約 24,297 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/214.html
ええ、確かに私は、長門有希により敵性と判断され 有機情報結合を解除されました 異常動作だったかですって すみません。 あの行動事態は確かに私の所属する急進派に正式に許可された行動ではありません。 その点に関しては弁解の余地はありません。 はい まず私に このような話をさせていただく機会を設けていただいたことを感謝します。 ご存知のとおり もともと人類が地球と呼称するあの惑星平面上で大規模な情報爆発が 観測されその中心にいた人物 涼宮ハルヒ の観測を実施するため私たちヒューマノイドタイプ のインターフェイスが作成されました。 まず最初の行動を開始したのは、長門有希です、彼女の当初の目的は観測対象の比定、 観測、および観測対象の無条件での保護でした、そのため彼女の能力は 人類への言語によるコミュニケートよりも観測分析 そしてなにより戦闘能力に特化したもに なりました。 地球時間で約3年間に渡る彼女の観測結果を受け検討分析し、その後より観測対象への 積極的なコミュニケートを行うために、この4月より 私 朝倉涼子が行動を開始しました。 そうです、観測対象である涼宮ハルヒにアクティブに対応しその結果を観測することは 私に当初与えられていた任務でした、そのため私の能力は彼女のそれに比べコミュニケート 能力を向上させ、比較として戦闘能力は低く抑えられていました。 当初目的を遂行するため、私は、観測対象である涼宮ハルヒと同じクラスメート そして学級委員(脚注)として彼女への積極的な接触を試みておりました。 しかし結果としては 観察対象である涼宮ハルヒは、私との間に有効な関係を築くことなく その後、第二観測対象(脚注)となったキョン(脚注)とSOS団(脚注)を結成、その際に 活動拠点を提供する形で長門有希との直接的な接触を開始してしまいました。 この事実をうけ、統合情報思念体各派は協議の上、派遣中のインターフェイスの役割分担を 変更 長門有希に直接的な観測対象の観測任務をあたえ、私には、彼女のバックアップとして 活動するよな指示をうけました。 一方的に行われたこのような指示の変更は、私の作成当時に付与されていた、行動原理と 一部相容れない部分が存在することとなり、今回指摘をうけているあのような行動として 発現されたと私 朝倉涼子 および 情報統合思念体急進派は判断しております。 このような事情を考慮の上 最終的な判断が公正に下されることを確信しております。 以上です ありがとうございました (編集注 脚注は別紙添付資料のため当報告書より除外)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4701.html
第1章 消失前夜 わたしは世界を改変する。そして、改変後すぐに彼によって世界は再改変される。しかし、再改変後の世界がどうなるかは分からない。『再改変後のわたし』が同期化を拒むからだ。なぜ未来のわたしは同期化を拒むのか。わたしはその訳をうすうす感づいていた。 世界改変後に、わたしはいないのではないか。 同期化をすれば未来を知ることになる。当然、わたしの寿命もわかってしまう。 世界改変によって情報統合思念体を抹殺したわたしにそのまま観察者としての役割を任せるとは到底思えない。間違いなくわたしは、処分される。未来のわたしは知られたくなかったのではないか。わたしの最期を。 ◇◇◇◇ 授業が終わると一目散に部室に向かうため、部室に来るのはいつもわたしが最初。そして、2番目に彼が来ることを望んでいる。 今日もわたしが一番。1人、部室の片隅で本を読んでいる。 「やあ、どうも」 二番目は古泉一樹。今日はハズレ。 「長門さん。こんにちは」 古泉一樹はにこやかに微笑み、わたしに近寄り、小さな声でわたしに話す。 「長門さん。近日中に何か大きな事件が起こるのではないのですか」 「………」 「最近、あなたたちヒューマノイドインターフェイスの動きが活発化しています。また、朝比奈さんたちの組織のエージェントも続々とこの時間帯にのりこんできています。その数は涼宮さんが閉鎖空間を発生させた時に匹敵します。 長門さん。何か知っているんですね。教えてもらえませんか。おそらく、数日後、いや早ければ今日中にも何か世界を揺るがすような大事件がおこるはずです」 「わからない」 嘘ではない。本当にわからない。わたしは適切な回答を伝えることはできない。 「なぜです。涼宮さんがらみなのでしょう?我々機関とあなたたちとは利害が一致するはずですが」 「あなたには関係のないこと」 わたしは何も教えるつもりはない。 古泉一樹は笑顔を作り、 「わかりました。聞かないことにします」 と言った。 わたしは本を開く。しばらくの沈黙の後、朝比奈みくるが入ってきた。 朝比奈みくるは涼宮ハルヒの命令に従い、メイド服に着替えるのが日課。涼宮ハルヒは朝比奈みくるにメイド服を着せることにより、涼宮ハルヒの認識する『一般的な学校のクラブの部室』とは異質な雰囲気を作ろうとしている。 朝比奈みくるが着替えを終え扉を開けると、外で待っていた古泉一樹と一緒に、彼が入ってきた。 「キョン君。すぐお茶煎れますね。」 「ええ。ありがとうございます。」 朝比奈みくるはうれしそうにやかんでお湯を沸かし始めた。 彼はお茶という飲み物を好む。お茶は99%が水分であり栄養価はほとんどない。しかし、お茶には物理的に説明できない効果を発揮するようだ。わたしにはそれが何か理解できない。人間の行動を理解するのは難しい。 「ゲームでもしませんか」 古泉一樹は彼にそう言うとTRPGのボードを取り出した。ゲームは有機生命体の不確実性を顕著に示すもの。有機生命体には『勘』というものがある。この『勘』の正確性を競うものがゲーム。例えばオセロ。このゲームは白と黒の石を置いていき、最終的にどちらの石が多いかで勝敗を決める。オセロの配列パターンは10の58乗通りしかなく、数学的には必ず先手黒が勝つ。しかし、有機生命体のである人間は10の58乗通りの配列パターンを記憶できる能力はなく、勘で石を置く。よって同じ相手とオセロをやっても毎回結果が変わる。わたしはいつも彼を応援している。古泉一樹に負ける姿を見たくはない。しかし古泉一樹は有機生命体特有の『勘』という能力に長けている。彼に勝ち目はない。今日も劣勢だ。仕方がない。わたしは今回も彼が勝つように情報操作を行う。 ドン 勢いよく扉が開く。 涼宮ハルヒが入ってきた。扉を閉めるなり 「クリスマスイブに予定ある人いる?」 満面の笑み。 「予定があったらどうだってんだ。まずそれを先に言え」 涼宮ハルヒは彼のもとに近寄る。 「ってことは、ないのね」 彼は黙り込んだ。 全員の予定を聞いて回り、涼宮ハルヒは宣言した。 「そういうことで、SOS団クリスマスパーティの開催が全会一致で可決されました。でさ。こういうのは雰囲気作りから始めるのが正しいイベントの過ごしかただわ。この殺風景な部室をもっとほがらかにするの。あんたも子供の頃にこんなことしなかった?」 「するもしないも、後もう少ししたら俺の妹の部屋がクリスマス仕様になる。しかも妹は、未だにサンタ伝説を信仰しているようだが」 「あんたも妹さんの純真な心を見習いなさい。夢は信じるところから始めないといけないのよ。そうでないと叶ものも叶わなくなるからね」 涼宮ハルヒらしい言葉。彼女はありふれた普通の日常とは違う生き方を望んだ。世界の誰よりも面白い人生を目指した。それは途方もない夢。その夢は誰にも理解されなかったが、孤高を貫き夢は捨てなかった。そして、今も立ち止まることなく走り続けている。 一方、わたしはそんな彼女をただ、観察している。ただそれだけだ。 わたしの夢はなんだろう。 「でさ、キョン。クリスマスパーティを盛大にやるのはいいとして、何がいい? 鍋? すき焼き?」 「それでは店を予約しなければなりませんね」 「あ、それは心配しなくていいわ。ここでやるから」 「ここでやる?学校内それも古ぼけた部室棟でそんな料理していいわけないだろ」 「いいわよ。もし生徒会や先生達が乗り込んできたら、あたしの素晴らしい鍋料理を振る舞ってあげるわけ。そしたらそいつらもあまりのおいしさに感涙にむせび泣きながら特例を認めるに違いないって寸法よ。寸分の間違いもないわ。完璧よ」 涼宮ハルヒはふんぞり返り、彼はやれやれとでも言いたげな顔をしていた。部室は、クリスマス仕様にするまでもなく、ほがらかな雰囲気となっていた。 ◇◇◇◇ いつもと変わらない日常が広がっていた。毎日学校に行き、部室で本を読み、家に帰り金魚を眺める。それは不気味なほど平穏な日々だった。このまま何も起こらず18日が過ぎていくのではないか。そう思えるほど平穏だった。しかし、現実はそう甘くはなかった。 わたしが学校から帰り普段と変わらずマンションの一室で明日学校へ登校するために待機しているときに、それは起こった。 しんと静まる真夜中、何の前触れもなくベルが鳴った。ドアの前に立っていた人が全く予期していなかった人物だったので少し驚いた。 「夜分遅くにごめんなさい」 喜緑江美里がそこにいた。 「少しお話ししたいことがあるのですがよろしいかしら」 わたしは戦慄した。喜緑江美里とは友好関係にあるが2日後には大事件が待っている。とりわけ穏健派は『静観』が基本スタンスだ。世界改変を阻止するためわたしを消し去ろうとしても不思議ではない。間違ってもわたしに世界改変の手助けをすることはしない。 わたしは平静を装い喜緑江美里を部屋に案内して、お茶を煎れた。 わたしが彼女の前にお茶を出すと彼女は、笑顔を浮かべ 「ありがとう。長門さんも人間生活に慣れてきたんですね」 と言いながら湯飲みを持ち、こう続けた。 「朝倉涼子のことをまだ気に病んでいるのでしょ?」 「わたしは正しいことをしたまで」 「そう割り切っているならいいのですが、あなたはまじめ過ぎるところがあるので」 その言葉に少し驚いた。喜緑江美里はまじめでないことがあるのだろうか。 「私たちヒューマノイドインターフェイスは有機生命体とコミュニケートできるように、『感情』を持っています。そのため、情報統合思念体本体とは違い不完全な存在です。例えば情報統合思念体の指令をうっとうしいと感じたことはあるでしょう」 わたしは答えなかった。 「そう感じるのはエラーでもなんでもありません。極めて正常なことです。これは私たちが『感情』を有しているからこそ起こる現象です。自分が完璧であろうとする必要はないと思いますよ。たまには自分の欲望に忠実になってはいかがしら」 世界改変を勧めているように聞こえたので、その言葉はわたしにとって予想外だった。しかしなぜ? 「あなたの意図がわからない」 「ひどい言い方ですね。安心してください。わたしが今ここにいるのは情報統合思念体からの指令ではなくわたしの意志です。ここ最近のあなたは追い詰められているようだったから。 朝倉涼子がいなくなり寂しいのではないかと思いまして。わたしも孤独だったから……あなたを見ていられなかったの」 彼女は本当に心配そうにわたしを見る。それは意外な一面だった。わたしは何を言っていいかわからず黙り込んでしまった。 「本当は変えたいんでしょう」 彼女は唐突に切り出し 「あなたは何を躊躇しているの? 」 と続けた。 喜緑江美里は世界改変の事実はおろか、わたしの心の中まで把握している口ぶりだった。まさか、世界改変の事実が情報統合思念体に筒抜けになっているのではないか。 「安心して下さい。わたしがこの事実を知っているのは、未来のあなたが教えてくれたからです」 未来の私が? どうして? 「それは教えられませんわ。未来のあなたに口止めされていますから。本当は、ここに来るのも止められていたんですけど、あなたの様子を見てたら、どうしても話がしたくなりまして」 そう言う彼女に敵意も悪意も感じとることができず、わたしは彼女の言葉をあっさり信じてしまった。 「わたしは変化を望んでいる。でも、彼はそれを望んでいない」 「彼が脱出プログラムを起動したこと?」 「世界は彼によって元に戻される。仮に実行しても何も変わらない」 喜緑江美里はフっと笑った。 「長門さんらしいわ。確かに彼は望んでいなかったかもしれない。でも、それは意味のないことなのかしら。あなたがそれを行うことで世界は変わらなかったかもしれない。けど彼の気持ちは変わらないかしら」 「彼の気持ち? あなたの意図している意味が解らない」 「あなたの行動によって、あなたの気持ちが彼に伝わるのではないでしょうか。あなたには心に秘める強い気持ちがあるのでしょう。彼にその気持ちを伝えればどうかしら」 「わたしが意志を持ち彼に接触することは観察者として失格」 「あら、それは面白い認識ですね。観察者と傍観者は違います。あなたの行動が観察者としての役割を放棄することにはならないと思いますよ」 さらにこう付け加えた。 「それに人間と付き合うことは決して悪いことではありません。有機生命体のことを理解することは、観察活動においても大切なことです。なにより、楽しいですし。わたしも生徒会長と付き合っていますがなかなか貴重な経験ができますよ。確かにあなたの場合は相手が相手ですから少し自重していただかないと困りますが。それでも涼宮ハルヒにバレない程度なら問題ないでしょう」 喜緑江美里の激白には正直驚いた。 わたしは職務を円滑に行うため自らの行動に制限を設けてきた。情報統合思念体の指令に逆らいたいことも何度もあった。しかしそれはエラーだと言い聞かせてきた。しかし、喜緑江美里はそれを否定した。確かにいくら鈍感な彼でも、世界改変をすればわたしの気持ちを理解してくれるはずだ。世界改変を行うことは絶対にないと思っていた。しかし、今、わたしの心は揺れ動いていた。 喜緑江美里が帰ったあと、わたしは彼に電話をした。彼にお面を渡そうと思ったのだ。夏休みが終わりすぐに渡せばよかったのだが、わたしは躊躇し、今まで渡せずにいた。明日何が起こるか分からない。渡すなら今日しかないと思った。彼から電話がかかってくることは何度もあったが、わたしからかけることははじめてだと気付き、少し可笑しくなった。 「あなたに渡したいものがある。公園まできてほしい」 電話の向こうで彼が動揺しているのがよくわかった。公園で待つこと30分。彼が自転車に乗って現れた。 「待ったか」 「今来たところ」 「用事ってなんだ」 彼は医師から身体を蝕む病の告知を受けるため診察室に呼ばれた入院患者のように、どこか落ち着かない様子だった。 「これ」 わたしは差し出した。エンドレスサマー『9874回目の夏の彼』から渡されたお面を。 「覚えている?夏休みのこと」 「ああ。ハルヒのキテレツなパワーで繰り返しやってきた夏休みのことか」 「そう」 「あなたに記憶はないが、9874回目の夏、あなたはこのお面をわたしに託した。そして、あなたに渡すように頼んだ」 わたしは9874回目の夏に起こったことを伝えた。 「過去の俺には悪いが全く記憶がない。でも、俺は過去の俺に感謝している。8月30日、ハルヒが夏休みの終わりを言い渡して帰ろうとしたとき、俺は今まで受けたことのない既視感に襲われたんだ。それは、過去1万5千回分の過去の俺の声なんだってそう思ってる。あの既視感がなかったら俺はいまだに夏休みをさまよっているさ。当然、9874回目の俺にも感謝している。俺だけじゃない。過去の古泉にも、過去の朝比奈さんにも、もちろん長門にも」 彼は微笑みわたしに言った。 「ありがとう。このお面は大切にする」 わたしは安堵した。 「しかし、夜景か。俺に記憶がないのに、長門だけ俺と2人で行った記憶があるなんて不公平だな。今から行くか。その方が9874回目の俺も喜ぶような気もするしな」 「あなたとは行かない。彼との大切な記憶を汚されたくないから」 彼は呆けている。 「……冗談」 とわたしが言うと彼の顔は緩み 「勘弁してくれ。普段冗談を言わんから本気と勘違いしちまう」 わたしと彼は再びあの展望台へと向かった。 展望台は風が強く、わたしの髪がなびいた。吐く息が白く濁ったのをみて時間の経過を感じざるを得なかったが、そこにはあのときと同じ景色が広がっていた。夜景を眺める彼の横顔はどこか哀しさを漂わせ、9874回目の彼が消えた時の記憶がフラッシュバックした。彼を見て思う。わたしは彼が好きだった。好きで好きでたまらなかった。もしも願いがかなうなら、普通の人間になり、彼と笑い合い、喜び合い、励まし合いたい。思いを寄せる人を見て頬を赤らめ、驚くことがあれば、おどおどする、どこのでもいる女の子になりたかった。たとえわたしが消えるとしても、やってはいけないことだとしても、一度でいいから彼に微笑みかけたかった。 涼宮ハルヒの能力を使えばそれが可能だった。 わたしは世界改変を起こすことを事前に把握すればエラーを取り除き未然に改変を防ぐことができると考えていた。しかしそれは違う。事前にわかってしてしまったからこそ、世界改変をしてしまったのだと思う。世界改変をする時期はいつでもいい。未来になぞる必要はない。しかし、この機会を逃したら……今、世界改変を行わなければ、わたしはずっと逃げ続けてしまう。ここで決断できなければ、ずっとできない。そういう想いがわたしの頭の中を支配し、わたしに決断を迫った。 わたしは北高の校門の前に立つ。 辺りは暗く、街は寝静まっている。空には星が輝いていた。 わたしはふと考える。もし、彼の記憶も改変すれば…… 何も未来の規定事項に沿う必要はない。彼の記憶を改ざんし脱出プログラムも用意しなければ、わたしの望む世界が永遠に続く。 しかし、それだけではできなかった。今でも9874回目の夏休み、彼の最後の微笑みがわたしの脳裏に焼き付いている。彼の記憶を操作することだけはできなかった。 右手を宙に向ける。宙には星が輝いていた。世界よ。許して欲しい。わたしのわがままを。 そっと目をつぶり、世界改変を行おうとしたそのとき、驚くべきことが起こり、呪文を唱えることをやめた。わたしの前に『わたし』が立っていた。 「わたしは未来から来た」 わたしは息をのみ、黙って目の前のヒューマノイドインターフェイスを見つめた。同期化を拒否し続けた『わたし』がわざわざ会いに来るのだから相当重要なことだろう。わたしの前に立つ『わたし』は続ける。 「あなたに、忠告しなければならないことがある。世界再改変を円滑に進めるために次のことをしなければならない。必ず実行してほしい」 「まず、この後、この場所で世界改変を行うこと。その3日後、同じ場所、同じ時間に同じ動作をしてほしい。もちろん再び世界改変をやる必要はない。マネだけでいい。 次に、彼が3日以内に脱出プログラムを起動するように『しおり』に期限を明記すること。 最後に、朝倉涼子を復活させること。 また、あなたが危機に直面したとき、あなたを護り、あなたに銃口を向けた人間を殺すようにプログラムしておくこと。たとえそれが誰であっても」 わたしはそれを聞いたとき聞き間違いではないかと思った。わたしに銃口を向ける人が誰かを知っている。なぜなら、彼に銃を渡したのはわたしなのだから。 未来のわたしは本当にバグを起こしたのだろうか。 わたしは言う。 「彼を傷つけるようなことはできない」 「心配ない。わたしが彼を助ける。彼は殺させない。このプロセスは再改変に必要不可決。必ず実行する必要がある」 信じていいのだろうか。 「わたしは彼を何よりも大事に思っている。どのようなことがあっても、彼を殺すような行為は絶対にしない。信じて」 たしかにそうだ。『わたし』はわたしだ。彼の死を望むはずがない。 しかしなぜ。 「今は教えることができない。あなたにはこれから起こることを直接体験してほしいから」 「最後にもう1つ。もし、困った事態に直面したら彼とはじめて出会ったときのことを思い出して欲しい。彼に対して行ったこと、それが鍵になる。世界改変の成功を祈る」 時刻はちょうど午前03時00分を指し示していた。わたしは『わたし』の意図が全く分からなかったが、目の前にいる『わたし』が本心から世界改変の成功を祈っているのか、誰かに脅されて嘘を語っているのかを見分けることぐらいはできる。 何よりわたしの前にいる『わたし』はやわらかな表情と生きた目をしていた。 『目の前にいるわたし』は信用できる。 「あなたの忠告を受け入れる。必ず実行する」 と『わたし』に伝え、再び右手を挙げ、 そっと呟いた。禁じられた言葉を。 ◇◇◇◇ このとき、わたしはこれから起こる出来事を全く予期できていなかった。この後、事態は込み合っていて、複雑な段階が物語を創っていくことになる。 わたしはちゃんと考えるべきだった。 なぜしおりに期限を明記する必要があるのか。 なぜ朝倉涼子を復活させたのか。 なぜ喜緑江美里が世界改変を勧めたのか? 彼も朝比奈みくるも、そしてわたし自身も知らない隠された真実を知るのは今から3日後のことになる。 第2章につづく
https://w.atwiki.jp/ranoberowa/pages/659.html
朝比奈みくる 【登場作品】 涼宮ハルヒシリーズ (谷川(たにがわ) 流(ながる) / 角川スニーカー文庫) 【出典時期】 【本名】 朝比奈(あさひな) みくる? 【異名】 【年齢/性別】 禁則事項らしい / ♀ 【立場】 未来人、萌えキャラ。 【人称】 一人称: あたし 二人称: ○○さん 三人称: あの人 【身体的な特徴】 溜息表紙 小柄で童顔故に、下手をすれば小学生に間違えられる。 ウェーブした栗色の髪を持ち、また背丈の割にえらい巨乳である。 【精神的な特徴】 押しに弱く、状況に流されやすい。また、おっちょこちょいな一面もみられる。 【技術/特殊能力】 身体能力: 普通の少女並み? 涼宮ハルヒを監視する未来人。 今から3年前に巨大な時間震動が発生し、それを調査するためにこの時代に来た。 しかし監視対象である涼宮ハルヒに、マスコットキャラとして強制的にSOS団に入団させられる。 その後は、SOS団付きのお茶汲みメイドとなって日々を過ごす。 【関連用語】 【SOS団】 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。涼宮ハルヒが作った部活。 宇宙人や未来人や超能力者などを探し出して一緒に遊ぶために活動している。 所属者は、キョン、涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹の五名。 【TPDD】 正式名称は『タイムプレーンデストロイドデバイス』 物質として存在してはおらず、脳内に無形で存在するらしい。 タイムマシンとして使用したり、未来と交信する事が可能。 【登場キャラとの関係】 【キョン】 キョン君 【涼宮ハルヒ】 【長門有希】 【古泉一樹】 ←089 長門有希 ↑参加者名簿 091 古泉一樹→ 以降ラノベ・ロワイアル本編のネタバレ注意 【追跡】 計2話 No. 題名 023 策師と指し手 075 終わった事と…… 【現在状況】 + 開示する。 最新スタンス 脱出派 生存状況 1日目 01 42に死亡(折原臨也) 支給品 弾薬セット 最新データ 第075話 終わった事と…… 遭遇中の人物 なし 殺害数 0人 【遭遇人物】 計3人+1台 名前 呼称 関係 解説 話 × いーちゃん 075 × ダナティア 075 エルメス 075 折原臨也 023 名前 呼称 関係 解説 話 × キョン 再会していない。SOS団の仲間。 --- × 涼宮ハルヒ 再会していない。SOS団の仲間。 --- 長門有希 再会していない。SOS団の仲間。 --- 古泉一樹 再会していない。SOS団の仲間。 --- 名前 呼称 関係 解説 話 【最新状態】 折原臨也に岩で殴られ死亡。 死体は終わった事と……でいーちゃんとダナティアがF-5の森の入り口に埋葬。 【踏破地域】 【F-5】森の崖上→森の崖下 ↓ 【F-5】森の入り口 1 2 3 4 5 6 7 8 A B C D E F G H 【本編での動向】 + 開示する。 【死亡者追悼】 即死キャラ四号にして、台詞すらなく殺された可哀想なキャラ一号でもある。 『戯言遣いとモトラドとメイドさんと』の時点では正体不明のメイドさんであり、 『策師と指し手』で台詞もなく死亡し、その後の『終わった事と……』により 死亡前後の補完が行われ、その二つが繋げられたという数奇な運命を辿っている。 即死キャラではあるが、後に補完された事により少しは報われた気もする。 そういえば、いーちゃんにSOS団宛の遺言を託していたような気がしなくもないが、 破滅的記憶力を有するいーちゃんに託した事もあってか、 いーちゃんは長門と一瞬遭遇するも、碌に会話する暇も無く別れてしまい、 結局最後に託された謎の言葉は伝わる事無く、いーちゃんは死亡してしまった。 ロワイアルの無情さを象徴するようなキャラである。 ←089 長門有希 ↑参加者名簿 091 古泉一樹→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3492.html
白雪姫の真相 簡易シミュレーターが空中に展開する無数の曲線と記号と数式で構成された光の樹形図を見上げながら、朝比奈みくるは溜息をついた。 彼女は行き詰っていた。 シミュレーターが示すキョンと涼宮ハルヒの結末は、彼女の満足にいくものではなかった。 なぜなら、それは彼女が知っている史実からずれていたから。 二人は結婚して幸福な一生を過ごすはずなのに、なぜか二人とも生涯独身という結末になっていた。 まだ、時間軸の上書きは観測されてないが、何かの拍子に上書き現象が発生しないとも限らない。そうなれば、このシミュレーション結果が現実となってしまう可能性があった。 何かが足りない。それは、どこかの時点で介入する必要があるということ。 問題は、二人の結婚が規定事項として認定されるかどうかだ。二人が結婚しなくても、今のこの時間平面には影響がないと判断されれば、上書きが発生しようとも放置されることになる。 二人が結婚するかしないかという問題は、道端に転がっている石ころの位置が10センチずれてましたという程度の瑣末なことでしかない可能性も否定できないのだ。 そのような瑣末な差異による時間軸上書き効果は一定の時点で終息してしまい、その時点以降の未来には影響を与えない。時間軸の再帰性と呼ばれる性質である。 問題はもう一つあった。 二人が北高に入学した春に発生した特殊閉鎖空間。そこから二人が帰ってくる確率について、規定事項管理局はシミュレーションを放棄していた。データがないので、シミュレーションは不可能だというのだ。 世界改変を行おうとしていたのだからSTCデータ上に痕跡が残るはずなのだが、いくら観測してもその痕跡が見つからない。おそらく、涼宮ハルヒの力によって完全に消し去られたものと推測されていた。 あの特殊空間は、完全なブラックボックスということだ。 このままでは、世界改変が成功してこの時間軸が完全に上書きされてしまう可能性が残ってしまう。 二人があそこから戻ってくるという規定事項をなんとしても確定させなければならないのだが、そのためにどのような介入を行なうべきなのか、検討もつかなかった。 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターをポケットにしまって、自室を出た。とある人物の部屋へと向かう。 「機関」時空工作部最高評議会の一員であり、かつ、情報統合思念体の端末でもある存在、すなわち、長門有希の部屋であった。 部屋のドアに手を触れる。DNAがチェックされ、部屋の主に来客が告げられたはずだ。 ほどなくして、ドアのロックが開錠された。 「失礼いたします」 朝比奈みくるが中に入ると、長門有希が読書をしている光景が目に入った。この組織を牛耳る長老の昔から変わらぬ趣味だ。 朝比奈みくるは促されるままに、長門有希の向かいの席に座った。 長門有希は、ぱたんと書物を閉じると、簡潔に問うた。 「用件は?」 「御相談したいことがあります。お時間は大丈夫でしょうか?」 「今日は評議会の開会は予定されていない。時間は充分にある」 朝比奈みくるは、現在行き詰っている点について、率直に話した。 それに対して、長門有希はこう答えた。 「私は、あのとき、あの閉鎖空間にいる彼に対して、一つの示唆を与えた」 「示唆……ですか?」 「そう。sleeping beauty、と」 「眠り姫ですか」 「涼宮ハルヒは、あのとき、二人で夢の世界に引きこもろうとしていた。そんな彼女の目を覚ますものは……」 長門有希の言葉を、朝比奈みくるが引き継いだ。 「王子様のキスというわけですね」 「そう。しかし、私の示唆だけでは、説得力が弱い。あの時点では、彼の私への信頼は、低くはないにしても、高いとはいいがたかった。よって、未来人から類似のヒントを与えることによって、説得力をより高める必要があると判断する」 「なるほど。それが私の役目ですね。私は『白雪姫』とでも言っておきましょうか」 「それでよい。そして、これは、あなたのもう一つの問題をも解決する。閉鎖空間内での二人の口付けという要素を加えて、シミュレーションを修正してみて」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターを取り出し、作動させた。 空中に展開された光の樹形図が、さきほどとは違う形を示していた。 ある曲線のある一点にまとわりついている記号と数式が、とある事象の確率を示している。 キョンと涼宮ハルヒが結婚する確率99.86パーセント。 「そもそも、彼は異性間の友情に疑問を持たない人間。その心理傾向からすれば、SOS団における様々な経験は、本来的には、彼の涼宮ハルヒへの友情を深める方向にしか作用しえない。それが二人が恋愛関係に至らない主要な原因である」 「でも、キョンくんが涼宮さんを女性として意識せざるをえないような出来事があれば、それも変わってくるということですね」 「そう。特殊な状況下で口付けをしたという事実は、鮮烈な記憶として残ることになる。彼の意識の奥底から離れることはない。彼のような誠実な性格であれば、なおのこと」 「なるほど。でも、問題が一点だけ残ってますね。長門さんと私の示唆に、キョンくんが従うかどうかは、不確定です」 「やはり、あなたは優秀」 長門有希は、朝比奈みくるの能力の高さに賛辞を送った。 「そう。まさに、問題はその点にある。あの閉鎖空間には外部からの干渉が不可能である以上、事態の進展はあの二人だけにかかっている。そして、あの二人自体が第一級のイレギュラー要素」 「もしも、失敗したらどうなると思います? やはり、世界が改変されて、この時間軸も上書きされてしまうのでしょうか?」 「それはない。彼が口付け行為をしなくても、あの閉鎖空間は崩壊する」 長門有希の断言に、朝比奈みくるは、驚きの表情を浮かべた。 「なぜですか?」 「彼は、涼宮ハルヒと二人だけの世界にとどまることを最後まで拒否する。これは、彼の心理傾向からして確実。そして、彼のその態度に絶望した涼宮ハルヒは、閉鎖空間を崩壊させた上で、廃人と化す可能性が高い。 植物状態というべきかもしれない。それこそ、王子様の口付けでなければ、目覚めないような」 「……」 朝比奈みくるは絶句した。 それこそ、考えられうる最悪の事態だ。 「このような事態に陥れば、世界改変がなされなくても、我々の規定事項のほとんどすべてが破壊されるといっても過言ではない。その補正は不可能に近い」 「危険な賭けですね。いっそのこと、あの閉鎖空間が発生することを未然に防いだ方がよろしいのではありませんか?」 「あなたは本当にそう思うか?」 朝比奈みくるは答えることができなかった。 実は、今自分が言ったことは、一度シミュレーションしてみたことがあるのだ。 その結果は、惨憺たるものだった。 あの時点で、「機関」と情報統合思念体に、涼宮ハルヒが有する世界改変能力の本当の恐ろしさを肌で実感させなければ、その後の規定事項は成立しえないのだ。 話を打ち切ったのは、長門有希だった。 「以上を踏まえて、計画を練り直してもらいたい」 「かしこまりました。御相談に応じていただきありがとうございました」 朝比奈みくるは、一礼して立ち去っていった。 ────白雪姫って、知ってます? ────これからあなたが何か困った状態に置かれたとき、その言葉を思い出して欲しいんです。 ────最後にもう一つだけ。わたしとはあまり仲良くしないで。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3325.html
白雪姫の真相 簡易シミュレーターが空中に展開する無数の曲線と記号と数式で構成された光の樹形図を見上げながら、朝比奈みくるは溜息をついた。 彼女は行き詰っていた。 シミュレーターが示すキョンと涼宮ハルヒの結末は、彼女の満足にいくものではなかった。 なぜなら、それは彼女が知っている史実からずれていたから。 二人は結婚して幸福な一生を過ごすはずなのに、なぜか二人とも生涯独身という結末になっていた。 まだ、時間軸の上書きは観測されてないが、何かの拍子に上書き現象が発生しないとも限らない。そうなれば、このシミュレーション結果が現実となってしまう可能性があった。 何かが足りない。それは、どこかの時点で介入する必要があるということ。 問題は、二人の結婚が規定事項として認定されるかどうかだ。二人が結婚しなくても、今のこの時間平面には影響がないと判断されれば、上書きが発生しようとも放置されることになる。 二人が結婚するかしないかという問題は、道端に転がっている石ころの位置が10センチずれてましたという程度の瑣末なことでしかない可能性も否定できないのだ。 そのような瑣末な差異による時間軸上書き効果は一定の時点で終息してしまい、その時点以降の未来には影響を与えない。時間軸の再帰性と呼ばれる性質である。 問題はもう一つあった。 二人が北高に入学した春に発生した特殊閉鎖空間。そこから二人が帰ってくる確率について、規定事項管理局はシミュレーションを放棄していた。データがないので、シミュレーションは不可能だというのだ。 世界改変を行おうとしていたのだからSTCデータ上に痕跡が残るはずなのだが、いくら観測してもその痕跡が見つからない。おそらく、涼宮ハルヒの力によって完全に消し去られたものと推測されていた。 あの特殊空間は、完全なブラックボックスということだ。 このままでは、世界改変が成功してこの時間軸が完全に上書きされてしまう可能性が残ってしまう。 二人があそこから戻ってくるという規定事項をなんとしても確定させなければならないのだが、そのためにどのような介入を行なうべきなのか、検討もつかなかった。 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターをポケットにしまって、自室を出た。とある人物の部屋へと向かう。 「機関」時空工作部最高評議会の一員であり、かつ、情報統合思念体の端末でもある存在、すなわち、長門有希の部屋であった。 部屋のドアに手を触れる。DNAがチェックされ、部屋の主に来客が告げられたはずだ。 ほどなくして、ドアのロックが開錠された。 「失礼いたします」 朝比奈みくるが中に入ると、長門有希が読書をしている光景が目に入った。この組織を牛耳る長老の昔から変わらぬ趣味だ。 朝比奈みくるは促されるままに、長門有希の向かいの席に座った。 長門有希は、ぱたんと書物を閉じると、簡潔に問うた。 「用件は?」 「御相談したいことがあります。お時間は大丈夫でしょうか?」 「今日は評議会の開会は予定されていない。時間は充分にある」 朝比奈みくるは、現在行き詰っている点について、率直に話した。 それに対して、長門有希はこう答えた。 「私は、あのとき、あの閉鎖空間にいる彼に対して、一つの示唆を与えた」 「示唆……ですか?」 「そう。sleeping beauty、と」 「眠り姫ですか」 「涼宮ハルヒは、あのとき、二人で夢の世界に引きこもろうとしていた。そんな彼女の目を覚ますものは……」 長門有希の言葉を、朝比奈みくるが引き継いだ。 「王子様のキスというわけですね」 「そう。しかし、私の示唆だけでは、説得力が弱い。あの時点では、彼の私への信頼は、低くはないにしても、高いとはいいがたかった。よって、未来人から類似のヒントを与えることによって、説得力をより高める必要があると判断する」 「なるほど。それが私の役目ですね。私は『白雪姫』とでも言っておきましょうか」 「それでよい。そして、これは、あなたのもう一つの問題をも解決する。閉鎖空間内での二人の口付けという要素を加えて、シミュレーションを修正してみて」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターを取り出し、作動させた。 空中に展開された光の樹形図が、さきほどとは違う形を示していた。 ある曲線のある一点にまとわりついている記号と数式が、とある事象の確率を示している。 キョンと涼宮ハルヒが結婚する確率99.86パーセント。 「そもそも、彼は異性間の友情に疑問を持たない人間。その心理傾向からすれば、SOS団における様々な経験は、本来的には、彼の涼宮ハルヒへの友情を深める方向にしか作用しえない。それが二人が恋愛関係に至らない主要な原因である」 「でも、キョンくんが涼宮さんを女性として意識せざるをえないような出来事があれば、それも変わってくるということですね」 「そう。特殊な状況下で口付けをしたという事実は、鮮烈な記憶として残ることになる。彼の意識の奥底から離れることはない。彼のような誠実な性格であれば、なおのこと」 「なるほど。でも、問題が一点だけ残ってますね。長門さんと私の示唆に、キョンくんが従うかどうかは、不確定です」 「やはり、あなたは優秀」 長門有希は、朝比奈みくるの能力の高さに賛辞を送った。 「そう。まさに、問題はその点にある。あの閉鎖空間には外部からの干渉が不可能である以上、事態の進展はあの二人だけにかかっている。そして、あの二人自体が第一級のイレギュラー要素」 「もしも、失敗したらどうなると思います? やはり、世界が改変されて、この時間軸も上書きされてしまうのでしょうか?」 「それはない。彼が口付け行為をしなくても、あの閉鎖空間は崩壊する」 長門有希の断言に、朝比奈みくるは、驚きの表情を浮かべた。 「なぜですか?」 「彼は、涼宮ハルヒと二人だけの世界にとどまることを最後まで拒否する。これは、彼の心理傾向からして確実。そして、彼のその態度に絶望した涼宮ハルヒは、閉鎖空間を崩壊させた上で、廃人と化す可能性が高い。 植物状態というべきかもしれない。それこそ、王子様の口付けでなければ、目覚めないような」 「……」 朝比奈みくるは絶句した。 それこそ、考えられうる最悪の事態だ。 「このような事態に陥れば、世界改変がなされなくても、我々の規定事項のほとんどすべてが破壊されるといっても過言ではない。その補正は不可能に近い」 「危険な賭けですね。いっそのこと、あの閉鎖空間が発生することを未然に防いだ方がよろしいのではありませんか?」 「あなたは本当にそう思うか?」 朝比奈みくるは答えることができなかった。 実は、今自分が言ったことは、一度シミュレーションしてみたことがあるのだ。 その結果は、惨憺たるものだった。 あの時点で、「機関」と情報統合思念体に、涼宮ハルヒが有する世界改変能力の本当の恐ろしさを肌で実感させなければ、その後の規定事項は成立しえないのだ。 話を打ち切ったのは、長門有希だった。 「以上を踏まえて、計画を練り直してもらいたい」 「かしこまりました。御相談に応じていただきありがとうございました」 朝比奈みくるは、一礼して立ち去っていった。 ────白雪姫って、知ってます? ────これからあなたが何か困った状態に置かれたとき、その言葉を思い出して欲しいんです。 ────最後にもう一つだけ。わたしとはあまり仲良くしないで。 終わり
https://w.atwiki.jp/tradingfigure/pages/103.html
ソリッドワークスコレクションDX ソリッドワークスコレクションDX灼眼のシャナ ARIA ARIA winter version 涼宮ハルヒの憂鬱 魔界戦記ディスガイア がくえんゆーとぴあ まなび ストレート! リトルバスターズ! GUNSLINGERGIRL. BATTLE DRESS GIRLS 戦闘服娘 苺ましまろ ウェイトレス編 ただいま! リトルバスターズ!エクスタシー おふろコレクション vol.2 その他 灼眼のシャナ 2006年11月発売 735円 シャナA ヴィルヘルミナ シャナB シャナC 吉田一美 シャナD ARIA 2007年8月発売 735円 AKARI AIKA ALICE ALICIA AKIRA ATHENA ARIA winter version 2009年7月発売 735円 AIKA AKARI ALICE AKIRA ALICIA ATHENA AI 涼宮ハルヒの憂鬱 2007年9月発売 735円 朝比奈みくる 戦うウェイトレスver. 涼宮ハルヒ 超監督ver. 長門有希 悪い魔法使いver. 朝比奈みくる バニーレッドver. 涼宮ハルヒ バニーブラックver. 長門有希 バニーホワイトver. 朝比奈みくる シークレットver. 涼宮ハルヒ シークレットver. 長門有希 シークレットver. 魔界戦記ディスガイア 2008年1月発売 735円 魔法使い♀ 魔法剣士 エトナ アーチャー フロン 侍 がくえんゆーとぴあ まなび ストレート! 2008年2月発売 735円 天宮 学美 小島 桃葉 稲森 光香 上原 むつき 衛藤 芽生 リトルバスターズ! 2008年4月発売 735円 三枝 葉留佳 神北 小毬 棗 鈴 来ヶ谷 唯湖 能美 クドリャフカ 西園 美魚 GUNSLINGERGIRL. 2008年5月再販 735円 Claes スガワラ Rico スガワラ Angelica スガワラ Henrietta スガワラ Triela スガワラ Elsa スガワラ BATTLE DRESS GIRLS 戦闘服娘 2008年10月発売 840円 AOKI TUBASA OTONE IIKURA KOTOMI TAGAYA RURII AIZAKI MARIN SUGISAKI HAYANE IWAKURA 苺ましまろ ウェイトレス編 ただいま! 2009年5月発売 735円 リトルバスターズ!エクスタシー おふろコレクション vol.2 2009年7月発売 735円 その他 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/hotrowa/pages/74.html
◆mfN0eC9miI 投下作品 No. タイトル 登場人物 26 烈火の将 その決意 マリア、シグナム、竜宮レナ、高町なのは 28 誓い言 〜スコシだけもう一度〜 一方通行、フェイト・テスタロッサ 30 とある少女の性書目録 高須竜児、御坂美琴 31 真夜中の病院で何を思う ステイル=マグヌス 34 古泉一樹の憂鬱 涼宮ハルヒ、キョン、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹 36 飲んだくれの戦士 マージョリー・ドー 登場させたキャラ 1回 マリア、シグナム、竜宮レナ、高町なのは、一方通行、フェイト・テスタロッサ、高須竜児、御坂美琴、ステイル=マグヌス、涼宮ハルヒ、キョン、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹、マージョリー・ドー コメント
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5501.html
緊急脱出プログラム設置の真相 朝比奈みくると長門有希は、顔をつきあわせながら、ある計画の検討作業にあたっていた。 過去の長門有希のあの12月18日の暴走から端を発する一連の世界改変を正常化するために、朝比奈みくるが立案した時間工作計画であった。 「大枠はこれでよいと思う。ただし、一点だけ問題がある」 「何でしょうか?」 「あのときの私が実行しようとしていた世界改変内容と、実際に行なわれたそれとの間には差異がある」 情報通信デバイスを通じて、長門有希から朝比奈みくるに情報が送信された。 「これは……」 朝比奈みくるは、絶句した。 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、鶴屋、佐々木の存在そのものの消去。キョンの記憶改変。そして、規定事項に反して、緊急脱出プログラムは設置しない。 あのとき長門有希がやろうとしていた世界改変は、そういうものだった。 「あのときの私は、エラーに見舞われていたとはいえ、目的を遂行するための手段を判断する能力には支障はなかった。そして、目的は、彼の恋人、そして将来的には配偶者としての立場の確保。そのために支障となりうる要素を徹底的に排除しようとしていた」 「でも、実際にはそうはなりませんでしたよね?」 「何者かの介入で、世界改変の内容が修正されたと考えるのが妥当」 「長門さんに対抗できる存在は限られてます。喜緑さんのようなTFEIか、あるいは情報統合思念体か」 「そのどちらでもない。あのときの私は、その両者を真っ先に消去している」 「じゃあ、あれからちょっと未来の長門さんですか? お宮参りのあとで、いっしょに12月18日に遡行しましたよね?」 「それも違う。お宮参りのあとの私が、12月18日に遡行したときには、所定の修正は既に終わっていた。それは、あのときに、STCデータを全量走査して確認している」 「では、いったい誰ですか?」 「修正作業にかけられる時間は、0.153秒。自分自身をも改変するために最後のその時間だけ自動実行プログラムにしていたから。介入の機会はそこしかない」 「それだけで既に人間技ではないですね」 「そして、あのときの私が行おうとしていた改変内容と、それに対して修正すべき内容を完璧に把握し、かつ、あのときの私と同等以上に涼宮ハルヒの力を借用する能力をもつ者でなくてはならない」 「ならば、私が思い当たる存在はただ一人です。私の目の前にいる長門さん以外にはありえません」 「正解。今回は、私が直接介入を行なう」 「でも大丈夫ですか? 長門さんが動けば、それだけで目立ちますよ」 「あのときの三年前の7月7日からあなたと彼が時間移動してくる、それと同時に私も当該時間平面に遡行する。あなたがたの時間移動による時間平面破砕震動にまぎれて、私の時間移動は気づかれないはず。少なくても、あのときの私と、あそこで待機中の朝倉涼子には」 「でも、時間移動やTFEIとしての情報操作能力の行使は、どうしてもSTCデータ上にその痕跡が残ります。それが組織にばれるのはまずいのではありませんか?」 組織内で、長門有希の正体を知る者は朝比奈みくるしかいない。それは二人だけの秘密なのだ。 「その痕跡を観測しても、認識さえしなければ、それは観測しなかったことと同じ。組織の人間の認識能力にそのような制限をかけることは容易。私がこの組織内で情報操作能力を用いるときは、常にそうしている」 「なるほど。それなら問題ありませんね」 「そう」 「でも、いいんですか? あれはあのときの長門さんが心の底から望んでいたことなのに。それを阻止してしまうなんて」 「あれは、いわゆる若気の至りというもの。そのために生じた被害を最小限に食い止めるのが、大人の役目であろう」 「達観していらっしゃるのですね」 「二百年も生きていれば自然とそうなる」 「二百年ですか……。想像もつきませんね」 終わり
https://w.atwiki.jp/kuragemaru/pages/13.html
谷川 流 著の小説及びテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』を題材とした二次創作SSの置き場です。 視線 長門さんと涼宮さん 長門さんと涼宮さん 第1話 涼宮さんと手作りクッキー 長門さんと涼宮さん 第2話 涼宮さんとふわふわプリン 長門さんと涼宮さん 第3話 涼宮ハルヒの缶詰 超展開シリーズ 長門さんと涼宮さん +0.5 長門さんと涼宮さん サイドストーリー 涼宮ハルヒの執事 工事中です 長門さんとおべんとう 長門さんと涼宮さん 第4話 長門さんと涼宮さん 長門さんと涼宮さん 最終話 迷惑メール 小ネタ キスしてほしい 超展開シリーズ ヒーロー志願 「変身」 ヒーロー志願 第1話 ヒーロー志願 「登場」 ヒーロー志願 第2話 手のひらの革命 寝ぐせ クリスマスをあなたと 1人クリスマス企画 ヒーロー志願 「手紙」 ヒーロー志願 最終話 長門有希のカレーなる1日 日常シリーズ 長門有希のカレーなる1日 2回目 日常シリーズ .
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4730.html
第3章 2日目 今日から短縮授業。もう冬休みは近い。どうりで寒いはずだ。さらに追い討ちをかけるように眠い。昨日遅くまで小説づくりをしていたせいだ。寒さと眠さに打ち勝ち、やっとのことで布団から脱したころには、目覚ましをセットした時刻をだいぶ過ぎており、慌てて支度をして家を飛び出した。睡眠不足の体には寒さと果てしなく続く坂は堪える。 わたしは小走りで坂を登りながら昨日の不思議な出来事について考えようとした。わたしが思いを寄せる人が、急に部室にやってきた。ここまではわたしの書いている小説そのものだ。しかし、小説では泣き崩れるわたしを心配した彼が声をかけるのに対し、現実では何のきっかけもなくいきなり彼が部屋に飛び込んできて、わたしのことを『宇宙人』と言う。事実は小説より奇なりというがいくらなんでも、奇怪すぎるだろう。もしかしたら、昨日の出来事はわたしが部室で居眠りをしていたときに見た夢なのかもしれない。そう思えてくる。 わたしが寒さと眠さと戦いながら坂を登っていると、背後から元気な声が聞こえた。 「おはよう」 朝倉さんだった。彼女はわたしと同じマンションに住む同級生でわたしの唯一の友人だ。 「長門さん。今日も眠そうな顔して。どうせ、夜遅くまで小説書いてたんでしょう」 彼女は驚くほど、勘が鋭く、彼女には隠しごとはできそうもない。小説を書いていることも彼女だけは知っている。 「ところで」 朝倉さんは急に笑顔になる。 「昨日、彼に会ったでしょ」 これにはたまげた。なぜ、そんなことまで知っているのか。部室に盗聴器でもあるのではないか。 「うしろ」 彼女が指さした後方に彼がいた。 「いま、追い抜いてきたんだけど彼、入部届けを持っていたの。あれ文芸部のでしょ」 よくもまあ、そんなところまで観察できるものだと関心してしまう。 「彼、文芸部に入るつもりなの」 「わからない。彼が昨日いきなり訪ねてきた」 「彼の様子はおかしくなかった」 「……どうして」 「昨日、様子が変だったの。わたしを見るなり、『どうしてお前がここにいる。それはお前の机じゃない。ハルヒのだ』って言うのよ。ハルヒって子が誰だか知らないけど、とにかく様子がおかしかったわ。昨日まで特に変わった様子はなかったんだけど……何か変なこと言ったりしなかった?」 「特に変わったことはなかった」 別に彼を擁護しようと思ったわけではないが、何か特別な事情を抱えているだけで気が変になっているわけでもないように思えたのでそう答えることにした。 「とにかく、彼には注意した方がいいわ。文芸部に来たのも何か関係あるかもしれないし」 やはり彼が部室に来たのは、文芸部に入部しようと思ったから……ではなく別の理由があるのだろうか。もしそうなら、彼はもう来ないかもしれない。不安がよぎった。 授業が終わり、部室に向かう。いつもより歩速が速いのは気のせいではないだろう。 彼は来てくれるだろうか。わたしは部室で1人待ち続けた。 コンコン ノックの音が沈黙を破る。 「どうぞ」 扉がゆっくり開く。彼だった。 「また来てよかったか」 でも、彼がどんな顔をしていたかはわからない。恥ずかしくて、顔を上げることができず、視線は本に向けていたからだ。彼は部室に入り、鞄を部屋の隅に立てかけて、本棚を眺めていた。 沈黙。 わたしは何かしゃべらないといけないと思ったが何を言っていいかわからず、黙って本を読んでいた。本の内容なんて頭に入らなかったのだが。 沈黙を破ったのは彼だった。 「全部、お前の本か?」 「前から置いてあったのもある」 わたしは持っていた本の表紙を見せて、 「これは借りたもの。市立図書館から」 必死に会話をつないだ……つもりだったが、ここで会話が途切れてしまった。 再び気まずい沈黙が続く。 何か話しかけなければと思うが、こういうときどういう話をすればいいのだろうか。わたしがおろおろしているとまたしても彼が沈黙を破ってくれた。 「小説、自分で書いたりしないのか?」 唐突な質問に、もしや彼はわたしが小説を書いていることを知っているのではないかと思い冷や汗をかいたが、冷静に考えてみれば彼が知っているはずないか。 「読むだけ」 また沈黙。 ここで、書いているとでも言えば、会話が続いたのかもしれないが、それはそれで恥ずかしいし、まだ会話が途切れる方がましか。 彼はわたしとの会話をやめて、本棚に目を移していた。せっかく来てくれたのに……このまま、帰ってしまえばもう会えないかもしれない。自分の話術のなさに絶望している場合ではなく、必死に話題を探した。彼は読みたい本を探しているのか、本棚から本を取り出しては本をパラパラとめくり、再び本を戻すということを繰り返していた。彼はどんな本が好きなのだろうか。 彼はある本を手にし、念入りに見ていた。それは海外SF大長編で、わたしが本好きになったきっかけを作った本でもあった。 彼が本をめくっていると ヒラリ 1枚の栞が落ちた。彼はそれを拾い上げ、凝視している。 彼はわたしの元に来て、その栞を見せた。 「これを書いたのはお前か?」 そこには 『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・二日後』 と書かれている。しかもわたしの字で。 わたしは字に特徴がある。無機質な字とよく言われる。 そこに書かれている字はそんなわたしの字の特徴をしっかり捉えていた。 しかし、わたしがこんな文を書いた記憶はない。 「わたしの字に似ている。でも……知らない。書いた覚えがない」 「……そうか。そうだろうな。いや、いいんだ。知ってたらこっちが困ってたところだ。 ちょっと気になることがあってな。いーや、こっちの話で……」 こっちの話? やはり様子がおかしい。彼はこの部屋で何がを探している? そして、その手がかりがあの栞なのだろうか。 「今日は帰るよ」 突然の宣言だった。 「そう」 ダメだ。このまま帰ってしまえば2度と話すこともないかもしれない。わたしも本を鞄にしまい込み立ち上がり、一緒に帰ろう……その台詞が言えない。わたしはただ彼が帰ろうとする姿を見るだけだった。そんなわたしに気づき彼はわたしに声をかけてくれた。 「なあ、長門」 「なに?」 「お前、一人暮らしだっけ」 なぜ、知っているのだろうか。朝倉さんがわたしのことをいろいろしゃべっているのだろうか。 「……そう。来る?」 「どこに?」 「わたしの家」 今日一番会話が続いた。なんて、言っている場合じゃない。大胆なことを言ってしまった。 言ってしまったあと、しまったと思った。 「……いいのか?」 「いい」 そうして、彼と一緒に下校し、家に行くことになった。 彼と肩を並べ、坂を下った。緊張のあまり何も話すことができないままマンションに着いた。家に着き、彼をリビングに案内し、わたしはお茶を煎れる準備をした。わたしがお茶を持ってリビングに戻ると、彼は畳の部屋を指しこう言った。 「この部屋、見せてもらっていいか?」 特に断る理由もなかったのでわたしは承諾することにした。 「どうぞ」 「ちょっと失礼する」 この部屋はわたしの寝室だが、布団は押し入れにあるので今は畳しかない。彼は部屋に何もないことを確認するとすぐに襖を閉じ、わたしに両手を開いて見せた。彼の時折見せるおかしな行動。それが何なのかわたしにはわからない。考えたところで解りそうもないし、彼に聞けばまた宇宙人やらアンドロイドやらの話を聞かされるような気がして聞くのを躊躇した。 ただ、これだけは確認しておきたい。彼が図書館でのことを覚えているのか。もし彼があのことを覚えていないのならば、彼はわたしのことを何も知らず、単にわたしを宇宙人と勘違いして文芸部に来たことになる。わたしは絞り出すように言った。 「わたしはあなたに会ったことがある。学校外で。覚えてる? 図書館のこと。あなたがカードを作ってくれた」 「お前、」 彼は目を見開いた。彼の反応でわかった。彼は知っている。わたしは嬉しくなった。 「五月半ば頃。わたしが北口駅近くの市立図書館で……」 わたしは必死になって図書館での出来事を詳しく話した。 「それが、あなただった」 言い終えた後、わたしは後悔した。彼は何も言わなかったからだ。わたしも何も言えなくなった。 沈黙が続いた。 ピン、ポーン 沈黙を破る突然のインターホン。誰だろう。 わたしは立ち上がり呼び鈴に出た。 「長門さん。朝倉です」 わたしは動転する。 「おでん作ったんだけど作り過ぎちゃったから一緒に食べようと思って」 「いまは……」 「どうかしたの?」 「いや、その……」 「忙しいんだったら、長門さんの分だけ置いていくわ」 まずい。中には彼がいる。玄関から部屋の中の様子がわからないようにリビングに続く扉をしめれば……ダメだ。玄関には彼の靴が置いてある。靴を下駄箱に隠して……彼が物音を立ててればバレてしまう。とにかく扉を開けるわけには…… 「とにかく開けて」 そのまま追い返すわけにもいかないし、変に隠して誤解を生むともっとおおごとになるとも思い、無条件降伏をしてしまった。 リビングに入ってきた朝倉さんは彼を見て 「あら? なぜ、あなたがここにいるの? 不思議ね。長門さんが男の子を連れてくるなんて。まさか、ムリヤリ押しかけたんじゃないでしょうね」 「お前こそ、なんだってここにまで登場するんだ」 「わたしはボランティアみたいなものよ。あなたがいることのほうが意外だな」 朝倉さんは大きな鍋をコタツの上に置いた。 「作り過ぎちゃったかしら。ちょっと熱くて重かったわ」 なかなか扉を開けないわたしに対する嫌みにしか聞こえなかった。 わたしは箸の用意をするという名目で、キッチンに避難した。朝倉さんは彼と話していた。 わたしは朝倉さんは彼の会話をキッチンで聞きながら食事の準備をした。 「朝倉が作ったのか?」 「そうよ。大量に作ってもそう手間のかからない物は、こうして時々長門さんにも差し入れるの。放っておくと長門さんはロクな食事をしないから」 「それで? あなたがいる理由を教えてくれない? 気になるものね」 「あー、ええとだ。長門とは帰り道に一緒になって……。そう、俺はいま文芸部に入ろうかどうか悩んでいる。そいつをちょっと相談しながら歩いてたんだ。そうしているうちにこのマンションの近くまで来たからさ、話の続きもあるしで、上がらせてもらった。無理にじゃないぜ」 彼は嘘を紡いで、必死にごまかそうとしていた。 お皿の上にお箸とからしのチューブを載せてリビングに運ぼうとしたそのとき、リビングに入ろうとするわたしと、出ようとする彼がぶつかりそうになった。 「あ!」 「帰るよ。やっぱ邪魔だろうしな」 彼はそう言うとわたしに背中を向けた。 とっさに彼の腕をつかんだ。邪魔なんかじゃない。彼にいてほしかった。 わたしが何かを言う前に彼は 「――と思ったが、喰う。うん、腹が減って死にそうだ。今すぐ何か腹に入れないと、家まで保ちそうにないな」 彼はリビングに戻り、わたしと彼と朝倉さんで食卓を囲んだ。 ◇◇◇◇ 食事中は、なぜか彼の元気がなく、朝倉さんの声しか聞こえなかった。 食事が終わり、朝倉さんが腰を上げ 「長門さん、余った分は別の入れ物に移してから冷凍しておいて。鍋は明日取りに来るから、それまでにね」 彼も続くように 「それじゃあな」 といい部屋から出て行った。 そして、彼は戸口で、小さな声で囁いた。 「明日も部室に行っていいか? 放課後さ、ここんとこ他に行くところがないんだよ」 その言葉を聞いてわたしは安堵した。 そして2人が帰って、間もなく――ちょうど鍋に残ったおでんを器に詰め替えているとき――再び訪問者を知らせるベルがなった。朝倉さんだった。 「ちょっと、忘れ物をしちゃって。入っていい」 朝倉さんが忘れ物をすることはほとんどなく、それはめずらしいことだった。 「どうぞ」 「あった。あった。」 朝倉さんはリビングに置いてあったケータイをとり、ポケットにしまうと表情が険しくなった。 「ところで、長門さん。キョン君とはどういう関係なの」 どういう関係かと問われても、同じクラブに所属する知り合いでしかない。わたしは彼に好意を持っているがそれは、わたしが勝手に思っていることなので黙っておく。 「じゃあ、なんでキョン君を家に上げたの」 答えに窮した。朝倉さんはこたつをパンとたたき 「1人暮らしをしている女の子が、男の子を家に上げるってどういうことかわかるわよね」 「そんなつもりは」 「長門さん。あなたにそのつもりがなくても相手は誤解するわ。小学生じゃないんだから、家で遊んで、はいさようならとはならないのよ」 「彼には帰りにわたしから釘を刺しておいたけど、あなたも自分のことは自分で護りなさい」 朝倉さんが彼にどう釘を刺したか気になったが、さすがに聞けなかった。 朝倉さんが帰り1人になった。いつも1人なのだが、賑やかな部屋が急に静かになると寂しさが増す気がした。金魚にえさをやって気を紛らわそうと思ったが、えさの入った袋はほとんど空になっていた。 袋を逆さにして、ビニールにこびりついた欠片をふるい落として、金魚に与えたが、それだけでは足りないらしく、彼らは水面で口をパクパク開けていた。明日、えさを買いに行かないと。そういえば、このえさはどこで買ったんだろう。えさを待つ金魚を眺めるのもなんなので、部屋の隅から原稿用紙を引っ張り出し、文字を紡ぐことにした。 わたしは昨日書いた小説の続きを書き始めた。 ◆◆◆◆ 彼が入部して1週間ほど経ったころ。いつものように昼休みに彼と弁当を食べていたときのことである。 「機関誌を作ろう」 こんにゃくをつまみながら彼は突然何かを思いついたように言った。私も彼も部活に慣れてきた頃だった。もちろん廃部の危機が免れたわけでもない。彼が入っても部として定員割れに替わりはなく廃部の危機は変わりない。そんな危機的な状況下で彼が必死になって考えてくれた打開策が機関誌作りだった。 「定員割れだったとしても、活動実績があれば廃部は免れるかもしれないし、部の宣伝にもなり、新入部員が入ってくるかもしれない」 私は彼の提案を全面的に賛成した。 『本を読まない人が本を手に取るきっかけを作る』機関誌にしよう。という目標を掲げ、機関誌作りが始まった。といっても機関誌作りは彼も私も初めてで何をすればいいのかわからない。昔活動が活発だった時に文芸部が作った機関誌を引っ張り出した。そこには小説の書評や部員の書いた短編小説が掲載されていて、国語の教科書ぐらいの分厚さはあり内容量は多い。これを作った人はさぞかし苦労したに違いない。彼は過去の機関誌を眺め、眉間にしわを寄せている。 「ユキ、小説を書いたことはあるか」 「ない」 本当だ。 「俺も小説は書けないし、書いたところでそんな駄文を載せれば読んだ人が迷惑だ。かと言って書評だけっていうのも寂しいし」 何か妙案はないのだろうか。私も彼も頭を抱えた。 「そうだ。生徒に好きな本は何かアンケートをとってその結果を載せるっていうのはどうだ。 アンケートを集計して、好きな本ベスト30を載せる。そして、ランクインした本の書評を書く。これなら普段、本に興味ない人でも機関誌を手に取るきっかけになると思うんだ」 そうして機関誌作りが始まった。機関誌は北高生が選ぶ好きな本ベスト30と文芸部オススメ本の2部構成となった。私はパソコンに向かいオススメ本の書評を書き、彼はアンケート作りを始めた。機関誌作りが始まって、以前より格段に忙しくなり、本業であるはずの本を読む時間はめっきり減ってしまった。でも、決してつらくはなかった。 それから数日経ったある日。私は一人部室で書評を書いていた。 彼はアンケート用紙を配りに行っている。 バン ドアが勢いよく開く。 私は彼が帰ってきたのだと疑いもしなかったのだが、そこには女の子が立っていた。 彼女は部屋を見渡し 「あなたしかいないの? あなたが部長? 」 「そうだけど」 「私、ナツ。1年よ。ここに仮入部するから」 いきなりそう言うので、なぜ? と思ってしまったけど、今でも部員は足りない。大歓迎だ。 「そう。私はユキ。あなたと同級生。よろしく」 「ところで、文芸部って何するところなの」 「え?」 思わず声に出してしまうほどの問題発言を彼女は言った。ここは笑うところなのか? 私が困り果てていると彼が戻っていた。 「あら、あなたも部員? 意外ね。今日から仮入部することにしたから。よろしく」 会話から彼と彼女が顔見知りだとわかった。 「なんで文芸部に仮入部しようと思ったんだ」 「あんたが、アンケートを配っているのを見たから。文芸部は実質休部状態って聞いていたからノーマークだったのよ」 「言っておくが、ここはまじめなクラブだ。本に興味がないならいても楽しくない。冷やかしなら帰ってくれ。」 彼の強い口調に少し驚く。 「冷やかしじゃないわよ。それに楽しいか楽しくないかどうかは自分で判断するわ」 「そうかい」 そう言うと、彼は彼女を相手にせず、集めてきたアンケートを机に置き集計を取り始めた。 彼女は何もすることがなく呆然と立っている。私は、パソコンから一旦離れ、彼女に本を渡した。 「私が好きな本。読んでみて? 」 「ありがとう」 彼女は本を開けたが5分と経たないうちに閉じた。 「私あんまり本読むの好きじゃないの。ここにいても何もなさそうだから帰るわ」 それは退部宣言のように聞こえた。せっかく興味をもってくれたのに。 「ナツ……さん。」 私は彼女を呼び止める。 「また本を読みたくなったら来て。本は本当にたくさんある。あなたが気に入る本も絶対あるはず。待ってるから」 彼女は何も言わず部屋を出て行き、部室に私と彼の2人が取り残された。 「ユキ。あいつのことは知っていたか」 「ナツさんのこと? 今日来るまでは知らなかった」 「俺は同じクラスだからよく知っているんだが、あいつはこの高校に入学して間もない時期にすべてのクラブに仮入部して、その日に辞めたそうだ。 それ以外にもいろいろ奇行をしてこの学校じゃちょっとした有名人だ。 今日来たのも冷やかしだ。期待しない方がいい」 「そう」 私はせっかく来てくれた新入生がただの冷やかしだと分かり落胆した。 しかし、ナツはそんな落胆をみごとに裏切ってくれた。 「おっはよう」 部室にナツの明朗な声がこだました。 「おはよう」 私は微笑む。私はその時、書評を書き、彼はアンケートの集計をしていた。ナツには彼と一緒に集計の手伝いをしてもらった。入部早々アンケート集計の手伝いをさせるのもなんだが、本に興味がない彼女に本を読めというのはもっと酷か。って本が好きじゃないのに何で文芸部に入ろうとするのがおかしいのだが。 この日からナツは毎日、部室に来るようになった。すべてのクラブに仮入部して、どこのクラブにも属さなかった彼女が、文芸部を選んだ理由は何なんだろうか? この時の私にはまだ、その理由はわからなかった。 それから数日後の放課後、部室に行くと2人の声が聞こえてくる。 「あほ! もっと右に寄せるのよ」 「おまえの言ってる通りにしてるだろ」 「とにかく私に従いなさい」 はじめはナツの破天荒な発言にも驚かされたが、いまでは彼女の元気な声が心地よい。彼とナツは表紙作りをしていた。書評はすべて私が書くことになり、彼はアンケートと印刷、製本を担当することになった。ナツは彼の補佐をしている。私も早く書評を書かないと。 文芸部にナツが来てから、部室も少しずつ変わっていた。殺風景だった部室に物が増えていった。冷蔵庫に、食器棚に、コンロまで。文芸部は火気厳禁なのだが…… 昼休みの光景も一変した。彼はナツと学食へ行くようになり、私は1人で弁当を食べることが多くなった。 ナツが来てから2週間ほど経っただろうか。 書評を書くことが日課になり、部室に来て本ではなくパソコンの電源を押すことに何の違和感も持たなくなった頃、その仕事は終わってしまった。書評を書くことはなかなか骨の折れる作業で、この重荷から逃れることを願っていた。しかし、習慣というものは恐ろしいもので、いざ終わってみると手持ちぶさたになってしまった。 ナツと彼は印刷室にこもっているため部室には私1人しかいない。書評を書くというわたしの役目は終わり。あとは彼とナツに任せよう。私の本職が本を読むことであることを思い出し、話の佳境で読むのを中断していた本を開け、久しぶりの読書を堪能しようと思った。久しぶりの読書。楽しいはずだ。 しかし、私しかいない部室は孤独を感じさせた。私は寂しかった。 ◆◆◆◆ 小説を書くのは難しい。何度も壁にぶつかり頭を悩ます。自分の発想力、表現力のなさに幾度愕然としたことか。しかし、実を言うとここまでは割と簡単に書けたのだ。でも、ここから先、とりわけ結末がうまく書けなかった。わたしの頭の中では構成はすべてできていた。でも、なぜかペンが重たかった。 第4章につづく