約 29,776 件
https://w.atwiki.jp/jojoaa/pages/1217.html
第四部キャラクター一覧へ /7_ /__ﾆ} /二/ ＿_ . / / _,/}__}｛＼ 今…ちょっと . ／ /＿{ｌ{＼＿___} 『用』をたしたものでね… {_ ノ/} =}ｌ〔{＼___／} 人 }=ﾉ /{fｺノﾘ￣ ここ…『トイレ』なんだ… {＼／ /⌒__／}＼ てっぺんに雨水を貯める {＿ ｛ 〕 ∧ 『貯水カン』があってね （__ ￣＼ ∨ ＼ } ＿__｝ //⌒ ｝ その水で今 ＼(￣￣}___/ ／／ 洗い流したところなんだ {￣}／´／ {_}／ 厂{ { ／人_ノ-} } -{ { ＼}//＼ _／ﾆ/{_,ﾉ ∧ ＼ (___／ { ∧ /∧ 八 /⌒＼} ∧ ＼/{ }___,厂￣} （￣乂＿ノ}＼{_{＿ﾉ } } } } / ／ / }-／ . / ／/ 人 /--{ }{____/{ﾆ＼＼_ {＿/ ‐-=ﾆﾆ) /{__∧ 乂＿ﾉ , ＜´/ ｀＞ ､ イ ( し'／⌒ﾊ ─ｧ ﾉ ／ ／/ } ノ,r ' __｀´_, '⌒/､ ノ ノ ___／|. ｰ/ 〉 ／r' ／ﾉ ﾉ / /ヽ だから言ったじゃあないか ／ { {／／O } 「フンニョー」がぶっかかるよ！ イ´ ヽ∧イOｲ ／}- ノ , -, ｲ/ {ｰ‐ァ'∠i}＼ _∠ィf＿|＼__,ィ´_」- _ノ ＼_r─‐へ__ノ＼ ｺﾋ , 人 IIIII「 ', ´フ､ ＞イ ＼.二)､ ', } ＼ (| ＞-----≧r===r≦ ヽ ﾄ､ |＼ ￣}ノノ/￣＼廴}ヽ (| ＞ ､ ／ ＞--ﾊ ∨// ｀¨¨¨¨¨¨´ヽ ＿_ } V x≦三三ﾐヽ| , -======- ､ ／）＞----------＼ . ／ ／ ﾉ /⌒} ） { （ } 土地は違うがね… . / ／（ （{／／￣￣｝＼_)_{ {/ {／／＿＿＿/ ﾉ } 〉 だがね… 乂__／／∠_ くf歪ﾉ￣{_/⌒} クズ鉄として売ったんだろうが /{＼_くf歹} ┼ ）_ノ 人が住み始めると {__＼ﾉ キ ヽ ┼ |￣{＼ 「居住権」と言ってね { ＼ｷ _frケ´ | | ﾉニ}__ ーﾍ ｰ＜ | /ｲﾆニ{ }__ 出ていけと言っても ＼(____)／{ ]ﾆﾆ/ }_ 誰もわたしを追い出す事は ＿／（ﾆﾆ{ ∨ニ/ ｀＞ ､ できなくなっているんだよ ｛_/ }ﾆﾆ} /ﾆ / ／⌒ヽ . / / /ニノ /_／ ／ニニニ ｛l/ ／O≧====彡 ／ニニニﾆﾆ / /() O ／ニニニニﾆﾆ { ｛ //ハV ィ７/ニ／￣￣￣￣ (￣￣￣）‐ｧ＼＼C) 〈 ｛--/ヲ//{ﾆ/ ノ ====≦「__ } ｀＼ V￣ {ノ///{_{ ） ＿＿＿＿）〈 ｝} ￣￣￣ { 〉 } ＼ } // 人 ∠二二二ｊ二l＞ ､ //￣￣￣ ＞､＼-､＼ /{／,二 二二 ﾉ}ﾆ.|! ﾄ､'， ﾄ､＼tｧへ 弋夕 く_ノ } }}}}ﾊ ー/く_ 十 _〉ァく_ゝ一} ／）[r=､ 土 / ｰ'ｨII }_／ / /} (｀¨¨ / / ,r一'ノ 厶-く ! / /)￣} _ｊ ---､)､三ヽ.＿_∠/＿_|＼ } ---､ﾉｰ＼／ i´」 / ＿＿ 「 ＿ﾉ |/ ｊ」 ＞ ´ｲ´ ｀ヽ __f´{ ﾉ /{_／/／ ／ ∧ ／ ＞ｲ） /＿_／ / ／￣￣￣｀ヽ ∧ / ／⌒ｰｭ____／)｀´￣rﾐ／ （__| | / /. V } ／ ／! //ヽU／}}川ノ' { ＼ } ,' ! , '´ ／||ﾖ|/ // 〉-/､ノ/／ | /. ﾉ. /イ ｊ. | ||(!! ＿〈〈 ノ-'-､)/´ _} 〉 ／_,ノ/ { j ||(||ﾆヽヽヽ/◎ﾆﾆ} ／ ｀¨¨¨}´ / / | /イ || || } } Y ﾉく }/ / ／／ ／ ＿__ f/ l|l∧l| 帰 い ｜ ＿＿)_ノ C==} }l} れ い | C==D イ｀ヽノl|ﾊ っ っ .| ＿＿, ＜´/_Gノ { /}/| た た ｜ イ_Gﾉ/ !ニ ｺ |ﾉ} ら ら | 」L ､_〉 ニ ｺl|lﾉ ッ ！ .| コ[_ ,r===､ l | .|ﾄ､ ！ .| ] [ {_r'⌒i-!.∪ ﾊ∧ ｜ ＼ U | l___.ﾉ | /| /| ｜ ｀＞/⌒ヽニｨ / l!//} ,' ∧ V___/ ｌ|// ∧ _ノ⌒ｰ∧___ノ{＿ V＿__. /⌒ヽ ∨ ＼｀¨¨´ {|ﾊ / ', ∧ ∨ ￣￣｀ ＜ﾚf´_) } .∧＿__ﾉ ﾉ＼ ノ r─r─＜二≧ .,_ . /ノ二二二二ﾉ＼ｒくﾉ＞､ オレが「出る」事だけを /／rfタラ人_____.ノ⌒}ノ⌒＼ 考えていたという事は… . _/ノ ￣┼ く}}ﾘ }＼Y⌒} ∧ - .┼ r＿_／ }ﾊ_ノ} {__{ _r一 } } __{__ノ__}_／ . ∧/⌒ ___.}＿___}／二ﾆﾆ／ } ／///// /二ニﾆ／ 人（/////// {ニニ// ｀＞＜/// ＼ニ/／⌒) くﾆﾆ＼＿__ (_)ｲ ／ ／＼／ﾆニ｀＞=彡 ／／／ {ﾆﾆﾆ/ { {-ﾉ .人ﾆﾆ{ __,... ＜´⌒＼ , ＜⌒ヽ ⊂ﾆﾆつ) { ＼ そいつを「出さない」方法を ／ ) ＿ノ ＿＿）ﾉ} ノ二）＼ 考えていたという事だッ！！ ） ﾉ {⌒) （ （ 八___＼ﾉハ (＿ しく _ノ _ノ ⊂...ノ）ノ } ､ { { { (r─┐ ,. イ /＼r=====ミ ( ﾉ⌒／}ﾉ/ﾊ { { 人 ｀¨¨¨¨¨¨´ /＿ノ /￣ヽ {＼＿＞ ..,＿＿＿____／_}/ ￣∨￣ヽV＿/ 人＿{__{ﾆ人_ﾓﾘﾌﾆﾆくﾓﾘﾉ }ヽ[_]∧[__]//V 八 ∧ ┼ ∨ ニﾘ Vﾍ }ミ}/V / /Ｖ∧ ┼ ___ /.ｨ ﾆ/ Vﾍ}斗─‐┐ ∨ ＼ {⌒}-{ ./ }ﾉ(／ ＿__ ｀ヽ ＼ﾆ＼ 弋___ノ/ /} } ｧ＜´ __ ﾉ ＼ｍ} (__)＞r一' ／}(__,..斗＜´ _） ＞(_)∠ ／ } }＼ └ ┘}└┬r─ }＼ /{ﾆ}ヽ ﾉ }二＼ l} {-人ー─ ﾉ} ‘， (__)／}_／／ﾆﾆ二＼ //{ ＼ﾆﾆﾆﾆﾆﾉ } ニ{ ノ}// イニニニニニ＼}/ V /｀¨¨¨¨´ } ニ| (|/ニニニニニﾆﾆ/ / ＼ ／ ニ|_ノ|ニニニニニﾆﾆ/ / ｀ ｰ{＿__ノ ＿＿__ /⌒}{_厂＼＼ ＿ {_) __,/⌒V(＼＿__ ＿＿＿{__(_//ﾆ} }_／[(_厂＼ 逃げられるさ… ＿＿_／{_人＿＿_} {_{厂} }_{ （＼厂＼＼ 簡単にな！・・・・・・・ ／（__／} ／￣￣￣＼ __人_{＼＼} ｛_ﾉ} おめーらは『吉良吉影』だってどこ行ったか _/／⌒ _ﾉ ／ ／⌒}=／ﾆ {i) } （},ﾉ⌒} 見つられねーんじゃあねーのか？ _/⌒ / ＿_____／} /}/ﾆ 厂} （}_)_｛ﾉ / ]（_ ﾉ {_ r r} （}_／ . / ____](__／} ｛｛{_＼/⌒¨´ ／ ／＼ /{___／￣ ニニ __／ ／}(____ __/} ＿_ノ ／＼ _,]_/ ＿_ノ ＿＿__／}厂 } / } ＿＿___} } -/ ﾉ _人人_／ ／＿_／ ／{___／￣￣{ , -----､ ＼ ／ ｛ {___／＼ ）） . ／二二´ノ-----｛_ ／ __ ／O-----､} おまえらはオレの顔を ／ ／ {＼＿／ 二} } 見てはいない…… ／{___{＿_人＿ノ ┼ ＼ )) {⌒} }{ TIIIIﾄ. ┼ _ 名前だって偽名っぽくない？ ＼_＞＼＿__. ┼ '⌒｝ 「鋼田一豊大」ってよ 〈／￣＼≧=======ｧミ） ､ _厶===ミ ｰ───// }＼-､ } } ＿}ニニニﾆﾆ} r≦ﾆ{ { {_.ノノ 〉 ／´ {/ ￣￣＼二}__/} 人 }⌒ヽ / ＼ ＼＿ﾉ ＼／⌒ヽﾉ { ＿}／ } ﾉ＼＼ {ニニﾆ} ∧ } x ｀ヽ＼__ {ニニﾆ} | |＼ / 」 } ハ ＼ }⌒⌒{ { | ｲ } ﾉ}＼}/ { V} }≦´￣人.＼ﾉ | / ‘， ｌ| | ⌒ ＼__} ,' } ｌ| ,' ／￣}＼／人 ,' ｌ| / ﾉ＼. ＼ / ＿＿＿＿＿＿_ /⌒二二二二ニニ＼ /￣￣￣) ＼＿___} それじゃあ /(__}＼／⌒二ニ=┬─┘ ｛＿_}h-}／ ／￣￣￣＼ おれはこれでさよならするぜ V} {_ﾉ)_/ ＼} ＼ }__ｷ∨{ ／⌒}＼｝ ＼__ ﾌ_ /{ / / ＼____⌒＼ ｀(__{ {＼{__ ___/＼ -} ＼ { { ＼ { ＼__ﾉ＼ /∧ { / ∧ ＼ ＼-＼ /} ∨// //∧ ＼ ＼_ /}_ ＼_/ ＼ ＼ .／⌒} }＿_} ＼ ＼＿ } }hﾆ}＼ ／＼＿__ { } } }ﾆ＼ / }＼_,{ } }ニニ ┌‐＜＼＿_,／ ／ /∧ }ニニ ￣{＼ {=ニ}二ﾆ=- ´ ///∧ }ニニ ￣￣￣￣ /////∧＿_. }ニニ / /}ﾆニ}ﾉ -}＼_}ニニ ｛_／ /ﾆ二})ﾆ/=ニ}ニニ /ﾆﾆニ}_/=ﾆ∧}ニニ /=ﾆﾆ二}___／ }ニニ ＿＿＿＿＿ /_} } ） ＼ ／＿___} }￣￣{ } ／＿＿＿／ ＿＿＼ } ______ ／￣) )_人 } {二二二ニ=- } { _}__／⌒＼ ＼二ニ=-- /ﾆ{リ)＼ ＼ ＼ ＼ // ＼ ＼＿＿＿＿＿ {/ ＼ {＿⊂ﾆﾆ)__} 〈 r=ミ ｎ ＼＿＿＿＿＿＿ / |(）ﾆ＼ }＿＿／￣￣￣ き…きさま！ . // ┴─‐一 /〉 __／⌒＼ / 厂￣匚 _〕／ } } } } } ＼＼ 匚 _〕 __ノ ／ ┌┘ u 匚 _〕 ＿＿_____／ ／ } t‐ﾐ＼ ｎ // (＿＿＿＿,／ 八 ￣ //∩ /￣￣￣￣ /￣. 〈/ / { ＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 人＿＿__ --==ニニ二二二二二 ￣￣＼/⌒￣￣￣ -=ニ二 ＿_/ ／⌒/ . --=ニ二二二 ⌒＼ ／三三＞ . , イニニニニノﾆ＞ ..,＿_ ／ ／(x===== ミ≧＜｝ ｛ {＼ . / ∨／-､ニニ, --＼ (∨Y⌒ｿ∧ / // fフﾌ (ｆユｱ ＼ ∨⌒)＿} {ニ{ {__|__ { 」 __|＿ }l })／--ﾘ ﾆﾆｯ ∨ｌ{_}┼ _r==ミ_, ┼ ノ ┴くニ/ {⌒＼|┼ ｀￣´. ┼ | f爪ﾘ }／ ＼＿l{｜ ｀⌒´ | }＿＿／ (＼ ／⌒＼ ／ } ｝ ＼＿＿／ ⌒) }_r=ミ ／￣ ＼ ／ | ｀¨¨¨´/ ＼ ＿_＿ イ l| /, ＜´￣ ／´ --------- ､ ／ / ＼／ . { ∨ ／ { . ∧ { ＼ / { /⌒＼＿ . ／⌒{__厂＼/￣￣＼ ／｝ }＿_/ /ﾆ ∨＿_｝__}__ . /____ノ／/ /ﾆ= }＿＿＿__ {=二/}) / /二 } }ニニニニ {＿// /＼{___ _ﾉ }￣]＿＿ ／{）/_＼} } ｛__ﾉ ／ 狙いは良しッ！ __／ 人}{ﾆ}{-∧- ∨____// .._(___,／ 八)} -∧- ∨ // (＿_, -‐=ﾆ} ＼_ -∧- ∨ {=-- （二ﾆ=-‐ }__-_ﾉ} ∧ / ,{ . ￣]fﾉ , / //-/ └{ { {｛_/ 人____／⌒{／ / ／{__}/ / } . / {ニ=-- { 人 ＼＿ ＼ ／ ﾑ ｒｭ ＼ ／ {_} } / __ ﾏ ム, '´ﾌ . / Ｌ} _, ／ ／⌒＞-------/ / {__} r-､ / / / ｛ く ￣ / ム-､ / ＿.∨ x≦三三三三三＞ o ／／}} ∨ { ∨ ／´ o __／} ｛lﾉﾉ/ } | 人_イ o o o o x＜´_ }.ノ ) / ／ | ,二二l≧=======彡', ─┐} _ .イl{ { -rｭ} __ヽ{l / / ｒｭ ノ ｎ ｜ | | やりあきた「ビリヤード」のように ＼ 込､.｛ rｭ ヽ ￣ ⊂ コ | | | よーーく ＞ __ﾍ￣´liﾊ ⌒ヽ⊂ ⊃ | | } 知ってるんだぜェ～～～ッ ＼ ＼ｺ {__ｨ__ノﾌヽ | ｜l ,' / , ＜´ ￣￣￣￣￣￣ .｀ヽ､＼ヽ＼__´'⌒l. ﾚ / , ＜´ ＼＼ { L...ノ} ∧/ ＼＼ー一'ノ / {/ ｀＞二二´.r─‐ , ＼ ｀ー──≦´ ｀ ー─====== ／￣￣￣厂￣＼ { {￣￣ } } ＼＿＿__ . ＼＿)＿__／ ／ ___（ 〔 ＼ { ＼ / / / ___}___人___}＼ だから『バカめ』と言ったのさ… {=ニ＼{ { { {＿(＿／￣厂} ￣＼_ｘ‐く＼＿＿＿＿＿＿＿____ﾉ そこの『宇宙人』とかいう野郎が ( ＼＼C====C C==} けなげにも『鉄塔』に残るって ＼＼{ }ﾆ=- ＿＿＿____ﾉ 言ったんだから {＼) ＿/_〈___oﾉﾉ__ﾉ ﾉﾉ それを素直に聞いていれば { { { __/__ { 死なずに済んだものを… 人八. / r ＿_-＿{／)┐ ＼ --＼＼ ｀二ﾉ／ニﾌﾉ }_ﾉ￣___,ノ＼___}／ ﾉ}／￣￣) ＿___／} ＿＜m(__}_)_)／)￣ ＿＿／___厂{ ／⌒ ／ ￣￣{=ﾆﾆニ{＿______／ ___. ィﾆニ７≧x ／}_}/_/_____/_/ {＼ /／_ /ｲ_ｎ） ＼ ＼} ∧ ところで…？ ＿r┐ //(_r/ ‐┼‐∧__}__{-} ／{___|__| {_{/ r=ミ ‐┼‐{ r┬ }ﾉ-- だと？ ＿f´{イ(＿. } V∨.ﾚ'⌒ ‐┼‐{_）ﾉ ／ 7ニニヽ } r＜∧ '⌒ | ﾉ ／ }{___ /ニニ二}ｰ一' 人___ ∧ /⌒＼／／ ／⌒ 〉ー'⌒∨ ｀fニニﾆ/￣ / 〈 ｀７￣/ ﾉ . / 〉 ／⌒＞≦==={ _}{＿／ / ____／´￣￣｀＼/___／ 人 人__／/////／ . / ∧ ｀Y´ ＼／´￣￣￣-== { ∧ / {＿＿＿ ￣＼＿＿_ノ { ＼＿__ノ＼_／∨ ＼ 人 ) { ∨ ￣￣＼ ) ｛ / _｝ { } { {＿＿} 二/ /{ ＼／ ／ { } ＼＿＿＿＿{ ＼__/ //{ / ＼ ￣￣￣_ﾉ{ ／￣￣￣￣＼ ∨ /八/{/{/ . ＼{____／ ￣＼__,／ ∧ ∧. ∨=ニ＼_{_／ } ∧ } } }U{ } {人___ -} }＿_ ＼ ／ } ∧ } } く {＿ﾉ__|_/{ ＼ }_ﾉ }／⌒ ＼＿＿＿__／ } } }＼__//}___) | | {￣∨/} /￣ ／ } }＿} ＿／/} ─ _}__ノﾉ// }ニア } } __／／／ /八 ー一/___/--{ ＼ } /＼_{ } ／}二{ {/⌒V} }{/} /＼{￣ ＼ -＼ } //} { } ﾆ} }＿{/ { ー┤ / ／{ ￣￣￣￣＼ } /n} { {＿ﾉ/⌒{＼＿_／￣{ { ＼____}＿＿____／ 乂___/} .U⌒}U{ } U⌒} } } } ┌┼＜ . ＿ ／⌒V } ,＞ ‐┐ u ＼ ／／ハ }イ ／─=ﾆ二} ∨ ＼{ {三ｆ_} } | {/ﾘﾉｌ| |／￣｀}ノ} lｉ}＼___｛＼) l| ﾉ |￣￣}ﾉノ＿_ ） V }ﾉ ＿） rr=ﾉ{=ミｸ r==ミ u u __ / Ｖ{// { ＿／{ {ニニ}ｺl{ (・)})ｰノ .ﾉ }/ もうこの「鉄塔」の中に __／ｌi|/{ /＼ ／}/ﾆノｺ ≧一' rくﾉ 帰りたい… |-| ﾉ∧ V// ＿_ U __ rrｭ┐ﾉ ﾉ もう「鉄塔」から ｛li〉|-|≦// ∧ V ＼ﾆ＼ー＜}ｧ‐く} 出たいとは思わないよ… . V//-/lil} } U ∨=}_／ﾆ{ 彡 ⌒}li}_人＿}_,}⌒∨⌒} U U u ノイ {lil} }l{ } u ＼=- } } }li{ U {li) ,ﾉ l{⌒ }/} } ,人＿＿ イ__ 乂 _r.‐┐ / /}lililｉ{ ＿/ {ｒ ｭ}__ ﾉ}ilｎ| {⌒ { └‐/ }_ .／{ |ｌ|l ﾄ､ 〉ﾉ_/ / } /⌒ﾉｌ|l ／＼｀´ （_,／ /} /∨l{ ＿__}/⌒{_ ｎ |l / __ ＼ |_} 乂|/ ,ｲ´O} ∧ |ｎ「＼__ 何かおわびがしたいのです / └‐┘ ｰ ∧ く_人_}_}_} {＿ ＜⌒}キ /三｛ {＿_ﾉ__人 スズメでも捕まえましょうか？ 〈 ｲTT(_＼ｊ.キ ｀´ '⌒ヽ ∨ﾆﾆ∧ ｰ─┬─ 二二≧┘ ∨￣ ヽ {_r======ミ_） 〉 ∧ ノ ＼ 人＿＿__ 人 ∧ /´ =======＜ ＼ ＼──＼__,ノ ∧ . / ／'⌒＼. ＼ ＼} ｝ { /==-- ∨ } ／イ￣ ∨｛ }＼ }__ノ￣￣ ∨＼_ __ノ ＼__ノ ∧ . ∨ ＼ ＼YT ﾉ ∨ ＼ }ｰハ ｎ-- ､ ＼ ＼ ＼__}＿ { ｀ 〉 ＼ ＼ ( ＼＿＿ノ⌒ヽ/ }＿ﾉ￣＼ {ニﾆ／ |￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣| | 杜王町新名物 その⑤ ｜ | 『送電鉄塔に住む男』 ｜ | すべてを自給自足で生活しているが | | 塩とかお菓子を持っていくと喜んで | | 写真を撮らせてくれる | | ｜ | ───恥ずかしがり屋なので仮面をかぶり ｜ | 本名は教えてくれない | |＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿| ､__人---､/⌒ヽ ＿) __ （{// |/{{ (_n}メ イ⌒ 人(r} ,ｨｱ／⌒ヽ---､ {＼/ ./ | | } } ＼ ￣{__{ 人ﾉ ﾉノ ﾉ} ＼ { ＼ ／ }＼__／ } ﾉ { { } } } 人{ ﾉく人 /} /} { } ///} 〉 .ﾄ､ ＼ /〈 ､ﾉ / }＼＿____∨ { }l||ニ〈oV/ { .ｲ_||ﾆﾆ ＼＼ } /ﾆﾆ||ニニﾆ＼＼ . ∧__/ ニﾆ||ニニニﾆ(_ﾉ /二/ 二二||ニニﾆ／ {￣ }ﾆニ二||ニニ/ / { {ﾆ二 } } |∨⌒ { {⌒＼ } }／ ＼ト| ∠) （__ﾉ／￣￣￣ ＿_） ＿_ ＿ ／{ | ＿ { G }{ｎ_} / /{ 人| | { { {_／ / { . |∧{ {//{ 人rｚ} ： {//{ ￣＼{ {/八 ＼__{ ｛＼_ 人_／}{＼ ＿_/{_____ /l{ } ／ ＼ {7{ { ： ： ： }. {/{ { ： ： ： } 八_{ { ： ： ： ﾉ { ＼＿＿＿__／ ∨ ∨ } } ＿_,／[___,_,_ /＼ノ⌒}⌒ '⌒＼ /／}_／]ﾉ ／ ｝ }_____ 「始末した」 /-=/____ くrモぅｧ ／ ￣} と言っていました {__xぅ} └ｰく__|/ く} }〉 } }ー〈_ , ﾆ|ﾆ )ﾉ ﾉ 今朝… 人 ＿＿＿r‐|＿{（__／ 新手の『スタンド使い』が… {こ} 〕ﾆ=-‐ '"⌒Y⌒人 ￣{_ ________／___／/ ＼＿＿ ｛＿___／／⌒/ ／￣￣￣＼ {＿{ /_／ ‘， /＼/ { }、 . / ／ { /∧ ／{/ }{_ ＼____ ∧/∧ / ／{ }{ 厂 /⌒＼＿_／/ }//∧ { / _ﾉ } --} {/{ }{___／{ { ﾉ ﾉ ∧{＿／⌒}{ { { } } /{ / { ＿___,{ { ﾉ / { 人 _,ノ⌒ /∧ { { / { ＼ ∧. }/ { { 人 / } } }. /＼ / / / } ↑一番上に戻る
https://w.atwiki.jp/justicerowa/pages/106.html
金田一一 4 (4) No 登場話題名 作者名 010 detective work ◆jtfCe9.SeY 037 金田一少年の冒険 ◆EHL1KrXeAU 057 悲秘喜奇交交イン･ホスピタル ◆GOn9rNo1ts 073 舗装された分かれ道／名探偵は逃げ出した ◆2XEqsKa.CM 高遠遙一 5(5) No 登場話題名 作者名 020 とあるイカ娘の侵略目録《バトルロワイアル》 ◆tu4bghlMIw 047 仮面の下のバラッド ◆3VRdoXFH4I 054 淫妖烏 賊(前編)(後編) ◆2XEqsKa.CM 061 AN INNOCENT PEOPLE（前編）（後編） ◆KKid85tGwY 064 禁忌惹厄アフター・ラジオ（前編）（後編） ◆GOn9rNo1ts 七瀬美雪 1 (2) 007 悪夢のプレリュード ◆uBMOCQkEHY (055) ウェイン邸殺人事件 ～ゴッサムタワーは見ていた～ ◆KKid85tGwY 剣持勇 6(6) 000 より強き世界 ◆JR/R2C5uDs 024 20世紀中年 ◆wmEUUSe/E6 035 4人のイカれる男たち ◆JR/R2C5uDs 059 Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs 066 「勇ましく剣を持つもの」 ◆2RguXBg.P2 069 灼熱の赤が燃える ◆KQoCua90H .
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/13061.html
■フランダースの犬 絵コンテ 2 42 ■関連タイトル 廉価版 フランダースの犬 ファミリーセレクションDVDボックス
https://w.atwiki.jp/trivia-mike/pages/2383.html
じょーでんー 眼鏡のやつや。 芋はヒトミ。なんか臭いらしい。
https://w.atwiki.jp/seikouudoku/pages/35.html
一 銀座の百貨店富士屋の專務取締役藤田龍策氏の手帳には、女の名前ばかりが澤山書きつけられてゐた。それは藤田專務がかつて關係してゐたが、或はこれから何とかして手に入れようと考へてゐる女達の名前であつた。藤田專務は狙つてゐた女が手に入るや、その名前の上にくるりと丸をつける。さうして手が切れると、つうと棒で消してしまふのだつた。手帳にはもう随分澤山の名前が消されて並んでゐた。が流石の藤田專務も此の處一寸女に飽きが來てゐる樣子である。 女中など變にけんとしてゐて張合ひがなかつた。お手のものの女店員なども、どれも思つた程ではなかつた。例へばあの物靜かな山村ひさなどでも、寢物語に沁み沁みと彼女一家の暮向きの苦しいことなどを話されては、唯もう興覚めるばかりだつた。又あの二日がかりでやつと口説き落した勝氣な三代澤ユリの場合などでも、「その顔を見るのも嫌」と言ひながら眼をつむつた時、その鹿のやうなごりごりした脚を見ると「もういい。もういい」とさへ思つた位だつた。 で此處藤田專務の手帳は、女中山口八重十八歳と言うのが最後に消されたままになつてゐる。 「天に在ます我儕の父よ願くは兩名を尊崇させ給へアメン」 四谷のあの大通りのとある洋品屋の二階で、二人の親娘が、靜かに夕の祈りを祈つてゐた。電車の音、幾つものラヂオの聲、物賣りの呼聲、遠くに賣出しの樂隊の響。等等暮れ惱む巷の騒音の中で、それは透通るやうな清らかな姿だつた。母親の方はもう五十を越してゐよう。小さな眼鏡をかけて、その質素な服裝からか教師か何かかうさうした人を教え導くやうな職業のひとのやうな感じだつた。がそれはもつとよく見ればあやまりであつたと言ふことが判るであらう。それはさうした職業の婦人達が、自然と持つてゐる。又持つてゐなければならぬであらう、威嚴、否それ程でなくとも或る人に倚りかかつてゐないと言ふ固さ、關西で言ふしかつめらしい感じが一つもないのだつた。夕陽のやうな柔和な眼差し、いつも心持ち下向き加減の姿。それはどの日本の婦人もがさうであるやうに、親に從ひ、夫に從ひ、子に從ひながら、じつと世の荒波に耐へ忍んで來た人の姿だつた。が、この老婦人は夫が死病の床に倒れてから入つた深い信仰のために、一般の婦人達のやうに、老猫の如くぐちぐちと老い縮むだ姿ではなく、淸淸しい淸らかさを持つてゐるのだつた。娘の方は、それは又なんと言ふ美しさだらう。お白粉一つ塗つてゐないのに、顔は白い絹のやうに白かつた。切れの長い眼、形のいい鼻、さうしてそれは又なんと言ふ唇だらう。醫學上では、唇の紅いのは人間のみださうであるが、誰でも此の唇に於いてのみ、それを造物主に感謝しないではゐられなくなるだらう。背が高いので一寸氣がつかないが彼の女はまるで健康が滿ち溢れてでもゐるかのやうに、むしろ太つてゐる方だつた。俗謡に例へると、それは粗末な着物や化粧のないせゐででもあらうが、牡丹のやうな豪華でも、百合のやうな淸楚な感じでもなく、丁度芍藥の花のやうだつた。何の裝飾もないこの見すぼらしい六疊の部屋で、彼女は朝露に咲き出た白い芍藥の花のやうに美しかつた。二人は祈り終ると、靜かに頭を下げたまま、暫くじつと動かなかつた。 此の木崎光子は、母と三月程前に郷里から叔父を賴つて上京して來たのだつた。あの上野驛のごたごたの雑閙の中で、ニコニコした叔父の顔を見た時に、この愼み深い老婦人まで、「あつ！叔父さん」と思はず聲を立てた程、父の死後この親娘には、窮苦の日が、毎日毎日續いてゐた。あの時、あの優しい叔父の笑顔の中に、ありありと神の御姿を見ることが出來た。二人は神の御心の尊さに、唯もう感謝の祈りを捧げたのだつた。が、これ程賴りにして來た叔父の生活も、田舎で聞いてゐたのとは違つて、さうさう樂でないことがだんだん判つて來た。場所が場所だけに、客の出入りは相當あるのだが、賣れるものはどれもハンカチとか靴下と言つた小物ばかりだつた。この不幸な親娘への心遣ひから、二人の前ではめつたにこぼさない叔父も「デパートが、デパートが」と、よく言つた。又賣殘りの麥藁帽子を、あちらへ積み變へこちらへ積み變へしながら、「こんな年はない。ひどいことだ」などと、つい思はず愚痴を言ふのだつた。貧の苦勞とまでは行かなくとも、經濟上の苦しみと言ふものは、その家の人人がいかに押し隱さうとしてゐても、それはすぐ何處かで現はれるものなのだ。商人のやうに、金錢のことをいつも考へてゐる人人ならば、さうした家へ一歩足を踏み入れると、もう一番にそれを感じるものなのだ。家の何處かに、否全體に吐息のやうなものが漂うてゐるものだから、だから、光子親娘も軈てそれを感じない譯にはゆかなかつた。折角、たぐりつく思で賴つて來たこの叔父の家も、やはりそれは唯の假寢の宿にすぎなかつた。が、そんな安らかな所がこの世智辛い世の中に安安と轉がつてゐよう筈がなかつた。この老婦人は神の御心に甘え過ぎてゐた自分んを、深く恥ぢ入るのだつた。が若い光子には、人の世の苦しさ、さうして身の置き所もない自分達親娘、ひしひしと身に迫る不安を感じない譯には行かなかつた。 光子は今迄の臺所の手傳ひをよして、職業を探しに馴れぬ東京の街街を歩き廻つた。が、或る日キリスト教の或る宗團の社會事業部で、さうした望み手はもう一杯あるのだからいくら探しても無駄だらう、と言ふことを、物優しく、然しはつきりと教へられた。 「御老母も居られることだし。やはり田舎へお歸りになるのが一番いいやうに思はれますね」 中年の牧師が親切に教へて呉れた。がその田舎がである。 スローガンの黑黑黑と書かれた幟、××農民組合支部の赤と黑との旗の下で呶號する小作人の眼を逃れて、木崎家の總本家木崎總兵衞の宅で開かれた地主會に光子の母も出なければならなかつた。假りに、愛しみ深きイエスの教によらずとも、彼の女にとつて小作人の申入れは當然すぎる程當然のもののやうだつた。が木崎總兵衞は頑として一歩も讓らうとはしなかつた。彼の前には他の小地主など物の數でもなかつたので、皆易易と諾諾と調印しなければならなかつた。がこの信仰の深い老婦人には到底もうこれ以上かうした爭ひごとの中に自分も交つてゐると言ふことは堪へ難いことに違ひなかつた。で、彼の女は、地主會の終つた後、臺所の手傳ひを終ると、總兵衞に自分の田地を買ひ取つて貰へないかと、言つて見た。總兵衞は一寸考へた末、 「ほう。それもいいだらう。お前等實は手足纏ひで困る」と言つて、案外たやすく承諾して呉れた。 が、それから數日たつて、彼の女の家へ四五人の小作人がやつて來た。 「あなたにも似ぬ何と言ふことをして呉れたのだ。あなた方は田の土塊一つなぶつたこともないので田の可愛さが判らないのだらうが、何故一言の相談もなく人もあらうにあんな奴に賣つて呉れたのだ。そりや田はあなたのものだらう。が何十年と言ふ間育て守して來たのは一體誰なんだ。是非元のやうにして貰ひ度い」と、言ふのだつた。もつとものことだつた。申譯ないことをしたと思つて、この信仰深い彼の女は早速本家に赴いた。 「馬鹿！」 總兵衞はただ一言で呶鳴りつけてしまつた。途方に暮れた彼女は、市の教會に先生を訪ねて、相談をした。 翌日、木田牧師は痩せた長身を相變らず黑い服に包んで、にこやかに爭議團本部から光子の家へ歸つて來た。田地の賣價の三分の一を爭議團に寄附すると言ふ案だつた。 「受取つて呉れました」 木田牧師はさう言ふと、聖書を取り出し、靜かに馬太傳第六章廿四莭人は二人の主に事ふることを能ずの所を讀み聴かせるのだつた。光子母娘は頭を垂れ、晴晴と聞き入るのだつた。が、そのことが本家の人達の耳に入るや、總兵衞は烈火の如く怒つた。 「このアメン婆！二度と閾は跨がせんぞ」 今迄光子は殆ど毎日のやうに本家へ手傳ひに出てゐた。母は村の娘達に裁縫を教へながら、本家の縫物を一手に引き受けてゐた。さうしてそれでやつとつつましい暮しを立ててゐたのだつた。それが突然本家への出入を差し留められたとなると、誰でも當惑せざるを得なかつたであらう。が、信仰深き彼の女達は、これも愛しみ深き神の御旨によるものと、喜んで從つたのだつた。暮向きを一層つつましく引き締めて、一方光子は毎日市へでて仕立物を貰ひ歩き、母は夜遅くまで一心に針を運んだ。が、そんなにしてゐても、税金のある月など矢張十圓二十圓と銀行から（田地を賣つた金を預金して置いたもの）引き出さねばならないと言ふ心細い狀態だつた。が、その銀行さへが昨年の暮れ倒れてしまつたのだつた。 さうして、到底支へ切れず逃げるやうにして田舎から出て來たのである。が、この叔父の家からも、光子親娘が僅かばかりの風呂敷包を抱へて出て行かねばならない日が遂に來たのだつた。 或る夜、店を仕舞つてから、子供達の枕元で、叔父達夫婦は何かぼそぼそ話合つてゐた。が、その聲はだんだん大きくなつて行き、しまひには口穢く罵り合ふ聲が聞こえて來た。 「馬鹿！」と叔父の聲だつた。 「なんですつて。ぢや妾も言ひますよ。なんです。一體アーメンアーメンつて、朝から晩までアーメンで、それで一文でもお錢になるつてんですか。それに妾はあの洒洒した面がいけすかないよ。人の家に居候してりやもうちつと何とか、気兼ねしてかう淋しさうな恰好でもしててやそりや妾だつて一寸氣の毒な氣になりもしませうよ。それにいつだつて、あんたニコニコしててさ。貧乏なんどどこ吹く風つて面構へぢやないのさ」 「おい聞こえるぢやないか。聞こえるぢやないか」 叔父はもう哀願するやうな聲で、さう繰返して言つてゐた。 光子親娘の引越して來た所は、山手の名もないやうな街だつた。檜や椎や楠などの常綠樹の枝が、ざわざわと風に搖れてゐる邸街に挾まれて、それは丁度取殘された水溜りのやうなごみごみした街で、其處には人人が魚のやうにアップアップしながら棲んでゐた。さうした街の運送屋――と言つても、今時自動車一臺ない、唯荷車一つで引越しや運搬の手傳をしてゐる家なのだが――の横の露地をどぶ溝に添つて一寸行くと、運動屋の裏口のやうな入口がある。さうして其處に裁縫仕立所木崎ためと言ふ看板が掲げてあつた。この臺所口を出入口にしたまるで貸家とも貸間ともつかぬ家が光子親娘の家なのである。 こんな巷路の、こんな露地裏の家にも、淸淸しい秋風が、もうさわさわと訪れてゐた。澄み渡つた靑空が、黑黑と列んだ屋根の上に、くつきりと靑い紙のやうに截り斷たれてゐた。それでも時時白い浮雲がふはふはと渡つて行くのも見ることが出來た。かうした、ある朝、光子は手鏡を立てて化粧してゐた。 「お母樣。白粉がもう堅くなつて居りますのよ」 「さう。それではね。一つ買つていらつしやいな」 「いいえ。いいんですの。お湯で溶けばまだ使へますわ」 光子はニッコリ頰笑んで、復鏡に向つた。着物は銘仙一枚切りなのでそれとして、光子は帶はどちらにするか思ひ迷つて母に相談するのだつた。その帶とても、一つは母親の若かつた時分のものを裏にした。一寸時代離れのしたものだつたし、今一つのもずつと以前に買つた。もう大分流行遅れのものなのである。 「こちらにしてはいかが」 「どうして。こちらの娘さん達御覧なさい。もつともつと派手なの召してらつしやいますよ」 身體のために何を衣んと慮煩ふこと勿れ――イエスはさう誡めてゐる。が流石に信仰深いこの老婦人も、それを忘れてしまふ程今は娘愛しさの心で一杯だつた。着物一枚帶一本買つてやることの出來なかつた親としての不甲斐なさを、娘の前で口に出して詫入りたい程の心になるのだつた。 お母樣。「きつと成功してきてよ」 いつになくいそいそと出て行つた娘の後姿を見送りながら、この優しい母親は思はずハラハラと落涙したのだつた。 二 銀座の百貨店富士屋のあの豪華な建物の裏側に、その本館の大きさに隱されてだれも氣がつかないやうな小さな木造の而も極く粗末な二階建の建物がある。それが、富士屋の仕入部だつた。毎日、この小さな建物に幾百人の商人達が入れ代り立ち代りやつて來ては、仕入方と、買へ、買はん、高い、安い、馬鹿、畜生、阿保たれと呶鳴り合ひながら、もうもうと立ち籠つた煙草の煙の中で、算盤を彈き、首を捻り、笑ひ、泣き、怒るのだつた。實際何も知らない人が始めて此處へ來合はせたならば、大體何を言ひ合つてゐるのか、一寸判斷が出來ないであらう。さうしてそれが何のことか判るまでにもう頭が痛くなるであらう。 「もつと眞面目な値をつけて頂かなくつちや」 「間拔！眞面目とも。大眞面目よ。眞面目でなくつて、この忙しいのにお前等相手にしてられるかつてんだ」 「よし。ぢやこの手帳見せますよ。皆原價が書いてあるんだから」 「馬鹿。藤四郎（素人）臭い真似すんない。よし見せなよ。見せなよ。その内ポケットにあるやつを」 「そんなものありますか。ささ調べて下さいよ。けど虱がゐても知りませんよ」 「チェッ！しらみが佛つて思つてやがる癖に」 こちらでは、こんな風に今迄喧嘩してゐたのかと思ふと、もうワッハッハワッハッハと笑ひ合つてゐるのがあるかと思ふと、向かふでは、菓子の見本箱を並べながらねちねち口説いてゐるものもあつた。野球か、女の話などを涼しげに話しながら宜敷くやつてゐるのがあるかと思ふと、もう初老とでも言ひたいやうな紳士が仕入方と、取引の出來た固めの手打ちを、ポンポンポンと眞赤な顔をして一心不亂にやつてゐるものもあつた。もうまるで、生き死にのやうな騒ぎだつた。が、實際それは彼等にとつて生き死にの問題だつた。ある問屋が、あまり無茶な値段を無理やりに押しつけられたがために、知らぬ顔をして（係りの若い番頭は仕入方の内諾を得てゐたと言ひ、仕入方は知らぬと言ふ）二等品を納めたことがあつた。それの判つたのは、その商品が廣告にも出、賣場へさへも列んでからのことであつたので、もうそれは仕入方の生き死にの問題だつた。係りの若い番頭は早速此の仕入室に呼び出されて、五六人の仕入方に取り圍まれ、目の眩む程呶鳴りつけられ、犬畜生のやうに罵倒されたのだつた。それ以來この若い番頭は、時時ぶるぶる身體の震へることがあるので、醫者の診察を受けた。醫者は一部始終の話を聞き、その若い番頭を連れて、この富士屋の仕入部の前まで來たのだつた。するとその若い番頭は、急に顔色が蒼白になり、身體中がぶるぶる震へて、どうしても止まらなかつた――と言ふ話である。が、今日は此の仕入部も水の引いた後のやうに靜かで、普段よりは幾分整頓された仕入室には、もう七八十人程の娘達が色取り取りに集つてゐた。さうして、上り口には「本日休商・仕入部」と朱書した木札が懸つてゐ、壁には應募者控室と墨で書かれた白い紙が、ペラペラと吹く秋風に搖れてゐた。 今日は富士屋の女店員の臨時募集の選拔試驗がこの仕入部で行はれるのだつた。今度の募集は僅か五十人程の補充の意味であつたし、それに皆店員や取引先の推薦者ばかりなので店内で簡單に行ふことになつたのである。集つてゐる娘達の中には斷髪や洋裝の人さへゐて、皆もうそれぞれ精一杯の化粧をしてゐるのだが、皆押默つて自分の競爭者の顔や姿をジロジロ見合つてゐる姿の何處かに、彼の女達の銘銘の家庭の重重しい生活の喘ぎが感じられるのであつた。その中に木崎光子の見ずぼらしい、然し目立って美しい姿が見出された。光子は同郷の遠緣に當る河原英夫と言ふやはりこの富士屋に務めてゐる人の推薦で應募することが出來た。 河原君とは或る日偶然に途上で逢ひ、それから河原君は度度光子の家を訪れるやうになつた。河原君は郷里の相當の家の次男坊で、東京の大學を出てからこの富士屋に勤めてゐるのである。いつも髪を綺麗に分け、派手な背廣などを着込んでゐた。が、この立派な靑年を光子は別になんとも思つてゐなかつた。唯親切な異性としてのみ交つてゐた。が、河原君はさうでなかつた。が、光子のやうな優しい女性が、この大都會の一隅で明日の糧にも困つてゐるのを見たならば、河原君ならずとも若いものならば誰でも同情せずには居られないであらう。それが又光子のやうに美しい女性である場合、それが同情以上のものになつて行くのも、無理からぬことだつた。河原君は一生懸命になつて、光子のために運動した。それで、光子は今度の選考試験を受けることが出來たのだつた。 次の部屋の扉が開いて一人の少女が「秋山サダ子さん」と呼んだ。試驗が始つたのである。皆の顔にサアッと緊張の色が漂つた。否それは漂ふと言ふやうな生優しいものではなく、何かかう氣色ばんだ空氣だつた。呼ばれた娘がそはそはと扉の中へ入つて行くと、皆ほつと安堵氣持になるのだつたが、又直ぐ次は誰だらうと言ふ恐しいやうな期待に、ハラハラするのだつた。 光子は、アイウエオ順だつたので、割に早くに呼ばれた。皆の視線を背中一杯に受けながら、光子は靜かに次ぎの部屋に入つて行つた。この部屋も同じやうに粗末なもので、不斷は此處で大口仕入の商談が行はれる部屋だつた。眞中に木の机が置かれ、男女男と言ふ順に、三人の試驗官が二組並んでゐた。試驗官は光子に先づ名前を書けと言つて、履歴書の字の眞僞を調べてから、極く簡單なまるであつけないやうな質問をするのだつた。實はそんな質問など、どうでもいいのであつて、それで言語や態度や容貌さへ判ればいいのである。光子はハキハキと答へた。 次の繪を畫いてその上に體格檢査場としてある貼紙に從つて、薄暗い廊下を爪先上りに歩いて行くと、仕入係室と書かれた木札と並んで體格檢査場とした白い紙が貼つてあつた。いつの間にか本館になつてゐるらしくぷーんと洋館の臭ひがして來た。光子はその中に入つた。すると、いきなり看護婦が飛んで來て、 「帶をお解きになつて」と言つた。光子が籠に帶や細紐を解いて入れると、その籠を持つてずんずん向かふへ行つてしまつた。醫者が二人、看護婦が四人、筆記する人が二人、さうして一人の中年の紳士が兩手を後に組んで、いかにも退屈さうに俯向いて、同じ處を行つたり來たりしてゐた。今迄の部屋とは違つて、大きな硝子窓のある部屋だつた。光子は一人の醫者の前に坐つた。醫者はぐいつと前に乘出すやうにして、瞼をくるりくるりと剝いた。さうして聽診器を耳に挾んで光子の胸を開けようとした時、ドカドカと三人の紳士が入つて來た。今迄兩手を後に組んで行つたり來たりしてゐた紳士が、急に直立不動の姿勢で、ピョコンとお辭儀をした。醫者や看護婦も丁寧にお辭儀をした。独りの魁偉な顔をした紳士は、その度に輕く頷いて、それに應へた。 「重にトラホームと結核を檢査致して居ります」と、今迄、兩手を後に組んでゐた、が今はチョンと直立してゐる紳士が言つた。 「花柳病の檢査はしないのかね」 一人の痩せた小柄の紳士が、その魁偉な顔の紳士の顔色を覗ふやうに見上げながら、ハッハッハと空笑ひをした。が、その魁偉な顔を紳士は眼の玉一つ動かさず、じつと一つ所を見入つてゐた。これが藤田專務だつた。藤田專務は秘書と一人の主任を随へて店内視察中、二階から三階へ行かうとする時、仕入係室の入口にチラッと看護婦の白い着物を認め、 「どうした」と聞いた。主任が女店員應募者の體格檢査をやつてゐる由を答へると、 「行つてみよう」と、言つて、ドカドカとやつて來たのだつた。 醫者は光子の胸を袒け、檢査をした。そして、 「後を向いて」と言つた。光子は何氣なく着物を合わせながら後を向くと、その途端ハッと身の縮むやうなものを感じた。藤田專務の無遠慮な眼がじつと此方を向いてゐたからだつた。さうしてそれは何と言ふ魁偉な顔だらう。黑い膩ぎつた顔色、眼ともなく鼻ともなく、ただもうそれはでこぼことした凹凸のやうなものだつた。さうしてその厚い唇は一寸嫌らしい程赤かつた。醫者は光子の背中を打診するため、着物を脱がせようとした。が、光子は兩手で胸の方を掻き合せてゐたので思ふやうに行かなかつた。町内のチフスの注射の時などによくあるやうに、かうした時の醫者の態度は病院でそれとは打つて變つていけぞんざいな扱いをするものである。 「兩手を下して」 醫者は叱るやうに言ふと、自分で光子の腕を取つて下に置いた。さうしてぐつと思ひ切り着物を脱がせてしまつた。サアッとまるで何か白い光り物のやうな光子の肌があらはれた。 「ほおう。こりやいい身體だね」と小男の秘書が又言つた。が藤田專務は瞬き一つせず睨むやうにじつと光子に見入つてゐるのだつた。眞白い大きなそれでゐて一點の弛みもない張切つた乳房、さうしてその先には、薄桃色の乳嘴が、呼吸をする度に波に漂うてゐる蕾のやうに動いてゐた。光澤ある皮膚、厚い胸圍、實際裸になつた光子は素晴らしい體をしてゐた。が、流石に女らしい淑やかな線をした肩先に、一本の後れ毛がいぢらしげに微かに打ち慄へてゐるのだつた。胸の檢査がすむと、光子は寢臺の上に仰向けに寢かされた。も一人の醫者が出て來て、着物をパッパッとはね除けると、いきなりレースのスカートをずつと下の方へ押し下げた。さうして腹部をあちらこちら强く押して見ると、そのまま自分の席の方へ行つてしまつた。藤田專務と二人の随員は寢臺の上を覗き込むやうにして見てゐたのであつた。白い搗き立ての鏡餅のやうなお腹まで赤くして、光子は恥しがつた。醫者は棒のやうなものを取つて來ると、今度は光子の足の方へ廻つて、 「膝を立てて、脚を組んで」と言つた。光子は言はれるままに、兩膝を立てて片脚を膝の上に乘せた。醫者は棒のやうなもので、光子の膝小僧をコンコンと叩いた。 「脚を代へて」と、光子は醫者に言はれ、組んでゐた脚を下した途端、スカートがずるずると滑つた。光子はハッとしたが、復叱られると思ひ、思ひ切つて片脚を膝に乘せた。好色な紳士達の見てゐる前で、太腿まで剝ぎ出しにされた光子は、もう死んだ魚のやうにじつと動かなかつた。 最後に、光子は胸圍、身長、體重を計る看護婦の處へ、ほつとした思ひで歩いて行つた。するとどうだらう。藤田專務はつかつかと其處へもやつて來るではないか。さうして又じつと光子を見入つてゐるのだつた。 「ズロースをお履きになつてゐて」と看護婦が聞いた。 「いいえ」と光子は泣くやうな聲で答へた。 「ではお腰だけになつて下さい」 さうして其處には帶の入つてゐる籠が三つ列んでゐて、一番先のに光子のが入つてゐた。光子はそれを何だか懷しいもののやうにじつと見入つた。さあさあと急き立てるやうに看護婦が着物に手をかけた。光子は忸忸と着物を脱ぎ、足袋を脱ぎ、最後にスカートまでも取つてしまはなければならなかつた。白い短い木綿の腰卷だけの光子の裸體は、却つてそれは石像のやうに氣高かつた。が、光子は裸で衡の上に乘つた時、其處でも藤田專務の射るやうな眼を見、もう恥しいと言ふより何か恐しいやうなものを感じた。もしじつと其の眼を見てゐたなら、そのままずつと押し倒されさうだつた。蛇のやうに執拗な、虎のやうに光る眼だつた。土人のやうに赤黑い唇がむずむずと動いた。光子は思はず眼をつむり、神の御名を呼んだ。神は光子に目に見えぬ衣を與へ給ふたのであらうか。やがて光子は靜かに眼を開くことが出來た。澄み渡つた靑空に大きな廣告の輕氣球がふはりふはりと浮いてゐるのが初めて眼に入つた。 やつとの思ひで光子が着物を着始めると、藤田專務は憎らしい程落ちついて、歩き出した。寢臺の上では一人の娘が、太短い脚を組み合っはせてゐた。赤いネルの腰卷がずれて白い腿が光子の時よりもつと露はに見えてゐた。が、藤田專務はそれをチラッと見た切りどんどん歩いて行つた。一番目の醫者の處では、小柄な可愛らしい娘が、すつぽり着物を脱がされ、光子のやうに恥しがつてゐたのだつたが、それには眼もくれず、二人の紳士を引連れて出て行つてしまつた。 三 「女と言ふものはぢやね君。面白いものでね。かうじつと睨んどるとぢや、もう向かふから、女の方からぢや。ころりと落ちて來るんぢやからね」 「いや專務に睨まれちや、女でなくとも、男でも落ちちやひますよ」 「ワッハッハッハ」 藤田專務は事務室で、あの小柄な坂井秘書を相手に上機嫌だつた。あの黒い顔は艶艶と磨かれ、瀟洒な洋服が不思議とよく似合つてゐた。毛深い丸つこい指に葉卷を挾んで、どつかり椅子に凭れてゐた。藤田專務の口から女の話の出る時は、餘程機嫌のいい時だつた。何故今日は藤田專務がそんなに機嫌がいいのかと言ふと、それはもう間近に迫つてゐる社債の借換へが、此の間からの奔走でもう大丈夫と言ふ目算がついたからだつた。それに會計の方を擔當してゐる大西取締役が、インフレーションを見越した此度の冬物の仕入が非常な額に達したので、この晦日の手形の決濟方法に困つて相談に來たからだつた。 「期日をもう少し延ばして置くことも出來たのですが、何しろAもSも此頃は月三階拂ひの、しかも當座振込みなどと言ふやり方をやつてるものですから」 「期日をどうのかうのと、もうそれは濟んだことぢやろ。濟んだ話はわしは聞かんぞ」 「いや。それはただ一寸御説明申したまでで。それに銀行の方へもこんな臨時のことは一寸信用上話ｓない方がよいやうに思はれますから」 「よし」 藤田專務はただ一言さう言つた切りだつた。大西取締役はその儘出て行かなければならなかつた。が、何故それが藤田專務を喜ばせることになるのであらう。 藤田專務は從來から株式會社富士屋には成る可く金融上の餘裕を持たせないやうにしてゐた。何故かと言ふと、さうして置かなければ、他の重役達に或る程度の力を與ふる事になり、藤田專務の絕對獨裁主義に反するからである。さうして一方、藤田專務はその一人一業主義にもかかはらず、某財閥を背景にした、金融會社を或る腹心の部下にやらせてゐた。で、今度なども、その金融會社の名前で、一寸よい利息稼ぎが出來る譯になるのである。で、今度の金融難も株式會社富士屋にとつては困つたことだつたが、專務藤田龍策氏にとつては、それは豫期してゐたことであり否待ち構へてゐたことだつた。 株式會社富士屋は誰も知つてゐる通り、あの江戸時代から連綿とその老舗を誇つて來た富士屋呉服店の後身だつた。あちらの紡績會社を食ひ、こちらの會社を潰し、その度ごとに不思議にその財力を延して來た藤田龍策氏が、愈々財界乘出しの覺悟を決めたのは、偶々關東の大震災の時、自動車の買占めをして巨利を得た時だつた。その時藤田氏の眼に映つたのがこの富士屋だつた。時勢のやむに止まれない要求から、主家津村家の資産を中心に株式會社に改め百貨店に轉じてゐた富士屋だつたが、地の利を得てゐるとは言へ、AやSの大資本を擁した同業に壓せられて、もうそれはよたよたした存在だつた。それに目を付けた藤田氏は、某財閥の大御所橋爪老人に膝詰談判を始め、例の押しで押して押し捲り到頭うんと言はせてしまつたのだ。さうして一方手を廻して富士屋の株を賣つて賣り捲つた。富士屋の株は見る見る棒下りに下つて、もう紙屑になつてしまふのではなからうかと思はれた。さうでなくともへとへとに弱つてゐた富士屋の社長津村長兵衞氏は一溜りもなく頭を下げてしまつた。そこで、いよいよ藤田龍策氏は専務取締役として富士屋に乘り込んだのだつた。 さうして、藤田專務は外には東洋一を誇る壯麗な今日の富士屋を建て、内には王者のやうな獨裁制を立てたのである。人人は氏のことを業界の旭將軍と呼んでゐた。が、店員達はさうは呼ばないで皆「鬼瓦」或は「鬼さん」と呼んでゐた。優しい女店員達でも「鬼さん」或は「瓦さん」と呼んでゐるのだつた。 が、今此の鬼瓦氏は非道く上機嫌で、坂井秘書を相手に、紫の煙を吹きながら、諄諄と女を説いてゐるのだつた。藤田專務の説に從へば、女は何と言つても身體が第一である。それも先づ肌がよくなければいけない。さらさらしたのや、と言つて膩でべつとりしたのはいけない。もちもちしてまるで吸ひ着くやうでゐて、それでさらつとしてゐなければいけない。が、それは主に健康とか清潔から來るのださうである。それに、下半身のすぽつと拔けたやうなのはきつといけない。勿論身體中臀だらけと言つたやうなのはいけないこと勿論だが、豐かな滿月のやうな臀がすうつと山裾のやうに脚の方へ延びてゐるのを以つて上上とする。顔は勿論十人並でなければならぬが、それとてもあまり緊りの無いのや、またそれに過ぎたのもいけない。これが色道の大道である。小胯の切れ上つたと言ひ、一後家二女中と言ふそれはやはり權道である。確かに一味はあるが大道ではない――それが藤田專務の持論だつた。今もそれを一下り述べるのだつた。 「しかし專務。大體そんな女がどの世界に居ると言ふんです」と坂井秘書が言つた。 「處がそれが居るんぢや」 藤田專務は、嘘とも眞實とも判らぬ得意の手で、ハッハッハと笑つてしまつた。坂井秘書はチラッとその顔色を盗み大將復何か見付けやがつたな、と思つた。其處へガヤガヤと言爭ひながら、二人の靑年が入つて來た。二三人の店員が必死になつて、然し弱弱しい力でそれを押留めてゐるのだつた。一人の靑年は背廣を着た普通の、然し一見して赤新聞の記者と思っはれる靑年だつたが、今一人は紋付を着た壯漢だつた。 「何の用ぢや」 藤田專務は悠然とそんなことには馴れ切つた態度でさう言つた。 「實は山口八重さんのことで一寸伺ひたいことが御座いまして」と、背廣の靑年が殊更に物柔かな口ぶりでさう言つた。紋付の壯漢は坂井秘書と睨み合つてゐた。藤田專務は、不意に立ち上り机の方へ行くと、右手に五圓札一枚、左手に十圓札を五六枚握つて來た。 「こら。これからも度度來ると言ふのぢやつたらこちらぢや」 藤田專務は右手でどんとテーブルの上を叩いて、二人をぐつと睨んだ。 「もう二度と來ないちふのぢやつたらこつちぢや。どうぢや。誰でも多い方がいいぢやろ。ハッハッハッハ」 藤田專務は、さう言ふと、左手を「さあ取れ」と言ひながら、洋服の靑年の鼻先へニュッと突き出した。 藤田專務のかうした時の調子は實に板についてゐた。さうしてこれはいつも使ふ得意の手だつた。强くぐつと睨みつける押しの手、それをさあつと弛める引きの手、この二つを强く弱く織交ぜて使ふ調子が實に巧みだつた。さうしてそれは押しの手が强ければ强い程、引きの手が餘計その効果を現はすのである。加ふるにそれは嘘の場合と眞實の場合とが、あの得意のハッハッハと言ふ笑ひに隱されたまま搦み合ふのだつた。今、此の洋服の靑年も、「どうぢや」からの引きの手にかかつて、一寸油斷している隙に「さあ取れ」の押しの一手で脆くも礼を手にしてしまつた。 「用事が濟めば、さあ早く歸るんぢや」 洋服の靑年は仕方なしに立ち上つた。 「僕は金を貰ひに來たんぢやないぞ」 紋付の靑年は取つてつけたやうにさう言つたが、その手はもう出し遅れだつた。 「いや、どうも。さあ歸らう」 洋服の靑年は、紋付の靑年を促して出て行つた。 「若い奴のは無茶苦茶の押しだよ。ね君。色事でもぢや」 藤田專務は、又色話を始めようとした。其處へ谷口取締役が一部の書類を持つて入つて來た。 「唯今は」 谷口取締役はいかにも恐縮した樣子でさう言つた。 「女のことぢや。ハッハッハッハ」 谷口取締役は、藤田專務の上機嫌なのを見ると、ほつと安心したやうに、 「御判を一つ」と言つて、書類をテーブルの上に差し出した。この谷口取締役は富士屋呉服店時代からの幹部で、今迄残つてゐるたつた一人の人だつた。猫のやうに大人しい人で、實務の才を十分に備へてゐた。で、藤田專務はその首を馘らないばかりか、重役に拔擢したのだつた。が、谷口取締役の夫人は若くて仲仲美しい人だつたので、夫人を人身供養に差し出して、重役を貰つたのだなどと、そんな噂□をする人もあつた。 藤田專務は無器用に印形を熊のやうに握つたまま立つてゐた。谷口取締役が書類を開けると、坂井秘書がチラチラと其の上へ狐のやうな眼を走らせ、一處を指で一寸指す。すると藤田專務がぽんと判を無造作に捺すのであつた。ぽんぽんぽんぽん、谷口取締役が一枚一枚捲くる度に、まるで書類など眼中にないやうに、坂井秘書の指先の下へ判を捺して行くのだつた。 四 「ちよいとほの字ぢやほらへの字ぢや」 年增藝者の三味に合わせて、若い二人の藝者がくるつと………………………………いろはを書いて行くのだつた。赫い電燈の下で、二つ……………………震動してゐた。藤田專務はある待合の奥座敷でそれを脇息に凭れながら、一人の若い紳士と見てゐた。その若い紳士は、富士屋の大株主であり、K製鐵、M電氣の社長である有名な牛淵孝平氏の御曹司孝一郎君であつた。藤田專務は何故かあまり興なげな樣子であつた。それは不圖あの選拔試驗の體格檢査の時見た娘（光子のこと）の、あの若さがピチピチ跳ねてゐる樣な清純な肉體を思ひ出したからだ。さうして、あれしきのことに身を揉むやうに恥しがつたうひうひさがかうした場所では殊更に活活と思ひ出されるのだつた。今踊つてゐる藝者は二人とも一流の藝者で、實際非常な美人なのだが、その肉體は光子のそれとは全く比べ者にならなかつた。一人の方はまだ十分咲き開かないうちにもう凋みかかつたやうな生氣のない肉體だつた。もう一人の方は、電燈の光や緋縮緬の色に映じて一寸は美しく見えたのだが、よく見ると色もあまり白くなく荒い肌をしてゐた。さうして二人ともまるで人形のやうに平気な無感覺な顔をして、何か拭掃除でもしてゐるやうな表情で、××××××××くねくねと振り動かしてゐるのである。 「あら。姉さん。どうしませう」 藤田專務にこの踊りを望まれた時、さう言つて恥しさうに身をくねらせたのも、それはただ一つの仕種に他ならなかつたやうである。だから藤田專務が今あまり興味がなささうなのも、大して不思議ではないかも知れない。藤田專務ならずとも、誰でも恥しがれば恥しがる程さうした興味も湧くのであらう。さあ何處と御覧なさいと平気で言はれては、そんな興味も餘程薄らぐのではなからうか。が、それにつけても、藤田專務はあのお腹まで赤くして恥しがつた光子のことを思ひ出し、大へんな掘出し物のやうに思ふのだつた。が、藤田專務は未だ光子の名前も知らず、從つて例の手帳にも木崎光子の名は載つてゐなかつた。それ程、此の處藤田專務は多忙で、且つ重大な要件を持つてゐた。 若い牛淵孝一郎君は始めこそ平然と大して興味もなささうな物靜かな態度を作つてゐたが、醉の廻るにつれてだんだんその箔が剝げて行つた。藤田專務はそれを滿足氣に眺めてゐた。藤田專務は孝一郎君に今晩別にこれと言ふ要件があるのではなかつた。唯孝平氏に今度一寸無理なことを承知して貰つたので、學校出の理窟の多い孝一郎君の口封じのためだつた。今でこそ孝一郎君とはは「われか俺か」の仲だつたが、それまでになるには藤田專務は非常な努力を拂はねばならなかつた。 藤田專務は牛淵孝平氏に面會するため、毎日毎日牛淵家を訪問しなければならなかつた。牛淵家の應接間にはいつも四五人のさうした面會希望者が集つてゐた。が、この應接間に入れられてゐる連中は、もう全然面會の望のない連中だつた。さうした時、孝平氏は一人で或は時には一人の客を伴つて、この應接間に現はれるのである。 「おい皆皆さんがお出でぢやつたのか。なになに何か御用、要件かな」 同じことを二度も三度も口早に繰返し何となく相手方に聞き辛い話し方をする孝平氏は、毎日毎日もう判で捺したやうにかう言ふのだつた。もとより要件があればこそかうして來てゐるのであるが、こんな大勢の前で言へる性質のものでもなく、また「一寸お話が」と言つて見ても無駄なことはもうよく判つてゐた。もうその時には紋章の付いた自動車がピタリと玄關に着いてゐたし、夫人は書生や女中を引連れて見送りに出て來てゐるのである。 「わしわしは、ちよちよ一寸用用事があるから失禮するが、まあ皆皆さんはゆつくりあそ遊んで」 孝平氏はこれも又決つたやうにさう言ひながら自動車につてしまふのだつた。するとこの訪問者達はぞろぞろ應接間から出て玄關に並ばなければならなかつた。 「いつてらつしやいまし」 夫人達の聲に應じて、この堂堂たる紳士達も、ピョコンとお辭儀をしなければならなかつた。それはまるで枝に並んだ小鳥のやうに可愛らしい姿だつた。が、紳士達は皆さうした時火の出るやうに恥しさを感じるもののやうである。殊にそれが藤田專務の場合にはむしろ滑稽な、まるでブルドッグが「お預け」をしてゐるやうな恰好だつた。が負けん氣な藤田專務は、身を顫はして口惜しがつた。この俺の意氣が、この眼が判らないのか、と藤田專務は虎のやうに光る眼で、ハッタと空を睨むのだつた。が、藤田專務は今日も明日もやはりこの「お預け」を續けなければならなかつた。それが、藤田專務にとつては忘れることの出來ない二十三囘目にやつと望みが叶つたのである。其の日は今迄と違つて早速居間に通されると、やがて今度は逆に玄關に並んだ紳士達の羨しさうな眼を感じながら悠悠と孝平氏と自動車に乘ることが出來たのだつた。 藤田專務は、今其の時のことを思ひ浮べながらじつと藝者達を眺めてゐた。藝者達は先刻から醉の廻つた孝一郎君と、それを煽てる藤田專務のために、まるで動物のやうにその白い肉體を嬲り物にされてゐた。 「金ぢや。金ぢや」と藤田專務は思ふのだつた。藝者達が若い女の身空でこんな犬畜生のやうな淺間しいことをしなければならなぬのも金のため、自分が牛淵家の玄關に毎日毎日並ばねばならなかつたのも金のためだつた―― 「金ぢやわい」 さう藤田專務は今更强く强く思ふのだつた。さうして「もう一ふん張りぢや」と、わくわく精力の湧き起るのを感ずるのだつた。ずつと以前、藤田專務が恩人である某財閥の大御所橋爪老人に書を乞うたことがあつた。すると橋爪老人はいきなり「イロハ」と黑黑黑に書いて藤田專務に渡さうとするのだつた。其處で藤田專務はそんなのでなく何か漢詩でも願へないかと言ふと、「馬鹿。馬鹿。君等はまだ幼稚園ぢやないか」と言はれたことがあつた。處が今年の正月やはり書を乞うて、藤田專務が、「もう私も幼稚園ぢやないつもりですが」と言ふと、橋爪老人は「もう一ふん張りと言ふ處かな。ハハまだ覺えとつたか」と言つて、「いろは匂へど」と書いて呉れた。それは實に良い出來で、今は軸になつて藤田專務の居間に懸つて居るのである。藤田專務は今その時の橋爪老人の言葉を思ひ出した。さうして、勃然と湧き起つた精力に、思はずあの膩切つた魁偉な顔を盲従のやうにぶるぶると打振るのだつた。 五 「ねさう言ふ譯でさ。本物のアーメンさんだからね。そりやもうその點は安心なものさ。だからさ絹物でももしあつたらさ出してやつておくれよ。ねお願ひだから」 運送屋のおかみさんは、今近所の魚屋の店先で立話をしてゐた。光子親娘が來て以來、此のおかみさんは人さへ見ると、かうして光子親娘のために仕立物を出して呉れるやうに頼むのだつた。それに親娘がキリスト教の信者だと言ふことを知ると、それが餘程偉いことのやうに思ひこんで、まるで鬼の首を取つたやうにアーメンさんを振り廻してゐるのだつた。 「そりゃもうお前さんの頼みだから、あれば今でも出して上げたいがね。此頃ぢやお前さん絹物相場がね。褌一枚出來やしないよ」 威勢のいい魚屋のおかみさんは、鼻からふうと煙草の煙を吹かせながらさう言つた。 「何言つてるのさ。お前さん。おかみさんとこがさうだつたら、あたしとこなんか裸でゐなきやならないよ」 「だがおかみさん。娘は別嬪ぢやねえか。銀座のカッフェーにでも出りやいい金になるぜ」 突然若衆が横から口を出した。 「それがさ。何と言つてもアーメンさんだからね。それにあれで昔は仲仲お金持ちだつたんだとさ」 「さうかい。そいつあ可愛さうだなあ。それに旦那は死んで、居ないてんだらう」 魚屋の親方は器用に動かしてゐた包丁の手を休めて話の中に入つて來た。 「親方。全くさうなんだよ。だからこのあたしがね一人でさ。可愛さうだと思つてね」 「處がさ。金持の貧乏人になつたつてんのは、全く何だからな。俺達のやうに餓鬼の時からお前貧乏貧乏で育つたものはさ、骨の髄まで貧乏の味が判つてるんだが、金持の落ちぶれたつてんのはどれだけ苦勞したつちつても第一心懸が違ふわな。今も野郎の言つたやうに、お前娘が別嬪なら、女給にでもなんでも金になることならさつさとしちまふさ。金つてと變だが、俺達にやどうしておまんま食つて行くかつてこと限り、頭にねえ。處が俄か作りの貧乏人はさうは行かねい。俺は一人やつぱりそんな人を知つてるんだが、どんなに貧乏してたつてさ、こちとらのやうにパッと尻を捲つてさ、そらきたつて譯には行かねい。品つてものがあらあな。それが女と來ちや尚更だからな」 「けどさ。娘があの器量だからね」 「それがさ。その器量を賣物に出さなきや仲中金にはならねい」 「なんだね。かう富士屋か何處かでさ、色の白い金持の坊つちやんでもがさ、あの娘を見そめてさボーと來たつて工合にはならないものかね」 「ハッハッハ。そりやお前講談の話だよ。今時そんなものがあるものかね。そんな夢見たいなことを考へてゐる暇に、惡い狼でもつかねいやうに氣をつけてやりな」 全くこの魚屋の親方の言ふ通りだつた。もう早や、藤田專務と言ふ一匹の狼が狙つてゐるではないか。が、誰がそれを知らう。光子自身さへも夢にもそんなことを知らなかつた。 光子が富士屋に出るやうになつてから、もう一月餘りになる。此頃ではもうすつかり仕事にも馴れ、根が暗い陰鬱な性質のない彼女は時時朋輩の女店員と晴やかに聲を出して笑ひ合つてゐることもあつた。初めて月給を貰つた時の嬉しさ。光子は生れてから今迄、こんなぢかな喜びを經驗したことはなかつた。飛ぶやうにして歸つて來た光子は、母の前に月給袋を差出した。中に十圓札が二枚と五圓札が一枚入つてゐた。二人はこの三枚の札を前にして手を取り合はんばかりに喜ぶのだつた。あのおかみさんの親切な心に對しても、先づ何よりも運送屋に間代を拂はねばならなかつた。母親の出て行く後姿をじつと眺めてゐる光子の眼から、二筋の涙がつうつうと頰を走つた。それは嬉しいとも悲しいともつかぬ涙だつた。がこの時は、流石に二人も神の御姿を忘れてゐたのではなからうか。が、今それを訊ねなくとも、唯もうそれ程彼女達はこの三枚の紙幣を必要としたし、又それを餓ゑ求めてゐたと言へばいいのではなからうか。もとよりこの信仰深い母娘はその日の夕の祈に、慈み深き神の御惠に深く感謝することを忘れはしなかつた。 が、この三枚の紙幣を得るために、もうこの一月餘りと言ふものは、世間を知らぬ清らかな光子の心は、まるで紙のやうに揉みくちやにされ通しにならなければならなかつた。問屋の番頭達はあの仕入部での激しい戰にもまだ飽き足らないのか、性懲りもなく仕入方の後を追つて賣場までもやつて來た。さうしては、又一錢二錢を爭つて口穢く罵り合つた。 「こんな處まで何しに來た」 番頭達は、仕入方や賣場の主任さんにどんなにまるで犬を追つ拂ふやうに言はれても、ニコニコ笑ひながら手を揉んでゐるのだつた。さうしてきまつて邊りをきよろきよろ見廻しては、何かを探し求めるのである。その探してゐるものがきまつて算盤であると言ふことは、光子にも後になつてやつと判つたのだつたが。又彼等は時時何の斷りもなく勝手に品物の積換へをやるのだつた。それは自分の店の賣つた品物を前の方や上の方へ積み、よその店の品物は成るべく客の手の届くのに不便なやうな處へ押しやるのである。光子などがそれをチラッと見ても、「頼みまつせ。だから木崎さんは好きだと言ふのだ」などと洒洒と言ふのだつた。或る時など、或る店の番頭がその積換をやつてものの一時間もたたないのに、よその番頭がそれをやつてゐることもあつた。相當の年輩の番頭が見付からぬやうに氣を配りながら頭振り振り品物を置換へてゐるのを見ると、何故か笑ひ切れないものが感じられた。だが、光子達女店員の一番困るのは、男の店員や彼等が暇さへあれば寄ると卑猥な話しをすることである。それも口に出して言ふことの出來ぬやうなことを、平気で女店員達に聞こえよがしに言ふのだつた。さうしては、 「それ木崎さんが一生懸命聞いてるぜ」などと浴せるのだつた。 「もうやめなはれ。木崎はんが……うづうづしてやはりませんが」 「ほんとかい。木崎さん」 こんなあくどく揶はれる場合など、光子はどうしていいのか判らなかつた。知らぬ顔してゐれば、いやにつんつんしてゐると言はれるし、「知らないわよ」などと言ふ巧い言葉は未だどうしても口から出なかつた。ある時、光子は同じ賣場の宮と言ふ店員が光子と出逢ひ頭に、 「やつ。木崎さん、お客さんだな」と言つた。 「まあ」と光子は言つたきり眞赤になつてしまつた。この宮君は女店員達の月經を言ひあてては得意になつてゐる變つた男だつた。宮君に言はせると、顔色で解るとか、歩き方を見れば一遍に解るとか言ふのであるが、それは嘘で、實際は彼は女店員達が一生懸命に働いてゐる時知られぬやうに腰の邊りを手で觸つて見て、バンドの有る無しでそれを言ひたててゐるのであつた。流石に藤田專務の輩下だけあつて、この宮君は誰誰は何日、誰誰は十何日と言ふ風に手帳に誌して馬鹿なことを喜んでゐるのであつた。正午頃の客足の鈍つた頃、宮君を中心に問屋の番頭と住田あい子と言ふ女店員とが面白さうに話してゐた。光子は俯向き加減に立つたまま賣臺に凭れて、田舎で市の女學校に通つてゐた時分の懷しい追憶に耽つてゐた。雲雀も鳴いてゐた。菜の花も咲いてゐた。あの田舎路。お城の櫻がヒラヒラとお壕に散つてゐた。こぼれ松葉を拾つては道草をしたあの昔ながらの城下街。みんな樂しい思ひ出だつた。 「まあ、と來るからね」 不意に宮さんの聲がした。 「ぢやあたしが聞いて來るわよ」 住田さんはさう言ふと光子の側へやつて來た。 「木崎さん。あんたお客さんなの」 「まあ」 「まあでは判んないわよ。さうなの」 「だつてそんあこと知りませんわ」 「言つたつていいぢゃないの。變な人ね」 住田さんはむつとしたやうに言ふのだつた。何故そんな馬鹿なことをこんなに執拗に聞くのだらうと、光子は思つたが、仕方なくさうだと答へなければ許されなかつた。 「やつぱりさうですつて」 「それ見ろ、俺のは百發百中なんだから」 「ね。どうして判るの。教へてよ」 「けど何ですね。木崎さんには一寸似合はない感じだな。お客さんなんて」と、問屋の番頭が變に眞面目臭い顔で言つた。 「どうして似合はないの。木崎さんだつて女ぢやないの」 「そらさうですけどねえ。かう一寸口に言へないけど、聖母マリアつて感じでね」 「チェッ涎出してやがる」 「さうよ。そんな馬鹿な。なんぼ顔が美しくつてお嬢さん振つてゐたつて、女は女よ。お客さんもあれば……」 「小便もするさ」 番頭は二人の御機嫌の惡いのを察すると、光子の方へ顔を延して、 「木崎さん。あんたでも小便するんですか」と、言ふのだつた。光子はじつと俯向いたまま、三人の笑ひ聲を聞いてゐたが、思はず涙のポロポロと落ちるのをどうすることも出來なかつた。 が、光子も此の頃ではいつの間にかかうした空氣にも馴れ、あの白い美しい齒を見せながら、「もちよ」などと言ふことも出來るやうになつてゐた。さうして此の頃一人の親しい友達が出來た。それは下村とし子と言ふ光子の隣りの賣場即ち呉服第三賣場の女店員だつた。下村さんは光子をいつも優しくいたはりながら、色色の話しをして呉れた。がそれはどれも光子には信じられない程恐しい話だつた。重役達が美しい女店員と見ると直ぐ手を出す話、殊に事務室にはずぐベッドに變る椅子があつて、その椅子の裾付けの時など事務自身指揮に當り、何度も何度も外に出て扉の鍵穴から覗いては、「もつと奥。もつと右」と言つたと言ふ話。又一度事務室に呼ばれた女店員で、もとの身體で出て來ることの出來たのはたつた一人、下村さんの友達だつた三代澤ユリと言ふ人だけだと言ふ話。その三代澤さんも下村さんとの固い誓ひを破つて遂遂專務に身體を許してしまつたと言ふ話。さうして下村さんは言ふのだつた。 「ね、ほんとに氣を付けてね。光ちやんはこんなに美しいのだから。ほんとはねあたし光ちやんとはこんなお話したくないの。文學とか、スポーツとか、時には花のお話しなどしてゐたいの。けれどねあたしたちは今そんなお話してゐられないのよ。これが穽なの。これが肥溜よ。さうしてこれはこんなに臭いの、と言ふことを知つて置かなければならないのよ。ね」 水のやうな夕霞の下りた銀座の街を二人はよく話しながら歩いた。時には日比谷公園までも話に夢中になつて歩いて行つたこともあつた。さうした時、光子は何かかう下村さんが、パタパタと窓を一つづつ開けて行つては光子に見せてくれるやうに思はれるのだつた。 六 「まあ奥様。お久振りでございますこと。御無沙汰ばかり致して居りまして」 「おや。西の奥様でございますの。これはこれは。こちらこそ御無沙汰ばかり致して居りまして。何かお買物でもございますの」 「いいえね、一寸娘緒普斷羽織をと存じましてAへ參つたんでございますのよ。けれどあまり氣に入つたのがございませんのでね。一寸こちらへ參つたんでございますの。けれどやはり駄目でございますわ。奥様は随分こちらが御贔屓でございますのね。あたくしはどうしてか、もうAばかりでございますの」 厚化粧をして盛裝した夫人が二人、一人づつ女中をつれて、呉服第二賣場即ち光子の立つてゐる前で立話をしてゐるのだつた。所が一人の婦人には富士屋の男の店員がかしこまつて随つてゐたが、西と呼ばれる夫人には迂闊にも誰も付いてゐなかつた。だから西夫人は明かに不機嫌なのである。 「まあ西の奥樣。これはこれは。ようこそいらつししつて頂きました」 其處へ宮さんがピョコピョコ頭を下げながら出て行つた。 「おや宮さん」と、西夫人は言つた切りだつた。 「こちら宮さんと言ふの。まあいいお名前だこと」 「まあ奥様。ホホホホ。まあ奥様。この奥様はほんとに面白い奥様なのよ。宮さん。この奥様がおつしやつたのよ。ね齋藤首相がね。ホホホホ。ね靑いズボン釣りをしてらつしやるんですつて。何のためかとおつしやるのよ。宮さんわかつて」 西夫人は宮さんが出て行つたのですつかり御機嫌が直つた樣子である。 「ホホホホ。又あのお話を」と、も一人の夫人が言つた。 「判りかねますね」 宮さんはいかにもきまり惡さうにさう言つた。 「ズボンが落ちないためよ」 「ホホホホ」 「ホホホホ」 この二人の婦人を案内して、宮さんが歸つて來ると、いきなり角田さんが、 「ね宮さん。あのお道具（奥様の隱語）お客さんぢやない」と言つた。 「馬鹿」 「だつてあんな人のが判らなけりや駄目ぢやないの。ね。木崎さん」 「さうよ。ほんとですわ」 光子までがさう言ふのだつた。 「こちら宮さんと言ふの。まあいいお名前だこと」 角田さんがさう言ひながら恰好まで眞似たので、皆聲を殺して笑ふのだつた。 「鬼さんよ」「鬼さんのお通りよ」 不意に風のやうに何處からともなく傳つて來ると、もう瞬くうちに富士屋全店に隅隅までも、傳はるのだつた。藤田專務は暇さへあればこの視察をするのである。さうしてほんの一つの紙屑や一寸した店員の態度にまで注意をするのだつた。 「君の齒は黑いね。もつと磨かんけりやいかんぞ」などと、づけづけ目の前で注意する。又或る時は田舎者の老人の手を引いて案内することさへあつた。あの剛愎な藤田專務にもかうした細心な所もあるのである。だから藤田專務は店内の様子や空氣と言ふものを實によく知つてゐた。光子が入店してからも、藤田專務の視察はもう五六度あつた。 藤田專務は二階に現れた。西村二階主任が丁寧に挨拶して後に随つた。それが澤山入るつてゐる客の間からよく見られた。藤田專務は客の間を縫つてあちらこちら歩いてゐたが、不意に一寸立留つた。その途端何物かが眼に入つた樣子だつた。つかつかと藤田專務は光子の方へ歩いて來るではないか。あの顔。あの眼。體格檢査の時のあの恐しい眼が、今もじつと光子の方を睨んでゐるではないか。一秒二秒三秒四秒……然しそれは光子にとつて何と永い時間のやうに思はれたことだつたか。のそりのそり、何かそんな風に感じのものを殘して藤田專務は三階の方へ歩いて行つた。 「ね、しつかりしてね。光ちやん怒るかも知れないけれどほんとに神樣相場ぢやないのよ」 下村さんに教っへられ、勵まされ、叱られたりして、光子が其の日歸つて來ると、母はいつものやうに夕食の仕度をして待つてゐた。食後、母は物靜かな調子で、然し光子にまるで思ひがけない話をした。それは河原英夫君の家から光子を嫁に貰ひたいと言つて來たと言ふのであつた。 「光子さんも讀んで御覧なさい」と、言つて母から渡された手紙には、母は勿論河原君の方で養ふし、キリスト教を河原君も信じてもいい、と言ふことも書いてあつた。河原君は光子が富士屋へ入店してからも、勿論度度足繁く遊びに來た。が二人で話す話と言へば下村さんとは反對に、文學や、スポーツや、花の話であつた。唯一度、入店當時「辛いですか」と言はれたことがあつたがそれとても「はい辛いです」などと大體言へるものであらうか。それにキリスト教を信じてもいいと言ふのも一寸變ではなからうか。下村さんと交つて以來、光子は彼女の信仰に幾分の動搖は來してゐたけれども、こんな「してもいい」と言ふやうな態度で、信仰に入ることが出來るものだらうか。 「聖書も讀めば一寸面白いものですよ」 いつか、そんなことを言つた河原君だつた。が、一方光子は今日の藤田專務のあの恐しい眼を片時も忘れることは出來なかつた。それに今日退店の時、光子は西村主任に呼び留められ、光子の服裝がいかにも見ずぼらしいから今少しちやんとした服裝をすること、若しそれがためにお金に困るやうだつたら遠慮なく言つて來なさいと、言はれたのである。それは優しい口調で言はれたのだが光子は何だか考へれば考へる程恐しい氣がするのだつた。 「母様はどうお思ひですの」 「母様はね。もとより聖旨によるのですけれど、二つとない結構な御緣だと思ひますよ」 「母樣。暫く考へさして下さいね」 いつものやうに床を延べてから、二人は夜の祈を捧げるのだつた。其の夜、光子は生れて始めて母に秘密の默禱を捧げねばならなかつた。床に入るとて軈て母はやすやすと安らかな寢息を立てながら眠つてしまつた。光子は母の老をしみじみと感ずるのだつた。 それから二三日經つたある日、光子は彼女の賣場に立つてゐた。開店早早だつたので客は殆どゐなかつた。其處へ一人の背廣の頑丈な體格の男の人が入つて來て、軈て西村主任を探し出すと、二人は連立つて光子の方へ歩いて來た。光子は思はずはつとした。が二人は光子の方へは來ず第三賣場の方へ歩いて行つた。何でもなかつたのだと、光子はほつとした思ひで見てゐると、二人は下村さんに二言三言話してゐるやうだつた。さすると、間もなくその男の人は下村さんを抱へるやうにして何處へ連れて行つてしまつた心のせゐか、下村さんがチラッと光子の方を見たやうに思はれたが、直ぐ肩幅の廣いその男の人に下村さんの姿は隱されてしまつた。下村さんは其の日一日歸つて來なかつた。 一、君の恩。親の恩。主人の恩を思ひませう。 一、お客様にはいつも笑顔で親切に致しませう。 一、商品は大切に扱ひ、いつも整頓して置きませう…… 十箇條あるかうした店員訓を毎朝男女店員が集つて一緒に朗讀するのが、富士屋の掟だつた。が、下村さんのゐなくなつた翌朝はこの朗讀の濟んだ後、人事課長が空箱に乘つて、下村とし子他三人の女店員が赤化思想の嫌疑で檢擧されたことを言ひ、それについて一場の訓辭を述べたのだつた。光子は訓辭を聞きながら、唯もう姉のやうに頼りにしてゐた下村さんの居なくなつた後、どうすればいいのかと呆然と人形のやうに立つてゐるのみだつた。 藤田專務は專務室で悠然と安樂椅子に腰かけながら新聞を讀んでゐた。どの新聞の經濟欄にも、富士屋の社債借換の滯りなく行つたことを記し、一齊に藤田專務の腕を賞め讃へてゐた。其處へ河原秀夫君が蒼白な顔をして入つて來た。 「おお河原君か。まあ掛け給へ」 意外な專務の機嫌のいい聲に變な顔をして自分の身體を抓つて見たいやうな氣持だつた。藤田專務は靜かに一冊の手帳を取り出した。それは例の手帳だつた。さうしてその手帳には二本の棒で消されてある山口八重の隣りに、いつの間にか呉服第二番木崎光子廿一歳とされてあつた。 「君は木崎光子と言ふのを知つとるね」 ああそれか、と思ふと河原君の顔からは復見る見る血の氣が失せて行つた。 「ありや君とどう言ふ關係だね」 「あの同郷の人です」 「それだけかね」 藤田專務はぐつと河原君を睨みつけた。 「さうです」 思はず河原君はさう言つてしまつた。 「巧くやつとるんぢやないかね」 「そそんなことありません」 「さうか。君嫁にしたらどうだね。ありや別嬪だぞ。ハッハッハッハ」 河原君はあつけに取られて、顔中皺にして笑つてゐる藤田專務の顔をそつと見てみるのだつた。 「よし。君の勤め振り如何ぢや。わしが仲人になつてやつてもよいぞ。よし。それだけぢや」 河原君は喜んでよいのか、悲しんでよいのか、何だか狐に抓まれたやうな恰好で出て行つた。 「よし。善は急げぢや」 藤田專務はさう言ひながら、呼鈴の釦を强く押した。 「木崎さん。四階の休憩室まで」 光子がお客様の御買上雛を包んでゐると、電話を聞いてゐた人がさう呶鳴つた。不思議に思ひながら、四階の休憩室に入らうとすると、一人の給仕の少女に呼び止められた。 「木崎さん。專務のお呼びです。專務室まで」 その少女はさう言ふと、先に立つて歩き出した。光子はぶるぶるつと思はず、身慄ひした。さあつと血がどこかへ引いてしまつたやうに思はれた。少女は專務室の扉の前まで來ると、さあどうぞと言つた風に手を差し出すと、こつこつ向かふへ行つてしまつた。開けようか、開けまいかと迷つてゐる光子の鼻先へ、不意にニュッとあの顔があらはれた。 「木崎さんか。さあお入り」 顔に似ぬ優しい聲がして、光子が吸はれるやうに一二歩中に入つた時には、藤田專務の手で扉の鍵はかけられてしまつたのだつた。 「主よ。主よ」 光子は思はず振り絞るやうに言つた積りだつたが、喉がひくひく動くばかりだつた。 「さあこちらへお出で」 藤田專務は小山のやうな――その時光子にはさう見えたのだが――軀をどつかと安樂椅子の上に降した。 「ここへおかけ」 處がどうしたことか、光子は言はるるがままに其處へ掛けてしまつた。さうして唯まるで眼だけが生きてゐるものの樣に、大體に藤田專務の上に斬れるやうな視線を投げてゐるのだつた。 「君はクリスチャンださうだね」 藤田專務は平然とさう言つた。 「はい」と、光子はさう言つたと言ふよりも、唯あの美しい唇を動かしたと言つた方が適當かも知れない。 「ほほう。赤ばやりにそれは珍しいことぢやのう」 光子は不意に下村さんのことを思ひ出した。さうして下村さんから聞いたあの恐しい專務室の椅子と言ふのは、さうだ、今自分が掛けてゐるこの椅子ではないか、と思ふと、思はずぶるぶる慄へるのだ。 「君にはお父さんが無いのだね。お母さん一人だね。孝行せんけりやいかん」 光子はさう言はれると、今頃何にも知らずに針仕事をしてゐるだらう。此の頃めつきり老い込んだ母親の優しい姿を思ひ浮べ、思はず涙ぐんで項垂れるのだつた。その白いうぶ毛さへ見える白い項をじつと見てゐた藤田專務は不意に、 「君の臍は黑いぞ」と言つた。 「ええ？」と、光子は始めて聲を出して言つた。 「體格檢査の時見たのぢや。垢が着いとる。洗はんけりやいかん」 「まあ」 光子が不用意にも顔をさあつと赤らめ恥しさうにした瞬間、藤田專務の大きな軀がむくむくと動いたやうに思はれた。其の眼！光子ははつとして夢中で手を振り上げようとした。 「ワッハッハッハ。嘘ぢや。嘘ぢや。冗談だよ」 割れるやうな藤田專務の笑聲で部屋中一杯だつた。 光子が去つたあと、藤田專務は相變らず安樂椅子に腰を下したまま、靜かに紫の煙を吐いてゐた。さうして昨日聞いた山椒魚の料理の話を思ひ出してゐた。山椒魚は唯そのまま料理して食すると、緊りのないさくさくした肉で何の味もないものである。其處で山椒魚をうまく食するには、これを棒切れで散散毆りつけ、半死になつたのをそのまま火に焙るのださうである。すると膩が白い肉に滲み渡り、比類ない珍味となると言ふことである。同じやうな話を鼈の場合にも聞いたことがあつた。藤田專務は、先刻光子に對してこんな所で氣短に振舞はなかつたことを、よかつたわいと思ふのであつた。
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/16101.html
■ポケットモンスター XY 作画監督 34 ■関連タイトル 3DS ポケットモンスター X
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/20156.html
■ラブライブ！The School Idol Movie 「Angelic Angel」「SUNNY DAY SONG」アニメーションスーパーバイザー ■関連タイトル Blu-ray ラブライブ! The School Idol Movie 特装限定版
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/11923.html
■プリティーリズム・オーロラドリーム 作画監督 37(ワ) ■関連タイトル プリティーリズム・オーロラドリーム Blu-ray BOX-1
https://w.atwiki.jp/seiyu-coversong/pages/494.html
ふじた さき カバー曲一覧 曲名 収録･音源 他ボーカリスト A Happy Life がくえんゆーとぴあ まなびストレート! 聖桜生徒会 アンサンブルⅡ 井上麻里奈,野中藍,平野綾,堀江由衣 千本桜 Blu-ray/DVD『暗殺教室』5巻特典スペシャルCD チャンピオン TVアニメーション「そらのおとしもの」 エンディングテーマ・コレクション 保志総一朗 望郷の旅 そらのおとしものf(フォルテ) “今年も”エンディング・テーマ・コレクション 保志総一朗 MELODY ぎゅっとBABY☆愛なんだBABY 内田彩,三森すずこ
https://w.atwiki.jp/kuizu/pages/1328.html
ふじたでん 自作 2004年に心不全のため死亡。遺産総額約491億円は歴代6位の記録である、 1971年には日本マクドナルドを、 1989年には日本トイザらスを創業した実業家は誰でしょう？ （2009年7月29日 『さいあんせいあん』「 無題 」） タグ：雑学・その他 Quizwiki 索引 な～ほ