約 374,233 件
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/423.html
diverging point ◆ysja5Nyqn6 01/ 予想外の遭遇 ―――自分なりに、急いで走ってきたつもりだったが、 どうやら、遅刻は確定したらしい―――。 時刻は八時半ば……ごく一般的な、SHR(ショートホームルーム)開始時間。 酸素を求めて喘ぐ息と、激しく跳ねまわる心臓をどうにか宥めながら、岸波白野は現在の状況にそう諦めた。 なぜなら目の前には、鮮血のように紅い髪を靡かせる少女――ランサーの白い背中があり、 その向こうには、しなやかに引き締まった肉体を青い戦装束に包んだ男――ランサーの姿があったからだ。 † アーチャーと思われるサーヴァントの狙撃を振り切ってから、岸波白野はそのまま学校への道を急いでいた。 理由は主に三つ。 一つ目は、学生ならば学校に行くべきだ、という、NPCだったころの名残から。 二つ目は、NPCの多い学校ならば、いきなり襲われることは低いだろうという保身から。 三つ目は、もし学校にマスターがいた場合、同盟を組めるようなマスターがいるかもしれないという打算からだ。 だが実のところ、自分が学校へと急いでいた理由は、先の光線によって生じた、もう一つの理由からだった。 そしてその理由とは、 先ほどからずっと騒ぎ続けているこの心を、どうにか紛らわせるため。 というものだ。 既視感(デジャヴ)、とでも言うのだろうか。 あの戦法を……剣を矢とした狙撃を、自分は知らないはずなのに知っていると感じた。 その理由、その心当たりが、自分には一つだけあった。 自分の欠けた記憶。自分が取り戻そうとしている絆。 月の聖杯戦争において、岸波白野とともに戦い続けてくれた掛け替えのない存在。 あのサーヴァントが、一向に思い出すことの出来ないその「 (くうはく)」ならば、この既視感は解決されるのだ。 …………だがしかし、それは同時に、この聖杯戦争において岸波白野は、その掛け替えのない存在と殺し合わなければならない、という事でもあるのだ。 ――――――――。 その事実から、堪らず目を背ける。 背けるために、一心不乱に走り続けている。 ………なのにこの心は、気が付けば、あのサーヴァントの事を考えている。 その残酷な事実を、まっすぐに見つめようとしている。 目を背けるな、と訴え続けている。 それは何故―――― 「――――マスター!」 ランサーのその声に我に返り、咄嗟に脚を止める。 乱れた息を整えつつ前を向けば、いつの間にか実体化した彼女が、前方を鋭く睨み付けていた。 その視線が指す方へと顔を向ければ、そこには青い戦装束の男――サーヴァントだと即座に理解する。 彼を見て自分が最初に思ったことは、ああ、これは完全に遅刻だな、というものだった。 次に、そのサーヴァントの事に関して考えを巡らせる。 ―――欠けた記憶から、その情報を拾い上げる。 クラス、ランサー。真名、クー・フーリン。 月の聖杯戦争において、遠坂凛のサーヴァントだった英霊だ。 それを思い出すと同時に、一気に精神の糸が引き締まる。 あのサーヴァントは、間違いなく強敵だ。 その一撃必殺の宝具、ゲイ・ボルクを使われては、間違いなくランサーは倒される。 戦うのであれば、その一撃だけは避けなければならない。 ……だが待て、何か様子がおかしい気がする。 ふとそう思い、改めて相手のランサーの姿を確認する。 「……………………」 こちらの様子を窺っているのか、相手のランサーは沈黙している。 だがその顔からは、どこか憔悴しているような様子が見て取れた。 それに何より、彼の象徴である赤い槍を、彼はその手に握っていなかった。 それで気か付いた。おそらく彼は、戦うために姿を現したのではないのだと。 そんなランサーに対し、自分は――― サーヴァントは敵だ。彼にその気がなくても、この場で倒すべきだ。 罠かもしれない。彼の思惑がわからない以上、ここは警戒して逃げるべきだ。 >その行動の理由が気になる。敵対する意思がないのなら、話を聞いてみるべきだ。 「え、こ、子ブタ!?」 ランサーの前へと、一歩足を踏み出す。 ランサーは驚いた顔をするが、それは相手のランサーも同じだ。 当然だろう。普通に考えれば、危険に身を晒したも同然なのだから。 だが、きっと彼は攻撃してこない。 彼に関する記憶があったからなのか、そんな確信が不思議とあった。 故に彼をまっすぐに見つめ返し、問いを投げかけた。 ―――なぜ、武器を構えていないのか、と。 「………へ。和平の使者は、槍を持たないってな」 それに対し相手のランサーは、張り詰めた空気を解き解す様に小さく笑い、そう返答した。 和平の使者? それは一体、どういう意味なのだろう。 「おいマスター、もう出てきても大丈夫だぜ。こいつ等は信用できる」 岸波白野がそう首を傾げていると、相手のランサーは背後の物陰へと声をかけた。 その声に応じて物陰から姿を現す、小さな少女。 「え、うそ!」 ランサーが驚きに声を上げ、自分も同じように目を見張る。 それも当然だ。現れた少女の風貌は、初対面でありながらあまりにも見覚えがあった。 ―――遠坂……凛!? と。驚きのあまり、思わずその名を口にする。 すると当然、今度は少女たちの方が驚いた顔を見せた。 「え? あなた、どうしてわたしの事を知ってるの?」 疑念が確信に至る。 この少女は、間違いなく遠坂凛なのだと。 「こりゃあ、厄介な連中を引き当てちまったかもしれねえな」 相手のランサーの呟きが、緋に照らされた路上に静かに響き渡った。 02/ 同盟締結 ―――私に勝利を捧げなさい、と少女は言った。 そのためなら、苦しいことも痛いことも、何だって我慢する、と。 覚悟と決意を秘めたその言葉に、ランサーもまた覚悟を決めた。 己が主のために、己が望み――心ゆく戦いと、戦士としての誇りを封じることを。 ガキはガキらしくしといた方がいい、と己は言った。 だが目の前の少女にはもはや子供らしさなど垣間見えなかった。 そうさせたのは己だ。己の不甲斐なさが、少女を子供でいられなくさせたのだ。 ならば己も、それ相応のものを差し出さねばならない。 それが自身の願いと誇り。 たとえそれがどのような命令であっても、少女がそう命じたのなら、全力を尽くしてそれに従うと誓ったのだ。 「マスター。アンタには今、四つの道がある」 故に、ランサーは己がマスターへと道を指し示す。 自分たちがこの状況を打破し、聖杯戦争に勝利するための指針を。 「四つの道?」 「ああ、そうだ。 まず前提として、オレ達は日が変わるまでに足立透とキャスターを殺さなきゃならねえ。 令呪で縛られている以上、こいつは基本的に絶対だ」 「……ころ……す………」 ランサーの言葉に、少女は息を呑む。 それも当然だろう。覚悟を決めたといっても、少女は人としても魔術師としてもまだまだ未熟。 親しい者の「死」こそ経験したが、他者を己が手で殺めることなどまず想像に至らない。 だがランサーは、敢えて少女の様子に構わず言葉を続ける。 「しかし、だ。オレ達はどっちも、最初の戦い……あれを戦いとは言いたくねえが……とにかくあのライダーのせいで、魔力がほぼ枯渇している。 こんな状態じゃあ、アサシンの時のようにまともな戦闘にはならねぇ。それは理解できるな」 「――――――――」 一瞬顔を赤く染めた少女は、すぐに頭を振って顔を引き締め、ランサーの言葉に肯く。 先ほどから体に残る倦怠感は、魔力が足りていない証拠だ。 いくらサーヴァントの維持に聖杯の補助を受けているといっても、その回復にはマスターの魔力が必要となる。 しかし今の自分達は、その肝心な魔力が圧倒的に不足していた。魔力は生成する端から消費され、現状維持が精一杯だった。 そんな魔力が枯渇した状況でありながらランサーの実体化が可能なのは、遠坂邸の霊地としての効果によるものでしかなかった。 「そしてただ戦うだけじゃなく、確実に相手を殺さなきゃならねぇ以上、最低限戦闘が可能な程度には魔力を回復する必要がある。 だが、このまま自然に回復するのを待っていても、まともに戦えるようになるころには間違いなく日が変わっちまう」 そう言いつつもランサーは、もしここが“本来の遠坂邸”だったなら、夜までにはある程度の回復が可能だっただろうと思っていた。 それが不可能だったのは、この遠坂邸は仮想世界における再現データに過ぎず、また本来の立地とも大きくズレていたからだ。 そのため、本来の遠坂邸にはあった霊地としての質は大きく損なわれており、ほとんど機能していなかったのだ。 地主である遠坂凛へとかかる負担が軽減されることぐらいが、この遠坂邸に残された数少ない優位性だった。 「故に、今のオレ達に残された選択肢は、大きく分けて四つしかない」 ランサーの言葉に、少女は顔だけでなく心も引き締める。 それを待って、ランサーは少女へと道を示した。 「一つ。二画目の令呪を使って、令呪による縛りを打ち消す。 これが最も簡単で安全な手段で、当面の危機も避けられはする。 だが同時に切り札を一つ失うことになり、加えてあのアサシンが再び襲って来る可能性も高い。 二つ。NPCを襲い、その魂を喰らう事で魔力を回復する。いわゆる魂喰いだな。 ただ魔力を回復するだけなら一番手っ取り早い方法だが、同時にルーラーや他のサーヴァントに目を付けられる可能性もある。 三つ。オレ達がそうされたように、他のサーヴァントのマスターを人質に取る。 それが出来れば、あのアサシンとは条件を対等に出来る。アサシンのマスターを捕まえられればなお良しだ。 ただし、残された時間でマスターを見つけ出し、サーヴァントの守りを掻い潜った上で捕まえる必要がある。 四つ。他のマスターに、協力を願い出る。 もし運よく協力を得られれば、キャスターを倒すことや、アサシンに一矢報いることが出来るかもしれねえ」 二つ目、三つ目の選択肢に顔を青ざめさせていた少女は、四つ目の選択肢を聞いて僅かに表情を明るくする。 覚悟を決めたとは言っても、やはり非道な手段は執りたくないのだろう。 だがその仄かな期待を、ランサーはザッパリと切って捨てる。 「ただし、協力を得られなかった場合、今のオレ達はいいカモだ。 良くてその場で殺されて、悪けりゃアサシンの時のようにいいように使われるだけだ。 そして、聖杯戦争に参加している以上、大半のマスターは聖杯を狙う敵同士だ。 弱ったオレ達に手を貸してくれるようなお人好しは、そうそういる筈がねえ」 ランサーが思い出すのは、自分が知る遠坂凛の恋人であり、セイバーのマスターであった少年、衛宮士郎だ。 もしこの場に彼がいれば、一も似もなく協力してくれたであろうことは、想像に難くない。 だが彼ほどのお人好しなどそうそういるはずがないし、そもそもそんな人物を探している余裕はない。 「っ………!」 その無情な言葉を聞いて、少女は再び息を呑む。 二つ目と三つ目が非道なら、四つ目はもはや道ですらない。 周り全員が敵という状況で、よく知りもしない他人に自分の命を預ける。 それが自殺行為であることくらいは、少女にも理解できる。ただその事に思い至ったという明けの事だ。 「さあマスター、道は示したぜ。四つの内、どれを選ぶかはアンタ次第だ。たとえどれを選ぼうと、オレはその選択に従う」 ランサーとしては四つ目の選択が一番好ましいが、この選択はほぼ一発勝負。最初に遭遇するマスターに賭けるしかない。 そして何より、どの道を選ぶかはマスターである少女だ。彼女に従うと決めた以上、己はその選択を待つだけだ。 「わ、わたしは……」 少女は戸惑い、思わずその手に刻まれた令呪を見つめる。 一つ目の選択肢、令呪の行使。 残り二画となったそれを使えば、当面の危機は避けられる。 だがそれは結局、ランサーが言ったように一時凌ぎでしかない。 どうにかして対策を練らない限りは、再び追いつめられるだけだろう。 ならば残された選択は、二つ目か三つ目、あるいは四つ目だ。 無関係な他者を犠牲にする道か、まずあり得ない可能性に賭ける道。 自分達が勝つためには、そのどちらかを選ぶしかない。 残された四つの道のどれを選ぶのか。 僅かな逡巡の後、少女――遠坂凛は令呪から視線を放し、まっすぐにランサーを見つめ、答えた。 † そうして現在、遠坂凛は岸波白野とともに遠坂邸へと戻っていた。 そう。少女が選んだのは四つ目の選択肢――最も可能性の低いとされた、協力の道だった。 彼女は遠坂の魔術師として、逃げることも、外道に堕ちることも、アサシンと同じ方法をとることも嫌った。 故に少女は、残された四つ目の道を選んだ。 縁(えん)も縁(ゆかり)もない全くの他人に、己が命運を預けることを選んだのだ。 その結果として、少女は少年と相対するに至った。 彼らも自分たちの状態を多少は察しているはずだ。その上で彼等はこちらの誘いに応じてくれた。 なら、後はどうにかして、彼らの協力を得るだけだ。 そのために少女は、少年を自らの拠点へと招き入れた。 「それで、なんでアンタは私の名前を知ってんの?」 目の前に座る少年へと向けて、わたしはそう質問する。 わたしが姿を現した瞬間、彼とそのサーヴァントは驚きに目を見開き、そしてわたしの名前を口にしたのだ。 もちろん名乗った覚えはないし、わたし達は初対面のはずだ。 だが少年は、精確にわたしの名前を言い当ててきたのだ。何かあると考えるのが当然だろう。 それに少年は深く逡巡した後、こう質問を返してきた。 ―――“月の聖杯戦争”を知っているか? と。 「月の聖杯戦争? それってこの聖杯戦争の事じゃないの?」 「いいや、違うぜマスター。この聖杯戦争は“月を望む聖杯戦争”。坊主の口にした聖杯戦争とは別物だ。そうだろ、坊主」 ランサーの言葉に、少年が肯く。 ムーン・セルによって作られた霊子虚構世界――SE.RA.PH.で行われる、128人のマスターによってトーナメント方式で行われる聖杯戦争。それが“月の聖杯戦争”だと。 そして続けて、そこで自分は、“遠坂凛”と出会ったのだ、と彼は口にした。 「ちょっと待って。それってどういう意味よ。わたしが聖杯戦争に参加したのは、これが初めてのはずよ? っていうかそれってつまり、アンタは前にも聖杯戦争を経験してるってことよね? いえそもそも、箱舟じゃなくて月の方でも聖杯戦争があったっていうの?」 少年の言葉に混乱する。 わたしと出会ったという事もそうだが、月でも聖杯戦争があって、それに彼が参加していたという事実に理解が追い付かない。 だがランサーは、その混乱を軽く笑い飛ばした。 「それは些細なことだぜ、マスター。 確かにその“月の聖杯戦争”とやらは気になるが、今重要なのは、坊主が俺たちに協力してくれるかどうか、だ」 「あ。そ、そうよね。確かに後回しにするべきだったわ。ありがとうランサー。 それじゃあ単刀直入に聞くけど、白野、私たちに協力してくれないかしら?」 その、あまりにもストレートなわたしの要求に、少年は思わず目を見開く。 そしてどういう意味か、と警戒を籠めて聞き返してきた。 「簡単な話だ。全く以て情けないことに、オレ達は今、早くも切羽詰ってんだわ。 その状況をどうにかするために、坊主たちの力を借りてえんだよ」 「そういうこと。私が払える代償なら、何でも払うわ。なんなら残りの令呪を全部あげてもいい。 その言葉に少年が再び目を見開き、本気か? と聞いてくる。 「ええ、もちろん。この状況を切り抜けられなきゃ、どのみち後がないもの」 それに即座にそう答える。 後がないのは本当だ。わたし達は今、どうしようもないほどの窮地にいる。なりふり構っている余裕はないのだ。 すると少年は思案するように若干俯き、どうする? と自分のサーヴァントへと問いかけた。 「どっちでもいいわよ、私は。マスターが望む通りにしたらいいわ」 彼女がそう答えると、よし、わかった。協力しよう。と彼は口にした。 「へ? え、ええ? ほ、本当にいいの? そんなに簡単に?」 少年があっさりと了承してくれたことに戸惑い、思わずそう聞き返す。 だが少年は、ああ、もちろん。と、当然のように頷いた。加えて、代償もいらない、とも。 「ちょ、ちょっと! 何の借りもなしに協力してもらうだなんて、流石にそれはだめよ!」 「別にいいんじゃねえの? 相手がそれでいいって言ってんだから」 「それじゃわたしの気が済まないのよ! 魔術の基本は等価交換。これでも遠坂の魔術師なんだから、そんな借りは作りたくないの!」 そんな風にランサーと言い争っていると、少年がある提案をしてきた。 それなら、凛たちの事情が終わったらでいいから、協力して欲しいことがある、と。 その言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。 お互いに協力し合うのであれば、一応釣り合いは取れるだろう。 ……現状では、どう考えてもわたし達の方が重いのが難点だが。 そう思っていると、そうだ、と何かを思いついたように少年が声をかけてきた。 なんと、いっそのこと、同盟を結ばないか? と、提案してきたのだ。 「同盟?」 そう訊き返すと、少年は頷いた。 自分たちの目的は聖杯じゃない。なら、最後まで協力することも出来るんじゃないか? と。 聖杯が目的ではない。 確かにそれなら、“最後”までは協力することもできるだろう。 だがしかし、この同盟には、その最後のところに問題がある。 わたし達の目的は聖杯だ。 つまりわたし達は、最終的には他のサーヴァントをすべて倒さなければならないのだ。 そこには当然、彼のサーヴァントの事も含まれている。 そしてサーヴァントを倒すという事は同時に……あまり深く考えていなかったが、マスターを殺す、という事でもある。 「それでもいいの? 結局、最後には殺し合うのよ? 私達」 その言葉に少年は、ああ、と潔く頷いた。 その時はお互い、全力で戦おう、と。 そのあまりの潔さに、思わず息を呑んだ。 そして同時に理解した。彼は本当に、聖杯戦争を経験していたのだと。 自分の望みのために誰かを殺す。その覚悟の重さを、彼はわたし以上に理解しているのだと。 そう。彼は聖杯戦争を知っている。 つまり彼は、今のわたしにとって最高の師になり得るのだ。 ならば彼の戦いぶりをこの目に焼き付け、その経験を自身の力に変えて見せよう。 「わかったわ。これからよろしくね、白野」 そんな思いとともに、遠坂凛は右手を差し出し、岸波白野とその手を結んだのだった。 03/ 凜の決断(致命傷) ―――遠坂凛に協力する。 岸波白野には、その事自体に対する否はなかった。 あったのは僅かな迷い。 自分が知る“遠坂凛”と彼女は、おそらくは別人だ。 だが同時に、どちらも紛れもなく“遠坂凛”なのだとも理解していた。 だからこそ迷いがあった。 欠けた記憶から、その情報を拾い上げる。 遠坂凛とラニ=Ⅷ。 自分がまだ何も知らないマスターだったころ、「 」だけではなく、この二人の少女も自分を助けてくれた。 いや、最初だけじゃない。聖杯戦争中も、月の裏側でも、彼女たちはいつも自分を助けてくれた。 彼女たちがいなければ、間違いなく今の自分は存在しなかっただろう。 ……だが聖杯戦争は、たった一組の生き残りを決める戦いだ。 岸波白野がここにこうしているという事は、自分は彼女達を倒した、という事になるのだ。 ……いや、どちらか一方を助けた記憶はある。だが、彼女たちのどっちを助けたのか。その記憶は自分の中から欠け落ちていた。 もし自分がラニを助けていたのなら、遠坂凛はおそらく自分が倒したのだろう。 それが迷いの正体だ。 一度相手を殺しておきながら、あっさりと手を組もうとする虫の良さ。 それが岸波白野に若干の迷いを残していた。 その迷いを踏まえた上で、岸波白野は遠坂凛の手を取った。 聖杯戦争の初め。利などなにもなかったはずなのに、“遠坂凛”は何度も自分を助けてくれた。 いずれ殺し合うと解っていながら、自分に力を貸してくれた。 そんな彼女と同じように。 表側でも裏側でも、いつも自分を助けてくれた彼女の代わりに、 今度は自分が、彼女と同じ存在である目の前の少女を助けよう。 そう思ったのだ。 ―――たとえその最後で、再び殺し合うことになるのだとしても。 ―――それじゃあ、状況を説明して欲しい。 正式に味方となった少女へと向けて、そう質問を投げかける。 それがどんなに些細なものであれ、情報は重要なものだ。 ほんの小さな違和感から相手の真名に思い至ることなど、聖杯戦争においては少なくない。 それを受けて凜は、しっかりと頷いて、自身の状況を説明し始めた。 「私たちは聖杯戦争が始まってすぐ、あるサーヴァント――ライダーと遭遇したの。 それで、その……えっと……」 が、彼女はすぐに顔を赤らめ、もじもじと言い淀んでしまった。 その様子に、一体どうしたのだろう、と思っていると、相手のランサーが頭をガシガシと掻いた後、彼女に変わって説明を始めた。 「とにかく、オレ達は一度、ライダーのサーヴァントと接触した。 そのライダー自身は決して強くはなかった。むしろマスターの方がサーヴァントレベルで強いとオレは思ったぜ。 だがそれを補って余り有るほど、アイツのスキルは厄介だった。そのせいでオレ達は二人とも、魔力をほとんど奪われちまった」 ランサーの説明に、ゴクリと喉を鳴らす。 魔力枯渇。その恐ろしさは、聖杯戦争中に身に染みて理解している。 ランサーが憔悴していたのも、それが理由なのだろう。 しかしこのランサーを、ただのスキルのみでここまで追い込むサーヴァントなど想像も付かない。 「だが、問題はここからだ。 オレ達はどうにかそのライダーから撤退したんだが、そこをアサシンにつけられちまったみたいでな。 籠城準備を整える前に、アサシンが襲撃してきやがった。しかも魔力の不足したオレはまともな戦いもできず、一瞬の隙にマスターを人質にとられちまってな。 その結果、オレは令呪の縛りを受けちまったわけさ。全く、情けねえ話だぜ、ホントによ」 令呪の縛り? 「ああ、マスターの命と交換条件でな。 『日が変わるまでに足立透かそのキャスターを殺せ。出来なければ自害しろ』だとよ」 なるほど。それで凜は協力を申し出て、交換条件に残りの令呪を、と口にしたのか。 彼女たちは今魔力が枯渇している。まともな戦いなどできるわけがない。 だが令呪で縛られている以上、彼女たちはキャスターと戦うか、更なる令呪を以てその縛りを破るしかない。 となると必然、その命令に従うにしても、逆らうにしても、令呪の行使は避けられないだろう。 「そういうこと。 どちらにしても後がないのなら、出し惜しみをしている余裕はないでしょ? もちろん、令呪の受け渡しはキャスターを倒した後のつもりだったけどね」 ―――ふむ、と考えを巡らせる。 聞いた限りでは、彼女たちには本当に余裕がない。 まず懸念事項が一つある。 それはランサーに課せられた令呪の内容。その『足立透とそのキャスターを殺せ』という部分だ。 もし仮に、そのキャスターが他のサーヴァントに殺されてしまえば、凛たちはその命令を果たせなくなり、令呪による解呪が必須となる可能性がある。 つまり令呪を用いない解呪を試みるのなら、彼女たち自身の手による撃破が必須条件となるのだ。 しかもこんな消耗しきった状態のまま、ほぼ無傷であろうサーヴァントを相手に、あと約半日以内に、だ。 いかにランサーが一撃必殺に長けた英霊とはいえ、それは困難を極める。 加えて相手はキャスター。知略と篭城に長けた、防性のサーヴァントだ。 唯一の幸いは、聖杯戦争が始まってまだ間もないため、陣地が完成している可能性が低いことぐらいだろう。 となると必要なのは、相手を陣地から引き出す手段か、陣地そのものを無意味とさせる広域に及ぶ破壊力だ。 しかし魔力の枯渇した今のランサーに、それは望むべくもない。 ……だがそれは凜のランサーの場合の話だ。 岸波白野のランサーの場合、どちらとも問題ではない。 ランサーの対魔力はAランク。キャスターとはこの上なく相性がいい。 それに加えて、宝具である“竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)”を使えば、陣地を破壊、とまではいかなくても、亀裂を入れ歪めることくらいは出来るだろう。 そうすればキャスターは、まともに機能しない陣地を破棄するか、籠り続けたとしても十分な支援は受けられなくなり、相手の地の利を一つ潰せる。 可能であればより高威力の“鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)”を使いたいところだが、こちらは城の展開に多量の魔力を必要とする。魔力の回復手段が乏しい今、先制で使うには条件が厳しすぎる。 それに、仮に周辺に一般市民――NPCがいたとしても問題はない。 おそらくランサーの魔声なら、通常のNPC程度なら催眠誘導できるだろう。 ―――そうだよな、エリザ。 「え!? も、もちろんその程度は可能よ。でも今私の事なんて呼んだの? エリザって呼んだのかしら!?」 ? 確かにランサーをエリザと呼んだが、何か問題があっただろうか。 凜のサーヴァントも同じランサーだ。同盟を組んだ以上、混乱を避けるためにも呼び分けた方がいいと思ったのだが。 ……ああ、それとも真名がばれることの心配をしているのだろうか。 確かにその危険性はあるが、サーヴァントとしてのランサーは生前とは懸け離れている。愛称程度なら問題ないだろうと思ったのだが……。 ランサーが気にするのなら、やはりクラス名で呼んだ方がいいのだろうと思い、彼女へと謝罪する。 ―――そうだな。ごめん、迂闊だった、ランサー。 「そそ、そんな! 謝る必要なんてないわよ子ブタ。いえ、むしろ呼んで! 親愛を籠めて、私の名前を高らかに呼んでー!!」 …………よくわからないが。 ランサーがそう呼んでほしいと言うのなら、これからも彼女の事はエリザと呼ぶことにしよう。 とまあそういう訳で、キャスターの陣地に攻める分には問題ない。 あとは凜たちの魔力問題の解決方法だけど………ってどうしたんだ、二人とも? 「はえ~………」 「ほう。たったあれだけの情報で、そこまで作戦を練れるとは驚いたぜ。 こりゃあ見かけによらず、なかなかの強敵になりそうだな、マスター」 凜は呆けたように岸波白野を見つめ、ランサーは感心したように笑っている。 そんなに驚くようなことだろうか。自分のような弱いマスターが勝ち残るには、これくらいは出来なければならなかった、というだけの事なのだが。 「だからそれがスゲェんだよ坊主。やるべき事をきっちりやり遂げるってのは、意外と難しいもんなんだぜ? ま、それはそれとしてだ。 オレ達の魔力回復の方法だが、坊主が協力してくれるんなら、方法がない訳じゃねぇ」 「ランサー、それ本当?」 「ああ。坊主とマスターの間にパスを通して、チョイと魔力を拝借すればいいだけの事だからな。 マスターの魔力が回復するまでは坊主に負担をかけちまうが、ある程度回復すれば、むしろ坊主の助けになるだろうぜ。 練度はともかく、魔術回路の質だけなら、今のマスターでも十分以上だからな」 なるほど。岸波白野が知る“遠坂凛”は、確かに凄腕の魔術師(ウィザード)だった。 ならば同じ存在であるこの遠坂凛が、同レベルの素養を持っていたとしても不思議ではないだろう。 「そう。なら早くそのパスっていうのを―――」 「ただし、この方法にはちょっとばかし問題があんだよ」 凜の言葉を遮って、ランサーはそう言葉を続けた。 「問題? 問題ってどんなのよ」 「いや、なんつうか、そのな。さすがにマスターがガキ過ぎんだよ」 「む。なによ、わたしが子供だと何がいけないのよ」 ランサーの言葉に、凛は不思議そうに首を傾げる。 その様子を見て、ふと思い出す。 ユリウスとの戦いで岸波白野とのラインを絶たれ、「 」が魔力枯渇に陥った時、一体どのようにそれを解決したのかを。 あの時はたしか、割込回路(バイパス)を使って凜……それともラニだったか? ……と「 」が仮契約を結んだのだ。 その際彼女は「 」と保健室に籠って、魔力を供給するための儀式をしていた。 結局何が行われていたのかを確認することは出来なかったが――― あの時見えた細い足……それにあの甘い香り……一体、保健室で何をしていたというのだろう。 そんな疑問が鎌首を上げ、ついランサーに問いかけてしまった。 ―――ランサー。一体、どうやってラインを結ぶんだ? 「パスの通し方はいくつかあるんだが、即効性があって魔力の融通が可能な方法はそう多くはねえ。 その内で一番有効なのは、魔術回路をお互いに移植することなんだが、この方法だと現状唯一と言っていいマスターの武器を削ることになっちまう。 それじゃあ本末転倒だ。他にも手札になるモノがあれば良かったんだが、今のマスターには望むべくもねえからな」 ランサーの言葉に肯く。 確かに凛はまだ子供だ。“遠坂凛”のような、卓越した魔術を使うことは出来ないだろう。 だがそれでも、魔術師としては今の岸波白野よりも優れているだろうことは想像が付く。 その数少ない有利を捨てるなど、現状では自殺行為にも等しい。 「あとはマスターの魔術刻印の一部を移植して、受信装置にするっつう方法もあるが、同じ理由でこれも却下だ」 「そうね。私に受け継がれている遠坂の魔術刻印は、全体の一割だけ。すぐに使えるのは初等呪術の“ガンド”くらいかな? けどこれ以上刻印が少なくなると、今の私じゃそれも難しくなると思う」 「となると、オレが知る限りで、即効でパスを通せる確実な方法は一つだけしかない。 マスターと坊主の精神を同調させて、二人の間に直接霊脈を繋ぐっつう方法だ」 自分と凜の間に霊脈を繋ぐ? それは一体どうやって。 「まあぶっちゃけ、ヤるんだよ」 「やる?」 「性行為って言えばわかるか?」 ぶっ…………!!???? 「せ、せっ――、せぇ―――ッ!?」 「あわ、あわわ、あわわわわ………!」 なんと! あの時の保健室ではそんな事が行われていたのか! というか凛。ちゃんと意味が解っているのだろうか。だとしたら単なる耳年増なのか、それとも魔術師としての教養の一つなのか、少し気になるところだ。 それにエリザも。いくら最盛期の姿――処女の頃に呼ばれたといっても、仮にも結婚経験がある筈なのだから、そこまで取り乱すのもどうかと思うぞ。 「せ、せせ、性行為ってあああれよね。アンタがライダーとやってた……」 「あれは不本意だったと切に反論したいところだが、まあそうだ。そしてあのサーヴァントは“そういう系統”の英霊だ。 加えて性行為ってのは魔力を効率よくやり取りするための手段の一つだ。だからオレは、ほとんどの魔力をヤツに奪われちまったのさ」 なるほど。ランサーの魔力が枯渇していたのは、そういう理由からだったのか。 そのライダー……実に恐ろしい……っ! 真正面から相対して勝てる男は、あのセイヴァーくらいじゃないだろうか。 「素肌を密着させることでも一応魔力供給は出来るんだが、現状それでは効率が悪すぎる。 となると、ちゃんと霊脈を繋げてパスを通し、少しでも多くの魔力を融通するしかねえ。 他には坊主がオレに直接魔力供給するって方法もあるにはあるが」 それは御免被る! 「だろ? やると言われたら困ったところだ。オレだって男と裸で抱き合うのは勘弁して欲しいからな」 だったらなぜ口にしたのか。思わず鳥肌が立ってしまったではないか。 ……しかし、これが魔術師の世界というものか……恐ろしい世界だ。 まあそれはそうと、凛、やはり他の方法を考えよう。 こんな方法は倫理的にも、情操教育的にも、精神衛生的にも宜しくない。 「…………わかった……やるわ」 そうそう。凜もこう言っていることだし……ってええ!? 「おいおい、本気かマスター?」 「ほ、本気よ! 言ったはずよランサー。私に勝利を捧げなさいって」 「…………ああ、そうだったな。わかった」 ちょ、ちょっと待って欲しい! いくらなんでも、それはいろいろとマズいのではないだろうか!? そ、そうだ。エリザ、君からもなに何か言ってくれ……って。 「あわわわわわわわわわわわわわわわ――――!!??」 だめだ。エリザは完全に混乱している……! 彼女のスイーツ&ロマンスな脳内では、一体どんな化学変化が起きているというのか……考えるだに恐ろしい。 しかしこれは非常にマズい。このままでは岸波白野は、社会的に脱落してしまう……! 「白野」 ―――は、はい! と、凛の声にビクンと反応してしまう。 恐る恐る彼女の方へと振り返れば、凜は真剣な瞳で岸波白野を見つめていた。 「ねえ白野、私たちは仲間……お互いに助け合う関係よね」 その言葉に、恐る恐る頷く。 確かに自分たちは同盟を結び、仲間になった。その事実には間違いない。 当然、彼女に協力し、その手助けをすることに異論はない。 だけど、それとこれとは別問題だ。と言おうとして、 「私はね、絶対に聖杯戦争に勝ち残って聖杯を手に入れるって、お父様とお母様に誓ったの。 そのためなら何でもするって。苦しいことも痛いことも、どんなことでも我慢するって決めたの」 その声に―――覚悟と決意、強い意志を秘めた瞳に引き込まれる。 ああ―――何という事だろう。 未だ幼い少女でありながら、遠坂凛の魂は、こんなにも鮮烈に輝いている。 己が望みのために、その小さな命の炎を高らかに掲げている。 その、あまりにも眩い輝きに魅せられて――― 「だから………お願い白野、私に力を貸して」 ―――わ、わかった。 と、気が付けば自分は頷いていた。 ………頷いて……しまっていた…………。 「よし、そうと決まれば善は急げだ。 おい、そっちの赤いの。アンタも手伝いな」 「へ!? て、手伝うって、な、ななな、何をよ」 「おいおい、話聞いてなかったのか? 俺のマスターとアンタのマスターの間にパスを通すんだよ。 オレが陣を張るから、アンタは精神の同調・融和を補助してくれ。NPCを操れるってことは、一応は魔術の素養もあるんだろ?」 「けけ、けど、けどけどけど………っ!」 「ん? なんだ? もしかしておまえ、自分のマスターに気があんのか?」 「んなっ!? ななな、なあ――――――――ッッッ!!!???」 「違ったか? けど、もしそうなら丁度いいじゃねぇか。アンタが主導を握って、ついでに一緒にヤっちまえって。 そうすりゃ、次にヤる時の敷居も低くなってる筈だぜ? いやあ、オレもさすがに他人の情事を覗くのは気が引けてよ。アンタが変わってくれるなら願ったりかなったりってわけだ」 「わわ、わわわわ、私が子ブタと私が子ブタと私が子ブタと――――!!!???」 「ま、そういう訳だからよろしく頼んだぜ、嬢ちゃん」 「あうあうあうあう~~~~っっっ!!!」 ―――はっ、しまった! 茫然自失としている間に、事態が引っ込みの付かない所まで来てしまっている!? しかも頼みのエリザは、ランサーの度重なるセクハラ発言でショートしてしまい、彼の言い成りになってしまっている。もはや自分の声など届かないだろう。 恐る恐る、といった風に、正面の凜へと向き直る。 するとそこには、その幼い相貌を若干赤く染めつつも、まっすぐに岸波白野を睨み付ける少女の姿があった。 「ま……ま、まあそういう訳だから、よろしくお願いするわ」 ――――――――。 ああ……さようなら、普通のマスターだった自分。 そしてこんにちは。変態(ロリコン)マスターの新しい自分。 君はこれから、社会の底辺で生きていくんだよ。 と。そんな終わりを告げるテロップが、岸波白野の脳裏を過ぎっていった………。 後半「Moondive Meltout」に続く BACK NEXT 054 伝説を呼ぶマジカル聖杯戦争! 投下順 055-b Moondive Meltout 054 伝説を呼ぶマジカル聖杯戦争! 時系列順 055-b Moondive Meltout BACK 登場キャラ NEXT 049 シンデレランサー 遠坂凜&ランサー(クー・フーリン) 055-b Moondive Meltout 034 既視の剣 岸波白野&ランサー(エリザベート・バートリー) 055-b Moondive Meltout
https://w.atwiki.jp/tony7g7holy7grail/pages/2.html
メニュー トップページ Twitter使用ルール ハウスルール ログ SB聖杯戦争 KK聖杯戦争 T3T聖杯戦争開催中 Ⅱ+Ⅰルール&チーム戦テスト卓 更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/nijiseihaitaisen/pages/97.html
†神長香子――(非)日常風景 午前七時丁度。 カーテンの隙間から差し込む日差しと目覚ましのアラーム音で、神長香子は目を覚ました。 「……朝、か」 ランサーとの戦いの後、結局香子は数十分で夜の徘徊を打ち切って家で睡眠を取っていた。 聖杯戦争こそ始まったが、香子は学校を休むつもりはない。 あまり休息を怠れば、学校での生活に支障をきたしてしまうという判断だった。 (わたしには長の役割がある……いきなり学校を休めば、不審がられるのは確実。だから、序盤は学校生活を続けてマスターである事は極力悟られないようにしたい) 朝の準備は、昨夜の内に既に済ませている。 テーブルに着き、用意しておいた朝食を摂りながら香子は今朝のテレビのニュースを確認した。 (……目ぼしいニュースはない。電車事故は気になるけど、今から調べに行くわけにもいかないわ) 結局のところ。 聖杯戦争が隠匿された戦いである以上、新聞やテレビで情報を得るという行為は難しい、と香子は結論する。 「ごちそうさま」 自分一人の他には、聞く者のいない挨拶。香子は朝食を片付けた。 用意しておいた学生鞄を肩にかけ、黒地のグローブを嵌める。 「行くぞ、アサシン」 『御意に』 そのまま支度を終えて、普段通りの時刻に香子は家を出た。 徒歩10分。香子の家からはそれなりの近場に、穂群原学園はある。 目が覚めた時間から考えればもっと遅く出ても時間的な余裕はあったが、香子は普段通りの予定を外す事で学校内に居るかもしれないマスターに異変を悟られる事を嫌い、なるべくいつも通りの時間に登校するよう心がけていた。 「よっ。おはよう、香子ちゃん」 通学路の途中。聞き慣れた声に呼びかけられて、香子は振り返った。 「……ああ。おはよう、首藤」 首藤涼。 神長香子の『黒組』でのクラスメイトで、寮の同室だった少女。 そして、神長と同じ、一之瀬晴を暗殺する為に集められた暗殺者である。 ……無論それは、この首藤涼が本物ならば、の話だ。 彼女が香子の記憶から作り出された偽物ではない、という保証はないし、普通ならばその可能性の方が高く思える。 (でも、本物の首藤が持っていた願いを、わたしは知らない) 黒組に参加していた以上、首藤涼にも欲していた『報酬』――願いはある。 そして、それが黒組で叶う事が無かったのならば。願いとして感知され、ムーンセルに呼ばれるということが有り得ないわけではない……というのは、他ならぬ香子自身がよくわかっていることだった。 (……この首藤は、本物? そして……本物だったとして、どうする?) 『何故迷うのです?』 内心で苦悩する香子に、彼女の従僕が囁く。 『殺してしまえば良いではないですか、疑わしきは』 ――【殺してしまえ】と。 『鳴かぬ不如帰は、殺す他にないでしょう。ですから、この姫橘に命じてください。……「殺せ」、と』 友人の形をしたモノを――あるいは、友人そのものを、殺せと命令しろと。香子のサーヴァント……【暗殺者(アサシン)】、明智光秀はそう言っている。 『……やめろ、アサシン』 その誘惑を、香子は振り切った。 『まだマスターとも、NPCとも……マスターであったとしても、敵とも味方ともつかない。それに今の段階から攻撃するのは、リスクが大き過ぎる』 『ふふ……そうですね。今は、そういうことにしておきましょう』 残念そうな響きを残して、アサシンからの念話が途切れる。 少し先を行く首藤涼の背中を追いながら、香子は溜め息を吐いた。 ◆ 穂群原学園……正確にはその校門前に到着した香子と涼は、しかし普段にはない光景を目の前に立ち止まっていた。 「やけに人が多いな。これは……持ち物検査って奴かの?」 「そんな連絡はなかった筈だが……」 校門の前に立ちふさがった生徒会の役員らしき生徒が、登校してきたらしい生徒達の鞄の中を検めている。 古式ゆかしい持ち物検査……にしか見えないが、しかし香子の記憶にそんな連絡はない。 「ん、そこにいるのは神長と……首藤女史か」 丁度手近にいた顔見知りの生徒会長が、こちらの姿を認めて駆け寄ってくる。 これ幸いと、香子は質問を浴びせることにした。 「柳洞生徒会長。持ち物検査の知らせなど受けていないが、これはどういうことだろうか」 「む……抜き打ちの持ち物検査だ。試験が近いからな、生徒会役員からの提案で実行することになった。 既に教師からの許可も得ているぞ」 「……役員からの提案?」 「うむ。まあ、お前達が妙な物を持ち込んでいるとは思わんが……規則だからな。時間を取らせるが、悪く思うなよ」 そう言いつつも、生徒会長は香子と涼に鞄を差し出すように促す。 二人は素直にそれに従った。 (爆薬や拳銃を持って来なくて正解だった) いくらNPC相手でも、銃器や爆発物を目の前にすればリアクションを起こす事は間違いない。 もしそのような状況になっていたら、香子は持ち物検査を断固拒否するか、この場で逃亡するしかなかっただろう。 (……つまり、そういう『作戦』?) NPCが、いきなり抜き打ちの『持ち物検査』などという行動を自発的に起こすとは考えにくい。 となれば、これは他のマスターが、学校内にいるかもしれないマスターを炙り出すために行った行動である可能性は高い、と香子は判断する。 「ところでだが。こんなことをいきなり提案したのは誰なんだ、柳洞生徒会長?」 「書記のネシンバラだ。先程も言った通り、試験の時期も近いから気を引き締める意味で、と言っていたが」 「……そうか。首藤、知っているか?」 「む? そりゃまあ伝聞ぐらいでならな。三年のスペインからの留学生で、世界史日本史問わず歴史に強いって話じゃな……あと、文芸部で出してる同人誌が評判だと聞いたぞ。ワシも読んではみたが……まあ、才能は感じたな」 「……ふむ」 頷きながら、香子は内心でアサシンに問いかける。 『……アサシン。この学園の中に、サーヴァントの気配は?』 『感じます……ええ、感じますよ、主よ。何処に隠れているかは解りませんが……間違いなく、ここに英霊が潜んでいます』 個人差はあれど、お互いがサーヴァント同士であるならばその気配を察知すること自体は難しくない。 つまりアサシンがそう言うのなら、やはりこの学園にサーヴァントが……引いてはマスターがいる事は間違いないのだろう。 現状の香子にとって一番疑わしいのは、トゥーサン・ネシンバラだが―― (接触する……あるいは襲撃する? どちらにしても、下手を打てばこちらの正体を明かす事になる) もしトゥーサン・ネシンバラがマスターだったとして、香子とネシンバラという二人のマスターが同じ学園に在籍している以上、更に他のマスターが同じく穂群原学園にいる可能性も無いとは言い切れない。 迂闊な行動を取れば、そういったマスターにこちらの情報を渡してしまう危険がある。 (アサシンの特性を考えれば、そういった事態は避けないと駄目) ならば傍観し、ネシンバラの行動を探るか。 『気配遮断』の特性(スキル)を持つアサシンのマスターとして採るべき選択はそちらだろうが……後手になる事による不利が発生する可能性は否めない。 (……どちらにする?) 【C-2/穂群原学園/一日目 早朝】 【神長香子@悪魔のリドル(アニメ版)】 [状態]魔力消費(小) [陣営]黒(地球) [令呪]残り三画(令呪の位置は右手の甲。鎌のような翼が生えた十字架の紋章) [装備]薄手の黒いグローブ、学生服(穂群原学園) [道具]暗殺者としての武器(何を持っているかは後続に任せる。現在は家に置いてきている)、学生鞄、各種学業用品 [所持金]普通(学生としてはそれなり) [思考・状況] 基本行動方針:どんな手段を使ってでも勝ち残る。その為には同じ陣営の仲間を利用することも辞さない。 1.トゥーサン・ネシンバラに対する警戒。 2.自らやアサシンの情報についてはできるだけ隠匿したい。 3.アサシンへの警戒。 [備考] ランサー(タケ)のパラメータ、陣営を確認しました。 【アサシン(明智光秀)@戦国BASARA】 [状態]正常、霊体化 [陣営]黒(地球) [装備]『桜舞』 [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:どんな手段を使ってでも勝ち残り、最後の殺戮を楽しむ。 1.ランサーとの戦いを中座され多少欲求不満。 [備考] ● ●余 :『不審な輩は見つかっておらぬようだな、軍師よ』 ●未熟者:『まあ、魔術師なら妙な物を持ち込まなくてもその身一つで術式を行使できておかしくはないからね。そうでなくとも、魔術で一般人の目を誤魔化す方法程度は心得ているだろう。 だから、この検査の趣旨としては、一般人寄りのマスターが危険物を持ち込むのをできるだけ阻止するのと、……後は、撒き餌に近いかな』 ●余 :『撒き餌?』 ●未熟者:『うん。聖杯戦争が始まってすぐに、抜き打ちの持ち物検査が行われた……となれば、マスターの関与を疑うのが普通だと思う。提案者が僕である事も、少し調べればわかる事だ』 ●余 :『成る程な。そこで学園内にマスターがいるならば、何らかの行動を起こす筈、という事か』 ●未熟者:『そうだね。この場合一番怖いのは暗殺だから、そこはセイバーに頼らせてもらうしかないかな』 ●余 :『うむ! 存分に頼るがよいぞ!』 ●未熟者:『期待しているよ。……サーヴァントの気配は感じるかい?』 ●余 :『いや。暗殺者(アサシン)のように気配を絶っておるのか……そもそも居ないのか、どちらかはわからぬが、この近辺にはサーヴァントの気配はないな』 ●未熟者:『了解。一応、警戒は続けてくれ』 ●余 :『うむ!』 ● †トゥーサン・ネシンバラ――日常風景 つい先程までセイバーとの実況通神(チャット)を映していた表示枠(サインフレーム)を消すと、ネシンバラは一息を吐いた。 現在ネシンバラのサーヴァントであるセイバーは、その特性(スキル)である『皇帝特権』で、『直感』の特性を取得している。 その『直感』に引っかかる出来事があれば、それはすぐさまネシンバラの知るところとなるだろう。 そうして発見した……あるいは接触してきたマスターと交渉するのが、ネシンバラの役目だ。 ……交渉は本来、本多君の役割なんだけどなあ。 だが、ここにいるのは自分と、そしてセイバーだ。 ならばこの二人で問題に立ち向かわなければならない。 幸い、交渉の材料はある。 ……『聖杯戦争』に望んだ者全てが欲しがっていて、そして同時に僕が望んでいないモノ。 聖杯だ。 この聖杯大戦を戦争と置き換えるならば、戦争の後には必ずついて来るものがある。 戦後の交渉だ。 たとえ戦争が片方の陣営の完全な勝利で終わったとしても、その陣営の中で報酬や獲得した物の分配が必要となる。 そして聖杯大戦において、それは聖杯一つしかない。 である以上、戦後の交渉……あるいは決裂は避けられない。 ……でも、僕は聖杯を望んでいない。 聖杯を欲して争うマスター達の中で、しかしネシンバラは聖杯を必要としていない。 それは他のマスターに対する交渉材料と成り得る。 ……まあ、すんなりと信用されるかはわからないけどね。 都合のいい話だ。素直に信用されるかどうかは疑わしい。 だが、それでもこれは今の自分達に切れるカードの一つだ。 勝利に近付くには、今切れるカードを着実に使っていくしかない。 ……そして、僕が望むのはただの勝利じゃない。 聖杯戦争に、出来るだけ多くの人間が救われる結末を。 現状では、その結末に何が必要なのか、どれだけの困難があるのかもわかっていない。 だからこそ、他のマスターの認識や願いを知り、望む結末に必要な道筋への足がかりとする。 その為には、聖杯戦争に対する知識も必要だろう。 ルーラーやその他聖杯戦争について詳しい主従と接触した際に、聞いてみる価値はある。 そこまで仮方針を決定したところで、近くに生徒会長の姿を見かけてネシンバラは彼に近寄った。 「ああ、柳洞君。今のところ収穫は?」 「特筆するような物はないな。幾らか校則違反の品を取り上げた程度だ。……時にネシンバラ。その手袋はどうした?」 生徒会長が、こちらが装着している手袋を指差し問いかけてくる。 手袋自体は、ネシンバラが令呪を隠す為に用意しただけの、特筆する所はない品だ。 ただし、あまり突っ込まれて隠している令呪の存在に気付かれれば面倒な事になるのは間違いない。 だからネシンバラは、予め用意していた答えを放った。 「格好いいだろう?」 「……ああ、うむ……そうだな」 微妙な顔をして、生徒会長は校門の方へと戻っていく。 首を傾げながら、ネシンバラも同じく生徒会の業務へと移った。 【C-2/穂群原学園/一日目 早朝】 【トゥーサン・ネシンバラ@境界線上のホライゾン】 [状態]健康 [陣営]白(月) [令呪]残り三画 [装備]学生服(穂群原学園)、ミチザネ、黒地のハーフフィンガーグローブ [道具]学生鞄、各種学業用品 [所持金]それなり [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を、出来る限り面白い形で終結させる。 1.学園内部、あるいは周辺のマスターを警戒。接触できた場合は交渉する。 [備考] 【セイバー(ネロ・クラウディウス)@Fate/Extra】 [状態]正常、霊体化 [陣営]白(月) [装備]隕鉄の鞴「原初の火(アエストゥス エストゥス)」 [道具] [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:軍師(マスター)の命に従う。 1.直感のスキルを用いて周囲を警戒する。 [備考] 投下順で読む Next賭ケグルイ
https://w.atwiki.jp/kakiteseihai/pages/92.html
――その日、運命に出会う。 「ところでさ、ワンダフル。結局あたしらって何なんだろな」 DQBR2完結の感慨を一通り味わい合って尚、再び歩き始めた彼らの話題はDBR2一色だった。 そんな中、目的地の学校が見えてきた辺りでようやく、この書き手聖杯に関する疑問をクルツは口にする。 それは書き手聖杯の地に降り立った時にも口にした疑問で、一旦後回しにしていた問いかけだった。 「あれ、またその話かい?」 「あん時持ってなかった情報を手に入れたからな。それも加味して考え直そうって話さ。 てめぇにも心当たりはあんだろ?」 「まぁ、ね」 同意を求められたワンダフルは深く頷き、求められた答えを口にする。 「僕たちが書き手聖杯戦争に連れて来られた時点の記憶じゃまだ書いていないはずの作品の数々。 それを投下したという記憶がいつの間にか僕たちにはあるということだよね?」 「そういうこった」 DQBR2の完結を共に喜んだ記憶は真新しい。 しかしこの地でワンダフルがマスターとして目覚めた時、DQBR2はまだ最終局面に突入したくらいで、完結などしていなかった。 していなかったからこそこの地で完結を祝ったのだ。 とはいえもちろん、情報室を目指していた最中であった二人はパソコンになど触れた覚えもなくて。 スマートホンなども持っていない以上携帯投下も叶わない。 何より聖杯戦争にとっかかりで執筆をした覚えもないのだ。 なのにDQBR2は彼らが聖杯戦争に呼ばれて以降も数多の投下がなされた後に完結した。 それが他の書き手によるものなら納得できる。 自分たちがいない間に完結させやがってとか悔しがること待ったなしだがおかしな話ではない。 だが、完結を成したのはクルツであり、その道筋を作った一人はワンダフルだ。 自分たちが執筆できない状況にも関わらず確かに読み書きした覚えがあり、その作品もどう見ても本物の自作だ。 これはどういうことなのか。 「あたしの代わりに誰かがあたしに成りすまして書いた……ってわけじゃねえよな。 あんな面白くてDQBR2愛にあふれた話、このあたし以外にありえねえ」 「となると逆はどうかな? つまり僕たちの方が偽物だ。 自分を書き手だと思っているレプリカ。テイルズロワ2辺りが絡んでるならあり得なくもなさそうだけど」 「レプリカ、ね……」 クルツが押し黙る。 何も自分たちが偽物の可能性に気づきショックを受けたというわけではない。 そもそもがソフィアやロッシュの姿を取っている以上、本来の◆CruTUZYrlMや◆1WfF0JiNewでないことくらい分かっている。 自分たちが書き手聖杯のために生み出された存在である可能性も考慮済みだ。 今回黙ったのは単に、レプリカなどというよそ様のネタではなく、自ロワのネタで説明がつくのではと考え込んでいるからに他ならない。 しばらくの間を置いて自分の考えをまとめたクルツは、自らの考察を言葉にする。 「なあ、ワンダフル。覚えてっか。あたしがてめぇに召喚された時にした話のこと。 あの時、てめぇ言ったよな。あたしらが夢の世界の住人じゃないかって」 「言ったね」 「あれ、やっぱ案外いい線いってんじゃねえか? この場合夢や希望というよりも寝てる時に見る方だがよ」 自分たちが◆CruTUZYrlMや◆1WfF0JiNewの見ている夢なら説明のつくことは多い。 本人の見ている夢である以上、自分たちは本物とも言える。 毎晩寝た後の意識が書き手聖杯に来ているなら、この夢を見だした後に書いた作品の記憶があることや記憶が更新されていることも不自然ではない。 それでいて記憶が不完全なのも夢なら納得できる。 夢で意識のあることは多々あるが、自分のことを全て思い出せるのは稀だ。 「胡蝶の夢、か。若干ドラクエロワ2に寄り過ぎている気もするけど、ドラえもんにもそういう映画あったっけ。 一般的な発想としても十分ありえるかもしれないね」 「だろ? もちろん断言するには危険だが、考察の一つとして頭の隅に置いとくのはありかもしれないぜ。 ……っと、そうこうしているうちにご到着だ」 話し込むのに夢中で、いつの間にか校門をくぐり抜けてしまったらしい。 目の前に広がる校舎の様子に気を新たにする。 どうやらここから先は考察に気を回している余裕はなさそうだ。 「マスター」 「うん、気づいてるよ。情報室というか図書室? カーテンが開けられてるね。他は閉まってるのに。 ご丁寧に電気まで点いてるところを見ると夜から朝にかけて情報収集をしていたのかな。 不用心この上ないけど相当の自信家か、何らかの罠か、それともただのバカか」 「書き手である以上下手なフラグは立てねえと思うけどなあ……。 サーヴァントの気配もするからもぬけの殻ってわけでもねえ。 どうすっよ? アタシ的にはどんな形でも情報が得られる以上会ってみるの推奨だけど、うーん」 「どうしたの? 何か問題あるのかな」 「あー。そのなんだ、アタシのスキルがさ」 「スキル? ……ああ、そっか」 珍しく言いよどむクルツに首を傾げていたワンダフルだったが得心がいった。 原因はクルツのスキル、勇者の宿命だ。 DQBR2の象徴の一つが形をなしたこのスキルは良し悪しに関わらず異常事態や宿命の出会いを招きやすい。 下手すればいきなりのラスボスエンカウントや幼女に刺されるという事態にもなりかねないのだ。 「ど、どうすっよ。あたしは責任取らねえからな?」 「大丈夫、いざとなったら令呪で君を盾にして逃げるから」 「残念、対魔力EXは伊達じゃねえ!」 「重ねて令呪をもって命ずる!」 だらだらと汗を流しながら顔を見合わせる二人。 勇者らしくない押し付け合いをしながらも、自ずと彼らは図書室へと歩を進めていく。 虎穴に入らんば虎児を得ず。 自作にちょっとまずいかなと思うことがあっても、面白いとか必要だとか感じたならばええいままよと投下するのが書き手だ。 図書室の扉の前で一旦身構え立ち止まり、様子をうかがうも相手は出てこない。 ならばと細心の注意を払いながらも二人は扉を開け放ち、中へと踏み込み、そして―― ――彼らは運命に出会った。 「久しぶりだね、勇者アイギス。ううん、その姿ならこう呼ぶべきかな。仮面の王と夢の塔・クルツ」 アイギスと自らを呼ぶ声にクルツは息を飲む。 数多のロワに手を出してきた自分だが、長く居ついたロワはそう多くはなくて。 だから自分をラジオのMCではなく書き手としてまず第一に認識する者が少ない時期もあって。 DQBR2やPWBR、新安価を完結させた今からすれば昔のことだけど、でも確かに居ついて名を得たロワがあって。 今呼ばれたのはその時の名前。 その名で自分を呼ぶ者はそうはいまい。 声が来た方、書庫の奥へと目を向ける。 そこには開け放たれた扉から吹き込む風に髪を靡かせる一人の少女の姿があった。 ああ、確定だ。その姿で自分をアイギスと呼ぶ者など、その名を贈った当人以外にありえない。 自らが確かに熱中し、そして名を上げたとあるロワの主の名をクルツは万感の想いを込めて絞り出す。 「ご無沙汰してるのはあんたの方だろ、ヴァルハラ。そっちがご無沙汰している間にあたしは完結させたぞ」 少女の名はヴァルハラ。RPGロワの魔王にして勇者。 かつてクルツが一万メートルの景色を描いた世界の天頂に座するもの。 最強の過疎ロワとさえ呼ばれた世界のトップ書き手。 クルツがDQBR2へと飛翔するに辺り遥か彼方へと通り過ぎて行った過去の象徴――。 「あいたたた、痛いところをついてくるなー。大丈夫だよ、クルツ。 みーも君たちに続く気満々だから。止まったままでは終わらせないよ」 「ハッ、その割にはこんな所でそんななりで何してるんだか」 今だ旅の途上にあるいつの間にか追い抜いてしまった物語の主に何とも言えない感情を抱いて悪態をつく。 まあ渡り鳥なのはRPGロワ書き手らしいとも言えるし、自分が言えたものではないだろうが。 それにしてもその姿はいただけない。 ヴァルハラが模しているのは可愛らしい魔女っ娘の姿だ。 確かにかの魔女っ娘を描いた夜空もRPGロワ初期の名作であり、かつ作中的にも大きな影響を与えたヴァルハラの代表作の一つといえる。 しかしヴァルハラにはRPGロワそのものの代表作とさえ言い切れる唯一無二の作品があることをクルツが忘れるはずがなかった。 何故ならそれはDQBR2書き手としても意識せざるを得なかった一作で。 ドラクエに限らず数多のロワ、数多の書き手が影響を受けた一作なのだから。 「何可愛い子ぶってんだ、ヴァルハラ。あんたがRPG書き手として召喚された以上、あんたの姿はそんなものじゃねえだろ。 いやまあ女装している俺が言えたもんでもねえが性転換っておま。 ……てかおい、まさかてめぇクラスまで詐称してるのか!? いくらなんでも自重だろ……」 「あははー☆ なんのことかなー? みーにはわかんないや~。 大体ソフィアな君の前でみーにユーリルの姿を取れというのは自殺行為もいいとこだよね。 君はみーに死ねというのかな?」 「むぐ……」 クルツには返す言葉がなかった。 DQBR2的に考えればユーリルはソフィアにちぎっては投げの無双をされてもおかしくない。 他ならぬ自分がそういう話を書いたのだ。 ここは引くしかなかった。 ああ、そういえば今の自分はそれこそ◆CruTUZYrlMの模倣品のようなものなのだろうか。 だったらどうした。どう歩くかは自分次第でそれが自分を作るのだと書いたのはどこの誰だ。 そんなことを考えているとヴァルハラが席を立つ。 「なんだよ。もう行っちまうのかよ」 「うん。君と僕が一緒にいるという大きすぎるフラグは互いのためにもためにも避けたほうがいいと思うんだ」 「今はまだ、か?」 「あははー☆ 君はここで調べたいことがあるんだよね。 みーはもうここにある分は読み終わったし、少し運動してこよっと☆ マスター! お外いこ!」 「お、お姉さま、お姉さまが、お姉さまが手を、わたくしの手をー!」 マスターであろうもう一人の少女の手を握ってヴァルハラが駆け抜けていく。 その様を見送ってクルツは大きく息を吐いた。 「はぁああああー。一触即発たあならなかったかー。その方が楽だったかもだがなー」 そこに込められた安堵と不安の感情を察したワンダフルはクルツを労う。 「お疲れ、クルツ。やっぱりサーヴァント同士、しかも大物を相手にすると疲れるかい?」 「ぬかせマスター。てめぇもドラクエ書き手ならあれがどういう書き手だか知ってだろ。 だからあたしに丸投げしててめえはてめえでマスター同士なんか喋ってたんだろが」 「まあね」 RPGロワがトップ、“魔王”ヴァルハラ。 あれは“救い”の化け物だ。 否、ただの化け物ならいい。 パロロワ界は広い。化け物と称される書き手なんて少なくもなく、クルツやワンダフルもその領域の人間だ。 だからこそ問題なのはヴァルハラが化け物なことではなく、その方向性。 “救い”――救われぬ者を救う者。 どのロワを探したとしても、そのクラスに該当する書き手は他にないとさえ称される救済者<セイヴァー>たる書き手。 その書き手が。 救われぬものを救わずにはいられないそんな勇者を描き切ったあのヴァルハラが。 何をするでもなく図書室で読書にふけっているだけだって? 馬鹿なありえない。 書き手ロワ書き手として召喚された場合なら分かる。 しかしRPGロワ書き手として召喚された彼が、書き手たちが殺し合う地で救いを求める者を、救われぬ者を救いに行こうとしない、探そうともしない。 そんなことがあるはずがない。 もしあるとすればそれはこの書き手聖杯自体が決して救われないものではないということ。 その上でヴァルハラはそのことを知っているということ。 「間違いねえ。ヴァルハラはこの書き手聖杯の真実に近い位置にいる」 「僕は君が殴ってでも聞き出すかと思って退避してたんだけど」 「そうしたいのはやまやまだったが、書き手だからなあ。 ネタバレしろと言われて分かりましたと答えるわけはねえし、あたしだってそんなつまんねえ真似はしたくなかったし」 だから、とクルツは決意を新たにする。 「暴くしかねえだろ、あたしたち自身の手で真実を。書き手聖杯のあるいはヴァルハラの真実を。 その上でそいつをつきつけてやろうじゃねえか、あいつが観念して口を開けるための前振りとしてよ」 そのためにも情報を集めないとなっと、読書スペースに設置されたパソコンの一つを起動する。 どうやら立ち上げには少し時間がかかるみたいで、やる気はあれど手持無沙汰なクルツはふと気になっていたことを尋ねる。 「そういやワンダフル。あいつのマスターと何を喋ってたんだ」 ヴァルハラとクルツが対峙している時、ワンダフルもまた相手のマスターを連れ立って何やら奥で話していたのだ。 「ん? ああ、腕章を見たらあの子、中学生ロワの書き手みたいだったからね。義理の妹へのなんてことないお節介さ」 問われたワンダフルが浮かべたいつものおちゃらけた笑みに一瞬混じった悪しき気配に、クルツは心の中で合掌する。 あーあ、ご愁傷様、と。 【学園・図書室・朝】 【悪しき世界の人々・ワンダブル@ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅡ】 [状態]魔力消費なし [令呪]残り3角 [装備]ロトの剣 [道具]なし [所持金]全滅後なので所持金は半分 [思考・状況] 基本行動方針:書き手聖杯を自分が満足の行く形で終わらせる 1.どう終わらせるかを見定めるために、書き手聖杯戦争の真実を解き明かす手伝いをする。 2.さて、上手くいくと儲けものだけど 【アーチャー(仮面の王と夢の塔・クルツ)@ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅡ】 [状態]魔力消費なし [装備]天空の剣@DQ4、メタルキングの盾@DQ6、KBP GSh-18 [道具]なし [所持金]金塊@DQシリーズくらいなら錬金できる [思考・状況] 基本行動方針:書き手聖杯戦争の真実を突き詰める。 1.パソコンや本で推理用の情報収集。Fate関係優先。 2.ヴァルハラに真実をたたきつける 重ねられた手。小さな手。温かくも力強い手。 ほんの少し前なら息を荒くすること間違いなしな好シチュエーション。 なのに、ジゼルがヴァルハラを見る目にはいつもの熱を帯びた視線に混じり、ほんの僅かに猜疑の色が見え隠れしていた。 書き手聖杯を楽園と称する彼が見せた何かを知っている素振りとその慈愛の前に一度は浮いて消えたヴァルハラへの疑念。 それが形を変えて再度浮上したのは、あの男――ワンダフルのせいだった。 旧知の仲らしいヴァルハラとクルツの会話に割って入れない空気を感じたジゼルは、自分同様置いてけぼりを食らっていたワンダフルから情報交換を持ちかけられていた。 ジゼルとしても断る由もなくて、しばらく互いのこれまでを伝え合った後突如、壁ドンされ、耳元で囁かれたのだ。 『君さ。自分が呼び出したのがどういうサーヴァントか分かってるの?』 思わずテレポートで逃れようとしたジゼルの心ごと縫いとめるその言葉。 必死にジゼルは敬愛するセイバーの素晴らしさを説くもワンダフルは大げさな身振りで嘆くばかり。 『分かってない。分かってないよ。確かに僕はサーヴァントとしての彼は知らない。 でも彼の作品は知っている。自作である一節を使うくらいには意識していたよ』 ワンダフルは告げた。ジゼルがセイバーと呼んでいるその存在がRPGロワという枠に留まらない程の存在であることを。 『言い直そうか。ヴァルハラという書き手を他ならぬ君が――中学生ロワの書き手が召喚した。 その意味を考えはしなかったのかな』 そんなヴァルハラに影響を受けたのは何もドラクエ系列のロワだけではないということを。 『“救われぬものに救いの手を”。DQBR2書き手としての僕も使った一節だけど。 ねえ、中学生ロワでこの言葉はどういう意味を持っていたかまさか忘れたなんて言わないよね?』 ワンダフルは突きつけてきた。目を逸らしてはならぬ現実を。 たとえ他のどのロワのマスターがヴァルハラを呼び出したとしても危惧する必要のなかった、中学生ロワの書き手だからこそ背負わねばならない宿業を。 『彼は救い手だよ。救われぬ者を救う者。全部全部救うだろうさ。けどどうやって救うんだろね?』 曰く、召喚の媒体となる触媒がない場合、サーヴァントはマスターとの縁や似たもの同士、相性を元に選定される。 ならば中学生ロワのトップ書き手に救いの最果てたる存在が召喚された所以とは果たして……? 『まあ本来はどこぞの◆jN9It4nQEMが背負うべき責務だったのかもだけど。君が呼んじゃった以上は仕方ないよね。 トップ書き手である君はいろんな意味で中学生ロワを背負っているような状態なんだし』 そこだけはどこか申し訳なさげに詫びた、知っているようで知らない誰かは最後に、悪の魔王が浮かべるような笑みを顔に張り付けてこう締めくくった。 『勘違いしないで欲しいけど。僕もね、あのヴァルハラとは戦いたくないんだ。 DQBR2がRPGロワに負けるなんてこれっぽっちも思ってないけど。でも、ただでは済まないだろうし。 だからね、君にお願いがあるんだ、ジゼル。もしもの時は君が責任を持って僕たちがヴァルハラと戦わないで済むようにして欲しいんだ。 大丈夫、言ったろ、元を辿れば僕の責任だって。ヴァルハラに気兼ねするなら僕のせいにしてくれて構わない。 悪いのは僕だ、君じゃない。――それじゃ、任せたよ』 ヴァルハラと戦いたくない。ヴァルハラと戦わないで済むようにして欲しい。 その“お願い”に潜む真意と悪意を察せられないほどジゼルは愚かではなかった。 この世界で誰よりも、ジゼルにはヴァルハラをどうとでもできる力があるのだから。 「お姉さま……」 内股をぎゅっと擦り合わせて足を止め、前を行く少女を呼ぶ。 どうしたのと振り向き微笑む少女の笑みはいつものように優しくて。 それだけで救われたと錯覚してしまいそうになったジゼルは、自分が疑い命を握っている少女に救いを求めることができなかった。 【学園外・朝】 【ジゼル(◆j1I31zelYA)@中学生ロワ】 [状態]魔力消費なし、疲労なし、眠気(小) [令呪]残り3角 [装備]仕込み針@とある科学の超電磁砲 (残弾:コスモガン仕様) [道具]なし [所持金]中学生の平均的なお小遣い程度ですわ [思考・状況] 基本行動方針:自ロワの宣伝と読者増加のため活躍する 1.ひと通りセイバーに自ロワは追いついてもらえましたし、他の方たちにも宣伝したいけど…… 2.セイバーは書き手聖杯戦争について何か知っていそうですけど……信じたいのに…… 3.これが中学生ロワ書き手としての宿業ですの? この手で小さな花を手折るしかないのですの……? 【セイバー(◆iDqvc5TpTI )@RPGロワ】 [状態]魔力消費なし [装備]ウィスタリアスセイバー@RPGロワ [道具]なし [所持金]RPGクリア後なので相当持っているはず [思考・状況] 基本行動方針:みんなに書き手企画で楽しんでほしい 1.DQBR2完結おめでとー! 2.書き手さんたちと会えるかなー☆ 3.みーはここにる。君の、サーヴァントだよ、ジゼル。 [備考] みんなに輝いてほしいと思っているので特定のスイッチを踏まない限りやる気がありません 026:エンジェル・ハウリングalteration 怪物領域 投下順に読む 028:不動の剣 021:無限大な夢の後で 悪しき世界の人々・ワンダブル :[[]] 021:無限大な夢の後で 仮面の王と夢の塔・クルツ :[[]] 013:Re・貴方の素晴らしき物語 ジゼル :[[]] 013:Re・貴方の素晴らしき物語 ヴァルハラ :[[]] ▲上へ戻る
https://w.atwiki.jp/itan_seihaisensou/pages/111.html
———裏設定——— ※原作、まゆおう魔王勇者にこのような設定は一切御座いません。 実名…雲行 是々(クモユキ セセ) 《詳細》 雲行楚々(クモユキ ソソ)、という女の娘。 (平行世界上での、第三次聖杯戦争の参加者。その世界では無残に殺された存在だが、この平行世界では別のルートで死に至った。…知らない人は、二重人格の魔術師と捉えてください) 楚々は、14歳の中学二年生時に、自身の彼氏に犯され、妊娠がバレると捨てられた。 その後、金銭面では余裕があったこともあり出産を決意するが、その矢先に楚々は爆発事故に巻き込まれて破水。緊急出産となり、楚々は死亡。お腹の子・是々は助かり、父もいないため彼女は天涯孤独となる。 以下、是々の設定 5歳の時、"才能ある子"として孤児院から魔術師協会へ引き取られ、散々な目に遭う。 彼女の現在の年齢は実質13歳なのだが、教会から施された思考領域が原因で、通常より発育が圧倒的に早く、外見年齢的には高校生程度の外見にしか見られない。しかし、知力はむしろ高校生すらも凌駕するほどの知識を持ち合わせている。 それからの経緯はキャラシートに書いた通りだが…彼女にはもう一つ特性があった。 "侵食"。彼女は、魔術を多く学びすぎた。 その膨大にも程がある魔力を制御は出来ていたもの、日に日にその力は溢れ出て、しかもなお増える。 彼女は愛を感じられなかった。天涯孤独のこともあるが、周りの同情の目なども見、感じていたのは「偽善」や「嘘」。さらに魔術師協会により人格は日に日に歪み、ついには殆どの感情を失っていた。 その感情が動くときなど殆どなかった。…突き動かされる感情、その感情によって、ときに彼女には《歪み》が生じる。 その《歪み》は母親と同様。彼女にとっての自己防衛。彼女にとっての最大魔法を、最大限に活用してくる。 その《歪み》は、"達成"により解除される。その時々に、"達成"の定義は異なる。 『外なる図書館』で知ったことは、聖杯戦争の事だけで無かった。 『外なる図書館』とは、"求めに応じる場所"。知識欲がある限り、どんな資料でも見つかる場所。 彼女はそこで様々な資料を見つけ、『もしかしたら自分の母親のことも何かわかるかもしれない』と思いつき、楚々に関する経歴を見て愕然とする。楚々という人物が自分の母親だ、ということを認めたくないくらいに彼女は外道であった。 父親に多大なコンプレックスを持ち合わせているため、彼女は父親に関する文献の一切を調べなかった。…否、調べたくなかったのである。 また、当時歴史などに興味を持っていた彼女は、ある資料を手に取り、それを見、『Raww Le Klueze』なる人物の資料を発見する。 当時彼女は歴史上の人物に会ってみたいと思っていた。その、母親に何処か似たような主観を持っていると知った彼女は、彼に会いたくて仕方なくなった。忘れようとしても、忘れられなかった。 しかし、所詮歴史上の人物。会う事が不可能だとは知っていたため、諦めていた。 ———が、その矢先に知ったのが"聖杯戦争"の存在。彼女は、そのために参加したのだ。深い知識を求めて。 ………彼女は最初こそ、過去の文献に対しての深い知識を求めているだけだった。その、ラウ・ル・クルーゼに会いたいという、ある種の純粋な願い。 しかし。彼女はこの戦いに、死ぬことすら構わない、と思うまでに"素晴らしさ"を感じていた。 戦いが終盤に入り、アーチャーを失ったときに感じた感情。それは未経験なことで、彼女にとって凄まじい衝撃を与えた。 彼女は聖杯に、"聖杯戦争の再戦"を願う。 【圧縮術式補正】 標準固定してもなお、約半径40mに渡り、辺り一帯を荒野にするほどの威力を持っている。 標準固定しなければ更に。自分をも巻き込んで、半径70mにも渡り、辺りを消し飛ばせる。それは最早、どんな物質とて例外でなく、範囲に入れば海すら干あがる。 範囲攻撃だが、ターゲット以外ならばまだ逃げるチャンスが無いでもない。 ターゲットを中心にその魔術は展開されるため、避けることは困難を極める。 攻撃時、クリティカル1、瀕死1、重症3、回避1の確立に変動される。 ただし、上記の補正は《歪み》が生じている場合に限定される。 《歪み》が生じていない場合は、 標準固定時範囲…半径40m→半径20m 標準固定無し時範囲…半径70m→半径50m ダイス確率…クリティカル1瀕死1重症3回避1→クリティカル1重症4回避1 …と、なる。これでもなお、随分と強い、彼女の最大魔法だが。
https://w.atwiki.jp/nijiseihaitaisen/pages/66.html
――1888年、イギリス。 昔から続くある名門貴族の邸宅に、多くの人間が集まっていた。 と言っても、集まった者達の目的は華々しい晩餐会や祝いの宴ではない。 集まっている者の大勢は警官であり、彼らの目的はこの館に帰って来るであろう人物を逮捕することだった。 容疑は殺人未遂。 養子として育てられていた家の当主を病死に見せかけて毒殺し、家を乗っ取ろうとした疑いがかけられていた。 証拠と証人も揃っている。本人の帰宅次第、逮捕は執行される予定であった。 そして。 夜も更けた頃、容疑者――ディオ・ブランドーは帰宅した。 「ジョジョ……人間ってのは、能力に限界があるなぁ」 ――数刻の後。 ジョナサン・ジョースターやスピードワゴンに犯行を暴露され、追い詰められたディオは、しかし余裕を隠さずこう宣言する。 「おれが短い人生で学んだことは……人間は策を弄すれば弄するほど予期せぬ事態で策がくずされるってことだ! ……故に……『完全』な『成功』を得たいなら……『人間』を『超越』したモノを手に入れなければな……」 「なんのことだ? なにを言っているッ!」 訝しげに叫ぶジョナサンを正面から見据え、ディオは懐のソレを取り出し――掲げた。 「い……石仮面、君がなぜ持っている!?」 「俺は月の聖杯を手に入れるぞ、ジョジョーーッ!」 ◆ 「フン……『思い出した』ぞ。 そう……『全て』をな……」 薄暗い一室で、ディオ・ブランドーはそう呟く。 手に掴んでいるのは石仮面――そう、 「『月の石』でできた『石仮面』……これの正体に、ジョナサンよりも先に気付くことができたのは幸運だった」 喰屍鬼街(オウガー・ストリート)の毒薬売り・ワンチェンから聞き出した『月の石』と『聖杯戦争』の噂。 それが真実であったことに、ディオは上機嫌で笑う。 (この『聖杯戦争』に勝利すれば、ジョースター家になど拘らなくても世界一の金持ちに…… いや、それどころか『世界』を『支配』することすらできる) 「『団体戦』とあの女は言っていたが……くだらん。 優勝商品がひとつの団体戦など、成り立つはずがなかろう? 『聖杯』はトロフィーでもなんでもないのだからなァ」 『万能の願望機』という性質を考えれば、『聖杯』を分け合うことは難しい。 『願い』という商品は分け合えない――『聖杯』がどれだけ願いを叶えられるかわからない以上、競い合う相手は少ない方がいい。 いや、そもそもこの『戦争』の後も『聖杯』を確保できれば――それはまさに『神』にも近い存在に至れるのではないか? そう考えれば、団体戦の後に待っているのは醜い仲間割れ以外には考えられない。 (ならばどう勝ち抜く? 魔術師が蠢くこの戦いで、人間の体はあまりにも脆い……。 『石仮面』はまだ手元にある……これを使えば吸血鬼となれるが……) 『石仮面』の作用は、単なる『月の石』としての聖杯戦争への参加権だけではない。 その骨針を脳に打ち込むことによって被験者を人間を超えた存在――吸血鬼へと変えるのだ。 (吸血鬼の体が、このちっぽけな人間の体とは比べ物にならぬ力を持っているのは確かめるまでもない……。 だが、先走って吸血鬼となるのは考え物かもしれんな。 吸血鬼は日光に弱い……これは聖杯戦争を戦う上では大きな弱点になるかもしれん。 血を吸うためにNPCを大量に襲ってもルーラーの不興を買うだろう。 いや。そもそも、NPCとやらから血を吸うことはできるのか……?) 簡単な思索の後、ディオは石仮面はすぐには使わないことを決めた。 あまりにも不確定要素が多すぎる――そもそも、吸血鬼と化したところで、あのサーヴァントには勝てはしないのだ。 (忌々しい……このディオのサーヴァントがあんな女とは! そのような女に手も足も出ないのも忌々しい!) サーヴァント召喚の直後、女と侮ってかかった結果は思い出すだけでも忌々しい。 なによりも忌々しいのは、頼れる相手はその女のみ――いや、頼って十分な戦力だということだ。 「偵察、終わったわよ。 単独行動もないから、ちょっと近くを見回ってきただけだけど」 思い切り顔をしかめ、座っていた椅子に八つ当たりしていたディオは、不意に部屋の入り口に新たな気配が現れたのに気がついた。 栗色の髪に軍服、手にはドリルのような手甲を装備した女性。 ディオのサーヴァント――ランサー。 (もう帰って来たか) なにもディオとて、本気で自らのサーヴァントを嫌っているわけではない。自らのサーヴァントと不仲では勝ち残るのは難しいだろう。 そもそもランサー――『総統・タケ』の掲げる「弱肉強食。民族や生まれを問わず優秀な者がそうでない者を支配し、管理・統制するのは当然の事である」という思想はディオにとっても同意できる。 だがそれ故に、ランサーの存在は癪に障る。 周囲の偵察命令を出したのも、なるべくその顔を見ないようにするため遠ざけたかったのが理由のひとつだ。 またなにか命令を考えなければ――、 「――ま、ベタベタされるのも鬱陶しいからいいんだけど。 アンタ、嫌な顔するならするでもう少し隠せないの?」 「……チィッ」 顔に出ていたのを気取られたか、とディオは努めて平常心を保とうと心がけ、ランサーを見据えた。 対するランサーはディオに視線を合わせ、睨みつけこう宣告する。 「別にアンタがあたしにどんな感情抱いてようと気にはしないけど。 間抜けに指揮されるのだけはゴメンよ。 それだけ理解していれば――『勝利』を与えてあげるわ」 圧倒的な威圧感を備えた、英霊の眼光がディオを射抜く。 魂の存在量から違う、ただの人間と英霊の差。 それを実感し、歯噛みしながらも―― ディオ・ブランドーの内心は野望の炎に燃え上がっていた。 (『勝利』! そう! 『勝利』して『成功』するのだッ! このサーヴァントも! 他の参加者も……全てを利用して! 勝ち残ってやるぞッ!)
https://w.atwiki.jp/fateonsen/pages/140.html
【レギュレーション】 形式:PvP、NPCあり 難易度:★☆☆☆☆ 所要時間:4時間、複数日に分割 終了ターン:5ターン目終了時 PL人数:4~7人+NPC4騎 【シナリオの概要】 ここは何処とも知れない特異点、通称『コロッセオ』。 この空間では他サーヴァントとの共闘不可の術式が加えられており、単騎での戦闘を強いられる。 『コロッセオ』には古今東西様々な英雄が集結し日夜武勇を競っている。 今日も、血の匂いにつられてやってきた者たちが現れる。 【特殊ルール】 今回の聖杯戦争では特殊な宝具を持っていない限り同盟不可となります。 また、敵サーヴァントを1騎撃破するごとに撃破ポイントと令呪1画を手に入れることができます。 最終的にこの撃破ポイントが多く手に入った陣営の勝利となります。 今回の聖杯戦争では古今東西から集まった4騎のNPCサーヴァントが登場します。 NPCサーヴァントのデータは全て令呪1画消費したサーヴァントとして作成されております。また、マスタースキル相当の追加スキルを2つ持っています。ただし、令呪効果は使用しません。 NPCは全員ランダムに移動し、遭遇した場合は強制的に交戦フェイズに移行します。 NPCサーヴァントに与えたダメージは原則そのまま引き継がれます。 本聖杯戦争では、通常の聖杯戦争とは異なりサーヴァント消滅後も2ターン経過することでHPが全回復した状態で聖杯戦争に復帰することができます。 ただし、撃破ポイントが1点減少します(最低0点)。 また、NPCサーヴァントは倒したら復活しません。 【ログ】 https //ux.getuploader.com/onsenfatetrpg/download/33 【参加者】 テレサ・ミュー:ライダー 佐田ニキア:ランサー 松本 奏:セイバー マルコ・ポール・モンストル:ランサー 【NPC】 古代の西洋アーチャー 古代の東洋セイバー 近代の西洋ランサー 近代の東洋キャスター
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou/pages/178.html
人物背景 第五次聖杯戦争(Fate/stay night)で、キャスターであるメディアによって召還されたアサシンのサーヴァント。 ルール違反の上に成り立っている召喚なので、本来のアサシンではない架空の英霊(正確には亡霊)が召喚された。 召還の際に触媒に使用した柳洞寺の土地を依り代とし、「マスターの存在しない英霊」として強引に現界している。 その為に土地の近辺しか動くことが出来ず、山門の番人のような役割を担っている。 真名は佐々木小次郎ということになってはいるが、その正体はあくまで「佐々木小次郎」という存在を演じるのに最も適した無名の剣士が その名を借りてサーヴァントとして召還されたという、言わば「佐々木小次郎の殻を被った名もなき亡霊」。 元は読み書きもできず名もない百姓で、生涯戦うこともなく剣の鍛錬をし続けた柳桐寺に縁のある剣士だったと思われる。 存在するはずのない英霊ではあるが、その剣術の腕はセイバーを相手に互角以上に渡り合い (メディアの援護があったとはいえ)バーサーカーであるヘラクレスを退ける程のもの。 公式で「第五次において単純な剣術の腕で最強なのは小次郎」と言及されており、剣士としては相当な実力である。 【二次キャラ聖杯戦争】ではイレギュラーな方法を用いたキャスター(蘇妲己)によって柳洞寺で召喚された。 パラメーター 筋力C 耐久E 敏捷A+ 魔力E 幸運A 気配遮断:D…自身の気配を消す能力。アサシンのDランク気配遮断は「透化」スキルからの派生。 厳密には気配遮断スキル自体は有していないが、「Dランク気配遮断スキルと同等の能力がある」という意。 心眼(偽):A…直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。 透化:B+…明鏡止水の心得。精神干渉を無効化する精神防御。第五次のアサシンは正式なアサシンではなく、 本来の意味での「気配遮断」のスキルは持たないが、このスキルが気配遮断の代用にもなっている。 宗和の心得:B‥同じ相手に何度同じ技を使用しても命中精度が下がらない特殊な技法。攻撃を見切られなくなる。 『燕返し』 種別:対人魔剣 最大捕捉:1人 宝具ではなくスキル。修練を重ねた結果編み出した技。 かつて暇つぶしにツバメを斬ろうとした際、空気の流れを読まれてことごとく避けられた結果、それでもなお打ち落とそうとして編み出した。 無形を旨とする彼が唯一決まった構えを取る。 相手を三つの円で同時に断ち切る絶技。三つの異なる剣筋が同時に(わずかな時間差もなく、完全に同一の時間に)相手を襲う。 魔術ではなく魔剣。人の業のみでたどり着いた武術の極地であり、「分身」の魔技。 円弧を描く三つの軌跡と、愛用する太刀の長さが生み出す回避不能の必殺剣。 多重次元屈折現象、と呼ばれるものの一つ、らしい。 正式な英霊ではない為、宝具は存在しない。
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/539.html
【オープニング候補】 No タイトル 登場キャラクター 場所 時間 作者 000 運命の幕開け 天戯弥勒@PSYREN -サイレン- - - ◆wd6lXpjSKY 000 はじめての聖杯戦争 聖杯戦争実行委員会 - - ◆qB2O9LoFeA 000 ヘブンズフィール・オンライン 茅場晶彦@ソードアート・オンライン - - ◆SwceDDUeOc 【第一回定時通達候補】 No タイトル 登場キャラクター 場所 時間 作者 079 裁定する者、裁定しなければならない者 ルーラー(ジャンヌ・ダルク)カレン・オルテンシア ?-?/教会 一日目 正午 ◆OSPfO9RMfA 079 第一回定時通達~二人の少女の警告と忠告~ ルーラー(ジャンヌ・ダルク)カレン・オルテンシア ?-?/教会 一日目 正午 ◆A23CJmo9LE 079 聖杯観測 - - - ◆y0PHxpnZqw 079 第一回定時通達 ルーラー(ジャンヌ・ダルク)カレン・オルテンシア A-1/教会 一日目 正午 ◆IbPU6nWySo 【破棄作品】 No タイトル 登場キャラクター 場所 時間 作者 105 そして夜が来る 遠坂凜&ランサー岸波白野&ランサールーラー(ジャンヌ・ダルク)足立透&キャスターアサシン(ベルク・カッツェ) B-4/遠坂邸付近???/???B-4/大魔宮B-4/大魔宮・玉座の間B-4/足立透のマンションの屋上 一日目 夕方 ◆tHX1a.clL. 105 黄昏オーヴァードライプ テンカワ・アキト&バーサーカー美遊・エーデルフェルト&バーサーカー C-9/田園地帯 一日目 夕方 ◆y0PHxpnZqw 109 エミヤの霊圧が……消えた……? バーサーカー(黒崎一護)衛宮切嗣&バーサーカー B-6/市街地C-8(東)/ビル屋上 一日目 夕方 ◆OSPfO9RMfA 本編SS目次 時間順 【オープニング】 【1日目】 【2日目】 投下順 【001~050】 【051~100】 【101~150】 ▲上へ
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou/pages/99.html
「さて、と。これからどうしましょうか」 新都の一角、蝉菜マンション付近のビル街。そこに一組の少女がいた。 一人は緑の髪をしたポニーテールの少女。名を園崎詩音。この聖杯戦争のマスターの一人。 もう一人は狂気に満ち、歪み切った表情をした少女。名を美樹さやか。詩音に付き従うバーサーカーのサーヴァント。 この聖杯戦争で勝ち残るため、願いを叶えるために契約した者達である。 聖杯戦争に乗り、他の参加者を全滅させて願いを叶える。それ自体は決定事項だ。 だが、これからどう動くかはまだ決まっていない。 他の参加者を積極的に駆逐するか、一時的に手を結んで戦力を増やすか。それともある程度減るまで待つか。 「あなたはどうしたい? バーサーカー……って、答えるわけないか」 バーサーカーに問いかけるも、真っ当な返事など返って来るはずもない。 そうなれば、どう動くかは自分で考える他ない。ならばどうするか。 考えようとしたその時―――― ――ヒュッ―― 「ッ!」 ――――音とともに、何かが飛んでくる。 それに気付いた瞬間、ダム戦争での経験からか咄嗟に体が動いた。 そのおかげで、大した傷にはなっていない。せいぜい右腕にかすり傷が付いた程度だ。 見ると、飛んできたものの正体は一本のナイフ。それが意味する事はすなわち、他の参加者に狙われているという事。 「バーサーカー、あっちに攻撃して!」 それを理解する瞬間、バーサーカーに攻撃を指示。 道具作成のスキルで剣を何本も作り、攻撃が飛んできたとおぼしき方向へとでたらめに投げつける。 方向はさっき音がした方を指示。攻撃の音がしたという事は、敵はその方向にいるという事だ。 すると、その方向――――蝉菜マンション屋上から金属がへし折れるような音がした。やはり敵はそこにいる。 マンション屋上からの精密な投剣をしてくる相手だ。ならば遠距離攻撃ではどうしたって不利。 ならば、やるべき戦い方は――――距離を詰めての接近戦のみ! 「やっぱりあそこか。バーサーカー、行って!」 「■■■■■■■■!!」 指示を聞き、投げずに残っていた剣を二振り持ったバーサーカーが駆ける。 咆哮と共に、バーサーカーが空中を足場に蝉菜マンション屋上へと跳び――――見つけた。 バーサーカーの視界には、ハートのアクセサリーをつけた金髪の男。場所は一致している。 周囲に転がっているのは、叩き折られた自身の剣。先程剣を迎撃したのはこいつだという事がわかる。 そして何より、サーヴァントを前にした彼女の本能が叫んでいる――――詩音の、そして自分の敵はこいつだ! 「まさか避けるとはな。マドカとは違ってただの人間ではないという事か?」 バーサーカーが空を足場に疾駆する。その姿を見ていた男がいた。 名をDIO。つい先程詩音を攻撃した張本人であり、アーチャーのサーヴァントとしてこの聖杯戦争に参加した者だ。 彼の周囲には、先程バーサーカーが投げた剣が数本、叩き折られた状態で転がっている。 さて、彼がした事を解説するとこうだ。 まず近くにあった金物屋に行き、ナイフなどの短い刃物を収集する。魔力で作る事も可能だが、その分の魔力消費からまどかに気付かれかねないので真っ先に却下した。 最初はまどかのいる部屋から手に入れようかと思ったが、刃物は投擲用として使うのだ。無くしでもしたら包丁が減っている事にまどかが気付き、参加者減らしに感づくかもしれない。 他の部屋から手に入れようとも考えたが、そこにはNPCが生活している。騒がれたせいで他の参加者に気付かれるのは少々厄介だ。 よって、営業時間を終えて無人になった金物屋から手に入れることにした。次の日には泥棒が入ったと騒がれるかもしれないが、恐らく自分だとは気付かれないだろう。 次に、マンションの屋上に上り、付近の参加者とおぼしき二人組を探す。 その際に見つけたのは二人組の少女。片方は狂人の顔をしていたから、おそらくバーサーカーあたりか。 見つかったのなら後は簡単、マスターらしき緑髪の少女を仕留めるべく、そちらにナイフを投げつけた。 無論、消耗しないよう時は止めずにだ。承太郎のような同系統のスタンド使いというわけでもない、ただの一般人ならばそれで十分仕留め切れる筈。 アサシンの真似事のような手ではあるが、アーチャーには一対一の真剣勝負などという思考は無い。過程がどうだろうと勝ちさえすればそれでいいのだ。 ……誤算があったとすれば、避けられてしまったことか。そのせいでいる方向を知られ、あまつさえ反撃までされたのだから。 おかげでザ・ワールドを使って迎撃し、音を立ててしまった。真名解放はせずに済んだのだから、ほとんど消耗はしていないのが救いか。 バーサーカーに目をやると、かなりの速度で向かってくる。 あの速度なら後数秒もしないうちに自分の前に現れる事は間違いない。 ここまで来れば、先程のような奇襲なども通じまい。ならばやるべき事は、正面切っての戦闘だけだ。 「■■■■■!」 「いいだろう、相手をしてやるぞバーサーカー!」 そして今、アーチャーとバーサーカー……否、DIOと美樹さやかは対峙する。 左手の剣を投げつけ、さらに空中を足場に跳躍。その勢いのままにDIOへと突貫していくさやか。 「無駄ァ!」 だが、それを読んでいたザ・ワールドを出して正確に剣を叩き落とす。 先程から投剣で攻撃してきていたのだ、ならばそれを読めないはずがない。 剣を迎撃し、続けて突っ込んできたさやかを弾き飛ばす。 が、さやかは空中で素早く体勢を立て直すとマンションの屋上に着地、DIOへと向かって駆けだした。 「フン! 突っ込んで来るしか能のない猪ごときが、このアーチャーに勝てるとでも思ったか!」 その場を動くまでもないとでも思っているのか、短剣を投げて迎撃する。 DIOにとっては狂人など、まともに相手する価値すらないという事か。 だが、今DIOに向かってきているさやかはただの狂人ではない。聖杯戦争の、バーサーカーのサーヴァントなのだ。 投剣を避け、あるいは迎撃してDIOへと接近、そのまま斬りかかる。 その剣をザ・ワールドで叩き折り、そのままさやかも叩き潰すべくザ・ワールドの拳を繰り出した。 「無駄無駄――――」 「■■■■――――」 左の拳で剣を折り、右の拳を繰り出すDIO。 右の剣が折られた瞬間、左手に剣を作り出して振るうさやか。 「無駄無駄無駄無駄――――」 「■■■■■■■■――――」 それだけにとどまらず、さらに右、左、右、左と拳を振るうDIO。 その速度は、さながら拳が大量にあるかのように見える程だ。 対するさやかも道具作成のスキルを使い、作成・攻撃・破棄のサイクルで剣を繰り出す。 足元には真っ二つにへし折れた(あるいは砕けた)、ついさっきまで剣だった金属が加速度的に増えていく。 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」 それらはどんどんと速度を上げ、ついには拳と剣の嵐が激突しているかのようになっていた。 ソウルジェムがいくらか濁ったが、DIOはそれに気付いてはいない。 また、さやかはさやかで気にも留めない。そもそもバーサーカーになった時点で、力をセーブするという『理性ある行動』は取れなくなったのだから。 ……お気付きであろうか。この激突、さやかの方が不利であることに。 確かにさやかはバーサーカーとなったことで、身体能力が跳ね上がっている。ザ・ワールドのラッシュを迎撃できることが何よりの証明だ。 だが、それでもなお単純なパワーではDIOには敵わない。いくら迎撃できても、受けきれなければ意味など無い。 攻撃を受けきれなかった分の威力は、さやかの体を蝕み続けている。 単純なスピードならさやかの方が上なのにも関わらず迎撃だけに甘んじているのも、威力がありすぎて迎撃に全力を注がないとすぐに破られるからだ。 そして、ついにその時が来た。 ド ゴ ォ ! クリーンヒット。 ザ・ワールドの一撃を胸に受け、さやかの体が吹き飛んだ。 吹き飛んだ先にある給水塔へと激突し、給水塔がひしゃげて水が噴き出す。 だが、それでもDIOは容赦しない。用意していた短剣類を次々取り出し、給水塔へと投擲する。 それに感付いたさやかが避けようとするが、もう遅い。 「もう遅い、脱出不可能よォーーーーッ!」 ナイフがまず一本さやかの頭に突き刺さり、それに続くかのように大量の短剣が突き立てられた。 まずは一人、これだけやれば死んだはずだ。 何せ体中に刃物が刺さっているのだ。承太郎の時のように服の下に雑誌をはさむという手も、こんな薄着では取れはしまい。 例えサーヴァントとしての補正があったとしても、頭にまで突き刺さったのだ。普通なら間違いなく死ぬ。 「サーヴァントといえど、所詮は考える事すらできん猪か。分かってはいたが、恐れるに「――――■■■■■■■■!」 ――――そう思いザ・ワールドを消して去ろうとしたDIOに、あるはずのない声が聞こえた。 咆哮に気付いて振り向くと、給水塔からさやかが手に向かってくるのが見えた。 全身に刺さった短剣は走る振動で落ち、その直後に傷がふさがっていく。 それによる魔力消費で腹のソウルジェムが少しずつ濁りを増すが、構わずに仕留めにかかっていった。 さやかが生きていた理由だが、これは至極簡単なものだ。 まず、魔法少女の本体は彼女の宝具でもあるソウルジェムであり、これが破壊されない限り死ぬことはない。 次に、さやかのソウルジェムは変身中は腹部についている。 ……さて、先程の投剣は一本でも腹部に当たっただろうか? 答えは否。両腕を腹の前に出し、ソウルジェムだけは死守したのだ。 ソウルジェムさえ無事なら、痛覚遮断と癒しの祈りによる自動修復でいくらでも戦える。狂っても尚、それだけは理解していたのだ。 「何ィッ!? ば……ばかなッ! 奴は人間ではないのか!?」 あれで生きているとは思っていなかった。DIOの表情がそう言っている。 自分のような吸血鬼ですら、頭を破壊されれば死ぬ。ましてや、人間なら例えサーヴァントだとしても頭を破壊されるのは致命傷だ。 だが、現にさやかは生きている。驚いた一瞬の隙に距離を大きく詰めてきている。 このままではいくらDIOといえど、直撃は免れない。使いたくなかったが、こうなってしまったら仕方がない。 迎撃せずに止められる唯一の手―――― 「チィッ、仕方がない――――世界(ザ・ワールド)!!」 ――――つまりは、真名解放を行う。 その瞬間、世界の全てが静止した。 【新都・蝉菜マンション屋上/深夜】 【アーチャー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:健康・『世界(ザ・ワールド)』効果発動中 【バーサーカー(美樹さやか)@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:回復中・ソウルジェムに濁り(小) 「ん……」 戦いが始まって少し経った頃、蝉菜マンションの一室。 そこでは、先程眠ったばかりの鹿目まどかが目を覚ましていた。 眠っていたはずの体には、何故だか多少の疲労感がある。 「あれ……アーチャーさん?」 と、そこでアーチャーがいない事に気付くまどか。 最初は霊体化しているのかとも思ったが、それなら起きた時に気付いて声をかけてきてもおかしくない。 寝ぼけ眼をこすり、ベッドから降りて部屋の中を探し始めるまどか。 「アーチャーさーん? いないなあ……どこに行ったんだろ?」 部屋中を探したが、アーチャーらしき姿は見えず声もしない。 部屋にいないとなると、やはり外だろうか。 そう考えたまどかは、アーチャーを探すべく外に向かおうとする。 そして外に出ようとした瞬間、部屋のドアが開いた。 「く……ハァ、ハァ……」 バーサーカーが走り去ってしばらくした後。詩音は蝉菜マンションに向かっていた。疲労しているのか、その足取りは重い。 右手にはバーサーカーの剣。先程突っ込んでいった時、道具作成で作ったものが一本だけ残っていたので自衛用に拾っていたものである。 「サーヴァントとの契約って、意外と疲れるものなんですね……ここまできついとは思ってませんでしたよ」 ――――実は彼女のサーヴァントには一つ弱点がある。それは何か? 思考力の低下? 否。それと引き換えに身体能力が跳ね上がっているので、それは弱点にはなるまい。 他と比較しても並程度しかない筋力と耐久力? 否。このバーサーカーなら耐久力は宝具が補ってくれるし、何より高い敏捷性でカバーが効く。 ならば何か? それは燃費が非常に悪い事。バーサーカーである以上、こればかりはどうしても避けられない弱点である。 現に過去の聖杯戦争では、バーサーカーの敗因がマスターの魔力切れというケースが存在するくらいだ。 ましてや、バーサーカーのマスターは元々魔術師でもなんでもないただの少女だった詩音なのだ。当然慣れていない以上、たとえ大したものでなくとも負担を大きく感じてしまう。 だから、どこかで休むべきだという体からの警告に従わざるを得ない。 そこでなぜ蝉菜マンションなのかだが、単に近くにあったからだ。 「とにかく、どこかで休まないと……」 そう呟き、一番近くにあったマンションの部屋に入ろうとする詩音。 一刻も早く休みたい。その意思は彼女から注意力を少なからず奪っていた。 アーチャーが警戒した騒ぎを起こすデメリット、それが思考の外に行ってしまっているのが何よりの証明だ。 それに気付かないままドアを開けた先にいたのは、現在バーサーカーと交戦中であるサーヴァント・アーチャーのマスターである鹿目まどか。 詩音にとっては現状真っ先に倒すべき相手であった。 【新都・蝉菜マンション一階/深夜】 【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:健康(残令呪使用回数:3) 【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に】 [状態]:消耗(小)・右腕にかすり傷(残令呪使用回数:3) ※さやかの剣を一本持っています BACK NEXT 026 Night of The Round 投下順 028 ズッコケ二人組と一匹~聖杯戦争から脱出せよ~ 026 Night of The Round 時系列順 028 ズッコケ二人組と一匹〜聖杯戦争から脱出せよ〜 BACK 登場キャラ NEXT 009 No.9 鹿目まどか&アーチャー 037 La Danse Macabre(前編) 013 No.13 園崎詩音&バーサーカー 037 La Danse Macabre(前編)