約 459,460 件
https://w.atwiki.jp/isekaikouryu/pages/2199.html
「シスター、今日までお世話になりました」 早朝、向かい立つ尼のような装束を身に付けた隻眼隻腕の初老の狗人女性に向かって、深く頭を下げて感謝の言葉を言うのはまるで少年のように短い赤毛の交じりの栗毛の髪に赤銅色の肌をした少女。 「大げさだねぇ、もう会えなくなるわけでもなし」 そんな彼女の姿に苦笑いを浮かべつつ、その人生が決して平坦でも安楽なものでもなかったことを物語る深い皺の刻まれた目には、うっすらと涙で滲んでいる。 「いや、でも、なんかケジメが必要かなーって思って」 そう言って顔を上げた少女、その髪型のせいもあってか広く見える額には小さいながらも二本の角、ニシューネンでは珍しい赤鬼族の少女は目尻に小さな涙の玉を浮かべながら、それでも犬牙の発達し頑丈で歯並びの良い白い歯を剥いてニッと笑ってみせた。 新天地のニシューネン市にシィという少女が暮らしている。家名はない、彼女は10年前の冬にどういった理由があってかネア大聖堂の前で母娘そろって行き倒れているのを教会の関係者によって発見され、母親のほうは手遅れだったが娘のシィのほうは命を取り留め、その後はネア大聖堂が運営する孤児院『星の家』で育った。 それから10年、13歳になった彼女はこの日、新しく住み込みで働くことが決まった働き先へと転居することとなり、それは長く暮らした孤児院を巣立つということであった。 ネア大聖堂はニシューネンではシンボルマークとなるほどであり、ニシューネンという街の成り立ちにも深く関わる関係などから街の人々からの寄付などもそれなりに得ている。それらはネア大聖堂が運営する孤児院『星の家』の運営費となっているのだが、新天地の中では比較的治安も経済状況も安定しているニシューネンにおいても孤児の数は多く、それらを一手に引き受けている『星の家』はあまり余裕があるとは言えない、そのため孤児院で暮らせるのは14歳までと定め、それまでに働き先を見つけ、孤児たちは巣立っていくというのが通例となっている。 「でも、本当に良かったのかい? まだ一年ここにいられたんだよ?」 彼女が本来『星の家』で暮らせるのは14歳まで、しかし、彼女はは13歳でここを離れることを決心した。 「いやぁ、だって住み込み三食賄い付きで週の御給金は海賊銅貨10枚ですよ? ここで逃したら次にこんな条件あるかわからないじゃないですか? それに向こうには前に何度か働きに行ったこともあってマスターも女将さんもどんな人か知ってるし、こりゃ行くっきゃないって思うじゃないですか」 そう言って少女はニヒヒと笑う、海賊貨幣はこの世界ではラ・ムールが発行する海運貨幣に次いでメジャーな貨幣であり、住み込み賄い付きで週に銅貨10枚というのは女性、それもまだ成人前の働き手にとっては破格と言ってもいい条件、しかし、それは理由の半分でしかない、もう半分は彼女が早くこの孤児院を離れれば、空いた彼女一人分のベッドに別の誰かが夜の寒さや飢えに震えることなく眠ることができる、そう考えた上でのことだということを、向かいあうシスターはわかっていた。 「まったくマセた子だね。まぁ、シィならどこでだって一人前になれるさ、だけど、体にだけは気をつけるんだよ」 「はい、お休みもらえたら手伝いに来ます」 「あぁ、うちはいつだって人手不足だからね、来るならお客さん扱いなんてしないよ、ビシバシとコキ使ってやるからね」 「うわぁ、なんだか急に里ごころが萎んじゃうなぁ」 そう言い合って二人は静かに笑い合う、生活の場は違っても同じ街の中で暮らしていくということもあり、湿っぽさのないサバサバとした別れの挨拶。 「それじゃ、もう行きますね、そろそろ他の子が起きてくるだろうし」 そう言ってシィは足元に置いていた私物の入った布袋をヒョイと持ちあげる。 「あ、モニクとジジのことですけど……」 モニクとジジとは孤児院でシィが手を焼いていた悪ガキと、彼女を実の姉のように慕ってベッドでは常に彼女と添い寝するようにしてでしか眠れなかった少女のことだ。孤児院を離れるにあたってこの二人のことがシィの心配事だった。 「モニクは食いしん坊だからシチューが少し多くなるかもと言っておけばいいさ、シィがいなくなってしばらく暴れるだろうけど、まぁタンコブしこたまこさえればおとなしくなるだろ、しかし、ジジはね……」 モニクに関しては男の子ということもあってぞんざいな事を言うシスターもシィが孤児院からいなくなった後のジジのことは心配らしく、少々顔を曇らせる。 「それでなんですけど……これをジジに渡してください。ボクの代わりというにはなんですけど……」 そう言ってシィは布袋の中から小さな人形を取り出し、それをシスターに手渡す。 「余り布で作ったので、あんまり上手く出来てないですけど」 「いやいや、上手に出来てるじゃないか。あぁ、ジジに渡しておくよ」 シスターに手渡されたのは布の切れ端などを再利用してシィが手縫いして作った人形、赤毛と角のような飾りのある女の子の人形、それをシスターは目を細めて少しの間眺め、それを僧衣の袂に大事に仕舞う。 「それじゃあ、本当に、今までお世話になりました」 「あぁ、後のことは心配せず、新しいところでがんばるんだよ」 「はい!」 こうして、まだ薄暗さのある夜明け前、一人の少女が静かに巣立って行った。 ニシューネン市の商業区、入り組んだ路地に中小の商店や飲食店が密集するように軒を連ねる一角、そこにフタバ亭という店がある。 酒場兼宿屋ということになっているが昼前から店を開けている。店のメニューは『本日の酒 本日の定食』としか書かれておらず、それ以外は店主に注文して、その材料があれば提供されるという風変わりな営業スタイル、それほど繁盛しているというわけでもないが、足しげく通う常連客でそれなりに店はうまくいっているという、そんな店だ。 「おはようございます! 今日からお世話になります!」 昼前、フタバ亭の主人であるシメイが『営業中』と絵と文字で書かれた立て看板をもって店の外に出ると、それを待ち構えていたようにハキハキとしたシィの声が辺りに響く。 「……」 この世界ではまだ珍しい地球から持ち込まれたサングラスを掛け、剃りあげたスキンヘッドに口髭、彼の人柄を知らぬ者が見れば十中八九たじろぐオーガとしても並み以上に恵まれた体格と風貌から威圧感に近い存在感を発するシメイは、手に看板を持ったまま、まるで最初からそこに聳えていた巌のように静止し、サングラスの奥から彼女を射抜くような視線だけが向けられる。 「え、あ、あの……?」 思っても見なかった反応にたじろぐシィ。 「あ!もう来てくれたの!?てっきり昼過ぎくらいに来るのかと思ってたのに随分早いのね!」 その重苦しい空気を吹き飛ばすように、シメイの背後から快活そうな声と共にシメイからすれば小柄だが、シィからすれば充分に大きな人影が現れる。 「ちょっとアナタ、いつまでそこに突っ立ってるつもりなの? デカい図体で店の入り口塞がないでよ」 ハスキーな声でそう言いながら、シメイの巨体を押しのけるようにしてシィの前に現れた人物、それは腰まである銀糸のような髪を三つ編みに束ね、左頬から首筋にかけて鉛色の肌に白く海賊紋と呼ばれるドニー・ドニーの海賊が彫り込む独特の刺青をした長身の黒鬼の女性、シメイの伴侶であり風変わりなフタバ亭がそれなりに切り盛りできている理由でもある豪快にして快活なる女将、ナマラその人だった。 「……お前か?」 シメイはシィと自分の妻を交互に顔を向けながら見比べ、そして小さく呟くように自らの妻に向かって問う。 「そうよ。この前ヨンバ婆にお腹の子供のことで診てもらったってのは話したでしょ? そしたら初産なんだからお腹の子供のためにも安静にするようにって口を酸っぱくして言われて、でも私が店に出られなくなったらアナタだけじゃ店が回らないでしょ? これは困ったなって私も考えたわけ、じゃあこの際だし星の家から誰か給仕の仕事が出来る子を住み込みで雇おうって思い付いたの、我ながらなかなかに冴えてるでしょ? 私は子供を産んでもしばらくは子育てで店には思うように出られないだろうし、さっそく星の家のシスターに話しをもちかけたらこの子が来てくれることになったってわけ、ほら、この子は前に何度かウチに手伝いに来てくれたことがあるでしょ? マジメでよく働いてくれたし、仕事の覚えも早いかったし、これはイイ子が来てくれることになったなーって思ってこの子にお願いすることにしたのよ。あぁ、この前アナタに片付けてもらった部屋、あそこに住み込んでもらうから、部屋は私が案内するからアナタは外の掃き掃除でもしててちょうだい」 まるで軽快に風を受け波を割って進む快速船のように、矢継ぎ早に次々と飛び出す言葉にシィが唖然としていると、その肩をポンと掴まれ、何事かとシィが問うよりも早くグィとその体を引き寄せられ、そのまままるで小荷物でも小脇に抱えて運ぶようにしてシィはナマラに抱えられるようにして店の中へと連れ込まれてしまう。 「そうか……わかった」 そんな光景をサングラス越しに追いながら、シメイはすでに二人の姿の無くなった入り口で小さく呟き、手に持ったままだった立て看板を改めてその場に置き、店先の掃除をするべく箒と塵取りを取りに店の中へと再び入っていった。 「さぁ、ここが今日からシィちゃんの部屋よ!狭くて申し訳ないけど許してちょうだいね」 そう言ってシィがナマラに抱えられるようにして連れてこられたのはフタバ亭の二階にある三部屋のうちの一番奥、他の二部屋に比べて間取りが狭く、また日当たりも若干悪いためについ最近まで物置として利用されていた部屋だが、今は机としても利用できる収納家具と二段ベッドの置かれた立派な部屋となっている。 「あの……二段ベッドってことは、私以外にも?」 部屋の入り口で床に下ろされたシィは促されるままに部屋の中へと入り、室内を素早く観察し、まず気になったことを口にする。 「あぁ、違うのよ、あの人が何を勘違いしたのか二段ベッドにしちゃっただけ、まったく気分が乗ったからとか言って余計なことするんだから困るのよね、邪魔なら上のは今度とっぱらってもらうから、それまでは我慢してもらえる?」 「あ、いえ、そういうつもりじゃ……」 そんなつもりで言ったわけではなかったが、図々しいと思われたのではないかとシィは内心冷や汗をかくが、ソロリと表情を伺ってみても別に気分を害した様子はないことに密かに胸をなで下ろす。 「掃除は3日くらい前にしてるんだけど、気になるなら言ってちょうだいね」 「はい、何から何までありがとうございます」 「いいのよ、こっちとしては本当に来てくれて感謝してるんだから、それにさっきのあの人の顔見たでしょ?もぉ傑作、久々にあんな顔してるの見たわ、あの顔が見れただけでも今週分の御給金あげちゃいたいくらい、もちろん冗談よ? さすがにこんな小さな店だからちゃんと働いてもららないと困るから、これからがんばってちょうだいね、それじゃ、私は店の仕事があるから下に降りてるわね、今日はゆっくり荷ほどきに使ってちょうだい、仕事は明日からでいいから!」 「え!?」 またしてもナマラの矢継ぎ早な喋りに面喰っていたところでの今日はお休みという言葉にシィが戸惑い声を上げた時にはすでに遅く、階下へと駆け下りて行く音と「おい!?」というシメイの慌てるような声、そして「大丈夫よ、これくらいで鬼の子が流れたりなんてしないわよ」という声が聞こえてくる。 「ハァ……、ゆっくり荷ほどきって言われても、荷物なんてこれだけしかないしなぁ……」 改めて布袋に入った荷物を取り出して確認してみる、下着が二枚、替えの服が上下一着ずつ、それ以外は細かな生活用品がいくつか、本当に必要最低限のものだけ、一度ベッドの上に広げ、それを収納家具の中に仕舞う、所要時間は微々たるものだ。 「掃除は、する必要なさそうだし……」 あらためて部屋を見回してみる、床もベッドも几帳面に清掃され、わざわざもう一度掃除をする必要はなさそうだ。 「引っ越し完了。女将さんは今日はお休みだって言ってたけど……逆に居心地悪いんだよね……」 階下からは酒場としてのフタバ亭が営業開始し、昼時も近くなってきたということもあってか来店した客とナマラが会話している声が聞こえてくる。 「よし!手伝おう!」 そうと決まれば善は急げ、シィは腕まくりをして騒がしくなりはじめた階下へと駆け下りていく。 「私、手伝いますね!」 「あら、休んでていいのよ?」 「それはこっちのセリフですよ!女将さんがそんなだと、私が雇われた意味がないじゃないですか!」 「お?なんだいなんだい?そこのカワイイ子は新人さんかい?」 「はい!今日から働かせてもらうことになったシィと言います!」 「ちょっとヨルハさん、シィちゃんがカワイイからってお触りしたら許しませんよ?」 「おぉ怖い怖い、女将さんが怖いからエールもう一杯!」 「はい、毎度~。それじゃシィちゃん給仕お願いできる?」 「はい!がんばります!」 こうしてフタバ亭でのシィの新しい生活が始まった。そして、この店にさらにもう一人、新たな仲間が加わるのだが、それはまだちょっとだけ先の話である。 フタバ亭の面々を1から見るというのはありそうで中々出てこなかっただけに新鮮。以前に出ているSSやスレネタなども合わせていて感慨深い。一生懸命で温かい楽しいフタバ亭のはじまりを感じさせる一本だった -- (名無しさん) 2014-11-20 23 31 01 ネーミングセンスいいね。スレ語りは多くてもSSになるネタって限られてるから時系列追うように話ができあがると想像しやすい。シィちゃん元気っ子 -- (名無しさん) 2014-11-21 21 04 36 キャラと背景がしっかりしてる。ハウス食品の世界童話シリーズみたいなあたたかい空気だ -- (名無しさん) 2014-11-26 19 52 06 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/toshige-234/pages/60.html
鶫の群れと笑わない彼女(つぐみのむれとわらわないかのじょ) あらすじ ねえ、[万目|まんもく]サマって知ってる? 万目サマって云うのはね、 鳥さんの目に寄生する死者の魂のことなの。 万目サマはね、 至る所に居る鳥さんの目を通して私達を見ているんだよ。 でね? 最近、その万目サマが増えちゃったらしくて……ね? 登場人物 としあき(としあき) 区内の学校に通うごく普通の男の子。 FPVゲーム[LoS|レジェンドオブサラマンダー]に嵌っている。 夏穂(かほ) としあきと同じ区内の学校に通う女の子。 友達の紹介でとしあきと会うことになるが……。 規模 プレイ時間:30-40分 絵:立ち絵1枚、背景22枚、イベント6枚、エンド1枚、タイトル1枚、メニューアイコン1枚 文:約50KB 音:8曲+SE 作業依頼書:sp84486.zip その他:ふたば学園祭12出品物 その他:Linuxでプレイできる その他:観光ガイドムック本付き 制作期間 16/11/01 ~ 17/05/03 作った人達 企画設計 :PGあき 文 :PGあき 絵 :PGあき&絵あき 背景素材 :PGあき 曲 :フリー音源 PG&スクリプト:PGあき デバッグ :PGあき&絵あき ダウンロード GAKUENSAI_12_0078.zip 進捗 制作完了 制作・進行で使用した外部サービス 【作業者用掲示板】 FC2 WIKI 【作業タスク管理】 Brabio! 【打ち合わせ】 炬燵 かにチャット 【成果物管理】 Dropbox 【作業者間の連絡】 電子メール
https://w.atwiki.jp/mbmr/pages/318.html
彼女たちが盤面に数えるサーティートゥー ◆John.ZZqWo 飛行場から市街へと続く暗い道は、和久井留美にとって幾分か緊張を強いるものだった。 きれいに舗装され整った道路の脇にあるのは等間隔で並ぶ細い街灯くらいなもので、視線を遮るものはないと言っていい。 しかし、もう夜分ゆえに見通せる距離もそうあるわけでなく、もし誰かが向かいから歩いてきたとしても気づくのは寸前になってからだろう。 となれば必然、互いにま近くで相対することになる。 何も身を遮る場所で互いに顔が見える距離から殺しあい――そんなことを想像して、和久井留美は緊張に胸が痛むのを感じた。 「……………………」 少し風が強くなってきたことに気づき振り返れば、すぐ後ろにどんよりとした黒い雲が追うように近づいてきている。 ここで更に雨に降られてはかなわないと、和久井留美は道をゆく足を速めた。 @ ほどなくして和久井留美は市街へと辿りついた。 目の前には今歩いてきた道が更に北――市街への中央へと向かって伸びている。地図が確かであれば、もう少し進めば左側にビーチが見えてくるはずだ。 付近にある施設や視界に映る建物を見ても、この島北東の市街が観光やレジャーを目的としたものというのはよくわかる。 通りに並ぶ店も、手作りの小物やアクセサリを扱ったお店。海のものを扱った土産物屋。そして、水着のまま入れるという飲食店など。 もし、今が昼間で更にもっと夏に近い季節であればこの通りはもっと眩しく魅力的に映ったに違いない。 しかし現実はそうではない。今はもう夜で、どんよりと雲が頭上を覆ってなお暗く、なによりも殺しあいの舞台である。 和久井留美は脇の道へと曲がると、後ろ髪を引かれることなどなくそのまま大通りから離れた。 「さて…………」 どこを寝床にしようか――と、狭い路地を歩きながら和久井留美は考える。 あまり簡単に入れる場所だと万が一誰かと“被る”可能性がある。とはいえ、裏をかけば、また同じように裏をかいた人物と“被る”というのも否定できない。 「これは、ちょうどいいわ」 しばらく歩いた後、和久井留美は足を止めて少し先にある店を見た。少し古いビルの1階にある100円均一のコンビニだ。 これから必要なものを揃えるにはうってつけだと立ち寄ることにする。 勿論、無用心には近づかない。和久井留美は手に入れたばかりの拳銃を片手に、暗闇の中で煌々と明かりを漏らすそこへと慎重に近づいた。 「…………あら、いやね」 幸いなことにコンビニの中に先客はいなかった。なにかがあって荒れているなんてこともなく、物質の調達もスムーズに進みそうだ。 どうして和久井留美が言葉をもらしたのか、それは片手に買い物カゴを持っていることに気づいたからだ。 なにもここではそんなに行儀よくすることもない。なのに、自然とそうしていて、気づけばカゴの中には半分ほど商品が入っていた。 苦笑し、とりたて困ることもないので買い物――ではなく物資の調達を彼女は再開する。 棚の間を巡り、必要だと思ったらとりあえずカゴの中に入れた。あまり荷物が増えても困るが、捨てることはいつだってできる。 まずは食料品。飲み物も邪魔にならない程度に。それから生活小物。絆創膏などの簡単な手当てをするものや、タオルや替えの下着など。 一応と武器になるようなものもないかと探してみるが、拳銃も手に入った今、有用だと目に映るものはこれといってなかった。 「まぁ、こんなものかしら」 一通り回ると和久井留美は買い物カゴをレジまで運ぶ。別に会計をするためではない。ビニール袋を取るためだ。 カゴに集めたものを用途別に袋に分け、それを肩にかけていたバッグへと移す。 手早く終えて、そして彼女は気づいた。 「降りだしたのね」 外を見ればガラス窓に水滴がつきはじめている。とうとう雨が降り出したのだ。 嘆息すると、和久井留美はちょうどレジの脇にあったビニール傘を一本抜いて、しとしとと降る雨の中へと出た。 @ コンビニから出ると和久井留美は傘に雨粒を受けながらそのままビルをぐるりと回り、裏手にあった階段を上った。 このビルの2階から上はどうやら商社が入ってるらしく、ひっそりとした寝床にするには最適だとビルを見かけた時に算段していたのだ。 幸いか、無用心なことに玄関の扉に鍵はかかっておらず、和久井留美は開いたばかりの傘を閉じて中へと滑り込む。 「………………」 入ってすぐのホールとなっている場所は暗かった。明かりはわずかな非常灯と壁際の自販機が発する光くらいだ。 自販機の隣には3階以上に登るための階段とエレベータとがある。 少しだけ考え、和久井留美はそのまま奥へと進むことにした。探しているのは応接間だ。だとしたら客にこれ以上階段を上らせることはないだろう。 廊下を進むと事務机が並んだオフィスに出た。机の上はどれもよく整理整頓されている。彼女の所属する事務所とは大違いだ。 暗い中で目をこらすと更に奥にいくつかの扉が見える。そのひとつにあたりをつけると和久井留美はオフィスを堂々と横切り、そして静かに扉を開いた。 「ゆっくりできそうね」 厚い扉の向こうは予想したとおりに応接間だった。 背の低いテーブルを3人がけのソファが挟んでいて、壁には絵画がかけられ、棚にはトロフィーや表彰盾が並んでいる。 和久井留美は荷物を絨毯の上に下ろし、ソファへと身体を投げ出す。高級そうな革張りのソファはふかふかと柔らかく、やすやすと受け止めてくれた。 気を抜けばそのまま安眠の中に引きずりこまれそうなほどだ。しかし和久井留美はその誘惑をぎりぎり振り切り身体を起こす。 休息が目的で、そしてここでそれが得られることも判明したが、休む前にまだいろいろと終えておかないといけないことがある。 座りなおし、まずはさきほど下のコンビニで集めた物資をテーブルの上に広げていく。 とりあえずは食事だ。 ここまでは動きが鈍らないようにと最低限の量をこまめにとってきたが、1度休むと決めたのなら、今度は後からガス欠することがないようしっかりととる。 「いただきます」 給湯室のレンジを使って用意したのはレトルトの中華丼だった。それに、完熟トマトのスープパスタにペットボトルのレモンティー。 奇妙な組み合わせだが、和久井留美自身は疑問に思っていなかった。ただ好きなものを組み合わせただけだ。そしていつも彼女はこんな感じだ。 元々、頓着のないほうではあったが、アイドルになり家に帰る時間が不定期になるとそれはより悪化(?)してしまった。 「ん、いけるわね」 業務形態が一定でない以上、いつ家に帰るかは定まらない。その上、仕事の中やその延長線上にある打ち上げやつきあいで食事をとることも増えた。 自炊をするにもそういった事情から日持ちしないものは家には置けない。となると、その時その時でコンビニで買って帰るというのが効率的だとなる。 仕事帰りにコンビニにより、マーケティングの成果から生み出された新商品を誘導されるままに買って食べる。 企業が想定する働く独身女性――彼女の食生活はその見本どおりの形だった。 いまや彼女にとって料理とはオフの日のホビー。あるいはなにかしらの目的を持って行われる“戦略活動”にすぎない。 「――ごちそうさま」 ひとりきりだと食事は早く済んでしまう。和久井留美はそれに物足りなさを感じることもなく食べたものを片付け、次の行動へと移った。 @ 荷物を整理しなおし、起きた後に食べるものを用意し、歯磨きをして、身体を拭いて、下着を交換し、そしてようやくソファへと横たわる。 上着は脱いでむかいのソファの上にある。猫耳はテーブルの上に、パンプスは足元に、ストッキングも脱いだ――が、いつのまにかに伝線していた。 新しいストッキングがいるのだが、物資を調達したばかりだというのにその肝心のストッキングを手に入れるのを和久井留美は忘れていた。 「………………」 今から取りに行くというのは億劫だ。それに雨の中ストッキングを取りに行くリスクが、ストッキングをそのものと釣り合う気がしない。 ここから出る時に調達するというのがベターな線だろう。けれど、これからのことも考えるとどこかでスカートからズボンに穿きかえるのがよいとも思う。 「………………ハァ」 どうでもいいことだ。そんなことよりも、意識を手放してしまう前に考えておかないといけないことがある。 これからの行動。 殺しあいというゲームに対し、どう対応し、どういう戦略をとれば有利となるのか。 第1に重要なのは先ほどの放送で呼ばれた死者の数とその内訳だ。 6人。死者の数は放送の度に順当に数を減らしている。このペースを維持するのなら、この殺しあいは後1日かもう半日はかかるように思える。 しかし、それ以上に時間がかかるのでは? という懸念が和久井留美の中にはあった。 ナターリア、南条光、そして五十嵐響子。6人の死者のうち半数が自身の手によるものなのだ。 他のライバルをリードしている――などとは浮かれていられない。 自分が殺した3人の除けば3人しか死んでいないわけで、それは他のライバルが3人しか殺せていない。あるいはライバルが動いてないことを意味する。 「響子ちゃんを殺したのは失敗だったかしら……」 強力なライバルであった五十嵐響子を殺害し、少なくとも彼女といる間は同調してたはずの緒方智絵里も、もうライバルとして動かない公算が強い。 ライバルが減ることはそれだけ取り分が増えるということではある。 だが、ライバルでないアイドルにしてもリスクなしに狩れるものでない以上、早々にいなくなられても困るのだ。 飛行場で出会い、そしてもう殺してしまったナターリアや南条光、それに前川みくもまた他のアイドルを殺害したアイドルではあったが、 しかしその実情は殺しあいという状況に押されて偶発的に起きた、いわゆる不幸な事故というものだった。 つまり、最初の放送では「こんなにも殺しあいにのる子がいるのか」と驚いたが、それは半分正しく、半分は正しくないということだったのだ。 あの時想定したよりも、積極的に殺しあいを行おうというライバルの数は少なかった、というのが現実だろう。 「残り30人……、か」 アイドルの数は当初の半分へと減った。まだ1日も経っていないのに29人ものアイドルが死んだと思うと尋常ではない数だ。 実際に何人も手にかけているにも関わらず、それがどういうものなのか和久井留美にも実感はわかなかった。 しかし、これから先、もう30人も殺さないといけないと考えると大きなため息が出る。 「それでも、まだ2人か3人、それ以上も期待していいのかしら……」 飛行場を離れた高垣楓らの中からと、もう2人がこの島のどこかで死んだ。 あの五十嵐響子が手をかけていた可能性はなくはないが、それを考慮してもまだ数人のライバルがこの島にいるのは確実だ。 今回はたまたま標的を見つけられず、あるいは逃げられてしまって殺しそびれたというライバルもいるだろう。 「……なんにしても様子見ね」 次の放送までと言わず、更にその次の放送まで動かないというのもありだと和久井留美は考える。 休息をとるならまとめてとったほうが効率的だというのもあるが、なにより自分が盤面に影響を与えないことで、自分以外の要素を浮き彫りにしたい。 死者の数はどう推移するのか。ライバルはどれくらいいると推定できるのか。そして―― 「(――運営側はどうこの企画を最後まで進めるつもりなのか)」 現実がどういった状況であるにせよ、このままだとこの後に中だるみが発生するのは間違いない。 運営はこれをアイドルたちが休むためのインターバルとするのか、あるいはなんらかのてこ入れを実施してくるのか……? 「(アイドル同士の遭遇を増やすなら禁止エリアを増やす……か、もしくは全員が殺しあいにのるように脅しをかけてくるか……)」 方法はいろいろあるように思える――が、それも運営側の指針を計らなければただ可能性を羅列するだけにすぎない。 「(やはり、ここは様子見ね)」 和久井留美はそう結論付けた。 これまではどうこの状況に馴染みアドバンテージを得るかが問題だった。 振り返ると満点からは程遠いゲーム運びだったが、今の状況は悪くない。前川みくを殺害したことで拳銃も手に入れることができた。 これから目指すべき点は、“最終的に勝つ方法”の想定とそのための行動だ。 そのためには一度様子を見て他のアイドルの、なにより運営側がこのゲームに変化を与えるつもりがあるのかどうかを見極める必要がある。 その結果、例えば禁止エリアの数が急激に増えて島が狭くなるのだとしたら、積極的に先手を打っていくのがいいかもしれないし、 あるいは、運営側が再びプロデューサーの命をちらつかせて全員に殺しあいを強要するなら、リスクを避けて逃げと待ちに徹するという方法もある。 「(まずは、次の放送……ね。ちょうど1日が終わる節目。“揺さぶり”がくるのだとしたらこのタイミングである可能性が高い)」 和久井留美は少しだけ目を開いて壁の時計を見る。 そして、まだ少しだけ眠る時間があることを確認すると重い瞼を閉じて、その身体を柔らかいソファに、そして眠りの中へとゆっくり沈めた。 外では雨足が強まりつつあった。 ざぁざぁと音は大きさを増し、厚い雲に覆われ月明かりさえない暗闇の街にただただ雨音だけが満ちていく…………。 【B-4 市街地/一日目 夜中】 【和久井留美】 【装備:前川みくの猫耳、S WM36レディ・スミス(4/5)】 【所持品:基本支給品一式、ベネリM3(7/7)、予備弾x37、ストロベリーボム×1、ガラス灰皿、なわとび、コンビニの袋(※)】 【状態:健康、】 【思考・行動】 基本方針:和久井留美個人としての夢を叶える。同時に、トップアイドルを目指す夢も諦めずに悪あがきをする。 1:次の放送まで眠る。 2:放送でなんらかの事態が発生すればそれに対応できるよう考える。 3:なにもなければ、更に次の放送まで休むかどうかを検討する。 4:いいわ。私も、欲張りになりましょう 。 ※コンビニの袋の中には和久井留美が100円コンビニで調達した色いろなものが入っています。 前:蒼穹 投下順に読む 次:彼女たちの前に現れる奇跡のサーティスリー 前:彼女たちが辞世に残すサーティワン・リリック 時系列順に読む 次:彷徨い続けるフロンティア 前:愛の懺悔室 和久井留美 次:彼女たちが生きてこそと知るクラッシュフォーティー ▲上へ戻る
https://w.atwiki.jp/marowiki002/pages/445.html
目次 【概要】カテゴリージャンル シナリオあらすじ 登場人物彼女 彼氏 男子A 男子B 男子C 女子A 女子B 女子C 【参考】関連項目 タグ 最終更新日時 【概要】 カテゴリー 構成 エピソード ジャンル 全年齢対象 女性向け ラブコメ シナリオ あらすじ 登場人物 彼女 主人公 彼氏に合わせて迷彩柄を着ている。 迷彩柄は好きではない。 豹柄が好き。 彼氏 彼女に合わせて豹柄を着ている。 豹柄は好きではない。 迷彩柄が好き。 男子A 迷彩柄は好き。 私服は全身迷彩柄。 男子B 豹柄は好き。 私服は全身豹柄。 男子C 柄物が嫌い。 女子A 迷彩柄は好き。 私服は全身迷彩柄。 女子B 豹柄は好き。 私服は全身豹柄。 女子C 柄物が嫌い。 【参考】 関連項目 項目名 関連度 備考 創作/迷彩系コスプレ ★★★ タグ 構成 最終更新日時 2013-03-06 冒頭へ
https://w.atwiki.jp/omomuki/pages/160.html
今回の趣は家事、特に掃除についてです。 家事というのは特に一人暮らしでは自分がしてあげないとどんどん溜まっていくものです。 つまり自分がやってあげなければ何もできないダメダメ依存系彼氏,彼女のようなものなのです。 ここからは便宜上掃除のことを彼女と呼びます。 彼女はほおっておけばボサボサになってしまいますが、尽くせば尽くすほど本来の綺麗さ可愛さをみせてくれます。 常に家にいて待っていてくれる彼女は絶対裏切ることがないのです。 彼女に尽くすことでいつでも承認欲求が満たされ、彼女もきれいになるのでwin-winな関係を永遠に築けます。 完全に自分に依存しているので、今日はめんどくさいのにとおもってもホコリを舞わせてかまってアピールされるとうざったくも感じますが、そこもかわいいところです。 そして彼女は一生自立することがなく、ダメ人間なままなのです! ダメじゃなくなるのが地雷なダメ人間好きにもオススメです! 方向性は変わりますが、ロボット掃除機に彼女のお世話を任せるというのもいいでしょう。 ロボット掃除機と彼女との関係にntrを感じでもいいし、機械との関係を築く姿を感じてもいいのです。 お世話が面倒と思いがちな彼女との関係もこんなイメージで付き合えば、きっと良好な関係を築けるでしょう。 あなたもぜひいつでもどこにでもいる彼女(掃除)との関係をお楽しみください。 わたしには活用方法はわかりませんが、二次創作.商用利用可です。 1 51 42頃より 補足やコメント等、語りたいことがあればどうぞコメントください 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/preciousmemories/pages/8572.html
プロモカード/冴えない彼女の育てかた 『冴えない彼女の育てかた』のプロモカード。 限定プロモカード ナンバー カード名 色 C S AP DP 入手方法 P-001 《加藤 恵》 赤 5 2 40 50 BOX購入特典 P-002 《霞ヶ丘 詩羽》 青 2 2 30 30 発売記念大会参加賞 P-003 《澤村・スペンサー・英梨々(P003)》 黄 2 2 30 30 公認大会参加賞 P-004 《霞ヶ丘 詩羽》 青 2 2 30 30 公認大会参加賞 P-005 《霞ヶ丘 詩羽》 2 2 30 30 公認大会上位賞 P-006 《加藤 恵》 緑 2 2 30 30 プレメモ&レベル・ネオパーティー2015 入場特典 関連項目 カードリスト プロモカード 冴えない彼女の育てかた 編集
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/2226.html
ネオアキバにある大型電器店にて セレーネ「いい製品は置いてないわね、ん?」 スウェン「どうした?」 ラクス「キラが新しいV●C△LOIDが欲しいと……ありましたわ!」つソフト セレーネ「ラクス・クライン嬢、何を買ったんだろ?」 スウェン「覗きはちょっと…」 ラクス「きっとキラも喜びますわ♪」 セレーネ「ラクスさんが買ったのは…あれ?」 『V●C△LOID“詩今(シーマ)サマ”』 スウェン「彼女はどこに行こうとしてるんだ……」 117 名前:通常の名無しさんの3倍 :2009/05/07(木) 23 13 21 ID ??? 116 アイドルがアキバ歩いたら向こうのお前らに襲われるんじゃね? 118 名前:通常の名無しさんの3倍 :2009/05/07(木) 23 42 02 ID ??? いや一応変装くらいしてるだろ あとはホラ、ピンクちゃんが何か、アレとか、トリィが上空からソレとかで撃退してたりするんだよ。きっと 119 名前:通常の名無しさんの3倍 :2009/05/07(木) 23 42 43 ID ??? 金持ちは自分で買物行かないもんなんだよね 120 名前:通常の名無しさんの3倍 :2009/05/07(木) 23 42 56 ID ??? バルトフェルド「ラクス一人で出歩くのは、代打のミーアが生放送やライブをやっているタイミングに限らせているので心配ない」 121 名前:通常の名無しさんの3倍 :2009/05/07(木) 23 43 44 ID ??? バルトフェルド「なぁに、しっかり守っているさ。ダコスタ君がね」 ダコスタ「異常……無し」 122 名前:通常の名無しさんの3倍 :2009/05/07(木) 23 47 21 ID ??? 試しにTトロワで襲撃させようとした。 早かったな。奴の死も。そして俺の死も 123 名前:通常の名無しさんの3倍 :2009/05/07(木) 23 53 37 ID ??? 118 ピンクちゃんもハロ長官の眷属だしな
https://w.atwiki.jp/mbmr/pages/313.html
彼女たちが塗れるサーティー・ライズ ◆John.ZZqWo 彼女は静かな時間の中にいた。思考すらない、だからこそ静かな、静止した時間の中に。 @ とんとんと軽いノック。そしてドアの開かれる音に十時愛梨は伏せていた顔をあげる。目の前の時計を見ると時間はもう9時を回っていた。 音がしたほうを見れば、ドアを開けて戻ってきたのは輿水幸子、それと星輝子のふたりだ。 「ふたりともおかえりなさい……と、降られちゃいました?」 十時愛梨の言葉に輿水幸子が髪の毛についた水滴を払って苦笑を浮かべる。 「ええ、今しがた降り始めたところです。これから少し強くなりそうですね。……卯月さんはどうですか?」 「卯月ちゃんはまだ寝てる。しばらくは起きてきそうにもないかな」 十時愛梨は部屋の奥のドアを見ながらそう言い、輿水幸子も同じようにそちらを見ながら頷いた。 「それで、幸子ちゃんらのほうはどうだった?」 「それはですね――」 4人が山中で邂逅しそして同行すると決めたあの後、東屋で放送を聞き終えた彼女らは決めていたとおりに渋谷凛を探すため山を下りた。 輿水幸子と星輝子からすれば遊園地から出てすぐに戻ってきたというのはいささかばつの悪さを感じるものではあったが、それはともかく まだ3人組だった頃に遊園地の中を一通り見ていた分だけ内部には詳しかったのは事実で、彼女らふたりは渋谷凛の捜索を買って出る。 渋谷凛を探している当人である島村卯月は反対したが、その当人の衰弱ぶりは他の3人から見ても目にあまるほどで、 押し問答の末に遊園地を捜索している間だけは休憩してもらうとなんとか決めて、輿水幸子と星輝子のふたりは捜索に出たのだった。 だが、遊園地の中には渋谷凛はおろか人っ子ひとりの姿も見つけられず、更には雨も降り出してきて――そして、今へと至る。 「残念ながら。……動物園のほうにも誰もいませんでしたね。隠れていたらと思って、凛さんの名前を呼んではいたんですけど」 「ど……動物たちは、……元気、だった……けど……」 「そっか……」 今、彼女らがいるのは山側のゲート傍にあった救護センターだ。 ドアをくぐって目の前に受付があり、部屋の中にはくつろぐためのテーブルと椅子、簡単な給湯設備などが備え付けられている。 更に奥には、貧血や日射病などで倒れてしまった人が休むためのベッドルームがあり、島村卯月は今そこで眠っている。 休むことを散々しぶった彼女ではあったが、横になってしまえば眠るまでは一瞬のことだった。 「“予報”ではすぐにやむということでしたし、しばらくは卯月さんの休息もかねてここで休憩ですかね」 輿水幸子は手に下げていたビニール袋をテーブルの上に置く。 「晩御飯の時間だと思って、途中で食料も調達してきたんですよ」 言って広げ始めたのはそれこそ色いろなものだった。お弁当からパンからお土産用のお菓子やら色いろな飲み物まで。 「あ、温まると……ほっと、するから……みんなで食べよう」 言いながら、星輝子も持ち帰った食料をテーブルに広げていく。彼女が持ち帰ったものは主にインスタント食品の、特にきのことついたものが主だった。 きのこのみそしるに、きのこのパスタ。きのこの炊き込みごはん。きのこのお菓子に、なぜかきのこのぬいぐるみやキーホルダーまで。 そんな、どこか楽しそうにしている彼女の前で十時愛梨は吹き出し、肩を震わせる。 「あれ? なにか、おかしかったかな……?」 「ううん、そうじゃなくて……いや、ちょっとおもしろかったから」 「……よく、わかんないけど、愛梨さんが笑ってくれて私も嬉しいかも……フフ」 「輝子さんは案外トークの才能があるんじゃないですか? 楓さんみたく」 「トークは、まだ苦手……だけど、そう言ってくれるなら、今度からはがんばろう、かなって……思う、かも」 そして彼女らはそれぞれに食事を選び、ささやかながら温かい夕食をとることにした。 @ 「……みんなはどうしてるんだろう」 壁越しにも聞こえてきた雨音に、きのこのパスタを食べ終えた十時愛梨がだれとなしに呟く。 「もう暗いですし、こんな雨だし、ボクたちみたいにじっとしてるんじゃないでしょうか」 ドーナツをくわえながら言う輿水幸子のトーンはどこか低い。 見やる真っ黒な窓の外には色とりどりの明かりが雨でにじんでいて、身体を包む雨音のホワイトノイズは全てを茫洋とするようで、 そんな光景はどこか現実味がなく、この部屋と外の世界とか隔絶されているような、外の世界が別物になったような、そんな錯覚を覚えさせる。 だからこそ、現実的に考えてというのとは別に、この雨の中に外を出歩く人はいないだろう――と、そんな風に思わされた。 時折、風に流された雨粒が窓を叩く。けれど、そんな変化すらも次第に気にならなくなっていき、感覚はただただ鈍化していく。 ざぁざぁと夜の中に雨が降っている。 時間を忘れさせる夜の雨が。 「プロデューサーは、ちゃんと……ごはん、食べさせてもらってるの、かな……」 言ったのはみそしるの器を両手で抱えた星輝子だった。 なんということのない、答えも求めていない呟きで、ただ温かい食事をして、だから思ったことを口にしただけのことだった。 「ちょっと、輝子さん!」 「え? …………あ! そんな、別に、そんなつもりじゃなくて……」 輿水幸子の怒った顔を見て星輝子は自分が失言していたことに気づく。 ここにいる少女たちは皆、彼女らのプロデューサーを人質としてとられている。けれど、その中にも例外が、しかもこの場にその例外が存在するのだ。 「ううん、大丈夫だよ。輝子ちゃんがプロデューサーさんのことを心配するのは当然でしょ。それと、私のとは別の問題だし、ね」 けれど、その例外――十時愛梨は冷や汗をたらすふたりに向けて微笑んでみせた。 「あの、せっかくだから輝子ちゃんや幸子ちゃんのプロデューサーの話を聞いても……いい?」 そして、微笑みながらふたりに向けてそう言った。 夜の雨が降っていて、だからそんな話をする時間は十分にあった。 @ 星輝子は元々引っ込み思案で、誰かと争ったりすることも苦手で、なので人と話したり深くつきあうことにも抵抗があった。 趣味はキノコを自宅で栽培すること。なんとなしで始めたそれだが、今では押入れの中は育てたキノコでいっぱいになっている。 日陰の中で物言わずにじっとしているところに共感したのかもしれない。 しかしそんな趣味は一般的でもなければ、人が羨んだり惹きつけるどころかまったくの逆で、彼女はより孤立し、遠ざけ、忘れられていく。 キノコだけが彼女の友達だった。 それだけなら、彼女はどこにでもいる根暗な少女でしかなかっただろう。けれど、彼女の中には相反するもうひとつの性分があった。 「……だから、私は“アイドル”に、……なろうって思った、んだ」 星輝子は目立ちたがりだった。日陰に隠れようとする性分とは真逆だが、確かにそんな願望が、しかも強く彼女の中にはあったのだ。 その欲求は今の根暗な自分に対するカウンターなのか、それともこれこそが本性だったのか、 あるいは奇抜な毒キノコのような二律背反こそが彼女の性質なのか、それは彼女自身もよくわからない。 そして、彼女はこのアイドルの時代にアイドルを目指す。 アイドルは目立てる。けど、テレビの画面越しだから人付き合いが苦手でもいける……んじゃないかなと思った。 いくつもの事務所に応募し面接を受ける。けれどどこでも結果はでない。面接は大の苦手だったし、存在感のなさから無視されることすらあった。 今更ながらにアイドルになるためには色んな人とのコミュニケーションが必要だと気づき、挫折しようとしていた時、 最後に受けたのが今の事務所で、その時に星輝子を“発見”してくれたのが今のプロデューサーだった。 「キノコーキノコーボッチノコーホシショウコー♪ ……あ、はい、い、いましたけど……いや、さ、さっきからいましたけどー……。 で、でも……わ、私に目をつけるとはいいセンスですよー。なる、アイドルでも何でもなりますよー……フフ」 @ 「――だから、私はプロデューサーの、……親友のおかげでアイドルになれたんだ」 そう言う、星輝子の顔は誇らしげで、真っ白な頬もこの時は紅潮していた。 「ライブも、開いてもらったし……超目立った、し。でも、まだ、MCは苦手だけど……、親友はファンが喜んでるぞって、私の歌と、声で……」 だから、“アイドル”としての喜びも知ることができた。 もう目立つためだけの自分じゃなくて、誰かのための“アイドル”でいること。それもわかった――と、星輝子は笑ってみせる。 「親友には、すごく、感謝してる……んだ。私を、名前のとおりに、輝かせて……星のように輝く子にしてくれた、から……フフ」 そんな彼女の話を聞いて、輿水幸子はよかったですねと微笑み、十時愛梨は同じですねとしんみり呟いた。 「私も本当はただの女の子でしかなかった。見つけてくれたのは、やっぱり私のプロデューサーさんで、彼が私を輝くステージに立たせてくれた。 私は“アイドル”になることができて……、シンデレラに……、彼は魔法使いで、そして……私の――。」 十時愛梨は目じりをぬぐい言う。彼からもらった喜びは抱えきれないほど、だと。 「そうだよ! だから、プロデューサーの想いも、背負うんだよ。 プロデューサーのために、生きよう? 最後まで……抵抗、して、この島から脱出して、……“新しいステージ”を目指す……のが、いい!」 「ちょ、ちょっと輝子さん。なんだか話が飛躍してませんか? ほんと、テンションが上がると変わっちゃうんですから……、まぁ、ボクもだいたい同意見ではありますけどね」 彼女らの言葉に十時愛梨は両手で顔を伏せ、肩を震わせていた。 「……でも、きっと……、それを愛梨さんのプロデューサーも願ってると、思う、から。それが、“生きろ”って言葉の、意味だと……私は、思う」 星輝子はそう言い、輿水幸子も同じように十時愛梨を励ましたいと思った。彼女の深い悲しみを少しでも癒すことができれば、と。 しかし、気づく。顔を覆う指の隙間から覗く彼女の瞳の色に。 その黒色はまるで熱せられたタールのような、ドロドロで重たく、とても熱い――怒り、それ以上の感情。炎をあげない熱量の塊――黒色の絶望。 「あっ……、あ……!」 ガタガタと椅子の足が震えた。席を立とうとして(――なんのために?)輿水幸子は足を無様にもつれさせる。 それは、絶対に正解してはいけない正解。辿りついてはいけない答え。 「愛梨さ――」 「幸子!」 遠くから届く雨のホワイトノイズに包まれた部屋の中で、全ての調和を破壊するデタラメな音が鳴り響いた。 銃声か、絶叫か、それともそのどちらもが幾重にも混ざり合ったような、そんな酷く耳障りな音が鳴り響いた。 @ なにもかもが掻き乱された後の部屋で、輿水幸子は壁を背に、床にへたりこんでいた。 十時愛梨の姿はない。彼女はひとしきり絶叫すると、後ろを顧みることなくそのままどこかへと、悲鳴をあげながら走り去ってしまった。 「……幸子、大丈、夫?」 輿水幸子に覆いかぶさるように抱きついていた星輝子が言う。小さく、ぬくもりがあって、そして軽い身体だった。 「ええ、ありがとうございました。おかげで、ボクは……なんとか」 「……よかっ、た。守れて」 星輝子の口の端から血が垂れる。 輿水幸子がおしりをつける床には血だまりができて、赤く濡れていた。 星輝子の身体は震えていて、抱きかかる手の力は儚い。白い顔は更に白くなり、赤い血がまだらと全身をメイクしていた。 「なんで、……どうして、こんな馬鹿なまねをしたんですか?」 震える声で輿水幸子は問いかける。ぽつりと、見上げる星輝子の顔に雫が落ちた。 「さ、幸子は、友達……。友達を、助ける、の、は…………当たり前、…………だ、から……」 雫が交わり、彼女の頬を伝う。 「…………ありがとう、ございます。輝子さんは、ボクの親友ですよ」 「うん、…………親、友。……ずっと、幸子の、こと、……見守って、る。……ファン……だから……、フフ……フ」 「はい……、はい…………」 「頑張っ、て…………幸子、は…………かわ、……い…………ぃ…………」 震える瞼が輿水幸子の見ている前で下りて、長く息を吐き出すと、彼女は二度と動かなくなった。 @ 「………………………………………………ガハッ!」 とうとうこらえきれなくなり、輿水幸子は口から血の塊を吐き出した。ぬるりとした赤色が顎を垂れ、胸元までを真っ赤に染める。 「ヒュー、ヒュゥ…………、ほ、本当に、……ヒ、……馬鹿なんです、から……、そんな、細い身体で、弾丸を、…………受け止めきれるわけ……」 赤く染まっているのは胸元だけではない。 星輝子と同じく、彼女もまた無数の傷を――いや、星輝子と裏返しに全く同じ場所に同じ数の傷を受けていた。 床に広がっていく血だまりも、女の子ひとり分だとすると大きすぎる。それは、おおよそふたりの女の子が死ぬに相当する量の血だった。 「でも、……フゥ、……もう少しだけ、生きて、いられそうです、ね……。そこは、……感謝しない、と」 輿水幸子は視線だけを動かして部屋の中を伺う。やはり十時愛梨の姿はもうない。 どこへ行ってしまったのだろうか。もう動くことはできないが、“なんとしても助けないといけない”と思う。 「ハッ……、ハ…………、ほんと、失敗、ばかり、で……かっこが、つかない、ン、です、から……ボクたち……」 彼女を行動させてしまったのは自分たちだ。そう輿水幸子は理解している。 どうして彼女が殺しあいにのったのか――どうして彼女が未来に進むことを拒否して、時計を止めてしまったのか。 その答えに触れてしまったがゆえに、こんなことになってしまった。もし、そんな真似をしなければ、こんな結末にはならなかったはず。けれど――。 「誤魔化しちゃ、だめな……ん……。じゃない、と、……きっと、また、ひどい失敗を…………しちゃ、ぅ……から」 答えには辿りついた。けれど、輿水幸子には彼女を助ける方法はまだわからなかった。追っても、どう声をかければいいのかわからなかった。 そして、彼女を追う時間も、追うことすらももうできないということだけは確実だという残酷な理解だけがあった。 「ハ……、ハッ……、…………ヒュゥ」 時間がない。自分では達成できない。それなら――輿水幸子は島村卯月が眠っている部屋の扉を見る――託すしか、ない。彼女に伝えるしかない。 「しまむ……ヴェッ! ゲ……、ゲェッ…………! …………ヒ、ヒッ、……ヒ、…………ィ」 けれど、声を出すのももう難しいようだった。そもそも銃声が鳴っても起きてこないほどの睡眠だ。多少の声が出たところで起こすことはできないだろう。 どう伝えよう? どう言葉を残そう? なにかを探そうと輿水幸子は震える手を動かす。その時、床をこすった指先が赤い線を引いた。 @ 「ボクが事務所に来る時は下でお出迎えくらいしてくださいって言ってるじゃないですかー……って、無視しないでくださいよ!」 「おう、幸子か。おはよう」 それはある日の事務所での光景だった。 「このカワイイボクの呼びかけを無視してパソコンでなにを見てるんですかー? まさか、いやらしいものじゃないでしょうねぇ」 「馬鹿なことを言うなよ。ここは職場だぞ? 仕事に関係するものに決まってるだろう」 「もー、嘘でも見てるってところから否定してくださいよ。ボクの年齢を考えてください。セクハラですよ? で、これはなんなんです……?」 輿水幸子がデスクの上のモニタを覗くと、そこに映っているは巨大な滝だった。 「ナイアガラの――」 「――やりませんよッ!」 輿水幸子のかわいくも大きな怒声が事務所に響き渡る。けれど、別に珍しいものでもないのか彼女らのほうを見る人間はひとりとしていなかった。 「まだ、全部話してないだろう?」 「どうせ、飛び込めって言うんでしょう!? 無理に決まってるじゃないですか。死にますよ!」 「いやいや、それが案外そうでもないんだ。あの清水の舞台だって、実際には飛び降りてもそうそう死にはしないって話があるだろう?」 「でも、こっちは明らかに落ちたら死ぬ高さじゃないですか」 「そりゃあ、生身じゃまず助からない。助かった例もなくはないが、うちのかわいい幸子にそんな危険な真似はさせないさ」 「お、お、おだてても無駄ですからね……? それで、なにか方法があるんですか?」 プロデューサーがマウスをクリックするとまた別の画像が画面に映し出される。 「ワイン樽……?」 「そう、樽だ。世界で初めてナイアガラに挑戦した人もワイン樽に入って滝を下ったんだ。それで、生還している」 「……いや、すごく乱暴な。それにこれだと、樽の中で洗濯物みたいになりませんか?」 「それはそうなんだが、実は樽に入ってナイアガラに挑戦したって人物は多くてな」 「はぁ……。一種のエキストリームスポーツ化してるんですねぇ。だったら、今は本当は安全なんです?」 「ああ。だいたい2/3の確率で生還できる」 「――やりませんよッ!」 「おい、幸子よ」 「いやいやいやいやいやいや……、それって1/3で死ぬってことじゃないですか! なにがうちのかわいい幸子に危険な真似はさせないさですか!」 「生還に万全を期すというのは本当だぞ。幸子樽の製作に当たってはあの池袋博士にも協力を願おうと考えているところだ」 「いやそこはNASAに、とか言ってくださいよ。それに幸子樽ってやめてください」 「まぁ、樽の名前は博士に一任するとして……、問題はロケを含む費用の捻出だよなぁ。この企画が入る番組も作ってもらわないといけないし」 「ちょっと! だから! いつもそんな勝手に話を進めないでくださいってば!」 輿水幸子はプロデューサーのネクタイを引っ張って抗議する。これまでに何回も怖い目にはあってきた。けれど、怖い目と危険な目は似ているようで全然違う。 いくら万全を期すと言われようが、蓄積されたノウハウがあり、いざという時のための救出要員もいたダイビングやスキューバなんかとは別の話だ。 「もう、ボクを危険な目にあわせて受けを狙うとかやめてくださいよぉ! 普通にかわいい仕事ばっかりでいいじゃないですか!」 「それは心外な発言だな」 プロデューサーが怒った顔をすると、輿水幸子は恐れるようにネクタイを放す。彼がこんな顔をするのは本当に珍しいことだった。 「ち、違うんですか……? うら若いボクの残り寿命で視聴率を買おうとしてるんじゃ…………?」 「幸子」 「にゃ、なんですか?」 「お前は“カワイイ”か?」 「……………………と、当然じゃないですか。ボクは、カワイイですよ」 「それじゃあ、駄目なんだ」 プロデューサーはこれみよがしに大きなため息をつく。明らかな失望。輿水幸子はちょっと泣きそうになった。 「な、なにが駄目なんですか? ボクはこんなにカワイイんだから、カワイイに決まってるじゃないですかぁ」 「幸子はかわいいよ。それは俺が断言する。輿水幸子は誰がなんと言おうとこの事務所の中で一番かわいいアイドルだ」 「や……やっぱり、そうじゃないですか。だったら――」 「けど、それはあくまで幸子が完璧であったなら……という話だ」 完璧? と、輿水幸子の頭の上に?マークが浮かび上がる。 「ようは、カワイイという自負――自信だ。 かわいいか? と問われたら、いつ何時でも『ボクはカワイイですから!(ドヤァ』って言える自信こそが幸子のかわいさの根源であり、まだ足りてない要素なんだよ」 「ドヤァ……は口で言わないんですけど……」 それはともかく。 「俺の言いたいことはわかるだろう? 幸子には自信が足りない。いつもビクビクおどおどしている。幸子はダイヤモンドの原石だ。けれど、成長しなければ所詮、自称・カワイイ止まりだ」 「……自称……かわいい」 「幸子がシンデレラになるには絶対の自信が必要なんだ。誰よりもかわいくて当然ッ! 負けることなど想像もしない! というな。 途中で負け惜しみを言って引いてしまうような半端さがあるうちは決してテッペンには辿りつけない」 「だ、だから、プロデューサーさんはボクにあんな無茶ばっかりさせるんですか……?」 不安げな顔の輿水幸子に、プロデューサーは神妙に頷く。 「ビュジュアル、ダンス、ボーカル……どれも幸子には十分に備わっている。欠けているのはメンタルだ。そこを補えば、“カリスマ”が生まれるようになる」 「カリスマ……」 「“死線”を潜れ、幸子」 「…………いや、やっぱりおかしいと思いますよ。この話」 結局、『輿水幸子☆ナイアガラ・決死のダイブ!?』は予算の都合で実現はしなかった(代わりに『輿水幸子のブラック・アイスバーン極寒レポート』が実行された)。 @ 今わの際の輿水幸子の心は、不思議なことに彼女を包む雨音のように静かで落ち着いたものだった。 「(――さん。ボクは今、アイドル同士で殺しあいをさせられて、でももう死んじゃうところです。でも、怖くありませんよ。どうしてでしょうかね?)」 こぷ……と口からまた血の塊が垂れる。これが床につけばもう死ぬ。どうしてか、それがわかった。 「ボク……、失敗、ばかり……でした、けど……、殺しあ、いには、負けて、い、な……ぃ……………………」 輿水幸子は最期の力を振り絞って星輝子の身体を抱きしめる。か弱い力で、精一杯に。 「(ありがとうございます輝子さん。あなたの約束は守れましたよ)」 最後の息を吸って―― 「ボクはカワイイですからね」 ――そして彼女の赤い命は流れきった。 事切れたふたりのすぐ傍には、ふたりの交じり合った血で 『愛梨さんの魔法を解いてあげてください』 と、そう書き残されている。 【星輝子 死亡】 【輿水幸子 死亡】 @ ざぁざぁと夜の中に雨が降っている。 十時愛梨は深い闇の中で泣き叫んでいた。明るく輝く遊園地から逃げ出し、深い闇の中を走り、草むらの中に伏せてただただ大声で泣いていた。 その泣き声は降りしきる雨音を逆流させたようながらがらと濁った、聞いてるものが耳を塞ぎたくなるような悲痛な泣き声だった。 全てを理解した。いや、彼女は最初から理解していた。誰もが思うとおり、誰もが言うとおり、“彼”は死んだ。 だから諦めなくてはならない。過去に送らなくてはいけない。全てを認めて、ここに置き去りにし、新しく時計の針を進めなくてはいけない。 わかっている。誰に言われなくともわかっている。わかっている。わかっている。わかっているけど、できない。 諦めない。過去にしない。認めない。ここにしがみついて、時計の針は進めない。 絶望でもいい。絶望だからこそいい。 それでまだ彼とつながっていられるならそれでもいい。彼が死んだ瞬間で時間を止めていられるならずっとこの島で殺しあいをしていてもいい。 殺しあいをしている間だけは、心の中にある文字盤のない時計の透明な針が回り、安らかな絶望を感じていられる。彼のために生きていると感じられる。 辛くても痛くてもいい。なにを犠牲にしたっていい。 彼を置き去りにするくらいなら、心が砂のように乾いてしまうくらいなら、血を、涙を流していたい。 この島にしがみついて、最後の希望に殺されるまで、ずっと泣いていたい。 血を吐くような叫び声が夜空へと立ち昇り、それを鎮めるように雨が彼女の身体を叩く。そして、彼女は地の底へ沈んでいくようにただただずっと泣いていた。 【F-5 草原/一日目 真夜中】 【十時愛梨】 【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(0/30)】 【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×3】 【状態:絶望・ずぶ濡れ】 【思考・行動】 基本方針:ずっと生きている。 1:絶望でいいから浸っていたい。 2:終止符は希望に。 【E-5 遊園地・救護センター/一日目 真夜中】 【島村卯月】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、包丁、チョコバー(半分の半分)】 【状態:睡眠中、失声症、後悔と自己嫌悪に加え体力/精神的な疲労による朦朧】 【思考・行動】 基本方針:『ニュージェネレーション』だけは諦めない。 0:………………。 1:凛ちゃんを見つけて、戻ってきて……そうしたら、どうしようかな? 2:もう誰も見捨てない。逃げたりしない。愛梨ちゃんとも幸子ちゃん達とも分かり合えたんだ! 3:歌う資格なんてない……はずなのに、歌えなくなったのが辛い。 ※上着を脱いでいます(上着は見晴台の本田未央の所にあります)。服が血で汚れています。 ※救護センターの中に、輿水幸子と星輝子の遺体。そして彼女らの支給品が残されています。 ※輿水幸子の支給品。 【基本支給品一式×1、グロック26(11/15)、スタミナドリンク(9本)、神崎蘭子の首輪】 ※星輝子の支給品。 【基本支給品一式×2(片方は血染め)、鎖鎌、ツキヨタケon鉢植え、コルトガバメント+サプレッサー(5/7)、シカゴタイプライター(0/50)、予備マガジンx4】 【携帯電話、神崎蘭子の情報端末、ヘアスプレー缶、100円ライター、メイク道具セット、未確認支給品x1-2(神崎蘭子)】 ※床に『愛梨さんの魔法を解いてあげてください』という血文字が残されています。 ※テーブルの上に園内で集めたいろいろな食料が広がっています。 前:愛の懺悔室 投下順に読む 次:コレカラノタメ×ノ×タカラサガシ 前:彼女たちが塗れるサーティー・ライズ 時系列順に読む 次:彼女たちの目には映らない稲妻(サーティファイブ) 前:ボクの罪、私の罪 十時愛梨 次:あの日誓った夢 島村卯月 次:だけど、それでも 輿水幸子 死亡 星輝子 死亡 ▲上へ戻る
https://w.atwiki.jp/preciousmemories/pages/7209.html
《青春を彩る彼女たち》 イベントカード 使用コスト0/発生コスト2/青 [メイン/自分] 自分の任意の枚数の「比企谷 八幡」を休息状態にする。その場合、デッキの中を全て見て、その中にあるそのキャラの発生コストの合計値以下の仕様コストの値を持つ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のキャラ1枚を場に出す。その後、デッキをシャッフルする。 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。で登場した青色のイベントカード。 任意の枚数の自分の比企谷 八幡を休息状態にすることで、そのキャラの発生コストの合計値以下の使用コストを持つ自分の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』キャラ1枚をデッキからリクルートし、シャッフルする効果を持つ。 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』キャラ専用のリクルートカード。 条件がテキストからは分かりづらいが、要するに休息状態にした比企谷 八幡をソースに変換できる効果といえる。 例として、ソース2の比企谷 八幡2枚を休息状態にすれば、コスト4までの『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』キャラをリクルートできる。 場にソース2の比企谷 八幡が3枚あれば、全ての『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』キャラをリクルート可能。 さらに休息状態で場に出す・サポートエリアに出すといったデメリットも一切なく、ノーコストで展開できるため非常に強力。 サポートエリアの比企谷 八幡を選択すれば無駄がない。 デッキのどこからでも好きなカードを出せるので、比企谷 八幡を使うデッキなら採用して損はない。 カードイラストは描き下ろし。 関連項目 リクルート 収録 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 01-099 パラレル 編集
https://w.atwiki.jp/magichappy/pages/1284.html
▼ Her Memories Carnelian Footfalls リリゼットは、鉄羊騎士隊の 入隊試験を受けたようだ。 無事入隊できたのだろうか? 後を追ってみよう。 南サンドリア〔S〕 Mainchelite なに? リリゼットという少女が 来なかったかだと? ………………………………………………………………………………………… Mainchelite ……駄目だ! たとえマヤコフ舞踏団のトップスター 月影の胡蝶リリゼットちゃんの お願いとはいえ…… Mainchelite 紅の紹介状を持たぬ者に 入団試験を受けさせることはできんっ! Mainchelite それに、もし万が一 試験中に何かあったら…… Lilisette ……なによ、わたしって そんなに頼りなく見える? Lilisette ラヴォール村では ドラゴンをぎったんぎったんにし、 ジュノ攻防戦では、オークの大軍を こてんぱんにのした…… Lilisette 未来戦士タッグ、 「ビューティフル・フューチャー」とは わたしと[Your Name]の ことなんだから! Mainchelite ……[Your Name]? Lilisette そうよ! そうそう、 鉄羊騎士隊の[Your Name]! Mainchelite む……ああ、思い出したぞ。 [彼女/彼]には確か、特別な試験を こなしてもらったのだったな。 うむ、なかなか見事な働きを見せてくれた。 Lilisette ………… Lilisette ……ねえ、その試験って どんなだったのかしら? Lilisette もしよかったら、お話を 聞かせてほしいんだけど…… ………………………………………………………………………………………… Mainchelite ……と、すまない、 ええと、『リリゼット』という少女だったか? Mainchelite うーん…… 残念だが、聞き覚えがないな。 Mainchelite そもそも、子供が試験を受けるなんて 何かの間違いじゃないのか? Mainchelite 『リリゼット』という 名前は聞き覚えがないな。 Mainchelite そもそも、子供が試験を受けるなんて 何かの間違いじゃないのか? 東ロンフォール〔S〕 Lilisette 要するに、噂を解決する 手がかりを見つければいいのよね。 Lilisette ふっふっふ……ちょろいわね。 ロンフォールなんてわたしの庭なんだから。 Lilisette サンドリアの謎は このわたしが解いてみせるわ。 未来探偵「ビューティフル・フューチャー」の 名にかけて! (???を調べる) 地面に不自然な穴が開いている…… Lilisette 何かしら、この穴? ひらべったいものが刺さってたような…… Lilisette ……板とかかしら? それも、何かで包まれてたみたいな……? (???を調べる) クリスタルのかけらが散らばっている…… Lilisette アヤシイわね。 クリスタルのかけらがこんなふうに 散らばってるなんて。 Lilisette まるで、高いところから 落っこちて粉々になったみたい……。 (???を調べる) 文字の刻まれたプレートのかけらが落ちている…… Lilisette O、と……S……? E……いえ、Fかしら……? Lilisette う~ん…… 文字が書いてあったみたいだけど、 バラバラになっちゃってて読めないわね。 (???を調べる) Lilisette ふーむ。 これらの手がかりから察するに…… 怪奇現象の正体は…… Lilisette ………… Lilisette サッパリ分からないわ……。 Lilisette そもそも、 探偵には助手ってのが必要なのよ。 Lilisette 世界中を駆けまわって 手がかりを集め、ピンチのときには 颯爽と駆けつけてくれる、助手が! Lilisette ……まあ 手がかりとしては十分よね。 サンドリアに戻って、教えてあげなくっちゃ。 南サンドリア〔S〕 Mainchelite ええっ? 噂の手がかりを集めてきたって? Mainchelite ……実は、 その噂はもう解決済みなのだ。 それに、この件には介入するなという 命が下りていて…… Lilisette え、ええ~…… Aldebrand ……ねえ、きみ マヤコフ舞踏団のリリゼットちゃんじゃない? Eusebius 鉄羊騎士隊に何か用? 僕らでよかったら、手伝うよ? Lilisette ………… Rongelouts N Distaud 傾注~~ッ! 貴様ら! なにを遊んでいるッ! Aldebrand はっ、ははっ! ロンジェルツ隊長! Rongelouts N Distaud フン。 兵どもが妙に浮ついていると思えば…… Rongelouts N Distaud 乳臭いガキの お守りがしたければ、例のミジンコどもの 調練にでも加わるかッ!? Aldebrand しっ、失礼しました! Rongelouts N Distaud フン…… Rongelouts N Distaud マンシュリート。 貴様は名誉ある王立騎士団の一隊を ミジンコどもの巣穴にするつもりか? Mainchelite ……! もっ、申し訳ありませんっ…… Lilisette ちょっと、誰がミジンコよ! Lilisette その人は関係ないわ。 わたしが勝手に押しかけただけよ。 Rongelouts N Distaud ほう…… Rongelouts N Distaud ふん。 威勢の良さは認めてやる。 ミジンコから威勢を取ったら何も残らんからな。 Lilisette なっ……! Rongelouts N Distaud ジュノ攻防戦の時は、 もう少し骨のあるガキかと思ったが…… 所詮ミジンコはミジンコか。 Rongelouts N Distaud ……貴様が用があるのは 我が隊の[Your Name]だな? Lilisette ! Lilisette そ、そうよ。 わたしたち、未来戦士タッグなんだから! [Your Name]の背中は わたしが守るって…… Rongelouts N Distaud 我が 鉄羊騎士隊をなめるなッ! ガキを守れど、ガキに守られるような 軟弱者はおらんッ!! Lilisette !! し、失礼ね! 誰がガキ…… Rongelouts N Distaud ミジンコの分際で 無駄口を叩く暇があったら ウジ虫にでもなってみせろ。 Rongelouts N Distaud それとも、貴様の知る [Your Name]は そう簡単にくたばるような輩なのか? Lilisette ……! Lilisette ……ふ、ふん! そんなわけないじゃない! 未来戦士タッグ、なめんじゃないわよ。 Lilisette わたしたちは、 未来を守って戦ってるんだから! Rongelouts N Distaud ふん。勝手にしろ。 ただ、シケたツラだけは見せるなよ。 我が隊の士気に関わるからな。 だいじなもの 想ひ出のかけらを手にいれた! 想ひ出のかけら 現代に散らばった リリゼットの記憶が集まり、 ひとつの欠片となったもの。 ぽかぽかと温かい。 4個目の想ひ出のかけらだった場合 + ... 記憶の欠片が全て集まった。 ケット・シーのところへ戻ろう。 Rongelouts N Distaud なに? 赤い髪のガキを探している? さあ、知らんな。 Rongelouts N Distaud おい、貴様、 もし見つけたらさっさと連れ帰れ。 どこから湧いてくるのか知らんが、 これ以上ミジンコが増えてはかなわん。 ▲ 彼女の想ひ出 彼女の想ひ出~不治の病 揺籃の宙 彼女の想ひ出~帰郷 彼女の想ひ出~キューピッド作戦 彼女の想ひ出~紅の足跡 彼女の想ひ出~蒼の足跡 彼女の想ひ出~翠の足跡 ■関連項目 アルタナミッション , バタリア丘陵〔S〕 Copyright (C) 2002-2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.