約 2,285,107 件
https://w.atwiki.jp/duelvideo/pages/1739.html
【呼称】ホリック 【使用デッキ】(★:1000回再生) 2015 魔導P(ペンデュラム) ★48 2016 RR ★49 ブラックマジシャン ★51 ★55 #57 #68 ファーニマル #53 覇魔導 #54 ギャラクシー #60 #65 テラナイト ★62 #63 バージェスト魔導 ★66 魔術師 #70 【出演動画】Flight 【twitter】https //twitter.com/TredecimMh13 【備考】魔法使い好き。ロマンを求めコンボを決める!! 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/irarchive/pages/1427.html
サイト ホームページ(Dクリック) IRサイト(Dクリック) CSRサイト(Dクリック) 各種ツール 事業報告書(Dクリック) アニュアルレポート(Dクリック) CSRレポート(Dクリック) 総会通知(Dクリック) 有価証券報告書(Dクリック) 決算短信(Dクリック) 中期経営計画(Dクリック) その他資料(Dクリック) 戻る
https://w.atwiki.jp/zzzhonki/pages/283.html
厳密リック 厳密リックとはぷーれ配信で誕生した「実質リック」に次ぐ「リック算」の新定義である。 ぷーれは過去に「27リック」という偉業を達成した。詳細は別記事を参照。 そこで、各試行でリックが出る確率を1/6として、ぷーれのたたき出したクソ運偉業を数値化したものが発生した。それが実質リックである。 しかし、まどら氏の検証によって、リックの出る確率は厳密には初回が1/6、以降は1/5であることが発覚した。これは、ストーンカッターで連続して同じ像が出ないことによる。 そこで、できるだけ厳密に「リックが出るまでの確率」を見直して定義された指標が「厳密リック」である。乱数表の仕様上、実際のゲームにおいて24、25、26、27回目にリックが出る確率は全て厳密25.0332リックで等しいが、厳密リックが指数関数で定義される都合上、これらの再現はされていない。 現在の最高記録は8/13の厳密45.4436リックである。 厳密リック計算式 リックを外す確率は初回のみ、以降は。最後にリックを引く確率は。よってxリックとなる確率はとなる。 また、1回起きる確率がpの事象がn回起きた時の確率はpnとなる。 よって、厳密リックxを計算するには の方程式を解けばよい。 対数を用いてxについて解くと、 となる。この方程式を解くには実質リックの場合と同様に、 関数電卓 や WolframAlpha などに下記の式を突っ込んで、p,nを適切な値に書き換えるなどすればよい。x=2+{log(6)+n*log(p)}/log(4/5) + 導出 特徴 厳密リックの一番の特徴は、乱数解析の結果誕生した指標なので、そのままリックの出る確率に近いということである。 カービィ64のRTAでは乱数表を使用している都合上、27リック以降は基本的に登場しない。上記のように24〜27リックの確率が等しいなどの特徴があり、厳密リックは完全リックではないので注意。 一方で、実質リックに意味がないわけではない。実質リックは1リック=5/6で不変であり、定義式も簡潔である。対数的性質を強く持つ。つまり、同じ事象が2回連続すれば実質リックは2倍に、3回なら3倍、4回なら4倍となる。この性質は厳密リックにはない。 「サイコロを転がして、その目が連続で出ない回数」に等しいので、イメージがつかみやすいという特徴もある。 同じ確率の出来事なら厳密リックの方が数字が小さくなる。 実質リックも厳密リックも一長一短であり、場合によって使い分けることが重要である。 補正付き厳密リック(補正リック)について 厳密リックで27リックの確率1/1024を計算すると、25.0332...と27から2ほど小さい値となる。 このズレを無理やり定数倍で調節したものが補正付き厳密リック(補正リック)である。補正に使う定数はで大体1.08...である。簡単のためRと置く。 補正リック算はである。 当然、27リックの確率は補正27リックである。 厳密リック早見表 2019年 日付 厳密リック 補正リック 成し遂げた偉業 一回あたりの確率 全体の確率(%) アーカイず 5/19 40.5646 43.7516 5連続投石 1/8 0.003051 https //youtu.be/w5FMhsvz0Pc?t=1704 2020年 日付 厳密リック 補正リック 成し遂げた偉業 一回あたりの確率 全体の確率(%) アーカイず 7/25 30.0687 32.4311 28連続店無し 3/4 0.03174 https //youtu.be/7KUjCU7fESY?t=1142 8/5 18.5871 20.0474 5連続しゅん 1/3 0.4115 https //youtu.be/dgDmzvH5l_I?t=2111 8/9 40.5646 43.7516 15ゲイズ 1/2 0.003051 https //youtu.be/rZHu00scvhg?t=7639 8/12 31.2458 33.7007 2連モンハウ大部屋 1/64 0.024414 https //youtu.be/5SFH-khp_I4?t=6779 8/13 45.4436 49.0140 せやな 1/46 0.001027 https //youtu.be/r3byv1AjemQ?t=2948 関連 27リック 実質リック リック数
https://w.atwiki.jp/irarchive/pages/2621.html
サイト ホームページ(パブリック) IRサイト(パブリック) CSRサイト(パブリック) 各種ツール 事業報告書(パブリック) アニュアルレポート(パブリック) CSRレポート(パブリック) 総会通知(パブリック) 有価証券報告書(パブリック) 決算短信(パブリック) 中期経営計画(パブリック) その他資料(パブリック) 戻る
https://w.atwiki.jp/wcs1/pages/228.html
JCS2017オンライン予選1位 通称「うんちブリブリブリック」 げべぼ軍団のスカイプをハッキングして不正アクセスし、彼らの構築を盗み出したことで見事予選1位に輝いた なお復讐を恐れて本戦には姿を現さなかった模様
https://w.atwiki.jp/sinnen/pages/480.html
最終更新日 2022-06-02 名前 シャーマン(Shaman) CCコスト 900 奥義(必要経験値) アンサモン(600) 技能 名称 種別 消費MP 依存 技能効果・性能 説明 戦闘技能1 アンサモン 単魔 28 左/魔 EB*? 召喚物即死 対象が戦闘中に呼び出された召喚物の場合、消去 戦闘技能2 サモンローエレメント 召喚 45 右/魔 サラマンダー・ノーム・シルフ・ウンディーネのいずれかを召喚召喚ユニットのデータは 深淵テイマーデータ 参照 火・水・土・風の下級精霊うち1体を召喚する 付加技能1 ウェイキングLv2 戦闘 0 - 戦闘中のみ、自身に睡眠耐性Lv2(睡眠+10)付加 ウェイキングの上位。戦闘時に睡眠への耐性をつける 付加技能2 精神力10%Up 能力 0 - クラス補正を加えた数値から更に精神力10%上昇。重ね掛け有効(上昇した数値から更に10%up) 装備者の精神力を10%上昇させる 装備 両手 槍矛・錫杖・聖印 身体/補助 衣服 / - 説 明 精霊を使役する召喚師。補助装備不可 現職 + 副職 / フラグ 副職 / フラグ 出現クラス(メイン必要熟練) クレリック(70)? + ビーストテイマー(70) / 才能 守護される者 シャーマンキング(70) HP MP 体力 敏捷 器用 感受 生命 精神 クラス補正 1.00 1.15 1.00 1.00 1.20 1.15 1.00? 1.20 成長タイプ ピューリタン型 - - 0.4 0.1 0.2 1.0 0.6 1.3 開発ボーナス 抵抗のみ 0.27 ※生命は逆算値
https://w.atwiki.jp/zzzhonki/pages/14.html
27リック 『27リック』とは、『星のカービィ64 2017夏の新人戦』でぷーれが打ち立てた大記録のこと。 星のカービィ64 100%RTAでは3-3でストーンカッターのリック状態でクリスタルを取る箇所が存在する。 この能力はリックの他に5つの形態があるのだが、RTA的には全て外れとなる。そのため何回目でリックが出たかを界隈では『○○リック』と呼ぶ。 通常のRTAなら5回で運が悪いと言われる中この数字は驚異的であり、大会など公的な場で未だにこれを超える記録は出ていない。 ※5 10あたりから 星のカービィ64 2017夏の新人戦 ふりかえり動画 2019年6月15日に行われた『第5回:星のカービィ64 100%RTAリレー』では上記の理由より第2走に抜擢され、11リックを記録。その才能の片鱗をまざまざと見せつけた。 ※32 12あたりから 【生放送】第5回:星のカービィ64 100%RTAリレー【大会本番】 その後、まどら氏によってnリックの検証が行われ、27リックが最大値であることがわかった。ストーンカッターの連打が遅いとカービィのモーションで乱数がずれるので、一応27リックを超えられる。だが、RTAではこれが最大と考えて良いだろう。 【カービィ64】27リック 検証 確率は1/1024≒0.1%。乱数表を無視して計算すると0.06%であるので、乱数表の範囲では比較的適当な値に設定されている。 期待値(平均)は約5.2、5リック以上になる確率も54.2%であり、上記の5リックで運が悪いというのも妥当だと言える。因みに、乱数表を無視した期待値は31/6=5.166… 関連 実質44リック 実質リック 厳密リック
https://w.atwiki.jp/zzzhonki/pages/218.html
実質リック 実質リックとはぷーれ配信で用いられる確率の単位である。 ぷーれは過去に「 27リック 」(詳細は別記事参照)という驚異的な数字をたたき出した。 しかしながら、ぷーれの豪運は尽きることなく、その後も風来のシレンにて28階層連続で店無し( 実質44リック )などが観測されることとなるのであった。 現在、リック算には2つの定義がある。「実質リック」と「厳密リック」である。実質リックは1リック=5/6と定義された値であり、厳密リックはカービィ64の乱数を基に定義されたリック算である。両者は一長一短で、状況によって使い分けることが重要である。 現在の最高記録は8/13の実質62.9982リックである。実際のカービィ64では乱数の仕様上、27リックを超えることはまずないが、(それより小さな確率を計算するためにも、)実質リックでは単純に確率を計算する。 実質リック計算式 1リック(リックを外す確率)は、よってxリックはとなる。 また、1回起きる確率がpの事象がn回起きた時の確率はpnとなる。 よって、実質リックxを計算するには の方程式を解けばよい。 対数を用いてxについて解くと、 となる。同一の事象が連続して起きる場合、は定数とみなせるので、xはnに比例する。つまり、1回起きる確率が実質10リックの現象があったとき、2回起きれば20リック、3回起きれば30リック…のように増えていくことになる。 この方程式を解くのは容易ではないので、 関数電卓 や WolframAlpha などに下記の方程式を突っ込んで、P,nを適切な値に書き換えるなどすればよいだろう。x=n*log(p)/log(5/6) この方程式を解くための簡易的なツールを作成しました。 こちら で公開しています。 実質リックの具体例 実質44リック1階層で店が出ない確率はでそれが28階層連続したので → x≈44.181 実質44リック 実質57リックゲイズが催眠術を打つ確率はでそれが15回連続したので → x≈57.027 実質57リック 実質リック早見表 2019年 日付 リック数 成し遂げた偉業 一回あたりの確率 全体の確率(%) アーカイず 5/19 57.0268 5連続投石 1/8 0.003051 https //youtu.be/w5FMhsvz0Pc?t=1704 2020年 日付 リック数 成し遂げた偉業 一回あたりの確率 全体の確率(%) アーカイず 7/25 44.1807 28連続店無し 3/4 0.03174 https //youtu.be/7KUjCU7fESY?t=1142 8/5 30.1284 5連続しゅん 1/3 0.4115 https //youtu.be/dgDmzvH5l_I?t=2111 8/9 57.0268 15ゲイズ 1/2 0.003051 https //youtu.be/rZHu00scvhg?t=7639 8/12 45.6214 2連モンハウ大部屋 1/64 0.024414 https //youtu.be/5SFH-khp_I4?t=6779 8/13 62.9982 せやな 1/46 0.001027 https //youtu.be/r3byv1AjemQ?t=2948 余談だが、ロト7の1等から6等とロト6の1等から5等を全て獲得する確率は実質823.26リックである。 関連 27リック 実質44リック 厳密リック 外部リンク 実質リック計算ツール
https://w.atwiki.jp/sokulibe/pages/511.html
+黒き禁忌に触れし者ハシュテッド 「ハッピーバースデー!ハシュテッド!!」 仕事明けの自室。 扉を開けた途端に耳に飛び込んできた大声に驚く。 「シャロン……?どうしたの?」 「どうした……って、今日は貴方の誕生日でしょう?」 「あぁ!そうだった……ハハ。忘れていたよ」 激務に追われる日々のせいでついつい忘れていた。 同僚である彼女もまた同じ環境にいるはずなのに、わざわざ覚えてくれていたのか。 思えば自分も彼女の誕生日のことだけは忘れたことはない。 そういうことなのだろう。 「ところで、留守の間にどうやって部屋に入ったんだい?」 「やっとこの合鍵ちゃんにも出番が回ってきただけよ!」 「あー……ずっと前に渡したっきりだったね」 「そんなことよりも、早く!ご馳走も沢山用意してあるの!」 自信あり気な面持ちのまま、テーブルまで自分の腕を引っ張っていくシャロン。 そこには、その表情を裏打ちするには十分すぎる料理の数々が並んでいた。 「凄いな……全部一人で?」 「当然!例え一流シェフであっても、今夜は私以外の人間の作ったものは口に入れさせないから」 「部隊のみんなは、いつも戦場で果敢に戦う君にもこんな一面があるってことを知らないんだね。本当に光栄なことだ」 「いい加減見え透いたお世辞はやめにしないかしら?こういう事が似合わないのはわかってるわよ……」 「アハハ!嬉しくって、ついね……」 食卓に並べられたご馳走に舌鼓を打ちながら、静かに夜は過ぎていく。 「本当に美味しかったよ。今日はありがとう。シャロン」 「デザートもあるわよ?」 再び例の微笑ましい表情を浮かべ、食器棚の影からケーキを運んできたシャロン。 そして彼女は、おもむろにロウソクをテーブルの上に並べた。 「……二十三本。ちゃんと歳の数だけ用意してくれたんだ」 「それを一本ずつケーキに刺しながら、貴方のその歳の想い出を聞かせて欲しいな」 「だから机に並べたのか……なんだか急に罰ゲームみたいになってきてないかい?」 「じゃあ、まずは生まれたばかりのハシュテッドから!」 「問答無用なんだね……」 真新しいケーキを見つめ、自分の生まれを思い返す。 「二十三年前の今日。アスピドケロンの街で、僕は司書の両親の間に生まれた」 ………… …… 「五歳。騎士団の養成学校に入った。父の勧めだったけど、運動の苦手な僕は正直気乗りしなかったな……」 ………… …… 「十三歳。団長が認めてくれて、術士隊の副隊長になった年だ。突然のことで驚いたよ」 ………… …… 「十六歳。君を初めて見た。両親の勤める図書館だった。そこに顔を出した君をずっと眺めていたのを覚えているよ。装甲士隊の隊長だった君に近づくため、それからはがむしゃらだったな……」 「初めて聞いた……私は全然気づかなかったわ……」 「それもそうだろうね。後衛の術士隊が最前線の装甲士隊の人と関わる機会なんてほとんどないし、僕も隊の人に聞いてやっと君の事を知ったんだから」 ………… …… 「十八歳。この年は――」 「私と一緒ね」 「……あぁ。そうだね。ここからは君と歩んだ人生だ。僕の人生で一番大きな転機になった年。憧れだった君の隣に立てることが、とにかく嬉しかったよ」 「私はいつも無茶する貴方が心配で仕事中も落ち着かなかったわ……」 「それはお互い様さ。この年はいろいろな事があったね。泊り掛けの遠征じゃ、二人きりでもないのにやたらとドキドキした。両親に君を紹介した時は、身構えていた僕達を心から祝福してくれたのは本当に嬉しかった」 ………… …… 「二十一歳。騎士団長に就任した君。そして、僕も併せて副団長に昇格した。倍に増えた仕事を二人でなんとか処理し続けたね……」 「えぇ……地獄だったわ……きっと貴方とじゃなければ気が滅入ってた……」 ………… …… 「二十三歳。今日。一番大切な人に誕生日を祝ってもらった。そして……僕はそのお返しに、結婚を申し込むんだ」 「…………え?」 最後の一本をケーキに差し、二十三本のロウソクの灯が部屋を包み込む。 そして、彼女の手を優しく取り、真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。 「シャロン。これからもずっと傍にいて欲しい。僕と結婚してくれるかい……?」 「…………」 「……あれ?」 絶対の自信があったわけではない。 少なくとも許否のどちらかの返事はもらえそうなものだが、予想外の沈黙。 彼女は目を見開き、驚いた表情のまま固まってしまっている。 「……勢いに任せて言ってるんじゃないでしょうね?」 「え!?そ、それは勿論!」 唐突に口を開いたシャロン。 実のところ、前々から機会は伺っていた。 タイミング的に言いやすいと思ったのは間違いないが、ただ勢いに任せてというわけではない。 だから嘘は言っていない。 「……喜んで」 口に出した途端、見る見るうちに彼女の目から涙が溢れ出る。 それは彼女が真意を述べている何よりの証拠だった。 「ほ……本当に!?」 「ここで嘘を付くほど無神経な女だと思っているの?」 「い、いや、そういうわけじゃ!ただ……その……受けてもらえた後の言葉を考えていなかったというか……いや!適当な気持ちで言ったってわけじゃなくて!あぁ、そうだった!!指輪を!!」 「ふふ……貴方らしい」 プロポーズを快く承諾してくれたシャロン。 慌てて差し出された指輪に薬指が通ると、涙を流したまま、満面の笑顔を見せてくれた。 本当に幸せな夜だった。 明日、騎士団の団長として、王都からの招集を受けていた彼女。 任務から戻ったら式を挙げようと約束した。 ――コンコンッ 「シャロン?準備はできたかい?」 翌朝、隊舎の団長室の扉をノックして中へと入る。 出発の控えるシャロンに、見送りの言葉をと思ったのだが…… 「何をしてるんだい?」 「ハシュテッド!?い、いつの間に!?!?」 シャロンが愛用の盾の裏に、熱心にナイフで何かを刻んでいるのが見えた。 声を掛けられたことでやっとこちらの存在に気付いた彼女は、慌てて盾を背中へ隠す。 「ノックはしたんだけど……?」 「そ、そうだったかしら!?」 ノックにすら気付かない程に集中していた彼女。 それだけの想いを込めて彫られたものとなると、その正体が気になるのも当然だ。 「何だい?気になるな」 「何でもないの!そ、そろそろ出発しないと!」 「あ、うん。点呼は済ませておいたよ。皆すでに待機してる」 「じゃあ、私も行くわ。任務を終えて必ず帰る……ニ、三日間だけの辛抱ね」 「待ち遠しいよ。たった数日なのに何年にも思えそうだ」 結局、何を彫っていたのかは教えてくれなかった。 彼女が帰ったら改めて聞いてみよう。 部隊の無事を祈りながら、次第に小さくなっていく彼女の背中が見えなくなるまでずっと見送り続けた。 そして、彼女は部隊共々、二度と帰ってはこなかった…… 帝国が王都を襲撃したとの知らせを受けたのは、シャロンと近衛隊が王都に向かってからすぐのことだ。 当然、団長と団員の安否を確認するため、団内でも会議の場が設けられ、上層部に王都への出兵を打診した。 しかし、状況が詳細につかめていない中、軽々に行動するのは危険だという判断により申請は棄却。 隊舎に残った騎士団員達は皆、苦虫を噛んだような顔で、ただ事態が変わることを待つほかなかった。 「離せ!頼む!行かせてくれ!!」 「副長!どうか……どうかご辛抱を!!」 「我々も想いは同じです……ですが、今は!」 「落ち着きたまえ、ハシュテッド君。君まで行方知れずなんてことになれば、騎士団の基盤そのものが揺るぎかねないんだぞ!?せめて王都からの救援要請が来るのを待つんだ!!」 「要請が無ければ誰も助けないのがこの騎士団の在り方ですか!?そんな組織ならば私はこの場で退団させていただく!」 「落ち着けと言っているだろぅ!おい!この者をしばらく牢にぶち込んでおけ!!」 上層部の面々が並ぶ席で、決定をどうしても受け入れることができなかったハシュテッドは、単身王都へと向かうことを宣言。 しかしこれを上層部が許すはずも無く、団員達の手によりその場で抑え込まれる。 命令通り、牢へと連れていかれたハシュテッドだったが、この時に牢へと彼を連れて行った団員達は、口々に言葉を残した。 申し訳ありません。 頼みます。 去り際にそう述べた彼らは、哀しさとも、悔しさとも取れない苦悩の表情で顔を歪ませていた。 腰に手をやると、いつも通り刺されたままになっている杖。 「そういうことか……」 あの場で彼らが命令に背けば、自分だけでなく騎士団そのものが処罰対象になりかねない。 申し訳ありませんとは、自分一人に全て託すことになり申し訳ないとの意。 頼みますとは、シャロンと、共に王都に出向いた団員達のことを頼むとの意。 「……ありがとう!任せてくれ!!」 街が寝静まるのを待ち、行動を起こしたハシュテッド。 治癒魔術を得意にしているとはいえ、彼ほどの術士ともなれば、ある程度の攻撃魔術を操ることも容易い。 牢を破壊し、隊舎を抜け出した彼は、一人王都へと船を向かわせたのだった。 ――翌日 単身アスピドケロンを飛び出したハシュテッド。 彼の姿は、陽の落ちた王都の中心街。 その路地裏にあった。 念のために行商人の運ぶ荷台に隠れて王都入りしたのは正解だった。 街の外からはわからなかったが、都内にかつての英華は見る影も無く、行き交う民の表情も暗い。 あちこちに戦闘の傷跡と思われる損傷。 通りのいたるところに帝国兵の監視の目。 王都は敗北したのだ。 アスピドケロンを発つ前に確認したシャロンの辞令。 彼女達が王都へ赴いたのは、要人の護衛のためだ。 護衛対象は、王都の元老院に所属する議員の一人。 彼に話を聞けば、シャロン達の行方を掴める可能性もあるが、王都が帝国に支配されてしまっては、議員が処刑されてしまっている可能性も否めない。 そうでなくても、どこかに監禁されていると考えるのが妥当か。 だが所在がわからぬ以上、まずは当人の屋敷を当たってみるしかないか。 あらかじめ調べを付けておいた屋敷を路地伝いに一周。 表の門と、裏に二名ずつ帝国兵が立っている。 幸運だ。 議員はまだ生きて、しかもここにいるようだ。 見張りの存在がそれを裏付けている。 「しかし妙だな……ん?」 屋敷の側面。 敷地を囲むようにして植えられた街路樹。 その内の一際高い一本は、屋敷を囲う柵を易々と超える高さ。 丁度いい。 既に陽の落ちた今なら目撃される心配も少ないまま、密かに中に侵入できる。 「起きてください……議員」 「……ん……んん?な!?だ、誰だきさ――」 「失礼。大声を出すのは遠慮して頂きます」 静まり返った屋敷の中。 議員の寝室へと忍び込んだハシュテッドが議員に接触する。 寝ていた自分の傍に現れた見知らぬ男を見て、声を上げようとした議員だったが、その口を塞いだハシュテッドの目を見て、抵抗の余地のない事を悟ってくれたようだ。 「こんな真似をして……何用だ?お前は誰だ?」 「お答えできません。ただ、こちらの質問に答えて頂ければ、議員の身に害が及ぶこともありません」 「……何が聞きたい?」 「先日の戦にて、議員を護衛していた者達の事です。行方をご存じなのでは?」 「彼女達の身内の者か!?彼女達には……本当に申し訳ない事をしたと思っている!」 「待ってください!どういうことです?」 「……私がしたことを知ってここへ来たのではないのか?」 「……?」 「そ、そうか……いや、全て話そう。君には知る権利がある」 議員は語る。 先の戦乱時、議員は帝国に脅され、彼らを王都へ招き入れるよう手引きをしたこと。 シャロン達はそんなこととは知らず、議員を護るべく帝国兵の群れの中へと斬り込んでいったこと。 そしてその時、黒い霧が戦場を包み込み、帝国兵ごと彼女達の姿が消えたということ。 「その後の行方は知らぬ……強要されたこととはいえ、今回の結果を招いた張本人は私だ。そんな私を護るために彼女達は……」 「黒い霧……魔術の一種か?」 「すまない……本当にすまない……!」 「やめろ!まだ彼女達が死んだとは限らない!勝手なことを言うな!!」 「あ……あぁ!その通りだ!彼女達ならきっと、きっと生き延びているだろう!!」 「……」 だが違和感を覚える。 この男の言動。 恐らく嘘は口にしていないが、何かひっかかる…… 「……貴方は帝国に監禁されているのですか?」 「その通りだ」 「では、僕がお救いしましょう。屋敷を抜け出すのです」 「な、何を!?」 「帝国がこの地を治めた今、貴方はもはや用済みだ。いつ処刑されてもおかしくない」 「し、しかし……逃げたことが知られれば即処刑だ!このまま屋敷にいれば、命だけは助かるかもしれない!」 「……確かに。ですが、やはり貴方がここにいるのはおかしい」 「何故だ?」 「言いましたよね?いくら王都の元老院議員で、協力者だったとはいえ、貴方にはもう何の力も無い。帝国にとっては無価値。なのに軟禁なんて面倒なことをする理由がない」 「それは……まだこの地における帝国の支配も完全とは言えない。反乱分子が領内に潜伏している可能性も示唆し、いざという時に人質にできると思っているのではないか?」 「……その可能性も無くはないですね。でも、僕はこう考えます。貴方は帝国と取引をし、何らかの条件を呑ませた上で彼らを手引きした。例えば……身柄の安全と帝国での地位」 「な!?とんでもない!!私は――」 「外の様子も見ましたが、屋敷内を含めてもせいぜい十人足らずの兵士しかいない。人質にするつもりなら牢に入れた方が自然だし、監視も楽だ。これではまるで……通常業務としての警備。まさにそんな感じです」 「程度の差だろう!?帝国はこれで十分だと考えているだけかもしれない!」 「ここに来た時、僕はすぐに違和感を覚えました。議員の行方を探す手がかりがあればと思って来てみれば、まさかの本人がそこにいた。しかも、お世辞にも万全とは言い難い監視体制。これで監禁されているなんて言わせませんよ?」 「だから――」 「声が大きいですよ。何故、そこまで熱くなるのですか?」 「ぐ……」 「貴方は僕が護衛について尋ねた瞬間、聞かれてもいないことまで饒舌に語りだした。懺悔と言えば聞こえはいいが、貴方はただ自分の罪が露呈することを恐れただけですよね?後でボロが出るくらいなら、いっそ帝国を手引きした事実を強要させられたことにしてしまえば追及もされない」 「……」 「僕が情を誘える人間に見えましたか?そうして信用させておき、機会を伺い帝国兵に始末させれば貴方の罪を知る者はいなくなる」 「私は……ただ……」 「本当に強要させられたのであれば同情します。誰しも命は惜しいものです。だが……お前は違う!自分だけが大切で!自分だけが全てで!自分さえ良ければそれでいい!!そんなお前は――」 「ま、待ってくれ!命だけは助けてくれ!!」 「……それは僕の仮説が正しいと認めるということでしょうか?」 「認める!だから命だけは……!そ、そうだ!私の護衛に付かないか!?」 「何のつもりです?」 「仲間を探すにも動きやすいし、情報も手に入りやすいだろう!」 「王都を裏切り、帝国に尻尾を振った人間を信用しろと?」 「な、ならば金はどうだ!?これに勝る信用もない!!」 「……貴方には感謝しなくてはならない」 「おぉ!そうだろうとも!!」 「元々、僕はお前を殺すなんて考えてはいなかった。だが、話を聞いて如何にお前が救えない人間かよくわかったよ……」 「……は?え!?」 「お前のような人間を護るために……皆が……彼女が身を危険にさらしたかと思うとどうにかなりそうだ……僕は、危うく間違いを犯すところだったよ。それを気付かせてくれてありがとう……」 具体的な情報は得られなかったが、彼女達が生きている可能性があるとわかっただけでも良しとするべきなのかもしれない。 話によれば、帝国軍もまた黒い霧の被害に巻き込まれたとの事。 となると、帝国に手を出しそうな連中が絡んでいる? 真っ先に思いつくのは今回の戦の敗残兵。 中にはどこかで再集結し、帝国に反撃する機会を伺っている者もいるはずだ。 何にせよ、帝国の傘下の者を殺めてしまった以上、このまま王都に留まり続けるのは危険。 目標を革命軍に移し、その晩の内に王都を出ることを決めた。 ―― 一年後 シャロンの行方はいくら探してもその手掛かりさえ掴むことはできなかった。 かつて、王都の敗残兵に希望を求めたものだが、所詮噂は噂。 それを頼りに夜蛍の都『ミール』までやってきたが、本当に一年もの間身を潜め、力を蓄えることなどできているのだろうか。 実際は拠点どころか、その真偽すらも確かめようがない。 それでも諦めず、まずは情報が行き交う酒場に足を運んでみている。 「うぉい!酒が足りてねぇぞ!」 「そこの嬢ちゃん!ちょっと酌してけよ!」 比較的穏やかな治安情勢にある街と記憶していたが、どんなところにもこういう連中はいるものなのか。 カウンターに腰かけ、騒いでる連中に視線を向けてみると、その制服から彼らが帝国軍所属の兵士であることが分かる。 帝都での一件で、自分はお尋ね者となっているかもしれない。 少々目障りだが、触らぬ神に祟りなしだ。 いつもならそう考えるはずだった…… 「君達。他の客に迷惑だ。少し静かにしてもらえないだろうか?」 気が付けば席を立ちあがり、男達を窘めようと声をかけていた。 「はぁああああ!?俺達に言ってんのかよ!?」 「余所者か?ここでは俺達がルールだ。わかったら店の隅でミルクでも飲んでろ」 「ははははは!そりゃいい!!」 下品な笑い。 威圧的な言葉。 何もかもが無性に癇に障る。 あの夜以来、自分の心の奥底に何かドス黒い感情が芽生え始めているような気がしてならない。 「君達が勝手に掲げた規則など子供の落書きにも劣る。僕はこの場に集まる大多数の意見を代弁しているつもりだ」 「たった一人で威勢がいいじゃねえか小僧!」 「俺たちが誰だかわかってんだろうな!」 なんと気が楽なのだろうか。 湧き上がる衝動に身を任せるだけでこんなにも心地が良い。 「……ん?」 ふと感じた鋭い視線。 関わらまいと顔を伏せている街の人間のものではない。 視線の気配を辿ると、壁際の物陰に隠れた人物に辿り着く。 「はっ!?君は!」 「あぁん?お仲間かぁ!?」 何故ここにいる。 心から探し求めた最愛の人。 「ちっ……余計なことを……!」 自分の声に反応した兵士からも注目され、やれやれといって表情を浮かべる彼女。 見間違えるはずも無い。 王都で行方をくらましたはずのシャロンがどうしてここにいる。 「そこの女!おまえもこっちに……え!?」 「はぁっ!!」 思考が定まらない自分を余所に、躊躇なく兵士へと飛びかかったシャロン。 呆気に取られた兵士の一人が吹き飛ばされる。 「自分が何してんのかわかってんのか、てめぇ!?」 残された三人の兵士が、仲間がやられたことで標的を自分から彼女へ切り替えた。 「実戦も知らない雑魚共がっ!」 瞬く間に四人の兵士を倒してのけたシャロン。 動きも間違いなく彼女のものだ。 「すげぇ!かっこいいぜ姉ちゃんっ!!」 「酒持ってこぉおおおおおおおい!」 歓声に沸くその場で自分と彼女だけが静かに互いを見つめる。 「ふん……調子の良い連中だ。おい、大丈夫か?」 「あ……え?」 (何だこの違和感は?いや、それよりも彼女が……!) 「おまえ、革命軍の関係者か?」 「え?か、革命軍……?」 (わからない……一体何が起こっている?) 「無駄骨を折ったか……」 そのまま踵を返した彼女は早々に酒場を後にしようとする。 「待ってくれ!君なんだろ!?シャロン!」 「え?なに!?」 この反応の仕方。 名前にも反応したように思える。 口調や服装は違うが、やはりシャロンであることは間違いない。 「……やっぱり君なんだね?」 また彼女の優しい笑顔を見ることができる。 そんな儚い想いは、次に返ってきた答えによりあっさりと打ち砕かれた。 「人違いだ……私はシャロンなどという名ではない」 何だこれは…… 結婚の約束までした恋人の事を忘れている? それだけではない。 自分自身のことさえも。 確かめなくては。 このまま行かせてはならない。 「いいや……間違いない……!シャロン……ずっと探していた!」 「ぐうっ……!またか……!」 一瞬、懐かしむような表情を浮かべたかのように見えたが、その途端、頭を抱えて苦しみだしたシャロン。 「シャロン!?どこか痛むのか!?今すぐ傷を……」 「近づくな!私に触れるな!!」 伸ばした手は払いのけられ、彼女は逃げるように走り出した。 「私はダリアだ!シャロンなどという女ではない!これ以上関わるな!!」 「待ってくれ!!」 ダリアとは誰の名だ? 彼女を追わなくては。 それはわかっているのに、自分が忘れられたという事実を受け入れる恐怖と不安から足が思うように動かない。 その時の自分には、遠く霞んでいく彼女の背中をただ見つめることしかできなかった。 どれ程の時間その場にへたり込んでいたのか。 彼女が生きていることは素直に嬉しい。 しかし、その希望こそが彼女の異常がもたらす絶望をより濃いものにする。 ショックによる記憶喪失? これも何かしらの魔術による影響? 他人の記憶に干渉する魔術なんて聞いたことも―― いや、ある。 あらゆる分野の本を読み漁り、知識を積み重ね続けた二十余年。 ある医療関係の文献で、治癒魔術の弊害で記憶が変異する事例があったはず。 例えば、王都から姿を消した彼女は何らかの治療を受け、結果あのような症状をきたしてしまったとすればどうだろう。 専門の研究機関でなら詳しく調査がなされたこともあるかもしれない。 「待っていてくれ、シャロン。必ず君を……」 文字通り、魔術の粋が集合体となった都、魔導都市『マーニル』 魔術を専門的に研究する機関は世界各地に数あれど、この街が揺るぎない権威を持ち続ける所以はいくつかある。 その一つが、領地の三割を占める程の敷地面接を誇るマーニル魔法学校の存在だ。 『知識』という形で考えるなら、間違いなく世界一の機関と言えるだろう。 マーニル魔法学校図書室には、五千万冊にも上る蔵書が収められており、その半数が魔術関連の書籍や文献となっている。 「ゴメンよ……」 気を失い、目の前で床に倒れている一人の女性。 この学校の教師の一人だ。 知識の宝庫とはいえ、その実態は一般人が出入りする学校。 人の記憶を変異させるような人権を無視した情報が一般公開されているはずも無い。 閲覧制限、封印指定などがなされた類のもののみを収める隔離書庫は必ず存在する。 そして読み通り、目の前にその書庫が広がっている。 この書庫を見つけるため、彼女には協力してもらった。 脅しを利かせはしたが、すんなり頼みを聞いてくれたことは有難い限りだ。 拒絶でもされていれば、口封じも考えねばならぬところ。 それにしても、ひどく怯えた様子に見えた。 そこまで怖がらせたつもりはなかったのだが。 「……すごい数だな」 図書室の最奥部。 本棚をどかすと現れた床に擬態した扉。 扉の下に続く階段を下り、三つの魔術結界を解除。 そこまでしてようやくたどり着いたこの場所は『隠された』なんて言葉が不似合いな程の広さ。 まさか閲覧禁止カテゴリに該当するものだけでもこの数とは。 恐るべしマーニル魔法学校。 端の棚からタイトルをなぞっていくと、不老不死、人体複製、死者蘇生などといった身の毛もよだつ文字が並んでいる。 暫らく進むと、治癒魔術関連のものがまとめられている棚に突き当たった。 その中に目を惹くタイトルが一つ。 「治癒魔術を応用した疑似記憶の移植実験」 ―――――――――――――――――――――――――――――― ~治癒魔術が及ぼす人体への影響~ 今日、治癒魔術は世界中の魔術師の手により日々開拓され、その真価を高めている。 その多様性は多岐に渡り、今なお各地で独自の進化を………… ………… …… ~脳への干渉による治癒~ およそ三百年前、大陸北西の孤島に居住していたとみられるグティプタラ民族が用いた呪術を元に発展した治癒魔術。 概要としては、魔力によって被術者の脳内部、記憶を司るとされる海馬に刺激を与え、良好な健康状態時の記憶を引き出し、その姿へ被術者を導くことで自己治癒能力を最大まで高めるもの。 本魔術の特筆すべき点は、被術者の内的要素によって効果を促すことにあり、治癒の他、人体破壊や記憶操作、細胞回復による若返りにも同様のメカニズムを転用できる可能性があると考察………… ………… …… ~第一期記憶操作実験記録~ 本魔術を応用し、人体の記憶操作を試みる実験を開始。 魔素により形成した疑似記憶を被験者の海馬へと流し込み、定着させる。 第一次実験 被験者ティム=ディゴリー 男性 二十七歳 ………… 第一次実験失敗 ………… 第二次実験失敗 ………… …… ~失敗要因の考察~ 全実験結果において、微かに記憶の混濁症状は見られるものの成功には至らず。 以下のいずれかの要因が考え得る。 一、形成した疑似記憶の不完全性 二、記憶を定着させる際の魔力による疑似記憶の変異又は損傷 上記要因解消のため、宝具『イマジン・カンヴァス』の使用許可を申請。 ………… …… ~第二期記憶操作実験記録~ 宝具『イマジン・カンヴァス』の具現化能力により、強い魔力耐性を持つ、完全疑似記憶を形成。 これを被験者の海馬へと流し込み、定着させる。 第一期実験の課題であった、疑似記憶の不完全性と対魔力耐性の解消を目的とするものである。 第一次実験。 被験者アンジェロ=バートン 男性 二十九歳 拒絶反応無し。 幼少期の記憶に疑似記憶と見られる痕跡を確認。 だが、その後の経過により記憶の欠落が発生。 実用には至らず。 第一次実験失敗。 ………… 第二次実験失敗。 ………… …… ~失敗要因の考察~ 疑似記憶の定着に成功。 ただし、全被験者に時間経過と共に記憶が欠落していく症状が確認された。 個体差はあるも、現時点では数年分の記憶量が限界との検証結果。 以下のいずれかの要因が考え得る。 一、脳が疑似記憶を異物と感知し、自壊作用を及ぼした 二、術式の負荷に脳が耐えられず、記憶障害を引き起こした 三、疑似記憶の容量が脳の記憶容量を超えているため、定着しきれなかった疑似記憶が自壊 上記要因解消については、術式の圧縮、効率化により一定の解消が見込まれる。 ………… …… 現段階の技術では、高精度術式の開発は不可能と断定。 協議の結果、本実験は中止。 以降、新たな術式の開発、または宝具『ソリス・メモリア』の発見まで本実験を凍結するものとする。 マーニル魔法学校所属 第十三魔術研究室 ○○○○年 前期レポート ―――――――――――――――――――――――――――――― 「…………」 暫らく呆然と立ち尽くすしかなかったハシュテッド。 シャロンは記憶喪失などではない。 操作され、改竄されたのだ。 それは事故ではなく、故意に引き起こされた。 レポートを読んだ限り、それ以外の結論が見つけられない。 だが、この実験は結局失敗し、凍結されたものとある。 他の誰かがこの実験を完成させ、シャロンの記憶を操作したか、もしくは全く別の魔術によるものということか。 念のため、他の書物も漁ってみたが、他に記憶操作に関する術の情報は得られなかった。 勿論、ここにある文献が魔術の全てではないが、アテも無く存在するかわからない魔術を探すより、ひとまずはこのレポートの可能性を検証する方を優先すべきか。 シャロンの記憶を操った何者かがこの研究を応用したと仮定すると、実験失敗の原因を突き止め、解決したことになる。 レポートの最後の考察では三つの可能性が原因の可能性として挙げられていた。 「被験者の脳が疑似記憶を異物と感知し、自壊作用を及ぼす」 これは疑似記憶が破壊されるという可能性なので否定される。 シャロンは自らをダリアと名乗っていた。 このことから疑似記憶は消滅していないことはわかる。 「術式の負荷に被験者の脳が耐えられず、障害を引き起こす」 これも同じく、正誤問わずシャロンの記憶全てに影響がおよび破壊されるというもの。 彼女は両の記憶を元に、自分の立場や考えをしっかりと形成していた。 よって否定される。 「疑似記憶の容量が脳の記憶容量を超えているため、定着しきれなかった疑似記憶が自壊」 残された可能性。 これは今のところ否定できない。 もしも疑似記憶の圧縮に成功し、脳の記憶容量の問題をクリアできたなら、記憶操作も可能か? いや、待て…… 仮に疑似記憶を植え付けられたとして、それでは正誤の記憶が同時に存在することになる。 シャロンの人格は偽の記憶で形成されていた。 では正しい記憶はどこへいった? 「まさか……消した…………違う!!」 元の記憶を全て消したりなんてしたら人は人でさえなくなる。 全ての記憶を疑似記憶で担うなんて不可能だ。 万が一、作る手段があったとして、そんな完全な設計が誰にできる? そもそもこの問題を研究者達は認識していたはず―― 「そうか……宝具『ソリス・メモリア』とは、記憶を封印することのできる宝具……!」 元の記憶の一部を封印して記憶容量を確保。 都合のいいタイミングから疑似記憶で人格を形成すれば、思い通りの人間が出来上がる。 そんな宝具があるのなら、疑似記憶の容量さえ解決できれば実験は成功する。 そして帝国よりも先にこれを手に入れ、シャロンにこの実験を施した何者かがいるんだ。 既に誰かの手にそれが渡っているとすれば、所在を突き止めて奪い取ることは難しい。 「ならば……僕がこの手で……!」 マーニルを後にし、ミールへと戻ったハシュテッド。 早速、自らの術で記憶を封印する実験を開始する。 植え付ける疑似記憶を作る必要はない。 記憶が封印できる事実さえ掴めれば、それを逆用して解放してやるだけでいい。 そうすれば元の記憶で記憶容量は圧迫され、溢れ出た疑似記憶は自壊する。 脳の構造が根本的に違う動物を使っても無意味に命を粗末にするだけだ。 やるなら人間だ。 この街に戻ったのは、消えても問題のない人間にアテがあったから。 「さぁ……僕のために、いや、シャロンのためにその命を使わせてもらうよ。無価値な君達にとってはこれ以上ない貢献と言えるだろう……」 「ちくしょう!てめぇ!!ぶっ殺してやる!!!!」 いつぞやの酒場で出会った四人の帝国兵。 「あの時、意味も無く関わってしまったのかとも思ったが、彼らはこういう形で役割を持つことになるのか……フフ……人生とはよくできたものだ……」 「なにブツブツ言ってやがる!!さっさと縄を解きやがれ!!」 「安心していい。命を取ろうというわけじゃないんだ。少しだけ協力して欲しい。ただ、それだけだ……」 「コイツ……狂ってやがる!!」 「失礼なことを言うなぁ……ほら、動かないで。手元が狂ったら大変だ」 「ひぃいいいい!」 できる。 レポートを読んで、海馬にアクセスするイメージは掴めている。 治癒魔術の応用で可能なはずだ。 「あ……あぁ…………あぁあああああああ!!」 「ん?加減が甘かったか?負荷に耐えられなかったようだ……」 「……こ……殺したのか!?」 「すまない。そんなつもりはなかったんだけど、やはり初回で成功とはいかなかった。大丈夫。昔の人は良い言葉を残してくれているだろう?失敗は成功の元さ……次は術式を変えてみよう」 「ちょ、待て!あぁ!!あ……あぁ……あぁあああああああ―― ―――― ―― 「やぁ、お腹が空いているだろう。ご飯にしよう」 四人の被検体を用い、数度の実験を重ねた。 やはり難しい試みだったが、シャロンに捧げるこの想いを誰かが汲んでくれたのかもしれない。 最後の一人。 その記憶の封印に成功した。 「ごあん?」 「そう、ご飯だよ」 彼にはおおよそ三十年分の記憶を封印する術を施した。 見た目から察するに、今の彼は二、三歳程度の年齢までの記憶しかない。 「おいしいかい?」 「ん!うまぁい!!」 闇に光明が差し込んだ。 シャロンの中には元の記憶が残っている。 彼女に会った時、僕の言葉に反応したように見えた。 あとはこの術を反転しシャロンの脳に働きかければ、記憶の封印を解くことができる。 一応翌朝まで被検体の様子を観察してから封印を解いてみよう。 そういえばこんなにも落ち着いた気持ちで眠りにつくのは何日ぶりだろうか。 「ふふ……やったぞ……僕の想いと術は宝具を超えたんだ……ふふふ……ふふふふふ……」 肉体的にも精神的にも疲れ果てていたハシュテッド。 目を閉じて数秒の内にそれらは押し寄せ、彼を眠りの奥に引きずり込んでいった。 ――翌朝 「おはよう。調子はどうだい?」 「…………」 「おや。まだ寝ているのかい?かわいそうだが、実験の続きがあるんだ」 「…………」 被検体の様子がおかしい。 生きてはいる。 起きてもいる。 しかし、自分の声に反応するどころか、虚ろな表情を浮かべたまま微動だにしない。 「まさか……!?」 慎重に彼の脳に施した魔力の痕跡を辿る。 無い。 痕跡が一切感じられない。 封印した一部の記憶ごと、全ての記憶と術が消滅している。 この結果は、記憶を封印したなら、それを維持し続けるための別の術式が必要との事実を示していた。 事象の固定や時間軸の停滞といった術式でも存在すれば可能かもしれないが、そんな人の領域を遥かに超えたものは存在しない。 だいたいそれ程の高度な魔術の負荷に、繊細な脳細胞がその負荷に耐えられるわけがない。 「あ……あぁ……そんな……!」 脳裏をよぎったシャロンの顔。 自分は失敗した。 宝具を用いれば成功していたのだろうか。 もしも自分と同じ方法でシャロンの記憶が封印されたのだとしたら、目の前で起きたことは彼女の身にも起きることになる。 ミールで別れた後、そうなっていたら…… 「シャロン!!」 アテも無く走りだした。 彼女の中に、元の記憶が生きていることを確かめなければ。 あの笑顔を取り戻せることを確かめなければ。 もう一度、君に会わなければ…… 悲痛の叫びが谷を越え、山を越え、朝焼けの街『トレイユ』を通りがかろうとした時だった。 ハシュテッドの行く手に、チカチカと瞬く光。 何かが沈んでいく夕日の光を反射しているようだ。 吸い寄せられるように光の元へ歩いていくハシュテッド。 近づくにつれ徐々にその正体が視認できるようになっていき、また、それに合わせて確かめるように早足になっていく。 「やっと見つけた……シャロン!」 光を反射していたものは大きな盾。 人違いの可能性もあったはずなのだが、それが盾だとわかった時点で何故か彼女のものだと確信していた。 「またおまえか……丁度いい。もう関わるな。おまえの探す女と私は無関係だ。それから、あのような馬鹿な真似はもうするな……それだけ忠告しておきたかった……」 「……シャロン……良かった……まだ記憶は消えていない……そうだ……確かめないと……あの日々を……あの笑顔を……僕は……」 「さらばだ……二度と会うことはないだろう……」 別れの挨拶を吐き捨て、足早に去ろうとする彼女。 だが、ハシュテッドはその手を掴んで離さなかった。 「僕だ!ハシュテッドだ!わからないのか!?」 真実を知る恐怖で心が挫けそうになる。 既に彼女の中にあったはずの元の記憶が完全に失われていたとすると、もうあの日々は二度と戻らない。 人の心に巣食う闇の深淵に触れてなお揺るがなかった想い。 それが今、生きるか死ぬかの天秤にかけられる。 「しつこい奴だ……!ここで果てたいのか!?」 「シャロン……帰って来てくれ……任務を終えて必ず帰ると約束してくれたじゃないか!」 「な……なぜ、おまえがその言葉を知っている!?」 「シャロン……本当に忘れてしまったのか……君はやはり……」 共に駆けた戦場も、手をつないで歩いた並木道も、朝まで騒ぎ明かしたハロウィンも、将来を約束したあの夜も…… 「ぐぅっ……ああっ……!!」 唯一無二の希望を賭けた訴え。 自分の言葉に、確実に彼女は反応を示している 「あぁあああああああああ!!」 「シャロン!大丈夫か!?シャロン!!」 頭を抱えて苦しむシャロン。 彼女の本来の記憶が封印に抗っている。 そう思えた。 「あぁああああああああああああ!!!!」 「うっ!?」 痛みに耐えかね暴れる彼女を抱きしめようと近づくも、いきなり顔面を殴りつけられる。 「シャ……シャロン!君は……」 「だまれぁえええええ!!もう私を乱すな!関わるなぁああ!!」 「そんな……」 「私はダリア!!貴様など知らない!!!!」 再度この場から去ろうとするシャロン。 今度こそ行かせてはならない。 「ま、待つんだ……待ってくれ……!」 伸ばした手で彼女の脚を掴み、なんとか引き留めようと足?く。 「う……うわぁあああああああ!!」 ――ガンッ 目を覚ました時、辺りには誰もおらず、夜虫の鳴き声だけが響き渡っていた。 起き上がろうと体に力を入れると、頭に鈍い痛みが走る。 どうやらシャロンに盾で殴られ気絶したらしい。 「…………」 どうにか半身だけを起こし空を見上げる。 額から血が滴ってくるのがわかるが、そんなことはもうどうでもいい。 間違いない。 やはり彼女の中には、元の記憶が生き続けている。 封印された記憶を破壊せずに解き放つためにはどうすれば…… 簡単なことだ。 宝具『ソリス・メモリア』を手に入れる。 帝国軍は、確実に記憶を封印できる宝具の情報を持っている。 「待っていてくれ、シャロン……もうすぐ救ってあげるから……」" +聖夜に咲く祝福の花アマナ 流水の都ラグーエルの詰所は、慌ただしい空気に包まれていた。 帝国軍の支配下にある街としては珍しい光景である。 こうした件は大抵、余所者か異常者が原因となり引き起こされるもので、今回の件も漏れなくその前者にあたる余所者による騒ぎのようだ。 否。 見るものによってはその両方と取れるのかもしれない。 調書を取るラグーエル兵士の前で、土下座するガルムの男。 そして、その隣で顔を引きつらせながらも頭を下げ続けるエルフの女性。 二人の言い分はチグハグとしていて、結局何が本当なのか分らない。 この手の尋問では良くある事なのだが、話を聞いていくと事件性と言うには乏しく、更には帝国に喧嘩を売ってきた模様。 今のラグーエルは帝国の介入は出来るだけ避けたい。 この二人を匿っているとでも思われたら面倒な事この上ない事案になる。 「もう!なんで付いてくるんですか!?カイザーさん!」 解放された二人は、見慣れない街を歩いていた。 行く当てと言えば、実家のあるラキラの街以外にはないのだが、帝国が進軍した今は危ないと詰所で言われてきたばかり。 途方にくれながらも今日の宿を探していると、横にあの男が並んで歩いていた。 「何を言う?我輩とアマナちゃんはすでに婚礼の約束を交わした仲ではないか?いや、今はもう夫婦であったか?」 「ふざけないでください!!いきなり変なこと言い出して!!」 事の発端は、花の都ラキラが帝国軍に襲われたことに始まる。 店だけは守ろうと、外に出している鉢などを片づけていると、帝国兵の小隊がやってきた。 その中の一人がカイザーだった。 万事休すと思われたが、あろうことかアマナに一目ぼれしたカイザーはその場でアマナに求婚。 対するアマナは、敵でもある帝国軍兵士と結婚したいはずも無くこれを拒否。 するとカイザーは周りにいた兵士達を薙ぎ倒し、アマナを抱えて逃亡したのだった。 道中、目についたラグーエルへと入ったカイザーだったが、嫌がっている様子のアマナを抱きかかえたガルムの男は当然目を引くもので、すぐさま街の兵士に不審人物として連行された。 「吾輩の気持ちに嘘偽りはないのだ!大きな船に乗ったつもりで我輩に付いてくるといい!!」 「イヤです!何を勝手な事ばかり言っているのですか!」 「ナハハハ!そう照れなくても良いのだぞ!」 「照れてなんていません!!」 出会った当初から勝手な暴走を続けるカイザー。 彼から離れたいのはやまやまだが、走ったところで彼の脚から逃げられるはずもない。 「どうしよう……ラキラのことも気になるし……」 「そうなのか?だが、先程の兵士は今のラキラは危険だと申しておったぞ?」 「それはそうですけど……う~ん……」 突然、どこからか小さな声が聞こえる。 「うぇ~ん!」 「え?今の声?」 「どうやら子供が泣いておるようだ。あちらの公園からだな」 踵を返して真っ直ぐに視線を向けるカイザー。 「よくそこまで分かりましたね……」 「我輩だからな!」 声の元へと駆けだしたアマナは、通りの傍にあった公園のベンチに座り、一人泣きじゃくる子供の姿を見つけた。 「どうしたの?大丈夫……?」 「サンタさんが!サンタさんがぁ~!!びぇえええええええ!!」 泣き喚きながらも、ポツリポツリと単語を発する子供。 それらを拾い集めて解読してみると、どうやらクリスマスなのに自分の家にはサンタが来ないことを悲しんでいるようだった。 粗方の事情を察したアマナ。 この街に限らず、帝国軍の影響で不安定な情勢にある街の多くでは貧富の差が一つの大きな問題となっており、こうした現場を目にすることも決して初めてのことではなかった。 だが、小さな子供の悲愴な表情と溢れる涙は、アマナの心を痛く絞め付ける。 「今のわたしにできることなんて……」 つい自身も目から涙が溢れそうになったところを踏み堪えるアマナ。 その様子をカイザーは見逃さなかった。 「我輩に任せるのだ!!」 「え!?ちょっと!カイザーさん!?」 それだけを口にして、アマナと子供を公園に残したまま、何処へともなく走り去っていったカイザー。 しばらくその場で待ち続けたが、終ぞ彼が戻ってくることはなかった。 陽も落ちてきた頃に子供を家へと送り届け、そのままその日の宿をラグーエルで取ったアマナ。 疲れ果てた彼女の身体には安宿のベッドさえも雲のように感じられ、横になってすぐに眠りへと誘われていった。 「アマナちゃ~~~~んは、ここかぁ!!!!」 けたたましい轟音と共に部屋の扉がけ破られ、思わず飛び起きるアマナ。 何事かと驚くアマナの前に顔を突き出したのはカイザーだった。 「カイザーさん!?一体今までどこで……じゃなくて、何やってるんですか!!」 「アマナちゃん……良い香りがするな。やはりこの香りを追ってきて正解であった!」 「な!?やめてください!よくわかりませんが恥ずかしいです!」 「そうだアマナちゃん!話を聞いてくれ!!我輩は…………くんくん……」 「匂いを嗅がないでください!!さっきお風呂に入っただけですから!!それより顔が近い!近いです!!」 「風呂か!良いな!我輩も頂くと……ではない!話を聞いてくれアマナちゃん!」 「だから近い!近い!近い!いい加減にしないと怒りますよ!!」 突然の事で話など聞ける状態ではなかったアマナだが、部屋の隅でカイザーがしょぼくれている隙に、なんとか平静を取り戻す。 「それで、お話とは?」 「そうであった!我輩とサタンをしよう!!」 「……もう一度お願いします」 「む……?我輩と一緒にサタンをしよう!アマナちゃん!」 「サンタ……ですか?」 つまりは、自分達がサンタ役となり、街中の恵まれない子ども達にプレゼントを配ろうということだった。 彼は彼で昼間に出会った子どもを見て、思うところがあったのだろう。 「それは良い考えかもしれませんが……」 「どうしたのだ!?我輩はまたアマナちゃんを困らせてしまうようなことを言ったのか!?」 「いえ。そうではありません。本当に良い考えだと思います」 「そうであろう!?」 「ですが……わたし達にはそんなお金……」 プレゼントを用意するにはどうしたって金が必要になる。 一人、二人ならばなんとかなるかもしれないが、今回の思い付きを実行するとなると、どれだけのプレゼントを用意すればよいかもわからない。 「なんだ。そんなことであるか!それなら心配は無用であるぞ?」 いぶかしむアマナを宿の外へとおもむろに連れ出すカイザー。 そこには、壊れたり古くなったために捨てられたと思われる大量のおもちゃ。 他にも布切れや木材、鉄材などが山のように積まれていた。 「どうしたんですか!?これ……」 「うむ!とりあえず使えそうな物を拾えるだけ拾ってきた!」 公園を飛び出してから今の今まで、ずっと街を駆け回っていたようだ。 ざっと目を通しただけだが、簡単な修繕を施せば立派なプレゼントになりそうなものも多い。 「これなら……できるかもしれません」 行き当たりばったりで突拍子もない行動ばかりのカイザーだが、がむしゃらに何かのために頑張る様は、確かにアマナの心を打つものがあった。 「やれるだけやってみましょう!」 「うむ!クリスマスまであと…………すぐだ!!」 「三日です。しっかりしてください!」 ――クリスマス当日。 この日のために三日間ほぼ徹夜で用意した大量のクリスマスプレゼント。 並べられた自分達の努力の結晶を目の前にし、得も言えぬ喜びが込み上げる。 「やりましたね!カイザーさん!」 「うん?あぁ、そうであるな!!」 「どうかしましたか?」 何やら落ち着きのないカイザー。 普段の彼の素行を考えれば、小躍りの一つでも披露してくれそうなものだが。 「ア、アマナちゃん……これを受け取って欲しいのだ!」 「……婚約指輪なら受け取りませんよ?」 「しまったぁああああ!!その手があった!!!!それも後で用意しよう!だが、今日の所はひとまずはこれを!」 「何ですか?」 綺麗に包装された小包を手渡されるアマナ。 少し警戒しつつ、ゆっくりとその封を開けてみる。 「……何ですか?これ」 「無論!サタンクロースの衣装だ!」 違う。 それっぽくは仕上げられているが、フリフリのミニスカートが可愛らしいぴちぴちコスチューム。 こんな破廉恥なサンタクロースを子供達の目に触れさせるわけにはいかない。 「着ませんよ!?絶対に着ませんから!!」 「何故だ!?サタンになるのであろう!!」 「だったらちゃんとしたサンタさんの服を用意してくださいよ!というか、こんなものいつの間に用意したんですか!?」 「安心して良いぞ!絶対に似合う!我輩が保証する!!」 「嫌ですってば!!!!」 その後、諦めずに食い下がるカイザーにとうとう押し切られ、嫌々ながらもそのコスチュームを着せられてしまったアマナ。 プレゼントの入った袋を抱え、いざ出発せんという今になっても彼女の表情は雪の舞う曇天と同じ色をしていた。 「これを機に、そろそろ我輩も計画的に生きようと思うのだがどうだろうか?」 「そうですね……それは良い事ですね……」 「であるな!では式はいつにする?」 「そんな予定はありません!!」 こうして、プレゼントを配る本物の可愛いサンタが現れたと、ラグーエルの街に暖かい話題が飛び込むこととなった。 コスチュームの件では頬を膨らますアマナだったが、結果的には子ども達の明るい笑顔を見られた事に満足していた。 ――そしてまた、クリスマスがやってくる 「さぁ、アマナちゃん!今年はこのイエルの街に素晴らしいサタンを呼び寄せようではないか!!」 「そんな悪魔召喚みたいなイベントではありません!サンタです!いい加減覚えてください!って……またやるんですか!?」 「当たり前であろう!我輩は思ったのだ……夫婦として協力するクリスマスは素晴らしいものだと!!」 「夫婦なんかじゃありません!!」 「またまた……そんなに照れなくても良いではないか!」 「そういう事じゃありません!!」 +蒼き浄化の紡ぎ手ミリア 「あっれ~?どこ行っちゃったんだろう、あの人……」 頭をキョロキョロと左右に振りながら、狭く、薄暗く、複雑な道を右往左往。 何故こんな薄汚い路地裏を徘徊しているかと聞かれれば、私はある人物を探していると答える。 ここは商業都市『イエル』 それが物であれ情報であれ、量と質を求めれば大陸きっての大都市だ。 帝国軍の影響もあってか、最近それも少し影が落ち始めてはいるが、それでも商いを生業とする者達にとって、この街の存在はとてつもなく大きい。 かく言う私も仕事のためにここを訪れたわけなのだが、到着した直後、裏路地に入っていったある一人の男に視線を奪われたのである。 「おや?人影発見!」 こんな場所でもやはり人はいるものだ。 何だか久々に人に会えた気がすると、どこかホッとしながら声をかけてみることにした。 「あの~、すみません。人を探しているんですけど~?」 「あん?人探し?」 「えっと、こ~~~んな大きな盾を背負ってて、銀髪で二十台半ばくらいかな?って感じの男の人なんですけど、見ませんでした?」 「…………あぁ!見た、見た!アイツか!!」 「ホントですか!?どっちの方に行ったのかわかりませんか!?」 なにやらジロジロと観察されたような気がして身構えそうになったが、せっかくの手がかりだ。 失礼な態度は慎むべきなのであろう。 「任せな。案内してやるよ。こっちだ」 「え?あ、いえ!方向を教えてくれるだけで十分ですよ!?」 前言撤回。 この先の展開が容易に想像できてしまう。 間違って付いて行きでもすれば、何をされるかわかったものではない。 向かった先に仲間の男たちが大勢いて……みたいな。 人として、女子としてもそこまで警戒心は失っていない。 「せっかく人が進んで案内してやるって言ってんだから、こういう時は素直に世話になっておくべきだと思うぜ?」 「いえいえ、そこまでしてもらうのはさすがに悪いので!あ!!あんなところに探してた人が!!ありがとうございました!おかげ様であの人を見つけることが出来ました!それでは、これで失礼します!!」 思いついた嘘を早口でそう述べた後にくるりと方向転換。 男に引き留める隙を与えないままその場を離脱しよう。 ――ドンッ! 「――わっ!?」 足早に去ろうとした私の顔面があるはずのない壁にぶつかった。 「おかしいな?探してた人なんてどこにもいねぇぞ?」 「ケケケ……甘いぜお嬢ちゃん」 ぶつかったのは壁ではなく、別の男の分厚い胸板。 得物を逃がさないように、予め仲間を背後に忍ばせておいたようである。 どうやら都会のスラム街を逞しく生き抜くならず者たちは、田舎者の私よりもよほど賢かったようだ。 「あ~……すみませんけど、私、用事があるのでこれで失礼しようかと…………」 「用事なら俺たちが聞いてやるよ。とりあえず相談料として有り金と持ち物全部出しな?」 「ケケ……隠すと身のためにならないぜ?」 この場を切り抜けるための策を必死に巡らせるが、三人の男たちに囲まれたこの状況を自分一人で打破する術などあるだろうか。 「少女一人に大の男が寄ってたかる……感心しないな」 「あぁ!?誰だ!?」 不意の言葉に、私を含めた全員が虚を突かれた瞬間だった。 「――ふげっ!?」 男の一人が遥か先の壁まで突き飛ばされる。 「抵抗せず少女を開放しろ。手加減は得意じゃないもんでな」 「な、何なんだよお前は!?」 仲間の一人を突如失い、うろたえる男たち。 その向かいで仁王立ちする別の男。 手に大きな盾を携えた銀髪の男は、先程まで私が探していた人物その人だった。 「助けてくれるの?」 「困っていたように見えたのだが、余計な世話だったか?」 「そんなことはないけど――って、それ!やっぱりそうだ!!あなた、その盾をどこで手に入れて――」 「おいっ!!いきなり手ぇ出してきといて、無視決め込んでんじゃねぇ!!」 「タダで帰れると思うなよ、この野郎!!」 ならず者二人の怒声で言葉が遮られ、彼らは胸元からナイフを取り出すと、それを銀髪の男へ向ける。 「諦めてはくれないか。仕方ないな」 「舐めんじゃねぇぞ!!」 勢い良く飛びかかるならず者。 相対する銀髪の男は、たじろぐどころか、向かってくる男たちよりも早く前へと踏み込むと、体の前に盾を構えて突進。 ナイフもろとも吹き飛ばされるならず者の片割れ。 残された一人が怯んだ隙に、間髪入れずに攻撃した銀髪の男。 こうして最後の一人も気絶させられ、銀髪の男はものの数秒で場を制して見せた。 「やれやれ……結局、荒事になってしまった」 真っ先に手を出した人間が言えた台詞か。 そう喉まで出かかったのを飲み込み、私は改めて本題へと移る。 「その盾、どうしたの?何処で手に入れたの?」 「……ただでかいだけの盾だが?」 「隠しても無駄よ。私にはわかるわ」 「……助ける相手を間違えたか」 私の言葉を受け、男の纏う雰囲気が変わる。 明らかな敵意。 そして、強まるもう一つの存在感。 男が手にする盾からは、間違いなく『呪術』の気配を感じる。 やはり勘違いではなかった。 路地裏にこの男が入るのを見た瞬間に感じた予感。 この男の盾には強力な術がかけられている。 「そこで何をしている!!」 緊迫した空気を切り裂く怒声。 路地裏に駆けこんでくる自警団らしき男たちが見えた。 巡回中に騒ぎを聞きつけたのだろう。 「っち……君にも来てもらうぞ!」 「はい?え!?わわっ!?」 私を脇に抱え上げたと思えば、凄まじい速さで駆けだす男。 男の背中越しには必死の形相で追いかけてくる自警団たちの姿。 急変した事態についていくのがやっとな状況ではあったが、私としてもあまり自警団のような組織の厄介にはなりたくなかったこともあり、自分を抱えて走り続ける男に一つの提案をしてみることにした。 「荷馬車があるの!そこに隠れればアイツらを撒けるでしょ!?」 「君は俺に協力しようと言うのか……?」 「私のためよ!まぁ、その盾にも用事はあるんだけど、お互い面倒事はゴメンでしょ!?」 「……いいだろう!」 「じゃあ、とりあえず路地裏から出て!それから中央広場へ!」 こうして私の案内の元、身を隠すための荷馬車へと向かう。 数分の間ではあったが、女とはいえ人一人と大きな盾を背負ったまま全力疾走を続ける銀髪の男。 それも、日々鍛錬しているであろう自警団の者たちに追いつかれることなくである。 彼もまた相当な鍛錬を積んでいるということなのだろう。 路地裏の一件からもそれが伺える。 「あった!あの荷馬車の荷台に!!」 「了解した!」 男は更に速度を上げ、人混みの中へ。 そうして自警団の視界を遮った後、速やかに荷台へ身を潜めた。 「くそっ!どこへ行った!?」 「散開して捜索するぞ!!」 どうやら上手く撒くことが出来たようだ。 「ふぅ……なんとか大丈夫みた――ちょっ!?」 薄布を被せた荷台の中、暗闇にも目が慣れ始めたところで隣の男に声をかけるが、私は彼の表情に戦慄を覚えた。 闇に浮かぶ鋭い眼光。 身を屈めながらも、咄嗟に動けるように構えた体勢。 盾を握る拳にも十分な力が込められているのがわかる。 思えば、彼からすれば私はただ助けただけの娘。 それが何故か自分の秘密を知っているように訴えてきたのだ。 敵か味方かはともかくとして、警戒するのは当然だろう。 「違う!違うってば!私は貴方をどうこうしたりするつもりはないの!ただ、貴方を見かけた時に、その盾が気になって……それでいてもたってもいられなくて!」 嘘偽りない言葉ではあるが、それでもやはり彼にとっては十分に警戒に値する発言だ。 彼自身がそれだけ触れられたくない事。 ひた隠しにしてきた事なのだろう。 「お願いだから警戒しないでよ!私は貴方を助けてあげたいの!その盾にかけられてる『呪術』を私は解いてあげることが出来るわ。信じて!」 変な嘘は逆効果。 そう思った私は、真の想いだけを語り続ける。 「……わかったよ。警戒は解こう」 「あ……ありがとう!」 重苦しい空気から解放され、やっと落ち着いて一息つくことが出来た。 「だが、この盾の事は放っておいてくれ。君には関係のない話だ」 「何で!?その術は貴方に悪い影響を与えるものよ!?あなた自身も分かっているはずでしょ!?」 「そこまでわかるのか……だが構わないでくれと言っている。今なら自警団の連中の目も散っているはずだ。他に用が無いなら俺はこれで失礼するよ」 取り付く島も無く立ち去ろうとする男。 それはダメだ。 私には彼と、彼の持つ盾を放っておけない理由がある。 「待って……てばぁ!!」 「な、何をする!?離すんだ!」 荷台から降りようとした男に対し、私は必死にしがみついた。 「何故そんなにも俺に関わろうとする!?俺がどうなろうと、君には何の不利益もないだろう!?」 「そういう問題じゃない!そうやって近づく人みんな拒絶、拒絶し続けてきたんでしょ!?まだ話も何も終わってないのに!!」 「くそ……いい加減に――」 ――パリン。 狭い荷台で暴れる二人。 力いっぱい自分を振りほどこうとした男が何かを踏みつけ、割ったようだ。 「え?今の音……もしかして……」 私には壊れた何かの正体の見当がすぐについた。 「ちょ、ちょっと!降りて!!早く!!!!」 「今度は何なん――おわっ!?」 私は男を引っ張っていた以上の力で今度は押した。 荷台から降りようとしていたところに、急に力が加えられ、勢い余って荷台の外へと転がり落ちる男。 「う……むぅ……こ、今度は一体何だ!?」 「あぁああああああああああああ!!」 私たちが身を潜めていたのは、行商のために私自身が店から連れてきた荷馬車。 当然、荷台なのだから、そこには荷が積まれている。 今回の仕事に必要な道具や商品たち。 そして、荷台の中で聞いた何かが割れたような軽い音。 消去法でその音の正体を探っていくと、自ずと一つの答えに辿り着く。 「あぁ……あぁ…………!」 小さな木箱の中に収められていたはずの耳飾り。 あれだけ荷台の上で暴れたのだから、その拍子で箱から零れ出たのだろう。 あしらわれていた石が粉々に砕けていた。 「それは……耳飾りか?」 ワナワナと震える私の手の上で、細かくなった石の破片がキラキラと輝いている。 それをひょっこりと上から覗き込んだ男が、まるで他人事の様な口調で呟いた。 「どうしてくれるのっ!?お得意先からの預かり物なのに!!」 「俺のせいか!?確かに踏んだのは俺かもしれないが、それも元はと言えば――」 「信じらんないっ!他人のもの壊しておいて、何よそれっ!?」 「だ、だから君が離さないから――」 「謝って!!」 「…………す、すまん。しかしだな、君も――」 「弁償して!!」 「そ……そんな高価そうな物を弁償できるだけの金は……持ち合わせていない。だが――」 「どうしてくれんのよ、これ!?」 「…………っ!!」 しかし、その時の私の声と表情には、彼を黙らせるだけの何かがあったのだろう。 そして、頭を悩ませていた私はあることを思いつき、こう口にしたのだ。 「仕方ないわ。罰として、今日一日、雑用として私の仕事を手伝いなさい!」 言われなくてもわかっている。 これはもう交渉でもなければお願いでもない。 ただの脅迫だ。 「ぐ……ぬぬ…………わかった。償いはさせてもらう」 年若い少女を想っての優しさか。 それとも勝手に背負い込んでくれた責任感か。 何にせよ、こうして行動を共にし、じっくりと男の素性と、盾の事を聞き出す機会をまんまとせしめたのである。 「私はミリア。改めてよろしくね!」 「ハウザーだ。短い付き合いになるとは思うが、少なくとも今日一日は君の手足となって職務に励もう」 「堅っ苦しいなぁ……まぁ、いいけどね!」 程無くして、イエルの商業地帯を歩く二つの人影があった。 フードですっぽりと身を隠したまま一頭の荷馬車を引き連れるその姿は何とも怪しげである。 というか私とハウザーだった。 騒ぎは収まったとはいえ、まだ辺りを自警団がうろついている可能性もあったので、素性を隠すために二人してフードで身を包むことにしたのだ。 「ここが今日のお客さんの店」 「……なんというか……怪しげな店だな」 周囲の店と比べても明らかに古く、こじんまりとしたレンガ造りの店。 看板の文字は年月と共に劣化し、原型を留めておらず、窓のカーテンは閉まったまま。 彼の感想は至極ごもっともではある。 「こらこら。気持ちはわかるけど、今の私は商人としてここを訪ねてるんだから、取引相手に失礼な事言わないの!」 「そうであったな。以後、気を付けよう。思えば我々の恰好もひどく怪しいものだしな」 「そこは気にしない!ほら、早く入るわよ!」 ――カランッ 入り口の戸を開くと、客の来訪を告げる小さな鐘が鳴る。 店内は至って普通の雑貨屋といったところ。 少なくともハウザーの眼にはそう映っていることだろう。 物珍しそうに店内を見回す彼は置いておき、早速店主と商談だ。 フードを脱ぎ、脇に抱えると、身なりを軽く整えてからレジの呼び鈴を鳴らす。 ――チリンチリンッ 「ん?いらっしゃい。何をお求めでしょう?」 「私です。いつもお世話になってます!」 「おぉ、ミリアちゃんか。例のモノを取りに来たんだね。けっこう集まったよ」 「わぁ!ありがとうございます!!」 店の奥から姿を現した初老の男性。 店主である彼と私の会話の内容が察せずにいるハウザー。 自分の背後で浮かべられている彼のポカンとした顔が容易に想像できる。 そして、その顔がすぐに曇るであろうことも。 「ところで……先月、預かった耳飾りの件なんですけど……」 「あぁ!そういえばそうだった!どうだったね?」 「実は……『解呪』には成功したんですけど……この有様で……」 私はポケットから小さな木箱を取り出した。 ハウザーに踏み砕かれ、見事に石が粉々になったあの耳飾りである。 「おぉ……これはまた見事に粉々に…………」 「本当にごめんなさい。私の不注意でこんな――」 「すまん、店主殿!ミリアは悪くない!それを壊してしまったのは俺だ!だから責任を取れと言うのなら俺がなんとかしよう!」 店主と頭を下げる私の間に割り込んできたハウザー。 確かに預かり物を壊した直接的な犯人は誰かと聞けば彼ということになるのだろうが、そもそもこんなことになった原因は私にもある。 それを承知の上で、私は彼に責任を押し付け、今日一日同伴することを要求したのだ。 彼の盾のことを何とかしたいという思惑があったとはいえ、彼の純粋さというか、責任感の強さというか、そんな彼の性分に付け込んだようで、今さらながら罪悪感に苛まれる。 「いいの、ハウザー。これは私の仕事だから、私が解決しないといけないことなの」 「しかしだな……」 「貴方はもう私に代償を支払ってるんだから、気にしなくていいって言ってるの!ちょっと外に出てて!!」 「……あぁ。わかったよ」 諭された彼は渋々と店を出て行く。 その迷いある足取りは、最後までこちらを気にする彼の心情を表しているようだった。 「ミリアちゃんのとこの従業員かい?良かったのかね?」 「彼は……そうですねぇ……私の趣味の方のお客さんってところでしょうか」 「ほほぅ……なるほどね」 タイミングを見計らっていたように口を開いた店主。 さて、ひとまず場が落ち着いたところで閑話休題。 ここからは私の本当の仕事の時間だ。 「ところで、おじさん。この耳飾りの件なのですが」 「うむ。詳しく聞かせてもらおうかな」 「はい。ここにこれをお持ちしたのにはある理由があるんです。実はこの耳飾りには――」 ――数分後。 店主と話を終えた私が店を出ると、待ってましたと言わんばかりにハウザーが駆け寄ってきた。 「ミリア!話は付いたのか!?大丈夫だったのか!?」 まるで忠犬のようだ。 そう思うと少し可愛くも見えてくる。 「もぅ……気にしなくていいって言ってるのに。大丈夫よ。何も問題なかったわ」 「しかし、あれは店主殿から何かしら頼まれていた品ではなかったのか?」 「その話も後で聞かせてあげるから、とりあえず付いてきて」 「ん?あぁ、わかった」 そうして私はハウザーを店の裏まで連れて行く。 そこにあったモノを見て、彼を連れていて本当に良かったとしみじみ思ったものだ。 「これはなんだ?」 「もちろん商品よ。これを全て表の荷馬車の荷台に積むのが貴方の仕事」 積み重なった木箱の山。 他にも、箱に詰められないような大きさの何かが布で包まれたままゴロゴロと転がっている。 全て合わせると、荷台に積み切れるか心配になる程の量だ。 「私は品のチェックをしていくから、済んだものからどんどん運んでね!よろしく!」 「よくわらんが力仕事か。それなら任せてくれ」 作業の確認が取れたところで、早速一品目。 一番手前にあった木箱の封を解くと、中には大きな壺が一つ入っていた。 私はそれに手を触れ、静かに目を閉じる。 「うん。じゃあ、これ運んでおいて」 「あぁ。わかった」 次なる一品。 丁寧に布で包装された筒状の物。 同じく封を解くと、年代物の釣り竿のようだった。 またも私はそれに手を触れ、目を閉じる。 「うん。これもよろしく」 「わかった。こんなものまで扱うのだな……」 次々と露わになっていく荷の姿を興味津々と言った様子で観察するハウザー。 何やらぶつぶつと言ってるようだが、とりあえず放置して手早くチェックを済ませよう。 こうして私たちは数時間をかけて、全ての荷の確認と積み込みを終えた。 「ふぅ……やっと終わった。ハウザーもお疲れ様!」 「この程度なら問題ないさ。ところで、いい加減聞きたいことが山積みなのだが……?」 「でしょうね。作業中も気になりますって感じがビンビン伝わってきてたわ」 「では、質問だ。店主殿から預かっていたという俺が壊してしまった耳飾りについてだ。君は店主から何か代償といったものを要求されたりしなかったのか?」 「他にも聞きたいことが沢山ありそうなもんだけど、まずそこを聞いてくる辺りが本当に真面目よね」 「やはり何かあったのか!?」 「ないわよ。あれは元々、返す必要のないものだったの」 「……ますますわからんな」 「あの耳飾りには、ある『呪術』がかけられていたの」 『呪術』 その単語を出した途端、ハウザーの表情が強張った。 彼を見かけた時から感じている盾からの気配。 やはり、盾には呪術の力が加えられていると彼が認識しているのは間違いない。 が、まだそれについて問いただすのは時期尚早のようだ。 ひとまずは周りのピースから埋めていこう。 「私はこの店の主人にその術を解くこと、つまりは『解呪』を依頼されてたってわけ。難しいようなら、破壊してくれても構わないし、返す必要もないと言われてたわ」 「その『解呪』とやらが君の仕事という訳か?」 「そっちは仕事というより趣味……というか、夢……というか……まぁ、そんなもの。私の仕事は呪術のかけられたアイテムの鑑定と販売、あとはアドバイスみたいなものかな」 「ということは、まさか……今荷台に積んだモノは全て……」 「そ。貴方が言うところの呪われたアイテムたち。この店は普通の骨董屋さんだけど、時々そういうモノを持ち込んでくるお客さんがいるから、その場合は商品を引き取ってもらっておいて、こうして時々私がまとめて買い取ってるの」 「危険ではなかったのか?」 「直接触らないように注意したから店の裏に放っておいてみたいだし、そんなに強力な術の気配は感じなかったから大丈夫なはずよ」 「君はいわゆる呪術の専門家というわけか。魔術師に会ったことは数あれど、呪術師となると君が初めてだよ」 「魔術師よりもずっと数は少ないしね。それに、世間的にはあまり受けは良くないからって隠してる人もいるみたい」 「呪術師と魔術師か……何が違うんだ?俺にはよくわからん」 「でも、呪いって聞くと良いイメージは沸かないでしょう?」 「それは……そう……だな」 複雑な表情を浮かべるハウザー。 その表情は、私たち家族を村から追い出した彼らと同じものだった。 十年以上も昔の、あの日の記憶―――――― ―――― ―― ――私がまだ幼かった頃の話。 名も無いような小さな村。 代々、呪術師の名家としてこの地に繁栄を築いていた家に私は生まれた。 両親は名の通った世界でも数少ない凄腕の呪術師。 「ミリア!?どうしたの!?また、そんなに泥だらけになって!」 「……みんなに意地悪された」 呪術について一定の知識や理解を持つ者にとって、一流の呪術師の肩書はそれだけで権威あるものとされる。 当時より、さらに少し前まで遡れば、それは一般的な認識で間違いはなかった。 しかし、年々その考え方は変わってきていた。 呪術を悪意的に用いたケースの蔓延。 すなわち、世に溢れる呪いの存在の影響だ。 情報の行き来が少ない田舎ともなれば、反応はより顕著だった。 魔術は正義。 呪術は悪。 この村では、そんな考え方こそが当たりで、正義だった。 「ごめんね、ミリア。ママとパパのお仕事のせいで辛い想いをさせてしまって……」 「大丈夫だもん。ママたちがお仕事頑張ってるの知ってるもん。わたしも頑張る……」 既に廃れかけていた過去の権威ではあったが、今も少なからず大国の大臣や貴族との取引を続けていた両親には直接手が出せない村人たち。 どうにか私たちに村から出ていってほしかった彼らは、家の壁に落書きをしたり、ごみを玄関前に捨てたりといった嫌がらせを日常的に行っており、幼く、呪術の行使がまだおぼつかない私も標的にされることが多かった。 「ミリア……我が愛娘に幸運があらんことを……」 「ママ、あったかいね……」 辛く、悲しいことがある度、母は『おまじない』だと言い、自分をぎゅっと抱きしめ、額に優しくキスをしてくれた。 母の愛と温もりが傷ついた心身に染み渡るそれは、私にとって何よりの心の支えだった。 「この村を出る。新しい土地で、家族みんな笑顔で暮らすんだ!」 屈辱的な生活に家族全員が限界を感じ始めていた頃、父が下した一つの決断だった。 今受けている仕事が片付き次第、新しい土地へと移る。 「あなた……本当にいいの?」 「私が決断することを恐れ続けている限り、ミリアはずっと苦しむことになる。これ以上、愛する娘に涙は流させないさ!」 「ママ、パパ。わたしたちお引越しするの?」 「あぁ!ミリアはどんな所がいい?海の近くが良いかな?それとも大きな街が良いかな?」 「えっとね、えっとね――」 その決断は時代と共に歴代の祖先たちがこの地に築いてきた軌跡を捨て去ることと等しいものだったが、娘の幸せを想う父の顔に後悔の念は無かったと思う。 「ミリア。少しだけ待っててね。ママたち、お仕事頑張るから!」 「一人で寂しくても泣くんじゃないぞ?おまえは強い子だからな」 「うん!!」 父が引き受けた村での最後の仕事。 それは、王都の貴族から預かったある呪いのアイテムの解呪を行うものだった。 指にはめた者に安らかなる永遠の眠りをもたらす。 そんな凄まじく強い呪術をかけられた指輪。 両親は協力してこの術式の解体に挑んだのである。 無理に術に手を加えようとすれば呪術の反動が二人に襲いかかるため、作業は慎重に進められた。 三日三晩かけて術式の解析を終え、いよいよ解呪に移ろうとした時だった。 それまで完璧な仕事をこなしていた二人だったが、疲労が溜まりきっていた二人に生まれた毛ほどの油断が取り返しのつかない悲劇を招く。 指輪の石にかけられた術とは別に、台座の指輪そのものにもう一つ術が仕込まれていた。 石の強力な術の気配に隠れた、ほんの小さな気配に気付くことができなかった二人。 不用意に術に干渉したことで発動したもう一つの呪術。 結果として、その反動は魔力の波となって家を跡形も無く吹き飛ばした。 「う……うぅ……痛いよぉ……マ……マ……パパ……?」 瓦礫の中から必死に這い出た私。 工房があった場所を探し、少しずつ家の残骸をどかしていくと、そこに両親の遺体が転がっていた。 「いやぁああああああああああああ!!」 自分を愛し、大切に育て、護ってくれていた両親を失い、共に笑い、支え合い、それまでの生涯を過ごした思い出の家を失った。 そんな私に対し、村人たちはさらに過酷な現実を突き付ける。 彼らは、一人では何もできない私をその土地から追い出し、忌み嫌う呪術師の血を村から根絶することに成功したのだ。 その時の彼らの顔は忘れたくても忘れられない。 痛々しいものを見る様なあの目。 申し訳なさそうにしつつも、どうしても嫌悪してしまうような。 まさにそんな表情だった―――――― ―――― ―― 「ミリア!」 「え!?」 「大丈夫か?顔色が悪いぞ?」 嫌なことを思い出してしまった。 そう長い時間考え込んではいないはずだが、少なくとも彼に異常を察知される程に私は酷い顔をしていたのだろう。 「あ~……うん、平気。ちょっと疲れてボーッとしちゃって!」 「どこかで少し休むか?」 「そうだね。お昼時も過ぎちゃったし、お腹ぺこぺこだよ。何か食べに行こっか」 少し気まずい雰囲気なってしまったこともあり、空気を一転させることも兼ねて、昼食にハウザーを誘った。 彼はこれを快く承諾した。 そもそも彼を助けるために行動を共にしているはずなのに、こうも気を遣わせてしまっては本末転倒である。 「ここでいいよね?」 「いや、まずいだろ」 入ろうとしたのは一般的な大衆食堂。 大きな店構えで、昼飯にはもう遅い時間帯にも関わらず、まだまだ客は大入り状態。 「ここでは人目がありすぎる。忘れていないか?俺たちは一応追われている身なんだぞ?」 「忘れてないわよ?そのためにフードを被ってるんだし」 「こんな場所でフードを被っていればむしろ目立つだろう!どちらにせよ、ここではダメだ!」 「だから大丈夫なんだって。このフードには被った人間の存在を薄くする呪術がかけられてるから平気なの。直接話かけでもしない限り、向こうに勘付かれることは……まぁ滅多にないから」 「なんだと!?」 呪術のかけられたアイテムだと聞き、慌ててフードを脱ぎ捨てようとするハウザー。 「心配しないの!別に何か起こったりはしないから!さぁ、何食べよっか!?」 「本当だな!?ちゃんと説明してもらうぞ!?」 「わかった、わかった。ご飯食べながらゆっくりとね」 強引に店内へ引っ張り込もうとする私に抵抗を続けていたハウザーだが、最終的には納得してくれた様で何よりだ。 「いっただっきまーす!」 「で、本当にこのフードの呪いは大丈夫なんだろうな?」 「いきなりね……まだ一口も食べてないんだけど……」 「気になって食事など喉も通らんのだ!さっきの話も途中で流れてしまったままだぞ!?」 「はぁ……わかったわよ」 どうにも我慢ならないらしい彼をさすがに可哀そうに思い、私は順を追って説明する。 「貴方は今このフードの『呪い』って口にしたけど、私は『呪術』がかけられてるって言ったのは覚えてる?」 「……そう……だったか?だが『呪い』と『呪術』に何の違いがある?」 「それが一般的な考えよね。最初に一つ訂正しておくけど『呪い』は『呪術』の一種であって、それ自体は比べるものではないわ」 「呪術には……『呪い』以外の術があるということか?」 「正確にはそれも違うわ。そもそも呪術師の言うところの『呪い』と、貴方たち一般人が口にする『呪い』は同じ言葉ではあるけど、その意味は似て非なるものなの」 「……う……む?」 「じゃあ、まずは魔術と呪術の違いからお勉強しましょ!」 『魔術』と『呪術』 ロジックや理に多少の違いはあれど、どちらも同じく魔法のカテゴリに含まれるものである。 『魔術』とは主に体内、外の魔素を媒介として力を行使する術のことで、攻撃、防御、治癒など、複雑な術式よりも単一効果をもたらす術構成を得意としている。 『呪術』とは意志、恨み、愛といった強烈な思念が、体内魔素と特殊反応を起こすことで異能を発現させる業のことを指し、条件指定や付与効果が複雑な術式を得意とする反面、それだけ被術者に狙いを定めるのが難しくなりがちである。 魔術を行使する者に比べ、呪術を行使することのできる者は数少ない。 その理由はいくつかあるが、最も大きな理由を二つ挙げるとするならば以下の二つの理由が挙げられるだろう。 一つ、行使難易度の高さ。 複雑な計算式を解くことを魔術と例えるなら、それに対し呪術は膨大な桁数の数字をひたすら読み上げていく行為に等しい。 学力や才能で理解するものではなく、ただひたすらに集中し、執念のような思いで念じ続けることで呪術を行使することが出来るようになる。 二つ、大きなリスク。 複雑な術式を得意とする呪術だが、素早くそれらの術を発動させることは難しく、動くモノを標的とした場合における命中率は著しる低下する。 そこで、命中率と確実性の向上を図るために多く用いられた方法が、自身と標的の間に新たに受け皿を設ける手法である。 具体的には、術士が何かしらの物体に呪術をかけ、それを触れたり干渉したりした者に影響を及ぼすといったものだ。 しかし、当然これには大きな弊害も存在した。 呪術がかけられたアイテムに、標的以外の者が干渉してしまった場合だ。 発動条件を絞ることで、ある程度の回避はできるものの、不慮の事故で無関係の者や味方が呪いの効果に巻き込まれるケースが相次ぎ、確実性の向上を図ったはずの思惑は、よりランダム性を強めた爆弾を生み出すきっかけとなってしまった。 これが大きく影響し、呪術の扱いが難しく危険な技術とされ、結果として世間から不吉なものとして忌み嫌われるようになる。 「――――と、ここまでは良いかな?」 「……あぁ。問題ない」 「絶対嘘でしょ!?つ・ま・り、難しい術をアイテムにかけて、手にした人に効果を与えるのが得意なのが呪術なんだけど、事故とかが頻発しちゃって、世間から危ないものだって思われることになっちゃったってこと!」 「最初からそのように言えば良かったではないか。わかりやすかったぞ?」 「やっぱりわかってなかった……術師以外の人に分かり易く説明するのは難しいなぁ……」 「で、さっきの『呪い』の話に繋がるわけか?」 「まぁ、そゆこと。そういった事故のせいもあって、呪術に悪いイメージがついちゃってね。いつの間にか、そうしたもの全部が『呪い』なんて呼ばれるようになったの。呪術、すなわち悪いものって捉え方がされるようになっちゃったわけ」 「しかし、呪いが悪いものであることは否定できないのではないのか?」 「残念だけど、それは間違ってないわ。ハウザーは呪いってどういう意味で考えてる?」 「そうだな……さっきの君の口ぶりを察するに、人や世界に悪影響だけを与えるものが呪いということになるか?」 「惜しい。正解は、悪意だけをもって不幸と厄災をもたらせしめようとする目的で行使される呪術。それが呪術師にとっての『呪い』よ」 ハウザーは考える。 呪術師とそうでない者における呪いの意味の相違点について。 「…………何か違うのか?」 「惜しいって言ったでしょ。争点になるのは術者が悪意をもって行使した術か否かね。悪意による術を『呪い』って呼ぶのに対して、そうでない術のことを私たちは『呪言(まじない)』って呼ぶの」 「……つまり……呪術は大きく分けて『呪い』『呪言』に分けられる?」 「正解!」 「では、例えばこのフードにかけられた術は呪術ではあるが、それは呪いではなく呪言だと?」 「そう。でも忘れないで。これは呪術師から見た場合の話。例えそれが呪いではなく、呪言であっても、呪術を知らない人間からすればそれが呪いと見えることも多いの」 「またわからなくなってきたのだが……」 「視点の違いよ。昼間に尋ねたお店のこと覚えてるでしょ?」 「その話が途中だったな。例の呪いの耳飾りの件だろう?店主殿から預かっていたという」 「おじさんの話では、あの耳飾りは亡くなった奥さんに贈ったものだったらしいんだけど、奥さんのお墓に一緒に埋めたはずなのに、いつの間にかおじさんの手元に戻ってきてたんだって」 「捨てても、捨てても戻ってくるというヤツか。作り話にもよくあるな」 「あれね……呪いなんてかかってなかったの」 「店主殿の勘違いだったということか?」 「ううん。私はおじさんから耳飾りを預かって直接鑑定したから断言できる。あれには呪術がかけられていた」 「ということは……」 「うん。耳飾りにかけられてたのは呪いじゃなくて呪言。かけたのはたぶん亡くなった奥さん」 「待ってくれ!それが呪言だったというのはまだ理解できるが、それを彼の奥方がやったのか?呪術というのは誰にでもできるものなのか?」 「具体的にどういった効果を持たせるかは専門的な知識がないと難しいわね。でも、呪術には時々こういうケースがあるの。今回の件も意図的なものじゃなかったんだと思う」 「先程、呪術は強い思念によって発現すると言っていたな?奥方が生前、何かを強く想ったことで呪術が発現したというのだな?」 魔術の素養や素質無き者達が、それでも力を得たいと心から願った結果、生み出された業こそが『呪術』の本質。 知りたい、触れたい、見たい、聞きたい、伝えたい、行きたい、護りたい、勝ちたいといった、数多の渇望の想い全ての結晶。 死に別れた夫に対し、彼女が何を願い、望んだか…… 「きっと、ずっと一緒にいたかったんだよ」 「……そんな気持ちが耳飾りに宿り、どこへいっても店主殿の元へ帰るようになった……と?」 「おじさんは気味悪がって、捨ててくれてもいいって言ってたけどね。仕方のないことかもしれないけど、悲しいことだよ」 「だから君は耳飾りの術を解いた後、店主殿の所へ再びそれを届け返したわけか」 「そこまではしない。私が知ったことをおじさんに伝えて、それをどうするかはおじさんに決めてもらったよ。おじさん、泣きながら握り締めてくれたけどね!」 「視点により呪言は呪いへと変わる、か……哀しくも人とは善としての面よりも、悪としての面に敏感で、過剰な生き物だ。見る者には悪に見えても、何かを救い、護っている。それを理解できぬことを仕方ないと割り切ることは簡単だが、それではあまりに哀れだ」 「そう思うでしょ!?だから夢なの!私の夢!!凄い呪術師だったママとパパみたいに、立派な呪術師になって、世界中のみんなに本当の呪術がどんなものかを知ってもらいたいの!!」 「良き夢だ。心からそう思う」 「うん!」 「だが、しかし……」 「ん?」 「その話を聞いてしまうと、あの耳飾りを壊してしまったことへの罪悪感が一段と重く圧し掛かってくるな……!」 「だ、大丈夫!おじさんも喜んでたし、許してくれてるよ!ほら?お肉食べよ?ね!?話のせいで冷めちゃってるけど……ま、まぁ、おいしいよ!!」 店で過ごした時間の大半が長話で消費されたものだったが、何はともあれ腹ごしらえを済ませた私たち。 こうして呪術についてある程度理解を得られたところで、そろそろ私が最も気になっていることに踏み込んでいこう。 思えばいろいろあったが、ハウザーとはそれなりに良い関係を築けているはずだ。 「……ねぇ?ハウザー」 「ん?どうした?まだ食べたりないのか?」 「違う!ちょっと真剣な空気作ろうとしてんだから察してよ!!」 「そ、そうか!すまん!で、何だ?」 「その盾のこと!貴方は嫌がるだろうけど、やっぱりどうしても気になるの……」 「この『呪い』のことか……おっと『呪言』かもしれないのだったな。すまない」 「ううん。それは呪言じゃない。近くで見ればよくわかる。呪いで間違いないよ。大きな力を得る代わりに、精神と魂を蝕む性質のものだね」 急に口が重くなるハウザー。 勢いに任せて聞いてはみたものの、やはり断られてしまうか。 「……そうだな。君だけにあれだけ語らせておいて、俺が何も教えないというのもやや不公平というか、無礼なのだろうな」 「……あれ?いいの?」 「出会った時点では得体の知れない娘だと思ったものだが、今は君を一人の人間として信用している。この場から逃げたところで、君はまた追いかけてきそうでもあるしな」 言葉の端々に問い正したい点があることは我慢しよう。 あれほどまでに拒絶一辺倒だった彼に、やっと自分の真剣さと想いが伝わったのだから。 「それでも全てを語ることはできないことは許して欲しい。君が深入りしすぎて、巻き込んでしまうことになるのは避けたいのだ」 「うん。わかった」 「…………私はある土地で隠れ里を築いていた戦闘部族の出身だ。一族は皆、戦士として生き、そして死ぬことを誇りとしていた」 ハウザーは語りだす。 自身の経歴と、盾を手にするに至った経緯について。 「ある日、俺たちの里が帝国軍に襲撃された。傭兵として戦地に赴くことも多かった俺たちは、ヤツらからすれば大陸侵略の障害になり得たのだろう。当然、皆で抵抗したが、圧倒的な戦力差の前に仲間たちは次々と倒れていった……」 帝国軍については勿論知っていた。 王都陥落の以後、もはやその存在を知らぬ者は大陸にはいない。 しかし、大規模な侵略の陰で、里を丸ごと滅ぼすような所業にまで及んでいるとは初耳だった。 恐らくはハウザーの里以外にも、こうして人知れず命を奪われている者達が数多くいるのだろう。 「俺を含む生き残りは、里にある宝物殿に籠城した。その奥には一族が代々封印し、不可侵の誇りとして護ってきた秘宝が存在していたからだ。それがこの盾だ」 「……その秘宝に呪いが?」 ――違和感というか、腑に落ちない感じだった。 「宝物殿に押し寄せた帝国軍により、俺たちは重傷を負った。これまでかと思ったよ。霞む視界に、宝物殿の祠の奥へと踏み入っていく帝国兵が見えた時だった……俺たちは最後の力を振り絞り、帝国兵達に抵抗したんだ……」 ――ハウザーの一族は、呪いのアイテムを秘宝として護っていた? 「帝国兵を突き飛ばした俺は、目の前にあった秘宝。つまりはこの盾を掴んだ。奪われまいと。必死の想いでな」 ――封印されていた理由は、それが呪われたアイテムだったから?でも…… 「その瞬間、おぞましい瘴気に呑み込まれた。いつの間にか俺だけが立っていた。一族の皆と、帝国兵の死体だけが点々と転がる、荒れ果てた里の真ん中に。ふと気が付くと、俺の手にはコイツが握られていたんだ」 ――私だから気付くことのできた疑問。 「その時だよ。これが呪われた秘宝であることを知ったのはな」 ――私だから辿り着けた真実。 「だが、気にしないでくれ。この力のおかげで俺は生き延び、一族の誇りと取り戻すために戦うことが出来るんだ。皆の復讐の念を果たすことが出来るんだ」 「……だから『解呪』は必要ない?」 「あぁ。少なくとも、誓いを果たすまではな。それを果たせずままこの身が滅ぶことがあったなら、俺もそこまでの人間だったということなのだろう……」 「そう……」 私は何も言えない。 言ってはいけない。 私だけが知り得た真実を、彼に伝えることは許さない。 「こんなところだが、十分だろうか?」 「………………」 私は口を閉ざし、堪えることしかできなかった。 「ミリア……?」 「……ごめん。私、ハウザーに出会ってすぐに呪いを解いてあげるみたいなこと言ったでしょ?あれ、すごく無神経だった。だからゴメン」 「あの時の君は何も知らなかったのだから当然だ。むしろ、人を助けようとする行動は間違ったものではないと思うぞ?」 彼は自身の心を蝕む狂気の誘いを、弱者だった己が生を掴むために、身の丈以上の力に手を伸ばした対価であるとして受け入れた。 一族の誇りを取り戻さんとする誓いの象徴として、呪いを背負うことを決めたのだ。 そんな男の信念に、昔の記憶が再び蘇る―――――― ―――― ―― ――大切なものを全て失い、村を追われた私は、生死の縁をさまよいながら海に辿り着いた。 海岸線から見渡す海の美しさは、一瞬とはいえ私に全てを忘れさせてくれた。 「おぅ!嬢ちゃん。目が覚めたか?」 「あれ……?わたし……」 「覚えてないか?あんた砂浜で倒れてたんだぜ?」 そうか。 呆然とした思考の中で、いつの間にか気を失ってしまっていたようだ。 「ここは……どこ……ですか?」 「はは!そんなに怯えなくて大丈夫だよ。ここはバルバームって村だ。しばらくゆっくりと休むといいさ」 見ず知らずの大人の男。 幼い私にとっては十二分に警戒してしまう相手ともいえるが、それでもあの村の大人たちとは違い、嫌な感じはしなかった。 その後、私は村を案内された。 海賊の村『バルバーム』 元は犯罪者やならず者が集まって作ったとの話だが、今は文字通り海賊達の根城ともなっている。 ここで勘違いして欲しくないのが、彼らは決してただの悪人というわけではないという点だ。 彼らはいわゆる義賊的な活動を続ける組織であり、多少、法に触れることもすることはあれど、それもこれも村の存在と、村人たちの生活を護るための行為だった。 近年では著しい発展を遂げ、人口も文化レベルも大陸の立派な街と肩を並べる程にまで成長していたこの村で暮らす人間の多くは、居場所を失ったり、希望を求めここへやってきた人たちだという。 そこは私にとってもまた、世間のしがらみから隔離された住み心地の良い場所だったのかもしれない。 しかし、そんなことはどうでも良かったのだ。 もはや私には生きる意味を見出すことが出来なかったから。 かといって、死ぬ勇気があるわけでもない。 私はただただ茫然と日々を過ごすだけだった。 そんな生活の中でも腹は減る。 優しい村人たちが私を気遣い、毎日食事を持ってきてくれるものだから餓死することも無かった。 起きて、食べて、ぼーっとして、食べて、寝る。 本当に何もしなかった。 「おぅ。昼飯ここに置いとくぜ?」 「…………ありがとう……ございます」 「ミリア……ちゃん……だったか?おめぇさんにどんな過去があるのかは知らねぇし、聞こうとも思わねぇけどよぉ。今こうして生きていられてんのは、たぶん誰かがおめぇさんを守ろうとした結果なんだと思うぜ?この村の連中のおかげで飯が食えているようにな」 「…………」 「俺なんかが指図する権利はねぇんだろうけどよ、そんな連中に対して、おめぇさんは何も返さなくてもいいのか?何かをしようとは思わねぇのか?それじゃ報われねぇよ……それじゃ本当に可愛そうなのは、おめぇさんじゃなくて守ろうとした連中の方さ。本当にそれでいいのか?」 「…………」 「……また明日来る。少しは考えてみてくれや」 村にいた海賊の船員が口にしたそんな言葉。 それがきっかけだった。 自分を何時も護ってくれていた両親を失ったあの日、あの時、何故自分だけが生き残ったのか。 その理由がわからなかった。 思えばあの時、崩れた家の瓦礫の下敷きになったことで、少なからずケガを負うことにはなったが、それ以上のことが無かったのは何故なのか。 両親が解呪に失敗したことで暴走した呪術の反動は、家を丸ごと吹き飛ばすほどの衝撃だったはず。 それが原因で両親は命を落とした。 では、その衝撃から自分を護ったものとは何だったのか。 幸運という言葉だけでは片付けられない疑問。 幸運……? ――我が愛娘に幸運があらんことを 母の言葉を思い出した時、私の思考は巡りだした。 両親の唯一の形見ともいえるノート。 瓦礫の中から見つけることのできた唯一の繋がり。 それを一心不乱に捲り、読み漁った。 何の事はない。 私は最後の最後まで二人に護ってもらっていたのだ。 母は『おまじない』だと言って、よく自分を抱きしめ、額に優しくキスをしてくれた。 これは父の編み出した術式で、秘術ともいえるものだった。 強力な加護を付与するもの。 邪悪な念を祓い除け、いつまでも健やかに生きて欲しいとの切なる願い。 それは『呪言』として彼女に植え付けられ『呪い』に抗う彼女の力、体質となっていた。 「…………ママ……パパ……ごめんなさい……!」 私は何をしていたのだろう。 後悔と謝罪の念。 せっかく救ってもらった命をただ浪費するだけの日々。 両親はこんな自分を護ろうとしたわけではないはずだ。 それから間も無く、私は呪術師としてバルバームで店を開いた。 そして名乗るようになる。 呪いを祓う『解呪師』の名を―――――― ―――― ―― 彼の傍で、その行く末を見届けよう。 私にはその誓いが果たされるまで、彼を支えることが出来る。 誓いが果たされ、盾の呪いが役目を終えた時、彼が肩に背負ったものを下ろしてあげることができる。 「ハウザー。私、決めた。貴方の旅の終着点で、その呪いを解くために私も貴方と一緒に行く」 「何故いきなりそうなった!?」 私の身に宿る、母の呪言。 ハウザーの身に宿る、盾の呪い。 私を護ろうとした両親と、誇りを護ろうとしたハウザー。 「私がそう決めたの!さ、そろそろ行こうか。まずはこの荷を船に乗せないといけないから、とりあえず海に向かうわよ?」 「待て!誰が同行を許した!?」 「少なくとも今日一日、貴方は私の手足でしょ?主人の言う事に逆らったりしないの!」 「それは今日一日限りの話だ!それを終えたら俺は一人で行くぞ!いいな!?」 『呪言』と『呪い』 形は違えど、どちらも護りたいとの願いの結果。 幸福と絶望の礎。 私が絶望の淵から立ち上がり、今という小さな幸せを掴んだように、彼の行きつく果てにも幸せがないと不公平だ。 呪術師でありながら、呪いが呪術の悪しき一面だと断じて諦めてしまっていた己を恥じなければいけない。 「さてさて……レイナ達が迎えに来てくれるのは何時だったかな」 「話を聞け!」 勘違いしてはいけない。 これは彼を想っての選択かと思いきや、実は私のためなのだ。 もしも彼がこの先、帝国との戦いに勝利したとしても、結局このままでは彼の死の運命は変わらない。 生ある限り呪いに蝕まれ、苦しみ続ける。 彼はそれでも良いと言うかもしれない。 目的が果たせたのなら構わないと諦めるかもしれない。 そんなのは私が許してやるもんか。 呪術はそんな悲しいものなんかじゃない。 その時こそ、私が彼に幸せを見せて、呪いを呪言に変えてやる。 彼一人が例外じゃない。 きっと似たようなことがあれば、私は同じ選択をすると思う。 それが呪言であれ、呪いであれ、大好きだった両親がそうであったように、私は呪術がもたらす幸せや喜びを世界中の人々に伝えたいのだ。 そんな呪術師であってこそ、両親に胸を張ってありがとうと言えると思うから。
https://w.atwiki.jp/caslive/pages/134.html
年齢:21歳(2011年5月現在) 住所:東京都渋谷区 血統:アメリカ人×日本人(沖縄) ニコ生配信者でゲーム配信や外配信等をしている。 ロリック。 2011年3月6日 生主討論会2と打上げの外配信で共演するが配信上で目立った絡みはなかった。