約 20,660 件
https://w.atwiki.jp/azum/pages/41.html
「なあなあ、よみちゃん。」 昼休み、大阪が私に語りかけてくる。またくだらない事を言い出すのかと思ったら 違った。 「よみちゃんはともちゃんとどんな出会い方したん?」 「あ、それ私も聞きたいです。」 いつの間にか大阪の横にはちよちゃんがいた。ともは・・・神楽に肩叩きをしよう として、狙いがずれ思い切りチョップをくらわしていた。 「ともとの出会いか。」 そこから私の記憶が遥かな過去へと飛んだ。 ともと会う前の私はどちらかというと、無口で大人しかった。クラスメイトで いうと榊に近い感じだった。でも、私の場合榊と違い『暗い』をイメージさせる ものだ。 とにかく勉強だけにしか関心を持たず、他の物事はかなり冷めた目で見ていた。 当然クラスの中では浮いた存在だった。対照的にともは今と変わらず明るくやんちゃ で、男子と殴り合いの喧嘩をしたりもしていた。 でも、ともには人を惹きつける魅力があったらしく文句言いながらもみんな 慕っていた。 「お前いつも退屈そうだな。あたしと一緒に遊ばない?」 いつもの様に私が次の授業の予習をしている時、ともは私に話しかけてきた。 これが私ととものファーストコンタクトだった。 「悪いけど、お断りします。私にそんな暇はありませんので・・・・」 この頃の私は口調も今以上に棘があった。はっきり言えばともを見下していた。 「滝野さん、あなたもそんな事をしている暇があったら勉強でもなさったら?」 「バーカ、勉強なんてのは授業受けりゃいつでも出来んだろーが!!でも遊ぶ のはすっげぇ限られる。だから、遊ばないと損だっての」 ともは私の嫌味な言葉にも負けないくらいの、とびっきりの嫌な顔をした。 「さっきも言ったでしょ!!断るって!!」 「いいから来いよ!!絶対面白いっての!!」 「嫌よ!!」 「人が誘ってんだから来いよ!!」 私も智も苛立ってきて口調が荒くなる。 「嫌だってんだろ!!離せ、バカ!!」 「へ~優等生のあんたでもそんな口聞くんだ。意外だよ。」 その言葉に私の中で何かが切れた。 優等生のあんたでも・・・・何だか物凄くバカにされた気がして許せなかった。 気が付くと私はともにアッパーカットをくらわせていた。床に倒れるとも。 「いってぇ!!やりやがったなぁ!!」 ともも立ち上がり殴りかかってくる。取っ組み合いの喧嘩になり、先生が来るまで 私達はずっと喧嘩していた。先生が事態を収めた時も私達は互いにそっぽを向いていた。 これが最初の出会い。最悪の出会いだった。 でも何故か、それ以降私はともの存在が無視出来なくなった。 アレ以来私達は顔を合わすたびに嫌味を言い合っていた。 「あら、滝野さん今日も熱心に遊ぶのかしら?」 「水原さんこそ、今日もお勉強ですか~?」 お互いに毒を吐いた後、そっぽを向く。そんな毎日だった。だけど、不思議と 悪い気はしない。そして、ある日あの事件が起こった。 私の事を嫌ってる奴がいた。当然、こんな性格だったのだからともでなくても ムカついているのもいるだろう。しかし、そいつらはともと違い陰湿な手口を 使ってきた。 私はその日、係の仕事があって少し教室を離れていた。私が教室に戻ってきた 後、机がすごい事になっていた。机の上には何か落書きがしてあり、ご丁寧に 「死ね」だの「バカ」だの書いてあった。ゴミとかも置いてあった。 俗に言ういじめである。しかし、私は呆れるだけで特に何の感慨も沸かなかった。 クラスの連中が冷たい目で見るのも今に始まった事ではない。 ただ、ともだけは何かを考えこむような顔をしていた。 当然、こういうのは日を増すごとにエスカレートしていった。椅子の上に画鋲が あったり、下駄箱に訳の分からないものを入れられたり、机を持ってかれたり・・・ さすがの私もこうしつこいと頭に来る。誰がやってるか見当つくだけに余計に腹立つ。 で、極めつけは事故を装ってバケツ一杯の水を被せてきた奴がいた。私が見当を つけていた犯人『平井百合子』だった。こいつは優等生だが、その裏で気に入らない奴を 徹底的に仲間と一緒に陰湿にいじめる女だった。 「あら、ごめんなさい水原さん。大丈夫でしたか?」 こいつ、よくもぬけぬけと・・・その後ろでニヤついている平井の仲間。 もう我慢できずに殴りかかろうとしたその時、それより早くともが平井を殴っていた。 「せこい事ばっかしてんじゃねーよ!!バーカ!!」 ともの声が教室中に響いた。 殴られた平井は目を白黒させていた。得体の知れないものを見るかのような目 でともを見ていた。私もこの展開に呆然としてしまい、ただ事態を見守るだけだった。 「な、何をなされるの、滝野さん!?」 「バレバレだっつーの!!お前、事故に見せかけてこいつに水ぶっかっけてた けど、それがせこいって言ってんだよ!!」 ひょっとしてこいつ私の事をかばってるのか?が、次の瞬間ともはありえない行動に出た。 「どうせやるなら、堂々とやれよな!!」 ともはそう言って、思い切りバケツ一杯の水を平井の頭から被せた。私同様水びたしに なる平井。その後、ともは自分にも水をぶっかけた。 「くぅー!!気持ちいい!!お前等もやってみろよ。気持ちいいから!」 と、どこからか持ってきたホースを手にして平井の仲間達に水をぶっかけた。 もちろん、その時連中は逃げようとしていた為何人か関係ない奴が巻き添えを くらっていた。 もう無茶苦茶だった。教室は水浸しになり、ともはこっぴどく先生に怒られた。 しかし、その顔は全く反省していなかった。 この事件以来、平井はいじめをしなくなった。ともにやられた事がよっぽど こたえたのだろう。でもそれ以上に厄介な事になる事を私もともも知るよしもなかった。 帰り際、私はともを捕まえて何故あんな事をしたのか聞いた。 「そりゃあお前、不満があるのに正面から文句言わないであんな陰湿な事 やってる奴見たら、誰だってムカつくだろ?」 どうやらともは最初にあったいじめの時から平井だと見当をつけていたらしい。 「だからって教室を水浸しにしなくてもいいだろ!!」 「えー、やっぱこういうのはほらみんな水浴びた方がいいじゃん。ほら、旅は 道連れって言うだろ?」 「・・・・・・・・」 駄目だ。こいつ訳分からない。でも同時にこいつの事が嫌いじゃなくなってく 自分がいた。何でだろう?他の奴が同じ事をしたらムカつくはずなのに、ともだと 許せてしまう。 「ま、まあでも一応お礼は言っておかないとな。ありがとう。」 「気にすんなよ。あたしら友達だろ?」 ともの口から信じられない言葉が出た。 「友達?」 「そーだよ。あたしがそう決めたんだから、今からよみはあたしの友達だ。 嫌だって言ってももうこれは決まった事なんだ。」 こーゆう所は昔から変わってない。私はその言葉を心の中で反芻した。友達・・・ 「仕方ないな。そう言うなら私もお前の友達だ。でも何でよみなんだよ。私は 暦だぞ。」 「言いづらいからよみなの。あたしの事もともって呼べ。」 「分かったよ、とも。」 「よーし。じゃあ帰るか、よみ。」 その日、私は初めてともと一緒に帰った。初めての友達が出来た日の事だった。 「ってこんなとこかな。」 「・・・・・うう。」 いつの間にか榊が目の前にいて、感動したらしく泣いていた。その横には神楽を 伴ったとももいた。どうやら話に夢中でみんながいる事に気付かなかったようだ。 「そう、あたしがいなけりゃよみはずっと暗い奴でいたんだ。それをあたしが 救った。さあ、こんなあたしに惜しみない賞賛を。」 「まあ、そうとも言えるな。」 「ともちゃん、見直したのですのだ。」 「エエ話やな~」 「へ~ともにしちゃいいことしたじゃん。」 うんうんと頷く榊。 「な、何だよ~!みんなで褒めるなんて何かおかしいぞ。あたしを騙そうとしてん のか!?はっ、その手にはのらねぇもんね~」 全員に褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、顔を真っ赤にしながらともは その場を駆けていった。 あいつが照れるなんて珍しいなと私は思った。そういえば、友達って言った時も 照れてったっけ。 THE FIRST CONTACT 終
https://w.atwiki.jp/azum/pages/24.html
ひとしきり可愛い神楽の妄想に浸った【榊】は、ようやく我に帰ると 着替えをすることにした。体育の時間に倒れたあと体操服を着たままだ。 さすがにこのままでは帰れない。気絶している間に届けられていたらしい、 二人分のバッグの中から自分のバッグを選……ぼうとして、気がついた。 (そうか、私は今神楽なんだから、着替えは神楽のバッグの中だ。あれ? 神楽は…… 体操服のまま飛び出して行ったな……。頼むからそのまま学校の外に 出たりしないでくれ……私の体で……) 神楽がどこにいるのか急に心配になってきた。着替えが終わったのですぐに神楽を探しに 出ることにした。 二人分のバッグを持ち、扉を出て保健室に鍵をかけていると、声をかけられた。 「神楽センパーイ!! もう大丈夫なんですかーっ!!」 一瞬自分が呼ばれていることに気がつかなかったが、あっ、と気付き すぐに声のした方向を見た。ポニーテールの女子。知らない女子だ。 「先輩、怪我の具合はどうですかー? やっぱり、今日は練習来れませんかー? あの……もしかして大会も無理とか……」 恐らく、神楽の所属する水泳部の部員だろう。そう見当をつけた。そういえば神楽が 大会がどうこうとか言ってたっけ。 「いや……怪我は大したことない……」 ここまでしゃべって気がついた。自分は今神楽なのだから、神楽らしくしゃべらなければ。 【榊】は考えた。 (言葉遣いもそうだが、話す内容も問題だ。神楽らしく振る舞わないとすぐにばれてしまう。 神楽の言う通り、今自分達の異常に気付かれるのは得策ではないな。カムアウトは時期と状況を 考えないと。この子の質問だが、神楽ならどう答えるだろう……) 以前神楽から聞いたエピソードを【榊】は思い出していた。その1:熱が38度あるので 気合いで熱を下げようとしてジョギングしたら実はインフルエンザで肺炎になりかけた。 その2:なんだかぶつけた足が痛いので気合いで直そうとして短距離ダッシュしたらよけい 痛くなり実は骨にひびが入っていた。以上2つのエピソードから、神楽は超のつく 体育会系思考であることが分かる。 (なるほど、この程度の怪我で休むのは「神楽らしくない」ということになるな。 あとはしゃべり方や声の調子に気をつけて……) 「こんなの怪我の内にはいんねーよ。ここの鍵を職員室に戻したら行くから」 「あ、じゃあ私もお供しますー」 「おう、じゃあ行こうか」 まったく違和感を感じさせない完璧な会話だった。2秒で考えることを放棄し、 かおりんを困惑させた【神楽】とはえらい違いである。【榊】はこういう所で律儀だった。 (しかし……ここまではうまくごまかせたけど、水泳部の部室に行って どうすればいいんだ? いや、それよりも練習に私が出ていいものかどうか分からない…… でも今の私は少なくとも外見上は神楽のわけだし……うーん今さら私の姿をした 神楽を探しに行くわけにもいかないだろうし……ん?) 【榊】の思考はそこで中断した。ポニーテールの女子が取り出したものに視線が 行ってしまったからである。 (あ、あれは「ねここねこ手帳」! 品薄で駅前の文具屋にも売ってないのに…… いったいどこで?!) 【榊】が「ねここねこ手帳」に釘付けになっていると、ポニーテールが 「あ、これかわいいですよねー? ねここねこ手帳って言うんですよー」 【榊】が慌てて返事をする。 「えっと、そ、それをどこで?!」 「駅の北口からちょっと離れた所にあるお店ですよー。結構他のとこで見つからないものが あったりする穴場なんですよー。おまけでこんなストラップももらっちゃったしー」 「非売品か?!」 「え? ええー、そうですよー。でも私いっぱいもらって余っちゃって……」 そこまでしゃべったところで、ポニーテールは神楽先輩……つまり【榊】の目がギンギンに 輝いているのに気がついた。 「あ、あのー神楽先輩? もしかして先輩ってこういうの好きだったりするんですかー?」 「あ、ああ、ちょっとな。」 『大好きです!!』と叫びたいのを必死に堪えて何とか返事をした【榊】。 「もし良かったらー、私おまけがいっぱい余ってるんでー差し上げますよー。」 「下さい!!」 堪えきれなかった。 「?!」 「じゃ、じゃなくて、それじゃーもらおうかな……」 「……えっとー、じゃあまた今度持ってきますねー。でも先輩がこれ好きだなんて意外ですー」 このとき【榊】は、心から自分が神楽になって良かったと思った。 ポニーテールと一緒にプール下の水泳部部室に向かう【榊】は、プールに向かって 体操服のままずんずん歩いている【神楽】に気がついた。 「おーい、かぐ……じゃなくて、さかきぃー!!」 【榊】は【神楽】を呼び止めた。こっちに来い、と手で合図する。【神楽】が答える。 「あーっ! なんだ榊、西山と一緒だったのか!」 走りよってくる【神楽】。焦る【榊】。西山と呼ばれたポニーテールが疑問を口にする。 「あ、あのーっ! こちらは神楽先輩ですよー。それに、あなたが、いつも神楽先輩が 言われてる榊先輩ですよねー?」 (しまった、マズイ!!)ようやく【神楽】も気がつく。 「あ、あははー。いや、ちょっと勘違いしただけじゃねーか! 気にすんなって!」 何とか返事をした【神楽】に西山部員の追い打ち。 「榊先輩初めましてー。でも神楽先輩から伺ってたのと印象違いますねー。 クールな方だって伺ってたんでー」 (うわぁ……)焦りまくる【神楽】に【榊】が助け舟を出す。 「今日はちょっと榊は機嫌がいいんだよ。普段はもっと無口なんだけど」 そこまで言っておいて、すっと【神楽】に近付きひそひそ話をする。 「(神楽、バッグも持たずに何をしていたんだ。)」 「(ああ悪い。持ってきてくれたのか。さんきゅー)」 「(私は部活に参加しなくてはいけないの?)」 「(へ? 別にあんたは参加しなくていいぜ。部員じゃねーんだから)」 「(状況を思い出してくれ。他の人から見て『神楽』は私だ……。部員じゃないのは 『榊』の姿をしたきみの方だ。)」 「(あっ、そうか。今だけ元に戻ろう)」 「(何を言っている。戻る方法が分からないから相談してるんだ。そう都合よく 入れ替わったり戻ったり出来るわけがない……)」 「(じゃあどうすんだよ)」 「(今日だけでも私、つまり神楽は欠席というわけにはいかないか?)」 「(冗談だろ?! 大会前のこの時期サボったら黒沢先生になんて言われるかわかんねーだろ! つーか冗談抜きで殴られるかもしれねーぞ!)」 「(黒沢先生……今日の体育の時間は出張でいなかったけど、来てるの?)」 「(夕方には出張から戻って練習見て行くって昨日言ってたから、来てるだろ)」 「(事情を説明できないかな。私達の現状を……)」 「(だから信じてもらえるわけねーって! サボる口実だと思われるのがオチだ)」 「(でもこれじゃ本当に部活に参加すべき神楽が参加できなくて、私が参加すると いうことになってしまうけど……)」 「(……頼む、榊! 私の代わりに練習に出てくれ!!)」 「(無理だ……どうすればいいのか分からないし……)」 「(みんなについて行けば分かるって!!)」 「(いや、やっぱり無理だ)」 「(どうしてだよ!!)」 「(体育会系は苦手で……)」 「(好き嫌いでもの言ってる場合かー!! 頼むよお願いだよ出てくれよ!!)」 何やら内緒話を始めた先輩とその友人を見ていた西山部員は、 「あのー、私先に行ってましょうかー? 席外した方が良さそうですし……」 と、部室の方に進もうとした。それを見て【神楽】が叫ぶ。 「ちょっと待って!!」 「なんですかー?」 西山部員が立ち止まり振り向く。 「あ、あの(えーと榊のしゃべり方は、えーっと)……わ、私も水泳部を…… あの、見学というか、体験入部させてくれないか? お願いだ!!」 これには【榊】が目を丸くして、 「な、な、何言ってるんだかぐ……もとい、榊!!」 と叫んだ。 【神楽】が【榊】にひそひそ声で話し掛ける。 「(まあ落ち着け榊)」 「(どういうつもりだ)」 「(榊のかっこした私が無理なく練習に参加するにはこれしかない。 こうすれば私があんたにどうすればいいのか教えてやれるし、私も練習できるかもしれねー)」 「(それはそうだけど。準備を何もしてない)」 「(榊は今日注文してあった体育用の水着が届いたんだろ。あれを私が着ればいいんだ。 タオルとかは貸してやる。と言うか私が「神楽」のタオルを借りるってわけだな。)」 「あのー」西山部員がひそひそ話を遮る。 「えーとですねー、そういうことは神楽先輩に相談された方がいいと思いますー。 ていうか今ひそひそ相談されてましたよねー。神楽先輩、どうされますかー」 「え、えっと……」【榊】は言い淀んで、 「これから決める……」 と返事をした。 「はいー、ではそーゆーことですのでー。それでは私はお先に行かせていただきますー。でもー」 西山部員はクスッと笑って、 「榊先輩やる気じゃないですかー。神楽先輩の勧誘がようやく実を結びましたねー。 もうちょっと早く決めていただければもっと良かったと思うんですけどー。 仕方ないですよねー。それではー」 そして、トコトコと部室の方に歩いて行った。 「……神楽」【榊】が不機嫌な調子で呟く。 「あれじゃ私が水泳部に入る気満々みたいだ……」 【神楽】はいたずらっぽく笑って 「わざとそうしたに決まってんだろ。こうでもしないと神楽のかっこしたあんたに 揉み消されるかもしれなかったし。やる気がねーとか理由つけてさ」 【榊】は【神楽】の、周りから見れば「榊」の顔を見て驚いた。 (こんな笑い方私には出来ない……私の顔なのに……やっぱり人は性格次第で 笑い方も変わるんだ。私が私でいたときの私の顔は、あまりにも無表情だ) しかしそんなことを考えてばかりもいられず抗議を続ける。 「今だけだ。元の体に戻ったら私が水泳部に所属するのは嫌だから」 「つれないこと言うなよー。西山の言ってたことは本当だぜ。もう少し早く入ってたら 榊も今回の大会にだって出られてたかもしれねーんだぜ。」 「それだけレギュラー枠が減るだろう。みんなにとってはうれしくないんじゃないのか?」 「まあそうかもしれんが……ところで何でさっき即答しなかったんだよ。 あんたは今神楽なんだから、あんたがうんと言えば体験入部できるんだよ。 体験入部だから黒沢先生には事後承諾とっとけばいいし」 「でも……」 「今の所他の選択肢はねーぞ。さあ決めちゃえ」 「……『榊』の体験入部を認める」 「そうこなくっちゃな。でも後からやめるなんて言っても黒沢先生が放さねーかもしれねーぜ。」 「おどかさないで……。ああ、一瞬でも神楽の体をいいと思った自分が間違いだった。 こんなことになるなら早く自分の体に戻りたい」 「戻るつもりなのか? 私はこのままでいいけどな。うーん、水泳のときだけ榊の体 借りるってわけにはいかねーのかな」 「無茶言うな」 二人は部室に向かって歩いて行く。戸口の所で【神楽】がふと気になったことを 【榊】に質問する。 「ん? 私の体をいいと思ったのは何でだ?」 【榊】が返事をする。 「かわいいから……小さい方がかわいくていいよ……」 【神楽】はちょっと呆れた。【榊】が続ける。 「ゴシックロリータとか着たい……」 【神楽】は思った。何のことだか分からん。まあどうせフリフリの服とかそんなんだろ。 正直そんなのを着ようとするのは止めて欲しい、と。
https://w.atwiki.jp/azum/pages/21.html
「おう、榊ぃ、勝負だ!!」 女の大声が後ろから聞こえてきた。神楽だ。私は彼女の言う「勝負」の内容が 気になった。ことによっては、かねてからの計画を実行に移す絶好の機会かも しれないからだ。弁当の早食い、教室の雑巾がけ競争といった内容では計画を 実行に移すのは難しい。 「今日の体育、バドミントンだよな。今回はそれで勝負だ!!」 彼女がそう叫んだ瞬間、私の体は思わずびくっとなってしまった。 これ以上ないほどおあつらえ向きだ。今日は雨が降っていて、 男子も女子も体育は体育館で行われる。しかも競技はバドミントン。 人数は多くてもダブルス、いや、彼女が勝負をすると言うのだから、 体育教師の黒沢先生に頼み込んでシングルスにさせるだろう。つまりは一対一。 当然男子の目も女子の目も私達にある程度は集中する。理想的な状況だ。 団体競技ではいまいちだ。それに単に走った時の結果は既に出ている。 その点、今回のバドミントンのようなネットを挟んだ競技では、お互いの技量の差が 結果に即結びつく。本当に理想的だ。やるなら今日だ。 「やめたほうがいい。せっかく出来たお前の貴重な数少ない友達じゃないか。 考え直せ。戻れなくなるぞ!」 そういう考えが頭の中に浮かんだが、その考えを押しつぶす。 そして、そのまま私は彼女に返事をする。 「ああ」 短い承諾の返事。これでもう後戻りできない。後戻りしたくない。 「よーしそうこなくっちゃなぁ。うりゃー! 燃えるぜっ!」 無邪気な彼女の返事。私の企みも知らずに、彼女は同性の私から見てもまぶしい笑顔を 浮かべて叫んでいる。その笑顔を壊そうとしているのは、間違いなく私なのだ……。 準備体操、ペアでの練習と授業はつつがなく進み、いよいよ練習試合の時間になった。 こういう場合、たいていは適当にペアを組んで、一部のやる気のある人は熱心に、 大多数のそうでない人はいいかげんに試合をする。試合を見ている方も そう真剣に見るものではない。 しかし今回は私と神楽の試合だ。しかも神楽はやはりあらかじめ黒沢先生に頼み込んで 私と神楽でシングルスの試合を組んでもらっていた。黒沢先生は私と神楽の試合を 中央のコートでさせることにした。さらにこの試合をするあいだ、他の試合を止めて ここにいる私達以外の女子生徒を観戦にまわらせたのだ。 「みんな、いい? 神楽さんと榊さんの試合を見て参考にするのよ」 そう黒沢先生は言ったが、本当は少しでも生徒に授業を楽しませようと言う 黒沢先生の配慮である。さながら私達の試合は本日のメインイベントというわけだ。 先生が顧問を務めている水泳部、そのエースである神楽の頼みに 甘い顔をしたかったというのもあるだろう。 事実体育館の中には皆の興奮と熱気があった。黄色い声をあげている者もいる。 かおりんなどは興奮し過ぎて両隣りから二人掛かりで押さえ付けられている。 男子は黒沢先生の担当ではないが、それでも手の開いている男子は こちらの方を見物している。舞台は十分すぎるほど整っていた。 観衆の中、神楽と私はコート中央で試合前の握手をした。彼女は屈託のない笑顔と、 輝いた瞳を私に見せつつ、 「お互いがんばろうな! でも今日は負けねーぜ!!」 と私に語りかけた。またどこからか黄色い声が上がった。まさにお祭り騒ぎだ。 しかしこの場にいる人は、私のこれからしようとしていることを何一つ知らないのだ。 私の陰湿で卑劣な計画を。 (黒沢先生、あなたの心遣い、かえってあだになりましたよ) 私は心の中でこう呟いて、コートの中、位置についた。 笛の音。そして神楽がサーブした。いいサーブだ。とにかく返す。まずは様子見。 神楽もそのつもりのようだ。数回のお互いの手の探り合いの後、 私は計画を実行に移した。スマッシュを打つ。決して彼女が取れないように。 シャトルは私の期待通りに床に転がった。苦笑いする神楽。 そうだ、今のうちに笑っておくんだ。もうすぐきみの顔からは 笑顔はきっと消えてしまうだろうから……。 私がこんなことをするきっかけになったのは、小学校4年生のときの出来事が きっかけだった。クラスには勉強も運動も非常に出来る男子がいた。 その男子はことあるごとに自分の能力を自慢し、さらに自分は他人、特に女子に対して いかに運動能力が優位にあるか誇っていた(今から考えれば思春期にも到達していない 小学生に男女差はそうあるものでもないのだが)。とにかく彼は人気があり、 ませた女子がラブレターを送っただのという噂には事欠かなかった。一方の私は勉強は そこそこ出来るが、運動は女子の中でも大したことのない子だった。私は体育に限らず、 体を使うことを適当に「流して」いたのだ。なぜだかよく覚えていないが とにかく一人っきりのときは全力で走ることがあっても、知っている人間の前では 決して力を出し切ることはなかったのだ。 あるとき、クラスマッチだか運動会だか忘れてしまったのだが、 リレーのクラス代表選手を決めようという話になった。そのリレーは 男女混合リレーだったため、とにかくクラス全員を走らせて早い順から代表に出そうと いう結論になった。先述の男子はぶっちぎりのトップで代表に出ることが 確定していたようなものだった。しかし、クラス全員が走って代表を決めるという 建前上、彼も走ることになった。このとき私は思ってしまったのだった。 もし私が全力で走ったら彼に勝てるだろうか、と。内心、自信はあった。 私は答えを知りたかった。だから私は全力で走った。人前で初めて全力で。 結果は、私が問題の彼のタイムを大幅に超越する形になった。 彼は顔を真っ赤にして叫んだ。曰く、私が何かいんちきをしたのだと。曰く、 女のくせに生意気だと。曰く、こんなのは間違っている、やり直せと。曰く、 今まで実力を隠していたのは卑怯者だと。そうやって叫ぶごとに彼は周りに 八つ当たりをし、拗ね、だだをこね、幼稚園児に戻ったかのように暴れ回った。 そして、すっかり自信とプライドを失った彼は、リレーの行われる当日欠席した。 別段これは特異な事例ではないだろう。単に彼がそういう、自信やプライドを 崩されることについてたまたまナイーブなだけだったのだ。だが、この事件は 私にある考えを植え付けた。それは、「人より運動が出来るということに関して 自信を持っている人間の自信、プライドを崩せば、その人間は立ち直れなくなる ことがある。普段運動に興味無さそう(と考えている)な人間にそれをされた場合、 その可能性は大きくなる」という考えである。私はこの考えを何回か試してみた。 例えば、リトルリーグ所属の同級生よりも体育のソフトボールの時間で活躍してみたり、 あるいは小さい頃から剣道をやっていた上級生と剣道の練習試合で一本勝ちしてみたり、 と。もちろん、自信、プライドを崩せないことも多かったし、崩せたとしても それをバネに立ち上がってくる人間の方が多かった。幼いとはいえ,スポーツを やっている人間の精神は強靭なのである。しかし、たまにやはり立ち直れなくなる人間は 確かに存在した。そしてその人間を見る度に、私は言い様のない興奮と快感を 覚えるようになってしまった。昨日までの英雄が今日はすっかりしょげ返り誰からも 見向きもされないのを見るとたまらなくうれしかった。 自分は運動部に入らなかったしスポーツにも興味なかったにも関わらず、 運動能力だけは高かったため、中学生になってもこの性癖は治らなかった。 スポーツが出来てクラスのリーダー気取りの生徒が私に負けたのをきっかけに自虐的な顔を するようになったときはその顔を思い出して自室で笑い転げたし、校内の代表選手として 大事にされていた生徒がやはり私に負けたのをきっかけにぐれてしまい、 そのうち少年院に入ったと聞いたときには幸福感のあまり精神が どうかなってしまいそうであった。いや、そのときすでに私はどうかなっていたのだ。 そんなことをする自分に罪悪感も、後悔も覚えるのに、幸福感の方が大きくて 堪えきれなかったのだから。病気としか言い様がなかった。そのうち、 もともと弱い人間だけではあきたらず、私に負けても再び立ち上がって 努力しようとする人間をあらゆる手段を使って叩き潰し駄目にすることにやっきになって しまうようになった。もちろん、極力それと分からないようにするのである。 私に負けた人間に、 「ううん、私なんて大したことない。まぐれだ。●●さんのほうが全然すごい」 こういう台詞を何度言ったことか。度を過ぎた謙遜は嫌がらせでしかない。 そうやって私は自分の欲望を満たした。その他にももっと単純に匿名で中傷の手紙を 出したりなど相手を精神的に傷つけるための下劣なことをいっぱいやった。 自分ほどの偽善者は他にいなかっただろう。 高校に入学して、もうこんなことはやめようと思った。罪悪感と快感のあいだで どんどん汚くなる自分がつくづく嫌になっていた。普通に友達を作って、 普通の人間関係を作りたかった。しかしその普通の人間関係の作り方を私は すっかり忘れてしまっていた。誰ともうまく話せなかった。かおりんなど、 私に憧れる人もいたが、正直苦痛だった。こんな汚い私が憧れの対象になっている。 いっそ、誰とも関係を持たなければ、誰も私の汚い手にかかることもない、 そう考えるようになってしまっていた。 だが、私はある人に出会った。美浜ちよ。ちよちゃん。10歳の天才高校生。 ちよちゃんのおかげで、私はやっと普通の人間らしい人付き合いが出来るようになった。 そして、決して数が多いとは言えないけれど、大切な友達が出来た。普通に人と話して、 普通に遊ぶ中で幸福感を得られるようになった。私は変われたと思った。 あの頃の、卑劣で、汚くて、最低で、どうしようもない自分はいなくなったと思った。 そう思っていた。だけど……。 2年生になった私は神楽と同じクラスになった。神楽。校内で有名なスポーツ少女。 しかも彼女は私に話し掛けてきたのだ。やばいと思った。この人と付き合ったら またあの病気が出てしまう。だから知らん振りをした。それでも彼女は話し掛けてきた。 一緒に昼食を食べた。一緒に下校した。やめてくれ、私はきみを壊してしまうかも しれないんだ。そう思って避けようとしたが、優柔不断で弱い私は彼女を 避けきれなかった。友達が増えるのがうれしかったのだ。うれしくてうれしくて たまらなかったのだ。そして油断もしていた。彼女と付き合ってもあの病気は 出なかった。だから自分は変われたんだ、もうあの病人だった自分じゃないんだ、 そう思っていた。いや、思い込もうとしていたのかもしれない。 親しくなるにつれ、彼女は彼女のスポーツに対する思い、水泳に対する思いを 私に語ってくれるようになった。そのときの彼女の目、彼女の顔は本当にきれいだった。 私はすっかり油断し切っていた。だから、そのきれいさに見とれるだけで、 自分をかえりみることを忘れてしまっていた。そして、自分の病気が、 自分の中の悪魔が、取り返しのつかないところまで育つのに全然気付かなかったのだ……。 気付いたときには遅かった。 ……どうやって神楽を負かそうか、いや、負かすのは既に自分が神楽の存在に 気付いていなかった(というより、病気を恐れて意図的に無視していたのだが) ころにすでにやっている。二度と立ち直れないような敗北を彼女に与えねば、 じゃあどうやって? 彼女の得意競技でありレゾンデートルである水泳で負かすべき、 いや、一度に倒しては面白くない、まずは外堀を埋め、じわじわと自信とプライドを そぎ落として行くべきだ。彼女は根っからのスポーツウーマンだ、 敗北を自らの糧にしてしまう、だから敗北を与えるだけでなく、敗北することで周囲から 孤立したかの印象を彼女に与えねば…… 授業中も、昼食時間も、下校中も、家でも、友達としゃべっていても、忠吉さんと 遊んでいるときでさえ! こんなことばっかり考えている! 他のことを考えようとしても無理だった。私の部屋の机の中には、 神楽が体育祭で私に負けたことを非難・中傷する手紙、これがいつでも出せる状態で 数十通も入っているのだ。もちろん全て私が自分で書いたものだ! 完全に病気だ! 誰かに相談しないと。でも誰に? ちよちゃん? 相談できるわけない! ちよちゃんは私より年下なんだ。天才だけど子供なんだ、そんな子にこんなことを 相談してどうする? 彼女の心に負担をかけるだけだ。それにもう 友達を無くしたくない。一人は嫌なんだ。一人は嫌だ……。 私の心は既に病魔に支配されていた。私は、病魔の命ずるままに、 神楽をその手にかけることを決めてしまった。 病魔が私に指示した方法。 「神楽は何かにつけ、お前に勝負を挑んでくる。他愛のない遊び半分のものもあれば、 彼女の得意なスポーツ分野のものもある。スポーツ分野を狙え。 実力の差の分かりやすい競技を選べ。間違っても勝利を与えるな。彼女の望む いい勝負もさせるな。完膚なきまでに叩きのめせ。可能な限り多くの人数の前で、 彼女の不様な敗北を晒せ。彼女は強いから、これだけでは潰せない。 その後、嫌がらせをしろ。噂を流せ。何気ない言動を装い彼女を傷つけろ。 とにかく彼女の自尊心を破壊しろ。スポーツが苦痛になるようにさせるのだ……」 私はその指示に従うままに、彼女からの勝負の申し出をひたすら待ち、 今日、彼女の勝負を受け入れ、彼女をこのバドミントンの勝負で潰すことにした。 勝負終了後、流す噂、出す嫌がらせの手紙、彼女にかける言葉、勝負することが 決まってから全て大急ぎで考えた。そして、私はさっき彼女にスマッシュを 打ちこんだのだ。私は最低だ……。 最初のスマッシュが決まって以来、一方的な展開が続いた。予定通り、 私は神楽に1点も取らせなかったのだ。最初は、 「本気だな榊。うれしいぜ」 「くーっ、惜しいなぁ。でもまだまだこれからだぜ!」 などと言っていた神楽の表情に、どんどん余裕が無くなり、焦りの色が出てきた。 私は、やけに冷静でしかも感格が研ぎすまされたようになっていた。中学のときと 同じだ。こういうとき、普段以上の力が出るのだ。やはり病魔のせいなのか。 いや、病魔は私そのものなのだ。だからこれは私の意志。神楽を苦しめるのが 私の意志なのだ。 さらに試合が進むと、もう神楽は何も言わなくなってしまった。顔面が蒼白になり、 目に涙がたまっているように見える。観戦している女子生徒も黄色い声など あげなくなった。男子も一様に沈黙していた。皆からすれば、私と神楽が対決して 神楽が1点も取れないのは異常なのだ。コートチェンジの時、黒沢先生が神楽に 声をかけたが、返事はよく聞き取れなかった。声を出す気力も失われたのかもしれない。 手加減しようとすれば手加減出来るのに、私はただひたすら神楽を苦しめた。 わざとシャトルを彼女の顔面に打ちこむことさえした。受けきれずシャトルを顔面に 受けた彼女は、悲しいのか、悔しいのか、呆然としたのかよく分からない曖昧な 表情を浮かべた。そういった表情の変化を見て、私はまぎれもなく喜んでいた。 私の病気は相手の苦痛を喜びとして感じる。彼女の顔がもはや半泣きになったときには 私の心は喜びでいっぱいになった。試合や競技の後に泣くことはあっても、 最中には泣くことも諦めることもせず戦い続けるはずの彼女があの顔だ。 私はその顔を見ながら心の中で呟いた。神楽。もう泣いてもいいんだよ。泣いてその場に 崩れ落ちるがいい。そしてこう言うんだ。「私はみじめな敗北者。完全に負けた。 榊には勝てない。バドミントンなんか嫌いだ。もうこんなみじめなことしたくない。 スポーツもみんな嫌いだ。水泳も嫌いだ……」 私はとてつもなく深い罪悪感と、背筋がゾクゾクする快感をを感じながら、 最後のスマッシュを打った。シャトルが床に着いた瞬間、神楽の目からすうっと 光が消えて行くのが見えた。神楽は私に叩きのめされたのだ。衆人環境の中で。 このうえないみじめな負け方で。他の女子、男子もあまりのことに神楽に近付こうと さえしない。ただざわざわと声が上がるだけだ。神楽は呆然と立ち尽くしている。 黒沢先生が神楽に駆け寄った。私も神楽に駆け寄った。 神楽のことを心配してとかではない。その絶望の表情を近くでじっくりみて、 より深い快感に浸ろうと考えたのだ。やはり近くで見る絶望の表情は最高だった。 この表情を見る為に、私は小学校、中学校と幾人もの人間に同じことをしてきたのだ。 「大丈夫? しっかりなさい」 黒沢先生が声を掛けた。数瞬遅れて神楽が反応した。 「……かいだ……」 「え?」 「……もう一回だ! 榊! もう一回勝負だ!」 「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいよ。試合はもう……」 「先生!! もう一回やらせてください!! お願いです!!」 「……いい? もう決着はついたのよ。もう終わったの。だから……」 「嫌だ嫌だ!! もう一度だ、もう一度やるんだぁ!! 榊!! 私は……」 「落ち着け神楽ぁ!!!」 空気を引き裂くような黒沢先生の怒鳴り声。体育館は静寂に包まれた。 「……これは体育の授業なんだから、あなた達だけにこれ以上好きに ここを使わせるわけにもいかないわ。あなた達に割り当てられた時間は終わったんだから。 それに……神楽はよくがんばったわ。とりあえず座って休んで、 気持ちを落ち着かせなさい。いいわね?」 黒沢先生のその言葉を聞いた神楽は、堰を切ったように嗚咽を漏らした。 そしてそのままゆっくりと体育館のすみへ歩いて行き、そこにしゃがみ込んだ。 そこで涙を拭おうともせずに泣き続けた。誰も彼女に話し掛けようとはしなかった。 「はーい、みんな、グループごとに後片付けを始めなさーい! 時間来てるから急いでー!」 黒沢先生が大声でみんなに指示を出した。努めて普段と同じ調子にしようとしている ようだった。 授業終了後、着替えている私に話し掛けようとする者はいなかった。 既に泣くのを止めていた神楽にも話し掛ける者はいなかった。ちよちゃん、大阪、智、 よみ、かおりんでさえも、私にも神楽にも話し掛けなかった。黒沢先生だけが神楽に 何か二言三言話していた。 「もう大丈夫です、さっきはすみませんでした」神楽がそう返事をするのが聞こえた。 教室に戻った私は自分の席に座り、先刻の神楽の姿を思い出していた。 打ちひしがれる神楽。絶望した神楽。取り乱した神楽。そんな神楽の姿で私はこの上ない 興奮と快感を覚えていた。しかしこの興奮と快感は、いわば前フリである。 スポーツ万能で私のライバルだった神楽がすっかり突き放され負け犬としてみんなに 認識されて、立場が無くなってしまう。あるいは、傷ついた彼女が自信をなくして 壊れてしまう。できれば、あんなに好きだった水泳も止めてしまう。そこまで行って 私の計画は完成となる。始めた以上止められない。戻れない。罪悪感を覚えようが、 後悔しようが。 放課後、私は一人で下校していた。そこに、神楽が追い付いてきた。彼女は努めて 普段の調子を作ろうとしているのが分かった。 「いやー、今日の榊はすごかったなー。完敗だぜ。もしかしてほんとはバドミントン やってたんじゃねーのか?」 「そんなことない。体育の時間だけだ。それに別にすごいわけじゃ」 「え? やってねーの? ふ、ふーん。で、でも本当にすごいと思うぜ。 あ、それと試合の後取り乱したりして悪かったな」 「いや、気にしてない……。今日は神楽は調子が悪かったんだろ?」 「い、いやー。一応本気のつもりだったんだけどなぁ。私も気合いが足りねーぜ。 あはは。それにしても榊があんなに強ええとはなぁ。でもさ、今度持久走の校内記録会が あるだろ? あれで勝負してみねーか? 長距離だったら私の方が有利だし。 今回の借りを返させてもらうつもりだけど、どうだ?」 ……長距離が苦手なんてのは嘘。苦手なふりをしているだけ。 「……ああ」 「よし、決まりだな! 今度こそ負けねーぜ!」 ……勝とうと思えば、私はほぼ確実に勝てる。神楽、きみは常に勝ち負けを意識しないと 生きられないんだね。でももうやめてくれ。やっぱりきみという友達だけは失いたくない。 「……」 「負けっぱなしじゃライバルとしての名がすたるからなー。そうだ、 今日からランニングのペース上げようかな」 ……頼むからその場に倒れていてくれ。再び立ち上がろうとしないでくれ。 羽ばたこうとしないでくれ。きみが立ち上がり、羽ばたけば、私はきみを打ち倒し、 きみの羽をもがなくてはいけなくなるから。 「……あ、あの……」 「ん? な、何だ榊?」 「……いや、何でも」 私はお互いのために絶交しようと言いたかったのに言えなかった。そうすることが 神楽を壊さないでいられる最後の手段なのに。内心で後悔する私に、彼女が呟いた。 「榊、今回のこととかで私に気を使ったりしないでくれよ。私は、平気なんだからな」 その後、私が神楽と何を話したのかは覚えていない。 自分の部屋に帰りつき、ベッドに寝転んだ。彼女の言葉を反芻する。 「榊、今回のこととかで私に気を使ったりしないでくれよ。私は、平気なんだからな」 そのときの彼女の顔は、強がってなんかいなかった。焦ってもいなかった。 逆境を楽しんでいるかのような、そんな顔だった。そして、彼女の目は、彼女の言葉が 真実であることを静かに語っていた。そう、彼女は平気なんだ。 「ははは……あはははは……」 うれしさのあまり笑いを堪えきれない。手強い相手だ。潰せない可能性の方が 高いだろうが、潰したときの快感は極上に違いない。きっと、これまでにないほど 楽しいに違いない。惜しむらくは、彼女が友達であることだ……。 「ははは……神楽……なんで……なんできみが私の友達なんだ……」 涙がこぼれてきた。自分がまだ泣けることに正直驚いた。 「神楽……私は最低だ。最低で壊れた人間だ。そして今も壊れ続けているんだ……。 神楽は私と一緒に壊れてくれるよな? 友達なんだから。 友達なんだから、見捨てないで……見捨てないでよ……」 (終)
https://w.atwiki.jp/azum/pages/7.html
動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
https://w.atwiki.jp/rok6kt/pages/2.html
メニュー トップページ プラグイン紹介 メニュー メニュー2 リンク @wiki @wikiご利用ガイド 他のサービス 無料ホームページ作成 無料ブログ作成 無料掲示板レンタル 2ch型掲示板レンタル お絵かきレンタル ここを編集
https://w.atwiki.jp/rok6kt/
@wikiへようこそ ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 このページは自由に編集することができます。 メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名、トップページ、メンバー管理、サイドページ、デザイン、ページ管理、等)することができます まずはこちらをご覧ください。 @wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 無料で会員登録できるSNS内の@wiki助け合いコミュニティ @wiki更新情報 @wikiへお問い合わせ 等をご活用ください @wiki助け合いコミュニティの掲示板スレッド一覧 #atfb_bbs_list その他お勧めサービスについて フォーラム型の無料掲示板は@bbをご利用ください 2ch型の無料掲示板は@chsをご利用ください お絵かき掲示板は@paintをご利用ください その他の無料掲示板は@bbsをご利用ください 無料ブログ作成は@WORDをご利用ください 大容量1G、PHP/CGI、MySQL、FTPが使える無料ホームページは@PAGES おすすめ機能 気になるニュースをチェック 関連するブログ一覧を表示 その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 @wikiプラグイン一覧 バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は? お手数ですが、メールでお問い合わせください。
https://w.atwiki.jp/daioh-sama/pages/9.html
関連ブログ @wikiのwikiモードでは #bf(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するブログ一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_161_ja.html たとえば、#bf(ゲーム)と入力すると以下のように表示されます。 #bf
https://w.atwiki.jp/wiki9_ra-men/pages/2416.html
https://w.atwiki.jp/spas/pages/1046.html
神通温泉をお気に入りに追加 くちこみリンク #blogsearch2 報道 新源泉もお肌つるつる 細入の楽今日館、“美人の湯”待望の復活(北日本新聞) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 神通川の水害対策 流域住民らが議論 鵜坂公民館 - 中日新聞 仮水道管工事 8日夜完了へ - 読売新聞 【神通温泉さんからの情報です】紀の川市にある神通温泉さんが、10月5日(火)から10月10日(... - おおた裕之(オオタヒロユキ) | 選挙ドットコム - 自社 【更新終了】和歌山市・六十谷水管橋破損に伴う断水について(2021.10.13 22 00更新) - 和歌山経済新聞 自然環境に深く没入できるアートヴィラ「ONEBIENT 神通峡」2022年秋、富山市にオープン - 日本最大級の民泊情報サイト MINPAKU.Biz 【富山】ボート転覆20歳不明 婦中の神通川 友人は自力で岸へ - 中日新聞 アートヴィラ「ONEBIENT 神通峡」2022年秋、富山市にオープン - PR TIMES 「乾燥のピーク」はなぜ地方で違う 西日本は4月、関東や九州は?|まいどなニュース - 神戸新聞社 わかやま新報 » Blog Archive » 話題のゴーゴーカレー 県内1号店オープン - わかやま新報オンラインニュース やっぱり 温泉大好き!! ③ 〜 きのくに温泉 - ニュース和歌山 やっぱり 温泉大好き!! ② 〜 神通温泉 - ニュース和歌山 やっぱり 温泉大好き!! ① 〜 休暇村紀州加太 天空の湯 - ニュース和歌山 » Blog Archive » ツーリング安全に 神通温泉前で啓発 - わかやま新報オンラインニュース » Blog Archive » 「いのししカレー」発売 神通温泉 - わかやま新報オンラインニュース 成分解析 神通温泉の半分は食塩で出来ています。神通温泉の21%は怨念で出来ています。神通温泉の18%は記憶で出来ています。神通温泉の7%は陰謀で出来ています。神通温泉の4%は厳しさで出来ています。 ウィキペディア 神通温泉 掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る ページ先頭へ 和歌山県/神通温泉 このページについて このページは神通温泉のインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される神通温泉に関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/kyoto-database/pages/190.html
西明寺 出典 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ほか 概略 西明寺(さいみょうじ)は、京都市右京区梅ヶ畑槇尾(まきのお)町にある寺院。山号は槇尾山。本尊は釈迦如来、宗派は真言宗?大覚寺派。開基(創立者)は、空海の十大弟子のひとりで甥にあたる智泉大徳。高雄(高尾)の神護寺、槇尾の西明寺、栂尾の高山寺を合わせ「三尾」とも呼ばれる。春に咲く三つ葉つつじの群生と秋の紅葉の見事さで知られる。 歴史 西明寺は神護寺の別院として天長9年(832)に智泉大徳によって創建された。鎌倉時代には荒廃したが、建治年間(1275~1278)に和泉国槇尾山寺の自性上人が中興し、本堂、経蔵、宝塔などが建てられた。また、正応3年(1290)には「平等心王院」の号を後宇多法皇より賜わり、神護寺より独立することになる。永禄年間(1558~1570)に兵火によって伽藍を焼失し、一時的に神護寺と合併されていたが、明忍律師によって慶長7年(1602)に再興された。元禄13年(1700)には徳川綱吉の生母、桂昌院が本堂と表門を寄進して現在の寺容が整った。 伽藍 本堂 元禄13年(1700)に桂昌院の寄進により再建された。須弥壇にある厨子には運慶作と伝わる鎌倉時代の本尊、清凉寺式の釈迦如来像が収められている。脇陣には千手観音立像(寺伝によると智泉大徳作)や自性上人の念持仏という愛染明王像などを安置する。 客殿 江戸時代前期に移築された。本堂とは短い渡廊下で結ばれている。当時は食堂(じきどう)と称し、僧侶の生活や戒律の道場として使用された。慶長年間(1596~1615)から元和年間(1615~1624)に亘って制定された九ヶ条からなる「平等心王院僧制」の木札が掲げられている。 表門 本堂と同じく元禄13年(1700)の造営。主柱と控え柱の計4本の柱の上に切妻屋根を組み、屋根の棟の位置を中心からずらす、いわゆる薬医門形式の門。 文化財 国宝 なし 重要文化財(建造物) なし 重要文化財(美術工芸品) 木像釈迦如来立像 木像千手観音立像 拝観情報 住所 京都市右京区梅ヶ畑槇尾2 電話番号 075-861-1770 拝観時間 9:00~17:00 拝観料 境内自由、本堂拝観400円 アクセス JRバス「槙ノ尾」下車徒歩3分 駐車場 徒歩圏内(約1分)に私営駐車場あり 主な行事 その他 リンク 京都の寺社505を歩く 下 (PHP新書)