約 535,743 件
https://w.atwiki.jp/fukumotoroyale/pages/105.html
心の居場所(後編) ◆uBMOCQkEHY氏 「はぁ・・・はぁ・・・」 その数分後、赤松は零と涯に追いついた。 体力を無視して走ったため、足が痙攣のごとく震えている。 体をやや屈ませながら、切れ切れになった息を整える。 「私の名前は・・・赤松修平・・・どっちが・・・零君なのか・・・」 「オレです」 零は一歩前に出る。 落ち着いた表情で赤松を静観しているが、万が一の時に供えて、右足を後ろへずらし、逃げる用意をしている。 赤松はその右足の存在を一見した後、零の顔へ視線を移す。 ――確かに聡明な少年だ・・・しかも、私に対して怖気つく様子がない・・・ 肝が据わっているというか・・・意志が強そうだ・・・そう・・・意志が・・・。 『それは・・・過大評価だ・・・! 人の言うことや情勢を無視して我を張り続けるあの姿勢・・・ その考えが自分の可能性を殺していることさえ分かっていないっ・・・!』 生前、標が言った言葉が頭を過ぎる。 赤松は思わず笑みをこぼした。 「確か君はドリーム・キングダムの試験の時、標君からのリングの受け取りを断ったそうだね・・・ 彼・・・言っていたよ・・・君は頑固者だって・・・」 ――リング拒否はオレと標のみが知りうる事実・・・この人は・・・。 ここで零は赤松に対して、信頼を置ける人物であると認識すると同時に、 郷愁にも似た温かさが心に染みていくのを感じた。 「標らしい・・・標らしい表現だ・・・」 つられるように、零も笑みを浮かべる。 「お人よしだな・・・零・・・!」 「涯っ・・・!」 零は涯の方向へ顔を向ける。 「こいつの言っていることをそう簡単に信用していいのか・・・! だいたい、こいつはオレを殺そうとした男・・・! 人間・・・腹の中では何を考えているのか分かるはずがないんだ・・・!」 ――その言い方はあまりにも失礼じゃないか・・・! 零はこみ上げてくる怒りを不機嫌そうに押さえ込んで反論する。 「リングのことは、オレと標だけのやり取り・・・! それを知っているということは、標が赤松さんに心を開いている証拠・・・! 赤松さんは信頼できる人物だということだ・・・!」 「標・・・標って・・・その標という奴こそ、信頼できる人物なのか・・・! その標が、この男に騙されている可能性だってある・・・! そもそも標という奴はどこにいる・・・!」 零は唇をわずかに震わせるも、その震えをかみ殺して、言葉を搾り出す。 「標は・・・死んだよ・・・」 二人の間に、風がさっと吹きぬけた。 その風に押されるように空に漂う雲が月を隠す。 森の中に立ち尽くす彼らに闇が侵食していく。 「さっき放送で名前を言われた・・・」 「あっ・・・」 夕方、アトラクションゾーンで見かけた、血だまりの中で横たわる少年の姿が、涯の脳裏に蘇る。 ――もしかして・・・あの子供のことか・・・? 零は涯の反応に目を止めるも、すぐに赤松の方へ顔を向けた。 「ひとつ伺っていいですか・・・?」 「えっ・・・」 赤松は零の方へ顔を向ける。 「どうして、涯を追いかけていたのですか?あなたは・・・涯を殺そうとしていたはず・・・」 赤松は涯をちらっと見た後、口元に手を当てる。 「夕方頃、私達はアトラクションゾーンで自殺志願者の老人に出会った・・・ その老人に、僕の所持品の手榴弾を奪われた・・・ 老人はその場の人間を巻き添えにすると言い、私達は離れざるを得なかった・・・ けど、標君は老人に聞きたいことがあると言ってその場に残り、私と別れた・・・」 赤松は“あれさえなければ・・・”と嗚咽を含めた声で、肩を震わせる。 零は赤松が満足に話せる状況でないことを察し、 辛いのであれば、それ以上話す必要はありませんよといたわるように声をかける。 ――なぜ、その男に気を使う・・・零っ・・・! 赤松はかつて自分を殺そうとした男、その男を零が気遣うということが、涯に疎外感を覚えさせる。 その尖った感情は鋭利な言葉として、赤松に向けられる。 「なぜ、標という奴を明らかに狂気の思考を持つ男の下に置いていった・・・ ここは殺し合いの場・・・危機管理が足りないんじゃないのか・・・ それとも・・・泣いて同情でもほしいのか・・・」 「涯っ!!」 零は涯の襟を掴む。 「いい加減にしろ!さっきからなぜ、君はそう突っかかる!」 「オレは事実を言っているだけだ・・・」 「やめてくれ!」 赤松は涯と零の間に割って入って、二人を止める。 二人は不満げな顔を浮かべながら、距離をとる様に離れる。 ――とにかく話を続けて場を持たせなくては・・・。 赤松は乱れる鼓動を押さえながら話を続ける。 「私は標君のことが気になって、その場へ戻った・・・ そして・・・標君は血の海の中に横たわっていた・・・」 「標・・・」 零に亡き友への憂いが胸を締め付ける。 それと同時に、ある考えが頭を過ぎった。 ――そういえば、涯が人を殺した時も、横たわっていなくては成立できない状況・・・ まさか・・・ 「そして・・・標君の死体の前に涯君がいた・・・それで涯君が標君を殺した・・・と・・・」 ――・・・私は勘違いし、彼の首を絞めた・・・。 赤松はその続きを話そうとするが、その言葉は喉に留まっている。 これ以上話せば、零への印象が確実に悪くなってしまうだろうという迷いがそうさせてしまっていた。 ――いや、どういう理由にせよ、それは事実・・・話さなくては・・・。 赤松が再び、話し出そうとした瞬間だった。 「君が・・・標を・・・殺したのか・・・」 「えっ・・・」 零の目が怒りを含むかのような濁ったものに変わり、涯へと向けられていた。 赤松は零の言葉に戸惑う。 ――なぜ、そういう方向に話が進んでしまう?この二人に何があった・・・? 「・・・」 その質問に涯は答えない。 それが零を苛立たせる。 その苛立ちは、更に強い追求によって現れた。 「君が標を殺したのか!!!」 零は涯に再び、掴みかかる。 「オレは君と仲間になれる・・・いや・・・仲間だと思っていたのに・・・!」 零は推理の合理性と涯への不信感から、涯を一方的に犯人であると決め付けてしまっていた。 詳しくその時の状況を知れば、涯が犯人でないことは一目瞭然であり、誤解はすぐにでも解けた。 しかし、涯は無言を徹し、それを説明することはなかった。 結果、零はその無言を肯定の意味として受け取ってしまった。 勿論、涯はその場で否定をすることもできただろう。 しかし、涯を支配していく感情がそれを拒ませていた。 ――仲間・・・甘く、もろい言葉だ・・・。 零は未だに何かを言っているようだが、涯にはその言葉がどこか遠くにしか聞こえない。 興奮する零とは対照的に涯はどこか冷めたような眼差しで零を見つめていた。 ――いつだって人は・・・その心は・・・孤立している。 心は理解されない・・・伝わらない・・・。 時に伝わったような気になることもあるが・・・ それは、ただ、こっちで勝手に相手の心を分かったように想像しているだけ・・・。 仲間という言葉で縛りつけたところで、その心を結びつけることはできない・・・。 「っ・・・!」 この時、涯は錐で刺されるような感覚を胸に覚えた。 しかし、それを否定するかのように、零の甘さを鼻で笑う。 ――そう・・・人は・・・世界が・・・バラバラに・・・ バラバラになれと・・・まかれた種だっ・・・! ここで信用できる他人なんて、いやしない・・・。 やはり、人間は孤立するべき・・・孤立する・・・べき・・・ 「え・・・涯・・・?」 ここで零は突然、追求を弱める。 その様子で、涯は自身の異常に気付く。 頬から涙がこぼれている。 「なっ・・・」 涯自身、本当は分かっていた。 ――どんなに、人間の心の弱さをあざ笑ったところで、 本当は欲している・・・理解を・・・友情を・・・仲間を・・・。 涯はそんな自分を自嘲する。 ――オレは今・・・悲しい程無力っ・・・! 涯はふと赤松を見る。 ふつふつと煮えるような怒りがこみ上げてきた。 ――なぜ、この男が現れた・・・なぜ余計なことを言った・・・ お前さえ・・・いなければ・・・! 涯は赤松に対して、拳を構えた。 「が・・・」 赤松と零が涯を止めようとした直後だった。 赤松の意識が一瞬切れた。 正しく言うと脳が行動へ回路がつながらない、コンマ何秒の空白の時が発生した。 再び、意識が回復した時、目の前にあったのは、涯の拳だった。 「なっ・・・」 ――何が起こった・・・。 体は竦んでしまったかのように動くことを忘れ、呼吸は喉元で止まっている。 零と赤松は呆然としつつも、すぐに察した。 ――まるで光速・・・!光のような拳・・・!これが彼の能力っ・・・! 涯は拳を赤松の顔面に目掛けておきながら、それ以上動くことはなかった。 もう一歩踏み出せば、確実に赤松を失明させることもできた。 しかし、涯はその一歩を踏み出さすことができなかった。 赤松の目元が腫れていた。 ――この男は泣いていた・・・標という少年の死を悲しんで・・・。 この男は自分を責めていた・・・標という少年を救えなかったことを・・・。 涯の瞳から再び、涙が零れる。 ――この男が持っている感情は・・・情愛・・・! オレが持ちたかった感情・・・誰かから与えてもらいたかった感情・・・! 「オレはもはやケモノ・・・人間には・・・戻れない・・・」 涯は拳を下ろした。 「孤立せよ・・・!」 その直後、赤松の視界が大きく動き、頭や腕に打ち付けられたような痛みが走る。 「うぐっ・・・!」 突然の痛みに赤松は声を上げる。しかし、この感覚には覚えがあった。 ――そう、あれは涯君の意識が回復したとき・・・ 赤松はすぐに起き上がった。 涯は再び、赤松を突き飛ばし、来た道を戻るかのように駆け出したのだ。 「待て!涯君!」 「涯!!」 零と赤松が涯を追いかけようとするも、その姿は暗闇の中に溶け込んでいた。 零は砕けた言葉を拾うかのように、震えた声で赤松に尋ねる。 「涯は・・・標を・・・殺していないですよね・・・」 赤松はうつむき、申し訳なさそうに返答する。 「・・・標君のディバックが何者かによって盗まれている・・・ 涯君は標君のディバックを持っていなかった・・・彼ではない・・・」 「う・・・ううっ・・・」 零に取り返しのつかない後悔の波が押し寄せる。 「オレが・・・涯を・・・傷つけた・・・」 零から涙が溢れる。 「涯は・・・人を殺したことを・・・誰にも知られたくなかった・・・ そんな自分に向き合うことも嫌だった・・・ けど・・・オレ、それに気づかず・・・ 涯が殺人を犯したことを推理し・・・その事実を突きつけた・・・ その上・・・オレ・・・標を殺したと勘違いして・・・涯を責めた・・・ オレ・・・オレ・・・」 まるで糸が切れたかのように、膝を突いて零は号泣する。 「オレが涯をケモノにしてしまったっ・・・!涯から人間を奪ってしまったっ・・・!」 少年の慟哭が周囲にこだました。 赤松は静かに零に近づく。 「零君・・・それは違う・・・」 赤松は零と同じ視線になるように屈むと、その肩にそっと手を添える。 「彼は人間だ・・・ケモノであれば心を痛ませることはないのだから・・・」 添えた手にわずかだが、力がこもる。 「今回のことは私に責任がある・・・ 私は涯君が標君を殺したと勘違いして、首を絞めてしまった・・・ あの時・・・それにもっと早く気づいていれば、こんなことにはならなかった・・・」 赤松は涯が走り去っていった道へ視線を向ける。 「彼は居場所を求めている・・・心の居場所を・・・ それを君に見出していた・・・ただ、ちょっとのすれ違いがあっただけなんだ・・・」 その直後、赤松は気づく。 ――涯君は再び、来た道を戻っている。 涯君はここに来るまで、直線のコースを走っていた。 それは私に殺されかけ、混乱していたから・・・。 そして、今も・・・。 ということは再び、まっすぐ北へ・・・。 そこに待っているのは・・・D-3、C-3、そして・・・ 「・・・B-3禁止エリア!」 赤松は首輪を押さえた。 ――禁止エリアに入れば、首輪は爆発する。それが起こる前に・・・ 「・・・涯君を止めなくては・・・!」 赤松は零の肩を掴んで、零を落ち着かせるような口調で話した。 「君は今、誰かと行動しているね・・・」 零は顔を上げ、頷く。 「そうか・・・なら、君はその人の下へ戻りなさい・・・ 私が涯君を説得し、連れて戻ってくる・・・! 1時間後にここで合流しよう・・・!」 赤松は零の肩から手を離し、立ち上がった。 「それから君に渡したい物がある・・・! 涯君と戻ってきた時、君に説明する・・・!」 赤松は左ポケットに触れた。そこには標のメモ帳が入っている。 本当であれば、今すぐ渡したい。 しかし、丁寧に書いてあるとは言え、メモ書きである。 赤松自身の解釈を必要としている箇所も存在していた。 それを話せば、どうしても時間を必要としてしまう。 その間にも涯は禁止エリアへ到達してしまうだろう。 今は涯を追いかけることが何より最優先である。 赤松は再び、涯が走り去っていった道へ視線を向ける。 「涯君・・・」 ――零君は君を想ってる・・・彼なら君の居場所になれるはず・・・ 「じゃあ、1時間後に・・・!」 零にそういい残すと、赤松は走り出した。 赤松は走りながら、標のメモ帳が入った左ポケットを握り締める。 標のあの言葉が反芻される。 『もし、志が一緒であれば・・・零とはこの地のどこかで・・・ また、会える・・・そんな気がするんだ・・・』 今の状況は楽観的に受け取れるものではない。 しかし、赤松から思わず笑みがこぼれていた。 ――君の予感が当たったよ。 「・・・というわけか・・・」 沢田は零から事の顛末を聞いて、頷く。 「なので、ここで赤松さんが戻ってくるまで待ちましょう・・・」 ――相変わらず、大人びた子だ・・・だが・・・ どんなに冷静を装ったところで、その目はさっきまで大泣きしていましたと言わんばかりに、赤く腫れている。 沢田はため息をつく。 「人間というものは、例え、時間制限を設けたところで、 欲しいものが目の前にあると、後5分くらいならと言い訳をして勝手に伸ばしちまう・・・ 1時間でその涯という少年に追いついて戻ってくるとは限らない・・・ きっと、その男も勝手にそんな感じで伸ばしちまうんじゃねえのかな・・・」 沢田は零の頭をぽんぽんと叩いた。 「零・・・お前、涯に謝りたいんだろ・・・!だったら、自分から言いに行け・・・! それが男ってもんだろ・・・!」 零は驚いた顔で沢田を見上げる。 「沢田さん・・・」 沢田は、涯と赤松が消えていった道を見つめる。 月明かりは雲に隠れ、何重もの薄暗いカーテンがなびいているような闇が続いている。 「覚えているか・・・零・・・ お前と合流した時、オレはお前に、『俺たちに明日はない』覚悟が必要だと言った・・・ それはこの先に何が待ち構えているか分からないからだ・・・! ただ、今、俺たちの前に伸びる道のように、その先が見えていないだけかもしれない・・・ 見えなくても、進めば・・・明日が見えるかもしれない・・・」 「オレも・・・」 「んっ・・・?」 沢田は零に顔を向ける。 零もまた、涯と赤松が消えていった道を見つめていた。 「オレもそう思います・・・今、オレにとって、涯と向き合うこと・・・ それがオレの明日につながる・・・そんな気がするんです・・・ オレも明日が見たい・・・!」 零の言葉には、まだ、どこか震えがあった。 しかし、眼光はその道をまっすぐ射抜いている。 ――始めの一歩は誰しも不安を抱える・・・だが、この少年なら前へ進める・・・! その時、雲に隠れていた月明かりが再び、姿を現し、周囲を照らす。 道の先がおぼろげに見え始める。 「よし・・・行くぞ!零!」 「はいっ・・・!」 零と沢田は涯と赤松が駆けた道を走り始めたのであった。 【E-3/森/夜】 【宇海零】 [状態]:顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷 精神やや不安定 [道具]:麻雀牌1セット 針金5本 不明支給品 0~1 支給品一式 [所持金]:0円 [思考]:対主催者の立場をとる人物を探す 赤松、涯と合流する 涯と仲直りをする 【工藤涯】 [状態]:右腕と腹部に刺し傷 他擦り傷などの軽傷 新しく手に擦り傷 精神混乱 [道具]:フォーク 鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 支給品一式×2 [所持金]:2000万円 [思考]:孤立する 【赤松修平】 [状態]:健康 腕に刺し傷 [道具]:手榴弾×9 石原の首輪 標のメモ帳 支給品一式 [所持金]:1000万円 [思考]:できる限り多くの人を助ける 宇海零にメモを渡す 工藤涯を零の元へ連れ戻す ※石原の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は停止していません ※利根川のカイジへの伝言を託りました。 【沢田】 [状態]:健康 [道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません 高圧電流機能付き警棒 不明支給品0~4(確認済み) 支給品一式×2 [所持金]:2000万円 [思考]:対主催者の立場をとる人物を探す 零を心配している 主催者に対して激しい怒り 赤松、涯と合流する 073 悪戯 投下順 075 四槓子 077 闇 時系列順 075 四槓子 064 人間として 宇海零 088 希望への標(前編)(後編) 064 人間として 工藤涯 085 同士 064 人間として 赤松修平 085 同士 064 人間として 沢田 088 希望への標(前編)(後編)
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/31354.html
しあわせのいばしょ【登録タグ が~とん し 初音ミク 曲】 作詞:が~とん 作曲:が~とん 編曲:が~とん 唄:初音ミク 曲紹介 手と手握れば ほら こんなにも笑顔になれる が~とん氏 の10作目。 イラストを najuco氏 が、動画を モモイロ氏 が手掛ける。 歌詞 いつどこで何があっても あたしを特別扱いして ムスッとしてる時は 構って欲しいの裏返し 好きになって 仕方なくって この気持ち 抑えきれない 言葉にして 態度に出して・・・ってあたしばっかずるい! 心配性のあたしだから もう!好きって言って! あなたのことを考えるほど なんだか不安になって 恐い夢に泣き出してしまうの だけど・・・ 手と手握れば 温もりでほら こんなにも笑顔になれる 不思議だねって そっと呟いた もうちょっと もうちょっと 繋いだ手を離したくないの もうちょっとだけ ねぇ お願い 甘えさせてよね 健やかなる時も 病める時も 愛することは勿論できるでしょ? ちゃんとあたしの目を見て 言いなさい 好きの言葉は 毎日欠かさず欲しいのよ 電話ででも メールでもいい 簡単なんだから 心配症のあたしだから 本音を言うと 嫌われるのが恐いって思うの・・・ねぇ あなたの好きって気持ちが あたしの好きと同じだと 分かっているなら こんなにも苦労しないわ! あなたのことを好きになるほど なんだか不安になって 恐い夢に泣き出してしまうの だけど・・・ 手と手握れば 温もりでほら こんなにも笑顔になれる ありがとうって そっと呟いた あなたに出会えたことで こんなにも幸せなのに 寂しくて困らせてしまったりするの・・・ わがままばかり こんなあたしに たくさんの愛をくれて ありがとうって ギュッてしたいんだ もうちょっと もうちょっと もたれた背中 くっついてたいの もうちょっとだけ ねぇ お願い 甘えさせてよね コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/9945.html
GF/W33-T20 カード名:皆の居場所 クロエ・ルメール カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:8000 ソウル:1 特徴:《ガール》? 【自】 [あなたの山札の上から1枚をクロック置場に置く] このカードがアタックした時、クライマックス置場に「チハヤナントカ」があるなら、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、相手の1ダメージを与え、そのターン中、このカードのパワーを+2000。(ダメージキャンセルは発生する) 素敵な感じで決めてくださいネ! レアリティ:TD 14/12/05 今日のカード クライマックスシナジーで自身をパワーパンプしつつ直接ダメージを与えられる。 コストでクロックを増やしてしまうためキャンセルされる可能性があることを考えると割にあわない印象があるが、ダメージレースで優位さえとっていれば問題ない。 逆にダメージレースで劣勢だとこちらは確定で1クロック増える点が災いして更に状況が悪化する可能性さえある。 レベル2時点でならば先上がり狙いで積極的にも使えるが、少なくとも勝敗を決する一歩手前であるレベル3ではよっぽどダメージレースで優勢をとっている時か引導火力となる時以外に使いたくないだろう。 このように積極的に使いたいタイミングとコストが噛み合っていない点が非常に難点だと言わざるをえない。 ただこのタイトルは基本的に単色を推奨する環境にあり、混色で使えるカードは希少である。 特にレベル2は強力なカードと言えるほどのカードも少ない為、レベル3に速やかに上がれるこのカードは十分候補に挙がる可能性を秘めているといえよう。 ・対応クライマックス カード名 トリガー チハヤナントカ 扉
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/778.html
その日の剣道場は、空気が淀んでいた。まるで濁りが目に見えるかのように。 それは窓の外が曇天に覆われているという所為もあるのかもしれない。陽の光を喰らう分厚くて鈍重な、空の汚れ。午後は雨が降るのではないだろうか。勇次は思った。 勇次がその渦中に訪れたのは、昼休みも後10分程で終わろうかという時間だった。 カバンを背負ったまま入り口の扉を閉めた勇次は、話慣れた幼馴染の姿を探そうと道場内をぐるり見渡す。そして壁際で静かに俯いている都の姿を目にして、勇次はようやくその場の異変に気が付いた。 すぐさま都の傍にこそっと駆け寄り、相手が反応するのを待って恐る恐る口を開く。 「……あの」 静寂の中心地に目を向けながら、勇次は声を潜めて都に尋ねた。 「もしかして今、拙い状態ですか?」 今や恒例となった週に2度の「道場deお弁当デー」も、気が付けば始まりから2ヶ月近くが経とうとしていた。 部内の親睦を目的に掲げられた仲良し昼食会。なのだが、それは誰がどう見ても、顧問との2人きりの昼食に踏み切れない部長の葛藤に、部の全員が巻き込まれたという形のイベントだった。 尤も、巻き込まれたとはいっても、その事を不快に思う者は恐らく部内には誰も居ないし、居たとしてもそれは大ハッスルで決行させた黒幕にこそ向けられるものなのだが、それは余談である。 道場の異変に気が付いた勇次が、真っ先に都の元へと向かったのは、彼女がこの中で最も色恋沙汰に明るい人物だと思ったからだ。 今日は恒例の昼食会。生憎と勇次は人に呼び止められて遅れてしまったが、しかし来てみればその主役とも言える2人は道場の真ん中で互いに背を向けて無機質に沈黙を保っている。 色事には破滅的に疎い勇次だったが、流石にこの異常下では察しがついたのだ。 「……まあね」 都は、溜め息を吐くように言葉を紡いだ。 「そういえば吉河先生は……来てないんですか?」 見渡して見当たらなかった人物の名を、勇次は挙げた。 昼食会は基本的に剣道部の集まりである。だが、何故か吉河先生も弁当を持参して良く参加していた。その理由は2人分の弁当箱を見れば明らかなのだが、肝心の顧問だけは未だに気付いていないようだった。ちなみに勇次は人に言われて初めて気が付いた。 いじらしいな、と勇次は思っていた。色事には絶望的に鈍い勇次だったが、延々と部長に餌付けされ続ける顧問に対して全く挫けないその姿勢、そんな吉河先生を勇次は強い人だと尊敬の念すら抱いていた。自分には決して無い強さだ、そう思っていた。 「来たんだけどね……」 呟く都の瞳から、勇次は失望と嘲りを感じ取っていた。そして確信にも近い恐れを抱いた。この先は、よくないぞ、と。 「あの2人、そこで言い争いしててさ」 それは普段あまり聞かない口調だった。吐き捨てるように、つらつらと力無く紡がれる言葉。それがまた尚更に勇次の心を徐々に蝕んでいく。 「……結局、投げ捨てて帰ったよ」 都は一度言葉を止めて、右手の指を軽く内に握り込む。勇次にはまるでそれが、自らの指がそこにある事を確認しているようにも見えた。 「泣いてたね、あれは」 そうして部屋の隅を指差す。つられて勇次が目を向けると、その先には無残にひっくり返った弁当箱が2つ転がっていた。思わず顔をしかめてしまう。どちらもナプキンに包まれて大惨事は免れたようだが、その中身は想像も確認もしたくないと心底思った。 「酷い話よ」 都は再び顔を伏せる。それは、溢れる苦い想いに耐えているようだった。 正直それ以上聞きたくなかった。言わせたくも無かった。これがもしも仲間の事でなかったなら、勇次は耳を塞いで逃げてしまいたかった。 「……どっちが先に、あーんしてあげるかだってさ」 勇次は珍奇な声を上げながらカバンを床に叩き付けた。 完
https://w.atwiki.jp/enderal/pages/39.html
アッシュウィドウ サンコースト ゴールデンフォード城 ダルゴラクの爪を持っていないと出現しない ダルゴラクの爪はアーク南地区の博物館(達人鍵展示箱)に所蔵されています 目の見えぬ鉱夫 アーク アンダーシティ タールピットからさらにバラック?を抜けた奥にあるオールドアイソロン:洞窟に入ってすぐ ※本に書かれている通り アポテカリウス達が知っているという対処法なしではダメージを与えられない アンダーシティにあるアポテカリウスの施療院から古い破魔のトーテムの設計図を持ち出して作成する必要がある さまよえるアーヴェルディーン 薄暮れ谷の池の上に橋がかかっている場所(北側) トリケラトプス ドゥネヴィル 北側から廃屋に向かって行く途中 鋼鉄の監視者 サルガード 火葬場を抜けた辺りの下へ降りる階段とサルガードへ向かう道が分岐するあたり
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3933.html
『きめぇ丸の居場所』 13KB 観察 飼いゆ 野良ゆ 現代 独自設定 (投稿)やっちゃうよ?やっちゃうよ!? ・これもう(何が書きたかったのか)わかんねぇな… ・感想&批評アニキアリシャス!悪文なのはさ、作者の頭が可哀相って事でもう、いいんじゃない?(小学生並の誤魔化し) 少女の住む家、その裏手にある室外機に繋がるダクトと屋根の隙間は、何時頃からか一頭のきめぇ丸の住居になっていた。 それを最初に見つけたのは少女の父親だが、彼はきめぇ丸を追い立てる事はしなかった。 ゆっくりの生態について少し明るかった彼は、きめぇ丸は人間に対してコミュニケーションを図る事が少ない種である事を知っていたからだ。 市井におけるゆっくりの狼藉を知っていた母親は夫の決断に苦い顔をしたが、 しばらく観察してみればなるほどきめぇ丸はただの鳥と生態に関して大した差が無い事を実感し、 寝床を提供するくらいならと干渉するのを控えるようになった。 「きめぇ丸ー」 両親に反して、少女はその物珍しさからかよく構った。 とはいえ、きめぇ丸がそれに対するリアクションを起こした事は一度も無い。 ふだん少女が声を掛ける機会のある登校時間前から下校時間後までいずこかへと出払っており、 それ以外の時間は狭い暗がりの中でじっと息を潜めて佇んでいるだけである。 「ご飯だよーきめぇ丸ー出ておいでー」 だから少女は週末になると、こうしてきめぇ丸に呼び掛ける。手にある物を見れば野良ゆが目を剥くだろうお菓子の数々が握られていた。 が、暗がりの中の饅頭のシルエットは微動だにしないままだ。すわ死んでいるのではないかと少女が勘違いした事も何度かある。 しかし呼び出された母親が手を伸ばすたびに、ゆっくりらしかぬ速度でひょいとかわして飛び去ってしまうのだから、もはや少女の呼び出しに母が応じる事は無い。 「なんで言う事聞いてくれないのかなあ?ゆっくりってお菓子が好きなんでしょ?」 「こら!」 「うわっ!」 全く反応の無いきめぇ丸を前に訝しむ少女の後ろから、強く咎める母親の声が掛かった。 「野良ゆっくりに餌やるのはやめなさい、って、いつも言ってるでしょうが!」 「野良じゃないよきめぇ丸は。飼ってるんでしょ?」 「そんな訳無いでしょ、勝手に住み着いてるだけ!邪魔にならないから置いてるだけよ」 「おんなじじゃん…」 持っていたお菓子を取り上げられてしまい、恨みがましい目を母親の背に向ける少女。 勝手口が閉じるのを見届けると、またきめぇ丸の潜む暗がりへと視線を戻した。 そこには相変わらず微動だにせず、こちらを何とも思ってなさそうなきめぇ丸のふてぶてしい表情が僅かに見えた。 「おお、うまいうまい…」 翌日、早朝に寝床を後にして、街中へと腹ごしらえに繰り出したきめぇ丸は、 すぐに住宅の壁に張り付いていた蛾を目ざとく捕らえ朝食としていた。 住人の顔も知らないおうちのベランダを借りているのは、自らを捕食しようとする存在から逃れる確率を少しでも上げる為である。 ふと、きめぇ丸は公道を見下ろした。 「ゆぶぎ、ゆぎぎぎぎぎ……」 「ゆ!がんばってねまりさ!もうすこしでやぶれるよ!そしたらいっぱいごはんさんをむーしゃむーしゃできるよおお!」 二頭のゆっくりが、朝食にありつく為だろうかゴミ集積所で尽力している姿があった。 二頭は今、どんな気持ちでビニールに包まれた生ゴミと戦っているのだろうか。 いっぱいごはんをむーしゃむーしゃして、しあわせーな気分になる為か。 それとも、ああするしか生きる方法が他に無い為か。 それともその両方で、あの生ゴミをむーしゃむーしゃしてしあわせーな気分にならなければ生きていけないと考えているからなのか。 いずれにしても、あまり頭の良いゆっくりでは無いだろう事はきめぇ丸にも想像はついた。 「ゆぐぎいいいいいいっっ!!ゆふぅ、ゆふぅ、や、やったよ…!やぶれたよ…!いっぱいむーしゃむーしゃするよ…!」 「やったよ!やったよまりさ!ごはんさんいっぱいだよおおおおぶぢゅ!?」 「………ゆ?」 まりさは、希望が開けた矢先に眼前で餡子の染みとなってゆん生を終えたれいむを見て、思考が停止した。 なぜ?どうして?なんでれいむはずっとゆっくりしちゃってるの? それを見下ろしている青年は、忌々しげな表情のまま、足を再び持ち上げた。 そしてまりさはようやく、全てを悟った。何もかもがゆっくりし過ぎていたまりさは、眼前に迫る青年の靴底を見ながら涙を流した。 「もっとゆっくりしたk」 今際の言葉も語り終えられずに、まりさのゆん生は幕を閉じた。 「ちっ」 がりがりと靴底の餡子をアスファルトに擦り付けながら、青年はもう一つ持ってきていた空のゴミ袋に二頭の死骸をトングで放り込んだ。 「おお、こわいこわい…」 始終を見ていたきめぇ丸は、ふるふると顔を振動させる。 人間と深く関わってはいけない。人間に深く立ち入らせてはいけない。それはきめぇ丸の餡子深くへと刻まれた本能である。 他のゆっくりと違って並の鳥くらいには敏捷で、容易くその手から逃れられる事は出来るきめぇ丸だが、 決してかれらは侮ってはいけないし、許してもいけない存在であると強く認識していた。 それはこのきめぇ丸だけの本能であるのか、それともきめぇ丸という種全体の特徴たる知性の高さに由来するものなのかは判別する事は出来ない。 ともかく、きめぇ丸はこの街で生きていた。 関わってもいい距離と、立ち入らせてはいけない距離を保ちながら、今日もきめぇ丸はダクトと屋根の間で佇んでいた。 「ゆっくりしていってね!」 「はい、ゆっくりしていってね、まりさ」 少女のきめぇ丸に対する一方通行な思い入れは、親にせがんで飼いゆっくりを購入させる事でひとまず鳴りを潜める運びとなった。 しかし、何しろ購入したのは銀バッヂとはいえまりさ種なのだから、母親が眉を顰めるのも仕方ない。 夫に対して憂慮する心中を漏らすのも、当然である。 「ま…責任とって面倒見る、って言うんだからね」 「でも、甘やかすとすぐ付け上がるって言うじゃないの。野良のみたいなのになったら…」 「だからだよ」 「え?」 「幻想なんて直に触れれば消えてしまうものなんだよ。餡子の詰まった饅頭相手ならなおさら…」 「そんなの…」 「そうならなければ、それで良しって事じゃないか」 自分の夫の、酷薄とも言える計算高さに、母親はわずかに嫌悪を抱いた。しかし、娘の為を思えばという考えも等しくあった。 「ちゃんと責任とるから」 その言葉の重みを、愛する娘が理解する事は決して悪しようにはならないだろう、と。 少女はまりさの面倒をよく見た。 やがて暗がりに潜むきめぇ丸に声を掛ける事も無くなった。 もちろん、それだからと言ってきめぇ丸のライフサイクルに何らかの影響がある筈も無く、 きめぇ丸はいつものように日の出に出かけ、日の入りに帰るのを繰り返す毎日を過ごしていた。 そんなある日、相変わらずダクトの上でじっとしていたきめぇ丸は、家の中から響く声を暗がりの中で聞く機会にあずかった。 「ゆふんっ、おねーさん、まりさおなかすいたよ!はやくごはんもってきてね!」 「はぁ…まりさ、おやつはさっきあげたでしょ。今日のご飯は晩御飯だけだよ。わかるでしょ?」 「な゙に゙い゙っでる゙の゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!?!? あれだけでたりるわけないでしょおおおおおおおおおおお!!!?? まりさのおかげでおねーさんはゆっくりできてるんだから、 もっとまりさをゆっくりさせなきゃだめでしょおおおおおおおおおおおおおお!!?!??」 「もお…なんでこうなっちゃったの…あんなに良い子だったのに…」 少女は泣きたくなった。普通、こうした子供の我侭で買われてきたペットの面倒とは、子供の監督不行き届きの尻拭いを親がするのが常である。 だが、このまりさの場合はそれが一切無かった。 まりさの躾はすべて少女が行い、まりさの行動の後始末もすべて少女が行う。それが父親の提示した条件だった。 少女は容易い事だと思った。種が違えど所詮同じゆっくり、少し能動的に動くようになったきめぇ丸程度の代物だと思っていたのだ。 決められた食事の時間以外にもお菓子を与え、多少の横柄さともとれる振る舞いも可愛い我侭のうちだと許容した。 果たして銀バッヂのまりさは、見事に自分と人間の力関係を勘違いした、典型的なゆっくりと成り果てた。 「それとねえ!まりさ、この前また遊んでて食器割ったでしょ?おもちゃならここにあるんだから、家のもので遊ばないで! お母さんに怒られるのは私なのに、何で何度も同じ事繰り返すのよ! このままわがままばっかり言ってたら、あんた、捨てちゃうわよ。分かってるの?」 「ゆへっ、おねーさんはほんとうはそんなことしないよ!こんなにゆっくりしてるまりさがすてられるわけないよ!」 少女とまりさの間で交わされる不毛な会話は、きめぇ丸に自らの立場を再考させる一助となった。 少女がまりさに怒り、悲しんでいるのは、まりさの不始末の責を自分が負うから、という理由だけではないのだろう。 少女はまりさが自分を裏切った、と思っているのだ。 まりさは少女に飼われている。それは、まりさが少女の所有物であるという事だ。まりさが認めるか如何にかかわらず、少女にとってはそうなのだ。 だから少女は失望するのだ。自分の一部となった物が自分の意にそぐわない行動をとる。それが耐え難い事だと感じる。 まりさの居場所は、少女の暮らすこの家ではなく、少女の心の中にこそ存在するのだ。 きめぇ丸は生まれてからそれ程長く生きている訳ではないが、人間の最たる奇特さとはまさにこの点だと思っていた。 人間は、実際に存在する物と、その人自身にしか触れる事の出来ない、心という概念に等しく重きを置いている。 そこにあるだけの物と、自分の心の中に居場所を作った物とでは、価値がまったく違うものとみなすのである。 だから、きめぇ丸は、少女との同化を拒否した。施しを受け入れられる機はあったのに、だ。 それは野生の矜持などではなく、純粋な打算に他ならない。 人間は物質的な損得だけで動く生き物ではないから。自分の心に居場所を与えた相手に、そこを汚される事を強く嫌うから。 きめぇ丸の居場所は、今ここにある暗がり以外に存在しないのだ。 それは、この暗がりが無くなろうとも、この街のどこへでも飛んで行けるきめぇ丸だからこそ思い至れる理屈なのだろう。 そしてきめぇ丸は、その新たな住処で今と変わらない生活を送るのに違いない。 だが、疎まれ、屠られ、甚振られ、それでもなお地を這い生にしがみつくこの街のゆっくり達を見てきたきめぇ丸は、ひそかな望みを抱いていた。 それはきめぇ丸一頭だけでは決して叶えられないものだが、それほど悲観的な望みだとは思っていなかった。 「はあー。あのまりさもあんたみたいに大人しければいいのにねえ」 きめぇ丸が腹ごしらえをする時は、自らを付け狙う空の住人達から逃れるために、人間のテリトリーで獲物を探す。 歩道を人の手の僅かに届かない高さで浮遊する姿は奇異のまなざしを集めるが、あからさまに排除しようと働きかける者は居ない。 彼らが嫌悪するのは路地裏に蠢き、廃棄物を荒らす饅頭達であって、建造物の隅に張り付く虫達を食む奇妙な鳥もどきなど歯牙にもかけない存在だ。 今日もそこでの狩りを終え自分の居場所へ戻って来たきめぇ丸は、その場に居た母親による返答を期待していない愚痴を聞かされている。 「バッヂなんて言っても、所詮あんなものよね…まぁ…しょうがないわよね…」 あれから数日、まりさの態度に改善の見込みは無い。 少女の必死の躾もむなしく、昨日における狼藉は遂に母親による最後通告を引き出させた。 『またやったわね!ちゃんと躾けてるの?全然変わらないじゃないの!!』 『う、ちゃ、ちゃんと言ってるよ。でも…まりさ!やっちゃ駄目って何度言ったらわかんのよ! あと!こういう事したらきちんと謝るって、教えてるでしょ!?』 『ゆぷぷぷ、おねーさんもおばさんもぜんぜんゆっくりしてないのぜ。まりさはあやまるようなことなんてしてないのぜ』 『こいつっ!』 『待って、待ってお母さん…あと一回だけ!一回だけ!お願い…』 『…次はないからね』 もちろん、本気の怒りをぶつけたわけではなかった。最初からこうなるのは予想できた事なのだ。 わかってて放置したのである。罪悪感を感じない筈は無い。 しかし、母親はまりさの事を娘より可愛いとは思わなかったし、これからも思える事は無いだろうと確信していた。 それは、子供が縁日で取ってきた金魚に対して母親が抱く感情と同じだった。 ただそれに比べて少し煩く、癇に障る饅頭。母親にとってのまりさはその程度の存在だった。 母親の心の中に、まりさの居場所など最初から無かった。 結局夫の想定どおりになってしまっているのは少し気に食わなかったものの、何かを覆そうという気など毛頭無い。 精々、事の済んだ後には娘のサンドバッグ役を引き受けてくれればいいと考えていた。 「ま…あんたに言ってもしょうがないか」 肩をすくめながら母親は、勝手口の方へ戻っていった。 きめぇ丸は相変わらず、暗がりの中でじっと佇んでいた。 「ゆっふふ~ん、きょうはおでかけなのぜ!こんなにゆっくりしてるまりさはもっとひろいせかいでけんしきをひろめるべきなのぜ! そんなこともいままでわからなかったおねえさんはおばかなのぜ!ちっともゆっくりしてないのぜ!」 「…」 「おねえさんきいてるのぜ?みみがばかになっちゃってないのならさっさとこのせまいかごからだすのぜ! こんなせまくるしいばしょはゆっくりしてるまりさにはにあわないのぜ!」 「うん…もうちょっとだけ…我慢してね…まりさ…」 「ゆふん!おねえさんはいっつもそうなのぜ!まりさはいっぱいおねえさんをゆっくりさせてあげてるのに、 まりさのことをぜんぜんゆっくりさせてくれないのぜ!おねえさんはどうしようもないおんしらずのおばかさんなのぜ! こんかいだけはゆるしてあげるけど、こんどまりさのことをおこらせたらせいさいなのぜ!」 「…」 少女はもはやまりさの言葉に応答する事は無かった。 何も言わないまま、ケージを抱えて車に乗り込むのを見届けた父親は、アクセルを踏んだ。 「おお、つかれたつかれた…」 肌を茜色に照らされたきめぇ丸はその日も暗がりへと戻って来た。 何も変わらない日々。きめぇ丸はそれに格別な不満も無かった。 しかし、それは前触れ無く唐突に終わる。 それはきめぇ丸の小さな望みが叶う時だった。 「あー!あー!」 「!」 「あー!あー!あー!」 西の空から響く奇妙な鳴き声。それを聞いたきめぇ丸は弾かれたように暗がりから抜け出て、屋根の上から夕日の方角を見やった。 「おお…」 きめぇ丸は、嘆息した。 そこには、空飛ぶ饅頭の奇妙なシルエットが、数十頭もの編隊を成していた。 空に在っては捕食者として地位の低いきめぇ丸だが、だからこそ数の力の持つ意味を知っている。 若く力の足りない個体達は、群れて互いの安全を保障しあうのだ。 きめぇ丸が一頭で生きるのを悪しく思っていなかったのは確かな事だ。 だがその事と、自身の望みを捨てるかどうかという事は、まったく別の事だ。 きめぇ丸は、わき目もふらずに飛び立った。 「あ…」 少女はガレージからそれを見た。後ろには、車を降りた父親と母親が控えていた。 少女が言葉を口にする間も無く、それに手を伸ばす暇すら与えられないまま、 きめぇ丸は、そこを目指して飛び去った。 今まで暮らしていた、自分の居場所を振り返る事無く。 今まで抱いていた、ほんのささやかな望みを得る為に。 もしも最初に、少女とその家族が、その暗がりからきめぇ丸を追い立てようとしていれば、きめぇ丸はそれに従ったに違いない。 しかし、そうはならなかった。 そして、きめぇ丸はかつての居場所に、何も残す事は無かった。 きめぇ丸は、去って行った。 新たな、自分の居場所へと。 少女は何も言わずに、それを見つめていた。 やがてその影が、沢山の空飛ぶ饅頭達の一粒に埋没して、夕日に照らされる街を後にするまで。 母親と父親も、何も言わずにそれを見つめていた。 「ただいまーっ」 学校から帰って来た少女は、家の扉を開けようとすると、そのまま立ち止まった。 そしてしばらくすると、その場を離れ、家の裏手へと歩を進める。 少女は、そこで足を止めると、視線を上へと向けた。 室外機へと繋がるダクトと屋根の間にある、小さな隙間。 「…」 その暗がりには、何も無かった。まるで、家の建った時から、今に至るまで何も無かったかのように、ただ暗がりがあるだけだった。 少女はしばらくそれを見つめていたが、やがて振り返ると玄関へと戻っていった。 夕日の入らない暗がりは相変わらず、ただそこにあるだけだった。
https://w.atwiki.jp/mipo-2525/pages/114.html
居場所。そして統治 次。同性的に見てどうかなと思う人が男性にかわいい女の子とかいう風に扱われていて絶望します。男の人は何を見てるんですか。ですか。 posted at 10 26 24 男という生き物は、制御出来る範囲で一番面倒臭い女に惹かれるものです。 英雄や大政治家が毒婦や傾国を簡単に招き入れてしまうのはこのせいですね。 男ぶりが高い程壮絶に面倒くさい女に惹かれます。面倒でない女性と付き合うのは男性としてはつらいときの方がおおいんですよ。 posted at 10 31 33 まあ、ファティマ、ヒュートランみたいなもんです。 面倒な女を抱え込みたがるのは古くは甲斐性と呼んでるもので人類の仕様です。 だからこそ人類は絶滅せずにすんでます。 駄目な人の救済仕様がないと人類はすぐエリート志向で数をどっと減らすことになっていたでしょう。以上説明終わり。 posted at 10 39 51 横から失礼します。芝村さんはどれくらい面倒なのが好きですか。ですか。 面倒とかは考えたことないですね。 愛は面倒やスペックの話ではないのです。 愛は愛以外の全部がオマケなんですよ。 愛がある、面倒くさいのがオマケにある、でも気にしない。それが愛ですよ。 posted at 10 47 58 人を選ぶ時は能力で選ぶな。人を選ぶ時はその人と過ごしたら苦労も楽しいかで選べ。 これは恋人だけでなく友人や会社の新人を選ぶ時でも有効な秘訣です。 俺のまわりに侍らすのはそういう人物だけにしています。 posted at 10 51 49 こんにちは、質問よろしいでしょうか。一緒に過ごすと苦労が多い人と縁が切れそうにないときは、どうするのがよいでしょうか。ですか。 posted at 11 08 04 苦労を苦労と思えるような人と過ごすと人生と時間は苦痛でしかなくなります。 でも相手から見れば迷惑かければ楽なので、こうなると関係を断つのは難しくなります。甘えの構図という奴です。 時間と共に耐え難くなるか、自分が成長してまたこれも良しとなるかのルートがあり得ます。 posted at 11 12 15 相手が変わることは通常ありません。 そちらに期待するのはやめましょう。 まあ、面倒な話ですね。 そうならないように付き合う相手は慎重に決めましょう。 チャンスを測って動きなさい。 posted at 11 14 07 質問よろしいでしょうか。先ほどの話題で「面倒でない女性と付き合うのは男性としてはつらいときの方がおおいんですよ。 」とのことだったのですが、これは面倒な女性を甘やかすのは、男性にとって甘えるということだからでしょうか。 ですか。 posted at 13 45 19 男の甘えるは甘やかすことです。と確か昔私が言ったことを踏まえておっしゃってる話ですね。 でもまあ、「面倒でない女性と付き合うのは男性としてはつらいときの方がおおいんですよ。 」とは別ですね。 posted at 13 47 08 面倒でない女性、出来る女性がモテないのは居場所がないからなんですよ。 相手に居場所(活躍の場)を与えるのは恋愛の重要な要素なんですが、これがね。良く出来た人の傍だと見つけられない人が多い。 posted at 13 50 28 良く出来た人はもう一歩進んで統治することを覚えるといいでしょう。以上説明終わり。 posted at 13 54 43
https://w.atwiki.jp/fukumotoroyale/pages/104.html
心の居場所(前編) ◆uBMOCQkEHY氏 「そうだ・・・!怪我、治療しなくっちゃ・・・!!」 零は傷を負っている涯を治療するため、 今いる場所から少し離れた森の中に沢田という仲間がいることを告げ、そちらへ足を向けた。 涯もそれに従う。 零は同世代の仲間が増えたことが素直に嬉しかった。 自身でも、気分が高揚していることが分かるほどに・・・。 しかし、この時、零は冷静な思考の淵に、一種のわだかまりを感じていた。 それは警告にも近く、一歩、一歩前進する度に、膨らみを増していく。 零にはその理由が分かっていた。 零は涯の衣服を見た。 涯は腹部を刺されているらしく、そこを中心に血が滲んでいる。 しかし、それとは別と思われる血が付着していた。 ――この不自然な返り血ができる場面は限られている。その場面は・・・。 零は理解していた。 涯は信用するに値する人物であるということを。 また、その返り血が生じてしまう場面のことを口に出してしまえば、この場の空気が変わってしまうことを。 しかし、零にとって、このわだかまりは異物といってもよかった。 異物を吐き出す手段として、零はある考えにたどり着いた。 ――仲間なら・・・事実を明かしあうべきじゃないのか・・・! お互いに信用しあうために・・・! 零は足を止め、涯の方へ振り返った。 「涯・・・もしかして、誰かを殺してしまったこと・・・ある?」 涯は大きく目を見開き、足を止める。 「なぜ・・・」 ――なぜ、分かった・・・? 心の中がざわ・・・ざわ・・・と動揺している。 涯は心臓の鼓動が大きくなるのを感じながらも、それを押さえつけ、頭を動かした。 すぐに否定すれば、この場は収まる。 「いや・・・ない・・・」 零は一瞬、言葉を呑むような戸惑いを見せるも、すぐにおどけたような軽い笑みを浮かべる。 「あ、ゴメンゴメン・・・!今のことはオレの勘違いだから・・・!」 さあ、行こうと涯を促すと、零は再び、足を進め始めた。 涯もその背中を追うように歩き出す。 もし、この時、この光景を第三者が見ていたら、問題は解決したかのように見えていただろう。 確かに涯も零からの追求を逃れることができたという安堵感を覚えていたが、同時に、その心はざわついていた。 ――零は・・・オレが人を殺したことを感づいている・・・! しかし、すぐに自分に言い聞かせる。 ――零に知られたって構わない・・・このゲームでは当たり前のこと・・・。 “だが、人を殺したことには変わりない・・・この人殺しが・・・!” この直後だった。 何者かが涯の首根っこを掴み、涯を押さえつけ、地面に叩きつけた。 「がっ・・・!」 何者かが涯の背中に手加減なしにまたがり、体重をかける。 重圧が体全体にかかり、気管は押しつぶされ、呼吸が詰まる。 「っ・・・!」 ――なんなんだ・・・!これは・・・! 涯は体をわずかに持ち上げ、その背中の主を見上げた。 「・・・えっ・・・!」 涯は愕然とした。 その主は、自分であった。 もう一人の自分は涯に顔を近づけ、その耳元で囁く。 “殺人を犯したという点では、今、お前はあの平田と同類・・・。” ――ふざけるな・・・! かつて涯に殺人という無実の罪を着せた平田家の人々の顔が頭を過ぎる。 涯は言葉を発することが出来ない代わりに、目にその怒りを浮かべ、もう一人を睨みつけた。 ――オレが犯した殺人は生きるための選択・・・!正当防衛・・・! 欲に目がくらんだ平田とは立場が違う・・・同類の訳が・・・ そこまで思考を働かせた所で、涯は言葉を失った。 目に飛び込んできたもう一人の自分の顔は、初めて応接間に通された時の平田家の人々と同じ笑み――欲の皮が突っ張るという言葉を文字通り表したかのように、口元をだらしなく上げた笑みを浮かべていた。 自分が忌み嫌っているあの笑みを自分が今、浮かべている。 涯は悟った。 もう一人の自分は自分の内に潜む心――殺人という愚かな行為を犯した自分を責め、その現実を見せつけようとしている、“人間として”の倫理観であることを・・・。 かつて平田事件の時は、自分は無実であるという確証があった。 自分が自分を信頼できる支えがあった。 だからこそ、人間学園においての非常な仕打ち、その逆境を越えることができた。 ところがどうだ。 このゲームで、ある男――安岡を殺した時、その心に過ぎったことは、 『弱者は助からない、殺さないのは偽善、生きるために・・・殺す』 本来、涯が嫌うはずの考えであった。 その後は 『死にたくなければ・・・生きてここを出たいのであれば、殺し続けるしかないのだ・・・!』 という考えを信条に、ケモノのごとく、涯はその拳を振るい続けてきた。 ――そう・・・それまでオレはケモノだった・・・だが・・・。 それは零との出会いで変わり始めてしまった。 零と出会った時、零は今にも急斜面から滑り落ちそうになっていた。 その時の零の姿は、まさにボンクラ――弱者であった。 零の存在を無視すれば、涯が生き残る確率が上がるはずであった。 しかし、その時、涯に人間にしか持ち合わせていない心――慈悲が芽生えてしまった。 結果、零を助けるという選択をしてしまった。 そして、大泣きする零に呆れ、言葉を交わし、感謝の気持ちを抱く――人間にしかできない行為によって、 “人間として”の倫理観を取り戻していった。 今、“人間として”の倫理観が涯を苦しめている。 ――オレは、平井家と同類・・・醜悪な罪人なのか・・・! 背中の重圧は、もう一人の自分の体重ではなく、今や罪の重さとなっていた。 ――軽くなりたい・・・言えば楽になる・・・楽に・・・。 ――・・・どうした?涯・・・どうした・・・?」 涯は零の言葉に、ハッと顔をあげる。 零の顔が目の前にあった。涯をきょとんとした表情で見つめている。 「さっきから暗い表情で・・・何か考えていたのか?」 涯はあたりをキョロキョロと見渡す。 辺りは暗闇が広がり始めている森の中であった。 「い・・・いや・・・なんでもない・・・」 「そうか・・・じゃあ、行こうか・・・」 零は再び、涯に背中を向けようとする。 涯が言葉を発したのは、それと同時であった。 「・・・人を・・・殺した・・・」 零は動きを止める。 周囲の木々がざわめく。 涯は一呼吸置き、口を開いた。 「なぜ、分かった・・・?」 「それは・・・」 零は少し逡巡しつつも、その訳を話し始めた。 「服と腕の返り血だ・・・」 涯は自分の服と腕を見つめた。 返り血は、ズボンの左側はつま先から膝、右側は膝より上の太ももにかけて、右腕は小指周辺を中心に肘辺りまでのびている。 「まず、ズボンの返り血だが、どうしたら、こんな返り血ができるのか・・・分かるか?」 「えっ・・・」 零の問いに涯は戸惑う。 ――確か、この返り血を浴びた時は・・・。 「しゃがんでみて・・・右ひざを地面に付けるようにして・・・」 涯は言われるがままに、その場に屈みこむ。 「・・・!!」 ここで涯は気づいた。 左膝をたて、右膝を地面に付けてしゃがむと、 左側の太ももは脛で隠れ、右側の脛は太ももに覆い隠され、地面に触れる、 つまり、返り血を浴びた部分が正面から見て晒された状態となることを・・・。 零も涯と同じようにその場にしゃがみこむと、ポケットからペンを取り出した。 「多分、その時の凶器はこんな感じの小型のもの・・・例えば、ナイフとか・・・」 零はこのペンが仮にナイフだとして、インクが出る先の部分が刃、その反対側であるペンの尻が柄であると説明した。 右腕の小指側にペン先、親指側にペンの尻が来るようにグーで握る。 「君の右腕の返り血は親指側にはほとんどついておらず、 代わりに小指周辺を中心に肘の辺りまで広がっている・・・ しゃがんだ状態で且つ、こんな腕の返り血ができる方法とは・・・・」 零はペンを振り下ろした。ペン先が地面に突き刺さる。 「相手が身を屈めた時より、低い位置・・・横たわっているような状態・・・ 確実に相手を仕留められる状態だったという訳だ・・・」 ここで零は涯をちらっと見ながら、その様子を伺った。 ここから先のことは少々言いづらいことらしい。 涯は先を話してかまわないと促した。 「ただ、正直、状況証拠だけじゃ、確信はなかった・・・ だから、尋ねた・・・“誰かを殺してしまったことがある?”のかと・・・ そこで、君はこう答えた・・・“なぜ”と・・・ “なぜ”は“なぜ分かる?”の省略形、 つまり、経験があるということ・・・この言葉が決定打だった・・・」 「・・・そうか・・・」 涯は零の言葉を終始黙って聞いていた。 零はいくつかの状況証拠から、涯の殺人のありさまを察してしまった。 さっきまで、生への安堵から大声で泣いていた少年がである。 この少年は泣きながらも涯がどのような人間であるかを、観察し続けていたのだ。 涯は正直、初めて零とあった時、零が今まで生きてこられたのは運が良かったからだと解釈していた。 しかし、ここで涯は悟った。 彼の武器は、自分の拳のような相手を傷つけるものではなく、その洞察力、推理力――頭脳であると。 しかし、同時に今度は涯の心に一種のわだかまりが生まれていた。 ――なぜ、零は・・・ 「・・・尋ねる必要があった・・・?」 「えっ・・・」 零はその時抱いた感情を振り返りながら、言葉を探す。 「・・・不快にさせたことは謝る・・・! だが・・・仲間なら・・・今まで、どうやってこのゲームで生きてきたのか・・・ 腹を割って話しあうべきだ・・・そうしなければお互いに信用しあえない・・・! だから・・・」 ――仲間・・・。 零の口から飛び出した言葉に、涯は神経を逆撫でされるような苛立ちを覚える。 ――仲間なら・・・何でもかんでも表沙汰にしていいものなのか・・・! 零の推理は、それまで涯が直視することを避けていた殺人への罪を涯自身に見せ付けるものであった。 ただでさえ、推理が核心に迫るにつれ、心がもろく崩れていく感覚を覚えていくのに、 その晒された原因が、仲間なら当然であろうという集団であることを押し付けるようなものであったことが、涯の苦痛を悪化させる。 それは疑問を問いただすという形で表に現れてしまった。 「・・・このゲームでは殺人が許容されている・・・。 殺人を犯した経験があったとしても不思議ではない・・・。 むしろ、零、お前が尋ねたのは・・・殺人への生理的嫌悪からじゃないのか・・・?」 「そ・・・それは・・・」 零は無意識に肩を震わせた。 ドクドクと不規則な早鐘が、零の心の奥から響いてくる。 涯が口に出した言葉は零自身でさえ気付かない、零の暗部の感情であった。 人は死体を触れたくない忌み物として見てしまう傾向がある。 それを生み出す殺人ともなれば、尚更である。 零の質問は、そんな不浄を嫌う潔癖的な部分が現れてしまった結果だった。 涯は更に言葉を続ける。 「・・・誰しも汚いものには触れたくはない・・・! だから、知りたかった・・・思った通りの結果が出て満足だったか・・・零・・・!」 「分かってくれ・・・!オレは・・・涯をそんな目で・・・!」 「黙れ・・・!零っ・・・!」 「が・・・涯・・・」 その頃、赤松は涯を追いかけてひたすら走っていた。 周囲は森の中ということもあり、木々はざわめき、光は月明かりが木漏れ日のごとく、木々の間から洩れてくるものが頼りである。 赤松は幅の広い直線の道を駆けていた。 途中、分岐点がいくつかあったが、赤松はそちらへ曲がることはなかった。 精神的に混乱しているであろう人間が、わざわざ曲がるという選択をするだろうかという計算もあったが、実際は直感以外の何ものでもなかった。 その時だった。 「黙れ・・・零っ・・・!」 「えっ・・・零・・・?」 赤松は声の方に顔を向ける。 赤松の視界に二人の少年が入った。 一人の少年ははじめて見るが、もう一人は、あの逃げ出した少年である。 赤松の脳裏に、赤松の元から逃げ出した時の涯の後姿が蘇る。 どちらの少年が零であるか、どうして、少年達がここで一緒にいるかは分からない。 しかし、今できることは一つである。 ――ここで、また、見失うわけにはいかない・・・! 生前、標がこのゲームで見たことを書きとめていたメモ帳が入っている左胸のポケットをぎゅっと握ると、喚声のごとき声をあげた。 「ぜ、零君!聞いてくれ!私は・・・標君と共に行動していた・・・!」 「えっ・・・標・・・!」 零と涯は重い沈黙を破るその声の方向へ顔を向ける。 涯は自分達の方へ向かってくる男の姿を見て、戦慄を覚える。 「あいつは・・・オレの首を絞めて殺そうとした男・・・!」 「えっ・・・」 零はその言葉で戸惑いを覚える。 ――ここは逃げるべきかもしれない・・・しかし・・・ 涯は零の腕を引っ張る。 「逃げるぞ・・・!零・・・!」 「待ってくれ・・・!」 涯は呆然と立ち尽くすも、苛立ちを込めた瞳で零を睨みつける。 「ふざけるな・・・!あいつは・・・!」 「あの人は、オレのことを知っている・・・!標のことも・・・!」 零にとって、走ってくる男は初見である。 しかし、自分のことや標のことを知っているということは、おそらく、標が自分からその情報を話したであろう。 標は自分以上に頭が働く少年である。 信用できない相手には、必要以上の情報は話さないはずである。 その少年が心を許した男なら・・・もしかして・・・。 「多分・・・悪い人じゃない・・・!」 「えっ・・・!」 心の居場所(後編)
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/635.html
『デート』とは!! 恋人同士が街に繰り出してイチャイチャっぷりを他人に見せ付けるものである!! と、思っていた。今までは。 まさか、私がその『デート』をするとはまったく思ってもなかったわけで。 ……制服着たままの寄り道、しかもゲマ○にだけど、意識が違えばデートなんだろうか? そもそもデートってなんだろ? ギャルゲとかでは付き合ってもないのに買い物袋を持った幼馴染を横抱きにして家に帰るってシチュまであるわけだけど、んなこと出来ないし。 正直何をするかなんてよく分かんないけど、ただ一つ言える事は。 普通に並んで歩いているだけなのに無性に恥ずかしいって事かな。 意識しすぎなんだろうけど、ね。 かがみはかがみで緊張しているのか、会話が妙にギクシャクして続かない。 こんなに会話が少ない買い物っていうのも本当珍しい。いや、初めてじゃないかな。 「目当てのもの買っちゃったけど……これからどうする?」 店を出て、かがみが持っている買ったばかりの小説をカバンに入れながら訊ねてきた。 どうする?って言われても現実の恋愛初心者の私に的確な答えが出せるわけがない。 「んー……とにかく歩いてみる? 特に行きたいとこもないし」 「……そうね」 冷静を装っているのか、普段通りのつもりなのか。 何の変わりもないように言っているけど、急に早足になって半歩先を歩いてこっちを見ようとしない。 うー、そっちから誘ったのに(まぁ、本当は私からだけど)その対応は結構酷いんじゃないかな。 とは言え「こっち向いてよ」とかムーミン相手に言うようなことを言うのも恥ずかしい。 それってつまりはもっと構ってよって言ってるようなもんだろうし。 視線をキョロキョロさせながら、どうすればいいかなと自分でも驚くぐらいに一生懸命考えていた。 けど、ある一点で視線が定まる。 それは半歩先を歩く、かがみの手 何か妙にそわそわしてるように見えるけど、それは自分の気分の所為だろうか。 ゆっくりと手を伸ばしてみる。手を繋ぐぐらいなら……大丈夫だろうし。 別にばれてもいいはずだけど、なぜかばれないようにそっとかがみの手を取ろうとして 「ねぇこなた」 「ぅわっ!?」 いきなり振り向かれて名前を呼ばれた所為で伸ばしていた手を少し引っ込めてしまった。 それでもかがみの手を取ることは出来たのだけど、指先だけを軽く握り締めるという微妙な感じで。 ようやく見ることが出来たかがみの表情は、笑顔から急に真剣な表情になって…… 一気に真っ赤になった。 「あ、あの……こな、た?」 もしかして私は「構ってよ」と言う以上に恥ずかしいことをしてしまったのでは? 顔に血が上る感覚がより一層その事を理解させる。 「は」とか「う」とか呟いて言葉を出す練習をした後、何とか思ったことを言葉に出せた。 「て、テとかツナごウっ!」 かなり声が裏返った。 通行人がこっちを見ている気がするのは自意識過剰だと思い込むことにする。 そうでもしないと何も出来そうにない。 かがみはしばらくリモコンでコントロールされてるのかと疑問に思うほど一時停止していたけど、急に私の手をがっしり掴んで走り出した。 慌ててこっちも走り出す。最初はこけそうになったけどスピードではかがみに負けない。 それでも何となく後ろを付いて走っていた。 「ど、どこに行ってんの!?」 「とりあえず走る! ここから逃げる! 周りの目が……っ!」 風になびくツインテールの間から見える耳が真っ赤になっている。 手を繋いで人通りの中を走り抜ける女子高校生二人組っていうのも人目を引いてると思うけど? でもそれをかがみに伝えることはしなかった。 こういう騒がしいのも私達にはあってる気がするし、繋いでくれた手は熱いけど気持ちよかった。 一体どういう心情の変化だろうとは思うけど、多分これが「好き」って事だろう。 足と同じぐらいに駆け出している心臓の理由は、走っているからというだけじゃきっとない。 自然と頬が緩んでいた。足に力を入れ、軽くジャンプをすると簡単にかがみの隣につけた。 かがみがこっちを見る。なんだ、結局かがみも笑ってるじゃん。 どちらからともなく足の回転数を落とす。未だに手はお互い握り締めたままだった。 何だか立ち止まると一層恥ずかしさが込みあがってきて、お互い笑いながら急いで手を離す。 「……ちょっと休憩するか」 「そだね。走ったから疲れたよ」 う、とかがみが言葉に詰まる。 いや、怒ってるわけじゃないんだって。 偶然だろうけど、立ち止まったのは公園の前だった。 滑り台とブランコだけがある小さな公園。 近くに自販機があったから冷たいスポーツドリンクを買って、二人でブランコに座る。 公園の前の道は人通りが少なくて買い物に向かう途中らしいおばさんが通ったりするぐらいだった。 飲み物は冷たいうちに飲み干したいけど、飲み終わったら公園から出て行かなきゃいけない気がして甘いスポーツドリンクをちびちび飲む。 「かがみはさ」 「ん?」 両手で持っている口が広いキャップ付きのアルミ缶を見つめながら訊ねる。 かがみがこっちを向いたからだろうけど、かがみが乗っているブランコの鎖がキィとなった。 ブランコが揺れる際に発する、懐かしい音。 「何で私を好きになったの?」 「うわ、そりゃまた直球ね……」 コツン、と渇いた音がしてかがみの方のブランコを見る。 キャップを閉めてアルミ缶を地面において、ポーズのつもりなのか古畑みたいに考え込んでいた。 あ、なんかすごい様になってる。 けど、すぐにそのポーズをといてこっちを向いた。 「まぁ、考え込まなくてもいいんだけどね。理由なんて簡単。好きだから好き」 思わず息を呑む。 卑怯だ。絶対かがみは卑怯だよ。笑顔でそういう殺し文句を言うのは卑怯だっ! 学校で感じたお腹のグルグルがまた来て、誤魔化すために慌ててドリンクを飲んだ。 両手で缶を持っていたからか、それともこの暑さからか、若干ぬるくなっていた。 「どういうところが好きかは……そうね、やっぱり一緒に居ると楽しいし飽きないしね。 マニアックなネタまでは流石に突っ込みきれないけど私以外にあんたの会話についてこれる人はそうそういないって」 ずいぶん自信たっぷりに言うから、からかってやりたいのに認めている自分がいて何も言えない。 ぬるくなってしまっている缶を頬に当てて少しでも熱を冷まそうと努力するも意味はなかった。 どうしたんだろうね、私らしくないなぁと心の中で笑いながら誤魔化してもお腹のグルグルが消えない。 そして私はこのグルグルの意味をもう知ってしまっている。 つまり、私は今こう思っているんだ。 かがみとキスしたい―――って たった九文字の思考が胸を掻き毟りたくなるぐらいに恥ずかしい。 学校でのキスのお願いは恋愛感情かどうか確かめるためと言う結構失礼なお願いだったし。 ……二回目はかがみの暴走だけど。 一回ぐらいは私から不意打ちして脅かしてもバチは当たらないだろう。 「ねぇかがみ」 ドリンクのキャップを閉めて地面に置きながら訊ねる。 かがみは今度こそポーズじゃなくて本当に両手で鎖を持って考え込んでいた。 つまり、私の呼びかけは聞こえてないらしい。 それが何だか、無性に面白くない。 ムカムカだかモヤモヤだか、あんまり良い気持ちはしない感情がお腹のグルグルより上回っていく。 ゆっくり音を立てないようにブランコを降りて、かがみの背後に回るとそのまま抱きついてやった。 「ふ、ぁっ!? こなた!?」 驚いているかがみの肩に顎を置いて、体重をめいっぱいかけてやる。 二人分の重みでブランコが軋んだ。千切れはしないだろうから容赦はしない。 触れ合っている部分から感じるかがみの体温が、心のモヤモヤを消していく。 「ボーっとしてるバツだよ」 「……バツにならないんだけどねー、これじゃ」 かがみは心底幸せそうに微笑んで、かがみの前に回していた私の手に片手を重ねてきた。 分かってるよ、バツにならないことなんて。 私がこうしたいからしただけなんだから。 「何考えてたの?」 「え?」 「……呼んでも気づいてくれなかった」 真剣に言ってるのに何で笑うかな。 笑った後に「ごめんごめん」と言われても、子ども扱いされてるみたいだよ。 「こなたって……結構寂しがりや?」 「かがみほどじゃないよ。かがみはうさぎだもんね~」 「またそのネタかっ!!」 でも、確かに私も結構寂しがりやなのかもしれない。 かがみの家に遊びに行ってもかがみが居ないとこう……物足りないというか、そう感じるわけだし。 「私はうさぎじゃなくて、病気なのよ」 重ねられた手の平が握りしめられ、体重をかけられる。 お互いに支えあっている感じになった。 「病気?」と聞き返すと、突拍子もなく冗談みたいな病名を口にした。 「病名は……そう、こなた症候群ってところね」 「えーっと、それはだんだんオタクになっていくっていうような病気ですか?」 「あんたそれ自分でいうか……」 呆れたような呟きと、かがみの片手が私の頬に触れてきた。 撫でられているようなゆっくりとした動きで。 「症状は、こなたに触れないと禁断症状がでる……ってことでどう?」 「いや、どう?って言われても……」 にこやかに言われても困る。そもそも禁断症状ってなに? 頬に触れているかがみの手は耳の下へと移動し首筋へと下がってきて、くすぐったさとは違う何かを感じた。 いつの間にかお腹のグルグルが復活している。この感覚にはどうやっても抗えない。 かがみから離れようと思っても、重ねられた手が磁石みたいにくっついて離れなかった。 「一緒に居ると楽しい。こうしてると心臓はすごく脈打ってるのに落ち着く。つまりこなたが一番の薬」 ああもう、本当に今日のかがみは卑怯だ。 ストレートな言い方で誤魔化さないから、かわしきれない。 耳に近いかがみの声が気持ち良い。もっと聞いていたくなる。 きっと私はかがみには勝てないんだ。 「こなた?」 でも、負けっぱなしじゃつまらない。 両手で強くしがみ付いて、いつもツインテールで隠れてる耳に口を近づける。 そしてそっと呟いた。 「 」 ほんの数文字を、かがみしか居ないのにも関わらず、近くに誰かが居たとしてもかがみにしか聞こえないぐらいの囁きで。 ゆっくり確かめるようにかがみに伝えた。 「なっ……あ、ぁっ!」 さっき散々恥ずかしくなるような告白してきたし、学校ではこれより恥ずかしいことをしてきたのに面白いぐらいに顔をリンゴにした。 お返しだよ、と笑ってやる。 かがみから離れて、自分の分とかがみの分のドリンクを取って公園の入り口まで走り出したところでようやくかがみが動き出した。 ここまで追いつく前に辺りを見回す。うん、誰も居ない。 「こなたっ!」 「いーじゃん、仕返ししたって」 「……あれは仕返しじゃないって」 ぶつぶつ何か言っている。でもまだ仕返しは残ってるんだ。 追いついてきたかがみにドリンクを返す。 「あ、ありがと」と手を伸ばしてきたから、ドリンクを引っ込めてかがみの袖を引っ張った。 そうやって強制的に屈ませて、私はそのまま上を向いて。 仕返しと言うより自分の望みのまま、不意打ちで一瞬だけの重ねるキスをした。 かがみが学校で言っていたように、今回は目を瞑ったからかがみの表情までは見れないけど。 三回目にしてようやく自分からできた。 やっぱりドキドキはするけど……自分からの方がかがみのリアクションが可愛いから問題なし。 「ひっかかった?」 口を押さえて真っ赤になって、かがみが小さく一回頷いた。 ようやく勝てたという達成感と、残ってはいるけどグルグルは収まっていたから満足感が湧いてくる。 「そろそろ帰ろっか!」 自分でも分かるぐらいに上機嫌でかがみに訊ねると、まだ顔は赤いけど優しい笑顔で手を伸ばしてきた。 差し出された手の意味は分かったけど、反応が遅れた。 その理由は……恥ずかしいから言いたくはないけどその笑顔に見とれたからで。 「手、繋ごう。さっきはちゃんと繋げなかったから」 「あ……うん」 指先だけを握って、ついさっきまで重ねていたはずの手に、今度は自分から手を重ねる。 ドリンクを渡してお互いカバンの中に入れると繋いだまま歩き出した。 今こうして隣に居るかがみ。手を繋げるこの位置はとても居心地がよくて。 誰にも渡したくない。この場所は私のものだよ。 そう言う意味を込めて軽く手を握り締めると、同じタイミングで握り締め返された。 お互い言葉にはしないで顔を見あわして笑う。 その笑顔が、この手の温もりが、この人が。 私には何物にも変えがたい宝物なんだと、私は心の中で深く頷いた。 あなたの隣(かがみ視点)へ続く コメントフォーム 名前 コメント GJ!! -- 名無しさん (2023-01-24 06 42 15) シリーズ全部が互いの視点を描いてるのが良いですなー -- 名無しさん (2011-04-16 04 26 03)
https://w.atwiki.jp/p_ss/pages/658.html
Side K 何で何で?あ〜ちゃんずっと居たの? どうしよう。あ〜ちゃんに聞かれた。 知られちゃいけないのに! どうして、あんな風に言っちゃったんだろ。 いつもなら、もっと冷静に返せてたはずなのに。 それほどに、あ〜ちゃんはあたしに影響を与えてるんだ。 そんな自分に呆れてしまうほどだよ。 軽蔑されたかなぁ…。もう…あの笑顔見れんのかな…。 そう思ったら、全部どうでもよくなってきて、前のあたしに戻っていく気がした。 生徒会の準備室の隅で膝を抱えて、自分を闇へ落としていく。 ……でも。 一度、光を知ってしまったあたしは、どこかで光を欲しがっている。 曖昧な心の闇を漂い出すと。 「ゆかちゃん…。」 声のした方へ顔を向けると、二人分のカバンを持って、少し緊張気味のあ〜ちゃんが立っていた。 けど、すぐに安心したように微笑んで話し出す。 「やっぱり、ココだったぁ。」 どうして笑ってくれるの? 「来ちゃダメだよ。」 歩き出したあ〜ちゃんにそう言って、また顔を伏せる。 「のっち帰っちゃったけぇ、一緒に帰ろ?」 「…いい。一人で帰る。」 何で、そんなに普通に接してくるの?何も聞いてないみたいに…。 あ〜ちゃんの考えが見えないよ。 あたしの横でしゃがみ込むあ〜ちゃん。 心配してくれてるのかもしれないけど。 「一人にしてよ…。」 「じゃあ、私、勝手にココにいるけぇ、気にせんといて?」 ホントに勝手だね。でも、本当は嬉しいはずのあたし。 「…こんなトコにいたら、襲っちゃうよ?」 自分でも冗談なのか、なんなのか解らない事を口走ってしまった。 「ゆかちゃんは、そんなコトせん。」 「…本気だったら?」 こんなこと言ってどうするんだろ?…いっそのことトコトン嫌われてしまえば良いのかな。 そんなイヤな考えが過ぎった瞬間に…。 背中に暖かい感触があって、ふわっとあ〜ちゃんの香りに包まれた。 何? 「ゆかちゃんは、好きな相手に嫌がる事なんて、出来んじゃろ?」 耳元で響くあ〜ちゃんの優しい声に、顔を上げるあたし。 あたしは、あ〜ちゃんに抱きしめられていて… そして、さらに。 「それに…そんなコトせんでも、えぇしぃ。」 あたしの頬に掛かる髪をどかして、そこにあ〜ちゃんの柔らかな感触。 ダメだ、思考が追いつかない。 そのまま真っ直ぐ見つめるその瞳に、ただただ、あたしの鼓動が早まるばかりで…。 「私も、ゆかちゃん、大好き、だから。」 そう言いながら、またギュッとしてくる。 「ウソだぁ…。」 反射的に答えたけど、それ位…信じられないくらい嬉しい。 あたし…嫌われてないの? Side A 見つけた。 私の大切な人。 近づこうとすると、拒んでくるゆかちゃん。 『一人にしてよ。』って言うけど、それは無理。 だって、この部屋に入ってきた時のゆかちゃんに一瞬、前のゆかちゃんがダブってしまったから。 私から遠ざかろうとしてたから。それだけはイヤ。 むしろ襲われた方がマシ。…や、ホントにされたくはないけども。 大体、ゆかちゃんはそんなこと出来る子じゃない。 けど、そこまで思わせちゃったのかなって、戸惑っちゃう。 でもね?ゆかちゃん。もう、苦しい思いなんてしなくて良いよ? だって、だって私も…。 ゆかちゃんを抱きしめて、顔を上げたゆかちゃんの頬にキスをして、私の想いを伝える。 やっぱり、告白は恥ずかしいよぉw。ドッキドキの真っ赤っかだよw なのにゆかちゃんは。 「ウソだぁ…。」 これだ。 それでも、さっきまでの感情の薄い反応じゃなくて、言葉に色が見え始めた。 「あ〜ちゃんは、嘘嫌いじゃ。」 「だ、だって!こんな根暗のどこがえぇんよ?」 自分で根暗って、ゆかちゃん…。 「う〜ん。根暗でも何でも、好きなんよ。自分でも良く解らん。 けど、どうしても理由がいるんだったらぁ…え〜っとぉ、ゆかちゃんじゃけぇ好き!」 Side K ちょっと的外れのような、あ〜ちゃんらしい、その答え。 なんなんよ、その理由。全然理由じゃないじゃん。 そう思ったけど、その言葉であたしの中でグルグルに絡まっていた糸が解けた。 自分で絡めてしまった糸。 何でとか、どうしてとか、そう考えるのが悪いわけじゃないけど。 事によっては、そのままシンプルに受け入れた方が良いものがある。 それがきっと今なんだ。 「ずっと…側に居ても良いの?」 「うちら、両思いじゃろ?」 「…じゃね。」 「んじゃ、良いに決まっとるじゃん。」 最高の笑顔があたしを迎えてくれる。 ありがとう。あ〜ちゃん。 そうだ。あたし、まだ、ちゃんと言ってないや。たまたま聞かれたままになってる。 抱きしめられた状態から、あ〜ちゃんと向き合って。 「あ〜ちゃん。あたしにも言わせて?」 「ん?」 精一杯の気持ちを込めて。 「あ〜ちゃんが好きです。側に居させて下さぃ。」 ちょっと、最後が小さくなっちゃったけど、届いたかなぁ? 「…ゆかちゃん、…硬い。」 あれ?失敗? 「あの…、ダメ?」 少しオロオロなあたし。 「冗談じゃよぉ〜。そういう真面目なんも…好きじゃよ?」 ハニカミながら言うあ〜ちゃんに我慢できなくって。 何も言わずにあ〜ちゃんを抱きしめてて、急にしたもんだから、あ〜ちゃん大慌て。 「ちょちょっ、ゆかちゃぁん!」 「へへ♪あ〜ちゃんて気持ちいぃね。」 「ゆ、ゆかちゃ〜ん…。」 見えないけど、きっと困り顔してるんだろうな。 それでも。『もう…。』なんて言いながら抱きしめてくれる。 あたしの温かい、可愛い光。 自分が閉ざさない限りずっと照らしてくれてるって、解ったから。 やっぱり、あたしの居場所はココなんだ。 だから、これからずっと、側にいさせてね? それから、のっちにもちゃんとゴメンとありがとう言わなきゃだね。 ———数日後。 「なんか、いいね〜。見てて微笑ましいわぁ。」 腕組みをしながら、うんうんと頷きながらのっちが言う。 あれから、あたしは、時間さえあればあ〜ちゃんの隣に行って、ちょいちょい、ちょっかいを出している。 そんな、あたし達を見て茶化してくるのっち。 「別に、そんなことないじゃろ…。」 あ〜ちゃんは、茶化されるのは苦手みたいで、そっけない返事をする。 なんだけど、やっぱり照れるみたいで、ほんのり顔を赤くする。 「ぃんや。幸せオーラが漂っとるよ。」 それから、あ〜ちゃんも好きだって解ってから、自分でも驚くくらい甘えてしまうのを発見した。 「へへぇ。良いじゃろ〜。」 だから、今もあ〜ちゃんの腕に絡み付いちゃったりして。 また、顔を赤くするあ〜ちゃん。 「ひ、人前はダメ言うとるじゃろぅ?」 はは。照れてる照れてる。 かと思えば…。 「二人ん時に、いっぱいしよ?」 なんて、のっちに聞こえないように、耳元でぼそっと言われて。今度はあたしが真っ赤になる。 「なぁに、二人して赤くなっちゃってぇ。よそでやってくれんかねぇ。まったく〜。」 頭の後ろに手を組みながら、半分呆れたように言ってくるのっち。 のっちにも早く春が来るといいね。って言ったら。 「目の前の春が温かいけぇ、まだしばらくはえぇかな〜。」 だって。 そんなこと言ってたら、ずっと来ないよ? だって、あ〜ちゃんとあたしはずっと春なんだから…。 なんて、恥ずかしくて、言えないけどね。 <居場所>fin