が鳴いて、ぐるんと頭が回った。 ええっと……回ったっていうのは、本当に回ったという意味で。黒猫の頭が時計の針みたいにぐるりと360度、一回転したのだ。 猫がそんなことできるなんて知らなかった。うん、知らない。もっと言うと、壊れた玩具みたいにケタケタ笑えるなんて、そんな猫なんてこのとき見たのが初めてだった。 猫は――― 1:『見つけちゃった、見つけちゃった』と女の人の声で喋った 2:『見ツケタ、見ツケタ』と機械の声で喋った 3:狼の声で吼えた
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/775.html
右も左もわからない。そんな状況なんだから、鉄人さんが協力してくれるのは嬉しい。夏海さんのことも放っておけないし、なにより……その、わたしとアーチャー二人だけだと揉めに揉めて、決まるものも決まらないし。 「わかりました、鉄人さん。夏海さんの安全はわたしも望むところです」 「じゃあ」 「ええ。よろしくお願いします」 鉄人さんが子供のような無邪気さで笑って、わたしの手を取る。ちょっと驚いたけれど、手をぶんぶんと振って返した。 けれど、つつがなく終わる条約締結。というわけにはいかなかった。アーチャーがむすっとした顔で、わたしの手を鉄人さんから引き剥がす。 「待てよ。俺がいれば充分だろう。こんな奴の手を借りることなんてない」 「嫌われてるなあ。僕はそんなに信用できないかい?」 「信用してないんじゃない。気に食わないんだ。仙道でもないのに、おまえは作り物みたいだ」 「―――そいつは参った。作り物だから嫌い……かあ」 声は穏やかだけど、温かくはない。春ののどけさではなく、しんしんと雪の降る冬、窓の向こうを見ているよう。外と中、どちらなのかはわからないけれど。 「アーチャー、作り物だなんて……!」 「本当のことだ」 「アーチャー!」 「……けど、嫌いなんて言ってない。気に食わないって言ってるんだ。俺はできるだけ自然のままにあるものの方が好きなだけだ」 「うん、そうだね。僕も、自然のままの方が好きだ。よくわかるよ、アーチャー」 鉄人さんがアーチャーに弱々しく微笑む。アーチャーはそれっきり目を閉じてしまう。でも通じ合っているんじゃないだろうか。納得してしまったから、二人とも黙ってしまったんだと思える。 「……アーチャー」 「考え直したのか?」 「直してないわ。わたしにもあなたにも、鉄人さんの助けは必要だと思う、わたしも鉄人さんの手伝いをしたいもの」 「そうか。なら、好きにすればいい。そいつが居た方が楽なのは確かなんだから」 そう答えてくれると思った。 「ありがとう、アーチャー」 「言っとくけど、俺は気が進まないんだからな。仕方なく諦めるんだ」 アーチャーはくるりと回って、わたしに背を向ける。不思議な子。 「僕は、ひとまず家に帰るよ。このまま動き回っても、夏海を見つけられそうにないし。もう心当たりなんてないからね」 「ふん」 「今夜みことちゃんを守るのは君に任せていいね?」 「当然だろう。今夜だけの話じゃない」 鉄人さんがお茶を飲み干して、ステッキを持つ。扉の先の夜の暗さに姿を消すその様子は、まるで舞台から下りる役者のようで。ひらひらと振られる手はじきに見えなくなった。 「問題はこれからね」 お母さんへの言い訳を済ませて、わたしは部屋に戻っていた。幸いにも、野良猫が入ってきて暴れたという釈明は簡単に信じてもらえた。機械人形の部品はいつの間にか消えていたし、争いに気付かれるようなことはないだろう。 「ちゃんと誤魔化したか?」 「ええ。言っても信じてもらえないし、お母さんが危ない目に遭わせられないものね」 「そうか。じゃあこれからのことだ」 「そうね」 「この家がばれたからには、ここに居るのは危険だ。どこかに隠れ家はないか?」 「隠れ家ってほどじゃないけれど、郊外にお父さんが書斎代わりに借りてるログハウスがあるの。しばらく街から離れて一人になりたいって言ったら、使わせてくれるって」 「よし、それはいいな」 「でも明日から二、三日がいいところよ。それまでに聖杯戦争って終わるかしら?」 「そんなことはわからない。後のことは後で考えればいい。ところで明日からってことは、今夜はここで寝るんだな?」 「ええ。それでね、その、ね」 わたしはアーチャーの肩に手を置いた。すこーしずつ押して、ゆっくりとベッドの端へ誘導する。 「ログハウスもそうなんだけれど、うち、ベッドが一つしかないの」 「ん? だから何なんだ?」 「だからね、一緒に寝ましょ?」 えい、世の流れに待ったなし。わたしは問答無用でアーチャーをベッドに押し倒した。我ながらけっこうな早業で布団を被せ、その中にもぐりこむ。アーチャーは目をぱちくりとさせて、それから猛烈な勢いで布団から飛び出した。 「ふ……ふざけるな! 誰がこんな!」 「えー、いいじゃない。アーチャーを床で寝かせるなんてできないもの」 「サーヴァントは寝る必要なんてないっ!」 「でも疲れてそうよ?」 「肉体の疲れは霊体化すれば消滅するんだ! 誰が一緒に寝るもんか! 早く魔力を切って、霊体化させろ!」 「魔……力?」 わたしが首を傾げると、アーチャーは顔を手で覆う。 「ああ、待て、待てよ。まさかおまえ、魔力も知らないんじゃ……」 「知らないわ。何なの、それ?」 「何で知らないんだ、俺を召喚したんだろう? 変じゃないか、今だっておまえからちゃんと魔力が送られて来てるのに」 「そんなこと言われても、ねえ」 「わかった。自覚がなく使ってるんだな。瞑想や祈祷のとき、変な力を感じるだろう? それをだな」 「変な力なんて感じたことないわ。瞑想はしないし、お祈りもちゃんとしたのは今日が初めてだし……」 「……何なんだ、おまえは。おかしいぞ。今まで目覚めてなかったものが、召喚するときに急に機能するなんてありえない」 「そうなの?」 「ひょっとして俺を呼び出す前に何かあったんじゃないのか? 霊に取り付かれるとか、薬でトランスするとか――あとは命が危ないような目に遭ったとか」 じわりとお腹に焼けるような感覚が広がる。忘れてたものが、こみ上げてくる。あ、やだ。どうしよう、何でだろう、目が潤んでる。 「お、おい。いったい何だ」 「なんでもない。なんでもないわ」 ぐるりと寝返りをして、顔を隠す。だめ、こうなると止まらない。何が悲しいのかもわからないけど、波は絶えずに襲ってくる。 「……くそ」 側の布団が沈む。背中があったかい。 「アーチャー」 「霊体化できないんじゃ、こうして休むしかないからな」 ほんとうに、不思議な子。あんなに小さくて可愛いくて、暴れん坊で、あんなに強くって、頑固なお父さんみたいで、無邪気で、現実の人間じゃないみたい。でも、ちゃんと人の温かさをしっかり持っている。 「ありがとう」 鼻をぐずつかせながら、手だけ後ろのアーチャーに向ける。 「ねえ、手をつないでてくれるかな?」 「……ああ、もう。どうにでもしろっ」
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/759.html
好きで好きで仕方がないことってあると思う。その人のことを考えるだけでばーっと脳に血が巡って、頬が熱くなってくるひと。 そうやって彼のことを考える、布団の中で、学校への坂を歩くとき、授業中にふっと。その全部がすごい幸せな時間だった。 顔を見るとそれだけで嬉しくて涙が出そうだった。わたしは涙もろいんだって、彼を好きになって初めて知った。 ―――だから、今は何も考えられなかった。 呆然と宙をさまよう視線。何かを見ているのが辛いのに、目を閉じることはもっと苦しい。広がる腕の痛みも、刺す足首の腫れも気にならない。 白衣のお姉さんが慰めるように肩をさすってくれた。お礼を言えたかどうかは覚えていない。 先生がわたしの怪我のことを言っていた。すぐに治るとか、運がよかったとか。 でも、そんなことはどうでもいい。わたしの怪我が軽かったのは当たり前だ。トラックが突っ込んできたとき、あのひとがわたしを庇ってくれたんだから。 病院の奥にある赤いランプ。彼はその先に運ばれていって、まだ戻っていない。 俺は大丈夫だよ、みこと。揺れる車の中、苦しそうな声で彼は言っていた。わたしの居ない方に向って、何度も囁いた。 先生に彼のことを訊いた。声が出るか不安だったけど、蚊が鳴くみたいな音が出てくれた。 大丈夫だよ。先生は言っていた。彼と同じように。 朝が来て、病院で別の先生の話を聞いた。 これから先、彼は起き上がることはない。目を開けることもない。そんなことを遠まわしに説明された。 迎えに来たお母さんと帰る前に、チューブに繋がれた彼を見た。 彼はよく笑っていた。苦労ばかり押し付けられても、湯たんぽみたいに温かくて、いつも優しかった。 彼のことが好きだって言うと、笑う人も居た。でも、わたしは誰よりも彼が素敵なひとだと思う。 彼は絶対に誰かを責めたりしない。叱ることも怒ることもあったけど、相手をぺしゃんこにするようなことはない。本当に強いひとなんだ。 そんなひとがもう笑えないなんて、信じたくなかった。 だから、かみさま。どうか彼を助けてください。 わたしは何日も裏手の神社で夜に祈った。風が飛ぶ中、目を閉じて、願いの橋が架かるのを待ち続けた。わたしにできることなら何でもしますからって。 『―――汝、願いの成就を欲する者か?』 地面の裏側から声が響く。 目を開けると、そこには救いの使いが待っていた。 ―――汝、聖杯の前に最強を証明せよ。されば祈りに手が届かん。 こうしてわたし、志那都みことは裏返った世界に身を投じることとなる。 日常全てがひっくり返るような道、その短く遥かな旅を共にする相棒と。 わたしの前に立っていたのは――― 1:荒野に迷う兄弟殺し 2:蓮の化身 3:祭り上げられた女王 わたしの前に立っていたのは可愛い顔をした女の子だった。線が細いっていうより、未熟で華奢な体をしている。たぶんわたしより年下だ。四つ、もしかしたら五つぐらい違うかもしれない。 何がなんだかわからないって、このことだと思う。その子は神社の拝殿の奥からきた。じゃあ本殿の中に居たってことになる。 でも、わたしはこの子を今まで見たことがなかった。神社は伯父さんたちが切り盛りしていて、わたしも時々手伝いに来る。本殿まで入れるような子が居るなら、紹介されていないのはおかしい。 「サーヴァント・アーチャー、ここに参上した。俺を呼び出したのはあなたか」 「さあばんと……ああちゃー……?」 「ああ、そうだ」 女の子は大人ぶった素振りで頷いた。しゃらん、と腕輪がきれいな音を鳴らす。 わたしが首をかしげると、女の子も一緒に首をかしげた。 「マスター。何か問題でもあるのか?」 「マスター……ねぇ。なるほど」 わたしは立ち上がって、拝殿に上がった。 女の子は口をへの字に曲げて、わたしを見上げている。結われた髪は艶があって、瞳は輝く黒曜石のよう。頬は桜の色の真珠、あごは職人技の工芸品みたいに繊細ですっきりした線だった。 やだ。この子ったら、ものすごく可愛い子だ。でも然るべきときにはちゃんと叱ってあげないといけない。 「こらっ、どうやって入ったの!」 「は?」 「勝手に入ったら駄目でしょう!」 「え……?」 「今回は大目に見てあげるけど、二度とやっては駄目よ。さ、帰りなさい。お父さんお母さんが心配してるわ」 「……はあ?」 「明日の学校が終わったら、また来なさい。そうしたら一緒に遊んであげる」 「…ああ?」 「家はどこ? 送ってあげるわ」 わたしが手を取ると、わたしが手を取ると、女の子は目を逆三角形にして、頬が真っ赤に染まった。柔らかいカーブを描く睫毛がすっと際立って、ああ、どうしよう、本当に可愛い。胸の奥がきゅーっと締めつけられる。 「ふ、ふざけるな! どういうつもりなんだ!?」 「どういうつもりも何もないわ。最近は物騒なんだから、夜遅くに女の子を一人にしておけないでしょう」 「な……俺は男子だぞ!」 「はいはい、そうね」 「後悔するぞ、マスター! 俺はアーチャーだぞ! サーヴァントなんだぞ!」 「うん、あーちゃーね」 みゃーみゃー騒ぐ女の子の言い訳を聞き流して、わたしは手を引いた。女の子はマスターとかアーチャーと連呼しながら、トテトテと付いて来る。 それにしても、一体何の『ごっこ』をしているんだろう。衣装まで用意して、すごい熱の入りようだなあ。 「俺はおまえに呼ばれて来たんだぞ!」 「女の子が俺なんて言っちゃ駄目でしょ。あと、年上の人をおまえって呼ぶのも止めなさいね」 「おーれーは男だーー!」 「夜中に騒ぐんじゃありません。めっ」 女の子は金魚みたいに口を開けて、それきり黙ってしまった。口を尖らせて、それから我慢、耐えろ、師父の教えを守らないと、なんて呟いていた。 わたしは笑いをかみ殺しながら、ぶつぶつ言う美少女を見ていた。柔らかい手がぎゅーとわたしの手を握り締めている。 あとで気付いたのだけれど、わたしはあの日以来初めて事故のことを忘れていた。事故からずっと北風が吹いて、つららが大きくなっていったわたしの胸の中。でも、このときは芯から包み込む温かさがあって、まるで冬の陽だまりの丘のようだった。
https://w.atwiki.jp/titanquest/pages/589.html
Shadowformed Band 日本語訳:シャドウフォームド バンド 性能 87% Energy Leech Resistance 20.0% Chance for one of following 132 Life Leech Retaliation over 3.0 Seconds 153 Energy Leech Retaliation over 3.0 Seconds +34% Life Leech +35% Energy Leech 6% of Attack damage converted to Health +52 Energy Required Player Level 34 解説
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/764.html
「あ、アーチャー! 助けて!」 家政婦さん型ロボットに両脇を抱えられて連れさらわれる中、わたしは必死で叫ぶ。子供に助けを求めるのはちょっと遺憾の意なんだけれど、背に腹は変えられない。でもアーチャーから答えはないし、わたしを助けに来てくれる気配もない。 「アーチャー!?」 『いや、無理でしょう。彼はずいぶんと、こう、どっぷり入ってしまう性格のようですから、助けを求めても気付くかどうか』 『あーゆうのを視野狭窄っつーんだよなあ。あれはもう、ブリンカー付き猪だろ』 「アーチャーーー!!」 『お。中々面白い表現ですな、我が主よ』 『そうかあ……?』 「アーチャーーーーっ!!!」 もう破れかぶれ。喉が痛いくらいに声を張り上げる。だけど、おかしい。こんなに叫んでいるのに、誰も家から出てこない。 『何をしようとムダです。こう見えても、この侍女たちにはちょっとした機能がついておりまして。普通の人間は彼女たちの周囲には注意を払えないのです』 「そ、そんなオカルトみたいなことは信じません!」 『いや、オカルトもクソもないだろ。街中にこんなのが闊歩してる時点で気付けよ。もう普通の理屈じゃないんだよ』 『ナイスフォローです、マスター』 「でも声は出てます!」 音には誰かが絶対に気付くはずだと言いたかったのだけど、男の声で話す侍女ロボットが返してきたのは笑い飛ばす鼻の音だった。 『そりゃ理屈だわな』 『ですがこの街自体が特殊ですからなあ』 「え?」 『異状をひどく感知しにくいようにできているのですよ、ここは。目的は……ま、想像できますが』 『ほんっとロクでもないことしてくれてるよ、あのジジイ』 「し、信じませんよ! 助けて、誰か、たーすーけーてー!」 ガンバ、みこと。自分で自分を励まして、助けを求め続ける。けれど団欒の光が灯るご家庭も、塾帰りの自転車もわたしたちを無視して行ってしまう。 誰も気付いてくれない。風景は何事もなく通り過ぎてゆく。公園で抱き合ってる男の人と男の人もわたしの声なんて聞こえないふりをして……あれ、待って止まって、続きが気になる。 ああ、やっぱり緊張感がない気がする。今のわたしは誘拐されてる最中なのに。 『いやあ、いい声ですな。苦しいでしょうが、骨折り損でよいなら続けて下さい。私たちは邪魔しません。どうぞどうぞ』 『十中八九ムダだろうけどなー』 「助けて! そこのワンちゃん!」 『ま、先ほど言ったように異常が潜みやすい街ですから。もしかすると私たちの知らない異常、私たちに気付ける人物も居るかもしれません。頑張ってみてください』 『きっと意味ないだろうけどなー』 「たぁーすぅーけぇーてぇー! そこのお兄さーーーん!」 もう意地だけでわたしを怒鳴り声を吐き出していた。返事や反応なんて期待していなかったと思う。でも不思議なもので、そんなときになって初めて、わたしの言葉に答えてくれるひとが現れた。 「ん、ああ、いいよー」 からんころんと下駄が鳴る。甚平を着た男の人はちょっとそこまで煙草を買いに行く、そんな気軽さで走る侍女ロボットの前に立ちはだかった。手にしている時代物のステッキが地面を叩く。 『な……なんですと? どうして』 侍女ロボットは二人、じゃなかった、二体とも立ち止まる。帰り道で誰も居ないと思って大声で歌ってたらアンコールされたみたいに。 「ふーむ。見た感じは家出娘を連れ戻るメイド二人ってところだけど……どうも違うか」 『ち。キャスター、なんとかしろ! でも街の人間っぽいから殺すなよ!』 『任されました』 侍女の片方がわたしから手を離して、甚平姿の男の人に向う。 『一応忠告しておきますと、この侍女めは普通の人間の数倍の腕力を誇ります。怪我をしたくないのなら、家に帰ることをお薦めしますぞ』 「いやー。誘拐現場を黙って見てるわけにはいかないよ」 『では仕方がありませんな』 侍女のミニスカートがたなびく。急発進した彼女が、立ち止まったままの男の人とぶつかる。誰かが車に撥ねられる映像がわたしの頭の中に蘇り―――吐き気を堪えようと息を止めたときには、侍女の腕がぼとりと落ちていた。 『は……?』 男の人と侍女はぶつからなかった。衝突の直前、舞う落ち葉のように身をかわしていた。すれ違ったときに侍女の腕が落とされている。 そしてもう一度、今度は男の人から侍女に近づく。腕が一振りされ、ステッキに隠されていた白刃が侍女の胴体を二つに割る。金属の部品が零れて落ちて、それに続いて外殻ががしゃんと転がった。 「さて、ゴーレムの主よ。一応聞いておきたいんだが」 男の人はのんびりとした動きでわたしたちの方を向く。その様子は肉食獣に重なって思える。 「女の子を知らないかな? 帰りが遅くて気になっててね。髪は肩ぐらいまで、身長は百六十ちょっと、細身で、肌は焼けてる。多分、高校の制服を着てるんだけど」 「……もしかして」 「やあ、君は知ってるようだね。それで、そっちはどうかな」 『し、知らない』 「そうか。なら、用は無いな」 つかつかと男の人は近づいて、透き通った輝きを放つ刃を振り下ろす。わたしの腕を掴んでいたロボットは縦に割れて、地面に崩れ落ちた。男の人はにっこりと笑った。 「平気かい?」 「は、はい」 「僕の名前は蔵馬鉄人。君の名前は?」 「志那都……みこと、です」 「よろしく、みことちゃん。じゃあ、話を聞かせてもらえないかな」
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/774.html
アーチャーは背もたれにお腹を預け、椅子を揺り篭みたいにガタガタと揺らしていた。お行儀悪い事この上ないけれど、それには理由がある。どうもこの子、鉄人さんのことが好きじゃないみたいで、見るなり殴りかかろうとしたのを止めるのは大変だった。 「こんな奴は蹴り飛ばしてしまえばいいんだ」 「やあ、それは怖いなあ」 「こら、そんなこと言わないの。わたしのことを助けてくれたのよ」 「くそ……」 なおも揺れるアーチャー。我関せずと、ゆっくりお茶を啜る鉄人さん。せっかく我が家の居間に戻れたのに、空気は殺伐としている。ええい、このままじゃダメだ。お母さんが帰るまでに決着をつけないと。 「ええと……一つずつ整理しましょう。まずはアーチャーの言う聖杯戦争のことだけれど」 「なんだよ。あれだけの目に遭っておいて、まだ信じられないのか」 「当たり前よ。魔法使いって、そんなことを信じられるわけないでしょう」 「魔法使いじゃない。魔術師だ」 「どっちだって構いません。とにかく、本当のことを説明しなさい。話せないところは話さなくてもいいから」 「最初から本当のことしか言ってない! いい加減に信じてみろ!」 「だから信じられないって言ってるでしょ!」 「あー、あー、ちょっといいかな?」 熱くなった二人の間に鉄人さんが湯呑みを両手に割り込んでくる。一つをわたしに、もう一つをアーチャーの前に置くと、飲みなさいと促される。わたしはしぶしぶ湯気の立つお茶に口をつけた。 「みことちゃん。魔術だとか魔法だとかって思うから信じられないんだよ」 「どういう意味です?」 「今夜起きたこと、君の知る常識で説明できるかい? 映画の中やお話の中じゃなく、現実の話として」 「え……と、それは」 「できないだろう? だから、まず常識の外にあるもの、その未知の技術の実在を認めるんだ。魔術だと思わなくてもいい。アーチャーはそう呼ぶかもしれないけど」 現実離れ、非常識。今夜のできごとはそればかりだった。機械人形も、それを倒しちゃうアーチャーの、鉄人さんの凄さも。これが全部わたしを騙すための仕掛けじゃないって言うなら、未知の技術を認めるしかない。 冷静に考えればそうなのだけれど、でも信じがたい気持ちは残る。どこまで信じていいのかもわからない。 「しかし、聖杯戦争か。長くここに住んでるけど、そんなものには気付かなかったなあ。殺し合いの儀式だもんなあ。おまけに英霊かあ。妙な街になってしまったとは思ってたけど、うーん」 「……なんだ、おまえは信じるのか」 「まあね、アーチャー。僕が一般人じゃないことはよくわかってるだろ?」 「当然だ。普通の刀はゴーレムをあれほど見事に切れない」 「ま、そういうことだね」 ずずず、と鉄人さんが湯呑みを傾ける。アーチャーはちょっぴり口を付けては舌を出して冷ましている。きっと猫舌なんだろう。 「鉄人さんも、聖杯戦争のことを信じろって言うんですね」 「みことちゃんが混乱するのは当然さ。普通に生きてきた人が急に信じることはできないだろう。だから今は疑ってても構わないんじゃないかな。その代わり、アーチャーのことを信じてあげればいい。君の事を守ったのは事実なんだろう?」 「……矛盾してませんか、それ」 「してないよ。じゃあ単刀直入に訊くけど、君はこの子を信用できないのかな?」 わたしはアーチャーの顔を見た。湯呑みにふーふー息を吹きかけていたアーチャーがわたしを見返す。こんな子が元英雄、英霊とかいう存在だなんて信じられない。 けれど、この子は綺麗な目をしている。美しいとかそうじゃないって意味じゃなくて、本当に綺麗な目。 信用してると言えるのかは自信がない。でも一つ確かなことがある。わたしはこの子が好きだ。それに、きっと信用したいんだと思う。 「Ok、わかりやすい表情だね」 「でも……」 「わかってるよ。聖杯だの何だの、その辺りを今は信じなくてもいい。だろ、アーチャー?」 「そんなことあるか。信じてもらわなきゃこま――」 「あんなこと言ってるけど、アーチャーもそれでいいと思ってるんだ」 「思ってるんですか?」 「思ってない! 俺は――」 「大事なのは、君が命の危険のあるものに巻き込まれたってことだ。そして、君が身を守るにはアーチャーと協力するしかない」 アーチャーもわたしも口を閉じる。 人形に襲われたとき、わたし一人じゃ何もできなかった。殺されはしなかったけど、殺されそうになっても逃げられなかっただろう。だから鉄人さんの言うことに反論はない。 「わかった。俺はそれでいい」 「わたしも、わかりました」 「よし。じゃあ、この話題はひとまず終わりだ」 鉄人さんがわたしの湯呑みにお茶を注ぐ。アーチャーは注ぎ足されそうになったところで、自分の湯呑みをさっと隠した。 「次は夏海のことなんだけれど」 高波夏海、さん、はわたしのクラスメイトの女の子だ。鉄人さんは彼女の遠縁の親戚で、彼女のお祖母さんが心配してるから探しに来たと言っていた。ステッキの中の刀は、変態にでも襲われていたら叩き切ってやるつもりで持ってきたそうだ。 「ナツミ? 知り合いか?」 「ええ、黒マグロっていう――」 「魚なのか?」 「……あだ名の子なの」 「ああ、泳ぎの得意な子でね。僕はその子を探してるんだ。行きそうなところは大体回ったんだけど……そうだ、君は知ってるかな、アーチャー」 「知らない。俺は召喚されたばかりだ」 「そりゃそうか」 「……一応助けてもらった恩があるからな。おまえは気に食わないけど、探す手助けぐらいならしてやってもいいぞ」 「それはありがたい。でも、事は君が考えるより複雑になってると思うんだ。最近は帰りが遅くなることが増えててね」 ちょぼぼぼとお茶が湯飲みに滑り込む。その間が、わたしは何だか嫌だった。 「僕はね――あの家族を、あの子を守るために動く。その他のことは、悪いけど、二の次なんだ」 下に目を向ける鉄人さんは、どうしてだろう、まるでお爺さんのように思えた。どう見たって、まだ二十台にしか見えないのに。 「僕は魔術についても知ってるし、さっき見てもらったように戦いでも役に立てると思う。たぶん、みことちゃんに魔術の初歩ぐらいは教えられるだろう」 「探すだけじゃなくて、手を組もうってことか?」 「でもさっき言ったことを前提に僕は行動する。それを了承してくれるならって話になる」 「……夏海さんを守るのに協力する代わりに、わたしたちの手助けをしてくれる」 「そう。この街の一住民としても、聖杯戦争なんて見過ごしておけないし、夏海の友達を放っておくのもちょっとね。 そういう条件で、手を結ぶわけにはいかないかな?」 カッチカッチと鳴っていた時計の音が止まる。電池が切れたんだろう。鉄人さんがお茶を啜る音が居間に大きく響く。まるで時から取り残されたよう。 わたしは――― 1:手を結ぶ 2:考えさせてもらいたい
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/766.html
アーチャーは背もたれにお腹を預け、椅子を揺り篭みたいにガタガタと揺らしていた。お行儀悪い事この上ないけれど、それには理由がある。どうもこの子、鉄人さんのことが好きじゃないみたいで、見るなり殴りかかろうとしたのを止めるのは大変だった。 「こんな奴は蹴り飛ばしてしまえばいいんだ」 「やあ、それは怖いなあ」 「こら、そんなこと言わないの。わたしのことを助けてくれたのよ」 「くそ……」 なおも揺れるアーチャー。我関せずと、ゆっくりお茶を啜る鉄人さん。せっかく我が家の居間に戻れたのに、空気は殺伐としている。ええい、このままじゃダメだ。お母さんが帰るまでに決着をつけないと。 「ええと……一つずつ整理しましょう。まずはアーチャーの言う聖杯戦争のことだけれど」 「なんだよ。あれだけの目に遭っておいて、まだ信じられないのか」 「当たり前よ。魔法使いって、そんなことを信じられるわけないでしょう」 「魔法使いじゃない。魔術師だ」 「どっちだって構いません。とにかく、本当のことを説明しなさい。話せないところは話さなくてもいいから」 「最初から本当のことしか言ってない! いい加減に信じてみろ!」 「だから信じられないって言ってるでしょ!」 「あー、あー、ちょっといいかな?」 熱くなった二人の間に鉄人さんが湯呑みを両手に割り込んでくる。一つをわたしに、もう一つをアーチャーの前に置くと、飲みなさいと促される。わたしはしぶしぶ湯気の立つお茶に口をつけた。 「みことちゃん。魔術だとか魔法だとかって思うから信じられないんだよ」 「どういう意味です?」 「今夜起きたこと、君の知る常識で説明できるかい? 映画の中やお話の中じゃなく、現実の話として」 「え……と、それは」 「できないだろう? だから、まず常識の外にあるもの、その未知の技術の実在を認めるんだ。魔術だと思わなくてもいい。アーチャーはそう呼ぶかもしれないけど」 現実離れ、非常識。今夜のできごとはそればかりだった。機械人形も、それを倒しちゃうアーチャーの、鉄人さんの凄さも。これが全部わたしを騙すための仕掛けじゃないって言うなら、未知の技術を認めるしかない。 冷静に考えればそうなのだけれど、でも信じがたい気持ちは残る。どこまで信じていいのかもわからない。 「しかし、聖杯戦争か。長くここに住んでるけど、そんなものには気付かなかったなあ。殺し合いの儀式だもんなあ。おまけに英霊かあ。妙な街になってしまったとは思ってたけど、うーん」 「……なんだ、おまえは信じるのか」 「まあね、アーチャー。僕が一般人じゃないことはよくわかってるだろ?」 「当然だ。普通の刀はゴーレムをあれほど見事に切れない」 「ま、そういうことだね」 ずずず、と鉄人さんが湯呑みを傾ける。アーチャーはちょっぴり口を付けては舌を出して冷ましている。きっと猫舌なんだろう。 「鉄人さんも、聖杯戦争のことを信じろって言うんですね」 「みことちゃんが混乱するのは当然さ。普通に生きてきた人が急に信じることはできないだろう。だから今は疑ってても構わないんじゃないかな。その代わり、アーチャーのことを信じてあげればいい。君の事を守ったのは事実なんだろう?」 「……矛盾してませんか、それ」 「してないよ。じゃあ単刀直入に訊くけど、君はこの子を信用できないのかな?」 わたしはアーチャーの顔を見た。湯呑みにふーふー息を吹きかけていたアーチャーがわたしを見返す。こんな子が元英雄、英霊とかいう存在だなんて信じられない。 けれど、この子は綺麗な目をしている。美しいとかそうじゃないって意味じゃなくて、本当に綺麗な目。 信用してると言えるのかは自信がない。でも一つ確かなことがある。わたしはこの子が好きだ。それに、きっと信用したいんだと思う。 「Ok、わかりやすい表情だね」 「でも……」 「わかってるよ。聖杯だの何だの、その辺りを今は信じなくてもいい。だろ、アーチャー?」 「そんなことあるか。信じてもらわなきゃこま――」 「あんなこと言ってるけど、アーチャーもそれでいいと思ってるんだ」 「思ってるんですか?」 「思ってない! 俺は――」 「大事なのは、君が命の危険のあるものに巻き込まれたってことだ。そして、君が身を守るにはアーチャーと協力するしかない」 アーチャーもわたしも口を閉じる。 人形に襲われたとき、わたし一人じゃ何もできなかった。殺されはしなかったけど、殺されそうになっても逃げられなかっただろう。だから鉄人さんの言うことに反論はない。 「わかった。俺はそれでいい」 「わたしも、わかりました」 「よし。じゃあ、この話題はひとまず終わりだ」 鉄人さんがわたしの湯呑みにお茶を注ぐ。アーチャーは注ぎ足されそうになったところで、自分の湯呑みをさっと隠した。 「次は夏海のことなんだけれど」 高波夏海、さん、はわたしのクラスメイトの女の子だ。鉄人さんは彼女の遠縁の親戚で、彼女のお祖母さんが心配してるから探しに来たと言っていた。ステッキの中の刀は、変態にでも襲われていたら叩き切ってやるつもりで持ってきたそうだ。 「ナツミ? 知り合いか?」 「ええ、黒マグロっていう――」 「魚なのか?」 「……あだ名の子なの」 「ああ、泳ぎの得意な子でね。僕はその子を探してるんだ。行きそうなところは大体回ったんだけど……そうだ、君は知ってるかな、アーチャー」 「知らない。俺は召喚されたばかりだ」 「そりゃそうか」 「……一応助けてもらった恩があるからな。おまえは気に食わないけど、探す手助けぐらいならしてやってもいいぞ」 「それはありがたい。でも、事は君が考えるより複雑になってると思うんだ。最近は帰りが遅くなることが増えててね」 ちょぼぼぼとお茶が湯飲みに滑り込む。その間が、わたしは何だか嫌だった。 「僕はね――あの家族を、あの子を守るために動く。その他のことは、悪いけど、二の次なんだ」 下に目を向ける鉄人さんは、どうしてだろう、まるでお爺さんのように思えた。どう見たって、まだ二十台にしか見えないのに。 「僕は魔術についても知ってるし、さっき見てもらったように戦いでも役に立てると思う。たぶん、みことちゃんに魔術の初歩ぐらいは教えられるだろう」 「探すだけじゃなくて、手を組もうってことか?」 「でもさっき言ったことを前提に僕は行動する。それを了承してくれるならって話になる」 「……夏海さんを守るのに協力する代わりに、わたしたちの手助けをしてくれる」 「そう。この街の一住民としても、聖杯戦争なんて見過ごしておけないし、夏海の友達を放っておくのもちょっとね。 そういう条件で、手を結ぶわけにはいかないかな?」 カッチカッチと鳴っていた時計の音が止まる。電池が切れたんだろう。鉄人さんがお茶を啜る音が居間に大きく響く。まるで時から取り残されたよう。 わたしは――― 1:手を結ぶ 2:考えさせてもらいたい
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/771.html
「あ、アーチャー! 助けて!」 家政婦さん型ロボットに両脇を抱えられて連れさらわれる中、わたしは必死で叫ぶ。子供に助けを求めるのはちょっと遺憾の意なんだけれど、背に腹は変えられない。でもアーチャーから答えはないし、わたしを助けに来てくれる気配もない。 「アーチャー!?」 『いや、無理でしょう。彼はずいぶんと、こう、どっぷり入ってしまう性格のようですから、助けを求めても気付くかどうか』 『あーゆうのを視野狭窄っつーんだよなあ。あれはもう、ブリンカー付き猪だろ』 「アーチャーーー!!」 『お。中々面白い表現ですな、我が主よ』 『そうかあ……?』 「アーチャーーーーっ!!!」 もう破れかぶれ。喉が痛いくらいに声を張り上げる。だけど、おかしい。こんなに叫んでいるのに、誰も家から出てこない。 『何をしようとムダです。こう見えても、この侍女たちにはちょっとした機能がついておりまして。普通の人間は彼女たちの周囲には注意を払えないのです』 「そ、そんなオカルトみたいなことは信じません!」 『いや、オカルトもクソもないだろ。街中にこんなのが闊歩してる時点で気付けよ。もう普通の理屈じゃないんだよ』 『ナイスフォローです、マスター』 「でも声は出てます!」 音には誰かが絶対に気付くはずだと言いたかったのだけど、男の声で話す侍女ロボットが返してきたのは笑い飛ばす鼻の音だった。 『そりゃ理屈だわな』 『ですがこの街自体が特殊ですからなあ』 「え?」 『異状をひどく感知しにくいようにできているのですよ、ここは。目的は……ま、想像できますが』 『ほんっとロクでもないことしてくれてるよ、あのジジイ』 「し、信じませんよ! 助けて、誰か、たーすーけーてー!」 ガンバ、みこと。自分で自分を励まして、助けを求め続ける。けれど団欒の光が灯るご家庭も、塾帰りの自転車もわたしたちを無視して行ってしまう。 誰も気付いてくれない。風景は何事もなく通り過ぎてゆく。公園で抱き合ってる男の人と男の人もわたしの声なんて聞こえないふりをして……あれ、待って止まって、続きが気になる。 ああ、やっぱり緊張感がない気がする。今のわたしは誘拐されてる最中なのに。 『いやあ、いい声ですな。苦しいでしょうが、骨折り損でよいなら続けて下さい。私たちは邪魔しません。どうぞどうぞ』 『十中八九ムダだろうけどなー』 「助けて! そこのワンちゃん!」 『ま、先ほど言ったように異常が潜みやすい街ですから。もしかすると私たちの知らない異常、私たちに気付ける人物も居るかもしれません。頑張ってみてください』 『きっと意味ないだろうけどなー』 「たぁーすぅーけぇーてぇー! そこのお兄さーーーん!」 もう意地だけでわたしを怒鳴り声を吐き出していた。返事や反応なんて期待していなかったと思う。でも不思議なもので、そんなときになって初めて、わたしの言葉に答えてくれるひとが現れた。 「ん、ああ、いいよー」 からんころんと下駄が鳴る。甚平を着た男の人はちょっとそこまで煙草を買いに行く、そんな気軽さで走る侍女ロボットの前に立ちはだかった。手にしている時代物のステッキが地面を叩く。 『な……なんですと? どうして』 侍女ロボットは二人、じゃなかった、二体とも立ち止まる。帰り道で誰も居ないと思って大声で歌ってたらアンコールされたみたいに。 「ふーむ。見た感じは家出娘を連れ戻るメイド二人ってところだけど……どうも違うか」 『ち。キャスター、なんとかしろ! でも街の人間っぽいから殺すなよ!』 『任されました』 侍女の片方がわたしから手を離して、甚平姿の男の人に向う。 『一応忠告しておきますと、この侍女めは普通の人間の数倍の腕力を誇ります。怪我をしたくないのなら、家に帰ることをお薦めしますぞ』 「いやー。誘拐現場を黙って見てるわけにはいかないよ」 『では仕方がありませんな』 侍女のミニスカートがたなびく。急発進した彼女が、立ち止まったままの男の人とぶつかる。誰かが車に撥ねられる映像がわたしの頭の中に蘇り―――吐き気を堪えようと息を止めたときには、侍女の腕がぼとりと落ちていた。 『は……?』 男の人と侍女はぶつからなかった。衝突の直前、舞う落ち葉のように身をかわしていた。すれ違ったときに侍女の腕が落とされている。 そしてもう一度、今度は男の人から侍女に近づく。腕が一振りされ、ステッキに隠されていた白刃が侍女の胴体を二つに割る。金属の部品が零れて落ちて、それに続いて外殻ががしゃんと転がった。 「さて、ゴーレムの主よ。一応聞いておきたいんだが」 男の人はのんびりとした動きでわたしたちの方を向く。その様子は肉食獣に重なって思える。 「女の子を知らないかな? 帰りが遅くて気になっててね。髪は肩ぐらいまで、身長は百六十ちょっと、細身で、肌は焼けてる。多分、高校の制服を着てるんだけど」 「……もしかして」 「やあ、君は知ってるようだね。それで、そっちはどうかな」 『し、知らない』 「そうか。なら、用は無いな」 つかつかと男の人は近づいて、透き通った輝きを放つ刃を振り下ろす。わたしの腕を掴んでいたロボットは縦に割れて、地面に崩れ落ちた。男の人はにっこりと笑った。 「平気かい?」 「は、はい」 「僕の名前は蔵馬鉄人。君の名前は?」 「志那都……みこと、です」 「よろしく、みことちゃん。じゃあ、話を聞かせてもらえないかな」
https://w.atwiki.jp/rockband/pages/83.html
XBOX360、PS3、Wii、DSで発売 2009年11月3日に北米で発売 XBOX360版はリージョンフリーです 国内PS3もプレイ可です 難易度にSuper Easyを追加 Vocalはヘッドセットでも可能 ROCK BAND1,2 Guitar Heroの周辺機器に対応 LEGO ROCK BAND エクスポート方法 公式サイトにLEGOのソフトに同梱されているコードを入力すると25桁のコードが表示される 北米タグでサインインし、マーケットプレイスの「ご利用コード」の項に先程のコードを入力する LEGO Rock Band Export PackをDLした後にLEGO Rock BandのミュージックストアでExport Downloadする Xbox360 800MSP / PS3 約10$かかります エクスポート済みのROCK BAND 1,DLCも一部使用可能 ROCK BAND 1の使用可能22曲 DLCは割愛します Bang Camaro / Pleasure(Pleasure) Blue Öyster Cult / (Don't Fear) The Reaper Bon Jovi / Wanted Dead or Alive Boston / Foreplay/Long Time Crooked X / Nightmare David Bowie / Suffragette City Death of the Cool / Can't Let Go Faith No More / Epic Fall Out Boy / Dead on Arrival Honest Bob and the Factory-to-Dealer Incentives / I Get By The Konks / 29 Fingers The Mother Hips / Time We Had The Outlaws / Green Grass and High Tides Queens of the Stone Age / Go with the Flow Ramones / Blitzkrieg Bop Rush / Tom Sawyer Smashing Pumpkins / Cherub Rock The Strokes / Reptilia Sweet / Ballroom Blitz Tribe / Outside The Who / Won't Get Fooled Again Yeah Yeah Yeahs / Maps LEGO Rock Bandの海外レビューです。 ▼ MS Xbox World 8.5/10 本作のLEGO要素は、The Beatlesを除いた他のRock Bandとの差別化になっていて、私は気に入った。収録曲は最高だし、ロック・チャレンジも楽しい。買う価値のある作品で、既に膨大なRock band/Guitar Heroカタログにとって歓迎すべき新作タイトルとなるだろう。 ▼ Teamxbox 8.3/10 楽しく家族で遊べるゲームだが、他の作品に埋もれてしまうほど生温いわけでもない。LEGOを床にぶちまければ、誰もが楽しく没頭する。同じように、LEGOをゲームの中心に据えれば、同じ喜びを味わえるだろう。ボリュームがもう少しあれば、とだけ思う。 ▼ GameTrailers 7.9/10 LEGO Rock Bandにはこれといった欠点がない。楽しい楽曲が収録され、Rock Bandの主な機能がほぼ全て搭載され、手軽に楽しめるよう工夫されてる。通常のタイトルよりも10ドル安いが、楽曲をエクスポートするには10ドルかかるのだ。楽器の同梱版もないので、楽器コントローラーを持っていない場合は、別に購入する必要がある。LEGOの魅力というのは結局のところ表面的なものなので、音楽が好きな場合だけ買うべきだろう。50ドルで40曲がお得だと感じるなら、ギターを持ち出してロックしよう。 ▼ GameSpot 7.5/10 本作に収録された45曲は、10ドル払えばエクスポートして過去のRock Bandで使用する事が可能だ。お陰で、LEGOが好きじゃなくても、音楽だけを楽しめるようになっている。Music Storeにもアクセスは可能だが、家族向けの楽曲に限定されている。だが、その線引きが難しい。Stephen and the Colbertsのストーカー曲”Charlene (I’m Right Behind You)や、Iron Maidenの3曲は購入出来るのに、Pearl Jamのラブ・バラード“Just Breathe”は何故か無理なのだ。通常のRock bandとのもう一つの違いはオンライン・プレーに対応していない事で、リプレー性が下がっている。そうした欠点がありつつも、本作は人気フランチャイズへの質の高い新作だ。チャーミングなビジュアルと風変わりなストーリーは、Rock Band入門には最適だし、セットリストも万人向けだ。 ▼ IGN 7.0/10 LEGO Rock Bandは一体どんな層に向けたゲームなのか、未だにハッキリとしない。Rock Band 2を持っているのに、メタルを聞いている事を認めたくない人間、カトゥーンっぽいキャラクターじゃないとプレーしたがらない子供、リズム・ゲームが下手すぎて、勝手にプレーしてくれるゲームじゃないと駄目な義母、それに、中途半端なゲームにフル・プライスを払うのが好きな人間。LEGO Rock Bandは君にピッタリだ。 本作を買うべきか否か。難しい問題だ。広範囲に渡るフローチャートが必要になるかも。まず断言出来るのは、Wii版は買うべきじゃない、という事。フィーチャーが最も少なく、ダウンロード・コンテンツにも未対応で、リプレー性が極端に制限されている。それに、グラフィックもゴミだ。Rock Band 2はWii版が一番人気なのだから、残念である。Wiiユーザーは馬鹿にされたのだ。 それ以外の人間は、次の事を覚えていて欲しい。楽器コントローラーを既に所有している事。同じ曲を何度も喜んでプレーするか、ダウンロード・コンテンツに喜んで金を注ぎ込める事。収録されなかったフィーチャーの事が気にならないくらい、LEGOが好きである事。どれにも当てはまらない場合は、60ドルを喜んで払えるほど収録曲が好きでないと駄目だ。結局のところ、本作はそういうゲーム。本当に楽しいゲーム用の、奇妙なセットリストの値段の高いトラック・パックだ。
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/770.html
わからないことばかりだけど、一つだけ言えることがある。家を壊されてもいいなんて言えない。それはもう絶対に。 「なに言ってるの! 家を壊すなんて駄目よ!」 「えっ」 「とぼけてもダメ!」 「いいじゃないか。どうせただの建物だろう」 「ただの建物なんかじゃありません! 大切なものが一杯詰まってるんだから!」 「ちっ」 「ダメよ! ダメ、ゼッタイ!」 わたしがはっきりキッパリ禁止すると、アーチャーはタコみたいな顔で腕輪をクルクルさせる。うーん、なんて美少女。こういう表情まで絵になるのは反則だと思う。 「じゃあ、仕方がない。ここから出て、敵を突破しよう」 「突破……って! 相手は爆弾を持ってるのよ!?」 「炸裂攻撃持ってる相手にこんな場所で篭れっていうのか? 耐えられるとは思えないな」 確かにそうだ。わたしの家は普通の家庭、防犯設備は微々たるものだし、ロボットを駆使するテロリストを撃退なんてできないだろう。ああ、警備会社と契約しておくべきだったのかしら。 「そういうことだ。家を壊すなって言うなら、外で戦うしかない」 「そうかもしれない……けど」 アーチャーに、わたしより一回りも二回りも小さいような子供に、爆弾を使う大人の相手なんてさせられるだろうか。 ……できない。わたしが大人だとは思わないけど、この子よりは大人に近いと思う。なら、危険なところへ歩み出るのはわたしの役割だ。このままへたりこんでる場合じゃない。 「……わかったわ。合図したら窓から飛び出すから、ついてきて」 「合図? そんなもの要らない」 「へ?」 わたしの返事を待つこともなく、アーチャーが窓の外へ飛び出す。バレリーナが跳ねる軽さで、服の裾がきれいな線を描く。 月光と部屋の明かりに照らされた影は映画のワンシーンのよう。拍手喝采をプレゼントしたくなる見事さで、アーチャーは小高い壁の向こうに消える。 って、待った。まずい、すぐに立ち上がって止めないと――! 「ま、待って!」 慌ててたものだから窓の縁にスカートが引っかかる。わたしはずてんと窓の外に落っこちた。濁音がたくさん付きそうな音でロングスカートがミニスカートにアレンジされる。……いろいろ痛いけれど、今はそれどころじゃない。 「アーチャー! 戻って来なさ―――い?」 顔を上げたわたしを待っていたのは、予想外の光景だった。 まずは歯車の音の主、いや主たち。てっきりネコ型ばかりで、家の前に魚市が展開されてるのかと思ったけれど、家の外に居たのは人間の形のものばかりだった。 ネコと変わらないのは精巧さ。一目だけだと、本物の人間と区別がつかない。ただ、どうしてだろう。みんながみんなお手伝いさんの格好をしている。テロリストのユニフォームなのかもしれない。 歯車の音が何十奏にもなってるように、数は多い。きっと三十から五十ぐらいは居る。全部同じ格好だから、街角で見かけたらデモ行進か何かだと思ってただろう。 でも、今は絶対にそう思えない。どうしてかというと、なぎ倒された端から機械の部品が転がってくるからだ。 そして、信じられないことに、そんな破壊行為をやっているのはアーチャーだった。 「うそ……」 独楽のように回り、小鹿のように跳ねる。腕の一振り、腕輪のきらめく度に工具箱を落としたような音がして、パーツが鈍い光を反射する。それは夜月に浮かぶ波しぶきに似ていた。 「よし、開いたぞ! ついてこい!」 アーチャーが鈴の声で笑い舞う。機械人形の壁に挟まれた、破片と残骸の道。わたしは小さな背中を見失わないように必死で走る。 息が切れる。はたと冷静になると、わたしの前には人形の姿はなかった。 「木偶ばかりだ、つまらないな」 わたしの後ろから、からんころんと部品が転がる。もう立って動くロボットは十も居ない。 「すごい……すごいわ、アーチャー」 「そりゃどうも」 「もしかしてあなた、スパイか何かなの? アーチャーってコードネーム?」 「……もういい、黙ってろ」 振り返ってもくれない。やっぱり工作員は自分の身元を明かすことはできないみたい。こんなテロリストと戦ってれば、当然なのかもしれないけれど。 ロボットたちはもう向ってこない。ふわふわフリルのついた服の人形が一体だけ前に出てくる。なんだかやけにスカートが短い。お腹が冷えないか心配になる。 『素晴らしいですな、アーチャー。やはり三騎士は違う』 「わかったなら首を洗って待っていろ、キャスター。すぐに引っこ抜いて振り回してやる」 『いやいや。自慢ではないが、私は面と向った戦いは苦手。そうならないように準備しているのですよ』 「へえ、どんな準備?」 『こんな準備ですな』 左右の道から連隊を組んだ足音がした。体育祭の入場が始まり、二手に分かれたロボットたちが整列する。 何だろう。きっとどこかの運命を賭けたテロリストとスパイの決戦なんだろうけど、なんだか緊張感がない。改めて見ると、家政婦軍団と仮装した女の子にしか見えない。 『まだまだこんなものではないですぞ、アーチャー。キャスターが最弱のクラスだということは認めます。が、ハンディキャップは知識と手先の器用さと暇な時間で埋められるのですよ』 「ふん。数だけぞろぞろ居ても、どうってことはないな」 『その言葉、ぜひとも行動で証明していただきたいものですな』 「ぬかせ!」 アーチャーがロボットたちの中に突っ込んでいく。後を追おうというわたしの気持ちはアーチャーの暴れっぷりでしぼんだ。まるで猪だ。進む先から相手を跳ね飛ばしている。 ぼうっと見ていたわたしの腕が、後ろから掴まれる。左右に一人ずつ、背後にロボットたちが無表情で立っていた。 「え、え?」 あれよあれよとわたしは彼女たちに持ち上げられて、すたこらさっさと運ばれる。ふりほどこうにも腕はがっちりと固定されていた。 「きゃあっ! わ、わ、放して!」 『やりましたな、マスター。頭脳の勝利です』 『……あんなの頭脳プレーって言うのか? 相手がバカだっただけだろ。どんだけ視野狭いんだよ』 『どちらにしろ目的は達成できました。しかも殺さずどころか無傷で捕獲です!』 『まあ、結果だけ見ればそうだけどさ……』 左右のロボットたちがアニメの悪役みたいに喋っている。やっぱりドッキリテレビなのかしら。でも、とりあえず放してもらわないと。 わたしは―― 1:アーチャーに助けを求める 2:そこのお兄さんに助けを求める 3:ロボットの操縦者と話をする