約 72,146 件
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1453.html
闇の零 (2) 夜のXX帝大門は、門番によって篝火を絶やされることなく、闇夜の中に立ち上がっている。その門は、内戦にあって、一度も閉じられたことがないという。北方軍が迫りくると聞かされても、大門を閉じることなく、やってくるはずの味方の軍勢を待ったと。マグヌス将軍の大返しは、まるで演義物のようだ。 帝都郊外の街の灯りの中でも、大門は大きく聳えて見え、左右に伸びる城壁も高い。今は河も河門も見えない。今ならば、砲撃で打ち崩されかねない古い城壁だけれど、射点につくまでに郊外の石造りの街を進むのは、それはそれで大変だろう。城壁の向こうは、本当の帝都。本来は軍勢など踏み込めない、皇帝陛下の本当のお膝元だ。 XX大門を、周囲から壁を照らし上げる灯りとは別に、門の上には、望楼が作られている。夜空に向かって吸い込まれるように立つ望楼には、信号燈台が作られていて、北より帝都に向かう軍勢の知らせは、夜であっても宮城に知らされるようになっている。しかし内戦でそれが燈されたこともない。 ルキアニスは、マルクスとともに隊列の最後を走る。前を走るのは黒騎士小隊の三機、その前に軍旗小隊の二機、その前にシルディール連隊長、先頭は軍旗小隊の残りの二機。その前を、騎兵の半個分隊が先導する。帝國の道は、本来軍勢の動く道であり、夜でも灯明があり、標が様々に掲げられていて、進みやすいことおびただしい。夜であっても、小走りより速く走り続けられる。機よりも乗り手の方が先に音を上げそうだ。機の胎内で揺さぶられると体が痛むし、とても疲れる。 帝都近くのこの道は上り四つ、下り四つの四つの通行線が作られているうえ、上り下りの通行線の間には、さらに四本は道の作れそうな中央広場がある。そこには屋台が並んでいて、それじたい街のようだ。 それが大門までまっすぐに続いている。石の街の中の、広い石の道。その先に門と城壁とが闇の中に浮かび上がる。 大広場までは、軍勢の入り込んでよいところだ。開かれたままの門の向こうは違う。まっすぐに見える石畳の道も、ずっと狭くなっている。かつて帝國がずっと小さかったころ、そのころの宮城の前まで伸びていた道をもとにしたとマルクスが言っていた。マルクスはそういうことにやたらと詳しい。 やがて、連隊長機が行軍速度緩めよ、の手信号を出す。後ろの機から、マルクスとルキアニスの機から足を緩め、黒騎士小隊からやがて隊列全体が、歩速へと変わってゆく。機内で腰も背も痛む。石畳での強行軍速度ではそうなる。機に乗っているときは不思議なもので、己の体が揺さぶられて痛むのと同時に、己の体の中に小さな何かがあって、それが痛む気もする。マルクスにそう言ってみたら、そんなことは無い、と断言されてしまった。尻痛い、と彼は言い、ルキアニスはお尻より背中の方が痛い気がする。 歩速で隊列はすすむ。それでも青の三の行軍速度よりも早い。青の三は戦列機装甲で、戦列歩兵の行軍速度に合わせるから必ずしも大股であるかない。歩幅の小さな統制行軍歩速がある。この白の六、剽騎兵系列機は、騎兵と一緒に行動するから、統制行軍歩速はほとんど使わない。そのまま大広場に進んでゆく。 大広場は、道の真ん中の広場と同じように、屋台が立ち並んでいる。広場は皇帝陛下と皇帝陛下の軍勢のためのものであるけれど、もちろん帝都臣民の利用も許されている。いつか見た教会の前の広場と同じだ。教会の前の広場は、教会に寄進がいると聞いた気がする。この広場は教会の前の広場より何倍も広くて、旅団ひとつくらい簡単に収まる。ここで陛下にお目にかかるのは、大変な栄誉だ。これ以上のものは、近衛軍団の練兵場から直接に皇宮前広場へと達する凱旋式くらいだ、と聞いたことがある。 実は、ルキアニスもここに並んだことがある。アリア姫のご婚礼のとき、姫をアル・カディアへとお送りする護衛として、21旅団がつけられたときだ。その時は、アリア姫の婚礼馬車列を見ることはなかった。13連隊は栄誉ある先導を任され、けれど婚礼馬車列からはずっと離れたところにいたからだ。 今は大広場は帝都臣民のために開放されている。道のつながるところは馬車溜にされているし、広場全体には、屋台の列が並ぶ。それ自体ちいさな街のようだ。空いているのは、広場の真ん中だけだけれど、臣民にとってはただの道と同じで、絶えず人影が横切っている。 そこに、騎兵が踏み込んでゆく。半個分隊が横隊を作り、中央の一騎が、連隊表示帯旗を掲げ、皇帝陛下の軍隊が進むことを知らせている。それら騎兵よりも、その背後を進んでくる、二列縦隊の機装甲の方に、帝都の人々は驚いているようだ。内戦の日は遠く過ぎ去り、この広場に皇帝陛下の軍隊がやってくることなど、めったやたらには無かろうと。驚いて足を止め、茫然と見送るか、慌てて退くか、人々はそのいずれかで、それ以上のことを何かするものは無かった。 騎兵が足を止めたのは、開いたままの大門が大きく迫るところに至ってからだ。そこには帝都の衛士が立つ。さすがの帝都の衛士も驚いた様子で、哨所長らしいものが慌ててやってくるのが見える。 『全機、序列のまま降機』 シルディール連隊長の命じる声が、魔術で響く。ルキアニスは、片膝をついて侍る形を機にとらせ、仮面をはずす。甲蓋を押し開けば、夜の涼しい風と、町のざわめきが押し寄せてくる。そのまま機の背を伝い降りる。隣ではマルクスの機もそうしており、マルクス自身も、石畳を踏んだところだった。彼は装具入れを開いて、剣を抜きだす。そうだった。駐屯地で連隊長は、常時帯剣を命じていた。帯剣は騎士の誉で義務ではあるけど、いくさ場でないのに佩刀するのはルキアニスはあまり好きではなかった。今は、回り中人だらけだ。それも帝都の普通の人たち。 「みんなこっちを見てる」 「気にするな。命令で来てるんだ」 マルクスはどこ吹く風という感じだ。でも気にするなと言われても、ちょっと無理だ。やがて騎兵たちがやってくる。あまり人垣が近づかないように、まだ離れているうちに機との間に割り込んできたのだ。 「黒騎士小隊は、北側の警衛を実施せよ」 連隊長の命じる声が聞こえる。 「軍旗小隊は南、門側を警戒せよ。二人はこちらへ」 なぜと問うても意味がない。連隊長がそういうなら、そうなのだから。あるいは、頼りにならないからだけかもしれない。黒騎士小隊のヒュド騎士長とすれ違う。彼女は本当にこんなところなどどうということもない、という風だ。それどころか乗馬のままの騎兵より頼りになりそうに見える。 「部隊行動のいちいちについて、衛士への通知は実施しません」 そして、そう冷たく退ける声も聞こえる。大門を守る衛士らは、やってきた機装甲相手に、黙っているはずがない。飛び出してきて問う帝都衛士の哨所長へ、しかし連隊長はそう応じるのだ。哨所長も引かなかった。 「では、この門より先に踏み込まれればどうなるか、御存じなのですな」 「それは命令次第であり、正規の命令と許可に因るならば、我々は何事もその命令通りに実施するのみです。命令について衛士の解釈を求めることもしません」 「それは我々も同様。皇帝陛下のお膝元をお守りするものとして、お通しすべきでないものは、命に代えても阻みましょうぞ」 「衛士の方々が衛士の任を果たされるのは、当然のこと」 シルディール連隊長を、衛士の哨所長は睨みつけたけれど、しかしそれ以上、何をすることもできなかった。引き連れてきた部下に、ここにて立哨し、通すべきでないものは決して通すなと命じ、己もまた腕組みして、その場から動かなかった。 連隊長はといえば、かまわず背を向けて退いた。衛士たちの前には軍旗小隊の騎士が立っている。騎士の方は睨みあうわけでもなく、むしろ困ったという様子が背中に見えるようだ。腕のいい人たちだけれど、普通の騎士でもあるし。 ルキアニスが怖いと思うのは、機体の列を挟んで後ろ側にいる黒騎士たちだ。あの人たちは、軍旗小隊の人たちとは違う。腕の違いは、たぶん一重も無いのだと思うけれど。 「・・・・・・」 ちらりと、ルキアニスは背後をうかがう。シルディール連隊長に言われたから来たし、まるで護衛気取りで、マルクスと左右に分かれて立っているけれど、立哨するなら帯剣は必須だけれど、そのために帯剣を命じられたのだろうか。ただ立っているだけだ。その連隊長はどうするつもりなのだろう。先行してきたのに、ただ待つだけだろうか。そんなことはしない。連隊長が何かするときには、必ず何かをするためだ。待つために早く出る人ではない。 ここは静かだけれど、周りはざわめいている。帝都の人たちにとっては、突然現れた十機もの機装甲が珍しいらしい。よく見られるだろう機卒にくらべると、ずっと精緻なつくりをしていて、物語の騎士の守りにはふさわしい。それに白の六系列は、帝國軍の中で最も新しいものだ。 人が押し寄せてこぬように、周囲を乗馬のままの騎兵が警戒しているけれど、帝都衛士のほうは知らぬ顔をするつもりらしい。あれだけの言い合いのようなやり取りをしたからには、そうだろう。人が押し寄せてきてしまっても、ルキアニスにはどうしようもない。剣を抜くわけにもゆかない。 「・・・・・・」 ルキアニスはまたたく。 なんだろう、ちょっとおかしい。目が、しょぼしょぼする、そんな感じだ。 でも、目がおかしいわけじゃない。 とても奇妙な感じ。 まるで、見えない手で戯れに目隠しをされてる、そんな感じ。見えない手に目隠しされて、ルキアニスには見えないのに、見てはいけない何かがある。 見てはいけない何か。なんでそんなことがわかるのだろう。 でもそう思う。目で見る何かではなくて、目の奥の、さらに奥。己の体なのに己で知らないどこか奥底の頭の中で、何かがちらちらする。でも、それそのものを目隠しされているようだ。 わからない。どう思えばいいのかも、何が起きてるのかも。ひょっとしたら己独りが何かおかしくなってしまったのかもしれない。 「・・・・・」 足までふらついて、よろけて前に踏み出した。まるで背中を押されたみたいに。 振り向いたのはなぜだろう。でもそちらに「在る」のがわかった。 連隊長の方だ。 見えているのに、見えていない何か。在るのに見えていない何か。誰か。そう。誰か。 なぜそんな風に思ったのだろう。 けれど、ルキアニスは振り向いていたし、連隊長の方を見た。 シルディール連隊長は、ゆっくりと夜空を仰ぐ。自らそうしたというより、誰かにその背にそっと触れられたかのように。闇色の瞳が伏せられ、そのままゆっくりと息を吐く。わずかにその身を後ろへ傾ける。何者かに預けるかのように。 驚いていた。ルキアニスは、シルディール連隊長がそんな風に、誰かに背を預けるなんて信じられなかった。見たことなんて一度もない。 そのまま瞳と同じように伏せたおもては、何かに聞き入っているようにも見える。 そして瞳が、不意にルキアニスへ向けられる。深い夜色の瞳は、冬の夜空そのもののようにルキアニスを冷たく映す。いらだちさえそこに感じる。居なくてよいところにいた、というように。秘密の話をしていたところに、うかつに踏み込んだ、というように。 「・・・・・・」 ルキアニスは思わず小さくかぶりをふる。それは、踏み込んでいたことに気づいてしまったと自ら言うのと同じだとわかっていたけれど。 「・・・・・・」 しかし、シルディール連隊長は目をそらす、そんなことがあるはずがない、と思い直すように。一つ、二つ、と瞬いたあとの姿は、いつもの連隊長と同じだった。ルキアニスなどにかまわず、開かれたままの大門へまっすぐ目を向ける。 ルキアニスも見た。伝令と同じ標識の旗竿を掲げて、騎馬の一団が駆けてくる。五騎か六騎か、夜の灯明と闇とのなかを駆けてくる姿は、帝國軍でも、帝都衛士のものでもないとしかわからない。 「通せ通せ!」 彼らは帝都衛士すら歯牙にもかけない。それでも門を駆け抜けて駆けつけてくる。背後から帝都衛士たちを蹴散らすも同然に、軍旗小隊の前で手綱を引いた。 「帝國内務省、ヴェルナウスである。公務により参上した。こなたは帝國親衛軍21旅団の方々か」 「親衛軍21旅団13連隊連隊長である」 まるで知っていたかのように、シルディール連隊長は応じる。 「まずは合言葉を確かめたい」 「春を告げる鳥はばたく」 「あれ見よひばりの姿」 「よろしいか」 「参られよ。ヴェルナウス殿らをお通しせよ」 常に冷静な軍旗小隊も戸惑いはあるらしい。しかし、連隊長を疑う気は毛頭ない。立ち姿で成す封じを開く。ひらりと馬を舞い降りた者らは、馬を引いてゆっくりと歩いてくる。内務省の者だと言っていた。確かに身に着けている制服は、帝國軍の者とは少し違う。 「遅参を詫びたい。早い到着に感謝する。まずは命令書を確認いただきたい」 ヴェルナウスと名乗った者が、腰の書類嚢から封筒を取り出す。受け取った連隊長は、刀子で封を切った。広げたその命令書は、ルキアニスの見るかぎり、帝國軍のものと同じに思えた。 「承知した。13連隊はただちに目標へ急行する」 「お待ちください」 声は、先の衛士らのものだった。ヴェルナウスは振り返る。 「公務である。意見無用」 「公務の示しなくば、門番としてお通しいたしかねます」 ヴェルナウスは一枚の紙を取り出し、衛士哨所頭へと突きつける。 「・・・・・・」 手に取り、絶句したのは衛士のほうだった。かまわずヴェルナウスは連隊長へと振り向く。 「先導する。参られたい」 「了解した。13連隊臨編本部中隊は、これより内務省部隊との共同行動を実施する。誘導に従い、帝都にて行動する。移動準備。連隊長に続け」 連隊長に続け、と言われて、了解と応じないわけがない。それはむしろ、体の側が先にそう応じて、そのあとになって、帝都で、と疑問が浮かぶようなありさまだった。それはマルクスも同じだったらしい。彼と目があう。 「・・・・・・」 行くしかない。二人して機へと駆ける。駆け戻ってくる黒騎士のヒュド騎士長とすれ違う。彼女が珍しいほど不審げな様子でいるのは、やはり帝都へ入るからだろうか。連隊長の方を見、それでも己の黒の二を這い上る。 ルキアニスも己の機の背を伝い上り、胎内に滑り込む。甲蓋を閉じて、操縦槽の席につく。帝都、その城壁の中の街は、もちろん何度も入っていたけど、任務で、機装甲で入ることになるなんて思ってもみなかった。胸がひどく打つ。今日は不思議なことばかり起きる。今もそうだし、連隊長もだ。 仮面をつけて機と一つになると、その双眸がシルディール連隊長を映す。まだ機の脇に立っている。 その隣の、何もない、誰も立っていないところへ目を向ける。笑みは何を示すのだろう。そしてシルフィス・シリヤスクス・シルディール連隊長は、その機の背を伝い上る。振り返らずにその中に滑り込む。 立ち上がった機の隊列は、開いたままの大門へと進んでゆく。 平気で以前に書いたことと矛盾したことを書くのはどうかとは思う。 特に帝都北方の地勢について。 僕は以前、北への街道には、いくつもの凱旋門が作られている、と書いたし、それはヴィルミヘ河にほど近いと書いたし、その凱旋門を通らないと、帝都の北側に(いざというときの最終防衛陣地として作られた)帝國軍の北方集結地には着かないと書いたのだけれど、それとはまったく違う描写の8車線中央に広場持つ街道、要するに100m道路とかを平気で書いている。 しかし、帝都北方の大門には北方鎮定に力をふるった(つまり古ゴーラ帝国を解体した)皇帝の名がついているだろうし、そこには集結広場やらそのまま行軍してゆく街道があるのでは、と思ったし、思ったら、すみません、そう書いてしまいま した。
https://w.atwiki.jp/sengoku-aeon/pages/229.html
<イオン旅団編制> 総人数 5000(侍1270人 足軽 2830人 馬 700 銃 1860 大砲 24 火影1 中忍9 下忍90)+工兵(イオン建設800) うち軍人 4200 旅団長 :蔓辺田キル夫 参謀長 :巴マミ 参謀次長 :黒田アリス 旅団予備 予備1個中隊 第一連隊長 :明智総悟 第一歩兵大隊長 :斉藤神楽 (倍々臣) 第二歩兵大隊長 :島耕作 (与力) 第三歩兵大隊長 :明智十四郎(倍々臣) 第二連隊長 :木下弥子 第一歩兵大隊長 :山内英輔(倍々臣) 第二歩兵大隊長 :竹中半兵衛(与力) 第三歩兵大隊長 :堀尾善二郎(倍々臣) 旅団騎兵 騎兵連隊隊長 :張遼 兼第一騎兵大隊長 :張遼 第二騎兵大隊長 :花輪まこと 旅団砲兵 砲兵連隊長 :九鬼ファン 兼第一砲兵大隊長 :九鬼ファン 旅団忍軍 火影(連隊長) :かなみ 旅団工兵 工兵連隊長 :田中ぷにえ 第一工兵大隊長 :大久保できる子 第二工兵大隊長 :安井ドナルド 【部隊詳細】 歩兵大隊 侍 70 足軽 430 鉄砲 300 ×6 雇用費2280貫+鉄砲代(@1.8で540貫) 騎兵大隊 侍 350 馬 350 ×2 雇用費2800貫+騎馬代(@5.0で1750貫) 砲兵大隊 侍 50 足軽 250 山砲 24 ×1 雇用費1400貫+大砲代(@50で1200貫) 近衛中隊 侍 100 鉄砲 60 雇用費 800貫+鉄砲代(@1.8で108貫) 忍軍 火影1 中忍 9 下忍 9 雇用費 500貫 工兵 イオン建設 800 雇用費2000貫
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1455.html
闇の零 (3) 広げた地図を魔道灯明が射す。 目標はある貴族の持ち物の倉庫。周囲はすでに内務省の部隊が封鎖し、何物も入れぬように、出られぬようにしてあるという。 「まだ中の様子は不明だ」 内務省のヴェルナウスは静かに言う。ここもまた倉庫だ。ハリストス運河を通じて南へ、北へ、船で荷を運ぶ、そういった者らが荷を置いておくところの一つだ。機体は持ち込めない建物の影に隠してある。 「では突入すべきだ。戦力はある。問題は」 黒騎士の一人、ブシドーが問う。ヴェルナウスはかぶりを振る。 「ある。この事案の情報を取得したい」 「それこそが問題だな。我々は軍人だ。敵を、その能力を、存在を破砕し、事態の進行を防ぎ、我が方に掌握するためにここにいる。それ以外の機能を要求されても、実行の保証はできん。二つに一つだ。すべてを壊してでも今突入するか、敵が先に動くまで待つか」 「君たちはこの事案の危険性をわかっていない。再発を防ぐためには、資料の保全と十分な検挙が必要だ」 「問題をわかっていないようだな。我々がここにいる時点で、成すべきことがなされていなかったのだ。後始末をいくら手をかけて行っても、それは刑場の掃除にすぎん」 睨みあうわけでもなく、どうでもよい相手に、所感をただ示しただけ、ヴェルナウスもブシドーもそんな風に見えた。 シルディール連隊長といえば、常より優しいくらいの穏やかな顔で、口も挟まず地図を見下ろしているだけだ。黒騎士のほかの二人はわれ関せずという風だし、軍旗小隊の4人とルキアニスとマルクスの二人は、何を言うのもふさわしくなく、連隊長がどう命じるかを黙って待つしかない。 軍旗小隊の四人は、ルキアニスたちとはちがって、ほとんど連隊本部にくっついている。軍旗と連隊長の護持が任務だから仕方ないのだけれど、普段はあまり話さない。でもあちらの方は、親しげに声をかけてきてくれる。特に四人のうちの一人、サイモス騎士長は陽気で、仲間内でもルキアニスへも、冗談ばっかり言っていた。その冗談の種も尽きてきて、夜も更けてきて、皆がだまってあくびを繰り返すころになって、荒っぽく扉が開かれた。 職人さんみたいな服を身に着けた、内務省の者がヴェルナウスへと小走りに駆け寄る。何かを耳打ちする。 「地図を」 すぐに大机には新しい地図が広げられる。ハリストス運河からヴィルミヘ河にかけての街の様子を書き記した地図だ。聞かせるつもりがないからだろう小声で、ヴェルナウスへと何かを報告している。 「まずいな」 ヴェルナウスは顔を上げ、連隊長を見た。 「港で動きがある。こちらは囮かもしれない」 「あるいは逆に、こちらの張り込みが気取られて、陽動をかけられているか」 応じたのはブシドーだ。 「どうする。機装甲を動かせば、どちらか、そしていずれともに気づかれる。やるなら同時になるようにしながら、結局は相手の息を見て突っ込めるときに突っ込むしかない」 「両方同時の突入は可能でしょうか」 ヴェルナウスが問うたのは、シルディール連隊長へだった。連隊長は軽く腕組みをする。 「目標の潜伏する地形次第、ですね。港ならば、両岸に魔道戦能力を持つ兵員を配置し、その上で、敵の潜伏する建物を包囲する」 「火力戦は行ってほしくない。ここは帝都だ」 「一切行わずに強襲を成功させるのは不可能です。こちらから撃たなくても、相手が打てば、撃ち合うしかなくなります。あとは何時こちらが撃つか、です」 「火災となれば手が付けられなくなる恐れがある」 「それこそが敵の目的です。火災を盾に離脱する。すなわち一定の範囲はすでに火事になっているのと同じです。敵が、港に潜伏しているとすれば」 口元に笑みを浮かべ、連隊長は問う。 「そしてもう一か所、今、監視している倉庫がある。こちらも同じです。いかがされますか」 まれに浮かべるその笑みを、ルキアニスは怖いと思っていた。連隊長には、ルキアニスの思いもよらないところがいくつもある。まるで、燃え上がること、踏みにじられることを喜んでいるようにも見える、 「やむを得ない」 ヴェルナウスは言う。 「目標が魔道戦を実施する恐れがある場合、魔道戦を実施してよい」 「了解しました」 静かに、連隊長は応じる。 「目標の指示を」 目標は二か所あった。一つは先の港。こちらは連隊長と黒騎士小隊、それに軍旗小隊より二人が出る。岸辺の側に黒騎士小隊と、連隊長がつき、対岸には軍旗小隊の二人がつく。 そこまでするのは、敵が機神格の機体を持っているかもしれないからだ。 「え?」 そこまでの連隊長の指示を受けて、ルキアニスは思わず声をあげ、皆の目を受けて慌てて両手で口を押える。でも、驚きは止められない。 機神格の敵、そういわれた。 しかし機神そのものではない、とも。 帝國軍で、機神格として扱うものは、機神そのものから、黒の龍神、そして黒の二を含む。 連隊長と黒騎士小隊、それに軍旗小隊より二機が港に行ってしまったら、残るのはルキアニスとマルクスと、軍旗小隊の残りの二人だけだ。 「何か、アモニス上騎」 「・・・・・・いえ、あの」 「何か問題があるのか、アモニス上騎」 「あの・・・・・・なんでもありません」 では、第二配置を指示する、と連隊長は言う。何か楽し気に。人員配置はもちろんルキアニスと、マルクスと、軍旗小隊のシニス騎士長、サイモス騎士長の四人。このうち魔道戦を実施できるのは、三人。ルキアニスたちの他にシニス騎士長が風の魔道相の使い手だ。マルクスの方をちらりと見ると、いつも通りに軽く腕組みをして、左手は軽く握って口元にある。何かを考えているときの仕草だ。声をかけてもろくに答えない。軍旗小隊の二人は、もっと気楽そうでサイモス騎士長は、いやあこまったなあと言いたげに頭を掻いたり、シニス騎士長と顔を見合わせたりしている。連隊長は続ける。 「魔道火力の規制は、要請通り。目標が魔術火力を発揮する恐れがあるとき。判断は緻密に迅速に行うように」 「了解しました」 ルキアニス以外の三人は、いつもの応答のように素早く応じる。 「確実に完全に撃破せよ。抵抗力を残していた場合、懸念の通り敵の魔術火力が付随被害を広げる可能性がある」 それは、連隊長の言う通りだ。倒すしかない。 黒騎士相手に臆したら負けだ。でも、策無しに突っ込んでも無駄だ。ちらりと黒騎士小隊を見る。でも彼ら三人は、それぞれに散らばって地図を見下ろしている。それから連隊長も。 今はいつも通りに、一本束ねに髪を結いあげて、地図を前にルキアニスへ目を向けている。 できないなんて言えない。 相手がたとえシルディール連隊長の乗った、黒の二でも。 ここが帝都で、あの時に見たような、帝都の人たちがいるのだから。 夕暮れの鐘を思い出していた。今日ではなく、ずっと昔の。 冬至の夕暮れの、教会前の広場。今日の大門前の広場みたいに、たくさんの人がいた。傾く日差しの中で、二人で、冬至の一日の終わるあの日。 もう隣に、あの人はいないけれど。握った手は己の手指しかないけれど。 「やります」 「当然だ」 「はい」 そして今は、あの人は帝都にいない。遠い夜空の向こうの西方にいるはずだ。いたら、今のように気持ちなど変えられはしない。 「よろしい」 連隊長の指示は続く。黒騎士に対するものより、子細な指示だとルキアニスは思った。たしかに、市街戦の訓練など連隊では通り一遍ほどもしていない。連隊長が、どこでそれを手にしたかはわからないけれど。 目標の倉庫を前に遠距離から二手に分かれて、前道と裏道から接敵する。一時待機はその前の四つ辻。区画された帝都だとそれが行いやすい。四つ辻に一機ずつが待ち、そこから倉庫までの道は、内務省が封じる。破壊するのは前道に面した大扉だ。四機のすべてが、近接戦闘距離に入る。道を駆けこみ、近接入ることで、敵の魔道投射の間を与えない。そしてそして白の六の脚ならそれができる。重甲は頼りになるけれど、それを持っていたら、その脚は生かせない。魔術を使うなら、近接戦闘になってからだ。そして確実に敵を葬る。たとえ相手が機神でも、たとえ連隊長が乗っていても。 夜の街で、それと相対していたなら、そう風の魔術に乗って、舞い上がるだろう。間合いは自在。飛ぶも、魔術も。その狙いのときを、受け太刀から、差し違えてでも・・・・・・いや、それを見切られたら、いなされて大斧も抑えぬうちに、間合いをとられて両断される。むつかしい。間合いが相手のもので、相手の方が強い。無為に切られぬようにするには、相手の入りに合わせて、相手の思わなかったところを斬るしかない。 「・・・・・・」 ルキアニスはマルクスを横目で見た。 腕組みから口元にこぶしを寄せて、連隊長の指示を黙って聞いている。帝都はマルクスの生まれ育った街でもある。港側ではないけれど、今でもご家族や、姉様が住んでる。 やってもらうしかない。 二人懸かりならば・・・・・・。 ルキアニスがやることを、マルクスはすぐにわかるはずだ。類感魔術で機装甲が動かされるからこそ、人の修練した技がそこから繰り出される。機の一部が失われたときの魔術の人の側の一瞬の狂いに、付け込むしかない。 連隊長を相手に、それで倒せるとは思えないけれど。 けれど、心が決まったらすっきりした。 「よいか」 「はい」 うなずいた連隊長は皆を見る。 「では、機体点検後に展開する。かかれ」 「承知!」 あとは常の通りだ。機体が待っている。追いかけてくる足音は、マルクスだ。 「聞けよ」 「何」 内務省の護る扉は内務省の者が開く。出た先は暗いままの倉庫の隙間の道だ。そこを通ってゆくと、裏道に出る。機装甲を置いてある道だ。もちろんその道も、内務省の人らが封じている。歩きながらマルクスは言う。 「連隊長の指示とは違うが、近接したら俺が魔術攻撃で倉庫を崩す」 「あ・・・・・・」 ルキアニスは振り向く。 「その手があったんだ」 「全部埋めちまえばいい。瓦礫の中で動いてたら、お前がとどめ刺せ。それで被害を広げない」 「うん」 ルキアニスはうなずき返す。 「僕は連隊長くらいの人と戦わなきゃいけないかと思ってた」 「本当にそうだと確信していたら、あの人は後続を待つとは思うけれどな」 「・・・・・・」 それはそうかもしれない。だとしたら、どうして今なのだろう。 「慌てることは無いさ」 追いついてきた声が言う。軍旗小隊組のサイモス騎士長と、シニス騎士長だ。シニス騎士長は言う。 「とりあえず、倉庫の扉を蹴り開けるくらいはさせてくれ。騎士が搭乗してなかったら、内務省の仕事だ」 「そもそもいないかもしれない」 楽し気にサイモス騎士長が言い、それはどうだかとシニス騎士長は目を向ける。 「いた時まずいだろう」 「その時はその時だ。こちとら軍旗小隊最強を張ってるんだ。番号中隊最強と合わせて、何とかすればいい」 「だってさ」 「最強かどうかは知らないけど」 マルクスは、さあてね、というように片方の眉を上げて見せる。それから軍旗小隊の二人を見た。 「それじゃ、それで」 それからそれぞれの機体へと別れる。夜の街の影は暗く、灯明か魔道光が無ければどうにもならない。もちろん装備品の中には入っている。灯せば白く明るい光が柔らかく期待を照らす。 搭乗騎士だけでも機体の手入れ点検は行うけれど、機付きの士卒がいないと、だいぶ手がかかる。内務省の人たちといえば、急に機体に這い上って、かんかん叩いたり、関節の隙間から収束帯継ぎ手を確かめたりしているのが、物珍しいらしい。 「機体を起動するときは、危ないですから、離れていてください」 言っておかねば、怖いくらい近くで見上げるだろう。 やがて伝令が来て、第一分遣隊の出立を告げる。連隊長たちの組だ。第二分遣隊、つまりルキアニスたちの組も、準備でき次第出立になる。その後、内務省部隊に導かれて、定めておいた最終待機地点に至る。そこで最終打ち合わせ、そして突入だ。 ごつんごつんと石畳を踏みしめる重い音が連なって響く。 急ぐことも慌てることもない。手順通りやってもすぐに終わる。そうしたら、出立だ。 ここで、ルキアニスの覚悟が出てくるとは思わなかった。驚いた。 何年も書かなかったうちに忘れていたことだ。そして今書いているルキは、13Rにいるすべての人を、心から信じてもいる。だからすっきりできる。スキのない、最強で美しい憧れの上司、超怖い実力派の先輩w 居心地のいい同僚。そのシル子をシミュレートして、できることの上限で刃が届くなら、たぶんほかにも何とかできると納得できたんだろう。 ちょうど響けユーフォの劇場版を見ていて、知人が吹部の思い出を語っていて、ちょっと当てられていたのかもしれない。 そして書いてみて、やっぱり帝都の人を書いておいて正解だったと思うし、それが過去に超越してゆくのを自分で書いていると楽しい。 シル子も図上指示しながら、自分だったらどうするか、自分がどうするかを考えてはいる。ただし今の彼女、別のあることを知っているので、愛すべき性格の悪さを発揮して楽しんでもいる。 そしてこの程度の状況に対応できない人間など、使うに値しないから、まだ入門編だとも思っている。 戦闘シミュレーションのレベルになると、訓練を受けた古人のほうが精密度は高いので、ルキアニスの思ったことは、ルキの観測の範囲のみなら、ほぼ当たっている。ただシル子は、機体の一部が、機動力をそぐために脚の一部を欠損させられた時のことくらいは考えてもいるし、体験もしてるはず。この場合は、ルキ機が足切りで差し違えに来るのに一手遅れて足を切られながらも、バルディッシュの破壊力で始末して、機体に突き立ったバルディッシュを支えに風魔術併用でサマーソルトキックで二の手に踏み込んできたマル子を牽制して、着地せずに宙で態勢を立て直して両断。今の二人くらいを相手にして、負けることは無い。 ただし、シル子の知らされている目標の乗り手は、このレベルの強さでは決してない。知っていてやっている。それは、情報源をここにいるすべてのものから秘匿するための措置。 頼れるものがあると、それがどのレベルでかはともかく、精神をして依拠するものがあると、ルキというキャラは大変安定する。これも書かないうちに忘れていた。僕、という一人称も懐かしい。13Rにいる間は、そうだったんだ。 実はこの話、タブレットPCの故障とともに吹き飛んでしまった話との微妙な相互影響下にある。帝都立ち番。機装甲を帝都に入れて治安維持をする、新選組みたいな実働部隊が諸侯によって作られた時があっただろう、と考えているんだが、内戦が終了してそれが無くなった今、帝都に機装甲を入れることは法度なんだろうと考えている。 よって帝都衛士も内務省も、機卒しかもっていなかったわけだが、この黒の零事件以後、帝都の治安体制はまた変化するはずだ。 今回は、黒の零事件なので、副帝筋のネットワークが動かされているから、21B13Rなのだけれど。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1461.html
オスミナ 殿軍 (4) 行軍の続く日は、長いと感じる。 今日もそうだった。強行軍ではないけれど、騎兵の脚での行軍だから、かなり距離は稼げていた。それに途中から、陣地経路線に沿って進まなくなった。 川があったからだ。川は、例によっていくさの区切りとなる。川向いに陣地を作れば、そう簡単に超えられなくなる。しかもオスミナの川は、せき止められて溢れるようにされている。緩んだ広い湿地の向こうに、敵の陣地の跡がある。 そして、そこでたくさんの賊徒を見た。たぶん百を超えていた。汚れた軍装や、野良着に近いものを着ているものも少なくなかった。武器を持っているものはほとんどいなかった。もう気力も萎え果てたようだった。 それでもルキアニスたちの白の三を見ると、顔を上げ、首を上げ、腰を浮かせたり立ち上がったりした。逃げようとしたのか、それともあきらめがついたのか、ルキアニスにはよくわからない。それでも騎兵たちへ寄り集まっていって、鞭で手ひどく打たれたものもいた。多くは立ち上がろうともしなかった。、助けを得られるとは思っていないようだった。ルキアニスたちが、賊軍を救援に来たわけじゃないことは、もう知れ渡っているらしかった。 ここにとどまっているのは、もう気力を無くして、座り込んだまま、どこにも行こうとしない者らであるらしい。 連隊長は、もう救援など指示しなかった。先に言った通りに。 だから連隊の者は、賊徒に近づかなかったし、賊徒の方も、また座り込んだりして互いに目も向けぬようになった。目をそらして俯いた彼らを、痛ましいとは思っていたけれど。 連隊長は要があれば発砲して構わないとすでに命じてさえあった。足を止めたのは、騎兵と騎乗の機付きを、対岸に送るのがむつかしいからだ。 賊軍は、苦心してこれを超えたらしい。浮橋が掛かったままになっていた。もともとここに在るものではないらしい。河原に広がる湿地から伸びて、向かいの河原の湿地を超えたところまで続いている。その先はまた白い砂利の道だ。浮橋の下流側には、点々と杭が打たれており、機装甲を渡らせたのもわかった。 それに、川のこちら側には、道を逸れて川沿いに、新しい道が作られていた。西側つまり上流側へ向かうものだ。これまでの砂利道とは違う。草原の踏み跡で、踏み崩されて、轍も深くえぐられて、通ること自体が苦難に思えるものだった。なぜこんなものが、と思い、そしてルキアニスも気づいた。賊軍が、帝國へのまっすぐな後退をあきらめて、新たに作った道だ。 連隊長は、そんなものにはまったく目を向けなかった。 対岸へ向かわねばならない。しかし賊軍の作った浮橋が、いつまで使えるかわからない。それに橋を保持するために騎兵を残置することもできなかった。機装甲は、騎乗の者らよりまだ楽に河原湿地と河とを超えることができる。白の六、それに黒の二の踏破力ならば、そしてすでにある杭の列を使えば向こう岸に渡ることは難しくない。ルキアニスとマルクスの軽装白の三は、こういったところで動くための装備だ。ただ機装甲が機付きから離れて動ける距離は、たかが知れている。白の三と白の六は、あと三日は大きな手入れをしなくても動けるように作られていたけれど。 賊徒を追い散らしながら、騎兵が周囲偵察をすると、平底の渡河船がいくつも打ち捨てられているのが見つかった。湿地でも底を滑らせながら進む船だ。大きなものは機装甲でも載せられる。対岸から綱で引けばよい。賊軍もまた、こうした川に備えてはいたのだろう。連隊長はそれらを集めさせ、修繕させながら、ルキアニスとマルクスに渡河偵察を命じた。 ぬかるんだ河原湿地も、川も、軽装の白の三ならどうということもない。賊軍が川に打った杭の列を頼らなくても良いくらいだった。杭の列の近くの川底は踏み荒らされていて、杭を頼りにしてもかえって危うく思えた。川の深さはそれほどでもなく、機装甲の膝の上にかかるくらいだ。これならば白の六でも、黒の二でもそのまま通行できるだろう。渡河船に頼るのは馬と人だけでいい。 川渡るなか見るオスミナ軍の陣地は、堅固に見えた。 岸辺には筏がそのままあった。ここには初めから橋を作っていなかったのだろう。ただ砂利の道はそのまま続いている。岸辺の道の端には、逆茂木と鹿砦が作られていた。物見台も作られていた。ただ、ここで長くは戦わなかったようだった。逆茂木も鹿砦も、それほど壊されていない。賊軍も、ただ邪魔な鹿砦を取り除いただけらしい。 ここで戦わなかったということは、つまり上流か下流の別のところで、賊軍は渡河したのだ。それらしいところが上流に見えた。進みづらい河原湿地に何機かの機装甲がそのまま放置されていた。敵にとってここは祖国だ。渡りやすいところなど、賊軍よりずっとよく知っている。それでも賊軍は渡河を成功させ、斬り込んでオスミナ軍を退却させたのだろう。だから橋を渡しやすいここに、浮橋を作れた。 ひたすらに、北へ、北へ。賊軍は何を求めたのだろう。ルキアニスの見る限り、これまでは畑もなく、森と草原ばかりだった。 しかし、川を区切りに、それは変わった。 砦か、と思ったが、違っていた。丸木の柵の向こうは牧草地だ。石積みの壁に囲われた、畑だ。打ち砕かれた石積みの向こうに葉が見える。豆畑のようだ。村だった。たぶん、もとは屯田兵たちの。 木柵と石組で区切られた畑の中を道は行く。その先に、村があった。もちろん、今は、賊軍がいた。それも今までのような、疲れ切って、気力も失ったような士卒らではなかった。配置があって、指揮があった。機装甲すらあった。 ルキアニスたちの白の三に気づいてすぐに、飛び込む壕も作っていた。 掲げる黒の旗は、帝國友軍を示すもの。しかし、ただ恭順する気もないことはわかる。両手斧もつ機装甲に、騎士が乗り込んだのも見えた。 『連隊長が向かう』 報告を受けて、すぐにシルディール連隊長らの本隊がやってくる。軍旗小隊と、黒騎士小隊、それに随伴騎兵を備える、臨時編成連隊本部中隊だ。これだけの戦力があって、できないことを探す方が、難しい。 マルクスの白の三は、道端に、迎えの直立で立っている。仕方ない、彼がそうするならルキアニスもぼうっと立っているわけには行かない。機を道より退かせ、手槍を右脇に備え、踵を合わせて立つ。 シルディール連隊長の機は、かまわずルキアニスたちの間の道を歩いてゆく。機の兜につけた連隊長を示す房徽章が風に揺れる。 連隊長機は賊軍の陣地へ向かい、立つ。 『シルフィス・シリヤスクス・シルディール子爵である。勅命によりここに在る。そなた等が、帝國の臣民であるならば、我が命に従うがよい。帝國は、時と運命の天秤のごとく、そなた等の功罪を扱おう。帝國を離れたものだとしても、その働きに、帝國は報いよう。そなた等、如何』 賊軍の陣地がざわめいているのがわかる。しかし今はまだ、村への道を柵で封じるつもりはないようだ。 『レオニダス、アモニス、こちらは黒騎士小隊』 魔術で声が届いてくる。風水晶が声とともにきらめく。黒騎士小隊長のエイクルからだ。まだ前進せずに待機している。 『急変が起きた場合、黒騎士小隊が前進する。動かず邪魔になるな。その後に援護を考えろ。後詰は軍旗小隊機が行う』 『先導了解』 マルクスが応じる。急変、と言っても、賊軍が抵抗し始めるしかありえない。黒の二相手に、抵抗してもあまり意味はない。ただ打ち壊されて踏みにじられるだけだ。どうなるのだろう、と思ったまま十拍が過ぎ、それがさらに十倍にもなり、さらにさらに時が流れる。 陣地に動きがあった。小さな動きだ。村の柵の入り口から、人が歩いてくる。後ろには二人、丸腰だが警衛をらしいものを引き連れている。指揮官だろうか。彼らはゆっくりと歩み来る。連隊長の機を前に、見上げて、何か言った。機の胎内では聞き取れない。 『上意はすでにここに届いている』 連隊長機は不意に言う。答えなのだとわかった。人の声は、ルキアニスにまで届かないけれど、連隊長が機を通じて発する声だけが聞こえてくる。その声は続く。 『わたくしに委ねられた以上の代弁を行うことはできない』と。 さらに言った。帝國は、過ちを正すこと、これを何ものが行おうと、躊躇は持たぬ、と。心得違いは正されよ。わたくしは上意によって、ここにある、そなた等とは関わりない、と。そなた等にあるは一つ。上意に沿うか、否か、と。 『如何』 機の前の者は、うつむき、足元を見つめている。そして、やがて、片膝をつく。連隊長機を見上げて、彼は何かを言う。連隊長は応じ、言った。 『貴公らを、我が指揮下とする』 そこから先は、連隊長の思うままだった。 まず彼らの村陣地へと押し進み、その中央広場にすべての兵員を集めさせた。機を降りた連隊長は、それらへ言った。 「帝國は、過ちを改めることについて、一切の躊躇を持たぬ。その功罪は、時と運命の天秤に乗せられたがごとく、功罪ともに扱われるだろう』 曇天の風の中を、シルディール連隊長の声が響く。賊軍の誰もが連隊長を見つめ、咳払い一つ、足踏み一つしない。声は続く。 「わたくしは、上意によってここへ遣わされた。副帝陛下がわたくしに求めるは、諸君の去就についてではない。わたくしをもってして成しうるあることについて、特別の沙汰を下されている。もし諸君が、帝國への至上の忠誠が如何にあるべきかを思い出し、心得違いを改め、わたくしの任に貢献することをもって示すならば、それは必ず副帝陛下の耳に入る」 そしてシルディール連隊長は言った。 「このままここで賊徒の汚名とともに死にたいか。それとも、苦しみ抜いた末の一時の心得違いを雪ぎ、忠義の何たるかを見せたいか。如何にする、諸君」 「我が忠義、皇帝陛下に!」 「よかろう。一人か」 「自分も!」 「俺もです!」 初めに誰が言ったかなど、もうわからなくなっていた。賊徒と呼ばれていた人たちは、次々と自ら、皇帝陛下への忠義を唱える。 湧き上がるその声の渦の中で、連隊長は右手を肩の高さへ挙げた。声が吸い込まれるように消えてゆく。 「ならば諸君、秩序と編成を為せ」 「第一中隊集合!」 「集成第二、第三中隊集合!」 即座に号令が次々飛んで、広場の中で人の群れは急に入り乱れ始める。けれど列が作られ始めれば、あとは早かった。連隊長の前に、様々な長さの、隊列が作られてゆく。列の前から番号呼称が行われ、すぐに隊名と員数申告がなされる。 「ライコラ村守備隊、集合いたしました。閣下の指揮を確認願います」 「よろしい。シルフィス・シリヤスクス・シルディール帝國騎士隊長が指揮する。部隊名簿を作成せよ。その後、各隊は装備整備を実施せよ。状況を知りたい。本部はどこか」 「こちらです」 「騎士は同行せよ」 あっけにとられるばかりだったルキアニスは、マルクスに背中を押されて、ようやく歩き始めることができた。名簿のための記名帖が回される隊列の前を、通り抜ける。 「大したものではないか」 不意の声は、いつの間にかすぐ後ろを歩く黒騎士のエイクルだった。顔の傷ゆがめて、ルキアニスに笑みを見せる。 「あれだけされたら、死に場所も見えようというものだ。どうだ。アモニス上騎」 「わ、わかりません」 慌ててそう応じてそそくさと逃げるばかりだ。 村の本部は、例によって村の建物の大きなものに作られていた。中は常のように大机があり、地図が広げられている。道を示す線、川を示す横線、陣地を示す丸、そういったものから成り立つ略図だ。地図となすゆとりが無かったのだろう。実際、先導が本隊に供給できる情報は、これくらいだ。歩測し、距離と方向を書き留めてゆく。マルクスの方がもちろん得意だ。国境から、幾度も折れ曲がりながら伸びてゆく線が、賊軍のたどった道であり、この村―先にライコラ村と言っていたけれど―はその線の四分の一も進まないところにある。 しかし、賊軍の最前衛は、線の先ではないらしい。戻ってくる矢印と、それを遮るように上から書き込まれた横線。指揮官の名と思しき書き込みと、戦力を示す書き込みがある。それらは数を減らしながら、幾度もの横線を作っては退いてゆく。交差の線は、全滅を示すものらしい。線の途上でいくつもの交差線が描き重ねられている。 連隊長の指が、何かを探すように線の上を、地図に触れずに行く。 「・・・・・・」 そこには、交差の線が描かれている。連隊長は言う。 「聞きたい。このメルツァ部隊の残存は」 問われた男、その者が先に連隊長機の前に来た男は、刹那口ごもり、しかし言った。 「前衛におったはずです。しかしオスミナ勢の側撃が行われている最中でございまして・・・・・・」 連隊長は静かに言葉を待っている。 「・・・・・・敵魔動機との戦闘で、メルツァ近衛騎士卿は討ち死にされたとの由にございます」 「確認は」 「メルツァ勢の生き残りより、直に」 「その者は」 「直ちに呼びまする」 伝令の者が直ちに駆けだしてゆく。男は、シルディール連隊長をそっと伺い見る。それからつぶやくように言う。 「近衛騎士卿が、このような北方のいくさに馳せ参じられるとは、奇妙なことと思うておりました。メルツァ卿の不遜さ、人を人とも思わぬありようは、鼻につきましたが、それ以上に・・・・・・」 「何か」 連隊長の言葉に、はい、と男はうなずく。 「近衛騎士卿のお持ちの機は、ことによっては、機神をも上回る、と」 「そう吹聴していたのか」 「はい」 「やつが持ち出したのは、皇姉陛下をお守りするみしきの騎士団のもの。機神レギナ・アトレータにより直に模られた逸品の一つ」 おお、と男は唸り、それからこの本部にいた者らにもさざ波のようなざわめきが起きて消える。 そうだったのか、とルキアニスも思った。けれどここでこんなに簡単に教えてしまえるなら、帝都でなぜ教えてくれなかったのだろうと思った。だからマルクスを横目で伺い見る。マルクスは、片方の眉を上げていた。何か妙なことを思っているときの癖だ。ルキアニスは肘でつつく。マルクスはそのままルキアニスを見た。ものすごくつまらないと彼が思う冗句を聞いた時のような顔だ。半眼で、息の抜けた砂狐のような。砂狐というのをルキアニスは見たことがないけれど。 「ただいま参りました」 足音も高く、男たちが入ってくる。汚れた軍装は、それが元は近衛騎士従兵のものかどうかすら、わからない。その三名は連隊長の前で、だん、と床を踏み鳴らすように踵を合わせる。彼らは言った。自分たちでお役に立てれば、幸いであります、と。連隊長はうなずき返す。 「心して答えよ。メルツァの機、これはどうなった」 「・・・・・・」 何拍かが過ぎ、それが十を超えた。彼らは唇を引き結び、しかし肩を大きく揺らして息を息をしていた。それから、一人が言った。 「メルツァ卿は、敵魔道機との一騎打ちの末、討ち死にされました。その機は・・・・・・」 彼らが言葉を振り絞るには、さらに二十拍ほど待たねばならなかった。彼らは言った。 「オスミナ勢に奪われました」と。 アトレータ・トリニタスというのはもちろんディスインフォ。 それにしても無理のある設定で、こんなもんどうしろとは思うんだが、10年かけてできないことは無い、というやつではあった。 これでもまだ道半ばでしかない。 黒の零は、解体した状態で運ばれた。 開発機である黒の零は、接合された部品部材に自ら適合する性質を持たされている、と勝手に決めた。 よって、発見された機神のパーツ、というのは、本来は黒の零のものである。他の機体にくっつけて動いたのはそれが理由。 したがってメルツァ・アークリンデ戦での黒の零に装備されていたのは、別の手足。黒の零のコアにとってはどの手足がついていようと、物理的にバランスが取れていれば、動かせると勝手に決めた。 その前提での話にした。ここまでテキトーな設定なら、僕だってやりたい放題である。 あ、毎度のことか。申し訳ない。 今回のオスミナ越境については、地方貴族間の金銭問題とここでは扱っている。単なる金銭問題ではなく、娘を嫁に出した関係性が、帝國側の勢力低下によって、よりこじれた、と。だから貴族のメンツと金の両面がかかわって、冬を超えるには、何もかも取り戻さなければならない、という状況だとしている。これに国境警備部隊の下位部隊が同調して、越境している。当初の計画では、これほど大規模ではなかったはずだが、噂を聞きつけた連中で膨れ上がったのだと考えている。 シル子は爵位を持っていたはず、とセッションがあったのは覚えているんだが、具体的には思い出せない。家庭のことは完全放置しちゃう両親の人たちに対して、自分たちで自分たちの権利主張を行うには、自分たちの爵位が必要な二人だとは思うんだが、どうしても具体的にどの爵位か思い出せず、今回は子爵と書くだけは書かせてもらった。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/751.html
ついに表計算ソフトで時系列管理をするようになってしまった>< そこから生まれたもの。 何かしらこの手の話を書いておきたかったんだけど、今まで二回くらいメモにしたんだけど、うまくゆかなかったw カダフ・シルフィス会談 4月たぶん半ば以降5月直前。かつある厩舎のはじまったあたり。 「二十一旅団長です」 先触れする第二十一旅団参謀長の声に、すでに会議室にあった第十三連隊幹部は起立し、背を正す。 その旅団長たるサウル・カダフ将軍といえば、、と手を上げて見せ、さらに卓に設えた席の一つに向かいながら、楽な姿勢をとるようにと言う。 「おはよう諸君、着席してくれ。早速はじめよう」 席に着いたサウル・カダフ連隊長は胸の隠しからメガネをとりだし、鼻眼鏡ぎみにそれをつける。少し身を引きながら卓の資料へ目をおとす。 「旅団参謀長、書記を。十三連隊長、報告を」 「はい」 応じて、第十三連隊長シルディール上級騎士隊長が立ち上がる。 資料はすでにそれぞれの卓に配られている。シルディール連隊長はけれど、己の資料には目を落とさず口頭報告を始める。 「白の三の受領遅延について、工部より最終的な回答を受けました」 第十三連隊に装備される白の三は、それまでの青の三とは違う、新しい機体だった。それまでとは違う機体を、一つの部隊にそろえるということは大きなことでもあった。受け入れる部隊にとってもそうであったし、送り出す工部にとってもそうだった。今回、問題が出たのは送り出す側で、部材に問題が出て引き渡せない機体が工部に滞ってしまっていた。 それは、以前より抱えてきたことであり、第十三連隊だけではなく、第二十一旅団の先行きにも大きく関わることだった。 「工部の最終結論です。白の三の受領を完結するのは、五月中日となります。週はじめに一個小隊ずつの受領となります」 「承知している」 サウル・カダフ将軍は、眼鏡から覗き込むように資料を見ながら言う。シルディール連隊長もうなずいた。 第十三連隊には、二つの機装甲中隊があり、それぞれ三つの小隊からなっている。合わせて六つの機装甲小隊があり、はじめの予定では、第四月のうちにすべての小隊が白の三を受領しているはずだった。 「受領期日が丸一月の遅延となりましたが、部隊としてもそれを前提に訓練計画を見直さざるをえません。機甲学校教官の教育計画では、一月の遅延は大きな問題ではありませんが、第二十一旅団の行動計画には大きな影響を与えます。教育計画全体を見直す必要があります」 シルディール連隊長は続ける。 「二つの中隊に均等に受領させることは断念します。第一中隊の受領完結を急ぎ、当初予定どおり第四月中の受領完結とします。第二中隊の受領完結と戦力化の遅延は受け入れざるを得ません」 じっと見つめるサウル・カダフ将軍の瞳を、シルディール連隊長は静かに受け止め、続ける。 「その上で、機甲学校教官班の教育支援を第二中隊に集中します。今のままでは時間が足りません。受領時期が遅れた小隊に集中教育を施して、戦力の底上げをはかります」 シルディール連隊長の示す訓練素案は、それまでの訓練計画を完全に覆すものだった。機甲学校が要求し、また教官班を派遣して習得させようとした、投擲と突撃の両方の技能習得は完全に放棄されていた。機甲第二中隊は、疾走鑓術の教育を重点的に受けるものとする。機甲学校からの教官班は、これまでの教育計画を放棄し、第二中隊の教育を重点支援する。 もう一つの中隊、つまり第一中隊は、これまでに受けた教育をもとに、騎兵大隊との共同訓練に移るということだった。 「そう来たか」 サウル・カダフ将軍は静かにつぶやく。 「大胆だねえ」 「はい。しかしこれならば間に合わせられると考えています」 シルディール連隊長もうなずいてこたえる。 基礎戦技を十分に獲得することは、重要なことであるけれど、喫緊の目標に対してあまりに時間が足りない。連隊には、そうするゆとりを与えられていない。 「戦場で責めを負うべきが長であるのなら、その戦場のために行われる教育にも、責めを負うべきは長だと考えています」 サウル・カダフ将軍は眼鏡をはずし、身じろぎをして椅子の背に片方の肘をかける。 「耳が痛いね」 「そのようなつもりではありません」 生真面目なこたえに、サウル・カダフ将軍は豊かな口ひげを揺らして笑う。そしてうなずいた。 「承知した、十三連隊長。考えるとおりに行って構わない。その素案について機甲学校との調整はおこなわれているか?」 「いいえ。彼らとは教育計画変更の必要性が共有されていません」 サウル・カダフ将軍は、今度は少しの苦笑を交えて髭を揺らす。 「承知した。それくらいはわしの仕事だろうからなあ」 「恐れ入ります」 いやいや、と軽く手を振ってこたえるサウル・カダフ将軍は、ひどく機嫌よさげだった。 この手のものをを二つ三つ書くと、気持ち的に楽w たとえば中隊ごとの錬度評価とか、 中間評価とか、 もちろん、西方再展開にあわせた、シルフィスの最終訓示とか。
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/817.html
仮称機甲騎兵連隊設立準備委員会 1 「・・・・・・」 クロワティス騎士長は息をついた。 会議の終わった大部屋には気の抜けたざわめきが満ちている。 会議会議と雁首そろえて、やることといったらようするに、名前残しの隙間を奪い合うことばかりだ。今もなんぞの集まりが、あちらこちらに見えている。 貴族連中は、名前が残るかもしれぬとなると、目の色を変える。平民上がりのクロワティスにからすれば、ばかばかしいことおびただしい。 クロワティスにとって、軍隊とは食うところだ。己自身が軍隊に入ったのも、貧民窟上がりの若造が食ってゆくのに一番いいところだったからだ。 小ざかしいところに目をつけられて、従兵になったところから、命令受領者としてこき使われるようになり、やがて伝令として駆け回るようになり、気づけば貴族様相手にご説明するようになり、従士じゃまずいってことで騎士補となり、騎士補は戦地で騎士になり、上級騎士になり、気づけば騎士長だ。 もちろん学もない平民が、そんな奇麗事で這い上がれるはずもない。いくさってのは、薄汚いところだ。身内同士でも変わりはしない。だから貸し借りの始末をつけられる奴は、どこででも重宝される。 とはいえ、便利に使われるだけじゃ頭打ちだ。それでもクロワティスが軍に残ったのは、ご時世が帝國軍というものを生み出しつつあることに気づいたからだ。 皇帝陛下を頂く軍勢は、今、帝國軍という形に早足で整えられつつある。家柄生まれにかかわりなく、メンコが与えられるということが気に入った。そこそこ這い上がれば恩給だって出る。 だが貴族様のお考えは少し違う。帝國軍の形のなかに忠義の名前を残したいとか、名前つきの役目に食いついてゆくのは、お生まれってやつだろう。 付き合って御禄をいただけるのは悪くは無いが、なにかもやもやといけ好かない。だからといって、この会議の大部屋を出て、行くようなところもありゃしない。いや、今のうちなら軍の外にも、クロワティスのような奴をうまく使いこなすやつもいようってもんかもしれない。 そっちも悪くは無い。書類の束を小脇に抱え、会議室を出ながらそう思う。顎鬚をもそもそ撫でて、一旗あがらぬものかなどとも思う。 「一旗か・・・・・・」 翩翻と翻る龍の黒い旗を、ときおり不意に思い出す。 今歩くこの廊下の、窓の列を、戦列のように思うことがある。閲兵を待つ戦列の姿だ。 野に砂交じりの風が吹き、地鳴りに似た音がどろどろと終わりなく響いている。それは無数の兵の足音だった。川の流れのように切れ目なくつづく隊列からの響きであった。その中には、馬と人とによって引き行かれる砲の列があり、馬車の列があり、あるいはそれらを見下ろして並ぶ機装甲の列があった。 神の定めたもうた時が、押し寄せてくるのが、戦場ではわかる。クロワティスのような男でさえ、胸が高鳴り、からだがざわめき、毛筋の一つまで張り詰めてゆくのがわかる。青ざめた若造の間を、歴戦の従士どもが歩き回り怒鳴りつけ、伝令の騎兵が走り回り、天幕へと駆け込んでくる。 「・・・・・・どうにもいけねえな」 一人、廊下を歩きながら、クロワティスはかぶりを振った。忘れ去った振りをしているが、いくさというやつを忘れられないでいる。 いくさ場にあったときは、いくさの鬼どもを嫌っていたはずだ。おくびにも出さず、だが、鬼どもが酷薄な決心をするところに立ち会ってきた。それが神の時を動かしてゆくことを、何度も見ていた。本当のところ、心惹かれていたのかもしれない。 クロワティスとて、いくさの風景に慣れきっていた。においにも、積み上げられ、黒く色の変わった顔にも、それどころか、目の前で砲弾になぎ倒されてひき潰されていったとしても、それそのものには心動かされなくなっていた。 一人一人ではない軍勢としての兵隊が、押し寄せ、進み行く地平の先に、何かを垣間見たような気がしていたのかもしれない。 見やる窓には硝子がはめ込まれ、青い空を映している。 クロワティスは鼻をならした。 この俺様が、つまらないことに動かされてたまるものですかい、と独り語ちながら。 でも、動いちゃったのw 13Rはその特性上、参謀を複数つけています。 自分でそういって自分で苦しんでいたのに、昨日、ちょっとあわててしまったw というわけで、その慌て心を静めるためにw 本来は機甲学校内部に、仮称機甲騎兵研究会みたいなのがあって、それが母体となるはずだったのでしょう。 けれど、その上のところで政治が動いていて、政治マターで13Rとなったのでしょう。 シル子が指揮を取るのは、三頭政治からの流れで必須の、レイヒルフトからのオーダーであったのでしょうし、西方配置された帝國軍を使うのもまた、政治マターで動かないw シル子は、自ら幕僚を集めて、ガッツリ固めては完全に戦闘モードw ついでに実績と共に自分は抜けるつもりも満々w という流れもあったのを思い出して一安心w そもそも、副連隊長だって、初めての連隊長勤務であるシルフィスを支援するという意味でだし、クロトワさんは新型機の実戦化に伴う様々な試行錯誤での、部隊外とのパイプ役を想定していたしw 連隊長、 副連隊長 参謀長、 企画参謀 連隊副官、 連隊先任従士長 以上、13R幹部人事終了。 9Rと比べても、バランスが取れていて良いじゃないか(自画自賛) だってさー、参謀長はすちゃらか動かせないじゃんw
https://w.atwiki.jp/2chsiberiassf/pages/399.html
アムール州ボルジャ連隊長ギルシェ・アウガスタ上級中将によって行われた降伏勧告とそれに付随する戦闘である。 宣戦布告 アムール州ボルジャ連隊ハ本日12月18日0200時ヲ以テ シベリア特殊部隊ニ宣戦ヲ布告ス 我等ノ目的ハアムール州ニ於ケル 特殊部隊ニ依ル安全保障ノ確立ニ有リ 開戦日時ハ12月22日1600時トス アムール地域ニテ特殊部隊ノ軍事行動権ハ 確立サレテヲリ又シベリア全域ノ防衛ヲ行フ義務ヲ 有スニモ関ワラズ他国機ノ侵入及ビ攻撃ヲ許ス 特殊部隊ノ行為ハ許サレルベカラズ 若シ特殊部隊ガ要求ニ応ゼズ目標ヲ達成セラルル折ニハ 我等ハシベリア全域ニ於ケル特殊部隊ノ有ラユル権利ヲ 剥奪セントス又開戦日時ヨリ以前ニ攻撃ガ行ハレル時 ニハ万ノ兵員ヲ以テ報復ヲ行フ 特殊部隊ガ降伏セラルル時又ハ我等ノ 指示ニ従フ場合ニ限リ攻撃及ビ占領ハ行ハズ 貴軍ノ返答ヲ待ツ
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/1279.html
丘 (3) 『機卒列、敵騎兵に備え!』 駆けながら、連隊長が命じる。弱点は前衛梯隊後衛だ。今もそこを目指している。換え馬と軽荷駄、それに輜重車の脇を駆け抜ける。そこにいる従士従卒らも、自衛銃や鑓を携えている。 前衛梯隊は足を止め、全周すべてからの襲撃に備えていた。左右は林縁が近く、敵騎兵の突撃の間合いが無い。その間合いがあり、また騎兵が集まっているのは後方だ。 後衛に配されているのは、そこにいるのは騎兵の一個中隊と、騎兵砲小隊、それに自衛鑓を持った機卒のみだ。数は左右や前衛よりも多いけれど、それ以上に敵騎兵の方が多い。敵と後衛との間合い、百碼もあれば、敵は突撃横隊に開いて、襲歩まで足を速めて、突撃できる。そして敵騎兵、連合王国の騎兵らは、突撃を得意としている。 『敵騎兵に備え!鑓先下げ!』 連隊長の命令に、機卒列から復唱が来る。機卒列は、中央は疎に、左右は密に列を組む変則戦列だった。中央列が機と機の間を広く取っているのは、その間のところから砲口を突きだすように騎兵砲が配置されているからだ。その背後には、下馬した騎兵が銃兵列を成している。機卒を柵代わりに、火力で阻むつもりだ。 一方、敵はすでに突撃横隊を成していた。聞かされていた連合王国騎兵には、突撃を任とする重騎兵がいるのだという。今はその姿は見えない。トイトブルグに来ていないのか、それとも今は参画していないのかは、ルキアニスにはわからない。前を駆ける連隊長機は、機卒戦列の右側面から全周陣の外へ出た。常に連隊長に突き従う警衛機の二機だけでなく、先に着けと命じられたルキアニスとマルクスもだ。シルディール連隊長機は、足元にざっと砂塵を巻きたてて脚を止める。 『魔道兵、前に。魔術攻撃を行う』 敵騎兵は、突撃する気があるのか、無いのか、良く判らない。横隊を組み、槍は構えているが、馬の足並みは並足というところで、ゆっくりと間合いを詰める。 「・・・・・・」 こちらが撃つのを待っている。ルキアニスにもそれは判る。銃も、砲も、撃ってしまえば、どうしても再装填に手がかかる。その間に無理押しに雪崩れ込んでしまえばいい。引き寄せ過ぎれば、敵が駆けたときに撃つ機を見失ってしまう。半分でも三分でも機卒列を擦り抜ければ、あとは騎兵の間合いだ。 『魔術攻撃後、突撃する』 他に手が無いのも判っていた。白の三は数発、ルキアニスの感覚だと二から三度の魔力攻撃しか行えない。一度に使う魔力を抑え込めば、何倍か撃てるのだけれど、魔力を抑え込むほど力は弱まる。定量の魔力は、威力と消耗とを共に立てて決められたものだ。 『三号機、ようい!』 すなわちルキアニスのことだ。火の魔術は、マルクスの土の魔道相や、シルディール連隊長の風の魔道相とも違う、いずれよりも兵法魔術に向いている。物見鑓を脇に突き立て、ルキアニスは魔力を呼んだ。生身で行う時と同じように天に手を掲げ、地を踏み、それらの狭間にある己を見出し、その中より力を導き出す。天に掲げた手と、地に向けた掌とを、胸の前に向き合わせて、その力を顕現させる。そのままのただの魔術的な炎を、より兵法にそったかたちへと変える。 かんしゃくもち、そう呼ばれる弾ける炎のかたまりに変える。 「投射用意良し!」 『放て』 命じるその声と共に、ルキアニスは炎を投げ放つ。尾を引いて飛び去り、また騎兵らから見て飛び来て、その横隊の前列に吸い込まれるまで、騎兵らは、特段の動きをしなかった。ルキアニスの放った火球が、列の真ん中で弾けて大きく飛び散るまで。地に打ち当った火球が大きく膨れ上がり、弾けて飛び散り、剣のようにあたりを薙ぎ払う。追いかけて白煙が立ち込め、横隊の真中を包み込む。白煙からはみ出した左右の馬たちが、跳ね、棹立ちになって大きく乱れる。 『前衛梯隊は現位置を保持。二号、三号機は連隊長へ続け!』 命令と共に、シルディール連隊長機が駆けはじめる。飾り房をなびかせ、警衛の二機すら引き連れて。置いてゆかれるわけには行かない。地に突き立てていた物見鑓を引き抜き、慌てて追いかける。マルクスの機も駆けていた。帝國軍では、指揮官先頭の突撃もままあることだけれど、これじゃあほとんど斬り込みだ。 そのまま、白煙の中に飛び込む。連隊長機は腕を振るった。横なぎの風が白煙を吹き払う。それもまた魔術なのはわかっていた。シルディール連隊長は風の魔道相の使い手だ。風そのものではなく、雷術のほうが知られていたけれど。白煙を吹き払うのは、敵の肉薄攻撃をあらかじめ寄せ付けぬためだ。けれど風に押される騎兵たちはそれどころではなく、泡を吹き、頭を振り、あるいは棹立ちになって宙を蹴り掻いて逃れようとする。ルキアニスの炎の術で打ち倒したのは十か十五かでしかない。それを踏みつけてしまえば、弾ける血糊と臓物に滑る。 『二番機、ようい!』 『了解。二番機ようい!』 シルディール連隊長の命令に、マルクスがすぐに応じる。土の魔術の兵法術はそれほど多くない、間合いも長くない。けれどその術は強い。白煙の中で、マルクスの機がくるりとめぐり地を蹴る。魔導相によって、魔力を集める時の仕草が少しずつ違う。そして放ち方も。マルクス自身も、あまり派手に動くのは好きではないらしい。 『準備良し』 『打て』 マルクスはどうということ無さげに膝を上げ、それから踵から打ち込むように地を蹴る。 ずしん、と重い響きと共に、土ぼこりが大きく舞い上がる。その向こうに透かして、ばたばたと騎馬たちが薙ぎ倒されるのが見えた。跳ねた礫弾のかけらが、ルキアニスの機にもあたって跳ねる。この土の兵法魔術は、機装甲を打ち倒すためにも使われる。馬たちに耐えられるはずもない。魔道兵が二人もいれば、これくらいのことはたやすくできる。ただし、いつでも、どこでもと言うわけじゃない。だから魔術戦の指揮はむつかしい。 シルディール連隊長機は、飾り房を振るようにして、不意に振り返る。その魔導の双眸がルキアニスを見たような気がして、少し戸惑ったのだけれど、違っていた。シルディール連隊長は前衛梯隊の方を見ていた。 『連隊長了解。斥候を前衛に収容し、前衛を維持せよ』 漏れ聞こえてくる声でわかった。前衛梯隊の、その中のさらに前衛担任小隊からの報告だ。何が起きたのだろうとは思う。けれど、今のルキアニスの任務は、連隊長に着いて行動することで、その着く、と言う事の中には、命令が無ければ現状維持、敵が目の前にいるならいつでも敵を退けるようにすることだ。敵騎兵が逃げ散りつつあるにしても、目は離せない。敵は逃げ散りつつあった。逃げ散ろうとする騎兵を、13連隊の数で追いかけるのは難しい。数をそろえなければ、こちらが応じきれない数を持って押しつぶしにかかってくる。 そう、だから、今の戦いは罠だった。その罠の口が閉じたあとだけれど、ルキアニスにもやっとわかった。並の騎兵連隊や、あるいは軽機装甲で増強されただけの騎兵連隊なら、今の敵騎兵の攻撃に耐えられなかった。けれど13連隊は違う。 攻め手の彼ら騎兵を、それに乗じて逆に叩き、こうして追い散らし、追い返す力を持っている。今、13連隊が追い打ちする力を持っていれば、敵騎兵は根こそぎ瓦解する。 そう思ったときだった。 「・・・・・・」 何かを見たような気がして、ルキアニスは顔を上げた。 光が走っている。 ルキアニスの左手、前衛梯隊の進行方向から見ると右手の、道脇の草はらの向こう。林縁の木々の少し奥、何か淡く光るものが駆ける。 飛ぶように駆けている。木々を避け、梢を飛び越え、けれどその速さは、ルキアニスが先に投じた火球ほども速い。 『左手!不明の魔力物!』 ルキアニスは声を上げた。今まで見たことのない、その何かに向けて構える。 それは、速さそのままに、林縁から飛び出し、さらに大きく地を蹴った。 逃れ退こうとする、敵の騎兵の頭上を大きく飛び越え、そのまま宙を滑るようにこちらへ飛び込んでくる。 その時になって、初めてわかった。それが淡い魔力の光に包まれた、ある騎馬であることに。乗っているのは、馬じゃない。美しい白い毛並だけれど、同時に異形の何者かだ。その背にあるものは、軍用外套を身に着け、小脇に騎銃を抱えているのがわかる。敵だ。 「!」 ルキアニスも地を蹴る。物見鑓を振るって叩きつける。けれど、異形の騎馬は、その刃の軌跡を躱した。 まるで宙を跳ねるようにして。そのままルキアニスに目もくれず、その肩の上を飛びぬける。騎乗の男は、小脇の騎銃を突きだすように伸ばす。 その先には、シルディール連隊長機がある。 「!」 だがそれが放たれるよりも早く、連隊長機の背後から、二の手が打たれた。ルキアニスよりはるかに鋭く、刃の軌跡が宙を断つ。 警衛機の斬撃だった。斬った、と思った。それほど素早かった。ルキアニスは断ち切られたはずの異形の騎影を探した。 それは一つの形を保ったまま、中でもんどりうち、さらに自ら身を捻って立て直し、迫る地を跳ねて、さらに大きく一飛び退いた。 離れたところで、さらに一つ二つと小さく跳ねて、行き足を落とし、やがて異形の騎影は足を止めた。騎乗の男は、じっとこちらを見つめていた。 男は、こちらに目を向けたまま、弓手に携えていた騎銃を宙へと向ける。 「!」 それを宙へと放った。銃声と白煙が噴き出す。 しかし、それが合図のようだった。ただ逃げ散るだけだった、背後の騎兵らが、動きを止めた。まるで、もう逃げてはならないと、自ら悟ったように。 異形の騎兵は、天へ差し上げたままの騎銃を振った。その合図の意味はルキアニスにも判った。騎兵の合図は、それほど大きく変わらないらしい。それは行くべき方向を示すものだった。森へ退けと命じていた。 男はじっとこちらを見たままだった。男の背後で、騎兵たちが森へと退いてゆく。馬を失ったもの、あるいはもう動けない者、あるいは乗り手を失った馬が、異形の騎兵とルキアニスたちとの間に残る。 『三号機、魔道投射ようい』 シルディール連隊長が命じる。 それは、焼けという命令だった。ルキアニスが炎の波を放っても、男は退かなかった。 焼かれ死に逝く者らを、それを行ったものを、目に焼き付けて忘れまいとするかのように。 というわけで、やりたかったけど果たせなかったことを、何年か越しに
https://w.atwiki.jp/nicotetsu/pages/1467.html
わすぷ級輸送艦 二五菱重工城ヶ湾製作所第二工場で建造と整備を受けている、鉄道連隊第一連隊が保有する輸送艦。 NDF城ヶ湾駐留の海上戦隊の旗艦に相当する艦艇で、搭載兵力によっては無視できない戦力であると言える。 建艦経緯とその事情 支社長(以下連隊長)の熱心な誘致により、ニコ鉄以前の埋立地開発計画にあった大型船舶の造船所となった第二工場は、その受注第一号として連隊が保有を目指す輸送艦を建造する事になった。 一方で、かすみん氏による北米再開発の折、NDFの現地派遣団がとある人物との交渉で艦艇等の軍事機密書類を獲得。 二五菱重工に持ち込まれ、実際に建造できる技術なのか検証し、戦力化への道が開かれた時点で連隊長に伝わる。 当初は国産輸送艦であるおおすみ型が運用限度の性能で適していると判断していたが、二五菱側が建艦・整備費用の負担を申し出た所、連隊長はこれを快諾。 随行していた秘書を上手く宥めて、艤装が完了した艦艇はその設計基から"わすぷ級輸送艦 わすぷ"と呼称され鉄道連隊に引き渡された。 軍事常識や設計基から言えば、間違いなく強襲揚陸艦であり、軽空母として表記・呼称される筈だが、当の連隊長は要らぬ不安を想起させたくないとして"輸送艦"を選んだという。 だが"短距離/垂直離着陸機の運用を行わない"とは明言しておらず、強襲揚陸艦としての性能も変わらないことから、抑止力の面で依然として充分すぎる艦艇である。 元ネタ ワスプ級強襲揚陸艦
https://w.atwiki.jp/teikokuss/pages/582.html
多分、この章、終わり 「第十三連隊ははたらきもの3 行進中に、停止を命じられたとき、小隊が行うのは四角陣を作ることだ。 四方に一機ずつを置いて、外を見張り、その中に小隊の残りが入る。ルキアニスの機体と、マルクスの機体も、小隊長や他の上級騎士の機体と同じように、四角陣の中に片膝をついて待つ。 森に差し込む日差しは、傾きかけている。昼をかなりすぎて、そろそろ夕刻をうかがうころだ。森の中を斜めに差し込む日差しの中に、黒騎士小隊と、連隊長機、それに連隊長機から離れない、警衛小隊機も見える。 連隊長はどうするのだろう、と思った。何かしらはじめるには、すこし遅い。今日はこのまま夜営かなと思う。 だが、風水晶がきらめいた。 『レオニダス、アモニス。前へ』 「前、ですか?」 前へ、ということはつまり、連隊長が直接統制しているほうへ行くということだ。 『そうだ。連隊長が呼んでいる』 すこし戸惑いながらも応じ、マルクス機と、ルキアニス機はともに小隊の四角陣を離れた。 少し歩いて気づいた。機を止めるところを示すのは、連隊長その人だ。すこし驚きながら、膝をつき、甲蓋を開いて、機体を降りる。マルクスと一緒に、慌てて連隊長のところへ駆け寄った。 「第一中隊、第一小隊、レオニダス上騎以下二名、出頭しました」 「お疲れ様。前へ」 シルディール連隊長は何事もなかったように、背を向け、歩き始める。警衛小隊は、いつでも一人は、連隊長の傍を離れない。もう一人は、膝をついてまつ機体のそばにあった。黒騎士の黒の二もまた三方警備の陣で膝をついて待っている。乗り手は近くにいない。 「ねえ、マルクス」 連隊長を追って歩きながら、ルキアニスはそっと肩を寄せて彼に問うた。 「何で連隊長がぼくらの誘導までしたの?」 マルクスは、片方の眉を上げて応える。 「警衛の任は警衛で、それ以外のことはさせられないだろ。即応陣を取り仕切るのは、どちらか言えば、俺達の任だけど、その俺達を呼んだわけだから」 「もう少し正確に言えば、即応陣の統制権限を委ねる適切な相手がいなかった、ということですね」 歩きながら、振り返りもせず、シルディール連隊長が言う。そのままシルディール連隊長は、なぜか口元に手の甲を寄せてくすくす笑う。 「何事も一人でやろうとするのは、あまり正しいやり方とは言えないかも知れません」 ルキアニスは少し困って、隣のマルクスを見上げた。彼は、なぜこちらを見る、というようすで片方の眉毛を上げて見せる。 連隊長の歩む先で、森が切れていた。少し高い稜線となっている。すでに黒騎士小隊の三人が、稜線のところに立っている。 稜線のすぐ下を、森の道が走っている。帝國の道と違って石畳ではない。それでも、突き固めて作ってあるらしく、荷車が通った跡はあるのに、深いわだちとはなっていない。その道が伸びてゆく先で、やがて森は切り開かれていた。昼遅くの日差しが明るく差し込んで、低い茂みや揺れる草を照らしている。 その先に、それはあった。道の先に短い石橋がある。深い枯れ沢をまたいでいるらしい。その石橋のすぐ向こうには石積みの城門がある。城門は、丸木を並べて作った分厚い門扉で封じられていた。城門の左右には、同じく石積みの城壁のようなものが延びている。再び始まる木々の並びに隠れて、石積みの先がどうなっているのか良くわからない。 これが、敵の前哨砦なのだと思った。 砦の前の森を切り開いているのは、たぶん、銃や砲のためだ。深い枯れ沢に石橋を渡して、その向こうに砦を作ってあるから、砦にたどり着くには、石橋を押し渡るか、それとも枯れ沢を大きく回りこまねばならない。たぶん、回り込むことも容易ではないから、ここに砦を作ったのだろう。 ルキアニスにもそこまではすぐにわかった。 「斬り込んで、斬り込めない砦ではない、ですな」 言ったのは、頬傷の黒騎士だった。彼は、普通のときには、すごく普通に見える。でも、言ってることはかなりおかしい。ルキアニスは思った。あそこに斬り込めるものなのだろうか。森の切れ目から、あの石橋へと駆け込んで、そして太い丸木を束ねた城門を打ち破る。 ルキアニスはもう一度、頬傷の黒騎士を見、続いて魔族の黒騎士を見た。彼女は、いつものようにどこか気だるげに、木に背を寄せて、軽く腕組みをしている。 やれてしまうかもしれない、とルキアニスは何となく思った。黒騎士小隊は、連隊の切り札だ。機甲大隊のできないことを、時によってはたった三機でこなして見せる。 頬傷の黒騎士は、ルキアニスに気づいたらしく、傷跡を歪め、笑みを見せる。 「いかがされますか、連隊長」 「黒騎士に推参願ったわけですから、それも一手ではありますね」 「では?」 「まずは調査を」 シルディール連隊長は振り向き、笑みを浮かべる。いつもの静かな微笑みなのに、それは力強く見えた。 指図も、いつもどおり、明瞭で間違いようの無いものだった。 ルキアニスの任は、呪が成されたとき、そこがどう応じるかを見積もるために、調べることだった。 成された呪が、何を引き起こすかを測るには、いくつかの要を押さえねばならない。一つは、呪を成すものとしての術者、一つは成される呪の後ろ盾としての力、魔力、そして最後に、いちばん測りにくいけれど、成された呪が、いかに力を及ぼすかという見積もりだ。 むしろ、こういうことは工兵のほうが得意なんじゃないかしらん、などと思いながら三脚を立て、その上に魔道の単眼鏡を乗せて、地にたゆとう魔力を測る。測るといっても、測る側のルキアニスが見て感じるものを、仕掛けが写し取るものだ。 魔道の細工をされた、水晶を中に据えた単眼鏡が三脚の上につけられ、そこからは糸が垂らされ、尖った錘が吊るされている。その錘のすぐ下になるように、水盆が三脚に支えられている。水盆には水だけでなく、浅く砂が敷かれていた。ルキアニスが魔力を込めて、単眼鏡を覗けば、吊るされた錘が揺れながら、水盆に波紋を作る。その魔道の波紋は、水盆の底に敷かれた浅い砂に紋様を描く。振り子占いの一つだ。 魔道課程で確かに習い、実習もしたけれど、部隊で本当にやるとは思わなかった。部隊でやるのは、兵術としての魔道だとばかり思っていた。 ルキアニス達が教えられたのは、魔力を、人が利用できるものだと考え、以下にそれを利用するかということだった。ルキアニス達が、普段、魔力、と呼んでいるものは、自然の中では、精霊と呼ばれる形を成している。そう教えられた。何となく、感じとしてルキアニスにもそれは判る。静かな風景では、おおよそ鎮まっているように感じるとか、荒れた天候では、吹く風や打ち付ける雨とも違う、荒ぶる何かを感じたりもする。鎮まったものより、荒ぶるもののほうが、及ぶ力が大きく広い。 たとえば、ルキアニスが今見ている光景でも、森の丘よりも、枯れ沢のほうが、より「荒ぶる」力を秘めている。ルキアニスはそれを測っていた。 水盆の底に浮かぶ紋様を、画板に写し取る。 「どうですか?」 シルディール連隊長の声に、ルキアニスは慌てて立ち上がり、背を伸ばしかける。連隊長は笑みと共にそれをとどめる。 「あの、仰るとおりでした。枯れ沢の橋のところの活性は高いです」 「そのようですね」 水盤を見おろしながらシルディール連隊長は言い、そして道へと目を向けるのだ。 「あとは、その活性を引き出す手はずだけです」 稜線の下を走る森の道に、マルクスと、黒騎士ヒュドの姿とがある。魔道の仕掛けを携えて、地を見つめ、探るように歩いている。やがて彼らも何かを得たらしい。稜線を巡ってこちらへと戻ってくる。 示された帳面を見て、連隊長は満足げにうなずいた。続いて、黒騎士ヒュドがルキアニスの水盆へと歩み寄った。片膝をつき、いつもつけている細い眼鏡を、すこしずらして、注意深く見つめる。 ふいに、黒騎士ヒュドは瞳を滑らせ、ルキアニスへ向ける。 「何?」 その瞳の中にあるのは、人のような丸いかたちではない。三角だ。それが魔族の印なのだという。 「あの、おかしなことになってたら、困るなあ、と思って……」 「そこには問題はない」 言いながら、黒騎士ヒュドは眼鏡を元に戻す。立ち上がり、彼女は振り返る。 「可能だと考えます」 連隊長は、マルクスとヒュドの帳面をめくり、うなずく。 集合が告げられ、そして連隊長の唇から語られることに、ルキアニスもマルクスも、まずは絶句した。つづいてできたのは、頭の悪いひきつった笑いを浮かべることだった。 たぶん、黒騎士が斬り込むと聞いたほうが、これほどは驚かなかったはずだ。 夕暮れが近い。 傾いた日差しが、切り開かれた森の先の、城門を明るく照らしている。 ルキアニスは、機体を進み出させる。森の道を、機装甲で歩く。鉄の両手を己が両手のごとく広げ、気を薙ぎ、機体に蓄えられていた魔力を呼び起こす。 鉄の掌の上に呼び起こした火を、さらに膨らませて、炎と化す。 けれど、それをすぐに投げ放つことが任ではない。ルキアニスの任は、背後に在るものを、守ることだ。 ルキアニスの背後の、一機の機体が踏み出す。花弁のように開いた肩甲と、裾の広がった兜を持つ、黒の二だ。 機は舞った。大斧を振るい、宙を薙ぎ、気をかき乱し、渦を巻かせ、くるりと巡る己の動きに沿って、巡る気の流れを作る。黒騎士ヒュドの機体は、舞いつづける。大斧を振り上げ、あるいは振り下ろして草の上をなぎ払い、切り替えしげ逆に巡る。 そして高く振り上げた。ほんのひととき、動きを止めた黒の二は、それを振り下ろす。 大斧が地を叩き割った。 水がほとばしる。土色のそれは吹き上がり、黒の二の頭を越えて、さらに高く伸び上がる。夕日の中に飛沫を舞い散らせ、橙色の光を七色に変える。柱のように吹き上がる水は、やがて透き通ってゆく。 黒騎士ヒュドの黒の二は、両腕を広げ、水柱へと向き合う。抱えるように両の掌を水柱へと向ける。 その刹那、それは起きた。飛沫が白く凍って飛び散るそれよりも早く、水柱は白く変わって硬く変わり、伸びてゆく。 やがてそれは、揺るがず凍った氷の柱となっていた。ヒュドの黒の二は、それを抱える。抱え、そして一歩踏み出すと、氷の柱は、根元から折れた。落ち行くわずかな欠片を残して、黒の二はさらに一歩、踏み出す。 続いて二機目の黒の二が躍り出る。切っ先の欠け落ちた、黒の剣を振り上げ、その機もまた、魔道の舞いを行う。黒騎士セティスの黒の二だった。その黒の剣の舞いとともに、あたりに風の流れが起きる。それは剣の振るわれるままに導かれ、渦を巻く。セティスの機は、黒の剣を高く掲げて構えた。一瞬だけ、風の動きは止まる。 『行くぞ!』 黒騎士セティスの声が、風水晶の陣をきらめかせる。そして、黒の二は剣を振るった。 風が走る。振るう剣先のままに、一つの流れとなって、走る。 それは、城門へと打ち付ける。 土ぼこりが激しく舞い上がる。けれど、それでは城門は壊れない。 『やる!』 続いて、黒騎士ヒュドが声を上げた。 巨大な氷の柱を掲げ、一歩を踏み出し、構える。 『!』 そして、投げ放った。鑓のように。 それは夕日を受けて輝きながら、風の流れに乗って飛ぶ。森の道を、切り開かれた森の跡を、短い石橋を、一息に飛びぬけ、城門に吸い込まれる。 地を震わせる響きと、土ぼこりの塊が、同時に巻き起こった。 夕日の中に、ゆっくりとそれが流れる。 氷の柱は、丸木束ねの門と、地面の接するところに、深々と突き刺さっている。 巧くいってる。 「行きます!」 今度こそ、ルキアニスの番だ。 掌に携えた、炎の一つを投げ放つ。先の氷の柱よりも、ずっとささやかだったけれど、それは同じ軌跡を飛びぬけ、さらに氷の柱へと突き刺さる。 地が震える。氷の柱が弾けた。それは鼓動一つの間に、弾けるように溶け去って、吹き上がる水柱となる。透き通って、夕日に飛沫と虹を投げかけていた水柱や、やがて土色に濁ってゆく。 『いくぞ!』 マルクス機が舞い、その腕を、拳をめぐらせる。地を踏み、構えるように片方の膝をつく。一方で拳を構え、地へと撃ち放った。 ずしん、と地響きがあたりをゆらす。 打ち付けたところで、地が砕け、割れている。それは走るように、伸びてゆく。砕け、伸びて、地割れとなって、さらに伸び行く。 その先には石橋と、砦の城門がある。未だ泥水の噴出している。地割れは、そこに吸い込まれた。土煙が巻き起こる。石の軋る音がする。音はひときわ大きくなり、土煙はさらに大きくなる。それでも、砕け転げ落ちておくさまが伺えた。 続けてまた、土ぼこりが吹き上がる。城門塔がふたつとも、内へとかしぐ。 やがて己の重みに耐えかねたように崩れてゆく。 土ぼこりはすぐに収まった。変わりに泥水が噴出す。丸木の門は、そのかたちのまま枯れ沢に転げ落ち、泥水は追ってほとばしる。城門だったものは次から次へと転げ落ち、泥水はさらに流れて、城門のあったところを奥へと抉り取ってゆく。 やがて、すべてはふいに収まった。 泥水は吸い込まれるように小さくなり、すぐに途切れてなくなる。土ぼこりも流れて消えてゆく。縄文であったところは、大きくえぐられただけの跡になっていた。 『なんとまあ、魔道という奴はすごいものだ』 声の主はすぐにわかった。頬傷の黒騎士エイクルだった。口笛を吹きかねないような、らしくない陽気な言いようだった。 すごいとルキアニスも思った。あの砦を元に戻すには、城門と石橋を作り直さねばならない。前より広くなってしまった枯れ沢の斜面に、石を積みなおし、そのあとで、向こう側に石積みをやりなおして城門をつくる。打ち崩した城門と、石橋の何倍の手間がかかるだろう?ルキアニスには見当もつかない。 最後のマルクスの一撃だけでは、あそこまで壊すことができなかっただろう。黒騎士ヒュドの氷の柱だけでも同じだったはずだ。二つ合わせて、大地を押し崩した。氷の柱を導くために、黒騎士セティスの風の魔道が使われた。氷の柱を戻すために、ルキアニスの炎が使われた。 『破壊効果、大と認める』 風水晶の陣の光とともに、シルディール連隊長の声が響く。 『斥候描画員は、記録するように。斥候以外は後退します。後退序列は進行時のまま』 ただし、と連隊長は付け加えた。 『ケイロニウス上騎機、ならびにアモニス上騎機は、第一小隊へ復帰せよ』 『レオニダス、アモニス、小隊列中位につけ』 そうして、ルキアニスもマルクスも、連隊の序列の中に再び引き戻されるのだ。暗くなり始めた森の中で、四角陣を保っていた第一小隊の機装甲たちが、一斉に立ち上がる。隊列を成すべく、各機は動き、小隊長の後ろに、二機分の空きが作られる。 マルクスの機と、ルキアニスの機装甲が、その中に入るのを待って、小隊長は、前進の号令を出した。 ルキアニスは少しほっとしていた。前衛でも、後衛でもなくて、中位だ。中位ならば、どちらかよりもずっと楽だ。行進に近い気楽さで行ける。 ルキアニスのような兵隊にとっては、どんなこともどんなことも、いつかは終わってしまうことで、また次の任が割り当てられるだけだ。 その狭間にある休みを思うけれど、それも、無事に帰り着いてからだ。