約 24,300 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1174.html
まぁ何も期待してなかったといえば嘘八百どころか嘘八億になるというもので そりゃあもう期待しまくりで文芸部室もといSOS団の部室のドアノブの捻ったんだが。 俺がなにをそんなに期待してたのかというと 普段俺はドアをノックしてから部室に入る。 なぜならばあの朝比奈さんが衣の着脱の真っ最中である可能性があるからだ。 確認してから出ないとそりゃあ紳士として失格ってものだ。 だが今日の俺は違った。たまにはノーノックで入ってもいいだろう、不可抗力ってヤツさ。 もしかしたら朝比奈さんの裸体が拝めるかもしれないしな。 一度くらい、そんなヘマしたっていいはずさ。 「すいません!ノック忘れてました!」とでも言やぁいいのさ、一度くらいそんな破廉恥なことをしてもバチはあたらんだろう。 まぁ朝比奈さんが着替えのさなかである可能性はかなり低いが、たまにはそんな夢も持たせてくれよな。 とまぁこんな思考をめぐらした上で俺はノック無しでドアをあけたわけだ だがまさかドアノブだけでなく自分の頭も捻らなくてはならなくなるとは予想外だったぜ。 朝比奈さんの土俵というか、彼女をそんな「土俵」などという汗臭い名詞と組み合わせたくなんかはないが 普段の朝比奈さんが着ているべきもの、メイド服を違う人物が着用しているのだ。 どうやらこの部屋には俺とソイツしかいないようだ。 キチガイハルヒもホモ古泉も妖精朝比奈さんもいない。 となるとあとは一人だけだ。 無口で本好き、谷口曰くAマイナーランクの美少女長門が朝比奈さんのメイド服を着用して立っていた。 古泉とのオセロではあまり俺の思考は働かさずとも勝てるのだが、今俺はかなり頭を回転させている。 だが答えなんか出るはずも無い。なぜ長門が華やかなメイド服を着飾っているのかなど。俺が答えを見出せるわけが。 「なにをしてるんだ長門」 ドアをあけてからこの言葉が出るまで5秒ほどか。俺にしてははやく混乱から抜け出せたんじゃないか? 「興味をそそられた」 「メイド服・・・にか?」 意外な返答。てっきり俺はハルヒに無理矢理着せられたのかと思っていたが、どうやら長門は自分からメイド服を着てみたくなったようだ。 こりゃ今日は雪が降るか?有希なだけにな。 「この本」 そういって長門は俺に一冊の本を手渡した。長門にしてはめずらしく、旅行先などでしか読んでいるところを見たことがないハードカバーでない文庫本だ。 俺はその小さな文庫本をパラパラとめくって挿絵を見てみた、そこにはメイド服を着た小女が描かれていた。 絵を見る限りだが、どうやらそのメイド服の少女は明朗で快活な人物らしい。なんとなく鶴屋さんを思い出す。長門とは対照的なキャラクターだ。 「このキャラにあこがれたのか」 俺がそう言うと長門はいつもの無表情で、だがどことなく訂正を求めるような趣で 「同様の衣装を纏う事で少しでも同期ができないかと考えた」 そう言い放ち、メイド服を脱ぎだした。そうだな長門、その服はお前には胸の部分が余りすぎてる。 メイド服のしたに何も着てないんじゃないかと思ったがちゃんと制服の上に着用していた。部屋を出る手間が省けたぜ。 メイド服をハンガーにかけ、長門は何事もなかったかのようにパイプイスに腰掛け、本棚から選んだ分厚い本を読み出した。 「同期ってのはできたか?」 「できない」 できるはずがないさ。いくら宇宙人でも、情報ナンタラっていうすごいやつでも実在しない、空想のキャラクターと同期なんかでいるはずがない。そんなこと、お前でもわかりきってるだろ? 「この本、借りていいか?」 俺は先ほど長門に渡された本を指して言った。 「いい」 「そうか、ありがとう」 俺が長門にそう言うやいなやドアが開き、妖精のような笑顔が顔を出した。朝比奈さんだ。 「ごめんなさい遅れちゃって。進路相談があって・・・」 朝比奈さんはハルヒがいないことに気づき 「あれ?涼宮さんはまだなんですか?あ、まっててくださいね、今お茶を淹れます。」 朝比奈さんはメイド服を手にとり俺の方を見て微笑んだ。 着替えるから外にでてろというこですか。部屋を出る前に長門の方を見てみた。チラリとだが。 長門いつものように静かに本のページをめくっていた。 単純に着てみたかったんじゃないのか。長門。 いつかお前にお茶を淹れてもらうことにするよ。そうだな、アールグレイがいいか。 グレイなだけにな。うん、つまらん。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1229.html
いつものように部室のドアを開けた俺は、いつもとは違った奇妙な光景を目にした。 「なにしてんだ?」 その問いに、ダンボール箱の上に正座をしていた長門が答えた。 「侵入者を捕獲した」 「侵入者だと?」 いや、それよりもなぜそんな原始的な方法で捕獲しているんだ? 「……」 長門は空虚を見つめており、その表情はかすかにこわばっている。 長門には似合わない表情だ。勘違いか? 俺は真っ先に浮かんだ質問を部室の入り口から投げかけた。 「侵入者ってのは異世界人か?」 長門は水汲み鳥のように視線を行き来させた後こちらを見た。 「ない」 どうやら俺と同じ一般的な人間らしい。突然爆発したりはしないだろう。 俺はドアを閉め、パイプ椅子を広げると長門の前に座った。 「侵入者は悪事を働いたのか? もしかして文芸部の入部希望者だったりしないだろうな?」 「一般的な人間ではない」 おいおい、いきなりなにを言い出すんだ。問題はそいつが爆発するかどうかってことだ。 爆発はしないのか? 性格が一般的ではないということか? よく知っている人物のように。 「爆発はしない。凶悪。ただし、凶悪というと語弊があるかもしれない」 「というと?」 「……」 「……」 長門は、黙ったままだ。 うまく言語化できないというやつか。 「……」 「ヘンタイ」 長門が答えた。 変態だと? まさか長門、 変態にあんなことやこんなことをされてしまったのでは……などと、 いらぬ想像をしていると、 「大丈夫」 長門が答えた。いつもの表情だ。 そうだ。侵入者は長門によって、すでに捕獲されている。 俺は、忍び寄る変態を一瞬でダンボール箱に押し込める長門の姿を想像して、 変態に少しだけ同情した。 「職員室へ連れて行くか? いや、警察か?」 「処分する」 「ちょっ、さすがにそれは」 いったいどんだけの変態だったのだ。 俺は汚いモノを見せられた長門の表情を想像しながら、ある疑問に気づいた。 「やけにおとなしいが」 「……」 長門は、人差し指でダンボール箱をつっついた。 「今は大人しくなった」 「なにかしたのか? 眠りの魔法をかけたとか」 「ない」 長門はダンボール箱をじっと見つめている。 その箱は、正座して体を折り曲げると大人ひとり入れそうな大きさで、 前後には取っ手になる穴が開いている。 俺は、目潰しをされないか不安を感じながらも、その穴を覗いてみた。 なにもいなかった。 「おい長門、なにもないようだが」 そう言って正座をしている長門の膝へ視線を向けた瞬間、 首筋に電撃が走ったかように頭が仰け反った。 「うぉ、目が! 目が!」 うかつだった。穴から視線をはずした瞬間に目潰しを食らってしまったのだ。 俺は痛みで目を開くことできなくなってしまった。 もちろん長門の三角地帯も見えなかった。 「長門、大丈夫か!」 返事はなかった。 その代わりにトタトタと遠ざかる足音が聞こえた。 この部屋には俺と長門しかおらず、長門は段ボール箱の上に座っていた。 この足音は侵入者のものか? それとも長門がダンボール箱から降りたのか? いや、考えたくはないが、どちらにしろ侵入者が出てきてしまったとことになる。 そのとき、ドアが開く音が聞こえた。 「こんにちはぁ」 朝比奈さんの声だ。 「きたらだめだ! ここは危険です朝比奈さん!」 俺は叫んだ。 「えっ、なんですかキョン君、あ、ふぇ、こっ、来ないでー!」 「朝比奈さーん!」 「くっ」 俺は目をつぶったまま立ち上がったが、これではどうすることもできない。 「一体、何事ですか」 古泉だ。今だけは頼りになる。 「古泉、朝比奈さんをお守りしろ!」 「え? うわっ、なんですかこれ、わわっ」 「どうした古泉!」 「これは僕には無理ですよ。わわっ」 なにが無理なんだ、役たたずめ。 そのとき、また別の声が聞こえた。 「あんたたち! 団長をのけ者にして、なに騒いでるの!」 ハルヒだ。ちくしょう、どうすればいいんだ。 「こ、来ないでぇ! ふぇっ」 「わわっ、飛びました、飛びましたよ今」 飛んだだと? 一体どんなやつだというんだ。 次の瞬間、軽快な音が響いた。 「だらしないわね、あんたたち。ゴキブリくらいで」 な、ゴキブリだと? 「ふぇっ、ふぇっ、」 「いやー、さすが涼宮さんです」 「キョン、あんた相当ビビリなのね。目までつぶって」 俺はどう答えていいか分らなかったが、なんとか目が開くことができた。 そして、そのとき最初に目にしたのは、カーテンにくるまっている長門であった。 ―― END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4507.html
「ぅ上野発の 夜行列車 ぉおりたときから~」 眉間には刻み込まれたような皺、すがり付くように握り締めるマイク、 俺と二人きりのカラオケボックスで、長門は本日数曲目のリクエストを熱唱している。 事の始まりはある日の不思議探索午前の部、長門と二人組になった俺が 『今日も図書館でも行くか?』 と聞いたところ、 「むしろカラオケ」 と答えられたのがきっかけだ。 「時間の経過とともに他との調和を保ちつつ変化する情報群、それはまさに宇宙の理想的な抽象形態の一つであり、 情報統合体の活動に対し高い親和性を持つ」 「それは私たちインターフェースに対しても同様。ノイズやゆらぎを膨大に含む有機体との接触によって蓄積された エラーはそれらの活動をより単純、純粋に抽象化した情報群、一般に呼ばれる所の音楽に触れることによって解体、 再構成を効率的に行うことができる。」 「したがって、私たちインターフェースは定期的に音楽に触れることにより、システムのメンテナンスを行うことが、 活動を効率的に行なう上で推奨されている」 と言ったわけで、それから後俺は不思議探索で2人組になったり、あるいは長門と二人だけで会わなくては いけない機会などはカラオケボックスを用いる事にしている。ここなら人目にもつきにくいし、何より長門が喜ぶ。 長門の歌は、まあやはり人間でないだけあってか相当うまい。知らずに聞いたらCDか何かかと思うほどのクォリティだ。 しかしそれよりも俺にとって貴重なのは、この感情をあらわにした表情の長門を間近で見れるという事だ。 たまったバグの解消をしていると言っているが、つまり人間にとってのストレスの発散なのだろう。日頃あれ だけクールを貫き通しているせいか、マイクを握った長門は溜め込んだ感情をすべて吐き出すかのように声を絞り出している。 ところで、俺自身はカラオケに対してあまり積極的ではない。それは圧倒的に上手い長門が歌った後で自分の歌を 披露する気がひける、と言った事情もあるが、そもそも俺はあのカラオケの、人が歌っている間にカタログを開いて 自分の歌を選ぶ、という行為が受け入れられない。とは言っても、誰かが歌い終わってから選ぶのでは時間ばかり食うし、 それに多人数で行った場合には入力が混み合う。そう言った煩雑な経験を何度か繰り返した後、俺はカラオケに対し消極的に なってしまった。たまに付き合いで足を運ぶことが会っても、その時は今回と同じように人の歌に耳を傾ける事をもっぱらにしている。 「冬景ぇ色ぃ~」 長門が歌い終わった。歌い終わるやいなや、すぐにいつものクールフェイスに戻る。 汗に濡れた前髪をかきあげ、注文したコーラをプラスチックのコップから啜る。宇宙人とはいえ、熱唱すると喉は渇くらしい。 『長門、演歌以外は歌わないのか。お前演歌専門だな』 そのとおり、長門は演歌専門だ。初めてカラオケボックスに行ってからと言うもの、こいつが宴会以外をリクエストするのを 見たことがない。 リクエスト曲を消化し終わったのかカタログを繰る長門に聞いてみると、カタログから目も離さず答えた。 「インターフェースごとに親和性の高い音楽は異なる。喜緑江美里はクラシック、朝倉涼子はユーロポップを嗜好していた。 これはどちらのジャンルが優れている、という問題ではなく、各インターフェースの個性。」 「ただし、私自身が持つ彼女たちへの解釈を齟齬を恐れずに言語化すれば、あれは俗物根性丸出しのスノッブ趣味。私は、 この文化圏でのエートスを最も効率的に表現できるジャンルとして、いわゆる演歌を嗜好する。」 ……それなりの事情があるんだな、と俺は自分が注文したウーロン茶に手を伸ばすと、突然逆向きに持たれたマイクが 俺の鼻先に突きつけられる。 「二人でこうした施設に来るようになって以来、あなたは一度も歌っていない。会計はいつも割っているのだし不公平。 あなたも歌うべき。」 白い腕でマイクを差し出しながら、長門は真っ黒な瞳で俺を見つめる。 『いや、俺は別にいいんだよ。歌うこと自体そんな好きじゃないしさ、それにお前があんなに上手く歌った後だと気がひけてな』 『あと、俺の好きな歌って洋楽が多いからさ、聴くのは好きでも自分じゃ歌えないって言うか、あと、 お前の歌ってるのを聞いてるだけでも十分楽しいから』 「嘘」 長門は、黒曜石のような瞳で見つめ続けながら言い切った。 「それは嘘。あなたは嘘をついている。」 『いや、嘘じゃない、俺は本心から…』 「嘘。あなたには、人生のテーマソングとも言うべき程に愛した歌がある。」 「ドラゴンボールZの主題歌、『CHA-LA HEAD-CHA-LA』あなたは今までの人生で、1、2番のフルコーラスで86回、 1番のみで3,627回、出だしのイントロなら5,879回、サビの部分を口ずさむだけなら12,589回この歌を歌っている。」 「入浴中、自転車運転中、古泉一樹とのゲーム中優勢な時、美術の時間中作業に没頭している際、あなたはこの歌を好んで口にする」 「ヒューマノイドインターフェースは歌によってバグを除去すると説明したが、それは人間の精神もほぼ同様。好きな歌を歌うことに よってフラストレーションを解消できる効果は大きい。」 「あなたは、涼宮ハルヒとの活動の中で抑圧している感情が少なからずある。ここで歌って発散すべき。」 カラオケマシンのモニターが変わった『CHA-LA HEAD-CHA-LA 作詞:森雪之丞 作曲:清岡千穂』こいつ、入力済みか… チャカチャカチャチャカチャカチャッチャ テッテレ、ッテッテッテテレテーケテーX2 デーテテー♪ 『ひ、光る雲をつきぬけ fl…』 伴奏が止まった。長門が中断ボタンを押したのだ。 「全然駄目。0点。自分を作ってる。もっと素直な気持ちで歌うべき。歌に失礼。」 「最初から」 『光る雲をつきぬけ fly away-』 「駄目。日本の歌なんだからカタカナ発音でいい。英語赤点の癖にこんなときばかり気取る必要はない。』 『ひ、光る雲をつきぬけ フライアウェー!』 「まだ駄目。15点。何を気取ってるの?私はあなたの肛門の皺の数から昨晩の自慰の数まで把握している。 あなたの母親よりも、あなたについてはよく知っている。そんな相手に対し自分を飾るのは全くの無意味。」 『…ひぃかる、雲をつきぬぅけ フライアウェー!』 「声が涙声。歌は笑顔で歌うべき。やり直し」 ------------------- 「そろそろ時間なので今日はこの辺で。あと、次の時までに腹筋毎日100回やって来い」 『……』 俺のちっぽけなプライドがこれまでかとばかりに踏みにじられた小1時間後、俺は涙でびっしょりな顔と力の入らない膝で、 背筋を伸ばして後ろも振り返らずに歩いてゆく長門の後をとぼとぼとついていった。 次の探索は来週土曜、長門は情報操作で俺との組を作るだろう。 二人でのカラオケ、別の名をナガトマン軍曹の人格改造キャンプは、始まったばかりだ。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4206.html
「ぅ上野発の 夜行列車 ぉおりたときから~」 眉間には刻み込まれたような皺、すがり付くように握り締めるマイク、 俺と二人きりのカラオケボックスで、長門は本日数曲目のリクエストを熱唱している。 事の始まりはある日の不思議探索午前の部、長門と二人組になった俺が 『今日も図書館でも行くか?』 と聞いたところ、 「むしろカラオケ」 と答えられたのがきっかけだ。 「時間の経過とともに他との調和を保ちつつ変化する情報群、それはまさに宇宙の理想的な抽象形態の一つであり、 情報統合体の活動に対し高い親和性を持つ」 「それは私たちインターフェースに対しても同様。ノイズやゆらぎを膨大に含む有機体との接触によって蓄積された エラーはそれらの活動をより単純、純粋に抽象化した情報群、一般に呼ばれる所の音楽に触れることによって解体、 再構成を効率的に行うことができる。」 「したがって、私たちインターフェースは定期的に音楽に触れることにより、システムのメンテナンスを行うことが、 活動を効率的に行なう上で推奨されている」 と言ったわけで、それから後俺は不思議探索で2人組になったり、あるいは長門と二人だけで会わなくては いけない機会などはカラオケボックスを用いる事にしている。ここなら人目にもつきにくいし、何より長門が喜ぶ。 長門の歌は、まあやはり人間でないだけあってか相当うまい。知らずに聞いたらCDか何かかと思うほどのクォリティだ。 しかしそれよりも俺にとって貴重なのは、この感情をあらわにした表情の長門を間近で見れるという事だ。 たまったバグの解消をしていると言っているが、つまり人間にとってのストレスの発散なのだろう。日頃あれ だけクールを貫き通しているせいか、マイクを握った長門は溜め込んだ感情をすべて吐き出すかのように声を絞り出している。 ところで、俺自身はカラオケに対してあまり積極的ではない。それは圧倒的に上手い長門が歌った後で自分の歌を 披露する気がひける、と言った事情もあるが、そもそも俺はあのカラオケの、人が歌っている間にカタログを開いて 自分の歌を選ぶ、という行為が受け入れられない。とは言っても、誰かが歌い終わってから選ぶのでは時間ばかり食うし、 それに多人数で行った場合には入力が混み合う。そう言った煩雑な経験を何度か繰り返した後、俺はカラオケに対し消極的に なってしまった。たまに付き合いで足を運ぶことが会っても、その時は今回と同じように人の歌に耳を傾ける事をもっぱらにしている。 「冬景ぇ色ぃ~」 長門が歌い終わった。歌い終わるやいなや、すぐにいつものクールフェイスに戻る。 汗に濡れた前髪をかきあげ、注文したコーラをプラスチックのコップから啜る。宇宙人とはいえ、熱唱すると喉は渇くらしい。 『長門、演歌以外は歌わないのか。お前演歌専門だな』 そのとおり、長門は演歌専門だ。初めてカラオケボックスに行ってからと言うもの、こいつが宴会以外をリクエストするのを 見たことがない。 リクエスト曲を消化し終わったのかカタログを繰る長門に聞いてみると、カタログから目も離さず答えた。 「インターフェースごとに親和性の高い音楽は異なる。喜緑江美里はクラシック、朝倉涼子はユーロポップを嗜好していた。 これはどちらのジャンルが優れている、という問題ではなく、各インターフェースの個性。」 「ただし、私自身が持つ彼女たちへの解釈を齟齬を恐れずに言語化すれば、あれは俗物根性丸出しのスノッブ趣味。私は、 この文化圏でのエートスを最も効率的に表現できるジャンルとして、いわゆる演歌を嗜好する。」 ……それなりの事情があるんだな、と俺は自分が注文したウーロン茶に手を伸ばすと、突然逆向きに持たれたマイクが 俺の鼻先に突きつけられる。 「二人でこうした施設に来るようになって以来、あなたは一度も歌っていない。会計はいつも割っているのだし不公平。 あなたも歌うべき。」 白い腕でマイクを差し出しながら、長門は真っ黒な瞳で俺を見つめる。 『いや、俺は別にいいんだよ。歌うこと自体そんな好きじゃないしさ、それにお前があんなに上手く歌った後だと気がひけてな』 『あと、俺の好きな歌って洋楽が多いからさ、聴くのは好きでも自分じゃ歌えないって言うか、あと、 お前の歌ってるのを聞いてるだけでも十分楽しいから』 「嘘」 長門は、黒曜石のような瞳で見つめ続けながら言い切った。 「それは嘘。あなたは嘘をついている。」 『いや、嘘じゃない、俺は本心から…』 「嘘。あなたには、人生のテーマソングとも言うべき程に愛した歌がある。」 「ドラゴンボールZの主題歌、『CHA-LA HEAD-CHA-LA』あなたは今までの人生で、1、2番のフルコーラスで86回、 1番のみで3,627回、出だしのイントロなら5,879回、サビの部分を口ずさむだけなら12,589回この歌を歌っている。」 「入浴中、自転車運転中、古泉一樹とのゲーム中優勢な時、美術の時間中作業に没頭している際、あなたはこの歌を好んで口にする」 「ヒューマノイドインターフェースは歌によってバグを除去すると説明したが、それは人間の精神もほぼ同様。好きな歌を歌うことに よってフラストレーションを解消できる効果は大きい。」 「あなたは、涼宮ハルヒとの活動の中で抑圧している感情が少なからずある。ここで歌って発散すべき。」 カラオケマシンのモニターが変わった『CHA-LA HEAD-CHA-LA 作詞:森雪之丞 作曲:清岡千穂』こいつ、入力済みか… チャカチャカチャチャカチャカチャッチャ テッテレ、ッテッテッテテレテーケテーX2 デーテテー♪ 『ひ、光る雲をつきぬけ fl…』 伴奏が止まった。長門が中断ボタンを押したのだ。 「全然駄目。0点。自分を作ってる。もっと素直な気持ちで歌うべき。歌に失礼。」 「最初から」 『光る雲をつきぬけ fly away-』 「駄目。日本の歌なんだからカタカナ発音でいい。英語赤点の癖にこんなときばかり気取る必要はない。』 『ひ、光る雲をつきぬけ フライアウェー!』 「まだ駄目。15点。何を気取ってるの?私はあなたの肛門の皺の数から昨晩の自慰の数まで把握している。 あなたの母親よりも、あなたについてはよく知っている。そんな相手に対し自分を飾るのは全くの無意味。」 『…ひぃかる、雲をつきぬぅけ フライアウェー!』 「声が涙声。歌は笑顔で歌うべき。やり直し」 ------------------- 「そろそろ時間なので今日はこの辺で。あと、次の時までに腹筋毎日100回やって来い」 『……』 俺のちっぽけなプライドがこれまでかとばかりに踏みにじられた小1時間後、俺は涙でびっしょりな顔と力の入らない膝で、 背筋を伸ばして後ろも振り返らずに歩いてゆく長門の後をとぼとぼとついていった。 次の探索は来週土曜、長門は情報操作で俺との組を作るだろう。 二人でのカラオケ、別の名をナガトマン軍曹の人格改造キャンプは、始まったばかりだ。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1119.html
長門「・・・・・・」 女子A「へぇ~アンタでも微笑むことってあるんだ。何眺めてんの?ちょっと貸しなさいよ!」 長門「!!」 女子B「何ソレェ?入部届ェ??」 長門「やめて・・・・!」 女子A「もう書き込んであるじゃない。物好きな奴もいるもンねぇ~」 女子B「こんな根暗しかいない部活に入りたいヤツがいるなんてネェ」 長門「お願い・・・・返して・・・・!」 女子A「キモッ!あんた何必死になってんのぉ?」 女子B「いいじゃない、どうせこれ冷やかしでしょ?ちょうどいいわ。これ私達が捨てといてあげるわwww」 長門「!!・・・・やめて!お願いだから返して!!」 女子A「アァッ?触るんじゃねえよ!この根暗女!」ドゴッ 長門「っつ!!・・・うぅっ・・・!」 女子A「あ~キモイキモイ。根暗がうつるってーの。あ~っなんか冷めたっ!根暗がうつる前に行こっ!」 勇気を出して彼に渡した入部届。 あの入部届は「どうせ暇だし入ってもいい」と彼が書いてきてくれたものだった。 当然だが入部届は本人の直筆でないと学校側に提出できない。 長門「(・・・・・もう一度書いてくれるだろうか)」 そう思い長門は放課後、文芸部で一人彼を待っていた ガラガラッ 長門「・・・あ・・・・・」 キョン「よぉ、長門」 長門「・・・・・・(今日もきてくれた)」 まず謝ろうと思った。 せっかく書いてくれた入部届をむざむざと奪われたのだから。 でも彼には無くしたと言っておこう。彼にだけはイジメを受けてることは知られたくなかった。 長門「・・・・あの・・・・・」 キョン「長門」 何故だろうか・・・・嫌な予感がした。 キョン「笑えないな。」 そう言うと彼が紙くずを机に広げた。いや紙くずではない ・・・・それは破り捨てられた入部届だった。 キョン「驚いたよ。体育から帰ってきたら。こいつが机の上にぶちまけてあるんだもんな。」 キョン「クラス中の奴等に馬鹿にされたよ。お前の方はおもしろかったんだろうな。」 キョン「これで満足か?自分から渡しといて・・・破り捨てるとはね。。」 ――違う。私ではない。 キョン「俺から届を受け取ったのはお前だろ。他に誰がいるってんだ。」 ――それは・・・・ 言えなかった。 ゴミを投げられてもいい。靴を燃やされたっていい。一方的に殴られたってかまわない。 けれど彼にそのことを知られるのは嫌だった。 キョン「お前は冗談なんだろうがな・・・・・」 ――違う キョン「俺は結構マジだったんだけどな。文芸部。」 ――違うの キョン「・・・誘われたとき・・・・少しでもうかれた自分が忌々しいよ」 ――お願い・・・行かないで・・・・ キョン「じゃあな。もう2度ここにはこねぇよ。」 バタンッ! ・・・何も変わらない。 ただ今までと同じなだけだ。 私はそう自分に言い聞かせ続けた。 何も変わらない。変わっていない。 悲しむことなんて何も無い。 ただ今と同じ日常が続くだけ。 ・・・・・彼が去ったドアの前で私は泣き崩れていた 古泉「全くゥ!僕のキョンたんに色目を使うからこうなるんだヨっ!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/411.html
放課後の部室にて。 「…これ」 そう言って長門が渡してきたのはなにやらPCゲームだ。 なになに……『妹ぉ、ちゃんとしようよ』って…… なぁ長門。一つ聞いてもいいか? 「なに」 これなんてエロ○? 「妹ぉ、ちゃんとしy」 それは分かってる。俺が聞きたいのはなぜエロゲなのかっていうことだ。 少し悩むように眉を寄せ、長門は俺にこう答えた。 「……私がコンピ研に参加している間にコツコツと作成した」 おい、答えになってないぞ。 「やってみて」 すると長門は俺の前にいつぞやのゲーム勝負で獲得したPCを一台持ってきて、 起動させ、例のエ○ゲのディスクを挿入した。 タイトル画面が出た。 ……って長門?!なぜお前がタイトル画面に?! 「これはあなたが主人公の○ロゲ。私はあなたの妹として登場している。」 おいおい。俺には妹属性無いぞ。 「あなたは自覚していないだけ。あなたの潜在能力には含まれている」 な、なんだってー!(AA略) 「このままではあなたの妹も、あなた自身も危険極まりない。だから」 だから? 「このゲームでヌいて欲しい。」 唐突すぎてよく分からないんだが。 「……スタート」 物語が始まった。 どうやらこのゲームは本当に俺が主人公で、長門が俺の妹という設定らしい。 しかもこのゲームは凝っていて、実写だ。 ―――― ……晩飯を食べて、部屋へ向かう俺。 自分の部屋でくつろいでいると長門が来た。フラグか? 「……一緒に寝よ」 キタ―――(・∀・)―――!!はい、フラグon ―――― って音声ありか。お前が入れたのか? 「…そう」 ―――― 選択肢だ。 (ア いいぜ やだよ ―――― やっぱこっちだよな、長門。 「……」 俺の後ろでじーっと俺のプレイを観察する。 ―――― 「今から…?」 また選択肢だ。 (ア もちろん! お前がいいなら… やっぱやめ 「まずはキス…」 以下エロシーンが延々と続く ―――― ここも実写かよ?! …これ、どうやって撮ったんだ? 「……私の中でイメージを構成しそれを元にCGで再現した」 これ、CGなのか?!実写かと思ったぞ! 「…そう」 ―――― 「挿入れるぞ…」 「そう…」 以下エロシーンg(ry 「出るぞッ!」 「膣内、な…か、に…」 以下情事後のシーn(ry ―――― ……なかなかいい出来だな。 「…そう」 ん?さっきまで気づかなかったが、なんか長門の様子が変だぞ? どうした長門? 「…なんでも」 顔真っ赤だぞ? 「…大丈夫」 そこでハルヒの騒がしい足音が聞こえたので急いで強制終了。 あぶねーあぶねー。 これ、ありがとな、長門。 「…いい」 俺はササッとカバンの中にエロ○を仕舞い込み、 何事も無かったかのように机に居座る。 ハルヒが来て、古泉が来た。朝比奈さんも遅れてきた。 そしていつも通りの時刻にSOS団の活動は終了した。 家に帰宅。 さっき貰った説明書を見る。 ふむふむ。長門が話す風な説明書って感じなんだな。 って、なんかおかしい表記を発見したんだが、発表していいか? じゃあ言うぞ? ……『なお、このソフトでのあなたの妹に対する行為は、私の身体にも同等の感覚を発生させる。』 つーことは、俺がソフトを使うたびに長門が一人で反応しちまうってことか。 ………どうしよう。使うべきか?使わざるべきか? これってある意味俺が自慰してる回数バレるよな? ……しかし長門の喘ぎ声と実写といっていいほどのCG。 さらには体位・コスプレ・大人のおもちゃなどなど バリエーションは現実に負けず劣らずと言ってもいい。 使うしかないだろ…。 その夜、俺はついつい何回も使ってしまった。 明日長門になんて言われるか……会うのが恐いぜ……。 翌日…放課後。 SOS団室に行くと長門いつもの席に座って本を読んでいた。 …よ、よお、長門。 すると、長門は頬をほんのり赤らめてこう言った。 「……激しすぎ」 終
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3683.html
https://w.atwiki.jp/xghshuthj/pages/550.html
効果モンスター/レベル4/神属性/宇宙人族/攻撃力1800/守備力1000 このカードの効果は無効にできない。 このカードの効果を無効にする効果を無効にし破壊できる。 このカードが持ち主以外のフィールド上に存在する場合、 このカードのコントロールは持ち主に移る。 このモンスターが戦闘を行う場合、ダメージステップ時のみ このモンスターの攻撃力は1500ポイントアップする。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1213.html
Report.10 長門有希の実験 ある実験が行われた。 日常接している人物がある日突然豹変したら、人間はどのような反応をするのか。 日頃との変化が大きい方がより有意な情報が得られるため、わたしが実験台に使用された。これから、わたしの性格が一時的に改変される。 Interface Mode Setup... Download High tension Yukky Database Extract High tension Yukky Database YUKKY.N CREATE TABLE Y.NAGATO AS SELECT * FROM YUKI.N INSERT Y.NAGATO SELECT * FROM YUKKY.N OPTIMIZE TABLE Y.NAGATO SELECT * FROM Y.NAGATO Starting High tension Yukky mode... は~い、ユッキーで~す♪ いやー、いつものわたしと違って、今はと~っても『ユカイ』な気分です。こんな調子でハルにゃんやみくるんに話しかけたらどんな反応をしてくれるのか、めっちゃ楽しみ!! え? キョンくんやいっちゃんの反応はどうでも良いのかって? 実はもう話しかけてみたんですよー。でもでも、あの二人、高校生のくせに、どっちもすっごく落ち着いてるって言うか、 『おやおや、これはまた「ユカイ」な長門さんですな。新境地を開拓でっか?』 【おやおや、これはまた「ユカイ」な長門さんですね。新境地を開拓ですか?】 『……「ユカイ」なお前も結構ええ感じやと思うで、長門。』 【……「ユカイ」なお前も結構良い感じだと思うぞ、長門。】 どんだけ適応力あんねん!! って思わず突っ込んでしまいましたよ。 まあ、いっちゃんは何度も修羅場を掻い潜って来たんだろうし、キョンくんも一般人でありながら身の回りで異常事態が頻発する環境に晒されてるし、不思議なことに慣れっこになってるのかもねー。 鶴屋さんには、 『あっははははは!! 有希っこ、サイッコー!! あっはははははは!!』 爆笑されつつも、すんなりと受け入れられたみたい。この人も包容力あるなー。 キョンくんの妹ちゃんに至っては、 『えへへー、ユカイな有希っこ、楽しー! 一緒にあそぼー!』 この子もハイテンションだからなー。思わず日が暮れるまで一緒に遊んじゃいましたさ。 ちなみに口調だけじゃなくて、声も普段よりかなり高くなってます。結構キャピキャピしてるかな。 さてさて。 そんなわけで、わたしの数少ない交友関係(泣)で、反応を見ていない人は、あと二人。本命ですね。もちろん情報統合思念体的には、本命はハルにゃんだけど、わたし的にはみくるんの反応が一番見てみたいんだよねー。 ハルにゃんとは、まあそのいろいろあって、イロイロエロエロしちゃった関係なんだけど、みくるんとは、まだお近付きになってないんだ。 何か、みくるん、わたしのこと、苦手そうにしてるしね。自分で言うのも何だけど、普段のわたしって、それはもう取っ付き辛いったらないよね。まったく、なんでこんな性格に設定したんだか。責任者出て来ーい! なんてね。 それにハルにゃんの場合、元のあたしでも既に違う一面を見せてるから、もう今回の実験の趣旨は達成されてるとも言えるんだよね。 それはもう、面白かったよー。スプーン取り落としたり、意識がお花畑に飛んでいって三途の川を渡る準備をしたり。 だから、こんなユカイなわたしを見ても、意外と普通な反応されそう。鶴屋さんみたいな感じかな? よし、極(き)めた、じゃなくて決(き)めた! 今回の本命はみくるん! ユカイなハイテンションユッキーで押し切って、一気に仲良くなっちゃおう! ん? 江美里から入電だ。はいはーい! 『わ……情報としては伝わってましたけど、いざ実際に対話すると、すごいですね。普段とのギャップがありすぎて戸惑います。』 ふっふー。萌えるかな? かな? 『さあ、それはわたしには分かりかねるので、コメントは差し控えさせていただきます。それより涼宮さんですが、今日は所用のため、このまま帰るみたいですよ。』 そっかー、帰っちゃうのかー。みくるんは来るのかな? 『朝比奈さんはまだこのことを知らないので、そのまま部室に向かってますね。他の二人は涼宮さんに出会った時に、その場で伝えられたみたいですね。帰ってます。』 じゃ、みくるんにはわたしから伝えてあげないとね。ちょうど良いや。連絡ありがとねー、えみりん。 『えと、えみりんて……と、とにかくそういうことなので。』 えみりんの困惑した様子が目に浮かぶなー。りょーこちゃんだったらどんな反応するんだろうな。 そんな心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなくログファイルに書き付けてると、みくるんがやって来ました。 「こんにちは……あれ? 今日は長門さんだけですか?」 「そう。涼宮ハルヒは所用で帰宅した。他の二人にもその旨は伝えられている。」 まずはいつもの調子で。独白も普段ぽくしてみる。 「そうですか……あ、もしかして長門さん、あたしに伝えるためにわざわざ残っててくれたんですか?」 「そう。」 「わ、す、すいません、ありがとうございます!」 今にも回れ右して帰りだしそうな朝比奈みくる。そんなにわたしと二人きりになるのが嫌なのだろうか。少し悲しい。 「よかったら。」 わたしは彼女を呼び止める。 「わたしと一緒に帰ってほしい。」 「ふぇ!?」 「実は、あなたに相談したいことがある。」 「あ、あたしにですかぁ!?」 「だめ?」 「え!? え、えと、その……」 そう言いながら、彼女は耳に手を当ている。未来からの指示を仰いでいるのだろう。そしてわたしは確信している。未来からの指示は、『おまえの思うように行動せよ。』 「未来からの指示?」 「否定も肯定もされませんでした……『お前に任せる』と。」 「そう。では、あなたの気持ち次第。」 「えと、あ、あたしでお役に立てるかどうか分かりませんけど、お話を聞きますね!」 「ありがとう。」 こうしてわたしは、まんまとみくるんを拉致……違う違う。わたしの部屋へ招待した。 「お茶を淹れる。待ってて。」 わたしはお茶を淹れて、こたつに持っていった。こたつに座って対面する二人。さて、話を切り出しますか。 「あなたに来てもらえて、嬉しい。」 「いえいえ、大したことでは。それで、相談というのは?」 「わたしは今、ある事情で、思考がとても『ユカイ』になっている。」 「『ユカイ』……ですか。」 「そう。普段のわたしからは想像もつかないほど。せっかくなので、あなたに披露して、どう思うか聞いてみたい。そして、これを機会に、あなたと仲良くなりたい。」 「えっ!?」 「あなたは、わたしと二人きりになることを極度に嫌っている。」 「あ、あたしはそんなつもりじゃ……!?」 「気にしなくていい。普段のわたしの態度では、仲良くしろと言う方が無理がある。」 そこまで言うと、わたしは、お茶を一口飲んだ。さあ、始めましょうか。 It s a showtime! ハイテンション・ユッキー、いっきまーっす! 「まあ、そう硬くならんとー。りらっくす、りらっくす♪」 【まあ、そう硬くなんないでー。りらっくす、りらっくす♪】 「!?」 おおー、早速目をまん丸にして驚いてる。うんうん、予想通りの反応ありがと、みくるん♪ 「要するにー、今のわたしは普段と違うわたしやから、もっと気楽に喋ってぇやーってこと。」 【要するにー、今のわたしは普段と違うわたしだから、もっと気楽に喋ってよぉーってこと。】 「ふ、ふええ!? な、長門……さん?」 「どうせやから『有希ちゃん』って呼んでぇやぁ、みくるちゃん。それともみくるんって呼んだ方が良い?」 【どうせだから『有希ちゃん』って呼んでよぉ、みくるちゃん。それともみくるんって呼んだ方が良い?】 「みくるんて……」 「ミ・ミ・ミラクル☆ ミクルンルン☆」 「いやぁぁぁぁぁ!! その話はせんとってぇぇぇぇぇ!!」 【いやぁぁぁぁぁ!! その話はしないでぇぇぇぇぇ!!】 おおっと、みくるんの意外な一面が。やっぱりあれ、相当堪えてたんだね。 「まあ、そんなわけで。いつものキャラは置いといて、本音でお話しよ?」 「ううう、何か、見透かされてる気がします……」 「まあまあ、わたしもいつもと違(ちゃ)うんやし。あなたと仲良くしたいっていうんも、ほんまの気持ちなんやで?」 【まあまあ、わたしもいつもと違うんだし。あなたと仲良くしたいっていうのも、ほんとの気持ちなんだよ?】 「なが……有希ちゃん……」 ひゃっほぅ、みくるんが『有希ちゃん』って呼んでくれたよー! なんかすっごくうれし――――!! それからみくるちゃんは、必死でわたしと二人きりになりたがらなかった理由を説明してくれたけど、割愛します。なんていうか、そうした方が良いような気がしたから。大事な友達のことだし、少しは胸の奥にしまっておいた方が良いこともあるよね。 要は、お互いが相手を悪くは思っていないってことが伝われば、それで良いのだ! で、分かったところで、新たな関係を築けば良い。人間の縁って、そんなもんじゃないかな。わたしは人間じゃないけど。 「それで、キョンくん、何て言(ゆ)うたと思う? 『……「ユカイ」なお前も結構ええ感じやと思うで、長門。』それだけ。あんたら、どんだけ適応力あるっちゅうねん!」 【それで、キョンくん、何て言ったと思う? 『……「ユカイ」なお前も結構良い感じだと思うぞ、長門。』それだけ。あんたら、どんだけ適応力あるっていうのよ!】 「あははは、キョンくんらしいー!」 話し始めてしばらくして。最初の緊張もどこへやら、二人はすっかり打ち解けました。みくるちゃんたら、目に涙浮かべて笑ってくれたよ。なんかもう、イジり甲斐あるなー。 「ねえねえ、有希ちゃん。今度一緒に買い物行かへん? あたしの知ってる……」 【ねえねえ、有希ちゃん。今度一緒に買い物行かない? あたしの知ってる……】 みくるちゃんからお誘い。わーい、デートデート、って、違ーう! ハルにゃんじゃないんだから。これは健全な、女の子同士のお買い物のお誘い! ありがたいけど、その頃にはもう、実験は終了して、普段の無口なわたしに戻ってるんだよねえ。……あれ、なんか、そう考えたら急に寂しくなっちゃった。どうしたんだろ。 「!? ゆ、有希ちゃん!?」 「なに~?」 「な、何(なん)で泣いとぉや……?」 【な、何(なん)で泣いてるの……?】 「え? あれ?」 ほんとだ、泣いてる。 「何(なん)でやろ、おかしいな。涙が……止まらへん。次から次へと……」 【何(なん)でだろ、おかしいな。涙が……止まらない。次から次へと……】 わたしの目には涙があふれ、止(とど)まる気配がありません。 「何(なん)で、うっ、何(なん)で涙が、ぐすっ、止まらへんの……ひくっ」 【何(なん)で、うっ、何(なん)で涙が、ぐすっ、止まらないの……ひくっ】 せっかくみくるちゃんと楽しくお話してたのに、これじゃまた嫌われちゃう…… 涙を止めなきゃいけないと思うほど、嫌われるんじゃないかという恐怖が沸き上がって、ますます涙が止まりません。完全に悪循環だ。 するとみくるちゃんが、すっと立ち上がって、わたしのそばにやってきました。そしてわたしの頭を優しく抱き締めたのです。 「ほら、有希ちゃん。泣きたい時は、思いっきり泣いた方がええで。」 【ほら、有希ちゃん。泣きたい時は、思いっきり泣いた方が良いわ。】 みくるちゃんの、おっきい胸。柔らかくてあったかい。なんでも、こないだのハルにゃんとみくるんの大乱闘で、ハルにゃんがこの大きな胸が羨ましいって言ったんだって。たしかに尋常じゃない大きさ。 でも、この胸は単に大きい、見掛け倒しの胸じゃない。底なしの優しさに溢れてる。 「うっ、うっ、うううう……うわああああああああああああああああああああんん!!」 わたしは、彼女の胸の中で泣いた。号泣した。 何が悲しかったのか。何が寂しかったのか。 それは結局、今のこのわたしの思考が、一時的なものでしかないことを知っているから。しばらくすれば、また元の無口なわたしに戻る。また、みくるちゃんが近付きたがらなかった頃のわたしに戻ってしまう。 それが嫌だった。せっかくみくるちゃんと仲良くなれると思ったのに。いや、きっとみくるちゃんは優しいから、元のわたしに戻っても、わたしと仲良くしてくれるだろう。でも、わたしはその思いに態度で応えられない。『そう。』とか『いい。』とか、必要最小限しか言葉を発しない子に戻ってしまう。 それがわたしらしいと言ってくれるかもしれない。でもわたしにだって、他の人並みに喋って、普通の女の子みたいに友達と遊びたいという気持ちはある。元のわたしはどうか知らないけれど、少なくとも今のわたしには、そんな気持ちがある。今のわたしはその気持ちを形にすることができる。でも元のわたしにはそんなことできない。 「戻りたない……」 【戻りたくない……】 「え?」 「戻りたない……元のわたしに戻りたない!!」 【戻りたくない……元のわたしに戻りたくない!!】 わたしは叫んでいた。今のわたしは、あくまで実験のために用意された一時的な人格。元のわたしでさえ、作り物、仮初の命で、今のわたしはその上に宿る、さらに一時的な実験用人格。その存在は極めて脆い。 それなのに、こんなことを願うのは罰当たりなのかな。人間じゃないわたしに罰なんか当たるのか分からないけど。 「元のわたしは、笑えもしない、泣けもしない、ただの観測者……! みんなの気持ちに何一つ応えられない!! わたしは……ただの作り物!! ただの……人間モドキ……! 人形にも人間にもなれない半端者!!」 こんなこと、彼女に言ったところでどうしようもないのに、彼女を困らせるだけなのに、止まらない。わたし、どうしちゃったんだろう。とうとう壊れちゃったのかな……? まったく、困った子だ。やれやれ。 それなのに、彼女は優しくわたしの頭を抱きかかえ、撫でてくれました。 「普段口に出されへん分、相当いろんな思いが溜まってたんやね……ごめんね、気ぃ付いてあげられへんで。」 【普段口に出せない分、相当いろんな思いが溜まってたのね……ごめんね、気付いてあげられなくて。】 何でみくるちゃんが謝るの? 謝るのはわたしの方なのに。 「ううん、そんなことない。あたし達、結局いつも有希ちゃん……『長門さん』に頼ってばっかりやもんね。」 【ううん、そんなことない。あたし達、結局いつも有希ちゃん……『長門さん』に頼ってばっかりだもんね。】 彼女は、小さな子供に言い聞かせるような、優しい声で言いました。 「あたしは、いつも無口で頼れる『長門さん』も、とっても可愛い『有希ちゃん』も、どっちも好き。」 そして彼女はわたしの頭を胸から離すと、自分の顔の前に持って行きました。 「せやから、約束して? もう二度と、人形やとか何とか、そんな悲しいこと言わへんって。あたしも、みんなも……『長門有希』さんを大好きなんやから。」 【だから、約束して? もう二度と、人形だとか何とか、そんな悲しいこと言わないって。あたしも、みんなも……『長門有希』さんを大好きなんだから。】 彼女の優しく真っ直ぐな瞳が、わたしの瞳を見つめます。 「……はい。」 今のわたしの顔はきっと、涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。そんな顔を間近でじっと見つめられてます。ちょっと恥ずかしいな。 「……よくできました。」 彼女は飛びっきりの優しい笑顔で言いました。本当に綺麗な、天使のような笑顔でした。 「ほら、もう泣かない。笑って笑って! 有希ちゃんの笑顔はめっちゃ可愛いんやから!」 【ほら、もう泣かない。笑って笑って! 有希ちゃんの笑顔はすっごく可愛いんだから!】 可愛い……か。なんか、嬉しいな。 「えへへ……」 自然と、笑いがこぼれました。ちょっと照れた笑い。 「きゃー、可愛い――――!!」 彼女はまたわたしの頭を抱き締めました。おっきなおっぱいに埋もれて、ちょっと幸せ。ハルにゃんが揉みまくってた理由の一端が分かったかも。ずっとこうしていたいな。 ああ、それなのにだんだん意識が遠くなってきました。もう実験終了なの? せめて一秒でも長く、この暖かさ、柔らかさ、優しさを感じていたい…… Interface Mode Setup... COPY NAGATO_YUKI.log + YUKKY.log NAGATO_YUKI.log DEL YUKKY.log DROP TABLE Y.NAGATO, YUKKY.N SELECT * FROM YUKI.N Starting NAGATO Yuki original mode... わたしは、朝比奈みくるの胸の中で目を覚ました。二人とも眠っていた模様。早速先ほどまでの行動のログを確認する。 「…………」 わたしは彼女の胸で泣いていたらしい。 『人形にも人間にもなれない半端者』 これほど今のわたしの状態を的確に表現した言葉もないかもしれない。 『わたしにだって、他の人並みに喋って、普通の女の子みたいに友達と遊びたいという気持ちはある。今のわたしはその気持ちを形にすることができる。でも元のわたしにはそんなことできない。』 そういうことか。 これは、実験用人格に用意された感情による言葉ではない。なぜなら、実験用人格が削除された今のわたし……『元のわたし』でも、彼女――朝比奈みくる――のことを考えると、胸が熱くなるから。 これは『わたし』という個体が持つ、固有の『感情』。人間で言うところの……『本音』。 また感情が暴走してしまった。彼女には迷惑を掛けてしまった。 でも、そんなわたしを、彼女は優しく抱き締め、慰め、諭してくれた。涼宮ハルヒを支えたいと願ったわたしだが、朝比奈みくるに支えられた。 ――人間は決して一人では生きていけない。皆支えあって生きている。 何かの本で読んだ言葉。今ならその意味が少しは実感できるかもしれない。 静かに眠る、わたしを支えてくれた人の顔を見る。優しい、安らかな寝顔。 「……ありがとう。」 そう言うとわたしは、朝比奈みくるの額……ではなく、やはり唇に口付けをした。どうやら、あなたのことも好きになってしまったようだ。 『二股』……か。やれやれ。 結局、彼女の強さと、自分の弱さを見せつけられる結果となった。『彼』と言い彼女と言い、どうして涼宮ハルヒの周りには、こんなに優しい人達が集まっているのだろう。 彼女の買い物のお誘いの日を思い出しながら、せめてその日くらいは、少しは口数を増やせないだろうかと考えながら、わたしも彼女と一緒に眠ることにした。 彼女を抱き締めると、彼女も抱き締めてくれた。暖かい。そして強く優しい。 わたしは、涼宮ハルヒとはまた違った安らぎを感じながら眠りに落ちた。 後で聞いた話になる。 実験終了後、わたしの反応が途絶えたため、現場を確認するために喜緑江美里が遣わされた。違う派閥なのに、ご苦労なこと。 「わたしは、あなたの監査役でもあるんですからね。」 現場に踏み込んだ江美里。そこで彼女が見たものは、抱き合って眠るわたしと朝比奈みくる。 「すごい光景でしたよ。人間の言葉で言うところの『感動もの』でした。」 生命活動その他に異状がないことを確認すると、彼女はそのままその光景を眺めていたという。 「正確に言うと、『見とれていた』のかもしれませんね。インターフェイスに過ぎない私にも分かるくらい、そう、『神々しい』光景でした。記念に一枚撮っときましたよ。」 そう言って彼女は、一枚の紙を取り出した。 写真。光を受けて分子構造が変化する素材を利用した、画像の記録手段。 情報統合思念体のような情報生命体からすれば、極めて原始的な情報処理方式だが、『形あるもの』によって情報を取り扱う有機生命体にとっては、適した手段といえる。最近江美里は、この『写真を撮る』という行為がお気に入りなのだという。 差し出された紙片に映し出された、その時の光景の記録を見る。 「…………」 「例えて言うなら、『天使と天女が仲良く眠る図』ですね。」 そこには、安らかで穏やかな顔で抱き合って眠る、二人の少女が写っていた。そこに写っている二人のうち、片方がわたしであることに、すぐには気が付かなかった。それくらい、普段のわたしとは印象がまるで違っていた。 「長門さんの寝顔に涼宮さんが参っちゃうのも、仕方ないのかもしれませんね。」 江美里は、楽しそうに言った。 「それにしても二股とは、あなたも恋多きヒトですねー。この写真を涼宮さんが見たら、どうなるのかなー?」 「……パーソナルネームえみりんを敵性と判定。当該対象の有機情報連結解除を申請する。」 「あーれー、お止めになってぇ~。」 それにしてもこのインターフェイス、ノリノリである。もしかして、彼女はハイテンション・エミリーでも実行しているのだろうか。 「……後でこの光景の詳しいデータも欲しい。」 「あー、何だかお腹が空いたなー。」 「……今日は肉じゃが。カレーと具が共通。」 今晩も、いつもより『美味しい』食事になるようだ。 「……やれやれ。」 【参考:Extra.4 喜緑江美里の報告|Extra.5 涼宮ハルヒの戦後】 ←Report.09|目次|Report.11→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1257.html
「……」 わたしは紅い夕日の差し込む教室で本を探している。 彼に買って貰った大事な本なのに、無い。 なぜ?わたしは鞄の中にしまっておいたはず。 ドアが開く。 わたしの目に映ったのは彼。 いつものように優しい口調で話し掛けてくる。 「長門、まだこんなところに居たのか」 「……ない」 「何がないんだ?」 「あなたに買って貰った本……」 「無くしたのか?」 「……ごめんなさい」 「お前……大切にするって言ってたのに」 「ごめんなさい」 「長門なんてもう知らん、別れよう」 「そんな……」 彼の後ろには涼宮ハルヒが見える。 そしてわたしの彼に抱きつく。 「今日からキョンはあたしのものよ」 「こらこら、俺は物じゃねぇぞ」 なぜ彼は涼宮ハルヒと仲良くしている? わたしとの関係は……もう……。 光が窓辺から差し込む。 ……朝……今のは……夢……? そう、夢。 もう一度よく考える。 彼に本を買って貰ったことなんて無い。 ……わたしと彼はあのような関係では……無い。 いつものようにのっそりと布団から起きる。 制服に着替え朝食を摂取し学校へと赴く。 今日も誰とも会話を交わさず机に向かい本を読み耽る。 けれど今日は本の文字がうまく思考の中へと入ってこない。 彼の事ばかり考えてしまう。 原因は解明し尽くしている。今朝あのような夢を見てしまったから。 放課後になるのが待ち遠しい。 昼休み。 わたしは食堂へと向かう。 今日もカレー。ここの食堂に勤務しているあの女性はなかなかの腕前。 食べ終わると部室で本を読む。 ……やはり何も頭に入ってこない。 今日のわたしは少し疲れている。休息すべき。 なので睡眠をとることにした。 「……と………長門」 何者かによって体が揺さぶられる。誰? 「お、やっと起きたか」 視覚器官で認識するより先に聴覚器官が反応する。 ……彼。 「それにしても宇宙人も眠るんだな」 「……」 「寝顔、けっこう可愛かったぜ」 「……」 ……これも……夢……? 不安に駆られながらも目の前に居る彼を見る。 エラー、恥ずかしいという感情がわたしの心を支配する。 顔に血液が集中するのが確認される。 「いつから寝てたんだ?」 「……昼休み」 「もう放課後だぞ」 彼は笑いながら言う。 どうやらわたしは長い時間眠っていたらしい。 そして今この空間にはわたしと彼で二人きり。 「……あなたは」 「ん?なんだ?」 わたしは細々と言葉を紡ぐ。 「わたしのことをどう思っている?」 わたしはどうかしている。 このような質問を彼に投げかけるのは彼を困らせるだけ。それは理解している。 ……けれど、投げかけてしまった。 なぜ?……原因は分かっている。やはり朝の夢のせい。 そう。わたしは不安でならない。 彼がわたしに対して嫌な感情を持っていないか、と。 「あー、長門……それは、どーいう意味で、だ?」 「……嫌い?」 「いや、嫌いじゃないぞ?でもな、なんていうかだな……」 彼を困らせてしまった。 「まぁ、す、好きだぞ?」 「……」 「あ!いやな、あのー、友達として、っていうか」 「……」 「好きってのはは恋愛感情とかも、入ってたりしないでもないんだがな、あの、な」 「……」 彼は自分の言った言葉を必死に説明している。 なんだかわたしは安心してしまった。ありがとう。 「好きっていうか、なんていうか、そもそも」 「わたしも……すき」 彼は数瞬固まる。 「……え?今、なんて言った?」 わたしは本を手に取りそれに目を向け文字を読み取り始める。 いつもの日常が始まる。 いつもと違うのは、彼とわたしだけ。 今はまだ、これでいい。 いつか彼に本を買って貰おう。 その時は無くさないように肌身離さず所持しよう。 彼を一度見るたび、待ち遠しくなる。 ……だから早く、もう一度「好きだ」と言って。 「ん?何か言ったか?長門」 「……ない」 「そうかい」 彼は呟く。わざとらしく。 「……好きだ」 わたしはそれを聞き逃さない。逃すはずが無い。 「そう」 こんな返事しか出来ないわたしが疎ましい。 でも、彼はそこまで鈍感では無い模様。 「明日、一緒に本屋行こうぜ」 「……」 わたしは心底驚いている。 彼は何時の間に読心術を手にしたのだろうか。 「本、買ってやるよ」 わたしはわたしにとって精一杯の返事を返す。 「ありがとう」 翌日。 彼に本を買って貰ったわたしの心は今、喜びで溢れかえっている。 そして、昨日浮かんだ疑問を彼に問う。 「あなたはわたしに本を買ってくれた……なぜ?」 彼は失笑し、次第にその顔がニヤけていく。 ……なぜ? 「はは、なんでって、長門、お前呟いてたぞ?……色々と」 わたしはどうやら彼のクセが移ってしまった模様。 ……エラー、恥ずかしい……です。 ~fin~