約 11,586 件
https://w.atwiki.jp/llss/pages/1236.html
元スレURL 海未「五月雨と月影」 概要 小さな宿場町にやって来た浪人、園田 町を取り仕切る無法集団、盲目の芸妓、そして隻腕の人斬りの噂 長雨の中、絡み合う人間模様 タグ ^園田海未 ^南ことり ^高坂穂乃果 ^A-RISE ^神モブ ^[[ことほの]]うみ ^アクション 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/teletext/pages/1298.html
おおかみこどもの雨と雪 色 出演者 備考 黄色 - 水色 緑色
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/5083.html
おおかみこどもの雨と雪 登場人物 コメント 2012年の日本のアニメ映画。同年7月21日に日本公開された。 登場人物 リーフィアorフローゼルorキュウコン(アローラのすがた):花 おおかみおとことはタマゴグループ的な観点から グラエナorゾロアークorルガルガン:彼(おおかみおとこ) ユキカブリorロコン(アローラのすがた)→ユキノオーorグレイシアorキュウコン(アローラのすがた):雪 ユキノオー、キュウコン(アローラのすがた)は特性ゆきふらし(名前から)推奨 ニョロモorブイゼル→ニョロトノorフローゼル:雨 ニョロトノは夢特性あめふらし(名前から)推奨 ローブシン:韮崎 フシギダネ:草平 フシギバナorジャローダ:草平の母 声優から進化形 ランドロス:細川 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る ルガルガン(たそがれのすがた)♂雨 技 げきりん 雪と喧嘩で ルガルガン(まよなかのすがた)♀雪 技 ブレイクロー 草平に傷を付くorげきりん 雨と喧嘩で ルガルガン(まひるのすがた)♂オオカミ男 -- (えりか) 2021-11-21 22 35 40 ペリッパー:雨 夢特性あめふらし -- (名無しさん) 2021-10-01 08 16 53 草案 色違いブリムオン:花 ミブリム→テブリム:雪 ベロバー→ギモー:雨 -- (エリカ) 2021-09-28 19 24 10 草案 主題歌 ハハコモリ:おかあさんの唄 -- (ユリス) 2021-07-04 11 09 41 モウカザル♂ 草平 -- (エリカ) 2021-07-04 09 46 45 ウインディ♂ おおかみおとこ 性格れいせい推奨 -- (エリカ) 2021-07-03 15 50 57 ルカリオ♀ 花 性格大人しい推奨 色違いリオル♀→色違いルカリオ♀ 雪 性格ようきorいじっぱり推奨 リオル♂→ルカリオ♂ 雨 性格しんちょう推奨 -- (エリカ) 2021-07-03 14 38 58 イーブイズで統一するなら リーフィア♀:花 ブラッキー♂:おおかみおとこ イーブイ♀→グレイシア♀:雪 イーブイ♂→シャワーズ♂:雨 -- (麻宮穹) 2020-11-07 23 48 27 ソードシールド ヒバニー♀→ラビフット♀→エースバーン♀:雪 メッソン♂→ジメレオン♂→インテレオン♂:雨 バチンキー♂:草平 -- (麻宮穹) 2020-11-07 23 11 26 ソードシールド バチンキー:草平 -- (ユリス) 2020-11-07 19 19 26
https://w.atwiki.jp/makarunote3/pages/208.html
《雨と雷の神トラロック》 基本情報 ⑤ 雨と雷の神トラロック 雷属性/ゴールド 基礎パワー:8000(Lv1) インヴォークスキル・このモンスターに+10000。ランダムな相手モンスターに【雷光:8000】ダメージを与える。 エヴォークスキル・(なし) 特徴 雷と雨を司るアステカ神話の神。青い大蛇に乗っている。 インヴォークスキルは、自身のパワーを大きく増やしつつ、ランダムな位置の相手1体に大ダメージを与える。 ▶︎パワー上昇と攻撃を同時に実行 「10000」というパワー上昇値はかなり頼れる数値。スキル使用後のパワー変動力は「上昇10000+ダメージ8000=18000」で、魔力5のカードとしては平均的なスペックである。 攻撃のダメージも申し分ないが、対象がランダムというのが難点。雷属性には「プレイヤーが対象を自由に選べる」タイプのダメージ系スキルがほぼない。 この事実はこのカードに限ったことではない。「雷属性それ自体の弱点」として認識しておきたい。 注意点 ▶︎幻属性、隠密状態への攻撃について そのまま撃っても隠密状態を解除するだけに終わる。送還目的で撃つなら神速状態を付与しておきたいところ。《ライトニング・ヘッジホッグ》を直前にエヴォークしていれば、ダメージも1000だけ上昇する。 ▶︎【C】位置は絶対に送還されない ゲームの仕様上、【C】位置はパワーが0になっても絶対に送還されない。バグではなく仕様なので、相手【C】にダメージが通った時に数字を見て慌てないように。 関連カード ▶︎自身のパワー上昇と【C】への攻撃を同時におこなう雷属性カード。 《雨と雷の神トラロック》 《鼓舞の雷剣タケミカヅチ》 その他 ▶︎フレーバーテキスト この俺と契約を結ぶとは、まさに神をも恐れぬ者よな。気に入ったぞ魔術師よ。それでは早速、生贄を差し出すがいい。そうだな……この世界の甘いものなら何でもよいぞ! ▶︎イラスト:タダ 【→カード一覧へ戻る】 【→トップページへ戻る】
https://w.atwiki.jp/sakuga/pages/1541.html
おおかみこどもの雨と雪 配給:東宝 プロダクション協力:マッドハウス 企画・制作:スタジオ地図 制作幹事:日本テレビ放送網 原作:細田守 監督:細田守 脚本:奥寺佐渡子 細田守 キャラクターデザイン:貞本義行 作画監督: 山下高明 音楽:高木正勝 美術:大野広司 色彩設定:三笠修 CGディレクター:堀部亮 美術設定:上條安里 衣装:伊賀大介 編集:西山茂 録音:小原吉男 音響効果:今野康之 原画:井上俊之 尾崎和孝 西田達三 箕輪博子 伊藤伸高 川口博史 高橋英樹 浦上貴之 藤田しげる 高瀬智章 鈴木亜矢 外丸達也 八崎健二 大杉宣之 末吉裕一郎 浜洲英喜 石上ひろ美 坂崎忠 加来哲郎 高橋裕美■作画パート同ポジションのカットなどを例外として、原則的にはシーン単位で担当が割り振られており、 スタジオ地図内で仕事をした多くの人は一人につき約50カット以上は担当しているとのこと(アニメスタイル001内の齋藤プロデューサーの発言より) 川口博史 冒頭街路~彼との出会い 同棲生活の一連 児童相談所員が押し掛けてきたところ 西田達三 花畑の夢のシーン一連 出会って以降物思いにふける花~デート~彼の変身 花の面接 山下高明 生まれたばかりの雪を見つめる花と彼 末吉裕一郎 雪が鼠や蛇を捕まえてくるシーン 鈴木亜矢 子育てシーン 幼稚園に行きたがる雪 石上ひろ美 Bパート頭の役場の人と廃屋を見に行き居住を決めるところ じゃがいもを収穫してご近所の方に配るシーン 尾崎和孝 引っ越した直後の家族描写と家の修繕のくだり 井上俊之 雪山のシーン 姉弟喧嘩 花と雨の別れ 坂崎忠 Dパート頭の豪雨の中、家に帰ってきた雨と花の会話 高瀬智章 草平が雪を追いかける階段から中庭にかけて 嵐の中の窓際の草平と雪 箕輪博子 農作業の一連 藤田しげる 草平が怪我をしたという噂でもちきりの教室から飛び出す雪 浦上貴之 花が森の中へ探しに行くところ 青山浩行(ノンクレジット) 体育館のシーン 外丸達也 花が崖に落ちるところ 濱洲英喜 雨の遠吠えを聴いて微笑む花のラストシーン
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4321.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 「虚無と狼の牙」1-1 彼は満足していた。守りたかったものは無事守りぬけた。 取り戻したかったもの――救いたかった人物は無事救い出せた。 志半ばで倒れることが無念でなかったかと言えば、それは嘘になる。 しかし、それでも彼は満足していた。自分が命がけで未来を託した人々に。 二度と帰る事は出来ないと思っていた故郷。そこに彼は帰ってこれた。 その幸福と歓喜に包まれて、そして無二の親友の傍で旅立てる自分は ――おかしいかもしれないが、そのとき世界で一番幸せな人間なのだと心の底から思っていた。 一つの世界で狼は眠りについた。その牙を墓碑として。そして、もう一つの世界で狼は再び目覚める。 * ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは呆然と立ち尽くしていた。 彼女の目の前には、爆風が巻き上げた砂埃の中がもうもうと立ち込めている。 そして、その砂埃が収まるにつれそこにあるものの姿が少しずつ白日の下に晒されようとしていた。 「な、なによ、これ……?」 ルイズの起こした爆風にむせ返っていた周りの少年少女たちも、ルイズの視線の先にあるものに目を向ける。 そこにあったのは短い棒と長い棒を直角に組み合わせたようなデザインの物体。見たこともない形の物体に彼女は戸惑う。 「何かのお墓? 記念碑?」 目の前の物体はその長い方の棒を深々と地面に突き立てて、そこに立っていた。 その頃になると、最初は目の前で起こったことに戸惑っていたほかの少年少女たちも冷静さを取り戻し、ルイズに対して野次を飛ばし始めた。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』でこんなオブジェを呼び出してどうするの?」 「さすがはゼロのルイズだ。まさか、生物ですらないものが出てくるなんて驚きだよ!」 「ち、違うわよ。ちょっと、そう、ほんのちょっと失敗しただけよ!」 ルイズは両手を硬く握り締め真っ赤な顔になって、周りの少年少女に言い返す。 「ミスタ・コルベール、もう一回、もう一回召喚させて下さい!」 「え、あぁ、うん。しかし、不思議だなぁ。サモン・サーヴァントで生物でないものが呼ばれるなんて前例、聞いた事がないぞ」 コルベールと呼ばれた男はあごに手を当てて考え込む。 「で、でも、こんなのとどうやって使い魔の契約を結べって言うんですか!?」 「……確かにそれもそうですね。納得できない部分も多いですが、これでは致し方ありません。もう一度だけですよ、ミス・ヴァリエール」 コルベールはなおも納得できないように首を左右にかしげながらも、もう一度の召喚魔法の許可を出した。 ルイズは再び例の物体と向き合うような形になり、呪文を詠唱すべく精神を集中し始めた。 「今度こそ……」 ルイズは大きく深呼吸して、胸の前で杖を構えた。そのときである。目の前の物体が少しだけ動いた。 「え?」 ルイズは目を見開いて、目の前の物体の動きを観察する。それは右に左にゆっくりとした速度で揺れていた。 そして、ルイズは気が付いた。これはこの物体が動いているんじゃない、この物体の刺さっている地面が動いているということに。 そして、彼女が地面に視線を移したとき、ゆっくりと根元の土が盛り上がって―― 「きゃぁー!」 思わずルイズは大声で悲鳴を上げていた。彼女が思わずしりもちをついた、その前には人の腕が地面から生えていた。 ルイズの悲鳴に呼応するように周りの少年少女たちからも悲鳴が上がる。突然地面から人の手が生えてきた。 地面から人の腕が生えている、異様な光景である。それを傍で見ていたコルベールも呆然と立ち尽くすしかなかった。 その腕は黒い服を着ていて、その大きさと形からおそらく若い男のものだということがわかる。しかし、腕が生えてきただけでは事は終わらなかった。 その腕はなおももがくように動き、地面を引っつかむように手をかけた。そして次の瞬間 「ぷはー! なんやっちゅうねん、死ぬかとおもたで!」 土くれをあたりに撒き散らしながら、若い男が顔を出した。その男はしばらく大きく息を吸ったり吐いたりした後、目の前で腰を抜かしているルイズを見つけて声を掛けた。 「ちょっと、そこのおじょうちゃん。悪いけどワイをちょっと引っ張り出してくれへんか?」 彼は彼なりにこの不審極まりない状況にて、これ以上不審感を抱かれないよう爽やかに笑ってみせていたつもりだったが、そんなことはルイズには関係なかった。 ルイズはしばらく固まっていたが、やがて唇をわなわなと震わせると、沈黙を破るように大声で叫んだ。 「な、なんでなのよぉー!」 * 土の中から現れた男は冷静に服に付いた土を払っている。 男は見た目は二十代後半くらいの若い男で、黒いスーツと開襟シャツ、そして茶色の革靴を履いていた。 ちなみにどれもこの世界ではなじみのないものである。 髪の色は黒く、身長はコルベールより頭一つ分高い。 ルイズの周りにいた少年少女たちは食い入るようにその姿を見つめている。 そんな視線もお構いなしに男は服の土を払い終えると、懐からサングラスを取り出しそれを掛けた。 そして、くるりと隣を振り向くと、人懐っこい声を出した。 「いやー、おっちゃん引っ張り出してくれておおきにな。ほんま往生したで」 軽く右手を出して、彼はコルベールに礼を言った。 「まぁ、あのまま埋まっておられても、こちらとしても困りますから」 コルベールは「困ったなぁ」と小さく呟きながら頬を掻いた。 結局、ルイズは腰を抜かしたままで、男を引っ張り出したのは傍にいたコルベールだったのだ。 男はそれから辺りをゆっくりと不思議そうに見回した。そうすると、どうやら自分の周りには子供しかいないことに気が付いた。 「なぁ、おっちゃん。ここ孤児院か?」 「んなわけないでしょ! あんた一体どういう目してんのよ! 学校よ、ここは学校!」 孤児院という彼の言葉に、さっきまで呆然としていたルイズが反応した。 「へー、ここが学校か。はじめて見たわ。割合この辺りは裕福みたいやな。みんなそれなりにちゃんとした格好しとるし、それに」 男は一人の太った少年に目をやった。 「栄養状態も悪うはなさそうやしな」 そして、軽く笑った。 「ふざけないでよ!」 男の態度にルイズがムキになって叫ぶように答えた。 「なんや、そうカリカリすんなや、冷たい嬢ちゃん」 男はそう言って噛みつかんばかりのルイズを軽く流した。 彼の人生経験上、子供たちが集団で生活している場所といえば孤児院しか思いつかなかったのである。 ちなみに、彼は頼んだのに引っ張り出してくれなかったことをちょっと恨んでいる。 「この格好を見たらわかるでしょ」 「すまん、わからへん」 悪びれずに答える男の前で、ルイズは杖を両手で折らんばかりに握り締め歯軋りをしている。 「なぁ、あれって平民、だよな」 「そうよね、貴族はあんな格好しないよね」 そうこうしているうちに彼らの周りにいる少年少女たちはひそひそ話を始めた。 「ルイズー、いくら魔法が出来ないからってそこらへんの平民を連れてくるなよー」 その中の少年がそう野次を入れると、どっと笑い声が湧いた。 「ち、違うのよ。こ、これはきっと何かの間違い! だって、わ、私の使い魔が、こ、こんな」 震える手でルイズは男を指差す。しかし、男はそんなものどこ吹く風だ。 「しかし、これが死後の世界いうやつか。なんか、想像していたんとえらい違うというか。なんか、周りはガキばっかりやし、拍子抜けするわ」 それから、誰にも聞こえないような小さな声で「てっきり外道は地獄に落ちるもんやとおもてたけどな」と自嘲気味に笑いながら、ひとりごちた。 「ミスタ・コルベール!」 ルイズが怒鳴った。何かを考え込んでいたコルベールはその声にゆっくりと顔を上げた。 「なんだね。ミス・ヴァリエール」 「あの! もう一回召喚させてください!」 召喚? なんやそれ、と男は心の中で呟いた。 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか!」 「決まりだよ。二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。今、やっているとおりだ」 使い魔? そう言えばそんなことをこのおじょうちゃんはさっきから言うとるな。 「それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。 一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。 何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。 奸むと好まざるにかかわらず、彼を使い魔にするしかない」 「でも! 平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません! しかもこんな奴!」 こんなやつ呼ばわりかい、とボソッと呟きながら男はそのやり取りを他人事のように眺めていた。 「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない。彼は……」 コルベールは、男を指差した。 「ただの平民かもしれないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。 古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。 彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」 「そんな……」 ルイズはがっくりと肩を落とした。 「さて、では、儀式を続けなさい」 「えー、こ、こんな土の中から出てくるような男と」 「そうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。 君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね? 何回も何回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」 そうだそうだ、と野次が飛ぶ。 ルイズは男の顔を、困ったように見つめた。 こうして見つめると、彼の背が高いことがよくわかる。 おそらく頭二つ分は背が高いだろう。ルイズはこんな大きな男性を見るのは初めてだった。 「ねえ」 ルイズは、男に声をかけた。 「なんや、じょうちゃん」 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから。だから、ちょっと顔をこっちに向けなさい」 なにをするつもりやねん、と心の中で思いながらも男はとりあえず素直に彼女の目線の高さに顔を向けた。 ルイズは、諦めたように目をつむる。 手に持った、小さな杖を男の目の前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々と、呪文らしき言葉を唱え始めた。すっと、杖を男の額に置いた。男は怪訝そうに眉をひそめた。そして、ルイズはゆっくりと唇を近づけてくる。 「ちょ、ちょっと待ちい――」 「いいからじっとしてなさい」 怒ったような声で、ルイズが言った。 ルイズの顔が近づく。 「いや、いきなりそういうのはやなぁ……」 男は少し抵抗しようと思ったが、すぐに死後の世界ってこんなもんなんかな、と思い直す。 そして、されるがままにルイズの唇が、男の唇に重ねられる。 あの世っていうのはサービスがええんやな。 けど、ワイ別にこういう子供が趣味とかそういうことはないんやけど。そんなことを男は思っていた。 「終わりました」 ルイズ顔を真っ赤にしている。照れているらしい。いや、もしかしたら屈辱に対する怒りかも知れへんな。 「まぁ、そのなんや。仕事ご苦労さん」 そう言って、男はルイズの肩をねぎらうように叩いた。その手をルイズは乱暴に払いのける。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」 コルベールが、嬉しそうに言った。 「相手がただの平民だから、『契約』できたんだよ」 「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」 何人かの生徒が、笑いながら言った。ルイズが睨みつける。 「バカにしないで! わたしだってたまにはうまくいくわよ!」 「ほんとにたまによね。ゼロのルイズ」 見事な巻き髪とそばかすを持った女の子が、ルイズをあざ笑った。 「ミスタ・コルベール! 『洪水』のモンモランシーがわたしを侮辱しました!」 「誰が『洪水』ですって! わたしは『香水』のモンモランシーよ!」 「あんた小さい頃、洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いよ!」 「よくも言ってくれたわね! ゼロのルイズ! ゼロのくせになによ!」 「こらこら。貴族はお互いを尊重しあうものだ」 そんな喧騒を男は「ガキはどこの世界でもガキやな」と思いながら眺めていた。 そのとき、男は自分の体の異変に気が付いた。体が熱い。 なんや、これは。『薬』、か? いや、違う。その感じやない。まさか、さっきので? 「おい、おんどれ、ワイの体に何をした?」 男は身をかがめて、上目遣いにルイズをにらみつけた。 今での飄々とした男からは考えられない、その殺気に満ちた目にルイズは思わずたじろぐ。 この男は一体何なんだろうか? ただの普通の平民とは違うこの、狼のような殺気は? 目の前の男の殺気に彼女はおびえた。 「それはキミの体に使い魔のルーンが刻まれているんだ」 動けないままでいるルイズの代わりにコルベールが冷静な声で答えた。 「……さっきから、召喚やら使い魔やらわけのわからんことばかり。悪いけど、説明してもらうで」 「えぇ。あなたにはその権利がありますから」 コルベールは冷静に男にわかりやすく、召喚と使い魔について説明した。 「ちゅうと、なにか? ワイはこのちっこいおじょうちゃんの使い魔いうのになるために呼び出されたっちゅうことか?」 「そうなりますね。そして、あなたの左手に刻まれたルーン、それが使い魔の証なのです」 「ふーん」 一瞬はまるで狼のような殺気を放った男も、コルベールの話を聞いているうちにさっきまでの人懐っこい表情に戻り、左手のルーンを目線より高く持ち上げて眺めている。 「まぁ、しゃあない。そうやって現世での罪を贖えという神さんの思し召しかもしれへんしな」 男はそう一人で呟いて、一人で納得したように頷いた。 「よし」 そして、男はルイズのほうを向き直ると、右手を彼女に向かって差し出した。 「ほな、じょうちゃん。ワイの名前はウルフウッドや。これからよろしゅうな」 ルイズはしばらく納得できないように口を尖らせていたが、やがてあきらめたように 「ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 とだけ言った。そして、おずおずと右手を差し出した。 「ほな、ワイが使い魔ということで一つよろしゅうな」 ウルフウッドは人懐っこい笑みを浮かべたまま、握手したルイズの手をぶんぶんと振った。 * 誰もいなくなった校庭をウルフウッドとルイズは歩いていた。 「しかし、人が飛ぶとはほんまおどろいたで」 「あ、そ」 「なぁ?」 「なによ?」 ルイズは言外に殺気を込めて返事をした。 てっきり、「なんであんたは空飛べへんの?」とでも言われると思ったからである。 実は彼らは使い魔召喚が終わったあと、飛んで授業に向かう他の生徒たちに置いていかれたのだった。 「あんたら、ってひょっとしてプラントか?」 「はぁ?」 予想外の質問にルイズは素頓狂な声を上げた。 「いや、なんか空飛んだりしてるし、もしかしたらそうかなーっておもたんやけど」 「違うわよ! そもそもプラントって何よ!」 「そうか、ならまぁええわ」 なら質問してこないでよ、とルイズは思ったが、この男相手に下手に話を蒸し返しても流されてこっちがむかつくだけだということを学習したので、ここはおとなしく引き下がっておく。 「ねえ、あんたのその担いでいるものって何?」 「これか? 十字架や。知らへんのか?」 「知らないわよ、そんなの。なに、あんたの生まれ故郷の特産品かなんか?」 「まぁ、そんなところやな」 この世界が自分の元いた世界と違うということを認識しているウルフウッドは、ルイズが十字架を知らないという事実にはそれほど驚かなかった。 「あんた、一体何者なの?」 「牧師」 「牧師?」 ルイズは不思議そうに彼を眺める。 「牧師って、神官みたいなものよね?」 「そやな。ちなみにこの十字架はワイの商売道具」 「って、あんたまさか異教徒?」 ルイズは驚いた声を上げた。 「異教徒、言われたら、そうかもしれへんな」 「そうかも、ってあんた、それとんでもないことよ! ばれたら異端審問にかけられるわよ!」 「何それ?」 「わかりやすく言えば、死刑」 「おーこわ」 と対して怖そうではないウルフウッドの態度にルイズはイライラを募らせた。 「あんたね! 本当にそういうのは危険なのよ! 異教徒というだけで焼き討ちされた村もあったりするし」 「大丈夫。ワイ、別に神様信じているわけちゃうから」 「……信じらんない」 自称牧師から飛び出したとんでもない発言にルイズはあきれ返った。 ウルフウッドはそんなルイズを見て、少し頬を緩める。 そんなウルフウッドの態度が気に食わないルイズはそのまま彼に話しかけることなく、歩く速度を速めた。 * 空には二つの月が浮かんでいる。赤い月と青い月。 それを見上げながら、ウルフウッドはここは別の世界というよりもまた別の星なのかもしれないと思っていた。 あれからルイズに連れられるままに、ウルフウッドはルイズの部屋へとやって来ていた。 「あんたどっから来たの? 牧師ってことはロマリアから?」 「ちゃう。その、なんつーか、もっともっと遠いところや」 ベッドに座ったルイズからの質問に、ウルフウッドは興味なさげに答えた。 「あのねえ。あんた平民でしょ? 平民が貴族にそんな口の聞き方していいと思っているわけ?」 「あぁ、それちょうど聞きたかったんや。その平民ってなんやねん」 ルイズは額を押さえて大きくため息を付いた。 「こんなことも知らない田舎者が私の使い魔なんて」 「ええから、説明してや」 「あんた魔法使えないでしょ」 「使えへんな」 「なら、それが平民。魔法が使えるメイジが貴族。わかった?」 ふーん、とウルフウッドは鼻を鳴らす。まぁ、なんとなく納得は出来る話だった。 そして、そこでふとした疑問が湧いてきた。 「それやったら、おじょうちゃんは魔法が使えへんのになんで貴族なん?」 そう言うとルイズの蹴りが飛んできた。 「なんも蹴らんでもええやん」 「あんたがしょうもないこと言うからでしょ! あんたが悪いのよ、あんたが」 「はいはい」 ルイズはきーっと歯を食いしばる。この男の堂々超然とした態度が気に食わないのだ。 「あんたね、使い魔なんだから、もっと使い魔らしくしなさい」 「それも聞きたかったんやけど、使い魔ってなにするもんなんや?」 「使い魔っていうのはねえ、まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」 「ちゅうと?」 「使い魔が見たものは、主人も見ることができるのよ」 「ふーん」 「でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何にも見えないもん!」 「そら、ワイの視界が見えていたらパンツ隠すやろ」 「なっ!」 そして二発目の蹴りが飛んできた。 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」 「秘薬?」 「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか……」 「へー、そんなん使うんや」 「あんた、そんなの見つけてこれないでしょ! 秘薬の存在すら知らないのに!」 「無理やな」 ルイズは苛立たしそうに言葉を続けた。 「そして、これが一番なんだけど……、便い魔は、主人を守る存在であるのよ! その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目! でも、あんたじゃねぇ……」 ウルフウッドは何も答えずにただ笑っている。 「何よ?」 「まぁ、少なくともガキ一人くらいやったら守ったるわ。安心したらええで」 「ご主人様に向かってガキって!」 「ガキはガキや。昼間かてガキみたいなケンカしとったやろ」 心当たりのあるルイズは言い返せない。 「もう、疲れたから今日は寝る!」 「おやすみ、ってなにやっとんねん!」 ここでウルフウッドが初めて驚いた声を出した。ルイズが脱いだ下着を彼に投げつけたからである。 「何って、着替えてるのよ。あと、それ洗濯しといてね」 「男の目の前でか? それに、言っとくけどワイそういうサービスはあんまり」 「別に使い魔に見られたってなんとも思わないわ」 「まぁ、ワイもなんとも思わへんけどな」 「どういう意味よ?」 「そのままの意味や」 「言っとくけど、あんた床で寝るんだからね」 そう言い放つとルイズは毛布を一つ投げた。 「おう、おおきに」 ウルフウッドは毛布を受け取ると、そのまま床に横たわった。 てっきり文句か何かを言うと思っていたルイズは拍子抜けして、その勢いのままふて寝した。 今まで平気で野宿をしてきたウルフウッドにとって雨風がしのげて凍える心配もない寝床は、それだけで十分満足できるものだったのである。 こうして二人が始めてであった夜は更けていった。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4602.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第八話 厨房で皿洗いを再開しようとしたウルフウッドの耳に人の怒鳴り声が聞こえた。 「この馬鹿娘ー! 僕ちんのラブリーなお顔にカカトをくれるとは何事だー!」 その声にウルフウッドは一つ大きなため息を付き、厨房からホールへと顔を出した。 「なぁ、なんやあれ?」 ウルフウッドは梁に軽く手を突きながら、上半身を前のめりに覗き込むようにして隣にいたジェシカに尋ねた。 「税務官のナイトウよ。まったく、あのルイズの馬鹿、とんでもないのにケンカ売っちゃって……」 ジェシカが顔に手を当てて嘆いた。 「税務官、役人か?」 「そう。この辺りの飲食店の税を取り立てている役人よ。 あいつに下手に逆らうと重い税をふっかけられるから、この辺りの飲食店はどこもあいつに逆らえないわけ。 それで、あいつはそれをいいことにあちこちで好き放題してるの」 「なるほどな」 ウルフウッドはそのナイトウという役人とその取り巻きしかいないホールをため息を付きながら睥睨した。 背の低い男が椅子にふんぞり返っている……のではなくて椅子を背につけたままひっくり返っていた。 その目の前のテーブルでルイズが仁王立ちしていた。 その光景だけでウルフウッドは大体何が起こったかを察した。 「要は空気の読めへんあのじょうちゃんがやってもうたわけやな」 「そう、よりにもよってね」 慌ててスカロンがその場をとりなそうとしているが、いかんせんきれいにナイトウの顔にカカトが入っているため少々のいいわけなど通用しそうもない雰囲気だ。 ナイトウの取り巻き連中の、おそらくメイジであろう男たちは杖に手をかけていた。 「ふざけるんじゃねえぞ! この店は客の顔を蹴飛ばしてサービスするのか!」 「いえ、あのその、この子は新入りでして、ちょっと教育がまだ行き届いていなくてですね」 スカロンの言い訳も全く効果を発揮しない。ここまできれいに顔面を蹴飛ばしているので、当たり前と言えば当たり前だ。 その隣でルイズはナイトウの顔を堂々と見下ろしている。 「しゃあないな」 「ちょっと、あんたどうするのよ?」 何かをあきらめるように首を振って出て行こうとするウルフウッドの裾をジェシカが掴んだ。 「ん? まぁ、あのじょうちゃんが百パー悪いのはわかってるんやけれども、一応あのじょうちゃんの機嫌を悪うした責任はオレにもあるわけやしな」 「だからって、あんたが出て行っても。それに相手は腐ってもメイジだよ」 「ど素人相手に遅れはとらへん。それに、ワイはあのおじょうちゃんを守らなあかん義務があるらしいからな」 そして、「ほな、ちょっと行って来るわ」と右手を挙げてウルフウッドはホールへと向かった。 「店長、ちょっとどいてくれへんか」 「ウルフウッドちゃん、別にあなたは出てこなくても大丈夫よ」 ふらりと現れたウルフウッドにスカロンが慌てて声を掛けた。 「なんだ、お前は?」 ナイトウが不審そうな目でウルフウッドを見る。ルイズはウルフウッドが登場すると、彼から目を逸らすように顔を背けた。 「オレか? オレはこれの関係者、みたいなもんや」 ウルフウッドは背後のルイズを親指で指差した。 「はぁ? で、お前が一体僕様たちに何のようなんだ!」 そういいながらやっとナイトウは立ち上がった、がいかんせん身長が低いせいでそれでもウルフウッドを見上げる格好になるのには変わりなかった。 「まぁ、そう言わんと。あんたかて、こんなじょうちゃんに手を出すようなロリコン趣味やっていうのが周りに言いふらされたくないやろ? 取引しようやないか」 笑いながらウルフウッドはナイトウのモヒカン頭をぐしぐしと撫でた。 「なにがロリコンよ! わたしは十六歳よ!」 ガスっと、本日二発目のカカト落としがウルフウッドの後頭部に見事に突き刺さった。 「な、じゅ、十六歳……?」 そして、信じられないというような表情でルイズを見るナイトウ。いや、どう考えてもお前十四くらいだろ、とその目が語っていた。 「な、なによその目は、変態!」 呆然とするナイトウに顔を真っ赤にしたルイズが怒鳴りつける。 「なっ。こう見えてもあんたのロリコン趣味からはちょっとこのおじょうちゃんは外れとるねん」 ウルフウッドがフォローにもなっていないようなことを言う。 ナイトウはしばしぽかーんとルイズの顔を見つめていたが、やがてだんだんと正気を取り戻したのか、その表情に怒りを込め始めた。 「ふ、ふざけるなよ、貴様ら。あ、あろうことかこの僕様をロリコン呼ばわりとは…… 貴族に対する侮辱もいいところだ! 覚悟は出来ているんだろうな! いや、覚悟してもらう!」 怒りに満ちたナイトウの声がホールに響き渡る。 「ほら、じょうちゃんがそんな見た目やから」 「何言ってるのよ! この変態ロリコンにロリコンって最初に言い出したのはあんたでしょうが!」 「……お前ら、絶対僕様のこと舐めているよね?」 ナイトウが後ろに控えていたお付に首を動かして合図すると、連中は杖をウルフウッドたちに向けた。 「え、いや、あのちょっと!」 その間でスカロンが顎に両手をつけておろおろしている。 「しゃあないな」 「仕方がないわね……」 ウルフウッドとルイズは顔を見合わせて小さく頷いた。 「やっちまえー!」 「ウルフウッド、やっちゃいなさい!」 ナイトウとルイズの声が同時に響いた。 その言葉と同時にウルフウッドは身を翻し、ナイトウと自分の射線を重ねる。後ろにいるメイジたちは、その行動に魔法の発射を止めざるを得なかった。 「え?」 ぼんやりとするナイトウを尻目にウルフウッドは一蹴りで敵陣の奥へ切り込んだ。 「馬鹿! 俺に当たるじゃないか!」 相手の中央に入り込んだウルフウッドに向かって一人のメイジが魔法を放とうとしたが、もう一人の悲鳴にそれを中止する。 ウルフウッドの動きにメイジたちは対応できない。 ウルフウッドは体勢を低くしたまま、そのうちの一人に狙いを定め、みぞおちに肘を入れた。強力な一撃に一瞬で意識を失うメイジ。 その光景に慌てるほかのメイジたち。攻撃か、それとも防御かどっちつかずの混乱が彼らを支配する。 震えながらウルフウッドに杖を向けたメイジを、ウルフウッドは回し蹴りで蹴り飛ばした。 そして、その勢いそのままに隣のメイジの顎をアッパーで殴り飛ばす。 杖を構えて慌てて詠唱を始めたメイジの顔面を上から殴りつけた。杖を放り投げて派手に床を転がるメイジ。 そして、その光景を前に呆然と立ち尽くすメイジに当身を食らわせる。 「ど素人、やな」 何事もなかったかのようにホールに立つウルフウッドの周りで、合計五人のメイジがのびていた。 「な、なんなんだ、お前は。お、俺たちはメイジなんだぞ……」 震える声でナイトウがウルフウッドに尋ねた。 「いくら魔法が使えても、こんなど素人相手にビビる方がどうかしてるで」 「優秀なメイジには優秀な使い魔が憑くってことかしらね」 汗一つ掻かずに平然と言い放つウルフウッド。その横でなぜか得意げなルイズ。 「ふ、ふざけるな」 震えながら杖を手にとるナイトウ。しかし、その表情には先ほどまでの勢いはない。目の前で、側近のメイジが一瞬で倒されたショックで声が上ずっていた。 「なんや、アンタのほうがあいつらよりもヤルいうんか?」 悪戯っぽく笑うウルフウッド。悔しそうに唇を噛むナイトウ。 このちっぽけな木っ端役人にとっては絶体絶命、そんな場面だった―― 「やや、ウルフウッド君、まだお仕事中ですかなー?」 飛んで火にいる夏のハゲ、であった。 「な、なんですか?」 マヌケな声を上げて入ってきたコルベールにナイトウは掴みかかった。そして、杖をコルベールに突きつける。 「なんかよくわからないけれども、どうやら僕様にも運がむいてきたようじゃなーい。 おい、こらそこの黒服。このハゲの命が惜しければ抵抗をやめな!」 得意満面のナイトウ。うまく人質を取ったことで、形勢逆転だと思っていた。 そういえばこういうトラブルによく巻き込まれる不幸体質な人っているよねー、そんな目でウルフウッドとルイズは杖を突きつけられたコルベールを見ていた。 「お前、なんてことするんや! 今すぐその『ハゲッ』を離さんかい!」 「……ウルフウッド君」 「なんや?」 「キミの目が笑っているんだけど」 コルベールが抑揚のない声でウルフウッドに突っ込みを入れた。ウルフウッドは悪びれずに 「いや、すまんなぁセンセ。つい、そのおっさんがハゲ言うから、ワイもつられてついついハゲと」 「……いまどさくさに紛れてハゲって二回言いませんでした? ウルフウッド君」 「ほら、あのセンセ。あんた本名ばれたらいろいろと問題あるかもしれへんやろ? やからここはハゲで通そうや」 「それならもっと他の言い方があるでしょう、ウルフウッド君!」 「じゃあ、頭のほうがかわいそうな人、とかどや?」 「……なんら本質的な解決になっていない気がするのですがね」 「ええい! お前らなにわけのわからにことを話しているんだ! ほら、さっさと抵抗をやめて土下座して謝れ。そうすれば許してやらないこともないぞ!」 空気の読めない男、ナイトウ。そこにルイズが割ってはいる。 「馬鹿な抵抗はやめて! そのハ……先生を放しなさい!」 「ミス・ヴァリエール、今なにかいい間違えかけませんでした?」 ルイズはぶるぶると首を振る。 「これは一体何なのですか? というか、あなたたちは一体何をやっているのですか、全く」 あきれ返ったコルベールが大きくため息を付く。 「お前らさっきからこの僕様を無視するなー!」 ナイトウの大きな声がホールに響いた。ウルフウッドとルイズが「まだいたの?」とでも言いたげな目線でナイトウを見る。 「お前らこの僕様がこのハゲを本当に殺さないと思っているのか? それは残念だったな。僕様はやるときはやる男なのだぞ!」 口角泡を飛ばしてナイトウが叫ぶ。 「悪いことは言わへんからそのハゲを離したほうがええで」 「そうよ。無駄な抵抗はやめて、コ……ッパゲを解放しなさい!」 「ミス・ヴァリエール、逆です」 「ふん、そんなことを言われて人質を離す奴がどこにいるんだよー! この、コッパゲとかいう男の命が惜しければ土下座して謝りな!」 「くっ、コッパゲが人質に捕られているから手が出せへん!」 ウルフウッドがわざとらしく額を手で覆う。 「あれ? いつの間に先生の名前がコッパゲになってるの?」 ルイズがマヌケな質問を挟む。本人自分の言い間違えが原因なことに気付いていない。 「まぁなんや、ペンネームみたいなもんや」 しれっと言ってのけるウルフウッド。 うそこけ。とコルベールが目線で訴える。 「あぁ! もうお前ら本当に僕様がコッパゲを殺してやるぞ! もう金輪際僕様に――」 「ちょっと待ってください。あなた今なんていいました?」 「え?」 「いま、あなたは、何を言いましたか、と私は、訊いたのです」 突然低い声で会話を遮ったコルベールをナイトウはきょとんとした目で見つめる。 「えーっと、殺してやるぞ?」 「その先は?」 「もう金――」 「『殺してやるぞ、毛根』? ……私の毛根のことですか?」 コルベールの体が震える。彼の体を赤い光が包む。魔法力がたぎっているのだ。 「へぇ?」 事情の飲み込めないナイトウ。コルベールの目がカッと開いた。 「それは私の毛根のことかぁー!」 怒りに任せて絶叫するコルベール。彼の体から魔法力があふれ出る! 「ちょ、だ、だれもそんなこと……」 「問答無用! 成・敗!」 その一言と共にコルベールはナイトウの腕を取り、一本背負いのように床に叩き付けた。床の木が軋む音。埃があたりに舞い上がる。 「魔法の詠唱を行っていない杖を突きつけたところで、なんの脅しにもならない。覚えておきなさい」 そう言いながら、伸びているナイトウを背に、すらりと身を翻し服の裾をクールな仕草で正すコルベール。 「そして私の毛根の冥福を」 でも、本日彼はコッパゲである。 「く、くそー、お前らこんなことをしてタダですむと思うなよ。僕様は女王陛下直属の役人なんだ。 それにこんな暴力を働いてこの店がどうなるか思い知らせてやる……」 コルベールに叩き伏せられ、うめきながらもナイトウはまだそんな悪態をついた。 「なぁ、じょうちゃん」 「なによ?」 「女王陛下直属って偉いんか?」 「偉いと言えば偉いわよ。もっとも、こんなのは直属とは言っても間に何人もいる下っ端もいいところだけどね」 「ふーん。女王陛下直属って偉いんや」 ウルフウッドは感心したように鼻を鳴らした。 「な、お前ら僕様が怖くないのか? え? こんな店、僕様の権力を使えば簡単に潰せるんだぞ!」 「なぁ、じょうちゃん。たしかあんたって女王陛下直属の女官やったな?」 「へ?」 ナイトウのマヌケな声が響く。 「目ん玉かっぽじってよう見い!」 ウルフウッドが笑いをこらえながらルイズを指差す。そして、ルイズは得意満面にテーブルに飛び乗り一枚の紙を広げた。 その紙を見て見る見る顔が青ざめていくナイトウ。 「しょ、しょんな……」 「うーん、あんたのやっていたこと女王陛下様にどうご報告しようかしらねー」 「そらもうあることないこと面白おかしくやなぁ」 悪魔の笑みを浮かべるウルフウッドとルイズ。 「……ごめんなさい」 「一体あなたたちは何をやっているんですか、本当に」 「いやいや、客商売にトラブルはつきものやろ?」 恨めしそうな目をするコルベールの肩をウルフウッドは軽く叩く。 「それはそうとどうしたんや? コッパ……センセ?」 「……まだ、そのネタを引っ張りますか。 まぁ、それはよいとして、君が私に預けたパニッシャーに弾を充填したのと、ばいくのがそりんが無事練成できました。その報告に来たのですよ」 「へー」 「しかし、なぜミスヴァリエールまでここにいるのです? しかも女王陛下直属とは……、いや、それについては何も訊きますまい」 コルベールは自分をいなすように首を振る。 「けど、下っ端とはいえ役人をあんな目に遭わせて大丈夫ですかね?」 「大丈夫や。偉い貴族様ご一行が丸腰の平民相手にぼこぼこにやられたなんて人に言えるわけないからな」 ウルフウッドは気持ちよさそうに笑う。 「それはそうと、アレが直ったんやったら今すぐにでも戻りたいところやけど、まだ借金があるしなぁ」 そう言いながら顎に手を当てるウルフウッド。 「それなら大丈夫よ。むしろお釣りが来るわ」 「ジェシカ?」 すっとホールに入ってきたジェシカは床のほうを指差した。その指先に視線を移すウルフウッド。そこにはナイトウたちが置いていった布袋があった。 「これは?」 「今回のチップレースはあなたたちの優勝ね。数えるまでもないわ」 ウルフウッドとルイズは互いに顔を見合す。 「やった! ウルフウッド!」 「これで借金完済や!」 喜色満面の笑みでハイタッチをする二人。 その姿を見ながら厨房のほうで従業員たちがひそひそ話をしていた。 「女王陛下直属の女官って……ルイズってめちゃくちゃ偉かったんだ」 「ほんとにねー。でも……」 そこで一人の従業員がちらりと喜び合う二人に目をやると 「お金がなくて貧乏で身売りしたっていうのは本当みたいね」 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/wakures/pages/937.html
貴州(きしゅう)風春雨とひき肉の炒め物中国西部「貴州料理亭」 この料理の起源は、元の時代の作家が書いた物語に関係しているそうです。 高級 ジャンル 前菜 価格(一押し) 47(?) コスト(一押し) 40(?) 風味(一押し) 115(?) 品質 属性条件 色(一押し) 273(?) 包丁技 251 香(一押し) 257(?) 調味技 249 味(一押し) 280(?) 火加減 253 調理情報 習得条件 調理時間 5時間 習得Lv制限 Lv45 調理費用 800ドル 高級料理習得数 12 習得数 20~30個 食材 スパイスLv2 4 野菜Lv2 4 米穀Lv2 7 魚Lv2 7 × × × × 一押し食材 野菜Lv2 10 オイルLv2 1 米穀Lv2 20 × × クイズ 問題 この料理の起源となるものはどれでしょうか?A.中国のまかない料理 B.作家が書いた物語 C.料理投稿イベント D.コンビニ定員トニーが考えた 答え(反転) B. 作家が書いた物語 貴州風春雨とひき肉の炒め物を編集
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4934.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第十一話 デルフリンガーの愚痴に付き合ったウルフウッドが宿に戻ると、ギーシュはまだ気持ちよさそうに眠っていた。 「ほんまに気楽な奴やの、お前は」 あきれ返るように呟くと、ウルフウッドはベッドに腰を下ろした。 出発は明日の朝。それまで時間はたっぷりとある。 「け、あのクソアホンダラ。ワイの一張羅が泥だらけやないけ」 そうぼやくと、乱暴に身体をベッドに投げ出した。 その日の夜、ウルフウッドたちは宿の一階の酒場にいた。 「あら、ダーリン、ルイズは?」 「知らん。お前らがてっきり呼びに行ってるもんやと思たんやけどな」 ウルフウッドはギーシュと共に二階から降りてくる途中でキュルケに声を掛けられた。キュルケの横ではタバサがあいかわらず本を読んでいる。 「まぁ、別にいいわ。あつーい二人の時間を邪魔しちゃ悪いし」 「あのなぁ」 ため息を付きながらウルフウッドはキュルケの隣に座った。 「あら、ダーリン、その手に持っているものは何? 私へのプレゼント?」 「ちゃう。暇つぶしに、そこらへんにあった木屑を彫って作ったんや」 そう言ってウルフウッドは右手に持った木彫りの鳥をテーブルの上に置いた。 「見たことない鳥ね」 「そうか」 「うん」 不思議そうに鳥を眺めるキュルケ。さっきまで本を読んでいたタバサも興味深そうに首を突っ込んできた。 ワシの存在をしらない彼らを見て、ウルフウッドは改めて自分が異世界に来たことを感じ取る。 ちなみにこれは刃物らしい扱いを要求したデルフリンガーで暇つぶしに彫ったものである。 「おいおい、そんな鳥の話なんかどうでもいいから、早く注文をしよう。僕は今日は何も食べていないからもうお腹ペコペコさ」 「お前は夕方までヨダレたらしながら寝とっただけやろが」 ウルフウッドは軽くギーシュの頭をはたいた。 「かんぱーい!」 楽しそうに酒をたしなむキュルケたちの隣で、ウルフウッドは椅子に深く身を預けてため息を付いていた。 「どうしたのダーリン? なんか元気ないわね」 「大丈夫や。別になんでもない。ただ、なんかちょっと変な気分がしてな」 「なに、私の魅力にやられちゃったわけ?」 「あほか」 そう言って笑うウルフウッド。 ――なんで、オレはこんなところでこいつらと酒なんか飲んでるんやろな。 不思議な気分だった。この世界に来て、ルイズやキュルケたちと知り合って、こうしてみんなで酒を飲む。 昔だったら考えられなかったことだし、経験したこともなかった。不思議な心地よさが彼を包んだ。 「あら、ダーリン、もう部屋に戻るの?」 不意に立ち上がったウルフウッドを不思議そうにキュルケは見つめる。 「あぁ。なんかな、こういうのは……慣れてへんねん、ワイ」 キュルケはウルフウッドを引きとめようとした。しかし、彼の浮かべたどこか空虚な笑顔にその手は途中で止まった。 $ 「調子狂うで、ホンマ」 ベッドの上に寝転がって、ウルフウッドは天井を見つめていた。 孤児院を出てから彼はずっと独りで生きてきた。いや、一人で生きようとしてきた。だれにも頼らず、誰も信じず、そして誰も巻き込まないために。 ――変わってきているのだろうか、自分は。 そう思った直後、ウルフウッドは上半身をはね起こした。窓から見える松明の光。辺りを包む気配。 ――囲まれてもうたな。 「だからさぁ、そこで僕は言ってやったんだ!」 「はいはい」 興味なさげに酔っ払ったギーシュの自慢話に相槌を打つキュルケ。彼女はウルフウッドが退出してしまったせいで退屈だったが、かといって部屋に戻ってもやることもないので、しかたなくまだ酒を飲んでいた。 「だから、聞いてる? キュルケぇ?」 はいはい、うっとおしい酔っ払いだね、そう心の中で呟いたキュルケが酒のつまみを取ろうとしたとき、ガラスが砕けるような音がした。 「来る」 タバサが本から目を離してそう呟いた時、破られた扉から彼らに向かって矢が降り注いできた。 タバサはすばやく杖を取ると、呪文を唱えた。彼らの周りで風が起こり、矢が吹き飛ばされる。 同じように食事を取っていた宿泊客たちから悲鳴が上がった。 キュルケはすばやく辺りを見回すと、身を屈めた。 「やるじゃない、タバサ」 「だめ、囲まれている」 肩を叩いたキュルケにタバサは冷静に事実を告げた。 「囲まれているって? まさか」 「私たちが狙われている」 タバサは身を屈めた。ギーシュは一気に酔いのさめた顔になって「な、なんなんだ」と状況が飲み込めないままに身を縮めている。 「なんで、私たちが狙われるのよ」 「わからない」 「けど、どうやらメイジは相手にはいないようね。矢くらいだったら、あんたの魔法で簡単に防げるわ」 「……そうもいかない」 「え?」 「来る。次は投石」 「え、ええ! ちょ、そんなの防げない――」 タバサの言葉とほぼ同時に今度は直径五十センチほどの大きさの石がドアと窓を破って彼女たちの元へと向かってきた。 タバサは小さく唇を噛んだ。先ほどの矢とは根本的に質量が違う。今、風の魔法唱えてもこの石を防ぐには間に合わない。キュルケにしても同じだ。 炎では石を防げない。土のメイジであるギーシュが防壁でも作れればいいのだが、それも間に合わない。 ――万事休す。 タバサがそう観念したとき、ゴオンという巨大な音と共に、二階から巨大な木の丸テーブルが降って来た。その落ちた衝撃の振動に彼ら三人の身体が小さく宙に浮いた。 それは彼らを守るように石と彼女たちの間に立ちはだかる。しかし、木のテーブルで投石を防げるはずもない。 テーブルは石があたるとグシャアと音を立てて、木屑を撒き散らしながら砕けた。 そして、砕け散ったテーブルの影、そこにパニッシャーを盾のように構えたウルフウッドがいた。 「大丈夫か、じょうちゃんたち!」 ウルフウッドは投石の方向を一睨みすると、タバサたちに声を掛けた。タバサは無言のまま頷く。ウルフウッドは三人が揃っているのを確認すると、 「ここじゃ的になるだけや! あそこのテーブルの影に飛び込め!」 ウルフウッドの指示にすばやくテーブルの影に飛び込むタバサとキュルケ。その後ろにへっぴり腰のギーシュが続く。 三人がテーブルの影に入ったのを確認したウルフウッドは、パニッシャーを担いだまま一足飛びに自分もその影に飛び込み、テーブルの足を折ってそれを盾にした。 「ウルフウッド! これはいったいどういうことなの?」 「知るか。とにかく、この様子やと昨日崖で襲われたんも、どうやら偶然というわけではなさそうやな」 テーブルを背にしたままキュルケの質問に答えながら、ウルフウッドはテーブルの影から辺りを見回した。暗がりのせいで相手の数は大まかにしか把握できないが、数十人は間違いなくいる。 「戦い慣れとるな。傭兵か」 ウルフウッドがそう呟いたとき、今度は矢の第二波が飛んできた。タバサが無言で杖を構える。しかし、その矢は彼女が呪文を唱える前に全て風に吹き飛ばされた。 風の呪文――この場でその呪文を唱えるもう一人の人間は彼しかいない。 「大丈夫か?」 見上げると二階からワルドが杖を構えたままウルフウッドたちを見下ろしている。ワルドの隣には驚いた顔でこの狂騒を見つめるルイズがいる。 ワルドはルイズを抱えると、二階からウルフウッドたちの隣に飛び降りた。 「これはまさか、僕たちの行動がレコン・キスタにばれていたということか?」 「順当に考えるなら、そうなるな」 周りの様子を窺いながら、ウルフウッドは相槌を打った。他の宿泊客たちは部屋の隅へ非難している。 そして、相手の攻撃は部屋の真ん中にあるテーブルに隠れた自分たちに集中していた。狙われているのは明らかだった。 ワルドは声をひそめて言った。 「このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」 「……何が言いたい」 ウルフウッドが上目遣いにワルドを見据える。 「二手に分かれよう。一つはここで応戦、もう一つは桟橋へ向かう。それが確実だ」 「船は明日にならんと出えへんのちごたか?」 「そこは僕がなんとかするさ」 そして、ワルドはウルフウッドたちを見回した。キュルケは興味なさげに髪をかきあげた。 「桟橋組は僕とルイズは決定だ。使い魔君、君はどうする?」 そのワルドの言葉に不安そうにウルフウッドを見つめるギーシュ。ウルフウッドはギーシュをちらりと見ると、 「……このガキ共ほっとくわけにはいかんやろ。ワイはここに残る」 目を閉じながら、そう静かに言い放った。 その様子を見たルイズは不安そうな目で何かをウルフウッドに言おうとした。しかし、それをワルドが遮る。 「そうだな。その編成がもっとも戦力バランスが取れているだろう。ルイズは僕に任せておいてくれたまえ」 ウルフウッドはふん、と鼻を鳴らすと 「そうと決まったらはよ行け。こんなところでちんたらしとるわけにはいかへんやろ」 $ 「行ったな」 「行っちゃったわね」 「さてと、これで何の気兼ねもなく大暴れできるな」 ワルドとルイズが出て行った裏口を眺めがならそう呟くと、ウルフウッドは服に付いた埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。 「おいこら、小僧。そろそろ酔いも醒めたやろ」 「え。あぁ、うん」 ウルフウッドはまだ呆然としているギーシュの頬を軽くはたいた。口を開けたままウルフウッドを見上げるギーシュ。 「例のセンセから預かった荷物が俺らの部屋にある。お前はそれを取ってきてくれ。んで、大きいじょうちゃんとちっこいじょうちゃんには魔法で後方支援を頼むわ」 「で、ダーリンはどうするわけ?」 「囲まれたまま防戦しても埒が明かへんからな。ワイが突破口を開く」 ウルフウッドは犬歯をむき出しにして笑った。 そして、右手でパニッシャーのベルトの止め具を外した。小気味のよい金属音を立てて、ベルトの止め具が外れていく。パニッシャーを覆う白い布がひらりと落ちて、その姿が露になった。 ウルフウッドはパニッシャーを一瞥すると、ゴウンと風を切る音と共にパニッシャーを軽々と肩に担いだ。 「ほな、試し撃ちといこか」 ウルフウッドは振り回すようにパニッシャーを右肩に載せ、銃口を先ほど矢の飛んできた入り口へと向けると、引き金を引いた。 キュルケたちは何かが連続的にはじけるような大きな音を聞いた。そして、その直後――ウルフウッドが銃口を向けた先が弾け飛び、埃を舞い上げる。 一瞬にして、建物の形を変えてしまうほどの破壊力。その先からいくつもの悲鳴が聞こえた。 「ほな、行くで」 ウルフウッドは硝煙の匂いのする空気の中立っていた。そして、パニッシャーを低く構えると入り口に向かって身を屈めたまま走り出す。 ハルケギニアの常識では理解不能な破壊力の前に、宿を取り囲んだ傭兵たちは混乱し一気にその統制を失っていた。 その混乱する集団の中へ、まるで牙のようにウルフウッドが食い込んでいく。 「ひ、ひい!」 「な、なんだ! 撃たれた? 何に? 銃?」 悲鳴を上げる傭兵たちのど真ん中を切り裂いていくウルフウッド。突然の侵入者に傭兵たちは慌てて手に持った剣を目の前の黒服の男めがけて振り回そうとした。 しかし、ウルフウッドは右足を踏みしめて、その場に止まると、傭兵たちの動きよりもすばやく敵陣のど真ん中でパニッシャーを振り回す。 「ぐげぇ!」 左手を地面に付け、パニッシャーを一回転振り回し、辺りをなぎ払った。鈍い音共にウルフウッドの回りにいた十人ばかりの身体が木の葉のように宙に舞う。 「は、離れろ。距離をとって囲め!」 地面に叩きつけられた仲間の姿を前に、血の気をなくした表情の傭兵のリーダーらしき男が指示を出す。 慌てて宿を囲んでいた傭兵たちがウルフウッドのまわりに人垣を作った。しかし、ウルフウッドはかまうことなくゆっくりと体勢を持ち上げる。 「おおきに。撃ちやすうて、ええな」 ウルフウッドはにやりと笑うと、パニッシャーを右脇に挟み、上半身を大きく逸らし回転しながら撃った。地面を叩き割るような銃声が辺りに響く。 そして、それに遅れて数多くの悲鳴が重なった。あっという間に腕や足を打ちぬかれる傭兵たち。 数秒の後、痛みでうずくまる傭兵たちのど真ん中に悠然とウルフウッドは立っていた。 「し、信じられん。俺たちがたった一人にこんなにあっけなく……」 倒れこんだままの傭兵の一人が呆然と呟く。ウルフウッドを囲んだ傭兵たちは何もすることが出来ず、みな腕や足を打たれてその場に死屍累々の様を呈していた。 「すまんな。お前らに恨みはないけど、お互い様いうことや」 ウルフウッドはパニッシャーを地面に突き刺すように立てると、どうでもよさそうにそう一言だけ呟いた。 「なんていう戦闘力なの? っていうか、あの大きいのって銃? っていうかウルフウッド強すぎ? あれだけの傭兵を一瞬で」 目の前で起きたことが信じられないキュルケは、うわごとのようなセリフを繰り返していた。 一応後方支援と言われたが、そんなことは全く必要となかった。 ほとんどの傭兵はウルフウッドに襲い掛かって返り討ちにされていたし、その状況に混乱した一部の傭兵がキュルケたちを人質にしようと襲い掛かってきたが、そんなものはもののかずではなかった。 その様子を同じように無言で見つめていたタバサは、ウルフウッドが傭兵を一蹴するのを見届けると、もう終わりとばかりに再び読書に戻った。 「……タバサ、あんたあんなものを見て、よくそんな風に平然としていられるわねえ」 あきれ返るようなキュルケの声をタバサは聞き流した。 ウルフウッドは辺りに転がっている傭兵たちを一瞥して、彼らにもう戦闘力がないことを知ると、そのうちの一人に話しかけた。 「おい」 「な、なんだよ……化け物」 「お前らの雇い主は何もんや? これは誰の差し金や? なぜオレたちを狙うた?」 冷たい表情でパニッシャーを突きつけるウルフウッド。相手の傭兵は額に大汗をかいている。 「わ、若い女だ。それと仮面の男。オレたちはあんたらを襲えと言われただけで、どういう目的かは知らない……」 無言でウルフウッドはパニッシャーの銃口で傭兵の頭を小突いた。 「ほ、本当だって! 俺らはただ雇われていただけで、何も知らない!」 これ以上は訊いても無駄やな、ウルフウッドがそう判断してパニッシャーの銃口を降ろした直後、視線の先の岩陰から飛び立つ一つの人影が見えた。 ――まずい。あいつは桟橋に向かっている。 ウルフウッドはすばやくパニッシャーを構えて、空を飛ぶ男に照準を合わせようとする。仮面をつけた男がちらりとウルフウッドの様子を見た。 おそらく、この男がさっき傭兵の言った仮面の男で間違いない。 しかし、相手を捉えたウルフウッドが引き金を引こうとした刹那――仮面の男の姿がふっと闇に溶け込むようにして消え去った。 「なんやと!」 人が消えた。予想外の出来事にウルフウッドは戸惑う。しかし、ウルフウッドには戸惑っている時間は与えられなかった。 ウルフウッドは自分の身体に大きな影がかぶさってきたことに気が付いた。視線を男の消えた場所から右に逸らす。そこには巨大な土で出来た拳。それが今まさに彼を潰そうと降りかかってきていた。 「くっ」 納得の行かないまま、ウルフウッドはすばやく身を後ろに退いた。目の前で土煙を上げながら、巨大な拳が地面にめり込む。 目の前にあるのは見覚えのある光景。ウルフウッドはうっとおしそうに舌打ちをした。頭の中で、彼が出発する前にコルベールから聞いた言葉が蘇る。 「お久しぶりね、使い魔君」 「おんどれはまた性懲りもなく……」 ウルフウッドはゴーレムを見据えたまま吐き捨てるように呟く。 ウルフウッドのパニッシャーを警戒したのか、フーケはその姿を見せず声だけが響いていた。 「全く、役に立たない連中だねえ。足止めすら満足に出来ないじゃないのさ」 「お前らの目的はオレらの足止めか?」 「まぁね。本当は殺しても構わないと言われていたんだけどね。しかし、すごい火力だねえ、あんたの銃は。 傭兵なんかじゃ足止めすら出来るわけもないか」 しかし、その言葉とは裏腹に楽観的にくくっとフーケは笑った。 「けど、それじゃああたしのゴーレムは壊せないよ。あんたがゴーレムを壊すよりも再生のほうが早いからね!」 その言葉と共にゴーレムは右足を持ち上げて、ウルフウッドを踏み潰そうとしてくる。 ウルフウッドはパニッシャーを担ぎ上げると、残った左足を払うように横なぎに砲火した。 土煙と共にゴーレムの軸足を引きちぎる。そのままゴーレムはバランスを崩して倒れたが―― 「無駄だって言っているのに」 というフーケの言葉と共に、地面に切れた左足をくっつけると、そこから引き抜くように新たな左足を再生した。 「なるほど。こら、このままやってもジリ貧やな」 ゴーレムの再生能力に感心したように呟くウルフウッド。 「残念だったねぇ。ここには破壊の杖はない。じっくりといたぶらせてもらうよ」 体勢を低くしながらウルフウッドは考える。 おそらくランチャーを使えば、一発でこのゴーレムは仕留められるだろう。 しかし、補給のあてのあるライフル弾はともかく、ここでランチャーを消費するのは痛い。となれば、やはりあの方法を使うか―― 「小僧、二階の窓からさっきオレの言うたヤツをゴーレムに向かって投げつけろ!」 ウルフウッドは宿に向かって大声で叫んだ。 「……まだ、なんか悪あがきをするつもりかい?」 「さあな」 不敵に笑うウルフウッド。その態度が気に入らなかったのかフーケはゴーレムにパンチを繰り出させた。 しかし、ウルフウッドは軽く横飛びしてそれをかわす。 「ちょこまか逃げ回ってんじゃないよ!」 「ほうか。なら、こっちからいかせてもらうわ」 ウルフウッドは宿の二階を見上げた。窓から顔を覗かせているギーシュを見つける。 「小僧、そいつを元に戻してこいつの頭からぶっかけたれ!」 ウルフウッドの言葉にギーシュは刻々と頷くと、大きな黒い塊をゴーレムに向かって投げつけた。そして、彼のバラの杖を振る。 「そんなものをぶつけて何をしよう――」 フーケの言葉も終わらないうちに、その黒い塊は透明な液体になり、ゴーレムの全身を濡らした。あたりに独特の刺激臭が立ち込める。 フーケがその正体に気が付いたときにはもう遅かった。 「コルベールセンセ特製や。よう燃えるで」 ウルフウッドはパニッシャーを横に払うようにして弾丸を一発。そして、その一発で十分だった。ゴーレムはたちまち炎に包まれた。 ゴーレムが炎に包まれて朽ち果てるのを見たフーケはその場から逃げ出そうとした。 しかし、逃げようと振り返った彼女の目の前にあったのはパニッシャーの銃口。そして、それを構えたままフーケを見下ろすウルフウッド。 「……あたしの居場所もお見通しだったってわけかい? 本当に怖い男だねえ、あんたは」 「なぜ、オレらを襲った? オレらがおんどれを捕まえたことに対する逆恨みか?」 フーケの言葉にウルフウッドは耳を貸さずに質問をした。 「……それもなかったとはいわないけどね。ただ、わかるだろ? なんの目的もなくあたしを脱獄させてくれる慈善業者がいると思うかい?」 「お前を脱獄させたのは――例のレコン・キスタやな?」 「ご名答。っていっても、あたしもそれくらいしか知らないんだけどね。悪いけれども、拷問されてもそれ以上の情報は吐けないよ」 フーケはやけくそのように笑う。 「どうする? 魔法力の尽きたメイジなんて、あんたならどうにでもできるだろう? 殺すかい?」 笑っていない目でフーケはウルフウッドをにらみつける。 「去ね。そして、二度とオレらの前に現れるな」 ウルフウッドは冷たくそう言い放つと、パニッシャーの銃口を下ろした。 「……いいのかい? あたしはあんたたちを殺そうとしたんだよ」 「別にオレにはお前を殺さなあかん理由はない。お前をとっつかまえたんもただの成り行きや。それの逆恨みやったら、これでチャラにしてもらうで」 「……甘いね。あんた」 「じゃかあしい。そんな危ない橋ばっか渡っとったら、ワイが手えださんでもじきにお前もおっ死ぬわ」 フーケはウルフウッドの言葉にため息を付くと、瞳から敵意を消失させた。 「じゃあ、今回はありがたく生きながらえさせてもらうわ。一応、あたしもこんなところで野垂れ死ぬわけにはいかなかったりするんでね」 「口上はええから、はよ行け。ボケ」 フーケはウルフウッドの言葉を聞き流して、ウルフウッドから目を逸らすと、小さな声で喋り始めた。 「……アルビオンに行くなら一つ頼みがあるんだけど」 「なんやねん」 「出来れば、関係のない人間には手を出さないでもらえないかい? 向こうにいる人間のほとんどは今回のクーデターには何の関係もない一般市民さ。やるなら、そういう連中同士でやっとくれ」 「……外道は外道同士、仲良うお互いの血肉を喰らいおうたるわ」 ウルフウッドの悪態にフーケは軽く右手を振ると、ゆっくりと歩き始めた。 遠ざかっていくフーケの背中を見つめるウルフウッド。 「甘なってもうたもんやな、ワイも」 そのままウルフウッドは空を見上げた。 「調子狂うわ。どっかのクソトンガリ頭のせいやで、全く」 そして、ポツリとそう呟いた。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5230.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第十九話 トリステイン城下町にある酒場魅惑の妖精亭は、シンと静まり返っていた。タルブがアルビオンの侵攻を受けたというニュースを聞いて、タルブ出身の店長スカロンはどうしても店を開ける気持ちになどなれなかったのだ。 「大丈夫よ、父さん。あそこの人たち、ほんとうにしぶといから平気だって」 ジェシカが椅子に座って頭を抱えるスカロンの肩をポンと叩く。 「わたしだって、そう思っているわよ。けれども、やっぱり心配で心配で」 そう言ってスカロンが頭をフルフルと振った時だった。カランとベルの鳴る音がして、店の扉が開いた。 「あ、悪いんだけれども、今日は店は閉めてるんだ――って、あんた、ウルフウッド?」 「え?」 ジェシカの素っ頓狂な声に、スカロンも顔を上げる。そこにはつい先日アルバイトでこの店にいた男の姿。 「よう、店長。何も言わんと、一晩泊めてくれへんか?」 「そ、それはかまわないけれども、それあんたが背中におぶっているのは、ルイズちゃん?」 「――あぁ」 ウルフウッドは頷くと、店の中へと入ってくる。そして、ウルフウッドの後ろから、頭を掻きながらコルベールが付いてきた。 「って、コルベール先生まで? ウルフウッド、コルベール先生と知り合いなの?」 「え? ジェシカ、コルベールセンセを知っとんのか? 前にちょっとだけ店に顔を見せたことはあったけれども」 「ええ。うちの常連。セクハラじーさんとよく来るわよ」 「な! だ、断じて常連などではありませんぞ! 今まで数回やって来たことがあるだけです! っていうか、ウルフウッドくん。汚いものを見るような目で見ないでください……」 「ハゲがスケベっていうのは、ほんまやったんやな……」 「まぁまぁ、そんなやり取りは置いといて。ルイズちゃんは寝てるし、お二人とも随分お疲れの様子だし。早く部屋の用意をしてあげてさしあげて、ジェシカ」 「はいはい。なんか今回もワケありっぽいしね」 「……今回は、ワケは訊かんといてくれるか?」 ジェシカはほんの少しだけ、考えるような仕草を見せた。 「客としてお金を払ってくれるなら、へんな詮索はしないわよ。それに、今こっちも例の戦争のおかげでそんな気分じゃないしね」 片手を振りながら、ジェシカは答えると、店の奥へと入っていった。 $ ウルフウッドはゆっくりと眠ったままのルイズをベッドに横たえる。 「随分と疲れとったんやな。泥みたいに眠っとるわ」 「あれだけの魔法を使ったんですから、仕方ありません。今は、ゆっくりと休んでもらいましょう」 コルベールが部屋の隅に荷物を降ろしながら答える。 「なぁ、センセ。道中で言うていたこと、あれはどういうことなんや?」 「……虚無、ですか?」 「あぁ」 コルベールはゆっくりと床に腰を下ろした。 「あれは間違いなく魔法でした。しかし、あれは明らかに私の知っている四大系統のどこにも属していない」 「やから、虚無やと?」 「それだけではありません。ガンダールヴ、つまり君の左手に刻まれたルーンですが、それは本来虚無の使い手である始祖ブリミルの使い魔に現れるルーンのはずなのです。それにあれは明らかに水のルビーそして始祖の祈祷書という始祖の秘宝から生まれていた」 「やから、虚無だと言うたわけか」 「ええ」 「……そもそも、その虚無というのはなんや?」 「わかりません。なにせ、ほとんど伝説の代物ですから。分かっているのは始祖ブリミルが使っていた系統であるということ、それだけです」 「あの破壊力見たやろ? あの巨大な戦艦が、あの白い光に包まれた瞬間、丸ごと消えたんや」 ウルフウッドはあの時を思い出す。あの時、レキシントン号が目の前に迫り絶体絶命の場面で、ルイズがなんらかの呪文を唱えた。その直後白い光が辺りを包み、そして再び目を開いたウルフウッドが見たのは、何も浮かんでいない青い空だけだった。 「あの時、私に確実に分かっていたのは、とにかくあの場から逃げ去ることだけでした。もしも、彼女が本当に虚無の使い手だとしたら、それはあまり人に知られるべきことではないと思います」 そう言って、コルベールは眠ったままのルイズの顔を見る。 「まぁ、これ以上あれこれ考えてもしゃあないやろ。肝心のじょうちゃんが魔法を放った直後から、こうやって眠っとるんやから」 「そう、ですね」 「とりあえずここで一泊して、それから魔法学院へ戻るで。虚無かなんかは知らんけど、こんな小さな子が過酷な運命なんて背負う必要はないんや。何事もなく日常に戻れたら、それでええんや」 ベッドで眠るルイズの寝顔は穏やかで、それゆえに彼女をよりいっそう幼く見せていた。 $ 翌朝、一人の騎士が魅惑の妖精亭の前に立った。穏やかに、しかし規則正しくドアをノックする。 「はいはい、こんな居酒屋に朝っぱらから何の用だい?」 ジェシカが眠い目を擦りながら、ドアを開けた。普段はこんな朝の時間は眠っているので、彼女は少し機嫌が悪い。 「朝からすまないな。一つ尋ねたいことがある」 「へい?」 寝ぼけたジェシカはぼんやりと相手の顔を見る。言葉遣いは男みたいだが、声は高い。 「この建物に、昨夜巨大な十字のようなものを担いだ黒服の大男と、頭のはげた中年の男がここへ来なかったか?」 「……悪いですけど、あなたはどちらさんですか?」 彼女の探し回っている人物を理解したジェシカの頭は、一瞬で覚めた。いきなり彼らを探りに来た相手に警戒心をむき出しにする。 「これは失礼したな。私は女王陛下直属の銃士隊隊長アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランだ」 「じょ、女王陛下直属の!」 アニエスの正体にジェシカは大声を上げて驚く。 「この建物に彼らが入ったという証言があるのだ。中を調べさせてもらう」 アニエスは強引にドアを開けて、ジェシカを押しのけた。 「ちょ、ちょっと、いくら女王陛下直属でも、いきなり」 「下手に匿うとためにはならんぞ」 アニエスはずいずいと酒場の中へと入っていく。 「い、いや、でもさ」 「かまわへんで」 彼らの部屋がある二階へ続く階段からウルフウッドが現れた。それに続いてコルベールも姿を見せる。 「遅かれ早かれ、ワイらのことはばれると思とったからな」 「しかし、昨日の今日とは予想外に早いですね」 コルベールが困ったように笑いながら、頭を掻く。 「捕虜たちからお前らに関する目撃証言は山のようにあったのでな。それに、巨大な十字のようなものを担いだ黒服の大男と、頭のはげた中年の男はよく目立つからな。探すのは簡単だった」 「……あなたがあんな大きなものを担いでいるから」 「うるさい。お前のハゲ頭かて、入っとったやろが」 ウルフウッドとコルベールがお互いを肘でつつきあう。 「なんにせよ、私がなぜお前らを探しているか。それはわかっているな。別段、危害を加えようという意思はない。大人しく同行してもらおう」 アニエスがウルフウッドたちの前に出る。その様子を見てウルフウッドとコルベールはお互いを見た。 「どうする?」 「逆らうわけにはいかないでしょう」 「けど、このままやとじょうちゃんを巻き込んでしまうで」 「なにをヒソヒソと話している!」 アニエスがウルフウッドとコルベールを一喝した。 「ちょっと待ってくれ。一応こっちにも心の準備っちゅうもんが――」 「黙れ! 私は貴様らにお願いしているのではない。命令しているのだ。女王陛下の命令に拒否など許されると思うな」 ちっ、とウルフウッドは舌打ちをした。追いつかれるのが予想よりも早すぎた。まだ、何の対策も出来ていない。 どうする――、そうコルベールと相談しようとしたとき、 「わかりました」 ウルフウッドの背後から声が聞こえた。振り返ると目を覚ましたルイズが立っている。 「じょうちゃん、お前」 「わってるわよ、ウルフウッド。でも、どちらにしてもこれは遅かれ早かれちゃんと女王陛下に報告しないといけないことなの」 ウルフウッドは仕方がないというように首を振った。その肩をコルベールが叩く。 「大丈夫ですよ。私も同行しますから」 「十分やる。その間に支度を済ませて、出て来い」 そういい残してアニエスは外へと出て行った。 $ トリステイン宮殿、アンリエッタの施政室。アニエスに案内されたウルフウッドたちは、あまりにも簡素すぎる部屋に驚いていた。 「机、以外なんもないな……」 「ええ。ちょっと、これはいくらなんでも、何もなさすぎと言いますか」 きょろきょろと部屋を見回すウルフウッドをルイズが肘で小突く。 「ちょっと、あんた、失礼でしょ」 小声でウルフウッドを諭す。 「皆さん、よくここまで来てくださいましたね」 そんなウルフウッドたちの様子を見て、アンリエッタが苦笑いしながら声を掛けた。慌てて、コルベールとルイズはその場に跪く。 「って、あんたもちゃんとしなさいよ!」 ルイズがウルフウッドの服の裾を引っ張る。しかし、ウルフウッドはそ知らぬ顔だ。 「んなこと言うたかて、ワイ別にこの国の国民ちゃうし」 「屁理屈言ってないで、あんたもちゃんと跪くの!」 「まぁ、そんなに固くならなくていいですよ、ルイズ。そんなかしこまらないで、立ち上がって頂戴。そちらのお方も」 アンリエッタの言葉にルイズとコルベールはお互い顔を見合わせながら、ばつが悪そうに立ち上がった。 「すみませんね、来賓用の椅子すらなくって」 申し訳なさそうにアンリエッタは謝った。 「いえ、そんな。でも、あの姫様。なぜこのような……」 「ここに在ったものは全て売り払ってしまったのです。少しでも国庫の足しになるようにと。残ったのは机くらいかしらね」 アンリエッタは寂しそうに笑った。 「……前置きはええから、はよ用件に入ってくれ。ワイらに確認したいことがあるんやろ?」 「相変わらずですね。ルイズの使い魔さんは」 慌ててウルフウッドの口を塞いでいるルイズたちの姿を、アンリエッタは苦笑いしながら見つめる。 「女王陛下、僭越ながら人払いをお願いしたいのですが……」 コルベールが恐る恐る口を挟んだ。 「ならん。本来なら、私一人のみが護衛についているだけのことすら十分すぎるほど譲歩した結果なのだ」 アニエスが言下に否定する。 「大丈夫ですよ。このアニエスは私直属の銃士隊隊長。信頼できる人物ですから」 アンリエッタは少しいきり立ち気味のアニエスを右手で制した。 「それでは、話していただきましょう。昨日、タルブで何が起こったのか」 ルイズとコルベールは事情を洗いざらい説明した。 「そう、ですか。まさか、あなたが伝説の虚無の使い手、だったとは」 「ええ。わたしにもまだ信じられません。でも、はっきりと姫様からお預かりした始祖の祈祷書にはそう……」 「いえ、私は信じますわ。何よりもそのような奇跡でも起こらなければ、あの憎みべきアルビオンの艦隊が全滅したなんて説明できませんもの」 アンリエッタはルイズの手をとった。 「このことは、内密にしておいたほうがよろしいわね。私とこの国の上層部の人間以外にはこの話は一切知らせないことにしましょう。幸い、アルビオンの捕虜たちはあれがトリステインの新しい魔法兵器だと思っているみたいですから」 「あの後の処理は、どないなったんや?」 ウルフウッドが口を挟んだ。 「アルビオンの残党兵たちは、艦隊が全滅したのを目の当たりにしたおかげか、ほとんど抵抗をせずに大人しく投降したと聞いています。近隣の村の住民も無事だったみたいですわ」 「そうか」 そう言ったきりウルフウッドは口をつぐんだ。 「あの、姫様。これからわたしたちはどうすればいいのでしょうか?」 「……現時点では、はっきりとしたことは何も申し上げられませんわ。ルイズ、あなたの力はとても貴重なものであると同時に、扱いには細心の注意を払わなければならないもの。私の一存だけでは……」 「わかりましたわ。姫様」 「とりあえずは、また魔法学院に戻って頂戴。また、時が来れば、あなたの力を借りることもあるでしょう」 ルイズとコルベールは恭しくアンリエッタに一礼した。二人はアニエスに促されるままに部屋を出ようとする。しかし、ウルフウッドだけはその場を動かない。 「ウルフウッド?」 ルイズが不思議そうにウルフウッドを振り返った。 「時が来れば力を借りる、いうのはどういうことや?」 ウルフウッドはアンリエッタをにらみつける。 「それは、そのままの意味ですわ」 アンリエッタが感情のこもっていない声で答える。 「お前ら、こんな小さなガキを人殺しの道具として使う気か? こんなガキに人殺しをさせる気なんか?」 アンリエッタは何も答えない。ただ、ウルフウッドの瞳を見つめる。 「貴様! 陛下に対して、何たる無礼な口の聞き方を!」 アニエスがウルフウッドの首に剣を突きつけた。しかし、ウルフウッドはアニエスを一瞥もせずにアンリエッタをにらみつける。 「ウルフウッド! やめなさい! わたしは貴族なのよ。国のために、陛下のために、戦場で戦うのは貴族の義務なんだから」 「やかましい! 人を殺したこともないガキが知った風な口を叩くな!」 ウルフウッドが大声で怒鳴る。その迫力に彼の肩に手をかけようとしたルイズの動きが止まる。 「ウルフウッド君」 コルベールが無言のまま嘆息するように首を左右に振った。その仕草を見て、ウルフウッドもあきらめて踵を返し部屋を出ようとする。アニエスはしぶしぶといった表情で、ウルフウッドに突きつけた剣を納めた。 ルイズもまだなにか言いたそうな表情だったが、仕方なしにコルベールに付いて部屋の外へ歩き始めた。 「ルイズ」 アンリエッタが去ろうとするルイズに声を掛けた。 「はい?」 ルイズが不思議そうに振り返る。 「いい使い魔を持ちましたね」 アンリエッタが寂しそうに笑いながら、少しだけ首を傾げた。 「ウルフウッドさん」 アンリエッタに呼びかけられたウルフウッドは無言のまま振り返る。 「ルイズを、よろしく頼みます」 ウルフウッドはほんの少しだけ右手を挙げると、そのまま踵を返して部屋を出た。 $ 魔法学院に戻ってからの数日間の日々は穏やかに過ぎた。ルイズはオスマンからねぎらいの言葉を受け、その横で結局半月ほど学校の授業をサボったコルベールは一ヶ月の給料半額カットの通告を受けた。 学院は例の戦争、特にタルブでの戦闘の話題で持ちきりであった。その中でも一足に先に戻ってきたキュルケやタバサやギーシュは、先日学院から姿を消していたことが例の戦争と関係していると噂されていることもあり、質問攻めにあっていた。 しかし、彼らが何かを答えることはなかった。 そして、当然学院に戻ってきたルイズも質問攻めにあったが、彼女が何かを答えることもなかった。 そうやって戦争の最中、これはまるで台風の目にはいったように穏やかなある日の出来事である。 「ねぇ、ギーシュ。あんた、何をしにラ・ロシェールなんかに行っていたのか。わたしにくらいこっそり教えなさいよ」 「いや、勘弁しておくれ、モンモランシー。それについては、いかに愛する君といえども教えることは出来ないんだ。代わりに、キミの美しさをいくらでも言葉ならいくらでも、途切れることなくこの口から出るのだがね」 相変わらずキザったらしいギーシュの振る舞いを見て、モンモランシーは口を尖らした。どうも、この単純でお調子者のギーシュが自分に隠し事をしているというのが気に食わない。ちょっとおだてれば喋りそうなものなのに。 ――まぁ、いいわ。アレが無事成功していたら、そんなこといくらだって喋るだろうし。 モンモランシーは心の中でそう呟くと、さっさと気持ちを切り替えた。 ギーシュは、ギーシュで本当は喋りたくて仕方がないのだが、下手に喋った場合、ウルフウッドに怒られるのが怖かった。 例の決闘でもなす術もなくやられたし、ラ・ロシェールで賊に襲われたときも、彼が相手を一網打尽にしていたのを目の当たりにしている。切れたウルフウッドに襲われるなど、想像したくもなかった。 ふぅー、とモンモランシーは小さくため息を付いた。彼ら二人は午後の柔らかい日差しの中で、テラスに置かれたテーブルでティータイムを楽しんでいた。 「そういえば、ギーシュ。のど渇かない? 今日は紅茶じゃなくて、冷たいお水なんかどう?」 「え? そうだね。せっかくのいい天気だから、その方がいいかもね」 「じゃあ、そうするわね」 モンモランシーはメイドに水を持ってくるように頼んだ。 ――さてと、ここからが正念場ね。 モンモランシーは心の中で、笑うとポケットにある小瓶を右手で掴んだ。その中身は、惚れ薬。ポーション作りが趣味の彼女は、その趣味が向上して、ついには法律で禁じられている惚れ薬の調合にまで手を出してしまったのである。 最初は作っただけで満足するつもりだったのだが、やっぱり作ってしまうと使ってみたい。そこで思いついたちょうどいい実験台がこのギーシュなわけである。普段浮気で悩まされている分、仕返ししたかったというもある。 テーブルの上に水が二杯届いた。後はここに薬を入れるだけだ。 「あ、あんなところに裸の女の人が空を飛んでる!」 「え! どこどこ?」 ……なんでこんなアホと付き合っているのかと、一瞬本気で哀しくなった。 それでもこの隙にギーシュの水に薬を入れる。 「あ、あれ見間違いだったみたい」 「え、そうかー。残念だなぁ」 「……なんか言った?」 「いえ、なんでもないです」 モンモランシーは半分あきれ返るが、けど今はそんなことはどうでもいい。さっさと、早くばれないうちにその水を飲むのよ、ギーシュ。 あたふたとしながら水に手を伸ばす、ギーシュ。何か都合が悪い話になると、とっさに飲み物に手を出す彼の癖は重々承知だ。 ――よし、もう一息。 と、ギーシュの唇が今まさにコップに触れようとした瞬間だった。 「あ、ミスタ・グラモン!」 どっかから聞き慣れた声がした。ギーシュとモンモランシーが振り返ると、そこには柔らかい午後の日差しを反射して輝く頭。 「ミスタ・コルベールじゃないですか。なにか僕に御用ですか?」 いいところで邪魔するんじゃないわよ、このハゲ! 「あ、ミス・モンモランシーもごきげんよう」 「ええ。ごきげんよう、ミスタ」 モンモランシーも怖いくらいの作り笑顔で挨拶を返した。 「あ、そうそう。こうして呼び止めたのはですな。ミスタ・グラモン、ウルフウッド君を見ませんでしたか?」 「え? ウルフウッドですか、見てませんけど?」 「そうですか」 「先生、どうかしたんですか?」 「いやー、彼に頼まれていた例のパニッシャーのメンテナンスが終わったので、彼にそのことを伝えようと来たのですが」 「ウルフウッドなら、さっき食堂のほうで見かけましたわよ」 さっさとコルベールをどっかにやるべく、モンモランシーが口を挟む。 「なるほど。だから、先生そんなに汗だくなんですね」 しかし、そんなモンモランシーの気持ちを無視してギーシュが世間話を始める。 「そうなんですよ。私の部屋は暑くて暑くて。もう喉なんかカラカラです」 コルベールが頭を拭きながら、答えた。なるほど、どうりでいつもより光っているわけだ。 「あ、よかったら、ミスタ・コルベール。水をいっぱいいかがですか?」 え? モンモランシーの動きが固まる。 「いいんですか?」 「ええ。僕はまた新しいのを貰いますから」 「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ちなさい!」 「どうしたのさ、モンモランシー?」 「そ、それあんたの水でしょ? そんなのを先生に渡すなんて」 「まだ、口をつけてないから大丈夫さー」 まだ口をつけてないのが問題なんだよ! のんきに笑うギーシュ。 「だ、だから、そうじゃなくって――」 「ぷはー。生き返りますなー!」 ……飲みやがった。 「あれ、どうしたんですか、ミス・モンモランシー、とつぜん両目を押さえて?」 「い、いえ。目にゴミが……」 あの惚れ薬は飲んだ直後に目を合わせた人物に――だから、なんとしても目を合わせるわけにはいかない! 「ちょっと、ギーシュ。こっちこっち?」 モンモランシーは目を閉じたままギーシュを手招きする。 「ん? どうしたんだい、モンモランシー?」 「悪く思わないでね」 「え?」 「チェストー!」 「ぎゃあ!」 モンモランシーはすばやくギーシュの両目を突いた。両目を押さえてうずくまるギーシュ。 「い、一体何をしてるのですか、ミス・モンモランシー?」 「……こういう愛情表現なんです。気にしないでください」 「はぁ」 しかし、状況がまずいのには変わりはない。これからコルベールが誰かと目を合わせてしまったら…… あぁ、どうしようせめて問題なさそうな人物と目を合わせて。キュルケとかタバサとか…… モンモランシーは目を閉じながら必死に祈る。そのときだった。 「おう、センセ。こんなとこにいたんかいな」 「あぁ、ウルフウッド君。よかった、ちょうど探していたんですよー」 やっちまったなぁ! モンモランシーは心の中で叫んだ。 前ページ次ページ虚無と狼の牙