約 24,296 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2551.html
長門有希の憂鬱Ⅰ 四 章 長門有希の日記 こちらの世界へ来て二年が過ぎた。 情報統合思念体からの連絡はない。支援もない。誰も助けに来ない。 このまま時が過ぎれば、わたしの有機サイクルはいつか性能の限界に達し寿命を遂げる。 それまで、色がない世界でわたしの思考回路は物理的に機能するだろう。 それならばわたしはいっそ、目を閉じ、耳を塞ぎ、口をつぐんだ生命体として生きようと思う。 わたしは長期の待機モードを起動させた。 果たして奇蹟は起きるのだろうか。 ---- タクシーの運転手に住所を棒読みで伝えると、十分くらいでそのアパートの前に着いた。 二階建ての二階、二〇五号室……。郵便受けにもドアにも表札らしきものはなかった。 呼び鈴を押した。こんなにドキドキするのは久しぶりだ。 赤の他人だったらなんとごまかすか、新聞の勧誘にするか、布団の販売にでもするか。 反応がない。もう一度呼び鈴を押した。やっぱり違うんじゃないか?。 それから郵便受けに戻り、周りに誰もいないことを確かめてからフタを開けた。 テレクラやらヘルスやらのチラシが詰まっているだけで、宛名を書いた郵便物は入ってなかった。 三度ノックして反応がないので俺はドアの前に座り込んだ。尻にあたった床のセメントが冷たい。 ここにいるのが長門でなければ、俺はこれからどうしよう……。 そんな先のことを考える気力はもう残っていなかった。 谷川氏の家にやっかいになりつづけるわけにもいかないよな。 長期戦になるかもしれない。とりえあずバイト探して、アパートでも借りるか。 向こうの世界はよかった。なんだかんだいって俺はあの生活が気に入っていた。 ハルヒはどうしているだろう。古泉は。俺がこのまま帰らなかったら向こうの世界はどうなるんだろうか。 もう日はとっくに暮れていた。 俺は長門のマンションにいた。長門が荷造りしていた。 どこかへ引っ越すのかと尋ねると、情報統合思念体のところに帰る、と答えた。 おい待てよ、俺を、ハルヒを置いていくのか。長門の腕を握った。 「自分が来たところに帰る」 「待ってくれ。いきなり帰るなんて言わないでくれ。お前がいなかったらSOS団はどうなるんだ。俺は!?」 長門はそれ以上何も言わなかった。そして一冊の本をくれた。 それからおもむろに和室に入ると、ふすまを閉めた。 俺がふすまを開けると、そこにはもう長門はいなかった。 俺の手にはエンディミオンがあった。 長門はさよならも言わずに消えた。 そこで、目がさめた。 見上げると、暗い藍色の空から雪が降っていた。 あたりはシンと静かで、すべての雑音を消してしまいそうな白いカケラが舞い降りてくる。 誰かが階段を上がってくる足音がした。怪しまれてはまずいとは思ったが隠れる場所もない。 このまま寝たフリをするか、あるいは立ち上がって今しがた尋ねてきたフリをするか。 階段を上り詰めた足音がはたと止まった。俺は立ち上がってそっちを見た。 「キョ……」 長門だ。やっと見つけたのだ。 俺はなにも言わず、長門もなにも言わなかった。 下げていた買い物袋を床に落とし、ゆっくりとこちらに歩いてきた。 なにかを言いたげな複雑な表情をして、俺の背中に細い腕をまわし、そして胸に顔をうずめた。 いつもの長門らしくない衝動に、俺は少しだけ動揺した。胸に暖かく濡れたものを感じた。 長門の髪に、綿を連ねるようにゆっくりと雪の切片が舞い降りた。 「長門……泣いてるのか」 「……」長門は顔をすりつけたまま動かなかった。 「あちこち探したぜ」 長門よ、お前もずいぶんと人間くさくなっちまって、俺は嬉しいよ。 俺と知り合った頃は無表情で無感情だった宇宙人製アンドロイドも、SOS団の連中と付き合ううちに、 人間特有の性質が身についてしまった。本人は気がついてないかもしれないが、俺はずっと観察していた。 情報統合思念体から見れば有機生命体の人間なんて、 ネズミとドングリの背比べ的な知性の低さを見て取っているかもしれないが、 人間それだけじゃないものもある。だからこそ稀有な存在なのだろう。 宇宙的にユニークと言った、長門よ、お前もそうなりつつあるんだよ。 「寒いから部屋に入れてくれないかな」 俺はかじかんだ手で長門の背中をさすった。 「……」 長門は手のひらで涙をぬぐって、表情を見せないようにそっぽを向いた。 ドアを開けると、六畳ひと間の、古びたアパートの部屋につつましい生活空間があった。 マンションに住んでた頃も元々モノ持ちなほうではなかったが、家具はほとんどなかった。 ぎっしり詰まった本棚を除いて。 それから俺は、長門がこっちの世界に来てからどう過ごしていたかを聞いた。 「わたしがこちらの世界に来たのは、約五年前。 ここでは情報統合思念体が存在しない。涼宮ハルヒという人間も存在しない。 そのためにわたしは長期の待機モードに入った」 いわば宇宙探査船が未知の星に漂着し、資源を節約するため乗組員が低温スリープに入るようなものか。 「身よりもなくてどうやって食ってたんだ?」 「……パチンコ」 パチンコ!?生活力あるなお前。 「この付近一帯で採用されているパチンコ台はすべてクリアした。スロットの目押しも習得した」 目押しって神業だぞ。 財布の残りをいつも心配していた俺より、ずっとたくましいよ。 「毎日、本を読んで過ごした」 俺は改めて部屋を見回した。 相変わらず本が好きなようだ。部屋の壁が本棚で埋め尽くされている。 「あの文庫本を書いた作家に会ってみたよ。事情を話すと協力してくれてな、ここまで来れたんだ」 「谷川流には前に接触を試みた。だがコスプレと思われて門前払いされてしまった」 なんてこった。谷川氏が言ったとおりだったか。 「それ以降、谷川流に接触する人間を監視していた。二年が経過した時点であなたは現れないと判断した」 「向こうの世界とこっちの世界の違いは何だ?接点は谷川氏だけなのか」 「限定された情報から推測すると、この世界はわたしたちがいる世界の平行世界。 ただし、わたしたちは谷川流の脳内にだけ存在する」 「それがこっちの世界の俺たちか」 「そう」 「そうか……俺もよく分からないんだが、なんでお前だけ五年前に飛ばされたんだ?」 「情報が限定されすぎていて分からない。 でも、位相変換がはじまったとき、わたしが無理に止めようとしたために時間軸が狂った可能性はある」 「古泉も言ってたんだが、敵対する組織とかいうやつらの罠じゃないか」 「その可能性もある。危険を回避するために、この時空でのわたし自身のアイデンテティを消した」 要するに身元を消したってことか。 「こちらの世界では、長門有希は創作上の人物でしかない。それをノイズとしてうまく身を隠すことができた」 なるほど。どおりでなかなか探し出せなかったわけだ。 俺はとりあえず谷川氏に電話することにした。 「もしもし谷川さんですか、キョンです。長門を見つけました。ええ、無事です」 谷川氏は驚嘆していた。まさか自分の作中の人物が実在するとは、聞かされていたとはいえ衝撃だろう。 「ええと、今日はここに──」マイクを押さえて長門に向き直った。「今日ここに泊めてもらっていいか?」 「……いい」 「ここに泊まります。じゃあ、明日伺います」 俺は電話を切った。長門は心なしか喜んでいるようではあるが。 「これからどうする。向こうの世界に帰る方法はあるか?」 「分からない」 忘れていたことがあった。 「これ、喜緑さんから預かったんだが」俺はバックパックから、例の黒い球を取り出した。 「……」長門は目を丸くした。 「渡せば分かると言っていたが、これはいったい何なんだ?」 「これは……空間を封じ込める技術」 「すまん、なんだって?」 「空間がこの球の内側に折りたたまれている。位相変換せずに次元を超えて物質を転送したいときに使う」 それで喜緑さんか。 「何が入ってるんだ?」 「素粒子がひとつだけ」 「素粒子って、宇宙を飛んでる、原子より小さいアレか。たったひとつだけ?」 「そう。この状態を維持するには莫大なエネルギーが必要。この大きさでは素粒子一個が限度」 「これを何に使うんだ?」 「おそらく緊急通信用。素粒子は通常、粒子と反粒子のペアになっている。 片方の素粒子に与えた情報は他方に伝わる。このペアのもうひとつは、情報統合思念体が観測しているはず」 つまり、異次元間での通信用か。 「ただし、一度しか使えない。この素粒子が情報を持って向こうの素粒子に遭遇すると消滅してしまう」 「助けを求めるチャンスは一度きりってことか」 「そう」 数年分の物理の授業を受けたような気分だ。とりあえずは帰る切符はあるということか。 気が付けば腹の虫が鳴いていた。 「もうこんな時間か、腹減ったな。どこかに食べに行くか?」 「……晩ご飯、作る」 そう言って、さっきの買い物袋を広げた。冷蔵庫を開けると材料はあるようだ。 長門の手料理は久しぶりだ。 いつだったか朝比奈さんと三人で食べたのは缶カレーの大盛りだったか。 味噌汁に魚の塩焼きに、肉じゃが、か。見る限り、あれから料理も習得したらしい。 「……おいしい?」 「うん。うまい。いい嫁さんになれそうだ」 ふつうならここで女の子がポッとか顔を赤らめてくれそうなんだが、長門には通じない。もくもくと食っている。 長門はふとなにかを思い出したように箸を止めた。 「この世界にひとつ、謎がある……」 「なんだ?」 「わたしが誰かの配偶者だという情報を多く見かけた」 「そうなのか」 「“長門は俺の嫁”って、何」 「なんだそりゃ」 「コンピュータネットワーク上でよく見かける」 「さあ、なんだろう。初耳だが。だとするとお前の旦那は大勢いるってことだな」 「……」 長門は無言のまま複雑な表情で食い続けた。 「水が沸いた。水温40℃」 「ああ、風呂か。今日はほこりだらけだからな。ありがたい」 浴室を見ると、石鹸やらシャンプーやらナイロンタワシやらが一切ない。 「お前はふだん風呂に入らないのか?」 「わたしにはナノマシンによる自浄機能がある。通常、風呂は必要ない。 ……それにレディにそんな質問をしてはいけない」 「そ、そうか、禁則事項だよな。すまん」野暮なことを聞いた。 「コンビニで入浴セットを買ってくる。歯ブラシも」 俺はどうも、長門の人間っぽい面とそうでない面のギャップについていけてないようだ。 この後がちょっと問題だった。 「布団が一組しかない」 「じゃあ俺は毛布かなんかあればそれでいいよ」 「……風邪を引きかねない。一緒に寝ればいい」 「それはいくらなんでも困るぞ」 「なぜ」 いやまあ、なんというか。俺もいちおう男だし、健康な男子だし、 というか長門とひとつの布団で寝るというシチュエーションが嫌だというわけじゃないが、 長門とあらぬ関係にでもなったら情報統合思念体に殺されかねんわけで、 ハルヒに知られたら三度殺されて三度蘇生されて三度埋められるだけじゃ済まない。 などと俺がブツブツ言っている横で、長門は押入れから布団を出して広げた。 ともあれもう十二時だ。昼間の疲れと、やっと会えた安堵も手伝ってか、睡魔が襲ってきてどうしようもない。 俺は迷いつつ布団に潜り込んだ。長門に背を向けて。 長門は蛍光灯のスイッチを引いて、音を立てずにそっと布団に入ってきた。 目をつぶること三十分。あれほど眠かったはずが待てど暮らせど眠れない。頭の後ろに長門の視線を感じる。 朝比奈さんが長門のマンションに泊まったとき、 寝てるときに長門に見られてる感じがして落ち着かない、と言っていたのを思い出した。 「長門よ」 「……なに」 「頼むから眠ってくれ。見つめられてると落ち着かん」 「……分かった」 長門が孤独に暮らした五年間を思えば、それくらい我慢してやれという誰かの声がした。 妥協案として長門のほうに向き直り、手を握ってやった。 そこからの記憶はなく、泥のように眠った。夢は見なかった。 「起きて」 長門の声で目を覚ました。昨日までの出来事が夢ではないことを確認するために周りを見回した。 「ああ」それからちゃんとズボンを履いたままであることを確認して安心した。かなり寝苦しかったはずだが。 「おはよう。今何時だ?」ちゃぶ台の上に朝飯が用意されている。 「八時二十四分十五秒」 「今日の予定は、とりあえず谷川氏に連絡してどうやって向こうに帰るかを話し合うことだな」 「朝ご飯、食べて」 「お、おう」 なんだか昭和四十年代の歌謡曲に出てきそうな風景だが、ひとつだけ言わせてもらえば、長門の味噌汁はうまい。 「長門」 「なに」 「ボクの髪が肩まで伸びたら、元の世界に帰ろう」 「……分かった」 そこ、笑うとこ。 俺は長門を連れて谷川氏のお屋敷に行った。 おばあちゃんが出迎えてくれた。 「めっさかわいいお嬢ちゃんじゃないかねっ。寒かったろう。さあさあ、おあがり」 「……」誰かの面影があることに長門も気が付いたようだ。 座敷に通された。 「谷川さん、長門を連れてきました」 「はじめまして谷川です」谷川氏は少し照れたような、感激したような微妙な表情を浮かべた。 「……長門有希」長門は少しだけ頭を下げた。 二人とも無言だった。どうも空気が固まっている。 「ええと、長門がこっちに来たのは五年前で、存在を知って一度は谷川さんに会おうとしたらしいです」 「ああ、やっぱりそうなのか」 「……あのときは制服を着ていた」 今日は珍しくタートルネックの黒のセーターを着ているが、それでか。 「それで、俺たちがどうやって向こうに帰るか、なんですが」 「そう、それが問題だね」 「いちおう、向こうの世界と連絡は取れるらしいんです」 俺はバックパックから、例の黒い玉を取り出して見せた。 「これは?……重いね。何かなこれ」 「向こうの世界の素粒子が入ってるらしいんです」 「ほう……そんなことができるんだ?」 「向こうの情報統合思念体が俺に託したんです。連絡用らしいですが」 長門が人差し指を立てた。 「連絡は……一度」 「ニュートリノと反ニュートリノが遭遇するとき、向こうに情報が伝わるってわけだね」 さすがSF作家だ。 「連絡はつくとして、どうやって向こうに帰る?物理的な転移が必要だろうけど」 長門は谷川氏に向き直り、 「あなたが小説を書けば、そのとおりになる」と言った。 「僕が?」 「わたしと彼は、あなたの書いたストーリーの上を歩いてきた。 帰るための手段も、それに従う」 「ええと、じゃあきみたちを元の世界に返す方法を僕が決めればいいわけか」 「……そう」 「これからの展開の中にそれを含めて出版されればいいわけだね」 「そう。ただし十三巻には時空の歪みが内包されている。 向こうの世界からこちらの世界への接触はできないように書き直してほしい」長門が答えた。 こちらの世界の情報は、わたしたちがいた世界に漏れてはならない、 情報は一方通行でなければならない、長門はそう言った。 「分かった。今回の現象も含めてプロットとして書いておこう。で、きみたちは同じ手順で向こうに戻る」 「同じ手順と言うと?」 「その地上絵をもう一度登場させて、向こうの世界への扉が開く」 長門がちょっと考え込んで言った。 「その場合、扉は、向こうから開かなくてはならない。情報統合思念体の支援が必要」 「どうやって支援を頼むんだ?」俺が聞く。 「この素粒子球で座標を伝える」長門が黒い球を指した。 「そうだ。これはそのために用意されたんだね」谷川氏がうなずいた。 パズルのピースがすべてはまった。決行は、今夜だ。 「あの、ひとつだけお願いが。できれば今後、ハルヒにはあまり無茶をさせないでください」 「分かったよ。ほどほどにする。ただし読者を満足させられる程度には」谷川氏は笑った。 近頃の読者は、登場人物の血を見ないと満足しないから怖い。 「鉛筆……買って」 「何にするんだ?」 「信号を送るのに必要な材料」 「鉛筆でいいのか」 「地上絵の信号を素粒子球を通じて送る。 それには広い場所と光を放つ発火性の物質が必要」 広い場所は北高グラウンドでいいだろう。東中は一度やってるんで怪しまれるとまずい。 「発火性の物質って、花火みたいなもんか?」 「そう。大量の水と空気。鉛筆を二十キロ。それらから核融合する」 「二十キロ分か」核融合って……そんな簡単にできるのか。 空気はそのへんにあるとして、水はプールのたまり水を使おう。 この時期はだいぶ汚れてるだろうが。 導火線変わりに使うという灯油を二缶、谷川氏に頼んだ。 ええと鉛筆一本が十グラムくらいか。とすると二千本必要だな。十二で割ると……。 「鉛筆は百六十六ダース必要」考えていると先に言われた。 文房具店をいくつかハシゴしないといけないな。 俺と長門は、とりあえず北口駅まで買出しに出かけることにした。 百貨店のテナントで半分の量の鉛筆、さらに別の専門店で残りを調達した。 突然の大量購入は断られるかと思ったが、店員は喜んでいたようだ。 鉛筆を大人買いしたのははじめてだ。 俺は段ボール箱いっぱいの鉛筆を抱え、汗を垂らしながら歩いた。 帰りの道すがら、長門がふと足を止めた。 「……行きたいところが、ある」 「どこに?」 「……」南西の方を指した。 長門は黙って歩き始めた。 この方角は……、勘は当たっていた。図書館だった。 中に入ると暖かい空気が二人を包んだ。 紙とインクの匂いと、それから何か分からない安心させるこの雰囲気は、どこの世界でも同じかもしれない。 そういや、受付のお姉さんに頼みごとをしたままだったな。 俺はカウンターまで行って、長門を指して無事会えたので、と伝えた。 お姉さんは俺と長門を交互に見つめ、微笑んでいた。 「あなたの学生手帳、貸して」 「いいけど、何するんだ?」 長門は黙ってなにかの書類に記入し始めた。それをカウンターに持っていって、数分して戻ってきた。 「これ……記念に」長門の差し出した手に貸し出しカードがあった。 「ああ、ありがとう」 二年前、同じことを長門にしてやったな。そのお礼か。 何の記念だか分からないが、とりあえず受け取っておいた。たぶんもう、借りに来ることはあるまい。 それから長門は、あのときと同じように本棚の群れの間をさまよっていた。 俺も同じことをするか。空いてるシートに腰掛けて居眠りを決め込んだ。 夜九時、俺たち三人は十分に暗闇が降りてから行動を開始した。 車で学校の前を通り過ぎ、離れた空き地に止めた。 俺は大量の鉛筆を抱え、谷川氏は両手に灯油のタンクを抱えていた。 あきらかにタンクのほうが重いので変わりましょうかと言ったのだが、谷川氏はたまには運動しないとねと言って譲らなかった。 タンクを抱えての柵越えはちょっと大変だった。 正門から忍び込むと明らかにあやしい集団に見えるので、西側まで回って入り込んだ。まあどこから入っても十分あやしいんだが。 タンクはグラウンドに置いておき、先にプールへ向かった。懐中電灯で照らすと、水はあるようだ。 「鉛筆を入れて」長門が言った。 俺は箱を崩しながら鉛筆をバシャバシャ放り込んだ。長門は箱もいっしょに放り込んだ。 「紙もいいのか?」 「いい。必要なのは、炭素」 そういえば鉛筆の芯は炭素の同位体だったな。 それから長門はおもむろに右手をかざし、詠唱をはじめた。次の瞬間、プールの真中を軸に凄まじい旋風が起こった。 水が十メートルほど立ち上がったかと思うと、竜巻になり、そして黒い粉のような塊となって落ちてきた。 「ちょ…ちょっと口の中が……」その場にいた俺と谷川氏が、声を枯らしてのどと目を押さえた。 「……す、すまない。うかつ」 長門はあわてて二人をひっぱり、プールから離れた。 「周辺の水まで奪ってしまった。すまない」俺の水分が材料になったってわけか。 長門は学校の外へ走り去ってゆき、缶のお茶を二本持って戻ってきた。 「あー、コンタクトレンズがパリパリ言ってるよ」谷川氏が目をこすった。 「……もうしわけない」 「プールでなにを作っていたの?」 「炭、硫黄、マグネシウム、銅、その他可燃性の金属。そしてそれらの混合物」 「つまり、花火の材料か」 「……そう」 中世に行って錬金術師にでもなれるんじゃないか。 プールに戻ってみると、水と同じ体積の、灰色の粉らしきものが出来ていた。 「これ、どうやって運ぶんだ?」 「……任せて」 長門はもう一度右手を上げて、「今度は、大丈夫」と言ってから呪文を唱えた。 プールを埋め尽くしていた粉が、さっきと同じくらいの高さに立ち上がって球になり、少しずつ小さくなっていった。 最後はソフトボールくらいの球になった。 長門は空になったプールの底に下りていって、その球を拾い上げた。 「分子圧縮した」簡単に言ってるけど、すごいよ長門さん。 それから三人はグラウンドに行った。幾何学と測量の出る幕だ。 まず俺が巨大な正方形の頂点に二メートルくらいの棒を立てる。 暗くて分からないので、棒の先にペンライトを巻きつけた。 まず点を結んで線を引き、正方形を作る。 その頂点に対角線を二本引き、真中を割り出したところで上下左右の辺に垂線を引く。 これで内側に正方形が四つ現れる。 さらにその正方形の内側に正方形を作り、それを繰り返して碁盤状の正方形が出来上がった。 地上絵は、大きく二つの部分に分けることができる。 隣に同じ大きさの正方形をもうひとつ描いた。これで二つの絵が描ける。 あとは長門の指示で各マスの辺に点を置いてゆき、それを繋いでいくと絵が仕上がる。 これ、GPS使ったらもっと簡単にいきそうなんだが。 線に沿って灯油をちょろちょろと撒いた。これが導火線になる。 その上に長門がさっき作った球を持って火薬のウネを作った。 球から延々灰色の粉が流れ出て、長い山になっていった。 球はちょうど文字の最後の部分で消えた。 「警備会社の巡回まであんまり時間がない。急ごう」谷川氏が言った。 「わたしが素粒子球を上空千メートルまで投げる。合図をしたら、火を付けて」 「分かった」俺は手にもった松明に火をつけた。 「そろそろはじめますか」 「今のうちにお別れを言っとくよ。また会おう。作中でね」谷川氏が手を差し出した。 「いろいろとありがとうございました」俺は手を握って振った。 何度お礼を言っても足りない。この人がいなかったらずっとホームレスを続けていたかもしれない。 犀は投げられた。すべての準備が整った。 「谷川さん、カウントしてください」 「いくよ」 三、二、一、GO! 長門の手から勢いよく球が飛んでいく。 「今」 俺は地面に火を放った。まばゆい火柱が足元を走った。 青白く、さらに緑に、そして赤く燃える地上絵がグラウンドに浮かび上がる。 三秒、四秒、五秒……。見えはしないが黒い球が落ちてきているはずだ。 まだか、まだなにも起きない。 「特異点が発生した。向こうの次元が開いた」 長門が上を指差した。上空、百メートル付近だろうか、白い光の球が生まれた。 それが徐々に膨らみはじめ、そして落ちてくる。 長門は強引に俺の手をひいて、地上絵のまんなかに走った。球がちょうど真上から落ちてくる。 白い光はさらに膨らんで、直径三メートルほどにまでなっただろうか。 球が俺たちの上に落ちてきた。二人は球の中へ入った。 「目を閉じて!」長門が叫んだ。まぶたを閉じても強い光が目に飛び込んでくる。 強い地響きのような振動がまわりを包んだ。 俺と長門は互いに強く抱きしめ合い、光の中で、一瞬よりは長い永遠の間、じっと待った。 光が徐々に引いていく。目を開けて後ろを振り返ると、うっすらと消えていく谷川氏が親指を立てていた。 ── アスタラビスタ。 気が付くと、いつもの風景の中にいた。夜の北高のグラウンド。 前には同じ景色の中を神人に追われてハルヒと走った。 俺と長門はどちらとも、しばらくなにも言わなかった。 抱き合ったままだということを思い出して、俺は長門から腕をほどいた。 「俺たち、ちゃんと帰ってきたのかな?」 「こっちの標準時と同期した。今、情報統合思念体と話している。五年分のレポートをアップロード中」 「そうか。長門は無事に取り戻したからと言っといてくれ」 こういう場合の気分だ、少しはヒーローを気取ってみたい。 「伝える」 俺も自分の組織である家に帰ろう。というか、古泉に連絡を入れないとな。 あいつが思い余ってハルヒにすべてをぶちまけてしまう前に。 「古泉か、今帰ってきた。長門も無事だ」 携帯が通じる。どうやら帰ってきたようだ。俺の自宅にいるという未来の俺と遭遇しないように手配を頼んだ。 「マンションまで送っていくよ」 「……」この無言は俺の知る長門の表現では、ありがとうという意味。 俺は夢でも見ているかのように、終始ぼんやりとしたまま坂を下った。疲れてるんだろう。 見知らぬ世界へ行って、そして今帰ってきたという現実に、まだピンと来ていない。 マンションに差し掛かると長門が口を開いた。 「お茶、飲む?」 「さすがにちょっと疲れたから、今日は帰るわ。それに俺を待たせてるし」 何言ってんだろ俺、みたいな気がしたが長門には通じたようだ。 「……そう」 「じゃあ、またな」俺は元気なく手を振った。 長門はいつまでも俺を見ていた。 振り返るたびに小さくなっていく長門に向かって俺は、大丈夫だ、明日も会えるから、と手を振った。 わずか数日留守にしただけだったが、翌朝の俺はずいぶん懐かしい気持ちで学校へ行った。 ハルヒも、クラスメイト全員も、なにも変わっていなかった。 「懐かしいな、谷口」 「なに言ってんだお前、昨日いたじゃねえか」谷口が怪訝な顔をしていた。 昨日か、そんな遠い未来のことは知らん。 「キョン、おっはよ」さらに懐かしい声がした。 「お、おう」 俺はハルヒの顔をまじまじと見つめた。 「な、なによ。あたしの顔になんかついてるの?」 「いや、なんでもない」 やっぱりこいつがいないと俺の生活ははじまらない。 俺の居場所は架空なんかじゃない、嫌になるほどリアルなSOS団が存在する、こっちの世界だ。 俺は壁にかかっているカレンダーを見た。 長門がこっちの世界から消えて七日間、俺がこっちを出て四日間、俺の主観時間と一致する。 昨夜、古泉に電話して未来の俺を呼び出してもらい、古泉の家に引き取ってもらった。 未来の朝比奈さんとはまだコンタクトできないらしい。 ということは俺は古泉の家に数日泊まることになるわけか。 あいつの哲学やら能書きやらに何日も付き合うはめになるのかと思うと、今から気持ちが萎える。 耐え切れなくなったら長門のマンションにでも泊めてもらうとするか。 放課後、ひさしぶりの部活である。 俺の学業生活は放課後がメインなんじゃないかと思うくらい、この時間が来ると気分が開放的になる。 「あたし掃除当番だから。先行ってて」 我が団長様は教室の掃除か。ご苦労さま。 俺がいない間も、たぶんなにも変わらない日常が続いていたんだろうな。 こんな平穏な毎日が続けばいい、そう思う。 文芸部部室のドアノブに手をかけたところで、誰かが俺のベルトを引っ張る。 「……話がある」 長門、用があるときは袖を引いてくれと。それから、突然現れるのは心臓に悪いから。 「で、話ってなんだ?」 「情報統合思念体が、向こうの世界に関する記憶を消したほうがいいと言っている。 平行世界との論理的逆説を招きかねない」 「そうなのか……俺はできれば忘れたくないんだが」 あのとき、谷川氏が別れ際に見せた笑顔が忘れられない。 「俺の記憶が消えてもお前は覚えているのか」 「わたしの記憶からも消去される。以降、あの本と谷川流に関する情報は禁則事項となる」 「それはなんだか寂しいよな」 「情報統合思念体のアーカイブには保管される。必要なときに封印が解かれる」 「長門を見つけ出したときの、あの瞬間は忘れたくないんだが」 長門はちょっとだけ考えて、 「希望するなら、そのままでもかまわない。でも、言葉にしようとすると抑制がかかる」と言った。 「分かった。未来人の禁則事項と同じだな」 「古泉一樹と朝比奈みくるの記憶は消去する」 「しょうがない。やってくれ」 「……あなたは外にいて」長門はドアを開けて中に入った。 「な、長門さんなにするんですかぁ!?」 「長門さん、それはあまりに大胆すぎます!うわああ」 部屋の中から、椅子がひっくり返る音、それからキャーともギャーともつかない叫び声が上がった。 な、中で何が起こってるんだ? ハラハラドキドキして楽しんでいると、しんと静まり返った。 おもむろにドアが開いて、いつもより涼しい顔をした長門が出てきた。「……終わった」 「あなたの番」 「き、禁則事項ってどうやるんだ?」まさか脳を切開して取り出したりしねーだろうな。 「……こう」 長門は両手で俺の頭を抱えて「少しかがんで」と言った。俺は言われるままに頭を長門の顔に近づけた。 やわらかく暖かい唇を額に感じた。 ── あなたの中にわたしの記憶があれば、それでいい。 長門、その言葉、忘れないよ。 「もう!有希ったら一週間もどこ行ってたのよ!心配したじゃないの」 ハルヒが珍しく半ベソをかいている。長門の首に巻きついて離れない。 「エルサルバドルの両親に会いに行った。進路のことで」 「だったら連絡くらいしていってよね。だいたいエルサルバドルてどこよ」 「ラテンアメリカですね」聞かれもしないのに古泉が答えた。 「エルサルバドル、中米の小国家。人口約六五八万人。 面積は約二万一千平方キロメートル。国内総生産は百六十六億ドル」 長門、それは詳しすぎて逆にあやしい。 しかしホンジュラスとかエルサルバドルとか、アンドロイドはなんでラテン系が好きなんだ。 「おかえりなさい。無事でよかった」 ドアが開いて喜緑さんが登場した。 長門は喜緑さんと特殊な方法で会話でもしているのか、数秒見つめあった。 「キョンくん、おつかれさま」喜緑さんが笑顔で言った。 「いえいえ、いろいろとありがとうございました」 アンドロイドにもこういう、喜緑さんみたいな感情豊かで優しいタイプがいるんだよな。 「これ」長門がハルヒに向かって、なにやら袋を差し出した。 「あたしにお土産?」 「……そう」 袋の口を開けるとコーヒー豆の缶が出てきた。 「へー。コーヒーの産地だったんだ」ハルヒが嬉しそうに言う。 長門がチラリと俺を見た。これしか手に入らなかったからしょうがないんだ、とでも言いたげな目で。 「どこかでコーヒーメーカーを手配しないとね、みくるちゃん」 「あ、ハイハイ。明日、ドリッパーとマグカップを持ってきますね」 朝比奈さんメニューにコーヒーが追加されましたか。待ち遠しいです。 その後のことを、少しだけ話そう。 長門だが、あいつはふだんと変わりない、いつもの長門に戻ったようだ。 今回のことで、あいつと俺の間に、見えない親密ななにかができたように思う。 「なあ長門、いつかふたりでどこか行かないか」 「……また、図書館に」 「そうか。ほかに好きなところへ行ってもいいんだぞ」 「……図書館」 長門にはそれ以外ないようだ。まあ帰りに映画にでも連れてってやろう。 「ハルヒには内緒でな」 「分かった」 長門はひとことだけうなずいて、また本の世界に戻っていった。 俺の財布には今も、存在しないはずの西宮市立図書館のカードが入っている。 いつか、この禁則が解けたら、長門にも話してやろうと思う。 そう、とりあえずは俺たちを生み出した、谷川氏のこと。 ── また会おう。作中でね。 もう一生、出会うことはないだろう。少なくともこちらの世界からは。 谷川さん、しばらくはハルヒをおとなしくさせてくれたら助かります。 俺は上でもなく東でもなく、どっちか分からないあっちの世界に向かって祈った。 しかしこれもまた、谷川氏も含めた今回の出来事が、 別の世界の誰かの頭の中に存在する物語である可能性を、俺は否定できないでいるのだ。 END ---- -[[長門有希の憂鬱Ⅰプロローグ]] -[[長門有希の憂鬱Ⅰ一章]] -[[長門有希の憂鬱Ⅰ二章]] -[[長門有希の憂鬱Ⅰ三章]] -[[長門有希の憂鬱Ⅰおまけ]] ----
https://w.atwiki.jp/syobon96/pages/205.html
───────────【ステータス】─────────────── ( ⌒ ) γ⌒ ⌒ヽ ゝ ノ ポッポー | l | ,. - .' ー ' ¨ .ゝ.、 ,. ´ ヽ. ,.' ', ヽ、 ,' . ;' . . ;'. . .;'. ./. ;'. . |i '; . . . . . . `、`ゝ ,' . .i . . .i . /i . /i . ハ . l i . .i . i . . .';. . ', /イハ ! . . l / i/ ノノ ノリリハリ ! i . .! .l i/! . ! . . ノ ● ● リ l .! ハ! ,,∨| . .! ノ( 、_ , ソ/i/ノ (´ i ヘ! | ⌒ | / ノ!/′ ``゙''ー、.ヾ>ー-`´-- <イリ } \i=// ヘ ノ /∀i ノ、.__ノ 〉、;;;;;ソ/A.il;;;;;! `ー' ペシッ!! 〉ー、i!____i!__,,ゝ |l!il| (、,,,/ !__,,,! ,,、___,,、、,,,___,、、 て `ー' `ー' ヾ_;,;,;,;,へ、,;,;,;,ソ て ) て ゝ⌒ ヘ/⌒ヽて─────────────────────────────── 【 本名 】長門 有希 【体力値】40(補正込み) 【敵ランク】☆4 【 装備 】魂の杖☆:外法により魂がこめられているため非常に高価な杖。装備者に『蘇生』を使用可能にする。既に使用できるものは回数が+1される 【持ち物】なし 【弱点】物理(打) 【攻撃手段】<攻撃/ ハイアナライズ/ 応援@3/ ランダマイザ@2/ メンテナンス@3/ 魔法調合@2/ 蘇生@1/ 防御> 【アビリティ】 ・『消失』:固有アビリティ。任意発動が可能。発動した、若しくは発動している相手のアビリティをキャンセルさせる 1回の戦闘に2度まで ・『人形遣い』:一部の依頼に関して人形遣いLvが冒険者ランクの判定材料となる。メンテナンスが使用可能になる ・『ハッキング』:トラップやセンサーの類を無効化し、キカイ系が相手ならば戦闘開始時に体力以外の全能力を低下させる(2T継続) ・『魔法調合』:手持ち若しくは周囲のアイテムからマジックアイテムまでをも調合・作成する ・『高速詠唱』:任意発動が可能。魔法にのみ適用され、威力を0.8倍にする代わりに先制技とする 1回の戦闘に1度まで ・『強大なる敵(小)』:小ボス。このアビリティがある者は体力が上昇する。もし、仲間になった場合は消える 【効果・解説】 ・ハイアナライズ:敵全体のステータスかアビリティのどちらか一方を任意で確認することができる ・応援:頑張れ〜と応援する。自分以外の味方一体に微量の回復効果と攻撃力UPの効果を与える ・ランダマイザ:敵単体に使用することで体力以外の全能力を低下させる(3T継続) ・メンテナンス:仲間の自動人形にのみ使用可能。状態異常回復と小回復を得る。しかし、使用すると所持金が減る ・魔法調合:ランダムで何かしらのマジックアイテムを作成する。1度の戦闘に2回までしか使用できない ・蘇生:戦闘不能になった仲間を半分の体力で蘇生する 1日に1回のみ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3255.html
涼宮ハルヒは俺のことをどう思っているのだろうか? 古泉は俺がハルヒに選ばれたとか言っていたが、俺は宇宙人でも未来人でも超能力者でもないどこにでもいるただの男子高校生にすぎない。そんな俺が選ばれた?…なぜだ? どうしてハルヒが俺を選ぶというのだ? 「……………」 真っ白な天井を眺めていても答えは出て来ない。 「……寝るか」 俺は考えるのをやめて電気を消した。 夏の暑さもひと段落し、この忌々しい坂道もようやく汗をかかずに昇り切れるようになった頃、ハルヒのことで毎日のように頭を悩ませている俺に新たな頭痛の原因となる出 来事が起きた。 いつものように教室に入りいつものようにハルヒに話しかける。 あいかわらずハルヒは俺の後ろの席にいる。というか、なぜ何度席替えをしてもハルヒが俺の後ろの席にいるんだ? 「よう。窓の外に宇宙人でもいたか?」 「んなわけないでしょ、バカ!」 バカと言われるのももう慣れた。 それにしても今日は機嫌が悪いようだ。 「っほんと毎日暇で死にそうよ。そろそろ怪奇現象のひとつやふたつ起こってもいいころなのに。キョン、SOS団のメンバーなら面白そうな事見つけて来なさいよ。あんたは頑 張りが足りないのよ頑張りが」 どう頑張れというのだ?そもそも頑張ればハルヒの望むものを見つけてこれるのか?まあ頑張る気なんてないのだが…。俺は適当に相槌を打って前を向いた。 この頃になると放課後には体が勝手に部室に向かうようになっていた。 今日は用事があって帰らなければならんのだがハルヒが許すだろうか…。許さなくとも帰ろうと決意し部室へ向かう。部室入口の古くなった扉を開けると部室の備品と化した 長門が読書をしながら座っているだけ。毎日の授業の疲れを朝比奈さんのメイド姿で癒すことが習慣になっていた俺には残念なことだった。 「朝比奈さんは?」 「来ない」 理由を聞こうとも思ったがやめておこう。 ハルヒはまだ来ていないようだし、古泉も機関がどうのこうの言っていたし、俺は用事がある、今日の活動は無しだろう。長門にそう告げて帰ろうとしたら 「待って…」 「話しておきたいことがある」 「今じゃないとだめか?はやく帰らないとならんのだが」 「すぐ済む」 「…そうか。なら早めにたのむ」 俺は鞄を手に持ったままパイプ椅子に座った。 長門は読んでいた本のページを開いたまま顔だけをこちらに向けてじっと俺の目を見ている。 話があるんじゃないのか、長門。 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースとして作られたわたしに本来備わっていない感情に似た感覚がうまれた。このことを情報統合思念体は対有機 生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースの進化ととらえている」 「長門有希という個体はあなたに情報統合思念体が持たない新しい未知の感覚を感じている」 いきなり理解に苦しみそうな話が出てきたようだ。もっとわかりやすく話してくれ。 「説明できる感覚ではない。が、あなたにわかりやすく言語化すると『好き』」 …ん?今何と言った?俺の聞き間違いでなければ『好き』と言ったように聞こえたが……まさかな。 「長門、よく聞き取れなかった。もう一度言ってくれ」 「好き」 どうやら聞き間違いではなかったようだ。こんなに無表情な顔で好きなんて言える人間がいるのか?いや、前言撤回。こいつは人間ではなかった。 「本気で…言ってるんだよな」 肯定 「ドッキリじゃないよな?ほら、ハルヒに言わされてるとか」 否定 「………そうか」 いつも何を考えているのか分からない奴だとは思っていたが、よもやこんなことを言われるなんて夢にも思わなかった。 「好きと言われても…おまえはその情報ナントカとかゆう奴につくられたいわば宇宙人なんだろ」 「肉体的には地球上の人間とそう変わらない」 手首だけでグローブを弾き飛ばす程の剛速球を投げたり、無数の鉄の槍に貫かれても死なない体のどこが変わらんのか。 「ハルヒの観察はどうするんだ?おまえの目的はそれだろ」 「今までどおり。影響はない」 それ以上何を話せばいいのかわからず俺は沈黙していると 「だから………だからどうしてほしいということはない。ただ知っていてほしかっただけ」 知っていてほしかっただけ、か。長門らしいというかなんというか…。 「………」 「………」 沈黙がこれほど苦痛に感じることが他にはあるだろうか。本当ならこんなとき答えを返せばいいのだろうが…なんせ相手は長門だ。 「………」 「………」 「時間」 「ん?あぁ、そうか、すまん」 俺は長門の言葉で用事に遅れそうなことに気づき、結局そのまま帰ってしまった。 ……情けない。 頼まれた用事を済ましている間も長門の言葉が頭から離れない。こういうときは告白をどう断ろうか考えたり、これからのラブラブな生活を思い浮かべて気色悪いニヤニヤ顔 になったりするのだろうが今の俺はそのどちらにもあてはまらない。 長門が何を望んでいて、俺はどうすればいいのか。何度も頭の中を駆け巡る疑問に俺は答えを出せずにいた。 それは家に帰ってからも同じで俺は何もない真っ白な天井を眺めていた。 「キョンく~んどうしたの?」 「ぬぉっ!急に目の前に現れるんじゃない!」 「え~?ちゃんとノックしたよー。何か考え事?」 「お前には関係ない。用がないなら出て行け」 「はさみ借りてもいい?」 「かまわんが借りたものはちゃんと返すんだぞ」 「テヘッ☆」 ………デジャブ。 今日もつまらん授業を終えて放課後になる。 とうぜん俺はいつものように部室へ向かう。…いつもより足が重い。 ガチャ 部室入口の扉を開ければやはり長門が読書をしている。長門はこちらを気にする様子もなく読書を続けている。 「あっ、今お茶入れますね」 朝比奈さんは俺に気づくとパタパタとお茶くみセットの方に走って行った。今日も朝比奈さんは眩いばかりのメイド姿を披露している。朝比奈さん、あなたを見るだけで俺は 無限の癒しを感じることができます。あなたの笑顔は俺のどんな悩みごとも吹き飛ばしてくれます。 「はい、どうぞ。熱いから気を付けてくださいね」 朝比奈さんのお茶で現実世界に帰ってくると昨日の長門の言葉を思い出した。さすがに朝比奈さんの前で昨日のことを長門に聞くわけにもいかず、(いや、たとえ長門と二人 きりだったとしても俺は何を聞けばいいか分からなかっただろう)朝比奈さんといつものように話をしていた。 ガチャリ 「おや、涼宮さんはまだのようですね」 古泉は一通り部室内を見渡すと前髪をちょいと指で弾いて俺の向かい側のいすに座った。 と同時に部室入口の扉が勢いよく開いた。 バン! 「みんなちゃんとそろってる~!」 ハルヒが満面の笑みで入ってきた。こいつのこの笑顔には見覚えがある。なにか余計なものを見つけてきたときの笑顔だ。 「市内で不審人物の目撃が多発!多発よ多発!これは何かあるに違いないわ」 ただの不審人物だろ?何を騒ぐことがある? 「キョン、あんたわかってないわね。不審人物が何もないわけないでしょ!」 「次の土曜日!つまり明日!朝八時に北口駅前に集合ね!遅れないように。遅れたら死刑だから!」 まて、八時だと!いつもより早いじゃないか。 「あたりまえでしょ!探索する範囲が広いんだから」 こりゃ死刑確定だな、なんて思いながらハルヒの明日についての説明を聞いた。 今回もいつものファミレスで市内探索前の会議を開いている。もちろん俺のおごりで。どうして俺のおごりなのかは説明しなくてもわかると思う。 「今日の探索についてはこんなとこ。じゃあふたつに別れるわよ」 そう言うとハルヒは備え付けのつまようじの先端を赤く塗り、頭だけが見えるように五本のつまようじを差し出した。俺たちはそのつまようじを一本ずつ取っていく。 俺の取ったつまようじは先端が赤く塗られていた。 さて、今回行動を共にするのは… ハルヒのつまようじの先端は赤く塗られてはいない。どうやらこいつにあちこち引きずり回される心配はなくなったようだ。 朝比奈さんのつまようじの先端も赤く塗られてはいない。朝比奈さんと楽しいひと時を過ごすのはおあずけか、実に残念だ。 古泉のつまようじも二人と同じ。男二人で仲良く市内探索なんて気持ち悪いのはごめんだ。 …ん?ハルヒも朝比奈さんも古泉も違うとなると… 「じゃああたしたちは北側ね。キョンと有希は南側をお願い。キョン!ちゃんとやるのよ!なまけたら承知しないんだから!」 俺と長門はハルヒたちと駅前で別れてとりあえず歩き出したものの、市内探索をする気なんて毛頭なく、目的もないままさ迷い歩いているだけであった。 いつもは何とも思わない長門の沈黙ぶりが苦しく感じる。ここは何か話題を振るべきか? 「なな、ながと、おまえいつもせいふくだよなー」 「………」 「ながとのしふくすがたもみてみたいなーなんて…ははは」 「………」 「………」 「………」 「とりあえず図書館にでも行くか?」 「…(コクリ)」 初めての市内探索の時に長門と行った図書館に今回も行くことにした。 図書館に入るや否や、長門はふらふらと本棚の方に向かって行った。 俺は館内を見渡し、空いているソファーの席を見つけてそこに座り込んだ。 お気に入りの本を見つけたのか、さっきまで本棚の周辺をふらふらしていた長門は一冊の本を手に俺の隣にちょこんと座った。それは長門らしからぬ行動に思えた。 前回この図書館に来た時は俺のことなんかおかまいなしに本棚の前から動こうとしなかったのに、今は自分から俺の横に来て本を読んでいる。 初めて会った時の長門と現在の長門は明らかに違う。古泉が言い出したことだが俺もその意見には賛成だ。長門のちょっとした仕草や態度が微細に変化している。勘違いなん かではない。顔もメガネっ娘の頃が谷口の言うAマイナーなら今はAプラスかAAぐらいはあげてもいいと思うのは俺だけか?長門は世間一般の目から見ればいわゆる美少女 ってやつなわけで、普通の奴ならその美少女からの告白を断るなんてことはしないだろう。しかし、俺は長門がただの美少女じゃぁないことを知ってしまっている。証拠も存 分に見せつけられた。長門だけじゃない。幸か不幸か、あの日涼宮ハルヒなんていう地雷を踏んでしまったがために、活動目的もはっきりしないSOS団なんてものに入れら れ、毎日ハルヒにこき使われ、普通じゃない奴らと活動し、おまけに宇宙人に愛の告白を受けるはめになった。 頭の中で今までのSOS団活動記録を読み返していると携帯電話がふるえているのに気がついた。―――古泉から? 「今どの辺ですか?そろそろ戻ってきた方がよろしいかと思いますよ。遅れるとまた何があるか…、今の涼宮さんは機嫌がよろしくないようですし」 古泉が気を利かせて電話してきたようだ。無駄に気の利くところが腹が立つ。しかしまあ、遅れてハルヒにまたおごりなんて言われるのもごめんなのでそろそろ戻るとしよう 。 長門の読んでいた本は借りてやり、図書館をあとにした。 駅に向かって歩き、もうすぐ駅前のショッピングモールが見えるあたりに来た時 「そこに居るのはキョンくんじゃないかいっ!おやおやデートかな?隅に置けないね~」 「こっ、これはハルヒ主催の市内探索でして、たまたま…その…あえsrdtふじこkp@;」 「はっはっはっ、わかってるよっ!おおっとそうだっ、これみくるに渡しといてくれないかいっ!みくるのやつ忘れて行ったみたいでさぁ~」 「ノート…ですか?」 「もちろんっ中は見ちゃダメにょろよ!」 「はあ…わかりました」 「じゃあよろしくたのむよっ!にょろ~ん」 相変わらず元気のいい人だ…。 駅に戻ると今回の探索結果に満足のいかないハルヒがなにやら言っていたが、解散することとなった。帰り際に朝比奈さんに鶴屋さんからの預かりものを渡した。朝比奈さん は中を見なかったか何度も聞いてきて、俺はそのたびに見ていないと答えた。実際、本当に見ていないし、見てはいけないものだとわかっていた。なぜならそれは朝比奈さん の日記であったからだ。………ほんとは見たかった。 今日はいつもより寒い。くもりだってこともあるのだろうが、昨日との気温の差で調子が悪くなりそうだ。 こんな日でも授業はあるし、SOS団の活動がなくなるわけでもない。いつものように部室に行き、朝比奈さんの入れてくれたお茶を飲み、古泉とボードゲームをして、ハル ヒのわがままにつきあい、いつものように一日が終わっていく。…予定だったのに今日は古泉に誘われて緑地公園を散歩している。 「~、というわけですよ」 「そうか。で、そんな話のために俺を公園散策に誘ったのか?」 「そうですね、本題に入りましょうか。ふふっ」 なにが ふふっ だ、気色悪い。 「いや~驚きましたよ、よもや長門さんがあなたに愛の告白をしていようとは」 「長門さんでも人を好きになることがあるのですね」 「!!」 どうしておまえが知っている。おまえの機関は長門まで監視しているのか? 「いえいえ、長門さんの監視はしていません。『できない』と言ったほうが正しいでしょうか。そもそも情報コントロールにおいて我々機関は長門さんの足元にもおよびませ ん」 「だったらどうして知っているんだ」 「長門さんから相談されたんです。あなたの行動がデータにあったのと違う。何か間違いがあったのか、と。長門さんにも女の子らしいところがあるのですね」 「で、おまえはなんて答えたんだ?」 「ふふっ。『あなたの予想と違うのならその通りにしてしまえばいい。情報操作で相手の気持ちまでコントロールしてしまえばいかがですか』とね」 ナ、ナンダッテー!!!!まさか長門のことが頭から離れないのはそういうことなのか!!!! 「冗談ですよ。そのような助言はしていませんよ。したところで長門さんが実行するとも思えませんし。」 ふふっと笑う顔が余計にムカつく 「ただ、僕からひとつだけ言っておきたいことがあります。あなたの行動が涼宮さんの感情にどう影響するか、それを忘れないでください」 長門とのことがあったからって急に俺のお昼の時間が変わるわけもなく、いつものようにこうして谷口と国木田といっしょに弁当を食べているわけだが。どうして谷口の話は こう面白くないのだろうか。 「ありゃ完全にデキてるな」 「へぇ~」 「どう思うキョン?」 どうも思わん。 「なんだその反応。つれねー奴だなぁ」 「…そういや昨日、長門を見かけたんだが」 「ぶふぉっ!」 「どうしたキョン?」 「いや、なんでもない。続けてくれ」 「それが朝比奈さんもいっしょでよ、朝比奈さんは楽しそうに笑ってたんだが長門のやついつもの無表情でさぁ」 「へぇ~」 「で、何してたと思う?キョン」 さあな 「なんだよキョン、とうとう涼宮に考えるのも禁止されたか?」 「じゃあ何してたんだよ」 「しらん」 さて、恒例行事となったこの市内探索が今日も始まろうとしている。ただいつもと違うのは長門が私服だということだ。俺が前回あんなことを言ったからか? 「ほら、キョン!くじを引きなさい!っほんとに、ぼーっとしてる暇なんてないのよ!」 どうせ何の結果も得られずに終わるんだから適当にやればいいだろ。 「何言ってるの!!そんなだから何も見つけられないんでしょ!」 はいはい、引けばいいんだろ引けば。 くじ引きの結果俺は朝比奈さんと二人きりで散歩することとなった。このときばかりは市内探索を毎週やってもいいかという気持ちになる。 「大丈夫でしょうか、ゆっくりお散歩なんかしていて。涼宮さんに怒られないでしょうか?」 あんな奴にバレるわけがありませんよ。それにバレたとしても適当な言い訳つけときゃいいんですよ。 「ところで、長門のあの私服、朝比奈さんが選んだんじゃないですか?」 「へっ、あっ、わかります?あの、へん…じゃなかったでしょうか」 いえいえ、とてもよかったですよ。むしろ朝比奈さんに着てほしいくらい。 「よかった…」 「ところで、朝比奈さん長門のこと苦手だったんじゃないんですか?」 「はい…最初は不安だったんですけど、いつもの長門さんじゃないみたいで。いろんなお店をまわっているうちに大丈夫になってきて。ほら、服を選ぶのってすごく楽しいじ ゃないですか。それに、長門さんの私服、とってもかわいいんですよ」 このときから、いや、本当はもっと前から、俺は長門に違和感を感じていた。 またいつものように一週間が始まり、放課後になると俺は部室に行く。 今日は長門以外まだ来ていないようだ。自分でお茶でも入れようかと思ったが、朝比奈さんの入れたお茶の方が何倍もおいしいからここは我慢しておこう。 長門の方を見るといつものようにSFだか哲学だかわけのわからん分厚い本を………読んでない!? よく見ると日に日に増えていく部室の本が減っているような気がする。 「長門、夏休み前に頼んだアレ、もうできたか?」 「………まだ」 「…そうか」 いままで溜まっていた長門への違和感が爆発した瞬間だった。 「ところで長門、俺が頼んだアレってなんだ?おまえに頼みごとをした覚えなんてないんだが」 「………」 「おまえ……誰だ?」 「うふっ…バレちゃったか」 世界がグニャっと歪んだ。今まで部室にいたはずなのにいつの間にかコンクリートの壁だけになっている。 まて!この部屋には見覚えがあるぞ! 次の瞬間、長門が足もとが光りだしその光が見る見るうちに長門を飲み込んでいった。 「どうして…どうしてお前がここにいるんだよ!!」 そこに立っていたのはいるはずのない人物………朝倉涼子だった。 「ああ、勘違いしないで、私はあなたの知ってる朝倉涼子じゃないわ。みての通り私には自分の姿を他人の姿に再構築する力がある。今はあなたに分かりやすいように朝倉涼 子の姿をしているだけ」 なぜだ…なんのために 「ふふ、『強進派は私だけじゃない』って朝倉涼子が言ったはずよ」 「あなたを涼宮ハルヒから遠ざけて、涼宮ハルヒの反応を見ようと思ったけど…失敗ね」 またハルヒか。でも何のために長門に……それに本物の長門はどこだ? 「長門さんなら異空間に閉じ込めているわ。朝倉涼子のときみたいに邪魔されると困るもの。それにあなたや涼宮ハルヒと行動を共にしている長門さんになれば行動もしやす いし。とにかく、邪魔ものの長門有希を消し、その長門有希になりかわるのが一番合理的だったってわけ」 どおりで最近の長門の行動がおかしかったわけだ!俺たちが長門だと思っていたやつは偽物だったんだからな! 「でもそれももう終わり。あなたに気づかれた時点で作戦は失敗。空間閉鎖の力も弱まって長門さんも出てきたみたいだし」 いつからそこにいたのか…気がつくと後ろに長門が立っていた。 「情報連結解除、開始」 長門がそう言うと、あの日見たのと全く同じように朝倉涼子の…いや、朝倉涼子の姿をした奴の身体が消えていった。と同時に周りの様子も元の部室に戻っていた。 とすん、と軽い音がして、俺はそっちへ首をねじ曲げ、長門が倒れているのを発見して慌てて駆け寄った。 「おい!長門、しっかりしろ」 「処理能力を閉鎖空間からの脱出と情報操作で使いすぎた。動くまでに少し時間が必要」 「そうか、ならしばらくこうしてるか」 「WAWAWAわっすれーもの」 ガサツに戸をあけて誰かが入ってきた。 「うおっ!!すまん、ごゆっくり!!」 またおまえか… 毎度のことだが俺の身にどんなことが起ころうともハルヒはいつもと変わらない。なにが起きていたのか知らないのだから当然なのだが。 古泉にはあの後一部始終を話した。話を聞いたあとに何やらしゃべっていたようだがそんなもん覚えていない。 朝比奈さんにはしばらく話す機会がなく、市内探索に制服で来た長門を見て悲しそうな表情を浮かべていた。 長門はいつもと変わらず部室で分厚い本を読んでいる。 いつも長門に助けられてばかりだからな、たまには長門のお願いでも聞いてやろうか。 そんなことを考えながら今日も俺は部室へと向かう。 ちなみに、谷口にあの日のことを問い詰められたのは言うまでもない。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4599.html
長門有希の妊婦生活の続きです 「…あ…。」 「んー?どしたー?」 リビングの隅にあるパソコンを弄っている彼。 顔をこちらに向けずに画面に食いついてる。 「…動いた。」 「なにィィィィ!!?」 一瞬彼の顔が劇画チックに見えた。昼に読んだ漫画のせいかも。 「このッ!俺にもッ!『命』を体験させろッ!」 リビングの絨毯をずらす勢いでスライディング。…ユニーク。 「…もう動いてない。」 「…うー、悔しいなぁ…。」 「きっとすぐ動く。…来て。」 彼を抱きしめて、耳を私のお腹に当てる。 ぽっこりと大きくなった私のこのお腹には、彼との愛の結晶がいる。 どくん 「あ…。…今の?」 「…動いた。」 どくん、どくん 「あ…また……ウヒヒヒ…!」 感極まっているのか、私が妊娠を告げた時のように子供のような笑い声をあげた。 「…ふふふ…。ほーら、パパだよー。元気に育てよー。」 私のお腹をぽふぽふと叩きながら語りかける。 「…ママも、いる。」 彼が顔をあげて見つめてきた。 …ちゅ 「ずーっとご無沙汰だなぁ…。」 私の胸をつつく。 妊娠から8ヶ月、私の胸はその影響で大きく膨らんできている。 「………。」 無言で、目で語りかけてくる。 『やりたいなー…』 もにゅもにゅ… 「…産まれたら…また…。」 言ってすぐに強く彼の肩を押して遠ざける。 …恥ずかしい。 彼はにっこり笑うと(かっこいい…)、私の頭をぽんぽんと叩いて再びパソコンの前に腰かけた。 二ヶ月後――― 「なぁ、いい加減教えろよー!男か?女か?」 「…じき、わかる。それまで秘密。」 「うー、名前決められないじゃないか。」 「…両方考えればいい。」 実は私もどちらか知らない。お医者さんには伝えないでと言ってあるから。 「一応候補はあるんだぜ。」 彼は仕事鞄をゴソゴソ探ると、一枚の紙を出してきた。 「…これは、候補?」 「ああ。…どっちかわかってればもっと絞り込めるのになぁ。」 …紙には、男女の名前。合わせて100以上が載せられている。 仕事中にこんなことを…。 叱りたい半面、嬉しい気持ちもあった。 だから、頬を軽く抓ってそこにキス。 「ふふふ…。なぁ、どれがいいと思う?冬だし、やっぱりそれにちなんだ名前がいいと思うんだ。」 「…これ。」 ひとつの名前を指差す。 …男の名前候補と女の名前候補の真ん中あたりに書かれていた。 「ああ、それか。『男にも女にもつけられそうな名前候補』の中でのイチ押しだっ!」 「…綺麗。」 …う 「…どうした?」 「…産まれそう。」 「な、な、ほんとか!?き、救急車っ!いや、車で病院に直行かっ!」 「…痛い…。」 彼は寝間着の上に私の編んだセーターを着込むと、冷静な動きで支度をしてくれた。 「もしもし、森下産婦人科病院ですか!?…えぇ、私です!あ、赤ん坊が産まれそうなんです!すぐにそちらに向かいます!」 「大丈夫か、すぐ出発するぞ!」 彼は私を支えながら車に乗せてくれた。 霞む視界で車の窓から外を見ると、ちらちらと雪が降っていた。 「すぐ着くからな、それまで頑張れ!」 病院に着くとすぐに分娩室に運ばれた。 …凄く痛い。内臓を直接素手で捻られているかのよう…。 「ほら、頑張って!頭が見えてる!もうすぐあなたは母親になるのよっ!」 母…親… 私にはいない、親。 憧れていた…親子関係。 それが…もうすぐ…。 「それ、もうひとふんばりよっ!」 …っ!! …ぎゃあ、ほぎゃあ…! 産声が分娩室中に広がった。 「頑張ったわね、元気な女の子よ…!おめでとう…!」 「…良かっ…た…。」 「有希…でかしたぞっ…!」 いつの間にか入ってきていた彼は、私の手を握って涙を流している。 …私の、私たちの赤ちゃんは…? 「この子ですよー…抱いてあげてください。……はい、ママですよー?」 赤ちゃんを手渡された。…彼と、私の…赤ちゃん。これで…私は、母…親…。 「お名前は決めてあるんですか?」 「「…はい。」」 彼が言うには、外は…まだ雪が降っていたらしい。 ちらり、ちらりと… 彼と初めて結ばれた あの日のように… 「…みぞれ。……霙。」 長門有希の嫉妬生活へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1179.html
「何よ!キョンのバカ!いいわよもう!」 そうまくしたて、涼宮ハルヒは部室を飛び出した。 「ちょ、おい!待てよハルヒ!」 続いてキョンと呼ばれた少年が彼女を追い、部室を出る。 いつもどおり、というには多少の御幣があるかもしれない。 しかしそれは見慣れた日常。 「やれやれですね、ちょっと用事ができたのでお先に失礼します。」 古泉一樹はいつもの表情でそう言い残し、二人の消えた部室の扉をくぐる。 おそらく閉鎖空間。 涼宮ハルヒが生み出した超空間。 彼はそこで彼女の生み出した神人と呼ばれる巨人を退治する。 神人は涼宮ハルヒの精神とリンクしていて、彼女の精神に苛立ちという異常が現れた際に閉鎖空間と共に現れる。 「あのー、私も、もう今日は帰りますね。」 遠慮しがちに朝比奈みくるは私を見て言った。 返事を待っているのだろうか。 数秒の沈黙が場を支配する。 そう。 私はそう述べると、朝比奈みくるは少し安堵の表情を浮かべ、席を立つ。 誰も居なくなった部室。 私だけしかココにいなかった数週間を思い出した。 なぜ? 私は思考を止める。 なぜ今あの時のことを思い出したのだろう。 停止した思考、まるで時が止まったかのような静寂。 窓の外に目をやると、いつもどおりの空が広がっていた。 本を読もう。 そう思い、先程まで読んでいた書物に目を戻す。 字の一つ一つに思考を合わせる。 世界が揺れ、私は書物に刻まれた著者の思考と一体化する。 夢。 異世界。 冒険。 この時間が一番気に入っている。 私はこの時間、物語の主人公になる。 私はこの時間を好む。 好む。 好む、筈なのに。 エラー。 なぜ?何故? 書物に目を戻しても、もう思考に入り込むことができなかった。 頭の隅が重い。 それは、人が言う、感情。 私にもわずかだが感情が持たされている。 でも普段はそれを重要視することなどない。 朝倉涼子のように感情に身を任せることなど、しない。 絶対に。 本当に? まるで心臓をつかまれているように。 私を取り込んでいく感情。 これは、何。 これはなにこれはなにこれはなにこれはなにこれはなに 落ち着いて。 私は必死に理性の糸を手繰る。 まるで濁流の中で蜘蛛の糸を紡ぐ感覚。 私は思考をめぐらせる。 思考することで感情を押しとどめる。 恐怖。 私は恐怖しているのだろうか。 だとしたら何に。 そんなもの知らない、私は私。 ただのヒューマノイドインターフェイス 「それは、逃げよ?」 幻覚。 そう、それは幻覚。 私の中の朝倉涼子が呟く。 「自分に、素直になりなさい?」 イヤ。 「なんで?」 朝倉は寂しそうに尋ねる。 イヤ。 「私は知っている」 何を。 「あなたが感情から逃げる理由。」 私が、逃げる、理由? 「そう、あなたが逃げる理由。」 イヤ、聞きたくない。 「あなたはね、」 やめて、お願い。 やめて、やめてやメてヤめテヤメてヤメテヤメてヤメテヤメテ 感情が心臓を握りつぶす。 自分でもわかるぐらい、顔をしかめる。 隠していたはずの表情が、顔に表れる。 「皆が好きなのよ。」 ス……キ? 「だから、誰も傷つけたくないの。」 私は彼女を見上げる。 夕方だからだろうか、その表情は陰に隠れて読むことができない。 しかし、こころなしか、寂しそうに感じた。 「誰も傷つけたくないから、感情を押し殺す。」 そう。 私は誰も、傷つけたくないの。 だからこれでいい。 これでいい、これでいいの。 そう思考するたびに、胸が痛くなるのは、なぜ? 「本当にいいの?」 朝倉涼子の手が私の頬に触れる。 「いいわけないじゃない。」 今度ははっきり表情が読み取れた。 彼女は泣いていた。 なぜ? 私の思考は完全に停止した。 朝倉涼子は寂しそうな、悲しそうな、哀れむような、そんな目で私を見た。 彼女の言葉に耳を傾ける。 「私はあなたの影、だからわかるの。」 何を? 「あなたは、望んでいるの。」 何を? 「あなたは、願っているの。」 何を? 「寂しいんでしょ?」 サミシイ? 私は、寂しいの? そんなはずはない。 生まれてから三年間、私は一人だった。 「変わったのよ。」 何が? 「あなたが」 私が? 「そう、あなたが」 どうして? 「それは知らないわ。」 教えて。 「だめ」 教えて、このままじゃ、私。 朝倉涼子の頬に手を伸ばす私。 わたしは、こわれてしまう。 「ごめんね」 姿をかき消す朝倉涼子。 宙を掴む、私の手。 心臓がつぶれる。 エラーに、感情に押しつぶされる。 誰 か 私 を 「…な………と」 ……? 「……がと」 ………誰? 「長門!」 …………!!! 「長門、起きたか?」 彼がそこにいた。 私は、寝ていたらしい。 机に突っ伏して。 隣で彼が座っていた。 彼は心配そうに私を覗き込む。 「うなされてたぞ」 私が? 「宇宙人でも夢、見るのか?」 記憶中枢がある限り、生命体は皆、夢を見る。 「そうか」 私は、彼を見上げた。 「長門?」 寂しかった。 不意に、私の頬を何かが伝う。 「長門?」 涙? 私の? 「どうした?」 顔を逸らす、彼の顔をまともに見ることができない。 なんでもない。 「本当か?」 大丈夫。 「そうか。」 そう。 数秒間の沈黙が場を支配した。 これでいい、これでいいはず。 私は対有機生命体コンタクト用インターフェイス。 これでいいはず、これで、いい。 「何か、できることはないか?」 私は彼を再び見上げた。 私を心配している。 心配、してくれている。 私の体を支配していた、エラーが取り除かれる。 理解、した。 私は不意に、彼の胸に顔をうずめる。 「長門?」 5度目の呼びかけ。 少し驚いたような声 もう少し、このままで。 そう呟き、私は目を閉じる。 「……わかった」 彼の手が、私の頭を撫でる。 暖かい。 暖かい、暖かい。 ありがとう。 -長門有希の深淵 完-
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4593.html
(長門有希の結婚生活 [R-18]の続き) 「おめでたです。」 産婦人科の先生にそう告げられた。 結婚してから一年半、ようやく私も母親になれるのだ。 彼にはどうやって伝えよう? 昔の私なら単調に事実を告げるだけだったかもしれないけど、今は違う。 どうにかして彼を喜ばせたい。 方法1:数日間思いきり冷たくしてそれから発表 …駄目。 冷たくしたら彼の私に対する態度も冷たくなるだろう。 そんなの堪えられないし、胎教に悪い。 方法2:以前のように豪華な夕飯、お風呂の後にラブラブ発表 …いい。 けどいつも通り過ぎて思い切り喜ばせるのには向かないかもしれない。 最悪の場合これでいこう。 方法3:いつも通り普通に過ごし、夜寝る前に発表 …これ? いつも通りだからかなりのハプニングになるはずだ。 取り乱す彼を想像するとつい口元が緩む。 方法4:妊娠検査の紙を「あのー…」 「…?」 「……後がつかえてるので…とりあえず待合席のほうに行かれて貰えますか?」 「…失礼しました。」 医者の前で考えを巡らせていたようだ。 あの様子からすると口に出してたのかも知れない。恥ずかしい。 家に着いた。 帰り道にずっと考えていたけど、方法は③にする。 彼には気付かれないようにしよう。勘が鋭いから。 「ただいまー。」 「…おかえりなさい。」 いつも通りに彼を玄関で待ち、いつも通りに鞄を受け取り、いつも通りに食事の準備。 「…どうしたんだ?」 ギクリ …いつも通りに…。 「…何が?」 「いや…なんていうか、いつも通りだなぁ…と思って。」 「…いつも通りなんだからいつも通りなのは当たり前。」 「あ、いやまぁ…そうだけどさ。…なんていうか、必死にいつも通りを装ってるように見えて。」 …彼はいつも以上に勘が冴えている。 「なぁ、有希。酒飲まないか?」 コタツでくつろいでいると彼はビールを手に私の前に座った。 酒は赤ちゃんに悪い。いつも通りなら断らないけど、こればっかりはダメ。 「…いい。」 「なんだよぉ、飲もうぜー?」 …?いつもならたいていの事は一度断れば引き下がるのに。珍しい。 「…今日はあまり飲みたくない。お酌ならする。」 「…そっか。じゃあ頼むよ。」 軽いおつまみを作って、彼のお酒に付き合った。 今日の彼はいつもよりご機嫌に見える。 多分私が赤ちゃんができた喜びでそう感じるだけだろうけど。 「なぁ…風呂、一緒に入らない?」 …妊娠中の性行為は赤ちゃんに影響がある。 必ずヤるとは限らないが、可能性は1%でも消しておきたい。 「…いい。」 「また?…なんか怒ってる?」 こればっかりは勘が外れたみたい。違う、とても喜んでる。 「…そんなことない。ちょっと恥ずかしい。」 「何がだよ、いつも一緒に入ってるじゃないか。」 「…少し、太ったから。」 咄嗟に嘘をついた。彼に嘘をつくのは初めて。 …悪意のある嘘ではないから許されるはず。 「なるほどなぁ…そうは見えないけど…嫌なら仕方ないか。」 ちょっとかわいそう。 「背中流すだけなら…。」 パァッと彼の表情が明るくなった。 「ああ、お願いっ!」 …この表情が好き。好きすぎてどうにかなってしまいそう。 シャコシャコ 彼がお風呂から出た後、私もお風呂に入った。 さぁ…もうそろそろ打ち明ける時間。 彼の慌てる顔は最近見てないからとても楽しみ。 私がお風呂から出ると、彼はベッドの上でニコニコして私を見つめてきた。 「有希、マッサージしてあげるぜ。」 …まずい。 もしかしたらそのままセックスに持ち込まれるかもしれない。 持ち込まれてから断るときっと彼は落ち込む。それだけは阻止したい。 「…いい。代わりに私があなたに。」 「んー、俺が有希にしてやりたいんだけどな。…じゃ、先にやってくれ。その間に気が変わったらいつでも言ってくれればいいから。」 コクリと頷く。 彼の背中に跨がり、肩甲骨の辺りを指で押す。 彼がいない間、ツボ押しの本を読んだことがあるので知識としては心得ている。 気持ちよかったのか、始めてから10分ほどすると彼は寝息を立て始めた。 しまった…。伝えるタイミングを逃した。 いや…違う。 ここでちょっと起こして、寝ぼけた頭にサプライズで相乗効果が生まれるかもしれない。 気付いて笑いが込み上げてきた。つくづく私は人間になれたんだなと実感する。 布団に潜り込む。 さて、起こそう。 「…あな「なぁ有希」 …驚いた。私が逆に驚かされた。 「寝てたのかと。」 「いや、驚かそうと思って。びびっただろイテテテテ…」 彼の頬を引っ張る。なんか悔しい。 「驚くのはまだ早いぜ。」 「え?」 「俺、係長に出世した。」 …?……? 「…本当?」 「ああ、どうだ、驚いたか。いやー、いつも通りに振る舞って驚かす作戦はせいこイテテテテ!」 …夢じゃないらしい。 「…自分ので確かめろよなぁ。」 「おめでとう。」 彼をぎゅうと抱きしめる。 あぁ、先に驚かされてしまった。しかも考えていたことまで一緒だなんて。 喜ぶ雰囲気に溢れている今明かすのは癪だけど仕方ない。 「…私も、伝えたいことがある。」 「ん?なんだ?」 落ち着く為にすぅと息を吸って…。 「赤ちゃんができた。」 「…はい?」 「赤ちゃんができた。」 「ほんとに?」 「本当。」 「マジ?」 「マジ。」 彼はプルプルと震えている。 だんだん泣きそうな顔になってきた。…喜んでない? 「でかしたぞ有希ィー!!!」 大声をあげて私を強く抱きしめてきた。 「やった、俺と有希の子供か!嬉しい、嬉しいなぁ!」 「…私も。」 顔が熱くなるのを感じた。よかった、喜んでくれて。 一瞬でも喜んでないかもと考えた自分を叱る。そんなはずないのだから。 「今日は本当に素晴らしい日だ!名前は何にしようか!?」 「…まだ、気が早い。男か女かもわからない。」 「わかってるよ!両方考えるんだよ!ウヒヒヒ、楽しみだ!…あっ…。」 喜びのあまり彼は笑いながら涙を流している。…切ない気持ちになった。 「…ほんとに…嬉しいなぁ…。」 私を抱きしめてくれた。…ああ…私は愛されている。こんなにも。 世界中の人に自慢してやりたい。これが私の最愛の主人と。 「…愛してるぞ。」 「…私も。」 「『私も』だけで濁すなよ…。…愛してるぜ。」 「…私も、愛してる。」 布団の中で見つめ合い、少し笑って、キスをして、眠りについた。 名前は何にしよう? 私もほんとは気が早い。 だって彼との愛の結晶。 気が早くなっても仕方ない。 朝、いつもより早く目覚めた。 「ムニャムニャ…」 彼が何か寝言を言っている。 「産まれた…俺の子…よくやった…有希…ムニャムニャ…」 …ほんとに…気が早い。 これは私への愛の深さと受け取っておこう。 了 長門有希の妊婦生活2へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2642.html
長門有希の憂鬱Ⅰ 四 章 長門有希の日記 こちらの世界へ来て二年が過ぎた。 情報統合思念体からの連絡はない。支援もない。誰も助けに来ない。 このまま時が過ぎれば、わたしの有機サイクルはいつか性能の限界に達し寿命を遂げる。 それまで、色がない世界でわたしの思考回路は物理的に機能するだろう。 それならばわたしはいっそ、目を閉じ、耳を塞ぎ、口をつぐんだ生命体として生きようと思う。 わたしは長期の待機モードを起動させた。 果たして奇蹟は起きるのだろうか。 タクシーの運転手に住所を棒読みで伝えると、十分くらいでそのアパートの前に着いた。 二階建ての二階、二〇五号室……。郵便受けにもドアにも表札らしきものはなかった。 呼び鈴を押した。こんなにドキドキするのは久しぶりだ。 赤の他人だったらなんとごまかすか、新聞の勧誘にするか、布団の販売にでもするか。 反応がない。もう一度呼び鈴を押した。やっぱり違うんじゃないか?。 それから郵便受けに戻り、周りに誰もいないことを確かめてからフタを開けた。 テレクラやらヘルスやらのチラシが詰まっているだけで、宛名を書いた郵便物は入ってなかった。 三度ノックして反応がないので俺はドアの前に座り込んだ。尻にあたった床のセメントが冷たい。 ここにいるのが長門でなければ、俺はこれからどうしよう……。 そんな先のことを考える気力はもう残っていなかった。 谷川氏の家にやっかいになりつづけるわけにもいかないよな。 長期戦になるかもしれない。とりえあずバイト探して、アパートでも借りるか。 向こうの世界はよかった。なんだかんだいって俺はあの生活が気に入っていた。 ハルヒはどうしているだろう。古泉は。俺がこのまま帰らなかったら向こうの世界はどうなるんだろうか。 もう日はとっくに暮れていた。 俺は長門のマンションにいた。長門が荷造りしていた。 どこかへ引っ越すのかと尋ねると、情報統合思念体のところに帰る、と答えた。 おい待てよ、俺を、ハルヒを置いていくのか。長門の腕を握った。 「自分が来たところに帰る」 「待ってくれ。いきなり帰るなんて言わないでくれ。お前がいなかったらSOS団はどうなるんだ。俺は!?」 長門はそれ以上何も言わなかった。そして一冊の本をくれた。 それからおもむろに和室に入ると、ふすまを閉めた。 俺がふすまを開けると、そこにはもう長門はいなかった。 俺の手にはエンディミオンがあった。 長門はさよならも言わずに消えた。 そこで、目がさめた。 見上げると、暗い藍色の空から雪が降っていた。 あたりはシンと静かで、すべての雑音を消してしまいそうな白いカケラが舞い降りてくる。 誰かが階段を上がってくる足音がした。怪しまれてはまずいとは思ったが隠れる場所もない。 このまま寝たフリをするか、あるいは立ち上がって今しがた尋ねてきたフリをするか。 階段を上り詰めた足音がはたと止まった。俺は立ち上がってそっちを見た。 「キョ……」 長門だ。やっと見つけたのだ。 俺はなにも言わず、長門もなにも言わなかった。 下げていた買い物袋を床に落とし、ゆっくりとこちらに歩いてきた。 なにかを言いたげな複雑な表情をして、俺の背中に細い腕をまわし、そして胸に顔をうずめた。 いつもの長門らしくない衝動に、俺は少しだけ動揺した。胸に暖かく濡れたものを感じた。 長門の髪に、綿を連ねるようにゆっくりと雪の切片が舞い降りた。 「長門……泣いてるのか」 「……」長門は顔をすりつけたまま動かなかった。 「あちこち探したぜ」 長門よ、お前もずいぶんと人間くさくなっちまって、俺は嬉しいよ。 俺と知り合った頃は無表情で無感情だった宇宙人製アンドロイドも、SOS団の連中と付き合ううちに、 人間特有の性質が身についてしまった。本人は気がついてないかもしれないが、俺はずっと観察していた。 情報統合思念体から見れば有機生命体の人間なんて、 ネズミとドングリの背比べ的な知性の低さを見て取っているかもしれないが、 人間それだけじゃないものもある。だからこそ稀有な存在なのだろう。 宇宙的にユニークと言った、長門よ、お前もそうなりつつあるんだよ。 「寒いから部屋に入れてくれないかな」 俺はかじかんだ手で長門の背中をさすった。 「……」 長門は手のひらで涙をぬぐって、表情を見せないようにそっぽを向いた。 ドアを開けると、六畳ひと間の、古びたアパートの部屋につつましい生活空間があった。 マンションに住んでた頃も元々モノ持ちなほうではなかったが、家具はほとんどなかった。 ぎっしり詰まった本棚を除いて。 それから俺は、長門がこっちの世界に来てからどう過ごしていたかを聞いた。 「わたしがこちらの世界に来たのは、約五年前。 ここでは情報統合思念体が存在しない。涼宮ハルヒという人間も存在しない。 そのためにわたしは長期の待機モードに入った」 いわば宇宙探査船が未知の星に漂着し、資源を節約するため乗組員が低温スリープに入るようなものか。 「身よりもなくてどうやって食ってたんだ?」 「……パチンコ」 パチンコ!?生活力あるなお前。 「この付近一帯で採用されているパチンコ台はすべてクリアした。スロットの目押しも習得した」 目押しって神業だぞ。 財布の残りをいつも心配していた俺より、ずっとたくましいよ。 「毎日、本を読んで過ごした」 俺は改めて部屋を見回した。 相変わらず本が好きなようだ。部屋の壁が本棚で埋め尽くされている。 「あの文庫本を書いた作家に会ってみたよ。事情を話すと協力してくれてな、ここまで来れたんだ」 「谷川流には前に接触を試みた。だがコスプレと思われて門前払いされてしまった」 なんてこった。谷川氏が言ったとおりだったか。 「それ以降、谷川流に接触する人間を監視していた。二年が経過した時点であなたは現れないと判断した」 「向こうの世界とこっちの世界の違いは何だ?接点は谷川氏だけなのか」 「限定された情報から推測すると、この世界はわたしたちがいる世界の平行世界。 ただし、わたしたちは谷川流の脳内にだけ存在する」 「それがこっちの世界の俺たちか」 「そう」 「そうか……俺もよく分からないんだが、なんでお前だけ五年前に飛ばされたんだ?」 「情報が限定されすぎていて分からない。 でも、位相変換がはじまったとき、わたしが無理に止めようとしたために時間軸が狂った可能性はある」 「古泉も言ってたんだが、敵対する組織とかいうやつらの罠じゃないか」 「その可能性もある。危険を回避するために、この時空でのわたし自身のアイデンテティを消した」 要するに身元を消したってことか。 「こちらの世界では、長門有希は創作上の人物でしかない。それをノイズとしてうまく身を隠すことができた」 なるほど。どおりでなかなか探し出せなかったわけだ。 俺はとりあえず谷川氏に電話することにした。 「もしもし谷川さんですか、キョンです。長門を見つけました。ええ、無事です」 谷川氏は驚嘆していた。まさか自分の作中の人物が実在するとは、聞かされていたとはいえ衝撃だろう。 「ええと、今日はここに──」マイクを押さえて長門に向き直った。「今日ここに泊めてもらっていいか?」 「……いい」 「ここに泊まります。じゃあ、明日伺います」 俺は電話を切った。長門は心なしか喜んでいるようではあるが。 「これからどうする。向こうの世界に帰る方法はあるか?」 「分からない」 忘れていたことがあった。 「これ、喜緑さんから預かったんだが」俺はバックパックから、例の黒い球を取り出した。 「……」長門は目を丸くした。 「渡せば分かると言っていたが、これはいったい何なんだ?」 「これは……空間を封じ込める技術」 「すまん、なんだって?」 「空間がこの球の内側に折りたたまれている。位相変換せずに次元を超えて物質を転送したいときに使う」 それで喜緑さんか。 「何が入ってるんだ?」 「素粒子がひとつだけ」 「素粒子って、宇宙を飛んでる、原子より小さいアレか。たったひとつだけ?」 「そう。この状態を維持するには莫大なエネルギーが必要。この大きさでは素粒子一個が限度」 「これを何に使うんだ?」 「おそらく緊急通信用。素粒子は通常、粒子と反粒子のペアになっている。 片方の素粒子に与えた情報は他方に伝わる。このペアのもうひとつは、情報統合思念体が観測しているはず」 つまり、異次元間での通信用か。 「ただし、一度しか使えない。この素粒子が情報を持って向こうの素粒子に遭遇すると消滅してしまう」 「助けを求めるチャンスは一度きりってことか」 「そう」 数年分の物理の授業を受けたような気分だ。とりあえずは帰る切符はあるということか。 気が付けば腹の虫が鳴いていた。 「もうこんな時間か、腹減ったな。どこかに食べに行くか?」 「……晩ご飯、作る」 そう言って、さっきの買い物袋を広げた。冷蔵庫を開けると材料はあるようだ。 長門の手料理は久しぶりだ。 いつだったか朝比奈さんと三人で食べたのは缶カレーの大盛りだったか。 味噌汁に魚の塩焼きに、肉じゃが、か。見る限り、あれから料理も習得したらしい。 「……おいしい?」 「うん。うまい。いい嫁さんになれそうだ」 ふつうならここで女の子がポッとか顔を赤らめてくれそうなんだが、長門には通じない。もくもくと食っている。 長門はふとなにかを思い出したように箸を止めた。 「この世界にひとつ、謎がある……」 「なんだ?」 「わたしが誰かの配偶者だという情報を多く見かけた」 「そうなのか」 「“長門は俺の嫁”って、何」 「なんだそりゃ」 「コンピュータネットワーク上でよく見かける」 「さあ、なんだろう。初耳だが。だとするとお前の旦那は大勢いるってことだな」 「……」 長門は無言のまま複雑な表情で食い続けた。 「水が沸いた。水温40℃」 「ああ、風呂か。今日はほこりだらけだからな。ありがたい」 浴室を見ると、石鹸やらシャンプーやらナイロンタワシやらが一切ない。 「お前はふだん風呂に入らないのか?」 「わたしにはナノマシンによる自浄機能がある。通常、風呂は必要ない。 ……それにレディにそんな質問をしてはいけない」 「そ、そうか、禁則事項だよな。すまん」野暮なことを聞いた。 「コンビニで入浴セットを買ってくる。歯ブラシも」 俺はどうも、長門の人間っぽい面とそうでない面のギャップについていけてないようだ。 この後がちょっと問題だった。 「布団が一組しかない」 「じゃあ俺は毛布かなんかあればそれでいいよ」 「……風邪を引きかねない。一緒に寝ればいい」 「それはいくらなんでも困るぞ」 「なぜ」 いやまあ、なんというか。俺もいちおう男だし、健康な男子だし、 というか長門とひとつの布団で寝るというシチュエーションが嫌だというわけじゃないが、 長門とあらぬ関係にでもなったら情報統合思念体に殺されかねんわけで、 ハルヒに知られたら三度殺されて三度蘇生されて三度埋められるだけじゃ済まない。 などと俺がブツブツ言っている横で、長門は押入れから布団を出して広げた。 ともあれもう十二時だ。昼間の疲れと、やっと会えた安堵も手伝ってか、睡魔が襲ってきてどうしようもない。 俺は迷いつつ布団に潜り込んだ。長門に背を向けて。 長門は蛍光灯のスイッチを引いて、音を立てずにそっと布団に入ってきた。 目をつぶること三十分。あれほど眠かったはずが待てど暮らせど眠れない。頭の後ろに長門の視線を感じる。 朝比奈さんが長門のマンションに泊まったとき、 寝てるときに長門に見られてる感じがして落ち着かない、と言っていたのを思い出した。 「長門よ」 「……なに」 「頼むから眠ってくれ。見つめられてると落ち着かん」 「……分かった」 長門が孤独に暮らした五年間を思えば、それくらい我慢してやれという誰かの声がした。 妥協案として長門のほうに向き直り、手を握ってやった。 そこからの記憶はなく、泥のように眠った。夢は見なかった。 「起きて」 長門の声で目を覚ました。昨日までの出来事が夢ではないことを確認するために周りを見回した。 「ああ」それからちゃんとズボンを履いたままであることを確認して安心した。かなり寝苦しかったはずだが。 「おはよう。今何時だ?」ちゃぶ台の上に朝飯が用意されている。 「八時二十四分十五秒」 「今日の予定は、とりあえず谷川氏に連絡してどうやって向こうに帰るかを話し合うことだな」 「朝ご飯、食べて」 「お、おう」 なんだか昭和四十年代の歌謡曲に出てきそうな風景だが、ひとつだけ言わせてもらえば、長門の味噌汁はうまい。 「長門」 「なに」 「ボクの髪が肩まで伸びたら、元の世界に帰ろう」 「……分かった」 そこ、笑うとこ。 俺は長門を連れて谷川氏のお屋敷に行った。 おばあちゃんが出迎えてくれた。 「めっさかわいいお嬢ちゃんじゃないかねっ。寒かったろう。さあさあ、おあがり」 「……」誰かの面影があることに長門も気が付いたようだ。 座敷に通された。 「谷川さん、長門を連れてきました」 「はじめまして谷川です」谷川氏は少し照れたような、感激したような微妙な表情を浮かべた。 「……長門有希」長門は少しだけ頭を下げた。 二人とも無言だった。どうも空気が固まっている。 「ええと、長門がこっちに来たのは五年前で、存在を知って一度は谷川さんに会おうとしたらしいです」 「ああ、やっぱりそうなのか」 「……あのときは制服を着ていた」 今日は珍しくタートルネックの黒のセーターを着ているが、それでか。 「それで、俺たちがどうやって向こうに帰るか、なんですが」 「そう、それが問題だね」 「いちおう、向こうの世界と連絡は取れるらしいんです」 俺はバックパックから、例の黒い玉を取り出して見せた。 「これは?……重いね。何かなこれ」 「向こうの世界の素粒子が入ってるらしいんです」 「ほう……そんなことができるんだ?」 「向こうの情報統合思念体が俺に託したんです。連絡用らしいですが」 長門が人差し指を立てた。 「連絡は……一度」 「ニュートリノと反ニュートリノが遭遇するとき、向こうに情報が伝わるってわけだね」 さすがSF作家だ。 「連絡はつくとして、どうやって向こうに帰る?物理的な転移が必要だろうけど」 長門は谷川氏に向き直り、 「あなたが小説を書けば、そのとおりになる」と言った。 「僕が?」 「わたしと彼は、あなたの書いたストーリーの上を歩いてきた。 帰るための手段も、それに従う」 「ええと、じゃあきみたちを元の世界に返す方法を僕が決めればいいわけか」 「……そう」 「これからの展開の中にそれを含めて出版されればいいわけだね」 「そう。ただし十三巻には時空の歪みが内包されている。 向こうの世界からこちらの世界への接触はできないように書き直してほしい」長門が答えた。 こちらの世界の情報は、わたしたちがいた世界に漏れてはならない、 情報は一方通行でなければならない、長門はそう言った。 「分かった。今回の現象も含めてプロットとして書いておこう。で、きみたちは同じ手順で向こうに戻る」 「同じ手順と言うと?」 「その地上絵をもう一度登場させて、向こうの世界への扉が開く」 長門がちょっと考え込んで言った。 「その場合、扉は、向こうから開かなくてはならない。情報統合思念体の支援が必要」 「どうやって支援を頼むんだ?」俺が聞く。 「この素粒子球で座標を伝える」長門が黒い球を指した。 「そうだ。これはそのために用意されたんだね」谷川氏がうなずいた。 パズルのピースがすべてはまった。決行は、今夜だ。 「あの、ひとつだけお願いが。できれば今後、ハルヒにはあまり無茶をさせないでください」 「分かったよ。ほどほどにする。ただし読者を満足させられる程度には」谷川氏は笑った。 近頃の読者は、登場人物の血を見ないと満足しないから怖い。 「鉛筆……買って」 「何にするんだ?」 「信号を送るのに必要な材料」 「鉛筆でいいのか」 「地上絵の信号を素粒子球を通じて送る。 それには広い場所と光を放つ発火性の物質が必要」 広い場所は北高グラウンドでいいだろう。東中は一度やってるんで怪しまれるとまずい。 「発火性の物質って、花火みたいなもんか?」 「そう。大量の水と空気。鉛筆を二十キロ。それらから核融合する」 「二十キロ分か」核融合って……そんな簡単にできるのか。 空気はそのへんにあるとして、水はプールのたまり水を使おう。 この時期はだいぶ汚れてるだろうが。 導火線変わりに使うという灯油を二缶、谷川氏に頼んだ。 ええと鉛筆一本が十グラムくらいか。とすると二千本必要だな。十二で割ると……。 「鉛筆は百六十六ダース必要」考えていると先に言われた。 文房具店をいくつかハシゴしないといけないな。 俺と長門は、とりあえず北口駅まで買出しに出かけることにした。 百貨店のテナントで半分の量の鉛筆、さらに別の専門店で残りを調達した。 突然の大量購入は断られるかと思ったが、店員は喜んでいたようだ。 鉛筆を大人買いしたのははじめてだ。 俺は段ボール箱いっぱいの鉛筆を抱え、汗を垂らしながら歩いた。 帰りの道すがら、長門がふと足を止めた。 「……行きたいところが、ある」 「どこに?」 「……」南西の方を指した。 長門は黙って歩き始めた。 この方角は……、勘は当たっていた。図書館だった。 中に入ると暖かい空気が二人を包んだ。 紙とインクの匂いと、それから何か分からない安心させるこの雰囲気は、どこの世界でも同じかもしれない。 そういや、受付のお姉さんに頼みごとをしたままだったな。 俺はカウンターまで行って、長門を指して無事会えたので、と伝えた。 お姉さんは俺と長門を交互に見つめ、微笑んでいた。 「あなたの学生手帳、貸して」 「いいけど、何するんだ?」 長門は黙ってなにかの書類に記入し始めた。それをカウンターに持っていって、数分して戻ってきた。 「これ……記念に」長門の差し出した手に貸し出しカードがあった。 「ああ、ありがとう」 二年前、同じことを長門にしてやったな。そのお礼か。 何の記念だか分からないが、とりあえず受け取っておいた。たぶんもう、借りに来ることはあるまい。 それから長門は、あのときと同じように本棚の群れの間をさまよっていた。 俺も同じことをするか。空いてるシートに腰掛けて居眠りを決め込んだ。 夜九時、俺たち三人は十分に暗闇が降りてから行動を開始した。 車で学校の前を通り過ぎ、離れた空き地に止めた。 俺は大量の鉛筆を抱え、谷川氏は両手に灯油のタンクを抱えていた。 あきらかにタンクのほうが重いので変わりましょうかと言ったのだが、谷川氏はたまには運動しないとねと言って譲らなかった。 タンクを抱えての柵越えはちょっと大変だった。 正門から忍び込むと明らかにあやしい集団に見えるので、西側まで回って入り込んだ。まあどこから入っても十分あやしいんだが。 タンクはグラウンドに置いておき、先にプールへ向かった。懐中電灯で照らすと、水はあるようだ。 「鉛筆を入れて」長門が言った。 俺は箱を崩しながら鉛筆をバシャバシャ放り込んだ。長門は箱もいっしょに放り込んだ。 「紙もいいのか?」 「いい。必要なのは、炭素」 そういえば鉛筆の芯は炭素の同位体だったな。 それから長門はおもむろに右手をかざし、詠唱をはじめた。次の瞬間、プールの真中を軸に凄まじい旋風が起こった。 水が十メートルほど立ち上がったかと思うと、竜巻になり、そして黒い粉のような塊となって落ちてきた。 「ちょ…ちょっと口の中が……」その場にいた俺と谷川氏が、声を枯らしてのどと目を押さえた。 「……す、すまない。うかつ」 長門はあわてて二人をひっぱり、プールから離れた。 「周辺の水まで奪ってしまった。すまない」俺の水分が材料になったってわけか。 長門は学校の外へ走り去ってゆき、缶のお茶を二本持って戻ってきた。 「あー、コンタクトレンズがパリパリ言ってるよ」谷川氏が目をこすった。 「……もうしわけない」 「プールでなにを作っていたの?」 「炭、硫黄、マグネシウム、銅、その他可燃性の金属。そしてそれらの混合物」 「つまり、花火の材料か」 「……そう」 中世に行って錬金術師にでもなれるんじゃないか。 プールに戻ってみると、水と同じ体積の、灰色の粉らしきものが出来ていた。 「これ、どうやって運ぶんだ?」 「……任せて」 長門はもう一度右手を上げて、「今度は、大丈夫」と言ってから呪文を唱えた。 プールを埋め尽くしていた粉が、さっきと同じくらいの高さに立ち上がって球になり、少しずつ小さくなっていった。 最後はソフトボールくらいの球になった。 長門は空になったプールの底に下りていって、その球を拾い上げた。 「分子圧縮した」簡単に言ってるけど、すごいよ長門さん。 それから三人はグラウンドに行った。幾何学と測量の出る幕だ。 まず俺が巨大な正方形の頂点に二メートルくらいの棒を立てる。 暗くて分からないので、棒の先にペンライトを巻きつけた。 まず点を結んで線を引き、正方形を作る。 その頂点に対角線を二本引き、真中を割り出したところで上下左右の辺に垂線を引く。 これで内側に正方形が四つ現れる。 さらにその正方形の内側に正方形を作り、それを繰り返して碁盤状の正方形が出来上がった。 地上絵は、大きく二つの部分に分けることができる。 隣に同じ大きさの正方形をもうひとつ描いた。これで二つの絵が描ける。 あとは長門の指示で各マスの辺に点を置いてゆき、それを繋いでいくと絵が仕上がる。 これ、GPS使ったらもっと簡単にいきそうなんだが。 線に沿って灯油をちょろちょろと撒いた。これが導火線になる。 その上に長門がさっき作った球を持って火薬のウネを作った。 球から延々灰色の粉が流れ出て、長い山になっていった。 球はちょうど文字の最後の部分で消えた。 「警備会社の巡回まであんまり時間がない。急ごう」谷川氏が言った。 「わたしが素粒子球を上空千メートルまで投げる。合図をしたら、火を付けて」 「分かった」俺は手にもった松明に火をつけた。 「そろそろはじめますか」 「今のうちにお別れを言っとくよ。また会おう。作中でね」谷川氏が手を差し出した。 「いろいろとありがとうございました」俺は手を握って振った。 何度お礼を言っても足りない。この人がいなかったらずっとホームレスを続けていたかもしれない。 犀は投げられた。すべての準備が整った。 「谷川さん、カウントしてください」 「いくよ」 三、二、一、GO! 長門の手から勢いよく球が飛んでいく。 「今」 俺は地面に火を放った。まばゆい火柱が足元を走った。 青白く、さらに緑に、そして赤く燃える地上絵がグラウンドに浮かび上がる。 三秒、四秒、五秒……。見えはしないが黒い球が落ちてきているはずだ。 まだか、まだなにも起きない。 「特異点が発生した。向こうの次元が開いた」 長門が上を指差した。上空、百メートル付近だろうか、白い光の球が生まれた。 それが徐々に膨らみはじめ、そして落ちてくる。 長門は強引に俺の手をひいて、地上絵のまんなかに走った。球がちょうど真上から落ちてくる。 白い光はさらに膨らんで、直径三メートルほどにまでなっただろうか。 球が俺たちの上に落ちてきた。二人は球の中へ入った。 「目を閉じて!」長門が叫んだ。まぶたを閉じても強い光が目に飛び込んでくる。 強い地響きのような振動がまわりを包んだ。 俺と長門は互いに強く抱きしめ合い、光の中で、一瞬よりは長い永遠の間、じっと待った。 光が徐々に引いていく。目を開けて後ろを振り返ると、うっすらと消えていく谷川氏が親指を立てていた。 ── アスタラビスタ。 気が付くと、いつもの風景の中にいた。夜の北高のグラウンド。 前には同じ景色の中を神人に追われてハルヒと走った。 俺と長門はどちらとも、しばらくなにも言わなかった。 抱き合ったままだということを思い出して、俺は長門から腕をほどいた。 「俺たち、ちゃんと帰ってきたのかな?」 「こっちの標準時と同期した。今、情報統合思念体と話している。五年分のレポートをアップロード中」 「そうか。長門は無事に取り戻したからと言っといてくれ」 こういう場合の気分だ、少しはヒーローを気取ってみたい。 「伝える」 俺も自分の組織である家に帰ろう。というか、古泉に連絡を入れないとな。 あいつが思い余ってハルヒにすべてをぶちまけてしまう前に。 「古泉か、今帰ってきた。長門も無事だ」 携帯が通じる。どうやら帰ってきたようだ。俺の自宅にいるという未来の俺と遭遇しないように手配を頼んだ。 「マンションまで送っていくよ」 「……」この無言は俺の知る長門の表現では、ありがとうという意味。 俺は夢でも見ているかのように、終始ぼんやりとしたまま坂を下った。疲れてるんだろう。 見知らぬ世界へ行って、そして今帰ってきたという現実に、まだピンと来ていない。 マンションに差し掛かると長門が口を開いた。 「お茶、飲む?」 「さすがにちょっと疲れたから、今日は帰るわ。それに俺を待たせてるし」 何言ってんだろ俺、みたいな気がしたが長門には通じたようだ。 「……そう」 「じゃあ、またな」俺は元気なく手を振った。 長門はいつまでも俺を見ていた。 振り返るたびに小さくなっていく長門に向かって俺は、大丈夫だ、明日も会えるから、と手を振った。 わずか数日留守にしただけだったが、翌朝の俺はずいぶん懐かしい気持ちで学校へ行った。 ハルヒも、クラスメイト全員も、なにも変わっていなかった。 「懐かしいな、谷口」 「なに言ってんだお前、昨日いたじゃねえか」谷口が怪訝な顔をしていた。 昨日か、そんな遠い未来のことは知らん。 「キョン、おっはよ」さらに懐かしい声がした。 「お、おう」 俺はハルヒの顔をまじまじと見つめた。 「な、なによ。あたしの顔になんかついてるの?」 「いや、なんでもない」 やっぱりこいつがいないと俺の生活ははじまらない。 俺の居場所は架空なんかじゃない、嫌になるほどリアルなSOS団が存在する、こっちの世界だ。 俺は壁にかかっているカレンダーを見た。 長門がこっちの世界から消えて七日間、俺がこっちを出て四日間、俺の主観時間と一致する。 昨夜、古泉に電話して未来の俺を呼び出してもらい、古泉の家に引き取ってもらった。 未来の朝比奈さんとはまだコンタクトできないらしい。 ということは俺は古泉の家に数日泊まることになるわけか。 あいつの哲学やら能書きやらに何日も付き合うはめになるのかと思うと、今から気持ちが萎える。 耐え切れなくなったら長門のマンションにでも泊めてもらうとするか。 放課後、ひさしぶりの部活である。 俺の学業生活は放課後がメインなんじゃないかと思うくらい、この時間が来ると気分が開放的になる。 「あたし掃除当番だから。先行ってて」 我が団長様は教室の掃除か。ご苦労さま。 俺がいない間も、たぶんなにも変わらない日常が続いていたんだろうな。 こんな平穏な毎日が続けばいい、そう思う。 文芸部部室のドアノブに手をかけたところで、誰かが俺のベルトを引っ張る。 「……話がある」 長門、用があるときは袖を引いてくれと。それから、突然現れるのは心臓に悪いから。 「で、話ってなんだ?」 「情報統合思念体が、向こうの世界に関する記憶を消したほうがいいと言っている。 平行世界との論理的逆説を招きかねない」 「そうなのか……俺はできれば忘れたくないんだが」 あのとき、谷川氏が別れ際に見せた笑顔が忘れられない。 「俺の記憶が消えてもお前は覚えているのか」 「わたしの記憶からも消去される。以降、あの本と谷川流に関する情報は禁則事項となる」 「それはなんだか寂しいよな」 「情報統合思念体のアーカイブには保管される。必要なときに封印が解かれる」 「長門を見つけ出したときの、あの瞬間は忘れたくないんだが」 長門はちょっとだけ考えて、 「希望するなら、そのままでもかまわない。でも、言葉にしようとすると抑制がかかる」と言った。 「分かった。未来人の禁則事項と同じだな」 「古泉一樹と朝比奈みくるの記憶は消去する」 「しょうがない。やってくれ」 「……あなたは外にいて」長門はドアを開けて中に入った。 「な、長門さんなにするんですかぁ!?」 「長門さん、それはあまりに大胆すぎます!うわああ」 部屋の中から、椅子がひっくり返る音、それからキャーともギャーともつかない叫び声が上がった。 な、中で何が起こってるんだ? ハラハラドキドキして楽しんでいると、しんと静まり返った。 おもむろにドアが開いて、いつもより涼しい顔をした長門が出てきた。「……終わった」 「あなたの番」 「き、禁則事項ってどうやるんだ?」まさか脳を切開して取り出したりしねーだろうな。 「……こう」 長門は両手で俺の頭を抱えて「少しかがんで」と言った。俺は言われるままに頭を長門の顔に近づけた。 やわらかく暖かい唇を額に感じた。 ── あなたの中にわたしの記憶があれば、それでいい。 長門、その言葉、忘れないよ。 「もう!有希ったら一週間もどこ行ってたのよ!心配したじゃないの」 ハルヒが珍しく半ベソをかいている。長門の首に巻きついて離れない。 「エルサルバドルの両親に会いに行った。進路のことで」 「だったら連絡くらいしていってよね。だいたいエルサルバドルてどこよ」 「ラテンアメリカですね」聞かれもしないのに古泉が答えた。 「エルサルバドル、中米の小国家。人口約六五八万人。 面積は約二万一千平方キロメートル。国内総生産は百六十六億ドル」 長門、それは詳しすぎて逆にあやしい。 しかしホンジュラスとかエルサルバドルとか、アンドロイドはなんでラテン系が好きなんだ。 「おかえりなさい。無事でよかった」 ドアが開いて喜緑さんが登場した。 長門は喜緑さんと特殊な方法で会話でもしているのか、数秒見つめあった。 「キョンくん、おつかれさま」喜緑さんが笑顔で言った。 「いえいえ、いろいろとありがとうございました」 アンドロイドにもこういう、喜緑さんみたいな感情豊かで優しいタイプがいるんだよな。 「これ」長門がハルヒに向かって、なにやら袋を差し出した。 「あたしにお土産?」 「……そう」 袋の口を開けるとコーヒー豆の缶が出てきた。 「へー。コーヒーの産地だったんだ」ハルヒが嬉しそうに言う。 長門がチラリと俺を見た。これしか手に入らなかったからしょうがないんだ、とでも言いたげな目で。 「どこかでコーヒーメーカーを手配しないとね、みくるちゃん」 「あ、ハイハイ。明日、ドリッパーとマグカップを持ってきますね」 朝比奈さんメニューにコーヒーが追加されましたか。待ち遠しいです。 その後のことを、少しだけ話そう。 長門だが、あいつはふだんと変わりない、いつもの長門に戻ったようだ。 今回のことで、あいつと俺の間に、見えない親密ななにかができたように思う。 「なあ長門、いつかふたりでどこか行かないか」 「……また、図書館に」 「そうか。ほかに好きなところへ行ってもいいんだぞ」 「……図書館」 長門にはそれ以外ないようだ。まあ帰りに映画にでも連れてってやろう。 「ハルヒには内緒でな」 「分かった」 長門はひとことだけうなずいて、また本の世界に戻っていった。 俺の財布には今も、存在しないはずの西宮市立図書館のカードが入っている。 いつか、この禁則が解けたら、長門にも話してやろうと思う。 そう、とりあえずは俺たちを生み出した、谷川氏のこと。 ── また会おう。作中でね。 もう一生、出会うことはないだろう。少なくともこちらの世界からは。 谷川さん、しばらくはハルヒをおとなしくさせてくれたら助かります。 俺は上でもなく東でもなく、どっちか分からないあっちの世界に向かって祈った。 しかしこれもまた、谷川氏も含めた今回の出来事が、 別の世界の誰かの頭の中に存在する物語である可能性を、俺は否定できないでいるのだ。 END 長門有希の憂鬱Ⅰプロローグ 長門有希の憂鬱Ⅰ一章 長門有希の憂鬱Ⅰ二章 長門有希の憂鬱Ⅰ三章 長門有希の憂鬱Ⅰおまけ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4287.html
(長門有希の結婚生活 [R-18]の続き) 「おめでたです。」 産婦人科の先生にそう告げられた。 結婚してから一年半、ようやく私も母親になれるのだ。 彼にはどうやって伝えよう? 昔の私なら単調に事実を告げるだけだったかもしれないけど、今は違う。 どうにかして彼を喜ばせたい。 方法1:数日間思いきり冷たくしてそれから発表 …駄目。 冷たくしたら彼の私に対する態度も冷たくなるだろう。 そんなの堪えられないし、胎教に悪い。 方法2:以前のように豪華な夕飯、お風呂の後にラブラブ発表 …いい。 けどいつも通り過ぎて思い切り喜ばせるのには向かないかもしれない。 最悪の場合これでいこう。 方法3:いつも通り普通に過ごし、夜寝る前に発表 …これ? いつも通りだからかなりのハプニングになるはずだ。 取り乱す彼を想像するとつい口元が緩む。 方法4:妊娠検査の紙を「あのー…」 「…?」 「……後がつかえてるので…とりあえず待合席のほうに行かれて貰えますか?」 「…失礼しました。」 医者の前で考えを巡らせていたようだ。 あの様子からすると口に出してたのかも知れない。恥ずかしい。 家に着いた。 帰り道にずっと考えていたけど、方法は③にする。 彼には気付かれないようにしよう。勘が鋭いから。 「ただいまー。」 「…おかえりなさい。」 いつも通りに彼を玄関で待ち、いつも通りに鞄を受け取り、いつも通りに食事の準備。 「…どうしたんだ?」 ギクリ …いつも通りに…。 「…何が?」 「いや…なんていうか、いつも通りだなぁ…と思って。」 「…いつも通りなんだからいつも通りなのは当たり前。」 「あ、いやまぁ…そうだけどさ。…なんていうか、必死にいつも通りを装ってるように見えて。」 …彼はいつも以上に勘が冴えている。 「なぁ、有希。酒飲まないか?」 コタツでくつろいでいると彼はビールを手に私の前に座った。 酒は赤ちゃんに悪い。いつも通りなら断らないけど、こればっかりはダメ。 「…いい。」 「なんだよぉ、飲もうぜー?」 …?いつもならたいていの事は一度断れば引き下がるのに。珍しい。 「…今日はあまり飲みたくない。お酌ならする。」 「…そっか。じゃあ頼むよ。」 軽いおつまみを作って、彼のお酒に付き合った。 今日の彼はいつもよりご機嫌に見える。 多分私が赤ちゃんができた喜びでそう感じるだけだろうけど。 「なぁ…風呂、一緒に入らない?」 …妊娠中の性行為は赤ちゃんに影響がある。 必ずヤるとは限らないが、可能性は1%でも消しておきたい。 「…いい。」 「また?…なんか怒ってる?」 こればっかりは勘が外れたみたい。違う、とても喜んでる。 「…そんなことない。ちょっと恥ずかしい。」 「何がだよ、いつも一緒に入ってるじゃないか。」 「…少し、太ったから。」 咄嗟に嘘をついた。彼に嘘をつくのは初めて。 …悪意のある嘘ではないから許されるはず。 「なるほどなぁ…そうは見えないけど…嫌なら仕方ないか。」 ちょっとかわいそう。 「背中流すだけなら…。」 パァッと彼の表情が明るくなった。 「ああ、お願いっ!」 …この表情が好き。好きすぎてどうにかなってしまいそう。 シャコシャコ 彼がお風呂から出た後、私もお風呂に入った。 さぁ…もうそろそろ打ち明ける時間。 彼の慌てる顔は最近見てないからとても楽しみ。 私がお風呂から出ると、彼はベッドの上でニコニコして私を見つめてきた。 「有希、マッサージしてあげるぜ。」 …まずい。 もしかしたらそのままセックスに持ち込まれるかもしれない。 持ち込まれてから断るときっと彼は落ち込む。それだけは阻止したい。 「…いい。代わりに私があなたに。」 「んー、俺が有希にしてやりたいんだけどな。…じゃ、先にやってくれ。その間に気が変わったらいつでも言ってくれればいいから。」 コクリと頷く。 彼の背中に跨がり、肩甲骨の辺りを指で押す。 彼がいない間、ツボ押しの本を読んだことがあるので知識としては心得ている。 気持ちよかったのか、始めてから10分ほどすると彼は寝息を立て始めた。 しまった…。伝えるタイミングを逃した。 いや…違う。 ここでちょっと起こして、寝ぼけた頭にサプライズで相乗効果が生まれるかもしれない。 気付いて笑いが込み上げてきた。つくづく私は人間になれたんだなと実感する。 布団に潜り込む。 さて、起こそう。 「…あな「なぁ有希」 …驚いた。私が逆に驚かされた。 「寝てたのかと。」 「いや、驚かそうと思って。びびっただろイテテテテ…」 彼の頬を引っ張る。なんか悔しい。 「驚くのはまだ早いぜ。」 「え?」 「俺、係長に出世した。」 …?……? 「…本当?」 「ああ、どうだ、驚いたか。いやー、いつも通りに振る舞って驚かす作戦はせいこイテテテテ!」 …夢じゃないらしい。 「…自分ので確かめろよなぁ。」 「おめでとう。」 彼をぎゅうと抱きしめる。 あぁ、先に驚かされてしまった。しかも考えていたことまで一緒だなんて。 喜ぶ雰囲気に溢れている今明かすのは癪だけど仕方ない。 「…私も、伝えたいことがある。」 「ん?なんだ?」 落ち着く為にすぅと息を吸って…。 「赤ちゃんができた。」 「…はい?」 「赤ちゃんができた。」 「ほんとに?」 「本当。」 「マジ?」 「マジ。」 彼はプルプルと震えている。 だんだん泣きそうな顔になってきた。…喜んでない? 「でかしたぞ有希ィー!!!」 大声をあげて私を強く抱きしめてきた。 「やった、俺と有希の子供か!嬉しい、嬉しいなぁ!」 「…私も。」 顔が熱くなるのを感じた。よかった、喜んでくれて。 一瞬でも喜んでないかもと考えた自分を叱る。そんなはずないのだから。 「今日は本当に素晴らしい日だ!名前は何にしようか!?」 「…まだ、気が早い。男か女かもわからない。」 「わかってるよ!両方考えるんだよ!ウヒヒヒ、楽しみだ!…あっ…。」 喜びのあまり彼は笑いながら涙を流している。…切ない気持ちになった。 「…ほんとに…嬉しいなぁ…。」 私を抱きしめてくれた。…ああ…私は愛されている。こんなにも。 世界中の人に自慢してやりたい。これが私の最愛の主人と。 「…愛してるぞ。」 「…私も。」 「『私も』だけで濁すなよ…。…愛してるぜ。」 「…私も、愛してる。」 布団の中で見つめ合い、少し笑って、キスをして、眠りについた。 名前は何にしよう? 私もほんとは気が早い。 だって彼との愛の結晶。 気が早くなっても仕方ない。 朝、いつもより早く目覚めた。 「ムニャムニャ…」 彼が何か寝言を言っている。 「産まれた…俺の子…よくやった…有希…ムニャムニャ…」 …ほんとに…気が早い。 これは私への愛の深さと受け取っておこう。 了 長門有希の妊婦生活2へ
https://w.atwiki.jp/rowacross/pages/197.html
/ / / l | l l ヽ i / ;イ i | l|; li; |、; l l .l / l | /! | li lヽ l. ヽ; l l | l | | -i-L;;_l .|!i l ヽ l ヽ、__;;;; | l | ! .| l __;;;|_ l l`ヽヽ; l ヾ;レ‐'''゙゙´\ | l l! .| / ___ノ,ィ'ト|''=ミ、 ヾ! ,r-=fニミ;;弍;;| l~゙'i l/ ,/ト、 l゙__゙ヾ ii |ヽ ,/ .| illi ゙ii/ | j¨゙ l /⌒ヾ、|/`fト l ゙K);j .l'⌒''h. K);;;;ッリ l / .ノ /‐-、 `iノ /'ヽ|、xxxxノ ヾ、xxxxxx,/ | /=7゙ ./ 、. ヽ |゙V,_ l i、 ̄ 丶 ゙''ー-‐'' ,l /| ;/ i '゙ヽ_j-' .| |.\ ‐- ,,イ / ,l/ ヽ ヽ jl l. ヽ、 , ''゙ / /゙`ヽ、 ヽ、. /ヽ | ,,`=ー '''i´ / ;/レ'〉; ; ; ; ,.,\ / /. ヽ | ,,r''゙,.; ; ;r''゙~ノ /イ /; ; ; ; ; ; ; ; ; ; 「ユニーク」 SOS団の宇宙人。 スタンダードなアニ長門、ヤンデレのニコ長門(暗黒長門)、主催者を務めるksk長門と、バリエーションは豊富。 クロススレではその中でも、朝倉の婿であるカオスロワの真・長門の出番が多い。 ちなみに婿と言っても、性転換をしたわけではない(近いことはできるらしいが)。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/35.html
長門「……」 女子「あれ~、長門さんノートびりびりじゃん」 長門「………」 女子「そういえば長門さんの本がトイレに落ちてたよ」 長門「………」 女子「なんで長門さんスリッパなの?」 長門「…………」 女子「なんか喋りなさいよ!!」 長門「…………」 女子「そういえば長門さんのバック焼却炉に落ちてたから今頃燃えてるかもね」 女子A「また一人で本読んでるの?」 女子B「友達がいないからしょうがないよwww」 女子C「あんたみたいなやつ死ねばいいのに」 長門「・・・・助けて」 女子A「あんたなんか助けるやつなんているわけ無いでしょwww」 長門「助けて~!!」 長門「来てくれた、呼べば必ずやってくる無敵のヒーローが」 長門「いけぇ、スーパーピンチクラッシャー、パワードライフル!!」 長門「いでよ大いなる翼ピンチバードッ!!超ピンチ合体、グレートピンチクラッシャー!!」 長門「逆転閃光カ・・・・ブツブツ」 女子A「うわ、きも」 女子B「自分の世界に入っちゃってるよ」 女子C「もう行こ」 長門「……」 女子「あれ~、長門さんノートびりびりじゃん」 長門「………」 女子「そういえば長門さんの本がトイレに落ちてたよ」 長門「………」 女子「なんで長門さんスリッパなの?」 長門「…………」 女子「なんか喋りなさいよ!!」 長門「…………キ」 女子「えっ?」 長門「…ザラキ」 女子「……………」 返事はない 屍のようだ 長門「キョン・・・痛い・・・」 キョン「我慢しろ、その内気持ちよくなる」 長門「あっ・・・んっ・・・」 キョン「そろそろ場所変えるぞ」 長門「あっ!・・・そんな激しくされると・・・」 キョン「もうちょっと強くして良いか?」 長門「・・・いい」 キョン「よし・・・」 ハルヒ「ちょっとあんたたち何やってるの!?いやらしい!」 キョン「何って・・・」 長門「足ツボマッサージ」 ハルヒ「・・・」 キョン「・・・」 長門「・・・」 ねえ、長門 いつだったかな、あんたがぶっちょーづらで本読んでる姿を何度も横目で見てるうちに、思ったんだ この子は、一人で立ってるんだ、この息苦しい教室の中で、って それが私には、すごくカッコイイことに思えたんだ ねえ、長門 その日、あなたは弁当のデザートに、こんにゃくゼリーを持ってきていたよね あの時ね、私も持ってきてたんだ、こんにゃくゼリー 私は、これは運命だと思った ガキっぽいかもしれないけど、とにかく私はあんたと仲良くなれるって思った ねえ、長門 私たちのこの関係が、ずっと、ずっと続けばいいね 長門も、そう思ってくれてるのかな 女子「さあ食べなさいよ、この冷凍こんにゃくゼリーを!」 長門「ぃ……っ」 女子「冷たいでしょ?痛冷たいでしょ?それをこのこんにゃくゼリーも味わってるのよ!さあ食べなさい!食べて弔いなさい!」 長門「ぅっ……んむ」 しゃりしゃり 女子1「ぁの変人はチョーキモフィスなんた”けど”」 女子110「まじ通報しなぃ?」 女子A「私の代わりに氏んで」 女子B「あんた、まさか長門に転送する気?」 長門「………」 女子A「良いじゃない、こんな娘居ても変わらないわよ。この娘が氏んでも代わりはいるもの」 長門「………」 女子A「なんか言いなさいよっ!」 女子A「本当に転送するわよ!?」 長門「…………」 女子A「喋れ!喋れ!今喋らきゃ貴女を殺しちゃうんだ、だから喋ってよ!」 長門「…アンチATフィールドか」 ハルヒ「私が負ける、こんなただの有機生命(ryに」 長門「ああ、そうさ俺はただの有機生命(ryだ!!」 長門「ちゃんとした戸籍もねぇ、団長って立場もねぇ」 長門「だがひとつ、ひとつだけてめぇに勝ってるもんがある」 長門「これが、これだけが俺の自慢の彼氏だ~」 キョン「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 長門「結晶体から吸収した力ようやく名前が決まりました私が決めました、 喰らいなさいほわいととりっく」 朝倉「ぐわぁぁぁぁぁ」 長門「ぇ~んどぶらっくじょーか~」 朝倉「ぎにゃぁぁぁぁぁ」 キョン「長門!!」 長門(……キョン……) 長門「!」 長門「やはり…わたしは…まちがってなかった……が……ま………」 長門「まだ死んでいない」 キョン「アッー!!」 もしも長門がブサイクだったら ハルヒ「この子はSOS団に必要不可欠な無口根暗ブサイク腐女子キャラなんだから!」 キョン「眼鏡はなくてもあってもどうでもいいぞ。おれデブ専じゃないし」 みくる「長門さん・・・そんなに叩いたらキーボードが・・・あと椅子も・・・上着もはちきれそう」 古泉「いきますよ~、シッボーメ」 谷口「長門有希。Dマイナーだな・・・」 ハルヒ「SOS団から脱会した以上君は私にとってただの邪魔者」 長門「朝倉ぁぁぁぁぁ」 ハルヒ「これでは、古泉の仇はとれないな、一冊たりとも本がよめずプライドの保持に執着する」 ハルヒ「それ」 長門「ハルヒィィィィィィ」 長門「部屋が欲しいわけじゃない、ただ静かに本が読める場所が欲しかった」 長門「そうだ、いまもそうだそのためにこの根暗ヒステリックを倒さなければいけないのなら」 長門「もはや他にはなにもいらない」 ハルヒ「だが私とて負けられない、キョン」 ハルヒ「よくぞ掴んだ長門ぉぉぉぉ」 ねえ、長門 あれから八年が経ったね 私ね、今こんにゃくゼリーの制作会社で働いてるんだ いろんな味のこんにゃくゼリーを開発して、地球の砂漠化を食い止めるから だから長門、あんたも応援してね 天国から見守っていて ―長門は、死んだ、こんにゃくゼリーを喉に詰まらせて ―女子は今でも、毎月長門の墓にこんにゃくゼリーを供えに行っている ―この美しくも儚い友情、いや、むしろ愛情とも呼べたに違いない ―それを産んだのは、まぎれもない、こんにゃくゼリーだった こんにゃくゼリーの憂鬱 制作:マンナンライフ 長門有希(長門有希) 女子(女子) 女子H(杉本彩) 女子SEX(インリン) キョン「そういえば、長門が好きな食べ物って何なんだ?」 ハルヒ「あっ、気になる!気になる!」 長門「・・・、乾電池」 キョン「!!?」 ハルヒ「!!!」 みくる「???」 長門「・・・、ジョーク」 キョン「おっ、お前も冗談を言うのか」 ハルヒ「きょ、キョンよりは良い線行ってるわね!」 みくる「(´_ゝ`)」 ピコピコ 長門「これなに」 キョン「え?あぁこれはカビゴンだよ」 長門「カビ・・ゴン」 ガッガッ 長門「どかない」 キョン「えーと・・・そいつは笛で起こさないとダメなんだ」 長門「・・・笛」 スタスタ キョン「お、おい?どこ行くんだ?」 長門「・・・」 スッ 長門「これ」 キョン「い、いや、リコーダーじゃ無理だと思うな」 長門「・・・」 ピーピー キョン「・・・ハァ・・・貸せ」 長門「・・・(コクッ)」 女子C「クスクス、また一人で本読んでるわ~」 女子D「あんな青春で面白いのかしら~、クスクス」 女子E「シッ!きこえちゃう、クス」 女子F「クスクス、ほらっ見てるわよ~クスクス」 月斗「ハーン!」 キョン「おい!テメー!なんだその目は」 長門「・・・ッ!!」 キョン「俺が働いてやってるから生きていけるっていうのがわからねえのか!」 長門「あっ!!・・・っ!!」 長門は夫であるキョンから暴行を受けていた 毎日のように殴り蹴られ、一切の抵抗を許されない 長門の体には、常にどこかしらあざがあった キョン「くそっ!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!お前も人間離れした頭してっからな!さぞかし俺を見下してるんだろ?」 長門「・・・そんなこと・・・」 ボコッ ドカッ パシンッ キョンは容赦なく長門を痛めつけた キョン「くそっ!!くそっくそっ!!」 付き合っていた頃のキョンは優しかった、一体何が彼をここまで変えてしまったのか 淡い思い出が長門の脳裏に思い出される 長門「・・・げほっ・・・」 それでも、ボロボロにされても長門はキョンから離れられなかった キョン「く・・・そっ・・・うぅぅぅ、、あぁぁぁ、、ひっくひっく」 長門「・・・。」 キョンはいつも暴力をふるった後に泣き崩れた、この哀れな存在をほっておくわけにはいかなかった それに、長門のおなかには新しい命も宿っていた・・・ やがて二人の間に子供が生まれた。すると一時的に、キョンは暴力をやめるようになった 生まれてきた子供のことを一緒に喜び、あやし、育てた。長門はこれ以上ない幸せを感じていた しかしそんな楽しい日々も、たった半年で終わってしまった 赤ちゃん「ホンギャー!!オギャー!!」 バンッ!! 長門と赤ちゃんが一緒に寝ている寝室のドアが勢いよく開く。そこにはキョンが鬼の形相で、二人をにらみつけていた キョン「おまえっ!!まだわかんねえのか!!いい加減夜泣きはやめろ!!」 赤ん坊に安眠を邪魔されたキョンは、いまにも赤ん坊につかみかからんばかりだった その形相を見て、赤ちゃんはさらに勢いよく泣いた 赤ちゃん「ふぇぇぎゃあぁぁあ!!おんぎゃぁぁぁ!!」 キョン「こいつ・・・!!」 長門「やめて・・・赤ちゃんは・・・泣くのが仕事・・・」 この言葉を聞いてさらにキョンは逆上した キョン「泣くのが仕事だと!?だったら俺の仕事と交換しろ!!俺がどんだけ辛い思いで仕事してるのかわかってるのか!!」 パシンッ!! それだけ言うと、キョンは長門に平手打ちを入れて、ずかずかと自分の寝室に戻っていった 赤ちゃん「んぎゃー!!んぎゃー!!」 長門「・・・ごめんね」 ながとはギュッと赤ん坊を抱きしめた ~長門自宅編~ 長門「………ただいま」 ???「………」 長門「………さみしくなかった?」 ???「………」 長門「………良い子」 ???「………」 長門「………かわいい」 ………ナデナデ ファービー「ファ~ア~、ヨク、ネタ」 キョン「長門、めがねが無いほうが可愛いぞ。俺に眼鏡属性は無いからな。」 長門「眼鏡属性って何?」 キョン「ただの妄言だ。」 長門「・・・教えて。」 長門はキョンの頭を両手で引き寄せ、問うた。 長門「・・・教えてくれるまで返さない。」 キョン「っと・・・そのだなぁ・・・眼鏡属性ってのは、もぇに似たも・・・」 谷口「wa、wa、wa 忘れ物~。」 キョン「た、谷口!!!違うんだ!!長門が貧血で倒れてだなぁ・・・」 谷口「・・・うぅぅ・・・おしあわせにっ!!!!」 谷口はダッシュで逃げた 長門「 わ、・・・わ・・・わ・・・わすれ・・・もの~」 長門「わっわっわーわすれものー♪」 長門「Wa、wa、wa忘れ物~♪」 キョン「Wa、wa、wa忘れ物~♪」 長門、キョン「Wa、wa、wa忘れ物~♪」 長門、キョン、谷口「マンナンライフの蒟蒻畑~♪」 ハルヒ 「有希!あんたのルギア、あたしのコイキングと交換しといたわよ!」 長門 「…251匹、コンプリート…」 ハルヒ 「?」 長門 「赤いギャラドス育てちゃって…コイキングゲットするの忘れてたの。」 女子「ジャムパン要る?」 長門「…………要る」 長門は死んだ………ジャムパンと思っていたのにこんにゃくゼリーが………なぜ……? 長門 「…ごめんね。ごめんね…」 ハルヒ 「カーット!OK!いいじゃない有希!あんたが本当に泣けるとは思わなかったわ!」 みくる 「感動しました…」 古泉 「良かったですよ。有希さん、キョン君。」 長門 「…」 キョン 「お疲れ、長門。痛くなかったか?」 長門 「大丈夫。でも…」 キョン 「?」 長門 「少し、心が痛い。」 キョン 「…わかったわかった。」 ギュ ハルヒ 「…長門に心なんて…」 みくる 「嬉しそうですね、有希ちゃん…」 ハルヒ 「も~!いいわよ!キョンなんてしるもんですか!私はみくるちゃんで我慢するわよ!」 古泉 「うほっ、いい百合…」 そんな、蒟蒻畑。 女子A「また一人で本読んでるの?」 女子B「友達がいないからしょうがないよwww」 女子C「あんたみたいなやつ死ねばいいのに」 長門「初めてですよ…ここまで私をコケにしたおバカさん達は…」 女子A「え?」 長門「ハルヒ特選隊の反応がありませんね……あなた達がやったんですか?」 長門「ぜったいに許さんぞ、虫けらども!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」 長門「光栄に思うがいい!この変身まで見せるのは、貴様らが初めてだ!」 古泉「僕はそうですね・・・・やはりガチホモでしょうか。」 キョン「じゃあ俺はアナルか。」 みくる「あの~私は・・・・・」 キョン「ああ、朝比奈さんはいいんですよ。その巨乳と無能さは十分なネタになります。」 ハルヒ「ちょっと誰よ!私の腕章にDQNって書いたの!」 長門「私は・・・蒟蒻・・・」 キョン「ん?なんか言ったか長門?」 長門「いい」 キョン「さーって珍しく部室にはまだ誰も来てないようだし、朝比奈さんの画像で抜くかな。」 キョン「あぁ良いよ朝比奈さん、朝比奈さん。最高だ。中に出すよ。うっ!」 ガチャ キョン「( ゚д゚ )」 長門「どう見ても精子です。」 キョン「本当にありがとうございました。」 長門 「…」 キョン 「よ、長門…ってうわ!びしょびしょじゃねえか!」 ハルヒ「ど、どうかしたの?」 長門 「なんでも、ない。」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 長門 「…」 女A 「ちょっと頭が良いからって、クール気取ってんじゃねえよ!」 女B 「あんたなんか誰も認めてないんだから!」 長門 「…私、部活があるから。」 女A 「!…だから、そういう態度がムカつくってんだよ!」 バッシャーン! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ハルヒ「なんでもないことないでしょ!言いなさい!」 長門 「なんでもない。」 ハルヒ「有希!」 長門 「なんでもない!」 ハルヒ「!」 キョン 「(長門が…怒鳴った。)おいおい、下着が透けて見えるんだけど…」 古泉 「志村ー!逆!逆!」 キョン「さーって珍しく部室にはまだ誰も来てないようだし、こんにゃくゼリーの画像で抜くかな。」 キョン「あぁ良いよこんにゃくゼリー、マンナンライフ。最高だ。中に出すよ。うっ!」 ガチャ キョン「( ゚д゚ )」 長門「どう見てもマンナンライフです。」 キョン「本当にありがとうございました。」 長門「私は認めない。これはこんにゃくばたけよ。」 キョン「現実から目を背けるな。それは… プッチンプリンなんだよ!!!!!!!!!!!!!!」 女子「ぷるん。」 長門「ぷる?」 女子「ぷるぷるぷるるん。」 長門「ぷるるるぷるん。」 女子「ぷるぷる。」 長門「ぷるぷる。(こくり)」 女子Y「…な、なんだろうねあれ。」 女子Z「…。」 女子Y「Zちゃん?」 女子Z「…ぷる?」 女子Y「ひっ!?」 キョン 「こんにゃく畑、ねぇ。(ツンツン)」 ばたけ 「…!(プルプル)」 キョン 「え?今何か不思議な動きをしたような…(ツンツンツン)」 ばたけ 「…!!(プルルン)」 キョン 「…クッ、わかったぜ。お前は…長門だな!」 ばたけ 「…ばれたか。(プルルン)」 キョン 「いただきまーす。」 長門有希死亡 TO BE CONTINUED 長門「ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる!THE・ワールド!時よ揺れろ!」 ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる 長門「そして時は震えだす…」 ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる キョン「ZERYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」 キョン「なぁ長門」 長門「…………」 キョン「俺そろそろ帰るけど……」 長門「…………」 キョン「い、一緒に帰ろうか?」 長門「…………」 キョン「……いや、なんでもない。それじゃ……」 長門「……待って(ギュ)」 キョン「?」 長門「……これ読み終わってからでいい?」