約 412,519 件
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/425.html
386 :①:2011/07/16(土) 06 00 16 感想であるネタが出ましたので。とはいえアメリカ財界が分割に手を貸すプロットを読んだ時に思いついていたんですが 正直、この話を投稿のは躊躇しました。 ○碧の艦隊でもありましたし、いらん論争を起こしかねないネタなので… しかし、転生世界においてアメリカ分割の影響は、特に中東方面において劇的に変化するのでこういうネタもありかなと思って投稿してみました。 少なくともユダヤ人のイスラエル国家建設は多大な影響が出てきますし、それに伴う中東の紛争の根源であるユダヤ対イスラムという構造が変わることは予測できます。 アメリカ分割後の中東方面の状況は、石油をめぐる日欧対立になるのか、ユダヤ対イスラムという宗教をめぐる対立がイスラム内宗派対立かキリスト教になるのか、当時の中東の植民地支配国であるイギリス・フランスと対する日本、ドイツ、ソビエトがどうかかわるのか一概に予測できない事態となります 変わりに似たような状況でイスラエル国家を建設するとしたら、北米というのはありかなという感じで書いてみました。 とはいえ、この世でのイスラエル国家建設の状況とその後についてはあまり詳しくはありませんので、知識不足による拙い文章となってしまいました。 本当は夢幻会のオカルト好きが陰謀論をネタに雑誌「ムー」をからませた軽いノリの文章にしたかったんですが… ~ある小さくも大きな復讐~ 「これを上奏しろと言うのか?この僕に?」 「そうです、この案を夢幻会の連中に提示できて説得できるのは書記官しかいません」 「しかし…これは帝国の根幹にかかわる提案だぞ?」 「だからこそです、これは対米戦終結後、ある意味「世界」に波紋を投げかける提案でしょう。 しかしこれを成せば、帝国は北米大陸に強力な友好国を作り、尚且つ人道的に何もしなかった欧州諸国に対しイニシアチブを作れます」 「しかし連中を説得できても経済界他が黙っていないぞ。北米の利権はそれだけ大きい」 「夢幻会の連中なら巨大な利権を捨ててでも北米にこの国を作る意図がわかるはずです。さらに太平洋岸に来るアメリカ財界の残党もたいていは納得、 あるいは積極的になるかもしれません」 彼も内心は連中の国を作るところまでは無理かもしれないと思っていた。 しかし前の世での「噂」が本当ならアメリカ財界の連中はやるだろう。 津波で被害を受けた自国民の変わりに同じ血を分けた民族同胞の新たなる約束の地、 太平洋を挟んでいるが強力な同盟国。自分たちの思い通りになるかもしれない新政府。 奴らの「民族の不倶戴天の敵」が作る、傀儡政府が出来るのも確実なのだから。 それに自分と同じ転生者であろう夢幻会の連中なら、この計画の意図するところはわかるだろう この提案は、前の世で欧米と奴らの陰謀によって火薬庫と化した中東に、 日本による安定をもたらすかも知れないということを。 それは石油を欲しがる日本にとっても悪い話ではない。 アメリカの一部を奴らに与えることで、中東安定が安定するメリットがどれほどのものか、夢幻会の連中なら判るはずだ。 もっとも宗教対立が宗派対立で厄介なことになるかもしれないが 深刻な宗教対立に比べればマシだろう。 387 :①:2011/07/16(土) 06 01 18 その代わり火薬庫と化すのはアメリカだ。 もともと今回の分割占領で火薬庫と化すのはわかっているはずだ それならば中東に火種が飛び火する前に、アメリカに来させれば火種が消せる この世の連中にはわからないだろうが前の世の連中なら意味がわかるはずだ 火種は一箇所に、資源のあるところは大国が当面分割すればいい 分割しても欧州は後退していき、やがて独立できるだろう。 そうすれば中東の人間は当面生活は苦しいだろうが希望が出来る。 「それに帝国にもメリットがあります」 「メリット?」 「欧米人、白人は自分たちが神に選ばれたと思い上がっています。だから黄色い猿である日本に負けたとは思いたくはないでしょう。 何らかの陰謀があったと思いたくなっているはずです。そこで北米大陸に彼らの国を作るのです。日本は人道的に彼らを救出し、彼らから割譲を受けた土地に彼らの受け入れ地を作っただけ。 しかし彼らはそうは思いません、「悪辣な奴らが彼らの国を作るために、人のいい日本人を影から操っていたのだ」と勝手に思い込むでしょう。そうすれば我々日本人よりも彼らを憎むでしょう」 「君は彼らを帝国の盾に使うつもりかね!?」 「…申し訳ありません、言いすぎでした。 しかし、彼らは現状、ナチス・ドイツ、ソビエトから迫害を受けています。そして欧州諸国は彼らの存在を無視し、誰も手を差し伸べようとはしていません。 そこでわが国が手を差し伸べ、人口基盤が薄くなった北米大陸に彼らを受け入れ、戦利品の一部を与えて彼らの国家をつくっても、 人道的・同義的にどこの国からも文句は出ません」 「…君の意図するところはわかった。なぜかは判らんが、訓令違反で外務省の上からは嫌われているのになぜか夢幻会の連中は私を買っている。提案はしてみよう。 しかし受け入れられるかは判らないぞ?」 「それで十分です、杉原千畝書記官」 そういって若い外務官僚は深いお辞儀をして部屋を出た 彼は転生者。 今は純日本人だが、前の人生の彼は日本人の父とパレスチナ人の母の間に生まれた人物だった。 母から聞いたパレスチナは悲惨だった。 パレスチナ人もユダヤ人もアラブ人も平和に暮らしていたが ある日ユダヤ人が来て、「ここは俺たちの土地だ」と言われて追い出されたのだ。 母は難民と化して各地を転々としていたところを外交官だった父に見初められ自分が生まれたのだ 彼の目には父の日本も母のパレスチナも同じだった。日本はアメリカの言いなり、いわば支配されていたのだ そしてパレスチナはアメリカの手先、イスラエルに虐げられていたのだ。 「…ならば、この世ではアメリカに報いを。ユダヤ人を手先に使ってな」 彼は暗い情念を秘めながら自分の事務室に戻る。これからやることが多くなるであろう自分の仕事に集中するために。 なんとしてでもユダヤ人を一人でも多く北米に送り込むのだ。
https://w.atwiki.jp/llss_ss/pages/506.html
元スレURL 四季「恋先輩の胸を小さくしてみた✌」メイ「おいおいおい」 概要 天災かよ タグ ^若菜四季 ^米女メイ ^葉月恋 ^澁谷かのん ^短編 ^コメディ ^カオス 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/oreqsw/pages/1317.html
小さくても大きくてもお尻は全て美しいのです---- 803 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 18 49 51.10 ID XNQvNPd00 [8/39] 俺「はい……はい分かりました。はい、今から向かいます」 ガチャッ ハルカ「基地からお電話ですか?」 俺「うん。今から来てくれって。出来ればお前も来てほしいんだけど……いいか?」 ハルカ「はい! 俺さんが行くならどこでも行きますよ!!」 俺「ありがとうハルカ。本当にありがとう……」ナデナデ ハルカ「俺さん……?」 805 自分:淫獣さん恋をする 802それは後で[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 18 55 13.52 ID XNQvNPd00 [9/39] ガチャッ 「あっ……こんにちわ、俺少佐。急にお呼び出ししてすいません……。でもこれは少佐に連絡して差し上げた方がよろしいと思って……」 俺「いやいや、連絡してくれてありがとう。連れがいるけどいいかい?」 ハルカ「あっあの……俺さんの恋人の迫水ハルです……!」 俺「それで、亡くなったのは?」 「はい。ガリア方面にいた――」 806 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 18 59 31.86 ID DLjL7nB6O [5/10] 尻asゲフン シリアスとな支援 807 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 01 22.29 ID XNQvNPd00 [10/39] 俺「そうか、あの娘が……雲の中に隠れていたネウロイの奇襲にあって撃墜されたのか……」 ハルカ「俺さん、その娘は……」 俺「うん。扶桑陸軍の娘だね。会ったのは2カ月くらい前だったと思う。すごく才能があって将来を期待してたんだけどなぁ」 ハルカ「………」 俺「この娘はさ、優しくて、まだ若いのにしっかりしててさ……」 ハルカ「………」 俺「部隊の皆のお姉さんになるって張り切ってて……ヒック……」 808 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 04 35.39 ID XNQvNPd00 [11/39] 俺「そんな彼女は成人する前に……嫁入りすらせずに逝っちまったんだなぁ……」ボロボロ ハルカ「俺さん……」 俺「ヒック……ハル……グスッ…カ…」 ギュッ ハルカ「俺さん」ギュッ 俺「うおおおおおおぉぉぉぉ………」ボロボロボロ 810 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 09 21.38 ID XNQvNPd00 [12/39] ハルカ「俺さん、もういいですか?」 俺「うん、ありがとう。もう大丈夫だよ」ズビッ ハルカ「ほらほら、顔拭きましょう?」フキフキ 俺「ありがとな。あのさぁ、ちょっと付き合ってほしい所がもう一つあるんだけどいいか?」 俺「花束を置いてっと」カサッ ハルカ「ここは?」 俺「2年前な、俺の初めての教え子がここに墜落して亡くなったんだ」 ハルカ「………」 811 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 14 42.48 ID XNQvNPd00 [13/39] 俺「弾が切れて撤退する時にネウロイの追撃に合ってな。ボロボロになりながら何とかここまで辿り着いたんだけど、基地を見て安心したらしい。魔法力が尽きて墜落しちまったんだ」 ハルカ「………」 俺「無駄弾を撃つ癖があってな。やめろって何度も言ったんだが結局直らなかった」 ハルカ「………」 俺「それで最期は戦闘早々に弾切れで撤退中にやられちまった。完全に俺の指導力不足だ」 ハルカ「そんなことは……」 812 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 18 13.37 ID XNQvNPd00 [14/39] 俺「お尻がすっごく小さくてかわいかったなぁ。それを言うといっつもプンスカ怒ったんだよな」クスクス ハルカ「お尻……」 俺「そんな彼女は……基地で見ている俺の目の前で……」グスッ ハルカ「俺さん……」 俺「おっと湿っぽくなっちまったな。悪い悪い」 ハルカ「泣きたいときは思う存分泣けばいいと思います」 俺「何、もうこの娘が亡くなった夜に散々泣き散らしたからもう充分だ」 813 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 19 10.66 ID roCoqwLA0 [4/5] 尻assだ 814 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 22 01.94 ID BcSF1/AE0 [2/7] なるほどこれが尻assというものか…… 815 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 23 40.58 ID xyf+VB6s0 [1/3] 813 感じが違うwww 支援支援 816 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 24 10.93 ID XNQvNPd00 [15/39] ハルカ「誰かが亡くなるたびに、さっきみたいに思いっきり泣くんですか?」 俺「うん。思いっきり泣いて、それを彼女達の手向けにしてやるんだ。それで後には一切引きずらないようにする」 ハルカ「さっきの娘のように一度しか会ってない人でもですか?」 俺「会って言葉を交わして、将来の夢について聞いたらそれでもうその娘は俺の教え子だ。ちなみに、この前亡くなった娘は将来花屋を開きたかったらしい」 ハルカ「………」 817 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 29 46.53 ID XNQvNPd00 [16/39] 俺「さて、もういいかな。ゴメンな付き合ってもらって」 ハルカ「いえいえ」 俺「さて、せっかくだから基地を案内してやるよ。あと、この基地にいるウィッチもな」ニッ ハルカ「あの……俺さん」 俺「ん?」 ハルカ「私がもし戦場で死んだら、思いっきり泣いてくれますか?」 俺「あ? ありえねぇだろそんなん」 ハルカ「ひどっ!?」 818 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 34 03.53 ID XNQvNPd00 [17/39] 俺「そうじゃねぇよ。お前が死ぬなんてありえないっつぅ話だ」 ハルカ「そんな……私だって毎回ギリギリの戦闘を……」 俺「お前はどう思ってるのか知らねぇけど、お前はそうとう図太いからな。ネウロイなんかにやられるタマじゃねぇよ」 ハルカ「むぅ……それって褒めてるんですかぁ?」ムーッ 俺「はははっ! 褒めてるって! お前以上に図太い奴に俺会ったことねぇよ」ワシワシ ハルカ「自分では繊細だと思ってたんですけど……」 820 自分:淫獣さん恋をする[sage] 投稿日:2011/12/16(金) 19 40 09.34 ID XNQvNPd00 [18/39] 俺「出会った頃はそうでもないけど、今のお前はしっかりした芯の強さがある」 ハルカ「そ、そうですかね?」 俺「前にも言ったけどさ、お前の相手をするには美女が100人……いや、今のお前だったら1000人必要か」 ハルカ「そうですね! イッツハーレムです!!」 俺「ククク……いつか、オストマンで本場のハーレムを体験してみたいな」 ハルカ「さぁ、俺さん行きましょう! 秘密の花園、ウィッチ宿舎へ!」 俺「ああ言ってなかったけど、この基地には2人しかウィッチいねぇからな?」 ハルカ「はぁぁぁぁ!? それじゃ全然足りません! 俺さんの教え子全員連れてきてください!」 俺「バーカ! 俺の教え子は俺のもんだからお前でも指一本触れさせねぇよ!!」 おわり
https://w.atwiki.jp/wiki9_alternative/pages/140.html
純夏の夢「とても大きな双子が順番に小さくなって・・・」 記憶が間違い出なければ、双子は要撃級(グラップラー級)で「主人公」のはず「主人公」は、BETAが作った00ユニットにあたるものそういうシナリオがあったかとフラグは、ややこしすぎて判らないけど、遺書を読まない方法があったと。 -- (栄) 2007-05-06 04 41 47 ↑それは本編で没になったシナリオと言うことでしょうか?あと遺書を読まない方法ってFEXへ帰還の際、霞が告白するルートの事でしょうか? -- (影の人) 2007-05-06 11 36 24 双子の夢に関しては、虚数空間に漂っている純夏の記憶とオルタ世界で00ユニットになった純夏の事で一方が小さくなっていくのは虚数空間の純夏の記憶が00ユニット純夏に集約されていく状態だと考えました。 -- (影の人) 2007-05-06 11 40 35 なるほど~。納得。「違和感」もあるし、それだろうと・・・。因果導体のタケルも純夏の近くにいて、(それまではいなかったし、不安定だった)00ユニットでもある純夏がエッチによって安定したということですね。先生によると、それによってタケルも因果導体で無くなった(戻れない)らしいですが。まぁ、タケルと純夏のおかげですかねぇ・・・。(と仲間) -- (↑) 2007-07-05 21 41 21 前述した虚数空間に漂っている純夏の記憶と言うのは、逃亡したEX世界の純夏の記憶と言うことです。また別の考えなのですが。武がオルタ世界の純夏と結ばれた時点で世界をループさせる力は無くなったと霞は説明していました。あくまで仮説ですがその時点で因果律導体としての武は消滅しており、武が影響を与えた世界はその時点で修正されていたのではないでしょうか。つまり、消えていった双子の片方と言うのは、その逃亡したEX世界とは考えられないでしょうか。で、大きくなっていった双子の片方は純夏が再構築するFEX世界だったというのはどうでしょう。純夏の死ぬ時まで一緒にいたいという願望と武自身、その段階で知らなかったとはいえオルタ世界でやるべき事があるというオルタ世界への執着心、さらに武を強く認識していた冥夜たち207B小隊の存在という大まかにその3つの要素が武をオルタ世界へ繋ぎ止めていたのではないでしょうか。で桜花作戦でそのうちオルタ世界に繋ぎとめる二つの要素が無くなり、最後の武のオルタ世界への執着心は最後の夕呼博士と霞の話で離散。というのではないでしょうか。純夏と結ばれた後のオルタ世界の武は、もしかしたら実体を持った思念体だったのかも。うまく説明できていませんがこんな感じです。どうでしょう。-- (影の人) 2007-07-29 01 20 38 純夏の知性を維持するため、また、人間研究の一環で、「甲22号炉」に純夏の心が00ユニットのようにコピーされいて、そのデーターが旧横浜ハイブBETA群のシステムを、結果としてハッキングしていたと想像しています。(BETAの謎行動や、明星作戦の成功の謎はこれで解けるのでは?)つまり、「部屋の中で泣いている私」は、「甲22号炉」ではないのかと。とすれば、双子の片方は、純夏の「タケルと出会えない因果」(UL編)で、もうひとつは、純夏の「タケルと結ばれない因果」(EX編)では無いのかなと。作中「結ばれて因果導体では無くなった」時間は、「甲22号」が破壊された時間であり、「タケルと純夏が結ばれた」時ではないと。(時間的には1日もずれていないはず)結果としてタケルを因果導体にしていたのは、「甲22号炉」で、この世界にタケルを導いた原因のひとつに、「甲22号炉」も含まれているから、面白い解釈ではないかなと自画自賛中です他にも大胆な仮説があったり知りたいな~ -- (解凍まぐろ) 2007-09-20 09 34 48 「純夏があの世界を作るきっかけになったG弾の象徴」 だそうですよ? 双子とは明星作戦のときに使われた二発のG弾のことだそうです 君のぞらじお132回のマブラブラジオ(3)にて、吉宗綱紀本人が言ってました。 できれば、どなたか確認してください -- (通りすがり) 2007-10-07 23 10 52 私も確認しました。 脳髄だけになった純夏が2発のG弾が炸裂した時に感じたイメージだそうです。 -- (士魂) 2007-10-08 03 51 22 答えが出たとなるとこの純夏の夢の考察は終了してしまうのでしょうか? -- (影の人) 2007-10-08 22 48 47 まとめ: 純夏の前後の台詞と、シナリオ担当のラジオの発言から、 "凄く大きな双子"とは二発のG弾の比喩表現と確定 前後の台詞とは 真っ暗な部屋で泣いている→脳髄だけで生かされている タケルちゃんに会いたい~順番に小さくなって→純夏の想いと、2発のG弾の影響が そしたらタケルちゃんが→タケルを因果導体化させた -- (名無しさん) 2007-10-13 08 20 36 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/hshorizonl/pages/387.html
. 軽蔑するものなどない――すべてに意味があるのだから ちっぽけなものなどない――すべてが全体の一部だから ――オリーヴ・シュライナー、アフリカ農場物語 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 要人警護、と言う観念は何も米国(ステーツ)や英国(U.K)、欧州(EU)などの、銃社会に限った話ではない。 参議、衆議院議員、その中の更に上澄みである、各省庁の大臣であったり、各政党の上位ポジション、そして副首相や首相レベルの人物ともなると、 その身辺には常に、要人警護のSPが付きっ切りである。これは公私問わぬ外出のみに限定されている訳ではない。 彼らの私邸はそれこそ24時間体制で警察の専門部署が警備にあたっており、不審な人物・不逞の輩の侵入可能性を徹底して排している。 確かに其処に来ると言う予定の事実確認が正確になされた、宅配の配達人レベルですら、彼らの私宅の敷居を跨ぐ為には煩雑な手続きを経ねばならない程だ。 これを不自由と取るか、職務の責任性からすれば妥当なものであるかと取るのは、その人物の自由であろう。何れにせよ、この日本に於いても確かに、銃社会におけるセレブの邸宅を守衛するような、厳戒態勢と言うのは存在するのである。 それを見ると、峰津院大和と言う人物は、VIPの中でも異質な考えの持ち主であると定義するしかない。 峰津院大和。疑いようもない、国家にとって有為の人物。VIPの中のVIPである。国防、貿易、内需喚起の為の国家事業の舵取り等々。 国益を左右するあらゆる分野に強い影響力を持ち、それらの行く末を決める会議会合に参加した事も、諸外国の大使や要人が集うパーティーに列席した回数だとて、数えて行けばキリがない。 紛れもない、国家の要職に君臨する人物であるが、しかし、彼は己の近辺について一切の警備を付けない事で知られている人物でもあった。 勿論、全くの一人と言う訳ではない。現に大和が今乗車しているリムジンだって、彼が運転している訳じゃなく、御付きの運転手がハンドルを握っているのだし、 秘書や、所謂鞄持ちと呼ばれるような使い走りも、常に彼の側にいる。彼らは峰津院財閥の構成員であり、当主である大和に対し危難が迫らないよう、武術にも精通している。 だが、所詮それも、本職には及ばない。本業のついでに、武術が出来ると言う程度に過ぎないのである。 よく言えば王者の余裕、悪く言えば日本と言う国家の安全性に胡坐をかいた危機感のなさが露わになったような、大和の手薄な身辺警護は、内々からも疑問の声が上がっている。 特に、真琴がこの件については進言している。もう少し警備に予算を割いても良い、当主の御身に何かあられては……。そんな具合に、だ。 若くして峰津院財閥の当主の側近にまで抜擢される、真琴の言葉に対しても、大和は馬事東風。聞く耳を持たない。 別にそれは、大和が意固地だからでもなければ、予算や人員を考えての事でも、況して財閥の構成員に対して優しさから配慮している訳でもない。 単純に、邪魔だから。この一言に全て尽きるのだ。 「……」 無言。足を組み、腕を組み。 瞑目しながら思案に耽るその様子は、瞑想のようにも見える。1年先まで分刻みのスケジュールについて、思いを馳せているようにも見える。 計画中のプロジェクトの穴がないかを探しているようにも見える。どちらにしても、絵になる姿だった。 大和自身が美男子にカテゴライズされる、隙の無い美形であり、何よりも峰津院財閥の当主であり、その身分に恥じぬ寵児なのである。 容姿に、才覚、普段の振舞いに社会的立場(ステータス)。これらの要素が折り重なる事で、普段の何気ない大和の所作に、並ならぬカリスマが光の粒子のように煌めいて見えるのである。 聖杯戦争に参加するマスターと言う点から見て、大和と言うマスターは異常一歩手前か、或いはそのものの人物だった。 峰津院家、つまりデビルサマナーたる彼らに求められる才能は即ち、魔力の多寡。悪魔を使役する為に必要な物は、1にも2にも、魔力である。 これらがなければ悪魔は満足に行動する事は愚か、この物質世界に於いて実体化させてやる事も出来ないのである。だから、一秒でも彼らを長く実体化させてやる為に、 術者自体に魔力が備わってなければならないのは当然の事。この点に於いて、峰津院大和は合格点以上、桁違いのマスターだ。 複数体の悪魔を苦も無く使役出来るだけの魔力量は勿論の事、彼らを操る指揮能力についても巧みのそれ。忌憚なく言えば、当代最強に近いデビルサマナー。それが大和であった。 だが、魔力だけが求められる才能ではない。デビルサマナーは、術者自身も戦える事を求められる。悪魔を操るだけが得意の青瓢箪では、立ち行かないのである。 この点に於いても、大和は異常な才覚を見せる。調伏して来た悪魔の数は数え切れぬ程であり、中には魔術を使ってのものだけでなく、素手を使って悪魔を殴り殺したことだとて……。 つまり大和と言う人物は、サーヴァントに頼らない自らの力のみを押し出した戦闘に於いても、下手なサーヴァントであれば返り討ちに出来ると言う事になる。 そんな人物にとって、身辺警護……つまり、NPCの存在は、どう映るのか? 『目障り』なのだ。召喚された当初から確信していた事だが、この世界のNPCは基本的に、戦う力の一切を封じられている。 無論、訓練次第、サーヴァントやそのマスターの手ほどき次第で、如何様にも変わるであろうが、原則として、彼らは力を奪われている。 大和はこの事実を、部下である真琴や史、乙女の三人の体たらくで確信した。三人とも、大和が側にいる事を許す最低限の基準の強さに達していないのは勿論、 そもそも『悪魔』の存在すら認識していなかったのだ。つまり真琴は荒事に長けた優秀な秘書、史は財閥のIT部門の天才プログラマー、乙女は優秀な医療スタッフ、この域でしかない。 このレベルでは話にならない。大和が本気で戦う戦闘ともなれば、元居た世界に於いてそれは首都ないし国家の存続に類するレベルの危難に見舞われているに等しい事柄だった。 この水準にまで達した戦闘に於いて、今の真琴達、つまり峰津院財閥のNPCではいるだけ無駄な人材だ。寧ろ、生中な判断で下手な事をされてしまえば、大和の方が危険である。 だからこそ、今大和達がいる、リムジンの中と言う密室空間の中に於いても警備が手薄なのだ。 運転席・助手席の遥か後ろ、パーテーションで区切られた、当主である大和のみが在る事を許される、車内のプライベートエリア。 五つ星ホテルのスイートルームをそのまま切り取って持ってきた様な内装で、恐ろしい事に、車内に『バー』が存在する。 大和自身は酒を嗜まないが、カウンターの向こうにある冷蔵庫やワイン・セラーには、一本で数百万は下らない名酒が転がっている。持て成し用だ。 そんな、上等そのものの空間にいるのは、大和のみ。それ以外のNPCはいない。……いやそれどころか、この手の、車での要人移動につきものの白バイによる警備すら、 このリンカーンリムジンの周りにはない。徹底して、邪魔だからに他ならない。彼らがいて、生存の可能性が減るのであるなら、居ない方がマシ。そう言う、事なのであった。 「……ふん」 厳密に言えば、この空間にいるのは、大和一人だけではない。 一人だけ、大和が側にいる事を許し――と言うより、大和が許すまでもなく勝手に居座る男がいる。 それこそが、大和の引き当てた、槍兵(ランサー)のクラスをあてがわれたサーヴァント。黒衣を纏った色黒の美男子。 ベルゼバブ、キリスト教圏に於いて数々の悪行狼藉を働いた、悪魔の盟主、悪霊の棟梁とも言うべき大魔王。 そんな悪魔の中の悪魔たる存在と、同じ名を持つ目の前の覇王こそ、この世界に於いて大和と共に戦う事を許された存在。 ……その男は今、大和の対面で、5つものタブレットを駆使して様々な動画やデータを眺めていた。器用な事をする奴だ、と大和は思う。 見ている物に法則も統一性もない。有料のディスカバリーチャンネル、医学論文、武術書、神話、アイドルのPV。……アイドル? 「音量を絞れ、喧しい」 冷たく、巌とした声音で大和が告げる。ディスカバリーチャンネルのナレーションと、アイドルの声音が二重音声が、兎にも角にも耳障りなのだ。 どちらか一方ならばそう言うBGMだと聞き流せたし無視も出来たが、両方一挙に流されると訳が分からなくなる。発信している層も、動画の目的も全くの別ベクトル。水と油のような間柄だ。 勿論、大和の命令を素直に聞くベルゼバブではなし。 全くの無視。羽虫の羽ばたきにしか、大和の言葉は聞こえないらしい。構わずタブレット5つに、目線を配らせ続けているのみだ。 つくづく、完全防音のパーティションでリムジンを区切り、音響を吸収するような内装で車内を誂えておいて良かったと大和は思う。 自分が、アイドルの歌を聞くような人物だとは思われたくないのである。思春期だからどうのと言う以前の問題として、峰津院財閥の頭としての体裁の故であった。大和は、メンツに拘るのだ。 「君が、アイドルの歌を好むような男には私には見えん」 人を見かけで判断するな、とはよくも言われる事であるが、大和は勿論、ベルゼバブの魁偉を見て、硬派な男だ、と思ったのではない。 界聖杯を巡る聖杯戦争、その本戦開始前、大和とベルゼバブの2人は、両手の指で数え切れない程の主従をこの手で葬って来た。 殺しの、漏れなし。つまり、彼らと対峙した全ての主従は、退却も撤退も許されなかった。初回の戦いで、大和とベルゼバブは全ての主従を殺して来たのだ。 その戦いの軌跡に、苦戦の記述があったのか? などと言う問いは、魔力に一切の損失もない大和と、身体に傷一つ負っていないベルゼバブを見れば、甚だ無意味と言う物だった。 勝利と言う言葉では尚足りぬ。圧勝、と言う言葉よりもさらに強い意味合いの、勝利を意味する言葉があるのなら、それをこそ用いるに相応しい完勝ぶりなのだった。 その葬って来た主従の中には、サキュバス染みた挙措……有体に言えば、『女の武器』を駆使する者も存在した。 魅惑の媚態、悩殺される事を誰が咎めようかと言うなまめかしい肢体、触れれば折れぬか?と言う心配が浮かび上がる細い柔腰、熱っぽい吐息。麗しの、かんばせ。 これらを駆使し、男なら抗い得ぬ女体の渇望を喚起させようとしてきたその女サーヴァントを、ベルゼバブは対峙した瞬間素手で両肩を掴み、 そのままグッと腕を大きく開き――脳天から股間まで生きたまま真っ二つに引き裂いて即死させてしまった。その時の彼の顔は、酷く退屈そうなそれ。と言うより、顔色一つ変えてなかった。 余りに凄惨な殺し方に、胃の中を全て吐き戻したそのサーヴァントのマスターを殺すのは、大和の仕事であったのは、言うまでもない。楽な仕事であった事も、また。 そんな、女体美を余す事無く武器とするサーヴァントを惨殺したベルゼバブの姿を見ている大和だからこそ、信じ難い光景なのである。 ベルゼバブは間違いなく、女と言うものに興味を抱くような人物ではない。良くて、利用価値のある駒としか思わなかろう。 そのような男が、今更年端も行かぬ少女が歌って踊る姿に興味を抱くか? つまりは、そう言う事なのだった。 「微塵の情も湧かぬわ」 大和の問いを、ベルゼバブは即座に切り捨てる。 路傍の石ころの、形の違い。そんなものを気にする者が、何処にいるのか? ベルゼバブにとって、人間……もとい、NPCの女など、その程度の価値しかないのである。 「余が気に掛けるのは文化、風習、神話に伝承よ。個々人の来歴や個性など、何の興味も抱けぬ」 文化。 思えばベルゼバブと言うサーヴァントは、知識欲を吸収する事にも貪欲であった。戦闘のない時は出来る範囲で身体を鍛え、書を嗜み、知識を蓄える。 元々召喚された当初から、頭の切れる男である事も大和は知っていたが、それに飽き足らずなお、知識を得ようとするその姿勢は、驚くのと同時に好ましいものでもあった。 腕自慢、力自慢。そんな者達のみが勝ち抜ける程、戦争は単純ではない。新しい時代の波に、浪漫の泡(あぶく)が浚われ、潰されてから何百年もの久しい時間が過ぎていた。 田舎の百姓や寒村の漁師のような木っ端共が、鎧に身を包んだ騎士の首を討ち取り、栄誉を勝ち取り成り上がり、自分だけの領地を得られる程に出世する。そんな、華と光彩の夢舞台。 嘗て戦争とはそんな場所であり、言うなれば己が野望と欲望とを成就させんとギラギラする者達にとっての、夢工場でもあったのだ。 どんな美酒よりもなお美味い、幻想と言う名の神酒に酔える場所だったのだ。今より、ほんの1000年程前までは。 戦争は既に冒険の場所ではなかった。けちな計算が幅を利かせ、求められるものは個人の武勲よりも集団の効率。 指揮官は兵士(ソルジャー)の士気に気を配り、時には彼らの顔色を窺う事もある。また時には彼らを餓えさせぬよう、時には満足に戦えるよう、補給にも目を光らせる。 まさに全て、計算ずく。戦争と言う事象が生じたその時、ありとあらゆる場所に於いて、打算と言う名の算盤はパチパチと音を生じさせるのだ。 聖杯戦争とは即ち、打算と効率が戦場を支配していた時代よりも、更に前の時代。或いは、それらの桎梏から逃れている別世界の戦場。 其処から呼び出された英雄猛将達の、晴れ舞台であるとも換言出来るのだ。神話の時代の、凛々しくて雄々しい大英雄。古代の騎士物語に語られる、祝福された武器を操るナイト達。 敵味方の境界を越えて、見る者を魅了する戦いぶりを披露する戦士。互いにいがみ合っていた筈の両軍が、それまでの戦争を中断してしまう程に鮮やかな決闘を繰り広げる剣士。 現代(いま)を生きる我々の常識を超えた剣術と超人性を誇る者達が、現代のテクノロジーでは測れぬ魔法の武器を振るって鎬を削り合う。それこそが、聖杯戦争。 それを理解する為には、成程、確かに知識と、文化に対する精通の度合いは必要であろう。今となっては英雄など、御伽噺(フィクション)の住人であり、肉を持たぬ仮初の影。 つまりは最早、文化の中でしか生きられぬ存在達だ。聖杯戦争のサーヴァントが真名の露呈を致命的な物と判断するのは此処に在る。 彼らはもう、今の文化の影と引力から逃れられないのだ。例えば、吟遊詩人が誇張して語ったワン・フレーズ。例えば、事実性の欠片もないような、偽書偽典のワン・パラグラフ。 其処に語られている記述こそが、尾ひれがつき、誇張され続け、結果として今の弱点になってしまうと言う事が、往々にしてあるのだ。 そして、ベルゼバブはこれを理解している。 だからこそ、あらゆる角度から知識を吸収し、勝率を極限まで高めようとしている。対峙した相手の弱点を、こちら側が一方的に突く事が出来、それによって完膚なきまでの勝利を、 得られるように。殊勝な心掛けであろう。実際、そういう意図も含まれていると言えば含まれている。だが、全てではない。他の意図も、其処には含まれていた。 星の民。ベルゼバブと言う人物のパーソナリティが、深くかかわっていた。 ――オーディン……ゼウス、エウロペ、シヴァ、メタトロン……ミカエル……ルシファー。この世界でも、あの下等種族共の名前は使われているか―― ――星晶獣。斯様な生命体が、ベルゼバブが生まれ育った世界には存在する。 星の獣とも呼ばれるこの存在は、そのルーツを辿れば、たった一つの例外……コスモスの獣と呼ばれる星晶獣を除けば、その一切が例外なく星の民の手による被造物であった。 星晶獣の最大の特徴とは何かと問われれば、神にも等しい権能を振るう事が出来る、と言う点に尽きる。 概念の数だけ、星晶獣の数はある。生み出された意図は勿論の事、最終的に何体の星晶獣が創造されたのか? 星の民のトップレイヤーであるベルゼバブですら、 その全貌を把握出来なかった程である。そして、その数の多さはそのまま、星晶獣の司る概念でもあった。 炎や風、海や川、大地に纏わる力を振るえる者もいる。万軍を容易く弾き返す、防衛を司る者もいたし、夢の世界に入り込む星晶獣もいた。 弓矢を操り、優に数百里をカバーする超々々距離からたった一人の人間の頭部を撃ち抜く星晶獣もいた。――並行世界の創造をも可能とし、過去や未来の記述をも書き換える者も、いた。 星晶獣は、創造主である星の民の奉仕種族として生み出された、と言う前提が存在する。彼らの命令には、服従しなければならないのだ。 そのサガを以て、星晶獣は、空の世界の侵略に用いられた。つまりは戦争、殺戮、暗殺、支配の道具だ。殆どの星晶獣は、そう言った目的があって生み出されたのである。 人智を超越した力を発揮出来る。それが、星晶獣。その理解は正しい。だがもう一つ、星晶獣には大きな特徴があった。 星晶獣と呼ばれる存在は、空の世界に存在していた力ある生命体、あるいは、星の民が侵略を試みようとしていた時代よりも更に古の時代に信仰されていたとされる神格。 更には、その時代の人間達によって嗜まれていた文化や哲学、芸術や学術などの概念(エッセンス)を抽出。これらに改造を加える事によって生み出されていたのである。 星晶獣につけられた名前に、空の民によって信仰されていた神格や伝説上の存在と同じものが多いのもそう言った事情がある。 意図は、ある。自分達が信仰し、窮地に陥れば守って下さる筈の存在が、インベーダーの支配下に置かれ、そのまま此方を殺してくる。 その絶望は、果たして如何程のものなのか? 軒昂状態の士気を、容易く挫ける威力を有しているか? そう言った面もまた、星晶獣には期待されていたのであった。 纏めると星晶獣とは、次のような存在になる。 天変地異を容易く引き起こせるだけの脅威の権能を息を吸うように振るう事が出来、創造主の命令には服従。 高度な戦略作戦を理解出来るだけの知能を誇る個体が数多く存在し、空の民の間で信じられていた神話や伝説の中の神霊や英雄を基に作られ、彼らに絶望を与える存在。 この点に於いて星晶獣は、極めて高度な、まさに神そのものと言っても良い生物兵器であり、星の民とはこれらを意のままに操れる神の上の存在である、とも言えるかも知れない。 まさに、これだけを聞くならば、星の民とはまこと恐るべき軍事力を誇る、天上人のような存在に聞こえよう。 高度な科学力、完成度の高い政治システム、民の文化水準。そして、星晶獣を筆頭とした数々の兵器。地球上におよそ、星の民の敵など、存在しえぬように聞こえるだろう。 だがこれだけの力を誇っていながら、星の民は、空の民との間で勃発した覇空戦争に於いて大敗を喫し、歴史から消え失せたと誰もが思った程に個体数を激減させてしまった、 と言うのは歴史を齧っていれば誰もが知る所なのである。何故、超高度な文化水準を誇り、無類無敵の兵器の数々を保有し、高い知性を誇った星の民は敗れ去ったのか? ベルゼバブが赤き地平と呼ばれる所に叩き落され、2000年の時を経て空の世界に舞い戻った頃には、終戦から1000年以上も経過していた為、彼にはその理由が解らない。 しかし推測は出来る。星の民側のやる気が、なかったからだ。 ――欲なき者は、戦いに敗れるのみよ―― 生来、星の民と呼ばれる者達は、執着心が非常に薄いと言う種族的な特徴を有している。言ってしまえば精神性が、希薄なのだ。 彼らの文化の中に在って、ベルゼバブの如く力に対する執着が強い存在は異端の扱いであり、しかし、それ故に頭角を現しやすい。 ベルゼバブも星の民の一員であった時には、その力を遺憾なく彼らの為に発揮していたが、最終的には尽きぬ野心と力に対する渇望、そして何よりも、自分が一番優れている、 と言う増上慢から反旗を翻し、そのまま敗北したと言う苦い記憶がある。その敗北があったからこそ今の自分がある為、全く無駄な敗北ではなかったものの、それでも、悔しいものは悔しい。 ベルゼバブと、彼が唯一名前で呼ぶ腐れ縁の様な男。その2人と言う癌細胞を切除して、星の民の体制は盤古不変になったかと言えば、そうではない。 何故なら、空の民との戦争に負けているのだから。ほぼ絶滅寸前にまで、個体数を減らしてしまったのだから。これは疑いようもなく、種族としての敗北以外の何物でもなかった。 負けて当たり前だと、ベルゼバブは思う。懸ける願いも理想も野望も持たず、漠然に近い意識で戦いに勝てる筈がないのだ。 だから、戦力の差で言えば本来負ける筈などある訳がない、空の民如きに足元を掬われるのである。ヴィジョンを持つ者、持たぬ者の差は、この様な形で現れるのだ。 ベルゼバブの目標は常に、シンプル。 最強になり、世界を支配する事。それだけだ。シンプルを通り越して、最早子供の妄想そのもの。呆れ返る程に、幼稚な野望だ。 だが、その目標を成就する為の真剣さ、熱意、費やした努力の時間と質について、一切侮れる要素がない。 最強の存在になる、そんな理想を掌握する事について、ベルゼバブは何時だとて本気である。 千年の間身体を鍛える事が必要であると言うのならばそれを実行するし、過程上数十万の無辜の民を殺す必要が出てくるのならこれも殺戮する。それが、ベルゼバブと言う男なのだ。 この現世に於いて、様々な知識、アイドルのPVを含めて観察する、と言った事も、ベルゼバブが理想を成就する為の一環、と言う考えからブレていない。 何せベルゼバブは知識として、人間の持つ文化や物語を基礎として、恐るべき力を発揮する生命体を生み出す技術を知っているのだ。 ならば、学ぶ。取るに足らない羽虫のサーカスとは言え、見聞は怠らない。アイドルと言う活動を通じて、力を発揮したりする手合いが居ても、おかしくはないのだから。 『当主様』 大和が着けている、TEL機能を内包したイヤホンマイクから、女性の声が聞こえて来た。部下の、真琴の声だった。 「発言を許可する」 『ハッ。直に、目的地である皮下医院へと到着致します。当主様の許可さえあれば、私が交渉に向かいますが、いかがなさいますか?』 交渉、と言えばお行儀が良いが、その実は、脅迫スレスレの詰問である。 皮下医院について、峰津院財閥の構成員が其処に入院し、その日を境に失踪、行方知れずと言う情報は勿論真琴にも共有してある。 恐らく真琴であれば、構成員の所在を厳しく追及しつつ、相手が煮え切らぬ返事を寄越したり茶を濁し始めたら、峰津院財閥の持つ権力、と言うカードをチラつかせるだろう。 院長である皮下真の逮捕、とまでは行かずとも、その気になれば病院やクリニックとしての施設基準を満たしてないとして、運営を取りやめさせる事など造作もない。それだけの権力を、峰津院財閥は行使できるのだ。 「私が直々に出向いてやる。お前は車内にて待機しろ」 『っ……!? しょ、承知致しました』 言って真琴は、そのまま通信を切った。 最初の言葉に、躊躇いと戸惑いがあった。一人で行かせる訳にはいかない、と言う思いと、大和が態々出向く事ではない。そう言う事を、口にしたかったのだろう。 「出立(で)るぞ。狩りだ」 大和の言葉と同時に、リムジンのドアが開く。 「狩りにもならん。蹂躙の時間だ」 成程、言い得て妙だ、と大和も思う。此方に不利益を被らせる輩は、蹴散らし殺し尽くすのが、峰津院の礼儀と言う物なのだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ アオヌマからの報告を受けた時、皮下が思わず口にした言葉が「あちゃ~~~~~~~~~~~~~~……」だった。 そうと言いたくもなる。皮下医院の入り口の真ん前に、それはそれはご立派な黒のリンカーンリムジンが停車した、と言うのが、アオヌマから受け取った報告であった。 別に、車自体が珍しかった訳じゃない。 元居た世界での話になるが、皮下は唸る程の金があったし、実際付き合いでこの手の車には来賓として乗った事もある。 東京は金持ちが多い。この手の車で送迎されるに相応しい大物の存在だとて、成程珍しい事ではなかろう。 問題は、このレベルのグレードの車に乗っているようなお偉いさんが、露骨とも言うべきレベルで、此方に用向きがあると言う意思表示を見せた事だ。 この界聖杯に呼び出され、医者としてのロールに従っていた皮下。彼が診察している患者の中には、確かに金持ちと呼ばれるに相応しい人物は存在する。 だが、このレベルの金持ちは、定期的に通院してない。何せ車の本体価格で都内に戸建てが建てられるレベルだし、年間の維持費だけで数十万は軽く吹き飛ぶ。その様な富豪と、親しい間柄の医者など、早々はいないのである。 ――だが、医者と患者としての付き合いでないのなら。 皮下は、このリムジンに乗っている人物に覚えがある。もしも皮下の予想が正しければ、彼は、そのリムジンのオーナーの部下を殺している。 ……殺している、と言う言い方には語弊があるか。実際には、尊い医学の礎になってもらっている、と言った方が正しい。本当に礎石になってしまったか、実験が成功したのか。 それは皮下には解らない。どちらにしても事実は一つ。リムジンの主――峰津院財閥の何者かと皮下真は、医者と患者の関係ではなく、殺す者と殺される者の関係にあると言う事だ。 『どうするよ、皮下。此処で始末するのか?』 アオヌマがスマホで、意見を仰いでくる。 『ダメだ。殺し損ねた場合が怖すぎるし、車停めてる場所が拙い』 リムジンを医院の前に停めたのは、牽制の意味が大きかろう。 峰津院財閥の所有する車ともなれば、当然の様にドライブレコーダーは取り付けられているし、何ならば、録画している映像は提携している警備会社に常に送られている事だろう。 そうなれば、皮下医院は他の聖杯戦争の参加者に付け入られる隙を与えてしまう事になる。峰津院財閥の長い手は、当然の様にメディアをもカバーする。 この財閥の前には、提供された情報の吟味も裏打ちも不要。一切の面倒臭い手続きをすっ飛ばして、財閥が提供した情報は、メディアは全て『真実正しいもの』として認めて即日ニュースとして流す事が出来るのだ。 ――襲える物なら、襲って見ろ。 オーナーの声なき声が、聞こえてくるようだった。此処であのリムジンを襲撃して、作戦に失敗し、その映像がメディアに流れてしまえば、皮下医院の優位性。 即ち、医院と言う社会的信頼も篤い建物の下で、語るも無残な実験を行い、着実に戦力を整えている、と言う水面下のアドバンテージが一気に消え失せてしまうのだ。 そして何よりも、此処からは勘の話になるが、皮下の直感が告げていた。 『リムジンを襲撃する程度の猿知恵で、向こうのキングは獲れない』。そんな確信があるのだ。 相手は手練である。皮下自身、聖杯戦争本開催してまだ一日も経過していないのにも関わらず、その短い間に拙い鉄火場を踏まされて来た。 今回は、その比ではなかろう。先ほどのリップとシュヴィの一件は、まだ心理的余裕もあったが、恐らく今回に限っては……。 『車から人が出て来た。峰津院大和だ。ほほお、すげーイケメンだな。お前とは大違い』 『俺を引き合いに出すのはルールで禁止ですよねアオヌマくぅん……。――ってか待て、もしかして峰津院の若大将一人なの?』 二重の意味で、予想を裏切られた。 峰津院財閥との対峙は、遅かれ早かれ起こり得る物だと、皮下も割り切っていた。だから正直な所、このアクシデントについては驚きはない。 来るとしても、大和本人が来るとは皮下も思わない。恐らくは財閥の名を背負った代理人が来るだろうと踏んでいたし、大和本人が来るにしても、 参勤交代で江戸にやって来る外様の大名宜しくに、大勢のSPやらを引き連れて出向いてくる物だと思っていたのだ。 ……一人? 幾らなんでも気が緩み過ぎじゃないか? と皮下は思う。 と言うか、本当に一人だけで来るのであれば、ワンチャンあるんじゃね……? みたいな感じで、楽観的な予測を立てる皮下だったが―――――――――――― 【……おう皮下。テメェ命はまだ落としてねぇだろうな?】 【皮下真に医者の不養生と言う諺はないものでしてね。どったの、総督】 【見聞式……って言ってもわかんねぇか。テメェのとこの病院の前に、バケモノがいるぜ】 そんな楽観視は、カイドウの念話で即否定されてしまう運びとなった。思わず、溜息。 【せめてサーヴァントは弱けりゃ良かったんだけどな……】 【と言うか、向こうのマスターの方も中々だな。おれが予選で倒したサーヴァントの何体かは、殺せるだろうな】 【死んでよ~~~~~】 これ以上詳しく情報を詰めていると頭がおかしくなって死にそうになる。 要は峰津院大和は、金も権力も桁違いな上に、引き当てたサーヴァントは勿論、彼自身の強さも異常であったと言う事らしい。 ゆ、界聖杯(ユグドラシル)くん……? このご時世に差別は許されないんだよ……? 「……仕方ねぇ、腹ァ括るしかないか」 元より、虎穴に自ら入って事も、知らない間に入っていた事も。 一度や二度の話ではない。皮下は幾度も、そう言ったケースを経験している。 人の形をした怪物共――夜桜の一族を相手に立ち回ると決めたその時から、皮下の人生からは、安寧の二文字は消え失せている。 この世界では、その危機を齎す相手が、夜桜から別のものにすり替わるだけだ。然したる問題では、ない。 受付からの内線が、慌てたような声音で、峰津院大和の来訪を皮下に告げてくる。 真正面から正々堂々と。これでは、チャチャは役に立つまい。あれは病院内に不正に侵入して来た者に対する置物だ。玄関から自信満面に来るような輩には意味はない。 「はいはい解ってますよー」とやる気なさそうに電話越しの看護婦に告げた後に、「応接室に案内して差し上げて」と付け加え、内線を切って――。 「行きたくねぇ~~~~~……」 寝起きのサラリーマンが口にするような事を言いながら、重い足取りで応接室へと向かって行くのであった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 応接室と言っても、大層なものではない。 皮下医院自体、新宿の一角にこじんまりと佇む小さな病院である。同区に存在する病院として著名なのは慶應義塾大学病院であるが、この大病院とは比較にならぬ程に、規模は小さい。 皮下に言わせれば、ある日突然新宿の一角にだけ生じた、空き地になった土地にでも無理くり建造されたみみっちい病院だ。 そんな所であるから、応接室などと言われてもたかが知れている。敷かれてる絨毯も、ソファも、応接テーブルも。 高い事は高い代物だが、それは、庶民向けのインテリア用品店の中では高い、と言う意味だ。要は、金を掛けてない。お客人に最低限、失礼な印象を与えない程度のグレードの品を揃えただけだ。 そんな部屋に、貴人も貴人たる、峰津院大和がやって来る。 来なくて良いよと心底で思いながら、皮下はソファに腰を下ろしていた。部屋の貧乏くささに激怒して帰ってくれねーかな~、などとも思っていた、その矢先だ。ドアがノックされたのは。 「――お入り下さい」 それは、普段の皮下を知る者からすれば、信じられない程真率――遜った――な態度。 そんな声出せるんだ、とタンポポの面々は思うだろう。一応社会人だったんだ、と思う者もいるだろう。寧ろ敬語喋れるんだ、と思う不遜の輩もいるであろう。 平時の皮下からは想像もつかない程に、腰の低い態度。そんな自分を客観視して、「バカみてーだ」と思う皮下がいる。これから下手すりゃ、殺される相手に取る態度かよこれが。もっとでけー態度でいろよ。 ドアが開かれる。開けたのは、案内役を任された医院のスタッフ。そして、開け放たれたそのドアを通して、一人の青年が入室する。 日本人離れした銀色の髪。それが染めているものではなく、生来授かったそれである事を皮下は見抜く。 夏場であるにもかかわらず、黒いロングコートを着流すのは、彼自身が暑さを感じないのか、それともコート自体に特別な機能が備わっているのか、或いは、敵襲を警戒してなのか。 顔だちは、恐ろしいまでに整っている。日本人の骨格と肉付きとは思えない、アジア人離れした美男子だ。峰津院財閥が突然崩壊し、無一文で彼が放り出されたとしても、この美形なら世の女性が放っておくまい。引く手数多の、美青年であった。 ……だがそれ以上に特徴的なのが―――― ――成程な……そりゃあ本戦まで生き残れてる訳だよ―― 勿論皮下自身、この界聖杯に呼び出された当初も当初から、峰津院財閥及びその当主である大和が、疑わしいと思っていた。 戦前から戦後まで、変わらぬ姿で生き続けてきたこの男にとって、GHQによる財閥解体はまさに、リアルタイムで目の当たりにしてきた事柄。 だからこそ、良く理解していた。当世に財閥などと言う組織が生き残っている筈がないのだと。他の参加者でも、同じ事を思う筈である。 そういう訳であるから、早い段階から大和は『黒』だと当たりを付けていた皮下は、彼の事を調べていた。とは言え、元が日本トップクラスの権力機構のトップである。 検索エンジンでも叩けば、顔写真など直ぐに出てくる。闇に通じる権力者、影のフィクサー、と言う訳ではない。表にも通じるし裏にも通じる支配者と言う訳だ、余計に厄介である。 皮下は、峰津院大和は手練なのではないかと言う事にも、早くから気付いていた。 峰津院財閥の現当主と言う、余りにも目立ち過ぎる立ち位置に在りながら、彼に纏わる聖杯戦争絡みの噂が一切ない。 勿論、これだけ大きい組織である。ネット上でこの財閥の名前を調べれば、取るに足らないカストリそのものの、まとめサイトおよび個人ブログ、そしてSNS上に於いて、 根も葉もなさそうな私怨染みた書き込みやら記事やらは嫌と言う程出てくるし、事実性が高そうな考証めいたものも星のように出て来た。 峰津院家の闇だとか、暗黒だとか、そう言った感じの言葉でラベリングするべきか。兎に角、確かにそう言った手合いの妬み嫉みや記事考察が多かった。 だが、何一つ、峰津院大和が『不穏な何かを従えている』だとか『人を殺している場面にでくわした』だとか言う、血腥い噂は存在しなかった。 存在してなかったと言うよりは、漏洩させなかったと言うべきなのかもしれない。どちらにしても、あれだけ存在感のあるロールを賜っておきながら、 聖杯戦争本開催まで一切の戦塵を被る事がなかった、とはとてもじゃないが考え難い。とは言え、彼のロールを用いれば戦闘回避だとて出来なくはないだろう。 だから皮下は、予測を3つ、立てていたのである。 峰津院大和は、財閥と言う権力をコントロールする術に極めて長け、戦闘を悉く回避していた。 峰津院大和は、弩級の強さのサーヴァントを引き当てていて、相手を瞬殺させて噂が広まる余地の一切を潰していた。 峰津院大和は、平均以上の強さのサーヴァントを引き当てていたが、戦闘の痕跡を残す事がままあり、これを財閥の権力でもみ消していた。 これが、3つの予測である。どれをしても、相手する分には厄介極まりない相手だがしかし、この3つに共通項がある。『大和自身は強くはない』と言う共通点である。 とは言え、皮下自身が他の聖杯戦争の参加マスターからすればインチキ極まりない強さを持っている。自分自身がそうなのだ、他のマスターにも同様の存在がいるだろうとは思っていたし、大和自身もそれなりに心得のある部類なのじゃないかとは思っていた。 ――この若旦那自体も強いんじゃんかよ……―― 何て事はない。峰津院大和が今日まで壮健だったのは、シンプル過ぎる理由の故である。 大和自身も強く、サーヴァント自身もバケモノで、与えられた権力も桁違いかつこれを巧みに操れていたのだ。早い話、この主従はハチャメチャに強い訳だ。 他の聖杯戦争の参加者すれば、やってられないレベルでパワーバランスが狂っている。こんな存在が聖杯戦争に参戦していると聞けば、その時点でやる気が失せる者も出て来よう。 一目見て、皮下は確信する。これは、バケモノだ。 皮下にとって、サーヴァントを除く怪物の筆頭とは、葉桜の模倣元、即ち夜桜の一族の事だが、大和はこの一族と比して何ら遜色がない。 どころか、持ち込む分野によっては、あの一族の誰かを容易く完封出来てしまうのではないのか、と言う気迫と凄味で溢れていた。 何をしてくるのか? 何が出来るのか? それを一切悟らせないが、確かに『強い』と言うのを事実として見る者に教え込む、圧倒的な説得力。 峰津院大和、彼もまた、聖杯戦争の覇を勝ち取れるに相応しい『龍』であったようだ。 「ご着席――と言うと、ハハ。私が促したような言い方で失礼ですね。本来であれば、貴方様が先に座られて、私に着席を御認めになられるべきであるのに」 「お気遣いなく。失礼と言うのなら私の方が礼を欠いている。御多忙の身である皮下氏の貴重な時間を、このような急な来訪で奪ってしまったのですから」 敬語。 上品な物腰であり、態度も落ち着いている。大人物の風格だ。日頃、上流階級がひしめく環境で揉まれている事が伺える、洗練された所作だった。 だが、こんなものに騙される皮下ではない。目の前にいる青年の心の内奥で渦を巻く、途方もない殺意の香り。これを、百年の時を越えて生きるバケモノは、明白に嗅ぎ分けていた。 「なんのなんの。元より父が一代で建てた病院を引き継いだだけのドラ息子で御座いまして。基本的には、幸運の女神に微笑まれて何とか生きられている男だと思っていただければ」 「謙遜の上手い御方だ。先生の御評判は私の耳にも届いている。患者に心身に付き合い、友好的な態度で打ち解けやすく、誰であっても差別しない方だと」 「いやぁお恥ずかしい。御覧の通り、閑古鳥が鳴いている事の方が多い医院で御座いまして……。こうする事が、弱小病院を運営する我々の処世術なのです」 示し合わせた様に、同じタイミングでソファに座り始める大和。机の上には、今の時期には嬉しい、氷入りのグラスに注がれた麦茶が置いてあった。 「峰津院財閥の御当主殿とこのような話し合いの機会が得られるとは、私としても望外の幸運。いつまでもお話していたいものであります」 「私としても同じ気持ちだ。世間では私の仕事はそれ程認知されてないのが悲しい所ではあるが、心の休まる時間がない、暇なしの身分でしてね。このような何気ない世間話でも、随分と疲れが取れるものだ」 暇がない、と言うのは本当の事なのだろうと皮下は思う。 組織の理想は、下が優秀で何も言わずとも働いて利益を出してくれる事で、経営者は基本的に能動的に動かない事が望ましい。 それが解らぬ大和ではなかろうが、峰津院財閥レベルの規模の組織ともなれば、彼が暇である事が良い、と言うのはそれこそ理想を越えて夢物語の世界であろう。 峰津院大和こそが、財閥の顔であり脳であり、対外の柱なのだ。出席せねばならない会議や談合、会食に折衝に懇親会、総会など、それこそ馬鹿みたいな数に上ろう。 恐らく、峰津院財閥に於いて尤も働いている人物こそが、目の前にいるその財閥の当主その人である。にもかかわらず、疲労している様子は欠片もない。寧ろ、年齢特有の見事なエネルギッシュさに満ち溢れている位だった。 「親しみやすさ……。おろそかにしている医者も多いとは伺うが、悩みの種の一つだ。財閥は専属の医療部門を抱えている。福利厚生の一環だ」 「さぞ優秀な御歴々が集まっている事なのでしょうね」 「フフ、仰る通りだ。財閥の構成員達のバイタル・メンタル面のケアも万全、定期的な健康診断の実施で此処何十年と、生活習慣病を出した事もない、誇るべきチームだ」 「素晴らしい事です。私なぞちょっとした手術でもあわあわしてしまうタチでして、よく親父にも咎められましたよ」 「……だが、昔から抱える悩みもある。何分、我が財閥お抱えの医者達だ。当然診断結果をトップは見る事もあるが……そういう仕組みの為か、良くない病やメンタルだと査定や評価に響くのでは、と恐れる構成員もいるのですよ」 成程、気持ちは解らなくもない。 表向き、病で差別する事はないと言っても、実際はそうは行かない色眼鏡を常にかけているのが人と言う物だ。 財閥の直属の医療チームに診断され、厄介な病気を抱えている、となると、如何なる評価が下されるか解らない。そう思う者が出てくるのも、さもありなん、かも知れない。 「この手の問題は根が深い。様々なアプローチを考えてはいるが、思わず相談したくなるような人物を医者として配置するのも、手だと思っている」 「……まさかとは思いますが」 「そちらが適格かと思いましてね。勿論、御自身の病院を運営されているのだ。此処を捨てろ、とは言わない。定期的に、構成員の往診に来て頂ければ有難いのだが」 普通なら、願ってもない申し出であろう。大抵の医者であれば、峰津院財閥に定期健診の契約を持ちかけられれば、二つ返事でOKの言葉が飛び出してくる。 マネーの面でも、厚遇されるのは間違いなかろう。皮下のような自分の医院を持つ医者でなく、大病院で働く勤め人のような立場の医者であれば、 あわよくば財閥に流れでヘッドハンティングされる事をも夢見るかも知れない。金、待遇、処分できる時間の総量。どれをとっても、垂涎のものが保証される筈だ。 「私よりも適当な方が、この新宿には大勢いらっしゃいますよ? 彼らには御声の方はかけられたのですか?」 このような、場末ギリギリの病院を頼るよりは、大病院、それこそ慶應義塾大学病院の先生に交渉をした方が、余程マシだろう。皮下はそう考えていたのだが。 「惚けられるとは、悪い人だ」 と言って、足を組み始めた大和。 普通なら、このような話し合いの場では無礼な態度であり、心証を悪くしかねない行いだ。 だが、大和の場合は違う。その様子が、余りにも絵になり過ぎて――寧ろ、そういう態度を取ってくれている方が、財閥の主としてよりらしい感じがして。不思議と、悪感情は生じないのである。 「この病院には我が財閥の構成員が通院していたと聞く。いや、している、と言う形なのかもしれないが、それは良い。財閥の者達も無能じゃない。我々の医療チームの優秀さは知っている。それを蹴るのならば、第二候補は医者や病院の実力や評判を選ぶのは当然の事。此処を選ばれたのは、それが原因だったのでは?」 ……成程、事情は知っているらしい。皮下はそう判断する。 峰津院財閥の構成員に粉かけて、それどころか一部のメンバーは鬼ヶ島の狂える宴に供物として捧げられている事も、下手したら御見通しの可能性すらある。 「我が財閥の力を借りず、他所の病院を頼るのだ。貴院はさぞ、優秀なドクターを抱えている事なのだろう」 微笑みを湛えて、一呼吸置く大和。 口元は笑みの形を作っているのに、その瞳の奥底で、底冷えするような冷たい殺意が輝いていた。 「話していて、皮下真先生が信頼に足る方だとは分かった。部下の評価も直接聞きたい。彼らは何処に行かれたのか?」 退院した、とホラを吹くのは容易い。 だが、此処でそれを言ったところで、嘘など看破されてしまうだろう。要は峰津院大和は、自分の財閥のNPCが全員、帰らぬ人となっている事など、とっくの昔に解っているのであろう。 このような、腹の探り合いですらない、茶番に大和が付き合っていた理由は単純明快。皮下真が、どの程度のものなのか、試していたのが全てなのである。 いやはや、これはなんとも、全く以て―――――――― 「下らねぇ猿芝居だ」 被っていた猫の皮を全部剥ぎ捨てて、地をむき出しにして皮下が言った。取り繕った態度を取っていたのは、大和にしても同じであったらしい。 それまで浮かべていた微笑みが、突如として消え失せ、相手を見下しているのが手に取るように解る、示威的な厳めっ面に表情が変わり始めたのであるから。 「格下相手に敬語に出るのも楽ではないな」 「へぇ、それがアンタの本性かい若旦那。良いじゃないか、そっちの方がよっぽどらしいぜ」 突如として尊大な態度を取り始める物だから、思わず皮下は苦笑いを浮かべてしまう。 内心、俺の事も格下だと思って見下してたんだろうよ、と彼は思う。それでよい。峰津院大和に限って言えば、その驕りも侮りも正しい。 帝王の星の下に産まれた大和であるのならば、その様な態度を取ろうとも、果たして誰が咎めるであろうか。それが許されるだけのオーラを、彼は身体中から発散しているのだ。 「ちょっち、3秒だけ待っててね」 言って皮下は、自分の両目に人差し指を突き入れ、眼球をなぞる様に指を動かし、2、3度。パチパチと目をしばたかせる。 淀んだ、黒い瞳が、皮下の眼窩に嵌っていた。精彩を何一つとして見出す事の出来ない、生気なき黒い瞳。 今まで大和が見ていた、生命力と若さでキラキラ輝いていた風に見える瞳の煌めきは、専用のカラーコンタクトによるものであったようだ。 「お偉いさんと話をする時はさ、こんな死んだ瞳で話すのも失礼なんでね。こうしてちょっと目をキラキラ演出させちゃうのさ。エチケットって奴よ」 「ほざくな。私に感情を読み取らせぬ為であろう」 「正解」 ヘラヘラ笑いながら、両の人差し指に乗っていたカラーコンタクトを、弾いて後方に放り捨てる皮下。 「んじゃ改めまして。皮下医院院長兼、聖杯戦争参加者の一人の、皮下真でーす」 「貴様如きに名乗る名などない」 「オイオイ、自己紹介位解っててもちゃんとやろうぜ。常識は1兆出しても買えないんだからさ」 「貴様への表敬訪問は既に終わっている。これからは尋問の時間だ。身の程を知れ」 「表敬? マジで敬ってたの? そりゃビックリだ。こっちは敬ってなかったのに」 峰津院大和が敬いの態度を持っていたとは驚きだ、と一瞬たりとも思う皮下だったが、流石にそんな感情抱いてもなかったらしい。 それはそうだと皮下も思う。何せ、部下からも敬われないのだ。目の前の男も敬う筈がなかった。……そこまで思って泣けてきた。俺結構頑張ってんだけど……と、思う皮下だった。 「今一度聞くぞ、皮下。私の部下は何処に消えた」 「尊い尊い科学の犠牲になってるよ。旧ソのクドリャフカみてーなもんさ」 「ライカは確かに科学の礎石になったが、私の部下が犠牲になったとて、貴様の下らぬ野望の充足が早まるだけだろうが」 「下らないってのは聞き捨てならんね、若旦那。俺は俺で、誠実な夢があるのさ」 「面白い。貴様とて、この東京の地に願いがあって蠢いている身だろう? 他人の命を踏み台にして成し遂げたい、醜い夢を囀ってみろ」 皮下は、自分の分の麦茶を、ズズッ、と音を立てて啜ってから、やおらと言った態度で口を開いた。 「世界平和、人種平等」 それは、時に無辜のNPCを何人も拉致し、時にカルテを巧妙に操作して入院している患者を引きずり込んで。 本人の意思など構いなしに、非人道的な人体実験のモルグとして利用している男の口からは、およそ、飛び出す事自体が信じられない言葉だった。 それは、よく言えば夢想家、悪く言うなれば、現実逃避している愚か者の口から飛び出すような。若いとか青いを通り越して、ある意味で『幼過ぎる』領域に片足の入っている願いであった。 「笑わせる」 失笑を隠せぬ大和。 「血と死の臭いは隠せんぞ下郎。貴様がこの地に招かれてから幾人殺して来たか知らないが、業を重ねておいて夢見る野望が世界平和か。何様のつもりだ貴様は」 「聖職者さ。お医者様なんだよこれでもね」 大和の悪罵に、皮下は即答する。一桁の計算の答えでも口にするような、素早いその返事は、常日頃から、自分がそうであると思ってなければ到底言えぬ言葉であった。 「平等や平和である事と、人を殺す事は、両立すると思ってる」 「サイコパスの妄言でもマシな事を口にするぞ、クズめ」 「愛は差別なんだ、峰津院さん」 麦茶の、啜る音。カラン、と氷がグラスとぶつかる音が、涼し気に――冷やかに、室内に響いた。 グラスの口を五指で掴み、グルグルと器用に中の麦茶を廻して見せる。氷もまた、浸された麦茶の回転に合わせて、小さいグラスの中でダンスを踊った。 「女の子に手を出しちゃいけない、子供の未来を奪っちゃ行けない、赤ん坊には慈愛を以て接しなくちゃいけない。色んな国を見て来たけど、似たり寄ったりな考え方をする所が殆どだったよ。事実、俺もそうだなぁと認めてる所は、あるかな」 「だけど、よ」 「庇護や愛ってのは、俺から言わせれば、そいつの主観(エゴ)で、依怙贔屓したい奴の価値を平均よりも上に設定してるだけに過ぎなくてさ。ま、早い話が、特別扱いの正当化みたいなもんよ」 話は続く。よくも、回る舌であった。 「今更アンタに言うのも釈迦に説法だが、世の中には特別じゃない奴だって大勢いるし、何なら居ても居なくてもどうでもいい、なーんてラインを飛び越えて存在しちゃならない次元の奴までいる。その差は何だ? 歳か? 身長か? 体重か? 肌の色かも知れねぇし、瞳の色だってあり得るな。『ぶら下がってる奴』のデカさかも知れねぇかもよ? 社会の枠組みと言う価値観で言えば、名誉や立場や学歴なのかも知れんし、前科歴だってあり得るわな。ま、数えて行けばキリねぇよ。だが、一つだけ確信を以て言えるのはよ。そう言う区別と差別は、この世界に於いて大なり小なり肯定されてるって事と、人の社会はそう言う差を前提として廻さなくちゃいけない事だ。違うかい? 峰津院さん」 「貴様の言う通り、そんな問いは今更だ。人の差とは多様性だ。そしてそれこそが、この数千年で人類が発展して来た究極の要因だ。差の否定とは、人の歩んだ歴史の否定に他ならない」 ニッ、と笑ってから、皮下は言葉を紡ぎ始めた。 「霊長の頂点の人間サマが、差を当然のものとして組み込んでる以上。その差の類型化、定型(テンプレ)化が出来ない以上よ。平等と、それに基づいた平和だなんて、仰る通り実現不能だ」 「話はそれで終わりか? それで話を切るなら、貴様の評価は夢見がちの馬鹿に終わる」 「終っちゃないよ。人間が誰かを区別する、差って奴を全部定義し終える事が出来ない以上、それに依拠した平和が叶わないってだけさ」 数秒程、間を置いた後、皮下は口を開いた。 「楽に平等を達成する方法が、2つある。『全ての人間の価値を等しく最上のものだとする事』。どうしようもないクズや犯罪者でも、だ。そしてもう一つは――『全ての人間の価値をそれこそ赤子や子供、老若男女の隔てなくゼロにしちまう事』。ていうかぶっちゃけ、それしか方法がない」 「……」 緘黙を貫く大和。瞳に宿る光が、鋭さを増す。 「価値を最上に置くなど不可能だ。人のサガがそれを許すまいし、物質的にも出来まいよ」 要するに全ての人の価値を最上に設定するという事は、誰彼構わず丁重に扱うと言う事に等しい。それは対面の人付き合いの面でも、福利厚生、権利面でも、と言う事だ。 だが実際それが出来ないという事は、少しでも世故に通じた立ち位置に組み込まれている人間なら誰だとて理解が出来る。 人間自身、どうしようもなく誰かを区別し差別する生き物であるし、そもそも人が生きて行く上で必要な仕事、と言う行為自体に、どうしようもなく、階級や役職と言う形で人を区切る。 それがなかったとしても、誰彼構わず均一に最上位に取り扱えと言われても、それを成す為のリソースがこの地球上に存在しない。全人類に等しく、先進国と同じレベルの生活を約束せよ、と言われても、それは、地球と同じサイズかつ同じ資源量の惑星が複数個ないと、これは不可能なのだ。 「同感だね。と言うか、出来たしても俺はそっちを選らばねぇよ」 「俺自身に価値がないからね」、と、皮下は続けた。ヘラヘラ笑いながらの言葉だったが、その言葉に、僅かな重みを大和は感じ取った。薄めてはいるが、真が含まれている。 「――人を殺した者、地上で悪を働いたという理由もなく人を殺す者は、全人類を殺したのと同じである。人の生命を救う者は、全人類の生命を救ったのと同じである」 「食卓章……コーランの聖句か」 「流石の教養だね若旦那。こんな有難い教えを説いてる聖典を崇める奴らが、無辜の民を殺し続けてる。そして、こいつらとは全く無関係のところでもまた、同じように誰かが理由もなく殺されてる。この素晴らしいお説教の通りなら、如何やら人類は神様に何万回とリセットボタンを押されてるらしい」 皮下の顔から、表情が消える。 感情が、何もない。能面のような、とは無表情を指してよく使われるフレーズだが、それですらない。 表情の一切が彫られていないだけの、木肌のみの、面だ。そうとしか感じられない程に、皮下の顔からは情動の類が一切消え失せていた。 「命は何よりも重い。そうと説いておきながら、この星から無為の死が起こらなかった日は一日としてない。心の奥底では皆理解してるからさ。同じ重さのものが存在すると言う事実があり得ないこの星で――不平等が世の掟のこの世の中で、『命の重さだけは平等にゼロ質量』なのさ。命だけは、重力も引力も関係ねぇ。等しく重さなんてないし、軽いだけだ」 「聖杯でも使って、ジェノサイドでも起こすつもりか?」 「言っただろ? 聖職者だって。虐殺で平和が勝ち取れるなら、この星は何百年も前に穏やかな星になってなきゃ釣り合わんだろう」 ジェノサイド。言葉自体の歴史は新しいが、それに近い事が行われるようになったのは、何も最近に限った話ではない。 敵対していた王侯貴族、士族に華族、騎士団や武家と言った面々の皆殺しも、ジェノサイドに含めて良いのなら。歴史上数えられない程ジェノサイドは存在した事になるし、その都度、平和になってなければならない。だが実際には今も紛争の火炎が地球上の至る所で燃え上がってる所からも分かる通り、虐殺では、平穏も平等も、齎し得ないのだ。 「淘汰だよ、俺の理想は。人は死ぬが、それが目的でもないし、人の数を減らして平和、だなんて嘯くつもりもない」 「……ほう」 「突然変異。……今更アンタに対して説明するのも面倒だししねぇがよ。俺達人間は、嘗ての誰かの遺伝子に交じっていたエラー品、それが何かの間違いで、それまで繁栄していたノーマルの遺伝子を持った奴らよりも栄えちまって、そしてそのまま、陳腐化した奴らの果ての姿なんだよ。突然変異と、それの普遍化。そしてその普遍化した奴らの中から、またおかしな遺伝子が持った奴らが産まれて、運命の気まぐれでそいつらが栄える。猿が猿人になって、猿人が原人になって、そして原人がまた、今の俺達のプロトタイプに近い、人になる。そんな、繁栄と淘汰の螺旋を歩みながら、俺達はいるのさ」 沈黙の帳が下りた。 両名共に、口を引き結び、押し黙っている。だからこそ、この応接間の中で、極限まで張り詰めた、ピリピリと、ヒリヒリと、皮膚に痛い程の空気が、辛い。 常人であれば、数秒と耐えられぬ、この極限に近い空気で満たされたこの空間の中で、皮下は、口を開いた。 「桜だ」 男は語る。 「綺麗な桜があったんだ。誰からも愛でられ、誰からも注目され、――その綺麗さのせいで、誰からも弄ばれた、昼も夜もなく見目麗しい、桜がね」 ――桜のように注目され、崇められ、弄ばれるのは、もう沢山―― 「桜などと。比喩だろう、それは」 「察しの通り人間でね。その血は誰かに不思議な超能力を齎す。それで終わりじゃないぜ。その血に含まれる成分に耐えられなければ、その瞬間に死に至るような、猛毒を孕んだ血液さ」 ――小さく、取るに足らない……どこにでもいるタンポポのような―― 「その血を見て、閃いた。これを利用して、全人類に力を発現させればいい、とね」 「……毒、と貴様は言ったが?」 「良薬も過ぎれば毒になるって言うだろ? 毒も薄めりゃ薬なのさ。当然、耐えきれない奴も出てくる。そうすりゃ自壊して死ぬね。耐えた所で、ある時点で限界が来る奴もいる。暴走するだろうよ。そうなったら俺も知らん」 「耐えられ、適合する者も出てくる、と、言いそうだな」 「頭が良いと助かるよ。説明の手間が省ける。世界中のあらゆるシステムは、嘗てない人類のミューテーションに耐え切れず崩壊を起こすだろうし、その混乱と騒乱の度合いは、戦中の比じゃないだろう。それで良い。間違ってない。選別、なんだよ。その段階は」 ――。 「選別に生き残る人間は僅かだろう。人間と言う種族が存続出来る、最小限度、辛うじての数しか生き残れねぇんじゃないかな。残った適合者どうしで、子が生まれる。特殊な能力を授かった適合者がセックスをし、生物濃縮とその遺伝子を引き継いだ子供がね。そうして、少しづつ脳と身体が無理なく進化して行き、人と言う個体は強くなる。そしてそれは、社会と言う枠組みに頼られない在り方を人が得られるようになる。そしてそれは、人の歴史に影みてぇに付きまとっていた、悲しみや争いからの脱却を意味し――」 笑みを浮かべ、皮下は言った。 「そこで、平等と平和が達成される。誰もが等しくゼロスタートから始めてそこから進化して行ったからこそ平等で、誰もが特別な能力を持つからこそ平等。そして、争いの根源たる社会そのものに頼らず生きて行ける強い人類だからこそ、平和。そこで初めて、真の世界平和が達成される訳だ。誰もが皆綺麗に咲き誇る桜になれる。平等に価値が0だった時代から、平等に誰もが最上の価値の約束された時代になる」 「気の遠くなるような話だ。その段階まで至るまで、人類が存続しているかも危うい」 「だから、俺は、種を撒くだけに過ぎない。恐らくその『地平』に至った人類を、俺は見る事が出来ないだろうね。少々、悔しくもあるが」 ――そう、タンポポみたいな……普通の存在になりたい―― 「人は枯れ木だ。その枝の先には花もなければ葉の一枚もなくて、ただ大地に突き刺さってるだけの、死に行く樹木だよ。人類の未来の暗示にしか、俺には見えない」 「そんな奴らに――」 「俺が綺麗な花を咲かせようって思ってね。ハハハ、ちょっとした花咲じいさんだよな、俺」 冗談めかして口にする皮下の言葉に対し、大和は、冷ややかだった。 感情が揺れ動いてる感じがまるでない。淡々と、目の前の狂人の話を、聞いていただけのような。小鳥の泣き声でも、セミの鳴き声でも、聞いているような。そんな素振りだ。 「優れた力には報いがなければならない。平等は、私の理想に反する」 「アンタが強いから言える言葉だぜ、それ。アンタのその財力も、恵まれすぎてるその才能も。まぁそちらの努力を否定するつもりはないが、天与のものも、あるだろ?」 「今の地位にしがみ付きたいから、人類の格差を認めている、とでも? 成程、そうも見られような」 語るまでもなく、大和との持つ権力も、財閥が保有する資産の数も、数値化が困難なレベルのグレードを誇る。 金持ちの中の金持ち、権力者の中の権力者だが、それと同時に、身体能力や頭脳と言う面でも桁外れており、およそ人間が理想とするあらゆる物を、全て彼は手中にしていた。 その中には実際に彼が努力せずに得たもの、つまり、先代から引き継いだだけのものもある事は嘘でもない事実だ。大和が、世襲で何かを引き継いだ側面がある事もまた確かなのだ。 だからその、引き継いだものを失いたくないから、人間との間に生じる格差を肯定しているのだ、と見られるのは、何も間違いではないし、それが普通であろう。大和自身、そう見られてもおかしくないな、と思っているレベルなのだ。 「私を殺せると思ったのならば、存分に殺してみるが良い。今の地位から引きずり下ろせると思ったのなら、試してみるが良い。掲げる理想と信条の故、その行為を否定はしない」 「面白れ~。アンタが聖杯戦争の参加者なのはとっくの昔に知ってたがよ、掲げる理想が全然予測出来なかったんだわ。これを機に、お聞かせ願いたいものだな」 「実力主義と、これを常識として是認する、人類全体の意志改革」 大和の返事もまた、一切の淀みがなかった。 言葉の迷いのなさは、彼が聖杯に懸ける理想と夢、それに取り組む真摯さの証明でもあった。 「身分、性別、年齢……。貴様の言ったような、差別や区別の温床たる要素は全て撤廃する。その上で才能ある者、力のある者が上に成り上がり、仕組みを作り出す側に至れる構造。それこそが、私の理想」 「そちらが爺さんになったら、どうするんだい? 峰津院さんよ」 「歳は言い訳にならんよ。老いたる神は、追放されるが定め。時が来れば、私もそれに倣う時があろう。それで良い。理想の世界だ」 「……そっかぁ」 比類なき程に、シンプルな世界だった。躊躇いも何もない。本気の語調で、大和は語っている。 力を持つ物が偉い、才能のある者が尊ばれる。今の世界構造でもそう言う面はあるが、大和の理想はそれを純化させた世界なのだ。 正真正銘、完全なる実力主義なのだ。力があれば、家なき身分からでも成り上がれる。才能があれば、年齢の分け隔てなくトップのポジションに行ける。 それを邪魔する者は一切いない世界にしたいのだ。その世界に於いては、兵力を兵力で駆逐し、その立場に収まっても誰からも恨まれない。 力ある者の立志を邪魔する政治的な力学もなければ、新たなる富める者の誕生を望まないような経済学的な構造力学もまたない。 なれるのならば、なって良い。覇を示したいなら、示せば良い。まさに完全かつ完璧な実力主義。それこそが、峰津院大和が理想とするアルカディアなのであろう。 「ま、俺もよ。掲げる夢が夢だからさ、仲良ーく、上手くやっていこう、みたいな思いもあったんだけどね。聖人君子じゃねーんだ、無理だったわ。俺、アンタの事、嫌いだぜ」 「奇遇だな。私も、貴様については、蜘蛛とは別に、蹴散らさねばならない相手だと考えを刷新した」 「おっと、其処だけは意見が一致してるんだな。ハハ、良くある事とは言え、世知辛いねぇ」 大和も、そして皮下も、場違いな程柔らかい微笑みを浮かべて始めた。 浮かべる表情の柔和さと、反比例するように、場の空気は、倍々ゲームのように重みを増していき、加速度的に鋭さを得て行く。 空気のスイッチが、入れ替わる。話し合いと言う穏やかな場所ではない。聖杯戦争の敵対者どうしとして、行うに相応しいものへと、雰囲気が、空気が。入れ替わって行くのを、肌で二人は感じ取っていた。 「んじゃま、そうだな――」 「ああ、そうだな――」 旧友同士、互いに交し合うような軽いやり口でそう言いあった、次の瞬間―― 「死ねや」 「死ね」 溜めていた殺意を、2名は爆発させた。 先に動いたのは、皮下の方だった。 今も麦茶の入ったグラスを摘まむ右手。その手甲から、黒曜石(オブシダン)に似た艶と色が特徴的な、棘のような物が凄まじい速度で大和に向かって延長して行く。 物を握っているから、攻撃には転ぜられない、そんな意識を利用した不意打ち。クロサワの持つ、金属細胞の力を保有する皮下は、身体の至る所から、 サイズ可変、鋼を切り裂き鉄壁を貫く武器を、如何様な形にでも創造する事が出来るのである。 ――その、比類ない硬度を誇る、クロサワの黒槍が、パァッ、と、その強度の触れ込みが嘘八百だと錯覚してしまう程に、脆く砕け散った。 「おっ?」と反応する皮下。崩れ方が見える。それは物理的な強い衝撃を受けて砕かれれたと言うよりは、風化したと言う方が相応しい壊れ方で、 砕かれた槍の破片とも言うべき黒色の粉が、風に舞う煤のように、室内を舞い始めたのを見た。原因は、ハッキリしている。 峰津院大和の左手に纏われた、アメジスト色の、炎のような何か。それを纏わせた左腕で槍を払った瞬間、御覧の通りの結末を、クロサワの武器は辿った訳だ。 「ここは腐っても病院だったな」 それまでソファに座っていた――金属細胞の槍を砕いていた状態でも、なお――ままの大和が立ち上がり、後ろ足にソファを小突いた。 その軽い動作だけで、ソファが紙みたいに吹き飛んで、そのまま、応接室の入り口のドアを塞ぐ形で縦に転がった。少なくともこれで、余人は入って来れない。 「貴様の死亡診断書は私が直々に書いておいてやる。光栄に思え」 一部の高位悪魔のみが使用を許される、万能属性の魔術。 広く人間世界に知られる名を、『メギド』と呼ばれるその魔術を、大和はその手に纏わせたのである。槍を破壊したものの正体こそがこれであった。 そして、この纏わせたメギドを、発散と言う形で解放すれば、どうなるのか。容易く、皮下医院は消滅する。それこそ、柱一本、土台一欠けら、余す事無くである。 「ちと、これは分が悪いな」 大和の方に目線を注ぎ続けながら、皮下は思案を巡らせ――決断した 「カードを切るか」 そう言った瞬間、まるで渦潮のような黒い何かが、部屋中に敷かれたカーペットの、その更に一枚上に生じ始めたのである。 大和も皮下も、地に足着いている、と言う実感を失い出し――いや、実感どころじゃない。事実、空中に放り出されたに等しい状態になった彼らは、その渦の中に、落ちていった。 「むっ……」 回りくどかったが、遂にやったな、と大和は思った。 地脈と霊地の管理は、峰津院家の十八番。この病院を見た瞬間から大和は、その地下空間に、途方もない何かを飼っている事を看破していた。 空間の広さは皮下医院に容易く百倍はするであろう超広大な空間を、この世界の時空とはまた異なる時空に折り重ねて隠蔽する形で、 皮下が引き当てたであろう何者かは隠蔽していたのである。此処が本丸である事は間違いない。余人に見せられぬ何かの全ては、其処に隠れているのだろう。 そして、何かあれば、其処に大和を引きずり込むであろう事もまた、彼は理解していたのである。それが遅いか早いかの違いでしかなかったが、存外、遅かった。大和からすれば、此処からが本番なのだ。話し合いで解決するなどとは思ってない。此方に不利益を被らせる輩には、死を与える。皮下の行動はまさしく大和の聖杯戦争のプランに対し障害となる物であり、彼の与える死の大槌の範囲に、皮下の頭蓋はあったのである。 タッ、と、数十m程の不快な浮遊感を堪能した後、大和も皮下も着地。 皮下は元が、夜桜の血の影響で人間の括りを超越している為、その高度から着地しても問題はなく。 大和の方は、魔力によって身体能力を強化している為か、問題はない。受け身を取り損ねて死ぬ、と言う結末は、2人には無縁であったのだ。 「――ほう」 左手に纏わせたメギドの炎を霧散させ、大和は嘆息する。 一面畳張り、壁に掛けられた提灯、昼のように明るいその空間。漂う酒の臭い。 旅館などにあるような、和風の宴会場のような場所であろうかと大和は考えた。それにしても広い空間だ。 天井の高さだけで、何十mとあろうかと言うもので、ビルの三、四階建て以上は容易く超えていた。部屋の広さにしても凄まじく、四方数百m以上は優に下らない広さなのだ。 サッカーやラグビーなどの、フィールド競技だとて容易く行えそうなその空間は、意匠は兎も角、広さについていえば、伊達や酔狂で設定したものじゃない事を大和は一瞬で理解した。 ――それは、目の前で胡坐をかき、直径二mはあるであろう巨大な盃に入れた酒を、グビグビと音を立てて飲んでいる男に合わせた、部屋作りなのだろう。 「成程。貴様の自信は、目の前のサーヴァントによるものか」 酒を飲むサーヴァントの側に佇む皮下を見て、大和は得心が行く。 何よりも目に付くのはそのサイズだ。皮下のサーヴァント、ライダーのクラスで召喚されたそれは、人類にはあり得ない体格の持ち主だった。 人間と言うものは、地球の重力の大きさの都合上、あるサイズ以上の身長を越えて、産まれないのが通常である。その通常が、ライダーには全く通じていない。 何せ胡坐をかいて座っているその状態でも、既に大和が見上げるしかない大きさなのだ。目測だが、この状態でその大きさは5mを容易く超える。 控えめに言ってこの体格の時点で、目の前のサーヴァントは理屈を抜きにした完全な強者なのだが、次に目を引くのがその身体つきだ。 直立すれば9mはあろうかと言うその巨体には、てっぺんからつま先まで。巌か鋼かと見紛うような凄まじい筋肉がみっしりと凝集されていて、 この身長に満遍なく搭載されているこの筋肉と、考えられる体重をフルに攻撃に用いれば、それを叩き込まれた相手は如何な結末を辿るのか、容易に想像が出来てしまえる程であった。 だが、体格よりも、大和の興味を惹起させたのは、ライダーの側頭部から生える、巨大な角だった。 水牛に似たその立派な角は、雄弁に、彼が人間以外の存在である事を物語るファクターであり、一目見ただけで彼のイメージを、『鬼』に近しい何かだと固定させる理由そのものだ。 巨躯や魁偉を越えて、巨人か小山の域に達するその巨大な体格。そして、肉体から発散される、暴威とも、覇気とも取れる強烈なオーラ。 この男の前では、鬼も悪魔も、阿諛追従の腰巾着、御機嫌取りに回るだろう。大和には解る。目の前の男が――カイドウが正真正銘、この聖杯戦争の『キングピン』となるであろう存在の一人である事を、その霊性から見抜いたのだ。 「……ウォロロロロロ。正直、驚いてるぜ。皮下」 「何がよ、総督」 「目の前のガキ、おれを恐れてもねぇ。予選でぶっ殺したサーヴァントですら、見ただけで腰砕けになる奴が居たってのに、こいつはマスターの身なのに身動ぎ一つしねえ。帝王の器だ」 そもそも真っ当な神経の人間は、カイドウの持つ常識を逸脱した身体つきを見れば、その時点で立ち竦むばかりか、呼吸すら忘れる程の恐怖に陥る。 サーヴァントレベルであっても、この存在にはどんな武器を持ち出しても勝てる筈がない。そうと思い込ませる程の、意識に対する攻撃を常に視覚的に行っている状態に等しいのだ。 予選でも、本戦でも。 カイドウの恐るべき相貌を眺めた者は、その時点で、止まらぬ震えに苛まれる者が多かった。人によっては、見ただけでサーヴァントに、撤退の命令を出す者もいた。 それが当たり前の存在なのに、大和は、カイドウと真っ向から目線をぶつけ合っている。それだけじゃ、ない。 目の前で、『カイドウが覇王色の覇気を放出しながら睨み付けているにもかかわらず』、大和は堂々とした態度を貫いているのだ。 覇王色の覇気の直撃を受けて、無事に自我を保てているマスターは、これで二人目。先の一人は、意識を何とか保てていた、と言うだけで指一本動かす事が出来なかったが、大和は違う。意識を保てているばかりか、あろう事か腕を組み始め、不遜な態度でカイドウを見上げ始めたのだ。 「威圧に立ち竦む程度では頭から喰らわれるのでな。脅しに対する術は、心得ている」 「面白れぇ。小僧、良いぜ。名前ぐらいは覚えておいてやる、言ってみろ」 「下郎に名乗る名などない」 無視。大和はカイドウの気配りを、バッサリと切り捨てた。 その瞬間、爆発するような殺意がを荒れ狂った。子供だとて、この空気の変わり方は即座に悟るだろう。 風を伴わぬ、音を生じさせぬ嵐が、宴会場に吹き荒れているようなものだった。そして事もあろうに、その殺意の奔流は、カイドウからのものではない。 寧ろ彼の方は、凪。静かに酒を飲んでいるだけであった。怒気を解放させている物の正体、それは、カイドウと大和らが佇んでいる地点から、離れた所に存在する、閉じた襖であった。 ――そしてもっと近くには、 「総督、殺しても良いんだよな、こういう時は」 胡坐をかいているカイドウの左右には、これまた、カイドウに勝るとも劣らぬ三人の巨漢が佇んでいた。 勿論、3名ともに巨漢と言う言葉ですら烏滸がましい巨人である。古代ギリシャの彫刻者は、彼らを指してこう言うであろう。ギガース、と。 カイドウに対し抹殺の許可を訪ねたのは、彼からみて右の場所に佇む、漆黒のレザーで誂えられたダブルスーツを着こなす、これまた黒いヘルメットにマスクを被った男である。 背面から炎を噴出させるその様子はさながら不動明王の仏像の様で、であれば腰に差している大和の身長以上もあるあの刀は成程、倶利伽羅利剣か。 ただ者ではない事を、大和は見抜いている。恐らくは、あのライダーが全幅の信頼を置く部下の一人だと、当たりを付けていた。見立ては、正しい。大看板の一角、百獣海賊団最強の一人である、火災のキングを、大和は正しく評価していた。 「まぁ待てよ、キング。今は若造の大口程度、一度ぐらいなら許してやれる気分なんだ」 「総督が、そう仰るなら」 不承不服と言った様子で、小山の如き巨体を誇る、長く伸ばした金髪を後ろにまとめ上げた男が言った。 まるで象の牙を思わせる意匠が取り付けられた面頬を装着しているこの男の名は、ジャック。旱害の名を冠する、大看板の一人。カイドウの海賊団を代表する、顔役でもある男だ。 「小僧。お前だな。この地の霊地を抑えてるって言う、強欲な野郎は」 ――海賊に強欲とか言われるとか世も末だな……―― 率直にそんな事を思う皮下だったが、ぐっと堪えた。 「中々の地獄耳だな。そうだと言ったら、どうする?」 「分かち合おうじゃねぇか、なぁ? そうすりゃテメェの安全はおれが保証してやっても良いぜ」 驚いたのは、誰ならん、大看板の三人と、襖の先で待機している、飛び六胞及び真打の面々達だった。 分かち合う、と来たものだ。宝は総獲り。海賊にとっては、況して、海賊達のハイエンドであるカイドウにとってすれば、 利益は全部ウチの物と言う考えは、骨身に染みた常識だ。宝は山分け、半分こなど、思っていても絶対に言わないと、誰もが信じていたのである。 その男から、そんな言葉が口から飛び出してくるとは……夢にも、彼らは思ってなかった。 最悪の酒癖、刹那的な快楽を求める性格からも誤解されがちだが、平時のカイドウは極めて頭がキレる、冷酷な男である 計算高く、したたかで、目的達成の為には何年も己の心を悟らせぬ、高度な政治力をも併せ持つ、文武に長けた怪物なのだ。 そうでなければ、数千名からなる大海賊団の首魁など到底名乗れない。そしてその知略は、海の上、船の上のみで発揮されるものではない。 ワの国影の支配者として20年以上も君臨していた逸話からも分かる通り、陸(おか)の上の政治と言う意味でも、カイドウは卓越している。この要所を抑えればどうなるか、何処に対してどんな仕打ちをすれば効率的なのか。彼にはそれが、直ぐに解るのだ。 今でこそ、カイドウは皮下医院の地下と言う空間で、手筈を整えると言う手段に甘んじていたが、初期のプランではこうではなかった。 東京23区に存在する、霊地即ち、ある程度の魔力の供給を可能とする、レイ・ライン。当初はこれを抑え、其処から供給される魔力を以て、軍備を急速に整える算段だったのだ。 理論上、当初予定していた霊地を抑えていれば、聖杯戦争の本開催日、つまり今日には、東京都の至る所に、十全の状態の真打・飛び六胞・大看板の面々が、カイドウと共に暴れまわっていた計算であったのだ。 だがそうはならず、今日までずっと雌伏の時を過ごしていた訳は、その計算が捕らぬ狸の皮算用に終わってしまった事を意味する。 単純だ、既にカイドウらが予定していた複数の霊地は、全て、峰津院財閥の手による管理下に置かれていたからだった。 カイドウ自身もこの報告を受けた時は、かなりのやり手がいる、と即座に思った。 本戦開始前に度々起こっていた、鬼ヶ島から遠征し、戯れにサーヴァントを葬り去っていた、あの外征。あれは、酒に酔ってやった事もあるが、それ以外。 素面でやっていた時もある。単純だ、峰津院財閥管理下の霊地を下見に行って、『同じような魂胆の予選参加者とぶつかってしまった』、と言うある種の玉突き事故めいた事もあるのだ。 そのまま流れで、霊地を襲ってやっても良かったのだが、その時の皮下の魔力プールの観点から、直ぐに取りやめ――そうして、今日に至ると言う訳だ。 そして今こうして、霊地の管理者を見て、何とも細い若造が出てきやがった、とカイドウは思った。 だが、身体から発散される気風や、瞳に漲るその意志力は、峰津院大和とは強者である事を如実に教えていた。 「誰が、何を保証するだと? 耳を疑って、聞いてなかった」 「テメェだって楽に、確実に、聖杯戦争って奴を勝ち進みてぇだろうが? 強者って言うのはな、何時の時代も、反発しあってるようで手を組んでる事があるもんだ」 これはある意味で事実だった。 あれだけ反目しあっているように見えたカイドウとビッグマムも、手を取り合ってワの国で戦っていたし、そもそもの話、 電伝虫で連絡を取り合える程度の仲は保たれていたのだ。本当に二人が仲が悪かったら、そもそもそのホットラインを断っていたであろう。 強者とは看板が大きい。その価値も比類ない。その掲げた看板が大きい者どうしが戦えば、それは最早戦争である。何も残らないどころか、勝者が何も得られない事もある。そんなリスクがあるから、強者と強者は牽制をしあうのだ。 大和は、カイドウが聖杯戦争本開催以降に見て来た、どの参加者よりも、手を組むに値する人物だった。 霊地を確保していると言う事実が勿論大きいのだが、何よりも、この胆力が良い。正直な所、道化を気取る割には心に余裕のなかった、破戒僧崩れのあのアルターエゴよりも余程信頼出来るのだ。 「他所を当たれ」 大和は素気無く、切り捨てた。 「騙す相手は選ぶのだな。後から貴様が私を出し抜こうとするなど、見抜けないとでも思ってるのか?」 カイドウの性根は、略奪と暴虐である事を、大和は即座に見抜いている。 悪魔との交渉によって磨かれた、人を見る慧眼は、正しい形でカイドウの本性を見抜いている。この男とは、実力とかの面以上に、信頼と言う面で組むに値しない。 「だってさ、総督」 「……まぁ、解ってた返事だ、皮下」 盃の酒を、其処でカイドウは一気に飲み干してから、立ち上がった。 ――やはり、巨大い(デカい)。9mを越えて、10mはあろうかと言うその巨体は、カイドウ自身が発散させる抜山蓋世の気力もあいまって、 山脈が意思を以て立ち上がったようにしか見えなかった。直立するだけで、この威圧よ。 「大和、って名前なんだよな。こいつァ」 「そ、峰津院家の現当主、峰津院大和さ」 と言う皮下の返事を受けて、カイドウは、クツクツと忍び笑いを浮かべる。 それは、勘当して家出してしまった、馬鹿息子の事でも思い出すような顔で――。 「大和……ヤマトか。その名前との縁はつくづく腐ってるな、おれは」 カイドウは、己が保有する宝具・鬼ヶ島の中に於いて、唯一再現されていないドラ息子の名前を口にしながら、ゆっくりと。 眼下の大和を見下ろしながら、威圧も露わな語調で、判決を告げるように言った。 「おれが、『どうだ?』って持ちかけたら、此処では首を縦に振るしかねェんだよ。小僧」 「残念だが、私が否と言えば覆りようがなく否なのだ」 「ムハハハハハ!! この鬼ヶ島で、能力者でもねぇのに此処まで意地を張り通せるなんて、良い度胸だ!!」 そう言って高らかに笑うのは、キングの近くで佇んでいた、6m長の背丈を持った男だった。 ジャックやキングと違い、この男の場合は鍛えている様子が見られない、肥満体のような男だ。 サングラスを掛け、葉巻を加えるその様子はまるで、カートゥーンの中に登場するコミカルなギャグキャラクターだが、実態は違う。 疫災の名を冠するこの大男は、クイーンと呼ばれる百獣海賊団の大看板。幾人もの海賊や民草を、自らの非道な人体実験で弄んだ、非道の中の非道、悪魔の名が最も相応しい人物だった。 「なあ船長、コイツの身柄は俺に任せてくれないか? 頑丈そうなデクは何体いたって良いからな!!」 「ウォロロロロ……クイーン。お前に預けるのが一番良いが、この小僧の魔力は中々優れてる。鬼ヶ島の顕現の為に、コイツの魔力を上手く搾れるような実験を考えておけ」 「マスター、サーヴァント。共に、話し合いが決裂してしまったな」 他人事のように、大和は口にする。 「今更、後悔したって遅いんだぜ、坊主。テメェの立場って奴を、よく認識しておくべきだったな!!」 と、口にするクイーンに対し、不敵な笑みを浮かべながら、大和は言った。 「そこの皮下と言う男については論外だが、サーヴァントならば利用価値があるやもと、一応は考えていた。だが話してみれば、骨の髄までの略奪者と来た。これでは骨折り損だな。顔を見た瞬間、そこのマスターを殺しておくべきだった」 「こっわ……そんな事思ってたのかよアンタ。……って言うのも、もう強がりだよなアンタの場合。サーヴァント、鬼ヶ島にいねーもんな」 鬼ヶ島は、皮下医院の地下室に展開されている空間、と言う訳じゃない。 皮下医院の遥か地下。下水道や地下鉄が通っている場所よりも更に地下の空間、その場所に展開された異なる時空であり、そもそもの話 界聖杯内の東京には存在しない。別の空間を隔てた、異なる次元に隠されているのだ。カイドウの話によれば、大和の引き当てたサーヴァントは、未だに皮下医院にいると言う。 要するに、取り残されている形である。時空を越える手段がなければ、能動的に、この鬼ヶ島にはやって来れない。そしてそんなサーヴァントは、いるものじゃない。 普通は、この時点で、チェックメイトなのだ。 ――――――峰津院大和の引いたサーヴァントが普通留まりのサーヴァントであったのなら。 「……もう良い。来ても構わんぞ、ランサー」 そうと、大和が告げた瞬間、彼から二百m程離れた背後の襖、その奥から、凄まじいまでの悲鳴と絶叫が鳴り響いた。 それに対して何かと反応し、大看板及びカイドウが構えたその瞬間、襖が千々に切り刻まれ、無数の破片になって破壊された。 「馬鹿め。あんな寂れた施設など、余の一撃で破壊していれば良かったものを」 襖の先に広がっていたのは、血の海。内臓の山。死体の、河。 ある者は車にはねられた様に身体がぐちゃぐちゃになっていて、ある者は無数に身体を分割され、またある者は首を刎ねられて……。 多種多様な死に方をしているウェイターズやプレジャーズ、ギフターズの死体の最中で、大和の引き当てたランサー、黒衣の偉丈夫ベルゼバブは、鋭い目線をカイドウらに投げ掛けていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「下らぬ雑兵共を、せせこましく準備する手合いか。さぞ退屈な相手だと思っていたが、予想が外れたな」 凝った作戦ではなかった。 皮下とカイドウの主従は、目下大和らが追跡中の、蜘蛛とは関係がない事は、事前の調査で分かっていたのだ。 財閥関係者に何らかの形で接触して来た者の素性には、皮下医院の入院歴も、親しい縁者を調べてみても彼らと接点がある者も。いなかったからだ。 大和の部下に危害を加えたのは、確かに怒りはあるが、相手の性格次第では、利用してやっても良いと。大和は判断していたのだ。 もしも、交渉が決裂したら、殺して良い。大和はそんな提案を、ベルゼバブに持ち掛けていたのだ。 そして結果として、マスターもサーヴァントも、利用に耐えない。組むには危険性が高すぎる。そうと大和は判断。 そうして、皮下医院で霊体化して退屈していたベルゼバブに、告げた。来い、と。それを受けた瞬間、ベルゼバブは空間を引き裂き、大和らがいる座標を特定。 其処目掛けて瞬時に転移。転移先はウェイターズやプレジャーズ達の詰め所の一つで、鈍った身体を動かす為、手始めに彼らを虐殺。 また彼らの魂を喰らう事で、魔力も余剰に喰らい、運動を終え――そうして、今に至る訳であった。 「混ざっているな、貴様」 大和達の方に歩み寄りながら、ベルゼバブは言った。ドラフのオスに、似ている。カイドウを見て率直に思った事がそれであった。 ただ、屈強な体格で知られるドラフが、痩せた子供にしか見えない程、カイドウの方が巨大だ。それこそ、比較する方が酷な程に。 カイドウ、キング、クイーンにジャック。自らも星晶獣のコアを取り込んでいる人物であるから、ベルゼバブには解る。 彼らは混ざっている。元は人間……にしては少々サイズが規格外だが、それでも、確かに生物学上は人間だったのだろう。 それに、何らかの獣の因子が、極めて無理のない、調和の取れた形で混ざっている。そして、三人ともその獣の因子と、元来の人間の因子を、高いレベルで磨いていた。 とは言え、ベルゼバブにしてみれば、カイドウ以外の三人は、取るに足らない小物。羽虫も同然である。事実上、ベルゼバブの脅威足り得るのは、カイドウただ一人だけ。ベルゼバブは、冷静に戦況を分析していた。 「成程な、この小僧が自信満面なわけだ」 カイドウもまた、目の前に現れた黒衣の男の戦力を、冷静に判断していた。 見た目は、ハッキリ言って、一般人としては兎も角、自分達と比較した場合何と小さくて貧相なんだと思った。 背丈に至っては、百獣海賊団の幹部の中でも小柄な、うるティと殆ど大差がないではないか。 だが、実態は全く異なる。 カイドウと、大看板三人は、見聞式の覇気と呼ばれる、探知・調査の為の力を自在に操れる。これを以て、ベルゼバブの戦力をこうと判断した。『別格』と。 最低でもベルゼバブの力は、四皇並か、それ以上に匹敵する怪物だ。百獣海賊団の中に於いて、明白に、ベルゼバブと渡り合えるのは、カイドウただ一人だけ。 大看板レベルではよくて足止め、それ以下の場合では、肉の盾にもならない。それが、この場にいる4体の大御所の判断だ。 皮下が、此方に念話でステータスを告げてくる。弱い要素が何処にもない。 嘗て、カイドウと対峙したあらゆるマスターは、彼のステータスを目視して絶句していたが、今度は同じような事をする番になるとは、思ってもみなかった。 ジャックとクイーンの額に、冷や汗が伝い始める。こんな怪物が、この世界で息を潜めていたなんて。 その思いはカイドウも同じだ。これだけの怪物、これだけの気性。抑え込むだけでも、骨が折れよう。労力も並大抵のものではない筈。 この狭い世界に君臨する怪獣、これを、今まで目立たせる事無く操っていた、峰津院大和の技量の卓越さに、カイドウも皮下も唸った。間違いも疑いもなく、この主従は、最強の一角だ。 「どうした。私にしたような協力の申し出を、ランサーにもして良いのだぞ」 「ふざけるな馬鹿野郎。こんな野郎おれだっていらねぇ。熨斗付けて返してやる」 カイドウはここに至るまで、数々の主従を引き抜こうとし、そして時には、向こうの方から同盟の提案を持ちかけられた事もあった。 彼が同盟を組む上での判断基準としているのは、その人物が『人の下で働いていた』かどうかだ。 アウトローらしくない考え方であるが、これは当たり前の基準であった。海賊も組織であり、況して百獣海賊団は何千名もの構成員からなる大海賊団である。 強い者が上を喰らえる、自由過ぎる気風がウリであったとは言え、最低限の法とルールは存在する。船長の命令を守れぬ輩は、いらないのだ。 カイドウ自身も、そして、あの自由かつ傍若無人を地で行くシャーロット・リンリンですら。 遥か昔、今の百獣海賊団よりも無法を極める海賊団だったとは言え、元は同じロックスの御旗の下で働き、あの船長の命令に従って動いていた時期があった。 つまりは、今は四皇と呼ばれる、海賊の頂点を極めたこの二名ですらが、昔の話とは言え、人の下で汗を流していた時期があったのは、間違いのない事実なのである。 ――一目で分かった。ベルゼバブは、誰かの下で働いた事がない。それどころか、人に頭を下げた事すら、ないだろうと言う確信があった。 生まれた時から頂点、それ以外は全て格下。釈迦は生誕したその折より、天上天下唯我独尊を口にしたそうだが、このベルゼバブは、まさにそれを地で行くメンタリズムだ。 こんな輩、部下にしてくれと言って来ても願い下げである。強さ以外の要点が、落第を極むる男だ。もう、この男とは、どちらかがくたばるまで、殺し合うしかないのだ。 「皮下、此処を出ろ」 「ですよねー、俺もそう思ってた」 カイドウは、鬼ヶ島が半壊程度に留められれば、安いものだとすら思っていた。 目の前のランサーは殺す。殺すが、この鬼ヶ島が無事で済むとは思ってない。どころか、最悪の場合宝具の一つが完膚なきまでに潰される懸念すら抱いていた。 直近で、機械の女のサーヴァントを自軍に引き込む事は出来たが、アレにしたとて叛意が隠せていなかった。期待は出来ないどころか最悪牙を剥く可能性すらあった。 此処が、峠だ。そうと、思う事にした。 皮下の背後の何もない空間に、ぽっかりと、黒い穴のような物が生じ始める。 その黒い穴は直ぐに、皮下医院の内部へと繋がり、ある種のポータルとなった。其処に目掛けて皮下が身を投げたその瞬間、ベルゼバブが動いた。 「あの羽虫を追って殺せ。余が此処を始末する」 そう言ってベルゼバブが念じた瞬間、大和の前方の、何もない空間に亀裂が生じ始め、其処から空間が、宴会場の風景の一部を移したまま、 無数の剥片となって砕け散り、穴が生じた。その風景が何かを映すよりも早く、大和は其処に身を投げたのである。 皮下が身を投げた、その3秒後程に大和が消え。 カイドウとベルゼバブが生じさせた空間の穴が、凄い速度で閉じて修復を初め、遂には、何事もなかったように元通りになる。 こうして、この場には、怪物のみが残る形となった。 「図体だけは立派な見掛け倒し共を、よくも集めた物だ」 「テメェ……!!」 激情したのは、ジャックの方だった。 ミシリ、と彼の筋肉が膨張によって軋む音が聞こえて来た。 空間が質量を伴い、重厚な殺意が発散される。血走ったジャックの目線には、強烈な殺気がこれ以上となく内在されており、木の板ですら貫いて穴をあけられてしまいそうな、恐ろしい凄味で溢れていた。 「失せろ」 その一言と同時に、ジャックの身体が、丸めたボール紙でも放り投げるような容易さで、吹っ飛んだ。 襖を突き破り、その向こうにいた雑兵達が、この世の終わりのような騒ぎを上げ始めた。「ジャックさんだ!!」「血を流してる!!」「信じられない!!」 その攻撃の正体を、キングも、クイーンも。掴む事が出来なかった。カイドウだけが、体重にして500㎏を越える大質量の大男を、時速二百㎞のスピードで吹っ飛ばした攻撃の正体を認識していた。 所謂、遠当てだ。離れた相手に、パンチやキックなどの衝撃を届ける技術。 サーヴァントであれば、これの実行は容易い。魔力を媒介にして、相手に衝撃を届けるだけなのだから。 だが、ジャック程の存在を、此処まで一方的に吹っ飛ばす攻撃となると、その練度には唸る他ない。 「おれに用があるんだろう、兄ちゃん。良いぜ、遊んでやる」 ゆっくりと、カイドウはベルゼバブの方へと歩いてゆき、その最中に、背負っていた物を取り出した。 鬼が持つ物は、相場が決まっている。棘の付いた金棒だが……カイドウの握るそれは、最早棒と言う次元を飛び越えて、巨大な鉄の柱だ。 長さにして6mを容易く超え、しかもびっしりと、鬼の金棒にはつきものだろう? と言うように、棘がビッシリと付随されていた。 八斎戒。それが得物の名前であり、宝具ではないが、カイドウの膂力と合わさる事で、その宝具をも粉砕してしまう暴威の具象そのものだった。 「手ェ出すなよ、キング。クイーン」 そう言う頃には、ベルゼバブもカイドウも、間合いだった。 加速度的に、二人の質量が増して行く。勿論、実際の重さが増えた訳ではない。増えて行くのは、存在としての重さ。威圧の、重さだった。 殺意は極限を越えた先に到達し、最早二人が佇むその地点は、完全な別世界そのもの。常人が入ればそれだけで気絶は免れず、 彼らの頭上を小鳥が飛んで横切ろうものなら、気迫に呑まれてその瞬間地面に墜落し、気死してしまうだろう。それ程までの覇気が、両名を取り囲む嵐となっているのだ。 これ以上の、ステージがあるのか? 誰もがそう思う程、まだ、重みが増して行く。これ以上進めば、二人は、この世に在りながらにして、この世のものとは思えない何かに――。 この世の一切の法則を受け付けぬ、特異点になってしまうのではないのか。そうと思ったその瞬間、動いた者がいた。ベルゼバブ――カイドウ。同時。 右手に握った金棒を、思いっきり横なぎにスウィングするカイドウ。 大ぶりな動作であるのに、恐ろしく早い。『雷鳴八卦』の名に違わぬ、稲妻のような速度の一振りを、ベルゼバブは、右足の回し蹴りで迎撃した。 ――誰もが、核爆発でも起きたのでは、と思う程の爆音を聞いた。 衝撃波と突風が、比喩を抜きに真実応接間を駆け抜ける。宴会場中の畳が空中に舞い上がり、撓み、曲げきれる限界を超えたのか、メキメキと音を立てて破断して行く。 クイーンとキング、大看板二名レベルですらが、衝撃波の強さに耐え切れず、十何mも吹き飛ばされた。 至近距離にいた彼らは、実力の故にこれで済んだが、彼らよりも更に遠くにあった襖は、衝撃波の影響で全て吹っ飛んだばかりか、 その先にいた飛び六胞や真打、それ以下の面々に至っては、衝撃波に耐えられず思いっきり、風に舞う木の葉のように吹っ飛んだ。 「こ、攻撃の衝突でこれかよ……!!」 クイーンのボヤキに対して、誰もがそう思った事であろう。 だが、真に目をむいたのは、舞っていた畳が落下し始めた時だった。皆、「あっ」と声を上げた。 カイドウが、仰向けに倒れていた。誰もが、信じられない物を見るような目で、彼の様子を見ていた。 あの男が、倒された。カイドウの頑丈さは、百獣海賊団に所属している面々なら誰もが知っている。一万mも上空から落下してなお、流石に少し痛い、で済ませた男が。 金棒を用いてのスウィング、その衝突で、体勢を崩してしまった。疑いようもない、異常事態だった。 「……血を流す事は、あったけどよ。此処まで明白に倒されたのは、お前が始めてだぜ」 直ぐにカイドウは立ち上がり、あらぬ方向に目線を向けた。ベルゼバブが、カイドウの近くにいない。 黒衣のランサーは、よく見れば、いた。カイドウから二百と七十m程左の床に、片膝をついているではないか。 よく見ると、剥き出しになった畳の下の板張りが、燃え上がっていた。それが、ベルゼバブがカイドウの雷鳴八卦を迎撃した時の威力を殺しきれず、吹っ飛ばされ、 この勢いを殺す為に両足で思いっきり地面と接触。その摩擦を以て急ブレーキを掛けた跡だと、知る者はカイドウ以外に誰も居なかった。 「つっても……。如何やらお前も、『血を流すのは今が初めてだった』ようだな」 ゆっくりと立ち上がったベルゼバブ。カイドウの、言う通りだった。 ベルゼバブの足首を、赤い液体が伝っていた。ベルゼバブは、この聖杯戦争に召喚され、初めて、血を流したのだった。 「此処は……地下だったな。丁度良い、墓穴を掘る手間は……ないようだ」 其処まで言った瞬間、ベルゼバブが纏っていた黒衣のローブが、消滅。 ローブの下の筋骨たくましい姿を強調した、動きやすい服装が露わになる。その――瞋恚に燃える瞳が特徴的な、美貌もまた。 「――貴様と、その郎党全てを殺戮し、この場を貴様ら羽虫共のカタコンベにでもして呉れるッ!!」 鬼ヶ島にとって、最も長い一日が、カイドウから放出された覇王色の覇気と、ベルゼバブの両肩から展開された鋼の翼を以て、幕を開けたのだった。 →
https://w.atwiki.jp/ze799pir/pages/4.html
いやホント新型インフルはかかりたくない世の中ですから秋が近いんかな?。 「ヤベェ、ヤベェ…」なかなか興奮がさめない変態が落ち着くのに 時間がかかったが、用件を聞いてこっちが興奮した。 あと秋葉に行きたい嘆く、友人がいるらしく疲れた( ̄ー ̄)ノけど行きます。 それからうちの大学も出場する箱根駅伝が明日から 二日間開催するスポーツ頑張って優勝してほしい!! (・∀・)普通は赤のハズなんですけど…… 書いてあった内容が子供に見せたく雑誌などを、この中に入れてください。 とか騒ぎ立てても良かったのですが 「はい、ファッション誌や情報誌を云々かんぬん」 昨日私はこの世界にいながらにして居なかった、とか思うと楽しい。
https://w.atwiki.jp/ze799pir/pages/2.html
https://w.atwiki.jp/hshorizonl/pages/389.html
← それは、人の皮を被った何者か共の戦いだった。 新宿御苑である。普段は絶えず人の往来が活発で、平日祝日と問わず、多くの人々の憩いの場となっているこの公園は今や、 夕の光を一身に浴びながら、己が怪物性を発揮する人間共の危険な戦場と化していた。 皮下の左手から延長する、黒光りする金属質の槍――黒陰石で構成されたそれが、凄い速度で大和へと殺到する。 槍の伸びる軌道上に、鋼色の獣毛を持った巨獣、ケルベロスが立ちはだかる。金属性質として比類ない剛性を秘めている筈のそれが、 ケルベロスの獣毛に触れた瞬間、まるで初めから脆い性質を授かった金属でもあるかの如く、ポッキリと圧し折れてしまった。 ケルベロスの頭上を、今まさに飛び越えようとする黒い影があった。 夜の闇を切り取った様なブラックのロングコートを着流す、銀髪の青年。峰津院大和が、ケルベロスの背を蹴り、跳躍。 二十m程離れた皮下の下へと矢のようなスピードで向かって行き、メギドの魔力を纏わせた、胴回し回転蹴りを見舞おうとするも、 皮下は地面に対して腹這いになる事でこれを回避する。空中での回転蹴りを避けられ、今着地しようとしている大和。 この、隙となる瞬間を狙おうとする皮下だが、それが出来ない事を知った。真正面から、ダンプみたいな速度で此方に向かってくるケルベロスの姿を見たからだ。 グッと、両手を地面に合わせて、力を勢いよく込めて、跳躍。 腕の力だけで数m程の高さまで跳躍して、ケルベロスの吶喊を皮下は飛び越えた。 アオヌマの力を、宙を舞いながら皮下は開放。夏の夕闇が齎す、粘ついた湿り気を帯びた蒸し暑さ。それが、ゼロカンマ一秒経つごとに、信じられない速度で低下して行く。 33度、28度、21度、15度、8度、1度、-8度、-15度。気温の変化の速度が、自然界に存在するバランスを著しく無視している。 夏の気温から春の気温になったかと思いきや、一気に秋に下がり、冬になる。マウスのホイールで、適当にスクロールダウンして行って、 その数値が都度世界の気温になっているかのような、出鱈目な下がり幅だった。余りに急激に冷やされたせいか、地面には霜柱が生じ始め、御苑内部の池がスケートリンクの様に凍り始めていた。 今や気温は-40度。 瞳を開けていれば角膜が凍り付き、下手に呼吸すれば肺の中がシャーベットになる。 うっかり金属に触ろうものなら、皮膚とそれがくっついてしまい、皮膚がべろりと剥がれるのを覚悟しなければ離れられない事態になる位、過酷な環境だ。 その中にあって、大和も、勿論ケルベロスも、当然と言わんばかりにピンピンしていた。 大和の場合は、身体能力を向上させる強化魔術(カジャ)によって、身体機能を著しく向上させているからであり、ケルベロスの場合は、そもそもこの程度の気温では運動能力が損なわれすらしない。素で、平気なのである。 握っていた青いロングソード、ベルゼバブの居た世界に於いて、『フェイトレス』と言う銘を与えられたその一振りを、空に浮かぶ皮下目掛けて振るう。 すると、如何なる不思議の業か。フェイトレスの剣身と寸分の狂いのない長さと大きさをした、剣状の鋭い氷塊が、皮下目掛けて弾丸に倍する速度で飛来していく。 表皮と筋肉を、黒陰石とさせ、その上で、腕を交差させて放たれた氷剣を防御。踏ん張りの効かない空中での防御だ、皮下の身体が、ピンボールの弾の様に素っ飛んでいく。 「逃がさん」 空中を吹っ飛んでいる皮下目掛けて、大和が追走を始めた。 ケルベロスも、主に追随する。空中を無力に舞いながら、彼らのスピードをザっと計算する。おおよそ、ケルベロスの方は時速200㎞程。 大和の方は時速120㎞程か。本気でのスピードかは知らないが、十分過ぎる程の速さだし、皮下の目から見ても、バケモノ染みたスピードだった。 「冗談じゃねぇっての」 皮下はアカイの持つ能力を発動。 人体など一瞬の内に黒焦げにさせるレベルの火炎を放出する能力だが、今回はその応用。 足元から炎を勢いよく噴出させ、これをスラスターの様に用い、空中を滑るように、素早く移動をする。 とは言え、かなり無茶な使い方なのか、姿勢の制御がかなり安定しない。それでも十分だ。迫る大和から距離をとりつつも、何とか地面に着地。 両手を地面に付き、四つん這いの体勢と言う、かなり無様で隙だらけなポーズ。ケルベロスが、この着地の隙を縫って猛速で皮下へと迫りくる。 皮下の周りを取り囲むように、直径にして十数m以上もある、巨大な炎の渦が蜷局を巻いた。 アカイの能力の、本来的な使い方だ。敵味方の区別なく、容赦なく相手を焼き尽くす、火力の面で言えば虹花の面々でも最強の力だ。 摂氏にして、千度を超すこの火炎の中を、ケルベロスは、一切怯む事無く突き進んできた。獣毛に、焦げなし。敵意だけが、昂るだけの結果に終わっただけだった。 「うっはマジかよコイツら、少しは強さに慎みって奴を持てっての!!」 こちとらアル中を超えたアル中の機嫌取りつつセコセコ戦力整えてんのに、どうなってんだよ峰津院財閥はよ~~~~~!!!!!! と、ブチ切れの気持ちと、最早笑うしかない気持ちが同居して、色々と皮下はハイになって来る。 サーヴァントもバケモノならマスターもバケモノ、その上従えてるサーヴァントじゃない生き物もチート生物と来た!! 笑うっきゃねぇだろこんなの!! やけっぱちになりながらも、皮下の頭は冴えていた。 右前脚を振りかぶったケルベロスを見て、サイドステップを刻み、距離をとる。石臼の様な大きさの前足が、地面と衝突する。 直径にして三十mを超えるすり鉢状の浅いクレーターが、草ごと焼け焦がさせた地面に刻まれた。攻撃の凄絶な威力に、新宿御苑の地面が、緩い振動と言う形で反応した。直撃していれば、黒陰石で強度を底上げした身体でも、粉々だった可能性もある。 サイドステップを終えたその場所に、今度は大和が迫って来た。 手にした氷の長剣、フェイトレスの間合いに入るや、直ぐにそれを肩と腕だけの力で、コンパクトに横薙ぎにして来た。狙いは、胴体。 これを皮下は受けない。スウェーバックの要領で回避する。大和が武器として信頼している以上、その切れ味は間違いなく、 夜桜の所の次男坊が開発している武器に迫るか、上回っていると見て良い。再生能力が皮下には備わっているとは言え、この剣は冷気を操る。細胞の活動を停止する程の冷気を纏わせて真っ二つにされてしまえば、流石の皮下も死ぬしかない。受ける選択肢は、あり得なかった。 ――勝てねぇ~―― 皮下は勝負を既に捨てていた。 アカイの能力もアオヌマの能力も効いている様子はなく、クロサワの能力も通用するかは怪しい。 アイの能力を駆使して身体能力を上げてはいるものの、簡単に追随されている。ミズキの毒なら通用するかもしれないが、攻撃に当たってくれないし、 そもそもケルベロスに毒が通用するかどうかも解らない。ギリシャ神話に於いて、トリカブトの花はヘラクレスによって冥府から地上に引きずり出された、ケルベロスの唾液が大地に滴った事を起源としている。あの犬には毒も信用出来ない。 確かにこの勝負、峰津院大和を殺す、と言う形での決着は、今の時点では殆ど不可能に近い。 得体の知れない力を振るう大和もそうだが、彼にしてもケルベロスにしても、余力を相当残している。底が知れない。 総合的に判断して、今の段階では大和達を相手に、苦い勝利は勿論の事、痛み分けに持ち込む事すら出来そうにない。 「考えている事は手に取るように解るぞ」 鋭い目線を皮下に投げ掛けながら、大和は言葉を言い放った。 「大方、私との勝負を避け、御苑を派手に破壊する攻撃を行って、NPCの耳目を引くつもりなのだろう」 冴えてるな~こいつ、と皮下は感心する。 峰津院大和と言う参加者の最大の弱点は、峰津院財閥の当主と言う立場からくるその知名度だ。 元々、うら若き当主だとか言われていて注目度も高い上に、加えて隙の無いこの美形ぶりである。 イケメン当主だとか言って若年層からも持て囃されているし、良い意味でも悪い意味でも、大和の知名度はこの界聖杯内に於いて群を抜いている。 そのレベルでの超有名人、しかも各界にコネと権力を持つ大和が、今から無惨に破壊される新宿御苑の内部に一人でいたら、どうなるのか。 必然、NPCは勿論、聖杯戦争の参加者達の注目をも搔き集める事になる。下手をすれば、巷をお騒がせしている、神戸何某の一件を容易く上回るスキャンダルだ。 尤も大和の性格だ、NPCや他の有象無象の参加者が幾ら吠え立てた所で何の痛痒もなかろうし、情報の拡散にもメディアを操作して封殺してしまえる事だろう。 だが、時間は奪える。峰津院大和が、聖杯戦争に備えるための貴重な時間。それを、割く事が出来る。この点で、御苑を破壊するのは有用な作戦なのだ。 NPCが集まってしまえば、自動的に戦闘は中断せざるを得なくなる。……NPCが集まってるのにお構いなしに、彼らを巻き込んで破壊を行う手合いだった場合、いよいよデッドエンドになる訳だが、これはもう賭けなのだ。迷っている暇はない。 ――……アレも気になるしよ~…………―― 皮下には、この戦いを意地でも中断させたい理由があった。 新宿の夕空、炉の中にいるかのような橙色の空が広がる中で、ただ一点の空域だけ――魔界の空でも切り取って張り付けてみせたような、地獄の様相を見せているのである。 その空域だけ空の色は鳩の血の様に鮮やかに赤く染まっており、雲一つない夕空の中に在って其処だけに何故か積乱雲が立ち込めていて、稲妻を閃かせているのだ。 アレを初めて見た時、背中を嫌な汗がそれはもう伝ったものである。何せ位置相関的に言えば、あの空域の下には、皮下医院がある筈なのだ。 確実に、カイドウとベルゼバブが、何かを仕出かしていると見るのが正しい。元々界聖杯の東京に気まぐれに現れては、時に地区すら破壊する勢いで戦う程、 カイドウと言うサーヴァントには常識が通用しない。そんな事をやらかしても、大目に見ていた――見るしかない、の方が正しい――が、今回ばかりは話が違う。 何せ今カイドウと戦っているのは、アレに勝るとも劣らない強さを誇る、規格外のサーヴァントなのだ。 あのレベルの強さのサーヴァントを、東京都に現出させて、戦わせれば如何なる。 地獄と言う言葉が意味するものが、成就するに決まっている。この再現された東京が滅ぼうが別に知った事ではないが、この段階で悪目立ちし、 全ての主従に一斉に叩かれると言う事態は流石に避けたい。大和並に強いマスターの存在を否定出来ない以上、全てが敵に回った時本当に危険なのはカイドウではなく皮下だ。 何はともあれ、この場から退散し、大和を撒きつつ、病院の無事を確認した後、別のアジトに避難する必要がある。難度は高いが、やるしか道は残されていなかった。 こういう時、頼りになるのはアカイの力である。 心を昂らせると、彼女自身ですら制御出来ないレベルの猛炎を発生させてしまい、敵味方の区別なく焼き尽くしてしまうピーキーな力だが、 周りに一切味方がおらず、誰も気に留める事無く破壊を振り撒いて良いとなると、これ程便利な力もない。 アカイの力を利用して、新宿御苑の一切を、灰だけが降り積もる、憩いの場とは無縁の地へと変えてやる。そう思い、力を発露させようとしたその時であった。 ――――――――天地が逆しまになり、遥かな天蓋から巨山の一つでも地上に落下して来たような、激震と轟音が世界中に轟いたのは。 「何ッ……」 此処に来て初めて、大和の鉄面皮に驚愕の色が浮かび上がった。 皮下の視界には、あの大物に驚きの念を隠し得させなかった現象の正体が見えなかった。大和の目線の先、つまり、皮下の背後でその現象は起こっているのだろう。 今がチャンス、俺ってラッキー☆ ……そんな事を思う皮下ではなかった。そう言う気持ちも、確かにある。5%位の割合で。 残りの95%は、自分の背後で何が起こったのか、確認するのを心底厭う、ゲンナリとした気持ちであった。 「畜生、あのアル中総督がよぉ!! お恵み感謝するぜクソッタレが!!」 殆ど、ヤケクソそのものの勢いでアカイの能力を発動。 燃焼と言うよりは、最早爆発とも言うべき紅蓮の華が、御苑全体を包み込んだ。 ――皮下本人の思惑とは裏腹に、NPC達の目はこの爆発よりも、それ以前に起こった激震と轟音の方に向いていた事に気づくのは、果たして、何時の事になるのやら。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ それを出した、と言う事は、然るべき実力の者が見た場合、カイドウは間違いなく本気を出していたという事が一目で分かる。 百万人に一人、授かって産まれるか否かと言う天性の才覚、可視化されるカリスマ――覇王色の覇気。 その時代に於いて突出した傑物である事の証明である、この覇気を扱える者達ですら、生涯通して、覇王色の覇気を『身体に纏える』事を知らなかったと言う事例は珍しくない。 そして、知っていてもこれを実践出来る者は、もっと少ない。覇王色を扱えるようになる事すら、努力や気持ちでは如何にもならない、才能の領分であると言うのに、これを纏えるようになるには其処から更にそれ以上の才能と、経験が必要になるのだ。単純には覇王色を扱えると言っても、此処までの格差が厳然として存在する。 覇王色の覇気を纏わせた金棒を、鋼の翼で迎撃した瞬間、ベルゼバブは斜め上方向に、サッカーボールで蹴り上げたような勢いで吹っ飛ばされた。 インパクトの瞬間に、力負けないように踏ん張ったが、そんな努力を一笑するようなレベルで、一方的に、ベルゼバブの巨体は跳ね飛ばされたのだ。 その速度は、音。音速で吹っ飛ばされているにもかかわらず、大気摩擦にも、掛かる重力にも、ベルゼバブは平然としている。 音速移動に耐え得る身体を誇りながら――カイドウの一撃には、ダメージを強く受けていた。直撃した訳じゃないのに、この威力。 衝撃は胴体を強く打ち叩き、骨と内臓に強く鋭く響いた。衝撃が届く前に身体を微妙に半身にして、威力をある程度損なっていなければ、骨にひびが入っていた可能性が高かった。 ベルゼバブが1000m程上空まで吹っ飛ばされたその時、凄まじい速度で何かが此方に向かって来ているのを、彼は直接目視した。 それを見た時ベルゼバブは、巨大な青い長城が迫ってきている風に見えた。或いは、紺碧の津波が押し寄せて来るようにも、見えた。 ――それが、全長にして数百mもあろうかと言う、青い鱗を隈なくビッシリと生え揃えさせた、巨龍であった事を。ベルゼバブが理解したのは、間もなく直ぐの事であった。 そしてその青き龍が、タブレットで見た動画に映っていた、東京都に甚大な破壊を齎していた存在と同一の者である事も、合わせて理解した。 「丁度良い、探す手間が省けた」 元よりあの青龍は、殺す対象としてマークしていた。 理由は単純明快。学術的な興味によるものだ。ドラゴンの身体には、不思議な力が宿っていて、その力の恩恵に与った様々なものが存在し、語り継がれている。 龍の血を浴び無類無敵、一国の軍隊をたった一人で退ける戦士がいる。炙って喰らえば、魚獣禽鳥の言葉を聞き分けられると言う竜の心臓の存在が伝説として口伝されている。 そして、龍の骨や腱などを用いて作られる、神すら恐れ戦く魔性の武具。その武器は時に世界に災禍を齎す呪具扱いされ、時には平和の福音を約束する神器としても語られる。 目の前のドラゴンを殺した暁には、何が得られるのか。単純に興味があったのだ。 その肉を喰らえば、今よりも強くなれるのか。骨や牙から作られる武器は、己の振るう鋼の翼に近い働きを見せてくれるのか。興味は尽きない。 殺してみる、価値はある。ベルゼバブは、カイドウの事をそういう目でみていたのである。 吹っ飛びながら、一瞬だけ身体を屈ませたベルゼバブ。 グッと身体を伸ばし、その動作と同時に鋼の翼を羽ばたかせた、瞬間。爆発的な速度で、ベルゼバブは一気に上空へと飛翔する。マッハ、3。これを超える速度だった。 その速度で飛翔するベルゼバブを見たカイドウは、翔駆する為に用いている、身体に纏わせた嵐。 この嵐を爆発させるように吹き荒ばせ、その力を推進力にしてロケットの様に移動させている訳だが、その力を更に高めさせた。 速度が上がる。時速700㎞が、一気に1400㎞にまで跳ね上がった。異常な程の加速力だった。 物理的な制約の下で生きてゆかねばならない生き物が、生身で出せる遥か限界の速度での移動。 そして、有質量が数十㎏を越すもの達が、音速を超えるスピードで動いた結果、鬼ヶ島の象徴である髑髏のドームにまで、その衝撃波が届いた。 鬼の頭蓋骨を模した岩のドーム、その頭頂部の実に8割近くが、ソニックブームを叩き付けられて瞬時に崩壊。その瓦礫が、千mを容易く超える高高度まで巻き上がった。 大地に類する部分にまでその衝撃波は及び、まるで研がれたナイフで上等な肉に切れ目でも入れるような容易さで、大地に亀裂を無数に生じさせる。 『それだけで』済んだのであれば、どれだけ良かったか。 鬼ヶ島、と言う宝具は、幾度も説明されている通り、今この時点では『完成形』ではない。 この宝具が真に完成と呼べる段階に至る瞬間とは、潤沢な魔力を確保した上で、現実世界にその存在を流出させた時に他ならない。 今この瞬間、つまり、異次元に格納している段階の鬼ヶ島とは、島の耐久度の面ではともかくとして、現実世界に影響を及ぼせるか、と言う『概念的な実存力』については脆弱なのである。 結論から言えば、ベルゼバブとカイドウの度重なる、時空にすら影響を与える戦いの規模に、とうとう、鬼ヶ島を隠蔽する異次元の方が限界を迎えた。 何処までも飛翔しようとしていたベルゼバブとカイドウ、その進路上に巨大な空間の裂け目が生じた。いや、現れたのはその一点だけじゃない。 鬼ヶ島の在る異空間の空、その至る所に裂け目が生じたのだ。裂け目の大きさや形も様々なら、それ自体が生じている高度も一様ではない。バラバラだった。 裂け目の数は加速的に生じて行き、遂には、断裂と断裂の間にまた断裂が生じて、それらが繋がり合って一つの巨大な『孔』となってしまった場所もあるぐらいだった。 これがそのまま、鬼ヶ島全体に広がってしまえば、この場にいる全ての面々は、異空間だとか、虚数空間だとか呼ばれる、とにかく、 数学的に限りなく『無』に近い場所に放逐され数十万分の一秒の時間で消滅する所であったが――その危機は、当面、回避される運びとなった。 ベルゼバブと、龍体になったカイドウが裂け目に突っ込み、鬼ヶ島から姿を消した瞬間。 まるで揺り戻しの様に、あらゆる裂け目が消えて行ったからであった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――202■年8月1日午後0■時■7分35秒、東京都新宿区新宿3-24-3、新宿アルタ前に鋼翼のランサー出現。 以下、その挙動記録。 202■年8月1日午後0■時■7分35秒、都道430号線の交差点、その道路中央に、物理的に大地に生じている物ではない、トリックアートのように見える断裂が出現。 断裂からランサー、マッハ2.8で飛翔。断裂の出現地点を中心とした直径300m圏内に、音速の移動による衝撃波発生。 同範囲内において活動していた市民、衝撃波の被災を確認。 以下当該衝撃波による死者。 趙 磊 依田雄二 堀口昇 嶋秋江 谷口恵梨香 瀬谷弘 高橋伊和理 木野村英子 湯淺悠子 須々木かなめ 永瀬奈美恵 小澤宗一郎 冨田栄作 菊池旭希 石橋茜 竹本妙 吉井玄乃介 柏野紫鶴 米田定家 木原篤郎 岩崎慎斗 田行陽大 金籠亮太郎 菅屋悠燈 倉堂花音 杉本友子 津留田友貴子 神代伊佐那 武藤祥太郎 今泉ちなみ 妹尾香乃 金山小鳥 興田正三 上之郷雄一 矢島美奈 北埋川大地 溝口敬治郎 森本愛澄 シギスマンド・ブランドン サラ・ティリャード ブラッド・ピット 磯村健児 相良育子 江添二一 田淵里栄子 若原希久子 刘红梅 コーディー・キャルヴィン・ボルコフ 土山竜太 堅井律 赤峯五郎 大極朝葵 青山一弘 野方藤吾郎 石間佐織 フォスティンヌ・シェロン アレクサンドル・マリヴォー 三星太陽 マルセリーノ・エスパルサ・グリン 杉浦佑佳子 木村健誠 入福百 安野雲 千葉央 木村健誠 李 豪 柿本智恵子 松島千咲 公由喜一郎 周 建文 以上70名、『死体が確認出来かつ身元が特定出来ている者』。この条件に当てはまらない場合の死亡者数、身元の判別の為のあらゆる方法が通用しない程の死に方の為、測定不能。 また、断裂から直径150m圏内に建造されていた建造物及び鉄道路線、都道を走行中の車両、同衝撃波に直撃、被災。 建造物の倒壊及び、新宿駅に停車及び同地点を通過しようとしていた各路線の車両並びに都道430号線を走行していた車両の破壊及び爆発に巻き込まれた死者及び死傷者数、■千名超。 202■年8月1日午後0■時■7分36秒、東京都新宿区新宿7-27、都道305号線と都道433号線の合流地点の交差点に、龍人のライダー出現。 以下、その挙動記録。 202■年8月1日午後0■時■7分36秒、都道430号線の交差点、その道路中央に、物理的に大地に生じている物ではない、トリックアートのように見える断裂が出現。 断裂から、ライダー。マッハ1.3の速度で上昇。断裂の出現地点を中心とした直径400m圏内に、音速の移動による衝撃波発生。 同範囲内において活動していた市民、衝撃波の被災及びライダーの長大な巨躯との衝突確認。 以下当該衝撃波、衝突事故による死者。 浅田周三 パク・ドンウク キム・ジュンムン 東出誠児 木久真悟 鷲見かおり 吉澤敏子 高 云龙 吴 正南 チョン・ソンフン 小野田円 永谷桜花 松藤諒成 九条榛士 九条御先 加古佳和 石村もとみ 光崎猪助 片山准子 パク・メイスン クインシー・J・メイヤー 秋丸康成 石郷岡秋斗 和泉綴 チャ・ビョンチャン ジョン・バロン・ホロウェイ 秋江譲 久米五鈴 赤尾ゆう子 浦川香里 中込千冬 キム・ヘジン 周 佩君 畑純一 青山浩伸 金川真穂 白木孝秀 本多美幸 丹後康弘 丹後奈美恵 小幡銀二 杉田卓 ハンス・フォン・カールス キム・ミヌ ユ・ヨンファ バーディ・ウォンイル 外山佳和 小早川敏宏 福永萩之助 亀井文恵 立和名小雪 ジョナサン・J・ブレイズ 以上52名、『死体が確認出来かつ身元が特定出来ている者』。この条件に当てはまらない場合の死亡者数、身元の判別の為のあらゆる方法が通用しない程の死に方の為、測定不能。 また、断裂から直径200m圏内に建造されていた建造物及び鉄道路線、都道を走行中の車両、同衝撃波に直撃、被災。 建造物の倒壊及び、新大久保周辺の商店街の破壊及び爆発に巻き込まれた死者及び死傷者数、■千名超。 202■年8月1日午後0■時■7分37秒。 ライダー、新宿区上空1762m地点に到達。高度2088m上空を浮遊していたランサー、ライダーの存在を確認。 以降の挙動、両名を包み込むように発生した、直径2㎞を超えるスーパーセルにより、解析不能。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ カイドウにとっての急務とは、ベルゼバブをとにかく、鬼ヶ島から追い出す事にあった。 自分の宝具の事だ、良く分かっている。鬼ヶ島のあちらこちらで空間の裂け目が生じた瞬間、放っておけば本当に鬼ヶ島は虚数空間に還る。 その事を認識したカイドウは、先ず、覇王色の覇気を纏わせた一撃でベルゼバブを弾き飛ばし、外界に叩き出そうとしたが、その時、カイドウが鬼ヶ島に籠っていたままでは、 このランサーは再び、その奇天烈な力を用いて鬼ヶ島内界に討ち入りに来るであろう事は容易に想像出来た。 ために、カイドウは、吹っ飛ばされたベルゼバブを追跡する方向を採用した。即ち、悪魔の実の中では突出して珍しい、自発的に空を飛べるウオウオの実モデル青龍。 その力を解放して自らを長大な龍の姿に変じさせ、飛翔、ベルゼバブに追撃を仕掛けるのと同時に、彼の興味を鬼ヶ島から、巨龍に変身した自分に移させたのだ。 概ね、カイドウの狙いは達成された事になるが、いくつかの大きな誤算があった。 一つ目は、カイドウやベルゼバブが外界に出るに至ったあの空間の裂け目は、言うまでもなくカイドウが自発的に生じさせたポータルではない。 この両名の、想像を絶する規模のぶつかり合いによって生じた、時空間と因果律の断末魔のような現象であり、鬼ヶ島の崩壊一歩手前を知らせるサインであった事。 二つ目は、二名が登場した場所。そもそも皮下病院がある場所自体、新宿区と言う日本どころかアジア全体を見渡しても屈指の歓楽街だ。 人のいない、目立たない場所など存在するべくもないのだが、それでも、カイドウとしては自身が戦いやすいよう、多少人の少ない場所を選んだつもりなのだ。 その結果は、見ての通り、ベルゼバブは新宿アルタ前、カイドウの方は新大久保周辺と、見事なまでに人も建物も密集している地域である。結果として、彼らの登場、それによって生じたソニックブームや、音速越えの速度で移動する彼ら自身との衝突によって、実に1万を超す都民が死亡する事になった。 そして何よりも最大の誤算は――この空である。 誰もが心の内で思っている、地獄と言う概念の類型、雛形。地獄とはこうなのだろう、こんな場所なのだろう。 そのような、不変無意識のうちに蟠っていたイメージの一つが点と線を結び、遂に、この世に成就してしまったのかとカイドウは思った。 まだ星々の王である所の太陽の威光が、夕の残光となって世界に橙の色を落としている、その時間に在って、天の神の流した血がそのまま反映されているような、この赤い空は、何事だ。 怪異の存在、悪魔の名残が絶えて久しいこの現代。空がこれでは、悪魔が徒党を組み妖怪共が百鬼夜行の列を作りながら、今にも往来を闊歩しそうな終末的な光景であった。 この空が、異常なものである事はカイドウにだって解る。 時間的に言えば今は夕方に相当する時である為、空が赤いのは、確かにそれは正しい。問題は――赤すぎる、と言う事であった。 夕焼け空の橙色では最早なく、人の血をそのままぶちまけた様に空の色が赤く、その上に、雷雨を孕んだ分厚い山脈のような積乱雲が無数に横たわっていた。 その積乱雲にしても、白とか黒とか灰色とかの常識的な色ではなく、鮮やかな赤色をした、自然界ではありえない色味の雲山であった。 極めつけに、その空が『何処までも広がっていない』と言う事実こそが、この事態の異常性を如実に物語る重大な要素だった。 カイドウを中心として、おおよそ直径3㎞の空『のみ』が、今言ったような異常事態に見舞われているのであって、その範囲外。 つまり、その3㎞を超えたその先の空は、『いつも通りの有り触れた東京の夕空』なのだ。 空を一枚の巨大な布としてとらえた場合、まるでこの異常な空の様子は、一点のシミのようだった。橙色の夕焼け色の中に在って、一点だけ赤い絵の具を溶いた色水でも落としたかのように、おかしさが浮き彫りになった空だった。 四皇と言う、世界中に於いて比類なきレベルの実力者の覇気は、自らの身体のみに影響を及ぼす、と言う次元を超える。 つまりは、自らの意志力と体内に溜められた活力を放出すれば、外界に影響が出てくるのだ。とは言え、それ自体は珍しい事ではない。 覇王色の覇気を会得した者であれば、その覇気に当てられた者は、意志力に秀でて居なければ気を失い、意識を持っていかれる、と言う事は実力者の間ではよく知られている事だ。 四皇の場合は、別格。外部に影響を与える、と言う事象の極地。天候すら玩具の様に変えて行ってしまう程なのだ。 生前に於いても、四皇レベルの実力者同士の衝突は、比喩を抜きに空を割り、海を逆巻かせ、嵐を渦巻かせる規模の異常気象を見舞わせてしまい、このせいで、人知れぬ場所で戦うと言う事が最早困難になってしまうほどだった。 だが、如何な四皇、或いはそのレベルの強さを持った猛者とのぶつかり合いとは言え、カイドウを以てしても、 まるで何処かのカルトの終末論が説いているようなこの異常気象については、前例の覚えがない程であった。 むべなるかな、これは世界に影響を齎す程の四皇の覇気と、世界の因果にエラーを生じさせるベルゼバブの『特異点』スキルがぶつかり合った結果の故だった。 世界が世界として成立する為に必要な諸々の要素。それこそ、物理的な事柄は勿論、概念・形而上学的な観念に至るまでの、言わば理(ことわり)。 これに狂いを生じさせるベルゼバブの特異性は、まさに世界に於けるバグそのものと言っても過言ではない、まさに歪みの体現者とすらも言える。 特異点とはとどのつまりは、存在するだけでこの世の流れ、とも言うべきものを良い方にも悪い方にも加速させる、『ハイエンド/エラー』。 人間世界の行く末を決めるコンパスの磁針を狂わせる磁石であり、天外から落ちて来た隕石のようなものである。 この意味では、規格外の覇気、即ち意志の力を持つカイドウは、特異点とも換言して良い存在に近いのだろう。彼の存在は生前、人、もの、国、あらゆるものの歴史を歪めさせてきたのだから。 故に、ベルゼバブもカイドウも、読めない。自分らがぶつかり合えばどうなってしまうのか。 特異点そのものと言うべきベルゼバブと、それに限りなく近い意志と肉体的な力を持つカイドウが衝突してしまえば、どうなるのか? その結果が、これになる。空はあるべき色を失い、悲鳴を上げているかのような色に転じて行き、空に浮かぶ赤い雲はまるで腸がゾロリと暖簾の如く垂れさがっているようだ。 電波の類は散逸し携帯電話は役に立たず、計器(メーター)の類はあるべき値を示さない。ある場所の水たまり突如として沸騰を初め、100度を超えても気体にならず、 300度の超高温になってもなお真水の状態を維持。またある場所の水道の水は雪国の極低温に晒されたように凍結してしまい、水道管を破裂させてしまう。 まるでこの世ならざる、語る事すら憚られる恐るべき神格の来臨めいたこの光景が、ベルゼバブとカイドウが鬼ヶ島の異空間で戦っていた、 その余波で引き起こされていた事を、カイドウは察した。だが、この光景の範囲が、『二人が現世に登場した瞬間爆発的に広がった』事までは、流石に知らなかった。 皮下医院が立てられていたエリアだけの影響に、元々は過ぎなかったのである。元から、これだけの範囲で引き起こされていたのだとカイドウは思っていた。 実態は全く違う。二つの特異点が正真正銘、現実世界にやって来たのだ。異次元にいてなお現世に影響を及ぼす化物が、現世そのものに出てくれば、その範囲も、異常の密度も深刻さも跳ね上がる。当たり前の話なのだ、これは。 「ウォロロロロ……!! 良いじゃねぇか、こういう演出は悪くねぇぞ」 カイドウは、この空を気に入った。 青空の下での大戦争、と言うのも乙なものだ。空高く、雲一つなく、あるのはただ、青い敷板でも敷いたような蒼天の中にポッカリと空いた白い光の穴のような、太陽のみ。 庶民であれば、洗濯日和、買い物日和、釣り日和。ハイキングにもうってつけかも知れない。そんな空の下で、人の命など羽毛一枚ほどの重みもない戦争を行うのだ。 そのアンビバレンツさ。カイドウはそう言った点に、美学と言う物を感じ取る男でもあった。 だが、この空模様も悪くない。 冥府・魔界の類が成就したようなこの空の下で、次々と命を刈り取って行くのもまた、雰囲気が良い。 この空の下で人を殺せば、人の魂は何処に逝くのか? 元より地獄か、死後の世界か、その一端が成就したような空の色である。此処で死ねば人の魂は、現世に残るのかも知れない。 どちらにしても、この混沌の度合いは、良いものだ。……出来ればこの空の下で、十全の鬼ヶ島が展開出来ていれば、なおよかったのだが……。 「大悪党が死ぬには、何とも良い感じで、映えるんじゃねぇか? えぇ、ランサー」 其処まで言うや、カイドウは己の青龍としての能力を発動させ、己の周りを取り囲むように、分厚い鉛色の雲の渦を形成させる。 俗に、スーパーセルと呼ばれる極めて強い嵐の大塊だ。青龍状態であればこのようなもの幾らでも創れるし、これを地上に顕現させようものなら、 鉄筋コンクリートのビルであろうとも、粉々に粉砕され、基礎一つ残らないであろう。そのレベルの強風と稲妻、そして雹とが、内部で荒れ狂っていて、地上にも、これをおまけと言わんばかりに降り注がせていた。稲妻が地上目掛けて閃く。車両のルーフに落雷し、そのまま車が、爆発した。 「羽虫にくれてやるには惜しい空だ」 鳥は勿論、猛禽、果てはVTOLの類ですら姿勢の制御など不可能な嵐の中に在って、ベルゼバブは腕を組みながら、泰然自若。 全てを見下すような目つきでカイドウを睨めつけ、驕り高ぶりも甚だしい語気と態度で言って退ける。カマイタチ、稲妻、雹に大雨。それらが混然となって渦巻き、人の声など蚊の鳴く音以下にしか聞こえないこの嵐の中で、この二名如何にして声を届かせているのか。 「最後の最後まで口の減らねぇ野郎よ」 カイドウはその口腔をめいいっぱい押し広げさせ、其処に、膨大な熱量を収束させて行く。 大口を開けたカイドウの口内。その中に、まるで恒星のような焔の塊が鎮座し始めた。この嵐の中、何処にこれだけの熱源を生み出すだけのエネルギーが、存在すると言うのか。 それを受けてベルゼバブは、右腕を高々と掲げ初める。上に向けた掌に、数万分の一秒以下の速度で、ボーリング球程の大きさの、紅色の球体が現れ始めた。 大きさは、カイドウが溜めているその熱源よりも大分小さい。カイドウが溜めている、熱源、即ち、熱息(ボロブレス)の卵の、一千分の一程に過ぎなかろう。 だが――エネルギー量は互角。カイドウは、ベルゼバブが溜めている魔力が炸裂した時の威力は、今の熱息と同じ威力。 しかも、彼の場合はそのエネルギーの上昇に終わりを見せない。際限なく上がり続けていた。つまり、まだこの技のチャージ段階は途中に過ぎないと言う事。 今この段階の収束段階ですら、地上でこの魔力塊を叩きつければ、新宿一区程度の範囲は忽ち草一本と残らないだろう。 ――だからこそカイドウは、ベルゼバブの放つ技が完成を迎えるそれまでに、不意を打ったのだ。 「熱息!!」 火を吹く龍、と言うのは普遍的なイメージであろうが、カイドウの吐く炎は、最早巨大なレーザー。 レーザーの射線上に存在する、雹や雨粒、雲に稲妻は、カイドウの放った熱息に触れた瞬間現象としての形を保てず、蒸発、消滅してしまった。 これが、人間の身体に触れようものなら、齎される結末は死以外の何物でもない。この技が放たれれば、只人は死ぬ。直撃する必要性すらない。 掠っただけで身体は灰すら残らず瞬時に消え失せるであろうし、余りの高温の為周囲の気温も爆発的に上昇、レーザーに触れてなくとも皮膚や筋肉が沸騰するように泡を立ててしまい、苦悶の内に死に至る。 これをベルゼバブは、冷静に、迎え撃った。地図を書き換える必要すら生じる程の一撃に対し、迎え撃つのは、腕一本。 「ケイオス・レギオン!!」 叫びながら、腕を振るってエネルギー球を叩きつけるベルゼバブ。両名が具象化させたエネルギーがぶつかり合った。 ――激発。爆轟。熱波。轟音。衝撃波。猛風。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「馬鹿め……派手に目立ちおって」 ベルゼバブとカイドウらが戦っている所から、二千m以上離れているにもかかわらず、十m以内の距離でダイナマイトでも炸裂させたかのような轟音を、大和は聞いた。 そしてその後に、ロングコートをはためかせる程の突風が、大和の身体に叩き付けられる。姿勢が、崩れない。常人ならば立っていられない風速であったにも関わらず。 青い龍王の姿を大和が認識したその後には、既にベルゼバブもカイドウも、スーパーセルの内部に呑まれてしまい、全く姿が見えなくなっていた。 二人の戦いの行く末はもう確認しようがないが、それでもわかる事は一つ。彼らの出現によって、甚大な被害が新宿に齎されてしまった、と言う事。 最早確認しないでも解る。カイドウらが戦っている所とは別の場所、その至る所で建造物の崩落音と、ガス爆発のような爆音が聞こえて来るからだ。 その、スーパーセルが既に消えていた。 あの嵐の中でカイドウとベルゼバブが、如何なるやり取りをしていたのか、大和には解らない。 ただ、あれだけの規模の大嵐が、まるで突風に払われる霧か煙の様に、雲散霧消。跡形もなく、消滅してしまった。 派手にやってくれたな、と歯噛みする一方で、これも仕方のない経費であると割り切ってもいた。 あのライダーは……カイドウは、強い。恐らくこの聖杯戦争中、あのライダー以上に強い存在など、存在すらしなかろう、と言う確信すらある。 あれなるは、此度の聖杯戦争に於いての最強のサーヴァント。ハイエンド中のハイエンドであり、トップメタとして君臨する覇王であろう。 アレを殺せるのなら、聖杯戦争も大分楽になる。NPC1万人程度の犠牲で、カイドウを殺せるなら、破格の取引である。 そうと思ったからこそ大和は、新宿御苑と言う霊地一つを破却、一つの巨大な魔力リソースとして、パスを通じてベルゼバブにくれてやったのだ。 霊地、と言うのは魔力のプールする土地であり、新しい魔力を生み出す為のシステムそのもの。大和はこの東京中に、幾つもその霊地を生み出し、 峰津院財閥に何かしらの名目を以てその土地を管理させていた。この一つを、大和は完全に消費した。 即ち、新宿御苑に溜められた魔力と、『魔力を生み出すと言う霊地としての機能をもひっくるめて魔力に変換』させ、ベルゼバブがカイドウを倒す助けとして与えたのだ。 これにより、新宿御苑は最早霊地としての機能を一切見込めなくなった。魔力の搾りかす一つ、残っていない。逆さに振っても何も出てこなければ、叩いて埃すら最早出ない。 一から作り直せば、霊地としての使用に耐え得るだろうが、それが出来るようになるには大和レベルの才能を以てしても、最速で数か月だ。聖杯戦争が終わるであろう期間を考えれば、最早霊地にはなりえない。 決して安くない犠牲を払ったにも関わらず――カイドウを、仕留められてない。 その事が、大和には手に取るように解った。確かに、カイドウの魔力の反応も、暴力的とすら言えるあの覇気も、消滅している。 しかしそれは、生命活動の停止に伴って消えたのではなく、『移動に伴う消滅』だ。より言えば、空間転移、ワープの類で、その場から消えて居なくなったから消滅したに過ぎないのだ。 「皮下め、令呪を切ったな」 この場から逃げおおせた、憎らしい男。 自分とは異なる、不愉快な形での平等の理想を叶えようとする道化の名を、大和は忌々し気に口にする。 燃焼を飛び越えて、爆発とも言うべき熱波と炎の暴力の中を、大和は難なく生き残っていた。 芝生は燃え尽き、樹木は炭化し地面に圧し折れ倒れていて、池の水は余す事無く全て蒸発し切っていた。憩いの地、としての面影は最早ない。 ケルベロスを盾にしつつ、炎による害意を無効化する術式を編み上げ、その場をやり過ごす。難しい事はしていない。 たったそれだけの工程で、堅牢な要塞にすら致命的なダメージを与えうる焔の一撃を防ぎ切ったのだった。 皮下とて、あの程度で大和を殺しきれるとは露も思っていないだろう。 アレは本当に、攪乱の為の一撃。大和をその場に留め置かせ、遠くに逃げる為の策だ。 そしてそれは事実、功を奏している。但しそれは、皮下の作戦がスマートだったからではない。凄まじい破壊と被害を振りまきながら新宿に現れたベルゼバブとカイドウ。 彼らをどうやって処理しようか考えていた、その一瞬の空隙を奇跡的に縫えたからに他ならない。間違っても、皮下はクールでもクレバーでもない。 その証拠に、去り際の皮下の顔は、慌てたような表情だった。これは、大和の追跡に焦っているのではない。自分が手綱を握っている、あのライダーの事を思っての事だろう。なんて事はない、皮下にしても、カイドウが何をしでかすか解らないから、心配だったのである。その点については、大和も理解出来る。大和が従えるサーヴァントも、人の言う事を聞く手合いではないからだ。 恐らく何処かで、皮下は令呪を使った。 命令内容は大方、『龍の姿から人間に戻った上で自分の所に戻ってこい』、と言う所だろう。そうでなければ大和とベルゼバブは撒けない。 鬼ヶ島に招かれた事で分かった事がある。あの宝具はまだ完成の中途だ。魔力、兵力。それらを全て十全に整えた上で、地上に出現させる運用をせねばならないのあろう。 カイドウは単体でも恐るべき強さだが、鬼ヶ島完成の暁には、あの内部にいた恐るべき戦士達が東京に大挙するのだろう。ゾッとしない話だ。 今それをしない理由は、単純に、皮下があの宝具の使用に耐えられるだけの魔力を持っていないからだろう。だからこそカイドウは、大和相手に霊地の分割を提案したのだ。 元より大和は霊地の分割など誰であっても提案もしないが、あの主従のアキレス腱を、早々に見抜いていた大和は、この観点があったからこそ断ったと言う一面もある。 恐らくベルゼバブは、鬼ヶ島に甚大な被害を与えている。 カイドウを殺せなかったのは惜しいが、実質的に、戦略的には此方が勝利したと言うべきだろうと大和は解釈した。 この解釈が正しければ、皮下達は、大幅なタイムロスを強いられる形になるだろう。破壊された鬼ヶ島の復旧だけじゃない。 誰の目にも明らかな形で被害を振りまき、悪目立ちもしてしまった為に、潜伏と言う形もとるだろう事が予測される。 そうはさせない。 弱り目には、祟り目を与えてやるのが峰津院大和だ。石の下の虫がどれだけ蠢こうが、大和は普通気にしないが、皮下とカイドウを小虫と判断するのは、余りに愚かだ。 危険過ぎる。陣地にダメージを受けた今だからこそ、叩く必要がある。とは言え、今この状況で深追いするのは危険だ。 大和には、峰津院財閥と言う、権力と金の面で言えば無敵に近いロールがある。これを有効活用しない手はなかろう。 アレを追い詰める手筈を考えながら、大和は、懐に忍ばせていた、ベルゼバブの鋼鉄の翼から抜かれた羽の一枚を取り出す。 この羽を、白く輝く長槍に変化させた大和は、天空に向かって、光の筋を一本、穂先から射出させた。 狼煙のようなものだ。この光の筋を矢印に、向かって来いと。事前に、ベルゼバブとは打ち合わせている。此方に向かってくるのは、時間の問題だろう。 周囲を警戒させる為に、召喚したままにしていたケルベロスが、唸り声をあげた。 姿勢を低くし、周囲を警戒している。その様子を見て、大和は、回路に魔力を走らせ、一言、こう口にした。『テトラカーン』。 背後から、可視化された三日月状の力場めいたものが、高速で飛来してくる。 狙いは勿論、大和ただ一人のみ。ケルベロスがそれに反応し、火炎を吐き出した。力場、或いは、エネルギーとも形容するべきそれが、ケルベロスの炎に呑まれ消滅。 頭上からも、同じような力が降り注ぐ。だが、一度見た攻撃だ。大和の頭は冴えている。手にしていたアストラルウェポン、ロンゴミニアドを振るい、エネルギーを破壊。 高度30m地点を飛翔する。金髪の男性。大和はこれを認めた。顔立ちは、日本人のそれではない。欧風だ。そして、若い。二十代前半か。どちらにしても、三十は超えていなかろう。 「小物が喧しい」 穂先から、光芒を射出する大和。 音に優に数倍するスピードで飛来するそれの速度に、空を飛ぶその男――リップは反応出来なかった。 そのまま射線を移動し続ければ、頭蓋を射貫く。聖杯戦争の芳名帳から、一人の名が黒く塗り潰されるか? その運命に、待ったが掛かった。 「通行規制(アイン・ヴィーク)」 唐突に聞こえて来た、年端の行かない、少女の声。 その言葉と同時に、本来曲がる筈がない、一直線に進むしかないロンゴミニアドのレーザーが、ゴルフの素人の様なヘタクソなスライスの軌道を描いて、逸れて行く。 「流石にいるか」 空を飛翔するリップが、如何なるカラクリが内蔵されているのか。 西洋鎧で言う所のグリーヴに似た脚甲から噴出させているエネルギーを推進力に、器用に地面に降り立った。 リップの真正面に、まるで彼を守る様に、そのサーヴァントは現れた。守る様に、とは言ったが、姿を見れば笑止、である。 何せそのサーヴァントの姿は、中高生の少女どころか、小学生に近い年代の幼女そのもの。外見で年齢を判断するなら、10歳かそこらかも知れない。 寧ろ、背後のリップの体格の良さを思えば、彼女の方が寧ろ守られる側だろう。何と、弱弱しい姿か。――だが実際は全く違う。その黒髪の少女の身体から露出される機械の部品は、如実に、彼女が人間以外の何者かである事を、語らずとも雄弁に物語っていた。 「品のない山猿だ。何者だ、貴様ら」 ケルベロスに油断なく見張りを命じながら、大和はリップと、機械仕掛けのアーチャー――シュヴィ・ドーラに対して、鋭く厳しい言葉を投げかけるのであった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ベルゼバブの姿をカイドウや皮下が認識するよりも前。 つまり、峰津院大和が皮下医院の玄関に入って来た、その時点から、この主従の強さを正確に把握していたサーヴァントがいた。 それこそが、ほんの一時間前、皮下医院に襲撃を仕掛けるも、失敗を喫してしまい、結果としてカイドウらと同盟を組まざるを得なくなった不運な主従。即ち、リップと、シュヴィ・ドーラの二名に他ならない。 同盟と言っても、実際はカイドウの方が立場的に上である事は論を俟たない。 何せリップとシュヴィは、鬼ヶ島内界に事実上軟禁に近い形で待機させられている状態に等しく、滅多な事で外に出られない。 この上、カイドウ自身も桁違いの実力を秘めていて、隙を見て反旗を翻す事も出来ない。何せカイドウの強さは、全典開を開帳して漸く勝率が2割か、と言う化物のそれ。 恐らく、生前のスペックの話なら、シュヴィを起動停止に追い込ませた、天翼種(フリューゲル)のあの女性を上回る怪物の可能性が高い。とてもじゃないが、勝てる相手ではない。 結果として、雌伏の時を過ごしつつ、牙を磨いて待機していた事になるのだが――そんな折に、シュヴィは峰津院大和と、その近辺で霊体化している、衝撃的な怪物の姿を認識したのだ。 時空を隔てての解析、これ自体は珍しい話じゃない。難しい話でもない。 機凱種(エクスマキナ)――とりわけ、戦闘能力を排して、その排したブランクエリアに解析と計算機能を詰め込んだ、解析体(プリューファ)であるシュヴィならば。 時空と時空の裂け目に隠された秘密のエリアは勿論、異なる空間の内部から別の空間の内部にいる何者かの生体情報すら距離によっては計算が簡単に出来る。 鬼ヶ島の内部にいるからと言って、その外部の様子を全く窺えない訳ではないのだ。だからこそシュヴィは、鬼ヶ島内部の構造情報を集めると同時に、外部、つまり皮下医院の近辺の様子にも気を張っていた。 最初、その姿を見た時、シュヴィは、人間の形をした、人間以外のサーヴァントだと認識していた。 カイドウ。アレは、人間――にしてはサイズが規格外だが、世界観の違いだろう――であった。 人間ではあるが、後天的に会得した何らかの手段によって、その身体に龍精種(ドラゴニア)に似た何らかの生き物の因子を宿している、と言う事実をシュヴィは認識していた。 ベルゼバブは、全く解らない。 先ず、人の形をしているが、その身体の中に、天翼種に似た何らかの命を宿しているのと、幻想種(ファンタズマ)の突然変異種。即ち魔王に似た何かの命を宿しているのだ。 キメラ、と言う生き物がいる。乱暴な言い方をすれば、一つの生き物に複数の生き物の性質を付け加える人造生命体であるが、実際はそんな簡単に行くものではない。 生き物の身体には拒絶反応と言う仕組みが備わっており、要は異物を肉体的に付属させた場合、肉体が壮絶な痛みや病状を以てその異物を拒否するのである。 この拒絶反応があるからこそ、今日に至るまで臓器移植(ドナー)と呼ばれる技術は移植後も予断を許さぬ技術になっているのだ。 同じ人間の臓器ですら、これなのだ。人間と全く別の生き物の身体や性質を付け合わせて、無事で済む筈がない。それを思えば、カイドウも途方もなく異常な生命体なのだ。 異次元を隔てた解析の段階ですら、人間以外の生き物、しかも極めて高度な生命体の性質を二種類、それも全く異なる水と油と言っても良い性質の物を取り込んで、無事でいられる。尋常の生命体である筈がなかった。だからシュヴィは、峰津院大和が従えるこのサーヴァントは、人間の形をした人間以外の何かだと、本気で認識していたのである。 そして実際、ベルゼバブが鬼ヶ島に現れ、その姿を同一の次元で正確に観測し、認識がアップデートされた。 人間の形をした人間以外の何か、ではなく、『人間に近い超弩級の怪物の類』であると言う認識に。 先ず鬼ヶ島の内部に入る手段にしても、異常だった。無理やり空間に孔を生じさせ、その穴を思いっきり引き裂いて押し広げ、そのまま空間の裂け目に身を投げる。 そしてその状態から、鬼ヶ島の座標を探知し、空間転移を行ったのだ。原理は珍しくない。機凱種も良く使う、体系化され、技術化された空間航法。 彼女らの言葉で『一方通行(ウイン・ヴィーク)』と呼ばれる技術だが、これを行う為には勿論、これを行う為の武装が必要になるのだが、ベルゼバブはこれを『素手』でやっている。完全に、異常者の行動だった。 カイドウとベルゼバブの戦いは、被害が及ばないよう遠く離れた場所で、音と激震を感じているだけのリップが、『戦術核のぶつけ合いかよ……』と零す程壮絶なもの。 解析体として、この世の演算機器を全て超越して一笑に付す処理能力を持つシュヴィは、二人の戦いの様子を冷静に観測出来ていた。 後の星の環境の事など知った事ではない、地上の生命体が一切死に絶えても自分達の種族さえ生き残っていれば良い。 そんな究極のエゴの下に、あらゆる兵器の使用が許されていたあの大戦時の観点から考えて見てすら、この2名の戦闘能力は別格。 種族の代表になり得るだけの、規格外の実力を秘めている事は、諸々の攻撃の威力、そして移動スピードや攻撃に対応する反射神経からも明白だった。 そして、これだけの強さを発揮していながら、この2名はまだ余力を残している。音速を超える速度での移動と、音の8倍以上の速度での攻撃の応酬。 大地を叩き割り、岩山をも砂糖菓子のように崩す攻撃を乱発しておきながら、これですらまだ本気ではない、と言う事実。何れは乗り越えねばならない、高すぎる壁。シュヴィらの前途は暗かった。 リップもシュヴィも、カイドウと皮下の事を欠片程も信用していなかった。 カイドウの方は一言二言会話を交わしただけで解る、略奪者・アウトローの類。人間社会に生きて良い類の人物ではない。 思想、理念、夢。全てが全て、人間社会の通年通俗に反するそれだった。相容れられる筈がない。 皮下の方も、尤もらしい事を口にするペテン師だった。皮下がこの世界でも、そして元の世界でも、手足の指の本数では賄えない程の人数を殺して来ているのは間違いない。 人の人生を台無しにして来たその手で夢を掴むと誓い、何人もの人間の人生を魔道に誘ってきたその口で高邁な理想を語る。皮下真は、リップとシュヴィから見れば、恥知らずの屑であった。 折を見て、カイドウを殺すか、或いは此処から脱出するか。リップとシュヴィは当初この作戦を念話で相談していたが、それが不可能である事を理解した。 何故か。カイドウはベルゼバブとの戦いに没頭しながらも、『シュヴィ達の動向にも気を張っていたからに他ならない』。 そう、あの龍人のライダーは、ベルゼバブと壮絶な死闘を繰り広げながらも、見聞色の覇気で彼女らが変な気を起こさないか探っていたのだ。 この事を解析で即座に理解したシュヴィは、完全に動きを封殺される状態になってしまった。鬼ヶ島から脱出しようにも、異空間から異空間へと逃れる兵装は、 基本的に魔力を多量消費するので、間違いなく相手に感づかれる。カイドウの不意を打って範囲破壊を繰り出すのは、最早論外。 何故ならカイドウが気付くのは勿論の事、ベルゼバブの方にも気づかれてしまう蓋然性が極めて高いと言う結論が出てしまったからだ。 一対一ですら勝利が不可能な相手に、二人同時に襲い掛かられる可能性が高い。要はそう言う事だった。そうなってしまえば最早逃げるどころの話ではない。リップ達の聖杯戦争は、終局を迎える以外の意味はなくなってしまう。 転機が訪れたのは、カイドウとベルゼバブの戦いが大詰めを迎えた頃だった。 シュヴィは解析によって、鬼ヶ島を格納してある異空間が、ベルゼバブとカイドウの激突によって限界を迎えている事を既に理解していた。 特に致命的な影響を与えているのはベルゼバブの方で、如何も、彼の周りだけ時空や、物事の物理的な因果関係が散逸している。因果律の歪みが生じていると言うべきか。 この歪みと、カイドウの発する凶悪無比な覇気の力で、遂に、空間に断末魔の様に裂け目が生じ始め――其処からリップとシュヴィは脱出。 一方通行の力で転移を行い、両名は新宿区の国立競技場近辺に出現。これも、本来だったら皮下医院の辺りを転移先にシュヴィは設定していた筈だが、転移先が大幅に狂ってしまった。やはり、因果律に致命的な狂いが生じているらしかった。 「チッ、如何なってやがるこいつは……」 ベルゼバブとカイドウが鎬を削っていた鬼ヶ島内部は酷い地獄だったが、外に出てみればこれまた大概な地獄が広がっていた。 正常な世界と、いつも通りの日常が無惨に打ち壊される。この新宿は今や、そう言う土地になってしまっていた。 車道では車の列がムカデか数珠のように連なっている大渋滞の有様で、クラクションの音が途切れない。 クラクションの音だけなら、不快なだけで済んだ。はるか遠くから、人々の怒号や悲鳴、慟哭が混然一体となって聞こえてきていて、耳をずっと傾けていれば心が参ってしまう程だ。 その上あの、彼方から立ち上る、不穏な黒煙と、建物の崩落音だ。朦々と立ち込める黒い煙を背に、高層ビルのような建物が、リアルタイムで崩壊していくその様は、派手な爆発をウリとするハリウッドの映画でも見ているかのようだった。 極めつけが、あの空の色。 空が血を流しているかのように真っ赤に染め上がっていて、しかも、ハリケーンでもこれからやって来るんじゃないかと言う程に、スパークを孕んだ分厚い積乱雲が生じている。 UMAが現れたとて、こうは行かないだろうと言う程、終末的な光景。いや、最早終末そのものだ。最後の審判の日が遂にやって来たんじゃないかと言う程に、今この新宿は『終わっていた』。 「……あれが……原因」 シュヴィは、冷静に、新宿に途方もない災禍を招いたものの正体を認識していた。 と言うより、シュヴィの凄まじい演算能力も解析能力も、今回に限って言えば無用の長物。誰でも、原因が解りきっているからだ。 新宿区上空を浮遊し、まるで我が箱庭の様子を睥睨し、其処に生きる人々を所有物として見下ろしているような、あの青い巨龍。 シュヴィはあの青き龍と、鬼ヶ島で姿を確認した9mを容易く超える巨漢と、ありとあらゆる情報の一致を認めた。同一の存在なのだ。 恐らく、身体の中の龍の因子を、励起させた結果こうなったのだ。カイドウはあの姿に、可逆的に変身出来るのである。 あの巨体、あの質量。あの生命体が、音速を超える速度で移動すれば、如何なる結果が齎されるのか。 シュヴィの演算能力を駆使すれば、その結果は想定し得る被害者数から破壊規模まで、綿密に計算出来てしまう。その最悪の結果が、起こってしまったのだろう。 ベルゼバブとカイドウが、超音速で鬼ヶ島から脱し、外界に出現する。たったそれだけ、破壊の意志など何もなく、ただ目的の場所へと移動する。それだけの行為で、何千人ものNPCを、彼らは容易く葬り去れるのだ。 「この事態を引き起こしてるマスターの下に行くぞ、アーチャー」 「了解」 シュヴィとしても、リップの意見には同意だった。 カイドウとベルゼバブの戦いの様相を眺めようにも、俄かに信じがたい事に彼らの周りをスーパーセルが取り囲み始めた為、これ以上の解析が不能になってしまった。 ならば、この事態を収める為には、サーヴァントの下へ行くよりマスターの所に向かった方が速い。リップがマスターに対して如何出るのか? その点については不安が残るが、今はリップの言う通り、皮下の下に往くか、ベルゼバブを従える峰津院大和の下へ向かった方が速い。 大和の居場所は直ぐに特定できた。 元より大和自体、容貌から社会的立ち位置に至るまで、特徴の塊過ぎる男だったので、一目見ただけで特定が容易い人物だった。 だが、シュヴィにとってそれ以上に驚きだったのが、大和自身に備わるあの魔術回路の多さである。人類種は、魔法を使えない。感知も出来ない。 シュヴィにとっては常識を超えて最早前提とすら言っても良い知識を、大和は粉々に破壊した。聖杯戦争に際して界聖杯に与えられた回路のみでは説明出来ない。 今回の聖杯戦争以前からずっと、何かに備えて用意して来たとしか思えない程、身体中に魔術回路を大量に、大和は備えていたのである。 外面は勿論、身体の内面と言う観点から言っても特徴的なこの大和と言う青年を、解析に優れるシュヴィが見逃す筈がない。 バリケードで封印され、関係者を含めた誰からの侵入も拒んでいる、新宿御苑。其処に、大和は一人で佇んでいた。 その場所へと急いで駆け出して行き、人込みをかき分け、邪魔な車をリップは飛び越し――。 御苑の外縁をなぞる様に建てられた金属板の仮囲い塀を乗り越える。所々がパチパチと、野焼きにでもされたように燃え上がっている新宿御苑の真っただ中に、大和はいた。 いや一人ではない。この現実世界に於いては余りに異物としか言いようのない、鋼色の獣毛が特徴的な巨大な獅子を、彼は従えている。 「峰津院大和と、極めて強い契約の下結ばれている」、リップがそうと忠告してくる。想定され得る身体能力も同時に付け加えて来た。並のサーヴァント、数体分。サーヴァントのみならず、マスターも異常な手合いのようだった。 走刃脚(ブレードランナー)の力を解放、足裏から空気を噴出させ、リップは高度数十m地点を飛翔。大和の下へと距離を詰め、脚を振るい、三日月状の可視化された斬撃エネルギーを飛ばす。 その全てを悉く破壊され、此方に向かってレーザービームを槍から放ってくるが、シュヴィの助けもあり、危なげなく回避し。 そうして地上へと降りたって――漸く、今に至るのであった。 「品のない山猿だ。何者だ、貴様ら」 こちらの行為も相まって、大和は敵対的な態度を崩しもしない。当たり前といえば、当たり前か。 リップの目から見ても、優れたその顔貌を不愉快さと怒りに歪めさせながら、大和は此方に対し殺意を放射してくる。 「名乗る程の名でもねぇよ。アンタからすればつまらない白猿だ」 「何の用があって、私を襲う」 「惚けるなよ。アンタなら解る筈だろ。聖杯戦争の参加者ならアンタがダウトなのはバカでも解る。それに加えて、使役してるサーヴァントも、アンタ自身も。他の参加者からすれば不公平を嘆く程にバケモノと来た。一人の所を叩かない理由が何処にあるよ」 「道理だな。貴様が正しい」 意外な事に大和は、リップの言葉を認めた。そして同時に、微笑みを浮かべもした。笑みながらリップを見つつ、背筋が凍るような殺意の投射も、忘れていなかった。笑顔のままに、殺しに来る。その可能性は十分過ぎる程、存在した。 【マスター、今は……駄目……】 脚部に力を込めるリップを、シュヴィは窘めた。 【あのマスター。ヤマトは、攻撃を反射するバリアを張ってる……迂闊に攻めれば、傷を負うのはこちら】 【否定者……オレの不治みたいな固有の能力か?】 【多分……違う。技術の一つ。数ある術式の内の、一つ】 【チート野郎かよ、クソッタレめ】 リップの持つ不治(アンリペア)は、戦闘に於いては恐ろしく凶悪な能力である。 何せ、切り傷一つ付けられれば。針で何処かを刺し貫く事が出来たのなら。その傷は、癒えない。いや癒えないどころか、『治療すると言う行為にすら及ぶ事が出来ない』。 ずっと血を流し続ける。瘡蓋が傷を覆う事もなく、血友病の患者の如く。身体中から血液を全て血抜きされるまで。傷つけられれば、サーヴァントですら、この否定の理に抗う事は出来なくなる。 唯一にして最大の欠点は、リップ自身が相手を傷つけねばならないと言う点。 その攻撃手段の殆どを物理的な手段に拠らせているリップにとって、物理攻撃でそもそも傷つかない相手と言うのは、致命的に相手が悪いのだ。 大和の場合は攻撃が通用しないどころか、此方に向かって反射してくる可能性すらあると言う。そうなった場合、不治の否定力が乗った攻撃で、リップが傷つく事になる。 それは、恐ろしい未知の体験。こうなったらどうなるのか、リップにすら予測出来ない。自分の不治の能力で、傷を治せないまま退場する可能性すらある。攻撃に、出れない。 リップの行動を一方的に封印出来るそのバリアがしかも、大和にとっては何て事はない技術の一つに過ぎない。これ程の、不公平。許されて良いものか。 「好機を窺っている、と言う風には見えぬな」 大和はリップの不治を知らないが、彼の脚部に取り付けられた走刃脚の存在はしっかりと認識していた。 大和の目からしても、かなり珍しい代物だ。戦闘に於いても有用なデバイスである事は、リップが実践してしまっている。それだけの物を有していながら、利用してこないのは、おかしな話だった。 「貴様の立ち居振る舞いを見れば解る。貴様は私を恐れていない。そのアーチャーが、私の回路を解析した上でなお、だ。それにもかかわらず攻めて来ないという事は、貴様の攻撃が通用しない事を認識しているな?」 「ベラベラとよく回る口だ」 「誤魔化しは、肯定と認める」 大和の疑念が確信に変わった。リップは攻められないのだ、と。 「このまま無為に時間を浪費するつもりか? 解らぬ頭でもないのだろう、このまま棒立ちしていれば、私の従えるサーヴァントが来るぞ」 「もう来ている」 この場にいる誰の物でもない、声。声紋認証。大和の従える、ランサー―――――――― 「ッ!!」 リップの服の襟をひっつかみ、霊骸――を模した魔力をシュヴィは噴射。 一瞬にして初速300㎞/hの加速を得たシュヴィは、大和らから40m程も遠のいた。 ――リップとシュヴィが佇んでいた地点。その場所を中心とした直径15m圏内に、高さにして10mはあろうかと言う黒いドーム、半球が生じ始めた。 球の表皮には黒い泡が煮え立ち、プラズマめいたものがバチバチと飛び散っていて、それが傍目から見ても不吉なエネルギーの塊である事は明白だった。 その球が消える。地面が、丸く抉り取られていた。ドームではない。完全球だったらしく、抉り取られた跡とは、球の下半分であるらしかった。 【恩に着る】 突然のシュヴィの行動を咎めようとするも、それを止めて礼を言うリップ。あの場で呑気に突っ立っていれば、死んでいたのはリップの方なのだったから。 大和の右前方の空間が、ぐにゃりと、水飴の様に歪み始める。 その歪みが矯正された時には、既に、男はいた。180㎝を超える偉丈夫、余分な脂肪はなく、身体の至る所に搭載されている、研鑽と研磨を怠らなかった鍛えられた筋肉。 優れた美貌を不愉快そうに歪めさせながら、鋼の翼を携えたそのランサー・ベルゼバブは、あれだけの死闘を経ながら、大したダメージを負っている様子もなく、無事大和の下へと帰還した。 「倒したのか」 大和の問いに、更にベルゼバブは機嫌を悪くする。 「解りきった事を聞くな。令呪を切られて逃げられたわ。あの羽虫めが……大見得を切っておいてふざけた真似を」 如何やらベルゼバブの方も、カイドウが消えた理由を正確に把握していたようである。そうでなければ、あれだけの巨体が手品のように消え失せる筈がない。 大和との会話を適当に切り上げたベルゼバブは、目線を、リップとシュヴィの方に向けた。リップの皮膚が、粟立って行く。 化物だとは、聞いていた。怪物だとも、知っていた。だが、実際こうして目の当たりにすると、リップも、正確にその戦闘力を計測していたシュヴィですら、戦慄する他ない。 人類の可能性の範疇にまだ収められるような姿形をしていながら、しかし、常識を絶した力を秘めたる者。それがベルゼバブだった。 「……嘗て見かけた月の兵器に似ているな」 意味を掴みかねる事を呟きながら、ベルゼバブはシュヴィの方を睨んだ。 物質的な質量と重圧が宿っていると錯覚しかねぬ、その目線の強さ。機械の演算や計算では、説明出来ぬ、再現出来えぬ。途方もない武練の持ち主である事を、シュヴィは認識した。 カイドウに比べれば、勝率は高いとシュヴィは認めた。 身体の中に取り込んだ天使の因子。サーヴァントは何処までも、生前の逸話に引きずられる、人類の想念の結晶、夢と思いの権現である。 その逸話自体に、成程シュヴィは覚えがあるし、活用出来るのなら有効活用したい。そしてベルゼバブ相手にこの逸話が刺さるのであれば、意味は確かにあったのだ。 ――だが、絶対に勝てる訳じゃない。勝率は確かに、カイドウと比較すればまだベルゼバブの方が高いと言える。……ほんの、1割程。 確かに、天使としての要素がベルゼバブに備わっている以上、シュヴィにとっては有利に戦える相手である事は間違いない。 ただそれは裏を返せば、切り札である『全典開』を用いて初めてベルゼバブを相手に戦える可能性がある、と言う事に過ぎないのだ。 恐らく全典開を用いた場合の勝率は、良くて四割、最悪三割程度であろう。勿論、これを用いなかった場合の勝率は、相手が余程弱ってない限りはゼロである。 シュヴィの機凱種としての役割は、解析。そもそもの身体の作りが『戦闘に特化していない』のだ。 対してベルゼバブの身体つきは、戦闘用に作られた機凱種以上に、戦闘に特化した、生物の限界を超えた肉体スペックなのだ。 音速以上の速度で移動し、極音速を遥かに超えるスピードで矢継ぎ早に攻撃を繰り返すだけでなく、カイドウとの戦いを観察するに、武芸にも精通した動きをも披露出来る。 この暴力的なまでの戦闘能力を以て、全典開した上から殺される可能性もあるし、しぶとく喰らい付かれて、リップの方の魔力が枯渇して脱落する可能性すら出てくる。 特攻が働くからと言って、勝てる訳ではないのだ。この序盤で戦いを挑まれれば、拙いかも知れない。ベルゼバブとの戦いの後に、カイドウと悶着があれば、本当にシュヴィもリップも聖杯戦争から退場する。逃走の選択肢をも、エミュレートしたその矢先だった。 「この場をどう収めるつもりだ、ランサー」 「目障りな物は、消すに限ろう」 「少し待て。私にこの場を与らせろ」 助け舟を出したのは、誰ならん。 リップの不意打ちによって、怒りを覚えている筈の峰津院大和その人だった。 リップもシュヴィも、豆鉄砲でも喰らったような表情だ。ベルゼバブが不機嫌な表情を隠しもせず、大和に対して何かを言うよりも速く、ズイ、と。彼よりも前に出る。 「私が聖杯戦争の参加者である事など、貴様の言う通りだ。少しの学があれば誰だとて想到し得る結論だ。其処に驚きはない。だが貴様は、私がこのランサーのマスターだと理解した上で、接触を図ったな? 何処でこの関係を知った」 一触即発の舞台が、一気に、交渉のテーブルに変った事をリップ達は理解した。 但し、何時までも続くような物じゃない。薄氷の上に成り立つテーブルだ。しくじれば瞬時に、殺し合いに発展する程の、危ういそれである事を重々承知していた。 「お前達も戦っただろ、馬鹿みたいな図体のあのライダーとだよ。あいつの拠点の中にいた」 「……ほう。気づいていたか? ランサー」 意識を、背後のベルゼバブにやりながら、大和は問う。 「あの拠点自体、かなりの魔力が立ち込めて、余であっても気配の探知は困難を極めた。癪に障るが、見つけられなかった事は認めよう」 鬼ヶ島内界は、カイドウの放つ覇気と魔力とが混ざり合い、カイドウ以外のサーヴァントの魔力を探知する事は、難しい状態にあった。 これを逆手に取ったシュヴィは、自らの兵装の一つを用い、サーヴァントとしての気配を実はずっと、鬼ヶ島にいた時は隠していたのだ。 ベルゼバブには効いたようだが、流石に、鬼ヶ島の持ち主であるカイドウには、通用しなかった。そう言う理屈が、実はあったのである。 「それで、貴様らは何故ライダーの宝具の中にいた? 首でも獲るつもりだったのか?」 「最初はな」 リップは、大和との交渉に乗る事にした。虚実をいりまぜながら、有利な条件を引き出そうと火を吹かんばかりに脳を回転させる。 「だが、時期に恵まれなかった。失敗して、同盟を組むって運びになったのさ」 「アレと同盟を組もうと思ったのか? 使い潰されるのが関の山だぞ」 「そんな事は解ってるんだよ。そうせざるを得ない状況に陥っちまったんだ」 「無能、か」 せせら笑うベルゼバブ。客観的に見れば、確かにその通りだ。怒りの念が湧いてこない。 「当初アイツが提示した条件は、部下、だぞ。それに比べれば、対等の同盟に持ち込めたのは、中々持ち直した方だと認めてくれや」 「成程、それはある意味そうだ」 カイドウが如何に、『ぶっちぎれた』サーヴァントであるのかは、直接話した大和と、戦ったベルゼバブが何よりも知っている。 自分の都合が第一、欲しいものは奪う、我が欲望を隠しもしない。力で押し通る、その性情。 とてもじゃないが、同盟を組むには値しないサーヴァントだ。誰であっても、付き合いの果てが裏切りの末の死である事が、解りきっているのだから。 アレを相手に、アレの望んだ結果を跳ね除け、此方の条件を呑ませて、譲歩させるその手腕。成程、確かに認めるべき所はある。 「迂遠な会話は嫌いだろう。単刀直入に言おう。『私と組め』」 「……何?」 警戒の閾値が、シュヴィもリップも、そして、ベルゼバブですらも。最大の値を振り切った。 同盟の、申し出? 峰津院大和が、である。ベルゼバブも大概だが、この大和にしても、性格と我の強さでは似たり寄ったりである。 自分以外は並べて、格下、道具。そのように思っているような青年が、まさかこのような提案をしてくるなど……。 「お前自身が良く分かっていようが。あのライダーと組んだ先に、未来はないぞ」 「んな事は解ってるんだよ」 「ならば話は速い。乗りかけている船がタイタニックだと解っているのなら、とっとと降りてしまえ。あの狂人と一緒に沈みたくはあるまいが?」 「お前だって信頼するに値しない」 当たり前の話だ。出会ってすぐで信用出来ないとか言う問題以前だ。 大和の性格も、態度も、気に食わないと言うのは確かにある。だが、人目を一切憚らず、破壊を振り撒いて反省の色も一切ないベルゼバブに対し、咎める様子も見られない。 そんな人物を誰が、信頼出来ると言うのか。加えて従えるサーヴァントが、カイドウよりは多少はマシなのかも知れないが、正直な所信頼出来る出来ないの話では五十歩百歩だ。組めと言われて、即答できる筈がない。 「価値観の話で言えば、私の狂気など、あのライダーと似たり寄ったりだろうな」 意外な事に――大和は、リップの言を肯定した。目を、丸くするリップ。 「隠し立てをしてもしょうがなかろう。貴様と、其処のアーチャーの懸念の通りだ。私は貴様らを、道具として使おうとしている」 「ふざけんな。交渉は不成――」 「そして、私の信念の下に、貴様らを生かす事もまた吝かじゃないと思っている」 リップが全てを言い切るよりも前に、大和は言葉を紡いだ。 「目を見れば解るぞ。貴様は私の望む世界の側で生きるに相応しい人物だとな」 「アンタの望む、世界? 独裁でもするつもりか? 第三帝国思想は最終的に失敗に終わる、止めておけよ」 「今この瞬間まで続いている社会的な立場、階級、年齢や性別を軸として諸々の仕組み。これらを撤回した上で、個としての強さで全てを決められる世界。それが、私の望みだ」 これに反応したのは、シュヴィの方だった。目を見開いて、信じられないような目で、大和を見る。 そして、何となく、その世界についてイメージがわくのは、リップの方だった。不治とは言ってしまえば、神(クソッタレ)から授けられた、有難くもなんともない呪いなのだ。 そもそもリップは医者であると言うのに、この能力のせいで治療行為に及べないのだ。メスを使えば、切開した場所の縫合が出来ない。その後の結末がどうなるか、最早語るべくもなかろう。 才能とも言えぬ才能のせいで、煮え湯を飲まされ続け、この呪いのせいで人の社会から弾き出されたリップだから、大和の言いたい事は、確かに理解が出来る。 不治は呪いではあるが、間違いなく稀有な才能なのは確かだ。これだけの力を授かっていながら、自分達は排斥される。そう言う世の在り方に疑問を抱いた事はなかったか、と問われれば、肯定出来ない。確かに、思っていた事もあるし、今でも思う所はある。 ――だが 「アンタの地位までそのまま、は通らねえよな」 「当然の疑問だな」 織り込み済み、と言わんばかりに大和が笑った。 当たり前だ。他人には、今までの世界で築き上げてきたものや、受け継いできた特権を捨てろだとか、実力で生きろとか言う癖に、自分だけが全てを引き継ぐ。そんな虫の良い話、あって良い筈がない。リップの論駁は、当然の事である。 「私は私の地位に対して何ら拘泥していない。あれば便利なのは認めるが、所詮は理想を叶える為に敷設されたレールに過ぎん。いつまでも利用するつもりはない」 「捨てられるのか」 「私がそれをできなくて何になる? 私の願いは、世界中の全ての民が実力主義の世界に目覚める事だ。個としての性能、強さ、特異能力こそが、全てに優先される。力で得られるものがあるのなら、全て得ても良い。叶えるべき理想の過程で、実力主義の世界を創造した私ですら邪魔だと思ったのなら、殺すのだって私は許容する。その世界に於いて、私の命ですら、価値がないのだから」 リップからすれば究極的に、狂っていた。 恐るべき事に、大和の目は本気だった。完全かつ純然たる実力主義の世界が樹立され、その世界の中でなら、自分が邪魔だと思えば殺されても良い。 普通の人間なら、自分は別だ、自分だけは例外で君臨し続ける。何とも惨めでわがままで、見苦しい考えだが、そうと考えるのが当たり前だろう。 大和には一片とて、そんな感情がない。自分が淘汰される事すら、是。本当に、実力主義の礎を築き、時と次第によっては、その理想の中で死ぬ事すら、厭ってないのだ。 「……財閥のサイトの情報を信じるならよ。アンタの年齢は、17だって聞いたんだが?」 「間違ってはいない。その通りだ」 「何が、アンタを狂わせたんだ? その思想に目覚めるには……アンタは、若すぎると思うんだがな」 平和な先進国の日本で目覚めるには、余りにも異質な思想。 これに開眼したのが、富も名声も思うが儘。才に溢れ、華も盛りもセブンティーンであると言う事実が、やにわにリップには信じられなかった。 この年齢ならば、カネの力もあって毎日のように違う女の子をとっかえひっかえ出来たであろうし、高い車を走らせて自慢する事だって出来たであろうに。 金のある17歳がやりたいであろう、あらゆる楽しみに見向きもしないで、叶える理想は実力主義の樹立、この一点。如何なる境遇が、峰津院大和を狂わせたのか。リップにはそれが想像出来なかった。 「守られるべきでない屑が、この世には多すぎる」 吐き捨てるように、大和が言った。悲しい目で、シュヴィは大和の事を見ていた。 「世襲した物だけにしか価値がないゴミがいる。自分にはそれしかないからと理解しているから、己の特権を守る為に社会のあるべき形を歪めるクズがいる。それに諂う羽虫がいる。……自分に不幸な噛み合わせを強いている元凶が誰なのか理解しているのに、その誰かに慴伏する弱者がいる」 言葉を、大和は紡いで行く。 「強くもない、立派でもない、美しくもないし褒められもしない。そんな者の為に命を懸ける事は、余りにも馬鹿馬鹿しい。ゴミとクズとが我が物顔で踏み付けている地面に、いつか芽吹く筈であった才能の芽が潰されたままでいる。……その事実に、私は憤りを覚える」 その瞳に、野心で燃える焔と、鋼鉄の決意を携えた徹死の光を宿させて、大和が言った。 「肥えた豚共には、死を喰らわせる。媚びる事でしか己を保てぬ弱者には、百年の孤独と千年の寂寞を与える。私の目指す世界には……ただ、邪魔なだけだ」 「本当に、それが貴方の理想……?」 今まで、沈黙を貫いていたシュヴィが、此処に来て、口を挟んで来た。 「何に代えてでも叶えたい。私の理想だ」 「弱いから、生きる価値がない……。そんな風になった世界を、私は知っている。……だから、言える。貴方の世界は、破滅するしかない世界……」 「その世界は――」 「やめた方が……良い。悲しいだけの、辛い……世界だから。もっと違う願いを、探してあげて」 ――空が蒼いと言う事実が、むかしむかしある所に、から始まる御伽噺であった世界。それが、シュヴィの生まれた世界だった。 シュヴィの知る嘗ての世界に於いて、人類種(じゃくしゃ)には希望など、一縷として残されていなかった。 人類が存続出来る環境の水準、その水準をあの世界は大幅に下回っていた。より言ってしまえば、人類が生き残れる可能性などゼロに等しい環境だった。 地に植えて育つ作物は何もなかった。土地の栄養が大地より失われて、数百と余年を優に経過していて久しい。人為的な御業の助けなしに草一本生えない土地など珍しくもない。 安心して口に出来る水など何処にもなかった。飲んだら腹を下す、程度などマシな方、戦争の過程で放出された毒素は水源を即座に犯し、農業用水にも使えない程だった。 満足に、呼吸出来る場所すら見つけるのが難しかった。霊骸……魔法を行使する為に必要な意志あるエネルギー体の死体は、地上の至る所に降り積もり、人類種であればガスマスクなしに呼吸をする事は自殺行為とすら言える場所が地上の7割以上も存在した。 凡そ、人類に対して、夢も希望も、僅かな安心すらも。用意されていない地獄だった。 上述の環境だけじゃない。多少拠点に使える場所を見つけたとしても、山すら消滅させる上位種の兵器によって、何が起こったのかも解らないまま消し飛ばされる事もある。 哨戒中の幻想種や獣人種(ワービースト)に見つかり、原形すら留めない程に肉体を破壊されてしまう事など、日常茶飯事と言うべきケースであった。 空が蒼い。誰もが知っていて、疑問にすら思わないこの当たり前を、知らないまま死んでいった人類は大勢いる。空が蒼いと言う事実を、神話の中の出来事だと認識したまま、一生涯を終える者だとて無数に存在していた程なのだ。 シュヴィは知っている。空は今日とて、何処までも蒼く、それが何処までも広がっていた事を。 自由と未来、そして平和を象徴する、清澄たる蒼い色を湛えている、あの空。時に、昔の事を思い出して泣いているのか、時々酷い雨だって降らせるけども。 それでもその雨は時に恵みになって、地の潤いになって。空の模様にも在り方にも、天気の一つ一つにも意味があって。 そんな天気の下で、人々は今日も生活の為に活動している。生きる事は、難しい。この世界に於いても、それは同じ事なのかも知れない。 今日もこの東京では、哀しみや苦しみ、怒りや憂いなどを抱きながら、生き抜いている人間が数多く存在しているのだろう。 だが、それだけじゃない。人の世の営みには、喜びや楽しみ、愛や安らぎだってある。そしてこの世界には、その良き領分が存在しているのだ。 大和の目指す世界は、これを否定する。 シュヴィの居た世界だとて、弱者の方が圧倒的に多かった。人間以上の強さの種族とは言うが、その種族であっても、真っ先に死んでゆくのはその種族の中でも弱い者からなのだ。 人類種以外の十六種族の誰もが、あの戦争を肯定していたとは思えない。彼らの中にはいつ終わるとも知れぬあの大戦の終戦を願っていた者だって、いた筈なのだ。 弱い者に、生きる価値がない世界と言うのは、強い者にしか権利と価値の集中する世界の事であり、その世界に於いては、強い者が舵取りを間違えたその時、全てが終わるのだ。 だからあの世界は、皆が死に絶えるまで戦いを続ける寸前まで行ってしまった。星杯を巡る戦い。これを戦い以外で終らせるもう一つの方法に、神霊種すら気付かなかったのだ。 無限にも等しい連環の時間を、戦争に費やしていたあの世界。その戦いを終わらせたのが、ちっぽけで、卑劣で、悪魔などよりもずっと狡猾で、神などよりもずっと全てが見えていた、一人の弱者である事を知っているシュヴィだからこそ。大和の理想は、到底受け入れられないのだ。 この空の下では、苦しみもあるし、楽しみもある。苦しみの方が多いのかも知れないし、同じだけの数なのかも知れない。 大和の言った、彼が唾棄するべき不平等、理不尽。それらは確かにあるのだろう。平和な世界であるが故に起こり得る、怠惰と独占、悪徳の類がある事は間違いない。 だが、ゆっくりと、向き合えば良いじゃないか。苦しみも悪徳も、確かにない方が良い。それは間違いないが、急にそれを全部なくす事は出来ない。 漸進的にでも良いから減らして行けば良いだけの話だろう。息苦しい社会の中で、小さく縮こまって、幸福を享受する者達をも、切り捨てる事は、ない。それを切り捨てた果てに、何が待ち受けるのか。痛い程知っているシュヴィだからこその、考えだった。 「他に手立てがなければ……そう言う考えを持っていたのかも知れんな」 腕を組み、シュヴィの言葉を受け止めた後に、大和は言った。 「だが我々は今、何を求めてこの東京の地を踏んでいる? 貴様らサーヴァントは、何の為にこの地に招かれた? それすら理解出来ぬ愚物ではないだろう」 「解ってる……!! だけど、綺麗な空を血みたいに赤くしなくても……この街の人達をこんなにも殺さなくても……!!」 自分以外のサーヴァントの姿を見ると、シュヴィは思う。何の為に、彼らは戦うのだろうと。 決まってる。聖杯戦争だからだ。この戦いが如何なる目的で開かれて、その戦いの末に何が手に入るのか。その事をよく知っているからこそ、彼らは命を削るし、他の命も葬れるのだ。 万能の願望器と言うトロフィーを巡る戦いについて、シュヴィはこれをよく知っている。 ――いや。『知り過ぎている』と言った方が正確なのかも知れない。同じような戦いに、シュヴィは生前にも長年従事していたからである。 因果なものだった。この世界では聖杯(ユグドラシル)で、元居た世界では星杯(スーニアスター)。言い方は違うが、字にした時の読み方は殆ど同じ。ちょっとした言葉遊びだ。 如何なる願いをも叶える魔法の杯。それがどれ程魅力的に映るのか、シュヴィは理解している。その魅力は、黄金の眩さよりも、宝石の煌めきよりも。ずっと価値があり。 その獲得の為に、知性を宿したあらゆる生き物は同じ種族にどれだけ犠牲が出ようが戦争を続行出来る。 星が悲鳴をあげようがお構いなく、無慈悲な破壊を齎す兵器を星の至る所で炸裂させる事だって出来る。 そんな連中であるから、自分達の国や種族以外のあらゆるものに対して、それが当然の如く殺戮と死とを振り撒く事が出来る。だって彼らは、己が理想の敵だから。 神に等しい力を誇る連中ですら、万能の願望器の持つ馥郁たる香りに脳髄を焦がされるのだ。誘惑に弱く、流されやすい人間達が、それを求めるのはおかしい事ではない。当然の理なのかも知れない。 シュヴィ・ドーラではなく、シュヴァルツァーと名乗っていた時代。己の名を、名前ではなく『個体名』と言う機械的な名前で称していた時代。 シュヴィも星杯を求め、機凱種の一員として活動していたし、解析体として彼女が開発・発明に関与した兵器は、数多くの種族の殺戮に貢献もした。 異常な時代だったと、思う。それが機凱種として当たり前の義務だった時代とは言え、その様な事が自分に出来た、と言う事実が、シュヴィにはただただ信じられない。 そしてその事を、正当な行為であると肯定していた己自身が、何よりも信じられない。 「空の色など、太陽から届く光のスペクトルが大気を舞う塵埃によって散逸された結果に過ぎない。戦いを止める理由にもならない。そして、もう一つ。この街の人間達はNPCだ。放っておいてもやがては消え去るが定めの、仮初の幻だ」 揺るぎのない言葉だった。 この世界を徹底して、聖杯戦争の為に誂えられた檜舞台としてしか見ておらず、其処に生きる人間達はまさに舞台装置としか捉えてない。そんな言葉だ。 それは残酷な事に徹底的に正しい事実である。だが、そうと割り切れぬ主従だって、大勢いる。峰津院大和は違うのだ。本当に、割り切れているのだ。 「そこまでして……貴方は、夢を……その世界を、実現させたいの……?」 「貴様らにはないのか」 大和が言った。 「私に聞くだけじゃない。貴様らの理想も語って見せろ」 改めてシュヴィは思う。大和だけじゃない。この聖杯戦争に招かれた者達は、何の為に戦うのだろう。 自分達の世界に不満があるのか? 己の命を天秤にかけてまで叶えたい願いがあるのか? 過去に置き去りにされたままの後悔を、拾い上げ、掬い出したいのか? それは、この世界の命を蹂躙してまで――――其処まで考えて、シュヴィは、これ以上先を考える事を、止めた。気付いてしまったのだ。その問いは、自分自身にまで跳ね返ってくる事に。 心とは、ロマンチシズムを徹底して排した上で、究極的に言ってしまえば、アルゴリズムの副産物。自律的判断を埋める為の隙間だ。 感情と心とを獲得しなかった、徹底的に合理性の奴隷だった時代のシュヴィ、もといシュヴァルツァーと名乗っていた時代の彼女なら。 聖杯の獲得を至上命題としていただろうし、その獲得の過程で如何なる犠牲が出ようとも、出てしまったその犠牲以上の価値を聖杯に認めていた筈なのだ。 今は不思議と、界聖杯に魅力を感じない。リクに会いたい。その気持ちに嘘はない。再開が叶えられると言うのなら、本当に聖杯の獲得だってエミュレートした事もある。 だけど……人一人、自分の責任が及ばない所で死んでしまうだけで、己のせいだと背負い込み、一人夜の孤独の中で叫ぶあの少年が。 人を殺して殺して殺し尽くして、そうしなければ辿り着けない聖なる杯を利用して再開して喜ぶのだろうか。その可能性を考える時、シュヴィは無性に怖くなる。 痛みは、怖くない。同胞達の犠牲と研鑽の上に成り立っている、彼女が行使する兵装の数々を失う事だって、大した恐怖にならない。 リクに嫌われる。それは、心を得、誰かを尊ぶ事を学んだ彼女にとって、これ以上の物があるのだろうかと想像すら出来ない、恐るべき未来であった。 心を学んでしまったからこそ、彼女はシュヴァルツァーではなく、シュヴィ・ドーラと言うサーヴァントなのだ。 そしてその心の作用があるからこそ、彼女は、界聖杯と言う物に対して、消極的な動きを見せてしまう。 だが――彼女のマスターは違う。マスター、リップは、聖杯を焦がれる程に求めている。叶うのなら、一つだけと言う事などせず、幾つもの叶えたい願いがある程であった。 それを、強欲だと切り捨てる事は、容易い。だけど、それはシュヴィには出来なかった。欲深と呼ぶには、余りにリップの願いは切実で……怒りに満ちていたものだったから。 そしてその怒りが、彼の生来の優しさと人の好さからにじみ出た、悲しい発露である事も、理解していたから。 これを理解してしまったら、リップや、他の参加者の願いの事を、『命を蹂躙してまで叶えたい事なのか』、と問いただす事は、もうシュヴィには出来なかった。 そうと詰問してしまえば返って来るのは『お前の願いはどうなんだ』と言う至極当然の疑問なのであり、これを言われればシュヴィは、沈黙するしかない。 なんて事はない、シュヴィの抱く願いだとて、他者からすれば命を奪ってまで叶えたい事とは思えない、些細なものに過ぎないのであるから。シュヴィにとって、リクとの再会を、つまらない願いだと言われるのは、悲しい事だ。だから、相手の夢の価値を計る事は、したくない。 「……私、は……」 「もういい、大丈夫だアーチャー、この紳士はオレに用があるんだ。オレが話を付ける」 良い淀むアーチャーを制し、彼女の前にリップが出てくる。 大和と、リップ。二名の目線が交錯する。互いに互いの目を見、顔を全く、背けない。 「オレの願いは、過去を取り戻す事。ステロタイプ過ぎて、つまらねぇだろ?」 「万能の願望器を使うには、実に慎ましい願いだ」 「そんな小市民と、途方もない野望を抱いているアンタ。釣り合うと、思っているのか?」 「『願いは本当にそれだけ』か?」 リップの内奥に燻る、怒りの熾火。これを、大和は正確に測っていた。 「……さぁね」 茶を濁すリップ。ふっ、と大和は笑みを零した。真意を測りかねる微笑みだった。 「同盟についてだが、正直な話、アンタと組めると言うのは、オレには魅力的な提案に映る。打算的で気に入らん言葉だろうがな」 「リスクを計算出来る事は悪い事じゃない」 「アンタの言う通り、あのライダーについてはオレだって切れる物なら縁を切りたい。偽らざる事実だが、アンタの事だって今すぐ信用するのは難しい」 「時間をくれ、とでも?」 「当然と言えば当然の話だろ。重大な選択を前に、軽率に即決する奴はアンタだっていらないだろ」 「即断は才能だ。指揮官、指揮者と呼ばれる者に於いて、最も重い罪は、何も決断しないで引き延ばしにする事だぞ」 「急いては事を仕損じる、ってのはアンタらの国のイディオムだろ。先人の言葉には従え」 沈黙の帳がおり、互いに互いを睨み付ける時間が続いた。 ――20秒、経過。この重苦しい雰囲気を打ち破ったのは、大和の方であった。 「……よかろう。日付が変わる今日の零時まで、待ってやる」 「その時間を過ぎれば?」 「聞く程の事でもなかろう」 大和の意向は、その言葉だけで、よく理解した。 「解った。その時間までに考えを決めておく」 リップがそう言うと、大和は、ロングコートの裏地から、何かを取り出した。 一瞬リップは腰を低く構えようとするも、シュヴィから念話で武器じゃないと言う旨が告げられてくる。 大和が取り出したのは、長方形の小さい紙片と、ボールペン。その紙が名刺である事に気づいたのは、すぐだった。 名刺の裏地にスラスラと何かを記すや、それを手首だけの動きで、ピッと大和が放り投げて来る。これを指で挟み、リップはその内容を見た。 高級な和紙を思わせる名刺には、峰津院財閥のシンボルマークに、一切肩書も役職も表記されていない、峰津院大和の5文字が記されている。 裏面を見ると、極めて整った典麗な字体で、大和のフルネームがペンで記されているではないか。 「それを持って私の邸宅に来い。守衛にでも見せれば、全てを理解する。そう言う教育をしているからな」 名刺をまじまじと眺めるリップ。 政財経の世界における要人やVIP、その誰もが欲しがる峰津院大和の名刺を、リップはズボンのポケットに乱暴にしまってしまった。ある種の意趣返しか。 「馬鹿が暴れた影響でな。此処も侵入を禁止したが、バリケードを越えて有象無象共が集まって来るのもそろそろだろう。目立ちたくなければ帰れ」 言って大和は、足早に歩を進める。進行方向はリップ達から見て、右方面。 大和らの歩みを数秒程眺めたその後で。リップは、口を開いた。 「オイ」 「……何だ」 立ち止まり、大和が言った。ベルゼバブの方は、シュヴィらの方に油断なく目線を投げかけている。 「オレの願いは、過去を取り戻す事だ」 「さっき聞いたぞ」 「俺によってつけられた傷は、絶対に癒えない。治らない。俺の攻撃を防ぐのに、攻撃を無効化するバリアを張ったアンタの判断は、ハッキリ言って正しいものだった」 傾聴。大和は、リップの言葉に耳を傾けているのが、良く分かった。顔は見えないが、真率そうなそれをしているに間違いない。 「そんな呪いをオレは神から授かっててな。そんな呪いを受けていながら、俺は、執刀すらする医者だった。与えた傷が治らないのに、切開しちまえば、どうなるかなんて解るだろ?」 「続けろ」 「オレの願いは、呪われた手術によって死んじまった……あの患者を救うあの日をやり直したいという事。それが一番大きい。そして……アンタの指摘の通りだよ。俺の願いはそれだけじゃない。この願いのついでに、俺にこんな呪いを与えたもうた神サマとやらを殺してやりたいのさ」 淀みなく、熱を込めて。リップは言葉を紡いで行く。 其処には紛れもなければ嘘もない。魂を絞り出すようにして言い放たれた、真実の言霊、万斛の思いであった。 「オレは、この世でオレを一番頼ってくれて、オレしか救える奴がいない娘を殺しちまった極悪人だ。そして……その娘はまさしく、アンタの理想とする世界では、弱者みたいな人だ」 そこでリップは押し黙り、大和の背中に、矢のように鋭い目線を注ぎ続けた。 「生きる価値がないんだろ、その人は。アンタの世界じゃ」 「そうだな」 即答。大和は、過たずそう言ってのけた。 「だが、貴様が守ると言うのなら、それを否定する事はしない」 「……何?」 怪訝そうな表情を浮かべるリップ。 ククッ、と大和が笑った。彼の方向に向き直り、大和は口を開く。 「骨の髄までの弱者は生きる価値はないが、其処から這い上がろうとする意思まで価値がないとは言わん。この世界に於いて弱者でも、私の築く世界で才能を目覚めさせる者がいるかも知れない。その可能性までは、摘まないと言う事だ。ジェノサイドなど、今時流行らん。皮下にも言った言葉だ」 「……お前」 「弱者は生きる資格がない。蓋しその通りだ。この信念を私は揺るがす事はない。だが、貴様が強ければ、その弱者を護りながら、やりなおしの人生を生きる事もまた自由だ。貴様が強ければ、誰もその行為を咎めはしない。それもまた、私の信念。……それだけだ」 コートを翻し、大和はリップに背を向けた。 今度こそ、振り返る気はないとでも、その背は語っているようだった。 「この聖杯戦争が開催する前に、二十組以上の主従を殺して来たが……漸く、私の目に適う者を見つけた気分だ」 一歩、また一歩。歩を進め、大和は遠ざかって行く。 「貴様は才能がある。善い返事が出来るだけの分別が、備わっている事を願う」 早歩きで遠ざかる大和の背を、リップは十数秒程見送った後で、自分も、この場を去ろうとする。 大和が最後に口にした言葉を一度、反芻しながら。声一つ上げる事無く、リップはその場を立ち去った。 ――物思いに耽り、何処か小さくなったように見えるその背を。 シュヴィ・ドーラは、不安と心配の入り混じった表情で、ジッと見つめ続けている事に、リップは気づいていたのであった。 【新宿区・新宿御苑/一日目・夕方】 【峰津院大和@デビルサバイバー2】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:宝具・漆黒の棘翅によって作られた武器(現在判明している武器はフェイトレス(長剣)と、ロンゴミニアド(槍)です) [道具]:悪魔召喚の媒体となる道具 [所持金]:超莫大 [思考・状況] 基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり 1:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます 2:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています 3:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです 4:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です 5:白瀨咲耶、神戸あさひと不審者(プリミホッシー)については後回し。炎上の裏に隠れている人物を優先する。 6:所有する霊地の一つ、新宿御苑の霊地としての機能を破却させました。また、当該霊地内で戦った為か、魔力消費がありません。 7:リップ&アーチャー(シュヴィ・ドーラ)に同盟を持ちかけました。返答の期限は、今日の0 00までです。 【備考】 ※皮下医院地下の鬼ヶ島の存在を認識しました。 【ランサー(ベルゼバブ)@グランブルーファンタジ-】 [状態]:肉体的損傷(小) [装備]:ケイオスマター、バース・オブ・ニューキング [道具]:タブレット(5台)、スナック菓子付録のレアカード [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:最強になる 1:現代の文化に興味を示しています。今はプロテインとエナジードリンクが好きです。また、東京の景色やリムジンにも興味津々です。 2:狡知を弄する者は殺す。 3:青龍(カイドウ)は確実に殺す。次出会えば絶対に殺す。 4:あのアーチャー(シュヴィ・ドーラ)……『月』の関係者か? 【備考】 ※峰津院大和のプライベート用のタブレットを奪いました。 ※複数のタブレットで情報収集を行っています。 ※大和から送られた、霊地の魔力全てを譲渡された為か、戦闘による魔力消費が帳消しになり、戦闘で失った以上の魔力をチャージしています。 【リップ@アンデッドアンラック】 [状態]:健康 [令呪]:残り3画 [装備]:走刃脚、医療用メス数本、峰津院大和の名刺 [道具]:ヘルズクーポン(紙片) [所持金]:数万円 [思考・状況] 基本方針:聖杯の力で“あの日”をやり直す。 1:皮下陣営と組む。一方的に利用されるつもりはない。 2:敵主従の排除。同盟などは状況を鑑みて判断。 3:地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)の量産について皮下の意見を伺う。 4:ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)は様子見。追撃が激しければ攻勢に出るが、今は他主従との潰し合いによる疲弊を待ちたい。 5:峰津院大和から同盟の申し出を受けました。返答期限は今日の0 00までです 6:カイドウの所に一旦戻るか如何かは、後続の書き手様にお任せします [備考] ※『ヘルズ・クーポン@忍者と極道』の製造方法を知りましたが、物資の都合から大量生産や完璧な再現は難しいと判断しました。また『ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)』が一定の規模を持った集団であり、ヘルズ・クーポンの確保において同様の状況に置かれていることを推測しました。 ※ロールは非合法の薬物を売る元医者となっています。医者時代は“記憶”として知覚しています。皮下医院も何度か訪れていたことになっていますが、皮下真とは殆ど交流していないようです。 【アーチャー(シュヴィ・ドーラ)@ノーゲーム・ノーライフ】 [状態]:健康 [装備]:機凱種としての武装 [道具]:なし [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:叶うなら、もう一度リクに会いたい。 0:…マスター。シュヴィが、守るからね。 1:マスター(リップ)に従う。いざとなったら戦う。 2:マスターが心配。殺しはしたくないけと、彼が裏で暗躍していることにも薄々気づいている。 3:フォーリナー(アビゲイル)への恐怖。 4:皮下真とそのサーヴァント(カイドウ)達に警戒。 5:峰津院大和とそのサーヴァント(ベルゼバブ)を警戒。特に、大和の方が危険かも知れない ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……オイ、皮下」 不機嫌。今のカイドウの態度を一言で表すなら、まさにそれだった。 皮下真が、己のマスター。殺してしまえば、自分もまたこの聖杯戦争の舞台から消滅する。そうと解っていても、カイドウは金棒で潰してしまいかねなかった。 ベルゼバブとの戦い、その決着をつける事は、結果として出来なくなってしまった。 単純な話だ。皮下医院近辺まで対比していた、その院長、皮下が、令呪一画を切ってまでカイドウを呼び戻したからだ。 完全なる、不完全燃焼。気力は十分過ぎる程に漲っているのに、それを発散させるアテがない。ストレスに歪む顔を浮かべるカイドウを、皮下は悪びれもなく見上げていた。 「悪いな総督。状況を考えれば、こうするしか道はなかったんだ。まぁ許してくれや」 謝意の言葉を述べはするが、その言葉には申し訳ないと言う気持ちよりも、お前も同罪だろうがと言う思いの方が強く出ていた。 令呪の消費内容は単純明快。『人の姿に戻った上で自分の所にワープして来い』、たったそれだけだ。 こんな事で令呪を切るなど、馬鹿らしいにも程があると皮下当人もそう思うが、大和が追跡して来かねないこの状況を思えば、近くまでサーヴァントを呼び戻すのは、悪手ではない。 ベルゼバブとの戦闘で最高にハイ・ボルテージになっているカイドウに、皮下の声が届くとも思えない。そもそも物理的にも、届く訳がない。なぜならカイドウらは高度1500m以上の高さで戦っていたのだから。 口にこそだしてないが、要は『お前ちゃんとしろよ』と言う思いを、皮下は発散させていた。 新宿区は滅茶苦茶に破壊してしまい、最早完全に申し開きが出来ない状況だ。カイドウの姿が余りに目立っていた為に、『新宿区の事変はカイドウ1人によって齎された』。 そう考えられてもおかしくなかった。無論当事者は、新宿を襲った異変が、ベルゼバブとカイドウの衝突であり、カイドウ1人によるものじゃない事は理解している。 ただ、それを理解できている者は極々少数。しかもベルゼバブの方は大きさが人間相応で、人間の目には視認不能なマッハ3近い速度で移動していた為、普通は解る筈などない。 誰が如何見たとて、カイドウが全部悪い、と見られてもおかしくない状況だ。こうなると非常に厄介だ。いよいよもって本格的に、叩かれかねない状況なのだから。 「……チッ、おれも甘くなっちまったモンだ。良いぜ、皮下。俺も遊び過ぎた。許してやらぁ」 「流石、海より深い懐だ。サンキュー総督。……今鬼ヶ島って言うか、皮下医院に戻るのは危険だ。臨時のアジトにでも戻ろうや」 と言って皮下は、念話でカイドウに霊体化を促し、それを受けてカイドウは直ぐにこれを実行。 皮下医院から少し離れた裏路地から、駆け出して移動。皮下医院には行かないと言ったが、状況だけは確かめる必要がある。 様子を見てから、別所に用意したアジトで息を潜めようと言う腹だ。そして、数分で目的地に到達し――その場所に来た事を、激しく公開した。 「……おわ~…………………………………………」 見慣れたものが、皮下医院を『圧し潰す』形で転がっていた。 特にカイドウは、ものの正体をよく認識していた。なんて事はない。『鬼ヶ島のドクロドームの巨大な角』が、皮下医院と言う建造物を圧し潰して破壊してしまっているのだ。 無論、角そのものが大きすぎる為、周辺の建造物も跡形もなく破壊してしまっているし、子供の泣き声や大の大人の叫び声が、痛くなる程に良く聞こえてくる。 ベルゼバブとカイドウの激戦、その余波の一つだった。 破壊されたドクロドームの頭頂部、その破片が空中を舞った時、角が偶然、空間に空いていた裂け目の中に取り込まれ、その裂け目の繋がる先が、皮下医院の上空で。 それがそのまま勢いよく落下して、現在に至ると言う訳だ。その結果が、破壊された皮下医院プラス、左右合わせて十七棟分の家屋の破壊、道路の粉砕と言う現象な訳である。 「……お家が一番!!(オズの魔法使い)」 「おう、そうだな」 カイドウとベルゼバブとの戦いの余波が漸くなりを潜め、元の夕焼け空に戻りつつある東京の天を見上げ、皮下は、100年ぶり位にマジ泣きしそうになっているのであった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「オラーッ!! ゴミクズ共ォ!! キリキリ働けぇ!! カイドウさんが来る前に塵一つ残さずに瓦礫を片付けておけえ!! と言うクイーンの発破に対して、「いや無茶っすよ」と口にする部下は一人もいない。 クイーン自身が偉いと言うのもあるのだが、それ以上に、カイドウの方を怒らせると本気で怖い事を、骨身に染みて理解しているからだ。 だから、百獣海賊団の面々は、瓦礫を必死に退かしていたり、ゴミやら何やらを片付け、急ピッチで畳を張りなおしたりと。カイドウが戻って来ても良いような体制を整えているのであった。 「クイーン様!!」 と言って、ギフターズの一人がカイドウの下へとやって来た。 腹の部分に意思を持った象の頭が融合しているような人物で、クイーン程ではないが、一般人からすれば畏怖の対象そのものにしか映らない恐るべき巨漢であった。 「おう、如何だった。被害の方は」 「全然無傷じゃありません!! 葉桜とか言う奴の研究施設も7割程破壊されて、クイーン様が実験していた連中らもかなり殺されてて……」 頭が痛くなるクイーン。 ベルゼバブとカイドウの戦いが早期に終わる事を祈っていたのはこれが理由である。 鬼ヶ島は勿論の事、自分の研究成果である様々な化学兵器にまで累が及ぶのではないかと、ずっと不安だったのだ。 結果は案の定とも言うべきもので、振出しに近い形に戻ってそうなのだった。今から0スタートは、中々精神的に来るものがある。 「……殺されてるだけに終わったのか?」 「? と言うと?」 「お前も見ただろ、鬼ヶ島中に生じた、あの空間の裂け目!! アレに呑まれた奴も、いるんじゃないのか?」 「……あっ、そうです。そうなんです。余波の衝撃波とかで死んでる連中も居ましたけど、そもそも裂け目に呑まれて消息不明の奴も……」 「馬鹿野郎それも併せて報告しやがれ!! だからテメェは何時まで経っても監獄長で出世が止まるンだよ!!」 「す、すいませんクイーン様!!」 「ったく……で、めぼしい奴らは呑まれたのか?」 「それが……クイーン様があのウィルスのサンプルに使ってたガキ2人ですが……」 誰だっけ、と言うような態度で顎に手を当てて考え込むクイーンだったが、直ぐに合点がいった。 「お~~~~~~~~~~~~!! いたいた、『はおり』とか言う女と、『みくる』とか言う奴だな!?」 「……灯織とめぐるでは?」 「良いんだよ細かい事は!! ……もしかして、アイツらが?」 「ハイ。裂け目に呑まれた事を、目撃した奴がいます」 「マジかよ~……」 クイーンは露骨に残念がる。 被検体としては貧弱だったが、限界を超えた痛みに苦しむ度に、『真乃』と呼ばれる少女の名を口にして、歯が砕ける程の勢いで食いしばる様子は、中々感動的な物があった。 『デク』の鑑である。その健気さに敬意を払って、早くこの苦しみから解放させてやろうと言う老婆心から、一足飛びに人体実験を終えられるものを、クイーンは投薬していたのだ。 「折角の研究の経過、見れずじまいになりそうか……!! 残念だ……ああ、残念だ!!」 「この世界の奴らに『氷鬼』のウィルスがどれだけ効くのか、ってのは後々に繋がるデータになるのによぉ……!! ああ、惜しいぜ、ババヌキよぉ!!」 【新宿区・皮下医院跡地/一日目・夕方】 【皮下真@夜桜さんちの大作戦】 [状態]:肉体的損傷(中)、魔力消費(中) [令呪]:残り二画 [装備]:? [道具]:? [所持金]:纏まった金額を所持(『葉桜』流通によっては更に利益を得ている可能性も有) [思考・状況] 基本方針:医者として動きつつ、あらゆる手段を講じて勝利する。 1:戦力を増やしつつ敵主従を減らす。 2:病院内で『葉桜』と兵士を量産。『鬼ヶ島』を動かせるだけの魔力を貯める。 3:沙都子ちゃんとは仲良くしたいけど……あのサーヴァントはなー。怪しすぎだよなー。 4:全身に包帯巻いてるとか行方不明者と関係とかさー、ちょっとあからさますぎて、どうするよ? 5:283プロはキナ臭いし、少し削っとこう。嫌がらせとも言うな? 星野アイについてもアカイに調べさせよう。 6:灯織ちゃんとめぐるちゃんの実験が成功したら、真乃ちゃんに会わせてあげるか! 7:峰津院財閥の対処もしておきたいけどよ……どうすっかなー? 一応、ICカードはあるけどこれもうダメだろ 8:つぼみ、俺の家がない(ハガレン) [備考] ※咲耶の行方不明報道と霧子の態度から、咲耶がマスターであったことを推測しています。 ※会場の各所に、協力者と彼等が用意した隠れ家を配備しています。掌握している設備としては皮下医院が最大です。 虹花の主要メンバーや葉桜の被験体のような足がつくとまずい人間はカイドウの鬼ヶ島の中に格納しているようです。 ※ハクジャから田中摩美々、七草にちかについての情報と所感を受け取りました。 ※峰津院財閥のICカード@デビルサバイバー2、風野灯織と八宮めぐるのスマートフォンを所持しています。 ※虹花@夜桜さんちの大作戦 のメンバーの「アオヌマ」は皮下医院付近を監視しています。「アカイ」は星野アイの調査で現世に出ました ※皮下医院の崩壊に伴い「チャチャ」が死亡しました。「アオヌマ」の行方は後続の書き手様にお任せします ※ドクロドームの角の落下により、皮下医院が崩壊しました。カイドウのせいです。あーあ 皮下「何やってんだお前ェっ!!!!!!!!!!!!」 【ライダー(カイドウ)@ONE PIECE】 [状態]:肉体的損傷(小)、魔力消費(中) [装備]:金棒 [道具]: [所持金]: [思考・状況] 基本方針:『戦争』に勝利し、世界樹を頂く。 1:鬼ヶ島の顕現に向けて動く。 2:『鬼ヶ島』の浮上が可能になるまでは基本は籠城、気まぐれに暴れる。 3:リップは面白い。優秀な戦力を得られて上機嫌。 4:リンボには警戒。部下として働くならいいが、不穏な兆候があれば奴だけでも殺す。 5:アーチャー(ガンヴォルト)に高評価。自分の部下にしたい。 6:峰津院大和は大物だ。性格さえ従順ならな…… 7:ランサー(ベルゼバブ)テメェ覚えてろよ [備考] ※皮下医院地下の空間を基点に『鬼ヶ島』内で潜伏しています。 ※鬼ヶ島の6割が崩壊しました。復興に時間が掛かるかもしれません [全体の備考] ※ベルゼバブとカイドウとの戦いの余波により、皮下医院周辺及び、新宿区の新大久保を中心とした直径数㎞範囲に、赤い空の拡大と積乱雲による落雷やスコール、スーパーセルの発生による暴風や広範囲の電波障害や水の煮沸、凍結などの怪現象が発生しました ※上述の余波によって、1万人近いNPCに被害が出、また数百~棟以上の建造物が崩壊しました ※鬼ヶ島内界に生じた時空の裂け目に、『氷鬼』に感染させられた風野灯織&八宮めぐるが界聖杯の東京に弾き飛ばされました。場所の方は後続の書き手様にお任せします 時系列順 Back むすんで、つないで Next 夕景イエスタデイ 投下順 Back むすんで、つないで Next 夕景イエスタデイ ←Back Character name Next→ 060 ハッピースイーツライフ 峰津院大和 077 明日の神話 ランサー(ベルゼバブ) 059 Down the Rabbit-Hole 皮下真 075 で、どうする?(前編) ライダー(カイドウ) リップ 071 嘘の世界で貴方と2人 アーチャー(シュヴィ・ドーラ)
https://w.atwiki.jp/ze799pir/pages/6.html
あまからボタモチ(小沢先生)ベビースターラーメンを食べたらたまに二つ繋がっている(井上先生)。 今日も寒かったけど、衣替えしたからどんとこいです。 夢は即消えましたよね高いちゅうねんとりあえず、幸福を呼ぶいうことで、フクロウの飾りをGet☆。 いつも、ご先祖さまありがとうございます(;_;)これからもよろしくお願いしますm(__)m。 :二つのものが似ているが実際はひどく違っていること。 ビックリって今変換したら、「!」 って出ましたそんなこたーどうだっていいのさー。 私も、仕事の関係上、すぐ帯広へ発たなくてはいけませんヒメを抱っこしました。 もう、爆笑ですよ映画館で、くっさいくっさい!!ですよ海猿どこじゃないのです。
https://w.atwiki.jp/ze799pir/