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53.ローマ帝国 キャラ説明 【ローマ帝国】 難易度: 豪快な性格で地中海の覇者。ヴァルガス兄弟の爺ちゃん。 体力と気力が高く、性的なこともバッチコイ状態なので調教は楽かと思われる。 とにかく孫が大好き。 キャラステータス +... 53. ローマ帝国(ローマ爺ちゃん) 【基本情報 】 体力 5000 気力 2000 【素質 】 気丈 好奇心 楽観的 目立ちたがり 貞操無頓着 解放 恥薄い 痛みに強い 汚れ無視 快感に素直 両刀 謎の魅力 大柄体型 オトコ 人気 絶倫 女好き 【初期能力】 技巧 3 露出癖 2 料理技能 2 歌唱技能 2 【初期経験】 性交経験 100 【相性】 フェリシアーノ・ヴァルガス 200 ロヴィーノ・ヴァルガス 170 ルートヴィヒ 150 フランシス・ボヌフォワ 170 ちびフェリシアーノ 200 ちびロヴィーノ 180 神聖ローマ 180 若フランシス 180 ゲルマン 180 名前 コメント すべてのコメントを見る
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前へ 岡井さんと矢島さん、二人の間に流れていた、ほんわかした空気が変わったような気がした。 ケンカとか、そういうんじゃないけれど、決してよくない感じの・・・。それがなんなのか、私にはよくわからないけれど。 「あの、えと・・・そろそろ、一人で寝られるようにしないと、と思って。年齢も年齢ですし」 岡井さん、寂しがりだってブログでも言ってたっけ。一人部屋が割り当てられちゃった時には、矢島さんの部屋で眠ってるっていうのも、どこかで見たような気がする。 その話なのかな。確かに、ずっと部屋に来てくれてた人が急にそうしなくなると、不安になっちゃうかも。 「でも、なっきぃの部屋には行っているんでしょ?なっきぃがそう言ってたよ」 「ふがふがふが」 なんだか、意外な気がした。 私的に、矢島さんってこんなにガーッと迫ったりするタイプじゃないのかなって、思ってたから。 ℃-uteの皆さんの中では少し年齢が上だから、後ろから見守るポジションっていうか。 「私、ちっさーの嫌がることしちゃったかな?」 「あの、そんなことはないです。ただ、舞美さんのご迷惑になるかと・・・」 「ううん、全然!ちっさーが来てくれると、嬉しいよ。だって、気持ちいいから、抱いてると」 ――おお、びっくりした。矢島さん、すごい言い回しするんだなあ。 中学生としては、だいぶ深読みしてしまうお言葉だけど・・・まさか、そんな、ねえ?矢島さんが完璧美人すぎるから、一瞬少女漫画に出てくる超カッコイイ男の子みたく思えちゃったけど。 「矢島さんは岡井さんを抱いている・・・」 「ちょっと、まーちゃん!あれは抱き枕っぽい意味だからね?またそーやって」 「まーちゃん知ってますしおすしさやし。何で慌ててるんですかー」 「なっ・・・もう、ほんとなんなの!」 思わず大きな声を出すと、二人の先輩は、同時にこっちを振り返った。 「あっ!ご、ごめんなさ・・・」 「ぎょえー岡井さーん」 私のわきをすり抜けて、まーちゃんが一直線に岡井さんの懐へ飛び込んでいこうとする。 これはやばい。今までの経験から、この後の展開は容易に想像できるというもの。 しかも、岡井さんは今、まーちゃんをかまってくれるあの岡井さんではないんだ。頭の中で状況を整理していくうちに、かなりやばい状況なんだってことに気が付く。 「だめ、まーちゃん!」 とっさに、まーちゃんの前に立ちはだかる。 イノシシのように、前傾姿勢で頭から私のみぞおちに突っ込んでくるまーちゃん。ボグッと嫌な音がおなかの中に響いて、そのまままーちゃんとともに、楽屋の玄関に倒れこんでしまった。 「もっ・・・信じらんない!」 思いっきり打った背中が痛いし、まーちゃんがひっついてきて思い。 私がとめなかったら、まーちゃんはあの獰猛な野生動物じみた動きで岡井さんに突進していたんだろうか。 「え、大丈夫?どうしたの?」 矢島さんと岡井さんがあわててこっちに駆け寄ってきた。 「まーちゃんこっちおいで!」 「うおおおお」 あ・・・岡井さんの口調が変わってる。あえて演技でそうしてるのか、入れ替わっちゃったのかは私にはちょっとわからないけど。 引っ付いてきたまーちゃんを岡井さんがあやしてる間に、矢島さんが私の体を起こしてくれた。 「ころんじゃったの?」 「え?・・・はい」 「痛いところあったら言ってね!ちっさー、湿布あったっけ?足に貼るやつ!」 「いや、足は別に・・・」 「他に痛いところある?指は?グーパーできる?頭は打ってないかな?」 1つ質問するたびに、舞美さんの綺麗すぎる顔が近づいてきて慌てる。 娘、にはいない感じの独特のキャラクター。 本当に、どこまでも一途でまっすぐで・・・・・そして、全力で間違っている。 「救急車で大丈夫かな?あ、でもその前にご両親?」 「あの、ほんと大丈夫です!」 「あああ、そっか、まず道重さんに言わないと」 ど、どうしよう。 矢島さんがどんどんシリアスな表情になっていく。 すると、別に何ともなかったはずの自分の体のあちこちが痛くなってきたような気がして、不安になってきた。 「ずっき、どっかやっちゃったの?」 すると、岡井さんがまーちゃんを背中に貼りつけたまま、私のそばにしゃがみ込んでくれた。 「えっと・・・」 「我慢するとよくないから、言いたいことは言っちゃいな?」 今度は岡井さんに、じっと目を見つめられる。 不思議なことに、矢島さんの時のような、パニック状態には陥らないですんだ。 矢島さんが美人すぎるってのもあるかもしれないけれどΣリ・一・リ、岡井さんの目には、人を落ち着かせる不思議な力があるような気がする。 「あの・・・私、田中さんに、岡井さんを呼んでくるように言われて」 「おお、そうだったの!」 「はい、あの・・・でも、なんかまーちゃんもついてきてしまって、うるさくしないでって言ったのに」 あれ・・・どうしたんだろう。声がうわずっている。なのに、言葉がどんどんあふれて止まらない。 「早く、早く伝えなきゃいけないって思って、でも矢島さんと岡井さんが話してて、邪魔しちゃいけないから・・・でも、タイミングわからないし、岡井さんが・・・その違っていたら、まーちゃんが・・・」 かなり支離滅裂な私の言葉を、矢島さんも岡井さんも真剣な表情で聞いてくれた(ただし岡井さんは肩に噛みついたまーちゃんの鼻の穴に指を突っ込んでお仕置きしていた)。 「違う、まーちゃんは関係なかったです。やだ、八つ当たりしちゃった。こんな簡単な用事なのに、私、なにやってるんだろう。あはは・・・」 笑いながら言葉が詰まって、いきなり目がら涙がぽろっと落ちた。 「あ、どうしよ・・・」 一度あふれてしまった感情も涙も、急には止まってくれない。 こんな小さな用事ひとつできなくて、しかも違うグループの先輩の前で意味不明な理由で泣いて・・・そうだ、今朝もダンスのことで怒られたんだった。思い出したらさらに泣けてきた。 「ずっき、目こすっちゃだめだよ」 ひっくひっくと耳障りにしゃくり続ける私の頭を、岡井さんがぽんぽんって撫でてくれた。 「腫れちゃうからね。せっかくかわいいんだからさあ」 「だって、私なんて、どうせ誰も見てないです」 「見てなくなんかないよ!てゆーか、千聖が見てるし!」 「私も見てるよ!」 「まーちゃんも常に監視してます!」 みんな、全力で励ましてくれてる。だけどそれが余計に自分のふがいなさを突き付けられてるみたいで、また新しい涙がこみあげてきてしまう。 「…舞美ちゃん、ちょっと濡らした布かなんか持ってきてくれるかな」 「あ、そうだね!わかった、ぞうきんでいい?」 「ずっきの目冷やすの!なんでぞうきん!」 岡井さんが、はじけるような声でケタケタ笑う。 「あー、あ、目か!みんなで掃除するのかと思って」 「何でこのタイミングで!もー、舞美ちゃんはぁ」 いそいそと、タオルを持った矢島さんが部屋を出ていく。 残ったのはグズ泣きの私と、岡井さんと、岡井さんの胸を触ろうとしては手をはたかれているまーちゃん。 「・・・ずっきってさ、自分でもわけわかんなくなるまで、気持ち溜め込んじゃうタイプでしょ」 無言でうなずくと、岡井さんは少しため息をついた。 「普段、こんなことぐらいじゃ、泣かないもんね。これはたんなるきっかけでしょ」 「そして、今日という日を境に、暗黒の力に目覚めたズッ=キーは、世界を闇の彼方に・・・」 「目覚めねーよ!てかまーちゃん、静かにできるの?できないならくどぅーんとこ戻って遊んでもらいな?Σハ´。`oル千聖はずっきとい話してるんだからね」 おお・・・まーちゃんの扱いがうまい。さすが長女。さすが大家族の柱。 するとまーちゃんはふと思案顔になり、次に私の顔をじっと見た。 「まーちゃん、いない方がいいですか?」 次へ TOP
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95 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/12/30(金) 13 58 23.98 ID ??? コクーンワールド懐かしいな 困報告に旧ソードワールドやルナルは出るのに、 ガープスコクーンを見かけないのは、 人気無かったからか 99 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/12/30(金) 14 36 02.91 ID ??? 95 他のシステムなら困扱いの行動を大真面目に取るゲーだからか ちょっとした軋轢ぐらいしか見たことないな そういえば15年ほど前まだ勝鬨橋のそばで開催していたJGCで もうちょっとGMに協力しようという気はないんですか!と怒った参加者がいた卓があったよ 一番鳩が豆鉄砲食らった顔をしていたのはGMじゃった。 みんなまじめに高いところにのぼったり仁義を切ったり神様にゴマすったりしてたんだぜ GMがガープスコクーンははじめてですか?って聞きなおすことで事態は沈静化した。スティーブが困ったちゃん ガープス経験者だからって知らないワールドサプリメントのゲームに気軽に突撃してくるプレイヤーを量産した。 スレ303
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私の魔法の言葉の効果は、早速次の日からはっきりと現われた。 「おはよう、栞菜。」 「あ、お、はよう。」 レッスンスタジオまでの道を歩いていると、日傘をさしたちっさーが後ろから声をかけてきた。 いつもどおり、ごく自然に振舞うちっさー。胸が高鳴る。 「もう夏も終わりなのに、暑いわね。」 そんなことを言いながら、入る?とばかりに日傘を傾けてきた。 「ありがとう。」 こんな可愛い心遣いをしてくれる子に、私は何てひどいことをしようとしているんだろう。 良心がチクリと痛む。 今日のちっさーは、後ろに大きなリボンのついたシンプルなライトイエローのワンピースを着ていた。歩くたびにふわふわ揺れて、とても可愛らしいと思った。 「ちっさー、チョウチョみたいだね。可愛い。」 「あら、ありがとう。明日菜にも言われたわ。こういう色の蝶、本当にいるんですってね。」 ちょっと照れくさそうに笑うちっさーは、昨日のことなんて何も気にしてなかったかのようにも見えた。 「ちっさー、おしゃれになったよね。よく似合ってる、それ。」 「嬉しいわ。これはね、早貴さんがくれたの。あんまり着ないからって。」 「へえ・・・」 またじわじわと、心臓の鼓動が大きくなってくる。そんな交流があるなんて、私は知らなかった。 「ねえ、ちっさー。今度うちに遊びにこない?栞菜が着なくなった服とかあげるよ。」 「まあ・・・でも、何だか申し訳ないわ。お気持ちだけで嬉しいから、そんなに気を使わないで。」 何で。 私じゃ、嫌なの? 私だって、ちっさーのお姉ちゃんみたくなりたいのに。 「・・・私が、キッズじゃなくてエッグだから?」 気がついたらまた、あの一言を口走っていた。 ちっさーに魔法がかかる。 私に微笑みかけていた表情が一気に強張って、ゆっくり歩いていた足がピタッと止まった。 「栞菜、どうして・・・・?私、そんな風には」 私は無言でちっさーと押しのけて、早足で先に歩いていった。 ちっさーは追いかけてはこない。 やがて私の後ろで力ない足音が聞こえてきたら、なぜだか少し心が落ち着いた。 結局ちっさーは、集合時間直前までロッカーに来なかった。 「あれ、ちっさー珍しいね!今日ギリギリじゃん!」 舞美ちゃんの声に振り向くと、少し慌てた声でごめんなさいと言いながらちっさーが入ってきた。 さっき私に見せていたあの悲愴な顔じゃなくて、いつものおっとりお嬢様の表情に戻っていた。 「おはよう、ちっさー。」 さっきまで一緒だったくせに、とぼけて挨拶をしてみる。 「あ・・・おはよう愛理、栞菜。」 なんだ、特に引きずってはいないんだ。 ほっとすると同時に、なぜかそれを残念にも思っている自分がいた。 「千聖、今日一緒に柔軟やろう。着替え手伝うから急いで!」 舞ちゃんがちっさーの手を強く引っ張っていく。 舞ちゃんはいいな。私みたいな汚い手を使わなくても、ああやってちょっと強引でも正々堂々とちっさーを独占できるんだ。 それに比べて、私のやってることって・・・・ 「栞菜?・・・なんか怖い顔してる。大丈夫?」 「うん。なんでもないよ。それよりさ・・・」 話題を逸らす。 心から心配してくれる愛理に胸が痛んだ。 ごめんね、愛理。 そんな葛藤はあったものの、禁断の魔法の味を知ってしまった私は、どんどんあの言葉を簡単に使うようになっていった。 例えば、何かおそろいの物を持ちたいと思った時。 一緒にコンビニに行って、何か買ってあげたいと思った時。 そして、ちっさーの好きそうな服をあげる時。 主に私がちっさーに何かしてあげたい時には、効果がてきめんのようだった。 慎み深いちっさーは必ず遠慮するけれど、私があの一言を言えば従ってくれた。 悲しい顔をさせることに、罪悪感はあった。 それでもこれは単なる私の親切の押し売りであって、ちっさーを傷つけるのが目的ではないという理由付けができたから、私は自分の矛盾した気持ちから目を逸らし続けることができた。 ちっさーも、私があの言葉を口にしないかぎりはごく普通の態度でいてくれた。 異常な結びつきになってしまったけれど、私たちはいつでも一緒にいるわけではないし、私もみんなの前では魔法を使わなかったから、誰も2人のおかしな状態に気づいてなかった。 そのことが私を増長させたのかもしれない。 私はわかっていなかった。 何でも言うことを聞いてくれる素直な妹ができたとばかり思っていたけれど、お嬢様のちっさーの中には、前の千聖の気の強さもしっかり残っていたということに。 終わりの始まりは意外に早く、そして突然やってきた。 いつもどおり本当につまらないことで切り札を使おうと思った。 ちっさーが私のヘアピンを可愛いと言ってくれたから、すぐに髪からはずして、ちっさーの手に握らせた。 いつもどおり遠慮するちっさーに、また私は「私が・・・」といいかけた。 「・・・そうね。栞菜が、エッグだからかもしれないわね。」 最後まで言い終わる前に、ちっさーは私の言葉を遮った。 唇をギュッと噛んで、強い目で私を睨みつけている。 ――嘘。 だって、ちっさー。 私はただ、私だけのちっさーが 何を言われたか、とっさにわからなかった。 頭が真っ白になる。 「ちっさー・・・」 呆然としたまま名前を呼ぶと、みるみるうちに硬く強張っていたちっさーの表情が青ざめていく。 「あ・・・・私、私何てこと・・・・・」 涙で霞んだ私の眼の向こう側で、ちっさーが力なく床に崩れ落ちた。 同時に、私にも立っていられない程の強い衝撃がゆっくりと襲ってきた。 ちっさーと同じような体勢でへたり込む。 「え・・・ちょっと、どうしたの!?千聖?栞菜?」 なっきぃの声が遠いところから聞こえたような気がした。 涙が止まらない。 ちっさーを怒らせたことがショックなのか、 自分の行いがあまりにも馬鹿すぎたことがショックなのかわからない。 こんなことになって、初めて気づいた。 私は自分の気持ちばかり考えていて、ちっさーがいったいどんな気持ちで私の言葉を受け止めていたのか考えていなかった。 こんなに無神経なのに、何が「ちっさーは私の妹」だ。 本当に最低だ、私。 今すぐちっさーに謝らなければいけないのに、嗚咽で声が出ない。 「栞菜、落ち着いて。大丈夫だよ、息吸って、吐いて・・・・」 舞美ちゃんの大きな手が優しく背中を叩く。えりかちゃんが頭を撫でてくれる。 私はただ、私もこういうお姉ちゃんになってあげたかっただけなのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。 こうして私のかけた魔法は、あまりにももろく、簡単に消え去ってしまった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「鈴木さんは、まーちゃん、いないほうがいいんですか」 ゆっくり言葉を区切るようなその言い方。それで、なんとなく察した。 まーちゃんは今、ものすごく怖いことを聞いてきている。 今この瞬間、まーちゃんにいてほしくないかどうかじゃなくて・・・ 「なんでそんなこというの!」 私はたまらず、大きな声を出した。 「そんな大事なこと、私に聞かないでよ。私は今、田中さんの用事を伝えに来ただけだったのに、なんでこうなっちゃうんだよぉ・・・」 私にはめったに頼みごとをしない田中さんからのお願いごとだったり、その相手が大きな秘密を抱えてる人なのに、ペースのわからないまーちゃんがついてきちゃったり、・・・挙句の果てに、矢島さんと岡井さんに、とんでもない内緒ごとがありそうだったり。そこへ来ての、まーちゃんからのこの一言だ。 もう、たくさんの要素が重くのしかかってきて、私の容量をあっという間に超えてしまった。 「あわわあ、鈴木さんがわわ」 気配で、まーちゃんがドタバタ足音を立てて、私の周りを走り回ってるのがわかる。 ――私だって、まーちゃんが、本気で私を困らせようとイジワルしてるわけじゃないのは知ってる。 ただ、まーちゃんのペースをつかみきることができなくて、発する言葉の意味をどう取っていいのかもわからなくて・・・ 「はわわ、岡井さーん」 「あのね、まーちゃんここにいていいけど、お口閉じててね!」 岡井さんがまーちゃんにそう言い放ったと同時に、むぎゅっと抱きしめられる感触がした。 「よしよし、そんなに泣くなー」 まるで赤ちゃんを落ち着かせるように、岡井さんはゆっくりと私の体を揺らす。 背中をぽんぽんと叩かれると、不思議と高ぶっていた感情が静まっていくようだ。 「まーちゃんもぽんぽん!」 「わーかったよ、なんだよ、千聖はママじゃないんだからねっ」 ああ、そうか・・・小さい妹さんがいるんだっけ、岡井さん。 あったかい胸に顔をうずめると、ごく自然に頭を撫でてくれる。 “千聖って、いいお母さんになりそう”なんて先輩たちが言っているのを、結構よく聞いたりする。 料理が上手だからかな?なんて思ってたけど、それだけじゃなくて・・・。きっと、こういうところも含めて、なんだろう。 「いろいろさ、娘。で言いにくいことがあったら、いつでも千聖のとこ来てよ。ま、全然何もできないけど、気晴らしになるかもしれないし」 「はい・・・すみませんでした」 「じゃ、田中さんとこ行くか!」 岡井さんがそう言って楽屋のドアに目を向けた。 「あ・・・はい。でも、その前に。あの・・・まーちゃん」 岡井さんにカクカクした動きでまとわりつく(・・・)まーちゃん。 私の呼びかけに、彼女らしくもない神妙な顔を浮かべる。 「さっきの、あの・・・。私、いらないなんて思ってないから」 言いながら、また涙がこみ上げてきそうになってしまう。 でも岡井さんがいてくれるからか、逃げ出したいとか、そういう気持ちにはならない。 まだ話せそう。そう思って、私はまた口を開いた。 「さっきは、その・・・なんで、まーちゃんが私なんかのとこに来るのか、わかんなくて、状況的にも慌ててたから、きつい態度になってたならごめんね」 「じゃあ、まーちゃんはいなくならなくていいんですか?」 「もちろん」 「でもくどぅーが岡井さんの写真眺めてニヤニヤしてたからその写真にチューしたら、お前ガチでうせろって言われました」 「なんだそれ、おい!」 「・・・・・・・それは、私の言ってることとは別問題じゃないかな」 ともあれ、話しているうちに涙はとっくに乾いて、もう気持ちも静まってきた。 「ちっさー、かのんちゃん!!!お待たせ!」 すると、そこに矢島さんが戻ってきた。 「なかなかなくてさー、はい、これ使ってね!」 満面の笑顔で差し出したのは、タオル・・・でもぞうきんでもなく、・・・・大量の、エアーパッキン(プチプチつぶすやつ)だった。 「舞美ちゃん、これどうすんの?」 「??・・・・あぁー、そっか!似てるから間違えちゃった!あははは、どうしよう、ねえ?」 「はは・・・」 ――すごい。天然のスケールが違いすぎる。 仮に見た目がタオルに似てたとしても、触ればわかるし、大きさがありえないだろうに。 「もー、知らないよ?スタッフさんが使うんじゃないの?」 「そうだよね!ステージに敷いたりとか」 「いや、それはない」 「あひゃはははは」 「まーちゃん、つぶしちゃだめだよ!おい!」 プチプチとパッキンが弾ける音、岡井さんと矢島さんのぼわーっとした会話。またわけがわからなくなっていく。 そして、私はあまりのことに忘れてしまっていたのだ。 私の重要なミッションのことを。 次へ TOP
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前へ 「いいじゃん。別に愛理は千聖のこと恋愛対象として見てるわけじゃないんでしょ? ただ私が千聖をあっち系の方向でいじめてないか心配なだけでしょ。 大丈夫だよ、私は千聖が望んだこと以外は何もしてないから。」 「千聖が望んだ、って」 「愛理さ、ちょっと千聖のこと子供扱いしすぎ。 お嬢様にだって人並みにそういう欲はあるだろうし、大体前の千聖だってどこまでどうだったかなんてわからないでしょ。 私は千聖が可愛いから、いろいろしてあげたくなっちゃったんだよ。」 えりかちゃんの視線は、舞美ちゃんと打ち合わせをしている栞菜と千聖にむけられていた。 たしかに可愛くなったな、とは思う。とりわけ、今日の衣装―赤いタータンチェックのブリティッシュスタイルのスカートは、千聖によく似合っている。 「栞菜はお人形みたいだけど、千聖は人型ぬいぐるみみたいだね。抱き心地がよさそう。そう思わない?愛理。」 ・・・えりかちゃんはぬいぐるみにムラムラするのかしら。 そんな話をしているうちに、スタジオ入りする時間が来て、私達はスタッフに呼ばれた。 千聖の方をチラッと見ると、またえりかちゃんが側に寄り添っている。 確かに、いじめているという雰囲気ではないみたいだ。2人はにこにこ笑い合って、えりかちゃんが千聖の髪にカチューシャを挿してあげている。 「愛理、早く行こうよ。どうしたの?」 栞菜が袖を引っ張るまで、私は2人を凝視していた。 結局、撮影中も私は上の空なままだった。 さっきえりかちゃんから言われたことが、地味にチクチクと刺さっている。 子ども扱いかぁ。 言われてみれば、そうかもしれない。 同い年トリオの梨沙子がファッションやメイクに詳しい反面、千聖はスッピンTシャツ短パンがあたりまえで、いつもにぎやかにプロレスごっこをやっていた。 もちろん、恋バナなんかもしたことがない。 たまに梨沙子とするような、ちょっとエッチな話なんて、振ってみたこともなかった。千聖じゃわからないと決め付けていたから。 お嬢様になった今は、おしゃれ系の話はよくするようになったけれど、やっぱり込み入った話はしていなかった。 今日の今日まで、どちらの千聖もそういった事とは無縁だと信じ込んでいた。 それは私が経験していないことをまさか千聖が、というある種の蔑みだったのだろう。 さすがに反省した。 「鈴木、センターでボーッとしない!」 「すみません。」 いつになく何度も注意を受けながら、撮影は終わった。 「大丈夫?体調悪いならあれあるよ、セーロガンとか。ストッパとか。愛理ゲリピーピーみたいだってえりが言ってたけど。」 ・・・えりかちゃんめ。どうしてくれよう。 ドラえもんみたいに薬を出し続ける舞美ちゃんの気遣いをやんわり辞退して、私は千聖の元へ急ぐ。 「千聖。」 飲み物を持って、なっきぃと談笑していた千聖は、私が近づくと顔を赤らめてうつむいた。 「ちょっと、2人で話したいの。」 「・・・・ええ。」 手を引っ張って皆の輪を抜ける最中、なっきぃが 「えりかちゃん!2人だけで話したいって言ってるんだから追いかけちゃダメ!」 と引き止める声が聞こえた。 ・・・えりかちゃんめ。ありがとうなっきぃ。 「愛理、どこへ行くの?」 スタジオを離れて、ロビーを抜けて、楽屋を通り過ぎて、私が向かったのは今朝のトイレだった。 「嫌、愛理・・・・!」 私にしてはかなり強引なやり方だったと思う。千聖を個室に押し込んで、自分の体の後ろで鍵を下ろした。 「あ、愛理」 小柄な体ががくがくと震えている。 「乱暴なことしてごめんね、千聖。私、どうしても千聖に聞きたいことがあって。」 さっきえりかちゃんがしていたみたいに、千聖の唇を指でなぞる。 「ここで千聖がやってたこと、私にも教えて?」 次へ TOP
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周防桃子「お兄ちゃん。今日はなんの日だか知ってるよね?」 執筆開始日時 2020/11/05 元スレURL https //jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/20196/1604563014/ タグ ^周防桃子 まとめサイト NaNじぇい wiki内他頁検索用 Pドル いちゃコメ ミリオンライブ 周防桃子 誕生日
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649 ちーちゃんのハサミ sage 2008/08/06(水) 03 17 36 ID ylz6/SPo 人には、それぞれに大切にしている物がある。 それは何かのコレクションだったり記念品だったりと、人によって様々だ。 ある意味では持ち主の個性を現す物なのかもしれない。 私の場合、それは一丁のハサミになる。 造りはハサミと言えば一般に思い浮かべられる洋鋏と同じで、だけど市販品よりも短小な上に指で握る部分はハート型、 薄いピンクのカラーリングに安っぽいガラス玉がちりばめられた、どう見ても幼稚な、子供向けの一品だ。 それも当然。そのハサミは私の十数年の記憶の中で一番最初、子供の頃にお兄ちゃんにもらった思い出の品なんだから。 まだ思春期や男女の違いという言葉が遠くて、兄妹が二人で並んでアニメを見るのに抵抗がなかった昔、 当時流行った子供向けアニメの主人公(ヒロイン)が画面の中で使っていたハサミ。 今はもう廃刊になった雑誌の懸賞でそれを当てたお兄ちゃんは、うらやましがる私に笑って言った。 『これはちーちゃんのハサミだからな。ちーちゃんにやるよ』 私の名前は日向 千夏(ひなた ちなつ)。 お兄ちゃんが夢中になった画面の中の女の子も私も、その時はみんなに『ちーちゃん』と呼ばれていた。 誇らしかったと思う。 私にそのハサミをくれたお兄ちゃんは────やっぱり友達には頼みにくかったのか────その後、 よく私に『ちーちゃん』の真似をさせては、自分も『ちーちゃん』の好きな男の子の真似をして喜んでいた。 戦隊モノとかよりもヒーロー側の役が少ないからみんなでやるのには抵抗があって、 だけど自分達の家の中では思いっきり楽しめる、兄妹二人だけのごっこ遊び。 嬉しかった。 お兄ちゃんの外に出かける時間が減って、お兄ちゃんと一緒の時間が増えて、 お兄ちゃんと話せることや出来ることが沢山になって、お兄ちゃんのくれたハサミが繋いでくれた時間が、 友達が自慢する何よりも、私にとってはキレイな宝物だった。 あの頃、確かにあった兄妹の絆は今でも変わらずに結ばれている。 お兄ちゃんが『ちーちゃん』を忘れて私のことを千夏と呼ぶようになっても、 お風呂に一緒に入らなくなったり眠る部屋が別々になっても、学校で部活を始めたお兄ちゃんの帰りが遅くなっても、 最後の部活の大会が終わったお兄ちゃんが部屋に篭もって一人だけで勉強するようになっても、 私はお兄ちゃんが他の何より大事だし、お兄ちゃんも私を大切に思ってくれてる。 あのハサミが生んでくれた絆は今も切れずに繋がっていて、私とお兄ちゃんが離れ離れになることなんかない。 ────────そう、思っていた。 薄々気付いてはいた、どんどん細く脆くなって行く、それでもまだ残っていた一本の糸が今日、 パチンと音を立てて切られるまでは。 雨が降っている。 轟々とうなる風は容赦なく窓をガタガタと怯えさせ、無数の雨粒がガラスの中を斜めに走り去っていた。 閉めにいくのが面倒なカーテン以外は全て締め切った薄暗い部屋の中に、時折悲鳴のような雷鳴が響く。 本日は土曜日。連休の初日は、だけど生憎と夕方から雷雨の予報。 ソトニデルノハキケンデスと、顔の見えない誰かが電子的に喋っている。 雨と、風と、雷と────────聞く価値もない他人の声。 出張中の両親もいない一人きりの家の中で、それらが私の邪魔をする。 無粋で、無遠慮で、不規則な音の群。苛立たしい雑音に囲まれて、手元が乱れそうになる。 しゃーこ・・・・・・しゃーこ・・・・・・ 滑らかに砥石の上を走る、二枚合せの短い刃の片方。 お兄ちゃんからもらったハサミを丹念に、心をこめて研ぐ。 650 ちーちゃんのハサミ sage 2008/08/06(水) 03 20 40 ID ylz6/SPo しゃーこ・・・・・・しゃーこ・・・・・・しゃーこ・・・・・・ お兄ちゃんんがくれた、子供向けで脆く欠け易い、決して実用的ではないハサミの手入れ。 もう何年もずっと繰り返してきた、兄さんが傍にいてくれる時の次に幸せで落ち着く、私の習慣の時間。 たとえ切れなくなってもいい、ただずっと使い続けられるように、二人の絆の証が壊れないように、 お兄ちゃんを想いながら手を動かす。そうして数年以上を共にしてきた刃はすっかりと磨り減って、 だけど細くなった刃の切れ味は包丁並だった。今となってはほとんど研ぐ必要なんかない。 いや。いつか壊れる心配をするなら、そもそも使わずに、単に肌身離さず持っていればいいのかもしれない。 そんなことはとっくの昔に分かっていて────────それでも、私はハサミを研いでいた。 しゃーこ・・・・・・しゃーこ・・・・・・しゃーこ・・・しゃーこ・・・ こうしていれば、私は落ち着けるはずだから。雨の日には夜が来るのが早くて、陽の光はもうない。 電気も付けていない部屋にいる私はたまに稲妻に照らされるだけで、その時に、細く薄くなったハサミの刃がきらっと光る。 どんなに強がってみても私は女の子で、子供の頃、そして今でも雷は得意ではない。 雷が振る時は雷神様がおへそを取りに来るとか、そんな話を昔に聞かされたからだろうか。 どこかぼやけた情景を憶えている。布団の中、まだ同じ部屋にいたお兄ちゃんに震える体でしがみ付きながら、 もし本当に雷神様が来た時は私がお兄ちゃんを守るんだと、このハサミを握り締めていた自分。 そんな私を、本当は自分も怖いのに、勇気を出して笑顔で慰めてくれたお兄ちゃん。 『ほんと、ちーちゃんは怖がりだな』 そう言って抱き締めてくれたお兄ちゃんの腕は今、この家のどこにもない。 「はは・・・あはは・・・」 しゃーこ・・・・・・しゃーこ・・・しゃーこ・・・しゃーこ・・・ 外は雷雲が出来るくらい湿ってるのに、声が乾く。そのくせ砥石の上にも、雨が降っていた。止んで欲しいのに止まない。 止まって欲しいのに、お兄ちゃんのくれたハサミを研いでいてこんな気持ちになるはずがないのに、後から後から出てくる。 滑りすぎたハサミで、少しだけ指を切った。 「ねえ・・・お兄ちゃん・・・・・・知ってるよね・・・?」 怪我の心配をしてくれるお兄ちゃんも、いない。 「私もね・・・・・・・雷、苦手なんだよ・・・・・・?」 あの女の家に行っちゃったから。 雷が苦手らしいあの女のことが心配だって言ったお兄ちゃんは、危ないよって必死に止めた私を置いて、 雷が苦手なことを知っている私を放り出して、豪雨の中をあの女のところに行っちゃったから。だから────────いない。 「うふふ・・・ははは」 大好きなお兄ちゃん。『ちゃーちゃん』を好きだったお兄ちゃん。『ちーちゃん』って呼んでくれたお兄ちゃん。 ハサミをくれたお兄ちゃん。二人だけで遊んでくれたお兄ちゃん。『ちーちゃん』の真似をする私だけを見てくれたお兄ちゃん。 私を千夏って呼ぶようになったお兄ちゃん。お風呂が別々になったお兄ちゃん。一緒に眠らなくなったお兄ちゃん。 部活を始めたお兄ちゃん。帰りの遅くなったお兄ちゃん。部活が終わったのに今度は勉強をするようになったお兄ちゃん。 頼んでも遊んでくれなくなったお兄ちゃん。勉強を教えてくれなくなったお兄ちゃん。私を部屋にいれてくれなくなったお兄ちゃん。 部屋の前で呼んでも返事をしてくれなくなったお兄ちゃん。それでも同じ家で暮らして、傍じゃないけど私の近くにいてくれたお兄ちゃん。 そして────────私の近くに、この家のどこにもいないお兄ちゃん。 「嘘だよ・・・・・・こんなの」 お兄ちゃんがいない、私の傍にいない、横を見ても後ろに振り返ってもいない、私の部屋にいない、 家の電話を鳴らしても出ない、お兄ちゃんのケータイにかけても繋がらない、この家のどこを探しても、 お兄ちゃんの部屋にも居間にもキッチンにもお風呂場にもトイレにもお父さん達の部屋にも クローゼットの中にもベッドの下にもベランダにも庭にも車庫にも屋上にもこの家のどこにも、お兄ちゃんがいない。 「お兄ちゃん・・・・・・」 651 ちーちゃんのハサミ sage 2008/08/06(水) 03 23 18 ID ylz6/SPo 雷が鳴る。気が付いたら、お兄ちゃんの部屋の扉が前にあった。ドアノブを左に捻る。 「お兄ちゃぁん」 ぼやけた視界に入る、見慣れた家具達。 勉強に邪魔なものは全部捨てられたり片付けられたりして、もうお兄ちゃんの部屋にはない。 お兄ちゃんが私と一緒に遊んでくれた道具やゲームも、どこか私の知らない場所に仕舞われている。 昔を思い出してもらおうと思って買って来た『ちーちゃん』のDVD-BOXは、 お兄ちゃんが時間がないって言って、結局一度も日の目を見なかった。 「ぐすっ」 目を擦ってから、『ちーちゃん』も私もない部屋を見渡す。カーテンまで締め切られたお兄ちゃんの部屋は本当に暗い。 毎日お兄ちゃんが触ってる明かりのスイッチを押す。 指先に感じる温度は冷たくて、電気を点けると、やっぱり殺風景な部屋が照らし出された。 ふらふらと、お兄ちゃんのベッドに倒れ込む。 「あは・・・・・・お兄ちゃんの匂いだぁ」 思いっきり鼻から息を吸う。 ベッドに倒れた時に舞ったお兄ちゃんの残り香に包まれて、体の中も外もお兄ちゃんで満たされる。 お兄ちゃんのくれたハサミを研いでた時に比べて、ちょっとだけ落ち着いた。 でも足りない。だからお兄ちゃんの枕を掴もうとして、顔を上げてベッドの上の方に手を伸ばす。 枕元に、私の知らない物が置かれていた。 「・・・なに、これ」 曲げられた金属の足がついた、長方形のガラスの板。その中に写真が一枚、入っている。 「こんなの、昨日までなかったのに」 起き上がって、枕の替わりにそれを掴んで引き寄せる。ガラスに挟まれた写真の中で、お兄ちゃんが嬉しそうに笑っていた。 その隣で、あの女も笑っている。明かりの点いたお兄ちゃんの部屋に、ゴロゴロと音が響く。 「────────ッ、お前があっ!!」 雷が落ちたのが、音で分かった。砕け散ったガラスの欠片が電灯に照らされてきらきらと光る。 「よくもお兄ちゃんを・・・私のお兄ちゃんをっ・・・・!」 立ち上がった足でガラス片まみれの写真を踏みつけなかったのは、お兄ちゃんの笑顔が写っていたからだ。 左手でその写真を拾い上げる。 私の右手には、ずっとお兄ちゃんのくれたハサミが握られていた。 「お前なんか・・・・・・お前なんか!!」 あの女の顔に、縦にハサミを入れる。 じょきんと音が鳴って気持ちの悪い笑顔が真っ二つになって、化物みたいに左右に開いた。 引き千切りたいのを我慢して、お兄ちゃんを切らないように横からハサミを入れる。 同じ音を立てて、あの女の首から上がなくなった。 「お兄ちゃんに触るな!」 今度は縦に、体の左半分を切り捨てる。それから、お兄ちゃんの肩と胸に触れている手と腕を。 じょきじょきと、ゆっくりと気を付けながら、それでも出来るだけ早くあの女の全身を切り刻む。 お兄ちゃんに触れている部分を切り落として、お兄ちゃんの傍から切り離す。 すぐに、バラバラになった女のゴミが床の上に散らかった。 652 ちーちゃんのハサミ sage 2008/08/06(水) 03 25 29 ID ylz6/SPo 「はあ・・・はあ・・・」 たとえバラバラでも写真でも、こいつがお兄ちゃんの部屋にいるのは許せない。 後で焼き捨てるためにも拾い集めなくちゃいけない。 そう思って、万に一つも残すことがないように一つ一つ拾い集める。 幾つかは落ちる途中でベッドの下に逃げ込んだみたいだった。 それも取ろうとして、しゃがみこんでお兄ちゃんのベッドの下を覗く。 何かがあった。 「・・・え?」 お兄ちゃんの部屋は、もう何年も、私が毎日掃除している。 お兄ちゃんが勉強で部屋にこもるようになってからは毎日は無理だったけど、 それでも出来るだけ、心を込めてきちんと掃除をしている。 当然、エッチな本とか私以外の女の子の写真とか、そういう、お兄ちゃんには必要ない物もちゃんと捨ててる。 お兄ちゃんの部屋に何があるのか、要らない物は置いてないかのチェックは怠ってない。 なのにこんな、私の知らない物が幾つもお兄ちゃんの部屋にあるのはおかしい。 何個か重なってるみたいなそれを一つ、引っ張り出して見る。 プラスチックのカバーの、バインダーみたいな物だった。 「まさか」 カバーを開いて中身を見る。入っている物を確認してから、ページをめくった。 そこにある物も確かめる。ページをめくる。また見る。ページをめくる。 見てページをめくる。その次も同じことをしてページをめくる。その次も同じ。 その次もその次もその次もその次もその次もその次もその次も。 そのアルバムの中には沢山のお兄ちゃんと一緒に、数え切れないくらいのあの女の姿が映っていた。 「────────────────」 思わず顔を押さえた時、部屋に響いたのが雷の音だったのか私の叫び声だったのかは、自分でも分からない。 ただ、私はその大きさに負けないくらい強く、お兄ちゃんのくれたハサミを握った。 お兄ちゃんの部屋の床の上に、ちょっとしたゴミの山が出来ていた。 全部がバラバラにしてやったあの女の破片だ。 それなりの厚さのアルバムでだいたい三冊分収まっていた写真から、私はあの女を切り落とした。 思ったより時間がかかったのは、あの女がお兄ちゃんに絡みついている写真が多かったせい。 あの女だけの写真なら百分割するのにも時間はかからないけれど、 たとえ写真でもお兄ちゃんを傷付けるわけにはいかないから大変だった。 だけど、おかげで今、私は沢山のお兄ちゃんの写真に囲まれている。 でも、本物のお兄ちゃんはここにいない。 あの女の場所にいるから。 「許さない・・・・・・」 さっきの写真立てやこのアルバムを、お兄ちゃんがずっと私に隠してたとは思わない。 お兄ちゃんの部屋やこの家の中にあったなら絶対に気付く。 お兄ちゃんの動きを追ってれば分かるから、見逃すはずがない。 それに、勉強の邪魔になる物は片付けると言ったお兄ちゃんがこんな物を隠していたはずもない。 お兄ちゃんはそういう人だ。やると言ったらやるし、徹底する。私には分かる。 だからこのアルバムも写真も、昨日までは他の場所────多分あの女の家か部屋────にあった物だ。 今までは勉強の邪魔になるからそこに置いてあった。そしてその必要がなくなったから、お兄ちゃんの部屋に移した。 653 ちーちゃんのハサミ sage 2008/08/06(水) 03 29 44 ID ylz6/SPo 『やったぞ千夏!』 昨日、本当に久し振りに笑顔を見せてくれたお兄ちゃんを思い出す。 試験に合格したって大喜びだった。そう、受験じゃなくて、試験。 大学の受験じゃなくて、就職するための資格の試験。お兄ちゃんが勉強していたのはそのためだった。 そんなことも、私は知らなかった。そんなことを教えてくれないくらい、お兄ちゃんは私から離れていた。 私が気付かなかっただけで。だから────────。 『千夏、よく聞け。オレな・・・・・・結婚する予定なんだ、来年くらいに』 お兄ちゃんが一度だけ家に連れて来た、部活の関係で知り合ったらしいあの女と秘密で付き合っていたことも、 あいつのために早く独り立ちしようと進学より就職を取ったことも、 そのために必要な資格の勉強をしていることも、全部、お兄ちゃんが話してくれなかった何もかも全て、知らなかった。 お兄ちゃんがあの女と結婚するつもりであることも、その証明のために『婚姻届』を書いたことさえも。 『いや、だってなあ。恥ずかしいじゃん? 彼女が出来たとか家族に報告するの。 資格も、取れなきゃ進学に切り替えてバイトとかするつもりだったし。 でもま、どうにかなったからな。親父達にも安心して報告出来たぜ』 お兄ちゃんは笑っていた。私が真似た『ちーちゃん』と一緒にいた時よりも、嬉しそうに笑っていた。 『まあ惚れた女のためにって言っても、オレの我儘でアイツにも随分我慢させちまったからな。 これだってどうなるかはわからねーけど、一応のケジメ、決意表明ってやつだ』 私に『婚姻届』と書かれた紙を見せた後でそう言ったお兄ちゃん。 私の知らない場所に就職して、私以外の女と結婚して、私から離れることを幸せそうに話したお兄ちゃん。 今はここにいない、これからもこの家には『帰って』来ないお兄ちゃん。私の傍には戻らないお兄ちゃん。 その原因を作った、あの女。 「ズタズタにしてやる・・・・・・」 お兄ちゃんのアルバムの最後の1ページ。 そこには、お兄ちゃんとあの女の『婚姻届』が挟まれていた。 ページをめくる度に段々と現在に近付いていく写真の中のお兄ちゃんとあの女の、まるで二人のゴールとでも言うみたいに。 目を通すと、細かいことはよく知らないけれど、必要な部分はしっかりと書き込まれてる。 あの女の名前も、知りたくもない個人情報も埋められていた。 「お前がお兄ちゃんの傍にいるなんて許さない・・・・・・お兄ちゃんを連れて行くなんて許さない」 写真よりも脆そうな紙に、ハサミの刃をかける。簡単に切れそうだった。 きっと気持ちのいい音が鳴るに違いない。 私が、お兄ちゃんの妹がこれを切り刻んだことを知ったら、あの女はどんな顔をするだろうか。 想像する。すぐに頭の中に浮かんだ気持ちの悪い顔は、縦に切り割られて消えていった。 愉快だ。きっと、実行したらもっと楽しいに違いない。 「あははははは」 笑ってハサミを構え直し、狙いを定める。最初に切る部分は決まっていた。 強く、一息で断ち切れるように指に力をこめる。 654 ちーちゃんのハサミ sage 2008/08/06(水) 03 32 07 ID ylz6/SPo しばらく止んでいた雷鳴が、これまでで一番の強さで鳴り響いた。 「あ」 その雷のように閃いた。 「ああ!」 ターンしてお兄ちゃんの机の引き出しを開ける。記憶通り一段目に筆記用具、二段目に定規やノリが入っていた。 『婚姻届』を机の上に広げて取り出した道具を広げ、先ず定規を当てる。 次にシャーペンで定規に沿って直線を引くこと四回で、あの女の名前を囲む長方形が出来た。 ハサミを限界まで開いて、重なった刃を留める蝶番の部分を持つ。これで即席カッターの完成。 挟まずにハサミの刃の先端だけを当てて、定規を添えた線に合わせて引く。すっと音も立てずに切れた。 繰り返す。四回目で、あの女の名前だけが切り取れた。 切り取った部分をひっくり返して、白紙になってる裏面に私の名前を書く。 それから縁にノリを塗って『婚姻届』の切り取られた空白の部分に貼り付けて、終了。 ある程度ノリが乾くまで少し待ってからそれを見てみる。見事に、あの女の名前が私のものに代わっていた。 同じことを他の記入されてる場所でも繰り返す。 「出来た」 すぐに、目的の物が出来上がった。 「お兄ちゃんと私の────────婚姻届」 あの女の書いた部分が全部、一つ残らず私の内容になった婚姻届。 それを見てさっきよりも静かに、でもずっと深い所で納得しながら、ふと思い付く。 「ああそっか、こうすればよかったんだ」 すとん、と自分の中に何かが入ったのを、私がそれを受け入れたのを実感した。 「そうだよ・・・・・・『切り替え』ちゃえばいいんだ。あの女を切り■して、私がそこに納まればいいんだ」 この婚姻届みたいに、あの女さえいなくなればその空白に私が納まることが出来る。 お兄ちゃんの近くに、お兄ちゃんの傍に、またお兄ちゃんと触れ合える位置に。 「あははは、何で気付かなかったんだろ」 こんな簡単なことに。 そうだ。邪魔者はなくしてしまえばよかったんだ。 あの写真だって、あそこに写っているのが私なら何の問題ない。同じことなんだ。 あの女が空白になれば、私はまたお兄ちゃんの傍に戻れる。お兄ちゃんが戻って来てくれる場所に行ける。 「うふ、は、あははははは!」 嬉しいな。また『ちーちゃん』の頃に戻れるんだ。あの女さえいなくなれば、またあの頃が帰って来るんだ。 だってそうだよね。そうだよ。お兄ちゃんが私から離れて行ったのはあの女のせいなんだから。 655 ちーちゃんのハサミ sage 2008/08/06(水) 03 35 25 ID ylz6/SPo 「────────じゃあ、■さなきゃ」 早く、少しでも一分でも一秒でも一瞬でもいいから早く、あの女と切り替わらなきゃ。 急いだ分だけ早くお兄ちゃんは帰って来てくれるんだから。 ■す。あの女を■す。切り■す。 お兄ちゃんのくれたハサミで『ちーちゃん』のハサミで顔を切り下ろして目玉を切り潰して首と体を切り離して 腕を切り落として足を切り裂いてお腹を切り開いて内臓を切り出して全身バラバラに切り刻んで骨を切り砕いて 一通り出来損ないの切絵みたいにズタズタにしたら、さっさと切り上げてあの女と切り替わる。 あの女さえ切り終われば私は、私とお兄ちゃんはまた幸せにやり直せる。 「カット、カット、カット────────リテイク♪」 必要な情報はさっき切り貼りした物に書いてある。あの女の住処を見付けるのもすぐだ。 そこに着けば探すまでよりも切り■す時間の方が早い。手早くやろう。 お兄ちゃんもそこにいるんだから、迎えに行くと思えば手間も省けるし。 「待っててお兄ちゃん。すぐ行くからね」 お兄ちゃんの部屋を出ようとして、ドアノブを握ってから引き返す。 そうだ。折角作ったんだから、お兄ちゃんと私の婚姻届も持って行こう。 考えたら工作なんて久し振りだったけど、見せたら喜んでくれるかな。それも楽しみだ。 「わ、凄い風」 一階に下りてさっと準備を済ませてから玄関を出る。 傘じゃあ折れるから、少し古いレインコートを着ることにした。何年か前までお気に入りだった黄色いレインコート。 何だか嬉しくなって、右手に持ったハサミをチョキチョキと鳴らす。 雨に濡らしたら錆びるかもしれないけど、どうせあの女を切り刻んだらボロボロになるんだから構わない。 お兄ちゃんがくれた大事な大事なハサミだけど、それでもお兄ちゃん自身に比べたらどうでもいい。 これでお兄ちゃんが帰って来てくれるなら惜しくない。 「楽しみだね、お兄ちゃん」 お兄ちゃんが戻って来てくれたら、一緒にやりたいことがいっぱいある。 教えて欲しい勉強も、聞いて欲しいことも、聞きたいことも、 一緒に遊びたいことも、兄妹で行きたい場所も、二人で試してみたいことも色々ある。 「『ちーちゃん』のDVD-BOXもあるしね」 あの女を■せば。 また、兄妹で並んでテレビを見ることも出来るんだ。 「その時はゆっくりしていってね、お兄ちゃん」 レインコートの内側に仕舞った婚姻届に上から手を当てる。 ゆっくり息を吐いて真っ暗な空を見ると、ごろごろと雷雲が鳴った。 「私達の家で、私の部屋で────────私の、傍で。ふふっ、うふふっ、ははあはははははははははははっ!」 雨の中、風を浴びて駆け出す。雷に照らされたハサミは、ジャキジャキと気持ちのいい音を立てていた。
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第21話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。幸せの青い鳥――』 四つ葉中学校写生会。テーマは“街の景色”。午後の授業を全部使って、体操服に着替えた全学年の生徒たちは四つ葉公園に向う。 クローバータウンの象徴。広大な敷地を誇り、自然林に植樹を効果的に加え、四季折々の景観が楽しめる憩いの場所。 各クラスの先生は自由行動を許したが、生徒たちの足は自然と一箇所に向う。 通称――“もみじの道”。公園の一角にある、大きな湖に繋がる小道が真っ赤に染まる。 もみじの赤葉を中心に、銀杏とブナの樹の黄葉が連なり、色彩の調和を奏でる。 午後の陽を浴びて、赤と黄色の葉が輝きを増す。 足元にはそれぞれの落ち葉が積もり、柔らかなクッションとなって、道行く人々を優しく受け止める。 遠目にはオレンジ色の絨毯のようにも見える。皆一様に、自然が作り出した芸術作品を、感嘆の声をもらしながら眺めた。 「すっごく綺麗だね、せつな。創作意欲が湧き上がってきたよ」 「そうね。自信ないけど、精一杯描いてみるわ」 「ラブ! せつな! 一緒に描いていい? お邪魔なら遠慮するけど」 「もちろんだよ、由美」 「私は、始めからそのつもりだったわ」 クラスメイトの由美が、ラブとせつなに同行を申し出る。せつなと由美が視線を交わしてクスリと笑う。文化祭からの小さな変化だった。 仲の良い二人に、時々嫉妬するような態度を見せたり、積極的に割り込んだり。 ただ、どちらに嫉妬しているのかわからない。由美はラブとの友情に負けないくらい、せつなとも親しくなっていた。 湖のほとりに座り込んで、三人は背中を合わせるようにして写生を始める。 青く澄んだ湖に、紅葉がところどころ緋を落とす。メジロやヒヨドリ、多種の小鳥が気持ち良さそうに水浴びをする。 家族・友人・恋人連れを乗せた真っ白なスワンボートが、愛らしい鳥達と共に、静の景色に動きを与える。 せつなはその景色の美しさに心を奪われつつも、懸命に鉛筆を走らせる。 繊細に、正確に、緻密に、何より――忠実に。可能な限り、その美しさを損ねないように。 デッサンが終わると、絵の具で色を付けていく。何度も塗り直して、景色と照らし合わせて、自然美を再現していく。 「せつな……すごい、まるで写真みたい!」 「ホント、見惚れちゃう! 景色をそのままスケッチブックの中に閉じ込めたみたい」 「大げさよ。似せてはみたけど、写真には遠く及ばないわ」 「そりゃあ絵だもん。あたしなんて……」 「わたしだって……」 ラブの絵は、まさに自由奔放だった。そもそもどこの景色を描いてるのかすらわからない。 色彩もデタラメだった。赤や黄色はわかるとして、桃色の紅葉なんてどこの世界にあるのだろうか……。 由美の絵は、何を書いてるのかは一応理解できた。ただし、その絵はシンプルで曲線的にデフォルメされていた。 平たく言えば、丸っこくて単純なのだ。 複雑な地形の湖は、まるで円形のプールのようだ。枝や葉を再現しようとせず、木々はベタっと色だけで表現されている。 小鳥とボートは気に入ったのか、やけに大きく描写されていた。玩具のように可愛かったけど……。 スワンボートに至っては、湖の面積の一割を占めていた。 「由美の絵って子供の絵みたい! かわいくってあたし好きだよ」 「絶対! 馬鹿にしてるでしょ? ラブこそ、ピンクの紅葉はいいとして、どこに柿がなってるのよ?」 「生ってた方が楽しいかなと思って……」 「それじゃ空想画でしょ? 今は写生の時間よ」 目を丸くして二人の掛け合いを見ていたせつなが、「プッ」と吹き出した。つられてラブと由美も笑い出す。 ひとしきりみんなで笑ってから、せつなは自分の絵を見てため息を付いた。 「私は、ラブや由美の絵のほうがずっと魅力があると思うわ」 「ないない! ありえないって!」 「そうよ! せつなの絵なら美術部でも通用するんじゃないかな」 「でも、写真を撮らずに絵に描くのは、どう感じてるかを他人に伝えるためよね?」 「そっか、そんなこと考えてもみなかったよ」 「わたしはこの絵が好き。こんなに丁寧に描けるのは、この景色を大事にしてるからだと思うもの」 「それは、由美が私を知ってるからよ。友達が書いた絵って前提は、他人には通用しないわ」 ラブの絵はデタラメだけど、なぜか心に深く残る。いつまでも見ていたいような、あたたかい気持ちにさせてくれる。 由美の絵はいかにも女の子らしくて、可愛らしくて、やっぱり見ているだけで頬がゆるむ。 せつなの絵は緻密で、誰もが見た瞬間に驚くに違いない。でも、それだけ。“上手い”それ以上の感想を他人に与えることはないだろう。 記録媒体としてなら、写真や映像の方がずっと優れている。自由に感じて、自由に表現するのが絵。 知識としてわかっていても、理解して行動に移すことがどうしてもできない。 (やっぱり私には、ラブたちと比べて決定的な何かが欠けているのかもしれない……) 集合時間までまだ少しある。空き時間を利用して、ラブと由美と一緒に散策を楽しんだ。 その間中、せつなの表情は冴えなかった。 幸せになると決めたからこそ、前向きに生きると誓ったからこそ、小さな不安は棘となってせつなに刺さるのだった―― 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。幸せの青い鳥――』 カツン カツン カツン 日曜日の朝、日が昇る前の薄暗い時間、せつなは小鳥に起こされる。 この世界に来て、安心して眠ることを学んだ。今のせつなは、ただ鳥が鳴くだけなら目を覚ましたりしない。 その日は特別だった。見たこともない小鳥が窓をつつく。まるで、せつなを呼んでいるかのように。 (青い鳥? 確か幸せを運ぶって、そんなお話があったはず) 目の覚めるような鮮やかな青い羽。クルクルと動く愛らしい瞳。近づくと、小首をかしげるような動作の後、パッと飛び立った。 せつなの視力は、常人の遥か先まで見渡すことができる。小鳥は公園の湖の辺りの樹に止まったようだった。 (追うつもりはないけど、名前くらいは知っておこうかしら) せつなは私服に着替えて、公園に出かける支度をする。この前の反省から、「散歩に行ってきます」と机の上に書き置きを残した。 また会えたなら、携帯で写真を撮ろうと思った。ふと、机の棚に立てかけてあったスケッチブックが目に入る。 (そうだ、写真に収められなかったら絵を描こう。正確に描くこと“だけ”は得意なのだから) 絵でもちゃんと特徴を捉えられたなら、祈里に聞けば名前くらいはわかるだろう。図鑑で調べてもいい。 結局、絵のセットを一式持って行くことにした。 (この辺りのはずなんだけど……) 四つ葉公園の“もみじの道”を通って、湖のほとりに着く。それは先日の写生会で、ラブと由美とスケッチをした場所でもあった。 奇しくも全く同じ場所で、一人の少女が腰を掛けてデッサンに耽っていた。 歳は自分とそんなに違わないような気がした。いきなり声をかけて驚かせないように、わざと足音を立てて近づく。 ガザガザと落ち葉や小枝を踏む音がしてるはずなのに、少女は気が付く様子がない。 悪いと思いつつも、せつなは声をかけた。 「あの、おはよう。邪魔してごめんなさい。青い小鳥を探しているのだけど、見かけなかった?」 意識して大きめの声を出したにもかかわらず、やっぱり少女は気が付かない。 意図的に無視をしている――というわけでもなさそうだった。 姿を見せたら反応してもらえるかも? と思って前に回りこんでも、やっぱり気が付かない。 一心不乱に鉛筆を走らせていて、それ以上前に出て視界を塞ぐのは躊躇われた。 せつなはため息を付いて、すぐ横に腰をかける。 とても美しい少女だった。“小柄で可憐”と言ったら失礼になるのだろうか? 身長もせつなと大差ないはずなのだから。 それでも、“小さい”という印象を与える顔立ちだった。 紫色の髪。白のブラウスの上に青いシャツ。紺色のジーンズ。一見して、青の印象を与える少女。 まるで――あの小鳥が、この少女に変身したかのようだった。 (どうかしてたわね。こんな大きな公園で、一匹の小鳥になんて気が付くはずないのに) いつの間にか、小鳥の行方が気にならなくなっていた。それよりも、今はこの少女とお話したいと思った。 どこを描いているのかしら? と、せつなは少女のスケッチブックに目を落とす。 思わず息を呑む。 それは数日前、せつなが選んだ景色とほとんど同じ場所の風景画だった。 それだけなら驚くには値しない。そこが最も美しいと感じたからこそ描いたのだ。目の前の少女が、同じ景色を選ぶのも不思議ではない。 しかし、出来栄えには、実力には、天と地ほどの開きがあった。 ラブや由美のように、抽象的というわけではない。せつなと同じ、写実的な絵だった。 繊細に、正確に、緻密に、何より――忠実に。可能な限り、その美しさを損ねないように。 それでいて、何か心に訴えてくるものがあった。まるで、絵に描かれた木々や葉や小鳥に、本物の命でも宿っているかのように。 やがてデッサンが完成する。「ふうっ」と、大きく息を吐いて、少女の全身から力が抜けていく。 せつなの視線に気が付いたのか、クルリと顔を向けて、チョコンと小首をかしげる。 その仕草は、まさに今朝、小鳥が見せた動作そのものだった。 状況が理解できたのか、「きゃっ」と小さく悲鳴を上げてから、慌ててペコリと頭を下げた。 「またやっちゃった」とか言ってる辺り、初めてのことでもないのだろう。 「驚かせてごめんなさい。私は東せつな、せつなと呼んで。取り込み中だったようだから、ここで待たせてもらったの」 「はじめまして。失礼なことしてごめんなさい。わたしは――」 見た目通りの、可憐な名前の子だった。あらためて少女をまじまじと見つめる。 穏やかな雰囲気、おっとりとした口調。ポニーテール風の髪に、少しツリ目気味の大きな瞳。 おとなしい子なのは間違いないだろうが、反面、どこか鋭さを感じさせる一面もあった。 例えるなら、美希と祈里を足して二で割ったような印象。それよりも、今朝見た小鳥を擬人化した方がわかりやすいだろう。 「驚いたわ、絵がとても上手なのね。まるで本物のようで、それでいて本物以上の魅力があるようで」 「そんなことないけど、絵は小さい頃から描いてたから」 せつなは続きを描くように促す。少女は小さく頷いて、今度は絵の具で色を塗り始めた。 やはり、せつなのように原色に忠実で、正確に色合いを表現しようとしている。 (でも、私の絵とは根本的なところで全く違うわ) デッサンからして腕前が全然違う。色が付けば、更にその差は広がるだろう。もっとも、せつなはちゃんと絵の勉強をしたことがない。 基本から練習を積み重ねれば、遠くない将来、同じくらいのものが描ける自信は十分にあった。 問題はそこではないのだ。少女の絵には、技術では説明しきれない“命”が宿っていた。 色を付ける作業にはそれほどの集中力を必要としないのか、単にさっきの反省のためか、今度は自分の世界に入ったりはしなかった。 楽しく談笑しながら絵を仕上げていく。せつなも当初の目的はすっかり忘れて、お話しながら絵の完成を見守った。 「同じくらいの歳だと思うのだけど、この辺りに住んでいるの?」 「ううん、お父さんのお仕事の手伝いで付いて来たの。昼間はすることがないから、絵でも書こうかなって」 土日を利用して、この街にやって来たらしい。昼間はすることがないと言っていたので、お父さんは夜に働く職業の方なのかもしれない。 お父さんがどんな方なのかはともかく、中学生の手を必要としているとは思えない。彼女なりの理由があるのだろう。 共通の話題の少ない少女とせつなは、互いの友達のことに話が及ぶ。そこで思った以上に話が弾んで、意気投合して、すっかり打ち解けてしまった。 「素敵な絵ね、完成おめでとう。実は私も同じ場所の絵を描いていたの――」 「綺麗ね……。せつなさんも絵が上手なのね」 「そう見える? あなたにはわかるはずよ、私の絵には魅力がないわ」 「そうは思わないけど……。せつなさんの絵は、自分の気持ちを込めるのを恐れてるみたいに感じる」 「私が、恐れている?」 「うん、上手く言えないけど――」 少女は、自分が絵を描く時に気を付けていることを慎重に話していく。 感動や驚き、感じたことや考えたことを絵の中に表現すること。 対象をじっくりと観察して、一つ一つの違いを描き分けること。 「それなら知ってるわ。写真を撮らずに絵に描くのは、どう感じてるかを他人に伝えるためよね」 「知ってはいても理解はしてない……ってことよね? こんな言葉があるの」 “全てのものに、命は宿る” 鳥や花のような生き物だけじゃない。この世界の全ての物に命は宿っている。宇宙にも、星にも、空にも、風にも、大地にも。 それは人の目には見えないもの。ファインダーには写らないもの。だから絵で表現するんだって。 対象を客観的に、忠実に再現することは間違っていない。ただ、その底に主観をにじませること。 目で見えるものの奥にある、命そのものを捉えて描くこと。 よく見て、観察する。それを繰り返していると、対象が自分の心の中に溶け込んできて心と一つになる。 そうなると心が自由になり、対象の中に入り込んで、自由に翼を広げて羽ばたけるのだと。その先で命を見つけるのだと。 少女の説明はたどたどしくて、要約して解釈するには時間がかかった。普段は感じているだけで、言葉にしたのは初めてなのだろう。 そして、その考え方は絵だけに留まらないような気がした。例えば、ダンスにだって通じるものがあるのかもしれない。 懸命に伝えようとしてくれる少女に感謝して、大切な教えとして胸に刻むことにした。 「大事なことなのはわかるわ。でも、理解したとは言えない。例えば、この鉛筆にも命は宿っているの?」 「そうよ。せつなさん、大切に使ってるのね。記念にわたしのと一本交換しない?」 「ダメッ! これは駄目よ!」 「冗談よ、ごめんなさい」 少女が自分の新品の鉛筆を持って、せつなの筆箱に手を伸ばす。せつなはとっさに体で覆いかぶさって隠した。 鉛筆も消しゴムも、絵の具や筆箱も、全部、あゆみと圭太郎が買ってくれたもの。 せつなの幸せを願って、贈られたものだった。 そんな様子を見て、少女は優しく微笑んだ。本来、あまり冗談を口にするようなタイプではないのだろう。 今度はちゃんと断ってせつなから借りて、自分の鉛筆と並べて携帯で写真に収める。 「特にこだわりのないわたしの鉛筆と、せつなさんの鉛筆。どちらが大切かなんて、他人には伝わらないわよね?」 「この写真だけじゃ、同じものにしか見えないわ。私にも見分けが付かない」 「でも、こうしたら――」 少女はスラスラと二本の鉛筆をデッサンしていく。形も長さもほとんど同じ。違うのはメーカーくらいのもの。 再び訪れる極限の集中力。下書きの線が一本増えるたびに本物の形に近づいていき、 やがて――本物すら超えた。 「これなら、せつなさんの鉛筆がどちらかわかるんじゃないかしら?」 「すごい……。全く同じ形に描いてるように見えるのに――私のは、こっちよ!」 まだ色も付いていない、形だけを捉えたデッサン。でも、よく見ると線の力強さが微妙に違う。 影の濃さにも僅かな違いがある。他にも何か違うのかもしれない。 一つ間違いなく言えるのは、“鉛筆という道具に込められたせつなの想い”を命として感じ取って、描かれたものであることだった。 「せつなさん、この景色が好きなんでしょ? それだけはちゃんと伝わってきたわ。手を加えるのが怖いって」 「そうね。私はこの景色を失うのが怖い。壊して、奪って、そんなことをずっと続けてきたから」 「せつなさん?」 「ごめんなさい、なんでもないわ。私は自分の気持ちを表現するのが苦手だったけど、おかげで何かつかめた気がするの」 そう言ってせつなは鉛筆を走らせる。 せつなの集中力が極限まで高まり、意識の全てが視界に収束されていく。 秋風が肌をくすぐる感覚も、木の葉が揺れる音も、横で少女が囁いている声すらも、 全てが視覚情報として処理されて、絵の中に封じ込められていく。 「ふうっ、やっぱり――みたいにはいかないけれど」 「そんなことないっ! これ、とても素敵な絵よ。せつなさんにはこう見えるのね」 「ええ、私、紅葉が好きよ。特に赤いモミジは大好き。葉が落ちていく前触れなのに、なんだか温かいイメージがあるでしょ」 「そう! それが絵を描くってことよ」 「私、なんだかわかった気がする。“全てのものに命は宿る”生きてないものに命を宿しているのは、それを愛している人の心なのね」 「うん。真っ白だったスケッチブックも、せつなさんの心で命が宿ったんだと思う」 話してる途中で、せつなのお腹がグーと鳴る。真っ赤になるせつなの前で、少女のお腹も同じように―― 「もうこんな時間。お昼には遅いけど、美味しいドーナツ屋さんを知ってるの」 「じゃあ、休憩して食べに行きましょう。この絵が完成するところ、わたしも見てみたいから」 ドーナツを買ってきて、二人で談笑しながら食べる。ラブ以外で、こうして二人きりでドーナツを食べるのは初めてかもしれない。 その後、再び絵を描く作業に取りかかる。景色を心に投影して、心の鏡に映った通りに忠実に色を塗っていく。 数時間後に完成する。それは単に景色を写し取ったものではなくて、絵が飛び出してくるような迫力を伴ったものだった。 「やっぱり素敵! せつなさんは絵を描くべきよ!」 「ありがとう。でも、私の夢は別にあるの」 「あっ……もう行かなきゃ。もっとお話したかったけど」 「これを持って行って。お礼にはならないけれど、せめてもの感謝の気持ちよ」 せつなはそう言って、描いたばかりの絵をスケッチブックから外して少女に手渡した。 多めに買っておいたドーナツの袋と一緒に。 「ありがとう、大切にする。代わりにわたしの絵を持っててほしいの」 「ありがとう。私も宝物にするわ」 「もう会えないのかしら?」 「今度は友達を連れて遊びに来るわ。その中の一人は、せつなさんが話してたラブさんに似てるかも」 「楽しみにしてるわ」 「じゃあ、またいつか、必ず会いましょう!」 少女はそう言って別れを告げると、元気よく走り出した。だいぶ離れてからもう一度振り向いて、大きく手を振りながら“さよなら”と伝える。 大人しいようで活発で。控えめなようでハッキリしていて。空に羽ばたく鳥のように自由で。 少女の姿が見えなくなった瞬間、せつなの前に青い小鳥が舞い降りる。小首をかしげてせつなを見てから、少女が去った方向に飛び立った。 もう名前は気にならなかった。その青い鳥は、確かに幸せを運んでくれたのだから。 その小鳥に、少女と同じ名前を付けて覚えておくことにした。 家に帰って、再びせつなはスケッチブックを開いた。 少女が最後に教えてくれたアドバイスを実行するためだ。 “本当に絵が好きになりたいのなら、一番好きなものを描くの。多ければ多いほどいいわ” せつなは一人の少女の絵を描いた。楽しそうな笑顔。嬉しそうな笑顔。元気いっぱいの笑顔。せつなが世界で一番好きなもの。 どれも、これも、全部同じ人。そっくりでありながら、一つとして同じ表情はない。 それは、スケッチブックいっぱいに描かれた―― 桃園ラブの笑顔だった。
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【べんけいのおばちゃん】 弁慶=おばちゃん。 いつも笑顔で迎えてくれる。 おばちゃんに名前と顔を覚えてもらったら君も立派なネージュ部員だ!