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聖ラバンの騎士審問官は、触れない方がいい謎を徹底的に追及する。 Knight-Inquisitors of Saint Raban delve deep into mysteries best left unexplored. イニストラードを覆う影 【M TG Wiki】 名前
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◆ 耳につくのは穴の下、轟々と音をたてて流れていく激流。 沈黙。戦いの終わりの証。 ここにはもう、怪物はいない。 俺たちは、勝ったんだ。 「勝った……」 ポツリとそう呟いた。 勝った、勝利した、栄光をつかんだ。 自分に言い聞かせるように、その言葉を再び口にする。 そうだ、俺たちはすごいことを成し遂げたのだ。 やったんだ、やったぞ、俺たちは。 ―――だというのに、この俺が感じる虚しさは何だというのだ。 ―――この胸を突くやるせない気持ちはいったい何だ。 フーゴとジョルノの声が後ろから聞こえる。 たった今俺が這いあがってきた穴に縫いつけられたように、視線をそらすことができなかった。 静寂と川の音。 「勝った……勝ったんだぞ……」 ホルマジオ、そう呼ぼうとして……その相手はもういない。 ホルマジオも、ペッシも、プロシュートも、ギアッチョも。 もう誰もいない。誰一人、いない。 まただ……また俺は、失った。 どこまでも続きそうな穴。吸い込まれていきそうな闇。 そうか…………この感情は、孤独だ。 俺は勝った。ただ、勝ったのは俺じゃない。 いや……俺は本当に勝ったのか? 俺は……ただ生き残って『しまった』だけじゃないのか? 生き残ったのは、俺独り。 犠牲なしに勝てるとは思っていなかった。 誰一人死なず、勝利を勝ち取れるとは思っていなかった。 皆、覚悟の上だった。それでも誰一人恐れず、俺についてきてくれた。 組織を裏切った時も、このゲームが始まった時も。 だが、それでももっと違った方法があったのではないか? 本当に、生き残るべきは俺だったのか? 「リゾット、治療を……」 「ジョルノ……」 背中越しの声を、俺は無視した。 ジョルノが小さな声で話しているのが聞こえた。フーゴはそれに強い口調で、しかし静かな声で言葉を返していた。 俺は、何をしているんだ。 俺は確かに敵を排除した。困難な道のりではあった。今倒さなければいつ倒す、そういう試練であったことは認める。 しかし、犠牲になったのは誰だ……? 俺の部下だ……ッ!! 部下一人守ることができず……部下を犠牲にしての勝利だと……? そんなものを……俺は勝利と呼んでいいのか?! これが、暗殺チームのリーダー、リゾット・ネエロか?! これがリーダーか?! これが俺の……力か!! だというのならば……俺は、何のために、誰のために…………勝利を目指し、リーダーになったのだッ!! ―――俺は…………無力だ。 脱力感と不甲斐なさ、俺は膝をつきそうになる。 誰でもない、俺自身の魂が悲鳴をあげていた。 己の無力さに。荒木に対する怒りに。 もう、俺は、何をすればいいのか、わからなかった。 茫然と立ちすくむ俺の視線の先、ジョルノが作り出した蔦をつたって、ようやくブチャラティが顔を出す。 無惨なものだった。身体中傷だらけに、足りないパーツ、不自然な歩き方に、塞がった視界。 ジョルノが急いで駆け寄ってくる。俺の傍を駆けぬけると、ブチャラティに手を差し出す。 だが、そいつは首を振った。はっきりとした拒否のサイン。 困惑した表情のジョルノ。後から続いたフーゴも理由を尋ねる。 再びブチャラティが首を振った。護衛チームの二人が顔を見合わせる。そんな二人を尻目に、奴は俺に向かって歩いてくる。 仕方なく、二人は黙って後をついて行った。 一歩、また一歩。 体は左右に揺れ、呼吸は荒く、今にも倒れかねない体を引きずりブチャラティは俺の前へと立つ。 「ご苦労だったな……」 「ああ……」 「チームのこと……ホルマジオのことは、残念だったな」 「一人を犠牲にしてあの怪物を倒せたんだ。なにもお前が謝ることじゃない。それにやつも覚悟の上だったはずだ……」 覚悟の、上。 なんとも空虚な言葉だ。笑えてくるぐらい、馬鹿らしい言葉。 一番覚悟が足りなかったのは誰でもない、俺だったはずだというのに。 上の空での会話、思考は飛び、いつもの冷静さなど微塵もない。 もうどうでもよかった。なにもかも、放り出したい気分だった。 ただ少しだけでいい、今は……時間が欲しい。 内なる怒りを、何かに向けさせてくれる時間が。 理不尽さと自分の無能っぷりに、整理を与えてくれる時間が欲しかった。 ブチャラティが黙って俺を見つめてくる。俺の目はさぞかし不抜けたモノだったのだろう。 ひたすら笑いがこみあげてくる。ただ、ただ自分の馬鹿さ加減に嫌気がさした。 それでも奴は、知ってか知らずか、俺を見る。 嫌になるような、真っすぐで、澄んだ目で、俺を見続けた。 フと、一瞬だけ、ブチャラティは視線を外し空を仰ぎ見る。 その美しいこと。満月の輝きが反射し、まるで瞳の中に輝く星を見る様だった。 その目に浮かんでいたのは何か。 俺には分からない。ただ俺はそこに、何か悟りきったような美しさを感じた。 「フーゴ、ジョルノ」 振り返ると、彼は部下の名前を呼ぶ。 自然と引き締まる二人の顔。良い部下を持っている。信頼できる、長年の仲間。 そしてそれは俺が、失い、二度と得ることができないもの。 「フーゴ、お前はいつも俺たちの中で負い目を感じていなかったか? 確かな知性と実力を持っていながら、お前はいつも俺たちにどこか遠慮を抱き距離を取ろうとしていたように思える」 「……ブチャラティ…………?」 「俺が謝らなければいけないとすれば、そんなお前に俺は何一つできなかった事だ。 時間が解決できる問題だと、高を括っていた。俺はお前の気持ちを理解しようしなかった。 本当に悪いことをしたと思ってる……すまなかった」 「一体、なにを……?」 「ジョルノ、俺はお前をこのチームに入れたことを誇りに思っている。 お前がいなければ俺はあのまま腐りきっていき、やがて野垂れ死んでいたと思う。 何もできない自分と、あの組織への絶望を抱えたままな」 「……さっきから何を言っているんですか、ブチャラティ…………?」 戸惑う二人を置き去りにし、そのままもう一度俺に向き直る。 体は限界に近いのか、左半身が痙攣し始める。 それを必死で押さえつけるブチャラティ。まるで動きだそうとする身体と、それに抵抗しているかのように。 「リゾット、お前にはもう誰もいないかもしれない。 組織を裏切り、部下を失い、残されたのは空虚な勝利と自らへの怒り」 「…………」 「上手いこと踊らされてるよな、俺たちは荒木に……。 絶望しか感じれないかもしれない。死にゆく仲間、無力感に苛まれ、必死でもがき、苦しみ、掴んだかすかな希望。 それすらスルリと掌をすり抜けていく。そして、また一からだ」 「何が言いたい……?」 「だが俺たちはまた誰かを犠牲にして、それでも生きている。生きていけるチャンスを与えらている。 ならば、『生きるしか』ないんじゃないか? 何をするとか、何をすべきとか、そんなことは後で考えればいい。 それすらできない奴がいる。なら『それだけ』すればいい。そう思えば楽だろ?」 ……こんなところをあの世のチームのやつらが見たらなんというだろうか。 腹を抱えて笑いだすだろうか? ニヤニヤしながらビデオ撮影しでもしているだろうか? 案外涙脆い何人かが泣きだすか? ……いや、それはないか。 俺は今、護衛チームのブローノ・ブチャラティに励まされている。 敵対する相手に、殺すべき相手に、気持ちを悟られ、感情を落ち着けてもらっている。 情けない……。だが、そう思わせてくれたのもコイツだ。 目の前の、このボロボロの男は、俺より傷つきながら、俺より沢山のものを抱え、それでも俺を鼓舞している。 嫌味でもなく、情けでもなく、同情でもなく。 それが、リーダーとしての役目だと、そう思って。 「お前は暗殺チーム、俺は護衛チーム。 本来なら手を取り合うことができる俺たちではない。だがそれをここで喜ぶというのは無粋だろうな。 なんせそのためにいくつが犠牲になったのか? 何人惨めに散った者がいるのか? 死んでいった中には子供も、女も、老人も。覚悟がないものも、あった者もいたはずだ。 全てが犠牲者だ。あの荒木の野郎のな……」 「…………」 「それでもな、そうとわかっていても、リゾット……こんな碌でもない世界でも俺はお前と手を取れたことが嬉しい。 例え濁りきった泥の中だろうと、閉じ込められた牢の中だろうと、星を見ることはできるのだと」 いつの間か、ジョルノとフーゴが俺の脇に並んでいた。 俺は何と返事すればいいのか、一度口を開け、そして黙りこむ。 静寂の中、風が過ぎ去っていった。 誰も何も言わなかった。ただ黙ってブチャラティの次の言葉を待った。 「だから、リゾット・ネエロ……お前に頼みがある。 これはお前にしかできない、俺の……最初で最後の頼みだ」 スティッキィ・フィンガーを呼び出すと、己の胸を軽く叩く。 能力が発動、服の前面についたジッパーを下ろし、肩をはだけさせたブチャラティは俺たち三人に胸を見せる。 ジョルノが息をのんだ。隣にいたフーゴの手が、関節を白くするほど拳銃を強く握り締めるのが見えた。 ブチャラティの胸の前、そこにあるはずのない心臓が脈打ち、波打ち、鼓動していた。 巨大な心臓は生きている。力強い生命力を感じさせる血管が、ブチャラティの皮膚の下まで食い込んでいた。 言葉をなくした俺たちを、黙って見つめる瞳。 俺がさっき感じた悟りきったような輝きはこれだったのか? 奴は、最初からこうなることを、知っていたのか……? 「俺は生き返ったんだ。 フーゴ、お前たち仲間に囲まれ、心を安らげてもらったとき。 このゲームが始まる前、ジョルノ、お前と故郷ネアポリスと出会ったとき。 そして、リゾット、お前にナチス研究所で『殺された』とき。 俺の心を、奮い立たせてくれたのは、お前たちだったんだ……。 だから後悔はない……俺は自分の信じる道を歩むことができた」 左半身の震えが激しくなる。狂ったように腕が暴れだし、足にぶつかり音をたてた。 抑えきれないのか。それでもブチャラティは顔をゆがませ、必死で体に言い聞かせる。 「だからリゾット・ネエロ、俺を殺せ」 遠く何処かで、何かが聞こえた。 放送だ、放送が始まった。 「俺を殺してくれ」 【ホルマジオ 死亡】 【残り 13(14)名】 【F-2 ナチス研究所 庭/1日目 真夜中(放送直前)】 【ブローノ・ブチャラティ】 [スタンド]:『スティッキー・フィンガーズ』 [時間軸] 護衛指令と共にトリッシュを受け取った直後 [状態] 頬にかすり傷、身体ダメージ(極大)、身体中ボロボロ、エシディシの心臓憑依 [装備] ジョルノの『探知機』となっている小石、スージーの指輪 [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針:打倒主催、ゲーム脱出 0.??? 1.首輪解除・打倒荒木の協力者を待つ。 2.フーゴ……。 3.いずれジョナサンを倒す。 4.ダービー(F・F)はいずれ倒す。 5.ダービー(F・F)はなぜ自分の名前を知っているのか? 6.スージーの敵であるディオ・ブランドーを倒す [備考] ※パッショーネのボスに対して、複雑な心境を抱いています。 ※波紋と吸血鬼、屍生人についての知識を得ました ※ダービー(F・F)の能力の一部(『F・F弾』と『分身』の生成)を把握しました。 【リゾット・ネエロ】 [スタンド]:『メタリカ』 [時間軸]:サルディニア上陸前 [状態]:頭巾の玉の一つに傷、左腕切断、身体ダメージ(極大)、 身体疲労(極大) [装備]:フーゴのフォーク、ミスタがパくった銃【オートマチック式】(2/15) [道具]:デイバッグ&基本支給品(リゾット、ホルマジオ、ブチャラティ、ジョルノ、億泰、テレンスのもの そのうち一食だけ水と食料なし) 不明支給品残り0~1(億泰のもの)、参加者詳細データ集、『ザ・ワールド』のスタンドDISC 首輪の設計図(ジョセフが念写したもの)、ダービーズ・チケット、妨害電波発信装置 ペッシの首輪、重ちーが爆殺された100円玉(一枚)、ジョルノの『探知機』となっている小石 紫外線照射装置、、承太郎のライター、シャーロットちゃん、スージーの首輪、ワンチェンの首輪 包帯、冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器、不明支給品0~2(確認済:ジョルノのもの) [思考・状況] 基本行動方針:荒木を殺害し自由を手にする 0.??? 1.ブチャラティと共に首輪の解除実験 2.首輪を外すor首輪解除に役立ちそうな人物を味方に引き込む。 カタギ(首輪解除に有益な人材)には素性を伏せてでも接触してみる。 3.荒木に関する情報を集める。他の施設で使えるもの(者・物)がないか、興味。 [備考] ※リゾットの情報把握 承太郎、ジョセフ、花京院、ポルナレフ、イギー、F・Fの知るホワイトスネイク、ケンゾー(ここまでは能力も把握) F・F(能力は磁力操作と勘違いしている)、徐倫(名前のみ)、サウンドマン、山岸由花子(名前のみ) ※リゾットのメモには以下のことが書かれています。 [主催者:荒木飛呂彦について] 荒木のスタンド → 人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能) → 精密機動性・射程距離 ともに計り知れない 開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない→この線は薄い 『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない ※荒木に協力者がいる可能性有り 【以下ブチャラティのメモの写し】 ①荒木飛呂彦について ・ナランチャのエアロスミスの射程距離内にいる可能性あり →西端【B-1】外から見てそれらしき施設無し。東端の海の先にある?(単純に地下施設という可能性も) →G-10の地下と判明 ・荒木に協力者はいない?(いるなら、最初に見せつけた方が殺し合いは円滑に進む) →協力者あり。ダービーにもいることが確実。 ②首輪について ・繋ぎ目がない→分解を恐れている?=分解できる技術をもった人物がこの参加者の中にいる? ・首輪に生死を区別するなんらかのものがある→荒木のスタンド能力? →可能性は薄い(監視など、別の手段を用いているかもしれないが首輪そのものに常に作用させるのは難しい) ・スティッキィ・フィンガーズの発動は保留 だか時期を見計らって必ず行う。 ③参加者について ・知り合いが固められている→ある程度関係のある人間を集めている。なぜなら敵対・裏切りなどが発生しやすいから ・荒木は“ジョースター”“空条”“ツェペリ”家に恨みを持った人物?→要確認 ・なんらかの法則で並べられた名前→国別?“なんらか”の法則があるのは間違いない ・未知の能力がある→スタンド能力を過信してはならない ・参加者はスタンド使いまたは、未知の能力者たち? ・空間自体にスタンド能力?→一般人もスタンドが見えることから 【ジョルノ・ジョバァーナ】 [スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』 [時間軸]:メローネ戦直後 [状態]:精神疲労(大)、身体疲労(極大)、身体ダメージ(極大) [装備]:ジョージ・ブチャラティ・リゾット・ホルマジオ・グェスの衣服の一部 [道具]:なし [思考・状況] 0.??? 1.首輪解除・打倒荒木の協力者を捜す。 2.『DIO』は吐き気を催す邪悪で、『祖父』は『父』に殺されたのでは? 3.他のジョースター一族が気になる。 [備考] ※リゾットとの情報交換によって暗殺チーム、リゾットの知っている護衛チームの将来を知りました。 ※ジョナサンを警戒する必要がある人間と認識しました。 ※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました ※ラバーソウルの記憶DISCを見、全ての情報を把握しました。 ※ダービーズアイランドに荒木がいることを知りました。 ※ディオがスタンド使いになった事を知りました(能力は分かっていません) 【パンナコッタ・フーゴ】 [時間軸]:ブチャラティチームとの離別後(56巻) [状態]:身体ダメージ(極大)、 身体疲労(極大) [装備]:ナランチャのナイフ、S W M19(1/6) [道具]:基本支給品×4、ダービーズチケット、ディアボロのデスマスク、予備弾薬37発(リボルバー弾7発、オートマチック30発) 鳩のレターセット、メサイアのDISC、ジョルノの『探知機』となっている小石 S W M19の予備弾薬(30/30) [思考・状況] 基本行動方針:未熟な過去に打ち勝ち、新しい自分となる 1.??? 2.僕はブチャラティたちに裏切られてしまった 3.デスマスクの男の正体がわかった―― [備考] ※荒木の能力は「空間を操る(作る)」、もしくは「物体コピー」ではないかと考えました(決定打がないので、あくまで憶測) ※空条承太郎、東方仗助、虹村億泰、山岸由花子、岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、ジョセフ・ジョースターの能力と容姿に関する大まかな説明を聞きました。 ※吉良吉影の能力(爆弾化のみ)を把握しました。しかし、一つしか爆弾化できないことや接触弾、点火弾に関しては聞いていません。 また、容姿についても髑髏のネクタイ以外には聞いていません ※花京院とその仲間(ジョセフ・ジョースター、J・P・ポルナレフ、イギー、空条承太郎)の風貌、スタンド能力をすべて把握しました。 ※アヴドゥルとフェルディナンドの考察から時代を超えて参加者が集められていることも知りました。 ※デスマスクの男の正体がボス=ディアボロであること、その能力などに気づきました。 【エシディシ】 [時間軸]:JC9巻、ジョセフの“糸の結界”を切断した瞬間 [状態]:心臓のみ、ブチャラティに憑依 [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:??? 0.??? [備考] ※現在ブチャラティに憑依することで生きています。 心臓だけの状態での制限や、生存時間などは不明です。次の書き手さんにお任せします。 【備考】 ※F-2ナチス研究所の一部が崩壊しました。ブチャラティ達の近くに巨大な穴が開いています。 残った研究所にも火が付いています。今後、火が鎮火するか、さらに勢いを増すかは次の書き手さんにお任せします。 またほかの参加者から火事が見えた可能性もあります。 ※エイジャの赤石、イエローテンパランスのDISCはホルマジオの死体とともに流されて行きました。 ※石仮面は破壊されました。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 202 さようなら、ギャングたちⅠ ジョルノ・ジョバァ―ナ 211 君の心に希望はあるか 202 さようなら、ギャングたちⅠ ブローノ・ブチャラティ 211 君の心に希望はあるか 202 さようなら、ギャングたちⅠ リゾット・ネェロ 211 君の心に希望はあるか 202 さようなら、ギャングたちⅠ エシディシ 211 君の心に希望はあるか 202 さようなら、ギャングたちⅠ パンナコッタ・フーゴ 211 君の心に希望はあるか 202 さようなら、ギャングたちⅠ ホルマジオ GAMEOVER 202 さようなら、ギャングたちⅠ リンゴォ・ロードアゲイン GAMEOVER
https://w.atwiki.jp/jojobr2/pages/473.html
◆ 男たちが無意識のうちに取っていたのは「追悼」の姿だった。 涙は流さなかったが、無言の男の詩があった。 言葉は必要なく、思い思いに彼らは敬意を表した。 ブチャラティは胸に手を当て、ジョルノは目を瞑り、祈った。 リゾットはリンゴォの生き様を目に焼き付け、ホルマジオは静かに十字架をきった。 「ブチャラティ」 突然エシディシに名前を呼ばれ、彼は戸惑う。 しかし、察したのだろう、彼は黙って部屋を横切り、能力を発動。地面に一本のジッパーが作られた。 エシディシはリンゴォの遺体をそこに横たえた。 誰もが敬意を表していた。そして、これから起こりうる戦いの中で彼がこれ以上傷つくことを、誰も望んでいなかった。 「僕らは……わかりあえないのでしょうか?」 リンゴォの遺体が消えた後、ジョルノが絞り出すような声で、控え目に言った。しかしその瞳に迷いはない。 射抜くような視線を受け、エシディシは少しの間考え、一語一語を捻りだしていく。 「わからない。もしかしたらわかりあえるのかもしれない。 全てわかりあうのは不可能かもしれないし、もしかしたら可能かもしれない。 一部だけは分かり合えるのかもしれないし、やはりできないのかもしれない。 もしかしたらそのわかりあえた一部分で、俺たちは通じ合えるのかもしれない」 しかし……、そうぽつりと最後に付け加えた。 そして次に続く言葉は必要なかった。 リゾットは二、三歩下がり、それを庇うようにホルマジオはスタンドを脇に呼び出す。 最も近くにいたブチャラティは即座にその場を飛び退くと、ジョルノの脇に並ぶように立つ。 四人は見た。エシディシの瞳に宿る真っ赤な炎を。 時折色を変え、顔を出すのは復讐と殺意。そして受け継がれた、たくさんの意志。 言葉は必要なかった。わかりあえた、わかりあえる。そんな仮定や願望は、論ずるだけ無駄だった。 「俺の中で囁く声がする。俺の魂が、誰よりも誇り高く、自分は人間でないと吠えるのだ。 カーズが、ワムウが、一族が! 俺の中で喚きたてる! そしてそれは俺を奮い立たせる!」 彼は道を戻る気も、逸れる気もなかった。 宣言した通りだ。彼は歩き続けるだろう。 それが自分を困難に追い込もうとも、例えどんな壁が立ちふさがろうとも。 その先に光り輝く道があるはずなのだから! 地面に落ちていたナイフを拾い上げると『怪物』は一度だけ目を瞑った。 そしてカッと見開く。彼の顔には迷いなんぞ、一切残っていなかった。 手に持ったナイフを振り上げると思いきり放り投げる。 放たれた刀は銃弾に迫る勢いで飛んでいく。 『怪物』は人間の手を取ることをしなかった。代わりに、彼は人間に牙をむけた。 そして吠え、四人の中に身を踊らさせる。 「覚悟しろ、人間どもォ!」 ―――どうして戦わなければならないのか。 なんてことはない、理由は単純なものだ。 誰よりも誇り高い怪物と、誰よりも誇り高いギャングたちの戦い。 彼らが『男』であり続けたいから。意地と意地、どちらも曲げる気がないから。 まったく、とんだ馬鹿げた戦いだ。 ◆ 宙を切り、風を裂き、ナイフは飛ぶ。 標的はリゾット・ネエロ、ただ一人傍に立たないスタンドを持つ者。 近距離型ではない彼のスタンドではこの攻撃は回避不可能、防御不能。 額目掛けてナイフは飛ぶ。加速しグングン、勢いを増していく。 だがナイフが彼を貫くことはなかった。 横っ跳び、リゾットを突き飛ばし、ホルマジオは己のスタンドの右手を振るう。 キィンと甲高い音とともに、ナイフがはじけ飛び、クルクルクルクル宙を舞う。 そのナイフが床に届かぬうちに、怪物は動いていた。 ナイフを追い抜かんとばかりに、彼はリゾットへ猛然と向かっていた。 すかさずジョルノとブチャラティがその場に立ちふさがる。 近距離パワー型のスタンド二体。はたして怪物はどのように対処するのか? 彼が選んだのは至ってシンプル、直進。 走りのスピードを重ねた飛び蹴りを、二人目掛けて解き放つ! ジョルノはこれを冷静に回避、鼻先をかすめる一撃。 ゴールド・エクスペリエンスの拳が振るわれる。隣でブチャラティも拳を振り上げていた。 だがその時、怪物は既に、既に次の動作へ移っていた。 拳の弾幕、嵐のように迫る二つのスタンド。怪物は動じない。 ジョルノのスタンド、ゴールド・エクスペリエンスの腕を掴むと一本背負いのように放り投げる。 まるで軽々と、丸太のようにふるわれたジョルノの体がブチャラティ目掛けて飛んでいく。 脇に転がり、ブチャラティはこれをやり過ごす。 受け止めることはできたが、敢えてしない。二人まとめて蹴りの餌食にされる、彼はそう判断したのだ。 「スティッキィ・フィンガーズ!」 ボクシングのようなジャブにストレート、そしてアッパー。 エシディシはこのスタンド能力を既に知っている。このジッパーの恐ろしさを知っている! 反撃の隙を伺い、まずはかわす、かわす、かわす。 視界の端で壁に叩きつけたはずのジョルノが見えた。 傷はない。見ると壁一面覆い茂る青々とした植物たち。いつのまに、彼はあんなクッションを用意していたのか? 「くッ」 危うく首と胴体がお別れするところだった。 エシディシは意識を目の前の男に戻す。掠めた一撃が顎にジッパーを作り出していた。 彼は体を沈めると、大きく蹴りを相手目掛けて振るう。ブチャラティはこれを後ろに飛び、回避する。 蹴りの鋭さに起きた風が、フワリと彼の前髪を揺らした。 二人揃われては厄介だ、そう怪物は思う。 地べたに転がるもの、机や椅子を手当たり次第に放り投げていく。 これにはジョルノもブチャラティも避けるほかない。 近距離型の彼らのスタンドでは間合いの外からの攻撃には、カウンターをぶち当てるのが難しい。 いかにヤツらを近づけないか、いかに一対一に持ち込むか。 エシディシは考える。机をジッパーで切り裂きブチャラティが直撃を避ける。ジョルノは身をかわし、転がり、徐々に距離を詰め始めた。 さて、どうするか―――頭に浮かんだのは亡きガンマンの形見。 部屋に転がる拳銃が一丁、彼が視線をそれに向けた次の瞬間。 「?!」 何の前触れもなく、右足首辺りの黄色のスライムが吹き飛ばされた。 二人ともスタンド能力を発動させたそぶりもない。なにより二人にそんな余裕はないはずだ。 見ればそこにいるのは坊主頭のスタンド使い。小人のようなサイズに縮んだその背格好―――自分の体を小さくするスタンドか! 「やっべ…………!」 「むんッ!」 二人の男たちに気をさきすぎたか、相手は四人のギャングたち。 流石のエシディシもこれほどの猛者たちを一度に相手するのは骨が折れる。 ならば多少のダメージは覚悟しよう―――視界の隅ではブチャラティとジョルノがこちらに向かって猛然と駆けてくる。 しかし間に合わないだろう。彼らが拳を振るうよりも早く、手刀は振り下ろされる! 潰せる内に一人でも多く! 捻りつぶしてくれるわ! エシディシはそう吠えた。 だが、そうはならなかった。 坊主頭が瞬く合間に姿を消し、同時に彼の右腕を突き破る釘に剃刀、そしてハサミ。 皮膚を突き抜け、血が舞い、驚愕に染まるエシディシの顔。 「無敵のスタンドなどない……どうやら、俺のスタンドが……一番有効となり得るようだな」 ゆらり揺れる影、後ろから聞こえた声。弾かれたように怪物は後ろを振り返る。 坊主頭の部下は失敗に頭をかく。リーダーはため息一つで非難はしない。部下の尻拭いが彼の仕事なのだから。 黒の衣装をまとった男、リゾット・ネエロ。 彼のスタンドには相手を打ち砕く腕もなければ、大地を蹴る足もない。 あるのは殺す手段と殺意のみ。そしてその分野ならば、リゾットの右に並ぶ者はいない。 「メタリカ!」 「ゴールド・エクスペリエンス!」 「スティッキィ・フィンガーズ!」 「リトル・フィート!」 前は二人の近距離パワー型スタンド、後ろは謎の能力を持つ二人の暗殺者。 これはあまりに分が悪すぎる―――彼は撤退を選択する。 しかし、ならばどこへ? 挟み撃ちにされた今、こっちを選べばそっちが直撃。そっちを選べばこっちが牙をむく。 板挟みの葛藤と迷いだらけのシンキングタイム。 だが相手は待っちゃくれない。思考は一瞬、判断は一寸。 彼は自分の道を突き進んだ。最後に頼れるべきは、やはり自らの力だ。 「WUOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」 怪物は拳を大地へと叩きつけた。舞う砂埃、轟く地響き。 足元が揺れるような衝撃に四人は一瞬身が竦む。その一瞬、そのわずかな時間がエシディシには必要だった。 暴走した力は大地を揺らすだけにとどまらない。 蜘蛛の巣のように、裂傷が彼を中心に広がり始める。床板を砕き、大地が割れた。 四人の体勢が崩れる。キラリとエシディシの瞳が輝いた。 四人が聞いたのは地面を強く蹴る怪物の足音、砂埃に紛れ動く影。 ギャングたちが平静を取り戻すのに時間はかからなかった。 ジョルノ、ブチャラティが影に向かい弾丸のごとく突進。 リゾット、ホルマジオは刀を振るい、皮膚を突き破らんと能力を発動。 「なん…………」 「……」 「……」 「だと…………?」 しかし、それぞれが捕えたのは互いの影。 リゾットの目の前で止められたスティッキィ・フィンガーズの拳。ジョルノの首筋にあてられたリトル・フィートの刀。 怪物は消えてしまった。影も形もなく、一瞬であの巨体は消え去ってしまった。 一瞬の沈黙、困惑の表情が四つ並ぶ。奴はいったいどこへ? どうやって? 「―――下だッ!」 いち早く反応したのはブチャラティ。いや、反応できたのがブチャラティだけだった。 横薙ぎに振るわれた腕は容赦なく三人を吹き飛ばす。手加減する余裕もなかった。少しでも遅れたら、やられる。 エシディシは消えたのではない。潜んでいたのだ、彼らの足元に。 叩きつけた拳は目くらましの砂埃だけでなく、絶好の隠れ場所を生んだ。 即ち真下、足元。 衝撃で割れた床板、陥没した大地、生まれたスペースは柱の男にとっては充分すぎるもの。 男たちにとっては一瞬、だがその時間は彼が身を忍ばせるに十分だった。 モグラが飛び出る、そんななまっちょろいものではなかった。 地を砕き、床板を剥ぎ、天を突かんと巨体が飛び出てきた。 鋭く突きのばした拳、その先がブチャラティの体を貫いた。 「ブチャラティイイ――――ッ!」 「何……?」 「大丈夫だ……!」 一瞬、彼の仲間は死を覚悟した。 突き飛ばし、無防備な体に飛び込んできた怪物。その腕がブチャラティの腹部を貫いたように見えたから。 だが実際は違った。手ごたえが感じられない怪物は、平気でしゃべるブチャラティを前に焦りを感じる。 そしてそれは驚愕へと変わる。自分の腕が貫いたのではなく、取り付けられたジッパーを通り抜けただけだったことに。 一転、死から生へ。ピンチをチャンスへ。 ジッパーを上にあげ、腕を固定。ブチャラティの目が沈んでいく。 ギャングが見せる、死を賭しての輝き。 三人は魂で理解した。これはブチャラティが作り出した最大のチャンス。それを逃すわけにはいかない。 例えそれが、ブチャラティを殺すことになっても―――! 腕を固定され、後方からは三人が迫る。 怪物は躊躇わなかった。 もしこの男が自分の命を投げ出すほどの覚悟あるというならば! 仲間を信じ自分の身を危険に晒す覚悟があるというならば! 見せつけるしかない! 彼も、それ以上の覚悟があるということを! 「ふんッ!」 左腕を振り下ろすと、固定された右腕を切り飛ばした。 そして即座にその場を離脱、ぞくりと背中に三人のスタンドが向けられたことを感じながら部屋を転がり、間合いを取った。 そして四人と一人は再び向かい合う。 ジョルノがブチャラティを気遣う。黙って首を振った彼は怪我がないことを示す。 リゾットがホルマジオにこっそりと耳打ちをする。最後まで黙って聞くと、彼は一瞬だけ驚いた顔を浮かべ、そして頷いた。 状況は明白だった。怪物は腕を失い、四人に翻弄され、慣れない多人数のスタンド相手に四苦八苦。 しかし四人のギャングも心中穏やかではない。誰もが皆、ヒヤリとする場面があった。 あのとき少しでもエシディシの攻撃がずれていたら……。 さっきあそこでもう少し前に踏み込んでいたら……。 死は一瞬で訪れる。怪物相手に少しでも隙を見せるわけにはいかない。 両者ともに時間が必要だった。相手を出し抜くため、相手を仕留めるため、作戦を練る時間が―――。 「近距離パワー型スタンドが二人、そして近距離型だがパワーでなくスピードと能力で勝負するタイプが一人。 さらにもう一人は肉弾戦でなく中距離から能力で戦うタイプ……なかなかいいチームじゃないか」 エシディシが口を開いた。 ホルマジオはブチャラティを軽く小突き、サッと前に出る。 視線を切ることなく、ブチャラティはそろそろと横に動いていく。 唇をなるべく動かさないように話をしてくるリゾット。彼はだまって耳を傾けた。 「ジョルノとブチャラティのスタンドはだいたいわかっている……。 と、なると問題はお前たち二人か……。ふぅむ、これは俺の頭ではちと難題だなァ。 さてさて、どんなスタンドかなァ~~~?」 四人は誰も返事をしなかった。目の前の怪物はいったい何を考えているのか。 気まぐれか、時間稼ぎか、それとも本当にスタンド能力を解明しようとしているのだろうか。 ジョルノはチラリと横目で仲間の姿を確認する。リゾットとブチャラティの話はまだ終わっていない。まだまだ時間を稼ぐ必要があるようだ。 「貴方のスタンドは……身に纏うタイプのスタンド。 能力はわかりませんが、先ほどのリンゴォとの戦いからみたところ、並大抵の斬撃や打撃ではダメージにすらならない。 そしてなにより、柔軟性に富んでいる……。なにせあなたがスタンドを纏ったままでもあの隙間に潜り込めるぐらいですから」 「NN? 気になるかァ、ジョルノ・ジョバァ―ナ? 俺のスタンドが、気・に・な・る・の・かァアア~~?」 「興味はあります。そもそも貴方がどうやってスタンドを手に入れたか、どんなスタンドを手に入れたか」 「フフフ……口が上手いな、ジョルノ・ジョバァ―ナ……。ならばいいだろう、話してやるとも……公正にだ」 ニヤリと笑った男は表情とは裏腹に真剣な声色で自らのスタンドについて語り始めた。 滲み出てきた黄色のスライム、それを四人の目に焼き付けるように見せつけながら。 「俺の……正確には俺のスタンドではないが、まあいい、俺のスタンドの名は『イエローテンパランス』。 ただ肉を喰らう強欲なスタンド。それ以上でも、以下でもない。 俺はこいつを皮膚を覆うように薄く纏っている。これは鎧でも武器でもない。太陽光から俺の肌を守るためだ」 「さきほど首輪を銃で撃たれていましたが……?」 「ふぅむ、それだが、ついさっきまではコントロールに苦戦していてな……ようやく言うことを聞くようになってきたのだ。 さっきのあれは首輪をスタンドで覆っていたのだ。正直よく生き残れた思う。自分でも感心したぐらいだ。 だがこのスタンド、元々一族は全身で食事をするし、並大抵の攻撃では傷一つつけれん強固な肉体を持っている。 そういう意味では適当なスタンドではあるが、俺にとってしてみれば普段とあまり変わりはない。 日中でも活動できるぐらい……尤もそれが俺にはたまらなくうれしいがな」 「なるほどなァ~~……それにしても、ほんとしょうがねぇ~~な、コイツ。 本当に勝てるんだろうな、リゾット?」 「策はある。それこそ、人を殺す手段などいくつも、な」 「おっと、リゾット・ネエロよ……生憎だが俺は『人間』ではなくて『怪物』なんでな……!」 軽快なやり取りの間に、人間たちは策を練り終えていた。 ブチャラティからジョルノへ作戦を伝え終えた。青年は反論しようと口を開きかけたが、ブチャラティの真剣な表情を見て、そのまま言葉を飲み込んだ。 「ところで、俺は公正に話したんだが……お前たちは自分のスタンド能力を教えてくれる気はないのか? ンン~~~?」 「生憎、俺たちは暗殺者……仕事柄、スタンド能力は秘密なんでな……悪いな、怪物」 「そいつは残念だ……まぁいいさ、ならば俺の推測だけでも聞いてはくれんかね?」 どうぞ、とリゾットは返す。 エシディシはニヤリと笑うと人差し指を振り、茶目っ気たっぷりのウィンクをひとつ。 筋肉ばかりが俺の自慢ではないぞ、頭脳もある。そう言わんばかりの表情だ。 「ホルマジオのスタンドは自分も小さくなれるが、相手も小さくできるスタンド。 発動条件は相手を人差し指についた刀で切ること……または傷をつけることだな。 リゾットのスタンドは透明になるのでなく、周りとの風景に同化することで姿を隠している。 となると、俺に対しての攻撃手段がわからないが……俺の推測が当たっていれば鉄分操作だ。 砂鉄で姿をかくし、血液中の鉄から剃刀や釘を作り出す」 「おぅおぅ…………」 「根拠は?」 「まずはホルマジオ。自分だけが小さくなれるのであればあの状況で俺の足元を切りつけることはリスクがでかすぎる。 命知らずではあるが、お前たちは決して馬鹿ではない。死にたがり屋でもない。 危険を冒してまで俺に接近する必要があった……それは即ちスタンド能力に関するもの。 ならば自分が小さくなるぐらいなのだから……相手も小さくできると考えるのはいささか短絡的かな?」 「ほうほう、なるほどなァ~~~俺のスタンドはそんなくだらねーもんか」 「リゾットのスタンドは簡単だ、砂埃が舞った時に影の付き具合が違った。 つまり透明になるわけでなくあくまで擬態……さすがに舞い落ちる砂の流れまで計算できるやつはいない。 そして、血液中から釘、剃刀作成だが……後ろを見ろ」 ゆっくりと、目の前の男から警戒心をとぎらせることなく後ろをチラリと見る。 変わり果てた部屋、嵐のような暴力の跡、真中に転がったエシディシの右腕。『エシディシ』の右腕……? 「そいつは借りた腕でなァ……元は人間のものだったのよ。 俺の血はお前らと少しばかり違う……だからリゾットのスタンドも反応したのは本来人間のものだった右腕だけだってわけだ。 その差から考えると、結論は血液中の鉄分操作、となるわけだが、どうだ、正解か?」 「ご想像にお任せしよう……」 作戦は考え終えた、後は実行するだけ。 だが、四人は考える。果たして本当に可能なのか……? こいつ相手に、どこまでできる? 隙は作れるのか? チャンスはあるのか? 話を切り上げようとするリゾット。防御手段を持たない彼は下がり、ホルマジオのスタンドの範囲内に入っていく。 代わりにジョルノが一歩前に出る。対峙する怪物に、彼は疑問を投げかける。 「どうして僕たちにわざわざ言ったのですか……? スタンド能力の推測ならまだしも、自らのスタンドについて解説する必要はなかったはずです」 「なぁに、簡単な話……この戦いは力と力の戦いではないからだ。 心と心、精神をぶつけ合い、折れた方の負け。 もちろん今の俺たちのように実力は拮抗していなければそんなことは言えないが」 コツコツと、自分の心臓を親指でさす。話を続けるエシディシ。 「だからこそ俺もお前たちの作戦タイムを見逃したわけだ。 なにもただぼけっと突っ立ってたわけじゃあるまいな? 楽しみだ……お前たちはこの俺に対してどんな手を使ってくる?」 「おいおいおい、やけに余裕なんじゃねーの? いいのかよ、後で吠え面かくことになるかもしれんぜ?」 「なぁに、この俺も何も無策でお前たちに挑もうとしてるわけではない。 俺は俺なりに考えているのだ……気遣いはありがたいが」 最後にそう言いきると、深く深く息を吐いて行く一人の男。 息がとまるような圧迫感が舞い戻ってきた。お喋りはお終い、今一度互いの策をめぐらし相手の裏をかく戦いが始まる。 力と力、そして心と心のぶつかり合いが再開される。 「どうする、人間たちよ? 俺に何を見せてくれる? どんな手で俺を殺しにかかる? やって見せろ! 殺して見せろ! 俺は真っ向からそれを叩き潰してやるッ! 慎重に、策に策を重ね、殺った! とお前たちが思ったところを俺は生き抜いて見せる! なぜならそれがお前たちの心を折る一番の方法なのだから! その時お前たちはどうなる? もう無理だ、諦めよう。やはりコイツは化け物だ。 そうなってしまうのか? それとも自棄になって特攻してくるのか? さぁ、かかってこい、人間よ! 俺は逃げも隠れもしないぞ!」 仁王立ち。腕をなくし、スタンドはばれ、連戦に次ぐ連戦。 多勢に無勢、孤立無援、包囲網に巻かれた一人の怪物。 だが彼が怯むことはない。 ナンバーワンがオンリーワン! 彼が望むものは天に立つ……そしてそれは独りで成し遂げるもの! これも試練。スタンド相手にどのように挑むか。乗り越えたならば……必ずや高みに近づくことができる! 人間たちが動いた。 暗殺者二人は同時に姿を消し、二人のスタンド使いは躊躇うことなく走ってくる。 真っ向勝負は大歓迎、腕が一本ないところで構うものか。 腕がなければ足を使えばいいじゃない。カウンター気味のハイキックを二人にお見舞いする。 対するは拳のラッシュ、しかし今回は長くは続かない。 つかず離れず、互いをフォローしつつ、前に出たり下がったり。 攻める気持ちがないわけではない。しかしその裏には明らかに別の意図が隠れている。 作戦のための時間稼ぎか? 消えた二人の行方はいったい? ゴールド・エクスペリエンスの一撃をはたき落とし、ブチャラティの蹴りをさばく。 餌をばら撒くも二人食いついてこない。反対に、攻める隙を作らんと二人は慎重に出方を伺うのみ。 そのまま、何回かの攻防が過ぎる。時間が足早に過ぎ去っていった。 「ジョルノッ!」 「ゴールド・エクスペリエンス!」 前に出たスティッキィ・フィンガーズが怪物の行く手を遮る。 振り下ろされた黄金の拳が生命を生みだす。芽吹きと誕生、部屋中のあちらこちらが緑色に染まっていく。 最後の一撃を合図にブチャラティは大きく後退、そのまま建物の窓へと向かっていく。 窓のそばにはジョルノが準備、二人外に飛び出ると同時に、その周辺が周りより一層濃い緑に覆われた。 逃してなるものか―――邪魔する草木をかき分け、枝をたたき折りエシディシは後を追う。 ちぎれた腕から奇妙に伸びた血管。その先から灼熱の血液が噴出、植物たちは次々と枯れ果てていく。 窓を覆った緑を破り、僅かに残った銀のサッシに足をかける。 二人の姿は見えない。ナチス研究所の広大な庭が目の前に広がっているだけ。 しかし、とそこで怪物は考える。足をかけた姿のまま彼は目を凝らし、頭を回転させる。 外の二人を追うのも楽しかろう。しかし今二人は明らかな時間稼ぎ……ならば当然この逃げも策のうちのひとつ。 本当は自分を引き離したいのではないか? 狙いはナチス研究所、そのどこかにあるのでは? だが、そこまで考えてエシディシは首を振る。 さっきも言ったはずだ。怪物は逃げない。天を取るものは常に真っ向勝負! 心を折るのならば敢えて策に嵌って見せよう。そしてそれを上回る策と、力でお前たちを絶望の中に! 「とは言うものの、慢心してはいけない。敬意を表せ、人間を侮るな。 ならば策自体は潰さずにいよう。しかし……はたして策を実行に移せるかな?」 部屋の中央、転がった腕を取りに行く。その道中、ジョルノが生んだ緑に次々と火を放つ。 木が燃える、部屋が燃える。灼熱地獄のナチス研究所。 暗殺者二人が何かをやろうとも、この熱と火は彼らの足を止める。 その時二人はどうするか? 突っ切る覚悟を見せるのか? 遠回りの近道を選択するのか? 準備万端、ふたたび腕を装着したエシディシ。 ダンダンダン! と三歩で部屋を横切り、窓から身を捻りだし庭へと向かう。 追うのはあくまでジョルノとブチャラティ。怪物に対峙できる二人を潰せば策も巧くは機能するまい。 「ムッ!」 だが研究所の庭に身を踊らさせた彼が目にしたのは月も見えなくなるほどのジャングル。 背丈の高い草、常夏を思い出させる木、足の裏をくすぐる柔らかい芝生。 ジョルノ・ジョバァ―ナが短時間で作りだした一夜限りの箱庭。 身をかくすには絶好の場所、時間稼ぎは明白だった。時間を延ばせば延ばすほど、エシディシは策に嵌っていく! 慌てず騒がす、まずは気配を探る。闇夜に目を凝らし、地面に耳をつけ音を探る。 聞こえてくるのは大地の鼓動。生命誕生の息吹と、風に揺れる草の音。 生命力に満ちた、生き生きとした大自然。鼻の中に青々とした臭いが広がった。 不意に、微かな音を、彼は捕えた。 気を抜けば聞き落としそうになる僅かな音。植物が息づく間を縫い、タン……タン……と一定の間隔で音が聞こえる。 それは決して自然が生みだす音ではない。エシディシは出し抜けに起き上がると、一目散に駆けていく。 この音はまぎれもない。繰り出されたスタンドが大地を叩く音。波打つ大地が生命を生み出す音。 つまりこの音の先には……! 「見つけたぞ、ジョルノ・ジョバァ―ナッ!」 縦横無尽、縦方向、横方向。 木を蹴り、地を蹴り、草を踏みしめ、怪物は飛んだ。 もはやここは狭い人間が生みだした空間ではない。 三次元的な動きができる以上、ここは怪物にとって圧倒的有利なホームグラウンド! 「その音が『逆に』だッ!」 茂みを突き破り、ついに見つけたターゲット。獲物はまさに拳を振り上げたところ。 獰猛な猟犬のように、最後に大きく大地を飛び跳ねる。全身で覆い尽くさんとばかりに飛びかかる。 月が輝く夜、突然できた影に彼は顔をあげた。そして驚愕する。 空を飛ぶ怪物。地べたに座る人間。一瞬視線が交差する。 空中では如何なるものでも身動きは取れない。どれだけ身体能力が高かろうが、それだけ爆発的な筋肉を秘めていようが。 彼は見逃していた。獲物に飛びかかってから、彼は気がついた。 ジョルノの目の前、芝生に覆われ見にくいが、そこには引かれた一本のジッパーに。 「スティッキィ・フィンガーズッ!」 「何ィ!」 大地より飛び出たのは一人の男。研究所で自らが行った記憶がフラッシュバック。 立場は真逆、攻守が反対。 地に潜んでいたのはブローノ・ブチャラティ。モグラもびっくりのスピードで一気に天へと飛び立っていく! エシディシは獲物をとらえんと振りかざした腕を必死で引き戻す。 これは―――避けきれん! 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!」 「むおおおおおおおおおおおお!」 捕食者が生む一番の隙を突かれ、怪物はそれでも必死でブチャラティの攻撃をいなしていく。 だが、かわしきれない。右頬に大きなジッパーがつき、左手の指が二本、吹き飛ばされた。 終わりに放たれた蹴りはがら空きだった胴体に直撃、受け身を取ることもなく、みじめに地に膝をつき着地するほかなかった。 「まんまと罠にはまってしまったわけだ……。 時間稼ぎに見せかけた……いや、あの時はリゾットとホルマジオを逃すのが目的だったはずだ。 釣りの先にも罠を用意しておくとは……流石だな、ブチャラティ」 「…………」 「ジョルノが地面を派手に叩いていたのは俺を呼び寄せるのもだが、地中に身を潜めたブチャラティを隠すためか? なるほど、なるほど、恐れ入った……こいつは俺も手を焼くな」 睨みあいから一瞬、エシディシは姿が霞むスピードで動いた。 「だが!」 脇にそびえたつ木を蹴りでたたき折るエシディシ。 ズシンと音をたて倒れる木と、空か落ちてくる無数の木の葉。 怪物の視線の先で木の葉がぶれ、空間が歪んだ。 彼は聞き逃さなかった。ブチャラティの奇襲の最中でも聞こえた、芝生を踏みしめる音を。 緑の迷彩をとくと、そこにいたのはリゾット・ネエロ。 危うく木の下敷きになるところだったのを寸前で避けると、二人の仲間と合流。 背中のデイバッグを背負いなおすと、ポケットから一丁の拳銃を取り出しながら彼は言った。 「ナチス研究所に火をつけられた。ホルマジオに策を託し、俺は支給品の回収に専念。目ぼしいものを集め終えたのでこっちにきた」 「彼一人で大丈夫でしょうか?」 「……時間は予想以上にかかるかもしれない。だがそれ以上に首輪解除になりそうなものを火の海に放置しておくのは不味いと思ってな」 「リゾット、正直俺とジョルノは自分の身を守るのに手一杯だ。 エシディシがお前に攻撃を仕掛けた時、庇うことは不可能かもしれない……」 「それに関して言えば、問題ない。むしろ戦力になれると思ってきた。 でなければ俺も今頃研究所内を走り回っているさ」 「作戦は順調なのかね?」 三人の小声の割り込む、大きな声。 会議は中止だ。余所見なんぞはコイツ相手にしていられない。 エシディシは続けて言い放つ。 「俺をうまく罠にはめたことは、素直に敬意を表そう……。 しかしこの環境は俺にとって圧倒的有利! 人間たちは地べたを這うしかできないが俺は違う! 三次元的な動きに果たしてお前たちはついてこれるか? おっと、姿を隠そうともしたってそうは上手くいかんぞ……俺は音にも敏感なんでな。 そう、そこにいるお前のこともわかっているぞォ! 出てこい!」 ホルマジオはいない。非戦闘員は逃げるように指示をした。 ならだ誰が、どうして? 第三勢力の介入か? 作戦に影響は出るだろうか、ブチャラティは横目でリゾットの視線を捕える。 唇をかみ、暗殺チームのリーダーはじっと茂みに目を凝らした。 鬼が出るか、蛇が出るか。 エシディシが感づいたのは、殺気でなく純粋な聴力によるもの。 だが来訪者は知らない。ひたすら目標を掲げ、ナチスを目指し歩いてきた彼はエシディシの恐ろしさを知らない。 故に姿を現すしかない。今はまだ、その時じゃない。 自分の目標は最終的に必ず成し遂げる―――だが今は……コイツは、この怪物は。 影が動く。ゆっくりと茂みをかき分け、青年は姿を現す。 ジャングルを覆う木の隙間から差し込む月光が彼の顔を照らす。 ツンツンとあちこちをむく髪の毛、いまだあどけなさを残す表情、年に似合わぬ洒落たスーツ。 パンナコッタ・フーゴの登場に男たちの間に衝撃が走った。 対照的にエシディシは動じない。ただ一言、唸り声を面白そうに漏らしただけだった。 「フーゴ……!!」 「ブチャラティ、こいつは一体どうなってるか……説明してもらっても構いませんね……?」 青ざめ、表情には不安が浮かぶ。 ゆっくりとギャングたちと合流しようと足を向けるフーゴ。しかし、その前にブチャラティが立ちふさがった。 視線は真っすぐ、彼を射抜くように向けられていた。 その目の輝きは眩しいぐらいで、たまらずフーゴは視線をそらした。 「グェスと早人はどうした?」 「…………」 「二人はお前と一緒に逃げたはずだが」 「…………二人は」 気が気でないのはジョルノだった。 今はそんなことを問い詰めている場合だろうか。今にも襲いかかれることだってあり得るというのに。 だが、意外にもエシディシも興味深そうに二人の会話を見守っている。 リゾットも黙って戦況を見守っていた。エシディシに眼を光らせ、フーゴたちのやり取りに耳を澄ます。 「二人は…………死にました。いえ、正確には……グェスが早人に殺され、早人は、僕が殺しました」 「!!」 「何故?」 「早人が、ナチスに向かおうとし……グェスがそれを止めようとするうちに……。 僕の目が覚めた時には、早人が拳銃を持って、グェスが倒れていました。 そして、僕は……早人を殺しました」 死人のようにフーゴの顔は真っ青だった。今にも卒倒してもおかしくない、そんな雰囲気であった。 沈黙が辺りに満ち、暗闇がさらに濃くなったような錯覚に陥る。 ブチャラティは黙ったままだった。一旦目を閉じると、彼は深い溜息を吐く。 「そうか」 たった一言、それだけだった。 それ以上、彼は何も言う必要がないと判断した。そしてそれがフーゴにとってなによりも辛いものだとジョルノには思えた。 信頼と落胆は表裏一体。ブチャラティのようなできた人間にがっかりされるのは尚更心が折れる。 だが切り替えるしか他ないだろう。ここは戦場、躊躇っていては死が訪れる。 「何が起きたのか、どうしてそうな事になってしまったのか、今は詳しく聞かないでおく。 だが落胆はした。そして疑惑も残っている。 『今だけ』は長年のお前に対して敬意を示し信頼しよう。しかし、これが終わった後……」 ブローノ・ブチャラティはギャングだ。 仕事となれば人を殺すことに迷いはない。 それは例え相手が女でも、子供でも、そして……昔の仲間であっても。 「覚悟しておけ」 「……わかっています」 拷問、口を割らすための手段をいくつも傍で見てきた。 フーゴは震えあがる。ブローノ・ブチャラティは自分が正しいと思った時、どこまでも冷酷で無感情でいられる。 必要とあれば人を駒のように扱い、損得で命を選ぶのだ。自分の命も、含め。 フーゴはゆっくりと足を動かし、ジョルノの隣に立った。 口早に今の現状を彼が伝える。 見ての通り怪物が暴れて手がつけられない。四人のギャングは策を練り、それに向けて奴を足止めせねばならない。 端的に、とりあえずの情報を飲み込むとフーゴは手にした拳銃を構え、怪物と対峙する。 汗が伝い、自嘲的な笑顔が浮かんだ。 本当に、そんな怪物を、四人のスタンド使いで倒せるのか? 「クックックッ……面白いジョークだな、ブチャラティィイ~~~?」 「…………」 「今聞いておかないで大丈夫か? なんせ終わった後なんぞ言ったが……終わった後に二人ともしゃべれる状態でいられるか怪しいものだからな」 「何が言いたい……?」 「死ぬ前にスッキリしておかないで大丈夫か? ってことだ……。 『今は詳しく聞かないでおく』『終わった後覚悟しておけ』……。 まるで自分が生き残れるかのように話を進めやがる! しかし、ンン~~、俺相手にいささか大胆すぎやしないかね?」 「貴様こそえらく余裕だな……実質5対1だ。四人でも苦戦していたお前が、果たして俺たちに敵うのか?」 「フフフ……ほざけ、この人間どもが!」 三度、激突する人間と怪物。 場所を変え、人を変え、勝負は加速していく。 「いくぞ、ジョルノッ! フーゴ! 俺の後についてこい!」 終わりは近い。夜はこれからだというのに。 真夜中まで残りわずか―――勝負はそのころには、ついているだろう。 どちらかの死をフィナーレにして。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ
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◆ 「おい…………」 他の四人が飛びかかった中、唯一ホルマジオはタイミングがずれ攻撃に参加することができなかった。 故にそれを真っ先に見たのは彼。 そして彼だけが正確に何が起きたかを見ていた。 「なんだよ……、これ…………」 だというのに、彼は目の前の光景が理解できなかった。 カチカチ、と甲高い音が建物に反射し、聞こえてくる。 ホルマジオは気づかなかった。その音は自らの歯が震えて奏でている音だということに。 「何が起きたっていうんだよ……ッ?!」 燃え続けるナチス研究所、その火をバックに立ちすくむ影が一つ。 戦闘の中で木が折れ、建物が崩れ、出来上がった一つの山。 そこに君臨する男は、その巨体を隠すことなく、ただ立つのみ。 そして飛びかかったはずの四人は吹き飛ばされ四方八方に散らばり、倒れ伏す。 弱者と強者、敗者と勝者、蹂躙するもの、されるもの。 こんな未来を誰が見ることができたというのだろう。こんなことになるのだと誰が予想できたのだろう。 呻き、頭を振り、正気を戻した四人のギャング。 しかし、彼らは本当に自分が正気に戻ったのか疑わしくなる。 もしかしたら今も本当は頭を打ち、目の前のこの光景は幻想でしかないのではないか。 現実は非情である。 どれだけ見直そうとも、何度目をつむり、開こうとも、目の前の光景は変わりやしない。 瓦礫の山の上に立つ男、エシディシ。 身体には傷一つなく、まるで磨きたての彫像のような輝きを放っていた。 恍惚とした表情を浮かべ、天を仰ぎ見る彼は今までの彼とは、違う。 誰かが呟いた。 「神々しい…………」 そして、五人の中で感情が芽生える。 共通した一つの警告は人間が残した防衛本能が喚きたてるもの―――俺達はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。 「ハッ!」 エシディシが右腕を真っすぐ空へと掲げる。肘から先がないその腕。 そこに一輪の真っ赤な花が咲く。大きな大きな、花だった。 美しく、しかし、強さを感じさせる花はやがてドクンドクンと鼓動し始める。 そして、信じられないことに……ギャングたちは目の前の光景を疑った。 花が腕へと姿を変えていく。度重なる努力と、いくつもの試練を潜り抜け必死で人間たちが与えたダメージ。 それが、目の前で、一瞬で修復された。 まるで、そんな傷はなかった言わんばかりに。 目の前のものが現実か、はたまた夢なのか。 攻撃してみればわかると言わんばかりに動いたのはリゾット。 彼は冷静だったのだろうか? いや、そうとは言い切れない。 ただ単に彼は願ったのかもしれない。目の前のこの現実が、悪夢であってほしいと。 自分が放つ、この紫外線がやつにダメージを与えることで、この夢から抜け出したい。 そう思ったのかもしれない。 「なん……だと?」 だが、駄目。圧倒的存在感、威圧感は消えない。 いや、むしろ増すばかり。 眩い光を放つ前、エシディシは確かにこの紫外線に対して、抵抗を示していた。 だが、今はどうだ! まるでスポットライトを浴びる大スターかのように! まるでファッションショーに出る女優のように! 笑みを浮かべ、彼は平気で立っているではないか! 「スティッキィ・フィンガーズ!」 ブチャラティのスタンド攻撃が直撃した。カウンター恐れて長くは攻撃できない。 しかし、それでも脚の筋肉を、胸の大事な器官を、余裕で組まれた腕の何箇所かを吹き飛ばした。 それでも目の前の存在は笑みを消さなかった。吹き飛ばされた場所を、興味深そうに眺め、そしてゾッとすることに、笑みが深まった。 「パープル・ヘイズ―――ッ!」 フーゴを突き動かしたのは、追いつめられた鼠の気持ちか。 さっきまで自分たちが追いつめる側の猫だったというのに。 焦りと、その浮かんだ笑みを、なんとかして消し去りたい。あの勝ち誇った顔、浮かぶ余裕をどうにかしたい。 少なくとも彼を突き動かしたのは、勇気ではなかった。恐怖から生まれた行動であった。 しかし訪れたのは絶望。 まるで悪夢だ―――誰もがそう思った。 一連の流れはまるで、ビデオカメラを早回しにしたように起きた。 シューシューと煙をあげる肉体。飛び散った肉、削られた足や腕。 まずフーゴが攻撃した箇所が、誰に触れられていないのに、ボトリと音をたて、そして蠢きだす。 ブチャラティの攻撃で欠けた肉体が10秒もかからぬうちに修復され、筋肉が盛り上がる。 そして、落とされたウィルス。驚くべきことに、そこから生まれ出た一匹の鼠。 毒々しい紫色の体色に、妖しく光る真っ赤な目。 その小ささとは反対に、その鼠が放つ禍々しさと言ったら! 「うわあああああああああああああ!」 フーゴが悲鳴を上げる。襲いかかってきた鼠の敏捷な動き。 野生生物の速さではないスピードで鼠がフーゴの左腕を噛み切る。 そして彼は、気づく。噛まれた辺りが煙をあげ始めたことに。 そう、それはまるで――― 「ゴールド・エクスペリエンス!」 ジョルノが感染したフーゴの左腕を切り飛ばした。 間一髪、体まで毒がまわる前に、なんとかフーゴは助かった。 何度か痙攣するような動きを見せ、フーゴはようやく自分が助かったことに気付いた。 しかし、体の震えは止まらなかった。はっきりとした死、それを身をもって体験した彼。 涙すら浮かびそうな顔から、ジョルノはそっと視線をそらした。 唇を噛みしめる、太陽のような少年はそれでも前を向く。 いや、前を向くしかなかった。ふとすれば心が折れてしまいそうなのは、彼も一緒だった。 鼠は主の元へ戻ると、元の場所へと体を沈めていく。 なんでもありだった。何を信じればいいのか、何がやつにとって不可能なのか。 目の前の光景をいちいち確かめ、疑っていては間違いなく殺される。 思考を放棄する。ある点まで、考えずに、自分の本能に従う。 恐怖を麻痺させなければ気が狂いそうだった。それほどまでに、奴は圧倒的で神々しく、敵いそうにない存在だった。 命令に従う。命令を出すのは自分自身、しかしその命令に疑問を感じてはならない。 ただ兵士は従うのみ。目の前の存在を殲滅せよ。 できるのか? そう疑ってはならない。なぜなら自分たちは兵士だ。 命令を遂行し、目の前の存在を抹殺する。今考えるのはそれだけだ。 ―――そう思っていられるのはいつまでだろうか? ―――コイツが、本気で俺たちを仕留めにかかったら、俺たちは……どれだけ持ちこたえることができる? 猛攻に次ぐ、猛攻。 後先考えず突っ込む命知らずの兵士たち。 拳を振るう。蹴りを放つ。能力を発動させる。相手を蹂躙する。 狙うのは目の前の存在の抹消、目の前の存在の暗殺―――目の前の存在を殺す。 だが、それは儚い夢だった。 彼らは嫌でも思い知らされた。自分たちが相手にしているのは、もはや存在しないものだといことに。 どんなラッシュだろうが、どんな致命傷だろうが、どんな能力だろうが。 彼らは自分を信じる心を、真っ二つにへし折られた。 自分の精神力、スタンド能力を否定されたのだ。目の前の存在は軽く散歩を楽しむように、歩き、ときどき気まぐれで攻撃をかわした。 ただ、それだけで……彼らは思い知らされた。 「メタリカ……メタリカ…………メタリカァア――――!!」 「リトル・フィートォオオオ―――――ーッ!」 何も起こらない。 それは即ち、己の存在の否定。 己の心の弱さを、事実として突き付けられたようだった。 「馬鹿な…………ッ!」 「フフ……フフフフフフ! フハハハハハハッハハハハッハハアハ―――――! 僅か数分! 600秒にも満たないその僅かな時間でエシディシは全てをひっくり返したッ! そして彼は手に入れた! 究極の力と! 彼の望み、人間たちの絶望を! 地べたに這いつくばるのは人間たち。優しく撫でただけ、軽くスポーツを楽しむように体を動かしただけ。 その程度で人間たちは、踏みつぶされ、ねじ切られ、惨めに下を這いつくばる。 傷を負い、満足に動けるものも少なく、回復手段であるジョルノ・ジョバァ―ナも、もはや虫の息。 気力と根性すら折れかけた人間たちに漂い始めた絶望感はあまりに濃い。 その光景を眺め、エシディシは笑った。腹の底から、喉が張り裂けるんじゃないか、そう思えてしまうほど声をあげて笑った。 ついさっきまで悩んでいた自分が滑稽だった。 何も考える必要などないじゃないか。やはり優れた存在なのは俺たち……いや、『俺』だ。 認める? 認められない? 誰に認めてもらう必要がある? 何故認めてもらう必要がある? 気まぐれに戦った様が目の前の光景だった。真剣に悩んでいたころの自分自身がまるで道化のように馬鹿らしい。 そして何より人間たちが可哀想だった。あんなにも真剣に自分を殺すと決意していた人間たちが! こんなにも惨めになってしまったなんて! 超再生! 超進化! 超知能! 超筋力! 超能力! スタンド……? スタンドだってぇええーーーー? クソにも劣る、あのションベンカスがなんだというのだ。 今更人間を敬う? 人間に習う? チャンチャラおかしかった。 もはやエシディシは手に入れたのだ。全てを、人間を超越し、精神世界から解き放たれたのだ。 それを超えた力があるというのに……今更彼がそんな古臭い精神論にしがみつく必要がどこにあるというのだろうか? 「か、勝てない……」 膝から崩れ落ちたフーゴは目に涙を浮かべ呻いた。 「勝てるわけがない……ッ! 奴は『神』になったんだ……僕たちは、ここでお終いだ……!」 (…………いや) だがエシディシはそう思わなかった。 彼は自分の力を甘く見ているわけではない。冷静に、それでもどれだけ悲観的になろうとも、ぶっちぎりの存在になってしまったことは間違いなかった。 だからこそ、その冷静な頭脳と、観察眼が告げていた。 ゴミ虫、人間どもはまだ諦めていない。まだ彼らは諦めていないのだ……! ブチャラティが立ち上がる。リゾットが立ち上がる。ジョルノが……ホルマジオが! フーゴはぼんやりと四人を見る。そしてベソをかきながらも、彼は確かに立ち上がった。 それを見ても、彼は何も感じない。 羽虫が足掻くのを見て人間は何を思うだろうか? 可哀想だと止めをさすか、うっとしいとサッサとけりをつけるか。 どっちみち結末は一緒だ。人間たちがたどる終わり―――それは死。早いか、遅いか。痛みがあるか、ないかの違い。 ただそれだけだ。 ただエシディシはうんざりしていた。彼の何処に人間を敬う気持ちが残っているのだろうか? もう、足掻くな……。なにもそんなに死ぬ間際まで辛く生きることはないだろう……。 そういった気持だった。天から見下ろす軽蔑の眼差し。 早めに息を止めてやろうと思ったのは『たまたま』彼がそう思っただけ。 べつにこれといった特別な感情はなかった。 神は気まぐれなのだ。いつだってその気まぐれに翻弄されるのが、人間の宿命。 一人、また一人が、じりじりとにじり寄ってくる。 五人の瞳はこれまでとは違った目の輝きがあった。 殺意はいまだに収まらず、いや、今まで以上に燃えあがり、エシディシを焼き尽くさんと熱を持つ。 身体の限界はもうとっくに超えている。ならば彼らを突き動かすものは何か? 精神に裏切られ、無力感に苛まれながらも彼らは何を見ている? 『覚悟』だ。その覚悟とは、諦めることで受け入れることではない。自棄になって観念することでもない。 彼らの足を動かすのは、それでも前を向き歯を食いしばり、困難を受け入れる『覚悟』だ! 困難がやってくるのではない……自分たちで困難に立ち向かっていくのだ! エシディシの研ぎ澄まされた感覚が反応した。 来る……最後の戦いが。 全てを投げ打ち、全身全霊を込めた、限界のまたその一歩先を行った、正真正銘、本当の本物の最後の戦い―――! 5人は走った。 リゾットとホルマジオは姿を消し、フーゴとジョルノがエシディシへと向かいき、ブチャラティは目的地へと駆けていく! 紫と黄金の瞬き―――このまま気を失ってもいい、指一本動かなくなってもいい! そんな想いを乗せた二人の拳がエシディシに迫り来る。それも彼を挟み込むように、両方向から! エシディシは引導を渡してやろうと決心した。もういい、苦しむな。お前たちはよくやったぞ。そう祈りを込め、笑った。 跳躍したエシディシは天まで届くのではないかとぐらい上昇していく。 宙返りを華麗に決め、一度距離を取って二人に襲いかかるつもりでいた。 ところが、そんなエシディシを追撃する影が一つ。パンナコッタ・フーゴ、紫色のスタンドを脇につれた彼が猛然と突っ込んできた。 (可哀想に) 単騎で突っ込んできたフーゴをフォローするかのように、後方でジョルノが蔦を伸ばし、エシディシの行動を縛る。 加速と、最後の力を振り絞ったパープル・ヘイズが吠える。 凶暴さ、狂気、全てを吐きださんと、いつも以上荒々しく暴走する力。 それも虚しいほどに無力。当たったそばから、エシディシの身体は修復を開始。既にパープル・ヘイズの毒の抗体が彼の中で出来上がっているのだ。 拳の弾幕をすべて受け止め、足に絡まる植物を引きちぎり、一歩だけ前に踏み出す。フーゴの顔に恐怖が浮かんだ。 憐みを浮かべ、エシディシは腕を振るう。弱いことはこんなにも、罪なことだったのか。 「ガはああァッ…………」 的確に鳩尾を貫いた一発、フーゴの膝から力が抜ける。 神に抗ったことを懺悔するかのように、彼はその場に崩れ落ちた。エシディシはすぐさま止めを刺そうとした。 これ以上苦しんでは可哀想だ。それが強者の傲慢さであり、権利であり、義務であると彼は思っていた。 「さようならだ」 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄―――ッ!」 横やりを入れられたことで彼は少しだけ不満げな顔を浮かべた。 まぁいい、フーゴかジョルノか、順番が少しだけ入れ替わっただけのこと。 体力の限界は目に見えて明らかだった。キレもない、スピードもない。 鬼気迫るものは感じさせるが、所詮それまで。気力だけで保ったラッシュに、向かっていき、沈み込むと足払いをかける。 面白いようにすっ転んだジョルノ。バランスを失い、宙に浮いたその一瞬の間に、エシディシは蹴りを放った。 顎を捕えた一発。足の裏に届いた感触は、骨を砕き歯をも木っ端微塵にしていた。 オモチャのように、ジョルノが飛んでいくのを見る。口から噴き出た血が点々と後をつけ、まるで何かを遠くまで飛ばす競技のようだとエシディシは思った。 「さて……」 後で止めを刺しに行くとしよう。とりあえずは目の前の、パンナコッタ・フーゴから。 痛みに転がり、少し離れた位置にいるフーゴに向かって歩く。一刻も早く彼を『救って』あげなければ。 なるべく一瞬で。さっきは鳩尾で逆に苦しめてしまったから、首でも刎ねるか。 淡々と、病人を見る手術医の気持ちで決断した。手をいつも以上にキレ味が出るような形に変化させる。そして――― 振るった刀が捕えたのはフーゴではなかった。 透明に化けていたリゾット・ネエロが直前でフーゴ助けようと彼の体を持ち上げ、走っていたのだ。 必然的に遅れて振るわれた刀はフーゴでなく、リゾットの体を切り裂き……彼の左腕が吹き飛んだ。 支えを失ったフーゴが放り投げられ、思いきり叩きつけられた。 片手がなくなりバランスを失ったリゾットは、エシディシに向き合おうとするも、そのまま背中から倒れる。 倒れた場所が悪かったのか、ちょうど突き出た岩に頭を激しく打ち付け、フードの端から真っ赤な液体が垂れ落ちた。 3人は動かない、いや、動けない。 もはや立ち上がることさえできない虫の息。絶体絶命、まな板の上に載せられた魚。 エシディシはゆっくりとリゾットに近づいて行った。表面上は笑みを浮かべ、余裕を感じさせながら。 しかし彼は忘れていなかった。耳を澄ませ、見える限りの範囲の闇に眼を凝らす。 残りの二人はどこに行った……? 一体に何を仕掛けてくる? 身体をだらんと投げ出したリゾットを見下ろしてやる。立ったもの、倒れ伏したもの。 それでも諦めが悪いのか、リゾットはエシディシをにらみつける。 気持ちだけはお前に負けてるものか。だがそんな感情は負け惜しみだ、弱者のクソみたいな傷のなめ合い行為だ。 顔を覆い、首を振りながらため息を漏らす。可哀想に、本当に……可哀想に。 「もう苦しむな……楽に逝け、リゾット・ネエロ」 「俺の名を覚えているとは……人間は下等生物じゃなかったのか?」 「なぁに、ちょっとした気まぐれよ……そんな特別な事じゃない……」 ふと、最後ぐらいはかつての自分の流法でけりをつけようかと思った。 なんてことはない、ちょっとしたお楽しみだ。散々悩んでいた自分へのけじめでもあるし、これから来るべき未来に向けての実験でもある。 掌を綺麗に伸ばし、突き出した爪の先から細く、長い血管がするすると音もなく出てくる。 五本の操り糸はリゾットの顔を撫でまわし、ぽとりぽとりと垂れた血管が水膨れを作り出した。 出し抜けにリゾットがエシディシに話しかけた。 「エシディシ……アンタ、こいつだけは絶対に許せねェ―――ッ! って思うやつはいないか?」 「……何?」 「人間的に許せない奴はいないかって聞いてるんだ。 俺にはたくさんいた……。しかも幸か不幸か、そんな奴らにいつも囲まれて仕事をしないといけなかった。 話を聞かず、勝手に上げ足を取り、そこら構わずブチキレる奴。職場にピンナップ写真集を持ち込んだり、挙句の果てには女自体を連れ込むやつ。 与えた任務はさぼり、やっと終わらせたら文句しか言わない奴。仕事もできなければ、愚痴ばかり言っていつも泣きべそばかり浮かべてるやつ。 まともな奴のほうが少ないぐらい……正直頭を抱えたよ。 こんなゴミ箱のクソの集まりみたいな集団で、仕事なんてやってられるか、そう思った日は数え切れない。 全部放り出して、慌てて全員で今回だけは許してくれ、って謝られたこともある」 「昔話か……? フフフ…………! 走馬灯でも見ているのか?」 「だがな、そんな下らねェ野郎どもの集まりでもな、皆骨のある奴ばかりだった。 俺が半殺しにしようが、路地裏に連れ込んで根性入れなおしてやろうが、次の日にはケロリとした顔でまた来やがる。 堪らねぇぐらい気に入らねェ連中ばっかだったさ……。 なにより気に入らねェのがそいつらが俺とまったく同じ信念を持ってたことだ」 「ほぅ、それは何だ?」 返事は期待していなかった。もう人間の戯言につきあうのも少し飽きてきた。 エシディシは力を込めると、血管をリゾットの中へと食い込ませる。 顔面に500℃を超える熱湯を流し込み、熟れたトマトを踏みつぶすように、跡形もなく頭部を吹き飛ばしてやる。 「それはな…………」 「―――いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しないってことだッ!」 「ハッ?!」 声は背後から聞こえてきた。 エシディシは反射的に腕を振ろうとした。本能的に振り返ろうとした。 だがそんな暇なく、反撃の機会を与えることなく! 暗殺チームの一員、ホルマジオのリトル・フィートの刀がエシディシを串刺しにした! 血が飛び、皮膚を突き破り、体の中心を突き抜け、反対側まで飛び出た刀! 暗殺とは一瞬でかたをつけなければならない。暗殺とはターゲットにばれてはならない。 暗殺とは迅速に、かつ確実にせねばならない。暗殺とはできるだけ簡単に行わなければならない。 そういう意味ではこの暗殺はまさに会心の出来! 殺気を悟られることなく近づいたホルマジオ! ターゲットの注意をそらし続けたリゾット! 阿吽の呼吸に、達人の仕事! それはまさに暗殺チームの名が見せる一番の輝き! しかし――― 「ククク…………」 プロと言えども、人間以外は専門外。 彼らが暗殺してきたものは心臓を貫けば始末できるものだった。首を跳ね飛ばせばそれでお終いの存在だった。 だが目の間のコイツはどうだ! 貫通した刀を中心に、僅か数秒の間に! 筋肉は盛り上がり、逆に刀を包み込むような鎧ができているではないか! 貫いたはずの武器は逆に、ホルマジオの行動を妨げる鎖に早変わり。 いや、それだけにはとどまらない……。ブジュリ、ブジュリ、不気味な音が二人の耳をつく。 焼きごてを押しつけられたような、針山に腕を叩きつけられているような。 途方もない熱と痛みがホルマジの脳内を揺らす! 自分の腕が食われ始めた……その痛みと恐怖に彼の喉から悲鳴が飛びだした。 それを見せつけるかのように、エシディシは体をくねらせる。 途切れ途切れ、激しさを増し、うねるような悲鳴は塞いだ耳すらも突き抜けるのではないかと思えた。 断末魔―――まるで全ての生命力を絞って、最後に叫んでいるのではないかと思えるほどに。 邪悪な笑みがエシディシの顔に広がっていた。これ以上ないほどの絶望の叫びに彼は酔っていた。 果たして、そんな部下の声を聞いて、リーダー様はどんな表情を浮かべるのか? 無力感に追われ、責任感に押しつぶされ、一瞬でもつかんだ勝利がするりと抜けたその表情は―――? 「言ったはずだ……―――いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しない、とな」 予想に反してリゾットの顔は平然としていた。今までとなんら変わらず、冷酷で無表情。 気に入らない。エシディシはほんの少しだけ、苛立つ。 何故平気でいられる? 自分の部下が、自分の失態で、目の前で殺されかけているのだぞ? 死んでも解除しない? スタンド能力? 馬鹿らしい……! もっと脅えよ、苦しめ、恐怖せよ! いつの時代も暴君は刺激を欲しがるものだ。エシディシにとってはそれが人間の絶望であり、恐怖であった。 だというのに目の前のコイツはなにもしない。つまらない……退屈なもの。 いや、それ以上に気に入らない。神の言うとおりに、思い通りにならないものなんぞ、不要なものだ。 エシディシは数歩前に踏み出す。依然悲鳴をあげたホルマジオは既に足に力が入らないのか、ずるずると引きずられていく。 一歩、また一歩踏み出す。ホルマジオの体が揺れる。地面にこすれ、膝から血が吹き出る。 もっと目の前で部下が悲鳴をあげてるの見せつけてやろう。 血がかかるような距離で、その手足を引きちぎり、その肉を味わわせてやろう。 そして最後は死んだ部下の手で、その力を使って惨めに八つ裂きにして、後悔させながらあの世に送ってやる! 「―――そこだ、その位置、その角度……最高だ。これ以上ないってぐらい最高にイイ位置だ」 「…………?」 じっくり時間をかけ、痛みのあまり気を失ったのか、声もなくしたホルマジオを引き連れ、エシディシはリゾットの目前に立った。 既に捕食は腕にとどまらず、手も肩も、そして身体自体も少しずつ取り込み始め、まるで奇妙な二人羽織のようだった。 背中にくっつけたホルマジオを、これ以上ないぐらいグロテスクな物体に仕上げよう。 そう思っていたエシディシは、それ故にリゾットの言ってる意味がわからなかった。 まさかこの極限状態に頭がイカれてしまったのか? 直視できない現実に、彼は逃避世界に入り込んだのか? 「何を言って―――」 「「『ブッ殺す』と心の中で思ったなら…………」」」 そう想い、尋ねようとしたエシディシ。 しかし彼は見た。 リゾットの、沈んだ凍るような瞳に輝く、燃えたぎる殺意を! 鏡のように映し出された目の奥底で、自らの背中に張り付くホルマジオにもその輝きがあることに! そして今まで見た誰のものより、その殺意が根深く、暗いことに! 「「その時スデに行動は終わっているんだッ!!」」 「スティッキィ・フィンガーズッ!」 「DDDOOOOOHHHHHHHHHHH!!」 地面が、崩壊していく。 地に潜んでいたブチャラティが張り巡らせたジッパーを、一斉に解放した。積み重なるように均衡を保っていた地層は崩れ落ちていく。 木も草も、鉄も銅も。ジョルノが生んだ植物も、広大な敷地の庭も、燃え盛っていたナチス研究所も。 全てを巻きこみ、全てが深い深い闇へと吸い込まれていく。 エシディシも落ちていく。ホルマジオも落ちていく。 何もかもを巻き込み、終わりが近づいてくる。闇の奥底へ……落ちる、落ちる、落ちていく。 ―――バシャンッ! 終点はすべての始まり、生命の誕生、水の中へ。 ナチス研究所という巨大な施設を司る、大きな大きな下水管。 しかし、下水管の中はまるで激流、濁流、大決壊。 これがホルマジオとリゾットが研究所の中を走り回り成し遂げた罠の集大成。 あちこちの水道管をぶち壊し、周りの配管をせき止め、全ての水をこの一本に集中させた。 それこそ川の水も、である! 数時間前に降った豪雨は川の勢いを増し、流れを加速させる。 施設の膨大な水 プラス、川の水! もはやそれは数の暴力とは言い切れない『災害』! 水の暴力! 大自然が生んだ、決して人間がコントロールしきれない、神の力! 「NUAHHHHHHH! き……貴様らァアア――――ッ!」 激しい流れに負けず、呼吸の出来ない水も負けず。エシディシは流れに逆らい必死で泳ぐ。 身体を変形させ、水中で最も適した形に! 例え潜水艦だろうと、タンカーだろうと潰れてしまう激流でも! このエシディシは、決して負けはせん! 首の脇に、ぽっかりと二つの穴があき、流れるくる水を通し、酸素を頭へ送る。 最適の形、鮫のような抵抗の少ない肌に変化、強靭な肉体から凹凸が減る。 流線形は美しさをもたらし、なめらかさを持たらし、その存在は泳ぐためだけに生まれた形へ。 すべてを切り捨てて、彼は変身した。水の流法、新しいエシディシ―――新生柱の男だ! だが、それでも切り捨てられないものがあった。いや、『いた』。 ホルマジオが必死で食らいつく。ボロボロの体、半分同化した肉体、ほとんど呼吸のできない状態でそれでも彼は食らいつく。 水の流れはあまりに激しく、細胞でいちいち消化していては流れに押し負けてしまう。 だが消化しなければ、大きく出っ張ったホルマジオは水の抵抗を大いに受け、エシディシの負担は大きくなる。 にっちも、さっちもいかない。しかし、そんな状況でも、エシディシの巨体は少しずつ、また少し前進する。 「なんの…………これしきのォオオ! これしきのことでェエ―――――ッ!」 「だろうと思ってたさ」 ただ彼は孤独だった。 一人だった。 助けを求める相手も、ピンチに駆けつける仲間もいなかった。 声に驚き見上げると、月を背にし、一人の男がエシディシの元に。 ゴールド・エクスペリエンスが作り出した蔦が穴の脇から垂れ下がり、そしてそれに捕まりぶら下がる男。 「スティッキィ・フィンガーズッ!」 片手のラッシュが今のエシディシにとっては、何百人ものスタンド使いのラッシュより辛いものだった。 こんな、貧弱な攻撃が……! 便所のカスにも満たない非力な人間の……しかも、片腕による攻撃が! 吹きあげる水飛沫の波間を縫い、ブチャラティの拳が襲いかかる。 耳は切り飛ばされ、唇から血しぶきが飛び、大きなジッパーが背中を貫く。 しかし! 驚愕すべきはその男の力! 生命力にして、進化の力! それでもエシディシは進む! どれだけブチャラティが狙いを定め、ぶちかまそうとも! その眼力は本物! 泳ぎの中でかわし、避け、時には自らの肉体を犠牲にし、それでも彼は激流に押し負けない! 人間たちに死を! 下等な生物たちに絶望を! 恐るべきはその執念! 感情がこの勝負を分けるというならばまさにこの戦いは身を削り合うを超越し、魂を削り落とす戦い! ぶつかり合うその気迫と気迫! 精神力と精神力! 「残念だったなァアア――――ッ! 俺は死なん、死なんぞ人間どもォオオ―――――ッ!」 ダイヤモンドのような澄んだ輝きではないかもしれない。 両者はともに、あまりにも殺しを重ねてきた。血にまみれ、肉を踏みしめ、築きあげてきた山は互いに膨大な量。 生きるため、食べるため。そこに違いはあるのだろうか? 人間が人間を殺す理由と、人間でないものが人間を殺す理由。 そこに明確な善悪などはない! あるとするならそれは互いの感情のみ! それは殺す側に立った彼らが抱く感情の差……そして、それは唯一にしてにして最大の差! 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ――――!」 ブチャラティが、両手を離した―――『同時に』。 宙に浮かんだ身体、自由になった両の腕。存分に振るわれる拳に一瞬、思考が止まった。 戸惑うエシディシの腕を跳ね飛ばしたブチャラティの体は何の支えもない―――彼も、落ちていく。 激流を追い越し、激流を飲み込みかけていたエシディシの体が急速に重くなった。 最大の加速力にして、舵を取っていた腕が吹き飛ばされては流石の究極生命体も流されるしかない。 だが彼は水が口に飛び込んでくることも構わず、自分がなすことに意味がないと知っていても嘲りの意味を込めて吠えた。 また一人、死を……またひとつ絶望を増やすことができた。その歓喜の意味を込めて。 「フハハハ、貴様も道連れだブチャラティィイ――――! 流されて行けェエエ―――!」 頭上に広がる穴が急速に流れていく中、それに構わずエシディシは笑う。 細く暗い配管に笑いが反響する。まるでいくつもの笑い声が狂ったように増幅し、一面を包んでいた。 絶望、死。ブチャラティは死ぬ……水に流されて行く! だが俺は生き残る! それは俺が究極生命体だからだ! 俺が生き残るのはそうなるべきだからだ! 高笑いはやまない。気が狂いそうになるような、下劣で吐き気を催す笑いだった。 そして、その声は次の瞬間、ピタリとやんだ。 「復讐は蜜よりも甘い」 ブチャラティは川に落ちることなく、『宙に浮いて』いた。 空間が歪む。砂嵐が去ったような現象の終わりとともに、ブチャラティを支える人物が姿を現した。 真っ暗な服を、いつものように風になびかせて。 彼が姿をあらわすときは―――死を運ぶ時。 「だがそんなもののために……『自らの欲望のためだけ』に、俺は一度たりとも手を汚したことはない。 誇りを捨て去った殺しなんぞは……この世で最も醜く、吐き気を催す邪悪な行為だ。 そして、その慣れの果てが……今のお前だ、『究極生命体』エシディシ」 その男は誇り高い人間だった。 常に冷酷であり、無表情な仮面を張り付けていたのは、そうしなければならないほど普段の彼が激情家だったからだ。 熱く燃えたぎるマグマのような怒りは、抑えつけなければ漏れ出してしまいそうだからだ。 「そして、この俺がどうしてそんな闇の世界にのまれなかったわかるか? 気を抜けば殺され、下手したら自らの中に潜む『化け物』に心を喰われる。 そんな世界で俺が、『俺たち』が誇り高くい続けれたのは何故かわかるか?」 奪う側に立つ彼は死神。人の死に涙を流さなくなったのはどうしてか。 それは彼が背負ってきた命の数々……数え切れないほどの数、量りきれないほどの重み。 「気高くあり続けたい、こいつらに笑われたらかなわねェ。 そんな、そう思わせてくれる屑が俺の周りにはいたからだ」 立ち止まり振り返っていては潰れてしまう。 足を止め後ろを眺めていれば追い付かれてしまう。 故に彼は前を見、歩き続けてきた。誰よりも先頭に立ち、誰よりも顔をあげ、そして何人もの仲間に囲まれ―――! 殺すことが悪いのか? 殺すことが悪なのか? 自分は死んだら地獄へ行くだろう。それだけは間違いない。それだけは断言できる。 だがそれでも構わない。これも全て自分が選んだ道。 だからこそ、せめて死に行く全ての、自ら手を下す全ての者の顔を、声を、命を。 背負って生きていこう。 なんの意味もない行為かもしれない。 だがそれが暗殺者として……ひとりの悪としての、唯一にして無二の誇り。 それがリゾット・ネエロという『男』なのだから。 「リゾット…………」 轟々と轟く川の流れの中でも、彼の耳には確かに届いていた。 何度となく聞かされた嫌味、時に度が過ぎる憎まれ口。 かつての面影はなく、部下の呟きは消えてしまいそうになるほどか細かった。いつもの力強さは微塵もなかった。 それでも聞き逃すことはない。聞き逃してはならない。 これが―――きっと彼と最後の部下の、最後の会話になるのだから。 「今度からは……買い物ぐらい、自分でやりやがれ」 「―――悪かった」 そしてその最後の会話は、いつもどおりのホルマジオだった。 エシディシの体に異変が起きた。 シューシューと噴き出す紫色の煙。馬鹿な……そんなはずが……。 究極生命体に不可能はないはず。作り出した抗体に間違いはない。 時間差の毒なのか? いや、まさか。スタンド能力は一人に一つ。 ならば何故……一体どうしてこの俺の体は……毒され……煙をあげているというのだ?! 「ハッ!?」 それは簡単な答え。それは抗体を持たない部分から、体全身へと毒がまわっていたのだから。 即ち、毒が侵入し始めていたのだ。同化したホルマジオの体内から。 「まさか、貴様すでに感染……!」 「ブチャラティ…………こいつを、頼んだぜ」 「任せろ」 全ては計画通りだった。 研究所の水と川の水、ブチャラティのスティッキィ・フィンガーズによる足元の崩壊。 エシディシをつき落とし、大自然の力で押し流す。 やつにはどんな『スタンド』も通じない。やつにはどんな『武器』も通じない。 人間が敵うことがないとわかったならば、人間以外の手段で殺すしかない。 暗殺チーム設立以来、最も大掛かりな暗殺を彼らチームはやりきった。 仲間一人を犠牲にして。 「リトル・フィート――――――!」 「VOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」 ひょっとしたらホルマジオがせずとも、エシディシは川の流れに押され、帰ってこれなかったのかもしれない。 フーゴからあらかじめカプセルを預かり、自分でそれを叩き割り、感染する必要などなかったのかもしれない。 結果論でしか話はできない。 それでもホルマジオは自分の命と、暗殺の確実性を天秤で量った時……自分の命を投げ捨てることを選んだ。 いや、投げ捨てたのではない。ただ彼もそうありたかっただけだ。 誰よりも誇り高き『男』に。 生命の最後の輝き、それがホルマジオのスタンドの力となる。スタンドが振るう刀は自らの体を貫く。 エシディシの体が縮んでいく。紫色の煙をあげ、二メートルを超える大男の体が縮んでいく。 同化した身体はまさに一心同体。 ホルマジオが毒されたならば、エシディシも。ホルマジオが縮んでいくならば、エシディシも! ブチャラティとリゾットが見つめる中、二人の体が流されていく。 遠く、遠く。小さく、小さく。 そして轟音を響かせ、黒々と流れていく川の流れに二人は飲みこまれ……何も見えなくなった。 ―――何も、見えなくなった。 ◆ 「KWAAAAAAAAAAAAAA!!」 エシディシの耳につくのは水流の音だけではなかった。 ナチス研究所がある場所はF-2。ではこの下水管はどの方向に向かい、流れていくのか? 「か、体の変形を…………! だ、駄目だ! 間に合わん」 『禁止エリアに侵入。30秒後に首輪が爆破されます』 無論これもリゾットたちの計算通り。流される方向も含めての計画。 徐々に音量を増し、鳴り出したのは警告のためのアラーム。 首輪から発せられる甲高い電子音。 「く、この人間……離れん! こいつ、食らいついて……ハッ!!」 ―――いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しねェ 「こ……こいつ…………死んでいる!」 『5秒前、4――3――2――』 「戻れ、戻れェエエエエ―――! クソォオオオオ――――!」 『1――』 「VAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ
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89grass 【名】草(地)、芝生 glass(ガラス)と混乱しないこと。 as green as grass = 青々とした、(人が)未熟な 名前 コメント
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『修正依頼』が出ています。対応できる方は加筆修正をお願いします。依頼内容は原作の特徴・評価です 月姫 -A piece of blue glass moon- 【つきひめ あ ぴーす おぶ ぶるー ぐらす むーん】 ジャンル 長編伝奇ビジュアルノベル 対応機種 Nintendo Switchプレイステーション4 発売元 アニプレックス 開発元 TYPE-MOON 発売日 2021年8月26日 定価 初回限定版 8,800円デジタルデラックス版(PS4のみ) 8,250円通常版 7,700円 プレイ人数 1人 レーティング CERO Z(18才以上のみ対象) 判定 良作 ポイント TYPE-MOONの原点が新生卓越したシナリオと演出分作であり未解決の謎が多い原作からの追加・変更要素は賛否あり 概要 あらすじ 特徴 評価点 賛否両論点 問題点 総評 余談 概要 2000年、同人サークル「TYPE-MOON」で製作された同人ビジュアルノベル『月姫』(以下「原作」と呼称)。 発表当初、その同人ゲームの域に収まらないシナリオおよびグラフィックの総量、そして緻密に設計された世界観等に多くのプレイヤーは魅了されることとなった。 その後も、ファンディスクや他サークルとのコラボによる格闘ゲーム『MELTY BLOOD』(以下『メルブラ』)を発表した。 一方で、次回作『Fate/stay night』(以下『Fate』)の制作に伴う法人化・商業移行と共に、サークル活動は停止。 『メルブラ』『Fate』のシリーズ化において、共通する世界観を持つ『月姫』の一端が開示されることはあっても、原作自体は、新参者に手の出しづらい状況が続いていた。 そして2008年に原作の商業リメイクが発表され、発表から13年、原作発売から約20年を経て発売された。 事前に公開されていた情報だが、原作における5人のヒロインのうち、メインヒロイン2人のルートのみの収録となっている。 原作と区別するために『月姫R(リメイク)』とも呼ばれる。 あらすじ 幼い頃、事故によって大怪我を負った遠野志貴。追いやられるように遠縁に預けられ、穏やかな日常を送っていた彼の元に、父・槙久の訃報が届く。 実家に呼び戻された彼を待っていたものは、父から当主の座を受け継いだ妹の秋葉、そして2人のメイドだった。新たに始まる遠野家の長男としての生活。古くからの因習を受け継ぐ一族。自分とは釣り合わない豪邸での暮らし。過去の風景に記憶の断片を呼び起こされるなか、遠野志貴はヒトのカタチをした生き物とすれ違い― (公式サイトより引用) + 主要キャラクター紹介(公式サイトより一部引用) 遠野志貴 本作の主人公。7年前に交通事故に巻き込まれ、昏睡状態から回復した彼の目には「モノの壊れやすい線」が見えるようになっていた。遠縁の家に預けられていたが、父親の死を理由に遠野の本家へと呼び戻されることとなった。 アルクェイド・ブリュンスタッド 本作のメインヒロイン。非の打ち所のない、気品のある容姿に反して天真爛漫、子供じみた態度を見せる謎多き女性。正体は真祖と呼ばれる人ならざる存在―――「吸血鬼」の王族。らしい。 シエル 志貴の通う学校の先輩。テキパキとした仕草と笑顔、そしてメガネがトレードマーク。親友である有彦の憧れの女性でもあり、平和な日常を象徴するかのような人物。 遠野秋葉 志貴の妹。父の死後に名家である遠野家を継いだ若き当主。7年もの間、疎遠となってしまった兄の志貴に対して複雑な感情を抱いている。 翡翠 遠野家に仕える双子の使用人、その妹。寡黙で感情表現に乏しく、機械のような印象さえ受けるが、志貴に対する献身には並々ならぬ物がある。 琥珀 遠野家に仕える双子の使用人、その姉。常に笑顔を絶やさない朗らかな女性。からかうような言動には主人である秋葉も悩まされている模様。 特徴 プレイヤーは原作と同様、主人公「遠野志貴」の視点を中心に、選択肢に応じて変化する物語を読み進めることとなる。 本作では原作におけるヒロイン5人のうち、アルクェイドとシエルのルートが存在し、それぞれのルートにより物語の展開が大きく変化する。 ただしルートが大きく分かれる選択肢は、開放されているエンディングを見ることで選べるようになるため、『Fate』と同様、ゲームの進行は実質一本道と言える。 当然ながら、選択肢を間違えた場合に辿り着くデッド・バッドエンドは多々存在する。そして原作においても存在していたバッドエンド救済コーナー「おしえてシエル先生(*1)」は、リメイクされた本作でも健在である。 キャラクターなどのグラフィックは原作からリファインされており、各キャラクターのキャストについても既存の『メルブラ』シリーズやメディアミックスなどから変更されている。 グラフィックの変更の一例として、メインヒロインであるアルクェイドについては、原作ではロングスカートであったのに対し、本作ではミニスカートに変更となっている。 本作のキャラクターボイスについては、後に発売された本作をベースとする格闘ゲーム『MELTY BLOOD TYPE LUMINA』においても同様のキャストとなっている。 リメイクにあたって、数々の設定の変更や、登場人物の追加等がなされている。 代表的な変更された設定として、作品の舞台が原作における地方都市「三咲町」から都心をモチーフとした「総耶市」となっていることが挙げられる。 また時代設定についても、1990年代~2000年代ごろの原作から2014年ごろと現代に変更されており、主人公が携帯電話を所持しているなどの変更が見られる。 登場人物については、原作に登場した人物の大半は続投し、それらの人物に関連のあるキャラクターを中心に、多く追加されている。この点については、評価点や問題点につながっている。 PS4版はマウス、Switch版はタッチスクリーンなど、ノベルゲームに最適な操作方法にも対応している。 評価点 1999年に発表された原作の本筋は基本そのままに、進化したグラフィックと演出が光る。その演出は、最高峰の演出を誇った同社製作の『魔法使いの夜』に勝るとも劣らない。 また、原作におけるBGMが10曲前後であったのに対し、本作では『魔法使いの夜』でもBGMを担当した深澤秀行氏らによる90曲以上の良質なBGMが収録されている。もちろん原作のBGMについても、リアレンジされたものが収録されている。 主題歌およびエンディング曲についても、いずれも月姫の世界観、各ルート・エンディングに適した曲として評価が高い。また、OP映像については「ufotable」が担当しているが、こちらも良質である。 ただしシナリオについては様々な加筆修正がなされており、アルクェイドルートは比較的原作に近いストーリーとなっているのに対し、シエルルートは原作をプレイした人にとっても予想を大きく覆されるようなストーリーとなっている。 原作のメディアミックス作品や漫画版『真月譚 月姫(*2)』などの内容も一部逆輸入されている。特に本作のアルクェイドルート終盤における追加シーンは、演出等も含めて高く評価されている。 レーティングがCERO Z(18歳以上のみ対象)のため、容赦のない多様なグロテスクな描写がなされている。原作において、主人公の代名詞となった「十七分割」のシーンも健在――どころか、迫力が増している様子。原作とは違う意味で18禁となってしまった。 原作からリデザインされたそれぞれのキャラクターデザインは、発表当初は賛否分かれたものの、本作発売以降は肯定的な意見が多い。 キャラクターボイスについても同様で、特におまけコーナー「おしえてシエル先生」に登場するキャラクター「ネコアルク」は以前の声から変更されていないのでは、と疑われるレベルと評される。 また、本作のヒロインであるアルクェイドおよびシエルについては新規の衣装が登場している。加えて原作におけるアルクェイドの定番衣装と言えるロングスカートについても、作中において意外な形で登場することとなる。 原作(および後続の登場作品群)において、ヒロインとしてはアルクェイドたちの陰に隠れがちだったシエルについては、彼女自身のルートで本作のメインヒロインの片翼を担うに値するキャラクターとして、様々な活躍や派手なアクションなどが描かれた。 特に、シエルと関連深い本作の新規登場人物「ノエル」を介して、彼女の深掘りがなされている。「ノエル」についても彼女自身の超人ではないこその葛藤等が描かれており、シエルの深掘りのためのキャラクターに留まらず、彼女をヒロインとしたルートを希望する声が出るほどの人気を博している(*3)。 なお、原作時点では関連作品等でネタにされるレベルで大量に存在した誤植は、本作においてはほとんど見られない。 バグについても発売時点でこそ重大なものが存在したものの(*4)、アップデートで解消されている。 賛否両論点 + 重度なネタバレにつき注意 原作において中盤に戦闘することとなる敵、「ネロ・カオス」が登場しない。 設定上では存在しており、一応ある人物と接触したことが作中でも示唆されている。しかしながら原作および『メルブラ』シリーズでも登場し、一定の人気を誇っていたキャラクターのため、彼の未登場は物議を醸した。 しかし、未登場の彼の代わりとも言える新キャラ「ヴローヴ・アルハンゲリ」はその設定、デザインおよび戦闘演出において、その穴を埋めるのに十分な熱量と人気を示しているだろう。 アルクェイドルートについて、原作におけるグッドエンドに相当するエンドが存在せず、1つのエンドのみとなっている。 後のインタビューで、「アルクェイドのルートが一つしかないことについてはいずれ」と語られているが、詳細は不明。 一方でシエルルートについて、原作におけるトゥルーエンドに相当するエンドがオミットされ、新規のエンド(エクストラエンド、ノーマルエンド)が追加された。 ただし元々シエルルートのトゥルーエンドは、評価点でも述べたシエルのヒロインとしての魅力の薄さを目立たせるものであったため、オミットされても問題はないという意見が多い。 しかしながらエクストラエンドで追加された最終盤の戦闘については、これまでの戦闘からスケールが大幅に変化するため、その戦闘の理由を含めて否定的な意見も多数見られる。ただし原作では影が薄いとネタにされがちだったキャラにスポットが当たり、新たな魅力を発見したとの意見も見られる。 キャストの一新について 本作では若手が中心のキャストとなっており、概ねキャリアあるキャスティングも目立ったこれまでの作品と比べて違和感を持つ声もある。 なお、演技に特別問題があるわけではない。ただ酷とは言え、流石に先代のキャストと比べて好みではないという声があるのも事実。 この件は「製作に時間を掛けすぎたのが原因」「声変わりしているキャストもいるから今更厳しい」など擁護が多い。 公式曰く若手が多いのは「長く続く作品にしていくため」とされている。 グロ要素 前述の通り、レーティングがCERO Zとなり容赦のない多様なグロテスクな描写がなされており演出面も原作より大幅に進化しているため、原作は問題なかったが本作はグロ要素が強すぎてダメだったという人も。 + 一部ネタバレ注意 序盤の主人公の十七分割のシーンでは、主人公によってバラバラにされたヒロインの惨殺死体が本作でははっきり絵で描かれるため、中々にキツいものがある(*5)。 また原作からだがシエルルートでは後半、サイコホラーな展開もあり、更に本作においては物語中盤のある選択肢を誤っているとその後半の場面にて凄惨極まりない展開が訪れ、プレイヤーに多大なトラウマを植え付けた(*6)。 問題点 分作であるためか、本作中では解決されない謎が多く残されている。 特に本作よりの新規登場人物のうち、序盤より登場する一部のキャラクターについて、各ルートにおいても大筋での接触はほぼなく、本作中全ルートを終えても謎の人物のままとなっている。 その他の人物についても、作中で多少活躍するシーンは見られるものの、その本質等を深掘りされないままフェードアウトすることが多いため、良い印象を持ちづらい。 シナリオにおける軽微な矛盾等が見られる。 例として、主人公の携帯電話を没収した人物の前で、内緒で取り返してもらった携帯電話を堂々と使用するも、その人物に咎められない場面がある。 またフラグの管理ミスか、序盤の選択肢においてその日に会っていないはずの人物と、以前に会ったことを後日話題に上げているシーンが見られる。 既読スキップ機能が仕様なのか、すでに既読となっているシーンでも止まる場合があり、クリア後のバッドエンド回収等が若干面倒になっている。 総評 ビジュアルやボイスキャストが一新、設定も大幅に変更され、2008年の発表より13年越しの発売でありながら分作で一部のキャラクターのルートのみということもあり厳しい目で見られていた本作。 だが、実態は販売価格に見合ったボリュームであり、発売後は刷新された内容に関しても肯定的な意見が多く見られるようになった。 原作および関連作品での人気キャラの未登場などや、分作としての発売故未解決の謎が多い点などで、否定的な意見も存在するが、それを差し引いても十分に良作と言ってもよい水準の作品であろう。 いわゆる「きのこ節」は健在のため人を選ぶ作品であることは確かだが、『Fate』シリーズをはじめ奈須きのこ氏の作品に触れて魅せられたのであれば、問題なく本作も楽しむことはできるだろう。 原作をプレイした人、漫画版を読んだり『メルブラ』シリーズをプレイしたりしたことがある人、月姫世界に初めて触れる人、そもそもTYPE-MOON世界観に触れたことのない人。 そのいずれも魅了できるだけのポテンシャルのある一作といえる。 余談 2023年時点で累計出荷本数が30万本を突破している(参照)。 ゲーム初回起動時に流れるプロローグを除き、ゲーム全編のスクリーンショットの撮影・録画配信などが不可能となっている。 とはいえ昨今はSNSや動画配信サイトでの本編の切り抜き行為が横行していることを考慮すると、ストーリーに重きを置くアドベンチャーゲームとしては当然の判断といえる。 発売から2週間の期間、「SNSなどでの直接的なネタバレを控え、ネタバレの際には「ふせったー」等を使うように」との声明が公式から出された。 なお、直々に指名のあった「ふせったー」に関しては「事前に協力を仰いでいた」と作者ブログで語られている(参照)。 発表から発売までにここまで長い期間を要することとなった最たる要因といえるのは、2015年にサービスが開始し、2022年現在も配信中のスマホアプリゲーム『Fate/Grand Order』である。 本作開発中にそちらの企画が立ち上がり、開発などの作業に多く時間を割かれたことにより本作の作業がストップ、作業が再開したのは2017年末ごろだったとのこと。 本来は演出等のクオリティーも発売時点のものほど高くはなかったが、『魔法使いの夜』と比較したことで、クオリティーアップを図ったとインタビューで語っている。 本作のメインヒロイン2人(アルクェイド、シエル)のルートを含む本作は「月の表側」と称されており、原作においても「半月版」という2人のルートのみを収録したバージョンが存在している。 「月の裏側」となる分作の片割れには、原作でヒロインであった残りのキャラクター(秋葉・翡翠・琥珀)のルートが収録される見込みだが、インタビュー(ネタバレを多く含むため閲覧注意)において「4人のルートが収録される」と明言されている。 残りの1人については、原作および『メルブラ』シリーズ等の関連作品に触れたプレイヤーであれば容易に想像がつくだろうが、「月の裏側」となる作品のタイトルと併せて、本作を完全クリアすることにより知ることができるだろう。 なお、同インタビュー中で、「月の裏側」については(『FGO』第二部の制作が佳境なので)「オリンピックを待つくらいの気持ちで」とのこと…先は長そうである。 原作の同人版は長らくプレミア価格だったが、本作の発売後もプレミア価格が続いている。 大手の同人ショップなどでは大抵ショーケース内で見つかるため、発見は容易。
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Pathfinder Tales Nightglass 著者 Liane Merciel 影を抱いて 恐ろしい国ニダルでは、慎重に選出された子供たちが暗黒の魔法を習得するために訓練をし、真夜中の王の偉大な栄光のために恐怖と影のクリーチャーを召喚する。イシエムIsiemはそのような学生の一人であり、仲間の羨望の的になるほどの芽生える力を持つ若き有望な影術師/shadowcallerである。成人になると、即座に悪魔の止まり木” Devil s Perchの山々へと外交使節団として派遣された。その地はデヴィル崇拝のシェリアックスの郡が奇怪な翼のある人型生物舞台を駆逐することを助けることを意味していた。しかし死体の数が増え、イシエムが滅ぼした人々と顔を合わせると、輪郭がぼやけ始め影術師は本当のモンスターとは誰であるかについて自問しなければならない… The River King s RoadとHeaven s Needleの著者であるLiane Mercielが贈る、Pathfinder Roleplaying Gameの世界を舞台とする暗黒と贖罪の幻想冒険譚。 400ページの文庫サイズのペーパーバック。 ISBN–13 978-1-60125-440-5 ePub ISBN-13 978-1-60125-441-2 カテゴリ:Pathfinder Tales │ 製品リスト
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イゼットの工匠が経験から学んだのは、自分たちの美しい構築物をボロスの戦槌に近づけないことだ――そしてオペラハウスにも。 Izzet artificers have learned to steer their beautiful constructs clear of Boros warhammers――and the opera house. ラヴニカ:ギルドの都 【M TG Wiki】 名前
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Glasshopper 2005年3月~9月の間、ライブドアブログでやってた時の内容です。タダのやつだったので、移植はできないようなので、手動で移植です。トラバのタイムスタンプが変ですが、調整できなさげなのでそのままにしてあります。コメントは大してついていないので載せないようにしようかとも思ったけど、それだと話のつじつまが合わなくなるなぁ・・・。 2005年9月 2005年8月 2005年7月 2005年6月 2005年5月 2005年4月 2005年3月 #weblog