約 6,361 件
https://w.atwiki.jp/allrowa/pages/399.html
彼等は誰も守れない ◆KV/CyGfoz6 ◆6/WWxs9O1sは今までに、数え切れないほど死に、数え切れないほど死なれてきた。 その数え切れない死の中に、全く同じものは存在しない。 目の前の少女が感じている兄の死もまた、自分が知るどの死とも違うものなのだろうと彼は思う。 少女の悲しみを、苦しさを、本当の意味で理解することはできないのかもしれない。 けれど、少女の気持ちに寄り添うことはできるはずだと6/は信じる。 だから彼は叫ぶ。 「みんな殺して自分も死ぬなんて、そんなこと言うな!!」 黒井ななこは、この島で教え子を亡くした。 彼女はその死を哀しんだ。高良みゆきと柊かがみ、泉こなたを殺した人間を憎んでいないと言えば嘘になる。 でも、復讐をしようとは思わなかった。 人を傷つけてはいけない。殺してはいけない。 これだけは絶対に間違ってはいないという確信と、絶対に譲れないという信念がななこにはあった。 だから彼女は叫ぶ。 「やめるんや! 人殺しだけは絶対にあかん!!」 ランキング作成人は、多くのパロロワを読んできた。 その中には現状とよく似たシチュエーションも当然ある。この場を切り抜ける方法はいくつか思いついた。 だが、作成人はそのどれも選ばなかった。 自分も目の前の少女も、今この場では〝創作上のキャラクター〟ではなく〝生身の人間〟だ。 パロロワでのセオリーなんて関係ない。自分の想いで動かなければ駄目なんだと作成人は感じた。 だから彼は叫ぶ。 「俺は殺し合いなんてしたくないんだ!!」 そして、彼等の想いは 「マハ、ザン、ダインッ!!!」 赤根沢玲子に拒絶され、打ち砕かれる―――― 玲子が放ったマハザンダインは、辛うじて残っていたブラック・マジシャンの体力を削り取り その存在を消し去ったうえ、後ろにいた作成人を吹き飛ばした。 「サク!!」 ななこが悲鳴に近い声で作成人を呼ぶ。 だが、倒れた作成人は動かない。 6/も、ライダーの強化服のおかげで怪我は無いものの疲労を隠せずにいた。 『本気で再起不能にするんじゃなくて戦意をなくす程度』なんて言っていたが、そんな余裕はもはや無い。 戦闘開始から既に十数分。 不利なのが自分たちであるのは明らかだった。 「私は誰も許さない」 玲子が言う。 その瞳と言葉の冷たさが、少女の絶望の深さを物語っていた。 「みんな死んでしまえばいい」 言って玲子はチェーンソーを構える。 6/たちは気づいていないが、玲子にも余裕が無かった。 先程のマハザンダイン。 あれで玲子のMPは尽きた。もう魔法は使えない。 ここまで優位に立てていたのは魔法とチェーンソーという二つの武器があったからこそ。 MP切れを悟られる前に決着を着けなければ、今度は自分が不利になる。 「さっさと私に殺されて」 玲子が走る。標的はこれまで一切攻撃に参加していない女性、黒井ななこ。 呼んでも反応の無い作成人に気を取られていたななこは、玲子の動きに反応できず立ち尽くす。 一気に詰まる距離。 唸るチェーンソー。 ななこを切り裂くための攻撃――それを受けたのは、二人の間に割って入った6/だった。 「なっ!?」 玲子が驚きの声を上げる。 チェーンソーが当たったのは、偶然にも6/の首輪。 ライダーの強化服にも仮面にも守られていない首は生身だ。 刃の位置を少しずらせば首を切断できると玲子は判断したが、次の瞬間 チェーンソーは弾き飛ばされるように手から離れてしまう。 「……っ! 二人とも早く俺から離れろ!!」 6/が叫ぶ。 それはただの警告ではない、悲痛な叫びだった。 反射的に6/と距離を取った玲子。6/に突き飛ばされたななこ。 そして響く、爆発音――― 結論から言えば、玲子はチェーンソーの位置をずらす必要などなかったのだ。 チェーンソーが与えた衝撃はそれだけで、首輪の爆発を招くにはじゅうぶんだったのだから。 6/の、首から上だけが、宙に舞った。 【◆6/WWxs9O1s氏@パロロワクロスネタ投下スレ 死亡】 気絶していた作成人が意識を取り戻して最初に見たのは、宙を舞う仮面ライダーの仮面だった。 仮面から、見覚えのある色の髪と、噴き出す血が見える。 仮面だと思っていた物が6/氏の頭部だということを、作成人は理解したくないのに理解してしまった。 「あはははははははははは」 玲子の笑い声が、哀しみと絶望に向かいかけていた作成人の心を現実へと引き戻す。 6/の死だけを映していた作成人の目が、生きて動いている二人の姿を映した。 6/が持っていたデイパックから落ちた鉄パイプを拾い上げる玲子。 座り込み、逃げることさえできずにいるななこ。 このままでは、ななこ先生が殺されてしまう。 その直感は、確信だった。 作成人は立ち上がる。 身体中に激痛が走るが、そんなことに構ってはいられない。 作成人は、近くに落ちているチェーンソーに気づく。 ―――ランキング作成人は、選んだ。 玲子は、血だまりの中から拾い上げた鉄パイプをななこに向けて振りかざした。 相手はただの女性だ。これで殴るだけで死ぬだろう。 一撃では無理かもしれないが、殴り続ければ死ぬ。 さっき死んだ奴のように、首輪に打撃を加えれば、すぐかもしれない。 後ろで倒れている男はもう死んでいるかもしれないし、生きていてもこの女を殺した後で殺せばいいだけだ。 「イデオが寂しくないように、先に行っててください」 そう言って鉄パイプを振り下ろそうとした玲子の耳に、チェーンソーが上げる唸りが届く。 「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 慌てて振り返る玲子。 チェーンソーを持ち、走る作成人。 玲子はとっさに鉄パイプを構えるが、そんな物でチェーンソーの攻撃を防げるわけがない。 作成人が玲子の身体をチェーンソーで切り裂く。 崩れ落ちるように倒れる玲子。 「……殺して、やる……」 玲子は、そう呟いた。 「殺すんだ……みんな、みんなっ……」 必死に立ち上がろうとする。 だが、立てない。動けない。 玲子の負った傷は致命傷だ。 それでも玲子は、自分が死ぬとは思っていない。 自分が死ぬのは、この島にいる人間を一人残さず殺し尽くした、その時だ。 それまでは死ねない。それまでは死なない。 まだ二人しか殺していないのに、こんな場所で死ぬなんてことは有り得ない。 「みんな…死んでしまえ……」 早く殺さないと。 イデオが待っているのだから。 「……まずは、あなたから…です…………」 サクと呼ばれる男、彼が三人目。 玲子はその瞳に絶望と憎しみを宿し、その視界に次の殺すべき標的を捉え、そして――――息絶えた。 【赤根沢玲子@真・女神転生if… 死亡】 ガシャン、と音を立て、作成人の手からチェーンソーが落ちる。 血や服の布を巻き込んだチェーンソーは、二度と動かないだろう。 これが武器として誰かを殺すことはもう、ない。 「サク……なんでや……?」 座り込んだままのななこが、死体になった玲子を見つめながら問う。 「なんで殺したんや」 「6/さんを殺したのはあの子でしょう?」 「仇討ちのつもりやったんか?」 「それだけじゃありません。殺さなきゃ、貴女が死んでたんですよ」 「うちのためや言うんか? うちはそんなこと、望んだ覚えはないで」 「この子に殺されればよかったとでも言うんですか」 「殺してまで生き延びようとは思わへん」 「先生はそれでいいかもしれませんけど、だったら残される俺はどうなるんですか。 この子だって、あのままじゃ人を殺し続けてたんですよ」 「殺すんが正解やったって言うんか?」 「殺されるのが正しかったって言うんですか!」 作成人を睨みつけようと視線を上げたななこは、そこで初めて作成人の顔を見て、息を飲んだ。 涙を流してはいない。 それでいて、見ているだけで苦しくなるような顔を、作成人はしていた。 人間にこんな表情ができるということ自体、ななこは知らなかった。 「……違うんです。本当は、そんなのじゃないんです…… 正しいとか、正しくないとか、そんなこと関係なくて……俺はっ……」 何を言えばいいのかわからず、でも何かを言わなければならない気がして、作成人は言葉を探す。 「俺だって、殺したかったわけじゃない…… 殺そうなんて、思ってさえなかったんです…… 俺は……俺はただ、このままじゃ先生が殺されるって思って、そう思ったら、勝手に体が動いてて、 気がついたら……」 必死に言葉を絞り出す作成人を、ななこは黙って見つめていた。 「殺意なんて無かった。人殺しになる覚悟なんて無かった。だけど俺は殺した!」 それが、事実だった。それが、全てだった。 「6/さんのためでも、きっと、先生のためでさえない。俺は、俺のために先生に生きてて欲しかった。 そのために俺は殺した。俺は、自分の我儘でこの子を殺したんだ!!」 そして、これが真実。 作成人の本音。 誰にも死んでほしくないと思ったことに偽りはない。 けれど、全ての人を等しく守れるほど、作成人は強くもなければ綺麗でもなかった。 ななこが死ぬかもしれないと思ったその瞬間、 作成人は無意識のうちに玲子とななこを天秤にかけ、ななこを選んだ。 その結果、玲子は死に、作成人は人殺しになった。 「呆れて物も言えないですか? それとも、人殺しと会話なんてしたくないですか?」 自嘲気味に言う作成人。 立ち上がったななこはそんな作成人を、包み込むように抱きしめた。 ななこの行動に、作成人は驚きを隠せない。 「……サク」 ななこが呼ぶ。 「……はい」 作成人が答える。 「どんな理由があろうとも、人が人を殺すんは許されることやない」 「はい」 「やからうちは、サクのやったことを絶対に許さへん」 「はい」 「助けてくれてありがとうなんて、言わへんで。サクがやったことを認めることになってまうから、言わへん」 「はい」 「けどな、サク」 ななこが作成人の手を握る。 その手が震えていることに、ななこは安心した。 人を殺して平気でいられるような人間でないのなら、大丈夫だ。 ななこは決意する。 「うちは、サクと一緒に行く」 それだけを、伝えた。 作成人が何と言おうと、玲子の死は自分にも責任がある。 だから、玲子を殺した罪を一緒に背負うことをななこは決めた。 だが、それを作成人に伝えることはしなかった。それは相手の重荷になるだけ。 ななこは思った。 サクが自分を守ったのがサク自身の我儘なのだとすれば、サクの罪を一緒に背負うのは自分の我儘だと。 「……いいんですか?」 おそるおそる、といった感じで作成人が訊ねる。 「なにが?」 「俺は、もう人殺しです」 「けど、人殺しでも、サクはサクやろ?」 ななこは、作成人の手を握る右手に、作成人の背中にまわした左手に、力を入れる。 この体勢だと、ななこから作成人の顔は見えない。 それでもななこにはわかった。 作成人は今、泣いている。 もう少しだけこのままでいようと―――このままでいたいと、ななこは思った。 【B-5 平原/一日目午前】 【ランキング作成人@パロロワクロスネタ投下スレ】 【服装】クロス(十字架)が大きく描かれた服(ボロボロ) 【状態】全身打撲、疲労(大) 【装備】なし 【道具】基本支給品一式、DMカード(聖なるバリア・ミラーフォース(二日目深夜まで使用不能)、 光の護封剣(二日目黎明まで使用不能)、ブラック・マジシャン(二日目午前まで使用不可)、他2枚)@ニコロワ 【思考】 1:誰も死なせたくなかったのに、俺は…… 【黒井ななこ@らき☆すた】 【服装】いつもの教師らしい服装(ボロボロ) 【状態】健康 【装備】なし 【道具】基本支給品一式、カラオケ用機材一式@現実 【思考】 1:殺し合いはあかん。 2:サクと一緒に行く。玲子の死は自分も背負う。 3:沙枝を見つける。 ※6/氏と赤根沢玲子のデイパック、鉄パイプは付近に落ちています。 ※チェーンソーは使用できない状態でランキング作成人の足下に落ちています。 時系列順で読む Back 颯爽登場! 日の出美少年ズ Next 零 ~ロワに降り立った天災~ 投下順で読む Back 00:25森 Next キレやすい10代引っ張りだこ それでも守りたい命があるんだ! ランキング作成人 絶望を希望に変えろ それでも守りたい命があるんだ! 黒井ななこ 絶望を希望に変えろ それでも守りたい命があるんだ! ◆6/WWxs9O1s氏 GAME OVER それでも守りたい命があるんだ! 赤根沢玲子 GAME OVER
https://w.atwiki.jp/tarowa/pages/436.html
寄り添い生きる獣たち ◆EboujAWlRA 【side 炎髪灼眼の討ち手】 この世の『歩いて行けない隣』から現れた異形の者たち、『紅世の徒』。 はるか昔から人の側に居た、だが人ではない『紅世の徒』は世界そのものを歪めて生きる存在だった。 『紅世の徒』はこの世の根源的な力である『存在の力』を食らって生きる者たちだったのだ。 本来ならば世界そのものに還元されるはずの『存在の力』が消失することで、世界には大きな歪みが生じてしまう。 それを重大な問題として捉えた者と軽視した者に『紅世の徒』は別れ、やがてそれは対立することとなった。 同じ世界に生きる者が対立し、その間には深い溝が生まれ、やがて両者の関係は明確な敵対のそれへと変化してしまった。 『フレイムヘイズ』は、その敵対戦争のための道具であった。 傍若無人の限りを尽くした『紅世の徒』の被害に遭い、激しい憎悪を抱いた人間と契約する。 その結果、人は『紅世の徒』だけを殺し尽くす『フレイムヘイズ』へと変わってしまうのだ。 そして四百年ほど前、大きな戦争があった。 この世に在らざる存在である『紅世の徒』が、この世に在ろうとした戦争だった。 多くの紅世の徒が死に、同時に多くの『フレイムヘイズ』が討ち死にしていった。 新鮮な憎悪に溺れた新兵も、復讐を冷ました歴戦の勇士も、同じく死んでいった。 最強の勇者であった『炎髪灼眼の討ち手』もまた、その中の一人だった。 シャナという少女は、幼児の頃からその『炎髪灼眼の討ち手』を継ぐ者として育てられた。 『炎髪灼眼の討ち手』とは、その称号自体が力を持つ勇者の証だった。 この世の全てを圧倒し、ありとあらゆる事象を解へと導く天下無敵の存在。 その『炎髪灼眼の討ち手』であれと言われ、育てられた。 そんな『炎髪灼眼の討ち手』でありたいと思い、育ってきた。 「……」 その二代目・『炎髪灼眼の討ち手』は二匹の異常な生命が戦う姿を眺めていた。 歪な生命体であった、シャナの眼には存在そのものがぐにゃぐにゃな曖昧なように見えた。 その異常な外見から行われる動きもまた、この世の存在とは思えない奇抜な動きだった。 田村玲子は頭部を、後藤はその右腕と両の脚を変化させているのだ。 皮膚を変質させた刃で二合、三合と撃ちあう姿が見える。 物質的でひどく泥臭い、紅世の徒とは違う戦闘手段だ。 まさしく未知の存在だった。 紅世の徒とは違う、だがしかしシャナを殺し得る存在。 己の中にいる魔神とも呼ばれる強力な『紅世の王』、アラストールの力に振り回されるシャナでは万が一が起こるかもしれなかった。 「……行くに、決まってるじゃない」 この日初めて、シャナが理屈の外から動いた。 勝てると判断したわけではない、田村玲子を守ろうとしたわけでもない。 ――――僅かにでも、一瞬だけだとしても、シャナは後藤に怖気づいてしまった。 その自分自身を否定するために、最強の存在としてあろうとするために動いたのだ。 『シャナ』という個人の本能が導き出した行動ではない。 『フレイムヘイズ』という存在の意義から導き出された行動だった。 怯えという感情は弱い心が生み出すものではなく、直感で気づいた力量の差を知らせるものだと知っていた。 それでも、シャナは『炎髪灼眼の討ち手』が引くことを許せなかったのだ。 「ハッ!」 裂帛の気合と共に人の常識を大きく超える跳躍みせると、シャナは自身の髪と瞳を炎で灼いていく。 紅に染まった炎髪灼眼。 それこそが彼女のトレードマークであり、同時に彼女の全てである。 「……誰だ」 「お前は……あの時の娘か」 一瞬の跳躍で二匹のパラサイトの中心へと現れたシャナへ、二匹のパラサイトから無機質な声と鋭い視線が浴びせられる。 それでいい、とシャナは心中で呟いた。 他者がシャナに浴びせられる感情など敵意だけでいい。 シャナが他者に向ける感情もまた敵意だけでいい。 シャナは短く息を吸い、自身の心を奮わせるとその名を口にした。 「私は、炎髪灼眼の討ち手。最強のフレイムヘイズ」 『贄殿遮那のフレイムヘイズ』も『シャナ』も、どちらも便宜上の名前だ。 彼女の本質は炎髪灼眼の討ち手であり、前の二つは先代との区別をつけるためだけの名に過ぎない。 彼女は炎髪灼眼の討ち手でなければならないのだ。 天下無敵の、存在に。 【side 田村玲子】 「お前たちを狩る者だ」 防戦一方の中で全てを焼きつくす炎髪灼眼の少女が目の前に現れたことに対し、田村玲子は大きな動揺はなかった。 あのまま力押しされているよりはマシな状況だと判断したのだ。 それに、三つ巴なら三つ巴で、一対一の対決とはまた違う解答を導きだせばいい。 ケース・バイ・ケース。 むしろシャナという後藤の把握しきれていない存在が田村玲子にとってプラスに働くかもしれない。 さらに、シャナに関しても後藤という存在を知りえないだろう。 この場から『逃げる』ことに関しては、田村玲子はここで最も大きなアドバンテージを握っていた。 「炎髪、灼眼……」 火の粉を散らすシャナの姿を見つめた後藤の口が動いた。 炎を連想させるその姿に、僅かに全身の筋肉が波打っているように見える。 その姿はまさしく動揺した人間そのものであり、田村玲子にとっては意外の何者でもなかった。 「どうした、炎に思い入れでもあるのか?」 「なに?」 頭部を変換させた二股の刃を収めながら、田村玲子は後藤へと語りかける。 一部を除き、戦闘状態の頭部から普段の頭部へと姿を戻す。 シャナは口を閉ざし、田村玲子の言葉に耳を傾けた。 戦闘を有利に導く要素は、何気ないやりとりから導き出される。 後藤や田村玲子の在り方というものを、僅かな会話から嗅ぎ付けようとしていた。 本質というものは僅かな会話でも十分に察することができ、さらにその者の本質とは戦闘においても大きな影響を与えるものだった。 それは田村玲子も承知している。 後藤とシャナ、両者の単純な戦闘能力や交渉の容易さなどの様々な方面から思考をした上での選択だった。 田村玲子はシャナに後藤打倒のヒントを与えることが最善であると判断したのだ。 シャナと後藤の両者を視界に収めながら、田村玲子はさらに言葉を続けた。 「島田の事件を覚えているか、泉新一の通う高校で暴走した同胞の事件だ」 「……」 「我々は非常に繊細な生き物だ……予想外の刺激には過敏に反応してしまう。劇物を浴びた島田のように、な」 刺激物となる薬剤一つで、人の顔を維持することを難しくなる。 それどころか、自らの意思と行動を一致させることすら叶わないこともあるのだ。 パラサイトは皮膚そのものが思考の核となる、いわば全ての細胞がむき出しの脳細胞であるからこその弱点だった。 「劇薬ほどではないが……火傷でも我々には思考と運動の間に齟齬が生じてしまう」 ピクピクと後藤が持つ四つの目の周囲が青筋だつ。 その反応は心を持つ人間と同様に思え、田村玲子はどこか愉快な気持ちになった。 「火を使う相手に負けたか、後藤」 これはシャナに後藤を倒す手段を伝えると同時に、田村玲子の心に浮かんだ疑問を確かめるための問いかけであった。 それは田村玲子が常から抱いていた、パラサイトという種の根幹ともなる考えだった。 ――――五体のパラサイトの意思が混ざり合う後藤でさえも、人間の感情に芽生え始めているのかもしれない。 「……そうだ。俺は、火に炙られ、三木を切り取られ、為す術もなく敗走した」 田村玲子の言葉に全身を強ばらせた後藤は、ふと身体の力を抜きゆっくりと答えた。 シャナにとってはパラサイト特有の生気を感じない無機質な声ではある。 だが、同種である田村玲子は後藤の心に芽生え始めた『怒り』というものを感じとっていた。 そして、後藤はその怒りを抑えることすらも覚え始めている。 ――――やはり、人に近づいているのだ。 「だからこそ、俺はもう一度手に入れる……勝利を、最強という座を。 ……お前の領分である言葉のやり取りは終わりだ、これからは戦いで決めさせてもらう」 会話を打ち切り、後藤はその全身を波打たせる。 右腕、右脚、左脚。 その全てが脈動して弾けるような動きと共にシャナと田村玲子との距離を詰めた。 単純な体当たりだが、後藤のそれは十分に必殺に値する『技』であった。 体勢を低くしたその体当たりは、足元を掬うのではなく刃となった右腕で切り裂くためのもの。 後藤が最初に狙ったのは、小柄なシャナだった。 「ハッ!」 その後藤のタックルにシャナは前方へと駆け出すようにして膝蹴りを合わせた。 綺麗に入ったその膝蹴りは、しかし後藤を倒すには至らなかった。 脳を揺さぶることで十分にダメージを与えられる攻撃だが、脳を持たない後藤には通じない。 「……強いな」 シャナの膝蹴りに関し、後藤は誰に言うでもなくポツリと呟いた。 そして、シャナが視線を下ろし後藤の笑みを見た瞬間、背中へ悪寒が走った。 「ッ!?」 「気をつけろ」 シャナが回避行動を取るよりも早く、凄まじい強さで後ろへと吹き飛んだ。 後藤の攻撃による後退ではない。 頭部を腕のような形に変化させた田村玲子が、シャナの襟元を掴んでを強引に引っ張ったのだ。 「後藤に対して頭部と四肢へのダメージはあまり意味がない。 首を切り落とすか、内臓器を潰すなければ一撃で仕留められんぞ」 後藤の右腕がシャナの元いた場所に襲いかかるのは、そのすぐ後だった。 一撃一撃が死に至らしめる攻撃だった。 「何も考えずに動いたわけじゃないッ!」 シャナが余計なお世話だと言わんばかりに声を荒げた。 現にシャナは回避行動への準備が出来ていたのだが、田村玲子はそれに気づかなかった。 それは余計なことをしてすまなかった、と田村玲子は抑揚のない声で言い放った。 「さて……どうする? やはり、私と後藤の二人を相手にするというか?」 「そうだ、お前たちは危険すぎる。 私がここから脱出するためには、何も考えずに殺人を繰り返す奴は不穏分子以外の何者でもないわ」 本来ならば、シャナは田村玲子の排除は最優先ではなかった。 だが、それを伝えようとはしなかった。 そして、殺人を繰り返さなければ手は結べるということを仄めかす発言を続けた。 「そうか……なら、手を組もうじゃないか」 「……」 「これから私が人を殺さないのならば、私とお前が敵対する必要はないだろう?」 そのシャナの言葉の意味を汲み取った上での返答だった。 最優先とすべき事項は後藤の排除、それは初めから一致しているのだ。 そうわかった上で、シャナも田村玲子へと言葉を返した。 「私は別に人を殺すなと言っているんじゃない……!」 「ほう?」 その言葉を口にした瞬間のシャナの脳裏に泉新一たちの顔がよぎる。 泉新一も、城戸真司も、杉下右京も、誰も彼もが人を殺すなと言っていた。 彼らと同じ事を言うことに、妙な反発を覚えているからこその言葉だった。 「脱出したいから、人を『無作為に』殺すなと言っているの……! そうよ、使える人間だけを生かしておけばいいのよッ!」 彼らを見下しながらも、泉新一の死に動揺した自分。 そんな感情を吹き飛ばすように、シャナは半ば叫ぶようにして言い放った。 だが、田村玲子は涼しい顔をしたまま、茜色に染まりつつある空を眺めた。 「まあいい……むっ、上から来るぞ、気をつけろ」 「ッ!?」 田村玲子がテレパシーで感じ取ったのは、木から木を飛び移る後藤の気配だった。 刃に変えた両脚を登山家がピッケルを埋め込むようにして、木と木の間を飛び移っているのだ。 ただのパラサイトではない、頭部だけでなく四肢すらもパラサイトである後藤だからこそ出来る移動方法だった。 「クッ!?」 上空から降り立ってくる後藤の攻撃をシャナは盾、ビルテクターを使って防いだ。 ただ受け止めるのではなく、僅かに角度をつけて受け流す。 刃と変化させていた後藤の脚部による攻撃は、ビルテクターによって防ぐことができた。 砕かれもせず、切り裂かれもしないビルテクターに驚愕の念を覚える。 自由落下に木々を蹴る加速をつけた後藤の攻撃を、砕かれることもなく切り裂かれることもなく耐えきったことに驚いたのだ。 「我々が会話している間に後藤は周囲の様子をうかがっていたようだ……三次元的な動きをしてくるぞ」 田村玲子とシャナが共闘相手というメリットを手に入れている間に、後藤は地の利というメリットを手に入れていた。 シャナはそのこと自体に驚きは抱いてないようだった。 そのぐらいのことは承知の上で長々と会話したいようだ。 メリットにデメリットはつきものであり、その都度の取捨選択こそが戦いなのだから。 「私が前に出るわ、お前は援護をしなさい……アイツはお前を追ってるんだから、逃げようだなんて考えないでよ」 シャナはその言葉とともに弾けるような速さで後藤へと向かっていた。 了解した、とだけ答えると田村玲子は後藤へと向かって刃の触手を伸ばす。 二又のその刃は後藤へと襲いかかった。 だが、一瞬の隙を狙ったはずの攻撃はあっさりと防がれる。 続いてシャナがゲイボルグによる鋭い突きを放つが、それもまた後藤の右腕に防がられる。 しかし、防戦一方にしたことに意味があった。 シャナはゲイボルグから手を離すと、片手に持っていたビルテクターで思い切り殴りつけた。 左脚で田村玲子の攻撃を、右腕でシャナの突きを。 この二つを同時に防御せざるを得なかった後藤は、シャナのビルテクターを使った打撃によって地面へと引きずり降ろされる。 「中々やるな」 地へと引きずり下ろすことに成功したが、後藤は対して驚いていないように見える。 確かにこれで勝利したわけではない。 後藤と同じ目線に立ったとしても、隙を見せればすぐに元のように木々を移動していくだろう。 「援護を忘れないでよ!」 シャナはゲイボルグを拾い直すと、田村玲子にそう言い放つ。 そして、くるりくるりとゲイボルグの穂先が揺らしながら後藤と向きあった。 単調なゆったりとした動きを数秒繰り返されると、瞬時にゲイボルグの穂先が後藤の喉を襲う。 緩やかな円の動きから、急な線の動きを取る突き。 緩急の差によるこの不意打ちは回避不能の必殺の一突きだ。 それを後藤は、紙一重ではあるが、首を捻ることで回避した。 「……ほう」 硬化されているはずの後藤の皮膚が容易く切り裂かれた。 それはゲイボルグの武器としての性能もそうだが、シャナ個人のスペックもまた優れている証だった。 シャナは突きの早さもそうだが戻しもまた早い、そのため隙がない。 やはり、後藤もシャナも田村玲子よりも強い。 田村玲子は強さになど関心は持っていない。 田村玲子が感嘆の声を上げたのは、シャナが人の姿をしたまま後藤と渡り合っているからだ。 人間は十分にパラサイトと渡り合える。 そのことに大きな意味があったのだ。 人とパラサイト、田村玲子の中でこの二つが徐々に重なりつつ合った。 そう考えながらも、シャナへの援護を忘れない。 二対一であるが相手は油断ならない相手なのだから。 「……ふむ」 シャナと後藤の両者は一瞬の隙を逃さない強者だった。 田村玲子は二パターンの刃をひとつは攻撃、ひとつは防御と使い分けながら考えを深める。 彼女の一合目を撃ちあった瞬間から、ある考えがよぎっていた。 後藤は棒立ちのまま、右腕と左脚を巧みに操ってシャナと田村玲子の攻撃をしのいでいる。 それも、ある程度の余裕を持ったまま、だ。 ギリギリまで攻撃を引き付けることで僅かな動きだけで回避を可能としているのだ。 「……やはり、あの動き」 ――――後藤もまた、変化している。 人に近づくだけでなく、人のように成長しているのだ。 最適な四肢の使い方を学習し、かつ、その四肢の動きですら流れるような見事なものへと変わっていた。 脚の有効な使い方を覚えたように見える。 「フンッ!」 そう田村玲子が見抜いた瞬間、後藤は急激な伸縮運動でジャンプした。 そのような動きを感じ取られなかった。 あらゆる行動にはその前の準備行動が存在する。 後藤の先ほどの動きには、それが感じ取れなかった。 「皮膚の動きを偽って表面上の身体の動きを誤魔化したか……工夫を覚えたようだな」 人間に近づいているじゃないか、と嘲りに似た笑いとともに吐き捨てた。 どれもが極端に後藤の戦闘能力を飛躍させたわけではない。 現に先ほどの跳躍は、後藤の身体能力を考えると小さな跳躍だった。 言い捨ててしまえば、相手を翻弄するだけのただの小細工だ。 後藤本人も有効に活用していると言うよりも、それがどれほどの効果を持つか試しているように見えた。 しかし、そんな風に言ってみても、撃退に成功したわけではあるまい。 もう一度地面に引きずり降ろすことも出来ないわけではない。 だからこそ、こちらの精神的な疲労、プラス後の先を取るための潜伏行動だ。 決定打に欠ける戦いだった。 そのことを重々承知していた田村玲子はシャナに近づくなり声をかけた。 「火を持っていないか」 「何を、いきなりっ……」 火という言葉にシャナは動揺する。 田村玲子は揺れたシャナの語調に違和感を覚えながらも、言葉を続けた。 「火傷の経験はあるか」 「……あるわよ」 「先ほども言ったが我々は皮膚ひとつひとつが非常に繊細なのだ。 個々の細胞それぞれが独立して生きていると言っても過言ではない。 だからこそ、表面を炙り幾つかの細胞を死滅させるだけで後藤の動きを一時的に静止させることができる」 ライターでも何でもいい、火を起こすことが出来るものを持っていればそれだけで戦力になる。 田村玲子のように同時に複数の変化を起こせるパラサイトならば、一定量の分身を切り分ける事ができる。 顔半分ほどの大きさのそれは、田村玲子の分身であり自由自在に動かせるのだ。 だが、決め手が足りない。 そこに炎、もしくは刺激物があれば後藤の隙を作れると考えたのだ。 「私は、炎を扱えない……」 シャナの食いしばった歯から漏れた言葉は苦渋の色に塗れていた。 『紅世の徒』や『フレイムヘイズ』にとっての炎とは、『存在の力』の具現化である。 この世の根幹である『存在の力』は炎として現れる。 『自在法』と呼ばれる紅世に関係する人間が扱う、一種の魔法はその炎を利用して行われるのだ。 その中にはもちろん『存在の力』である炎を物質世界の炎として扱うものもある。 ――――だが、シャナは『フレイムヘイズ』ならば扱えるはずのその『自在法』が類を見ないほど下手くそだった。 契約を交わした魔神の強大さ故の扱いづらさ、フレイムヘイズとしての経歴の短さ、そもそもとしての自在師としての適性の低さ。 シャナが自在法と呼ばれる魔法のごとき技を扱えない理由は多く挙げられる。 仕方ない、と言ってしまえばそれまでだが、シャナはそのことは大きなコンプレックスともなっていた。 シャナが戦闘に用いる事ができるのは五体による肉弾戦のみ、異端の『フレイムヘイズ』とも言えた。 「そうか」 そんなシャナの、恥部とも呼べるコンプレックスの告白を聞きながらも、田村玲子は冷静に言葉を返した。 もとより、シャナが炎や薬物を持っていることに期待していたわけでもない。 シャナが協力的になっているだけでも十分すぎるほど状況が変わっているのだから。 「ならば、不確かではあるが私が後藤の脚を止めてみせる。その槍で後藤を殺せ」 「……簡単に言うわね」 「出来なければ逃げても構わん……後藤の狙いは一にも二にも私を取り込むことだからな。 とにかく、ひとまずは後藤を引きつけてくれ」 「……簡単に、言うわね」 シャナは田村玲子への不満と自らへの鬱憤を吐き捨てるように同じ言葉を繰り返した。 『炎髪灼眼の討ち手』が逃げることなど出来るはずがない。 力量差に怖気づいて逃げた瞬間、それは『炎髪灼眼の討ち手』でなくなってしまう。 だが、それでもシャナの中には不安があった。 ゲイボルグとビルテクターは十分に強力な武器といえる。 だが、この二つはシャナが普段から使い慣れた武器ではない。 そここそが、シャナの不安の根源だった。 「これを使え」 「……?」 そんなシャナに田村玲子が差し出したものは窓ガラスの切れ端と一つのカードデッキだった。 窓ガラスの破片は展望台に水銀燈が現れた際に破壊した窓ガラスの残骸。 カードデッキを扱う際に必要になるだろうと思い、拝借してきたものだった。 「カードを鏡に移せばモンスターが現れる。 本来ならば変身をして身体能力を向上させるのが一番だが、その僅かな隙も後藤は見逃さないだろう」 「……なぜ今まで使わなかったの?」 「後藤がその隙を見せなかったし、勝ちきる自信もなければ逃げ切れる保証もない…… それに、変身して仮面をつけては私の最大のメリットが無くなる」 田村玲子は説明書とカードデッキを押し付けた。 その強引な行動にムッと顔をしかめるシャナは、しかし顔を暗くさせた。 今まで堂々としていたシャナとは思えない、沈んだ言葉が漏れだした。 「お前たちには、私をどう見える?」 炎髪灼眼の討ち手とは、それ自体が力のある称号『だった』。 ありとあらゆる敵と華麗に、壮絶に打ち砕く勇者の名前。 シャナはそうあれと育てられた。 なるのだと、育ってきたのだ。 だが、その自信が泉新一の死や後藤との苦戦を前にして揺るぎつつあった。 「……か弱いな」 「なっ……!」 田村玲子の言葉に、シャナは瞬時に頬を紅く染める。 だが、そんなシャナの様子を気にかけることもなく、田村玲子は言葉を続けた。 「腕をもがれただけで獣へと落ちる後藤も。 たったひとつの意義に揺れるお前も。 答えの出ない問いに固執し続ける私も」 ――――なにもかもが、か弱い。 その言葉は自らに対する自嘲のようにも、『どこかの誰か』に対する羨望のようにも聞こえた。 「さて、強引に行くしかあるまい……私と後藤がパラサイトである限り、逃げられんからな」 そう言いながら、田村玲子は黙りこくったシャナを無視してかけ出した。 パラサイトはお互いが常にテレパシーのような物で引き合っている。 睡眠などの意識が沈んでいる例外でなければ、彼らは無意識的に呼び合っているのだ。 後藤が田村玲子をピンポイントで発見したのも、そのテレパシーに惹かれて訪れたからに過ぎない。 「そこだッ!」 田村玲子が動いた瞬間、後藤は右腕を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。 単純な攻撃だが、速い。 田村玲子は苦心しながらも、自らの頭部を刃に変化させてなんとか防御をする。 「早くしろ!」 その悲鳴に似た言葉と同時に、シャナと巨大な白鳥が現れた。 沈みつつある太陽を覆う、巨大な白鳥だった。 「ムッ……!?」 その白鳥の名は閃光の翼・ブランウイング。 怪鳥と呼ぶにはあまりにも美しく、美鳥と呼ぶにはあまりにも雄々しい鳥だった。 ブランウイングの姿を確認したと同時に、田村玲子は自らの後頭部を大幅に変化させる。 ボーリングの球ほどの大きさのそれは、意思を持った生き物として後藤へとゆっくりと近づいていく。 気付かれないように、ゆっくりと。 ブランウイングが大きく翼をはためかす。 木々が生い茂ったこの地では巨大なブランウイングに出来ることはそれぐらいだった。 だが、それだけで十分すぎるほどの突風が起きる。 後藤の素早い動きを封じることができる、効果的な攻撃だ。 「ハァッ!」 「ちィ!」 後藤はブランウイングの突風に踏ん張りながらシャナと刃を合わせる。 後藤の右腕とシャナのゲイボルグが何合も撃ちあうが、結果は出ない。 一進一退の攻防、どちらが倒れても不思議ではない。 ――――まだだ……隙が出来るまで…… ただ闇雲に突っ込めば、後藤は反応する。 自由自在に四肢を操り、獣の如く鋭敏になった後藤に生半可な不意打ちは危険だ。 「ぐっ……」 後藤はブランウイングの突風を耐えながら、瞬時にシャナとの距離を詰める。 そして、左脚の膝を刃に変えて膝蹴りを行う。 鋭さを持ったその膝蹴りは、ビルテクター越しにも関わらずシャナの小柄な身体を吹き飛ばした。 そして、シャナとの距離を詰めて追撃を行う。 シャナは後ずさるが、大きな回避行動を見せない。 出来ない、のであろうか? 「粘ったが、ここまでだ」 違う、田村玲子にはこのシャナの行動が演技のように見えた。 シャナは田村玲子の策のために、自身が死なない程度に後藤の隙を作ろうとしているのだ。 後藤に隙が生まれる瞬間は田村玲子は理解しているのだ。 そして、シャナもまたそれを感じ取っていたようだ。 生き物の本能と後藤の性格を考えると、大きく分けて二つだ。 後藤が槍の直撃を受けた瞬間、もしくは―――― 「死ね」 ――――シャナを殺す瞬間。 「今だ!」 田村玲子の言葉と共に、ブランウイングの突風が止む。 シャナが田村玲子の行動を嗅ぎ取り、その行動を束縛をせまいと判断したのだ。 弾けるような動きで田村玲子の分身である肉片が後藤の背中へと飛び乗った。 「これで……ッ!?」 己以外の三体のパラサイトを支配する後藤の頭部は非常に繊細な働きをしている。 そこに隙がある。 田村玲子としての意思を持った肉片が飛び込めば、後藤の動きを邪魔することができる。 その隙を、シャナに突かせるという作戦だった。 「……!?」 だが、それは瞬時に間違いであったと気づいた。 後藤の体内へと侵入した瞬間に、あまりにも強大な意思に田村玲子は飲み込まれた。 それは、あまりにも大きな強さへの渇望。 「はっ!」 その瞬間、後藤は田村玲子の右脚へと向かって刃が飛んだ。 虚を疲れた田村玲子は防御できずに、綺麗に切り取られた。 血が勢い良く溢れ出る中で、田村玲子はようやく理解した。 ――――田村玲子であった肉片は、後藤という生き物の肉と変化してしまった。 そう、後藤自身が選んで『取り込んだ』のではなく田村玲子に『取り込まされた』ものを支配しきった。 それは予想だにしないことであった。 体内に忍び込み内側から破壊しようとした田村玲子の分身を、逆に支配してしまったのだ。 あるいは、全身に火傷を負うなどして共生するパラサイト支配が困難であったならば結果は違ったかもしれない。 「……やはり決め手は搦め手か。『お前らしい』な、田村玲子」 田村玲子の刃は後藤に取り込まれ、左腕が再生された。 二の腕ほどしかない左腕であるが、確かに後藤の身体となっていた。 田村玲子の肉体ではなく、後藤の肉体となったのだ。 田村玲子だけでなくシャナもまた策を潰されたことを知り、一瞬ではあるが動揺が走る。 その僅かな動揺を後藤は見逃さなかった。 後藤の右腕が鞭のようにしなり、シャナへと襲いかかる。 ハッとした様子でシャナはゲイボルグを捨てて両手で構える。 重いその攻撃をなんとか耐えたシャナは、同時にその鞭が盾の内側へと回りこんでくることに気づいた。 打撃ではなく斬撃、それも巻きつくようにしてビルテクターを持つ手を狙った攻撃だった。 固く握りしめた両手から瞬時に力を抜き、ゲイボルグと同じようにビルテクターが地面に転がる。 皮一枚を切り捨てたその攻撃は、不発に終わった。 「終わりだ」 だが、それはあくまで『繋ぎ』の攻撃だ。 シャナから頑強な盾を外させるための攻撃にすぎない。 ――――本命はその後に来る膝蹴り。 水月に向かって、鋭い打撃が突き刺さる。 トラックに衝突した子猫のように、空中でを二転三転して吹き飛ばされる。 そのシャナの肉体を受け止めたのは木々の群れだった。 「ガアアッ!」 一際大きな大木に打ち付けられたシャナは肺の中の空気を吐き出し、地面に這いつくばる。 生まれたての子鹿のごとく、手足をプルプルと震わせていた。 「ッ……クゥ……!」 「逃げろッ!」 うずくまるシャナに向かって出た言葉は、とてもパラサイトとは思えない言葉だった。 相手をかばう、思いやりの言葉だ。 「逃げ、る……?」 「いいぞ」 シャナが田村玲子から投げかけられたその言葉を反芻すると、後藤はなんでもないように言い放った。 「見逃してやる、お前に固執する理由は今はない。 ……田村玲子が出血過多で死んでしまう前に、全てを取り込む必要があるからな」 格付けの言葉だった。 後藤が見逃しシャナが見逃される、すなわち後藤が上でシャナが下であった。 シャナは、地面に転がったゲイボルグとビルテクターを拾うと背中を向けていった。 敗走する『炎髪灼眼の討ち手』の背中を眺めながら、後藤は右脚を切り落とされた田村玲子へと視線を落とした。 「俺の想像通りお前は強かった……だが、お前も終わりだな」 この生物の頭の中には戦闘だけしかないようだった。 同種である田村玲子を殺したことも、戦いに勝ったという感想しか抱いてないようだ。 「……お前が探し続けていた、我々の存在意義とやらはわからん。 だが、それでも俺にはやはり戦いこそがその意義なのだろう。 戦いを求めるからこそ、俺はお前の言うとおり強くなったのだ」 「だろうな」 淡々とした言葉のやり取りだったが、そこには確かに会話があった。 田村玲子にはそれが妙におかしかった。 「……だがな、後藤。やはり、私もお前も……何もかも全てがか弱いよ。 吹けば飛ぶような、呆気ない存在だ……」 「ほう」 後藤が声を上げたのは田村玲子の言葉に動揺したからではなく、田村玲子が自然な笑みを浮かべたからであった。 その表情はまさしく、人間そのものだった。 「後藤……排他的なお前ですら、弱者という他者を必要としている……強さを渇望し変化している。 ……我々と、人間……どこが違う」 人が何かを求めるように、田村玲子は答えを求めて後藤は強さを求めた。 そして、この場で田村玲子はその鍵となるものを見つけたような気がした。 ――――お前さん達の頭が良いのは、人間とこうして話をする為……って思いてぇじゃねぇか。 人に寄生することで、人に死を教えるために生まれてきた。 パラサイトは死を理解するために、存在の意味を理解するために生きている。 人もパラサイトも、誰もがか弱く他者を必要としていた。 シャナを逃げろと言い放ったのもまた、依存の形の一つなのかもしれない。 「これが、死か……なぜ、気づかなかったのだろうな……」 四肢が切り取られ、寄生先である篠崎咲世子の身体からの血液が失われていく。 死とともに襲い掛かる圧倒的な孤独に、田村玲子は一つのことがわかった。 田村玲子の側には常に生命があったことを。 この世の全てが生きていることを、細胞のひとつひとつが鼓動していたことを。 この世に、一つのものなどなにもないことを。 言葉だけの理論ではなく、その意味を理解できた。 「だが、それでも……わからないことはある……」 田村玲子の疑問が晴れることはなかった。 会話をするために、人と生きるために生まれてきた。 それはあまりにもおおまかな答えだ。 細部には、多くの疑問が残っているし、同時に多くの疑問も新たに生まれてしまった。 命の脈動を感じたからこそ、その命の必然性を知りたかった。 ――――命はどこから現れ、どこへ消えて行くのか。 彼女の頭に響く命令と、それは関係があるのか。 「俺にはお前の考えることが分からん……だが、分かる必要もない。 それは戦いには必要のないものだ」 右腕が硬質化されていき、日本刀を思わせる薄く鋭い刃へと姿を変えていく。 その刀で彼女の首を切り取ると同時に左腕に接合を行う。 難しい工程ではあるが、それを可能と出来る力が後藤にはあった。 その姿を見て、田村玲子は自然と頬を緩んでいた。 「……夕焼けか」 後藤の背中の奥に、夕焼けが見えた。 田村玲子にはついぞ理解できなかった、咲世子の脳裏に過ぎった滅びた日本の夕焼けを思い出した。 今ならば、少しはわかるかもしれない。 夕焼けは夕焼けにすぎない。 だが、この瞬間の夕焼けはこの瞬間にしかないものなのだ。 咲世子にとってあの夕焼けこそが、重大な意味を持つものだった。 彼女が生まれた国が死んだ瞬間に見た、最後の夕焼けだった。 彼女を支えていた、彼女が支えていたものが壊れた瞬間だったのだ。 「やはり、我々は……寄り添い、生きる獣……」 後藤の刃が田村玲子の首を跳ね飛ばした。 【田村玲子@寄生獣 死亡】 【side 五頭】 強烈な自我を持って、田村玲子の意思を握りつぶす。 後藤の身体は後藤の支配力を持って、成り立っている 田村玲子と言えども、死の淵を体験した後に取り込まれては為す術もなかった。 「……」 後藤はゆっくりとした挙動で左腕を振り回す。 一本一本指を動かしながら、命令と動作の間に齟齬がないかを確認しているのだ。 動くことを確認すると、次は変化の確認を行う。 まずは日本刀のような薄く鋭い刃へと変化させ、次はハンマーのように厚く硬い腕へと変化させる。 ――――全て、問題ない。 そのことを気づくと、後藤の顔には自然と笑みが張り付いていた。 「これで俺は戻れる……最強に……」 後藤は志々雄真実に勝つその瞬間まで、永遠に敗者のままだ。 どれだけ戦闘を行なっても、どれだけ強いと認めたものを負かしても同じだった。 後藤は敗者のままなのだ。 「俺は力を取り戻した……もう、誰にも負けはしない!」 獣の咆哮が夜を呼ぼうとしていた。 人の言葉によく似た、獣の咆哮だった。 【一日目夕方/D-6 森林部】 【後藤@寄生獣】 [装備]無し [支給品]支給品一式×3(食料以外)、前原圭一のメモ@ひぐらしのなく頃に、不明支給品0~1、カツラ@TRICK、カードキー、知り合い順名簿 三村信史特性爆弾セット(滑車、タコ糸、ガムテープ、ゴミ袋、ボイスコンバーター、ロープ三百メートル)@バトルロワイアル [状態]疲労(中)、ダメージ(小) [思考・行動] 1:会場内を徘徊し、志々雄真実を殺す。 2:強い奴とは戦いたい。 [備考] ※後藤は腕を振るう速度が若干、足を硬質化させて走った際の速度が大幅に制限されています。 ※左腕は田村玲子です。 【side ?】 合理的な判断の末の撤退ではなかった。 確かに、田村玲子が死に右腕を取り戻した後藤と戦っても勝ちの目は薄かった。 致死ではないとはいえ、ダメージを負ったこの身で戦うのは愚策だ。 だからこその仕切り直し、そう言えば聞こえがいいかもしれない。 だが、そうではなかった。 「逃げ……逃げちゃ……!」 その言葉を口にすることは、シャナにとって血を流すようなものだった。 後藤への、死への恐怖を前にして、田村玲子の逃げろという言葉にすがってしまった。 自らの意思ではない言葉に寄りすがってしまった。 田村玲子の荷物を持っていることもまた、シャナを一層に惨めな想いにさせた。 「逃げ……ゥッ!」 生命を燃やして生きていた。 なににでもなれる可能性を捨ててでも、その存在に成りたかった。 何もなかった己に意味を持たせてくれた人たち。 彼らが求めていたものに彼女はなりたかった。 ――――大好きな人たちが求めていた、炎髪灼眼の討ち手に。 「私は……『炎髪灼眼の討ち手』じゃない……」 初めての敗走の中で突きつけられたものは、むき出しとなった自分だった。 【一日目夕方/D-6 森林部】 【シャナ@灼眼のシャナ】 [装備]:ゲイボルグ@真・女神転生if...、ビルテクター@仮面ライダーBLACK [支給品]:基本支給品(水を一本消費)、首輪(剣心)、カードキー、ファムのデッキ [状態]:ダメージ(大)、力と運が上昇、激しい苛立ち、敗北への惨めな想い [思考・行動] 0:とにかくこの場から離れる。 1:首輪を解除できる人間とコキュートスを探す。首輪解除が無理なら殺し合いに乗る。 2:首輪解除の邪魔になるような危険人物には容赦しない。 3:市街部に行く。 4:真司に対する苛立ち。彼が戦いを望まなくなった時に殺す。 5:主催者について知っている参加者がいれば情報を集める。 ※ファムのデッキを除く田村玲子の所持していた支給品が放置されています。 時系列順で読む Back 0/1(いちぶんのぜろ) Next 苛立ちで忍耐力が持たん時が来ているのだ 投下順で読む Back 0/1(いちぶんのぜろ) Next 苛立ちで忍耐力が持たん時が来ているのだ 137 寄生獣 田村玲子 GAME OVER 後藤 151 doll dependence syndrome シャナ 141 苛立ちで忍耐力が持たん時が来ているのだ
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/468.html
―――エヴァの茶室 「みんな、おつかれさま~」 1人も欠けること無く戻ってきたことに自然と顔をほころばせながら、弓塚さつきは6人に声をかけた。 7人…この場にいないのは、玲子と桜花、吾妻兄妹。 消耗の激しい玲子と桜花は客室で休み、吾妻兄妹は今回使用した武器の整備があると言って早々に茶室の奥にある備品庫へと行った。 「なんとか、無事に完了しましたね」 ほっとしたように一狼がこの場に残った全員に言う。 「当然だ。誰が指揮をしたと思っている」 汚れた衣装を着替え、余裕に満ちた態度で茶々丸の入れた茶を飲むのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。 「そうね。魔人との戦力比から考えれば、犠牲者0は驚くべき結果だわ」 今回の事件で悪魔の強さを再び知ることになったライズが同意する。 一歩間違えば、損害どころか敗北すらあり得る、薄氷の上を歩くような戦いと勝利だった。 「…エヴァだけじゃない。もう1人…」 いつものようにシルフィードに背を預けて本を読んでいたタバサが言葉少なに言う。 「ええ…そうですね」 その言葉に頷きながら、一狼は入口付近に立つ1人の少年に目を向ける。 「隊長殿、今回の件での助力、まことにありがとうございました」 一狼が深くマモルに対して頭を下げる。 あのときマモルが1人であの場に残り足止めしてくれなければ、玲子たちは死んでいたかも知れない。 そう考えればこその、心からの礼だった。 「よしてくれよ。こっちだって一応任務でやってるんだから、当然だろ?」 そんな一狼にちょっぴり照れながらいつものぐるぐるメガネに灰色の学ラン姿になったマモルが言う。 「そうね。まさか、あの魔人を1人で足止めするとは思わなかったわ」 そんなマモルを見るライズの瞳に宿るのは感嘆と少しの恐怖。 あの、3人と1匹掛かりで互角だった魔人を1人で足止め出来るあたり、やはり隊長の名は伊達では無い。 「まあ、一応、避けるのだけは鍛えられまくってるからね」 昔…学園世界に来る前のことを思い出したマモルが遠い目をする。 あっちいた頃は今とは別の意味で大変だった。何しろ… 「…父さんと母さんが師匠だったもんなあ。避けられないと死ぬかも知んない技とかトゲトゲした武器とかポンポン飛んでくるし」 陰守家の一員として、お隣さんをありとあらゆる危険から1人で守り切れるように両親にとんでもね~厳しさで鍛えられたのだ。 お陰で避ける技と危険を察知する勘は、若くして既に常軌を逸した領域に達している。 「まあ、そうやって鍛えられたお陰で何とかゆうなを守れてるんだけどさ」 学園世界で危機が起きると、高確率でゆうなは巻き込まれる。牙の塔と楯神学園の戦いの戦場に迷い込んだり、よりにもよって柊蓮司が休みの日にモンスターに襲われたり。 400年の間、お隣に護られ続けて磨かれた紺若家の集大成とも言える、ゆうなの不運とドジ。 彼女が危険な目にあわないためには、"巻き込まれる前に潰す"のも必要なのではないかと言うのは、マモルを勧誘した時の荻原の弁である。 「…と。電話だ」 学園世界で、ゆうなが巻き込まれた色々を思い出していたマモルの0-phoneが震える。相手は… 「え~と、誰?」 知らない女の人だった。 「はぁ。輝明学園の赤羽くれはさん?…ああ、ゆうなと椿が交換留学に行ってる輝明学園の理事長か…ですか?」 慣れない敬語に悪戦苦闘しながらマモルはくれはに要件を尋ねる。 荻原から番号を聞いたと言うくれはははわはわとテンパりながらマモルに用件を伝える。 「…いや、はわとはわわじゃ分からないから、です。え~っと…」 耳元に集中し、その女性の言う内容を聞き取る。どうやらやっぱりゆうな関係のことらしい。 「…ゆうなが、校舎と間違えて"旧校舎"に迷い込んだ?」 ぶほぉ! マモルがその言葉を口にした瞬間、エヴァが勢いよく茶を吹き出した。げほげほとむせるのを、茶々丸が慌てて介抱する。 タバサが思わず本を取り落としてマモルの方を見、シルフィードは部屋の隅で頭を抱えてきゅい!と一声鳴いてガタガタと震えだす。 さつきは目をまんまるに見開いて口をパクパクさせ、ただ1人"前回"のことを知らないライズだけが何事かと眉をひそめていた。 「…ん?みんなどうかした?」 そんな様子に、マモルは首をかしげる。マモルは知らない。 『輝明学園の旧校舎』が何を意味するのかを。 「あ、あの隊長殿…今…旧校舎って!?」 うまく言葉に出来ないことをもどかしく思いながら、何とか一狼はその言葉を口にした。 「ああ、何か爺さんが言ったんだってさ。僕に迎えに行けって。多分迷子になってるだけだろ~し、別に僕じゃなくてもいいと思うんだけどね」 ポリポリと頭を掻きながら、マモルが言う。 「ま、そ~言うわけだから、ちょっと行ってくるよ」 そう言い残し、シュバッと消えた。一狼たちに止める暇なんて与えちゃくれないスピードだった。 「…まあ、あのバグキャラなら死にはすまい」 ようやくお茶のダメージから回復したエヴァがこほんと咳ばらいして言う。 「奴は、逃げ足もバグキャラだからな…」 陰守マモルの、エヴァなりの評価を。 …数時間後、マモルは生死判定に2~3回は成功してそうなくらいボロボロになって帰って来て。 「僕はまだ…ゆうなを甘く見ていたのかも知れない…」 と呟いた後にぶっ倒れて客室に運び込まれ、それでも生きて帰って来たことで隊長伝説がまた1つ増えることになるのだが、それはまた、別の話。 ―――エヴァの茶室 客室 一方その頃。 全員撤退した後、一旦集まることになったエヴァの茶室。その中に用意された客室の一間で、制服に着替えた玲子はぼんやりとベッドに腰掛け、落ち込んでいた。 今、客室に桜花はいない。1人になりたいからと伝えて、隣で休んでもらっている。 「私…」 頭の中を今日1日の出来事がぐるぐる回っている。 いつものように迎えた朝。いつものように学校に向かう通学路でのエレンとの出会い。玲二たちと一緒に行った、初めての任務。由美との再会と戦い。そして佐藤との再戦と… そこまで思い出し、ぞくりと、身体が震える。 自分がやってしまったことの重さを実感して。 そして、再び落ち込みのサイクルに沈みこもうとした、その時だった。 コンコン 「…玲子、入ってもいいか?」 扉をたたく音と、聞きなれた男の声。 「…どうぞ」 鍵は掛けてない。それに、彼になら、話してもいい。そう感じた玲子が許可の返事を返す。 「…入るぞ」 その声に答えると同時に扉を開け入ってくる、制服に着替えた男の名は…吾妻玲二。 玲子の教育係でもある銃の使い手は、玲子の落ち込んだ表情を見て、悲しげな表情になる。 「…やっぱりか」 「…何が、ですか…?」 そんな、玲二の悲しげな表情を見て、玲子が問う。 「ああ、俺にも覚えがあるから…気になったんだ。玲子は多分、すごく落ち込んでるはずだって…何しろ」 向き合って、それでも立ち上がらなければ、前には進めない。 放っておいてもいずれは時間が回復させるのかも知れないが、それでは遅い。 辛いが、言わなければならない。立ちあがるための言葉を。そして。 ―――初めて人を殺したんだからな… 玲二は、はっきりとその言葉を口にした。 ビクリと、玲子の身体がその言葉に震える。 「…そう、なんですよね」 ダムの水が決壊したように玲子が心情を吐露する。 「殺さなきゃ殺されてたから。佐藤君は悪魔と合体した魔人だから。直接殺したのはタバサさんたちで私じゃない… そんな、言い訳ばっかり思いつく自分が、嫌になりました…」 先ほどまでぐるぐると頭を巡っていた言葉がこぼれ出す。 「でも、どう言い繕っても分かってるんです。私は、悪魔じゃない…人を…佐藤君を殺したんだって」 殺した。自分の口から出た言葉の重さに、改めて震える。 「…大切な仲間で…友達だったのに…」 ポロリと涙が零れ出したら、止まらない。玲子は嗚咽を上げ、泣きだした。 「…ああ、そうだ。玲子、お前がやったことは、人殺しだ。それはどうしようもないくらいに事実だ」 声を殺して泣く玲子を玲二はいたたまれない気持ちで見つめる。 嗚咽を上げる玲子の心情は、痛いほど分かった。そう、今の玲子は… 「だから、玲子。お前には、やらなきゃならないことがある」 泣きはらした顔で、玲二を見る玲子に、玲二は言う。 「なん、ですか…?」 「ずっと覚えておいてくれ。佐藤君のことと、彼を殺したときの嫌な気持ち、そして、それでも戦って…生き残りたいって思ったことを」 そう言ったときの玲二の顔は、酷く悲しげな表情だった。そう、まるで… 「玲二さんにも、そんな人がいたんですか…?」 今の玲子の表情と同じような表情。玲二にも、大切な人を殺したことがあるとでも言うのだろうか。 「ああ」 即答する。誤魔化しは許さないとでも言うように。 「あのあと、俺は間違えた。殺したことを無理に忘れようとして、何も感じないようにした。最悪だ。結局、立ち直るのに1年かかったよ…それも、他の人の手を借りて、だ」 そう言う玲二の脳裏に浮かぶのは、玲二を立ち直らせた天使のように元気な少女。彼が護ると誓い…果たせなかった、2人目の女の子。 「人を殺すのは怖いことで、悪いことだ。だけど…それでもやらなきゃならないことがあるかもしれない。今の仕事を…カゲモリを続けている限りは、な。 だから、それを後悔しないようにしてくれ。間違っていたとしても、自分が信じた道だと、胸を張っていてくれ」 その決意が無ければ、これから先続けることはできない。いずれ、つぶれてしまう。 「…ごめんな。もっと、優しい言葉でも掛けてやれればいいのに…バカだな。俺」 自嘲する。言えた義理か?自分だって後悔してばっかりだろうが。大体、エレンは生きていてくれただろう… 心に渦巻く思いは表に出さない。自分は…玲子を教え導く"教育係"なのだ。弱音を吐いていたら、玲子を安心させられない。 「いいえ…ありがとう、ございました…」 玲子の目から、涙が止まる。泣いていても、何もならない。 「私…頑張ってみます。佐藤君のこと、忘れません…私は…」 最後の言葉に、前以上の決意を込めて。 ―――カゲモリとして、挟間君を、止めます。例え、何があっても。 玲子は、その言葉を口にした。 「ああ、それでいい。俺もできる限りの協力はする…これからは"仲間"として。よろしくな、玲子」 そう言って手を差し出した玲二は、その日、初めて、笑顔で玲子に言い。 「はい。今後とも、よろしくお願いします…玲二さん」 玲子もその日、初めて笑顔になった。 ―――数日後 エヴァの茶室 報告書 作成者:輝明学園所属 赤根沢玲子 ○月×日に隊長以下11名にて魔人3名と交戦する。魔人は報告者の元仲間であり、軽子坂学園高校2年の白川由美、黒井真二、佐藤勝彦の3名。 彼らはいずれも魔神皇こと挟間偉出夫の手で逆らえないよう呪いをかけられており、反逆した場合、死亡するとのこと。精神的な操作は受けていない模様。 戦闘においては隊長と2名毎の5チームの計6チームに分かれ、分断戦を実行。結果として、他2名の逃亡を許すも魔人の1人である佐藤勝彦の殺害に成功する。 戦闘終了後、魔神皇がカゲモリに接触、"神"を手に入れると宣言する。神についての詳細は調査中。 なお、作戦の結果、佐藤勝彦が使用していた『悪魔召喚プログラム』実行用パーソナルコンピュータ、通称"アームターミナル"を入手。現在絡繰茶々丸の手で解析中。 「―――ふむ。チームの一員として役に立ち、斎堂、ライズ、タバサと共に魔人を撃破して情報源も獲得…と」 玲子の提出した報告書を読み、エヴァが重々しく頷く。 「よかろう。赤根沢玲子。お前を今、この時から魔神皇討伐任務に関わるに足るカゲモリと認めてやる。特訓も今後は行わない…卒業だ」 「…ありがとうございます。マスター」 エヴァの言葉に玲子は少しだけ固い笑顔で答える。 もう、泣かない。戦うって決めたから。 「やりましたね~。なんだか急に玲子が成長してしまって、保護者としてはちょっぴり寂しいですけど~」 傍らに立つ桜花もぱちぱちと手を鳴らし玲子の成長を我がことのように喜ぶ。 「良かったね。エヴァさんから認められればもう、どこに行ってもやってけるようん…と、そうだ」 さつきが玲子の手をつかんでぶんぶんと玲子を持ちあげそうな勢いで振り回したのち、何かを思い出す。 「ちょっと待っててね~」 そう言って奥に一旦引っ込み、さつきは奇麗にラッピングされた小さな箱を持って来る。 「これ。玲二さんに頼まれてたの。玲子ちゃんが一人前って認められたら渡して欲しいって」 言われれば確かにその箱には『玲子へ』と書かれたカードがついている。 「開けて見て。その場で開けるのがアメリカ流だって言ってたから」 「あ、はい」 さつきに促され、玲子はラッピングを丁寧に剥がし、箱を開ける。 「これは…」 「わあ…きれいですね~」 玲子と桜花が中のものを見て感嘆の声を上げる。 中に入っていたもの、それは玲子の黒い髪に似合いそうな、小さなエメラルドがついた、深い緑のバレッタ。 落ち着いたシックなデザインが、真面目な玲子の雰囲気とよく調和している。 「『玲子の趣味とか知らないから適当だけど、一応俺から見て似合いそうなの選んできた』って言ってたよ。 あとそれ、店員さんの話だと魔法がかかってて、つけてるだけで魔法耐性と魔法の威力の両方が強くなるらしいよ。 それなら、いつでもつけたままでいられるから、防具としてもいいんじゃないか、だってさ」 そんなものを贈って貰えるなんて羨ましいな~などと思いながら、さつきは玲子に玲二から聞いた話を伝える。 「玲二さん…」 バレッタを大切な宝物のように抱きしめ、玲子は彼女の先生とでもゆうべき青年の名を口にする…頬を赤らめながら。 「…吾妻兄。奴が普通の学生をやっていたら今頃天然ジゴロの道を一直線だったな…なるほど、そう言うことか」 そんな玲子をエヴァは呆れたように見たあと、にやりと邪悪な笑みを浮かべて、言う。 「忘れるところだった。私もひとつ、お前に"卒業祝い"を預かってた。受け取れ」 そう言ってエヴァは懐から取り出したそれを玲子に放って渡す。 思わず受け取った玲子はそれのずっしりした重みと正体に思わず叫ぶ。 「これって…拳銃ですか!?」 「そうだ。"吾妻妹"から渡すよう頼まれた。良いものだぞ。茶々丸、説明してやれ」 「了解しました。マスター」 茶々丸が頷き、すらすらと答える。 「ベレッタM92FS、ロンギヌスカスタム・タイプJ(ジャッジメント)。通称神罰銃。 通常の同タイプ拳銃を遙かに上回る威力と射程もさることながら銃に施された魔力付与により装備者の魔力操作精度が向上。 更にプラーナと生命力を込めて弾丸を発射することで攻撃力が強化され、さらに命中後の対象の物理的、魔法的防御力を減衰させると言う魔法効果の付与された特殊仕様の拳銃です」 「よ、よく分からないですけどなんだかすごそうな銃ですね…もしかして、普通のより高かったりします?」 茶々丸の説明は正直理解しきれなかったが、とにかく普通の銃よりは凄いらしいことは分かった玲子が茶々丸に尋ねる。 その問いに、茶々丸は1つ頷き、答える。 「はい…公正取引価格は日本円にしておよそ250万円となっております」 「「にひゃくごじゅうまんえん!?」」 一介の女子高生から見たらとんでもない価格に、玲子とさつきが同時に声を上げる。 「な、なんでそんな高価なもの…と、とにかくこんな高いもの、頂けません!」 狼狽し、慌ててエヴァに返そうとする玲子に、エヴァは首を振って、言う。 「まあそう言うな。せっかくの吾妻妹からの厚意だぞ?ありがたく受け取っておけ。 それに魔法が使えないあいつに返しても、その真価は発揮できまい。それなら、お前が使った方が有効利用になるだろう」 「…はぁ。分かりました。それじゃあありがたく頂いておくことにします」 エヴァの言葉に玲子が釈然としない顔ながらもそれを備品庫から貰ってきた時空鞘にしまいこむ。 「それにしても、エレンちゃんも凄いよね~。そんな高いもの、ポンとくれるなんて。正直、エレンちゃんと玲子ちゃんって玲二さんつながりくらいでしか接点無いのに」 「はい…そうですね」 さつきの言葉に玲子が頷く。考えて見れば玲二とはかなり長い時間顔を突き合わせて訓練に励んでいたが、エレンとは前回初めて組む前までは玲二つながりでたまに顔を合わせる程度。 時々玲二と一緒にいるときに見られてるかな?って感じるくらいで、親しく話した記憶もない。 「でも…どうしてエレンさんは私にこんなすごいものくれたんだろう?」 そう言って首をかしげる玲子を見ながら、エヴァは邪悪な笑みを浮かべながら今気づいたとでも言うように、ポツリと呟く。 「…そう言えば、こんな話を知ってるか?」 「なんですか?」 玲子が不思議そうに聞き返す。 「ああ、前にとあるイタリア人の吸血鬼から聞いたんだが…」 そこで、エヴァは一旦言葉を切る。怖い話でも始まりそうな雰囲気に玲子は思わずごくりと唾を飲み込み、エヴァの次の言葉を待つ。 「イタリアのマフィアはな…本当に殺したい相手に会ったとき、その殺意を隠し、贈り物をするそうだ…しかも、高価なものをな」 茶室になんとも言えない沈黙が降りる。 「あ、あのそれって…」 「い、いやでもほらエレンちゃんって別にそう言う関係の人じゃあ…」 冷汗を流しながらフォローしようとしたさつきを遮るようにエヴァが言う。 「…魔法の存在しない平和な現代社会系の世界出身のくせに、あれだけの戦闘技術を身に付け、それを他の生徒に悟られぬよう隠している。 軍人、では無いな。奴らのスタイルは"少人数戦"に特化しすぎている…となると、その正体もおのずと限られてくるように思うのだがな?」 更に空気が重くなる。ちなみに、玲子の顔は真っ青だ。そして、無言。…膝だけはガタガタと笑っているけど。 「…玲子~」 「…ひゃ!?な、なんでしょうか。桜花さん」 ポンと肩をたたかれ、玲子はうわずった声で聞き返す。 「…その…学校も~、試験も何にも無い分、幽霊って意外に楽しいですよ~?」 「洒落になってませんからそれ!?」 言いにくそうに囁かれた桜花の言葉に、玲子が悲鳴を上げる。 その後、玲子が必死な表情で 「ま、マスター!もっと私に魔法を教えてください!自分の身を守れるように!具体的には銃とかナイフとかから!」 と言いだして晴れて訓練続行が決定するのだが、それはまた、別の話。 ―――軽子坂学園高校 「…ふむ」 学園の最上階に設けられた魔神皇の部屋…その部屋に備え付けられた"邪教の館"の装置の前で、挟間は新たに生み出した"それ"を見て、言う。 「やはりこの魔界に住まう悪魔だけでは"異世界の神"は作れないか」 ハザマが"作ろう"としているのは学園世界で信仰される無数の"異世界の神"の一柱。 それをこの世界に“降ろす”ために無数の悪魔との合体の果てに出来上がった、材料。"それ"はそう言う存在だった。 「…まあいい、後は残りの"材料"を揃えるだけだ」 挟間は知っている。この"邪神"を完成させるためには、"神の遺産"が必要だ。 「…それで、材料の探索はどうなっている?」 挟間のその後ろに立つ、白衣を着た男に尋ねる。 「…はい。現在探索に従事している人間はおよそ…3,5000。現在も増加中です。お探しのものを見つけ出すのは時間の問題かと」 その男はにやついた笑みで答える。 「そうか」 それっきり、その男に興味を失い、挟間は男に背を向ける。 「ならば、次の報告は、発見したときにしろ」 「…分りました」 そして、男がいなくなった部屋で、挟間はそれを眺め、言う。 「まどろむがいい。名も知らぬ異界の神よ…」 その"挟間が望む力"を秘めた神の器を。愛でるように撫ぜながら。 「この僕に支配され、その力を存分に振うその時までな…」 その、挟間の嗤みに応えるように。 ドグンッ それは一つ、胎動して見せた… ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nolnol/pages/3012.html
安計呂山の庵 空家窺い レベル:数 Lv55:1-2 構成 名前 種類 Lv 初期付与 使用技 空家窺い 奥山盗人 奥山盗人 備考 ドロップアイテム 修理材 情報募集中 鉄砲持ち、防御がやたら高く物理攻撃は効き辛い、その代わり術に弱い -- 風味だし 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinsen/pages/3041.html
安計呂山の庵 空家窺い レベル:数 Lv55:1-2 構成 名前 種類 Lv 初期付与 使用技 空家窺い 奥山盗人 奥山盗人 備考 ドロップアイテム 修理材 情報募集中 鉄砲持ち、防御がやたら高く物理攻撃は効き辛い、その代わり術に弱い -- 風味だし 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anti-omega/pages/21.html
話数 サブタイトル 脚本 備考・矛盾点・問題点 1話 星矢が救った命! 甦れ聖闘士伝説! 吉田玲子 1話問題点 2話 旅立ち! 新世代の聖闘士! 大和屋暁 2話問題点 3話 仮面の掟! 風の聖闘士現わる! 吉田玲子 3話問題点 4話 英雄の息子! 龍峰対光牙! 村山功 4話問題点 5話 選抜試験! 決死のキャンプに挑め! 小山真 5話問題点 6話 開幕! 聖闘士ファイト! 大和屋暁 6話問題点 7話 友の拳! 打て、ペガサス流星拳! 村山功 7話問題点 8話 宿命の出会い! 衝撃の黄金聖闘士! 吉田玲子 8話問題点 9話 聖域の危機! 忍者聖闘士、駆ける! 大塚健 9話問題点 10話 決死の奪還! もう一人の黄金聖闘士! 大和屋暁 10話問題点 11話 アリアを守れ! 追跡者ソニアの襲撃! 八島善孝 11話問題点 12話 受け継がれる小宇宙! 伝説の聖闘士、瞬! 村山功 12話問題点 13話 星矢のメッセージ! お前たちに、アテナを託す! 吉田玲子 13話問題点 14話 故郷での再会! 雪原の師弟対決! 横手美智子 14話問題点 15話 迫る毒牙! 陰謀うずまく第二の遺跡! 伊藤イツキ 15話問題点 16話 運命の星のもとに! 聖闘士達の生きる道! 村山功 16話問題点 17話 守るべきもの! 聖衣の修復師と伝説の鉱石! 小山真 17話問題点 18話 復讐の炎! 蒼摩、因縁の闘い! 大和屋暁 18話問題点 19話 五老峰の秘密! 継承せよ! 父、紫龍の闘志! 村山功 19話問題点 20話 アリアのために! エデン、怒りの雷撃! 吉田玲子 20話問題点 21話 とべないペガサス! 喪失からの旅立ち! 横手美智子 21話問題点 22話 友への思い! 忍びの道と聖闘士の矜持! 大和屋暁 22話問題点 23話 敵陣突入! 若き聖闘士、再集結! 大塚健 23話問題点 24話 再会を目指して! 行け、最後の遺跡へ! 吉田玲子 24話問題点 25話 未知なる領域! めぐりあいの時! 村山功 25話問題点 26話 追憶と復讐! 闇の遺跡の罠! 横手美智子 26話問題点 27話 旅の終焉! 少女の光と若者たち! 吉田玲子 27話問題点 ※備考・矛盾点・問題点がまとめ切れない場合その話数の個別ページを作成してください。 関連項目 十二宮編28話~
https://w.atwiki.jp/fullgenre/pages/347.html
仮面ライダー vs 寄生生物 ◆ew5bR2RQj. 白いマントをはためかせ、跳躍する咲世子。 腰に下がっているのは、サーベルに似た形状を持つ羽召剣ブランバイザー。 それを抜き、田村玲子へと肉薄する。 玲子はその姿を一瞥すると、頭部を変形させて一本の刃を伸ばした。 「甘いです!」 だが刃が届くことはない。 常人には視認すらできない速度の刃を、咲世子は空中で弾いたのだ。 防御に成功した彼女は、サーベルの間合いへと足を踏み入れる。 そして玲子に斬りかかろうとした瞬間、玲子の身体が宙へと浮かび上がった。 「甘いのはお前の方だ」 空中を浮遊しながら、ほくそ笑む玲子。 彼女は樹木へと突き刺した刃を支柱に、空中へと浮かび上がっていたのだ。 「私がただ無闇に攻撃したとでも思っているのか?」 空中を十メートルほど移動し、ゆっくりと着地する玲子。 彼女は咲世子の実力を計るため、牽制の攻撃を放った。 さらに万が一の事態に備え、いつでも退避できるようにしていたのだ。 「やはり……一筋縄では行きませんか」 「そのようね」 あくまで余裕があるように、玲子は振舞う。 だがその内心は、あまり穏やかでは無かった。 (あの速度の刃を防ぐか) 寄生生物の刃は、ただの人間では視認できないほど素早い。 それほどの速度の刃を、咲世子は空中で防いでみせたのだ。 たかが人間と油断していたら、首が飛ぶのはこちらの方だろう。 少なくとも草野達よりも手応えはあると、彼女は判断した。 「行きます!」 地面を蹴り、再び玲子の元へと駆ける咲世子。 姿勢を低くし、サーベルを深く構えている。 その構えは日本の剣術に古くから存在する、居合いの構えによく似ていた。 「チィッ!」 刃を伸ばし、咲世子の動きを封じる玲子。 同時に素早く後退することで、自分に有利な間合いを確保しようとする。 咲世子の身体能力は非常に脅威だが、得物がサーベル以外に見当たらない。 彼女は接近戦を仕掛ける以外に、勝利する術がないのだ。 一方で玲子は触手の長さを調整することで、あらゆる距離に対応することができる。 つまり彼女の間合いから離れれば、一方的に攻撃を仕掛けることが可能なのだ。 「とぉ!」 とは言ったものの、それが出来ないのが彼女の現状であった。 咲世子の猛攻は凄まじく、距離を離してもすぐに詰められてしまう。 攻撃に転じたとしても、全てが弾き返されていた。 (やはり咲世子の方が実力的には上……だが) 咲世子の剣戟をいなしながら、一瞬だけ視線を逸らす。 そしてまた、すぐに咲世子へと向けた。 「視線を逸らすとは、随分余裕のようですね!」 咲世子は右肘を後ろに下げ、すぐさま前方に突き出してくる。 放たれた刺突は、玲子の防御を容易く掻い潜った。 「そうでもないさ、むしろギリギリだ」 身体を翻し、寸前のところで玲子は刺突を躱す。 しかし完全に避けきることはできず、刀身は脇腹を抉る。 「減らず口を!」 咲世子は玲子の首筋に視線を注ぎ、剣を大きく振り上げる。 その瞬間、玲子の目が鋭く光った。 (今だ!) 足元に刃を伸ばし、横一文字に斬りつける玲子。 注意力が散漫になる足元であれば、咲世子にも効果があると踏んでの行動。 しかし咲世子は大きく跳躍し、安々と刃を回避してしまった。 「この程度の奇襲が私に通じると思いましたか?」 空中でマントを広げながら、咲世子は玲子を見下ろす。 その高度はおよそ15メートル。 ライダーの力により強化された脚力は、人間の限界を遥かに越えていた。 「少しは通じると思っていたのだがな」 清涼とした声が、淡々とした口調で言葉を告げていく。 そこには後悔や驚愕といった感情はなく、ただ事実だけを告げているものだ。 寄生生物は元から感情表現に乏しいが、今の状況には関係ない。 何故なら彼女の真の狙いは、足元への奇襲ではないのだから。 「それよりもまだ気づかないかしら?」 「一体なにを…………なッ!?」 咲世子の耳に届くのは、バキバキという木が軋む音。 ――――咲世子の傍にそびえ立つ大木が、咲世子の元へ倒れこむ音だった。 「まずい!」 咲世子が気づいた時にはもう遅い。 大木は彼女の身体を巻き込みながら、地面へと倒れこんでいく。 それから数秒、大木は轟音と共に地面へと叩きつけられた。 「…………」 その光景を片目に捉えながら、玲子は距離を取り始める。 先程の真の狙いは、咲世子の傍にあった大木を切り倒すこと。 足元への斬撃を避けた後に、大木の落下を狙う時間差攻撃であった。 寄生生物の作り出す刃は、ボディーアーマーすら紙のように寸断してしまう。 故に大木を一瞬で切り裂きつつ、足元を狙う程度であれば容易く行うことができた。 しかし、今の攻撃が致命傷になったとも思えない。 この程度で死なれてもらっては、期待外れにも程がある。 「……私を失望させるなよ」 ――――SWORD VENT―――― そんな彼女の声が天に届いたからか。 無機質な認証音と共に、巨大な薙刀を手にした白い甲冑の騎士が大木の下から姿を表した。 「やはりそうこなくてはな」 立ち上がった咲世子の姿を見て、嗜虐的に笑む玲子。 だがその表情が見えたのも一瞬。 すぐに美しい女の顔は崩れ落ち、幾つもの触手へと姿を変える。 「私は……ゼロとなり、ルルーシュ様の遺志を継がなければなりません」 息を切らしながら、それでも咲世子は力強く言葉を紡いでいく。 「だからこんなところで果てるわけにはいきません、覚悟ッ!」 そう叫ぶと同時に、勢いよく加速する咲世子。 そして薙刀を振り回しながら、飛び交う刃の中に突っ込んでいった。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「てぇい!」 首筋を狙う刃を、僅かに頭を反らして紙一重で回避する。 側面からの刃は、薙刀の刀身で受け止めた。 そこで発生するわずかな隙。 咲世子を取り囲む刃の包囲網に、ほんの少しだけ綻びが生まれていたのだ。 そして百戦錬磨の彼女は、その綻びを見逃すことはない。 腰に下げておいたサーベルを抜き、玲子へと肉薄する。 そして自らの間合いに入った瞬間、脇腹に溜めておいたサーベルを勢いよく突き出した。 (やった……?) サーベルの先端は、玲子の腹部に深々と突き刺さっていた。 咲世子がサーベルを引き抜くと、傷口から鮮血が吹き出す。 しかし玲子は、全く痛がる様子を見せない。 切れ長の目で咲世子を捉えた後、すぐに攻撃へと転じた。 (やはり攻撃が通じていない?) 迫り来る刃を捌きながら、思案する咲世子。 玲子の身体には、二つの傷跡が残っている。 今もそこから血液が流れ落ち、地面に滴っている。 にも関わらず、玲子は一度たりとも痛がる様子を見せないのだ。 人間の姿をしているのに、あまりにも人間から逸脱している。 化け物の名を冠するに、相応しい存在だ。 しかしどんな生物にも、弱点と呼べるものは必ずある。 無敵の生物など、存在するはずがないのだ。 そして彼女は、玲子の弱点が頭部であることに薄々感づいていた。 冷静に思い出してみると、玲子の攻撃は全てが頭部から繰り出されている。 手足を変形させる素振りも見せないし、使えるのならとっくに使っているだろう。 つまり頭部こそが、田村玲子という生物の核なのだ。 頭部の破壊に成功すれば、おそらく田村玲子の生命活動は停止するはずである。 「考え事か? 余裕だな」 言葉と同時に、飛び交う刃。 「いえ、ギリギリですよ」 薙刀を振り回し、それを払い除ける咲世子。 そのまま返す刀で、玲子の首元へ勢いよく振り下ろした。 「ッ!?」 やった――――そう思えたのは一瞬。 薙刀越しに伝わってきたのは、肉と骨の裂ける感触ではなかった。 「私が作れるのが、刃だけだと思ったか?」 驚愕する咲世子、ほくそ笑む玲子。 彼女の長い髪が白色の肉の帯に変化し、薙刀に巻き付いて受け止めていたのだ。 咲世子は薙刀を引き抜こうとするが、肉の帯の拘束が解けることはない。 そしてそこで発生した隙は、玲子にとっての好機となった。 変化していなかった部分の髪が、鈍い輝きを放つ刃へと変わる。 その光景を見て、急いで離れようとする咲世子。 だがその判断はあまりにも遅かった。 「ああぁぁっ!!」 首筋を冷たい刃が通り抜ける。 それから数秒もせずに、鋭い痛みと熱が走った。 「ぐっ……うっ!」 首筋を抑えながら、彼女は背面跳びで後退する。 「頚動脈を正確に切り裂いたつもりだったのだがな」 薙刀を興味深そうに眺めた後、そっと地面へ置く玲子。 激痛に苛まれ、表情を歪める咲世子。 玲子の狙いは完璧であり、正確に頚動脈を切り裂いていた。 それでも咲世子が命を繋いでいるのは、偏にライダーデッキのおかげである。 咲世子の纏う強化スーツは、致命傷ですら防ぐほどの性能であったのだ。 しかしそのスーツも裂けてしまい、今は素肌が露出している。 次に同じ箇所を切り裂かれれば、命はないということだ。 「まぁいい、これで終わりだ」 玲子の顔が変形し、三本の刃へと姿を変える。 今までに何度も見た光景。 一つ違うのが、咲世子が窮地に陥っているということだ。 「お前は危険過ぎる、ここで死ね」 容赦のない掛け声と共に、三本の刃が飛ばされる。 咲世子は痛みを堪えながら、デッキからカードを一枚引き抜いた。 ――――GUARD VENT―――― 二度目の認証音。 咲世子の左腕に白鳥の翼を模した盾が装着される。 そしてその瞬間、三本の刃が彼女の身体を貫く。 「なに……?」 はずだった。 咲世子は刃が接触する直前、煙のように掻き消えてしまったのだ。 同時に突風が巻き起こり、大量の羽が玲子の視界を埋め尽くす。 「どこに行った!?」 普段は寡黙な玲子が、珍しく声を荒げる。 弱った獲物が目の前から消えたことに、本能が苛立たせたのだ。 目まぐるしく動く羽は、玲子の視界を完全に塞いでいる。 忙しなく視界の端で動くそれは、鬱陶しいことこの上ない。 そしてその障害に紛れ、上空から殺意が飛来する。 白い騎士がサーベルを構え、玲子の頭部を穿とうとしていた。 「くっ!」 間一髪で気付いた玲子は、急いで身体を翻す。 それが功をなし、頭部への直撃は避けることができた。 だが完全にその奇襲を避けるには、反応が遅すぎた。 「チィッ!」 右肩に深々と突き刺さるサーベルの刀身。 咲世子は確かな手応えがあるのを確認すると、サーベルを勢いよく切り上げる。 すると刃を通じて、骨と肉を裂く感触が伝わってきた。 血管や神経の繊維が途切れ、ぷちっとビニールが破れたような音を上げる。 そして、サーベルが玲子の身体から抜けた瞬間。 大量の鮮血と共に、玲子の右腕は地面へと落下した。 「まだです!」 更なる追撃を仕掛けようと、咲世子はサーベルを振るう。 その動きは迅速で、そして鋭い。 自らに傾いてきた流れを逃さぬよう、過敏に責めているのだ。 が、突然その動きが停止した。 玲子は薙刀を奪い取った時のように、長い髪の毛を肉の帯に変形させていたのだ。 (そう来ましたか……) 咲世子が使用しているサーベル――――ブランバイザーは、召喚機の役割も兼ねている。 これを失うことは、全ての攻め手を失うことに等しい。 そうなれば圧倒的不利なのは、言うまでもないだろう。 だから彼女は、攻撃を停止せざるを得なかったのだ。 追撃の手が止んだのを確認し、数歩後退する玲子。 そして咲世子の間合いから離れた地点で、髪の毛を元に戻す。 「………………」 無表情のままに咲世子を見つめる玲子。 彼女から放たれる殺気は、咲世子の肌をぴりぴりと焼き付ける。 一瞬たりとも隙を見せれば、容赦なく切り刻む。 言外にそう告げていた。 「まさか人間がここまでやるとは……驚いたよ」 睨み合いに飽きたのか、突然玲子が口を開く。 どことなく嬉しそうな様子で、視線を右腕に注ぎながらだ。 咲世子はこの時になって、彼女が初めて"喜"という感情表現をしたことに気が付いた。 「化け物め……」 反射的に声が漏れる。 殆どの生物は四肢を切り落とされれば、喪失感を覚えるものだ。 しかし目の前の生物は、まるで痛がる様子を見せない。 落ちた右腕に対して、未練などは欠片も感じていない。 右腕を切り落とした相手に、恐怖や憎悪を抱いたりもしていない。 逆にその行為を賞賛しているのだ。 これを化け物と呼ばずして、なんと呼べばいいのだろう。 とっくに理解していたことであったが、言葉に出さずにはいられなかった。 「私からすればお前の方がよっぽど化け物に見えるがな 我々と対等に戦うどころか、腕を切り落とした人間などお前くらいだ」 皮肉のつもりなのか、玲子は冷たく笑う。 そこから伺えるのは余裕。 この程度では戦況は変わらないという明確な意思表示。 玲子の言葉を、咲世子はそう解釈していた。 (そろそろまずくなってきましたね……) 再び混じり合う両者の視線。 その中で咲世子は、自分に残された時間が少ないことに気付いた。 ライダーに変身していられるのはおよそ十分間。 彼女が変身をしてから、既に七分が経過している。 つまりライダーに変身していられる時間は、残り三分程度しかないのだ。 変身が解除されれば、間違いなく勝利は絶望的になる。 しかしここで自棄になり、考えなしの攻撃を仕掛けるのは愚策だ。 中途半端な攻撃が意味を成さないのは、先のやり取りで痛いほど理解している。 (生半可な攻撃は通用しない、なら――――) ファイナルベントを決める。 それが咲世子に残された唯一の勝ち筋だった。 「…………」 玲子の動向を見逃すまいと、視線を配る咲世子。 そのままブランバイザーの両翼を展開し、腰に装着されたデッキに手を伸ばす。 その瞬間、大気を切り裂く音が耳に届いた。 「クッ!!」 咄嗟に手を退かし、サーベルを振り下ろす。 刃と衝突する金属音が、咲世子の鼓膜を刺激した。 「さっきお前はそこからカードを出して、盾を呼び出していたな」 顔の半分を触手に変貌させた玲子が、唯一人間のパーツである口から言葉を発する。 「ならばもうカードは使わせない、そうすれば新たな武器を呼び出せないのだろう」 触手を生やした顎が、勝ち誇ったように口角を歪める。 そして何本もの触手を、一斉に射出した。 (……まずい!) 触手を捌きながら、臍を噛む咲世子。 彼女の前後左右を取り囲むように、蠢き始める触手。 そう、玲子は咲世子を逃さぬように触手の包囲網を展開したのだ。 触手が迫り来ること自体は、そこまで問題ではない。 刃の切れ味は脅威的だが、その速度にはもう馴れてしまっている。 しかし刃と戯れているだけでは、玲子にダメージを与えることはできないのだ。 触手の包囲網から玲子本体は、咲世子の間合いから僅かに外れている。 故に強引に畳み掛けることは不可能。 おそらく玲子は、そこまで計算して包囲網を敷いたのだろう。 やがて時間制限が訪れれば、事実上の敗北。 玲子がカードデッキの時間制限に気付いたのかは分からないが、現時点では最上の策であった。 「くうっ!」 正面からの刃を、盾で受け止める。 その隙を突き、両側面から現れる二本の刃。 一本はサーベルで弾き返し、もう一本は身体を捻って回避する。 「今なら包囲網を――――」 突破できる。 そう言いかけ、咲世子は閉口した。 攻撃に割いた分だけ包囲網が薄くなっていると判断していたが、それは間違いであった。 玲子は包囲網が突破されない限界を見定め、巧みに攻撃を仕掛けていたのだ。 (なにかここを抜ける手段を!) 刻々と過ぎていく時間の中、咲世子は必死に可能性を模索し始める。 このまま何もしないでいれば、敗北は必至。 彼女にはまだルルーシュの後を継ぎ、ゼロを継がなければならない。 だから負けられない、死ねない。 だが包囲網を脱出する手段も思い浮かばない。 (……万策尽きましたか) 策がない以上、もう強引に突破する以外に手段はない。 ルルーシュであれば、最後まで脱出の策を組み立てたのだろう。 しかし咲世子には、ルルーシュのような頭脳は無かった。 それでも諦めるわけにはいかないのだ。 ルルーシュはどれだけ窮地に立たされようと決して諦めたりはしない。 ならばルルーシュの後を継ぐ彼女が、刀を納めるわけにはいかないのだ。 (ルルーシュ様、ナナリー様……) 心中で自らの主君の顔を思い浮かべる。 ルルーシュの悲願を達成するため、ナナリーの傍にこれからも居続けるため。 絶対にここで果てるわけにはいかないと、咲世子は決意を新たにする。 そんな時だった。 「……?」 彼女の周辺を蠢く触手が、少しずつ狭まってきているのだ。 その様子は、まるで咲世子に全方位攻撃を仕掛ける準備のよう。 このまま包囲していれば、勝利できるのにも関わらずだ。 (よく分かりませんが……) 聡明な玲子が判断ミスを犯すとも思えない。 彼女の顔を伺うが、張り付いた無表情からは何も思い計ることはできない。 単純に時間制限に気付いていなかったのか、それとも罠を仕掛けているのか。 どちらかは分からないが、好機であることに違いはなかった。 サーベルの柄を固く握り締め、盾を深めに構える。 そうして数秒。 刃のような殺気が、咲世子を呑み込む (来る!) 刹那、包囲していた刃が一斉に跳びかかった。 「行きます!」 刃の動きを見て、迅速に行動を開始する咲世子。 包囲網を強引に攻撃に流用したため、至る所に綻びが生まれているのだ。 今ならどこからでも突破することができる。 だが玲子は簡単に包囲網を突破させてくれるほど、柔な相手ではない。 幾本もの触手を巧みに操り、咲世子の命を刈り取ろうとする。 あらゆる方向から、高速の刃が咲世子に迫ってきていた。 胴体を狙う刃を、盾で弾き返す。 首筋をへの刃は、サーベルで切り落とす。 受け損ねた刃もあったが、致命に達する傷を負うこともなかった。 そうした駆け引きを何度も繰り返し、ついにあと一歩で包囲網を脱出できるところまで辿り着く。 「死ね」 風を切る音と共に、刃が走る。 狙いはスーツが裂け、素肌が露出した首筋部分。 咲世子はサーベルを縦に構え、刃に一閃を加えようとする。 「なっ!?」 だが直前になり、刃は自ら二股に裂けてしまう。 それにより空振りに終わる咲世子の一撃。 そして二つに避けた刃は肉の帯に変化し、サーベルの刀身に絡みついた。 「これさえ奪い取れば、もうお前はカードを使えない」 二つの肉の帯は刀身にしっかりと結びついたまま、恐ろしい膂力でそれを奪い取ろうとしてくる。 (……これが狙いでしたか) あの包囲攻撃は囮であり、本当の狙いはブランバイザーを奪い取ること。 確かにこれを奪取されれば、咲世子にとっては完全に詰みだ。 「これでおしまいだ、咲世子」 今の状況は絶体絶命。 少なくとも玲子はそう思っているのだろう。 だが咲世子はそう思っていなかった。 「二度も同じ手が通用するとお思いでしたか?」 手早く盾を肉の帯の根元の触手部分に構え、そのまま上に振り上げる。 すると触手は切断され、サーベルを拘束する力が一気に弱まった。 「甘く見ましたね!」 仮面ライダーファムの持つ盾の名は、ウイングシールドと言う。 その名の通り、契約モンスターであるブランウイングの翼を模した盾だ。 そしてブランウイングの翼は、厚さ四十センチの鉄板でさえ切り裂く性能を持つ。 故にその翼を模した盾にも切れ味があるのは、当然の話であった。 「チィッ!」 玲子は急いで刃をけしかけるが、もう遅い。 咲世子はライダーによって強化された脚力で、森林の中へと飛び込んでいた。 「ハァ……ハァ……なんとか逃げ切りましたか」 木々の間を駆けながら、咲世子は言葉を漏らす。 全身に切り傷が散見し、呼吸も完全に乱れている。 まさにボロボロの状態であったが、それでも絶体絶命の状況からは脱出したのだ。 (あとはトドメを刺すだけですが……) ライダーに変身していられるのは、残り一分程度。 咲世子が不利なことには、依然変わりない。 しかし玲子の間合いから離れたため、アドベントカードを使用できるようになったのだ。 が、今はファイナルベントを使うことはできない。 ファムのファイナルベントは、ブランウイングが突風で吹き飛ばした相手をライダーが切り裂くという技である。 その性質故にブランウイングとライダー、そして相手が一直線に並んでいなければならないのだ。 ブランウイングを召喚するのも、この状況下では上策と言えない。 肝心の発動時にブランウイングが妙な場所にいた場合、タイムラグが生じてしまう。 何をしてくるか分からない玲子には、一瞬たりとも隙を与えたくはなかった。 (最後に……最後にあと一欠片が足りない!) 腰のデッキからファイナルベントのカードを抜き取る。 これが最後の命綱である以上、失敗は絶対に許されない。 だから発動するのは、必殺の状況。 確実に玲子の命を刈り取れる場面だ。 だがその状況を作り出すには、何かが足りなかった。 (なにかあれば……ッ! そういえば!) 握り締めたカードを眺め、ふと何かに気付く咲世子。 足りなかった最後の一欠片が、かちりと当て嵌まる。 そんな感覚を彼女は覚えていた。 (行ける、これなら行ける!) 次々と彼女の脳内で策が構築され、そして完成する。 玲子のファイナルベントを命中させる、必殺の策が出来上がったのだ。 咲世子はボロボロになったデイパックの口を開け、中から"ある物"を取り出す。 それは咲世子に残された、最後の支給品。 逆転の秘策は、最初から彼女の手の内にあったのだ。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ (焦り過ぎたか……) 一方で、玲子は物思いに耽る。 その顔は、完全に化け物のそれだ。 もはや人間に擬態することを無意味と判断したのか、それとも顔を構築するほどの肉が足りないのか。 切断された触手が、次々と玲子の元に戻ってくる。 切断された右肩からは、未だに血液が滴り落ちていた。 「今から咲世子を追うのは厳しいものがあるな……ん?」 森の中に逃げた咲世子を追うのは困難。 そう判断した時、木の葉が擦れる音が玲子の耳に届く。 ゆっくりとその方向を振り向くと、そこにあるのは一際大きな大木。 否、枝の上で悠然と佇む白い騎士。。 森の中に逃げたはずの咲世子の姿であった。 (何故戻ってきた?) 寄生生物でも随一といわれる頭脳を駆使して、玲子はそれを推察する。 あの咲世子のことだ、何か必ず目的があるのだろう。 だがその目的を推理するには、時間が足りなかった。 咲世子は左手にカードを構え、今にもサーベルの翼を展開しようとしているのだから。 (しょうがない……) 咲世子の目的は不鮮明だが、カードを使用されことだけは絶対に避けなければならない。 その判断のもと、玲子は頭部から二本の刃を飛ばす。 一本はカードを持つ左腕に、もう一本はサーベルを持つ右腕に。 どちらか一方でも妨害することができれば、カードの認証は制止することができる。 そう思っていた。 「なにっ!?」 だが咲世子の行動は、玲子の思惑を大きく外れていた。 あろうことか、彼女はカードをそのまま投げつけてきたのだ。 玲子はあのカードが単体では役に立たないと踏んでいた。 認証用のサーベルがあって、初めて効力を発揮するものだと思っていたのだ。 しかし今の咲世子の行動は、その推測を根本から覆してきている。 あのカードには、未だに謎が多い。 何をしてくるか分からない以上、何かをする前に叩き切らなければならない。 そう玲子は判断し、攻撃目標をカードへと変更した。 (何も起こらない……?) カードを切り裂くこと自体は、非常に容易かった。 切り裂かれたカードは、何の手応えもなく二つに分かれる。 そしてそのまま強風に煽られ、どこかへと飛んでいってしまった。 ――――ハッタリだったのか? そんな疑念が、玲子の中に渦巻き始める。 その瞬間だった。 「?」 鋭い音と共に、玲子の左肩に何かが突き刺さる。 その正体を確認するために左肩を見た時、彼女は驚愕を隠すことができなかった。 「何が起きている……?」 理解が追いつかず、混乱する玲子。 突き刺さったいたのは、先ほど切り裂いたはずのカードだったのだ。 それだけではない。 周りを見渡すと、いつの間にか景色を埋め尽くすほどに大量のカードが宙を舞っていた。 (このカード……トランプではないか) 間近でカードを眺めることで、ようやく彼女は気付くことができた。 咲世子が投げたのが、アドベントカードではなくただのトランプであったことに。 いや、ただのトランプというのは間違いだ。 これは咲世子のデイパックに入っていた最後の支給品。 "狩人"フリアグネが愛用する宝具の一つ、レギュラーシャープだ。 これは最初は一枚のカードであるが、使用すると瞬く間に増殖して宙を舞う宝具である。 玲子が切り裂いたカードも、増殖したカードの一枚に過ぎない。 咲世子はこれをアドベントカードと誤解させ、攻撃を誘ったのだ。 「まずい!」 混乱から一転、焦燥に包まれる玲子。 百を悠に越す量のカードが、彼女に牙を向けているのだ。 急いで伸びた触手を戻そうとするが間に合わない。 遠くにいる咲世子を狙ったため、触手が限界まで伸び切っていたのである。 つまり今の彼女には、身を守る手段は存在しなかった。 「喰らいなさい!」 咲世子の掛け声と共に、大量のカードが一斉に雪崩れ込む。 その威力の前に白衣は引き裂け、皮膚には幾本もの赤い線が引かれる。 そして伸びきった二本の触手にも、容赦なく襲いかかるカード達。 次々と触手の上を通過して、ダメージを蓄積させていく。 上下左右をカードに囲まれているが故、触手は身動きがとれない。 そしてついにはダメージが限界を越え、二本の触手は地面へと落ちた。 「……落ちましたか」 そう呟き、枝の上から地面へと降りる咲世子。 抵抗手段をもがれた玲子を静かに見据え、ブランバイザーの両翼を展開させる。 そして腰のデッキからファイナルベントのカードを取り出し――――装填した。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 大きな水溜りの中から、一羽の白鳥が姿を表す。 これこそが仮面ライダーファムの契約モンスター、ブランウイングだ。 ミラーモンスターにしては小柄であるが、その力は他のモンスター達と比べても遜色ない。 白い翼が一度羽ばたけば突風が吹き荒れ、その鳴き声は天地を鳴動させる。 (これさえ決まれば勝てる……!) そんな存在を従えた咲世子は、最後の一撃に備え薙刀を構えている。 ファイナルベントは必殺の一撃であるが、使いどころが肝心であった。 阻まれれば隙を見せる形になるし、二発目を撃つことは不可能。 これが唯一の勝ち筋である以上、確実に成功させる必要があった。 だがそれには、変幻自在である玲子の能力は脅威になり得る。 だから無力化しておく必要があったのだが、それには大きな障害があった。 それこそが触手に備わった再生能力だ。 先程の攻防で気付いたのだが、これは厄介な能力である。 いくら切り落としてもすぐに再生するとなると、無力化するのは非常に難しい。 しかし、それでも無効化しておきたい。 そう考えた咲世子は一つの策を編みだした。 それが、限界まで伸ばさせた触手を根元から切り落とすことだ。。 レギュラーシャープをアドベントカードと誤認させれば、玲子は必ず阻止しようとしてくる。 それを利用するために咲世子は距離を取り、限界まで触手を伸ばさせたのだ。 限界まで伸び切っていれば、回収するのにも多少は時間がかかるだろう その証拠に、落ちた触手は本体に戻っていない。 今の玲子は無防備だ。 「行きます」 腰を低く落とし、薙刀を深く構える。 咲世子が迎撃の姿勢を整えた瞬間、烈風がこの空間を支配した。 「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」 怒号を上げ、咲世子は飛来する玲子を見据える。 もう打つ手が無いのか、抵抗せずに吹き飛ばされてくる玲子。 華奢なその身体は、もうすぐ薙刀の間合いまで入ってくる。 入ってきたら、その薙刀を振り回せばいい。 そうすれば玲子の生命活動は停止する。 それで勝てるのだ。 「咲世子」 その時、不意に懐かしい声が聞こえた気がした。 「え?」 もう絶対に聞けるはずがない声。 時には厳しく冷酷であり、目的のためならば手段を選ばない。 しかし心を許した相手には、秘めたる優しさを見せる。 そんな男の声。 「咲世子」 その男は既に死んだ、死んでいるはずなのだ。 だからもうその声が聞けるはずがない。 そう、咲世子は自らに言い聞かせる。 が、次に視界に飛び込んできたものを見た時、そんな思考は頭の中から消え去っていた。 「ルルーシュ……様?」 真っ黒な髪の毛に紫色の瞳、そして不敵な笑み。 それは咲世子が長年仕えた主人、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの顔。 二度と会えるはずのない相手の顔が、すぐそこにあった。 「咲世子――――」 ルルーシュの顔が、邪悪な形に歪む。 「――――お前の負けだ」 それに気付いた時、咲世子は冷たいものが首筋を通り過ぎる感触を感じていた。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「ヒュー……ヒュー……」 空気の漏れる音が、弱々しく大気を震わす。 一定の間隔を保ちながら、ヒュー、ヒューと その音は、まるで口笛の吹けない子供の下手糞な演奏に似ていた。 「…………」 目の前に転がるのは、篠崎咲世子の肉体。 変身は解除され、生身の肉体がそこに投げ出されている。 裂けた首筋からは夥しい量の血液が流れ落ち、彼女はその中で沈んでいた。 瞳からは光が失われ、呼吸は小鳥が囀るよう。 申し訳程度に、指先がピクピクと動いていた。 彼女の命は、もう長くはない。 人体に詳しい玲子でなくとも、そう判断することができるだろう。 咲世子が敗北した理由は、大きく分けて二つある。 まず一つ目は、彼女が寄生生物という存在を知らなかったこと。 寄生生物が刃だけでなく、盾などを創り出せることは彼女も知っていた。 それでも全く他人の顔にまで成り済ませるとは、考えが及ばなかったのだ。 それに加えて、彼女は本体から切り離された組織が自律行動をできることも知らなかった。 つまり本体から触手を切り離しても、まだ抵抗力が残っていることに彼女は気付いてなかったのだ。 ルルーシュの顔に成り済ますことで動揺を誘い、切り離された触手で頚動脈を切断。 スーツの裂け目を狙ったため、それは致命傷になり得た。 そして二つ目は、咲世子の忠義心があまりにも高すぎたことだ。 ルルーシュは死んだ、ここにいるはずがない。 頭でそう理解していても、彼女は手を出せなかったのである。 「…………」 有利な状況下にいた玲子が、わざわざ包囲網を解いた理由。 それはブランバイザーを奪い取るためではない。 咲世子がそうだったように、玲子自身にも残された時間が多くなかったからである。 咲世子は最後まで誤解していたが、寄生生物もれっきとした生物だ。 痛覚が他の生物に比べて鈍いだけで、体内の血液が大量に失われれば死に至ることもある。 故に右腕の切断は、相当の痛手であった。 あの包囲網を敷いていれば、負けることはないが勝つこともない。 だから玲子はあそこで勝負せざるを得なかったのである。 そもそも腕を切断される原因となった奇襲も、回避できたのは偶然に近い。 寄生生物の殺意に敏感という特性をもってしても、寸前まで咲世子の存在に気付くことができなかったのだ。 一歩間違えれば、あの時点で決着が着いていただろう。 (本当に危なかった) 純粋な人間で寄生生物をあそこまで追い詰めたのは、咲世子が初めてである。 だからこそ許せなかった。 あれだけの能力を持った咲世子との決着が、あまりにも呆気ないものだったことが。 最後に彼女が用いた戦術、あれは見事だったと言ってもいい。 あのまま最後の一撃が決まっていれば、確実に玲子は死亡していただろう。 だが最後の一撃は決まらなかった。 あんな悪あがきにも近い行動が、事実上の決定打となったのだ。 玲子は、あれで動揺して手元が狂えばいい程度に考えていた。 だが咲世子は手元を狂わすどころか、薙刀を振るうことさえしなかったのである。 あれだけの実力者であった咲世子が、あの程度の行動で無防備な姿を晒したのだ。 「咲世子」 抑揚のない声で、玲子は目の前に転がる女の名前を呼ぶ。 「何故、あそこで攻撃をしなかったのかしら?」 最後に残った疑問を解消するため、咲世子に問いかける。 だが返事は返ってこなかった。 当たり前だ。 呼吸も満足にできないのに、言葉を発することなどできるわけがない。 (所詮、咲世子も痛がり屋の一人だったか) 寄生生物を圧倒するほどの戦士も、結局は一人の人間に過ぎない。 落胆に近い形で、玲子はこの事実を痛感した。 「ぐっ……ッ!」 唐突に全身の力が抜け、意識が朦朧とし始める。 これは人間で言うところの、貧血の症状に近い。 (これ以上血を失うとさすがにまずいな) 右肩の傷口を見ながら、玲子は思案する。 出血は思ったよりも激しい、即急な手当てが必要。 そう考えるのが普通なのだろう。 しかし彼女は、別のことを考えていた。 彼女が考えているのは、今の自分の状態だ。 右腕を失い、更に血で真っ赤に染まった白衣。 そんな人間に相対したら、誰であろうと怪訝な目を向けてくる 観察をスタンスとする以上、不用意に疑われるのは避けたい。 今後の活動に支障を来さないよう、処置をする必要がある。 幸いにも寄生生物には、それを可能とする方法が一つだけあった。 「咲世子、お前は痛がり屋にしては素晴らしい力を持っていた」 彼女自身がそれをしたことはないが、成功例はいくつか耳にしている。 時間が経過すれば、出来なくなってしまう。 やるなら、今すぐだ。 「だが負けは負けだ」 ぐにゃりと玲子の頭が歪む。 「動物の世界では、勝者は敗者を自由にできるらしいな」 隻腕の肉体から、頭が分離する。 「だから私は、お前の肉体を貰う」 そして分離した頭は、咲世子の肉体へと飛びかかった。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「ふぅ……」 首の切断、新たな結合、そして蘇生。 それらを瞬時に行うことで、新たな肉体に乗り移ることができる。 若干の不安はあったが、どうやら成功したようだ。 対峙したのが、同性の咲世子であったのは幸運だった。 異性では拒絶反応を起こして、身体の操縦がまともにできないと聞く。 「田宮良子の肉体よりも、身体能力は優れているな」 咲世子の肉体は、人間にしては破格の身体能力を持っている。 田宮良子の肉体とは、比較にならないほどだ。 (この女、くノ一だったのか) 肉体を奪ったことで、咲世子の情報が次々と頭の中に入り込んできている。 荒唐無稽な存在だと思っていたが、くノ一というのはどうやら実在するらしい。 くノ一ならば、超人的な身体能力も頷けるだろう。 だが先の連戦での疲労や傷が、大きな妨げとなっている。 少なくとも頸動脈から流れ出た血は、すぐさま補給する必要があった。 (田宮良子の肉体から補給すればいい、腹も減った) もう田宮良子の肉体は用済みだ。 咲世子の頭部と含めて、まとめて食料にしてしまえば問題ない。 だが食事よりも先に、解決してしまいたい疑問があった。 (何故、咲世子は最後に攻撃しなかった?) 確かにあの時の顔や声はルルーシュの物だった。 だが服装はまるで違っていたし、そもそもルルーシュの死は放送で確認している。 あの放送を偽りだと考えるほど、咲世子は愚かではない。 ルルーシュの後を継ぐと宣言していた以上、咲世子は彼の死を認識していたはずだ。 (やはり人間のことは分からない) 玲子は人間の研究をしているが、未だに人間には謎が多い。 こうした不合理な行動も、何となくでしか理解できないのだ。 (これが人間たちが言う絆なのか?) 人間たちの間には家族や恋人など、多くの絆がある。 咲世子の抱いていた忠義心も、一種の絆なのだろう。 先ほど彼女のことを痛がり屋と評価したが、果たしてどこが痛かったのか。 彼女は寄生生物にも恐れず、勇敢に立ち向かってきた。 少なくとも肉体的な痛みではないだろう。 ならば、どこが。 「心か」 おそらく咲世子はルルーシュが死んで、心が痛かったのだろう。 その事を、概念的には理解することができる。 だが本心では理解することができなかった。 寄生生物は群れを作るが、仲間の死を悲しむことはない。 誰かが欠けても、「ああそうか」くらいにしか思わないのだ。 (いずれ分かる時が来るだろうか) 疑問の答えを知っている咲世子は、もうこの世にはいない。 それでも疑問があるのなら、答えを探すだけだ。 ここには多くの悲しみが溢れているに違いない。 人間の観察を続けていれば、いつかはその答えにも辿り着くだろう。 「そのためにも今は食事か」 そろそろ限界だと、身体が訴えている。 一刻も早く血液を補給し、空腹を満たす必要があった。 「この肉体、大切に使わせてもらおう」 田村玲子は新たな疑問を胸に抱えながら、食事を開始した。 【一日目朝/B-3 北西】 【田村玲子@寄生獣】 [装備]篠崎咲世子の肉体 [支給品]支給品一式×2、しんせい(煙草)@ルパン三世、手錠@相棒、不明支給品(0~2) [状態]ダメージ(大)、疲労(大)、貧血、空腹 [思考・行動] 0:人間を、バトルロワイアルを観察する。 1:食事をする。 2:新たな疑問の答えを探す。 3:茶髪の男(真司)を実際に観察してみたい。 4:泉新一を危険視。 5:腹が減れば食事をする。 ※咲世子の肉体を奪ったことで、彼女が握っていた知識と情報を得ました。 ※赤髪の少女(シャナ)、茶髪の男(真司)を危険人物だと思っています。 ※咲世子のデイパック@支給品一式、双眼鏡@現実、と、ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可)が近辺に放置されています。 ※レギュラーシャープは、風に煽られてどこかへ飛んでいきました。 【篠崎咲世子@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】 【レギュラーシャープ@灼眼のシャナ】 “狩人”フリアグネの持っていたカード型宝具。 最初は一枚のトランプ(スペードのA)だが、無数に増えて自由自在に宙を飛び、 カードの雪崩で敵を切り裂く戦闘型宝具。 と、見せかけて、実はただ単に占いに使うための『自動的に切られるカード』らしい。 時系列順で読む Back 絶望キネマ Next [[]] 投下順で読む Back 絶望キネマ Next [[]] 082 人間考察 篠崎咲世子 田村玲子
https://w.atwiki.jp/tarowa/pages/348.html
仮面ライダー vs 寄生生物 ◆ew5bR2RQj. 白いマントをはためかせ、跳躍する咲世子。 腰に下がっているのは、サーベルに似た形状を持つ羽召剣ブランバイザー。 それを抜き、田村玲子へと肉薄する。 玲子はその姿を一瞥すると、頭部を変形させて一本の刃を伸ばした。 「甘いです!」 だが刃が届くことはない。 常人には視認すらできない速度の刃を、咲世子は空中で弾いたのだ。 防御に成功した彼女は、サーベルの間合いへと足を踏み入れる。 そして玲子に斬りかかろうとした瞬間、玲子の身体が宙へと浮かび上がった。 「甘いのはお前の方だ」 空中を浮遊しながら、ほくそ笑む玲子。 彼女は樹木へと突き刺した刃を支柱に、空中へと浮かび上がっていたのだ。 「私がただ無闇に攻撃したとでも思っているのか?」 空中を十メートルほど移動し、ゆっくりと着地する玲子。 彼女は咲世子の実力を計るため、牽制の攻撃を放った。 さらに万が一の事態に備え、いつでも退避できるようにしていたのだ。 「やはり……一筋縄では行きませんか」 「そのようね」 あくまで余裕があるように、玲子は振舞う。 だがその内心は、あまり穏やかでは無かった。 (あの速度の刃を防ぐか) 寄生生物の刃は、ただの人間では視認できないほど素早い。 それほどの速度の刃を、咲世子は空中で防いでみせたのだ。 たかが人間と油断していたら、首が飛ぶのはこちらの方だろう。 少なくとも草野達よりも手応えはあると、彼女は判断した。 「行きます!」 地面を蹴り、再び玲子の元へと駆ける咲世子。 姿勢を低くし、サーベルを深く構えている。 その構えは日本の剣術に古くから存在する、居合いの構えによく似ていた。 「チィッ!」 刃を伸ばし、咲世子の動きを封じる玲子。 同時に素早く後退することで、自分に有利な間合いを確保しようとする。 咲世子の身体能力は非常に脅威だが、得物がサーベル以外に見当たらない。 彼女は接近戦を仕掛ける以外に、勝利する術がないのだ。 一方で玲子は触手の長さを調整することで、あらゆる距離に対応することができる。 つまり彼女の間合いから離れれば、一方的に攻撃を仕掛けることが可能なのだ。 「とぉ!」 とは言ったものの、それが出来ないのが彼女の現状であった。 咲世子の猛攻は凄まじく、距離を離してもすぐに詰められてしまう。 攻撃に転じたとしても、全てが弾き返されていた。 (やはり咲世子の方が実力的には上……だが) 咲世子の剣戟をいなしながら、一瞬だけ視線を逸らす。 そしてまた、すぐに咲世子へと向けた。 「視線を逸らすとは、随分余裕のようですね!」 咲世子は右肘を後ろに下げ、すぐさま前方に突き出してくる。 放たれた刺突は、玲子の防御を容易く掻い潜った。 「そうでもないさ、むしろギリギリだ」 身体を翻し、寸前のところで玲子は刺突を躱す。 しかし完全に避けきることはできず、刀身は脇腹を抉る。 「減らず口を!」 咲世子は玲子の首筋に視線を注ぎ、剣を大きく振り上げる。 その瞬間、玲子の目が鋭く光った。 (今だ!) 足元に刃を伸ばし、横一文字に斬りつける玲子。 注意力が散漫になる足元であれば、咲世子にも効果があると踏んでの行動。 しかし咲世子は大きく跳躍し、安々と刃を回避してしまった。 「この程度の奇襲が私に通じると思いましたか?」 空中でマントを広げながら、咲世子は玲子を見下ろす。 その高度はおよそ15メートル。 ライダーの力により強化された脚力は、人間の限界を遥かに越えていた。 「少しは通じると思っていたのだがな」 清涼とした声が、淡々とした口調で言葉を告げていく。 そこには後悔や驚愕といった感情はなく、ただ事実だけを告げているものだ。 寄生生物は元から感情表現に乏しいが、今の状況には関係ない。 何故なら彼女の真の狙いは、足元への奇襲ではないのだから。 「それよりもまだ気づかないかしら?」 「一体なにを…………なッ!?」 咲世子の耳に届くのは、バキバキという木が軋む音。 ――――咲世子の傍にそびえ立つ大木が、咲世子の元へ倒れこむ音だった。 「まずい!」 咲世子が気づいた時にはもう遅い。 大木は彼女の身体を巻き込みながら、地面へと倒れこんでいく。 それから数秒、大木は轟音と共に地面へと叩きつけられた。 「…………」 その光景を片目に捉えながら、玲子は距離を取り始める。 先程の真の狙いは、咲世子の傍にあった大木を切り倒すこと。 足元への斬撃を避けた後に、大木の落下を狙う時間差攻撃であった。 寄生生物の作り出す刃は、ボディーアーマーすら紙のように寸断してしまう。 故に大木を一瞬で切り裂きつつ、足元を狙う程度であれば容易く行うことができた。 しかし、今の攻撃が致命傷になったとも思えない。 この程度で死なれてもらっては、期待外れにも程がある。 「……私を失望させるなよ」 ――――SWORD VENT―――― そんな彼女の声が天に届いたからか。 無機質な認証音と共に、巨大な薙刀を手にした白い甲冑の騎士が大木の下から姿を表した。 「やはりそうこなくてはな」 立ち上がった咲世子の姿を見て、嗜虐的に笑む玲子。 だがその表情が見えたのも一瞬。 すぐに美しい女の顔は崩れ落ち、幾つもの触手へと姿を変える。 「私は……ゼロとなり、ルルーシュ様の遺志を継がなければなりません」 息を切らしながら、それでも咲世子は力強く言葉を紡いでいく。 「だからこんなところで果てるわけにはいきません、覚悟ッ!」 そう叫ぶと同時に、勢いよく加速する咲世子。 そして薙刀を振り回しながら、飛び交う刃の中に突っ込んでいった。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「てぇい!」 首筋を狙う刃を、僅かに頭を反らして紙一重で回避する。 側面からの刃は、薙刀の刀身で受け止めた。 そこで発生するわずかな隙。 咲世子を取り囲む刃の包囲網に、ほんの少しだけ綻びが生まれていたのだ。 そして百戦錬磨の彼女は、その綻びを見逃すことはない。 腰に下げておいたサーベルを抜き、玲子へと肉薄する。 そして自らの間合いに入った瞬間、脇腹に溜めておいたサーベルを勢いよく突き出した。 (やった……?) サーベルの先端は、玲子の腹部に深々と突き刺さっていた。 咲世子がサーベルを引き抜くと、傷口から鮮血が吹き出す。 しかし玲子は、全く痛がる様子を見せない。 切れ長の目で咲世子を捉えた後、すぐに攻撃へと転じた。 (やはり攻撃が通じていない?) 迫り来る刃を捌きながら、思案する咲世子。 玲子の身体には、二つの傷跡が残っている。 今もそこから血液が流れ落ち、地面に滴っている。 にも関わらず、玲子は一度たりとも痛がる様子を見せないのだ。 人間の姿をしているのに、あまりにも人間から逸脱している。 化け物の名を冠するに、相応しい存在だ。 しかしどんな生物にも、弱点と呼べるものは必ずある。 無敵の生物など、存在するはずがないのだ。 そして彼女は、玲子の弱点が頭部であることに薄々感づいていた。 冷静に思い出してみると、玲子の攻撃は全てが頭部から繰り出されている。 手足を変形させる素振りも見せないし、使えるのならとっくに使っているだろう。 つまり頭部こそが、田村玲子という生物の核なのだ。 頭部の破壊に成功すれば、おそらく田村玲子の生命活動は停止するはずである。 「考え事か? 余裕だな」 言葉と同時に、飛び交う刃。 「いえ、ギリギリですよ」 薙刀を振り回し、それを払い除ける咲世子。 そのまま返す刀で、玲子の首元へ勢いよく振り下ろした。 「ッ!?」 やった――――そう思えたのは一瞬。 薙刀越しに伝わってきたのは、肉と骨の裂ける感触ではなかった。 「私が作れるのが、刃だけだと思ったか?」 驚愕する咲世子、ほくそ笑む玲子。 彼女の長い髪が白色の肉の帯に変化し、薙刀に巻き付いて受け止めていたのだ。 咲世子は薙刀を引き抜こうとするが、肉の帯の拘束が解けることはない。 そしてそこで発生した隙は、玲子にとっての好機となった。 変化していなかった部分の髪が、鈍い輝きを放つ刃へと変わる。 その光景を見て、急いで離れようとする咲世子。 だがその判断はあまりにも遅かった。 「ああぁぁっ!!」 首筋を冷たい刃が通り抜ける。 それから数秒もせずに、鋭い痛みと熱が走った。 「ぐっ……うっ!」 首筋を抑えながら、彼女は背面跳びで後退する。 「頚動脈を正確に切り裂いたつもりだったのだがな」 薙刀を興味深そうに眺めた後、そっと地面へ置く玲子。 激痛に苛まれ、表情を歪める咲世子。 玲子の狙いは完璧であり、正確に頚動脈を切り裂いていた。 それでも咲世子が命を繋いでいるのは、偏にライダーデッキのおかげである。 咲世子の纏う強化スーツは、致命傷ですら防ぐほどの性能であったのだ。 しかしそのスーツも裂けてしまい、今は素肌が露出している。 次に同じ箇所を切り裂かれれば、命はないということだ。 「まぁいい、これで終わりだ」 玲子の顔が変形し、三本の刃へと姿を変える。 今までに何度も見た光景。 一つ違うのが、咲世子が窮地に陥っているということだ。 「お前は危険過ぎる、ここで死ね」 容赦のない掛け声と共に、三本の刃が飛ばされる。 咲世子は痛みを堪えながら、デッキからカードを一枚引き抜いた。 ――――GUARD VENT―――― 二度目の認証音。 咲世子の左腕に白鳥の翼を模した盾が装着される。 そしてその瞬間、三本の刃が彼女の身体を貫く。 「なに……?」 はずだった。 咲世子は刃が接触する直前、煙のように掻き消えてしまったのだ。 同時に突風が巻き起こり、大量の羽が玲子の視界を埋め尽くす。 「どこに行った!?」 普段は寡黙な玲子が、珍しく声を荒げる。 弱った獲物が目の前から消えたことに、本能が苛立たせたのだ。 目まぐるしく動く羽は、玲子の視界を完全に塞いでいる。 忙しなく視界の端で動くそれは、鬱陶しいことこの上ない。 そしてその障害に紛れ、上空から殺意が飛来する。 白い騎士がサーベルを構え、玲子の頭部を穿とうとしていた。 「くっ!」 間一髪で気付いた玲子は、急いで身体を翻す。 それが功をなし、頭部への直撃は避けることができた。 だが完全にその奇襲を避けるには、反応が遅すぎた。 「チィッ!」 右肩に深々と突き刺さるサーベルの刀身。 咲世子は確かな手応えがあるのを確認すると、サーベルを勢いよく切り上げる。 すると刃を通じて、骨と肉を裂く感触が伝わってきた。 血管や神経の繊維が途切れ、ぷちっとビニールが破れたような音を上げる。 そして、サーベルが玲子の身体から抜けた瞬間。 大量の鮮血と共に、玲子の右腕は地面へと落下した。 「まだです!」 更なる追撃を仕掛けようと、咲世子はサーベルを振るう。 その動きは迅速で、そして鋭い。 自らに傾いてきた流れを逃さぬよう、過敏に責めているのだ。 が、突然その動きが停止した。 玲子は薙刀を奪い取った時のように、長い髪の毛を肉の帯に変形させていたのだ。 (そう来ましたか……) 咲世子が使用しているサーベル――――ブランバイザーは、召喚機の役割も兼ねている。 これを失うことは、全ての攻め手を失うことに等しい。 そうなれば圧倒的不利なのは、言うまでもないだろう。 だから彼女は、攻撃を停止せざるを得なかったのだ。 追撃の手が止んだのを確認し、数歩後退する玲子。 そして咲世子の間合いから離れた地点で、髪の毛を元に戻す。 「………………」 無表情のままに咲世子を見つめる玲子。 彼女から放たれる殺気は、咲世子の肌をぴりぴりと焼き付ける。 一瞬たりとも隙を見せれば、容赦なく切り刻む。 言外にそう告げていた。 「まさか人間がここまでやるとは……驚いたよ」 睨み合いに飽きたのか、突然玲子が口を開く。 どことなく嬉しそうな様子で、視線を右腕に注ぎながらだ。 咲世子はこの時になって、彼女が初めて"喜"という感情表現をしたことに気が付いた。 「化け物め……」 反射的に声が漏れる。 殆どの生物は四肢を切り落とされれば、喪失感を覚えるものだ。 しかし目の前の生物は、まるで痛がる様子を見せない。 落ちた右腕に対して、未練などは欠片も感じていない。 右腕を切り落とした相手に、恐怖や憎悪を抱いたりもしていない。 逆にその行為を賞賛しているのだ。 これを化け物と呼ばずして、なんと呼べばいいのだろう。 とっくに理解していたことであったが、言葉に出さずにはいられなかった。 「私からすればお前の方がよっぽど化け物に見えるがな 我々と対等に戦うどころか、腕を切り落とした人間などお前くらいだ」 皮肉のつもりなのか、玲子は冷たく笑う。 そこから伺えるのは余裕。 この程度では戦況は変わらないという明確な意思表示。 玲子の言葉を、咲世子はそう解釈していた。 (そろそろまずくなってきましたね……) 再び混じり合う両者の視線。 その中で咲世子は、自分に残された時間が少ないことに気付いた。 ライダーに変身していられるのはおよそ十分間。 彼女が変身をしてから、既に七分が経過している。 つまりライダーに変身していられる時間は、残り三分程度しかないのだ。 変身が解除されれば、間違いなく勝利は絶望的になる。 しかしここで自棄になり、考えなしの攻撃を仕掛けるのは愚策だ。 中途半端な攻撃が意味を成さないのは、先のやり取りで痛いほど理解している。 (生半可な攻撃は通用しない、なら――――) ファイナルベントを決める。 それが咲世子に残された唯一の勝ち筋だった。 「…………」 玲子の動向を見逃すまいと、視線を配る咲世子。 そのままブランバイザーの両翼を展開し、腰に装着されたデッキに手を伸ばす。 その瞬間、大気を切り裂く音が耳に届いた。 「クッ!!」 咄嗟に手を退かし、サーベルを振り下ろす。 刃と衝突する金属音が、咲世子の鼓膜を刺激した。 「さっきお前はそこからカードを出して、盾を呼び出していたな」 顔の半分を触手に変貌させた玲子が、唯一人間のパーツである口から言葉を発する。 「ならばもうカードは使わせない、そうすれば新たな武器を呼び出せないのだろう」 触手を生やした顎が、勝ち誇ったように口角を歪める。 そして何本もの触手を、一斉に射出した。 (……まずい!) 触手を捌きながら、臍を噛む咲世子。 彼女の前後左右を取り囲むように、蠢き始める触手。 そう、玲子は咲世子を逃さぬように触手の包囲網を展開したのだ。 触手が迫り来ること自体は、そこまで問題ではない。 刃の切れ味は脅威的だが、その速度にはもう馴れてしまっている。 しかし刃と戯れているだけでは、玲子にダメージを与えることはできないのだ。 触手の包囲網から玲子本体は、咲世子の間合いから僅かに外れている。 故に強引に畳み掛けることは不可能。 おそらく玲子は、そこまで計算して包囲網を敷いたのだろう。 やがて時間制限が訪れれば、事実上の敗北。 玲子がカードデッキの時間制限に気付いたのかは分からないが、現時点では最上の策であった。 「くうっ!」 正面からの刃を、盾で受け止める。 その隙を突き、両側面から現れる二本の刃。 一本はサーベルで弾き返し、もう一本は身体を捻って回避する。 「今なら包囲網を――――」 突破できる。 そう言いかけ、咲世子は閉口した。 攻撃に割いた分だけ包囲網が薄くなっていると判断していたが、それは間違いであった。 玲子は包囲網が突破されない限界を見定め、巧みに攻撃を仕掛けていたのだ。 (なにかここを抜ける手段を!) 刻々と過ぎていく時間の中、咲世子は必死に可能性を模索し始める。 このまま何もしないでいれば、敗北は必至。 彼女にはまだルルーシュの後を継ぎ、ゼロを継がなければならない。 だから負けられない、死ねない。 だが包囲網を脱出する手段も思い浮かばない。 (……万策尽きましたか) 策がない以上、もう強引に突破する以外に手段はない。 ルルーシュであれば、最後まで脱出の策を組み立てたのだろう。 しかし咲世子には、ルルーシュのような頭脳は無かった。 それでも諦めるわけにはいかないのだ。 ルルーシュはどれだけ窮地に立たされようと決して諦めたりはしない。 ならばルルーシュの後を継ぐ彼女が、刀を納めるわけにはいかないのだ。 (ルルーシュ様、ナナリー様……) 心中で自らの主君の顔を思い浮かべる。 ルルーシュの悲願を達成するため、ナナリーの傍にこれからも居続けるため。 絶対にここで果てるわけにはいかないと、咲世子は決意を新たにする。 そんな時だった。 「……?」 彼女の周辺を蠢く触手が、少しずつ狭まってきているのだ。 その様子は、まるで咲世子に全方位攻撃を仕掛ける準備のよう。 このまま包囲していれば、勝利できるのにも関わらずだ。 (よく分かりませんが……) 聡明な玲子が判断ミスを犯すとも思えない。 彼女の顔を伺うが、張り付いた無表情からは何も思い計ることはできない。 単純に時間制限に気付いていなかったのか、それとも罠を仕掛けているのか。 どちらかは分からないが、好機であることに違いはなかった。 サーベルの柄を固く握り締め、盾を深めに構える。 そうして数秒。 刃のような殺気が、咲世子を呑み込む (来る!) 刹那、包囲していた刃が一斉に跳びかかった。 「行きます!」 刃の動きを見て、迅速に行動を開始する咲世子。 包囲網を強引に攻撃に流用したため、至る所に綻びが生まれているのだ。 今ならどこからでも突破することができる。 だが玲子は簡単に包囲網を突破させてくれるほど、柔な相手ではない。 幾本もの触手を巧みに操り、咲世子の命を刈り取ろうとする。 あらゆる方向から、高速の刃が咲世子に迫ってきていた。 胴体を狙う刃を、盾で弾き返す。 首筋をへの刃は、サーベルで切り落とす。 受け損ねた刃もあったが、致命に達する傷を負うこともなかった。 そうした駆け引きを何度も繰り返し、ついにあと一歩で包囲網を脱出できるところまで辿り着く。 「死ね」 風を切る音と共に、刃が走る。 狙いはスーツが裂け、素肌が露出した首筋部分。 咲世子はサーベルを縦に構え、刃に一閃を加えようとする。 「なっ!?」 だが直前になり、刃は自ら二股に裂けてしまう。 それにより空振りに終わる咲世子の一撃。 そして二つに避けた刃は肉の帯に変化し、サーベルの刀身に絡みついた。 「これさえ奪い取れば、もうお前はカードを使えない」 二つの肉の帯は刀身にしっかりと結びついたまま、恐ろしい膂力でそれを奪い取ろうとしてくる。 (……これが狙いでしたか) あの包囲攻撃は囮であり、本当の狙いはブランバイザーを奪い取ること。 確かにこれを奪取されれば、咲世子にとっては完全に詰みだ。 「これでおしまいだ、咲世子」 今の状況は絶体絶命。 少なくとも玲子はそう思っているのだろう。 だが咲世子はそう思っていなかった。 「二度も同じ手が通用するとお思いでしたか?」 手早く盾を肉の帯の根元の触手部分に構え、そのまま上に振り上げる。 すると触手は切断され、サーベルを拘束する力が一気に弱まった。 「甘く見ましたね!」 仮面ライダーファムの持つ盾の名は、ウイングシールドと言う。 その名の通り、契約モンスターであるブランウイングの翼を模した盾だ。 そしてブランウイングの翼は、厚さ四十センチの鉄板でさえ切り裂く性能を持つ。 故にその翼を模した盾にも切れ味があるのは、当然の話であった。 「チィッ!」 玲子は急いで刃をけしかけるが、もう遅い。 咲世子はライダーによって強化された脚力で、森林の中へと飛び込んでいた。 「ハァ……ハァ……なんとか逃げ切りましたか」 木々の間を駆けながら、咲世子は言葉を漏らす。 全身に切り傷が散見し、呼吸も完全に乱れている。 まさにボロボロの状態であったが、それでも絶体絶命の状況からは脱出したのだ。 (あとはトドメを刺すだけですが……) ライダーに変身していられるのは、残り一分程度。 咲世子が不利なことには、依然変わりない。 しかし玲子の間合いから離れたため、アドベントカードを使用できるようになったのだ。 が、今はファイナルベントを使うことはできない。 ファムのファイナルベントは、ブランウイングが突風で吹き飛ばした相手をライダーが切り裂くという技である。 その性質故にブランウイングとライダー、そして相手が一直線に並んでいなければならないのだ。 ブランウイングを召喚するのも、この状況下では上策と言えない。 肝心の発動時にブランウイングが妙な場所にいた場合、タイムラグが生じてしまう。 何をしてくるか分からない玲子には、一瞬たりとも隙を与えたくはなかった。 (最後に……最後にあと一欠片が足りない!) 腰のデッキからファイナルベントのカードを抜き取る。 これが最後の命綱である以上、失敗は絶対に許されない。 だから発動するのは、必殺の状況。 確実に玲子の命を刈り取れる場面だ。 だがその状況を作り出すには、何かが足りなかった。 (なにかあれば……ッ! そういえば!) 握り締めたカードを眺め、ふと何かに気付く咲世子。 足りなかった最後の一欠片が、かちりと当て嵌まる。 そんな感覚を彼女は覚えていた。 (行ける、これなら行ける!) 次々と彼女の脳内で策が構築され、そして完成する。 玲子のファイナルベントを命中させる、必殺の策が出来上がったのだ。 咲世子はボロボロになったデイパックの口を開け、中から"ある物"を取り出す。 それは咲世子に残された、最後の支給品。 逆転の秘策は、最初から彼女の手の内にあったのだ。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ (焦り過ぎたか……) 一方で、玲子は物思いに耽る。 その顔は、完全に化け物のそれだ。 もはや人間に擬態することを無意味と判断したのか、それとも顔を構築するほどの肉が足りないのか。 切断された触手が、次々と玲子の元に戻ってくる。 切断された右肩からは、未だに血液が滴り落ちていた。 「今から咲世子を追うのは厳しいものがあるな……ん?」 森の中に逃げた咲世子を追うのは困難。 そう判断した時、木の葉が擦れる音が玲子の耳に届く。 ゆっくりとその方向を振り向くと、そこにあるのは一際大きな大木。 否、枝の上で悠然と佇む白い騎士。 森の中に逃げたはずの咲世子の姿であった。 (何故戻ってきた?) 寄生生物でも随一といわれる頭脳を駆使して、玲子はそれを推察する。 あの咲世子のことだ、何か必ず目的があるのだろう。 だがその目的を推理するには、時間が足りなかった。 咲世子は左手にカードを構え、今にもサーベルの翼を展開しようとしているのだから。 (しょうがない……) 咲世子の目的は不鮮明だが、カードを使用されことだけは絶対に避けなければならない。 その判断のもと、玲子は頭部から二本の刃を飛ばす。 一本はカードを持つ左腕に、もう一本はサーベルを持つ右腕に。 どちらか一方でも妨害することができれば、カードの認証は制止することができる。 そう思っていた。 「なにっ!?」 だが咲世子の行動は、玲子の思惑を大きく外れていた。 あろうことか、彼女はカードをそのまま投げつけてきたのだ。 玲子はあのカードが単体では役に立たないと踏んでいた。 認証用のサーベルがあって、初めて効力を発揮するものだと思っていたのだ。 しかし今の咲世子の行動は、その推測を根本から覆してきている。 あのカードには、未だに謎が多い。 何をしてくるか分からない以上、何かをする前に叩き切らなければならない。 そう玲子は判断し、攻撃目標をカードへと変更した。 (何も起こらない……?) カードを切り裂くこと自体は、非常に容易かった。 切り裂かれたカードは、何の手応えもなく二つに分かれる。 そしてそのまま強風に煽られ、どこかへと飛んでいってしまった。 ――――ハッタリだったのか? そんな疑念が、玲子の中に渦巻き始める。 その瞬間だった。 「?」 鋭い音と共に、玲子の左肩に何かが突き刺さる。 その正体を確認するために左肩を見た時、彼女は驚愕を隠すことができなかった。 「何が起きている……?」 理解が追いつかず、混乱する玲子。 突き刺さったいたのは、先ほど切り裂いたはずのカードだったのだ。 それだけではない。 周りを見渡すと、いつの間にか景色を埋め尽くすほどに大量のカードが宙を舞っていた。 (このカード……トランプではないか) 間近でカードを眺めることで、ようやく彼女は気付くことができた。 咲世子が投げたのが、アドベントカードではなくただのトランプであったことに。 いや、ただのトランプというのは間違いだ。 これは咲世子のデイパックに入っていた最後の支給品。 "狩人"フリアグネが愛用する宝具の一つ、レギュラーシャープだ。 これは最初は一枚のカードであるが、使用すると瞬く間に増殖して宙を舞う宝具である。 玲子が切り裂いたカードも、増殖したカードの一枚に過ぎない。 咲世子はこれをアドベントカードと誤解させ、攻撃を誘ったのだ。 「まずい!」 混乱から一転、焦燥に包まれる玲子。 百を悠に越す量のカードが、彼女に牙を向けているのだ。 急いで伸びた触手を戻そうとするが間に合わない。 遠くにいる咲世子を狙ったため、触手が限界まで伸び切っていたのである。 つまり今の彼女には、身を守る手段は存在しなかった。 「喰らいなさい!」 咲世子の掛け声と共に、大量のカードが一斉に雪崩れ込む。 その威力の前に白衣は引き裂け、皮膚には幾本もの赤い線が引かれる。 そして伸びきった二本の触手にも、容赦なく襲いかかるカード達。 次々と触手の上を通過して、ダメージを蓄積させていく。 上下左右をカードに囲まれているが故、触手は身動きがとれない。 そしてついにはダメージが限界を越え、二本の触手は地面へと落ちた。 「……落ちましたか」 そう呟き、枝の上から地面へと降りる咲世子。 抵抗手段をもがれた玲子を静かに見据え、ブランバイザーの両翼を展開させる。 そして腰のデッキからファイナルベントのカードを取り出し――――装填した。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 大きな水溜りの中から、一羽の白鳥が姿を表す。 これこそが仮面ライダーファムの契約モンスター、ブランウイングだ。 ミラーモンスターにしては小柄であるが、その力は他のモンスター達と比べても遜色ない。 白い翼が一度羽ばたけば突風が吹き荒れ、その鳴き声は天地を鳴動させる。 (これさえ決まれば勝てる……!) そんな存在を従えた咲世子は、最後の一撃に備え薙刀を構えている。 ファイナルベントは必殺の一撃であるが、使いどころが肝心であった。 阻まれれば隙を見せる形になるし、二発目を撃つことは不可能。 これが唯一の勝ち筋である以上、確実に成功させる必要があった。 だがそれには、変幻自在である玲子の能力は脅威になり得る。 だから無力化しておく必要があったのだが、それには大きな障害があった。 それこそが触手に備わった再生能力だ。 先程の攻防で気付いたのだが、これは厄介な能力である。 いくら切り落としてもすぐに再生するとなると、無力化するのは非常に難しい。 しかし、それでも無効化しておきたい。 そう考えた咲世子は一つの策を編みだした。 それが、限界まで伸ばさせた触手を根元から切り落とすことだ。。 レギュラーシャープをアドベントカードと誤認させれば、玲子は必ず阻止しようとしてくる。 それを利用するために咲世子は距離を取り、限界まで触手を伸ばさせたのだ。 限界まで伸び切っていれば、回収するのにも多少は時間がかかるだろう その証拠に、落ちた触手は本体に戻っていない。 今の玲子は無防備だ。 「行きます」 腰を低く落とし、薙刀を深く構える。 咲世子が迎撃の姿勢を整えた瞬間、烈風がこの空間を支配した。 「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」 怒号を上げ、咲世子は飛来する玲子を見据える。 もう打つ手が無いのか、抵抗せずに吹き飛ばされてくる玲子。 華奢なその身体は、もうすぐ薙刀の間合いまで入ってくる。 入ってきたら、その薙刀を振り回せばいい。 そうすれば玲子の生命活動は停止する。 それで勝てるのだ。 「咲世子」 その時、不意に懐かしい声が聞こえた気がした。 「え?」 もう絶対に聞けるはずがない声。 時には厳しく冷酷であり、目的のためならば手段を選ばない。 しかし心を許した相手には、秘めたる優しさを見せる。 そんな男の声。 「咲世子」 その男は既に死んだ、死んでいるはずなのだ。 だからもうその声が聞けるはずがない。 そう、咲世子は自らに言い聞かせる。 が、次に視界に飛び込んできたものを見た時、そんな思考は頭の中から消え去っていた。 「ルルーシュ……様?」 真っ黒な髪の毛に紫色の瞳、そして不敵な笑み。 それは咲世子が長年仕えた主人、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの顔。 二度と会えるはずのない相手の顔が、すぐそこにあった。 「咲世子――――」 ルルーシュの顔が、邪悪な形に歪む。 「――――お前の負けだ」 それに気付いた時、咲世子は冷たいものが首筋を通り過ぎる感触を感じていた。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「ヒュー……ヒュー……」 空気の漏れる音が、弱々しく大気を震わす。 一定の間隔を保ちながら、ヒュー、ヒューと その音は、まるで口笛の吹けない子供の下手糞な演奏に似ていた。 「…………」 目の前に転がるのは、篠崎咲世子の肉体。 変身は解除され、生身の肉体がそこに投げ出されている。 裂けた首筋からは夥しい量の血液が流れ落ち、彼女はその中で沈んでいた。 瞳からは光が失われ、呼吸は小鳥が囀るよう。 申し訳程度に、指先がピクピクと動いていた。 彼女の命は、もう長くはない。 人体に詳しい玲子でなくとも、そう判断することができるだろう。 咲世子が敗北した理由は、大きく分けて二つある。 まず一つ目は、彼女が寄生生物という存在を知らなかったこと。 寄生生物が刃だけでなく、盾などを創り出せることは彼女も知っていた。 それでも全く他人の顔にまで成り済ませるとは、考えが及ばなかったのだ。 それに加えて、彼女は本体から切り離された組織が自律行動をできることも知らなかった。 つまり本体から触手を切り離しても、まだ抵抗力が残っていることに彼女は気付いてなかったのだ。 ルルーシュの顔に成り済ますことで動揺を誘い、切り離された触手で頚動脈を切断。 スーツの裂け目を狙ったため、それは致命傷になり得た。 そして二つ目は、咲世子の忠義心があまりにも高すぎたことだ。 ルルーシュは死んだ、ここにいるはずがない。 頭でそう理解していても、彼女は手を出せなかったのである。 「…………」 有利な状況下にいた彼女が、わざわざ包囲網を解いた理由。 それはブランバイザーを奪い取るためではない。 咲世子がそうだったように、玲子自身にも残された時間が多くなかったからである。 咲世子は最後まで誤解していたが、寄生生物もれっきとした生物だ。 痛覚が他の生物に比べて鈍いだけで、体内の血液が大量に失われれば死に至ることもある。 故に右腕の切断は、相当の痛手であった。 あの包囲網を敷いていれば、負けることはないが勝つこともない。 だから玲子はあそこで勝負せざるを得なかったのである。 そもそも腕を切断される原因となった奇襲も、回避できたのは偶然に近い。 寄生生物の殺意に敏感という特性をもってしても、寸前まで咲世子の存在に気付くことができなかったのだ。 一歩間違えれば、あの時点で決着が着いていただろう。 (本当に危なかった) 純粋な人間で寄生生物をあそこまで追い詰めたのは、咲世子が初めてである。 だからこそ許せなかった。 あれだけの能力を持った咲世子との決着が、あまりにも呆気ないものだったことが。 最後に彼女が用いた戦術、あれは見事だったと言ってもいい。 あのまま最後の一撃が決まっていれば、確実に玲子は死亡していただろう。 だが最後の一撃は決まらなかった。 あんな悪あがきにも近い行動が、事実上の決定打となったのだ。 玲子は、あれで動揺して手元が狂えばいい程度に考えていた。 だが咲世子は手元を狂わすどころか、薙刀を振るうことさえしなかったのである。 あれだけの実力者であった咲世子が、あの程度の行動で無防備な姿を晒したのだ。 「咲世子」 抑揚のない声で、玲子は目の前に転がる女の名前を呼ぶ。 「何故、あそこで攻撃をしなかったのかしら?」 最後に残った疑問を解消するため、咲世子に問いかける。 だが返事は返ってこなかった。 当たり前だ。 呼吸も満足にできないのに、言葉を発することなどできるわけがない。 (所詮、咲世子も痛がり屋の一人だったか) 寄生生物を圧倒するほどの戦士も、結局は一人の人間に過ぎない。 落胆に近い形で、玲子はこの事実を痛感した。 「ぐっ……ッ!」 唐突に全身の力が抜け、意識が朦朧とし始める。 これは人間で言うところの、貧血の症状に近い。 (これ以上血を失うとさすがにまずいな) 右肩の傷口を見ながら、玲子は思案する。 出血は思ったよりも激しい、即急な手当てが必要。 そう考えるのが普通なのだろう。 しかし彼女は、別のことを考えていた。 彼女が考えているのは、今の自分の状態だ。 右腕を失い、更に血で真っ赤に染まった白衣。 そんな人間に相対したら、誰であろうと怪訝な目を向けてくる 観察をスタンスとする以上、不用意に疑われるのは避けたい。 今後の活動に支障を来さないよう、処置をする必要がある。 幸いにも寄生生物には、それを可能とする方法が一つだけあった。 「咲世子、お前は痛がり屋にしては素晴らしい力を持っていた」 彼女自身がそれをしたことはないが、成功例はいくつか耳にしている。 時間が経過すれば、出来なくなってしまう。 やるなら、今すぐだ。 「だが負けは負けだ」 ぐにゃりと玲子の頭が歪む。 「動物の世界では、勝者は敗者を自由にできるらしいな」 隻腕の肉体から、頭が分離する。 「だから私は、お前の肉体を貰う」 そして分離した頭は、咲世子の肉体へと飛びかかった。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「ふぅ……」 首の切断、新たな結合、そして蘇生。 それらを瞬時に行うことで、新たな肉体に乗り移ることができる。 若干の不安はあったが、どうやら成功したようだ。 対峙したのが、同性の咲世子であったのは幸運だった。 異性では拒絶反応を起こして、身体の操縦がまともにできないと聞く。 「田宮良子の肉体よりも、身体能力は優れているな」 咲世子の肉体は、人間にしては破格の身体能力を持っている。 田宮良子の肉体とは、比較にならないほどだ。 (この女、くノ一だったのか) 肉体を奪ったことで、咲世子の情報が次々と頭の中に入り込んできている。 荒唐無稽な存在だと思っていたが、くノ一というのはどうやら実在するらしい。 くノ一ならば、超人的な身体能力も頷けるだろう。 だが先の連戦での疲労や傷が、大きな妨げとなっている。 少なくとも頸動脈から流れ出た血は、すぐさま補給する必要があった。 (田宮良子の肉体から補給すればいい、腹も減った) もう田宮良子の肉体は用済みだ。 咲世子の頭部と含めて、まとめて食料にしてしまえば問題ない。 だが食事よりも先に、解決してしまいたい疑問があった。 (何故、咲世子は最後に攻撃しなかった?) 確かにあの時の顔や声はルルーシュの物だった。 だが服装はまるで違っていたし、そもそもルルーシュの死は放送で確認している。 あの放送を偽りだと考えるほど、咲世子は愚かではない。 ルルーシュの後を継ぐと宣言していた以上、咲世子は彼の死を認識していたはずだ。 (やはり人間のことは分からない) 玲子は人間の研究をしているが、未だに人間には謎が多い。 こうした不合理な行動も、何となくでしか理解できないのだ。 (これが人間たちが言う絆なのか?) 人間たちの間には家族や恋人など、多くの絆がある。 咲世子の抱いていた忠義心も、一種の絆なのだろう。 先ほど彼女のことを痛がり屋と評価したが、果たしてどこが痛かったのか。 彼女は寄生生物にも恐れず、勇敢に立ち向かってきた。 少なくとも肉体的な痛みではないだろう。 ならば、どこが。 「心か」 おそらく咲世子はルルーシュが死んで、心が痛かったのだろう。 その事を、概念的には理解することができる。 だが本心では理解することができなかった。 寄生生物は群れを作るが、仲間の死を悲しむことはない。 誰かが欠けても、「ああそうか」くらいにしか思わないのだ。 (いずれ分かる時が来るだろうか) 疑問の答えを知っている咲世子は、もうこの世にはいない。 それでも疑問があるのなら、答えを探すだけだ。 ここには多くの悲しみが溢れているに違いない。 人間の観察を続けていれば、いつかはその答えにも辿り着くだろう。 「そのためにも今は食事か」 そろそろ限界だと、身体が訴えている。 一刻も早く血液を補給し、空腹を満たす必要があった。 「この肉体、大切に使わせてもらおう」 田村玲子は新たな疑問を胸に抱えながら、食事を開始した。 【一日目朝/B-3 北西】 【田村玲子@寄生獣】 [装備]篠崎咲世子の肉体 [支給品]支給品一式×2、しんせい(煙草)@ルパン三世、手錠@相棒、不明支給品(0~2) [状態]ダメージ(大)、疲労(大)、貧血、空腹 [思考・行動] 0:人間を、バトルロワイアルを観察する。 1:食事をする。 2:新たな疑問の答えを探す。 3:茶髪の男(真司)を実際に観察してみたい。 4:泉新一を危険視。 5:腹が減れば食事をする。 ※咲世子の肉体を奪ったことで、彼女が握っていた知識と情報を得ました。 ※赤髪の少女(シャナ)、茶髪の男(真司)を危険人物だと思っています。 ※咲世子のデイパック@支給品一式、双眼鏡@現実、と、ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可)が近辺に放置されています。 ※レギュラーシャープは、風に煽られてどこかへ飛んでいきました。 【篠崎咲世子@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】 【レギュラーシャープ@灼眼のシャナ】 “狩人”フリアグネの持っていたカード型宝具。 最初は一枚のトランプ(スペードのA)だが、無数に増えて自由自在に宙を飛び、 カードの雪崩で敵を切り裂く戦闘型宝具。 と、見せかけて、実はただ単に占いに使うための『自動的に切られるカード』らしい。 時系列順で読む Back 絶望キネマ Next たいせつなひと 投下順で読む Back 絶望キネマ Next たいせつなひと 082 人間考察 篠崎咲世子 GAME OVER 田村玲子 103 緊張
https://w.atwiki.jp/aoari/pages/8132.html
安計呂山の庵 空家窺い レベル:数 Lv55:1-2 構成 名前 種類 Lv 初期付与 使用技 空家窺い 奥山盗人 奥山盗人 備考 ドロップアイテム 修理材 情報募集中 鉄砲持ち、防御がやたら高く物理攻撃は効き辛い、その代わり術に弱い -- 風味だし? 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/opedmiroor/pages/75.html
超者(ちょうじゃ)ライディーンの最終回 超者降臨! 飛翔たちライディーン戦士10人が合体して巨大戦士・ライディーンS(スペリオール)となり、魔神と化したゴッドライディーンに立ち向かう。 きらりや玲子たちは、軍の艦艇の中で戦いを見守っている。 飛翔「俺たちは負けない! 絶対にお前を止めてみせる!」 きらり「玲子さん。私…… お別れするときが迫っています」 玲子「えっ……!?」 飛翔「うおぉぉ──っ! ライディーンフレアーっ!!」 玲子「お別れって、飛翔たちが死ぬっていうこと!?」 きらり「いえ。飛翔たちは、必ず戻って来てくれます」 玲子「じゃあ!?」 きらり「私…… 思い出したんです。本当のことを!」 玲子「えっ……!? 大丈夫。あなたには、私がついてるわ」 きらり「玲子さん……」 涙ぐむきらりを、玲子も涙を滲ませながら抱きしめる。 玲子「泣いちゃ駄目。泣いちゃ…… あなたは、みんなの心を明るくするアイドルでしょ?」 きらり「いえ。私のほうが…… みんなに励まされていた。みんなに出逢えて、私、幸せだった……」 一夜(かずや)「俺にもう迷いはない! ライディーン迫撃斬!!」 次々に繰り出されるライディーン戦士たちの攻撃の前にも、ゴッドライディーンはビクともしない。 提督「我々にはもう、何もできないのか」 織田「提督!?」 提督「我々人間は、戦いの歴史を繰り返してきた。そのためにこんな武器を造り上げて…… だが、あの巨大な神のごとき力の前では、あまりにも無力だ。人間には、どうすることもできないのだ」」 玲子「違います! あそこで戦っているのは、私たちと同じ人間です! どこにでもいる普通の少年たちが、傷だらけになりながら、必死で地球を守ろうとしているんです! 飛翔、電光(いかずち)、疾風(はやて)、銀牙(ぎんが)、エース! あんたたち、負けんじゃないわよ! 負けたら…… 踊りの練習、2倍に……」 エース「俺たちが倒れるわけにはいかないんだ! ライディーンナックル!!」 銀牙「命のある限り戦ってみせる! ライディーン激流波!!」 ゴッド「魔は、滅ぼさねばならない── ウオオォォ──ッッ!!」 突如としてゴッドライディーンの全身が、漆黒の色に変る。 玲子「何!?」 きらり「あれは!?」 飛翔「どういうことだ!?」 織田「ゴッドライディーンが……」 そら「どういうことでしょうか!? ゴッドライディーンの身体が、暗黒の色に染まっています!」 きらり「駄目…… 駄目よ。目を覚まして、早く!」 ゴッドライディーンが左手の弓、ゴッドゴーガンを構える。 飛翔「あれは、まさか!?」 そら「魔神が、魔神が弓を取り出しました! 1年前に地球を壊滅させた、あの光の弓です!」」 電光「あかん、あの弓は!?」 飛翔「させるもんかぁっ! うぅおぉぉ──っ!!」 ゴッドゴーガンの矢が放たれる。 ライディーンSは両手で必死に食い止めるが、次第にその力に押される。 背後には、玲子たちの乗る艦艇。 玲子「あぁっ!?」 織田「ぶつかる!?」 すんでのところで衝突を避け、ライディーンSはそのまま海の中へと沈む。 きらり「あぁっ、みんな!?」 そら「鋼鉄の戦士ライディーンが、身をもって魔神の矢を防いでくれました! しかし、しかしライディーンは!?」 ゴッドライディーンの体が宙に浮き、空高く飛び立つ。 カイル「何をする気でござるか!?」 聖人(まさと)「魔界を滅ぼしたときと似ている……」 忍武(しのぶ)「野郎、ゴッドバード・チェンジするつもりだぜ!」 藤丸「間違いありません!」 一夜「おそらく、大気圏外からこの地球にゴッドバード・アタックをかけるつもりだ。俺たちが魔界で見た光景が……現実になってしまう!」 飛翔「そうはさせない! 止めるんだ!」 ライディーンSもまた海の中から立ち上がり、翼をはためかせて空へ飛び立つ。 宇宙空間で、ゴッドライディーンとライディーンSが再び対峙する。 飛翔「この地球は、絶対に守ってみせる! ライディーンフレアぁ──っ!!」 ライディーンSとゴッドライディーンの拳が激突。 ライディーンSが吹っ飛ぶ。 銀牙「なんというパワーだ!」 聖人「ゴッドライディーンに、限界はないのか!?」 飛翔「諦めるな! 俺たちが諦めたら、地球は終わりなんだ!」 そのとき、飛翔たちのもとにきらりの歌声が響く。 電光「聞こえるで!」 疾風「きらりちゃん!」 地上では、きらりが空を見上げつつ、歌声を奏でている。 ゴッドライディーンの体内に閉じ込められている瑠璃の目が、次第に開かれる。 瑠璃「嫌ぁぁ──っっ!!」 ゴッド「ウオオォォ──ッッ!!」 ゴッドバスターが放たれ、ビームがライディーンSを直撃。 さらにゴッドライディーンが鳥型形態、ゴッドバードに変形する。 一夜「ゴッドバードが!?」 飛翔「まだだ! まだ、終わっちゃいない! みんな、自分の力を信じろ!」 銀牙「そうだ、諦めるな!」 疾風「おぅっ!」 電光「やったるでぇ!」 飛翔「行くぞぉ! 俺たちは負けない!!」 一同「鋼鉄の翼にかけて!! ううおおぉぉ──っっ!!」 ライディーンSが突進する。 全身を火の玉と化し、ゴッドライディーンと激突する。 凄まじいパワーの応酬の中、ライディーンSの全身の装甲が次々に砕け散る。 電光「くそぉぉっ!」 疾風「な、なんてパワーだ!?」 エース「げ…… 限界だ!」 銀牙「持ち堪えるんだぁ!」 飛翔「みんなの、みんなの力を俺にくれ!」 一夜「わかった! みんな、飛翔に力を集めろ!」 カイル「All right!」 聖人「頼むぞ、飛翔!」 藤丸「お願いします!」 忍武「信じてるぜぇ!」 飛翔「ううぅぅおおぉぉ──っっ!!」 想像を絶するゴッドバードの力を、ライディーンSが必死に食い止める。 飛翔「る…… 瑠璃!!」 ゴッドライディーンの中の瑠璃。 次第に瞳の色が甦る。 地上で空を見上げるきらりの体が、突如として光り始める。 きらり (飛翔……!) 玲子「き…… きらりちゃん!?」 きらり「私の役目は終わりました。ありがとう……」 きらりの服がはじけ飛び、背中から翼が伸びる。 玲子「きらりちゃん!?」 きらりが翼をはためかせ、空の彼方へと飛び立つ。 玲子「きらり……」 宇宙空間。 きらりがゴッドライディーンの中へと飛び込む。 ゴッドライディーンの体内の瑠璃のもとへ、きらりが降りてゆく。 幼い頃の瑠璃の回想。 鏡を見つめる瑠璃。 瑠璃「セイラ様から預かったこのオーブ。私、守り切れるかな?」 鏡の中で、瑠璃の鏡像が語りかける。 鏡像「大丈夫。超魔なんかには、絶対に渡さないわ!」 瑠璃「私が明るい心でいればいいんだものね」 鏡像「そうよ!」 瑠璃「でも私、やっぱり自信ない……」 鏡像「できるよ、きっと!」 幼い頃の回想のように、瑠璃の目の前に、自分と瓜二つのきらりがいる。 瑠璃「あなたは……!?」 きらりがそっと、瑠璃を抱きしめる。 きらり「もう、終わったのよ……」 瑠璃「終わった……?」 きらりの体が瑠璃へ溶け込み、一つとなる。 ゴッドライディーンの全身の色が漆黒から元に戻り、その動きも止まる。 ライディーンSも合体を解き、ライディーンイーグルを始め10人のライディーン戦士の姿に戻る。 一同「ゴッドライディーンの動きが止まった……」「何が起きたんだ?」 ゴッドライディーンの頭部から、瑠璃が降りてくる。 イーグル「瑠璃……!? 瑠璃ぃ!!」 イーグルが瑠璃を、しっかりと抱きとめる。 ゴッド「この時代での、私の使命は終わった」 イーグル「何? もう、戦わなくてもいいのか?」 ゴッド「戦いは常にあり、そして終わることはない。お前たちは様々な宇宙、様々な時代に、その時その時、人間を蝕む魔と戦ってきた。そしてお前たちが魔に敗れることがあれば、私はその世界を滅ぼすだろう──」 イーグル「お前は…… 何なんだ!?」 ゴッド「この姿は仮のものに過ぎない── 違う時代、違う宇宙で、私はまた別の姿で、お前たちの前に現れるだろう──」 ゴッドライディーンの全身が光り、無数の光の粒子となって消滅する。 ファルコン「僕たち、勝ったんだね……」 イーグル「瑠璃……」 瑠璃「飛翔……」 イーグルが変身を解き、飛翔の素顔を晒す。 瑠璃「ずっと、そばにいてくれたのね……」 飛翔「あぁ、そばにいたよ……」 瑠璃「ありがとう……」 何日かが過ぎ、玲子と織田の結婚式が開かれた。 式場の教会の出席者の中には、飛翔たち5人、一夜たち5人の姿もある。 (玲子のナレーション) 天使たちは、私のところに戻って来てくれた。 しかし、西条きらりはその姿を消してしまった。 彼女は、1人の少女の心が生み出した幻だったのだろうか? いや、彼女は間違いなく存在していた。 そして私たちに、かけがえのないものを残してくれた。 もしかしたら彼女こそ、本当の…… 窓のステンドグラスに天使の姿── 教会を出た玲子と織田が、出席者たちの喝采を浴びる。 ふと飛翔が車道に目をとめる。道の向こうで、妖しげな笑みを浮かべる男。 超魔の首領、ルーシュ・デ・モン……? 飛翔「あっ……!?」 ブーケを受けようとするギャラリーに押され、飛翔が転倒。 顔をあげると、ルーシュとおぼしき男の姿は消えている。 電光「何、ボケッとしとるんや、飛翔」 エース「どうした?」 飛翔「いや…… 別に」 さらに何日かが過ぎ、飛翔たちANGEL(エンジェル)と、一夜たちザ・ハーツのジョイントコンサートが開催されようとしていた。 会場の控室で、一夜たちが出番を待つ。飛翔たちは一向に到着しない。 聖人「遅すぎるぞ! ANGELのヤツら!」 藤丸「マネージャーが、道を間違えたんだそうです!」 忍武「気合が入ってねぇから、そういうことになるんだ!」 カイル「本番に間に合うでござるか?」 一夜「フ…… アイツららしいといえば、アイツららしいが、な」 カイル「プッ…… ハハハハ!」 一同「アハハハハハハ!」 当の飛翔や玲子たちは、篠田の運転する車で会場を目指していたものの、渋滞の真っ只中にいた。 飛翔の妹・つばさ、瑠璃も同乗している。 篠田「ごめんなさぁい!」 玲子「何でこんな大切な日に、道間違えんのよぉ!」 篠田「だから、謝ってるじゃない……」 玲子「もう! 着いたら、すぐステージよ! メイクも衣装も完璧にやっといてちょうだい!」 エース「玲子さん、新婚旅行に行くんじゃなかったんですか?」 玲子「あんたたちを置いて、1人だけ遊びにいくわけにいかないでしょ!?」 瑠璃「織田さん、かわいそう」 玲子「いいのよ、旦那はほっといて。私には、あなたちのほうが大事なんだから」 篠田「離婚も間近ね……」 玲子「んんっ!?」 エース「嬉しいような、怖いような……」 飛翔「本当は玲子さんのこと、好きだったんだろ?」 エース「す、好きな人には幸せになってもらいたいもんだ!」 飛翔「この、格好つけやがって!」 カーラジオから、きらりの歌声が流れる。 つばさ「きらりちゃんの曲だ! ねぇ、ボリューム上げて!」 瑠璃が一緒に、きらりの歌を口ずさむ。 美しい歌声に、一同がしばしの間、和む。 そして、ようやく飛翔たちが会場に到着。 一夜「遅いっ!」 電光「遅れとぅて遅れたんやないわい!」 一夜「フ…… まったく、お前らときたら」 飛翔の母・まりえが、銀牙に花束を差し出す。 まりえ「鳥飼くん。外にいた女の人が、これを君にって」 銀牙「私に?」 まりえ「綺麗な人だったわよ」 花束には「銀ちゃんへ」とカードが添えられている。死んだはずのエキドナが銀牙を呼んでいた呼び名──? 電光「ええな、ええなぁ! あぁ、『銀ちゃんへ』? 誰なんや? 馴れ馴れしい」 玲子「本番始まるわよぉ!」 電光「よっしゃあ!」 一夜「よし! 行くぜ、飛翔!」 飛翔「おぉっ! 一夜!」 ステージの上に飛翔たちANGEL、一夜たちザ・ハーツ、総勢10名のコンサート。 観客たちが歓喜し、陽が沈むまでステージが続いてゆく。 街外れで、きらりの古びたポスターを、1人の幼い少女が見上げる。 「私にも、できるかなぁ……?」 どこからか、声が響く。 「できるよ! きっと……!」 (終)