約 3,071,429 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/521.html
あたしは中学に入学して他の奴らとは違う「特別」な人間になってやると改めて決心した。 「特別」な人間になる為に他の奴らが絶対やらない様な事を片っ端からやった。 そんな事をしている内に学校内でも特に浮いてる存在になっていた。 周りの奴らがあたしの事をどう思おうが噂しようがそんなのはまったく気にしなかった。 そんなあたしがイジメのターゲットになるのに時間は掛からなかった・・・ 涼宮ハルヒの改竄 version H まず上履きを隠された。 でも、そんな幼稚な遊びに付き合う気がなかったあたしは全く気にもしなかった。 そんな事を気にしてたら「特別」な人間になんて永久になれないと思ったからだ。 どうやら、それが気に入らなかったみたいで翌日にはあたしの机に幼稚な中傷が彫刻されていた。 まったく、ノートが取り辛いったらありゃしないわね。 バカとかブスとか死ねとかってもうちょっとなんかなかったのかしら? まぁ、こっち見て笑ってるアホ面見たらこの程度ねって納得できるんだけど。 その他にも教科書に落書きとか机の中に虫とかとにかく幼稚なイジメが続いた。 「イジメの教科書 初級編」ってのがあったら全部載ってそうなもんばっかね。 1週間後には精神的なイジメから肉体的なイジメへと変わっていた。 「ちょっと面貸しなさいよ。」イジメグループのリーダーみたいのが胸倉掴みながら言ってきた。 「は?なんであたしがあんたたちみたいのに付き合わなきゃいけないの?」って言ったらお腹に膝蹴りをいれてきた。 不意打ちで動けなくなったあたしは腕を縄跳びで縛られて体育館裏まで連れて来られた。 放課後の体育館裏で集団リンチってあんたたち金○先生の再放送見過ぎなんじゃないの? 痣が見えない様に服の上ばっか狙ってきて姑息ったらありゃしないわね。 理由はクラスで一番格好いいらしい男子から告白されたかららしい。 ほんとバカバカしいったらありゃしないわ。 告白をOKした途端、自分の理想を押し付けてきてばっかりだったから昼休みに振ってやったわ。 ・・・ どれ位時間が経っただろう? 体の感覚があまりない。 リーダーみたいのが満足したらしくもう蹴りはこなかった。 リーダーみたいのが何かしゃべっているとグループの一人が鞄からデジタルカメラを取り出した。 そして動かなくなったあたしにいやらしい笑みを浮かべながらあたしの制服を脱がし出した。 「ちょっと!!何すんのよっ!?」 痛みで抵抗したくても出来ないあたしはされるがままに半裸にされ、何枚もその様を写真に撮られた。 あらかた写真を撮り終えると「明日が楽しみだわぁ」と笑いながら帰っていった。 翌日、まだ痛みが抜けない体で登校したあたしは教室に入って愕然とした。 あいつらは昨日撮った写真を餌にお金を要求してくると思っていた。 だけど・・・それより質が悪かった。 あいつらは昨日撮った写真を大量に焼き増ししてクラスメイトにバラ撒いていた。 男子は今夜のオカズだと言わんばかりに写真を見た後あたしの体を舐め回すように見てくる。 女子はゴキブリを見た時みたいな嫌悪感丸出しの目であたしを見てくる。 あたしの心がガラガラと音を立てて崩れていく感じがした。 リーダーみたいな奴の耳障りな笑い声だけがいつまでも耳に残っていた。 気が付くとあたしは上履きのまま闇雲に町中を走っていた。 視界はぼやけて何も見えない・・・ 頭は真っ白で何も考えられない・・・ あたしは自分を変えようと一生懸命なだけなのにっ!! 一生懸命頑張ってるだけなのにっ!! どうしてっ!? どうして誰もあたしを認めてくれないのっ!? どうして何も起こってくれないのっ!? どうして誰も・・・あたしを助けてくれないの? 「宇宙人でも未来人でも超能力者でもなんでもいいからあたしを認めてよっ! 助けてよぉぉぉおお!!」 そこからの事はあんまり良く覚えてない。・・・と思う。 多分、公園の真ん中でうずくまって泣いてたと思う。 そしたら知らない奴が声を掛けてきた。 「おい、どうしたんだ?」 そいつはやる気のない声で聞いてきた。 「・・・ひっく・・・・っく・・・・・」 あたしは何も答えられなかった。 「あー、その、なんだ。とりあえずベンチに座って落ち着かないか?」 そいつはそう言ってあたしの肩に上着を掛けてくれた。 そいつはあたしの肩を抱いてベンチへ連れてってくれた。 「まぁ、これ使え。」 そいつはあたしにシワくちゃのハンカチを差し出した。 いつものあたしだったら文句の1つでも言っているだろう。 でも、この時はそんなシワくちゃのハンカチが何より嬉しかった。 ハンカチで拭いても拭いても涙は止まらなかった。 そいつは何も聞かずにあたしが泣き止むまでずっと隣に居てくれた。 あたしが泣き止んだ頃には辺りはすっかり暗くなっていた。 あたしが泣き止んだのを確認するとそいつは 「帰れるか?送ってってやるぞ」なんて言ってきた。 「一人で帰れるからいい」と言ってあたしは立ち上がろうとした。 けど、足に力が入らなかった。 転びそうになるあたしをそいつが慌てて抱き留める。 あたしが呆然としているとそいつは「やれやれ」と言いながら溜息をついた。 そしてこう言った。 「上履きでの土足は校則違反じゃないのか?残念な事に今日だけ校則違反する奴が許せないんだ」 「は?だから何?」 「背中に乗れ」 「な、な何言ってるのよ?」 「なんならお姫様抱っこでもいいが?どっちがいい?」 「どっちも嫌よっ!!」 そいつは少し考えると「よし!お姫様抱っこだな」と言ってあたしを抱きかかえようとしてきた。 「ちょ、ふざけないでよっ!!だったらおんぶの方がマシよっ!!」 そいつはしてやったりな顔をしながら「そうか、よし乗れっ!!」と言ってきた。 あたしは観念してそいつにおんぶされることにした。 そいつの首に両腕を回してしっかり掴まるとそいつの耳が見る見る赤くなっていった。 「よし行くぞ」と言ってそいつは歩き出す。 あたしが「そっちじゃないわ。正反対よ」と言うとそいつはコケそうになる。 「どうしたの?」 「かなり緊張してる」 「自分でおんぶするって言ったんだからしっかりしなさいよね」 「仕方ないだろ、妹以外の女の子おんぶするの初めてなんだから」 「ふーん、初めてなんだ。あたしもあんまり踏ん張れないんだから気をつけてよね」 そいつは肩をすくめながら「すまん」とだけ言った。 あたしはちょっと悪い事を言った気がした。 「まぁ、いいわ。よろしくね」 あぁ、ホント素直じゃない。 なんで「ゴメン」って言えないんだろ。 「おう、任せとけ」 そいつはあたしがヘコんでるのに気が付いたらしく明るくそう言ってくれた。 おんぶしてもらってる最中あたしはそいつに聞いてみた。 「ねぇ、自分を変えるために変なことばっかりしてるクラスメイトが居たらどう思う?」 そいつは少し考えてからこう言った。 「ん~、バカだと思う」 「そう」 あたしやっぱりバカで変なんだ。 また涙が滲んできた。 「でも、羨ましいよな。そこまで自分にバカ正直になれるなんてさ」 え?今のどういう意味? 「俺達ってさ、自分に何かしら嘘をついて生きてると思うんだ。 それが利口な生き方なんだって自分にいっぱい言い聞かせてさ」 あたしは黙って聞いていた。 「周りから浮かないように体裁を取り繕ってさ。 嘘で自分を縛り上げて自分が本当に行きたい所じゃない所をいつの間にか目指してるんだ」 あたしには何故かそいつが辛そうにしてる様に思えて腕に少しだけ力を込めた。 「だから、そんな風に自分にバカ正直になれる奴がいるならさ。 どれだけ周りからバカにされても自分が本当に行きたい所を目指して欲しいと思うし、応援する。」 あたしはいつの間にか泣いていた。 悲しいからじゃない。 今、心がとてもあったかいから出る涙。 それはとても心地よかった。 あたしはそいつに言った。 「ありがとう」と。 幸せな時間と言うのは楽しい時間より更に短いらしい。 あたしの家の前に着くと親父と母さんが立っていた。 親父は何か誤解したらしくあたしを降ろした「そいつ」と呼んでいる奴の胸倉を掴んでいた。 「お前なんぞに家の娘はやらーん!!」とか言ってるし。 確かにもう外は暗いし、あたしの目は真っ赤になってるのだから誤解しても仕方がない。 あたしはその誤解が少し嬉しかったけどこのままではやばいので誤解を解くことにした。 誤解が解けやっと親父から開放されたそいつはまた「やれやれ」と溜息をついた。 そいつがペコッと頭を下げて帰ろうとした所を親父が 「娘の恩人を徒歩で帰らせたらバチが当たる」とか言って無理矢理車の助手席に押し込んだ。 そして別れの挨拶もロクに済まさないまま車は発進した。 それを見送るとあたしは家に入って一人遅い夕食を食べていた。 向かいの席で母さんがニコニコしながらこっちを見てくる。 ご飯を飲み込む度に「あの子彼氏なの?」とか「もうチューした?」とか質問してきた。 違うと否定しようと思った。 でも、それ以上に話したい事が沢山あった。 とてもあったかくて とても嬉しくて とても大事な話をしたいと思った。 どれ位話しただろ? まだ、半分も話せていないと思う。 そんな事を考えていたら親父が帰ってきた。 親父がいうにはあいつの家はあたしの家から歩くと1時間以上は掛かる所だったらしい。 親父はあいつと車内で色々な話をしたらしい。 あたしも乗って行けば良かったと後悔した。 親父曰く「中々骨がある」とか「話してて気持ちいい」とか言ってた。 すっかりお気に入りに追加された様だ。 母さんの「もう遅いから明日にしましょう」という一言で今日は解散になった。 あたしは自分の部屋に入って制服をハンガーに掛けた。 その時、ポケットからシワくちゃのハンカチが落ちた。 あ、返すの忘れてた。 そういえば、名前聞くのも忘れてたわ。 また、会ったときに返そう。 それまでこのハンカチにはあたしのお守りになってもらおう。 きっとまた会える。 これは予想でも予感でもない。 あたしが生きてきた中で一番の確信。 Fin エピローグ 相変わらずイジメは続いたけど、銀河最強のお守りを得たあたしには怖いものなんて無かった。 片っ端から真っ向勝負をした。 もうどんな事をされても負けない自信があった。 もうどんな事をされても挫けない確信があった。 そうして徐々にイジメも無くなっていった。 結局、自分が「特別」な人間になれたかなんて分からないけど、 あいつのおかげであたしは本当の意味で「あたし」になれたと思う。 エピローグ2 今日は7月7日、つまりは七夕だ。 宇宙に向けてメッセージを校庭に書くため学校に不法侵入しようとした時誰かに呼び止められた。 振り向いた先に居たのはあいつだった。 正確にはあいつのそっくりさんの高校生だった。 前に会ったあいつは中学の制服着てたんだから今目の前にいるのはあいつじゃないと分かった。 少し残念だな。 そのそっくりさんに名前を聞くとジョン・スミスと名乗った。 あたし一人じゃ骨が折れそうなのでジョンに手伝わせた。 あたしの言う事に文句を言いながらも最後まで付き合ってくれた。 やっぱりあいつに似てる・・・ するとジョンは「やれやれ」と言って溜息をついた。 やっぱりあいつだと確信した。 やっと会えたという嬉しさがある反面、一緒にいるお姉さんとどういう関係なのかという不安も生まれた。 頭の中にあることが現実になるのが怖くて、あいつなのか確かめることが出来なかった。 あたしは心の中で一つの決心をした。 ジョンの着ていた制服の学校へ行こうと。 涼宮ハルヒの改竄 version K
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5267.html
翌、土曜日。 ハルヒの一存で決定された市内パトロールに意気込んで、というわけではなく、早く会っておきたいやつがいるために俺は早く家を出た。今日ばかりは妹の必殺布団はぎもなしである。一人で起きた朝ってのは爽快感に満ちあふれているもんなんだろうが、俺の心は昨日のホームルーム前から陰鬱にまみれている。 ママチャリをこぎこぎ、駅前の有料駐輪場に自転車を止めてから俺が集合場所に到着するまでには十分とかからなかった。時計は八時三十分を指している。 あたりを見回してみたが団員は誰も見あたらなかった。この時間帯に来れば俺が奢るはめにもならなさそうだが、ハルヒのことだ、屁理屈をねじ曲げて理屈にした上で俺のサイフから金を徴収するに違いない。それに、どうせ今日は俺の奢りが確定しているのだ。木曜日に宣告された。五人分、いや四人分だっけ。 「やあ、おはようございます」 俺がサイフの中身を確認していると声をかけられた。 ハッとして振り向いた。 見飽きたような微笑がある。昨日閉鎖空間で青カビ野郎とバトルしていたとは思えないほどの颯爽さをまとうそいつは、見間違いようもなく古泉一樹だった。 俺は何を言ってやろうかとしばし思い悩んでから、 「姿を見れて安心した。とりあえず、そう言っとく」 「そうですか。そう言ってくれると嬉しいですよ。僕がいることであなたが安息を感じるのだったら、僕も努力のしがいがあるというものです」 何やら思惑のありそうな笑みをたたえている。誤解しているようだったら俺は即座に今の発言を取り消すぜ。 「いいじゃないですか。人間誰しも、他人に必要とされるのは嬉しいものなんですよ。僕が思うに、本質的に孤独が好きな人間というのはこの世にはいないと思いますね」 「そういう話は佐々木とやってくれ。そんなことを言われても、俺には何とも答えようがないぜ」 古泉は苦笑して申し訳ありませんと謝罪すると、ではと言ってあさっての方向を指さした。指先からレーザーでも出ているのか? 「違いますよ。僕は平常の状態ではそんな力は持っていませんからね。僕が指さしているのは喫茶店です。長門さんが消えたことについて、僕が知っているだけをお話しようかと思いまして。立ち話も何ですからね」 * 提案通りに喫茶店に入って腰を落ち着けたところで、ハルヒは朝比奈さんと一緒に来る、と古泉は言った。 「涼宮さんがいつもの調子だと、あと十分と経たずに到着してしまいますから。申し訳ないですが朝比奈さんに足止めをお願いしました。時間稼ぎしてください、とね」 ムチャな話だ。朝比奈さんにハルヒの足止めを頼んだところで三秒ほど遅らせられるかも微妙なところだが、そこの無用なツッコミは控えておく。 「本題に入ってくれ。なぜ長門がいないんだ。冬の時みたいに世界改変があったのか?」 「いいえ」 古泉は俺の説をあっさり否定した。 「と、僕は思っているんですがね。せっかくですから段階を踏んで考えてみましょうか。たとえば、今の状況とあの時の状況を比較してみればそういう答えにたどり着けます。思い出して下さい、冬に長門さんの世界改変があったとき、その世界は元の世界と何が違いましたか?」 古泉の問いに、俺は記憶を探った。つい半年前のことがかなり昔のことに感じられる。 「そんなもんは簡単だ。まず、俺の後ろの席にハルヒじゃなくてカナダに行ったはずの朝倉がいた。そしてハルヒはお前と一緒に光陽園学院にいて、長門や朝比奈さんは何も知らない眼鏡っ娘と上級生だった。SOS団がなくて、SOS団の部室はただの文芸部室で……」 「いえ、そんなところはいいんですよ。僕が言いたいのは、あの世界の涼宮さんや長門さん、朝比奈さん、僕に不思議な力があったかどうかというところなんです」 断言してやる。なかった。 「そうでしょう?」 古泉はウーロン茶の入ったコップをカチャカチャと音を立てて振りながら、 「では今の状態と比較してみましょうか。現在、少なくとも僕や朝比奈さんには超能力者や未来人といったプロフィールが失われていません。冬に世界改変が起こったときにSOS団の団員からそういう力がなくなったことを思えば、僕たちの力がまったく何も変わっていない状態は世界改変だとは考えにくいですよ」 そんな強引な。 疑わしそうな顔をする俺に、古泉は続けた。 「もう少し推理ゲームを続けてみましょう。今度は別の観点からです。あなたは昨日ずいぶんと学校を探索なさったようですが、その時違っていたものは何でしたか? 長門さんがいたときと、いないときで違っていたものです」 「長門の机と椅子、長門の本、長門の七夕の短冊とか、そんなところだな。全部なかった」 「他には?」 「特にない。ああ、マンションの長門の部屋が空き部屋になってたか」 俺の返答を聞いて、古泉はわざとらしく笑った。 「ものすごく単純明快ですね。もうお解りになっていると思いますが、変わっているのは長門さんに関するものだけなんですよ。いえ、正確に言うのならば、地球上に存在するTFEI端末に関するものだけ、ですね。考えてみて下さい、長門さんや喜緑さんのもの以外のものは何一つとして変わってなかったのではありませんか?」 その通りである。長門に関わる記憶と長門の所有物をのぞいて、木曜日と金曜日で変わっているものは何もない。偶然にしてはできすぎだというのは俺も思っていた。 今言ったことをふまえれば、と古泉がまとめをするように述べた。 「つまり、これは世界改変で世界ごと変わってしまったのではなく、むしろ正しい世界からTFEI端末だけがきれいさっぱり消え失せてしまったというほうが考えやすいですね。それ以外のものは以前と変わっていないのは不自然ですから。ようするに、TFEI端末なんてのはこの世界に最初から存在しなかったんですよ。だから誰も長門さんのことを知らない。そういう理屈です」 俺は大きく息を吸った。そして吐いた。 世界改変ではなく、長門たちだけがこの世界から消失したのだ。長門が最初から世界にいないのだから、それに関する記憶もそれに関する物も一切ない、と。 そんなバカなと思う一方で、俺は納得していた。 古泉の言うとおりである。変わっているのは長門に関するものだけで、他におかしなところはない。まるで長門有希という存在や喜緑江美里という存在が最初からなかったかのように扱われているのが現在の状況だ。それは世界改変が起こって長門たちがいなくなったのではなく、もっと単純に、長門や他のインターフェースが何かの事情で元の世界から消えてしまったということなのではないか。筋が通った理屈ではあるが、これでは何の解決にもなっていないぜ。 何らかの事情ってのは、何なんだ。誰かが意図して長門たちを消し去ったのか。だとしたら、それは誰なんだ。いや、誰かという部分でなら大方見当はついているのだが。 「ほう、もう見当がついているんですか? 奇遇ですね、実は僕もだいたいこれではないかという予測なら立っているんですよ。そしてもっと奇遇なことに、おそらく僕が思っている人物とあなたが思っている人物は同じです。当てて見せましょう、それは周防九曜です。違いますか?」 違わん。しかし、かといって俺は驚かなかった。奴の他に心当たりなどない。 「そうですね。長門さんのようなインターフェースたちを一気に片づけることのできる存在など、他にはありえません。それに彼女たちは前々から敵対していたため、いつ侵攻が再開されてもおかしくはありませんしね。ところが、ここで疑問が浮上してきますよ。そうですね、三つですか」 古泉は顔の前で手を組んで、おもむろに言った。 「一つ目は、なぜ長門さんたちがそのような圧力に簡単にやられてしまったかということです。長門さんたちのことですから、完全敗北などというのはまずありえません。それなのに情報統合思念体製のインターフェースはほとんど何の痕跡もなく一夜にして姿を消している。それはなぜかということです。 そして二つ目の疑問ですね。それは、存在を消去するなどということが本当に周防九曜にできるかどうかということです。長門さんたちのような強大な存在を元からいなかったことにするわけですから、これは相当の情報改変能力を持っていないと不可能ですね。 さらに三つ目ですが、これはちょっと種類の違う問題です。それは、なぜ僕たちだけが普通の人間とは違う記憶を持っているのかということです。普通の人間は消えてしまったインターフェースについての記憶を持っていないらしいですが、なぜか僕たちは持っている。長門さんが世界に存在していたことを知っている。どうしてでしょうね」 「いや、一つ目の謎なら解ったぜ」 俺は思わずにやけた。そうか、そういうことだったのか。 なぜ長門たちが九曜相手にそんな簡単にやられちまったのか。聞いた瞬間ピンときたね。 まず古泉の考え方が間違っているのだ。九曜は長門を相手に真っ向勝負などしていない。真っ向勝負なら長門だって互角か、勢力的にはそれ以上だ。それでも長門や他のインターフェースは抵抗できずに消されちまった。なぜか。 部室で聞いた長門の言葉が蘇る。 ――天蓋領域が、彼らのインターフェースを地球上から退去させた。 ――天蓋領域の持つ力は情報統合思念体とほぼ互角だと判明している。退去の理由をはっきりさせないまま放っておくわけにはいかない。今、情報統合思念体が総力を挙げて天蓋領域の位置特定をしているところ。 そういうことだったのだ。やはり俺の勘は正しかった。長門は簡単にやられちまったんじゃない。敵がどこにいるか解らなくて防御できなかったのだ。九曜が行方をくらましたのもそのためだろう。自分の攻撃を見切られないために、長門たちの死角に回ったのだ。そして不意打ちのごとく奇襲を仕掛け、見事インターフェースたちの存在を消すことに成功した。 そんなところだな。 俺が話してやると、古泉は感嘆したように唸った。 「なるほど。不意打ちですか。確かに充分ありえます。まったく、考える役まで取られたら僕はどうしたらいいんでしょうかね」 「取る気はねえよ。それに俺にも二つ目と三つ目は解らん」 なんで俺らだけが正しい記憶を持っているのかとか、存在を消去するなんて芸当が九曜にできるのか。まず二つ目、存在を消去するということが九曜にできるかだな。 しかし、さすがに手がかりなしで解る問題ではない。できないんじゃねえか? 勘だけどさ。 「同感です」 意外にも古泉が乗ってきた。若干真面目っぽい口調で、 「たとえ話をしますが、朝倉涼子が長門さんと戦って敗れたときがあったでしょう。事実上はカナダに転校したことになっていますね」 その話はあまり思い出したくないのだが。朝倉と聞いただけで鳥肌が立つ。 「申し訳ありません。少しですから辛抱して下さい。ここで浮上する問題は、なぜ朝倉涼子はカナダに転校したなどと、事実をねじまげてややこしいことにしているのかです。もし長門さんが個体の存在を消す能力を持っているのだとしたら、朝倉涼子という存在を消して、そういう人間は最初からいなかったことにすればいいのです。そのほうが安全で、より確実ですしね。周りの人間の記憶にも、最初からいなかったわけですから、朝倉涼子に関することは何も残らないわけです。ちょうど今回の長門さんのようにね。しかしあの時の長門さんがそれをしなかったということは、つまり存在自体を消してしまうのは不可能だったんですよ。だから仕方なく、カナダに転校したということにしてすませたんです。無論、長門さんにできないことが周防九曜にもできないという保証はありませんが、彼女が長門さんと同程度の力を持っていることを考えればできない可能性のほうが高いですよ。どうです、解りましたか?」 …………。 ああ、まあ解ったと言えばそうなのだが、否定するだけ徹底的に否定されてもな。九曜には長門たちの存在を消せないだろうというのは理解したが、じゃあ現に長門が消えてるこの状況は何なんだよ。実は長門はどっかに隠れてるとか、そういうオチか? 「いえ、それはありません。我々の組織が世界中をくまなく調査しました。ですから長門有希という存在が消えていることは事実です。長門さんの消失に直接的または間接的に周防九曜が関わっているということも事実でしょう。しかしそれ以上は解りかねますね。それ以上を推理しようとすると、それはただの予測になってしまいます。何かヒントのようなものでもあればいいのですが……」 古泉がウーロン茶のグラスをかたむけながら俺に流し目を送ってくる。何だよその目は。 「あなたが何かヒントのようなものでも握っているのではないかと思いまして」 何だこいつ、さては知ってるんじゃないのか? 俺はせめて聞こえよがしにため息を吐いてポケットに手をつっこんだ。どうせこいつに見せるために持ってきたのだ。あるだろうと言われてあえて隠すほど俺は幼稚じゃないからな。 「ほらよ」 俺は古泉に例のコピーを手渡した。喜緑さんが書いたと思しき文書である。 古泉はにやりと笑ってコピーに目を通し、俺に出所と作者を言わせた。そのまま教えてやると、古泉は興味深そうな顔をしてあごに手を当てていたが、 「少々お借りするわけにはいきませんかね」 と言い出した。いいぜ。しかしそのパスワードは部室のパソコンのものじゃないみたいだ。起動させたところでロックがかかってるパソコンは一つもなかった。 「了解しました。鋭意努力させていただきますよ。場合によっては、二つ目の謎――周防九曜に存在抹消能力があるか――も解けるかもしれません。僕にはあなたのように涼宮さんをどうにかできる力はありませんから、僕は僕のできることをするまでです」 古泉は宝物を扱うような手つきでコピーをポケットにしまい、 「では、三つ目の謎に移りましょうか」 ふむ。 古泉が提示した三つの謎のうち最後の謎。 なぜ俺や朝比奈さんや古泉だけが、谷口や国木田とは違う記憶を持っているのか。つまり、なぜ俺たちだけが長門有希という人物が存在したことを知っているのか。 そういえば十二月に長門の世界改変があったときも俺だけが正しい記憶を持っていた。しかしあれは違う世界に俺が一人放置されたからであり、今回はどうも世界が違うわけではないらしい。元の正しい世界で条件は一般人と同じはずなのに、なぜか俺たちだけがいないはずの長門の記憶を持っている。 「いくつかの仮説が立てられますね」 古泉は言い、 「一つ目は僕たちが長門さんの近くにいたからという仮説です。長門有希という存在が消されるにともなって他の人間の記憶から長門有希という存在は抹消されたわけですが、長門さんに関する記憶をたくさん持っていた僕たちは、記憶が完全に抹消されずに痕跡が残っているという仮説です」 「それはダメだな。俺と同じくらい長門の記憶を持ってるハルヒは長門のことを完全に忘れちまってるみたいだ。昨日いろいろ話してみたが、ちっとも思い出さなかった。それに後半部分も否定させてもらうが、俺の長門に関する記憶はこれっぽっちも破損してない。痕跡なんかじゃなくてしっかり残ってるんだ」 だから世界のほうが変わっちまったんじゃないかと勘違いしたのだ。木曜日から金曜日になった時点で、俺の記憶は昨日とこれっぽっちも変わっていない。 「ううむ、では二つ目です。次の仮説は、この状態を創り出した人物が何らかの理由で僕たちの記憶だけを操作したのではないかということです。つまり長門さんを消した後に僕たちに長門さんの記憶を埋め込んだという仮説ですね。これは少し現実味があって、たとえばこういう状況下で僕たちはどういった行動を取るかなどというデータを採取するためとかいう理由も考えられます」 確かにそれはありえるかもしれん。どうせあの地球外生命体のことだから、俺たちのことは実験用モルモット程度にしか考えてないに違いない。いつか窮鼠になったとき噛んでやりたいものだが。 「あるいは」 と、古泉は重々しい表情で最後の仮説を口にした。 「これから僕たちの身に何かが起こるという可能性です。最初は僕や朝比奈さんのような能力者たちも統合思念体のインターフェースと一緒に消すつもりだったのが、何らかの事情で失敗してしまった。結果、僕たちは長門さんの記憶を持ったままこの世界にとどまることになった。しかし推理小説で真相を知ってしまった人物が殺されるように、僕たちもまた消されるのを待つ身なのかもしれません」 俺が何か言い返してやろうと模索しているとき、 「こらあーっ!」 耳が痛い黄色い叫び声が大音響でした。 同時刻に居合わせた店の客が何事かとそちらを振り返る。 ああ……。古泉が渋い顔になるのが解ったね。 客の視線を受け止めながらも傲然とこちらに向かって歩いてくるその女、周りの人間はその叫び声が自分に向けられたものでないと解ってさぞかし安堵したことだろう。ただしその中に必ず一人はどんよりしなければならない人間がいるわけで、それが俺と古泉であるのは言うまでもない。 Tシャツとデニム姿で憤然とした顔をしてこっちに歩いてくる女の横には、ワンピースにカーディガンを羽織って顔を赤らめる朝比奈さんの姿を見て取ることができる。俺を見つけると、ゴメンナサイと手を合わせた。 その朝比奈さんを従えるようにして、見物客の興味深そうな視線と下心ある視線を受け止めるそいつは、我がSOS団の団長に他ならないのだった。 * 「何でここにいたのよ」 周りの視線が痛くて非常に居心地が悪いためできれば場所を変えたいのだが、ハルヒがそんなことを聞き入れてくれるわけがなく、俺はただただ平身低頭するのみだった。 どうやら俺の予想通り、朝比奈さんのハルヒ引き留め作戦はまったく長持ちしなかったらしい。それでも時計を見ればもう九時五分なのだから、朝比奈さんにしては無理な敵相手に充分健闘したほうだろうね。 「いや、九時よりも三十分も前に来ちまったんでな。この暑い中で立ってるのも嫌だったから、一緒にいた古泉と涼ませてもらうことにしたんだ。悪かった」 当然ハルヒがそれだけで収まるわけもなく、目を三角形に吊り上げて、 「あたしたちはこの暑い中を五分も待たされてたのよ! ねえ、みくるちゃん?」 「え、ええと……あの、その……」 朝比奈さんはどうしていいか解らないらしい。いやいや俺なら構いませんよ。 「申し訳ありませんでした。副団長として失格ですね」 一方で、白々しいにも程がある言葉を平気で吐いているのは古泉であり、それにハルヒが納得顔でうんうんうなずいているのもなんかむかつく。 「古泉くんはいいのよ。働き者だし、SOS団の発展に大いに貢献してくれてるもんね。一回くらいのミスなら充分許せる範囲よ。けどキョン、あんたは一番古参のくせにいまだに平団員なの。恥ずかしくないの? もっと気を引き締めなさい」 誰に恥ずべきものか。むしろこの珍妙な団体に所属していること自体を恥じるべきなのではないかと思いながら、 「だからすまなかった。謝る。悪かった」 「口だけの謝罪なら受け取らないわ。そんな行動を伴わない謝り方じゃ全然ダメよ」 では他にどうしようがあるかと思い悩む俺にハルヒが言った。 「代償は今日のお昼ですませてあげるわ。今日のお昼、キョンの奢りだから!」 * 私服にエプロン姿の店員がアイスミルクティーを運んできてハルヒの前に置いた。他の二人は俺のサイフを気遣ってか何も注文していないのに。ハルヒ、空気を読め。 「じゃあクジ引きね。いつもみたいに二人と二人のペアで」 ハルヒはストローに口をつけると遠慮知らずに半分ほど一気飲みし、テーブルの容器から楊枝を四本取り出した。ささっと印をつけると俺たちの手元に楊枝をやり、古泉、朝比奈さん、俺の順番で楊枝を引く。最後に残った楊枝はハルヒが持った。楊枝は四本。これだけ。 瞬間、俺は目眩を感じた。 ああくそ、何だこの違和感は。 いや理由なら解っているのだ。 俺の対面にいるはずの誰かがいない。印入りの楊枝を珍しいものでも見るような目でじっと見つめている読書少女が。希薄のようで強い存在感を誇る長門が。まるで、ぽっかりと空いた底なし穴のようだ。決定的に違うのに誰も指摘せず、自分も指摘してはいけないというこのもどかしさ。長門の分を忘れるんじゃねえと叫んでやりたいのに。 「ふうーん。この組み合わせね」 ハルヒの一声で我に返った。 自分の手元にある楊枝を見ると、赤印入りだった。朝比奈さんを見ると無印の楊枝を握っていて、古泉を見ても営業スマイルを崩さないまま無印の楊枝を握っている。四人だから、ということは。 「あんたはあたしとねえ」 ハルヒが楊枝と俺を見比べて不気味に笑っている。 うむ、俺はとことん運に見放されたようだ。いや別に俺がハルヒと一緒だからとかいう意味ではなく、古泉と朝比奈さんが一緒だからという意味でだ。一応釈明しておくが。 「都合がいいじゃないですか」 隣に座っていた古泉が耳打ちしてきた。顔が近い。 「大丈夫ですよ。あのメッセージについては僕と朝比奈さんでよく検討してみます。あなたはどうぞ、涼宮さんとゆっくりなさっててください」 「よく言うぜ。俺がハルヒといてゆっくりできた経験なんて数えるほどしかねえよ」 「数えるだけあれば充分ですよ。僕からすれば、そんな涼宮さんはえらく貴重ですからね。あなたにとってどうなのかは知りませんが」 俺にとっても何も、ハルヒはいつもああなんだろ。傍若無人とか猪突猛進とか、そういう感じの四字熟語で簡単に表現できる。 「さあ。あなたなら彼女の本質を見抜けているものだとばかり思っていたのですがね」 古泉は音もなく笑い、俺はハルヒに目をやった。朝比奈さんに意味もなく抱きついてひいひい言わせている。何が本質だ。 「じゃ、みんなそういうことでいいわね。みくるちゃんも、いい?」 「え? あ、はい」 朝比奈さんはハルヒに無理やりうなずかされ、古泉はイエスマンで、俺にはもともと反対票を投じる権利がなく、よって俺は午前中の間ハルヒと街をぶらぶらする権利もとい義務を負ったのだった。ハルヒは残っていたアイスティーをきれいに飲み干して、 「そうとなったら出発ね! さあみんな、じゃんじゃん不思議を見つけてきなさい!」 俺はそんなハルヒの声をバックに聞きながら、誰も手に取る気配がない伝票へひっそりと手を伸ばした。 * 俺が会計を終えて喫茶店を出たところで朝比奈古泉ペアと別れた。 「まずは服ね」 よくよく考えてみれば、ハルヒと不思議探索を行うのはけっこう稀なことである。ハルヒのチートパワーが無意識のうちに働いているのか、まあ二月頃に八日後から朝比奈さんが来たときには俺のほうから長門に頼み込んでイカサマをやってもらったときもあったわけだが、それにしてもハルヒと二人で市内ぶらぶら歩きを共にしたのは、以外と団員の中で一番少ないかもしれない。 故に俺はハルヒが普段どのような不思議探しっぷりをするのか知らない。当の団長様である。マンホールの中に侵入してUFOの破片を探せとか人気のない神社の裏側で幽霊とツーショットを撮れとか言うのだろうか、とりあえずメジャー運動部並の肉体労働程度は強いられるものだと思っていたが、意外なことにハルヒが俺の手を引いて真っ先に向かったのは駅の近くにある総合デパートだった。 食品、衣料品がメインの大型デパートである。俺が団活動外でもたまに足を運ぶほどの超一般的な場所ということに加えて、この街でもトップ争いに加わるほどメジャーな場所である。いったいここに何があるというのか。 「服よ」 ハルヒは言ってのけ、他の物には目もくれずにエスカレーターで衣料品売場に上がっていった。俺もハルヒの大股に置いて行かれまいとしてエスカレーターに足を乗せる。 到着した先は確かに衣料品売場であった。夏が近いからか、目一杯に広がった店内には水着の類の姿も見受けられる。どうせ俺には縁のないシロモノだな。朝比奈さんか長門あたりに着せてみたい水着ならいくつかあるが。 「おいハルヒ、こんなところに不思議があるのか?」 「あるわよ」 ハルヒは自信満々に答えた。 「最初は裏路地とかマンホールの中とか探してたんだけどね、でもおかしいくらいに何も出てこなかったのよ」 当然である。 「それで閃いたわけ。不思議のほうも、最近はあたしみたいな不思議探索者に見つかるまいとして、あえてマイナーな場所じゃなくてメジャーな場所に来てるんじゃないかってね。だって、見るからに怪しそうなところにいなかったんだもん。消去法的にメジャーなこういうところにいることになるのよ」 「それだったら、不思議は普通の買い物客にも見つけられちまうんじゃないのか?」 「普通の買い物客の目は所詮一般人並よ。あたしみたいな熟練した目を持ってないと不思議なんか見つかりっこないわ」 都合のいいハルヒ的理屈である。マイナーなところにもメジャーなところにもオトモのように従わせてハルヒが身をくっつけている長門や朝比奈さん、古泉が実は不思議の塊だったと気づくのはいつだろうね。 「じゃ、こっからは別行動で。みくるちゃんとかの新しい水着も見ておきたいしね」 と言い残し、ハルヒはさっさとどこかへ消えてしまった。 あいつは何だろう、こんなところで本気で不思議が見つかるものと思っているのだろうか。 いや思ってるはずがないね。目的が服の物色であることは明らかだ。 だったらなぜ不思議探しをするなどと言って休日に俺たちを集めるのか理解できないが、まあそれでいいんだろうよ。そうでなけりゃこんなSOS団とかいうハルヒが探す不思議以上に謎な団体があるわけないし、ありもしない幻想を追い求めるのが涼宮ハルヒという女の定義だからな。いまさら朝比奈さんや古泉の肩書きが一般高校生に戻されても俺を含む全員が困惑するだけだろうし、そう考えると現状維持ってのは大切なものだと思えてくる。何の不可抗力だろうと、長門だろうが朝比奈さんだろうが、たとえ古泉だとしても、団員の誰かが突然いなくなるなんて事態になってもらっちゃ困るんだよ。誰だってそう思うだろ? * 結局さっきの衣料品売場ではボロ雑巾製造器(シャミセンのことだ)に引き裂かれたGジャンの代用品になりそうなものは見つからず、その代わり去年の夏だったか長門が恐ろしく貴重なことに私服だったときのクロスチェックのノースリーブを売っているのを見つけた。だからどうしたという話だが、俺はそこに合わせて長門の小柄な姿がそこにあるような錯覚を受けて、いやもうこれは本当にヤバイのかもしれん。精神疲労が溜まりすぎて視覚情報がぶっ飛んじまってるのだろうか。 ところで、ハルヒは終始まともな女子高生を演じ続けた。話の内容がアレだったことは否めないわけだがデートしてますよと言われればそう見えなくもない状態であり、ついでに俺にはそんな意識などノミほどもなかったことを付け加えておく。 まあ楽しかったさ。 メガネ少年を助けたときに朝比奈さんと食った地下食品売場の団子もハルヒと一緒に食べたりした。不思議探しと名付けられた暇つぶしだ。 「あら、もう時間ね」 他の店を見たりして適当にぶらぶらしているうち二時間はあっという間に過ぎ、ハルヒのその一声で俺たちはデパートの自動ドアをくぐった。 ちょっと意外だった。ハルヒもけっこう常識人並の時間の使い方を知っているものだ、と。 * デパートから出ると俺はハルヒに無意味なダッシュを強要され、それに加えて夏の日差しのが容赦なく照りつけるために駅前に着く頃には全身汗まみれになっていた。そんな状態の俺を出迎えたのはスマイルの古泉と、それに伴われて買い物袋を提げている朝比奈天使である。古泉、てめえ朝比奈さんに寄り添うんじゃねえ。 「何か不思議なものは見つかった?」 訊くハルヒに古泉は苦い顔になって、 「いえ、何も見つかりませんでした。申し訳ありません」 「あっそう」 ハルヒはずいぶんとどうでもよさそうに反応する。 「ま、やってりゃそのうち何かが出てくるわよ。今まで一年やっても出てこなかったんだから持久戦になるかもしれないけど、絶対に諦めちゃダメよ。みくるちゃんも、お茶ばっか買ってるんじゃなくてしっかり不思議を探しなさい」 「え、あ、はい」 いきなり話を振られて動揺する朝比奈さんである。その顔がいつもより若干疲れているように見えるが、それは古泉と一緒だったからという理由ではなく、未来と接続を絶たれたからなんだろうね。俺がどうあがいたところで、朝比奈さんの故郷はあっちらしいからな。 「じゃ、お昼ご飯にしましょ」 ハルヒの一声で、SOS団の面々は駅前からファーストフードへと居場所を移すことになった。俺の財産を慮ってくれたのか知らないが、安上がりの店で助かった。 昼飯を食べている途中、ハルヒは楊枝を取り出してまたチーム分けしようと言い出した。 「また二人二人のペアでいいわよね」 ナポリタンスパゲティをズズズと口に収めると、ハルヒは朝と同じように二本の楊枝に赤印をつけ、俺たちの手元に持ってくる。 「おお」 俺の引いた楊枝には赤印が入っている。そしてどうだろう、向かいに座っている朝比奈さんがぽわっとした感じで見つめているその楊枝にもしっかりと赤印が入っているではないか。当然、残りのハルヒと古泉は無印である。 何ということだ、どこぞの神様が不運の果てに漂着した俺を見かねたのだろうか。 俺が思わずにやけでもしていたのだろうか、ハルヒは朝比奈さんと俺を見比べてペリカンのような口をした。 「ふうん、あんたはみくるちゃんとね。強運なことねえ」 ハルヒは目を細めて俺を見ると、伝票を俺に叩きつけて席を立った。
https://w.atwiki.jp/haruhipsp/pages/17.html
夜にハルヒと会話しSOS会話を発生させさえすれば、失敗しても、次へいける。
https://w.atwiki.jp/zenjanrusaikyou/pages/79.html
【作品名】ハルヒシリーズ 【ジャンル】アニメ 【名前】 涼宮ハルヒ 【属性】 世界の中心 【大きさ】人間並み 【攻撃力】一般的な体育会系女子高生並み&金属バット 【防御力】一般的な女子高生並み(体操着) 【素早さ】一般的な体育会系女子高生並み 【特殊能力】 新しい時空を生み出し、その時空に移動する。 次元断層の隙間に閉鎖空間を生み出す能力の延長線と思われる。 この新しい時空は最初の内は元の時空と繋がりが有るが、極めて入りにくい。 次元断層の隙間の閉鎖空間に入れる能力者が何人も(少なくとも7~8人)全力を振り絞り、 ようやく幻のような存在を一人送り込み、数分の伝言を届けられる程度。 長門有希も干渉を試みたが、新時空のパソコンに文字情報を送り数分間会話するのがやっとだった。 しばらくすると(長くて数時間)、本来の時空間との連結が完全に消滅し、 更にしばらくすると、本来の現実空間が閉鎖空間に変わってしまうらしい。 古泉曰く『世界の破滅』。 これによる勝ち、あるいは『優勢・封印勝ち』を狙う。 現実空間が閉鎖空間に変わるのに掛かる時間は作中の記述から推測して 長くてもせいぜい丸1日程度。現実空間側からは干渉できない。 世界から逃げられる奴なら別世界に退避してドローには持ち込めると思われる。 ……と、考えたいところだが 実際には世界は滅びていないので単なる時空生成能力である可能性がある。 【長所】 とりあえず運動能力は人並み以上。 【短所】たとえ目の前に宇宙人や未来人や異世界人や超能力者がいても気づかない可能性がある。 この能力で世界を破滅させた実績が無い。(能力を使った時点で逃亡負け) 【戦法】殴る 【備考】アニメなら主人公じゃね? 野球大会のやつで参戦 vol.1 306 名前: 格無しさん [sage] 投稿日: 2009/01/07(水) 19 32 36 涼宮ハルヒ考察 能力的に一番下
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/954.html
第 五 章 機関の運営は無事に軌道に乗り始めた。立ち上げは成功したと言える。 俺はハルヒが高校一年の時代に飛び、あらためて歴史を確認してみた。 当然ながら、相変わらずハルヒは進学校に通っていた。 ハルヒの情報爆発から三年が経過している。ハルヒの存在に気づいている連中は、ハルヒの観察役として進学校にエージェントを潜入させているはずだ。 ならばこの歴史での進学校の名簿を調べて、俺の記憶にある北高生と照合すれば、ハルヒの存在に気づいている連中をあぶり出せるかもしれない。 そして俺は機関が入手したそれを見て、ただ呆然としてした。 俺の知る北高の同級生の多くが、この歴史では進学校に通っているという事実を知ったわけだ。 中でも、俺の知る一年五組のクラスメイトたちは圧巻で、およそ三割がこの進学校に、しかもハルヒと同じクラスに入ってやがる。 ハルヒのクラスの名簿には、朝倉を筆頭に、朝倉の相棒だった委員長の榊など、そうそうたるメンバーが名を連ねていた。 やれやれ、こいつら全員どこかの怪しげな組織の構成員だったとはな…… 正直なところ、谷口や国木田、阪中の名前がその名簿になかったことに、俺は安堵した。 あいつらまでもが得体の知れない組織の構成員だったりしたら、俺の疑心暗鬼はトラウマ化して修復不可能となっていただろう。 こうした情報を得られたのは俺としても非常に有益だったが、そろそろ歴史のズレを確認する作業の効率化を図るために、いや手段と目的が入れ替わってるな、高校一年の俺とハルヒを出会わせるためにやらなくてはならないことがある。 ハルヒを北高に入学させなくてはならない。 俺はこの件について考えることをなるべく先送りにしていた。 それはなぜか? 考えれば考えるほど厄介な矛盾がこの命題に含まれているからだ。 ハルヒを北高に入学させるためには、高校一年の俺が当時から三年前の七夕に行き、北高生であるジョン・スミスの存在を中学一年のハルヒに覚えてもらわないといけない。そして、当時の俺はそれを朝比奈さんに依頼により実行した。 だが現在の歴史では未来人組織は発足していない。その証拠に進学校にも北高にも朝比奈さんの姿はないし、その他の未来人らしき人物が機関の報告書に記されることもなかった。 仮に先に未来人組織が発足し、朝比奈さんがこの時代に来たとしても、七夕の歴史がない限りハルヒは北高には行かず、ハルヒの監視員である朝比奈さんも北高に行くことはない。 であれば北高に通う俺が朝比奈さんに出会うこともなく、朝比奈さんに連れられて過去に行くという歴史が発生することはありえない。 つまりはこういうことだ。 ――ハルヒを北高に行かせるためには朝比奈さんが北高に行く必要があり、朝比奈さんを北高に行かせるためにはハルヒが北高に行く必要がある―― 卵が先か、鶏が先か。古泉が好みそうなテーマだったが、あいにく俺はそんなことをあれこれと考えあぐねた末に結局何もしない、というような性分は持ち合わせていない。 俺に与えられた特性は、とにかく行動することだ。俺は俺の信じる道を行く。それでいいんですよね、朝比奈さん。 そういうわけで、俺は朝比奈さんの登場を待たずして、高校生の俺の力も借りず、俺自身がハルヒに会いに行く決心をした。 さて、ここで問題がいくつかある。 ハルヒは俺を北高生だと信じてくれるだろうか。 当然ながらサングラスは外し、髭も剃らなければならない。また生やすのに苦労しそうだな。いっそのこと付け髭でも買っちまうか。 ハルヒに会ったのは午後九時過ぎで、かなり暗がりだった。少し身長は伸びているものの、制服さえ着ればおそらく何とかなるだろう。いや、何とかしないといけないのだが。 そしてもうひとつの問題。 俺は一人でハルヒに会いに行っていいものだろうか。 あのときハルヒは朝比奈さんを背負った俺を見て、怪しい奴だと思ったに違いなかった。だがその怪しさが逆にハルヒの興味を惹いたという可能性だってある。 俺一人だけではハルヒは相手にしてくれないかもしれない。単独の俺は実に平凡な風体だからな。実は俺は人類初のタイムトラベラーという地球の歴史の中でもオンリーワンの属性を有しているのだが。 ならば、俺は誰かを担いでハルヒに会う必要がある。では誰がいいか。 ジョン・スミスと同様、ハルヒはきっと朝比奈さんの人相を明確に覚えてはいまい。 だが、こういう仮説もありうる。ハルヒは、あのとき俺が背負っていた朝比奈さんの姿をおぼろげに覚えていて、それが高校一年の時にSOS団員として朝比奈さんを選ぶきっかけになったのかもしれないと。 ならば、なるべく朝比奈さんに似た人物を選ぶのが無難だろう。 そして俺にはその心当たりがあった。 それは、誰あろう俺の妹だ。妹は成長するに従い、どういうわけか朝比奈さんにとてもよく似た風貌になっていた。 我が家の家系と朝比奈さんに何らかの関係があるのではないかと疑うに充分なほど、妹は朝比奈さんの面影を確かに引き継いでいた。いや、朝比奈さんが妹の面影を引き継いでいると言うのが時系列的には正しいのだろうが。 ハルヒだって不思議がっていたからな。久しぶりに見た妹に思わず「みくるちゃん?」と声をかけるくらいだった。妹自身は失礼なことに朝比奈さんのことをすっかり忘れていたみたいだったが。 よし、シナリオは決まった。 俺は妹が高校生二年の頃に時間移動し、幸いにも北高に通っていた妹の下駄箱にラブレターチックな手紙を放り込み、人気のないところに誘い出した。朝比奈さん(大)が提唱する、タイムトラベラーのスタンダードなコミュニケーションのメソッドだ。 そして待ち合わせ時間丁度にやって来た妹の背後から気づかれないよう近づき、以前朝比奈さん(大)が朝比奈さん(小)にやったのと同じ方法で眠らせた。 その方法とは実に簡単なもので、TPDDの知覚システムを応用し相手の脳内の知覚分野にわずかに刺激を与えるだけだ。なぜそんなことを誰にも教わらずに出来たかって? 古泉ならきっとこう答えるだろう。解ってしまうんだから仕方がない、と。実に便利だな、この言葉。 それにしても、まさか実の妹に誘拐まがいのことをするハメになるとはな。全くやれやれだ。妹よ、悪く思わんでくれ。 妹を背負った俺はすぐさま時間移動をおこなった。俺やハルヒが中学一年のときの七夕。午後九時へ。 移動先は変わり者のメッカ、光陽園駅前公園。 ベンチには当然ながら、二人の朝比奈さんの姿も、高校生の俺の姿もなかった。 あのときと同様、周囲の目をはばかりようもなくはばかりながら、俺は東中に向かった。 到着した校門の前では、俺が知る中学生のハルヒが、俺が知る姿そのままで、今まさに校門を乗り越えようとしていた。 ハルヒに声をかけ、一言二言会話をし、体育用具倉庫の裏に行き、石灰と白線引きをリヤカーに積み、妹を倉庫の横に寝かせた。すまん妹よ、もうしばらく寝ていてくれ。 以前と同じくハルヒに命令されるまま、俺は汗だくになりながらハルヒ考案の宇宙人語を三十分ほどかけて描いた。 「それ北高の制服よね」 俺は高校一年のときより七つも歳を取っていたが、暗がりのせいかハルヒは北高生だと信じてくれたようだ。 そして俺はジョン・スミスと名乗り、ハルヒと別れた。 おっと、忘れていた。慌ててハルヒの後を追う。 「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく!」 これを言っておかないと、SOS団が別の名前になりそうだからな。 これで本当に大丈夫なのだろうか。もしハルヒが北高に行かなかったら、それは俺の魅力が高校生の頃と比べて衰えているということだろう。重ねて言うが、やれやれだ。 俺は元の時空間に戻り、妹を降ろして再び脳内操作をおこなった。あと一分もすれば目を覚ますはずだ。妹からすれば、一瞬気を失っただけと思うだろう。何しろ待ち合わせ時間から一分しか経ってないわけだからな。 機関の報告書に目を通し、俺はやっと一息つくことが出来た。 ついにハルヒは北高に入学した。そして、高校生の俺とハルヒは入学式の日に出会った。 報告書によれば、俺とハルヒは俺の知る歴史どおりに話し出すようにはなったらしいのだが、SOS団は結成されなかった。原因はわからない。 当然ながらハルヒと結婚する歴史にも至らなかった。 朝倉や喜緑さん、他の組織のエージェントたちも北高に現れたが、長門は未だ姿を見せない。 やはり元の歴史に戻すためには、まだまだ既定事項が足りないということだろう。 古泉を北高に送り込むのはいつでも出来るが、それでもおそらくSOS団は結成されないはずだ。古泉が転入する前にSOS団が作られたわけだからな。 ハルヒは、宇宙人、未来人、超能力者、異世界人の出現を待ち望んでいた。異世界人は結局俺も会ったことがないからこの際除外しよう。 つまり、長門、朝比奈さん、古泉が揃うことが、歴史を正しい流れに引き戻すための条件なのだろう。 いよいよ最大の難関である未来人組織発足のきっかけをつくる必要がある。 未来に関する既定事項は五つだ。朝比奈さん(大)はそれを未来への分岐点と呼んでいた。 少年が俺に助けられること。 少年が俺に亀を与えられること。 少年がハルヒの書いた論文を入手すること。 例の住所の住人が記憶媒体を入手し、少年がそれを譲り受けること。 ある未来人の先祖を病院送りにすること。 そしてここでも大きな矛盾が生じる。 高校生の俺が時間移動理論の研究者となる少年を助けたり、亀を与えたりしたのは、やはり朝比奈さんの指示によるものだ。朝比奈さん(小)に連れられて俺は少年を救い、朝比奈さん(大)の指令により俺は亀を川に投げ込んだ。 だが、現時点ではどちらの朝比奈さんもこの時代には現れない。少年が時間移動理論を研究しないと未来人組織が発足することもなく、未来人がこの時代に干渉することはないはずだ。 そして既定事項を順守するならば、少年が時間移動理論の研究に着手するためには高校生の俺が少年に干渉する必要があり、そのためには朝比奈さんが不可欠だ。 またしても堂々巡りである。なんだって朝比奈さんはこんなややこしいことをしてくれたんだ? それとは別の重大な矛盾もあった。 少年が時間移動理論を研究するためには、少年がハルヒの論文を入手し、記憶媒体を例の住所に送る必要がある。 だが、今の歴史上にハルヒの論文は存在しない。まだSOS団さえ結成されていないんだからな。 それにあの記憶媒体はパンジーの花壇に今も落ちているのか? おそらくそれはないだろう。あれは明らかにこの時代のものではなく、未来アイテムだ。 そしてあれが仮にあの敵対未来人組織の憎たらしい野郎がこの年代に持ってきた物だとしても、未来人組織が発足していないこの歴史の流れから考えれば奴がこの時代に現れることもありえない。 これはやはり、七夕の時と同じように俺が無理矢理に歴史の端緒を開かなければならないようだった。 俺はやれることから一つずつ始めることにした。そうさ。夏休みの宿題を最後の一週間になってようやく手をつける、それが俺のやり方なんだ。 ハルヒだったらどうするんだろうな、こういうときは。 そういうわけで、俺はまずは少年を助けることにした。 これはおそらく朝比奈さんがいなくても問題はなかろう。少年にとって朝比奈さんの存在がそれほど重要だとは思えなかったからな。 問題は少年を襲う未来人もいないということだが、それも誰でもいい。とにかく少年が襲われればいいと俺は考えた。 つまり、こういうシナリオだ。俺が機関を使って少年を襲わせ、俺が助ける。要は自作自演だ。 一旦未来人組織が発足する歴史さえ作れば、後は朝比奈さんと、朝比奈さんの敵対未来人が本来の歴史で上書きしてくれるに違いない。そしてその実行部隊として、高校生だった俺に白羽の矢が突き刺さるわけだ。 自業自得とか因果応報とか、そういう四字熟語が今の俺にはふさわしいね。 俺は、俺が高校一年だった頃の冬に飛び、機関本部の森さんのオフィスに足を運んだ。 「詳しい事情は説明出来ませんが、明日の○○時××分頃に、△△の踏み切り前を通りがかる少年を車ではねてもらえませんか」 それを聞いた森さんは、顔色ひとつ変えずに、 「殺しですね」 と即答する。目がマジだ。正直言って、体中の力が抜けそうなくらい怖い。 「いや、心配しなくていいです」 心配しているのは俺の方なんだが。 「結果的には俺が助けることになりますんで」 明らかに不可解そうな顔つきで俺を見た森さんだったが、 「なるほど、何か理由があってのことなのですね」 と、結局のところは納得してくれた。 そして、俺は例の時間の例の場所に行き、少年と車を待った。 たとえ二度目とはいえども、文字どおり一歩間違えれば俺の命だって危ない。 そして少年は現れ、俺は心拍数を五十くらい上げつつも、機関がおそらく臨時で雇ったであろうドライバーに轢かれそうになる少年をなんとか助け出すことが出来た。多少手心を加えるようにと言っておくべきだった。 俺は少年の名を訊ね、朝比奈さんの代わりに少年と約束をし、指きりをした。 やれやれだ。少年よ、すまん。危ない目に遭わせたのも実は俺なんだ。 いや、礼なんか言わなくていい。泣きたくなってくる。 少年が今日のことをハルヒに伝えたとして、誰ひとりとして被害が及ばないことだけが救いだった。 あのときの俺と朝比奈さんの受難は二度と思い出したくもない。 そして、あのときのハルヒの気持ちを考えれば、なおさらだ。 次に手軽に出来そうなのは、朝比奈さん言うところのある未来人の先祖を病院送りにすることだ。 これは一人でいいのか? あのときの朝比奈さん(大)からの指令書には『必ず、朝比奈みくるとともに』と書かれてあった。 あの場所に朝比奈さん(小)が一緒にいたことが、どういう理由で重要だったのだろうか。 俺は推測してみた。気の毒にイタズラにひっかかり病院送りとなった男性は、その後病院で知り合った女性と結婚することになる、と朝比奈さんは言っていた。 あの男性は、俺に向かって朝比奈さんのことを彼女かと尋ね、あのときの俺はそう言っておいた方がいいだろうと判断し、肯定した。 もしかしたら、あのときの俺と朝比奈さんの姿が、その後の男性に何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。 こんな小僧にも彼女がいるのなら俺も頑張らないとな、みたいなことを考えたとしても不思議ではない。 では、誰を連れて行く? 七夕に引き続き、朝比奈さんによく似た俺の妹にご登場願うか? だが、妹を気絶させたまま男性に会わせるというのは明らかに問題だろう。むしろ逆効果としか思えない。 未来の妹に事情を全部話して協力させるというのも悪い手ではないかもしれない。どうせ未来が上書きされてしまえば、妹の記憶はすっかり塗り替えられるだろう。 だが、妹のあの水素原子並みに軽い口のことを考えると、俺とは別の未来の俺が困った状況に遭うのが容易に想像出来る。俺はそこまで自虐的な性格ではない。 事情を話さずに、喜んでつきあってくれそうな女性。鶴屋さんの顔が思い浮かんだ。 イタズラ好きの彼女のことだからきっと二つ返事で協力してくれるだろう。だが、そういうわけにもいかなそうだった。 俺は中学生の頃の鶴屋さんに素顔を見られているが、高校二年になった彼女にもう一度素顔を見られるのはさすがにまずかった。 既に鶴屋さんは北高に入学した俺に会っていて、今の俺とその俺の関係に勘付いているはずだ。 今俺が鶴屋さんに素顔を見せ、あまつさえ北高の制服など着れば、これはもう100%間違いなくジョン・スミス=高校生の俺という公式が成り立ってしまうだろう。 というわけで、俺はまたしても機関を頼り、パートタイマーの女子高生を調達することにした。 その女性とともに夕暮れの歩道に向かい、五寸釘で固定した空き缶を仕掛け、首尾よく男性はそれを蹴って負傷し、めでたく病院送りとなった。 あなたの子孫がどういう未来を作るのか俺にはよく解りませんが、とにかく頑張ってください。俺は病院に向かうタクシーに向けて心の中でエールを飛ばした。 次におこなったのは、亀を川に放り込み、少年に亀を渡すことである。 これも朝比奈さんはおそらく必要あるまい。 俺は鶴屋家の庭の池からなるべく長生きしそうな小亀を探して捕まえ、葉桜の並ぶ遊歩道に行き、少年の前で亀を川に投げ込み、亀を回収し、少年に手渡した。 そして、念のためにではあるが、今日のことは誰にも口外しないようにと言っておいた。 さて、いよいよ残こされた課題は記憶媒体とハルヒの論文だ。 だが、これらを後回しにしていたからといってその間に何かいいアイデアが浮かんだかというと、そういうことは全くなかった。 記憶媒体の入手方法に関しては、まるで見当がつかなかった。俺がこれから未来に飛び、いつどこに存在するかも解らないそれを探し回るというのはどう考えても非現実的だった。 ハルヒの論文にしてもそうだ。あれはそもそもSOS団を恒久的に存続させるためにと書かれたものだったはずで、SOS団なくしてあの論文が生み出されるとは考えられない。 果たして論文と記憶媒体なしで少年は時間移動理論の研究を進めることが出来るのだろうか? これは試す価値がある。ひとまず少年と知り合いになる事実は既に作ってある。 もし失敗したら、あらためて論文と記憶媒体の件を何とかしてからもう一度少年にSTC理論を付与する歴史に塗り替えればいい。 俺は、以前少年にSTC理論を付与した日に移動し、少年を訪ねた。 そして、すぐさまこれはダメだという結論に至った。 前回と同じく、タイムトラベルに関する助力が欲しいと言った俺に、少年はこう答えた。 「タイムトラベルですか? 確かに僕はサイエンスフィクションに興味はありますが。あなたは小説か何かをお書きになるんでしょうか?」 どうやら、俺が少年を助けたこと、亀を投げ込んだこと以上に、ハルヒの論文と記憶媒体は重要な意味を持っているようだった。 だが、いくら考えても結論など出るはずもなかった。こういうときは寝てしまうに限る。そうすれば明日いいアイデアが浮かぶかもしれない。 もしかしたら、また都合よく例の夢を見られるかもしれないしな。 薄暗い。寒気を感じる。 木枠に嵌った窓ガラスの方からぼんやりとした灯りが差す。 夜の学校。見覚えのある部屋。 老朽化した天井。ひび割れた壁。木製の扉。 少ない備品が手狭な部屋を広く感じさせる。 長テーブル。パイプ椅子。本棚。 本棚には、厚手のハードカバーから文庫本までがずらりと並んでいる。 窓の外に目を向ける。 グラウンドの方にわずかに光る何かが見える。 目覚めた俺は、あまりのご都合主義的な展開に苦笑する他なかった。 この夢を見せているのは、やはりハルヒ、お前なのか? 俺は、俺が見る夢を全面的に信じるようになっていた。既に俺は二度も夢に助けられている。 これがハルヒの見せている夢だとしたら、俺にはあの場所に心当たりがある。ならばそこに行くしかない。 時空間座標を真夜中の北高に設定し、移動する。 北高に足を踏み入れるのは五年ぶりくらいにはなる。この歳になっても、夜の学校を一人で歩くのは少々怖い。 俺はあのグラウンドに向かい、しばらく歩き回ってみた。たが期待に反して収穫は何もなかった。 あれはハルヒの見せたものではなくて、普通の夢だったのだろうか。 その日の夜、また同じ夢を見た。 文芸部部室から見える、グラウンド上のおぼろげな光。 やはりこれはただの夢ではない。ハルヒが俺を呼んでいるのか? もう一度夜の学校へと赴いた。だが昨日と同じく何も手がかりは得られない。 そうか。つまり場所だけではダメなんだ。「どこ」だけではなく「いつ」が必要なのだ。 俺は夢の内容をもう一度思い出してみた。 俺は夢の中で寒気を感じていた。ならば季節は冬か? 違う。それは季節を表すものではない。俺はその寒気を既に何度か経験していた。夢の中で、そして現実世界で。 つまりそれは閉鎖空間を暗示しているはずだ。 グラウンド。閉鎖空間。 俺とハルヒの二人だけのモノクロームの世界の中で、俺たちは始めてのキスをした。今でもあの時のことを鮮明に思い出せる。 そして同じくモノクロームの世界、様々な存在の様々な思惑が入り混じったあの空間で、俺たちは二度目のキスをした。 このどちらかの日に違いない。 時空間座標を設定し、俺はあの日、あの時間のあの場所へと飛んだ。 高校一年の五月下旬。ハルヒが最初に世界改変を試みたあの日。午前二時を少し過ぎた頃。 到着するなり、寒気が俺を襲った。間違いない。この歴史でも同じ時間、同じ場所に閉鎖空間が発生している。 グラウンドの中でも最も寒気が顕著な場所を探した。 どうやら古泉たち超能力者は、閉鎖空間の発生には気づいていないようだ。周囲に連絡用エージェントの姿が見えないのがその証拠だ。 つまり、これは俺のためだけに作られた閉鎖空間だということなのか。 しばらく後に、不意に寒気が消えた。 あたりを見回してみる。だが何も変化らしきものはない。 やれやれだ。ため息をついた俺は、ようやく足元にあるそれを発見した。今さっきまでは存在しなかった、薄茶色の封筒。 B4サイズのその封筒を開いた。 そこには、この歴史では決して存在するはずのない、あの日俺たちが作り上げた文芸部機関紙と、パンジーの花壇に落ちていた記憶媒体が入っていた。 ハルヒ、お前は別次元の世界から俺にこれを送ってくれたのか? 俺は文芸部機関紙の中から『世界を大いに盛り上げるためのその一・明日に向かう方程式覚え書き』と題されたハルヒの論文だけを抜粋し、匿名で少年に送った。同じく記憶媒体を手帳に書かれてあった住所に、やはり匿名で送った。 これで後は少年に再び会えば、前と同じシチュエーションで少年にSTC理論を付与出来るはずだ。 俺は少年にSTC理論を付与した日、時間に移動した。 体が揺れる感覚の後、その時代に到着した俺は、眼前に立っている人物を見て唖然とした。 目の前にいたのは、もう一人の俺だった。 なるほど、そうか。こいつは数日前に少年にSTC理論を付与しようとして失敗した俺だ。 つまり、今の俺がわざわざもう一度ここに赴かなくても、目の前の俺が少年に会ってSTC理論を付与してくれるわけだ。 だったら、もしこいつが今これから少年へのSTC理論の付与に成功した場合、こいつはハルヒの夢を見るのだろうか? 文芸部機関紙と記憶媒体を得る未来は生まれるのだろうか? 嫌な予感が頭をよぎった俺は、慌てて目の前の俺に声をかけ制止した。 振り返ったそいつは、当然のように唖然としている。当たり前だ。俺だってさっき同じように驚いたんだからな。 俺は初めて時間移動をおこなったときに、一分後の俺、一分前の俺と会ったことがある。その時は何が起こっているのかをすぐに理解出来た。 だが今回は違う。お互い、まさか自分が現れるなんて夢にも思っていなかった。目の前の俺もこの俺も。 俺は数日前の俺の迂闊な行動を後悔した。 「お前は誰だ」 「見てのとおり、俺はお前だ。未来の俺だ。ここはまずい。場所を変えよう」 「先にわけを話してもらおうか」 我ながら面倒な性格の奴だ。 「こんなところを人に見られたらまずい。とにかく移動が先だ」 過去の俺は渋々ながら承諾し、俺たちは人気のない場所を探して、近くの路地に移動した。 「俺はお前がいた時間より少し未来から来た。確か三日後だ」 時間移動を頻繁に繰り返すと、日時の感覚が著しく麻痺する。三日後で合ってるよな? 「何のために来たんだ?」 「三日前の俺は、彼にSTC理論を与えるためにここにやってきた。それが今のお前だ。これは解るか?」 「ああ」 「そしてその試みは失敗に終わる。少年に『SF小説でも書くんですか?』とか言われてな」 「散々な結果だな」 「全くだ。それで俺はその後ある方法でハルヒの論文と記憶媒体を手に入れた」 「何だと? お前、一体どうやってそれを手に入れたんだ」 「教えてやりたいが、それを言うと俺の歴史とお前の歴史に食い違いが起こるかもしれん。だから言えん。今こうして俺とお前が話しているだけでも既に食い違いは起こっているんだからな」 「やれやれ、全く面倒くさい話だな」 「全くだ」 二人の俺は同時に肩を竦めた。息もぴったりだ。当たり前だがな。 「それで、俺はこれから彼に再度STC理論を与えに行くところだったんだ。だが俺は過去の俺、つまりお前の存在をすっかり忘れていたというわけだ」 「なるほど話は解った。ならば俺はこのまま元の時間に戻り、ハルヒの論文と記憶媒体を探せばいいということだな」 「そう言うことだ。あまり考えすぎなくていい。果報は寝て待てだ。これ以上詳しいことは言えん」 「未来の俺がそう言うんなら、そうなんだろうな。覚えておくよ。じゃあな」 過去の俺は立ち去ろうとして、しばらくして立ち止まり、少し考えた様子を見せて振り返り、そしてこう言った。 「ということはだな。俺たちは前に七夕に行ってハルヒに会ったり、少年を助けたり亀を与えたり、色々したよな」 「ああ」 そこまで聞いて、俺はこいつの言いたいことが解った気がした。 「つまりは俺たちが元の既定事項と違う行動を取っている、例えば高校生の頃の俺たちの行動を肩代わりしているようなケースは、全て今回と似たようなことが起こるということか」 予想は当たっていた。確かにそのとおりだ。 「やれやれだな」 「やれやれだ」 二人の俺は同時に首を振った。息もぴったりだ。当たり前だ。そんなことはどうでもいい。 これから先のことを考えると正直なところ頭が痛かった。 こうして俺は、過去の俺にご退場願い、少年の元に向い、無事に少年にSTC理論を付与することが出来た。 ハルヒと結婚する事実のないこの歴史では、以前のシナリオとは多少異なる点はあったものの、幸いなことにハルヒが死ぬことを防ぐという俺の意向に少年は全面的に賛同してくれた。 おそらくこれで未来人組織発足のきっかけは生まれたはずだ。 俺は高校一年の頃の時代に飛び、機関作成の名簿を調べてみた。 二年の朝比奈さんがいたクラス。 だが、予想に反して朝比奈みくるの名は見当たらなかった。 おかしい、まだ未来人組織は発足していないのか? 他のクラスも調べてみた。それは一瞬で完了する。名簿の先頭の方だけ見ればいいわけだからな。 やはり朝比奈みくるの名はどこにも記されていなかった。 それからしばらく後の機関の報告書に、未来人という単語が載るようになった。 それには「二年×組の生徒で、言動に不審のある生徒を確認。その内容から未来人の可能性あり。現時点では確証なし。詳細要調査」と書かれてあった。 名前は書かれていない。 俺は森さんに問い合わせ、内容を確認した。 「彼女は一年の時から既に北高に入学していたらしく、時おり言動がおかしい、現代人なら誰もが常識として知っているはずのことを知らない、などの特徴が見られるとのことです」 俺は朝比奈さんを思い出していた。そうだよな、あの人はそういうそそっかしいところがあったよな。 「そいつの名前を教えてもらっていいですか」 「本来はまだ名前をお伝えすることは出来ないんです。敵対組織のダミー工作員の可能性がありまして。つまりいかにも未来人のような言動をとることで我々の反応を見るために送られた他組織のエージェントかもしれないということです」 全く森さんも色々と考えているもんだ。いや、実際に北高ではそのような謀略戦が繰り広げられているのかもしれない。 「ですので、これは他言無用ということでお願いします」 そして、俺はその名を聞いた。やはりそれは全く別人の名前であった。 「写真を入手出来ますか。確認しておきたいのですが」 もしかしたら、名前だけ以前と異なってはいるが、実は俺の知る朝比奈さんが来ているのかもしれない、と思ったからだ。 「私の手元には既に送られています。これも機密扱いでお願いします。確認後速やかに消去してください」 「もちろんです」 電子メールですぐさまそれは送られてきた。 添付ファイルを開いてみる。 パソコンのディスプレイには、まさに朝比奈さんとは全く似ても似つかない女性が映し出されていた。 その後の機関の調査で、その女性は間違いなく未来人だという結論に達した。 つまり未来人組織は確かに発足したのだ。そして朝比奈さんがいないこの歴史では未だにSOS団は結成されない。 なぜ朝比奈さんは来てくれないんだ? 俺は未来人に関係する既定事項を洗いなおしてみた。 少年に関係することはおそらく問題ないはずだ。実際に未来人組織は立ち上がっている。 記憶媒体に関しても正しい住所に送り、めぐり巡って少年に届いていた。あの媒体と朝比奈さんに関連性があるようには思えない。 その二つは俺の取った行動とその結果の因果関係が明らかだった。 だとすれば、残っているのはあのイタズラで怪我をした男性だ。 彼を病院送りにしたことがどう未来に影響しているのかを見極める必要がある。朝比奈さんは言っていた。彼は病院で女性と出会い、子供をもうけ、その子供はさらに子孫を残すと。 男性の子孫と朝比奈さんに何か関係があるのかもしれない。もしかしたら朝比奈さんが彼の子孫そのものなのだろうか。 俺は男性の系譜を追い始めた。 まず俺は怪我をさせた男性の病院に飛んだ。男性は朝比奈さんが言ったとおり、病院で女性と知り合った。 男性が退院するタイミングを見計らい、俺は空間移動を使いながら男性を尾行し、住所をつきとめた。 男性はその二年後、知り合った女性と結婚した。予定どおりだ。 ここで少し油断した。結婚後しばらくして二人は別の場所に住居を構えた。慌てて転居先を探す。頼むからあまり引越しはしないでくれよ。 その住所を元に、数年おきに住民票を入手する。それで家族構成はほぼ解った。 男性は結婚後一年で女の子を、五年後に男の子をもうけた。それ以降はどうやら子供は生まれていないようだった。 俺は今後の調査方法を考えた。 結局男性の家族構成を調べるのにほぼ一日かかった。彼の子供は二人だ。その二人はおそらくやがて結婚し子供をもうける。その子供が二人ずつだとすると、三代目の調査対象は四人になる。仮に子孫が二倍ずつ増えていくとしよう。この法則でいけば、五代目では十六人、十代目では五百十二人になる。二十代先まで追えば、実に524288人となる。系譜を追うに従い調査対象は等比数列的に増え続ける。 524288人を調べるとなると、一人を調べるのに一日かけたとしても1436年かかる計算になる。明らかに俺一人では不可能だ。 文字通りネズミ講だな。いやそれは失礼な例えだった。人間はそれほど多産ではない。これがひと昔前であれば、子供を五人くらい産むのも当たり前のことだろう。俺は少子化をこれほどありがたいと思ったことはなかった。本来ならありがたがる話ではないし、未来でも少子化傾向が続いているという確約もないが。 だが俺はおそらくそれほど先の代まで調べる必要はないだろうと踏んでいた。 なぜなら朝比奈さんたち未来人は、彼女たちの時代に生きるある人物の先祖があの怪我をさせた男性だということに行き着いたからだ。 その人物の親というのは必ず二人、その親二人の親も間違いなく二人ずつだ。一切の例外はない。ならば未来から過去の系譜を追うのも、過去から未来の系譜を追うのも共に等比数列に違いなく、同じだけの労力がかかるはずだ。 未来人組織がのべ1436年もかかる調査をするとは思えなかった。朝比奈さんは俺の生涯を調べることですら大変な作業だったと述懐していたからな。 考えていても仕方がない。俺は俺の直感に従いただ行動するのみだ。 十代目まで系譜を追ったとしても一年半はかかる計算になる。だが俺にはこれ以外に、朝比奈さんが俺たちの時代に来るための手がかりを得る方法は思いつかなかった。 俺は機関の運営に関する仕事の合間を使って調査を続けた。 住民票を調べる手は二代先あたりで使えなくなった。役所での個人情報保護が厳密になり、第三者がそれを閲覧することが極めて困難になっていたのだ。 調査の効率化のために郵便物の盗み見もしたが、この手もやはりしばらくすると使えなくなった。ほとんどの郵便物が電子メールに置き換わったらしかった。 そういうわけで調査の手段は住居の張り込みのみとなった。 ここで具体的な張り込みの方法を紹介しよう。 人は子供を作る場合もあれば作らない場合もある。結婚していようがしていまいが。 大体の場合、女性は二十歳から四十歳の間に出産するが、念のため十六歳から五十歳までを調査範囲とする。 その三十五年間をだいたい四ヶ月置きくらいに飛んで子供の有無を調べるわけだ。つまり一人あたりおよそ百回だ。 住居をしばらく張っていれば、母親の出かける時間が解るようになる。主にその時間を中心に張り込みをおこなう。 規則正しい生活を送っている人とそうでない人で多少ブレが生じるが、だいたい一回の張り込みに平均十分かかると思ってもらいたい。 つまり、一世帯の家系を調べるのに千分。およそ十七時間かかるということだ。 母親が妊娠したかどうかはお腹を見れば解る。お腹の状態で出産の予定日の予想を立てる。そんなに厳密に調査しなくても、二年置きくらいで大丈夫だろうって? だが、生まれてまもなく養子に出されるケースだってあるかもしれない。だから俺は正確に出産日を見定めることにした。 出産の際には病院に行くことも欠かさない。万一双子が生まれて片方が出産後すぐに養子に出されでもすれば、四ヶ月置きの張り込みだけではまずそれを知ることは出来ない。 俺はお腹の状態から出産予定日を判断するという、おそらく産婦人科医並の技能を身につけ、他の誰よりもこの男性の系譜について詳しくなった。 この調査方法はあくまでも女性の場合であり、男性の場合は生殖機能が衰えない限り調査範囲は女性に比べて飛躍的に増大する。 その気になれば六十、七十歳くらいでも充分子供を作ることが出来そうだからな。 これは大変な作業だった。ある者は離婚して別の家庭をつくり、ある者は妻以外の女性に子供を産ませた。 その度に増え続ける調査対象に俺は頭を抱え、自らの運命を呪いながらひたすら張り込みを続けた。 調査日数がのべ九ヶ月間に差し掛かり、調査結果の書き込まれた家系図が畳一枚分ほどの大きさになった頃にそれは起こった。 いつものように張り込みをしていた俺は、ある日異変に気づいた。 それは彼の八代先の子孫のひとりで男性だった。その男性が二十台後半の頃のことで、彼には妻も子もいなかった。 そいつが住居に戻らなくなった。やがてそこには別の人物が住み着くようになった。 引越しでもしやがったか? くそっ、どこに行きやがった。 俺は時間を絞り込み、引越しの瞬間を探した。 だが彼がいなくなってからしばらく張り込みをしたが荷物が運び出された形跡はなかった。 これはひょっとして失踪ってやつか? 俺は彼を最後に見かけた時間に戻った。彼を張り込んでいる少し過去の俺には見つからないように離れた場所へ。また面倒な説明をする気にはなれなかったからな。 首尾よく彼の姿を見つけた俺は尾行を開始した。 しばらく尾行を続けた俺は、まずいことになったな、ということに気づいた。 どうやら尾行がバレているらしい。 彼は周囲を見渡しながら何かを探すような歩き方を装い、同じ道を別の方向から二度通った。 俺がそれに気づいたのは、二度目にその道から大通りに出た時だった。 俺は直ちに尾行を中止した。 俺の張り込みは四ヶ月に一度だ。ならば、張り込みの事実まではおそらく気づかれてはいまい。 俺はおよそ一年前に戻り、再び彼を尾行した。 だが驚くべきことに、彼は前回と同じ歩き方で、別のルートではあったが二度同じ道を通ったのだった。 これは気づかれているのではないかもしれない。つまり彼には常に尾行を意識して生活をしなくてはならない理由があるということだ。 俺は手ごろな建物の屋上を探し、しばらくの間遠くから彼を観察することにした。 彼は毎日決まった時間に住居を出て、毎日異なる何パターンかのルートを通ったあとオフィスビルに入り、夕刻頃そのビルから朝のルートを逆行し、どこにも寄り道することなく住居に戻っていった。 このままでは進展はない。俺は四ヶ月先の彼を最後に見た日、つまり俺が途中で尾行を断念した日に戻り、意を決してビルに入ることにした。ここで調査を諦めるわけにはいかなかった。 何か危険な状況に立たされたとしても、俺には時間移動という武器がある。 あらかじめビルに入り待機する。彼がやってきた。一人でエレベータに乗る。同乗するわけにはいかない。エレベータの行き先表示を確認する。エレベータは四階で止まり、そして一階まで戻ってきて一人が降りた。四階には三つの会社がオフィスを構えていた。ならば彼はこのうちのどれかに勤めているのだろう。 俺は彼がエレベータから降りる少し前の四階に時間移動し、非常階段の踊り場に隠れ、彼を待ち伏せることにした。 エレベータが開いた。 おかしい。誰も降りてこない。 なぜだ? 後ろから肩を叩かれた。 そこには俺がさっきまで追っていた、エレベータに乗っているはずの男性が立っていた。 「なぜ俺を追っている」 やっと理解した。こいつはTPDDを持っている。俺は待ち伏せするつもりでこいつに待ち伏せされたんだ。 男性は微妙に口の端を歪めた。笑みとも不満とも取れる。 「お前、まさか能力者か? だがそれならなぜこんな尾行の仕方をする。まるで素人だ」 確かに尾行に関して俺は全くの素人だった。 「お前は何者だ。俺が知らない以上、少なくとも仲間ではないようだが」 「俺はあなたの敵ではありません。TPDDを持っているのは確かですが」 「待て」 男性の顔に明らかな困惑の色が滲み出ていた。 「お前、なぜ禁則がかかっていない? たとえ奴らの組織であろうとTPDDという単語を発せられる能力者はほとんどいないはずだ」 「なぜと言われても説明出来ません。俺にはもともと禁則事項が具体的にどういうものかもよく知りませんし」 「詳しい話を聞かせてもらおうか」 ここで俺は時間移動で逃亡することも出来たが、それでは調査は進展しない。それにこの男性が何らかの鍵になっているのはおそらく間違いないだろうと思えた。ここは素直に従ったほうがいい。 俺と男性はビルを出て近くの公園に行った。 男性は周囲に人の気配がないことを確認し、さらに手を耳に押し当て何かを確認するかのような仕草をした後、ようやく話し始めた。 「君は一体何者だ」 「詳しくは話せませんが、俺は過去から来ました」 「過去?」 「ええ。ここよりおよそ二百年前です」 「二百年前だと!?」 男性の困惑がさらに色濃くなった。 「俺の知る限りTPDDを最初に得ることの出来た人物が現れたのはおよそ六十年前だ。今までにTPDDを得た人間というのはほぼ例外なく俺たちの組織にプロフィールが残っている。 今のところ、それが敵対組織の人間であってもだ。そのリストに間違いがなければ、今までにTPDDを得られた人物はわずか三十七人。そして俺たちのような能力者はそれらの人物を全て記憶している。その人物の幼少期から老年期の姿まで全てだ。だがそのリストには君は含まれていない。これはどういうことだ?」 どうやら、STC理論を与えたときに少年が危惧していたような、誰もが時間移動の存在を知るような危なっかしい未来にはなっていないようだった。 俺はなるべく正直に話すことにした。 突発的にTPDDを得たこと、少年にSTC理論を付与したこと、おそらくそれが源流となって今この時代にTPDDが伝わっているであろうこと。 少年の名前を聞き男性は頷いてみせた。俺への猜疑心が少しは薄らいだのだろうか。 「仮に君が二百年前の人間だとして、何のためにこの時代にやってきた」 「ある女性を探しています」 「女性? それは君とどういう関係があるんだ?」 「名前は朝比奈みくると言います。ご存知ないですか? その女性もあなたの言う能力者ということになります。彼女はあなたの組織に所属していて、俺たちの時代に来るはずです」 朝比奈さんがこの男性の先祖を知っているということは、おそらく同じ組織の人間のはずだ。 「なるほど。その名に覚えはないが、つまりあの計画と関係があるということか。辻褄は合う」 「計画……ですか?」 「俺たちの組織は今から二年前に過去の事象を観測するシステムを作り上げた。それまでは過去を知るためにはTPDDを持つものが過去に赴き、駐在して調査する必要があった。まあ今でも詳細の史実を調べるには駐在員を送る必要があるんだがな。俺たちはそのシステムにより、今からおよそ二百年前に起こった大規模な時空振動を検出した。それの調査のために俺たちは新たに能力者を開拓し、過去に送り込むことが必要になったんだ」 なるほど、この時代でようやくハルヒの時空振動を発見したらしい。そしてその調査要員に朝比奈さんが含まれていたということなのだろう。 「それを実現するためには、俺たちには新たなスポンサーが必要だった。そしてそれは実に厳正に選ばれた。何しろ俺たちの組織の存在と活動内容は機密中の機密で、それはいかなる権力にも知られてはいけないことだった。だが、結局のところそのスポンサー筋から極一部の人間に情報が漏れ、俺たちとは違う別の能力者組織が生み出された」 それがあの朝比奈さんを誘拐した野郎や、閉鎖空間に現れた敵対未来人の連中なんだろうな。 「俺たちの組織は原則として歴史、これは我々の用語で既定事項と言うのだが、それを遵守したうえで過去の歴史を調査しそれに学ぶことに重きをおいている。だが敵対組織はこの時代の人類に都合のよい歴史を作るために能力を活用しようとしている。言い換えれば、俺たちは歴史の歪みを生み出さずにより良い未来を作ることを目標にし、奴らは歴史の歪みを大きくすることでそれを実現しようとしている。どちらが人類にとって正しい選択なのかは正直なところ俺にも解らない。解っているのは俺たちと奴らの、既定事項に関する考え方が明確に異なっていることだけだ。とは言え、我々と彼らには共通して守らなければならないことがある。それが禁則だ」 「禁則とは結局どういうものなんですか」 俺は今まで漠然と抱いていた疑問を正直に訊ねた。 「突き詰めて言えば、あらゆる人間に対して未来に至る既定事項の秘密を守る、ということに尽きる。過去から未来を守るために重要なことだ。つまり俺たちと奴らの組織は、同じ未来人という点で、禁則に関しては共通認識が出来上がっている。禁則を破るということは、お互いの組織の目的とは別の次元で絶対にあってはならないことだ。禁則を破ることで未来に生じる影響は誰にも正確な予想は出来ない。だから時間平面移動の研究は能力者のコントロール方法と一体で進められてきた。言わば核兵器以上に慎重な扱いをしなければならないものだ」 随分と物騒な話になってきた。 「禁則は我々のような能力者にとっては絶対に破ってはならない不可侵な領域なんだ。そういう理由で、禁則が適用されない能力者は一人の例外もなく存在しない。あらためて問う。君は一体何者なんだ?」 「それは申し訳ないですが言えません。何となく言わない方が良いような気がしますので」 「なるほど。未来人であれ過去人であれ、必要以上の情報を得ることが必ずしも正しいこととは言えないからな。それに君が言いたくないのならば俺たちにそれを強要する術はない。仮に俺たちが君を拘束したとしても、君は時間移動によりいつでもその状況から抜け出せるわけだからな。俺がそうであるように」 男性は心なしか楽しげな表情を見せた。 「だが、あといくつか質問させてくれ。答えてくれなくても構わない」 「解りました」 「君はどうやって俺に辿り着いた? この時代でも俺が能力者だということを知るものは数える程しかいない」 「あなたの先祖からの系譜を追ってここまで来ました」 「なるほど。つまり君が過去で出会った未来人が俺の先祖に関して何らかの情報を残したということだな。それは解った。もうひとつの質問だがいいか?」 「ええ」 「大体でいい。君の出身地はどこだ?」 俺はその問いに正確に答えた。一体何の意味があるのだろう。 だが、俺の答えに男性は深く頷いた。 「TPDDは限られた人間にのみそれを得る素養がある。そしてそれはある地域にルーツを持つ人間に限られるんだ。そう、君が生まれた地域だ。時間平面理論の研究もその場所から始まった。現段階ではその理由は我々には一切解らないがな。そして今回発見した時空振動もどうやらその周辺で発生したものらしい」 ハルヒは機関に所属する超能力者だけでなく、TPDDを得る能力者も地域限定で生み出していたということか。まあ世界中にそういう連中が拡散しているよりはよほどマシとは言えるが。 「今日君に会ったことは俺の胸の内にしまっておくことにする。いつかの時代の誰かが、禁則を破ってまで君に俺の先祖を教えたことにはきっと何か理由があるんだろう。俺にだって未知の未来を信じてみたいという気持ちはまだ残っているからな。もし俺に連絡を取りたい時はこの時空間座標に来てくれ。二度目以降に来る場合は同じ時間に日を変えて」 そう言って彼は人差し指を俺に向けた。俺はなんとなくそうするのがいいように思い、以前、朝比奈さんがしたように自分の手を差し出した。彼が俺の手の甲を人差し指で触れた瞬間に俺の頭の中に時空間座標が飛び込んできた。 彼は笑みを浮かべながら言った。 「やはりダメか」 何のことだ? 「君はやはり何も知らないんだな。そして君が言っていたことがおそらく全て真実だということをこれで確信した」 「どういうことです?」 「俺は敵対組織も含めた全能力者の中でも最高位のコードを持っている。禁則の制限というのは実に簡単に設定出来るものでね。今のやりとりの中で俺は禁則制限を設定する命令コードを君の脳内に送ったんだ。そしてそれは何の効力も発揮しなかった。君は本当に我々とは全く別の方法でTPDDを手に入れた存在だということが解ったよ」 油断も隙もないな、全く。だが俺はさっきの彼の話を聞いて、少しくらいは禁則に縛られていた方が良いような気にもなっていた。自分が歩く人間核兵器以上の存在なんていうのは、それはそれで困るからな。 「ははっ。だまし討ちのようなことをして済まなかった。だがこれはどうしても確かめておく必要があったことでね。では俺はここで失礼するよ。また会える日を楽しみにしている」 そう言って彼は元いたビルの方に去っていった。 その後も引き続き、怪我をさせた男性の系譜を引き続き調べたが、朝比奈さんに関係する人物は現れなかった。 ひとつ手がかりを得てひとつ手がかりを失った。 あの未来人組織の男性の口ぶりでは、ハルヒによる時空振動の調査が近く開始されることになるようだ。 ならば朝比奈さんもおそらく彼と同じ年代にいるはずだった。 俺は賭けに出ることにした。失敗すれば俺は数ヶ月間を無駄にすることになる。だが他に手がかりになりそうなことはなかった。 あの未来人の男性は言った。能力者のルーツは俺の住む地域にあると。 そして、朝比奈さんと俺の妹の間には何らかの関係があるはずだ。 俺は、妹の系譜が鍵を握っているかもしれないと考え、再び調査を開始した。 まさか自分の実家を張り込みすることになるとは夢にも思わなかった。実に不思議な気分だ。 そこには、以前見たのと同じように、ハルヒと結婚する歴史には至らず、ようやく就職先が決まったのか毎日不満げな表情で家を出る俺の姿があった。繰り返して言うが、俺はこんな未来には全く興味はない。 そして妹は朝比奈さんチックな雰囲気をそのまま残して成長していった。 妹は二十四歳のとき、柔和で見るからに面倒見のよさそうな男性と結婚した。兄の俺から見てもベストマッチングだと思える。 そしてその二年後、妹は俺の姪となる女の子を産んだ。 そこから男性の時と同じ方法で系譜を追っていった。 おそらく朝比奈さんが現れるとしたら、それは七代目から九代目あたりになるだろう。だがそこに辿り着くためにはやはり丹念に二代目からひとつずつ代を追っていくしかない。 機関の運営の方は既に俺がいなくてもほぼ問題ない状態になっており、俺はこちらの調査に没頭した。 そして、やはり数ヶ月の歳月を費やし、二枚目の家系図が畳一枚分になろうかという頃、俺はようやく朝比奈さんらしき人物を発見したのだった。 妹の九代目の子孫にあたるその少女が朝比奈さんではないかと気づいたのは、彼女が五歳になる頃だった。名前も朝比奈みくるではなかった。そもそもそれが本名だとは思っちゃいなかったが。 その彼女は、幼かった頃の俺の妹にとてもよく似ていたのだ。 俺は彼女を重点的に張り込むことにした。彼女が朝比奈さんだという確証が欲しい。 家の外からでしかうかがい知ることは出来なかったが、とても幸福そうな家庭だった。生活は決して裕福とは言えなかったが、両親も彼女も笑顔が絶えなかった。 だが、しばらく張り込みを続けた俺は、彼女の過酷な運命を知ることとなった。突然の不幸が彼女の家庭を襲った。 彼女が六歳のとき父親が事故で他界し、後を追うようにしてその数ヵ月後に母親が病死したのだ。 身寄りがなかった彼女は――彼女の両親は駆け落ち同様の状態で結婚し彼女を生んでいた。 身寄りがないのは系譜を調査していた俺が一番よく知っている――孤児院に入った。 彼女にとって孤児院での生活は辛いものだった。気の弱い彼女は新しい生活にあまりなじめなかった。 何よりも両親の死のショックがずっと残っていた。塞ぎがちで、独り隠れて泣いている姿をよく見かけた。 俺は孤児院を十日おきに三ヶ月ほど張っていた。突然彼女の姿が見えなくなった。どこかに引き取られたのだろうか。だがそう簡単に引き取り手が見つかるようには思えなかった。 張り込む日と時間を変え、彼女がいなくなった日を探し続ける。 放射冷却のために大気が冷え込んでいた冬のある日。見つけた。真夜中に一人孤児院を抜け出す少女。俺は後を追った。 彼女は部屋着のままで、力なく足元を見つめながらゆっくりと歩を進めていた。明らかに様子がおかしい。 しばらく歩いた彼女が着いた先は、孤児院近くの川べりだった。視線を川の流れに落としたまま動かない。 嫌な予感がした。こういうのはよく当たるんだ。 そして俺の予感どおり、彼女は一歩ずつ、ゆっくりと川に向かって歩きだした。 「なんてことしやがる!」 俺は叫びながら、全速力で彼女に駆け寄った。俺に気づいた彼女が急ぎ足になる。どんどん川に入っていく。足をもつれさせ、転んだ少女が川の流れに飲まれた。 一心不乱に彼女を追う。意外に水流が速かった。このまま川に入っては間に合わない。俺はしばらく岸を下流に向かって走り、彼女を待ち構えるようにして川に入った。 水深も案外深かった。腰のあたりまで水に浸かったところで、彼女に手を伸ばす。かろうじて手が届いた。意識を失っていた少女を川から引っ張り上げ、岸まで運んだ。 どうやら水は飲んでいない。呼吸も脈もあった。ショックで気を失っただけのようだ。しかしこのままでは肺炎にもなりかねない。急いで少女の上着を脱がせ、体を拭き、俺の上着で包んだ。 そして俺はそれを発見した。 やっと見つけた。この少女が間違いなく朝比奈さんだ。 少女の左胸にそれが確かにあった。俺が以前見たものよりも小さい、微かな星形のホクロが。 一体誰がこんな運命を仕組んだというのか。 もし成長した妹が朝比奈さんに似ていなくて、そしてこの朝比奈さんが幼い頃の妹に似ていなければ、俺はこの朝比奈さんを救うことは絶対に出来なかった。 しばらくして意識を取り戻した幼い朝比奈さんは、泣きじゃくりながら俺に訴えた。 「わたし……お父さんとお母さんのところに……行きたかったの……」 今まで見た朝比奈さんの涙の中でも最も悲痛なものだった。 「あなたは誰? わたし……お父さんとお母さんのそばに行くことも……できないの?」 掛ける言葉が見つからなかった。いつまでも泣き続ける朝比奈さんを俺は力一杯抱きしめた。そうするのが一番いいと思ったから。 俺の胸の中で肩を震わせる朝比奈さんに、俺はやっとの思いでこう告げた。 「君は今ここで死ぬべきじゃない。君はいずれきっと幸せになる。だからがんばって生きてくれ」 泣き疲れたのか、朝比奈さんはいつの間にか眠っていた。 俺は彼女を孤児院まで運び、玄関の前に座らせた。濡れていない俺の衣服で彼女を丁寧に包んだあと、孤児院の呼び出しベルを鳴らし、明かりが点いたのを確認して時間移動した。 これも俺の知ることのなかった既定事項なんだろうか。もしそうでないのなら、俺はまたひとつ歴史を変えてしまったことになる。 だが、誰かが俺の行動を非難するというのならば、俺はそれを真っ向から受けて立ってやる。人一人助けられない規定事項など糞食らえだ。 朝比奈さんの人生がこんな悲しい結末を迎えるような未来が存在してたまるものか。それを変えることに何をためらう必要があるというのか。 俺は未来人組織の彼が指定した時空間座標に飛んだ。朝比奈さんを助けた日からおよそ二年後の未来だ。 「前に言っていた女性がようやく見つかりました」 俺は朝比奈さんのことを伝えた。身寄りがなく孤児院にいること。すぐにでも能力者として彼女を引き取り、迎えてやってくれないかと。 「もしその女性が本当に能力者の資質を持っているのであれば、それはこちらとしても誠にありがたいことだ。今の状況では俺たちには一人でも多くの能力者が必要だからな。それにいずれ君たちの時代に行くことになると言うのならばなおさらだろう」 「それを聞いて安心しました。彼女は少し粗忽なところもありますが、努力家なのは俺が保障します。そしていずれは俺たちの時代にはなくてはならない人物になります」 「ああ、まかせてくれ。これが歴史の必然ということならば、俺が協力しないわけにはいかないからな」 「どうか彼女をよろしくお願いします」 朝比奈さん、どうかがんばって生きてください。この人があなたを向かえに行く日まで。 これで何度目になるだろうか。俺は高校一年の頃の時代に飛び、機関作成の北高名簿を調べた。 二年の朝比奈さんがいたクラス。 果たして、朝比奈みくるの名が登場していた。それはひと目で解る。何しろ目立つ名前だった。 長かった。これでようやく未来人関係の既定事項が全て満たされたはずだ。 機関の中では、朝比奈みくるが存在することは既に当然の事実ととなっていた。歴史は見事に上書きされている。 つまり、それまでいた未来人の存在は既に皆の記憶からばっさりと消去され、機関の全ての資料は未来人朝比奈みくるの名前が取って代わっていた。 『無矛盾な公理的集合論は自己そのものの無矛盾性を証明することができない』 そうさ。それがキングであろうがクイーンであろうが、駒を隠したり入れ替えたりした事実を誰にも悟られない限り、そこには何の矛盾もないのだ。 俺は森さんに、それとなく朝比奈さんのことを聞いてみた。 「我々を撹乱させるために他勢力から送り込まれたエージェントだという推測もありましたが、どうやら正真正銘の未来人のようです」 のっけから不穏な物言いである。 「我々が存在を確認した時点で、彼女は既に一般人からも疑念を抱かれるほど未来人としては迂闊な言動をしていたようです。しかも本人にはどうやらその自覚もないらしいのですが。正直なところ、彼女を我々の時代に送り込んだ未来人の意図が測りかねます」 俺はそれを聞いて確信した。散々な言われようだが、あの朝比奈さんをこれほど的確に表現した言葉もないだろう。つまり、ようやく俺の知る朝比奈さんがこの時代にやってきたということだ。 そして、彼女がこの時代に来た原因は、俺が未来人組織のあの男性に朝比奈さんの存在を伝えたからに違いなかった。 しかしながら、未だに機関の資料に長門有希の名は現れていなかった。 朝倉も喜緑さんもいるっていうのに、なぜ長門は北高に来ない? まだ足りないことがあるのか? 高校生の俺が長門に会っていないことが原因なのだろうか? だが俺の経験では、あの七夕の日に朝比奈さんとともに長門のマンションに行ったときには、既に長門は北高の制服を着て三年間の待機モードに入っていた。 俺が長門に会うまでもなく、長門が北高に入学してもおかしくはない。 だとしたら、長門が北高に来ないのは、ハルヒの一度目の情報爆発から七夕の間にあるはずの何かが欠けているということだ。 しかし俺はその間に長門に起こった何かを全く知らない。長門は自分の過去を語るなんてことを今まで一度もしたことがなかったからな。 いや、待てよ。 それは違う。 長門は一度だけ、その見えざる内面を俺たちの前に提示したことがあったじゃないか。 決して長門の口からは語られることのなかった、いや語れなかったのかもしれないその心情を、難解な暗喩に満ちた活字に換えて。 そして今、俺の手元にはそれがあった。次元を超えて俺の足元に現れたあの文芸部機関紙が。 俺は書棚からそれを取り出し、あらためて読み返してみた。 高校一年の頃はそれが何を意味するのかはおぼろげにしか解らなかった。だが今ならそのときよりも少しは理解出来る。 無題1、2、3の三部作として書かれた長門の創作小説。これは一部目が過去の長門について書かれていて、二部目が当時の長門、三部目が未来の長門のことなんだ。未来とはつまり二度目の閉鎖空間での出来事を表している。 一部目と三部目に書かれていた幽霊少女とオバケ少女。それは当時の俺の推測どおり、やはり朝比奈さんのことだったのではないか。 つまり朝比奈さんはあの文芸部室での出会いよりも以前に、長門に出会っていたのだ。 そしてそれが長門をハルヒの元へと向かわせるきっかけになったということなのか。 ならば、それは一体いつだ? 長門の原稿にはこう書かれている。 ――空から白いものが落ちてきた。たくさんの、小さな、不安定な、水の結晶。これを私の名前としよう―― 長門は初めて見る雪に心を動かされ、それを自分の名前としたのだ。 俺の記憶によれば、その年はハルヒの情報爆発の日以来雪は降っていない。 ハルヒの情報爆発の日以前には、例え情報統合思念体であろうと遡ることは出来ない。 ならばあの日情報爆発が起こってから雪が降り止むまでの間のどこかで、長門と朝比奈さんは出会ったに違いない。 では、それはどこだ? 宇宙人と未来人の出会いに相応しい場所。何の確証もないが、俺にはそこしか思い当たる場所はなかった。 長門が住んでいたマンションの近く。駅前のあの公園。 俺は自分の勘に従って、すぐさまその日のその場所に飛んだ。 ハルヒによる一度目の情報爆発の少し前。午後十一時。 二年前の俺は、この五時間ほど前にハルヒとこの公園で奇跡的に出会い、失われた記憶を取り戻した。 この時代に生きる小学生の俺は、三年後に前代未聞にして空前絶後の暴走女と出会い、その七年後にそいつと結婚することになるなど夢にも思わず、今頃別の夢でも見ているのかもしれない。 俺は公園のベンチの監視に適した場所を探した。それは奇しくも長門や朝倉が住むことになるマンションの屋上だった。 しばらくして、ハルヒの時空振動がきた。内臓までもが揺さぶられるような不思議な感覚。だが俺にとってはそれが奇妙に心地よく感じられた。 時空振動が収まったそのとき、双眼鏡越しのベンチの前に突如一人の少女が現れた。 俺の予想が当たっていたことが、誠にあっけなく証明された。 そこには、今まで俺が見たこともない姿の長門が立っていた。当然ながら北高の制服ではなく、例年の合宿限定で身につけていた普段着のどれでもなかった。 体の線が透けて見えるような、白い薄地のワンピース。それが外灯に照らされて不思議な輝きを放っていた。背中に羽根さえあれば、それは間違いなく天使に見えるだろう。まだ名前すらない無垢な天使。衣装と一体化したかのような、純白の顔が微かに見える。表情は読み取れない。 俺は呆然として、魂を抜かれたかのようにその姿に魅入られていた。 長門は身じろぎひとつせず、いつまでもそこに立ち尽くしたままだった。一時間経っても、二時間経ってもずっと同じ姿で。 すぐにでも長門の前に現れて声をかけてやりたい、どれだけそう思ったことか。 だがそうすることは出来なかった。それは俺の役目ではなかった。 俺は再び未来人組織の彼に会いに行った。朝比奈さんの居場所を彼に告げ、組織で引き取ってくれないかと申し出た日の翌日へ。 「すいません、わけあってまた来ました」 「ああ。またいずれ来るとは思っていたよ。用件はなんだい」 「昨日話した女性のことなんですが、もし彼女が俺の時代に来ることになったら、最初にある場所に行って欲しんです。いずれ彼女にそう伝えていただけませんか」 「それは君の時代にとって大切なことなんだな」 「それは実のところ俺にも解りません。ですがそれはおそらく必要なことのはずです」 「解った。こちらにも都合はあるから確約はしかねるが、なるべく君の期待に応えられるよう努力してみるよ」 「ありがとうございます。よろしくお願いします」 「それで、いつ、どこの時空に彼女を行かせればいいのかな」 そう言って彼は右手を差し出した。これは、俺に指伝えで情報を遅れということか? なんとなく出来そうな気はするが。 時空間座標を念じながら人差し指で触れてみた。 「おいおい、座標データだけでいいんだ。女の子の映像なんていらないぞ。それにしてもずいぶんと可憐な少女だな」 なかなか難しいもんだな。とりあえず座標は伝わったようだったが。 「しかし恐れ入ったな。普通これほど大量のデータを一度に送るなんて、相当訓練を積まないと出来ないことなんだがな」 声を上げて男性は笑った。 「まあ回数を重ねればいずれ慣れるさ。ああそれと、昨日の件だが組織の方には既に話は通しておいた。近いうちに彼女に迎えが行くはずだから安心してくれ」 そこまで言って男性は思いついたように、 「それとも、もう既に君の過去には影響があったのかな?」 「ええ、実はそのとおりです。なんとお礼を言っていいか」 「いや、まだ俺は組織に話をしただけだからな。まあ未来の俺に対する礼として受け取っておくことにするよ」 そう言って愉快そうに顔を綻ばせた。 これがTPDDを持つ者同士特有の会話なんだろうな。俺にはいつまでたっても馴染めそうにはないが。 あの公園で朝比奈さんと長門の間にどういういきさつがあったかは解らない。それは二人だけが知っていればいいことだ。 その結果、長門はようやく北高に現れた。これでSOS団設立時のメンバーが揃ったことになる。 そして高校一年の五月、ゴールデンウィークが明けた翌週。ついに念願のSOS団結成がなされた。 ハルヒを筆頭に、長門と朝比奈さん、そして過去の俺がSOS団に入ったのを確認した俺は、北高への転入指令を下すために高校一年になったばかりの古泉に会った。 「久しぶりだな」 「ご無沙汰しております。最近は本部の方でもお目にかかれませんが」 「ああ、色々と忙しくてな」 これは半分事実で半分嘘だ。俺は確かにここしばらく朝比奈さんの捜索に全力を注いでいたが、古泉と会うのはせいぜい数ヶ月ぶりのことだ。だが古泉からすれば、俺と会うのは二年ぶりくらいにはなる。 俺は話を切り出した。 「涼宮ハルヒに宇宙人と未来人が接触しているのはお前も既に知っていると思うが、是非お前にも北高に潜入して欲しい」 「それは興味深い話ですね。随分と急な話のようにも思えますが」 この頃には既に古泉はすっかり俺の知る古泉になっていた。 「ですが、どうして僕なんです? 北高には既に多くのエージェントが潜入していて、涼宮ハルヒとその周辺の調査も進んでいるはずですが」 「お前が機関の中で最も容易に涼宮ハルヒに近づける能力者だからだ。何しろ同級生だからな」 「なるほど。涼宮さんの内面をより理解することの出来る僕が直接彼女を観察するというのは確かに有効な手段かもしれませんね」 「だがこれは表向きの理由だ。俺はそれ以外の理由でお前が適任だと判断した」 「それはどういうことですか?」 「残念だが詳しい理由は話せない。だがこの任務はお前以外にやれる人物はいない。そしてその理由はいずれお前にも解る」 古泉はこの言葉の意味を転入した日の一限終了直後に知ることになる。いきなりハルヒが古泉のクラスに押しかけるわけだからな。さぞかし驚くことだろう。 「これだけは言っておく。これは機関にとって最も重要な任務だ。言い換えれば機関はこのために存在していると言ってもいい」 「なるほど」 そう言ってしばらく古泉は考える素振りを見せ、 「一つ聞かせてください」 「なんだ?」 「僕はあなたに他のお偉方とは違う何かをずっと感じていました。今まで僕なりにその理由を考えていたのですが、今日それが解った気がします」 古泉のことだ。さすがにここまで言えば俺の秘密には勘付くだろうな。 「あなたはこれから先に起こる未来を知っているのですね」 「ああ、その通りだ」 予想通りの問いかけに、俺は正直に答えた。いずれはこれから北高で出会う過去の俺とこの俺が同一人物だということにも気づくだろう。 「そういうことであれば、あなたが北高に行けと言うのなら、それは多分間違いのないことなんでしょう」 古泉は楽しげな笑みを浮かべた。 「ならばもう一つ聞いてもいいですか」 「俺が答えられることだったらな」 「涼宮ハルヒに接触し、彼女の精神面の安定に寄与している男子生徒のことです。彼は機関の調査では紛れもない一般人だとのことですが、あなたはそれについてどう思いますか」 よりによって、俺のことか。 「そいつは俺にも解らん。俺が知っているのは涼宮ハルヒが何らかの理由でそいつを選んだらしい、ということぐらいだ。もしかしたら隠された能力があるのかもしれんが」 お願いだから、実は俺が異世界人だったなどという、いまさらな展開だけは勘弁願いたい。 「その彼も実に興味深いですね。解りました。この件、是非僕にやらせてください」 すまんが過去の俺をよろしく頼むぞ古泉。俺には必要以上に興味は持ってくれなくてもいいんだがな。 俺は機関の報告書で、古泉の転校によってSOS団が全員集まったことを確認した。このまま行けばおそらく既定事項は全て満たされるはずだ。 後はその確認と歴史の微調整、つまり俺が高校生の俺の行動を肩代わりした歴史を本来の歴史に上書きすれば、ようやく俺はもう一度ハルヒ復活のチャンスを得られるのだ。 そして、もう一度卒業式の長門に会い、作戦を練り直し、第二の情報爆発のあの日に向えばいい。 あの老人を打ち破ることが出来るのかどうかは解らないが、朝比奈さんの言う未来を信じるならば、きっと何か策はあるはずだ。 これでようやく一段落ついたと感じていた。老人によって歴史が改変されてからおよそ二年を費やした。その努力がようやく結実しようとしている。 俺はさらに四日後に飛び、古泉が過去の俺に正体を明かしたことを確認した。間違いなく俺の知る歴史どおりに物事は進んでいる。 機関の報告書を読みながら、俺はこの頃に起こった出来事を振り返っていた。 高校生の俺は今頃、長門による叡智に満ちた宇宙規模的電波話に呆れ、朝比奈さんによる悲哀に満ちた超時空的告白に混乱し、古泉による妄想に満ちた神話的物語に辟易しているはずだ。たった数日間で、俺がそれまで把握していた世界の枠組みは、その姿を大きく変容させたのだった。 そして俺はさらにこの先の数日間で、朝倉に襲われ、朝比奈さん(大)に出会い、ハルヒに心情を告げられ、古泉に招待された閉鎖空間で神人を目の当たりにし、ハルヒによる新世界に閉じ込められることになる。 これはなかなかのハードスケジュールだぞ。がんばってくれよ、高校生の俺。 俺はふと思い出した。そう言えば今日この日の放課後、ハルヒは部室に姿を現さず、反省会と称して一人で市内探索をやってるんだっけか。 俺はなんとなくそんなハルヒを見てみたい気分になった。俺の知らないところでハルヒはどんな風に過ごしていたんだろうと。 今思えば、SOS団がようやく誕生したことで、俺はすっかり安心しきっていた。 そして、そこに油断があった。 第六章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4386.html
「ただの人間でも構いません!この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者に興味のある人がいたらあたしのところに来なさい!以上!」 これはハルヒの新学期の自己紹介の台詞だ それを俺が聞くことができたのはハルヒと同じクラスになれたからに他ならない ハルヒが泣いてまで危惧していたクラス替えだったが俺は相変わらずハルヒの席の前でハルヒにシャーペンでつつかれたり、その太陽のような笑顔を眺めたりしている どうやら理系と文系は丁度いい数字で分かれるようなことはなく、クラス替えであぶれた奴らがこの2年5組に半々ぐらいで所属していた 教室移動で離れることもあるが、大半の時間をハルヒと過ごすことができる これもハルヒの力によるところなのか定かではないが、この状況が幸せなのでそんなことはどちらでもよかった 「キョン!部室にいくわよ!」 放課後俺はハルヒと手を繋いで部室に向かう やれやれ、こんな幸せでいいのかね 「いやはや、やっと肩の荷が降りましたよ、これで涼宮さんの精神も安定するでしょう」 放課後の文芸部室で囲碁の真っ最中、見事なウッテガエシを決めた俺に対し、にやけ面が盤面の状況など興味ないと言いたげに口を開く 認めたくはないが、今回の出来事の発端としての発言をしたのはこいつだ 図らずともこいつの言ったようにことが動いていて癪に触る ちなみにハルヒは長門、朝比奈さんを連れて新入生に勧誘のビラ配りをしている 長門と朝比奈さんはそれぞれ、去年の文化祭で着たウェイトレスと魔法使いの格好でだ また問題にならなければいいが 「末長くお幸せに」 古泉の含み笑い3割、いつもの微笑1割、谷口が今朝俺に対して見せたニヤニヤが6割のムカツク面にどんな嫌味や皮肉を言ってやろうかと考えているといつかのデジャヴのようにドアが勢い良く開いた 「いやぁー!ビラ全部はけたわよ!やっぱりSOS団の一年間の活動は無駄じゃなかったわね!!」 相乗効果で100万Wにも1億Wにもなりそうな笑顔でハルヒが部室に戻ってきた 無駄じゃなかった…か、そうだな、俺もそう思うよ…もちろんいろんな意味でな 「ハルヒ」 俺の呼び掛けにその笑顔のまま俺の方を向く この笑顔がずっと俺のものだなんてまだ実感がわかないな 「これからもよろしくな」 その俺の一言に笑顔に少し赤みがかる そして最高にうれしそうな笑顔で 「当ったり前じゃないの!あたしを幸せにしなかったら死刑なんだからね!!」 びしっと差した指は真っすぐ俺に向けられている いつか俺とハルヒが結婚した時にでも俺はジョン・スミスの正体とSOS団の連中の肩書きでも話してやろうかな、と思った FIN
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/40.html
涼宮ハルヒの消失 レジュメ 2008/5/9 担当 カノープス 著者紹介(Wikipediaより引用) 谷川 流(たにがわ ながる、男性 1970年12月19日 - )は、日本のライトノベル作家、SF作家。兵庫県西宮市出身、在住。兵庫県立西宮北高等学校、関西学院大学法学部卒。 大学卒業後、婦人服店の店長を経て、2003年3月に『電撃萌王』vol.05掲載『電撃!! イージス5 盾と羊と』にてデビュー。同6月7日に第8回スニーカー大賞〈大賞〉受賞作『涼宮ハルヒの憂鬱』と電撃文庫刊『学校を出よう! 1 Escape from The School』の同日発売で文庫デビュー。『涼宮ハルヒシリーズ』は450万部(2008年現在)を超える大ヒットとなっている。 阪神・淡路大震災で被災した経験を持つ。阪神ファン。同人やアダルトゲームの存在を『涼宮ハルヒの憂鬱』を書くまで知らなかったらしい。趣味は麻雀とバイク。 著作 角川スニーカー文庫 涼宮ハルヒシリーズ 出版順に、「憂鬱」「溜息」「退屈」「消失」「暴走」「動揺」「陰謀」「憤慨」「分裂」「驚愕」 「陰謀」は本作の結末とリンクしている。 電撃文庫 学校を出よう! 2008年現在6巻 電撃!! イージス5 全2巻? ボクのセカイをまもるヒト 本編2巻+外伝1巻 絶望系 閉じられた世界 撲殺天使ドクロちゃんです(共著) 登場人物 キョン 本作の主人公。本名は不明。物語の語り手。本人としては、「運悪く」ハルヒと関わってしまった一般人。語り部。皮肉屋。SOS団団員。 涼宮 ハルヒ(すずみや ハルヒ) 本作のヒロイン。SOS団団長。無意識下で願いを叶えてしまうトラブルメーカー。 長門 有希(ながと ゆき) SOS団団員。文芸部員。宇宙人。万能の人。 朝比奈 みくる(あさひな みくる) SOS団団員。元書道部員。未来人。メイドの人。 古泉 一樹(こいずみ いつき) SOS団団員。謎の転校生。超能力者。常に笑顔の苦労人。 朝倉 涼子(あさくら りょうこ) 「憂鬱」にてキョンの殺害を企てるも長門によって阻まれ、消滅。転校したことになっている。 朝比奈さん(大) みくるの数年後の姿(長門曰く「異時間同位体」)。当然未来人。 あらすじ 前巻まで 涼宮ハルヒによって設立されたSOS団に、半強制的に入団させられたキョンは、他の団員が皆普通ではないことを知る。ハルヒは願いを叶えてしまう神にも等しい能力を持っており、他の団員である宇宙人、未来人、超能力者は、それぞれの目的のためにハルヒを監視しているのだ。 しかし、ハルヒの力を本人に知られるのは避けたいという点では全員一致しており、団員はハルヒが巻き起こす超常現象を隠蔽するため、または彼女の機嫌を損ねないために東奔西走することとなる。 以下「消失」のあらすじ ***************** プロローグ クリスマス前の12月17日。いつもの日常。 谷口に彼女ができた。 1章 昨日とつながっていない今日。ハルヒの消失と朝倉の復活。ついでに古泉も教室ごと消失。違和感を持っているのはキョン1人。長門と朝比奈も能力・記憶なし。普通の人に。 そして谷口も独り身に… 2章 谷口風邪でダウン。 本の栞からプログラム発見。「鍵をそろえよ。期限は2日後。」なぜか長門の家でおでん。キョンの好みは変な人。 3章 12月20日。谷口復活。 谷口からの情報でハルヒを発見。ついでに古泉も。髪を切る前のハルヒ。切り札「ジョン・スミス」で信用を勝ち取る。(「退屈」からの伏線)古泉の2つの仮説。 北高文芸部室にてSOS団メンバー(鍵)がそろい、プログラム起動。キョンの選択。 4章 プログラムによって3年前の七夕に時間移動。「退屈」とリンク。 朝比奈さん(大)と長門の力を借りて世界を元に戻すことに。 5章 改変直前の12月18日早朝に時間移動。改変者に再改変プログラムを打ち込もうとするも朝倉に刺される。謎の人影。気絶。 6章 目覚めると12月21日。世界は元に戻っている。食い違う記憶。長門の謝罪。 長門の人格否定しちゃってるよ! エピローグ 戻ってきた日常。しかし、やることは残っている。あの時見た人影。もう一度過去に飛ぶ必要がある。その前に一休み。 再び過去に行ったときの話は「陰謀」の冒頭に。 …谷口の彼女はどうなった? ****************** 類似したシチュエーション バック・トゥー・ザ・フューチャー 2 いつの間にか変わってしまった「現在」。違いが分かるのは主人公とドクだけ。 元の状態に戻すため、2人は過去に飛ぶ。 All You Need Is Kill 著:桜坂 洋 ループする戦場。ループを知覚できる主人公はループの破壊を試みる。過去のレジュメ参照。 ちょっと厳しい? 感想 なにぶん読んだのがかなり前なので、細かいとこは覚えていない。世間ではシリーズ最高との声が高いが、当時はそこまで面白いとは思わなかった。狙ってるようで外している設定の「憂鬱」のインパクトが大きすぎた。 キョンが決断を下したり、長門の絶対性が崩れたりとストーリー的には重要な話。万能だからって頼りすぎるのは良くないってことか。 最新刊の発売延期も気になるが、それ以上に「学校を出よう」の7巻はあり得るのかの方が気になる。こっちも好きですが、僕は「学校」のほうが好きなんです… おまけ 時系列 作中時期 作品タイトル 収録巻/ザ・スニーカー記載号 4、5月 涼宮ハルヒの憂鬱 涼宮ハルヒの憂鬱/全編 6月 涼宮ハルヒの退屈 涼宮ハルヒの退屈/P7~ 2003年06月号 7月 笹の葉ラプソディ 涼宮ハルヒの退屈/P74~ 2003年08月号 ミステリックサイン 涼宮ハルヒの退屈/P133~ 2003年10月号 孤島症候群 涼宮ハルヒの退屈/P182~ 8月 エンドレスエイト 涼宮ハルヒの暴走/P7~ 2003年12月号 11月 涼宮ハルヒの溜息 涼宮ハルヒの溜息/全編 朝比奈ミクルの冒険 episode 00 涼宮ハルヒの動揺/P52~ 2004年02月号 ライブアライブ 涼宮ハルヒの動揺/P5~ 2004年12月号 射手座の日 涼宮ハルヒの暴走/P88~ 2004年04月号、06月号 12月 涼宮ハルヒの消失 涼宮ハルヒの消失/全編 ヒトメボレLOVER 涼宮ハルヒの動揺/P95~ 2004年10月号 雪山症候群 涼宮ハルヒの暴走/P183~ 猫はどこに行った? 涼宮ハルヒの動揺/P187~ 1月 朝比奈みくるの憂鬱 涼宮ハルヒの動揺/P242~ 2005年2月号 涼宮ハルヒの陰謀 涼宮ハルヒの陰謀/全編 3月 編集長★一直線 涼宮ハルヒの憤慨/P5~ 2005年6、8、10、12月号 ワンダリング・シャドウ 涼宮ハルヒの憤慨/P163~ 2006年2,4月号 分裂と驚愕は2年4月以降 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gemu/pages/79.html
文庫本 著者:谷川流 イラスト:いとうのいぢ 長編「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらわたしの所に来なさい。以上。」ある日キョンはハルヒの髪形がある法則に従って毎日変わってる事に気づく。ハルヒにそのことを聞いたのがきっかけか、ホームルーム前に二人は会話するのが日課となる。面白い部活がないと嘆いていたハルヒだがキョンの何気ない一言で無いなら作ればいいと気づいたハルヒは部室として廃部寸前の文芸部の部室を唯一の文芸部員一年生、長門有希ごと乗っ取り萌えキャラとして二年生、朝比奈みくるを無理矢理拉致(ハルヒ曰く任意同行)、入部させ、謎の転校生として古泉一樹を入部させる。しかしこの三人はそれぞれ本物の宇宙人、未来人、超能力者だったのだ。本人は自覚してないがハルヒにはある能力があり三人はハルヒを観察するためにいるのだと言う。そのことをハルヒだけが知らないままこの物語は進んでいくオススメ度☆☆☆☆☆ 第二巻長編文化祭のためにSOS団で映画を作る事になった。でもさハルヒ、こんな時に覚醒しないでくれよ。自覚無しにさ。ハルヒシリーズで唯一キョンとハルヒがけんかするのでそこが見所・・・らしい。オススメ度☆☆☆☆ 第三巻短編集(涼宮ハルヒの退屈、七夕ラプソディ、ミステリックサイン、孤島症候群)SOS団で野球大会に出たり、朝比奈さんと3年前の七夕にタイムスリップしたり、巨大なカマドウマを退治したり、孤島で殺人事件に出会ってしまったり、キョンがいろいろ大変な目にあう。オススメ度☆☆☆☆☆ 第四巻長編ハルヒがいない?!そして消えたはずの「あいつ」がいる?!古泉なんて教室ごと消えてる。朝比奈さんと長門は未来人や宇宙人でなくどこにでもいるような普通の人間になってる。もちろんSOS団なんて無い。なぁハルヒ、これはお前が望んだ世界なのか?オススメ度☆☆☆☆☆☆(限界突破) 第五巻短編集(エンドレスエイト、射手座の日、雪山症候群)夏休みを繰り返したり、隣のコンピュータ研にゲーム対決申し込まれたり、雪山で遭難して謎の屋敷に避難したり。それぞれ夏、秋、冬に起こったお話。雪山症候群は大きな伏線か。オススメ度☆☆☆☆☆ 第六巻短編集(ライブアライブ、朝比奈ミクルの冒険 episode00、ヒトメボレLOVER、猫はどこに行った?、朝比奈みくるの憂鬱)文化祭での出来事と溜息で作った映画、長門に一目惚れしたという中河の告白の代弁をしたり、古泉主催の冬の山荘殺人事件の推理劇、朝比奈さんの憂鬱。朝比奈みくるの憂鬱は次作につながるオススメ度☆☆☆☆ 第七巻長編朝比奈さんが掃除用具ロッカーのなかに入っていた。何でも俺に言われて八日後から来たそうだ。八日後の俺は何のために朝比奈さんを送ってきたんだ?オススメ度☆☆☆☆☆ 第八巻短編集(編集長★一直線!、ワンダリング・シャドウ)ついに生徒会から文芸部の活動として機関誌を発行しなければ文芸部の無期限部活動停止を言い渡されてSOS団で小説を書く事になったり、阪中さんの依頼で幽霊を成仏しに行ったり。オススメ度☆☆☆☆☆ アニメ 声優 スタッフ 涼宮ハルヒ 平野綾 原作&構成協力:谷川流 長門有希:茅原実里 原作イラスト&キャラクター原案:いとうのいぢ 朝比奈みくる:後藤邑子 原作 角川スニーカー文庫刊 キョン:杉田智和 隔月刊誌「ザ・スニーカー」連載 古泉一樹:小野大輔 月刊誌「少年エース」連載 朝倉涼子:桑谷夏子 シリーズ構成:涼宮ハルヒと愉快な仲間たち 鶴屋さん:松岡由貴 キャラクターデザイン&総作画監督:池田晶子 谷口:白石稔 シリーズ演出:山本寛 国木田:松元恵 監督:立原立也 キョンの妹:あおきさやか 制作:京都アニメーション 喜緑江美里:白鳥由里 製作:SOS団 シャミセン:緒方賢一 他 放映順と時系列がちがう理由 放映順 放映順 時系列 サブタイトル 原作 内容 youtube 第01話 第13話 「朝比奈ミクルの冒険」 涼宮ハルヒの動揺朝比奈ミクルの冒険 episode00 文化祭の時に作ったアレ京アニの凄さが分かる作品 Go! 第02話 第01話 「憂鬱Ⅰ」 涼宮ハルヒの憂鬱 ハルヒとキョンの出会い→みくるの拉致(任意同行?)、入部まで Go!
https://w.atwiki.jp/yaranaioheroine/pages/64.html
[すずみや はるひ] 登場作品:谷川流 「涼宮ハルヒシリーズ」 ◎ 彼らはDQ2でロトと賢者の末裔のようです(完) ◎ やらない夫でFFVIII(エ) ◎「R-18」やらない夫は姉たちにドキドキさせられる様です ◎ やる夫が戦国の覇者になるようです(完) ○ やらない夫は同窓会に出るようです。 ○ やる夫・オブ・アイヴァンホー(完) ○ やる夫が見張りを見張るようです(完) ○ ヤルヨミ市に花火が上がるようです(完) △ 異世界転生したから、チートではない自前の筋肉でプロレスをする(完) △ 涼宮ハルヒのあんこ(完)(R-18) △ 名探偵vs前世探偵(完) △ やらない夫とやらない子は科学捜査をするようです(完) △ やらない夫はFF7の主人公のようです(エ) △ やらない夫は星間企業で請負仕事の様です △ やらない夫はムーンセルで目覚めたようです(エ) △ やる夫の熊本奮闘記(完) ◇ 俺の屍を越えてゆけ ~新速出一族の歴史譚~(完) ◇ 旅をするために旅をするひとたち(完) ←涼水玉青 スに戻る 鈴谷→
https://w.atwiki.jp/ankasekai/pages/126.html
___ _ .ィi〔 . . . . . . . . . . . .` ..、 ./ . /二二二二\ . . . . .\ / . . . ' . . 、 . . . . .\ . . . . . . . . ヽ .ヽ 「 / . . . l .、/ \ . . . .| ヽ/ . . . . .「 ̄〉 あぁもう仕方ないわね! /V . . . . .N \ }\ .l/ lハ . . . .| ∨ ヽi . . . . . |── ──‐i| . . . ト 〉 どうせ止めても聞かないんでしょうし私も行くわ! | . . . . . |‐=== 、 ====‐ | . . . | . . | | . l . . . | 、__ u! . .从 .| | ∧ 小、 │ l | . / . . . ′ ヽ . . ≧‐┴─ ┴=≦' / ./レ /⌒マ V 才 ´ |==/ /X∨ {、__.ィv’ |i i | ./ /i/ ヽ V i i i/、 Vハ |/ /iイ } ̄ !ヾヘ i 才’ 、 \ ゝ __ノ| イ芥ト、 {\ }ーV ハ 「ー‐イ ヽ _ム / / / l l | V i i i } ' V レ | し_ノ / .| 名前 涼宮ハルヒ 原作 涼宮ハルヒの憂鬱 出演物語数 3 傭兵八雲は世界一の人気者になりたいようです レギューラーの一人として登場。 主に転移魔法を使う魔法使い。 一番の常識人のためツッコミ役。 +ネタバレ注意 ネタバレはここに書く 東京→大阪 徒歩旅行記 旅行の途中で出会った幽霊。 +ネタバレ注意 ネタバレはここに書く ソードアート・オンライン外伝 ノン・カーソル ソロで一心不乱に狩りをしていたプレイヤーとして登場 +ネタバレ注意 実は主人公達に会う以前は1階層で暴れていたギャングの元リーダー。 しかし、褒められた仲間達ではなかったが、黒幕に仲間達を殺され気に病んだ