約 245,191 件
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/13389.html
imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Cindering Cutthroat.png) 「『火遊び』などはしない。火は仕事のためにのみ使うものさ。」 "We don't ‘play' with fire. It is strictly business." ブルームバロウ 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/9340.html
彼奴ら鼠はうんざりなこと。彼奴らが金のためにする事々、他の生き物には思いもつかぬことばかり。もちろん、それは言葉に尽くせぬほど役に立つ。 ――曇り鏡のメロク "These nezumi, they disgust me. The things they will do for money no other thinking creature would consider. This, of course, makes them useful beyond words." ――Meloku the Clouded Mirror 神河物語 マスターズ25 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/942.html
「キミは疑問には思わないのかい?」 ホテルの一室。 読みかけなのだろう開いたノベルスを手にしたまま、ダブルベッドに腰掛けた男は小さく肩を竦めた。 軽くウェーブのかかった長髪が、その肩に当たって揺れる。 P・佐久野――それが、衣梨奈の目の前にいる男の名前。 ついでに言えば、衣梨奈の「同業者」ということになる。 遺伝子の半分がイギリス人という佐久野は、なるほどそれを思わせる顔だちをしている。 通った鼻筋に、澄んだ色を湛えるブルー・アイ。 そこに、今も口元に浮かぶ優しげな微笑が加われば、大抵の女性はときめくだろう。 「別に思わんけど」 だが、無愛想な衣梨奈の返答に、艶めいた色は皆無だった。 イケメンに興味がないというわけではない。 衣梨奈にとって、「標的」は「標的」意外の何ものでもない…という、ただそれだけのことだった。 「少しは思った方がいいよ。明日は我が身かもしれないって心配じゃないのか?」 佐久野が呆れたような微苦笑を浮かべる。 「依頼人は茶渕さんだろう?僕も依頼を受ける相手を間違えたみたいだ。想像以上に小心者だなあの人も」 「依頼人のことは言えん」 「分かってるよ」というように手をひらひらと振り、佐久野はため息を吐いた。 「自分の弱みを知る人間を消して安心したと思ったところで、今度はそれを請け負った人間が邪魔になった。…どうだいこれ。キミは本当に疑問を抱かないのかい?」 「疑問なんてないと。衣梨は自分の仕事をするだけやけん」 「キミが僕を無事殺したとして、茶渕さんは安心するだろうか?…しないね。今度はキミが邪魔になってまた誰かに依頼が行くだけだ。そう思わないか?」 「かもしれんけど、そんなん知らん。それは衣梨の考えることやないけん」 衣梨奈がそっけなくそう返すと、もう一度ため息を吐き、佐久野はベッドから立ち上がった。 「…やれやれ。聞く耳持たずか。茶渕さんにとっても結構便利だと思うんだけどなあ、僕の存在。僕みたいな“殺し”ができるヤツはあまりいないのに」 柔らかい笑みを湛え、半開きの本を手にしたまま、佐久野は衣梨奈の方へ真っ直ぐ体を向ける。 身長はそれなりにあるが、全体的にほっそりとしていて、その立ち姿はどちらかといえばひ弱にさえ映る。 物騒な「業界」に身を置いているようにはとても見えず、それこそ静かに本でも読んでいる方が明らかに似合っている。 実際、腕相撲したら衣梨奈が余裕で勝つんやないと? そうは思いながらも、もちろん衣梨奈に油断の思いはない。 むしろ、この華奢さでこの世界を渡ってきたという事実が、逆に強い警戒を促す。 「仕方ないな。降りかかる火の粉は払わなくちゃね。話して分かる相手なら僕も無駄な“殺し”をせずに済んだんだけど」 口元に笑みが張り付いているのは先ほどまでと変わらない。 だが、その種類が明らかに変わったのが見て取れた。 「僕が何て呼ばれてるか知ってるかい?」 「んー…『イリュージョニスト』やっけ?」 「光栄だね。その通りだよ。まるで人体消失マジックのように、人一人をきれいさっぱりこの世から消してしまうからそう呼ばれてる」 「…知っとー」 「そうかい?ありがとう。でも、どうやって消しているのかは……知らないだろ?」 甘い声で紡がれる佐久野の言葉に、衣梨奈は無言を返す。 知らないが、知らないと答えるのは少し癪だった。 「人体消失の魔術師」とあだ名される佐久野は、請け負った「標的」を完全にこの世から消し去ることで知られている。 殺した相手の死体が存在しなければ困る者とトラブルになったことも過去にはあるようだが、その逆の者にそれなりに重宝もされていると聞く。 しかし、何しろ「モノ」が残らないだけに、「業界」の中には「本当に殺してるのか?」と皮肉めいた疑問を口にする者も少なくない。 殺し屋と言われるよりも結婚詐欺師とでも言われた方がしっくりくる風貌も相まって、「魔術師」ではなく「詐術師」なのではないか……と。 だが、佐久野が請け負い「始末」したはずの人間がどこかで生きていたという話は聞かない。 何より、臨戦態勢の本人を目の前にして衣梨奈は確信していた。 この男は、間違いなく「魔術師」っちゃん。 「キミはもう、僕のステージの上にいる。『イリュージョンマジック』の舞台の上に」 舞台に見立てているのか、佐久野は手にした本を、開いた面を上にして持っている。 ……本? この期に及んでまだそんなものを持っていることに違和感を抱いた直後、佐久野はその本をパタリと閉じながら言った。 「亜本―オッド・ブック―」 「!!」 同時に、信じがたいことが起こった。 衣梨奈の左右から壁が一気に迫ってくる。 反射的に「潰される!」と思った直後、衣梨奈は気付いた。 …違う、壁やないっちゃん! 衣梨奈を挟み込むように、「景色そのもの」が左右から倒れ込んでくる。 自分は今、「潰され」ようとしているのではなく「閉じられ」ようとしている。 さながら、佐久野の手の上にある本のように――― 「さよなら、思慮の浅いお嬢さん」 ◆ ◆ ◆ 「さよなら、思慮の浅いお嬢さん」 微かに侮蔑の色が込められた笑みとともにそう言うと、佐久野は手にした本をベッドの上に置き、クローゼットに入れたコートと荷物を取りに向かった。 薄々感じてはいたが、茶渕の呼び出しがフェイクだと分かった今、長居は無用だ。 それにしても舐められたものだ。 コートに袖を通しながら、思わず舌打ちをする。 この「魔術師パトリック」を、安易に口封じのため始末しようとするとは。 それも、あんなロクに本も読まなさそうな愚かな小娘を差し向けられるなど、屈辱以外の何物でもない。 「この代償は高くつくよ」 小さく呟くと、ベッドの方へと戻る。 白いシーツの上、薄茶色のブックカバーをかけられた本が載っている。 これまで、何人もを「消失」させてきた「凶器」とはとても思えない静かな佇まいだった。 「亜本―オッド・ブック―」と自ら名付けた佐久野の能力は、この本と連動している。 本を開き、しばらく相対し会話をすれば、その相手はもう「ページ」の上だ。 それを閉じることにより、相手を「本の中」に葬り去ることができる。 佐久野自身、どこなのか分からない「亜空間」に。 ベッドの上の本へと手を伸ばす。 ことによっては茶渕も「本の中」に始末することになるかもしれない。 「……?」 そこまで考えたところで、伸ばしかけていた佐久野の手が中空で止まった。 僅かにベッドの上の本が動いた気がしたからだった。 「気のせい―――」 言いかけたところで、その顔が驚愕に歪む。 信じられないことが起こっていた。 ミシミシと音を立て、本が裂けていく。 本だけではない。 室内の空間に、それに合わせるかのような裂け目が出現し、広がりつつある。 次の瞬間――一際大きな音とともに、その裂け目が一気にこじ開けられた。 「ひぃっ!」 大きく開いたその隙間から2本の腕がニュッと突き出した瞬間、佐久野は知らず悲鳴に近い息を漏らした。 突然現れた2本の腕は、空間をさらに派手に劈いてゆく。 もはや「破壊」されたといっていい状態になったそこから、腕に続いて肩が、頭が、そして全身が現れる。 「あんたの手品のタネはこういうことやったっちゃんね」 空間の裂け目から現れた女――衣梨奈は、そう言うとニヤァッと笑った。 「ひ……」 再び、佐久野の口から息が漏れる。 それは、かつて感じたこのとないほどの恐怖によるものだった。 「ど、どど、どどどうして……」 理屈ではない恐怖の感情に苛まれながら、半ば無意識に問いかけの言葉が口を突く。 衣梨奈への問いというよりも、それは自分自身に向けられた問いだった。 「やけん、聖は衣梨にこの仕事させよったんやね。やっぱ聖に任せとけば間違いないと」 衣梨奈のその言葉も、佐久野にではなく自分自身に向けられたものだった。 「あんたの『魔術』は衣梨には効かんと。衣梨も魔法使いやけんね」 「ま、魔法…だって…?」 混乱した頭を、衣梨奈の言葉がさらに掻き乱してゆく。 「じゃ、今度はこっちの番っちゃん」 「ひっ……」 向けられた笑顔に恐慌をきたし、今度は思わず息を吸い込む。 吸い込んだ息の吐き方を忘れ、呼吸ができない。 見開かれた目に、一歩、また一歩と近づいてくる衣梨奈の姿が映る。 「く、来るな!来るなぁっ!!」 振り回した腕が軽々と受け止められ、強い力で捻られる。 体が浮いたと思った次の瞬間、背中から床に叩き付けられ、一瞬視界が白くなる。 「か……は……」 何とか弱々しい息をした直後、何かが頭を掴んだ。 白飛びしていた世界に色が戻ってくる。 そこには、馬乗りになり、恐怖そのものの笑顔を浮かべて両手で頭を掴む衣梨奈の姿があった。 「た、助け―――」 「バイバイ、軟弱なイケメンさん」 その声が耳に届くのと同時に、佐久野の中に何故か「本」のイメージが浮かんだ。 先ほど、真ん中から裂かれて真っ二つになった本の残骸のイメージが――― ◆ ◆ ◆ 「やっほー聖ー、エリキテルだよー。お仕事終わったよー」 「ご苦労さま。…エリキテルって何?」 「ポケモンでエリキテルっておるらしいっちゃん」 「あ、そうなの?だからって意味はわかんないけど」 「ところでさー、聖あいつの能力知っとったと?」 「ううん、はっきりは分かんない。どんな感じだったか後で教えて」 「はぁ?嘘やん?分からんやったと?」 「あ、もちろん色々調べてほぼ確信に近い予想はついてたよ。えりぽんなら楽勝な相手だったでしょ?」 「まあねー。余裕すぎだったよね。やっぱりさっすが聖はわかっとー」 「とにかくちゃんと後始末して帰ってよ。無事に事務所に戻るまでが仕事なんだよ」 「はーい。あ、そうだ。いっこいいと?」 「何?」 「あの魔術師が言ってたんだけどさ、茶渕って人、今度は衣梨たちのことが邪魔になるんやない?って」 「うん、だろうね」 「はぁ?じゃあ衣梨のこと殺しに来るやつがおるかもしれんいうこと?超面倒なんだけどー」 「大丈夫、それはないと思うよ。そういう人だっていうのは丸分かりだったし、ちゃんと手を打っといたから」 「そうなん?どんな?」 「後でゆっくり話すよ。ちゃんと後片付けしていい子で帰ってきたら」 「へいへい、わかりましたよもー。じゃあばいぽーん」 ◆ ◆ ◆ 「相手が悪かったね、『魔術師』さん」 電話を切り、聖は呟く。 佐久野がいわゆる「亜空間」を操ることのできる稀有な能力者であることは、集めた情報からほぼ確信していた。 そして、それ以外は至って脆弱な人間であるということも。 衣梨奈にとっては、その辺のチンピラ以下の相手だったはずだ。 無形物破壊―テアリング・アームズ― 衣梨奈の能力は、その名の通り「形の無い物」を引き裂き破壊することができる。 普段は「精神」を破壊することがほとんどだが、今日は珍しいものをぶち壊せて満足だろう。 「パトリック佐久野」の書類に「済」の印を入れる。 そして、契約の際“手を打った”ときの依頼人の真っ青な顔を思い出して、少し笑った。 『不安そうな顔をなさっていますね。私どもが信用できませんか?』 『いや、そんなことはない。もちろん信用している』 『依頼人のことは、どのようなことがあっても決して漏らすようなことはありません。その点はご心配なさいませんよう』 『わかっとる。心配などしていない』 『…もしも、どうしても不安が消えないということであれば、一つだけいい方法がありますよ』 『…なんだ?』 『とても簡単な方法です。……あなたが死ねばいい。死ねば不安は無くなります』 『な……!貴様…!自分が何を言っているか分かって――』 『よろしいですか?この手の契約には、お金と同じくらい互いに信頼し合うことが大切です。そして信頼はお金では購えない。…分かりますね?』 『わ、わしは信用しとると言っている!』 『それならば結構です。私どもも信用致します。あなたの命を懸けたその言葉を』 色々と失いたくないものが多いゆえの小心さを持つあの男が、自分の命を人一倍大事にしているのも透けて見えていた。 過去に茶渕の周辺で起こった不審死のいくつかにもこの事務所が関わっている…という話を、宣伝を兼ねてそれとなくしておいたのも効果を発揮しているはずだ。 こちらを裏切る方が愚策だとさすがに思っただろう。 もちろん本当の意味の信頼関係など当然築けるわけもないが、ともかく互いに利害が一致する間は表面的な関係が築けていればそれでいい。 今は、こちらにとってもあの男には利用価値がある。 「さて、これは誰がいいかな…」 呟き、書類をめくる。 喜ぶべきか呆れるべきか、現在立て続けに複数の依頼が舞い込んできている。 いくつかは同時進行で行ない、聖自身も「現場」へ出向かねばならないだろう。 だがそれより何より、それぞれの資質に合った割り振りをするこのときに最も頭を悩ませる。 軽くため息を吐き、聖は「仕事」の振り分けを再開した。 投稿日:2013/12/25(水) 21 31 32.54 0 back 『リゾナント殺人請負事務所録』 Interlude.4~R線上の殺し屋たち~ next 『リゾナント殺人請負事務所録』 Interlude.6~復讐と殺し屋たち~
https://w.atwiki.jp/opedmiroor/pages/967.html
バーを後にするキリ (終)
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/941.html
ギシ――― 微かに藻掻いた聖の体に、さらに厳しく縄が食い込んでくる。 「んっ…んぅ……」 漏らした声は口に押し込まれた猿轡に遮られ、視界もまた同じく目隠しによって遮られている。 視覚を奪われて鋭敏になった耳に、微かに縄の軋む音と自分の鼓動、そして傍らにいる男の息遣いが聞こえてくる。 「みじめな恰好だね。お似合いだよ」 その言葉とともに、聖の顎から首筋にかけて、かさついた指が這う。 自由を奪われた体をよじり、声にならない声で必死に呻くと、男の息遣いが僅かに荒くなったのが感じられた。 「私はちょっと出かけてくるから、しばらくそこでそうしていなさい。自分の立場をゆっくりと噛みしめながら」 聖の全身にめぐらされた縄の具合を一通り確認していた男が、ベッドから立ち上がる気配がした。 その行動が男を喜ばせ、昂らせることを知りながら、聖は再び拘束された体をくねらせ、猿轡越しに声をあげる。 「私をこんなままにして行かないで」と、全身を使って訴えた。 「そんなに心配しなくてもまた戻ってくるさ。1時間後か、2時間後か…それとも1日後になるかは分からないけどね」 不安を煽る言葉を楽しげに投げかけた男の気配が、聖から段々と離れていくのを感じる。 やがて、ドアを開ける音、「いい子にしてるんだよ」という声、そしてドアが閉まる音が続けて聞こえ、室内は静まり返った。 自分の鼓動と息遣いだけが耳に届いてくる。 厳しく緊縛され、窮屈に折り畳まれた体を動かそうとすると、縄が擦れて軋む音がそこに加わる。 身動きはほとんどできず、藻掻いても縄は緩みそうにもない。 都内にあるシティホテルの一室。 そのベッドの上で雁字搦めに緊縛されたまま一人取り残されては、ひたすら男の帰りを待つしかない。 ……とはいえ、男がすぐに帰ってくることは分かっている。 ラウンジでゆっくりコーヒーを飲み、時間を見計らって戻るのがあの男の「形式」だ。 あんなことを言っていたが、調べ上げたこれまでのパターンから見ても、せいぜい30分だろう。 興奮を押し隠せていなかった様子から鑑みて、案外それよりも早いかもしれない。 そこまで考えたとき、ドアが開く音が聞こえた。 ―――? いくらなんでもさすがに早すぎる帰還に、目隠しの下の眉をしかめる。 男が忘れ物でもしたのか―――それとも別の誰か……? 前者ならば問題はないが、もしも後者であればややこしい事態になることもあり得る。 もちろん、そういった場合にどうするかといったシミュレーションも、事前にある程度は重ねてある。 何しろこの「仕事」において、不測の事態などつきものだ。 だが、次の瞬間聖の耳に届いた声は、それらの想定からやや外れたものだった。 「譜久村さん、いますか…?」 ――亜佑美ちゃん…? 押し殺した囁くような声だが、亜佑美のものに間違いない。 今回の案件への関わりはないはずだが、どうしたのだろうか。 そう訝しく思ったところで、息を呑むような気配が伝わってきた。 「ふ、譜久村さん……です…よ…ね?」 次いで、明らかに狼狽したような声の問いがこちらに向けられる。 「うー」 言葉での返事はできないため、布越しのくぐもった声と共に頷いて返す。 「これは…その……捕まったとかじゃなく……その、なんというか、そういうあれの最中…ってことです…よね?」 ふふ、しどろもどろになっちゃってかわいなあもう。 耳まで真っ赤になっている亜佑美の様子が目に浮かぶようだ。 口が自由なら、すぐさま「ん?『そういうあれ』って何?」などと追い詰めて意地悪してみたかったところだけど残念。 聖、本当はそっちの属性なんだけどなー。 「うー。ううぃんん、うういえ」 代わりに、猿轡を外してくれるようにアピールする。 亜佑美はすぐにそれを理解したようで、ベッドに駆け寄ると、聖の頭の後ろの結び目に手を掛けた。 聖だったら、分かってても「え?何て言ってるの?」なんてわざと焦らすところだけどなー。 そんな聖の内心を知る由もない亜佑美は、猿轡と目隠しの布を注意深く外した。 「…ふう。どうかした?何かあったの?」 自由を取り戻した口で亜佑美に問いかける。 「はい、あの、井寺さんとこの若さんが亡くなられたみたいなんです」 「井寺専務が…?どうして?」 「状況は自殺とも他殺とも取れるみたいなんですけど、自殺するような人じゃないですよね?」 「そうだね。そっか……参ったな」 殺された理由は分からない。 殺される理由がないからではなく、ありすぎて。 井寺尋――株式会社IDELAの専務取締役――は、聖のいる「リゾナント」の「得意客」の一人だった。 「表」の顔も持ってはいるが、基本的には聖たちと同じ「裏」で生きている人間故に、殺されたことに対する驚きはさほどない。 問題なのはタイミングだ。 「確か、今も井寺さんからの依頼受けてましたよね?」 「うん」 そう、今まさにそれが進行中なのが問題だった。 もしかするともう終わってしまっているかもしれない。 というよりも、終わっている可能性の方が高い。 そうであったにせよ、今回の件は会社としてではなく珍しく井寺個人の依頼であったため、契約はご破算にせざるを得ないだろう。 今回の依頼に当たらせた遥と優樹にも、できるだけ早く連絡をしてやらなければならない。 「そう思って知らせに来たんです。お仕事中なのは分かってたんですけど」 「ありがとう。お仕事中というか、お楽しみ中だったんだけどね」 「え…?い、いや、でも、それもその、仕事のうちというか…ですし…」 「亜佑美ちゃんもこんなことしてみたい?今度、聖とする?」 「し、し、しませんよ!な、何言ってるんですか譜久村さん!」 くぅ~!かわいい~かわいいよぉ~~~ かわいいけど、これ以上遊んでいる場合ではない。 聖の「標的」であるところのあの男も帰ってきてしまう。 「何だ残念。じゃあ亜佑美ちゃん、この縄もほどいてくれる?」 「え?私がですか?私が解かなくても譜久村さんなら自分で……」 「だって亜佑美ちゃんに手取り足取り胸取りほどいてほしいんだよー」 「…ちょっともう、さっきからセクハラみたいなことばっかりやめてくださいよ!私、もう行きますから」 「ああん、待って亜佑美ちゃ~ん。聖をこんなままにして行かないで」 「知りません!ほんとに行きますからね!」 さっき男に見せた数倍増しくらいの悩ましさで緊縛された肢体をくねらせると、亜佑美は慌てて背中を向け、ドアへと向かって怒ったように歩き出した。 その耳は、さっき目隠しの下で想像したように真っ赤に染まっている。 「すみません、お仕事中にお邪魔しました」 まだ少し怒ったような調子で、それでも折り目正しい挨拶をする亜佑美の声が聞こえ、ドアが開閉する音が耳に届いた。 ◆ ◆ ◆ 「どぅー、もう終わっちゃった?」 「いえ、まだですすみません」 「よかった。『依頼』は取り消し」 「はぁ?何ですかそれ」 スピーカー越しに、遥の憮然とした声が返ってくる。まあ当然だよね。 でも、まだ終わっていないのなら不幸中の幸いだった……って言うのかな、こういう場合も。 「ちなみに理由は教えてもらえますか?」「死んだ?どういうことですか」「誰に。何でまた」 遥から矢継ぎ早に発される問いに、短く答えてゆく。 相変わらずチャキチャキしているなと微笑ましく思ったところで、遥の声にため息が混じった。 「まあ依頼者がいなくなったんじゃどうしようもないですけど。ってか死なせちゃダメじゃないですか。譜久村さんは何やってたんですか」 そう言われては確かに一言もない。 ただ、言い訳をするなら、今回の依頼者はこちらでガードが必要な人間ではなかった。 でも遥は依頼者が誰かをそもそも知らないので、そう言われても仕方がない。 つい、弁解じみた言葉を返す。 「別の『仕事』でどうしても抜け出せなくて。それは片付いたんだけど」 「あ、まーが言ってましたねそういえば。そっちは無事終わったんですね」 遥の言葉に、視線を動かす。 その先には、海外旅行にも行けそうな大きめのスーツケースがあった。 中身はナイショ。ふふ。 亜佑美が出て行ってからしばらくして、上機嫌で帰ってきた男の命を奪うのは簡単だった。 何しろ、向こうはこちらの自由と尊厳を奪い、完全に支配したつもりでいた。 部屋に向かう無防備な背後から、その隷属させたはずの「従僕」に牙を突き立てられることも知らずに。 「うん、緊縛好きのおじさんだったのがちょっと…って感じだったけど、まあそのおかげで楽だったのもあるし」 亜佑美に劣らずうぶな遥のことも少しからかってみたくなり、そう言ってみる。 「はぁ、キンバク好きのおじさんすか」 だが、意に反して、遥からは気の抜けたような声が返ってきただけだった。 なんだつまんない。 仕方なく、話を元に戻す。 「それはいいんだけど、えらく遅いね?なんかあった?もう絶対終わっちゃったと思ってた」 「ええ、それなんですけど」 東京発→新大阪 新幹線のぞみ205号N700系車内――― そこで起こっている出来事を遥から聞かされるうち、聖は背筋が伸びるのを感じていた。 単純な殺しの依頼だと思っていたが、きっと裏に何かがある。 この依頼をしてきた井寺も、もしかすると知らなかった何かが。 複雑に絡み合った―――何かが。 あの人……何者なんだろ? 今回“命拾い”した「標的」の顔を、脳裏に描く。 井寺の説明では単なる一般人ということだったし、事前調査でも特異なところは見当たらなかったのだが…… とにかく、ただ殺せばいいというだけの単純な話ではなかったようだ。 早めに手を引けることになったのは、もしかすると運がよかったのかもしれない。 「もう『標的』を殺す理由がなくなったことはあっちも分かってるだろうから大丈夫だと思うけど、一応気を付けてね」 「分かりました」 念のため注意を促したが、遥も異常性を感じ取っているらしいのがその声から感じられた。深入りはしないだろう。 さすがだね、どぅー…とちょっと嬉しくなる。 「それと」 「はい」 「分かってると思うけど、“後始末”はくれぐれもしっかりね」 「…はい」 だが、こちらにはやや歯切れの悪い返事が返ってきた。 殺し屋にしては優しいところがあるのが玉に瑕なんだよね、どぅーは。 その甘さが命取りになるようなことがなければいいんだけど。 電話を切り、ベッドから立ち上がる。 こちらもなんだかんだ“後始末”がまだ残っている。 少なくとも、聖がここにいたという痕跡は完全に消して行かなければならない。 井寺の依頼の件も詳しく報告を上げないといけないだろうが、まずは目の前のことを片付けなければ。 「この縄……処分しようかな、持って帰ろうかな」 遥がいれば確実に突っ込まれそうな独り言を呟くと、聖は“後始末”を開始した。 投稿日:2013/12/17(火) 18 26 46.48 0 back 『リゾナント殺人請負事務所録』 Interlude.3~ビン入り殺し屋たちのおはなし~ next 『リゾナント殺人請負事務所録』 Interlude.5~殺し屋たちの資質~
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/4227.html
怪物に触手があるとは限らない。 Not all monsters have tentacles. 異界月 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/6775.html
ゾンビの執念に、暗殺者の狡猾。 The single-mindedness of a zombie, the cunning of an assassin. スカージ 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/13123.html
imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Cutthroat Maneuver.jpg) 「我々の野心こそが先に進むための原動力となっている。たとえ誰が所持していようとも、我々のものであると主張するだけだ。」 "Our ambition drives us forward. Together we will claim what is ours, no matter who holds it." テーロス 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/mtgflavortext/pages/4460.html
ひねくれたあいつの理屈では、影の世界から邪魔なものを放り出すことは、自分たちがそこから逃げ出すことと同じことなのです。 In their twisted logic, to empty the shadow world is to escape it. エクソダス 【M TG Wiki】 名前
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/985.html
時間は物事が同時に起こらないために存在する――― そう言ったのはアインシュタインだっただろうか。 それが真理であるのか、それともただの欺瞞に過ぎないのかは分からない。 ただ、その逆が、誰もにとって「真」であることはさくらにも分かる。 すなわち。 時間が存在するこの世界では、物事は同時には起こらない――― それが、この世界に生きる人間全員にとっての共通認識であるということは。 無論、人それぞれ様々な観点はあるだろう。 時間などというものは幻想であり、本来物事は全て同時に起こっているのだ…などと、哲学的な思想を抱く者もいるだろう。 だが、そう考える者も、現実には不可逆的な時間の流れの中に身を晒し、未来へと流されてゆく自分を止めることはできない。 そういった意味で、先の概念は間違いなく「共通認識」と言える。 抗えない無意識下の“コモンセンス”であると。 …では、そこから弾かれた自分は、一体何なのだろう? さくらは思う。 それはこれまでに何度も繰り返した問い。 そして、絶対に答えに辿りつくことはない問い。 誰も抗えないはずの流れから抜け出し、それ故に、この世界に生きる誰とも認識を共有できない自分は、一体何なのだろう。 異物?特異点?神? それとも、何ものでもないのだろうか。 その答えは、やっぱり今日も出ない。 「お嬢ちゃん、一人?」 「どこ行くの?」 あたりを見回す。 ぼんやりと歩くうち、見覚えのない場所まで来てしまったらしい。 「ヒマだったら、俺たちと来ない?いい仕事があるんだけど」 「あ、仕事っても簡単な仕事だからさ、心配しなくていいよ」 「そそ、楽勝でいっぱいお金もらえるよ。どう?」 もう一度周囲を見回す。 他に人影はない。 ということは、この人たちは私に話しかけているんだろうな。 同時に思う。 どこからどう見ても18歳未満にしか見えないだろう自分に「仕事」を持ちかけてくるっていうのは…そういうことだよね。 世事には敏い方ではないさくらにも、さすがにそれくらいは分かった。 「急いでますんで」 ありきたりの言葉を短く発しながら、再び歩き出す。 「急ぐ」という概念も、時間に捉われていればこそ存在するものだな、とふと思う。 つまり、自分が使っていい言葉では本来ないのかもしれない。 だからということはないのだろうけど、男たちはその言葉をおとなしく聞き入れてはくれなかった。 「急いでるようには見えないよ。ほんとは行くあてなくて困ってんじゃないの?」 「困ってる子見てるとほっとけないんだよ。特に君みたいなかわいい子が困ってるのはさ」 「そそ、俺たちのこと信じなって。悪いようにはしないから」 さくらの行く手を遮るようにしながら、男たちはまとわりつき食い下がってくる。 再び立ち止まらざるをえなかった。 改めて男たちを観察する。 3人組。年齢は全員「アラサー」といったところだろうか。 身長も体型も髪形もバラバラだが、雰囲気はおおよそ揃っている。 若干くたびれ気味のスーツに色付きのシャツ、趣味の悪いネクタイ。 それより何より、発散されるよどんだ空気が共通している。 この人たちを「信じる」のはちょっと難しい。 ただ、急いでいるように見えないという言葉に反論するのも難しい。 事実急いでいないし、何より自分が使っていい言葉ではないのだから。 「私、一人なんです。一人ぼっちなんです。今までも。多分これからも」 不意にそんなことを言い出した目の前の少女に、男たちは一瞬面食らったような表情を覗かせた。 だが次の瞬間、それまで以上の「親愛」の表情に変わる。 「そうかそうか、そうだったのか。かわいそうにな」 「それなら余計にほっとけないよ。いいからついてきなって。絶対にいいことあるからさ」 「そそ、もう一人じゃなくなるよ。君のこれからの人生はバラ色だって」 「OK」の意思表示だと解釈したのだろう男たちの、満面の笑みがかわるがわる迫ってくる。 だけど、もちろん言いたかったのはそういうことじゃない。 伝わるはずもないし、伝えるつもりもなかったけど。 「私は…バラ色よりラベンダー色の方が好き」 そう言うと、一瞬呆気にとられて固まった男たちをすり抜けて歩き出す。 2、3歩置き去りにしたところで、男たちの我に返ったような声が聞こえた。 「おい」「こら」「待てよ」 あーあ、我に返った分、地が出てるみたい。 「どこ行くんだよ」 追いつき、再び行く手に立ち塞がるようにしながら、そう聞いてくる。 それ、最初と同じ質問ですよね。 「どこに行くかは特に決めてません」 「だろ?だったら――」 「ただ」 ピョンっと後ろに一歩跳び下がる。 そして言った。 「あなたたちのいないところがいいなって思います」 一瞬、沈黙が降りる。 そして、その意味を理解したらしい男たちの顔に、完全な地の色が表れた。 「テメェ!」 「黙ってついてくりゃいいんだよ!」 「おら、来いよコラ!」 ガラの悪い言葉と同時に、手が伸びてくる。 そして――― その手はさくらの鼻先で静止した。 同時に、世界のすべてが動きを止める。 完全な無音の世界――絶対の孤独な世界が、さくらを包み込んでいた。 「私、一人なんです。一人ぼっちなんです。今までも。多分……これからもずっと」 自嘲気味に口にした先ほどと同じ台詞が、無音の世界に吸い込まれてゆく。 時間操作―タイムトリック― 「時間」に捉われることのない能力。 誰も抗えないはずの流れから、抜け出すことのできる能力。 そして私を絶望的なまでの孤独に追いやる能力。 できることなら、この能力は使いたくない。 否応なく自分が孤独であることを突きつけられるこの能力は。 自分が、この世界の誰とも認識を共有できない存在であることを実感させられるこの――― 「うわー、びっくり。こんなことできる人がいるなんて」 「!?」 びっくりした。 こんなにびっくりしたのは、これまで生きてきて初めてかもしれないくらいに。 まだそんなに生きてもないけど。 振り返った先には、一人の女の人がいた。 艶のある長い黒髪。 すらりと伸びた手足。 華奢な体。 その体を覆うモノトーンのワンピースは、ごちゃごちゃしない程度の柄が散りばめられている。 シャープなイエロー地に何かの絵柄がプリントされたトップスの上では、左右に分けられた長い黒髪が緩やかに弧を描く。 その髪を先の方から根元へと辿っていくと、ラベンダー色(!)のニット帽の中に吸い込まれていく。 そしてそのすぐ下には、ゆったりとした温和な笑みがあった。 「あ、ちょっと待ってね。今のうちにお仕事終わらせちゃうから」 柔らかい笑みを浮かべたまま、その女の人がややハイトーンな声でそう言う。 何が何やら分からないままに、頷きを返した。 「!!?」 びっくりした。 さっきの人生びっくり記録を早速更新しそうになった。 もしかしたら更新したのかもしれないけど、もうよく分からない。 だってそりゃ分かんなくもなるって話じゃないですか? いつの間にか女の人の手の中にあった小さなナイフ。 何の躊躇いもなくそのナイフが突き出されて、静止したままの男の胸に吸い込まれ、そしてまた抜き出されたんだもん。 あの、そこって、確か心臓があるところですよね? そんなとこにナイフなんて刺しちゃって大丈夫なんですか? 思わずそう訊きたくなったけどできないでいるうち、あっという間に残りの男に対してもそれは行われる。 「あっという間」っていうのも思えば時間の概念が……ってそれどころじゃないか。 「こんなに楽しちゃってよかったのかな」 女の人がそういうのと同時に、自分の能力の限界が来たのを知った。 時間が流れを取り戻し、世界が元通り動き出す。 でも、あの男たちは「元通り」というわけにはいかなかった。 それはそうだよね、だって心臓思いっきり突き刺されたんだもん。 バタバタと倒れていく男たちから慌てて離れながら、心ではのんびり冷静にそんなことを考える。 「戻す」こともできないことはなかったが、その気にはなれなかった。 「あの……これ、一体何が起こってるんですか?」 目の前で人が殺された(しかも3人も!)というのに、不思議と怖くはなかった。 感覚が麻痺してしまっていたのかもしれないし、女の人の持つ空気がそうさせたのかもしれない。 ううん、それより何より、やっぱり――― 「私の能力、『認識―グノーシス―』って呼ばれてる」 「何が起こっているのか」という私の問いに、女の人はただそう答えた。 でもそれはおそらく、私が訊きたかったことへの正確な答えの一端だった。 「認識……?」 「うん、お勤め先の名前にかけて『共鳴―リゾナント―』なんて言ってくれた子もいるけど」 「リゾナント……あの、つまりどういうことですか?」 「あなたは、時間を操作できる能力を持ってるんだよね?私は、それを『認識』した……ってこと」 そう言い、女の人は「何が起こったのか」の説明をしてくれた。 「あ...ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 」とか、「DIO様」がどうとか、ところどころよく分からない引用らしきものを交えながら。 一言で表せば、女の人の能力はその名前の通り「認識」をすることができる――ということだった。 今回の件で言えば、「止められた時間」を「認識」し、それによってその中に入って来られた…ということらしい。 自分で時間を操ることができるわけではないが、操られた時間を「認識」することはできる…と。 そのことについての理解は、正直なところはっきりとはできなかった。 だけど、理解できたこともある。 私、もしかして一人ぼっちじゃ……ない? 「あの、私、小田さくらって言います。お名前聞いてもいいですか?」 「あ、自己紹介まだだったね。私は飯窪春菜って言います。お仕事は殺し屋。さっき言った『リゾナント』は私のいる殺人請負事務所の名前」 「はあ……そうですか…」 そう言うしかないよね? ここまで来ると、ある程度もう予想はついてたし。 ただ、その先の言葉までは、さすがに予想していなかった。 「さくらちゃん、うちに来ない?一緒にうちでお仕事しない?」 なんかまた妙なお仕事に誘われちゃいました、私。 「あの、お仕事って…その……そういうことですよね?」 「うん、殺し屋」 真面目な顔で頷く春菜からは、冗談の空気は感じられない。 本気ですか?殺し屋?私が? 「でも、その、人を殺すのって……いけないことですよね?」 殺し屋に訊くことではないと思いながら、そう言わずにはいられなかった。 「うん、いけないことだよね。ただ、さくらちゃんは何でいけないか考えたことってある?」 そう返してきた春菜の顔は、どこまでも真面目だ。 はぐらかしたり、茶化したりしているのではないことは分かった。 考えたことは、ない。 考えるまでもないことだと思っていたから。 ただ、言われてみると、はっきりとした答えを言葉にはできない。 「飯窪さん…は、どう考えてるんですか?」 だから、逆に問い返してみた。 どんな信念を掲げて、この人は「いけないこと」をしているんだろう。 「ずっと考え続けてる」 「…え?」 帰ってきた答えは、また予想の外にあった。 「人を殺してはいけない。でもそれはどうしてだろう…って考え続けながら、私は人を殺し続けてるの」 「……変」 「うん、よく言われる」 少し笑い合い、真顔に戻る。 「それで、どうする?やる?」 舞い戻ってくる質問。もしかして、断ったら私も殺すつもりかな。 それならそれでもいい。でも何があっても私は私の納得する道を往きたい。 「ラベンダーの花言葉って、知ってます?」 質問に質問を、それも全然関係ない質問を返されても、春菜はまったく驚かなかった。 代わりに少し悪戯っぽい笑みが浮かぶ。 「さっき好きだって言ってたよね。♪時~を~駆ける少女~……だから?」 「…?あぁ!その発想はなかったです」 少し古く、そして少し調子はずれの歌に、新鮮な驚きを得る。 あの時間を跳躍する少女の物語の中では、そういえばラベンダーが需要な役割を果たしている。 そのことと自分を重ねたことはなかったけど、案外、深層心理では関係してたのかな? 「花言葉、知ってるよ。『疑い』とか『不信』…だったよね。まあ、そりゃあそうだよね。だって殺し屋だもん」 続けて、悪戯っぽい笑顔のまま、春菜はそう言う。 あー…そうね、確かにそれもラベンダーの花言葉。 だけど他にも……あること分かっててわざとああ言った顔だな、あれは。 「でも、こんなのもある。『期待』『私に答えてください』そして……『あなたを待っています』」 ああ、私、一人ぼっちじゃないよ。一人ぼっちじゃなかったんだ。 僅かに滲んだ涙を拭い、差し出された春菜の手に、その手を伸ばす。 何ものでもなかった少女は、この日、殺し屋になった。 2014/02/24(月) 14 15 57.61 0 ++クリックで作者のコメント表示 今回の話は(76)207 『絶望を越えた処に希望がある』リスペクトだということだけ言わせてください 絶望的なまでに原型なくて申し訳ないのですがw back Interlude.6~復讐と殺し屋たち~ next Interlude.8~メメントモリは殺し屋たちとの約束~