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天空の階段の中の螺旋階段を上っていくと、再び広場へとたどり着いた。よく見てみると柱に7人の人が倒れこんでいた。 遠くからでも分かった、船の腕で消えた仲間そして洞窟で姿を消したロイヤルメラルーともう1人誰かいた。 カルノスの体は既に広場へ向けられ走っていた。それを追いかけ他の4人が走る。しかし…辺りを見渡すと 骨だらけだった…全てが血塗られ、まさに赤い骨だった…洞窟の中で遭遇した化け物を思い出す。 「カルノス危ない!」 朧が叫ぶ、しかし声はカルノスへ届かなかった。上を見上げると…化け物が自分達を狙っていた。 今まさに自分達に喰らい付く状態だった。敵の攻撃を寸前で交わし、体を起こす。 「カルノスさん危ないっす!仲間を助けるのは後っす!」 敵の攻撃をかわす。5人の目の前に化け物が現れる。 「餌が自分から来るなんて…今日はいい日だなぁ~」 「くそ…餌になる前に倒さないとなぁ…」 ・ ・ ・ ・ プテドン が現れた ・ ・ ・ ・ ・ 戦闘メンバー カルノス 朧 妖夢龍 かっちー オリーマ プテドンの攻撃 妖夢龍に21 カルノスに15 かっちーに20 ダメージ 妖夢龍の攻撃 サウラ 「俺の音を聴けぇぇぇぇえええ!」 プテドンに24ダメージ カルノスの攻撃 フォラ 「炎に巻かれて消えろ!」 プテドンに26ダメージ かっちーの攻撃 ソッラ 「おれっちの剣裁きをとくとご覧あれ!」 プテドンに23ダメージ オリーマの攻撃 レッド 「行け!赤い相棒!」 プテドンは火傷を負った 朧の攻撃 コルト 「氷の恐ろしさを感じるがいい」 プテドンに7ダメージ プテドンは火傷により5ダメージ プテドンの攻撃 味方全員に20ダメージ 妖夢龍の攻撃 YA☆MA☆波 「俺の歌を聴けぇぇええええ!」 プテドンに30ダメージ カルノスの攻撃 ターメリック 「俺の最強の技!」 プテドンに36ダメージ かっちーの攻撃 疾風切り 「風よおれっちに力を…」 プテドンに25ダメージ オリーマの攻撃 ブルー 「行け!青い相棒!」 プテドンの体は怯んだ 朧の攻撃 アイスビーム 「氷の冷たさ体で感じろ!」 プテドンに30ダメージ プテドンは怯んでいる… プテドンの攻撃 カルノスに10 朧に13 妖夢龍に15 かっちーは倒れた オリーマに21 ダメージ 妖夢龍の攻撃 妖夢龍は、身を守った カルノスの攻撃 レイア 「炎ならなんでも突破できる…」 プテドンに23ダメージ オリーマの攻撃 パープル 「行け!紫の相棒!」 プテドンに効果は無い 朧の攻撃 コールドスリープ 「これでしばらく大丈夫だ…以上」 かっちーはコールドスリープ状態になった プテドンは怯んで動けない 妖夢龍の攻撃 サウラ 「俺の音を聴けぇぇぇええ!」 戦闘に勝利した! ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「やったー!おらたちが勝った!」 「やっぱりカルノスさんに着いて来たのがよかったっす」 勝利に喜んだ後、急いで仲間の元へと行く。海で消えた、ベルリッツ、理王、青ピクミン、レイヨン、うっほを起こし 暗闇のカでさらわれたロイヤルメラルーを起こす。しかし1人だけ、見知らぬ人が中に混じっていた… 誰かと確かめるため、その少女を起こす。 「こ…ここは?」 「よかった起きた起きた…君は?」 「きひひはまおうだよ…」 その言葉に全員飛び起きる。魔王その言葉を聞いてからだ。魔王が目の前にいるんだ 「なんか勘違いしてるけど。きひひはまおうで魔王じゃないよ…」 その言葉に全員ほっとする。そして本題。貴方は誰なのか、それが質問だった。 その言葉を聞きまおうが答える… 「きひひは砂浜で遊んでいたんだ。そしたら船が壊れるのが見えたんだ。 きひひは、鎖された海の道を知ってるからそこまで仲間と泳いだんだ。そしたら鮫に5人ほど人が襲われて、さらに 溺れてたんだ。助けるために行ったら鮫が手伝ってくれたんだ」 「まぁ…ネプチューンだからね…」 「そして鮫と力を合わせて5人を助けたら、鮫がその…」 「レイヨンなんだけど…」 「そっか…でレイヨンのカバンの中の機械に入って、消えたんだ。5人を砂浜まで連れて行ったら、きひひと5人が化け物に捕まって…」 まおうの話を聞き、つかまった5人は記憶を取り戻す。そして自分達が体験した恐ろしい出来事を思い出した。 カルノス達は全員まおうにお礼を言う…まおうは少し顔を赤くし照れながら いいんだよ と答える。 「とにかくここから出よう。桃ピ区の皆が待ってる…」 怪我をしていた夢妖龍を数人で支え、まおうも後ろを着いて来る。上ってきた螺旋階段を今は下っていた。 天空の階段を出たときには既に西の空が赤くなっていた…既に夕方になっていた。 その綺麗な光景を見ながら、13人は砂浜を歩きながら、桃ピ区へと歩いて行った…
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[ 戻る // 前 // 次 ] #姉好きな弟にちょっかいかけたり…(#1)-10 586 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 20 06 51.97 ID p5D9uIAO 百合ちゃんと一緒にファミレスでご飯食べて来たー 帰ったらまとめます 588 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 20 44 56.78 ID p5D9uIAO 一応先に書いておくと、百合ちゃんは男も女もいける娘です 以前友人宅で飲んでた時、朝起きたら隣りに寄り添う様に寝ていました それくらいなら別に気にしないのですが、目覚めた時にそれはもう濃厚なキスをされました しかも超がつくほどテクニシャンoryz まあ、何が言いたいかというと…今回の安価はそれほど危険なものだ!と言う事です うん、頑張ったよ私… ケーキ買いに行ったりみんなの安価を確認していると百合ちゃん到着 とりあえずダイニングに通し、紅茶とケーキを出す。 ケーキ食べてる時の一コマ 私「ここのケーキ美味しいでしょ?クリーム系が程よい甘さで気に入ってるんだー」 ユ「うん、すごい美味しー。コキさんのも一口もらっていいですか?」 私「うん、いいよ…………って百合ちゃん?今ケーキの上に乗ってるカードみたいなの食べなかった?」 ユ「へ?もぐもぐもぐ………ゴクン。なんか乗ってました?」 私「いや、ま、小さい紙の奴だから多分平気だろけど…」 ユ「美味しいですねー」 私「う、うん………」 こんな感じで百合ちゃんは少し天然ちゃんです ちなみに安価の「ケーキを一緒に作る」ですが、まさしく今食べているのでまた今度したいと思います しかし!期待に答えるべく 百合ちゃんが見てない時に、生クリームを自分の鼻にこっそりつける ユ「コキさん鼻にクリームついてますよ」 私「え?ほんと?とってとって」 ソッーーー……ペロッ…チュプッ…… ユ「はい取れましたよ」 私「あ、ありがとね」 やっぱり普通に舐められました しかし、安価の「生クリームプレイ」達成! 589 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 20 52 20.32 ID p5D9uIAO ケーキ食べ終わった後は紅茶飲みながらペチャクチャペチャクチャ ケーキバイキングの話や髪型の話(私が変えたから)やそろそろコート欲しいねーとか で、やがて百合ちゃんがフラれた話に… いつもは元気だけど、こういう時は自分をどんどん責めちゃう百合ちゃん 私のここが…私がもっとこうしてたら…あの時あんなこと言わなかったら……… そんな時私はいつも、もたれかかり涙を流す百合ちゃんの頭を撫でる 私「私はそのままの百合ちゃんが好きだよ。人だから当然変な所もあるけど、百合ちゃんは百合ちゃんで大丈夫だよ」 なでなで……… ユ「うっ…うん…ひっぐ………ぐすっ」 私「百合ちゃんの悲しい気持ち分かる。だからいっぱい泣いていいから、百合ちゃんは変わらないでね」 なでなで………なでなで……… ユ「うん…ひっぐ…か、変わらない…えっぐ…」 私「百合ちゃんにピッタリな人見つかるといいね」 なでなで………なでなで……… ユ「うぅううぅ………」 泣き崩れる百合ちゃんをそのまま撫で撫でしてました おまいら彼女大切にしろよ ユ「やっぱり私にはコキさんしかいないのかな…」 なでなで………なでなで……………えっ?( ゚д゚)ポカーン 590 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 20 52 32.14 ID RLaRWAso そのうちペニパンを活用できるな 591 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 20 59 31.48 ID p5D9uIAO 私「いやいやいや、そんな事ないよ。いい人見つかるって。今は落ち込んでるから気が動転してるんだよ」 ユ「コキさんさっき私の事好きって言った」 私「いやあれは…んっ……んむむ………ぶはっ!待って待って待って!ってかおっぱい揉むな…あ、あん」 ユ「あは、コキさん可愛いー」 私「ゼェゼェ…それは貧乳に対する挑戦か!まあ元気になったみたいだからいいけど…」 ユ「もっとさせてくれたらもっと元気になります」 私「謹んでお断りします」 えー、こんなの相手に百合話など出来ませんでした(*1)))ガクガクブルブル で、その後少し話してファミレスでご飯食べて帰宅 せっかく貰った安価あんまりこなせなくてごめんね 次は頑張ります! 次百合ちゃんと会っても言わないかもだけど( ゚Д゚) 以上、百合ちゃんのテクに少しムラムラさせられたコキ姉でした 592 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 20 59 32.51 ID wA5QDXgo 生クリームプレイ、イイ!!ww まさかの百合√フラグにwwktkwwwwww 593 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 21 02 19.10 ID RLaRWAso これは弟を加えて3Pですなww 594 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 21 03 14.63 ID go32fPso 591 一度くらいレズしてみたらいいのに・・・・ 595 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 21 05 49.78 ID wA5QDXgo ちょwwww百合ちゃんいきなり胸揉むとかwwwwww 姉さんは百合とか苦手っすか?ww 596 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 21 07 28.77 ID p5D9uIAO 592 ほんとはおっぱいにつけてとか想像してるんでしょ 593 そして弟彼女いれて4Pですね 594 いや…百合ちゃんのテクに絶対溺れてしまう……… お風呂いてきますね 出たらまた安価もらいにきます 606 名前: ◆HbxwkBhPY6[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 23 03 49.28 ID g/itC6AO アッー 時間ないので報告が今日中に出来るか判らんが・・・とりあえずデレデレにさしちゃって 610 607 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 23 03 57.57 ID p5D9uIAO ただいまです ぬれぬれの穴に棒をつっこんできたコキ姉です 綿棒を! ってお約束ですね。 でどこに突っ込んだかと言うと マン… 丸に穴が開いた耳の中にです はいそこチンコ立てんな! いやほんとすみません ではいきなりですが安価プリーズ +3 しかしこの時間ほんと思いね 608 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 23 07 19.34 ID p5D9uIAO ごめんかぶっちゃった 私取り消しでお願いです 安価なら↑か↓ 610 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 23 09 02.54 ID wA5QDXg0 足コキ姉用安価なら お姫様だっこしてもらいスクワットさせる 「10回達成したら玉揉み 50回達成で+足コキ 100回で+手コキ 500回達成したら+フェラぐらいしてあげようかな?」 と前もって言っておきどこまで出来るか試してみる 10回も到達しなかったら「お前なんか男じゃねえ!」と言ってタマ蹴りの罰 タマ蹴り無理なら罰の内容を変えても可 616 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 23 20 42.46 ID p5D9uIAO 606 ほんとごめんね。 610貰っていきます 後、提案というか意見を一つ スレタイでは私の専用スレみたいに思えますが、「ちょっかいスレの派生」と私は認識してますので 安価出しは、先の人が優先って事でどうでしょうか? あと、新規さんがいる時は新規さんが軌道に乗るまで優先とか 安価なら↑か↓ 618 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/15(水) 23 29 03.63 ID wA5QDXg0 616 基本は先の人優先なんだけど今回はたまたま例外的に逆になったということで(俺のミスですすんませんorz) 姉さんの提案通りで良いと思います 新規さん優先ってのはスレに加わりやすく馴染みやすいというメリットが期待できそうで良いかもしれないですね! 617 そんなに鬼畜でしたか?ww 仲良くなるための第一歩だと思ってファイトっすよ! 619 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/10/15(水) 23 29 58.83 ID g/itC6AO 616 構いませんよ全然 一応できたばかりのスレなんで何か問題があったら色々決めていきましょう 627 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 00 43 27.77 ID 8sK07oAO 神(笑) 生活リズムヤバいヤバい 正正性 631 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 01 06 33.34 ID LFwVrYAO 628 お疲れ様です なんだかとてもいい環境でやらせていただいてるんだと改めて実感しました 627 その正の字は痔の人ですね そろそろ鳥などいかがでしょう? ちなみに私の報告産業 スクワットのはずが 穴を弄られ 棒をくわえてきた 今度こそ性的な意味で! 632 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 01 08 30.83 ID gPHWWIA0 631 >穴を弄られ >棒をくわえてきた !? 633 名前:足コキ姉 ◆bSEHNWatcc[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 01 19 13.60 ID LFwVrYAO 駄目だ まとめようと思ったけど疲れで眠気が… 報告は寝てからにさせて下さいorz 634 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 01 24 15.38 ID gPHWWIA0 633 無理しなくて大丈夫ですよww また明日楽しませてください 636 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/10/16(木) 01 40 01.96 ID PJPBowAO 633 姉さんまた明日ノシ 最近どうも寝不足でいかんな… [ 戻る // 前 // 次 ]
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「――きて……ちゃん」ユサユサ 京太郎「んん……」 「――起きて、京ちゃん」ユサユサ 京太郎「んぁ……咲?」 咲「おはよ、京ちゃん」 京太郎「……なんで?」 咲「なんでって、毎朝のことだよね」 京太郎「……そうだっけ?」 京太郎(毎朝のこと?) 京太郎(あれ……いつもは目覚ましか母さんに起こされてたような) 咲「じゃあ、はい。いつもの」 京太郎「い、いつもの?」 咲「うん……したいって言ったの京ちゃんだよ?」 京太郎「したいって、なにを?」 咲「だから、おはようのキス! もう、言わせないでよ……」 京太郎(どうしよう、全く身に覚えがない) 京太郎(これじゃまるで恋人同士……) 京太郎(俺の記憶が混乱してるのか?) 京太郎(こいつが嘘ついてたら絶対ボロ出すし……) 咲「あ、でも舌入れたらダメだよ? 学校行けなくなっちゃうし」 京太郎「し、舌だって?」 咲「そ、そんなにしたいんだったら、いいけど……」モジモジ 京太郎「きょ、今日は体調悪いからっ」 咲「あ、どこ行くの!?」 京太郎「な、なんだったんだ?」 京太郎「咲のやつ、悪い物でも食ったのかよ」 京太郎「寝間着のまま外に飛び出してきちゃったけど……」 「あ、見つけました」 京太郎「あれ、小蒔? どうしてここに」 小蒔「もう、探したんですよ? 起きたらお布団の中からいなくなってますし」 京太郎「悪い悪い……って、あれ?」 小蒔「さぁ、帰りましょうか」 小蒔「――あなた」 京太郎「あ、あなた?」 小蒔「? どうかしたんですか?」 京太郎「不思議そうな顔すんなよ、俺がおかしいみたいじゃないかっ」 小蒔「実際おかしなこと言ってます。だって、私たち夫婦の契を交わしました」 京太郎「夫婦の契!?」 小蒔「はい、初めてはホテルのベッドで……」ポッ 京太郎(身に覚えがないパート2!) 京太郎(こいつもかよ!) 京太郎(捕まったらヤバそうな雰囲気しかしねー!) 京太郎「じゃ、じゃあ俺ちょっと用事があるから……」 小蒔「……女の人、ですか?」 京太郎「いや――」 小蒔「霞ちゃんや春たちだったらまだ許せます」 小蒔「でも、それ以外の女性だったら私――」 小蒔「――その方が羨ましくて妬ましくて……なにするかわかりませんよ?」ニコッ 京太郎「え、なっ――足が……!」 小蒔「ふふ、わかってもらえたんですね」 京太郎(なんだこれ、何かに押さえつけられてる!?) 京太郎(また過保護な神様か!) ――キキーッ! 衣「きょうたろー、こっち!」 京太郎「――っ、体が動く……!」 衣「早く!」 京太郎「くそっ」 小蒔「あ――」 バタンッ キキーッ! 京太郎「ふぅ、助かった……」 衣「大丈夫?」 京太郎「ああ、なんとかな……」 衣「うん、これも偏にハギヨシの運転技術のおかげだ」 京太郎「ともかく、ありがとな」ナデナデ 衣「えへへ、褒められた」 京太郎「一体二人ともどうしちまったんだかな」 衣「まったくだ! きょうたろーは衣の伴侶だというのに!」 京太郎「……あん?」 衣「だって、ずっと傍にいるって約束してくれた。家族になるって」 衣「衣のこと、泣かせないって」 京太郎(またこれかよ!) 京太郎(なんだこいつら、どっか別の世界から電波受信してるんじゃないだろうな!) 京太郎(くそ、車の中じゃ逃げ場がない……!) 衣「ともかくこれで安心だ」 衣「今は衣がいるし、ハギヨシもいる」 衣「このまま屋敷まで帰ろう」 京太郎(ヤバい、そこまでいったらもう出られない予感しかしない) 京太郎(どうにかして車を止めないと!) 京太郎「ぐっ、いたたたたたたっ!」 衣「きょ、きょうたろー?」 京太郎「腹が……今すぐトイレ行かないとヤバい!」 衣「なんだそんなことか。大丈夫、衣がちゃんと処理してあげるから!」 京太郎(全然大丈夫じゃねーっての!) 京太郎(汚物の処理とか愛が大きすぎだろ!) 京太郎(どうする、このままじゃ一生屋敷に軟禁……冗談じゃない!) ハギヨシ「二人とも、捕まってください!」 キキーッ! 京太郎「あいたっ」 衣「あうっ」 「京太郎くん、早く降りて!」 京太郎「ありがたい!」 衣「きょうたろー、待って!」 京太郎「ここまで来たら大丈夫か?」 京太郎「……助かったよ」 豊音「いえいえ、困ったときはお互い様だよー」 豊音「私も京太郎くんのピンチにいてもたってもいられなかったから」 京太郎「そうか……ん?」 京太郎(俺のピンチに? どうやってそれを察した?) 京太郎(それに、なんの脈絡もなくここに来てるって、もしかして) 京太郎(……違うかもしれないし、確認だけはとっておくか) 京太郎「なあ、姉帯」 豊音「なに?」 京太郎「今日はいきなりどうしたんだ? こっち来るなら連絡くれよ」 豊音「ごめんね? 京太郎君にも秘密にしておきたかったから」 京太郎「なんだ、サプライズのつもりか?」 豊音「えへへ、実はね?」 豊音「京太郎くんを、連れて帰っちゃおうかなって」 京太郎「……やっぱりかー」 豊音「えっとね、京太郎くんを連れて帰って、結婚してね?」 豊音「それからそれから、ちょっと恥ずかしいけど……子供作ったりとか」 豊音「そしたら私たちもお父さんやお母さんみたいになれると思うんだ」 京太郎「そ、そうか……」ダラダラ 豊音「きゃっ、言っちゃったよー!」 京太郎「じゃあ、ちょっと腹痛いからトイレ行ってくるよ」 豊音「うん、私はここで待ってるね?」 京太郎「それじゃ」タタッ 京太郎「危なかった……」 京太郎「あいつが素直なやつで助かった」 京太郎「まぁ、見つかったらなにされるかわからないけど」 京太郎「……考えないようにしよう」 京太郎「にしても、喉渇いた。汗かきすぎたか?」 「あれ、お兄さんやないですかーぁ」 京太郎「――っ」 憩「? どうして身構えとるんですか?」 京太郎「お前、もしかして俺に会いに来た?」 憩「自意識過剰ですかーぁ?」 京太郎「いや、違うならいいんだ」 京太郎(そうだよな、こいつとは東京で一回会ったっきりだし) 京太郎(俺の考えすぎか……) 憩「見たところお疲れみたいですけど」 京太郎「ああ、ちょっと朝からハードで……」 憩「ふむ……飲み物、いりますかーぁ? 私の飲みかけでよければ」 京太郎「ん、もらう。正直喉カラカラでさ」チュー 京太郎(生き返るー) 京太郎(あーもう、こいつが天使に見えてきた) 京太郎(格好と相まって白衣の天使?) 京太郎(癒される……気が抜けて体の力が――) 京太郎「――あれ?」ガクッ 憩「薬、効いたみたいですねーぇ」 京太郎「く、薬?」 憩「心配はいらへんですよーぉ? ちょーっと力抜けるだけですから」 京太郎「ちょっ――」バタッ 憩「んしょ、お兄さん重いですねーぇ」 京太郎「な、んで、こんな……」 憩「えー? 決まっとるやないですかーぁ」 憩「お兄さんのこと、欲しくて欲しくてたまらないんですよーぅ」 憩「気にせずじっとしてていいですよーぉ? 優しく、優しくしますからーぁ」 京太郎「か、考え、なおせ……」 憩「お兄さん初めてですかーぁ? うちもですよーぉ」 京太郎「くっ……」 京太郎(万事休すか……!) 京太郎(意識が、遠くなって――) 京太郎「――はっ!」 京太郎「今のは……夢?」 京太郎「はは……だよな、現実のわけないだろ」 京太郎「もう朝かー、全然休んだ気がしないな」 「あ、起きてたの?」 照「はい、お水」 京太郎「ああ……ありがとう、照ちゃん」 照「うなされてたみたいだけど、大丈夫?」 京太郎「なんかすごい夢見てさ……てか、照ちゃんはなんでここに」 照「なんでって……ここ、私たちの家だよ?」 京太郎「家、俺たちの?」 「ママー、お腹空いたー!」 照「料理の途中だから下に降りてるね」 京太郎「あ、ああ……」 照「京ちゃん、大好き」チュッ 京太郎「家、子供……」 京太郎「はは、これも夢、だよな?」 つづくわけがない 最後におまけ 「……私たちの出番がない!」 「そーだそーだ! 慰謝料が発生するよコレ!」 京太郎「いや、そもそもお前らのこと知らないし」 「あわっ!? あんなことしたくせに! 責任取れー!」 「あ、生涯賃金の半分支払ってくれるなら許してあげてもいいよ?」 京太郎「だから知らねえつってんだろうがっ」 おしまい
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428(よんにいはち)~封鎖された渋谷で~ part44-486,487、part45-60~100,102~125,127~129 486 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 07 03 50 ID Jq40Cgdx0 以下、どうでもいい解説。 タイトルは「よんにいはち」と読むのが正しいらしい。知らんかった。 4月28日は四谷の日でもあるらしい。 主人公毎に「○○編」という名前が付いてはいるがタイトルはついていない。 例えば『街』の桂馬編は『オタク刑事、走る!』というタイトルがついていて、 独立したストーリーとしても読めるが、428は独立してない。 というのも428は最初バラバラな話が一点に収束していく構造になっているから。 大沢編は『街』の市川編に近い感じ。独特の雰囲気を出そうと頑張ったっぽい。 タマ編は本当はタマ自身が語り手。 加納、亜智、御法川編はどれも結構似た文体で書かれていたように思える。 その他のことはWikipediaでも見てくれ。 487 :ゲーム好き名無しさん:2009/04/05(日) 03 15 37 ID g+t6x29l0 486 桂馬編は「ゲーマー刑事、走る!」じゃなかったっけ。 おたく刑事は体験版だと思。 60 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 06 22 27 ID Jq40Cgdx0 428 ~封鎖された渋谷で~ [[ ]]…実在の用語。わからない場合は各自ググってくれ …428オリジナル設定。 (実際のゲームと多少時間がズレていたりもしますがご了承ください。) 序章 4月27日午後7時頃、大沢マリア(19)(こんな名前ですが普通に日本人です)が何者かにより 車に乗せられ、連れ去られた。 [[渋谷区]]にある 緑山学院大学 の側の会場で、 午後6時から大学の学生たちによるパーティーが催されており、マリアはそれに出席していた。 マリアの双子の妹、大沢ひとみ(19)は時間を間違えて、7時に会場に到着したが、 そのときにはマリアはもういなくなっていた。 同じくパーティーに出席していた大学の英語講師リーランドらの証言によって、 マリアは車で連れ去られたらしいことがわかった。 その後、犯人からの脅迫電話があった。 『明日、朝10時 [[ハチ公]]前。身代金5000万円をひとみに持たせろ』 4月28日。[[渋谷の日]]、そして史上最悪の日が明ける。 10 00-11 00 10 00 渋谷中央署 の刑事、加納慎也(かのうしんや)は、じっと待っていた。 隣にはコンビを組んでいる刑事、加納より5歳年上の笹野がいる。 視線の先には、身代金が入ったアタッシュケースを重そうに持ち、ハチ公前に立つひとみの姿。 1分、2分……約束の10時は過ぎていたが、犯人が現れる様子はなかった。 渋谷の駅前から、[[109]]の脇を抜け、[[道玄坂]]の方へ行くと見えてくる古い商店街。 その端に遠藤亜智(えんどうあち)の住む 遠藤電機店 はある。 「うっし、今日もいっちょやるか!」 エコ吉 という、ペットボトルに手足が生えたようなキャラクターがプリントされたTシャツを着て、 白いスニーカーをはき、ゴミ袋を数枚持って、亜智は家を出た。 渋谷駅の方に向かいながら、路上に落ちているゴミを拾い、ゴミ袋に入れる。日課のゴミ拾いだ。 亜智は生まれ育った渋谷を心から愛する、熱い男だった。 だから、平気でゴミを捨てる奴や、揉め事を起こす奴らを許せなかった。 彼女は目を覚ました。辺りを見回す。そこは薄暗い所だった。 起き上がったが頭が痛い。ドアには鍵がかかっていなかったので、彼女は外へ出た。 61 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 06 25 33 ID Jq40Cgdx0 10 10 彼女は[[センター街]]をぶらぶら歩いていた。雑貨屋の店先に目が留まった。 『ネックレス 40,000円』という値札がついていた。 それは琥珀のような大きな飾りのついたネックレスだった。 なぜかどうしても手に入れなければならない気になった。 だが、彼女の財布には2万円しか入っていなかった。 10 30 亜智はハチ公前にいるひとみを見つけた。 「モロタイプ……ってか、ありゃタレントかモデルだな」 彼女は公園に来ていた。そこで貧相な男に会った。 男は、会社社長の柳下と名乗った。 「突然だけど、君、日給1万円でバイトしない? 頑張ってくれたら、もう1万円ボーナスに付けちゃう」 2万円稼げれば、あのネックレスが手に入る。彼女は二つ返事でOKした。 「んじゃ、これ着て。バイトはすでに始まっているのだよ」 渡された白いネコの着ぐるみを着る。 「あ、そういえば、君、名前は?」 「……タマです」 10 35 加納の無線機に通信が入る。 『来た!黒いコート、外国人、30代前半!!』 言われたとおりの特徴の外国人が、ひとみに何か囁いた。ひとみはうなずいた。 外国人はアタッシュケースをひとみから受け取って、逃げた。 犯人だ!加納は待機場所から飛び出して、外国人を追った。 もう少しで確保出来そうなとき、無線機から指示が来た。 『待て!確保するな!本ボシは別にいる。しばらく泳がせろ』 アタッシュケースを受け取った外国人が去った後、残されたひとみに、 背広姿の中年が近づいていった。足が悪いのか、杖をついている。 杖の男は懐に手を入れて、拳銃を取り出した。 それを見ていた亜智は、杖の男にタックルをかまし、ひとみの手を取って走り出した。 10 45 亜智とひとみは路地から路地へと逃げた。杖の男はまだ追ってくる。 不意にひとみの足が止まった。不安なのだろうか。 亜智はひとみの肩を掴んで言った。 「おれは遠藤亜智、22歳。女の子がヘンな男に追われていたら、迷わず助ける。 理屈じゃねぇ、本能だ!」 その言葉にひとみは安心したようだった。 62 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 06 27 52 ID Jq40Cgdx0 10 50 [[世田谷区]][[三軒茶屋]]の自宅で、フリーライターの御法川実(みのりかわみのる)は、 インタビュー記事をまとめていた。ノリにノっているところで突然電話が鳴った。 『私だ……頭山(とうやま)だ』 「なんだ、仕事なら間に合ってるぜ」 御法川はいつもの調子で答えたが、電話の向こうの頭山は元気がなさそうだった。 いや、元気がなさそうどころか、その声は次第に嗚咽へと変わっていった。 『もう、死ぬしかないんだ』 電話は切れた。 亜智とひとみは細い路地を抜けた。そこは小さなスナックが何軒も並んでいるところだった。 二人はその中の一つに入った。 「迂闊に動き回るよりも隠れていたほうが安全だ。ここで様子見だな。 あ、ここは知り合いがやっているスナックで、別にヘンなことしようとかそういうわけじゃねーから」 改めて亜智とひとみは自己紹介し合った。しばらく沈黙が続く。 「これ以上ご迷惑はかけられません」 ひとみはスナックを出て行こうとして、ドアを開けた。 そこには杖の男が立っていた。 To Be Continued 63 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 14 46 23 ID Jq40Cgdx0 11 00-12 00 11 00 亜智とひとみの前に現れた杖の男。 「どうしてわたしを狙うの?」 杖の男は答えない。と、杖の男の携帯に着信が入った。 そのスキに、亜智とひとみは逃げ出した。 「暑い」 ネコの着ぐるみを着ているタマ。あまりの暑さにへばりそうになる。 渋谷の駅前で、大声を張り上げる。 「飲むだけで痩せる、画期的な飲料、 バーニング・ハンマー ! ただ今、無料の試供品をお配りしております! この後、午後1時より即売会を開催いたします!!」 タマの努力も空しく、手にした籠の中の試供品は減らない。 バーニング・ハンマーは、小瓶に入った栄養ドリンクのようなものだ。 タマから離れたところにニワトリの着ぐるみがいる。ニワトリは結構上手くやっているようだ。 渋谷区[[松涛]]の高級住宅地。そこに大沢邸はあった。 マリアとひとみの父、大沢賢治は、書斎に篭っていた。 CDプレイヤーのスイッチを入れると、[[上木彩矢]](かみきあや)の歌声が流れ出した。 大沢は容貌に似合わず、中学生が好きそうなガールズロックを好んでいた。 64 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 14 49 14 ID Jq40Cgdx0 11 05 加納はアタッシュケースを追いかけていたが。つい先ほど、見失ってしまっていた。 途中、外国人から他の外国人へと、アタッシュケースは何度もリレーされた。 携帯電話が鳴った。加納の恋人、留美からだった。 捜査中だったが、急用なのだろう。加納は電話に出た。 「留美?どうした?」 『う、うん。今、渋谷にいるんだけど。実はね。急にお父さんが長野から出てきたの。 でね、慎也さんに会わせろって。駅前の、 ロートレック って喫茶店にいるから』 留美の父、静夫は、今でこそ農業をやっているが、元刑事だった。 加納が刑事になったのも、静夫に気に入られようとしたからだった。 加納は静夫の元に結婚の承諾を求めに行ったが、今まで一度も会ってさえくれなかったのだ。 だが、今になって急に会わせろとは、どういう風の吹き回しなのだろうか。 「所長、よろしいですか」 書斎に入ってきたのは、大沢の部下の田中護だ。 自分の仕事もあるというのに、田中はこうして大沢の家まで出向いていた。 本当に頼りになる、と大沢は思った。 「こんなときになんですが、研究所から電話がありまして、昨日送ったメールの返事がほしいそうです」 田中が退出した後、大沢はパソコンに向かって、メールをチェックする。 大沢は 大越製薬 の研究所の所長で、主にウイルスの研究をしている。 「わたし、[[道玄坂]]に行かないと!」 ひとみが亜智に言った。 『道玄坂に止まっている青いワゴンに乗れ。ワゴンに乗るまで警察や家族と接触するな。 この二つを守れば、マリアを解放する』 アタッシュケースを渡した外国人にそう指示を受けたと、ひとみは言う。 もしかしたら、青いワゴンにはマリアが乗っているのかも知れない。 亜智とひとみは道玄坂の方へ歩いていった。 11 10 ニワトリの着ぐるみがタマに近寄ってきた。 「そろそろ戻ってお弁当食べないと、時間なくなるよ~」 ニワトリはタマの籠に残っている試供品を見てため息をついた。 「これはわたしがこっそり飲んどいてあげるよ。大丈夫、バレないって。さ、行こう」 ニワトリとタマは連れ立って、センター街にある雑居ビル 野金(のかね)ビル へと向かった。 11 15 野金ビルの、バーニング・ハンマー即売会場の隣の控え室に着いた。 「ねぇ、お願い」 ニワトリがタマに背中を向けた。タマがファスナーを下ろしてやると、 中からたまごのような丸々とした女性が出てきた。 「わたし、知里子。チリでいいよ」 タマも着ぐるみを脱がせてもらおうと、チリに背中を向けた。 「あれ?あー、これダメだわ。ファスナーが噛んじゃってる」 レンタルしてるものなので、勝手にファスナーを壊すわけにもいかない。 頭だけ外そうと思ったが、これは頭と身体がくっついているタイプなのでダメだ。 チリはおいしそうにお弁当を食べ始めたが、着ぐるみを着たままのタマは食べられない。 65 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 14 50 20 ID Jq40Cgdx0 11 20 亜智とひとみの前方の路上で、男たちが揉めている。 「お前、それでも KOK か!」 KOKとは、『かっこいい、オレら、今日も行く』の略。 昔、亜智は愛する渋谷を守るために自警団を作ろうと思い立った。 それはいつしか大きくなっていき、渋谷最大のチームとなった。 亜智は初代ヘッドとして祭り上げられたが、あることをきっかけに辞めてしまった。 あの男は、亜智がKOKを辞めるときに後を任せた、現ヘッドの進(すすむ)だ。 「進、道の真ん中で仲間ボコってんじゃねーよ。善良な一般市民の方々がビビるだろ」 亜智はそう注意した。 「亜智さん、気安く声、かけないでもらえますか?」 進はよそよそしく言うと、亜智に背中を向けて歩き出した。 大沢の元に変なメールが来ていた。タイトルは『一年前、南アフリカで』となっている。 送信者はAとあった。本文は無く、画像が数枚添付されているだけだった。 いやな胸騒ぎがする。大沢は画像を開いた。 画像には横たわる病人たちが写っていた。間違いない。 これは ウーア・ウイルス の感染者だ。 ウーアはスワヒリ語で花を意味する。ウイルスの増殖した姿が花びらに似ていることから命名された。 しかし、このウイルスの危険度は花などという可愛らしいものではない。 ウーア・ウイルスに感染した場合の致死率は100パーセントだ。 しかも、感染してから発症するまで僅か12時間。 発症すると、穴という穴から出血して死ぬ。 また、発症すると空気感染するようになり、さらに被害が増大する。 あまりに危険なため、一般には今も存在を極秘にされている。 66 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 14 53 23 ID Jq40Cgdx0 11 25 「死ぬなよ……!!」 [[国道246号]]をバイクで飛ばし、エンストしたバイクを置いてタクシーに乗り換える。 御法川は渋谷にある、 ヘブン出版 の入っているビルに着いた。階段を駆け登り、ドアを蹴破る。 ヘブン出版の社長、ハゲの頭山と、その娘、10歳の花(はな)がいた。 天井から、輪になったロープがぶら下がっている。 御法川はビシッと頭山を指差した。 「事情を説明しろ!」 ヘブン出版が出しているゴシップ雑誌 月刊 『噂の大将』 。 今月の『噂の大将』には、削って当たると10万円もらえるスクラッチカードがついていた。 それが好評で、10万部完売したという。 「そのスクラッチカードがそもそもの原因なんだよね。 裏からライトを当てると、透けちゃうんだよ、当たりの文字が。 印刷会社との打ち合わせミス。全部俺の責任なんだ」 その情報はネットに流れ、一気に数千人もの当選者が生まれることになった。 ヘブン出版は莫大な負債を抱えることになった。社員はみんな辞めてしまった。 このままでは来月号の『噂の大将』が落ちる。そうすれば、負債はもっと増える。 「だったら落とさなきゃいいだろう」 「俺だって必死でページを埋めてみた。しかし、無理なものは無理だ。 [[校了]]は今日の午後8時なんだ」 「これ、飲む?」 チリはタマに、ストローがついた水筒を差し出した。タマはストローの先を着ぐるみに押し込んだ。 なんとか口に届いて、飲むことができた。それは冷たいお茶だった。 チリはこう見えてダイエットに気を使っているらしい。このお茶もダイエットのためとか。 「ダイエットにうるさいわたしの意見からすると……これはインチキね」 チリはバーニング・ハンマーを指してそう言った。 「チリくん、インチキだなんてひどいじゃないか」 柳下がやってきた。 「これは絶対効くって。試しに飲んでみる?」 タマは飲んでみることにした。これで痩せられれば儲けものだ。 バーニング・ハンマーの瓶を着ぐるみに押し込んで、一口飲む。 最初は何も感じなかったが、タマの全身から次第に汗が噴出してきた。 「なにこれ。ただ辛くて汗かくだけじゃないですか」 「こういうのって、100円ショップに流れるんですよね」 チリとタマは呆れている。 しかし、たとえインチキでも、やり遂げなければ、あのネックレスは手に入らない。 このバイトに賭けるしかない。タマは気合いを入れた。 67 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 14 58 57 ID Jq40Cgdx0 11 30 御法川はビシッと人差し指を突き出す。 「来月号の[[台割]]と企画書を持ってこい!」 台割を見ると、あと12ページを埋めなければならないことがわかった。 これを1日で埋めるのはかなりキツイ。だが、昔世話になった頭山を死なせないためにも、やらなければ。 企画書には、大きな字で『渋谷特報最前線』と見出しがある。 『飲めば飲むほど細くなるダイエット飲料バーニング・ハンマー』 『監視社会!渋谷に張り巡らされた監視カメラ』 『渋谷伝説の自警団(チーム) 栄光と没落』 『転落人生!かつての名放送作家は今!?』 『美人双子姉妹!緑山学院大学のミスキャンパスにダブル受賞』 『渋谷NOW!』 この6つの企画で2ページずつ記事を書けばいいだろう。 御法川は取材する順番を決め、アポを取った。 『渋谷NOW!』はタイトルだけで内容が決まっていない。 これは人に任せることにした。御法川の知り合いの駆け出しの女性ライター、磯千晶に電話をする。 千晶に簡単に事情を説明し、渋谷駅前で街頭インタビューするよう指示を出した。 11 35 大沢の元にまたAからメールが届いた。本文には、 『目を背けるな。これがお前の罪』とある。 添付された画像を開く。先ほどと同じ感染者に、なにかを注射している画像だった。 これは、[[抗ウイルス剤]]を投与しているに違いないと大沢は思った。 抗ウイルス剤というのは、ワクチンと違い、直接ウイルスを倒す薬だ。 大沢はウーア・ウイルスの抗ウイルス剤を開発していた。 初めのうちは副作用が強すぎて使えない代物だったが、 [[ドラッグデリバリーシステム(DDS)]]を使用することで副作用を抑えることに成功した。 ほぼ完成していると言ってもいいレベルだったが、まだ人体への[[臨床実験]]を行っていない。 臨床実験には様々な障害があった。まず、[[治験者]]をウーア・ウイルスに感染させる必要がある。 もし抗ウイルス剤に効果が無ければ、治験者は死んでしまう。人権的な問題があった。 だが、この画像は、臨床実験などではない。人体実験だ。 こんなことが秘密裏に行えるのは、上司の牧野だけだ。 68 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 00 21 ID Jq40Cgdx0 11 45 御法川は監視カメラの取材をするために、遠藤電機店にやってきた。 亜智の父親、遠藤大介に取材を申し込んだが、忙しいと言われて断わられた。 店に電話がかかってきた。大介は困った顔をした。 「メーカーからでした。昨日ドライアイスマシンを売ったんです。それが欠陥品だと言われましてね。 ドライアイスを作り出すと止まらなくなってしまうらしいんです。回収するって伝えないと……」 大介は電話をかけたが、相手が出ないようだ。 「困ったな、連絡が取れない。買っていったのは 『迷天使』 とかいう劇団の人なんですけど」 確か『迷天使』は、御法川が午後に会うとアポを取った劇団だ。 「5分だ!5分だけ話をさせてくれ。オレは今日これから『迷天使』の人間と会うことになっている。 ドライアイスマシンのことを話しておいてやろう」 交渉成立。取材させてもらえることになった。 大介は監視カメラの仕組みを説明した。設置されているのはWebカメラで、 無線LANでつながっており、ここに置いてある端末か、商店街の端末で見ることができる。 「しかし、知らない間に監視カメラで記録されるってのは気持ちのいいもんじゃないね」 「私が監視カメラを悪用するとでも言いたいのか?こっちは市民の安全を守るために やってるんだ。もう5分たった。帰ってくれ」 アタッシュケースを追っている加納の無線に連絡が入った。 『ハチ公前でアタッシュケースを持ち逃げした男の身元が判明した。 名前はタリク。渋谷を縄張りにする外国人犯罪グループの一員だ』 11 50 大沢の家のリビングには、刑事たちが詰めていた。 「いつまでもたもたやってんの!早く犯人を捕まえなさいよ!」 キツイ香水の匂いを周囲に振りまきながら、大沢の妻の愛(あい)が喚いていた。 「これでお金を取られたら、ちゃんと弁償してくれるんでしょうね!?」 まるでマリアよりお金のほうが大事だと言わんばかりだった。 大沢は先妻を15年前に亡くしていた。 マリアとひとみを連れて、大沢は牧野の娘である愛と再婚したのだった。 11 55 亜智とひとみは道玄坂に来た。しばらく待っていると、青いワゴンがやってきた。 ひとみをその場に待たせ、亜智が青いワゴンに近寄っていく。 ワゴンから外国人たちが降りてきて、亜智を取り囲んだ。 しばらく睨み合いが続いたが、いつの間にか野次馬が寄ってきていた。 外国人たちは舌打ちし、ワゴンに戻った。青いワゴンはそのまま走り去った。 道路の反対側に杖の男がいるのが見えた。亜智とひとみは道玄坂を一気に下って、 センター街へ逃げた。 To Be Continued 69 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 01 04 ID Jq40Cgdx0 12 00-13 00 12 00 大沢は書斎に逃げ込んで、アルバムを開いた。 最後のページに挟んであるポストカードを眺めた。 2年前、マリアと一緒に中東に行ったときに買ったものだ。 マリアは当時、中東問題に興味を持ち始めていて、 中東に出張する大沢に付いていくと言ったのだった。 「奥さん!困ります!」 「ちょっと買い物に行くだけよ!」 廊下の方が騒がしい。愛が刑事の制止を振り切って、家の外に出た。 12 05 亜智とひとみはビルの裏にいた。 「ひとみ、ペットボトルはどうやって捨ててる?」 「どうやってって……ラベルをはがして、洗って、つぶして……」 「良かった。それがあんたを助ける理由になる。環境に優しい人間に、おれは優しい。 何たって、おれはエコ上等だから」 亜智は誇らしげにエコ吉がプリントされたTシャツを指した。 12 10 亜智とひとみは再び道玄坂へ向かった。 その途中で、少年たちと出会った。 「かわいい子連れちゃって、いい気なもんですね~」 亜智には見覚えある顔だった。KOKのメンバーだ。 「グロマブじゃん。紹介してくださいよ~」 少年たちはひとみに絡んできた。 「初めまして、亜智さん」 長身で目つきの悪い男がやってきた。 「桐生っていいます。今、進さんの下でナンバー2をやってます。 初代ヘッドのレジェンド、いろいろと聞いてますよ」 桐生は少年たちを連れて去っていった。 大沢は、あのメールのことを考えていた。 牧野がやったとして、抗ウイルス剤をどうやって保管区域から持ち出したのだろう? 保管区域に入るには、大沢と田中両方の指紋認証が必要だった。 万が一に備え、パスワードでも扉は開くが、パスワードは英数字で10桁だ。 それも、大沢と田中の両方が揃わないと駄目だ。 アタッシュケースのリレーを追っていた加納と笹野は、渋谷駅前に戻ってきていた。 そこでは千晶が街頭インタビューをしていた。 千晶はアタッシュケースを持った外国人になにやら話しかけている。 千晶はインタビューしてるだけなのだが、加納と笹野には連絡を取り合ってるように見えた。 「アヤシイな……。俺は女を調べる。お前はアタッシュケースを追え」 千晶を調べるという笹野と別れ、加納はひとりでアタッシュケースを追うことになった。 70 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 02 09 ID Jq40Cgdx0 12 15 柳下に続いて野金ビルの搬入口に行ったタマ。 「あれ~?たしかにここにあったのになぁ」 バーニング・ハンマーの入ったダンボールはなくなっていた。 搬入口を出て道路に出てみると、バーニング・ハンマーを載せたトラックが去っていくところだった。 何かと間違えて持っていってしまったらしい。 「探す!あのトラックを探すぞ!」 タマとチリは手分けしてバーニング・ハンマーを探すことになった。 ”世界はそれ~でも~♪” ひとみのポケットから上木彩矢の着うたが鳴り響く。 「亜智さん、メールです。田中さんから」 「田中さんって誰だ?」 「父の同僚ですけど……。わたしのこと心配してくれているみたいです。 あっ、返事、どうしよう」 「家族との接触はダメだけど、メールぐらいならいいんじゃないか」 亜智の言葉に安心し、ひとみはメールを打ち始めた。 亜智の中に妄想が膨らんだ。ひとみは父親の同僚と付き合ってるのでは? 意外と中年男を手玉に取るタイプなのか? そのうち馬鹿馬鹿しくなってきたので妄想を打ち消した。 駅前のロートレックという喫茶店に入り、パソコンを取り出して執筆を始めた御法川。 喫煙可の喫茶店を探すのに時間をロスしてしまっていた。 少し離れた席で静夫と留美が言い争いをしている。 「今日こそあの男と別れるんだ!」 「ちょっとやめて、お父さん!!」 71 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 04 08 ID Jq40Cgdx0 12 20 「所長、お見せしたいものが……」 田中がやってきて、大沢に携帯のディスプレイを見せる。それは、ひとみからのメールだった。 『男の人に追われています。拳銃を持っていて、わたしの命を狙っているようです。 何とか無事なので安心してください。家族や警察との接触は犯人から禁じられました。 このメールは内密に願います』 ひとみが無事らしいので、大沢はひとまず安心した。それにしても、 何故田中がひとみのメールアドレスを知っているのだろう。まさか、ひとみと関係が? 大沢はその考えを振り払った。 「もしかするとこれは所長に恨みを持つ者の犯行ではないでしょうか。 私がいろ色々と情報を集めてみます」 田中がそう提案してきた。 「済まない。君に任せる」 亜智とひとみは人通りの少ない[[円山町]]を通過中。 と、目の前に杖の男が待ち構えていた。二人は必死になって走り、 大通りに出て人ごみに紛れた。 御法川の耳にピッピッという電子音が聞こえてきた。 バーニング・ハンマーを探しているはずのチリが、ロートレックの店内にいる。 電子音は、注文を取っているウェイトレスが叩く端末の音だった。 アタッシュケースを追う加納。しかし、犯人の目的がわからない。 犯人を泳がせておくことが本当に事件解決に繋がるのかという疑問が浮かぶ。 加納は尊敬する先輩刑事、建野(たての)と初めて会ったときのことを思い出していた。 3年前、加納が交番勤務だったころ、雑居ビルで立てこもり事件が発生した。 犯人はガソリンを撒き、火をつけようとしていた。 建野がやってきて、ガソリンを頭からかぶり、ビルに入っていった。 「やりたきゃやれ。俺も一緒に死んでやる」 犯人は動揺していた。建野は犯人を確保した。 ビルから出てきた建野は加納に言った。 「命を懸けている奴には、こちらも命を懸けなければ説得は出来ん。 お前も警察官だったら、守るべきものを見失うな。それが基本だ」 加納は建野の行動を思い出すと、こうして尾行を続けていることが情けなくなってきた。 12 25 また御法川の耳に電子音が聞こえてきた。今度の発信源は自分の鞄の中だ。 盗聴探知機が盗聴器を見つけて鳴り出したらしい。 あの香水の匂いのキツイ女がアヤシイと思ったが、御法川は執筆を続けた。 72 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 05 56 ID Jq40Cgdx0 12 30 笹野は加納に追いついた。 「アタッシュケースの受け渡し、そろそろだと思うんですけど、 挟み撃ちと行きませんか?」 加納の提案に笹野はニヤリと笑った。 「お前、命令違反はまずいぜ。しかし、乗った。俺も尾行にはうんざりしてたんだよ」 ロートレックにて。飲食物を大量に注文したチリだったが、それをものの数分で胃袋に入れてしまった。 それを見ていた御法川はチリに声をかけてみることにした。 「オレはフリーのライターなんだけど、ちょっと君を取材させてほしいんだ。 食べても太らない秘訣みたいなものってあるのかな?」 チリは顔をほころばせる。 「やっぱりわかります?これでもいろいろと気を使ってるんですよ。あっ、そうそう。 バーニング・ハンマーっていうのがあるんだけど、興味あるんなら即売会に来てみる?」 チリは即売会のチラシを差し出した。思わぬところで情報を手に入れることができた。 12 35 バーニング・ハンマー即売会まであと25分。だが、肝心の商品は見つけられそうも無い。 駅前に立ち尽くすタマ。 「あ、あなたは、今の自分をどう思いますか?」 声をかけられて、驚いてふりむいた。千晶がタマに話しかけてきたのだ。 「今の自分……見ての通り、ネコです」 ネコの着ぐるみを着てるから、適当にそうこたえた。 「ありがとうございました!」 訳がわからない。タマはバーニング・ハンマー探しを再開した。 御法川は頭山に電話してみることにした。 「頭山さん、今どこにいる」 『今は松涛辺りを逃走中だ』 編集部にいたが、借金取りのチンピラがやってきたので逃げたらしい。 大沢は裏口からそっと外に出た。 「た、助けてくれ!!」 頭山と花が大沢に助けを求めてきた。大沢は、二人を収納庫に入れてかくまってやることにした。 頭山の怯え方に呆れた大沢は、家の中に戻った。 73 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 06 36 ID Jq40Cgdx0 12 40 亜智とひとみの行く手にまたもや杖の男が待ち伏せていた。 「何なんだよ、一体?」 二人は走り出した。目の前にダンボールが積んであるのが見えた。 亜智はダンボールを杖の男目がけて投げつけた。杖の男がひるんだ隙に逃げ出した。 御法川の携帯に千晶からの着信。 「どうした、千晶」 『ダメです、ミノさん。わたしには無理です……』 電話の向こうの千晶は泣いているようだった。 「とりあえずオレが行くまでそこで待っていろ」 街頭インタビューは意外と難しいものだ。しかし、ライターには出来て当然の基本スキルだ。 だから、千晶にはちゃんとやり遂げてほしかった。 御法川は千晶の書く文章に好感を持っていた。きっかけさえ掴めれば、 きっと読者に好かれるライターになるだろう。 12 45 千晶はハチ公像にしがみつきながらしゃがんでいる。 「いいから立て!」 御法川は千晶の目を見ながら言った。 「駆け出しのライターに好きなことを書かせてくれる雑誌なんてないんだ。 まず、基本的な実力をちゃんと身に付けろ」 「それはわかってるんですが……」 御法川は千晶のメモ帳を取り上げた。 「話を聞けたのは一人か。ん?なんだこれ、ネコ?」 大沢は愛の部屋に入ってみた。キツイ香水の匂いが漂っている。 ファッション雑誌が並んだ本棚の中に、一冊だけスクラップブックがあった。 めくっていくと、最後に雑誌記事が挟まっていた。 『政略結婚を仕組まねばならない大越製薬の台所事情』 そんな見出しだった。この記事は、大沢と愛が結婚した直後、『噂の大将』に書かれたものだ。 大沢を大越製薬に繋ぎ止めておくために、牧野が娘の愛を生贄として差し出したというのだった。 さらに、愛には結婚前に付き合っていた男がいたとも書かれていた。 馬鹿馬鹿しい。大沢は部屋を出た。 バーニング・ハンマーを見つけられないまま、即売会場へと戻ったタマ。 柳下の携帯が鳴る。 「奇跡だ!業者が途中で気づいて、ダンボールを搬入口に戻しておいてくれたって。 タマくん、すぐに取りに行って!」 再び搬入口へと向かったタマ。柳下の話通り、ダンボールが置いてある。 ん?よく見るとひっくり返っている。それもそのはず。 亜智が杖の男に投げつけてしまったからだ。 タマはダンボールを開けてみた。中のバーニング・ハンマーの瓶は全て割れていた。 74 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 09 06 ID Jq40Cgdx0 12 50 「あぁ、もういい、もう一度行ってこい」 御法川に言われ、インタビューを試みる千晶。しばらくして戻ってきた。 「やっぱりダメです」 「まず、声をかける相手を間違ってる。明らかに忙しそうな人は駄目だ」 「でも、それでつかまえられたとして、どうやって話を進めていったらいいか……」 「難しく考えずに、雑談を楽しむくらいでいい。いいか、よく聞け。 お前は今の自分をどう思う?」 「わたしは、今の自分、あまり好きじゃないです」 「だったら、そこから始めてみろ。わたしは今の自分が好きじゃない、 でも、あなたはどうですか?ってな」 「そっか」 千晶の顔がパッと明るくなった。 「それでいい。その顔が道行く人を呼び止める」 「やってみます!ありがとうございました」 千晶は人ごみの中に入っていった。 道行く人を呼びとめて、ちゃんとインタビュー出来ているようだ。 御法川はそれを見届けると、バーニング・ハンマー即売会場に向けて走り出した。 加納と笹野が立てた挟み撃ち作戦は失敗に終わった。 笹山はアタッシュケースを見失い、加納は犯人の確保に失敗した。 加納の手を逃れた犯人は、ナイフを取り出し、加納目がけて突いてきた。 加納はナイフを避けたが転倒した。 と、そこに大型の外車が止まり、長身のサングラスをかけた白人が降りてきた。 サングラスは犯人のナイフを蹴り上げ、犯人に肘を一発入れた。犯人は気絶した。 「犯人を泳がせろと命令があったはずだが?」 白人は流暢な日本語で加納に言った。 「お前、誰だ?」 「米国大使館の保安課員だ」 差し出した身分証明書にはジャック・スタンリーとあった。 75 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 09 53 ID Jq40Cgdx0 12 55 亜智とひとみは裏路地に逃げ込んだ。 「わたしのために、どうしてそこまでしてくれるんですか」 ひとみが問いかける。亜智は妹の鈴音(すずね)のことを話した。 鈴音は心臓が悪く、病院に入院している。ある日、お見舞いに行ったときのこと。 「お兄ちゃん、そんなに毎日お見舞いに来なくてもいいよ。 わたしは一人で大丈夫だから。お兄ちゃんは渋谷をまとめるすごい人なんでしょ? だったら、わたしよりもっと困ってる人の力になってあげてよ」 「なんだよ。困ってる人って、今のお前より困ってる人なんてどこにいんだよ」 「わたしのことはいいの。どこかでお兄ちゃんが誰かのために頑張ってる……そう思うと、 わたしは励まされるの。そうよ、絶対最後まで助けてあげなきゃ。 途中で投げ出したりなんかしたらだめよ」 その後、亜智はKOKを抜け、エコ上等人間になった。 「加納、しばらく私の指示に従ってもらう。君の上司の許可は得た」 ジャックの言葉に納得がいかなかった加納は本部に問い合わせてみたが、 ジャックに従えという上からの命令があったとのことだ。 無線が入った。 『捜査員に告ぐ。大沢ひとみの行方がわからなくなった。 護衛している建野にも連絡が取れない』 大沢の携帯に着信。牧野からだった。 『今、家の前にいる』 大沢はふと我に帰った。牧野の臨床試験を責める資格が自分にあるのだろうか。 ……いや、ない。自分も同罪ではないか。 すでに大沢も抗ウイルス剤の人体投与を行っていた。 「そうするしかなかったんだ……」 自分に言い聞かせるように呟いて、大沢は玄関に向かった。 To Be Continued 76 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 10 34 ID Jq40Cgdx0 13 00-14 00 13 00 亜智とひとみに靴音が迫ってきた。杖の男だ。 亜智はサッとひとみをかばった。 「邪魔をするな……。亜智、その女を殺すことは、お前のためでもある」 杖の男の言葉に亜智は声を荒げた。 「ふざけんな!ひとみを殺すことがおれのためとか、意味わかんねーし」 突然タリクが現れて、杖の男の頭を殴った。杖の男とタリクがやり合ってる隙に逃げた。 バーニング・ハンマーの即売会場に向かいながら、御法川は頭山のことを考えていた。 頭山は御法川が新聞社に務めていた頃の上司だった。毎日怒鳴り合い、ぶつかり合うことで、 御法川のスキルは上がっていった。 粉々になったバーニング・ハンマーの前でがっくりと膝をつくタマ。 これではバイトもネックレスもなにもかもダメになってしまう。 ふとひっくり返ったダンボールを見ると、特徴的なマークが描かれていることに気づく。 このマークは確か、どこかで見たことがある。 先ほどのチリの言葉が頭をよぎる。 『こういうのって、100円ショップに流れるんですよね』 あれは100円ショップじゃなくて、センター街の雑貨屋だ。 タマはセンター街に向けて走り出した。 77 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 15 11 41 ID Jq40Cgdx0 13 05 雑貨屋にやってきた。バーニング・ハンマーの箱が置いてあった。 「これ、全部ください!」 タマが言うと、雑貨屋の店主は困った顔をした。 「それ、売約済みなんだよね」 買った人がもうすぐ来るというので、タマは直接交渉してみることにした。 御法川は雑貨屋の前を通りかかった。そこで高校生くらいの女の子とぶつかってしまった。 女の子に胸ぐらを掴まれた。すごい力だった。 「ってあれ?御法川さんじゃない?」 女の子はミクだった。5年くらい前、ある事件の取材がきっかけで御法川とミクは知り合った。 強くなりたいと言うミクに、総合格闘技道場を紹介してやったのだ。 「強くなったんだな」 「うん。だって……」 ミクは BRIDE という、女子同士の格闘を見せるというショーパブで働いているという。 「今度試合、見に来てよ。わたし、チャンピオンなんだから」 「じゃあ、オレ、急いでるから……」 ミクは雑貨屋に入っていった。 バーニング・ハンマーを買ったのはミクだった。 「突然すみません!これ、譲ってください」 タマはミクに頼み込んだがミクは譲らない。 聞けば、ミクはBRIDEファイターだという。 「それじゃあ、わたしと勝負してください。わたしが勝ったら、これ全部譲ってください」 78 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 16 17 16 ID Jq40Cgdx0 13 10 加納はジャックの車に乗り込んで、外国人犯罪グループのアジトへと向かっていた。 「何を考えてる?さっきの無線の建野とかいう刑事のことか? まったく、女ひとりも護衛できないとは、情けない話だ」 ジャックの言い方に怒りをあらわにする加納。 「建野さんを馬鹿にするな!」 御法川はバーニング・ハンマーの即売会場に到着した。 1時を過ぎているがまだ始まっていないようだ。 壇上ではチリが手品をして時間稼ぎをしている。 客はほとんど女性で、客席はほぼ満員だった。 タマとミクは雑貨屋の外に出て、睨みあった。 「ストリートファイトだ!!」 いつの間にか野次馬が集まってきていた。 試合開始。ミクのパンチをタマはヒョイっと避けた。 着ぐるみを着ているとは思えないくらいの動きだった。 ミクが繰り出した足をキャッチし、押し返す。ミクの身体が宙を舞った。 タマの完全勝利だった。 「BRIDEファイターがストリートファイトで負けるなんて……。もう普通の女の子に戻るしか……」 ミクは肩を落として去っていった。 タマは雑貨屋に戻ってバーニング・ハンマーのダンボールを抱えた。 「いくらですか?」 「いやいや、お代は結構だよ。さっきの[[合気柔術]]でしょ?いいもん見させてもらったよ」 タマは雑貨屋を飛び出して走った。もう即売会は始まっている。急がなければ。 79 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 16 18 08 ID Jq40Cgdx0 13 15 大沢の携帯電話に牧野から着信。 『今、家の前だ』 大沢は外に出ると、止まっている牧野の車に乗り込んだ。 「……何を聞きたい」 大沢は単刀直入に牧野に訊ねた。 「抗ウイルス剤を持ち出したのはあなたなんですね」 「ああ、そうだ」 「しかし、どうやって?」 「確かに、抗ウイルス剤の保管区域には君と田中がいなければ入れない。 ……以前、動物実験のために、抗ウイルス剤を搬出したことがあっただろう?」 「まさか……」 「そのまさかだ。そのときの抗ウイルス剤を横流しさせてもらった」 「でも、どうして?」 「君は、あの価値がわかってないようだ。某大国はすでに、 ウーア・ウイルスを兵器として使ってる。 ウーア・ウイルスに対抗できる術は、大越製薬にしかない。 欲しがっている国はいくらでもある」 「だから一刻も早く人体実験したかったと?でも、それには人権問題が……」 「正直になれ。人体実験の被験者のことなど、興味がないくせに。 君の興味は研究だけだ。要は、臨床試験が勝手に行われたのが納得できないだけだろ?」 「……そこまで馬鹿にしないでください!それでは失礼します」 大沢は牧野の車を降り、家に戻った。 亜智とひとみは劇団『迷天使』が使っている倉庫の中へ逃げ込んだ。 しばらく息を潜めていると、『迷天使』の劇団員たちがやってきて、荷物を運び出し、 出入り口の扉に外側から鍵をかけてしまった。 閉じ込められてしまったが、しばらくは杖の男に襲われる心配はないだろう。 ジャックと加納が乗った車は渋滞に巻き込まれ、のろのろと進み、 タリクと笹山が揉み合っている場面に通りかかった。 加納はジャックの制止も聞かずに車を降りて、駆けつけるなりタリクを投げ飛ばした。 タリクは取り押さえられた。笹山が渋谷署に連行することになった。 加納はまたジャックの車に戻った。 80 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 16 18 53 ID Jq40Cgdx0 13 25 玄関に愛が大沢を待っていた。外出から帰ってきたらしい。 「父に会ったのね」 「ああ。仕事を片付けてくる」 大沢は書斎へ向かった。 渋滞はまだ続いていた。いい機会だ。加納はジャックに疑問を投げかけることにした。 「犯人の目的はなんだ?少しは話してもらわないと協力できないぞ」 「……薬だ。誘拐された大沢マリアの父が、大越製薬の社員だということは知ってるな。 最近になって、大沢は抗ウイルス剤を開発した。それを強奪するため、 ある国際的犯罪者が動いている。外国人犯罪グループはそいつに飼われているだけだ」 犯人を泳がせるようにと指示を出していたのはジャックだったという。 ひとみは田中に状況を説明するメールを打つことにした。 「なんかおかしくねぇ?」 暗い倉庫の中で亜智が声を上げた。 なぜ犯人はひとみに青いワゴンに行くよう指示したのだろうか。 「犯人は本当はわたしを誘拐するつもりだったとか?」 亜智とひとみは考え込んでしまった。 ひとみとマリアは外見がそっくりだという。犯人は間違えてマリアを誘拐してしまい、 ひとみと引き換えにマリアを解放すると言った、と考えるのが自然だろう。 そうだとすると、マリアでなくひとみを誘拐する理由がわからない。 ただ単に身代金が目的なら、誘拐するのはどちらでもいいはずだ。 ひとみを誘拐する理由を亜智は考えた。 「ひとみの方が姉ちゃんよりイケてるとか?」 「そんな……わたしなんか、姉と比べたら、とてもとても……」 ひとみは自信なさそうに言った。 御法川は柳下を見つけて声をかけた。 「あんたが主催者か?即売会はいつ始まるんだ?」 そして数分後。 「おおお待たせしました!」 タマが即売会場に駆け込んできた。 タマは舞台裏に回って、柳下と段取りを打ち合わせした。 壇上で手品をしていたチリだったが、いつの間にかジュース早飲みを披露していた。 チリは汗を大量にかきながら舞台裏に来た。 81 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 16 19 35 ID Jq40Cgdx0 13 30 即売会がスタートした。タマが商品の説明をして、チリが試飲してみる、そういう段取りだ。 以外にも客の反応がよかった。チリがバーニング・ハンマーを飲む。だが、汗が1滴も出ない。 「そりゃ、あれだけ汗かいた後だからね」 「えっ、なんで?」 「あんたが100円ショップでもたもたしてるからだよ」 チリが怒鳴った。 「ち、違うんです。これは貴重な商品で100円ショップでしか売ってなくて……」 タマの言葉に驚いた柳下が裏から出てきて言う。 「ダメだよ、タマくん!本当のことバラしたら売れなくなるじゃないの」 言った後に気付いてももう遅い。 「100円ショップですって!?」 「そんなもの売りつける気?」 「冗談じゃないわよ!!」 客席は騒然。タマは客たちにもみくちゃにされた。 御法川は客を取材しようと思ったが、会場を出ようとする客たちの波に飲みこまれ、 会場を出てしまった。 加納は笹野に電話した。 「そっちはどうです?無事に連行出来ましたか?」 「あぁ、タリクの連行は建野さんに任せたぞ。さっき、署の近くで会ったんだ。 大沢ひとみを見失っちまったんで、署に戻るところだったらしい」 13 35 客たちが出て行った後の即売会場。柳下は床に座り込んでいた。 「社長、バイト代……は無理か。だったら現物支給で」 チリはバーニング・ハンマーのダンボールを持って去っていった。 タマと柳下だけになった。柳下はまだたそがれている。 柳下の背中にタマは言った。 「あのねぇ、自分だけが不幸なんて思ったら大間違いですよ。 言っときますけど、わたしなんか、記憶がないんですから!」 「じゃあ、タマっていうのは?」 「とっさに思いついた名前を言っただけです。今朝目を覚ましてから前のこと、なにも覚えてないんです。 それに比べたら社長なんかまだマシです」 柳下は財布をとりだすと、2万円を出してタマに渡した。 「さぁ、行きたまえ。その着ぐるみも持って行きなさい」 「それより、大丈夫なんですか?これから」 「君の不幸に比べれば、私なんてまだまだ。もう一度出直してみせるさ。 それでBRIDEファイターのミクちゃんに会いに行くんだ……ウヒヒ!」 タマは心配して損したような気がした。 御法川は即売会場に戻ってきた。会場を出て行くタマとすれ違った。 「5分でいい、取材させてくれ。今の心境は?」 柳下に声をかけた。柳下はなにかふっきれたような顔をしていた。 「明日は明日の風が吹く……かな。惚れた女がいましてね、貢いじまって、借金を……。 でも、自分だけが不幸だと思うのはやめました。世の中にはもっと大変な思いをしてる人、いますよね」 82 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 16 20 29 ID Jq40Cgdx0 13 40 大沢はパソコンの前に座り、いつも行く[[ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)]]にアクセスした。 40歳以上の、上木彩矢のファンによるコミュニティ、 AyaNET だ。 AyaNETの掲示板に書き込みした。 「仲直りしないんですか、その、進さんでしたっけ」 長い沈黙の後、ひとみは亜智に言った。 「それは……無理だろうなぁ。自分で進んでヘッドになったわけじゃねーんだけど、 それでも、おれが抜けることでKOKがバラバラになっちまったら……。 そこで考えたんだ。おれがいなくても、結束する方法をさ」 亜智はKOKを抜けるとき、わざと進に憎まれるようなことを言ったのだった。 自分が憎まれることで、KOKは一つにまとまるだろう。 「あいつらとまたいっしょに街をつるんで……って、そう思うこともあるよ」 亜智の話は続く。 「でも、鈴音が治んなきゃ、それもありえねー。 鈴音が治るには、心臓移植が必要なんだ。ちくしょー、おれの心臓をやれるんならやりてーよ」 ひとみには言わなかったが、鈴音は[[ボンベイ型]]という特殊な血液型で、 それがさらに心臓移植を難しいものにしていた。血液型が同じでなければ、心臓移植は出来ない。 13 45 ジャックと加納が乗った車はようやく動き出した。 「おい、前を見ろ!」 先ほど捕まえたばかりのタリクが一人で歩いている。手錠もしていない。 タリクは人ごみに紛れた。見失ってしまった。 「タリクは連行されたんじゃない。建野が意図的に逃がした。そうとしか考えられないだろう」 ジャックはそう言うが加納にはにわかに信じられなかった。 「絶対理由があるんだ。建野さんはなにかを掴んでる……」 83 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 16 21 18 ID Jq40Cgdx0 13 50 御法川はロートレックに戻って、執筆を再開した。 「なんだ、この店は。ろくな雑誌を置いていないな」 静夫が『噂の大将』に悪態をついていた。 御法川は千晶に電話をかけてみることにした。 「進み具合はどうだ」 『わたし、なんとか話を聞けました!これもミノさんのお陰です』 「それじゃ編集部に戻って記事にまとめてくれ。こっちも出来次第すぐメールする。 [[DTP]]でレイアウトに流し込んでくれ」 『了解です』 13 55 倉庫の鍵を壊して、杖の男が中に入ってきた。 亜智とひとみが潜んでいる場所にはまだ気付いてないようだった。 杖の男は携帯電話で誰かと話している。 「たしかにこの倉庫だな」 亜智とひとみは、杖の男に見つからないように倉庫を出て、走った。 裏路地を走っていると、行く手を外国人の男にふさがれた。手にはナイフを持っている。 「やるしかねーのか……」 亜智が身構える。 そのとき目の前に小柄な外国人の少女が現れて、男に手刀を食らわせた。 ひとみが少女を見て小さく呟いた。 「……カナン」 大沢はキッチンで遅い昼食をとっていた。田中が大沢の側にやってきた。 「ひとみさんからメールが来ました」 『姉さんは渋谷のどこかで、青いワゴンに監禁されているようです。 わたしはまだ男に追われていて、なかなかワゴンを探せません』 田中は青いワゴンを探してみると言って、家を出ようとした。 入れ替わりに電子音が近づいてきた。詰めている刑事の一人だった。 「今、私の盗聴探知機が反応しました。間違いありません。田中さんには盗聴器がついています」 タマは再び雑貨屋に行った。 「このネックレス、ください。……あっ、お財布、この中なんです」 着ぐるみを脱がなければ財布が取り出せないことに気が付いた。 「それ、脱げばいいんじゃない?もうボロボロだし」 ファスナーが外れそうになっている。これならなんとか脱ぐことが出来そうだ。 着ぐるみを脱いだ彼女の顔は、ひとみとそっくりだった。 To Be Continued 84 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 16 58 20 ID Jq40Cgdx0 14 00-15 00 14 00 [[富ヶ谷]]の雑居ビルに犯罪者グループのアジトはあった。 ジャックと加納が中に踏み込む。そこには血溜りが広がっていて、 死体が10体ほど転がっていた。それはアタッシュケースをリレーしていた面々だった。 みんなナイフでひと突きにされているようだった。 かろうじて生きている男がいた。そいつは『カナン』と呟いて息絶えた。 「カナンってなんだ?」 加納はジャックに訊ねた。 「カナンというのは中東の工作員の名前だ。暗号解読のスペシャリストだ。 ここの連中は恐らくカナンに殺されたのだろう」 テーブルの上に地図が載っていた。その地図にはアタッシュケースのリレーの指示が書き込まれていた。 ゴールはどうやら[[広尾]]のマンションの一室らしい。そこに『14 20』という時刻が書き添えられていた。 加納は得た情報を本部に報告した。 「お前は……ひとみだな?」 「はい。カナンさんですよね。姉から聞いてます。外国人の友人で、すごい子がいるって」 亜智の目の前に飛び出してきた、ダークブラウンの髪を長く伸ばした少女を、ひとみはカナンと呼んだ。 「お前の姉、マリアが誘拐されたのは、私の責任だ。だから必ず私が助ける」 カナンはそう言って、亜智とひとみに背を向けた。 「教えてください!!姉はどうして誘拐されたんですか?」 「15時に[[GiGO]]とかいうビルの前に来い。説明はその後だ」 ネコの着ぐるみの中に入っていたのはマリアだった。 だが、マリア自身は記憶喪失のため、自分が何者なのかがわからない。 「ネックレス、3万円でいいよ。どうやら、服を買わないといけないみたいだし」 雑貨屋はマリアが着ている黄色いセーターを指差した。腕のところがいつの間にか破けていた。 玄関の方へ去ろうとする田中に刑事が飛びかかった。 刑事は盗聴探知機で田中の身体を調べる。ネクタイピンが盗聴器になっていた。 「これをどこで手に入れたんですか」 「わたしがあげたのよ」 2階から下りてきた愛がそう言った。大沢は愕然とした。 「き、君が盗聴していたのか」 「ふん。なにも聞こえやしなかったわ。やっぱり安物は駄目ね」 愛は先ほど外出したときに盗聴器を買ってきたのだという。 途中で愛が立ち寄ったロートレックの店内でも、御法川の盗聴探知機が反応していた。 「田中さん、さっき誰かにメールしてたでしょ。わたし、窓から見たのよ」 愛は田中が犯人と連絡を取っていると思って盗聴器をしかけたらしい。 田中がメールした相手はひとみだ。愛に知られたら面倒なことになるかもしれない。 大沢はとっさに田中をかばった。田中は大沢邸を出て行った。 85 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 16 59 07 ID Jq40Cgdx0 14 05 マリアの胸には琥珀のような飾りのついたネックレスが揺れていた。 新しい服を買いに、渋谷GiGOの中へ入った。 渋谷GiGOはファッションビルだ。地下2階から1階がゲームセンター。 2階はレディースファッションとプリクラコーナーが半々。 3階はファッションの店が並ぶ。4階はレストラン街だ。 (渋谷GiGOは実在しますが4階まで全てゲームセンターです) マリアは2階に行った。頭山がやってきてマリアに話しかけた。 「あのう、すいません。10歳ぐらいの女の子、見ませんでした?花っていうんです」 頭山は花とはぐれてしまったらしい。 マリアが知らないと言うと、頭山はがっかりした様子で去っていった。 亜智とひとみはカナンと別れて、裏路地を出た。 「こんな状況でなんだけど……腹減らない?」 そこはファストフード店の前だった。ひとみは食欲がないらしかったが、 亜智はなんとかなだめすかした。 亜智はミートソーススパゲッティ、ひとみはいちごパフェを注文し、席に着いた。 「姉は本当にすごいんです。あのカナンって子とは、父と中東を旅行したときに 知り合ったらしいんです。中東を旅行なんて、わたしには真似できないくらいの行動力です」 席に着くなり、ひとみが言った。 「いやいや、ひとみはひとみ、姉ちゃんは姉ちゃんだ」 「リーランド先生と同じことを言うんですね」 リーランドはひとみが通う緑山学院大学の英語講師だ。 「あれ、大沢ひとみじゃね?やっぱかわいいよな。だってミスキャンパスだぜ?」 亜智の背後の席からそんな声がする。 「ミスキャンパスだって?ホントなのか」 亜智は興奮したように聞いた。 「えぇ、まあ。自分を変えてみたいなら応募してみるべきだってリーランド先生が……。 でも結局は、姉とのダブル受賞だったんです。たまたま姉も応募してて。 ……双子で受賞という話題作りのために、わたしは姉のついでに選ばれたんです」 自虐的なひとみの発言に、亜智は励ますように言った。 「なんつーか、もっと自信持っていいんじゃねーの?」 「わたし、駄目な人間なんです。こんな自分が嫌です。許せないんです。 昨日、パーティーに行く前、姉さんと喧嘩して……。パーティーの後で謝ろうと思ってました」 だが、マリアは誘拐されてしまった。 「おれはあのカナンって子ほど強くはねぇが、姉ちゃんを助けるの、最後まで協力させてくれ」 亜智の言葉にひとみはうなずいた。 ロートレックにいる御法川。 静夫が『噂の大将』が低俗だ、インチキだと文句を言っている。 「オレのどこがインチキだ!」 御法川と静夫は喧嘩を始めてしまった。 86 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 01 37 ID Jq40Cgdx0 14 10 「あれ、社長?」 マリアは2階のプリクラの前で柳下に出くわした。柳下は『噂の大将』を持っていた。 「あ、タマくん、着ぐるみから出られたの?……しっ!静かに。奴が来た!」 チンピラ二人組が柳下を追ってやってきていた。 マリアと柳下はプリクラの中に入ってやり過ごした。 大沢は書斎に戻った。AyaNETが開いたままになっていた。 大沢の書き込みにレスがついている。プリティーハニーというハンドルだった。 プリティーハニーは自称19歳の女子大生だ。 AyaNETは名目上40歳以上限定ということになっているが、実際は何歳でも登録できる。 プリティーハニーの書き込みには若い子らしい顔文字が踊っている。 『ところでAya占いってやったことある?下のリンクから行けるよ(*^o^*)』 大沢はAya占いをやってみることにした。生年月日を入力する。 『あなたは【仕事人間タイプ】。周囲の献身的な支えがないと生きていけないのに、 それに気づかないまま毎日を過ごしていませんか?自分の力だけで上手くいってると思ったら大間違い。 周囲への無関心を改善しないと、周囲から手痛い報復が待っているかも』 大沢は痛いところを突かれて不快な気分になってきた。プリティーハニーにレスを返しておく。 加納の無線機に連絡が入る。 アタッシュケースリレーのゴール地点はマンションの一室だった。 『その部屋の持ち主の名前は、田中護。大沢賢治の同僚だ。 14時過ぎに田中は大沢邸を離れている。その後の消息は不明』 「あとは建野さんの消息さえわかれば……」 加納は呟いた。 「まだ裏切者の心配をしているのか?」 ジャックの言葉に、加納は言い返した。 「お前がどう思ってもいい。おれは建野さんを信じている」 「その根拠は?」 「人を信じるのに根拠がいるのかよ!」 「仲間だろうと他人は他人。信じられるのは自分だけだ。 加納、全てを疑え。そうでなければ命を落とす」 87 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 10 50 ID Jq40Cgdx0 14 15 執筆中の御法川に、留美が声をかけてきた。 「すみませんでした。うちの父が……」 留美は御法川に、加納を待つためにロートレックにいることを簡単に説明した。 御法川は思った。留美は相当の美人だ。ビシッと留美を指差して言う。 「君はミスキャンパスに選ばれた美人双子姉妹のひとりだろ!」 「いいえ、ちがいますけど。でも、その姉妹なら会ったことありますよ。 実はわたし、数年前のミスキャンで、今年は審査員をやってたんです。 そのときに少し話をしました。彼女たち、[[二卵性双生児]]なんですって」 御法川は留美からマリアとひとみは松涛に住んでいるという情報を聞き出した。 店の電話帳を借りて松涛にある大沢邸の住所を調べた。 約束の時間よりも早かったが、亜智とひとみは渋谷GiGOにやってきた 「あれ?そこ破けてるぞ」 ひとみの着ているカーディガンの肩口が破れていた。 「まだ時間があるし、ついでに洋服でも買ってくるか」 二人は2階のレディースファッションのフロアに行った。 「いやー、タマくん、さっきは危なかったねー」 柳下がマリアと間違えてひとみに声をかけた。 「なんだこのおっさん、知り合い?」 「知らない人です」 「タマくん、そりゃないだろー……やばっ!」 柳下は突然声を上げると逃げていった。 「んじゃ、ひとみ、おれこの辺で待ってるわ」 ひとみは店の奥に消えていった。 大沢と愛はリビングに呼び集められた。 刑事が口を開く。 「犯人グループのアジトが確認できました。そのアジトと思われる場所は、広尾のマンションでした。 その持ち主が田中護さんです」 「嘘よ!なに言ってんのよ!田中さんが誘拐犯人だって言うの!そんな証拠がどこにあるのよ!」 愛が刑事に詰め寄った。 88 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 11 56 ID Jq40Cgdx0 14 20 ひとみを待っている亜智。 振り向くと、マリアが上りエスカレーターに乗っているのが見えた。 亜智はマリアをひとみと間違えて、追いかけた。 田中のマンションの前に着いた加納とジャック。 アタッシュケースを持っている男を加納が確保する。 ジャックはアタッシュケースを開いて中身を確認した。ちゃんと身代金が入っていた。 細工をされたり中身をすりかえられた様子は無い。 「これは囮……だとすると、どこに……」 捜査員が田中のマンションに踏み込んだが、誰もいなかったという。 ジャックは、ひとみは身代金の他に、例の抗ウイルス剤を持たされていて、 犯人はハチ公前で抗ウイルス剤を回収するつもりだったのではないかと推理していたらしい。 アタッシュケースに入ってないということは、ひとみがまだ抗ウイルス剤を持っているのかもしれないとのこと。 加納は大沢に確認をとることにした。大沢邸に詰めている刑事に連絡し、大沢に代わってもらう。 「時間が無いので単刀直入に聞きます。抗ウイルス剤をひとみさんに持たせましたか?」 大沢の心臓が跳ね上がった。 「質問の意味が解らん」 大沢はとぼけることにしたが、加納には大沢が図星を突かれたらしいことがわかった。 「犯人グループの本当の狙いはひとみさんだったんです」 大沢はショックのあまり答えることが出来ずに、電話を切った。 大沢は考えた。ひとみが狙われる理由は一つしかない。 4月22日、大沢が研究所にいるときに電話がかかってきた。 『大沢賢治だな。ひとみの血液を調べてみろ。調べなければ、ひとみは死ぬ』 言われた通りひとみの血液を調べてみて、大沢は我が目を疑った。 ひとみはウーア・ウイルスに感染していたのだ。 ひとみを助けるには、抗ウイルス剤を投与するしか方法が無い。 私用で抗ウイルス剤を使うのは重大な服務規程違反だが、止む終えない。 もう一つ問題がある。抗ウイルス剤の保管区域の指紋認証をパスしなければならない。 田中に協力を頼むと、あっさりと承諾した。 大沢と田中はひとみを保管区域に連れて行き、抗ウイルス剤を投与した。 DDSによって副作用は大幅に抑えられていた。数時間後には、ひとみの体内のウーア・ウイルスは死滅した。 DDSは一週間ほど体内に残っている。まだひとみの体内にはDDSがあるはずだ。 DDSの殻の中には、ごく微量の抗ウイルス剤が残っている。 ひとみの血液を採取して分析すれば、抗ウイルス剤を複製することも可能だろう。 きっと誘拐犯は、ひとみの体内を器にして抗ウイルス剤を外に持ち出す方法を考えたのだ。 大沢が抗ウイルス剤を投与すると踏んで、ひとみにウーア・ウイルスを感染させた。 田中を犯人だと思えば、指紋認証に協力的だったのも納得が行く。 田中のことはパートナーとしてずっと信頼してきたのに。大沢は頭を抱えた。 89 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 12 43 ID Jq40Cgdx0 14 25 マリアを追いかけて、亜智は4階まで登ってきてしまった。 そこには興奮した様子で電話をしている田中がいた。 「話が違う!ロック解除までだ。外に出るためのリスクも考えてくれ。とにかくワゴンまではなんとかする」 亜智はワゴンという単語に反応したが、関係ないと思って立ち去った。 窓の外を見てみると、外国人の男たちがビルの前にいるのが見えた。 まさか、この中にひとみがいることを気づかれたのだろうか。 そう思った亜智は必死でひとみを探した。 3階の店で気に入ったシャツを見つけたマリア。 早速買って着替えた。 14 30 亜智は3階に下りてきた。マリアがいた。 「こっちかよ。まあいいや。とにかく隠れるぞ」 マリアをひとみと勘違いしている亜智はそう言って、マリアの手を引いた。 「ちょ、ちょっと困ります!」 マリアは逃げていった。 下りのエスカレーターに乗ろうとしたマリアに柳下が声をかけてきた。 「タマくんじゃない。なんたる偶然。あれ?さっきの彼氏は?」 彼氏とは亜智のことを言っているのだが当然マリアにはわからない。 「ちょうどよかった。さっき渡した雑誌、返してくれる?」 「話がわからないんですけど」 「意地悪しないでよ~」 エレベーターからチンピラが降りてきた。 「ひいっ、助けてくれ~!」 柳下は逃げようとしたがチンピラに捕らえられ、エレベーターに押し込まれた。 マリアも巻き込まれてエレベーターに乗せられた。エレベーターは1階で止まった。 扉が開くと、頭山がいた。 「頭山!」 チンピラは柳下を放って頭山を追いかけた。柳下は逃げ出した。 御法川はタクシーで松涛の大沢邸にやってきた。インターホンを押す。 「大沢さん、お客様です」 大沢はインターホンを見た。門の前に御法川が尊大な態度で立っている。 『オレは御法川だ。このオレが取材に来てるんだから、門を開けろ』 「取材?」 『ああ、そうだ。月刊『噂の大将』の企画だ』 大沢は愛の部屋で見た政略結婚の記事を思い出した。 「お前か!あんな記事を書いたのは」 大沢はインターホンを切ったが、御法川は門の前で喚き続けている。 うるさいので大沢は門のところに行った。門越しに大沢と御法川は向かい合った。 「名刺をもらっておこう。あとで連絡する」 90 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 14 25 ID Jq40Cgdx0 14 35 書斎に戻った大沢はゴミ箱に御法川の名刺を捨てた。 先ほどのAya占いの結果を思い出す。 「無関心か……」 田中に裏切られたのではない。田中に無関心すぎたのだ、と大沢は思った。 田中に電話してみることにした。 『どうしました?』 「た、田中、今、どこにいるんだ?マリアは無事なのか?警察から聞いたんだ。 君が誘拐事件に関わっているって……」 田中は落ち着き払った様子で言った。 『さすが、警察は優秀ですね』 「どうしてこんなことを?」 『あなたにはわからないでしょう。私が今までどんな思いで研究に携わってきたのか。 表舞台に出て行くのはいつもあなただ。私がいなければなにも出来ないというのに。 あなたはいろんなものを独り占めしてきた。そのいくつかを返してもらいます』 それだけ言うと電話は切れた。 御法川は待たせてあったタクシーに乗り、[[桜町]]にある劇団『迷天使』の劇場にやってきた。 『転落人生』の取材だ。『迷天使』の団長、大洗(おおあらい)は、人気放送作家だったが、 今は劇団をやっている。 急いで来たが約束の時間には遅れてしまった。大洗の機嫌を損ねてしまい、取材させてやらないと言われた。 「あんたはテレビに受け入れられかったんだろ。だけど、芸術家としてのプライドを保つために芝居をやってる。 ただそれだけの男だ」 御法川はわざと挑発的なことを言った。 「わかったようなことをぬかすな!俺は芝居に人生懸けてんだ。確かに芝居はテレビよりマイナーだ。 でも、その代わりに手応えがある。こんなこと、テレビではあり得ない」 大洗は放送作家時代の苦悩を語り始めた。 91 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 17 43 ID Jq40Cgdx0 14 45 「ターマーくん!それ、まだ持ってたんだね」 柳下がひとみに声をかけた。柳下はひとみが持っていた『噂の大将』をひったくった。 そこへ頭山が現れて『噂の大将』を奪おうとした。 柳下と頭山は揉み合いになりながら行ってしまった。 14 50 大沢は考えた。あのネクタイピン。 大沢は愛からネクタイピンなどもらったことなどない。まさか……。 『噂の大将』の記事が脳裏に蘇ってきた。あの記事には、愛には結婚前に付き合っていた男がいたと書かれていた。 もしその相手が田中だったとしたら?田中と愛の関係を調べる必要がある。 大沢はゴミ箱から御法川の名刺を拾った。 御法川……この男に賭けるしかない。 御法川の取材は、約束した通りぴったり15分で終わった。 「一人の男の生き様を聞かせてもらった。お陰でいい取材が出来た。感謝する」 御法川は大洗とがっちり握手を交わすと、劇場を後にした。 携帯に電話がかかってきた。 『大沢だが、君に頼みたいことがある。金ならいくらでも払う』 思ったより早く大沢から連絡があったので御法川は驚いた。 「わかった。聞かせてくれ」 大沢は、以前『噂の大将』に載った大沢に関するスキャンダル記事のことを調べてほしいという。 「それがそんなに大事なことなのか?」 『詳しいことは言えないが、世界のパワーバランスが変わる可能性がある』 御法川は思った。ときに、真実というのは現実感が無く馬鹿馬鹿しい姿をしているものだと。 「いいだろう。調べてみる」 1階にやってきた亜智とひとみ。正面玄関には杖の男が待ち構えていた。 杖の男に見つからずにビルを出ることは出来ない。 マリアは花を捜してみたが見つからない。もしかしたら、もう家に帰ったのかもしれないとマリアは思った。 ぐったりとベンチに座り込んだマリア。ふいに、喉に冷たいものが当てられた。 「騒ぐと喉を切る」 外国人二人に脇を掴まれて、マリアはビルの外へと連れて行かれた。 杖の男は連れて行かれるマリアを追ってビルを出て行った。 亜智とひとみは安全にビルを出ることができた。 92 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 19 02 ID Jq40Cgdx0 14 55 ビルの谷間の人気の無い場所に連れてこられたマリア。 マリアを追いかけてきた杖の男が拳銃を抜いて言った。 「そいつを放せ」 マリアを捕まえていた外国人たちは逃げていった。 杖の男は拳銃を構えたままでマリアに言った。 「あの男はいないようだな。大沢ひとみ、おまえに罪は無い」 渋谷署のモニター室でじっとモニターを見つめる加納。 ようやく円山町にいるタリクを発見した。少し離れたところに笹山がいる。 『こちら笹山。[[マル被]]を確認。確保します』 タリクの隙を突いて笹山が飛びかかった。タリクを押さえ込み手錠を取り出す。 「ジャック、俺たちも現場に行こう」 加納がモニターから一瞬目を離したときだった。 笹山はタリクを押さえていた手を離した。タリクは逃げ出した。 仰向けに倒れた笹山の腹にはナイフが突き立っていた。 「笹山さん!!」 加納はモニター室を飛び出した。 To Be Continued 93 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 47 11 ID Jq40Cgdx0 15 00-16 00 15 00 さっさと記事を書かなければ。御法川は走った。 「あっ!!」 そうだ、遠藤大介とドライアイスマシンが欠陥品だと伝える約束をしていたのだった。 だが、これから戻っては10分のロスになる。結局戻らないことに決めた。 『迷天使』のメンバーに心の中で詫びた。 「ジャストだな。いい心がけだ」 時間通りにカナンとの待ち合わせ場所に着くことが出来た亜智とひとみ。 「どうして姉は誘拐されたんですか」 ひとみの問いにカナンは答える。 「マリアは君の代わりに誘拐された。奴の目的は、マリアではなく、ひとみだ」 「だから、奴ってだれ?」 「この事件の黒幕だ。奴は、性別、年齢、容姿……存在のほとんどが謎に包まれている。説明のしようが無い。 奴は私にとって仇でもある。奴には相棒を殺された。 4日前、私はマリアと接触し、君がパーティ会場で襲われることを伝えた。 マリアに、君に渡すようにと小型の[[GPS]]を持たせたのだが、今はマリアが持っているようだな。 GPSはマリアが誘拐されてから一度も電源が入っていない」 「なんだよ、結局ひとみの姉ちゃんの居場所は、あんたでもわからねぇってことか」 「奴の狙いが君である以上、もう街をうろつかない方がいい」 しかしひとみはきっぱりと言った。 「いえ、わたしは青いワゴンを探します」 「せいぜい気をつけることだ」 カナンは裏路地の奥に消えていった。 「そっか、親父の監視カメラを使えば、ワゴンを探すのも楽じゃねーか」 亜智とひとみは商店街にある監視カメラのモニター室に向かった。 「悪く思うな、大沢ひとみ」 杖の男は銃口をマリアに向けて言った。 「ちょっと待ってよ!わたしの名前って、大沢ひとみなの?」 「どういう意味だ」 「わたしは自分が誰なのかわからないんです」 マリアは今朝目を覚まして以降のことを杖の男に説明した。 「なるほど。そういうことか」 「それで、わたしは大沢ひとみなんですか?」 「違う」 杖の男はマリアを放っておいて考え込んでしまった。 94 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 49 16 ID Jq40Cgdx0 15 05 御法川はロートレックに着いた。執筆を始めようとノートパソコンを取り出す。 柳下が入店してきて、御法川のパソコンに目を留め、横から覗き込んできた。 バーニング・ハンマーの即売会のことが酷く書かれていた。 「こんなもの、書かれてたまるか!!」 柳下はパソコンをひったくって店を出て行った。 15 10 加納とジャックは笹山が刺された円山町の現場に到着した。 加納は笹山に駆け寄る。 「油断しちまったよ……」 「笹山さん、喋らないでください!」 救急隊が到着し、笹山を搬送していった。 タリクは他の捜査員によって確保され、渋谷署へ連行されていった。 95 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 17 51 04 ID Jq40Cgdx0 15 15 監視カメラのモニター室に着いた亜智とひとみ。 「この監視システム、実は親父が作ったんだ」 「すごいお父さんなんですね」 「なんか、大学をトップで卒業したらしいけど、お袋と結婚するために電気屋を継いだって言ってたな」 「素敵な話ですね」 「でも、お袋はおれが4歳のときに死んじまった」 なんだか暗い空気になってしまった。気を取り直すようにディスプレイを見る。 ディスプレイには4分割された渋谷の街並みが映っている。 その一つに、パソコンを持って逃げている柳下が見える。柳下がディスプレイから消えても、 監視カメラを切り替えれば、どこまでも柳下の姿を捉えることが出来る。 「けどよぉ、これさえあれば、いくら逃げても無駄だよな」 逃げる柳下を追いかける御法川。 「オレのパソコンをどうする気だ」 「申し訳ないが、売る!名誉毀損による慰謝料だと思ってくれ」 柳下はそう言うが、まだ雑誌に載っていないので名誉毀損にはならない。 センター街で柳下を見失ってしまった。 数時間前ミクとぶつかったあの雑貨屋の看板にはパソコンを買い取ると書いてあったと、柳下は思い出した。 ビンゴだ。雑貨屋に入ると、柳下が店の主人と交渉しているところだった。 「ですから、電源コードもないようなパソコンを買い取るわけにはいきませんってば」 主人は買取を断ろうとしていた。 「そのパソコンはオレのもんだ!返せ!!」 御法川がそう叫んだとき、店に誰かが入ってきた。 「オーマイエンジェル!愛しのミクちゃんがなぜここに!」 柳下はパソコンを放ってミクに擦り寄った。 「御法川さん……」 ミクは半べそをかいている。 「わたし、負けたんです。合気柔術やってる女の子に」 ミクは御法川の胸に飛び込んだ。 「ふ、不純だー!!」 柳下は店を飛び出した。 「御法川さん、合気柔術の道場、教えてください」 「悪い。今はそれどころじゃないんだ」 御法川が断ると、ミクは走り去った。 『青いワゴンを発見![[神南]]一丁目[[公園通り]]』 加納とジャックは無線を聞き、公園通りへ走った。 96 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 20 18 ID Jq40Cgdx0 15 20 杖の男の注意はマリアから完全に逸れている。逃げ出そうかどうしようかマリアは迷っていた。 「ターマーくーん!」 そこへ柳下がやってきた。杖の男は去っていった。 「一攫千金の方法が見つかったんだよ!それにはチリくんの協力が不可欠なんだよ。 もしチリくんを見かけたら、私に連絡するよう伝えてくれ」 「はぁ、わかりました」 「頼んだよ!アディオース!」 柳下は慌しく去っていった。 路上に取り残されたマリア。ふと手帳が落ちているのを見つけた。 杖の男が落としたものらしい。マリアは拾って中身をみてみた。 最後のページに写真が挟んであった。 高校生ぐらいの男二人と女一人が、中むつまじそうに写っていた。 ”世界はそれ~でも~♪” モニター室に着信音が響く。 「あっ、田中さんからメールです」 「そうかよ」 亜智はつっけんどんに言った。 「亜智さん!田中さんが青いワゴンを見つけたそうです」 田中が言うには、青いワゴンは神南方面に走っていったという。 しかも、ワゴンの中にはやはり人が乗っているらしいとのことだ。 もしかしたら、マリアが乗せられているのかも知れない。 監視カメラを切り替えると、たしかに青いワゴンが映っている。 15 25 パソコンを取り返して雑貨屋を出た御法川。 時計を見る。残された時間は少ない。早く執筆をしなければ。でも……。 「あん畜生、このままじゃ仕事が手につかん」 御法川はミクを捜すために走り出した。 あてども無く街を歩くマリア。[[スペイン坂]]で花を見つけた。 マリアは花に声をかけようとしたが、花は無視して行ってしまった。 マリアはを追いかけた。スペイン坂から公園通りへと出たところで、頭山が花を見つけた。 頭山と花は仲良く喧嘩しながら去っていった。 97 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 21 00 ID Jq40Cgdx0 15 30 亜智とひとみは走った。駅前を左折し、[[西武百貨店]]の前を駆け抜ける。 公園通りに青いワゴンが止まっているのが見えた。 その頃、ミクを捜している御法川も公園通りにやってきた。 迂闊に近づくのは危険だ。亜智は足を止めたが、ひとみはワゴンに向かって駆けて行く。 「ひとみ、待て!!」 亜智は叫んだが、ひとみは止まらず、ワゴンの窓ガラスに顔を近づけた。 ひとみという名に聞き覚えのあった御法川は立ち止まった。確か、美人双子姉妹の一人だ。 彼はワゴンに乗せられていた。縛られてシートに寝かされている。紙袋を頭からかぶせられて、視界が狭い。 起き上がることは出来ないが、かろうじて動く片手を使って携帯電話を取り出し、メールを打つ。 『私はだまされていたあるふあ』 ひとみが窓から中を覗きこんでいる。早くメールを打たなければ。 だが打ち終わる前に、彼の携帯電話に非通知の着信があった。 ”世界はそれ~でも~♪” 着メロが鳴り響いた。青いワゴンは爆発した。 爆風で御法川の身体は吹き飛ばされた。 「ひ、ひとみ!!」 亜智は必死になってひとみを捜した。炎上するワゴンから少し離れたところに、ひとみは倒れていた。 その側にはカナンが倒れている。どうやらカナンがひとみを助けてくれたらしい。 亜智はひとみを抱き起こした。 「ひとみ!しっかりしろ!大丈夫か?ケガは?」 ひとみの首筋に血が滲んでいる。指でぬぐうと、それ以上血は出なかった。 他にはケガをしているところはないようだった。 亜智が去ろうとすると、カナンが起き上がって言った。 「待て。ひとつだけ教えておきたい。この事件の黒幕の名前は、アルファルドだ」 亜智はひとみを抱きかかえてその場を離れた。 加納とジャックはようやく現場に着いた。燃えているワゴンの中に黒焦げの遺体が見える。 ワゴンの爆発というと、2年前の 霞ヶ関バイオテロ未遂事件 が思い出された。 ミクが救助活動をしていた。 「警察です。後は任せて」 ミクを行かせようとした。ミクは、カナンが怪我しているらしいことを告げると去っていった。 野次馬が集まってきている。 「駄目だ!これ以上近づくな」 御法川は、ワゴンに近づこうとする野次馬を押し戻した。 野次馬の中にKOKのメンバーの若者がいて、なにやら言い争っていた。 これは『伝説のチーム』の情報が手に入ると思い、御法川は声をかけた。 「今、KOKの溜り場ってどこなんだ」 「あ?今は[[裏原宿]]の インフェルノ っつうとこですね。あ、やべっ」 喋り過ぎたと思ったのか、若者はその場から走り去った。 98 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 23 14 ID Jq40Cgdx0 15 35 マリアは炎上するワゴンを見た。その熱気はマリアの記憶を呼び覚ました。 乾いた砂の匂い。焼けた風が髪をさらう。遠い異国の地で、 マリアは少女にあやとりを教えていた。 『カナン……この子はカナン……』 「ちょっとお話聞かせてもらえませんか?」 加納がやってきて、御法川に声をかけた。 「爆発の前に、なにか変わったことがありませんでした?」 「そういえば、携帯の着信音が聞こえたな。いや、着信音なんて街にあふれてるか。忘れてくれ」 「ご協力、感謝します」 加納はジャックの元へと行った。ジャックは気絶しているカナンを見て言った。 「この子は私が車で病院に連れて行く。少々聞きたいことがある」 「御法川さん」 振り向くと、充血して目が赤いミクがいた。 「ミク……。大丈夫か?ケガは?」 ケガはないらいしい。御法川は電話番号を書いたメモをミクに渡した。 「後で連絡してくれ。合気柔術の道場なら、いくつか知ってる」 ミクは笑顔で去っていった。 15 40 ジャックは携帯でしばらく話をしていた。電話を切ってから、 加納とジャックは裏路地に入っていった。その二人を見ていた御法川。 スクープの予感がした。御法川は素早くビルに入ってトイレに行った。 窓を開けると、小さくではあるが加納とジャックの話し声が聞こえる。 「今の電話はゴードンという私の上司からだ。 今回の事件の黒幕……例の国際的犯罪者が、こちらサイドに連絡してきた。 奴らは、8時間ほど前に、大沢マリアにウーア・ウイルスを感染させた。 その上で、彼女を渋谷のどこかに放ったらしい。 ウーア・ウイルスの潜伏期間は12時間。あと4時間で大沢マリアは発症する。 発症後、大沢マリアはウイルスをばら撒くようになる。 発症する前に、大沢賢治の抗ウイルス剤を投与しなければ、渋谷は死の街になる」 そこでトイレに柳下が駆け込んできた。物音に気づいた加納とジャックは場所を変えることにした。 途中までしか聞けなかったが、ネタにするには十分だ。御法川は編集部に戻ることにした。 加納とジャックは周りになにも無い空き地に場所を移した。 「マリアの保護は急務だ。今回の誘拐事件の黒幕は、アルファルドという武器商人だ。 シカゴ市ホテル爆破テロ 、霞ヶ関バイオテロ未遂事件、全て奴が関わっている」 ジャックはこれから加納と別行動を取るという。 「また会おう。生きていれば」 マリアはカナンのことを思い出した。 マリアにはやらなければならないことがあった。それをやらないと、カナンが危険な目に遭う。 「落ち着け、わたし。落ち着け……」 物思いにふけるマリアの背中に拳銃が突きつけられた。杖の男だ。 「動くな。俺は落ち着いて考えてみた。大沢ひとみを釣り上げるにはどうすればいいのか。 お前を餌にすればいい」 99 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 23 54 ID Jq40Cgdx0 15 45 『全捜査員に告ぐ。誘拐事件の捜査は現時点をもって中断する。事件はもう単なる誘拐事件ではなくなった』 加納はその無線連絡を信じられない気持ちで聞いていた。 15 50 加納は、危険なので渋谷を離れるよう静夫と留美に言っておこうと思い、ロートレックへと向かった。 留美は席を外していて、静夫が一人で席に座り、ノートパソコンをいじっていた。 誰にも絶対内緒にしていることだが、静夫はプリティーハニーというハンドルで掲示板に書き込みしていた。 加納が席に着くと、静夫はパソコンを脇へ押しやった。 「始めまして、加納慎也といいます。あの……すぐに渋谷を離れてください」 「何の話だ」 「理由は言えません」 「それは事件に関係しているのか」 「そうです」 元刑事の静夫は、事情を察したらしくそれ以上追及しなかった。 「留美よりも仕事が大事か?私も仕事ばかりを優先して、ずっと妻のことを放っておいてしまった。 私は仕事に追われ、妻の死に目に会うことも出来なかった。まったく馬鹿げた話だ。 留美には同じ思いをさせたくないんだよ。だいたいお前はどうして刑事になろうと思ったんだ」 「初めはお義父(とう)さんに気に入られるためだったんです」 「だったら今すぐ辞めることだな」 静夫は馬鹿にしたように言った。だが、加納は毅然と言い返した。 「すみません。それは出来ません」 「お前にとって留美はその程度の存在なのか?」 「俺は留美さんのことが大好きです。留美さんを幸せにしてやりたい。 留美さんのことを思っているとき、俺はすごく気持ちが暖かくなるんです。 そんな気持ちって、誰もが持っていると思うんです」 「刑事として市民の幸せを守りたいというのは立派なことだ。 だからといって、自分の幸せまでないがしろにすることは無い」 「たしかに仰る通りかもしれません。さっき、同僚が刺されました」 「これだから、刑事の仕事っていうのは……」 静夫はため息をついた。 「『守るべきものを見失わない。それが基本だ』。尊敬する先輩刑事の言葉です。 危険な目に遭っている人がいたら助ける。それは刑事としてではない、人間の基本なんです」 「ふん、お前という男がなんとなくわかった。こんなところで油を売っている場合ではないだろ。 いいからさっさと行け」 加納が退席した後、静夫は呟いた。 「守るべきものを見失わない……か。いい先輩に恵まれたな」 御法川の携帯に千晶から電話がかかってきた。 「ミ、ミノさん、大変なんです。公園通りでワゴンが爆発しましたよね? 今、花ちゃんから電話があって、あのワゴンの中で、頭山さんが自殺したって……」 100 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 24 35 ID Jq40Cgdx0 15 55 おぼろげながら、加納の頭の中にアルファルドが描いた絵が見えてきた。 無線が入る。 『爆発したワゴン内で発見された被害者の身元がわかった。田中護、40歳。大越製薬勤務』 「あなた、刑事さんたちが呼んでるわ。進展があったそうよ」 書斎に篭っている大沢を愛が呼びにきた。大沢はリビングに向かった。 「たった今、本部から連絡がありました。どうやら、マリアさんは無事のようです。 ただ、マリアさんを保護出来てはいません。……マリアさんはウイルスに感染している模様です。 ウーア・ウイルスというものだそうです」 「感染してから何時間だ」 大沢は聞いてみたが刑事はそこまで知らないと言う。 「もう一つあります。犯人グループが使用していたと思われるワゴンが発見されました。 炎上したワゴンの中から、田中さんの遺体が発見されました」 「いやぁぁ!嘘よ、嘘よ!!」 愛が悲鳴を上げた。大沢も悲鳴を上げたい気分だった。 田中が死んだということは、抗ウイルス剤を取り出す方法がなくなり、 マリアを助ける術もなくなったということだ。 ……建野がタリクを逃がしたのが腑に落ちない。 加納は、渋谷署に戻ってタリクから真相を聞きだすことにした。 To Be Continued 102 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 30 52 ID Jq40Cgdx0 16 00-17 00 16 00 杖の男に銃を突きつけられながら歩かされているマリア。 雑居ビルの屋上へ出た。 「そこへ座れ」 エアコンの室外機に並んで腰を下ろす杖の男とマリア。 亜智とひとみは公園のベンチに座っていた。 「あのさぁ、ワゴンのことなんだけどさ……」 ひとみは、ワゴンの中を覗いたが、男の人がいただけで、マリアはいなかったと話した。 「姉さんを捜す手がかり、なくなっちゃいました……」 「とりあえず、また監視カメラを使うか。んっ?ここからなら、おれんちの方が近けーな。 親父に頼んで、使わせてもらうか」 亜智は立ち上がった。携帯電話の電源を切りっ放しだったのに気がついて、留守電を確認する。 『遠藤亜智さんの携帯でしょうか? 渋谷中央病院 です。鈴音さんの容態が急変しました。 お兄さんだけでも至急お越しください』 編集部に早く戻らなければならない。でも御法川の足は動かなかった。 「頭山さん……いくらなんでも勝手すぎる。自殺なんて」 今日走り回ったのは一体何のためだったのだろう。 16 05 加納は渋谷署に戻り、取調室に入るなり、タリクに訊ねた。 「お前、建野さんからどうやって逃げた?」 「逃げた?それは違う。あいつが逃がしてくれたんだ」 「嘘をつくな!建野さんがそんなことをするはずが無い!」 タリクはふてぶてしく笑っている。 「おもしろいことを教えてやる。身代金を持っていた女がいただろう。 あいつ、拳銃でその女を殺そうとしていたぜ」 「建野さんは大沢ひとみを護衛する任務だったんだ。そんなでたらめ、信じられるか!」 同僚の刑事は取り乱した加納を廊下に追い出してしまった。 16 10 「これ、あなたのでしょ」 マリアは拾った手帳を杖の男に渡した。 「中の写真、見ちゃいました」 杖の男は身の上話を始めた。 「一緒に写っている二人は、幼馴染だ。ガキのころはいつも一緒でな。 男の方は機械いじりがすきで、いつもラジオやらなにやら分解しては組み立てていた。 女の方は年は同じだが、俺たちの姉貴みたいな感じでな。俺とあいつは彼女のことが好きだった。 高校生の頃、俺と彼女は付き合うようになった。でも、長続きしないで別れたよ」 103 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 31 47 ID Jq40Cgdx0 16 20 加納は廊下の椅子に座ってぼんやりしていた。加納の上司がやってきて言った。 「加納、笹山の容態だが、刺し傷は内臓にまで達していたらしい。予断を許さない状況だ」 「そうですか。こんなことになったのも、元はといえば俺のせいです」 独断で行動したことについては何らかの処罰が下されるだろう。 「笹山の件はお前のせいじゃない。自分を責めるな」 「ミノさん!」 なんとかヘブン出版の編集部に戻った御法川。千晶が原稿を書いている。 御法川もキーボードを叩き始めた。 この仕事はなんとしてもやり遂げなくてはならない。それが頭山への手向けとなるはずだ。 「おらっ!いつまで待たせるんだ」 チンピラ二人組が入ってきた。 「あなたが御法川さんですね。頭山さんのことは本当にお悔やみ申し上げます。 しかしですね、私どもといたしましても、貸したものはキッチリ返していただかないと」 「『噂の大将』の来月号はちゃんと出す。それまで返済は待ってもらえないか」 「来月号を出したところで、頭山さんがいなければこの会社もおしまいだ。 私どもが知りたいのは、頭山さんの娘さんの居場所です」 まさか、チンピラはまだ幼い花に返済させようというのだろうか。 「街頭インタビューの原稿です。読んでください」 千晶が原稿を持ってきた。御法川はじっくり読んだ。 「だめだ。書き直し」 千晶はしょんぼりした様子だった。 渋谷中央病院に着いた亜智とひとみ。ひとみを待合室に待たせて、亜智は病院の奥へ。 診察室で主治医から鈴音の容態を聞く。午前10時頃に発作を起こしたが、今は小康状態とのこと。 しかし、まだ意識が戻っていないらしく、面会謝絶だという。 大介とは連絡が取れないらしく、まだ来ていないらしい。 104 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 32 28 ID Jq40Cgdx0 16 25 亜智が診察室を出て待合室へ戻る途中のことだった。 ジャックとカナンが英語でなにやら話しているところに遭遇するが、 亜智にはなにを言っているのかがさっぱりわからなかった。 待合室のひとみは心配そうな顔をしていた。 「どうでした」 「とりあえす、危険は無いって」 「よかった」 ひとみは我がことのように胸をなでおろしている。 「ちょっといいか?大沢ひとみだね。私はジャック。米国大使館の保安課員だ」 ジャックはひとみに声をかけ、身分証明書を見せた。 「君はある犯罪者に狙われている。そこで、君を保護したい」 「ざけんな、こっちは忙しいんだ」 「誘拐された大沢マリアをさがしているのか?相手は国際的な犯罪者だ。 無茶をすれば、彼女の命を危険に晒すことになる」 「亜智さんさえいてくれれば、あなたの保護は必要ありません」 ひとみがそう言ったのを聞いて亜智は内心うれしかった。 「わかった。それなら、君たちを護衛するという形ならどうかね? 大沢マリアを捜すのに私も同行しよう」 亜智とひとみは承諾した。ジャックは捜査本部に連絡すると言って電話をかけた。 御法川は頭山のとの思い出を回想していた。 5年前、出版社を設立すると言って新聞社を辞めた頭山の自宅を訪ねたこと。 ヘブン出版が出来てしばらくして、編集部に行ったら、返本の山の中に頭山が埋まっていたこと。 「出来ました」 千晶から原稿を受け取り、御法川は読んでみた。 「どこを直したんだ?だめって言われたら、頭から全部書き直せ! ……ということを、オレも駆け出しの頃、頭山さんに言われたよ。 初めはいじめじゃないかって思った。でも、そうやってオレは原稿を書く力を鍛えられた」 「そうだったんですか」 「わかったら頑張れ。校了ギリギリまで粘って、いいもの書いてみせろ」 書斎のパソコンの前の大沢。AyaNETを開いて書き込みする。 『Aya占いやりました。周囲に無関心な駄目人間という結果でした。まさにその通りです。 私は自分の世界にしか興味が無かった。だから、妻と仕事の部下は愛想を尽かしたのでしょう。 二人の娘に関しても同じです。酷い父親だと思います。自分という人間にうんざりします。 だからといって、どうすることもできません。きっと、全てが手遅れなのですから……』 105 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 33 26 ID Jq40Cgdx0 16 30 「遠藤さん、ちょっと待ってください。少し、気になることが……」 足早にやってきた鈴音の主治医が亜智に声をかけた。 昨日の昼頃、大介から変な電話がかかってきたという。 『脳死状態の女性がそちらにやって来るのは、恐らく夜9時頃になると思います。 その女性の血液型はボンベイです。先生、鈴音のこと、よろしくお願いします』 大介はそう言ったが、実際に脳死状態の女性がやって来たわけではない。 だが、話が具体的過ぎて気味が悪いので、念のために亜智に伝えたのだという。 亜智の頭の中でなにかが閃いた。監視カメラ、そして行く先々に現れる杖の男。 全てが繋がりそうな気がした。 「どうしたんですか、亜智さん。顔色が悪いですよ」 ひとみに声をかけられ、亜智の思考は中断した。 「ひとみ、血液型を教えてくれないか?」 「わたし、ちょっと変わった血液型で、ボンベイっていうんです」 リビングが騒がしい。大沢が行ってみると、刑事たちは片づけを始めている。 「私たちは撤収することになりました」 「マリアはどうなる?」 「マリアさんは別部隊が保護することになったようです」 「マリアを隔離するつもりだな?駄目だ!そんなことをすればマリアは助からない。 頼む。マリアを見捨てないでくれ」 大沢は訴えたが、刑事たちは大沢邸を出て行った。 杖の男が持っている無線機から声がした。 『渋谷中央病院で大沢ひとみを確保した』 杖の男は大急ぎで加納に電話した。 加納の携帯電話のディスプレイには建野の名が表示されている。 「建野さん!建野さんですね?」 『大沢マリアを保護した。今すぐ大沢ひとみを連れて来い。連れて来なければ、マリアを殺す』 「待ってください、どうしてですか。なぜ大沢ひとみを連れて行く必要があるんですか?」 建野は加納の問いに答えなかった。 『場所は[[南平台]]の サウスヒル という雑居ビル。そこの屋上で待っている』 106 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 18 34 09 ID Jq40Cgdx0 16 35 建野はマリアに目隠しをした。 「しばらく我慢してろ」 暗闇の中で、マリアの記憶が蘇っていく。 中東に旅行に行ったとき、ホテルへの帰り道がわからなくなり、マリアは危険な人たちに囲まれてしまった。 そのときマリアを助けたのがカナンだ。マリアはカナンのところに通うようになった。 カナンはマリアに護身術を教えた。そのお礼にと、マリアはカナンにあやとりを教えたのだった。 チンピラは御法川に書類を突き出した。 「これに判子いただけたら、すぐに帰りますので」 それは借金の肩代わりをする旨の誓約書だった。 「さっさとしねぇと、頭山の娘、一生追い回すぞ」 御法川はペンを取って書類にサインした。 「ミノさん、どうしてそこまで……」 「世話になった人の娘を見殺しには出来ない」 「やっぱりダメです!」 千晶は書類を横取りして、飲み込んでしまった。 「このアマぁ!」 「痛い!やめて下さい!」 チンピラと千晶が揉み合いになった。千晶はテレビのリモコンの上に手をついた。 テレビの音量が上がる。 『先ほどの爆発事故で死亡した被害者の身元が判明しました。東京都渋谷区在住、 会社員の田中護さんです』 その場の全員がぽかんと口を開けた。 「田中って、誰?」 107 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 19 10 06 ID Jq40Cgdx0 16 40 「建野さん!どこですか!」 一人で来た加納を見て建野は言う。 「大沢ひとみはどうした。なぜ連れて来ない!」 「建野さん……どうして……。その人、本当にマリアさんなんですか?」 マリアの目隠しが取られた。ひとみに似ているその顔を見て、マリアだと加納は認識した。 「建野さん、どういうことなんです?」 「大沢ひとみを連れて来たら、すぐこの子は解放してやる」 建野はマリアのこめかみに拳銃を突きつけて言った。 「おかしいですよ!俺の知っている建野さんは……」 「お前が俺のなにを知っている?」 「刑事としての建野さんはよく知っています。だって俺は、ずっと建野さんを手本にしてきたんですから。 覚えてませんか?建野さん、立てこもり犯を命懸けで説得したじゃないですか。 あのときからずっと、俺にとっての建野さんは……」 建野は大声で笑い出した。 「お前は本当におめでたい奴だ。物事をいいようにしか取らない。俺はあのとき死んでもいいと思っていた。 だからガソリンをかぶった。勇敢でもなんでもない。あれは自殺みたいなものだった。 ビルに残された人質のことなど考えてなかった。あの結果はただの偶然だ」 「……嘘だ。そんなわけない!」 「お前と話をしている暇は無いんだ。大沢ひとみを連れて来ないのなら、こいつの頭を打ち抜くだけだ」 「やめてください!ずっとあこがれてたんだ。建野さんみたいな刑事になりたかった」 マリアの記憶が蘇る。 昨日の夜、パーティー会場でひとみを誘拐しようとしている奴がいるらしいことを聞いたマリアは、 ひとみにわざと間違った時間を教えた。そしてひとみの変わりに誘拐された。 ネックレスにGPSが仕込んであったが、犯人に頭を殴られたときに落としてしまった。 落としたネックレスを雑貨屋の主人が拾って店に並べた。 犯人に頭を殴られたショックで記憶喪失になってしまった。 書斎に戻った大沢。大沢の書き込みに、プリティーハニーからレスがついていた。 『その占い、わたしも同じ結果だったよ!本当にもう手遅れなの? 希望を捨てないで頑張れp(^_^)q 手遅れなんてありえない。どこの家だって問題を抱えていますよ。 だから、あんまり落ち込まないで(;_;)\(^_^) 一つわかったことがあります。父親の幸せって、結局、娘の幸せなんですよね(^o^)』 その言葉に大沢は救われたような気がした。 108 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 19 11 38 ID Jq40Cgdx0 16 45 「話してやるよ、本当の理由を」 建野は語りだした。 17年前、渋谷で覚せい剤中毒者による傷害事件が起きていた。 その捜査のために建野は遠藤電機店の前を通りかかった。 「あれ?建野くんじゃない」 幼馴染の琴音(ことね)が、生まれたばかりの鈴音を抱いて、店先に立っていた。 「どうしても銀行で入金しなければならないお金があって……。鈴音を置いていくわけにもいかないし」 「大介はどうしたんだ」 「それが、帰ってこないのよ」 建野は琴音と一緒に銀行に行くことにした。銀行の前で建野は鈴音を預かった。 用事を済ませた後、建野と琴音は話しながら近所の公園まで歩いた。 そこへ大介がやってきた。 「大介、久しぶりだな」 鈴音は大介の手に抱かれた。そうやって琴音から目を離したときだった。 傷害事件の犯人の男が、琴音の首に包丁を当てていた。 「この女は俺を殺す気なんだ!」 男は訳のわからないことを呟いている。 建野は拳銃を抜き、男の肩口に狙いを定めた。この距離だ。絶対に外さない自信があった。 弾丸は男の肩口に当たったが、男はそれに怯むことなく、琴音の背中に包丁を刺した。 琴音の死によって、建野の心は死んだ。 マリアはカナンのことを思い出した。 カナンは仲間をアルファルドに殺されたと言っていた。 アルファルドに復讐することがカナンの生きがいだった。 16 50 2年前、琴音の墓参りのときに、建野は鈴音と会った。 「わたし、心臓病なんです。移植手術をしないと助からないんですけど、 わたしの血液型って少し変わっていて、適合者が見つからないみたいなんです」 鈴音はそう言っていた。この世に本当に神様がいるのなら、なぜこんなにも酷い仕打ちをするのだろう。 鈴音を助けるならなんでもすると建野は心に誓った。 109 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 19 12 32 ID Jq40Cgdx0 16 55 建野の話は続く。 今日午前10時を過ぎた頃、建野の携帯に大介から電話があった。 『鈴音が発作を起こした!助からないかも知れない。だから、あの大沢ひとみって子の頭を撃ってくれ。 あの子の心臓があれば、鈴音は助かるんだ。大沢ひとみの血液型はボンベイなんだ』 頭を撃ったとしても脳死になるとは限らないし、 たとえ脳死になったとしても検死が行われて、心臓移植をする暇はないだろう。 建野はそう思ったが、やることに決めた。移植手術の可能性など問題ではない。 鈴音のためになにかしてやることが重要なのだ。 「お喋りは終わりだ。加納、俺はこの年になるまでいろんな若い刑事を見てきた。 お前はその中でも格段に出来が悪かった。しかし、加納、お前に慕われて、俺は随分と救われた。 さぁ、俺を止めてみろ!」 建野に言われて加納は銃を構える。 「加納、撃て!」 マリアは全てを思い出した。 「行かなきゃ。もう一度、あの場所へ」 To Be Continued 110 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 13 40 ID Jq40Cgdx0 17 00-18 00 17 00 加納が撃とうとする前に、建野の拳銃は宙を舞っていた。 そこに現れたカナンが、建野の拳銃を蹴り上げていた。さらに、建野の顎に肘を入れる。 建野は倒れた。自由になったマリアはわき目も振らずに、階段を駆け下りていった。 「どうしてマリアを助けたんだ?」 加納はカナンに聞いてみた。 「友達だったから」 ヘブン出版の編集部でテレビのニュースにぽかんとしている一同。 「考えられるのは、花ちゃんが嘘をついてたってことだよな」 御法川は考えた。来月号を出して、さらに次の号でスクープ記事を掲載する。 頭山が生きていれば、それで上手く行くはずだ。 スクープ記事といえば、大沢が言っていた世界のパワーバランスが変るほどのネタがある。 御法川は『噂の大将』のバックナンバーを探した。創刊号に政略結婚の記事があった。 その記事を書いたのは頭山だった。 17 05 ジャックの車に乗った亜智とひとみは、遠藤電機店へと向かっていた。 亜智はジャックとひとみに、大介がひとみの心臓を狙っているらしいことを説明した。 「わたしが脳死状態になれば、妹さんが助かるんですね」 「やめてくれ。そんなこと言わねーでくれ」 「その話はもういいだろう」 ジャックは話をさえぎった。 「ところで、君たちは一体どういう関係なんだ?恋人どうしなのか」 ジャックにそう訊ねられて、亜智は慌てて否定した。 「そんなんじゃねーよ。今日たまたま会っただけだ。 困ってる人がいたら、見過ごすわけにはいかねーんだ」 「今日は面白い日だ。お前のような日本人とさっきまで一緒にいた」 カナンは加納に、現在の状況を説明した。 ひとみにはすでに抗ウイルス剤が投与されており、大沢が推理したとおり、 アルファルドはひとみの血液を狙っていること、 そして、マリアはひとみの代わりにわざと誘拐されたことを話した。 111 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 15 12 ID Jq40Cgdx0 17 10 御法川の携帯が鳴った。頭山からだった。 「頭山さん!今どこだ。なんて馬鹿な嘘をつくんだよ!あんたが生きてるのはとっくにバレてるって。 いいか、よく聞けよ。どでかいスクープを掴んだ。記事に出来れば借金なんてすぐに返せる」 『ほ、本当か?』 「今から迎えに行く。どこにいるのか教えろ」 と、御法川の声にチンピラが耳をそばだてていることに気づいた。御法川は機転を利かせてこう言った。 「わかった。[[宮下公園]]だな。すぐに行くからそこを動くなよ」 チンピラたちはニヤリと笑うと編集部を出て行った。頭山とはロートレックで会う約束をしておいた。 「千晶!原稿の進み具合は?」 「まだ……もう少し……」 「よし、パソコン持ってついて来い。書けたところで読んでやる」 御法川は荷物をまとめ始めた。 17 15 御法川と千晶が編集部を出ようとしたとき、先にドアが開いた。 「新しくヘブン出版の担当になった、 超日本印刷 の片山です。よろしく」 「印刷屋が何の用だ。校了時間の8時までまだ時間があるだろう」 「8時?何の冗談ですか?我が社の校了時間は5時半と決まっています」 超日本印刷の前任者は出版社の都合で校了時間を延ばしてくれる人だったらしい。 17 20 話し合いの結果、校了時間は7時ということで片山は承諾した。 御法川は片山をビシッと指差して言った。 「黙って聞け!お前はこれからオレたちに付いて来てもらう。出先で原稿は完成するから、 その場でデータをCDに焼いて渡す」 「まぁいいでしょう。ここで待つのも暇ですから」 御法川と千晶と片山の3人はロートレックに向けて出発した。 「マリアが持っているGPSの電源が入った」 カナンは[[PDA]]を取り出した。マリアの居場所が表示されている。カナンと加納は、マリアを追った。 112 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 16 04 ID Jq40Cgdx0 17 25 大沢はマリアを助ける方法は無いのかと考えを巡らす。 抗ウイルス剤の保管区域に入るのには、指紋認証の他にパスワードという手段もある。 田中は誰かにパスワードを教えていたりしないだろうか。 もし、教えている可能性があるなら、それは愛だ。 ネクタイピンを贈るほどの仲ならば。 遠藤電機店の前に着いた。 「お前たちはここで待っていろ」 ジャックは亜智とひとみを店先に待たせて、作業室へと入っていった。 だが、亜智はものの数分も待っていられなった。 「行くぞ!」 亜智とひとみは作業室に入った。ジャックが大介を取り押さえていた。 「ジャック、放してやってくれ。親父と話がしたいんだ」 ジャックは亜智に任せることにして、大介を放した。 「親父、正直に話してくれ。マリアはどこにいる?」 「マリア?何の話だ」 「しらばっくれるな。この子を知っているだろ?親父が狙ってる大沢ひとみだ。 マリアはひとみの姉ちゃんだよ。病院に電話したらしーじゃねーか。心臓が手に入るとか入らねーとか。 監視カメラでおれとひとみのこと、見てたんだろ。それでおれたちの居場所を杖の男に教えてただろ。 違うなら違うって言ってくれよ!」 大介はなにも言わなかった。 17 30 作業室の扉がゆっくり開いて、マリアが入ってきた。 「姉さん、良かった。無事だったのね」 「心配させてごめんね」 「お前……。どうやって倉庫から?」 監禁していたマリアが外に出ているのを見て大介は驚きを隠せない様子だった。 大介はひとみに襲い掛かって、スタンガンを突きつけた。 「親父、ひとみを放せよ。もうこんな馬鹿げたことはやめようぜ」 「馬鹿なこと?お前、なにもかも知っているんだろ?だったら、俺に協力するのが当然じゃないのか?」 大介は事情を話し始めた。 「臓器ブローカーをしているという外国人と病院で知り合ったんだ。 鈴音のことを話すと、その男は全力を尽くすと約束してくれたんだ。 しばらくしてから、心臓適合者を見つけたという連絡があった。 鈴音と同じ血液型で、年も近いという。問題は、今の段階では生きているということだった。 この男はこう言ったんだ。彼女を誘拐してくれれば、あとはこちらでなんとかしましょう、って」 大介は臓器ブローカーが指示した通りにやったが、間違えてマリアを誘拐してしまった。 あとは、亜智が推理した通り、大介の知り合いだという杖の男に指示を出して、ひとみを追わせたという。 113 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 16 49 ID Jq40Cgdx0 17 35 「親父、やめようぜ。こんなこと、意味ねぇよ」 作業室に亜智の声が響く。だが大介は譲らない。 「亜智……。どうしてだ?なぜ俺に協力しない?」 亜智は大介に歩み寄ると、肩を掴んだ。 「親父、おれだって鈴音を助けてーよ。だけど、鈴音はこんなことしてくれって、親父に頼んだのかよ。 そうじゃないだろ?鈴音はおれたちにそんなこと頼みはしないだろ? 鈴音はおれと違って頭がいいし、優しいから、誰かから取った心臓なんかもらっても喜ばないと思うんだよ。 これ以上鈴音を鈴音を悲しませるのはやめようぜ」 大介はひとみを放した。 ロートレックの店内では頭山と花が待っていた。 「時間が無い。質問に答えてくれ」 御法川は席に着くなり、創刊号の記事のことを頭山に質問した。 頭山は覚えているはずなのに思い出せないらしい。 そのとき、店内のテレビでニュースが流れた。ニュースキャスターが田中の名前を言った。 「そう、こいつだ。大沢賢治の妻が結婚前に付き合ってた男は」 17 40 御法川は大沢に電話した。 『大沢さんかい?待たせたな。奥さんが当時付き合っていた男がわかった。田中護だ』 「そうか」 これで愛と田中の関係は証明された。 ロートレックの店内で緊急の編集者会議が始まった。 企画を変更するには、編集長の許可がいると御法川は言った。 「来月号では渋谷テロに関する前ふりをしておく。これは美人双子姉妹の記事と差し替える。 次の号で大沢賢治からの情報を元にスクープを飛ばす。頭山さん、なにか問題は?」 「渋谷テロに関する前ふりは誰がやるんだ?」 御法川はビシッと頭山を指した。 「あんたが書いて、あんたがレイアウトするんだよ」 「でも、今から現場に行ったところで、書くことなんて見つからんよ」 「どうしてあきらめる?大手マスコミでは書けないようなネタを世に送り出したかったんだろ? だったらそんなの関係ないじゃないか。探して来いよ!あんただけにしか書けないネタを」 御法川の励ましに、頭山はやる気を出したようだ。 「済まなかった。お前には迷惑をかけっぱなしで。だが、もう大丈夫だ」 頭山は花を連れて店を出て行った。 「よし、オレたちも行くぞ!」 これから伝説のチームの取材をしなければならない。 カナンと加納はマリアを追って、遠藤電機店に到着した。 作業室でマリアはぐったりと床に倒れていた。それをカナンが抱き上げている。 ウーア・ウイルスが発症しているのかと思ったが、ただ気を失っているだけらしい。 作業室に加納もやって来た。 114 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 19 15 ID Jq40Cgdx0 17 45 抗ウイルス剤を投与しなければ、マリアは助からない。 だが、田中が死んだ今、研究所のセキュリティをパスするのは不可能だ。 「私が研究所に行こう。電子ロックの解除は専門分野だ」 カナンはマリアを連れて研究所に行くと言った。 17 50 大沢は庭にたたずむ愛に後ろから声をかけた。 「ちょっといいか?大事な話があるんだ。君は、田中のことを愛していたのか?」 「あなたはわたしを愛してた?」 愛は質問で返してきた。 「正直に言えば、君と結婚したのは娘たちに母親が必要だと思ったからだ」 「だったらわたしも正直に言うわ。あなたの結婚したのはお父さんに頼まれたから」 「そんなことで結婚して、君はよかったのか?」 「そんなこと?あなたは自分の価値がわかってないのね。女一人の人生と、 あなたの研究が生み出す価値。そんなもの、比べるまでも無いわよ」 「でも、私のせいで君は田中と別れることになったじゃないか」 「いつから気付いてたの」 「今日、ネクタイピンで」 「それで?怒らないわけ?」 「……怒っていない。その代わり、一つ教えてくれないか? 田中から、パスワードのようなものを聞いていないか?マリアを助けたいんだ。頼む、教えてくれ」 「知らないわ」 作業室に電子音が響く。大介が監視カメラのチェックに使っているパソコンからだった。 どうやら、ハッキングされたらしい。 『さて、主要キャストは揃ったようだな』 パソコンからボイスチェンジャーを通した声が出力されている。 『私からの提案はただ一つ。研究所のパスワードとひとみの血液の交換だ』 声の主はアルファルドのようだ。 『時間は午後7時。渋谷駅前に、今朝と同じようにひとみを立たせろ。 待ち合わせ場所には私が顔を出す。それでは、君たちと会えるのを楽しみにしているよ』 115 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 35 38 ID Jq40Cgdx0 17 55 作業室で作戦会議。カナンとマリアは研究所に行って待機して、 アルファルドから聞き出したパスワードを使えるようにしておく。 もしパスワードを聞き出すことに失敗しても、カナンがロックを解除できればそれでよし。 残りの人員は待ち合わせ場所に行き、アルファルドを確保してパスワードを吐かせる。 「父に連絡します」 ひとみから大沢の携帯に電話。 『お父さん、時間が無いの。だから、要点だけ言うね。姉さんを助けるために、 今からカナンという女の人が姉さんを研究所に連れて行きます。彼女ががパスワードを解析してくれるから、 研究所に入れるようにしておいて』 大沢はとにかくひとみを信じることにした。 「そうか。それじゃ今から研究所に向かう」 電話を切って、去ろうとする大沢の背中に愛が抱きついた。 「だめよ、行っちゃだめ。会社の承認無しで抗ウイルス剤を使ったら、あなたは大越製薬にいられなくなるわよ」 「もうそんなことはどうでもいいんだ」 「あなたは全てを失うのよ」 「私は君も失うのか……」 「これからどうやって一緒にいられるのよ」 愛は泣き出した。あのメールを送ってきたAは、愛だったのだと大沢は悟った。 大沢は愛を置いて家に戻り、ガレージに行き車に乗り込んだ。 「マリア……待ってろよ」 全てを失うために研究所に行くわけではない。失ったものを取り戻すために行くのだ。 車は研究所に向かって走り出した。眩しい太陽がビルの間を沈みつつあった。 To Be Continued 116 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 40 43 ID Jq40Cgdx0 18 00-20 00 18 00 ジャックは加納の姿に、弟の姿を重ねて見ていた。 ジャックの弟のフランクは、[[シカゴ市警]]爆弾放火班の捜査員だった。 2年前のこと。シカゴ市ホテル爆破テロのとき、フランクはジャックに言った。 「こいつが片付いたら、ビールで乾杯しよう」 だが、その約束が果たされることは無かった。 アルファルドの爆弾によって、フランクは命を落とした。 18 05 カナンとマリアを研究所に連れて行くのは誰がいいか考える。 「それなら運転は俺がしよう」 「お、お前は!」 建野が作業室にやって来た。 「本当に済まなかった」 建野は亜智に頭を下げた。 「許してもらえるとは思っていない。罰はちゃんと受けるつもりだ。 その前に、今の俺に出来ることをさせてくれないか」 都合が良すぎると亜智は思ったが、運転手が必要なのは確かだ。 「わかったよ。二人を無事に研究所まで連れて行ってくれ」 117 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 42 07 ID Jq40Cgdx0 18 10 研究所に出発する建野を加納が見送りに来た。 「大沢マリアを送ったら、俺は自首する」 「建野さん……」 「情けない顔をするな。守るべきものを見失わない。それが基本だ。今することは、俺の心配じゃない」 加納は黙って[[挙手の敬礼]]をした。私服かつ無帽でするのは誤りである。 しかし、これが建野に対する精一杯の気持ちだった。加納の目から堪えていた涙がこぼれた。 裏原宿のインフェルノという[[プールバー]]が、KOKの溜まり場だ。 千晶と片山を外に待たせて、御法川は一人で入っていった。 「オレは御法川だ。ライターをしている。5分でいい、取材を受けてくれないか?」 アポなしの突撃取材。これに賭けるしかない。 「イヤだ。今、気分が悪いんだ。帰ってくれ」 案の定、進は取材を拒否した。御法川は進を指差していった。 「一目見てわかった。お前はトップに立つ器じゃない」 「もういっぺん言ってみろ。殺すぞ」 「ふん。その台詞、弱い奴ほど口にするよなぁ。こんな奴がKOKのトップとは、笑わせてくれるぜ」 御法川の挑発に、進は鬼のような形相になった。 「てめぇ、ぶっ殺してやる!」 「しかし、駅前でアルファルドを確保するにしても、俺たちだけじゃ心許無くないか?」 加納がジャックに話しかけた。 「たしかに、人数は多い方がいいな」 「要は人を集めればいいってことだろ?30分だけくんねーか。なんとか人、集めてみる」 亜智はインフェルノ目指して走り出した。 118 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 47 55 ID Jq40Cgdx0 18 15 「ミノさん!出来ました。読んでください」 インフェルノの店内は一触即発の空気だったのに、そこへ空気を読まずに千晶が入ってきて、 御法川にパソコンを突き出している。 「やれやれ。これではとてもじゃないが取材なんて無理ですね」 片山まで店内に入ってきた。 「じゃあ、おれたちが読んでやるよ」 KOKのメンバーたちは千晶に手を伸ばした。 「やめて!触らないで!」 「よせ、このクズども」 御法川が言った言葉にKOKメンバーが反応した。 「てめぇ、クズって言いやがったな」 「女に手を上げるなんて、クズだろうが。やりたきゃオレをやれ」 「上等だ。おい、表見張ってろ」 御法川はKOKメンバーに寄ってたかって殴られた。 「やめて!ミノさんが死んじゃう!」 床に倒れた御法川は、ぐったりして動かなくなった。 「やべぇ……。ちょっとやり過ぎたか?」 KOKメンバーは動揺している。御法川はふらふらと立ち上がった。 「わっはっはっは!」 御法川は大声でわざとらしく笑った。 「この勝負、オレの勝ちだ」 御法川は取材させてもらえるようにと、連中にわざと殴られたのだった。 18 20 インフェルノの店内。ついに進は折れて、取材させてもらえることになった。 「進さん、それじゃ示しがつきませんよ。そんなこっちゃKOKがなめられるって」 桐生が出て来て進と揉めている。このスキに、御法川は千晶の原稿を読んだ。 「OKだ」 「ありがとーございましたっ!!」 千晶は涙を浮かべている。 「わたし、ミノさんみたいな社会派のルポが書きたいんです。だから、ミノさんにOKもらえて、 ホントうれしいというか……」 自分の書いた記事が目標にされる日が来るなんて、御法川は夢にも思っていなかった。 考えてみれば、御法川も頭山を目標にしていた。 そうやって身に着けたものが次の世代に受け継がれていくのは、照れくさいけれど誇らしくもあった。 119 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 20 49 28 ID Jq40Cgdx0 18 25 インフェルノにて、御法川はKOKメンバーに取材していった。予告どおり5分で終わった。 進が御法川に訊ねた。 「あんた、おれがトップに立つ器じゃないって言ったよな?じゃあ、あんたの考えでいいから聞かせてくれ。 どうやったらいいヘッドになれるんだ?」 「わからん。オレは上に立つような人間じゃないからな。 でも、仲間と上手くやっていくコツなら一つ教えてやれるよ。信じることだ」 頭山の記者としての復活を信じ、千晶が一人前のライターになることを信じた。 編集部に確認したところ、頭山の記事はもう完成しているらしい。 亜智はインフェルノに到着した。入り口には見張り番の少年が二人立っていた。 「進に会わせてくれ。亜智が来たと言えばわかるはずだ」 見張り番の一人は店内に入っていった。待っている間、亜智はもう一人の少年に話しかけた。 その少年は新入りらしく、亜智には見覚えが無い顔だった。 「お前、いつも見張りやってんのか?おれがいたころのKOKは、 見張り番なんてなかったぜ。渋谷って街が好きで、仲間とつるむのが好きで、それだけだった」 KOKが変わったのは進のせいではなく、桐生がいろいろと仕切っているせいだと少年は言う。 ナンバー2の桐生はヘッドを狙っていて、今、KOKは進派と桐生派で分裂状態だという。 120 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 21 23 12 ID Jq40Cgdx0 18 30 加納は作業室に戻って大介に声をかけた。 「大介さん、協力してくれませんか。駅前の様子を監視してほしいんです。怪しい奴がいたら教えてください」 「怪しい奴って……?」 「たとえば、例の臓器ブローカーがアルファルドという可能性もあります」 「わかった。期待に添えるかわからないが、せめてもの罪滅ぼしに協力させてくれ」 「助かります」 亜智はインフェルノの店内に通された。 「何の用っすか?」 亜智は進の前で土下座する。 「ある男を捕まえるために、人数が必要なんだ。力を貸してほしい。こんなこと頼めた義理じゃねーのはわかってる。 でも……」 「ある男って、誰です?」 「そいつは国際的テロリストで、そいつを放っておくと、街に殺人ウイルスがばら撒かれるかもしんねーんだ」 「何のギャグっすか、それ?」 進は全く取り合おうとしなかった。 「千晶、今の聞いたな?どうする?」 御法川は悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「もちろん、取材です。10分だけ話を聞いて、残り20分で記事を書きましょう」 「わかってきたじゃないか!」 御法川と千晶のやり取りを聞いて、片山が呟いた。 「わからない。全くわからない。今取材したことを記事に書けば校了だというのに、 どうして面倒なことを……。でも、やりたいなら、時間なんか気にしないで、好きにやってみればいい。 私も、君たちの作った雑誌を読みたくなった」 御法川と千晶は、亜智と進の間に割って入った。 「面白そうな話だな。オレにも聞かせてくれないか?」 進はうんざりといった顔をした。 「あんた、取材はもう終わっただろう?」 御法川は亜智を差して言った。 「この兄ちゃんの話、たぶん本当だぞ。オレの持っている情報と一致するんだよ。 さっきの話だが、殺人ウイルスって、ウーア・ウイルスだろ? 進、こいつは本当に、渋谷でなにかが起こるぜ」 それでも、まだ進は協力すべきかどうか悩んでいた。 18 35 「進さんが協力しないなら、おれらが協力しますよ」 桐生が鉄パイプを片手に言った。 「ただし、けじめっていうものがありますよね」 亜智は男たちによって押さえつけられた。 桐生が鉄パイプで襲い掛かってきた。当たるギリギリのところで、進むが鉄パイプを止めた。 「つまんねぇことはやめろ。おれは、亜智さんの頼みを聞く」 「ざけんな!KOKはお前たちのもんじゃねぇ!おれは認めねぇ!」 桐生は鉄パイプを振り回した。亜智は得意のハイキックで鉄パイプを叩き落し、 正拳突きで桐生を気絶させた。桐生派のメンバーたちは桐生を担ぎ上げて、店から出て行った。 「みんな、KOK初代ヘッドの復活だ!」 進の声に呼応するように、メンバーたちは雄たけびを上げた。 121 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 21 24 46 ID Jq40Cgdx0 18 40 「加納、待ち合わせ場所には一人で行ってくれ。理由は聞かないでくれ。 行かねばならない所が出来た」 ジャックは別行動を取ると言う。 「加納、一つ約束してくれ。全てが終わったら、ビールで乾杯しよう」 「ああ、わかった」 ジャックは作業室を出て行った。 18 45 亜智はメンバー30人を率いて遠藤電機店に戻ってきた。 想定していた20人を上回る人数だったので、加納は喜んだ。 「おっしゃ、やろうぜ、刑事さん」 18 55 加納が書いた配置図に従って駅前に立つ亜智とKOKメンバーたち。 亜智はひとみから数メートルのところにスタンバイした。 鉄パイプを蹴った足が思ったより痛む。歩くことは出来るが、激しい格闘は無理だろう。 19 00 加納の携帯電話が鳴った。 『いた。あの臓器ブローカーが、交差点の向こう側にいる』 やってきたのは大学の英語講師リーランドだった。リーランドがアルファルドなのだろうか。 ひとみも驚きのあまり声を失っている。 「先生……どうしてここに?」 「もちろん、君の血液をいただきに来たんだよ。君にウーア・ウイルスを感染させたのは私だ。 英語講師になりすまして、ずっとチャンスを待っていた」 「先生が、アルファルドだったんですね」 「早速取引といこう」 「だめです。パスワードが先です」 「それでは交渉は決裂だな」 「動くな!」 加納がリーランドに拳銃を向けた。亜智がひとみを保護した。 リーランドは持っていたアタッシュケースから液体が入った10本ほどの[[アンプル]]を取り出した。 「撃ちたければ撃つがいい。これがばら撒かれてもいいならな」 「それは、まさか……」 「さあどうする?渋谷を死の街にしたいかね?」 加納は拳銃を下ろした。 122 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 21 25 54 ID Jq40Cgdx0 19 05 「進!」 亜智は叫んだ。進たちはリーランドを取り囲んだ。 「もう逃げられねーぞ。余裕かましてんじゃねぇ!」 しかし、リーランドは涼しい顔をしている。 「仕方ない。交渉は打ち切りだ。残念だよ」 アンプルが宙に舞った。進たちがアンプルに気を取られている隙に、リーランドは包囲を抜けて逃げた。 「危ねぇ!捕れ、捕れ!」 進たちは一つ一つアンプルをキャッチしていく。ひとみが悲鳴を上げた。 誰もいないところにアンプルが落ちようとしている。 亜智は思い切りヘッドスライディングをし、ナイスキャッチ。だが、これでさらに足の痛みが増したようだ。 「刑事さん、後は頼んだ」 加納はリーランドに追いつき、タックルをかました。 リーランドが倒れたところに馬乗りになる。 「おい!パスワードを言え!」 「お前の選択は間違いだったな。ウーアはばら撒かれた。もう誰も助からない」 「いいや、誰も死なないさ。お前はあの場から逃走した。だが、もし本当にウイルスが入っていたら、 走って逃げても感染の危険性は残る。あれは逃げるためのハッタリだ。さあ、パスワードを教えろ!」 だが、リーランドは簡単に口を割りそうもない。 ふと、横転した車が目に入った。ガソリンが漏れて、道路に染みを作っていた。 加納は手錠を取り出して、自分の腕とリーランドの腕をつなぐと、 ガソリンが漏れているところへ行って座り込んだ。リーランドは手錠に引っ張られて路上に転がった。 加納はライターを取り出して火をつけた。 「パスワードを教えろ」 「何のつもりだ?命が惜しくないのか?」 「守るべきものを見失わない。それが基本だ」 加納はライターの火をガソリンに近付けていった。リーランドの目に動揺の色が浮かぶ。 「わかった、教える。だから、その火を消せ!」 「パスワードが先だ!」 そして、リーランドはついに落ちた。 加納は大沢に電話をかけて、聞き出したパスワードを教えた。 「まったくめちゃくちゃだな。まぁ、事件を解決したのはお前だ。ほめてやる」 加納の上司だった。 「ああ、それからな、加納。笹山の意識が戻ったぞ」 これで全てが終わったように思えた。 123 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 21 44 59 ID Jq40Cgdx0 (このまま進めるとバッドエンドになるので少し時間を遡ります) 18 10 ジャックの中に疑問が湧き上がった。 なぜアルファルドは大介という素人に誘拐させたのだろう。 プロならひとみとマリアを間違えるなどという失敗は起こさないはずだ。 もしかしたらアルファルドは、大介が間違えるのを見越してわざとマリアを誘拐させたのではないだろうか。 18 20 ジャックは大介に、マリアを監禁した場所を見せてもらうことにした。それは店の裏の倉庫だった。 鍵は壊されていた。 「これは地元のワルたちの仕業だな。前にも何度かやられたことがあるんだ」 大介が言うには、今朝8時ごろに臓器ブローカーがやってきて、そのときにはしっかり鍵を閉めていたという。 恐らくそのときにマリアにウーア・ウイルスを感染させたのだろう。 倉庫内にはマリアの携帯電話と化粧ポーチが落ちていた。 携帯電話は電源が入るものの、中のメモリーは全部飛んでいた。ジャックはマリアの携帯電話をポケットに入れた。 化粧ポーチを開いて中を見ると、写真が入っていた。 マリアの隣に、金髪を肩の辺りで切りそろえた少女が写っている。 写真の裏には『カナンと 7.30』と書いてある。 この少女はあのカナンとは明らかに別人である。 まさか……。あのカナンと名乗る少女こそ、アルファルドではないのかと、ジャックは考えた。 そうすれば全て納得がいく。アルファルドは研究所内に入って、抗ウイルス剤を始末するつもりなのだろう。 18 45 建野が運転する車は研究所に向かっていた。 後部座席には気絶しているマリアを抱きかかえるカナンが乗っていた。 建野の携帯電話にジャックから電話がかかってきた。 『これからする質問に、イエスならわかった、ノーならそうすると答えろ』 「わかった」 『今、側にカナンがいるな?そのカナンは偽者だ。そいつこそがアルファルドだ。とにかく、すぐに戻れ』 たとえジャックの言うことが真実であっても、今から戻ると、マリアは助からないかも知れない。 建野はなにがあっても戻る気は無かった。 「そうする」 『仕方ない。今から私も研究所に向かう。私が着くまで持ちこたえろ。とにかく、奴を研究所に入れるな』 18 50 ジャックは車に乗り込み、研究所に向かって出発した。 18 55 建野の車は研究所に着いた。すぐ後に大沢も研究所にやってきた。 大沢はマリアに駆け寄った。 「マリア!……良かった。まだ発症していない」 大沢はマリアを抱きかかえて、研究所の建物に入ろうとした。 それに続いてカナンも入ろうとしたが、建野はカナンを引き止めた。 「私たちはここで待っています」 大沢とマリアは研究所に入っていった。 124 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 21 45 55 ID Jq40Cgdx0 19 00 建野はカナンに銃を突きつけた。 「お前がアルファルドだったのか。ジャックから聞いた」 カナンは素早い身のこなしで建野から距離を取り、銃を抜いた。 なんとしてもジャックが来るまで時間を稼がなければ。 カナンは圧倒的に強い。やり合ったら100パーセント殺されると建野は思った。 でも、やってみせる。最後まで加納に敬礼されるような刑事でいなければならないのだ。 19 05 ジャックは車内で考えをまとめる。 カナンの名乗る少女がアルファルドだとすると、パスワードをすでに知っているはずなので、 暗号解読をするまでもなく、容易にセキュリティを突破できるに違いない。 セキュリティを突破したアルファルドは、抗ウイルス剤を処分する。 待ち合わせ場所にいる偽アルファルドは、ひとみを呼び出すための囮だ。 アルファルドは爆弾を使って、 ひとみの中の抗ウイルス剤と偽アルファルドをまとめて始末するつもりなのだろう。 公園通りで青いワゴンが爆発したとき、携帯電話の着信音が聞こえたと御法川は証言した。 ある一定の音に反応して起爆する爆弾を使ったのだろう。 きっと、今回はひとみの携帯の着信音に反応するようにしてあるのだろう。 ジャックは、ひとみの側にいると思われる亜智に電話をかけた。 『ジャックか。刑事さんがアルファルドを捕まえてパスワードを聞き出したようだ。 これで事件は解決だろ?』 「いや、まだた。これから私の言う通りに行動してくれ。まず。ひとみの携帯電話の電源を切れ」 亜智は言われた通りに携帯の電源を切った。 「恐らく、その辺に爆弾が仕掛けてあるはずだ。加納が捕まえたのは、アルファルドの替え玉だ。 本物のアルファルドの狙いは、替え玉とひとみを同時に始末することだったのだ」 19 10 亜智は加納に、ジャックから聞いたことを伝えた。 「刑事さん!そいつはアルファルドの替え玉だ!」 次に爆弾を探す。リーランドが持っていたアタッシュケースが怪しいと睨んだ亜智。 アタッシュケースの中敷を外すと、[[C-4]]爆弾が仕掛けられていた。 125 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 21 50 18 ID Jq40Cgdx0 19 15 加納は確保したリーランドと共に亜智のところに戻ってきた。 加納が爆弾を探る。起爆装置にマイクが仕掛けられていた。 やはりひとみの携帯の着信音で起爆するようになっていたようだ。 さらによく調べてみると、時限装置が見つかった。タイマーが残り3分を示している。 亜智は爆弾の仕掛けられているアタッシュケースを抱え込み、 加納に一般市民を避難させるよう頼んだ。 この足ではもう動けない。亜智は、爆弾の威力を少しでも弱めようと、よりきつくアタッシュケースを抱えた。 「神様、頼んます。なんとか、おれの身体で、渋谷の街を、みんなを、ひとみを守りたいんだ」 このままでは亜智は死んでしまう。焦る加納の背後を、白煙を上げるワゴンが横切って止まった。 一瞬、冷気を感じた。加納はワゴンに駆け寄った。冷気の元はドライアイスだ。 これで爆弾を一気に冷却すれば、タイマーが止まるかもしれない。 普段、爆弾処理には液体窒素が使うが、ドライアイスでも代用出来るかも知れない。 「その機械、貸してくれ!」 「はぁ、なに言ってんすか?」 「ちょっと待ったぁ!」 だしぬけに御法川が現れて、言った。 「お前ら、劇団『迷天使』の人間だろ?電機屋のオヤジが、そいつは欠陥商品だと言っていた」 「えっ、マジで?」 「責任を持って回収するから、さっさとドアを開けろ!」 「は、はい」 加納はワゴンからドライアイスマシンを降ろした。ドライアイスマシンを押して走る。 「亜智くん、爆弾をここに!急激に冷やせばタイマーは止まる!」 アタッシュケースをドライアイスの中に突っ込んだ。 19 25 ジャックは研究所に到着した。研究所の建物の前で建野とカナンが拳銃を向け合っている。 ジャックは車を降りて、カナンに拳銃を向けた。 「大沢ひとみの携帯電話だが、電源を切るように伝えた。今頃は爆弾も処理されているはずだ。 もちろん、研究所のロックも解除済みだ。お前の計画は完全に失敗したんだ。 極東のこの街でやっと弟の仇に出会えた。 「やっと会えたな、アルファルド」 To Be Continued 127 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 22 46 21 ID Jq40Cgdx0 最終章 「マリア、もう大丈夫だ」 マリアは研究所内で目を覚ました。大沢はずっとマリアの手を握っていたらしい。 「お父さん?」 「お前はウイルスに感染していたんだ。でも抗ウイルス剤を打ったから、なにも心配することは無い」 マリアは抗ウイルス剤の副作用でだるい身体を起こした。 モニターに、研究所の前で拳銃を向け合っている3人の姿が映っている。 マリアはダークブラウンの髪を長く伸ばした少女をじっと見つめた。 彼女は3日前、カナンの友人と名乗ってマリアの前に姿を現した。 そして、ひとみが狙われているので、ひとみを守るために身代わりに誘拐されてほしいとマリアに言った。 そのときにGPSが仕込んであるという琥珀のような大きい飾りのついたネックレスを受け取った。 「わたしが寝ている間になにがあったの?あいつはカナンのふりをして、この研究所に入り込むつもりだったのよ」 きっと、あの少女こそアルファルドだとマリアは悟った。 「わたし、あの人たちの所へ行く」 「わかった。私も付いて行こう」 マリアと大沢は研究所の建物から外へ出た。 「その人はカナンじゃない!」 マリアは叫んだ。 「カナンはどうなったと思う?」 アルファルドは挑発するように言った。 「殺したのね?」 アルファルドは答えない。 「……ここにわたしが来るなんてさすがに想定外だったんじゃないの?これ、爆弾でしょ?」 マリアはネックレスを指して行った。 「なるほど。ここで捕まっても研究所を破壊することは可能だったというわけか」 ジャックは納得したように言った。 「ここでこの爆弾を爆発させたとしても、あなたもここで死ぬのよ」 しばらくマリアとアルファルドの睨み合いが続いた。アルファルドは拳銃を捨てて両手を上げた。 ジャックがボディチェックをして、アルファルドから爆弾を爆発させるリモコンを取り上げた。 「よくも、カナンを……。許せない!」 マリアは捨てられた拳銃を拾って、アルファルドに狙いを定めた。 「撃ちたければ撃つがいい」 アルファルドはそう言ったが、マリアは撃たなかった。 黒塗りの車がやってきた。ジャックの上司のゴードンが降りてきた。 「ご苦労。アルファルドは本部に連行する」 手錠をかけられたアルファルドは黒塗りの車に乗せられた。 ジャックはマリアに、渡せないままになっていた携帯電話を渡した。 ちょうどそのとき、着信が入った。 「嘘でしょ、良かった。本当に良かった……」 カナンは生きていた。今日、日本にやって来たらしい。 128 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 22 49 03 ID Jq40Cgdx0 ドライアイスの中に突っ込まれた爆弾。タイマーは残り二秒で止まっていた。 渋谷の駅前が歓声に包まれた。 「まったく、命知らずだな」 「それはお互い様ってことで」 加納と亜智はがっちりと握手を交わした。 亜智はKOKメンバーの方を振り返った。 「進、KOKのこと、頼んだぜ」 進はうなずいた。 いきなりフラッシュが焚かれた。千晶がカメラを持っている。御法川と片山も一緒だ。 「おーい、みんな集まれ!渋谷を救った英雄たち諸君!」 御法川の呼びかけに亜智を中心にして、メンバーが集まった。 「ほら、彼女も入って」 ひとみは亜智の隣に立った。 「亜智さん、わたし、わたし……」 「ほら、彼女、泣かない!笑って!」 御法川はひとみを笑わせた。亜智はひとみに言った。 「やっぱ、ひとみの笑顔は一番だ。誰がなんと言おうと、おれにとっては一番だ」 ヒーローのようにもてはやされる亜智を、加納は満足げに見つめていた。 振り返ってみれば、奇跡のような出来事だった。 いくつかの偶然が重ならなければ、爆弾を止めることは出来なかっただろう。 いや、偶然ではない。きっと運命だったのだ。 それも一人の運命ではない。多くの人たちの運命が重なり合ったことで、 偶然は必然となり、渋谷の街は救われたのだ。 なんだか留美の声が聞きたくなった加納は、留美に電話をかけた。 「あ、いや、これはお義父さん。ちょっとだけ留美さんの無事を確認したくて……」 電話に出たのは静夫だった。 『留美と会いたければちゃんと仕事を片付けてから来い。今日は嫌というほど待たされたんだ。 今さら、何時間待とうと変わらん。結婚の話はそのとき改めて聞いてやる』 電話を切ってからしばらくは実感が湧いてこなかった。 「よっしゃー!!」 加納は飛び上がらんばかりに喜んだ。 ひとみの元へ駆け寄る亜智。 「あのさ、ひとみ。おれ、もっとひとみと色々と話していたいんだ。だけど……」 「行ってらっしゃい。もうわたしは困ってないから」 「おれ、鈴音の病院に行って来る!」 「亜智さん、また会えるよね」 「あぁ!おれはいつでも、渋谷にいるから!」 生まれ育った渋谷の街が、もっと好きになった一日だった。 129 :428◆l1l6Ur354A:2009/04/04(土) 22 50 46 ID Jq40Cgdx0 ゴードンとアルファルドが乗った車は、高速道路を走っていた。 ゴードンから渡された鍵を使って、アルファルドは手錠を外した。 「しかし、お前にしては随分追い込まれたな」 「ああ。目的の半分しか達することが出来なかった」 アルファルドは赤い液体の入ったカプセルを取り出した。 「まさか、ひとみの血液か?」 アルファルドは、ワゴンが爆発したとき、助けるふりをして、気絶したひとみの首筋から採血したのだった。 誤算だったのは、マリアが爆弾を持ったまま研究所から出てきたことだ。 確かに目的の半分は達成できたが、アルファルドの心のほとんどは敗北感で占められていた。 アルファルドは窓の外を見た。すっかり暗くなった街に明かりがいくつも浮かんでいる。 まるで、闇に染まることを拒むように。 END (この後、カナンとアルファルドは対決することになるんですが、それはまた別の話です) ボーナスシナリオ 本作では本編クリア後に条件を満たすとボーナスシナリオ2編が読める。 このシナリオは本編と違い選択肢を選ぶことがなく、ENDに向かって一直線に 進んでゆく。 シナリオ解放条件 カナン編(黒い栞) 19時以降の選択肢で全て「憎しみを持たないもの」を選ぶ。 鈴音編(白い栞) BAD ENDを50個以上出してクリアすると出現。 カナン編 (2009/10/24にこのWikiに直接記載されましたが、ゲーム中の文章もしくは海外サイトの文章をそのまま丸ごと転載していた可能性があったため、2009/11/29に削除しました)
https://w.atwiki.jp/dq9sugisita/pages/69.html
こちらの地図は スターアルケミスト 「イスオリ」 が所持しています。 地図名:残された光の巣LV79 発見者:インパルス、ありがとう、すたあ、いち、マックス、としゅき、まさひろ 場 所:ダダマルダ山(5D) 地 形:洞くつ 敵ランク :9-12 ボ ス:B17Fアトラス 内 容:即鬼神の魔槍(B11F)、即グリンガムの鞭(B13F)、即必殺の扇(B15F) S8A4B1 地図名:残された光の巣LV79 発見者:せいふく、てけてんち、エンドさん、ゆっきー、きこう、ローレン、まさひろ 場 所:西ベクセリア(8A) 地 形:洞くつ 敵ランク :9-12 ボ ス:B17Fアトラス 内 容:即鬼神の魔槍(B11F)、即グリンガムの鞭(B13F)、即必殺の扇(B15F) S8A4B1
https://w.atwiki.jp/duoigunis/pages/29.html
喜屋武汀。鬼切部守天党の鬼切。現在、トウコから齎された仕事により協力関係となった一つ年下の少女。 ……ん、少女というのは言い過ぎだろうか。彼女は平均のそれである私の身長よりも高く、二十歳を過ぎていると言われれば、きっと不信がらずに受け入れてしまえるほどには色々な面において大人だった。 そのギャップなのか、彼女はあえて嘘やからかいを用いる。口八丁手八丁を以て良しとする汀は、普段から本心を奥深くに隠しこんでいる。彼女のふるまいの七割がたが嘘であり、残りの三割は冷酷さと、そしておそらくはひた隠しされた優しさで出来ている。 例えば、そう。人は肉を食す。その時殆どの人間が生きている牛やら、豚、鳥を思い浮かべながら食べることはないだろう。己の世界を守るために、肉を牛肉、豚肉、鶏肉と称しながらも決定的に生きている動物に繋げようとしない。当然の自己防衛機能である。きっと、その現場を見せられれば思うだろう。「可哀そうだから殺さないでやって」と。 だが平気で食卓に出された肉は喜んで食べる。弱肉強食、この場合、弱者である牛は人間が生きるための糧となる。それは食物連鎖による仕方のない事だ。だが一度、屠殺場の中で行われる儀式を目にすれば、人は今まで当然と食していたそれを準備しているモノたちを恨む。 彼らに罪はない。むしろ彼らは普通の人達が出来ない事をやっているのだ。讃えられこそすれ、貶されなければならないところなどない。だが目の前で起こった悲しい出来事に、自身から湧き上がるエゴによって、「あの人たちがやってしまったことだから仕方がない。食べ物を粗末にするのはいけないことだから食すのだ」と、もっともらしい理由をつけて責任をすべて屠る側の人間へと丸投げする。 だからこそ、屠殺場の存在は隠されている。一般人にその現場が目撃されないように、知らずにいられるようにと。 つまるところを言えば、喜屋武汀という女性の立ち位置は一般人ではなく、貶される屠る側にあった。 一般人が襲われることが無いように、平和に暮らす人々に危険が及ばないようにと鬼を狩る。 まだ高校2年生という若さで彼女は修羅の道を歩んでいた。それもおそらくは幼い頃より。でなければこのような地まで《剣》を取り戻すために派遣されるはずがない。私の直死の魔眼に頼らなければならないほどの神代の呪物を相手にいくら人手不足とはいえ、ただここ数年鍛えてきた少女が鬼切部守天党の代表として選ばれるはずがないのだ。彼女が普通ではなく、異常を抱える人間なのだということはそんな現実からも汲み取れる。 助けたはずの相手に恨まれる、なんて日常茶飯事なのだろう。ここ数日、鬼の踏み石を監視していた際に見た彼女の冷たい視線は、普段のそれから見れば完全に別人級だ。無感動に切り捨てる。仮に吸血鬼に血を吸われ、鬼となった友人がいたとしても、彼女は躊躇わずに友人だったソレを切り捨てるだろう。 だがそれは彼女に感情がないというわけではなく、優先順位が存在するというだけの話だった。第一に鬼は殺す。私情は彼女にとって二の次なのだ。 普通の人間から見れば破綻した核である。彼女はそうやって育ち、育てられてきた。切った後に相手の事を考えて悲しむ。それが最後に残された彼女の優しさ。とはいえ、そんなことが続けば彼女が普段から彼女の普通でいられるはずがなかったのだ。 仮面を被る。人懐っこく、だけど猫のように急にじゃれてきたと思えば、興味が失せるとすぐ他の対象へ、その視線を向ける。飄々とした、人を振り回す性格。 とってつけられたチグハグさ故にこそ、真実は綺麗にオブラートに包まれる。 汀の事は好きだった。人間として、彼女の有り様に興味がある。だけど、必要以上に仮面を被っている姿を見るのは苦手だった。先程、青城の連中と話しているときの汀が正にそれだった。 焦っているのだ。きっと本人は気付いていないのだろう。だからこそ空回りする、余裕がない。彼女は焦っている。それも今の彼女にとって、一割にも満たしていないかもしれない優しさによって。 一般人を巻き込むことを良しとしない。鬼切である汀にしてみれば、厄介のお荷物が大量に現れた、ということになる。しかも全員の安全を考えて節介を焼いているというわけだ。彼女から余裕がなくなるのは仕方がない事だと思う。かといって、空回りし続ける彼女を見続けるのは御免であった。 「まったく、メンドくさい……」 どうやら私と関わる人間はいつだって普通ではないらしい。類は友を呼ぶとか、そういうつもりじゃないけど、黒桐幹也という普通すぎる異常さを持つ少年と出会ってからの私は、おかしい。 まあ、考えても仕方のない事だけど。 そういえば――幹也は今頃何をしているのだろうか。トウコの散らかした資料をまとめているか、それとも鮮花にじゃれつかれているか。……考えてみると、何故だかムカついて、イライラしてくる。心が乱れる。いつだって、私がおかしくなる原因の中心点には黒桐幹也がいた。いてもいなくても彼は私の心を引っ掻き回すのだ。 「………」 溜息を一つ。和尚の声が襖越しに微かに聞こえる。おそらくは部屋を案内しているのだろう。甲高い声も入り混じって聞こえてくる。 それも暫く経つと、女子の声しか聞こえなくなった。それに混じってもう一つ。こちらへと真っ直ぐに向かう足音。だが気にすることはない。これはここ数日で聞き慣れた音だ。 「式~寂しかった?」 先ほどまで頭を過っていた女性、喜屋武汀が部屋に戻って来たのだった。 「……別に」 「つれないなぁ。どうしていきなり帰っちゃったのよ?」 「興味がない」 本当は汀の余裕のない態度を見ていたくなかっただけなのだが、正直に吐露するのも癪だ。 「ふーん。ま、いいけどね」 深くは聞いて来ず、その代わりに―― 「……なんだ?」 私に向かって汀は手を差し出していた。 「今からちょいオサ達の頃に話し合いに行く必要があるのよ。だから式も一緒にね」 「……オサ?」 ああ、あの気難しそうな少女の事か。 「小山内梢子、愛称オサ。なんかぶすっとした純黒のおかっぱ頭がいたじゃん? ほらほら! それに負けず劣らずぶすっと座ってないでさっさと立つ!!」 そういって半ば強引に私の手を汀が掴む。まったく……しょうがない奴だ。 「…行くとはまだ言ってない」 「――む。式ってあの子たちの事、嫌い?」 「言ったろ?興味がない」 これは本当。彼女等がどうなろうと、どうしようと勝手だし、こちらに迷惑が掛からないというのなら何をしようが構わない。 「興味がないってことは嫌いというわけでもないわけだ」 まあ、それはそうだけど。 「じゃ、いいわね」 有無を言わさず歩き出す。だから、私は行くとは言っていないんだけど。 だけど、何故だろう。彼女に強引に引かれることにひどく落ち着いている自分がいた。 「………」 ――喜屋武汀。本当に可笑しな奴だった。 するりと伸びた手が襖を迷うことなく開けた。 それと同時に視界に現れる一人の少女。彼女の手は宙で中途半端に止まっている。 ああ、彼女が襖を開けようとしたときに、ちょうど汀が先に開けたのか。か弱そうに見えるその少女の奥にいる――これは逆に気の強そうな――に視線を定めて汀が手を軽く上げる。 「ちわー」 「どうも」 目を細めて作り笑いをする汀と警戒しているのか小さく後ずさりしながらも返事する黒髪の少女――この人がオサか。 「何か用事ですか?」 「愛想悪ーっ」 たしかに聊か以上に汀は警戒されていた。まあ、最初からこんな調子の汀を相手にしているのだから、当然と言えば当然の反応だが。 「オサ先輩のこういうところは、今に始まったことじゃないですけど」 「何だ、それなら、まあ、いいか」 後輩と思われる少女からのフォローにすぐに立ち直る汀。相変わらず思考を切り替えるのが上手い。 「…………」 「で、葵先生からオサに伝言」 「……オサ?」 自分に使われた愛称に訝しげにオサ――小山内さんが反応する。 「最初ぐらいは礼儀正しく、『小山内さん』とか呼ぼうと思ったんだけど、呼び方途中で切り替えるのってタイミング難しいじゃない?」 別に長い間一緒というわけでもあるまいし、そこまで気を使う必要もないと思うのだが。…ま、汀にそれを言っても無駄か。 「とはいえ最後まで『小山内さん』だと長いし、まどろっこしいし」 ……長いか? 「で、同じ年だから『先輩』なんかの敬称も略」 「いいけどね、それで」 軽く溜息を吐いた後、小山内さんが妥協する。 「ま、あたしのことも適当に呼んでいいからさ」 「それではあたしは『きゃんきゃん』と」 「そうきたかっ!?」 年下である少女からの一言にさすがの汀も項垂れる。目には目を、歯には歯をというが、これは酷い。 「きゃんきゃん?」 「きゃんきゃん……」 小山内さんを除く残りの二人が反芻する度に見えないが汀に突き刺さる。 「きゃんきゃんか……」 少し悪乗りしてみるとする。 「……式までそう呼ぶの!?」 こちらを恨めしそうに見た視線を、次は事の中心に坐する少女へと向ける。 「なんかその『弱い犬ほどよく吠える』って感じの響きが、個人的にちょっと嫌なんだけどー」 毒を以て毒を制す、夷を以て夷を制す。言い方は様々あるわけだが。武術を生業にしている汀には一番ダメージがある言葉を無意識に使うこの少女は一体何者だろうか。 「あのさ、百ちー。もうちょっとスタイリッシュでカッコ良さげっぽくなったりしない?」 「では『ミギーさん』一択で」 「…………」 またもや項垂れる汀。どうやらこの少女は汀の天敵であるようだ。 「『きゃんきゃん』とか『みぎやん』とかよりは、シャープな感じだと思いませんか?」 色々と比べるものを間違えているような気がするのだが。 「あー」 どうしたものかといった態度で、短めの髪を指の隙間に、頭を書いていた汀は。 「……ま、いっか」 「いいんだ」 「…いいのか?」 意外にもあっさりと受け入れた。途中、私と小山内さんの声がはもる。 「オサも式もミギーって呼んでいいわよ?」 「……普通に汀って呼ばせてもらうわ」 「オレも小山内に同意見だ」 名字の呼び捨てが気になったのか、一瞬小山内さんと目が合う。だがその視線は眩しいものを見た時のようにすぐに外される。 「そう?」 少し残念そうな響き。 「両儀さんはえーっと」 次は私に矛先を向けたのか、こちらをマジマジと少女が見つめる。 「考えなくていい」 生まれてこの方、愛称なんてつけられたこともないわけだし、必要とも思えない。 「式っちとか、両ちゃんでどうです?」 いや、話はちゃんと聞け。 「………」 無言で軽く睨む。 「――うわ、もしかして私睨まれてます?」 それ以外になんだというのだ。 「百子、いい加減になさい」 軽く小突かれ窘められる百子。小山内さんも大変そうだ。 「式はほら、ちょっとお固いからさ。あまり愛称とかあだ名はねー」 「必要なことでもないだろ」 「それはそうなんだけど。もう少し愛想良くってもいいのよ?」 その言い方がなんとなく、しばらく会うことが出来ない青年のものに似ている気がして、あたしはいっそう仏頂面になる。 しかもそいつの声が私の中でリフレインするのだからムカつくことこの上ない。『式、君は女の子なんだから』。言葉遣いを気をつけろと毎度毎度世話を焼く彼に心の中で毒づきつつ、私はいつもの言葉を呟く。 「……オレの勝手じゃないか」 まったく、幹也も汀もへんなところでずるい。 「……で、先生からの伝言って?」 少女、秋田百子の反省を確認した小山内さんは閑話休題とばかりにずれていた話を元に戻す。 「先生、代打に任せて一休みするから、予定通りに進めておいてって」 「代打?」 「イエス、代打」 バットを振るゼスチャーを織り交ぜ答えた後に、立てた親指で自分の胸元を指し示す。 そして、暫くするとその自身に向けた指をこちらにも。…話が見えない。 「ま、あたしと式なんだけどさー」 「先生に買収でもされましたか?」 「んー、当たらずとも遠からず。合宿中は和尚の食事も、まとめて一緒に作るんでしょ?」 「はい、その予定です」 か弱そうな少女が答える。ああ、つまりは――。 「なんだ、飯を条件に買収されたのか」 「身もふたもない言い方しない!」 まぁ、材料を自分で買いに行く手間が省けるのならばその条件もありだと思うけど。 ここ、咲森寺は田舎であると同時に人気のない所に建っている。仕方のない事ではあるが、2日に一回の食事の材料の買い込みは歩きとバスを駆使せねばならず、中々に面倒だった。 それを考えれば、少々面倒な事を押し付けられようと共同した方が効率的であり。 「まあ、オレはどっちでもいいけどさ」 汀の判断に委ねることにする。……もう決定事項なんだろうけど。 「ぶっちゃけあたしと式だけ除け者なのは寂しいじゃない?」 いや、これといって特には。 「ご飯を炊くにしても、お味噌汁を作るにしても、別々にやると、いろいろ勿体ないですしね」 先ほどのか弱そうな子が同意を得て、汀の調子が上がる。 「そういうわけで、葵先生と和尚とあたしの三人で打ち合わせた結果――」 ひとり、ふたり、さんにんと、人差し指から順繰りに薬指まで持ち上げて数え上げ。 さっとその手をひるがえすと、立てた三本の指は親指一本と入れ替わっており―― 「あたしと式も一緒にご相伴にあずかる」 「ギブ」と自分の胸元を、その親指で指し示し。 「代わりにあたしたちも可能な限り、そっちに混じって作務をする」 「テイク」と再び手をひるがえし、ぱっと開いたてのひらを、私たちの方へと向けて差し出す。 「そんな結果になりましたとさ。よっろしくー」 向こうも異論はないようで、小山内さんが一度周りの部員を見渡したあと、汀が差し出した手を握り返した。交渉成立ということだろう。 「それで、先生は?」 「働き手は確保したから、もう先生の出る幕じゃないわね……と、お風呂に」 それでいいのか、教師。 「ちなみに咲森寺のお風呂は温泉だったりして」 「温泉!?」 素っ頓狂な声を百子――秋田百子が上げる。 「上水道を引くみたいに、源泉から温泉水を引いてきたりもできるのよ」 有名な火山が県内にあるこのあたりでは、そう珍しいことではない、と付け足しつつ説明する汀。毎回思うけど、汀って説明好きだよな。 「なかなか、最高なご身分ですねぇ」 「あたしがそそのかしたんだけど、先生なんだから別にいいでしょ?」 犯人はお前か。 「まあ、そうね」 「で、オサ。これからどうするわけ?」 「まずは仕事の分担からかしら」 「妥当な判断だな」 「……あ、ありがとうございます」 「別に敬語じゃなくていいよ。……どうせ汀から年とか聞いたんだろうけど。その当の汀だって溜口だろう?」 「えっと、はい。じゃあ、そうさせてもらうわね」 「ああ」 こちらをちらりと見ながら小山内さんは、振出しに戻る。 「……食事の支度に最低限の人数だしたら、後は全員掃除に回らなきゃって思ってたんだけど――」 「百子ちゃんが脅かすので、もっと掃除甲斐のあるお部屋を想像してました」 「あ、わたしもです……」 和尚が予め手を入れてくれていた故に、既に部屋はこざっぱりと掃き清められていて、寝起きするには文句のない状態にまで整えられていた。 古びてはいても汚くはなく、色の失せた畳などは、好き嫌いの別れる藺草の青臭さを薄めていて、かえって万人向けの居心地の良さに貢献していた。 「部屋の掃除は、必要なら後からそれぞれやればいいってレベルよね。 わざわざ人手を割くことないから――」 言葉を一旦止め、小山内さんは開かれた襖の先に見える風景を見据えた。 私と汀も一緒になって境内を見る。ここ数日で見慣れたいつもの風景。和尚ひとりでは手に余るだろう広々とした敷地。夏にもかかわらず真っ白な地面。 小山内さんは真っ白な――夏椿が散った地面を眺めて。 「とりあえず、今日の所は境内辺りからかしら」 そう言って他の部員に確認した。 山と積まれた白い花は、まさに掃いて捨てるほど、放って置けば腐るほどあるのだ。掃除場としてはうってつけ……とはいえ。 掃除しても次の日にはまた山が出来ているのだろうな。なんて考えてしまうと、徒労に終わる労働が億劫になるのは仕方のない事である。 「それで手一杯だろうけど、廊下とか広間とかは、するなら迷惑にならない範囲で」 「その場合は、和尚さまに確認をとるようにします」 「うん、そうして」 まあ、ここで意見を出したところで剣道部の連中は掃除する気満々なようで。ちらりと汀を見てみれば普通に手伝う気みたいだし。 「お風呂は先生が入ってるから、特に手を付ける必要なし」 ちなみに二十四時間風呂である。まあ、源泉かけ流しの温泉だし。 「後は食事の支度ですから――」 桜井さんの口から出た“食事の支度”という単語に反応してか、部員全員の視線がか弱そうな少女へと向けられる。つまりは―― 「ほう?」 部員と一緒に彼女を捉えていた汀は、視線だけでは足りぬとばかりに、そのまま一歩二歩と歩みを進め、物理的に距離を縮めると。 「あ―――っ!?」 何を企んでいるのかと思えば、いきなり彼女の顔の両側をがっしり両手で挟み込み、自分の顔を近づけた。 「……え?」 汀の落とす影の下、被捕食者はきょとんと眼を見張る。……というか、いきなりそれは止めろ。 「なるほどねー、これはいかにもお菓子作りとかやってそうな顔だわ」 「え? え? ええ?」 戸惑う少女と笑顔で這い寄る変質者。そんなイメージが頭の中に沸き立つ。……なんか無性にムカついてきた。 「ちょーっ! ミギーさん何をーっ!?」 汀を捕まえようと動こうとした足が隣からの悲鳴によりピクリと止まる。 「やすみんの観察」 対する汀は平然と言い放つ。観察っておまえ、観るだけに飽き足らず触れてるだろう。 「ちょっちょっちょっ、ちょーっとスキンシップ過剰なんじゃないですかーっ!?」 その必死な形相に気付けば、私の中に沸いたもやもやした感情は形を潜めていた。が――。 「オサ先輩! ぼーっと見てないでざわっち助けてあげてください!」 次はおまえの顔が小山内さんと近すぎるぞ、秋田さん。 それもいつものことなのか、小山内さんはひとつ大きなため息を吐くと、か弱い――いや、保美だったか。相沢保美――と汀の間に割って入った。 「手伝ってくれるのはありがたいけど、うちの部員に変なちょっかい出さないでよね」 「良いじゃない、減るもんじゃないし」 「減るわよ。神経だとかやる気とか」 顔を赤く染めた相沢さんとジト目で汀を見る秋田さん。 「うわー、何気にひどーい」 それにプラスして、情け容赦ない小山内さんの一言が汀にダメージを与える。 汀は冗談めかして嘆いて見せると、大人しく両手を放した。私といるときもそうだが、やはり汀は初対面から馴れ馴れしすぎると思う。――そう、やっぱりアイツみたいだ。 ふと、またもや黒縁眼鏡が視えた気がして、私はいっそう仏頂面になる。 ――ま、幹也はこんな嘘でこりかためたりとかはしないんだけど。 寧ろ、真正面過ぎて恐れ入る。 「なら、情報ぐらいはちょうだいよ。やすみんが剣道部の料理番長って認識でオーケー?」 「えっと……」 不貞腐れる汀にはにかみつつ視線を泳がせる相沢さん。 「ざわっち印の美味しいごはんは、ほっぺた落ちる出来映えですよ?」 何故か、かわりに隣にいた秋田さんが自慢を始めた。 「ほほう」 「それはもう、寮のごはんを作ってくれる、調理師のおねーさん達が嫉妬するほどなのですよ」 「百ちゃん、それ言い過ぎ……」 「いーや、ンなこたァないね! ありませんね!」 いや、なんでおまえがそこまで自信たっぷりなんだよ? 「へー、本当なら大したもんね」 どうやら私に対しても所見は疑っていたようだが、私みたいなタイプやお嬢様学校に通う目の前にいるお嬢様たちは料理が出来ないというレッテルが汀の中では貼ってあるようだ。 「オサは知ってた?」 「話というか噂はね。私は自宅通学だから」
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Q.このページは何? A.初心者向けのよくある質問的なアレ。ネタバレは控えめでお願いします どこまでがネタバレかは皆の良心に任せた。 FAQ その他 FAQ Q.ダンジョン入って前進したら瞬殺された A.「前進」はダンジョン深層のより危険なゾーンへ侵入するコマンドです。 最初はダンジョン入り口付近で「チェック」を選んで経験値とアイテムを稼ぎましょう。 Q.戦闘不能どうやって回復するの A.キャンプに帰れば全回復しますが、帰らないで先に進みたい場合は薬や回復スキルを使いましょう。HPを1以上まで回復すると復活します。 復活に専用の薬やスキルが必要ない代わりに戦闘不能時にHPは0で止まらずマイナスになり、マイナス分を回復させれば復活するというシステムになっています。回復量150%の薬が存在するのはそのためです。 Q.武器や防具の強化ってどうやるの A.アイテム精錬画面で「同じ装備を複数作る」と強化されます。 Q.レベル上げとかアイテム稼ぎめんどくさい A.全く稼ぎを行わずに進められるゲームではありませんが、連打メインのゲームではありません。あまりにきついようなら戦術か稼ぎ方かあるいはその両方が何か間違ってるのかもしれません。って感じのことをモスーが言ってた。別にごり押ししても構いませんが。 その他 Q. A.
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AC BH 隠された真実 各パズル解説 コメント欄 各パズルが意味するところ、背景情報を補足。 謎解きを見直したい場合は、データベース → 隠された真実で各クラスターを選択。 基本的に、このパズルを解くという行為それ自体が、被験者16号が得た情報を伝える仕組みになっている。 正しい絵、絵の中のポイントを選ぶためには何が重要であるか(王侯貴族、ロボットなど)という正しい推定が必要であり、絵合わせの復元も正体を探す努力をすることであり、コードホイールのキーコード合わせも写真を注意して見るための仕掛けである。 また、通話記録をデコードすることによって、テンプル騎士団の陰謀を読み解くことが出来る。 アサシンのマーク、テンプル騎士団のマークに注意してみよう。 なお、モールス信号等で謎解きの絵にさらにメッセージが隠されている場合がある。 1.CLUSTER1君主制の崩壊。テンプル騎士団は民衆の支配を継続するために新たな、より都合の良い政治体制を求めた。 2.CLUSTER2冒頭の文はアダム・スミスの「国富論」。テンプル騎士団が資本主義を創り出した。リングパズルは資本主義によって、自然や民衆の暮らしが変えられたことを示している。 3.CLUSTER3冒頭のモールス信号。DARKNESSLOSTDNUMB "数字は闇の中に消えた" ハリー・デクスター・ホワイトの写真にある文、Le chiffre indechiffrable(仏語:解読できない数)より、写真に隠されている文字群はヴィジュネル暗号になっている。"IMF"が赤文字で強調されているのでこれを暗号鍵に使えば解ける。1ドル紙幣。"ジキル島ダックハントクラブ、より多くの紙幣と中央銀行"。その左の部屋の写真にある"1910年"から、同年にジキル島で行われたロックフェラーなどの各経済界のトップによる秘密会議の末に設立された連邦準備制度(FRB、アメリカの中央銀行)の事を指している。後半部はドル紙幣が米造幣局ではなく、FRBが発行している事を指しているか。参考資料:FRBとは スターリンの写真。"その一つ、彼は必要な圧力を供給した"。同写真のポップアップする文章と合わせて考えると、ロシア革命によって共産主義国家が誕生したが、党上層部などのブルジョワが依然として贅沢な生活を送っていた=既存の社会経済システムが堅持されていたということだろうか。 群衆の写真。"債務国は新たなフロンティアだ"。 4.CLUSTER4現代計算機科学の父とされるアラン・チューリング。労働者の代わりとなりうるロボット(人工知能)が資本主義を破綻させるのではないかと考えたテンプル騎士団は、その研究を行っていた彼を聖書の蛇がアダムとイヴに知恵の実を食べさせた事(ロボットに知能を与えようとした)になぞらえてリンゴで暗殺した。同じ通話記録から共産主義者であるとされたハリー・ホワイトも同様に自殺に見せ掛けて殺害されている事が判明している。 5.CLUSTER5写真群に隠されている暗号はアウグスト・ピノチエットの写真の車のナンバーをズームすると現れるLUXJ→FORDより、アルファベットの順番をずらすシーザー暗号が使われている事が分かる。その写真の下にある暗号"死者は3000人を超えた"。CIAの支援を受けてピノチエットが引き起こしたチリ・クーデターで設立された軍事独裁政権下での死者は公式発表で3000人以上。参考:チリ・クーデター 左下の写真の下にある暗号"ユナイテッド・フルーツ、USバンク、自動車会社等はアルゼンチン政府に企業債務を移譲した"。 左上の写真。"愛丁帝"→"あいていてい"→"ITT"→"CNN"、すなわちCable News Network。CLUSTER6でカメラマンがテンプル騎士団のマークを背負っている事からも、メディアがテンプル騎士団の支配下にあることが分かる。 社会主義国の転覆の裏にはテンプル騎士団(キッシンジャー)の姿があった(通話記録より工作によってアメリカによる関与と見せかけていた事が分かる)。全ては国家にも縛ることが出来ない資本主義体制を維持するため。 6.CLUSTER6写真に隠されている暗号。ズームすると楽譜が見えるが、音階と音符をアルファベットに置き換えて解読できる。(四分音符と二分音符で換字パターンを分けて考える)ペレストロイカの下にあるスコア(右下の写真の下にあるスコアも同じ)。"それはブレトン・ウッズで始まった。IMFの設立である"。ブレトン・ウッズのランドマークであるマウント・ワシントン・ホテルだが、CLUSTER3の写真群の中のアブスターゴ社の旗が掲げられている建物である。建物にズームすると現れる文はテンプル騎士団が世界経済に影響力を持つことで間接的に世界を支配しようとしている事を示していると考えられる。 森の写真。"疲弊した政府は改革にうってつけである"。 エリツィンに対するマーガレット・サッチャーの書簡。ソ連解体は人々を独裁政治から解放する為ではなく、石油の獲得(資本主義を維持)が目的であった。 最後のパートにもスコア。"ロシア高層アパート連続爆破事件によってチェチェン戦争が勃発し、プーチンを大統領に選ばせた。全てはアブスターゴによる計画だ"。プーチンが大統領に選ばれたのはチェチェン戦争を制圧した辣腕が評価されたからだと言われている。参考資料:ウラジーミル・プーチン、チェチェン紛争 7.CLUSTER7冒頭の被験体16号による数字の羅列は大きな戦争が勃発した年。全てはテンプル騎士団が引き起こした物だった。 写真解読。隠されている暗号は3桁の数字の羅列。ジョージ・W・ブッシュが映っている写真にWe the people.とありその上に1,2,3の番号が振られている。この3語から始まるものといえばアメリカ合衆国憲法である。それぞれの数字は合衆国憲法のn番目の単語の頭文字を表している。一番大きな写真"その命令は下された"。 ポール・ウォルフォウィッツの写真。"最後のフロンティア:破壊を利益とすること"。 ドナルド・ラムズフェルドの写真。"コンストラクターは利益をあげるために戦争を運営する"。 ドン・エヴァンズの写真横。"イラクは最高入札者に売却された"。 合衆国最高裁裁判官アントニン・スカーリアの書簡。サンドラとは合衆国最高裁裁判官のサンドラ・デイ・オコナーの事と思われる。彼女を最高裁から引退させ、後任にテンプル騎士団の人物を就ける為の工作。Wはジョージ・W・ブッシュ、Cはディック・チェイニーかコンドリーザ・ライスの事と思われる。司法を牛耳ることで、アメリカを裏から支配しようと暗躍している事が読み取れる。 8.CLUSTER8テンプル騎士団がテレビ(おそらくデジタル放送を受信するもの)を利用して人類の監視と個人情報の収集、マインドコントロールを行なっている事が明らかにされる。CLUSTER5,6からもメディアがアブスターゴ社の支配下にあることは明白である。 ウォーレン・ヴィディックのメールからネットワークを用いてエデンのリンゴと同じような効果を発揮する実験に成功したという報告。 テレビゲームに夢中にさせて現実を忘れさせようとしている。メタフィクションか。 9.CLUSTER9 10.CLUSTER10リングパズルの蝶のような模様はローレンツ方程式のグラフ。予測不可能性・カオスの象徴であり「nothing is true, everything is permitted.」(真実はなく、許されぬことなどない)という、Assassin s Creed(アサシンの信条)を代弁するかのようなマークと言えそうである。1のエンディング直前等、シリーズには度々登場しているマークである。 写真解読。アルファベットの大文字と小文字がランダムに並んでいるが、これらは元素記号である。よく見ると27番以降の元素がないので、各原子番号をアルファベットに変換出来ることが分かる。警官隊の写真左上。"暴君にそれを壊すことはできない"。 同上写真右側。"支配者にそれを殺すことはできない"。 同上写真左側。"奴らのコントロールは衰えつつある"。 毛沢東の旗が映っている写真右側。"アブスターゴが全てを所有しても、あなたを手に入れることはできない"。 同上写真下側。"「役立たずな紙切れ」から決別しよう"。原文「worthless pieces of paper」とはドル紙幣の事。後ろにある"資本主義の失敗"という言葉と重なる。 広場の写真右側。"裁判所はそれを止めることはできない"。 同上写真上側。"化学がそれを開くだろう"。 警官が盾を構えている白黒写真。"December21 2012"。アブスターゴ社の人工衛星打ち上げ予定日である。 電話記録。テンプル騎士団の目的は"かつて来たりし者"に代わって人類を統治し繁栄させる事であって、騎士団にとって資本主義はその為にとっている手段に過ぎない(騎士団の理念はノブレス・オブリージュに近い)。アサシン教団と対立しているのはアサシン側が"誰にも束縛されず、人類自身の力で進化していく"という考えで、"テンプル騎士団が人類を導いていく"という騎士団の考えと相容れない為である。 チェスの画面。"H. ACTⅡ. SC.2 192.(日本語版ではHが欠けている)"。意味するところはハムレット 第2幕 第2場 192行。"Words, words, words."。"ABRAN LOS OJOS"はスペイン語で"目を開け"。"TUAM LIBERA MENTEM"はショーンの言うようにラテン語で"心を解き放て"。 赤い点の並びは黄金長方形に内接する螺旋を描いている。黄金長方形はフィボナッチ数列(10のコードホイールパズルにも使われている)の各項を一辺とする正方形を螺旋状に配置した物に等しい。 コメント欄 名前
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とざされたせかい【登録タグ と ぼんP 曲 鏡音リン 鏡音レン】 作詞:ぼんP 作曲:ぼんP 編曲:ぼんP 唄:鏡音リン・鏡音レン 曲紹介 「開かれた世界」とは何気なくリンクしている関係。 歌詞 (ピアプロより転載。R=リン、L=レン) (R)今宵は闇が舞い 狂った宴の始まりだと (L)少し開いた扉の向こう (R)霞む横顔 血まみれの君の姿 狂った (R)宴が始まり 惨劇の舞台が始まりを告げる (L)踏み外さぬように (R)闇へと引きずられぬように・・・ (L)さあ 終幕が近付いている (R)楽しい時間?それとも悲しい時間?止まった・・・ (L)世界が少しづつ動き出す (R)宴の終わり 残された君の瞳 虚ろで・・・ (R)暗い森の中光ってる その先に見えていたもの (R)真っ暗な闇で踊ってる 開いた扉の向こうは (L)真っ白な世界? (R)全てが真っ黒な世界? (R)紅い雫から見えている 全ての始まりと終わり (L)さあ始めようか? (R)闇へと引きずられぬように・・・ コメント ・・・なんか、短い曲がイイ(☆) -- りんりん (2011-08-22 11 44 28) 名前 コメント
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← ↑ → 669 名前:586 2006/08/10(木) 13 14 41.90 ID 6u9wYyd/0 女神がウチに舞い降りた。玄関で彼女を見た瞬間、そう感じた。 しかし、彼女こそ、留学を終えて帰ってきた"弟"なのだった・・・ 俺「う、嘘だろっ!冗談は勘弁してくれよ」 女弟「嘘じゃないやい。弟のツバサだよ」 俺「悪い冗談は止めてくれ。俺にはどうみても君が女子高生にしか見えない」 スラリとした細身の体型は男性っぽさを微塵も感じさせない。 参ったな…という表情で俺は、彼女の隣の椅子に腰掛けてみる。 女弟「本当にっ!?お兄ちゃんに女の子に見られるなんて光栄だよぉ」 彼女はニマッと笑い、ほのかに顔を赤らめる。 可愛すぎるっ…やはり男だなんて信じられない。 しかも、制服姿で「お兄ちゃん」だなんて…何てマニアックなんだ。 お兄たんいいよお兄たんハアハア 鼻血が噴出しそうなのを何とか自制して、彼女に問いただした。 俺「もう一度聞くけど、君は一体何者なんだ?弟のツバサには到底思えないんだけど」 女弟「だからっツバサだってば。どうして信じてくれないかなぁ」 俺「…じゃあ仮にだ。もしも君が弟だとしてだな」 俺「何で女なんかになっちまったんだ?」 671 名前:586 2006/08/10(木) 13 20 14.41 ID 6u9wYyd/0 自称・弟は語りだした・・・ 女弟「…アメリカに渡って三ヶ月近く経った、ある日の夜だった」 女弟「その日疲れてアパートに帰ったボクは、早い時間にベットで寝たんだ・・・」 女弟「そして次の朝起きてみたらもう、女の子にすり変わっていたんだ・・・」 俺「・・・終わり?」 女弟「うん」 俺「・・・たったそれだけ?」 女弟「うん」 俺「黒ずくめの男たちに新薬を飲まされただとか、魔法の書の封印を解いたらその副作用で 女性に代わってしまっただとか、セックスノートで…」 女弟「ねーよ」 女弟「そうだよね。どうせ信じてくれないと思った。 女弟「女性に変わってからというもの、ボクも元に戻そうと色々努力してみたけどテンで駄目。 医者も相手してくれないし。むしろ夜の相手を要求してきてもう…」 俺(完全に頭イカれてるよ。この子) 俺は全く信じていなかったが、とりあえずこの子の話に乗ってやることにした。 672 名前:586 2006/08/10(木) 13 24 33.83 ID 6u9wYyd/0 俺「じゃあ君がツバサだって証拠は何処にあるんだ?」 女弟「うーん…あっそうだっ」 彼女は突然、制服の上着をガバッとめくりあげて半脱ぎの状態になった。 女性らしい色白な肌に、白いレースのブラが現れる。 バスト70はありそうな形の良い胸がラインに添ってハッキリ見える。 まるで実った果物みたいだ。 俺「ブーーーーーー」※鼻血を噴出す 女弟「お兄ちゃん!?」 俺「すまない。「俺の趣味ど真ん中」なんだ」 女弟「?」 (絵 長目) 673 名前:586 2006/08/10(木) 13 28 59.60 ID 6u9wYyd/0 俺はいそいでティッシュを鼻の穴に突っ込み鼻血の応急処置をした。 彼女は依然として半脱ぎの格好のままキョトンとしている。 俺(あまりに嬉しいこの光景を無駄にすることはできない。しかし、この半脱ぎの格好のままで いられると体がもたん…) 俺「頼むから、せめて胸元は隠そうな」 俺は後ろを向いて彼女に背を向けつつ、惜しむように言い放った。 女弟「あっ…えへへ///ブラ見えてたね。ごめんごめん」 何て無防備な子なんだ。 女弟「でも…お兄ちゃんだったら、ボクの胸なんて…見てもいいのに…」 俺「ブーーーーーーー」※鼻血再発 674 名前:586 2006/08/10(木) 13 32 38.79 ID 6u9wYyd/0 もう我慢せず鼻血を滴らせながら、彼女に言った。 俺「いい加減、冗談はよしてくれよ(ハアハア)」 女弟「冗談なんかじゃないのに… 女弟「あ、ハイッ、胸元を隠したよぉ」 俺は音速を超える速さで振り向いた。 ブラが見えなくなるすんでの所で、ちょうど隠している。 ブラが見えそうで見えない…これはこれで風流じゃないか… 俺が胸元に見とれていると彼女の怪訝な目つきが突き刺さった。 女弟「もう…お兄ちゃんのエッチなんだから。 見るところはそこじゃないよぉ!その下、胸元の下っ!」 ハアハアしながら俺が下に目を向けると、そこには滲んだ古傷があった。 俺「そ…それは。あの時の…!」 女弟「うん。ボクが小さい頃、お兄ちゃんとキャッチボールしていた時に出来た傷だよ? ボクが無理してボールをキャッチしようとしたら、そのまま勢い余って車道に 出ちゃって。その時、この部分に車の部品の一部が擦られて傷が出来ちゃったんだよね」 675 名前:586 2006/08/10(木) 13 34 22.87 ID 6u9wYyd/0 女弟「ボク、ボールに夢中で車道に出たとは知らなくて、あのままだったら正面衝突で 大変な事になってた。だけど、お兄ちゃんが「危ないっ!ツバサっ!」と言って ダイブをして、身を張って助けてくれた。あの時は嬉しかったなぁ…」 俺「……」 女弟「あの事故があったせいでスポーツは苦手になったんだけど、お兄ちゃんの事は 凄く尊敬するようになったんだよぉ?」 俺(この傷跡…この記憶…このしゃべり方…) 俺「…ツバサなのか…?ツバサなんだな?」 女弟「…信じてくれた?」 俺「ああ。まだ少し混乱しているがな…」 今まで疑っていたが、彼女が弟のツバサであることは、どうも本当の事らしい。 まさか弟がこんな綺麗な女性になろうとは…。 女弟「…良かったぁ」 彼女はニンマリ笑うと、腕にいきなりガバッと抱きついた。 676 名前:586 2006/08/10(木) 13 36 46.34 ID 6u9wYyd/0 女弟「何かシンミリさせちゃったね!…えへへ…お兄ちゃんの腕だぁ…」 俺(うっ!胸がっ…胸が俺の腕を包み込むようにギュッと押し付けてくる…) 女弟「エヘヘ…懐かしいなぁ…昔よくこんな事してたよね… お兄ちゃんの腕に抱きついてると、なんだか安心するよぉ……」 ギュっと腕に掴まり、お得意の上目使いで覗き込んでくる。 男(昔は小さい男の子だったから何とも思わなかったけれども…今それをやられると…!) 女弟「気づいてくれてありがとね…」 俺「あは、あははは、いえいえっ、トンデモナイッスよっ!トンデモナイッス!」 俺は鼻血をドバドバ垂れ流しながら、混乱した状態でそう言った。 夢心地に浸っていると、それはまたもや突然に訪れた。 ピンポーン 母「たかしー、そこにいる?お母さんたち鍵を忘れて出ちゃってたみたいで、 中に入れないの。内側から鍵をあけてくれる? 俺「げっ…お袋と親父が帰ってきたみたいだ」 女弟「ほえっ?」 第二部「誰も僕を責めることはできない」 完