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91 名前:1/7[sage] 投稿日:2012/09/17(月) 22 33 42.21 0 ツンデレが男に見せる為に水着を購入したら その2 彼女の言葉と仕草に、普段感じた事のない色気を感じて、彼の心臓もドキドキし始めた。 思わず視線を外し、何か茶化すような事を言いたくなってしまう。 「いや、その……」 しかし、それは言葉にならなかった。俯き、頭を掻いてからもう一度視線だけを上げて 彼女を視界に捉える。彼女もまた、何かに耐えるように、必死に自分を晒し出そうとして いる姿を見て、彼は顔を上げた。足首からスッと伸びる白い素足にやや肉付きの少なめな 腰つき。そしてブラの効果もあるのだろうが、思いの外膨らんでいる胸の双丘はしっかり と谷間を作っていて、最後にギュッと口を真一文字に結び、ひたすら何かを堪えるように しかめつらしい表情をしている整った小さな顔を見つめた。 そして、その顔を見た時、彼の心は固まった。 「ああ。よく似合ってるとお……思うよ。可愛いし」 その言葉に、彼女がピクリと反応した。 『ホント……に?』 小さく、呟くように聞き返してから、彼女は跳ねるように彼の前にしゃがみ込んだ。顔 をグッと近付け、問い詰めるようにもう一度、同じ事を聞く。 『ホントに……似合ってるって……可愛いって思ってる? あたしが先に言ったから、お 世辞とか言わされてる感で褒めてるだけなんじゃないでしょうね?』 その真剣な問い方に、彼は思わず上半身を逸らして身を引いた。 「いやいやいや。ちゃんとそう思ってるって。いや、最初はさ。こんなの褒めるの限定じゃ んって思ったから、何かちょっとヒネた答えしようかと思ったけどさ。その……お前の姿 見てたら、そんな気分とかどっか行っちまって……まあ、その……ちゃんと、正直に答え たっつーか……そういう事だよ」 92 名前:2/7[sage] 投稿日:2012/09/17(月) 22 34 13.52 0 日頃一緒にいて、付き合い慣れてる幼馴染を相手に真面目に褒めた事が急に気恥ずかし くなって、最後はちょっとぶっきらぼうな口調で答える。それに彼女は無言で、ジッと彼 を見つめていた。その視線の強さに、彼も顔を逸らす事が出来ず、彼女の顔を見つめてい た。そのまま、少しの間まるで時が止まったような感覚を味わっていたが、やがて彼女が 小さくため息を吐く。 『ハァ…… 良かったぁ~……』 そしてそのまま、後ろに倒れるように尻餅を突き、両手で後ろに倒れないように支える と、天を仰ぐ。 「良かった……って?」 意外そうな口ぶりで彼が彼女の言葉を繰り返して聞く。その事に彼女は、思わず本音が 漏れ出てしまった事に驚き、パッと体を起こすと両手を前に出して思いっきり振って否定 する。 『ち……違うわよっ!! い、今のはその……安心したっていう意味であって、その…… う、嬉しいとかそういうんじゃないんだからね!!』 体温が上がり、自分の顔が火照っている事に気付きつつも、彼女は一生懸命自分の心を 隠そうとする。無論、ホッとしたのも事実だが、それ以上に望んでいた答えが聞けて心が 弾んでいる事を知られたくなかったのだ。 「いや、まあ……それならそれでいいんだけどさ。でも……何で?」 常日頃見せない、動揺した彼女の態度に面食らいつつ、彼は何とか会話を続けようとし た。このまま黙ったら、何となく変な空気のまま別れなくちゃいけないような、そんな気 がしたからだ。 『何でって……何がよ?』 動揺を治め、首を傾げる彼女から視線を逸らし、鼻に手を当てて擦ってから、彼は彼女 の問いに答えた。 「いや、だからさ。安心したって言うから……何で安心したのかなって」 『そ、それは……』 視線だけ彼女に戻すと、彼女はペタンと正座を崩した女の子座りをして、不機嫌そうに 顔をしかめて俯いていたが、やがて顔を上げて挑むように答えた。 93 名前:3/7[sage] 投稿日:2012/09/17(月) 22 34 45.02 0 『だって、もし褒められなかったら悔しいじゃない。タカシみたいなヘタレ男子にさ。万 が一にも大人っぽ過ぎないかとか、水着負けしてるとか思われるのって、女としてのプラ イドが許さないもの。けど、まあ一応最低基準はクリア出来たから、ホッとしただけの話 で……そ、それだけなんだからね!!』 「いや。だから、疑ってねーって」 さっきからいちいち、弁解するような言い方をする彼女を宥めようとすると、彼女はプ イと横を向いた。その顔にふと、何故か残念そうな表情が見えた気がして、彼は自分の目 を疑ってしまう。 『……ならいいんだけど。フン』 何で褒めたのにこんなに機嫌悪そうなのか彼は不思議に思ったが、昔から彼女の感情が 気まぐれで、中学に入った頃から特にそれが酷くなったのにずっと付き合わされているか ら、それは深く追及する気はなかった。それよりも、もう一つの疑問を彼は口にした。 「ところでさ。俺を呼び出した用件って……これでいいのか?」 すると彼女はピクッと体を震わせた。 『……そうよ。わ、悪い?』 相変わらずの不機嫌な言い方だが、どこか困惑したような響きが含まれていた。 「いや。まさかかなみが、俺に新しい水着を見せるためだけに呼び付けるって、ちょっと 意外な気がしたからさ」 少なくとも、これまでにそういった事例はなかったはずだと、彼は頭の中で確認する。 彼女は彼に向き直ると、挑むように睨みつけ、一瞬ちょっと視線を落としてから、もう一 度視線を上げた。 『しょ……しょうがないじゃないのよ。アンタ以外に、他に、その……感想聞ける若い男 なんていないんだから』 強気な態度が、徐々に薄れて自信無げになっていく。彼女は自分でもそれに気付いては いたが、どうしようもなかった。 「別に俺じゃなくたって……クラスの女子とかでも良かったんじゃないのか? ゆーこさ んとか」 クラスでもとりわけ彼女と仲の良い女子の名前を彼を挙げた。それに彼女はブンブンと 首を振って拒絶する。 94 名前:4/7[sage] 投稿日:2012/09/17(月) 22 35 16.32 0 『それじゃダメなの!! 大体、女の子同士なんて絶対可愛い可愛いって褒め合っちゃう んだから。そもそも、これってゆーちゃん達にそそのかされて買ったようなもんだし、試 着して見せてるんだから』 そこでふと、彼はとある疑問に気付いた。 「ところでさ。新しい水着買ったのはいいけどさ。着る機会って、あったのか?」 すると見る間に、彼女の顔が怒りに歪んだ。 『あるわけないでしょ!! っていうか、ほとんど毎日、一度は顔合わせてたんだから知っ てるくせに。大体、でもなきゃわざわざアンタなんかに水着見せるか!!』 耳元で怒鳴りつけられ、キーンとなる耳鳴りに顔をしかめて指で耳を押さえて、何とか 聴力を回復させようとする。 「いや、だからさ。何で海どころかプールに行く予定すらないのに、水着買ったのかなっ て、それが不思議でさ」 『だから、そそのかされたって言ったでしょ? ゆーちゃん達の買い物に付き合った時に さ。この水着、可愛いなーって思って見てたら、みんなして買っちゃいなよ、かなみなら 絶対似合うよって言われて、試着とかしたらどんどん欲しくなっちゃって、つい……』 その時の事を思い出して、苦虫を噛み潰したような顔を彼女はした。 「でも、行く予定なかったんだろ? つか、ゆーこさん達とか、誘わなかったのか?」 彼に聞かれ、彼女はブンブンと首を振った。 『誘わなかったっていうか……あたしはてっきり、みんなと行くもんだと思って買ったの よ。だけどさ、いつ行くって聞いたら、みんなちゃっかり個別に予定入っててさ。もう買っ ちゃった後だったし……』 そこで彼女は、ムスッと口を閉ざす。その時みんなから、彼と行けばいいじゃんと囃し 立てられた事は絶対に口にする気は無かった。絶好のチャンスだとか、一線を越えろとか、 夏の思い出作れとか勝手な事を言われて、もちろん自分も夢想しないでもなかったが、結 局出来たのは、彼にこうして水着姿を見せる事くらいでしかなかった。 「なるほど。結果的には乗せられて水着買ったけど、結局着る機会がなかったと」 おもしろがるような彼の口調に、彼女はむくれてプイッと顔を横に向けた。 95 名前:5/7[sage] 投稿日:2012/09/17(月) 22 35 47.36 0 『いいわよ、別に。人の事バカだって思うなら、勝手に思ってればいいじゃない。あたし だってそう思ってんだから、何言われたって言い返せないわよ。フン!!』 やけっぱちな気分で、鼻息も荒く自虐的な事を言う。今にして思えば、夏休みにあれだ け時間があったんだから、みんなに言われたように彼を海に誘えば良かったのだ。しかし、 今さら後悔しても後の祭りである。 追い討ちを覚悟して、次に何を言われるか構えていたのだが、彼は何も言い出さなかっ た。気になってチラリと視線を向けると、何やら思案気に難しい顔をしている。 『……何よ。何か言いたい事、あるんじゃないの?』 気になって促してみると、彼はハッと彼女を見つめた。そして、一瞬迷う風を見せたが、 すぐにそれを打ち消し、明るい感じで彼女に向けて提案してきた。 「あのさ。それじゃあ今から、せっかくの水着が役立てる場所、行かないか?」 『水着が役立てる場所……って、どこよ?』 まだ夏の日差しが厳しいとはいえ、夏休みは終わってしまった。プールはもう閉まって いるし、海水浴の時期でもない。そもそも、思い立って急に行けるほど海もプールも近く ないのだ。 しかし、訝しげな表情の彼女に、彼は笑顔を見せた。 「穂乃沢の事、忘れてるだろ。最近ちょっとご無沙汰だけど、前は良く遊びに行ったじゃん」 『あ……』 彼の提案に、彼女はうっかりその場所を失念していた事を思い出した。まだ、彼に裸を 見せる事に全く抵抗の無かった幼い頃はそれこそ夏場は毎日のように、親に連れられて行 っていた近所の沢である。他の友達と遊ぶようになってだんだん行く機会が減り、最後に 二人で言ったのは、中一の夏に一回だけ。それ以後は受験もあったりして、一度もいって いなかった。 「あそこなら、水遊びくらい出来るしさ。この暑さなら、多分気持ち良いと思うぜ。どう だ?」 『……うん』 何か、久し振りで嬉しくなって、つい弾んだ声を出してしまい、彼女は慌てて口を抑え た。それから、照れ隠しをするように、感情を押さえたつまらなさそうな声で付け加える。 96 名前:6/7[sage] 投稿日:2012/09/17(月) 22 36 18.83 0 『ま……まあ、アンタが行きたいって言うなら、付き合ってあげてもいいわよ。どうせ暇 だし、暑いし』 すると、彼は勢いをつけて立ち上がった。 「よし。じゃあ、善は急げだ。俺、一度家帰って、海パン履いて、タオルとか取ってくる わ。すぐ戻って来るからさ。かなみも準備しててくれよ」 床に置きっ放しだった、ぶどうの乗っていたお盆を手に持ち、去ろうとする彼に、彼女 は後ろから声を掛けた。 『グズグズしてないで、早く戻って来なさいよね。アンタってば、肝心な時にいっつも遅 いんだから』 「分かってるって。すぐ戻って来るから」 『穂乃沢か……久し振りだな……』 日焼け止めのクリームを塗りつつ、弾んだ気分で彼女は呟く。地元では、景勝として知 られているが、観光地ではない為、人の入りはそんなに多くない。夏休みも終わったシー ズンオフなら、きっと二人きりでいられるだろう。 『アイツも、たまには粋な提案するじゃない。フフッ……』 夏に海に行けなかった悔しさも、これで少しは挽回出来るかなと、彼女は密かに期待し ていた。 『あら? もう帰っちゃうの? もっとゆっくりしていけばいいのに』 来る時と同じく、庭の草花の手入れをしていた彼女の母が、立ち上がって挨拶をしに来 た彼に声を掛けた。それに彼は首を振る。 「ああ、いえ。一度家に帰って、また戻って来ます。かなみと穂乃沢に行くんで」 『そうなの。気を付けなさいよ。まあ、あなた達なら危険な場所とか子供の頃にしっかり 教えといたから入る事はないと思うけど、それでも足を滑らせたりしたら、思わぬ怪我を する事だってあるんだからね』 「はい、気をつけます」 97 名前:7/7[sage] 投稿日:2012/09/17(月) 22 36 50.19 0 子供の頃から、穂乃沢に行く時必ず親に注意される一言である。穂乃沢は浅瀬で川の流 れも緩やかだが、ちょっと下流まで行くと、一気に流れの速くなるところがあり、何年か 前には水の事故でよそから来た子供が亡くなった事もあったらしい。 「……どうかしましたか?」 彼女の母親が、彼を無言でジッと見つめている事に気が付いて、彼は訝しげに聞いた。 すると、物思いから我に返ったかのように、彼女の母親は、慌てて手を振る。その仕草は、 娘に何となく似ているように見えた。 『あ、ううん。何でもないの。あとは、余り遅くならない程度に、ゆっくり楽しんでらっ しゃいね』 微笑む母親に、彼も笑顔で頷いた。 「はい。ありがとうございます。あと、巨峰もありがとうございました。とても美味しかっ たです」 『そう。良かったわ。また、手に入ったらご馳走するわね』 丁寧にお辞儀をして立ち去る彼の背を見て、彼女は小さく呟いた。 『大人になったわね。タカシ君も……』 そして、頭の中で、彼の横に自分の娘を並べてみせた。親の贔屓目に見ればお似合いだ とは思うが、果たして我が娘は、彼に似合う立派な女性になれるだろうかと、ちょっと心 配にもなる。 『まあ、でもいいわよね。まだ若いんだし。うん』 小さく呟いて、彼女は植物に肥料をやる作業に戻った。 続く
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688 :1/2:2007/02/12(月) 23 29 58 ID y5vS4b5U 【チェーンソー振り回すツンデレ】 「たまにだけどね、チェーンソーとか振り回したくなるよね」 とある休日、家に来たボクっ娘が突然猟奇趣味を告白なんてしやがったので、口に含んだコーヒーがどばどばこぼれた。 「うわっ、汚いなっ! 何やってんだよ!」 「す、すいません、キレイにしますからどうかチェーンソーでバラバラだけは勘弁してください」 「やんないよっ! 人をなんだと思ってんだよっ!」 「快楽殺人者」 ほっぺを引っ張られて痛い痛い。 「まったくもう、人を危ない人みたいに言ってぇ……そうじゃなくて、たまにああいう危ないの振り回したくなるんだよ。実際にはやんないけどね」 ぶちぶち言う梓と一緒にこぼれたコーヒーを掃除する。 「いや、チェーンソー振り回したいなぁ、目の前の血がつまった肉袋を切り刻んだらどれだけ楽しいのかなぁ、とか笑いながら、しかし目は冷め切ったままで言ってたし、快楽殺人者なのかなって」 「前者はともかく後者は言わない言ってない言うわけないよっ! 怖いよっ!」 「そう言う梓の手にチェーンソーが! 切り刻まれる俺! 昼食は俺が材料なのか!?」 「チェーンソーないし切り刻まないしお昼ご飯はチャーハンの予定だよっ!」 「手抜き」 「うっ……いっ、いいじゃん、作ってあげてんだし。てゆーか感謝される立場なんだよ、ボクは」 梓は休日になると俺の家まで来て飯を作る奇特な人なので、そんなことを言われているのだと思う。 「感謝なあ……じゃ、どっか買い物でも行くか? おごってやるよ」 「えっ、いいの? 珍しいね、何買ってもらおっかな? ね、何円までいい? 300円?」 「貴様は俺の財力を舐めた。なので貴様を舐める」 べろりと梓のほおを舐めたらなんだか甘い。 「うわわわわっ! な、なにすんだよっ!」 「頬舐め。なんか甘かったような」 「人のほっぺ舐めちゃダメだよ、ばかっ!」 「そんなこと言われたの初めてだ」 「ボクもだよ。なんでこんなこと注意しなきゃいけないんだよ……」 うな垂れながらも、梓の頬はちょっと赤かった。 「そりゃ、梓が俺の財力を舐めたからだ。お前が思っている以上に小金を持ってるぞ。たぶん」 「へー? それだけ言うならさ、高いの買ってもらうよ?」 「任せろ。どんなチェーンソーがいい?」 689 :2/2:2007/02/12(月) 23 30 23 ID y5vS4b5U 「なんでチェーンソーに決定してるの!?」 「いや、チェーンソーの他に簡単に人をバラバラにできる凶器を知らないもので。勉強不足でお恥ずかしい」 「なんでそこまでボクを怖い人にすんだよっ!」 「嫌がるかなーって。てへ」 誤魔化すために小首をかしげ梓のご機嫌をうかがう。 「タカシ、首が取れかけのロボットみたい」 超ショック。 「もう寝る。おやすみ」 「どっ、どこに潜り込んでんだよっ、そこボクのスカートの中だよ!?」 「なんだ、道理で狭いと思った。ところで梓、最近なんか本買った? もし買ったなら俺にも貸して」 「いいから出ろ、ばかっ! なんでボクのスカートの中で世間話してんだよっ!」 「スカート以外となると、パンツくらいしか。しかし、パンツの中に潜り込むには多少抵抗が」 いっぱい叩かれたので魅惑の三角地帯から頭を抜き出す。 「タカシのえっちえっちえっち! ド変態! ぱんつまにあ!」 「大丈夫、下着だけでなく中身も大好きです。いやむしろ中身の方が!」 「そんなこと告白されても嬉しくないよっ!」 「ところで、もう昼です。腹減った。梓、ごはん」 「ボク怒ってんだよ、作るわけないよっ!」 「む、それは困る。週に一度の楽しみを奪われては、もう何もやる気がしない」 ぐったりと床に寝そべり、やる気のなさを体で表現する。 「う……そ、そんなボクのご飯好きなの?」 「好き。超好き。結婚してください」 「すっごいやる気のないプロポーズされた!?」 「チャーハンとなら、きっと生涯を共に歩けると思う」 「ボクじゃなくてチャーハンと結婚する気だったの!?」 「オムライスでも可。あ、オムライス食べたいオムライス。梓、作って」 「……はぁ、タカシ見てたら怒ってるのバカらしくなってきたよ。いーよ、作ったげるよ」 「やたっ。さすがは梓、給士のボクっ娘とはよく言ったものだ」 「そんなこと言われたことないよっ!」 怒りながらもエプロンを装着する梓は、いい奴だと思う。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5370.html
このSSはニコニコ動画のボーカロイドオリジナル曲「この想い伝えたくて~ココロノ花ビラ~」を勝手にハルヒSS化したものです。 そういうのが嫌いな方やニコニコ動画が嫌いな方は無理して読まないでいいです 「思ったんだけど、涼宮さんてキョン君のこと好きなんじゃないかと思うんだけど」 「「…はっ?」」 いつもの日常の何気ない休み時間。唐突な坂中の発言に、俺とハルヒの声がはもる。 「そっそんなわk」 「いきなりなにを言い出すんだ坂中、そんなわけないだろ」 何か言おうとしたハルヒの声を遮りつつ、坂中の発言を否定する。 「実際に涼宮さんに聞いてみたらいいのね」 まぁ、論より証拠ってことか。 「ハルヒ、どうなんだ?」 「えっ?あっ…」 なぜそこで言葉につまる。だいたい坂中、なにをそんなにニヤニヤしてるんだ。 「どうなんだよ」 「っ…すっ好きなわけないじゃない!」 「あんたなんか、だいっきらいよ!」 桜舞う、ある春の日の出来事だった。 この想い伝えたくて 「はぁ…なんであんなこと言っちゃったのかしら」 昨日はついパニクってキョンにだいっきらいだなんて言ってしまった。 当然嫌いなわけがない、むしろその逆だ。 しかしあんなことを言ってしまっては、前からなかなか出来なかった告白が余計にしづらくなってしまった。 学校行きたくないな、会ったら間違いなく気まずいじゃない。 「なんであんな馬鹿なことしたのかしらあたし…はぁ」 憂鬱な気分で歩いていたら、後ろから名前を呼ばれた。 「おーいハルヒー」 誰よ朝っぱらからあたしを呼び捨てにするのは…そういえばあたしをハルヒって呼ぶのは学校じゃキョンだけね。 まさか…。 振り返ったら、キョンがこちらに走ってきた。 「よっ、珍しいな。朝からハルヒにあうなんて」 …史上最悪についてないわ。よりにもよってキョンに会うなんて。 「いくら俺でもそこまで言われたらへこむぞ、まじで」 「っへ?」 「確かに嫌いな奴に朝っぱらからあったらついてないだろうけどな」 声に出ていたらしい、またやっちゃった…。 そういえばキョンはなんで話しかけてくれたんだろう。今の発言からして昨日のことを忘れた訳じゃないだろうし。 「なんで話しかけてきたのよ」 …なんであたしはこう素っ気ない言い方しか出来ないのかしら。 嬉しいのに…昨日あんなこと言われたのに話しかけてくれたキョンにもう心臓がドキドキ言ってる。聞かれてないか心配だわ。 「いや、なんとなく。 朝っぱらからハルヒを見るなんてなかなかないからな。 悪かったよ、んじゃ先行くぞ」 「あっ…」 行ってしまった…もっといろいろ話したかったな。あのこともちゃんと誤解を解いて謝りたかった。 あたしってなんでこう意気地なしなのかしら、自分にイライラするわ。 それでもキョンの前では素直になれず、憎まれ口ばかり叩いてしまう。 いざ素直になって、拒絶されたらと思うと、怖くて出来なくなってしまう。 大嫌いと言われた人にまで声をかける、そんな優しいキョンのことだからそんなことはないんだろうけど、やっぱり怖い。 教室に入ると、キョンはもう自分の席に座っていた。 「よっ、さっきぶり」 「………」 律儀に挨拶してくれるキョンに何も言えないまま、あたしは自分の席に座り机に顔を伏せた。 どうやって誤解を解こうかしら、なんかどんどん泥沼にはまってる気分だわ。 「おーいハルヒー」 キョンがまだ声をかけてきてくれるけど、やっぱりあたしは返事を出来ず、ただ机に突っ伏し続ける。 「…寝ちまったか。あーあ、好きとまではいかずとも嫌われてはいないと思ってたんだがな」 キョンが椅子を動かし前を向く音がする。 違うのよキョン、あたしはあんたのことが好き。 頭の中で言うのはこんなに簡単なのに、なぜ口で言えないのだろうか。 そんなことを考えているうちに、夜寝れず寝不足のあたしの意識は闇におちた。 「…がさ…だよ…」 キョンが誰かと会話をしている声で目が覚める。 「キョンなんか今日眠そうだよな」 「最近深夜のドラマを見てるんだよ。これがなかなか面白いんだ」 谷口と国木田と話してるとこから考えて、今は昼休みかしら。 それにしてもキョン、深夜ドラマなんか見るんだ。 なんとなく顔をあげることが出来ず、三人の会話を盗み聞きする。 「へぇー、どんな話なんだい?」 「至って単純なラブストーリーだ」 「なんだよそれ、面白いのかよ」 「ラブストーリーはいちいちひねりを入れるより王道のが面白いんだよ」 へぇー…キョンってラブストーリーとかが好きなんだ、意外ね。 それにしてもどうしようかしら、早く起きて学食いかなきゃいけないのに起きるタイミングが掴めないわ。 どうしようか悩んでいるとあたしの方に誰かが歩いてくる音がした。 「おいハルヒ、起きろ」 きょっキョン!?どっどうしようかしら。 「なによ…」 「もう昼休みだ、早く起きないと飯食いっぱぐれるぞ」 「はぁっ!?さっさと起こしなさいよ!」 よし、いつも通り出来たと思う。いつもより素直になれたらいいんだけど、さすがにこれが精一杯。 「そういうと思ってな。ほら、パン買っといてやったぞ」 「っへ?」 あたしの机にサンドイッチが置かれる。 …キョンの優しさに涙がこぼれそうになった。 「………」 「ん?どうした?まさかたまごサンドはお気に召さなかったか?」 「…ありがと」 小さい声だけど、言えた。 それだけ言ってサンドイッチの封を開け食べ始める。 キョンが買ってくれたと思うと、いつもよりずっとおいしく感じられた。 「…おう」 キョンは少し驚いた顔していたけど、優しい声でそれだけ言って自分の食事に戻っていった。 本当はもっといろいろ話したいし、謝りたいけど、今はこれでいいんだと。不思議とそう思えた。 学校も終わり家に帰ってきて時間はもう深夜2時。 なんでこんな時間まで起きていたのかと言うと、キョンが話していた深夜ドラマが気になったからだ。 月~金で2時からやってる情報を得たから、見てみることにした。 「あのキョンが面白いだなんて言うドラマ…どんな話なのかしら」 あたしはおもむろにテレビの電源をつけた。 結果は散々だった。 話は単調どころかグダグダ、明らかに視聴者に媚びた登場人物達。 S~Gでランク付けするなら文句なしでGだった。 ただ、ヒロインの女の子をみていて、不思議と共感した。 好きな人に素直になりたい、なのになれずに頭の内で葛藤してる。まるで自分をみてる気分だった。 キョンはどんな気持ちでこのドラマをみていたんだろう。 次の日、昨日よりはましな気分で学校に登校した。 しかし今日こそは誤解を解こう、そう意気込んできたはいいけどどう切り出したらいいかがわからない。 昨日は通学途中であったのに今日は会わないし。 教室につくとまだキョンは来てなかった…早くこないかしら。 「よーっす」 机に突っ伏してたらキョンが来た…けどいざこうなるとまたどのタイミングで起きあがったらいいかがわからない。 どうしようか迷ってると、キョンはクラスの女子と会話を始めた、あたしの心臓がどくんとなる。 「キョン君て誰とも付き合ってないの?」 「ああ、残念ながらな」 「ふーん…キョン君て持てそうなのにね」 「そうか?」 …いやだ。女子とはなしてるだけでも嫌なのに、会話の内容が恋バナだなんて。 「だったらさー…あたしt」 バンっ! 我慢出来ずに机を叩いて起き上がってしまう。 みなが唖然としてみてるなか、割と冷静にキョンが話しかけてきた。 「よお、ハルヒ。嫌な夢でもみたか?」 「…いやよ」 「ん?」 「キョン!ちょっとついてきなさい!」 とにかくキョンをクラスの女子から引き離したくて無理やり連れ出す。クラスのみんなは依然唖然とした表情でこちらをみていた。 「おい、おいハルヒ。どこにいくんだよ」 「いいからついてきなさい!」 当然勢いでやったことだから行き先なんてなかった。 どうせだから誤解を解こう、そう思ってあたしはキョンを中庭まで連れて行った。 「ふぅ、どこにいくのかと思ったら中庭か。 んで、いきなりどうしたんだハルヒ」 桜が散り始めた4月中旬、中庭は桜の花びらが舞ってロマンチックな空気を作り出していた。 「えーと…」 連れてきたはいいけど、やはり切り出せない。 どうしたらいいのだろう。どうしても、自分のなかの臆病が顔をだして邪魔をする。 あたしが何も言えずうつむいていると、キョンがポツリと独り言のように呟いた。 「まるで昨日のドラマのワンシーンみたいだな」 そう言われて思い出した。 昨日の深夜ドラマでも、主人公に酷いことを言ってしまったヒロインが、桜の木の下まで連れ出した。 そのときなかなか話が切り出せなくてヒロインは…そう、こう心の中で呟いたんだわ。 「お願い…あたしに少しの勇気を」 (お願い…今だけ、あたしに勇気をください) 風があたしの髪を撫でたとき、そう心の中で呟き顔をあげた。 「ん?やっと言う気になったか?」 髪を風に靡かせて、優しげに微笑むキョンは、いつもより少し幻想的で…あたしの胸は高鳴った。 今なら…言える気がする。 「キョン…一昨日のことだけど」 「一昨日?」 「あたし…あんたのこと嫌いじゃないから!」 「…そうなのか?」 「いっいい?一度だけしか言わないわよ?」 「…ああ」 「あんたのことが、大好き!」 fin
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10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/16(土) 20 19 29.37 ID XNyfmFs40 [1/2] いちおつ そしてサクッと投下 遅くなったがバレンタインネタ二つ目です ツンデレが男から、誰にもチョコをあげる人がいないなら俺にちょうだいよって言われたら http //tunder.ktkr.net/up/log/tun2715.txt 男から、バレンタインデーに本命チョコあげる人いるの?って聞かれたツンデレが、別にいないって答えたら、じゃあ俺にちょうだいよって言われたら。 「先生ってさ。バレンタインデーに誰かあげる人はいるの?」 課題をやって来なかった生徒への、居残り補習の時間。唯一補習を受けている別府タカ シ君から唐突に質問を投げかけられ、私は一瞬、キョトンとして彼を見下ろした。 『はい? 何を言っているんですか貴方は?』 思わず聞き返すと、彼は教壇の上の私を見上げ、不満気にもう一度言い直した。 「だからさ。バレンタインデーだよ。来週の木曜日。先生は、誰かあげる男とかいるのか なあって思ってさ」 ようやく質問の意味を理解した私は、教科書を丸めつつ教壇から降りると彼の真横に立っ た。そのまま一閃。彼の頭に教科書を叩き込む。 「あいって!! 何するんだよ先生」 『何するんだ、じゃありません。今、何の時間だと思っているんですか!!』 キッと睨み付けると、負けじと別府君も私をにらみ返す。 「分かってるよ。宿題サボった補習だろ? だから今、ちゃんと漢字の書き取りやってる じゃん。全く高校生にもなって漢字ドリルとかねーだろ。しかも、わざわざ書き難い文字 ばっか選びやがって」 『先生が作った漢字ドリルに何か文句でもあるんですか? あるのでしたら、倍に増やし ますけど。あと、今は補習の時間だって分かっているのでしたら、無駄なおしゃべりをす るのは止めて、課題に集中しなさい』 私のような大学出たての若い女性教師は、ともかくも男子生徒には舐められやすい。だ から私は、負けじと厳しくガツンと説教する。しかし別府君は、不満気に舌打ちすると、 シャープペンシルをクルリと回した。 「別にサボッてる訳じゃないからいいじゃんか。けーちゃんとおしゃべり出来るんでもな きゃ、何が楽しくて補習授業受けてると思ってるんだよ――ってっ!!」 彼の言葉が言い終わるか言い終わらないかのうちに、私は教科書をもう一閃させた。見 た目大人しそうで眼鏡も掛けていて、いかにもインドア派に見える私ではあったが、小さ い頃から剣道をやっていたので、その剣筋は簡単に見切れるものではない。 『そのけーちゃんって呼ぶのは止めてください!! いいですか? 私は先生で貴方は生 徒なんですよ? あだ名というのは、目上の者に使う言葉遣いではありません』 もちろん、男子のみならず女子生徒の間でも、私がそう呼ばれていることは知ってはい た。が、大っぴらに聞こえるところでそう呼ばない限りは注意することもないだろうと思っ てはいるが、これはもちろん論外である。 「いいじゃん。可愛らしいしさ。先生ってば、華がないからせめて名前だけでも可愛らし く呼んでやろうという俺の優しい心が分からないのかよ」 『は、華が無いって言うのはどういう事ですか!! ちゃんと説明してください!! 返 事次第によってはタダでは済みませんからね!!』 「ちょっと待って!! 体罰反対。その構えんのなしで!!」 別府君が慌てて補習用のプリントを盾代わりに構えて、私を諌める。私は呆れたように ため息をついてみせた。 『何を言っているんですか。こんなものは体罰のうちに入りません。こんなもので叩かれ たって、一瞬痛いだけで、全く後に残らないじゃないですか。あと、先生はキチンと冷静 に叩いていますから、貴方の一番丈夫な頭だけを狙っていますし』 「狙いどころはともかく、どう考えても二発目のは感情込めてぶん殴ってたよなあ……」 頭を擦りつつ、もっともらしく頷く彼に、私はスッと丸めた教科書をかざした。 『それでは、体罰かどうかを証明する為にも、あと二、三発は叩いておきましょうか? 大 丈夫ですよ。先生は剣道三段ですし。絶対に怪我はさせませんから』 そのまま頭の上でパン、パンと手の平を叩くと、さすがの別府君も観念して頭を下げた。 「いや、だから……ゴメン。先生をバカにしたような事言って悪かったから、せめてそれ で叩くの止めて。先生のスナップ効き過ぎだからマジで痛いんだって」 『全く、情けないですね。最近の男の子って。ちょっと甘やかされ過ぎなんじゃないですか?』 もともと脅しのつもりだったから、私は謝ったことに免じて教科書は引っ込める。ただ し、そのまま後ろに手を回しただけで、別府君がまた何か失礼な事を言ったら、即座に一 閃させるつもりではいたが。 「別にそんな事ないと思うけどな。うちのかーちゃんもメチャクチャ怒るし。それに、先 生だって体罰だって学校から罰せられたらそれはそれで困るだろ?」 『大丈夫です。この場には、私と別府君しかいませんから』 わざと脅すような凄みを利かせた笑みを浮かべつつ、私はそのまま再度聞いた。 『で、私に華が無いって言うのは、どういう意味で言ったのか、ちゃんと説明してくれる んですよね?』 「わ、分かってるよ。でも、多分先生も自覚してると思うけどさ。その……何ていうか、 先生って地味じゃん。髪も一本結びで眼鏡もシンプルであまり化粧っけも無いしさ。服装 だって、ジーンズとかジャージだし。せっかく美人でも、女子力磨かなきゃもったいない って、女子にも噂されてるぜ」 『うっ……』 女子にも、と言われてはさすがの私も思わず言葉に詰まらざるを得なかった。何よりも、 私自身が一番、自分がオシャレ下手であると自覚しているし、同じく新人で赴任して来た 英語教師の友崎英香や、年の近い司書の本山先生にも、同じような事を言われている。し かし、それを教え子の男子から言われるダメージは結構でかかった。 『よっ……余計なお世話です!! 別に学校なんて力入れてオシャレして来る場所でもな いから最低限の身だしなみしか整えていないだけで、私だってちゃんとオシャレくらい出 来ます』 精一杯の強がりを見せてみるが、そんな見え透いた嘘は虚しく響くばかりだった。 「先生ってば、もったいないよ本当に。どうせ、バレンタインデーのチョコだって、あげ る男性(ひと)もいないんでしょ?」 七つも年下の男の子に言われて、私はさすがにムキになって言い返した。 『あ……あげる人くらいはいますっ!! バカにしないで下さい!!』 「へー」 生返事をしながら課題をこなしつつ、別府君はちょっと小バカにした笑みを浮かべて上 目遣いに私を見つめた。 「まずお父さんでしょ? それとお兄さん。で、友崎先生とポンちゃんへの友チョコと、 国語科の先生達への詰め合わせチョコ。あと他にあげる人っているの?」 『ううっ……』 的確にあげる人を当てられて、私は言い返すべき言葉をまたしても失ってしまった。い ち教え子にまで言い当てられる私のバレンタインデーって、何て寂しいんだろうと我なが ら悲しく思ってしまう。 『い……いないからってどうだって言うんですか。別に今は、単に本命をあげるような特定の男の人がいないというだけです。そんな女性はいっぱいいますし、まるで私だけがダメな女子みたいに言わないで下さい』 「今は、じゃなくて24年間、でしょ? 本当にもったいないなあ。そんなんじゃ、花開く 前に腐っちゃうよ、先生」 『余計なお世話ですっ!! だ……大体何で別府君が私の個人的な事情まで知ってるんで すかっ!! そんなの、プライバシーの侵害です!!』 「さあ」 バン、と教卓を叩く私に、別府君は笑って肩をすくめただけだった。大方、英香の仕業 だろう。生徒と仲良くするのはいいけれど、必要以上に口が軽過ぎる。一度、キッチリと 戒めないと、私の教師としての威厳が保てなくなってしまう。 『さあ、じゃありません。そもそも、それ以前に私に彼氏がいようがいまいが別府君には 関係ないじゃないですか。いちいち詮索してくるのは止めて下さい』 「詮索なんてしてないよ? 俺が知っている事実をそのまま口にしてるだけでさ。それに、 関係ないこともないし」 『な……何が関係しているというのですか!! 言ってみて下さい!!』 別府君の意外な言葉に内心驚きつつ、彼の答えが聞きたくなって強い口調で問うと、別 府君はニッコリと笑って答えた。 「だって、先生にはもっと綺麗になって欲しいからさ。好きな人の一人も出来れば、自分 を磨く事にも熱心になるんじゃないかなって」 『そっ……そんな……っ…… それこそ余計なお世話です!! べ、別府君がどう思うか はともかく、貴方の個人的な願望を私が聞く必要はありませんっ!!』 そんな事を言いつつも、綺麗になって欲しいと言われて、私は内心動揺しているのを認 めざるを得なかった。心臓がこんなにドキドキするのなんて、高校の時好きだった男の子 と、たまたまちょっと会話した時以来だ。もちろん、告白どころかほとんど雑談すら出来 ずにそのまま卒業してしまったが。しかし、生徒相手にこんな感情を抱くなんて間違って いると、私は気付かれないように小さく呼吸を繰り返して心を落ち着かせる。 「まあそうなんだけどさ。でも、先生だって人前に姿を晒す職業なんだしさ。デートの時 のようにとまでは行かなくても、せめてもうちょっとオシャレしようよ」 呆れたように生徒に諭されてしまい、何となく自虐的な気分に陥りつつ、私は何とか教 師の威厳を保とうと、眼鏡を直すと強く彼を睨み付けた。 『それこそ別府君に言われる筋合いはありません。それよりも、課題はどうしたんですか? さっきから手が止まってますよ? 先生だって好き好んで補習に付き合っている訳じゃな いんですからね』 すると別府君は無言でプリントの束を差し出した。私はそれを受け取り確かめると、い つの間にか記入欄の全てが埋まっていた。 「ねえ、先生」 別府君の声に、私はハッと顔を上げた。すると彼は、ニッコリと微笑んでとんでもない 事を言ったのだ。 「本命チョコをあげる人がいないならさ。俺にちょうだいよ。チョコレート」 『へっ……?』 本気でビックリした声を上げて、私は目を見開いて彼を見つめた。 『なっ……何をバカな事を言っているんですか。教師が生徒にチョコレートなんて……不 謹慎です。あり得ません』 冗談で済ませようと、私は呆れたように突っ撥ねる。しかし別府君はそんな答えは予想 していたのだろう。すぐさま言い返してきた。 「そんな事ないだろ? 女子は結構先生にチョコあげる子も多いらしいし。友ちゃ……友 崎先生なんて、担当してる全部のクラスで前日に小テストやってさ。男女関係無く、成績 の良かった上位3名に手作りチョコプレゼントだって。みんな超張り切ってるぜ」 『あのバカ……』 英香の顔を思い出し、口の中で罵ってから私はキッと別府君を睨んで、もう一度突っ撥 ねようと試みる。 『そ、それはあくまでコミュニケーションみたいなもので、特定の人って決めてる訳じゃ ないじゃないですか。別府君にだけチョコレートあげるなんて……そもそも、生徒と教師 の間柄抜きにして、意味が分かりません』 そう。私と別府君の間は教え子と教師と言う以外何でもないのだ。チョコレートをあげ るような仲なんかじゃない。そう強く思う。しかし、心のどこかで何故かそれを嬉しく思 う自分がいる事に、私は意外に思っていた。 「まあ、この際意味なんて抜きにしてさ。あくまで俺を擬似彼氏……っていうか、練習台 と思ってさ。そうすれば、先生のチョコにもきっと華が出ると思うよ」 『余計なお世話です。別府君なんかに、私のチョコレートの心配をして貰う必要なんてあ りません』 今の補習の時間だけで何度同じ事を言っただろうかと思いつつ、それでも私は彼の願い を退ける。やはり、生徒にチョコレートを贈るなんて何か間違っている気がするし、それ 以上に特定の男の人にチョコを贈った事なんて無い私だから、その行為自体が恥ずかしく もあったのだ。しかし、私の言葉なんて聞かなかったかのように、別府君は一人で勝手に 話を進めて行ってしまう。 「うーん…… 確かに、何にもなしで国原先生からチョコを貰うと言うのも、調子が良す ぎる話だよな。じゃあさ、先生。この間やった小テストあるじゃん。あれの、ウチのクラ ス以外のをやらせてよ。補習の最後って事でさ。それで、80点以上取れたら、ご褒美にチョ コくれるって事でどう? それなら先生の大義名分も立つでしょ?」 別府君の出して来た案に、私はすかさず噛み付いた。 『冗談じゃありません!! 私からそういう条件を出すならともかく、何で生徒に言われ て補習授業を延長した挙句、ご褒美まであげなくちゃならないんですか。そんなの、貴方 に言われる事じゃありませんっ!!』 まるで生徒に先生の権限まで奪われた気分になって、私はむくれてプイッとそっぽを向 く。すると、挑発的な別府君の言葉が後に続いた。 「あれ? 先生もしかして自信ないの? この間、テスト出す前はさ。今回は相当難しく しましたからって自信たっぷりだったじゃん。それとも、よそのクラスは簡単だったとか?」 『そんな事はありませんよ。問題の内容は変えてありますけど、難易度は同じくらいです。 平均で50点くらいでしたし、80点以上なんて、一クラスに一人か二人だったはずです』 自分で点けた採点結果を思い出しながら答える。すると、しめたとばかりに別府君が相 槌を打つ。 「ほら。それだけ難しければさ。まさか俺に80点取られるなんてありえると思う? 試し にやらせてみてよ。まあ、自信が無いっていうなら止めとくけど」 『な、何を言っているんですか。万年補習の別府君が随分大きく出ましたね。いいです。 そこまで言うなら、テストくらいやらせてあげます。たかが20分くらい延長したところで、 どうって事ありませんし。今、テスト問題を持ってきますから、そこで大人しく待ってい て下さい。いいですね?』 まるで彼に私の作ったテストをバカにされたような気がして、つい私は挑発に乗ってし まったのだ。しかし、30分後。採点を終えた私は、その意外な結果に呆然としながら、答 案用紙を見つめていた。 『……85点……ど……どうして……?』 「へへ。どう、先生。見直したでしょ?」 得意気な別府君を、私は体を小刻みに震わせつつ睨み付けた。まさかこんな高得点が出 て来るとは思いもよらなかった私は、つい生徒を疑うような言葉を口走ってしまった。 『信じられませんっ!! 絶対ズルしたでしょう? ちょっと見せてごらんなさい!!』 「はいはい。カンニングなんてしてませんよっと」 別府君は素直に立ち上がると、制服のポケットから机の中から、手の平や腕までをまくっ て見せる。確かにどこにも不正をした形跡はない。 『どうなっているんですか!! だって、別府君は確か……この間は48点だったでしょ う? いきなりこんなに成績が良くなるとかあり得ません!!』 「その質問に対する答え。その1」 私の疑問に対して、別府君は指を立てて数えつつ、答え始めた。 「この間のテストは、確かに問題も難しかったけどさ。それ以上に抜き打ちだった事と、 テスト範囲が今年一年間にやった授業全部に及んでたじゃん。だからみんな苦戦したんだよね」 『あ……当たり前です。今年一年の総復習という意味を込めて出したんですから。別に意 地悪をした訳じゃありません』 「そんな事言ってないって。平均点が低かった理由を言ってるだけだよ。先生、気にしす ぎだって」 『あうっ……』 生徒にたしなめられて、私はまた絶句してしまう。全く、教え子が高得点を取れば本来 は喜ぶべき事なのに、動揺して疑ったり、言い訳したりと実にみっともない。しかし、そ れもこれも、あの条件のせいなのだが。 「そして、答えその2」 別府君の立てる指が一本増える。黙って彼を見つめたまま待っていると、別府君は頷い て口を開いた。 「いくら難しいって言ったって、テストの大よその内容が分かっていれば、勉強して点が 取れない内容でもないしね。この事を思いついてから、結構頑張って勉強したんだよ、俺」 『そ……そんなのズルいじゃないですか!! 卑怯ですよ。最初から高得点取れるって分 かってて小テストに持ち込むなんて……それじゃあ、さっきの条件は無効です!!』 まさか別府君が、そこまで用意周到だったなんて思いも寄らなかった私は、思わず抗議 してしまう。しかし別府君はいささか困惑気味に首を振った。 「何言ってるんだよ先生。事前に問題を把握してるならともかく、よそのクラスのだぜ? あくまで範囲と傾向を元に勉強範囲を絞り込んだだけで、ズルしてる訳じゃないじゃん。 通常の定期テストなら、当たり前の事だろ?」 『うううっ……』 またしても、正論に私はやり込められてしまった。もはや抵抗する言葉を持たなくなっ た私に、別府君は、脅すように追い討ちを掛けた。 「約束だよね、先生。80点以上取れたら、俺に本命チョコくれるって。まさか先生が生徒 に、約束破るなんて真似はしないよね?」 『ほ……本命じゃ……本命なんかじゃありませんっ!!』 悔しさと恥ずかしさから、私はつい怒鳴り声で否定してしまった。顔が火が出るように 熱くて、きっとみっともなくも真っ赤になっているんだろうと自分でも分かる。 『あ……あくまで、貴方にあげると約束したのは、本命チョコの練習です!! か、勘違 いしないで下さい!! い、いいですねっ!!』 すると別府君は、これ以上ないといった感じの笑顔を見せて頷いた。 「分かってるよ。それでも、先生からの本気チョコを貰えるなんて超嬉しいからさ。今か ら今年のバレンタインデーは楽しみでしょうがないよ。それじゃ、俺は帰るからさ。お疲れ様」 いつの間に片付けたのか別府君の机の上は既に何も乗ってはいなかった。彼はバッグを 手に取ると、それじゃあ、と笑顔で手を振って教室から出て行ってしまった。一人取り残 された私は、恥ずかしさに身を焦がしながら、困惑した気分で一人、その場に立ち尽くし て彼の姿が視界から消えるのを見つめていた。それから、自分の置かれた現状を確認する かのように、一人呟く。 『どうしよう……生徒だけど……でも、ちゃんとした一人の男の子に……チョコレートを あげるなんて……』 人生初めての経験を前に、私はいつまでも動揺を抑えられずにいたのだった。 『ハァ……』 家に帰り、自分の部屋に戻ると私はすぐにパソコンの電源を入れた。あれから散々一人 で頭を悩ませ、体も心もクタクタに疲れてはいたが、とにかく別府君にあげるチョコレー トを決めるまでは、休む気分にはなれなかったのだ。 『好きな男性にあげるチョコって……どんなのがいいんだろう……』 かつて想いを馳せた男子はいても、チョコをあげようなどと大それた事まで出来るはず ないと最初から諦めていた私は、どんなチョコを贈れば男の人が喜ぶのかなんて、さっぱ り分からなかった。バレンタインデーで検索すれば、あっという間に通販サイトやらその 手の指南サイトやらのリンクが並ぶ。適当にクリックして画面に出てくるチョコを眺める が、どれもピンと来ない。 ――適当なので済ませようなんてしたら……別府君の事だもの。絶対ズケズケとダメ出し を口にするに決まってるわ。あの子に文句なんて言わせないような、喜ぶようなのを贈っ てあげないと…… しかし、ただ高いチョコを贈ればいいという物でもないのだろう。どんなチョコなら好 きな人への想いが込められるのだろう? 疑問に思いつつ、検索画面に戻すと、目に付く ところにレシピサイトがあるのに気付いた。 ――そうだ。手作りなら…… 好きな人への想いを込めた、オリジナルの手作りチョコ。これなら別府君にだって文句 は言わせない。あまりお菓子作りをしたことはないから上手に出来るかは分からないけれ ど、でも少なくとも多少形がいびつだろうと、ちょっと分量を間違えて苦くなったとして も、恋人からのチョコならきっと喜んではくれるだろう。ダメ出しはされても。 『……やっぱり……それしかない、わよね…… 初めての手作りバレンタインチョコが教 え子というのもどうかと思うけど……でも仕方ないわよ。約束しちゃったんだし……』 カチカチとリンク先をクリックして、良さそうなレシピを物色していく。どんなチョコ なら別府君は一番喜ぶんだろう。そんな事を考えながら色々と手作りチョコレシピを見て いるうちに、いつの間には私は弾んだ気持ちになっていたのだった。 『それじゃあ、今日はここまでにします。今週は宿題はありませんけれど、次回はまた小 テストをやりますから、みんな気を抜かずに勉強して来て下さい。いいですね?』 不満の声がちらほらと上がる中、私は教科書や資料。そして今日提出されたプリントを まとめて抱えると、教室から廊下へ出る。バレンタインデー当日。私が別府君にチョコレー トをあげる日だ。 ――でも……どうやって、二人きりの時間を作ればいいのかしら……? 今日は補習だっ てないし、まさか国語科準備室に顔を出して呼び出したりしないでしょうね? そんな事 されたら、すぐに英香の耳に入って、色々問い詰められるに決まってるし…… 考え事をしながら歩いていたら、準備室の前でちょうど出てきた先生にぶつかってしまった。 『きゃっ!?』 「おお。国原先生、スマンスマン。大丈夫ですかな?」 定年まであと数年という大ベテランの国語科主任だったので、私は慌てて頭を下げる。 『いえ、こちらこそ不注意で……あまり前をよく見ていなくて、申し訳ありませんでした』 「まあ、そう恐縮しないで。それより、荷物を落としてしまいましたな。どれ、拾いまし ょう」 『だ、大丈夫です。私一人でも出来ますから』 主任先生にぶつかった挙句に落とした荷物まで拾わせては申し訳ないと私は慌ててその 場にしゃがんで、廊下に散らばった資料とプリントを拾い集める。その時、ふと別府君の 提出したプリントが目に入る。 ――あら…… 何か、書いてあるわ…… 「ん? どうかしましたか。先生」 私の動きが止まった事を主任先生に訝しく思われ、私は咄嗟にプリントを隠すように拾 うと、慌てて作業を再開した。しかし、結局半分くらいは、主任先生に拾って貰ってしまっ た私は、手渡された荷物を受け取りつつ頭を下げる。 『すみません。結局手伝って頂いて……申し訳ありませんでした』 私の謝罪を、主任先生は軽く手を上げて振って退けた。 「まあ、そう気にしなさんな。出会い頭なんて、気をつけてても起こるものですしな」 『でも…… 私が、ボーッとしていなければ……』 気が収まらない私に、主任先生は首を振って言葉を遮らせた。 「考え事をする事なんて誰にでもあるものです。特に、教師なんてものは、悩みの固まり みたいなものですからな。先生は真面目ですし、そういう事はたくさんあるでしょう。け れど、あんまり思い悩み過ぎないように。体を壊しますぞ」 優しく諭され、私はホッとした気持ちでお礼を言った。 『はい。ありがとうございます』 ペコリともう一度頭を下げつつ、申し訳なくも思ってしまう。まさか、私の悩みがどう やって生徒と二人きりになってチョコをあげようかなんていう不謹慎なものだとは思いも 寄らない事だろうと。 準備室に入り、自分の机につく。そこで私は、拾い集めた時に一番上にしておいた別府 君のプリントを見つめる。端っこの方に、こう書かれていた。 【放課後、普通棟4階端っこの空き教室にいるから。宜しく】 私は、一つ深いため息をついて、背もたれに体を預けた。目を閉じ、眉間をグッと指で 強く抑える。何だか自分が酷く間違っている方向へ進んでいる気がしてしょうがなかった。 ――別に……補習でやった小テストの成績が良かったから、ご褒美にチョコをあげるだけ ……って考えれば、何も悪い事じゃないと思うのに…… そう考えてはみても、やはり特定の男子生徒にバレンタインチョコをあげるなんて、し かも使われていない教室で二人きりでこっそりと会って、というのは、教師として不謹慎 な気がして仕方が無かった。 ――女子生徒が、憧れの先生にあげるのは、全然そんな風に思えないのに……何でなんだろう…… やはり、教職につく身が教え子と特定な関係を持つ事を不謹慎とする倫理観からなのだ ろうか? でも、私は自分からあげると言った訳ではないのに。考えても、納得出来る答 えは出なかった。ただ、一つだけ言えることは、放課後別府君に会ってチョコを渡す事を 思うと、背徳感を覚える一方で、どうしようもなく胸が時めいている事が、否定出来ない 事実だという事だった。 放課後はたちまち訪れた。自分のクラスのホームルームを終えるなり、私は早足で国語 科準備室に戻り、机の下に置いておいた小さな紙の手提げ袋を手に取り、他の先生に見つ からないようにと、急いで廊下に出る。指定された教室に近い方の階段を上って、4階に着 くと、廊下のこちら側は人気がなく静まり返っていた。ちょうど反対側には1年のクラス が2クラスだけあるので向こうは下校する生徒の姿が見えたが、誰もこちら側には注意を 払わないようだった。それでも私は、目立たないように急いで教室へと入る。 『……あれ……?』 中には誰もいなかった。今は使われていない教室には、不要となった椅子と机が端の方 にまとめて置かれているだけで、妙に寒々しく感じられる。 『……おかしいわね。確か、端の教室で待ってるって……』 待ち合わせ場所を間違えたのではないかと不安になる。課題のプリントは準備室に置い て来てしまったので、確認のしようもない。 『こんな事なら……持って来れば良かったわ……』 私は落ち着かなげに教室を歩き回って、別府君が来るのを待った。当然、いち生徒の彼 とメアドや電話番号を教え合ってはいなかったので、他に連絡の付けようもない。こっそ りと別府君の教室がある2階まで戻って様子を見てこようかと思ったその時、出し抜けに 教室のドアが開いた。 『きゃ……っ!?』 驚いて咄嗟に振り向くと、別府君が慌てた様子で入って来たところだった。 「ゴメン先生。遅くなった!! 教室で友達に捕まっててさ」 誰か関係ない人だったらどうしようかと、咄嗟の恐怖があっただけに、私は安堵すると 同時に怒りがこみ上げて来た。 『全く…… 自分から呼び出しておいて、遅れるとかどういう了見ですか。先生を待たせ るとか……別府君も随分と偉くなったものですね』 嫌味ったらしく文句を言うと、別府君は両手で拝み倒して頭を下げる。 「だからゴメンって。やっぱこういう日だからどうしても色々話になるしさ。途中で振り 切って出ようものなら、誰か女子と待ち合わせかって絶対付いて来る奴いるから、だから さり気なく話が切れるまで動けなかったんだよ」 『全く…… ちょっと心配したんですよ? もしかしたら待ち合わせ場所を間違えたんじゃ ないか、とか……もしかして、別府君にからかわれただけなんじゃないかって…… だか ら、その……は、反省して下さいっ!!』 思わず本音を暴露してしまうと、別府君はちょっと心外と言った顔を見せた。 「からかうとか、そんな訳ねーじゃん。けーちゃ……先生相手には絶対そんな事しないってば」 断固として否定してから、さっきまでの冗談っぽくごまかすような表情ではなく、今度 は本当に心から申し訳なさそうな顔で俯いた。 「いや……けど、ゴメン。確かに先生からすると、そう思っても不思議じゃないよな。練 習って言ったって、初めて特定の男にチョコをプレゼントするんだもんな。不安になって も仕方ないよな」 自分の言葉から、別府君に心の内を見透かされてしまい、私は酷く恥ずかしくなってし まった。自分が教師という立場も一瞬忘れて、私は慌てて言い訳に走る。 『だ……だからちょっとだって言ってるじゃないですかっ!! 私はその……万が一から かわれたとしても、ちょっと時間を無駄にしただけですし……べ、別に初めてだからどう とか、そんなんじゃありませんてば!!』 しかし、ムキになり過ぎて、却って照れ隠しである事がバレバレになってしまったような気分になり、私は顔を火照らせてうつむいてしまった。そんな私に、別府君のやさしい声が掛かる。 「大丈夫だよ、先生。俺は超本気だから。朝から……ううん。こないだの補習からずっと、 先生がどんなチョコをくれるんだろうって、楽しみにしてたんだからさ」 『なっ……!? 何を言ってるんですかっ!! せっ……先生はその……約束だったから、 仕方なく作ってきただけで……きょ、教師として、生徒との約束は守らないと示しが付か ないからっていう義務感だけなんですから』 「作って来たって…… もしかして、先生の手作りチョコなの?」 パッと顔を輝かせる別府君に、私は口を滑らせたことに気付き、さらに恥ずかしさを覚 えた。彼の前にいると、どんどん教師からただの女にされていくような気がする。 『そっ……そんなのは、開けてみれば分かります!! ほらっ!! 手作りかどうか…… 自分で確かめてみればいいじゃないですかっ!!』 慌てて手に持つ手提げ袋を差し出すと、別府君は片手でそれを制した。 「先生。ストップ」 『え……?』 別府君の意外と真面目な顔に、私はドキリとした。何か間違いをしでかしたかという不 安な気分を、教師というプライドで辛うじて覆って、私は強気に聞き返す。 『な……何がストップなんですか。今更になっていらないとか……まさかそんな訳じゃな いでしょうね? それはさすがに許しませんよ』 「まさか」 私の問いを一蹴して、別府君はちょっと呆れた様子でため息をついてみせる。 「そうじゃなくてさ。先生。好きな人に、そんな態度でチョコレートをあげる訳?」 『へっ……?』 一瞬何を言われているのかが理解出来なくて、私はキョトンと彼を見つめる。そんな私 に、別府君は首を振ると、まるで立場が逆転したかのように、私に向かって説教をし始めた。 「いい? 先生。今日は練習だと思ってって言ったろ? だったら、チョコをあげる時も さ。本当に本命の人にあげる態度で接しないと。好きな人にも、開けてみれば分かるから 自分で確かめてみればいいなんて、そんな事言っちゃうの? それじゃあ、向こうに気持 ちは伝わらないと思うんだけど」 『う…………』 思いっきりダメ出しをされて、私は唇を噛み締めて俯いた。何か反論しようにも、彼の 言葉がもっともだと自分でも身に沁みて納得してしまい、言葉が出なかった。辛うじて口 にしたのは、子供じみたような言い訳でしかなかった。 『だ、だって……べ、別府君相手なんですよ? そんな、本気の恋人に対するような態度 で接しろって言われても……』 「この際、相手が俺っていう事は忘れてさ。ほら。それじゃあもう一回やり直すよ? いい?」 いいも何も、別府君がチョコを受け取ってくれなければこの場は収まらないのだ。私は 渋々、コクリと頷いた。 『し……仕方ありません。けれど、次で最後ですよ? だってそんな……本命の人に対す るようにってい……言われても……初めてなんですから…… う、上手くいかなくたって、 当然じゃないですか…… それに、相手もいないのに、何度もやる必要もありませんし……』 「じゃあ、次が先生がもう今日は二度と出来ないくらい、ガチの本気ってことだよね。分 かった。先生の気持ちを汲んで、俺も評価するような態度じゃなくて、真面目に受け取るから」 こんな事、何度も出来ないからと前置きしたら、却って退路を断たれたような状況を作 られてしまい、私は動揺した。 ――す、好きな人に対する本気って…… 目の前の別府君を見つめる。しかし、私はすぐに目を逸らしてしまった。彼の顔を見る と、胸がギュッと窄まるような感覚がして、フワフワと宙に浮くように、足が感覚を失くす。 「それじゃあ……」 一つ前置きすると、別府君は二呼吸ほど置いて、さっきの言葉を繰り返した。 「……もしかして、先生。チョコレートって……手作りなの?」 二度目なのに、期待に満ちたその言葉は私を動揺させる。しかし、今度は分かっている おかげで、辛うじて取り乱す事はなかった。 ――本気で……好きな人にあげるつもりで…… 自分自身に暗示を掛けるように、何度も頭の中で同じ事を繰り返す。 ――彼の事が好きだから…… 憧れじゃなくて、初めて本気で好きになった人だから、私 は彼に今日、初めてチョコを渡すんだ…… 何だかボーッとした、熱に浮かされたような感覚に侵されつつ、私はコクリと頷いた。 それから、おずおずと手に持つ手提げ袋を、今度はゆっくりと彼に向かって差し出す。 『えっと、その……やっぱり、想いを込めるなら……手作りが一番いいかなって、そう思っ たから…… だからその……貴方だけにって…… た、食べて下さいっ!!』 パッと手を伸ばして頭を下げる。演技である事も忘れて、私は不安と期待と両方でドキ ドキしながら、別府君が受け取ってくれるのを待った。 「……先生。ありがとう」 お礼の言葉と同時に、手からチョコの重みがフッと無くなる。自然と、手提げの紐が手 から離れ、私は頭を上げた。別府君が両手で手提げ袋を持ち、私に向かって心からの喜び を向けてくる。 「俺さ。これ……大切に食べるから」 彼の顔を見た途端、自分が何を言ったのかを思い出し、羞恥に身が焦げる思いがした。 『ちちち……違うんですっ!! こここ……これは演技でっ……だからその、どうすれば 別府君にダメ出しされずに済むかって考えた結果ですから、だからその……』 「いいよ。先生。ちゃんと分かってるから」 わたわたと手を振っていると、別府君がその手をキュッと掴んだ。驚く私の前で頷く。 「俺に対しての言葉じゃないってのは。それでも、先生が俺の為に作って来てくれたのは確かなんだし。それに、何か本気で先生に告白されたみたいで、凄いドキドキしたし」 彼の言葉に、私の動悸が一段とまた激しくなる。息苦しくて、切なくて、すごく苦しい。 それと同時に、こそばゆいような嬉しさが、全身に広がっていく。 『こ……告白って、そんな……』 もう一度、否定しようとする私に、別府君は握った手に力を込めてそれを遮った。分かっ ていると頷いてから、手を離してくれる。 「ここまでして貰ったら、お返しは相当いいのにしないとね。俺も真剣に考えるよ。好き な女性に贈るつもりでさ」 その言葉に、私はまた動揺してあたふたと手を振ってしまった。 『や、止めて下さい!! 好きな女性にって……私と別府君は先生と生徒なんですから、 だからそんな風に考えるのは…… そもそも、貴方が提案した賭けに私が乗ったからって だけで……だから、お返しなんて必要ありません!!』 ホワイトデーにもまたおんなじような事をしたら、今度こそ引き返せなくなるかも知れ ない。こんな事は間違っていると私の倫理観が叫ぶ。しかし、別府君は悪戯っぽく笑って 言った。 「じゃあ、こうしようよ先生」 人差し指を立てて、私の前にかざす。 「学年末テストの現国の結果がクラスで5番目より下だったら、先生の言う通りにするよ。 先生が何もいらないって言うならそれでもいいし、お返しに欲しい物があれば、それをあ げる。けれど、5番以上だったら……」 そこで別府君はワザとらしく、一呼吸置いた。私はその先を聞いてはいけないと思いつ つも、遮る事が出来ずに息を呑んで別府君の次の言葉を待った。 「俺が、彼女にしてあげたいと思う精一杯のお返しを、先生にしてあげるから。これでどう?」 またしても、テストを賭けの対象にしてきた彼に、私は教師としての責任感を持って、 今度こそはちゃんと却下しようとした。 『ダ……ダメですよ。補習ならまだしも、定期考査を賭けの対象にするなんて、間違って ます。絶対にいけません!!』 「別に、賭けって言ってもお金や物を賭けてるわけじゃないし。そもそも、30点以下なら 補習と再試験って、あれもそういったら賭けになるじゃん」 『違います。それは、学力の低い生徒の能力向上を目的にしたものですから、ホワイトデー のお返しとは、訳が違います』 別府君の屁理屈を一蹴して睨み付けると、何故か彼は、私の様子を窺うような表情で聞 いて来た。 「でも、先生はそれでいいの?」 『は? 何がですか? 私がダメって言ってるのに、良いも何もありません』 さも当然の如く答えると、別府君は私の目をジッと見つめて、言葉を続けた。 「別に俺は、最初から先生に本気のお返しをするつもりだったから、先生が条件に乗らな かったら、俺はそうするだけだけど。まあ、もちろん先生が受け取らないって言えばそれ までだけどさ。けれど、結構高いハードルを付けて、出来なかったら先生の言う通りにす るっていうのは、むしろ譲歩なんだと思うけれど」 その言葉に、私は全く反論出来なかった。そして、もし別府君からこのまま本気でお返 しをされたら、私のそれを拒む事が出来る自信もまるで無かった。 「どうする先生? 受ける? 受けない?」 せっつかれて、私は焦った。このままだと、別府君にホワイトデーに問答無用でお返し をされてしまう。それを避ける為には、言う事を聞くしかない。 『わ……分かりました。別府君の、言う通りにしましょう』 とうとう、私は彼の提案に乗ってしまった。別府君はその言葉に満足そうに頷く。 「決まりだね。といっても、自分から出しといて何だけどさ。これって相当厳しいよな。 うちのクラスって女子率高いし、大体現国は得意科目だからなあ……」 困ったように頭を掻く別府君に、私は少し心が和んで、軽口を言う余裕が出来た。 『そうですよ。私にお返しを渡そうとしたら、相当努力しないと、無理ですからね』 しかし、別府君は強気に首を振ってそれを退けた。 「いや。頑張るよ。いっそクラス1位を目指してさ。それで、絶対に先生が喜ぶようなお 返しをするから」 私の為にそこまでするのかと、彼の意気込みを見て私はまた胸を高鳴らせてしまう。慌 てて自分の心を否定し、私は気を引き締めた。 ――ダメ。私は……先生なんだから。 『せ、先生は全然期待なんてしてませんから、頑張るも頑張らないも別府君の好きにして 下さい。それじゃあ、もう行きますよ』 これ以上、別府君の前で心をときめかせたりしないように、私は彼から離れ、教室を出 ようとした。もう、約束も全部果たした訳だし。それなのに、背を向けようとした私を、 別府君が引き止める。 「ちょっと待ってよ。先生」 ドキリとして足を止めた私は、おずおずと振り返って彼を見つめた。 『な……何ですか。先生だって忙しいんですよ。もう、用事は済んだんですから、いいでしょう?』 これ以上この場にいたら、またいけない気持ちを募らせてしまう。だから、早く離れた かったのに、別府君はそれを許してくれなかった。 「まだ。だって、先生にチョコの感想を言ってないじゃん。それとも、明日また二人きり で会える時間を作ってくれる?」 その問いにドキッとしてしまった私は、その一瞬のときめきも含めて、急いでそれを否定した。 『ダ、ダメです!! 明日は放課後、職員会議も予定されていますし、先生は何かと忙し いんですから、別府君一人に時間なんて割けません』 「でしょ? だったら、今この場で伝えられた方が早いじゃん。とりあえずは一つだけに しとくからさ。すぐ済むよ」 『わ、分かりました。それじゃあ……早くして下さいね。あんまりグズグズしていると、 他の先生方にどうしたのかって聞かれてしまいますし』 実際にはそんな事はないのだが、私は彼を急かす為にワザと自分が困っているような事 を言った。しかし、彼は疑う様子も見せずに頷く。 「了解。それじゃあ開けるよ」 手提げ袋を開き、中からお菓子の入った透明な模様入りビニールの包みを取り出した。 「へえ。チョコチップクッキーじゃん。しかもカラフルだし。チップがハート型なんだ。 凝ってるね」 『そ、それは一応…… 下手くそだとか、手抜きだとか、別府君にバカにされるのは悔し いから、一応はその……真剣に作ったってだけですから……』 確かに最初はそうだったが、作っているうちに本当に恋人の為に作っている気分になり、 あれこれ想像していたらいつの間にかこんなの手の込んだものになってしまったのだが、 彼には口が裂けてもそんな事は言えなかった。 「先生が一生懸命作ったものに、そんな事言うはずないじゃん。じゃあ、今は一つだけ。 いただきます」 彼の手が、一番オーソドックスなチョコクッキーを摘まみ、口に運んで行くのが酷くス ローモーションのように見えた。一口かじってゆっくりと噛み砕き、飲み込んだと同時に 彼の顔に笑みが広がる。 「うん。とても美味しいよ。先生」 どんな感想を言われるかと、不安でいっぱいだった私の心に、一気に安堵感と嬉しさが 流れ込む。 「表面はサクッとしてるんだけど、中はしっとりしててさ。クッキー自体はそんなに甘く なくて、でもチョコの風味が口いっぱいに広がってさ。で、チョコチップがいいアクセン トになってて。正直、期待より遥かに美味しかった」 ベタ褒めされて、私の体がまたカーッと熱く燃え上がってしまった。感想に何か言葉を 返そうと思っても、何も言葉が浮かんで来ずに、私は無言で俯いてしまう。 「先生。本当にありがとう。残りは大切に食べるからさ」 『あ……は、はい……』 彼の顔に広がっている笑みを見つめ、私の中は、どうしようもない愛おしさで一杯になっ てしまっていた。もはや自分が教師である事ですら失念して、私はただ、好きな人の前 で無抵抗な、一人の女になってしまっていたのだった。 終わり
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―もしも、櫻子と向日葵の願いがかなってたら 櫻子「ホーント、あかりちゃんで良かったよおー」 あかり「えへへ、いつもクラスで一緒だし、気兼ねなくていいよね。・・・あ、きたきた!」 ウエイトレス「おまたせしましたー」 櫻子「わーい!さっ、食べよっか。いただきまーす!」 あかり「いただきますっ。・・・ん、おいしー・・・あれ?どうしたの櫻子ちゃん?」 櫻子「う・・・ニンジン・・・」 あかり「嫌いなの?おいしいのにー。私好きだよ」 櫻子「えっ、じゃあ食べてく」 あかり「ちゃんと食べなきゃ大きくなれないよー」 櫻子(ガーン・・・(泣)、向日葵なら食べてくれるのにー!) ~~~~~~ ちなつ「二人きりって新鮮だね」 向日葵「そうですわね、クラスでは赤座さんと櫻子も一緒ですし」 ちなつ「ねねっ、今日は隠し事なしでトークしよっ!」 向日葵「?」 ちなつ「向日葵ちゃんって櫻子ちゃんのこと好きだよね?」 向日葵「○×※▼%#◇!!!!!な・・・なっ、そっ、そんなわけありませんわっ!! 」 ちなつ「もう隠さなくっていいのに・・・、櫻子ちゃんは気づいてないの?あ、実はもう付き合ってるとか?」 向日葵「私たちは・・・別にそんな、ただの幼なじみですし・・・」 ちなつ「そっかー、幼なじみってのもむむずかしいね。私はねー結衣先輩が好きなの」 向日葵「船見先輩?そのー・・・告白、なんかは?」 ちなつ「アタックしてるのに結衣先輩ぜーんぜん真剣に向き合ってくれないの。けど来年こそはぁ・・・!!」 向日葵(すごい、勇気あるんですのね。私も・・・櫻子に・・・告、白・・・) ちなつ「あれ?顔赤いよ?」 向日葵//// 「い、いえ・・・。ん・・・来年は、私も頑張りますわっ!!」
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