約 1,790 件
https://w.atwiki.jp/chaos-tcg/pages/695.html
辛辣な侍従「永倉 さよ」 読み:しんらつなじじゅう「ながくら さよ」 カテゴリー:Chara/女性 作品:装甲悪鬼村正 属性:地 ATK:0(+2) DEF:1(+3) [自動]このキャラが、登場かレベルアップした場合、このキャラを【レスト】にする。 Main 〔【スタンド】から【リバース】にする〕目標の耐久力が2以下のフレンド1体を【裏】にする。この能力は1ターンに1回だけ発動できる。 我々は大尉殿を遺憾なく小バカにしております illust:Nitroplus NP-115 C SC 収録:エクストラパック 「OS:ニトロプラス2.00 「装甲悪鬼村正」」 相手のフレンドを裏にする能力を持つキャラ。 対象が限定されているが、過去の「草壁 優季」や各種サポートキャラを処理でき、相手のデッキ次第では非常に強力。 反面、相手が耐久力の低いキャラを多く採用していない場合は無駄になりやすい。 パートナーとしてはデメリットが目立つため、主にフレンドとして使用することになるか。 『大尉殿』とは、六波羅大尉「長坂 右京」のこと。 ちなみに『我々』とは、「永倉 さよ」自身と「大鳥 香奈枝」のこと。 このキャラは彼女の付きの侍従である。
https://w.atwiki.jp/yugio/pages/5280.html
六武衆の侍従(OCG) 通常モンスター 星3/地属性/戦士族/攻 200/守2000 下級モンスター 六武衆 戦士族 風属性
https://w.atwiki.jp/chaos-tcg/pages/530.html
フィーナの侍従「ミア・クレメンティス」 読み:ふぃーなのじじゅう「みあ・くれめんてぃす」 カテゴリー:Chara/女性 作品:夜明け前より瑠璃色な 属性:光 ATK:0(+3) DEF:1(+2) Main 〔【スタンド】から【レスト】にする〕自分のデッキの上から2枚を見て、それらのカードを好きな順番でデッキの上に戻す。その後、カード1枚を引く。この能力は1ターンに1回だけ発動できる。 T:わたしは、フィーナ様のお側に仕えさせて頂いております C:姫さま、それは内緒に…… illust:オーガスト AU-004 T C 収録:トライアルデッキ 「OS:オーガスト1.00」 / ブースターパック 「OS:オーガスト1.00」
https://w.atwiki.jp/eiketsu-taisen/pages/237.html
武将名 こじじゅう 至純の輝剣 小侍従 統一名称:小侍従 生没年:不明~1565「あなたの剣の腕前 味見させてもらいましょうか」足利義輝の側室。進士晴舎の娘。寵愛は深く、二人の娘をもうける。永禄の変が起こり義輝が暗殺されると、三好氏に捕らえられた。死を目前としても毅然とした姿勢を崩さず、処刑人が初太刀を外した時、その不甲斐なさを叱咤したという。 勢力 玄 時代 戦国 レアリティ SR コスト 2.0 兵種 槍兵 武力 7 知力 6 特技 昂揚 計略 進士流抜刀術(しんじりゅうばっとうじゅつ) 武力と移動速度が上がる。さらに効果中に一度だけ斬撃を行えるようになる 必要士気 4 効果時間 知力時間 Illust. toi8 声優 早見沙織 計略内容 カテゴリ 士気 武力 知力 速度 兵力 効果時間 備考 強化 4 +6 - 50% - 9.6c(知力依存0.4c) 一度だけ斬撃可 (最新Ver.1.5.0H) 調整履歴 修正Ver. 変更点 内容 備考 Ver.1.0.0D 武力上昇値 +5 → +6 ↑ - Ver.1.5.0H 効果時間 9.2c → 9.6c ↑ - 所感 コスト比で平均的な武力と中程度の知力を併せ持つバランス型槍兵。 特技に昂揚を備え、総じて手堅くまとまったスペック。 計略は武力・速度上昇に加え、1度だけ斬撃を可能にする単体強化。 効果時間もそこそこ長めであり、士気4計略としては破格の性能。 一方でこの計略一つで戦況を変えるほどの力はなく、漫然と使っても戦果は得られない。 速度上昇と長めの効果時間を活かして相手の足並みを乱すなど、使いどころを見極めて発動したいところ。 解説 足利義輝の側室。 正室は近衛稙家の娘で近衛前久のきょうだい(姉か妹かは不明)にあたり、こちらにも子供が2人いる。 進士賢光は小侍従の父の甥、つまりいとこの関係。 娘2人は義輝と小侍従の死後も生き延びている。 なお開幕台詞の味見が示唆しているが、進士流とは本来剣術流派ではなく料理流派である。 夫の影響で包丁術を剣術に昇華させたのだろうか? 正月セリフで言及している搗ち栗は当時、実際に「勝ち」につながる縁起物として食べられていた。 武家が戦に出陣するときは打ち鮑、昆布と共に食して「戦いに打ち、勝ち、喜ぶ」願掛けとして使われていた。 台詞 \ 台詞 開幕 あなたの剣の腕前、味見させてもらいましょうか 計略 進士流抜刀術、一撃で決めます! └絆武将 技は日々進化します。進士流奥義! 兵種アクション でいやあ! 撤退 義輝様! 復活 仕留め損ないましたね 伏兵 もらった…! 攻城 ここで私を始末したかったんでしょうけど、そうはいきません 落城 そんな腕前では、刀が泣いていますよ 贈り物① 金の延べ棒!? 流石、太っ腹ですね…… 贈り物② 小侍従は通称で、同名の方が多くいますので足利義輝様の妻・小侍従と覚えて下さい! 贈り物(お正月) 私は搗ち栗が好きです。「勝ち」に通じて縁起もいいし、何より甘いからです 贈り物(バレンタインデー) 進士の技を持って、あなた好みのチョコレートを作りました。どうぞ……! 贈り物(ホワイトデー) ふぁ、もふいただいへまふよ……し、失礼!このマシュマロとても美味しいです! 贈り物(ハロウィン) 今日は宣教師の方に教えていただいた吸血鬼という妖怪の姿をして遊ぼうと思います。 友好度上昇 仕留め損ないましたね 寵臣 幕府再興、そして義輝様の天下のために 贈り物の特殊演出 ① 会話武将 台詞 玄011小侍従 義輝様、見てくださいこの金の延べ棒!当世の金は振ると音が鳴るのです! 玄001足利義輝 軽いな……ああ、中に小袋が入っているのか。面白いことを考えるものだ。 玄011小侍従 えっ!?あっ……そう、そうなのです!!……そうなのですね…… 玄001足利義輝 顔を上げよ、中身はおぬしの大好物の甘味だ。……ふ。その顔、贈り主にも見せるのだぞ。 ② 会話武将 台詞 玄014進士賢光 何を作ってるんだ? 玄011小侍従 ”梅焼”……にする、鯛のすり身です。九朗兄さんが前に作ってくれた! 玄014進士賢光 前正月に出したんだったか、よく覚えてたな。にしても、料理にしちゃ気合が入ってやがる。 玄011小侍従 私も進士の娘です。何事も、もちろん包丁術だって怠るつもりはありません! 玄014進士賢光 いい心がけだが、あまり根詰めすぎるなよ。時間はたっぷりあるんだからな! 情報提供・誤った点に気付いた等、何かありましたら気楽にコメントしてください。 名前 ホワイトデーにマシュマロって… - 名無しさん (2023-03-23 23 24 31) 絆武将で計略台詞は「技は日々進化します。進士流奥義」でしたね。 - 名無しさん (2022-09-26 18 23 20)
https://w.atwiki.jp/amizako/pages/259.html
1 ペニス笠持ち ホーデンつれて 入るぞヷギナの ふるさとへ 謹厳をもって知られた前の鉄道病院長H博士が晩年、酔余にまかせてつくった即興詩の一節である。おそらく高踏乱舞、談論風発の後、ようやく歓楽極って、成ったものであろう。そのとき、座に今は亡き北原白秋翁あり、詩人白秋は剛直、苟《いやし》くもせざる人柄であるにもかかわらず、おのずからにして湧くがごとき感興を禁じ得ざりしもののごとく、たちどころに筆をとって次韻《じいん》を付した。すなわち次のごときである。 来たかヷギナの このふるさとヘ ペニス笠とれ 夜は長い これを私(作者)に伝えた人は共に席を同じうしていた歌人の岡山巌博士であるが、これを聴いて微吟すること数回。──妖しくも、ほのかなる幻覚の世界はたちまち縹渺《ひょうびょう》として私の眼の前にうかぴあがってきた。読者もまた志あらば端坐して威儀を正し、心しずかに繰返えしてみらる丶がよろしかろう。疑うらくは、月落ち風さわやかなる秋の一夜、ペニスと称し、ホーデンと名乗る世にも奇怪なる相貌《そうぽう》を備えた人物が、蹌々踉々《そうそうろうろう》として、歩むがごとく泳ぐがごとく昂然と肩をそびやかして夜霧の中に没し去る姿が影のごとくうかびあがるであろう。世にこれほど侘しく、切なく、悲しきものはあるまい。古往今来、性器を擬人化して、これに高邁なる形式をあたえ人の世の喜怒哀楽はもとより、盛衰浮沈のあとを象徴した歌詞は少からずあったであろうが、しかし、考えようによっては醜怪見るに堪えず、天下の貴顕淑女をして、軽蔑、憎悪、覚えず眼を反けざるを得ざらしむる異形の怪人物の姿を、かくまでに浩々蕩々たる感情の中に美しく悲しく描きだしたものはあるまい。洋の東西に求めてもこれに比肩し得べきものを見出すことは困難であろう。 ところで、ペニスが主人であり、ホーデンが従者であることは、生れながらにして彼等のあたえられた位置と境遇の示す運命であって、恰かも大石内蔵介のあとに寺西弥太夫がつづき、ドン・キホーテのあとから、サンチョ・パンサが荷物をかついで随従するがごときものである。とはいえ、開闢《かいびやく》以来、ペニス大公の罪業は数知れず、天下の子女の恨はことごとくこの梟雄《きようゆう》の一身に集っているがごとく見ゆるにもかかわらず、しかし、いまだかつてホーデン侍従を憎むものあるを聞かないのは彼が常に利害打算の念に暗く、どことなく間が抜けていて、いつも損ばかりしていながらしかもなお泰然自若として運命に安んじているところにあるらしい。大ブリテンの文豪ジョージ・メレデスは、「トラジック・コメディアン」の一篇によってその文名を不朽ならしめた。あ丶、「トラジック・コメディアン()ー悲劇的な喜劇俳優こそは、「ふぐり」と呼ばれ、俗名、睾丸若しくは「キン玉」と呼ばれるところの、わがホーデン侍従なのである。 巷間に唄われる「サノサ節」の中にも、夜ふかく、ペニス大公が霜を踏んでヴギナの門を潜ろうとする野望をおさえきれず、言葉巧みにホーデンを誘惑する一節がある。「ゆうべのところへゆこうじゃないか」と唆《そそのか》しかける大公に対してホーデンは寒そうに両肩を顫《ふる》わせながら答えて日く「私も御意に従いたいとは思いますが、何しろこの図体では折角お伴をしたところで到底御同席のでぎるという身分ではないし、ましてこの寒空に裏門の戸をたたいて待っているわが身を考えるとあまりにも情のうございます」 ホーデン侍従の嘆きが深ければ深いだけに彼に対する同情と親愛の念はひとしお止みがたきものとなることはもちろんである。杜甫《とほ》は、「夜深うして間道より帰れば故里唯空村」・とうたい、望郷の思い惻々《そくそく》として迫るがごとくであるが、わがホーデンにいたってはどのような天変地異が生じたとしても永遠に「中へはいれる」身ではないのである。石川啄木は、「ふるさとの山に向ひていふことなしふるさとの山はありがたきかな」と詠じているが、啄木もまた、おそらくホーデシの嘆きを不遇な運命に託してうたったものと思われる。 とはいえ、ホーデンが男性の象徴であり活力の源泉であることは私が声を大にして特に説明するまでもあるまい。悪たれ小僧どもが喧嘩をするときに、貴様それでもキン玉があるのかーと怒号する言葉が説明するごとく一朝事あるときに人は必ずホーデンを想い起すのである。今はむかし、戦国の世に、本多平八郎忠勝の親爺が、小桜を黄に返えしたる鎧《よろい》に身をかため、鍬形《くわがた》に金の兎の兜の緒をしめ、いよいよ初陣に立とうとする伜の股倉に手を差しのべた。だらりと下ったホーデンを握りしめ、これなら大丈夫だ、といって呵々大笑したというはなしは絵物語の中にも残されているが、男の度胸はホーデンが縮みあがっているか、それとも、だらりと下っているかということによってのみ決せられる。これはひとり人間だけではなく、もし読者が瀬戸物屋の店頭を飾る狸の置物を御覧になれば立ちどころに納得されるであろう。ひとたび化けるや、その広さは畳八畳敷にひろがると言われるほどであるから伸縮作用の変妙なることは、まことに言語に絶するものがある。されば、過ぐる西南戦争の折、主将西郷南洲の睾丸が炎症のため冬瓜(トしガン)のごとくふくれていたことが敗北の原因であったという珍説が今日伝えられていることにも一応の理窟はあろう。もし、そうでなかったとしたら戦局はどのような変化を示したかわかるまい。かかる俗説に、歴史認識をくつがえすほどの根拠はないとしても、しかしワーテルローの決戦に、前夜雨が降ったか降らなかったかの一事によってのみ、勝敗の運命が定まったという解釈と同工異曲たるべきは言を俟《ま》つまでもないのである。「九月二十三日城山やぶれ、西郷どんな駕籠から、逸見どんな馬から」という自然に出来た俗謡はこの間の消息を如実的確に伝えている。西郷はこのとき睾丸がふくれて行動の自由を失っていた。それ故、止むなく駕籠に乗って戦場を駈けめぐらなければならないような悲境に身を置いていたのである。故に曰く、もし彼が馬上ゆたかに陣頭に立ち全軍を指揮していたとしたら薩摩隼人《さつまはやと》の士気はたちまち奮い立ち、あるいは一挙に熊本城の堅塁を屠《ほふ》って九州一円を席捲《せつけん》し得たかも知れないのである。云々。いずれにせよ、ホーデンの存在が、その悲劇的運命によって、いよいよ重要さを加え、世にも複雑怪奇なる作用を示しつつあるかということは、もはや天下周知の事実である。それにもかかわらず、終戦早くも年古りて、国は破れ山河は存すれども、人はようやくホーデンを忘れ、この愛すべきトラジック・コメディアンの姿を顧みようとするものもない始末である。あ丶ホーデンよ、ふぐりよ、睾丸よ、 故郷の山を遠くはるかに望み見ながら、ヴギナの門前に悄然《しようぜん》として立ちつくす君の姿の哀れさよ。その哀れさこそ、すなわち、われ等の今日の運命でなくて何であろうか。しかし憂うるなかれである。われ等は何れかの日に必ず君を思い、君の存在をたしかめて、ほっと胸を撫でおろすときがあるであろう。私は確信する。救国の英雄たるべき君の姿が必ず脚光を浴びてわれ等の眼の前にどっしりと胡坐《あぐら》をかくべき日の遠からざらんことを。 2 ある朝、私が久しぶりで折山博士を訪れると、博士は、いつものように研究室の、窓に向いた机によりかかって、何か一見して魚の臓腑《ぞうふ》のようなものをガラス板の上に置き、おそろしく厳粛な態度で上体を前屈みにしたまま、旧式の顕微鏡でじっと覗《のぞ》きこんでいた。 私は、博士の研究室を訪れるときには、いつも足音を立てないようにはいってゆく習慣がついているので、その日も入口の扉をそっと押しあけ、泥棒が忍び込むような恰好をしてはいっていった。 だから、もちろん博士は私が博士のうしろの事務椅子に腰をおろしていることなぞを知るよしもなかった。黙っていたのは、もちろん博士の研究を妨げてはならぬという心づかいもあるにはあったが、それよりも、相手をびっくりさせてやろうという悪戯《いたずら》こころの方がはるかにつよかった。 私が博士と知合いになってから、もうそろそろ五年あまりになるであろう。私が伊豆半島の東海岸にあるこのA町に疎開して来てからであるが、博士がこの土地に落ちついたのはやがて二十「年も前で、今こそ一流の温泉地として全国に知られているけれども、その頃のA町は、昔、源頼朝が蛭《ひる》ケ小島へ流された之き、徒然《つれづれ》のあまり、この土地の管領であった伊東祐親の娘と恋愛遊戯に耽《ふけ》っていたというだけで、多少、史実的に知られている古風な一漁村にすぎなかったのである。やがて、丹那トンネルが開通するようになってから貞この町はめきめきと繁栄を示し、宏壮な温泉旅館が、海から山につながる盆地に、軒をならべる時分には、漁村は片隅に追いつめられて、たちまち、絃歌さんざめく歓楽地帯に一変したが、折山博士がこの土地に居を定めたのは、この土地がまだ名もなき一寒村の頃である。 もっとも、博士といったところで、折山医師は、ほんとうの博士ではない。唯、われわれが心からの敬意を表するために博士と呼んでいるだけのことである。 そんなことはどうでもいい。とにかく折山博士は、終生を医学士で推しとおした有名なM先生(東大のM内科といえば今でも人の記憶に残っているであろう)の高弟として、M先生の理想を実現すべく、大学を卒業すると間もなく、丹那トンネルに働く労働者のための健康医としてこの土地に派遣されたのである。そのま丶先生がここにいついてしまったのは、風光明媚《ふうこうめいび》なこの土地が先生の気に入ったからでもあろうが、若き日の先生はおそろしく情熱的でもあり、それに当時は金で買うことのできる博士が濫出《らんしゆつ》している時代だったので、われこそM先生の抱負を実現して、体験を誇る町医者としての最高権威たらんと欲するところに動機があったらしい。人の噂によると、先生はここで煙草屋の娘に惚れ、それが家付の長女なので土地をはなれることができず、ついに意を決して恋愛に殉ずることになったという話でもあるが、およそ人間の決心というものは一つや二つの動機によって定まるものではない。してみれば、それもほんとう、これもほんとうというのが先ず偽らぬ真実であるかも知れぬ。それはそれとして、ある時期、先生の声望はこの小さな漁村を圧倒していた。今は繁栄街からとり残された丘の中腹にぽつんととり残された、見るからに古色蒼然たる廃屋のごとき病院であるけれども、さかんなりし日にこの病院がいかに町民の誇であり、名誉の象徴であったかということ嘆入・に神代杉の大木を組み交わして、遠-から見るとまるで鳥居のような堂々たる門を一暼《いちぺつ》しただけでもそれと納得されるであろう。「上天病院」と書いた門標は、すでに鬱蒼たる夏みかんの葉に掩われて見えなくなっているが、考えてみると呼吸器病患者の多いこの土地で、先生によって命を救われた人間が何人あるか知れないのである。 とはいえ、浮沈転変は人の世の常である。先生が、ふとした機《はず》みで、癌《がん》の研究に没頭し、一切の診察治療を拒絶して、研究室にとじこもるようになってから、この町の人たちは、うす紙をはがすように一日一日と先生の存在をわすれ、いつの間にか折山先生といえば、半ばの軽蔑をひそめて「あの仙人か」というようになってしまった。いや、町の人たちだけではない。末かけて偕老同穴《かいろうどうけつ》と契った糟糠《そうこう》の妻でさえ、ついに愛想をつかして実家へ帰ってしまってから早くも十余年になるのだから、今日にいたってはこの病院が狐狸の棲家と思われるほど荒廃しつくしてしまったことはむしろ当然というべきであろう。 かくのごとく落魄不遇《らくはくふぐう》の境涯に身をさらしている先生ではあったが、しかし、数人の風変りな心酔者は、今日といえども、なお先生の周囲にあつまっていた。実をいえば私もそのひとりなのである。 前置きが、だいぶ長くなったが、私が息をころすようにして先生のうしろに腰をおろしてから、およそ十二三分も経ったであうつか.先生はやっと人のいるちしい気配をかんじたもののごとく、慌て丶くるりとうしろを振り向いた。 「やア、あなたでしたかーこれはどうも」 ふさふさと伸びた白髯《はくぜん》がぶるぶるっとふるえた。「いいところへ来てくれましたな、今日はひとつ底を割って私の秘宝をお伝えしたいと思っていたと.」ろですよ」 先生がこんなに上機嫌で、屈託のない顔をしていることはめずらしい。私がきょとんとして眼げを臘っていると、先生は知麟に、ガラス板の上にある魚の臓腑のようなものをゆびさした。 「これですよ、何だと思います、これを?」 「さア」 といったま丶、私は口を噤《つぐ》んでしまった。見ようによってはボラのへそのようでもあるし、ブりの肝のようでもある。私は魚については相当に該博《がいはく》な知識を持っていたが、しかし、この蒟蒻《こんにやく》玉のように、ぐにゃぐにゃとくずれたものが何であるかということはついに見当もつかなかった。すると、私の呆然として当惑している姿がすっかり先生の気に入ったらしく、いかにもわが意を得たという面構えで、 「狸ですよ」 低いが、自信にみちた声である。 「えっ、狸ですって?」 「そうです、狸の睾丸です」 `私はどきっとして、ガラス板の上に視線を凝らした。「狸の睾丸を一体何になさるんです?」 「いや、それなんですよ」 と、先生は急に厳粛な表情をして、ポケットの中から皺《しわ》くちゃになったピースを一本とりだして口にくわえ、マッチをすった。 「やっと私の研究も思う壺にはまってきたんです」 先生は、それから非常に静かな、ゆとりのある調子でしゃべりだした。 先生が癌の研究に没頭するようになってから早くも十年あまりの年月が経っている。先生の言葉はおそろしく早口な上に、耳馴《な》れない術語が矢継早に出てくるので生理的知識に乏しい私はまったく要領をつかむのに当惑してしまったが、大ざっぱにいうとあらまし次のような話になる。およそ細胞の増殖には一定の方式があるが、癌細胞の分裂する速度とくると、こいつは驚くばかりで、これを方式によって捕捉することのできないほど乱脈迅速を極めている。そして、このような逞《たくま》しい増殖力をもつ細胞の本質を極めるところに先生の研究の目的があった。ところが、先生は細胞分裂の速度を研究しているうちに、やがて分裂の動因をつくるものが染色体の作用にあるということを発見したのである。このへんから私の認識はしどろもどろになってくるが、先生.の意見によると細胞の中には小さな核があり、無数の染色体がその核の内部に浮遊している。細胞は増殖するにつれて分裂し、その分裂の直前になると、染色体が螺旋《らせん》状を描いて核の中心部にあσまってくる。その螺旋体が分れるときは交互に一つ一つ分裂して次第に核の両極にあつまってゆく。すると、いつの間にかまん中に膜が出来て等分に二つの部屋に分離することになる。この染色体の中に性染色体と称するものがあって、その作用如何によって男女の性別が生ずる。 先生は最初その作用を植物の花粉によって実験したところが、性染色体の究明に没頭しているうちに、これこそ人間の活力の原素であるという暗示に到達した。それが機縁となって動物の睾丸の研究にうつり、鼠の睾丸から猫の睾丸、猫から更にイタチに進み、イタチから犬に転じて、幾度となく実験を試みたが、どこかにまだ不明瞭なものがあり、ついに、もっとも人間に近いと推定される意味において狸の睾丸を実験することに希望を持つようになったものの、何しろ当時終戦直後ではあったし、狸を手に入れるなぞということは容易ならざるはなしで、たちまち二三年間が空しく過ぎてしまった。然るに天なるかな、命なるかな、最近この町に住む先生の崇拝者の一人である写真屋の古巻《ふるまき》という男の世話でやっと狸の睾丸を買いとることが出来たので数日前から実験にとりかかったばかりのところであるという・ 「この実験が成功すれば」 先生は、思わず息を呑んだ。「君、期せずして不老不死の薬が完成されることになるんですよ、秦の始皇帝以来、世界の懸案となっていた不老不死の名薬が私の手によって、いよいよこの世の中に形をあらわす日がもう眼の前に近づいているんです」 折山博士の眼は異様な光りを帯び、痩せおとろえた頬がいきいきと輝きだした。もはや癌の研究どころではない。私はきょときょと先生の顔を見据えたま丶茫然自失してしまった。合槌《あいつち》をうつ余裕さえもないのである。しかし、先生はそんなことに無頓着で、一気にまくしたてた。 「その上、君、調子のいいときにはいいもので、これも古巻君の尽力で今度、人間の睾丸が手に入ることになったんだよ、これではじめて画竜点睛《がりようてんせい》ということになるんだ」 「人間ですか?」「そうだよ、それも死んだ人間の睾丸じゃない、健康でぴちぴちしているやつが来る筈だから」 私はもはや狐につままれたような気もちで、絶え間なしに動く折山博士の顔面神経にじっと視線を凝らしたまま声を立てることも出来なかった。そこへ、急にうしろの扉があいて、垢《あか》じみたよれよれの国民服を着た古巻七五郎が、狡猾《こうかつ》そうな愛想笑いをうかべながら入ってきた。 古巻はこの町に住む写真屋であるが、私は彼の店に客の入っているのを、まだ一ぺんも見たことがない。彼についてはいろいろな噂があり、その噂の大半は、それをことごとく信ずると、彼こそ極悪非道の典型的人物のようになってしまうが、私は、はじめて会ったときから、この男は何に対しても一種のマニヤともいうべき凝り性で、狂気じみた情熱的なところがあり、金儲けでも恋愛でも、打ちこんだら最後、底の底まで窮《きわ》めつくさなければ気がすまぬという種類の人物であることを理解した。こういう性格の男は、極端に冷酷であるかと思うと、また途方もなく人情もろく、まったく常識では判断の出来ないような調子はずれなところがあって、そこにまた何とも言えないような味があるものである。 だから、私は、彼が雪舟の偽物を売ってしこたま儲けたとか、陸軍大将の未亡人をだまして金を捲きあげたとか、妾を五人も持っているとかいう話をきいても、それがために彼を批難するという気もちにはならなかった。というのは、彼がどういう風の吹き廻しか私に対しては実に親切で、思いやりがふかく、まだ疎開してきたばかりの頃、この町に知合いもなければ伝手《つて》もなく、どこに何があるのかわからぬようなときでさえ、頼みもしないのに米を運んだり魚を持ってきたりしてくれる。それがいつの間にか私の好きな喰べものまでちゃんと心得てしまって、今日は久しぶりでエビの天ぷらをつくりましたとか、ナマコのいいやつが見つかりましたとか、これは手製のドブロクですとかいって台所口からのっそり入ってくると、もう善悪の判断もなく、たちま.ち人情にほだされてしまう。昔から喰い物の恨みはいちばんふかいと言われているのだから、恨みがふかければ恩もふかいにきまっている。 だから、私はむしろ逆に古巻七五郎の悪態をつく人間の方を警戒する習慣がついてしまっているようなわけで、その古巻が折山諸撃同情し、四面楚歌《しめんそか》の中にある.あ老学究のためにひと肌脱こうという話をきけば、いかにも尤もだと考えざるを得なかった。 古巻は先客である私の顔を見ると、 「これは偶然ですな、お伺いしようと思っていたところです」 と、いかにも機みのついた濁《だ》み声でいった。 「うどん華《げ》の花も咲くと言いますからな、折山先生もついに終りを全うされましたよ」 せっかちの癖で、彼は烈しく貧乏ゆすりをしたと思うと、すぐ老先生の方を向いて、 「お約束のはなしなんですが、実は今朝になってから相手の女房の方から文句が出ましてね」 「じゃあ、駄目なのかい?」 「いや、駄目じゃないんですよ、先方はすっかり乗気になっているんですが、私があれほど女房には内密にしろといっておいたのに、うっかりしゃべってしまったんですね、何でも女房の言い分では、睾丸というものは一つあれば充分用が足りるなぞといったところで、そんなことが当てになるものか、お前さんはそれでなくっても、いざというときにバネの利かなくなってしまう人なんだから、それが、いよいよ一つしかないことになったらわたしがどんなにやきもきしたところで間に合いませんよ、そういって泣きながら口説かれたわけですね、何しろ女房には、から意気地のないやつだもんだから、それでへたへたとまいって、今朝の明けがた、私の家へやってきたんですが、まア、あいつにしてみれば無理もないんですよ、それでいろいろ押問答をした末に、先生から一筆、睾丸は一つあれば男女の交合にいささかも差支えるところなく、また誤って万一のことがあったらいかなる賠償《ばいしよう》にも応ずるという証文を書いていただくということにしてやっ とケリがついたわけですが」 「そんなことはわけのないことだ、早速書こう」 先生がテーブルの抽出《ひきだし》をあけて、十余年前に印刷して、もう灰色にくすんでいる処方箋の用紙 をとりだすと、古巻は、 「それから」 と、たたみかけた調子でいった。「いよいよ現物の取引を行う前に二千円だけ手金としていただきたいといっているんですが」 「そいつは困ったな」 先生の顔には、かすかな哀愁がうかんできた。「もう売るものといっちゃあ、ほら、あの神代杉の門しか残っていないんだが、それにしたって早急においそれと買い手がつくわけもないし」 家屋敷はもとより、庭石から植木の類にいたるまで一本残らず、抵当に入れたり、売りつくしたりしている今日、もはや金の目当になりそうなものは何一つ残ってはいないのである。 「そうですな」 といって、古巻はしばらく考えこんでいたが、すぐ決心したように膝をぽんとたたいた。「事ここにいたっては止むを得ませんからな、じゃあ私がひと先ずあの門を五千円で引きとりましょう、あの男との最初の約束は五千円ですが、あいつには七年前に二百円の貸しがありますから、今の相場に直して、千円だけ差引かせ、残りの金をすぐ先生の方へお届けしましょう」 「いや、そうしてもらえば、実にありがたい。古巻さん、万事あなたにお願いしますそ」 「いいですとも、1そのくらいのことが出来なくっちゃあ、不老不死の名薬の権利をとることは出来ませんよ」 古巻はやっと安心したような落ちつきを示して、にやにやとうすら笑いをうかべた。「それに、あいつにしたって一生に一ぺんくらいは私に対する義理を果さなきゃあ生きてゆかれませんからね」 あいつというのは、この町から一里ほど先きにある炭焼の邑《むら》に住む又狩久太という若い男で通称久さんと呼ばれている。先祖歴代|木樵《きこり》を商売としていたのが、法外な税金を取立てられる上に、この数年のあいだにどの山も材木という材木が片っぱしから伐り倒されてしまったので、だんだん生活に追いつめられ、全村を挙げて今や飢餓に瀕しているような始末なのである。 古巻が久さんの面倒を見るようになってから、もうずいぶん長い年月が経っているが、彼が七年前に二百円貸したのは、町の大地主で、助鉄というあだ名で通っている八十ちかい老人が、たぶん、これも一種の若返り法のためであろう、こっそり古巻を呼んで、何とかして若い男女が合歓を重ねている写真をうつしてもらえまいか、これならいくらでも出すからといって、親指と人差指でつくった丸い輪を何べんとなく彼の眼の先きへ突きつけたそうである。古巻はもとより二つ返事で、老人から手の切れるような百円紙幣を五枚うけとり、帰ってくると、すぐ自転車で山の中の炭焼の邑へ出かけていった。 「まったく、苦労しましたね、早速久さんをよびだして、相談してみたところが、まだ貰ってから三月も経たないような女房だし、 いや実はそこにこっちのつけ眼があるんですがね、ところが、自分はともかく女房が承知しますまいというので、すぐさま二百円握らせたところが、久さんもやっと決心がついたらしく、二日がかりでとにかく女房を納得させることが出来たというわけですよ、そうときまれば善は急げですからね、私はすぐ写真機をかついで駈けつけました」 「それで、首尾よく写したわけですな?」 聴いているうちに私の方がハラハラしてきた。すると古巻は何事かを思いだすように、じっと眼をとじ、 「いや、もう、ひどい目に遭いました、やっぱり、こいつはずぶの素人をいきなり舞台に立たせたようなもので、からっきし役に立ちませんや、久さんは久さんで苛々《いらいら》している、女房だってすっかり観念しきっているんですから、どうにでもなれという気もちになっている託ですが、こっちだって早取写真のようにいきなりパチンとやるわけにはいきませんよ、色々工風《くふう》してみましたが、とうとう仕事は大失敗の上に、今更手金を戻せというわけにも、ゆかないもんだから、そのままになってしまいました」 古巻のことだから、むろん、どこからかわけのわからぬ写真をさがしだしてきて、うまく助鉄老人をゴマ化し、あ紅あまるほどの謝礼をとったにちがいないと思われるが、しかし、結局そのときの手金によって生じた義理がキッカケとなって、久さんはついに睾丸を、一個、四千円で売、らなければならないような結果になったものらしい。古巻はせきこむような調子で一席まくしたてると、 「じゃあ、ひと息に仕事を片づけちまいましょう」 といって立ちあがった。私も彼につづいて先生に別れを告げた。ゆるゆると坂を下り切ったところで「上天病院」の方をふりかえってみると、老先生が、壊れかかった玄関の前に立っている。さすがに名残が惜しいのであろう、じっと空を仰ぐような恰好をして神代杉の門を見あげていた。 4 A町の駅からあふれだした人の波が曲りくねった小路を通りぬけて、街道へ出ようとするすぐ手前のところで道が二つにわかれている。その右側の、うしろが材木置場になっている空地の角に小さな串かつ屋の屋台店が出来たのは、それから十日ほど経った頃だった。 その店は、串かつが安いのと、自家製のドブロクがうまいというのでたちまち町じゅうの評判に訟った。それに、繁華街からちょっとそれたところにあって、両側がよしず張りになっているので人眼を避けて入るのに都合のいいような地の利を占めている。 私が、同じ町に住む洋画家の青貫白水に誘われて、この屋台店の暖簾《のれん》をはじめて潜ったのは、やっと三月になったばかりの、おそろしく風の寒い晩だった。 主人は三十五六の、色の浅黒い、見るからに屈強そうな威勢のいい男で、青貫とはもうすっかり顔馴染になっているらしく、 「やア、いらっしゃい、11今日は昼すぎから邑の連中を招待したもんだから、うっかり飲みすごしちまいましてね、そろそろ店じまいにしようかと思っていたところなんで」 彼は、煮しめたような手拭をとり、器用な手つきでねじり鉢巻をすると、すぐ「串かつ」をあげるために七輪の火を煽ぎだした。 「そいつは大した景気だね?」 青貫が、なみなみとつがれたコップの白馬をぐっとひっかけた。 「いや、おかげさまで」 といってから、串かつ屋の親爺はうれしそうな微笑をうかべた。世の中はまったく何が幸いに馬なるかわかったものじゃありませんよ、この店をはじめる当座なんかときたら、二進《につち》も三進《さつち》もゆかないような貧乏で、仕方がねえから女房を夜の女に出そうなんて、いや笑い事じゃねえ、本気で考えたほどですよ、ところが先生、時世ががらりと変りましたね、男なんてものは行き詰ったが最後、首をくくるか、さもなけりゃ泥棒でもするよりほかに能がないと思っていたところが、売る気になりゃ立派に売れるものがあるんですからね、何も生きるのにくよくよすることはありませんや」 「売れるって、 何が売れるのかい?」 青貫が眼をパチパチとうこかすと心持ちぐっと肩を前へ乗りだすようにして、 「キン玉ですよ」 と噛みつくような声でいった。 「何だって」、 「だから、夢みたいな話じゃありませんか、私もまさかと思ったが、苦しまぎれにたたき売ってみると、何の雑作もありませんや、大体あんなものを二つもぶらさげているのが贅沢なんで、一つだけ残っていりゃあ、それで結構役に立つんですから」 酔った勢いで彼は一気にまくしたてた。「串かつ屋」の親爺が、古巻の話の中にあった炭焼邑の久さんであることはもはや疑うべくもない。私は、ほろ酔い機嫌で、いきいきと冴え返っている久さんの顔を、あたらしい好奇心をもってしみじみと眺めた。彼は睾丸を売った四千円の金を資本にして、この屋台店を開いたのである。 「それも、はじめはやけっぱちで売ったものの、われながら、なさけなくて生きるにも生きられぬような気もちでしたが、今となるとそれどころか、日本じゅうの人間に片っぱしから知らせてやりたいくらいですよ」 「おどろいたな、iそれで、君の方はいいとしても、おかみさんが苦情を言わないのかい?」 「苦情どころか、あんた、大喜びですよ、今までは、あんなものが、どかんと腰をおろしていやがるもんだから何彼《なにか》につけて不自由だったのが、今度はどこへだって気楽にすうっとばいってゆずけるんですから」 彼が声をおとして、何かひそひそと話しかけようとしたとき、裏の方から、 「唯今」 という、弾力のある若々しい声が聞え、束ね髪にした、ほそ面《おもて》の、色っぽいというよりも、ちらっと見ただけでも健康そうな、すべすべした小麦色の皮膚がぴいんと張りきっている、二十二三の女がはいってきた。まこう方なき彼の女房である。一瞬間の印象ではあるが私は久さんの夫婦生活がいかに順調で、愉しく充実しているかということを犇々《ひしひし》とかんじた。 「それで、先生、ひとつ御相談があるんですが」 と、彼は女房の顔をちらっと見てか与、急に声の調子を変えた。「こんど、この屋台を少しひろげることになったんで、あたらしく暖簾を出そうと思っているんですが、それで何とか今の私の気もちにぴったりした名前をつけたいと思っているんですよ、まさか、串かつキン玉ともつけられないし、何かいい名前はありませんかね?」 私は飲み心地のいいにまかせて、すでに三杯の白馬を一気に呷《あお》っていた。下地が入っているところへ立てつづけにひっかけたので、酔いが一ぺんに廻ってきたらしい。青貫がもじもじしているあいだに、私は横合いから大声で叫んだ。「そりゃあ、君、ホーデンにかぎるよ、語呂もいいし、景気もいいし、その上君が旧恩に酬ゆる意味においたって」 何を言っているのか自分にもよくわからなかったが、しかし私はすぐ立ちあがって、感興のうヂ、」くにまかせ、低い調子でうたいだした。 ペニス笠持ち ホーデンつれて 入るぞヷギナの ふるさとへ、 痺《しび》れるような酔いは全身に沁みひろがっていた。何時、串かつ屋を出て、何処で青貫と別れたのかハッキリおぼえていない。町中をひとすじの川が流れている。早春のうす月が空にかかり、行手は白い靄《もや》であった。靄に掩われた川ぞいの道を私は、ひとりで微吟低唱をつづけながら歩きだしたのである。すると、夢ともつかず現《うつ》つともつかず、例によってぬっと肩をそびやかしたペニス大公のあとから、せかせかと足どりも軽くすべるように動いてゆくホーデン侍従の姿が影絵のようにうかんできた。 しかし、彼はもはや昨日のホーデンで憾ない。余計な重荷をさらりと捨てた今夜の彼は心も軽く身も軽く、ペニス大公の御意にまかせて、ヴギナの門をすべるがごとく入ってゆくであろう。、ふるさとの山を遠く望んで涙|潸然《さんぜん》たりし日は早くもすぎし日の夢なのである。故山の人情は暖かく、されば、山も川も歓呼の叫びをあげて彼の帰郷を迎えるであろう。 5 あ丶、ホーデンよ、ふぐりよ、睾丸よ、 予が君を救国の英雄に擬《なぞ》らえたことは決して嘘でもなければお世辞でもなかった。何となれば、折山博士による性染色体の研究はいよいよ最後の段階に到達して、不老不死の名薬は日ならずして完成しようとしているからである。 古巻七五郎は、眼が廻るようにいそがしくなってきた。彼はこの秘薬製造の会社を設立するために東奔西走しなければならぬ。何よりも必要なものは資材であり原料であるところの睾丸であるが、運のいいときはいいもので、幸いにも久さんの屋台店の成功したことによって、炭焼邑の住民は老若を問わず、ことごとく符節を合すように睾丸を売ることを志願してきた。今まで火が消えたように萎れかえっていた村民はこれがために活力をもりかえし、隣保班の班長はすでに一同の意見をまとめて、睾丸を売った金の一部をもって、道路の改修と邑の厚生費用に充てようとしているのだ。 だから、いよいよ、正式に会社が設立されることになれば、睾丸の相場はたちまち暴騰《ぽうとう》するであろう。そこに抜目のある古巻ではない。彼は片っぱしから手金を打ち、ひとりひとりに契約書を取交わした。 ところが、睾丸売却の希望者は一日ごとにふえてくる始末で、もう炭焼の邑だけではなく、噂が町全体にひろがるにつれて、大金が入った上に女房を喜ばせることが出来るというなら正しく一挙両得ではないか、こんなうまい話が滅多にあるものではない、おれも売りたい、いや、おれもおれもという人間があとからあとからとふえて、古巻の家はたちまち門前市を成すような形勢を生じてきた。 こうなると、いかに古巻といえども彼の全財産をはたきだしたくらいでは到底足りるものではない。そうかといって、今こそ絶好の買いどきである。それがために彼は土地を売り、家を売り、あらんかぎりの方法で借金をして、資材の蒐集につとめてきたが、しかし勢いの及ぶところは停止する筈もなく、彼のために資本を出そうという男が続出してくるにつれて、いっそのこと、この計画を全国的に拡大したらどうかという意見も生じてきた。 これがキッカケとなって、東京から濡れ手で粟のひと儲けをたくらむ新囲ハ財閥や、大会社の社長たちが続々と乗り込んできて、古巻七五郎と会談を重ね、この名薬を海外に輸出するための大貿易会社を設立する相談がまとまりかけたとき、折山博士が俄かに横槍を入れた。これこそ正しく救国済民の仕事である。もちろん一個人の私すべきものではない、経営は日本国家があたるべきであると言いだしたのである。言い出したら絶対に自説を押しとおす博士の気象を知っている古巻は、博士を納得させるためには私のほかにはないと考えたらしく、ある晩、白馬を二升手土産に持って私の家へやってきた。もちろん私は一言の下に彼の申出を拒絶した。 「こうなったら、もう利権の問題じゃない、折山博士の意見に従って当然国営の事業にすべきものだ、君だっておぼえているだろう、太平洋戦争の真最中、一億一心という標語によってともかくも政府は全国民をおさえつけていたんだからね、しかし、そんな生半ばなものじゃない、今こそ一億一心じゃなくて、一億一丸だよ、日本建国の基礎は必ず此処に築かれる、そうなれば、国家の再建どころか、日本はおそらく世界の財貨を立ちどころに吸収することが出来るだろう、今や祖国の興廃は一丸の左右するところによって決するのだからな、つまらぬ慾を起すもんじゃないよ」 「なるほど、一億一丸ですか、いい言葉ですな」 古巻はしきりに感心している様子だったが、もちろん私の言葉に動かされるような筈もなく、ふふんと小馬鹿にしたようなせせら笑いをうかべ、ちんぷんかんぷんな挨拶をして帰っていった。まったく余計な睾丸があるばっかしに、つまらぬ野心を起したり、戦争をはじめたりするのではないか。これが全国一丸ときまれば、やれ民族だとか伝統だとかと、他愛もないことにくよくよする必要はなくなってしまうのである。いずれにしても問題は折山博士の発明が何時完成されるかという一事にのみかかっている。私はそのことをたしかめるために、翌日、博士を訪問したが、神代杉の門をとり払った病院は荒涼としてうすら寒く、私が玄関を入ろうとすると、古巻がげっそりと痩せおとろえた顔をして、せかせかと出てくるのにバッタリ出会った。 どうしたのかと訊くと、彼はもう生きている心地もないらしく、しどろもどろの調子で答えた。 「大へんなことが出来てしまったんです、博士が昨日から急病になって、ちょっと手のつけられぬ状態になっているので、ーこれでもしものことになったら、私はもう自殺するよりほかに仕方がないんです」 博士は連日の宴会が祟《たた》って、急性の胃潰瘍になり、吐血が烈しすぎた上に、何しろ老体であるし、輸血や注射くらいでは衰弱を支え得るかどうか見当がつかないような状態に陥っているという。 今は絶対安静を保つために一切の訪問客を絶っているというので、私も止むなく引返えしてきたが、なるほど古巻にしてみれば、彼の打った手金と引換にうけとっている契約書が押入の中に山のように積まれている今日、業半ばにして博士が死んでしまうようなことになったとしたら、もはや不老不死の名薬も、一場の夢に終るであろう。 今になって手金の払戻しをするといったところで、現物は向うにちゃんと残っているのだから、これも容易なことでは話がまとまるまい。それにもかかわらず、博士の命はすでに旦タに迫っているのだ。そして町の温泉宿には遠くからやってきた資本家たちが、もう一ト月あまり、酒と女に涵《ひた》りながら名薬の完成するのを今か今かと待ちあぐんでいるのだ。その資本家たちにどうして実状を知らせることが出来よう。いかにすべきか、どうしたらいいか、否々、伸るか反るか、生きるか死ぬかの瀬戸際なのである。 それにしても男は度胸だ。先ず睾丸にさわってみてから悠々と計を立てるよりほかに道はあるまい。とはいえ、此処に思いがけない名薬が見つかって博士が無事に一命をとりとめることにでもなれば、一切の苦労もたちまちにして消え去るわけである。事は古巻の運命に関りがあるだけではない。われ等の運命を決すべき一丸立国の問題を控えている。いや、一丸立国はおろか、この小説も、今後いかなる方向へ発展すべきか、あるいはこのまま中絶するの止むなきにいたるか、それともホーデン侍従の活躍によって一生涯書きつづけてもなお足りないような民族興亡の大き辱な渦の中へ巻き込まれるか まったくもって見当もつかぬ、まるで雲をつかむような始末なのである。
https://w.atwiki.jp/cbaxis/pages/57.html
☆3.5兵団 コスト 155 特徴 攻撃力、防御力、突撃ボーナスなど全体的にバランスが取れている★3の小盾兵団。 シーズン序盤の☆3戦場の主力格。パレルモや戚家の陰に隠れがちだがなかなかに強い。 初期選択兵団かつ兵種ツリーから獲得可能という利点もある。 兵団特色 「近接戦の名手」→ 近接戦闘に優れる。 「突撃無双」→ 果敢な突撃に優れる 「盾あり人あり」→盾を構えている間は受ける遠距離ダメージが減少する。 兵団訓練ルート 襲撃のCT短縮などを考慮しても下ルートがベター。 おすすめ軍魂 定江山やブロックUP、斬撃ダメージUPなど
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1518.html
281 :ひゅうが:2013/02/16(土) 02 46 26 提督たちの憂鬱支援SS――「牧野侍従日誌」その1 ――本稿は、情報公開法(昭和12年法律第70号)及び軍機保護法(昭和12年法律第72号改正)に基づき、1966(昭和41)年に公開された第2次欧州大戦(1939-1944)および太平洋戦争(1942-1944)関連機密資料のうち、比較的A級機密内容が乏しくかつ帝国の中枢部に近い資料と呼ばれる、いわゆる「牧野侍従日誌」(牧野伸顕内大臣備忘録日誌)を抄録したものである。 当初は公開まで40年(A級2種1類機密)を予定されていたものの、いわゆる「田中上奏文事件」に伴い時の政府及びさる筋の強い意向によって重要資料として公開が決定されたものである。 これには存命している文武官最高位者である嶋田繁太郎侯爵(元総理大臣・元帥海軍大将)をはじめとする人々の好意も含まれていることを付記しておく。 なお、原文は旧仮名遣いであるが、本稿においては公開時に同時公開された解説付き新仮名遣い版を採用した。 ――昭和17年7月12日 快晴 風なし。路面が融けそうな暑さ。 朝より主上の御機嫌極めて麗しからず。 矢張り先日の事件(註:7月7日に発生した「バシー海峡貨客船『ベンジャミン・F・トレイシー』爆沈事件」のこと。)以来の心労ありしか。 明治帝にならい可能な限り電力の無駄を避けておられた主上も使用に賛成された。 朝食は残さず召し上がる。 282 :ひゅうが:2013/02/16(土) 02 47 10 正午過ぎ、嶋田新総理が参内。 慌ただしい就任につき参内の時間がとれなかったことを謝す。 以下問答。 主上「先の事件以来米国の対日世論は硬化していると聞く。改善の道はないか。」 嶋田「目下外交当局と共に努力を重ねております。近衛公(近衛文麿前首相のこと)が特使として訪米の意向を示しており、華盛頓(ワシントンD.C)にて国務省当局者と折衝が行われております。しかしながら野村大使(註:野村吉三郎駐米大使のこと。7月7日、大使館の七夕会において暴漢に銃撃され大使館員と共に負傷)の傷も軽からず、交渉はうまくいっておりませぬ。 こちらが一歩譲ればあちらが十歩も二十歩も踏み込んでくる始末で。」 主上「たとえばどのようなことであるか。」 嶋田「一昨日発表されたハル長官通告(註:いわゆるハルノート)における基地査察要求を横須賀・呉および『攻撃に関連すると思われるすべての基地』に対し適用すると明言しております。これに対する妨害は合衆国への攻撃とみなすと。これは、日本全土の基地に対するものかと問い合わせたところ、大統領府のキム・フィルビー補佐官からその通りとの回答を得ました。」 主上「なんと。」 絶句さる。主戦派と目される嶋田首相にいささかの先入観を覚えておられた様で、外交当局の交渉内容はここではじめて知られた由。 嶋田「お察しの通り、これは軍事力を伴い日本本土へ進駐せんとする要求であります。これに現政権の退陣が付記されておりますが、これが私を含めた内閣のみであるのか、恐れながら陛下にも関わりまするか――」 私「嶋田総理。それ以上は。」 嶋田「失礼。しかし陛下の副署さる親書が記者の面前で付き返されるかの如き(註:新内閣成立時に嶋田首相から公式親書が送られたが、野村大使から直接手渡されようとした親書はロング大統領により記者団の面前ではたき落され地に落ちた。)を見る限り、彼らは我が帝国に関し呆れるほど無知であるのか、そうでなければ限りない悪意を抱いているとも考えられましょう。」 主上「ともかく努力をせよ。新渡戸(註:新渡戸稲造国際連盟名誉理事)以来の太平洋の友好時代はそれほど軽いものではないと信じる。ぎりぎりまで軽挙妄動は控えよ。」 283 :ひゅうが:2013/02/16(土) 02 47 55 嶋田「御意のままに。陛下。最後に少しよろしいでしょうか?」 主上「なにか?」 嶋田「陛下。私は軍人であります。しかし軍人ほど戦(ゆっさ)の恐ろしさは知っておりまする。私は日本海大海戦で生死の境をさまよい、先の欧州大戦においてはヴェルダンやヴィットリオ・ベネト会戦(1918年10月24日―同11月3日)において間近にかの地獄を目撃しております。 太平洋を隔てし隣国どうしがぶつかればどちらが勝っても傷は深いでしょう。 可能な限りこれは避けるべきですが――」 主上「だが、何か?」 嶋田「陛下。日露の戦を思い出して下さい。我が帝国は日露の戦や欧州大戦で大きな被害を受けましたが、彼らは軍が半壊するかのような経験はしておりませぬ。」 以後、二三のやりとりをし、嶋田総理は退出す。 主上の顔色悪し。 ――昭和17年8月1日 雨天 土砂降り。 午前10時より御前会議。 東郷(東郷茂則)外相より報告。米国は本邦との交渉を拒否。甲案及び乙案を拒否し「ハル・ノート」の即時全面受諾を要求。 (註:7月20日より米国は外交官同士の交渉を拒否。通告と称し記者を前にした発表にて対日外交文書を発している。国際連盟代表部における『ケナン・ホブキンス工作』をはじめとする非公式会談はあるも国務省と大統領府内に深刻な意見対立が生じており、交渉は進展せず。 そのため7月25日を期し、東京より台湾・フィリピンおよび満州からの二段階撤兵と常設国際戦争仲裁裁判所特使査察を基本とした『対米回答甲案』が発表された。同乙案は駐日大使ジョセフ・グルー氏と駐独合衆国大使ジョージ・ケナン氏に対し非公式手交される。) 284 :ひゅうが:2013/02/16(土) 02 48 59 ホブキンス補佐官(註:ハリー・ホブキンス大統領補佐官)はハル・ノート細則を発表し、同時に真珠湾基地およびサン・ディエゴ基地・キャビデ軍港・上海駐屯地などに臨戦態勢を発令したと発表さる。 北京政府(註:張学良軍閥)は機関紙「中華報」において「東亜1000年の平和のため日本を中華大家族に復帰せしむべし。しからざれば『きかん坊には殴ってでもしかりつける』べし」との「叱責傭懲論」を発表したとの報告。 松岡特使(松岡洋祐臨時特使)の報によると「中華への賠償」として「琉球台湾回収」を基本条件とし、西日本保障占領を張学良は要求せり。 暴論極まりなし。彼らは19世紀列強か。虚栄心のみ肥大化せしか。 主上、悲嘆を隠し得ず。 大英帝国は仲介要請を拒否せり。 まさに四面楚歌なり。 かくて開戦決す。 以下問答。 嶋田「誠に遺憾ながら、アメリカと戦い、彼らを打ち破るしか道はなしとの結論に至りました。」 主上「総研も同じか。」 嶋田「はい。ここで米国の要求に屈せば南洋諸島をはじめ南方や沖縄、さらには西日本は米支が占領下となりましょう。 しかしながら早期に東亜の米国戦力と支那北京軍閥を打倒すれば保障占領可能戦力は喪失できましょう。」 主上「ただ打倒するのみか。戦とは相手があろう。華盛頓(ワシントンD.C)に日章旗を立てでもするのか。」 嶋田「それは無謀にございます。現在帝国陸海軍は早期の太平洋からの米国戦力駆逐をもってアラスカへ侵攻。現状製造実験段階にあります新型爆弾および噴進弾道弾をもって五大湖工業地帯への『確定的破壊能力』投射能力誇示によりまして『帝国を滅ぼそうとすれば破滅的な結末を迎える』ことを明示、講和誘導という流れを考慮しておりまする。」 (註:この段階において、帝国陸海軍は太平洋上における米支軍撃滅作戦・中部太平洋侵攻作戦「Z号作戦案」と、アラスカ侵攻計画「星号作戦案」、その後のカナリア諸島を基地とした東海岸通商破壊戦計画と米本土攻撃計画「捷号作戦案」を立案していた。 このうち「捷号作戦案」は対独開戦時の日英共同戦略目標攻撃計画「V作戦」の予備計画を改訂し、「Z作戦案」は1930年代末から検討されてきた航空撃滅戦案を小改正したものであった。立案期間が非常に短期間であったことからも単独での対米開戦が想定外であったことを如実に示しているといえよう。) 主上「勝利すれど敗北すれど、傷は深くなろう。本当に道はないのか? アメリカ合衆国大統領に(註:天皇名義での)親書を出しても良い。」 嶋田「無理でしょう。すでにアメリカは我々を露骨に敵視しています。ここで陛下がどんなに平和を望まれても、彼らは聴く耳を持たないでしょう。」 この後主上、嶋田総理、同様の問答を続く。 嶋田総理、苦渋の表情極まれり。 暫しの後、主上、頷かれ離席され、明治大帝の御製を詠まる。 「四方の海 皆同胞と想ふ世に など波風のたち騒ぐらむ」と。 一同恐縮し敬礼す。 嶋田総理の「開戦だ。」の一言にて散会す。 一部紙において「百年戦争何をか辞せむ」との言ありとの件につき余は嶋田総理と暫し談す。 嶋田総理より皇后陛下が為に細君より仕立ての和洋着物類献上さる。 また、嶋田総理より家伝の上下(註:嶋田家家伝の太刀と脇差)を主上へ預けられる。 いざという際に切腹せんとする意思なり、なぜ誰もかれも生き急ぐかと陛下涙す。 (註:この数年、東郷平八郎元帥や乃木希典将軍をはじめ陛下は師を多くなくしていた。また、訪英時に親しく交わったジョージ5世もこの5年前に崩御している。)
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1529.html
293 :ひゅうが:2013/02/17(日) 06 48 35 提督たちの憂鬱支援SS――「牧野侍従日誌」その3 ――昭和17年12月8日 快晴 なれど帝都は酷寒。 東北にて食糧不足の兆しありとの報により、那須御用牧場より乳製品の放出を決す。 皇后陛下手ずから包装せるとのことに付、典侍侍従奮起せり。 欧州北米にて寒波厳しと倫敦より報あり。とりわけロシアは寒波に閉ざさると。 アナ陛下(註:アナスタシア皇女。ロシア皇室の長として遇するために宮中は率先して「陛下」号を付け呼んでいた。)の手の方々よりの非公式情報によればウラール地方にて餓死者続出とのこと。 連絡がつくモントリオール公使館からの報とあわせて鑑みるに、北米の寒波はさらに厳しとの由。 (註:ロマノフ朝直属の情報網、いわゆる『オリガ・ネットワーク』を通じ、宮中もソ連領内や北米の状況を把握していたことがわかる。 多くが19世紀以降の北米上流階級となったロシア系移民や、ソ連領内に残存した中下級貴族あるいは白衛軍支持者で構成されるネットワークは合法活動だけで両国の実態をつかんでいた。) 北米におけるインフルエンザ流行は誤報。 日本赤十字ならびに帝国疾病予防監視機構(註:通称「能登研」。第2次欧州大戦開戦に伴い陸海統合防疫本部より改組し40年4月より極秘裏に実働を開始していた。42年11月ニューファンドランド島経由での病原体確保に成功。)より報告あり。かの新型伝染病はペスト変異種との由。 北米の惨禍はとどまるところを知らず。 シカゴ暫定政府は強硬姿勢を崩さず傘下新聞各紙を通じ黄禍論を煽る。 矢張り太平洋艦隊と一戦せず停戦講和は望めず。 尤も、本邦においても比島封鎖を非難、支那陸上占領地拡大を強弁せる紙面意見の類も多くあれば五十歩百歩か。 否、彼らもまた長期持久態勢構築を期する者なり。星号作戦案を知らぬといえばまた理解できぬでもなし。 午後2時、大本営より伝令あり。 嶋田総理より「星号前段階開始、なお気候混乱に鑑み捷号大西洋方面準備を中止」との一言のみが伝えられる。 主上、二度頷きて政務に就かれる。 それにつけても今冬は寒し。 ――昭和18年1月1日 梅雪強し。 新年なれど戦時下がため儀典は方通り。 嶋田総理秘書官よりの代奏あり。 攻撃部隊はミ島(註:ミッドウェー島のこと。)を攻略し、布哇諸島方面作戦に備えると。 年末より嶋田総理らは官邸にて激務を続く。 秘書官に弁当類を持たすよう御下命あり。 (註:戦時下のため、必要な儀式以外の新年行事は省略された。 しかしテレビやラジオを通じて新年のメッセージを発するなど慣例を破るようなことがいくつか行われている。 牧野の記述は短いが、一部保守層の反発ほど宮中での反応はなかったものと思われる。 記述内容はハワイ方面作戦が主であり、彼らが並々ならぬ関心を抱いていたことを窺わせる。) ――昭和18年1月7日 快晴 寒波は一段落。 本日、嶋田総理より代奏あり。 「蜂1号発動。連合艦隊全艦は各鎮守府を抜錨し出撃す。」 此れより1月余、主力部隊は内南洋にて訓練待機を行い、中下旬をもって米太平洋艦隊ならびに真珠湾軍港への攻撃を敢行予定。 まさに太平洋の天王山ならむと。 (註:同日、比島および支那大陸封鎖部隊を除く連合艦隊全艦は呉の柱島泊地を一斉に抜錨。豊後水道を抜け太平洋へ出撃した。 太平洋戦争の初期作戦終了後の整備を終えた艦艇群も含め稼働艦艇の大半をつぎ込み、内南洋方面に主力部隊を展開させつつミッドウェー島攻略を支援する目的である。 このため戦力を誇示する目的で出撃は白昼に行われた。 アラスカ侵攻作戦「星号作戦」準備のために嶋田総理らは激務に追われこの1カ月あまり嶋田総理は宮中へ参内していない。そのため、官邸つき武官と秘書官らが代役として奏上する形となっていた。) 294 :ひゅうが:2013/02/17(日) 06 49 13 ――昭和18年1月14日 晴時々曇、遠雷あり。 布哇方面での通信量激増。 大本営よりの報告によればミ島(ミッドウェー島)は無血占領。 いよいよ天王山近し。 本日、近衛公(近衛文麿前首相)参内。 国内食肉の件につき(註:戦時下のうえ満州が戦場となったため穀物輸入量が減少し、東北北海道などでの畜産業に打撃が出始めていた。)暫し懇談後、向後の方針につき二三の問答あり。 以下問答 主上「近衛らはこの戦争をいかな形で終える心算なるか。」 近衛「戦前であれば西太平洋における自主生存圏確立を挙げていたでありましょう。しかし現在は太平洋全域における帝国の管制権確立と、少なくとも米国の半分との和平済民によって向後半世紀から1世紀の帝国の安泰を確保したく思います。」 主上「米国の半分とは、かの華南のようなことを北米にて行うつもりか。」 (註:大英帝国が実施したいわゆる「華南分離工作」のことを指している。こうした分離工作についてはあまり好意的ではなかったようである。) 近衛「いえ。既に分裂は加速しております。そも米国は連邦政府をもって州という名のリパブリック(註:共和国)を束ねる国家連合にございます。 大津波による連邦政府の消滅と北米東岸の主力工業地帯壊滅は、この前提を大いに揺るがし、いっては悪いですが有色人種『ごとき』に敗北する連邦軍は、価値観が遅れてきた19世紀帝国主義の残存各州政治家や無産階級市民の敵意を増大させこそすれ減少させ得ぬでありましょう。既に臨時連邦議会は機能しておりませぬ。それに。」 主上「何か。」 近衛「北米において猛威を振るう疫病禍は、明らかに異常であります。信じたくはありませぬが細菌兵器の漏えいという可能性が現状最も高く、これによって最悪の場合・・・ 災厄は北米大陸にとどめ得ないこととなります。 これを察知してか、残存する米財界は中西部工業地帯を帝国陸海軍の攻撃圏内にも関わらず西海岸各地へ移転。五大湖工業地帯もこれに追随しつつあります。 これが意味することはただひとつ。米国、少なくとも米財界は東部および中部地域を切り捨てたのであります。」 (註:のちにいうアメリカ風邪の情報はカナダ経由で逐一もたらされ、この時点において既に日本の戦争指導方針に大きな影響を与え始めていた。大本営がアラスカ侵攻作戦と核開発に全力を投入し第二次直隷侵攻作戦を中止したのはこの1週間あまり前であった。) 主上「疫病により窮鼠となった米国は、国を割るか。」 主上、一瞬絶句さる。 近衛「御意。『連邦軍』の捷利により政府を再建できればよし。そうでなければ米国は各州ごとに分裂し、大津波の被災者や疫病から逃れる難民の群れと各州軍が相撃つ壮絶な内乱状態となりましょう。 この無政府状態が続けば、疫病は米国軍の圧力の抜け不穏な空気の漂う中南米へ飛び火しましょう。最悪なことに、アルゼンチンやウルグアイをはじめとする南米諸国は、大西洋大津波からの復興のため農作物や畜産物の欧州への輸出を拡大しております。 これを止めよといっても、大西洋上にわが軍の拠点は現在存在しておりませぬ。 この寒波にて、欧州の穀倉地帯は凶作となり、ウクライナやポーランドなどは戦場と化しております。疫病、食糧不足、まさに近代以前の戦争が再現されることとなります。」 主上「なんとおぞましい未来であるか。これを阻止できぬのか。いかな米国といえども良識はあろう。 聞くところによればニューヨーク州知事であったトマス・デューイなるものが副大統領となったとか。かの者は対日和平派と聞いた。」 295 :ひゅうが:2013/02/17(日) 06 50 01 近衛「それが成ればよいのですが、いささか時が遅うございました。もしもこの疫病がなければ――いえ、現状間に合うかどうか。北米の治安は寒波とともに加速度的に悪化しつつあります。ことに有色人種や労働階級の戦争継続への不満…というより食糧不足や疾病対策への遅れは致命的であります。 なまじ豊かであったため、米国の上層階級はロシア革命を誘発した悪夢の螺旋が発生しつつあることを理解しておりませぬ。」 主上「布哇にて日米両軍が激突すれば、彼らはいずれにせよ大打撃を受ける。そうなればもう遅いであろう。 『連邦軍』の重石のとれた米国民は『万人の、万人に対する闘争状態』に入るということか。」 (註:トマス・ホッブス著『リヴァイアサン』の一節。) 近衛「はい。未確認情報にございますが、ソ連が大恐慌以来の新興労働組合などと接触しているとも。手をこまねいていればアメリカという名のパンドラの箱から世界に巨大な災厄が飛散しかねませぬ。」 主上「アメリカはわかっていないのか。」 近衛「少なくとも欧州に残存せる旧国務官僚たちは理解しております。ですが、臨時政府を構成するアパラチア山脈以西の中西部諸州の官僚たちや臨時議会の人々は理解しようともしておりませぬ。 ただ、戦争が事態を悪化させつつあることのみは共通認識で、それも勝てば何とかなると考えているようで。」 主上「なんということか。」 近衛「ともかく、このような情勢下におきましては一戦し、アメリカ太平洋艦隊と戦わねば状況は変化し得ませぬ。英国は仲裁を試みておりますが、米国は逆に独国へ接近する始末にてまったく効果を上げておりませぬゆえ。 ともかくも、このような次第にて最低限米国の西海岸部におきまして政府機関および軍事力を維持した政権を維持し疫病禍を封じ込め、かつ米英の影響力の低下しました太平洋地域の安定を確立することこそ帝国の目指すべき『終戦』の形にあると愚考いたします。」 主上「それは、嶋田総理らも同意見か。」 近衛「疫病封じ込めと太平洋地域の安定については同意見にございます。そして、戦略的な『確定的破壊能力』誇示によりまして米国政府に屈服を強いることについては戦前よりの戦争方針にて、総理においてはかかる情勢を考慮しつつ勝利を希求しております。」 主上「わかった。だが、修羅の道よな。」 近衛「陛下?」 主上「かの者は、主戦派と目されつつも血気盛んなものたちの手綱を握り、勝利を目指す。 その後に残るものをよく理解した上でだ。しかし逃げることはせず。 貴公の言う『終戦』以後はそれも不可能となろう。」 以後、二三の算段となり、枢府上院(註:枢密院と貴族院)が承諾を得る。 (註:対米戦勝利の暁に嶋田総理を叙爵することがここで決した。)
https://w.atwiki.jp/furusato-jijyu/pages/13.html
こんな川です
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1519.html
286 :ひゅうが:2013/02/16(土) 09 05 24 提督たちの憂鬱支援SS――「牧野侍従日誌」その2 ――昭和17年8月17日 晴れ 蝉声洗うが如し。 主上、主要五紙朝刊を読まる。 米国にて未曾有の大災害発生かとの報は昨夜遅くに入れり。 払暁の御神事(註:宮中祭祀、朝4時30分には起床され国家安泰を願い神祇を祀られる)後に大本営より報告あり。 (註:永田鉄山陸軍大将が大本営情報部と外務省から当直職員を伴い参内。まず報告を入れる。以後戦時中はこの慣例が踏襲され、現場担当者かその代役から可能な限り生の声が奏上されることになった。) 華盛頓をはじめ東海岸各地との通信は途絶。倫敦(ロンドン)にも2米以上の大津波が侵入す。 帝国の新領土カナリア諸島基地とも通信は途絶せり。通信隊は華盛頓が本邦大使館員と同様絶望的か。 加奈陀がラジヲ局はアパラチア山脈が向こうの夜が紅蓮の炎で赤く染まりたると伝え、また倫敦ロイズ本社が鐘(註:ロイズ保険本社の鐘のこと。海難事故で船が失われると鳴らされる)は延々と鳴り続けると吉田大使(吉田茂特命大使)より報あり。 主上、公務を御会所(註:皇居松の間の横にある控室。緊急事態に際して即座に対応できるようにしたものと思われる。)に移され、内大臣府より政府各所へ「伝令」を出さる。 昼食は御一家にて採られる。 連日の猛暑に加え、戦捷祈願を込めてか湯漬けなり。 午後3時過ぎ、嶋田総理参内。 以下問答。 主上「緒戦はよくやったと聞く。陸海軍将兵の奮戦を労りたい。」 嶋田「ありがとうございます。比島の敵航空戦力は駆逐しましたが支那におきます陸上兵力は残っております。これを排除しますれば戦争目的の1つを達成できます。」 (註:大本営戦争指導方針によれば「日本本土に対する戦略的攻撃能力のはく奪」が戦争目的の一つであった。) 主上「そうか。しかし聞くところによれば北米大陸をはじめ北大西洋にて深刻な災害が生じているとか。状況はどうなのか。」 嶋田「非常に深刻な模様であります。総研と地震研(地震研究所)の解析待ちでありますが、少なくとも15米以上の大津波が北米大陸に押し寄せた模様です。加州(カナダ)における通信傍受によれば華盛頓も海に呑まれたと。」 主上「先の三陸の大津波(註:昭和三陸地震)以上か。」 嶋田「はい。被害範囲はあまりに広大です。北米大陸のほぼ全域から南米沿岸の半分、そして西部欧州沿岸から中部以北のアフリカにも大津波が襲いかかった模様にございます。 これは、倫敦駐在の文武官が英国政府に確認をとっております。 ロング大統領をはじめ米国政府は遺憾ながら消滅したも同然と思われます。」 287 :ひゅうが:2013/02/16(土) 09 06 26 主上「恐ろしいことだ。しかし、好機ともとれる。米本土を襲った未曾有の災害は、未曾有の戦禍を抑止できないだろうか。矛をおさめるわけにはいかぬか。」 嶋田「可能であればそういたしたいものでありますが、そうもいきませぬでしょう。」 主上「何ゆえか。」 嶋田「まず、米国は未曾有の危機にあります。その中にあり矛をおさめるのは、米国民には臥薪嘗胆を強いることにございます。余程の指導者がおればそれも可能でありましょうが、華盛頓もろとも失われた米国政府、いえ連邦政府の権威を代替するにはどうしても一戦し悪くとも戦前の権利権益を確保せねば彼ら自身が立ちゆかぬでしょう。」 主上「米国には多くの州政府があり議会がある。ならばそれらが協力し政府再建を為せるのではないか。この難局にあたり手を差し伸べ平和を回復することで米国民の心情を慰撫できぬかと考えているのだが。」 嶋田「ことが平時であれば可能であったでしょう。ですが彼らは嵩にきて拳を振り上げたところで道端に落ちていたバナナの皮で脚を滑らせ転倒したようなものです。 いかに傷が深かろうとも、それが却って戦意を高揚させてしまうでしょう。 『情けをかけられ、足元を見られる』ことほど誇り高き米国人を怒らせるものはありませぬ。いずれ、臥薪嘗胆を経て日露の戦役に臨んだ本邦のごとく我々に挑みかかってくるでありましょう。 また彼らの強大な海軍力はそのまま存在しており、彼らだけでわが帝国陸海軍の3倍はあります。 これをどうにかしない限り和平はできませぬでしょう。それに、彼らから見た同盟国の張作霖軍閥(註:北京政権)もいまだ健在であります。」 主上「安易な和平は将来の禍根となるか。」 嶋田「はい。しかし、開戦前に比べ、和平を結びやすくはなっているでありましょう。かの国の対外侵攻能力を剥奪できれば、実質的に彼らは北米大陸から出ることができなくなります。それだけでなく、ヒットラ総統(註:ヒトラーという英語読みは普及していなかった。これは「わが闘争」の和訳に際し右記の表記がなされていたためである。)率いる欧州と対峙している以上必要以上の海軍力低下は彼らの軍としても望まぬでしょう。 政府といたしましては、的を米海軍に絞り、それでも彼らが根を上げなければ開戦前の方針をとることにしたく存じます。」 主上「わかった。だが、被災した…盟邦(註:友邦とは言っていない)国民への支援は行いたい。また、米国民に向け朕の名で弔意を表したいが。」 嶋田「支援に関してはもちろんであります。また弔意に関しましては願ってもないことにございます。私の名で声明を出そうと考えていたところでございますので。」 主上「そうか。」 主上は満足そうに頷かれる。 嶋田「いくさにあたっては徹底的にやるべきではありますが、人倫を失ってはいかぬ。それを失っては軍は匪賊に同じとかの東郷元帥が示しておりまする。 (註:日本海海戦において白旗を上げつつも機関を停止しなかった残存戦艦への砲撃を継続し、かつ戦後はロジェストベンスキー提督や捕虜への配慮を欠かさなかった東郷元帥の逸話を指していると思われる。) 戦時における公正は、いずれ来る戦後において帝国の見えない財産となり、かつ後世への範となりましょう。」 主上「うむ。」 嶋田総理退出す。 主上は、「朕は嶋田らを誤解していたやもしれぬ」と仰せになられり。 さっそく自ら筆を執られ、推敲をはじめらる。 NHKとの交渉を命じられ、内府(内大臣府)は二徹確定なり。 (註:8月18日午後6時付けでNHKは天皇陛下自らの出御を仰ぎ、生放送で玉音をTV・ラジオ放送した。これに嶋田総理も同伴し、大西洋大災害=大西洋大津波の犠牲者への哀悼の意を表した。これに伴い物心ともに日本帝国は戦時体制へ移行することになる。) 288 :ひゅうが:2013/02/16(土) 09 07 25 ――昭和17年10月25日 木枯らし強し 今冬は厳冬となるやもしれぬ。 主上は昨夜よりあまり眠られぬ由。 矢張り東郷元帥の薫陶ありしか。 (註:東宮御学問所時代から東郷元帥や乃木将軍の薫陶を受けたため軍略方面にも通じていた。そのため比島沖海戦の報告を受け夜遅くまで地図を見ていたと入江侍従日記に記載がある。牧野の筆は若干の呆れを含んでいるようである。) 午前10時、嶋田総理参内。 顔色は先日の参内よりよし。 聞くところによれば新型栄養ドリンクをはじめたとのこと。 主上より那須の蜂蜜を下賜すべしとの命あり。昼食をともにしたしとも仰せになれり。 嶋田総理の秘書官は疲労顕著につき、内大臣府より使いを出す。 会見においてはまず主上が捷利を言祝がる。 総理は肩の荷がひとつ下りた様子なり。 以後、食堂に総理を同伴され、会食。 昼食にも関わらず洋食なり。秘書官ならびに官邸警護官らにも同メニューを出す。 (註:明治時代以来、皇居の昼食は和食を基本としていた。嶋田総理らの激務を労う形で洋食が特に命じられたようである。) 以下問答。 主上「これで太平洋に展開した米海軍の半分を撃破か。」 嶋田「はい。残るはハワイに残存せる太平洋艦隊主力のみであります。幸い、英連邦は中立を維持する方針にて豪州インド洋方面からの圧力は考慮せずともよくあります。 政府としましては、比島については封鎖にとどめ、来るハワイ作戦やアラスカ侵攻に備えたく存じます。」 主上「侵攻はせぬのか。」 嶋田「陸上戦力をとられすぎましょう。早急にアラスカを制圧せねばなりませぬゆえ。 何より時間がかかりすぎましょう。」 主上「であるか。して、戦略兵器の開発は順調か。」 (註:この時点において核兵器をはじめとするアラスカに展開予定であった戦略兵器群の機密情報は存在そのものの秘匿から、存在をにおわせる程度の機密へと格下げされていたようである。) 嶋田「はい。来年春までには初号弾の実験ができますでしょう。長距離爆撃機については試験結果も良好で、初期ロットの製造にかかっております。 弾道弾に関しては少し遅れておりますがこればかりは。当面は新型爆撃機『富嶽』を主力といたします。」 主上「そうか。聞けば、シカゴ政府から和平の申し出があったと聞くが。」 嶋田「米国の対日放送にてグルー大使が出演して呼びかけたと聞いております。政府への正式な通告はまだであります。米本土においては遺憾ながら和平の意思は新聞各紙に存在していないといってもよいでありましょう。」 主上「正式なものが来ればどうするのか。」 嶋田「交渉には入りましょう。しかし、米海軍力への攻撃は継続いたします。彼らは大西洋大津波により戦力の補充能力を喪失しております。 でありますから、交渉にかこつけて戦略的再編や補給を行いおうとするやもしれませんから。」 289 :ひゅうが:2013/02/16(土) 09 11 10 主上「戦いには相手があるか。」 嶋田「左様です。支那や独ソの如き前例もありますれば。」 主上「独ソといえば、欧州の戦況はどうか。」 嶋田「英国情報部によれば、独軍はコーカサス山麓カスピ海沿岸のバクー油田を目指し『ブラウ作戦』を開始しております。モスクワへの正面攻撃は断念した模様で、かわりに石油の確保を優先したと。」 主上「やはり、米国からの輸入が途絶した影響は大きいか。」 (註:日米対立の激化と英独停戦に伴い、米国はメキシコ湾岸やテキサス油田の石油を第三国経由でドイツへ輸出していた。 これには英国系海運会社も関与しており、日本の反英感情を助長する結果となっていた。) 嶋田「ルーマニアのみではとても足りぬでしょう。英国も直接輸出はペルシャの中立撤廃やソ連の中東侵攻を誘発する危険性があり二の足を踏んでいるようで。 慌てて人造石油工場を増設しておりますが、仏大西洋岸の被害状況もありますし何よりコストがかかりすぎ、はかどっておりません。 独ソ両国から遼河油田の石油援助の要望が来ております。」 主上「辻蔵相あたりが喜びそうであるな。」 一同笑い。 以後は歓談に移る。 午後2時頃まで喫茶後、辻蔵相の迎えで嶋田総理一行は退出す。 嶋田総理は参代前より気疲れしたようなり。 主上いわく「大魔王辻はこのことか」と苦笑さる。 (註:米アジア艦隊を撃滅したことで一息ついた嶋田総理だが、仕事は山積していたようである。この時期の嶋田総理の平均休息時間は一日3時間ほどであったと秘書官は記録に残している。)