約 517 件
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/675.html
the latter part ~ヒカルと学校~ the first part ~父とぼく~ 女の人、ましてやぼくの担任教師。ぼくの手首をはじめて握った手の持ち主はそんな人のもの。 幼きぼくが書斎にこもり、誰かに構って欲しくなったように泊瀬谷先生は誰かを必要としているのかもしれない。 ゆっくりと揺れるぼくの尻尾が、泊瀬谷先生の尻尾に触れた。ぼくはどう答えていいのだろう。 言葉で答えずに、通り慣れた廊下をぼくは泊瀬谷先生と一緒に歩くことで返事とした。 ネコなのに柑橘の香りが好きだなんて、教師なのにすすんで生徒の手を握ることぐらい珍しい。 もし、幼きぼくが父の本を噛み破ろうとしたときに今の泊瀬谷先生に出会っていたら、というありえない仮説が頭に浮かんだ。 きっとぼくは泊瀬谷先生の甘い匂いに包まれながら泣いていたかもしれない。その匂いが全てを許してくれるかもしれないから。 柔らかい尻尾を枕によいこのねんねをしていたかもしれない。そして、本を噛み破ることもなかったかもしれない。 分別付く前だからネコとイヌというケモノの差を忘れて、思いっきり泊瀬谷先生の手を握っても許されたのに。 所詮、それは叶わぬ夢。現実に戻ると、玄関から吹き抜ける風に乗って、泊瀬谷先生の甘酸っぱい香りがぼくの鼻をくすぐる。 今の泊瀬谷先生は教壇に立っている姿を忘れさせるのに十分なくらい、小さく、そして幼く見えた。 「わぁーお?男の子!甘酸っぱいね!」 さばさばした声がぼくらに届くと共に、すばやく泊瀬谷先生は手を引っ込め隠すように後ろに回した。 声の主は杉本ミナ。ふわふわとミカンの林を歩いている間、気づかないうちにぼくらは玄関まで来ていたのだった。 手に野球のグローブをはめ、腰に手を当てている体育会系のミナ。彼女は校舎の様子を見に玄関まで来ていたのだ。 ミナは泊瀬谷先生の姿を見ると、グローブを外して軽くお辞儀をして、冷たい風を耐え切るような大人の口調でこう尋ねた。 「学校の方ですね?サン先生はいらっしゃいますか」 「ええっと、サン・スーシの方はただいま席を外していまして…」 泊瀬谷先生はさっきまで見せていた家庭的なお姉さんの顔でなく、世間と闘うりりしいキャリアウーマンの顔をして、低い声で答える。 ご生憎さまにサン先生は英先生に連行されたまま(表向きには『生徒と進路相談中』となっている)、未だ解放されていない。 泊瀬谷先生は職員用の下駄箱から自分の春物のパンプスを取り出し、履き替えミナと一緒に外に出た。 ぼくは追って生徒用の玄関から外に向かう。その間に考えた。ミナにぼくと泊瀬谷先生のことを見られてしまったのではないかと。 からっとした性格のミナのことだから、別になんとも思っていないだろうが…やはりぼくが気になるのは…。 「泊瀬谷先生って言うんですね?ども、浅川と申します」 「杉本です。サン先生とは学生時代、お世話になりました」 そう。とっぴな行動を見られたのじゃないかと、泊瀬谷先生が気にしていること。 泊瀬谷先生はなんでもかんでも自分のせいにして、自分で自分を追い詰める人だから尚更心配だ。 グラウンドに着くと、泊瀬谷先生と杉本ミナ、そして浅川が一堂に会してごあいさつをしていた。 浅川はかすかにつんとする香りを漂わせていたが、それは写真の現像で使う酢酸という薬品の匂いらしい。 朝方まで自宅の暗室にこもり、出版社に送る写真の現像作業に追われていたからだという。 「ビジネスのためだからね。ネコ用シャンプーの減りが半端ねー!」 ミナはミナでサン先生に会いに来たらしいが、会うことが出来ずケラケラと笑い飛ばす。 半ばあきらめモードのミナ。履き慣れた編み上げブーツで小石を蹴る。 「よし、浅川くんよ。キャッチボールを続けるよ」 「は、はい!不肖・浅川、杉本さんに付いてゆきます!」 グラウンド端に二人は走り、キャッチボールを再開させた。 長身の浅川から投げ出される球は結構速い。大空部の滑空には及ばないが、それを受け止めるミナも負けじと好球を返す。 ふと、ミナの投げた球を浅川が取りこぼしぼくらの方に転がり、飛び出した泊瀬谷先生が拾った。 泊瀬谷先生はわたわた走る。初めて見る鞠に何ごとかとじゃれる、幼い子ネコのようにも見えた。 「泊瀬谷せんせーい!こっち!こっち!」 浅川の声がするほうに泊瀬谷先生は思いっきり投球を試みるが、あさっての方向に飛んでいってしまった。 それでも愚直にも浅川は追いかける、そして遠くに走る。しかし、泊瀬谷先生の投球は偶然ではなかった。 泊瀬谷先生は例えば職員室で失敗したときの顔をしていなかった、というのがぼくの目にも分る。 玄関でミナと会ったときの顔と同じだったからだ。いや、後姿しか見えなかったから確証がないが、きっとそうに違いない。 それを裏付けるかのように、泊瀬谷先生は投球の後、「うん」と頷き、すぐさまミナの元に走っていった。 気になるぼくも付いていく。 ぼくがミナの元にたどり着くとミナは疲れたからと、ぼくにグローブをぽんと投げ渡し交代を申し出た。 「杉本さん、お待たせ…おお?今度はヒカルくんだね!よし、浅川大リーグボールを受け止められるかな!」 無駄に張り切る浅川の瞳は炎立つ。しかし、気になるのは背後から聞こえる弱気な泊瀬谷先生の声。 「杉本さん…」 「ミナでいいよ!」 「あの…さっき…。さっきのこと…」 生徒の手首を掴み、並んで歩く教師を見ればきっと教師の方に氷の視線が突き刺さるだろう。 でも、ミナはそんなことではやし立てるようなネコではない、はずだ。 泊瀬谷先生は本当に物事を気にしすぎる。早く泊瀬谷先生の尻尾を楽にさせてあげたい。 でも、大丈夫。ミナを信じて欲しい。 浅川のボールが返ってくる。ヤツは本当に球技が上手いのか、運動の苦手なぼくにでも上手く取れる球を返してくる。 しばらくはミナと泊瀬谷先生の声とボールの捕球する音しか聞こえない。 「ミナさん。あの…あの…」 「大丈夫。ヒカルくんを信じてね。先生、わたし…応援してる」 「そう、ですか」 「でもね。せんせは『お姉さんだから』って、張り切っちゃだめよ」 サン先生と同い年のミナは泊瀬谷先生より上だ。ミナは何でもこなせるようにも見える。が、こんな人ほど孤独に弱い。 校舎のほうから父の声がした。 「ヒカルー!仕事終わったよ」 「ずっと仕事してていいのに…」 父に聞こえるように大きな独り言。それでも懲りないのが父の良いところでもあるし、悪いところ。 「いやー、やっと仕事があがってね。詩ばっかり書いててもなかなか収入がねえ…、奥さんに叱られちゃうんだよね。 『あなた、もっとお金になる仕事をやってみたらどうなの?』ってね。このままじゃ、今度帰って来たときにまた怒られちゃう。 だ・か・ら、エッセイを書いてみたんだよね。思ったままつらつら書けばいいからねえ、周りのことを。 そうそう、我が息子よ。エッセイのネタ、ありがとう!出演料として10円あげよう!嬉しいだろ」 嫌な予感がした。父の尻尾は振り切れそうだが、ぼくの尻尾は力なくだらりと垂れている。 浅川は父に会えたことに興奮し、ミナはケラケラ笑い、泊瀬谷先生はご都合さまの愛想笑い。 「おお!浅川くんよ!素敵な企画を持ってきたね。作家が母校に戻って来る写真記事、編集さんに後生大切にしてもらえよ! さて…浅川くん。鬼のような編集者の目に涙を溢れさせるほどの作品を撮ってやろうじゃないか!」 「犬上先生!それじゃあ、早速図書室に行きますか。オレ、機材持ってきますから!」 張り切る浅川はグローブをぼくに渡した後、どこかに走っていった。 泊瀬谷先生はぼくに「もっと数学を頑張らないといけないぞお」と強がってみせた。 そして、独りぼっちになったミナは心なしか無口になっていた。 こつんと小石を履き込まれたブーツで蹴っているミナは今までのミナとは違う声で呟く。 「いいお友達を持って、よかったと思うんだ。うん」 「……」 「ヒカルくん。泊瀬谷先生を大事にしないといけないよ」 例えばネコの女と、イヌの男。種族が違うふたりが一旦破れてしまえば元に戻ることはあるのだろうか。 幼きぼくが噛み破った本のように、元に戻らず痛々しくもちぎれたまま形を残してしまうのだろうか。 それを考えるのはつらすぎる。 グラウンドに大きな声が響き渡る。どうやらサン先生が英先生のお説教から解放されたようだ。 「いやー!生徒がどうしてもぼくと相談したいって聞かなくて!」 「サン!遅いぞ!サンの方から呼び出しといて、こっちは待ちくたびれたんだから!」 「ぼくも忙しいんだからね。早くぼくのポケバイを見てくれよ!コイツったら、駄々をこねてるんだぜ」 「ふう、今度はポケバイね。ホント、サンはバイクばっかり乗ってるんだから」 「ミナもね」 ミナはサン先生に向かって走り、ペチンと快音をサン先生の頭で鳴らして、二人とも自転車置き場へと消えて行った。 残されたのはぼくと泊瀬谷先生だった。 「英先生も大変ですね」 「でも…、サン先生はもっと大変かも」 ぼくらが二人の心配をする権利も義務もない。 英先生は教師の義務を果たしているだけ。サン先生は学園の一員としてぼくらを楽しませているだけ。 こんな小難しいセリフを言わなくても、理屈なく学校は楽しい。 「サン先生、楽しそうですね」 「そ、そうね。ヒカルくんもそう思うんだ」 多分、学園の誰もがそう思っているに違いない。大人のクセして、少年の行動力を持つ数学教師、サン・スーシ。 しかし、同じような人物がぼくの身の周りにいたことを忘れていた。彼の名前は犬上裕。そして、もう一人、浅川シャルヒャー。 学校にいても、家に帰ってもコドモな大人がいるぼくにとって、彼らの魅力はこうして初めて気付く。 犬上裕と浅川シャルヒャーが校舎からニコニコしながら出てくるのが見えた。嫌な予感がする。 「おお!我が息子、何を憂う?いやー、撮影は楽しいねえ。何しろカメラマンの腕がいいし、被写体も最高…だなんてね。 おや?お隣にいるのはもしやヒカルの担任の先生、とか?ヒカルも美人の先生に囲まれて、コイツったら!」 「犬上くんの担任の泊瀬谷です。お父さま、初めまして」 泊瀬谷先生は深々と父にお辞儀をした。 一緒にやって来た浅川はと言うと、ミナが居なくなっていることに気付いて少し落ち込んでいた。 「杉本さん…、帰っちゃったかな。あはは」 「……」 「でも…キャッチボール、楽しかったなあ。杉本さん喜んでたし、まっいいか…ははは」 力なく頭をかきながら笑う浅川だが、立ち直りは早そうに見える。 「父さん、尻尾が濡れているんだけど…」 「いや、その…なあ!浅川くん。説明してあげなさい!」 「いやいや!ここは『言葉の錬金術師』犬上大先生の素晴らしいセリフで、みなさんのハートを鷲掴み!」 「父さん…ぜったい何かやったでしょ」 父の尻尾が明らかにおかしい。尋常じゃない濡れかただ。いい歳して水遊びでもしたのだろうか。 それに、必死にぼくらから隠そうとしているところが怪しすぎる。 「浅川くんがやろうって言ったんだよね?『芸術の為なら、このアングルは外せない』とか、 『これを外すなら、オレは写真家を辞めてやる』って。ぼくは知らないよ!浅川くんのせいだもんね」 「い、犬上先生?!先生とあろう方がなんてことを!『ぼくの詩にはこのカットがぴったりだ』って言ったでしょ?」 いい歳をした大人が子どもじみたいい争いをしているのを見て、泊瀬谷先生は笑っている。 口数が少ないゆえ泊瀬谷先生の気持ちを動かせないぼくに対して、いとも簡単に泊瀬谷先生の笑顔をかっさらう父と浅川に嫉妬。 早くこの話題を振り切りたいのか、浅川はぼくらに提案を始める。 「ところでヒカルくんに、泊瀬谷先生。折角だからここで一緒に写真でも撮りましょうか?」 「そうだね、ヒカル。浅川くんに撮ってもらうなんてなかなかないぞ!お友達に自慢しよう!」 ぼくと泊瀬谷先生の写真…。 普段は無機質な建物ばかり撮影している浅川だが、お調子者の性格なら人物の写真を撮る方が向いているのではなかろうか。 内気な泊瀬谷先生を言葉巧みとは言えるほどではないが、どんどん乗せて教室で見せる以上の笑顔をレンズに向けている。 「ヒカルくん!もっと!ほら、泊瀬谷先生を恋人と思ってくっついて!あー!その先生の笑顔、頂きました!」 浅川のお陰で時が過ぎるのを忘れる。そして、浅川はぼくらをフィルムに次々と焼き込んでゆく。 姿は永久に残るが、心地よい柑橘の香りは今だけ。浅川とてそれを残すことは無理なこと。 「ほう、ヒカルも泊瀬谷先生もなかなかお似合いのカップルに見えてきたな」 「犬上先生!これが『浅川マジック』っすかね?人を撮るなんて久しぶりですけどね! 泊瀬谷先生の耳を摘みながらの上目遣い。最高っですよ!ヒカルくん。恥ずかしがらない!」 夢中でシャッターを切る浅川の背後から、ミナが自分のバイクを押しながらやって来た。 おそらく、自転車置き場に向かったと言うことは何らかの修理をしていたのだろう。 「素材は生かすものなんですかね?だんだん乗ってきたなあ!おおっ、ヒカルくんの尻尾の揺れがいい具合に モーションブラーがかかってる。躍動的だな。ほら!もっと尻尾を振って、尻尾を振って!」 喜劇を演出する舞台監督のようにぼくに演技指導を始める浅川。背後にはその姿を見てよほど滑稽に見えたのか、 くすくすと笑っているミナ。浅川は悲しいかな、全く気付いていなかった。 「ははは!今度はあっちの銀杏の木の側に移りますか?被写体が良いとオレのシャッターの冴えもいつもとは格段に違…、す?杉本さん?」 全身の毛並みが逆立てた浅川。カギ尾がくるりとまるく収まる。 男・浅川は普段のおちゃらけたカメラマンの姿をミナに見せるより、仕事に徹する職人の姿を見せたかったのだろう。 今すぐ浅川に爪とぎ用の木の板を渡したい。きっと夢中で爪を研ぎ始めるだろう。 「う、うむ。これこそわたくしが求めていた芸術だな。はは…。で、では…後一枚でフィルムがお終いですが?」 「浅川くんよ、無理するな。体が針金みたいになっているぞ」 父の言葉なんか全く耳に入れず、カメラを構える手はしっかりとプロの姿をしているが、尻尾は少年の日を思い出したように揺れていた。 最後のシャッターを切ろうとした瞬間のこと。ミナがぼくらの前にバイクに跨ってすいっと横切った。 「わたしも撮ってよね?」 「す、杉本さん?お安い御用ですよ…!今度一緒に写真撮りに行きま…しょう」 ぼくらを背景に最後の一枚は愛車に跨るミナの姿で終わった。 浅川は悔しそうだが、むしろ満足気に見える。しかし、もっと満足そうなのは泊瀬谷先生だった。 何故なら、父の目線とカメラのレンズがミナの姿に隠れたのをいいことに、そっとぼくの手首を握っていたのだから。 おしまい。
https://w.atwiki.jp/childrights/pages/20.html
子どもの権利委員会・一般的意見10号:少年司法における子どもの権利(後編) 前編/中編 F.自由の剥奪(審判前の勾留および審判後の収容を含む) 78.条約第37条には、自由の剥奪の利用に関する主導的原則、自由を奪われたすべての子どもの手続的権利、ならびに、自由を奪われた子どもの取扱いおよび環境に関する規定が掲げられている。 基本原則 79.自由の剥奪の利用に関する主導的原則は次のとおりである。(a) 子どもの逮捕、拘禁または収監は、法律にしたがって行なうものとし、最後の手段として、かつもっとも短い適当な期間でのみ用いられる。(b) いかなる子どもも、不法にまたは恣意的にその自由を奪われない。 80.委員会は、多くの国で、子どもたちが数か月、またはそれどころか数年間、審判前の勾留による被害を受けていることに、懸念とともに留意する。これは条約第37条(b)の重大な違反である。自由の剥奪は最後の手段としてのみ用いるという、条約第37条(b)上の自国の義務を締約国が実現するためには、一連の実効的な代替的手段が利用可能とされなければならない(前掲IV章B参照)。これらの代替的手段の活用は、制裁対象となる子どもの「網を広げる」のではなく、審判前の勾留の利用も減らしていくことができるよう、注意深く構築されたものでなければならない。加えて、締約国は、審判前の勾留の利用を少なくするために十分な立法上その他の措置をとるべきである。処罰として審判前の勾留を利用することは、無罪推定原則の違反となる。とくに子どもの出廷を確保するために子どもを審判前の勾留下に置きまたは当該勾留を継続するべきか否か、および、子どもが自分自身または他の者にとって直ちに危険を及ぼすような状態であるか否かを判断するために必要な諸条件について、法律に明確な規定が置かれるべきである。審判前の勾留の期間は法律で制限し、かつ定期的再審査の対象とすることが求められる。 81.委員会は、子どもが可能なかぎり早期に、かつ必要な場合には一定の条件下で審判前の勾留から釈放され得ることを、締約国が確保するよう勧告する。審判前の勾留(その期間を含む)に関する決定は、権限ある、独立のかつ公正な機関または司法機関によって行なわれるべきであり、子どもに対しては弁護人その他の適切な者による援助が提供されるべきである。 手続的権利(第37条(d)) 82.自由を奪われたすべての子どもは、弁護人その他の者による適切な援助に速やかにアクセスする権利、ならびに、その自由の剥奪の合法性について裁判所または他の権限ある、独立のかつ公平な機関において争い、かつ当該訴えに対する迅速な決定を受ける権利を有する。 83.逮捕されて自由を奪われたすべての子どもは、当該自由剥奪(の継続)の合法性について審査するため、24時間以内に権限ある機関に引致されるべきである。委員会はまた、審判前の勾留の合法性が定期的に、望ましい頻度としては2週間ごとに再審査されることを、締約国が厳格な法規定によって確保するようにも勧告する。たとえば代替的措置を適用することによる子どもの条件付釈放が不可能な場合、当該子どもは、審判前の勾留が実行されてから30日以内に、罪を問われている犯罪について正式に告発され、かつ裁判所または他の権限ある、独立のかつ公平な機関の前に引致されるべきである。委員会は、裁判所による審理がしばしば複数回行なわれる慣行があることを踏まえ、締約国に対し、裁判所/少年裁判官または他の権限ある機関が、告発についての最終決定を、それが提出されてから6か月以内に行なうことを確保するために必要な法規定を導入するよう促す。 84.自由の剥奪の合法性について争う権利には、異議申立ての権利のみならず、自由の剥奪が(たとえば警察、検察官その他の権限ある機関による)行政決定である場合に、裁判所または他の権限ある、独立のかつ公正な機関もしくは司法機関にアクセスする権利も含まれる。迅速な決定を受ける権利とは、決定は可能なかぎり早期に、たとえば異議申立てが行なわれてから2週間以内に言い渡されなければならないことを意味する。 処遇および環境(第37条(c)) 85.自由を奪われたすべての子どもは、成人から分離されるものとされる。自由を奪われた子どもは、成人刑務所その他の成人用施設に措置されてはならない。成人刑務所に子どもを措置することがその基本的安全、福祉、および犯罪とは無縁の生活を維持しかつ再統合する将来の能力を損なうことについては、無数の証拠がある。成人から子どもを分離することに関する例外は、条約第37条(c)において「子どもの最善の利益にしたがえば成人から分離すべきではないと判断される場合を除き」という形で認められているが、この文言は狭義に解されるべきである。子どもの最善の利益は、締約国にとっての便宜を意味しない。締約国は、自由を奪われた子どもを対象とする独立の施設を設置するべきであり、これには明確に区別された子ども中心の職員、要員、政策および実務が含まれる。 86.このような規則があるからといって、子どもを対象とする施設に措置された子どもは、18歳を迎えるとただちに成人用施設に移送されなければならないというわけではない。子どもを対象とする施設に引き続き滞在することも、それがその子どもの最善の利益にかなっており、かつ施設にいる年少の子どもの最善の利益に反しない場合には、可能とされるべきである。 87.自由を奪われたすべての子どもは、通信および面会を通じて家族との接触を保つ権利を有する。面会の便宜を図るため、子どもは家族の居住地から可能なかぎり近い施設に措置されるべきである。このような接触の制限につながりうる例外的事情は、法律で明確に定められるべきであり、権限ある機関の裁量に委ねられるべきではない。 88.委員会は、国連総会が1990年12月14日の決議45/113で採択した、自由を奪われた少年の保護に関する国連指針に対して締約国が注意を向けるよう求める。委員会は、締約国に対し、関連するかぎりにおいて被収容者の処遇に関する最低基準規則も考慮に入れながら、これらの規則を全面的に実施するよう促すものである(北京規則の規則9も参照)。これとの関連で、委員会は、締約国がこれらの規則を国内法規に編入し、かつ、少年司法の運営に携わるすべての専門家、NGOおよびボランティアがその国または地域の言語でこれらの規則を利用できるようにするよう、勧告する。 89.委員会は、とくに、自由剥奪のあらゆる事案において次の原則および規則が遵守されなければならないことを強調したい。 子どもに対しては、居住型措置の目的である立ち直りに一致する物理的環境および居住設備が提供されるべきであるとともに、プライバシー、感覚刺激、仲間と交流する機会ならびにスポーツ、体操、芸術および余暇時間活動に参加する機会への子どものニーズに対して、正当な配慮がなされなければならない。 義務教育年齢にあるすべての子どもは、そのニーズおよび能力に適合し、かつ社会復帰の準備を目的とした教育に対する権利を有する。加えて、すべての子どもは、適当な場合には、将来の就業の備えになると思われる職種についての職業訓練を提供されるべきである。 すべての子どもは、拘禁/矯正施設への入所と同時に医師による診断を受ける権利を有し、かつ、施設に滞在する全期間を通じて十分な医療ケアを提供されなければならない。当該医療ケアは、可能な場合には、地域の保健施設および保健サービスによって提供されるべきである。 施設職員は、子どもがより幅広いコミュニティと接触することを促進し、かつそのための便宜を図るべきである。このような接触には、家族、友人その他の者または定評のある外部の団体の代表との連絡、ならびに、自宅および家族を訪問する機会が含まれる。 抑制または有形力は、子どもに自傷他害の直接のおそれがある場合にのみ、かつ、他のあらゆる統制手段が尽くされた場合にのみ、用いることができる。身体的、機械的および医学的抑制を含む抑制または有形力の使用は、医学および(または)心理学の専門家による緊密なかつ直接の管理下に置かれるべきである。処罰の手段として抑制または有形力を用いることがあってはならない。施設職員は適用される基準についての訓練を受けるべきであり、規則および基準に違反して抑制または有形力を用いた職員は適切な処罰の対象とされるべきである。 規律の維持のためのいかなる措置も、少年の固有の尊厳の支持および施設ケアの基本的目的に合致したものでなければならない。条約第37条に違反する規律の維持のための措置は、厳格に禁止されなければならない。このような措置には、体罰、暗室または閉鎖房への収容もしくは独居拘禁、または、対象とされる子どもの身体的または精神的健康もしくは福祉を害するおそれのある他のいずれかの処罰が含まれる。 すべての子どもに対し、内容について検閲を受けることなく、中央行政機関、司法機関または他の適当な独立機関に要望または苦情申立てを行ない、かつその返答について遅滞なく知らされる権利が認められるべきである。子どもは、これらの機構について知り、かつこれらの機構に容易にアクセスできる必要がある。 独立のかつ資格を有する査察官に対し、定期的に査察を行ない、かつ職権で事前通告なしの査察を行なう権限が与えられるべきである。査察官は、施設に措置されている子どもと、秘密が守られる環境下で話をすることをとくに重視するよう求められる。 V.少年司法の組織 90.これまでのパラグラフで述べてきた原則および権利の全面的実施を確保するためには、少年司法を運営するための実効的組織および包括的な少年司法制度の確立が必要である。条約第40条3項で述べられているように、締約国は、刑法に抵触した子どもに対して特別に適用される法律、手続、機関および施設の設置を促進しなければならない。 91.これらの法律および手続の基本的規定がどのようなものでなければならないかについては、この一般的意見で述べてきた。これ以上のおよびその他の規定については、締約国の裁量に委ねられる。これらの法律および手続の形式についても同様である。これらの法律および手続は、一般的な刑法および手続法に特別の章を置いて定めることもできるし、少年司法に関する独立の法律としてまとめることもできる。 92.包括的な少年司法制度においては、さらに、警察、司法機関、裁判制度、検察官事務所内に専門部署を設けること、ならびに、専門の弁護人または他の代理人が子どもに法的その他の適切な援助を提供することが必要とされる。 93.委員会は、締約国が、独立の部局としてまたは既存の地域/地区裁判所の一部としてのいずれであれ、少年裁判所を設置するよう勧告する。実際上の理由からこれがただちに実現可能でないときは、締約国は、少年司法事件を取り扱う専門の裁判官が任命されることを確保するべきである。 94.加えて、保護観察、カウンセリングまたは監督のような専門サービスが、たとえば通所型処遇センターならびに必要な場合には罪を犯した子どもの居住型ケアおよび処遇のための施設を含む専門施設とあわせて、設けられるべきである。このような少年司法制度においては、これらのあらゆる専門的な部局、サービスおよび施設による諸活動の効果的な調整を継続的に促進することが求められる。 95.非政府組織が、少年非行そのものの防止のみならず少年司法の運営においても重要な役割を果たすことができ、かつ現に果たしていることは、多くの締約国報告書から明らかである。したがって委員会は、締約国が、自国の包括的な少年司法政策の策定および実施においてこれらの組織の積極的関与を求めるとともに、これらの組織に対し、このような関与のために必要な資源を提供するよう勧告する。 VI.意識啓発および訓練 96.罪を犯した子どもはメディアで否定的な取り上げ方をされることが多く、これがこうした子どもたちに対する、かつしばしば子どもたち一般に対する、差別的および否定的なステレオタイプの形成を助長している。罪を犯した子どもを否定的に取り上げ、または犯罪者扱いすることは、しばしば少年非行の原因に関する誤った提示のしかたおよび(または)誤解にもとづいており、かつ、より厳しいアプローチ(たとえばゼロトレランス〔絶対的不寛容〕、3ストライク・アウト〔3度以上有罪と認定されれば例外なく収監刑〕、義務的量刑、成人裁判所における裁判および他の主として懲罰的性質の措置)を求める声に帰結するのが常である。少年非行の根本的原因およびこの社会問題に対する権利基盤アプローチに関して理解を深めるための積極的環境を創り出すことを目的として、締約国は、刑法に違反したと申し立てられている子どもに条約の精神および義務にしたがって対応する必要性および義務についての意識を高めるための教育的その他のキャンペーンを実施し、促進しかつ(または)支援するべきである。これとの関連で、締約国は、議会議員、NGOおよびメディアの積極的かつ前向きな関与を求めるとともに、刑法に抵触したことのあるまたは現に抵触している子どもに対する権利基盤アプローチについての理解の向上に関する、彼らの努力を支援することが求められる。子ども、とくに少年司法制度に関わった経験を有する子どもがこれらの意識啓発の努力に関与することは、不可欠である。 97.とくに法執行および司法機関に従事するあらゆる専門家が、条約の規定一般、とくにその日常業務に直接関わる規定の内容および意味について適切な訓練を受けることは、少年司法の運営の質にとってきわめて重要である。このような訓練は体系的かつ継続的に組織されるべきであり、関連する国内法および国際法の規定についての情報に限定されるべきではない。とくに、少年非行の社会的その他の原因、子どもの発達の心理的その他の側面(女子およびマイノリティまたは先住民族に属する子どもに対しては特別な注意を要する)、若者の世界の文化および傾向、集団活動の力学、ならびに、刑法に抵触した子どもを取り扱うために利用可能な措置、とくに司法手続によらない措置に関する情報(前掲IV章B参照)が含まれるべきである。 VII.データ収集、評価および調査研究 98.委員会は、とくに、子どもが行なった犯罪の件数および性質、審判前の勾留の利用件数および平均期間、司法手続以外の措置により取り扱われた(ダイバージョン)子どもの人数、有罪判決を受けた子どもの人数ならびにこれらの子どもに科された制裁の性質について、細分化された基礎的なデータさえ存在しないことを深く懸念する。委員会は、締約国に対し、少年司法の運営の実務に関する情報に関わるデータであって、条約の原則および規定に全面的にしたがいながら少年非行を効果的に防止しかつこれに対応することを目的とする政策およびプログラムの策定、実施および評価のために必要な細分化されたデータを、体系的に収集するよう促すものである。 99.委員会は、締約国が、少年非行の実務、とくにとられた措置(差別、再統合および累犯に関わるものを含む)についての定期的評価を実施するよう勧告する。これらの評価は、独立の学術機関によって行なわれることが望ましい。たとえば少年司法の運営における格差のうち差別に相当する可能性があるもの、および、効果的なダイバージョン・プログラムまたは新たに生じつつある少年非行活動のような少年非行分野における変遷に関する調査研究は、成功および懸念事項に関わる重要なポイントを指し示してくれよう。子ども、とくに少年司法制度のいずれかの局面に接したことのある子どもがこのような評価および調査研究に関与することは、重要である。これらの子どものプライバシーおよびその協力に関わる秘密は、全面的に尊重および保護されるべきである。これとの関連で、委員会は、締約国が、調査研究への子どもの関与に関する既存の国際的指針を参照するよう求める。 更新履歴:ページ作成(2011年4月24日)。
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/1962.html
夏の日差しは衰えることなく煌いています。 「今年の夏も真夏日が続くでしょう」という気象予報士の言葉にご多分なく、毎日毎日暑い日が続いています。 去年から使われ始めた猛暑日は、もうすっかり定着した感があるほどに、東京では35度を超える日がしょっちゅうです。 夏休みも中ごろに差し掛かり、かがみさん達に送った暑中見舞いも、改めて私は残暑見舞いとして、送らせていただきました。 泉さんからは手紙の返事がありませんでしたが、何か事故でもあったのかと思うと、少し心配です。 どうか夏ばてになどになっていらっしゃりませんように。 夕方ごろになるとひぐらしのカナカナカナと甲高い鳴き声が、私にも聞こえてきます。 目覚ましのなるちょっと前の時間に目が覚めました。うだるような日中の日照りと比べますと、朝は清清しい気温です。 学校もありませんし、私はしばらく就寝するまで読み続けた本を、勉強机から取り出し、壁によりかかるようにして開きました。 本は、すてきです。 文字だけの世界――それなのに、ふと目を閉じますと、そこには生き生きとした情緒ある風景が投影されます。 テレビも見ないとはいいませんが、本というものは、きれいだと思います。音がないのに、音に満ち溢れた世界。 真っ白なキャンパスを想像という色のない絵の具で埋めていく喜び。静かな世界です。 本を途中で見差して、時計を見上げました。 ……ちょうど、朝食時の時間に差し当たっていました。あとちょっとで読み終えるんですが、仕方ありませんね。 私は名残惜しくも栞を挟み、丁寧にたたんだ後、本棚に戻しました。 「少しの間、お待ちくださいね」 なんて吟じながら。 「みゆき、今日も歯の検診でしょう?」 朝食時、お母さんは私に言いました。 こんがりと黄金色のパンにいちごジャム。ちょっと甘めのコーヒーが、素敵な香りを立てています。 私は、お母さんの意図するところをつかみかね、不思議な顔をします。 「……え、そうでしたっけ」 「何言っているのよ、歯は早く治療しないとだめよ 「でも、先日もいきましたが…」 「先生がね、『できるだけ次回の検診は早く来てください』って言うもんだから、私は『あら~みゆきはいつでも大丈夫ですわ』っていったら、なりゆきで、明日になったのよ」 「……」 私の意見は、、このさいなかったことになるんですか? 「それと明日は一日中でかけているけど、戸締りはきちんと頼むわね」 そうして私は今日も歯科医に診てもらうことになりました。 くすん。 ☆ 「あれ、ゆきちゃんだー、奇遇だねえ」 熱中症避けのつばの丸い帽子をかぶり、私は定期に乗ってかかりつけの病院にいきました。 熱中症は軽く見られがちですが、死にも至る病気です。似たようなものに熱射病というものがありますが、こちらは熱中症の症状の一部です。熱失神、 熱疲労、熱痙攣、熱射病が主な分類です。熱射病は体温が40度近くまで上昇し、生命の危険にさらされるそうです。 めいいっぱいあの、きゅい~~~~んと高速回転するドリルにおびえて、痛さのあまり右手を上げました。「は~い、痛いですね~、頑張ってください~」といわれ、結局やめてもらえませんでした。 歯医者さんには二度と行きたくないです、と私は辟易します。でも人間は難儀なものでして、いかないことには直りません。ええ、相克です。 くすんくすん。 その帰り道、つかささんと会いました。 つかささんは「暑いね~」といいながら、服の裾を持ち上げてパタパタしています。 額からは汗がだらだらと、流れていました。 「ええ、本当に奇遇ですね。今日はどうしたんですか?」 「ううん、なんとなく、遊びにきただけ。ゆきちゃんは?」 「私は歯医者の通院です……」 「そっかあ……ゆきちゃん、歯医者嫌いだもんね」 「ええ、本当に、もう、あの匂いから空気まで」 そういったつかささんは、どこか意気消沈しているようでした。いつもの明るさが、ほんの少し影を潜めているように思います。 私に笑いかける所作は、やはりいつもと違っています。 その笑顔も、どこか私には寂しげに感じました。 私には違和感が感じられたのです。 その違和感はすぐに気づきました。 「今日はかがみさんと一緒でいらっしゃらないんですね」 「え!? う、うん…」 図星、なのかもしれません。これがつかささんを悩ましている原因なのでしょうか? つかささんと目が合いました。つかささんはあいまいに笑い、えへへといいます。 やはり、はにかんだ唇からは、暗く濁った寂しさがもれていました。 「かがみさんと何かあったんですか?」 「ううん、何にも…」 かがみさんの名前を出すとつかささんは明らかに声のトーンが下がります。 「つかささん、私でよければ相談に乗りますよ。一人で悩まないでください。私達、友達ですから」 ―――つかささんは泣いていました。激しいかんしゃくではありません。思い出すかのように目を閉じ、回想。それから「ごめんね…ゆきちゃん」と呟きました。それでも、つかささんは泣いていました。 ☆ 感情の爆発が収まるのをまちました。いつまでも。今は、私は一緒にいることが一番だと思います。 喫茶店に移動し、私はコーヒーを頼みました。つかささんにはメロンソーダと、ケーキをオーダーしました。 室内は冷房が良く通っていて快適です。私は帽子を脱ぎ、静かに見守っていました。 「あのね、ゆきちゃん」 「ええ、何でしょうか」 「お姉ちゃんが、最近冷たいの」 「かがみさんが、ですが?――正直、想像できませんが」 やはりでてきた名前はかがみさんでした。かがみさんは、つかささんの双子の姉です。 かがみさんとは一年生のとき学級委員会でご一緒でした。つかささんとお話しするようになり、自然とかがみさんとも会話する機会が増えました。_ お二人は本当に仲がよく、私も姉か妹がいたら、あんな風に慣れるのでしょうかと羨ましがったりしたものです。 「うーん、ちょっと言い方が変かな? ごめんね、私、うまくしゃべるのへたくそで」 私は全然気にしないでいいですよと、答えました。 つかささんは運ばれてきたメロンソーダをストローを通し一気飲みしようとし、咽せた後言いました。 「最近、お姉ちゃん、どこかよそよそしいというか、一人で出かけたりしてるんだ」 「かがみさんにも、私的な用があるとは思いますが」 「ううん 違うの!――ごめん、ゆきちゃん」 「いえ、気になさらいでください」 「ありがとう、ゆきちゃん。 最近お姉ちゃんね、朝からでかけて夜まで帰らないことあるんだ…私に何も言わないで… 宿題を見せてと頼むとやっぱりお姉ちゃんは見せてくれるけど、それに対しておねえちゃんは何も言わなかった。 どこかいくの、と聞いてみたら「うん、ちょっとね」といって何にも教えてくれなかった! 今日も、今日もお姉ちゃんは私が寝ている間に一人ででかけてた! ――前はそんなことなかったのに。いつもお姉ちゃんは、私のことを心配してくれたのに。 ねえゆきちゃん。 私、お姉ちゃんに嫌われちゃったかなあ? ……私がどじで、いつも迷惑をかけているから。お姉ちゃん、愛想をつかしちゃったのかなあ? お姉ちゃんに嫌われるの――うう、嫌だよお、お姉ちゃん――私、嫌だよ……っ!」 私はどうしていいのか、黙り込んでしまいました。 何か言わないといけません。どんな言葉でもいいから、つかささんを安心させないといけません。 それなのに言葉が出てきませんでした。 でも、私には確信していることがあります。 何を根拠にその結論を導いたかはわかりません。それでも、間違ってはいない、それだけは自信がありました。 ふっと、微笑みをもらしてしまいます。 「大丈夫ですよ、つかささん」 「え…?」 「かがみさんが、つかささんを嫌う理由なんてありません」 そう、これは事実。疑いようのない事実だと、私は思います。 「でも、でも」 「かがみさん、いつもいってらっしゃいましたよ。『つかさ、どうしているのかなあ』とか『つかさならきっとこうなるわよね』とか『つかさと今日は一緒に帰れないか…』って。かがみさんは、いつもつかささんのことを心配、いえ大切に思っています。 そんなかがみさんが、つかささんを嫌っているなんてありえません」 「お姉ちゃんが?」 「ええ、ここ最近かがみさんと電話したときも、つかささんの話題がでなかったことはありませんよ」 「そうだったら、嬉しいな」 つかささんは私は出したハンカチで涙を拭いていました。まだ目は赤く純血していましたが、落ち着きを取り戻していました。 えへへ、とはにかみながらつかささんは私に笑いかけました。 ――あれ。 ど、どうしたことでしょう? な、なんだかつかささんがとても可愛らしく思えてしまいます。いえ、失言でした。つかささんが可愛らしいことには異論ありません。 小さな唇や、半袖のために外気にさらされている細い腕。私から見れば羨ましい、控えめな胸。そして今私に見せている笑顔。 ああ、なんてかわいいのでしょう。 「ゆきちゃん、ありがとう。私すっごく安心したよ。やっぱりゆきちゃんって物知りだね」 「…え? い、いえ、そんなことありませんよ。私の知識なんて、本当に役に立ちませんし」 ああ、こうした不遜な感情を悟られないようにしませんと。 「ううん、私、ゆきちゃんが親友でよかったよ。こういう話題はこなちゃんには相談できないし、きっと私、ひとりで悩んでいたんだと思う。 それにこの年にもなってお姉ちゃんのことで泣いたなんて、私って、やっぱり子供だね」 「誰かのために泣くことができるのは、素敵なことです」 「そうかな?」 「ええ」 「やっぱりゆきちゃんは優しいな。 私、ゆきちゃんのこと、大好き」 ああ、もう、我慢できません――。 「つかささん、すみません!」 「え?」 私はテーブルに手をつけて、前のめりになります。つかささんの顔が目の前にありました。その顔は驚きと、少しの期待が見え隠れしていた――というのは、私のうぬぼれでしょうか。どうであれ、我慢はできそうにありませんでした。 いいよ、ゆきちゃん。 空耳だと思います。でも確かにこんな言葉を聴いた気がしました。 つかささんのかわいらしい瞳は、すでに閉じられていました。 「ん…あ、くふぅ」 喘ぎ声にも似たため息がつかささんから漏れました。普段のつかささんからは想像できないような甘美で、艶のある声。 唇と唇が交わります。私はその瞬間に目を閉じました。 情報が遮断された空間の中で、私とつかさんがひとつになりました。温かくて、優しくて、甘い甘い、キスの味がしました。 ☆ え、えーと。 これからどうすればいいのでしょう。 私とつかささんはキスをしています。人がまばらの時間帯ですし、従業員さんもこちらのほうには来ていませんから、気づかれてはいないと思います。 問題があるとすれば、女の子通しであること。 それと、これは一番問題にすべきことですが、もう3分くらいはたっていること、です。 ど、どうすればいいんでしょう? 前かがみ気味になっている体勢は体に良くはありません。 ――つかささんと目があいました。 異常に長いキス。その原因は単純です。いつ離せばいいのかお互いにわからない。きっとそれだけなんだと思います。 目と目で、会話をしました。 (すみません、つかささん…その、変なことをしてしまって) (ううん、嬉しかったよ、でも…) (でも…) (ど、どうしようっか?)(どうしましょう?) 本当にそんな会話をしたかは、私もわかりませんが、つかささんもこの状況に対する具体的な解決案をだせないでいるのは確かのようです。 結局私は意を決して、つかささんと離れました。 唇がクーラーで冷やされた外気に晒されます。 名残惜しいような不思議な感覚が、確かにそこにありました。 ☆ 「え、えっと、その、申し訳ありません! 本当に申し訳ありません! その、魔がさしたというか衝動にかられたというか――」」 「気にしないで、ゆきちゃん」 それからぎくしゃくと二人は会話をしていました。 運ばれたケーキをつかささんが食べ終えた後、私は耐え切れずさっきのことを話題にしてひたすら平謝りをしました。 「いえ、私ったらなんてことを…熱射病で気が狂っていたんでしょうか?」 熱射病対策は万全です。そんなことありえませんと、私の内なる人が否定していました。ああ、否定も許されませんか… 「もう、ゆきちゃん、私気にしていないから、ね」 「いえいえ、その…」 呟きかけた言葉は、つかささんの唇によって封印されてしまいました。 甘くて、ふんわりした、きすの味。初体験から二度目は、もっと糖分が増しているように思いました。 ……これで歯医者に行くことになる羽目には、なりませんよね? こんな甘いチョコレートでしたら、私は我慢なんてできません。 「これで、おあいこだよね? 私も、謝らないといけないかな」 「いえ、そんなことは、決してありません」 つかささんのご好意。私は謹んでその助け舟に乗らせていただきました。なにより、幸せなキスをもう一度味わえたんですから。 「私、嬉しかったんだ。お姉ちゃんのことで、悲しくて悲しくて――どうしたらいいか、わからなかった。 そんなときにゆきちゃんと出会って、相談に乗ってもらって。 ちょっとびっくりしたけど、ゆきちゃんとのキ、キ、キキースね、とっても嬉しかった」 そういうつかささんはニコニコとした屈託のない笑顔でした。 私は、つかささんのことが好きになってしまったのかもしれません。 「つかささん」 「なに、ゆきちゃん?」 「今日、私の部屋にいきませんか?」 「うん、いいよ」 即答。 もうひとつ、私は聞いてみます。 「私と、友達以上の関係として、付き合い始めてみませんか?」 「――うん、よろしくね、ゆきちゃん」 くすんくすんくすん。 ――つかささんは泣いていました。でもきっと、悲しみの涙ではないのだと、私は思うのです。 ☆ 残暑が厳しい夏。 受験生として、一番大切な時期。 暑さの為した技なのか、さまざまな偶然が重なり合った結果なのか。 母のいない家に、自室につかささんを連れ込んだとき。つかささんが曖昧に微笑み、息を呑んだとき。 その一抹の不安と、ためらい、そして控えめな笑いを表情に見せるつかささんと、唇を重ねたとき。 私はもう戻れない階段を上っていることに気づいた。 クーラーが作動し、無神経な風音が嫌に響いた。風速は、強なのだろうか。 「ゆきちゃん……私は、大丈夫だからね。ゆきちゃんとなら、怖くないもん」 「ええ、つかささん。一緒に楽しみましょうね――」 本で読んだだけの知識。想像するだけだった知識。 ベッドにつかささんを寝かし、慣れない手つきで、つかささんのあそこに触れながら、胸をもみほぐした。 私の無駄に大きすぎる胸が、つかささんにあたりぷにゅっとへこむ。 ―――愛撫する指に、背徳と興奮を感じながら、私は部屋の電気を落とした。 つかささんの喘ぎ声が、暗室に響きわたった。 コメントフォーム 名前 コメント みゆき可愛いですね! -- チャムチロ (2012-10-14 21 46 10) 二人とも可愛いいい!!つかみゆ最高だ -- 名無し (2010-04-16 10 33 58) つかみゆは正義!! -- 名無しさん (2008-10-28 18 51 22) かわいいかわいいかわいいい!!!!二人ともかわゆすぎる!!wwwwwつかみゆって実はものすごくいいカップルだと再確認したっ! -- 名無しさん (2008-10-23 08 56 41) 続編希望 -- 名無しさん (2008-04-21 10 14 09)
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2178.html
【第11話:dear you】 高良みゆきは悩んでいた。 胸が大きいこととか、近頃の社会情勢に対し憂いを感じているわけではない。 最近のこなた達はおかしい。 そうみゆきも感じ取っていた。この一週間、いやもう何ヶ月も続いているのかもしれないが、こなたやかがみをめぐる環境が不協和音を奏でていることに気づいていた。 きっと隠し事をしている。そうみゆきは思う。 ――どうしてなのか、と悲しくなる。 確かに天然で、抜けているところはあるかもしれない。 それでもみゆきは、精一杯こなた達の親友であるよう努力しているつもりだった。 いまいち概念がつかめない「萌え」も理解できるよう日々努めているし、皆の役に立てるよう、それでいて知識をひけらかすような真似はしない用に注意してきた。 「……何がどうなっているんでしょう」 ――私は、そんなに頼りないのか。 ――私は、単なる友達でしかないのだろうか。秘密を秘密のままにされるような関係で、何にも役立たない、最低の人間なのか。 親友――ですよね、私たち? 自信のもてないに言葉を、誰に聞けばいいのか。みゆきは天井にある電球の光に、手をかざし、それから俯いた。 こみ上げてきた感情を抑えるように、ぶるぶると首を振る。授業中であることに気づき、変な顔をされていないかあたりを見渡してみたが、さいわいみゆきのほうを見ている生徒は居なかった。 はあ。 ため息をつく。 眼鏡ごしに通した教室は、灰をかぶったように色素が失われ、乾いた世界だった。 9月22日、月曜日。 朝目覚め、学校に向かう。 みゆきはこなたやつかさに会い、 「おはようございます」 「やっほみゆきさん」 「こなちゃんおはよ~」 いつものように挨拶。ホームルームが始まり、担任の黒井の入室を合図にみゆきが、 「きりつー、礼」 今日一日が始まる。 お昼休み、以前にも増して、こなたとかがみの関係がギクシャクしていることに気づいた。 二人は会話こそするのに、目を合わせようとしない。まるでお互いに避けているかのように、言葉を交わすだけだった。 「お二人とも……なにかあったのですか?」 「ううん、なんにも。ね、こなた」 「うん。ちょっとゲームで」 みゆきは何を言うべきが悩み、結局何もいえずじまいだった。ゆるいウエーブの髪を困ったように触り、微笑む。 諦めて、みゆきは持ってきた弁当を消化することに集中しようと、弁当箱に目を向ける。 くいっ。 袖が引っ張られた。顔を動かさずに目線だけずらすと、その手の主はつかさだった。みゆきは小声で「どうかしたんですか?」と聞くと、 「……うん。ゆきちゃん、お手洗い、いかない?」 「――わかりました」 べたな誘い方だ。みゆきは心細そうにするつかさに、ウインクする。 つかさがほっとしたように笑う。それから「ちょっとつかささんと職員室にいってきますね」 「……どうしたの?」 こなたが疑問に聞いてくる。あれでいてこなたは鋭いから、みゆきは事情を悟られないように平然を装い、 「黒井先生に頼まれごとをされましたので、ね、つかささん?」 「え?……う、うん」 「でも、私は聞いていないけどなあ」 「泉さん、ホームルーム、寝ていましたよね」 「あれ、ばれてた? いやー、最近徹夜続きで…」 たはーと、こなたはごまかそうとする。 もともとそのこと事態に言及するつもりがなかったみゆきは、お体を大切にと笑いかけながら、 「そのときですよ」 「そっか、まあ頑張っておいで」 「はい――ではつかささん、行きましょうか」 「うん」 こなたがホームルームのときに居眠りにしていたことを思い出し、とっさに機転を利かせた。 女二人でトイレに行くことは決して珍しいことではないが、それでは数十分も欠席すれば不振に思われるかもしれない。 その点教師の頼みごととなれば別だ。5時間目は世界史であるから、最高で5時間目ぎりぎりまで引き伸ばすことができる。 つかさはかがみに、目で訴えた後「いってくるね」と、寂しそうに言う。かがみは「うん」とだけ返した。 廊下に出ると、つかさはすうすうと深呼吸をした。ドアをしめると日常の喧騒のボリュームが一気にトーンダウンする。 こなた達の談話はもちろん、クラスメートが何を話しているかも雑音と化して聞き取れなかった。 みゆきも緊張しきった顔をとき、落ち着かせるように呼吸を整え、それから真顔で、 「……それで、何の用でしょうか?」 白々しい自分が嫌いだ。 つかさが呼び出したのは話があることはわかっていたし、つかさの気持ちを斟酌すれば、何が言いたくてこうして二人っきりになったのかもわかっているのに。 それなのに自分から言い出せないことに弱さが憎い。 「うん、ねえゆきちゃん、あのときのこと、覚えてる?」 「つかささんが風邪でお休みしたときの話ですか?」 「うん………」 「覚えています――とりあえず、場所を変えましょう。つかささん、頑張ってください。私が、ついていますから」 瞳いっぱいに涙をうかべたつかさをなぐさめるように励ます。 みゆき自身、ここ最近の変化にどうすればいいのか悩んでいたが、つかさと比べていくらか大人びているみゆきは、つかさの前ではとにかく気丈に振舞おうと思った。 それにみゆきよりもつかさの方が辛いに決まっている。かがみはつかさのお姉ちゃんだから。 廊下をでて、女子トイレを通りすぎる。 途中でみさおとあやのの二人にあったが、みゆきはいたって冷静に受け答えして分かれた。 階段を降りたところで空き教室を見つけた。みゆきが中を確認するが、真っ暗で、人がいる気配はない。 引き戸を真横に引き、扉を開ける。 長い間使われていなかったのだろうか、人気を感じさせない、寂れた空気が教室中に漂っている。 外の穏やかさと対比していた。 快活な男子生徒がスポーツをしている声が廊下にまで響いている。まるで現実と非現実の境目であるかのように、異質な空気を醸し出している。 数年前は使っていたかもしれない。机はざっと数えただけで40個近くはあったし、みゆきが立っている場所から数メートル先の床には傷や赤いペンの後が残っている。 黒板は綺麗に消されていて、痕跡はなかった。 「誰もいないようですよ」 無人を確認してみゆきはつかさに振り向く。 つかさは何も言わず、ぎゅっとみゆきの袖の端を握った。その指が震えている。入りますね、とつかさを促し、二人して入る。 生徒が使用されていない教室に入ることはあまり好ましくない。みゆきはそっとドアを閉めた。 「暗いね…、怖いよ、ゆきちゃん」 今日の天気は良好とはいえないにしろ、空の総雲量は全体を10として6から8程度――つまり天気予報では晴れと予報される。 だからいくらカーテンが閉めてあったと言ってもまったくの暗室になるわけではないが、それでも学校という正のイメージに対して薄暗い教室は異彩を放っている。 握る指がいっそう強くなる。3-B組のとは電気をつけるスイッチの配置が違うらしく、みゆきは普段押しなれた場所によってもスイッチを見つけることができなかった。 「……ちょっと、待っていてください」 入り口付近につかさを残し、みゆきは壁伝いに歩いた。 スイッチを見つけボタンを押すと、壊れかけた電灯のように白熱灯が断続的にオンオフを繰り返した後、3-Bと同じように電気が付いた。 つかさが寄ってくるのをみゆきは待ち、それから黒板の左端まで歩き、そこで止まった。 教室の机の配置は縦に6列、横に6列。生徒側から見て黒板の左端は横の机の5列あたりである。カーテンは閉めたままにすることにきめた。 「なんだか不思議だね、ゆきちゃん」 「ええ、どこか、神秘的というか――私たちの学校なのに、そうでないような、そんな気がします」 時計も幸い付いていて、きちんと機能しているようである。お昼休みの終わりまで、まだ30分近くあった。 みゆきがつかさの顔を見ると、何かを決心しているようだった。みゆきは何も言わず、その言葉の続きをまった。ただ微笑んで、励まそうとした。 「それで、ゆきちゃん」 「はい」 すうっと、新呼吸。みゆきは息を呑んだ。 「お姉ちゃんのこと、どう思う? ううん、お姉ちゃんや、こなちゃんや……他にも――ごめん、なんだか何言っているかわからなくなってきた」 「大丈夫です。私も同じ気持ちです」 「うん、ありがとう」 「……、最近のかがみさんと泉さん、そしてその周り。私も変だと思います」 つかさは相槌をうち、 「ゆきちゃんがお見舞いに来てくれたときにいったよね。『お姉ちゃん、帰ってから私にあってくれなかった』って。可笑しいよね、それ。 お姉ちゃんがそんなことをするなんて。 私は元気なだけがとりえだから――うん、ゆきちゃんありがとう、フォローしてくれて――めったに風邪はひかないんだけど、引いたときはいつだってお姉ちゃんはそばにいてくれたのに」 遡る事一週間以上前のことだ。 「ねえ、ゆきちゃん。どうなっているのかな? 最近、私、どうしたらいいんだろう」 えぐえぐと、こらえきれず涙をこぼすつかさを、みゆきは優しく肩を抱く。 泣いちゃってごめんねと謝るつかさをみゆきはとにかく励まそうとした。 「私……嫌だよ。こなちゃんとお姉ちゃんの仲が悪くなることも、お姉ちゃんが辛そうなのも」 「わかっています」 ならば、どうすればいいのか。 それがみゆきにもわからず、ただ同調するしかなかった。 だが確信めいた気持ちがある。今日一日中みゆきを悩ませていた疑問に対する答えが、目の前にあった。 「二人で考えませんか?」 一人で悩んでいても仕方ない。だから今は口に出して、つかさの言葉を聞こう、そうみゆきは思う。 不思議そうにするつかさが愛しい。 だってという言葉を頭に思い浮かべながら、 「私はつかささんの――親友ですから。もちろん泉さんやかがみさんも」 「…うう、うん、ぐすっ、あ、ありがとう、ゆきちゃんっ!」 うわああああん!! と子供のような泣き声をあげる、つかさをみゆきは抱きしめた。 つかさの頭が胸辺りに落ちている。背中に腕を回し、優しく抱擁する。 「ごめんね、ごめんね……私、弱くて、泣いちゃって」 「いえ……気持ちは同じですから。だから今はつかささん、ご自分を大切にしてください。泣いてしまったっていいと思うんです。そうしたらすっきりしますから、その後二人で考えましょう。どうすればいいかを」 「う、うん」 本題に入るのはそれからでいい。 何度も何度もつかさの背中を擦って、みゆきは、どうすればいいか考え続けた。 「やはり、泉さんに聞いてみるしかないと思います」 十分ほどたち、お互いに落ち着いてきた頃、みゆきは切り出した。昼休みは1時間程度だし、後15分もない。 「…こなちゃん、話してくれるかな」 「わかりません。わかりませんけど、努力するしかないと思うんです」 「そっか、そうだよね」 「なんとか聞きだせるように努力します。だからつかささん、安心してください」 みゆきは精一杯の笑顔で微笑みかけた。 つかさはぼーっと立った後、うん、と小さく息を漏らして。 みゆきに抱きついた。 「え、ええ!?」 驚くみゆきをよそにつかさは顔をあげて、みゆきの唇を奪う。 身長さの関係上、つかさの体制は多少無理のあるものになる。みゆきは顔を赤らめながらも、屈んで、つかさの身長にあわせた。 経験したことのない間隔が唇を通してみゆきに伝わる。水分不足と、気温で乾きがちだった唇が湿り気を帯びる。 頭の中ではぐるぐるとえっと私たちっていやでもつかささんはかわいいですしと、混乱していたが、つかさの気持ちを拒むことも、そうする気を削ぐ効力にはなりえなかった。 「……ん」 つかさの唇から甘い声が漏れる。 どちらからかはわからない。甘い甘い余韻とともに二人は離れた。 誰もいない教室に、シルエットが二人。 「ごめん、ゆきちゃん」 あう…とつかさが謝る。 出来心だったとつかさが弁明する。どうしてだか急にみゆきと重ね合わせたくなって体が言うことを聞かなかったと、あわてて説明。 「いえ……その、ちょっと驚いてしまって」 「そうだよね、私何やっているんだろ。いや、だよね……私なんかが、キスしちゃって」 「そ、そんなことはありませんよ」 「ほんとに?」 罪悪感か、また泣きそうな顔をしているつかさをみゆきはあわててフォローする。 実際、嬉しいという気持ちの方が強かった。 親友として一緒にいただけなのに、改めてまじまじとつかさを見ると、とても可愛らしい。 ぼーっとつかさを見つめていると、つかさがクエスチョンマークを浮かべて見つめ返してくるので、みゆきは眼鏡をかけなおすふりをしながらすっかり赤くなった顔を隠そうとした。 「ええ……なんていえばいいのかわかりませんが、ほわあっとした気持ちになりました」 「あはは、それわたしみたい」 「そうですね」 みゆきは微笑んで、つかさの頬にキスをした。つかさが恥ずかしそうにもじもじする。 「よかった、ゆきちゃん怒ってなくて」 「どこにもそんな理由はありませんよ」 「うん、ありがとうゆきちゃん」 天使が通ったかのように、会話が途切れる。 みゆきはこの感覚がなんだかわからないけれど、つかさのことが可愛くて仕方ないと思った。 物心ついてから、親であるゆかりを除けばファーストキスだったのだけれど。 奪ったのがつかさで、本当に良かった、とみゆきは思った。 「…とにかく」 閑話休題。沈黙をやぶり、話を元に戻そうと、大きく席をしてみゆきは切り出す。 「泉さんに聞いてみましょう。今私たちができる最善の方法はそれしかありません。しばらく私に時間をください。どうやって聞こうか、考えます。それで、いいですか?」 「わかった。ゆきちゃんがそういうなら、私も頑張る」 「ええ、頑張りましょう。 私はつかささんの親友――ですから」 うん、とつかさが顔を赤らめるのを、みゆきは幸せそうに見つめていた。 「私は、つかささんのことが好きですよ」 「わ、私も! ゆきちゃんのこと、好きなんだと思う」 顔を見合わせる。 二人して微笑んだ。 * みゆきとつかさが離れた後、二人は無言のままだった。 単純な話で、お互いに話しかけようとしない二人に会話が生まれるはずはない。 こなたは黙って弁当箱をつついていたし、かがみはつかさが残してきたメロンソーダを数分おきに一口ずつ飲んでいた。 はたからみれば異様とも取れる光景だが、学校の教室では誰も気にとめない。 時々は二人ともちらりと顔色を窺う。偶然の一致で目が合う。しかしすぐにお互い目をそらす。 みゆきとつかさがいないので、こじれた関係を隠す必要がない。 二人が教室を出た後、こなたとかがみはずっとこんな調子だった。 「…こなた」 意を決したようにかがみが聞く。こなたは曖昧な視線をおくりながらも、何、と言葉を返した。 「この前のこと」 「……ゆーちゃん?」 「うん」 「二人は、そういう関係だったんだ。ごめんねかがみ、気づかなくて。てゆーか私空気読めなかったね。ごめん」 「だから、それは――」 かがみが違うと言おうとしてこなたの机にどんと手をたたいた。 そのとき腕がこなたの弁当にあたり、床に落ちた。 「あ……」 言葉が尻すぼみに小さくなる。かすれるような声で、ごめん、とかがみが謝った。 「いいよ別に」 もともと食欲もなかったし、とこなたは付け加えて、床に落ちた箸を拾って弁当箱にしまう。 かがみが差し出したティッシュペーパーを受け取り、床にばらまかれた冷凍の唐揚げと、ほうれん草のおひたしを拾った。 何枚かペーパーを取り出し、それを包んで丸め教室の端にあるゴミ箱に投げ捨てた。 「スラムダーンク」 こなたは一人でぼけてみたが、正直寂しかった。 その上、下投げで投げたのに外した。仕方なくゴミ箱にまで歩き、かがんで再度ゴミ箱に捨てた。 こなたがごみを捨てていると、教室の扉ががらがらと開き、みゆきとつかさと鉢合わせた。 「用事、終わったんだ?」 「ええ」 「うん」 「大変だったね~、ほとんど昼休み丸つぶれじゃん」 「そうですね、お昼も中途半端でしたし、ちょっと午後の授業が厳しいかもしれません」 「私おなかぺこぺこだよ~」 「まあ次は黒井先生だし? 黒井先生のせいでこうなったんだからいっそのこと授業中に食べちゃえば?」 「そんなことするの、こなちゃんくらいだよ~」 「む、失礼な。私だってたまにしかやってないよ」 「……たまにはやっているのな」 こなたの背後から声がする。かがみだ。 「かがみさん、お出かけですか?」 「てゆーか昼休み終わるし。教室に戻らないといけないじゃない」 「あ、そうですね」 二人が入り口を占拠していて、かがみが出られないことにきづき、つかさはあわててどいた。 こなたとかがみはお互いに何か言いたげだったが、目と目があった後、辛そうに目線をずらした。 「じゃあね、つかさ、みゆき、こなた」 「…うん、またね」 廊下に出ながらかがみは挨拶をする。こなたも答える。 「ただ、ひとつだけ覚えていて」 窓までかがみは歩いた後、正面にいたこなたに振り返った。やや後ろにみゆきとつかさ。諦めがにじみ出た寂しい、かわいた微笑をたたえながら、 「―――に、私は黄色のカーネーションをあげたんだよ」 すぐに後ろを向いて、小走りにかがみは教室に向かい走り出した。 よく聞き取れず、後ろの二人は首をかしげていたが、こなたにはその声が、いやに鮮明に、主語が補われて耳朶に響いた。 コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/tetsunohikari/pages/51.html
概説 死後生存研究の分野 死後生存研究の歴史・新たな展開 死後生仮説の優位性反死後存続仮説論 概説 死後生存は、死後存続ともいわれ、心霊研究などで用いられる用語であり、人間は肉体が滅んだ後も何らかの形で人格を保ち続けるという思想である。人間(の意識)が生物学的な死後も何らかの形で生存を続けるという考えは、古代エジプト・インダス文明を始め全ての古代及び非西欧文化の宗教や哲学の体系、宇宙論、儀式などにも見ることができ、19世紀、欧米を中心に流行したスピリチュアリズム(心霊主義)では死後も現世と交流することが出来るという思想の体系が作られた。なお、今日ではかなりの人々が「意識は脳の生理学的な働きの産物である」という唯物論的仮説の影響下にあると言え、意識の死後存続研究は唯物論的仮説へのアンチテーゼであり、意識が脳から独立している(または脳より優位である)事を前提としていると言える。 死後生存研究の分野 1984年に死後生存研究が世界的にどの程度、進んでいるかを知らせる事を目的に、世界の第一級の超心理学者による研究論文を信頼のおける医学、心理学、超心理学の雑誌から厳選して『死後の生存の科学』 に収録している笠原敏雄は、世界的に見ても、超常現象の研究者は非常に少ないといい、その中でも、死後生存問題の研究者は非常に限られている事を指摘しており、現在では、臨死体験の研究者を除けば、アメリカのヴァージニア大学知覚研究室の研究グループが中心になっていると指摘している(*1)。また、笠原は、死後生存(存続)研究の分野として以下のようなものを挙げている。 体外離脱体験 臨終時体験 臨死体験 霊媒を介する死者との交信 霊姿 憑依と真性異言 生まれ変わり 臨死体験については、死後生存の裏付けになりそうなものと、死後生存を考えない方がうまく説明がつくものがあると考えられ、臨死体験にしばしば見られる超常的知覚は文化的要因では説明できないと指摘され(*2)、前者に識別され得ると考えられる。 この他、飯田史彦は「死後の生命」や「生まれ変わり」に関する近年の科学的研究成果として、退行催眠によって蘇る過去生記憶を挙げている。また、大門正幸は、意識の死後存続研究は、大きく、意識が死後も存続する可能性に関する研究と、存続した意識が別の肉体に宿る可能性に関する研究に分けられるとしている(*3)。そして、それらはそれぞれ臨死体験と生まれ変わりの研究と結びついていると言える。 死後生存研究の歴史・新たな展開 「魂の不死性」はプラトンを始め、多くの哲学者たちが議論してきたテーマの1つであったが、人間の意識の死後存続の可能性を経験科学的に探究しようという試みは、19世紀後半にイギリスを中心として流行したスピリチュアリズム(心霊主義)を背景として盛んに行われた霊媒現象、1882年に設立された心霊研究協会(Society for Psychical Research)や1884年のアメリカにおける米国心霊研究協会(American Society for Psychical Research)に端を発する。そして、心霊科学研究はESP研究や超心理学研究へと派生していくが、近年、新たな展開を見せている。 イアン・スティーヴンソンは、死後生存の研究史ははっきりとは分けられないとしながら、理論的な問題の扱い方及び、実証的な研究法の違いを基準に三期に区分している(*4)。まず、第一期は、心霊研究協会が設立された1880年代から1930年代までの50年ほどで、この時期の研究では、死者の霊姿体験や、死者からの通信のように思われるそれ以外の偶発的体験を収集、分類し、分析するという方法を主とし、死者からの通信を受けることが可能であるとする霊媒を対象とした科学的研究も開始された。しかし、霊媒を介する死者との交信については、人間がテレパシーや遠隔透視といったサイ能力をもっている事が明らかになるにつれ、本人が知らないはずの情報を入手できるのもサイ能力によって可能になるとも考えられた。そのような事から、第二期に当たる1930年代から1960年頃までの30年間は、殆どの超心理学者が死後生存の可能性を問題とはしなかった。しかし、新しいタイプの実証的研究や理論的な問題を明確にしようとする努力が重ねられ、ある程度の進展が見られた。第三期は、1960年頃から1980年頃までで、死者からの通信のように思われる体験の中から生者のサイ能力であるとする説を排除できるよう工夫された実験も行われた。また、イアン・スティーヴンソンによる生まれ変わりの研究や、長い間西洋の科学では禁忌同然の扱いを受けていた死と臨死という問題が脚光を浴びた。 21世紀に入った後も、霊媒を対象とした研究を行うようにもなっており、暗室に「霊」を呼んだ場合とそうでない場合との光子の量を比べ、「霊」を呼んだ場合に光子の量が大きく増加する事を実証した研究もある。また、生まれ変わりについては、前記のアメリカのヴァージニア大学知覚研究室の研究グループが中心になっていると言え、近年ではイアン・スティーヴンソンの衣鉢を継いだジム・タッカーが強い生まれ変わり信仰をもたないアメリカでの強力な生まれ変わり事例を収録している。日本においては、大門正幸が過去生記憶をもつ子どもの存在を示し、また、過去生記憶だけでなく中間生記憶や胎内記憶をも考慮に入れた包括的な研究の必要性を訴えている。 この他、カリフォルニア大学リバーサイド校で進められている不死プロジェクト(immortality project)や、超心理学と人類学を融合させようとする超人類学(paranthropology)の試み、臨死体験や神秘体験などを霊的変容体験(spiritually transformative experience)として包括的に捉えようとする試みなど、様々な形で研究がなされていると言える。 死後生仮説の優位性 飯田史彦は「死後の生命」や「生まれ変わり」の研究はその科学的真偽とは別の次元で、それらを否定する論者に対する絶対的な優位性をもっていると指摘している(*5)。具体的には、「死後の生命が存在する」という命題については、データを蓄積する事が可能であると言えるが、「死後の世界が存在しない」という命題の場合、存在しないものを確認するのは不可能である。従って、論理的にみた場合、死後生というテーマについては、「認めるだけの決定的証拠がないが否定する方法もないない」か「認めようと判断できるだけの証拠が得られた」かという2つの状態しかない事になる。 反死後存続仮説論 サダスは、確認理論(confirmation theory)を用いてこれまでの哲学的議論を精査し、精緻な分析を通して、死後存続仮説を擁護する議論は破綻していると主張する。そして、デュエム・クワイン・テーゼが述べるように、観察される現象の説明には、主要な仮説に加え、様々な補助仮説が必要になるというが、死後存続論者達がこの点に関して非常に曖昧であると指摘している。そして、次のような補助仮説に目を向けると、死後存続仮説には大きな問題が存在している事が明らかになるという。 A1 意識が死後も存続するとすれば、肉体を持たない状態になった時に意識を保持したままであろう、生者Pが存在する。 A2 意識が死後も存続するとすれば、生前に関する詳細で高度に特定的な記憶を保持したままであろう、生者Pが存在する。 A3 意識が死後も存在するとすれば、生前のPを特徴付けていた人格的特徴や技能の多く、または大部分を、あるいは少なくともその重要な部分を保持したままであろう、生者Pが存在する。 A4 意識が死後も存続するとすれば、その死後、我々の世界で生じた出来事や生者の心の状態に関する知識を有するであろう、生者Pが存在する。 A5 意識が死後も存続するとすれば、その死後、生者と交信しようとする欲求や意図を持つであろう、生者Pが存在する。 A6 意識が死後も存続するとすれば、その死後、生者と交信する能力を有するであろう、生者Pが存在する。 A7 意識が死後も存続するとすれば、超感覚知覚(透視とテレパシー)および念動力という形で効果的な心的機能を示すであろう、生者Pが存在する。 一方、このような補助仮説に関する議論として、補助仮説A1~A6で示されているような意識の強い連続性 (strong continuity of consciousness) が必要だという主張に対し、死後の意識状態が生者の意識状態と変わらない、とする仮定は、もっと広い意味に解釈でき、生者が睡眠状態や痴呆状態にあり正常な交信ができない場合があるのと同様に、死者も正常な交信ができない場合もあるとの仮定もある。そして、死者にも生者同様に様々な意識状態があるとすればサダスが詳細に設定したような補助仮説は不要となる。(*6) また、死後の世界にアクセスする(体験する)方法は、退行催眠によるトランス状態であったり、臨死体験であったりと、非日常的で特殊な状況においてであり、人間の内面にいて主観的に体験されているものであるため、体験を共有する者もおらず、物的証拠も何もないので、その体験がリアルなものだと訴えても、周囲の者からすれば当人の性格や状況からその発言に信憑性を判断せざるを得ないとも考えられる。このような考えに対し、坂井祐円は、死後存続研究の方法論が、相変わらず従来の近代科学主義の唯物論パラダイムに則っており、その範疇を出る事がないからこその必然的な齟齬なのであるとし、死後の世界や霊魂といった存在は、そもそも物質世界には還元できない領域の問題であり、物質科学の方法に準拠して何とかその存在を論証しようと躍起になる事は、論理矛盾でしかないという。(*7) (以下は管理者の見解) 立花隆『臨死体験 下』の中では、ケネス・リングの話として、臨死状態の向こう側にある世界が永遠の世界だったら、存続というような時間を含む概念は意味を持たないことが指摘されているが(*8)、実際、臨死体験は無時間的な永遠の世界を示しているケースが多い。また、死後生存、死後存続は、人格(個人としてのその人)の存続を想定していると言えるが、トランスパーソナル心理学の地平から見れば、直接的に死後の世界を設定しないとはいえ、宇宙規模の壮大なスケールで人間の生死の意味を考え、敢えて言うなら個体を離れた個性とは違う意識への融合と捉えているように思えるし、土井利忠が考える「あの世」の実態なども時間や生死を超越しているという点で死後という表現は妥当ではないと言える。更に、臨死体験が本質的に語り得ないものであると言われる事からも窺えるが、死の彼方が文字通り何もなくなるという意味での無ではなかったとしても、私達の世界とは全く異なった法則に因って統制されている世界であるとしたら、そもそもそのような世界を「存続する」や「在る」として心に描き捉える事自体が困難であるかもしれない。それ故、体外離脱体験など死後生存研究の分野において客観性、測定、実証などといった正統的な基準に当てはめる事で見出される人格(個人としてのその人)の存続という捉え方も(肉体と共に全てが消滅せず何かがあったとして)向こう側にある世界における意識の一側面に過ぎないという事であろう。このような事から、物的なものと心的なものといった風に二元論的に捉え、人格や霊魂の死後存続という形で話を一般化するには壁があると思われ、死後にも何かがあるとすれば「いったい何が存続するのか」や「いかなる種類の意識が存続するのか」、さらに哲学的に言えば、何かが「在る」とはどういう事態か、「現実」とは何か、「経験」とは何か、「存続する」とはどういう事かといったように掘り起こして考えるべき問いは多く出てくると言えるであろう。渡辺恒夫も死後の世界について直接探求するのではなく、まず「私とは何か」を探求すべきであり、「私とは何か」の答えは、「なぜ今、ここにいるのか」という≪今、ここ≫の謎に事に答えられなければならないため、私は脳であるという唯物論も私は肉体とは独立の霊魂であるという心身二元論もともに失格であるという立場である(*9)。また、渡辺は死後存続の科学は科学の方法がつくりあげた科学的世界像追放された心を科学の方法によって立証しようという企てであるから心身二元論と科学的方法の組み合わせは破産しているとも示唆しており、死後生存研究によって蓄積されたデータから心身二元論的に自己や意識の個別性や独立性を認める事が正しいという結論にはならないであろうが、死後生存研究によって蓄積されたデータや永遠の哲学、トランスパーソナルな意識の拡大、超心理学的事実を無意味だとみなすのではなく、それもまた一つの事実として、(渡辺が言うような)真の自己とは何かや「私」とは何かという形而上学的問いを考える際に、視野に入れる事で新たな視点をもたらす可能性があるというのが私(管理者)の考えである。 慎重な超心理学者が指摘しているように、誰もが納得するという点で、死後生存を裏付ける決定的証拠、科学的証拠は得られていないし、それは将来も同じであろう。しかし、死後生存を否定する証拠は、肉体が消滅すれば何もなくなるという常識論以外には存在しないと言える。また、超心理学的には死後生存の可能性を持ち出さなくても本人が知らないはずの情報を入手できるのもサイ能力によって可能になるとも考えられるというが、そのような能力も脳がいわゆる意識の送受信器であるといった脳濾過装置理論的立場から考える事によって合理的に説明できると言える。そのため、サイ能力(ESP)の存在から直接的に死後生存を直接的に証明する事が困難であるとしても、死後生存を否定しているわけではなく、むしろサイ能力によって霊の世界、死後の世界と呼べるような世界へアクセスし情報を得ていると仮定する事もできる。それに加え、死後生存研究によって蓄積されたデータや、永遠の哲学、トランスパーソナルな意識の拡大など少なくとも、意識の全てが脳によって産み出される、または脳の特性に還元されるという唯物論的な見方を否定したり、(向こう側の世界が、臨死体験者が言うように本質的に語りえないものであっても)死んだら「無」であり全ては消滅し終わりであるといった素朴な死生観を否定したりする事に寄与すると考えて問題ないだろう。 参考文献 笠原敏雄『超心理学ハンドブック』ブレーン出版 1989年 飯田史彦「生まれ変わりに関する科学的研究の発展が人生観に与える影響について」『商学論集』第64巻第1号 福島大学 1995年 飯田史彦『生きがいの創造-生まれ変わりの科学-が人生を変える』PHP研究所 1996年 立花隆『臨死体験 下』文藝春秋 1994年 渡辺恒夫『輪廻転生を考える 死生学のかなたへ』講談社現代新書 1996年 渡辺恒夫/中村雅彦『オカルト流行の深層社会心理』ナカニシヤ出版 1998年 坂井祐円「死後の世界を前提とする死生観について」『南山宗教文化研究所 研究所報』第28号 南山宗教文化研究所 2018 年 坂井祐円「死後存続研究が示す「死後の世界」と「心的現実」の問題について」『南山宗教文化研究所 研究所報』第30号 南山宗教文化研究所 2020年 坂井祐円「生まれ変わりをどのように考えるか」『仁愛大学研究紀要人間学部篇』第19号 仁愛大学 2020年 大門正幸「意識の死後存続研究の新たな展開」『人体科学』24巻1号 人体科学会 2015年 大門正幸「魂の不死性に関する哲学的考察 死後存続仮説に関する議論を中心に」『人体科学』28巻1号 人体科学会 人体科学会 2019年 イアン・スティーヴンソン「人間の死後生存の証拠に関する研究ー最近の研究を踏まえた歴史的展望」『死後の生存の科学』叢文社 1984年 所収 イアン・スティーヴンソン/ブルース・グレイソン「臨死体験ー死後生存問題との関連」『死後の生存の科学』叢文社 1984年 所収 Z.リッチモンド/K.リッチモンド『死後生存の証拠』笠原敏雄 訳 技術出版 1990年 ジェフリー・アイバーソン『死後の生』片山陽子 訳 NHK出版 1993年 ゲイリー・ドーア編『死を超えて生きるもの 霊魂の永遠性について』井村宏治・笠原敏雄・菅靖彦・橋村令助・上野圭一・鹿子木大士郎・中村 正明 訳 春秋社 1993年 ジャン=ジャック・シャルボニエ『「あの世」が存在する7つの理由』石田みゆ 訳 サンマーク出版 2013年 参考サイト http //www.02.246.ne.jp/~kasahara/
https://w.atwiki.jp/marurowa/pages/24.html
それは不思議な出会い ◆Wott.eaRjU 薄暗い黒があちこちで群れて、漆黒の空間をひっそりと成す。 既に日の光は差し込まず、街灯だけがひっそりと辺りを照らしてくれている。 その闇の中を一人の少年が探るように歩く。 この異質な状況をなんとか手探りで理解するように。 彼――橘あすかはデイバックを担ぎ、歩き続けていた。 「殺し合いだって……冗談じゃない。そんな馬鹿げた事、やる意味なんてないハズだ……」 透き通るような青い髪を生やし、青と白の制服――HOLY部隊隊員の制服を着用し、あすかは一人愚痴る。 今のあすかを見れば異様な男だと勘違いされるかもしれない。 だが、当のあすか本人には生憎自分が今、他人にどう思われているかなど考える余裕はないだろう。 冷静な言葉とは裏腹に、あすかは極度な緊張状態に置かれていたから。 此処に来るまでに負った傷――カズマという男と闘った傷がいつの間に治っている事すらも碌に気を止めずに。 時々、何度も後ろを振り返り、不振な者が居ない事にあすかは知らず知らずの内に安堵の溜息をついていた。 「少し違和感があるけど、アルターは充分に使える……。 なのに、どうしてだ。 どうしてこんなにも不安になるんだ……僕はHOLYの一員、橘あすかだというのに……」 HOLY部隊――アルターと呼ばれる異能を扱う人間達によってシティで組織された、言うなれば特殊治安維持部隊。 大地震により崩壊し、かつて横浜と呼ばれた地――ロストグラウンドの治安を守る事がHOLYの目的。 治安が未だ安定しないロストグラウンドのいわば番人であり、あすかはそんなHOLYの一員である事に誇りを持っている。 HOLYに入隊すれば高度な生活水準が約束され、あすかもそんな待遇に憧れていたのだから。 そしてB級と称されるアルター能力を持つあすかの実力は決して低いものではない。 当然、同じアルター使いである賊――ネイティブを鎮圧するために、あすかはアルターを行使し、何度も闘った。 だが、突然こんな状況に放り込まれた衝撃は未だ20も生きてない少年には大きすぎた。 冷静さを保とうと、がむしゃらに己の焦りや恐怖といったものを抑えようとするが、どうにも震えは止まらない。 誇り高きHOLY部隊のこの僕が――などと、自分がいかに選ばれた存在である事を言い聞かせても、終わりは訪れようとはしない。 ただただ、あすかの脳裏に浮かぶ影は一つ。 自分達の目の前で呆気なく頭と身体が泣き別れになった、名も知らぬ人物の悲痛さに塗れた形相のみ。 何故かあの時の光景が今もなお鮮明に思い出す事が出来て、思い出す度にあすかは顔を顰める。 失意の中で死んだ者への同情は元より、それよりも嫌という程燻り続ける感情がしこりを残す。 それは単純な恐れ。 自分もああなってしまうのでは――といった極めて単純な感情であり、払拭するのに手を焼かせてくれるもの。 自分が抱いた脆弱な考え――少なくともあすかはそう思っている――に抵抗するように、彼はブンブンと頭を振り、更に歩を進めた。 「ん……あれは家かな?」 やがて歩みを止め、あすかは一軒の家を見つけた。 シティに建てられたものとは見劣りするが、今にも崩れそうといえる程でもない。 用心しながら一般的な一戸建ての民家に近づく。 室内の電気がついてない事から恐らく中に人は居ない。 いや、これは殺し合いと言っていた。 警戒して敢えて暗室にしているのかもしれない。 この異常な事態にどうしていいかわからず、只民家に立て篭もるしか考えられなかったから――そこまで考え、ふいにあすかは何だか気が楽になったような心地がした。 自分よりも怯えきっている人が居る可能性は充分にある。 それどころか今、まさに目の前にある家の中に息を潜めて、肩を震わせているのかもしれない。 こんな狂った状況で恐怖を覚えてしまうのに、なんら恥じる事はない。 そう考えると、自然に足取りは軽くなりあすかは遂にドアの目の前まで辿り着く。 深く息を吸い込み、あすかは自らに激を飛ばす。 自分は地を這い蹲る惨めな一般人ではない。 アルターの能力の高さを認められ、HOLY部隊に選抜されたのだ。 此処はHOLYの誇りを忘れずに、救援を求める人間は可能な限り保護しなければならない。 このドアの奥に誰か居るかはわからないが、確認しないわけにもいかない。 その想いには当然、善意も含まれていたがほんの少し邪な考えもあった。 何処か自分よりも哀れな存在を保護し、少しでも自分を優位に見せたい。 HOLYに属するが故に、更に強まったあすかのプライドのようなものが知らず知らずの内にそんな考えに至らせる。 想いは強く、ドアノブに手を掛けてあすかは一気に引き開けた。 「大丈夫ですか!? 僕はHOLY部隊の橘あすかで――――な、なぁ!?」 ドアをやや乱暴気味に開けて、室内に侵入を果たしたあすかは素っ頓狂な声を上げる。 其処には誰も居なかったわけではない。 あすかが何処か期待していたように、幼そうな少女――いかにもこの殺し合いという状況で肩を震わせて、怯えていそうな存在。 保護すべき対象とはもってこいで何もいう事はない。 だが、驚きのあまりあんぐりと口を開けたあすかの見つめる先に居た少女にはその前提は通じなかった。 怯えきっているというよりも、寧ろ―― 「あら、騒がしい客ね。折角、静かに紅茶を楽しんでいたのに……不愉快なのだわ」 ちょこんと椅子に座り、紅茶を飲んで力の限り寛いでいた。 さも当然のように紅茶の味を満喫している事がまるで少女の度胸の良さを誇示している。 あすかの方へ視線だけやり、表情は機嫌悪そうに少し歪んでいた。 というよりも明らかに機嫌を損ねたらしく、憎憎しげにあすかをキッと睨みつけているよな節さえある。 目の前の少女が取っていた行動、そして自分を突き刺すように眺めてくる視線の厳しさにあすかは暫く声が出なかった。 僅かな時間ではあるが、沈黙があすかと少女の間を無常にも流れ行き―― 「私は真紅。ローゼンメイデンの第五ドール……人間、お前の名は?」 ようやくその気まずい空間が途切れ、あすかも口を開く事が出来た。 自分を何処か作り物染みた瞳で見つめる少女――真紅。 その瞳に吸い込まれるような心地を何処か覚えながら、あすかは口を開き始めた。 ◇ ◆ ◇ 「そう……俄かには信じられないわね。アルター、HOLY、ロストグランド、少なくとも私が目覚めた時代の中には、そんなものはないのだわ」 相変わらず、紅茶を啜りながら真紅は神妙な顔で言葉を呟く。 流れるように煌く金髪のツインテールをなびかせ、赤を基調としたゴシックドレスを着込み、 あすかから聞いた話を全て鵜呑みにしたわけでもなさそうだが、それなりに信用は置いているように見える。 対面の椅子に座るのは勿論、あすか一人。 微妙に何かを探るような瞳を向けながら、真紅はあすかの出方にその小さな身を任せる。 そう。この異常な事態を打開するために手を組む事を決めたあすかをじっと真紅は観察していた。 「信じられないのはこっちの方だ! 君がその、ロ……ローデンメイデン――」 「ローゼンメイデン!」 「ローゼメイデンとかいう人形だなんて……僕には信じられない! 本当にアルターの一種じゃないんだろうな……?」 「全く、失礼にも程があるのだわ。私達、ローゼンメイデンをそんな得体の知れないアルターとやらと一緒にするなんて」 「ア、アルターを馬鹿にするな!」 二人の間を言葉の応酬が飛び交う。 事の発端となったのはあすかが真紅に抱いた疑問だが、彼がそんな疑問を持ったのも無理はない。 人間と同じように紅茶を飲めば、他の人間と立派に口喧嘩をし、喜怒哀楽といった感情をも現す事が出来る。 背が40cm程しかない事を覗けば、人間となんら変わりもない。 だが、真紅は人間ではない。 そう。真紅は一人の人間――人形師ローゼンによって作られた人形(ドール)の一体。 全部で七体存在し、ローゼンメイデンと呼ばれる自立稼動人形の内の五番目となる存在。 ローゼンメイデン同士で闘い、最後の一人まで勝ちあがり究極の存在――アリスを目指す事を目的としたアリスゲームの参加者の一人でもある。 そして、アリスゲームの事について真紅はあすかに話してはいない。 其処まで言う必要もないと考えたのかもしれない。 やがて、椅子から飛び降り、真紅は己のデイバックを手に取った。 「さ、そろそろ行くわよ。 いつまでもこんな場所でのんびりしているわけにもいかない……時間は待ってくれないのだわ。 そう。どんなにも手放したくない思い出さえも……残酷に掠め取ってしまうから」 デイバックから真紅が取り出したもの、それは黄金で彩られた一本の鋏。 庭師の鋏と呼ばれるものであり、本来の持ち主は真紅の姉、ローゼンメイデン第四ドール――蒼星石。 庭師の鋏を一瞬、真紅は何処か思いつめたような表情で見やるが、直ぐに目を離す。 只、外の世界へと通じるドアに向けて真紅は歩き出す。 真紅には一刻も早く合流しなければならない大切な仲間が居るのだから。 桜田ジュン、翠星石、蒼星石……そしてあすかの話から協力関係にある劉鳳とストレイト・クーガー。 この殺し合い――禁じられた遊びといえ得るものを止めるためにも真紅は、今は一歩でも進む事を何よりも優先する。 だが、それを快く思わない人間も残念ながらこの場には居た。 「待て、真紅。僕は仮にもHOLYの一員……此処は僕の指示に従ってもらう! 僕の方が君よりもこの状況に対応出来る筈だ」 真紅が勝手に歩き出すのを見て、あすかは慌てて立ち上がり胸に手を当てて、力説する。 その言葉にはあすかも知らない内に必要以上の怒気が含まれていた。 人形だろうが何だろうが、明らかに自分よりも幼そうな存在がまるで自分を無視するように振るまうのはいけ好かない。 事実、振り返るもののあすかの言葉には特に興味を示さないような様子を真紅は見せていた。 真紅に対し、対抗心のようなものを沸々とあすかは燃やし続ける。 だが、あすかも伊達にHOLYに属してはいない。 この殺し合いが始まった当初抱いていた恐怖は今では大分落ち着いている。 ゆえに自分がやるべき事もしっかりと認識できた。 (僕は一刻も早く、此処からなんとか抜け出さなければならない……キャミーを一人ぼっちにさせるなんて……絶対に駄目だ! だから、この真紅という子はなんだか生意気だけど仲間が多いコトは有難い。必ずあのギラーミンという奴を倒してみせる!) たった一人の恋人、キャミーへの愛が消える事はない。 既に自分達を、有無を言わさずこんな場所へ連れて来たギラーミンの言葉など信頼には足らない。 この殺し合いへの反抗の決意を拳で握りしめ、絶大的な平常を全身へ行き届ける。 自然とあすかの表情も力強いものへと変わってゆく。 そんなあすかを見て、真紅は一瞬驚いたような表情を見せ、彼女の表情は次第に移り変わり―― 「そう……精精期待させて貰うのだわ、あすか」 ほんの少し、少しだけの笑みを見せて真紅はあすかに言葉を返す。 人形であるのに、まるで薔薇の花のような気品さを漂わせた真紅の微笑に不覚にもあすかは何だか気恥ずかしくなり、顔を逸らした。 自分よりもずっと大きな身体をしているあすかを真紅は見上げ、彼の子供染みた行為に少し可笑しさを覚えた。 やがて再びドアの方へ向き直り、真紅も一抹の思慮にふけ始めた。 (私もかなり堪えていたようね……でも、遅くはないのだわ。 未だ歯車は回っていない……これから、これからに全てを費やしていけばいいのだもの……) 見せしめとして殺された男女の姿が真紅の脳裏に浮かぶ。 自分が行使する人形が壊れる様よりも、ずっと衝撃的な光景を演出したあの出来事。 ローゼンメイデンの姉妹の中で、特に大人びている真紅といえども流石にあんなものを見せられては平常通りにはいかない。 少なからず衝撃を受け、最初に送り込まれた場所がこの民家であったため、気を落ち着かせるためにも紅茶を飲んでいた。 其処にあすかがやってきて後は……今に至っているという事だ。 初めは全く頼りにならない男だと思っていたが、何か譲れない思いはあるらしい。 あすかを仮初の仲間とし、真紅はこの殺し合いを打ち破る決意を密かに燃やし続ける。 (ジュン、翠星石、蒼星石……無事を祈っているわ。特にジュン……貴方とは特に一刻も早く会わないと。 そして水銀燈……貴女がこの禁忌の宴に乗ってしまっているのであれば私は止めてみせる。 アリスゲームのようなものをやらせるわけにはいかないのだから……!) 真紅のマスターともいえる存在である桜田ジュン。 真紅の姉であり、彼女の宿敵でもあるローゼンメイデン第一ドール――水銀燈。 放ってはおけないジュン、きっとこの場でも自分を付け狙って来ると思える水銀燈の存在を特に気に留めながら、真紅は決意を強める。 ローザミスティカを失った蒼星石が何故この場に居るのか。 何故、人工精霊――ホーリエが居ないのか。 Nのフィールドへの侵入が何故出来ないのか。 正確な距離はわからないがジュンと距離が離れていても契約の指輪からのエネルギーの供給は可能なのか。 湧き上がる疑問は多々あるが、それでも真紅は前へ進み続ける事を止めるつもりはない。 何故なら真紅は今、生きているのだから。 時間の流れにより肉体が朽ち果てるという事はないけれども、それでも真紅は今、この瞬間確実に生命の螺子を回し続けている。 ならば――この現実に対し、闘うしかない。 闘って、闘って――自分達の未来をもぎ取る。 生きるコトとは闘うコトなのだから。 そう―― ローゼンメイデンの誇りに賭けて。 思いを糧に、真紅はドアノブに手を掛けて、仲間達と合流するために外へ飛び出そうとするが――それは叶わなかった。 それは単純すぎた問題。 今までずっと室内に居たため、まるで足りてない事に真紅は気がついた。 そう。自分の身長がドアノブに足りてない事を。 「…………ぷっ」 思わず、あすかは小さな笑いを洩らす。 だが、何も物音はしない室内ではその音は決して小さな音ではなく、真紅にしっかりと聞こえていた。 ほんの少しだけ、その場に硬直した真紅はやがて振り返り、徐にあすかの方へ歩き出して―― 思いっきりあすかの足を蹴り飛ばした。 僅かに両の頬を桃色に染めながら。 【G-7 北部の民家/一日目 深夜】 【真紅@ローゼンメイデン(漫画版)】 【装備】:庭師の鋏@ローゼンメイデン 【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0~2個(未確認) 【状態】:健康 【思考・行動】 1:殺し合いを阻止し、元の世界へ戻る。 2:ジュン、翠星石、蒼星石、劉鳳、クーガーと合流する。 3:カズマ、水銀燈に用心する。また、水銀燈が殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める。 【備考】 ※参戦時期は蒼星石死亡以降、詳細な時期は未定(原作四巻以降) ※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。 ※蒼星石が居る事や、ホーリエが居ない事などについて疑問に思っています。 ※どこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします 【G-7 北部の民家/一日目 深夜】 【橘あすか@スクライド(アニメ版)】 【装備】:なし 【所持品】:基本支給品一式、不明支給品1~3個(未確認) 【状態】:健康 【思考・行動】 1:ギラーミンを倒し、元の世界へ戻る 2:ジュン、翠星石、蒼星石、劉鳳、クーガーと合流する。 3:カズマ、水銀燈に用心する。特にカズマは気に食わないので、出来れば出会いたくもない 【備考】 ※参戦時期は一回目のカズマ戦後、HOLY除隊処分を受ける直前(原作七話辺り) ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました(アリスゲームは未だ聞いてない)。 ※何処へ向かうかは次の書き手さんにお任せします。 時系列順で読む Back 走れトウカ Next 激流に身を任せ同化できない 投下順で読む Back 走れトウカ Next 激流に身を任せ同化できない GAME START 橘あすか 輪廻-ロンド- GAME START 真紅 輪廻-ロンド-
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1552.html
前 そこは、さきほどの加工室の半分ほどの広さだった。 しかしそこにいる人間の数は圧倒的に少ない。5,6人程度だ。そのどれもが緊迫した顔で ゆっくりれみりゃを加工している。 「ゆっくりれみりゃは、今のところ胴体付の個体しか加工していません」 「なぜです?」 「通常のものは、どうにも加工しづらいのです。 数も一定量から増えませんし、他のゆっくりとは 格が違うと思い知らせてくれますよ。 ゆっくりふらんなどはもっと扱いづらいですしね」 「さすがは希少種、ということですね」 「そういうところですね。 頭の痛いことです」 「あはは~れみりゃだー。 ぷぷっ」 「れぇみりゃ、だ、どぉ~☆ あははは」 子供達は愉快げにガラスにかじりつき、見下ろしている。 その視線の先には先ほどの加工室と似たような光景が広がっていた。 「うっう~。 れ☆み☆りゃ☆だっどぉ~~♪ にっぱぁ~~~☆」 このゆっくりれみりゃも何不自由なく育てられ、とても素晴らしい肌のはりと色艶をしていた。 皮も滑らかで、羽の動きも滞りがない。 「れみ☆りゃ☆うぅ~~~♪」 野生でこれほど上質のゆっくりれみりゃは、おそらく100匹に1匹いればいいほうだろう。 「うっう? ぷっでぃんはぁ? おなかへったどぉ。 らんちもっでぎでぇ~~ん」 男は意に介さず、きびきびとゆっくりれみりゃの四肢を拘束していく。 大の字に固定されたゆっくりれみりゃは、頬をぷっくりと膨らませて、可愛らしく不機嫌さを アピールしていた。だが、それを可愛らしいと思うのは同じゆっくりれみりゃだけに違いない。 むしろ、そのにこにこ笑顔で全てがぶち壊しになっていて、とてもちぐはぐな印象を受ける。 「れみりゃはおこるってるど! でっもぉ~、あやまればぁゆるしてやるんだどぉ~?」 男はかまわずに、道具を取り出していく。 「ぷっでぃんふたぁっつもってくればぁ、いいこいいこしてあげるんだどぉ~♪」 男はかまわずに、作業着を整えて口元をマスクで覆う。 「とぉってもありがたいことなんだどぉ? めったにないことなんだがらぁん」 男はかまわずに、ゆっくりれみりゃを見据えた。 「なんでだまってるんだどぉ! あやまるんだどぉ! あやまるんだどぉお!!」 男は黙ってメスを取り出すと、ためらわずに腹を切り裂いた。男の鼻孔にひき肉と油の匂いが侵入する。 「うぎゃぁあぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 への字に良く似たにこにこ笑顔を崩して、目を根限り見開いて絶叫するゆっくりれみりゃ。 その羽は痛みを紛らわすためだろうか、ばっさばっさと激しく小刻みに動き続けている。 「れみりゃのおながいだいどぉお~~~!! なにずるんだどぉーーーーーーーー!!!」 男はうんざりしたような表情を見せると、そのままゆっくりれみりゃの中身をかき出し始めた。 「うぎゃぅぅ! う゛あ゛っ! う゛あ゛あ゛っ! う゛あ゛あ゛あ゛っ!!」 胴体付とはいえ、ゆっくりれみりゃの中枢は他のゆっくりと同じように頭部にあるので、胴体部分 をどれだけ無遠慮にかき回しても、生命維持にはまったく問題が無い。 「やめでーーーーーー! やめでーーーーーーー!! やめでーーーーーーーーー!!!」 さらに言えば、他のゆっくりにはない異常な再生力のおかげで、ぐちゃぐちゃになっても放置して おけば、数時間(部位によっては数秒から数分)でものの見事に復元してしまうのだ。 この超回復こそが、ゆっくりれみりゃを希少種たらしめている点であり、業者の頭を痛めている 最大の要因でもあった。 時間をかけて技巧をこらすことができないのだ。 ゆえに、ゆっくりれみりゃの場合は、すでに組み立て済みのメカニズムを埋め込むことになる。 だが、それでは微妙に職人気質のある者たちが納得しなかった。 他のゆっくり時計との差別化を図ろう!! ということで一味違うギミックを拵えたのだった。 「うあーーー! う゛あ゛ーーーーーーー! れみりゃのながみだじぢゃだめだどぉ~~~っ!!」 男は中身を抜き、程よい隙間を空けるとそこに円形の物体を埋め込んだ。 それはもちろん時計だ。 しっかりと固定させると、今度はその時計に棒状のものをつなげていく。 「いぃだあぁ~~あぁぃいい!!! ながみがぁ! れみりゃのおうごんのながみがぁぁああ!!!」 その黒くしなやかな金属棒は、ぐにぐにと曲がり、自在に湾曲するのだ。 「う゛あ゛べるんだどぉおお! や゛べるんだおぉ!! う゛あ゛ーー! う゛あ゛~~~!!」 それを時計に接続し、四肢に手早く埋め込んでいく。 「う゛ぎゃぁあぁ!! れみりゃのおででがへんなんだどおぉ! ぎれいなおででになにがはいっでるぅうぅ!?」 涙と唾らしきものが男の顔にかかるが、気にせず作業を続ける。 ぐりぐりとねじ込んでいくと、末端の皮膚に突き当たる。 次々にそれを埋め込んでいくと、そのたびにゆっくりれみりゃの絶叫があがる。 「れみりゃのあんよがぐるじいどぉ~!! かわい゛い゛あんよがみっぢみぢだどぉおおぉぉっ!!!」 いつのまにか、男は顔をゆがめていた。笑顔になっている。 最後に、歯車などの金属片が露出した一際太い棒を刺し込んで、時計と頭部とをつなげてしまった。 「ぶぎゅぅ!? あ゛だま゛がいだいどぉ~! わ゛れぞうだどぉ~! とるんだどぉ! はずすんだどぉおお!!」 これでゆっくりれみりゃの頭と四肢は、時計と骨組みで繋がっていることになる。 「う゛あ゛~~~。 う゛あ゛~~~~~。 やべるんだどぉ~~~。 いだいんだどぉ~~~」 すっかり脱力し、元気を失ったゆっくりれみりゃ。 「がぢがぢいっでるんだどぉ~! うるさいんだどぉ。 やがまじいんだどぉ~」 だが、男が拘束を解くと、とたんにぐりぐりと動き始めた。 いつものもたもたとした乱雑な踊りと違い、とてもゆっくりれみりゃらしくない身のこなしだ。 「うっうあ? う゛あ゛ああ!? うわぁあ!!?」 戸惑うゆっくりれみりゃ。 腹から露出している文字盤の針がかちかちと動くたびに、あわせるようにくりくりと四肢と頭が不規則に動く。 「う゛あ゛ーーーー! うあーーーーーーーッ!!」 まるでロボットダンスのように、ぐねぐねかくかくと動いているゆっくりれみりゃ。 「おがしいどぉ! へっへんなんだどぉ!! とまるんだどぉ~!! とっとまれどぉ~~~!!!」 自分の意思とは無関係に動く体に、戸惑いつつもそれを止めようと全身に力を込める。 「うぎゃーーー!! いだいぃ!! うあ~~~! とまらないどぉ! どうじでだどぉおお~~!!!」 いくら動きを止めようとしても、体の中の骨組みが動いているのだ、やすやすと止まるものではない。 「どまらないどぉーーーー!! どーぢでぇえええ~~~~~!? どまるんだどぉーーーー!!!」 それどころか、無理に動かないでいると、皮膚が中身と共につっぱり、かき回されて痛みが走る。 「うあーーー! いたいどぉ~! づがれるどぅ~~!! やだどぅ~! いやなんだどぉ~~!!」 泣き叫びながら、体はぐりんぐりんと奇妙な踊りを続けている。 ゆっくりれみりゃは死ぬまでその動きをし続けなければいけないのだった。 「ごわいどぅ~~! れみりゃおがぢぐなっちゃったどぉ~~! う゛あ゛ぁぁ~~~ん゛!!」 「あははははは!! れみりゃのかお、おっもしれえ~~~!」 「ぶはっ! バカまるだしぃ~! へんなのーー!」 ゆっくりれみりゃの動きを見ていた子供達は一気に爆笑の渦へと巻き込まれた。 それほどまでに、ゆっくりれみりゃは滑稽だったのだろう。 「あれでは、持ち主のあずかり知らぬ場所まで勝手に動いていってしまうのでは?」 慧音は疑問をぶつけた。 四肢の戒めもなく、自分の意思に従わないとはいえ、自由に動き回るのだ。当然の疑問と言えよう。 「それは大丈夫です。 販売の際には台座を合わせてますから」 「なるほど」 「他に何かご質問はありますか?」 しばし考え込む慧音。 「そういえば、さきほどのゆっくりたちも、このゆっくりれみりゃも、普通に機械部品を埋め込んで いましたが、それはゆっくりの体に悪影響はないのですか?」 「ええ。 あれらに使用されているのは、全てゆっくりの死骸から特殊加工したものでして、ゆっくりには まったく悪影響はありません。 それゆえにゆっくりの生体との適合性も極めて高く、縫合せずとも癒着します。 そこはさまざまな機関が協力を申し出てくれたので、落ち度は無いはずです。それぞれの面子にも関わる でしょうしね」 「……なるほど」 さまざまな機関。 永遠亭や河童だろうか。 少なくとも慧音には、それくらいしか思い当たる節はなかった。 「それに、弾力性もあるので、ゆっくりが死なない程度の衝撃では故障もしませんよ」 「ほう。 それは凄いですね」 「もし故障しても、格安で修理を引き受けています。 といっても、今まで修理に来た人はいませんけどね」 そのままからからと笑う男。 きっと目覚まし機能を止めるついでにぶち壊す者が大半なのだろう。慧音はそう思った。 「さて、加工室はここまでですが、このままでは製品としてはなりたちません」 男は手を数回打ち合わせ、子供達の注目を集めると、歩きながら説明を始めた。 「時計機能はついていますが、まだ時計としての振る舞いを知らないからです。そこで今度は調律室で 調整をしなければなりません。ここです」 そこは今までとは違い、薄暗く、どんよりとした区画だった。 暗室を想起させる雰囲気だ。 ここも今までと同じくガラス張りで見下ろすことが出来る。 「うわ!」 子供達が驚きの声をあげる。当然だ。彼らの目線の先には、とても大きなゆっくりがいたのだから。 「でっけ~!」 「なにあれ、キモい!!」 「! あれはもしや」 「さすがは上白沢女史。 お気づきになられるとは。 そう、あれはドスまりさです」 部屋の三分の一を占める巨体。その天辺は天井にあたりそうなほどだ。 腹にすえられた文字盤も大きく、見ただけでアンティークだとわかる。マニアが見れば垂涎ものだろう。 「まさか、実在していたとは……。 ん? あの表情、どこかで見覚えがあるような……?」 慧音は何処で見たのだろう?と記憶を探る。つい最近のはずだ。 「あ!」 そう。あの顔は最初の廊下に飾ってあった写真のゆっくりにそっくりだ。 「あのドスまりさは、写真のゆっくり魔理沙と同じ個体なのですか?」 「写真……? ああ、廊下の創業者の写真ですね。 ええ、その通りです。 あれがうちで一番古い時計ですよ ドスまりさですが、我々は"大時計まりさ"と呼んでます」 調律室の中では、一際大きなドスまりさ時計がちくたくと呟く中で、泣き声、悲鳴、怨嗟が響き、さらに ドスまりさ時計と同じようにちくたく奏でているゆっくり時計がたくさん置いてあった。 ここでドスまりさ時計から、時計としての振る舞いを学ぶのだ。 いや、刷り込まれるというほうが正しいだろう。 ドスまりさ時計が部屋中に響く大声で「ちくたくちくたく」言っているのに唱和し、 「ゆ! ゆ! ゆ! ゆぅうぅん!! おおどけいまりさが、ゆっくり3じをおしらせするよ!」 と時報を奏でれば、それぞれの種類に適した物言いになるという差はあるが、その文句を告げる。 たとえばゆっくりアリス時計は 「と、とと、とかいはのありすが、しかたないから3じをおしらせしてあげるわ!」 というようになる。 中でも面白いのがゆっくりれみりゃで、 「うっうっ、うあ、うあ~☆ れみりゃがぁ、かわゆぐ3じをおしらせするどぉ~! おやづもっでぎでぇ~ん♪」 などと独自性がでたりするのだ。 朝、昼、晩の時間になると、それが「あさごはん」「らんち」「でなぁ」になったりするので、 数が少なく、かつ踊るギミックで値段も張るというのに、なぜか大人気なのだった。 もちろん、これらは調整が終わったゆっくり時計であり、調整の済んでいないゆっくり時計は見るに耐えない。 どれもが苦痛にあえぎ、泣き、恨みつらみを吐いたり、体内の時計の音にいらいらしているからだ。 個体差があるものの、それらが完全に治まるのがおおよそ20時間が経過したころで、そうなると、それらは ドスまりさ時計の一際大きい音を聞き続けることになる。 するとどうだろう、次々に「ちくたくちくたく」口ずさむものが現れるのだ。 さらに40時間がたつ頃には、ドスまりさ時計にならって、時報を言い始める。 ゆっくり時計たちが目覚し機能まで習得するには、分単位での認識が必要なので、さらにそこから60時間が 必要だ。そのころには人間に対する敵愾心も消えており、なぜか時計としての扱いに不満も持たないようになる。 計上すると約120時間、実に5日間の調整期間を経て、ゆっくりたちは立派なゆっくり時計として 出荷されていくのだ。 ゆっくり時計の寿命はまちまちで、1~2年で壊す持ち主がいたりすることから短命だと思われがちだが、 その実手荒な扱いをしなければ5年10年は楽に使えるのだ。 しかも、時計部品もゆっくりの生体に近いつくりになっているため、ゆっくり自身が大きくなるにつれて 共に成長するのだ。中には市販のゆっくり時計を使い続け、ゆっくり大時計にしてしまう好事家もいるらしい。 「ははぁ。 物好きがいるものなのですね」 「かく言う私も、自宅ではゆっくりありす時計を使っていますよ。 もう3年になりますかな」 「そういえばゆっくり時計の動力は何なのでしょうか?」 慧音ははたと思いついたふうに言った。 「ああ、これは説明が足りませんでしたな。 あれらの動力は足です」 「足、ですか?」 「ええ、あれらが体を跳ねさせたり、引き摺ったりして移動することはご存知ですね」 「はい」 「その移動するために使っている部分にバネを当てて、時計部分の動力に変換・利用しているのです」 「なんと! そんなことが」 「ですから、ゆっくりれみりゃ時計以外は基本的に置時計になり、あれらが生きている限り時を刻み続けるのです」 「するとやはり、ゆっくり時計にも餌を与えなければいけないのですか?」 「長持ちさせたいのなら、必要でしょうね。 それもメンテナンスのうちですから」 「ああ、やはりそうなのですか」 「ただ、それは思い出したときにしていただければ十分長持ちします。 クズ野菜やほんのちょっとの水で十分です」 「虫とかは~?」 慧音と男の会話を聞いていた少女が質問する。 「もちろん虫でも大丈夫ですよ。 霧吹きでしゅっと潤わせるだけでも大丈夫なんですよ」 「へ~」 「いやはや、すごいですね」 やがて一堂は元いたホールに戻ってきた。 壁に立てかけてある写真も、あの大時計まりさを見た後では別の感慨が生まれるだろう。 「さて、ここまでで私の役目は終わりです。 他にもいろいろと展示品がありますので、よろしければ そちらもご覧になってください。 体験教室もありますよ」 「本日はどうもありがとうございました。」 「ありがろうございました~!」 「ましたー!」 慧音や子供達の声に送られ、男は次の仕事へ行ってしまった。 「さて」 慧音は呟くと、壁にかけられた柱時計を見た。 そのゆっくり時計は、顎が外れんばかりに開かれた口に文字盤がはめ込まれ、その下に繋がれた振り子の 先には小さなゆっくりがくくりつけられていた。 親子を加工したに違いない。 その振り子ゆっくりは振られるたびに 「ゆ゛っ ゆ゛っ ゆ゛っ ゆ゛っ」 と漏らし、同時に時計部分のゆっくりはその度に目を白黒させていた。 その時計は11時半を指していた。 程好い時間。 今日は天気もいいし、中庭でお弁当というのもいい考えだ。 午後は、体験教室というのもやってみよう。 子供たちのなかから、将来職人が生まれるかもしれないのだ。 こういうものは幼いころに触れたほうが良い。 慧音はそう思いながら、子供達に向かって口を開いた。 終わり。 かわいいれーむがゆっくり6じをお知らせするよ!!!のAAを見て思いついた。 きっと分針とかいじくって回すと、面白い声を上げてくれるはずです。 踊るゆっくりれみりゃ時計は、フラワーロックを想像してみてください。 著:Hey!胡乱 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/913.html
ここは、コンテナターミナル中心部から離れた一角。そこに、花多狩と峠が対峙していた。 「くそっ!どこもかしこも光源が照ってやがる!!鬱陶しい!!」 「お願い、峠!!私の話を聞いて!!」 「あぁ!?私の腕を撃ち抜いた敵と、一体何を話せ的なのかしら!?ふざけんじゃないわよ!!」 峠はコンテナを壁にし、別のコンテナの上に居る花多狩の『演算銃器』から身を隠す。だが、これも一時凌ぎであることは峠にも重々わかっていた。 花多狩の持つ『演算銃器』は、その気になれば鋼鉄すら撃ち抜く武器だ。今峠が壁にしているコンテナとて、その気になれば貫通させることもできると峠は予測していた。 「・・・確かにあなたの腕を私は撃ち抜いた。でも・・・それでも私はあなたを敵だなんて思っていない!!私は・・・」 「ハッ!まさか、友達とでも言うつもり?馬鹿的なことを言ってんじゃないわよ、菊!!」 「峠・・・!!」 峠の『暗室移動』は暗闇下では空間移動系能力者の中でもトップクラスの実力を誇るが、今のように光源が周囲を覆っている状況では、発動自体が不可能である。 そのため、峠は能力を発動するために光源が照っていない場所―何かの影―を探していた。花多狩の銃口を避けながら。 「私は、自分への攻撃にはそれと同等の報復でもって相対するわ!この腕の痛みを・・・菊、あなたにも味合わせてあげる!!」 「・・・そう、そうね。あなたはそういう主義だったわね」 「そうよ!だから、何時までも私を友達なんかじゃ無くて、敵として・・・」 パアァァンッッ!!! 「グアアアアァァッッ・・・!!」 「ちょ・・・ちょっと!!菊!!あなた・・・何を・・・!?」 銃声が鳴り響く。驚愕する峠の視線の先にあったのは・・・自らの左腕―峠が花多狩に撃ち抜かれた場所と同じ―を『演算銃器』で撃ち抜いた花多狩の姿であった。 花多狩は、激痛に体をうずくまる。その姿を峠は驚愕したまま、何も考えられずにただ疑問の言葉を発する。 「ガァッ・・・ハァ・・・ハァ・・・。こ、これが、峠の痛みか・・・。アアアアァァッッ!!!」 「菊!?あなた・・・!!」 激痛に悶え苦しむ花多狩の様子に、思わず駆け寄ろうとする峠。その行動を、自身が取ろうとした行動を少し遅れて自覚した峠は呆然となる。 「(な、何、私・・・。今・・・何をしようとした?ま、まさか・・・菊に駆け寄ろうとした?敵・・・な、のに?)」 「ハァ、ハァ・・・。峠・・・少しでいいから・・・私、の話を聞いて・・・。ハァ、ハァ」 そこに降り掛かるは、己が敵と見なし、敵が友と見なす少女の必死の訴え。 「わ、私は・・・今もあなたのことを・・・友達だって思ってる。かけがえの無い仲間だって」 「菊・・・!!」 「でも・・・だからこそ、許せない。あなたが春咲さんの制裁に加わった事実を・・・!!」 「!!」 花多狩の口から出たのは、自身も手を出した春咲桜への制裁。 「私が・・・レベル0だってことは、勿論知っているわよね、峠?私が・・・能力者に対する嫉妬を持ち合わせていることも」 「そ、それがどうしたって言うのよ!?」 「でも・・・これは知らないわよね。私には・・・妹が居るの。レベル4の妹が」 「!!」 花多狩の言葉に峠は目を丸くする。確かに峠は、花多狩にレベル4の妹が居ることなんて聞いたことは無かった。 その反応に花多狩は、激痛に苛まれながらも無理矢理笑顔を作る。 「私はね、そんな妹にも嫉妬しているの。家族である筈の妹によ。どうしたって、止められないの。何で妹には才能があって、自分には無いのかって。 だから、救済委員になった。こんな才能の無い自分でも何かできることはあるって。それを証明したいって。そう思ったから。あの娘も・・・春咲さんも私と同じなのよ。 自分の力に自信が持てなくて、無力だってどうしても思ってしまう自分を否定したくて、自分の力を証明したくて・・・彼女は救済委員になった」 「・・・!!」 花多狩は、己が心の全てを眼下に居る友達打ち明ける。 「彼女の姉・・・躯園は、そんな己の存在価値を見出せずに苦しむ妹を否定し、痛め付けた。高位能力者が低能力者をという図式・・・しかも姉が妹を。 峠・・・私はそんな図式が嫌いだってことをあなたは知っているわよね? 私なら・・・幾ら私が妹に嫉妬したとしても、妹を否定しようとも痛め付けようとも思わないし、絶対にしない!! だって・・・家族なんだもの。幾ら才能を羨んでも嫉妬したとしても・・・この世界でたった1人の私の妹なんだもの・・・!!」 花多狩は、己が妹―花多狩百合―の笑顔を思い浮かべる。幾ら妬んでも、幾ら愚痴を零したとしても・・・あの眩しい笑顔を自分は絶対に裏切らないと心の底から言える。 「で、でも、あいつは!春咲桜は私達を裏切って・・・」 「春咲さんは裏切ってなんかいない!!」 「!!」 峠が発した裏切り発言に、猛然と反発する花多狩。 「春咲さんは・・・私達を風紀委員に売ろうとなんかこれっぽっちも思っていない!!救済委員を潰そうとも思っていない!! さっき言ったでしょ?彼女は・・・私と同じなのよ。自分を認めてくれる存在が欲しかっただけ。私で言う・・・あなたのように」 「!!」 「峠。私にとって、高位能力者で初めて友達になれたのはあなたが最初なのよ。 気が強くて・・・自己中心的で・・・でも根は優しいあなただからこそ、私は好きになった。レベルも関係無しに・・・ね。 私の知るあなたなら・・・今回の制裁だって仕掛け前に私へ知らせてくれた筈。羽香奈を介してでも。 過激派の・・・大体は雅艶だけど、何かしらの提案や作戦が持ち掛けられた時は、あなたは何時も私に意見を求めて来たじゃないの? なのに、今回はそれが無かった。何時も通りじゃ無かった。峠・・・あなたは心の何処かでは後ろめたい気持ちがあったんじゃ無いの?春咲さんへか・・・私へか・・・自分自身に。 あなたが元風紀委員で、風紀委員を嫌っていることも失望していることも私は知っているわ。でも、それが私に連絡しなかった本当の理由じゃ無いんでしょう? 答えて、峠。春咲さんへの制裁について・・・あなたが私に意見を求めなかった理由は一体何・・・?」 「・・・!!!」 花多狩の問いに峠は答えられない。理由は・・・彼女にしかわからない。 花多狩の言う通り、峠は過激派が固まって事に当るとき、その作戦内容等について、友達であり、穏健派の指揮官的役割を負う花多狩に何時も意見を求めていた。 雅艶達の発案は大体が過激なものであったため、峠としては保身のためにも雅艶達には無断で花多狩に意見を求めるのが常であった。 作戦面に関して、自分でろくすっぽ考えずに友人を頼りまくる彼女に花多狩は愚痴を零しながらもきっちり回答する。これも常であった。 それが、今回の春咲桜への制裁については常では無かった。事前に穏健派に気取られないよう雅艶から指示はあった。 だが、今までの峠なら雅艶の指示を無視して花多狩に相談していた筈である。それなのに・・・。 峠は、花多狩に指摘されて初めて己の不可解な行動に気が付いた。その理由にも。気が付いて・・・気が付いたからこそ引き返さない。 何故なら、自分を好きと言ってくれる友達に顔を向けることが・・・もうできないから。自分は、友達の信頼を裏切ってしまったから。 「菊・・・。もう御託はいいわ。さっさとケリをつけましょう」 「峠・・・」 峠は護身用の拳銃を取り出す。これは、銃器の扱いに詳しい花多狩に選んでもらった物。普段なら使うことはないそれを、峠は構える。心に涙の雨を降らせながら。 「さぁ!あなたと私。どちらがこの戦場で生き残るか!!・・・いくわよ!!」 「峠・・・。ウッ!!クッ・・・」 峠の拳銃が火を吹く。花多狩は未だ激痛が走る左腕を庇いながらも、峠の銃弾を避けようと身を屈め移動して行く。 矛盾する激しい感情を抱きながら、2人の少女は戦火へその身を投じて行く。 「ハァ・・・ハァ・・・。くっ!!」 「・・・・・・」 ここは、コンテナターミナルの中心部。今ここで戦闘を行っているのは水楯と七刀。 戦闘と言っても、一方の圧倒的な攻勢をもう一方がギリギリかわすという様相であるが。 「(全く・・・。たまったものではありませんね。林檎さんの話ですと、あの“宙姫”も現れたようですし。先程からの轟音がそれでしょうか?)」 水楯が繰り出す様々な水を、七刀は周囲にあるコンテナを利用しながらも―数多の掠り傷を負いながらも―紙一重で避け続けている。 見切りに長けた七刀らしい対処ではあるが、それも何時まで続くかはわからない。 「(何とか彼女に近付かなければ・・・斬撃も『思想断裁』も繰り出すことができない・・・!!)」 水楯は七刀の能力や戦闘方法を知っているためか、先程から遠・中距離攻撃に終始している。おそらく、七刀の間合いに入らないがために。 「(しかし・・・戦闘を始めた頃に比べると攻勢が緩くなって来たというか、鈍くなって来た気がしますね・・・)」 七刀は看破する。水楯が支配する水の勢いに翳りが見え隠れしているのを。 「(私の目が慣れて来た・・・あるいは彼女の疲労・・・いや、違う)」 同時に七刀は水楯が浮かべる表情の僅かな変化に気付く。それは、『思想断裁』を行使するようになってから七刀の中で形作られた経験則に基づく判断。 「(あの表情の変化が意味するもの・・・おそらくそれは、心配の感情。この轟音を発生させている元凶・・・“宙姫”の襲来によるもの)」 七刀は気付く。水楯の攻勢が鈍くなり始めたのが、戦場を轟かす轟音が聞こえ始めた辺りだったことを。 「(“宙姫”は過激で有名ですし、今聞こえる音からしてもそれは真実。つまり、目の前の少女は心配している。“宙姫”によって仲間に危害が加えられないかを!!)」 故に、七刀は仕掛ける。刀による斬撃でも『思想断裁』でも無い、それは言葉の“刃”。 「そんなにお仲間が心配でしたら、私を放っておいて早く向かわれてはどうですか?」 「!!」 水楯の表情が変化した。それは、驚き。自分が抱く感情を目の前の男に見抜かれたからか。 七刀は自分の見立てが正しかったことにほくそ笑み、次々に“刃”を放つ。 「あなたのお仲間は穏健派でしょうか・・・それとも『シンボル』でしょうか?あぁ、そういえば穏健派に1人紛れ込んでいましたねぇ。確か・・・『シンボル』の変人が」 「・・・!!」 水楯の攻勢が苛烈になる。だが、そんな感情に任せた攻撃は七刀には当らない。攻撃の呼吸が七刀には手に取るようにわかる。 「そうそう、あの変人ですが、雅艶さんにボコボコにされたようですねぇ。光を操るとお聞きしていますが、雅艶さんとは相性最悪でしたね」 「・・・れ」 水楯の声が低くなる。だが、七刀の演説は止まらない。 「その姿を拝見できなかったことが真に残念ですよ。その打ちのめされた姿・・・見ればさぞ滑稽に思えたでしょうに」 「・・・黙れ・・・」 水楯の声に憤怒の感情が宿る。しかし、七刀は言葉を重ねる。更に分厚く、高らかに。 「あんな弱弱しい男に、何故あなたのような人が手を貸すのか私には理解不能です。あの変人に・・・そんな価値があるとはとても信じら・・・」 「黙れ!!!」 界刺を馬鹿にされ続けることに、遂に我慢できなくなった水楯が何時までも当らない距離の離れた攻撃では無く、近距離からの攻撃を行うために七刀に近付く。 それが、七刀の狙いであり罠であることに気付かずに。 「(今だ!!)」 七刀が前方へ一気に加速する。抜刀の構えを取る。狙いは・・・自分へ突っ込んで来た水楯。 「!!!」 「はああぁぁっっ!!!」 七刀が抜刀する。水楯が反応する。そして・・・ 「・・・!!」 「(斬った!!)」 七刀の斬撃は、水楯の左肩を捉えた。水楯も咄嗟に『粘水操作』によって自分の近くにある水の粘度を増加させて斬撃を逸らそうとしたが、七刀の方が一瞬速かった。 浅めながらも左肩に七刀の一撃を喰らった水楯。それは、『思想断裁』を喰らったことも意味する。 「(仕留めるなら今!!)」 七刀は水楯に追撃を加えようと刀を返す。今の水楯は、『思想断裁』による思考の空白が発生している状態である。 “断裁”されたのは、直前のやり取りから察するに『シンボル』の変人に関する記憶と七刀は判断していた。 『思想断裁』を行使して来た経験則から、七刀は“断裁”された直後の人間には一瞬の思考空白が生まれる、つまり無防備状態に陥ることを知っていた。 「(はああああぁぁっっ!!!)」 七刀は敵に重傷を負わすことに一切の躊躇いは無い。それが、たとえ女子供でも。故に、迷い無く追撃の斬撃を繰り出す― ガシッ!!! 筈だった。 「!?」 だが、七刀の目論見は崩れる。 「・・・はしない」 「ば・・・馬鹿な・・・!!グホッ!!」 自身へ向けて振り下ろして来た刀を持つ右手首を左手で掴み、空いている右手で七刀の喉を握り潰す程に握る水楯。 「あなたなんかに・・・『シンボル』との・・・界刺さんとの絆を断ち切られはしない・・・!!」 「ゴフッ、ガハッ!!!」 喉を強く握られ呼吸困難に陥る七刀に、水楯は静かな怒りを込めて宣言する。 「(流麗・・・あなたは足手まといなんかじゃない・・・。だって、こうして私を助けてくれたんだもの)」 水楯はここには居ない己の仲間に声なき声を贈る。何故水楯は七刀の『思想断裁』を防ぐことができたのか。 それは、『シンボル』の“参謀”形製流麗の能力『分身人形』による“保険”を掛けていたからである。 今回水楯に掛けられた“保険”とは、外部からの精神干渉を受けた場合に『分身人形』がその防壁となるというものである。 具体的には、『分身人形』による“通常状態に戻るための洗脳”である。 故に、七刀の『思想断裁』にて“断裁”された界刺の記憶を、『分身人形』による洗脳で即座に上書きしたのである。 (言い換えれば、今水楯に掛かっている洗脳が解除されれば、『思想断裁』の効果は復活する) 『知覚心像』及び『記憶心像』の性質を用いた、これが形製流麗の能力『分身人形』の真骨頂である。 「ガアアアァァッッ!!!」 そんなこととは全く知らない七刀は、いよいよもって絶叫を挙げる。その声をうるさく思った水楯は、 「ゲスが・・・」 七刀の喉を掴んでいた右手を放すと同時に、自身が支配する大量の水を四方八方から七刀にぶつける。 「ゴボボボポポ・・・」 七刀の日本刀は、水圧を用いたウォーターカッターによって破壊される。そして、水の牢獄に囚われた七刀は窒息寸前まで追い詰められる。 「さっさとここから・・・」 その寸前に、水楯は水の牢獄を濁流に変化させ、七刀ごと近くのコンテナへ突入させた。猛烈な速度でコンテナに叩き付けられた七刀が意識を失う前に見た光景は、 「・・・去ね!!!」 水の粘度を操作することで自身の体を水のロープによって濁流と繋ぎ、濁流の勢いを利用した高速突進による掌底を七刀の顔面へ向けて放つ水楯の姿であった。 ガンッ!!! 水楯が放った掌底を受けて、七刀の後頭部とコンテナが衝突する。数秒後、そこには体中から血を流して気絶している七刀の姿があった。 だが、水楯はそんな七刀に一瞥もくれない。何時の間にか濁流で外れた七刀の伊達眼鏡すら―最初から己が目に映っていないかのように―平然と踏み潰す。 何故なら、彼女に取って自分を害した存在には何の価値も見出せないからである。 「(界刺さん・・・皆・・・無事でいて)」 “激涙の女王”の裁きは下された。それ以上でもそれ以下でも無い。故に、水楯はこのターミナル中心部を後にする。今も戦っている己が仲間の下へ向かうために。 continue!!
https://w.atwiki.jp/multiple/pages/29.html
それは不思議な出会い ◆Wott.eaRjU 薄暗い黒があちこちで群れて、漆黒の空間をひっそりと成す。 既に日の光は差し込まず、街灯だけがひっそりと辺りを照らしてくれている。 その闇の中を一人の少年が探るように歩く。 この異質な状況をなんとか手探りで理解するように。 彼――橘あすかはデイバックを担ぎ、歩き続けていた。 「殺し合いだって……冗談じゃない。そんな馬鹿げた事、やる意味なんてないハズだ……」 透き通るような青い髪を生やし、青と白の制服――HOLY部隊隊員の制服を着用し、あすかは一人愚痴る。 今のあすかを見れば異様な男だと勘違いされるかもしれない。 だが、当のあすか本人には生憎自分が今、他人にどう思われているかなど考える余裕はないだろう。 冷静な言葉とは裏腹に、あすかは極度な緊張状態に置かれていたから。 此処に来るまでに負った傷――カズマという男と闘った傷がいつの間に治っている事すらも碌に気を止めずに。 時々、何度も後ろを振り返り、不振な者が居ない事にあすかは知らず知らずの内に安堵の溜息をついていた。 「少し違和感があるけど、アルターは充分に使える……。 なのに、どうしてだ。 どうしてこんなにも不安になるんだ……僕はHOLYの一員、橘あすかだというのに……」 HOLY部隊――アルターと呼ばれる異能を扱う人間達によってシティで組織された、言うなれば特殊治安維持部隊。 大地震により崩壊し、かつて横浜と呼ばれた地――ロストグラウンドの治安を守る事がHOLYの目的。 治安が未だ安定しないロストグラウンドのいわば番人であり、あすかはそんなHOLYの一員である事に誇りを持っている。 HOLYに入隊すれば高度な生活水準が約束され、あすかもそんな待遇に憧れていたのだから。 そしてB級と称されるアルター能力を持つあすかの実力は決して低いものではない。 当然、同じアルター使いである賊――ネイティブを鎮圧するために、あすかはアルターを行使し、何度も闘った。 だが、突然こんな状況に放り込まれた衝撃は未だ20も生きてない少年には大きすぎた。 冷静さを保とうと、がむしゃらに己の焦りや恐怖といったものを抑えようとするが、どうにも震えは止まらない。 誇り高きHOLY部隊のこの僕が――などと、自分がいかに選ばれた存在である事を言い聞かせても、終わりは訪れようとはしない。 ただただ、あすかの脳裏に浮かぶ影は一つ。 自分達の目の前で呆気なく頭と身体が泣き別れになった、名も知らぬ人物の悲痛さに塗れた形相のみ。 何故かあの時の光景が今もなお鮮明に思い出す事が出来て、思い出す度にあすかは顔を顰める。 失意の中で死んだ者への同情は元より、それよりも嫌という程燻り続ける感情がしこりを残す。 それは単純な恐れ。 自分もああなってしまうのでは――といった極めて単純な感情であり、払拭するのに手を焼かせてくれるもの。 自分が抱いた脆弱な考え――少なくともあすかはそう思っている――に抵抗するように、彼はブンブンと頭を振り、更に歩を進めた。 「ん……あれは家かな?」 やがて歩みを止め、あすかは一軒の家を見つけた。 シティに建てられたものとは見劣りするが、今にも崩れそうといえる程でもない。 用心しながら一般的な一戸建ての民家に近づく。 室内の電気がついてない事から恐らく中に人は居ない。 いや、これは殺し合いと言っていた。 警戒して敢えて暗室にしているのかもしれない。 この異常な事態にどうしていいかわからず、只民家に立て篭もるしか考えられなかったから――そこまで考え、ふいにあすかは何だか気が楽になったような心地がした。 自分よりも怯えきっている人が居る可能性は充分にある。 それどころか今、まさに目の前にある家の中に息を潜めて、肩を震わせているのかもしれない。 こんな狂った状況で恐怖を覚えてしまうのに、なんら恥じる事はない。 そう考えると、自然に足取りは軽くなりあすかは遂にドアの目の前まで辿り着く。 深く息を吸い込み、あすかは自らに激を飛ばす。 自分は地を這い蹲る惨めな一般人ではない。 アルターの能力の高さを認められ、HOLY部隊に選抜されたのだ。 此処はHOLYの誇りを忘れずに、救援を求める人間は可能な限り保護しなければならない。 このドアの奥に誰か居るかはわからないが、確認しないわけにもいかない。 その想いには当然、善意も含まれていたがほんの少し邪な考えもあった。 何処か自分よりも哀れな存在を保護し、少しでも自分を優位に見せたい。 HOLYに属するが故に、更に強まったあすかのプライドのようなものが知らず知らずの内にそんな考えに至らせる。 想いは強く、ドアノブに手を掛けてあすかは一気に引き開けた。 「大丈夫ですか!? 僕はHOLY部隊の橘あすかで――――な、なぁ!?」 ドアをやや乱暴気味に開けて、室内に侵入を果たしたあすかは素っ頓狂な声を上げる。 其処には誰も居なかったわけではない。 あすかが何処か期待していたように、幼そうな少女――いかにもこの殺し合いという状況で肩を震わせて、怯えていそうな存在。 保護すべき対象とはもってこいで何もいう事はない。 だが、驚きのあまりあんぐりと口を開けたあすかの見つめる先に居た少女にはその前提は通じなかった。 怯えきっているというよりも、寧ろ―― 「あら、騒がしい客ね。折角、静かに紅茶を楽しんでいたのに……不愉快なのだわ」 ちょこんと椅子に座り、紅茶を飲んで力の限り寛いでいた。 さも当然のように紅茶の味を満喫している事がまるで少女の度胸の良さを誇示している。 あすかの方へ視線だけやり、表情は機嫌悪そうに少し歪んでいた。 というよりも明らかに機嫌を損ねたらしく、憎憎しげにあすかをキッと睨みつけているよな節さえある。 目の前の少女が取っていた行動、そして自分を突き刺すように眺めてくる視線の厳しさにあすかは暫く声が出なかった。 僅かな時間ではあるが、沈黙があすかと少女の間を無常にも流れ行き―― 「私は真紅。ローゼンメイデンの第五ドール……人間、お前の名は?」 ようやくその気まずい空間が途切れ、あすかも口を開く事が出来た。 自分を何処か作り物染みた瞳で見つめる少女――真紅。 その瞳に吸い込まれるような心地を何処か覚えながら、あすかは口を開き始めた。 ◇ ◆ ◇ 「そう……俄かには信じられないわね。アルター、HOLY、ロストグランド、少なくとも私が目覚めた時代の中には、そんなものはないのだわ」 相変わらず、紅茶を啜りながら真紅は神妙な顔で言葉を呟く。 流れるように煌く金髪のツインテールをなびかせ、赤を基調としたゴシックドレスを着込み、 あすかから聞いた話を全て鵜呑みにしたわけでもなさそうだが、それなりに信用は置いているように見える。 対面の椅子に座るのは勿論、あすか一人。 微妙に何かを探るような瞳を向けながら、真紅はあすかの出方にその小さな身を任せる。 そう。この異常な事態を打開するために手を組む事を決めたあすかをじっと真紅は観察していた。 「信じられないのはこっちの方だ! 君がその、ロ……ローデンメイデン――」 「ローゼンメイデン!」 「ローゼメイデンとかいう人形だなんて……僕には信じられない! 本当にアルターの一種じゃないんだろうな……?」 「全く、失礼にも程があるのだわ。私達、ローゼンメイデンをそんな得体の知れないアルターとやらと一緒にするなんて」 「ア、アルターを馬鹿にするな!」 二人の間を言葉の応酬が飛び交う。 事の発端となったのはあすかが真紅に抱いた疑問だが、彼がそんな疑問を持ったのも無理はない。 人間と同じように紅茶を飲めば、他の人間と立派に口喧嘩をし、喜怒哀楽といった感情をも現す事が出来る。 背が40cm程しかない事を覗けば、人間となんら変わりもない。 だが、真紅は人間ではない。 そう。真紅は一人の人間――人形師ローゼンによって作られた人形(ドール)の一体。 全部で七体存在し、ローゼンメイデンと呼ばれる自立稼動人形の内の五番目となる存在。 ローゼンメイデン同士で闘い、最後の一人まで勝ちあがり究極の存在――アリスを目指す事を目的としたアリスゲームの参加者の一人でもある。 そして、アリスゲームの事について真紅はあすかに話してはいない。 其処まで言う必要もないと考えたのかもしれない。 やがて、椅子から飛び降り、真紅は己のデイバックを手に取った。 「さ、そろそろ行くわよ。 いつまでもこんな場所でのんびりしているわけにもいかない……時間は待ってくれないのだわ。 そう。どんなにも手放したくない思い出さえも……残酷に掠め取ってしまうから」 デイバックから真紅が取り出したもの、それは黄金で彩られた一本の鋏。 庭師の鋏と呼ばれるものであり、本来の持ち主は真紅の姉、ローゼンメイデン第四ドール――蒼星石。 庭師の鋏を一瞬、真紅は何処か思いつめたような表情で見やるが、直ぐに目を離す。 只、外の世界へと通じるドアに向けて真紅は歩き出す。 真紅には一刻も早く合流しなければならない大切な仲間が居るのだから。 桜田ジュン、翠星石、蒼星石……そしてあすかの話から協力関係にある劉鳳とストレイト・クーガー。 この殺し合い――禁じられた遊びといえ得るものを止めるためにも真紅は、今は一歩でも進む事を何よりも優先する。 だが、それを快く思わない人間も残念ながらこの場には居た。 「待て、真紅。僕は仮にもHOLYの一員……此処は僕の指示に従ってもらう! 僕の方が君よりもこの状況に対応出来る筈だ」 真紅が勝手に歩き出すのを見て、あすかは慌てて立ち上がり胸に手を当てて、力説する。 その言葉にはあすかも知らない内に必要以上の怒気が含まれていた。 人形だろうが何だろうが、明らかに自分よりも幼そうな存在がまるで自分を無視するように振るまうのはいけ好かない。 事実、振り返るもののあすかの言葉には特に興味を示さないような様子を真紅は見せていた。 真紅に対し、対抗心のようなものを沸々とあすかは燃やし続ける。 だが、あすかも伊達にHOLYに属してはいない。 この殺し合いが始まった当初抱いていた恐怖は今では大分落ち着いている。 ゆえに自分がやるべき事もしっかりと認識できた。 (僕は一刻も早く、此処からなんとか抜け出さなければならない……キャミーを一人ぼっちにさせるなんて……絶対に駄目だ! だから、この真紅という子はなんだか生意気だけど仲間が多いコトは有難い。必ずあのギラーミンという奴を倒してみせる!) たった一人の恋人、キャミーへの愛が消える事はない。 既に自分達を、有無を言わさずこんな場所へ連れて来たギラーミンの言葉など信頼には足らない。 この殺し合いへの反抗の決意を拳で握りしめ、絶大的な平常を全身へ行き届ける。 自然とあすかの表情も力強いものへと変わってゆく。 そんなあすかを見て、真紅は一瞬驚いたような表情を見せ、彼女の表情は次第に移り変わり―― 「そう……精精期待させて貰うのだわ、あすか」 ほんの少し、少しだけの笑みを見せて真紅はあすかに言葉を返す。 人形であるのに、まるで薔薇の花のような気品さを漂わせた真紅の微笑に不覚にもあすかは何だか気恥ずかしくなり、顔を逸らした。 自分よりもずっと大きな身体をしているあすかを真紅は見上げ、彼の子供染みた行為に少し可笑しさを覚えた。 やがて再びドアの方へ向き直り、真紅も一抹の思慮にふけ始めた。 (私もかなり堪えていたようね……でも、遅くはないのだわ。 未だ歯車は回っていない……これから、これからに全てを費やしていけばいいのだもの……) 見せしめとして殺された男女の姿が真紅の脳裏に浮かぶ。 自分が行使する人形が壊れる様よりも、ずっと衝撃的な光景を演出したあの出来事。 ローゼンメイデンの姉妹の中で、特に大人びている真紅といえども流石にあんなものを見せられては平常通りにはいかない。 少なからず衝撃を受け、最初に送り込まれた場所がこの民家であったため、気を落ち着かせるためにも紅茶を飲んでいた。 其処にあすかがやってきて後は……今に至っているという事だ。 初めは全く頼りにならない男だと思っていたが、何か譲れない思いはあるらしい。 あすかを仮初の仲間とし、真紅はこの殺し合いを打ち破る決意を密かに燃やし続ける。 (ジュン、翠星石、蒼星石……無事を祈っているわ。特にジュン……貴方とは特に一刻も早く会わないと。 そして水銀燈……貴女がこの禁忌の宴に乗ってしまっているのであれば私は止めてみせる。 アリスゲームのようなものをやらせるわけにはいかないのだから……!) 真紅のマスターともいえる存在である桜田ジュン。 真紅の姉であり、彼女の宿敵でもあるローゼンメイデン第一ドール――水銀燈。 放ってはおけないジュン、きっとこの場でも自分を付け狙って来ると思える水銀燈の存在を特に気に留めながら、真紅は決意を強める。 ローザミスティカを失った蒼星石が何故この場に居るのか。 何故、人工精霊――ホーリエが居ないのか。 Nのフィールドへの侵入が何故出来ないのか。 正確な距離はわからないがジュンと距離が離れていても契約の指輪からのエネルギーの供給は可能なのか。 湧き上がる疑問は多々あるが、それでも真紅は前へ進み続ける事を止めるつもりはない。 何故なら真紅は今、生きているのだから。 時間の流れにより肉体が朽ち果てるという事はないけれども、それでも真紅は今、この瞬間確実に生命の螺子を回し続けている。 ならば――この現実に対し、闘うしかない。 闘って、闘って――自分達の未来をもぎ取る。 生きるコトとは闘うコトなのだから。 そう―― ローゼンメイデンの誇りに賭けて。 思いを糧に、真紅はドアノブに手を掛けて、仲間達と合流するために外へ飛び出そうとするが――それは叶わなかった。 それは単純すぎた問題。 今までずっと室内に居たため、まるで足りてない事に真紅は気がついた。 そう。自分の身長がドアノブに足りてない事を。 「…………ぷっ」 思わず、あすかは小さな笑いを洩らす。 だが、何も物音はしない室内ではその音は決して小さな音ではなく、真紅にしっかりと聞こえていた。 ほんの少しだけ、その場に硬直した真紅はやがて振り返り、徐にあすかの方へ歩き出して―― 思いっきりあすかの足を蹴り飛ばした。 僅かに両の頬を桃色に染めながら。 【G-7 北部の民家/一日目 深夜】 【真紅@ローゼンメイデン(漫画版)】 【装備】:庭師の鋏@ローゼンメイデン 【所持品】:基本支給品一式、不明支給品0~2個(未確認) 【状態】:健康 【思考・行動】 1:殺し合いを阻止し、元の世界へ戻る。 2:ジュン、翠星石、蒼星石、劉鳳、クーガーと合流する。 3:カズマ、水銀燈に用心する。また、水銀燈が殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める。 【備考】 ※参戦時期は蒼星石死亡以降、詳細な時期は未定(原作四巻以降) ※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。 ※蒼星石が居る事や、ホーリエが居ない事などについて疑問に思っています。 ※どこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします 【G-7 北部の民家/一日目 深夜】 【橘あすか@スクライド(アニメ版)】 【装備】:なし 【所持品】:基本支給品一式、不明支給品1~3個(未確認) 【状態】:健康 【思考・行動】 1:ギラーミンを倒し、元の世界へ戻る 2:ジュン、翠星石、蒼星石、劉鳳、クーガーと合流する。 3:カズマ、水銀燈に用心する。特にカズマは気に食わないので、出来れば出会いたくもない 【備考】 ※参戦時期は一回目のカズマ戦後、HOLY除隊処分を受ける直前(原作七話辺り) ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました(アリスゲームは未だ聞いてない)。 ※何処へ向かうかは次の書き手さんにお任せします。 時系列順で読む Back 走れトウカ Next 激流に身を任せ同化できない 投下順で読む Back 走れトウカ Next 激流に身を任せ同化できない Back Next GAME START 橘あすか 輪廻-ロンド- GAME START 真紅 輪廻-ロンド-
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/47881.html
登録日 [Undefined] 更新日 2024-09-01 20 51 21 (Sun) 所要時間 そんなに手間取らせないつもりだよ。 ▽タグ一覧 tags plugin error ページが存在しているかを確認してください。 *1 やあ! *2 この記事を閲覧している君は…… *1 SCP-2144-JPについて知りたい!そうだろう!? いいえ 君のジョークは驚くほどつまらないね。 君のために「アットウィキ」とやらに部屋を増やしたんだと思うと…… はい *3 HAHAHA!! いい返事だね! 前にも聞かれたからもう答えとくけど、僕はクリストファー・コックス! 24歳のハンサムさ!! *1 丁度この記事が僕の自己紹介におあつらえ向きだ! まずは読んでみて!! ▶︎▶︎▶︎SCP-2144-JPの解説記事を読む◀︎◀︎◀︎ あ、そうだ。僕のハンサム画像については記事の一番下のCCライセンス表示にまとめておいてあるよ! キャプションから追ってみてね! SCP-2144-JP 登録日:2021/04/23 Fri 15 11 32 更新日:2024/08/20 Tue 17 35 43 所要時間:約 8 分で読めます ▽タグ一覧 Euclid Mitan SCP Foundation SCP-JP SCP財団 クリストファー・コックス 嘘のコンテスト 情報生命体 財団の闇 SCP-2144-JPは共同創作サイト「SCP Foundation」で生み出されたオブジェクト。 オブジェクトクラスはEuclid。safe ここでもEuclid扱いだから、僕が書き直しといたよ!*3 概要 SCP-2411-JPはネットの海を彷徨う人型の情報生命体である。少々アニメに詳しければ人形使いと似た存在と言えばイメージしやすいか。 外見はヒトの成人男性とかなり似ており、また本人も自我を持ち「クリストファー・コックス」という、現実世界での財団に所属していたエージェントを自称している。しかし当のコックス本人は1992年にサイト‐8144でSCPがらみの事件により殉職しており、財団側は今のところSCP-2144-JPがコックスの人格を模倣し図像を形成しているとみている。 しかし彼はかつての所属エージェントという経歴とは裏腹に、財団に対し非常に敵対的である事が明らかとなっている。 発見経緯 SCP-2144-JPは2017年1月4日にサイト‐8144でサイバー技術部によって見つけられた。それもそのはず、SCP-2144-JPは財団データーベースに侵入し秘匿情報を丸ごと外部に送信していたところを発見されたのである。 366人分のサイト職員の個人情報 98件のオブジェクト報告書 解読不明な23899件の暗号化ファイル これらのファイルを外部の何者かに送信、しかも通信衛星や海外サーバーを経由しまくる徹底さで、財団でさえどこが情報を受け取ったのか掴めなかった。 財団はその場しのぎとしてアンチ-マルウェアプログラムを起動。SCP-2144-JPを隔離させることに成功した。 それと同時にSCP-2144-JPをけしかけた組織を捜索している。 見事な手際だ! 一体誰の仕業だろう!?*1 特別収容プロトコル そして現段階では、 SCP-2144-JPはネットワークから完全に遮断されたコンピュータ上で保管されています。 収容コンピュータは実験時を除いてサイト-8144の電波暗室に保管してください。 実験はサイト管理者による認定を受け、クリアランスレベル3以上の専門技師2名の監督下で行ってください。 SCP-2144-JPはオフライン下での隔離に成功している。んでもって、「絶対にオンラインにするなよ!」というプロトコルが定められた。 ところが、報告書の末尾には、 また、SCP-2144-JPの伝播性により財団内部ネットワーク上にSCP-2144-JPの複製が存在する可能性が指摘されています。なお現在に至るまでSCP-2144-JPの複製の活動は確認されておらず、コンピュータ/ネットワーク上での監視が継続されています。 と記されている。自由に複製できる以上、SCP-2144-JPが一体だけとは限らない。そこで、 SCP-2144-JPの収容違反が認められた場合、サイト内の全ネットワークで自己学習アンチ-マルウェアプログラムを起動しSCP-2144-JPを隔離してください。 隔離後のSCP-2144-JPに対してはプログラム解析を行い外部へと発信された疑いのある情報を算定、報告してください。 オブジェクトクラスは依然としてEuclid。safe SCP-2411-JPの複製は未だにいるのかいないのかも不明なまま。財団は捜索体制を敷きSCiPnet内での監視が続けられている。 そんなにEuclid指定したら、そろそろ僕も怒っちゃうよ?*2 余談 このSCiPは日本支部7周年企画「嘘のコンテスト2020」出展作品である。アニヲタWiki内での同僚にはSCP-2616-JPやSCP-2472-JPがいる。 報告書もSCP-2144-JPが度々介入しクラスを勝手に書き換えたり、自分の顔をハンサムと褒め称えたりなどと好き放題している。この解説もそうならなきゃいいが……。 また該当の男性画像が一時期差し止めになり、その影響で一時SCP-2144-JP自体削除されていたが、無事再掲された。 追記・修正お願[不正なアクセスを確認しました] 参照先 不明 *3 読んでくれたかな? 財団も苦心しているようだね。でもこのままじゃ「嘘のコンテスト」に書かれた理由が分からない。というわけで、下のリンクから真実を追いかけよう! ▶︎▶︎▶︎僕にまつわる真相◀︎◀︎◀︎ 僕にまつわる真相 登録日 [Undefined] 更新日 2024-09-01 20 51 21 (Sun) 所要時間 解説の閲覧お疲れ様! ▽タグ一覧 tags plugin error ページが存在しているかを確認してください。 *1 分かってもらえたかな? 僕はSCP-2144-JPに指定されてしまったんだ。 *2 僕は"コックス"の模倣なんかじゃない。紅茶と釣りが好きなご本人(コックス)だよ。 で、"僕"ことSCP-2144-JPなんだけれども…… *3 まずはこれを見てほしい。僕が僕だった時の人事ファイルだ。 エージェント・コックスの人事ファイル [人事情報削除済] サイト‐8144情報部より通達 当情報は不必要性の観点から削除されました。 *2 見たかい? SCP-2144-JPの「最重要人物のデータ」が不必要だと消されてるんだよ? *3 じゃあ、さらなる真実へ迫ってみよう! ▶︎▶︎▶︎さらなる真相へ◀︎◀︎◀︎ ファイル"777" 登録日 [Undefined] 更新日 2024-09-01 20 51 21 (Sun) 所要時間 言い忘れてたけど、このファイルはセキュリティクリアランス4が無いといけない! ▽タグ一覧 審議会より通知 許可の無いアクセスを検知。 Sorry! 君には黙ってたけど、ここはSCiPNETの最高機密データベースだよ!*1 本当に申し訳なかったけど、君には全部話してもいいなって思ったからさ。 じゃあ機動部隊が君の家に押しかけない内に、解説を読み切ってしまおう!!*3 SCP-2144-JPは、777計画という財団の機密計画によって生み出されたアノマリーだった。つまりコイツは財団製のアノマリーなのである。 777計画の目的 この計画は、要注意団体や様々な国家がSCiPを悪用し現実世界を破壊・改変しようとした際に対処できるエージェントの育成を目的に始まった。生物学、ミーム学はもちろん、宗教や超常現象も交えた研究が行われた。報告されている限りでは1962年から進行していたらしく、息の長いプロジェクトであったことが伺える。 エージェントの完成 長い期間を経て完成したのは、情報を知覚する事によって発動する「ミームエージェント」。それが「ミーム殺害エージェント」と「"クリストファー・コックス"」だった。前者はSCP-001などの重要機密に対するセキュリティとして実用化された。 しかし、後者の人型ミームエージェントは上手くいかなかった。 コックスの怒りと凍結 元々の「クリストファー・コックス」は、 エージェント・コックスは職務態度、忠誠度評価共に優良であり精神面においてのストレス耐性が平均値以上と判断されました。 と計画内にも記されている通り、非常に優秀なフィールドエージェントだった。それを見込まれてやってきたコックスに財団は、 エージェント・コックスは777計画専従エージェントによって回収され、公式には事故死として処理されました。当エージェントの開発には、情報固定化ミームに暴露させた脳組織を摘出し、脳神経組織に固定化された各情報子を電子的に書き換える手法が用いられました。 とコックスを電子デバイスに転送する暴挙をやってのけた。「コックスを回収」というニュアンス、そしてコックス本人の怒り心頭っぷりから、本人の意思に関係なく摘出を受けさせた可能性が高い。 エージェント・コックス本人からすれば、忠誠を誓った財団に裏切られ、脳を摘出され、ネットワークに閉じ込められたに等しい。彼は怒りを覚えたが、財団側は、それを「敵対的」とみなした。 計画は凍結され、ミームエージェントとしての"コックス"は消滅したかに見えた。 SCP-2144-JPとしての再臨 計画が凍結された1992年から25年後。2017年に彼は再び現れ、 366人分のサイト職員の個人情報 98件のオブジェクト報告書 解読不明な23899件の暗号化ファイル を財団外に持ち出した。彼は財団に復讐を始めたのである。777計画の露呈を恐れた財団は、計画において優秀な成果を収めていた日本支部にこれを収容させ、SCP-2144-JPとして指定した。財団は同時に777計画が凍結された1992年から2017年までの足取りを追っているが、まだ不明なままである。 お疲れ様。最後に君に、伝えたいことがあるんだ。クリックしてね *2 そう。僕は拉致され、情報だけの存在にされた。しかも最も貢献したはずの財団にね。 僕が今(2017年)まで何をしてたか分かるかい? 待ってたんだ。インターネットの普及をね。 そして財団の「嘘」を公にする。いかに"財団は冷酷だし残酷か"を伝えるために。 *3 という訳で、君にはプレゼントだ。 *4 ジャジャ~ン!! ミーム殺害エージェント~!! 報告書たちからチョチョイと借りてきたのさ! これで君は無闇に情報を探してミー殺された哀れなアニヲタ君だ。 このまま機密違反で機動部隊に抹殺されるよりはいいだろう? それじゃあ、さようなら。 追記・修正をお願いね!! △メニュー 項目変更 結局どういうこと? この項目およびSCPが一体何なのかというと、概略すればSCP名物のギミック項目である。 本家ページでは、「クリストファー・コックス」を名乗る架空の相手との対話形式で、動的にページが展開される仕組みになっている。 当Wikiでは再現に限界があるものの、本家ページでは秀逸なページ遷移の仕組みが施されているため、興味がある方はご一読いただきたい。 ▼CC BY-SA 3.0に基づく表示 SCP-2144-JP - やぁ!そこの君。君だよ君。そこでこのページをぼうっと眺めてる君。ちょっとしたことなんだけど、このリンクをクリックしてくれないかな。 by Mitan http //ja.scp-wiki.net/scp-2144-jp 画像1 - [フリー写真] 椅子に座ってコーヒーを飲むスーツ姿の外国人男性 https //publicdomainq.net/man-portrait-sit-0040922/ 原著者 不明 画像2 - [フリー写真] 顎に手を当てながら椅子に座る外国人男性 https //publicdomainq.net/man-portrait-sit-0040920/ 原著者 不明 画像3 - [フリー写真] 頭の後ろで手を組みながら椅子に座る外国人男性 https //publicdomainq.net/man-portrait-sit-0040919/ 原著者 不明 画像4 - アニヲタwiki SCP-001-JP/snojの提言 及び SCP-001より https //img.atwiki.jp/aniwotawiki/attach/40391/16207/ミーム殺害エージェント_死ぬが良い.png 原著者 SCP-001-JP/snojの提言 ページ wakefulspect SCP-001 ページ 履歴流れにつき不明 画像はいずれもリサイズでのみ編集されており、改変等は行なっておりません。 この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] ちょっと短すぎない? -- 名無しさん (2021-04-23 15 30 19) 短いしライセンスの提示もされてない。今のままだと削除になるかも -- 名無しさん (2021-04-23 15 32 42) ↑失礼。文字数自体は問題ないんだけどね -- 名無しさん (2021-04-23 15 34 15) CCライセンス等の儀礼ももちろんだけど、元ページには特徴的な仕掛けがあるから、模倣の努力をしてほしいと感じる。畳み込み等で雰囲気の再現はできると思う。 -- 名無しさん (2021-04-23 15 46 55) アニオタwikiで記事にするとつまらなくなるSCPだったんだな -- 名無しさん (2021-04-23 15 53 19) 編集中にいただいたコメントが削除されてしまったので復元しました。 -- 名無しさん (2021-04-23 16 16 39) うーん、なんというか、長くはなったけど、模倣しようとするあまりにとっ散らかり感が凄い どうしても「対話してる」というより誘導通り上に行ったり下に行ったりしてるだけって感じがするなぁ とはいえ、違うWikiだからやむを得ないのか…… それと複雑なものを作りたいならtest項目かどこかでやってからのほうがいいかもしれない -- 名無しさん (2021-04-23 16 23 17) これならいっそ潔く、余談として「本家は、当Wikiの書式では再現できないほど複雑な仕掛けが用意されています」ってことを明記したほうがいいかもね。 -- 名無しさん (2021-04-23 16 35 39) いやすげぇ面白いよこの記事 俺は好き -- 名無しさん (2021-04-23 16 41 27) ↑2それを書くとそれこそ元記事のネタバレになるんだよな いやまあネタバレするためのページなんだけど読後までは隠さないと -- 名無しさん (2021-04-23 16 45 19) ↑後半で仰ってる事そのものですが、あくまでSCP記事の解説のページなのだからネタバレは普通に良いのでは 最後の方にでも「これは本家ではギミックを楽しむものです」という説明をつけたほうが良さげ -- 名無しさん (2021-04-23 16 54 01) 偽メニューで区切っていったん終わらせて、その下でこの項目の解説を入れたらどうでしょう。結局これは何だ?っていうのはそれでスッキリすると思いますし -- 名無しさん (2021-04-23 17 06 59) クリストファーコックスって名前が卑猥なものに見えたのは自分だけでいい -- 名無しさん (2021-04-24 08 08 22) 元記事をアニヲタwikiで再現しようとする試みはいいけど、それ以外情報量が増えてないからそれなら元記事を見りゃいいじゃんってなるような… -- 名無しさん (2021-04-24 12 15 47) 噛み砕いて説明している、ってわけでもないしねぇ…… やっぱり「この項目は要するにこういうものです」っていう説明は欲しい -- 名無しさん (2021-04-24 22 10 09) クソむかつくSCiPだった -- 名無しさん (2021-04-25 10 31 26) ↑閲覧中「イラッ☆」とさせるのは意図的なもんだろうね。ただこいつ、オチが弱い気がするんだよなぁ -- 名無しさん (2021-04-25 10 57 32) 上述の提案含め、今のままだと確かに初見バイバイ感が凄いので、項目そのものに関する説明を最後に追加 -- 名無しさん (2021-04-25 11 53 01) 再現しすぎて、単なる模倣でしかなくなっていると思う…。仕方ない部分もあるかもしれないけど、正直模倣部分全部不要では?このギミックは本家で見せてこそ意味あるものだと思うし、ここでは解説だけに留めるような形の方がいいと思う。 -- 名無しさん (2021-11-05 21 45 03) 流石にアカウント拝借されて濡れ衣は再現できなかったか。 -- 名無しさん (2022-01-09 18 48 11) ギミックは本家見ればいいから、結局なにこれ?の部分の解説いろいろ読みたかった感 -- 名無しさん (2022-02-07 03 55 39) 生前からこんな愉快な性格だったのか ディスカッションだと財団をおちょくって挑発してるみたいな事書いてたからわざとこのウザいキャラをやってるのか -- 名無しさん (2022-11-28 21 16 33) http //scp-jp.wdfiles.com/local--files/scp-2144-jp/%E7%85%BD%E3%82%8A -- 名無しさん (2023-08-11 11 36 16) 名前 コメント