約 11,586 件
https://w.atwiki.jp/kemonotani/pages/19.html
木の葉から滴り落ちた雫が不規則に屋根を叩く、雫は集まり小川を作り、 薄暗い境内にいくつもの水たまりを作る。 ここは郷外れの寂れた神社、こんな雨の日にやって来る物好きは滅多に居ない。 来るはずのない参拝客を待ちながら、社務所に寝転んで本を読むと、 煮釜の谷底で渦巻く流れの音がかすかに聞こえてくる。 木の葉の音、雨の音、飛沫の音。 音で溢れる静寂、僕が町の稲荷社に行かなかった理由はここにある。 この静寂を独り占めできるなら、多少の不便など些細なことだ。 しばらくすると、レールとブレーキを軋ませて、麻知行きの列車がやってきた。 社務所の窓口から駅を伺ってみても、降りてくる人影は無い。 列車は止まってすぐに汽笛を鳴らし、エンジンを唸らせてあっという間にトンネルの闇へ吸い込まれていく。 再び、僕の周りは静寂で満たされた。 物語一覧へ
https://w.atwiki.jp/tomtan/pages/24.html
とむ。とりさが一緒に作った歌のタイトル。 作詞は、りさ本人で、作曲はとむ。である。。 『雨とまきはらとわっしょい』 作詞:りさ 作曲:とむ。 かき氷とともに溶けた あの夏のわっしょい シロップかけ放題が 狂わせた運命 奪えなかった 15歳の童貞 痔主のチョコバナナも 未だ食べられぬまま 電車でJKに2828していたあなたが 上田駅の中心で“りさ”と叫ぶ こうして私たちは出会ったんだ ※わっしょい わっしょい わっしょい わっしょい 上田わっしょい 食べたいなと 訴えかける私に 財布の紐は緩まないままのおっさん ガストの会計までも 割り勘なんて・・・ 外配信は いつの日も雨 同僚から逃げた あの夏 本当はからあげも ほしいのお願い モンペじゃないよズボンは じゃあ脱ぎますか? 大事なのはいつの日も 金、カネ、かね はるばる大阪から 来てくれたあなたを 最後にきちんと見送りたくて 台詞「来年も再来年も、一緒にわっしょい行こうね」 そう言って見送ったのは 痔主だった ※Repeat.
https://w.atwiki.jp/akisame00/
秋雨とともに@wikiへようこそ 総アクセス数: - 今日のアクセス数: - 昨日のアクセス数: - このサイトでは、ゲームのレビューなどのことをかいていきます。 メンバー募集中です。 メンバー募集中です。ゲームに詳しい人はお願いします。 hooku21@excite.co.jp プロジェクト ゲームのレビューリトルバスターズ CLANNAD-クラナド- 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/42470.html
あめとむち【登録タグ あ 初音ミク 曲 雨乃こそあど】 作詞:雨乃こそあど 作曲:雨乃こそあど 編曲:雨乃こそあど 唄:初音ミク 曲紹介 雨乃こそあど氏のVOCALOID曲3曲目。 歌詞 (YouTubeの雨乃こそあど氏本人動画説明欄より転載) 傘を出すか出さないか くらい見慣れたものだから 皮膚とか脳とかその他に 時々迎えに来るんだな 傘を差すか差さないか くらい弱気なこの雨が 鼻とか指とかその他に ちょっかい出してくるから ひょっとしたらさ これは君かな なんて思わせないでよ 気づかせないでよ 後味はいつも そう 君だから そんな輝かないでよ また見つけてしまうよ お日様が隠れてしまう 今日だけは いつになったら雨は上がるだろう 君はわかるんだろう 後で後で どうして またねまたね なんたってさ ああ 会いたいな なんて想わせないでよ 気づかせないでよ 傷口はいつも そう 君だから そんな驚かないでよ またキスでもしようよ 神様から隠れられる 今日だけは コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/vocaloidchly/pages/6275.html
作詞:KTKT 作曲:KTKT 編曲:KTKT 歌:初音ミク 翻譯:唐傘小僧 雨與物語 抱歉哦 鬧鐘滿屋子響 被雨沾濕的早上 也忘掉 抱歉哦 雨水聲太吵了 你的 腳步聲停下來 邊聽著音樂 邊徘徊在街上 努力地 裝作聽不到雨聲 在十字路口的正中央 擺成“大”字仰面躺下吧 肯定從遠處眺望著這邊呢 從我的另一面 抱歉哦 道路被水淹了 停下吧 提醒正午的鐘聲 染成透明色彩 試著望向腳下 天空在 努力向人展示它的姿態 過午的反面 藏起來每畫一幅畫就扔掉 其實我在等待著什麽 卻根本沒能察覺到 下午雨停了 期盼已久的太陽公公 把天空染成彩虹之色 萬物都露出頭來 在十字路口的正中央 擺成“大”字仰面躺下吧 肯定從遠處眺望著這邊呢 從我的另一面
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5161.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第十七話 ジョンストンはレキシントン号の真下に竜騎士部隊を展開させた。先行した巡洋艦四隻撃墜の原因が、下からの狙撃であったことを踏まえての策である。 「例のトリステイン貴族といい、艦長といい、全くの腰抜けどもめ。この私自らが戦い方を教えてくれるわ!」 鼻息を荒くしてジョンストンは威勢よく啖呵を切った。ボーウッドは苦笑いを浮かべながら、ジョンストンの後姿を見つめる。その二人の傍らで、ワルドはどこか冷ややかな笑いを浮かべている。 「事実上更迭された割には、随分と余裕ですな、ワルド子爵?」 平然とした様子のワルドに、ボーウッドは訝しげな様子で話しかけた。 「なに、面白いものがみれそうですからな」 「面白い?」 「……まずは相手の手の内を知る、これは戦いの基本でしょう」 ワルドは目の前のジョンストンの後姿を見て、鼻で軽く笑った。 ウルフウッドとデルフリンガーは森の街道を抜けた。目の前にあるのはタルブの平原、そしてその中央に浮かぶのは―― 「相棒、見えたぜ、あれがレキシントン号だ」 デルフリンガーの言葉にウルフウッドはゆっくりと目標を見上げる。竜に乗った騎士が十人ほど、戦艦の下を旋回している。 「さてと、ここからが正念場だ、相棒。もう逃げも隠れも出来ないぜ」 「正面突破や、行くで」 ウルフウッドはアクセルを全開に回した。彼の乗ったバイクが平原へと躍り出る。 レキシントン号を守っていた竜騎士の一人が慌てて甲板に現れた。 「司令官殿。目標の人物と思われる男が姿を現しました」 「よし。馬鹿な男だ。先ほどまでの不意打ちのようにうまくいくと思うなよ。全竜騎士に告ぐ! これより目標に向かって全軍攻撃を開始、目標を打ち倒せ!」 威勢よく命令を出すジョンストンをワルドは冷めた目で見ていた。 ――具体的なことは何も告げずに、何が指示だ。 ワルドは目の前の上官の愚かさを心の中であざ笑う。おそらくは、竜騎士隊は何も出来ないままに全滅するだろう。しかし、それは彼らが弱いということではない。 手の内の分からない相手に無策に突っ込めば、そのような結果になるのは火を見るよりも明らかなのだ。 「見たところ、ただの平民のようだな。どんな手を使ったか知らぬが、竜騎士部隊を相手ではおそらくは生きて帰れまい。馬鹿め」 馬鹿は貴様だ――ワルドは心の中で呟いた。 「よし! では、竜騎士部隊よ、いっせいにヤツに魔法を浴びせよ! 骨すらも炭に変えてくれるわ!」 大げさに身を翻して、指示を出すジョンストン。 ――馬鹿め。 ワルドは船から身を乗り出しながら、その様子を眺めていた。あの男に魔法が通じないことは先刻承知している。 「なっ」 案の定の展開だ、ワルドは一人笑う。目の前で口を開けて呆然としているジョンストンの姿が滑稽で仕方がない。 ウルフウッドはデルフリンガーで大きさ数メイルはある炎の弾を切り裂くと、パニッシャーで狙いをつけて、竜騎士を二機撃ち落した。 「ば、馬鹿な! 何をやっているのだ! 真面目にやらんか! もっと魔法を! 魔法を浴びせかけよ!」 ――まともな状況判断も出来ない愚か者め。自分に実戦経験がないから、戦況を正確に把握できないのだ。 ワルドははね付き帽子を目深にかぶって、慌てふためく背後のジョンストンの姿をあざ笑う。 戦場においてもっとも重要なのは、正確かつ迅速な判断だ。間の抜けた上官の指示に馬鹿正直に従って、意味のない特攻を繰り返させられている竜騎士たちは、ワルドにとっては心底憐れむべき対象でしかなかった。 案の定、魔法をデルフリンガーで切り払われると、ほぼ同時に今度は三機の竜騎士が撃墜された。 「何をやっているのだ、この馬鹿者共めが! こうなれば、全員突撃! 突撃を仕掛けよ!」 ワルドは小さく胸で祈る仕草をした。ボーウッドはそんなワルドの様子を忌々しそうににらみつける。 状況的に竜騎士の全滅は必至だ。ワルドはその状況を上からのんびりと眺める。 ウルフウッドの使う銃の破壊力は確かに恐ろしい。銃としての性能はハルケギニアの常識をはるかに上回っている。 しかし、いくら破壊力があるといっても、あの銃弾であれだけ簡単に戦艦を撃沈できるとは思えない。なにか、隠し玉があるはずだ。 ――さぁ、見せてもらうか。君の手の内を。 竜騎士隊が全滅した頃合を見計らって、ワルドはゆっくりとフライの魔法で空へ浮かび上がった。 $ 「相棒、これでやっかいなのは全部撃ち落したぜ!」 相手竜騎士の炎の魔法をことごとく打ち消したデルフリンガーが嬌声を上げた。 ウルフウッドは無言のまま頷くと、レキシントン号の真下へと切り込んでいく。 そこには占領行動に出でいた兵士たちもいたが、ウルフウッドの前にあっさりと竜騎士団が全滅したのを目の当たりにして、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げ始めていた。 「ちらほら、敵さんの姿が見えるけれどもよ、どうする?」 「んなもん、いちいち相手にしとったらきりないわ。目標は相手の戦艦のみや。それさえ落としたら、後はこっちの連中がなんとかするやろ」 「了解だぜ、相棒」 そうは答えたものの、ウルフウッドはどこか腑に落ちないものを感じていた。例のワルドの存在だ。 ウルフウッドはワルドが今回の一件に絡んでいるとにらんでいたが、それにしては事があっさりと進みすぎている。 ――随分と、大人しいやないか。何を企んどる? 「相棒! 今だぜ」 デルフリンガーの声で一旦思考を止めたウルフウッドは、まっすぐにパニッシャーをレキシントン号に向けて構える。 例のガンダールヴのルーンのおかげだろうか、本能的にどこを打ち抜けば艦を落とせるかが、わかる。 「これで、終いや」 引き金を引いた。ランチャーがまっすぐにレキシントン号の腹へと向かって、飛んだ。 $ 地面から突き上げてくる衝撃に、ボーウッドとジョンストンは甲板で宙を舞った。甲板に体を打ちつけたボーウッドは鈍い声を上げる。 「ぐっ、な、なんだ? これは、爆弾か?」 状況を把握できないままに、ボーウッドは立ち上がった。慌てて、船から身を乗り出し、下を覗き込む。そこではどす黒い煙がもうもうと昇っていた。 「馬鹿な、こんな芸当が出来るとは……。確かに、これでは先行した巡洋艦が撃ち落されたのも頷ける」 ハルケギニアにおいて、戦艦を撃ち落すのは、艦隊戦による大砲の応酬もしくは竜騎士による近接戦闘と相場が決まっている。だが、しかし今回のケースはそのどちらにも当てはまらない。 基本的にこのような戦艦は竜騎士による火の魔法に対して固定化の処理を行っているものだが―― 「物理的な衝撃と、強力な火炎を併せ持つ攻撃など、聞いた事がないぞ……」 呆然とするボーウッド。彼は、自分たちの見通しの甘さを後悔した。 「こ、これは一体どういうことだ、ボーウッド!」 青ざめた表情でジョンストンがボーウッドに詰め寄った。 「……閣下。火の回りが早い。この船は墜ちます。脱出の用意を」 「このレキシントン号が落ちるというのか!」 「ええ、その通りです」 ボーウッドは冷静に事態に対処する。こうなってしまった以上、後に残った選択肢はいかに被害を少なくするかしかない。 「ちょ、ちょっと待て、ボーウッド! こ、これでは私にどうクロムウェル宰相に申し訳しろというのだ、え? わが国最大の艦隊を、たった一人に沈められたなどと」 「残念ですが、それが現実です」 「ふざけるな、わ、私は認めないぞ! 全員で消火活動に当たれ! 船員の退避など認めん!」 「往生際が悪いですぞ、ジョンストン司令官」 ボーウッドとジョンストンが振り返った先で、ワルドがゆっくりと甲板に着地した。 「往生際、が悪い、だと? ワルド子爵! そもそも竜騎士隊を任せた貴様がもっとしっかりしておれば、このようなことにはならなかったのだぞ!」 「お言葉ですが、手の内も分からぬ相手に無策に突っ込んでいくばかりでは、いかに歴戦の兵士といえども、勝てませぬ」 「き、貴様、私を愚弄するのか!」 「事実を申したまでのことです」 ワルドの言葉に逆上したジョンストンは杖を引き抜いて、ワルドへと向けた。その様を見たワルドはすばやくジョンストンの懐にもぐりこむ。 「司令官殿。こういった場合には、最高責任者が艦と運命を共にするというのが、軍人の美学ですぞ」 「わ、ワルド、貴様、自分が何をしたかわかっているのか……」 力なく開いたジョンストンの口から、血があふれかえった。ワルドの杖が彼の胸に深々と突き刺さっている。 「せめて、家名を汚さぬよう、この船と運命を共にするが良かろう」 ワルドはジョンストンの体を右足で押し出すように蹴りだした。ジョンストンの体が傾いた甲板を転がっていく。 「ワルド子爵、貴様何を考えている?」 「無能な司令官と共に心中するのは、あなたとて本意ではありますまい。ところで、その杖を仕舞っていただけますかな? 貴殿に危害を加える意図はありませぬゆえ」 ワルドに向かって杖を構えたままのボーウッドに対して、ワルドは悠然と笑ってみせる。 「貴様、わざと、いやわかっていたな? こうなることを?」 「さぁ、軍人にとっては上官の命令は絶対ですからな。それはあなたとて同じこと」 「……どうするつもりだ?」 「この船を落とした男を葬り去る。そのために一つ艦隊が消えてしまったわけですが、十分にトレードオフすると思いますがね」 「いくらスクエアの貴様とはいえ、戦艦を一人で撃ち落すような男に勝てるのかね?」 「相手の手の内がわかれば、あとは対応するだけですからな」 「まさか貴様は相手の手の内を見るためだけに、一つの艦隊を犠牲にしたというのか! 貴様は正気か!」 「いたって正気ですよ、艦長殿。ヤツはどうしてもこの手で殺さねば――収まりがつきませぬ」 ワルドはにやりと笑う口笛を吹き、風竜を呼んだ。 ボーウッドがくるりと背を向けるワルドに声を掛けようとしたとき、一人の兵士が慌てて、甲板に躍り出てきた。 「か、艦長! ダメです! 火の回りが速すぎて、消火が間に合いません!」 「ええい、本艦はもうだめだ! 総員に退避命令を出せ!」 兵の声に振り向いて大声で答えたボーウッドは、慌ててワルドに視線を戻そうとした。しかし、ボーウッドが甲板へと上がってくる兵の声に気をとられた隙に、すでにワルドは飛び立った後だった。 $ 「終わったな、相棒。残党狩りは正規軍の奴らに任せて、俺たちはずらかるとしよーぜ」 デルフリンガーがのんびりした調子で声を掛ける。煙に包まれたレキシントン号がゆっくりと高度を下げていた。しかし、ウルフウッドは上空を見据えたまま、動かなかった。 「いや、まだや」 「あん?」 「まだ、一番厄介なヤツが残っとる」 ウルフウッドの視線の先、そこには風竜にまたがるワルドの姿があった。 「やぁ、使い魔くん。久しぶりだね」 「……随分のんびりとした登場やな。オンドレの船、もうすぐ沈むで」 「もったいないけど、仕方ないさ。おかげで、いいものが見られたからね」 ワルドの言葉にウルフウッドは舌打ちをした。手の内を見られたこともそうだったが、それ以上にそれだけのために艦を一つ犠牲にする精神が気に食わなかった。 「あの後、焼け跡からキミの死体が見つからなかったときは、本当に驚いたよ。あの出血でまさかとは思っていたけど、本当に生きているとはね」 「そらご期待に応えられんで悪かったな。どうやら、ワイ、地獄からは嫌われてるみたいやねん」 にらみつけるウルフウッドを見ながら、ワルドはくくっと喉の奥で笑い声を上げた。 「まさか。僕はむしろ感謝したい気分だったよ。こうして、ちゃんと君を自分の手で殺せることにね!」 挨拶代わりにウィンドブレイクを放つワルド。ウルフウッドはそれをデルフリンガーで横なぎに払い捨てる。 「今日は君一人かい? ご主人様はどうした?」 「あんな何の役にも立たん小便くさいガキ、置いてきたわ」 「それは残念だ、彼女にもぜひともお礼がしたかったのだけれどもね!」 ワルドは三つ続けざまにウィンドブレイクを放った。まっすぐに風の塊がウルフウッドに向かう。 「学習能力がないんか、オンドレは?」 ウルフウッドはそれらをデルフリンガーで簡単に払った。魔法を吸収できるデルフリンガーの前では、ウィンドブレイクなど物の数ではない。 「何、ただの準備運動さ。本番は、これからだよ」 おもむろにワルドは杖を持ち上げた。そして風の塊を放ち、レキシントン号の窓を叩き割る。 「?」 ワルドのとった行動にウルフウッドはとっさに身構えた。その様子を見て、ワルドは満足そうに笑う。 「君のその剣、吸収できるのは魔法だけだったな」 「相棒、やべえ!」 デルフリンガーの声が響くやいなや、ウルフウッドはバイクから飛び降りる。 「身軽になったか。いい判断だ。だが、これだけの数、貴様には避けきれまい!」 ワルドが再び杖を振るった瞬間、風に巻き上げられて数百本の矢が窓から飛び出してきた。巻き上げられた矢は、まっすぐにウルフウッドに向かって飛んでくる。 「相棒! オレは魔法力は吸収できるが、魔法力を受けて加速した物体を止めることは出来ないぜ!」 「わかっとるわ!」 無数の矢が竜巻の様にウルフウッドを取り巻いて旋回する。そして、 「串刺しになるがいい」 ワルドが杖を振るった瞬間、それらがいっせいに襲い掛かって来た。 「くっ」 ウルフウッドはパニッシャーとデルフリンガーを振り回して、襲い掛かる矢を払い落としていく。パニッシャーとデルフリンガーの重量を活かした衝撃の前に、放たれた矢は次々と散っていく。しかし―― 「なるほど、見事なものだ」 ワルドが感嘆の声を上げた。 「あれほどの矢を放って、たったの三本しか刺さらないとはな」 ウルフウッドは矢の刺さった左足をかばうように身を屈めたまま、悠然と風竜にまたがるワルドの姿を視界に映す。 三本の矢は左足のふくらはぎ、背中、そして右肩に刺さっていた。傷口から静かに血が滴り落ちる。 $ 「にらみつけているだけで、撃っては来ないのかい?」 ワルドが余裕の表情でパニッシャーを杖で指した。 「くそったれが。今日はまた、随分と饒舌やないか」 ウルフウッドが吐き捨てるように言った。 「相棒、こいつはまずいぜ」 デルフリンガーの言葉をウルフウッドは無言で受け流した。 この距離から狙撃しても、ワルドの風の防御壁のおかげで弾丸は当たらないだろう。唯一活路を開く道としては、接近戦に持ち込むことだが ――風竜にまたがって空中にいるワルド相手に接近戦に持ち込むのは不可能に近い。 「お得意の遍在いうのは使わへんのか?」 「悪いが、そんな安っぽい挑発には乗らない。前回は下手に遍在なんかを使ったせいで、魔法力が切れて、あんなピンチになったわけだからね」 ワルドは余裕で笑う。 「そちらこそ、例の船を落とした切り札でも使ってみたらどうだい? きれいに君に打ち返して差し上げよう」 ワルドは心底愉快そうな笑い声を上げた。前回不覚を取った相手を、今度は完膚なきまでに追い詰めている。それはとてつもない快楽だった。 「さてと、先ほどはガンダールヴらしい人間離れした動きだったね。けど、傷だらけの体で、次同じ攻撃を受けて、はてさてどこまで耐えられるかな?」 ワルドゆっくりと杖を振り上げた。再び風の魔法が、レキシントン号の窓から大量の矢を運び出す。 「相棒、次は本当にまずいぜ! どっかに身を隠すところを探せ!」 「アホ。無理や。こんなだだっ広い平原、どこに隠れろっちゅうねん」 半分あきらめたような口調のウルフウッド。 「相棒! お前さん、大人しくハリネズミになる気か!」 「アホか……」 ウルフウッドは自分の周りを取り囲む無数の矢を見ながら呟いた。 この状況で活路を開く方法があるとしたら、それはたったの一つだけだ。この矢の中にあえて飛び込んで、防御を度外視して、この矢の嵐を抜けて銃弾を打ち込む。 賭け、だ。この魔法を使っている間、ワルドは風の防御壁を張れないと仮定しての。 ウルフウッドはパニッシャーを盾にして、矢の中へ飛び込んだ。 「何?」 しかし、彼の予測は大きく外れた。矢は彼を避けるように後ろに広がったのだ。 「まさか……」 「くくっ。残念だったね。これくらい精密に矢を操ることが出来るのだよ、私は」 ワルドが悠然と笑う。パニッシャーを盾にして飛び込んだため、ウルフウッドの背中はがら空きだった。 ――終わりか。 ウルフウッドが歯噛みして、あきらめかけた、その瞬間、彼の身の回りを炎が包んだ。その炎は蛇のようにウルフウッドの周りを一周すると、全ての矢を飲み込み焼き尽くした。 $ 「ウルフウッド君。無茶は困りますぞ、全く」 ウルフウッドはゆっくりと声の方向を振り向く。 そこには見慣れた顔――コルベールが腰に杖を当てて、立っていた。 「センセ。あんた、なんでこんなとこに」 ウルフウッドの言葉にコルベールは柔らかく笑って答える。 「……貴様、何者だ?」 勝負に水を差されたワルドが低い声で、コルベールに尋ねた。 「別に名乗るほどのものでもないですよ。グリフォン隊隊長のあなたのように地位のある人間ではないのでね」 そして、コルベールは再びワルドへ向かって杖を構えた。 「もっとも、母国と自分を信じてくれていた人間を裏切るような輩に、名乗るべき名前はないというのが本音ですがね」 コルベールの挑発に対して、ワルドは無言だった。そして、ゆっくりとワルドはコルベールの能力を分析し始める。先ほどの魔法から推測するに、おそらくは火のトライアングルクラス。厄介なヤツが戦場に現れた。 「って、なにやっとんのや! このハゲッ!」 と、唐突にウルフウッドがコルベールの頭を思い切りしばいた。 「なっ?」 あまりにも予想外の事態にワルドの動きが止まる。コルベールの頭に見事に赤い跡が出来た。 「あんた、じょうちゃんの面倒を頼んだやろ! それがなんで、こんなとこにおんねん!」 「いたた。人の頭を気安く叩いてくれますね……。大体、あなただって偉そうなことを言っていたくせに、そもそも大ピンチだったじゃないですか」 コルベールは頭を押さえながら反論した。 「うっ」 痛いところを付かれてウルフウッドは黙り込む。 「全く、人の頭を気安く……。大丈夫ですよ。ミス・ヴァリエールはちゃんと安全なところに隠れてもらっています」 「……ほんま頼むで」 「ええ。彼女を、こんな血なまぐさい世界に引きずり込むわけにはいきませんから」 そして、ウルフウッドはすばやくコルベールの前に立ちはだかり、ワルドの放ったウィンドブレイクをデルフリンガーでなぎ払った。 「まったく油断もすきもない奴やで」 不意打ちに失敗したワルドが小さく舌打ちをする。おそらく、コルベールともウルフウッドとも一対一で戦えば、ワルドは勝てるだろう。しかし、それが二人同時なら――わからない。 ワルドにとってはせめて今の不意打ちででも、コルベールは倒しておきたかった。 「センセ。あんた、二度と人に向けて魔法は放たへんのと違たんか?」 ワルドの動きを見据えながら、ウルフウッドがコルベールに声を掛けた。 「あれは魔法で人を傷つけたくない、という意味ですよ」 「なら、なぜ戦場に出てきた?」 「自分の友人が危険な目に遭っているのに、それを見過ごすのは、魔法で人を傷つけることと同じ。違いますか?」 「友人……な」 ウルフウッドはコルベールの言葉を反復して、小さく笑った。 「なにかおかしいですか?」 コルベールは不思議そうにウルフウッドを振り返る。 「いや。そうか、ワイは、センセの友達、やったんやな……」 「ウルフウッド君?」 「いや、なんでもない」 ウルフウッドはパニッシャーとデルフリンガーをゆっくりと構えた。アホみたいな話やで、と小さく呟いた。 「センセ、この戦いが無事終わったら、酒奢ったってもええで?」 「あいにく、収入のない君にたかる気はないですよ」 「そうかい」 「ええ。――ただ、お酒を飲むという案には賛成です」 「ほな、ちゃっちゃっと終わらせたろか!」 ウルフウッドはパニッシャーを振り回すようにして、銃口を開いた。その背後でコルベールが杖を構える。 「……調子に乗るなよ」 二人の様子を見て、ワルドが苦々しげに呟いた。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/seiyu-coversong/pages/2397.html
原曲・ワタナベフラワー 作詞作曲・クマガイタツロウ バンド・ワタナベフラワーが発表した楽曲。 【登録タグ J-POP ワタナベフラワー】 カバーした声優 関智一
https://w.atwiki.jp/storyteller/pages/900.html
―こんな言葉を知っているか。「花と太陽と雨と」。 ―答えはカムイの中にある。カムイはここにいない。カムイは隣人だ。 ―カムイは覗いてるだけだ。わかるだろ? ――『シルバー事件』より ※この作品にはシルバー事件との繋がりが示唆される部分があります。つまり、シルバー事件の続編です。 R-00 Welcome to the Flower,Sun,and Rain ♪キューバ序曲 by ガーシュウィン 南国の日差しの中、海の上のハイウェイを水色のクーペが走り抜ける。 やがてクーペはトンネルに入る。クーペを運転しているのは、黒スーツの色男だ。 彼はあなた(プレイヤー)に語りかける。 「さて、ザックリ説明しようか。オレの名前はモンドスミオ。 職業はサーチャー。サーチャーってのは『探し屋』だ。依頼がありゃなんでも探す・・・そんな仕事だ。 この車はトヨタセリカだ。愛称はギグス。愛車に名前をつけるのはヤンキーかオレだけだ。 オレがこんなに急いでいるのは仕事に向かっているからで、トイレに急いでいるからではない。 ホテル『花と太陽と雨と』・・・ この変わった名前のホテルから依頼が舞い込んだ。 何が待ち受けているのか見当もつかないが、オレの辞書にロストという言葉は見当たらない。 完璧な仕事をお見せしよう。さあ 冒険の始まりだ」 トンネルを抜け、島に到着する。空港をぐるりと廻る道を通り、駐車場に着いた。 モンドは銀色のアタッシュケースを片手に車を降りる。 「どこかに代理人がいるはずだが・・・」 トラックの側に代理人がいた。 「アンタが代理人か?」 「オラはピーター。よろしく頼むよ」 ピーターは太っていて、だらしなくヒゲを生やした男だ。 「さあ、案内してくれ」 「了解だ。認証手続きをしてもらう。オラにジャックインして誕生日を入力してくれ」 ピーターの左眼が光った。モンドはあなたに語りかける。 「さて、ドップリ説明しようか。さっきも説明した通り、オレの仕事は探し屋だ。 どうやって探すか?それはこの万能電算解除機『キャサリン』、コイツが全てうまくやってくれる」 モンドは手にしているアタッシュケースをチラリと見る。 「キャサリンを使って暗号を入力すると、なんでも解読できる。それがキャサリンだ。 何故キャサリンか?仮に『テツゴロウ』だとしたらオレは仕事をしなくなるだろう? さあ、誕生日を入力してみるか。ヒントは、解説書の12ページを見てくれ」 あなたは「花と太陽と雨と」の解説書の12ページを見る。するとそこには4つの白い四角が並んでいる。 傍らには、「モンドの誕生日はあなたと同じです。忘れないようにここに書いておいてください」と書かれている。 「キャサリンの操作は、慣れれば簡単だ。まずジャックを接続する。 その次はダイヤルで数字を選んで入力だ。ガチャガチャ動かしていけばいつか慣れるだろう。 いくぞ、キャサリン!謎はこの男に隠されている」 モンドは高らかに決め台詞を言う。 「旅は果てなく続き、獲物は魂を守り、狩人は真実を狩る。 時に探すだけの鎮魂歌。真実は一つ。仕事だ、キャサリン!探索はここに集う」 >キャサリンを開き、ジャックを取り出してピーターの眼に差し込む。 >差し込むと言っても実際にジャックが刺さっているわけではない。 >ジャックと対象物の間はイメージのケーブルで繋がっているのだ。 >そして0~9の数字をダイヤルで選んで、中央のボタンを押すと、一桁ずつ入力されていく。 >キャサリンはスパイ映画みたいな雰囲気がする機械だ。あなたは自分の誕生日を入力する。 >HIT! ピーターの眼の光が消えた。 「モンドスミオに間違いないようだ。ようこそロスパス島へ。歓迎するよ」 「さあ、ホテルに連れて行ってくれ」 「この島は環境保護地域だ。一般車は通行できない。オラのトラックに乗れ」 「オレのギグスは?」 ギグスはこの駐車場に置いていくしかない。 ♪アラベスク 第1番 by ドビュッシー ピーターのトラックは、ホテルの門の前に着いた。モンドはトラックから降りる。 ピーターはモンドに声をかける。 「仕事の成功を祈ってるよ。そうだ!仕事が済んだら楽園の感想を聞かせてくれ。アディオス!」 トラックは走り去った。 モンドはホテルまで続く道を歩く。両側にはパームツリー。アーチ型のゲートをくぐり、 人工池に架かる橋を過ぎると、ようやくホテルの前だ。 ホテルは四角ではなく、奇妙な形をしている。 こんなのどかな島には似つかわしくないくらい現代的な外観だ。 ♪ボレロ by ラヴェル ロビーに入ると雰囲気は一変する。木を多用した落ち着いた雰囲気の内装。 フロントへ行くと、そこには白いポーターの制服姿の男がいる。 「モンド様でいらっしゃいますね?お待ちしておりました。ようこそ、『花と太陽と雨と』へ。 当ホテル支配人のエド・マカリスターでございます」 「アンタがクライアント?」 「左様でございます。あっ、モンド様、どうぞこのガイドブックをお持ちください」 エドは本を差し出す。 表紙には「ザ・ロスパス 幻の楽園ロスパス島を歩く」と書かれている。 モンドは本を受け取ってパラパラとめくってみた。この島の観光名所などの説明が載っている。 このホテルのことも載っている。このホテルはロスパス島唯一のホテルらしい。 そして、この建物は五芒星の形をしているそうだ。 1階は食堂とロビー、2階はバーと客室、3階と4階は全て客室、5階は映画館、屋上にはプールか。 「ありがとう。助かるよ。キャサリンの中に入れておく」 「お部屋の方へご案内させていただきます」 エドに連れられて廊下を歩く。 「モンド様、ロスパスの名前の由来はご存知ですか?」 「いや・・・」 「そうですか・・・。ロスト・・・失う、パスト・・・過去」 「過去を失う?」 「左様でございます。過去を失った島なのです」 「いわれがあるのかい?」 「ええ、磁場が狂っています。時間を失っているのです」 「よくわからんね」 「ある時間が永遠に続くのです。モンド様も次第にお分かりいただけると思います」 部屋の前に着いた。402号室。 「さあ、エド、じらさないで話してくれ。依頼ってのは何なんだ?」 「実はモンド様、この島はテロリストに狙われています」 「何だ、そりゃ?無茶苦茶な依頼だな」 「それを承知で頼んでいるのです。実は飛行機に爆弾が仕掛けられています。それをモンド様に・・・」 「探せと?」 「ありがとうございます。アナタはこの島の救世主です」 「救世主?マジで?・・・いいね、救世主っていう響き。わかった。オレに任せてくれ」 「頼もしいかぎりです、モンド様」 エドは402号室の扉を開け、頭を下げる。 「モンド様、こちらでございます。どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」 R-01 Gymnopedie#1(♪ジムノペディ第1番「ゆっくりと悩める如く」) モンドはベッドに寝ている。サイドテーブルの電話が鳴る。モンドは寝ぼけながら電話に手を伸ばす。 モンドの手が2、3回空を切った後、電話を探り当て、受話器を取る。 「おはようございます、モンド様。朝食の用意が出来ております。フロントまでお越しください」 エドからのモーニングコールだった。モンドは電話を切り、起き上がる。 ♪ジムノペディ第1番 by サティ 部屋の中のソファで優雅にモーニングコーヒーを飲む。 飲み終わってから、部屋を出ようとするが、なぜかドアが開かない。 仕方なく部屋に戻ると、部屋の中は一変していた。 そこにあったはずのベッドや応接セットは無く、 椅子がひとつと、それを撮ろうと狙っている、三脚に取り付けられた年代物のカメラだけがあった。 モンドは逃げようと思ったが、やはりドアが開かない。 壁の亀裂が目に入った。向こうが覗けそうなので覗いてみると、エプロン姿の女性がが立っているのが見える。 「モンド様、その部屋は呪われています」 「キミは誰だ?」 「ようこそ、ホテル『花と太陽と雨と』へ。メイドのスーと申します」 スーは、この部屋は開かずの間だと言う。 「スー、カメラと椅子があるんだけど・・・」 「モンド様、ガイドブックをご覧下さい。そんな写真を見たことがあります」 >モンドはキャサリンを開き、ガイドブックを見る。 >とある写真家を紹介してあるページ。その写真家の作品がいくつか載っている。 >その中に、椅子に座った女性が写っている写真がある。 >その写真に併記された、フィルム感度・絞り・シャッタースピード・・・その数字がヒントだ。 >キャサリンのジャックをカメラに差し込み、数字を入力する。 >HIT! 顔を上げると、部屋は元通り、何ごともなかったかのようだ。 スーが立っていた。 「モンド様のお部屋係をさせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。 モンド様 この部屋からの景色はバツグンです」 「ベランダか?」 モンドはベランダに出た。 「いい眺めだ、スー。ほら、飛行機が飛んで行くよ」 そして、その飛行機は、爆発した。 ================================== ♪サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー by ガーシュウィン 白いワンピースの少女が、「花と太陽と雨と」の一室のベッドで昼寝をしている。 彼女はクサビトリコだ。 ベッドの側を、ピンク色のワニが通り過ぎ、部屋を出て行く。 トリコは目を覚まし、辺りを見回す。 「クリス~!クリスチーナ!!・・・いない。探さなきゃ」 あのワニはクリスという名前らしい。 トリコはベッドを降り、部屋を出る。トリコが寝ていたのは405号室だ。 廊下で、怪しげなロン毛の男とすれ違う。 「今の、悪いやつ・・・」 トリコはそう呟いた。クリスの名を呼びながら、廊下を歩く。 そして、トリコは402号室の前にたどり着く。 「ココって・・・」 ================================== R-02 Air in G(♪G線上のアリア) ベッドの側の電話が鳴る。寝転がったままでモンドは受話器を取る。 「おはようございます」 「ああ、エドか。いつの間に眠ってしまったんだ・・・?」 電話を切り、起き上がる。ソファでコーヒーを飲む。 「いつの間にか寝てしまった。ヘンな夢も見たな。オレの目の前で飛行機が爆発していた。 なんだったんだアレは? そういえば、エドが飛行機に爆弾が仕掛けられているとかなんとか言ってたっけ?」 首を傾げるが、とにかく仕事だ。モンドはキャサリンを片手に立ち上がる。 そのとき、電話が鳴り出したので、受話器を取る。 「モンド様、ステファン・シャルボニエ様からお電話です」 「誰だ?」 「404号室にご宿泊のお客様でです。おつなぎします」 「インスピレーションについて、キミは何を知ってる?」 挨拶も無しに、ステファンとかいう男はいきなりそう言った。 「ボクはステファン。ホテルに缶詰で論文を書いてるんだ。専門はシステム工学でね」 「それで?」 「キミに頼みがある。プールサイドまで来てくれないか?」 それだけ言って切れた。 部屋を出て、廊下を歩き、階段へ行く。 このホテルにはエレベータはなく、上下の移動は階段が一ヶ所だけ。 しかも、人もすれ違えないほどの狭い階段があるだけだ。 4階から下りる方向に、エプロン姿の年配の女性が立っていた。 「これは402号室のモンド様。メイドのマチです」 4階と3階の踊り場を見下ろすと、ワゴンが横倒しになっていて、とても通れそうにない。 手伝おうかとモンドは申し出たが、マチは断った。 「しかし、これではフロントへ行けないな・・・」 「支配人でしたら屋上のミニバーにおります」 ステファンの目論み通り、屋上に行くことになりそうだ。プールは屋上にある。 階段を昇り、5階を通り過ぎ、屋上へ。 ♪G線上のアリア by バッハ こうしてみると、本当にこの建物が五芒星の形をしていることが解る。 屋上の手すりはやたらと低い。簡単に落ちてしまいそうだ。 プールサイドの電話が鳴っているので、取る。 ステファンの不機嫌そうな声が聞こえてきた。 「次の段階に進もう。ヤヨイという女性に声をかけてくれ。プールサイドにいるチャーミングな女性だ」 プールサイドのビーチベッドで、黒い水着の女性が寝ていた。 モンドはヤヨイに声をかける。 「お嬢さん」 「何かしら?」 「ステファン・シャルボニエという人物を知っているかい?」 「退屈な質問だけど、『YES』よ」 しばらく話していると、ヤヨイの携帯電話が鳴り出した。 ヤヨイはモンドに携帯電話を差し出す。 「ステファンからよ」 携帯電話を受け取る。 「ラストパスはエドが出す」 「もううんざりだよ。アンタ、何様のつもりなんだ」 「何って、これはゲームだよ。キミは答えを探し出せばいい。だって探し屋だろ?」 電話が切れた。 「アナタが噂の探し屋さんってワケね。・・・ねぇ、さっきから気になってるんだけど、 そのアタッシュケース似合ってないわよ」 ヤヨイはキャサリンを指差す。 「まったくだ。オレもそう思う」 プールサイドを通り過ぎ、ミニバーに向かう。 「これはモンド様」 エドがお辞儀をする。 「エド、聞いていいかい?ステファンはサッカーが好きなのか?」 「好きではなく、中毒かと・・・。モンド様、ガイドブックにサッカーを紹介したページがあります」 「ありがとう、エド」 それからモンドは、ヤヨイとエドの元を往復し、サッカーについてのヒントを集める。 答えが解った。モンドは404号室に向かう。鍵はかかっていなかった。 缶詰になっているというけど、部屋にステファンはいなかった。 その代わりに、テーブルの上にサッカーボール型のケースが置いてある。 >モンドはキャサリンを起動し、ケースにジャックインする。 >ガイドブックのサッカーを紹介したページがある。世界の各チームの基本フォーメーションが載っている。 >ステファンが好きなフォーメーション、それを一桁ずつ入力する。 >HIT! ケースが開き、中から携帯電話が出てきた。着信ランプが光る。 「このゲームはどうだった?『これだ!』と思った瞬間は?どんな気持ちがした?」 電話の向こうのステファンの態度は変わらない。 「インスピレーションのことが聞きたいのか?」 「そうだよ」 「答えは、こうだ・・・『自分でシュートしてみるんだな』」 「何だって?今、何て言ったんだ?」 モンドは携帯電話をケースに戻し、蓋を閉め、窓に向かって蹴った。 ケースは真っ直ぐに空を飛んでいく。 そして、飛んできた飛行機に当たったように見えた瞬間、飛行機は爆発した。 ================================== 4階の廊下を走っているトリコ。ワゴンを押しているマチと出会う。 「トリコ様、廊下を走ってはいけませんよ」 「でも、クリスを捕まえないと・・・。今度から、小走りにするね。 それならいいでしょ?」 「大目に見ますよ」 ================================== R-03 From the New World Symphony No.9 in E minor, Op.95 (♪交響曲第9番ホ短調作品95『新世界より』) 電話に起こされる。モンドはコーヒーを飲みながら考える。 「この島に来てからというもの、とつぜん眠くなる。眠くなる前の記憶があいまいで思い出せない・・・」 コーヒーを飲み終え階段を下り、3階にやってきた。 2階へ降りる階段の前で、熱心にスクワットをしている覆面の男がいる。 この狭い階段で、こんな風に立ちふさがれるともう降りられない。 居合わせたエドに事情を聞く。 この男はエル・クラッシャーという、日本のプロレスラーなのだそうだ。 エルは今スランプなので、師匠に認められるよう、こうしてトレーニングに励んでいるそうだ。 どうにかならないのかと言うと、エドは、それならエルの部屋、304号室を訪ねてみては、とのこと。 エルのマネージャーのミスターパイレーツに話を聞けば、あるいは。 実は、ミスターパイレーツの正体はエルの師匠、エル・ソウルファイトなのだそうだ。 エドは、屋上にいますからと言って階段を上がっていった。 モンドは304号室へ行く。 ♪交響曲第9番ホ短調作品95『新世界より』 by ドヴォルザーク エルの部屋にはプロレスの雑誌が置いてあり、テレビではプロレスの試合のビデオが流れていた。 勉強熱心だなと感心したが、ミスターパイレーツの姿は見当たらない。 屋上へ行くと、エルとは違う覆面の男がいた。ミスターパイレーツ、その正体はエル・ソウルファイト。 ミスターパイレーツはモンドに言う。 「エルに、スランプを抜け出せるきっかけを探してやってほしい。あの日の事を思い出せば・・・」 そうだ、エルに闘魂を注入してやろうじゃないか。 >モンドはエルの前でキャサリンを起動する。ガイドブックの、ミスターパイレーツのインタビュー記事。 >そこで彼はエルのことも言及している。エルが初めてメインを飾った試合の日付のことを。 >エルにジャックインし、その日付を入力する。 >HIT! エルは自信を取り戻したようだ。 エルは屋上で、エル・ソウルファイトに稽古をつけてもらうことになった。 エル・ソウルファイトが掛け声とともに右手を天にかざすと、そこへ飛んで来た飛行機が爆発した。 ================================== クリスを追って、トリコは3階に降りる。 エルがスクワットをしており、通れない。 トリコはエルに話し掛けた。 「クリスがいなくなったの。知らない?ピンクのワニなの」 「うーん、ごめんな。わからないよ」 「お邪魔しました。お仕事頑張って!」 「おう!」 ================================== R-04 S Wonderful(♪ス・ワンダフル) モンドは2階に下りてきた。1階へ下りる方に、黄色い服の女性が立ちふさがっていて、通れない。 「『吸血鬼』よ!早く退治して!吸血鬼を倒すための武器を・・・」 女性はわけの解らないことを喋りだした。どうやら、酔っ払っているらしい。 確か、2階にはバーがあった。行ってみることにする。 ♪ス・ワンダフル by ガーシュウィン バーには、金髪をツンツンに立てた男が座っていた。男はモンドに話し掛ける。 「やあ、ムッシュ・モンド、楽しんでいるかね」 「その声は・・・。アンタがステファンか?」 この男がステファンだった。 「とある女性に、吸血鬼を倒してくれと頼まれたんだが・・・」 「吸血鬼なら、銀の銃弾だな」 「そいつはどこで手に入れるんだ?」 「ま、バーテンにでも聞いてみたまえ」 ステファンにはぐらかされた。 カウンターの向こうに、白い制服を着た、トレッドヘアの男が立っている。 モンドの顔を見ると、男は頭を下げる。 「いらっしゃいませ、モンド様。バーテンダーのロックです。なんなりとお申し付けください」 「銀の銃弾を探しているんだが・・・」 「なるほど。『シルバー・ブリット』ですか」 「そりゃいったい何なんだ?」 「カクテルの名前です。モンド様、お作りしましょうか?」 「いや、オレじゃなく、階段の女性に・・・」 「それはきっとマリア様ですね。では、マリア様に」 「ああ、頼むよ」 ロックはシェイカーを取り出してカウンターに置くが、そのまま固まっている。 どうしたのかとモンドが訊ねると、ロックは、カクテルが作れないと言い出す。 「やれやれ、また厄介だ。これもオレが探すのか?」 「モンド様、お願いいたします。このシェイカーに、配合していただければ作ることが出来ます」 「ああ、やってみるよ」 >モンドはキャサリンを起動する。ガイドブックに、このバーを紹介したページがある。 >そこにオススメのカクテルレシピがいくつか紹介してある。シルバー・ブリットもある。 >シェイカーにジャックインする。 >ドライ・ジン、キュンメル、レモン・ジュース、その3つの材料の割合を入力する。 >HIT! カウンターの上には、銀色に輝くばかりのカクテルがあった。 「さあ、あの女性に差し上げてくれ」 「かしこまりました」 ロックはカクテルを盆に載せ、バーを出て行った。 しばらくするとロックが帰ってきた。 「モンド様、残念な結果に・・・。マリア様のお口に合わないようで」 「なんて女だ」 モンドはマリアの元へ行った。 「夏・・・そうよ、夏を感じたいの」 マリアはそう呟いている。 モンドはバーへ帰る。ステファンが話し掛けてきた。 「モンド君、禁断の果実はキミの口には合わない」 「アンタとは関わりたくない・・・本気で思うよ」 「ヒントだよ、モンド君。フラグを立てるためのヒントだ。 フラグは美しい・・・。1をフラグに見立てて誰がそう名付けたのか・・・。 きっと、その人物は詩人に違いない。 ・・・デジタルゲームにはフラグが必要だ。だからこそ、キミにフラグを立ててあげよう。 最後のキーはガイドブックにある」 ステファンの言葉どおり、本当にフラグが立ったようだ。カウンターにシェイカーが置いてある。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >スプリング・フィーリングというカクテルが載っている。 >それをアレンジすると、サマー・フィーリングになるそうだ。 >シェイカーにジャックインし、配合の割合を計算し、入力する。 >HIT! サマー・フィーリングが完成した。ロックがマリアの元へ運ぶ。 ロックは慌てた様子で帰ってきた。 「マリア様が正気にもどりました。モンド様とお話がしたいと・・・」 モンドは階段へ行く。確かに、マリアは正気に戻ったようだ。 「アナタが探し屋さん・・・モンドさんね?」 「そうだが、覚えていないのか?」 「ええ、すみません。お酒を飲んでいたときの記憶は全くないのです」 「ワケありだな。何があった?」 「実は、モンドさんに探してほしいのです。パスワードを」 マリアが使っていたPCがウイルスに侵されてしまったそうだ。 ワクチンを持っているが、解凍パスワードを忘れてしまったとのこと。 「それで、ヤケ酒を?」 「お願いします、モンドさん」 「OKOK、承知した」 「『大地震』ウイルスは危険です。さあ、急いで!」 マリアの部屋、407号室へ入る。 テーブルの上にはPCが置いてあった。 >モンドはキャサリンを起動する。先ほども見た、カクテルのページ。 >「アースクェイク」というカクテルがあった。 >PCにジャックインし、アースクェイクのアルコール度数を入力する。 >HIT! ワクチンが効いて、PCは正常起動するかと思われたが、逆に壊れてしまった。 マリアが来た。壊れたPCを見て驚く。 「壊れてしまった。申し訳ない・・・」 「仕方ないわね。・・・ウソよ。もともと壊れていたのよ」 「待てよ、何なんだ、その変わり様は?ハメたのか?」 「暇つぶしよ。カクテルだけじゃこの楽園は退屈すぎる。 アナタにとってワタシが悪性のウイルスだったのよ。気にしないでね」 「・・・・・・」 「探し屋さん、ワタシは、遊びに来たんじゃないの。逃げてきたのよ、日常からね。 毎日毎日仕事に追われて、気が付いたらココにいたの。仕事道具を持ってね」 仕事道具とは、このPCのことだ。 「それじゃ、オレじゃその仕事からアンタを救ったわけだ」 「そんな解釈も出来るわね」 「マリア、キミはどんな仕事をしているんだ?」 「天使よ。天使もね、IT革命で大変なの。慣れないコンピュータ使ってね。 アナタがデータを破壊したから、ルシファーに怒られるわ。 ねぇ、お詫びに一杯ごちそうしてくれる?」 モンドはガイドブックのカクテルのページを思い出した。 確かそんな名前のカクテルが・・・。 「フォールン・エンジェルか?」 「流石ね。さあ、バカンスを楽しみましょう」 マリアはベランダへ飛び出す。彼女の足は床を離れ、空へと飛び立った。 マリアの姿はどんどん小さくなっていく。 飛行機にぶつかったと見えたとき、飛行機は爆発。 ================================== トリコは階段を2階まで下りてきた。 そこにはマリアが立っているが、今は素面のようだ。 「クリス、見ませんでした?トリコのペットなんです」 「ちょっとわからないわね」 マリアはそう答える。そして腰に手を当て、牛乳を飲む。 「久々に飛んだら、ノドが渇いたわ」 ================================== R-05 The Entertainer(♪ジ・エンターテイナー) 部屋を出て、1階へたどりつくと、ラウンジには意気消沈した様子で座っている二人の男がいた。 モンドは男たちに話を聞くことにした。二人は、コメディアンのバルボア・ブラザーズ。 マシンガントークのタブス、肉体派のソニーのコンビ。 事務所がホテルの予約を芸名でしてしまったため、泊まれないのだという。 ♪ジ・エンターテイナー by ジョプリン バルボア・ブラザーズか。ガイドブックにインタビューが載っていたっけ。 最近、俳優としても活躍してるとか。だが、今の二人はスターとしてのオーラがない。 フロントのベルを鳴らし、エドを呼び出して事情を聞く。 エドは、二人がバルボア・ブラザーズだと証明してくれれば、部屋に通すとのことだ。 ひとつネタでもやれば納得してくれるんじゃないかとモンドは思ったが、タブスは黙ったままだ。 「マシンガントークには、アフロのヅラが必要なんだ」 そうソニーは言う。 モンドはヅラか、それに代わるようなものを探す。2階でスーがモップをかけていた。 これなら、もしかして? だが、スーは、このモップには歩数計がついていて、既定歩数にならないと柄からモップが外れないという。 >モンドはキャサリンを起動する。ガイドブックに広告が載っていた。 >一度取り付けると1万歩歩かないと外れない歩数計。 >歩数計にジャックインし、歩数が一万歩になるよう調整する >HIT! モップは柄から離れた。 モップをタブスに渡す。 「これがアフロだって?」 「気持ちの問題だろ」 タブスがモップをかぶると、マシンガントークが溢れ出す。 これを聞いてエドも納得し、二人は晴れてバルボア・ブラザーズと認められた。 二人はモンドにサインを書いてやろうかと言うが、モンドは固辞し、それよりホテルに書いてやれと言った。 そんな和やかな会話をしている途中で、窓の外に飛行機が見えた。案の定、爆発する。 ================================== ロビーに降りてきたトリコ。 目の前にはサイン色紙が飾ってある。 ソニーとタブスの二人のサインに「ごっつぁんゲーム」という言葉が添えられていた。 ================================== R-06 Air in G(♪G線上のアリア) フロントに行き、エドに挨拶をして、正面玄関を出る。 そこにはステファンが立っていた。 「急いでいるようだね、ムッシュ・モンド」 「何の用だ?用がないならどいてくれ」 「さあ見てごらん、あそこに水着の女がいるだろう?キミもよく知っている女だ」 あなたは屋上のプールサイドにいる、ヤヨイの姿を見る。ステファンは続ける。 「ある男と賭けをしたんだ。 ボーイはこう言っている。『ホテルからのサービスカクテルです、お一つどうぞ』」 ロックがヤヨイにカクテルを勧める。盆の上には赤と青、2つのグラスが載っている。 ヤヨイは赤い方を選んで口をつけた。 「あ~あ。ヤヨイは赤を選んだらしい。馬鹿な女だ。ガイドブックの占いの欄を読んでなかったのかね。 ボクは青に賭けてたんだよ。今日のラッキーカラーは青だから、ヤヨイも青を選ぶと思っていた」 ヤヨイは昏倒する。 「つまりサドンデスだよ。サドンデスって言うのは、『急死』って意味なんだ」 モンドは驚く。赤のグラスには毒が入っていたのだ。ただし、猶予が2時間あるとステファンは言う。 そして、解毒剤は404号室のどこかに隠してある、とも。 モンドは屋上のヤヨイの元へ駆けつける。息はあるが顔色が真っ青だ。 フロントに駆け下りて、エドを呼び、屋上のヤヨイを頼む、これから404号室で解毒剤を探す、と言う。 404号室へ急ぐ。ベッドの上で、部屋着のヤヨイが寝ている。 電話が鳴っている。エドからだった。ヤヨイがみつからないから、電話を掛けてきたのだ。 ヤヨイはココにいる、とモンドは言って、電話を切った。 解毒剤はどこに?と悩んでいると、また電話が鳴り出す。今度はステファンだ。 「詰まっているようだね。さあ、フラグを立ててあげるよ。 解毒剤の場所はワタシの電子手帳に書かれているファイルを開ければOKだ」 「クズだな・・・」 「あ、そうだ!忠告だ。エドには気をつけろ。アイツはタヌキだから・・・。 黒幕はアイツだよ」 電話は切れた。 見ると、デスクの上に電子手帳――変わった形のPDAが載っている。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >占いのページには、青がラッキーカラーだと書いてあった。 >その隣に、ラッキーな方角と、3×3の方陣の中に電卓並びの1~9の数字が書かれている。 >これは、ラッキーな方角とは名ばかりの、パズルだ。PDAにジャックインする。 >ラッキーな方角と方陣を組み合わせ、読み取った数字を入力する。 >HIT! PDAは次のような文字を表示する。 「お探し物かい?お見事だな。3分前、ギリギリガールズだよ」 PDAは何かと時間を引き延ばそうとする。意味のない言葉を表示し続ける。 「おっと、時間切れだ。ベッドを見てみろ」 「クソッタレめ!間に合わなかっただと?」 モンドはベッドを見る。ベッドの上のヤヨイは寝返りをし、寝言を言う。 「寝ているのか?謀ったな、ステファンめ!」 再びPDAを見る。 「さあ、テスト終了だ。答え会わせをする。モンド君、キミは実に優秀な生徒だ。 だが、気にかかることがある。お人好しということだ。 人の事を簡単に信用してはいけない。子供の頃、ご両親に教わらなかったのかい? これからは騙されるんじゃないぞ。 そうそう、毒なんてウソだよ。ただの睡眠薬さ。キミが本物がどうかを確かめたのさ。 そのテストだったのだよ。キミはパスした。まだまだゴールは先だがね。 ほら、考えてごらん。エドは来ないだろ?ボクが言ったとおりさ。 彼は黒幕だから、ココには来ない。 全ては彼の意のままに事が運んでいる。真実は一部ではない」 PDAの画面に青空が映りこんでいる。飛んできた飛行機も映っている。飛行機は爆発する。 ================================== トリコはエントランスでステファンと会う。 「ボクはステファン・シャルボニエ。このホテルに缶詰になって論文を書いている男だ」 クリスの名を呼ぶトリコ。ステファンに気付き、挨拶する。 ステファンはクリスと聞き、サッカー選手のクリスを思い浮かべたらしい。 あきれるトリコを無視し、ステファンはクリス(サッカー選手)について語り出す。 「・・・そのクリスが何か?」 「もういいよ」 ================================== R-07 Children s corner(♪子供の領分) モンドは今日も、モーニング・コールに起こされ、コーヒーを飲み、部屋を出る。 フロントへ行き、エドに別れを告げ、意気揚揚とロビーを出る。 エントランスを過ぎ、人工池に架かる橋を渡っているときに、 背後からサッカーボールが飛んで来て、モンドを掠める。 跳ね返ったボールはモンドの股間にヒット。痛そうだ。 振り返るとエントランスにはバミューダパンツをはいた男の子がいた。 ♪子供の領分 by ドビュッシー モンドはエントランスまで引き返し、子供に怒鳴る。 「イタズラはやめろ」 だが男の子は悪びれた様子も無い。 「どうしてオマエは人助けばかりするんだ。この島にテロリストってなんだ。そんなワケねーだろ。 音楽も名曲パクってるだろ。それにオマエのデザインはヘンだ。頭と手と足がデカすぎる」 「それはオマエだってそうだろ。そういうコンセプトでデザインされてるんだ」 「イラストとポリゴンが全然違うじゃねーか」 男の子にズバリ指摘されて、モンドは考え込む。 「それを言われると・・・。確かに、オレのイラストは髪がもっと短いんだよな。 だが、このポリゴンは、髪は長めだ。顔もあんまり似てない。他の人はまぁまぁ似てるが、 オレに関しては明らかに別人のように見える。どっちも色男だけどな ・・・って!それ以上言うな!世の中には言ってはいけないことがあるんだ」 「子供の世界には通用しないよ。全部お見通しさ」 「コイツ、このゲームを壊そうとしている・・・」 「リゾートで黒いスーツ着るな!冠婚葬祭野郎なのか?」 「許さん!許さんぞクソガキが!」 モンドはクソガキにつかみかかろうとするが、クソガキはホテルの中に逃げ込んでしまう。 モンドはフロントでベルを鳴らし、エドを呼び出す。クソガキのことを訊ねる。 「カイ様のお子様のショウタロウ様ではないでしょうか。彼が何か?」 「ヤツは破壊王だ。このままだとミステリアスなオレの人物像が壊される」 それからモンドは、スーやマチ達に話を聞き、ショウタロウを探す。 ショウタロウはヤヨイのところにいるのでは?というのでヤヨイの部屋、204のドアをノックする。 「クソガキがいるんだろう?引き渡してくれ」 「来てないけど、どうしてもって言うんならどうぞ。 ・・・女の部屋に来るなんて、どういう意味だかわかってるの?」 ヤヨイはモンドをからかったが、モンドの切羽詰った様子を見て部屋に入れてくれた。 一通り探したがいなかった。 「そのコ、アナタのことが好きなんじゃない?きっと、アナタのこと待ってるわよ」 ヤヨイのアドバイス通り、モンドは402号室に戻った。 クロゼットを開けると、ショウタロウが飛び出した。 「オマエ、バカだろう?楽しかったよ、オイラと遊んでくれるから。だからバカなんだ。 ・・・さみしかったんだよ!パパが遊んでくれなくて」 しょげるショウタロウをモンドは慰める。 「ウソぴょーん。やっぱバカだ。人のことすぐ信用する」 ショウタロウはベランダへ逃げた。 「このクソガキ!」 「ありがとう、黒スーツ。また遊んでね」 「もうヘンなこと言うなよ」 「うん、いいよ。言いたいこと言ってスッキリしたから。 でもさ、花と太陽と雨とって何だ?本当は意味無いんじゃないの?」 モンドは焦った。 「ヤバイ!・・・何言ってんだ、一番言っちゃいけないことだろう?」 「みんな知ってるぞ!」 「もうお話は終わり。カマン!ジャンボ」 モンドが指を鳴らすと、飛行機が飛んで来て、爆発した。 ================================== トリコは人工池に架かる橋を渡っている。 背後からサッカーボールが飛んできたが、オーバーヘッドキックで華麗に蹴り返す。 振り返るとショウタロウがいた。トリコはショウタロウに声をかける。 「あら、可愛い少年。ねぇ、クリス見なかった?」 「あのピンクが?何でピンクなんだ?」 「可愛いから」 「・・・ちっ!上手く切り抜けたな」 ショウタロウは舌打ちした。 ================================== R-08 Ave Maria(♪アヴェ・マリア) モンドはベッドに寝転がりながら電話を取る。いつものように慇懃な態度のエドに、 何故かとげとげしい言葉を返してしまう。 「モンド様、少し性格変わりました?」 エドに指摘されてしまった。やっぱり、昨日のクソガキのせいか。 ホテルを出て人工池を過ぎ、パーム・ツリーの並木を通り抜け、アーチをくぐる。 その先の一般道に出るゲートは閉まっていた。右に折れる道がある。そこは教会だ。 カナデルカゼ教会。ガイドブックに載っていた。ここで挙式するのがオススメだとか書いてあったな。 ♪アヴェ・マリア by シューベルト 教会の脇のベンチに、女性が物憂げに座っていた。モンドは女性に話し掛けた。 「あのね、ユウリ、明日結婚するの」 「なのに、なぜヘコんでる?」 ユウリはモンドに身の上話をする。フィアンセのセイジが、最近冷たいのだという。 「でも、やさしい男じゃないか。この島で挙式するなんざ、男にはなかなか段取りできないぞ。 男にも色々あるんだ。お嬢ちゃんは幸せだ。オレなんて最悪だ。好きな女とさえ会えない」 モンドはそう言ってユウリを励ました。 ユウリは、セイジが心配なので、様子を見てきてほしいと頼まれた。 モンドは教会の中に入った。最前列でボーっとしてる男がいる。 「ちょっといいか。セイジさんだね。カワイイお嬢ちゃんがキミのこと心配してる」 「ユウリのこと?」 「あしたココで挙式だってね。おめでとう」 「・・・もう明日なんだね。考えたら、ちょっと怖くなって」 「男がマリッジブルーか?」 セイジは投げやりな調子で言う。 「なんとでも言ってくれ。ユウリが言い出したんだ、教会で式を挙げたいって。ボクは反対したのに」 「あれ?キミが言い出したんじゃないのか?」 「ユウリはそう思いたいんだよ。きっと、ボクに理想を求めている」 「応えてあげればいい」 「ムリさ・・・。これ、見てよ」 セイジはオルガンを指す。 「音色がね、気に入らないんだ。上手く弾ければ、ユウリを幸せにする自信が持てる。そう感じるんだ。 この教会には伝統の音色があるって聞いたんだけどね。自分で変えようとしたけど、上手くいかない」 「探してやるよ、その音色ってヤツを」 >モンドはキャサリンを起動する。ガイドブックの教会が載っているページを見ると、そこには >このオルガンのセッティングに関しても書かれていた。「ダルシアーナ・セッティング」というらしい。 >キャサリンを使って暗号を打ち込み、オルガンの音色を変える。 >HIT! セイジはオルガンを弾く。 「ありがとう、モンドさん。この音色は福音なんだ。だから、きっと・・・」 「ああ。キミとお嬢ちゃんの幸せがオレにも見える」 モンドは晴れやかな気持ちで教会を出た。そこにはユウリが待っていた。 「ユウリとセイジはね、孤児院で育ったの」 「孤児院の人は式に出席しないのか?」 「来ないよ。みんな星になったもん」 「お嬢ちゃん、どこで育ったんだ?」 「シェルターよ。ワタシたちは、シェルターキッズなの」 教会の後ろの青空を飛行機が横切り・・・爆発。 ================================== 道を往くクリス。教会の前を通り過ぎ、ゲートに行き当たる。 紙ふぶきが舞う中、白い衣装のユウリとセイジが幸せそうに立っている。 クリスを追って来たトリコは二人に言う。 「おめでとう!」 ================================== R-09 Rhapsody in Blue(♪ラプソディ・イン・ブルー) 一般道に出るゲートを通ると、左側から乗用車が目の前を通り過ぎた。 右側からやって来たトラックとぶつかる。大破は免れたが、酷い状態だ。 右の道へはとても行けないので、左側の道へ進む。 ♪ラプソディ・イン・ブルー by ガーシュウィン その道はまっすぐ続いていた。左手に海が見える。このままずーっと行くと空港に辿り着く。 だがとても歩いては行けない距離だし、途中のゲートは閉まっている。 しばらく行くと、髪を緑に染めた若い男がしゃがみこんでいた。傍らに黄色い自転車がある。 モンドは男に声をかける。 「いい自転車だな」 「バイクだよ。自転車じゃない。何でも屋だろ?直してくれよ。困るんだよ」 「オレは探し屋だ。アレか?オマエはメッセンジャーか?」 男はメッセンジャー・バッグを肩にかけている。 「オレはケンだよ。頼むよ。ギアが悪いらしいんだ」 「専門じゃないがね」 モンドはケンのバイクを直してやることにした。 >キャサリンを起動する。ガイドブックの、ステファンのインタビューが載っているページ。 >そこには大小二つの歯車が描かれている。歯の数からギア比を計算する。 >バイクにプラグインしてギア比を調整する。 >HIT! ケンに感謝された。お礼がしたいので、この先のダイナーで待つように言われる。 ダイナーはガイドブックにも載っていたな。ダイナーじゃわかりにくいから、レストランと言い換えてもいいだろう。 モンドはダイナーまで走る。途中でバイクに乗ってきたケンに抜かれる。 ダイナーに着くとケンは困った様子だ。 「おかしいな、マチさんが来ない。もういつもなら来てる時間なのに。 マチさんは朝の清掃が終ると、ダイナーで食事の支度をするんだ」 モンドはホテルへ様子を見に行くことにした。アーチをくぐりパーム・ツリーの並木の途中にマチはいた。 「ホテルの電圧がおかしいので手間取ってしまいました。 支配人が言うには、テロリストの仕業ではないかと」 この島の電力は、沖に浮かぶ小さな島「エレキ島」から供給されているそうだ。 マチに、電圧を直してほしいと頼まれてしまった。 ダイナーに行く途中に「POWER BEACH」という看板があるので、そこから海の方へ行くと桟橋がある。 その桟橋からボートに乗ってエレキ島へ行くのだという。 モンドは指示どおりにエレキ島へやって来た。 そこには6機の発電装置がある。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを開く。この発電装置は「エレキング」と呼ばれているそうだ。 >エレキングにちなんだ6つの心理テストが載っているページ。 >そこから読み取った数字をそれぞれに入力していく。 >HIT! 電圧の乱れは収まったようだ。 「しかし、艶めかしい島だな。重苦しく艶めかしい。恐ろしいほどに・・・」 そんなことを呟きながらモンドがふと空を見上げると、視界に飛行機が飛び込んできて、爆発する。 ================================== 海沿いの道を行くトリコ。乗用車とすれ違う。 トリコはケンに会う。 「ねぇ、クリス見なかった?ピンクのワニなの」 ケンは、メッセンジャーの仕事で島を駆け巡っているので、 見つけたらすぐに教えてやると約束した。 ================================== R-10 I Love You, Porgy(♪アイ・ラヴ・ユー、ポーギー(愛しきポーギー)) モンドはホテルを出て、一般道に差し掛かる。また昨日と同じ事故が起こる。 車の中の人は大丈夫だろうか?とにかく、誰かに知らせなければ。 ホテルの方へ引き返す途中で、モンドはマチと会う。 「マチさん、これからダイナーへ?」 「ええ、ランチの準備です」 「昨日みたいなトラブルはなかったんですか?」 「あら、昨日は何もありませんでしたよ。そうだ、後でダイナーへお越しください。 ランチをごちそうします」 首を傾げるモンドを置いて、マチはダイナーへ行ってしまう。 海沿いの道を歩き、ダイナーの中へ入った。 ♪アイ・ラヴ・ユー、ポーギー by ガーシュウィン ケンがいた。マチを手伝っているそうだ。 早速ランチをもらおうと、モンドはマチに声をかける。 「モンド様、あのお客様、何かお悩みのようです」 口ひげを生やしたオッサンが、窓際の席に座り、何か悩んでいる様子だ。 やっぱり邪魔が入った、この問題を解決しなければランチにはありつけないのかと、 あきらめながら、オッサンに話しかけた。 「聞いてくれますか?事故を起こしてしまったんです。それで、落ち込んでいるんです」 「でも、だれも怪我してないんだろ?」 「・・・アナタ、噂の探し屋さん?良かった。実は息子へのプレゼントをなくしてしまったんです」 オッサンはカイダイザブロウと名乗った。あのショウタロウの父親か。 もともと気乗りしないのに、もっとやる気がなくなった。 「親バカだからあんな風に育つんだ」 モンドがショウタロウへの文句を言うと、カイの態度がガラっと変わった。 「なんだそのカバン、スパイ気取りか?この暑いのに黒スーツ?テロリストを阻止するだって?バカじゃないのか? オマエはガイドブックがないと仕事も出来ないのか?おかしいとは思わんのか?なぜガイドブックで謎が解ける?」 「待て、それ以上・・・!」 モンドは逆上する。 「どうだ?ワタシの探し物、探せるのか?」 「探してやるよ」 モンドはダイナーを飛び出した。外にいたケンが話し掛けてきた。 「またアイツだよ、ほら、あそこ。パワービーチの入り口だよ。あれがステップだ。オレの幼馴染。 手グセの悪いヤツでね、旅行客から盗むんだ。アイツには気をつけてね、モンドさん」 パワービーチの入り口で、モンドはステップに会う。ステップはモヒカンの男だ。 「ボクには盗めない物はない。アンタもだろ?」 「ああ、探せない物はない」 「じゃあ、じゅうぶんだ。ボクの盗んだ物、探してみなよ」 探し物が落ちてるとしたら事故現場だ。モンドは事故現場に戻った。 そこにはショウタロウがいた。サッカーボールをなくしたと言うので、周辺を探索する。 ホテルの方へ戻る道、その脇にゴミ捨て用のコンテナが置いてある一角がある。 そこにサッカーボールはあった。 「なにやってんだボンクラ」 もたもたしているモンドにショウタロウは言う。 「この野郎、切り刻んでやる!」 モンドはショウタロウに向かって腕を振り上げる。 「倫理が!倫理が!倫理団体、助けて~!!」 そんなことを言うショウタロウ。あきれるモンド。 「オマエ、みんなに嫌われてるぞ」 「いいんだもん。こんなゲームやってるやつに好かれたくないもん」 「殴るぞ!」 「いいよ、でもそんなことしてみろ、発売中止にしてやる」 モンドの怒りは頂点に達した。こぶしでショウタロウを殴る。 「いいか、クソガキ。悪いことしたら殴られるときもあるんだ」 「パパにも殴られたことないのに」 大人しくなったショウタロウに、モンドはカイの探し物のことを訊ねる。 事故現場でヘンなオモチャを見つけたが、コンテナの中に捨ててしまったとのこと。 ゴミ回収日にならないと開かないコンテナだ。 >モンドはキャサリンを起動し、ガイドブックを見る。ゴミ回収日が書いてあるページがある。 >月に3回回収か。コンテナにジャックインし、回収日の日付を入力する。 >HIT! コンテナはゴミを吐き出した。古びたライターだ。 そこへカイがやってきた。自分が見つけたんだと言ってショウタロウはライターをカイに渡した。 「オレが探したんだぞ」 そう言うモンドをカイは睨みつける。 「情けない。子供の領分を取ろうってのかい?」 息子へのプレゼントはサッカーボールじゃなかったのかとモンドが訊くと、カイはライターだという。 ライターは父親の形見だと言うことだ。カイの父親からカイへのプレゼント、という意味だったらしい。 確かに息子へのプレゼントだ。 「ショウタロウへのプレゼントはオマエだよ、黒スーツ。こんなに面白いおもちゃはないからな」 カイは気分が良くなったのか、煙草を吸おうとする。 「でもパパ、煙草は・・・チェックが厳しいよ」 ショウタロウは止めようとするが、カイは構わずライターに火を点けようとする。 するとその時、飛行機が飛んで来て、ライターに火が点くのと同時に爆発する。 ================================== クリスはダイナーに入っていく。 乗用車とトラックがぶつかりそうになるが、乗用車が片輪走行をし、トラックを避ける。 ダイナーでカイに会うトリコ。 「クリス、おじさんのこと気に入ったみたい」 ================================== R-11 Clair de Lune(♪月の光) いつものように電話が鳴る。 「モンド様、夜の7時でございます」 驚いたモンドは飛び起きる。窓の外には星が輝いていた。 何故、エドはこんな時間に起こしたのだろうか。 フロントに行こうとフラフラと立ち上がる。 気配がしたので振り返ると、ベッドの下からスーが出てきた。 スーは、落ち着くので、ベッドの下で寝る癖があると言う。 「お願いがあります、これを預かってください」 スーは、テーブルの上に懐中時計を置いた。ムーンフェイス(月例表示)付きの懐中時計。 「オレは、預かり屋じゃなくて探し屋なんだ」 モンドは断ろうとする。 「では、ワタシの探したい物を探してください。口では言えないのです。 言ってもいけないし、ワタシにも解りません。たまにはこういうミステリアスな探し物もいいでしょう?」 「・・・いいね」 「やっぱり単純ね」 「何?」 「いえ、ワタシ、もう行かなくては。月が導いてくれますように」 スーは部屋を出て行った。モンドも、キャサリンを片手に部屋を出る。 フロントにエドを呼び出す。 スーが「月が導いてくれますように」と言い残したことを告げると、 エドは、灯台に行くように勧める。 ビジネスタワーと言われている灯台だ。ガイドブックにも書いてあった。 月を眺めるには絶好の場所だ。 ホテルを出て、虫が大合唱している中を走る。 一般道へ出て右へ進む。 ♪月の光 by ドビュッシー この道は山の方へ向かう道だ。しばらく行くと、右手に灯台が見えてきた。 モンドは灯台の展望台を目指す。灯台の中の螺旋階段を昇っていく。 展望台に出ると、月が目に飛び込んでくる。 「今宵は三日月か・・・」 しかし、なにが起こるわけでもない。灯台を下りて、ホテルに戻る。 402号室に戻ってきた。そこには、スーが待っていた。 そういえば、預かってくれと言われた懐中時計も置きっぱなしだった。 「モンド様、ワタシの話を聞いてください。 出来れば、ベッドに横になって、目を閉じて、子守歌でも聞いてるようなつもりで・・・」 モンドはスーの頼みどおり、ベッドに横になり目を閉じる。 スーはベッドの下にもぐる。 「モンド様は、月の裏側がどんな風かご存知ですか」 「月の裏側は誰にも見ることが出来ないんだろ?」 「そうですね。運命とはそういうことです。 ワタシにとっては、ワタシの中にある秘密も、月の裏側と同じなのです。 自分では決してきちんと見ることは出来ない。しかし、秘密は確かにある・・・ずっとそれを感じています。 ・・・ワタシには、6歳になるまでの記憶がありません。子供の頃の記憶をなくしたのです。 でも、たった一つ覚えていることがあります。それは、ワタシが生まれたときの記憶です。 空には月がありました。ほっそりとした三日月。ワタシは空を見上げていました。 身体には、生暖かいモノが触れていました。それは赤くてヌルヌルとしていました。 とてもとてもたくさんの血でした。そして、ワタシは一人ぼっちでした」 「キミの親はいったい誰なんだ」 「解りません。マチさんは育ての親です。でも、解っていることがあります。 なぜ、ワタシがワタシの秘密を知ってはいけないのか・・・。 ワタシの秘密を暴くことは、この島の秘密を暴くことになるからです。 ・・・モンド様なら、この島を救えます」 「オレはただ、エドの依頼を受けただけだ。依頼が済んだら、この島ともおさらばだ」 「無理です。アナタがこの島に来てから、一日しか経っていません。 同じ一日の繰り返しなのです」 「エドも同じようなことを・・・。磁場が乱れてるとかなんとか」 「この島の時間は止まっています。だからあなたが来たのです。 支配人は、この時間を戻してもらいたくてモンド様を呼んだのです。 アナタは、ずっと同じ一日をループしているだけなんです」 「そんなバカな・・・」 「バカはアナタです。なぜ、飛行機が爆発するのですか?」 「あれは夢じゃ・・・?なぜキミがオレの夢を知っている?」 「理解できないから、夢だと思い込んでいるのです。 モンド様がこの島を救わないと、この一日は終わりません」 「どうすればいい?」 「飛行機の爆発を阻止してください。それと、テロリストの正体を突き止めてください。 そうすれば、この島の謎は全て解けます。 ・・・ワタシの秘密を探してください。それは、三日月の夜でなければならないのです」 「今日ってことか」 スーは、部屋を出て行った。モンドは起き上がる。 >キャサリンを起動させる。 >ガイドブックの灯台のページ。そこには三日月の写真が載っており、 >正確には月例4.3の月だと解説が書いてある。 >懐中時計にジャックインし、正確な月例を入力する。 >HIT! 懐中時計のムーンフェイスは、三日月を表示する。 部屋の電話が鳴りだしたので、取る。スーからだった。 「モンド様、やっぱり間違っておりました。この島の秘密は永久に封印します。 この島はこの時間が最適なのです。モンド様、さようなら」 どうやら、屋上からかけてきていたようだ。 モンドは屋上に行くが、そこにはスーはいなかった。 三日月に目を奪われる。低い手すりから落ちそうになりハッとする。 無意識のうちに端のほうへ来てしまっていた。 部屋に戻ろうと振り向くと、ロン毛の謎の男が立っていた。 よく見ると、左目に黒いアイパッチをしている。 謎の男は、モンドに銃をつきつけた。そして、いきなり撃った。 モンドは倒れ、低い手すりを越えて落ちていく。 飛行機が飛んできた。三日月を覆い隠すように爆発する。 ================================== トリコは一般道に出るゲート前に立ち、月を見上げる。 三日月をバックに、クリスはホテルの屋上で吼えた。 ================================== R-12 I Got Rhythm(♪アイ・ガット・リズム) スーツをバッチリ着こんだ男女がモーターボートに乗っている。 やがてボートは、ロスパス島の河口へ横付けされる。 スーツの男女はロスパス島へ降り立つ。 「異質を感じる。思念が渦巻いている。この島は呪われている」 女性が言う。 「レミー、見えるのか?」 眼鏡をかけている男性が言う。レミーと呼ばれた女性はトランス状態になっているようだ。 「感じるのよ、この島の歴史を。ココは普通の島じゃないわ」 「レミー、この島はテロリストが来るところじゃないぞ」 そのとき、川に架かった橋を、ステップが通過していき、山の手の方へ去っていった。 片手に銀色のアタッシュケースを持っている。スーツの二人はステップを見送る。 ホテルの裏口付近で、モンドは頭から血を流し、大の字に横たわって死んでいた。 側にエドが立っている。スーツの二人はエドに自己紹介する。 「連邦特別捜査官、レミー・ファウジルです」 「同じく、連邦特別捜査官、コシミズヨシミツです」 レミーはエドに、事情を訊く。 「目撃者はいない、銃声を聞いた者もいない・・・。他に気が付いた事は?」 「モンド様がお持ちになられたアタッシュケースが見当たりません」 「アタッシュケース?シルバーの?・・・あのモヒカン!」 ステップが持ち去ったのはキャサリンだった。 エドは、ステップが逃げ去った方向にはショッピングセンターがあるので、 逃げ込むとしたらそこだと言う。 コシミズはステップを追いかけることになった。 今回のPC(プレイヤーキャラクター)はこのサングラスの男、コシミズだ。 ホテルの外へ出て、一般道を右側に曲がる。 ♪アイ・ガット・リズム by ガーシュウィン 前回モンドが登った灯台を右手に見ながら通り過ぎる。 ボートを停めた川を渡り、しばらく行くと、ショッピングセンター「スパイス・ショップ」が見えた。 コシミズは、通信機を取り出して、レミーと話す。 「あのステップってコ、最近島に帰ってきたらしいの。フランスに留学してたらしいわ。 でも、支配人がおかしな事を言うの。留学先はまだ休みじゃないんですって。 何で帰ってきたんだろうって」 コシミズはショッピングセンターに入る。この島で唯一、まともに買い物が出来る店とあって、 品揃えは豊富だ。そして、広い。この中にステップが? コシミズは、あなたに語りかける。 「捕獲の心得だ。足音を立てるな。静寂を見方にしろ。オレの師匠、ナカテガワ次長の教えだ」 あなたは言われたとおり、足音を立てないようコシミズを歩かせる。 店の奥にステップはいた。コシミズはステップに言う。 「何故逃げた?」 「ボクは泥棒だ。警察から逃げるのが仕事だ」 「アタッシュケースはどうした?」 「知らないね」 そのとき、レミーから通信が入った。 「助けて!」 「どうした、レミー?」 「ステップの正体がわかったわ。そのステップはステップじゃない。 フランス領の島に、一斉捜査が入ったのよ。そこで製造されていた戦略兵器がステップなのよ。 そこにいるステップは人間爆弾なの!逃げて!」 信じられないという顔でコシミズはステップを見る。 「ボクはボクの意志で改造したんだ。生活のためだよ」 ステップの右目が妖しく光りだした。 コシミズは逃げた。コシミズが外に出ると同時に、ショッピングセンターは爆発。 ついでに飛行機も爆発。 ================================== 夜、灯台の下で、トリコはようやくクリスを捕まえる。 「もう、クリスは、どうして脱走するの?」 「オメェがヘンな名前にするからだよ。オレはオスだぞ。そんなカマみたいなのヤダ」 クリスは拗ねる。 「それより、あの男、この上だぞ」 「つけてきたの?ありがとう、クリス。行ってくるね」 「ヘマするんじゃねーぞ」 灯台の展望台には、モンドを撃った男が待っていた。 トリコは展望台に登り、男に話しかける。 「サンダンス・ショットね」 「そうだが、お嬢さんは?」 「アナタを殺しにきたの。アナタが救世主を殺したように・・・」 トリコはどうやら、モンドを救世主と呼んでいるようだ。 「救世主?あの男の事か?」 サンダンスはあきれたように言う。 「そうよ。人々の希望の芽を摘んだの」 「思い違いをしているようだ。あの男が人々を惑わせている。そう感じないか」 「ちっとも」 「それならば仕方ない。もう一度リセットをしよう」 「ダメ!リセットさせない!アナタを殺す」 「殺せないよ」 サンダンスは余裕の表情だ。 「アナタは存在しない。テロリストではない。アナタを殺すのに刃物は必要ない」 「それはどうかな?」 「モンドスミオはワタシが救う。アナタはココで死ぬのよ、ウエハラカムイ!」 「カムイ?誰のことを言っている?」 「消えるの、モンドの中から・・・」 「ワタシを巻き込まないでくれ」 「逃げられないよ」 「ではお嬢さん、もう一度ショーの続きをしよう」 ================================== R-13 La fille aux cheveux de lin(♪亜麻色の髪の乙女) ホテルの裏に立っているレミー。コシミズと通信する。 「全容が見えたわ」 「ああ、密輸が行なわれてたってワケだ。それも、人間を密輸していやがった」 「ええ。『ユーロ・マスプロ』の一角がついに姿を表した」 「こんなにのんびりとした島が奴等の最重要拠点とはな。どうする、レミー」 レミーは考える。 連邦捜査局が長年追いかけている「ユーロ・マスプロ」。 マスプロとは、大量生産のこと。 たくさんの子供たちが犠牲になっている恐ろしい計画。 これまで、表面に出ることなく、「現代の神隠し」と呼ばれた近代伝説。 「謎のテロリスト『サンダンス・ショット』その正体、化けの皮を剥いでみせましょう!」 今回のPCはレミーだ。 ホテルの裏手から食堂に入り、ロビーを通り過ぎ正面玄関から外へ出る。 人工池に架かった橋の途中にマチが立っていた。マチはレミーに声をかける。 「ステップはどうなったのでしょう?」 「アナタは?」 「メイドのマチと申します。ステップの母です。刑事さん、教えて下さい。 あのコはいったい・・・?」 レミーはそれには答えず、逆に質問する。 「マチさん、ステップの生まれは?」 「エレキ島です。行けばわかります。あのコの出生に関わる残骸が見つかるはずです」 レミーはパワービーチの桟橋からボートに乗り、エレキ島へ行く。 ♪亜麻色の髪の乙女 by ドビュッシー エレキングが設置してあるのとは違う方向に行くと、謎の建物がある。 建物の中に入り、謎のボタンを押すと、床に穴が開く。レミーは意を決して飛び込む。 地下には謎の施設が広がっていた。目の前にバルブが付いた装置がある。 バルブを回すと、電光掲示板に「WELCOME REMY」の文字が流れる。 レミーはコシミズと通信する。そこはどこかとコシミズは訊く。 「わからない。けど、地下プラントであることは確かね」 さらに奥に進むと、まっすぐに通路が延びていた。 「ココは何だかわからないけど、地下プラントであることは確かね」 その両脇に、蜂の巣を思わせるような、狭くて長細い部屋が無数にある。 蓋は透明で、ほとんどが空だが、いくつかには人と思しきものが入っている。 開けてみると、そこに入っていたのはサンダンス・・・いや、サンダンスの偽物か。 サンダンスの偽物は合計5体見つかった。偽物たちは口々に言う。 「ようこそレミー、ココは楽園だ。ステップはココで生まれた。 我々は単なるストックに過ぎない。特別な存在は奥にいる」 最後に見つけたのは、レミーの偽物だ。 「逃げなさい、レミー。ココはアナタの故郷。過去を殺しなさい」 レミーは奥に到達すると、呟く。 「思い出した。全てココから始まったのね。さようなら、ワタシの楽園」 謎の建物は爆破された。空を行く飛行機も爆発する。 ================================== 夜、ホテルの屋上。サンダンスはあの夜同様、モンドに銃を突きつけている。 そこへトリコが登場する。 「どうして撃つの」 「意味はないさ」 「だったら、止めればいいのに」 「オレの役割だからだ。この男が探し屋であるのと同様に、オレはテロリスト」 「何でテロリストなの?」 「理念に基いて行動する」 「意味はなくとも?」 「そうだ」 「止めた方がいい。この人を殺したら、アナタの存在は消えてなくなる」 「たとえ、オレが消えてもだ」 「アナタを探す。・・・すべて、この人次第ね」 「この男が依頼を達成すれば、オレは現れるだろう。そのときまでお別れだ、お嬢さん」 「また会いましょう、カムイさん。明日の引き金を引いてください」 銃声がする。モンドは屋上から落ちる。が、落ちた先は402号室のベッドの上。 トリコは屋上でクリスと話をする。三日月が出ている。 「クリス、どう思う?あの人は本当に救世主なの?」 「ワシに聞くな」 「この世界を開放できるのかな?・・・クリス、扉が開くよ」 「冒険の再会だな」 「目覚めて、モンド様」 トリコは祈る。そこへ飛行機が飛んでくる。トリコは飛行機に向けて手を伸ばす。 トリコの指が飛行機に触れたように見えたとき、飛行機は爆発した。 ================================== R-14 Traumerai(♪トロイメライ) ベッドに寝ているモンド。電話が鳴ったので取る。 「おはようございます、モンド様」 「ああ、生き返ったようだ」 「そのとおりでございます」 モンドは起き上がり、部屋を出ようと思ったが、キャサリンが見当たらない。 仕方なく手ぶらでフロントに行き、エドを呼び出す。 「エド、説明してくれ。オレに何があった?」 エドはモンドに説明する。 「何だって?オレは一度死んで生き返った? そしてこの島は永いループに縛られている。 一日が繰返される・・・それでもオレは仕事するのか」 「今回はキツイですよ、なんせ2話もサボっていたのですから」 キャサリンを探さなくては。モンドはホテルを出る。 ホテルの前に、レミーが立っていた。 「アナタがモンドスミオね」 「キミは?」 「連邦捜査官のレミー・ファウジルです。聞きたいことがあるの。 アナタが生き返ったことよ。なにか心当たりはない?」 「まったくない」 「・・・やっぱりね。単刀直入に言うわ。アナタはこの島の救世主なの。しかも、伝説の救世主」 「ゲームのような世界だな」 「アナタが殺されるまでの一連の事件には、特定の条件が揃っている。 アナタの仕事が完了した瞬間、飛行機が爆発する。アナタが休息することで、一度この世界が閉じる」 「詳しいね」 「救世主に憧れる?」 「悲劇だよ。自分の器量とのギャップにね」 モンドはやれやれといったような顔をする。器量・・・器の大きさだけではなく、見た目もかなり違うし。 「モンドスミオ、アナタは何者なの?この島は、アナタの意識に忠実に動いている。 お願い!この島を救って!逃げないで。あの悲劇を繰り返さないために、過去を殺しましょう」 「過去?」 「思い出して。大きな闇の中でたくさんの子供たちが生活していた。 ワタシたちが逃げたこと、忘れてしまったの?『イレブン』と呼ばれた改革の子供たち。 11人の仲間の存在を」 レミーはそう言うが、モンドには覚えがないらしい。 「それは妄想だ。目を覚ましてくれ」 「やはり、アナタもそうなのね。残念だけど、時が来ればアナタは目覚めるわ」 モンドはレミーに、キャサリンについて訊ねると、ショッピングセンターへ行けという答え。 一般道を山の手へ走り、ショッピングセンターに着く。そこにはコシミズがいた。 ショッピングセンターは爆破されて、黒コゲの残骸が残るだけになっている。 モンドはコシミズにキャサリンの行方を尋ねるが、コシミズも探していると言う。 「モンド君、レミーには会ったのか?」 「ありゃ、パラノイアか?」 「そうかもな。時々、トンじまう。キミに会えて嬉しかったんだろう。 レミーはキミをずっと探していた。?キミもそうなのか、『イレブン』・・・まぁいいや、また会おう」 モンドはコシミズと別れ、ショッピングセンターを過ぎ、しばらく行くと、麦畑に出る。 道の真ん中に、嫌みったらしいオッサンが立っている。オッサンはタカオカと名乗った。 この先の麦畑の中に、アタッシュケースが落ちていたとタカオカは教えてくれた。 麦畑の中を捜し、ついにキャサリンを発見する。 タカオカのところに戻ると、タカオカは、ホテルの408号室にいるナツコという女性を訪ねろと言った。 ホテルに戻り、408号室を訪ねる。そこはスィートルームだった。 淡い色の髪をショートカットにしたアンニュイな雰囲気の女がソファに座っている。 彼女がナツコか。ナツコは、ラジオがどうの、と呟いているだけで、一向に要領を得ない。 「アンニュイ女か。絶滅したと思ったのに」 文句を言いながらモンドは部屋を出て、フロントに向かい、エドにナツコのことを訊ねる。 エドは、タカオカはナツコの連れだと言う。一見、とても釣りあわないように見える二人なのに。 「モンド様、こちらへ・・・」 フロントの奥の扉の中へ通される。そこはスタッフルームだった。古びたラジオが置いてある。 「ナツコ様は、麦が好きな曲を探していらっしゃるのです」 エドが言うには、このラジオから流れる曲が、あの麦畑で流されるのだという。 >モンドはキャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >この島に幾つか存在するラジオ局、その紹介が載っているページ。 >ラジオにジャックインし、ナツコが出したつたないヒントから適当なラジオ局を選び、その周波数を入力。 >HIT! だが、ラジオからは音が出ない。エドは、このラジオは壊れていて、 曲を確認するには麦畑まで行かなければならないとのことだ。 モンドは半ばあきらめた様子で遠い麦畑まで歩く。 途中、一般道に出る手前にケンがいた。傍らに停めてある黄色いバイクに目が釘付けになるモンド。 ケンが見ていない隙を狙って、モンドはバイクを奪い、麦畑まで漕ぐ。 麦畑では、カッコイイ、そしてなんだか聞き覚えのある曲が流れていた。 タカオカに話を聞くが、麦の反応を見て、これではダメなので、 またナツコに指示を仰げと言う。 モンドはバイクに乗ってホテルまで戻る。 ケンに謝ろうと思ったが、さっきケンがいた場所にはもういなかった。 仕方なくそこにバイクを置いてホテルに入る。 それから、モンドは二度、同じことを繰り返した。 ナツコから指示を仰ぎ、ラジオの周波数を調整し、ケンのバイクを奪い、麦畑へ。 ♪サマータイム by ガーシュウィン 麦畑を訪れるのは4度目。これは確か、サマータイムという曲だ。 タカオカはこの曲で満足したようだ。そして、何かを思い出したように、ホテルに戻っていった。 モンドもホテルに戻る。 ロビーに戻ってきたモンドに、エドが声をかける。 「モンド様、映画館へ行かれてはどうですか。今日は特別上映の『トゥナイト・トゥナイト』です」 ガイドブックに書いてあったな。5階は全面、映画館だったっけ。 映画館の中に入る。まだ映画は始まっていないようだ。 ♪トロイメライ by シューマン タカオカとナツコが最前列に、隣り合って座っている。 タカオカは、あのサマータイムという曲が、二人の思い出の曲だと言う。 そして、これから上映する「トゥナイト・トゥナイト」という映画が、 二人が付き合うきっかけとなった映画だそうだ。 映画が始まってから8秒目に、スクリーンに映った二人が手をつないだ。 その一瞬が始まりだ、と。 モンドは映写室に行き、映写機を見るが、動いていない。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを見る。この映画館が載っているページ。 >そこにはこの映写機が一秒当たり何コマの映像を映し出すかという説明が書いてある。 >映写機にジャックインし、8秒目が何コマ目かを計算し、そのコマ数を入力する。 >HIT! スクリーンに、手をつなぐ二人が映し出される。 タカオカとナツコも手をつないだ。とても幸せそうだ。 そのまま映画を見る。スクリーンの中の空を飛行機が横切り、爆発する。 R-15 Prelude a L Apres-Midi d un Faune(♪牧神の午後への前奏曲) フロントにエドを呼び出したモンドは、エドに言う。 「エド、キミは何かを隠しているのか?たぶんだ、推測として聞いてくれ。 疑問は多い。まず、このガイドブックだ。 このガイドブックには、まるで、この島にオレが来る事を前提にして書かれているように感じる」 モンドは、フロントの上に積みあがっているガイドブックを指す。 「このガイドブックに、全ての暗号か隠されている。 そして、このガイドブックでオレを誘導している人間がいる。 自分では何もせず、オレを利用している人間が・・・。 ズバリ、それはエド!キミなんじゃないのか?」 「そのとおりです。当たり前の事です。そのつもりでモンド様に依頼したのです。 ワタクシの依頼は飛行機の爆発を食い止めていただくことです。 モンド様がお人好しだから、他人の探し物をさがすハメに陥るのです。 モンド様に依頼したからといって、全面的に信用しているわけではありません。 もしやのときの保険として、ガイドブックを作っておきました。全ては予定通りです」 「じゃあ何だ?オレを信用していないのか?」 「ええ、もちろん」 「最悪な男だな」 そのとき、エドの態度ががらっと変わった。 「モンドスミオ、飛行機に爆弾を仕掛けたテロリストはこのワタシだ。 まだわからないのか?恐ろしく無防備な男だな。エドなどという男はいない。ワタシの正体は――」 そこまで言うと、エドは床へ倒れた。 「支配人!」 スーが駆けつけてきた。 「ココはお任せください。ご心配なさらず、どうぞ先に進んでください」 死亡フラグ的な台詞をスーは言う。 「いいのか?」 「好都合です。ワタシが支配人になります。出世ですわ。 さあ、麦畑であの二人が待っています」 モンドは麦畑に到着した。ナツコとタカオカが待っていた。 「永遠の先にこの島の秘部があります。さあ、お行きなさい」 二人に見送られて、麦畑の奥へと進む。 そこはランデルマン・ガーデンという庭園だ。確か、迷宮になっているとか、ガイドブックに書いてあったな。 入り口に、ロボットを模した形の端末が置いてある。コイツをなんとかしなければ中には入れない。 >モンドはキャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >ランデルマン・ガーデンのところに、この端末の紹介が載っている。 >端末にジャックインし、そこに書かれた問題の答えを入力する。 >HIT! モンドは中に入る。 石で作られた迷宮を抜ける。途中で二つの端末から出された問題を解き、突破する。 最後に眼前に現れたのは、シンプルな十字路。行けども行けども、ずーっと十字路。 これはアレだ。よくコンピュータゲームによくある、特定の順番に進まないと最初に戻ってしまう迷宮だ。 モンドは迷宮を突破していく。最後の十字路の中心に、ステップが立っていた。 「モンドさん、真実は最後にあるんだ。裏の世界で会いしましょう」 なるほど。ステップが向いている方向の裏側が正解だとモンドは悟り、その方向へ抜ける。 目の前がパッと明るくなる。外に出たようだ。 ♪牧神の午後への前奏曲 by ドビュッシー 青空の下、巨石が円状に並べられている中にモンドは立っている。 その中心には、白い石で出来た、尖った形の巨石がある。 ガイドブックに載っていた、マルマレバ遺跡だ。 白衣を着た、官能的な看護婦が立っているので、モンドは話しかけた。 「こんにちは。看護婦です。リッツ様を看護してください。 女神のようなお方です。リッツ様にお会いください」 「その、リッツ様とやらはどこにいるんだい?」 「次の一日です。ご案内します」 上空の飛行機が爆発する。 R-16 Pavane pour une infante defunte(♪亡き王女のためのパヴァーヌ) 電話に起こされる。が、受話器を取ったら、切れていた。 ベッドから起き上がり、コーヒーを飲んでいると、いきなり部屋にサンダンス・ショットが入ってきた。 「モンドスミオ、探し屋だな?キミに依頼したいことがある」 「勝手なヤツだな。何者だ?」 「サンダンス・ショット。覚えていないのか?まぁいい。 本題だ。ワタシを探してほしい。そしてこの島を開放してくれ。 キミがなかなか空港に来ないから、仕方なくこちらから伺った。 キミを助けたお嬢さんと賭けをしたんだよ。 彼女はキミを信じている。キミがワタシを探し出すことを・・・。 ワタシを探し出せば、飛行機の爆破もなくなる。 「どういう意味だ?」 「ワタシ自身が爆弾なんだよ。ワタシは空港にいる。キミが見ていた爆発は警告なんだよ。 この島のプログラムを解除しろ、モンドスミオ。 使いの者がキミを導く。生還者と会うんだ。そこで真実を知れ。我々の真実を・・・」 「我々だと?」 「キミも『イレブン』のキッズだよ」 「また唐突だな。勝手に生い立ちを作るな。オレは探し屋だ。 オマエの勝手な妄想に振り回される気はない。 行動原理を支配されるのは一番嫌いでね」 「お人好しが直ったようだな。独立心が強いのは結構なことだよ。 納得した。最後にコレを託すよ」 サンダンスは、黄色い小さいものをテーブルに置いた。 それは正四面体の形のダイスだった。見えている面にはそれぞれ、5、2、10と刻まれている。 「ダイスの謎は遺跡の伝承に隠されている。登場人物は4人。そこにはキミも登場する。 キミは既に予言されてるんだ。この謎を解くことは、キミ自身を紐解くことだ。 待っているぞ、モンドスミオ。エピローグが再会の場所だ」 謎めいた言葉を残し、サンダンスは部屋から出て行った。残されたダイスを見つめるモンド。 >キャサリンを起動して、ガイドブックを見る。 >マルマレバ遺跡のページ、そこにはこんな伝承が紹介されていた。 >「昔、海の向こうから5羽のカラスを従えた男が島にやってきました。 >男が来てからというもの、島の住民には争いが絶えなくなりました。 >その状態を見かねた神様は、男の娘に2つの車輪を与えました。 >2つの車輪を回し続ける限り、島は平和になるだろう、と言いました。 >娘は車輪を回し続け、そして島は平和になりました。 >それから長い年月が経ち、娘は女になりました。 >2つの車輪を回し続ける女を憂う娘が現れました。娘は花束を手に祈りました。 >すると、神様は、車輪を回すのを止めても平和は変わらないだろうと言いました。 >女はついに、車輪を回すのを止めたが、島の平和は変わりませんでした。 >それからまた時が過ぎ、海の向こうから、鉄の箱を手にした男がやってきました。 >男は島の人々に、無の概念をもたらし、そして島はさらに発展を遂げました」 >鉄の箱を手にした男?鉄の箱とは、やはり・・・キャサリンか? >それに、この4人の登場人物、この中に自分がいるとしたら、やはり鉄の箱の男だろう。 >ダイスの上の目は、それぞれ2、5、10だ。 >2つの車輪に5羽のカラス、そして10は少々強引だが花束。消去法でいっても明らかだ。 >モンドはダイスにジャックインし、隠された底面の数字、すなわち無の概念、ゼロを入力する。 >HIT! ダイスから光が溢れる。あまりの眩しさにモンドは目を閉じる。 目を開くと、そこはマルマレバ遺跡だった。 「この光景をオレは知っている。この石の頭が墓標であることを。大地の象徴、ストーンヘッド」 中心の白い巨石を見てモンドは独り言を言う。 さて、遺跡には昨日と同じように官能的な看護婦がいる。 その隣に、車椅子に座った老女がいる。この人がリッツ様か。 「リッツ様はアナタを待っておりました」 リッツは語る。 「一番のコはいつも哀しそうな顔でね 無口で大人しくて・・・。あのコの光は消えてしまった。 二番のコは皮肉屋でね、でも心は綺麗なコだった。手癖が悪くてね、母親も苦労してたわ。 遠い場所で元気にやっているよ。いつかあのコと会いますよ。 三番のコは・・・思い出せない・・・。 四番のコはとても真面目なコ。懐かしい・・・この島に来ているのね。 五番のコは損する性格だった。このコは見えない・・・。 六番のコ?記憶がなくなったようね。 七番のコも同じ。何も見えない・・・。 八番のコは不安定だったけど・・・。このコも島に来ているのね 少しは丈夫になったのかしら。 九番のコは強いコだった。ああ元気そうね。立派な制服着て・・・。 十番のコは・・・あのコを助けて・・・。 十一番のコは・・・もうわかるわね? もうひとりのワタシと会いなさい」 モンドの視界がホワイトアウトする。 気が付くと、もとの部屋だった。 モンドは1階に下り、フロンドでベルを鳴らす。スーが出てきた。 そうか、エドは倒れたからスーが代役を勤めてるんだっけ。 「スー、キミに聞かなければならないことがある。あの夜のことだ。 あれ以来、エドも不可解なことが多かった。キミ達はどうなっているんだ?」 「モンド様、コテージで待っておられます。リッツ様が目覚められました」 「もう一人の?」 「この島の秘密を知ろうとするアナタがいけないのです。ですからリッツ様が目覚めてしまった」 「スー、キミは・・・」 「ワタシはこの島の巫女です。アナタに伝える役目だったのです。リッツ様にお会いください」 ガイドブックに書いてあったことを思い出す。 このホテルの裏手にはコテージがあって、そこに泊まることも出来るとか。 食堂を通り抜け、裏庭に出て、コテージに行く。 ♪亡き王女のためのパヴァーヌ by ラヴェル コテージの中には、あの官能的な看護婦がいた。看護婦は言う。 「ワタシは、リッツ様の言葉をアナタに伝えます。 今日は特別な日です。この島に集まった多くの人々にとって、大事な日です。 だから、とてもたくさんのことが起こります。とても信じられないようなことも起きます。 この場所でワタシと対話するのも今日という日だからこそ。 ココは不思議な場所です。この世のものではない何かが、そっと息づいているような所ですから・・・」 「墓標の伝説・・・そのことなのか?」 「ひとつお願いがあります。リッツ様の頼みを聞いてください。 最後にヒントを。かつて島を救った男は、遺跡の周りを時計回りにグルグルと回ったそうです」 コテージを出ると、側のプールからリッツが現れた。 プールをよく見ると、スロープが設けてあって、車椅子に座ったままで水に浸かれるようになっている。 「来るか?新世界へ?我の後を追うがよし。モンド、開放せよ」 リッツがそう言うと、また視界がホワイトアウト。 気が付くと遺跡に立っていた。 モンドは、看護婦のヒントの通り、白い巨石の周りをグルグルと時計回りに走った。 3周ほどすると、音がして、巨石の表面に直径30cmぐらいの丸い紋章が現れた。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >マルバレバ遺跡の壁画の写真がある。紋章にジャックインし、壁画から読み取った数字を入力する。 >HIT! 地響きを立てながら、白い巨石がせり上がっていく。 やがて巨石は、地表にその姿をすっかり現した。 それは数十メートルの石の巨人だった。地面から出ていた部分は頭だったのだ。 巨人は頭部の先をエレキ島の方向に向け、ビームを発射する。 エレキ島の岩肌に穴が開いた。 巨人は次に、頭部を上空に向ける。そこに飛行機が飛来する。巨人はビームを打ち、飛行機は爆破される。 R-17 Kill the Past(「過去を殺せ」(シルバー事件のキャッチフレーズ)) 目を覚ますと、ベッドの側にスーが立っている。 「モンド様、今日は特別な日です。ご用意をなさってください」 「また唐突に何だい?」 「お気づきなのでしょう?この島の事態を」 「ああ、なんとなくね」 「支配人も消えました。ヘンだと思いません?本当に鈍感ですね」 「鈍感なのはキミたちだよ。現実の出来事を表面でそのまま受け取るのは、人として危険だ。 物事には裏づけってのがあるんだ。人が話すこと、人が起こすこと、 それは真実にとって、ほんの一つに過ぎないんだ。だから、キミは受け取りすぎるんだ。 物事を複雑に考えている」 「では、これまでモンド様が体験したこと・・・どう説明なさるんですか?」 「説明が必要かい?オレはそうは思わない。真実はもっと単純で身近にあるんだ。 それはひょっとすると、たった一人の個人的な都合かもしれない」 「誰なのですか?」 「そんなことはどうでもいいじゃないか。時間が答えを教えてくれる。 だからオレはゴールに向かうよ。もう少しだろ?」 「ええ、近づいています」 「スー、キミの正体、キミの考えていること、キミの立場・・・。 そんなことはどうでもよくなった。オレは仕事を通じて生きている。 人の探し物を探すことで、生かされている。 エドから依頼された仕事が、オレがココにいる簡単な理由なんだ。 だから空港に向かうよ。それがオレの仕事だから」 それを聞くと、スーは満足したようだ。 「301号室へ・・・未来が開きます」 スーが言うとおり301号室へ行く。 テーブルの上にテープレコーダーが置いてある。 スイッチを入れると、「エレキ島が待っている」と言う言葉を再生した。 官能的な看護婦が立っていることに気付く。 「今日は特別な日です、モンドさん。リッツ様から大切なお話があります」 モンドはコテージへ向かう。 コテージではリッツが待っていた。リッツはモンドに語りかける。 「ココで起きていることは、全て夢みたいなものかもしれない。 でも、一番大切なのは、それが誰の夢かということ。 誰の夢なのかがわかれば、それは現実の問題になる」 「じゃあ、誰の夢なんだ?」 「それを探しに来たのでは?」 「オレはゲートを開けに来たんだ」 空港に向かう道路の途中にある、いつも閉まっているゲート。 「その方法は教えます。でもその前に、扉を開くことに、 どんな意味があるのかをアンタは知らなければならない」 また長台詞かと思いながらモンドは話を聞く。 「島の伝説の話は何度か聞かされたことでしょう」 あの6羽のカラスを従えた男とか、2つの車輪を回し続ける女とか、そんな話。 「それは半分はウソで半分は真実。ワタシは伝説の時代を生きた経験があるからわかる」 「伝説の時代?」 「それは遠い昔のこと。ワタシはあるマイノリティな部族に属していた。 ワタシたちは放牧民族で、飼っていたのはある特殊な動物だった。その動物は呪われていた。 その動物のせいで、他の部族からワタシたちは襲われ、それが習慣化していた。 そして、あの男が現れた。男は大昔のある日、ワタシたちを襲い、呪われた動物を手に入れた。 そのときから、男の眼に神が宿った。その男の息子が今、この島に来ている。 アンタはやがて息子に会うだろう」 そいつが301号室に宿泊しているヤツだな。 「どんな男なんだ?」 「会えばわかります。片眼が銀色をしているから」 「カムイという男か?」 「その名前も男の一部。銀色の眼を持っていると、生命を活性化させる力が働いて、 不老不死さえ手に入れることが出来る。つまり、神」 「御伽噺だな」 「だからこそ、この島にはこんなばかげたことが起きている」 「ここで起きていることは、銀の眼を持つ男の夢なのか?」 「そうかも知れない」 「その男がこの島の秘密を知っているのか?」 「知っている」 「では、どうやればゲートは開く?」 「男がゲートを開く。あとはアナタが進むだけ・・・」 「エレキ島か」 「この地の混乱をアナタが紐解くのです。それが宿命です」 「大役だな。オレは聞いてないぞ」 パワービーチからエレキ島を目指す。昨日、巨人が岩肌に開けた穴に入る。 そこは洞穴になっていた。 通り抜けた先は、船の甲板だった。 ガイドブックに書いてあったな。これは、沖合いに浮かぶ座礁船だ。 船のへさきにサングラスの男がしゃがんでいる。傍らには、灰色の犬のような動物を従えている。 「待っていたよ、モンドスミオ」 「アンタは?」 「名前は過去に捨てたよ。オレは傍観者だ。楽しかったぜ、モンド君の大冒険は・・・」 「食えない男だ。用があったから呼んだ・・・違うのか?」 「まあ落ち着けよ。このシナリオは説明が多いんだ」 「仕方ない。結末の前は大概こういうモンだ」 「そうだな。・・・スミオ、スミオという名前は懐かしい。 昔から頑固なオッサンがいてな。まぁいろいろ、巻き込まれたというか、当事者というか・・・。 そのオッサン、ホモでな、若い同僚に執着して、大変だった」 「ホモじゃないだろ」 「オレには理解できない感情だ。その若いヤツの名前がスミオだ」 「苗字は?」 「コダイだよ、コダイスミオ・・・。まぁ、モンド君は知らなくて当然だよ。 そろそろヤツも動き出すだろう」 男はサングラスを外す。左目が銀色に光る。 「その眼は・・・」 「そう、オレは銀の眼を持つ男ってヤツだ。おかげで、ややこしいことがいろいろ起きている」 「婆さんはこう言った。眼に神が宿った男だと」 「神じゃなくてな、コイツは悪魔だよ。あるいは疫病神」 「アンタなら、この島の秘密をしていると聞いた」 「何が知りたい?」 「ココは何だ?」 「廃工場さ。ココであるモノを生産していた。サンダンスの種族が昔飼っていた動物だ」 「サンダンスって?」 「婆さんの名前だ。 その動物からは、時々貴重なものが取れるんだ。それが銀の眼だ。 どういう仕組みになっているのかは、俺も知らない。 その銀の眼が危険なものであることは確かだ。だが、工場は、今はない」 「一体、その銀の眼ってのは・・・」 「世界中の金持ちが、ノドから手がでるほどに、欲しがっている。 まず、自分の目をエグってだな、そして銀の眼をはめ込む。 すると、力がみなぎってくる。つまりは、死ななくなる。 だが、同時に銀の目に支配されることにもなる。それが、銀の眼の神懸り的な力であり、 クソッたれな呪いでもあるのさ。それがこの島で作られているのを知って、この島に来た。 すると、アレが起きた。時が狂った」 「アンタなのか?」 「どうやら、それを望んだのは、オレ自身らしいね。 ・・・オレが知ってるのはこんなとこだ。 同じ場所に異なる銀の眼が2つ以上存在すると、神の業が発動される。 これがこの状況ってワケだ。 アンタに依頼したい。時を戻して欲しい。これは、心からのお願いだよ」 「しかし、どうやって?」 「空港に最後の生き残りがいる。ココいたヤツの、おそらく最後の一匹だ」 「そいつを殺るのか?」 「銀の眼をエグり出す。そうすれば、銀の眼は一つになる」 モンドは思い出した。銀の眼を持つ男、この男は「モリシマトキオ」だ。 「狂ってるよ、モリシマトキオ」 「時間を戻してくれ。好きにやれよ。遠慮するな」 >キャサリンを起動する。ガイドブックを見る。 >後ろの方に「ロスパス日記」という連載が載っている。 >筆者は「カメタロウ」となっているが、これはトキオのペンネームだ。 >「ロスパス日記」を読む。連載終了の挨拶から始まった。 >「アノ出来事」が起こった次の日、1999年12月31日からこの日記を書き始めたという。 >モンドがトキオに会うであろうことも書かれている。 >最後はこんな言葉で締められていた。 >「今日、オレはカントウへ帰る。 >彼によってもたらされる、崇高な手土産を片手にね。 >愛すべき父への、ささやかなプレゼントだ」 >「アノ出来事」・・・トキオが銀の眼を奪って逃げた。 >トキオの銀の眼にジャックインし、「アノ出来事」が起きた日付を入力する。 >HIT! 遠くでゲートが開いた。 「元気でやれ」 トキオはモンドに声を掛ける。 「ああ、必死で生きるさ。さあ、最後の一日に導いてくれ」 トキオの背後の青空を飛行機が横切る。飛行機が爆発する。 R-18 An American in Paris(♪パリのアメリカ人) 最後の電話が鳴る。いつものように、ベッドに横たわりながら受話器を取る。 「おはようございます。最後の一日がやってまいりました」 「エド、キミは・・・」 「お話があります。フロントまでお越しください」 フロントには、エドの他に、スーとロックもいる。モンドはエドに言う。 「エド、キミはテロリストなんだろ?ココで何してるんだ? オレはこれから空港へ行くのに、最後の敵がいなくていいのか?」 「実は、その通りなんです」 「マジで?」 自分で言ったことなのに、モンドは驚いている。エドは話し始める。 「この島は人工島なのです。我々は島の管理者です。人の出入りを見張るものです。 島の地下層は巨大プラントになっていて、あるモノを養殖していました・・・ハイエナです。 先進国首脳機関『エルボー』の管理下にあるのが、このロスパス島なのです。 国際動物保護団体の目から逃れるため、生態系の破壊されたこの土地を選んだのです」 「さっぱり意味がわからない」 エドに代わってスーが話す。 「簡単に言いますと、支配人は人工島の実体を知り、全てを破壊しようと計画したのです。 そのオトリにモンド様を呼びました」 「オレへの依頼はウソなのか?」 「いいえ、それは本当です。いえ、本当になってしまった」 エドが答えた。 「テロリストは爆破を阻止するために、空港から爆弾を奪い、飛行機に仕掛けました」 「それで、毎回飛行機が爆発するのか?」 「そのとおりでございます」 「それは誰なんだ?あのサンダンスという男か?」 「それはわかりません。モンド様、お願いです。この島を爆破してください」 「いいよ。最後の仕事だからね。今回は本当に空港に行けそうだ。みんな元気で・・・。 ガイドブックも必要無い。返すよ」 モンドはキャサリンからガイドブックを取り出し、エドに返した。 「ダイナーの先に、お車が用意してございます。モンド様、気をつけていってらっしゃいませ」 今日のエドはなんだか違って見える。 「モンド様、花は太陽と雨で生きています」 モンドは昨日自分が言ったセリフを思い出した。 オレは仕事を通じて生きている。 人の探し物を探すことで、生かされている。 エドから依頼された仕事が、オレがココにいる簡単な理由なんだ――。 「『花と太陽と雨と』。オレのことだったんだな」 この島での出来事、それは全てゲームだった。壮大なR.P.G.のようなものだ。 島に着いたときに、探し屋のモンドスミオという存在が誕生した。 そして、島を離れるとき、モンドという存在は消える。 では、モンドではなくなったとき、何になるのだろう? ダイナーにはマチがいた。そして、ダイナーの先に停めてあるギグスの側にはケンがいた。 ふたりに別れを告げ、モンドはギグスに乗り込む。 空港に着いた。ギグスを路上に止め、中に入る。 ♪パリのアメリカ人 by ガーシュウィン モンドは導かれるように、2番ゲートにたどり着く。 もうすぐ搭乗手続きの時間だと係員が言う。 モンドはトイレに行っておくことにした。男子トイレの、個室に入る。 すると、隣の個室からもう一人のモンドが出てきた。まるでドッペルゲンガーのようだ。 もう一人のモンドは2番ゲートへ向かう。すると、男女ふたりの係員は彼に銃を突きつける。 係員に変装していたコシミズとレミーだった。 「そこまでよ!」 「動くな!両手を挙げて!」 そこへ白いワンピースの少女がやってくる。クサビトリコ。トリコは彼に話し掛ける。 「アナタは誰なの?」 「ボクは、ボクじゃなかった」 「アナタもカムイだったんだ」 「カムイとは、何者なんだ?」 「戦略兵器よ」 「役割は?」 「人に紛れて、人を殺める、それがカムイ」 「ボクも兵器なのか?」 「そうよ。でも人間なの」 「ボクはどうすればいい?」 「大丈夫。アナタを解除する人が戻るから。そのためにワタシはココに来た」 「ボクを救いに?誰がボクを?」 「パパの仲間よ。救世主が現れる瞬間よ。もう少し待っててね」 モンドはトイレの個室から出て、2番ゲートへ向かう。 自分そっくりのもう一人の自分と会う。 モンドがふたり現れたので、コシミズとレミーは動揺している。 「そのまま動かないでくれ。オレが片付ける問題だ」 「誰なの?」 レミーがふたりに訊く。 「モンドスミオだ」 「ボクもモンドスミオだ」 「頭がおかしくなる。まるでバグね」 モンドには、自分が何をすべきかわかっていた。 「全ての始まりがここに集う。開け!解説書の数字よ!ねじれた世界を修正せよ!」 モンドがそう言うとおり、あなたは解説書を開く。 そこにはあなたの誕生日、モンドの誕生日がが記入されているはずだ。 >モンドはキャサリンを起動する。これで最後だ。 >モンドは自分の左目にジャックインし、誕生日を入力する。 >HIT! もう一人のモンドは解除され、消えた。 気が付くと、そこにはサンダンス・ショットが立っていた。サンダンスは言う。 「モンドスミオ、この島は我々の島だ。後の処理は任せてくれ。 飛行機に乗れ、まもなく爆発する」 「何を解除した?」 「キミの役割だ。モンドスミオの役割。 我々はこの島の原住民だ。特有の遺伝子を持ち、生まれた。 同一人格の共有だよ。そして、キミだけが別の種だ。だから、最後の役割をキミに託す。 この種を維持してくれ。そして、後の世代に引き継げ」 「何を言っている?」 「キミだけが生き残るんだ。我々の記憶をキミに捧げるよ。この記憶を忘れないでくれ。 そして、いつの日か、最後の種であるステップに伝えてくれ。我々の記憶を・・・」 「ステップが?」 「キミの運命を支配する男だ。・・・さらばだ、モンドスミオ」 「島とともに眠るのか?」 「それが島の人間の誇りだ。急げ!モンドスミオ!爆発まで間もない」 「サンダンス・・・オレが継ぐ」 「託しているよ。ロスパス島はココにある。『花と太陽と雨と』に・・・」 モンドは2番ゲートを通る。 「この島ともお別れか。さらば、万感のロスパス島。この光景を決して忘れない。人々の思い出も」 モンドは飛行機に乗り込む。他に乗客は一人だけ。ピーターだ。 「ピーター、この飛行機はどこへ向かうんだ?」 「目的地はリアルな世界だ。この島はリアルじゃなかった」 最初の約束通り、ピーターはモンドに感想を聞く。 「モンド、楽園とは?」 「楽園とは、世界と離れる場所だ」 「イマイチだな」 飛行機は離陸する。窓の向こうのロスパス島はもう見えなくなった。 「オラが探していたのはオマエだ。迎えにきたぞ、スミオ」 「誰だ?」 スミオはピーターに不審なものを感じた。 「わかっちゃいねェな、何もわかってねェ。島なんてなかったんだ。モンドという人間も・・・。 「どういう意味だ?」 「人工島だったんだ。爆発ってのはウソだ。利用されたんだ、スミオ。オマエの記憶をな」 「記憶?オレは誰なんだ?」 「お人好しだな。また信じた。まぁ、ゆっくり教えるとするわ。しかし、恩人を忘れるとはな。 この着ぐるみは暑くてたまらん」 ピーターの着ぐるみから、「中の人」が出てきた。見覚えがある男だ。 「オマエの記憶はこんがらがってる。そのうち思い出すわ。 黙って留置所にいりゃいいのによ。何で出てくるんだ、まったく・・・。 まだ事件は終っちゃいねェぞ。己だよ、スミオ」 その漢字の使い方、覚えてる。クサビテツゴロウ。懐かしいな。 もうモンドスミオではない。モンドの役は終ったのだ。 役にハマり過ぎてしまって、本来の自分をすっかり忘れてしまっていた。 ―行政無法自治区域マイクロネシア諸島ロスパス島は ―ハイエナ養殖の巨大プラントとしての役割を終え姿を隠した ―世界有数の秘密結社組織・先進国首脳機関『エルボー』は ―見事ロスパス島の隠蔽に成功した ―銀の目を持つ男・モリシマトキオが持ち出したハイエナによって ―『エルボー』の『ネクストマスプロ』を再生させた ―『エルボー』は『ネクストマスプロ』の着手と共に社会から消失 ―その活動を停止させた ―同時に『エルボー』最高執行責任者エド・マカリスターも消息を絶った ―モンドスミオの長い一日が終わり ―コダイスミオの新しい一日が始まる ―SEE YOU AGAIN あなたは、このゲームのこと、どう思った? 答えはあなたの中にある。あなたは「花と太陽と雨と」を覗いていただけ。 あなたはここにはいない。あなたは隣人。 もうわかるでしょ? ※♪が付いているのはクラシックの名曲たち。各章(?)の副題にもなっていますが、 アレンジされてゲーム内でBGMとして使用されています。 本文中に出てくる♪は、その曲が使用されている場面です。 ※02と06の副題が一緒なのは誤字ではありません。
https://w.atwiki.jp/storytellermirror/pages/1397.html
―こんな言葉を知っているか。「花と太陽と雨と」。 ―答えはカムイの中にある。カムイはここにいない。カムイは隣人だ。 ―カムイは覗いてるだけだ。わかるだろ? ――『シルバー事件』より ※この作品にはシルバー事件との繋がりが示唆される部分があります。つまり、シルバー事件の続編です。 R-00 Welcome to the Flower,Sun,and Rain ♪キューバ序曲 by ガーシュウィン 南国の日差しの中、海の上のハイウェイを水色のクーペが走り抜ける。 やがてクーペはトンネルに入る。クーペを運転しているのは、黒スーツの色男だ。 彼はあなた(プレイヤー)に語りかける。 「さて、ザックリ説明しようか。オレの名前はモンドスミオ。 職業はサーチャー。サーチャーってのは『探し屋』だ。依頼がありゃなんでも探す・・・そんな仕事だ。 この車はトヨタセリカだ。愛称はギグス。愛車に名前をつけるのはヤンキーかオレだけだ。 オレがこんなに急いでいるのは仕事に向かっているからで、トイレに急いでいるからではない。 ホテル『花と太陽と雨と』・・・ この変わった名前のホテルから依頼が舞い込んだ。 何が待ち受けているのか見当もつかないが、オレの辞書にロストという言葉は見当たらない。 完璧な仕事をお見せしよう。さあ 冒険の始まりだ」 トンネルを抜け、島に到着する。空港をぐるりと廻る道を通り、駐車場に着いた。 モンドは銀色のアタッシュケースを片手に車を降りる。 「どこかに代理人がいるはずだが・・・」 トラックの側に代理人がいた。 「アンタが代理人か?」 「オラはピーター。よろしく頼むよ」 ピーターは太っていて、だらしなくヒゲを生やした男だ。 「さあ、案内してくれ」 「了解だ。認証手続きをしてもらう。オラにジャックインして誕生日を入力してくれ」 ピーターの左眼が光った。モンドはあなたに語りかける。 「さて、ドップリ説明しようか。さっきも説明した通り、オレの仕事は探し屋だ。 どうやって探すか?それはこの万能電算解除機『キャサリン』、コイツが全てうまくやってくれる」 モンドは手にしているアタッシュケースをチラリと見る。 「キャサリンを使って暗号を入力すると、なんでも解読できる。それがキャサリンだ。 何故キャサリンか?仮に『テツゴロウ』だとしたらオレは仕事をしなくなるだろう? さあ、誕生日を入力してみるか。ヒントは、解説書の12ページを見てくれ」 あなたは「花と太陽と雨と」の解説書の12ページを見る。するとそこには4つの白い四角が並んでいる。 傍らには、「モンドの誕生日はあなたと同じです。忘れないようにここに書いておいてください」と書かれている。 「キャサリンの操作は、慣れれば簡単だ。まずジャックを接続する。 その次はダイヤルで数字を選んで入力だ。ガチャガチャ動かしていけばいつか慣れるだろう。 いくぞ、キャサリン!謎はこの男に隠されている」 モンドは高らかに決め台詞を言う。 「旅は果てなく続き、獲物は魂を守り、狩人は真実を狩る。 時に探すだけの鎮魂歌。真実は一つ。仕事だ、キャサリン!探索はここに集う」 >キャサリンを開き、ジャックを取り出してピーターの眼に差し込む。 >差し込むと言っても実際にジャックが刺さっているわけではない。 >ジャックと対象物の間はイメージのケーブルで繋がっているのだ。 >そして0~9の数字をダイヤルで選んで、中央のボタンを押すと、一桁ずつ入力されていく。 >キャサリンはスパイ映画みたいな雰囲気がする機械だ。あなたは自分の誕生日を入力する。 >HIT! ピーターの眼の光が消えた。 「モンドスミオに間違いないようだ。ようこそロスパス島へ。歓迎するよ」 「さあ、ホテルに連れて行ってくれ」 「この島は環境保護地域だ。一般車は通行できない。オラのトラックに乗れ」 「オレのギグスは?」 ギグスはこの駐車場に置いていくしかない。 ♪アラベスク 第1番 by ドビュッシー ピーターのトラックは、ホテルの門の前に着いた。モンドはトラックから降りる。 ピーターはモンドに声をかける。 「仕事の成功を祈ってるよ。そうだ!仕事が済んだら楽園の感想を聞かせてくれ。アディオス!」 トラックは走り去った。 モンドはホテルまで続く道を歩く。両側にはパームツリー。アーチ型のゲートをくぐり、 人工池に架かる橋を過ぎると、ようやくホテルの前だ。 ホテルは四角ではなく、奇妙な形をしている。 こんなのどかな島には似つかわしくないくらい現代的な外観だ。 ♪ボレロ by ラヴェル ロビーに入ると雰囲気は一変する。木を多用した落ち着いた雰囲気の内装。 フロントへ行くと、そこには白いポーターの制服姿の男がいる。 「モンド様でいらっしゃいますね?お待ちしておりました。ようこそ、『花と太陽と雨と』へ。 当ホテル支配人のエド・マカリスターでございます」 「アンタがクライアント?」 「左様でございます。あっ、モンド様、どうぞこのガイドブックをお持ちください」 エドは本を差し出す。 表紙には「ザ・ロスパス 幻の楽園ロスパス島を歩く」と書かれている。 モンドは本を受け取ってパラパラとめくってみた。この島の観光名所などの説明が載っている。 このホテルのことも載っている。このホテルはロスパス島唯一のホテルらしい。 そして、この建物は五芒星の形をしているそうだ。 1階は食堂とロビー、2階はバーと客室、3階と4階は全て客室、5階は映画館、屋上にはプールか。 「ありがとう。助かるよ。キャサリンの中に入れておく」 「お部屋の方へご案内させていただきます」 エドに連れられて廊下を歩く。 「モンド様、ロスパスの名前の由来はご存知ですか?」 「いや・・・」 「そうですか・・・。ロスト・・・失う、パスト・・・過去」 「過去を失う?」 「左様でございます。過去を失った島なのです」 「いわれがあるのかい?」 「ええ、磁場が狂っています。時間を失っているのです」 「よくわからんね」 「ある時間が永遠に続くのです。モンド様も次第にお分かりいただけると思います」 部屋の前に着いた。402号室。 「さあ、エド、じらさないで話してくれ。依頼ってのは何なんだ?」 「実はモンド様、この島はテロリストに狙われています」 「何だ、そりゃ?無茶苦茶な依頼だな」 「それを承知で頼んでいるのです。実は飛行機に爆弾が仕掛けられています。それをモンド様に・・・」 「探せと?」 「ありがとうございます。アナタはこの島の救世主です」 「救世主?マジで?・・・いいね、救世主っていう響き。わかった。オレに任せてくれ」 「頼もしいかぎりです、モンド様」 エドは402号室の扉を開け、頭を下げる。 「モンド様、こちらでございます。どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」 R-01 Gymnopedie#1(♪ジムノペディ第1番「ゆっくりと悩める如く」) モンドはベッドに寝ている。サイドテーブルの電話が鳴る。モンドは寝ぼけながら電話に手を伸ばす。 モンドの手が2、3回空を切った後、電話を探り当て、受話器を取る。 「おはようございます、モンド様。朝食の用意が出来ております。フロントまでお越しください」 エドからのモーニングコールだった。モンドは電話を切り、起き上がる。 ♪ジムノペディ第1番 by サティ 部屋の中のソファで優雅にモーニングコーヒーを飲む。 飲み終わってから、部屋を出ようとするが、なぜかドアが開かない。 仕方なく部屋に戻ると、部屋の中は一変していた。 そこにあったはずのベッドや応接セットは無く、 椅子がひとつと、それを撮ろうと狙っている、三脚に取り付けられた年代物のカメラだけがあった。 モンドは逃げようと思ったが、やはりドアが開かない。 壁の亀裂が目に入った。向こうが覗けそうなので覗いてみると、エプロン姿の女性がが立っているのが見える。 「モンド様、その部屋は呪われています」 「キミは誰だ?」 「ようこそ、ホテル『花と太陽と雨と』へ。メイドのスーと申します」 スーは、この部屋は開かずの間だと言う。 「スー、カメラと椅子があるんだけど・・・」 「モンド様、ガイドブックをご覧下さい。そんな写真を見たことがあります」 >モンドはキャサリンを開き、ガイドブックを見る。 >とある写真家を紹介してあるページ。その写真家の作品がいくつか載っている。 >その中に、椅子に座った女性が写っている写真がある。 >その写真に併記された、フィルム感度・絞り・シャッタースピード・・・その数字がヒントだ。 >キャサリンのジャックをカメラに差し込み、数字を入力する。 >HIT! 顔を上げると、部屋は元通り、何ごともなかったかのようだ。 スーが立っていた。 「モンド様のお部屋係をさせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。 モンド様 この部屋からの景色はバツグンです」 「ベランダか?」 モンドはベランダに出た。 「いい眺めだ、スー。ほら、飛行機が飛んで行くよ」 そして、その飛行機は、爆発した。 ================================== ♪サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー by ガーシュウィン 白いワンピースの少女が、「花と太陽と雨と」の一室のベッドで昼寝をしている。 彼女はクサビトリコだ。 ベッドの側を、ピンク色のワニが通り過ぎ、部屋を出て行く。 トリコは目を覚まし、辺りを見回す。 「クリス~!クリスチーナ!!・・・いない。探さなきゃ」 あのワニはクリスという名前らしい。 トリコはベッドを降り、部屋を出る。トリコが寝ていたのは405号室だ。 廊下で、怪しげなロン毛の男とすれ違う。 「今の、悪いやつ・・・」 トリコはそう呟いた。クリスの名を呼びながら、廊下を歩く。 そして、トリコは402号室の前にたどり着く。 「ココって・・・」 ================================== R-02 Air in G(♪G線上のアリア) ベッドの側の電話が鳴る。寝転がったままでモンドは受話器を取る。 「おはようございます」 「ああ、エドか。いつの間に眠ってしまったんだ・・・?」 電話を切り、起き上がる。ソファでコーヒーを飲む。 「いつの間にか寝てしまった。ヘンな夢も見たな。オレの目の前で飛行機が爆発していた。 なんだったんだアレは? そういえば、エドが飛行機に爆弾が仕掛けられているとかなんとか言ってたっけ?」 首を傾げるが、とにかく仕事だ。モンドはキャサリンを片手に立ち上がる。 そのとき、電話が鳴り出したので、受話器を取る。 「モンド様、ステファン・シャルボニエ様からお電話です」 「誰だ?」 「404号室にご宿泊のお客様でです。おつなぎします」 「インスピレーションについて、キミは何を知ってる?」 挨拶も無しに、ステファンとかいう男はいきなりそう言った。 「ボクはステファン。ホテルに缶詰で論文を書いてるんだ。専門はシステム工学でね」 「それで?」 「キミに頼みがある。プールサイドまで来てくれないか?」 それだけ言って切れた。 部屋を出て、廊下を歩き、階段へ行く。 このホテルにはエレベータはなく、上下の移動は階段が一ヶ所だけ。 しかも、人もすれ違えないほどの狭い階段があるだけだ。 4階から下りる方向に、エプロン姿の年配の女性が立っていた。 「これは402号室のモンド様。メイドのマチです」 4階と3階の踊り場を見下ろすと、ワゴンが横倒しになっていて、とても通れそうにない。 手伝おうかとモンドは申し出たが、マチは断った。 「しかし、これではフロントへ行けないな・・・」 「支配人でしたら屋上のミニバーにおります」 ステファンの目論み通り、屋上に行くことになりそうだ。プールは屋上にある。 階段を昇り、5階を通り過ぎ、屋上へ。 ♪G線上のアリア by バッハ こうしてみると、本当にこの建物が五芒星の形をしていることが解る。 屋上の手すりはやたらと低い。簡単に落ちてしまいそうだ。 プールサイドの電話が鳴っているので、取る。 ステファンの不機嫌そうな声が聞こえてきた。 「次の段階に進もう。ヤヨイという女性に声をかけてくれ。プールサイドにいるチャーミングな女性だ」 プールサイドのビーチベッドで、黒い水着の女性が寝ていた。 モンドはヤヨイに声をかける。 「お嬢さん」 「何かしら?」 「ステファン・シャルボニエという人物を知っているかい?」 「退屈な質問だけど、『YES』よ」 しばらく話していると、ヤヨイの携帯電話が鳴り出した。 ヤヨイはモンドに携帯電話を差し出す。 「ステファンからよ」 携帯電話を受け取る。 「ラストパスはエドが出す」 「もううんざりだよ。アンタ、何様のつもりなんだ」 「何って、これはゲームだよ。キミは答えを探し出せばいい。だって探し屋だろ?」 電話が切れた。 「アナタが噂の探し屋さんってワケね。・・・ねぇ、さっきから気になってるんだけど、 そのアタッシュケース似合ってないわよ」 ヤヨイはキャサリンを指差す。 「まったくだ。オレもそう思う」 プールサイドを通り過ぎ、ミニバーに向かう。 「これはモンド様」 エドがお辞儀をする。 「エド、聞いていいかい?ステファンはサッカーが好きなのか?」 「好きではなく、中毒かと・・・。モンド様、ガイドブックにサッカーを紹介したページがあります」 「ありがとう、エド」 それからモンドは、ヤヨイとエドの元を往復し、サッカーについてのヒントを集める。 答えが解った。モンドは404号室に向かう。鍵はかかっていなかった。 缶詰になっているというけど、部屋にステファンはいなかった。 その代わりに、テーブルの上にサッカーボール型のケースが置いてある。 >モンドはキャサリンを起動し、ケースにジャックインする。 >ガイドブックのサッカーを紹介したページがある。世界の各チームの基本フォーメーションが載っている。 >ステファンが好きなフォーメーション、それを一桁ずつ入力する。 >HIT! ケースが開き、中から携帯電話が出てきた。着信ランプが光る。 「このゲームはどうだった?『これだ!』と思った瞬間は?どんな気持ちがした?」 電話の向こうのステファンの態度は変わらない。 「インスピレーションのことが聞きたいのか?」 「そうだよ」 「答えは、こうだ・・・『自分でシュートしてみるんだな』」 「何だって?今、何て言ったんだ?」 モンドは携帯電話をケースに戻し、蓋を閉め、窓に向かって蹴った。 ケースは真っ直ぐに空を飛んでいく。 そして、飛んできた飛行機に当たったように見えた瞬間、飛行機は爆発した。 ================================== 4階の廊下を走っているトリコ。ワゴンを押しているマチと出会う。 「トリコ様、廊下を走ってはいけませんよ」 「でも、クリスを捕まえないと・・・。今度から、小走りにするね。 それならいいでしょ?」 「大目に見ますよ」 ================================== R-03 From the New World Symphony No.9 in E minor, Op.95 (♪交響曲第9番ホ短調作品95『新世界より』) 電話に起こされる。モンドはコーヒーを飲みながら考える。 「この島に来てからというもの、とつぜん眠くなる。眠くなる前の記憶があいまいで思い出せない・・・」 コーヒーを飲み終え階段を下り、3階にやってきた。 2階へ降りる階段の前で、熱心にスクワットをしている覆面の男がいる。 この狭い階段で、こんな風に立ちふさがれるともう降りられない。 居合わせたエドに事情を聞く。 この男はエル・クラッシャーという、日本のプロレスラーなのだそうだ。 エルは今スランプなので、師匠に認められるよう、こうしてトレーニングに励んでいるそうだ。 どうにかならないのかと言うと、エドは、それならエルの部屋、304号室を訪ねてみては、とのこと。 エルのマネージャーのミスターパイレーツに話を聞けば、あるいは。 実は、ミスターパイレーツの正体はエルの師匠、エル・ソウルファイトなのだそうだ。 エドは、屋上にいますからと言って階段を上がっていった。 モンドは304号室へ行く。 ♪交響曲第9番ホ短調作品95『新世界より』 by ドヴォルザーク エルの部屋にはプロレスの雑誌が置いてあり、テレビではプロレスの試合のビデオが流れていた。 勉強熱心だなと感心したが、ミスターパイレーツの姿は見当たらない。 屋上へ行くと、エルとは違う覆面の男がいた。ミスターパイレーツ、その正体はエル・ソウルファイト。 ミスターパイレーツはモンドに言う。 「エルに、スランプを抜け出せるきっかけを探してやってほしい。あの日の事を思い出せば・・・」 そうだ、エルに闘魂を注入してやろうじゃないか。 >モンドはエルの前でキャサリンを起動する。ガイドブックの、ミスターパイレーツのインタビュー記事。 >そこで彼はエルのことも言及している。エルが初めてメインを飾った試合の日付のことを。 >エルにジャックインし、その日付を入力する。 >HIT! エルは自信を取り戻したようだ。 エルは屋上で、エル・ソウルファイトに稽古をつけてもらうことになった。 エル・ソウルファイトが掛け声とともに右手を天にかざすと、そこへ飛んで来た飛行機が爆発した。 ================================== クリスを追って、トリコは3階に降りる。 エルがスクワットをしており、通れない。 トリコはエルに話し掛けた。 「クリスがいなくなったの。知らない?ピンクのワニなの」 「うーん、ごめんな。わからないよ」 「お邪魔しました。お仕事頑張って!」 「おう!」 ================================== R-04 S Wonderful(♪ス・ワンダフル) モンドは2階に下りてきた。1階へ下りる方に、黄色い服の女性が立ちふさがっていて、通れない。 「『吸血鬼』よ!早く退治して!吸血鬼を倒すための武器を・・・」 女性はわけの解らないことを喋りだした。どうやら、酔っ払っているらしい。 確か、2階にはバーがあった。行ってみることにする。 ♪ス・ワンダフル by ガーシュウィン バーには、金髪をツンツンに立てた男が座っていた。男はモンドに話し掛ける。 「やあ、ムッシュ・モンド、楽しんでいるかね」 「その声は・・・。アンタがステファンか?」 この男がステファンだった。 「とある女性に、吸血鬼を倒してくれと頼まれたんだが・・・」 「吸血鬼なら、銀の銃弾だな」 「そいつはどこで手に入れるんだ?」 「ま、バーテンにでも聞いてみたまえ」 ステファンにはぐらかされた。 カウンターの向こうに、白い制服を着た、トレッドヘアの男が立っている。 モンドの顔を見ると、男は頭を下げる。 「いらっしゃいませ、モンド様。バーテンダーのロックです。なんなりとお申し付けください」 「銀の銃弾を探しているんだが・・・」 「なるほど。『シルバー・ブリット』ですか」 「そりゃいったい何なんだ?」 「カクテルの名前です。モンド様、お作りしましょうか?」 「いや、オレじゃなく、階段の女性に・・・」 「それはきっとマリア様ですね。では、マリア様に」 「ああ、頼むよ」 ロックはシェイカーを取り出してカウンターに置くが、そのまま固まっている。 どうしたのかとモンドが訊ねると、ロックは、カクテルが作れないと言い出す。 「やれやれ、また厄介だ。これもオレが探すのか?」 「モンド様、お願いいたします。このシェイカーに、配合していただければ作ることが出来ます」 「ああ、やってみるよ」 >モンドはキャサリンを起動する。ガイドブックに、このバーを紹介したページがある。 >そこにオススメのカクテルレシピがいくつか紹介してある。シルバー・ブリットもある。 >シェイカーにジャックインする。 >ドライ・ジン、キュンメル、レモン・ジュース、その3つの材料の割合を入力する。 >HIT! カウンターの上には、銀色に輝くばかりのカクテルがあった。 「さあ、あの女性に差し上げてくれ」 「かしこまりました」 ロックはカクテルを盆に載せ、バーを出て行った。 しばらくするとロックが帰ってきた。 「モンド様、残念な結果に・・・。マリア様のお口に合わないようで」 「なんて女だ」 モンドはマリアの元へ行った。 「夏・・・そうよ、夏を感じたいの」 マリアはそう呟いている。 モンドはバーへ帰る。ステファンが話し掛けてきた。 「モンド君、禁断の果実はキミの口には合わない」 「アンタとは関わりたくない・・・本気で思うよ」 「ヒントだよ、モンド君。フラグを立てるためのヒントだ。 フラグは美しい・・・。1をフラグに見立てて誰がそう名付けたのか・・・。 きっと、その人物は詩人に違いない。 ・・・デジタルゲームにはフラグが必要だ。だからこそ、キミにフラグを立ててあげよう。 最後のキーはガイドブックにある」 ステファンの言葉どおり、本当にフラグが立ったようだ。カウンターにシェイカーが置いてある。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >スプリング・フィーリングというカクテルが載っている。 >それをアレンジすると、サマー・フィーリングになるそうだ。 >シェイカーにジャックインし、配合の割合を計算し、入力する。 >HIT! サマー・フィーリングが完成した。ロックがマリアの元へ運ぶ。 ロックは慌てた様子で帰ってきた。 「マリア様が正気にもどりました。モンド様とお話がしたいと・・・」 モンドは階段へ行く。確かに、マリアは正気に戻ったようだ。 「アナタが探し屋さん・・・モンドさんね?」 「そうだが、覚えていないのか?」 「ええ、すみません。お酒を飲んでいたときの記憶は全くないのです」 「ワケありだな。何があった?」 「実は、モンドさんに探してほしいのです。パスワードを」 マリアが使っていたPCがウイルスに侵されてしまったそうだ。 ワクチンを持っているが、解凍パスワードを忘れてしまったとのこと。 「それで、ヤケ酒を?」 「お願いします、モンドさん」 「OKOK、承知した」 「『大地震』ウイルスは危険です。さあ、急いで!」 マリアの部屋、407号室へ入る。 テーブルの上にはPCが置いてあった。 >モンドはキャサリンを起動する。先ほども見た、カクテルのページ。 >「アースクェイク」というカクテルがあった。 >PCにジャックインし、アースクェイクのアルコール度数を入力する。 >HIT! ワクチンが効いて、PCは正常起動するかと思われたが、逆に壊れてしまった。 マリアが来た。壊れたPCを見て驚く。 「壊れてしまった。申し訳ない・・・」 「仕方ないわね。・・・ウソよ。もともと壊れていたのよ」 「待てよ、何なんだ、その変わり様は?ハメたのか?」 「暇つぶしよ。カクテルだけじゃこの楽園は退屈すぎる。 アナタにとってワタシが悪性のウイルスだったのよ。気にしないでね」 「・・・・・・」 「探し屋さん、ワタシは、遊びに来たんじゃないの。逃げてきたのよ、日常からね。 毎日毎日仕事に追われて、気が付いたらココにいたの。仕事道具を持ってね」 仕事道具とは、このPCのことだ。 「それじゃ、オレじゃその仕事からアンタを救ったわけだ」 「そんな解釈も出来るわね」 「マリア、キミはどんな仕事をしているんだ?」 「天使よ。天使もね、IT革命で大変なの。慣れないコンピュータ使ってね。 アナタがデータを破壊したから、ルシファーに怒られるわ。 ねぇ、お詫びに一杯ごちそうしてくれる?」 モンドはガイドブックのカクテルのページを思い出した。 確かそんな名前のカクテルが・・・。 「フォールン・エンジェルか?」 「流石ね。さあ、バカンスを楽しみましょう」 マリアはベランダへ飛び出す。彼女の足は床を離れ、空へと飛び立った。 マリアの姿はどんどん小さくなっていく。 飛行機にぶつかったと見えたとき、飛行機は爆発。 ================================== トリコは階段を2階まで下りてきた。 そこにはマリアが立っているが、今は素面のようだ。 「クリス、見ませんでした?トリコのペットなんです」 「ちょっとわからないわね」 マリアはそう答える。そして腰に手を当て、牛乳を飲む。 「久々に飛んだら、ノドが渇いたわ」 ================================== R-05 The Entertainer(♪ジ・エンターテイナー) 部屋を出て、1階へたどりつくと、ラウンジには意気消沈した様子で座っている二人の男がいた。 モンドは男たちに話を聞くことにした。二人は、コメディアンのバルボア・ブラザーズ。 マシンガントークのタブス、肉体派のソニーのコンビ。 事務所がホテルの予約を芸名でしてしまったため、泊まれないのだという。 ♪ジ・エンターテイナー by ジョプリン バルボア・ブラザーズか。ガイドブックにインタビューが載っていたっけ。 最近、俳優としても活躍してるとか。だが、今の二人はスターとしてのオーラがない。 フロントのベルを鳴らし、エドを呼び出して事情を聞く。 エドは、二人がバルボア・ブラザーズだと証明してくれれば、部屋に通すとのことだ。 ひとつネタでもやれば納得してくれるんじゃないかとモンドは思ったが、タブスは黙ったままだ。 「マシンガントークには、アフロのヅラが必要なんだ」 そうソニーは言う。 モンドはヅラか、それに代わるようなものを探す。2階でスーがモップをかけていた。 これなら、もしかして? だが、スーは、このモップには歩数計がついていて、既定歩数にならないと柄からモップが外れないという。 >モンドはキャサリンを起動する。ガイドブックに広告が載っていた。 >一度取り付けると1万歩歩かないと外れない歩数計。 >歩数計にジャックインし、歩数が一万歩になるよう調整する >HIT! モップは柄から離れた。 モップをタブスに渡す。 「これがアフロだって?」 「気持ちの問題だろ」 タブスがモップをかぶると、マシンガントークが溢れ出す。 これを聞いてエドも納得し、二人は晴れてバルボア・ブラザーズと認められた。 二人はモンドにサインを書いてやろうかと言うが、モンドは固辞し、それよりホテルに書いてやれと言った。 そんな和やかな会話をしている途中で、窓の外に飛行機が見えた。案の定、爆発する。 ================================== ロビーに降りてきたトリコ。 目の前にはサイン色紙が飾ってある。 ソニーとタブスの二人のサインに「ごっつぁんゲーム」という言葉が添えられていた。 ================================== R-06 Air in G(♪G線上のアリア) フロントに行き、エドに挨拶をして、正面玄関を出る。 そこにはステファンが立っていた。 「急いでいるようだね、ムッシュ・モンド」 「何の用だ?用がないならどいてくれ」 「さあ見てごらん、あそこに水着の女がいるだろう?キミもよく知っている女だ」 あなたは屋上のプールサイドにいる、ヤヨイの姿を見る。ステファンは続ける。 「ある男と賭けをしたんだ。 ボーイはこう言っている。『ホテルからのサービスカクテルです、お一つどうぞ』」 ロックがヤヨイにカクテルを勧める。盆の上には赤と青、2つのグラスが載っている。 ヤヨイは赤い方を選んで口をつけた。 「あ~あ。ヤヨイは赤を選んだらしい。馬鹿な女だ。ガイドブックの占いの欄を読んでなかったのかね。 ボクは青に賭けてたんだよ。今日のラッキーカラーは青だから、ヤヨイも青を選ぶと思っていた」 ヤヨイは昏倒する。 「つまりサドンデスだよ。サドンデスって言うのは、『急死』って意味なんだ」 モンドは驚く。赤のグラスには毒が入っていたのだ。ただし、猶予が2時間あるとステファンは言う。 そして、解毒剤は404号室のどこかに隠してある、とも。 モンドは屋上のヤヨイの元へ駆けつける。息はあるが顔色が真っ青だ。 フロントに駆け下りて、エドを呼び、屋上のヤヨイを頼む、これから404号室で解毒剤を探す、と言う。 404号室へ急ぐ。ベッドの上で、部屋着のヤヨイが寝ている。 電話が鳴っている。エドからだった。ヤヨイがみつからないから、電話を掛けてきたのだ。 ヤヨイはココにいる、とモンドは言って、電話を切った。 解毒剤はどこに?と悩んでいると、また電話が鳴り出す。今度はステファンだ。 「詰まっているようだね。さあ、フラグを立ててあげるよ。 解毒剤の場所はワタシの電子手帳に書かれているファイルを開ければOKだ」 「クズだな・・・」 「あ、そうだ!忠告だ。エドには気をつけろ。アイツはタヌキだから・・・。 黒幕はアイツだよ」 電話は切れた。 見ると、デスクの上に電子手帳――変わった形のPDAが載っている。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >占いのページには、青がラッキーカラーだと書いてあった。 >その隣に、ラッキーな方角と、3×3の方陣の中に電卓並びの1~9の数字が書かれている。 >これは、ラッキーな方角とは名ばかりの、パズルだ。PDAにジャックインする。 >ラッキーな方角と方陣を組み合わせ、読み取った数字を入力する。 >HIT! PDAは次のような文字を表示する。 「お探し物かい?お見事だな。3分前、ギリギリガールズだよ」 PDAは何かと時間を引き延ばそうとする。意味のない言葉を表示し続ける。 「おっと、時間切れだ。ベッドを見てみろ」 「クソッタレめ!間に合わなかっただと?」 モンドはベッドを見る。ベッドの上のヤヨイは寝返りをし、寝言を言う。 「寝ているのか?謀ったな、ステファンめ!」 再びPDAを見る。 「さあ、テスト終了だ。答え会わせをする。モンド君、キミは実に優秀な生徒だ。 だが、気にかかることがある。お人好しということだ。 人の事を簡単に信用してはいけない。子供の頃、ご両親に教わらなかったのかい? これからは騙されるんじゃないぞ。 そうそう、毒なんてウソだよ。ただの睡眠薬さ。キミが本物がどうかを確かめたのさ。 そのテストだったのだよ。キミはパスした。まだまだゴールは先だがね。 ほら、考えてごらん。エドは来ないだろ?ボクが言ったとおりさ。 彼は黒幕だから、ココには来ない。 全ては彼の意のままに事が運んでいる。真実は一部ではない」 PDAの画面に青空が映りこんでいる。飛んできた飛行機も映っている。飛行機は爆発する。 ================================== トリコはエントランスでステファンと会う。 「ボクはステファン・シャルボニエ。このホテルに缶詰になって論文を書いている男だ」 クリスの名を呼ぶトリコ。ステファンに気付き、挨拶する。 ステファンはクリスと聞き、サッカー選手のクリスを思い浮かべたらしい。 あきれるトリコを無視し、ステファンはクリス(サッカー選手)について語り出す。 「・・・そのクリスが何か?」 「もういいよ」 ================================== R-07 Children s corner(♪子供の領分) モンドは今日も、モーニング・コールに起こされ、コーヒーを飲み、部屋を出る。 フロントへ行き、エドに別れを告げ、意気揚揚とロビーを出る。 エントランスを過ぎ、人工池に架かる橋を渡っているときに、 背後からサッカーボールが飛んで来て、モンドを掠める。 跳ね返ったボールはモンドの股間にヒット。痛そうだ。 振り返るとエントランスにはバミューダパンツをはいた男の子がいた。 ♪子供の領分 by ドビュッシー モンドはエントランスまで引き返し、子供に怒鳴る。 「イタズラはやめろ」 だが男の子は悪びれた様子も無い。 「どうしてオマエは人助けばかりするんだ。この島にテロリストってなんだ。そんなワケねーだろ。 音楽も名曲パクってるだろ。それにオマエのデザインはヘンだ。頭と手と足がデカすぎる」 「それはオマエだってそうだろ。そういうコンセプトでデザインされてるんだ」 「イラストとポリゴンが全然違うじゃねーか」 男の子にズバリ指摘されて、モンドは考え込む。 「それを言われると・・・。確かに、オレのイラストは髪がもっと短いんだよな。 だが、このポリゴンは、髪は長めだ。顔もあんまり似てない。他の人はまぁまぁ似てるが、 オレに関しては明らかに別人のように見える。どっちも色男だけどな ・・・って!それ以上言うな!世の中には言ってはいけないことがあるんだ」 「子供の世界には通用しないよ。全部お見通しさ」 「コイツ、このゲームを壊そうとしている・・・」 「リゾートで黒いスーツ着るな!冠婚葬祭野郎なのか?」 「許さん!許さんぞクソガキが!」 モンドはクソガキにつかみかかろうとするが、クソガキはホテルの中に逃げ込んでしまう。 モンドはフロントでベルを鳴らし、エドを呼び出す。クソガキのことを訊ねる。 「カイ様のお子様のショウタロウ様ではないでしょうか。彼が何か?」 「ヤツは破壊王だ。このままだとミステリアスなオレの人物像が壊される」 それからモンドは、スーやマチ達に話を聞き、ショウタロウを探す。 ショウタロウはヤヨイのところにいるのでは?というのでヤヨイの部屋、204のドアをノックする。 「クソガキがいるんだろう?引き渡してくれ」 「来てないけど、どうしてもって言うんならどうぞ。 ・・・女の部屋に来るなんて、どういう意味だかわかってるの?」 ヤヨイはモンドをからかったが、モンドの切羽詰った様子を見て部屋に入れてくれた。 一通り探したがいなかった。 「そのコ、アナタのことが好きなんじゃない?きっと、アナタのこと待ってるわよ」 ヤヨイのアドバイス通り、モンドは402号室に戻った。 クロゼットを開けると、ショウタロウが飛び出した。 「オマエ、バカだろう?楽しかったよ、オイラと遊んでくれるから。だからバカなんだ。 ・・・さみしかったんだよ!パパが遊んでくれなくて」 しょげるショウタロウをモンドは慰める。 「ウソぴょーん。やっぱバカだ。人のことすぐ信用する」 ショウタロウはベランダへ逃げた。 「このクソガキ!」 「ありがとう、黒スーツ。また遊んでね」 「もうヘンなこと言うなよ」 「うん、いいよ。言いたいこと言ってスッキリしたから。 でもさ、花と太陽と雨とって何だ?本当は意味無いんじゃないの?」 モンドは焦った。 「ヤバイ!・・・何言ってんだ、一番言っちゃいけないことだろう?」 「みんな知ってるぞ!」 「もうお話は終わり。カマン!ジャンボ」 モンドが指を鳴らすと、飛行機が飛んで来て、爆発した。 ================================== トリコは人工池に架かる橋を渡っている。 背後からサッカーボールが飛んできたが、オーバーヘッドキックで華麗に蹴り返す。 振り返るとショウタロウがいた。トリコはショウタロウに声をかける。 「あら、可愛い少年。ねぇ、クリス見なかった?」 「あのピンクが?何でピンクなんだ?」 「可愛いから」 「・・・ちっ!上手く切り抜けたな」 ショウタロウは舌打ちした。 ================================== R-08 Ave Maria(♪アヴェ・マリア) モンドはベッドに寝転がりながら電話を取る。いつものように慇懃な態度のエドに、 何故かとげとげしい言葉を返してしまう。 「モンド様、少し性格変わりました?」 エドに指摘されてしまった。やっぱり、昨日のクソガキのせいか。 ホテルを出て人工池を過ぎ、パーム・ツリーの並木を通り抜け、アーチをくぐる。 その先の一般道に出るゲートは閉まっていた。右に折れる道がある。そこは教会だ。 カナデルカゼ教会。ガイドブックに載っていた。ここで挙式するのがオススメだとか書いてあったな。 ♪アヴェ・マリア by シューベルト 教会の脇のベンチに、女性が物憂げに座っていた。モンドは女性に話し掛けた。 「あのね、ユウリ、明日結婚するの」 「なのに、なぜヘコんでる?」 ユウリはモンドに身の上話をする。フィアンセのセイジが、最近冷たいのだという。 「でも、やさしい男じゃないか。この島で挙式するなんざ、男にはなかなか段取りできないぞ。 男にも色々あるんだ。お嬢ちゃんは幸せだ。オレなんて最悪だ。好きな女とさえ会えない」 モンドはそう言ってユウリを励ました。 ユウリは、セイジが心配なので、様子を見てきてほしいと頼まれた。 モンドは教会の中に入った。最前列でボーっとしてる男がいる。 「ちょっといいか。セイジさんだね。カワイイお嬢ちゃんがキミのこと心配してる」 「ユウリのこと?」 「あしたココで挙式だってね。おめでとう」 「・・・もう明日なんだね。考えたら、ちょっと怖くなって」 「男がマリッジブルーか?」 セイジは投げやりな調子で言う。 「なんとでも言ってくれ。ユウリが言い出したんだ、教会で式を挙げたいって。ボクは反対したのに」 「あれ?キミが言い出したんじゃないのか?」 「ユウリはそう思いたいんだよ。きっと、ボクに理想を求めている」 「応えてあげればいい」 「ムリさ・・・。これ、見てよ」 セイジはオルガンを指す。 「音色がね、気に入らないんだ。上手く弾ければ、ユウリを幸せにする自信が持てる。そう感じるんだ。 この教会には伝統の音色があるって聞いたんだけどね。自分で変えようとしたけど、上手くいかない」 「探してやるよ、その音色ってヤツを」 >モンドはキャサリンを起動する。ガイドブックの教会が載っているページを見ると、そこには >このオルガンのセッティングに関しても書かれていた。「ダルシアーナ・セッティング」というらしい。 >キャサリンを使って暗号を打ち込み、オルガンの音色を変える。 >HIT! セイジはオルガンを弾く。 「ありがとう、モンドさん。この音色は福音なんだ。だから、きっと・・・」 「ああ。キミとお嬢ちゃんの幸せがオレにも見える」 モンドは晴れやかな気持ちで教会を出た。そこにはユウリが待っていた。 「ユウリとセイジはね、孤児院で育ったの」 「孤児院の人は式に出席しないのか?」 「来ないよ。みんな星になったもん」 「お嬢ちゃん、どこで育ったんだ?」 「シェルターよ。ワタシたちは、シェルターキッズなの」 教会の後ろの青空を飛行機が横切り・・・爆発。 ================================== 道を往くクリス。教会の前を通り過ぎ、ゲートに行き当たる。 紙ふぶきが舞う中、白い衣装のユウリとセイジが幸せそうに立っている。 クリスを追って来たトリコは二人に言う。 「おめでとう!」 ================================== R-09 Rhapsody in Blue(♪ラプソディ・イン・ブルー) 一般道に出るゲートを通ると、左側から乗用車が目の前を通り過ぎた。 右側からやって来たトラックとぶつかる。大破は免れたが、酷い状態だ。 右の道へはとても行けないので、左側の道へ進む。 ♪ラプソディ・イン・ブルー by ガーシュウィン その道はまっすぐ続いていた。左手に海が見える。このままずーっと行くと空港に辿り着く。 だがとても歩いては行けない距離だし、途中のゲートは閉まっている。 しばらく行くと、髪を緑に染めた若い男がしゃがみこんでいた。傍らに黄色い自転車がある。 モンドは男に声をかける。 「いい自転車だな」 「バイクだよ。自転車じゃない。何でも屋だろ?直してくれよ。困るんだよ」 「オレは探し屋だ。アレか?オマエはメッセンジャーか?」 男はメッセンジャー・バッグを肩にかけている。 「オレはケンだよ。頼むよ。ギアが悪いらしいんだ」 「専門じゃないがね」 モンドはケンのバイクを直してやることにした。 >キャサリンを起動する。ガイドブックの、ステファンのインタビューが載っているページ。 >そこには大小二つの歯車が描かれている。歯の数からギア比を計算する。 >バイクにプラグインしてギア比を調整する。 >HIT! ケンに感謝された。お礼がしたいので、この先のダイナーで待つように言われる。 ダイナーはガイドブックにも載っていたな。ダイナーじゃわかりにくいから、レストランと言い換えてもいいだろう。 モンドはダイナーまで走る。途中でバイクに乗ってきたケンに抜かれる。 ダイナーに着くとケンは困った様子だ。 「おかしいな、マチさんが来ない。もういつもなら来てる時間なのに。 マチさんは朝の清掃が終ると、ダイナーで食事の支度をするんだ」 モンドはホテルへ様子を見に行くことにした。アーチをくぐりパーム・ツリーの並木の途中にマチはいた。 「ホテルの電圧がおかしいので手間取ってしまいました。 支配人が言うには、テロリストの仕業ではないかと」 この島の電力は、沖に浮かぶ小さな島「エレキ島」から供給されているそうだ。 マチに、電圧を直してほしいと頼まれてしまった。 ダイナーに行く途中に「POWER BEACH」という看板があるので、そこから海の方へ行くと桟橋がある。 その桟橋からボートに乗ってエレキ島へ行くのだという。 モンドは指示どおりにエレキ島へやって来た。 そこには6機の発電装置がある。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを開く。この発電装置は「エレキング」と呼ばれているそうだ。 >エレキングにちなんだ6つの心理テストが載っているページ。 >そこから読み取った数字をそれぞれに入力していく。 >HIT! 電圧の乱れは収まったようだ。 「しかし、艶めかしい島だな。重苦しく艶めかしい。恐ろしいほどに・・・」 そんなことを呟きながらモンドがふと空を見上げると、視界に飛行機が飛び込んできて、爆発する。 ================================== 海沿いの道を行くトリコ。乗用車とすれ違う。 トリコはケンに会う。 「ねぇ、クリス見なかった?ピンクのワニなの」 ケンは、メッセンジャーの仕事で島を駆け巡っているので、 見つけたらすぐに教えてやると約束した。 ================================== R-10 I Love You, Porgy(♪アイ・ラヴ・ユー、ポーギー(愛しきポーギー)) モンドはホテルを出て、一般道に差し掛かる。また昨日と同じ事故が起こる。 車の中の人は大丈夫だろうか?とにかく、誰かに知らせなければ。 ホテルの方へ引き返す途中で、モンドはマチと会う。 「マチさん、これからダイナーへ?」 「ええ、ランチの準備です」 「昨日みたいなトラブルはなかったんですか?」 「あら、昨日は何もありませんでしたよ。そうだ、後でダイナーへお越しください。 ランチをごちそうします」 首を傾げるモンドを置いて、マチはダイナーへ行ってしまう。 海沿いの道を歩き、ダイナーの中へ入った。 ♪アイ・ラヴ・ユー、ポーギー by ガーシュウィン ケンがいた。マチを手伝っているそうだ。 早速ランチをもらおうと、モンドはマチに声をかける。 「モンド様、あのお客様、何かお悩みのようです」 口ひげを生やしたオッサンが、窓際の席に座り、何か悩んでいる様子だ。 やっぱり邪魔が入った、この問題を解決しなければランチにはありつけないのかと、 あきらめながら、オッサンに話しかけた。 「聞いてくれますか?事故を起こしてしまったんです。それで、落ち込んでいるんです」 「でも、だれも怪我してないんだろ?」 「・・・アナタ、噂の探し屋さん?良かった。実は息子へのプレゼントをなくしてしまったんです」 オッサンはカイダイザブロウと名乗った。あのショウタロウの父親か。 もともと気乗りしないのに、もっとやる気がなくなった。 「親バカだからあんな風に育つんだ」 モンドがショウタロウへの文句を言うと、カイの態度がガラっと変わった。 「なんだそのカバン、スパイ気取りか?この暑いのに黒スーツ?テロリストを阻止するだって?バカじゃないのか? オマエはガイドブックがないと仕事も出来ないのか?おかしいとは思わんのか?なぜガイドブックで謎が解ける?」 「待て、それ以上・・・!」 モンドは逆上する。 「どうだ?ワタシの探し物、探せるのか?」 「探してやるよ」 モンドはダイナーを飛び出した。外にいたケンが話し掛けてきた。 「またアイツだよ、ほら、あそこ。パワービーチの入り口だよ。あれがステップだ。オレの幼馴染。 手グセの悪いヤツでね、旅行客から盗むんだ。アイツには気をつけてね、モンドさん」 パワービーチの入り口で、モンドはステップに会う。ステップはモヒカンの男だ。 「ボクには盗めない物はない。アンタもだろ?」 「ああ、探せない物はない」 「じゃあ、じゅうぶんだ。ボクの盗んだ物、探してみなよ」 探し物が落ちてるとしたら事故現場だ。モンドは事故現場に戻った。 そこにはショウタロウがいた。サッカーボールをなくしたと言うので、周辺を探索する。 ホテルの方へ戻る道、その脇にゴミ捨て用のコンテナが置いてある一角がある。 そこにサッカーボールはあった。 「なにやってんだボンクラ」 もたもたしているモンドにショウタロウは言う。 「この野郎、切り刻んでやる!」 モンドはショウタロウに向かって腕を振り上げる。 「倫理が!倫理が!倫理団体、助けて~!!」 そんなことを言うショウタロウ。あきれるモンド。 「オマエ、みんなに嫌われてるぞ」 「いいんだもん。こんなゲームやってるやつに好かれたくないもん」 「殴るぞ!」 「いいよ、でもそんなことしてみろ、発売中止にしてやる」 モンドの怒りは頂点に達した。こぶしでショウタロウを殴る。 「いいか、クソガキ。悪いことしたら殴られるときもあるんだ」 「パパにも殴られたことないのに」 大人しくなったショウタロウに、モンドはカイの探し物のことを訊ねる。 事故現場でヘンなオモチャを見つけたが、コンテナの中に捨ててしまったとのこと。 ゴミ回収日にならないと開かないコンテナだ。 >モンドはキャサリンを起動し、ガイドブックを見る。ゴミ回収日が書いてあるページがある。 >月に3回回収か。コンテナにジャックインし、回収日の日付を入力する。 >HIT! コンテナはゴミを吐き出した。古びたライターだ。 そこへカイがやってきた。自分が見つけたんだと言ってショウタロウはライターをカイに渡した。 「オレが探したんだぞ」 そう言うモンドをカイは睨みつける。 「情けない。子供の領分を取ろうってのかい?」 息子へのプレゼントはサッカーボールじゃなかったのかとモンドが訊くと、カイはライターだという。 ライターは父親の形見だと言うことだ。カイの父親からカイへのプレゼント、という意味だったらしい。 確かに息子へのプレゼントだ。 「ショウタロウへのプレゼントはオマエだよ、黒スーツ。こんなに面白いおもちゃはないからな」 カイは気分が良くなったのか、煙草を吸おうとする。 「でもパパ、煙草は・・・チェックが厳しいよ」 ショウタロウは止めようとするが、カイは構わずライターに火を点けようとする。 するとその時、飛行機が飛んで来て、ライターに火が点くのと同時に爆発する。 ================================== クリスはダイナーに入っていく。 乗用車とトラックがぶつかりそうになるが、乗用車が片輪走行をし、トラックを避ける。 ダイナーでカイに会うトリコ。 「クリス、おじさんのこと気に入ったみたい」 ================================== R-11 Clair de Lune(♪月の光) いつものように電話が鳴る。 「モンド様、夜の7時でございます」 驚いたモンドは飛び起きる。窓の外には星が輝いていた。 何故、エドはこんな時間に起こしたのだろうか。 フロントに行こうとフラフラと立ち上がる。 気配がしたので振り返ると、ベッドの下からスーが出てきた。 スーは、落ち着くので、ベッドの下で寝る癖があると言う。 「お願いがあります、これを預かってください」 スーは、テーブルの上に懐中時計を置いた。ムーンフェイス(月例表示)付きの懐中時計。 「オレは、預かり屋じゃなくて探し屋なんだ」 モンドは断ろうとする。 「では、ワタシの探したい物を探してください。口では言えないのです。 言ってもいけないし、ワタシにも解りません。たまにはこういうミステリアスな探し物もいいでしょう?」 「・・・いいね」 「やっぱり単純ね」 「何?」 「いえ、ワタシ、もう行かなくては。月が導いてくれますように」 スーは部屋を出て行った。モンドも、キャサリンを片手に部屋を出る。 フロントにエドを呼び出す。 スーが「月が導いてくれますように」と言い残したことを告げると、 エドは、灯台に行くように勧める。 ビジネスタワーと言われている灯台だ。ガイドブックにも書いてあった。 月を眺めるには絶好の場所だ。 ホテルを出て、虫が大合唱している中を走る。 一般道へ出て右へ進む。 ♪月の光 by ドビュッシー この道は山の方へ向かう道だ。しばらく行くと、右手に灯台が見えてきた。 モンドは灯台の展望台を目指す。灯台の中の螺旋階段を昇っていく。 展望台に出ると、月が目に飛び込んでくる。 「今宵は三日月か・・・」 しかし、なにが起こるわけでもない。灯台を下りて、ホテルに戻る。 402号室に戻ってきた。そこには、スーが待っていた。 そういえば、預かってくれと言われた懐中時計も置きっぱなしだった。 「モンド様、ワタシの話を聞いてください。 出来れば、ベッドに横になって、目を閉じて、子守歌でも聞いてるようなつもりで・・・」 モンドはスーの頼みどおり、ベッドに横になり目を閉じる。 スーはベッドの下にもぐる。 「モンド様は、月の裏側がどんな風かご存知ですか」 「月の裏側は誰にも見ることが出来ないんだろ?」 「そうですね。運命とはそういうことです。 ワタシにとっては、ワタシの中にある秘密も、月の裏側と同じなのです。 自分では決してきちんと見ることは出来ない。しかし、秘密は確かにある・・・ずっとそれを感じています。 ・・・ワタシには、6歳になるまでの記憶がありません。子供の頃の記憶をなくしたのです。 でも、たった一つ覚えていることがあります。それは、ワタシが生まれたときの記憶です。 空には月がありました。ほっそりとした三日月。ワタシは空を見上げていました。 身体には、生暖かいモノが触れていました。それは赤くてヌルヌルとしていました。 とてもとてもたくさんの血でした。そして、ワタシは一人ぼっちでした」 「キミの親はいったい誰なんだ」 「解りません。マチさんは育ての親です。でも、解っていることがあります。 なぜ、ワタシがワタシの秘密を知ってはいけないのか・・・。 ワタシの秘密を暴くことは、この島の秘密を暴くことになるからです。 ・・・モンド様なら、この島を救えます」 「オレはただ、エドの依頼を受けただけだ。依頼が済んだら、この島ともおさらばだ」 「無理です。アナタがこの島に来てから、一日しか経っていません。 同じ一日の繰り返しなのです」 「エドも同じようなことを・・・。磁場が乱れてるとかなんとか」 「この島の時間は止まっています。だからあなたが来たのです。 支配人は、この時間を戻してもらいたくてモンド様を呼んだのです。 アナタは、ずっと同じ一日をループしているだけなんです」 「そんなバカな・・・」 「バカはアナタです。なぜ、飛行機が爆発するのですか?」 「あれは夢じゃ・・・?なぜキミがオレの夢を知っている?」 「理解できないから、夢だと思い込んでいるのです。 モンド様がこの島を救わないと、この一日は終わりません」 「どうすればいい?」 「飛行機の爆発を阻止してください。それと、テロリストの正体を突き止めてください。 そうすれば、この島の謎は全て解けます。 ・・・ワタシの秘密を探してください。それは、三日月の夜でなければならないのです」 「今日ってことか」 スーは、部屋を出て行った。モンドは起き上がる。 >キャサリンを起動させる。 >ガイドブックの灯台のページ。そこには三日月の写真が載っており、 >正確には月例4.3の月だと解説が書いてある。 >懐中時計にジャックインし、正確な月例を入力する。 >HIT! 懐中時計のムーンフェイスは、三日月を表示する。 部屋の電話が鳴りだしたので、取る。スーからだった。 「モンド様、やっぱり間違っておりました。この島の秘密は永久に封印します。 この島はこの時間が最適なのです。モンド様、さようなら」 どうやら、屋上からかけてきていたようだ。 モンドは屋上に行くが、そこにはスーはいなかった。 三日月に目を奪われる。低い手すりから落ちそうになりハッとする。 無意識のうちに端のほうへ来てしまっていた。 部屋に戻ろうと振り向くと、ロン毛の謎の男が立っていた。 よく見ると、左目に黒いアイパッチをしている。 謎の男は、モンドに銃をつきつけた。そして、いきなり撃った。 モンドは倒れ、低い手すりを越えて落ちていく。 飛行機が飛んできた。三日月を覆い隠すように爆発する。 ================================== トリコは一般道に出るゲート前に立ち、月を見上げる。 三日月をバックに、クリスはホテルの屋上で吼えた。 ================================== R-12 I Got Rhythm(♪アイ・ガット・リズム) スーツをバッチリ着こんだ男女がモーターボートに乗っている。 やがてボートは、ロスパス島の河口へ横付けされる。 スーツの男女はロスパス島へ降り立つ。 「異質を感じる。思念が渦巻いている。この島は呪われている」 女性が言う。 「レミー、見えるのか?」 眼鏡をかけている男性が言う。レミーと呼ばれた女性はトランス状態になっているようだ。 「感じるのよ、この島の歴史を。ココは普通の島じゃないわ」 「レミー、この島はテロリストが来るところじゃないぞ」 そのとき、川に架かった橋を、ステップが通過していき、山の手の方へ去っていった。 片手に銀色のアタッシュケースを持っている。スーツの二人はステップを見送る。 ホテルの裏口付近で、モンドは頭から血を流し、大の字に横たわって死んでいた。 側にエドが立っている。スーツの二人はエドに自己紹介する。 「連邦特別捜査官、レミー・ファウジルです」 「同じく、連邦特別捜査官、コシミズヨシミツです」 レミーはエドに、事情を訊く。 「目撃者はいない、銃声を聞いた者もいない・・・。他に気が付いた事は?」 「モンド様がお持ちになられたアタッシュケースが見当たりません」 「アタッシュケース?シルバーの?・・・あのモヒカン!」 ステップが持ち去ったのはキャサリンだった。 エドは、ステップが逃げ去った方向にはショッピングセンターがあるので、 逃げ込むとしたらそこだと言う。 コシミズはステップを追いかけることになった。 今回のPC(プレイヤーキャラクター)はこのサングラスの男、コシミズだ。 ホテルの外へ出て、一般道を右側に曲がる。 ♪アイ・ガット・リズム by ガーシュウィン 前回モンドが登った灯台を右手に見ながら通り過ぎる。 ボートを停めた川を渡り、しばらく行くと、ショッピングセンター「スパイス・ショップ」が見えた。 コシミズは、通信機を取り出して、レミーと話す。 「あのステップってコ、最近島に帰ってきたらしいの。フランスに留学してたらしいわ。 でも、支配人がおかしな事を言うの。留学先はまだ休みじゃないんですって。 何で帰ってきたんだろうって」 コシミズはショッピングセンターに入る。この島で唯一、まともに買い物が出来る店とあって、 品揃えは豊富だ。そして、広い。この中にステップが? コシミズは、あなたに語りかける。 「捕獲の心得だ。足音を立てるな。静寂を見方にしろ。オレの師匠、ナカテガワ次長の教えだ」 あなたは言われたとおり、足音を立てないようコシミズを歩かせる。 店の奥にステップはいた。コシミズはステップに言う。 「何故逃げた?」 「ボクは泥棒だ。警察から逃げるのが仕事だ」 「アタッシュケースはどうした?」 「知らないね」 そのとき、レミーから通信が入った。 「助けて!」 「どうした、レミー?」 「ステップの正体がわかったわ。そのステップはステップじゃない。 フランス領の島に、一斉捜査が入ったのよ。そこで製造されていた戦略兵器がステップなのよ。 そこにいるステップは人間爆弾なの!逃げて!」 信じられないという顔でコシミズはステップを見る。 「ボクはボクの意志で改造したんだ。生活のためだよ」 ステップの右目が妖しく光りだした。 コシミズは逃げた。コシミズが外に出ると同時に、ショッピングセンターは爆発。 ついでに飛行機も爆発。 ================================== 夜、灯台の下で、トリコはようやくクリスを捕まえる。 「もう、クリスは、どうして脱走するの?」 「オメェがヘンな名前にするからだよ。オレはオスだぞ。そんなカマみたいなのヤダ」 クリスは拗ねる。 「それより、あの男、この上だぞ」 「つけてきたの?ありがとう、クリス。行ってくるね」 「ヘマするんじゃねーぞ」 灯台の展望台には、モンドを撃った男が待っていた。 トリコは展望台に登り、男に話しかける。 「サンダンス・ショットね」 「そうだが、お嬢さんは?」 「アナタを殺しにきたの。アナタが救世主を殺したように・・・」 トリコはどうやら、モンドを救世主と呼んでいるようだ。 「救世主?あの男の事か?」 サンダンスはあきれたように言う。 「そうよ。人々の希望の芽を摘んだの」 「思い違いをしているようだ。あの男が人々を惑わせている。そう感じないか」 「ちっとも」 「それならば仕方ない。もう一度リセットをしよう」 「ダメ!リセットさせない!アナタを殺す」 「殺せないよ」 サンダンスは余裕の表情だ。 「アナタは存在しない。テロリストではない。アナタを殺すのに刃物は必要ない」 「それはどうかな?」 「モンドスミオはワタシが救う。アナタはココで死ぬのよ、ウエハラカムイ!」 「カムイ?誰のことを言っている?」 「消えるの、モンドの中から・・・」 「ワタシを巻き込まないでくれ」 「逃げられないよ」 「ではお嬢さん、もう一度ショーの続きをしよう」 ================================== R-13 La fille aux cheveux de lin(♪亜麻色の髪の乙女) ホテルの裏に立っているレミー。コシミズと通信する。 「全容が見えたわ」 「ああ、密輸が行なわれてたってワケだ。それも、人間を密輸していやがった」 「ええ。『ユーロ・マスプロ』の一角がついに姿を表した」 「こんなにのんびりとした島が奴等の最重要拠点とはな。どうする、レミー」 レミーは考える。 連邦捜査局が長年追いかけている「ユーロ・マスプロ」。 マスプロとは、大量生産のこと。 たくさんの子供たちが犠牲になっている恐ろしい計画。 これまで、表面に出ることなく、「現代の神隠し」と呼ばれた近代伝説。 「謎のテロリスト『サンダンス・ショット』その正体、化けの皮を剥いでみせましょう!」 今回のPCはレミーだ。 ホテルの裏手から食堂に入り、ロビーを通り過ぎ正面玄関から外へ出る。 人工池に架かった橋の途中にマチが立っていた。マチはレミーに声をかける。 「ステップはどうなったのでしょう?」 「アナタは?」 「メイドのマチと申します。ステップの母です。刑事さん、教えて下さい。 あのコはいったい・・・?」 レミーはそれには答えず、逆に質問する。 「マチさん、ステップの生まれは?」 「エレキ島です。行けばわかります。あのコの出生に関わる残骸が見つかるはずです」 レミーはパワービーチの桟橋からボートに乗り、エレキ島へ行く。 ♪亜麻色の髪の乙女 by ドビュッシー エレキングが設置してあるのとは違う方向に行くと、謎の建物がある。 建物の中に入り、謎のボタンを押すと、床に穴が開く。レミーは意を決して飛び込む。 地下には謎の施設が広がっていた。目の前にバルブが付いた装置がある。 バルブを回すと、電光掲示板に「WELCOME REMY」の文字が流れる。 レミーはコシミズと通信する。そこはどこかとコシミズは訊く。 「わからない。けど、地下プラントであることは確かね」 さらに奥に進むと、まっすぐに通路が延びていた。 「ココは何だかわからないけど、地下プラントであることは確かね」 その両脇に、蜂の巣を思わせるような、狭くて長細い部屋が無数にある。 蓋は透明で、ほとんどが空だが、いくつかには人と思しきものが入っている。 開けてみると、そこに入っていたのはサンダンス・・・いや、サンダンスの偽物か。 サンダンスの偽物は合計5体見つかった。偽物たちは口々に言う。 「ようこそレミー、ココは楽園だ。ステップはココで生まれた。 我々は単なるストックに過ぎない。特別な存在は奥にいる」 最後に見つけたのは、レミーの偽物だ。 「逃げなさい、レミー。ココはアナタの故郷。過去を殺しなさい」 レミーは奥に到達すると、呟く。 「思い出した。全てココから始まったのね。さようなら、ワタシの楽園」 謎の建物は爆破された。空を行く飛行機も爆発する。 ================================== 夜、ホテルの屋上。サンダンスはあの夜同様、モンドに銃を突きつけている。 そこへトリコが登場する。 「どうして撃つの」 「意味はないさ」 「だったら、止めればいいのに」 「オレの役割だからだ。この男が探し屋であるのと同様に、オレはテロリスト」 「何でテロリストなの?」 「理念に基いて行動する」 「意味はなくとも?」 「そうだ」 「止めた方がいい。この人を殺したら、アナタの存在は消えてなくなる」 「たとえ、オレが消えてもだ」 「アナタを探す。・・・すべて、この人次第ね」 「この男が依頼を達成すれば、オレは現れるだろう。そのときまでお別れだ、お嬢さん」 「また会いましょう、カムイさん。明日の引き金を引いてください」 銃声がする。モンドは屋上から落ちる。が、落ちた先は402号室のベッドの上。 トリコは屋上でクリスと話をする。三日月が出ている。 「クリス、どう思う?あの人は本当に救世主なの?」 「ワシに聞くな」 「この世界を開放できるのかな?・・・クリス、扉が開くよ」 「冒険の再会だな」 「目覚めて、モンド様」 トリコは祈る。そこへ飛行機が飛んでくる。トリコは飛行機に向けて手を伸ばす。 トリコの指が飛行機に触れたように見えたとき、飛行機は爆発した。 ================================== R-14 Traumerai(♪トロイメライ) ベッドに寝ているモンド。電話が鳴ったので取る。 「おはようございます、モンド様」 「ああ、生き返ったようだ」 「そのとおりでございます」 モンドは起き上がり、部屋を出ようと思ったが、キャサリンが見当たらない。 仕方なく手ぶらでフロントに行き、エドを呼び出す。 「エド、説明してくれ。オレに何があった?」 エドはモンドに説明する。 「何だって?オレは一度死んで生き返った? そしてこの島は永いループに縛られている。 一日が繰返される・・・それでもオレは仕事するのか」 「今回はキツイですよ、なんせ2話もサボっていたのですから」 キャサリンを探さなくては。モンドはホテルを出る。 ホテルの前に、レミーが立っていた。 「アナタがモンドスミオね」 「キミは?」 「連邦捜査官のレミー・ファウジルです。聞きたいことがあるの。 アナタが生き返ったことよ。なにか心当たりはない?」 「まったくない」 「・・・やっぱりね。単刀直入に言うわ。アナタはこの島の救世主なの。しかも、伝説の救世主」 「ゲームのような世界だな」 「アナタが殺されるまでの一連の事件には、特定の条件が揃っている。 アナタの仕事が完了した瞬間、飛行機が爆発する。アナタが休息することで、一度この世界が閉じる」 「詳しいね」 「救世主に憧れる?」 「悲劇だよ。自分の器量とのギャップにね」 モンドはやれやれといったような顔をする。器量・・・器の大きさだけではなく、見た目もかなり違うし。 「モンドスミオ、アナタは何者なの?この島は、アナタの意識に忠実に動いている。 お願い!この島を救って!逃げないで。あの悲劇を繰り返さないために、過去を殺しましょう」 「過去?」 「思い出して。大きな闇の中でたくさんの子供たちが生活していた。 ワタシたちが逃げたこと、忘れてしまったの?『イレブン』と呼ばれた改革の子供たち。 11人の仲間の存在を」 レミーはそう言うが、モンドには覚えがないらしい。 「それは妄想だ。目を覚ましてくれ」 「やはり、アナタもそうなのね。残念だけど、時が来ればアナタは目覚めるわ」 モンドはレミーに、キャサリンについて訊ねると、ショッピングセンターへ行けという答え。 一般道を山の手へ走り、ショッピングセンターに着く。そこにはコシミズがいた。 ショッピングセンターは爆破されて、黒コゲの残骸が残るだけになっている。 モンドはコシミズにキャサリンの行方を尋ねるが、コシミズも探していると言う。 「モンド君、レミーには会ったのか?」 「ありゃ、パラノイアか?」 「そうかもな。時々、トンじまう。キミに会えて嬉しかったんだろう。 レミーはキミをずっと探していた。?キミもそうなのか、『イレブン』・・・まぁいいや、また会おう」 モンドはコシミズと別れ、ショッピングセンターを過ぎ、しばらく行くと、麦畑に出る。 道の真ん中に、嫌みったらしいオッサンが立っている。オッサンはタカオカと名乗った。 この先の麦畑の中に、アタッシュケースが落ちていたとタカオカは教えてくれた。 麦畑の中を捜し、ついにキャサリンを発見する。 タカオカのところに戻ると、タカオカは、ホテルの408号室にいるナツコという女性を訪ねろと言った。 ホテルに戻り、408号室を訪ねる。そこはスィートルームだった。 淡い色の髪をショートカットにしたアンニュイな雰囲気の女がソファに座っている。 彼女がナツコか。ナツコは、ラジオがどうの、と呟いているだけで、一向に要領を得ない。 「アンニュイ女か。絶滅したと思ったのに」 文句を言いながらモンドは部屋を出て、フロントに向かい、エドにナツコのことを訊ねる。 エドは、タカオカはナツコの連れだと言う。一見、とても釣りあわないように見える二人なのに。 「モンド様、こちらへ・・・」 フロントの奥の扉の中へ通される。そこはスタッフルームだった。古びたラジオが置いてある。 「ナツコ様は、麦が好きな曲を探していらっしゃるのです」 エドが言うには、このラジオから流れる曲が、あの麦畑で流されるのだという。 >モンドはキャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >この島に幾つか存在するラジオ局、その紹介が載っているページ。 >ラジオにジャックインし、ナツコが出したつたないヒントから適当なラジオ局を選び、その周波数を入力。 >HIT! だが、ラジオからは音が出ない。エドは、このラジオは壊れていて、 曲を確認するには麦畑まで行かなければならないとのことだ。 モンドは半ばあきらめた様子で遠い麦畑まで歩く。 途中、一般道に出る手前にケンがいた。傍らに停めてある黄色いバイクに目が釘付けになるモンド。 ケンが見ていない隙を狙って、モンドはバイクを奪い、麦畑まで漕ぐ。 麦畑では、カッコイイ、そしてなんだか聞き覚えのある曲が流れていた。 タカオカに話を聞くが、麦の反応を見て、これではダメなので、 またナツコに指示を仰げと言う。 モンドはバイクに乗ってホテルまで戻る。 ケンに謝ろうと思ったが、さっきケンがいた場所にはもういなかった。 仕方なくそこにバイクを置いてホテルに入る。 それから、モンドは二度、同じことを繰り返した。 ナツコから指示を仰ぎ、ラジオの周波数を調整し、ケンのバイクを奪い、麦畑へ。 ♪サマータイム by ガーシュウィン 麦畑を訪れるのは4度目。これは確か、サマータイムという曲だ。 タカオカはこの曲で満足したようだ。そして、何かを思い出したように、ホテルに戻っていった。 モンドもホテルに戻る。 ロビーに戻ってきたモンドに、エドが声をかける。 「モンド様、映画館へ行かれてはどうですか。今日は特別上映の『トゥナイト・トゥナイト』です」 ガイドブックに書いてあったな。5階は全面、映画館だったっけ。 映画館の中に入る。まだ映画は始まっていないようだ。 ♪トロイメライ by シューマン タカオカとナツコが最前列に、隣り合って座っている。 タカオカは、あのサマータイムという曲が、二人の思い出の曲だと言う。 そして、これから上映する「トゥナイト・トゥナイト」という映画が、 二人が付き合うきっかけとなった映画だそうだ。 映画が始まってから8秒目に、スクリーンに映った二人が手をつないだ。 その一瞬が始まりだ、と。 モンドは映写室に行き、映写機を見るが、動いていない。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを見る。この映画館が載っているページ。 >そこにはこの映写機が一秒当たり何コマの映像を映し出すかという説明が書いてある。 >映写機にジャックインし、8秒目が何コマ目かを計算し、そのコマ数を入力する。 >HIT! スクリーンに、手をつなぐ二人が映し出される。 タカオカとナツコも手をつないだ。とても幸せそうだ。 そのまま映画を見る。スクリーンの中の空を飛行機が横切り、爆発する。 R-15 Prelude a L Apres-Midi d un Faune(♪牧神の午後への前奏曲) フロントにエドを呼び出したモンドは、エドに言う。 「エド、キミは何かを隠しているのか?たぶんだ、推測として聞いてくれ。 疑問は多い。まず、このガイドブックだ。 このガイドブックには、まるで、この島にオレが来る事を前提にして書かれているように感じる」 モンドは、フロントの上に積みあがっているガイドブックを指す。 「このガイドブックに、全ての暗号か隠されている。 そして、このガイドブックでオレを誘導している人間がいる。 自分では何もせず、オレを利用している人間が・・・。 ズバリ、それはエド!キミなんじゃないのか?」 「そのとおりです。当たり前の事です。そのつもりでモンド様に依頼したのです。 ワタクシの依頼は飛行機の爆発を食い止めていただくことです。 モンド様がお人好しだから、他人の探し物をさがすハメに陥るのです。 モンド様に依頼したからといって、全面的に信用しているわけではありません。 もしやのときの保険として、ガイドブックを作っておきました。全ては予定通りです」 「じゃあ何だ?オレを信用していないのか?」 「ええ、もちろん」 「最悪な男だな」 そのとき、エドの態度ががらっと変わった。 「モンドスミオ、飛行機に爆弾を仕掛けたテロリストはこのワタシだ。 まだわからないのか?恐ろしく無防備な男だな。エドなどという男はいない。ワタシの正体は――」 そこまで言うと、エドは床へ倒れた。 「支配人!」 スーが駆けつけてきた。 「ココはお任せください。ご心配なさらず、どうぞ先に進んでください」 死亡フラグ的な台詞をスーは言う。 「いいのか?」 「好都合です。ワタシが支配人になります。出世ですわ。 さあ、麦畑であの二人が待っています」 モンドは麦畑に到着した。ナツコとタカオカが待っていた。 「永遠の先にこの島の秘部があります。さあ、お行きなさい」 二人に見送られて、麦畑の奥へと進む。 そこはランデルマン・ガーデンという庭園だ。確か、迷宮になっているとか、ガイドブックに書いてあったな。 入り口に、ロボットを模した形の端末が置いてある。コイツをなんとかしなければ中には入れない。 >モンドはキャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >ランデルマン・ガーデンのところに、この端末の紹介が載っている。 >端末にジャックインし、そこに書かれた問題の答えを入力する。 >HIT! モンドは中に入る。 石で作られた迷宮を抜ける。途中で二つの端末から出された問題を解き、突破する。 最後に眼前に現れたのは、シンプルな十字路。行けども行けども、ずーっと十字路。 これはアレだ。よくコンピュータゲームによくある、特定の順番に進まないと最初に戻ってしまう迷宮だ。 モンドは迷宮を突破していく。最後の十字路の中心に、ステップが立っていた。 「モンドさん、真実は最後にあるんだ。裏の世界で会いしましょう」 なるほど。ステップが向いている方向の裏側が正解だとモンドは悟り、その方向へ抜ける。 目の前がパッと明るくなる。外に出たようだ。 ♪牧神の午後への前奏曲 by ドビュッシー 青空の下、巨石が円状に並べられている中にモンドは立っている。 その中心には、白い石で出来た、尖った形の巨石がある。 ガイドブックに載っていた、マルマレバ遺跡だ。 白衣を着た、官能的な看護婦が立っているので、モンドは話しかけた。 「こんにちは。看護婦です。リッツ様を看護してください。 女神のようなお方です。リッツ様にお会いください」 「その、リッツ様とやらはどこにいるんだい?」 「次の一日です。ご案内します」 上空の飛行機が爆発する。 R-16 Pavane pour une infante defunte(♪亡き王女のためのパヴァーヌ) 電話に起こされる。が、受話器を取ったら、切れていた。 ベッドから起き上がり、コーヒーを飲んでいると、いきなり部屋にサンダンス・ショットが入ってきた。 「モンドスミオ、探し屋だな?キミに依頼したいことがある」 「勝手なヤツだな。何者だ?」 「サンダンス・ショット。覚えていないのか?まぁいい。 本題だ。ワタシを探してほしい。そしてこの島を開放してくれ。 キミがなかなか空港に来ないから、仕方なくこちらから伺った。 キミを助けたお嬢さんと賭けをしたんだよ。 彼女はキミを信じている。キミがワタシを探し出すことを・・・。 ワタシを探し出せば、飛行機の爆破もなくなる。 「どういう意味だ?」 「ワタシ自身が爆弾なんだよ。ワタシは空港にいる。キミが見ていた爆発は警告なんだよ。 この島のプログラムを解除しろ、モンドスミオ。 使いの者がキミを導く。生還者と会うんだ。そこで真実を知れ。我々の真実を・・・」 「我々だと?」 「キミも『イレブン』のキッズだよ」 「また唐突だな。勝手に生い立ちを作るな。オレは探し屋だ。 オマエの勝手な妄想に振り回される気はない。 行動原理を支配されるのは一番嫌いでね」 「お人好しが直ったようだな。独立心が強いのは結構なことだよ。 納得した。最後にコレを託すよ」 サンダンスは、黄色い小さいものをテーブルに置いた。 それは正四面体の形のダイスだった。見えている面にはそれぞれ、5、2、10と刻まれている。 「ダイスの謎は遺跡の伝承に隠されている。登場人物は4人。そこにはキミも登場する。 キミは既に予言されてるんだ。この謎を解くことは、キミ自身を紐解くことだ。 待っているぞ、モンドスミオ。エピローグが再会の場所だ」 謎めいた言葉を残し、サンダンスは部屋から出て行った。残されたダイスを見つめるモンド。 >キャサリンを起動して、ガイドブックを見る。 >マルマレバ遺跡のページ、そこにはこんな伝承が紹介されていた。 >「昔、海の向こうから5羽のカラスを従えた男が島にやってきました。 >男が来てからというもの、島の住民には争いが絶えなくなりました。 >その状態を見かねた神様は、男の娘に2つの車輪を与えました。 >2つの車輪を回し続ける限り、島は平和になるだろう、と言いました。 >娘は車輪を回し続け、そして島は平和になりました。 >それから長い年月が経ち、娘は女になりました。 >2つの車輪を回し続ける女を憂う娘が現れました。娘は花束を手に祈りました。 >すると、神様は、車輪を回すのを止めても平和は変わらないだろうと言いました。 >女はついに、車輪を回すのを止めたが、島の平和は変わりませんでした。 >それからまた時が過ぎ、海の向こうから、鉄の箱を手にした男がやってきました。 >男は島の人々に、無の概念をもたらし、そして島はさらに発展を遂げました」 >鉄の箱を手にした男?鉄の箱とは、やはり・・・キャサリンか? >それに、この4人の登場人物、この中に自分がいるとしたら、やはり鉄の箱の男だろう。 >ダイスの上の目は、それぞれ2、5、10だ。 >2つの車輪に5羽のカラス、そして10は少々強引だが花束。消去法でいっても明らかだ。 >モンドはダイスにジャックインし、隠された底面の数字、すなわち無の概念、ゼロを入力する。 >HIT! ダイスから光が溢れる。あまりの眩しさにモンドは目を閉じる。 目を開くと、そこはマルマレバ遺跡だった。 「この光景をオレは知っている。この石の頭が墓標であることを。大地の象徴、ストーンヘッド」 中心の白い巨石を見てモンドは独り言を言う。 さて、遺跡には昨日と同じように官能的な看護婦がいる。 その隣に、車椅子に座った老女がいる。この人がリッツ様か。 「リッツ様はアナタを待っておりました」 リッツは語る。 「一番のコはいつも哀しそうな顔でね 無口で大人しくて・・・。あのコの光は消えてしまった。 二番のコは皮肉屋でね、でも心は綺麗なコだった。手癖が悪くてね、母親も苦労してたわ。 遠い場所で元気にやっているよ。いつかあのコと会いますよ。 三番のコは・・・思い出せない・・・。 四番のコはとても真面目なコ。懐かしい・・・この島に来ているのね。 五番のコは損する性格だった。このコは見えない・・・。 六番のコ?記憶がなくなったようね。 七番のコも同じ。何も見えない・・・。 八番のコは不安定だったけど・・・。このコも島に来ているのね 少しは丈夫になったのかしら。 九番のコは強いコだった。ああ元気そうね。立派な制服着て・・・。 十番のコは・・・あのコを助けて・・・。 十一番のコは・・・もうわかるわね? もうひとりのワタシと会いなさい」 モンドの視界がホワイトアウトする。 気が付くと、もとの部屋だった。 モンドは1階に下り、フロンドでベルを鳴らす。スーが出てきた。 そうか、エドは倒れたからスーが代役を勤めてるんだっけ。 「スー、キミに聞かなければならないことがある。あの夜のことだ。 あれ以来、エドも不可解なことが多かった。キミ達はどうなっているんだ?」 「モンド様、コテージで待っておられます。リッツ様が目覚められました」 「もう一人の?」 「この島の秘密を知ろうとするアナタがいけないのです。ですからリッツ様が目覚めてしまった」 「スー、キミは・・・」 「ワタシはこの島の巫女です。アナタに伝える役目だったのです。リッツ様にお会いください」 ガイドブックに書いてあったことを思い出す。 このホテルの裏手にはコテージがあって、そこに泊まることも出来るとか。 食堂を通り抜け、裏庭に出て、コテージに行く。 ♪亡き王女のためのパヴァーヌ by ラヴェル コテージの中には、あの官能的な看護婦がいた。看護婦は言う。 「ワタシは、リッツ様の言葉をアナタに伝えます。 今日は特別な日です。この島に集まった多くの人々にとって、大事な日です。 だから、とてもたくさんのことが起こります。とても信じられないようなことも起きます。 この場所でワタシと対話するのも今日という日だからこそ。 ココは不思議な場所です。この世のものではない何かが、そっと息づいているような所ですから・・・」 「墓標の伝説・・・そのことなのか?」 「ひとつお願いがあります。リッツ様の頼みを聞いてください。 最後にヒントを。かつて島を救った男は、遺跡の周りを時計回りにグルグルと回ったそうです」 コテージを出ると、側のプールからリッツが現れた。 プールをよく見ると、スロープが設けてあって、車椅子に座ったままで水に浸かれるようになっている。 「来るか?新世界へ?我の後を追うがよし。モンド、開放せよ」 リッツがそう言うと、また視界がホワイトアウト。 気が付くと遺跡に立っていた。 モンドは、看護婦のヒントの通り、白い巨石の周りをグルグルと時計回りに走った。 3周ほどすると、音がして、巨石の表面に直径30cmぐらいの丸い紋章が現れた。 >キャサリンを起動し、ガイドブックを見る。 >マルバレバ遺跡の壁画の写真がある。紋章にジャックインし、壁画から読み取った数字を入力する。 >HIT! 地響きを立てながら、白い巨石がせり上がっていく。 やがて巨石は、地表にその姿をすっかり現した。 それは数十メートルの石の巨人だった。地面から出ていた部分は頭だったのだ。 巨人は頭部の先をエレキ島の方向に向け、ビームを発射する。 エレキ島の岩肌に穴が開いた。 巨人は次に、頭部を上空に向ける。そこに飛行機が飛来する。巨人はビームを打ち、飛行機は爆破される。 R-17 Kill the Past(「過去を殺せ」(シルバー事件のキャッチフレーズ)) 目を覚ますと、ベッドの側にスーが立っている。 「モンド様、今日は特別な日です。ご用意をなさってください」 「また唐突に何だい?」 「お気づきなのでしょう?この島の事態を」 「ああ、なんとなくね」 「支配人も消えました。ヘンだと思いません?本当に鈍感ですね」 「鈍感なのはキミたちだよ。現実の出来事を表面でそのまま受け取るのは、人として危険だ。 物事には裏づけってのがあるんだ。人が話すこと、人が起こすこと、 それは真実にとって、ほんの一つに過ぎないんだ。だから、キミは受け取りすぎるんだ。 物事を複雑に考えている」 「では、これまでモンド様が体験したこと・・・どう説明なさるんですか?」 「説明が必要かい?オレはそうは思わない。真実はもっと単純で身近にあるんだ。 それはひょっとすると、たった一人の個人的な都合かもしれない」 「誰なのですか?」 「そんなことはどうでもいいじゃないか。時間が答えを教えてくれる。 だからオレはゴールに向かうよ。もう少しだろ?」 「ええ、近づいています」 「スー、キミの正体、キミの考えていること、キミの立場・・・。 そんなことはどうでもよくなった。オレは仕事を通じて生きている。 人の探し物を探すことで、生かされている。 エドから依頼された仕事が、オレがココにいる簡単な理由なんだ。 だから空港に向かうよ。それがオレの仕事だから」 それを聞くと、スーは満足したようだ。 「301号室へ・・・未来が開きます」 スーが言うとおり301号室へ行く。 テーブルの上にテープレコーダーが置いてある。 スイッチを入れると、「エレキ島が待っている」と言う言葉を再生した。 官能的な看護婦が立っていることに気付く。 「今日は特別な日です、モンドさん。リッツ様から大切なお話があります」 モンドはコテージへ向かう。 コテージではリッツが待っていた。リッツはモンドに語りかける。 「ココで起きていることは、全て夢みたいなものかもしれない。 でも、一番大切なのは、それが誰の夢かということ。 誰の夢なのかがわかれば、それは現実の問題になる」 「じゃあ、誰の夢なんだ?」 「それを探しに来たのでは?」 「オレはゲートを開けに来たんだ」 空港に向かう道路の途中にある、いつも閉まっているゲート。 「その方法は教えます。でもその前に、扉を開くことに、 どんな意味があるのかをアンタは知らなければならない」 また長台詞かと思いながらモンドは話を聞く。 「島の伝説の話は何度か聞かされたことでしょう」 あの6羽のカラスを従えた男とか、2つの車輪を回し続ける女とか、そんな話。 「それは半分はウソで半分は真実。ワタシは伝説の時代を生きた経験があるからわかる」 「伝説の時代?」 「それは遠い昔のこと。ワタシはあるマイノリティな部族に属していた。 ワタシたちは放牧民族で、飼っていたのはある特殊な動物だった。その動物は呪われていた。 その動物のせいで、他の部族からワタシたちは襲われ、それが習慣化していた。 そして、あの男が現れた。男は大昔のある日、ワタシたちを襲い、呪われた動物を手に入れた。 そのときから、男の眼に神が宿った。その男の息子が今、この島に来ている。 アンタはやがて息子に会うだろう」 そいつが301号室に宿泊しているヤツだな。 「どんな男なんだ?」 「会えばわかります。片眼が銀色をしているから」 「カムイという男か?」 「その名前も男の一部。銀色の眼を持っていると、生命を活性化させる力が働いて、 不老不死さえ手に入れることが出来る。つまり、神」 「御伽噺だな」 「だからこそ、この島にはこんなばかげたことが起きている」 「ここで起きていることは、銀の眼を持つ男の夢なのか?」 「そうかも知れない」 「その男がこの島の秘密を知っているのか?」 「知っている」 「では、どうやればゲートは開く?」 「男がゲートを開く。あとはアナタが進むだけ・・・」 「エレキ島か」 「この地の混乱をアナタが紐解くのです。それが宿命です」 「大役だな。オレは聞いてないぞ」 パワービーチからエレキ島を目指す。昨日、巨人が岩肌に開けた穴に入る。 そこは洞穴になっていた。 通り抜けた先は、船の甲板だった。 ガイドブックに書いてあったな。これは、沖合いに浮かぶ座礁船だ。 船のへさきにサングラスの男がしゃがんでいる。傍らには、灰色の犬のような動物を従えている。 「待っていたよ、モンドスミオ」 「アンタは?」 「名前は過去に捨てたよ。オレは傍観者だ。楽しかったぜ、モンド君の大冒険は・・・」 「食えない男だ。用があったから呼んだ・・・違うのか?」 「まあ落ち着けよ。このシナリオは説明が多いんだ」 「仕方ない。結末の前は大概こういうモンだ」 「そうだな。・・・スミオ、スミオという名前は懐かしい。 昔から頑固なオッサンがいてな。まぁいろいろ、巻き込まれたというか、当事者というか・・・。 そのオッサン、ホモでな、若い同僚に執着して、大変だった」 「ホモじゃないだろ」 「オレには理解できない感情だ。その若いヤツの名前がスミオだ」 「苗字は?」 「コダイだよ、コダイスミオ・・・。まぁ、モンド君は知らなくて当然だよ。 そろそろヤツも動き出すだろう」 男はサングラスを外す。左目が銀色に光る。 「その眼は・・・」 「そう、オレは銀の眼を持つ男ってヤツだ。おかげで、ややこしいことがいろいろ起きている」 「婆さんはこう言った。眼に神が宿った男だと」 「神じゃなくてな、コイツは悪魔だよ。あるいは疫病神」 「アンタなら、この島の秘密をしていると聞いた」 「何が知りたい?」 「ココは何だ?」 「廃工場さ。ココであるモノを生産していた。サンダンスの種族が昔飼っていた動物だ」 「サンダンスって?」 「婆さんの名前だ。 その動物からは、時々貴重なものが取れるんだ。それが銀の眼だ。 どういう仕組みになっているのかは、俺も知らない。 その銀の眼が危険なものであることは確かだ。だが、工場は、今はない」 「一体、その銀の眼ってのは・・・」 「世界中の金持ちが、ノドから手がでるほどに、欲しがっている。 まず、自分の目をエグってだな、そして銀の眼をはめ込む。 すると、力がみなぎってくる。つまりは、死ななくなる。 だが、同時に銀の目に支配されることにもなる。それが、銀の眼の神懸り的な力であり、 クソッたれな呪いでもあるのさ。それがこの島で作られているのを知って、この島に来た。 すると、アレが起きた。時が狂った」 「アンタなのか?」 「どうやら、それを望んだのは、オレ自身らしいね。 ・・・オレが知ってるのはこんなとこだ。 同じ場所に異なる銀の眼が2つ以上存在すると、神の業が発動される。 これがこの状況ってワケだ。 アンタに依頼したい。時を戻して欲しい。これは、心からのお願いだよ」 「しかし、どうやって?」 「空港に最後の生き残りがいる。ココいたヤツの、おそらく最後の一匹だ」 「そいつを殺るのか?」 「銀の眼をエグり出す。そうすれば、銀の眼は一つになる」 モンドは思い出した。銀の眼を持つ男、この男は「モリシマトキオ」だ。 「狂ってるよ、モリシマトキオ」 「時間を戻してくれ。好きにやれよ。遠慮するな」 >キャサリンを起動する。ガイドブックを見る。 >後ろの方に「ロスパス日記」という連載が載っている。 >筆者は「カメタロウ」となっているが、これはトキオのペンネームだ。 >「ロスパス日記」を読む。連載終了の挨拶から始まった。 >「アノ出来事」が起こった次の日、1999年12月31日からこの日記を書き始めたという。 >モンドがトキオに会うであろうことも書かれている。 >最後はこんな言葉で締められていた。 >「今日、オレはカントウへ帰る。 >彼によってもたらされる、崇高な手土産を片手にね。 >愛すべき父への、ささやかなプレゼントだ」 >「アノ出来事」・・・トキオが銀の眼を奪って逃げた。 >トキオの銀の眼にジャックインし、「アノ出来事」が起きた日付を入力する。 >HIT! 遠くでゲートが開いた。 「元気でやれ」 トキオはモンドに声を掛ける。 「ああ、必死で生きるさ。さあ、最後の一日に導いてくれ」 トキオの背後の青空を飛行機が横切る。飛行機が爆発する。 R-18 An American in Paris(♪パリのアメリカ人) 最後の電話が鳴る。いつものように、ベッドに横たわりながら受話器を取る。 「おはようございます。最後の一日がやってまいりました」 「エド、キミは・・・」 「お話があります。フロントまでお越しください」 フロントには、エドの他に、スーとロックもいる。モンドはエドに言う。 「エド、キミはテロリストなんだろ?ココで何してるんだ? オレはこれから空港へ行くのに、最後の敵がいなくていいのか?」 「実は、その通りなんです」 「マジで?」 自分で言ったことなのに、モンドは驚いている。エドは話し始める。 「この島は人工島なのです。我々は島の管理者です。人の出入りを見張るものです。 島の地下層は巨大プラントになっていて、あるモノを養殖していました・・・ハイエナです。 先進国首脳機関『エルボー』の管理下にあるのが、このロスパス島なのです。 国際動物保護団体の目から逃れるため、生態系の破壊されたこの土地を選んだのです」 「さっぱり意味がわからない」 エドに代わってスーが話す。 「簡単に言いますと、支配人は人工島の実体を知り、全てを破壊しようと計画したのです。 そのオトリにモンド様を呼びました」 「オレへの依頼はウソなのか?」 「いいえ、それは本当です。いえ、本当になってしまった」 エドが答えた。 「テロリストは爆破を阻止するために、空港から爆弾を奪い、飛行機に仕掛けました」 「それで、毎回飛行機が爆発するのか?」 「そのとおりでございます」 「それは誰なんだ?あのサンダンスという男か?」 「それはわかりません。モンド様、お願いです。この島を爆破してください」 「いいよ。最後の仕事だからね。今回は本当に空港に行けそうだ。みんな元気で・・・。 ガイドブックも必要無い。返すよ」 モンドはキャサリンからガイドブックを取り出し、エドに返した。 「ダイナーの先に、お車が用意してございます。モンド様、気をつけていってらっしゃいませ」 今日のエドはなんだか違って見える。 「モンド様、花は太陽と雨で生きています」 モンドは昨日自分が言ったセリフを思い出した。 オレは仕事を通じて生きている。 人の探し物を探すことで、生かされている。 エドから依頼された仕事が、オレがココにいる簡単な理由なんだ――。 「『花と太陽と雨と』。オレのことだったんだな」 この島での出来事、それは全てゲームだった。壮大なR.P.G.のようなものだ。 島に着いたときに、探し屋のモンドスミオという存在が誕生した。 そして、島を離れるとき、モンドという存在は消える。 では、モンドではなくなったとき、何になるのだろう? ダイナーにはマチがいた。そして、ダイナーの先に停めてあるギグスの側にはケンがいた。 ふたりに別れを告げ、モンドはギグスに乗り込む。 空港に着いた。ギグスを路上に止め、中に入る。 ♪パリのアメリカ人 by ガーシュウィン モンドは導かれるように、2番ゲートにたどり着く。 もうすぐ搭乗手続きの時間だと係員が言う。 モンドはトイレに行っておくことにした。男子トイレの、個室に入る。 すると、隣の個室からもう一人のモンドが出てきた。まるでドッペルゲンガーのようだ。 もう一人のモンドは2番ゲートへ向かう。すると、男女ふたりの係員は彼に銃を突きつける。 係員に変装していたコシミズとレミーだった。 「そこまでよ!」 「動くな!両手を挙げて!」 そこへ白いワンピースの少女がやってくる。クサビトリコ。トリコは彼に話し掛ける。 「アナタは誰なの?」 「ボクは、ボクじゃなかった」 「アナタもカムイだったんだ」 「カムイとは、何者なんだ?」 「戦略兵器よ」 「役割は?」 「人に紛れて、人を殺める、それがカムイ」 「ボクも兵器なのか?」 「そうよ。でも人間なの」 「ボクはどうすればいい?」 「大丈夫。アナタを解除する人が戻るから。そのためにワタシはココに来た」 「ボクを救いに?誰がボクを?」 「パパの仲間よ。救世主が現れる瞬間よ。もう少し待っててね」 モンドはトイレの個室から出て、2番ゲートへ向かう。 自分そっくりのもう一人の自分と会う。 モンドがふたり現れたので、コシミズとレミーは動揺している。 「そのまま動かないでくれ。オレが片付ける問題だ」 「誰なの?」 レミーがふたりに訊く。 「モンドスミオだ」 「ボクもモンドスミオだ」 「頭がおかしくなる。まるでバグね」 モンドには、自分が何をすべきかわかっていた。 「全ての始まりがここに集う。開け!解説書の数字よ!ねじれた世界を修正せよ!」 モンドがそう言うとおり、あなたは解説書を開く。 そこにはあなたの誕生日、モンドの誕生日がが記入されているはずだ。 >モンドはキャサリンを起動する。これで最後だ。 >モンドは自分の左目にジャックインし、誕生日を入力する。 >HIT! もう一人のモンドは解除され、消えた。 気が付くと、そこにはサンダンス・ショットが立っていた。サンダンスは言う。 「モンドスミオ、この島は我々の島だ。後の処理は任せてくれ。 飛行機に乗れ、まもなく爆発する」 「何を解除した?」 「キミの役割だ。モンドスミオの役割。 我々はこの島の原住民だ。特有の遺伝子を持ち、生まれた。 同一人格の共有だよ。そして、キミだけが別の種だ。だから、最後の役割をキミに託す。 この種を維持してくれ。そして、後の世代に引き継げ」 「何を言っている?」 「キミだけが生き残るんだ。我々の記憶をキミに捧げるよ。この記憶を忘れないでくれ。 そして、いつの日か、最後の種であるステップに伝えてくれ。我々の記憶を・・・」 「ステップが?」 「キミの運命を支配する男だ。・・・さらばだ、モンドスミオ」 「島とともに眠るのか?」 「それが島の人間の誇りだ。急げ!モンドスミオ!爆発まで間もない」 「サンダンス・・・オレが継ぐ」 「託しているよ。ロスパス島はココにある。『花と太陽と雨と』に・・・」 モンドは2番ゲートを通る。 「この島ともお別れか。さらば、万感のロスパス島。この光景を決して忘れない。人々の思い出も」 モンドは飛行機に乗り込む。他に乗客は一人だけ。ピーターだ。 「ピーター、この飛行機はどこへ向かうんだ?」 「目的地はリアルな世界だ。この島はリアルじゃなかった」 最初の約束通り、ピーターはモンドに感想を聞く。 「モンド、楽園とは?」 「楽園とは、世界と離れる場所だ」 「イマイチだな」 飛行機は離陸する。窓の向こうのロスパス島はもう見えなくなった。 「オラが探していたのはオマエだ。迎えにきたぞ、スミオ」 「誰だ?」 スミオはピーターに不審なものを感じた。 「わかっちゃいねェな、何もわかってねェ。島なんてなかったんだ。モンドという人間も・・・。 「どういう意味だ?」 「人工島だったんだ。爆発ってのはウソだ。利用されたんだ、スミオ。オマエの記憶をな」 「記憶?オレは誰なんだ?」 「お人好しだな。また信じた。まぁ、ゆっくり教えるとするわ。しかし、恩人を忘れるとはな。 この着ぐるみは暑くてたまらん」 ピーターの着ぐるみから、「中の人」が出てきた。見覚えがある男だ。 「オマエの記憶はこんがらがってる。そのうち思い出すわ。 黙って留置所にいりゃいいのによ。何で出てくるんだ、まったく・・・。 まだ事件は終っちゃいねェぞ。己だよ、スミオ」 その漢字の使い方、覚えてる。クサビテツゴロウ。懐かしいな。 もうモンドスミオではない。モンドの役は終ったのだ。 役にハマり過ぎてしまって、本来の自分をすっかり忘れてしまっていた。 ―行政無法自治区域マイクロネシア諸島ロスパス島は ―ハイエナ養殖の巨大プラントとしての役割を終え姿を隠した ―世界有数の秘密結社組織・先進国首脳機関『エルボー』は ―見事ロスパス島の隠蔽に成功した ―銀の目を持つ男・モリシマトキオが持ち出したハイエナによって ―『エルボー』の『ネクストマスプロ』を再生させた ―『エルボー』は『ネクストマスプロ』の着手と共に社会から消失 ―その活動を停止させた ―同時に『エルボー』最高執行責任者エド・マカリスターも消息を絶った ―モンドスミオの長い一日が終わり ―コダイスミオの新しい一日が始まる ―SEE YOU AGAIN あなたは、このゲームのこと、どう思った? 答えはあなたの中にある。あなたは「花と太陽と雨と」を覗いていただけ。 あなたはここにはいない。あなたは隣人。 もうわかるでしょ? ※♪が付いているのはクラシックの名曲たち。各章(?)の副題にもなっていますが、 アレンジされてゲーム内でBGMとして使用されています。 本文中に出てくる♪は、その曲が使用されている場面です。 ※02と06の副題が一緒なのは誤字ではありません。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5229.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第十八話 ワルドはゆっくりと空を旋回しながら、眼下のウルフウッドとコルベールをにらみつけ、右手の杖を大きく掲げた。 「貴様らが二人になったところで、だからそれがどうしたというのだ!」 確実にウルフウッドを殺せたはずの戦況で、彼を助けるためにこの戦いに乱有してきた闖入者。 苛立ちを隠しきれない声でワルドは叫んだ。 再び風の魔法を放つ。竜巻が再び沈没しようとしているレキシントン号の窓ガラスを破った。 「確かに、君はなかなかに優秀な炎のメイジのようだ。それは認めよう。だが――」 ワルドがゆっくりと右腕を下ろした。船内に消えた竜巻が再びその姿を現す。 「矢は燃やせても、果たしてこれは燃やせるかな?」 コルベールはゆっくりと体を沈めるようにして、身構えた。目の前の竜巻の中で舞っているもの――それは剣。 「この戦いにしゃしゃり出てきたことを、後悔するがいい!」 ワルドが杖を振るうと、まっすぐに竜巻はコルベールへと向かう。 コルベールは冷静に戦局を分析した。確かにワルドの言うとおりだった。剣の一本程度なら溶かしてしまえないこともないが、数が多すぎる。 コルベールはゆっくりと身構えていた杖を下ろし、その場に立ち尽くした。 「ふっ、あきらめたか。ならば、大人しく串刺しになるがいい」 得意げなワルドの声。しかし、それに答えるコルベールの声は冷静そのものだった。 「確かに、あなたの言うとおりです。私の力ではそれは防げません。えぇ、私の力ではね」 そして、コルベールはちらりと横を見て、小さく笑った。 「というわけで、お願いしますね。ウルフウッド君」 その言葉にウルフウッドは腰をかがめると、一足飛びにコルベールへと向かったパニッシャーを大きく掲げ竜巻に立ちはだかる。 「先ほど殺されかけていた使い魔ごときがしゃしゃり出てきたところで、何になる! そんなに死にたければ、貴様から先に逝くがいい!」 ワルドが叫んだ。その様子を見て、ウルフウッドは鼻で小さく笑う。 パニッシャーが風を切る轟音を立てながら振り回される。その間隙を縫うように、デルフリンガーが縦横無尽に駆け巡る。 デルフリンガーに魔法力を吸い取られ、パニッシャーに叩きつけられたワルドの剣は乾いた音を立てて、宙を舞うと力ない金属音と共に地面に落ちた。残らず一本とも。 「なっ……」 目の前の状況にワルドは言葉を失くした。ワルドの杖を持つ手が震えている。 「阿呆が。剣なんて重たいもんを振り回そうとするから、さっきよりも数は減っているわ、攻撃のスピードは遅いわ、精度は落ちているわ。こんなんやったら、簡単に全部叩き落とせるで?」 「くっ」 ウルフウッドの冷め切った態度に、ワルドは自分が冷静さを失っていたことを思い知らされた。 確かにその通りだ。剣は矢のように『風』と相性のいい武器ではない。 「矢の次は剣。オンドレの手は、これで尽きたな」 冷たい目でウルフウッドはワルドを見据える。勝ち誇るわけでもない。ただ、冷たく、当然の事実のように言い放つ。 「ミスタ・ワルド。これでわかったでしょう。あなたにもう勝ち目はありません。私としては、これ以上無益な戦いは望みません。ここから、去ってください。そして、二度とトリステインの地を踏まないでください」 コルベールが慇懃にワルドに通告した。言葉遣いは丁寧だが、コルベールの目には不退転の覚悟が燃え上がっている。 「それで、いいですね? ウルフウッド君」 「まぁ、しゃあないな。今回ばっかはセンセのおかげやし」 ウルフウッドは苦笑いをしながら両手を挙げた。 「ふざけるなよ、貴様ら……」 完全に自分を見下したウルフウッドとコルベールの態度にワルドは怒りを露にする。そのワルドの姿を見て、コルベールは小さくため息を付いた。 「ミスタ・ワルド。あなたは何のために戦うのです? 何を求めて、この国を裏切ったのですか? 地位のためですか? それとも名誉のためですか?」 「……誰が、そんなくだらないものを求めるか」 「ならば、何を?」 「……私が求めたのは、世界だ。はるか当方の地に眠る、聖地。それを今エルフどもから一度人の手に取り戻す。それこそが、レコン・キスタの存在意義であり、そのために私は国を裏切ったのだ」 淡々とワルドは語った。聖地という言葉にコルベールのこめかみが小さく反応する。 「あなたたちは、聖戦を引き起こすつもりなのですか?」 「トリステイン、アルビオン、ゲルマニア、ガリア――どいつもこいつもどうしようもない腑抜けどもだ。存在価値のない国などどうでもいい。私たちが聖地を取り戻すために戦うことを聖戦と呼ぶならば、そうなるだろう」 コルベールはワルドに向かって杖を構える。 「あなたたちの行いで、多くの人々の命が奪われ、生活が壊されるとしても?」 「その犠牲を恐れる臆病さが、エルフ共を付け上がらせるのだ。貴様もブリミル教徒ならば、わからないわけはあるまい?」 「アホぬかせや」 「何?」 ウルフウッドがコルベールとワルドの間に割って入った。憮然とした様子でウルフウッドはワルドをにらむ。 「聖地かなんか知らんけど、そこを取り戻したいんやったら、お前ら取り戻したい奴らだけで勝手に行け。関係のない人間の生活を巻き込むなっちゅうんじゃ、アホンダラ」 「……そもそも、会話するだけ無駄だったか」 ワルドはゆっくりと目を閉じる。 「君たちにはどうしてもここで死んでもらう。君たちが我々に敵対する意思があることがはっきりした以上、今ここで」 「敵対する意思なんざ、最初っからはっきりしとったことやろが、ボケ!」 ウルフウッドがパニッシャーを構え、ワルドに向かって銃弾を放つ。ワルドはウルフウッドに真正面から突っ込んでいき、銃弾を魔法で受け流す。 「ウィンドブレイク!」 ワルドはウルフウッドの足元に魔法を放った。魔法でえぐられた地面の土が舞い上がり、ウルフウッドの視界を塞ぐ。 「ぐっ」 「悪いが、こちらもそれなりに場数は踏んでいる! あの程度でチェックメイトだとは思わないで頂きたいものだね!」 視界を奪われたウルフウッドにワルドが杖を向けた瞬間、コルベールがワルドの懐に飛び込んで蹴りを放つ。 「ちっ。随分と貴族らしからぬ戦い方をする男だな!」 ワルドは風竜の手綱を引き、バランスを崩しながらも蹴りをかわす。この状況下でワルドが優位を保てるのは、ひとえに彼が風竜にまたがっているからであり、地面に叩き落されればその瞬間に勝ち目はなくなる。 コルベールの攻撃はそれを冷静に見越したものだった。 蹴りを避けたワルドは、杖をコルベールに向けた。この戦いに勝つには、コルベールかウルフウッドどちらかをまずは確実に仕留めなくてはならない。そうして、一対一に持ち込めば、確実に勝てるのだ。 「食らえ!」 「甘いわ!」 ウルフウッドはパニッシャーのストラップを掴み、パニッシャーを投げ縄の用に振り回した。 ワルドはとっさに上半身を折り曲げ、パニッシャーをかわす。ゴウンと風を切る音を立てながら、パニッシャーがワルドの頭上を駆け抜ける。 「くそっ」 ワルドは手綱を引くと、再び上空へと避難した。ワルドの予想以上に、ウルフウッドとコルベールのコンビネーションは完成されている。この二人を同時に出し抜くのは至難の業だ。 「センセ、すまんな」 ウルフウッドがぼそりとコルベールに声を掛けた。 「何がですか? ウルフウッド君」 「戦いとうないのに、こんな戦いに巻き込んでもうて」 「……確かに、こうして再び誰かを傷つけるために杖を振るうというのは、あまり気分のいいものではありませんね」 「センセ。アンタは魔法を人に向けんでもええ。攻撃やったら、ワイがやったる」 「ウルフウッド君?」 コルベールがウルフウッドの目を不思議そうに見ると、ウルフウッドは大丈夫とでも言うように無言で頷いた。 そのウルフウッドの仕草を見たコルベールはワルドへ向けて杖を構え、呪文の詠唱を始めた。その動きに気が付いたワルドは、炎の魔法を跳ね返すべく身構える。 コルベールが杖を振るった。杖から強烈な炎がほとばしる。 「馬鹿め! 自らの魔法で自分が焼かれるが――何?」 ワルドに向かってまっすぐに飛んでくると思われた炎は、大きく弧を描きワルドの目の前に壁のように広がった。 「炎の壁、だと?」 本来は冷気系の魔法や弓矢を防ぐための防御呪文だ。それをなぜ? 予想外のコルベールの行動にワルドが戸惑った一瞬の隙、その隙を突いて、まるで雲を一点で引き裂くように、目の前の炎の壁に穴が空いた。 「デルフリンガー!」 大声で叫んだワルドの目の前に抜き身のデルフリンガーが迫る。 ――炎の壁は目隠しか! 魔法を吸収する事の出来るデルフリンガーなら、ワルドの風の防御壁を破って突き刺さることが出来る。コルベールの行動は隙を作るための囮で、本当の狙いはウルフウッドの投げるデルフリンガーだったのだ。 「甘いわ!」 ワルドはデルフリンガーの柄めがけて風の魔法を放つ。刀身に晒されれば魔法は吸収されるが、柄ならば―― ワルドは片方の唇の端を上げて、笑った。予想通りだった。柄ならば魔法は吸収されない。先ほど剣を魔法で操った要領で、デルフリンガーを手元に巻き取る。 「残念だったな。貴様らの捨て身の攻撃も通じなかったわけだ!」 勝った、とワルドは思った。デルフリンガーさえ奪えば、彼の魔法を遮るものは何もない。魔法攻撃の勝負ならば、負けるはずがない。 勝ち誇ったワルドが下を見下ろす。 「――?」 ウルフウッドがいない。先ほどまでウルフウッドがいた場所に、彼がいない。 ――まさか。 ワルドは血の気が抜ける感覚を感じながら、自分の真下に視線を移した。そこではウルフウッドがパニッシャーの銃口を自分に向けている。 ――あれは、まずい! ウルフウッドが向けていた銃口は、パニッシャーの短い側。レキシントン号を沈めた、あの弾丸。 「くそっ!」 ワルドは思い切り舌を打ち鳴らした。デルフリンガーを魔法で掴んでいる体勢のため、ウルフウッドのランチャー弾を魔法で弾き返すことが出来ない。 デルフリンガーすらも囮だった。これも隙を作るためのものだったのだ。本当の狙いは―― 「がぁああああ!」 ワルドは全力で手綱を引く。もはや物理的に逃れるしか術はない。 脂汗をかきながら、歯を食いしばって手綱を握り締める。 そして、両目をつぶったワルドの隣を何かが通り抜ける感触がした。ワルドが恐る恐る目を開けると、空に向かってまっすぐにあの弾丸が飛んでいく。 「は、ははは……はははは!」 思わずワルドの口から笑い声が漏れた。勝った、ウルフウッドとコルベールが仕掛けてきた捨て身の攻撃をしのぎきった。 賭けに勝利したのだ。ウルフウッドとコルベールの切り札はこの手にある。魔法を防ぐ手段を失った奴らを蹂躙することなど、たやすい。 「ファイヤーボール!」 ワルドの一瞬の気の緩みを逃さず、コルベールが炎の弾を放った。狙いは、デルフリンガーを掴んでいる風―― 「ちっ! しまった!」 炎の熱によって膨張した空気は精密なワルドの風の動きを乱す。ワルドの手元から滑り落ちるようにデルフリンガーが落下していく。 「エアニードル!」 とっさにワルドは落ちて行くデルフリンガーに魔法を放った。これを再びウルフウッドの手に渡すわけには、いかない。ウルフウッドとは反対の方向へ、デルフリンガーを飛ばす。 コルベールは体勢を低くして走りこむと、落ちて来たデルフリンガーを両手で抱え込むように受け止めた。 「おう! ありがとよ、頭の禿げた先生!」 「……もっと、ましな呼び方を考えてください」 デルフリンガーを抱いたまま、苦笑いを浮かべるコルベール。 「ちっ!」 ワルドは舌打ちをした。しかし、まだ天は彼を見放していない。 「よくやった、と言いたい所だが、その剣はガンダールヴでもない君が扱っても、魔法を吸収することは出来ない。徒労に終わったな!」 ワルドはコルベールとウルフウッドの間に挟まるようにして、コルベールに向かって杖を向ける。コルベールがウルフウッドにデルフリンガーを渡すのさえ、防げればいい。 コルベールはデルフリンガーを抱えたまま、ウルフウッドとは反対の方向へ走り出した。 「逃げても無駄だ!」 ワルドは余裕の笑みを浮かべて、コルベールを追う。コルベールはじっと空を見上げながら、必死の様相で逃げる。 そうやって走っていたコルベールだが、唐突にぴたりと足を止めた。そして、無言で空を見上げる。 「観念したのか? なら、今楽にしてやる!」 ワルドがまさに魔法を放たんとした、そのとき不意にコルベールが口を開いた。 「この位置、でいいですかね?」 「そやな」 コルベールの言葉にウルフウッドは短く応え、パニッシャーをワルドに向けた。 「何をやっている? 悪いが、風の防御壁は常に張られている。君の銃は効かない」 ワルドはウルフウッドを振り返って、憐れむようなあきれ返るような声を出した。コルベールに魔法を放つ瞬間に防御壁がなくなるなど、そんなことはない。 「そこで、なすすべもなく君の友人が殺される様でも見ていたまえ」 ウルフウッドを見たまま、ワルドはライトニングクラウドの詠唱を始める。 「センセ、ちいとばかし派手になるで? 巻き添え食わんようにな?」 「まがいなりにも私は火のメイジです。大丈夫ですよ」 コルベールが柔らかく笑って返す。 「貴様ら、何の話をして――」 「小さな攻撃を加えて、本チャンの攻撃から相手の気を逸らす。それはオンドレがラ・ロシェールで朝の決闘を仕掛けてきたときに、言うた言葉やで」 「なにを――」 そこで、ワルドは何かが自分の顔の横にあることに気が付いた。横目で見たその物体は、先ほど自分が避けたはずの…… 「すまんな。ホンマの狙いは、これや」 「キサマァー!」 ワルドの奇声のような悲鳴が発せられるのとほぼ同時に、ウルフウッドは引き金を引いた。紅蓮の炎が空に舞い上がる。 自らの真横でランチャー弾を炸裂させられたワルドは、なすすべもなく炎に飲み込まれた。 $ ワルドは小さくうめき声を上げた。全身が何かに刺されたかのように痛む。 「……満身創痍やな」 中に浮かぶワルドの姿を見て、ウルフウッドがぼそりと呟いた。 「く、くそ……」 先ほどの爆発の勢いで風竜は飛ばされてしまった。全身に火傷を負ったワルドは、それでもなんとかフライの呪文で空中に浮いている。 風の防御壁を張っていたおかげで直撃は免れたが、それでもダメージはあまりにも大きすぎた。彼の服は黒く焦げ、もとの色の判別すら難しいほどになっている。 「あきらめて投降してください。その傷では、もう戦闘は無理でしょう」 コルベールがワルドを諭す。しかし、ワルドは焼けた唇を思い切り歪ませた。 「くくく。万全を、期したつもりなのに、ここまでひどくやられるとは。甘かったよ。貴様ら一人一人なら葬り去れたものを」 話しながらワルドはゆっくりと空へと上がり始めた。 「逃げるつもりか、オンドレ!」 「逃げるつもり? 馬鹿を言うな。貴様らごときを相手に、この私が逃げるものか。君に切り札があったように、私にも、切り札が、あるのだよ」 ワルドは杖を振りかざした。そして、意識を集中する。すさまじい魔法力がワルドの体からほとばしる。 「あのドアホ、まだあんな力を残しとったんか……。センセ、デルフリンガーをワイに!」 ウルフウッドが右腕をコルベールに向けた。間髪いれずにコルベールもウルフウッドへデルフリンガーを投げてよこす。 「さすがはスクエアクラスのメイジですね……。あんな強力な魔法力を見たのは、初めてです」 コルベールが慎重に呟く。辺りの風がワルドに向かって集中していく。 「最後の悪あがき、いうヤツか。ただ、なんにせよ、それが魔法である限り、こいつで防いだるまでや」 ウルフウッドがデルフリンガーを構えた。左手のルーンが光り始める。 「……勘違いするな。確かに、今から私がやろうとしていることは、大きな魔法力を必要とするが、絶対に君では防ぎきれない」 乾いた声でワルドは言った。 「まさか、オンドレ……」 ウルフウッドの言葉にワルドはにやりと笑う。 「終わりだ。いくら不死身の貴様でも、これだけの質量に押しつぶされれば、元も子もあるまい!」 ワルドが杖を振るった。それと同時に、空に浮かぶレキシントン号がゆっくりとウルフウッドたちへ向かって、降下をし始めた。 「な、なんということを!」 コルベールが冷や汗と共に叫んだ。 「レキシントン号を落とさせたのは、君の手の内を見るためだけじゃない。こうして、君を確実に、殺す切り札にするためだ!」 「くそったれが!」 ワルドを撃ち落すべくウルフウッドはパニッシャーの弾丸をワルドへ向けて放つ。しかし、ワルドはすばやくレキシントン号の影に隠れてしまった。 「ちっ」 ウルフウッドは舌打ちをした。他のものならともかく、墜ちてくる戦艦を撃ち落すことは出来ない。確実なのは魔法を放っている人物を倒すことだが、こうして戦艦の陰に隠れられると、攻撃することすら出来ない。 「センセ! 逃げるんや! あの、ドアホ、ワイらを道連れにするつもりや!」 コルベールは皮肉な笑いを浮かべる。 「無理ですよ、ウルフウッド君。あれだけの質量を持ったものが墜ちたら、どれだけの破壊力になると思っているんですか? 今更、走って逃げたところで逃げ切れしません」 「なんやと……」 「まだ風石が残っている以上、今すぐ墜ちてくることはありませんが、あのワルドが風で操っている。逃げたところで私たちを追撃してくるでしょう。終わりです。……我々は、彼の執念に負けてしまいました」 冷めた表情でコルベールは空を見上げた。大きな影が彼を包んでいる。死を目の前にして、彼は思いのほか冷静だった。 煙を上げながら迫ってくる巨大な影を、ぼんやりと見つめていた。 $ 最初から勝ち目などなかった。まさにその通りだった。ワルドがあまりにも簡単にレキシントン号を撃墜させたことに、もっと疑問を感じるべきだった。 「すまんな。センセ。こんなことになってもうて」 「仕方がないですよ。むしろ、我々のような人間が誰かのために何かをしようとした、そのことを誇りましょう」 「お前も、すまんな」 「いいさ、相棒。どうせ今まで退屈してたんだからよー。最後の最後になかなか面白い目に会えたぜ」 ウルフウッドは静かに後悔する。コルベールは笑いながら空を見上げていた。それは満足しているようにも、あきらめているようにも見えた。 「どでかい戦艦の下敷きか。ろくでもない死に方やで、ほんま」 ウルフウッドはパニッシャーを墓標のように地面に突き刺した。あとは静かに神に祈るだけ―― 「ウルフウッド!」 聞き慣れた声がウルフウッドの耳に届いた。 それはこの世から消える前に、もう一度聞きたかった声であると同時に、絶対にこの場に巻き込むわけにはいかない人物が近くにいることを示していた。 「な、なにそんなところであきらめてるのよ! この馬鹿!」 「なっ……」 ウルフウッドが振り返ると、その胸にルイズが飛び込んできた。 「ルイズ!」 「ミス・ヴァリエール! あなた、なぜわざわざここへ来たのですか! あなたの隠れいていた森から走り去れば、あなただけでも逃げ切れたものを!」 「なぜ、ここへ出てきた!」 「見えたのよ! あんたが、こうなっているのが、わたしの目に!」 「見えた、て、このドアホ! 見るんやったら、この状況を見さらさんかい! お前まで――」 「うるさい!」 ウルフウッドの胸に顔をうずめたまま、ルイズは力強く叫んだ。 「知ってる? 使い魔の契約を切る方法。使い魔の契約、ってね。使い魔が死ぬか、メイジが死ぬかしないと、消えることはないの」 「それとお前がここにいることと何の関係があんねん!」 「使い魔の契約っていうのは、それほど強いものなの! 死が二人を分かつまで、離れることはないの!」 ルイズはウルフウッドのジャケットを強く強く握り締める。 「だから、だから、あんたを置いて、わたしだけ生きていくなんてことは出来ないの」 ウルフウッドは唇を噛み締めた。血が、彼の口を伝う。 「センセ。頼む。後生や。魔法でも何でもええ。なんとかして、じょうちゃんを安全なところへ。ところへやってくれ」 ウルフウッドはルイズの両肩を掴んで、ゆっくりと引き離す。 「ウルフウッド君……」 コルベールはウルフウッドの瞳を見つめる。 「いや!」 「アホ抜かすな!」 「だから、いや!」 「お前が、お前みたいなヤツが、なんでオレみたいな人間と一緒に死ななあかんのや! お前とオレは住んでいる世界が違う。全然違うんや」 「なにも違わなくなんかないわよ! あんたはあたしの使い魔で、それでわたしは――あんたの傍にいたいのよ。自分の意思で、ここで。 あんたにとっちゃ、わたしなんか何も出来ない足手まといのお荷物かもしれないけど、けど、それでも、ただ何も出来ないまま見ているだけなのはいやなの!」 ルイズは両手を握り締めて、涙を目にためながら叫んだ。 「阿呆が……」 ウルフウッドは力なく呟くと、ゆっくりと天を仰いだ。もう、レキシントン号は彼らのすぐ傍にまで迫っている。 「結局、一番守らなあかんもんが、守れへんかったか」 ここまで戦艦が迫れば、もうどうあがいてもルイズが逃げ出す術はない。ウルフウッドはあきらめたように、ふっと笑った。 「じょうちゃん、最期やから、アホなオンドレに、これだけは、はっきりと言うといたるわ」 「な、なによ」 ルイズは不機嫌さで不安を押し殺したような声を出した。 ウルフウッドはそんなルイズから目を逸らしたままで、素っ気無い仕草のまま口を開いた。 「……ありがとな」 ウルフウッドはルイズの頭をゆっくりと優しく撫でた。 ルイズは口を開けて何かを言おうとした。しかし、言葉にならない。心の中に、今まで感じた事のない、どこか暖かいものが湧き上がってくる。 「光っ……てる?」 ルイズの気持ちとまるで呼応するように、彼女が胸に抱いていた始祖の祈祷書と左手にはめた水のルビーが輝き始めた。 手に持った本のページがひとりでに開いた。 「なに、これ……」 何もないはずの白紙のページに、文字が見えた。いや、正確には違った。ルイズの意識に流れ込むようにして、そこに書かれている内容が入り込んできた。不思議な感覚だった。恐怖も何も、もう感じなかった。ただ、自分のやるべきことだけが、はっきりと分かった。 ルイズは杖を上へ向けて、目を閉じた。墜ちてくるレキシントン号はもう目と鼻の先に迫っていた。 「ルイズ……?」 ウルフウッドの声も届かないように、ルイズは一心に何かを唱えている。ウルフウッドはその声に不思議な安らぎと、安心感を感じた。 「呪文の詠唱? しかし、そんな詠唱は聞いたことがない……」 その様子をコルベールも呆然と眺める。 「なつかしーねえ。一体何年ぶりだろうな。これを聞くのは」 デルフリンガーがただ一人、感慨深げな声を上げる。 ルイズはすっと扉を開くように、その目を開いた。そして、ただ一言、呟く。 「エクスプロージョン」 その直後、白い強烈な光が辺りを包んだ。 前ページ次ページ虚無と狼の牙