約 2,122 件
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/38.html
1スレ目 235 あの子、上手くいったかしら──。 ふとそんなことを思ってしまったのは、あいつがネクタイを外そうとしていたせいかもしれない。 目敏くこちらの視線に気付いたあいつは大いに怪訝な顔をした。 理由を訊こうか訊きまいか悩んでいる姿が妙に可愛くて、悪戯心が疼いた。 「ねえ、あんたもネクタイ付けて欲しいタイプだったりする?」 「はあ?」 「朝の新婚さんの風景よろしく、新妻が愛しの旦那様にネクタイを付けてあげるってやつよ」 今頃必死にネクタイと格闘しているであろうあの子の姿を思い出すと、自然と表情が緩む。 だけれど相手はそれをからかわれていると思ったらしく、面白くなさそうにそっぽを向いた。 「そんな訳あるはずないだろ。馬鹿馬鹿しい」 口調は素っ気無いけれど、うっかり想像でもしたのか耳たぶがほんのり赤い。 うん、やっぱり可愛いわよ、あんた。 教えてあげないけど。 乱暴にネクタイを取ろうとする手を止めさせ、それを少しだけ軽く引っ張った。 「お、おい!」 ちょっと意地悪したから、これはそのお詫び──唇を塞いでやると、手塚は顔を真っ赤にさせた。 その反応は遊び慣れていない証のようなもので、それがあたしには嬉しい。 あたしだけが知る手塚──それはあたしも同じなんだけど、こいつがそれに気付いているかどうかは怪しいもんだわ。 何れ気付かれる時がくるんだろうけど、それはまだ先でいい。 「もうすぐ堂上教官の誕生日でしょ?だから笠原、ネクタイをプレゼントするからって練習してたのよ」 挙動不審じゃなかった?と小突くと、手塚は鈍いなりにも気付くところがあるのか頷いた。 「微笑ましいわよねぇ~、こっちが勘弁して欲しいってぐらい練習したのよ」 きっとあの人、困りつつも郁のお願いをきいてあげるんだわ。 だけれど手塚は違ったらしく、面白くないといわんばかりに視線を逸らした。 面白くなかったかしらと内心首を傾げると、 「…………こんな時に他のヤツのこと考えるなよ」 普段は感情を表に出さない手塚にしては珍しい反応で、柴崎は驚いて見上げた。 視線が合ってしまってから、しまったと思った。 今のあたしはいつももソツなくこなしているあたしじゃなくて、素のあたしだ。 本音をひた隠しにし、敵を作らないあたし──あたしがあたしでいるために作った安全なあたし。 それが一番だと思ってたのに──彼らと付き合うようになってから、あたしは変ってしまった。 それはあたしにとって不安定で望まない姿だと思っていたのに、今のあたしでもこいつは気にしない。 そう、あの子も──あんた達、似てるわよ、そういうところ。 「じゃあ、忘れさせてくれる?」 ハニートラップのように、にっこりと笑みを作って腕を伸ばすと、手塚は呆れたように溜息をついた。 「お前なぁ……」 そう言いかけて手塚は結局言葉を飲み込んでくれた。 逆に背中に腕を回され、しっかりと抱きしめられると、その心地良さからあたしは静かに目を瞑った。
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/90.html
図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 1スレ 235(217-218の続き) 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 1スレ 464 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 1スレ 474 図書館戦争シリーズ 郁+柴崎×手塚 1スレ 481 図書館戦争シリーズ 柴崎×手塚(スカトロ気味?) 1スレ 661-664+669-672 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原+柴崎×手塚 2スレ 95-96 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 147-150 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 180-186 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 192 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 243-244 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 250-261 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 465 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 720-721
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/86.html
図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 7 図書館戦争シリーズ 小牧×毬江 1スレ 13 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 17-19 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 24 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 37-39 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 43 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 60-75 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 80-82 図書館戦争シリーズ 玄田×折口 1スレ 89-91 図書館戦争シリーズ 小牧×毬江 1スレ 98 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎×手塚 1スレ 99 図書館戦争シリーズ 堂上×小牧 1スレ 100 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 101-104 図書館戦争シリーズ 図書特殊部隊 1スレ 116 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 127-129 図書館戦争シリーズ 堂上班×柴崎×玄田 1スレ 136-139 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 140-146 空の中 光稀×高巳 1スレ 151-152 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 170-183 その1 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 170-183 その2 海の底 夏木×望 1スレ 159-164 海の底 夏木×望+冬原家 1スレ 165 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 189-190 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 200-205 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 212-213 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 217-218 図書館戦争シリーズ 堂上班+柴崎+玄田 1スレ 226-230 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 1スレ 235(217-218の続き) 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 237-241 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 245,249,251,252 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 257 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎 1スレ 260 図書館戦争シリーズ 堂上班 1スレ 270 図書館戦争シリーズ 郁×手塚彗+堂上 1スレ 280-281 図書館戦争シリーズ 郁×堂上+小牧+柴崎 1スレ 287-288 図書館戦争シリーズ 郁×堂上 1スレ 290(287-288逆Ver) 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎 1スレ 292-297 図書館戦争シリーズ 図書特殊部隊+柴崎 1スレ 301-303 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 315 図書館戦争シリーズ 郁+柴崎 1スレ 327 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 339-347(37-39の続き) 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 369,371-372 図書館戦争シリーズ 郁×手塚 1スレ 378-379 図書館戦争シリーズ 郁×手塚 1スレ 382-384(378-380の幕間) 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 388-391その1 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 388-391その2 図書館戦争シリーズ 堂上班他 1スレ 396-399 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 416-419,424-429,433-440 その1 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 416-419,424-429,433-440 その2 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 416-419,424-429,433-440 その3 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 1スレ 464 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 1スレ 474 図書館戦争シリーズ 郁+柴崎×手塚 1スレ 481 図書館戦争シリーズ 柴崎+堂上班(柴崎陵辱あり) 1スレ 532-537 その1 図書館戦争シリーズ 柴崎+堂上班(柴崎陵辱あり) 1スレ 532-537 その2 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎 1スレ 554-562 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎(百合) 1スレ 554-562 その1 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎(百合) 1スレ 554-562 その2 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 584-590 その1 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 584-590 その2 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 621-622 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 645 図書館戦争シリーズ 柴崎×手塚(スカトロ気味?) 1スレ 661-664+669-672 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 699-700 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 749-750 海の底 夏木×望 1スレ 778-783 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 849-850 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 866-867 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 863 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 877-881 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 907 図書館戦争シリーズ 堂上班+柴崎+玄田 1スレ 760-762
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/96.html
図書館戦争シリーズ 堂上班+柴崎 2スレ 10-12、19 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 2スレ 85-86 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原+柴崎×手塚 2スレ 95-96 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原+手塚+柴崎 2スレ 141 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 147-150 図書館戦争シリーズ 同期3人組 2スレ 153 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 180-186 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 192 図書館戦争シリーズ 良化委員会 2スレ 212 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 243-244 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 250-261 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 2スレ 303 図書館戦争シリーズ 玄田×折口 2スレ 314-315 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 2スレ 378-384 空の中 高巳×光稀 2スレ 418 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 465 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 2スレ 479-484 図書館戦争シリーズ 小牧×毬江 2スレ 539-550 図書館戦争シリーズ 小牧×毬江 2スレ 558-571 539-550 の毬江視点 図書館戦争シリーズ 小毬後日談(堂郁) 2スレ 572 558-571、539-550の後日談 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原(+柴崎) 2スレ 648 図書館戦争シリーズ 笠原+柴崎 2スレ 653-654 図書館戦争シリーズ ?×笠原 2スレ 697 図書館戦争シリーズ ?×笠原(アブノーマル注意) 2スレ 702-708 植物図鑑 イツキ×さやか 2スレ 714-716 図書館戦争シリーズ 手塚×柴崎 2スレ 720-721
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/91.html
図書館戦争シリーズ 郁×柴崎 1スレ 260 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎 1スレ 292-297 図書館戦争シリーズ 図書特殊部隊+柴崎 1スレ 301-303 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎 1スレ 554-562 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎(百合) 1スレ 554-562 その1 図書館戦争シリーズ 郁×柴崎(百合) 1スレ 554-562 その2
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/93.html
図書館戦争シリーズ 郁×柴崎×手塚 1スレ 99 図書館戦争シリーズ 堂上×小牧 1スレ 100 図書館戦争シリーズ 図書特殊部隊 1スレ 116 図書館戦争シリーズ 堂上×笠原 1スレ 245,249,251,252 図書館戦争シリーズ 堂上班 1スレ 270 図書館戦争シリーズ 郁×手塚彗+堂上 1スレ 280-281 図書館戦争シリーズ 郁×堂上+小牧+柴崎 1スレ 287-288 図書館戦争シリーズ 郁×堂上 1スレ 290(287-288逆Ver) 図書館戦争シリーズ 郁×手塚 1スレ 378-379 図書館戦争シリーズ 郁×手塚 1スレ 382-384(378-380の幕間) 図書館戦争シリーズ 堂上班他 1スレ 396-399 図書館戦争シリーズ 柴崎+堂上班(柴崎陵辱あり) 1スレ 532-537 その1 図書館戦争シリーズ 柴崎+堂上班(柴崎陵辱あり) 1スレ 532-537 その2 図書館戦争シリーズ 堂上班+柴崎+玄田 1スレ 760-762 図書館戦争シリーズ 堂上班+柴崎 2スレ 10-12、19 図書館戦争シリーズ 同期3人組 2スレ 153 図書館戦争シリーズ 良化委員会 2スレ 212 図書館戦争シリーズ 笠原+柴崎 2スレ 653-654 図書館戦争シリーズ ?×笠原 2スレ 697 図書館戦争シリーズ ?×笠原(アブノーマル注意) 2スレ 702-708
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/103.html
2スレ目 192 無事結婚式を終えた手塚夫妻が、独身寮から官舎へと引っ越した後の初めての公休日。 麻子の希望で、今日は『一日中家で過ごす』ことになっていた。 つきあい始めてから結婚式までの間が短いこともあり、ゆっくりとした時間を過ごすことは少なかった。 外でのデートはこれまでにもあったから、逆に部屋に籠もりっきりで二人で過ごしたいと言い出したのは麻子だった。 普段から八方美人を取り繕っているだけあって、デート中でも周りの視線が気になるらしい。 人目を気にせず光と一日過ごしたい、と言われると断れるわけは無かった。 いつもより五分ほど早く目が覚めると、普段はゆっくり見られない妻の寝顔を堪能していた。 すっぴんとはいえ非の打ち所のない美しさに見とれていると、麻子は視線に気づいたかのように目を覚ます。 「んーー……おはよ」 「おはよう、麻子」 「なに、寝顔に見とれてたの?」 「ああ、そうだよ」 そうよねー、これだけ綺麗な寝顔なんだから、と軽口を叩いて、麻子は光の胸に顔を擦り付ける。 肩を抱きしめながら髪の毛を撫でると、それだけでお互いの心がほぐれてくる。 いつまでも触っていたいが、さすがにそれで一日を潰すわけにもいかない。 誘惑を振り切って、 「で、今日はどうするんだ?」 「ん? 何も考えてないよ」 「お前なあ、せっかくの休みなのに……」 「何も考えずに光と一緒にいたかったの。ダメ?」 上目遣いで言い放った言葉は、しぐさのかわいらしさと相まって光の心を直撃した。 「……わかったよ」 何を言えばいいのかわからず、とはいえ黙ったままというのも癪だったのでとりあえずOKを出す。 「ということで、まずは結婚後初の二度寝をするから。三十分後に起こしてね」 「おい、二度寝って! しかも五分とかならともかく、三十分てどういうことだよ!」 「せっかくの休みなんだから、三十分くらい二度寝してもいいじゃない。これでも日頃結構疲れてるのよ。誰にも見せない寝顔を見られるんだから、役得と思いなさい」 あ、このまま腕枕してね、と言うと、あっという間に寝息が聞こえてくる。 全く我が儘なんだから、と思いつつも、自分だけに我が儘をぶつけてくれるのは甘えゆえとわかっているだけに怒れない。 わずかな時間でも麻子と同じ夢を見たい、と腰に手を回して軽く口づけすると光も目を閉じた。 四時間後。 三十分後に起こすはずが一緒に寝てしまい、起こさなかった罰としてブランチを作らされる光の姿があった。 「一緒に寝てたんだから、俺だけが作るってのは不平等じゃないか?」 「私は光が作ったご飯が食べたいの」 ニッコリと笑って言われると、何も言い返せない。 やれやれ、と思いつつ、コイツになら敷かれてもいいかと思う光だった。
https://w.atwiki.jp/ryman-collect/pages/160.html
編集中・・・ イベント概要 ランキング景品 獲得可能社員 面接P報酬アイテム ストーリー回想 イベント概要 ランキング景品 順位 商品 1位 SSR[一周年]柴崎郁己×3,SR確定ガチャ券,パワードリンク×3 2~5位 SSR[一周年]柴崎郁己×3,プレミアムガチャ券,パワードリンク×3 6~10位 SSR[一周年]柴崎郁己×2,プレミアムガチャ券,パワードリンク×3 11~20位 SSR[一周年]柴崎郁己×1,プレミアムガチャ券×1,パワードリンク×2 21~50位 プレミアムガチャ券×1,パワードリンク×2 51~100位 パワードリンク×2,スタミナスティック×2 獲得可能社員 理系 R[書類]はむ山さん 体育系 SR[カウンセリング]はむ山さん 文系 SR[お掃除]はむ山さん 面接P報酬アイテム ストーリー回想 + 教育イベント開始時 社長「――そうなんですか。」 それは困りましたね」 はむ山「はむはむ」 社長「え? そんなことまで?」 はむ山「はむはむ」 社長「うーん…… それは本当に困っちゃいますね」 黒城「…………」 社長「あ、黒城さん。 どうしたんですか?」 黒城「いや……」 黒城「……一体、 何の話をしているんだ?」 社長「それが……春になって はむ山さんのところに新人が大勢 入ってきたそうなんですけど……」 社長「ちょっと数が多すぎて なかなか新人教育が行き届かない そうなんです」 黒城「新人教育……」 社長「はむ山さんには お世話になってるし、何とか 力になれるといいんですけど……」 柴崎「そうですね。 できる限りのことは させていただきたいですね」 風間「俺、頑張ります!」 上條「この件に関しては社員一丸と なってあたりましょう」 はむ山「はむはむ」 社長「いいんですよ、 お礼なんて…… こんな時こそ恩を返させて下さい」 黒城「わけがわからないんだが……」 上條「何はともあれ、 やることは一つですよ。」 上條「我々なりのやり方で ルーキー達を指導して いきましょう」 + 黒城「このハムスター、 ずいぶんといるようだが…… こんなに増やしてどうする?」 柴崎「はむ山さんですよ」 黒城「何でもいい」 音無「可愛いものってたくさんいると 幸せな気持ちになりますよね」 成島「まあ、いて困ることはないよな」 黒城「困るだろう、実際問題」 柴崎「多い場合は 他社に派遣していますから 問題ありませんよ」 黒城「派遣……?」 柴崎「ええ。はむ山さんは あちこちで引く手多数ですから。」 柴崎「『癒される』 『社員が真面目になった』と 全国の社長から大人気です」 社長「うんうん。 はむ山さんって 確かに癒されますよね」 黒城「社員が真面目に…… 地味にいいな」 柴崎「そう言えば こんな声も届いていますよ。」 柴崎「『はむ山さんが来てからというもの いつのまにか仕事が片付くように なった』」 黒城「何だ、それは……」 音無「ハッ、そう言えば……」 音無「僕も泊まり込みで仕事していた時 目覚めたら、いつのまか仕事が完成 していたことがありました。」 音無「あれはもしや……」 音無「すごい…… 僕、これから会社で寝て過ごすこと にします」 成島「よーし、 来月からお前の席ないからな」 黒城「……あまり深くは考えずに おくべきなのか」
https://w.atwiki.jp/trpg-coc/pages/55.html
もっと食べたい 藤田鈴花 佐々木操 坂井涼 怪異のはじまり ここは市内の中華料理店。 個室に通された4人。 一人は、眼鏡をかけた髪の長い女性。 やや童顔だが、身のこなしはしっかりしている。 法律事務所の職員でもある藤田鈴花。 その後ろから入ってきたのは、明朗快活そうなショートヘアの少女。 髪飾りが特徴的な、サーカス団員の佐々木操。 続いて入ってきたのは目つきの鋭い銀髪の少年。 藤田鈴花の後輩で、佐々木操とは高校の同級生の坂井涼。 最後に入ってきたのは、ラフな格好の男性。 フリーのジャーナリストでもある菊池陽介。 4人は食卓を囲んだ。 普段、菊池が法律関係で世話になっている鈴花にご飯をご馳走するついでに、操と坂井も付いて来た形だった。 菊池 坂井君は何の勉強をやってるの? 坂井 何の勉強だろ・・・テキトーになんでもいいなって、心理学とかやってます。 ぶっきらぼうに答える坂井に操がフォローする。 操 年上の方なんだから、もうちょっと言い方が・・・ 鈴花 まあまあ、坂井くんはこういう人ですから・・・ 鈴花も、やれやれといった感じだ。 菊池も察して、操に話題を切り替える。 菊池 そういえば、次のサーカスの公演はどこでやるんですか? 操 今度は、東京の方でもやるんですよー 菊池 象にも乗るんですか? 操 象、乗りたーい!!超カワイイのwwwww すかさずツッコむ坂井。 坂井 佐々木、空中ブランコだったんじゃ・・・ 操 空中ブランコ専門だけど、象も好きで、ペットみたいなもんだからww しかし、雑談しつつも鈴花と坂井は菊池の顔色が悪いのに気づいた。 操はメニューを眺め始めた。 そこに店員が注文を聞きにきた。 店員 いらっしゃいませ。ご注文はいかがしましょう? 条件反射的に坂井が答える。 坂井 きつねうどん!! 鈴花 坂井くん、うどんは中華屋にはありませんよ。私は回鍋肉定食ご飯少な目で。 操 エビチャーハンとカニ玉と餃子と回鍋肉と食後に杏仁豆腐お願いします!! 2人のやり取りをよそに次々と注文を始める操。 鈴花 相変わらず良く食べますねww 坂井 オレはラーメンの定食で・・・ 一通り注文が通ると、意を決したかのように菊池が口火を切った。 菊池 実は、相談があるんですよ・・・ 鈴花 あら、一体なんでしょうか・・・? 菊池 今、あるコトを取材しているんですが、実は俺も“ソレ”になってしまったみたいなんです・・・ いわゆる、「摂食障害」ってヤツで、俺自身気づかないうちにモノを食べて、ひどい時には油とか醤油とかまで飲んでしまっているんです・・・ 坂井 あぁ、うん・・・ 突然の告白に一同も口ごもる。 摂食障害とは、過食症や拒食症の事で、ひどいものになると生命に関ることもある。 ダイエットなどが原因で、女性が多く掛かったりする精神疾患だ。 操 せっしょく?触るヤツですかー? 鈴花 菊池さん、まさかダイエットに失敗したんですか? 菊池 ・・・ホントに苦しんでるんです・・・ 鈴花 すいません、場を和ませようと・・・ そうこうしていると、店員が料理を運んできた。 店員 お待たせしました~ テーブルの上には中華料理の香ばしい香りを放つ料理が並べられた。 料理が運ばれてくると、菊池の様子が豹変する。 操 いただき・・・ ガシャン!!ガツンッ!!! やつれていたはずの菊池の瞳は食欲でギラつき、操の前に置かれた料理を奪って貪り食い始めた。 ガツガツ、ムシャムシャと、菊池は料理だけでなく、果ては割り箸や紙ナプキンまでも口にしだした。 一同は、その異常な行動に、あっけにとられていた。 やがて、さらなる異常事態を目にすることとなる。 菊池の足がなくなっていた。 正確には、太腿の辺りまで身体の中にめり込んでいた。 不思議なことに血は一滴も出ていない。 菊池は、そんな事など意に介さず食べ続ける。 もはや重力など無視して身体が浮かんでいる。 胸、腕、首とめり込んで、最後には剥き出しの口のみになった。 その口は、突然、坂井の方めがけて飛び掛った。 そして坂井は謎の言葉を聞く。 《ウガ・・・クトゥ・・・・フ・・・》 坂井 ひぃwww しかし、その口は、坂井の眼前で消え失せてしまった。 菊池だったものは、最期に言葉を搾り出した。 菊池 もっと・・・食べたい・・・・・・ 鈴花 菊池・・・さん・・・? 坂井 消え・・・た? 操 私の飯がああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! まだ食べてないのにいいいいいぃぃぃぃぃぃ 目の前の異常事態に操の思考が付いてこなかった。 菊池が消えた事実を認めたくないかのように、料理がなくなった事を叫び続けた。 その叫び声を聞いた店員が、個室を覗いた。 店員 お客様、何かありましたか? 鈴花 お騒がせしてすいません、もう大丈夫ですので・・・ 店員 そうですか、何かありましたらお声おかけください。 店員が戻っていくと、一同は改めて現状認識に努めた。 坂井 えっと、菊池サンどこ行った? 操 私の料理・・・ 坂井 いや、それはオレに言われてもwww 鈴花 取り敢えず、電話してみましょう。 鈴花が菊池のケータイに電話をかける。 すると、部屋の中にコール音が響く。 そこには菊池の鞄があり、その中から鳴っていた。 改めて自宅に電話しても勿論出ない。 操 鈴花さん、菊池さんの名刺持ってるなら住所とか分かります? 坂井 ってか、そのケータイに何か手がかりとかないかな? 食事の前に相談されてたじゃん。 消えた原因が分かるかも・・・ 鈴花 そうですね。 3人はケータイを確認した。 しかし、特に目ぼしい情報は得られなかった。 鈴花 ほかにメモ帳とか・・・ 鞄を探ると、菊池の取材手帳のようなものが出てきた。 その手帳には、先ほど相談を受けた「摂食障害」に関する取材の内容が書かれていた。 鈴花 この荷物には、そこまでの情報はないみたいですね・・・ 名刺の方には自宅住所が書かれているので、そちらに向かってみましょうか? 坂井 まあ、ここでこのまま解散って訳にもいかないよな・・・ 操 取り敢えず、行ってみる? 3人は菊池の自宅に向かうことになった。 鈴花は、菊池の鞄を持ち、支払いはこっそり菊池の財布で済ませた。 1 2 3 4 5 菊池の足取り 中華料理店より1時間ほど、菊池陽介の自宅。 菊池の鞄の中には自宅の鍵もあったため、そのまま自宅に入っていった。 部屋は小奇麗に片付いていた。 見渡すと、ノートパソコンが置かれていた仕事机、資料の並んだ本棚、原稿らしきものの捨てられたゴミ箱などがある。 坂井は、おもむろにノートパソコンを開いた。 坂井 仕事といえばパソコンだろ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 坂井は延々とパソコンと格闘するが、全く何も見つけることが出来なかった。 鈴花は、本棚を調べていた。 本棚には、摂食障害に関する書籍、摂食障害患者の日記やブログなどをプリントアウトしたものがある。 そして柴崎佳苗というカウンセラーの記事をまとめた資料があった。 雑誌のスクラップとして『美人カウンセラーのカンタン食事節制』というものがあった。 特に難しい事をせずに、お茶を飲んで会話するだけで過食症が治るというのだ。 柴崎氏いわく、精神状態の安定を促すことが食事節制の第一歩とのこと。 また、摂食障害カウンセリングに関して、菊池が取材・調査したのは主に3人だと分かった。 摂食障害専門のカウンセラー・柴崎佳苗。 製薬会社の社員・平木大悟。 市内の高校に通う学生で、過食症に悩んでおり、柴崎のカウンセリングを受けた患者・浅沼ひより。 一方、部屋の隅では、操がゴミ箱の中を見ていた。 そこには最近の菊池の原稿が捨てられていた。 摂食障害や薬物に関して書かれているみたいだ。 その中に、妙に丸められた紙があることに気づく。 操はその丸められた紙を取り出した。 操 藤田さん、こんなの見つけました。 鈴花 何ですかね、見てみましょう。 2人が紙を広げると、そこにはスケッチが描かれていた。 コウモリとヒキガエルを合わせた異様な生物の姿は、有り得ない生物にも関わらず現実味が強かった。 坂井は相変わらず、ノートパソコンと格闘していた。 鈴花 坂井くん、なにか見つかりました? 坂井 う~ん、全然見つからないっす・・・ センパイも見てくれます? 鈴花 そうですね、私も見てみましょう。 操 私も見せて~ 2人の間に入って操がノートパソコンを乱暴に扱った。 次の瞬間、モニターがフリーズしたと思うと、ブラックアウトした。 操 えwwwww 坂井 ちょwwww 鈴花 ・・・取り敢えず、再起動してみましょうか・・・ 操 こここ壊れたりしししてないよね。 鈴花 操ちゃん、もういいですから、そこで静かにしてて下さいね。 坂井 イジってパソコンがフリーズするって、中々ないからなww 3人がノートパソコンの扱いにあたふたしていると、その脇に取材メモがあることに気がついた。 それは手書きのメモで、柴崎、平木、浅沼に関することが書かれていた。 どうやら、菊池は柴崎のカウンセリングは不法な薬物ではないかと調べていたようだ。 3人の考えがまとまらないままでいると、突然、部屋の扉が開いた。 とっさに操は隠れようとしたが、逆にゴミ箱に足をぶつけてしまい、中身をぶちまけてしまった。 坂井 おぉいwww!! 現れたのは20代前半の女性だった。 鈴花 貴女は・・・ 操 ドナタデスカ・・・? 鈴花 菊池・・・愛美さん。 入ってきた女性は菊池陽介の妹でもある菊池愛美だった。 鈴花は菊池愛美とも面識はあった。 しかし、予期せぬ侵入者に菊池愛美は警戒した。 愛美 え・・・!? 貴方たち・・・一体なんなんですか? 坂井 えっと、一緒に食事してたら、なんか急に菊池サンが消えムグゥッ!! すかさず不用意な坂井の口を塞ぐ鈴花。 鈴花 (坂井くんは少し黙ってて!!) 実は今日、一緒にお食事をしていたんですけど、急に席を立ってしまって・・・ 相談事もあったみたいだったんで、心配になって来たんです。 元々顔見知りの鈴花の説得で、愛美は不信感を拭いきれないにしろ、話を信じようとした。 愛美 でも、法律事務所の藤田さんが言うなら・・・ 兄がいなくなったって言うのは、明日の事の準備とかでしょうか? 鈴花 明日のこと・・・ですか? 愛美 そうなんです。 明日、私の後輩の浅沼ひよりって子が、治療を受けたっていうカウンセリングについて兄が取材する予定なんですよ。 そのことで何か出払ってるんでしょうかね・・・ もしかして、藤田さんたちも、それに関連してるんですか? 鈴花 えーっと、まだそこまではですね・・・ 因みに、菊池さんは摂食障害で何か悩んでたって心当たりあります? 愛美 なんだか最近、よくモノを食べてしまうみたいでした。 鈴花 後輩の浅沼さんには、どういった取材の予定だったか分かりませんか? 愛美 ひよりは、私の後輩だったので紹介したんですが。 カウンセリングの内容を教えてくれたみたいですよ。 鈴花 どんな内容だったんですか? 愛美 普通のお茶会みたいなもので、普通におしゃべりするだけで気持ちが和らぐみたいですよ。 なんなら本人に直接聞いてみたらどうですか? 過食症とかで悩んでいる人がいたらオススメしたいって言ってましたしね。 そこで、操が鈴花に耳打ちをする。 操 鈴花さん、やっぱり浅沼さんに会ってみた方が良いんじゃないですか? 鈴花 そうね・・・ もし都合が付けば、私たちも浅沼さんって方にお話を聞いてみたいんですけれども・・・ 愛美 良いですよ~ そう言うと愛美はケータイでメールを打った。 すぐに返信が来る。 浅沼ひよりからで、元々、菊池陽介の取材を受ける予定だったので別に一緒で構わないとの内容だった。 鈴花 取り敢えず、これは菊池さんの荷物ですので持ってきたんですよ。 置いて帰りますね。 坂井 あー、鍵は開いてましたよ。 鈴花 !!!?? 愛美 そーですか・・・ まったく、兄さんは無用心ね・・・ 鈴花 (そんな馬鹿なww) 菊池陽介は来ないかもしれないけれども、と付け加えつつ、翌日の昼に駅近くの喫茶店で菊池愛美を交えつつ、浅沼ひよりと会うこととなった。 鈴花 では、私たちはこれで失礼します。 愛美 じゃあ、また明日ですね。 操 お邪魔しました~ 坂井 どーも。 3人は菊池のアパートから出た。 ひとまず戻ろうとした中で、鈴花だけは再び踵を返した。 坂井 え!? 鈴花 パソコン!! 何も分からなかったでしょ? 絶対、手がかりがあるハズ!! 再び菊池のアパートに戻ってきた。 もう、菊池愛美も帰ったようだ。 もちろん、鍵は返したし、きちんと施錠されている。 しかし、鈴花は全然困った様子は見せていない。 おもむろに眼鏡を外すとフレームのネジを回し始めた。 すると、針金のような物が分離する。 いわゆるピッキングツールだ。 それを使って、鈴花は鍵を差し込んだかの如く開錠してしまう。 鈴花 さあ、入りましょうか。 坂井 !? 操 !? 鮮やか過ぎて言葉を失う2人。 気を持ち直した操がノートパソコンを持ち出し、鈴花が元通りに施錠した。 時刻は夕方過ぎ。 3人は一人暮らしの鈴花のマンションに向かうことにした。 坂井 センパイ、作ってくれないんすか、手料理www 操 センパイの得意料理はなんですかぁ~? 鈴花 あのね、そんな事態じゃないでしょ・・・ 坂井 だって、ご飯食い損ねてたんだもん。 操 そーだよ!! 鈴花 コンビニで買って帰りましょう。 坂井 センパーイ。 操 センパーイ。 鈴花 余裕ね・・・ 結局、食材を買って鈴花が料理を作ることに。 その間に坂井と操は改めてノートパソコンを調べた。 坂井 ん、見つかった!! 操 ホントだ!! ノートパソコンの中にあった情報は、菊池の部屋で調べたものが大半だった。 しかしその中に、ネットの交流サイトを発見した。 柴崎の患者による交流サイトで、患者の経験談や柴崎への賞賛の声などが書き込まれていた。 そのサイトには、ある文言が頻繁に書き込まれていた。 《ウガァ・クトゥン・ユフ》 坂井は、この言葉に不安感を掻き立てられる。 と、不意に声をかけられる。 鈴花 カレーできましたよー 2人は現実に引き戻される。 ほどなくして、3人はカレーを食べながら、話を戻した。 鈴花 何か見つかりました? 操 患者さんの交流サイトを見つけたんですよー しかも、「ウガァ・クトゥン・ユフ」?って言葉が、挨拶みたいに頻繁に出てくるんですよー 坂井 その言葉って、菊池サンが消えた時に、聞こえたのと同じ言葉の気がするんすよね・・・ 鈴花 取り敢えずYahooで検索してみましょうか・・・ 鈴花がスマホを取り出して検索する。 すると、ある秘密結社の祈祷文がヒットした。 しかし、マイナーなものなので、それ以上は分からなかった。 坂井 え、オカルト関連なんすか? 鈴花 詳しくは分かりませんが、この言葉を使っている限りだと、柴崎佳苗とその患者は秘密結社に関係あるのでしょうかね・・・? 改めて交流サイトを見てみるが、その文言以外に怪しさは感じられない。 オープンな感じで、オフ会も頻繁に開かれているみたいだった。 幸運なことに、明日もオフ会が開かれるようだ。 浅沼ひよりと会った後でも充分間に合う時間だった。 鈴花 参加者に“ひよりん”とかいないよね~ と、オフ会の詳細を調べる。 場所は、市内のファミレス。 参加者は、サイトの管理人の絵都さん、アッキーさん、輪廻さん、ぴよ☆りんさん。 一同 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 鈴花 えぇッwww!!? これってもしかして・・・ 操 坂井、これってフラグが立ったと思わないか? 坂井 おおぅwww 鈴花 もしかして・・・ぴよ☆りん・・・ どう思います? これって、浅沼さん・・・ですよねwwww 坂井 う~ん。 操 まぁ~ 鈴花 ぴ・・・ぴよwwwww 操 浅沼さんだと思いま~す。 鈴花 逆に・・・ですけど・・・・・・ 明日、浅沼さんに集会があるなら参加してみたいですって話で持っていった方が良くないですか? 坂井 3人で聞くよりも、1人で中に入っていった方がいいかも。 参加者全員女の人だよね。 その中に男子が1人入っていく訳にはいかねーからww 近くの席に座って話を聞くとかさ。 鈴花 うーん、私が行くべきですかね・・・ ただ、午前中に浅沼さんと会ってたら、隣の席にいてもバレますよね・・・ 操 あぁ~ 鈴花 やるなら盗聴器的なモノが必要ではないかと・・・ 坂井 ナルホドな。 じゃあ、2人がオフ会に参加して、オレはどこかで盗聴器を聞くとかかな。 鈴花 午前中に3人いて、その後2人になるのも不自然な気がしますけどね・・・ 1人だったら、話を聞きにきました的な感じになりませんかね。 操 じゃあ、私たちは・・・ 坂井 ケータイ持って、いつでも動けるように外で待機かな。 操 鈴花さん、ファイト!! 結局、オフ会への参加表明はせずに、翌日、浅沼ひよりに直接交渉することに決まった。 坂井 そーいや、センパイの家に泊まってっていいの? 操 お邪魔なら帰りますけど? 鈴花 まあ、泊まっていっても大丈夫よ。 翌日の合流を考えて、3人は鈴花の部屋に泊まることにした。 深夜の狂気 その日の夜。 坂井は鈴花の部屋の洗面台の前に立っていた。 少々の気持ち悪さと共に眩暈に襲われていた。 眩暈はすぐに治まったが、目の前の鏡に映る自分の姿に、坂井は目を疑った。 そこには爪を齧り、呆然としている自分がいた。 慌てて口を止めるが、口の中には噛み千切った爪の破片が不快感と共に下の上でざらざらと踊っている。 口内の異物を吐き出すと、何度も水で口を濯いだ。 坂井 (なんだコレ・・・!?) 坂井の脳裏にひとつの言葉が浮かぶ。 坂井 (た べ た い ・ ・ ・) (肉が・・・ヒトの肉が、食べたい・・・・) 正常な思考は麻痺し、異常な食欲に支配される。 ふと、坂井は隣の部屋に人間が居るコトを思い出した。 一歩、また一歩とゆっくりと歩き出す。 その足音に操が目を覚ます。 操 う~ん・・・坂井・・・? 坂井 操・・・食べたい・・・ 操の寝込みを襲い、噛み付こうとする坂井。 しかし、バランスを崩して脇に倒れこんでしまう。 操 坂井!? どーしたの、寝ボケてんの!? 坂井 ガルルルルルル 坂井の目は焦点が合っておらず、歯はむき出しになっている。 その物音に、鈴花も目を覚ます。 鈴花 え!? 一体なにが? 操 ベランダの外に飛び出して逃げます? 鈴花 無理無理無理無理wwww 操 じゃあ、こうなったら、坂井ごめーん!! 操は襲い掛かる坂井に向かってパンチを繰り出す。 しかし、坂井は痛みを感じていないように見える。 鈴花 坂井くん、しっかりしなさい!! 鈴花の静止を振りほどき、坂井は操に組み付く。 鈴花 し・っ・か・り・しなさーーーーーい!!!! 鈴花の渾身の拳が坂井のアゴを捉える。 その一撃は、坂井の身体と意識を吹き飛ばした。 最終的に坂井は女子2人にタコ殴りにあって沈んだ。 1 2 3 鈴花 取り敢えず、意識が戻ってもそのままだと怖いので縛り上げときますか・・・ 坂井は簀巻きにされて、風呂場に転がされることとなった。 翌朝・・・ 鈴花と操は布団の中で気持ちよく目を覚ます。 坂井はボロボロのまま簀巻きの状態で浴槽の中で目を覚ます。 操 おはよーございますー 鈴花 おはようございます。 風呂場から声が聞こえる。 坂井 痛いんだけどーーー ナニこれー!?動けねーーー!! 操 あ、起きたみたい・・・ 鈴花と操は風呂場に様子を見に行く。 鈴花 目は覚めましたかー? 坂井 覚めたヨーーー!! 操 坂井、昨日の夜のこと覚えてる? 坂井 いや、なに?なにー!? 鈴花 2人に何か言うことは? 坂井 ・・・・・・ オハヨー 操 何も覚えてないみたい。 鈴花 じゃあ、このまま閉じ込めておきましょう・・・ 坂井 ちょっとコレ解いてくれよー!! 鈴花と操は朝食を食べ始める。 坂井 何で何で? 何でボロボロになってここにいんのー? 開放してよー!! しばらくして、坂井の意識が正常なことを確認して風呂場から開放される。 さらに鈴花は、昨夜の坂井の蛮行を包み隠さず坂井に話した。 鈴花 ・・・という訳で、一切の躊躇なくボコボコにしました。 坂井 あわわわわ そんなコトがあったなんて、すいませんでしたーーーー 鈴花 本当に覚えてないんですか? 坂井 夕べ、洗面所で自分のツメ噛んでたのは覚えてるけど、それから、お腹空いて・・・ 鈴花 それって、菊池さんと同じような感じじゃないですか・・・? 操 口だけになっちゃうの? 坂井 念のため、自分でもいつ暴れるか分からなくて怖いから手でも縛る? 鈴花 もしもの時は2人で全力で止めますから。 信奉者たち 朝食を済ませた3人は菊池愛美と浅沼ひよりに2人と合流して、喫茶店に入った。 鈴花 おはようございます。 坂井 どーも。 操 おはよーございます。 愛美 どうも、おはようございます。 ひより ウガァ・クトゥン・ユフ・・・ おはようございます。 どうも、はじめまして。 鈴花 菊池さんは、やはり今日来られないみたいですね・・・ ひより そーなんですか。 鈴花 こう言ってはなんなんですが・・・ 鈴花は坂井を指さす。 鈴花 最近、彼が変なんです。 そこで、ウワサに聞いた柴崎先生の話とかも聞けたらいいなって思って。 ひより そうなんですか!! 実は私もチョット前まで過食症で悩んでたんですけれども、柴崎先生のカウンセリングを受けてからウソのように良くなってるんですよ。 良かったら、貴方もどうですか? 男の人の過食症も珍しいですけどね。 鈴花 彼、こう見えても女の子なんですよ~ 坂井 ファッッッwwww!!! 鈴花 ってのは冗談で、具体的にどんなコトをするんですか? ひより 柴崎先生のカウンセリングを受けると、本当にウソのように食欲を感じなくなるんですよ。 例えるなら、誰かが代わりに食事をしてくれているような・・・ でも、効果は3週間くらいしか続かなくて、またお腹が空いてくるんですよ。 鈴花 今でもカウンセリングは受けているんですか? ひより はい、ひと月に1回くらいのペースで。 浅沼ひよりの話を聞く限りでは、本当におしゃべりをしているだけのようだ。 薬物を使う治療なども表向き行なわれていない。 鈴花 お茶会って聞きましたけど、お茶とか飲むんですか? ひより 先生が淹れてくれるお茶を普通に飲みます。 お茶菓子も先生が用意してくれたり、患者さんが持ってきた物を頂いたりしていますね。 鈴花 不安なので、ほかにも似たような患者さんがいれば、参考にお話を聞きたいんですけどね~ ひより そうなんですか? 実は、今日このあと柴崎先生の患者さんたちとオフ会があるんですよ。 鈴花 (あぁ~、やっぱりwww) ひより 良かったら、そっちにも参加されますか? 鈴花 そうなんですか~ あ、でも彼、人見知りで初対面の人が大勢いる場だと発狂(?)してしまうので、代わりに私が話を聞きたいのですが、だいじょうぶですかね? ひより 全然、参加してみてもらっても大丈夫ですよ~ 菊池愛美は話の内容もよく聞かずお茶を飲んでいる。 鈴花は愛美に目線を移して、ひよりに話した。 鈴花 菊池さんとは、どんな関係なんですか? ひより 菊池先輩は高校の部活の先輩なんです。 鈴花 そのご縁で、菊池陽介さんの取材を受けたんですか? ひより そうです。 先輩に柴崎先生のカウンセリングを受けたって話をしてたんですが、お兄さんが取材したいって言ってきたんです。 記者さんなんで、柴崎先生の記事を書いてもらえると思ったんです。 鈴花 どんなことを取材されたんですか? ひより さっきも言いましたけど、カウンセリングの内容です。 鈴花 菊池陽介さんは、その時どんな反応をされてたんですか? ひより 先生を疑っていたみたいです。 でも、実際に受けてないから仕方ないですよね。 私も半信半疑でしたから・・・ こうして、鈴花は浅沼ひよりとオフ会に参加することになった。 坂井と操はここで一旦、別行動となる。 市内のファミレス。 “ぴよ☆りん”こと浅沼ひよりが事情を説明して紹介してくれた。 テーブルの奥からサイトの管理人である絵都さん、アッキーさん、輪廻さん。 見た感じ、全員20代から30代の女性だ。 鈴花 はじめまして、今日は突然押しかけてしまってすいません。 実は友達で過食症の人がいて、柴崎先生に興味があってお話を伺いたいんです。 名前は・・・HNですよね。 えーと、鈴子で・・・ 絵都 そうなんですか。どうぞどうぞ。 促されて席に着く鈴花。 テーブルの下では外で待つ坂井のケータイと通話状態にしている。 絵都 では、みなさん集まったようなので始めましょうか。 絵都がそう言うと、全員があの言葉を唱え始めた。 参加者 ウガァ・クトゥン・ユフ、ウガァ・クトゥン・ユフ、ウガァ・クトゥン・ユフ。 鈴花 !? ・・・みなさん、先生のカウンセリングを受けてらっしゃるんですか? 絵都 ええ、そうですよ。 アッキー 先生のカウンセリングは素晴らしいですよ。 ひより 効果抜群ですもんね。 輪廻 ホント悩みが解消されましたよ。 鈴花 えーと、交流サイトとかでも書かれていたみたいなんですが、みなさんが始めに唱えていた呪文みたいなのって何なんですか? 絵都 アレは、“おまじない”みたいなものなんですよ~ 輪廻 言うと落ち着くんですよ。 アッキー はじめは変な言葉って思ったんですけど、フランス語?らしいですよ。 鈴花 へぇ~、そうなんですね。 鈴花は参加者たちの機嫌を害しないように相槌を打って話を合わせる。 その後も、柴崎を賛美するような会話がなされていた。 鈴花 じゃあ今度、友達もオススメしようかしら・・・ 絵都 それなら、柴崎先生に紹介しましょうか? 鈴花 ・・・・・・・ すごくありがたいです。 でもその友達がすごく人見知りなんですよ。 お気持ちは大変ありがたいですありがとうございます!!! 絵都 そ、そうですか・・・ 女子会のようなオフ会は進むが、鈴花はおかしな事に気づく。 テーブルの料理が多めなのだ。 過食症が治ったと言っているのにも関わらず食事の量は多いままのようだ。 よくよく見ると、みんな肌のツヤなどが良くない。 一方のファミレスの駐車場。 坂井は不意に眩暈を感じる。 しかし、坂井は自我を保ちつつ空腹感に苛まれただけだった。 鈴花も話をしつつ、お手洗いに行ってきますと席を立つ。 トイレに入ると、通話中だったケータイで坂井に呼びかける。 鈴花 坂井くん、聞こえます? どうでしょうかね? 坂井 う~ん・・・ あの人たちもどこまで本心なのか、ですよね・・・ リラックスさせるためにお香とかないですか? 薬を混ぜて催眠状態にしてるとか? 鈴花 確かに、口にする物ばかり気にしてましたね・・・ 大した時間をかけずに席に戻ってきた鈴花を誰も疑う様子はなく、雑談していた。 そこで鈴花が切り出す。 鈴花 因みにですけど、カウンセリングでお香とかって焚かれます? 友達は以前アロマのお香とかに拒否反応が出ちゃったみたいなんですよね~ ひより 先生もアロマやったりしてるんで、アロマオイルとかお香を焚いたりもしますよ。 鈴花 そうなんですね。 アッキー 苦手な人もいますもんね。 鈴花 今日はありがとうございました。 色々参考にさせていただきます。 こうしてオフ会は、何事もなく終了し解散した。 鈴花は、参加者が去るのを確認してから駐車場で待っている2人の元に行った。 坂井 お疲れ様でしたー 操 ありがとうございました。 坂井 お香は、常には焚いてないのか・・・ でも洗脳的なコトはありそうなんだけどな・・・ 操 本当に、実際は治ってるのか?ってトコだよね。 治ってなさそうに見えたんだけど・・・ 鈴花 確かに肌荒れもひどかったし、料理の注文も多かったですしね。 もしかして、操ちゃんって過食症なのかな・・・って。 坂井 そこ!? 操 私ですか!? 私・・・過食症・・・!? でも気にしないー!! 鈴花 ともかく、お香とか食べ物とかが怪しいですけどね。 坂井 じゃあ、オレが柴崎さんに会うしかないのかな? 鈴花 極めて胡散臭いですけど、そうするしかなさそうですね・・・ 坂井 菊池サンの事も聞いてみる? 操 何て言えば・・・ 坂井 菊池が・・・消えたんです・・・? 鈴花 菊池の口が消えたんです? 操 キクチの“クチ”が消えたので、“キ”だけになりましたwww 鈴花 なぞなぞ!? 坂井 よし、オレが行くよ。 鈴花 私も話を色々聞いた手前、保護者的な立場で同席しますね。 操 私はどーしよう・・・ 鈴花 クリニックの向かいにラーメン二郎があるらしいですよww 操 何だってwww!? 鈴花 サーカス団員なんですから、外壁を登って窓から侵入とかwww? 操 犯罪者じゃないですかwwwww 鈴花 3人で押し入って組み伏せてる間に物色するとかwww 坂井 強盗ですねwwwww 鈴花が柴崎メンタルクリニックに電話をする。 数回のコールの後に通話状態になる。 電話口 はい、柴崎メンタルクリニックです。 鈴花 すいません、紹介を受けてそちらで診療を受けたいのですが・・・ 電話口 でしたら、本日は予約もないのでいついらして頂いても大丈夫ですよ。 鈴花 じゃあ、1時間後くらいでいいですか? 電話口 はい、こちらも準備してお待ちしてます。 えーと、お名前を伺っても宜しいですか? 鈴花 付き添いで2人ほど一緒ですが・・・ 坂・・・坂口涼一でお願いします。 電話で診療の予約をすると3人は柴崎メンタルクリニックに向かった。 危機との接触 柴崎メンタルクリニックは住宅地の中にあるマンションの一室だった。 マンションの入り口はオートロックになっている。 予約したときに教えてもらった部屋番号を入力する。 柴崎 はい、柴崎です。 ご予約の方ですか? 鈴花 はい、坂口です。 柴崎 どうぞ。 そうするとマンションのドアが開く。 3人は柴崎の部屋に向かう。 出迎えてくれたのは美しい女性だった。 彼女は柴崎佳苗と自己紹介をした。 通された部屋は、女性らしい洒落た調度品や食器のある、雰囲気の良いアイランド型のキッチンダイニングだ。 中央には4人が囲めるほどのキッチンテーブルがあり、綺麗に片付いており、食器棚には女性の好みそうな食器が並んでいる。 そして、キッチンカウンターの上には紫色のビロードに覆われた物が置いてあった。 柴崎 あらためて、柴崎です。 鈴花 本日お世話になります坂口涼一です。 坂井 坂口です。 柴崎 そちら、お二方は? 鈴花 ・・・藤崎鈴子といいます。 操 もしかしたら、私も過食の疑いがある佐々木操と申しまーす。 柴崎 みなさんテーブルに着いて待っててください。 今、お茶の準備しますね~ そう言って、柴崎は紅茶の準備をして。 お茶とケーキを出してくれる。 そして、症状について尋ねる。 坂井 ここ3日くらいかな。 気がついたら爪を齧って食べていたり、あんまり記憶とかもはっきりしないんすよ・・・ 柴崎 じゃあ、自分でも自覚がない感じですね。 坂井 いつの間にか食べようとしてるっていう。 柴崎 あ、そ、そうなん・・・ですか? 鈴花 これ、過食っていうよりも、別のお医者さんですかねえ・・・ 柴崎 普通に考えると、過食症だけじゃない気もしますけどね・・・ 鈴花 そうですよね~ 柴崎 しかし、過食症・拒食症に関わらず、精神疾患というものは抑圧された感情が暴走した結果ということも、よくありますからね・・・ 鈴花 そうですよね。 この子も家庭環境が複雑みたいで・・・ 坂井 !? 操 www!? 柴崎は、ほかにも普段の食生活や悩み事などを聞いた。 雑談のような会話で時が過ぎていく。 そして・・・ 柴崎 まずは気持ちを落ち着かせる事が大事ですよ。 そうだ。 これは、おまじないの言葉なんだけど、「ウガァ・クトゥン・ユフ」っていう中世ヨーロッパの魔女の呪文なの。 坂井 (魔術きたか!?) 柴崎 ホントにただの“おまじない”ですよ。 鈴花と坂井は、柴崎の言葉に胡散臭さを感じる。 柴崎 何も考えずに言ってみてもスッキリしますよ。 なおも勧める柴崎に口ごもる3人。 坂井 魔女の呪文ってのが、ちょと・・・ 一体、どんなものなんですか? 柴崎 ああ、魔女の呪文って言っても、薬草を使ったりした美容の秘薬を作っていた人たちが使っていたおまじないらしいんですよ。 坂井 どこで、その呪文を知ったんですか? 柴崎 信じられないかもしれませんが、夢の中で聞いた言葉なんですよ。 その言葉を調べてみたら、中世の魔女の美容の呪文だって分かったんですよ。 坂井 その中世の人たちは、ほかに呪いとかもやってたんですか? 柴崎 う~ん、私はその言葉を拝借しているだけなので何とも・・・ 昔は何でも魔女として火あぶりとかにされたりしてましたからね。 柴崎との話をしていると、坂井の意識は朦朧となってきた。 柴崎は、会話の中にも「ウガァ・クトゥン・ユフ」という言葉を織り交ぜていた。 段々、坂井の目は虚ろになっていく。 そして徐々に意識が遠のいていく。 坂井は、沸き上がってくる空腹感に耐えられなくなってくる。 だんだん・・・おなかが すいてくる・・・・・・ だんだん・・・ちが みたくなってくる・・・ 不意に、坂井は手元にあったフォークで隣に座っていた操を襲った。 突然のことだったが、操は軽い身のこなしでフォークを避けた。 坂井はバランスを崩し、椅子から崩れ落ちた。 その際に、自分の腕を切ってしまう。 坂井の腕から流れた血は、明らかに不自然な飛び散り方をした。 重力、物理法則を無視して紫のビロードに吸い込まれていった。 鈴花と操は、その紫のビロードを見た。 操 あの中には何が!? なおも襲い掛かろうとする坂井に対して鈴花が組み伏せようとする。 それを見た柴崎は「ウガァ・クトゥン・ユフ」と呪文を唱え続ける。 すると、坂井の身体に異変が起きる。 ガクンと動きが止まり、黒い謎の液体のようなものが口の中から大量に出てきた。 ゴポゴポゴポ。 坂井 う、うええぇぇぇ 鈴花 ひいぃぃぃwww 操 きゃーーー その腐った沼のような悪臭を放つトロリとした液体は、黒曜石のような光沢を持っていた。 床に流れ落ちた液体はひとつの塊となり、下腹部には何本もの足を生やし、蛇のように鎌首をもたげた。 のっぺりとした黒い塊のてっぺんには、木の杭のような歯を生やした巨大な口が開き、体のあちこちにはギラリとした光を発する目が見開かれていた。 バケモノは部屋のテーブルを、クッキーでも齧るかのようにバリバリと噛み砕いた。 その隙に操が紫のビロードに包まれた物を抱え上げて窓の外に放り投げた。 綺麗な弧を描いたそれは、地面に叩きつけられてガシャーンという音を響かせて割れた。 しかし、その音を聞いた途端に、急に意識が暗闇に落ちていってしまった・・・ 意識が戻り、視界が戻ったのは、白い骨が敷き詰められた空間だった。 そして、どこからともなく、例の祈祷文が聞こえている。 そこには、その祈りに包まれながら惰眠と人肉を貪る怪物がいた。 邪悪さを放つ怪物は、見ているだけで魂が砕けるような恐怖を感じる。 物憂げにこちらを見ているが、その気になれば自分たちなど簡単に滅ぼせるだろう。 そんな恐怖に苛まれた。 恐ろしい怪物を目にして、身体が動かず、声も出ない。 そんなこちらを物憂げに見ていた怪物は、ふと手元のものをつまみあげた。 それは、裸体の女性だった。 よく見ると、それは柴崎佳苗だった・・・ ゆっくりと怪物の口に落ちていく柴崎。 抵抗することもなく、美しかったその身体は、怪物の鋭い歯に引き裂かれた・・・ 気だるそうに咀嚼する怪物。 そうしてゆっくりと、口の中のものを飲み込むと、こちらを見た。 そして、柴崎を掴んだその手をこちらに伸ばしてきた。 その手は、佐々木操を掴みあげた。 瞬間、操は今まで感じたことのないような激痛と悪寒に襲われる。 嫌悪感が全身を駆け巡る。 すると、脳の中に何かが入り込んでくるような感覚を覚えた。 操 ・・・・!!! 苦痛に耐えていると、ふいにヒキガエルのような女の悲鳴が響き渡った。 そうして全員の意識は再び暗転した・・・ その悲鳴は柴崎の悲鳴だった。 3人は、元の柴崎の部屋に倒れていた。 しかし、黒い液体のバケモノもそこに留まっていた。 少しすると、うずくまっていた柴崎が、ぶつぶつと何かを呟き始めた。 柴崎 あ・・がぁぁ・・・・ぅぐううぅぅ・・・ 言葉にならないような唸り声を上げ続ける柴崎。 よく見ると、その身体はやせ細り、骨と皮だけになり、拒食症患者のように見えた。 ひどく痩せ細ってしまった柴崎、また、先ほどから苦しんでいる操。 この様子を見るに、あの空間で起こった事が2人に影響を及ぼしているのは明らかだった。 不意に、唸り続けていた柴崎の声が止まった。 そして、ゆっくりと立ち上がった。 柴崎 ・・・ど・・・・して・・・ そう呟くと、柴崎は突然、襲い掛かってきた。 柴崎 どうして!? どうして、食べてくれないの!!? あ、ああぁぁ・・・ウガァ・クトゥン・ユフ、うがぁ・くとぅん・ゆふ 柴崎は、もはや正気ではないのか、祈祷文を唱えてバケモノを見ている。 柴崎の祈りに反応するかのように、バケモノは柴崎めがけて襲い掛かった。 そして、その巨体を柴崎の口の中にねじ込み始めた。 入り込む容量に耐え切れず、柴崎のアゴががくりと外れる。 しかし、勢いを失することなくバケモノは柴崎の体内に侵入していく。 一分と経たずに、巨大なバケモノは全て柴崎の体内に収まってしまった。 柴崎の腹は、餓鬼のように大きく膨らんでいる。 みんなが見つめる中、柴崎はモゴモゴと口を動かす。 そして、そのまま満たされたような表情で後ろに倒れた。 すると先ほどまで膨らんでいた柴崎の腹は、嘘のように萎んでいた。 そう、不自然なまでに・・・ 柴崎は、ぴくりとも動かなくなった。 どうやら死んでしまったようだ・・・ そして、部屋には静寂が訪れた・・・ 後に、摂食障害のカウンセラーが過度なダイエットによる餓死という記事が小さく報道された。 因みに、柴崎の部屋から日記が押収された。 以前の彼女は、重度の摂食障害で、過食嘔吐(物を猛烈に食べては嘔吐を繰り返す症状)に悩まされていた。 ある時、骨董屋でホコリをかぶっていた像と巡り合う。 妙に心引かれて購入したものの、その像を近くに置くと、食欲が嘘のようになくなった。 そして、夜な夜な奇妙な夢を見た。 コウモリのようなヒキガエルのような生き物が、柴崎の食欲を食べてくれるというものだ。 さらに、その生き物は、そういう人々を連れてくるように柴崎に求めた。 柴崎は、何かの啓示だと思い、摂食障害のカウンセリングを開業した。 異常な効果を上げる柴崎の治療を、不審に思う人物が現れた。 それが、菊池陽介だった。 菊池は、麻薬などの薬物による不法な治療を疑った。 何とかしたいと思っていたが、夢の生き物が使いを出してくれた。 それが、黒い液体のバケモノだった。 黒い液体のバケモノに取り憑かれた菊池は内側から喰われてしまった。 そんな事が書かれていた。 もちろん、警察は、そんな荒唐無稽な話は信じなかった・・・
https://w.atwiki.jp/arikawa/pages/59.html
1スレ目 416-419,424-429,433-440 その1 「あら、だーれも残ってないの?」 当麻の領事館駆け込みから数ヶ月。 リハビリは一応終えて特殊部隊に完全復帰した堂上だが、哨戒などとっさの行動が必要になる防衛業務ではもしもを考えシフトを外してある。 堂上班始め特殊部隊隊員が全員出払っていたため、一人残されていた堂上が折口に茶を出した。 「ちょうど良かったわ。堂上君に話があったの」 その微笑みは異性を簡単に虜にできる程に艶やかだったが、あいにく堂上は長年の付き合いで折口の本性を知っている。 この人はこう見えて中身は玄田と同等だ。 堂上の内心を知ってか知らずか折口は軽く爆弾を投げた。 「郁ちゃんとデートして来てくれない?」 「は?」 堂上は思わず素になって折口に問い返した。 その折口はいつものごとく隊長室の応接ソファにだらしなく腰を下ろしていたが、軽く座り直す。 「そんなすっとんきょうな声出さなくてもいいんじゃない、郁ちゃんと食事に行ってもらうくらい」 サラリと言い、このやり取りをニヤニヤしながら見ている玄田に視線を送る。 してやったり。の意図があからさまにわかった堂上は軽く目眩を感じた。 この人らはいい年して。 「冗談だったら失礼させてもらいますよ」 普段の仏頂面に加えて苦虫を10匹ほど噛み潰してから、堂上は隊長室のドアノブに手を伸ばした。 「まぁ待て話は最後まで聞くもんだぞ」 最後まで聞く価値があるのか?とは思ったものの玄田の命令口調に押されてノブを握る手が止まる。 「ごめんねえ。堂上君真面目だからついからかってみたくなるのよ」 「おい、折口、いい加減本題に入れ。後でこいつの八つ当たり受けんのは、俺しかいないんだからな」 「はいはい。実はね、当麻先生があの事件のお礼に二人を食事に招待したいっておっしゃってるのよ」 「当麻先生からは十分すぎるお礼をいただきましたが」 当麻が無事に自宅に戻ってから、表向きは図書費の寄付という形で図書隊に多額の現金が贈られた。 「それは図書隊へのお礼でしょ。二人には特に世話になったから、個人的にお礼をしたいそうよ。」 「ですが、当麻先生からはお見舞いもいただいてますし…」 渋る堂上相手に苦戦ぎみの折口に、すかさず玄田が援護を送る。 「奥様もお前らに是非とも礼をしたいそうだ、頑なに断る訳にもいかんだろう」 どうやら最初から断る自由はなかったようだ。 実のところ、あの事件の後で当麻と語る機会などなかったので、「郁とセットで招待」さえなければ、またとない誘いをこうも頑なに断りはしない。 いや、郁と食事に行くことが嫌な訳はない。ただ「二人で食事に」の誘いにホイホイ乗るのが気恥ずかしいだけなのである。 堂上が黙ってしまったのを折口は了承と受け取ったようだ。 会食の日時と場所については当麻から堂上の携帯に直接入る旨を伝えた。 去り際に折口は再度笑みをうかべて、言った。 「そんなに緊張しなくてもいいじゃない。郁ちゃんと二人で食事に行くなんて別に『珍しいこと』じゃないんでしょ?」 爆弾を投げっぱなしで折口が出て行ったため、結果完全にやさぐれた堂上の八つ当たりは玄田が一人受けるハメになった。 『当麻先生が事件のお礼に食事に招待して下さるそうだ。日時が決まったら連絡する。都合の悪い日はないか?』 夕食後、届いたメールに郁は首をかしげた。堂上とはつい先ほどまで一緒に特殊部隊事務所で勤務していたはずなのだが。 「なんでさっき聞かなかったのかな。それに都合って言っても、堂上教官あたしのスケジュール把握してるはずだよね。つーか、なんでメールなんだろ?」 恋人同士になってから半年、堂上からの連絡はほとんどが電話だった。 と言うより、お互い寮生活、加えて勤務のシフトが全く同じという環境では、携帯で連絡を取ることすら珍しい。 勤務中は極力私的な会話をしないようにしているが、(堂上はともかく免疫のない郁は下手に恋人モードに入ってしまうと、顔色を簡単に戻せない)いつでも直接話してしまう方が手っ取り早い。 メールでわざわざ連絡する理由か・・・この話誰にも聞かれたくないのかな。 ならば自分もメールで返事をと、コタツからもぞもぞ這い出て座り直す。 『特に都合悪い日はありません。この話内緒の話なんですか? 柴崎にも話さない方がいいですか?』 ちょうど送信ボタンを押した瞬間に 「ううーっ、寒かったぁ」 所用で外に出ていた柴崎が震えながらコタツに潜り込んできた 柴崎にも話せないかもしれないメールのやり取りだ。 柴崎が部屋に戻った瞬間肩がビクリと跳ねてしまった。 当然それを見逃すほど柴崎は甘くない。 「ふうん、そんなにやましいメールのやり取りしてんの?」 「な、やましいって!?そんなんじゃないっ!」 焦っている郁は柴崎のからかい口調に気がつかない。 「じゃ、何?人が部屋に入ってきただけであんな驚き方するメールって」 「それは…」 郁が言葉を選ぼうとしたとたん通常とは異なるメール着信音が響く。 うわぁ、なんであたしマナーモードにしてないのよー。 それになんでこのタイミングで返事くれるかな。 「堂上教官でしょ。メール見ないの?」 柴崎には堂上専用の着信音までバレバレになっている。 渋々郁は携帯を開いた。 『当麻先生が個人的にお誘いしてる話だから隊長と班員以外にはちょっとな。柴崎なら言わなくてもそのうち情報を仕入れてくるだろ』 「焦って損したぁ」 郁はコタツにぐったりと倒れ込んだ。 「で、何なの?」 「んとね、事件のお礼に当麻先生が食事に招待してくれるみたい。でも個人的なお誘いだから班とあんた以外の他の隊員には言うなって、それは分かるけど、なんでメールなんだろ」 「そうねえ、向こうは個室なのにね」 さすがの柴崎でも、昼間折口に散々引っ掻き回された堂上が、今日のところはバツが悪くて、ことこの件に関しては郁と直接話すのを避けておきたいと思っているとは、推測出来なかった。 「堂上教官」 当麻との会食の打ち合わせが完了した次の日、書庫勤務中の堂上の頭上から声がかかった。 見上げると柴崎が踊り場の手すりに寄りかかって体を乗り出していた。 柴崎はよくこの階段の上から声をかけてくる。 堂上は、猫は優位性を誇示するため高い位置に立つと聞いたことを思い出した。 前に手塚が笠原のことを犬に例えてたが、こいつは猫だな。 そう言えばあいつももたまに柴崎がチェシャ猫に見えるとか言ってたよな。 堂上の表情がフッとほころびかけた。 「聞いてますよ。当麻先生との会食の話。笠原、悩んでましたよ。何着てけばいいんだろって」 「だろうな。アドバイスしてやってくれ」 「もちろん。当日まで笠原には箝口令しいておきますから、楽しみにしておいてくださいね」 例のチカン事件の時よりもグレードアップさせますから。 ささやかれて、ついあの時の郁のミニスカートを思い出してしまい、堂上は自己嫌悪に陥る。 勤務中に何考えてんだ俺は。 「お膳立てはしておくんでぇ、あとは堂上教官、よろしくお願いしますね」 何をよろしくだ!? 言い返すこともできずにただただ堂上は口をパクパクさせただけだった。 会食の1週間前、郁は柴崎に付き合ってもらって買い物にでかけた。 妙に張り切っている柴崎に引きずり回され、やっと納得のゆく品物の購入にこぎつけた頃、辺りには夕闇が迫りつつあった。 帰りまでに一息入れようとカフェに入った。 「笠原、お茶飲んだらもう一軒行くわよ」 柴崎はまだ臨戦体制である。 郁は買い物の袋を数えながら当日のコーディネートをイメージしてみた。 「まだなんかあったっけ?」 「おおありよ」 柴崎は郁の耳元に口を寄せてよく知られた下着販売店の名を告げた。 「ちょ、まっ」 あんた何考えてんのよ?!と続けられずに郁はアウアウとするばかり。 「付き合ってる男女が休日前にホテルで食事しておいて、まっすぐ帰ってくるなんてことあるの?」 会食の日付が、ちょうど堂上班の公休日前日だったことには郁も気づいていた。 いや、気になっていた。 「食事って・・・今回は当麻先生とご一緒だし」 「食事はね。その後まで一緒じゃないでしょ」 「でも、堂上教官だって、そんなこと何にも…」 「免疫ないあんたにそんなこと言っちゃったら、当日まで正気保てないわ」 柴崎の指摘通り、この一連の流れだけで郁の顔は真っ赤に染まっていた。 自覚して郁はうなだれた。 「だいたいこの前も2人でドライブ行って、なんで門限に余裕で間に合う時間に帰ってくんのよ?あんたはともかく、堂上教官がこんなヘタれだったなんて思い違いもいいとこ」 「あのぉ、意味わかんないけど、柴崎、怒ってる?」 「どっちかって言うと楽しんでるけど?」 それはつまり自分達がウオッチ対象になってるということか。 「そろそろ展開変わってもらえたら、観察者としては盛り上がるんだけど」 「ぎゃーっ!バカっ。妄想もいい加減にしてよ」 ニヤニヤとしなだれかかってきた柴崎を郁は強引に押し返した。