約 2,122 件
https://w.atwiki.jp/ryman-collect/pages/14.html
第1章 ただいま社員募集中 第2章 突然の訪問者 概要 1-1 面接をしよう 1-2 交流しよう 1-3 気持ちを探ろう ボス戦 VS芹沢瑞季 VS柴崎郁己 VS中峰恵一 概要 はじめから存在するミッション 芹沢瑞希、柴崎郁己、中峰恵一の内1名を選んでミッションを進めて行く形式 最初にクリアしたキャラのみ報酬としてそのキャラのRカードが貰える クリア後、ガチャから芹沢瑞希、柴崎郁己、中峰恵一が出現するようになる 消費スタミナ 獲得経験値 獲得サラリー -1 +1 +50 1-1 面接をしよう 獲得カード N和田 N空井 N須藤 1-2 交流しよう 獲得カード N空井 N須藤 N和田 1-3 気持ちを探ろう 獲得カード N矢野貴 N大野 N武井 ボス戦 VS芹沢瑞季 VS柴崎郁己 VS中峰恵一 消費スタミナ 獲得経験値 獲得サラリー -10 +5 +500
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/56.html
1スレ目 388-391その1 何故かその晩の恋人はすこぶる機嫌が悪かった。 その晩は特殊部隊の宴会で、かこつけた理由は先日昇進した隊員を祝うためだという。 郁からすればその理由も単に賑やかな席で酒が飲みたいからではないかとも思うのだが── 何かにつけて宴会したがる隊長とそのノリに付いていく先輩達を見ていると、そうとしか思えない。 とはいえ郁も賑やかな席は嫌いではないし、大半の参加者が食事よりも酒のウエイトが高く、好きなものを存分に食べることが出来るので、それなりに楽しみだったりもする。 惜しむならば、酒を飲み交わす堂上や小牧、手塚達を見ていると自分も飲めればよかったのにと思うこともあるぐらいだろうか。 あの輪に参加できない自分だけ除け者にされたような気がしてしまうからだ。 だから本来部外者である柴崎が参加してくれるのはありがたかった。 先輩達は柴崎の参加を諸手をあげて歓迎するし、郁も一人にならくてすむのだから一石二鳥だ。 ただ唯一問題があるとすれば柴崎は飲み過ぎるとキス魔になってしまうことだろう。 しかし絡む相手は酔っていても選んでいるようなので、それほど心配はしていないのだが、何故か柴崎が郁にキスをしようとすると周囲がどよめく。 キスといっても軽く唇が触れるぐらいものであるし、郁としては大したことではないと思うのだが──、 初めて付き合うことになった五歳年上の恋人は違ったようだ。 「教官、何怒ってるんですかー!?」 酒に弱い郁は一次会でリタイヤするのが常で、以前は直属の上官として、今は恋人として、堂上と基地へ帰る。 いつもは二人きりになれる僅かな時間だからと手をつないでポケットに入れてくれるというのに、柴崎が宴会に参加した晩はそうしてくれる気配すらないことに今晩気づいた。 ふてるようにスタスタと先を歩く堂上に郁はついていくのが精一杯だ。 それでも一人にはしないので、それなりに気遣ってくれてはいるのだが、呼びかけても会話らしい会話にならず郁には訳が分からない。 一体、堂上は何に怒っているというのか、全く分からない。 こちらを拒絶するような背中を見ていると、その背中が不意に歪んだ。 泣いているのだと気づいたのはそれから少ししてからで、泣いているのだと自覚すると途端に悲しさでいっぱいになった。 追いすがるように動かしていた足も気が付けば止まっていた。 堂上の背中がどんどん遠くなる。 もう手を伸ばしてもその背中には届かない、その心には永遠に届かないのかもしれない。 ひっく、としゃくり上げると、堂上は振り返るとぎょっとし、駆け足で近寄ってきた。 「こんなところで泣く奴がいるか、アホウ!」 「だって教官、呼んでもろくに返事もしてくれないし、あたしついていくのがやっとだし、それってあたしのこと嫌いになったってことじゃないんですか?」 すると堂上は酷くきまり悪そうにポケットからハンカチを差し出してくれた。 「──すまん。お前のせいじゃない」 「だったらどうして怒ってるんですか?」 堂上は言葉に詰まったように視線を反らした。 あたしに言えないことなのか、と違う意味でショックを受けると、堂上は違うと声を荒げた。 「違うんだ……ただ、その……今度から酒の席に柴崎は呼ぶな」 「どうしてですか?隊長や先輩達は喜んでるじゃないですか」 どうして堂上の機嫌が悪いことと柴崎が関係しているのか、郁にはさっぱり分からない。 首を傾げる郁に堂上は苛立ち半分諦め半分という表情をし、 「……お前が他の奴とキスしてるところを見せられて、俺が喜ぶとでも思うのか?」 「だって相手は柴崎ですよ?」 「柴崎でもだ」 そもそも郁の中では同性とのキスはノーカンだ。 学生時代から何故か異性よりも同性、しかも後輩から慕われることが多く、キスだって女同士のスキンシップの一つぐらいしか考えていなかった。 しかし堂上から見れば柴崎の郁へのキスは意図的であることはすぐに分かった。 あれは郁を盗られたことへの嫌がらせに違いないのだ。 郁にキスした後、彼女は決まって嬉しそうに堂上を見るのだから。 柴崎がどれほど郁を思っているのかは知らない。 だが他の同期との接し方が違うということは、彼女の中で郁の存在が特別あるということにはならないだろうか。 同性であるからこその友情と、決して異性のような繋がりを持たないことへの嫉妬──こちらを見る柴崎の視線を感じていると、そう思わずにはいられない。 こんな風に指摘されても郁は全く分からないというように首を傾げることも、柴崎は知っているのだろう、きっと。 「それに俺だと未だにガチガチに緊張するのに、柴崎相手だと平気なのが分からん」 「あっ、当たり前じゃないですか!」 さも当然のように反論する郁に堂上は途端に仏頂面になった。 身体を重ねるようになっても未だに自分からキス一つすることも出来ない郁の初心さが可愛いことも事実だが、自分以外の相手に平気な顔をしてキスされているとこを見てしまうと、やはり恋人としては面白くないのも本音だ。 「だって、お、男の人とキスするのは教官が初めてなんですからっ!そ、それに、す、好きな人とするのも……初めてだし……」 泣き顔だった郁の顔はいつの間にか熟れたトマトのように真っ赤になっていた。 結局最後はまともに喋れなくなり口籠ってしまった郁は拗ねるように堂上を見た。 郁からすれば睨んでいるつもりなのかもしれないが、堂上からすれば逆効果だ。 「え、あ、あの、教官、待って──」 「いやだ」 三十路過ぎた男が吐く台詞じゃないなと内心ぼやきつつ、戸惑う郁の唇を塞いだ。 ぐっと舌を強引に押しこんで逃げ惑う舌を絡め取り、吸い上げると、郁は苦しそうに眉を潜めた。 いつもならばこの程度で止めてやれるが、あんな破滅的に可愛い台詞を言われて、この程度のキスで収まりがつくはずがなかった。 狭い口内を蹂躙するように舐めあげて、貪りつくようなキスをこれでもかと味わった。 既にその頃になると郁の身体はがくんと力が抜けてしまい、ずるずると地面に座り込んでしまっていた。 ここが路上でなければ、そのまま仰向けに寝転がせて、更に郁自身を味わうことが出来ただろうに。 ゆっくりと唇を離すと郁の息は上がっており、その瞳は先ほどとは違う涙で潤んでいた。 こんな郁の顔が見れるのは、この世で自分だけだ──それが堂上の苛立っていた気持ちを静めてくれる。 そして求めるように、その唇から名を呼んでくれるのは自分の名であり──それがどうしようもなく堂上の欲情を煽るのを、この手に疎い年下の恋人はまだ気づいていなかった。 「──郁、」 そう名を呼ぶと郁の顔は一層赤くなった。 鈍い郁でも堂上が何を求めているのかは気づいたらしい。 何も言い返さないのは郁にとって了承と同じ意味だ。 地べたに座り込む郁を立ち上がらせると、堂上は今来た道を引き返した。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/58.html
1スレ目 396-399 海辺の出来事 「たまには、遠出するぞ!」 玄田の一言で海に出かけた、堂上班プラス玄田・柴崎・毬江・折口の8人。 折口の手配で世相社の保養所がある海岸にやってきた。 男女それぞれに別れて水着に着替えてビーチに集合することになった。 「お前、寮にいるときの格好とあんまり変わらないんじゃないか?」 「違いますよ!これはタンキニっていう水着なんです!これだと胸の小さいのをあんまり気にしなくっていいかな……ってなんでこんな言い訳」 「下も短パンか、てっきり柴崎みたいな水着かと思ってたんだがな」 「ああっ、他の女の人見ながらそんなこと、ひっどーい!」 堂上の視線の先には波打ち際を歩く柴崎と手塚の姿があった。 郁としては柴崎と比べられては立つ瀬が全く無い。 なんとか反撃をと考えてふと気づく。 「ん? なんで教官、着替えてないんですか?……もしかして、教官泳げないんじゃ」 堂上はここにくるまでに着てきた普通のTシャツに綿のパンツだった。 「こ、これはだな……みんな水着に着替えてたら、良化特務機関の襲撃に備えられないからだ……」 「こんな場所のどこに狩られる本があるんですかっ!?」 「いや、でも、もしもを考えて」 珍しく、しどろもどろになった堂上に郁はニンマリと笑いかけた。 「石頭でカナヅチって、なんかのギャグみたいですよ」 「あんたって、無意味なとこに自信あんのね」 手塚が身につけているのは、男性用のビキニパンツ。 ○島よしお御用達の品物だ。 「これはっ、学生時代ずっと競泳部だったからっ!小牧二正みたいな短パンだと、なんか足にからまって泳ぎにくいから……あれ、毬江ちゃんは?一緒に着替えに行ったんだろ?」 保養所が用意してあるパラソルの下で手持ち無沙汰に毬江を待っている小牧の姿があった。 柴崎は、ああとうなずくと、 「やっぱり、ほら寮で一緒のあたしや笠原だったら遠慮ないんだけど、一緒に着替えるのってちょっと恥ずかしかったんじゃないかしら、後でくるって」 「そういうお前は自信満々すぎじゃないか」 華奢だ華奢だと思ってたのに、胸はC……いや、ひょっとしてDぐらい? 手塚の視線が自分の胸に刺さっているのを自覚してか、柴崎は黒のビキニに包まれた胸をグイっとはった。 「このあたしに自信があったら、おかしい?」 世の男性陣なら恐らく全員が陥落されただろう圧倒的なオーラを柴崎は纏っていた。 「ま、でもこんな姿を拝ませるてあげるのも、ごく限られた人だけよ」 「俺も『限られた人』なんだな」 「まあね」 ふわりと微笑んだ柴崎に、どうしようもなく頬がゆるむ手塚であった。 「きゃーーっ!」 郁は逃げ出した。 なんとか第一波をしのいだものの、柴崎もドン引きになっている。 「隊長っ!なんですか?!それはっ!」 堂上班の男性陣3人は一斉に怒鳴った。 「日本男子なら、やっぱりこれだろ!」 手塚よりも柴崎よりも、誰よりも自信万満に、真っ白のフンドシ姿の玄田は豪快に笑っている。 深紅の胸元が深く切れ込んだワンピースの水着を身に付けた折口が玄田に寄り添って、 「ほらぁ、みんなびっくりするって言ったのに」 平然と玄田の腕をつついていた。 並んで水際に向かう二人が通り過ぎてから、一同はそれぞれがひそひそとつぶやく。 「何かやらかす人だとは常から思ってたが」 「折口さんも凄いっすね。アレと平然と並んで歩けるんだ」 「やっぱり20年以上の付き合いだけのことはあるよね」 「それにしても、折口さんには負けたかも。あの年であの水着を着こなせるなんて」 「『あの年』ってお前、聞こえたら殺されるぞ。それにスタイルだったらお前の方が」 「あらーっ、あたしなんかで鼻の下伸ばしたりしてていいんですかぁ?笠原に言っちゃおっかな」 「バカっ!客観的な意見だ!」 「玄田隊長と同い年だから、もう40過ぎててあの体型を保ってるのが凄いってことだね」 「そうそう、いくらあたしでも40過ぎであれが着られる体型でいられるか」 つぶやいた柴崎をつい眺めてしまって、男性陣全員がそろって気まずくなり、また全員があらぬ方を向いたのだった。 玄田ショックから立ち直ってしばらくしてから、ようやく毬江が登場した。 「毬江ちゃん、その水着は……」 「小牧さん、こーゆーのがいいかなって思って」 毬江が用意してきたのは、高校生のときに使っていたスクール水着だった…… ご丁寧に胸元には『3-B 中澤』と名札までついている。 「それが趣味じゃ、男性陣で一人だけまともな水着着てる俺が一番変態になるでしょ。着替えてきて」 「はーい」 駆け出した毬江の後ろ姿を見送りながら、小牧は自分の趣味を誤解されるポイントがなかったのか、真剣に悩んだのであった。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/60.html
1スレ目 416-419,424-429,433-440その2 そして、会食当日。 やはり張り切って早く勤務を終えてきた柴崎に手伝ってもらい、すったもんだの上で郁の身支度が完成した。 「後は、外泊届けよね」 「だーかーらー、堂上教官も何にも言わなかったし」 結局、柴崎の(郁も内心)期待していた展開にはなっていない。 「まあ、いいわ・・・。頑張っておいで」 以外にあっさりと柴崎は追求の手をゆるめた。 ほんの少し寂しげに見えたのは郁の気のせいだったのだろうか。 今回はいつかのようにバタバタ走ることなく、ゆっくりと駅まで歩く。 いかにもな恰好で寮を一緒に出るのもためらわれたため、堂上は先に駅で待っているはずだ。 階段を上がる。 券売機の前で手持ち無沙汰に待っている堂上の姿が目に入る。 待ち合わせ時間には少し早い。 張り切ってるのはお互いさまかも。 郁の顔に笑顔がこぼれた。 やってくる郁の姿に気づいて堂上が顔をあげる。 そして目を思い切り見開いて、口もポカンと開けたまま固まった。 柴崎プロデュースの郁のスタイルは、マスタードカラーのサテン地ワンピースにチョーカー、黒のコートを合わせて足元はちょいヒールのパンプスだ。 何より柴崎が気合いを入れたのはメークとヘアメークだった。 訓練でヘルメットをかぶることが多いため、ペタンコになっても構わないのが普段の郁のスタイルだ。 それを柴崎は身支度を始めるなりホットカーラーを郁の頭のあちこちに巻きつけ、着替え、メークの後にプロ顔負けの早業でヘアメークを完成させた。 ふわりと揺れるヘアスタイル、メークも薄さを心がけながらもポイントをしっかり押さえてある。 加えて、慣れないパンプスでの歩き方まで指導された郁は、身長と元々の姿勢の良さもあってモデル並の風格を備えていた。 「堂上教官?」 郁が歩み寄ってきてもしばらく堂上は固まったままだった。 「女ってのは、恐ろしいな」 「っていうか、あたしは柴崎が怖いです。柴崎いなきゃあたしもここまで化けられないし」 すれ違った何人もが郁に見とれるという、生まれて初めての体験をさせてもらった。 「いや、化けたとかそんなんじゃなくて…似合ってるぞ」 耳を赤らめて堂上は口ごもる。 そのまま誤魔化すように券売機に向かった。 身体中の血液が頭に登ったごとく真っ赤になった郁が動けたのは、切符を買ってきた堂上に2、3回揺すられてからだった。 当麻との約束の時間よりも早めにホテルに到着した二人は、ロビーで時間を潰す。 「ちょっと待ってろ」 落ち着きなくキョロキョロしてから堂上は郁を放っておいて姿を消した。 当麻先生にお会いするのも久しぶりだから、堂上教官も緊張してるんだ。 ほどなくして堂上は戻ってきたが、やはり落ち着きがなかった。 しばらくして当麻夫婦がやって来た。 「今日はお招きいただいてありがとうございます」 挨拶をした堂上に合わせて郁も頭を下げる。 「いえ、こちらも大したお礼もできなくて・・・」 当麻の語尾は、堂上の隣の郁に目線をむけたとたんに曖昧になって消えた。 図書隊で警護の任務についていた時の郁の姿しか知らないから、当麻の今日の反応は当然と言うべきか。 立ち直った当麻の案内でレストランに向かい、席についてから改めて挨拶・面識がなかった当麻夫人への自己紹介などをすます。 当麻夫人は 「特殊部隊の方がこんなに可愛らしいお嬢さんだったなんて」 と終始感激口調だった。 食事が始まってしばらくは、当麻の領事館駆け込みまでの顛末が語られた。 特に当麻夫人が熱心に聞きたがったのは、当麻の女装のくだりだった 「この人、そのことだけはちゃんと話してくれないのよ」 そうは言われても・・・と郁は当麻の顔色を伺いながら、しどろもどろに説明する。 やがて話題は、当麻の新作の執筆状況や、図書隊の日々の任務に移っていった。 図書隊を志した理由を聞かれた郁が、王子様話を披露しそうになり、慌てた堂上に静止される場面もあったりで、食事は賑やかに進み、気付けばコーヒーが出てきていた。 当麻が会計を済ませるのをレストランの外で待っていると、夫人がハンドバッグの中から何やらチケットらしきものを取り出した。 「これ、ここを予約した時にいただいたの。お二人でどうぞ」 受け取ったのは同じホテルのスカイラウンジのサービスチケットだった。 当麻夫婦は、明日から旅行に出るため今日はこれで失礼させていただきます、と、エレベーターホールで二人とは違うエレベーターに向う。 ドアが閉まる直前に夫人は、 「お幸せに」 と穏やかな笑みで一言残して消えていった。 「・・・どういう、意味だ?」 「そりゃ、そういう意味なんじゃ・・・」 二人は顔を見合わせた。どちらともなく笑みがこぼれる。 「せっかくだから、行っとくか」 「はい!」 夫人の厚意をありがたく頂戴して、見事な夜景を眺めながら、二人はゆっくりとカクテルを傾けた。 そろそろ、ここ出ないと、門限間に合わないよね。 チラッと時計を見た郁を堂上がいぶかしげに見つめた。 「どうした?」 「えっ、あの、時間大丈夫かなって」 「門限のか」 「うん・・・」 せっかく二人でこんなに素敵なシチュエーションにいられるのに、門限なんかが気になってソワソワしなければならないことがひたすら悔やまれて、郁は俯いた。 「あのな、笠は、いや・・・郁」 え?あれ?、名前で呼んでくれる時って・・・。 驚いた郁が顔を上げると、堂上は喉の奥からしぼり出すように言った。 「部屋、とってある」 「・・・?」 何のことを言っているのかわからず郁はポカンとした。 すると堂上は一瞬あきれたように天を見上げ、再度郁に向き合う。 「泊まっていかないかって言ってるんだ。これ以上言わせるな!」 えええーっ!あまりの驚きように声も出なかったのは、場所を考えれば、ある意味幸運だったのかもしれない。 「いいか?」 念を押すように問われて、郁はほとんど無意識にコクンとうなずいた。 その拍子に思考回路が再接続した。 ついに、ついに泊まっていく・・・って、そういうことだよね。 あたし達恋人同士なんだし、そういうことになるのはごく自然なことで・・・ あああっ!外泊届けっ! 散々柴崎にそそのかされたのに、結局出していなかった。 仕方ない、郁はバッグを握りしめて立ち上げる。 「?」 「ちょっと」 郁は、慌てて電話ができるスペースに駆け込み柴崎にかける。 お風呂とかに行ってたらどうしよう・・・。 心配したのも一瞬で、コール1回で柴崎が出た。 「柴崎ィ。一生のお願い!」 「いいけど、高いわよ」 「あの、それが」 相手が柴崎とはいえ、堂上と泊まることになったなど、語るのも恥ずかしい。 「外泊届でしょ、あたしも今日出したから、ついでにあんたのも出しといたわよ」 「は?なんで?今日のことあたしも知らされてなかったのに」 まさか郁を差し置いて堂上が柴崎に今日のことを頼んでおいたとは、考えたくなかった。 「頼まれたわけじゃないわよ。あたしからの勝手なはなむけなんだから」 「でも、無駄になったかもしれないのに」 「無駄にして帰ってきたりしたら、あたしにも思うところあったわよ」 妙な迫力を感じて、その「思うところ」が何かを、あえて聞かないことにした。 「心配してくれて、ありがと」 「ん、頑張ってきな」 さりげない、だが暖かいエールを送って電話が切られた。 やだ、泣きそうかも。 熱くなった胸がおさまるまで、しばらく郁は電話を抱えていた。 ラウンジの入り口まで戻ると、堂上が郁のコートを抱えて待っていた。 エレベーターに乗り2階下の客室に向かう。 「もう、いいのか?」 「うん…なんか、柴崎があたしの外泊届出しておいてくれたみたいで」 堂上の顔が真っ青になった。 「柴崎が?まさかあいつ、こんなことの情報までつかんでいたのか?」 「つかんでたんじゃなくて、なんか、気きかしてくれたんです」 「…悪かったな、先に言っておかなくて。でも言っておいたらおいたで、お前それから正気を保てないと思ったんだ」 いつぞや柴崎に言われたセリフそのまんまだった。 郁はムゥと口を尖らせた。 「みんなして、子供扱いするんだから」 ブツブツしていると、ポンと堂上の手が頭の上に乗った。 「そう、腐るな。」 それが子供扱いなのに、と思いながら、頭に乗せられた手のぬくもりはいつもどおり心地よかった。
https://w.atwiki.jp/verdy2ch/pages/51.html
フォーメーションの変遷2010年シーズン 2009年シーズン第33節h札幌(3-4-2-1):土屋、富澤、レアンドロ不在 第22節a仙台(4-4-2):服部復帰 第9節a甲府(4-4-2) 第8節h鳥栖(4-4-1) 第2節hC大阪(4-2-3-1) 第1節a徳島(4-3-3(4-1-2-3)) 2008年シーズン第34節h川崎(4-5-1) 第28節a名古屋(4-5-1) 第23節h浦和(4-4-2ダイヤモンド:福西出停、土屋・平本ケガ?) 第20節h新潟(4-4-2ダイヤモンド:フッキ移籍、大黒ケガ) 第18節h柏(4-4-2ダイヤモンド:フッキ産休、服部・レア出停) 第15節h千葉(4-4-2ダイヤモンド) 第8節h名古屋(4-4-2ダイヤモンド/4-3-1-2) 第5節a神戸(4-5-1フッキ復帰) 第1節a川崎(4-5-1) 2007年シーズン第38節h草津戦から(4-5-1) 第16節h湘南戦から第36節h徳島戦くらいまで(3-5-2) 開幕戦から第15節a山形戦くらいまで(4-4-2ボックス/4-4-2フラット) 2006年シーズン 2005年シーズン 2004年シーズン 2003年シーズン 2002年シーズン 2001年シーズン 2000年シーズン 1999年シーズン 1998年シーズン 1997年シーズン 1996年シーズン 1995年シーズン 1994年シーズン 1993年シーズン フォーメーションの変遷 2010年シーズン 平本 河野 飯尾 菊岡 佐伯 柴崎高橋 富澤 土屋 福田 土肥 2009年シーズン 第33節h札幌(3-4-2-1):土屋、富澤、レアンドロ不在 大黒 平本 河野藤田 柴崎 菅原 福田 高橋 服部 飯田 土肥 第22節a仙台(4-4-2):服部復帰 平本 大黒レアン 河野 服部 柴崎那須川 富澤 土屋 藤田 土肥 第9節a甲府(4-4-2) 大黒 林 (船越) 滝澤 レアン 河村 柴崎 (飯尾)藤田 高橋 富澤 岩倉(那須川) 土肥 第8節h鳥栖(4-4-1) 林滝澤 大黒 柴崎 河村藤田 高橋 富澤 永里 土肥 第2節hC大阪(4-2-3-1) 大黒 (平本) レアン 滝澤 河野 菅原 河村 (永里)藤田 高橋 土屋 和田 土肥 第1節a徳島(4-3-3(4-1-2-3)) 平本 飯尾 河野(レアン) 滝澤 柴崎 河村藤田 高橋 土屋 和田 土肥 2008年シーズン 第34節h川崎(4-5-1) 大黒 飯尾 平本 柴崎 菅原 福西和田 那須 土屋 富澤 土肥 第28節a名古屋(4-5-1) 平本 飯尾 ディエゴ 柴崎 菅原 福西服部 那須 土屋 福田 土肥 第23節h浦和(4-4-2ダイヤモンド:福西出停、土屋・平本ケガ?) 飯尾 大黒 ディエゴ 柴崎 富澤 菅原服部 萩村 那須 和田 土肥 第20節h新潟(4-4-2ダイヤモンド:フッキ移籍、大黒ケガ) 平本 飯尾 ディエゴ 柴崎 福西 菅原服部 那須 土屋 和田 土肥 第18節h柏(4-4-2ダイヤモンド:フッキ産休、服部・レア出停) 平本 大黒 ディエゴ 柴崎 福西 菅原和田 那須 土屋 富澤 土肥 第15節h千葉(4-4-2ダイヤモンド) 平本 フッキ ディエゴ 大野 レア 菅原服部 那須 土屋 富澤 土肥 第8節h名古屋(4-4-2ダイヤモンド/4-3-1-2) 飯尾 レア ディエゴ 大野 福西 菅原服部 那須 土屋 和田 土肥 第5節a神戸(4-5-1フッキ復帰) フッキ レア ディエゴ 河野 (飯尾) 富澤 福西服部 那須 土屋 和田 土肥 第1節a川崎(4-5-1) レアンドロ 飯尾 ディエゴ 廣山 富澤 福西服部 那須 土屋 和田 土肥 2007年シーズン 第38節h草津戦から(4-5-1) 第51節h愛媛戦(4-5-1フッキ不在) 船越 飯尾 ディエゴ 廣山 菅原 大野服部 富澤 土屋 海本 高木 第38節h草津戦(4-5-1) フッキ 大野 ディエゴ 廣山 名波 菅原服部 戸川 土屋 海本 高木 第16節h湘南戦から第36節h徳島戦くらいまで(3-5-2) 第16節h湘南戦 フッキ 廣山 ディエゴ服部 佐藤 菅原 福田 富澤 萩村 土屋 高木 開幕戦から第15節a山形戦くらいまで(4-4-2ボックス/4-4-2フラット) 第1節h草津戦 フッキ 船越ディエゴ 大野 名波 ゼ・ルイス服部 戸川 土屋 福田 高木 2006年シーズン 平本 シウバマルクス 廣山 菅原 ゼ・ルイス石川 富澤 戸川 海本 高木 以下サッカーマガジン2008年選手名鑑付録より 2005年シーズン ワシントン ジウ 平本一樹相馬崇人 山田卓也 戸田和幸 小林大悟戸川健太 林健太郎 米山篤志 高木義成 2004年シーズン 平本一樹 桜井直人 小林慶行三浦淳宏 山田卓也 平野孝 林健太郎ウベダ 戸川健太 米山篤志 高木義成 2003年シーズン エムボマ 平本一樹平野孝 山田卓也 林健太郎 小林慶行三浦淳宏 柳沢将之 米山篤志 ロペス 高木義成 2002年シーズン 平本一樹 桜井直人 エジムンド 小林大悟 林健太郎 山田卓也相馬直樹 田中隼磨 米山篤志 ロペス 高木義成 2001年シーズン 小倉隆史 マルキーニョス (エジムンド)三浦淳宏 北澤豪 林健太郎 山田卓也菊池利三 西田吉洋 米山篤志 中澤佑二 菊池新吉 2000年シーズン 廣長優志 キム・ヒョンソク石塚啓次 小林慶行 林健太郎 山田卓也杉山弘一 西田吉洋 米山篤志 中澤佑二 本並健治 1999年シーズン 石塚啓次 カルロス・エンリケ小林慶行 北澤豪 ジェフェルソン 林健太郎杉山弘一 山田卓也 米山篤志 中澤佑二 本並健治 1998年シーズン 高木琢也 カズ エウレル前園真聖 北澤豪 ラモス瑠偉 モアシール 中村忠 柱谷哲二 エンリケ 菊池新吉 1997年シーズン 前園真聖 アルシンドラモス瑠偉 北澤豪 菅原智 三浦泰年山田卓也 石川康 廣長優志 アルジェウ 菊池新吉 1996年シーズン カズ マグロンビスマルク 北澤豪 三浦泰年 菅原智中村忠 石川康 アルジェウ 柱谷哲二 菊池新吉 1995年シーズン カズ アルシンド ビスマルク菊池利三 石川康 柱谷哲二 北澤豪中村忠 ペレイラ 林健太郎 菊池新吉 1994年シーズン ベンチーニョ 武田修宏ビスマルク 北澤豪 ラモス瑠偉 柱谷哲二中村忠 石川康 廣長優志 ペレイラ 菊池新吉 1993年シーズン カズ 武田修宏ビスマルク 北澤豪 ラモス瑠偉 柱谷哲二中村忠 石川康 ロッサム ペレイラ 菊池新吉
https://w.atwiki.jp/sauber_rozen/pages/27.html
その他 上で記述されているキャラクター以外の登場人物です。 梅岡 Rozen Maidenのみに登場するキャラクター。 桜田ジュンの小学校時の担任であり、登校拒否の原因を作った人物でもある。 くんくん 劇中劇くんくん探偵の主人公。 真紅が溺愛している。また、雛苺も気に入っているようだ。 水銀燈の今宵もアンニュ~イを聞くと実は水銀燈も彼の隠れファンであることが分かる。 コリンヌ・フォッセー Rozen Maidenのみに登場するキャラクター。 オディール・フォッセーの祖母であり、雛苺の元契約者。 斎藤さん ローゼンメイデン(漫画)のみに登場するキャラクター。 劇団に所属している女優の卵。桜田ジュンのアルバイト先の同僚である。 斎藤(兄) 斎藤さんのお兄さん。大柄で強面。 サラ ローゼンメイデン オーベルテューレのみに登場するキャラクター。 真紅の元契約者。 柴崎元治 アニメのみに登場するキャラクター。 有名な「乳酸菌ネタの発祥でもある。 柴崎マツ アニメのみに登場するキャラクター。柴崎元治の妻。 柴崎一樹 アニメのみに登場するキャラクター。柴崎元治の息子。故人。 ジャバウォック 小説Die Romane Der Rozen Maidenのみに登場するキャラクター。 白崎 ローゼンメイデン トロイメントとローゼンメイデン オーベルテューレのみに登場するキャラクター。 槐の店で働いている。実はドM。 店長 ローゼンメイデン(漫画)のみに登場するキャラクター。 桜田ジュンのアルバイト先の店長。人間的に小さい。高卒。 山本 アニメのみに登場するキャラクター。 桜田のりが好きなようで彼女に告白しようとしているが、いつもドールズによる妨害(意図的ではない)によって失敗に終わっている。 ラプラスの魔 nのフィールドに現れる謎の兎。 ローゼン ローゼンメイデンを創った伝説の人形師。 錬金術によって不老不死の力を得ている。nのフィールドでアリスが誕生するのを待っているとされる。 漫画では名前のみの登場で、アニメでも顔以外の描写だけである。
https://w.atwiki.jp/ryokudou/pages/56.html
市町村コード番号順に掲載 都道府県名 郡区市町村名 緑道名 最寄駅 種類 備考 接続する緑道 東京都 府中市 朝日町緑道 飛田給・白糸台 市川緑道 西府 押立緑道 武蔵野台・競艇場前 小柳散歩道 競艇場前 是政緑道 競艇場前 三ヶ村遊歩道 多磨霊園・是政 三御殿堀緑道 武蔵野台・競艇場前 清水が丘緑道 多磨霊園・東府中 下河原緑道 府中・分倍河原・府中本町・中河原 廃鉄道路線型 国鉄下河原線廃線跡 新田川緑道 分倍河原・中河原 雑田堀緑道 分倍河原 第二都市遊歩道 府中本町・分倍河原・西府 第三都市遊歩道 中河原 二ヶ村遊歩道 競艇場前・是政 野溝緑道 多磨霊園・白糸台 府中段丘本宿緑道 西府 むさし台緑道 西国分寺 矢崎緑道 府中本町 やなぎはら緑道 競艇場前 四谷緑道 西府・中河原 調布市 菊野台緑道 柴崎 菊野台第二緑道 柴崎 柴崎緑道 柴崎 染地せせらぎ散歩道 国領 多摩川第二緑道 京王多摩川 彫刻のある散歩路 京王多摩川・布田 飛田給緑道 飛田給 布田小南緑道 京王多摩川 狛江市 岩戸川緑地公園 狛江 廃河川型 野川緑地公園 狛江・つつじヶ丘 廃河川型 堀上緑道 狛江 これは個人的にまとめた一覧です。 上記に記載がないからといってその施設が緑道でないとは限りません。また、記載されているからといって緑道であると断定したわけではありません。 トップページにもどる
https://w.atwiki.jp/mimatsu/pages/91.html
桜田ジュン:真田アサミ 真紅:沢城みゆき 雛苺:野川さくら 水銀燈:田中理恵 翠星石:桑谷夏子 蒼星石:森永理科 桜田のり:力丸乃りこ 柏葉巴:倉田雅世 ラプラスの魔:津久井教生 柴崎元治:西川幾雄 柴崎マツ:鳳芳野 柴崎一樹:松元恵 山本:間島淳司 巴の母:杉本ゆう くんくん:津久井教生 ラビット夫人:仁後真耶子 アザラシ:中村大樹 男子生徒:成瀬誠、後藤啓介、下野紘、鈴木達央、早川隆之 女友達:出口佳代、田中かほり 中学生:玉木有紀子、後藤啓介 野球部員:早川隆之、鈴木達央 女の子:松浦チエ 子供達:山口茜、門間理沙、高見依里 主婦:一木美名子、青山桐子、玉木有紀子 塾の講師:室園丈裕 人形:斉藤貴美子、小林希唯 宅配便:河本邦弘、高橋良吉、福井信介、小林康介 花:鈴木達央、早川隆之、渡邊龍真 役名表示なし:泉久実子、日比愛子、成家義哉 作品一覧 や・ら・わ行
https://w.atwiki.jp/3edk07nt/pages/56.html
~第十三章~ 宿の一室で、蒼星石は今日も、床に臥せている。 湯治場での戦闘を終えて、早二日。 翠星石に続き、ジュンまで失った悲しみで、蒼星石はすっかり鬱ぎ込んでいた。 そんな彼女を引きずるようにして、近くの大きな町に移動してきたのだが、 町中の賑わいも、蒼星石の悲しみを紛らすことは出来なかった。 「蒼星石、入るわよ。食事を持ってきたわ」 部屋の障子がスッ……と開き、膳を持って、真紅が部屋を訪れる。 けれど、蒼星石は半身を起こそうともしない。 ただ、仰向けに寝転がったまま、気のない眼差しで、茫然と天井を眺めているだけだった。 「起きなさい、蒼星石。少しは食べないと、身体に悪いわ」 「……食べたくない」 そう言って、蒼星石は顔を背けてしまう。眼の下には、うっすらと隈が浮かんでいる。 眠れないのは、空腹も影響しているのではないだろうか。 真紅は溜息を吐いて、枕元に膳を置いた。 「しっかりなさい、蒼星石。貴女が行かないで、誰が彼を救い出すというの?」 「だけど、ボクは……力を失ってしまった。もう……戦えないよ」 「水銀燈と薔薇水晶が、刀匠を探してくれているのだわ。 精霊までは無理でしょうけど、きっと、貴女の手に馴染む剣が手に入る筈よ」 解ってないね。蒼星石は、涙声でそう言った。 確かに、戦い続けるには『力』の象徴とも言うべき、武器が必要不可欠だ。 武器の性能が高ければ高いほど、有利に戦うことだって出来よう。 けれども、蒼星石にとっては闘う上で、得物や精霊より重要な物があった。 ――誰かを護りたいという想い。誰かのために、尽力を惜しまない気持ち。 その原動力が有ればこそ、蒼星石は今まで、戦い続けてこられたのだ。 今は、それが失われて、心にぽっかりと穴が開いている。 目的を無くした想いは、まるで、糸が切れて頼りなく宙を彷徨う凧のようだった。 「それでも、貴女は戦い続けなければならないのよ。御魂を宿す犬士として」 そう告げても、蒼星石は何の反応も示さなかった。 真紅は無言で、部屋を後にした。暫くは、静観する他ない。 それに、蒼星石ばかりに、かかりっきりでも居られなかった。 冷たいようだが、真紅たちにも犬士としての役目があるのだ。 玄関の踊り場を横切ろうとした所で、真紅は刀匠探しから戻った水銀燈たちと合流した。 二人の冴えない表情を見れば、結果は容易に推測できる。 「あまり、首尾は良くなかったらしいわね」 「折れた刀を見本として置いてきたけれど、ちょっと時間が要るって言われたわぁ」 「仕方ないわ。通常の刀と違って、精霊を込めないといけないもの」 「技量は、充分に高い職人だったわよぉ。実際、精霊についても造詣が深かったしぃ」 「でも……なんか……妙なこと言ってた」 妙なこととは、なんだろう? 真紅は頸を傾げ、視線で、薔薇水晶に先を促した。 「煉飛火と、蒼星石の契約……まだ切れてないって」 「でも、煉飛火は、めぐに――」 「奪われたというより、あの妖刀に閉じ込められた可能性が高いらしいわぁ」 「それなら、精霊を取り戻せるかも知れないのね!」 職人の話では、そういう事らしいと、水銀燈は答えた。 その為の呪符を構築するのに、数日を要するらしい。 巧くいく保証は無いが、それでも、僅かながら希望が見えた気がした。 「新たな剣が鍛えあがるまで、その職人を警護した方が良さそうね」 「同感。穢れの者に察知されたら、間違いなく殺されるわよぉ」 「じゃあ、私……今から、警護してくる」 「頼むわね、薔薇水晶」 「こうなったら、あの子にも工房に泊まり込みで警護させないとねぇ。 寝てばかりなんて許さないわ。引きずってでも連れてってやるんだからぁ」 水銀燈は軽やかに階段を駆け昇り、声も掛けずに、蒼星石の部屋へ踏み込んだ。 少し遅れて、真紅も続く。 だが、階段を昇っている途中で、水銀燈の怒声が聞こえた。 なんだか、尋常ではない雰囲気だ。 「ちょっと! 何をしているの?」 真紅が部屋に踏み込んだのと、胸倉を掴まれた蒼星石が水銀燈に張り倒されたのは、ほぼ同時。 頬を撲たれた蒼星石は、布団の上に倒れ伏した。 水銀燈は、蒼星石の上に馬乗りになって、更に殴りつけようとする。 「やめなさい、水銀燈っ! やめてっ!」 真紅は小柄な身体で、懸命に水銀燈にしがみつき、蒼星石から引き剥がした。 されるがままに、グッタリと横たわる蒼星石。 そんな彼女を、水銀燈は憎々しげに睨み付けていた。 「水銀燈っ! どういうつもりなの?」 「どうもこうも……言ったでしょぉ。引きずってでも連れて行くって。 大体、気に入らないのよ! いつまでも、ウジウジと……」 「でも、それは――」 「仕方ないって言うの? はん! 冗談じゃないわ! 護るべき人が居なきゃ、戦えない? 甘ったれるんじゃないわよ! じゃあ、なぁに? 私たちは、共に戦い、護るにも値しない存在ってワケぇ?」 「そ…………それは」 蒼星石はビクリと肩を震わせて、言葉に詰まった。 反論しないことで、更に水銀燈の怒りを買うというのに。 「私たちには、協力を渋って、尽力を惜しむの? ふざけんじゃないわよぉ! ひとりで悲劇の主人公を演じちゃってさ、バッカじゃないのぉ?!」 「……水銀燈……もう良いから」 真紅が腕の力を抜くと、水銀燈は畳に座り込んで、ぽろぽろと悔し涙を流した。 「私なんか……もしかしたら……」 めぐを、この手に掛けなければならないのに。 子供の頃から、大の親友だった彼女を、この手で殺す事になるかも知れないのに。 叶うことなら、何もかも捨て去って、逃げ出したいくらいなのに。 「もう良いのよ、水銀燈」 「真紅……真紅ぅ……」 水銀燈は、真紅の腰にしがみついて、声を殺し泣き続けた。 水銀燈が泣き疲れて落ち着くのを見計らって、蒼星石は、沈鬱な表情で口を開いた。 「ごめん……水銀燈。ボクは甘え過ぎてたよ。みんなに、辛い想いをさせてしまった。 本当に、すまないと思ってる」 「……良いのよぉ。私の方こそ、殴ったりして、ごめんなさぁい」 「気にしないで。お陰で、目を覚まさせて貰ったから。寧ろ、お礼を言わなきゃね」 蒼星石は水銀燈の隣に移動して、彼女の肩を優しく抱擁した。 「ありがとう、水銀燈。ボクは、もう迷わないよ。何があっても――」 「もう……おばかさぁん。気づくのが遅すぎるわよ」 「ふふっ……でも、良かった。雨降って地固まる……ってね」 二人の背中をポンポンと叩いて、真紅は彼女たちを促した。 「さあ、忙しくなるわよ。なんとしても、蒼星石の剣を完成させるのだわ」 「泊まり込みで警護って話を、職人さんに通しておかないとね」 「どうせならぁ、私たちも泊まり込んだ方が手堅いし、宿代の節約になるんじゃなぁい?」 「貴女、頭いいわね! 早速、刀匠の元へ向かうのだわ」 とりあえず、泊まり込む事を承諾して貰うため、三人は工房へ足を運んだ。 そこは自宅兼作業場といった感じの、こじんまりした平長屋だった。 廊下で繋がった母屋の方は、道場でも開いているのか、ちょっとだけ広い。 柴崎と表札の掛かった門をくぐり、工房へ行くと、入り口に薔薇水晶が立っていた。 「今のところ……異常ないよ。みんなも警備に?」 「ちょっと、職人さんに話を付けにきたのよ」 「お爺さんなら……中に居るよ。蒼ちゃんのこと……待ってるから」 「ボクを?」 煉飛火について、なにか訊きたいことが有るのだろうか。 蒼星石は工房の木戸を叩いて、徐に開いた。 薄暗い工房は、物凄い熱気が立ちこめている。直ぐに、額に汗が滲み出してきた。 そんな中に、禿頭の老人がこちらに背を向け、どっしりと腰を下ろしている。 場の空気に飲まれ、気後れした蒼星石は、怖々と老人の背中に声を掛けた。 「あの~、失礼します。あなたが、柴崎さんですか?」 「……むう? お主か、この剣を使っていたのは」 柴崎老人は、振り返りもせず、手にしていた剣を掲げて問いかけた。 確かに、蒼星石が長年、愛用してきた剣だ。 マツという刀匠のお婆さんに、鍛えてもらった一振りだった。 「はい。でも、それがなにか?」 問い返す蒼星石に、柴崎老人は、ふ……と柔らかく笑って、やっと振り返った。 だが、その表情が忽ち驚愕に変わる。わなわなと口を震わせ、何かを喋ろうと苦戦している。 そして、漸く喉から絞り出された言葉は、聞いたこともない人物の名前だった。 「か……かずき……か?」 「違うわ。この娘は蒼星石。私たちの、かけがえのない同志よ」 いつの間にか、蒼星石の後ろには真紅たちが立っていた。 それから、真紅たちは柴崎老人から、様々な話を聞いた。 かずき……とは、亡くなった息子の名前だと言う。 蒼星石の面差しが、なんとなく似ていたのだと、老人は自らの未練を恥じらい陳謝した。 「それで、ボクが貰った剣は、どういう由縁があるんですか」 「それを語るには、まず妖刀『國久(くにひさ)』について、説明せねばならん」 「妖刀『國久』って、めぐが持っていた刀よねぇ」 「その名前を、なぜ貴方が知っているのかしらね、柴崎さん」 「簡単な理由じゃよ」 柴崎老人は肩を揺すらせて、前歯の間から空気の漏れるような笑い声をあげた。 暫く笑い続け、徐に咳き込む。 小刻みな咳を振り切るように、大きく咳払いをして、説明を再会した。 「妖刀『國久』は、儂が鍛えた刀なのじゃからな」 「う……そ!」 「そんな、お爺さんが?」 「ちょっとちょっとぉ! それ、本当なのぉ?!」 「真実でしょうね。ウソを吐いたところで、柴崎さんには何の得もないのだわ」 真紅の言葉に、皆は口を噤んだ。言われてみれば、その通りだ。 寧ろ、あんな禍々しい物を世に送り出したとあれば、厳罰に処されかねない。 それを、敢えて公言したのは、並々ならぬ覚悟をしたからだろう。 「あの刀を鍛えたのは、丁度……かずきの四十九日が開けた時じゃった」 柴崎老人は、遠くを眺める様な視線で、思い出を語り始めた。 愛する一人息子を失った悲しみを誤魔化そうと、酒に溺れ、狂気を宿したこと。 そんな生活に疲れて、妻マツまでが、家を出てしまったこと。 誰にも支えられず、誰に頼られることも無く、自堕落な生活を続けたこと。 そして、ある日……頭の中に、闇の眷属の声が聞こえたこと。 ――忘れたければ、全ての憎悪と怨念を、刀に打ち込んでしまえば良い。 息子を救えなかったのは、周囲の人間が手助けしてくれなかったせい。 その怨嗟と悲嘆を、一振りの刀に凝縮してしまえ。 それからは朝な夕な工房に籠もり、一心不乱に刀を鍛え続けた。 「そうして誕生したのが、あの妖刀『國久』なのじゃよ。 あの刀には、儂の醜い感情が、埋め込まれておるのじゃ」 「そんな事があったなんて、俄には信じられない話なのだわ」 「でも、事実だよ。そして何の因果か、ボクはお婆さんに―― 柴崎さんの奥さんと出会って、煉飛火を刻印して貰ったんだ」 「その通りじゃよ。そして、この刻印には、こうも記されている」 柴崎老人は、蒼星石の折れた剣の刻印を眺めて、皆に詠んで聞かせた。 「この剣は、夫、柴崎元治が鍛えし妖刀『國久』を屠る為に生み出されたり。 我が願いが成就することを、切に願って――柴崎マツ。 妻は、心血を注いでこの剣を鍛えて……精魂尽き果て、死んだのじゃろう?」 柴崎老人の眼差しが、蒼星石に向けられる。 それは、全てを悟りきった瞳。 蒼星石は徐に、頚を縦に振った。 煉飛火の刻印を終えると同時に倒れ、そのまま、帰らぬ人となったお婆さん。 枯れ木の様に窶れてしまったお婆さんの姿を思いだして、蒼星石の目頭は熱くなった。 柴崎老人は「気に病む事はない」と、蒼星石を労った。 刀匠、殊に精霊を扱う職人の場合、刀を鍛えるのは命を削る事なのだと言う。 そこまでしなければ、本当に優れた刀剣は産まれないのだ……と。 「本当に、何の因果かのう……。まるで妻が、娘たちを連れて帰った気分じゃよ」 「こぉんな、じゃじゃ馬娘ばかりで満足できるなら良いけどねぇ」 「じゃじゃ馬は貴女だけよ、水銀燈」 「あらぁ……面白い冗談ねぇ、真紅ぅ~」 「二人とも……うるさい」 薔薇水晶にピシャリと注意を受けて、しょげ返る二人。 そんな賑やかな娘たちを見て、柴崎老人は口元を綻ばせた。 「とにかく、因縁あってここに集ったのであれば、儂も協力を惜しまぬ。 じゃから……君たちには、必ずや妖刀『國久』を葬って欲しいのじゃ。 全てを奪わんとする醜い怨恨の塊を、君たちの力で砕いてくれ。頼む!」 深々と頭を垂れる柴崎老人に、真紅は「勿論!」と、力強く断言した。 ――その為に、私は神剣を授かったのだから。 「きっと、あの刀を砕いて見せるわ」 「おお……本当かね? 頼まれてくれるのかね?」 「任せて下さい。ボクたちが、必ず……」 「まぁ、そうまで頭を下げられちゃあ、無下に断るなんて出来ないわよねぇ」 「そう言うこと。安心……していい」 柴崎老人は、ありがとう! と頭を下げながら、一人一人と握手をしていった。 その日から、四人の犬士と柴崎老人は、ひとつ屋根の下で暮らし始めた。 柴崎老人は寝食も忘れて、工房に籠もり、ひたすらに蒼星石の刀を鍛え続ける。 荒行とも見える、その過酷な作業は、実に三日間にも及んだ。 その晩、工房でウトウトと居眠りをしている柴崎老人を目にして、蒼星石は肩を揺らした。 「お爺さん……少し、横になった方がいいですよ」 「んっ! お、おお……いかんいかん。うっかり眠ってしまったか」 「あまり、無茶しなくても――」 「そうはいかんよ。刀を鍛えるのは、子供を育てる事に等しいのじゃ。 手を抜いては立派に育たん。注意を怠れば、歪んでしまう」 でも――と反論しようとする蒼星石を、柴崎老人は掌で制した。 そして、徐に頚を振る。 儂の、気の済むようにさせてくれ。 柴崎老人の瞳が、そう語っていた。 「……解りました。けど、あまり無理はしないで下さいね」 「ありがとう、かず……蒼星石。やれやれ……どうにも、いかんな」 「かずき、でも良いですよ。今だけは――」 柴崎老人は、自分の未練がましさを隠すように、くるりと蒼星石に背を向けた。 けれど、一言―― 「……ありがとう、かずき」 老人の肩が小刻みに震えだしたのを、蒼星石は見て見ぬ振りして、その場を立ち去った。 =第十四章につづく=
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/71.html
1スレ目 584-590その1 夢の中で、君は いつもは熟睡をかまして朝まで目覚めることのない郁だったが、その日はなぜかふと夜中に目が覚めてしまった。 寝ぼけていた視界がはっきりするにつれ、見慣れない天井が郁の目に映し出される。 ここはドコだ?と考える間もなく、答えは導き出される。 ――ああ、そうか。 寮じゃないんだ。 その日は、堂上と付き合うようになってから迎えた、何度目かの夜だった。 身体を重ねる際の緊張は薄くなってはいるものの、最近はコトの後に一気に眠気が襲ってくる。 その状態の意味を理解できる身体になったのも、つい最近のことだ。 ああ、あたし、どんどん開発されてるなぁ、と乙女の発想としてはいささか似合わあい感想が頭を過ぎり、次の瞬間に恥ずかしさから頭をブンブンと振る。 その弾みで、隣で眠る堂上の顔が郁の目に飛び込んできた。 う、うわ――――! きょ、教官っ!その寝顔は犯罪です! 郁にしてみれば、声に出さなかっただけでも表彰モノだ。 堂上の寝顔は、この数年間郁が見てきた堂上の顔の中でも、メガトン級の破壊力を持っていた。 たまに見せる笑顔や優しい表情も捨て難いが、この寝顔に勝る顔はないのではなかろうかと思えるくらい、郁には魅力的に映った。 な、なんてか、か、か、可愛い。 こんな寝顔を見られて、ああ、あたし世界一の幸せモンかもしれない……。 30を目前にした男を評するのに「可愛い」はあまり褒められた文言ではないかもしれないが、大袈裟ではなく、本当に心からそう思った。 しかし、その刹那に思い当たる。 ―――あ、あ、あ、あたしは? 当たり前のことだが、自分の寝顔を見たことのある人間など居ない。 だから、自分がどんな顔で寝ているかなんて知らない。 知らないからこそ不安になる。 あ、あたし、マヌケな顔で寝てないよね? いびきとか、かいてないよね? あまつさえ、ヨダレなんか垂らして歯軋りなんてしてないよねぇぇぇー? 考えれば考えるほど、それら全部を寝ているうちにしているような気がして、郁は大声で叫びたい衝動に駆られた。 もし、堂上が今日の郁のように夜中にふと目が覚めて、横で寝ている郁の寝顔を見たりしたら。 そして、それが前述のような寝姿だったりしたら……。 ひゃ、百年の恋も醒めるっちゅーのっ! 自分の知らない顔を愛しい人に見せるワケにはいかない。 郁はその夜、朝を迎えるまで眠ることが出来なかった。 「そんなクマ作るまで、寝かせてもらえなかったわけ?」 翌日帰寮した時に言われた同居人の冷やかしは、半分当たっていて半分外れている。 寝かせてもらえなかったのは、事実だ。 しかしそれは、自分の寝顔を堂上に見られては困るから自発的に眠らなかったのであって、柴崎が期待しているような理由ではなかった。 冷やかした内容が当たっているとすれば、バカ正直な郁は間髪入れずに真っ赤になって噛み付いてくるはずなのだが、そうしてこないところを見るとどうやらクマの正体は違うところにあるらしい。 「なんか凹んでなーい?なんかあったの?」 「……う、ん……」 こんなとき、決まって柴崎は郁が話し出すのを待つことにしている。 せっついて聞くことを憚っているわけではなく、単に郁の考えが纏まるのを待っているだけだ。 「……えと」 一度は開きかけた口が、再度閉じられる。 「……やっぱ、いい……」 いくら柴崎とはいえ、どんな顔して聞けばいいのだ。 自分の寝顔がどんな風なのか、などと。 寝不足がたたっている今なら、速攻で寝ることが出来る。 その寝顔を見ててくれないかなどと、どの口が言えるのだ。 相談することを諦めた郁は、デートの為に多少お洒落した格好のまま、ベッドに潜り込んでしまった。 悩んでいる割にはすぐに寝息を立て始めたところを見ると、本当に寝不足だったことが判る。 「まーた余計な悩み背負い込んできたようねー」 郁がその乙女モード全開が故に抱え込んだ悩みは、これまで枚挙に暇が無い。 しかもそれらは大抵、他人から見ればノロケにしか聴こえないような悩みだったりする。 今回も恐らくそんなところだろう。 しかし、郁から悩みの内容を聞かない限りは、相談に乗ってやることも出来ない。 「早く白状しないと、麻子さんも助言できませんよ」 眠る郁の顔を見ながら、柴崎は小さく呟いた。 「外泊届、今日も無駄になったみたいだね」 同僚の言葉は相変わらずからかい口調ではあるが、少しずつ哀れみが混じってきているのは気のせいだろうか。 「……まったく、何を考えているんだ、アイツは」 いつもならば堂上の部屋に小牧がお邪魔をするという図式なのだが、今晩は堂上が酒を片手に小牧の部屋に愚痴をこぼしに来ていた。 堂上が預かり知らぬ所で郁が悩みを抱えた日から、3ヶ月は経とうとしている。 その間、デートはしているのだが、外泊は一切なかった。 今日はダメな日なんです。 体調が思わしくなくて。 外泊届け、出してきてないんです、柴崎に頼むのもちょっと恥ずかしいっていうか。 いろんな言い訳をされては、はぐらかされてきた。 最初のうちは仕方ないと思ってはいたし、ノリ気じゃない郁を抱くことも憚った。 だから、我慢してきた。 だが、それが3ヶ月ともなろうものなら、堂上としてもいい加減イラつくのも尤もな話だ。 「また何かやらかしたかな、俺」 小さな溜息とともに吐き出される弱音は、堂上が滅多に見せないものだ。 郁がどうして堂上を遠ざけているのかは分からないが、コイツにこんな表情をさせるのはきっと郁だけなんだろう、と小牧は密かに思った。 「笠原さんみたいな恋愛初心者には、いろんなハードルがあるんだろうね」 フォローのつもりで言ったが、小牧の言葉に堂上はうな垂れてこう呟く。 「おかしな要求などしていないはずなんだがな」 実際、郁に対して何か特別なことを望んだわけではないが、もうこうなってはその理由を郁の口から聞くことも難しいだろう。 「デートはしてるわけだから、堂上のことを嫌っているわけじゃあないんだよね」 「そう思いたいが」 苦く笑いながらビールの缶を呷って一気に飲み干し、そのアルミ缶を片手で握り潰す。 その缶はまるで、堂上の胸が潰れていることを代弁しているように見えた。 今日もお泊り断っちゃったな。 寮のベッドに潜り込んで、郁は少なからず反省してみる。 断りの言葉を言ったあとの堂上の落胆した表情は、今は一番見たくないものになっていた。 あの堂上の顔を見るくらいなら、仕事でドジ踏んでこってり叱られるほうが何十倍も楽だ。 でも、教官、ダメなんです。 あたし、まだ断るしかないんです―――。 あれから、自分なりに何か方法は無いものかとインターネットを駆使したり、休憩中に図書館の本をレファレンスしてみたりしたが、「寝顔を可愛くする方法」などという情報は得られなかった。 ―――やっぱり無理なのかな……。 なかなか答えの見つからない問題に頭を捻らせているうち、ふと柴崎のことが気になった。 隣のベッドで寝ている柴崎は、果たしてどんな寝顔なんだろか。 郁は音を立てないように気遣いながら、柴崎のベッドに近づいていきそっと覗いてみてみる。 ――て、天使が居るよ……! 柴崎の寝顔は、堂上に勝るとも劣らないものだった。 堂上の寝顔が「可愛い」と評されるなら、柴崎のそれはまさに「美しい」の一言だ。 「ちょっと!し、柴崎っ!」 郁は反射的に寝ている柴崎を、その大きな声でたたき起こしてしまっていた。 ここに最強の手本が居ると思ったら、居ても立っても居られなかったのだ。 その数週間後、寝ようと支度をしている郁の携帯にメールが着信した。 音だけで分かる、堂上からだ。 『明後日の公休、外に出る。外泊届は忘れずに出しておくように。堂上』 明後日のデートは以前から約束していたものだったので今更驚きはしないが、外泊届を念を押されるとは思っても見なかった。 また断って、堂上のあの表情を見るのは苦痛だったが、こればかりは仕方が無かった。 頼みの綱の柴崎ですら、お手上げな悩みだったのだから。 あの日、眠る柴崎を叩き起こして悩みを打ち明けたものの、けんもほろろに突っぱねられた。 「寝顔を可愛くするぅ!?……アンタそんなこと悩んでたの?!……なんつーバカな悩み……」 「だって、堂上教官の寝顔、めちゃくちゃ可愛いかったんだよ!あたし、自分で言うのもなんだけど、絶対寝顔可愛くない自信あるし」 「そんなトコに自信持たなくてもいい!」 「とにかく、なんかいい方法ないの?」 「あるわけ無いでしょ!……ったく人がいい気分で寝てたのに……」 柴崎はこれ以上付き合っていられないと、再び布団に入ってしまった。 そして結局なんの策も得られないまま、デートの当日を迎えた。 当日の待ち合わせはいつもよりも遅い時間だった。 日が傾きかけるその時間に電車を乗り継ぐと、都心まで足を伸ばした。 堂上が郁の手をつないで歩を進めた先には、最近オープンしたばかりの6ッ星ホテルがあった。 迷うことなくロビーに足を踏み入れる堂上に、手をつながれたままの郁は付いて行くしかない。 え、ちょっと、それは。 うろたえる郁をロビーに残して、堂上はチェックインに向う。 どうしよう、こんなホテルに連れて来られるなんて予想してないし。 カードキーをジャケットにしまいながら戻ってくる堂上に、郁は断る為に口を開こうとした。 が、 「今日はお前のダメな日じゃない。体調も良さそうだ。外泊届はちゃんと出してきたろうな?まあ、出して無くても小牧に電話すれば済むことだ」 先制攻撃は堂上からだった。 いつも使用していた言い訳は通用しない。 「いや、あの」 それでも食い下がろうとする郁の手を、堂上が包んだ。 「先に飯にしよう。ここのイタリアンは絶品らしいぞ」 郁に口を挟ませる余裕を与えずに、堂上はレストランへと向った。