約 5,369 件
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/110.html
偽装観(疑想感)《後編》 ◆ ◆ ◆ 「中は、まともな研究所って感じだよな……いかにも研究所っていうか、研究所が研究所してる感じっていうか……」 意味が分からない、と自分でも思いながら、奇野は二階へと続く階段を上る。 廊下を端から移動しながら、右へ左へと懐中電灯を向けて歩く。あからさまにやっつけな感じの動作で、真面目に探索する気がないのが容易に窺い知れる。 面倒くさいとかいうよりも、興味が無いといった様子。 「動物実験とか、そういう研究だったら一応守備範囲だったんだけどなあ……」 研究所らしい、「それっぽい」感じがあるのは見てとれるが、それ以上のことはよく分からない。 分野が違うのだ。 「しかし、あのガキ……」 まさか、《十三階段》のことを切り出されるとは思わなかった。 奇野のことをよく知っている風の口ぶりからすると、あのなんとかいう女よりむしろ、《いーちゃん》の方の関係者か。 狐さんの――敵。 あまりにもあっさりと、手を組むことを承諾したときから不自然だとは思っていたが―― 最初っから、知っていて組んだってことか……。 どいつもこいつも、油断も隙もあったもんじゃない。 「その上に、哀川潤か……」 奇野たちと同じ世界の人間ならば、まず知らない者は皆無と言っていいくらい、あまりにも膨大な『存在』。 《死色の真紅》――哀川潤。 そんな化物まで連れてくる必要が、このゲームには有るっていうのか……? 『殺し名』、『呪い名』、『死色の真紅』、『魔法使い』、『真庭忍軍』。 水倉神檎。 殺し合い――バトルロワイアル。 ……まるで見当もつかない。 「本当、わっけわかんねえなあ……本当、本っ当によぉ……」 訳がわかる部分があるとしたら、これが冗談の類じゃないということくらいだ。 しかし一方で、奇野は当初と比べて格段に余裕を得ていることも自覚していた。 敵よりも先に味方に出会い、 機動力を獲得し、情報を確保し、 そして今は、根城としても使えそうな建物の中で、悠々と探索活動を行なっている。 アドバンテージの有効利用。 現状を見れば、限りなく順調と言っていい状態。 ただしその現状が与える余裕は、奇野の中のもうひとつの部分にも確実に影響を与えつつあった。 今こそ仲間として手を組んでいる二人。それがあくまで、いつかは殺さなければならない相手であるということ。 いつ寝首を掻かれるかも分からない、今現在最も身近に存在している敵であるということ。 最初にまみえた時には強固なまでに抱いていた、警戒という名の防衛意識。 それが希薄になりつつあるということに、奇野は気付いていない。 「三十分だっけか……」 時計を確認すると、探索開始からまだ十分も経っていなかった。全部の階確認したら、外に出て待ってるか、などと考えつつ、 四階へと続く階段に足をかける。エレベーターも備えてあるようだが、万が一「何か」あったらと思うと、どうにも乗る気にならない。 もはややる気も何もなく、ただ悪態をつくようにして部屋を検分していた奇野だったが、しかし。 それを見た途端、奇野は動きを止めた。 「……?」 他のごちゃごちゃした部屋に比べれば、いくらか殺風景に見える部屋。 その中に、一台のデスクトップパソコンが置かれていた。 いや、コンピュータの類ならば、他の部屋でもいくつか見かけた。奇野が見て動きを止めたのは、パソコンそのものでなく、その画面のほうだった。 ディスプレイが点灯している。 廃施設のような、まるで人気を感じさせないこの建物。すべてが沈黙したような、この研究所の内部で、唯一人工的な光を放つ、青白く切り取られたディスプレイ。 奇野は息を飲み、パソコンへと近づいていく。一歩一歩、気後れしそうになる自分を励行するようにして。 画面に顔を近づけ、そこに表示されている何かを見る。ディスプレイの中央に、青い背景に浮かび上がるようにして、一行の文字列が打ち込まれていた。 《Here is a 『Desert Fox』.》 「………………」 無機質な文字列。それ以外には何もない。 キーボードをいくつか叩いてみる。画面は何の反応も示さず、文字列も表示されたまま。 『Desert Fox』――『砂漠の狐〈デザート・フォックス〉』? 《『砂漠の狐』はここにいる》――? 「…………狐さん?」 奇野がその文章について、さらに思考を深めようとした、その時。 扉の外、廊下の方から、何か気配のようなものを感じた。 反射的に身体を緊張させ、神経を尖らせる。廊下の気配に集中する。……いや、これは気配というより―― ……かん……かん……かん…… 音だ。 微かではあるが、一定のリズムをもって、確かに聞こえてくる音。 足音のようにも聞こえる。 ……誰かいる? もしいるとするなら、誰だ? 子荻か石凪のどちらかが、奇野に会うためにこの建物の中に入ってきたのだろうか。 何のために? 何か緊急を要する事態でも発生した? いや、それならばなぜ、あの音の主は何も喋らない? 奇野に会う必要があるなら、子荻や石凪ならば単に大声で呼べばいいだけの話だ。 それならまさか、自分たち以外の人間がこの中に? 突然の敵襲、という石凪の言葉が頭をよぎる。 ……いや、それも考えがたい。奇野が子荻たちと別れ、この建物の中に入ってからまだ十分そこそこしか経っていない。 外で子荻が言っていたように、そんな短時間で他のエリアからこのエリアの中に侵入し、さらにこの施設にまでたどり着くというのは、やはり無理があるように思える。 自分たちのように、何らかの移動手段を手にいれていたとするなら、あり得ないことではないのかもしれないが……。 「……いや」 どちらにせよこのエリア内に入ってしまえば、それがこの忌々しい首輪をつけている「参加者」であるなら、萩原子荻の持つレーダーにかかってしまうことには変わりない。仮に何者かがこの施設内に侵入していたとするなら、子荻はそれを感知できていながら、なんのアクションも起こさずに見過ごしたということになる。 あの女が裏切ったのか……? いや、しかし―― ……がしゃん……がしゃん……がしゃん…… 「……ん?」 考えがまとまらぬうちに、音はもう、耳を澄ますまでもなくはっきりと聞こえるほどに近くまで来ている。どうやら階段を上ってきていたらしい。同時に奇野は、それにようやく気づいた。 足音のように聞こえていた音。 それは、機械の動くような音だった。 金属の擦れあうような、歯車が規則的に噛み合うような音が、廊下からはっきりと聞こえてきていた。 奇野は意を決し、部屋の入口へと移動した。下駄を脱いで両手にぶら下げ、そっと物音を立てぬように移動し、扉の隙間から廊下を窺う。 階段のあるあたり。人影がひとつ、確かに佇んでいる。 ただしそれは、『普通の』人影ではなかった。 動きがどうとか、雰囲気がどうとか、そういう問題ではない。 見た目そのものが、人間のシルエットとしてあり得ないものだった。 「何だぁ……? ありゃ……」 腕が四本。 腕だけではない。脚も同じく四本。その身体が動くたび、軋むような金属音が響く。 さらに注目すべきは、四本の腕すべてからにょきりと伸びている、先端の鋭く尖った細長い物体。 刀――のようだ。 それも、時代錯誤なことに日本刀。 服装はよく見えないが、和服を着ているように見える。四本の手足をきっちりと通す、和服を。 日本刀と相まって、その格好はむしろ自然に感じる。 人の形、と言えなくもないが、人間としては、あまりにも不自然な形。 奇野は一点に目を凝らす。人影の頭部、その首元に。 首輪が掛けられている様子は――ない。 「!」 突然、人影の頭部が「ぐるん」と回転し、その双眸が奇野のいる部屋の入口へと向けられた――気がした。 その寸前に、奇野はほとんど反射的に扉を閉めていた。再び聴覚を研ぎ澄まし、扉の外の音を探る。 がしゃん――と、再び足音のような機械音が鳴り始める。音は、近づいてきているのか? もし見つかっていたら、この部屋に逃げ場はない。がしゃん……がしゃん……がしゃん……音をよく聴け。どっちだ。どっちに向かっている……。 ……がしゃん……がしゃん……しゃん……。 ……音は、 ……しゃん……ゃん……ん…… 音は、奇野のいる部屋とは反対の方向へと、徐々に遠ざかっていった。 「…………ふぅ」 音が聞こえなくなった所でようやく身体の力を抜く。ディスプレイの明かりと、パソコンのファンが回転するモーター音だけが静寂の中に残る。たっぷり十秒、その音を聞いてから、奇野は扉から身体を離した。 何だったんだ……? あの日本版スタンドみたいな物体は……や、あの漫画もともと日本のだけどさ。着物着たスタンドなんて聞いたことねーよ……いやいや、スタンドであることを前提にしてどうすんだ。 「人間――じゃねぇよな、あれ……ロボット?」 ロボット――機械。 和装。 和装の機械。 和装の動く人形。 からくり人形……とか? 「いや待てよ――まさか、あれは……」 そうだ。そう考えれば辻端が合う。 むしろ、それ以外に考えようがないと言ってもいい。 「なんてこったよ……そういうことか……」 奇野は呟いた。 思い当たったのだ。あの奇怪な人形の正体について。 そして、この研究施設の恐るべき正体について。 「一体、何の研究してる施設なのかと思っていたが――」 自然と、拳に力が入る。 自分の言葉を、じっくりと噛み締めるようにして―― 「まさか、メイドロボ作製のための施設だったとはな」 …………………………。 奇野は、薄ら笑いを浮かべながらそう言った。 いかにも合点がいったという風に。 「そういや狐さんも、一時期メイドロボの研究に噛んでたことがあるって言ってたっけな……は、まさか他にこんな研究してる所があったなんてな。正直恐れ入るぜ……ああ、あの女さっき『閉鎖的な研究』がどうとか言ってたな。成程ね……確かにあんな特殊すぎる趣味のもの作製してるなんてこと、とても公にできたもんじゃねえよな――」 手足四本の、日本刀付き和装戦闘メイドだぜ? 理解のしようがねえよ。 そう言って、もう一度拳を握る。 「まさか、こんな短時間の探索行だけでこの場所の正体を看破できるとはな……ふ、今日の俺は冴えに冴えてるぜ……」 奇野は満足げに頷く。 余裕があるというより、もはや調子に乗っていた。 通常ならばありえない程の勘違いが可能なくらいに倒錯していた。 やはりこの男、基本的には馬鹿である。 「しかしそうすっと、ここはあんまり居たくねえ場所になっちまったな……」 さっきまではここを根城にすることも選択肢のひとつとして考えていたが、それは当然、この場所がまだ誰にも陣取られていないと思っていたからこそだ。 蓋を開けてみれば、まるで予想外のものが巣を張っていた。 しかも、到底話の通じなさそうな相手が。 人間であるかどうか以前に、普通量以上の日本刀を構えた相手にのこのこと近づいていけるほどの余裕も度胸も、奇野は持ち合わせてはいない。 「中でウロウロして鉢合わせすんのも嫌だしな……いったん外出るかね。これも一応、緊急事態の内だろうし――」 勘違いはそのままだったが、行動としては正しいと言えるものだった。 「あ――これはどうすっかな……」 奇野はパソコンを一瞥する。今一番考えるべきはあのメイドロボのことだろうが、このパソコンの文章も気にかかる。自分にとって、心当たりがないでもない内容の文章でもあるし―― まあいいか。 まずは連中に話して、必要ならその後に考えればいい。 今は移動を最優先する。 ドアを開け、廊下の様子を再び窺ってから、床に落ち着けていた腰を上げる。念のため下駄は履かず裸足のまま。 廊下に出て改めて耳を澄ますと、機械的な音がまだ微かに聞こえてきている。下の階からのようだ。その音に近付かないようなルートを選択しながら、奇野は階下へと歩を進めていく。三階を過ぎる時に音がこちらへ向かってくるのに気付き一瞬焦ったが、戻るより進むほうが 安全と判断し、二階まで一気に駆け降りる。追ってくる様子はないが、すぐに階下へと降りてくる可能性もあったので、入口のほうへと足を急がせる。 「こういう時に、携帯電話が無いと不便だとか思うのってどうなんだろうな……」 今更ではあるがこの男、考える内容がとても『呪い名』とは思えない。 完全に一般人の思考である。 何とか音に追い付かれることなく、一階の入口へと到着する。聴覚の緊張を解かぬままに、とりあえず両手にぶら下げておいたままの下駄を装着し直す。機械音は――近づいてはこない。改めて扉に向き直り、端の部分に右手をかけて引く。動かない。力が足りないのかと、両手をかけてもう一度引く。 開かない。 「……?」 もう一度、体重をのせるようにして思いきり扉を引く。しかし開かない。びくとも動かない。 おかしい。入るときには、片手の力だけで割合簡単に開いたはずだ。こんなに重かった記憶はない……いや、これは重いと言うより――。 「いや……待て……」 それ以前に、ここに入った後、扉を閉めていったのだったか――? 確か、どこが入口だったかすぐ分かるよう、開けっぱなしに―― 「――――!」 奇野はようやくそれに気づいた。扉の脇、住宅の玄関でいうならインターホンの位置にあたる場所に設置された、キーの付いたパネル。 それが、作動している。 入るときには、何の反応も示さなかったはずのそれが。 「……まさか」 もしかすると、それは予想しておくべき状況ではあったのかもしれない。得体の知れない無人の研究施設なぞに足を踏み入れた時点で、それは一人だろうと三人だろうと、それがあまりにお誂え向きの状況であることに変わりはなかったのだから。 ディスプレイに浮かんだ不可思議な文章。 建物内を徘徊する、奇怪な姿の機械人形。 開かない扉。作動したロック・システム。 あまりにも露骨な、あまりにも揃いすぎた状況。 「…………と、」 閉じ込められた――? 馬鹿な、とは思う。第一どうやってこの扉をロックしたというのか。何かの弾みで、停止していたシステムの一部が作動してロックがかかった? そんな偶然があり得るか? いやしかし、「偶然」で片付けられないとなると、必然的に「人為的」の可能性を疑わざるを得なくなる。 これほどに物々しいセキュリティ、おそらく別個での管理でなく、施設全体を統括するシステムか何かで管理されているはず。 例えばそのシステムをあらかじめジャックしておき、奇野が建物内部に侵入したのを見計らって、停止させていたセキュリティの一部を再起動させたのだとしたら――。 「…………有り得ねぇ……」 そんな非現実的な真似、仮に出来たとしたら――いや、実際にそれをやったのだとしたら―― そんなもの、変態どころか化物だ。 あらゆる意味で、理解の範疇を越えている。それが『外部』から仕掛けられたものだとするなら、尚更のことだ。 あの機械人形が自分でロックしたというほうがまだ現実的かもしれない。……いや、それもできれば想像したくない話だが―― ――『外部』? 「……!」 奇野は自らの脳裏に浮かんだ推測に戦慄した。そう考えれば辻褄は合う。辻褄は合うが、その可能性はまずい。いくら何でも――悪すぎる。 奇野たち以外、誰もいないはずのこの施設内に、あんなものが徘徊している理由。 もしあれが、誰かの所有する『武器』だったとしたら? ロボットのように自動操作の可能な、あるいは遠隔操作の可能な武器があったとしたら? それならば、レーダーも何もあったものではない。 武器がいくら動き回っていても、使用者が離れた場所にいれば何の意味もない。 「これは、まずいだろ……これは…………」 奇野が戦慄したのは、しかし子荻のレーダーに関する所だけではない。 今目と鼻の先にいる相手と、自分自身の『相性』に関わることである。 奇野の能力は、当然ながらその対象を人間に限定しない。犬でも猫でも昆虫でも魚介類でも、物によれば植物でさえ、その能力は容赦なく効果を発揮する。 相手が、『生きているもの』ならば。 ならば――である。 考察を挟む必要すらない。 子供でも分かる理屈である。 『機械』を相手に、『毒』など何の意味もありはしない――! 「くそ……畜生……」 奇野は歯噛みした。先手を取られたような、お株を奪われたような、そんな気分を味わっていた。 相手の土俵に立たず、どころか自分の土俵にすら立たず、外側からの攻撃に終始する姿勢。 それは完全に、『呪い名』のやり口と同様だった。 「武器は、あるにはあるけど……くっそ」 奇野がデイパックから取り出したのは、二本の鉄の棒だった。 いや、二本というよりは一対といったほうが正しいのかもしれない。 小刀ほどの長さの棒に、それと直角に付けられた短い持ち手部分。歪なL字型をした、凶器。 「トンファー……『匂宮』の連中なら、好き好んで使いそうな武器だな……」 当然だが、奇野にとっては扱ったこともない武器だ。 そもそも凶器が何であろうと、奇野が武闘派でないという事実は変わらない。あの等身大呪いの人形みたいな機械の戦闘能力は不明だが、左右二本ずつの両手に構えられたあの凶器を見てなお、楽観的な考え方ができるほどに奇野は危険意識を低く持ってはいない。 こちらは二本で、あちらは四本。凶器の数で単純に二倍と考えるのも安直過ぎるだろうが、あれと正面切って対峙するのは間違っても得策ではない。むしろ愚策だ。 「…………逃げよう」 武器まで出した割に、決断は早かった。 奇野の『病毒』と、子荻の持つ簡易レーダー、その両方が全くの無意味に貶められてしまう敵。 状況が、悪い方向に傾き過ぎている。 「……っと」 階上から再び音が近づいてくる。追いついてきたか、と思うより先に、奇野はエレベーターのボタンを押していた。相手は階段を使って降りてきている。このままここで待っていたら袋の鼠状態だ。まずはアイツから離れた場所に移動しないと――。 エレベーターに乗り込み、気配を探りながら扉を閉める。音の聞こえ具合から二階にいるとあたりをつけ、四階のボタンをプッシュする。身体が浮く感覚。単調なモーター音がやけにうるさく感じる。 「……さて、どうするよ……」 探索終了予定時刻まで、あと十分弱。時間が過ぎても自分が外に出られなかった場合、外の二人が何らかの手段を行使してくれるかもしれないが、それまでは自力に頼るしかない。 扉がロックされている以上、外からならどうにかできるとかいう雰囲気ではないが。 まず警戒すべきは、あの人形だ。 あの人形さえ避けることができれば、命の危険だけは一応回避できる。 とりあえずは、他に出口がないかどうかを―― 「人間・認識」 「は?」 合成音のような、しかしはっきりと日本語を発したとわかる声とともに、めぎり、という鉄板のひしゃげたような音が上方から響く。その音の意味を察する暇もなく、奇野を乗せたエレベーター全体が、まるで地震でも来たかのようにぐらりと振動して―― 「即刻・斬殺」 「――――! うお!」 咄嗟の判断。 奇野がエレベーターの床に伏せると同時に、それは降ってきた。 エレベーターシャフトを障子紙のように貫き、天井から勢いよく飛び出してくる一本の鋭い刀身。 判断が一瞬遅かったら、奇野の頭蓋骨はその中身ごと無事では済んでいなかっただろう。 「う……上!?」 上に乗っている!? この刀身――間違いない! あの人形が持っていた日本刀! う、上から降ってきた――だと? 一体どうやって――いやそれ以前に、エレベーターで移動しようとしたのを察知された!? まさか、そこまで精密な機能を持ってるっていうのか……? 人間ならば、至近距離でエレベーターが動けばすぐに気づく。だが相手は機械だ。奇野としては精々「視界に入らなければ安全」程度に構えていた。 だが違う。 今の一刀目も、確実に奇野の立っている位置をピンポイントで狙った貫き方だった。 闇雲ではない。 仕掛けは分からないが、おそらくは視覚に類するもの以外の何かで、奇野の位置を―― がこん! 「うおぁ!」 考える暇も与えてはくれない。すぐさま二刀目が、一刀目のすぐ隣から降ってくる。 更に続けて三刀目、四刀目、五刀目。立て続けに振り降ろされる刃。がこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこんがこん! 執拗に、執拗に、執拗に、重箱の底を貫くような執拗さで(あえて捻った表現をしてしまう余裕が逆に悲しい)、次々に天井が穿たれてゆく。 エレベーターは止まらない。ゆっくりと上昇を続けている。 その点は奇野にとっては幸運だった。もし途中で、この上に乗っているであろう人形が与える衝撃の影響によってエレベーターが停止してしまった場合、奇野の逃げ場は今度こそ皆無である。 袋の鼠。八方塞がり。 絵的にいえば六方塞がり、箱中の鼠といった所か。 階表示のランプが二階を過ぎ、三階を示す。 絶え間なく降ってくる刃の雨に、奇野は床に這ったまま動くことができない。ボタンに手を伸ばすことすらも困難。ただじっと、エレベーターが到着するのを待つしかない状態。 「ぐっ……ターミネーターに追われるってのは、こういう気分なんだろうなぁ――!」 無力。 『病毒』の通用しない相手の台頭。ただそれだけで、今の奇野は完全に無力と化していた。 雀の竹取山で石凪萌太を相手に勝利を収めることができたのは、子荻の弄した策が機能したからこそだということは奇野も認める所ではある。 それでもやはり、自分の能力があってこそ成功した策であるという意識は、矜持として捨てることができなかった。 だからこそ、奇野の感じる無力感は大きい。 一人になった途端にこのざまである。 嘲笑うかのように、尚も降り続ける刃。 がこんがこんがこんがこんがこんがこん! 執拗に、執拗に、執拗に、執拗に、執拗に―― ――こぉん。 電子音。 四階を示すランプが点灯し、重力の狂う感覚が消え失せる。 どうやら途中で停止することなく、最上階までたどり着くことができたらしい。 「……ん?」 一瞬の安堵。次いで不審。 いつの間にか、天井から執拗に降り注ぎ続けていた穿孔音が、ぴたりと止んでいた。 天井を見上げる奇野。 一撃目を除けば、無作為に打ち降ろされていたと思っていた刃の雨。 天井に穿たれた刺突の痕跡に、奇野はそれが無作為の結果ではないことを知る。 ずらぁりと、曲線を描きながら並べられた無数の傷跡。 その痕跡は、天井で歪な円を描いていた。 「…………あ、」 有り得ねぇ――。 その言葉は、目の前の現実によってかき消される。 がごぉん! と、一際大きな音を立て。 天井の一部が、クッキー生地の型抜きのように、大きく惰円形に切り抜かれ落ちた。 「人間・認識」 「――――――ひ」 ぽっかりと空いた天井の穴。その向こうに見える、深遠のような暗闇の中から―― 「即刻・斬殺」 機械仕掛けの死が、奇野を目がけて降ってきた。 【1日目 早朝 斜道卿壱郎研究施設 C-8】 【奇野頼知@戯言シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~2)、トンファー@人間シリーズ [思考] 基本 とりあえず生きることが優先。そのためには誰でも殺す。 1 早いとここの建物から出ないとヤバい。 2 なんとかしてこの状況を連中に伝えたいところだが……無理か。 3 俺、死んだかも。 ※ジープは「人間ノック」で軋識たちが乗っていたもの。 奇野は自分に与えられた制限について(「毒」については)正確に把握できています。 021← 021 →022 ← 追跡表 → ― 奇野頼知 ― ― 萩原子荻 ― ― 石凪萌太 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/99.html
17話 海岸近くの崖、 隣のエリアに掘っ立て小屋があるものの、 それ以外は人工物がないように見える島。 「今更だが、ここで会うとは思わなかったぞ。気に入らない女」 「奇遇ね、わたしもそうよ。気に入らない女」 幕府に二人の鬼女あり。 偶然にも、その二人が顔を会わせていた。 「しかし、わたしが死んだ後、七花がよりにもよってきさまとくっ付いているとは…………」 おかっぱの白い髪のやや小さい女性が苦々しくそう言うのを、 「否定する—— 一応、同意の上での傷心旅行って事になってるわ」 顔の横に『不忍』と書かれた仮面を着けている外国人の様な女性が否定した。 十二単を二重に重ねた様な衣装を着たおかっぱの白髪のやや小さい女性は、奇策士とがめ。 自分を奇策しか使わないから奇策士だと言っている。 『不忍』と書かれた仮面を着けている金髪碧眼の女性は、否定姫。 如何なる物であろうと何でもかんでも否定するため、否定姫。 幕府の二人の鬼女。 ちなみに両方とも戦闘力は皆無に等しい二人は、 よりにもよって無人島、呼ぶ人は不承島と呼ぶ所に居た。 「…………で、どうする、気に入らない女」 「…………どうしようかしらね、気に入らない女」 状況は無人島で、どうやら二人しか居らず、 島から出るにも舟一つないため出る事も出来ない。 「ちっ、ここから出る手段は一つとしてなしか…………」 「否定…………しないわ」 「あら、そうですか?」 本当に困った事態である。 出る手段はないが、外の方は入る手段があるだろうから、 最悪、殺し合いに乗り気で説得が効かない相手では正しく話にもならない。 「「そうですか?」って、舟もないのだぞ?どうやって出る?筏でも作るのか?」 「筏なんか私達で作れる訳がないわ。ハッキリ言ってこの状況、打つ手無しよ」 「そうでもないですよ?」 二人で案を出しては否定して、あるいは容赦せずに没にしたり、 ハッキリ言って出る気があるのかと疑うような状況だが、 二人とも至って真面目であるのが更にややこしい。 「「そうでもないですよ?」だと?じゃあどうやって出るんだ?」 「誰かどこぞの忍者みたいに海の上でも歩ければ良いんだけど…………」 「いえ、わたしは海の上を歩いて来ましたし」 「冗談も大概に————ん?」 「冗談も大概に————え?」 二人が同時にそう言うのを二人が同時に不審に思い、 どうやらようやく二人して気が付いた様である。 何時の間にかもう一人会話に加わっていた事に、 他に誰も居ないはずのこの島に、 何時の間にかもう一人この島に居た事に。 しかもわざわざ二人の後ろから話しかけていたらしい。 遅い事この上ないが、 二人が後ろに振り向けば居たのは………… 「お久し振りですね、とがめさん。あと、はじめまして誰かさん」 邪悪そうに笑うとがめにとっては見覚えのある女性だった。 ここで簡単な説明を入れよう。 誰も居ないはずのこの島に、呼ぶ人は不承島と呼ぶこの島に、 どうやって奇策士とがめと否定姫以外の人間が一人来ていたのか? 言葉で表すにはこの上なく簡単な事である。 本人が言ったとおり、海の上を歩いた。 そう、言葉で表すにはこの上なく簡単な事を実行した。 実際にやる事は不可能に近いこの事を、 まるで簡単な事のように、アッサリとしたのである。 種を明かせば簡単な事ではないが、 彼女の持つ眼で、かつてこの島で戦った真庭蝶々から見取った、 ありとあらゆる物の重さを消す事ができる歩法の一種、 忍法足軽を使って自分と荷物の重さを消して歩いて来た。 既にあらゆる技術を自分の物にしている彼女だが、 地味に死ぬ前からよく使っている技術である。 「で、わざわざこの島まで歩いてきた事はわかったが」 「残念だけど七花くんはこの島には居ないみたいよ?」 顔見知りのとがめの方はおいておいて否定姫が自分の紹介を終えて、 とりあえず三人で話を始めた。 「早速だが一つ質問がある」 とがめは特に天才かつ天災的な彼女に物怖気する様子もなく質問する。 「向こうの、まあ、本土として置いて。 本土であった地図で言う赤神イリアの屋敷とやらであった爆音についての情報を持っていないか?」 不承島の砂浜のほぼ対岸に位置する屋敷で何度も会った爆音、 それを見る為に見晴らしの良い海岸に来た所で否定姫と出会ったと言う裏話は置いて、 素直に戦闘があったらしい場所の状況についての情報を求めた。 ちなみに気になってはいたらしい否定姫も静かに二人の話に耳を傾けている。 「え?あれですか?」 「うん、多分そのあれだな」 一応話してくれる気はあるようだ。 「三人ほど逃げらてしまいました」 どうやら戦闘を起こした本人の様である。 しかし微妙に会話がずれている。 「ほ、ほお?と言う事は何人か殺したのか?」 微妙に冷静で居られていないとがめである。 それもそうだろう。 一応、目の前の人物が殺し合いに乗り気である可能性が判明したのだから。 今後、自分達が七実に殺されない保障は何一つとしてない事をない事に。 実際に一度は殺され掛けた事があるとがめも、 一度も殺され掛けた事がないものの危険性は左右田衛門から聞いていた否定姫も、 二人の身体に若干の緊張が走っている様子である。 無論、大抵の物を見通せる七実に対して緊張を隠そうとも意味もなく、 あっさりと見破ったらしくクスクスと笑っている。 「大丈夫です。あなた達を殺すつもりは少なくとも今はありませんから」 笑いながらそう言う笑顔は、その笑顔は、 本当に悪そうで、どこまでも邪悪そうな笑顔だった。 「それでは、その館で一人殺して三人は逃げられたという事だな?」 一瞬、あまりに邪悪そうな笑顔に一瞬怯んだ物の、 その後、屋敷での戦いの様子の説明を求めた所あっさりと答えてくれた。 あまりにもあっさりと、何でもないかの様に。 しかし、その屋敷の四人の戦闘を見て来たと言う。 それぞれがそれぞれで異能を身に潜めた様な四人の戦闘を、 しっかりと、まじまじと、その四人の技術を、 七実は己の眼で、見た。 じっと。 ぎょろりと。 まじまじと—— 見る。 見切り。 見抜き。 見定め。 見通し。 見極め。 見取る。 見る——視る——観る——診る——看る。 観察するように——診察するように。 その四人の技を、技術を、経験を、見て来たと言う。 一人は全身、体のありとあらゆる部分に口を持った少女だったと言う。 幸か不幸か流石にそれは真似出来ないと言う事らしいが、 そんな化け物がこの戦いに参加している時点で笑えない。 一人は変わった服装の女性だったと言う。 幸か不幸かこれと言った珍しい技術は持って居なかったらしいが、 その胸に悪刀『鐚』が刺さってたと言う。 と言う事は四季崎記紀が作った変態刀が他の参加者の手に渡っている可能性が高い。 もしも前の持ち主の腕を超える者の手に渡っているとすると………… 一人はまにわにの忍者らしき人物だったと言う。 服装などを詳しく聞いた所どうやら真庭鳳凰で間違いが無さそうだった。 真庭鳳凰が殺し合いに参加しているのはわかってはいたが、 問題は真庭鳳凰の忍術を見て来たと言う事である。 ただでさえ恐ろしい七実が、あの真庭鳳凰の忍術を手に入れた。 ハッキリ言って恐ろしい事この上ない。 最後に唯一殺せたと言う若草色の和装の女。 この女の空蝉なる技術を見て来たと言う。 どのような技術かは身を持って場所を入れ替えさせられて教えられたが、 そのような技術を持つ者が他にも居るかも知れないと言う事。 七実よりもたらされた情報を纏めると、 どうやら主催者は殺し合いを本気でやらせたがっていると言う事、 この殺し合いの中には真庭忍軍並みかそれ以上の使い手が居るかも知れない事、 そして、このありえないはずの地図の地形はほぼ確実である事。 H-4にある赤神イリアの屋敷から海の上を歩いて、 今とがめが否定姫と共に居るH-2までまっすぐ海の上を歩いて来たと言う。 誰の屋敷かは知りはしないが、 この不承島の向かい側の陸地、深奏海岸に、 赤神イリアの屋敷と呼ばれる場所はない。 更に言えば、 不承島の近くに鎧海賊団の本拠地とも言える濁音港が、 こんなに近くにあるはずが無い。 不承島は場所で言えば丹後、濁音港は薩摩。 本来在り得る筈が無いこの地形がありえるのか? 濁音港はとがめと会う前に否定姫が港らしい場所があると言う事を視認したらしい。 ここで否定姫が嘘を言う意味は無い。それから考えればこの地図は本物である。 七実が嘘を付いていない事が前提ではあるが、 今の所、七実が妙に積極的である事を考えれば嘘を付いてはいなさそうである。 以上の事をふまえて考えた結果、 「ふん、それから考えれば願いを叶える云々はおいておいても」 「水倉神檎はとんでもない力を持っている、と言う事かしら?」 これが幕府の二人の鬼女が一緒に出した結論であった。 「ふふふ…………」 「あはは…………」 しかし、その結果が出た上でも二人は笑い出した。 「くはははははははは」 「あはははははははは」 まるで楽しそうに笑う、 「それでこそ」 無自覚に声を合わせながら、 「奇策の練りようがあるわ!」 「否定しようがあるわね!」 やはり幕府にありと言われるだけはある鬼女の二人。 二人とも水倉神檎に対する闘志が溢れていた。 目の前に居る七実を超える化け物かも知れないとわかっている上で、 天災と呼ばれた天才以上の怪物かも知れないとわかっている上でである。 その様子を七実は二人を笑いながら見ていた。 悪そうに、邪悪そうな微笑と共に、見ていた。 「さて、元日本最強の七実どのにわたしから頼みがある」 真剣な表情でとがめと七実は向かい合っていた。 とりあえず言うと七花が住んでいた小屋……ではなく、 場所は変わらず崖の近くの地面の上でである。 いくら天才七実と言えども海を歩いて渡って来て、 流石に疲れてあまり動きたくないとの事なのでである。 この殺し合いの中でも体力が無いのは相変わらずのようだ。 一応、真剣な話し合いではあるが、 場所が場所なので微妙に間が抜けた感じがしないでもない。 ちなみに否定姫は所在無さげに少し離れた位置からこちらを見ている。 とがめの交渉の行方を見守っている。 「わたし達と協力して貰いたい」 簡潔に、混じり気無く、一直線に交渉する。 目の前の天才に対しては小細工は通用しない。 文字通りそんな事をしても、見抜かれてしまうから! ちなみに「わたし達」と自分も勝手にとがめの仲間に入れられている事に、 無論、否定姫は気が付いているがあえて口を挟まない。 とがめはともかくして七実と共に行動が出来る事に損は無いと考えているためである。 「構いませんよ」 そんな周りの空気を知っていながら七実はアッサリと承諾した。 「いくつか条件がありますが」 と後に付け加えて。 流石にとがめの表情が曇る。 あの天才の七実が共に行動するに当たって付ける条件だ。 簡単な物ではないだろうと予想しながら、 それも計算通り、と密かにほくそ笑みながら、 「…………条件はなんだ?」 と、表面だけは苦々しげに聞いた。 それを恐らく見抜いているだろうが、条件を提示する。 「一つ目はお二人に関する事です」 一つ、まずは一つ目。 「お二人にはわたしにしっかりと協力して頂きます」 一つ目、いくつかある条件の内の一つ目は普通だった。 いや、あまりにも普通過ぎた。 簡単に言えば、 とがめからは思わず見惚れるような奇策を出してもらい、 否定姫はとがめの政敵だったと言うからとがめ並の頭はあるだろう。 だったら、使えるだろうから使う。 それ以上でも以下でもない。 役に立つだろうから使う、それだけである。 が、二人にとっては普通過ぎる条件に、 思わずとがめと否定姫が不審そうな表情を浮かべるのを見て、 「二つ目は支給品に関する事です」 あっさりと流した。ごくあっさりと何事も無かったように流した。 「お二人の支給品を見せて頂き、使えそうな物を頂きます」 二つ目も普通、普通にしっかりと自分の目的を出す。 あくまでも冷静に、自分の目的を表に出す事無く果たすために、 二人の支給品を見て、使えそうな物を貰う。 一見すれば当然の行為。 相手から自分にとって使える物、武器を手に入れる。 しかし、七実にとって武器など本当の意味で、 どうだっていい。 己を一本の刀に仕上げた虚刀流にとって、 銃などの遠距離武器以外は邪魔でしかない。 もっとも、今の七実は忍法撒菱指弾も見取っているから銃などもほとんど必要がない。 と言っても残念ながら今は撒菱は持っていないので使えないが、 石を撒菱の代わりくらいには出来るだろう。 今の目的は優勝する事でもなく皆殺しにする事でもなく、 あくまでも完璧な『再生力』を見取る事。 いくつもある吸血鬼の一部を集めて合わせて、 完璧な『再生力』を見取る、それだけである。 一応、七花に会って見たいと言う事もあるが、 ここに来てしまった事でこれ以上思い当たりはない。 ならば、思い当たりがありそうなこの二人と行動する事が一番良い。 「以上です」 二つ。この二つだけではあるが、この二つの条件に必要な事を全て詰め込んである。 しかも二人からしたら楽な条件であろうとちゃんと考えて。 自分にこれ以上ないぐらい良い条件を出しながら、 二人にとっても良い条件になるように考えて。 二人に断る理由が見付からないように、 「そうして頂ければお二人と共に行動しましょう。 ついでに可能な限りお守りもしましょう」 そうちゃんと付け加えて利益に目が眩むように、 自分と行動するの利益がしっかりと眼に見えるように、 頭脳労働専用と言っていた彼女達には破格の条件だろう。 言うならば、決して見逃したくないほどの条件を! とがめは苦々しげに、 「——————わかった。その条件、のもう」 しかし、心の中では踊り出しそうなほどの喜び様であった。 踊らないのは否定姫の前だからであり、 否定姫が居なかったら踊っていたかも知れない。 否定姫も否定姫で、 しばらくの間、左右田右衛門左衛門の変わりになる護衛が見つかった。 と、とがめと同じく踊り出しそうなほど内心で喜んでいた。 こちらもとがめの前だから踊らないのであり、 とがめが居なければ踊っていたかも知れない。 七実は二人とも踊り出しそうなまでに喜んでいる内心をしっかりと見破り、 一人、笑っていた。 悪そうに、邪悪そうに、笑っていた。 「それでは、交渉成立で」 ちなみに、 二人の支給品を見ても七実の目当ての物、 吸血鬼の一部は見付からなかったが、 「あら?これは…………」 一つ、変わった物に目が付いた。 「ん?これがどうしたの?」 すでに三人でとがめの支給品を見終えて、 今は三人で集まりながら否定姫の支給品を検分中である。 七実の眼に止まった『それ』、 「これによく似た服を悪刀『鐚』を刺していた人が着ていましたね」 『それ』の正体は………… エプロンドレス。 おまけなのか黒縁メガネ付きのエプロンドレス。 対ロングレンジ用の特別なエプロンドレス。 前の持ち主、千賀てる子。 七実と会っていながら逃走に成功した千賀てる子の服。 「これを着ていた方が良いですねよ」 無論、対ロングレンジ用の加工がされている事を見抜き、 否定姫に着るように勧めた。なぜかメガネも。 なぜ否定姫に着るように勧めたかと言うと、 とがめには大き過ぎて、七実には必要がないからである。 更に、ただでさえ目立つ髪と眼の色にこのエプロンドレス。 自分が狙われない可能性が上がる、とちゃんと考えての事である。 あくまでも自分が生き残るために。 最初は嫌がっていた。 いくら外国に対する理解があったもの、 防御力も全く無さそうにしか見えないこれは……と。 しかし、 対ロングレンジ用の加工がされている。と七実が言った所、 ならなぜ七実が着ないのか?と言う疑問を胸に入れたまましぶしぶ承諾した。 そして今、メイドの格好をした否定姫が誕生した。 頭に『不忍』と書かれた仮面を着けたままではあるが、 金髪に碧眼、更に黒縁メガネにメイド服。 ちなみに先ほどまで着ていた服は支給品が入っていた物に畳んで入っている。 今現在ここには居ないが某最悪と某最弱が見たら悶絶死する事請け合いであろう。 それほど妙に似合っていた。 外国の血が混じっているからだろうか? 否定姫本人に言ったらきっと瞬間的に否定する事であろう。 微妙に恥かしいのか若干であるが否定姫の頬が赤い。 「あら、お似合いですね」 「………………」 その姿を見て七実は褒めるが、とがめは後ろを向いて堪えていた。 笑いたいのを懸命に堪えていた、が、 「…………ぷ」 あえなくとがめの笑いを堪えるために出来ていた防波堤は決壊した。 それも見てからたったの十秒持たずに。 その時のとがめの笑い声は、 島の向こう岸に届いたとか届かなかったとか。 その後、 「そう言えば七実」 存分に笑い終えたとがめがふと思い出したように言った。 「なんでしょうか?」 「七実の眼でこの首輪はどう見える?」 わりと重要事項。全員に付いているこの謎の首輪の情報を聞いてみた。 ちなみに否定姫は少し離れた所で座り込んでいる。 否定しようがないほど笑われたのがショックだった様子であるが、 二人は何事もない様子で話を続けている。まさに鬼。 「………………」 「………………」 「………………」 沈黙、ただの沈黙が流れる。 七実の顔に何の色も見えないが、 それの意味を理解したとがめは黙るしかなかった。 まさか、天才七実の眼でもわからない事があるのか!? ただ単に驚く。 四季崎記紀の完成形変態刀の特性すら見抜いたその眼でも見通せない、 水倉神檎が作ったと思われる首輪に驚いた。 しかしあくまで驚いただけである。 「どう言った性質の物かはわからんか?」 諦め知らずの奇策士とがめである。 それに対して、 「わたしの眼だけでは情報が足りません」 とキッパリと言い切った。 「せめて首輪の中身が見れれば良いのですが…………」 「………………」 「………………」 「………………」 またも沈黙が流れる。 七実の眼を持ってしても首輪に対する打開策はなし、 「やはり、この殺し合いに乗るしかない。優勝するしか…………」 助かる方法はない、か。と、とがめが言い掛けた時、 「否定する」 少し離れた所に居たメイドの格好の否定姫が言った。 「否定するわ。気に入らない女」 ハッキリときっぱりと、気持ちが良いほどしっかりと否定した。 「あなたはさっき七実さんが話した話の内容を覚えていないのかしら?」 ゆっくりと近付きながらとがめを見下ろす様に歩いて来る。 ちなみに伊達メガネとメイド服を着たままである。 「さっき七実さんは言っていたわ。 本土の方の屋敷で若草色の和装の女を殺して来た、と。」 そう、しっかりと一人殺して来たと言った。 それも頭がなくなるぐらいにまで踏み潰して来たと言っていた。 「はい、ちゃんと摘んで来ましたよ?この通り支給品も全て持って来ましたし?」 それがどうしたと言わんばかりの言い方、 人を殺した事への後悔の様子はないが今は関係ない。 「その和装の女の首輪はどうしたの?」 「………………あ」 「………………あら」 二人とも忘れていたようである。 しかし否定姫からしたら、 「そんな事も忘れてたの?そんなんでよく奇策士なんて務まるわね?」 と言いたい放題言える上、先ほど笑われた恨みを晴らす機会である。 普段なら絶対に逃す訳がないのだが………… 「…………まあいいわ。 七実さんの眼があれば、その女の首輪を見れば何かわかるかも知れないから、 とりあえず、まずは本土の屋敷に向かう。それで構いませんか?」 ここまで正論を言われてはいくら奇策士と言えど反論出来なかった。 「わかりました。それでは——行きましょうか」 七実が立ち一声掛け全員が、と言っても七実の他は二人だけだが、 更に言えば座っているのはとがめだけだが立ち上がり、 幕府にありと言われた二人の鬼女と、天災級の天才は動き出した。 目的地は、H-4にある赤神イリアの屋敷。 目的物は、七実が殺した名前も知らない女の首輪。 目的は、自分達の首輪を外す。 今の所はそれだけである。 これから七実の肩に乗せて貰って海を移動しようとした時、 「そう言えば、知らない誰かに会った時はどうする?」 唐突にとがめが言ったのを、 「わたしが見て、役に立ちそうになかったらむしりましょうか?」 あっさりと答え、 「否定する——最初は殺さないで置きましょう。 役にたたなそうな人でも、情報を引き出してから殺す方がよっぽど合理的よ?」 否定した。 「それもいいですね。…………いえ、悪いのかしら?」 今の所、役に立たない人間は殺す方針に決定したようだ。 あらゆる事柄を見通す天才に、奇策と否定の二人の鬼女。 今回は刀集めではない上、手加減の欠片もないだろう三人組。 彼女達が通った後に残れる者は居るのか? 容赦なく奇策に貶められるか、 ありとあらゆる事を否定され死ぬか、 草のように摘まれて終わるか、 はたまた生き残れるか、 ある意味でもっとも凶悪な三人組が行く。 【1日目 黎明 不承島 H−2】 【鑢七実@刀語シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)、キスショットの心臓 闇口憑依の支給品(確認済み) [思考] 基本 二人を守りつつ吸血鬼のパーツを探す。 1 七花とあってみたい 。 2 完璧な『再生力』を見取るために吸血鬼のパーツを集める。 3 『再生力』を見取り自分の本気を出してみたい。 4 とりあえずこの二人と行動を共にする。 【奇策士とがめ@刀語シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3) [思考] 基本 今の所はこの二人と行動を共にする。 1 鑢七花を探し、見付けたら護衛させる。 2 基本的に鑢七実に頼る。 3 とりあえず首輪を手に入れる。 4 奇策を練る。 【否定姫@刀語シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2) 防弾エプロンドレスと黒縁メガネ(装備中)@戯言シリーズ [思考] 基本 今の所はこの二人と行動を共にする。 1 鑢七花と左右田右衛門左衛門を探し、見付けたら護衛させる。 2 基本的に鑢七実に頼る。 3 とりあえず首輪を手に入れる。 4 優勝したら願いが叶えるって、水倉神檎は何を考えているのかしら? *これから赤神イリアの屋敷に向かいます *不承島G-2にある鑢七花の住んでいた小屋には誰も入っていません 016← 017 →018 ← 追跡表 → 012 鑢七実 ― ― 奇策士とがめ ― ― 否定姫 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/70.html
【名前】病院坂黒猫 【出展】世界シリーズ 【種族】人間 【性別】女 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/24.html
地図 http //u1.getuploader.com/nisioBR/download/2/nisiorowa_MAP.jpg
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/26.html
死亡者リスト 第一回放送までの死亡者
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/54.html
【名前】西東天 【出展】戯言シリーズ 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/64.html
【名前】闇口濡衣 【出展】戯言シリーズ 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/78.html
【名前】ツナギ 【出展】新本格魔法少女りすか 【種族】 【性別】女 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/85.html
【名前】鑢七花 【出展】刀語 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/103.html
【名前】想影真心 【出展】戯言シリーズ 【種族】人間 【性別】? 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】