約 535,743 件
https://w.atwiki.jp/wlo_marshall/pages/78.html
ユンはアイウ宅の近くの椰子の木辺りに。 リーは花屋のユナのところの近く。 ルイはディック、エバンスがいる方面のキノコのところにいる。
https://w.atwiki.jp/sousakujojis/pages/280.html
(燃え落ちた居場所) 更新日:2020/07/05 Sun 12 40 14 タグ一覧 目の前にいるーーーいやこの場合は見ていると言った方がいいかーーー貴方には、何か悩みはないだろうか? 何でもいい。テストの点が悪いとか、友達と仲直りできないとか、信じてたものに裏切られたとか……何でもいい。 例えばその悩みを解決してあげると言われたら、目の前の貴方はどう選択する? yesと言うか、noと言うか、それは人それぞれだ。 だがそこに後悔はないか?そのyesは本当に正しいのか?noと言って本当に良かったのか?意見を突き通す覚悟はあるのか? 少なくともわたしには…あの時の愛歩には無かった。 「愛歩ちゃん、大石さんがいらっしゃったわよ」 「頑張ってね!」 「どうせまた無理だろ」 ここは野上孤児院。 「今いく~!」 職員にせっつかされた愛歩は、周りの子供達のヤジと声援を無視し、緊張した面持ちで部屋を出ていった。 「大石さんってどんな人?」 愛歩は期待を込めて呟く。 「いい人よ。愛想良くしてれば大丈夫」 職員の言葉に愛歩は鼻をならした。 「ヒメカせんせー、前もそういってなかった?」 「いい?愛想良くよ。冗談も鼻をほじるのも無し。あと、私を呼ぶ時は前園さん。少なくとも大石さんが帰るまでは」 職員は幼女の問いには答えず、彼女の肩を抱いていた。 「うん、分かった」 職員の前園の目線に、愛歩は慌てて言い換えた。 「分かりました前園さん」 結論を言うと、大石夫妻は本当にいい人だった。 自分の分のお茶菓子も全部くれたのだから。いい人に違いない。 「お腹すいた~!」 夫妻が帰ると、愛歩は開口一番そう言った。 「もう、さっきお茶菓子もらったでしょ」 職員の前園は愛歩のおでこをペシリと叩いて立ち上がる。 「だって緊張したんだもん!本当に本当に!昨日眠れなかったし!」 前園が興味なさそうだったので、愛歩はムッとした。 「幸太郎!あいつにまた何か言われるの、本当に嫌なんだから!やい親無し、やい孤児院暮らしって!」 「ああもう分かった、分かったから!」 前園は愛歩の早口にうんざりして、100円をいくつか取り出した。 「これで何か買ってきな。さよなら祝いよ」 「これってポケットマネー?」 「そうそう、いってらっしゃい」 愛歩は何故か連れないヒメカせんせーにあっかんべーしてから、貴重なお金を他の子に見つからないよう胸に抱えて駆けていったのだった。 「え?」 スーパーからの帰り道、いつもの道が大きく揺れたと思ったら、馴染みの場所が燃えていた。 「うそ…?!」 愛歩は走った。 「なんで!なんで?!」 燃え盛る炎が愛歩の家を包み込む。嫌らしい炎が愛歩の部屋だったものを舐め回す。 「待って…!」 プリンの入ったビニールが落ちた。気になど出来なかった。 近所の顔見知りに止められた。引き寄せられて身動きができなくなる。 (ああ、幸太郎達大丈夫かな……) 孤児院だった物が焼け落ちると同時に、愛歩の意識も落ちていった。 夢の中で狐と話した。 『そう、貴方は親がなかなか出来ないのね』 ーーーそうなの、誰も私を引き取ってくれないのーーー 『見る目がないね』 ーーーそれに、幸太郎がわたしの事バカにするの。おまえが親無しなのはバカだからって、明日も絶対失敗するってーーー 『酷い子供……ねぇ、私と組まない?』 ーーー組む?ーーー 『そう、あの子をもう二度と悪口が言えなくしてあげる。代わりに貴方の○○を頂戴』 ーーーいいよ、幸太郎がちゃんとわたしの事を見てくれるなら……わたしの○○をあげるーーー 狐が卑しい笑みを広げた。 『約束だよ、✕✕。必ずね』 そして狐の口から炎が吹き出るのだった 山田警部は頭を掻いた。どうすればいいか分からない時にする癖だ。 ベットの上の少女は見向きもしない。 野上愛歩(ノガミ アユミ)11歳。あの事故から運良く生き残った女の子。 孤児院の名前がそのまま名字なのは、父方にも母方にも身寄りが無いと言う証拠だった。彼女の場合、縁談が結び駆けていたが。 「なあお嬢ちゃん」 溜息をついて、ちょっとでも少女の気を引こうとペンをひょいと持ち上げ、遠くへ投げる。 しかし少女の視線は少しも動かなかった。まるでこの世界に体だけ置き去りにしてしまったような虚ろな目で自分の手を見続けている。 人形 傀儡 抜け殻 …。頭の中に少女を形容するにふさわしい単語が幾つも思い浮かぶ。どうやらこの子は一時的な失語症にかかってるらしい。あとついでに不感症にも。 無理もない。孤児院にいた知り合いは全員焼死したのだ。 職員6名、孤児13名。生き残ったのは彼女ただ1人。 彼女は病院にいるどんなカウンセラーにも心を閉ざしていた。縁談が結び駆けていた大石夫妻もだ。 あの火事で残った物はたった1つ。いや、この場合は2つといえばいいか……一人の少年の目玉だけだった。 山田警部は考える。 あの孤児院は火事と呼ぶには不審すぎる燃え方をしていた。 出火場所はデコレーションケーキの蝋燭。 おそらく少女のお祝いのための物だったのだろう。 孤児院の聞き込みは順調だった。 「ええ、あそこはいつでも子供の笑い声が聞こえる場所でした」 「見学や縁談があるとケーキでお祝いするんですよ。あの孤児院は直ぐにケーキを焼くんです。お祝いとか慰めとか」 「院長は恰幅が良くて太っ腹でね……いいやつでしたよ。院長自らケーキを焼くんでさ」 ケーキを焼いて蝋燭をともす事に馴れている院長が、蝋燭を倒した程度で全焼するのか?それにあの奇妙な遺留品……山田警部は疑問だった。 あの時現場の一番近くにいたのは近所の大人数名とこの愛歩だけだった。 「……また来るよ」 少女の心が完全に壊れていない事を祈り、山田警部は病室を後にするのだった。 その夜……愛歩のベットの端っこに誰かが乗り上げた。 「なんと忌まわしい程そっくりじゃの」 赤いマフラーを巻いた巻き毛の少女だ。露出度の高い服装は、病院には恐ろしい程似合わない。 愛歩がまた魘される。毎晩のように悪夢を見ているのだ。 「そりゃそうじゃろうの」 巻き毛の少女は呟き、長い爪が生えた指を愛歩のこめかみに押し付けた。 「痛みも恐れも、しばし忘れい。めんどいかもしれんが、わしぁお前さんの母親と約束したのじゃ」 巻き毛の少女の指が愛歩のこめかみから離れると、銀色の細い光が愛歩の頭から出てきた。 「記憶はもらうたぞ。じゃ、運が良ければまたな」 愛歩の目から、一筋の涙が溢れて落ちた。 愛歩は目を開ける。何か悪い夢を見たような気がするんだけど。眠る前よりも格段に頭がスッキリしていた。 ーーー明日、そう言えば明日、大石夫妻がくるんだっけーーー 愛歩は孤児院の子達を思い出す。職員の事も思い出す。孤児院での楽しかった記憶も思い出す。 ーーーでももうそれは戻らないんだーーー 愛歩はカラカラの喉に水を流し込む決心して起き上がった。
https://w.atwiki.jp/gravity_daze/pages/25.html
概要 謎の夫婦の居場所一覧 マンホールの場所一覧オルドノワのマンホール プレジューヌのマンホール インダストリエのマンホール ヴァン・ダ・センタリアレのマンホール 概要 世界各地にいる謎の夫婦からは話を聞く事ができ、全ての話を聞くとトロフィーを獲得する事が出来る。 マンホールは、全て発見するとトロフィー獲得となる。 謎の夫婦の居場所一覧 旧市街オルドノワ 1.地図中央最南端の下層エリア 2.地図中央右下層の公園 地図中央、最初のマンホールから出てすぐ歩いて占いの館方面に行く途中 繋がって真ん中にミッションが出る方じゃない繋がらない橋から落ちて真下あたり 歓楽街プレジューヌ 1.右側の学園エリアにあるマンホールの下。 最下層の骨組みの上。 2.左側のエリアの左上のマンホールから少し右下にいった場所。(下層) 工業地区インダストリエ 1.インダストリエ駅の屋根の上 エナジーゲットレースのミッションのすぐ北 2.地図左下の飛行船乗り場付近 ダウンタウン ヴァン・ダ・センタリアレ 1.中央のマンホールのすぐ右上の橋から真下に降りた場所。 最下層の骨組みあたり。 スカイシップレースから降りても探しやすい 2.スイーパートライアルミッションのすぐ左のビル頂上。 最下端の街 ボゥトヌ 1.地図北にある黄色い花の左下の花びら。 木の一番上。 2.ボゥトヌの家と黄色い花の中間地点。 高さは下のほう。 異次元世界1 遺跡の道 1.中央の塔の頂上。 2.ボス直前の花の真下。 異次元世界2 炎獄の道 1.1つ目の花の真上。 2.3つ目の花がある場所から少し下に降りた狭い足場。 異次元世界3 眩惑の道 1.1つ目の花から少し左方向の奥200y付近にあるキノコの上。 2.3つ目の花がある土星のような足場の下の蓮の上。 マンホールの場所一覧 青い丸の中に三角形のマークがマンホール オルドノワのマンホール 噴水近く 重力スローバトルに出てくる広場の近く シドーと初めて会う場所,教会の近く プレジューヌのマンホール 学園長の像の前 女神像の周辺 観覧車の周辺 インダストリエのマンホール 重力制御メインタワーの近くの橋の上 新・重力制御タワーの周辺の桟橋の先端 斜面エレベーターのふもと、重力タンクがたくさんあるところの周辺 ヴァン・ダ・センタリアレのマンホール 壁面モニター周辺 ロープウェイ乗り場の上 摩天楼広場 「くの字型」ビルの手前 自由と開放の広場前 時計塔のふもと 環状線3番駅の屋上広場 えーと、画像を貼るのはこれでいいのかな?できたかな? -- (名無し) 2012-02-10 22 49 28 おつだぜ -- (名無しさん) 2012-02-10 23 14 53 スレから夫婦の画像拾って編集しときました。問題あれば消して下さいお願いします。 -- (名無しさん) 2012-02-11 15 42 34 夫婦の画像みれないなぁ ヒントは得たし探すか -- (名無しさん) 2012-02-12 21 18 44 どっとうpはねえよ… -- (名無しさん) 2012-02-13 18 05 09 最下端の街 ボゥトヌの夫婦の説明が上下逆になってる -- (名無しさん) 2012-02-19 22 51 06 ダウンタウンのマンホールの説明がマンホール7個あるみたいでわかりづらい -- (名無しさん) 2012-02-24 21 58 10 確かに、最下端の街ボゥトヌの夫婦の説明が逆。 上の写真が「ボゥトヌの家と黄色い花の中間地点にある木の一番上」で、 下の写真が「地図北にある黄色い花の左下の花びら。高さは下のほう」です。 -- (名無しさん) 2012-03-09 20 21 01 異次元世界1 遺跡の道の画像が左右反対だね。1が右、2が左 -- (名無しさん) 2012-09-10 00 56 23 最下端の街ボゥトヌと異次元世界1遺跡の道の画像修正しました。 -- (名無しさん) 2012-11-03 22 31 29 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/wiki6_680/pages/95.html
イニシアティブの居場所 2 それはある日の夕刻の事。 「あー、やっと家に帰れたぜーっ。」 二人の住んでいるアパートのドアが勢い良く開けられて、そして揃って帰宅した神田、栗原がその敷居を跨いだ。 先に玄関から部屋に上がった神田は、よほど疲れているのか、そのまま畳みの上にへたり込んで動かなくなってしまう。 「神さん、靴くらい揃えてから部屋に入れって、いつもいってるでしょうが。」 と、神田の行儀の悪さをいつも見咎める栗原も、今日は相当疲れているのか、それ以上小言を言うのも煩わしいとばかり、自ら神田の分も靴をそろえて、投げ出されている制帽を拾い上げて玄関の所定の場所に置いてから、神田に続いて部屋に上がった。 「おや、相当お疲れのようで。何か飲む?」 「ビ・・・ビール・・・。」 「はいはい、一昨日のうちに冷蔵庫に入れておいて良かったね。」 その前日の朝は訓練非常呼集で朝早くから呼び出され、そのまま日中の課業を終えて更にアラートについた後、またそのまま通常の勤務についていて、ようやく開放された二人は、職場でこそさして疲れている素振りを見せていなかったが、内心は非常に疲れ果てていた。 普段なら帰宅してすぐに、制服を着換えないままへたりこんでビールを要求することなど、栗原が許すはずもなかったのだが、さすがに今日くらいは仕方がない、と栗原はそれを大目に見る。 「グラス、冷やしてないんだけど、缶のままでいいか?」 すぐに冷蔵庫からよく冷えた缶ビール2本を手に現れた栗原が、その片方を神田に差し出した。 西日の入るボロアパートは帰ってきた直後が一番熱気でムッとしている。その温室のような部屋の中で、冷えた缶が手の平から体温を奪っていく感触は非常に心地よくて、そして開封した直後の最初の一口目は、本当に命の水のように感じられる。 「うめぇ。」 「そりゃ良かった。」 喉を鳴らしてそれを流し込んだ神田の顔が、幸せそうに綻んでいくのを見て、栗原もクスっと笑顔を見せた。 「今日だけだぞ。」 そして、そう言って神田の隣に腰を下ろした。 しばらくの間、二人並んで缶をあおっていたが、 「・・・で、この後どうする?メシ先にするか?」 先に1本目のビールを飲み干した神田が、それを畳の上に置いたのを見て、栗原はその後の行動についてそう尋ねた。 それに対して神田は、 「うーん・・・。」 となかなか煮え切らない。 食事を先にするか風呂に入るのを先にするかを神田が悩むのは日常茶飯事で、それはその日の天候や気温、食事のメニューに大きく左右される。 栗原としてはそうやって神田の返事がすぐに返って来ないことは想定の範囲内だったので、その返事をせっつく事もなく、飲みかけの缶を神田の方に押し付けて立ち上がる。 「残りやるよ。とりあえず風呂の準備だけしてくるから、その間にどうするか決めて置けよ。」 仕方ないな、というように神田を見て笑いながらそう言う栗原は、西日を横顔に受けて、もともと色素の薄い髪と瞳が金色にキラキラとしていて、とてもキレイだった。 それにドキリとさせられた神田は、思わずそんな栗原を引きとめようと手を伸ばしたが、途中でそれを思い直して慌ててその方向を少し替えて、栗原の手からビールの缶を受け取る。 ビールはまだ半分近く残されていて、立ち上がって風呂場の方へ消えていく栗原を見送って神田はそれに口を付ける。 つい先刻まで栗原が直に唇を付けていたその飲み口は、そのまま栗原の味が残っているようで、ほろ苦い筈のその中身でさえも酷く甘く感じられて神田は、気温の為だけではなく身体が熱くなっていくのを感じていた。 季節はもう真夏に近くて、制服は当然夏制服になっていて、それを着ている栗原はひどく艶っぽいのだ。 涼しさを念頭に作られている服だから、襟元も袖口もゆったりとした造りになっている。そこから覗く胸元も二の腕も非常に肌理の細かい色白の肌をしていて、それを思い出した神田はますます自分の身体が熱く火照っていくのを感じていた。 それはもう、栗原が風呂場から再び姿を現した時にはピークに達していて、 「決まった?風呂?メシ?どっち?」 と、神田の前に立ちふさがった栗原に、神田は手を伸ばし、栗原のそのほっそりとした手首を掴んで自分の方へと引き寄せたのだった。 「わっ・・・。」 立っている状態から突然に引き降ろされ、栗原は突然の事にバランスを崩して、神田の腕の中に崩れ落ちる形になる。 「何す・・・、こらっ。」 そのまま動きを奪うように抱きしめられた栗原は、身体をよじって抵抗しようとするが、それから続く神田の発言に更に驚かされる。 「・・・とりあえず、じゃあ栗が欲しいな・・・。」 「なっ・・・。」 唇を重ねられながら厚い昂りを押し当てられて、栗原は神田が本気だということを悟った。抵抗しようにも、いや抵抗しようとすればする程、神田の腕はさらに強く栗原の身体を絞めつけてくる。 仕方がなく、ふっと抵抗をやめ、栗原が身体の力を緩めると、ようやく安心したように神田は奪い続けていた栗原の唇を解放した。 「・・・我慢できねぇのか?」 「うん、だって栗見てると、ついつい・・・。」 「ったく、ヤりたい盛りのガキじゃねぇんだから、ちったぁ自重できんのかね。」 「もう勃っちゃったし・・・お願い、栗・・・。」 「しょうがねぇボウヤだな・・・。」 言いながら栗原は、その手を神田の股間に伸ばす。 制服のズボンの上からでも、ハッキリと見てとれる程に存在を誇張しているそれを、そのまま柔らかく握りこんで、そして神田の耳元で囁いた。 「んじゃ、今からお兄さんが優しくヌいてやっからさ・・・、力抜けよ神田・・・。」 「・・・って・・・、わっ、何すんだよ、栗っ。」 栗原の動きは素早く、言いながら神田のズボンのベルトを外しファスナーを下げると、そのまま下着ごとズボンを脱がせにかかる。 押し退けようと、神田は空いた手で栗原の腕を掴むが、昂った塊を直にその冷たい掌に握りこまれて、敏感な先端を指の腹で擦られ、そこには力は入らなかった。 「ん・・・っ・・・。あ・・・もう・・・。」 栗原の手の動きは予想外に激しくて、そして巧みに快感を引き出していた。 「堪え性のねぇ身体だな・・・、俺を楽しませてるつもりでもっと堪えて見せろよ。」 そしてさらに言葉で弄ることも忘れていなかった。 怜悧な貌を非情に歪ませて、栗原は神田の快楽に溺れていく表情を見つめてクスっと笑う。堪えきれないことをわかっていながら、更に巧みに神田自身を翻弄していくと、余程溜まっていたのか、そのシチュエーションに知らず知らず興奮させられたのか、神田はすぐに上り詰めて栗原の掌にその欲望を放った。 掌に受け止めきれなかったソレは、制服の上衣を開かせて露になった引き締まった下腹にまで飛び散っていて、そこを白濁に汚している。 「元気なもんだ。夜まで我慢してくれりゃ良かったのに。」 と、神田の耳にも聞こえるようにそう言って、栗原は神田の上から身体を起こす。 自分の手についた汚れをずり降ろした神田の下着で拭って、 「神田、いつまでもボケっとしてないで風呂行って洗ってこい。メシ作っとくからさ。・・・おい、聞いてんのか?」 反応のない神田のその頬を軽く手で打つと、 「・・・・・・も、このまま寝たい・・・。」 「ふざけんな、てめぇ。俺が何の為にこんな事したと思ってんだっ。」 「だって・・・気持ち良すぎるんだもん・・・。」 「ふぅん、起きる気はねぇのか?」 「・・・体、動かねぇもんよ・・・。」 自分の体内リズムと関係なく無理矢理にイかされた後の気だるさは、栗原にもよくわかる事だったが、動けないって事はないだろう、と栗原は思う。それなら神田が普段自分に強いている事のほうが余程酷い事だろうに、と。 それよりも何よりも、通常の夜の営みよりもこんな戯れ事の手慰みの方が良いと言われることが気に入らなかった。 「・・・へぇ、じゃあ余程好評だったと・・・。んじゃ次からも手だけでいいって事か?」 「・・・え?」 その言葉に神田はようやく、ハっと体を起こす。 「・・・え、ちょ・・・それはイヤだ・・・。」 けれども、その神田の抗議をそれ以上聞こうとする事もなく、立ち上がって台所の方へと消えていく栗原に、神田はそれ以上逆らえるわけもなく。 言われるがまま、風呂場に向かい、そして少しでも残された邪な思いを晴らそうと、十分に時間をかけて入浴を終えてから食卓に向かうのだった。 主導権を握ったり、握られたり。相手に対して優位に立とうとすればする程その足元をすくわれたりで。 「なぁ、栗ぃ・・・。」 食事の合間にそうやって話かけると、 「・・・ん?どした?」 と、さっきまでの非情な表情はどこへやら、の屈託のない笑みを見せてくれる。それが演技だとはとても思えなくて、神田はそれを幸せに感じるのだった。 「・・・、なんでもない。今日のメシ、すげぇ旨いな。」 そうして、なんとなくごまかすようにそう答えて、箸でかき込む時の手にした茶碗に顔を隠しながら栗原の方を盗みみた。 その栗原の表情が少し嬉しそうで、神田は少し安心する。 「あ、神さん。俺、風呂に入ってくるからさ。洗い物頼める?」 そう言って栗原は自分の分の食器を指した。最近では、アイロンがけ、洗濯についで食器を洗うのも完璧にこなしつつある。 「・・・よしっ、やるか。」 神田はめずらしくそこで一念発起した。 通常ならそうやって神田が洗い物をしていても、ダラダラをかけてやってしまい、途中で栗原は風呂から出てきてしまうのだ。 けれど、今日はそうはさせないと心に誓う。必ず自分の方が先に洗い物を済ませてしまうのだ、と。 そして風呂上りの栗原を強引に抱きしめて、主導権を奪ってしまうつもりだった。 主導権を栗原から移譲して貰うのはいつだって至難のワザで、これもそんな日常のひとコマである。
https://w.atwiki.jp/agu-agu/pages/109.html
5- ぐったりとリリスに凭れかかるラムザ。 「貴様、ラムザに何をしたッ!?」 「暴れたら面倒だから、寝て貰っただけ。―今夜は良い夜ね」 「何!?」 「お酒の匂いでまた来てみれば、お酒の他にオ・ト・コ付き☆」 「ふ、ふざけるなッ!だいたい、逃げられると思うか!」 聖剣技を繰り出す。 リリスはラムザを離し、回避する 「聖剣技が使えるのね~。感心感心」 「ああ。神の加護より繰り出される剣技だ。ラムザは渡さんぞ、妖魔!」 「"は"…って。何?貴女、仕事よりラムザちゃんが大事なの?」 「む…つ、積み荷も渡さんぞ!」 「! は~ん、貴女、彼のこと好きなのね?」 「そ、そんな事は―」 「そう、そうなんですよ!隊長は――」 「アリシアァ!」 「………ゴメンナサイ。何デモナイデス」 「ラムザは隊の長だ。…尊敬はしている」 「それだけ?」 「それだけだ!」 「ふ~ん、そう」 少し思案した後、リリスは予想外の言葉を発した。 「ねぇ、貴女のしぶとさに免じてお酒、置いていってあげる」 「何?」 「お酒も良いけどたまには男も良いな~って☆」 「ふ、ふざけるな!それに貴様を倒す事がそもそもの目的!!積み荷は消えても、貴様をかえすわけにはいかん!」 「あ、そう。馬鹿ね貴女。折角私が見逃して上げるって言ってるのに」 リリスはヤレヤレと肩をすくめた。 「私ね。リリスの中でも結構好き嫌いない方だけど、どうしても我慢できないものがあるの。それが―」 高スピードで跳躍してくるリリス。 「―貴女みたいに自分の気持ちに嘘をついてる人よっ!!」 アグリアスに爪攻撃を仕掛ける それをを左後方に転がり避ける。 起き際に聖剣技を繰り出そうとするが、見当たらない 「鈍~い♪」 右後方から声がし、咄嗟に盾で防御 リリスの回し蹴りをもろに食らい吹っ飛ぶアグリアス。 「ホーリー!」 アリシアが唱えたホーリーがリリスに直撃する 「うふふ♪私には聖魔法なんて効かないわよ?」 「青き海に意識薄れ、沈み行く闇 深き静寂に意識閉ざす… 夢邪睡符!」 アリシアが力なく倒れる。 「ホーリーが駄目なら、これならどうだ!」 アグリアスの乱命割殺打がリリスに向かって放たれる。 しかしリリスはさっと飛び去り、聖剣技を避ける。 「はい、ハズレ」 「チッ!」 「貴女はだいぶ鍛錬を積んでるわね」 「何だと?」 「剣技を見てれば判るわ。所々鋭く、綺麗な剣線をしてるもの」 「――何が言いたい」 「リリス族って、相手の心が読めるの。心に隙のある人は特にね。だから貴女の攻撃も避けれた」 心が読める?―剣を極めて行くと相手の心が読めるようになると聞くが・・・。 「そんなんじゃないわ。例えば…ふ~ん、貴女、今の隊に居場所がないようね。強い人が入って居場所がなくなったってところかしら?」 ――! 本当に自分の心が読まれている事をしり、動揺を隠せない。 「その人が入るまで自分は腕のたつ剣士だ~、そこら辺の騎士より優れている~って思ってたでしょ?そう言うのをね、慢心って言うのよ!」 リリスの爪がアグリアスに迫る。 「クッ!」 アグリアスは迎撃するように剣を振る。 しかし、驚いた事にリリスの爪はアグリアスではなく、剣をしっかりと掴んでいた。 「貴女より強い人間なんて沢山いるわっ!―自分の慢心に気がつかない限り、貴女の居場所は見つからないし、自分より強い人にも勝てない! どんなに鍛錬を積んだってねッ!!」 言い終わるや、もう片方の爪がに迫る。 アグリアスはそれを寸前のところでかわす。 だが避けた直ぐ後、爪を追うように回し蹴りが迫って来た。 「心が影響を及ぼすのは剣だけじゃないわ。当然動きも鈍る!!」 ――避け切れない! アグリアスは咄嗟に盾で防御をする。 「そんなヘタれた盾じゃ防げないよ!」 リリスの回し蹴りをもろに受け盾が砕ける。 衝撃で吹っ飛んだアグリアスは山の岩肌に叩きつけられた。 「グハッ!」 拙い―!予想よりダメージが大きい。 だんだんと口の中に血の味が広がるのを感じる。 「あはは☆――動きも鈍い、剣も鈍い、そして自分の気持ちにも鈍い!ホントにイライラすわ、貴女を見てると!!」 確かに自分は慢心していたのかもしれない。 以前から雷神シドの噂は聞いてたし、騎士として尊敬している人物である。 騎士団時代はそのオルランドゥをも超えるよう鍛錬を怠らないようにしていた。 だから、聖剣技を自在に駆使し、ラムザと一緒に旅をするようになってからも頼りにされていた。 多種多数のモンスターを倒し、伝説に詠われるルカヴィとも渡り合った。 それがため、「もはや自分はオルランドゥ伯に並んだ。いや、超えたかも知れぬ」と慢心に繋がっていたのだ。 6- アグリアスは重い体に鞭をうちなんとか立ちあがる。 「まだ戦うの?シブトイわね」 戦況は確実に不利。 敵にこちらの攻撃はあたらなく、盾も壊れてしまった。 叩きつけられた影響で、体も重く感じる。 ケアルで何とか出来るだろうが、唱えている間にやられるのがオチだ。 「ねぇ、最後に教えてよ。何のために剣を振るうの?」 剣を振るう理由、戦う理由―― 「名誉を挽回したいから?」 そうじゃない違う。 「アハハ!騎士って人種は本当に哀れね。民を守るとか言いながら、心の中では卑下している。貴女が騎士になったのも地位と名誉が欲しかったからなんでしょ?」 私は―――― 「サヨウナラ、騎士さん」 リリスの爪がアグリアスに伸びる。 その攻撃を剣で弾くアグリアス。 「―確かに私は弱い。慢心し、守るべき君主の側にも居ず、今も貴様にやられそうだ」 突然のアグリアスの言葉に怪訝な顔をするリリス。 だが、止めを刺さんと再び回し蹴りを繰り出す。 「だが、どんなに弱くても、どんなに鈍くても譲れないものがある」 回し蹴りをしゃがんで避けるアグリアス。 「権力や地位など関係ない」 右斬上に剣を振り上げる。 「助けを求められれば助けたい」 (早い―!?) 予想外のスピードに避ける事も出来ず慌てて爪で受け止める。 「大切な人を守りたい」 リリスはいったん距離を取ろうと翼を羽ばたかせる。 「私は、私を必要としてくれる者の為に戦う!それが私の戦う理由だ!!」 アグリアスは逃げようとするリリスの手を掴む。 「死兆の星の七つの影の 経路を断つ! 北斗骨砕打! リリスはアグリアスに掴まれ避ける事ができず、放たれた北斗骨砕打が体を貫いた。 「あ…」 小さく呻き崩れ落ちた。 暫く倒れたリリスの様子を伺うアグリアス。 リリスからは殺気も戦意も感じ取れない。 北斗骨砕打が綺麗に決まったから良いようなものの、決らなかったらやられていたのは私の方だった。 妖魔リリス――、破廉恥で心を読む厄介な敵だった。 だが、おかげで自分の間違いに気づく事ができた。 それに忘れれかけていた戦う理由も。 きっと止めを刺そうとすればいつでも刺せたのだろう。 何のためにリリスがあんな無駄口を叩いたのかは判らない。 そういう性格なのかもしれない。 ――だが、もしかすると自分を諭すために? もしそうだとするなら相当な御節介者だ。 「…!」 突然、眩暈がし思わず片膝を付く。 やはり叩きつけられたダメージがそうとう効いているようだ。 ケアルラを唱え、体力の回復を図る。 癒しの光が体を包み、次第に体も軽くなって行く。 積み荷も完全な状態とは言えないが、なんと守る事も出来た。 ラムザとアリシアも夢邪睡符で寝ているだけだから、問題あるまい。 しかし、依頼とはこんなに大変なものなのだろうか? だとすればいつも儲け話に行っているラヴィアン・アリシアの評価をもっと上げる必要があるな。 ケアルラをかけ終わり、体に力が戻って来たのを確認するアグリアス。 ふと視線を上に戻すと、そこに倒れているはずのリリスの姿がない。 「逃げた――か?」 そう思ったが、倒れていた場所に掌大の石像が落ちている。 それは羽の生えた女性像で先ほどまで倒れていたリリスに似ている。 「あぁ、そうか。リオファネス城で倒したアルケオデーモンも倒したら石になったな」 悪魔種とはきっとそういうものなのだろう。 アグリアスは地面に落ちているリリス像を手に取った。 ――フフフ。私を倒すなんてやるじゃない。これからは自分の気持ちに正直になりなさいよ そんな、リリスの声が聞こえた。 少し驚いたアグリアスだが、直に苦笑する。 「本当に御節介だな、貴様は」 7- ハッー!ヤッ!フッ! ラムザ一行が宿泊する宿の裏手で、アグリアスはいつものように鍛錬に勤しむ。 依頼を受けてから4日目でドーターに戻った。 酒場では異例の速さに報酬にイロを付けてくれ、休暇を楽しんでいたメンバーも称賛の言葉をかけてくれた。 だが、夜間戦闘からの帰還で眠さがピークに達していた為、直ぐに寝てしまった。 そして今日にはドーターを発たなくてはいけない。 だから、朝から鍛錬に勤しんでいるのだ。 そんなアグリアスを心配して、ラムザが声を掛けて来た。 「アグリアスさん、大丈夫ですか?昨日帰ったばかりなのに休まなくて」 「なに、心配するなラムザ。今日は素振りだけにするよ。あと300回程で止める」 (300回のどこが軽いんだろう?) ラムザも鍛錬をするが、300回と言ったら普通の鍛錬と変わらない気がした。 「おぉ、今日も鍛錬をしておるのか。結構結構」 「あ、伯。おはようございます」 「おはようございます、オルランドゥ伯」 「うむ、二人ともおはよう」 一旦、素振りを止めたアグリアスだが、挨拶を終えると直ぐに素振りを始めた。 そんなアグリアスをじっと見るシド。 「―うむ。迷いがない良い剣線だ。迷いが吹っ切れたようだな」 「はい!ですが、まだまだオルランドゥ伯の足元には及びません」 「なに、儂は長い年月を経て今の力を手に入れたのだ。きっと貴殿と同じ頃の儂なら負けておるよ」 「ご謙遜を」 「ときにラムザ。報告書は読ませてもらったよ、妖魔リリスとはなかなかの相手だっただろう」 「いえ、僕なんか直ぐに眠らされちゃって戦ってないんです」 「ならば、君もアグリアスを見習って鍛錬に勤しむがよい。 君はどこか自分の命を軽率に見ている感がある。 己が死んでしまったら、多くの人が悲しむことになる。そうならないようにな」 「はい」 シドの言葉をおもおもしく受け止めるラムザ。 「とこで、リリスを倒したとなれば、リリス像が手に入ってのではないか?」 「あ、はい。あの像ですか。他の財宝と一緒に管理してありますよ?」 「うむ、昔からリリス像は持つ者の力を高めると云われ、歴代の武人が好んで収集したものなのだよ」 「へ~」 「でな、少し儂に貸してくれんか?」 「え?構いませんが――」 「そうかそうか。ではさっそく―――」 上機嫌に去っていくシド。 「ねぇ、アグリアスさん」 「何だ?」 「伯が言っていていたように依頼を終えてから、 特にリリスを倒したあとから以前のように何か吹っ切れたような気がするんですけど、何があったんですか?」 「ん―知りたいか?」 アグリアスは素振りを止め、ラムザに向き合う。 「ラムザもアリシアも眠らされた後も、あのリリスは色々な罵声を私に浴びせて来たんだ。 その中でリリスは私に戦う理由を詰問してきた」 「戦う理由ですか?」 「あぁ。だから言ってやった。私は私を必要としてくれる人のために戦うのだと」 「―なるほど。でも、リリスも何でそんな事を言ったんでしょうね」 「さぁ、私にも判らない。だが、おかげで自分を再認識する事が出来た」 少し間が空いた後、アグリアスが真剣な面持ちで言う。 「ラムザ、これからも――私を必要としてくれるか?」 それはとても深くて、重みのある言葉。 だけど、ラムザはいつもの笑顔で答える。 「もちろんです。僕にはアグリアスさんが必要です」 「ありがとう」 ラムザは出発の準備をすると言い、その場から離れて行った。 それを見送り、アグリアスは鍛錬を再開する。 正直にいえば、自分の気持ちを伝えたかった。 リリスは自分の気持ちに正直にと言っていたが、今はその時ではない。 ラムザはその身にアルマの事、ルカヴィの事、隊のメンバーの事などたくさんの重荷を背負っている。 そこに自分の気持ちを伝えれば、良いにしろ悪いにしろ私はスッキリするだろう。 だが、それはラムザにまた一つ重荷を背負わせる事に他ならない。 ならば、今は言う時ではない。 今は側にいてラムザを支える――― それが最善の方法だろう。 剣線は 黒珊瑚の海から吹きあげる風を切っていく。 その剣の鍛錬に一層の気合が入る。 以前のように己のためではなく―― ―――――その剣で自分の大切な人を守るために。 次の朝――― 「あれ~、フェニックスの尾が減ってる…。おかしいな~?昨日確認した時はもっとあったのにな」 「ラムザ!」 「あ、アグリアスさん。丁度良かった―って、どうしたんです?そんなに怖い顔して」 「見てくれ、これを!」 「あぁん、返してくださいよ!私のお酒ぇ~」 「あ、これって依頼で運んだ―」 「そうだ。幻の酒と言われるバッカスの酒だ!」 「でもあれってリリスに全部飲まれたんじゃ?」 「たしか もう飲んじゃったって」 「ヘッヘー、このアシリアがちゃんと手を打っておいたんですよ♪」 「お前が隠しておいただけだろうが!!」 「良いじゃないですか一本くらい。私達のおかげでイヴァリース中においしいお酒が届くんですから」 「だからと言って積み荷を盗ってしまっては盗賊と同じだろうがッ!!」 「む?なんの騒ぎかね?」 「あぁ、伯、見てください。アリシアが―って風呂あがりですか?」 「うむ。昨日の夜は少し鍛錬に気合が入りすぎての、朝までヤってしまったわい」 「朝まで鍛錬とは…私も頑張らねば」 「イイ汗かいたおかげで若返ったようだ!」 「そうそう、ラムザ。フェニックスの尾が必要だったのでちょっと使わせてもらったぞ」 「あ、伯だったんですか?でも、鍛錬でフェニックスの尾なんて何に使ったんです?」 「レイズでも良いのだが、それだとかなり手間がかかるのでな。体力がギリギリの状態で生き返ってた方が、鍛錬に勤しめるのだよ」 「?」 おしまい
https://w.atwiki.jp/makihitohideko/pages/48.html
パチンコはやった事がない(やり方がわからない・・・正直、全く興味がないわけではないんですけど、やり方がわからないですし、店員さんに聞く勇気もないっていう)んですけど、 『パチンコの休憩所』にはかなりお世話になってます。 ブックオフで105円で売ってるような漫画じゃなく、 『いい漫画』が揃ってるんです。 ホームレス時代からパチンコの休憩所にはお世話になってるんですけど、 不思議と一度も店員さんから何か言われた事はないんですよねっ。 絶対に顔は覚えられてるのにっ・・・。 まあぶっちゃけパチンコの休憩所には俺と『同じような人』が何人もいるから、暗黙の了解みたいな所もあるんだろうけど。 所でパチンコって、全国一律で午前10時~午後10時50分の営業ですけど、これってなんでなんだろ。 トップページ
https://w.atwiki.jp/indexorichara/pages/1110.html
1 風輪学園の屋上。 度重なる雨によりすっかり錆びついてしまったフェンスと、塗装が剥がれむき出しのコンクリート、そして文化祭に使われる予定の諸々の材料が雑にブルーシートをかけられてそのまま放置されている、なんとも言えない空間。 そこにはこの学園……いや世界を見渡すようにどこか遠い目で呆然と眺める少年がいた。 「……、」 名は黒丹羽千責。 アヴェンジャーのリーダーとしてこの学園の行方をここから観察していた。破輩に言った通り、一番良く見えるこの場所から。 今の状況は思い通りとは言えない。 神奈音響、坂東将生、木原一善。それぞれに与えた行動の完了報告がないのだ。 これは逃げ出したか、あるいは風紀委員に囚われたかを意味している。 そして破輩討伐のために向かわせた精鋭達はここから見てた通り、イレギュラーな人物の介入により全て返り討ちにされた。 「この腐った世界に居場所なんて無い……なのになぜそこまで必死に守り通そうとする。なぜそんなもの信じるんだろうな」 フェンスを握る力が次第に強くなる。 黒丹羽は理解できない。否、理解しようとしない。 今まで自分がいた場所に居場所なんて無かった。 必ずといっていいほど自分の周囲の者は裏切りや、野心を抱え自分に危害を加えてくる。そんなところが居場所なわけがない。 「なぁ……お前もそう思うだろ」 黒丹羽は誰に話しかけているのか、フェンスにもたれかかったまま呟く。 「――醜い醜い……風紀委員様よぉ」 入口が開く音が聞こえた。 来客は三名。そのうち屋上に出てきたのは二名。 「黒丹羽先輩、俺はまだ信じてませんよ……!」 「ぶっちゃけ……なんでだよ」 その二名とはツンツン頭が特徴の少年、湖后腹真申と、赤いハチマキを巻いた少年、鉄枷束縛だった。 2 鉄枷は風輪学園に着くと湖后腹と合流した。 湖后腹もまた『アヴェンジャー』による暴動で傷を負っていたが、それはまだ軽いもので、動けないことはなかった。 屋上まで向かった経緯は、一緒に同行していた薙波の『読心能力』によりアヴェンジャーの者の思考を読み取った結果、リーダー的人物のいる場所は屋上という答えが出たから。 鉄枷も湖后腹も携帯をチェックして、破輩から来たメールには目を通していた。それは黒丹羽が『アヴェンジャー』の首謀者であることが書かれた、衝撃的な内容。 黒丹羽といえばこの学園の鑑のような人物で、生徒や教師からの信頼も厚い非の打ち所のない人物とも言えた。 クラスは違えど同じ学年として鉄枷は黒丹羽を少なからず認めていたし、先輩として湖后腹は尊敬していた。 そのせいもあって今まで疑ったことのない破輩の言うことを、今日初めて湖后腹は疑ってしまった。 湖后腹にとってその事実はそれほど信じられないことだったのだ。 「なんとか言ってくださいよ! 『違う』って……言ってくださいよッ!」 屋上に向かった先には、黒丹羽がいた。 今まで見せたことのないような、憎しみに歪んだ表情を浮かべて。 「……、」 「黒丹羽。ぶっちゃけテメェが何を考えてるのか俺にはわかんねえ……。でも、破輩先輩が言ったことが本当なら俺はテメェをぶっ飛ばして更正させなきゃいけねえ!」 やれやれ、と呆れた様子を浮かべ、黒丹羽はようやく振り返る。 気だるそうに首の骨を何回かコキコキとならすと、 「何が更正だ、ばっからしい。俺は間違ってなんかいない。なんでも自分の定規で正誤を判断すんなよ、エゴイスト」 吐き捨てるようにそう言った。 鉄枷は、人が変わったように豹変した黒丹羽に歯ぎしりをする。何がこの者を動かすのか、何がこの者をここまで歪ませたのか。 「鉄枷先輩、そうですよ! 俺達はまだ黒丹羽先輩自身から真実を聞いてない! まだ決め付けるのは――――」 「お前も黙れ」 湖后腹の言葉を遮って黒丹羽は続ける。 「やめろやめろ。こんな茶番。悪役を信じ続ける健気な役なんか今じゃなんの需要もないぜ? それでもまだ『信じ続ける健気な人物』を演じたいなら、その役はここで終わらせてやるよ」 空気が凍り付く。 鉄枷と湖后腹は息を呑んで次の言葉を待った。 「そう――――俺が『アヴェンジャー』だ」 3 黒丹羽のその一言により、湖后腹の表情はガラリと変わった。 先輩に向ける目から、敵を倒す算段を探る風紀委員の目に。 「湖后腹……お前も覚悟はできたか」 「……はい。俺はこの学園の風紀を乱すものは誰だろうと取り締まる、そうここに入った時から決めてますから……!」 湖后腹の覚悟を確認すると、鉄枷は金属の長棒を二分し、警棒の形へと変形させた。 片方は自分の右手に握りしめ、もう片方は湖后腹へと手渡す。 「行くぞッ!」 「はいっ!」 警棒を握りしめた二人は両サイドから黒丹羽の元へと距離を詰めていく。対する黒丹羽は何もせず、ただ立ち尽くすだけだった。 何の抵抗もしない人間に武器を振るうのは些か気が引ける二人だが、今はそんなことを言ってる暇はない。目の前に立つのは、仲間のレベル4ではなく『アヴェンジャー』の“黒丹羽千責”なのだから。 湖后腹と鉄枷は同時に黒丹羽に向けて警棒を振った。飽くまで気絶させるのが目的なので急所は避けて――― 「!?」 消えた。 二人の手に握られていた警棒が、黒丹羽に触れた瞬間に瞬きをする暇さえ与えずに消滅した。 その消失は空間移動のような不自然な消え方ではなく、まるで掴んでいた警棒が霧で出来ていたかのように空気中に溶け込んでいったかのだ。 「――――『昇華』」 黒丹羽がポツリと呟く。 それは今の不可思議な状況を説明してくれる一言。 とりあえず鉄枷と湖后腹は一旦後ろに下がって距離を離す。 「湖后腹……今のは?」 「恐らく、黒丹羽先輩の『状態変化』により、触れた金属の分子を自由運動に変えて気体にしたんだと」 クッ、と鉄枷は苦虫を噛み潰したように表情を険しくする。 レベル4とレベル3の間に広がる差を改めて実感した瞬間だった。 「そういうこと。けど一旦引いたのは正解だったぜ? あのままお前らが俺を素手で殴りにかかってきたら……」 黒丹羽は自分の右手の甲に人差し指を置いて、 「――こんな風に、まずは皮膚からズタズタにされていたんだからな」 ジュウと肉を焼くような音が聞こえる。 鉄枷達が見たのは、指を当てた部分の皮膚が綺麗になくなり筋肉が見えている黒丹羽の手。 痛みを感じてないのか、その顔はいまだ無表情に近い。 「こいつ……自分の手を……」 鉄枷は正気の沙汰とは思えない黒丹羽の行動に純粋に恐怖する。 人間の身体をそこら辺のモノと大差なく消滅させる。つまりこの男は本気だ。 もしこの男に触れようものならその瞬間に手首までを、あるいは腕全体を躊躇なく消されるだろう。 「何かねえのか……湖后腹。ぶっちゃけアイツよりお前のほうが順位は上なんだろ?」 「あることにはあります……」 「なんだ?」 「これです」 バリッと、湖后腹の指で青白い光が弾けた。そう、それは電流。 状態変化とは物体にのみ作用するもの。物体ではなく“現象”であるはずの電流なら防がれることはない。 「物理的攻撃が効かねえって言うなら、それしかないな。頼んだぞ湖后腹……」 「任せてください! 俺が黒丹羽先輩を止めて見せます!」 バチン!! と、先程よりも威力の高い電流を手のひらに帯電させる。 そして湖后腹は黒丹羽へとその手を向け、 「今俺があなたに向けているのは高電圧の電流です。加減はしますが、かすり傷ではすみません。 ……だから、降参して下さい」 「やりたければ好きにしろよ。自分のエゴを押し通して屈服させてみろ、“偽善者”」 「くっ……なんで――!!」 湖后腹は説得は不可と思い、そのまま黒丹羽に向けて『雷撃の槍』を放った。光の速度で空気を駆け抜ける稲妻。それを人間が目視で見切り、かわすのは不可能。 黒丹羽もその例外ではない。 いや……それでも彼は“かわす必要がなかった”と言ったほうが正しいのだろうか。 「――――『脱電離』」 バシュウウン!! と、耳に障る音が響き、雷光が突如として消えた。 それは警棒の時と同じく、黒丹羽に触れた瞬間に。 「馬鹿だな。電気はプラズマの一つだ。“第4の状態”って言われてる、な」 「そんな……!?」 「なんだそりゃ! ぶっちゃけ、聞いたことがねえぞ!」 「放電という現象は、放出された自由電子が空気中の気体原子と衝突し、電離させ、そこから生じた陽イオンが新たな電子を叩きだすこと。 そしてこの電子が更なる電子雪崩を引き起こすことによって持続的な放電現象を発生させる。 ……つまりは俺に触れた瞬間に電離した気体原子を元に戻してやればいい。そうすることにより連鎖的に電子雪崩も止まり、電撃は消えてなくなるというわけ」 黒丹羽の説明に二人は静まり返る。 (ぶっちゃけ、こいつの説明聞いても全然理解できなかったんだけど? プラズマとか電離とか……湖后腹お前わかったか?) (ええ、大体は……簡単に言うと、電撃使いはプラズマ使いでもあり、黒丹羽先輩はプラズマを『状態』として、操ることができるんです。つまり俺が電撃という『プラズマ』を放っても『気体』の状態に戻されてしまうんです) 要するにこの男の前では湖后腹の電撃も鉄枷の金属も等しく無力ということだ。 肉弾戦も封じられたこの状況では、それぞれの能力を取り上げられた二人は今のところまったくといっていいほどに勝機がない。 「ま、俺もこのことは最近知ってさ……苦労したよ。なんせ電撃を何度も浴びて、電離中の粒子の構造、集まり方を脳に焼き付けたんだから」 黒丹羽はまだ微動だにしない。なのに自分たちはこうして押されている。 風紀委員として恥ずべきことだった。目の前の相手に手も足も出ないこと。自分が非力なこと。 (湖后腹……俺に考えがある) だが、鉄枷にはまだ策があった。 否、策というにはあまりに漠然としすぎている。あえて言うなら『試したいこと』ぐらいなものか。 それでもこうして何もできず、動かないよりは百倍マシだ。 (なんですか……?) 鉄枷は湖后腹の耳に口を近づけ、あることを口にする。 それは今までの経験に基づいた推測、しかしそれがもし正しければこの状況を打開できる架け橋となるかもしれなかった。 (わかりました……それで行きましょう) 湖后腹は鉄枷の案に賛成し、その行動にととりかかる。 「作戦タイムは終わったか? ま……どの道、俺がお前らに負けることはないけどさ」 鉄枷は屋上のフェンスを一部変形させ、手頃な大きさの鉄棒に変化させた。 「ああ! 行くぜ!」 そして、それを構え一気に突撃する。 空気の抵抗を受けながら黒丹羽へと向かっていく中で思い出していたのはあの時のこと。 (確かにこいつの能力はありとあらゆる物を変形させる、ありえねえ能力だ。 けど……それは飽くまで広く浅く。金属に限定して言えば俺の『金属加工』の方が精密さは上回る――!) 鉄枷は自身の上位互換とも言える能力者と対峙したことがある。 触れる必要もなく膨大な量の金属をありとあらゆる形に鋳造し、意のままに操ることのできる金属操作系の大能力者。しかし同系統の能力があるが故に鉄枷はその能力に干渉し、短時間ではあったがその者の能力の発動を阻害することができた。 ならば今回もその原理で、能力によって金属の分子を固体の集まり方のままに固定して、『状態変化』を無理やり押さえ込めばいいのではないか。 「うおぉぉぉぉ!!」 鉄枷は鉄棒をまっすぐ突き立てた。 相変わらず黒丹羽は動かない。それは自分の策に気がついてない証拠。 ならばこの一撃で決めることが出来れば、全てに片がつく。 だが――― 「!!」 デジャヴにも似た既視感が鉄枷の脳裏に過る。 それは過去に風紀委員の仕事として、暴走中のスキルアウトと対峙した時。 鉄枷は意識を失わせるために、振るった鉄棒でそのスキルアウトの一人に重症を負わせてしまったことがあったのだ。 結果としてそれは正当防衛で済まされたが、その時のトラウマは未だ鉄枷の胸の奥に深く刻まれている。 また自分は傷つけていくのだろうか。 この手を鉄臭い血で染めていくのか。 「くっ――――!」 やめろ。 余計なことは考えるな。 急所に当てないよう注意すればあの時の二の舞にはならない。 そうだ。自分を“信じろ”。 「だらあぁぁぁぁぁぁッ!!」 鉄枷は黒丹羽の右肩を狙って鉄棒を槍のように突き立てる。 能力を働かせ、分子を固定しながら。 ジュウウウウウ!! 肩に突き立てた鉄棒は触れた先から侵食されるように、『液体』となっていった。 鉄枷が『固体』のまま固定しようとしたのに対し、黒丹羽は蒸発させて『気体』にしようとした。 それらの力が拮抗し合い、『固体』と『気体』の中間である『液体』へと変化したのだ。 「――――へえ、」 そこで、ようやく黒丹羽が動いた。 自分の能力に触れることのできる者の存在を知ってか、退屈そうな表情から少しだけ笑みが溢れる。 「なるほど……金属に限っては俺も棒立ちというわけにもいかなさそうだ」 そう言って黒丹羽が取り出したのは一本のペットボトル。 しかし中には水ではなく、灰色い液体。そう、液状にされた金属が眠っていた。 黒丹羽はそのペットボトルの蓋を外し、地面に注ぐかのように垂直に傾ける。 ゴポゴポという音と水泡を立ててこぼれ落ちていく液状の金属。しかしそれは地面に到達する前にピタリと止まった。 「なら目には目を鉄には鉄を ってことで――――」 ザン!! 黒丹羽は鉄枷めがけてペットボトルを薙ぎ払う。そのペットボトルの口からは氷柱《つらら》のように途中に固体化された金属が刃のように飛び出していた。 即座に身を逸らす鉄枷。だが、首にかかるネクタイだけがその動作に着いてこれず、先端を断裁された。 しかし今の一撃をよけていなかったら切られていたのはネクタイではなく胴体だったかもしれないのだから、マシだといえよう。 「っぶねえ……」 鉄枷は額に伝う冷や汗を拭い、迷いを見せた自分に後悔をする。 さっき余計な心配なんてしなければ、黒丹羽へと向けた鉄槍は固体を保ったままだったはずだ。 その一瞬の迷いが演算に影響を与え、分子を固定する力を弱めたらしい。 「こうなっちゃ仕方ねえ……湖后腹!!」 「はい!」 湖后腹は予め預かっておいた予備の鉄塊を鉄枷に投げつける。それをキャッチして、鉄枷はまた鉄槍を生成した。 (だが、これでこいつも迂闊には俺の鉄に触れては来ない……ならこのまま押し切るまで!) 鉄枷は黒丹羽に向けて鉄槍を薙刀のように薙ぐ。無論、常に能力を発動し、『状態変化』の影響を受けないようにしながら。 黒丹羽もそれに触れようとはせず、ペットボトルの先から出る凍りついた金属の刃で受け止めた。 ギイィィン! と、金属が擦れ合う甲高い音が響く。 幾度も衝突しては間に火花が散り、お互いの体力を摩耗させていく。 黒丹羽と鉄枷が鍔迫り合いを起こす中、湖后腹は絶えず電撃を放ち続けてきた。標的は黒丹羽ではなく、その周辺。 黒丹羽を狙わないのは、鉄枷にも当たる危険性と、脱電離による回避を危惧してのこと。 そして、それにはもうひとつ大きな意味があった。 (鉄枷先輩……これで本当にうまくいくんですか……?) ガァンッ!! 鉄枷の槍で黒丹羽の鉄剣はペットボトルごと弾き飛ばされた。弾き飛ばされた先は、空中。 そう、屋上から真っ逆さまに落ちていったのだ。 「へっ! 残念だが日頃訓練を受けている俺に棒術で叶うと思うなよ」 「くっ……」 黒丹羽は少し苛立ちの表情を見せ、あることを疑問に抱く。 それは先程からの息苦しさ、そしてこの空間に漂う独特な刺激臭。 「ぶっちゃけ、終わりだ!」 鉄枷の槍がまた黒丹羽の右肩を狙って突き進む。今度はあちらの固体化の固定が自身の気体化を上回るかもしれない。だとしたら右肩に固体のままの鉄の塊が直撃し、損傷は必至。 「――――ッ!」 黒丹羽は身をかがめ、その一撃を回避する。 それでもその回避は完璧ではなく、チッと音を立て鉄枷の一撃は制服を引きちぎっていった。 肩から血が滲みだす。 痛みはそこまで感じないが、別の何かが心の奥底でふつふつとにえくり返っていくのを感じた。 「……殺すぞ?」 それは怒り。 自分でもわからないほどに頭の中が怒り一色に染まっていく。 今までの怒りが静かな停止中の火山のようなものだとしたら、今は噴火寸前にまでにマグマを溜め込んだ活火山の如き怒りだった。 抑え切れない感情を五本の指に乗せ、黒丹羽は鉄枷を爪で引き裂くように振るった。 「がぁああああああああ!!」 その指になぞられた部分がジュウジュウと音を立てて溶けていく。 しかし服に邪魔されたせいか傷はそこまで深くなく手応えは少ない。 鉄枷は痛みを堪えて再び後ろに引いた。 服の腹の部分には五本の穴が空き、そこから血がボトボトとこぼれ落ちている。 「鉄枷先輩!」 「俺のことはいい! お前はまだ“あれ”を続けろ!!」 鉄枷の指し示す“あれ”のため、湖后腹は頷いて、また電撃を飛ばす。しかし、やはりその電撃は黒丹羽には向いておらず、空を切るばかり。 鉄枷は自分の傷を探るため、血だらけの腹部に右手を伸ばした。 「つっ!」 少し触っただけだというのに、激痛が全身を襲う。 鉄枷は後もう少し前にいたら、内臓ごと――――いや、先ほどの距離でも十分に内蔵には届いていたはずだ。 なのに何故黒丹羽はそうしなかった。口では『殺す』なんて言っていても、本当に黒丹羽に自分を殺す気はあったのだろうか。 振り返ってみると他にも違和感はある。 『アヴェンジャー』だというのに何故黒丹羽は自分から攻めて来ない。ずっとこのまま間延びした戦闘をしていれば増援が来るかもしれないというのに。 それに、黒丹羽の身体触れたらどうなるか、自分の身体を傷つけてまでこちらに教えてきた。 まるで、自分から離れるように促すかのように。 (まさか――――) 鉄枷は痛みをこらえながら立ち上がる。僅かな確信があるのか、その瞳はギラギラと鋭い光を放っていた。 4 「はぁ……いつまで続けんだ? テメエらの浅はかな戦法は既に見きってんだよ」 「え?」 湖后腹が最後の電撃を放った瞬間、黒丹羽は片手を天に掲げた。 そして、まるで何かを掴むように開かれた手をギュッと握りしめると、 「――――『凝縮』」 空気中にあった“あるもの”が状態変化によりその正体をあらわにする。 ビシャビシャビシャ!! と雨粒がコンクリに打ち付けられるような音が響いた。その“あるもの”は液体となり、屋上のコンクリを濡らしていく。 その色は雨水のようには澄んではおらず、濁りきった紺色。 「電撃により空気中の酸素を同素体の『オゾン』に変えるとは考えたもんだ……けど、所詮はオゾンも三つの状態を持つ。結局は俺の手の上。 それにオゾンの存在がバレないとでも思ったか? ……残念ながら、この不快な刺激臭でバレバレなんだよ」 そう、その正体はオゾン。 高いエネルギーを持つ電子と酸素原子を衝突させることで発生する毒性のある物質。 鉄枷が黒丹羽をひきつけている間に湖后腹はオゾンを作り出していた。もちろん高濃度ではなく、黒丹羽が戦闘を続けるのが困難になる程度の濃度で。 「くっ……そ」 しかしそれが回る前にこうして液体にされてしまった。 ならばまた作り出せばいいではないかという話かもしれないが、黒丹羽はその時間を与えてはくれないだろう。 「――――『凝固』」 黒丹羽は足元のオゾンを更に状態変化させ、固体へと変える。冬場の湖のように凍りついたオゾンは色が濃紫色になっていった。 「んで……? 次の手は」 黒丹羽の表情からは怒りは薄れ、最初の頃の退屈そうなモノに戻る。 湖后腹はどうしていいのかわからなかった。 鉄枷と考えた策は失敗。電撃も、オゾンも効かない。 唯一状態変化に干渉できる能力を持った鉄枷も傷を負ってしまった。 まさに絶望的。 「じゃ……たまにはこっちから仕掛けてやるとするか。腰の抜けた風紀委員様の為にな」 ゆっくりとした動作で黒丹羽は右手をあげる。 ふざけているのか、ピストルの形で人差し指だけ湖后腹に向けながら。 「――――『電離』」 ポツンとつぶやきが放たれた。 瞬間、黒丹羽の人差し指に青白い物体が収束する。 「え、まさかこれって……!!」 湖后腹はその動作に見覚えがあった。 それは自身も憧れる“常盤台のエース”御坂美琴の必殺技とも言える最大の武器。 名を、超電磁砲《レールガン》。 しかしそれは似て非なるもの。 超電磁砲はコインをローレンツ力で加速させ、音速の三倍以上の速度で打ち出す。 しかし黒丹羽のものには弾丸であるコインそのものがないのだ。 「――――高電離気体砲。……じゃあ長いな、高電離砲《プラズマガン》でいいか」 バジッ、バジッと小刻みに閃光が走り、指先には綺麗な球が描かれる。 ホログラムを見ているかのように透き通った青白い光。その球は更に形を変形せさ―――― ギュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥン!! 荒れ狂ったように突き進む電撃とは違い、それはスマートな軌跡を描き、音も立てずに光速で突き進んでくる。 それが黒丹羽の扱う高電離砲《プラズマガン》。 通常ならば、大気中でエネルギーを周囲に与えてしまい、プラズマ状態を維持できないのだが、黒丹羽はそれを『状態変化』の能力によって制御し、プラズマ状態のまま投射したのだ。 ギャアアンッ!! コンクリの上に粉々になった金属片が飛び散る。それは鉄枷の『金属加工』によって作り出された盾“だった”もの。 黒丹羽が湖后腹に向かって撃ち出そうとした瞬間に、鉄枷が庇うように前に出てきてそれで防いだのだ。 その盾のほとんどは何千度にもよる熱で溶け、残ったものもこうして粉々にされた。もちろんそれを支えていた鉄枷自身も無傷ではすまず、数メートル後ろへとふっとばされていた。 「あ……あ」 何もできない。何も言えない。何も考えたくない。 湖后腹は自分が震えていることに気づいた。平衡感覚が狂ったかのように、地面が歪んでいる様に感じ、もはや立っていることもできない。 そして遂にバランスを崩しグラっと後ろにのけぞる。 「ビビんなよ湖后腹。ぶっちゃけ、まだ終わりじゃねえ」 だが、倒れることはなかった。遥か後方へと吹っ飛ばされた鉄枷が戻ってきて自分の背中を支えてくれたのだ。 自分よりもボロボロでいつ倒れてもおかしくない鉄枷が、 先ほどの衝撃で左手を骨折したのか、右手しか動かせていない鉄枷が。 「―――先輩」 湖后腹は自然と涙が溢れていく。ボロボロと、押さえ込んでいた感情と共に。 それはこの恐ろしい戦場から逃げ出したいためか、それとも見るからに軽傷ではない鉄枷がそれでも自分を励ましてくれるからなのか。 「泣くんじゃねえ! 俺達はぶっちゃけ風紀委員だろ!」 鉄枷は泣いてる湖后腹に叱咤してきた。 口で伝えてきたのはそれだけだ。しかし、そこから胸に届いたモノは確かにある。 「はい、すいません……俺は、まだ頑張れます!!」 鉄枷だけではない。 同じ支部の仲間。破輩だって、春咲だって、厳原だって、佐野だって、一厘だって誰一人としてこの状況で諦めはしないだろう。 だから自分も最後まで戦い抜こう。たとえ泥を被ろうと、足を折られようと、この心が折れるまでは。 5 「本当……風紀委員ってのは茶番が好きなようだな。反吐が出るよ」 黒丹羽は吐き捨てるようにそう言って、背中を向けた。この街を一望できるここから、何かの想いを乗せるかのように。 「……テメエはぶっちゃけなにがしたいんだ。そして何がお前をそこまで歪ませた……答えろ黒丹羽!」 「何が、ね……」 黒丹羽はあまり自己主張というのが好きではなかった。なぜ破輩に言ったことをまた違う者に説明しないといけない。 それに同情や理解なんてしてもらうつもりないのだから、無駄口を叩く必要もまた皆無。 「生憎、自分語りは大っ嫌いなんだ。そこら辺は想像にお任せするよ」 ここから見える街は黒丹羽にとって、酷く『歪んだ』世界に見えた。ここに住む誰もが自分のことしか考えておらず、他人は自分を飾り付ける為の道具でしかない。 しかも、それをそれぞれが考えているのだから、これほど救われないことはない。 「――――げんなよ」 鉄枷の震える声が聞こえる。 今にも殴り掛かってきそうだが、それを必死に押し止めて、何かを伝えようとしてきていた。 「逃げんなよ! そうやって自分の思いから!」 もったいぶってようやく言ったと思ったら、そんな検討はずれなことかと、黒丹羽は失笑した。 自分は何も隠していない。何からも逃げていない。 ただお前みたいな奴に話しもても無駄だから―― 「ぶっちゃけろ! テメエは本当にそれでいいのか! 誰にも心を開かず塞ぎこむ自分のままで! 内に溜め込んだままウジウジしたままで!」 まったくもって理解不能だ。 この男は一体何を自分を勘違いしてそんなことをホザいているんだろうか。 黒丹羽は次第にさっきの怒りがじわじわと蘇ってきたことを内の中で感じた。 「何を根拠に……バッカじゃねえの? テメエは歪んだ人間にはその過程になんらかの事情があった……とか錯覚してんのか? ないない、漫画の見すぎだろ。俺の知ってる奴にはそんなのはいねえ、狂人は生まれた時から狂人なんだ」 怒りは消えない。 鉄枷の戯言が耳をかすめる度に黒丹羽は不快になる。 「根拠はある……だって黒丹羽、お前はホントは……」 「――『融解』」 黒丹羽はコツンと地面を軽くつま先で蹴った。すると地面のコンクリは全て表面から三十センチほど下まで『液体』となる。 それにより鉄枷と湖后腹の両足は底なし沼に食われていくかのように、ズブズブと沈み、それを確認した所で、黒丹羽は地面を『固体』へと戻した。 完璧に両足をコンクリに沈め、動けないようにする。 同じ地面に足が着いてる時点でこんなことはいつでもできた。もう少しばかり遊んでやろうと思って今までこの手は使わなかったが、その配慮はもう必要ない。 「わかったような口をきくな偽善者。知ったかぶりでソイツだけの救世主《メシア》にでなったつもりか」 何故なら、あとはこのバカどもを始末すればいいだけの話なのだから。 二度とそんなことを言えないよう顎でも砕いておこうか。 「知ったかじゃねえ……お前自身が俺に伝えてきたことだ」 「……、」 「自分の身体を傷つけてまでの警告、対処してくれと言わんばかりの高電離砲を放つまでの時間、そして今になって使った地面融解。 敵ならなんでここまで手を抜くんだ!? 風紀委員が憎いなら、殺したいと思ってんなら、こんなことせず最初の一撃でねじ伏せることもできただろ!」 「……そんなに俺を善人したてあげたいってか。 やっすいねえ、実に安っぽい。『敵かと思ってたら実は良い奴でした』なんて、アニメや漫画だけの話だっつーのに」 黒丹羽は動けない鉄枷の方へと一歩ずつ歩き始める。 触れた瞬間に分子を操り、バラバラにするその手を向けながら。 「もう一度言う。クズはどう転んでもクズだ。平気で壊し、平気で奪い、平気で殺す。ほら、その証拠を見せてやるよ。“偽善者”」 黒丹羽は明確に殺意を持って近づく。 だが鉄枷は逃げ出そうともしなければ、抵抗しようともしない。 ただ一言。 「ぶっちゃけ無理だな、その証拠を見せることは。だってお前はまだ“人間”だ。だから人は殺せない」 鉄枷は語った。平気で人を殺せるような人間はもはや“人間”ではないと。もはや感覚が麻痺し、善悪の判断もつかなくなった“殺人鬼”だ、と。 そう、人ではなく“鬼”。 古代から語り継がれてきた『バケモノ』という部類に入る凶悪な生き物。 「――――……くそが。そうやって信じていれば助かるだとか、すごい人間だと思われるとか―――……醜いんだよ」 黒丹羽はかつて『バケモノ』扱いをされてひどい迫害を受けた。 その時から“人間”として扱われて来なかったというのに今更になってその者を信じるなんて愚問だ。愚かすぎる。 それに鉄枷の口から出る言葉なんて全てが虚言。 すべては自分が助かるために発せられている言葉だ。 「違うよ」 古ぼけた屋上の扉が開く。黒丹羽の思考を読んでいたかのように、反論してきたのは一人の少女。 ボサボサの頭に、しわくちゃのアイマスク。肌は若干褐色でアイマスクの跡だけポッカリと白い。 「鉄枷の思考にそんなモノは存在していない。あるのは貴方への“信頼”」 それは、読心能力より導き出された否定のしようのない完璧な答え。 薙波藍守――――この学園の第16位が下した疑いようのないただひとつの結論。 黒丹羽はその結論にどう返していいのかわからない。 今まで自分は全ての者の全ての発言は、裏があると思っていた。それを言えば褒められる、助けてもらえる、同情してもらえる、感謝してもらえる。 何もかもが自分のため。そこに相手への配慮など一つも考えてないはず……だ。 「読心能力なんて“意識上の思考”しか読み取れねえだろ。俺の言う醜さは“無意識の思考”なんだよ」 そう。 それは思考より更に奥の、深い深い場所に眠っている潜在的な醜さ。 たとえ本人が自覚していなくても確かにその醜さは存在してる。 「黒丹羽先輩……もうやめましょうよ、こんなこと」 湖后腹は黒丹羽になにか同情するような様子で声を上げた。まるで黒丹羽が“かわいそうな人間”だと示すかのように。 「黒丹羽……ぶっちゃけ無理すんな。お前は確かに強い、能力も精神も。だけど“人間”なんだ。 自分の痛みも他人の痛みも知れる、知ることが出来る」 やめろ。 「鉄枷を殺したいなら先に私を殺しなさい。もちろん“人間”のあなたに出来ればの話だけど」 やめろ、やめろ。 いつもこうだ。 自分にかけてくる声は不気味なまでに温かい。 信じるだとか、優しいだとか……罵声を浴びられるよりも聞くに堪えない言葉ばかりを投げかけてくる。 そしてその温かさのあとに待っているのは、絶対零度よりも冷たい人間の負の部分。裏切りだ。 『お母さんすごい嬉しいわ、こんなに親孝行な息子が生まれてきてくれて』 やめろ、やめろ、やめろ。 『握手しよ? これが友達のしるし。今日から僕達親友だよ!』 やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。 『黒丹羽君の能力、研究者として少し興味があるな。協力してくれると嬉しいんだけど』 やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ! 『私の名前は漣《さざなみ》、黄ヶ崎漣。よろしくね黒丹羽君!』 やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ!! 「ああ……醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い――――醜い!!」 そうやって、近づいてくるな。俺を形だけの“居場所”に押し込もうとするな。 存在しない“居場所”に……期待をさせるな。 ガッ!! 黒丹羽は、鉄枷を庇うように立ちはだかる薙波の首を掴む。 力を入れる必要はない。このまま『状態変化』を発動させれば、一瞬の上に絶命するのだから。 「バカどもが……現実を見せてやるよ。……バケモノによる殺人ショーを」 無意味とはわかりつつ、黒丹羽は右手の握力を強くした。それにより薙波はウッという呻き声を漏らす。 だが、その表情に死への恐怖は窺えない。後ろにいる鉄枷もそうだ。何かを信じているかのような瞳でこちらを見つめてくる。 この期に及んでまだ自分が殺さないと思っているのか。 ――――甘い、甘すぎる考えだ。 「自分語りが……嫌いなんだってね。……なら、私が貴方の代わりに代弁して……あげる」 苦しそうに、しかし何かを伝えようと、薙波は薄らと笑みを浮かべながら口を動かす。 「貴方は、いつも……裏切られてきた。“居場所”だと……思っていた場所は裏切られる度に消えていく…… そのうち、貴方はこの世界に“居場所”なんてないと考えるようになっていった……」 その内容は『読心能力』で読み取った黒丹羽の過去の出来事と今の思考。 「けどね、“居場所”はあるよ。どこにでも…… ただ貴方が目を背けているだけ……偽りの居場所と……勝手に決めつけてね」 黒丹羽の右手は更に薙波の首を締め付ける。 御託でしか無い。そう一蹴したかった。 「――――……ッ!!」 なのに言葉を紡ぐことができない。 戦況では圧倒的に有利なこの状況なのに、なぜここまで追い詰められている。 なぜこの者たちは今の状況に絶望しない。 「ぶっちゃけお前は誰よりも“居場所”を求めてたんだ。だからこそ信じれなかった。そして許せなかった」 「やめろ……」 耳を貸すな。 一思いに殺ればこの雑音も消える。だから早く『状態変化』を発動して―― 「もう一度信じてみようよ。居場所を、人間の可能性を」 出来ない……! この声は不快でしかないのに、どこか温かい。耳障りだというのに、どうしても耳を傾けてしまう。 黒丹羽は気がつけば、薙波の首から手を離していた。 「……くっ」 何をやっているんだ自分は。 殺せ、女だろうが関係ない。あの時双里を殺したように一思いに殺れ。 じゃないと、本当にこいつらの言った通り、人を殺せないということになってしまう。これじゃ偽善者ならぬ偽悪者だ。 「……いいのか」 思いとは真逆の言葉が口から漏れる。 こんなところまできて、まだ自分は救いを求めている。我ながら情けない話だ。 「うん」 ケホケホと咳き込みながら、薙波は手を差し伸べてくる。 一見握手を求めているように見えるが黒丹羽にとってそれはこの泥沼から引っ張りあげてくれる救いの手にも見えた。 信じていいのか? 今度こそ、今度こそ本当にその手は自分を救い上げてくれる救済の手なのか? 今まで、救いの手かと思ったらそれは自分をさらに底なしの沼へと押しこむ為の裏切りの手だった。 黒丹羽はゆっくりとその手を触れようとする。 まだ人間だって居場所だって信じていない――――だが、信じたい。 だからこそ、最後にその手を取ろう。自分はもう底なしの沼の“底”についてるようなものだ。 もし押し込まれたって、これ以上堕ちることはない。 「さあ手を伸ばせ黒丹羽! 俺達ががっちりと掴んでやる!!」 「黒丹羽先輩……!!」 ――――なんて茶番だ。 こんな三文芝居、クサすぎて目も当てられない。 だが、何故だか悪い感じはしない。 ずっと一人だった時には満たされなかった感情が、ここに来て満たされていく。 ――――――……そうか。 俺が求めていたのは復讐なんてものじゃない。 こんな風に自分を受け入れてくれる“居場所”だったんだ。 薙波の言う通り、居場所は確かにあった。 手を伸ばせばすぐそこにある。けど、逃げていたんだ。 それが本物とは信じれず、信じたくなく。醜さだとか言い訳にして、目を背けていた。 「――――出来んなら、見せてくれよ」 あと少し、あと少しで手が届く。 「人間の可能性を理解できない……この俺に」 指先が触れた。温かい感触が伝わってくる。それは間違いなく人のぬくもり。 「居場所を……さ」 ―――――ド、……ゴオオォォォォォォッ!! 刹那。 轟音とともに薙波の眼前を巨大な暴風が突き抜けていった。黒丹羽はその暴風に直撃し、押し出されるかのように数メートル先まで吹っ飛ばされていく。 「――――あ、」 確かにあった指先のぬくもりは、冷たい風にかき消されていった。 全身を風が覆い隠し、コンクリートへと叩きつける。その一撃だけで、全身は傷つき、皮膚は裂かれていった。 「残念ながら、テメエが見なきゃいけねえのは……『アヴェンジャー』によって傷ついていった被害者だ」 カツン、カツンと階段を登る音が開いたドアから聞こえてくる。 その音は段々と大きくなり、何段か上がった後、その者が姿を現した。 「破輩先輩……!」 破輩紀里嶺。 この学園の第2位にして風紀委員159支部のリーダー的存在。 その姿は、この場の誰よりもボロボロで、この場の誰よりも険しい表情。 「待って下さい破輩先輩! 黒丹羽先輩は……!」 「なんだ湖后腹……こいつを庇うのか? 厳原をあんな目にあわせたのは……こいつなんだぞ!!」 その瞬間、湖后腹と鉄枷は言葉が出なくなる。 自分の目の前の人物が厳原を重体にまで追い込んだ。そんな人物と和解しようとしていた愚かな自分達を悔いるかのように。 「ぶっちゃけ……本当なのかよ、それは!」 黒丹羽は起き上がる。 頭を強く打ったせいか、視界は何重にもブレていた。 「ああ……」 ここにきてあの時の虚勢が裏目に出るとは思はなかった。 だがそれも仕方ない、元から水と油が交わらないとの同じく、自分は風紀委員とは相容れぬ存在なのだから、こういう結末のほうがふさわしい。 「私は厳原を……この学園の多くのものを傷つけたテメエだけは許さない!!」 黒丹羽の直線上に破輩が立つ。 風を収束させ、先程以上に巨大な風の大砲を生み出そうとして、両手をかざしながら。 「待って――――!」 薙波が破輩を止めようとするが、もう遅い。 ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!! 半径五メートルを超す巨大な竜巻が、ありえない速度で直進し、後ろにあるフェンスごと黒丹羽を飲み込む。 ベリ、ベリと根本から引きちぎられ、空へと飛んでいく金属フェンス。 しかし黒丹羽はまだ足をついていた。 ……否、足を、『状態変化』で溶かしたコンクリに埋め込み身体を固定していたのだ。 「待って下さい! 破輩先輩!」 鉄枷の言葉に聞く耳を持たない破輩は更にその威力を強める。 『状態変化』では防ぎようのない攻撃。黒丹羽は自分の体が風により引き裂かれていくのを感じた。 それだけではなく、今は風の影響で呼吸すら出来ない。酸素を求め脳が暴れるがどうしようもない。 動こうとして足をコンクリから出した瞬間に打ち上げられるのは目に見えているのだから。 「が……」 痛み、憎しみ、悲しみ。ありとあらゆる感情が風に流されて行く。 残ったのは空白の心。 すべてが空っぽになった、心。 だが、そこにただひとつ残されたものがあった。 それは―――― 「――――吹き、飛べえェェェェェェェェェ!!」 足元のコンクリが崩れ去る。 支えがなくなった黒丹羽の体はあらがう術を持たず、一瞬のうちに空へと弾き出された。 妙な浮遊感と喪失感を感じ、空から見た世界。皮肉な事にそこにあったはずの『歪み』は消えていた。 「やっぱ……あったんだな」 黒丹羽はポツリと呟く。 このあとに待っているのは五十メートルの高さから地上への落下。 それでも不思議と恐れは感じない。その発見は、死すら霞ませるほど黒丹羽にとって大きなものだったのだ。 着実に地面の距離を狭めていく中、だんだんと意識が薄れていく。 黒丹羽は『歪み』の消えた世界を名残惜しそうにしながら、両目を閉じた。 「本当に運が無い。もっと――……早く、気づいてればな」
https://w.atwiki.jp/oreqsw/pages/1517.html
決河の勢いで管野は上空から敵対象へと動力降下する。 彼女を知らぬ者が、この光景を目の当りにしたら悲鳴を上げて静止するだろう。 大型航空ネウロイの真上から身を投じる管野は抱え持つ携行火器―――九九式二型二号改13mm機関銃の銃口を向けて引き金を引く。これこそ管野直枝が最も得意とする戦術なのだ。銃火を叩き込みながら、管野がすれ違った箇所には遠めに見てもはっきりと分かるほどの傷跡が刻みつけられていた。 クルピンスキー「さっすがナオちゃん。相変わらず勇敢だね。でもそういう一生懸命なところも可愛いかな。俺はどう思う?」 見る者全てを威圧する巨大な化物相手に刃金を鳴らす管野の姿を捉えながら、堅牢な甲殻を削っていくクルピンスキーが隣で同様に銃弾を撃ち込む俺に微笑みかけた。 俺「確かに可愛いけど本人の前で言わないほうが良いぞ。前に言ったら噛みつかれた」 クルピンスキー「……俺ってさ。もしかして意外とプレイボーイ?」 俺「そんなわけあるか。女の子を選り好みできる立場じゃないってことぐらいは自覚してる」 男のリビドーを刺激する笑みを物ともせずに俺は彼女とお揃いのグロスフスMG42機関銃を右手で発砲しつつ、左の五指から放つ衝撃波によって管野の進路を阻もうと飛び交うX-10を次々と撃墜していく。 五本の指を僅かに動かすだけで変則的に動き回るX-10を射線上に捉え、一撃必中の要領で貫く様は激戦地を転々と渡り歩いてきた者だけが見せる洗練された所作だった。 魔力減衰が始まった今の状況では掌から放出する高威力かつ広範囲の衝撃波を多用することはできない。 かつては自身の象徴でもあった衝撃波も今となっては思う存分発揮することが叶わない現状に歯痒さを感じつつも俺は小型の撃墜と大型への攻撃を同時並行で行った。 ロスマン『俺さん。身体の調子はどうですか?』 ニパ『魔力減衰が始まったんなら、あまり無理しないほうが良いんじゃないか?』 俺「一人で戦うわけじゃないから問題ないさ」 インカムから流れてくるロスマンとニパの、自身を気遣う声が耳に届く。 気持ちはありがたいが、彼女たちだけを火線に立たせるわけにはいかない。飛ぶことができ、敵の数を少しでも減らせるなら使い物にならなくなるまで、戦い続けるのも自分の役目だ。 クルピンスキー「……さぁてと。それじゃあ僕も行って来ようかな。俺、エディータ、ニパ君。援護頼むね」 そんな俺の胸裏を汲み取ったのか、クルピンスキーが大型に向かって猛進を開始した。 被弾を全く考慮しない彼女の戦術に初めは途惑いを隠せなかったが、逸早く的確な支援が行えたのも長年培って来た経験によるものだろう。 俺「まったく……嫁入り前の肌に傷でもついたらどうすんだ。了解! 背中はしっかり守ってやるから思う存分暴れて来い!」 構えていたMG42を背負い、十指から衝撃波を発射する。狙いは二人の勇敢なる魔女を狙うキューブ状の羽虫ども。 熱した鉄を水に放り込んだような音を立てながら繰り出された攻撃がプンスキー伯爵の背を狙うX-10のボディを貫通した。 クルピンスキー「ありがとう。助かったよ」 砲火を交えるクルピンスキーを援護するべくポクルイーシキンが、手にしていた対物ライフルの引き金を絞った。 轟く銃声と共に蒼空に鮮やかな発射炎の花が咲き、徹甲弾が直撃した部位から白い光輝を放つ破片が噴き出す。 ラル「残るはあの大型か」 定子「それでも……あの装甲は堅すぎます」 俺「だったら俺が致命傷を与える。トドメは任せたぞ」 ラル「無理はするな。私たちだけでも」 俺「安心しろ。これくらいなら撃てるさ」 俺が体内に充溢する魔法力を前方へと持ち上げる右の掌へと集中させた。 魔力を供給する分だけ生まれてくるブレを少しでも減殺するべく生体砲身と化した右腕を左手で掴むように固定し、大型ネウロイへと狙点を定める。発射態勢を整える彼の姿を確認するや否や管野が再び急上昇し、対象の真上を確保した。 俺「ナオ! いけるか!?」 管野『当たり前だ! いいからさっさと撃て!!』 俺「了解!!」 射線上からの退避を終えたクルピンスキーのアイコンタクトを受けた俺が衝撃波を発射する。 反動で大きく後ろへ吹き飛ばされそうになるも、傍で待機していたラルが彼の身体を支えることで、事なきを得た。 砲口からぶっ放された奔流が大型を包み込み、その黒いボディを歪に変形させていく中で大型の頭上から一個の弾丸が飛来する。 管野が首下のマフラーを突風にたなびかせながら機関銃の弾丸をばら撒き、肉薄。 右手に展開するシールドを直径数十センチまで圧縮、強度を高めていく。 上空から降下突撃する管野が例の如く右腕を後方へと引き絞る彼女の拳は既に眩い輝きを放つ蒼白い光に包み込まれていた。 管野「でぇぇぇぇりゃぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!」 これまで数々の化け物どもを沈めてきた必殺の一撃が堅牢無比を誇る装甲に叩き込まれる。戦車砲の一斉発射にも似た衝撃音を轟かせながら、放たれた絶大なインパクトは黒い装甲の内部にて燦然と輝く紅の宝玉にも伝達された。 ジョゼ「最近は敵の装甲が硬くなってますね……」 ラル「今後は厳しい戦いになるだろう。各自英気を養ってくれ」 全身に亀裂が走り、轟沈していく敵対象を見据えるラルは続けて全機に帰還命令を下した。 ニパ「あれ?」 帰還を終え、最初に異変に気付いたのはニパだった。周囲を見回してみるとストライカーを脱いだ面々が視界に入り込んでくる。 しかし、俺の姿だけはどこにも見えない。まさか帰還する途中に落ちたのではという嫌な考えが胸中に生まれ、突き動かされるままに俺のストライカーが置かれている場所まで走ってみれば、確かに彼が先ほどまで身に付けていたストライカーが寝台に設置されていた。 では肝心の俺はどこに消えたのだろう。 管野「どうしたんだよ?」 ニパ「カンノ……俺のこと見なかった?」 管野「見なかったも何も一緒に帰ってきただろ?」 ニパ「でもどこにも見えないんだよ」 管野「先に格納庫から出て行った……って言ってもあいつは一番後ろを飛んでたしな」 ニパ「だろ?」 管野「そういえば変だな。でも飯の時には帰ってくるだろ?」 ニパ「このあと何があるか忘れたのか?」 あぁと呟くように返す。 そういえば、このあとは無事にブリタニアから帰ってきた俺のために茶会を開く予定だったな、と思い出す。 出張先のブリタニアで彼がブレイブウィッチーズの面々のために、これでもかというほど大量の土産を持って帰ってきたのだが、そのお礼にとジョゼが今回の茶会を企画したのだという話を聞いた管野は顔を顰め始めた。 確かに肝心の俺がいなければ何の意味も無い。いつも通りの茶会になるどころか、下手をすれば中止になりかねない。 管野「……じゃあ探しておくから、先に準備しておいてくれよ」 ニパ「それは良いけど……俺がどこにいるか分かるのか?」 管野「さぁ?」 ニパ「さぁって……」 当てなど無い。 ただ俺がこの基地に勤務するありとあらゆる人間と親交を深めているのは管野も知っていた。 彼らを訊ねれば、すぐにでも見つかるはずだ。そう高を括っていたこの時の自分を管野は直ぐに恥じることとなる。 管野「いっねぇ!!!」 あれから自分なりに思う場所に足を運んでみたものの、まるで神隠しにでも遭ったかのように彼の姿は見えなかった。 俺の姿がどこにも見えないことに苛立ちを隠せない管野があらん限りの声を張り上げると、通りすがった清掃員が身体を強張らせ、足早に立ち去っていく。 俺と仲の良い整備兵Aに尋ねても知らないと言われ、逆に彼のほうから俺の居場所を尋ねられる始末だ。 管野「何だあいつ。碌な知り合いがいねぇじゃねぇか」 結局彼の知り合いで唯一まともな類の人間が整備兵Aだけで、あとの連中はどれも個性が強い……というか濃すぎた。 何というか、どいつもこいつも一人だけでどんな状況でも解決できそうな屈強な輩ばかりだ。 しかし、このまま見つからなければ本当に茶会そのものが中止になってしまう。 管野「でも……そんなにすぐ見つかるわけ……」 いた。 中庭の木の幹を背もたれにして寝息を立てる見慣れた姿を見つけ、管野は足早に目的の人物へと歩み寄った。 開いた口元から涎を垂らし、穏かに身体を上下させる俺の間抜けた寝顔。その額に手を伸ばし、親指で人差し指を押さえ込む。 ここまで走らされたことへの怒りを指先に込め、そして、 俺「あいたぁ!?」 額に強烈な一撃を喰らった俺が素っ頓狂な声を上げて飛び起きた。 無理やり夢の世界から引き摺り上げられた俺は陸に揚げられた魚が跳ねるように周囲を見回す。 その余りにも滑稽な姿を目の当りにし思わず噴出してしまった管野に俺は額を擦りながら睨みつけた。 俺「寝込みを襲うとは随分と狡猾な真似をしてくれるじゃないか……!!!」 管野「こんなところで何してんだよ」 俺「あぁ……清掃員の仕事は当分の間お休みだからな。昼寝してた」 つまりこの男は帰還後誰にも見つかることなく格納庫を去り、自分がやって来るまで、ずっとここで惰眠を貪っていたのか。 管野が呆れながら、涎で濡れた口元を拭う俺を睨みつけているとふと、彼の瞼の下に浮かび上がる薄い隈を見つけた。 管野「……寝てないのか?」 俺「ここのところ残業が多くてね。本当に困ったよ」 ただでさえブリタニアでの一件が堪えたというのに、最近は共生派を始めとする勢力が活発化の一途を辿っており、ここ数日の間は毎晩基地を抜け出しては連中の拠点に強襲を掛けている。 おかげで戦力は根こそぎ奪い取ることには成功したものの、対ネウロイ戦での出撃も合わせると彼の疲労はとっくに限界を超えていた。 それでも銃を取り、刀を振るい続けるのはウィッチを守るという彼の執念が成せる業か。あるいは鍛え抜かれたタフネスによるものか。 管野「掃除のおっさんたちは夜中寝てるじゃないか」 俺「仕事がすんだら仕事なんだよ。俺の場合は」 管野「はぁ?」 俺「何だよ。さっきだって戦闘に参加してたし……こっちはブリタニアから帰ってきて疲れてるんだ。少しくらい休んでも罰は当たらないだろう?」 管野「そういえば、どうだったんだよ。501は」 俺「あぁ……いい子たちだったぞ?」 何か一番小さい子に懐かれたなーと思っていたら今度は天使みたいに愛くるしい子に懐かれてしまった。 坂本曰く自分には子供を引き付ける何かが備わっているらしいが、いくら懐かれるとはいえ腹部へのタックルだけはいただけなかった。 幼いだけに手加減というものをまるで知らない彼女たちの一撃は可憐な見た目を裏切る破壊力を誇っていたからだ。 俺「でも……俺はここの空気の方が合ってるみたいだ」 どうしてか。 その言葉を聞いて安心する自分に気がついた管野は、自身の胸裏に生じる得体の知れない感情を払拭しようと俺の手を取り引っ張った。 俺「おい! ナオ!?」 管野「みんな待ってるんだ! さっさと行くぞ!!!」 ラウンジまで引っ張られた俺は既に自分と管野を覗く全員がそれぞれ円形のテーブルを囲んでいることに対して疑問を抱く。 はて今日は誰かの誕生日だったかな、と思い返してみるも特に思い当たることはない。 俺「どうして全員集合してるんだ?」 ロスマン「俺さんが無事にブリタニアから帰って来れたお祝いですよ」 ラル、クルピンスキーと共に小さな円卓を囲むロスマンが立ち上がり、俺の手を引いて同じテーブルの席に着かせる。 丁寧に磨かれた白いテーブルにはクッキーやタルトといった菓子の他にもティーカップに注がれた紅茶が湯気と共に独特の香りを漂わせていた。 ジョゼ「少しでも、お土産のお礼が出来たらと思いまして」 クルピンスキー「ジョゼちゃんが企画したんだよ?」 俺「ヒィィィィ……いや。ありがとう! ジョゼ!!」 危うく例の悪癖が出てしまいそうになるも、すんでのところで押さえ込む。せっかく自分のために祝いの席を設けてくれたのだ。場の空気を壊すことだけはしたくない。 ジョゼ「私こそ。ブリタニアのお菓子、ありがとうございます。とても美味しかったです」 小首を傾げ、にっこりと微笑むジョゼの笑顔は太陽のように眩しかった。色白で彫刻品を思わせる端整な美貌が見せる、あどけない笑みを前に俺は心臓を握られた感覚を覚え、反射的に胸へと手をやった。 俺「(駄目だ……直視できん!!!)」 ロスマン「そうだ、俺さん。フラウは元気でしたか?」 誰にも知られること無く内心で悶々とする俺の煩悩をロスマンが打ち払った。 俺「あ……あぁ。帰る時はロスマン先生によろしくって言われたよ。明るくて良い子だったぞ」 ロスマン「あの子はウィッチとしても優秀ですからね」 俺「黒い悪魔なんて聞いてたから、どんな強面の子かと思ったら普通の女の子だったな」 ただやはり腹タックルはいただけなかった。くどいようだが言わせてもらおう。あれは絶対に人に向けてやってはいけない。禁じ手なのだ。 特に食後とか食後とか食後とか。 脂っこい、あのブリタニア名物を食べたあと胃痛に苦しむ自分に向かって、あろうことかあの天使は可愛らしい笑顔を浮かべて悪魔の所業を平然と行ったのだ。 ロスマン「そ……それだけ……フラウは俺さんのことを信頼していたんですよ」 俺「冗談じゃねぇよ! あの子は俺に何か恨みでもあるのか!? あぁぁぁ……思い出しただけで痛くなってきた……ジョゼェ……お願いぃぃぃ」 ジョゼ「だ……大丈夫ですか!?」 腹部を抑えて背を丸める俺にジョゼが駆け寄り、治癒魔法を施す光景を眺めながらラルは一人複雑な感情を抱え込んでいた。俺の力を必要とするほど第501統合戦闘航空団は脆弱ではない。彼がブリタニアへと派遣された本来の目的を知っているからこそ、彼の裏の顔を知る数少ない人物であるからこそ、彼女は俺が無事に帰ってきたことへの喜びと同時にまた手を血で染めてきたことへの痛みを覚えた。 全身に傷を負っても彼は平気だと笑っていた。 傭兵時代に使い捨ての駒として扱われても彼は仕方が無いと言った。 自分はもう死んでいるからと言ってウィッチを影から守るために血と泥を被ってきた。 ラル「(俺……まさか……お前は)」 管野「少佐?」 ラル「いや……何でも無い」 馬鹿馬鹿しい。全て確証の無い推測だ。現に彼は約束通り土産を持って、こうして無事に帰ってきてくれているではないか。 それでも一瞬だけ、胸中に生まれた不吉な胸騒ぎは彼女に不安という種を植え付けていた。 一応管野回のつもりですが、やはり日常風景の描写とは難しいですね。 これにて共通ルートは終了となり、次回よりガランド√に入ります。 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
https://w.atwiki.jp/vip_witches/pages/1714.html
決河の勢いで管野は上空から敵対象へと動力降下する。 彼女を知らぬ者が、この光景を目の当りにしたら悲鳴を上げて静止するだろう。 大型航空ネウロイの真上から身を投じる管野は抱え持つ携行火器―――九九式二型二号改13mm機関銃の銃口を向けて引き金を引く。これこそ管野直枝が最も得意とする戦術なのだ。銃火を叩き込みながら、管野がすれ違った箇所には遠めに見てもはっきりと分かるほどの傷跡が刻みつけられていた。 クルピンスキー「さっすがナオちゃん。相変わらず勇敢だね。でもそういう一生懸命なところも可愛いかな。俺はどう思う?」 見る者全てを威圧する巨大な化物相手に刃金を鳴らす管野の姿を捉えながら、堅牢な甲殻を削っていくクルピンスキーが隣で同様に銃弾を撃ち込む俺に微笑みかけた。 俺「確かに可愛いけど本人の前で言わないほうが良いぞ。前に言ったら噛みつかれた」 クルピンスキー「……俺ってさ。もしかして意外とプレイボーイ?」 俺「そんなわけあるか。女の子を選り好みできる立場じゃないってことぐらいは自覚してる」 男のリビドーを刺激する笑みを物ともせずに俺は彼女とお揃いのグロスフスMG42機関銃を右手で発砲しつつ、左の五指から放つ衝撃波によって管野の進路を阻もうと飛び交うX-10を次々と撃墜していく。 五本の指を僅かに動かすだけで変則的に動き回るX-10を射線上に捉え、一撃必中の要領で貫く様は激戦地を転々と渡り歩いてきた者だけが見せる洗練された所作だった。 魔力減衰が始まった今の状況では掌から放出する高威力かつ広範囲の衝撃波を多用することはできない。 かつては自身の象徴でもあった衝撃波も今となっては思う存分発揮することが叶わない現状に歯痒さを感じつつも俺は小型の撃墜と大型への攻撃を同時並行で行った。 ロスマン『俺さん。身体の調子はどうですか?』 ニパ『魔力減衰が始まったんなら、あまり無理しないほうが良いんじゃないか?』 俺「一人で戦うわけじゃないから問題ないさ」 インカムから流れてくるロスマンとニパの、自身を気遣う声が耳に届く。 気持ちはありがたいが、彼女たちだけを火線に立たせるわけにはいかない。飛ぶことができ、敵の数を少しでも減らせるなら使い物にならなくなるまで、戦い続けるのも自分の役目だ。 クルピンスキー「……さぁてと。それじゃあ僕も行って来ようかな。俺、エディータ、ニパ君。援護頼むね」 そんな俺の胸裏を汲み取ったのか、クルピンスキーが大型に向かって猛進を開始した。 被弾を全く考慮しない彼女の戦術に初めは途惑いを隠せなかったが、逸早く的確な支援が行えたのも長年培って来た経験によるものだろう。 俺「まったく……嫁入り前の肌に傷でもついたらどうすんだ。了解! 背中はしっかり守ってやるから思う存分暴れて来い!」 構えていたMG42を背負い、十指から衝撃波を発射する。狙いは二人の勇敢なる魔女を狙うキューブ状の羽虫ども。 熱した鉄を水に放り込んだような音を立てながら繰り出された攻撃がプンスキー伯爵の背を狙うX-10のボディを貫通した。 クルピンスキー「ありがとう。助かったよ」 砲火を交えるクルピンスキーを援護するべくポクルイーシキンが、手にしていた対物ライフルの引き金を絞った。 轟く銃声と共に蒼空に鮮やかな発射炎の花が咲き、徹甲弾が直撃した部位から白い光輝を放つ破片が噴き出す。 ラル「残るはあの大型か」 定子「それでも……あの装甲は堅すぎます」 俺「だったら俺が致命傷を与える。トドメは任せたぞ」 ラル「無理はするな。私たちだけでも」 俺「安心しろ。これくらいなら撃てるさ」 俺が体内に充溢する魔法力を前方へと持ち上げる右の掌へと集中させた。 魔力を供給する分だけ生まれてくるブレを少しでも減殺するべく生体砲身と化した右腕を左手で掴むように固定し、大型ネウロイへと狙点を定める。発射態勢を整える彼の姿を確認するや否や管野が再び急上昇し、対象の真上を確保した。 俺「ナオ! いけるか!?」 管野『当たり前だ! いいからさっさと撃て!!』 俺「了解!!」 射線上からの退避を終えたクルピンスキーのアイコンタクトを受けた俺が衝撃波を発射する。 反動で大きく後ろへ吹き飛ばされそうになるも、傍で待機していたラルが彼の身体を支えることで、事なきを得た。 砲口からぶっ放された奔流が大型を包み込み、その黒いボディを歪に変形させていく中で大型の頭上から一個の弾丸が飛来する。 管野が首下のマフラーを突風にたなびかせながら機関銃の弾丸をばら撒き、肉薄。 右手に展開するシールドを直径数十センチまで圧縮、強度を高めていく。 上空から降下突撃する管野が例の如く右腕を後方へと引き絞る彼女の拳は既に眩い輝きを放つ蒼白い光に包み込まれていた。 管野「でぇぇぇぇりゃぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!」 これまで数々の化け物どもを沈めてきた必殺の一撃が堅牢無比を誇る装甲に叩き込まれる。戦車砲の一斉発射にも似た衝撃音を轟かせながら、放たれた絶大なインパクトは黒い装甲の内部にて燦然と輝く紅の宝玉にも伝達された。 ジョゼ「最近は敵の装甲が硬くなってますね……」 ラル「今後は厳しい戦いになるだろう。各自英気を養ってくれ」 全身に亀裂が走り、轟沈していく敵対象を見据えるラルは続けて全機に帰還命令を下した。 ニパ「あれ?」 帰還を終え、最初に異変に気付いたのはニパだった。周囲を見回してみるとストライカーを脱いだ面々が視界に入り込んでくる。 しかし、俺の姿だけはどこにも見えない。まさか帰還する途中に落ちたのではという嫌な考えが胸中に生まれ、突き動かされるままに俺のストライカーが置かれている場所まで走ってみれば、確かに彼が先ほどまで身に付けていたストライカーが寝台に設置されていた。 では肝心の俺はどこに消えたのだろう。 管野「どうしたんだよ?」 ニパ「カンノ……俺のこと見なかった?」 管野「見なかったも何も一緒に帰ってきただろ?」 ニパ「でもどこにも見えないんだよ」 管野「先に格納庫から出て行った……って言ってもあいつは一番後ろを飛んでたしな」 ニパ「だろ?」 管野「そういえば変だな。でも飯の時には帰ってくるだろ?」 ニパ「このあと何があるか忘れたのか?」 あぁと呟くように返す。 そういえば、このあとは無事にブリタニアから帰ってきた俺のために茶会を開く予定だったな、と思い出す。 出張先のブリタニアで彼がブレイブウィッチーズの面々のために、これでもかというほど大量の土産を持って帰ってきたのだが、そのお礼にとジョゼが今回の茶会を企画したのだという話を聞いた管野は顔を顰め始めた。 確かに肝心の俺がいなければ何の意味も無い。いつも通りの茶会になるどころか、下手をすれば中止になりかねない。 管野「……じゃあ探しておくから、先に準備しておいてくれよ」 ニパ「それは良いけど……俺がどこにいるか分かるのか?」 管野「さぁ?」 ニパ「さぁって……」 当てなど無い。 ただ俺がこの基地に勤務するありとあらゆる人間と親交を深めているのは管野も知っていた。 彼らを訊ねれば、すぐにでも見つかるはずだ。そう高を括っていたこの時の自分を管野は直ぐに恥じることとなる。 管野「いっねぇ!!!」 あれから自分なりに思う場所に足を運んでみたものの、まるで神隠しにでも遭ったかのように彼の姿は見えなかった。 俺の姿がどこにも見えないことに苛立ちを隠せない管野があらん限りの声を張り上げると、通りすがった清掃員が身体を強張らせ、足早に立ち去っていく。 俺と仲の良い整備兵Aに尋ねても知らないと言われ、逆に彼のほうから俺の居場所を尋ねられる始末だ。 管野「何だあいつ。碌な知り合いがいねぇじゃねぇか」 結局彼の知り合いで唯一まともな類の人間が整備兵Aだけで、あとの連中はどれも個性が強い……というか濃すぎた。 何というか、どいつもこいつも一人だけでどんな状況でも解決できそうな屈強な輩ばかりだ。 しかし、このまま見つからなければ本当に茶会そのものが中止になってしまう。 管野「でも……そんなにすぐ見つかるわけ……」 いた。 中庭の木の幹を背もたれにして寝息を立てる見慣れた姿を見つけ、管野は足早に目的の人物へと歩み寄った。 開いた口元から涎を垂らし、穏かに身体を上下させる俺の間抜けた寝顔。その額に手を伸ばし、親指で人差し指を押さえ込む。 ここまで走らされたことへの怒りを指先に込め、そして、 俺「あいたぁ!?」 額に強烈な一撃を喰らった俺が素っ頓狂な声を上げて飛び起きた。 無理やり夢の世界から引き摺り上げられた俺は陸に揚げられた魚が跳ねるように周囲を見回す。 その余りにも滑稽な姿を目の当りにし思わず噴出してしまった管野に俺は額を擦りながら睨みつけた。 俺「寝込みを襲うとは随分と狡猾な真似をしてくれるじゃないか……!!!」 管野「こんなところで何してんだよ」 俺「あぁ……清掃員の仕事は当分の間お休みだからな。昼寝してた」 つまりこの男は帰還後誰にも見つかることなく格納庫を去り、自分がやって来るまで、ずっとここで惰眠を貪っていたのか。 管野が呆れながら、涎で濡れた口元を拭う俺を睨みつけているとふと、彼の瞼の下に浮かび上がる薄い隈を見つけた。 管野「……寝てないのか?」 俺「ここのところ残業が多くてね。本当に困ったよ」 ただでさえブリタニアでの一件が堪えたというのに、最近は共生派を始めとする勢力が活発化の一途を辿っており、ここ数日の間は毎晩基地を抜け出しては連中の拠点に強襲を掛けている。 おかげで戦力は根こそぎ奪い取ることには成功したものの、対ネウロイ戦での出撃も合わせると彼の疲労はとっくに限界を超えていた。 それでも銃を取り、刀を振るい続けるのはウィッチを守るという彼の執念が成せる業か。あるいは鍛え抜かれたタフネスによるものか。 管野「掃除のおっさんたちは夜中寝てるじゃないか」 俺「仕事がすんだら仕事なんだよ。俺の場合は」 管野「はぁ?」 俺「何だよ。さっきだって戦闘に参加してたし……こっちはブリタニアから帰ってきて疲れてるんだ。少しくらい休んでも罰は当たらないだろう?」 管野「そういえば、どうだったんだよ。501は」 俺「あぁ……いい子たちだったぞ?」 何か一番小さい子に懐かれたなーと思っていたら今度は天使みたいに愛くるしい子に懐かれてしまった。 坂本曰く自分には子供を引き付ける何かが備わっているらしいが、いくら懐かれるとはいえ腹部へのタックルだけはいただけなかった。 幼いだけに手加減というものをまるで知らない彼女たちの一撃は可憐な見た目を裏切る破壊力を誇っていたからだ。 俺「でも……俺はここの空気の方が合ってるみたいだ」 どうしてか。 その言葉を聞いて安心する自分に気がついた管野は、自身の胸裏に生じる得体の知れない感情を払拭しようと俺の手を取り引っ張った。 俺「おい! ナオ!?」 管野「みんな待ってるんだ! さっさと行くぞ!!!」 ラウンジまで引っ張られた俺は既に自分と管野を覗く全員がそれぞれ円形のテーブルを囲んでいることに対して疑問を抱く。 はて今日は誰かの誕生日だったかな、と思い返してみるも特に思い当たることはない。 俺「どうして全員集合してるんだ?」 ロスマン「俺さんが無事にブリタニアから帰って来れたお祝いですよ」 ラル、クルピンスキーと共に小さな円卓を囲むロスマンが立ち上がり、俺の手を引いて同じテーブルの席に着かせる。 丁寧に磨かれた白いテーブルにはクッキーやタルトといった菓子の他にもティーカップに注がれた紅茶が湯気と共に独特の香りを漂わせていた。 ジョゼ「少しでも、お土産のお礼が出来たらと思いまして」 クルピンスキー「ジョゼちゃんが企画したんだよ?」 俺「ヒィィィィ……いや。ありがとう! ジョゼ!!」 危うく例の悪癖が出てしまいそうになるも、すんでのところで押さえ込む。せっかく自分のために祝いの席を設けてくれたのだ。場の空気を壊すことだけはしたくない。 ジョゼ「私こそ。ブリタニアのお菓子、ありがとうございます。とても美味しかったです」 小首を傾げ、にっこりと微笑むジョゼの笑顔は太陽のように眩しかった。色白で彫刻品を思わせる端整な美貌が見せる、あどけない笑みを前に俺は心臓を握られた感覚を覚え、反射的に胸へと手をやった。 俺「(駄目だ……直視できん!!!)」 ロスマン「そうだ、俺さん。フラウは元気でしたか?」 誰にも知られること無く内心で悶々とする俺の煩悩をロスマンが打ち払った。 俺「あ……あぁ。帰る時はロスマン先生によろしくって言われたよ。明るくて良い子だったぞ」 ロスマン「あの子はウィッチとしても優秀ですからね」 俺「黒い悪魔なんて聞いてたから、どんな強面の子かと思ったら普通の女の子だったな」 ただやはり腹タックルはいただけなかった。くどいようだが言わせてもらおう。あれは絶対に人に向けてやってはいけない。禁じ手なのだ。 特に食後とか食後とか食後とか。 脂っこい、あのブリタニア名物を食べたあと胃痛に苦しむ自分に向かって、あろうことかあの天使は可愛らしい笑顔を浮かべて悪魔の所業を平然と行ったのだ。 ロスマン「そ……それだけ……フラウは俺さんのことを信頼していたんですよ」 俺「冗談じゃねぇよ! あの子は俺に何か恨みでもあるのか!? あぁぁぁ……思い出しただけで痛くなってきた……ジョゼェ……お願いぃぃぃ」 ジョゼ「だ……大丈夫ですか!?」 腹部を抑えて背を丸める俺にジョゼが駆け寄り、治癒魔法を施す光景を眺めながらラルは一人複雑な感情を抱え込んでいた。俺の力を必要とするほど第501統合戦闘航空団は脆弱ではない。彼がブリタニアへと派遣された本来の目的を知っているからこそ、彼の裏の顔を知る数少ない人物であるからこそ、彼女は俺が無事に帰ってきたことへの喜びと同時にまた手を血で染めてきたことへの痛みを覚えた。 全身に傷を負っても彼は平気だと笑っていた。 傭兵時代に使い捨ての駒として扱われても彼は仕方が無いと言った。 自分はもう死んでいるからと言ってウィッチを影から守るために血と泥を被ってきた。 ラル「(俺……まさか……お前は)」 管野「少佐?」 ラル「いや……何でも無い」 馬鹿馬鹿しい。全て確証の無い推測だ。現に彼は約束通り土産を持って、こうして無事に帰ってきてくれているではないか。 それでも一瞬だけ、胸中に生まれた不吉な胸騒ぎは彼女に不安という種を植え付けていた。 一応管野回のつもりですが、やはり日常風景の描写とは難しいですね。 これにて共通ルートは終了となり、次回よりガランド√に入ります。 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
https://w.atwiki.jp/butubutuhitori/pages/191.html
会社へ来ている保健師さんに入院の報告をしに行った。。。 うちの会社の社員。。。 保健師さんと話すのが嫌いな人多いらしい。。。 精神科を嫌うのと同じ構図だと思うが。。。 病気を他人に知られる。。。嫌いらしい。。。 保健師さんが悩んでいた。。。 この会社で。。。私。。。保健師の存在意義って何? 活かされていない。。。居場所がない。。。 こんな感じがした。。。 自分たちのために来ていただいているのだから。。。 活かしていこうよ! 働いていただこうよ! 居場所作ってあげようよ! それが彼女の幸せでもある。。。