約 5,369 件
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/73.html
【名前】串中弔士 【出展】世界シリーズ 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/108.html
≪自殺志願≫の捜索 ◆ ◆ 敗北から学び廃屋を教え、 快楽から習い骸骨を数え、 抵抗から修め貞操を救え。 振り向いて、立ち止まり、 踵を返して、立ち行かん。 始まりを終わりまで続け。 零の横に零を掛けて三つ、 零の底に零を並べて二つ。 逢わせて一つ、 這わせて零へ。 優しい僕から、 賢しい貴女に、 疚しい試験と、 寂しい試練を。 ◆ ◆ 「はぁ…………」 零崎双識は地図を見ながら溜息を一つ付いた。 現在地はE-6の分かれ道の片方から移動して少し。 とりあえず気配の方向を地図で確かめてみると、 D-6の骨董アパート、 D-5の清涼院護剣寺、 C-6の不要湖、 C-4の百刑場、 A-6の三途神社 この五つの建物関連のある方向に一つ、 D-6の骨董アパート、 D-7の浪白公園、 C-6の不要湖、 斜道卿壱朗研究施設、 真・真庭の里 この五つの建物関連がある方向に一つ、 とりあえずこの二人は地図上で当て嵌まる建物が、 D-6の骨董アパート、 C-6の不要湖、 中心部分を目指す上では恐らくこの近くを通るだろうし、 二つあるから上手く行けば合流出来るだろう。 次にもう二つの気配、 ランドセルランド…………には恐らく居ないだろう、 気配がそれにしては遠い、と考えると、 澄百合学園、 ピアノバー・クラッシュクラシック、 学習塾跡の廃墟方向に別々ではあるが二つ。 この時点でどれかに誰かが居る確立は三分の二と結構高い。 乗っても問題は無い程度に当たり易い賭けである。 更にピアノバー・クラッシュクラシックの事を考え、 とある一人の零崎。 零崎曲識の事も考えていた。 「とりあえず予想が正しければ」 そう言いながら、 指で地図のピアノバー・クラッシュクラシックの名をなぞり、 「トキが…………居るはずかな?」 道路のど真ん中を歩きながらで無用心な事この上ない。 しかし、その事をまるで考えず地図を見つつ考え始める。 《逃げの曲識》、 《少女趣味》、 禁欲者で菜食主義、 零崎三天王の一人で、 限定した殺人しかしない零崎曲識。 戦わずに逃げるしかしなさそうでなんとも言えないが、 「とりあえず地道に一人一人集めるしかないかな?」 それじゃあ目的地はピアノバー・クラッシュクラシック、 と言う事にして行動を始めようかな? でも、 「うふふ…………やっぱり子荻ちゃんに会いに行こうかな?」 澄百合学園に行く方向も検討し出す。 家族の事はいいのか零崎双識? 「こんな事態だから流石にスパッツははいてないだろうし」 ここに誰か人が一人でも居たら、 まず間違いなく零崎双識は変態だと所構わず言い触らすだろうが、 幸いと言うべきか残念と言うべきかこの近くには人は居ない。 残念………… それはそれで、 澄百合学園に家族の一人が居るのだが、 家族の事は全く考えていないのに澄百合学園を目指そうか検討している。 家族愛ゆえか?偶然の副産物か? それとも、 スカートへの執着心が妙な方向で力を持ったのか? 一応賭けでも二分の一と普通ぐらいの倍率はあるにはあるが………… そう言う訳で今歩いているのは南の方向。 そして、 ブツブツやら「うふふ」と笑いながら歩いて早くも橋まであと僅か。 しかし、端から見ると完全に危ない人物である。 「ん?――え」 一人で家族の事やスカートの事を考えていて警戒を怠っていた、訳ではなく、 十分警戒はしていたのでこの辺りに人が居ないのは分かっている。 橋のど真ん中に置かれている物体が目に入った。 そのため、一瞬だけ思考が停まった。 それだけであるが、その置いてある物が怪しすぎる。 バイク。オートバイ。 名称、モンキー。英語表記、MONKEY。 目立った特徴、小さい。 「……………………」 それが今まさに目の前にある状況。 橋のど真ん中に小さいとは言えバイクが置かれている状況。 怪しい、怪しい、妖しい。 「いや、妖しいは違うか」 首をブンブン振りながら独り言。 妖しいでは なまめかしい の方の意味になってしまうが、 とりあえず、圧倒的に、決定的に、怪しい。 橋と言う周りから見られ易い場所の、 しかもそのど真ん中にバイクが置かれている状況。 普通なら危険と思い遠回りするなり、橋を駆け抜けるなりするが、 あっさりと歩きながらバイクに近付く。 周りに人が居ない事を知っているから――ではなく、 周りから少なくともこちらに向けた殺意を感じなかったから、 である。 零崎一賊は殺意に敏感なのである。 まあ、それは置いて置いて。 「ふんふんふん――――鍵は勿論……フルフェイス型のヘルメットに………… ガソリンは満タン、と――おや?運転の説明書まであるぞ?」 見れば見るほど完全にバイク。 それも誰でも移動を簡単に行える様に説明書まである。 これは―――― 「どうやっても一人しか乗れないであろう大きさ、満タンのガソリン、誰でも扱えるように説明書、 これから考えられる事は…………殺し合い促進の為の移動手段か?」 小さい分、個人向けではあるが、 これを使って誰か轢くなり、誰か捜索するなり、罠として使うなり、 用途はかなり豊富。 敵さんもどうやら本気みたいだな。 この状況を、 零崎で唯一確固たる意思の元で殺しを行う≪少女趣味≫ならば、 「良くない」と表すかも知れないし、 自分が死ぬ事になったあの早蕨の太刀使いの長男ならば、 「最悪だ」と言うかも知れないし、 零崎の秘中の秘でもあるあの不出来の弟ならば、 「傑作だ」と笑いながら言うだろう。 だったら―――― 「少しばかり、一賊の人間集めを急いだ方がいいかな?」 こんな調子で色々な所に殺し合いを促進する道具が置かれていては、 いくら一賊の人間でも殺されかねない。 特に、まだ慣れていない上に両手が無いだろう…… 「――伊織ちゃん」 居るかも知れない可愛い可愛い妹のためにも、 このバイク利用させて貰おう、水倉神檎。 一賊の敵、試験はまだまだ出来そうにないが、 首を洗って待っていて貰おうか? 「それじゃあ、捜索開始。試験はまだ時間が掛かりそうだ」 バイクに跨って、 速度を上げて、 目指す場所は、 澄百合学園。 まだ見ぬ敵と、 まだ見つからぬ一賊。 この二つを目指して零崎双識は進む。 しかし、 「小さいなぁ、これ…………」 ゆらゆらと少し危なっかしげに揺れているバイクと細い身体。 体躯と合わず小さいバイクなので若干苦戦気味の様子。 これは初っ端から不安。 大丈夫なのか零崎双識? 【1日目 深夜 F-6から移動中】 【零崎双識@人間シリーズ】 [状態] 健康 [装備] フルフェイスヘルメット@現実 モンキーバイク(ガソリン満タン)@現実 [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本 家族と行動を共にする 1 家族の気配に向かって移動 2 自分からは仕掛けないが、無論一賊に仇なす者は皆殺し 3 水倉神檎を「一賊に仇なした者」として認識 4 家族集めを急ぐ ※とりあえず澄百合学園を目指しています。 019← 020 →021 ← 追跡表 → 009 零崎双識 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/126.html
末路(順)《前編》 現在の羽川翼は羽川翼であって羽川翼でない。 その所以はもちろん、時宮時刻の施した想操術である。 殺意の増幅、戦闘意欲の増大、思考の短絡化、肉体的リミッターの解除。「殺し名」に匹敵せんばかりの度し難さを、今の羽川は会得している。 いや、むしろ失ったというべきか。 現在、羽川翼の持つ武器はふたつ。全身武器にして変幻自在のからくり人形、日和号こと微刀『釵』。絶対の切れ味を誇る日本刀、斬刀『鈍』。 どちらも持ち主の腕前と使いようによっては一個兵器にも相当する武器である反面、普通の人間が気軽に扱えるほど行儀の良い代物でもない。 そんな武器を羽川がふたつ同時に使いこなせているのも、ひとえに『時宮』の成せる業、と言える。 ただし、そんな羽川を時宮の単なる傀儡として見るのが正しいかといえば、そう断言はできない。 西東天は、羽川の特殊性が一般人の尺度からしか認められないものだと指摘した。 時宮時刻は、羽川に想操術を施しはしたものの、直接の支配下に置こうとはしなかった。 どちらにしてもそれは、羽川の能力が戦闘においてそれほど特出したものではないと見限った上でのものであったのだが――しかし。 鑢七実、とがめ、否定姫、そして羽川翼。 ゲーム開始から現在時点まで、およそ六時間弱。その間に時宮時刻と関わってきた者のうち、羽川翼だけが唯一、想操術による支配下に完全に陥りきっていない――という事実を踏まえた上でなお(時宮時刻はそれを自らにかけられた制限のせいであると解釈していたが)、彼らの指摘、選択が妥当なものであったと言えるかどうかは、疑問を挟む余地があると言わざるを得ない。 羽川翼。 彼女もまた、怪異という名の異常に関わりをもった人間のひとりであり、十分に異常と呼べるだけの資格を持つ人間だったということ。そしてそんな彼女に、『呪い名』という厄介な属性をもつ人間のひとり、時宮時刻が先に関わってしまったということ。 それを見逃してしまったことは、西東天にとって取り返しのつかない失点となる。 ◆ ◆ ◆ それは時間にしてものの数秒程度の出来事だったにも関わらず、奇野にはその一連の流れが、数十秒から数分にも渡るゆったりとした映像のように見えていた。死の間際、時間の流れがゆっくりに感じるという一種陳腐ともいえるシチュエーションを、奇野は現在進行形で体感していた。 エレベーターの天井をぶち抜いた日和号がボックス内部へ一直線に落下してくる間、奇野が背を預けているエレベーターの扉が静かなモーター音とともに開き始めていた。ひどく緩慢に、永遠に開ききらないのではないのかというくらいの速度で。 着地の音とともに奇野の正面にそびえ立った日和号が、四本の腕を同時に構える。握られているのは、当然のように刀。四本が四本とも妖しげな光を放つ鋭い刀身とは対照的に、奇野を見据えるその眼は最初から何も映していないかのように冷徹。 背中に感じている扉の開きが、片手が通るくらいの間隔にまで広がる。片手だけしか通らないということはつまり全身は通らないわけで、全身が通らないということはつまり逃げ道にはなり得ないということで、今の状況は言うなれば日和号が刀を振り下ろすのと扉の隙間が奇野の通れるくらいの隙間にまで広がるのとどちらが先かで逃れられるか否かが決定されるという場面であるわけなのだが、これはどう考えても刀のほうが間違いなく先に来るだろうと、奇野の感覚ではたっぷり十秒もの時間をかけて冷静な分析がなされる。実際には、それはコンマ一秒にも満たない極小の時間の中での思考であったのだが。 ぐぉんと、空気を歪ませる音とともに、四本の刀が一斉に奇野へと斬りかかる。 避ける余地などあるはずもない。速度的にも、空間的にも。 刀の閃きのひとつひとつまではっきりと視界に収めたその瞬間、頭頂部に異様な風圧を感じる。ぎゅうん、と頭上で何かが高速で通り抜けてゆく感覚。同時に、平衡感覚を失いかねないくらいの勢いで耳をつんざく、強烈な破裂音。 何かと思う間もなく、日和号の身体が突如として床から浮き上がり、背後の壁へと向けて大仰に吹き飛ぶ。エレベーター全体がひしゃげるのではないかというくらいの衝撃とともに、背中から壁に叩き付けられる機械仕掛けの肢体。それでも律義に振るわれた刀は、まとめて虚しく空を斬った。奇野はもちろん何もしていない。スローで再生される目の前の光景を、ただ呆然と観賞しているだけである。 そこで奇野は自分の頭上、両腕が通るくらいにまで開いた扉の隙間から、黒光りする細長い物体が差し込まれていることに気付く。それがライフルの銃身だと理解するまでに、奇野は体感時間でまた十数秒を必要とした。 立て続けに二発、三発と放たれる銃弾。その銃声に合わせて、弾かれたように跳ね上がる日和号の身体。いや、実際にこれ以上ないくらいに弾かれてはいるのだけれど。エレベーター全体も同様にがくんがくんと振動し、故障しやしないかと無駄な心配を煽るが、すでに天井に大穴が空いている状態なので、あれに比べれば大したことはないだろうとこれまた無駄な結論をつける。 頭部と胴体に、合計で四発の弾丸がぶち込まれたところで、等間隔で放たれ続けていた銃声がぴたりと止む。さらに扉が完全に開ききり、背もたれを失った奇野はエレベーターの外へと仰向けに転がって、後頭部を床に激突させる。痛みは感じなかったが、代わりに映像のスロー化が解除され、通常の時間感覚を取り戻す。 仰向けに寝転がった姿勢のまま、奇野はそこにいる人物を視界に映す。 両手で抱えるようにしてライフルを構えたその人物は、日和号に合わせた照準をそのままに薬莢をリジェクトする。空薬莢が奇野の頭のすぐ脇に落ち、冷えた音が鼓膜を叩いた。 標的が再び動き出さないことを確信したのか、その人物はようやく構えを解き、ライフルを下ろす。足首まで届く長い黒髪をふわりと揺らし、奇野のほうに視線を移す。 「大丈夫ですか、生きてますか、奇野さん」 奇野を真上から見下ろしながら、萩原子荻はそう言った。 投げかけられたのはたったそれだけの問いだったが、今の状態では逆に「俺生きてるのか?」などと問い返しかねないような気がしたので、とりあえず沈黙することを選ぶ。 しかし子荻は、そんな奇野の様子から何を感じ取ったのか「どうやら、大丈夫のようですね」と軽く微笑みながら言った。 そうか大丈夫なのかと、それを聞いてこの上なく他人事のような感想を抱く。 いつまでも起き上がらない奇野に差し出されたのは、なぜか手ではなくライフルの銃身だった。 奇野は何も言わなかった。 「いやあ、間一髪でしたねえ」 日和号をエレベーター内に残し、場所を移動する。依然として閉じ込められている状態なので建物の外に出ることはできないが、移動した先はある意味、外とも言える場所だった。 屋上である。 ふたつ隣の建物にいたはずの子荻がなぜここまで移動してこれたのかという奇野の疑問に対し、子荻は事なげに「屋上から飛び移ってきました。建物どうしが近接しているので、わりと簡単に移動してこれるんですよ。気付かなかったんですか?」と言った。 気付かなかった。というか、屋上があるという可能性すら失念していた。 そう言われてみると、あたかも間を飛んで移動するための配置であるかのように、すべての建物が数珠繋ぎに連なっているように見える。子荻は外から見た時点で、その可能性に思い至っていたらしい。 だったら教えろよ。 「ううん……何か面白いものでもあれば見っけもの、とは言いましたけど、予想以上に面白いものが引っ掛かっちゃいましたね……まさかあれほど危険な存在が潜伏していたなんて」 「や、無表情でライフルぶっ放しまくる人も大概に危険だけどな……」 相手が人間でなかったとはいえ、あの躊躇の無さはそれなりに恐ろしいものがある。 自称一般人はどこへ行った。 「とりあえず、助かった。ありがとな」 特にひねりもなく直球で礼をいう奇野に対し、子荻は「礼には及びません」とほとんど事務的に返し、 「それより、いったい何があったのか聞かせてください。なるべく詳しく」と訊いてくる。 「あー……えっと、」 詳しくと言われても、自分自身よく理解できていない。 奇野はタイル敷きの屋上に腰を落ち着け、記憶を整理しながら説明モードに入る。 四階の廊下であのからくり人形めいた物体を目撃してからエレベーターでの急襲に至るまで、結局は見たままのことをそのまま話す。パソコンに表示されていた意味不明の文章と、出入口となる扉がロックされていたことも含めて。 奇野が話す間、子荻は口を挟むことなく聞いていた。考えをまとめるためか、時折目を軽く伏せるような仕草を見せる。「大体、そんな感じだったんだが」と奇野が締めると、伏せていた目を上げ、与えられた台詞をそのままなぞるような調子で、 「なるほど」 と、言った。 「遠隔操作のからくり人形……レーダーでは探知できない敵、というわけですね、ふむ」 顔のない敵ですね、と子荻は言った。 「まあ、そっちの驚異は一応、排除できたけどな。ただ、出入口のほうはロック状態のままだろうから、いま問題なのはむしろそっちの方だぜ」 扉は閉ざされたままだ、と奇野は言った。 「どうせ外から見た時点で気付いてるんだろうけどよ、この建物、非常口どころか窓すらないしな。建築法とかどうなってんだよ。唯一の出入口押さえられちまったから、もう完全に内密室状態だ。ピッキングでどうこうできる扉でもねえし」 「電子のピッキングという言葉もありますけど」 「できんのかよ」 「できないですけど」 じゃあ言うな。 「奇野さんはどうすべきだと思いますか? この密室状態に対して、何か考えはありますか?」 「え?」急に問われて、奇野は返答に窮した。自分が意見を求められる側になるとは思っていなかったからだ。 「あー、そうだな……」言い淀みながら奇野は、こいつが目の前にいると自分は何も考えなくていいような気分になるな、と何となしに思っていた。 今の状況で、それは軽く流していい感想ではなかったのに。 「――そうだ、外出られないのならいっそ、この中でしばらく籠城作戦とるってのはどうだ?」 明らかに今思いついたといった感じの意見に、子荻はまた「なるほど」と相槌を打つ。 「あの人形ぶっ壊したから、中にいてもしばらくは安全だろうし。窓も非常口もなくて扉もロックされてるってことは、逆に考えりゃ外からも侵入されにくいってことだしな。周りには城壁っぽい壁もあるし。おお、考えれば考えるほど籠城にうってつけじゃねえ? ここ。何かもう出たくなくなってきたなむしろ」 「なるほど」 「まあそりゃ、いつまでも籠ってるわけにはいかないだろうけどさ。――あ、そうだ、待ち伏せりゃいいんだよここで、あの戦闘メイドロボ放った奴を。多分そいつは、俺らが全員あの人形に殺られてるのを期待してるだろうから、殺られたふりをして中に潜んでおく。そしてそいつがやって来たら――遅かれ早かれ人形を回収するために戻ってくるだろうからな――その時には入口のロックも解除せざるを得ないだろうから、そこを待ち伏せてふん捕まえればいい。そうすりゃ外にも出られる」 「なるほど」 「この屋上で見張ってれば、誰か来たらすぐわかるしな。へへ、自慢じゃねえが、一方的な待ち伏せなら得意分野だ。ようやく敵に対してイニシアティブが取れるぜ。また生け獲りにするか? それとも今度こそ――っておい、何食ってんだ」 いつのまにか子荻は、何やら四角い緑色の塊を片手に持ち、もぐもぐと頬張っていた。 「ういろうみたいですけど」 「……ういろう?」名古屋銘菓の? 「デイパックの中に食料とは別に入っていたんです。五色セットで。食べますか?」 「や、いらね……」 この状況でよく落ち着いて食えるな……この娘。 緊張感の欠片もなしかい。 てか、何故にういろう? 「頭を使うには糖分が必要ですからね――あ、どうぞお気になさらず、続けてください」 「……えっと、」何話してたんだっけ。「――ああ、だからやっぱり、しばらくはここに立て籠るのが得策だと思うんだよ。得策ってか、そうせざるを得ないんだろうけど」 さっきの襲撃ではっきりした。こちらとしては警戒に警戒を重ねた上で行動していたつもりだったのにも関わらず、裏をかかれるどころか、文字通り一段階上からの奇襲をくらう形になってしまった。 一筋縄ではいかないにもほどがある。 「ここに来る途中であんたが話してた理屈もまあ、わからなくはないんだけどな――」 機動力と情報力を駆使し、フィールドの状況を可能な限り把握しておく。地形効果を活かした策を常備しておきたい子荻にとって、それは確かに必要な下準備だと言えよう。今のところ、ほとんどのエリアが地図の上でしか確認できていないのだから。 しかし最初からわかっていたことではあるが、それは必然的に、相応のリスクを伴わざるを得ない策でもある。 子荻の持つ簡易レーダーは、情報力という点ではかなり有効な武器だと言える。だがそれをもってしても、危険を完全に察知することはできない。 下手に動き回るのが危険なのは当然のことだが―― 上手に立ち回ったところで、危険なものは危険なのだ。 未知のフィールドを駆け回ることによって得られるリスクとリターン。それを天秤にかけた場合、どちらのほうがより高いウェイトを示すのかは実践してみるまでは知る由もないが、少なくともここから動かないことによって得ることのできるリターンははっきりしている。あわよくばまた一人、敵を仕留めることができ、新たなアドバンテージを獲得することもできる。 ならばこの条件でわざわざ外に出ようとする必要性はないというのが、奇野の考えだった。 それは奇野らしいといえばらしい、逃げの思考であったのかもしれない。だがそれを踏まえた上でも、理屈が通っていないわけでもないし、間違った策というわけではないはず。 そう思っていた。 「残念ですが、」 しかし子荻が返したのは、曖昧な相槌でも肯定の返事でもなく―― 「少なくとも現時点では、その案を採用するわけにはいきません」 にべもない、否定の言葉だった。 「現時点では……? なんだそりゃ、ひとところに留まるには早すぎるとか、またそういう話か?」 「いえ、そうではありません。奇野さんの案ではつまり――」どうやら今度は、子荻が説明モードに入る番らしい。「この建物を、私たち以外の何者かがすでに一度は侵入し、建物ごと密室に仕立てあげるほどの細工が施された、この研究施設を根城にしてその何者かを待ち伏せる――ということになります。敵がここに仕掛けたのが、あの得体の知れない人形だけだと今の時点で断言できますか? 他に何らかの罠が残されている可能性がないと、はっきり言うことができるでしょうか? そんな場所を根城にするというのは、ひとつのリスクと言えるのではないですか?」 「……いや、そりゃそうだろうが――」 「考えが穿ちすぎている、と言いたげな顔ですね」 奇野の反論を、子荻は先回りして制する。 「まあ実際、穿ちすぎな考えなんですけどね。穿ちすぎな上に偏りすぎ。今のは単に、こういう考え方もあるという例のひとつとして言っただけです。……ああ、ごめんなさい、別に意図的にもって回った言い方をしているわけではないのですけれど。ちょっとある人の影響で――いえそれはいいとして」こほんと、軽く咳払い。「結論だけはっきり言ってしまうなら、この場所にはまだ、私たちにとって危険となる存在が残されています。それを排除するまでは、悠々と腰を落ち着けて待ちの姿勢、というわけにはいきません」 「あの人形以外に――か?」 いまいちピンと来ていない奇野の様子に、子荻がわずかに目を細める。上から見下されていると錯覚してしまうような、ある意味威圧的ともとれる視線。口のほうでは相変わらずういろうをもぐもぐしていたが。 「常識で考えてください、奇野さん。いくら電子回路で制御された扉だからといって、それを遠方から操作してロックする意味がありますか? いくら遠隔操作が可能な人形だからといって、必要以上に離れた場所から操作する必要がありますか?」 「……?」 何を言わんとしているのかよく理解できなかった。 考える必要はないと言わんばかりに、子荻は即座に解答を口にする。 「あの人形の『操縦者』は、この建物の内部にいます」 「…………は?」 「私たちを襲撃する機会を、今なお窺い続けていることでしょうね。あの人形を破壊して、危険は去ったと油断している、私たちを」 「…………」 入る時には開いていたはずの扉が、いつの間にか閉ざされていた。 なぜか。その扉の近くにいた誰かが、扉を閉じたから。 うまく回避したはずのからくり人形が、退路を絶つように先回りして襲撃してきた。 なぜか。人形を操作する人間がすぐ近くにいて、先回りするよう操作したから。 至極、あたりまえの考えだ。 複雑に考えずとも、簡単に出せる結論。 実際、奇野も一度はそう思ったはずだ。扉のロック機能が作動していたことや、からくり人形の早すぎる対応に対して、「あり得ない」と感想を述べたはずだった。 ならばなぜ、『操縦者』がこの付近にはいないと思ったのだったか? なぜ、すべての仕掛けが遠隔操作によるものだったと結論付けたのだったか? 「それは……あんたが――」 子荻が、ここには誰もいないと言ったから。 参加者の位置を探ることのできる簡易レーダーを持つ萩原子荻が、このエリアには自分達以外に誰もいないと、そう言ったから。 常識で考えろ、と言ってはいたが――、 その常識的な考えを否定したのは、他ならぬ子荻自身のもたらした情報ではないか。 「あれは嘘です」 子荻は普通に言った。 「…………おい」 「騙していたことについては謝ります。だけど奇野さん、私は別に裏切りを図ったつもりはありませんし、最低限、危険な目には会わせないよう努めたつもりではありますので、そこはどうかご理解を」 ご理解をって、つもりばっかりじゃねーか。 しかしその言葉を聞くに至って、奇野はようやく子荻の意図を理解した。 奇野が日和号に襲撃された時、別の建物にいたはずの子荻が都合良くエレベーターの前に現れ、その窮地を救った。 なぜか。 子荻が最初から、奇野の動向を監視していたから――ではないだろうか。 正確に言うなら、奇野を狙ってくるであろう、この建物内部に潜んでいた何者かを、だ。 屋上を利用して建物間を移動できることに気付いていた子荻は、奇野たちより一足先に建物の中に入った後、おそらくはすぐに屋上へと向かい、奇野のいるこの第三研究棟へと移動してきたのだろう。 誰がどの建物を担当するのか、指示したのは子荻だった。「先客」がどの建物に潜んでいるのかは、レーダーで把握していたはずだ。 「先客」が屋上ルートに気付いていたかどうかは定かではないが、他の人間が来た際にまず注意を向けるとすれば、正規の入口から入ってきたほうの相手、つまりは奇野のほうであることは容易に想像がつく。相手の側としては、奇野たちがバラバラに建物の中に入ってきたのをいいことに、一人ずつ順番に各個撃破する作戦だったのだろう。 その作戦を、子荻は逆手にとるつもりだった。 奇野を仕留めようとしたところを、その隙をついて逆に討ち取ろうというのが、子荻の策戦だったはずだ。 要するに、奇野を囮として使用したのだ。 敵を欺くにはまず味方から。その格言を地で行くような策戦。 しかしそこにはひとつの誤算があった。言うまでもなく、日和号の存在である。 まさか戦闘仕様のからくり人形などというとんでもない代物を持ち出してこようとは、いくら何でも計算外だったのだろう。レーダーで探知することのできない日和号の存在は、結果としてこちら側を後手に回らせた。子荻のほうが先に日和号の標的とならなかったのは僥倖と言えるのかもしれないが、あと一歩遅かったら、あの場で本当に斬殺されてしまうところだった。 しかし――と、奇野は思う。 この場合、日和号の存在を差し引いた上でも、囮というのは本当に有効な策と言えるのだろうか? 仮に有効だったとしても、奇野たちに作戦内容を説明しなかったメリットというのは、果たしてあったのだろうか。 敵が潜んでいるとはいっても、こちらは三人も数がそろっている上に、相手がどこにいるのかも最初から知れているのだ。事前に三人で打ち合わせた上で決行していれば、もっとスムーズに操縦者本人をあぶり出せたように思える。いっそ真正面から堂々と攻め入っていたところで、こちらの武力を考えれば勝てていたかもしれない。 物量に物をいわせるのも策略の内だ。 なのにこの少女は、全員に単独行動をとらせる方向を選んだ。 なぜか。 ……ひょっとして子荻は、奇野が窮地に陥ることまでも予想済みだったのだろうか? もとより囮役に、危険と犠牲はつきものだ。もしかすると、相手の力量を確認するまでは「戦う」という選択肢すら、彼女の中では未定だったのかもしれない。奇野には及びもつかないような最悪の可能性まで想定した上で、自分達を当て馬として送り込んだのではないだろうか。 施設の入口で、罠が仕掛けられていないかどうか確認するために、奇野を先に行かせたように。 「……あんたは、」 言いかけた奇野の口に、ひょいと、ういろうの欠片が放り込まれる。ねっとりとした練菓子独特の風味が口腔内を支配する。 「『絶対に、私を疑うことをやめないでください』」 優しく、囁くような声色。 「私はそう言ったはずですよ、奇野さん」 「…………」 本当のことを言わなかっただけ。子荻はそう言っていた。 自分の目でレーダーを確認しようとしなかったのは、奇野自身の選択。 何の異常も知らされなかったことを、何の異常もないことだと思っていたのもまた奇野自身。 それが迂濶なのかと問われれば、正直わからないと答えるしかないが―― 疑っていなかったのかといえば、疑っていなかったのだろう。 おもむろに、子荻はライフルとデイパックをを掴んで立ち上がり、そしてなぜか不敵に微笑む。 「先手は向こうに取られてしまった感じですけど、カウンターを決めたこちらの方が状況的には有利。そして向こうには、二度と先手は取らせません。ここからはずっと私たちのターン。今度こそは本人自らに攻めてきてもらいます」 その声に揺るぎはなく、むしろ活き活きとしている。 「次が本番で、そして決着です。正々堂々手段を選ばず、真っ向から不意打ってご覧にいれましょう」 「次が本番――ね」 奇野もまた、同調するようににやりと笑う。 「この状況でもまだ『策』があるっていうわけだ――いいぜ、乗ってやんよ。ただ今度はちゃんと、俺にも内容を聞かせてからにしてくれよ。心臓に悪いのはもう勘弁だ」 「ええ、それはもちろん」 そして子荻は、笑顔のままに言った。 「囮作戦を続行します」 「…………」 ええー。 032← 033 →033
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/22.html
【ルール】 外界から隔離された空間で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。 参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。 六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。 【参加作品について】 参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」 「新本格魔法少女りすか」「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」の七作品です。 【参加者について】 参加者は全部で45名です。各作品の主人公とヒロイン、オープニングに登場したキャラクターは参加確定。 現在参加が確定しているのは「戯言遣い」「玖渚友」「零崎人識」「病院坂黒猫」「水倉りすか」「供犠創貴」 「阿良々木暦」「戦場ヶ原ひたぎ」「鑢七花」「とがめ」「真庭狂犬」「真庭鳳凰」「真庭人鳥」の13名。 残りの32名は自由枠として、SSに登場した順に参加が確定していきます。 【支給品について】 参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。 ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。 名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。 【時間表記について】 このロワでの時間表記は、以下のようになっています。 0-2 深夜 2-4 黎明 4-6 早朝 6-8 朝 8-10 午前 10-12 昼 12-14 真昼 14-16 午後 16-18 夕方 18-20 夜 20-22 夜中 22-24 真夜中
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/121.html
不殺の刀と不生の刀《後編》 同時刻、七花が右衛門左衛門に対してした評価通りのことをやってのけていた。 「これでようやく一人か、全く幸先の悪い始まりかただ」 と、駆ける速度を緩めることなくさっきの戦いで受けた斬り傷をなでる。 もうすでに止血はすんでいるが、胸から腹にかけて袈裟懸けにばっさり切られている。 よく致命傷にならなかったものだと、今になって思う。 あの時はそんなことを考える余裕が無かった。それほどに手強い、手強すぎる敵だった。 今でも先ほどの戦いをまじまじと思い出せるほどの熾烈な戦いだった。 白みかけた空の下、金属どうしがぶつかり合う音が響く。 二人に人間によって、片や、長刀を手にした仮面の男、片や顔面に刺青を入れ短い、だが禍々しい形状の刃を手にした少年、傍目からみれば異形きわまる二人の人間が、常軌を逸した速度で切り結んでいる。 だが、その戦いは一方的だった。一方的に仮面の男右衛門左衛門が押している。 それは当然のことだろう。 刺青の少年、人識の持つ得物と右衛門左衛門の刀では長さに違いがありすぎる。 人識が武器を振っても右衛門左衛門の体には届かない。 間合いの違いは絶対的な攻防の差を生み出す。 にも関わらず。 決定的な一撃が与えられない。 大上段から振り下ろせば、避けられ。 横薙ぎに払えば、いなされ。 袈裟懸けに払っても受けられる。 さっきからそれの繰り返しだった。どれほど激しく攻め立てても、その全てが防がれる。 このままでは拉致があかない。 そう判断した右衛門左衛門は体をねじるようにして反動をかけ、長刀でなぎ払いをかける。 長さを活かしたその斬撃は遠心力により、たとえ斬られずとも受けとめれば凄まじい衝撃が襲うはずである。 それならば、どのように防ごうとあの体躯では衝撃には耐え切れない! はずが その攻撃を 人識は刃が触れる瞬間に自分の得物の角度を変え、その斬撃を軽く受け流す。 「な…」 こうされてしまえば、付けた衝撃が逆にあだとなる。 振り切った反動を殺しきれず体勢が崩れたところに間髪入れず、人識に懐に飛び込まれる。 (まずい…!) これほどに距離を詰められれば、長刀の利点である長さも役には立たない。 どころか、この距離は人識の持つ刃物の領域だった。 「じゃあな、雑魚キャラ」 その言葉を死の宣告とするかのように、手にした刃物を構える。 振り戻しは、間に合わない。 「…なめるな!」 間に合わないならば、戻しはしない! 右衛門左衛門はあえて、反動を殺すことをやめ、逆に反動にのせて体を回転させながら回し蹴りを放つ。 「うお!」 さすがに予想外だったのか、人識は攻撃の構えを解き、腕を交差させ蹴りを受ける。 今度は勢いを殺しきれずに後ろに吹っ飛ばされ、それでも倒れることなく再び構える。 「へえ、なかなかいい動きじゃねえか、驚いたぜ」 「それはこちらも同じだ。これほどまでにやるとはな」 口ではそう言いながらも驚いた様子など微塵も見せず右衛門左衛門も体勢を戻す。 「お前ごとき相生剣法だけで、十分かと思ったが、不行、そう上手くも行かんか」 「あいおい?なんだそりゃ?」 「不知、知る必要は無い、どうせお前はここで」 死ぬのだから、と締めくくり再び動 「ちょい、タンマ」 こうとしたところで、いきなり人識の後ろで事態を静観していた玖渚が静止をかける。 出鼻をくじかれた形になりながらも、一応右衛門左衛門はそちらに顔を向ける。 「なんだ?」 「う~んとね、ちょっと聞きたいんだけど、しのばず君だっけ?」 「…この仮面に書いてあるのは、名前ではない」 「そうなんだ、じゃあ名前教えてよ」 「…左右田右衛門左衛門だ」 答えるかどうか、一瞬迷ったようだが、これぐらいなら答えても支障は無いと思ったか、それともしのばずなどと馬鹿馬鹿しい名前で呼ばれるのを嫌ったか、そう言う。 「変な名前だね~偽名?」 「いくら変でもこれが私の名前だ」 「そうなんだ?しーちゃん聞いたことある?」 「はあ?知らねえよ?なんだその全てを肯定しそうな愉快な名字?」 「だよね、僕様ちゃんも結構色んな人と会ったけど、こんな名字の人は知らないし…じゃあさ右衛門左衛門さん、逆に聞くんだけど零崎って知ってるかな?」 「零崎?知らぬな?何かしらの有名な家系か?」 「じゃあさ、玖渚機関は?」 「なんの呪いだ?一体何を言っている?」 次々と飛び出す単語に混乱したかのような右衛門左衛門は逆に聞く。 「ならば、こちらも質問させてもらおう、お前」 「あん?」 「お前の持つその刀、形状からして四季崎記紀の変体刀の一本のようだが、もしや尾張幕府の手のものか?」 その問いかけに人識は気持ち悪そうに顔をしかめる。 「おい、コイツ頭イカれてんじゃねえのか?誰だよ四季崎記紀って?尾張幕府ってどこよ?ってか変態党ってなんだその気持ち悪い集まりは、そして、これが刀に見えんのか?ナイフ以外の何物でもねえだろ? 電波系でキャラ作ってるつもりならやめてくれ、気持ち悪いから、マジで」 普通に聞いたら、精神的にかなりヘコむであろう言葉をズバズバと吐く人識だったが、右衛門左衛門はそのような言葉に反応するよりも別のことに驚く。 「お前たち…まさか、尾張幕府を…知らないのか、日本の人間ではないのか?」 信じがたい、と言う様子の右衛門左衛門とは対照的に裏も表も、戸惑いも驚きも感じさせない笑顔で玖渚はさらりと答える 「うに、僕様ちゃん達、れっきとした日本人だけど、そんな場所全く知らないよ」 どういうことだ…、右衛門左衛門は戸惑う。 尾張幕府の将軍が殺されたとはいえ、未だ権威は健在のはずだ。 日本の人間ならば、知らないはずはない。 罠か、もしかしたら自分の混乱を誘い…いや、この二人が嘘をついてるようには見えない。 一体… 「まあいい」 その思考を中断し、再び消しかけていた殺気を放つ。 「お前たちが誰で何者であろうと、そんなことはどうでもいい、ただ私にとって、いやお前たちにとっても大切なことは一つ、どう勝ち残るか…だろう?」 「は!確かにな、頭がヤバイ以外は筋が通ってるみてえじゃねえか、ああ、そうだ細かい戯言は終わりにしようぜ? もう聞きたいことはねえだろ?」 「う~ん、もうちょっとあるけど、仕方ないみたいだね」 さすがにこれ以上聞いても無駄だと悟ったか、人識の問いにそう玖渚はうなずく。 そして、それを合図とするかのように同時に再び二人は動いていた。 一度、懐に潜り込まれているからか、右衛門左衛門の動きに大振りなものがなくなり、その代わりに、元々速かった斬撃が更に加速する。最早、何度振るっているのかわからないほどに。 が、 その斬撃を人識はやすやすと捌く、四方八方、東西南北、完全無欠に防ぎきる。 連続する金属音、きらめく鈍い光、 それは完璧なまで均衡がとれていて、ともすれば無限に続くかとも思われた。 その均衡を、人識が先に破った。 無数の斬撃の一つ、なんのことは無いその一つを、受け止めた。 今まで受け流すことしかしなかった刃で、刀に比べれば脆弱にしか見えないその刃で、 そして、強引に押し戻し、弾き飛ばす。 「く…」 体躯、得物、筋力、その全てでは有り得ない行動に再び体勢を崩される。 そして、まるでさっきの繰り返しのように人識が懐に飛び込む。 だがさっきとは決定的に状況が違う、今度は右衛門左衛門の体に反動がついていない。 つまり、先ほどのように人識を押しのけられない。 さらに、人識は先ほどよりさらに速く構え、その鋭い切っ先を右衛門左衛門の心臓目掛けて突き出していた。 避けようは無い。完全に王手、決着が付く はずだった。相手が普通の人間ならば 「背弄拳」 確実に右衛門左衛門を捕らえたはずの攻撃は虚しく空を切る。 「あ?」 理解不能の事態に戸惑うのとほぼ同時に、 「人識君!後ろ!!」 と、叫ぶ玖渚の声がするとともに凄まじい殺気がほとばしり、背中に熱湯をかけられたかのような痛みが走った。 「不禁、全く驚きを禁じえないな」 と、背後から右衛門左衛門は言う。 人識の背後で、刀を振り下した格好で、 「今の攻撃、確実に命を断てるものだったのだがな、今の声に反応したか?」 そう今の一撃で確実に人識の体を両断出来ていたはずだった。 だが、寸前のところで人識は前進していた。 それにより、刀の間合いにはわずかに届かず、背中を切り裂く程度にとどまってしまった。 (やはり、二人相手ではやりずらいな) 今玖渚がよけいな声さえかけなければ、決まっていただろう。 いかに戦力とならずとも、やはり戦いを見られては鬱陶しいものだ。 (この娘を先に殺すか?) 今ちょうど、右衛門左衛門は人識と玖渚の間に割って入っている形となっている。 今なら人識の邪魔が入ることは無い、ほんの一瞬で、事足りる。 だが、懸念すべきこともまたあった。 (この男、声がした瞬間に動いていた) 確かに声に反応してはいたが、後ろと言われる前に回避行動をとっていた。 背弄拳について知っていたとは考えづらい、これはとっくの昔に滅びた忍法だし、 見せた相手はほとんど確実に殺してきた。 ならば信じがたいが、反射神経だけでかわしたということだ。 もしもそうなら、こんな相手に背を向けるなど危険すぎる。 (やはり、まずこちらからだな) 致命傷を避けたとは言え、あの傷は決して浅いものではない。 現に、肩から腰に向けての切り傷からは血があふれ出している。 これならば、次で決められる。 そんなことを考えてた矢先、 「かっはっはっは!!傑作だ!本当に傑作だぜこりゃ!」 突然人識が笑い出す。 狂気を感じさせるような笑いで、恐怖を感じさせるような笑いで、 笑う、右衛門左衛門に背を向けたままで、血を流し続けながら。 「仮面で、頭がヤバいなんてただのぶっ飛んだ奴かと思ったが、中々どうして、おもしれえな」 ようやく笑うのをやめ、それでもやはりこちらに背を向けたままそう言う。 「不判、わからんな、自分の置かれている状況がわかっているのか?もう理解していると思うが、私はお前の背後に回りこむことができる。もうお前の前に姿を現すことはない、そしてお前のその武器では背後の私を攻撃できないと思うが」 「だから!だから面白いんじゃねえか」 まるで頭の悪い人間に言い聞かせるように人識は言う。 「今まで、俺は背後を取られることなんて数えるほどもねえんだよ、それがこんなにあっさりなんて、傑作以外の何物でもねえだろ」 背を向けたまま人識はしゃべり続ける。今にも自分が殺されそうなことなどまるで気にしていないように、 「つまりだな、俺は生まれて初めて、背中にいる奴に対して攻撃されることになるわけだ、初めてってな何事も痛いって相場が決まってるもんだが、中々どうして痛いもんだぜ」 「何を、何を言っている」 「あん、だからそんなん決まってるだろ?」 その瞬間、右衛門左衛門は心臓を鷲づかみにされるかのような感触に襲われる。 (な、なんだ、この殺気は!) 仮面では隠しきれないほどの動揺が走る。 そんな様子を全く見ようともしないで、しかし見えているかのように人識は言う。 「戯言だってんだよ、ばぁか」 その言葉と同時に振り向く動きを見せる。 間髪いれず、再び右衛門左衛門は背弄拳を発動し背後に回りこむ。 たとえ、どれほどの化け物であろうとも、背後にさえ回られてしまえば、どうすることもできないはずなのだから、そうどんな人間でも背中に目は無いのだから、 そう自分に向かってくる背中を見ながら思う。 …向かってくる? 「なあ!?」 咄嗟のことに声にならない叫びを上げる右衛門左衛門に、人識は背中を向けたままぶつかる。そして、体勢を立て直す暇も与えず。体を回転させ、 「今度は外さねえぜ」 右衛門左衛門を斬り上げる。 咄嗟に、よろめいた動きを利用して、後ろに下がるが間に合わない。 まるでさっき斬りつけたのをそのまま逆にしたように、腹から胸にかけて斬られる。 「おのれ…」 なんとか致命傷をさけはしたが、浅い傷ではない、そう人識と同じように。 「おいおい、もう俺の前に出てこねえんじゃなかったのか?」 嫌味たっぷりに人識は挑発するが、右衛門左衛門にすればそれどころではなかった。 ようするに人識は右衛門左衛門の動きを予期し後ろに回りこませ、それと同時に後ろに跳躍したのだ。 言葉にすれば簡単だが、それは尋常のことではない、 それほど素早い行動をするには振り向いて後ろを確認している暇など無かったはずだ。そんなことをすれば、その隙をつけたはずなのだから。 つまるところ、本当に信じがたいが、 何も確認せずに後ろに跳んだのだろう。 (あ、ありえん!後ろを確認もせずに躊躇なく跳ぶなど!) もしも、もしも、右衛門左衛門が刀を水平に構えていれば、串刺しになっていたかもしれない。 それぐらいのこと、考えればわかりそうなものなのに、 (こいつには恐怖が…ないと、言うのか) その瞬間右衛門左衛門は確信する。 コイツは正真正銘、比喩などではなく、化け物だ、と。 「ん?」 右衛門左衛門の動きに人識は眉をひそめる。 右衛門左衛門は刀を鞘に戻し、腰へと戻してしまっていた。 「なんだ、まさか戦意でも無くしたのかよ?」 「不案、案じずともそういうことではないよ」 そう人識の言葉を否定して、ゆっくりと手を手刀に構える。 「だが、そろそろ決着をつけようと思ってな、どうやら私は勘違いをしていた。私の目的は戦うことでは無い、殺すことだ、これ以上ダラダラとやっているわけにはいかん」 「へえ、まだなんかあんのかよ」 「ああ、これが私の最後の攻撃だ、お前も、全力で来い」 「へえ、いいね、あんた中々気にいったぜ、悪かったよ雑魚とか言って、ま、その代わりにきっちり殺してやるよ」 「殺す…か」 感慨深そうにそう呟き、突然質問する。 「お前にとって、殺すとはどういうことだ?」 「あん?」 「お前にとって殺しとはどんな意味を持つか、と聞いた」 「んなもん、得に理由はねえよ、全てにおいて気分だ、人間は息を意識してしてるか?」 「なるほどな…わかりやすいよ、お前は」 そう言って、構える。 思えば、その質問は右衛門左衛門がこれから行おうとしていることに対しての、せめてもの贖罪だったのかもしれない、 だが、人識はそんなことを気にも留めずに構える。 「まあいいさ、決着ってんならな、来いよこれでお開きとしようぜ」 「ああ、では、左右田右衛門左衛門」 「零崎人識、いざ尋常に、一生懸命」 言葉とともに、二人とも申し合わせたように、足に力を込め。 「果たしてお前は何といって」 「殺して解して並べて揃えて」 片やは手刀を水平に構え、片やは得物を強く握り、 「死ぬのかな」 「晒してやんよ!!」 同時に飛び出した。 そうそれこそ、とんでもない間違いだった。 もしも人識が右衛門左衛門の素性を知っていて、忍者という物がどんなものか理解していれば、右衛門左衛門の言葉になど乗らなかっただろう。 そう人識は理解していなかった。 こちらが二人いて、向こうは一人、そして人識は右衛門左衛門を殺そうとするのに対し、右衛門左衛門は殺すのはどちらでもよかったということを全く理解していなかった。 だからこれは当然結果だった。 人識は勢いをそのままに走り抜け、そして止まりゆっくりと振り返る。 そこには血が飛び散っている。 だが、右衛門左衛門は無傷で立っている。 そう、それは右衛門左衛門の血ではない、そもそも右衛門左衛門の狙いは決着をつけることなどではなかった。 狙いはいかにして、人識に隙をつくらずに人識を通り抜けるかにあったのだ。 そしてその狙いはまんまと成功し、そこに結果が、 全身を切り刻まれ、血を撒き散らした玖渚が倒れていた。 「汚い…と思うか」 黙ってこちらを見ながら右衛門左衛門は言う。 「だが、私は誰かを殺さねばならないのでな、ならば簡単なほうを殺すのが当然…だろう?」 それでも人識は黙っている。黙って、その景色を見ている。怒りも憎しみも感じないように、 そして、唐突に口を開く、 「ふざけんなよ…」 「まあ、それが当然の反応だろうな、この女はお前の何かだったようだからな」 「はあ?ふざけてんじゃねえよ!」 突然に怒りをむき出し、怒鳴る。 「てめえ、つまり何か!?あの決着なんていったときからこれを狙ってたってことか?俺なんぞ眼中にも入れてなかったってのか!!後少しで、あと少しで何かがどうにかなっちまいそうだって思ってたのに!!」 「不解、怒っている意味がわかりづらいが、まあ、そうなるな、お前を殺すのは骨が折れそうだったのでな」 「だったら骨を折ってでも俺を殺せ!!何くだらねえことしてんだ!!」 「悪いが」 ゆっくりと右衛門左衛門はあとずさる、あくまで人識に背を向けることなく、ゆっくりと、 「一応目的は達したのでな、これ以上続ける気はない、一人殺せれば今は上々だ。一応すまなかったとわびを入れておこう。まあ、こちらも多少情けをかけたがな」 「何?」 「その女はまだ生きている、もう助かりはしないだろうがな、それでもしばらくは持つだろう」 そう言って、今度は視線を足元の玖渚に向ける。 「わかってると思うが一応言っておくぞ、私はいっくんとやらは殺していない」 「うに…わかってたよ、…これでも僕様…は嘘を見…抜くの得意なんだ」 「なるほど、ならば一応言ってやる、奴を見かけたのはE-5辺りだ、奴らの移動速度からするにまだこの辺りにいるのではないか?」 「てめえ、何言って」 「お前なら、この女が命尽きる前にいっくんとやらを見つけ出せるのではないか?まあ、強制はせんがな」 そう言うと、少し足を止めて、そして言う。無感情に言葉を放つ。 「これが私にとっての殺すということだ。大切な人間を生き残らせること、それが私の殺す意味だ。そのためならば、どんな相手であろうと容赦しない」 その言葉を言い終えると同時に、ボウガンを取り出し、放つ。 二人の距離からすれば、ほぼ回避不能の速さだが人識はやすやすと弾き飛ばす。 が、その弾き飛ばす一瞬を見計らい、右衛門左衛門はクルリと背を向け、脱兎のごとく駆け出し、 その姿はあっという間に見えなくなった。 それはあっけないほどの幕切れだった。 「おい、大丈夫か?」 「うに…なんとかね…ほんとあの人すごいよ…僕様ちゃんみたいなひ弱な体を…本当に……ギリギリの所で生かしてる」 それでもやはり苦しいのだろう、玖渚の喋る言葉が切れ切れとなっている。 まるで一言話すごとに命を削るように、 「ごめんね、僕様ちゃんがいたばっかり…に、勝負が曖昧になっちゃたね」 そんな状況でも、とぼけるようにそんなことを言う。 「まあ、構わねえよ、この殺し合い続けてりゃ、またバトるだろうしな、んなことより、お前どうすんの?」 「さっきの右衛門左衛門って人の言葉を信じて……E-5の近くに…いるみたいだから、……恐らく骨董アパートに向かってるはずだし、行ってみるよ」 血だまりの中で、それでも玖渚はなんとか体を起こし、そう言う。 「その体で、かよ」 「うに…どうせ僕様ちゃんの体っていっつもこんな感じだもん、あんまり変わんないよ、それに人識君に殺されんなら、ちゃんと、いーちゃんに伝えてくれるだろうけど、あの人は信用できないし」 少しは話しやすくなってきたのか、そう笑いながら言う。 だが、人識にはわかる。 もう長くはない。 これではたどり着くまでにのたれ死ぬであろうことは確実だった。 「それにしても、すごい人だったね、人識君」 「あ?ああ、あいつ、戦い方から逃げ方まで完璧だったよ、プロのレイヤーってとこか、おまけになんだあの技、あんなもん見たことねえぞ」 「それに変わったことも、言ってたし、尾張幕府とか四季崎とか」 「ありゃ、ちょっとおかしかっただけじゃねえのか?」 「そんな人には見えなかった…けどな、さっきのまにわ君といい、ひょっとしたらこのゲームは僕様ちゃんが思ってる以上に複雑な事情があるのかもしれない」 そこまで話すと、一息つきふいに人識の方を向き言った。 「ありがと、しーちゃん、もういいよ、ここまでで」 「何?」 「これじゃ、しーちゃんの邪魔以外の何者でもないし、もう、ここまででいい、それで、もしいーちゃんを見つけたら僕様ちゃんの、こと伝えてくれると…うれしいな」 笑いながらもその目は真剣だった。真剣に願っていた。 人識はその目をじっと見る。 殺人鬼に真剣に願う少女と、それを聞いている殺人鬼。 「傑作だな」 そう言うと、立ち上がる。 玖渚を背負って。 「うに?」 「てめえはさっきから十分邪魔者だよ、今頃どうってことねえ」 そう言って、歩き出す。 消えかけた命を背負う殺人鬼、まったく、まったくもって、 「傑作だぜ」 「本当にね、しーちゃん」 「しーちゃん言うな」 こうして再び殺人鬼は歩き出す。 さらなる狂乱へさらなる戦いへと、青い少女を背負って、進んで行く。血で全身を濡らしながら。 「しかし、まさかあんな強敵がいようとは…」 全くの予想外だった、と右衛門左衛門は思う。 せいぜい注意すべき敵など虚刀流と真庭忍軍、そして鑢七実くらいのものだと思っていたが、甘かった。 まさか、自分があそこまで手こずるなどとは夢にも思わなかった。 「それにしても、奴ら何者だ…」 あの刺青の少年は異常だった。 あの妙な小刀の卓越した使い方は、まだいい、あれぐらいなら驚くには値しない。 だが、全く恐怖を感じないようなあの戦い方、そしてあの全てを呑み込むような眼。 なにより、あの少年には底が見えなかった。 それはこちらを圧倒するかのようなものでなく、どちらかといえば沼のようなものだった。 この程度かと思っていた矢先に急に深くなる底なし沼のように、 正直、あのまま続けていたとしても負ける気はしなかった。 背弄拳を破ったと言っても、あんなめちゃくちゃな方法二度も通じさせはしない。 それに距離をとってボウガンを打ち続けてもよかった。 いや、極端な話、あの不生不殺で人識を狙っていれば、それで終わっていたはずである。 だが、それでも絶対の勝利を確信できない、何か更なる手を隠し持ってる、そう感じさせる相手だった。 故に引いた。 「それにあの女…」 あの青髪の女もおかしなことを言っていた。 「尾張幕府を、知らないだと」 確かに将軍は没落しただろうが、それでも後釜は座っていて、未だに日本を牛耳っているはずである。 (そして、玖渚機関、零崎、闇口、そしてあの喋る箱、この立ち並ぶ建物) どれもこれも見覚えも聞き覚えもないものばかりである。 (一体ここは、どこだ、一体奴らは何者だ、不理解、理解できん) 一瞬思考の泥沼にはまりそうになるが、すぐにそんな考えを振り払う。 今の自分に大事なことは、そんなことではない。 (全ては、姫様のため) そう自分は、否定姫の懐刀、それだけでいい、そのために誰であろうと殺すだけ、刀に意志は必要ない。 「恐らく、あの女は今日の夜までは持たんだろうが、一応他にも殺しておかねばな」 そう呟き、駆け続ける。 あの少年のこともある、ひょっとしたらあれに匹敵する者が他にもいるかもしれない、休んでいる暇はない。 白みがかった空の下、その刀は駆け続ける。 新たなる敵を求めて。 【1日目 明朝 F-6】 【零崎人識@零崎一賊シリーズ】 [状態] 負傷(肩から腰にかけて斬られた) [装備] グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本 無桐伊織を探す。気が向いたら誰か殺すかもしれない 1 あの仮面の男を次にあったら殺す 2 一応、玖渚が生きてる間は欠陥製品を捜してやる。 【玖渚友@戯言シリーズ】 [状態] 致命傷(右衛門左衛門曰く長くは持たない) [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本 死んじゃう前にいーちゃんに会って、自分のことを伝えたい 1 今は人識君と行動 2 この島で起きてることの、方法と理由が知りたい 3 とりあえず、変わった人がいっぱいいるな 4 ちょっとヤバイかも ※参加者に関して色々おかしな人間がいることに気づきました。 【1日目 明朝 F-6から移動中】 【左右田右衛門左衛門@刀語シリーズ】 [状態] 負傷(腹から胸にかけて切り裂かれた) [装備]ボウガン(矢付き)@戯言シリーズ 刀(大小の大の方)@刀語シリーズ 手裏剣×3@刀語シリーズ 永劫鞭×1@刀語シリーズ [道具]支給品一式、ランダム支給品(1?3) [思考] 基本 姫を探しつつ、見つけた姫以外の人間は殺す。 1 姫を見つけたら、以後は姫の指示に従う。 2 姫を闇口濡衣が何らかの方法でも守っていたら闇口濡衣と手を組む。 3 姫が参加していなかった場合は、闇口濡衣と手を組む。 4 人識に関しては警戒せねば 5 他にもあんな者がいるのか ※少しゲームに疑いを持ちました。 028← 028 →029 ← 追跡表 → ― 左右田右衛門左衛門 ― ― 零崎人識 ― ― 玖渚友 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/100.html
血の枷(智の加勢) その三十二階建てのマンションは通常ならば、京都一の高級住宅街である城咲に要塞の如く聳え立ち、その中に幾人もの高所得者やその縁者を守っている。 しかし、今、その屋上から見渡せる街並みは、京都のものではない。 ——どちらにしろ、その点での異常は、少女には分からなかっただろう。 その赤い少女には、分からなかっただろう。 理由は二つ。 一つは、彼女は京都に来たことがないということ。 そしてもう一つの理由は——京都の風景を知っていたとしても、彼女は今、酷く動揺しているということ。 ぺたりと座りこんだ少女の名は、水倉りすか。 六六五の称号を持つ魔法使いにしてこのバトルロワイヤルの主催者、水倉神檎の娘。その属性は『水』、種類は『時間』、顕現は『操作』。『赤き時の魔女』の称号を持つ、運命干渉系の魔法使い。 『魔法狩り』を行う、魔法使い。 けれど彼女は呆然として、暗い中に目を落としていた。 どうして父親は自分をここに連れてきた? これも方舟計画の一部なのか? どうして父親は殺し合いなどさせる? これでは父親は悪しき魔法使いじゃないか? どうして父親は自分など目にも入っていないかのように、歯牙にもかけていないかのようにする? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうしてどうしてどうしてどうしてどうして———— 何が起きているのか? 何故こんなことになっているのか? 何時まで続けるつもりなのか? 誰が巻きこまれているのか? 何? 何故? 何処? 何時? 何? 何が何が何が何が何が何が何が何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何———— 「——こういうときに」 りすかは、ようやく前を見る。 「落ち付けというのが——キズタカなの」 息を吸って、吐く。 精神が落ち付いていなければ、できることもできなくなる。魔法使いであるりすかは、それを身に染みて知っていた。 思考を整える。 熱くなった頭が、緩やかに冷えていく。 「……オーケー、少しは落ち付いたのがわたしなの」 りすかは立ち上がる。視界が上昇する。 するとそこに——子供の姿が映った。 「初めまして——じゃ、ないですね」 手すりの上に、この高い建物の手すりの上に、内向きに足を下ろし腰掛けている。 少年にも少女にも見える、おかっぱ頭の子供。 風に煽られて、セーラーのカラーが踊る。 彼はりすかに向けて少し首を傾げ、はにかんだように笑った。 「こんにちは、りすかさん。僕が水倉鍵です」 落ち付いたはずのりすかの精神が、再び波立つ。 水倉鍵。 『六人の魔法使い』の、六番目。 一度だけすれ違い、その一瞬でりすかの魔法式を壊しかけた『魔法封じ』 息を飲んだりすかの前で、水倉鍵は軽く両足を揺らす。 「遅いですよ、りすかさん。もしも僕が殺人者だったら、今ごろりすかさんは死んじゃってますよ」 「……水倉、鍵?」 「そうですよ、水倉鍵です。何かご質問がありますか?」 「どう、して、こんなところに」 「どうしてでしょうねえ、どうでもいいじゃないですか、そんなこと」 「……お父さんは、何をしようとしてるの」 押し殺した声で尋ねたりすかに、水倉鍵は笑ってみせる。まるで普通の子供のように、無邪気な笑みを浮かべてみせる。 「やだなあ、目指す所はもう知っているでしょう? 知ってるんでしょう? ああ、このゲームのことですか、これの目的を聞いているんですね。分かりました、それではお答えできませんとお答えしておきましょう」 「……っ」 「怒らないでくださいよ、りすかさん。ただ、それじゃあ、りすかさんにとって重要だと思われることだけ、ちょっとだけお話しましょうか——といっても、そんなに長い話じゃないんですけどね。 要するに、ですね。 この殺し合いに勝てば、神檎さんに会える。 ……そういうわけですよ、単純でしょう? 明快でしょう? りすかさんに与えられた、ちょっとしたチャンスです。ずっとずっとずっと捜し求めていたお父さんに会う、チャンスです。りすかさんにとっては、これはそういうものだと思っていただいていいんですよ。 参加者を全員殺せば、りすかさんは」 「……お前!」 「怒らないでくださいって、言ってるじゃないですか。一応、僕は主催者側の人間——文字通りの意味で人間ですから、首輪をはめたりすかさんにとっては、不都合なことも起こりうるんですよ。僕がここにいる以上、例の魔方陣も発動しないでしょうし。 ……ひょっとしたら、僕にはそれを爆発させる力なんてないかもしれませんけど。ねえ、どう思いますか? どっちだと思います?」 りすかは——動けなかった。 両手を握り締めて、年下に見える少年を睨みつけて、それでも。動くことが、できなかった。 それを見て何を思ったのか、水倉鍵は「えへへ」と笑う。 小さな身体が、手すりから飛び降りる。りすかの前に、着地する。 「供犠さんから聞いてますか? 僕はゲームが好きなんですけど……ゲーム盤の駒を動かすのは好きでも、ゲーム盤の上に乗るのは嫌いなんですよね。そういうわけですから、これで失礼します」 水倉鍵が、歩き出す。 りすかの横を、通りすぎる。 悠々と——すれ違って行く。 「頑張ってくださいね、りすかさん」 奇妙なくらいに明るい声が、残る。 りすかの背後で、ドアの閉まる音が響いた。 「……気にしちゃいけないのが、言葉なの」 唇を噛み締めながら、俯きそうになった顔を上げて、りすかは自分の身体を確かめる。 いつも通りの赤い髪。 いつも通りの赤い服。 いつも通りの赤いニーハイソックス。 いつも通りの銀の手錠。 いつも通りの赤い帽子。 ただ一つ欠けているのは——カッターナイフ。 ホルスターごと、カッターナイフが消えている。 「困ったの……あれがなくちゃ軽減されないのが痛みなんだけど、そもそも分からないのが魔法を使えるかどうかなのね」 ぺたぺたと、りすかは自分の体に触れる。 原則として、水倉りすかは生きている限り魔法を使うことができるはずだ。その体を流れる血に、父親の手で刻まれた魔法式のために。 存在自体が魔法。 魔法があってこその存在。 だが、そもそもりすかを創作した水倉神檎ならば、『ニャルラトテップ』水倉神檎ならば、りすかの魔法式に手を加えるくらい、あるいは容易いのかもしれない。 ——君達の力は僕達の方で、ある程度制限させてもらったよ。 りすかにとって忌々しいことこの上ない影谷蛇之の台詞が、蘇る。 僕達の方で、とは言っているが、影谷にできるのは『固定』のみのはず。 ならば、やはり水倉神檎がそこに関わっているのだろう。 「嫌なのは試してみて魔力を消費しちゃうことだし……かといって、大事な場面で初めて使えないって分かるのも……はあ。折角お父さんに近いところまで来たのに、こんなのってないの」 ジレンマだった。 そして、気がつく。 当然ながら、思い出す。 りすかの『座標』、半分以上が彼女の身体である供犠創貴の存在。 どこにいるかは分からないが、そこにいるのは分かる。 そこにいるのは分かるから——飛べるか? 『省略』できるか? りすかは目の前に転がっていたデイパックを開く。 「できるかどうかじゃないの」 ざっと中を見て、使えそうな物を探す。 ——やがてりすかの手は、サバイバルナイフを掴んだ。 「やるかどうか、なの」 サバイバルナイフの先が、指を僅かに切り裂く。 流れ出した赤い血を見つめて、りすかは思い描く。 創貴と話し合う。創貴と考える。創貴の指示を聞く。創貴と一緒に戦う。それが、いつも通り。 一人で効率の悪い「魔法狩り」をしていた頃からは、もう随分と時間が経っていた。離れて別々の戦いをするということは、既に今のりすかには考えられなかった。 「えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく」 万全を期して、呪文をも唱える。 魔法を使おうとしてみて、分かる。 明らかに、りすかの魔力は弱まっている。 「えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく——」 ぐらりと、世界が揺れる。 「……あ」 瞬間、りすかは失望する。 時間を飛んだ。それは確かだ。 にも関わらず、『そこにいる』という感覚には、まだ全くと言っていいほど近づいていなかった。 りすかが立っているのは何かの建物の中、階段の踊り場のようだ。状況からして、おそらくは先ほどの屋上から、ここまで降りてきたのだろう。 その程度の力しかないのか、精神を練りきれていなかったのか。 少なくとも、これが今のりすかの限界だ。 七日はおろか、創貴のいる場所へ辿り付くまでの時間を『省略』することすらできない。 悄然と頭を垂れたりすかの視界に—— 水玉模様のデスサイズを携えた少女の姿が映った。 「……え?」 思わず呆けた声を漏らし、次いで最初に他者の存在を確認しなかったことを悔やむりすかに対して、そのやや背の低い黒髪の少女は、少し笑って見せた。 少し笑って、口を開いた。 「やれやれ。全く、驚いたよ。僕はそろそろ、常識で物事を判断するのを止めたほうがいいのではないかと思い始めたところでね。 僕はほんの少し目を向こうに向けて、それから何となく階段の上を見上げた。そしたら女の子がそこにいた、と。これは誰だって驚くだろうさ。何かトリックがあるというのは当然誰しも考えるだろうが、ここで僕を驚かせたって何にもならない。 だいたい、当人がびっくりしたような顔をしているんだから、もしトリックだとしたら笑い事だ。それじゃあ、どうしてだ? ここで僕は、分からなくなりそうで、常識を捨てたくなる。その気持ちも分かって欲しいね。 でも、常識で物事を判断するのを止めたら、それじゃあ僕は一体何で物事を計ればいいのだい? 大体、誰かに何かを説くときだとか、常識って言うのは意外と使い道の多いやつでね。なくなった穴を埋める代わりのものっていうのは、なかなか見つけるのが難しそうだ。 もっともこんなこと、きみに聞いたって分かるはずもない、失礼したね。あっと、別にきみを馬鹿にしているわけじゃないぜ。これは勿論だ、初対面の人間を馬鹿にするなんてこと、いくら僕でもやったりはしない。 うん? 初対面とは言ったが……ひょっとするときみ、あの変態じみた男に食ってかかっていた子じゃないかな? 違っていたら失礼、でも僕はこれでも、記憶力だとか、そういう所には自信があってね。 ……おーい、聞いているかい? 聞いているなら返事くらいはしてくれたまえよ、いくらびっくりしたと言ったって、よりびっくりしたはずの僕の方は、もうすっかり回復したんだから」 「……聞いてるの」 ようやく、りすかは言葉を口にする。 「聞いてるんだけど……処理が追いつかないのが、あなたの言葉なの」 「おや、ごめんよ」 悪びれた様子もなく、少女は肩をすくめた。 指につけた傷から血が流れなくなりつつあるのを確かめながら、りすかは静かに息をつく。 「とりあえず……ええと。確かに、影谷に怒ったのはわたしなの」 「ああ、やっぱりそうだね。その声にも聞き覚えがある。そうか、つまりきみが『りすかちゃん』で間違いないわけだ。そうすると僕の方も名乗るくらいはしておくべきかな? 僕の方だけ一方的に名前を知っているというのは、ちょっと礼を欠くかもしれないしね。 それじゃあ名乗っておこう、僕は病院坂黒猫。病院はそのまま病院、坂道の坂、黒い猫で黒猫だ。変わった名前だとはよく言われるよ」 「病院坂、さん。水倉りすかっていうのが、わたしの名前なの」 「りすかちゃんと呼んでも構わないのかな? ちなみに僕のことは、気軽にくろね子さんと呼んでくれても大丈夫だ」 「……なんでもいいの」 至極微妙な表情で、りすかは頷く。 病院坂黒猫、りすかにとっては割とついて行き辛い性格だった。 「時に」 何でもなさそうな口調で、病院坂は会話を継続する。 「できれば、りすかちゃん、こっちに降りてきてもらっても構わないかい? 僕はこの通り、結構チビでね、見上げ続けるのは結構疲れるんだ。 僕がそっちに行くっていうのは、できれば止めておきたくってね……というのも、自慢じゃないが僕は、階段を上るのに大量のエネルギーと勇気が必要なんだよ。ひどく不経済なことにね」 本当に自慢にならなかった。 堂々と言うようなことではなかった。 どういう表情を浮かべていいか分からないりすかに、病院坂はさらに言葉を重ねる。 「ひょっとしてこれを、この水玉模様の鎌を警戒しているのかい? だとしたら安心してくれたまえ、僕にはこれを振るってきみを傷つけるような力はないよ」 その言葉に、否が応でも水倉鍵の台詞を思い出す。 ——参加者を全員殺せば—— 眼下の少女、病院坂は、本人の申告通りならばひどく体力がないらしい。 りすかの動揺を知ってか知らずか、病院坂は肩をすくめる。 「そうだね、どっちかっていうときみが僕を殺すかもって方がまだ有り得る」 「——そんなことはしないの」 不意に、りすかは声を上げた。 凛と、きっぱりと、病院坂の言葉を否定する。 「わたしはそんな——軽蔑すべき駄人間じゃない。殺し合いなんて冗談じゃないの。 差し出された機会なんて受け取るものか。 気に入らない機会なら、わたしが全部壊してみせる。 目的なら、わたしはわたしのやりたい方法で掴み取るの」 創貴がどう言うかは、まだ分からない。 けれどこれが、今のりすかの本心。 彼女の、導き出した答え。 どの程度りすかの心情を理解したのか、病院坂はシニカルに笑い、頷いた。 「それなら、懸案事項は何もない。良かったら色々と話を聞かせてくれたまえ。分からなくて気持ち悪いことが、沢山あるのでね」 マンションの正面玄関を窺える辺りに場所を移し、りすかと病院坂は向かい合って座っていた。 りすかはサバイバルナイフを持ったままだが、病院坂は大いに持て余していたデスサイズを仕舞っていた。 どうやって収納したかは、神のみぞ知る。あれが水倉神檎の策だとしたら、それこそ皮肉なことこの上ないが。 「魔法……なんて聞くと、まるで夢の世界だね。そのくせ、結構共通しているような部分もあるようだから、そう、言ってみればパラレルワールドかな。僕から見ればの話だがね」 「……まさか思わなかったのが、魔法を知らない人がいることなの。本当にごちゃごちゃでぐちゃぐちゃなの。この地図も、そう」 一つの島の中に、砂漠から山まで。自然環境だけでなく建物も、無秩序にあちこちに配置されている。それらをざっと眺めて、りすかは溜め息をついた。 「僕達がいるのは……ここのようだね。あえてマンションと書いてあるからには、ひょっとすると特別な場所なのかな。まあ、こんな状態で特別も何もないね。どうだい、りすかちゃんの知っている場所というのはあるかい?」 「う……ん」 りすかは躊躇いがちに、その一点を指し示した。 E−7。 市街地に位置する、コーヒーショップ。 「多分だけど……確証はないんだけど、わたしの家なの。それで、多分、わたしと合流しようとする人が行くのが、ここだと思うの」 「なるほど。で、どうするんだい?」 「行くの」 今度は、すぐさま答える。 「キズタカと会わなくちゃいけないの。それに、ひょっとしたらツナギさん……わたし以外の魔法使いも、ここにいるかもしれないの。可能性があるなら、行ってみなくちゃ」 「そうかい、それじゃあここでさようならということになるのかな」 あっさりと言った病院坂を見て、りすかはきょとんと瞬く。 一緒に行動しようと、積極的に思っていたわけではない。 しかし、その言葉があまりにもさらりと放たれたために、虚を衝かれたような顔をした。病院坂がそれを見て、仕方なさそうに笑う。 「僕もここにいたくてしょうがないわけじゃないが、特に行く当てもないし、きみと違って明確な探し人もいないことだしね」 「で、でも」 口篭もって、りすかは言葉を探す。 何故、そこに迷いが生まれるのか。あっさりと発てないのか。 答えはやがて、見つかる。 「なんだかそれじゃあ……悪いのがわたしの気分なの。なんだか、見捨てていくみたい」 「僕を連れていくのかい? 別に構わないが、先に言っておくと僕は相当の足手まといだぜ。少なくとも、殺し合いとやらに関してはね。よほどの奇跡か、全てのバランスを破壊するアイテムでもない限り、僕はどこかで死ぬだろうさ」 「だったら、余計なの。一番気分が悪いのが、ここで別れて後で死の報せを聞くことなの」 「どうかな? 例えばきみが、その『魔法』とやらで僕を守ろうとしたとして、守りきれなかったらきみにとってはかなりショックだろう」 「殺させないの」 りすかは真っ直ぐに、病院坂を見る。 真剣な赤い目と、シニカルな笑みを含んだ黒い目が、正面からぶつかる。 サバイバルナイフを握るりすかの手に、力が篭った。 「わたしは、できれば、誰にも死んで欲しくないの。単なる理想に過ぎなくても、理想を追わなくなったら、諦めたら、ただのできそこないなのがわたしなの」 水倉りすかは、諦めない。 たとえ相手が父親で、神にして悪魔『ニャルラトテップ』だったとしても。 たとえ怪物のごとき人間が、大量に参加しているのだとしても。 たとえ自分の魔力が、何らかの方法で弱められているとしても。 りすかは、自分に諦めることを許さない。 二人の間に沈黙が挟まれる。 どこか余裕のありそうな病院坂の目が、やがて細まった。 「……分かったよ、りすかちゃん。そうも熱烈に口説かれちゃしょうがない……勿論これは冗談だけど、それじゃあしばらくは一緒に歩かせて貰うことにしよう。僕が誇れるのはこの頭くらいだが、多少は何かの役には立つだろうさ。探偵編の、始まりというわけだ」 「……?」 「こっちの話だよ」 「……よろしくお願いするの、黒猫さん」 差し伸べた手は、確かに握られた。 【1日目 深夜 G−5 玖渚友が住むマンション】 【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】 [状態]健康、魔力若干消費 [装備] サバイバルナイフ [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 創貴と合流し、できればお父さんを止める 1 創貴と会うためにコーヒーショップに向かう 2 創貴に会えたら、基本的にその指示に従う 3 黒猫さんと行動、できるだけ魔力は温存したい 4 殺し合いは嫌 多少魔法を制限されているようです。詳細は後の書き手さんにお任せします。 【病院坂黒猫@世界シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、水玉模様のデスサイズ@零崎一賊シリーズ、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 分からないことは分かりたい 1 りすかちゃんと一緒に行動、色々調べてみる 2 考えて分からなければ……どうしようか 3 そういえば、様刻君はどうしてるかな? 4 死ぬならそれはそれで仕方ないね 魔法等についてりすかから聞きました。 017← 018 →019 ← 追跡表 → ― 水倉りすか ― ― 病院坂黒猫 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/37.html
死闘(四闘) ここは『絶望の果て』である。 この表現は殺し合い——バトルロワイアル——が行われているからでなく、この場所が『絶望の果て』ということである。 本来ならこの赤神イリアの屋敷は鴉の濡れ羽島にあるべきものであるが、現在は地図のH-4に建っている。 鴉の濡れ羽島とはロシア語で《絶望の果て》という意味である。 そこに建つ建物というものは、いったいなんであろうか。 絶望の上に建つ建物とは。 どれだけの恐怖を、破壊を、混乱を、そして絶望を生み出したのであろうか。 そして今生まれているのは、死闘。 ◆ ◆ 命を懸けた戦いで最も恐怖すべきであるのは、 体に口——にしては、凶暴さを滲み出している——を生やしている一人の少女である。 闘う姿はまるで妖怪ものであった。 その力は主催者と同じ『魔法』の一種であり、彼女はその力をあの男——水倉神檎——に与えられたのであった。 『魔法』といっても様々なものがあり、魔法使いそれぞれの個性がある。 あの真っ赤な、安全ピンの様な、ジャケットの男は『属性』が『光』、『種類』が『物体操作』の魔法使いであったが、 対する少女は『属性』が『肉』、種類が『分解』の魔法使いである。 体に口を持つ少女の攻撃は、人ならざる攻撃であった。 しかし、身体性能の差であろうか、他の者との戦闘センスの差であろうか。 その絶大なる力をもってしても闘いに終わりを告げることは出来ていない。 そうして額の口が、不機嫌そうに、歯軋りをした。 『ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ』 最も破壊している者は——周りの豪華絢爛な装飾などを構いもせずに、 いやわざと壊すことにより戦いを有利にしているのかもしれないが——最も素早い動きで手に持つ拳銃を使う者である。 彼は最初に殺された忍者集団と同じような装束をしていた。 確かにその動きはただならないものではあった。 彼は殺人を厭わない忍者集団のなかの、 12人の頭領——口から刃物を出すものと同等の者たち——の中でも抜きん出た実力を持つ者であった。 さらに、その左手は彼のものとは思えない形ではあるが、 彼が彼の時代とは形が全く違う拳銃を使えているのは——忍法記録辿り——そのおかげであるのだ。 「忍法断罪円!!」 最も混乱を生んでいるのはそれらあらゆるものをかわし続ける女である。 彼女は艶やかな若草色の和装であり、それに似合う和風美人である。 そして、全ての攻撃をかわし続けるだけではなく、着物の裾すら、乱さずに攻撃を避けている。 誰もがその技術——空蝉——を見破れず、困惑しているようだ。 一方彼女は余裕の表情で、その様子は明らかに相手の疲れを待ち反撃の機会を伺っているようだ。 「若い・・・・・・」 そして最も絶望を生み出しているのはメイド服の彼女であった。 彼女はこの屋敷のお嬢様——赤神イリア——の警護担当として戦闘訓練を受けた戦闘メイドであった。 しかし、本来ならばこのような化物たちのなかでは彼女も霞んでしまう存在であったかもしれなかった。 では、なぜ彼女が絶望を生み出せているのだろうか。 それはこの屋敷をくまなく知りえているからではない。 確かにそれも原因の一つかもしれないが主なものではない。 主な原因とは彼女の胸に刺さっている一つの刀である。 それを刀とよんでいいのかは、悩むところだが——明らかに苦無の形をしている——つくった本人が 刀だというのだから間違いはないのだろう。 その刀、悪刀『鐚』は『活性力』に主眼が置かれた、 所有者の疲弊も死も許さず人体を無理矢理に生かし続ける凶悪な刀である。 そんな刀を接近戦のエキスパートが使えばどうなるだろうか。 どれだけ動きを高めるだろうか。 どれだけタフになるだろうか。 そういった理由からして彼女は絶望を生むにいたっているのである。 「埒があきません こんなスリリングな削り合いかわし合いなどに——全く意味はありません。そうは思いませんか?皆さん。 あなた達は一度死んで見ませんか?」 しかし誰も決定打を打つことが出来ないままであった。 ◆ ◆ その四人からなる死闘——四闘——を・・・・・・ じいっ、と。 まるっ、と。 ぎょろり、と。 ぐるり、と。 まじまじ、と。 しっとり、と 女は——眼を凝らすようにして、死闘と、それをする者たちに——眼を向ける。 時には全体に。 時には個々に。 時には口に削られた残骸に。 時には所々にある銃創に。 時にはあらゆるものをかわし続ける者が次にかわす技に、方向に。 時には服の上からでは分りにくいが、——推測ではあるが——自分が以前使っていた刀に 眼を。 その——両のまなこで。 見る——視る——観る——診る——看る。 全て——総て——凡て——観察するように——舐めるように診察する。 「・・・・・・ふうん。なるほど、理解したわ」 やがて、屋敷のそとから覗く彼女はそう呟く。 「個々の基礎体力、技術、経験、特殊能力、道具、見取れるものすべてを。そしてこの死闘の先もね」 ◆ ◆ 彼女が持つ特異性それは、 天才性の発露——見稽古。 それは『天才』が持つものにしては、行き過ぎたもので、 まるで『天災』といった人にはわからざるものと同じカテゴリーに含まれるものである。 見た技をそのまま自分のものとして習得できる戦闘技術。 また、その『眼』の力は、他人の戦闘技術を習得するだけにとどまらない——ありとあらゆるものを看破する、そんな眼である。 どんな技も、どんな動きも。 どんな弱点も。 ひとつ残らず見通せる——鑢七実の見稽古 いったい彼女はなにを見取ったのであろうか。 ◆ ◆ 「もう、見取れるものは見取ったし、この死闘がこのまま終わるのは、 わたしにとって良いことは一つもないわね。草は、草が如くむしってやりましょう」 彼女が手にするはRPG-7。 本来ならこのような広い場所で、このような者たちに効果覿面な道具ではないが、 使うのが死闘の結果すらも見通す『眼』を持つ彼女である。 「いつまでも、綺麗に立ち回れると思わないことね」 発射と同時に、ふぅー。と、よく似合うため息をつくのだった。 ◆ ◆ 一方、屋敷内は悲惨な事態になっていた。 屋 敷の装飾はもとの絢爛さのみる影もなく、屋敷内は台風でも通ったあとかのようだった。 そこにあるのは残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、 残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、草、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、 残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸であった。 その草は所々赤い、若草色であった。少しづつ、少しづつ、赤く染まっていくそれはよく見れば和装であった。 『天災』である『天才』はその様子を見ながら踏みつける。 まだ息があるのだろうか。 闇口である彼女は——売りが主人以外の誰からも攻撃を受けたことも、 触れられたことも無いということもあり——未だ息をしていた。 彼女は自分を死に至らせただろう者の足をつかむ。 実際のところ、意識はなかったかもしれないが。 鑢七実は深く、深くため息ををつき。 そして——眼を細め、非常に冷酷な死線を彼女に向け。 「何を勝手に、わたしの肌に触っているのですか——この、草が。」 つかまれたのと反対の足で——女の頭を踏みつけた。 繰り返し。繰り返し。繰り返し。 相手の反応などまるで構わず——踏みつける。 「草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。 草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。 草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。」 程なく——女の頭部は失われた。 跡形もなく——ただの血だまりに、肉だまりと化した。 それでも若者の手は女の足首をつかんだまま放さなかったが——女は無情にも、足首を軽く振るだけで、その指を払った。 【闇口 憑依@零崎一賊シリーズ 死亡】 ◆ ◆ 「はぁ、はぁ、なんなのよ。魔法も使っている様子もないのに、化物かあいつら」 身体に口を生やした少女ツナギは走っていた。 その様子には闘いの最中の威圧感はなく、今は心なしか焦っているようにみえる。 彼女は主催者である水倉神檎によって「魔法」使いにされた少女である。 そして彼に殺されることをも同時に願っている。 彼女は体に512の口をもち、2000年以上生きている「魔法」使いではあるが、 そんな彼女からしても先ほどの死闘を繰り広げた者たちは、埒外に感じたのである。 「まずはあのコーヒーショップに向かうか」 いくら戦闘に自信がある彼女でも不安に感じたのであろう。 仲間がいるかもしれない場所に魔女は向かった。 【1日目 深夜 H-4】 【ツナギ/繋場いたち@新本格魔法少女りすか】 [状態]身体中にかすり傷、疲労(中)、口の出現により服が所々破れています [装備]なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3) [思考] 基本 「水倉りすか」「供犠創貴」 を探す 1 コーヒーショップに向かう 館からは離れたところに忍者はいた。 流石忍者とでもいうべきか、戦線から離脱する早さは誰よりも早いものであった。 「あの爆発に直接巻き込まれてしまっては、我でも危なかったであろうな」 忍者集団の頭領の中の頭領、真庭鳳凰は偶然にも爆風から逃れることが出来たのだ。 「しかし、この忌々しい首輪のせいで、頭領のうち残っているのは我を含めて三人か。 もし生き残り、もとの世界に戻っても我一人ではどうしようもないな。狙うは優勝して願いを叶えてもらうことか」 しかしそれを本当に信じてよいのだろうか。 まずは生き残った頭領たちとあうことをめざすか。 そのために目指すのは真庭の里であろうな。 此処からは遠いみたいだが、地図の果てがどうなっているかも気になるな。 【1日目 深夜 H-5】 【真庭鳳凰@刀語シリーズ】 [状態]身体中にかすり傷、疲労(小) [装備]ジェリコ941 [道具]支給品一式、ジェリコ941の予備銃弾(残り60パーセント)、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 真庭頭領を探す 1 地図の果てを確かめる。 2 主催者が本当に願いを叶えるだろうか・・・? フラフラと歩く姿は、メイド服でありながらも、メイド服は破れ、焦げボロボロである。 しかし、余計にその姿が本来このような場には相応しくないメイドであることと相反して、奇妙な威圧感を生み出している。 何も考えていないように見えるその姿。 しかし、彼女には確固たる意思、目的がある。 「あらゆることはお嬢様のために」 【1日目 深夜 H-4】 【千賀てる子@戯言シリーズ】 [状態]軽い火傷、疲労(小)、悪刀『鐚』により回復が早いです [装備] 悪刀『鐚』 [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 すべてはお嬢様のために 1 お嬢様を探しだし、いない場合優勝を目指す。 ※悪刀『鐚』の力により体の「活性力」が高められています。 程度はどれぐらいであるかは後の書き手さんに任せます。 ◆ ◆ 「ふふ、でも面白いわね。これ」 すでに肉塊となった者の支給品を見ながら呟く。 見ているものは、ある心臓である。 なぜかその心臓は切り離されているというのに、バクバクと脈を打っている。 その心臓は、五百年の時を生きる最強クラスの怪異、 自称「鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼」キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのものである。と、説明書きと一緒にあったものだ。 そして他にもパーツが支給品としてあると。 この心臓は本来、吸血鬼とその知り合いにとってしか意味を成さないものであった。 しかし、手に入れたのは『眼』を持つ彼女であった。 彼女の『眼』にも『健康』までは見取れない。 しかし吸血鬼の『再生力』は? 凍空一族の筋力による怪力ではない、能力的である『怪力』を見取れた彼女にはそれは不可能だろうか。 否 可能であった。 しかしあくまでも『吸血鬼』の一部であるものからは、一部の『再生力』しか見取れなかった。 しかし『再生力』に特化した吸血鬼の、それも心臓である。 一部といえども、その『再生力』は並み知れないものであった。 最強の『再生力』を見取った彼女は、礫の山を歩きながら再度呟く。 「この『再生力』があればわたしでも本気をだせるかもしれない…… 出してみたい。わたしの本気を。あの子にも見せてやりたい。わたしの本気を」 ふふっ、天才は笑う。 「この後はどうしようかしら。 いくあてもないし、地図にある不承島にでもいってみるかな。 もしかしたら、あの子もいるかもしれないしね」 そして、血に染まった草鞋を気にする風もなく、何事もなかったかのように——歩みを再開させた。 【鑢七実@刀語シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)、キスショットの心臓 闇口憑依の支給品(確認済み) [思考] 基本 不承島にいってみる 1 七花とあってみたい 2 完璧な『再生力』を見取るために吸血鬼のパーツを集める 3 『再生力』を見取り自分の本気を出してみたい 011← 012 →013 ← 追跡表 → ― 闇口憑依 ― ― ツナギ/繋場いたち ― ― 真庭鳳凰 ― ― 千賀てる子 ― ― 鑢七実 017
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/112.html
開戦時刻 「……ふん、まさか、こんな場所にまた来ることになるとはね」 エリアH-8。西東診療所。 時計の針が、零時半を少し回った頃。 畳敷きの待合室の中、狐面の男は周囲をぐるりと見回した後、大して感慨深くもない様子で言った。 「二度と来る機会はないと思っていたが――しかし、見知らぬ場所に見知った場所があるってのは、どうにもつまらないものがあるな。こと二度も捨てた場所ともなるとな――まるで堂々巡りでもさせられているかのような気分になる。この世で何が無駄かと言って、同じ無意味を繰り返すことほど無駄なことはねえからな……同じ失敗を繰り返すほうが、まだ有意義ってもんさ」 「……お茶どうぞ」 木目調の卓袱台の上に、紅茶の入ったカップが静かに置かれる。 羽川翼は、自分の分のカップを置きながら狐面の男にちらりと目線を向ける。 当然のこと表情は窺えない。ただ相手もこちらを見ているのは分かったので、何となく目線を切り、卓袱台をはさんで狐面の男と向かい合う形で腰を下ろす。 狐面の男は、自分の前に置かれたカップに一瞥をくれることもなく、虫でも観察するかのような視線をじっと羽川のほうに向けてくる。いや、仮面をつけているため、視線を向けているのかどうかは正確には分からないのだけれど。 「ふん、なかなか似合うな」ややあって、狐面の男が口を開く。「意外な程にな」 「……どうも」 「その眼鏡と、実によく調和している」 「はあ……」 羽川の、今現在の服装。 パジャマ姿での参戦という嫌がらせに近い仕打ちを受けていた羽川だったが、この西東診療所において、既に別の服装へと着替えを終えていた。 巫女装束に。 狐面の男の持つデイパックになぜか収納されていた、見た目麗しい巫女装束の姿に。 「………………」 似合ってはいる。 確かに、似合ってはいるのだ。 しかしこの格好、パジャマ姿とはまた別の意味において、相当恥ずかしいものがある。 基本的に目立ちすぎる。 まるでコスプレでもしているかのようだ。 そもそも、似合っているからどうというような話でもない。 それに、なにより、それ以前に。今の羽川がどういう服装をしていたところで―― 「まあ、どんな格好をしていたところで」狐面の男が言う。「猫耳のせいで、ふざけているようにしか見えんがな」 「……………………」 あまり触れてほしくない所に触れられた。 自分はもっと不自然な物を顔面に付けている癖に。 ちなみに羽川の髪型は三つ編みでなく、結われても纏められてもいない。纏めようにも、ヘアゴムの代わりになるようなものは何もないのだが。 「腕は平気か」 「え?」 「さっきコイツが強引に組み伏せていたようだからな。骨でも痛めてねえかと思ったんだが」 狐面の男が指さした先には、着物を身に纏い、和風の装いをした女性が――いや、女性の風貌を象った人形が、部屋の隅で静かに佇んでいた。 両目は閉じられ、眠ったようにぴくりとも動かない。 「いえ、私は全然――あの、それより」 ぺこりと、丁寧な仕草で頭を下げる羽川。 「先程は、その、すいませんでした。いきなり刀を向けるような真似をして」 「『刀を向けるような真似を』。ふん、真似というより、実際に斬り殺されかけたようだったがな。避けるのがあと一瞬遅れていたら、首が胴体とさようならだったぜ――まあ、あくまで俺の主観で判断した限りでは、だが」 「…………」 嫌な言い方をする。 それを言うなら、羽川の主観では避けたというより、ただ転んだだけだったように見えたが。 「――まあ、いきなり斬りかかってきたことに関しちゃあ、別に気にしてはいねぇよ。殺されかけるのには大分慣れてるからな……それよか、むしろあれで仕留めきれなかった己の甘さを反省するこったな。刀を向けた挙句やり損じて、しかもその相手に謝るなんてダセェ真似はするな。あの時死にかけたのは、俺でなくむしろお前のほうだったのだからな、羽川翼。骨を痛める程度だったら、随分すぎるくらいにいい方だったぜ」 「…………」 「刀を使って、しかも不意打ちまでかけて、俺みたいな戦闘能力皆無の相手に一太刀も浴びせられねえなんざ論外だぜ? 武闘派はまず状況と闘ってこそ武闘派なんだよ。いみじくもプロのプレイヤーなら、状況に呑まれるような醜態は晒すな」 …………ん? あれ? 言っていることが何かおかしい……? 羽川は首を傾げた。 「どうも俺の回りには、そういう奴ばっかが集まってくる傾向があるんだよなあ…………優秀なわりに、むら気が多いというか、使える割に扱いに困るというか。匂宮兄妹といい絵本園樹といい……まあ、切れ過ぎる刃ほど手に余るというのは世の常ではあるんだが――」 愚痴るように、ぶつぶつとひとりごちる狐面の男。視線は既に羽川のほうを向いていない。 「あ――あの、」 羽川は、念のために言っておくことにした。 「あん?」 「いきなり斬りかかったりしたから誤解されたかもしれませんけど、私別に、危ない人――とかじゃないですよ?」 「…………?」 数秒の沈黙。そして、 「……お嬢ちゃん。今までに、刀を使ったことはあるのか」 「ありません」 「人を斬ったことは」 「ありません」 「人を殺したことは」 「ありませんってば」 「……………………」 「……………………」 おいおいおい、と、たちの悪い冗談を聞かされたような仕草で頭をかく狐面の男。 「何の躊躇もなく斬り込んできたもんだから、てっきり『殺し名』あたりの人間とでも――ああ、姓は羽川だっけな……どちらにせよ、そういう領域に所属する住人かと思っていたんだが……初対面の人間にあんだけ容赦なく斬り込んでおいて、ただの一般人はねえだろ――」 狐面の男の言葉を聞きながら、羽川は数十分前の自分の行動を思い返していた。 確かに、あの時自分がおかしかったことは、漠然とではあるが覚えている。 いや、今この時点でも、その違和感は継続しているのだ。動もすればまたさっきのように自我を見失ってしまいそうな不安定さが、絶え間なくまとわりついている。 自分を遠くに見ているような。 自分が遠くから見られているような。 そんな、どっちつかずの不安定さ。 「…………」 羽川の座っているそのすぐ脇。そこに、一本の刀が携えられている。 斬刀・『鈍』。まさしく、今までの話の中で何度も言及されてきた、羽川が振りかざしたという例の刀。 狐面の男と出会い、この場所に移動してくるまでの間に、羽川はほとんど正常な精神状態を取り戻していた。しかしその間、羽川はずっと、この刀を肌身離さず携え続けていた。 どうしても、側から離しておくことができない。 いつでも斬りかかることができる体勢。 いつでも斬り殺すことができる体勢。 どうしてか、そうしておきたいと思ってしまう。 しかし『普通でない』というのなら、目の前でぶつくさと何かを呟いているこの男こそそうなんじゃないかと、羽川は思っていた。 初対面の人間に突然殺されかけたにも関わらず、それがさも当然であるかのように――殺しかけた本人である羽川のことを、『そういう人間であることが当然』とでもいうような扱い方を、この人はしていた。 今の状況に、全く動じている様子がない。 普通じゃない。今の羽川と同じく。 「あの…………ところで、」 「ちょっと待った」 質問の台詞を遮り、おもむろに立ち上がる狐面の男。卓袱台を迂回し、つかつかと羽川の前まで歩み寄ってくる。 正座している状態の羽川を見下ろす姿勢で、自分の着流しの袖を軽く捲りあげる。きょとんと見上げる視線を全く意に解さない様子で、両手を羽川の頭の上へと伸ばしてくる。 「え? あ、あの――」 「少しじっとしていろ」 そう言うといきなり、羽川の頭に生えたふたつの可愛らしい猫耳を、両手でがしりと掴んだ。 「ひゃうっ!?」 「ふん。確かに頭皮と一体化してやがる……縫いつけた跡なんかもねえな。こりゃマジに天然か……? 手触りも人間のそれとほとんど同じ、か」 「ち、ちょっと……!」 身をよじる羽川に構うことなく、両手で猫耳を隅々まで弄り回す狐面の男。 指先で、また手のひらで。 外側を、内側を、 先端部を、付け根の部分を。 さわさわと、なでなでと、ぐりぐりと、こしょこしょと。 優しく、柔らかく、しかし執拗に。 奥の奥まで調べ尽くすような手付きで。 「あっ、やっ、やだ……っ! あん……だ、だめ……あっ……やぁ……っ! も、もう、やめ、やめてくださ……あんっ!」 「ふむ……どうやらマジに本物のようだな、こりゃ。ふん、成程、こりゃあなかなかに興味深い――」 二、三度、納得したようにうなずいて猫耳から手を放し、そのままさっさと自分の座布団へと戻る。狐の面を自然な動作で外し、まだ湯気の立っている紅茶をすする。ふう、と軽く息を吐き、言葉通りに一息ついたような表情を浮かべた。 「で、何だ」 「……………………」 実際のところ、たったいま卓袱台の上に置かれた狐の面について質問しようと思っていたのだが、盛大に出鼻をくじかれた上に、質問の中心である仮面をあっさりと外されてしまったため、思いきり質問し辛い状況になってしまっていた。 羽川は顔を真っ赤にして、仮面を外した男の顔を睨みつけた。しかし睨まれている本人が瓢々とした顔で茶をすすり続けているのを見て、無駄だと諦める。 仮面を外した男の素顔は、思っていたよりも普通だった。 声の調子からそれほど若い年齢ではないことは分かっていたが、それでも予想していたよりはずっと若く、精悍な顔付きをしている。 白い着流しがよく似合う、日本的な顔立ち。 特徴的と言えるくらいに目付きが悪い。 「…………」 羽川は何となく、その顔に見入ってしまっていた。 「――ん、どうした。沈黙されても、俺には質問を先回りできるほど気の利いた能力は所有しちゃいないんだが」 「……セクハラですよ、今の」 「ん?」さも意外な事を言われたでもいうような表情。「何のことだ」 「他人の耳を勝手に触らないでください」 「猫耳を触るというのは、セクハラ行為にあたるものなのか」 「本人の同意なしに不必要な身体接触を行なった場合は大抵セクハラです。猫耳でもなんでも同じことです」 「『猫耳でもなんでも同じことです』。ふん、そりゃ悪かったな。だが――」 しれっと、狐面の男は言う。 「俺はその猫耳が、まさかお前の耳だとは思っていなかったんだよ。何しろ俺の目の前にいるのは人間で、俺が触れたのは猫耳なわけだからな。猫耳とは、猫の耳と書いて猫耳と呼ぶ。つまり本来は猫が所有して然るべき物体であるわけだ。お前の耳だと先に言ってくれりゃあ、俺もそう無神経に触るような真似はしなかったんだが」 「…………」 それって、「まさかこんな事がセクハラになるとは思いませんでした」的な言い訳なのでは。 屁理屈というか、白々しいにも程がある。 この男、見掛けによらずたちの悪い種類の人間なのかもしれない。羽川は、目の前の男に対する警戒レベルを少しだけ引き上げた。 「で、さっきしかけた質問はもういいのか」 言いながら狐面の男は、卓袱台に置いてあった仮面を被りなおした。 反省の意識ゼロである。 「……えっと」羽川は少し考え、せっかくまた被りなおしたのだからと(ある程度、意趣返しの意味もこめて)結局聞いてみることにした。「その怪しげなお面は、いったい何なのかと思いまして」 「狐だ」 「…………」 説明されてしまった。 「狐というのはイヌ科キツネ属の哺乳類だ」 「知ってます」 「知ってたのか」 「知ってます」 「そうか」 結局、空振りのような会話に終わった。 空振りというか、空回りというか。 「広義においてはキツネ族のオオミミギツネ属、ハイイロギツネ属、イヌ族のカニクイキツネ属、フォークランドキツネ属、クルペオキツネ属まで含める場合もあるのだがな」 「知ってます」 そして誰もそんな詳しい所まで聞いていない。 そんなに「知りません」と言わせたいのだろうか。 ともあれ。 今までのやりとりで、羽川はこの男の人となりをある程度理解していた。 適当で、場当たり的で、他人に合わせるということをしない。まるで何かに流されるような、何かを受け流すような話し方。 真正面から向き合っても、どこか別のところから見られているような感じ。 違う次元にいるような。 違う世界にいるような。 そんな、掴みどころのない人間性。 ――実は俺、何も考えてないんだよ――。 あの言葉も、あながち嘘ではないのかもしれない。 「そういやお前」またも唐突に口を開く。前置きの仕草すらも無しだ。「道中、その猫耳に関して俺が尋ねた時、『怪異』がどうとか言っていたな。そのことについて、ちょっと詳しく聞かせてみろ」 「……はい」 詳しく――と言われても、詳しく話せるだけの情報を今の羽川は持ち合わせてはいない。自分が怪異に見舞われたときの記憶は、そのほとんどが失われたままなのだから。 残っている記憶といえば、春休み、阿良々木暦が吸血鬼という怪異に襲われた時の記憶。だがそれに関しては、羽川は口をつぐんだ。結局説明したのは、かろうじて記憶に残っている自身の体験に自己解釈を加えたもので、とても説明と呼べるようなものではなかった。 しかし。 「面白いなあ」 狐面の男は話を聴き終えると、しばしの沈黙の後そう言った。 「面白い……ですか」 「面白い。徹底徹尾掛け値無しに面白い。なるほど、『怪異』ね……そういうものが存在するから、そういうものに遭遇することがあるからこそ、世界ってのは――運命ってのは面白い。しかし、『この世界』の中で動くことにどれほどの意味があるのか、今の時点では 計りかねるがな……まあ、だからこそ面白いっていうのもあるが」 さっきから思っていたことだが、この人の話はすぐに独り語りのような調子になる。内容も自己完結的になってしまうのだから、聞いている側としては対処に困る。 どういう意味ですか、と羽川は訊いた。 「この世界はどうも、本来の筋から外れたところにある――というのが、今の俺の印象だ」 本来の……筋? 「確かに、変な所に連れてこられたとは思いますけど」 そう言う羽川に狐面の男は、そういうことじゃないんだよ、と首をゆるりと振った。 「ここは『外側』に近い場所だってことさ。元の世界を物語の本編と喩えるならば、この世界は番外編――といった所か」 「番外編……」 「ボーナストラック、あるいは二次創作か。あくまで喩えでしかないが。どこまでも不条理でありながら、それが許されてしまう世界。むしろその不条理でこそ成り立ってしまっている世界。……ふん、不条理で話が成り立つたあ、条理が聞いて呆れるね。まあ要するに、ここは本来の世界とは少々ずれた場所にある世界だってことだ。物理的にも観念的にもな。この物語は別世界での出来事です、本編とは全く関係ございません――ってか」 「…………」 「俺は既に、因果から追放を受けた身だからな――――本来、こうして俺に役割らしい役割が与えられていること自体が、そもそもおかしいのさ。絶対不変の因果とは無関係の所で進められているイレギュラーの物語、というのが、この世界に対する俺の見解だ」 「……よく、分からないですけど」 「分からんでもいいさ。どのみち仮説でしかないのだからな。合っていようがいまいが、そんなことは同じことだ」 ここまで喋っておいて「そんなことは同じこと」と締めるこの神経。やはり掴みどころが見えない。 「最後まで生き残れば、どんな願いも叶える――と言ってましたよね」 「ああ、言っていたな」 「あなたには、何か決まった願い事があるんですか?」 「『何か決まった願い事が』。ふん、願い事ねえ。まあ、あるといえば数えきれない程にあるが――」 狐面の男は、何か遠くものを見るように、顔を少し上げる。 「まずはこの、ふざけた遊びを企画したっていう、水倉神檎とかいう人間――そいつに御目見え願いたい」 「…………」 真剣、に感じた。 声も、恐らくは狐面の下の表情も。 「番外とはいえ、こんな愉快な催し物を実行しちまうようなイカレた存在がいると知って、それをむざむざ放っておく手はねえ。俺は神様なんざ毫ほども信じちゃあいないが、それに限りなく近い存在くらいならあってもいいと考えている。ある意味、俺がそうなろうと しているようなものだからな……ひょっとしたら、その水倉神檎こそがまさにそれなのかもしれん。可能性のひとつとして想像してはいたが、物語の外側に立つために最も手っ取り早いのは、世界の内部に働きかけることよりも、直接外側にアプローチをかけることだ。『既に外側に立っている人間に手引きをしてもらうこと』――くっくっく、馬鹿臭え程に単純だが、これほど確実で楽な方法も他に無え。これぞまさしく、裏技ってわけだ」 独り言のような、胡乱な言葉の漏出。 というか、後半は完全に独り言のように聞こえた。 不審がる羽川に気をとめる様子もなく、意味の分からない――意味の通じない言葉を、仮面の裏から発し続ける。 まるで、狂人のように。 「…………っ!」 じりじりじりじりじり。 雑音。意識の壁を叩く雑音。 また――あの感覚が来る。 「……ん、どうした」 「あ、いえ――つまりあなたは」羽川は言う。「あなたは、この闘いに乗る、ということですね」 「ん? ああ、まあそういうことになるな。生き残らなければ、願い事もへったくれもねえからな。それが最低条件だ」 殺し合いですよ、という羽川の言葉に対し、殺し合いだな、と淡白に返す狐面の男。 何を今更、とでも言いたげな口調で。 「どうした、怖気づいたか」 じりじりじりじりじり。 羽川は、視界が暗転しそうになるのを寸前で堪えた。 「さっきも言ったが、ここでそういう甘さはお前の寿命を縮める以外に何の役にも立たんぜ。こりゃあ、今のお前に言っても詮無きことだろうが――」 仮面越しにでも分かるくらいの重圧が、まっすぐに羽川を捕える。 「俺の見る限り、お前はそれなりに面白い。素質がある、資質がある、天稟がある。『怪異』の話とはまた別の、世界と関わりを持つに足る素質をな。ただお前には少々、その自覚が足りなさすぎる。今のお前は精々、一般人の尺度からしてしか特殊性を認めることができない程度だ。この世界でその程度の才能は、容易く喰われる」 「………………こ、」 「その素質の活かし方を――お前自身の使い方を、俺がサポートしてやる。強制する気はねえが、俺と一緒にいる限り、お前の身の安全はある程度保証してやるぜ。言っておくが、今のお前が一人で生き残れると思うな。戦闘能力云々の問題じゃねえ。お前に必要なのは、言うなれば――」 びくん。 と、弾かれたように立ち上がる羽川。 「――――殺せば」 じりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじり。 雑音が脳を侵食していく。 精神を支配される感覚。 魂を操られる感覚。 「殺せばいいんですね」 「……あん?」 「殺せば、それでいいんですね?」 羽川の豹変に、狐面の男は一瞬訝んだ様子を見せたが、すぐに「ああ、そうだ」と返した。 「ここでは、それが正しい。それこそが正答であり、正当だ」 「わかりました」こくり、と虚ろにうなずく羽川。「それでいいなら、そうします」 それでいいなら、そうします。 羽川はしばらくその言葉だけをぶつぶつと繰り返していたが、ふいに糸の切れた人形のように、ぺたりと座りこむ。 黒色の袴が、畳の上にふわりと広がった。 「……阿良々木くんが」 「うん?」 「阿良々木くんが――どこかに」 「阿良々木……ああ、お前の知り合いか。そいつもここに来てるんだな?」 無言で頷く羽川。 「やれやれ……甘さは命取りっつってる側から身内の心配か。まあいい、仲間が増えるに越したこたないからな。そいつもついでに探すか。……ああそうだ、羽川翼。お前、これを使え」 部屋の隅、指さした先で眠ったように佇んでいる和装の人形。 「刀を扱ったことがないというなら、その日本刀は無闇に使わんほうがいい。むしろこっちの――なんつったかな……ああ、微刀『釵』だかの方が、お前には合っているはずだ」 狐面の男が指示を出すと、人形――微刀『釵』は、ゆっくりとした歩調で羽川の前まで歩いてきた。 「当面のお前の役割は、そいつを使って俺と、お前自身を守ることだ。繰り返し言うが、あらゆる手段を行使することを迷うな。ここで通用するような常識はないと考えろ。非常識に染まることを覚えろ」 お前にはその素質がある。 そう言って立ち上がり、襖を大きく開け放つ。 「行くぞ。いつまでもここで寛いでいるわけにはいかん。番外編は短期決戦と、相場は決まっているからな」 草履を履き、正面玄関に向けて歩き出す狐面の男を、羽川が静かに追っていく。 虚ろな表情で。 定まらぬ足取りで。 さながら、人形のように。 「阿良々木……くん…………」 右手に携えられた日本刀が、かちりと鍔鳴りの音を立てる。 時計の針が、ちょうど一の時刻を示していた。 【1日目 深夜 西東診療所 F-8】 【西東天@戯言シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品1 [思考] 基本 遊ぶ 1 十三階段再結成 2 闘いに勝ち抜き、水倉神檎に会う 3 羽川の使いようを模索する。 【羽川翼@物語シリーズ】 [状態]健康 精神的に不安定(時宮時刻の想操術により半自我喪失状態) [装備] 斬刀『鈍』@刀語シリーズ、微刀『釵』@刀語シリーズ、巫女装束@刀語シリーズ [道具]支給品一式、ランダム支給品1~2 [思考] 基本 阿良々木君を助ける 1 西東天についていく 2 西東天の言う通りに動く ※微刀『釵』は所有者の命令通りに動きます。 ※操想術による影響は受けていますが、まだ完全に発動しているわけではない様子です。 ※羽川はまだ猫耳しか出てませんが、何かのきっかけで完全にブラック羽川になるかもしれません。 021← 022 →023 ← 追跡表 → ― 羽川翼 ― ― 西東天 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/92.html
【戯言シリーズ】からの出典 エリミネイター00 神原駿河に支給。 西条玉藻が持っていた大きなナイフ。作者曰く「滅茶苦茶格好いい」。 ジェリコ941 式岸軋騎に支給。 旧チェコ・スロバキア製のCz−75のクローン拳銃。戯言遣いが宇瀬美幸から入手した物。曰く「カウボーイ・ビバップ」のキャラ・スパイクが使っていたものらしい。 グリフォン・ハードカスタム 玖渚友に支給。 西条玉藻が持っていた大きなナイフ。作者曰く「滅茶苦茶格好いい」。 ボウガン 左右田右衛門左衛門に支給。
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/20.html
ボルトキープの再開 ◆ ◆ ――音は全てを支配する。 世界を、時間を、空白を。 絶望を、思想を、感覚を。 機会を、景色を、星々を。 了解を、殺戮を、指先を。 過去を、契機を、順番を。 知識を、蒙昧を、恋愛を。 人間を、人間を、人間を。 曲がることなく、支配する―― ◆ ◆ そして。 そして、その部屋に余韻だけが残った。 ついさっきまで演奏されていた、音楽の残滓だ。 文字通り鼓膜を太鼓にするような、つまり耳の中で演奏された様な、そんな錯覚さえ抱いてしまう音楽である。 びりびり、とは違う。 ぶるぶる、とも違う。 強いていうならば、いんいん、と。または深々と、といった具合にその音楽は演奏されていた。 だがそれはもう無い。 無いのである。 終わったのだ。 後に残されたのは、僅かばかりにそれを匂わせる余韻だけだった。 余韻だけが、その部屋に響いている。 いんいん、と。 深々、と。 だが、あるいは、もしこの場面に、たった今に聴衆が来たと仮定するのならば、その人々はこう言うだろう。 ――余韻? 冗談じゃない、これが演奏なんだろう? そんな風に言うに違いない。 そんな風に言わせるに違いない。 この余韻は。 ひょっとしたら、本演奏を聴いていた人間でさえも、まだ演奏の最中なんじゃないか、と思わせてしまうに違いない。 それだけ、それだけこの余韻は、 「悪くない」 そう、悪くない。 響く感じが。 浸透する感じが。 まるで体が水を吸うスポンジになった様な気がして。 心や感情の波が凪いでいく。 意思が平静になっていく。 これが音楽の醍醐味か。 心に作用するそれ。 だから。 だから。 そう、本当に、 「――悪くない」 これを再び行う事が出来たのならば。 これを再び感じる事が出来たのならば。 零崎一賊の一人であり、また三天王の一角。 『少女趣味』、そう呼ばれた少女限定の殺人鬼。 つまりはこの零崎曲識――生き返るのも、そう悪くない。 女性を思わせるウェーブのかかった長髪が、背中と前後になって、腰掛ける椅子の背もたれを挟んでいる。普段着にして戦闘服でもある燕尾服は皺一つない。日常的に着ていれば自然と身に付く座り方だった。 仰向けになる様にして、端正な顔立ちが、その一室の天井を見上げている。 曲識は喋らない。 余韻は響いている。 それが終わるのを待っているのか。 曲識は喋らない。 事実、彼の薄い唇が開いたのは、余韻が終わって数秒後だった。 「殺し合い」 零崎曲識という人間は、否、殺人鬼は音使いである。 それも催眠効果も衝撃波も、時と場合によっては楽器を武器にする事も出来る、音を使ったプレイヤーとしては異常と言っても良い実力の持ち主である。 だからこそ、その美声は、武器として磨き上げられたものなのだ。 声である以上、さっきまで演奏されていた音楽ほどではない。しかしそれでも、聴いてしまえば聞き惚れる、聴き続ければうっとりしてしまう、それこそ楽器と呼ぶに値する音色なのである。 「バトルロワイアル、総当たり戦、虐殺、謀略、謀殺、裏切りと友情……それが、僕に押し付けられた現状」 つらつらと、美声に似合わぬ殺伐とした単語を並べる曲識であった。 「だが零崎一賊である僕にとってそれは元より日常的なものであり、それを押し付けられたのだと言っても、悪くない」 だからそれは気にならない。 気になる事は別にあるのだ。 曲識がらしくもなく取り乱し、今の今まで鎮静効果の音楽で感情を抑えた、それだけの事実がある。 まず第一に、 「どうして僕はここにいるのだろう」 敢えてここで注意させて頂きたい事であるが、まかり間違ってもこの言葉は、彼が殺し合いの場にいる事に困惑しているのではない。これまでの彼の挙動と地の文を読めば、賢明な読者諸君は言うまでもないだろう。 だからこれは、どうして自分が生きてこの場にいるのだろうか、という意味なのだ。 「僕は確かに死んだ」 覚えている。 忘れる筈が無い。 死んだ瞬間だから、なんて安っぽい理由じゃない。 死ぬ寸前に彼女が現れてくれたからだ。 そんな彼女が自分を殺してくれたからだ。 赤過ぎるほどに赤い彼女が。 《人類最強》 哀川潤。 彼女が、殺してくれたから。 だというのに。 どうして。 どうして。 ああそうだとも、どうして、 「どうして僕は……生きてしまっている?」 あそこで死んだから。 あそこで死ねたから。 だから僕は。 だからこそ僕が――零崎曲識だというのに! 「……………………」 心当たりは、ある。 どうして自分が生きているのか、その心当たりが。 その言葉を真に受けるなら、だが。 死んでも生き返らせる事が出来ると言った、その言葉を真に受けるなら。 あいつの言った事を信じるのだとしたら、だが、曲識はとある理由によって信じる事にしている。 故に、こう言える。 それが出来る存在を一人だけ知っている、と。 「水倉神檎」 あの光だらけの部屋で、何十人も集められた部屋で、魔法なる力で自分達の身動きを封じて、影谷蛇之なる人間の口を借りて自分達に殺し合いを押し付けた――およそ人と思えぬ、何か。 殺す事も。 生かす事も。 生き返らせる事も。 出来ると言った何か。 曲識も暴力の世界に身を置いて長いが、水倉神檎という名前は過分にして聞いた事が無い。だがそれでも曲識は彼の言った事を信じている。 それは、あの時聞いた水倉神檎の声にそれだけの力を感じたから。 ではない。 「アスと……レンがいた」 あの部屋にいた人間は、どうやら面識のある者同士である程度まとめられていたらしい。見せしめの様に殺された奇抜な衣装の集団、彼等と同じ様に、自分の周囲には同じ集団に属する者達が立っていた。 それがアス、『愚神崇拝』ことシームレスバイアスと呼ばれる零崎軋識である。 それがレン、『自殺志願』ことマインドレンデルと呼ばれる零崎双識である。 二人は、『少女趣味』ことボルトキープとしてトキと呼ばれる自分も含め、零崎三天王と呼ばれるプレイヤーである。また血ならぬ流血を分けた『家賊』であり、他の零崎と一線を引く本当の意味で家族だった。 そんな二人が、あの部屋にいたのだ。 軋識は、まあ良い。 彼は曲識が死なせない為に逃がしたのだ。その代わりに曲識は死んだが、哀川潤と再会出来たのだからそれは悪くない。彼があの部屋にいたのは、逃げた後に水倉神檎に捕まったとも考えられる。 問題は、双識が生きてあの場所にいた事だ。 「僕はお前が死んだと思っていたよ」 橙色の暴力。 軋識がそう称した、まるで哀川潤のようなそれに、零崎一賊の殆どが殺された。それから逃がす為に自分は戦い、軋識を逃がした。 だがその時、双識は現れなかった。 零崎一賊の長男、実質的なリーダー、零崎で唯一『人間としての名前』を持たない、最も零崎という家賊を愛する男。そんな男が『橙色の暴力』の時には現れなかった。 だから曲識は、あれが現れる以前にどこかで死んだのだと思ったし、軋識もそう思っていたらしかった。 「けれども、生きていた」 零崎双識は生きていた。 生きてあの部屋にいた。 もしも水倉神檎が人を生き返らせられないなら、双識は生きていたにも関わらず、零崎一賊の危機に現れなかったという事になる。家賊の危機に何も行動しなかったという事になる。 零崎双識という、あの男が。 それは認められない事で。 同時に有り得ない事だった。 だから曲識は、自分がこうして生きている事と合わせ、それらを理由にして水倉神檎の言葉を信じている。 水倉神檎。 奴には、人を生かすも殺すも、生き返らすも出来るのである、と。 そして、それ故に曲識は遂行すべき目的が生じるのであった。 「レンとアスが死ぬとは思わない」 だが、 「だからと言って彼等の危機を放置するほど……僕の性根は、悪くない」 ランドセルランドの時の様に。 双識が匂宮の分家に狙われた、時の様に。 たとえ家賊の安全を確信していたとしても、その危機を放置するほど曲識の心は――鬼ではない。 それに、まだあるのだ。 曲識には、もう一つやりたい事がある。 第二の、または、第一の目標が。 「……彼女が」 いたんだ。 「彼女が」 あの部屋に。 「哀川潤」 見たんだ。 双識や軋識ほど近くはない、だが確かに、彼女の姿を見たのだ。 自分を殺してくれた、大人になった彼女の姿を。 《人類最強》、その赤過ぎるほどに赤い赤を。 「……彼女も、この殺し合いに」 巻き込まれているのだろう。あの場所にいたという事は。 彼女が死ぬ、その未来は、双識や軋識以上に想像出来ないものだ。勿論、だからと言って彼女の危機を見過ごすつもりはないが。 だからこその、もう一つの目的だ。 「会いたい」 哀川潤と、再会する。 双識と軋識、それに加えて彼女も探す。 それこそが。 生き返ってしまった。 自分に出来る事、するべき事、だ。 「哀川潤」 再び曲識は呟く。 哀川潤。 哀川潤。 哀川潤。 哀川潤! 《人類最強》、そう呼ばれる彼女だが、だが曲識が始めたあった時はまだそう呼ばれていなかった。それどころか、自分の名前すらも持っていないようですらあった。 しかし、後に彼女が《人類最強》哀川潤という名前を手に入れた、それを知った時。 ああ、そうだろうな。 彼女ならそれもありだろう。 そう思った。 そう思えるだけの少女だった。 それでこそが、 「哀川潤」 だから曲識は、少女しか殺さない事を決意した。 彼女を。 彼女の鮮烈な赤を。 自分の深い所に刻んだから。 零崎一賊唯一の菜食主義者、『逃げの曲識』、《少女趣味》。 どう呼ばれようと気にならなかった。 「そうだとも」 僕が生きているのなら。 君が生きているのなら。 僕と君が、離れ離れなら。 ああ、そうだとも。 「《少女趣味》に戻るのも――悪くない」 僕か。 君か。 死が二人を分つまで。 少女だけを殺すのも悪くない。 「レン。アス。哀川潤」 君達を探す。 彼等と合流する。 彼女と、再会する。 それこそが曲識という生き返った殺人鬼の目的――! ああ本当に、 「――悪くない!」 だから曲識は出発する事にした。 だから動き出す事にした。 だから席を立った。 だから。 だから。 だから。 だからだからだから、だからこそ――このピアノバー・クラッシュクラシックを出ていく事にした。 「やはりこれも……水倉神檎の力と納得するべきなのだろうな」 曲識が音楽家として手に入れた、念願の居城。 そして今、あの光だらけの部屋から送られた先でもあった。 視界の先にあるドア、その向こう側がクラッシュ・クラシックのあるあの街だとは思っていない。人間を蘇生したり瞬間移動させたり出来る存在だ、建物をまるごと別の場所に移す事ぐらい出来るのだろう。 人が生き返るのも、瞬間移動されるのも、自分の居城が何故かここにあるのも、全てが異常事態だ。 「しかし僕は……返す返すも零崎だ」 殺し合いは日常。 殺人は本能。 人を見たら殺そうと思え。 押し付けであっても悪くはない。 曲識は席を立ち、視界の先にあるクラッシュ・クラシックのドアへと歩み寄っていく。 先ほどまで使用していたグランドピアノ、鍵盤を隠す蓋の下ろされた巨大な黒い塊を背後にして、席を立ったのだ。 革靴の固い足音が連発する中、ふと曲識は思う。 「……そういえば、人識はいるのだろうか」 それは自分と同様に零崎に属する殺人鬼、しかし曲識達とは一線を画する少年だった。顔の半分に入れ墨を入れ、髪をまだら模様に染めた風貌。双識が弟としてやたら構うので、曲識は彼と付き合いがあった。 「僕がいて、レンがいて、アスがいて、哀川潤もいて……ならば人識がいても悪くはない」 あの部屋にいた時は魔法なる力で身動きを封じられていたため、誰がいたのかまでは正確に把握しているわけではない。ただ、偶然なのか図られたのか、三人は見えたが人識の姿は確認出来なかった。 だから、ひょっとしたら人識がいるかもな、とは思う。 「いるのなら、助けてやるのも悪くない」 曲識にとって、家賊として適用されるのは双識と軋識だけで、人識はそれほどの重要人物ではない。 ただだからと言って見捨てるほどの間柄ではないし、死ねば双識も何か思うだろう。ならば、いるという確証があった上で余裕があるならば、ついでに助けてやるのも悪くない。 「最後に見た……あいつの変わり様にも思う所があるしな」 と、言った言葉が反響して顔面に返ってきた。 元々大して長くもない道のりだ、曲識の目の前にクラッシュ・クラシックのドアがある。考えている間に到達したらしい。 「この向こうが、殺し会いの場か」 あの部屋にいた人間、正確には把握出来ないが、およそで50人前後といったところだろうか。 見せしめに殺された奇抜な格好の集団、忍者であるらしい彼等の生き残りもそれなりに出来るプレイヤーに見えたし、加えてここには零崎一賊三天王が勢揃いしている。 水倉神檎は制限や支給品があると言ったが、その程度で覆るなら世界は4つに分かれない、曲識はそう思う。 「誰も死ななければ皆殺し、か。だからと言って僕は主義を曲げるつもりは無いが……まあ、もう誰かが死んでいても可笑しくはないだろうな」 ただまあ、 「念の為……少女がいたら一人ぐらい殺しておくとしよう」 うん。 「零崎を始めるのも、悪くない」 そして。 零崎曲識という名の、『少女趣味』と呼ばれるその殺人鬼は。 ピアノバー・クラッシュクラシックのドアノブを握り、その扉を開いた。 ――その向こうに誰がいるのか、それは定かではない。 【1日目 深夜 H-6 ピアノバー・クラッシュクラシックの中】 【零崎曲識@零崎一賊シリーズ】 [状態]健康 [装備]無し [道具]支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考] 基本 他の零崎一賊と合流する、哀川潤と再会する 1 とりあえず双識と軋識を探す 2 出来る限り哀川潤と再会したい 3 人識がいる場合、余裕があれば合流する 哀川潤と再会(または自分か彼女が死亡)するまで、少女しか殺さない決意をしています。少女の定義は後の書き手さんに任せます 自分や零崎双識は水倉神檎に蘇生されたものと考えています 零崎人識がいる事を知りませんが、参加している可能性はある、とは思っています 006← 007 →008 ← 追跡表 → ― 零崎曲識 ―