約 7,335 件
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/74.html
ライオット・アレクセイによって引き起こされた、ニカイドス島ニビル市の占拠事件。トライデント社と治安局ニカイドス本部を制圧したライオットは、飛来する治安維持局本局のホエールキングを不敵な目で見上げていた。 一方、ニビル市外で事件に対処するニカイドス局のアラド・イクサスは、本局の無茶なやり方……ゴジュラスギガによる強襲を止めるべく行動を起こす……。 「くそっ!」 アラドを乗せたアロザウラーが荒野を走る。 「アレを止めなければ、半端じゃない被害が出る……っ!」 過去に見てきた本局のやり口。マスコミを含む情報統制と、それに依存した民間人の被害すら省みない暴力的な解決手段。 もし、あのゴジュラスギガがあのまま市内に突入したら? あそこにはまだ市民がいる。仮に治安局ニカイドス本部を制圧出来ても、どんな二次被害が出るかわかったものではない。 「イリアス、君の友人にも逃げろと連絡を!」 「え、あ、はい!」 降ろす暇が無くて同乗させっぱなしだったイリアスは、市内への連絡手段を持っている。どういうつもりか、武装勢力は市民の外部への連絡手段を奪わなかった。市内にいるという彼女の友人から、先ほど携帯電話へ連絡があったのだ。 はずだったのだが。 「……おかしいです、アラドさん。電話、繋がりませんよ?」 「ゴジュラスギガ各機、市内への突入まで一分です」 ホエールキング3番艦艦内、ハインツ・ベッカーはモニターを睨みつつ、薄笑いを浮かべていた。 「よし、さっさと片付けてしまえ」 ハインツには絶対的な自信があった。こんな辺境の小島、その都市で起こる犯罪など自分の手にかかればすぐ解決する。いや、させなければならない。自分はそうやってこの地位まで上り詰めたのだ。 ゴジュラスギガが、市の外縁を守る奪取されたと思しき治安局仕様のゾイドを蹴散らし、ニビル市内に突入する。 「終わりだ」 ハインツは勝利を確信する。だがゴジュラスギガが市内に足を踏み入れた瞬間、大きくバランスを崩し転倒した。それも一機や二機ではない、すべての機体が。 「ど、どういう事だ。何が起きた!?」 「不明です! しかし、ゴジュラスギガの全機が行動不能……!」 ハインツの怒声に、オペレーターがうろたえつつ答える。 「あのままでは奪われる、帰還させろっ! 不可能なら自爆でもいい!!」 無人運用兵器の弱点。その一つに敵地で行動不能になった場合、奪取される危険性が有人機よりも高いというものがある。これは、まさしくその状況だった。 「駄目です、シグナルを受け付けません!!」 次々と、ゴジュラスギガのコクピットに武装勢力が侵入。無人運用インターフェイスを破壊し、プログラムを書き換えてゆく。 ありえない。ハインツは歯噛みする。一体何が起きた? 下の、ニカイドス局の連中は何をやっている? 「ニカイドス局の責任者に、通信を繋げ……!」 「ぐッ……!!」 事件の成り行きを静観していたアルフィは、突如として自身を襲った激しい頭痛に顔を歪ませ、思わずテーブルに突っ伏した。 「だ、大丈夫かい!?」 隣のテーブルにいた老婆が狼狽して駆け寄る。が、当のアルフィは冷静だった。 (……やっぱり、間違いない。これは……) 知識としてのみだが、知っている。激しい頭痛と、平衡感覚の乱れ。この場にいる人々の中で、自分だけこの症状を発していること。先ほどから、電話など各種の電子機器が色々と不具合を吐き出していること。 照らし合わせて考えるに、その推測が間違っているとは思えない。 『治安維持局本局所属3番艦、ハインツ・ベッカーだ』 「……ニカイドス局チーフ、アラド・イクサスです」 こちらからの再三の呼びかけにも応じず、想定外と思われる事態が発生した途端に一方的に通信を寄越してきた本局の男相手に、アラドは不信感も露に応じた。 『これはどういう事かね? 何故こちらのギガが行動不能になったのか、説明してもらおう』 「な……、いえ、しかし。こちらの情報では」 『我々としては、諸君らの不手際として責任を追及する用意がある』 アラドは絶句した。何だ、この言い分は。まるで理屈が通っていない。ゴジュラスギガが奪取されたのは、こちらの責任だと? 馬鹿げている。これほどまでに、本局は腐敗しているのか。 「……ふ、」 ふざけるな、と言おうとした所で、 「恐らく、強い磁気を利用した一種のジャマーだと思われます」 横から平淡に、イリアスが口を挟んだ。 『何?』 「人工的に強い磁気嵐を発生させ、効果範囲内ゾイドのバランサーを狂わせるものではないかと。味方まで巻き込むので使いようが無かった代物ですが、今回のような広範囲における拠点防衛ならば充分……」 『わかった、もういい。原因が突き止められたのなら、早急にギガを奪還したまえ』 流れるようなイリアスの解説はハインツに遮られ、彼女はアラドに視線を移す。一方的な言いようにアラドは歯噛みしていたが、 「……了解」 苦虫を噛み潰すように、そう答えた。 「まったく、無能な連中だ……」 ハインツは背もたれに身を沈め、深々と息をついた。 客観的に見て、今回のミスは明らかにハインツの責任だ。それは下にいるアラド達のみならず、ここにいるブリッジクルーも理解している。ハインツ本人だけが、それを認めない。 要は、そういう人間なのだ。自分のミスを絶対に認めない。しかしそれでも有能でやり手なので、数多くの事件を解決しこの地位に上り詰めた。 「クライナード君、君は下に降り、オブザーバーとしてニカイドスの連中と同行したまえ」 「は、はい」 「いいな、しっかり『監視』を頼むぞ」 「……落ち着きました?」 「ああ、すまない」 しばらく後。イリアスの声にアラドは答える。あの時の、イリアスの平淡な説明のおかげで、幾分頭が冷えた。直後のハインツの言い分は頭に来たが、いちいち腹を立てている場合ではない。 「しかし驚いた。よくあんな事を知っていたな」 「ああ、あれ。ゾイド工学を少しかじったことがあるもので。たまたま知ってただけです、たまたま」 どこまで本気かわかりかねる口調で、イリアスは答える。ともかく今は、市民の安全確保。そして奪われたゴジュラスギガの奪還が急務だ。 武装勢力に奪取された12機のゴジュラスギガは、トライデント社の試験場に運び込まれた。 「くっくっくっ……。いいぜ、これだけいりゃあ、充分戦争になる」 ライオット・アレクセイはそれを眺め、狂気に満ちた笑みを浮かべた。その後ろでは連行されたフレッド・スターンとソナタが、圧倒的な存在感を放つ巨獣を見上げていた。 ギガだけではない。先ほど撃破されたはずの、治安局仕様のアロザウラーやガンスナイパー、コマンドウルフ。無人機を騙すなら、張りぼてで充分との読みは見事に的中した。 そして、トライデント製の強化装備を纏ったゾイド達。あくまで民間のゾイドバトル向けだが、調整すれば戦時下仕様にも引けを取らない戦力になるだろう。 仕込みは全て使い果たした。次は策などない。ただ戦うのみ。 「楽しみじゃねぇか……。なあ、戦争だぜ? ゾクゾクするよなァ……!」 ライオットの狂気は、さらに暴走する――。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/83.html
彼女らの家の地下に存在する大型格納庫――私達は、今此処に居る。 「それじゃT4……暫く戻れないと思うから、いろいろとよろしくね」 「はい、テーナ様も御気を付けて」 そうして縦に伸びる大型エレベータらしき場所に移送された黒き獣の下に立ったテーナは、後ろを歩いていたT4の方に振り返りながらそんな言葉を投げ掛け、T4もその言葉に淀みのない応えを返す。 「……今のゼフィーは向かう所敵なしだから、多分、行っても見てるだけになりそうだけれどね」 「帝国の手に渡った“遺産”を奪還する作戦と御聴きしております。 万が一に備えるのは正しいかと」 「――――」 そんな彼女達の別れの挨拶を聞き流しながら、私は再び相対した黒い獣を見上げる。 地上に上がる為のエレベータに移送されたという事は、多分、テーナは“自分”でもあるコイツを足として使用する心算なのだろう。 だが――。 ――眠ったまま、か……。 通常のゾイドであればコアの励起による準備起動を起こさなければならない時分だと言うのに、目の前の機体に対してはそのような動きが一切行われず、彼女らの間ではただ別れを惜しむ言葉だけが投げ交わされている。 「……テーナ様。 やはり、私とペリドール――それにテーナ様のラインアークもお供に加えては?」 「フルンティングは目立つからダメって言ってるでしょ? そんな事よりも貴女は自分の良い人を探し出して、私が帰る場所を無くす努力をしてくださいな」 T4から発せられたそんな言葉をテーナは無下に打ち落とし、 「アルフィ、私が良いって言ったらコックピットに上がってきてくださいね」 私にそんな言葉を送ってから、彼女は黒い獣の前足を足場に軽い跳躍の連続で胸部へと辿り着き、胸部と首との間に開いていたハッチの中に潜り込む。 ――……私もコレに乗るのか。 流れからそうなるんだろうなと判っていたものの、どうしようもなく妙な憂鬱に陥っていると、 「アルフィ様」 「え? な、なに?」 思わぬ所から発せられたT4からの言葉に驚き、其方を見やると、 「テーナ様の事、よろしくお願い致します」 「――は?」 いきなり、何か妙な事を告げられた。 「テーナ様は私の命の恩人ですが、歩める命の長さから私はずっと御仕えする事はできません。 ですから、せめて――」 そうしてT4が続けた言葉は、何かとても重い決意が含まれていたような気がしたが、 『アルフィ、どうぞー。 あと、T4、上の隔壁を開けてー』 「――――」 「……では、失礼致します」 上から降ってきたテーナの言葉によってそれは掻き消され、言葉を言い切ったT4はそのまま一礼と共に下がってしまう。 ――……T4は、何を言おうとしたんだろうか? そんな疑問を思いながら、私はテーナのあとを追って一跳躍で其処まで飛び上がった。 「……狭いな」 入った黒い獣のコックピット内は酷く狭く、計器一つ無いとても殺風景な風景であったが――それ以上の違和感は、 ――アイツは、何処に行った? 先にこの中に入った筈のテーナの姿が見当たらない。 『アルフィ。 コックピットハッチのロックはこっちでやるから、シートにしっかりと体を固定して』 「……っ!?」 唐突に響いたテーナの声に視野を左右に振るが、当然その姿を見つける事はできず、 『あ、そうだ。 あと、リゾナンツ――正面パネルの両脇にある赤い奴の中に手を入れないでね』 ――機体と同化しているのか。 「随分と殺風景なコックピットなんだな」 声だけが聞こえる状況から彼女の現状を確信した私は、そんな思いと共に感想を告げると、 『本来、リゾナンツを使って“同調”で同化状態になって動かす機体ですから、コックピット内にリゾナンツ以外の計器は必要ないんですよ』 そんな事実と共に唯一の光源だったハッチが閉められ、コックピット内が薄暗い闇に包まれる。 ――その『操縦機構』に触れるなと、言う事は“私”とコイツが接触した場合、互いにどうなるか判らないという訳か。 『一応、外を見られるように出来得る限り大きなモニターを開けておきますね』 そんな思考を思うと同時に、暗い機内に下へとせり下がって行く壁面を映し出す小さな光が現れる。 「……って、待った。 このまま地上に上がるのか?」 モニターに見える景が下へと下がっている事に気が付き、慌てて疑問の声を上げるが、 『私はSHMを張っているし、地上は地上で欺瞞工作をしてあるから大丈夫。 あとはシンシア達に見付からないように貴女が静かに落ち着いてくれていれば絶対にばれないわ』 テーナは自信有り気にそう言い切ると再び沈黙してしまう。 ――そんな事を言われても……。 今、私は多分落ち着けている。 だが、それで本当に隠蔽しきれるのか? という疑問から来る不安は拭い切れなかったが――そうこうしている内にモニターは昨日見たあの広大な芝庭の中心に上がり切ってしまう。 ――家の敷地から外の風景が見えない……光学迷彩の一種を張っているのか? 『それじゃ、いくわよ~』 「――――っ!?」 そんな様子を思った瞬間、視界が急激な勢いで動く。 彼女達の家の敷地を抜けた先――一瞬だけ見えた町並みは瞬く間に後方へと流れ、次に思考が追いついた時には城壁を抜けた町の外へと着地していた。 ――凄い。 彼女達の家から町の領域外までどのくらいの距離があるのかは判らないが、その距離を瞬き一つの時間で飛び越えた黒い獣の機動性能と相応の加速Gに驚いている最中、 『さて、追いかけっこのスタートね』 「……へ?」 そんな遊んでいるようなテーナの言葉が耳に響いた。 『出て来た場所は判らなくてもヤーウェ(私)は放射熱量が高い所為で、彼らに“何か”が町の外に現れたっていうのはばれちゃうのよ』 「――おい」 そうして黒い獣は走り出す。 進行方向は多分北方――そして後方からはあの白竜の気配を感じていた。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/80.html
執筆・サーデェンス 監修・滝上 序章:古き者達――出会い 1話:現世の竜――行動 2話:交差する町(エクスリックス)――疑念 3話:眠れる獣――再会 4話:穏やかな熱――幻想 5話:彼女達の事情――幕間 6話:親愛と友愛と――幻惑 7話:夢の終わり――細工 8話:風は流れるもの――別離 9話:力を分けた者達――娯楽 10話:漆黒の姫、黒神の現身――本心 漆黒の姫、黒神の現身 作品解説
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/82.html
「……っ! 追い付かれてるぞ!?」 『そりゃそうよ』 コックピット内に表示されたモニター――表示範囲こそ狭いが、心に思えば大凡全ての方向に向いてくれるその中には、急激な勢いで大きくなっていく三つの白が見えている。 『ヤーウェ(私)は陸戦ゾイド、あっちは防御特化外装(ディープスノー)――陸戦仕様と言っても元々が私の技術力を模倣して作られたフルンティング(空陸両用ゾイド)。 最高速度で勝てる訳がないでしょ?』 「……どうするつもりだ?」 『もちろん、一戦遊ぶわ』 テーナがそう言うが早いか、モニターに移っていた視界がぐるりと半回転したかと思うと黒い獣の後ろ側を写していたモニターの端に2体の白竜の姿が見て取れ――それが白竜を迎えるように反転し、立ち止まった黒い獣を白竜達が取り囲んだ結果なのだと認識するのに数瞬掛かった。 『……今度こそ捉えたぞ、インビシブル』 ――オープンチャンネル……? 『乗っているのが私だって判ったら面倒だから、応えなくていいわ』 この町に辿り着いた時に聴いた、あまり思い出したくない女性の声とその通信方法に声を上げそうになるが、テーナはそう言って応えを阻み、黒い獣は周囲を取り囲んだ相手を確認するかのように黒い獣が首を左右に振る。 『――何時ものだんまりか……だが、今日こそは聞かせて貰う。 なぜ、貴様がテーナ様の使っていたクルゥーティ・ヤーウェを使っているのかを!』 「……!?」 ――やっぱり早い……! 正面を見るように配置し直したモニターの中――射撃戦が相応しいと思われる間合いを一瞬で詰め、モニター画面一杯に映し出される白竜の姿に息を呑むが、 『来なさいな、シンシア……!』 部外者である私の動揺をそのままに、戦いが始まる。 ――――いや、これは戦いと言うには……。 『その低いZA特性で“機操”を扱えるレベルまで能力を研ぎ澄ましたのは凄い事ですけれど――』 テーナの楽しげな声と供にモニターに映る白竜達が三度目の攻撃を仕掛ける。 『やっぱり、精度が甘いですね』 自分がその渦中に居るとは思えない程アッサリとした評価と供に、正面と両斜め後ろ――三方向からの同時攻撃を跳躍と空中を蹴るような再加速で避けきる。 ――凄い。 互いに機体性能が異常なのは置いて置くとしても、機体と同化しているテーナと同じ反応速度で攻め立てている白竜達を、彼女はまるで子供のようにあしらっている。 『……っく!?』 ――こいつ、どれだけの操縦技術を持って……。 オープンチャンネルから滲んでくるシンシア(相手)の臍をかむ声と実情から、そんな感嘆の思いが自然と形を成してくる。 『“機操”している子の反応が遅れるから包囲攻撃のタイミングがずれる、だから攻撃が当たらない』 そして、そんな猛攻撃に晒されているテーナは、相手には聞こえない教授を投げ掛けながら白竜達が成す4度目の同時攻撃から空へと逃れる。 『これならば前の時みたいに火力特化外装(グラスドーター)や標準外装(ディフォリエント)で“機操”している子を援護に徹しさせた方が有効だったわね』 そのままテーナは包囲陣形を建て直した白竜達の中心へと自分から身を下ろし、 『今日の講義はこれまでね』 その一言と同時に彼女は反撃に転じ、正面から突っ込んで来る白竜に自身の背負っている背部主砲を放つ。 『――っ!?』 至近距離で放たれた大出力レーザー砲――しかし、正面の白竜はそれに反応して翻して見せるが――。 『まずは右の子!』 体勢を崩したそいつから間合いを取ると、テーナは即座に反転し、右斜め後方から近接していた白竜の内の一体に二射目を放つ。 「やった……!」 直撃、だが――。 ――っ!? あれは、最初の時の……!? 白竜に迫った極光の光はその白い装甲に触れる寸前に何か別の物に当たったかのように霧散する。 『――――』 テーナは構わず三射目を放ち――それは狙い違わず被弾によって体勢を崩している白竜への直撃コースに乗るが、しかし、再び不可視の何かによって弾かれる。 『――――』 四射目、今度は連撃を受けている方の白竜の盾になろうとしたもう一体の白竜を避けるように放ったソレも直撃コースに乗り、被弾によって体勢を崩している白竜の“何か”にまた弾かれるが――。 「なに……?」 ――透明な何かを……纏っていた? 直撃を受け続けていた方の白竜の姿が、そいつに向かって撃ち続けられた3発目の光を弾いた瞬間にその姿が鮮明になり、テーナはその一瞬を逃さぬように被弾に怯む白竜の背に回り込み、首筋に自身の右前足を叩き付ける。 『まずは一つ、次は……二つ目の方から来ましたね』 止めの為に動きを止めた此方の間隙を縫う様に、先程盾になろうとしたほうの白竜が爪を振り上げて目の前に居る。 「……っ!?」 ――翻せない……! 至近距離、そしてストライクレーザークローと呼ばれる黄金の光を放っている爪は、その事実を認識した時には振り下ろされている。 いくらテーナでも捌けない。 その思考を思った時には振り抜かれ――逃れえぬ終わりに目を背けようとした瞬間、目の前で“何か”に阻まれたかのように静止する。 「……え?」 疑問を思った時、目の前で爪を突き立てている白竜は自身の頭部と翼の先端を黒い獣が纏っている“何か”に押し付け、ソレらに光が灯ったと思った瞬間には目も眩むほどの極光が放射される。 「――っ!?」 しかし、黒い獣は無傷。 放たれたソレらは未だに爪を止め続けている“何か”に阻まれるだけに終わり、怯まぬ白竜はそれぞれに再び光を溜めようとするが、 『それじゃ私の粉流体装甲(スプリッド・アーマー)は抜けないわよ!』 余裕をテーナの持った声と共にモニター上側――黒い獣の背部が極光の光を放ち、至近距離でソレを受けた白竜の姿が鮮明になり、 『……っ!? メユ、退がれ……!』 『装甲を整流する時間はあげませんよ』 テーナはそう言って強烈な加速を持って距離を取ろうとする白竜の後背に回り込み、 『二つ目』 終わりの言葉と共に、先程と同じように白竜の後ろ首筋に右前足を叩き込んで2体目を地に伏せさせる。 『シンシアは……っ!?』 視線を巡らすようにテーナが声を上げたと同時に、白の軌跡が目の前に現れる。 「っあぁ!?」 その唐突な出現と衝撃に私の口から驚きの声が漏れ出るのと同時に、黒い獣(乗っている機体)が強烈な勢いで弾き飛ばされているのを肌身で感じる。 『流石に一人になると早いわね』 あの不可視の障壁によって機体自体にダメージは無さそうだが、白竜が超高速で接触した際の衝撃によって獣と竜との距離が大きく離れる。 『っ!? アルフィ、耳を塞いでなさい!』 「……ぇ?」 そんな仕切り直しのような状況の中、今まで聞いた事の無いテーナの緊迫した声に目を見張ると、正面モニターに写っていた白竜の姿が掻き消え、直ぐ目の前に現れる。 消えたような錯覚を思わせるような超加速、それ自体はもう珍しくもなんとも無いと思った瞬間、白竜が外装の一部を展開して白い装甲が漆黒の影によって見えなくなる。 ――……っ!? アレは……!! 『強襲型粉流体装甲(アサルト・アーマー)ね……!』 知る筈のない身に刻み込まれた恐怖とテーナの声に固まる中、その黒い影が黒い獣の不可視障壁に触れる一瞬前、此方の視界も漆黒に染まり――。 耳を潰さんばかりの凄まじい金切り声が周囲に響き渡った。 ――なにが、起こったの……? 黒と黒の衝突によって何も見えなくなっていたモニターが光を取り戻したのと同時に、私はそんな忘失を思ったが――、 「……っ!?」 モニターに写る残滓が晴れ渡った瞬間、その先に両足を踏みしめ、射撃兵装の先端頭部と翼の先端をこちらに向けている白竜が居た。 ――!! ソレらの砲身には既に光が灯っている。 対して、モニターに写る視界は限りなく透明――それはつまり、黒い獣の身を守っていたあの不可視の障壁が無い証拠でもあり、そんな中でアレを撃たれようものならば――。 『はい、甘いー』 連想された事実に意識が凍りついた瞬間、気が抜けそうになるように明るいテーナの言葉と共に視界が一瞬で空へと跳び、何も居なくなった地上に鮮烈な光が走る。 『強襲型粉流体装甲(アサルト・アーマー)を使わせてス粉流体装甲(プリッド・アーマー)を減衰させきったのは見事だけど……貴女がそうする以外に手が無いのはこっちだって判っているんだから、止めはもう少し工夫しないと』 そう言ってからテーナは強烈な加速で逃げ退がろうとする最後の白竜を上空からの鋭い加速で踏みつけ、他のニ体と同じ様に白竜の首筋に強烈な後ろ蹴り(一撃)を入れ、最後の一体を沈黙させてから当初進んでいた方へと走り出す。 「あ、あのままにしておいていいのか……?」 『可愛い教え子であり、娘の部下でもあるシンシア(あの子)に止めなんて刺せませんしね。 復帰される前に逃げちゃいますよ』 そうして黒い獣は倒れた白竜を背に北へと走り続け――海岸線付近まで走ってから再び砂漠へと立ち戻り、エクスリックスから見て北西に当たる砂漠の只中に立ち戻る。 「……どうして戻ってくるんだ?」 『エクスリックスのレーダー網とシンシアの“探知”網を騙す為にはこういう手を使ってあげないといけないのよ。 ……見えてきたわね』 「……あれは――?」 時速600km/近い速度で流れていく視界の先に見慣れた白い丸虫の姿が見えてくる。 ――白竜と同じカラーリングのグスタフ……それに、後ろに乗っているのは……! 『手は回してあるって言ったでしょ?』 テーナは得意げな言葉と共に黒い獣(自分)の減速行動に入った。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/10.html
コメントプラグイン @wikiのwikiモードでは #comment() と入力することでコメントフォームを簡単に作成することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_60_ja.html たとえば、#comment() と入力すると以下のように表示されます。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/66.html
第一話 荒野の猟兵 第二話 白の古代虎――嵐―― 第三話 蒼の古代虎――光―― 第四話 紅の古代虎――焔―― 最終話 三匹の虎伝説
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/55.html
「……違う」 目の前に立つ、私じゃない私。 「君は私じゃない」 それに向かって、私は言う。 「ううん……、私は私。それ以外に、どこにもいない」 真っ直ぐな、青い瞳。私を映す、それを見据えて。 「君は、誰?」 光が、私を包んだ。 「……!」 光景が変わる。私がいるのは、奴のゾイドコアの中。 (……私を取り込んで、完全なオーガノイドになろうとしたのか) 心が身体を動かすように、身体が心を揺さぶるのもまた事実。私を奴は求めていた。ならば、この行動も不思議じゃない。 「……けどね」 私は首を振る。 「もう、私とおまえは違う」 知ったから。本能ではない、感情を。反射だけではない、思考を。 「おまえと同じには、なれない」 流れ込む感覚。生存本能から来る、破壊衝動。 真オーガノイドの、アルフィーネの本質。 けれど、それは私じゃない。 「何者でもない。私はアルフィ、ただそれだけ……!」 答えは、ずっと前から出ていた。 たとえ私が、ただ戦うためだけに、ただ破壊するためだけに生まれたのだとしても。 私は私の意思で、それを終わらせる。 破壊を、終焉へ導く。 「だから……、私を放せぇ!!」 飛び出す。 『アルフィ!』 リッツの声。どうやらあちらも無事なようだ。 一瞬おいて、後ろから不気味な金属音。錆び付いた機械が軋むような。 奴が、姿を変えようとしていた。 「個体進化……!」 両の鋏はより巨大に、繋ぐ腕、そして尾はより長く、鋭く。 記憶に残る、デススティンガーの自己進化体。これも、あの時私から遺伝情報を吸い上げたに違いない。 どうする? アンチ・ゾイドコア・マテリアルを奴が持つ以上、私が下手に接触するわけにはいかない。 しかし、今のルイゼは満身創痍。 ……そうなると、残りは。 逡巡して、躊躇した。 躊躇して、振り払った。 「リッツ!」 ルイゼの腕に飛び乗る。 「私とルイゼを合体させる」 『何……?』 「私がルイゼのコアと結合して、ルイゼを治す」 それは、本来タブーなのかもしれない。 けれど、他に方法が考えつかない。 「……こんな事言える立場じゃないのはわかってる。だけどお願い、今だけ、私に力を貸して。お願い……!」 『……その頼み方は、間違っていると言わせてもらいます』 不意に聞こえた声。頭の中に直接響く、生体電磁波のコンタクト。 ルイゼだ。 『アナタは何か勘違いをなさっているようですけれど……、わたくしは、オーガノイドシステムというファクターを憎みこそすれ、その力そのものを憎んでいる訳ではありませんのよ?』 ……オーガノイドシステムは、ゾイドのコアを、心を捻じ曲げ凶暴化させる。搭載されたゾイドは、例外なく己に与えられたシステムを憎み、宿命を憎む。それが、さらにゾイドを凶暴にする。 負の遺産。 心を捻じ曲げられてなお、彼女は彼女で、ルイゼであろうとした。 今、わかった。 そうあれたのは、彼女が「力」を受け入れたからだ。 たとえ与えられたものであっても、たとえ望まぬ力であっても、彼女はそれを受け入れた。受け入れる素養があった。 だから彼女は強い。 『……だから、今更アナタを拒みはしません。わたくしがマスターの力になれるなら、マスターと共に全力で戦えるのなら、わたくしはその力を望みます』 そうさせた、リッツという存在も含めて。 彼女達は、強いんだ。 『わたくし達に、力を』 光が、私を包む。 心を重ねて、ルイゼの「なか」へ。 強く気高く、脈動するゾイドコア。それを抱く。 (遺伝情報取得、構成確認。再生……開始) ルイゼの傷が癒えてゆく。 失ったシールドが復元され、砕けたカメラアイが光を灯す。 頭部のブレードが展開。そしてルイゼの瞳が、青く輝く。 「……さあ、行こうか!!」 振り回される鋏をシールドで受け流し、踏み込む。尾の迎撃、身を反らしてかわす。 「いい加減、おとなしくしろ!」 奴の右腕を、左のエクスブレイカーが掴む。 『捕らえたっ!!』 左の鋏、上段から。右腕で止める。そのままエクスブレイカーで、奴の左腕を根元から断ち切る。 「リッツ!」 『ああ、わかってる! 行くぞルイゼ!!』 咆哮。荷電粒子コンバーターが唸り、ルイゼの口腔に光が集まる。 フットロック展開。 『アルフィ!』 尾が伸びる。 「させるかあっ!!」 左のシールドで止め、そのまま後ろへ流す。 チャージ完了。 『……喰らえ! 最大出力の荷電粒子砲だ!!』 光の奔流が、奴を包み込んだ。 時間にして、どれくらいだっただろうか。 ――閃光。そして爆発。 大規模な爆発の中、私達を守ったのは、青い光の障壁。 『……Eシールド?』 ルイゼの全身を包む光は、私由来の力。咄嗟に発現出来て良かった。 煙が晴れた後、そこにあったのは瓦礫の山。 その中に、少しの違和感。 すぐ近くに。 『アルフィ?』 ルイゼの「そと」へ出る。降り立った先、瓦礫の中。 そこに、彼女はいた。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/85.html
「……驚いた」 「ん? 自分のスペックの高さに?」 「いや、そうじゃなくて……」 町中を歩いている時に感じる他人からの視線――以前までは奇異に近かったソレが、今では好意的な物に変質しており、特に男性から興味を惹かれているような感覚を感じるようになった事にも驚いてはいるが、 「私達の力を治す事に使えた事だ」 思い出したくない経緯を忘れる為も含めて、その事実をしっかりと口にする。 「あぁ、ティファリスの事ね」 「――――」 そっちの事か、と言った風な思案顔をしたテーナに私は無言で肯定を返す。 T4――外ではティファリス・ラックコールと名乗っているあの女性は、テーナがアルバの施設跡で見つけた時、埋め込まれたゾイドコアに侵食され、殆ど“人間”として機能していなかったらしい。 「と言っても、あの子の場合はかなり特殊な例よ?」 テーナのそんな謙遜をジト目で流しながら、先程までのT4の仕種を思う。 ――それをあそこまで正常な状態に戻す事が出来るなんて、私では考えもつかなかった。 「ゾイドコアを埋め込む為に捨てられた内蔵(中身)を万能細胞のような働きをする生体物質(私)で埋めてあげて、それらをゆっくりとあの子自身の物にしていく。 ……これは、あの子が生きてた頃の私の複製体だったから出来たって言うのが強いから、あの子以外の同じ症状の方々にもう一工夫が必要だし――」 謙遜の続きを――失礼な事だが聞き流し、それと同時に、もうかなり昔の事のようにも思える“彼女”の事を思う。 ――……もし、この事をもっと早くに知っていれば……アイツの事も――。 自分で連想した思い出(過去)によって勝手に私は落ち込み――そんな中、私の意識が別の場所に行っている事に気が付いたらしいテーナは、 「あ、そういえば貴女。 子供を生んだ事はある?」 「――……はぁっ!?」 いきなり素っ頓狂な問いを口にした。 「お、お前は一体何を言っているんだ……っ!」 「新しい話題になるかなー、と思いまして。 ちなみに私は結構子沢山よ?」 その後に続けられた『それに、折角可愛い格好をしているんだから、もう少し言葉遣いの方もお淑やかになって欲しいかな』という、これまた私の理解の範疇を超えた要望も当然無視し、 「……ある。 というか、町の往来でこんな事を言うな」 私はその事実をハッキリと断言すると共に、圧されっぱなしの状況に対してささやかな常識で反撃する。 しかし――。 「……本当に? レッドラストでの行いは違うわよ?」 「――え?」 その強固な否定の意志を含んだテーナの声に、私の思考は今までとは異なる驚きによって凍りついた。 「アレは分身。 幸せは願うけれど自分の命を天秤には乗せない存在――私とティファリスみたいな関係でしょ?」 固まった私をそのままに、彼女はそんな言葉を続け、 「私は生まれも育ちも特殊すぎるから、普通の人とは異なる考えかもしれないけれど……子供は、愛しい人の生きた証、自分よりも優れた者を残そうとする生き物全ての至上命題――だから、自分の命を掛けられる存在」 まるでその存在が其処にいるかのように、愛おしげで穏やかな表情を浮かべながら、「小さい頃は大変だし、大きくなると喧しくて面倒だけれど……あれ程『生きている』事を体感できる存在は居ないでしょうね」と、私では絶対できないような微笑を私に投げかける。 「……それと、もう一つ」 そんな幸せの片鱗――私が考えられなかった事、私のできない事を浴びせ掛けられた事によって完全に止まってしまった私に対し、 「貴女がレッドラストでやった事は悪くない」 そんな、ありえない事を――彼女は口にした。 「生きている者は、全て自分の正義を持っている。 その中で貴女は自分の夢(正義)を通そうとして人々の生きたいという願い(正義)に敗れた」 彼女の視線は真っ直ぐに、私の中に留まっている罪の意識を見据えるように、その考えに新しい観点を与えるように、私を見つめたまま声を投げかける。 「敗れた正義は悪と称されるけれど、ソレはただの記号でしかないの。 それに、正義が他の正義に淘汰されるのは何時もの事だし、何千何万という帝国将兵を“消した”奴は貴女の目の前にも居る。 だから――」 その動きは唐突に、 「あ……」 許すように、慰める様に、過去から今に引き戻すように、テーナは私の事を抱き締める。 「自分を責めるのは止めなさいな。 ただ、“それだけ”の事なんだから」 「……あ……うぅ……」 何故か、涙が浮んできた。 ――彼女の考えは、多分間違っている。 人の――生きようとする者の命を、何の感慨も無く考えるのは絶対にいけない事だ。 だが――。 彼女はソレを理解した上で、そんな考え方もあると――重みが少しでも軽くなればと、“違う考えを”教えてくれているのだ。 町中故に、奇異の目で見る者も多い、 ――だが、テーナはそのまま私が泣き止むまで傍に居てくれて、 「ずっと昔でも創られたのはテリジェの方が先、人格でも貴女が発生した頃……私は愛しい人と人生を謳歌していた。 年上なんだから若人を甘えさせるのは当然当然」 と、笑ってくれた。
https://w.atwiki.jp/psparchives/pages/613.html
円環の物語は未プレイ。 キャラデザが好きじゃないと厳しい。ロード長い。 鬼長い。 -- (名無しさん) 2012-01-11 22 28 05
https://w.atwiki.jp/girlmeetsgirl/pages/37.html
メーカー Hecate 内容等 備考 名前 コメント すべてのコメントを見る