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灰色の雲が天を覆っている。その下に在るのは、古びた要塞だった。崩れた廃墟を利用した城壁は、今にも崩れそうな危うさを秘めている。実際、外側からの攻撃を受けたのか一部が損壊していた。ここを攻められればこの要塞は簡単に陥落するであろうことは、火を見るより明らかだった。 だがその要塞はいまだ健在である。周囲には攻めてくる敵はおらず、その残骸だけがぽつりぽつりと転がっている。大きく穿たれた城壁の穴の前には、黒焦げになった鉄塊が、数えるのも面倒なほど転がっていた。要塞における攻防戦は終結しているのか、戦場の熱気は既にない。 城壁を乗り越えた先に、天高くそびえる建築物がひとつ。偵察塔である。雲を突くようなその塔は見るからに新品らしく、ボロボロの城壁と比べるとミスマッチとしか言いようがなかった。そんな偵察塔の中で、女性が一人ひざまづき、両手を合わせて目を閉じている。その女の行動が示すのは、祈りであった。 「また?」女の足下から、少年とも少女ともとれる声がした。「死んじゃった味方は仕方ないよ」声は女に呼び掛けている。「いいえ、敵のためにも、祈っています」女は目を開けて言った。「死者は弔われねばなりません」「そう。ご主人の好きにするといいよ」中性的な声は、女の拾った端末から聞こえた。 レメゲトン。強力な人型機動兵器テウルギアの動作をサポートする高性能AI。そのレメゲトンは、女の手の中で淡々と述べる。「次の準備した方が良いんじゃないかな」女は答えない。レメゲトンはただ黙った。女が祈りを止めるまで、じっと。偵察塔の一室に、重苦しい静寂が漂う。ふと、雨粒が床を濡らす 雨。曇り空から水滴が止めどなく溢れて、緑の消えた大地に恵みを注ぐ。レメゲトンは感慨深げに呟いた。「珍しいね、ここら辺で雨なんて」だがふと思い出す。窓は閉まっている。何故床が濡れたのか。雨漏りか、いや違う。レメゲトンが主人と呼び慕う女の瞳から、ゆるりゆるりと、小粒の雫が滴っていた。 レメゲトンはそれを無視した。自分の仕事はメンタルケアではないと、そう弁えていたから。主人が、命が消え続ける戦場で死者を背負うことも、レメゲトンは無視した。彼女の選択を踏みにじりたくなかったから。だからその涙を、無かったものとして扱う。聖女と呼ばれる女が流す、死者への祈りの涙を。 人の心を支えるのはレメゲトンの仕事ではない。レメゲトンの役割はテウルギアの操縦者であるテウルゴスの戦闘面の支援。つまり、主人が心を痛める、虐殺の手伝い。彼女の涙に応えてやるのはAIの役目ではない。それは人間が暖かさと心で以てそれを行うべきだ。消えていく涙を、レメゲトンは無視した。 「カタリナ様」通信機からの声が、重苦しい雰囲気を裂いた。 「敵部隊が接近してきております、出撃を」 「…かしこまりました」 女は服の袖で目元を拭う。 「数は?」 レメゲトンが問う。 「マゲイアが600程」 言い終わる前に中性的な声は告げた。 「穴のところをカバーする」 「では我々は周囲を固めます」 唇を引き結び、カタリナは言った。 「マルティール。プレアーガードナー、決戦仕様」 「了解」 レメゲトンは返答する。 「行こう。ご主人」 「ええ…わかりました」 瞳には潤いはなく、聖女の拳は固く握り締められ、そして彼女は向かう。多くの命を守るため、多くの命を奪うため。荒れ果てた大地の、戦場へ。 聖女は、祈る。死した者達の魂の安息と、争いが無くなる時のために祈る。体を疲れさせ心を削り涙を落として、その祈りが届くまで祈るのだろう。ならば、とレメゲトンは思った。自らも、祈ろうと思った。我が主人が、心を安らかにして信頼する人間に出会えることを祈ろう。そして二人は、戦いへ赴いた。 雨が止み、雲の切れ間から眩い陽光が地に差し込む。照らされた先にある古びた要塞は、いまだ健在であった。周囲には鉄の屍がいくつも散らばり、そこで起きていた戦闘の激しさを物語る。しかし残骸が全く無い場所があった。要塞に一つ空いた穴を中心とした扇状の範囲。そこだけ、マゲイアの残骸が無い。 その部分だけ消しゴムで丁寧に拭われたかのように物体が存在しない。綺麗な更地になった地面の上には、ネジ一本とて落ちていなかった。整地範囲の基点となる壁の穴の前には、静かに佇むテウルギア。そのコクピットで、金の髪を揺らして、聖女は再び祈りを込めている。陽はただ、その姿を照らしていた。 終わり
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強攻-25無人攻撃機 第三設計室謹製の無人攻撃機。 対テウルギアを念頭に置いて開発された大型爆弾・LS-887(旧暦におけるGBU-43/B MOABが近い)の運用に特化した高速攻撃機。 超音速巡行能力と推力偏向エンジンを備え、超低高度から接近して迎撃をかいくぐり、(テウルギアの迎撃は避けられないと割り切って)爆発範囲に敵機を巻き込む事で撃破を狙うという事実上の特攻機。 効果的ではあるものの、一回の攻撃で高価な機体を使い潰すという非効率極まりない機体であり、実戦に投入された事はない。
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永久凍土:1 夜波を切る。 陽射しを受けていたなら宝石のように輝く地中海が、今だけは黒ずんだ泥にさえ似ている。 冷たい潮風は嵐のごとく打ちつける。いつの間にか、錆色を覗かせる鉄板たちの金切り声が、今にも大合唱を始めようかとうずうずしている高揚感をぎらぎらと垣間見せる。 冗談ではないと、イサークは舵を切った。 イサークの駆る鉄の塊――巨大兵器テウルギア〈ヴォジャノーイ〉は、それほどの興奮に耐えられるほど、若くはない。 今でこそ単機で、月光を浴びながら駆けることができている。一年後に同じことができているかどうかは危ういだろう。 ――俺と同じだ。 逃げようのない憐憫を称えた口元。しかし衝撃で、ぐっと噛み殺された。 急制動。海面に降ろされた錨が、機体の軌道に間に合わない。海という巨大な手が、下から〈ヴォジャノーイ〉を引っ張っている。 鋼鉄が悲鳴をあげた。老朽化が進んだ鋼鉄の塊が、久々にやってきた無謀な動きに打ち震えている。綻びによる痛みさえ、喜んでいるようだ。 『長旅ご苦労さん。さてさて俺たちの特攻隊長殿……作戦は、忘れちゃいないな?』 「久々ですよ、そう呼ばれたのは」 遥か後方。とっくに〈ヴォジャノーイ〉と共にイサークが追い越した艦艇群の一つ。 そこに、声の主である男はいた。 『畏まるのはよしてくれよ。なんだかんだ、もう長いんだ』 声がふっと軽くなる。男の表情が綻び、恥ずかしそうにこめかみのあたりを中指でかく姿も、目に浮かぶ。 初めて会った時は艦艇の中を走り回っていたような男が、今となっては艦橋の中央に立つ責任者の一人だ。 時間が過ぎるのは早い。いや、あの頃からその素養はすでに持ち合わせていたのだとも思える。 「あっという間に追い越された」 『いや、一気にまくられました』 二人の声が、立ち振る舞いとしての立場が、逆転する。 『情けない限りです。こんな場所に呼び出すなんて』 「久々に風を切りたかったんだ。俺も、こいつ(・・・)も」風など微塵も入ってこないコクピット内の、シートをぽんと軽く叩く。 『こいつ……ね』 「俺は忘れられていなかったんだって、少し嬉しいぐらいだ」 『俺たちの歴戦の相棒を、忘れる奴なんかここには一人もいないですよ』 かっこつけた言葉を口にする時、この男は子供のように屈託なく笑うものだった。 また口元に笑みを浮かべて、今度は咳払いと共に締める。 「それで俺は、間に合わせればいいんだっけか」 『そう。目標物の奪取もしくは破壊。俺たちEAA連合艦隊とコラ社との、競争だ』 コラ・ヴォイエンニー・アルセナル。 かつての、イサークの居場所。しかし今となってはイサークを知る者などいないだろう。 イサークもそのつもりだ。 『連中、ここに来て新型を入れてきた。観測データは後で確認してほしいが……〈ヴォジャノーイ〉と同じく、氷結装甲を使う』 コクピット内の液晶に、送信された画像データと付随文書を浮かべる。 その液晶も、元々収まっていた枠を組み替えて強引に設置したツギハギだ。大きな振動の度にばたばたと揺れ、ノイズが走るようになった。固定部分は割れてしまい揺れを収めることはできなくなったが、しかしまだ使える。 「あったのか、これ(・・)の他にも」 『では、後を頼みます。間に合わなかった俺たちの分を』 「わかった。心配いらないさ。俺はどうやら、まだ特攻隊長のままらしいからな。嫁さんにも、お子さんにもしっかり言っておく。お前さんの部下にも……」 イサークの言葉の途中から、スピーカーからはノイズばかり聞こえていた。 それでも伝えるべきことをきっちり言葉にした。 目元を拭った。すでに涙は枯れ果て、視界がぼやけることさえない。それでも動きだけは体が覚えていた。一種の癖になるほど、何度も何度も繰り返してきた動作。 操縦桿を握りこむ。〈ヴォジャノーイ〉の加速が、体をグッとシートへ押しこめる。 「行こう。クレイオーン」 返答が来なくなってから、どれほどだろうか。少なくとも、彼に会う前から、ずっとそうだった。 もはや独り言と言われてもおかしくないそれは、それでも独り言ではない。 ずっと繰り返してきたはずの、言葉だった。
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誰がために紅星は瞬く アレクトリスグループの一角、技仙公司を題材にした短編集形式の小説です。 こちら遅筆につき更新は遅いですが、まぁ気長に行き合ってください。 prologue Πενθεσίλεια Πενθεσίλεια(2) 夜天月下狂想曲・補筆外典 邪仙の奇妙な再会 ???
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第1幕 ―― 雪原 すでに、どれほどの時間が経ったのかを考えることをやめていた。 「ふぁ~あ……」 情けないほどの大きな欠伸=真っ白。律儀に拾い上げたマイクが機械的に作業――通信に乗って伝播。 すかさず飛んでくるキビキビした諫言。 「仕事中だぞ」 「別に、いいじゃねぇか。どうせ暇なんだろ?」 寝起きのような気怠さを隠すつもりすらない太平楽。 イズメール・セリク。 ひょうきんを体現するように歪んだままの口元/口髭に密集した蒸れっ気を拭う/浅黒い頬を指でかく/足をコンソールへ投げ出す――さながらハンモックにぶら下がっているような安穏さ。 「だいたい二日もこれだ。どうしようもない」 「ずっとこれで終わるんじゃねえか?」 全く興味なさそうに会話に割り込んだ三人目の甲高い声。 ユーサフ・カティル。 白い肌/幼い面長の顔/太く高い鼻梁/ようやく成人になったばかりの身体/常時眠そうに垂れた目尻を殊更眠そうに擦る。 退屈しのぎがないとばかりに表示枠のメモリを一瞥――気圧:低い/気温:マイナス/酸素:薄い/高度だけ高い。 「そんなわけないだろ。向こうも仕事だ」 先程イズメールに飛んだものと類似の苦言。 サバシュ・クマール。 真っ黒な肌/重ねてきた年齢を臭わせるこけた頬/唇を引き締めつつ、分厚いパイロットスーツに顎を埋めて縮こまる。 首筋に襲い来る寒気に身を震わせつつ、モニターを確認。 雪景色――上は白んでのっぺりと伸びる灰色の空/下は陰影すら感じさせない真っ白な雪。 緩やかな東側の山/切り立った西側の山/急な斜面を作る南北の崖。 まともな装備がなければ即座に遭難確定しそうな雪山のど真ん中に、彼らはいる。 「……ま、そうなるのが理想だがな」 「違いない」 二度目となるイズメールの欠伸を聞き流す。 業務としてしっかり画面をクローズアップするサバシュ……空と地面=灰と白の隙間に、そのシルエットは見えた。 巨大な金属の構造物――図太い人間じみたシルエット。 兵器×三=サバシュの言う『向こう』。 彼らがこうして寒空の下へ放り出されなければならない理由を作り出した来訪者たち……だが会話らしい会話どころかコミュニケーションの試みも一度もなし。 「んで次の交代は……二時間後か」 何の気なしに両腕を上げて伸びをするイズメール。 述べ六時間の座りっぱなし――あまりにも身体を動かせないせいか、氷の砕けるように関節がバキバキ音を立てる。 三人共、それぞれ別の空間ながら全く共通した内観=ユーサフもサバシュも六時間の座りっぱなし。 「三交代制なだけありがたいだろ。明日もまた暇だろうがな」 サバシュが『向こう』に動きがないと確認して画面から目を離す/肩を回す=氷を砕く音。 ――コクピット。一人が満足に腕を振り回せない程度の狭苦しく、画面とメモリ以外に照明のない暗い空間。 換気機能は生きているが座り続けで臀部や脇が汗で湿る。 三人がそれぞれに乗り込んでいるモノ――『向こう』と同じく機械の塊/積み重なった雪が機体の放熱に溶けきれず嵩を増していく。 〈Mg-33〉――EAAグループ/企業:SSCN/傘下シャムシュロフ設計局の主導にて製造。 小型と呼称される部類=七メートル=二階建ての一軒家とほぼ同じ大きさ。 そこまで太くない胴体や手足――軽量機――しかし前と後ろで合計四本の足/人間と同じく胴体の脇から二本の腕に抱えられたライフル。 傍から見れば冬眠に失敗したカマキリのような物悲しさ×三。 そのコクピットで冬眠したくてしょうがない男×三。 徐ろに通信装置をいじるユーサフ――眠気覚ましにしては強烈な音声の濁流がコクピットへ充満。 『我々の未来は明るい! まだ我が社は開かれたばかりだが、この工場を欲しさに他所の企業が部隊を引き連れてきた! これは我がサルチャト=エルタシュ採掘工場が他でもない資産を有しており、他企業にはない価値があるからこそだ! 故にこの敵襲に怯える必要など皆無であり、同時に、その注目度をこそ……』 「消せ」「ほい」――苛立ちを垣間見せる冷たい言葉/別に反論する理由もなし。 途中で切り上げられる演説(・・)=低くも荒々しい女性の声。 ふん、と力いっぱいに鼻息を散らすサバシュ/明確すぎる怒気を伺おうと眉尻を上げるユーサフ。 「こっちの身にもなれってんだ」 「なんだ、社長が嫌いか?」 「当たり前だ。北部生まれは不作の麦より細いくせして威張り散らすことしか考えない」 北部と南部――SSCN領内に生まれる経済格差。 北部に本社を構える企業がSSCNという連合体(アライアンス)の上層部を席巻=北部と南部でそれぞれ課せられる教育の質が明らかに違う=南部が必然的に低給料・劣悪条件・肉体労働を強いられることによる差別意識。 「そうか。俺は嫌いじゃないぜ社長。言うことがわかりやすい」 「麦ってそういや見たことねぇな」 南部生まれのサバシュへ喧嘩を売るユーサフの台詞――その気がないとわかっていながらも体温が下がるのを感じたイズメールが言葉を挟み込む。 SSCNは数十年ほど前から、政治的都合により農業を禁止されている。 それ以後に生まれたイズメールとユーサフには、農作物などほぼ無縁の存在。 「楽しいのか? 農作って」 「こんな寒いところにいるよりよっぽどマシさ」 何気ない問い掛けに、溜息混じりの郷愁を吐き出すサバシュ――農業が禁止される前の南部=農家に生まれた男。 鮮烈に甦る記憶。 広大な緑の畑/燦然と輝く陽光/爽快に駆け抜ける風/草のささめき。 政治都合で仕事を失った出稼ぎ場――今となってただの思い出。 狭苦しい空間/画面しか明かりのないコクピット/淀んで湿気の溜まった空間/動力の低い唸りが常時機体を揺さぶる。 極寒の土地に、それらしき樹木など見当たるはずもない。 「だが、まあ。これが今の仕事だからな。お前らもちゃんとやれ」 「しょうがねえ」「わかったよオッサン」 ユーサフの鷹揚な返事/少しだけ親近感の湧いたイズメールの軽口。 交代までの残り二時間……男三人は画面の奥に見える『向こう』にさえ気をつけていれば、それでいいはずだった。 「あ?」 思わず声を張り上げたユーサフ――仕事へ仕切り直したつもりのイズメールとサバシュが顔をあげる。 「どうした?」 「いや、レーダーが……」 「こんな高所でレーダーなんて……なんだ、これ」 ぼんやり疑念を垂れ流すユーサフに応じたサバシュ=同じ異変を見つけた様子の疑問符。 「……やばいな」 イズメール=三人の中で最も長く積み上げてきた経験――レーダーに表示されたアイコンを即座に判別。 ――標高五千メートルを越す雪山という現在地。 東から、更に上の高度/猛スピードで接近する巨大物体。 イズメールだけではない。ユーサフも、サバシュも、感じていたものは同じだった。 それまでコクピットに充満していた呑気な湿り気でも寒さでもない――。 粘度のある悪寒が、彼らの背筋にべったりと貼りつく。 「敵襲だ! 寝ている奴等全員叩き起こせ!」 せめてもの冷静さを持っていたイズメールが社内に通信を飛ばす……それだけで精一杯だと言わんばかりに。
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どことも知れない異次元に、『フラテッロ』はある。 小綺麗なバーだ。 目立ったインテリアがあるわけではないが、趣向の凝らされた綺羅びやかな照明が、そこここに暖色の光を落とす。 まず目につくのは大きなバーカウンターだ。背の高いダークブラウンのニスが穏やかに光沢するカウンターテーブルは、日頃から清潔を保つ手が行き届いているのだろう、目立った傷も見せず、ゆったりと構えた落ち着きを纏っている。 カウンターの奥に並ぶガラス戸の奥では、色も形も違う酒瓶たちが、光の届く中身を注がれる瞬間を待ち望んでいる。 天井を見上げれば、ハンガーに釣らされたグラスが潤いを求める口を開いていた。 広く開かれて縦に潰れた丸みを持つソーサーグラス。対象的に背が高くも口の小さいフロートグラス。緩やかな流線を描きながら口をすぼめたワイングラス。逆さにした円錐を直線的に作るイプシロングラス。足が小さくて短いくせに、丸々と太って主張の激しめなブランデーグラスもあった。 カウンターを覗き込めば、ヘアラインに光沢を抑えた銀色のシンクと、同じく鈍い光を見せる大きさの違うシェイカーや、上下にそれぞれ口を持つメジャーカップ、ネジを巻くバースプーンにはフォークもささやかに主張する。 隣には足のないグラスも並んでいた。 その中で、口が広めで背も高くない、底が厚く、直線とも流線ともつかないグラスが、穏やかな光を宿す。 ……グラスの呼び名は、オールドファッション。 杯(グラス)という長い歴史の中でも、使い古し(オールドファッション)でありながら王道(オーセンティック)であり、シンプルであるからこそ長く愛され、暮らしに馴染んできたグラスだ。 乾燥しきった一品たちがその出番を今か今かと待ち望んでいるのに対して……。 カウンターには、バーテンダーも、ウェイターも、いない。 店内に、一つの乾いた音が響いた。 小さな木製のボールが転がり、緩やかなすり鉢状の円環(サーキット)を螺旋状に撫でていく、軽やかで、ともすれば癖になりそうな響き。 「17だ!」 マットに並べられた数字へチップを力強く叩きつけた偉丈夫の、低くも子供のように張り上げられた声。 サヴィーノ・サンツィオ……バーテンダーだ。 若々しい顔立ちをさらに若く見せる快活な笑み。短くまとめられた栗色の髪の毛。シャツの袖を肘上までまくりあげ、見えるのは程よく焼けた少年のような肌と、鍛え上げられただろう逞しい筋肉。シャツの皺までも、彼の体型を浮き上がらせるほどだ。 片足首を膝に乗せるという、とても行儀良いとは言えない姿勢で、回転する台と、その中で逆方向へ螺旋を描く白球を見守る目には鬼気迫る熱意が覗いた。 「では赤の14で」 冴え冴えとした鋭利さがある声が、細く刺し込まれた。 ジルグリンデ・アル・カトラズ……ウェイターだ。 線が細く端正で精巧な美しさを称える顔。色の薄く長い髪が後ろで緩やかに纏まる。筋骨隆々のサヴィーノとは対象的に、アイロンの効いたシャツをカフスまで留め、首元のクロスタイで、堅苦しくならない範囲に纏める。シャツだけではなく黒のベストを纏うのは、眩しくなりすぎないよう華奢な身体に重みを持たせるためか。 光を反射しながら回転を続ける台を見守る視線は、一見して興味がなさそうだが、鷹のような眼光がボールの行き先を伺っている。 「ではここまで(ノー・モア・ベット)」 横に並ぶ男二人へ、テーブルを挟んだ反対側から、盤上のチップへ見えない壁を構築する、決して大きくないがハリのある、女性の声。 光を包み込む褪せた金髪(アッシュブロンド)を肩口で切りそろえ、黒に灰色のラインが走るスーツを着こなす女性。薄いピンクのシャツに、赤いループタイが身体の線に揃えられたベストに引き締められた胸元で揺れる。 特筆した派手さがないにも関わらず、どことない甘さのある華やかさを感じさせるのは、服装よりも匂い立つ彼女の女性らしさなのだろう。 ディサローノという呼び名は無論、本名ではない。 流転し続けるルーレットの盤面と白球を操るディーラー……スピナーとしての呼び名だ。 「なあ、本当にテウルゴスなんだよな、あんた」 台の縁へ肘をかけたサヴィーノが、ディサローノへ話題をふっかけた。 その気軽さは、彼の趣味とも言えるナンパの一環か、それとも単に話題作りか。 「そうよ。気がつけばランキングに載せられていたけど」 「気づけばじゃねぇよ……」 サヴィーノはがっくりと頭を垂らす。 店に入ってくる女性には大体手を伸ばすサヴィーノの悪癖は……しかし叶わなかった。 レメゲトンであるヴィットーリアに遮られたのでも、ジルグリンデに阻まれたわけでもない。 ちなみにヴィットーリアは今、犬の散歩に出かけているため、不在だ。 女性にしてはやや小柄なディサローノの肩に手をかけたと思えば、次の瞬間に彼の身体は宙を舞って床に叩きつけられていたのだ。 酔っぱらいの相手をすることも多いカジノのディーラー……その中でも、目を引く女性であるディサローノは、ただ守られているわけではない。 彼女自身が強いのだ。 同僚から教わっているという武術……いくら筋肉の塊であるサヴィーノといえど、不意を突かれては為す術もない。 それでいながら、サヴィーノの職業たるテウルゴスとしても、ディサローノは更に上を行く。 オラクルボードのランキングなど、サヴィーノからすれば雲の上の話だ。 ……すぐ隣に、陣営こそ違えど同じくランキングに名を連ねているジルグリンデもいるのだが。 だが数字を見れば、ディサローノの方がわずかに上なのだ。 そしてディサローノが持ちかけた勝負にサヴィーノがまんまと乗っかり、ジルグリンデは巻き込まれ……この謎空間がどこからともなく生み出したルーレット台にいる。 盤面を走るボールが盤上のピンに跳ねられ、数字のあるポケットへ吸い込まれる。 「はい残念。31です」 ヨーロピアンルーレット……0~36の数字から、ボールの落ちる数字を当てるのがルーレットの基本ルールだ。 奇数は黒、偶数は赤。そして盤上にある複数の賭け方の組み合わせが可能だが、今この三人には複数を同時に賭けるというハウスルールは存在しない。 サヴィーノとジルグリンデが賭けられるのは、1~18までの数字の一つずつ。 ディサローノが、その二つの合計値ではない数字にボールを落としたら二人の勝ちという……圧倒的に二人が有利なはずのルールで、五度目の敗北を味わうことになった。 五度目である今回に至っては、ディサローノがボールを回してから二人が賭けているにも関わらず。 加えて勝利の暁に一晩を共にしてもいいとディサローノが言い出して、サヴィーノは負けるわけにはいかないと息巻いていた。 サヴィーノが力なく立ち上がる。 ジルグリンデは興味なさそうにサヴィーノを見上げた。 女性なら誰彼構わず声をかけるサヴィーノもそうだが、それに乗っかって変なことを言い出すディサローノも大概だ。 ジルグリンデには関係もなければ興味もない。 ある意味で、ルーレットというゲームを一番楽しんでいる。 「んで、次は何がお望みで?」 「なんでも良いわ。美味しいのを、よろしくね☆」 女性らしさをここぞとばかりに振りまき、ウィンクまでかますディサローノ。 明らかに、煽っている。 「あいよ……」 「やる気なくさないでよ。あなた良い男なんだから、せめて私の手元を狂わせるようなものにしてね」 余裕の挑発をかけるディサローノと、五度目の敗北で男としてのプライドがズタズタにされつつあるサヴィーノ。 ディサローノは、あまりにも強すぎる。 格闘術をつけた人間として、テウルゴスとして……だけではない。 破格の条件を差し出して尚、肝が据わっているギャンブラーとしても圧倒的に強い。 ……そして、酒にも。 ディサローノの手元には空のグラスが四つ並んでいる。 息巻いたサヴィーノが三杯目にスピリタスを混ぜたにも関わらず、顔を赤くする様子も酔いらしい酔いを見せる素振りすら無い。 むしろ三杯目を一気に飲み干してから「汚いことする人は嫌いじゃないけど、イカサマにも私は負けないの」と勝ち気に言い放ってみせた。 「スピリタスで酔わない奴をどうやって酔わせんだよ」 チクショウ、今回は行けると思ったのに。とまで聞こえてきそうなサヴィーノの脱力しきった背中を見なかったことにして、ジルグリンデは改めて前を振り向く。 今回ばかりは、あまりにも相棒が哀れすぎる。 目が合った瞬間に小首を傾げながら浮かべる笑顔は、果たして素なのか、それとも磨き上げられた営業スマイルなのか。 「どうしたのかしら?」 「ヴァネッサは……」 「ディサローノ。スピナーとしての、私の名前」 「失礼しました」 一瞬で敗北宣言するジルグリンデ。 怒ってはいない。声が荒だっているわけではなかったが、しかしディサローノの差し込む言葉は鋭く胸に突き刺さってくる。 年齢で言えばジルグリンデもサヴィーノも、年上のはずだが……。 おそらく論客で、彼女には勝てない。 ボールを取り出して、弄ぶディサローノが、ゆっくりと呟く。 「どうして私がここに来たのか? 知りたいのはそれじゃないの?」 「ええ。よくお気づきで」 「後輩を叱りすぎちゃってね……今はちょっと逃げ出しているところなの」 瞼を伏せるディサローノ。さっきまで伴っていたはずの華やかさが、いつの間にか、凪いだ。 体格以上に大きく、そして圧倒されるような雰囲気を放っていたはずの彼女が、その瞬間だけ、ちっぽけな一個人に見える。 「ほら私、最強じゃない?」 「…………はい?」 さらっと吐き出された言葉に、ジルグリンデは止まる。 さっきまで纏っていたはずの雰囲気も、どこかへ霧散していた。 「別に嫌いってわけじゃないんだけど、やっぱり喧嘩も勝負事じゃない? 私は負けないのに……それでも突っかかってくるから、ちょっと可愛くてね」 「はあ……」 ボールを指先で転がし、物憂げに目を細める。 「つい負かしちゃうの」 「…………」 そんな悩みを持つ人間がいるとは思いもしなかったと、目を背ける。 戦場で相見えるよりも、会話する方が嫌な人間がいることを、思い知った瞬間だった。 「それで……」 「ちょ、ちょっと待ってください」 尚もまくしたてようとするディサローノに、思わず割り込む。 「何よ?」 「もしかして、酔っているのでは?」 「酔っていても、私の手元は狂わないの。普段はお客さんを適度に勝たせないと儲からないし」 ジルグリンデの背後で、虚脱しきった相棒を思い出す。 ディサローノの持ちかけた勝負にまんまとハマり、負け続け、そしてやる気どころかプライドも悉く打ち砕かれた、哀れな男がシェーカーを振っている。 「でも負けるのは癪じゃない?」 「……」 もはやジルグリンデには、同意も否定もできない問い掛け……。 のはずだった。 「だから今日は勝つつもりしか無いから。 さあ、次は何を賭けてくれるの? このお店もらってもいいかもね!」 「もうお引取りくださいませー!!」 ……嫌だ嫌だと暴れまわるディサローノを追い出せたのは、翌朝のことだった。
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東西戦争概要 戦前の情勢 戦争の経過215年 216年 217年 218年 219年 220年 東西戦争 戦争 クリストファー・ダイナミクス・グループ東西内戦 年月日 215年YY月ZZ日 - 220年YY月ZZ日 場所 東ヨーロッパ、ロシア南部、中央アジア他 原因 クリストファー・ダイナミクス内での内部対立・EAA、アレクトリスとの取引を進める中枢企業と外的勢力の徹底的な殲滅を掲げる企業の対立・アロノフ・ピウスツキの他企業への侵略行為に対する粛清を求める世論の影響・クリストファー・ダイナミクス内での深刻な経済格差・ドレイク総合開発での極右勢力の台頭、対外戦争の継続を目指す軍部の政治的発言力の強化 結果 中枢企業連合の勝利・ドレイク総合開発、アロノフ・ピウスツキ等の反乱企業の解体・クリストファー・ダイナミクス東部地域の企業関係の大規模な変化・クリストファー・ダイナミクスにおける新たな内部抗争の始まり・フロント・オブ・ジャスティスの急速な勢力拡大→対テロ戦争の開幕 交戦勢力 中枢企業連合・ロマニア連合工業・カフニア重化学工業・ラインフレーム軍事産業複合体・エクステック・フェデレーション・エーリクス&ハーベルトカンパニー・フロンティア・アクセラレーテッド・テクノロジー----共同参戦企業・技仙公司 企業名 独立企業戦線・ドレイク総合開発・アロノフ・ピウスツキ・バビロニアタスク・コラ・ヴォイエンニー・アルセナル 指導者 出撃テウルギア ・フロストバイト(カフニア) ・パワー・フォー・プログレス(ドレイク) 損害 26万人? ※諸説あり 38万人? 概要 215年から220年にCDグループ領内で発生した企業間戦闘等の総称。主にCD筆頭企業側に賛同する立場の企業で構成された中枢企業連合と、CD筆頭企業の方針に反発する企業で構成された独立企業戦線の間での戦闘を指すことが多い。ただし、先述した二勢力に含まれている企業すべてが戦闘に参加したわけでなく、実際に戦闘した企業は数社で、ほかは殆ど後方での物資支援や戦災難民の受け入れや野戦病院派遣などの人道支援をメインとして戦争に従事するにとどまった。これは200年まで続いていた対EAA、アレクトリス戦争で消耗した企業体力を浪費したくない、また全面的に戦闘に参加しても得られるリターンが少ないといった見解に基づく判断などの理由が考えられている。 中枢企業連合の中核的な役割を果たしたのは主にロマニア社、カフニア社、ラインフレーム社、Ext-Fedの4社で、対して独立企業戦線の中核的な役割を果たしたのはドレイク社、アロノフ社、バビロニアタスク社の3社となる。またバビロニアタスク社は戦争中期頃に中枢企業連合の電撃戦で降伏しているため、途中で中枢企業連合に編成されて独立企業戦線を相手に戦闘を行っている。 東西戦争は主にカフニア社、ラインフレーム社、Ext-Fedなどによるアロノフ社包囲戦と、ロマニア社、カフニア社などによるドレイク社包囲戦の2つの戦線に大別される。戦争で民間人を含む50万人が犠牲となっているところから、東西戦争を「企業史上最も悲惨な内戦」と指摘するものも多い。 また、200年の三大企業の停戦以降では初めてテウルギアを動員した戦闘を伴う戦争であり、これを機にCDグループのテウルギア関連技術、運用は少なからず発展した。特にExt-Fedは戦時中の物資を最大限活用できるよう、各社のテウルギア-マゲイアの装備を使用可能にしたマゲイア「FRAME」シリーズを投入し、これが現在のExt-Fedを始めとするFRAME連合のテウルギア-マゲイア開発の基本理念となった。 戦後はドレイク社の敗残兵の多くが当時弱小集団とされたフロント・オブ・ジャスティスに合流したことで当勢力の規模が拡大し、現在では東部CDの存在を揺るがしかねない厄介な反体制勢力と急変した。 戦前の情勢 戦争の経過 215年 エクテレス地方でカフニア周辺軍スリンジア治安維持隊の隊員が殺害される エクテレス地方は180年ごろからカフニア社とドレイク社の間で領有権を巡って紛争を続けており、CD本社の調停でCDの直接統治下にあった。 216年 ロマニア高官暗殺事件→ロマニア参戦 エクステック参戦 217年 バビロニアタスク陥落 218年 アノロフ解体戦 219年 220年 ドレイク本社包囲戦→連合軍による1ヶ月の飽和攻撃 本社の存在するノヴォ・カノルスクを中枢企業連合軍が完全に包囲。独立企業戦線の抵抗は依然として衰えることなく、双方とも戦線が膠着し、1ヶ月にわたる戦略爆撃と重迫撃砲の攻撃によって市街地は瓦礫の山となりつつあった。そして中枢企業連合は地上軍の全部隊へ市街地への進軍を開始。2週間の激戦の末、中枢企業連合軍本社施設を制圧し、ドレイク社は降伏することとなった。 独立企業戦線解体→旧企業遺産の割譲 関連リンク 原案:SEPIA118 最終更新:2018/6/25
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バルセロス・クルス 通称 バルさん(仲間内) 性別 男 所属 ライズ・アーマメント・テクノロジー オラクルボード アレクトリスランク:23 認証レメゲトン パント 搭乗テウルギア シャントクレール キャラクター概要 レメゲトン:パント テウルギア:シャントクレール機体概要所持兵装 キャラクター概要 “例えどんな苦難が待ち受けようとも、小生は諦めませぬ。”“パント殿と共に『戦場』で戦うその日まで!” 30台後半の小太りな男性。趣味と欲望の為に生きる男。階級は大尉。 元々サブカルに興味があり、自作の漫画やイラストをネット上に投稿していた。 RATに入社してから趣味はさらに加速。収集代や極東への渡航費や印刷代を稼ぐ為に、更なる収入を求め始める。 猛烈なアピールの果てに、レメゲトンとの面会が叶い、高給取りであるテウルゴスとなった。 RATテウルゴスの中でも古参に位置し、戦況を見抜く眼は一際冴えている。 先輩を立てて、後輩への配慮も欠かさない。出来た大人ではあるのだが、特殊な言動と嗜好が彼への評価を妨げる。 余談だが、彼の作品の中でも特にロボット物は評価が高く「まるで本物を知っているかのようだ」と言われている。 趣味の為に戦場を駆ける彼の現在の目標は、アメノウズメ人形工房謹製の義体の購入。 レメゲトンを電子の世界から連れ出し、共に即売会へ参加する事である。 小隊長であるノーヴェの補佐をする事が多い。 レメゲトン:パント “馬鹿らしいにも程があるわよ。レメゲトンと一緒に漫画売りたいだなんて。”“せっかくのお金なんだから、もっと有効に使いなさいって、もう何度言ったことか……。” 金髪の少女の姿をしたレメゲトン。強気で意地っ張りな性格。 いわゆる万能型で、様々な要素をそつなくこなす。 彼の趣味自体には理解はともかく許容はしている。が、彼の目標に関しては、何度も止めようと試みている。 テウルギア:シャントクレール 機体名 シャントクレール 開発 技仙公司 機体サイズ 13m 武装 ・MAC-11F 40mmガトリングガン・Mk-24Tg 背部VLS・MRcs-114Tg 背部180mmレイヴン砲システム・MKB-05A 実体剣型兵装「タンファスト」 機体概要 “騙されても、焼かれても、雄鶏は止まらない。起こせる奇跡を知ったのだから、止まる暇など有りはしない。” 古い物語に登場する、雄鶏の名を冠した黒い機体。 技仙公司の標準機イナンナをベースをした、火力戦を行使する為の機体。 火力を追及した機体で、重砲やミサイルランチャーを搭載。増加装甲の装備もあってベース機より機動性は低下している。 エンブレムは『焼き鳥を頬張る雄鶏』 特に火器管制システムに注力されており、同時多目標処理や捕捉距離は随一の能力を誇る。 所持兵装 所持兵装 ・MAC-11F 40mmガトリングガン 手持ち式の7砲身ガトリング砲。連射サイクルを分間1200発まで減速させたモデル。 基本的にはHEIAP(徹甲炸裂焼夷弾)を用いる。 ・Mk-24Tg 背部VLS 左背部に装備された垂直発射型のランチャー。セル数は12もしくは6。 対空・対地・対艦と、様々な用途に対応可能。一応ロケットポッドも搭載できるが、運用の都合上その機会は少ない。 ・MRcs-114Tg 背部180mmレイヴン砲システム 大型の無反動砲。これを右背部に一基一門搭載する。 レイヴン砲システムとは無反動砲の一種で、特殊な砲と弾倉により、大型砲弾をほぼ無反動で高速連射が可能。 当然そのバックブラストは凄まじく、自己位置の暴露どころか、場合によっては味方を巻き込みかねない。 また大口径弾故に装弾数は決して多くなく、無暗に撃ちまくれば瞬く間に弾切れとなるので、速射力を発揮する機会も限られている。 基本的にはHEAT-MPやHEを用いる。 ・MKB-05A 実体剣型兵装「タンファスト」 中型の物理ブレード。ザンファストを短く切り詰めた物。 基本的には予備兵装で、使われる事は殆ど無い。 原案/もふもリスト
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第1話:女王と女王 ――ページ2 円盤(ホイール)に並ぶ37通りの数字が、赤と黒に彩られて緩やかに回転する。ピンに跳ねられてカラコロと軽快な音を転がせていた白球が、音と共にポケットへ収まった。 テーブルに座る数人の男たちが、振り回される白球の収まるポケットの色と数字を見定めんと凝視する。 「……赤の23」 張りのある声が、食い入るようにホイールを覗く男たちの意識を引き戻し、テーブル上に並ぶ数字を指差す。 積み重なる青のチップを見て、一人の男が雄叫びと共に立ち上がった。まだ若いだろう外見にも関わらず、顎にたっぷりと蓄えたヒゲで丸みを帯びた顔の輪郭を誤魔化している。ヨレたシャツを真新しいジャケットでくるんでいた。 「おめでとうございます。賭け額(ベット)が十五……単目(ストレート)で五四〇枚分。あら、普通のチップでは間に合いませんね」 進行役(ディーラー)がその言葉を言い終えた時には、それまでテーブルに積み重ねられていた青・赤・黄・緑のチップ全てが片付けられ、男の手元に白の縞模様が刻まれた青チップのタワーが五棟と、青のタワー四棟が置かれていた。 目を見張るような手際の良さと一糸乱れぬ所作の美しさなど、男たちは誰も気にしていない。他の三人は嘆息し、額に手を当てて俯き、隣の脂ぎった男を憎々しげに眺めている。 「すごいですね。単目勝ちはあまり見ません」 「いや、たまたまさ」 一方でヒゲ面の男は溢れ出る笑い声を我慢できず口から溢しつつ、夥しい量のチップを手元にかき集める。 指の付け根にタコのような膨らみ、親指の付け根から手首にかけて真っ赤な痕がついている……たった一瞬に見えた掌を、進行役は見逃さなかった。 杏仁酒(ディサローノ)――皆が彼女をそう呼ぶ。 どこか悪戯げに上がった眉尻と、大人びた落ち着きを漂わせる目尻。褪せた金髪(アッシュブロンド)を肩口で切り揃えて、ノリの効いたシャツに触れない清潔感を保つ。腰が細い、薄いグレーのジャケット。スーツスタイルでありながら、襟に巻かれた真紅のスカーフを華美と思わせないのは、彼女自身に始めから華のような甘さが備わっているからだろうか。スカーフを留めるブローチの奥で光る星でさえ、カジノの照明に煌めく彼女の瞳と比べれば大した輝きではないとさえ思える。 カジノという枠を越えて最も有名な、カジノ・ヴェンデッタが誇る華だ。 「私とあなたは、始めまして、でいいのかしら?」 「カジノに来ることさえ始めてだよ」 ニヤける顔を隠しきれず鷹揚に答える髭面の男が、照れ隠しに首元へ手を当て、ディサローノより上へ視線を反らす。 肉地労働従事者(ブルー・ワーカー)だ――ディサローノの直感が告げる。 シャツは仕事場で着ているものだろう。ヒゲも鼻と頬を剃っていても、顎を整えているようには見えない。ジャケットはせめてもの身だしなみといったところ。同じ作業ばかりに徹して手にタコを作り、丸まり始めた背筋と肩こりを気遣ううちに、顔を上げる際には肩こりを誤魔化す動作までが癖になった……というところまで、直感の後に推測が追いつく。 テーブルに来た時こそなんとなくで配っていた青のチップが、一つの皮肉になったことでふわりと軽くなった心を、そのまま綺麗に作り変えて笑顔として貼りつける。 「では、次の幸運を期待しています」 円盤の中心から伸びるハンドルに手をかけて、他の男たちが舌打ち混じりにチップを掴むのを一瞥する。 ホイールの回転と共に、男たちのチップがテーブルの各所へばら撒かれる。 ルーレットというゲームでは、チップ一枚ごとの額が違うことはない。進行役が宣言する瞬間まで、どこに何枚でも置いていい……それが基本だ。 通常の数字(インサイド)ならば、0、1~36の数字を横に三マス×十二行。そして複数表(アウトサイド)ならば赤・黒、奇数・偶数。1~36を12ごとの三分割(ミドル)と、18ごとの二分割(ハイ・ロー)の計九マス。当然、チップを置く場所の範囲が広ければ配当も低くなる。 計四色のチップが陣取り合戦を繰り広げるのを横目に、白球を指に這わせ、外縁に宛てがう。 力を籠めた瞬間で、インカムに飛び込んできた声に思わず手を滑らせるところだった。 『ディサローノ。お客様があなたをご指名したわ。すでに案内済み。今そっちに向かっているから、一席、空けてもらえる?』 ゲームの真っ最中で下手に返事を打てないことを承知の上だろう。受付役のシャトーが矢継ぎ早に囃す。 表情こそ変えないまま、白球を投げ放つ。高速で周回する音を見計らって、男たちがチップの位置を変えてはそれぞれに積み上げるタワーの高低差を変えていく。 ディサローノが白球を投げる後と前で、プレイヤーにとっての勝算は変わっていく。背中にあるボードに刻まれた数字の羅列はそれまでの結果。そして投げた場所と落ちたポケットから大凡の数字を計算しているのだろう。 だが、進行役……白球を投げるスピナーとして、ディサローノが見るべきポイントはそこではない。 色とりどりのチップに、それぞれのプレイヤーの心境は現れる。 数字表(インサイド)でより多くチップを積み上げる者でも、それが枠に収まる単目か、枠を跨ぐ複数目かで、勝負(ゲーム)への勝利を見ているか、負けを見たくないかが見える。 複数表(アウトサイド)に高く積み上げる者は娯楽(ゲーム)を楽しんでいる節が強い。整然と並べられたテーブル上の数字と、不規則に並ぶホイール上の数字では、そもそも三分割や二分割、ましてや赤・黒、奇数・偶数では、予測に足る大凡の位置をフォローしきることが不可能だ。 そのため、どこに何枚でも賭けていい……それがルーレットの謳う平等さだ。 しかし、よりによって、ホイールの回転を機械に任せるのではなく、スピナーが手回しするテーブルに座っている者である時点で、ある程度の推測はできる。 事実として、複数表(アウトサイド)にチップは集中している。カジノの女王とさえ呼ばれるルーレットで遊ぶ醍醐味は、手回しにこそあると鼻を鳴らしたい者は一定数居る。 自意識で過大評価しているわけではないが、過小評価も許されない。カジノの外にまで名前と顔を広げるディサローノが操る台ともあれば、ひと目見ようと集まるのも尚更だろう。 「幸運というのは、一歩を踏み出す勇気がある者に訪れる……いつの時代も、そうだったと思います」 独り言のように紡がれる言葉に、男たちの顔がテーブルから浮く。 ……中でも、青の男が大きく動いていたのを見逃さない。 揺らいでいる(・・・・・・)――直感は一つの確信へ繋がる。 チップの傾向が複数表(アウトサイド)へ偏る中で、ただ一色……青のチップだけは数字表(インサイド)とチップの高さが均衡している。複数目という堅実に見せかけた場所でありながら、十枚分(ストライプ)チップは数字表に集中している。 淡々と同じ作業ばかりを繰り返して倦厭に至り、手っ取り早い非日常を求めてカジノへ飛び込んだ。 見目も悪くないカジノの華。そしてEAAグループどころか世界にさえ名を轟かせているだろう、テウルゴスの中でも特筆されるべき存在――ディサローノという人物は、そんな人間には非日常の象徴にさえ見えるだろう。 ならばそれ以上の言葉は、むしろ夢見られる存在の振る舞いとしては無粋だ。 ――一瞬の目配せだけでいい。青の男が見つめる一瞬だけを見計らって目を合わせ、どうせ照れ隠しのつもりで首元に手を当てるだろうタイミングで、小首を傾げてシンクロニティを錯覚させてしまうだけでいい。 そうしながらベルへ手を添えて、少し焦らせれば……。 後は、気の早くなった青いチップが、男の手近な数字に高く積み上がる。 「――そこまで(ノー・モア・ベット)」 計算通りだ。ホイールを回してから六秒。白球を投げてから十二秒……進行役の掛け声として、白球の落下点を予測されないギリギリの速度を失いかけた瞬間に合わせて、掛け声と共にベルを二度鳴らす。
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どうも、在田です。 はい。 遊びのページでしたが改修しました。 作った小説を列挙する。それだけなんですけどね。 長編 雪豹が棲む銀嶺 流転と疑惑のミス・フォーチュン 短編 絶対不可侵大陸アメリカ 鍍金と白金 三人の馬鹿な男たち 久遠な(か)れコキュートス キャラ紹介的な 右腕と双眼 フェオドラの食事風景 とあるテウルゴスのブログ 銀の炎へため息のように 黄金の翼 リレー的な 戦士たちの円舞曲 …あと、お遊び企画なんかもやっている扱いっぽいです。どうぞどうぞ。 ジルサヴィの部屋 ※一枚噛ませていただきました。 テウルギア・ギガ →『スチームキング』