約 11,586 件
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/53009.html
【検索用 あめとえくりちゅーる 登録タグ 2023年 Fty Synthesizer V あ アルセチカ 小春六花 曲 曲あ 302】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:Fty 作曲:Fty 編曲:Fty 動画:アルセチカ・302(Twitter) 唄:小春六花(SynthesizerV) 曲紹介 曲名:『雨とエクリチュール』(あめとえくりちゅーる) 同氏としては初の小春六花使用曲。 歌詞 (動画説明欄より転載) 足元の鏡には 詩集1つ携えて 走り出す その姿は 君みたいだね 窓辺から見えるのは 朧げに揺らぐ定義 雨音に囲まれたまま 芒種は過ぐ 雨の音も 空の色も 語るには及ばずに 君の声も 何もかもが 滲んで沈みゆく 手にしては消えゆく 筆跡を探して 囚われた君の声も 解らないままでしょう 捉えては零れる 雨粒を集めて 傾向線を辿りながら Pétrichor ひとりだけ 待ちわびた 今日も雨 Le chant de pluie 坂を越え 紫陽花にも気付かないまま 夏はもうすぐ 花の色も 庭の土も 私の戯曲のようで 昨日閉じた栞を取って 詠み進めてみよう 手にしては消えゆく 筆跡を探して 囚われた君の声も 解らないままでしょう 捉えては零れる 雨粒を集めて 蒼穹は彩られた 見上げれば そよぐ風 + 英語歌詞 In the mirror at feet. Running with a book of poetry. I look just like you. What I can see from the window. It’s an unclear definition in the rain. I am surrounded by the sound of rain. Grain in Ear passes away. The sound of rain and the color of sky. These are beyond description. Your voice and everything blur and sink. I seek the ēcriture that dissolves as soon as I get it. I would be without knowing your captured voice. I collect the raindrops that spill out as soon as I get it. As I follow the trend line. Petrichor. I’m alone. I was waiting, today it’s raining. I’m going over the slope in the song of rain. I keep unaware of the hydrangeas. Summer is coming. The color of hydrangeas and soil in the garden. It seems to be my scenario. I took the bookmark I closed yesterday. Let’s reed more. I seek the ēcriture that dissolves as soon as I get it. I would be without knowing your captured voice. I collect the raindrops that spill out as soon as I get it. Arc-en-ciel in the bluesky. When I look up. The wind is blowing. コメント 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
https://w.atwiki.jp/dandwd/pages/12.html
リーフ(シルヴィア) 本作の主人公。月影族の混血。初登場時17歳。 黒のメッシュがはいった銀色の髪と明るい緑の瞳をもつ。普段目つきが悪く、一人称が「ボク」のためよく男に間違えられるがれっきとした女性。 両親を病で亡くし、孤児院で生活していたところを宗教国家ギリスアンの教祖(通称・女神)の後継者候補として引き取られる。しかしこれはリーフが6歳以前の記憶が全く無いのをいいことに女神が考えたでっちあげである。実際は両親と兄を女神が殺したと思われる。 一見冷酷で怒る度に暴力をふるうかなりのサディストに見えるが、リンの我儘を聞いてあげたりギルの窮地を救う等、優しい一面も持ち合わせている。 基本食べ物の好き嫌いは無いが、豪華な食事の雰囲気に対して拒絶反応を起こすため、その類の料理には一切口をつけない。 使用武器はギル、長剣、ナイフ等の刃物。なければ素手でも戦う。戦い方は、ギル以外の武器でだと極端に破壊力が落ちるため、威力よりも手数や速さを重視している。また、竜系統の種族の特徴であるうたれ強さも備えており、長期戦も得意としている。 翼を利用して、瞬間的に超加速することができる。 特技は鍵開け。 リン 本作のヒロイン的立場。闇狼族の混血。初登場時16歳。 黒の長髪に黒い瞳の元気な少女。 リトバルド王国のチャーコウル公爵家の令嬢だが末娘ということもあってかなりの放蕩娘。パーティーのサボタージュは日常茶飯事で、その間は別荘にバリケードを築いて引きこもっている。別荘は叔母から譲り受けたもの。 引きこもっている間家事全般は一人でこなしているので炊事洗濯は得意。ちなみに、山から兎、鹿、猪等を調達していたので動物の解体も得意としている。 極度の銃オタクであり、自分で部品を集めて機関銃を作るほど。実用性は市販のものと変わりはない。 我が儘でよくはしゃぐ上に場の空気が若干読めない。そのためリーフを時たま翻弄する。 甘党で、保存食が嫌い。 使用武器はイーハルを始めとする自作銃。怪力なので肉弾戦の攻撃力もすさまじい。 ギル(ギルスムニル) 憑依霊型幽霊金属製の大剣。刃は赤味がかっており、鍔には精巧に作られた蛇がからみついている。 享年39歳の初代勇者の霊。実体は紅い目と黒髪をもつ二十歳前後の青年。 戦闘狂で、今まで自分を振るってきた者たちにとり憑いて無用な戦いに駆り立て、多くの血を浴びてきた。そのため現在では「呪われた剣」と恐れられ、コレクターの間を転々とする日々を送っていた。 辺境の鉱山都市の下級マフィアの手元にあったとき、呪われた剣の存在を知ったリーフが組織を半分潰して奪い去り、再び武器としての真価を取り戻す。 意外にも気難しく、気に入った相手でないとろくに振るわせなかったり、完全に憑いて所有者の体を散々使い倒しボロボロにする。 何かと秘密が多く、一つ明らかになる度にリーフに蹴られる。なっていなくても蹴られる。機嫌を損ねると吊るされる。毎日蹴られる、そして殴られる。金属を殴りすぎて手がボロボロになっているのでは?と思うぐらい殴られる、蹴られる。 イーハル(イルハールス) 騒動霊型幽霊金属製の重銃器。もとは羽を模した装飾のついた槍だったが、リンによって銃の形状に設計されなおした。 享年43歳の影亡族の霊。実体は、人の姿だと金髪に黒い眼の長身の青年、真の姿は稀な金の目をもつ影亡。 穏やかな性格で、戦いを好まないが、種族独特の食癖のために空腹になると目についたものを片っ端から殺して食べてしまいたくなる。これは、影亡族として当たり前のことなので、本人はそのせいでどんな悲劇が生まれようとも、身内を食い殺してしまっても全く気にしない。 二つ名は「黄昏の吸血鬼」。 異常なほど存在感が薄く、仲間内から無視されることは日常茶飯事。 千年前に空腹で人里を訪れたところ、目についた人間の子供を8人食べてしまい、その罪で極刑に処された。その後、幽霊金属となり、ギリスアンで『禍の種』として扱われ、とある教会の柱の中に封印される。そこで、幽閉されたリーフと出会い、封印の解除と引き換えにリーフをギリスアンから逃がす手伝いをする。 アリス エルヴァン エヴァス エル 白剛 ガルド・チェクルス ダーナ・ピューマー
https://w.atwiki.jp/imasss/pages/3050.html
【ミリマス】秋雨とハーモニカ 執筆開始日時 2018/08/18 元スレURL http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1534521541/ 概要 ちょっとだけ季節は早いけど。可奈と秋雨とハーモニカの短いお話です。 「はぁ……止まないなぁ」 雨宿りしたお店の軒先からはひっきりなしに雨粒が垂れてくる。 私はシャッターにぴったりとくっついて誰も通らない道を眺めていた。 かなり時間が経ったように感じるけど、腕時計の針は数字一つ分しか進んでいない。 「折り畳み傘、ちゃんと入れてたはずなんだけどなぁ」 また一つため息が増えた。 「ううん、ダメダメ。こういう時こそ元気出そ!雨ぽつぽ〜つ♪傘はない〜♪濡れたくない〜♪」 右手をマイクにして即興で歌を作る。そう、こうやって歌っていればどんな時だって……。 「きゃあっ!」 目の前を走っていったバイクが私に水しぶきを飛ばした。 タグ ^矢吹可奈 ^北沢志保 まとめサイト アイマスSSまとめサイト 456P えすえすゲー速報 えすえすログ エレファント速報 おかしくねーしSSまとめ プロデューサーさんっ!SSですよ、SS! ポチッとSS!! SSまとめ SSでレッツゴー SSびより SSマンション SS2chLog YomiCom wiki内他頁検索用 ほのぼの ミリオンライブ 作者◆U2JymQTKKg氏 矢吹可奈 誕生日
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/48737.html
登録日:2021/07/23 Fri 10 45 42 更新日:2024/08/08 Thu 09 41 46 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 おおかみこども おおかみこどもの雨と雪 リアリスト 人狼 人間 大野百花 姉 弟との不和 狼 現実主義 現実主義者 細田守 苦悩の連続 草平の嫁 雪 黒木華 「おとぎ話だって、笑われるかもしれません。そんな不思議な事、あるわけないって」 「でも、これは確かに私の母の物語です。母が好きになった人は、おおかみおとこでした」 アニメーション映画「おおかみこどもの雨と雪」の登場人物。 CV 黒木華(少女期) 大野百花(幼少期) 以下、ネタバレにご注意ください。 【概要】 本作の主人公である人間の女性の花と、その恋人である「おおかみおとこ」の間に生まれた少女。弟に雨がいる。 雪の日に産まれたので雪と名付けられた。 彼女ら姉弟は人間とおおかみの血を受け継いだ「おおかみこども」であり、 雪も普段は人間の姿で、母が長髪になったような容貌だが、自分の意思、又は感情が昂った時には頭部のみおおかみの姿になった人狼の姿、 更に全身に毛が生え四足歩行になった完全なおおかみの姿になる。 【人物・能力】 幼少期は非常にお転婆で活発…というよりかはおおかみの如く野性的であり、内気で体の弱い雨とは対照的であった。 部屋の中を荒らし回ったり家具等を齧るなどして花を困らせていた。 それでも母である花の事は大好きであり、彼女の言う事には割と忠実。 身体能力も高く、田舎に移り住んでからは野生動物を追い回す等して勝利してしまう程。 学校に通うようになってからはかけっこで男子を追い抜かしてしまった。 また、好奇心や適応力、コミュニケーション能力も高く、興味を持ったことにはグイグイと食いついていき、近所の人達や学校の同級生たちにもすぐに馴染んだ。 花の言いつけもちゃんと守り、草平が来るまでは学校で不意におおかみの姿になることはなかった模様。 高学年になるといじめられている雨を助けたり、小さな子の面倒も見たりと、世話焼きな面も見せるようになった。 【来歴】 父親が亡くなった後、母と弟と共にアパートの一室で暮らす。 幼少期はやんちゃでよくおおかみの姿になってしまい、よく花を慌てさせていた。 その後、都会での生活に限界を感じた花は思い切って田舎へと移住する。 そこでも雪は野性味を発揮し、野生動物を追い回したり虫などを集めて遊んでおり、 おかげで花一家だけ畑を動物に荒らされずに済んだ。 そして、花も働き口が見つかり安定してきた頃、雪は学校に興味を持つようになる。 だが花はおおかみとしての正体がバレるかもしれないと渋っていたが、雪は「うまくやる」と宣言。 その後、花の言いつけをしっかり守り、近所の人達にも愛想よく接し、人間からおおかみへの変身も完璧にコントロールして見せ、ようやく許しを得る。 その際、花からおおかみにならないおまじない「おみやげみっつ、たこみっつ」という言葉を教わる。 小学校に入学後は最初こそ不安だったが、すぐに同級生たちと打ち解ける。 だがそこで別の問題が浮上する。 戯れに蛇を腕に巻きつけたり、動物の骨や爬虫類の干物を収集するような女の子は自分以外いないということに。 恥ずかしさのあまり花に相談するも、「やりたいようにやればいい」と返されるが、これからは女の子らしくすることを決意。 花におしゃれなワンピースを縫ってもらい、次第に女の子らしくなっていくのだった。 その後、学校に通うようになった雨を手助けするが、結局彼は馴染めず学校に来なくなる。 そして、草平という少年が転校してきた時に事件が起こる。 彼から「獣臭い(犬を飼ってるかもと思って聞いただけ)」と言われ、激しいショックを受ける。 それからは彼を避けるようになり、上述のおまじないを呪詛のように呟きながら逃げ続け、草平から執拗に詰め寄られた時、つい爪を立てて彼の耳を傷付けてしまう。 それが原因で引きこもってしまうが、その時の記憶が曖昧で彼女がやったとは思っていなかった草平からフォローされて立ち直る。以降は彼を「草ちゃん」と呼んで親しくなる。 だが一方で、おおかみへと心が向き始めていた雨とは価値観の違いから険悪になってしまう。(それでも豪雨の日には「今日は母さんといてあげて」と忠告されるくらいには仲は修復していた模様) そして、ある豪雨の日、学校で草平と一緒に母の迎えを待っている時(ちなみにこの時、花は山に入っていった雨を探していた)、 草平から母親が再婚する事、新しく子供が産まれたら自分の居場所がなくなるかもしれないこと、そうしたら1人で生きていくと決めていることを聞かされる。 それに心打たれた雪は、遂にあの日の事を打ち明ける。 雪「草ちゃん、あの時草ちゃんを傷付けたおおかみは私…私なの」 そういっておおかみの姿になる雪。 雪「言わなきゃってずっと思ってた。今まで苦しかった」 草平「分かってた、ずっと。雪の秘密、誰にも言ってない」 草平「誰にも言わない。だから…もう泣くな」 雪「アハハ…泣いてないよ、しずくだもん」 雪「ありがとう」 彼女はもう、おおかみの姿になることはなかった。 その後の経緯は不明だが、迎えに来た花に雨がおおかみとして山で暮らすことを知らされたと思われ、 結局姉弟仲が完全に修復される事と、草平に弟を紹介することはできなくなってしまった。 その後は中学に上がり、寮で暮らすため家を出た。 中学校でも友達とバドミントンをしたり、何らかのボランティア活動をしたり等、活躍しているようだ。 【人間としての道】 最初あれだけ野性的だった雪が人間としての道を選んだのは、彼女のコミュニケーション能力と好奇心の高さが要因だと思われる。 思えば彼女の父も、こっそり大学で勉強する程に知的好奇心は高かった。 そして同年代の女の子と過ごすうちに、自分もそういう風になりたいと思うようになったのだろう。 勿論、草平との一件もその事を後押しすることになったのは言うまでもない。 何気に「異性に正体を打ち明けて受け入れられる」というシチュエーションを経験したのは父と同じである。 私も草ちゃんみたいに、項目を追記・修正できなくても、笑っていられるようになりたい △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 雨とは結局実質的な喧嘩別れになっちゃったのがなぁ… -- 名無しさん (2021-07-23 17 31 07) 家族以外でもありのままの自分を受け入れてくれる人と出会えたか否かが、雪と雨の決定的な違いだったよね…。雨は結局、そういう人とは出会えなかった。と言うか、自分から拒んでしまった…。 -- 名無しさん (2021-07-23 17 47 05) 最初から最後まで対照的な姉と弟だった -- 名無しさん (2021-07-24 01 03 30) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4337.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第二話 ウルフウッドはなぜか学院の講義に出ていた。目の前で教師の説明する話は全くわからない。けれども、学校というものへ通った事のない彼は、自分が授業を受けているというだけで、どこか歯がゆく嬉しい気持ちになるのだった。 なぜ彼が授業を受けているのか。その説明をするには例のギーシュとの決闘騒動までさかのぼらなくてはならない。 例の決闘のあと良くも悪くも彼は有名人になってしまった。平民が貴族を打ち負かしたことが気に食わない生徒に絡まれるようになった。もっともこの場合大半はウルフウッドに睨まれるだけで、なにやら適当に理由をつけて逃げ出すのだが。 そしてもう一つの困ったことは、なぜか彼が女子生徒にもてはじめたことである。ルイズの同級生であるキュルケに言い寄られたり、例のギーシュが二股をかけていたケティという女の子からラブレターをもらってみたり。もっとも根本的にそういう風に扱われることに彼は慣れていないし、そもそもこの年頃の女子の淡い年頃の男性に対するあこがれみたいなものに付き合う気も全くないので、ウルフウッドにとっては迷惑な話だった。 そして、彼の主人であるルイズもこの使い魔の扱いにはほとほと困っていた。彼が決闘をやらかすたびに、もっとも彼自身は「ガキのしつけや」と言い張っているのだが、余計な気を遣わなくてはならないし、それ以上にこの使い魔の異常なまでのデリカシーのなさ。この間なんてそんな馬鹿使い魔に香水をプレゼントしようとしたモンモランシーに対して 「おう、金髪のおじょうちゃん。確か、あんたの名前知ってるで。えーと『洪水のオモンラシー』!」 などととんでもない発言をかまして彼女を泣かせた。それを聞いたルイズは心の底で、そういう言い方もあるのかとちょっと感心したのは内緒だ。 とにかく、この男を野放しにしておくと男女を問わず彼にひきつけられ、そして彼にやられた無残な死体の山が気付かないうちに築かれていくのである。 しかたがないので苦肉の策として、ルイズは昼間はぷらぷらと厨房の手伝いなんぞをして過ごしている彼を常に自分の目の届くところに置くようにした。結果、このようにルイズの授業に彼は付き合っているのである。使い魔の管理も仕事のうちである、と自分に言い聞かせている。 目の前ではシュヴルーズが授業を行っていた。 「なぁ、あのおばちゃんもセンセいうことは魔法使いなんか?」 「そうよ、っていうか授業中は話しかけないで」 気まずそうにルイズに小声で注意されて、ウルフウッドは仕方がないので黙る。なんか気分が高揚するので、彼は誰かに話しかけたくて仕方がないのだ。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 そこでシュヴルーズはウルフウッドのほうをチラッと見た。確かに噂どおりの男前だ。同僚にも男はいるにはいるが、どうも教師というのはひょろひょろっとしているのが多くて、男としての野性味溢れる魅力に欠ける。その点このウルフウッドは非常にワイルドだ。魅力的だ。 「では、授業を始めますよ」 シュヴルーズは、顔をぶるぶると振って、こほんと重々しく咳をすると、杖を振りかざした。机の上に、石ころがいくつか現れた。 「私の二つ名は赤土。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」 「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」 シユヴルーズは頷いた。 「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです。その五つの系統の中で『土』はもっとも重要なポジションを占めていると私は考えます。それは、私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私の単なる身びいきではありません」 シュヴルーズは再び、重々しく咳をした。 「『土』系統の魔法は、万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。この魔法がなければ、重要な金属を作り出すこともできないし、加工することもできません。大きな石を切り出して建物を建てることもできなければ、農作物の収穫も、今より手間取ることでしょう。このように、『土一系統の魔法は皆さんの生活に密接に関係しているのです」 ウルフウッドはその言葉に食い入るように聞き入った。金属の精製加工技術……もしかしたらこの世界でも『アレ』が手に入るかもしれない。 「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。一年生のときにできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいすることに致します」 シュヴルーズは、石ころに向かって、手に持った小ぶりな杖を振り上げた。 そして短くルーンを眩くと、石ころが光りだした。 光がおさまり、ただの石ころだったそれはピカピカ光る金属に変わっていた。 「なぁなぁ」 「なによ」 ウルフウッドは隣のルイズを突いた。 「おじょうちゃんもああいう錬金いうやつ出来るんか?」 「はぁ?」 「やから、金属を作り出したりとか、加工したりとか。そんなんできる?」 「あんたねえ、授業中は話しかけないでって」 「ミス・ヴァリエール」 案の定、見咎められてしまった。 「は、はい」 「授業中の私語は慎みなさい」 「すいません……」 「おしゃべりをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」 「え? わたし?」 「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 ルイズは立ち上がらない。困ったようにもじもじするだけだ。 「出来るんやったらやってみせてや、なぁ」 ウルフウッドはそんなルイズの肩を揺さぶる。目が、完全に期待に輝いている。 「ミス・ヴァリエール! どうしたのですか?」 シユヴルーズ先生が再び呼びかけると、キュルケが困った声で言った。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方がいいと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 キュルケは、きっぱりと言つた。教室のほとんど全員が頷いた。 「危険? どうしてですか?」 「ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。でも、彼女が努力家ということは聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」 「ルイズ。やめて」 キュルケが蒼白な顔で言った。 しかし、その言葉に刺激されたのかルイズは立ち上がった。 「やります」 そして、緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていった。 隣に立ったシュヴルーズはにっこりとルイズに笑いかけた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 思い描いた金属を作り出せるのか、なんと便利な、とウルフウッドはがらにもなく興奮していた。 ルイズは意を決したようにルーンを唱え杖を振り下ろした。そのとき爆発が起こり机ごと石が砕け散った。 「いだぁ!」 身を乗り出すようにして見ていたウルフウッドの頭に見事に石のかけらが命中した。 涙目になったウルフウッドが爆発の後に見たのは、惨憺たる格好となったルイズとカエルみたいに地面にはいつくばって気絶したシュヴルーズの姿であった。 「ちょっと失敗みたいね」 その状況に置いて、ルイズは何事もなかったかのように平然と言い放った。当然、他の生徒たちから猛然と反撃を食らう。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」 ここでウルフウッドは額に出来た傷をさすりながら、彼女の通り名であるゼロの意味を理解した。 「なぁ、おじょうちゃん」 「なによ!」 廊下を歩くルイズは機嫌が悪い。さっきの授業の大失敗があったからだ。今は着替えを取るためにルイズの部屋へ向かって歩いている。ウルフウッドも教室に一人残っても仕方がないので、その後にくっついている。 「さっきのがじょうちゃんの魔法か?」 「なによ! それって嫌味!」 ルイズにキッとにらまれて、ウルフウッドは「ちゃうちゃう」と両手を胸の前で振る。 「ワイ、魔法のことは全然わからへんけど、悪うないと思うで」 「はぁ?」 ルイズはますますをもってして不機嫌そうに聞き返す。この使い魔はしょうもない慰めでも言おうとしているのだろうか。だとしたらなおさら情けない。 「あんな大失敗のどこが悪くないのよ! どうせわたしはゼロのルイズよ! どんな魔法を使っても爆発ばかりの!」 「おじょうちゃん、あの爆発は狙って起こせるんか?」 「狙っても狙わなくても、魔法を唱えればね!」 「やったら悪ないで、あれ」 「何が?」 「一瞬で机を粉々にする破壊力は悪うない。言うやろ? なんたらとはさみは使いよう、て。やから使い方次第であれは活かせる、ってあいたぁ!」 ルイズが思いっきりウルフウッドのすねを蹴飛ばした。ウルフウッドはすねを抑えて片足で飛び上がる。 「なにさらすねん!」 「あんたがへんなことを言うからでしょうが!」 ルイズはすねをさするウルフウッドを置いて、肩をいからせて歩く。本当にデリカシーがない。励ますにしてももっとましな励まし方はないのだろうか、まったく。 その日の夜、トリステイン魔法学院校長室、ここでコルベールは校長であるオスマンに報告を行っていた。 「で、その使い魔が伝説のガンダールブであるというのかね?」 「えぇ、そのとおりです、オールドオスマン。これを見てください」 コルベールは何かの本をオスマンに差し出す。オスマンはその本を見ると「うむ、確かに」とだけ呟いた。 「それに現に彼はドットメイジとはいえ、あのグラモン家の子息であるギーシュを打ち負かしました。我々も遠見の鏡で見たでしょう? あの動き、明らかに人知を超えています」 オスマンは無言で腕を組み考え込む。 「伝説の使い魔ガンダールブ、か。それはそうと、君、やけに落ち着いているというか冷静じゃな」 「と、言われますと、オールドオスマン?」 「てっきり君のことじゃから、もっと興奮してまくし立てるかと思ったのじゃけれども」 「いえ、ちょっと気にかかることがありまして」 「何じゃその気にかかる事というのは?」 「大したことではございません」 そう呟くように言うと、彼は禿げ上がった頭をハンカチで拭いた。 彼の脳裏では昼間にあの使い魔が一瞬見せた狼のような目が焼きついていた。なんとかその場では冷静な対応を保てたものの、正直その瞬間全身が粟立った。彼は知っていた、あのような目をする人種を。 あの男はただの気さくな若い男などではない。その瞳の奥には自分の想像も付かないような恐ろしい獣が棲み付いている。コルベールはそんな確信めいた不安に取り付かれていた。 そして、そんな男がガンダールブの力を得たこと。そこに彼はどうしようもない恐怖を感じていた。 一方その頃、肝心の話題に上っている男であるウルフウッドはルイズの部屋にてある頼みごとをしていた。 「武器屋に連れてってくれ、ですって?」 「そや」 ウルフウッドは部屋の隅に敷いた自分用の藁の上で胡坐をかきながら、ベッドに座るルイズを見ている。 「出来る限り早いうちに、この辺りに武器屋みたいなとこがあったら案内して欲しいねん」 「と、唐突に一体何を言い出すのよ? 第一武器なんて何のために必要なわけ?」 「ワイは使い魔やろ、つまりはおじょうちゃんをまもらなあかん。そうすると武器が必要になるのは当たり前やないか」 嘘八百もええとこやな、とウルフウッドは思う。 「確かにそりゃそうだけれども、でも……」 「頼むて。別になんか欲しいわけやない。どんな武器があるか知りたいだけやねん」 それはウルフウッドの本心だった。自分の持っている銃器の類は確かに強力な武器だ。しかし、銃器には共通して弾丸を消費するという弱点がある。つまり、彼は確認しておきたかったのだ。この世界の文明のレベルを。そして、自らの牙を思う存分振り回せる環境にあるかどうかを。 「あんた十分強いじゃない。それなのになんで武器なんかに興味を持つの? それで十分でしょ?」 もっともだ。ウルフウッドは心の中でルイズの言葉に首を縦に振った。しかし、彼の中にあるある種の本能のようなものがそれを許さない。落ち着かないのだ。銃を奪われた自分など想像もしたことがない。 こんな別世界に来てまで――彼は心の中でそう呟いて自嘲気味な笑みを浮かべた。体の芯まで染み付いた暗殺者としての本能に抗えない自分自身をあざ笑った。 正直に白状すると、彼の精神は高ぶっていたのだった。あの時、ギーシュのワルキューレをパニッシャーで殴り飛ばした時。体が異常に軽かった、意識が研ぎ澄まされていくのを感じていた。なぜだかはわからない。けれども、自分は間違いなくそこに確かな満足感と快感を感じていた。 「まぁ、明日は虚無の曜日だから、別にあんたをつれていくのは構わないけど」 ルイズは納得できないなりにも、一応ウルフウッドの要求は筋は通っているので気が進まないながらも、しぶしぶながら許諾した。 「おおきに」 そしてウルフウッドは人懐っこそうに笑った。 ルイズは思った。彼がそうやって人懐っこそうに笑うほどに、それが虚ろに見えてくることを。 「なぁ、移動手段て馬以外ないの? けつが痛うてしゃあないんやけど」 「文句言わないの。これだから馬にも乗った事のない平民は」 「そやかて、三時間もけつ揺さぶられたらそらきついで」 「あー、もう、街中で下品な言葉使わないで!」 二人は約束どおりトリステインの城下町にやって来ていた。尻をさすりながら文句を言うウルフウッドの前をルイズがずんずんと進んでいく。 「けど、馬いうのは不便やな。遅いし。荷物は運べへんし。けつは痛いし」 「あのねえ」 なおも文句を言い続けるウルフウッドに向かってルイズは振り向いてまくし立て始めた。 「ごちゃごちゃうるさいのよ! 第一、あんたのあの重たい十字架、だったけ? あんなもの馬が運べるわけないでしょうが! あんな重たいもの乗せたら馬の背骨が折れるわよ!」 そうなのである。朝、出発しようとしたときウルフウッドはいつもの癖でパニッシャーを担いだまま馬に乗ろうとしたのだ。 「お前らちゃんと魔法以外の技術にも目を向けたほうがええぞ」 ウルフウッドはため息を付くように誰へともなく呟いた。 「それとあとすりには気をつけなさいよね。この界隈はほんとうに多いんだから」 「こういう人があつまるところですりがおんのは、どこの世界も変わらへんな」 変なところでウルフウッドは感心していた。ちなみに今はウルフウッドが財布を預かっている。貴族は財布なんか下僕に持たせるのよ、と言われたからである。 「――っと。言うてるそばからか」 ウルフウッドは自分のジャケットの内側へ伸ばされた手を掴んでいた。すりである。ウルフウッドはその手を差し込んできたすりの顔を見下ろした。 「おい」 その言葉にすりは震えながら身をすくめる。 「全く、なにやっとんねん、このガキは」 あきれるような声を出して、ウルフウッドは掴んだ手を離した。そして、腰をかがめて目線をすりに合わせる。そのすりは、まだ年端もいかない少年だった。ぼろぼろになった布切れと呼ぶほうがふさわしい衣服を着て、埃だらけの髪と垢まみれの顔でウルフウッドを怯えた目で見つめる。 その直後、もう一人の少年がウルフウッドに飛び掛ってきた。ウルフウッドは難なくその少年の振り上げた拳を掴んで止めた。 「お前ら、ひょっとして兄弟か?」 ウルフウッドに襲い掛かってきたもう一人の少年は、すりの少年よりも少しだけ幼そうな顔立ちをしていた。おそらくは、兄弟二人組みのすりなのだろう。実行役の兄が捕まったので、それを助けるべく弟がウルフウッドを襲ったようだった。 彼らは抵抗するそぶりはもう見せない。その代わり、ウルフウッドを力強くにらみつけている。 「お前ら、ちょっと待っとれ」 ウルフウッドは落ち着いた声で兄弟に話しかける。兄弟はウルフウッドの目を見据えたまま静かに彼の動向を見つめている。 「ちょっと、あんたなにやってるのよ」 そんなウルフウッドの態度を訝しげに思ったルイズを、ウルフウッドは手で制する。 「すまんのう。手持ちこんだけしかないねん」 ウルフウッドはポケットから銀貨を三枚取り出した。これはルイズから預かっているお金ではない。彼が時々魔法学院の厨房などを手伝って稼いでいる、彼自身のお金である。そこの料理長のマルトーはなぜかウルフウッドをいたく気に入ったようで、ウルフウッドに簡単なアルバイトみたいなことをさせているのだった。 「一枚はオマエ、一枚はオマエ、で、もう一枚はオレや」 そう言ってすりの少年たちの手に一枚ずつ銀貨を握らせていく。 「少のうて悪いが、ええか? これで」 そしてウルフウッドは悪戯っぽく子供たちに笑いかけた。子供たちの表情が光が差す様に明るくなる。そして、彼らはウルフウッドに笑いかけると、無言のまま走り去った。ウルフウッドはその後姿を寂しげな目をして見送る。 「……何をやっているのよ、あんたは」 「あぁ、おじょうちゃんのお金には手えつけてへんから安心してな」 何事もなかったかのようにウルフウッドは笑ってみせる。 「そうじゃなくて、どうしてあんな、へ、平民のすりにお金をあげるようなことしたのよ?」 「さあな。なんでやろな」 残ったコインを一つ指ではじいて、それを空中で掴むと、ウルフウッドは満足そうに笑った。ルイズは怒っているような表情でウルフウッドをにらみつける。どういう顔をしていいかわからなかったから、とりあえず怒っているように見せているという表情だった。 「なぁ、前から思てたんやけれどもな」 空を見上げながらウルフウッドは呟くように言う。 「な、何よ」 「あんまし無理はせえへん方がええで。自分で自分を殻に押し込めて生きていく生き方は辛いやろ」 「な、なんであんたにそんなことを! それに別にわたし自分を殻に押し込めているわけじゃないわよ!」 ルイズはむきになってスカートの裾を両手で掴んで反論した。しかし、ウルフウッドは空を見上げたまま気持ちよさそうに笑うだけである。 「そうか? まぁ、ええわ。あのガキ共の背中を見送ったとき、じょうちゃん笑っていたような気がしたんやけどな」 言うだけ言ってこの使い魔はご主人様をほっといて先を歩き始めた。 どこか納得のいかないルイズも無言でしばらくそのままたち続けたが、やがて走ってその後を追いかけた。 ウルフウッドの後を歩きながらルイズは思う。彼の中に感じるぽっかりと空いた様な空白は、彼が誰かに自分の心を切り出すようにして与え続けたためではないか、と。 ウルフウッドは手に取ったものを一通り弄繰り回すように眺めると、深い深いため息を付いた。 「あかん。こんなもん旧式もええとこやで……」 「いやいや、旧式などではございませんよ。それは当店で入荷した最新式の銃でして」 「いや、そういう意味ちゃうねん。こう、もっと根本的になぁ」 ウルフウッドは困ったような表情で、手に持った銃を眺める。武器屋にやってきて見せてもらった最新式の銃は、彼の悪い予想どおりに単発の火打ち式。一発撃ってしまったら終わりという代物であり、さらには金属の加工精度が悪いため命中率も低い。 「こんなんやったらないほうがマシかもしれへん」 「なによ、銃が欲しいって言い出したのあんたじゃないの」 落ち込むウルフウッドの横からルイズが口を挟む。しかし、ウルフウッドは首を左右に振るだけだった。 彼がここへ来た目的は二つある。まずは、今使っている銃の弾丸、もしくはそれを作り出す技術があるのかを確認すること。そしてもう一つは、彼のもといた世界での最後の戦いで破損したパニッシャーの修理を頼むこと。しかし、この店の品揃えを見る限りでは、どちらも希望薄である。 弾薬がない以上銃はあまり使えへんな。ウルフウッドは静かに覚悟を決めた。手持ちの弾丸はパニッシャーに残っている分と、懐のマガジン一つ。こうなってくると今までのような戦い方はできない。 それ以外の武器、となると刃物、ナイフの類か。これなら弾切れを心配する必要はない。一応、護身術程度には扱いは仕込まれている。使えないことはない。 「銃よりも剣使うたほうがマシかもしれへんな」 「おう、いいこというじゃねえか、そこの若いの!」 突然店内に響いた声にルイズとウルフウッドは同時に辺りを見回す。しかし、そこには自分たち以外に客はいない。どういうことだ、とウルフウッドが首をひねっていると 「おう、どっちを見てやがるんだ。こっちだ、こっち」 と、店の隅っこのほうに立てかけられた剣のほうから声がする。 「こら、うるせえぞ、デル公!」 「なんだと、この馬鹿店主が!」 ウルフウッドはその時、店の隅に置かれた剣の一つの鍔が一人でカタカタなっているのを見た。 「まさか、あれ、剣が喋ってるんか……?」 「インテリジェンスソードね」 ウルフウッドの疑問にルイズが答えた。 「インテリジェンスソード? なんやねんそれ?」 「簡単に言えば、意思を持った剣よ。魔法を掛けて作り出すの」 「へー、お前ら魔法使いの考えることはオレにはわからへんわ」 ウルフウッドは目の前の異様な光景にあきれ返るような声を出す。 「おい、こら、こっちをへんなものでも見るような目で見るんじゃねえ」 「いや、十分へんなものやろ……」 「なんだと、このやろ! てめえちょっとばかしいいこと言ったから褒めてやろうと思ったのに……っと、こいつはおでれーた。お前使い手かよ」 「使い手、やと? どういう意味や?」 剣の言葉に、ウルフウッドの視線に鋭さが宿る。それを見たルイズはかつて一度だけ自分に向けられた狼の視線を思い出した。 「どういうもこういうもねえ、そのままの意味だよ。若えの。武器が欲しいならオレを連れていきな」 「ちょっと、あんたあんなへんなの買う気じゃないでしょうね」 ルイズが不安そうにウルフウッドの服の裾を引っ張る。 「そうですよ、当店ではあんなのよりももっと立派な剣をいろいろと取り揃えておりますから」 店主も両手をもみ手にしてウルフウッドに語りかけてくる。 「いや、これでええで」 「って、ちょっとあんたねえ」 ルイズはあからさまにウルフウッドに不満な視線をぶつけてきた。しかし、ウルフウッドは軽くそれを笑っていなすと 「喋る剣なんて、おもろいやないか。それにや――武器なんて買うて一体それを誰に向けるねん、ていう話やしな」 と少し自嘲気味にからっぽな笑みを浮かべた。 「あー、くそぉ! まぢでイライラする!」 夕暮れの大通り、といっても彼の感覚ではそんなに大きな通りでもないのだが、を歩くウルフウッドはいらだたしげに頭をぼりぼりと掻いていた。 「仕方がないでしょう! ないものはなかったんだから!」 ルイズはそんなウルフウッドを隣で小突きながら、叱り付ける。 「けどなぁ、いくらなんでもタバコがないなんておもわへんかったで……」 「あんたの言う火をつけたら煙の出る棒みたいなのはちゃんとあったでしょ」 「どこの世の中にお香を口に加えて吸うやつがおんねん。オレが探してたんはタバコや、タ、バ、コ」 「似たようなものじゃないの」 「違う、全然違う。はぁー、死ぬまで禁煙なんぞするかいとおもてたのに。まさかこんな形で禁煙する羽目になるとはなぁ……」 ウルフウッドは心底意気消沈していた。彼が町に来た裏の目的、それはタバコを仕入れることだったのである。彼が懐にいれていたタバコは土の中にいたせいか湿気ってしまって、吸えたものではなかった。よって、ヘビースモーカーの彼はこの世界に来てから一本もタバコを吸っていない。そろそろ禁断症状が表れる頃合だったのである。 「結局手に入ったんはこんな面白グッズひとつか」 ウルフウッドがそう呟くと、間髪いれずにその背中から 「おい、こらてめー。このオレ様を面白グッズ呼ばわりとは言ってくれるじゃねえか!」 「え、そうなんちゃうの?」 「てめえ、伝説の剣デルフリンガー様をつかまえてその言い草とは!」 「まぁ、そんだけおもろかったら伝説にもなるわな」 「おい、こらてめー」と憤るデルフリンガーを背に、どうでもよさそうにウルフウッドはため息を付く。タバコがないとなんか落ち着かない。 「あんたさー、じゃあなにを考えてそんなうるさい剣なんか買ったのよ?」 「あぁ、やって、これ話し相手にちょうどよさそうやろ?」 ルイズはその返答に思わず「話し相手ならわたしがなってあげるわよ」と言いそうになったが、そこはぐっと言葉を飲み込んだ。 「まぁ、ええやないか。どっかの誰かさんが大盤振る舞いしたせいで、どちみちこの剣しか買えへんかったんやし」 「お、大盤振る舞いですって!」 ルイズが眉を吊り上げて立ち止まった。 「まさか、持ってきた金をほとんど寄付してしまうとは思わへんかったわ」 そうなのである。この町についてすりの一件があった後、ルイズは何を思ったのかウルフウッドを連れて町の福祉役所に向かい、そこに持ってきたお金のほとんどを寄付してしまったのである。 「そ、そうやって、福祉に力をいれるのも、き、貴族たる我々の義務なのよ!」 ルイズは顔を真っ赤にして言い返す。まさかウルフウッドの行動に感化されたなんていうことは、死んでも認めたくない。 もともと、寄付するつもりだったのである。けど、たまたまウルフウッドが先にあんなことをやってしまったせいで、そう見えるだけなのである。へんな対抗意識を燃やして、見栄を張ってほぼ全額寄付したなどということは絶対ない。そういうことにしておいた。 そうやってむきになるルイズを見て、ウルフウッドは困ったように頬を緩ませる。 「そうか、ほなまぁそういうことにしといたるわ」 「しといたるわ、ってなによ! あんたわたしの使い魔のくせに!」 自分を指差して真っ赤な顔でわめき散らすルイズに苦笑いを浮かべながら、ウルフウッドは前へ進んでいく。 貴族や平民なんて枠に縛られずもっと素直に生きたらいいのに―― 「けど、一旦体に染み付いてしもうた生き方いうのは、なかなか変えられへんもんやからな――」 誰にともなく呟いた言葉は夕方の町の喧騒に消えた。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5264.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第二十話 魔法学院の庭ははもはや庭ではない。辺りは火と煙がもうもうと立込め、一寸先も見えない。炎に照らし出された巨大な炉のようだ。 それは焼けつくように熱く、殺伐として耐えられないので、その場にいた使い魔たちでさえへ壁にしがみつき、必死にそこから逃げようとした。まともな人間はこの地獄から逃げ出す。 どんなに硬い意思でも、いつまでも我慢していられない。今、目の前で生まれた悪魔はGACHIHOMOと名づけられた。神よ、なぜ我等を見捨てたもうたのか―― ――モンモランシーの日記より。 「って、モンモランシーあんたなにぶつぶつ言っているのよ。 っていうか、ちょっと、これは一体どういう騒ぎなのよ!」 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは目の前の惨状にただ呆然と立ち尽くしていた。 「あ、ルイズ……」 呆然と立ち尽くしていたモンモランシーは旧友の呼びかけに、うつろな瞳を返した。 「ちょ、あんた、どうしたのよ? っていうか、なんなの、さっきから繰り返えし起こっている爆発は!」 ルイズは学院の中庭を指差した。あたりにはルイズ以外の野次馬も集まってきている。例のアルビオンのタルブ侵攻があった直後だ。生徒たちはこの異常事態に過敏に反応し、半ばパニックを起こしかけている。 「おい、あれコルベール先生じゃないか!」 一人の野次馬が大きな声を上げた。 「それにもう一人いるぞ……、って、あれは確かこの間召喚された平民の使い魔!」 え? とルイズは思った。まさか、なんであの二人が…… 目を凝らして、煙の中を見る。見覚えのある黒服の大男とハゲ頭。その二人がくんずほぐれつ激しい戦いを繰り広げているではないか。 「ちょ、ちょっとモンモランシー! なんで、ウルフウッドとコルベール先生が戦っているのよ!」 「いや、ちょっと、それには諸事情が……」 「はぁ? まぁ、いいわ。事情は全く読み込めないけど、とにかくわたし止めてくる!」 事情はまったくわからないが、あの二人が絡んでいるとなると、放って置けるわけがない。ルイズは杖を掴むと、煙の渦巻く戦場へと走り出した。 「がんばって、ルイズ。あの二人を止められるのはあんたくらいしかいないわ」 モンモランシーは走り去るルイズの背中に両手を組んで、懇願するような声を出した。 煙の中を走っていくと、だんだんと状況が読み取れてきた。黒い煙の中で、ウルフウッドとコルベールが対峙している。 爆発の原因はコルベールの魔法だ。そして、ウルフウッドはパニッシャーもデルフリンガーも持っていない丸腰の状態で、なんとかコルベールの魔法をかわしている。 「とにかく、止めなきゃ!」 そうだ、止めないといけない。ルイズは二人の間に走りこんだ。 ルイズはウルフウッドを見た。ウルフウッドはルイズに向かって、早く逃げろと言うように右手を振っている。なぜか、半泣きだ。 ――で、でも止めるって、一体どっちを? どっちを止めればいいのよ! ルイズはその場でうろたえた。その時だった。 「ははは、逃げないでくださーい。ウルフウッドたーん♪」 ……あ、ダメだ。目がイッてるわ。 迷わずルイズは杖をカエルのような体勢で宙に飛んだコルベールに向けた。 そして次の瞬間、激しい爆発が起こって、その場に気絶したコルベールが仰向けに転がっていた。 $ 「じょうちゃん、すまん。助かった。いろんな意味で、いろんなものが死ぬところやった……」 半泣きの表情でウルフウッドはルイズの肩に手を置き、しみじみと礼を言った。 「お礼なんかいいから、一体何が起こったのよ?」 ルイズは少し頬を赤らめると、ウルフウッドの手を振り払った。そして、ルイズは汚いものを見るような目で、地面にゴキブリのように転がっているコルベールに視線を送る。 「いや、それがワイにもわからへんねん。なんか、突然、こう――」 「突然?」 「ムラムラ、っと来たのか……」 「ムラムラ?」 「太陽の光に当てられて、頭に何かへんなものが湧いたのか……」 「何が湧いたっていうのよ?」 「とにかくや。突然にワイの事が好きやー、言うて襲い掛かってきたんや」 「……帰るわ」 ルイズは片方の頬を不自然にぴくぴくと引きつらせ、くるりと踵を返した。 「あー、じょうちゃん、ひくな! ひかんといてくれ!」 「……何よ、それ」 「それはワイが訊きたいわ!」 ウルフウッドが憤然とした様子で叫ぶ。 「あんたら、そんな関係だったの? 前から、仲いいとは思っていたけど」 「だから、ちゃうって! ホンマ突然に人が変わったようにやな!」 「突然人が変わったように、って。……あっ」 何かを思い出したようにルイズは口をつぐんだ。 「どうしたんや、じょうちゃん」 ウルフウッドが不思議そうにルイズの顔を覗き込む。 「そういえばモンモランシーの様子がなんかおかしかったわ」 「モンモランシー? あの金髪のじょうちゃんか? そう言えば、コルベールセンセがおかしくなったときに傍におったな……」 ルイズの頭の中で、一つのストーリーが組み立てられていく。 「ウルフウッド! ちょっと、モンモランシーのところへ行くわよ!」 ルイズはウルフウッドの手を掴むと、走り出した。 「ちょ、ちょ待て。コルベールセンセはどないすんねん?」 煙をぷすぷすと上げたまま倒れているコルベールをウルフウッドが指差す。 「なんか、適当にそこらへんにあるロープでぐるぐる巻きにして、どっかに置いておけばいいでしょ! タバサ、お願い!」 ルイズは走りながら、野次馬でキュルケとその場にいたタバサに声を掛けた。 「なんなのよ、ロクに説明もしないで、ルイズのヤツ。……でもまぁ、うちの学校で、先生を平気で縛り上げられそうなのはあんたくらいしかいないからねぇ。タバサ」 どこか同情するようなキュルケの声を背中で聞きながら、タバサは黙々と煙を上げてくすぶるコルベールをぐるぐるとロープで縛る。 「……ハゲの簀巻き」 タバサは、ちょっぴり楽しそうだ。 $ 「ミス・モンモランシー、ご機嫌はいかがかしら?」 「あら、ルイズ。わざわざ私の部屋に尋ねてくるなんて、どういったご用件かしらー?」 見る人物が見れば、思わず息を呑みそうな美少女二人が開いたドアの前でにこやかに話をしている。遠目から見れば。 「あら、すっとぼける気かしら?」 「おほほ、一体何のことかしら? ルイズ」 「意外だったわ。まさか、あんたの趣味が禿げた中年親父だったなんて。清純そうな顔して、結構趣味はえげつないのねー。まさか、あなたがそんな人だと思わなかったわ。こんな面白いネタ、キュルケたちにも教えないとねー」 「ち、ちょっとルイズ! 何馬鹿なことを言っているのよ!」 「何が馬鹿なことよ。惚れ薬を使ってまで、コルベール先生と恋仲になろうとしたくせに」 「ち、違うわよ! あれはギーシュに……あ」 慌てて口をつぐんだモンモランシーの肩をルイズとウルフウッドは片方ずつ掴んだ。 「引っかかったわね、モンモランシー」 「ほな、少し『おはなし』しよか、モンモン」 ウルフウッドとルイズはにやりと笑って、呆然とするモンモランシーの部屋に踏み込んだ。 「しかし、何でもありなんやな。お前ら魔法使いは。まさか、惚れ薬なんていうもんが実在するとは」 椅子にだらしなく体を預けながら、ウルフウッドが感嘆の声を上げる。 「別に惚れ薬って言っても、そんなたいそうなもんじゃないわよ。効果は永久的に続くものではないし」 ルイズが口を挟む。 「まぁ、ええわ。で、あの薬はどれくらいで効果が切れんねん? 大体数時間くらいか?」 「まともな惚れ薬って練成がすごく難しいから、そう長時間は持たないの。モンモランシー程度の技術じゃ、せいぜい数時間がいいとこじゃない?」 このルイズの一言にモンモランシーカチンと来た。 「ふっ、見くびらないで欲しいわね、ルイズ。わたしの二つ名は香水よ? その香水のモンモランシーが最高級の秘薬を使って、細心の注意を払って丹念に合成した惚れ薬よ! 見くびらないで貰いたいわね。一ヶ月は軽く持つわよ! うまくいけば一年くらいいくかも」 「へー、そらすごいなー、モンモン。で、一ヶ月間もワイらはどうしたらええの?」 「……ごめん。反省してるから、その笑いながらそれを突きつけるのやめてくれるかしら」 怖いくらいの満面の笑みでパニッシャーを突きつけるウルフウッドに、モンモランシーは両手を挙げて、謝った。 ついついオタッキーな本音が出てしまったモンモランシーだった。 「まぁ、そんなことだろうとは思っていたわよ。何か解毒の薬はないの? まさか、コルベール先生を一年間簀巻きにするわけにはいかないし」 「ないことはないけど、それを作るには、また秘薬が必要なのよ」 モンモランシーが言いにくそうに話す。 「やったら、その秘薬とやらをまた調達したらええやないけ」 モンモランシーはあきれ返るようにため息を付いた。 「あのねぇー。そんな風に簡単に調達できないから秘薬なんでしょ。まったく、そんなこともわからないのかしら――って、ごめんなさい。謝る! 謝るから!」 ウルフウッドは無言でモンモランシーに突きつけたパニッシャーを降ろす。 「簡単に調達できない、っていうことは、がんばればその秘薬は手に入れられるのよね」 「え?」 ルイズがモンモランシーの前にずいっと身を乗り出した。 「そ、そりゃまぁ、そうだけど……」 「ほな、そこまでひとっ走り行こか」 ウルフウッドとルイズがモンモランシーの両脇を取る。そして、強引に部屋から引きずっていく。 「ちょ、ちょっと待ってよ。今日は、これから授業がー!」 「大丈夫やて。やって、肝心の授業をする先生が、今簀巻きになって地下室に転がってるし」 「自業自得ね。観念しなさい」 引きずられていくモンモランシーの悲鳴が女子寮にこだました。 このとき、彼らの姿を壁の影から盗み見ていた人物の存在に、まだ彼らは気付いていなかった。 $ コルベールはぼんやりと床に転がったまま、天井を見ていた。あれから、とりあえずは人目を避けるために、学院の地下室に放り込まれたのである。 しかし、なんと言うことだろうか。この狂おしいまでの熱い思いをウルフウッドにぶつけなくてはならないというのに、こんなところで寝転がっていて。 ウルフウッド君は俗に言うツンデレというヤツだから、私の熱い愛のアプローチに照れて逃げ回っていたのを勘違いされるとは……。 いや、あれはワザとに違いない。あのルイズが恋のライバル……いや、横恋慕! 惚れ薬のせいで、コルベールの思考回路は随分とおかしな接続になっていた。 コルベールは辺りを見回してみるが、地下室には何もない。もともと空き部屋として、たまに倉庫として使っている程度のスペースだ。 しかも、今は自分は簀巻き状態。だれがやったのかは知らないが、やけにきっちりと全身を簀巻きにされている。 「まったく、私は純粋に恋をしているだけで、何もおかしくないのに!」 基本的におかしな人間はそう言う。 「あぁ、ウルフウッドたん! 早く会いに行って、あのルイズの毒牙から救わねば!」 本人のあずかり知らぬところで、ルイズは勝手に中年男の恋のライバル認定されていた。 しかし、そうは言ってもどうすることも出来ない。コルベールはため息をつきながら、天井を見上げていた。 誰かが、地下室に下りてくる足音がした。コルベールは尺取虫のように、もぞもぞと動いて、顔を上げる。 何者だろうか? 自分を救いに来てくれた味方だろうか? それとも、あの憎っくきルイズの放った刺客だろうか。 コルベールは静かに息を呑む。 「コルベール先生ですね?」 「そうですが、あなたは一体?」 地下室の暗闇に紛れて相手の姿は見えない。 「あなたを助けに来ました」 「私を助けに来たですと?」 コルベールは警戒心のこもった声で問い返した。 「その通りですわ」 「つかぬ事を伺いますが、一体あなたはどちら様ですか?」 コルベールは声のトーンを押し殺した。しかし、期待の色は隠しきれない。 「あなたはウルフウッドに会いたいですか?」 「当たり前でしょう! 私とウルフウッド君は赤い糸で結ばれておるのです!」 本人の知らぬところで、勝手にウルフウッドは赤い糸に結ばれた。 「ほほほ。いい答えです。私はあなたとウルフウッドの禁断の恋を応援する者!」 「応援する者ですと?」 「その通り。私はこの地に革命を起こす。この世界をあなたのようなガチホモが堂々と跳梁跋扈出来るガチホモの楽園に!」 おお、とコルベールは感嘆の声を上げた。 「コルベールよ。あなたは選択できる」 「選択とは?」 「攻めとなるか……」 あとをコルベールが引き取った。 「受けとなるか、ですな?」 「その通りですわ。これはとてもとても重要なことなのです」 「んー、私はどっちかというと受けですかね」 「ということは、ウルフウッド×コルベール。ウルコルカップリングですわね」 コルベールは笑った。 「その通りですぞ」 「ふふ。今日からあなたは私たちの同志ですわ」 コルベールは上半身を起き上がらせ、尋ねた。 「そして、あなたの名前を教えていただけませんか?」 人影がゆっくりとコルベールに近づいてくる。近づいてきた人物の顔に光が当たった。そこには魔法楽員の教師の制服を着て、紙袋を頭にかぶって両目に穴を開けただけの中年女性がいた。 「ふふふ。ただの謎の貴腐人Sとでも、名乗っておきましょうか」 ちなみに、特徴的な髪型のせいで、紙袋はぱんぱんだった。 とりあえず、コルベールは気付いていない振りをしてあげるのが優しさだと思った。 $ ウルフウッドは全速力でバイクを飛ばす。サイドカーにはモンモランシーが乗っていて、ウルフウッドの背中にはルイズがしがみついている。 あれから、すぐに秘薬を探しにトリステインの城下町に向かったのだが、あいにく秘薬は売り切れていたのだった。 「ラグドリアン湖いうのは、こっちでええんやな?」 「そうだけど、でも本当に行くの? 水の精霊は滅多に人前に姿をあらわさないし、ものすごーく強いのよ。怒らせでもしたら大変なことになるわよ」 「……何言うてんねん。もう十分大変なことになっとるがな~」 「わかった。わかったから、その悪魔の笑顔はやめて」 観念したようにモンモランシーは顔を両手にうずめる。 「ちゃっちゃっと、その精霊の涙いうのを手に入れて、帰るで」 ウルフウッドはアクセルを強める。馬車などは比べ物にならないスピードだ。ガリアとの国境へはもう一時間ほどで着く。 「すごいな……。水がこんなにぎょうさんあるなんて。やっぱ、すごいな、この世界は」 湖を目の前にしたウルフウッドは、半ば心奪われている様子で呟いた。 「ねぇねぇ、ウルフウッドって前から変わっているなって思っていたけど、やっぱり変じゃない?」 「何がよ?」 ウルフウッドの様子を後ろから見ながら、モンモランシーはルイズを肘で小突いた。 「だってさぁ、湖を見ただけであれだけ感動しちゃって。一体、あいつの出身ってどんなところだったのかしらね」 「……知らないわよ。そんなの」 ルイズは思った。そういえば、自分はウルフウッドのことを何も知らない。彼自身なにも積極的に語ろうとしないし、なんとなくうかつ訊いてはいけないような気がする。 「まぁ、いいわ。ここまで来たら、もうさっさと精霊の涙を貰って、帰るわよ」 モンモランシーがすたすたとラグドリアン湖の湖畔へと歩いていく。 「水位が上がっている?」 波打ち際まで歩いたモンモランシーがぽつりと呟いた。 「え、どういうこと?」 ルイズがモンモランシーに尋ねる。 「前来たときは、岸辺はもっと向こうだったはずよ。それに、ほら見て。あそこ、村が沈んでいるみたい」 モンモランシーの指差す先で、屋根の先がちょこんと水面から出ている。 「ひどい水害だわ。水の精霊は怒っているみたいね」 「なんで?」 「知らないわよ。とにかく、水の精霊を呼び出さないことには何も分からないことだけは確かね」 モンモランシーは腰に下げた袋から一匹のカエルを取り出した。 「か、カエル!」 カエル嫌いのルイズは思わず、一歩後ずさる。 「失礼ね。人のかわいい使い魔に向かって!」 「使い魔?」 いつの間にか二人に追いついていたウルフウッドがモンモランシーの手に乗るカエルを覗き込む。なぜか見詰め合う、一人と一匹。 「……同業者? ワイ、カエルと同類?」 とりあえず、ルイズとモンモランシーには返す言葉がなかった。 ウルフウッドたち三人は、どこか微妙な空気を漂わせたまま、岸辺でカエルの帰りを待つ。 「カエルが帰る」 「いや、別に面白くないから」 ウルフウッドのボソッと吐いた言葉に、ルイズがさらりと突っ込みを入れる。 そんな二人の様子を見て、最初の頃どこか他人を寄せ付けないぎすぎすした感じのあったウルフウッドが変わったことを、モンモランシーは感じた。 と、そんな間の抜けたやり取りをしていると、目の前の水面が光った。そして、水面が盛り上がり、人型のアメーバのようなものが立ち上がる。 「お帰り、ロビン。ちゃんとつれてきてくれたのね」 ぴょんぴょんと跳ねて、岸辺から戻ってきたカエルをモンモランシーは大切そうに抱き上げた。 「これが、水の精霊か。ホンマにこの世界はいろんなもんがおるな」 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたら、わたしたちにわかるやりかたと言葉で返事をしてちょうだい」 水の精霊がグルグルと動き始め、モンモランシーの姿をとる。その表情は笑顔から泣き顔、怒り顔までさまざまに変わった。そして、 「覚えている。単なる者よ。貴様の体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」 「よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部をわけて欲しいの」 「体の一部?」 ウルフウッドが怪訝そうな声を上げた。 「涙っつっても精霊が泣くわけないでしょ。わたしたちとは全然違う生き物……、というか生き物なのかすらわかんないんだから。水の精霊の涙ってのは、精霊の、一部よ」 「ふーん、そらまあ、随分と趣味の悪い秘薬やな」 「うるさいわね! 精霊が怒るでしょ!」 水の精霊がにこりと笑った。ウルフウッドの口から、思わず期待に満ちた声が漏れる。 しかし、返ってきた答えは期待とは全く正反対だった。 「断る。単なる者よ」 「そりゃそうよね。残念でしたー。さ、帰ろ」 「待たんかい!」 あっさり帰ろうとするモンモランシーの方をウルフウッドがむんずと掴む。 「だ、だってしょうがないじゃないのよ! 怒らせたら、どうなると思っているのよ!」 ウルフウッドはぐっと唇を噛み締めると、水の精霊の前に走り寄った。そして、いきなり土下座をする。 「頼む、後生や。精霊の涙を、お前の体の一部を分けてくれ!」 「ウルフウッド……」 絶対に人に頭などを下げないと思っていたウルフウッドの行動に、ルイズは驚いた。 ――そんなに、コルベール先生が大切なのね。 その姿に二人の友情を確認する。 「頼む。このままやと、このままやと――」 ウルフウッドの頭の中で、コルベールの姿が浮かぶ。 ――ウルフウッド君。パニッシャーのメンテナンスが終わりましたので、私の部屋に取りに来てください。全裸で。 ぐっと親指を立てるコルベール。 ――ウルフウッド君。何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってください。私がお手伝いしますぞ。性的な意味で。 恥ずかしそうに頬を赤らめるコルベール。 ……ぜ、絶対に嫌やー! こんな生活があと一年も続くなんて! 「頼む、ほんま頼む! ちゅうか、助けて! 間違いなく、正気が保てる自信がないんや!」 恐ろしい現実の前には、プライドもへったくれもなかった。 「いいだろう」 「ほんまか!」 ウルフウッドの熱意が通じたのか、水の精霊はあっさりと許可をした。 「何でもすると言ったな。ならば、我の頼みを聞いてもらおう。それが条件だ」 「かまわへんで! なんだってやったるわ!」 この世界に、あれ以上に辛い現実があるとは思えない。今なら、どんな過酷な条件にも耐えられる気がする。 「奪われた秘宝を取り返して欲しい」 「秘宝?」 「アンドバリの指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 「そら、かまわへんけど。なんか特長とか教えてもらえへんか?」 ウルフウッドは首を傾げた。さすがに名前だけで、何かを探すのは無理だ。 「偽りの命を与える指輪」 あまりうまく会話にならない。あとで、コルベ――いや、今はその名前は考えないようにしよう、とウルフウッドは思った。 「まぁ、ええわ。それでいつまでに取り返せばええねん」 「いつでもかまわない。お前の命のあるうちに」 「随分と気が長いな」 「我は永劫のときを生きるもの。戻ってさえくれば、それでよい。では、頼んだ、ガンダールヴ。我はお前を信用している」 ガンダールヴの言葉が少し引っかかったが、特に気にすることもなく、ウルフウッドは先を急ぐことにした。 「ほな、その精霊の涙とやらをくれ」 水の精霊は細かく震えた。水滴のように、その体の一部がはじけ、精霊の欠片が飛んできた。それをモンモランシーが慌てて、瓶で受け取る。 「まぁ、色々あったけど、これで無事目的のブツは手に入ったな」 ウルフウッドが安堵の吐息を吐く。 「帰ろか、じょうちゃん。今日はほんまにごっつ疲れたわ」 そう言って、ウルフウッドがくるりと振り向いたときだった。 「悪いですが、そうはさせませんよ!」 鋭い女の声があたりに響く。そして、地面の一部が盛り上がり、 「とう!」 という声と共に土の中から、人影が飛び出た。 「悪いですが、その秘薬を使わせるわけにはいきませぬわ」 夕暮れの日差しを反射する湖畔に立ち尽くす、頭に紙袋をかぶった謎の中年女性が姿を現した。特徴的な髪型で紙袋がぱんぱんに張り、でっぷり太ったお腹はメタボリックな輝き、そして怖いものは更年期。 その異様な光景に、世界が一瞬止まった気がした。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4404.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第六話 ウルフウッドとルイズは部屋の中央でにらみ合っていた。お互い一歩も譲らない殺気を放っている。 「ほんま話の通じひんじょうちゃんやの……」 「あんたこそ、いい加減折れなさいよ……」 ウルフウッドはベッド代わりの藁の上で、ルイズは部屋の中央のベッドに座り込んだままぶつかり合った視線をお互い譲らない。 「やから、別に問題ないやろ? おじょうちゃんにとっても」 「何を言っているのかしら? あんた使い魔としての立場がわかっていないようね……」 にらみ合う視線に今にも火花が飛び散りそうだ。 「あーもう、やからもう藁の上で寝るのはこりごりや言うてるやないけー! 数日やったらかまわんけど、毎日やといい加減背中も痛いし、うんざりやて!」 「だ、だからって、勝手にこの部屋を出て行って、よ、よそで寝るなんて認められないわよ!」 「別にええやんか! 料理長のおっさんが給仕人の寮に空き部屋が出来たから、そこを使うたらええいう許可してくれてるんやし」 「だ、だから勝手に出て行ったらだめしょうが、そ、その使い魔なんだし」 「やったら、どないせい言うねん。ワイのベッドをここに持ち込むんか?」 「そんなことしたら部屋が狭くなっちゃうじゃない!」 「んなん言われたかて、ワイもずっと藁の上で寝るのはいややで。あかん。これやと堂々巡りやないけ」 「え、えっと、その、だ、だから……」 ルイズはベッドの上に座ったまま指をもじもじし始めた。 「し、仕方がないわね。特別に許可してあげるわ」 「許可て、何を?」 「ベッドをここに持ち込むわけにはいかないし、かといって使い魔であるあんたを放し飼いにするわけにもいかないから……」 「いかないから?」 「だ、妥協に妥協を重ねた結果、ほんっとーにしょうがないから、わ、わたしのベッドで一緒に寝てもいいわ」 ルイズはここまで言った後、顔を赤くしてそっぽを向いた。意外な提案にウルフウッドは唖然と口を開ける。 「ワイとじょうちゃんが一緒のベッドで寝るんか?」 ルイズはそっぽを向いたままこくこくと頷いた。 「けどなぁ、それやと間違いが起こったらどうすんねん」 「ま、間違い!」 その言葉にルイズは真っ赤な顔をウルフウッドに向ける。やはり間違いとは、そういうことなのだろうか。 男と女が同じベッドで一緒に寝るのだ。ということは、そういうことなのだろう。 そこまで想像してルイズは顔をより真っ赤にした。耳まで真紅に染まっている。 いくらなんでもそんなことは許されないし、許すつもりも毛頭はない。ただ、なんとなく、なんとなくだが、そこまで悪い気もしない。 今まで女扱いされていない気がしていたが、一応ウルフウッドも自分を女としてみていたのだと思うと、悪い気はしない。 「え、えっと……」 ルイズはなんとかこの混乱している自分の頭の中身を悟られないように、平静を装おうとする。しかし、言葉は出ない。 「じょうちゃん」 「な、なに?」 ウルフウッドの声にルイズは背筋をビクンと反応させる。この男は自分に何を言ってくるのだろうか。 「一緒に寝るのはかまわへんけど、寝小便とかは勘弁してや」 「……」 翌日の朝、ウルフウッドは顔に見事な足型をつけて藁の上で目を覚ました。 コルベールはノックの音を聞いて、研究室のドアを開けた。 「やや、ウルフウッドくん。おはよう」 「おはよう、センセ」 「……その顔のあざは一体何かね?」 「日々成長していく少女の蹴りを見守った後や。ってそんなんはどうでもええねん。センセ、アレが直ったってほんまか?」 「うむ」 コルベールは得意げに頷くとウルフウッドを室内に案内した。 「まぁ、見てくれたまえ」 そう言うコルベールの右手の先には白い布をかぶせられた巨大な物体がある。 「でも、ほんまにセンセが直してくれるとは思わへんかったな」 「む? それは技術的な意味ですかな? それとも?」 「両方やな」 ウルフウッドはそう感慨深げに呟く。 「私もずっと迷っていました。しかし、ミスヴァリエールから君が命がけで彼女を助けたことを伺いましてね」 「そんな言うとったんか、あの子。ワイの前では人のことぼろかすにしか言わへんくせに」 「素直じゃないんですよ」 コルベールは苦笑いをした。 「まぁ、とにかく。その話を聞いて私は君を信じてみることに決めました。確かに力は人を傷つけることが出来ます。 しかし、その人を傷つける力から人を守れるのもまた力なのですから」 そしてコルベールは少し何かを考え込むような仕草をしたが、直に顔を上げて目の前の物体に掛けられた白い布を剥がした。 「おぉ!」 ウルフウッドは思わず感嘆の声を上げた。無理もない。 あれだけひどい銃痕の後があったパニッシャーのボディがきれいに平らになっているのである。 そして、もっとも破損のひどかったマガジンの外殻もきれいに修理されている。 「まさか、ここまで完璧に直せるとはおもわへんかったで」 ここでコルベールが「コホン」と咳払いをした。 「確かにウルフウッドくん、君の危惧していた通り、現在の我々の技術でこの武器を作り出すことは出来ないのです。 その原因は二つあります。一つは今の錬金でこれほどの素材を均質につくりだせないこと。 そしてもう一つは精密さを要求される部品の加工が出来ないことです」 コルベールはどこか得意げにパニッシャーの周りを歩き始める。 「ですが、この場合は運がよかった。外殻の破損はひどかったですが、内部の精密さを要求される駆動部分は無傷でした。 そして、さらに運のいいことにこの武器は左右対称です。外殻の補強にはそれを利用させてもらいました」 「と、いうと?」 「錬金を応用して外殻を半分づつに分けて、それを破損している場所の補修に使用したのです。 幸い、外骨格はそんなに加工精度を必要とされませんでしたからね。 ちなみにこの武器についていた傷跡も錬金を応用すれば簡単に元通りに出来ました」 ウルフウッドは感心の声を上げた。こういった武器に最も求められるものは破壊力以前に信頼性である。 いくら性能がよくても簡単に壊れてしまったら元も子もない。その点において最強の個人武装といわれるパニッシャーは非常に優秀であった。 「まぁ、見た目はひどかったですけど、実際の破損はそこまでひどくはなかったということですよ」 「あぁ、ほんまありがとうな、センセ。けど、その修理方法やったら、外装の厚みは半分になってしまうんちゃうか?」 「ええ。残念ながら。しかし心配はご無用! なにせ我々にもメイジとしての意地がありますからな。その武器の外殻には固定化の魔法を掛けさせていただきました」 「固定化?」 「ええーとですな。わかりやすく言うとこの間の宝物庫の壁にかかっていた魔法ですよ。物質の安定性を上げるのです。 一応四属性全ての固定化を行いましたから、ちょっとやそっとの魔法や衝撃じゃびくともしないわけです」 コルベールは大きく胸を張る。頼まれてもいないのに、こういう細かいところまで気の利いた作業をするのが彼の彼たる所以だった。 「なるほど、そりゃ心強いで!」 ウルフウッドは思わずコルベールの手を取り、それをぶんぶんと振り回す。最初は満面の笑みで応えていたコルベールであったが、やがて表情を少し曇らせた。 「しかしですな。そういう応急処置で本体を直すことは出来たのですが、肝心の弾丸の方が……」 「あっ……」 ここでウルフウッドもその手を止めた。 「現在の私たちの技術ではこの弾丸を作り出すことは出来ないのです。 それに今回は騙し騙し直しましたが、このパニッシャーという武器を一から作る技術もありませんし」 コルベールは大きく肩を落とした。 「我々の世界は如何せん魔法偏重でして、誰もこういった技術に目を向けようとしないのです」 「センセ……」 「ウルフウッドくん。肝心なところで力になれなくて申し訳ない。私ではこれが限界なのです」 うなだれるコルベールの肩にウルフウッドは手を置いた。 「そんなことないて。これを直してくれただけでも十分や。銃弾についてはワイ自身がなんとかがんばってみるわ。 それにまたセンセにはなんかあったときに力になってもわな」 「ウルフウッドくん」 そして見つめあう二人。 「……ところでウルフウッドくん。外から誰かが我々を見ている視線をひしひしと感じるのだが」 「……見たらあかん。目ぇ合わせたら終わりやで」 コルベールの小屋の窓に張り付く怪しい中年女性の人影が一つ。食い入るように室内の様子を見ている。 「『ワイは前からセンセイのことが好きやったんや。その太陽に光り輝くような頭、たまらへん』 そこでウルフウッドはコルベールの肩を力強く掴んだ。 『う、ウルフウッド君、いけないよ。私は先生で君は使い魔じゃないか』」 周囲にサイレントの魔法を掛けて、恍惚の表情でアテレコをしているそのお方の名はシュヴルーズ。 彼女こそはまさに貴腐人であった。 # ウルフウッドは洗濯をしながら大きくため息を付いた。 せっかく直ったパニッシャーも銃弾がないのならただの鈍器だ。 中途半端にうまく目的を達成できたことが、より彼の徒労感を強くしていた。 「はぁー、んでやっているこというたら、じょうちゃんのパンツ洗いかい」 ぶつぶつと文句を言いながらも律儀にまだパンツを洗っているウルフウッド。 一応働かざるもの食うべからずの信念を持っているので、部屋に止めてもらっている手前とりあえず洗濯くらいはやっているのであった。 (腹立つからパンツのゴムでも切ったろか) そんなことを思いながら洗濯の終わったパンツをカゴに投げ入れると、懐から弾丸を取り出した。それを太陽にすかすように目の上に掲げる。 これさえあれば。そんなに作り出すのはむつかしいものなのだろうか。 元いた世界では良くも悪くも銃社会であったので、弾薬の類に困ることはなかった。それこそパンやガソリンと同レベルで流通していたのである。 「あ、ウルフウッドさん」 「おう」 後ろから声を掛けられた。ウルフウッドが振り向くと、同じように洗濯物を抱えたシエスタが立っていた。 「おはようございます」 「おはようさん」 「あれ?」 シエスタがウルフウッドの手に持ってた弾丸に気が付いた。 「ウルフウッドさん、なんで竜の牙なんて持っているんですか?」 「え、竜の牙?」 「それです、竜の牙」 そう言ってシエスタはウルフウッドの手の中の弾丸を指差す。 「いや、これは竜の牙なんかやなくて――ってじょうちゃん、これを見たことあるんか!」 「え、ええ」 突然大声を出したウルフウッドをシエスタは不思議そうな目で見つめている。 「だって、それ私の故郷の村の特産品ですもの。ウルフウッドさんは私の故郷に行ったことがあるんですか?」 「いや、行ったことはない。なんちゅーか、これはもらいもんやねん。っちゅうか、これじょうちゃんとこの村で作られているんか?」 「ええ。そうです。うちのひいおじいちゃんが作っていたそうで。 なんでも銃の弾丸だって言って作っていたらしいんですけど、そんな弾を使う銃なんて見たことありませんよね? で、結局ひいおじいちゃん、それをいっぱい作っちゃって。 私たち家族はそれの処分に困って、仕方がないのでそれを竜の牙と言ってお土産で売っているんですよ」 それから「あまり売れませんけど」と言ってシエスタは笑った。 「その話はほんまか!」 「え、えぇ。っていうか、あの、その……」 ウルフウッドはシエスタの両肩をわしづかみにしていた。 突然のウルフウッドの行動にシエスタの顔が見る見る赤くなっていく。 「じょうちゃん、じょうちゃんの家に行ったらそれがぎょうさんあるんやな?」 「え、あ、はい。その詳しい話なら父が知っているかと」 「じょうちゃんの家はどこにあるねん?」 「え、っと、私の故郷は、タルブという町です」 「じょうちゃん!」 「あ、は、はい!」 「じょうちゃんの実家に案内して親父さんに会わせてくれ!」 ウルフウッドはシエスタの顔に自分の顔を触れんばかりに近づけて、そう叫ぶようにお願いした。 授業を終えたコルベールが教室の外へ出ると、見慣れない人物が待っていた。 「よう、センセ」 「ウルフウッドくん。めずらしいですね、君がこんなところにいるなんて」 「そんなんはどうでもええねん。そんなことよりも見つけたで」 ウルフウッドは人差し指を立てて何かを企んでいる顔でコルベールに近づいてくる。 「見つけた、とは?」 「例の弾や。ほら、メイドのおじょうちゃんおるやろ? なんかあの子の実家で同じようなもんを作ってるらしいねん。 これは行ってみる価値があると思わへんか?」 「はぁ」 メイドのじょうちゃんと言われてもコルベールには誰のことかわからない。 そもそも、この学院で働いているメイドの名前など、貴族はほとんど知らないのだ。 「で、それはどこなのですか?」 「なんでもタルブいう町らしいで」 「タルブですか!」 その言葉にコルベールが食いついた。 「なんや、そこ有名なんか?」 「ええ、まぁ。そこには竜の伝説があるのですよ」 「竜の伝説?」 「ええ。なんでも今から百年くらい前に竜に乗った人物がその町に現れたという。 今でもその町にはその竜の亡骸が安置されているそうです」 「竜、ねえ」 興奮し始めたコルベールに対してウルフウッドは冷めていた。竜などと言われても彼には実感が湧かない。 「その竜はなんでも地を馬よりも速く走り、その力は馬の比ではなかったと聞きます。 ただ、その実際を見たというのが如何せん百年前の話ですからね。信憑性は薄いですが」 「へー」 ウルフウッドは気のなさそうな返事を返した。 現実主義者の彼にとってそういう伝説などの類は興味をそそられるものではないのだ。 「ただ。もしもの可能性でしかないのですが、それらの伝説が事実で、そして君の銃の弾丸がそこで作られていたとしたなら―― もしかしたら、それらは君のいた世界からもたらされたものかもしれません」 「なんやて?」 ここで俄然ウルフウッドの目が輝き始める。 「なかなかに面白そうなことになってきましたね。 私も近いうちにその竜の亡骸を見てみたいと思っておりましたところです。ぜひとも参りましょう!」 「よし。そうと決まればさっそく行くで!」 ウルフウッドとコルベールはハイタッチを交わした。 その姿がまたいらぬ誤解を助長したのだが、それはまた別の話である。 トリステイン魔法学院を出て馬車で三日。ウルフウッド、コルベール、シエスタの一行はタルブの村にたどり着いた。 コルベールはオスマンの権限により、ウルフウッドの手伝いであるといえば簡単に休暇を取ることが出来た。 また、シエスタに関しても同様であった。よって、彼らはその日のうちに出発したのである。 「これがタルブの村か」 ウルフウッドが感心した声を上げた。 「ええ、そうです。とてもきれいな場所でしょ」 とシエスタは微笑みながら言った。そして、隣のもう一人の男に目をやる。 「いやー、絶景ですなぁ」 ウルフウッドと二人きりだと思ってドキドキしていたのになんでこんなハゲがいるのだろうか。 空気を読め、と。絶景なのは光り輝く快晴の空の下のお前の頭だよ、と。 そんなシエスタの心の中を知ることもなく、コルベールはご機嫌であった。 「で、これからどうしましょうか? 私としてはまず竜の亡骸を見たいのですが」 何しきってんだ、このハゲ、とシエスタは思った。 「そやな。ワイも先にそれを見てみたいわ」 「ええ。わかりました。竜の亡骸は近くの寺院に置いてあります。早速案内しますわ」 シエスタは満面の笑みで応えた。 「なんちゅうこっちゃ」 シエスタに案内された竜の亡骸の前でウルフウッドは呆然としていた。 「変わった形をしていますな。しかし、この精巧な部品群は」 そう言ってコルベールはウルフウッドをちらりと見る。 「あぁ、間違いない。これはそうや」 ウルフウッドは竜の亡骸を調べるように撫でながら、息を吐くように答えた。 「あの、どうかしました?」 状況を飲み込めないシエスタが不思議そうな声を上げた。 「これは竜なんかやない。機械や」 「機械?」 ウルフウッドの言葉をシエスタは繰り返した。 「見たところ、大きな傷とかもない。たぶん動かへんのは燃料がないから。ガソリンさえ入れば動くはずやで」 「そのガソリンとは?」 コルベールがウルフウッドの言葉に突っ込んだ。 「こいつを動かすために必要な、可燃性の液体やな」 「ひょっとして、それは竜の血のことですか?」 「竜の血?」 「ええ。ちょっと待っていてくださいね」 コルベールは馬車に走り寄ると、自分の荷物から樽のようなものを持ち出してきた。 「これです」 ウルフウッドは渡された樽の中の液体の匂いを嗅いでみる。 「これは……ガソリンや」 「やはりそうでしたか!」 コルベールが嬉しそうな声を上げた。 「いやはやなんという。これで苦労した練成した甲斐があったというものですぞ。 ということは、この竜はこの竜の血、えーとがそりんですか? を入れると動きはじめるわけですな!」 「そやけど、ちょっと待ってくれ」 興奮し始めたコルベールをウルフウッドは制した。 「おじょうちゃん、これが一体どういった経緯で現れたんか、説明してくれへんか」 シエスタは彼らのやり取りには付いていけずにぽかんとしていたが、 「何でもうちのひいおじいちゃんはそれに乗ってやって来たとかいう話です。 えっと、あの詳しいことならうちの父が詳しいと思いますけど……」 「わかった。早速で悪いけど、その人らんとこに案内してくれ」 シエスタは不思議そうな顔をしたままではあったが、こくこくと頷いた。 ウルフウッドの両手は震えていた。もしかしたら、ここに砂の星とこの世界を繋ぐヒントがあるかもしれない、と。 唐突に帰ってきたシエスタとくっついてきたウルフウッドとコルベールにシエスタの家族は驚いたものの、快く彼らを迎えてくれた。 「これがうちにある竜の牙全部だね」 「なんと」 ウルフウッドは感心した声を上げた。例の銃弾が千発近く箱詰めにされてある。 「なんでもうちのおじいさんが必死に『銃が必要だ』って言って作ったらしいんだけどね。 けど、そんな弾丸を使う銃なんてないんだ」 シエスタの父はそう言って苦笑いをした。 「なんでも、例の竜に乗っているときにオーク鬼にでも襲われたらしくてね。 そのときに銃弾がなくなって、九死に一生を得るように、命からがらこの村に逃げ込んできたと話したそうだよ。 それで、そんなよくわからない銃弾みたいなものをいっぱい作ったらしいんだ。『自分はガンスミスだ』とか言ってね」 シエスタ父はそれから家の奥へ行くと、何かを手に持って戻って来た。 「それは!」 その手に持ったモノにウルフウッドが食いつく。 「これがその弾丸を打ち出す銃らしい。壊れちゃっているけどね。 うちのじーさんは自分で銃も作ろうとしたけれども、強度のある金属と満足な加工精度が得られなかったそうで、結局それは作れなかったそうだ」 ウルフウッドはその壊れた銃を手に取った。銃身が大きな力で曲げられている。 しかし、見間違うはずもない。これはあの砂の星のライフルだ。 「そのじーさんは他になんか言うてへんかったか?」 「他っていってもなぁ。 あぁ、そうだ。自分は砂漠の星をあの竜に乗って水を求めて旅をしていたらここにたどり着いたと言ったそうだ。 つくづく不思議なじいさんだったよ」 コルベールとウルフウッドは互いの顔を見合わせる。いたのだ、ウルフウッド以外にもこの世界へやって来た砂の星の住人が。 「あと、その銃弾を全部売ってくれへんか?」 「え?」 その言葉にシエスタの一家は目を丸くした。 今まで使い道がなかったから適当に竜の牙などと名づけて売ろうとしていたものである。 そんなものを千発全部買い取ろうとする奴がいるとは思わなかった。 「それにあの竜の亡骸。あれも欲しい。譲ってもらえへんやろか」 ウルフウッドの頼みにシエスタ父は目を輝かせた。ご先祖様が作ったよくわからない不良在庫を買い取ってくれるというのである。 この先こんなチャンスは二度と巡ってこないだろう。 「よし! 竜の亡骸はただであげよう」 「お、ほんまか!」 ウルフウッドとついでにコルベールの表情も輝く。 「お父さん」 シエスタがそんな父の袖を引っ張る。 「いいじゃないか。あんなものうちが持っていたところで埃をかぶるだけなんだし。かと言って捨てるに捨てられないし。 というわけでウルフウッド君、竜の亡骸はタダでいいのだが、この銃弾の代金としてこれはこれで四百エキュー頂こう」 「四百エキュー?」 「そ、そんな大金彼は持っていませんぞ!」 「お父さん!」 今度はシエスタが父をたしなめた。 「だって、ただというわけにはいかないだろう。一応これにだって元はかかっているんだから」 「確かにそうだけど……」 「大丈夫だ、娘よ」 「え?」 ここでシエスタ父はシエスタに耳打ちを始めた。 「この代金をお前が立て替えたということにして、お前が彼から代金を受け取ればいい。 どちらにしろあんなものを買い取ろうなんて物好きは金輪際現れるかどうかわからんのだ。 ここできっちり彼に買って貰う必要がある」 「けど、そんなお金どうするのよ」 「大丈夫、いい案がある」 コホンと咳払いをすると、シエスタ父はウルフウッドのほうを向いた。 「しかし、ウルフウッド君。そんなお金をいきなり工面しろと言われても難しいだろう。 だから、こちらから君に仕事を紹介しようと思う」 「仕事?」 「そうだ。ちょうどトリステインの城下町で親戚が居酒屋をやっている。 そこをしばらく手伝ってもらってお金を稼ぐというのはどうかね」 「はぁ」 ウルフウッドは内心変なことになってしまったと思ったが、どちらにしても銃弾が必要なのには変わりはない。 それに一千発の銃弾の代金くらいなら一ヶ月も働けば返せるだろう。 この世界の貨幣価値にまだ疎い彼は、元いた世界の価値観でそう甘い見通しを立てた。 「なんかようわからへんけど、じゃあそういうことで」 そしてウルフウッドはおのれのオカマ運の悪さを呪うことになる。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4347.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第三話 夜、コルベールはいつものように自分の研究室にて、研究に没頭していた。現在の彼のテーマは竜の血、その成分の解析と複製である。最近の熱心な研究のおかげで、ある程度の成分の解析にも成功したし、それに近いものなら複製できるようになってきた。竜の血独特のにおいを嗅いだ彼は満足そうに鼻を鳴らす。 そのとき、誰かがドアをノックする音がした。コルベールはただでさえ普段人が寄り付かないこんな場所に、夜に人が訪問してくるという事態に首をかしげながらも、それでも人がやってくるということは何かの緊急事態かもしれないと重い、ドアを開けた。そこに立っていたのは十字架を背中に担いだ、彼よりも背の高い黒髪の男だった。 「えーと、コルベールせんせ、でええんかな?」 その男はコルベールの顔を見ると少し遠慮がちにそう言った。 「いかにも、私がコルベールですが。ええと、そういう君は確かウルフウッド君、だね?」 「おっ。ワイの名前知っててくれてたんか?」 話のきっかけがつかめたとばかりに目の前の男は顔をほころばせる。 「良くも悪くも君は有名人だからねー」 それをコルベールは苦笑いで返す。目の前この男の存在を知らないものは学院にはいないだろう。平民が使い魔になったという珍しさに加えて、先日の決闘騒ぎである。実際に彼と会話した事のある人物は限られていても、彼の存在はこの学院に関わるほとんどの人間に知られている。 「で、こんな夜に私に何のようだね?」 コルベールは努めて平静を装った声を出した。目の前の男、その存在を知っている人間は学院のほとんどとはいえ、その男が伝説の使いまであるガンダールブであることを現時点で知っているのは学院でもほんの一部だけである。コルベールもその一人だった。そして、その上で彼の中に存在している『何か』に感ずいている人間はコルベールただ一人だけだった。 「ちょっとせんせに相談したいことがあってな。中に入らせてもろてもええか」 「ええ、どうぞ」 コルベールは散らかった研究室の中に彼を招きいれた。 「すまんの」 そう言って彼はコルベールの研究室に入ると担いだ十字架を床に突き刺すように置いた。 「ちょっとこれを見て欲しいねん」 そして、その十字架を包んでいたベルトのホックを一つ外す。十字架を覆っていた布が取り払われ、その本来の姿が現れる。 「こ、これは……」 コルベールは目の前の物体に驚愕した。ただの何かのオブジェかと思っていたが、違う。これは精巧に作られた何らかの機械である。そして、その白いボディには無数の石でもめり込んだような傷が付いており、向かって左側の部分にいたっては完全に外壁が破壊されて中身が出ている。 コルベールにはこれがどんなものかは全く想像付かない。しかし、その姿を見て彼はこれがどんなことに使われるものかは見抜いた。 「これは……一体?」 「簡単に言うと銃、やな」 ウルフウッドは重い息を吐くように答えた。 「これを私にどうしろと?」 「修理してほしいねん。うちのおじょうちゃんに聞いたら、あんたがこういうことに興味を持っている、って教えてもろうてな。もしかしたら、直してくれるかもしれへんと思って」 コルベールは困惑した。目の前の物体はこれ以上なく彼の知的好奇心を刺激するものである。破損しているとはいえ、その精巧な機械構造は彼の心を惹きつけるに十分である。目の前のものの正体はわからない。しかし、彼はそれを銃だと言う。おそらくその言葉に嘘偽りはないだろう。この武器の現状を見て、これが一体どういう場所で使われるものか位は簡単に想像がつく。コルベールは自らに課した誓いを思い出す。 「し、しかし私にはこれが銃であるというのは信じられない。あまりも私たちの常識を超えているよ、この機械は」 「わかってる。それは今日街ん中を見物してきたから、ようわかってる。そやな、ほなこれが銃であるという証拠を見せたらええんやな」 「そうですね、これがどういう風に動くものかを見せていただかなくては、私としてもいかんともしがたいですから」 これが武器であるということにコルベールはちゃんと気付いていた。しかし、彼自身湧き上がる好奇心には勝てない。 そうして二人は部屋の外に出た。部屋の中で銃をぶっ放すわけにはいかないだろうというウルフウッドの判断である。 「ところで、それはちゃんと動くのですか?」 半壊したパニッシャーをコルベールは指差した。ひどいダメージを受けている。とても動くとは思えない。 「大丈夫、とは言えへんけど、片側半分のマガジンはなんとか生きとるから、だましだましやったら動くと思うわ」 ウルフウッドはパニッシャーを憐れむような目で見つめる。外壁が破壊され中身がむき出しになった片側のマガジンが痛々しい。 「さてと、なんか手ごろな的はないか?」 ウルフウッドは隣のコルベールに尋ねた。 「そうだね……じゃあ、あの塔を狙ってくれたまえ」 「ええんか?」 建物を狙えと言われたウルフウッドは確認するようにコルベールに問い返した。 「大丈夫だよ。あの塔はうちの学院の宝物庫だ。スクウェアクラスのメイジたちによって強力な固定化の魔法が掛けられている。この学院で、いや世界でもっとも頑丈な建物だよ。銃で撃ったからといって傷すらつくまい」 「そうか。まぁ距離もちょうどええわ。ほな遠慮なく」 「ええ、どうぞ」 このときコルベールはタカを括っていた。彼は銃の威力を彼の常識の範囲内で考えていた。この男はここから銃で撃つとは言っていたが、おそらくこの距離なら届くのでやっとであろうと。 そんなコルベールの思惑はお構いなしにウルフウッドは手に持ったパニッシャーを大きく回転させて構える。両足を大きく開き、腰を落とす。そして、パニッシャーを胴に密着させることにより安定させる、この武器を扱う独特の構えだ。ガシャという機械音と共に、その先端が開くとその銃身が顕わになる。そして、小さな爆発音が三発連続して鳴り響いた。その直後宝物庫の塔に三筋の砂礫の煙が舞い上がる。 「な、なんという……」 それを見ていたコルベールは驚愕に足を震わせた。彼の足元には先ほどウルフウッドがパニッシャーを撃ったときに飛び出した薬莢が三発転がっている。 「あんまし弾薬の無駄遣いはできひんから、この程度で勘弁したってな」 ウルフウッドはそう言って、パニッシャーの銃身を閉じた。 「信じられん。なんという破壊力だ……」 コルベールは呆然と視線の先で宝物庫の塔を追う。宝物この壁を傷つける予想を超える恐るべき破壊力。そして、彼の常識からは考えられない高い命中精度。 「けど、さすがに魔法がかかっているだけのことはあるな。本来やったらあんな壁簡単に粉々にできるんやけど」 ウルフウッドも自分の銃弾が当たった塔を眺めて、感慨深げにそう呟いた。 「……ウルフウッド君、一つ訊いていいかい?」 コルベールはゆっくりと深呼吸するように言った。 「なんや?」 「君はそれを修理してどうするつもりなんだい?」 「どうするも、こうするも、ワイはあのじょうちゃんの使い魔やろ。あの子をまもらなあかん。それにはそれ相応のものがいる、それだけのことや」 「本当にそれだけなのかい?」 コルベールはウルフウッドのほうを向いた。二人は相対する形になる。 「どういう意味や?」 「君は彼女を守るためと言った。そのためにその銃を使うと。しかし、本当にそれだけなのかい? 何かを守るといえば聞こえがいい。しかし、時としてそれは人に向けられるのではないかね?」 ウルフウッドは静かに目を閉じる。 「そうせざるをええへんときは――そん時や」 「あの銃の弾が人に当たればどうなる?」 「そんときはただの物言わぬ肉塊になる」 こともなげにウルフウッドは言ってみせた。その言葉にコルベールは静かに頭を振る。 「私は――私は人を傷つけるための道具など作り出したくはない。君は、君は彼女を守るためだといった。でもそれは欺瞞じゃないのか? 君自身が力に魅入られているから、自分の力を失いたくないから、そう言っているのではないのかね」 ウルフウッドは目を閉じたまま、動かない。戦いの日々から解放された今、自分の牙はどこへ行こうとしているのだろうか。 「……誰かが牙にならんと、誰かが泣く。少なくとも、オレはそう信じて自らの牙を突きたて続けてきたつもりや」 ウルフウッドは静かに、ただ静かにそう言い放った。 「君の突きたてた牙で誰かが泣くとしても?」 「センセ、ワイらは万能の神様やない。選ばなあかんねん。それがクソみたいな選択肢でも、それでほんの少しでもマシになるんやったら。最高なんて選ばれへん。ただ、最低から逃げ回るだけや」 「それが――それがどうしようもない後悔に繋がるとしても?」 「後悔しようが何しようが、現実に問題は起こり続けるねん。そうやって、後悔を理由に自分の殻に閉じこもって何もせえへんのは最低や。ほんまに後悔しとるんやったら、血ヘドを吐きながら前へ進まんかい。立ち止まったって過去から逃げ切れるわけやないんやで」 ウルフウッドの言葉の最後は重いため息に変わっていった。 二人の間を沈黙が包む。十分、二十分、一体どれくらいの間そうして佇んでいただろうか、何かを吹っ切るようにウルフウッドが沈黙を破った。 「センセ、それはセンセに預けておくわ。ワイを信じてくれなんておこがましいことは言わん。ただ、ワイは、ワイの信じるもののために十字架を背負い続けてきた。その生き方はもう曲げられへん」 ウルフウッドはパニッシャーをコルベールに手渡す。コルベールはそれを両手で抱きかかえるようにして持つと、苦しそうな息を吐くように彼の名を呼んだ。 「ウルフウッドくん」 ウルフウッドはその言葉に振り向くことなく歩き出す。 「ほな夜分遅うに失礼したな。おやすみ、センセ」 二つの月明かりの下ウルフウッドがルイズの部屋に戻ろうとした、そのときである。先ほど銃弾をぶつけた宝物庫の傍で大きく地面が盛り上がるのが見えた。そして、その盛り上がった地面はやがて人のような形を成す。 その大きさは先ほどウルフウッドが撃った塔ほどもあり、それが月明かりに照らされて不気味な姿を晒す。 「な、なんや、あれは?」 ウルフウッドは呆然と夜空にそびえ立つ土の巨人を見上げた。 「ゴーレムだ。しかもあの大きさ。ただのメイジじゃない。トライアングルクラスか?」 コルベールもウルフウッドの隣まで走りより、遠くの巨人を見上げながらひとり言のように呟く。 「なんや、あれは? 魔法使いの演習かなんかか?」 「そんな馬鹿なことが。第一こんな非常識な時間に」 呆然と見上げる二人の前でゴーレムはその巨大な腕を振りあげた。そして、その腕を宝物庫の壁に向かって振り下ろす。まるで蝋細工のように宝物の壁が崩れていく。 「な、なんだと!」 コルベールは大声で叫んだ。宝物庫から土煙のように崩れた砂礫が落ちる。そしてゴーレムはその穴から手を突っ込むと、その腕伝いに黒っぽいローブを着た誰かが中に入っていくのが見えた。 「つ、土くれのフーケだ!」 「なんやねん、それ?」 ウルフウッドは状況を全く飲み込めない。 「盗賊だ! 最近、町を騒がしている貴族専門の!」 「なんやて!」 「今、ゴーレムの腕を伝って中に入ったのがおそらく土くれのフーケだ」 「どないすんねん! 行くんか?」 「まともな装備もない状態では返り討ちがオチだ!」 「ほな、パニッシャーであの土人形を泥の塊に変えたる!」 パニッシャーをとろうとコルベールの研究室へ行こうとしたウルフウッドの腕をコルベールが掴んだ。 「なんで止めんねん!」 「無駄だ! ゴーレムに遠くから物理攻撃を加えても直に再生されるのがオチだ。操っているメイジを叩かないと意味がない」 ウルフウッドはコルベールの研究室のほうに目をやる。どちらにしても、ここからパニッシャーを取りに戻って接近するまでの時間は与えてくれないだろう。 「くそったれ……こっちは見ているだけかい」 ウルフウッドはいらだたしげに地面を蹴った。 塔から出てくる人影が見えると、やがてゴーレムは崩れていき、辺りはまた何事もなかったかのように静かになった。 「あんな大胆な方法の盗賊とはな。おそれいったわ」 憎憎しげにウルフウッドは呟く。別にこの学院の宝物に対して彼自身は何の興味もない。しかし、このような何も出来ない無力感にさらされるのだけは耐えがたかった。 「しかし、信じられない。いくらあれほどの巨大なゴーレムとはいえ、あの塔には強力な固定化の魔法がかかっていたんだ。そうたやすく破壊されるとは到底思えない……」 コルベールは顎に手を当てて考え込む。そうなのだ。ありえないことなのだ。磐石の堅牢性を誇る塔が破壊されることなどありえない。魔法に対してはほぼ無敵であるし、それに物理的な衝撃に対してもあの分厚い壁をそうそう打ち砕けるものではない。 「考えられるとしたら、壁のどこかに亀裂が入っていたとか……あっ」 ウルフウッドとコルベールはお互いに顔を見合わせる。コルベールは顔面蒼白に、ウルフウッドは顔中を引きつらせる。 「ちょっとまってや。ひょっとしてワイがあれを撃ったせいや言うんか!」 「し、しかし、それしか考えられない!」 「けど、そもそもあんたがアレを撃て言うたんやないけ! 大丈夫やからって!」 ウルフウッドは塔を指差して、腕をピコピコと振る。うっ、とコルベールは胸を押さえる。 「君の銃があんな破壊力を持っているなんて知らなかったんだ! そもそもそんなむちゃくちゃな破壊力の銃があること自体がおかしい!」 コルベールは自分の研究室前に立てかけてあるパニッシャーを指差して叫んだ。ウルフウッドは鼻の穴と口を大きく広げると、 「な、なんやと、おんどれのその頭は後先のこともろくに考えられへんと禿げ上がるばかりかい!」 コルベールは自らの頭を両手で押さえると顔を真っ赤にした。 「き、君! 今のは侮辱だよ! 全く持ってしてデリカシーのない!」 「研究室にこもって四十過ぎてまで独身のおっさんにいわれたないわ、ボケ!」 「な、なんですとぉー!」 「何やねん!」 ゴーレム騒ぎが収まって静かになった夜の空の下、今度はその下で醜い二人の男の言い争いが始まっていた。醜い、実に醜い争いであった。 翌朝、トリステイン魔法学院は喧騒に包まれていた。教師たちには緘口令が出ていたものの、派手に壊れた宝物庫を隠しとおせるわけもなく、フーケのニュースは学院を席巻していた。 「フーケの襲撃を目撃したのはミスタ・コルベールと、そちらのミス・ヴァリエールの使い魔……」 「ウルフウッドや」 片手を腰に当てたまま無愛想にウルフウッドは名乗った。 「そう、ウルフウッドくんの二人だけなのじゃな?」 フーケ襲来の翌日の朝、唯一の目撃者であるコルベールとウルフウッドはオスマンの部屋に呼ばれていた。彼らの周りには学院の教師たちがいる。これから彼らの目撃証言を元に対策を立てるのだ。 「なんであんたが昨日の晩に現場にいたのよ?」 ウルフウッドの袖を引っ張って小声でルイズが訊く。 「まぁ、いろいろあるんや。大人の事情っちゅうやつや。ちゅうか、なんでおじょうちゃんここにおんねん?」 その言葉にルイズは不快感を露に顔をしかめる。 「あのねえ。わたしはあんたのご主人様なの。あんたを監督する責任がわたしにはあるの!」 「あー、ちょっとそこ私語は慎んでもらえるかの?」 「……すいません」 オスマンの注意に二人の声が重なった。 「で、ミスタ・コルベールの言うようにフーケはゴーレムを使って、塔の壁を砕き、破壊の杖を奪ったと」 「ええ、その通りです」 「しかし、不思議ですな」 その話を聞いていた教師のギトーが口を挟んだ。 「あの壁がゴーレムの力で破壊されるとは到底思えない。なにか、どこかに我々の与り知らぬところでクラックでも入っていたのではないかね?」 その言葉にコルベールとウルフウッドは同時に胸を押さえる。とにかく二人は昨日の一件は内緒にしようと決めた。彼らに責任を追及されるのが怖かったからではない。とりあえずパニッシャーの存在とその破壊力はあまり公にしないほうがいいだろうという判断だった。そう、断じて怒られるのがいやだったとかそういうわけではない、ことにしておく。 「そ、その破壊の杖っちゅうのはいったいなんなんや?」 ここで話題を変えようとウルフウッドが口を挟む。ギトーは平民が自分の話の腰を折ったことに、露骨に嫌そうな顔をする。 「我々の学院にある秘法じゃよ。破壊の杖の名にふさわしく、それを振ると信じられん破壊力の爆発がおこる代物じゃ」 「……なんかえらい危険なもんが奪われてしもたんやな」 ここでウルフウッドとコルベールは目を合わせた。ウルフウッドは右頬を少し引きつらせて、コルベールは頭頂部を湧き上がる汗できらきらと輝かせていた。 「それはそうと君たち二人は昨日の夜に二人で何をやっていたのかね?」 ギトーが思い出したように、ウルフウッドとコルベールの顔を交互に見た。 「え、っといや、それはですな……」 その質問に頭を掻くコルベール。間違っても昨日の出来事が知られてはいけない。 「そうよ。何しにコルベール先生のところに行ったのよ? あんた、『大人の用事やから子供は知らんでええ』なんて言っていたけど?」 その言葉の後をルイズが受ける。 「大の男が夜中に二人っきりで会って、大人の用事……?」 ギトーが怪訝そうな目で二人を見る。 まずい? 話がなんかへんな方向に行っている? 「そういえば、ここ数日コルベール先生はよく彼の方を見ていらしたわ」 シュヴルーズが疑惑の火種に油を注ぐ。 「ち、ちょっと待ってや! ワイはそんなんやなくて」 「じゃあ、どんなんだね?」 ギトーの言葉にウルフウッドは何も言い返せない。そうしていると、ふつふつと怒りが湧いてきた。なんで自分にこんな疑惑が向けれられているのだろうか。そもそも悪いのはこの隣にいるやつだ。こいつが「あそこを撃て」なんて言わなければ、宝物庫も襲われなかったし、こんな疑惑を掛けられることもなかった。そう思うと、一気に怒りがこみ上げる。 「っちゅうか、お前あっこやったら大丈夫。絶対にばれへん、て言うたやないけ!」 「な、わ、私のせいだというのですか! そもそも最初から君の『アレ』があんなにすごいなんて知っていたら、わ、私だってあんなところ向けてなんていいませんよ!」 え、『アレ』ってなに? まさか『アレ』って『アレ』? 醜い言い争いをする二人の傍で疑惑が固まっていく。ギトーは露骨に嫌な顔をして距離を取った。ルイズは顎を落ちんばかりに開いて呆然としている。シュヴルーズはなにやら顔が真っ赤だ。オスマンはとりあえず現実逃避している。 「そもそも誘ってきたのは君のほうでしょう!」 真っ赤な顔でコルベールはウルフウッドを指差す。 誘ってきた? あぁ、やっぱりそうなのね。やっぱり『アレ』って『アレ』なのね。 周りの人々の表情に苦々しい色が出始める。 四十過ぎて独身なのはそういうわけだったのか。ギトーは納得していた。 あれだけ女の子にもてるくせに、そして、同じ部屋で寝ているのにわたしに全く手を出してこなかったのはそういうことだったの。ルイズは呆然とする頭の中で納得していた。 オスマンは一人窓に向かって現実逃避している。あぁ、朝日が眩しい。 「わ、私は認めませんよ!」 そのときシュヴルーズが大声を上げた。一同が彼女のほうを振り返る。 「私は断じて認めません! そ、そんなカップリング!」 カップリング? 一同同時に首をひねる。 「ウルフウッド×ギーシュのウルフウッド誘い受けですよ! それが一番です! そ、それがまさか、ウルフウッド×コルベールのウルコルカップリングなんて! コルベール攻めウルフウッド受けなら、ありかもしれませんが。いや、むしろあり? 逆に萌える? いや、でも……」 そこから始まった突然のシュヴルーズ独壇場。一同このカオス極まりない現状に石になるしかない。 シュヴルーズ、四十代独身。彼女こそはまさしく貴腐人であった。 ミス・ロングビルがこの部屋に入ってくるまでの十分間。時が止まっていた。 ミス・ロングビルの報告によると、フーケの居場所の目星は付いているらしい。町外れの森にある廃屋だ。 オスマン氏らの話し合いの結果、どうやらことは学院内で内密に処理する方向のようだ。メンツとかなんとか、まぁそういう事情らしい。 「して、誰が破壊の杖を取り返しに行くのかの?」 オスマン氏の質問に誰も答えない。みんなそれ以前の騒動で疲れ果てた顔をしている。 「しゃあないな。ワイが行くわ」 そんな中ウルフウッドが手を上げた。その場にいた一同が驚いた顔でウルフウッドを見つめる。 貴族のメンツとかは彼にとってはほんとうにどうでもいいのだが、自分が遠因である事件だ。自分のけつは自分で拭く、そういう信念を持つ彼だからこその行動だった。 「しかし、君はメイジではない――」 心苦しそうなオスマン氏の言葉をルイズが遮る。 「わたしも行きます」 一同はもっと驚いた。今度は魔法の才能ゼロのルイズが名乗りを上げた。 「じょうちゃん、危ないからやめとき。子供のお遊びちゃうんやで」 「うっさいわね。使い魔のあんたか行くのにわたしが留守番なんて出来るわけないでしょ!」 たしなめるウルフウッドにルイズは胸を張って反論した。 「けどなぁ……」 「じゃあ、わたしも行きますわ」 そのとき入り口のほうから声がした。ウルフウッドたちがそちらを振り向くと、キュルケがドアに背を持たれかけて立っていた。 「キュルケ! あんたなにやってるのよ!」 「朝からあんたたちがどっかに行こうとしてるから後をつけてみたら、なんか面白そうなことになってるわね。あたしも混ぜてもらうわよ」 「あのねえ、遊びじゃないのよ。これは盗賊相手の危険な――」 「あら、いざとなったらダーリンが守ってくれるわよ。ね?」 ウルフウッドはため息を付いた。昨日からとことんついていない。 「私も行く」 さらにキュルケの後ろから声がした。 「タバサ!」 「ちょっとあんたまで何言ってるのよ!」 ルイズとキュルケの声が重なった。 「心配」 タバサを見てウルフウッドは思い出した。たしかこの子はルイズが例の授業で爆発騒ぎを起こしたときに出て行った子やったかな。いつも本ばかり読んでいる。 ウルフウッドは見下ろすようにタバサを見つめる。タバサもウルフウッドをぼーっとした目で見つめる。 ウルフウッドはこの少女の目の奥にどこか自分と似たものを感じた。 「うむ、いいじゃろ」 「オールド・オスマン」 コルベールが慌ててオスマンを止めたが、オスマンのこの一言で全ては決した。 ロングビルに案内されて馬車に向かう道すがら、ウルフウッドはコルベールに尋ねる 「あんたは行かへんのか?」 「……無責任だと、もしくは臆病だといいたいのですか?」 「ちゃう。ただ単に――訊いてみただけや」 コルベールは歩きながらうつむく。 「フーケの捜索へ向かえば、私は私の魔法を人へ向けるかもしれない。それだけは、やりたくないのです」 「そうか」 「臆病だと思いますか?」 「かめへん。牙を剥け続ける覚悟も、牙を収め続ける覚悟も同じや」 「――君に渡された武器をお返しします。あれがないとあなたも困るでしょう?」 ウルフウッドは歩きながら上を見上げる。 「ええわ」 「え?」 「あれはワイがあんたに預けたもんや。別に返してもらわんでもええ」 「しかし――」 「別にあんたにあげるわけちゃうで。ただ――ただ牙をなくした自分に何が出来るのか、そして何が出来ひんのか。それを見極めたいだけや」 ウルフウッドは大股で歩く速度を速める。一歩一歩をしっかりと踏みしめる。前へ進むために。 「わかりました。君がそう言うのなら、そうしましょう。あと、老婆心ながらゴーレムとの戦いについてメイジとしてのアドバイスを差し上げます」 「……あぁ、そうしてくれるとありがたいわ」 そんな風にして会話する二人をルイズは怪訝な目で見つめていた。 本人たちは必死に否定していたが、さっきの話は本当なのだろうか。だって、今でも二人でなにかこそこそ話をしているし。 「ルイズ、どうしたの? そんな面白い顔でダーリンのほうを見て」 「え、いや! なんでもない! うん、なんでもない!」 キュルケが不思議そうにルイズを見つめる。ルイズはルイズで絶対にこの話はキュルケに伏せておこうと思っていた。もうこれ以上収拾のつかない厄介事は増やしたくないのである。 「へんな子ねえ?」 「男同士の絆」 首をかしげるキュルケの横でタバサがぞっとする一言を言った。 前ページ次ページ虚無と狼の牙
https://w.atwiki.jp/holycon/pages/92.html
晴れ渡った夜。にも関わらず星が少ないのは、満月が煌々と空を照らしているからだ。 そんな月明かりの下、家の寝室で眠る因幡月夜はふと目を覚ました。 生来の盲目の代わりに異常発達した聴覚と積み重ねた鍛錬が、彼女が眠る寮の中で起きる異常事態を悟らせたのだ。 ─────何かが居る 何か、少なくとも生物では無い何かが、近所の家を訪問して回っている。 ─────まだ此処に来るには時間が有りますね。 そそくさとベッドから出て着替え、亜鉛合金製の摸造刀を持って外へ出る。 待つことしばし、道のの角を曲がって“ソレ”は来た。 盲目の月夜には見えなかったが、“ソレ”の姿を見ずに済んだのは幸いだった。 “ソレ”はマネキン人形だった。マネキン人形が夜の街中を徘徊しているというのも異常だが、その目は異常などというものでは無かった。 赤い血の色をしたその目は、悪意そのものとでも言うべきものを湛えていた。 一目見てしまえば、長い間夢に怯えることになるであろうその怪物を、盲目の少女は見えないが故に─────ではなく異なる理由から怖れない。 「貴方が何者なのかは知りませんが、痛い目を見たくなければ降伏しなさい」 少女は盲目ではあるが、代わりに聴覚が異常なまでに発達している。数百m離れた人間の関節の駆動音すら聞き取れるほどだ。にも関わらず、目の前の相手からはなにもきこえなかった。 呼吸も脈動も、何もかも。骨の擦過音も筋肉の収縮音も。 それでも少女は怖れない。摸造刀を鞘に収めたまま佇んでいる。 人形が此処に来るまでに聞こえていた“移動する時の音”をその耳は精確に捉え、人形が一歩を踏み出そうとした刹那。閉じられていた月夜の瞼が開かれる、その下に有ったのは赤い紅い瞳。 しかし、其れを人形は認識し得たのだろうか、月夜の瞼が刹那の間も置かず閉じると、人形の頭が砕け散ったのだった。 「一体何なのでしょうか?感触は人形のものでしたが」 呟いて屈み込み、触ってみる。冷たい感触は確かにマネキンのものだ。 手に取ってしげしげと考え込んでいると、不意に横に女が立っていた。 己の耳に全く捉えられずに出現した女に驚愕した月夜に、女が蹴りを入れる。 「がはっ!?」 夜道を転がる小さな身体を見て、女が忌々しげに呟く。 「こんな餓鬼に私の使い魔が壊されるとはね」 なんとか立ち上がった月夜に向けてまっすぐ伸ばした手に魔力の輝きが宿る。 「まあ良いわ、あの人形よりも優秀な道具になりそう」 「ただの子供にしか見えんとは、大した英霊でもないな」 「何者だ!?」 真後ろから不意に聞こえた声に、女が驚愕して振り向き。 「その場に案山子の様に突っ立ったままとはな。阿呆が」 そのまま女の首は宙に舞った。 血を撒き散らし、二つの肉塊が路面に転がり、すぐに消えた。 後に残されたのは、月夜と長身痩躯の狼の様な気配の男。 「貴方は…」 「フン…異常聴覚に自顕流。斬った相手ばかりじゃ無いか。しかしこの場所は……生前の因果という奴か」 月明かりの元、盲目の少女と狼の如き男。死者と生者の剣の魔物は此処に出会ったのだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【昨晩の女は魂喰いをしていたサーヴァントの様だな】 翌朝、付き添いの世話係が去った後、月夜に話しかけてきたのは、彼女のサーヴァント。 「全く、何処で魂喰いとやらをしようが構いませんが、私を対象にすれば、そに責任が世話役にいくのですよ。私、プッツンです」 何処ぞのサーヴァントが行った魂喰いの為に、町内の殆どが貧血と似た症状を起こして病院へと搬送され、残った住民も大事を取って仕事や学校をやすんでいた。 世間ではガス漏れだなんだと言っているが、月夜の知ったところでは無い。 「はあ…それにしても面倒な事に巻き込まれてしまいました。しかし何故私が巻き込まれたのでしょうか?戦闘狂の類か、強欲な人間だと思われているのならガッカリです」 月夜に応えず、彼女のサーヴァントは昨夜の事を思い出していた。 あの刹那に間合いを詰めた歩法。幕末に於いても通用しそうな速度の剣。盲目でありながら、人形の動きを精確に捉えてみせた超感覚と言っても良い聴覚。 斎藤の知る二人の剣客。瀬田宗次郎と魚沼宇水を思い出す。 特にあの剣、薬丸自顕流居合の“抜き”だろうが、あれ程のものは幕末の京都で飽きる程見て、そして斬ってきた薩摩の剣士達にもそうは居なかった。比肩し得るのは薩摩の人斬り半次郎ほか数名だろう。 ─────この歳でこの剣腕か このウサギ娘─────長い銀髪をツインテールにした髪形から適当に名付けた呼び名─────は、あの時代に生きていれば、時代に名を刻む事が出来る剣士だった。 「はあ……虎春(こはる)さんならノリノリでしょうに」 何時までも嫌そうにしているマスターを見てサーヴァントは愉快そうに笑った。 【何でも願いを叶える機会だぞ。乗る気はないのか】 「興味有りませんから。欲しい人だけで勝手にやれば良いんです。私を巻き込むのは迷惑です」 溜息と共に言葉を吐き出して、月夜はサーヴァントの方に閉じられた瞳を向けた。 「貴方は願いは無いんですか?やって来た以上は何か有るんでしょう?言っておきますが私はやりませんよ」 【俺にも願いなど無い。俺に有るのは、生前も死後も、悪・即・斬の三文字のみ。お前の様に何も願いを持たない者を巻き込んで、殺し合いをやらせる様な代物は紛う事無く悪。故に只斬るのみ】 生涯かけて貫いた信念を、死しても猶貫き通すと断言したサーヴァントを、月夜は無感動に見やった。 「お好きにどうぞ。私はやりませんよ」 【好きにやらせて貰う。と言いたいが本当にそれで良いのか?今の所帰る為の唯一の手段だぞ】 アサシンの言葉を聞いた月夜の顔は、まるで八月三十一日に夏休みの宿題の存在を思い出した子供の様だった。 「はあ……ガッカリです」 至極嫌そうに、残念そうに言う月夜。 【決まりだな】 「仕方ないですね。それでは今後の為に聞きますが、貴方のクラスと真名は?」 【アサシンのサーヴァント。斎藤一だ】 「と言うとあの新撰組の」 【そうだ】 「私は因幡月夜といいます」 こうして二人の剣士は聖杯戦争の舞台に立つ事になったのだった。 【クラス】 アサシン 【真名】 斎藤一@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 【ステータス】 筋力:C 耐久:C 敏捷: B 幸運:C 魔力:E 宝具:C 【属性】 秩序・中庸 【クラススキル】 気配遮断:B サーヴァントとしての気配を絶つ。 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。 【保有スキル】 牙突: 生前にアサシンが到達した剣の理合い。戦術の鬼才、土方歳三が考案した左片手平刺突(ひだりかたてひらつき)を磨き上げ一撃必殺の技へと昇華した剣技。 全局面に対応すべく、複数の型を持つ。 素手でも強力な打撃技として使える。 この技はアサシン唯一人のみが使う剣技、その為ランクは付かない。 この技の使用時には、筋力と敏捷に++が掛かり、アサシンの筋力のランク以下の以下の耐久やスキルに依る装甲や障壁の類を無効化する。 使用時には視界が極端に狭まる。 千里眼:C 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。 心眼(真):B 修行・鍛錬によって培った洞察力。 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理” 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。 勇猛:C 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。 貧者の見識:B 相手の性格・属性を見抜く眼力。 言葉による弁明、欺瞞に非常に騙され難い。 陰謀渦巻く幕末の動乱を生き抜いた経験によるもの。 反骨の相:EX 犬はエサで飼える 人は金で飼える だが、壬生の狼を飼うことは 誰にもできん 己が正義にのみ殉じ、その為なら所属する勢力にも拘泥せず、己の信念以外のありとあらゆるものに縛られなかったアサシンの生涯。 カリスマや皇帝特権等、権力関係や魅了などといった精神系スキルを無効化する。 【宝具】 悪・即・斬 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身 アサシンが生涯貫き通した信念が宝具と化したもの。 私欲に溺れ、世の安寧を乱し、人々に災厄をもたらす者と対峙した時、真名解放とともに、全ステータスを1ランク上げる。 実際に対象となるものが、宝具の発動条件を満たしていると判明していない限り発動不可能。 孤狼 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身 幕府が倒れようとも、新撰組が潰えようとも、己が奉じた正義に殉じ続けた。 世の安寧を脅かす者がいる限り、アサシンは剣を執り、その牙を突き立てる。 Cランク相当の戦闘続行と単独行動を常時発揮する。 【weapon】 日本刀・無銘: 無銘の刀だが、結構な業物 【人物背景】 元新撰組三番隊隊長で、明治の世には警官となり、世の安寧を乱し、人々に災厄を齎す者を斬り続けた。 史実通りなら 退職後、東京高等師範学校(東京教育大学を経た、現在の筑波大学)の守衛、東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大学)の庶務掛兼会計掛を務める[ことになる。 【方針】 聖杯戦争の中で悪を行う者を斬る。聖杯戦争の主催者も悪として斬る。 【聖杯にかける願い】 無い 【マスター】 因幡月夜@武装少女マキャヴェリズム 【能力・技能】 聴覚: 広い女子寮の中の出来事を完全に把握出来る 薬丸示現流抜刀術: 「抜即斬」と言われる駿速の抜刀術 達人剣士の剣技を見切れる主人公が2m位の距離から視認出来ない速度で、 地面に降りて抜刀して首筋に刃当てて納刀する。ということをやってのける。 踏み込みからして尋常な速度ではなく、移動し終わってから移動したのがようやく分かる速度 【weapon】 模造刀: 亜鉛合金製で重量はあるが強度が無い。 【ロール】 女子中学生 【人物背景】 元々女子高だった学園が共学になった際に男子生徒を恐れた女子生徒のための風紀組織、愛知共生学園“天下五剣”の中で最強と言われる剣士。 銀髪紅眼の盲目の美少女。中等部だが飛び級しているので実年齢は小学生並み。 異常なまでの聴覚と、神速の踏み込みと抜刀術の才を持つが、盲目なのは、優れた剣の才能を世に誕生させる為に父親に当たる男が行った近親相姦の所為。 その為に生来病弱。 基本他人と関わろうとせず、五剣の会議にも殆ど出席しない。 「ガッカリです」が口癖。普段は寡黙だが話出すとかなり長い。 【令呪の形・位置】 狼の形をしたものが右手の甲にある 【聖杯にかける願い】 帰りたい 【方針】 なるべく戦わないで楽して目的を叶えたい 【参戦時期】 本編開始直前 【把握資料】 アサシン(斎藤一):流浪人剣心7巻~最終巻まで 因幡月夜:武装少女マキャヴェリズム1巻と5巻
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4927.html
前ページ次ページ虚無と狼の牙 虚無と狼の牙 第十話 トリステイン魔法学園の門の前で二人の男がにらみ合っていた。 一人はハルケギニアでは珍しいくらいの長身で、羽根付き帽子をかぶった男で、整った口ひげが彼の精悍な印象を強めている。 そして、にらみ合う男のほうも彼に負けず劣らずの長身で、黒い服を身にまとい、その傍らには巨大な十字架があった。 羽根帽子の男のほうが、彼をなだめるように笑って言った。 「そんな怖い顔をしないでくれよ。僕は敵じゃない。女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。 姫殿下より、キミ達に同行することを命じられてね。そこで僕が指名されたってワケさ」 そしてワルドは「弱ったなぁ」と呟きながら、苦笑いを浮かべて両手を広げた。 「う、ウルフウッド、相手が悪いよ」 ワルドの正体を聞いて、ギーシュが青ざめた顔になった。 「魔法衛士隊?」 ウルフウッドが怪訝そうにギーシュに問い返す。 「女王陛下直直属の最強のエリート部隊の一つで、その中でもグリフォン隊と言えば、エリート中のエリートだ。 間違いなく、この国最強のメイジの一人だ」 ギーシュは不安そうにウルフウッドの服の裾を引っ張る。 その姿を見て、ウルフウッドはため息をつくと、全身の緊張感を緩ませ、改めてこのワルドという男を観察した。 確かにギーシュの言うとおりだ。今まで見てきたメイジとは体つきが違う。魔法に頼らずとも、相当の戦闘力は持っているだろう。 それに何よりも、その目。笑ってはいるが、その奥で何かが油断のない光を放っている。 「わかってくれて、助かったよ。そこのキミもありがとう」 ワルドは鷹揚に笑って、ギーシュの肩を叩いた。ギーシュがどこか恥ずかしげに、その肩をすぼめる。 そして、ワルドは彼らの後ろでまだボーっとしているルイズに向かって歩き始めた。 「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」 満面の笑みで両手を広げるワルドに、ルイズは慌てて頭を下げた。 「お久しぶりでございます」 そのままワルドはルイズを抱きしめ、抱え上げた。ルイズは恥ずかしそうに顔を伏せる。 「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」 「『まるでハゲのようだね』ですとぉ!」 「……み、ミスタ・コルベール、どうなされたのですか」 「え、いやあの誰かが私の悪い噂をするのが聞こえた気がしたもので」 「はぁ。(っていうかあなたはまるでハゲじゃなくてハゲそのものじゃないですか)ところでミスタ・コルベール」 「はぁ、なんでしょう。シュヴルーズ先生」 「あなたははね付き帽子をかぶった髭面の男前と黒服の目つきの悪い大男どちらがお好みですか?」 「はぁ?」 そんな間の抜けたやり取りがシュヴルーズとコルベールの間で交わされている頃、 ワルドはゆっくりと丁寧にルイズを降ろすと、改めてウルフウッドとギーシュに視線を移した。 「ルイズ。彼らを、紹介してくれたまえ」 「あ、あの……、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のウルフウッドです」 「キミがルイズの使い魔か。まさか人とは思わなかったよ。あぁ、そうか。だからさっき僕があのモグラを魔法でどかそうとしたときルイズをかばってくれたんだね」 わざとらしい笑みを浮かべる。しかし、ウルフウッドはあの魔法を撃った直後の彼の様子をしっかりと観察していた。 あれはモグラに襲われている婚約者を心配している顔ではなく、もっと別の部分で驚きつつも何かに納得している表情だった。 「僕の婚約者がお世話になっているよ。それと、さっきの僕の勘違いについても謝ろう」 「さよけ」 ウルフウッドはどうでもよさそうに返事をした。どうもこの貴族という連中が平然とやる三文芝居じみた大げさな表現は好きになれない。 彼にとっては馬鹿馬鹿しくてくだらないことこの上ない。 「どうした? もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい? それとも、僕がルイズの婚約者だと知って嫉妬しているのかい? まぁ、それも仕方ないかな。ルイズはとても魅力的な女性だ。そう、とてもね」 ワルドが放つ一見ただの屈託のない冗談の中にウルフウッドは別の何かを感じた。 彼はわざと自分がルイズの婚約者であることを繰り返している。なんのためか? その理由はわからない。 そもそも貴族の文化に疎いウルフウッドには「そういうものだ」と言われたら反論することは出来なかった。 $ 「す、すごい速いねー。これは一体何というマジックアイテムなんだい?」 サイドカーにちょこんと座ったギーシュがウルフウッドに問いかける。ギーシュはものめずらしそうに飛び去っていく景色を見ていた。 「バイクや。マジックアイテムでもなんでもない。ガソリンで動く機械や」 「き、機械?」 ギーシュはその言葉に慌ててバイクの観察を始めた。彼の常識では機械というのはせいぜい風車小屋に備え付けれられた粉挽きぐらいのものだ。 「し、信じられないな。こんな機械がこの世に存在するとは」 「魔法の力に頼らへん世界でやったら、こういうもんが発達すんねん」 ウルフウッドはそんなギーシュを横目に前方を飛ぶグリフォンの様子を窺う。 ワルドが半ば強引にルイズをグリフォンに乗せ、残ったウルフウッドとギーシュはバイクに乗るという構成になっていた。 「けど、ウルフウッド、ありがとう」 ぼつりと呟くようにギーシュが礼を言った。 「何がや?」 ウルフウッドは前を向いたまま愛想なく聞き返した。 「ヴェルダンデをかばってくれたことさ」 「……別にかまへん。わざわざ礼を言われるほどのことでもない」 「ヴェルダンデもすっかり君になついていたしね」 その言葉にウルフウッドはモフモフ言いながらまとわりついてきたモグラの姿を思い出して、ちょっと顔をしかめた。 「けど、ほんまにあのモグラ、ワイらに付いて来とるんか?」 「大丈夫さ。結構ああ見えてヴェルダンデが地中を進むのは速いんだぜ。僕の自慢の使い魔さ」 得意そうに胸を張るギーシュを見て、ウルフウッドはこいつはそんなに悪い奴じゃないなと思った。 「ところでお前、あのワルドっちゅうのについてどう思う?」 「どうって?」 ウルフウッドは言葉を選ぶように間を空けた。 「あいつのじょうちゃんに対する態度や。正直、オレには貴族の連中がどういう人間なんか分からんから、あいつの態度がそういうもんなんか測りかねる」 「というと?」 「……あいつは不必要に婚約者であることをアピールしすぎちゃうか思うねん。不自然なくらいにな」 「うーん」 ギーシュは考え込む仕草を見せた。 「正直、愛情表現なんて人それぞれだから、不自然かどうかまではわからないけれども。 けど、はっきりわかっているのはルイズは超良家のお嬢様だということさ。ルイズと結婚するということはそれだけで十分に価値があるからね。 そういった家柄とか名誉とかが欲しくてたまらない貴族なら、そういうこともあるかもしれないね」 ギーシュは一人納得するように頷いた。 「グリフォン隊の隊長ともなれば名誉も実力も十分なものさ。だとすれば、残るは後一つ。家柄というものに彼が執着してもおかしくはない、とは思うけど」 ワルドの前で抱きしめられるような格好で、グリフォンに乗ったルイズはちらちらと後ろを走るウルフウッドたちのほうを見ていた。 「随分と使い魔くんたちが気になるようだね、ルイズ」 ワルドの声にルイズは、はっとして顔を上げる。 「いえ、ワルド様そういうのじゃなくて、その……えっと、あいつらが珍しい乗り物に乗っているからそれが気になって」 「確かにそうだね。この僕のグリフォンに平然と付いてくるものがトリステインにあるなんて考えたこともなかったよ」 「そ、そうですわね」 何かをごまかすようにルイズは笑った。 「ところで、ルイズ。キミの使い魔くんは一体どういう人なんだい?」 「どういうって?」 「少し興味が湧いただけさ。少し話しただけだけれどもなかなかに変わった人物のように思ったからね」 「ぐうたらでいい加減で無愛想な奴です。姫様が学院にいらしたときにも出迎えにも行かない無礼な奴で。それで、デリカシーもなくて、それで……」 ルイズは精一杯ウルフウッドの悪口を並べ立てた。しかし、悪口を言えば言うほど、彼女の頭の中で思い起こされるのはフーケから彼が助けてくれたところ、魅惑の妖精亭で貴族たちを一瞬で叩きのめしたところばかりだった。 「本当に、あいつはわたしの言う事なんて聞かないし、わたしのことなんてどうでもいいみたいだし……」 「わかった、わかったよ、ルイズ。もう十分さ」 「え?」 「これ以上聞くと、僕の心が嫉妬の炎で燃え上がりそうだからね」 ワルドはわざと悪戯っぽく笑った。ルイズはその笑顔を見て、ワルドから顔を背けてしまった。 $ トリステインを出発して半日ほどたったころ、辺りは赤い岩肌になっていた。陽も少しずつ傾き始めている。 「いやー、しかしすごいものだね。このばいくというのは!」 「そうか?」 サイドカーではしゃいでいるギーシュに気のない返事を返すウルフウッド。さすがの彼も半日も走り続ければさすがに少し疲れている様子だ。 「そりゃそうさ。馬だと二日はかかる道のりだからね」 「あんなちんたらしとるもんに乗れるかいな。ところで、そのラ・ロシェールいうのはもう近いんか? まだ距離があるようやったらもうすぐ陽が沈むから、どっかで休むことも考えたほうがええ」 「それなら大丈夫さ。ほら、あそこを見たまえ。大きな岩山が見えるだろう? ラ・ロシェールはあの頂上、このペースだと陽が沈む頃にはもう着いているはずさ」 「……なるほど。なら、もう道案内はいらんな」 「へ?」 ギーシュの言葉にウルフウッドは目の前にある目的地を確認すると、一気にバイクのアクセルを吹かした。 「ま、まだスピードが上がるのかい? こ、このバイクというのは?」 一気にスピードを増した風を真正面から受けて、船の帆のように頬を膨れ上がらせてギーシュは叫んだ。 グリフォンを置いて、ウルフウッドたちは先へと進む。そして、山道を登り峡谷へと差し掛かったとき、彼らの目の前に松明が投げ入れられた。 「小僧、しゃがめ!」 その瞬間ウルフウッドの鋭い声が暗くなった道を切り裂くように響いた。 「え?」 事態の飲み込めないギーシュがマヌケな声を上げたとき、上空から何本もの矢が降り注いできた。 「ちぃ」 ウルフウッドは背に立てかけてあったパニッシャーを片手で振り回すように持ち上げると、それを盾のように構えた。無機質な音を立てて、矢がパニッシャーに弾かれる。 「な、なんだぁ?」 頭を抱えたまま事態が飲み込めず、震える声を上げるギーシュ。 「待ち伏せや。おそらくは野盗かなんかの類やろ。……無駄弾は使いたくなかったんやけどな」 そうウルフウッドが吐き捨てるように呟いたとき、ワルドの駆るグリフォンが彼らの上空へとやって来た。 「大丈夫か?」 「こんなおもちゃにやられるか、ボケ」 「……その悪態がつけるようなら、大丈夫なようだね」 ワルドはゆっくりと旋回しながら、あたりを睥睨すると、 「こんなところで足止めを食うわけには行かない。一掃させていただくとしようか」 そうひとり言を行って、グリフォンを上空へ駆ろうとしたとき、一つの影が彼らのさらに上空を飛んだ。そして崖の上で竜巻が起こり、野盗たちが崖から落ちてきた。 「あれは竜? ちゅうことはまさか」 「風の魔法じゃないか」 そして、一匹の見慣れた竜が姿を現した。 「コルベールセンセからの援軍?」 「そっ」 あきれ返るような表情をしたウルフウッドの前でキュルケは何事もなかったかのように右手を返して短く肯定した。 「私もびっくりしたわよ。『彼らがアルビオンに向かうなら、空を飛べる彼女の使い魔がいてくれたら何かと助かるはずだ』ってね。まぁ、私は付き添いのおまけって奴?」 と鼻から大きく息を吐きながら、キュルケは隣のタバサを見た。タバサは相変わらずぼーっとした表情で何か本を読んでいる。 「んで、ちょうどええタイミングで俺らが盗賊に襲われていたいうことか」 「そういうこと。こっちも朝から叩き起こされて、遠路はるばるラ・ロシェールくんだりまで来る羽目になったから、その腹いせも兼ねてちょっと派手に暴れてやったわ」 ウルフウッドたちはあれから無事ラ・ロシェールにたどり着き、宿に来ていた。ウルフウッドにはうまく事情が読み込めなかったが、今日は船は出ないらしい。 しかし、もし船が出たとしても、現在の疲労した状態でクーデター真っ只中の敵地に乗り込むわけにもいかなかったので、どちらにしても一晩ここで体勢を整えるつもりであったが。 というわけで、宿の手続きをしにいったワルドとルイズを待つ間、こうしてウルフウッドはキュルケとタバサにここへ来たいきさつを尋ねているわけである。 「大体事情はわかったわ。けど、おじょうちゃんたちをそのアルビオンいうとこには連れて行くのには賛成できひんで?」 「私だって、好き好んでクーデター真っ最中の王都になんか行かないわよ。あんなところに特に何の用事もないわけだし。私とタバサはここでいざと言うときのために待機」 「そうしてくれるとありがたいわ」 とウルフウッドが言ったところで、ワルドとルイズが戻ってきた。 「困ったことになったよ。アルビオンへの船はあさってまで出ないらしい」 「まったく姫様から授かった緊急の任務だっていうのに……」 両手を挙げて首を振るワルドと不満げに鼻を膨らますルイズ。 そのワルドの言葉を聞きながら、ならばこんなに急いで休みもなく来る必要はなかったのではないかと思うウルフウッド。 このワルドという男の性格からして、船が出ないというのを知らなかったというのはなかなかに信じがたい。 「どうしたんだい? 使い魔君?」 「別になんでもないわ」 ウルフウッドの視線に気がついたワルドが声を掛けたが、ウルフウッドはそれを素っ気無くかわした。 「まぁ、いい。それで部屋割りなんだが、そこのお嬢さん方お二人。使い魔君とギーシュ君。僕とルイズがそれぞれ同室だ」 その言葉にルイズが慌ててワルドへと振り向く。 「え、で、でも……」 「僕とキミは婚約者だ。別に構わないだろう? それに単純に男女で分けるといろいろと問題が多そうだからね」 そう言ってワルドはキュルケに意味ありげな笑みを向ける。 「ええ。ゼロのルイズと同じ部屋で寝るなんてことになったら、私は野宿するほうを選びますわ」 ワルドはキュルケの答えに簡単に鼻の先だけで笑うと 「まぁ、そういうことだ。さてと僕のか弱いルイズ、さぞかしこの長旅は疲れただろう? 今日は早く休もう」 と言って、ルイズの肩に手を置き「お先に」と部屋へ向かって歩き始めた。ルイズも何か言いたそうな表情をしたが、うまく言葉が見つからなかったのか、エスコートされるままに歩いていった。 その姿を見送るウルフウッドたち。 「てっきりもっと噛み付くかと思たわ」 「あら、どういう意味かしら、ウルフウッド?」 「あのワルドとかいうのなかなかのエリートらしいで」 キュルケはその言葉を鼻で笑った。 「おあいにく様。いくら優秀でもあんな冷たい目をした男はこちらから願い下げよ。私は微熱のキュルケ。お相手も燃え上がるほどに情熱的な方でないとね」 ウルフウッドはその答えにどこか満足そうに笑う。 「なるほどな。ところで、こいつ運ぶの手伝ってくれへん?」 ウルフウッドの指差す先にはテーブルに倒れこむようにヨダレをたらして寝ているギーシュ。どうやら半日かけた長旅が堪えたらしく、宿に着くなり彼は爆睡していた。 「お断りするわ」 キュルケはにこりと笑った。 あくる日の朝、ウルフウッドはドアを叩く音で目を覚ました。 「朝のお祈りなら間に合うとるで」 頭をかきながらドアの前に立ち、ぶっきらぼうに返事をするウルフウッド。ちなみにギーシュは相変わらず爆睡している。 「僕はモーニングサービスに来たんじゃないよ。そんなつれないことを言わないで開けてくれないか、使い魔君」 ウルフウッドは「やれやれ」と小さな声で呟いた。 「朝っぱらから、何の用やねん。出発は明日ちゃうんか?」 「だから、さ」 「どういう意味や」 「僕たち貴族というのは厄介なものでね。強い相手を見ると、その相手が自分より強いかどうかはっきりさせたくなるのさ」 「……ワイは貴族でもなんでもないし、ましてやお前らみたいにわけのわからん魔法なんか使えへん」 「そんなつれないことを言わないでくれたまえ。伝説のガンダールヴ」 その言葉にウルフウッドが反応したことを、ワルドはドア越しに感じ取った。 「何が言いたい?」 「ルイズから聞いたのさ、君が伝説の使い魔であることをね。そして、事実上君一人でフーケを捕まえたこともね」 ウルフウッドは考えた。彼は自分からガンダールブの話をルイズにしたことはない。だから、ルイズがガンダールヴの話を知っているはずはない。 他に考えられる可能性としては、例のオスマンかコルベールが話した可能性だが、彼もあえて口外する意思はなさそうだった。 ――なんかきな臭いことになっとるな。 「わかった。手合わせ、したるわ。準備するからちょっと待っとれ」 $ ウルフウッドは宿の中庭にある練兵場に立っていた。 「なぁ、相棒」 「なんや」 「オレを使ってくれるのはうれしいんだけどよぉ……。なんで、いつも使っているあのごつい銃は持ってきてないの?」 「こんなところでおいそれと手の内晒すわけにはいかへんやろ。一応お前はそういうときのために持って来たんやから」 「……オレ、ぐれるよ」 「そんときは根性文字通り叩きなおしたるわ」 「何をそこでぶつぶつ言っているのかね?」 ワルドが不思議そうにウルフウッド彼が片手に持ったデルフリンガーに声を掛けた。 「いい場所だろう? かつて貴族が貴族らしかった時代、名誉と、誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった。でも、実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」 「おんどれ、ワイは貴族関係ないいうのが覚えられへんのか」 「そんな怖い顔をしないでくれたまえ、使い魔君。僕は貴族だから、貴族の作法しか知らないんだよ。そこらへんは容赦してくれたまえ」 ウルフウッドは来るんじゃなかったかと思いながら、軽く頭を掻いた。 「そして、こういった決闘の礼儀作法としては介添え人を立てる必要がある。なに、心配しなくてもいい。もう介添え人ならよんであるさ。おいで、ルイズ」 ワルドに呼ばれてルイズが物陰からゆっくりと姿を現した。 「ワルドが急に呼ぶから来てみたけど、あなた一体何をするつもりなの?」 不安そうなルイズ。 「何、キミの優秀な使い魔くんと少し手合わせしてみたくてね」 ルイズはワルドの言葉に不安そうにウルフウッドを見るが、 「じょうちゃん、おはようさん。朝っぱらからご苦労やな」 「って、なんであんたはそんなにいつも緊張感がないのよー!」 普通に朝の挨拶をしたウルフウッドをルイズは怒鳴りつけた。 「というわけで、準備は整った。それじゃあ、始めようか」 「しゃあないな」 ため息をつくとウルフウッドはデルフリンガーを構えた。 「ねぇ、相棒。一つだけ聞いていい?」 「なんや?」 「勝つ自信、ある?」 「……とりあえず勝つ気はない」 「久々の出番が敗戦処理はいやー!」 馬鹿なやり取りをしている一人と一本に向かって巨大な空気の塊が飛んでくる。ウルフウッドはすばやく後ろに飛ぶと、それをなんとかかわした。衝撃と共にウルフウッドの目の前で土煙が舞い上がる。 「あぶねー! 俺に魔法が当たったらどうすんだ!」 「それ、剣の言うセリフちゃうやろ!」 「ほう、エアハンマーをかわすか。やはり反射神経は相当いいようだね」 にやりと笑うワルド。そして、杖を構えて呪文を唱え始めた。真空の刃が三本、ウルフウッドに向かって飛ぶ。 「おいおいおい、来てるって相棒!」 「ちっ」 そのうちの二本はなんとかかわせたが、最後の一本がウルフウッドの身体を捉えている。ウルフウッドは体勢を崩したまま、最後の一本にデルフリンガーをぶつけた。 「いてー!」 「お前、伝説の剣やったらもっとしゃきっとせんかい!」 「伝説の剣だからもっと大切に扱えってんだよぉ!」 怒鳴りあいながら逃げ回るウルフウッドとデルフリンガー。当然ながらコンビネーションは最悪だ。 しかし、ワルドは油断するそぶりすら見せない。 「悪いが、期待外れとは言わないよ。すばやい身のこなし、攻撃に対する読み、そして反射神経。どれをとってもなかなかのものだ。 こうして遠くから魔法で狙い打つだけでは埒が明かない。ということで、本気を出させてもらうよ」 ワルドは杖を構えると、ウルフウッドに向かって杖をレイピアのように突き出して突進した。突き出された杖をデルフリンガーで弾くウルフウッド。 しかし、それにワルドは構うことなく、不敵に笑うと、フェンシングのようにすさまじい速さで突きを繰り出した。 「相棒押されてるぜ!」 ウルフウッドもある程度は刃物の扱いは仕込まれている。しかし、それはあくまで護身術程度のものであり、この状況を打破できるほどの技術はなかった。 小回りの効くワルドに至近距離でやり合っていても、このままだとやられるのは目に見えている。距離をとる必要を感じたウルフウッドは、後ろに飛んだ。 その姿を見てワルドは唇の端を歪ませた。ウルフウッドは気が付く、後ろに飛んだのは失敗だったことを。 「エアハンマー!」 体勢を崩したウルフウッドは襲ってくる空気の塊をよけきれない。存分に全身を叩きつけられて、三メートルほど吹っ飛ばされる。 「がっ、くっ!」 ウルフウッドはそのまま背中を地面に打ちつけ、一メートルほど地面を横滑りした。 「……我々魔法衛士隊はその魔法の詠唱すら戦いに特化されている。こうして攻撃を繰り出しながら、魔法の詠唱を行うのは基本中の基本さ。勝負あったね。僕の勝ちだ」 倒れるウルフウッドに杖を突きつけて、ワルドは得意げに言った。 「大丈夫、ウルフウッド?」 慌ててウルフウッドに駆け寄ろうとしたルイズをワルドは右手で制した。 「これでわかっただろう、ルイズ。君を守ることが出来るのは誰か。残念ながら、彼にはそれだけの力はない」 「でも……」 「かまへん。ワイが負けたんは事実や、じょうちゃん」 倒れたままウルフウッドは空を見上げて言った。 「さぁ、行こう、ルイズ。クーデター真っ只中のアルビオンは危険な場所だ。生き延びるだけの力のないものは置いていく。残酷なようだけれども、それが一番正しいんだよ、ルイズ」 そのままワルドは半ば強引にルイズを連れて行ってしまった。 「……相棒、いいのかい? 相手にあんな好き放題言われて」 「かまへん言うとるやろ。あのアホ、随分とじょうちゃんのご機嫌取りに必死みたいやからな。邪魔したったら、悪いやろ」 「とは言ってもよ。何もわざとぼろ負けすることもないんじゃないの? しかもあの貴族の娘っ子の目の前で」 「……オレにはようわからんけど、あいつはそれなりに実績のある軍人みたいや。そんな奴がこんな作戦真っ只中に、強い奴と手合わせしたいという理由だけで、味方同士で潰しあうような真似をすると思うか? 戦闘狂ならいざ知らずな。んなくだらん余興でこちらの手の内を晒す必要はあらへん」 「けど、それだと相手の思う壺だぜ」 「こっちになんのメリットもなかったわけやない。あいつもそれなりの代償ははらっとる」 「え?」 「言うたやろ? こっちの手の内は晒したくない、てな」 ウルフウッドは上半身を起こした。ガードした両腕がまだ少ししびれている。一撃必殺ほどの破壊力はないが、それでもうかつに直撃を食うのはまずい威力だった。 それにあの戦法。あれはメイジが近接戦闘に不利であるということを、知り尽くした上でのものだった。単純に近距離にもっていけば勝てるというものでもない。 「随分ときな臭いことになっとるな。勘弁して欲しいで」 そのまま風に浮かべるようにウルフウッドは呟いた。 「相棒の考えはよくわかった。けどね」 「なんや?」 「やっぱ俺の扱い敗戦処理ってひどくない?」 「……まだ言うか」 それからウルフウッドが自分の部屋に戻ったのは、散々デルフリンガーの愚痴を一時間たっぷりと聞かされた後だった。 前ページ次ページ虚無と狼の牙