約 24,035 件
https://w.atwiki.jp/soufro/pages/533.html
【地名】 タシガン市街にある。薔薇学生も良く行く市場。食料品や日用品など様々な屋台が並んでいる路地です。 タシガン 用語辞典/あ
https://w.atwiki.jp/gamerowa/pages/136.html
さまよえる紅い弾丸◆.dRwchlXsY ルビカンテが世界樹に辿り着いたときには、既に世界樹は全身を巨大な炎で包み込まれ、その短い一生を終えようとしていた。 パチパチとどこか小気味よい音を立て、今にも崩れ落ちそうな状態だった。 火の勢いは止まることを知らず、周囲を明るく真っ赤に染め上げる。 うっすらと朝靄が立ち込める中、世界樹のあるそこだけが異様なほど赤かった。 辺りはしんと静まり返り、天までそびえるかの如く巨大な樹木が燃え崩れる音だけが響いている。 その光景を目にし、ルビカンテは自身に流れる血が強く脈打つのを感じた。 またルビカンテの纏いし炎も、世界樹に共感するかのように激しく陽炎のように揺らいだ。 ルビカンテは笑った。 強大な力を持つ者の存在を、この樹を通して確かに感じとったからだ。 「少し、遅かったか……」 しかし、同時に少なからず落胆したのも確かだった。 周囲の気配から、相手が既にこの場を離れていることが分かったからだ。 殺し合いが始まって早数時間。 夜の闇はすっかり顔を潜め、この島には最初の朝がやって来ようとしていた。 ルビカンテはなかなか自分の全力を出せる程の相手に出会えぬことに不平を抱いていた。 事実、これまでにルビカンテが遭遇したのは、仇敵のカインと、年端もゆかぬ青年の花村陽介だけであった。 殺し合いの始まる直前に起きた惨劇、"ローザの死"により狂気に走ったカインとは一悶着あったが、あの時は互いに挨拶程度交えただけで、とても闘争と呼べるものではなかった。 花村陽介と別れたあと、燃ゆる世界樹に強者の気を感じそこに向かった時も、途中で誰か強敵と遭遇しないものかと期待していた。 しかしそれは叶わなかった。 それだけで終わることなく、たどり着いた世界樹も既にもぬけの殻だと分かった今、ルビカンテの闘争への期待が一気に下がったのは言うまでもない。 早く強者と戦いたいという自らの欲求が満たされないのは、残念至極でならなかった。 だがそれでもルビカンテは笑った。 たとえこの場に誰もいないとしても、激しい戦闘の跡や濃厚な血の匂いは確かに此処には残っていたからだ。 削り取られた木々。地面に飛び散った幾つもの血痕。そして猛火に包まれた世界樹。 それを目にするだけで十分だった。 強者がいたという事実は確かなのだから。 ルビカンテは思った。 今はまだ出会えなくても、殺し合いが続けばその時は必ずくる。 例え場所や時代が変わろうとも、いつの世も弱肉強食の定めにあるのは変わらないのだ。 最後に残るのは絶対的強者のみ。 それが自然の摂理、と。 ルビカンテは目線を上げて、炎にそびえる世界樹をしばらく見つめ、そして言った。 「雄大なる大木よ、見事であった。――今はただゆっくりと眠るがいい」 ルビカンテはそう告げ踵を帰すと、静かに、そして素早くその場を駆けていった。 全ては強者と闘うが為。 灼熱を纏いし、熱を帯びたその様はまるで弾丸の如く。 【B-2 世界樹/一日目/早朝】 【ルビカンテ@ファイナルファンタジー4】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品未確認×2 基本方針:ゴルべーザ様を探し、指示に従う。強者との戦いを望む。 1:早く強者と戦いたい。 2:花村陽介か・・。 ※作中からの登場時期はカインと面識がある以降、時期不明としておきます。 時系列順で読む Back The sadness will never end Next 一匹狼 投下順で読む Back The sadness will never end Next 一匹狼 Back FIRE FIRE ルビカンテ Next 勘違いの連鎖
https://w.atwiki.jp/indexssindex/pages/167.html
神と人の拳が交わる時、 空間が歪む。 時間が歪む。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が激突した。 深紅の瞳が上条当麻を見つめる。 ドラゴンの背中から生えている『竜王の翼(ドラゴンウイング)』が、上条当麻を囲い込むように迫りつつあった。 神すら殺せる能力を持つ少年も、右手以外はごく一般的な男子生徒と変わらない。 「やべっ!」 地面が削れ、周囲の物体と共に消滅させる一歩手前で、上条当麻は一〇メートル以上の高さを跳び上がった。 ドラゴンは、上条当麻の浮遊が『魔王』のベクトル操作によるものだと一瞬で理解した。事実、上条当麻の肉体は、触れた時から『魔王』の支配下にある。ドラゴンは『竜王の脚(ドラゴンソニック)』によって、瞬時に座標を変更した。 再び、二人の上条当麻は拳を交えた。 ドラゴンは上条当麻の鋭い右ストレートを回避し、重い膝蹴りを胸部に叩き込んだ。 「がはッ!」 肋骨が軋む。 口から嗚咽が零れた。 反動を受け流し、空中で一回転した上条当麻は、二発目の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を放つ。ドラゴンの左足に神殺しの拳が突き刺さった。 「GuYaaaaaaHHHHHHHHHataevokeokoth…!!」 ガラスを割るほどの振動数を持った叫びが轟いた。 (これで…ドラゴンソニックは使えないっ!) 上条当麻は、最大の問題を払拭した。 『時間転移(タイム・テレポート)』をされてしまえば、ドラゴンを滅ぼせる唯一の奇跡は潰え、作戦は失敗に終わってしまう。 痛みに耐えかねたドラゴンは、『竜王の顎(ドラゴンストライク)』で上条当麻の頭部を噛み砕こうとするが、勢いよく空を切った。紐に引かれる凧のように、少年の身体は後退した。 上条当麻に狙いを定め、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が発射される。 刹那、 (アプリケーション〇〇九一。検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号。個体名、ラストオーダーより起動の申請。 検体名、アクセラレータ以外の申請は、パスワード――クラス『A』の入力が必要。 入力確認、開始―――――――――――――――――――――――『レッドE.M.』と判定。 『受理』 〇〇九一。アプリケーションコードネーム、『ドラゴンウイング』を確認. 『マザー』による検体名、アクセラレータの存在を確認。 『三次元空間』演算による座標指定。――――――――――――――――――――完了。 アプリケーションコードネーム、『ドラゴンウイング』。 起動―――――――――――――――――――――――――――――――――――開始 AIM拡散力場――――――――――――――――class;9,99。Level『S』と断定。 ヴァルハラとのアクセスによる『共振』を感知。 IFM振動数を空間周波数から逆算―――――――――――――――――――――成功。 248,91[Dz/s] 。SLF;9861,000[BQ/s]。 エマージェンシーモードのレッドアクセスのため、カウント00.00 『竜王の翼(ドラゴンウイング)』に関するステータスを確認。 ヴァルハラとのシンクロ率―――――――――――――――――――――――2.00% ゴッドマターの出力量――――――――――――――――――――――――グリーン アプリケーション〇〇九一。 正常動作―――――――――――――――――――確認。 『接続(アクセス)』―――――――――――――――――『完了(コンプリート)』) 『一方通行(アクセラレータ)』の背中から噴出した黒翼は、光線の軌道を捻じ曲げる。 ブバァアッッ!と。 屈折した閃光は空を突きぬけ、立ち込める雲を吹き飛ばし、ドロドロとした暗黒の翼が光を遮った。 「同じ手は何度も喰らわねェンだよッ!」 白髪の少年は叫ぶ。 「当麻!走れ!」 「言われなくても分かってるぜ!シンラ!」 大地を踏みしめ、少年は突き進む。 「早く行きなさい!当麻!」 少年の道を阻む『闇』を、一七億ボルトの雷撃が吹き飛ばした。 黒マントを羽織った御坂美琴は叫ぶ。恋人と目を合わせることなく、彼女の意思は通じ合った。 「愛してるぜ!美琴!」 「私も愛してるわよ!当麻!」 地下水路が剥き出し、舗装された道路は見る影すら無い。至る所に漂う『闇』は、駆け抜ける少年を見つめた。 『ドラゴンウイング(竜王の翼)』の余波で、傾いていた高層ビルがついに崩壊を始めた。大小問わず、幾多の瓦礫が少年の頭上に降り注ぐ。 「おおぅ!?」 だが、 「行け。世界の英雄よ」 バゴォッ!と。 一人の聖人がガラティーンを振るい、薙ぎ払った。 シャツが斬り裂かれ真っ赤に染まっていたが、インデックスの『神々の楽園(ヴァルハラ・ディ・リューベヌ)』の魔術によって完全に治癒している。 「ウィリアム!『騎士団長(ナイトリーダー)』!」 『騎士団長(ナイトリーダー)』は剣多風水が生み出した双剣で、『闇』を次々と葬り去っていた。動きを最小限にとどめ、両腕を小刻みに揺らし致命的な斬撃を随所に与えていく。 「我々の役目はこれで終わりだ。頼むぞ。英国の救世主」 背中越しに語る姿は、騎士そのものだった。 「当麻くーん!」 「ベイロープ!?」 銀髪の少女が上条に大きく手を振る。ドロシー、フロリス、ランシスの『新たなる光』のメンバーが『闇』と交戦していた。北欧神話の雷神トールを基とした礼装を用いる魔術結社であったが、今では正式に神上派閥の一派として属している。 「負けたりなんかしたら許さないからな!」 「ど、どこにいるの!?トーマは!」 上条当麻を視認できていない金髪碧眼のフロリスが、うろうろと辺りを見回していた。声をかけたかったが、背後に迫る、槍を持った『闇』を見て、上条は息を呑んだ。 間に合わない!と、上条が思ったとき、一発の九ミリパラベラム弾が、『闇』を撃ち抜いた。 銃声が鳴る方角を見ると、硝煙を上げるベレッタW78を持ったミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニン)』が、 「ゼロ!お前も来てたのか!?」 「ひどいなー。こんなにワクワクする場所には居るに決まってんじゃん!ブーブー…あっ!それとフロリス!一つ貸しだからね!」 髑髏マークの帽子を深くかぶり、にこやかに叫んだ。 『当麻様!』 今度は周囲に散らばる『妹達(シスターズ)』の叫び声が重なる。 アサルトライフルの残弾は底を突き、今は電撃の槍による攻撃を行っていた。一年前では、統一性が見られた少女たちも、周囲の環境や摂取する食糧、生活習慣から、一人ひとりに個性が出始めている。今では髪型や性格、体系にも変化が見受けられる。 「ミサカ達…お前らも愛してるぜ!」 「っ!!」 だが、変化しないものもある。 「任務の完遂は最優先事項だとミサカ一九〇九〇号は、ネットワークを通じ、全シスターズに厳命します!」 上条当麻の笑顔を間近で見てしまったミサカは頬を赤く染めた。 『…我々の、誰一人が、欠けても、当麻様は…喜びませんと、ミサカ一〇〇三二号は…重要事項、を再確認させます』 肉体を喪失した『打ち止め(ラストオーダー)』に変わり、司令塔であるミサカ一〇〇三二号は、ドラゴンの波動に当てられ戦線離脱しているが、戦況を逐一集め、戦略を練る役割を担っていた。 全シスターズが声を上げる。 『了解(ラジャー)!!』 突如として、少年の進むべき道の縁側が、五〇〇〇度を超える炎で赤く彩られた。 「期待しててくれよ!バードウェイ!」 「…ふん」 ベロアパンツに付着していた土を取りながら、頭に巻いていた包帯を捨て去り、火の魔術で燃やしていた。普段から高飛車な性格を演じている彼女にとって、格好悪い姿は見せたくなかった。それが意中の相手なら尚更である。 彼女の複雑な心中をお構いなしに、上条は笑顔を見せた。 バードウェイは腕を組み、そっぽを向く。 「オッレルス!オリビア!」 中央に群れる『闇』が、空高く吹き飛ばされた。 オッレルスの『北欧王座(フリズスキャルヴ)』が起こした現象であり、聖人であるシルビアが片っ端から『闇』を捌いていた。イギリスの片隅に住んでいる二人だが、一人は『魔神』に成り損ねた魔術師であり、もう一人は世界に二〇人といない聖人。その戦闘力は凄まじさは、かつて刃を向け合った者同士だからこそ分かる。 「ミスタ、カミジョー!世界を救ってくれ!」 「こいつに会う前にお前と会ってたら、惚れてたかもね、私♪」 「俺もそうかもしれなかったな」 「…がははっ!その年で甘い冗談も言えるようになったか!ますます末恐ろしいな!お前は!」 シルビアは豪快に笑う。 ドパァン!と『北欧王座(フリズスキャルヴ)』により空気が圧縮され、闇の軍勢は一瞬で消え去った。 「…さっきのは冗談だよな?」 「さあ?」 オッレルスの答えは、軽く受け流された。ふらりと立ち寄ったミラノで人身売買を行っていた組織を潰せても、長年付き添ったパートナーの心情を未だに掌握できない、ヘたれ男だった。 「ステイル?」 「さっさと行け。あの子を悲しませるような事をしたら、僕は許さないぞ。地の果てまでも追いかけてやる」 『魔女狩りの王(インノケンティウス)』の炎で、『闇』は一向に近寄れない。知能が低いのか、『闇』の兵隊は次々に特攻し、火の海へと消えていく。上条当麻と幾多の戦場を共にしてきたステイル=マグヌスだが、彼とは未だに相容れない。インデックスの事が絡むと、彼に理屈や常識は通じない。仮にこの二人が違う形で出会っていれば、無二の戦友になれたのかもしれない。 上条当麻のすぐ横を、ロングソードが物凄いスピードで通過した。『闇』を貫き、コンクリートで出来た柱に突き刺さる。冷や汗をかいた上条が後ろを振り返ると、 「久蘭お姉様を誑かした罪で、貴方を八つ裂きにしてやりたいところですが…」 元から無表情な彼女だが、今はその三倍ほど冷え切った瞳で、『大能力者(レベル4)』の『金属使い(メタルオブオーナー)』、剣多風水は彼を見ていた。 至宝院久蘭との一件で彼女と知り合った。一人の男性として認めつつも、愛しのお姉様に並び立つには相応しくない、というのが剣多風水の評価だった。この点に置いては白井黒子と共通した感情があるようだ。 だが、今だけは認めなければならない。 彼だけが、この戦いを勝利に導く男なのだと。 剣多風水は深く頭を下げた。 「久蘭お姉様を悲しませるような事だけは、しないでください…」 「当たり前だろ!」 上条当麻は即答する。 「行ってらっしゃいませ。ご主人様」 栗色の髪が揺れる。スカートの両端を摘まみ、黒のメイド服に身を包んだ少女の姿は、まごうこと無きメイドそのものだった。 両手に精製されたカットラスを握る。 華麗なる剣舞が再開した。 「七閃!」 銃弾よりも速い鉄線が、『闇』の軍勢を屠る。 「上条当麻!神戮が第四章を終えると、世界は破滅します!急いでください!」 ビンテージの青ジャケットを羽織り、血で染まったシャツを隠している神裂火織は叫んだ。 「言われなくても分かってるさ!」 天草式の人々も、 「任せたぞ!当麻君!」 「当麻の兄ちゃん!頑張れよ!」 「五和の事は感謝する!私たちの事は気にせず突っ走るんだ!」 彼らの言葉を聞いて、上条の心は熱くなった。 皆を守りたい。 それだけが上条当麻の願いだった。 「人の為に善いこと」と書いて『偽善』。 誰かに言われたことがある。 自分が行っている正義はただの偽善であると。 上条当麻は「偽善使い(フォックスワード)」だと。 だが、それでもいいと、彼は思った。 自分の身を犠牲にしてでも、救われる誰かがいるならば、 自分が血を流す分だけ、涙を零す人が少なくなるならば、 上条当麻は突き進む。 正義を貫き、一人の少女の運命を変えた。 正義を貫き、一人の少女の命を救った。 正義を貫き、一〇〇〇〇人の少女の命を救った。 正義を貫き、死ぬべき運命を背負った人々を救った。 正義を貫き、国を救った。 正義を貫き、世界を救った。 だからこそ、人々は彼を『英雄』と称える。 『希望』と言う名の重荷を彼は背負っていた。一人の青年の背中には重すぎる代物だ。色々な伝説を作り上げた人物とはいえ、特異な右手を持っていることを除けば、ごく一般的な高校生にすぎない。大事は一人では成しえない。人一人の出来る事には限界がある。自身の力量を知っている。 だからこそ、英雄は仲間を求める。 人々は強烈な指向性に惹かれる。一つの目的の為に人々が集まり、行動するからこそ大事を成す。 『竜王(ドラゴン)』は強大だ。 単体で世界に匹敵する強さを持つ。 だからこそ、ドラゴンを倒す、という目的を成す為に上条当麻は仲間を頼った。 彼を慕う雲川芹亜が中心となってプランを立て、 彼を慕うインデックスが助言し、 彼を畏怖するイギリス清教が協力し、 彼を崇拝するローマ正教が従い、 彼と契約した魔術結社が手を貸し、 彼が住む「学園都市」が同意した。 奇跡は一人では起こらない。奇跡は人々が作り上げる。 上条当麻は右手を握りしめたまま走った。多くの仲間が作った一つの道をひたすら走った。 時を越え、危機を乗り越え、ここまで辿りついた。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』をドラゴンにぶつける。それだけのために上条当麻は走った。 瓦礫を蹴り飛ばし、もう一人の上条当麻は目の前だった。 少年は右手に力を込める。 その時だった。 「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」 『竜王(ドラゴン)』が顕在化する。 上条当麻の拳が空を切った。 「なっっ…!?」 もう一人の上条当麻は『闇』に呑み込まれた。 空を覆う漆黒の翼。 大地を踏みしめる片足の凶悪な爪。 地を這う竜尾。 金剛の鱗で覆われた蛇のような胴体。 そして、鈍く輝く深紅の瞳。 封印を解かれた『竜王(ドラゴン)』は真の姿を現す。 禍々しい雄叫びが、人間の心を凍りつかせた。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」 そして、その姿は夜空に溶け込む。 「ドラゴンが…世界と、同化した?」 神裂の呟きが木霊する。 声では無い。 人間が反応できる言語では無い。 ただ理解する。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」 (滅――) 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」 (セ――) 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」 (ヨ――) 「滅セヨ」という意味を持っている事だけが、人間には分かった。 雲を突き抜け、青く染まる闇夜から「何か」が迫りつつある。 だが、人々は迫る危機が大きすぎるがゆえに感知できなかった。 グシャァアアアアアアアッッッ!!! 巨大な竜王の腕が、学園都市を押し潰した。 「っ!?」 バードウェイは生まれて初めて、絶望を知った。 光の無い闇。 死を待つだけの無力感。 彼女に去来した感情が心を震わせた。 虚栄でもいい。 『明け色の陽射し』を統べるリーダーとして、年端も行かぬ少女は肩を張らなければならなかった。そうしなければ、周囲に認めてもらえず、自分の居場所が無くなってしまう。 法律も倫理も通用しない世界で生きていく為には、必要な「鎧」だった。 だが、絶対的なチカラの前では、全てが吹き飛ばされてしまう。 金と権力が人を狂わせるように。 一つの過ちが正義を悪に変えるように。 チカラは人の心を丸裸にする。 竜王の腕が迫りくる中、バードウェイは、死に怯えるただの少女だった。 バギンッ!!! だが、幾ら待っても死は訪れない。 「―――?」 涙で霞んだ瞳を開けると、彼女の眼前には一筋の光が見える。 『闇』に手を伸ばす一人の少年の姿が、そこにはあった。 その姿は、いつも、彼女が想う小さな勇者だった。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は全てを打ち消す。 竜王の腕が砕け散る。 学園都市全土を覆うほどの竜王の腕は、腕の形に圧縮された雲であり、幻想殺しによってただの水蒸気へと変わり、霧散した。肌寒い突風にドロシーは小さく声を上げる。 「きゃっ!?」 突如として、零度以下の風が吹き荒れた。 冷たい風が彼らを襲う。地上付近で発生した雲は、地熱で温められ、冷たい雨が崩壊した都市を濡らした。 右手を突き上げたまま、空に浮かぶ英雄。 周囲を見渡す。 「…これは、ひどいな」 海は荒れ狂い、大地は揺れ、空を歪んだ。 シンラのベクトル操作で空中に舞い上がっていた上条当麻は、静かに降り立った。 少年は紅い空を見上げた。 螺旋状に霧散した雲。 紅い月が世界を照らし、地上は鮮血のように染められている。 世界を破滅させる大魔術、「神戮」は既に第三章に突入していた。 竜王の腕を形成するために、莫大な水蒸気が凝縮された。気候を大きく左右する雲が意図的に操作されたことによって、地球の環境が変動し、生態系に大きな影響を及ぼすことなる。 上条当麻は知覚する。 学園都市だけでは無い。戦争の余波は世界中に広がってしまった。 被害を最小限に抑えるために、周到な準備を行い、雲川芹亜を中心にして戦略を練った。神上派閥を総動員し、学園都市、ローマ正教、イギリス清教や様々な組織に協力を得て、事を起こしたというのに。 「くそっ…!」 世界を託された重圧が両肩にかかる。神上派閥の総帥として動いてきた上条当麻は、悔しさに唇を噛みしめた。 「……当麻」 恋人の背中に、御坂美琴は声をかける事が出来なかった。どんなに優しい言葉をかけても、人一倍責任感の強い彼には、慰めにならない。どのような厳しい言葉をかけたとしても、それは重みの無い言葉となってしまう。 だが、上条当麻に消極的思考(ネガティブ)は似合わない。 「…待てよ」 幾つもの死線を潜り抜けてきた少年は、逆転の勝機を見出した。 指をコキコキと鳴らし、 「…一か八かだ」 「『現実守護(リアルディフェンダー)』、『幻想守護(イマジンディフェンダー)』を解放する」 右手の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が次元を越える。 ビシリ、と空間に穴が開いた。 瞬間、ドバァッ!と膨大な光が噴出する。 上条当麻を囲むように見ていた魔術師や能力者は目が眩んだ。闇夜に目が慣れ、瞳孔が開いていた事もあり、光の漏洩を直視できる者はいなかった。 少年は、その歪に右手を突き刺した。 インデックスは驚愕する。 「まさかっ…!」 「…ドラゴンは世界と同化したのならば、地球上の全てがドラゴンだ。ならば、いつ何時でも、そこに『在る』ってことだよなぁ!!」 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が「核」を掴む。 光の中から、一人の青年が引き摺り出された。 凹凸の激しいアスファルトの地面に、青年が転がる。 黒で統一された長点上機学園の制服に、砂利が付着した。頭痛のせいか、青年は頭を押さえながら立ち上がった。 ツンツンとした黒髪。 一七八センチの背丈。 御坂美琴とお揃いのピンクマリンゴールドのネックレスを下げ、深紅の瞳が宿った『上条当麻(ドラゴン)』がそこに存在した。 「き、貴様ァ…!」 「そもそも「神戮」なんて起こす必要も無い。普通は神が地上に現れただけで、『カバラの樹(世界の法則)』は捻じ曲げられ、世界は崩壊する。 でも、世界は壊れなかった。つまり、俺の肉体を素体としてドラゴンは世界の矛盾を防ぎ、自分自身を召喚していた。 違うか?―――ドラゴン?」 「…!」 右足を軸に回し蹴りが放たれる。 上条当麻は両腕で防いだ。 「つぅ…!」 バッドで殴られたような衝撃が、二の腕を襲う。膝が軋んだ。 (流石は俺の体。柔道、合気道、空手、ボクシング、プロレス、コマンドサンボなどなど…あらゆる格闘技と体術、そして殺し合いの実戦で鍛えてるんだ。やっぱ伊達じゃねえな) 己の肉体を自画自賛しつつ、冷静な思考で敵を分析する。 今、眼前に立ちはだかるのは自分自身。 上条当麻は、不思議な感覚を覚えた。 (…怖えーツラ、ドラゴン完全にぶち切れてるよ…だが、中々イケメンだな、俺!) 一年前の上条当麻の身長は一六八センチで、現在の身長よりも一〇センチ低く、体重も一〇キロほど劣る。故にリーチもパワーもハンデがある。 だが、 「ぐはっ!」 技術は、積み重ねてきた努力は、魂に刻まれている。 バギンッ!と拳がぶつかり合う。背の低い上条当麻は腰を屈め、正拳を鳩尾に叩き込んだ。 『竜王の鱗(ドラゴンアーマー)』が破壊される。 ドラゴンは世界から魂を乖離された反動でダメージを負い、反応も鈍い。 「ごぼっ…!」 次々と繰り出される拳。 「ふ」 地を這いずる様に逃げるドラゴンは、上条当麻に砂利を投げつけた。 ドラゴンの逆鱗に触れた。 「ふざけるなァ!余が、きっ貴様ら人間如きに屈するか!余は『竜王(ドラゴン)』!神殺しの神と畏怖された唯一無二の存在!」 ドラゴンは叫んだ。服は汚れ、顔は泥と血が混ざり合っている。 竜王は、この世で怪物と恐れられた魔術師たちを手玉に取り、『一方通行(アクセラレータ)』をいとも簡単に死地に追い詰めた。『魔神』と呼ばれた禁書目録でも、竜王の前ではただの少女になり下がる。 かつて、魔術と科学の亀裂が顕在化し、『戦争』が勃発した。 戦力としてヨーロッパに派遣された能力者の子供たちは、兵士として、人を殺した。 魔術師を殺した。 神父を殺した。 聖人を殺した。 スパイを殺した。 歯向かう者は女子供であろうと容赦なく殺した。 そして、同時に殺された。 少年少女たちは学園に命令されるがままに能力を振るい、人を殺し、魔術の存在すら知らずに殺された。 生きたまま、精神が殺された者も多かった。 二人の『超能力者(レベル5)』を失い、四〇〇〇人以上の『妹達(シスターズ)』も命を落とした。 同じく、送り出された魔術師たちによって、学園都市も戦場と化していた。 学園都市第一位の超能力者は敗北し、守るべき少女は息を引き取る。 怒り、悲しみ、憎しみ、痛み。様々な感情が交錯し、とある少年の感情に蓄積する。幾多の戦いを乗り越え、苦しみを乗り越え、近しい者の死を受け入れ、大魔術師が長い月日をかけて肥やした土壌は、成熟期を迎えた。 魔王を倒すため、人々が一振りの聖剣を鍛え上げるように。 世界の危機が、英雄を生み出すように。 『竜王(ドラゴン)』は現れた。 覚醒した神は、全てを圧倒し、支配し、蹂躙した。 抗う事さえ愚かに思えるほどの絶対的な存在。 其の頭は、万物を理解する。 其の翼は、万物を破壊する。 其の腕は、万物を創造する。 其の体は、万物を拒絶する。 其の足は、万物を超越する。 そのドラゴンが、追い詰められていた。 顔は泥で汚れ、長点上機学園は土色に染まっていた。地べたを這いつくばり、怯えた表情で上条当麻を見つめている。 ドラゴンは震える手で、ベレッタW78を上条当麻に向けていた。 「当麻!」 「手出すなァ!美琴ォ!」 大声で御坂美琴を制す。 御坂美琴が使い捨てていた拳銃をドラゴンが拾ってしまった。 完全な失態だった。 彼女は自責の念で心を締め付けられる。 上条当麻は、 「情けねぇ…」 声を張り上げた。 「そんな銃じゃ俺は殺せねぇよ!」 バァン! 銃声が轟く。 彼らを見守っていた人々に緊張が走った。 御坂美琴は激情に駆られ、ドラゴンを射殺してやろうとホルスターから拳銃を引き抜くが、『一方通行(アクセラレータ)』がベクトル操作で彼女を拘束する。怒りで思考が沸騰した。 「何すんだぁ!殺されたいのか!シンラァッ!」 「黙って見てられェのか?テメェは」 「んだとぉっ!」 口から発生する波動を全て『反射』に切り替え、御坂美琴の叫び声を消した。 「当麻が死ぬわけねェだろうがァ」 半狂乱に陥っている御坂を無視し、白髪の少年は親友の決着を見届ける。 銃弾は上条当麻の頬を掠め、空を突き進んでいっただけだった。 「生まれてこのかたいくつもの不幸を味わって、もう慣れっこなんだよ!俺の肉体に宿ってしまった事が、「不幸」だったなぁ!」 上条当麻は拳を振り上げる。 ドラゴンは立ち上がり、拳を握りしめる。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」 「上条当麻ァああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 二人の拳が交差し、 ガツンッ!と。 顔面に突き刺さる。 魔術師と能力者が見守る中、瓦礫と土で出来たリングでの肉弾戦は一時静止した。 全力の右ストレートを額に受けたまま、微動だにしない。 ドロリと、二人の顔面に血が伝う。 「―――――――――」 「――――――――」 『神』と『人間』は言葉を交わす。 そして、 「お前の負けだ。ドラゴン」 『竜王(ドラゴン)』は崩れ落ちる。 『神』は敗北した。 上条当麻の胸に、意識を喪失した青年は倒れ込んだ。 紅い月は光を失う。 「神戮」は解除され、世界の破滅は止まった。 周囲は歓喜に満ちる。 だが、 「な、なに?」 ゴゴゴゴゴ…と鳴る地響きに、シルビアはいち早く気づいた。 地震では無い。 世界は在るべき姿に戻る為、修正が始まったのだ。 いつの間にか発生した光り輝く霧は、急速に広がり、濃度も急激に上がる。彼の勝利をたたえ、上条当麻の元へと駆け寄っていく仲間の姿が光に塗り潰されていった。視界だけでは無く、音も遠ざかっていく。少年は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と呼ばれる右手を見た。 右手の輪郭が徐々に薄れる。 視界が光に包まれていく中、上条当麻はそっと笑みを零した。
https://w.atwiki.jp/darkdeath/pages/181.html
No.0700 紅い悪魔 レミリア・スカーレット 屬性:妖怪 吸血鬼 紅魔館 體力:18 回避:3 決死判定(2) [戰鬥階段]咒力3 到階段結束前,自己一張符卡獲得「攻擊+1」。 (每階段只能使用1次)
https://w.atwiki.jp/amakura/pages/2.html
メニュー トップページ ゲーム情報 強化レンズ 追加&装備機能 一ノ刻:地図から消えた村 二ノ刻:双子巫女 三ノ刻:大償 四ノ刻:秘祭 五ノ刻:贄 六ノ刻:鬼隻 七ノ刻:紗重 八ノ刻:片割レ月 終ノ刻:紅い蝶 零ノ刻:虚
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/20.html
「新しい お友達が来たよ?」 誰かの声が聞こえる…誰の声だったかな…? 「でも、このお友達はこの日々を壊しに来たんだよ?」 この日々を…壊す?何の…こと、なの? 「この日々が壊れたら、大事な、大切な友達たちと離れ離れになっちゃうよ?」 みゆき…こなた…離れ、離れに…? 「楽しい時間が終わったら、卒業しちゃったら。もう二度とみんなと会えないよ?」 それは…ヤだな…すごく、ヤだな…。 「だから、新しいお友達を『お仲間』にするために」 する…ために? 「アナタノ 『心』 ヲ モット チョウダイ?」 紅い月が見える、靄のかかった世界の中で。誰かがわたしの、とても大事な何かを啜って 笑って…るのかな? ナンダロウ…何も…思い出せ…な・・・。 何か、とても怖い夢を見たような気がする。全身汗ビッショリで目が覚めて…未だに心臓 はバクバク言ってて、何だか最近夢見が悪い。 それに、何だか少し身体の芯が重いような気がする。あたしはつかさと違って、結構風邪 とか普通にひくタイプだから、もしかしたら風邪にでもかかったのかも…。などと思いつつ まだ薄暗い部屋の中でぼーっと天井を眺めて、そのまま無為に時間が過ぎるのを待つ。 いつもだったらこんな時に決まって読んでいたラノベに手を出す気も、なんとなくしない まま、倦怠感に支配されたままで時間だけが過ぎて…空の色が濃紺から群青にうつり変わり 掛けた頃。 部屋の外で、凛とした気合の声が聞こえた。 庭から聞こえるその声が気になって、あたしはパジャマ姿のままのそのそと身を起こし、 窓にかかったカーテンをそっとずらして窓の外に目をやった。 そこには…まだ肌寒さの残る春の夜明けの空の下、上着のジャケットもなしに半袖のTシャ ツに綿のズボン姿の蓮司兄さんの姿があった。 手にしてるのはたぶん木刀。まるで舞を舞うように動き、跳ね、一箇所に留まることなく 動きながらその木刀を打ち、払い、突き…。剣道の稽古にも見えるけど、それとは何かが違 う稽古を延々と続けている。 何となく声を掛けにくく、そのまま時間が過ぎるのを待ちながら稽古の風景に見入り続け ると、枕元の目覚ましが軽いアラーム音を立てた。朝7時。もう起きる時間かぁ…。 倦怠感をねじ伏せ、思い切り背伸びして深呼吸!今日もいい日でありますように!わたし はそう願を掛け、そのまま勢いをつけてベットから跳ね起きた。 あたしはあまり料理とかが得意なほうではない。でもいつまでも他人任せにしておくのは いけないからという理由で、つかさと交代でお弁当を作るようにしている。 まだまだ包丁を使うのはぎこちないので、簡単な焼き物、煮物メインになるのは仕方ない よね…などと思いつつ、ぱたぱたとスリッパを鳴らしつつ台所に行くと、もう母さんが朝ご はんの仕度を始めてた。 「うぃーっす。叔母さん、かがみ。おはよっさん」 などと言いつつ、裏手から上がってきたのはスポーツタオルで流れる汗を拭きつつ挨拶す る蓮司兄さん。かなり激しい運動をしてたみたいで、顔も上気してるし息も整ってないし、 何より汗の匂いもはっきりわかるほどに凄い汗をかいてるみたい。 「おはよう蓮司くん。とりあえず顔洗ってきなさいね?」 などと言いつつ微笑む母さん。当たり前の日常。当たり前の朝の風景。 こんなごく普通の、夢みたいな毎日がいつまでも続くといいな…あたしはそう願わずには いられなかった。 家族揃っての朝食風景に、さらにもう一人が加わると何となく新鮮に見えるから不思議だ とおもう。父さんと蓮司兄さんはすっかり互いに打ち解けていて、軽く冗談を飛ばしあいな がらすいすい箸を進めている。 と、その食事の席の中で…蓮司兄さんは、ある『とんでもない』発言をしたわけで…。 あたしとつかさは、一瞬沈黙した後ふたり揃って『ええええええええ!?』と、大声でそ の爆弾発言に反応したりした。その『爆弾発言』というのは…。 柊蓮司の、朝食の席での『爆弾発言』から遡る事。約1日ほどの朝のこと。 まだ朝日の昇りきらない刻限に、柊は与えられた客間の布団の中で目を覚ました。枕元に おいたままにしている、充電器に接続しっぱなしの0-Phone(れいふぉん)がマナーモード での着信を知らせる振動を鳴らしっぱなしだ。 まだはっきりしない意識の中、枕元の0-Phoneの電子表示板に写る時計を見ると朝の5時前。 はっきり言って他人に電話をするのはかなり非常識な時間といわざるを得ない。 「…ったく、誰だよこんな朝早k…」 愚痴りつつ送信者名を何気に見た瞬間に。柊の中の眠気はまさに秒単位で消し飛んだ。 『着信:アンゼロット』 断じて言おう。柊はあのエキセントリックな発言を繰り返す自称、世界の守護者の携帯 電話番号なぞ断じて登録してはいない。以前に勝手に電話帳登録をされたときは思わず激情 のままに電話帳履歴全部をまとめて消去したくらいだ。 その後、数日にわたりえらい不自由な生活をしたのはまぁ、ご愛嬌として。 そのまま無視して眠りの世界に舞い戻ってやろうかとも考えたが、おそらくあの女の事だ からいつまでも、しつこく、延々と鳴らし続けるに違いない。 数秒の逡巡の後、出来得る限りの最も低く、不機嫌そうな声で「もしもし」と声を掛ける と…朝も早くからえらくテンションの高めな、柊にとっての人生最悪の疫病神の声がした。 「おはようございます柊さん♪…あら?随分テンションが低いですわね?いけませんよ? そんな事では調査に差し支えます!」 「…今この瞬間に至る前まではテンションも普通だったんだアンゼロット!で、何だってん だよこのクソ早い時間にわざわざ電話なんぞかけやがって!」 柊の怒気もどこ吹く風か。アンゼロットはあくまで楽しげな雰囲気のまま、柊に現段階の 調査結果を尋ねてくる…まぁ、調査も何も進行していない。それは当然。自分はまだ調査の 現場に入って2日程度しか過ごしていない。目立つ出来事といえばあの無音の世界で出会った 女性の霊の話くらいしかない。 それでも一応その件については律儀に報告するあたり、彼のお人よし加減が良くわかろう と言うものだが。 一通りの報告を口頭で伝えた後、しばしの沈黙があってから…アンゼロットはこのような 『爆弾発言』を述べだしたのである。 「なるほど…しかし柊さん?現地に入ったはいいですが、問題の陵桜学園の調査がロクに出 来ていないではありませんか?」 「あったりまえだろうが!俺はもう高校生じゃねぇんだ!部外者の社会人がノコノコ出かけ てホイホイ入りまわれる学校じゃねぇんだぞ!陵桜はっ!?」 ちなみに輝明学園は『ウィザードの養成機関』としての側面に特化した運営がなされてお り、進学校としてはあまりランクが高いほうではないが…陵桜はこの辺りではそこそこレベ ルの高い進学校として有名である。その分部外者対策もしっかりしていて、初日の段階で現 地の調査をしようとしたところ、校門前の警備員に追い出されたりした。 「その辺はわかっています。しかしこのままでは、肝心要の現地での調査に大きな悪影響が 及ぶではありませんかっ!木を隠すなら森の中、学生隠すなら学校の中です」 …この瞬間、柊 蓮司の脳裏には死の間際でも感じることのないような凄まじい『嫌な予感』 が瞬いたりした。 「つまり、今回の調査に関してのロンギヌスからの支援の一環として…柊さんには陵桜学園高 等部の3年B組の『転入生』として、学内に潜入しての調査を願いたいのです♪」 「ことわるっ!!!!!!」 返事が飛び出すまでの感覚は0.5秒以下。 まさに即位即答という感じで怒鳴る柊。彼はもう既に、紆余曲折の上に、かろうじてだが はっきりと高校を卒業しているのだ。 何がうれしくて卒業して2ヶ月経たないうちに、再び高校生に逆戻りしなくてはならないの かと考えるだけで、全身の血が沸騰しそうになる。 「あらあら?しかし良いのですか、柊さん。本来の目的はこの地域で起こっている巻き戻り 事件の調査。そして推測される巻き戻り事件の中心地域は陵桜学園。 このままでは学内の有効な調査が出来ないまま、致命的な惨劇が起きてしまうかもしれま せんよ?大事な親戚の皆さんに不幸が降り注ぐかもしれませんよ?」 このアンゼロットの反論を聞いてしまうと、その瞬間にぐうの音も出なくなってしまう。 確かに現状のままでは肝心の陵桜の内部事情がさっぱり判らないままだ。だが…。 「なら灯だ!緋室灯!あいつにでも頼め!あいつなら現役の高校生だっ!」 「緋室灯さんには、現在別案件の調査対処を依頼しています。この状況でのそちらへの派遣 は残念ながら無理です」 即座に名案が否定された。もうにべもないとしか言いようがない。そこにさらに痛烈な、 まさにトドメとしか言えないアンゼロットの一言が叩き込まれた。 「ちなみにロンギヌスの精鋭スタッフの手により、既に柊さんの転入手続きその他は完璧に 終わっています。翌週月曜から晴れて、柊さんは陵桜の3年生ですっ♪ 過ぎ去った青春の日々を追体験するいい機会でもあるわけです、存分に高校ライフを…」 「やっかましいぃぃぃぃぃぃぃ!?余計な事するなこの野郎っ!? 俺が既に現地に入ってて、んで更に親戚の家に世話になってるってのは知ってるだろ!?」 「ええ、その辺はもうこれ以上ないほど存じ上げておりますよ?」 酸素が足りなくなってきた。視界の端が赤くなるのを深呼吸だけでなんとか持ち直させて さらに言葉を叩き付ける柊。脳内でアンゼロットの後頭部を遠慮なく張り倒す光景を夢想し つつ叫んだ内容は…。 「従姉妹たちは俺が輝明学園を卒業したって知ってるんだぞっ!?俺はもう社会人だぞっ!? それなのに卒業してから2ヶ月経たずに高校生に逆戻りってなんだっ!?面白すぎるだろうが そいつわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 まさに血の絶叫。柊蓮司19歳、心の底からの叫びを叩きつけるものの…。 「しかし、現状で生きた情報を得るには他の方法はありませんもの♪がんばってくださいね? 柊さん?」 明らかに声が笑っているアンゼロット。ほぼ一方的な通達事項が届け終わった後、柊は手に した0-Phoneを握りつぶし…。 「アンゼロットのぉぉぉぉぉぉっ!!!! 大馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 夜明けの遠い紺色の空の下、柊の魂の絶叫は遠くまで響き渡ったという…合掌。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/96.html
神と人の拳が交わる時、 空間が歪む。 時間が歪む。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が激突した。 深紅の瞳が上条当麻を見つめる。 ドラゴンの背中から生えている『竜王の翼(ドラゴンウイング)』が、上条当麻を囲い込むように迫りつつあった。 神すら殺せる能力を持つ少年も、右手以外はごく一般的な男子生徒と変わらない。 「やべっ!」 地面が削れ、周囲の物体と共に消滅させる一歩手前で、上条当麻は一〇メートル以上の高さを跳び上がった。 ドラゴンは、上条当麻の浮遊が『魔王』のベクトル操作によるものだと一瞬で理解した。事実、上条当麻の肉体は、触れた時から『魔王』の支配下にある。ドラゴンは『竜王の脚(ドラゴンソニック)』によって、瞬時に座標を変更した。 再び、二人の上条当麻は拳を交えた。 ドラゴンは上条当麻の鋭い右ストレートを回避し、重い膝蹴りを胸部に叩き込んだ。 「がはッ!」 肋骨が軋む。 口から嗚咽が零れた。 反動を受け流し、空中で一回転した上条当麻は、二発目の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を放つ。ドラゴンの左足に神殺しの拳が突き刺さった。 「GuYaaaaaaHHHHHHHHHataevokeokoth…!!」 ガラスを割るほどの振動数を持った叫びが轟いた。 (これで…ドラゴンソニックは使えないっ!) 上条当麻は、最大の問題を払拭した。 『時間転移(タイム・テレポート)』をされてしまえば、ドラゴンを滅ぼせる唯一の奇跡は潰え、作戦は失敗に終わってしまう。 痛みに耐えかねたドラゴンは、『竜王の顎(ドラゴンストライク)』で上条当麻の頭部を噛み砕こうとするが、勢いよく空を切った。紐に引かれる凧のように、少年の身体は後退した。 上条当麻に狙いを定め、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が発射される。 刹那、 (アプリケーション〇〇九一。検体番号(シリアルナンバー)二〇〇〇一号。個体名、ラストオーダーより起動の申請。 検体名、アクセラレータ以外の申請は、パスワード――クラス『A』の入力が必要。 入力確認、開始―――――――――――――――――――――――『レッドE.M.』と判定。 『受理』 〇〇九一。アプリケーションコードネーム、『ドラゴンウイング』を確認. 『マザー』による検体名、アクセラレータの存在を確認。 『三次元空間』演算による座標指定。――――――――――――――――――――完了。 アプリケーションコードネーム、『ドラゴンウイング』。 起動―――――――――――――――――――――――――――――――――――開始 AIM拡散力場――――――――――――――――class;9,99。Level『S』と断定。 ヴァルハラとのアクセスによる『共振』を感知。 IFM振動数を空間周波数から逆算―――――――――――――――――――――成功。 248,91[Dz/s] 。SLF;9861,000[BQ/s]。 エマージェンシーモードのレッドアクセスのため、カウント00.00 『竜王の翼(ドラゴンウイング)』に関するステータスを確認。 ヴァルハラとのシンクロ率―――――――――――――――――――――――2.00% ゴッドマターの出力量――――――――――――――――――――――――グリーン アプリケーション〇〇九一。 正常動作―――――――――――――――――――確認。 『接続(アクセス)』―――――――――――――――――『完了(コンプリート)』) 『一方通行(アクセラレータ)』の背中から噴出した黒翼は、光線の軌道を捻じ曲げる。 ブバァアッッ!と。 屈折した閃光は空を突きぬけ、立ち込める雲を吹き飛ばし、ドロドロとした暗黒の翼が光を遮った。 「同じ手は何度も喰らわねェンだよッ!」 白髪の少年は叫ぶ。 「当麻!走れ!」 「言われなくても分かってるぜ!シンラ!」 大地を踏みしめ、少年は突き進む。 「早く行きなさい!当麻!」 少年の道を阻む『闇』を、一七億ボルトの雷撃が吹き飛ばした。 黒マントを羽織った御坂美琴は叫ぶ。恋人と目を合わせることなく、彼女の意思は通じ合った。 「愛してるぜ!美琴!」 「私も愛してるわよ!当麻!」 地下水路が剥き出し、舗装された道路は見る影すら無い。至る所に漂う『闇』は、駆け抜ける少年を見つめた。 『ドラゴンウイング(竜王の翼)』の余波で、傾いていた高層ビルがついに崩壊を始めた。大小問わず、幾多の瓦礫が少年の頭上に降り注ぐ。 「おおぅ!?」 だが、 「行け。世界の英雄よ」 バゴォッ!と。 一人の聖人がガラティーンを振るい、薙ぎ払った。 シャツが斬り裂かれ真っ赤に染まっていたが、インデックスの『神々の楽園(ヴァルハラ・ディ・リューベヌ)』の魔術によって完全に治癒している。 「ウィリアム!『騎士団長(ナイトリーダー)』!」 『騎士団長(ナイトリーダー)』は剣多風水が生み出した双剣で、『闇』を次々と葬り去っていた。動きを最小限にとどめ、両腕を小刻みに揺らし致命的な斬撃を随所に与えていく。 「我々の役目はこれで終わりだ。頼むぞ。英国の救世主」 背中越しに語る姿は、騎士そのものだった。 「当麻くーん!」 「ベイロープ!?」 銀髪の少女が上条に大きく手を振る。ドロシー、フロリス、ランシスの『新たなる光』のメンバーが『闇』と交戦していた。北欧神話の雷神トールを基とした礼装を用いる魔術結社であったが、今では正式に神上派閥の一派として属している。 「負けたりなんかしたら許さないからな!」 「ど、どこにいるの!?トーマは!」 上条当麻を視認できていない金髪碧眼のフロリスが、うろうろと辺りを見回していた。声をかけたかったが、背後に迫る、槍を持った『闇』を見て、上条は息を呑んだ。 間に合わない!と、上条が思ったとき、一発の九ミリパラベラム弾が、『闇』を撃ち抜いた。 銃声が鳴る方角を見ると、硝煙を上げるベレッタW78を持ったミサカ『〇〇〇〇〇号(フルチューニン)』が、 「ゼロ!お前も来てたのか!?」 「ひどいなー。こんなにワクワクする場所には居るに決まってんじゃん!ブーブー…あっ!それとフロリス!一つ貸しだからね!」 髑髏マークの帽子を深くかぶり、にこやかに叫んだ。 『当麻様!』 今度は周囲に散らばる『妹達(シスターズ)』の叫び声が重なる。 アサルトライフルの残弾は底を突き、今は電撃の槍による攻撃を行っていた。一年前では、統一性が見られた少女たちも、周囲の環境や摂取する食糧、生活習慣から、一人ひとりに個性が出始めている。今では髪型や性格、体系にも変化が見受けられる。 「ミサカ達…お前らも愛してるぜ!」 「っ!!」 だが、変化しないものもある。 「任務の完遂は最優先事項だとミサカ一九〇九〇号は、ネットワークを通じ、全シスターズに厳命します!」 上条当麻の笑顔を間近で見てしまったミサカは頬を赤く染めた。 『…我々の、誰一人が、欠けても、当麻様は…喜びませんと、ミサカ一〇〇三二号は…重要事項、を再確認させます』 肉体を喪失した『打ち止め(ラストオーダー)』に変わり、司令塔であるミサカ一〇〇三二号は、ドラゴンの波動に当てられ戦線離脱しているが、戦況を逐一集め、戦略を練る役割を担っていた。 全シスターズが声を上げる。 『了解(ラジャー)!!』 突如として、少年の進むべき道の縁側が、五〇〇〇度を超える炎で赤く彩られた。 「期待しててくれよ!バードウェイ!」 「…ふん」 ベロアパンツに付着していた土を取りながら、頭に巻いていた包帯を捨て去り、火の魔術で燃やしていた。普段から高飛車な性格を演じている彼女にとって、格好悪い姿は見せたくなかった。それが意中の相手なら尚更である。 彼女の複雑な心中をお構いなしに、上条は笑顔を見せた。 バードウェイは腕を組み、そっぽを向く。 「オッレルス!オリビア!」 中央に群れる『闇』が、空高く吹き飛ばされた。 オッレルスの『北欧王座(フリズスキャルヴ)』が起こした現象であり、聖人であるシルビアが片っ端から『闇』を捌いていた。イギリスの片隅に住んでいる二人だが、一人は『魔神』に成り損ねた魔術師であり、もう一人は世界に二〇人といない聖人。その戦闘力は凄まじさは、かつて刃を向け合った者同士だからこそ分かる。 「ミスタ、カミジョー!世界を救ってくれ!」 「こいつに会う前にお前と会ってたら、惚れてたかもね、私♪」 「俺もそうかもしれなかったな」 「…がははっ!その年で甘い冗談も言えるようになったか!ますます末恐ろしいな!お前は!」 シルビアは豪快に笑う。 ドパァン!と『北欧王座(フリズスキャルヴ)』により空気が圧縮され、闇の軍勢は一瞬で消え去った。 「…さっきのは冗談だよな?」 「さあ?」 オッレルスの答えは、軽く受け流された。ふらりと立ち寄ったミラノで人身売買を行っていた組織を潰せても、長年付き添ったパートナーの心情を未だに掌握できない、ヘたれ男だった。 「ステイル?」 「さっさと行け。あの子を悲しませるような事をしたら、僕は許さないぞ。地の果てまでも追いかけてやる」 『魔女狩りの王(インノケンティウス)』の炎で、『闇』は一向に近寄れない。知能が低いのか、『闇』の兵隊は次々に特攻し、火の海へと消えていく。上条当麻と幾多の戦場を共にしてきたステイル=マグヌスだが、彼とは未だに相容れない。インデックスの事が絡むと、彼に理屈や常識は通じない。仮にこの二人が違う形で出会っていれば、無二の戦友になれたのかもしれない。 上条当麻のすぐ横を、ロングソードが物凄いスピードで通過した。『闇』を貫き、コンクリートで出来た柱に突き刺さる。冷や汗をかいた上条が後ろを振り返ると、 「久蘭お姉様を誑かした罪で、貴方を八つ裂きにしてやりたいところですが…」 元から無表情な彼女だが、今はその三倍ほど冷え切った瞳で、『大能力者(レベル4)』の『金属使い(メタルオブオーナー)』、剣多風水は彼を見ていた。 至宝院久蘭との一件で彼女と知り合った。一人の男性として認めつつも、愛しのお姉様に並び立つには相応しくない、というのが剣多風水の評価だった。この点に置いては白井黒子と共通した感情があるようだ。 だが、今だけは認めなければならない。 彼だけが、この戦いを勝利に導く男なのだと。 剣多風水は深く頭を下げた。 「久蘭お姉様を悲しませるような事だけは、しないでください…」 「当たり前だろ!」 上条当麻は即答する。 「行ってらっしゃいませ。ご主人様」 栗色の髪が揺れる。スカートの両端を摘まみ、黒のメイド服に身を包んだ少女の姿は、まごうこと無きメイドそのものだった。 両手に精製されたカットラスを握る。 華麗なる剣舞が再開した。 「七閃!」 銃弾よりも速い鉄線が、『闇』の軍勢を屠る。 「上条当麻!神戮が第四章を終えると、世界は破滅します!急いでください!」 ビンテージの青ジャケットを羽織り、血で染まったシャツを隠している神裂火織は叫んだ。 「言われなくても分かってるさ!」 天草式の人々も、 「任せたぞ!当麻君!」 「当麻の兄ちゃん!頑張れよ!」 「五和の事は感謝する!私たちの事は気にせず突っ走るんだ!」 彼らの言葉を聞いて、上条の心は熱くなった。 皆を守りたい。 それだけが上条当麻の願いだった。 「人の為に善いこと」と書いて『偽善』。 誰かに言われたことがある。 自分が行っている正義はただの偽善であると。 上条当麻は「偽善使い(フォックスワード)」だと。 だが、それでもいいと、彼は思った。 自分の身を犠牲にしてでも、救われる誰かがいるならば、 自分が血を流す分だけ、涙を零す人が少なくなるならば、 上条当麻は突き進む。 正義を貫き、一人の少女の運命を変えた。 正義を貫き、一人の少女の命を救った。 正義を貫き、一〇〇〇〇人の少女の命を救った。 正義を貫き、死ぬべき運命を背負った人々を救った。 正義を貫き、国を救った。 正義を貫き、世界を救った。 だからこそ、人々は彼を『英雄』と称える。 『希望』と言う名の重荷を彼は背負っていた。一人の青年の背中には重すぎる代物だ。色々な伝説を作り上げた人物とはいえ、特異な右手を持っていることを除けば、ごく一般的な高校生にすぎない。大事は一人では成しえない。人一人の出来る事には限界がある。自身の力量を知っている。 だからこそ、英雄は仲間を求める。 人々は強烈な指向性に惹かれる。一つの目的の為に人々が集まり、行動するからこそ大事を成す。 『竜王(ドラゴン)』は強大だ。 単体で世界に匹敵する強さを持つ。 だからこそ、ドラゴンを倒す、という目的を成す為に上条当麻は仲間を頼った。 彼を慕う雲川芹亜が中心となってプランを立て、 彼を慕うインデックスが助言し、 彼を畏怖するイギリス清教が協力し、 彼を崇拝するローマ正教が従い、 彼と契約した魔術結社が手を貸し、 彼が住む「学園都市」が同意した。 奇跡は一人では起こらない。奇跡は人々が作り上げる。 上条当麻は右手を握りしめたまま走った。多くの仲間が作った一つの道をひたすら走った。 時を越え、危機を乗り越え、ここまで辿りついた。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』をドラゴンにぶつける。それだけのために上条当麻は走った。 瓦礫を蹴り飛ばし、もう一人の上条当麻は目の前だった。 少年は右手に力を込める。 その時だった。 「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」 『竜王(ドラゴン)』が顕在化する。 上条当麻の拳が空を切った。 「なっっ…!?」 もう一人の上条当麻は『闇』に呑み込まれた。 空を覆う漆黒の翼。 大地を踏みしめる片足の凶悪な爪。 地を這う竜尾。 金剛の鱗で覆われた蛇のような胴体。 そして、鈍く輝く深紅の瞳。 封印を解かれた『竜王(ドラゴン)』は真の姿を現す。 禍々しい雄叫びが、人間の心を凍りつかせた。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」 そして、その姿は夜空に溶け込む。 「ドラゴンが…世界と、同化した?」 神裂の呟きが木霊する。 声では無い。 人間が反応できる言語では無い。 ただ理解する。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」 (滅――) 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」 (セ――) 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」 (ヨ――) 「滅セヨ」という意味を持っている事だけが、人間には分かった。 雲を突き抜け、青く染まる闇夜から「何か」が迫りつつある。 だが、人々は迫る危機が大きすぎるがゆえに感知できなかった。 グシャァアアアアアアアッッッ!!! 巨大な竜王の腕が、学園都市を押し潰した。 「っ!?」 バードウェイは生まれて初めて、絶望を知った。 光の無い闇。 死を待つだけの無力感。 彼女に去来した感情が心を震わせた。 虚栄でもいい。 『明け色の陽射し』を統べるリーダーとして、年端も行かぬ少女は肩を張らなければならなかった。そうしなければ、周囲に認めてもらえず、自分の居場所が無くなってしまう。 法律も倫理も通用しない世界で生きていく為には、必要な「鎧」だった。 だが、絶対的なチカラの前では、全てが吹き飛ばされてしまう。 金と権力が人を狂わせるように。 一つの過ちが正義を悪に変えるように。 チカラは人の心を丸裸にする。 竜王の腕が迫りくる中、バードウェイは、死に怯えるただの少女だった。 バギンッ!!! だが、幾ら待っても死は訪れない。 「―――?」 涙で霞んだ瞳を開けると、彼女の眼前には一筋の光が見える。 『闇』に手を伸ばす一人の少年の姿が、そこにはあった。 その姿は、いつも、彼女が想う小さな勇者だった。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は全てを打ち消す。 竜王の腕が砕け散る。 学園都市全土を覆うほどの竜王の腕は、腕の形に圧縮された雲であり、幻想殺しによってただの水蒸気へと変わり、霧散した。肌寒い突風にドロシーは小さく声を上げる。 「きゃっ!?」 突如として、零度以下の風が吹き荒れた。 冷たい風が彼らを襲う。地上付近で発生した雲は、地熱で温められ、冷たい雨が崩壊した都市を濡らした。 右手を突き上げたまま、空に浮かぶ英雄。 周囲を見渡す。 「…これは、ひどいな」 海は荒れ狂い、大地は揺れ、空を歪んだ。 シンラのベクトル操作で空中に舞い上がっていた上条当麻は、静かに降り立った。 少年は紅い空を見上げた。 螺旋状に霧散した雲。 紅い月が世界を照らし、地上は鮮血のように染められている。 世界を破滅させる大魔術、「神戮」は既に第三章に突入していた。 竜王の腕を形成するために、莫大な水蒸気が凝縮された。気候を大きく左右する雲が意図的に操作されたことによって、地球の環境が変動し、生態系に大きな影響を及ぼすことなる。 上条当麻は知覚する。 学園都市だけでは無い。戦争の余波は世界中に広がってしまった。 被害を最小限に抑えるために、周到な準備を行い、雲川芹亜を中心にして戦略を練った。神上派閥を総動員し、学園都市、ローマ正教、イギリス清教や様々な組織に協力を得て、事を起こしたというのに。 「くそっ…!」 世界を託された重圧が両肩にかかる。神上派閥の総帥として動いてきた上条当麻は、悔しさに唇を噛みしめた。 「……当麻」 恋人の背中に、御坂美琴は声をかける事が出来なかった。どんなに優しい言葉をかけても、人一倍責任感の強い彼には、慰めにならない。どのような厳しい言葉をかけたとしても、それは重みの無い言葉となってしまう。 だが、上条当麻に消極的思考(ネガティブ)は似合わない。 「…待てよ」 幾つもの死線を潜り抜けてきた少年は、逆転の勝機を見出した。 指をコキコキと鳴らし、 「…一か八かだ」 「『現実守護(リアルディフェンダー)』、『幻想守護(イマジンディフェンダー)』を解放する」 右手の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が次元を越える。 ビシリ、と空間に穴が開いた。 瞬間、ドバァッ!と膨大な光が噴出する。 上条当麻を囲むように見ていた魔術師や能力者は目が眩んだ。闇夜に目が慣れ、瞳孔が開いていた事もあり、光の漏洩を直視できる者はいなかった。 少年は、その歪に右手を突き刺した。 インデックスは驚愕する。 「まさかっ…!」 「…ドラゴンは世界と同化したのならば、地球上の全てがドラゴンだ。ならば、いつ何時でも、そこに『在る』ってことだよなぁ!!」 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が「核」を掴む。 光の中から、一人の青年が引き摺り出された。 凹凸の激しいアスファルトの地面に、青年が転がる。 黒で統一された長点上機学園の制服に、砂利が付着した。頭痛のせいか、青年は頭を押さえながら立ち上がった。 ツンツンとした黒髪。 一七八センチの背丈。 御坂美琴とお揃いのピンクマリンゴールドのネックレスを下げ、深紅の瞳が宿った『上条当麻(ドラゴン)』がそこに存在した。 「き、貴様ァ…!」 「そもそも「神戮」なんて起こす必要も無い。普通は神が地上に現れただけで、『カバラの樹(世界の法則)』は捻じ曲げられ、世界は崩壊する。 でも、世界は壊れなかった。つまり、俺の肉体を素体としてドラゴンは世界の矛盾を防ぎ、自分自身を召喚していた。 違うか?―――ドラゴン?」 「…!」 右足を軸に回し蹴りが放たれる。 上条当麻は両腕で防いだ。 「つぅ…!」 バッドで殴られたような衝撃が、二の腕を襲う。膝が軋んだ。 (流石は俺の体。柔道、合気道、空手、ボクシング、プロレス、コマンドサンボなどなど…あらゆる格闘技と体術、そして殺し合いの実戦で鍛えてるんだ。やっぱ伊達じゃねえな) 己の肉体を自画自賛しつつ、冷静な思考で敵を分析する。 今、眼前に立ちはだかるのは自分自身。 上条当麻は、不思議な感覚を覚えた。 (…怖えーツラ、ドラゴン完全にぶち切れてるよ…だが、中々イケメンだな、俺!) 一年前の上条当麻の身長は一六八センチで、現在の身長よりも一〇センチ低く、体重も一〇キロほど劣る。故にリーチもパワーもハンデがある。 だが、 「ぐはっ!」 技術は、積み重ねてきた努力は、魂に刻まれている。 バギンッ!と拳がぶつかり合う。背の低い上条当麻は腰を屈め、正拳を鳩尾に叩き込んだ。 『竜王の鱗(ドラゴンアーマー)』が破壊される。 ドラゴンは世界から魂を乖離された反動でダメージを負い、反応も鈍い。 「ごぼっ…!」 次々と繰り出される拳。 「ふ」 地を這いずる様に逃げるドラゴンは、上条当麻に砂利を投げつけた。 ドラゴンの逆鱗に触れた。 「ふざけるなァ!余が、きっ貴様ら人間如きに屈するか!余は『竜王(ドラゴン)』!神殺しの神と畏怖された唯一無二の存在!」 ドラゴンは叫んだ。服は汚れ、顔は泥と血が混ざり合っている。 竜王は、この世で怪物と恐れられた魔術師たちを手玉に取り、『一方通行(アクセラレータ)』をいとも簡単に死地に追い詰めた。『魔神』と呼ばれた禁書目録でも、竜王の前ではただの少女になり下がる。 かつて、魔術と科学の亀裂が顕在化し、『戦争』が勃発した。 戦力としてヨーロッパに派遣された能力者の子供たちは、兵士として、人を殺した。 魔術師を殺した。 神父を殺した。 聖人を殺した。 スパイを殺した。 歯向かう者は女子供であろうと容赦なく殺した。 そして、同時に殺された。 少年少女たちは学園に命令されるがままに能力を振るい、人を殺し、魔術の存在すら知らずに殺された。 生きたまま、精神が殺された者も多かった。 二人の『超能力者(レベル5)』を失い、四〇〇〇人以上の『妹達(シスターズ)』も命を落とした。 同じく、送り出された魔術師たちによって、学園都市も戦場と化していた。 学園都市第一位の超能力者は敗北し、守るべき少女は息を引き取る。 怒り、悲しみ、憎しみ、痛み。様々な感情が交錯し、とある少年の感情に蓄積する。幾多の戦いを乗り越え、苦しみを乗り越え、近しい者の死を受け入れ、大魔術師が長い月日をかけて肥やした土壌は、成熟期を迎えた。 魔王を倒すため、人々が一振りの聖剣を鍛え上げるように。 世界の危機が、英雄を生み出すように。 『竜王(ドラゴン)』は現れた。 覚醒した神は、全てを圧倒し、支配し、蹂躙した。 抗う事さえ愚かに思えるほどの絶対的な存在。 其の頭は、万物を理解する。 其の翼は、万物を破壊する。 其の腕は、万物を創造する。 其の体は、万物を拒絶する。 其の足は、万物を超越する。 そのドラゴンが、追い詰められていた。 顔は泥で汚れ、長点上機学園は土色に染まっていた。地べたを這いつくばり、怯えた表情で上条当麻を見つめている。 ドラゴンは震える手で、ベレッタW78を上条当麻に向けていた。 「当麻!」 「手出すなァ!美琴ォ!」 大声で御坂美琴を制す。 御坂美琴が使い捨てていた拳銃をドラゴンが拾ってしまった。 完全な失態だった。 彼女は自責の念で心を締め付けられる。 上条当麻は、 「情けねぇ…」 声を張り上げた。 「そんな銃じゃ俺は殺せねぇよ!」 バァン! 銃声が轟く。 彼らを見守っていた人々に緊張が走った。 御坂美琴は激情に駆られ、ドラゴンを射殺してやろうとホルスターから拳銃を引き抜くが、『一方通行(アクセラレータ)』がベクトル操作で彼女を拘束する。怒りで思考が沸騰した。 「何すんだぁ!殺されたいのか!シンラァッ!」 「黙って見てられェのか?テメェは」 「んだとぉっ!」 口から発生する波動を全て『反射』に切り替え、御坂美琴の叫び声を消した。 「当麻が死ぬわけねェだろうがァ」 半狂乱に陥っている御坂を無視し、白髪の少年は親友の決着を見届ける。 銃弾は上条当麻の頬を掠め、空を突き進んでいっただけだった。 「生まれてこのかたいくつもの不幸を味わって、もう慣れっこなんだよ!俺の肉体に宿ってしまった事が、「不幸」だったなぁ!」 上条当麻は拳を振り上げる。 ドラゴンは立ち上がり、拳を握りしめる。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」 「上条当麻ァああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 二人の拳が交差し、 ガツンッ!と。 顔面に突き刺さる。 魔術師と能力者が見守る中、瓦礫と土で出来たリングでの肉弾戦は一時静止した。 全力の右ストレートを額に受けたまま、微動だにしない。 ドロリと、二人の顔面に血が伝う。 「―――――――――」 「――――――――」 『神』と『人間』は言葉を交わす。 そして、 「お前の負けだ。ドラゴン」 『竜王(ドラゴン)』は崩れ落ちる。 『神』は敗北した。 上条当麻の胸に、意識を喪失した青年は倒れ込んだ。 紅い月は光を失う。 「神戮」は解除され、世界の破滅は止まった。 周囲は歓喜に満ちる。 だが、 「な、なに?」 ゴゴゴゴゴ…と鳴る地響きに、シルビアはいち早く気づいた。 地震では無い。 世界は在るべき姿に戻る為、修正が始まったのだ。 いつの間にか発生した光り輝く霧は、急速に広がり、濃度も急激に上がる。彼の勝利をたたえ、上条当麻の元へと駆け寄っていく仲間の姿が光に塗り潰されていった。視界だけでは無く、音も遠ざかっていく。少年は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と呼ばれる右手を見た。 右手の輪郭が徐々に薄れる。 視界が光に包まれていく中、上条当麻はそっと笑みを零した。
https://w.atwiki.jp/girlgame/pages/2878.html
越えざるは紅い花 の攻略対象。 ナスラの軍事司令官。 戦場では王の次に決定権を持つ。 異性には度々尊大で強引な態度をとるのでルスの女性達からは恐れられているが、部下達からの信頼は非常に厚い。 粗野な見かけに反して、意外と頭の回転が速く、抜け目ない。 名前 スレン 年齢 身長 体重 誕生日 血液型 声優 宮下栄治 該当属性 軍人、俺様、褐色肌、黒髪、ピアス、バンダナ、女性遍歴 該当属性2(ネタバレ) 『』
https://w.atwiki.jp/yurina0106/pages/4589.html
タグ おっとり 曲名も 歌 織姫よぞら 作詞 織姫よぞら 作曲 Zeal Blood 作品 戦女神VERITAED
https://w.atwiki.jp/sinrps13/pages/19.html
太子は一人、周囲に悟られぬよう細心の注意を払いながらも溜息を吐いた。 この半年、海峡を挟んで繰り広げられた小競り合いに、先ほどペン一本を走らせて 終止符が打たれた。辛うじてわが国が勝利を収めた形となり、今はわが国の貴賓 館に招いたかの国の貴族の面々と共に新たな和平を祝う宴席が繰り広げられてい た。その戦勝の席で先刻まで敵国同士であった貴族たちが空々しい談笑で室内を 満たす中、王の名代たる太子としてそつなく振舞いながらも、内心一人無聊を囲っ ているというのが偽らざる心境である。最早警備は不要と両脇に立つ騎士をも 下がらせ、ただこの場を退く折を見計らっていた。 宴席の端に設けられた演台で、扇情的な衣装の歌姫がリュートの伴奏に合わせて 寿ぎの歌を歌っている。 王朝開闢以来、いやそれ以前より、幾度も同じ光景が時代と役者を違えて再現さ れてきた。 比類なき武勇を誇るわが国の騎兵団も、こと海戦では船倉でその蹄を虚しく鳴ら すことしかできない一方で、かの国は1民草に至るまで海に育ち海に死す、まさ しく水の民である。 国力としては象と狼ほどの差が歴然と存在しながらかの国が永らえてきた理由は、 まさに海の存在に拠る。大波渦巻く海峡を自在に渡り、大海を乗り越えて遠国と の貿易盛んなかの国の軍船は、わが国の熟練した船乗りすらも容易く翻弄する。 それに対し艦隊規模の軍船を収容できる軍港が海峡内側にしか存在しないわが国 は、海峡の向こうを未だ拝めずに時を重ねてきた。 遠国との貿易は全てかの国を通し、海峡の通行税を収め、積荷を改められた上で 行われる。その利益、すなわちわが国の損失は膨大ではあり、国内ではかの国を 制圧し貿易の活性化を望む声が常に高い。 しかしながら、海戦においてかの国を圧倒することは実質不可能事であり、物量 に頼った侵攻を行えば周辺国からの防衛が危ぶまれる。歴代の王は国内の不満と 現実との擦り併せに常に悩まされてきた。 結果、この宴席に至る。 3代ヒディールの御世、当時のモルトフォーラ家当主の立案によって結ばれた密約。 兵卒の血脂で動く調整弁。すなわち不満の声が高まれば兵を動員し、勝敗の如何で 税の増減、制約の緩急を調整するが本国侵攻までは行わないという合意である。 以降10数年置きにこの弁は開き、「僅かな」損害を経た後で、美食に舌鼓を打ち つつ次の10数年分の契約書にサインする、という慣習が継続されてきた。 偽りの和平と騒乱。そのような生贄行為を糾弾しようとする「英邁」な人格者は、 現れるたびに言葉か、尊厳か、立場か、命を失ってきた。それだけ、この制度に は甘美な実が成っていた。 また一つ溜息をつきそうになったところで、かの国の貴族である青年に話しかけら れ、そのまま飲み下した。この顔は先に名乗りを受けて知っている。大公家の継嗣。 敵国の王の名代。慌てて浮かない顔が出ていないか再確認する。 初陣であった太子は、この戦で師を失っていた。幼少の頃より傍仕えとして共にあ り、長じてからは剣と、乗馬と、戦と、人生の彩りを教えてくれた彼の師は、その 力量を振るう場も与えられぬまま、乗船とともに海中に没した。 下層民との混血であった彼の師は、太子指南役という大役を与えられながらもその 身分は限りなく低いものでしかなかった。其れゆえか快活な人柄に比して意外なほ ど武勲を欲していた師が、この戦を好機と捉えたのも太子には想像に難くない。 この戦の裏側を知らぬまま焦燥に駆られるように危険な任務を志願し、生贄として の意味合いしかない上陸部隊へ配属された挙句の無益な戦死であった。 初陣の報告をした際、師の態度に疑問を抱かなかった己の無思慮が太子には許しが たく、その強い意志を体現した眉を顰めさせていた。 「・・・先ほどから浮かないご様子。殿下にはご気分でも優れませぬか?」 適当に会話を受け流していた先刻の貴族が、気遣わしげな声をかけてくる。如何にも 煩わしいが正直に告げるわけにも行かず、僅かに表現を変えて心情を吐露した。 「いや、そのようなことはない。が、僅かとはいえ失われた兵どもを思えば心は晴れ ぬ」 師に聞かれれば惰弱と叱責されそうな言葉がまろびでてしまったことに、太子は内心 動揺したが、それを表に出すことは辛うじて押しとどめた。剛毅たれ、という師の教 えを守るには、精神の表皮が破れすぎていた。 それは相手にとっても同様だったらしく、口元を綻ばせて呟く。 「これは・・・「天秤王の大鉈」とは思えぬお優しいお言葉」 「貴様、謗るか」 国内の賊討伐などで得た異名を、太子は内心快く思って居なかった。其れを論い、己 の武勇ごと辱められたと感じ、射殺さんとばかりの眼光で睨みつける。帯剣していれ ば実際に斬り捨てられかねない殺気に、公子は怯んだ。 「そのような意図は微塵も。無礼が過ぎました。殿下には平にご寛恕賜りたく」 真顔に帰った公子は、叩頭し謝罪を口にした。周囲の視線に次は己が鷹揚さを問われる とは、太子も承知している。もとより本気で気に障ったわけでもない。あっさりと矛を 収めた。 「よい、予も軽率であった」 「軽率などと・・・。まさに王者の仁でありましょう」 「そのようなものではない」 阿る様な口調に、軽い不審と軽蔑を抱く。和平の席とはいえ、自国の兵を討ち果たした 相手に謙るとは何のつもりか。2人の若者を取り巻く視線はもはや興味を失い、演台に 現れた卑猥な衣装の踊り子に注がれていた。下卑た酔漢の歓声が、二人の会話をかき 消していく。 「いやいや・・・。次代の王が王者たるを聞けば、みどもは安心奉りまする」 「その仁とやらが、貴国に向くとは些か都合が良いのではないか?」 「無論でございます。王者の徳は王者が国を照らすのみ。ただ、徳を持つ王者同士なら 新たな道を照らすこともできましょう」 「・・・何の話だ」 「未来の話です」 晴れやかな笑顔で語る公子に、毒気を抜かれた体の太子は苦笑するほかなかった。 「仁だの徳だのと・・・東(あづま)かぶれか貴公」 海の向こうの遠国、とりわけ東方の諸国は多数の思想家を輩出し、その教義は海を越え この大陸にも伝播してきていた。その新しい思想は若い世代を魅了し、「東かぶれ」と 呼ばれる層を生み出し始めている。 「おや、殿下もご存知であらせられますか」 「言の端程度にはな。貴国が荷改めなぞせねば、もっと広くしろしめたやも知れんが」 「これはしたり」 「笑い事ではない」 苦笑した公子を、太子は真顔で諌めた。 積荷制限は食料、物資から文献、技術にまで及ぶ。しかし、技術や思想等を押し留める 事は無理があり、僅かな道筋から国内に流入していた。とはいえ、高い精度の機材等を 要求する技術を取り入れるにはあまりにも細い間口であった。 「いや、これは喜び故でして・・・。やはり殿下は既にして王者であらせられる」 「今度は嬲るか」 もはや太子は怒気を発する気もなく、呆れながらに言い捨てた。 「滅相もござりませぬ」 慌てて否定するが、公子の笑みは消えない。 「偏に、喜ばしいのでございます。生贄を捧げずとも、新たな時代が築けましょう」 太子は表情には出さず、しかし内心驚愕する。数百年続くこの戦の連環を、「生贄」と 表現したのは己以外で初めてであった。しかも、その言葉の意味するところは今上の否 定である。凡そ和平の席で、形式上とはいえ敗戦国の貴族が口にする事柄ではない。 「貴様、陛下を愚弄するか」 動揺を噛殺し、太子は多重の意味を込めて問う。 「愚弄などと。貴国の今上陛下はまさに鋭才。天秤王の異名に恥じぬ慧眼をお持ちでご ざいます」 「ならばよい。ゆ・・・」 幾許かの心残りを掃き清めるように吐き出しかけた許しの言葉に、公子は平然と毒を被 せた。 「しかしながら、否定いたします」 あまりの事に太子は二の句を失う。 「恐れながら両国の今上陛下は鋭敏、慧眼にてその才は疑う所にありませぬが、いささ か利の追求に過ぎます」 踊りと伴奏が激しさを増し、最早2人に視線を置くものは一人としていない。喉の渇きを 覚え杯を探したが、すでに干していた。 公子は熱情すら感じる視線をまっすぐに注いでくる。 「天秤王とはよくも申したもの。算盤勘定を至上の命題として己が臣民を天秤の重石と するとは、王者にあらず、商人の所業。娼館にでも篭もって命の代価でも数えるがふさ わしかろうかと」 父王を貶める物言いに、しかし太子は反駁できなかった。 「・・・まだ杯は酔うほどには満ちておらん。貴公、語る時には至っておらぬぞ」 「杯が干されているなら、注げばよろしかろうかと」 手ずから、太子の杯に葡萄酒を注ぐ公子は平然と告げる。 「貴公!」 「さ、どうぞ」 無礼とも取れる親しげな態度で、杯を太子の手に握らせる。笑顔だが、目の熱情は一層の 輝きを放っている。自然、太子の声は潜められる。 「貴公、何を言っているのか分かっているのか」 「少々お待ちいただけますか」 公子は付き人を呼び寄せると、何事かを伝えた。付き人は舞台袖へと駆けていき、程なく 演奏と踊りがより激しく蠱惑的なものとなった。 会場内では袖へと退いていた男女の踊り子達が舞台衣装のまま練り歩き、酔客たちを魅了 している。もはや主賓席には何人も注意を払っていなかった。 「・・・貴公の手の者か。身元は確かという触れ込みだったが」 余りの迂闊さに、太子の顔に自嘲がこみ上げる。戦勝の席で暗殺の憂き目に遭っていたら、 どれだけ後世に笑いを残したことか。 「利で結ばれた者は、小さな障壁なら利で転ぶのです。そのご様子では、ご存知で無いと お見受けいたします」 「・・・何をだ」 「侵攻艦隊3艦、沈んでおりませぬ。いや、正確には沈んでおりませなんだ」 「貴国が沈めたのであろうが」 「さにあらず。そもそも沈める腹積もりなど、両国とも」 「何の為に」 「駄馬をただ斬り殺すより、荷役にでも売り払えば些か元も取れましょう」 「・・・奴隷か!!!」 激昂しかかる太子を公子は押し留める。 「お平らかに。先ほど殿下がおっしゃられたとおり、杯はまだ満ちておりませぬ。」 その言を正しいとしながらも、筋骨に満ちる力を押しとどめるにはなお努力が要った。 掌と拳を力いっぱい打ちつけ、しばしの歯噛みによってその怒りは腹腔へ飲み下され る。 「ばかな・・・しかしあの父なら・・・」 「そも、この和平は利によって齎されております。さて、その利はどこから得られま しょうや?国益とはまた別の利が、必要ではありませんか」 「・・・」 「まこと、天秤王は慧眼たるかと。一滴の血すら銭にいたしまする」 「侵攻艦隊は下級兵とはいえ精鋭で固められていた。そう易々と奴隷などに堕すものか。 逃げ出して声高に呼ばわれば破綻する、稚拙な戯言だな」 脳裏に誇り高き師を描きながら、太子は否定を唱える。 「行軍中に薬物にて声と抵抗を奪い、遠国で売り払う心積もりだったとか」 「よくもそのような陰謀が発覚したものだな。埋伏はお家芸か」 嘲笑しようとして失敗した太子は、杯を干しにかかった。 「我らもこの事を把握したのは、つい3日前に過ぎませぬ」 「先の言では、全艦沈んだような物言いだったが」 「3番艦の生存者が、わが国に漂着して発覚しました。其れが無ければ」 「3番艦・・・」 師も、3番艦に配属されていた。 「曰く、道中で彼のものがその事実を知るに至り、蜂起して各艦を開放するも貴国の 艦隊より包囲され衆寡敵せず、包囲殲滅の憂き目に」 「その者は」 「残念ながら。戦傷深く、遭えなく」 「名は申したか」 「名乗られませなんだ。誇りを汚すと。鳶色の髪と瞳を持った、美しい女騎士でござ いました」 絶望が、太子を飲み込んだ。