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◆LuuKRM2PEg 氏が手がけた作品 話数 タイトル 登場人物 003 不幸のバトルロワイヤル! 幸せを取り戻せ!! 桃園ラブ、蒼乃美希、巴マミ、孤門一輝 011 男と少女とオカマ 珍道中 東せつな、相羽タカヤ、泉京水 024 現れた魔女! その名はノーザ!! ノーザ、本郷猛、鹿目まどか、スバル・ナカジマ、シャンプー 039 彼らは知らない 左翔太郎、ユーノ・スクライア、佐倉杏子、フェイト・テスタロッサ 047 魔獣 沖一也、一文字隼人、三影英介、バラゴ、速水克彦、園咲冴子 052 ラブとマミ 終わらない約束!(前編)ラブとマミ 終わらない約束!(中編)ラブとマミ 終わらない約束!(後編) 桃園ラブ、巴マミ、モロトフ 053 願い 蒼乃美希、孤門一輝、相羽シンヤ、月影ゆり 056 変身超人大戦・開幕変身超人大戦・危機変身超人大戦・襲来変身超人大戦・イナクナリナサイ変身超人大戦・最後の乱入者変身超人大戦・そして―――― 本郷猛、沖一也、明堂院いつき、ノーザ、高町なのは、スバル・ナカジマ、アインハルト・ストラトス、鹿目まどか、ズ・ゴオマ・グ、池波流ノ介、筋殻アクマロ 059 答えが、まったくわからない答えが、まったくわからない(後編) 左翔太郎、ユーノ・スクライア、佐倉杏子、フェイト・テスタロッサ、ゴ・ガドル・バ 068 悪魔は笑う 溝呂木眞也、西条凪、五代雄介、美樹さやか 071 Kは吠える/永遠という名の悪魔 大道克己、腑破十臓、梅盛源太、天道あかね 072 優しさを思い出して 東せつな、佐倉杏子、相羽タカヤ、左翔太郎、泉京水 074 第一回放送 加頭順、サラマンダー男爵、ニードル 075 新たなる戦い! 思いは駆け巡る!! 桃園ラブ、黒岩省吾、井坂深紅郎、ティアナ・ランスター 077 外道【ドーパント】 志葉丈瑠、パンスト太郎 080 上を向いて歩け 早乙女乱馬、園咲霧彦、山吹祈里、高町ヴィヴィオ 090 青き地獄の姉妹 溝呂木眞也、美樹さやか、スバル・ナカジマ 098 希望 蒼乃美希、孤門一輝、沖一也、明堂院いつき、アインハルト・ストラトス 101 この想いを…(前編)この想いを…(後編) 佐倉杏子、東せつな、モロトフ、姫矢准、血祭ドウコク 103 ピーチと二号! 生まれる救世の光!!(前編)ピーチと二号! 生まれる救世の光!!(後編) 桃園ラブ、涼村暁、黒岩省吾、石堀光彦、西条凪、一文字隼人、バラゴ 106 解放(1)解放(2)解放(3)解放(4) 溝呂木眞也、冴島鋼牙、一条薫、村雨良、響良牙、花咲つぼみ、志葉丈瑠、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、井坂深紅郎、大道克己、筋殻アクマロ 107 果てしなき望み ダークプリキュア 110 あざ笑う闇 石堀光彦、西条凪、涼村暁、黒岩省吾、涼邑零、結城丈二 111 せめて 輝きと ともに 山吹祈里、ン・ダグバ・ゼバ 115 三つの凶星 血祭ドウコク、ゴ・ガドル・バ、ン・ダグバ・ゼバ 147 終わらない戦い。その名は仮面舞踏会(マスカレード) 冴島鋼牙、花咲つぼみ、一条薫、響良牙、相羽タカヤ、泉京水、バラゴ 150 暁とラブ 胸に抱く誓い! 桃園ラブ、涼村暁 159 覚醒(前編)覚醒(後編) 花咲つぼみ、一条薫、響良牙、血祭ドウコク 161 ラブと祈里 さよならの言葉! 涼村暁、桃園ラブ、石堀光彦 162 解─unlock─ 涼邑零、結城丈二 166 なのはの決意! プリキュアとして、戦います!! 花咲つぼみ、響良牙、ダークプリキュア 168 壊れゆく常識 蒼乃美希、高町ヴィヴィオ、孤門一輝、冴島鋼牙、沖一也、佐倉杏子、ニードル、美国織莉子 171 ラブのラブレター! 驚きの正体!? 涼村暁、桃園ラブ、石堀光彦 174 挑戦 ゴ・ガドル・バ、ラ・バルバ・デ 176 歪み 花咲つぼみ、響良牙、ダークプリキュア、天道あかね、ン・ガミオ・ゼダ 190 みんなの言葉! 思い出は未来のなかに!! 涼村暁、石堀光彦、桃園ラブ、涼邑零 192 あなたが遺してくれたもの 天道あかね 登場させたキャラ 8回 桃園ラブ 6回 涼村暁 5回 佐倉杏子、花咲つぼみ、響良牙、石堀光彦 4回 スバル・ナカジマ、沖一也 3回 蒼乃美希、孤門一輝、左翔太郎、東せつな、溝呂木眞也、黒岩省吾、西条凪、相場タカヤ、泉京水、バラゴ、一条薫、血祭ドウコク、冴島鋼牙、ゴ・ガドル・バ、ダークプリキュア、涼邑零、天道あかね 2回 巴マミ、ノーザ、本郷猛、鹿目まどか、ユーノ・スクライア、フェイト・テスタロッサ、美樹さやか、明堂院いつき、アインハルト・ストラトス、モロトフ、一文字隼人、筋殻アクマロ、大道克己、井坂深紅郎、ティアナ・ランスター、志葉丈瑠、山吹祈里、ン・ダグバ・ゼバ、結城丈二、高町ヴィヴィオ、ニードル 1回 シャンプー、三影英介、速水克彦、園咲冴子、相羽シンヤ、月影ゆり、高町なのは、ズ・ゴオマ・グ、池波流ノ介、五代雄介、腑破十臓、梅盛源太、加頭順、サラマンダー男爵、パンスト太郎、早乙女乱馬、園咲霧彦、姫矢准、村雨良、美国織莉子、ラ・バルバ・デ、ン・ガミオ・ゼダ 2013年の書き手紹介 ◆LuuKRM2PEg氏……投下数25 異名【殺戮のスバリズム】 現時点での死亡者33人の内20人がこの人の手によるもの! その圧倒的な殺しっぷりで開始当初なかなか参加者が死なないと言われていた本ロワに風穴を開けてくれた! しかもその死亡SSに、5人殺しが2作あるというのが驚きだ! 投下数2位書き手として、これからもがんばってほしい 代表作:【変身超人大戦】【解放】 コメント 名前 コメント
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アインスさんのバレンタイン前日 作者:ZvO9kijl 新暦71年2月13日 ある区画に在る資料が必要になったので無限書庫内を移動していると、 数人の司書がなにやら明日について話していた。 業務中の私語は慎むべきなのだが、マルチタスクで仕事を進めているので特に問題はないだろう。 そんなことはさておき、会話の内容が少しばかり気になったので訊ねてみた。 『あぁ、明日はバレンタインなんですよ。』 『惑星の磁場に捕らえられた陽子、電子からなる放射線帯がどうしたのですか?』 『いやいやいや、ヴァン・アレン帯ではなくバレンタインっすよ。』 『それは一体何ですか?』 『第97管理外世界の風習らしくて、なんでも女性が好意を抱いている男性に”チョコラータ”を贈る日だそうで。』 それはどこぞのスタンド使いか?と思ったが、ふと主はやての家で紅の鉄騎が食べていたものを思い出した。 確かあの茶色の物体がそのような名称だったはず。 『それでうちの司書長がどのくらい貰えるのかって話をしてたんすよ。』 『何故自身ではなくファータなのです?』 ピシッ 5秒ほど無限書庫内の時が止まった。 時が止まっているのに5秒と数えるのはおかしいが、とにかく5秒ほどだ。 ふと疑問に思った事を聞いてみたのだが、どうやら地雷だったらしい。 『あっ、申し訳ないです。』 『いや・・・いいんすけどね。』 『どうせ俺らは貰えない組だしなぁ。』 『大体誰がこんな風習をミッドに持ち込んだんだよ。』 『それなんだが、噂によるとあの高町二等空尉と八神一等陸尉らしいぞ。』 『あの二人って第97管理外世界出身だっけ。』 バレンタインについて色々と話している司書達をよそに彼女は一つの決心をした。 まぁ、決心と言うほど大それたものではないのだが。 『ふむ、ならば私も贈ってみますか。』 『アインスさん誰かにあげるんですか。』 『と言うかあげる宛があることにちょっとビックリっす。』 『私も一応女ですからね。』 『もしかして俺とk(殴。』 『バーカ、そんなわけないだろ。』 『やっぱり司書長にあげるんですよね?』 『えぇ、今の私があるのはファータのおかげですから。』 主はやてのために消滅の道を選んだ私は無限書庫の自律蒐集機能によってここの蔵書の一つになった。 本来ならばそのまま無限に連なる書の一つとして埋もれる運命であり、私自身それで良いと思っていた。 かつて闇の書と呼ばれ、多くの不幸を生み出してしまったのだから。 そんな私を光の下へ誘ってくれたのがファータことユーノ・スクライアだった。 とはいえ、私は無限書庫から出られない身。 どうやって材料を調達したらよいものか、 と考えているとちょうど女性司書の1人が休憩時間に入る旨を伝えに来たので彼女に頼む事にした。 もちろん材料のメモを用意する事も忘れない。 『すみませんがチョコラータ用の材料を買って来てくれませんか?』 『それでしたら私も作ろうと思っていましたし、ついでに買ってきますよ。』 『ではよろしく頼みます。』 さて、今夜は忙しくなりそうですね。 当日に続く? 28スレ SS アインス オリキャラ ユーノ リインフォース・アインス
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autolink FT/SE10-39 カード名:幼き日のウェンディ カテゴリ:キャラクター 色:青 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:2000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《竜》? 【起】[①] あなたは自分の《竜》?のキャラを1枚選び、次の相手のターンの終わりまで、パワーを+1000。 N:いないの・・・・いなくなっちゃたの・・・・ H:ウェンディ「本当!?」 ローバウル「なぶら外に出てみなさい。仲間たちが待ってるよ」 レアリティ:C illust. スクライアの子 ユーノが特徴縛りになった代わりに、コストが続く限り連発出来るようになった1枚。 自身も《竜》?であるため、パンプの対象に出来るのが強み。1コストだけで相手ターンまでの強化は大きい。 序盤にストックに行ったクライマックスを掘ることにも役立つ。 なお《竜》?のキャラはこのエキスパンションでかなり増加したため、構築によっては使えるだろう。
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BlackCatの整備に追われながら、オレはずっと妙な頭痛に悩ませられていた。どこか遠くから、呼んでいるような声が聞こえる。そんな感覚なのだ。 「なあ、さっきからなにかおかしくないか?頭が痛いんだが…」 オレと同じく顔をしかめている黒猫を見つけて、そう声をかけた。 「うん。感じる。なんだろう、これ…」 やはり黒猫も何かを感じているようだ。二人してその感覚の正体を確かめようとしていると、MkⅡとLv.57が心配そうな顔をしてやってきた。 「どうしたんだい?躰の具合でも?」 「二人とも顔色よくないですよ?」 口々にそういう二人を見て、黒猫が訳を話す。 「うまく言えないけど…なんか変なんだよ、このコンペイトウの周り。すごく…」 「変…?そりゃ、殺気みたいなものは感じるけどねぇ。」 「僕的には、二人とも医務室で休んでたほうが良いと思いますよ。まだ昨日の戦いの疲れも残ってるでしょ?」 「…そうだな…黒猫、一緒に医務室に行こう。これじゃ作業に集中できないしな。」 「だね。じゃあ整備士長、レベッカ、あとはよろしく。わたしのRXちゃんと直しといてね。」 「まかせな。ダンボールがパーツは届けてくれたし、星一号作戦には間に合わせるよ。」 「修理のことは心配しないでください♪」 そんな訳で、オレと黒猫は医務室へと向かった。途中でハルヒとキョンが話しているのに出くわした。 「どうしてもあの機体を直したいのよ!あれはいいものよ!ジオンのMSをいじれる機会なんてそうないでしょ!」 「だからって無い物ねだりしても始まらないだろ?ジオンMSのパーツなんてダンボールは持ってきてないぞ。」 「だからコンペイトウの中を探してきなさいって言ってるの!使えるパーツは片っ端から集めてきなさい!さもないと死刑!!」 「無茶いうなよ…」 どうやらハルヒがまたよからぬ思いつきをしたみたいだ。キョンの表情がそれを物語っている。 「おいハルヒ、また悪巧みか?」 「楽しそうだね。」 オレと黒猫が声をかけると、二人とも我が意を得たというような顔になった。 「二人とも協力してちょうだい!」 「二人ともこいつを止めてくれ!」 ほぼ同時にそう叫んだハルヒとキョンを見て、オレと黒猫は思わず吹き出した。二人はいがみ合うような視線を互いにぶつけている。 「ちょっと、二人が私をとめる訳ないでしょう!?」 「あのな、軍規違反に大事なパイロットを巻き込むな!」 「あんたはいいって言うわけバカキョン!」 「お前のわがままに振り回されるのは慣れてるよ。」 「二人だってそうよ!」 「お前なぁ…」 いつまでたっても口論が続きそうだ。とりあえず事情を聞いてみる。なんとなく予想はつくが。 「落ち着けハルヒ、キョン。いったい何の話をしてたんだ?ジオンのMSがどうとか言ってたが。」 [削除][編集][コピー] 10/16 02 44 Windows(PC) [401]エルザス 400 「バルディッシュよ、バルディッシュ!」 「バルディッシュって、フェイトの機体?」 黒猫がハルヒに訊いた。ハルヒは腕を組んで自信満々にうなずく。 「そう。ジオンのMS技術をふんだんに取り込んだ傑作よ。あれをこのまま格納庫に放置しとくなんてもったいないわ。なんとか損傷を直して実戦で利用すべきよ。」 「誰が操縦するんだ?」 キョンがもっともな質問をする。ハルヒは無頓着な調子で答える。 「さあね。捕虜のフェイトって娘に操縦させるわけにはいかないし…黒猫中尉、どう?」 「わたしは嫌だよ。RXがいい。」 「いっとくがオレもBlackCatは降りないぞ。」 「じゃあシンかしらね。ディステニーは一番ひどくやられたから、ひょっとしたら作戦に間に合わないかもしれないし。」 「やっぱりそんなにひどいのか?」 「動いてたのが信じられないくらいよ。今はアースラに行っちゃってるからあまり詳しくはわからないけど、見た目だけでも酷いものだったわ。アララギ君とツンデレちゃんが見てるけど、このあとキョンが応援に行くわ。」 ハルヒがヒタギ・センジョウガハラのことを「ツンデレちゃん」と呼んでいたのは意外だったが、とりあえず事情は呑み込めた。 「それでキョンにアースラへ向かう途中でコンペイトウをうろついて、使えるパーツを持ってこいって言ってたんだな?」 「その通りよ。そしたらキョンったら気が進まないなんて言っちゃって。だらしないわね。」 「そういう問題じゃないだろ?勝手に敵の機体を直してどうするって言ってるんだ。」 「ハルヒ、オレもバルディッシュを直すことには反対だ。投降したとはいえ、やはりあれは敵のMSだ。いっそ完全に破壊してやりたいくらいだ。」 語気を強めてそう言った。自分でも熱くなりすぎてるのはわかっていた。だが、あれはジオンのMSなのだ。ジオンは敵だ。憎い敵だ。 「ナガモン中尉、あなたが考えてることはわかるは。あなたはジオンを憎んでる。だからあの機体も憎いのね。」 「当然だ。バルディッシュは黒猫やシンやナノハや、このブラックハウスまでも沈めようとしたんだぞ?」 ますます冷静でなくなっていく。自覚はしている。黒猫が猛るオレの腕にそっと手を触れる。ハルヒはそんなオレに対して硬い表情のまま淡々と言葉を紡ぐ。 「わかってるわ中尉。わかってる。でも中尉だって、それがあの機体やフェイトのせいじゃないってことくらい理解してるでしょ?彼女は責務を果たしただけだもの。」 あぁ、理解はしてるさ。だけど… 「それでもオレの感情は変わらない。ジオンは憎い。フェイトは偉いとは思うよ?たった一人で敵陣に飛び込んで、最後まで戦おうとしたんだ。尊敬もする。だが、それとこれとは別だ。彼女は敵だ。」 「それを、本人の前で言える…?」 一番嫌な質問がきた。そう、オレはそれを一番恐れていたのだ。彼女と面と向かって出会うことを。彼女はシンやナノハと一緒にアースラにいる。オレはまだ直接会ってはいない。ちょっと前まで本気で殺し合ったいた相手とどんな顔をして会えばいいのかまったくわからない。シンとナノハはどうやってフェイトと会話しているのだろう?不思議ですらある。 だけど… 「言ってやるさ。お前はオレの敵だってな。」 そう言った瞬間、ハルヒは急に寂しそうな顔になった。黒猫がオレの腕を掴んでいるところからも、急に悲しみが流れ込んで来るみたいだった。それで、オレは一抹のむなしさをおぼえた。いつまでも憎しみあっていたって、どうしようもないじゃないか。そんな考えが頭をよぎった。 だけどそれは、思い出された屈辱の記憶にかき消された。そうだ、ジオンは汚い。口先だけの正義で汚いことを平気でやってのける。やっぱり憎い敵だ。 「言ってやるとも!フェイトにはっきりと、お前はオレの敵だってな!!」 今度は叫んでいた。そうだ。それがオレの戦う理由なのだから。ジオンの奴らを少しでも苦しめられれば、オレはそれでいい。 「わかったわ。行きましょう、キョン。」 ハルヒは組んでいた腕をほどき、足早に立ち去った。キョンまでもが、オレを憐憫の目で見ているようなきがした。だがオレには関係ない。そう自分に言い聞かせる。 気がつくと、黒猫がオレの腕にほとんど抱きつくようにすがり寄って来ていた。 「…ナガモン、恐い。」 「別に、いつも通りさ。」 言い放って、医務室へ向かって歩き始める。黒猫はオレの腕に掴まったままついてくる。 二人分の足音だけが廊下に響く。無言。 [削除][編集][コピー] 10/16 02 44 Windows(PC) [402]エルザス 401 黙っていると自分がフェイトのことを本当はどう思っているのかを考えてしまう。もし彼女がもっと大人で、あるいはもっと醜い姿をしていたら、こんなことで悩みはしなかったのだ。オレはただ単に彼女を憎めばよかった。だが、彼女は美しかった。その戦う姿は儚くて、それでいて芯があった。自らの身は顧みず、崩れそうになる自分に仲間のためだからと言って鞭をうつ、どこか無茶な、いや無鉄砲な彼女。 そんな彼女がバルディッシュのパイロットだったからこそ、オレはこんなにも惨めな気持ちで廊下を歩いているのだ。自分の言ってしまったことがむなしい。なぜ彼女を受け入れられないのか、自分が恨めしい。 黒猫に目をやる。うつむいて歩く彼女は泣いているのかも知れない。フェイトと直接戦ったのは彼女なのに、黒猫はフェイトを受け入れようとしていた。昨日、宇宙にただようRXをオレと魔理沙が回収したとき、気を失っていたはずの黒猫は確かにつぶやいた。「フェイトを許してあげて」と。 一歩踏み出す時が来ているのかも知れない。 そう思った。過去に別れを告げ、今とそして未来を生きるために、オレは乗り越えなくてはならないのかも知れない。 今までにもそう思ったことは何度かあった。だけどそのたびにオレはあの恥辱を思い出して、ジオンへの復讐の思いを新たにしていた。答えのない毎日が続いた。 それが変わるときなのかも知れない。今度こそオレは自分と向き合わなければいけないのかも知れない。本当の自分がどっちなのか。ジオンが憎いか、本当はそれを忘れたいのか。 答えは自分で探すしかない。自分の中にしか答えは無い。それを探すのがどれほどつらいか、オレはわかっているつもりだ。だから逃げ出したい。だけど… オレはうつむいたままの黒猫に目をやる。彼女をこれ以上悲しませたくない。いや、黒猫だけじゃない。ハルヒやキョンだってオレのことを心配してくれてるだろう。MkⅡやLv.57だってそうだ。 「黒猫。」 呼んでみると、黒猫は涙に濡れた瞳をこちらに向けた。 「フェイトに会ってみる。そのときオレが彼女を許せるように、力を貸して欲しい。」 「ナガモン…?」 「オレは変わらなきゃいけないんだと思う。これ以上お前を悲しませたくないしな。本当はオレがどうしたいのか、フェイトに会ったら確かめられると思う。だから…ついてきて欲しい。」 「うん、わかった!」 黒猫はそう言って、涙を流しながら微笑んだ。 「わたし、ついていくよ。どんなにつらいことがあっても、ナガモンがそれを乗り越えたいと願うなら。そして、わたしがその役にたてるなら。」 「ありがとう。」 「ううん。ごめんね、わたしはナガモンの痛みを分かち合うこともできなかった。」 「そんなことはない!」 「嘘はナガモンらしくないよ。わたし、ずっとナガモンの力になりたかったんだ。だから嬉しいんだ。フェイトと出会うことで、ナガモは運命を変えられるかもね。」 「すべては神様がご存じさ。」 「そうだね、二人に幸あれだね。」 黒猫が言った「二人」が誰をさすのか、オレにはよくわからなかった。オレとフェイトのことか、それともオレと黒猫のことか。どっちだっていい。良い結果になることを祈るのは悪いことじゃない。 [削除][編集][コピー] 10/16 02 44 Windows(PC) [403]エルザス † † † † † 突然、光が瞬いた。その光は一隻のマゼランを貫いて、マゼランは火玉に呑み込まれて爆発した。場所はコンペイトウのすぐ外側だった。 つづいてやはり要塞の表面にいたジムが光に貫かれ、爆発した。爆発はあちこちで起こった。砲台、輸送艦、戦艦、そういったものが次々に光に貫かれていく。 レビル将軍は要塞の中央司令室でその報告を受け取っていた。だが、報告には敵がどこにいるのかわからないと記してあった。副官の一人が要塞表面の監視棟と連絡を取り合っていた。 「現場なら敵が見えるだろう!?こっちはまだ電気系統の整備が終わっちゃいないんだ!見えるわけがないだろう!…おい、どうした?38エリア?38エリア?…将軍…」 副官がレビルを振り向き、連絡が途絶えたことを伝える。レビルは各部隊へ状況を連絡し、見えない敵に対して警戒態勢をとるよう指示した。 ブラックハウスからは魔理沙、アリス、パチュリーの三人が緊急発進して要塞周辺の索敵にあたることとなった。ブラックハウス隊の中では、この三人のMSがいちばん無傷に近かったのである。とはいえ、アリスのストロードールは先の戦闘でAI制御のボール「シャンハイ」を失っていたし、他の二機もジークフリートとの戦闘で弱冠の損傷を負ってはいた。それでも彼女たちが出撃したのは、それだけ他の機体の受けた傷が大きかったことを表していた。 「ミノフスキー粒子がえらく濃いから、レーダーは役に立たないわね。自分の目だけが頼りよ。魔理沙、アリス、周囲の警戒を怠らないで。」 リトルデーモンに乗るパチュリーがすばやく状況を確認する。 「あそこ!マゼランがまた一隻やられたぜ!」 マスパを操る魔理沙は光に包まれてゆくマゼラン級から目をそらさない。 「魔理沙!周囲を警戒してっていってるでしょ!ちゃんとやってよ!」 アリスがすかさず注意する。魔理沙は「わかってるって」などとぼやきながら辺りに異常がないか目を光らせる。だが、なにもおかしなところはない。敵の姿が全然見えないのだ。 「おかしいわね。ほんとに敵影が見えないわ。いったいどこから…?」 パチュリーがつぶやいた途端、さらに一隻のサラミスが艦橋から火を噴いた。 「何隻やられてるんだ!?」 あきれたような口調で魔理沙が叫ぶ。そのとき、アリスが一機のMSを発見した。 「後方斜め下、白いMSよ!パチュリー、確認して!」 「了解!」 パチュリーが素早い手つきでパネルを操作し、捉えたMSのデータを照合する。 「あら、ガンダムね。アムロ・レイのガンダムだわ。」 そう、彼女達が発見したのは敵機ではなくガンダムだった。アムロ・レイの操縦するガンダムは、一度立ち止まって何かを感じ取っているかのようにじっとしていた。かと思うと、今度は何かを見つけたかのように一気に加速し、コンペイトウから離れていった。 「なにか見つけたのかな?」 アリスがガンダムを見ながら言った。 「あとを追いましょう。敵機かも知れないわ。」 パチュリーがそう宣言し、三機は並んでガンダムを追っていく。パチュリーは念のために機体に搭載されているカメラで撮影を始めていた。肉眼で確認できなくても、なにかが映りこむかも知れないと考えたのだ。レンズは最大望遠に設定してある。 ガンダムはしばらく進んだかと思うと、おもむろに停止してしまった。 [削除][編集][コピー] 10/16 02 48 Windows(PC) [404]エルザス 403 「あらら、止まっちゃったぜ?」 「見失ったみたいね。どうする?パチュリー?」 「もう少しだけ進んでみましょう。レーダーに少しだけ反応が現れたわ。たぶん、ゲルググって機体だと思う。」 パチュリーの言葉通り、リトルデーモンのレーダーは小惑星の上にたたずむゲルググを捕捉していた。しかし、小惑星にしては反応がおかしい。 「11時の方向に何か見えない?」 正体を確かめるべく、パチュリーが具体的な方角を指示する。魔理沙とアリスが必死に目をこらし、二人は同時に赤い点のようなものを発見した。 「ひょっとしてあれがMSか?」 「ずいぶん遠くだけど、そのようね。その横に緑色の大きなものが見えない?」 「確かに。コムサイ…じゃないし、MAかな?パチュリー、確認できたか?」 「そう簡単にはいかないわ。まだ遠すぎる。あっ、引き返していくわ!」 「あとを追うか?」 「…ダメ、もうレーダーの外に出たわ。すばしっこいわね。」 「私たちも戻りましょう。ソロモン…じゃなくて、コンペイトウからだいぶ離れたわよ。」 「そうね。どうやらカメラには写ったみたいだし。どうやらあの緑色のは、小惑星なんかじゃなくて新兵器らしいわね。」 「お手柄だな、パチュリー!見えない敵の写真を撮るなんて。」 「まだこれが見えない敵の正体と決まった訳じゃないわ。だいたい問題は見えないところからの攻撃をどう避けるか、よ。写真だけでは意味がないわ。」 「ほめてやったのに。」 「ありがとう。協力してくれて感謝してるわ。」 「へへっ、どういたしまして。」 「二人とも、そろそろ無線封止しなさい。無駄話しは後回し。」 「「了解。」」 アリスのつっこみに魔理沙とパチュリーがおとなしく従い、三人はコンペイトウへの帰途についた。 この時パチュリーが写真に納めた敵機こそ、ララァ・スンの駆るMA「エルメス」だったのである。そしてエルメスに付き添っていた赤いゲルググがシャア・アズナブルの乗機であったのは言うまでもない。 [削除][編集][コピー] 10/16 02 49 Windows(PC) [405]エルザス † † † † † オレは黒猫とともに、アースラのフェイトを尋ねていた。フェイトは黒いパイロットスーツのまま独房に入れられていた。相変わらず沈んだ表情でいる彼女は、オレが憎んでいた卑しいジオン兵の姿とは似ても似つかないものだった。庇護が必要だと思った。彼女はまだほんの子供だ。 「シン・ナガモン、こっちは黒猫。サイド6で会ってるよな。」 独房の中に入ってにそう声をかけた。黒猫も入ってきたが、監視役のクロノは外から扉を閉め、鍵をかけた。まだフェイトを警戒している様子だ。 「はい。お久しぶりです。ナガモンさん。黒猫さん。」 「わたしは昨日話したけどね。戦いながら。」 黒猫が言った。驚くことにこいつは笑顔だ。 「フェイト、強いんだね。わたしMS戦であそこまでやられたの初めてだよ。」 黒猫はなおも明るい口調で話し続ける。緊張しながらも、フェイトはすこし照れたような様子でそれに答えた。 「そんな…私はあの時必死だったから、無我夢中で…」 「ほんとに大したもんだよ。たった一人で仲間のために時間稼ぎなんて。わたしには真似できないなぁ。」 「大切な人がいるから…みんなを守りたかったから…」 「うんうん、わかるよその気持ちは。でも、その気持ちをきちんと行動にうつせるところが偉い。」 「…だけど、そのせいでみなさんを危ない目に遭わせてしまいました。一度は一緒に食事もしたのに…」 「気にすることないよ。たまたまわたし達とフェイトが違う陣営にいただけ。運命ってときどき残酷ないたずらするから。わたしだってフェイトと本気で戦おうとしてた。フェイトに罪があるとしたらわたしも同罪だよ。ね、ナガモン?」 突然オレのほうに話しを振ってきた。オレはすこしびっくりして言葉に詰まる。 「う、あぁ…そうだな。同罪というか…まぁお互いに軍隊にいるから仕方ないってことかな…」 「じゃあ…ナガモンさんは、私を許してくれますか…?」 核心の問題をフェイト自らが持ち出してきた。オレはますます言葉を失う。そうだ、オレは彼女を許すためにここへ来た。だけどこれじゃあんまり急だ。まだ心の準備ができていなかった。自分と向き合わなければいけない時がこんなにはやく訪れるとは思ってもみなかった。だが、彼女を前にして、「許さない」とはとても言えない。そこにいる少女はあまりに可憐で、儚くて、美しいからだ。 だけど、言葉が口をついて出てこない。頭では彼女を許しているのに、彼女を憎んだって仕方ないとわかっているのに、言葉にできない。まるで自分の口がオレの意志に反乱をおこしたみたいだ。プライドとかメンツの問題じゃなかった。そこでまた蘇る屈辱の記憶。 忘れられない恥辱。なんども悪夢で繰り返し見た汚い男達の卑しい笑い。手足を押さえれれ、服をはぎ取られ、躰中に何本もの手が伸びてきて、それが肌を這い、オレをおもちゃのようにさんざんに犯して、オレが泣きわめいてもまだ犯して、気を失うまで犯して、オレは最後には理性すら失いかけて、それでも犯すのをやめない男達。そういったことが頭の中でグルグル回って、オレはいま自分がどこにいるのかすらわからなくなる。 [削除][編集][コピー] 10/18 23 13 Windows(PC) [406]エルザス 405 目の前には捕虜になったジオンの少女。同じ女の捕虜なのに、なぜこいつはオレのような目に遭わない?不公平だ。お前も同じ苦しみを味わえばいい。 オレをじっと見ている少女の顔に恐怖が浮かぶ。そうだ、もっと怖がれ。オレを恐れろ。泣きわめけ。理性を失うまで。 オレは少女に腕を伸ばす。乱暴に髪を掴み、ぐいと引き寄せる。少女は痛みと恐怖で声もでない。片手で少女の首を絞めながら、真っ黒なパイロットスーツをナイフで切り裂く。ナイフの切っ先は時々少女の肌をも傷つける。破れた黒のスーツから透けるような白い肌がのぞき、そこをしたたる鮮血が綺麗なコントラストを描く。スーツの裂け目に手を突っ込み、乱暴に引き裂いていく。あらわになる少女の躰。いやがる彼女を押し倒し、馬乗りになる。すべて壊してしまいたい。この少女のなにもかも、すべてを。 「ナガモン!!」 黒猫に呼ばれて、オレは我にかえった。頭を抱えて下を向いていた。手にはナイフなんて握っていない。顔を上げれば、心配そうにこちらを見る黒猫とフェイト。フェイトのパイロットスーツは傷一つ無く彼女の素肌を包んでいる。 幻覚、あるいは妄想だった。 「よかった…」 心からそう思った。オレはまだ彼女に手をかけていなかった。どっと疲れを感じた。同時にほっとしたような気持ちになる。まだ大丈夫、彼女とは仲直りできる。それがうれしかった。 「ナガモンさん、大丈夫ですか?」 フェイトは真剣な眼差しでこっちを見ていた。オレはその瞳をまっすぐに見返し、彼女の手を取った。 「すまなかった。オレが間違っていた。君に罪はない。悪かったのはオレのほうだ。君にはなんの罪もなかったんだ。ほんとうにすまなかった。」 一気にまくし立てた。彼女はあっけにとられて、なんのことかわからないという表情をしていた。それはそうだ。 「オレは…君のことを憎んでいた。ただ、君がジオンだっていうそれだけの理由で。だけど、それは間違ってた。君は君だ。ジオンだとか連邦だとか、関係ないんだ。君は君なんだ。かけがえのない存在なんだ。」 思うがまますべてを口にしていた。さっき言葉に詰まったのが嘘みたいだった。まとまりはなくても、思いが次から次に言葉になって、口をついて出てくる。 「君はもっと自分を大事にしなきゃいけない。君はみんなを守るって言ったけど、みんなに守ってもらって良いくらいだ。だけど君は強いから、そういう不器用な生き方しかできないんだよな…」 そういって、オレは彼女を抱きしめていた。ぎゅっと強く、抱きしめていた。彼女は誰かに似ていると思っていた。今ようやくわかった。 オレ自身だ。 守りたいけど守って欲しくて、けどそれは絶対に表には出せないで、不器用に、それはもう不器用に生きている。そうだ、彼女はオレに似ていたんだ。 だからオレは彼女を許そう。そうすれば、オレは自分さえも許すことができる。汚されて、たくさんの人を殺して、仲間を守れなかったオレだけど、オレはこれからそんな自分を許してやれると思う。それはとてつもない救いで、その救いを運んでくれたフェイトに、オレは精一杯の感謝の気持ちを伝えた。 そして、それを黒猫が見守っていた。そうだ。こいつもオレに救いを運んでくれた。こいつがオレを呼んで目覚めさせてくれなかったら、オレは本当にフェイトに酷いことをしていたかも知れない。思えば、オレがくじけそうな時、黒猫はいつもそばにいてくれた。自分だって悲しいだろうに、黒猫はオレを励ましてくれた。 なんで今まで気づかなかったんだろう。こいつのことが好きなのはとっくにわかってたのに。オレはこいつのことはちっともわかってなかった。とにかく確かなのは、オレにはこいつが必要不可欠ってこと。こいつなしの未来なんてオレは嫌だ。 一番守りたいもの、それってつまり一番愛してるものなんだろう。黒猫。オレはお前を守りたい。だからお前を愛してる。 † † † † † ナガモンの胸に顔をうずめながら、フェイトは眠りの底へ落ちていった。極度の緊張から解き放たれ、たまっていた疲れがどっと押し寄せてきたからだ。ナガモンが自分を許してくれたらしいこともなんとなくわかった。ナガモンに抱き寄せられて安心できたのはそのせいに違いない。 気がつくとフェイトは幻想を見ていた。幻想の中ではやさしい母がフェイトと、フェイトの姉のアリシアとを抱き寄せていた。 アリシア――――フェイトの母プレシア・テスタロッサの最愛の娘にして、5歳にしてプレシアの実験に巻き込まれて命を落とした悲劇の少女。彼女を失ったプレシアは狂的なまでに嘆き、ついにはアリシアのクローンを生み出した。そのクローンこそが、フェイト・テスタロッサであった。フェイトはプレシアからガンダムの捕獲を命じられ、ツィマッド社特務隊に同行していたのだ。以来、プレシアは精神の均衡を失ったかのようにフェイトを虐げ続けてきた。フェイトが危険に身を晒しながらもガンダムの打倒に全力を挙げていたのは、ガンダムを倒せばプレシアからやさしい愛をうけられるかもしれない、という儚い希望があったからだ。だが、プレシアのフェイトに対する冷たい仕打ちは変わることはなかった。 いまフェイトが幻想に見ているプレシアは、そんな冷酷な人間とはまったく違う、優しく暖かい母の姿であった。その母の胸に抱き寄せられて、そばには本来生きているはずのないアリシアもいて、フェイトは幸せだった。だが、彼女は気づいていた。これが幻想にすぎないことに。それから冷めてしまえば、また冷たい現実が彼女に襲いかかってくることに。それでも、フェイトはその現実に立ち向かわなければならないと思っていた。 幻想の中のアリシアが、フェイトの顔をまっすぐに見た。二人を抱き留めていたプレシアの姿が消え失せて、二人は太い幹の大きな木の下に座っていた。雨が降っている。二人の容姿は当然よく似ていた。だが、わずか5歳で命を落としたアリシアの姿は幼い。フェイトはアリシアに話しかける。 「ねぇ、アリシア。これは、夢…なんだよね?」 「……」 「私とあなたは、同じ世界にはいない。あなたが生きてたら、私は生まれなかった。」 「そう…だね…」 「母さんも、私にはあんなに優しくは…」 「優しい人だったんだよ。優しかったから、壊れたんだ。死んじゃった私を、生き返らせるために。」 「…うん。」 「ねぇ、フェイト。夢でも良いじゃない。ここにいよう?ずっと一緒に……私、ここでなら生きていられる。フェイトのお姉さんでいられる。皆で一緒にいられるんだよ?フェイトが欲しかった幸せ、みんなあげるよ?」 フェイトの表情は晴れない。雨は降り続ける。 「ごめんね…アリシア。だけど、私は行かなくちゃ。もう…」 アリシアの表情に悲しみが広がる。寂しそうな、でもどこかその答えを待っていたかのようなアリシアは、黙ってフェイトに抱きつくと、そっと目を閉じた。それだけでフェイトはアリシアが自分を理解してくれたとわかった。 「ありがとう…ごめんね、アリシア…」 震える声でフェイトは絞り出す。 「いいよ。私は、フェイトのお姉さんだもん。待ってるんでしょ?優しくて強い子達が。」 「うん…」 「じゃあ、いってらっしゃい、フェイト。」 「うん…」 二人はほんの一瞬、互いに見つめ合う。 「現実でも、こんな風にいたかったなぁ…」 アリシアの躰が消えていく。フェイトは手から、幼いアリシアの感触が消えていく。その最後の光が消えたとき、フェイトは現実へと帰って行った。 [削除][編集][コピー] 10/18 23 14 Windows(PC) [408]エルザス † † † † † わたしは、感情の流れを感じていた。ナガモンとフェイト、二人の思いが流れ込んでくる。二人とも、自分の迷いに一つの答えを見出したみたいだった。わたしはこの時初めて、自分がニュータイプかも知れないと考えていた。他人の幸せを感じ取れる存在、それがニュータイプなのだとしたら、それはどんなに素敵なんだろう。 だけどそれと同時に、わたしは二人の悲しい気持ちも感じ取っていた。二人とも悲しい過去を背負ってここまで来たんだ。似たもの同士抱き合って、涙なんか流してる。独房の外のクロノは、そっぽを向いて見て見ぬふりを決め込んでいた。だからわたしも二人を抱きしめてみる。ますます思いが伝わってきた。これがニュータイプ。そうなのだ。 わたしは、この力をみんなが幸せになるために使おうと思った。一人でも多くの人が悲しい過去を乗り越え、新しい自分になるために一歩を踏み出す、そのために役立てようと思った。それがニュータイプの力だ。 [削除][編集][コピー] 10/18 23 14 Windows(PC) [409]エルザス † † † † † コンペイトウ要塞の一画にある倉庫で、ユーノ・スクライアがナノハとたたずんでいた。彼の目の前には山積みにされたジオン製MSの部品があった。 「これを、使えないかな?」 ユーノはナノハにそう切り出した。彼はハルヒと同様、フェイトの愛機であるプロトタイプケンプファー「バルディッシュ」の再建を目論んでいたのである。 「使えるんじゃないかなぁ。でも勝手に持って行っちゃっていいの?」 「戦術アドバイザーの権限なら、敵のMSを回収して研究するくらいのことはできるよ。問題はバルディッシュがブラックハウスにあることなんだ。」 ユーノもナノハも、アースラの一員であった。しかし、バルディッシュが保管されているのはブラックハウスの左舷格納庫なのである。バルディッシュを直すには当然ブラックハウスの整備士の力を借りることになる。しかし、この部隊に配属されてまだ日の浅いユーノは、ブラックハウスのクルーとはほとんど面識を持っていなかったのだ。 「ん、おまえらなにしてるんだそこで?」 不意に背後から声をかけられて、ユーノとナノハは飛び上がって驚いた。振り向くと、ぶっきらぼうな顔をした男が一人、ユーノとナノハを交互に見ていた。 「キョンくん!」 ナノハが男の顔をみて声をあげた。彼女は宇宙にあがるまで、短い間ではあるがブラックハウスで勤務していた。そしてSOS団の整備士キョンもまた、一時的にアースラで勤務していたのである。だから二人が顔見知りであることは不自然ではなかった。 「ナノハか。こちらは戦術アドバイザーのユーノさん、だったな。」 「ユーノ・スクライアです。どうぞユーノと呼んでください。」 「じゃあ、ユーノ、それにナノハ、ここで何してたんだ?パイロットは艦内待機じゃないのか?」 二人とも一瞬返答に詰まった。正直に答えて良いか迷ったからだ。そのまま黙っていると、キョンが深くため息をついた。 「はぁ~。まぁだいたいわかっちゃいるがな。どうせバルディッシュを直すためのパーツ集めだろ?」 図星だったので、二人は互いに顔を見合わせた。どうやらここにも同じ考えの者がいたらしい。 「じゃあ、じゃあ、キョンくんもバルディッシュを直すつもりなんだね!?」 ナノハが嬉々としてキョンに訊いた。バルディッシュは今まさにSOS団の管理下にあるのだ。 「俺の意志じゃない、ハルヒが直そうとしてるんだ。まったく、こっちはそのわがままにつきあって倉庫あさりだ。」 キョンがぼやくと、彼の背後から一台の小型トラックが倉庫に入ってきた。運転台には笑顔を絶やさない優男が座っている。 「おぅ、来たか、コイズミ。こっちだ。」 キョンがコイズミを迎え、山積みのパーツのそばに駆けていく。ユーノとナノハもそれを追った。コイズミはトラックから降りるとうずたかく積み上げられたパートを隅々まで観察していた。 「大変な量ですね。この中からバルディッシュにあうパーツを選ぶのは、かなり骨が折れそうです。」 顎に手を当て、いかにも思案中といった仕草でコイズミが言った。 「だいたいの見当はつけてある。問題は見つかったときどう言い訳するかだ。勝手に倉庫に入っただけでもやばいってのに…」 言いながらキョンは、黙々とお目当てのパーツ類を探し当てていた。倉庫内は半無重力だから、重い装甲板でも軽々と運ぶことができた。ユーノはどんどんパーツを選ぶキョンを見ながら、案外彼も乗り気なのではないかと考えていた。協力できそうだった。 「あの、それなら問題ないです。僕の研究材料と言えば、たいていの器材は持ち出せるはずです。」 キョンとコイズミがさっとこちらを向き、ユーノはおもわず一歩後ずさった。なにかまずいことを言ったか…? キョンはコイズミとアイコンタクトを交わすと、互いに頷き合った。 「ひとつそれで頼む。こっちはハルヒの命令だから達成できないと厄介だ。」 キョンがユーノに言った。あっさりと協力者が見つかって、ユーノは拍子抜けしたような感覚だった。ハルヒがそこまで執心というのなら、バルディッシュも修理はSOS団主導でやって貰えるだろう。自分は解析したバルディッシュのデータをもとに、その方法を指導すればよい。 「喜んで協力させてもらいます!」 ユーノは嬉しくて、キョンに頭まで下げて見せた。
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シショチョウガタリ ゆーのフェレット 快晴。 無限に澄み渡る空のことを指すのなら、間違いなく今日の空は快晴なのだろう。 落ちる日差しは穏やかで、眼下の海がきらきらとはね返す。 海鳴の海が一望できる丘の上。 弟子であり友人であり幼馴染でもある彼女が幼いころ、毎日魔法の練習をしていた公園だ。 ここは、変わらない。 なら他に変わったものがあるのか、と問われれば、ある、と答えざるをえないけど。 ――そこへ、子どもたちの笑い声。 横目で確認すると一組の家族が僕が座るベンチの後方を歩いて行く途中だった。 こちらの世界には曜日というものがあり、日曜日は休日という属性を含んでいる。 僕、ユーノ・スクライアはこの世界――第97管理外世界の人間というわけではないが、 幼少のころのある期間をこちらで過ごしていたため、その辺の知識は最低限持ち合わせている。 『そんなんだから――』 まただ。 また彼女の言葉が脳裏で再生された。 弟子である彼女じゃなくて、もう一人の、幼馴染である彼女の言葉だ。 金色の髪を持つ、おせっかいな彼女の言葉は僕がここに来てから――ここに来る前からも不意に再生され、気を滅入らせていた。 「……確かに言い過ぎだったかもしれないけどさ」 思わず漏れた言葉は若干の後悔だ。ただ僕は僕に全面的に非があるとは思わない。 それでも――それでもだ。 「そうは思えないんだから仕方がないじゃないか……」 不満はこの青い空と蒼い海が吸収してくれることを願いつつ、僕はベンチを立った。 今日はもう帰ろう。 友人である彼女には悪いが、この埋め合わせはどこか違う形で行うことにしよう。 ――と振り返り、公園の出口の方へ踵を返したときだ。 円形のゴミ箱の横に立てられた海鳴観光マップを一人の少女が眺めていることに気付いた。 少女は髪を頭の左右で二つに分け、大きな――ぱんぱんに膨れた大きなリュックサックを背負い、 ブラウスにスカートという格好。 髪型が幼馴染の昔の髪型に似ている気がしないでもない。 それだけなら特別気にすることもない光景なのだが、その少女は僕がここを訪れたときも そのマップを食い入るようにして見ていた。 それですぐにどこかに行ってしまったのだが、またここに来て見ているということは。 「……迷子、かな」 だとすれば、放っておくわけにはいかないだろう。 僕は息を吐いて、小さな笑みを造る。 そして少女に近づき、彼女の肩を叩いた。 「ねえ、君、もしかして、迷子?」 「うっうわぁあ、たったすけてぇえ、おまわりさーん」 おまわりさん――警察を呼ばれてしまった。 僕ってそんなに不審者にみえるのだろうか。 「って、君、落ち着いて。怪しいものじゃないから」 おや? といった表情で少女は振り返る。 僕の顔を確認するや頭を下げた。 「あ、ごめんなさい。てっきり知り合いの男子高校生かと思いまして」 どんな知り合いなのだろう。 肩を叩かれただけで警察を呼ぶほどの知り合いとは。 「会うたびに抱き締められ、頬ずりされ、スカートの中をまさぐってくる普通の知り合いですよ」 「それ普通じゃないよ! ただの変態だから!」 海鳴の街はいつからそんな変態が現れるようになったのだろうか。 それも時代の流れ、という奴だろうか。 ……嫌な流れだ。 「それで、今度はこちらから攻めていこうと思いまして、おまわりさんを呼んであせらせようと思ったんです」 ……なかなか知能犯だな、この少女も。 僕が変なところに関心したのに気付いたのか、少女は胸を張って、 「この街の今月の標語は『ロリコンどもに社会的な死を!』ですからね」 社会的抹殺。 末恐ろしいことである。 海鳴も変わったなぁ……と遠い目でこの街のことを想う。 前髪をくしゃっとつかみ、 「この場合は迷子だから、というより、別件で警察に行ったほうがいいのかな……」 それこそ、その知り合いに社会的な死を与えるべくだ。 「あっいえ、大丈夫ですよ」 それなのに被害者である少女は健気にも笑ってみせた。 「あれも、あの人とのコミュニケーションの一環ですから」 嫌なコミュニケーションの取り方である。 「そんなことより」 少女はささいなことだとでも言うようにその話題を切り捨て、大きな瞳をこちらに向けた。 「お兄さん、もしかして家に帰りたくなかったり、します?」 ★ ☆ ★ 先ほどまで座っていたベンチに再び腰をかける。 今度は一人ではなく二人でだ。 「えー、私の名前は八九寺真宵と言います」 「どうも。ユーノ・スクライアです」 「外国の方なんですか?」 「外国、といえば外国だね」 正確には異世界なのだが。 「それで、スクライアさんはどうして家に帰りたくないんですか?」 あれから、真宵ちゃんはいきなり「私が人生相談に乗ってあげますよ、ふっふー」と 僕の了解承諾その他もろもろを得ずに、僕の手を引っ張って先のベンチに無理やり座らせたのだった。 僕としても意気揚々とした彼女の好意をむげにするのは、子どもの善意を否定する後ろめたさがあったので、 こうして人生相談に乗ってもらったという形を取ったわけである。 子どもの遊び。 人生相談ごっこ。 時間が許す限りは、乗ってあげるのが大人というものだ。 「うーん、ちょっと人と口論してね」 本当は口論と呼べるほどのものではなく、一方的に言われっぱなしだったけど。 「ふむふむ。口論ですか」 相槌を入れる真宵ちゃん。気合いの表れだろうか、と思いつつ口を開く。 「僕には幼馴染の女の子が三人いてね」 「日本男児の敵ですね」 ……どうして三人の幼馴染がいるだけでこの国の敵になるのだろう。 「この国では、幼馴染の女の子という存在は希少ですべての男子の憧れですからね。 毎朝起こしに来てもらったり、一緒に通学したり、お風呂に入ったり、いったいどれだけの 男子が渇望していることか! それを三人もだなんて……あなたは今この国の男性すべてを 敵に回しました」 「そっそうなんだ……」 それをなぜ女の子である真宵ちゃんが憤るのかは謎であるが。 この分だとお風呂の件については黙っていたほうがいいのかもしれない。 進んで言うようなことでもないし、そもそもあのときの僕は人間じゃなくてフェレットだったし。 「で、その中でも特に大切な幼馴染がいるんだけど、他の幼馴染が どうも僕と彼女をくっつけようとしているらしいんだ」 「男女の仲に、ということですか?」 「そうらしいね」 とある悪友の奥さんも会うたびに彼女との仲を聞いてくるわけだけど、 「僕としては本当に、大切な、大切な幼馴染なんだ。それなのに……」 彼女は言う。 『そんなんだからユーノは――』 「顔を合わせるたびに『好きなんでしょ?』とか『付き合わないの?』とか聞かれてね――」 彼女は言う。 『そんなんだからユーノはいつまでたっても――』 「今日もちょっとしたパーティーでこちらに来たんだけど、そこでも彼女に言われて――」 JS事件も終結し、高町家で行われたパーティー、というより宴から。 「いい加減うんざりしてしまって、――逃げてきたんだ」 逃亡者。 脱落者。 どちらでも同じことだ。 僕は間違いなく、逃げてきたのだから。 どこから? 執務官である彼女のもとから。 そして、教導官である彼女のもとからも。 「ここに来たのも心を落ち着かせるためなんだ。少し一人になりたかった、というか。 結局、自分の心の狭さが嫌になっただけなんだけど」 笑って言えばよかったんだ。 君の言う通り――だね、と。 それなのに、どうして僕は――。 吐息し、先ほどから黙っている真宵ちゃんをうかがう。 「こんな感じの悩みなんだけど、何かいい方法はあるかな?」 「思った以上に深刻な悩みで小学生な私はドン引きです」 引かれてしまった。 それもドンを冠するぐらいに。 小学生に相談するにしては内容が複雑すぎたと思い、すぐに否と考え直す。 問題は至ってシンプルで、あくまでもロジカル、どこまでもリアルだ。 答えは出ているわけで、僕がそれに対し、盲目的なだけなのだ。 「要するに、好きなんでしょ好きなんでしょ言ってくる幼馴染がうざくて、 逆ギレしてしまったと」 遠からずとも近からずだ。 逆ギレ、と捉えれても仕方がない。 「――うん、だいたいそんな感じだね」 真宵ちゃんは顎に指をあて、目を閉じ、 「私の経験から言わせてもらえば――」 目を開けた。 「その好きなんでしょ好きなんでしょと言ってくる幼馴染の方も スクライアさんのことが好きだったりしますね」 「……いやいや、それはないよ」 彼女が僕のことを好きって? ありえない――それこそありえない。 仮にそうだとしても、僕にとって彼女もまた大切な幼馴染だ。 そういう――仲になることはない。 「どうです? いっそのこと、三人目の幼馴染の方も含めて全キャラ同時攻略というのは?」 「あははは、僕はそこまで器用な男じゃないよ」 社会的にも物理的にも殺されそうだ。 僕だって命は惜しい――まだ死にたくない。 「ですが、中には本命の彼女さんがいるのに、他のキャラに手を出している人もいますよ。 彼女の後輩とか、クラスの委員長さんとか、妹の友達とか、妹とか――」 「最後の何? 倫理的にまずい気がするよ?」 「ぼん、きゅっ、ぼんの小学生とか――」 言って、なぜか真宵ちゃんは両頬をおさえ、ぼんきゅっぼんだなんて……と身悶えていた。 と、僕の視線に気づいたらしく、こほんと咳をして姿勢を正し、 「失礼。ちょっと浮かれすぎました」 「沈んでくれて嬉しいよ」 「嬉しいといえば」 真宵ちゃんは僕の言葉尻を捉え、一度うなずく。 「女が喜ぶと書いて嬉しい。――これってなかなか意味深だと思いません?」 「そうなの? 僕にはよくわからないなぁ」 「あっそうでした。スクライアさんは外国の方でしたね」 やや不満げに真宵ちゃんが腕を組む。会心のネタを袖にされたのが不満なのだろう。 「――話を戻しますけど」 脱線した車輪がようやくレールに戻る。 「スクライアさんはその幼馴染の方々をただの、と言ってはなんですが、 大切な存在として認識しているわけですよね?」 「うん、そうだよ」 それだけは臆面もなく照れもなく言える。 「ですが、脳科学的にみれば男女間に永遠の友情なんてものは存在しないそうですよ」 「いずれは恋愛感情が芽生えると?」 「ええ。まっとうな思春期を迎えてなくてもです」 なぜだろう。その一言はピンポイントで僕に向けられている気がした。 「ですから、今は友達以上恋人未満、友情以上恋愛未満だとしても、その幼馴染の方々を 女性として認識――恋愛感情を抱くときが来るはずですよ」 恋愛感情、か。 そんなふうに彼女を思える日が来るのだろうか。 だが、来たとしても。 「……僕は、彼女をそんな風に思っていいのかな?」 「――と、言いますと?」 いい相槌を打ってくれる子だな、と思い、どうせ冗談として処理されるだろう、と予測。 これぐらい許容範囲だろう、と自分の正体を告げた。 「実は、僕――魔法使いなんだ」 「とても三十代には見えません!」 えっ何、そのリアクション……? 「まだ十九です」 「ならもうすぐ妖精さんですね」 これもこの世界独特の言い回しなのだろう、とメガネの位置を直して、 僕はその意味を追求せずに話を進める。 「僕が彼女に出会ったのもそれゆえなんだけど、そのせいで彼女は――」 雪景色に染まる赤色。 包帯を多重に巻かれた彼女。 難航したリハビリ。 「――重傷を負ってしまってね。それもまだ……そうだね、君と同じぐらいの歳だった」 台無しになった11歳時の半年間。 僕と出会わなかったら、と会わなかった可能性を考えた。 「僕と出会わなかったら彼女は大けがを負うことはなかった」 僕と出会わなかったら、彼女は普通の人間としていられた。 今でこそ彼女には青い空が似合う。空こそが彼女の居場所だとはっきりと言えるわけだけど。 「出会いがもたらした負の可能性を考えると、自分には、彼女を大切な幼馴染以上に 思う資格がない気がするんだ」 守りたいがゆえに、それ以上の感情を抱いてはいけない。 それがあの子の目には――。 彼女にとっては。 彼女を。 「……いらいらさせるんだろうね」 「……複雑ですねぇ」 真宵ちゃんと二人、しみじみと空を見上げる。 あの青い空のように、広い心を持ちたいな、と半ば現実逃避。 真宵ちゃんはぽつりと言う。 「代替性理論、バックノズル……」 その呟きに視線を横に向けると、真宵ちゃんが少し真剣な瞳をこちらに返していた。 「いえ、京都で会った狐のお面を被った男の人が言ってたことなんですけど……」 ここは突っ込みどころ、なのかな? 「スクライアさんは、代替性理論、バックノズルという言葉をご存じですか?」 「いや、初耳だよ。どんな理論なの?」 「代替性理論というのは、別名ジェイルオルタナティブといって――」 真宵ちゃんはわかりやすい解説を述べた。 「全ての事物には代わりがあるという理論ですよ」 「代わり?」 もしくは替わり、か。 「例えば、ここでスクライアさんが私と出会わなかったとしても、違うとき、違う場所で、違う誰かと 同じような会話をしたことでしょう。というのが代替性理論、代用可能――ジェイルオルタナティブです」 「代用可能……ジェイルオルタナティブ」 「そしてバックノズル。私たちはこうして出会ったわけですけど、しかし、もしここで 出会わなかったとしても、違う場所で出会っていた。時間の前後はどうあれ、 出会っていたことでしょう。つまり、起きることはいずれ起きる、ということです」 起きることは、いずれ起きる。 彼女のけがも? 「スクライアさんの場合でみれば」 真宵ちゃんは言う。 「その幼馴染の方と、そのとき、その場所で出会わなくても、いずれ違う場所で出会っていたはずです。 また幼馴染の方も、スクライアさんと出会わなかったことによって、その大けがを負わなかったとしても、 違う誰かと出会ったことによって、同じような大けがを負ったかもしれません」 それは――その可能性は、ありえる話だった。 もともと高い魔力値を持っていた彼女のことだ。 PT事件に遭遇しなかったとしても、闇の書事件には巻き込まれていたかもしれない。 そこから魔導士としての道を歩み始めた可能性もある。 そして、蓄積した無理と疲労によって……。 「…………」 それが彼女の運命だったとでも言うのだろうか。 「とまあ、結局は――」 眉間のしわを深くした僕をよそに、真宵ちゃんは悪戯めいた笑みを見せた。 「――戯言なんですけどね」 ★ ☆ ★ 拍子抜けした僕に真宵ちゃんは続ける。 「所詮は可能性の問題ですよ。それに起こったことは起こったことして揺るがないじゃないですか。 今さら気にしても仕方がないです」 「……ポジティブだね」 「そうかもしれませんね……」 言って、顔を俯かせる真宵ちゃん。 どことなくシリアスな雰囲気に僕は首をわずかに傾ける。 「さきほど、全キャラ同時攻略を身をもって実行している人がいると言いましたよね?」 「うん、言ってたね」 「実はその人、冒頭でお伝えした知り合いの高校生なんです」 「…………」 思わず絶句してしまった。 世の中というのは、こう、……よくできているよなぁ。 「私は迷子だったところをその方に助けられたわけなんですが、助けてくれたのが……」 真宵ちゃんは照れを含んだ笑みを造り、 「その方でよかったと思います。あのとき、声をかけて、助けてくれたのがあの人で良かったと、 そう思っています」 都の条例に引っ掛かりそうな好意や行為は勘弁ですが、と続く言葉には苦笑を浮かべるしかない。 「ですから、そのけがをした幼馴染の方もスクライアさんに出会えて――スクライアさんで良かった、 と思っているはずですよ。スクライアさんは、その好きなんでしょと言ってくる幼馴染の方がくっつけようと するぐらいの人なんですから」 根拠としては希薄なのだが、説得力は抜群にあるような気がした。 「起こったことは起こったことして割り切ることも必要ですよ。それとも、スクライアさんは その幼馴染の方に出会ったのが別の男の人でも良かったとでも?」 なぜ男の人に限定しているのか不思議に思ったが、彼女の横に僕じゃない別の男性が 立つところを想像してみる。 「……」 それは――それは、なんかくやしいや。 「……そうだね」 彼女に出会えたのが、彼女を魔法の世界に導いたのが。 「僕で、良かったよ」 僕じゃないとダメ、とまでは言わないけど。 彼女に出会ったのが僕で、本当によかった。 「――本当に」 目を細め、風を感じる。 海からの穏やかな風が頬をやさしくなで、山々へと突き抜けていく。 そこへ。 「はぁーちぃーくぅーじぃー」 風とともに届いた声に真宵ちゃんが身を震わせた。 姿は見えないが、声の主はどうやら真宵ちゃんを探しているようだ。 「もしかして……例の人?」 「ええ、そのようです」 「警察、呼ぼうか?」 「いえ、さすがにそれは本気で傷つくと思うので、またの機会に」 真宵ちゃんは再度響いた彼の声に困ったような笑みを浮かべた。 「今日はちょっとした観光でこの街を訪れたんですけど、あの人、いつの間にか 迷子になってしまって、あの観光マップであの人がいきそうなところを探してたんです」 それは自分が迷子になったのではないという主張そのものだった。 そういうことにしておこう。 「あんまり焦らすと後が怖いですから、もう行きますね」 「そう、色々とありがとう」 「いえ、私は何もしてませんよ。……スクライアさんが、一人で勝手に助かっただけです」 どこか突き放した言い方だったが、僕にはそれが好ましく感じられた。 笑みを造り、笑みを見せ、笑みを送る。 「それでも、話せたのが君で良かったよ」 「そっそうですかぁ」 真宵ちゃんは顔を赤くしてベンチから降りると、満面の笑顔を咲かせた。 「それでは、友愛と息災と再会を」 ★ ☆ ★ 公園を出て高町家に戻ると、門のところに人影が見えた。 そこにいたのは上背のある女性――幼馴染の一人であるフェイトだった。 何か言いたそうな顔をして、目線を下げたり、上げたりしている。 「ユーノ……」 そう呼びかけ、一度躊躇い、それでも意を決したらしく彼女は言葉を紡いだ。 「さっきはごめんね」 さっき。 『そんなんだからユーノはいつまでたっても――』 「……別に、気にしてないよ」 わずかに間があったのも、彼女の言葉がリフレインしただけで深い意味はない。 「私、ユーノがあんなに傷つくとは思ってなかった」 まさか、と彼女は言い、脳内でも彼女の言葉がリピートされた。 「――ヘタレと言われるだけで、あんなに傷つくなんて」 『そんなんだからユーノはいつまでたっても――ヘタレって言われるんだよ』 「…………」 「あっ、ごめん、また言っちゃった」 フェイトのことだから悪気がないとは思う。 思うが――そう思わないとやっていけないのが本音だ。 「もういいよ、ヘタレでもなんでも……」 若干あきらめ口調で言い、気持ちを切り替えてフェイトに尋ねる。 「なのはは、どこ?」 「たぶん、台所、かな」 「わかった。ありがとう」 礼を述べ、高町家の敷地に入る。 なぜかフェイトは嬉色の笑みを見せ、 「えっ、もしかして――」 「もしかして?」 「んん、なんでもないよ」 そう、と納得し、ふと思い立ってフェイトの方に半身を向けた。 「フェイト」 「うん、なに?」 「なのはの友達になってくれて、ありがとう」 えっいきなり何言ってんだこいつ、といった目になるフェイトに構うことなく玄関に入る。 ちょうど彼女がいた。 高町なのはがいた。 エプロンを着た彼女は僕に気づくと首を傾けて自然な笑みを造り、 「お帰り、ユーノくん。どこ行ってたの? 散歩?」 「うん、ちょっとした異文化交流をね。ただいま。……あれ、ヴィヴィオは?」 「中庭でアリサちゃんやすずかちゃんたちと遊んでる。アリサちゃんもあれで子ども好きだから」 そうは見えないけどねー、と笑い合う。 望むは本人が聞いていないことばかりだ。 笑いを止め、彼女の目を見て口を開く。 「ねえなのは」 僕は想う。 「もしよかったら、今度一緒に食事でも――」 ユーノスクライアが出会ったのが高町なのはで本当に良かったと。 《hesitation wound》is THE END. おまけIF 「フェイト。もしよかったら今度一緒に食事にでも行かない?」 「……は?」 何言ってんだこいつ、といった目になるフェイト。 「あっ、はやて。もしよかったら今度一緒に――」 「ええで。どこ行こか?」 ハーレムエンド
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入手カードレベル:3 エリア エリア名 DP EX スタンプ カード1 カード2 カード3 カード4 5-1 藤丘町エリアマッチ1戦目 4 6~15 200~230 ユーノ[高町家のフェレット] 八神ザフィーラ[八神家の愛犬] キリエ・フローリアン[現役高校1年生] 5-2 藤丘町エリアマッチ2戦目 アリシア・テスタロッサ[海聖小学校生徒] 八神シャマル[研修中医大生] アミティエ・フローリアン[現役高校2年生] 5-3 藤丘町エリアマッチ3戦目 リニス2世[テスタロッサ家の愛猫] 八神シャマル[研修中医大生] ディアーチェ・K・クローディア[成績№1中学生] フレイムアイズ A-C 5-4 藤丘町エリアマッチ4戦目 高町なのは[海聖小学校生徒] 八神ヴィータ[学校帰り小学生] ユーリ・エーベルヴァイン[優しい末っ子] フレイムアイズ D-F 5-5 藤丘町エリアマッチ5戦目 アリシア・テスタロッサ[海聖小学校生徒] 八神ザフィーラ[八神家の愛犬] ユーリ・エーベルヴァイン[優しい末っ子] 5-6 VS ヴィータ 報酬 レアチケットピース 1枚 マイDPキャンディ 1個 (1400スタンプ) +2013/05/11変更 EX 6~11 → 6~15
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autolink KF/S05-034 カード名:ギース・ハワード カテゴリ:キャラクター 色:緑 レベル:1 コスト:0 トリガー:0 パワー:3500 ソウル:1 特徴:《暗黒街》? 【起】[① このカードをレストする]あなたは自分のクロックを1枚選び、手札に戻す。あなたは自分の手札を1枚選び、クロック置場に置く。 【起】[①]あなたは他の自分のキャラを1枚選び、そのターン中、パワーを+1500し、《暗黒街》?を与える。 ただ忠実なだけの番犬などいらぬ・・・・・・それを忘れるな、ビリー レアリティ:U 柔道家 大門と無限書庫司書長ユーノを足して2で割らないような能力を持っている。 ストックさえあればパワーをいくらでも上げることもでき、クロックの並び替えや回収も可能。 いろいろとテクニカルな動きが出来そうな良カード。 しかし、元ゲームでラスボスの割には、仕事が裏方的なのがやや疑問に思うところではあるが。
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プロモーションカードの略。 BOXやブースター、大会やイベント等の参加賞、あるいは賞品として配られたカード。 通常版のイラストとは別に書き下ろされたイラストを使用される。 再販、再録されないものが多く、エラッタが加えられたものは修正されたものもある。 プロモカードリスト 第1弾PR.001 赤 《魔法少女“高町なのは”》イラストレーター:松乃かねる PR.002 黄 《時空管理局嘱託魔導師“フェイト・テスタロッサ”》イラストレーター:松乃かねる PR.003 黄 《ジェットザンパー》イラストレーター:松乃かねる 第2弾PR.004 黄 《時空管理局嘱託魔導師“フェイト・テスタロッサ”》イラストレーター:息吹ポン PR.005 緑 《時空管理局提督“リンディ・ハラオウン”》イラストレーター:息吹ポン PR.006 黄 《貴婦人の戦斧“バルディッシュ・ノーブル”》イラストレーター:塗夢(TOM) 第2.5弾PR.007 青 《鋼の走者“スバル・ナカジマ”》イラストレーター:塗夢(TOM) PR.008 黄 《流星の射手“ティアナ・ランスター”》イラストレーター:塗夢(TOM) PR.009 黄 《竜騎の召士“キャロ・ル・ルシエ”》イラストレーター:塗夢(TOM) PR.010 青 《二代目祝福の風“リインフォースⅡ”》イラストレーター:塗夢(TOM) 第3弾PR.011 黒 《夜天の王“八神はやて”》イラストレーター:松乃かねる PR.012 緑 《湖の騎士“シャマル”》イラストレーター:若林まこと PR.013 赤 《鉄鎚の騎士“ヴィータ”》イラストレーター:EXCEL PR.014 黄 《流星の射手“ティアナ・ランスター”》イラストレーター:榊蒼十郎 PR.015 青 《無限書庫司書“ユーノ・スクライア”》イラストレーター:つかもとたかし PR.016 赤 《スターズ分隊隊長“高町なのは”》イラストレーター:藤枝雅//コミケ購入限定(現在では入手困難 PR.017 黄 《温もりを求める少女“ヴィヴィオ”》イラストレーター:藤枝雅//メロンブックス購入(現在でも入手可能 PR.018 青 《二代目祝福の風“リインフォースⅡ”》イラストレーター:塗夢(TOM)//両方で封入(現在でも入手可能 大会プロモ(過去、頒布されたものもあります)PR.010 青 《二代目祝福の風“リインフォースⅡ”》イラストレーター:塗夢(TOM) PR.011 黒 《夜天の王“八神はやて”》イラストレーター:松乃かねる PR.012 緑 《湖の騎士“シャマル”》イラストレーター:若林まこと PR.013 赤 《鉄鎚の騎士“ヴィータ”》イラストレーター:EXCEL PR.014 黄 《流星の射手“ティアナ・ランスター”》イラストレーター:榊蒼十郎 PR.015 青 《無限書庫司書“ユーノ・スクライア”》イラストレーター:つかもとたかし 画集「Bankett!! Collection +α」PR.019 黄 《アンチ・マギリング・フィールド》イラストレーター:塗夢(TOM) PR.020 黄 《プラズマザンバー》イラストレーター:キチロク 関連ページ 第1弾 - 「Drive lgnition!」 第2弾 - 「Cartridge Load!!」 第2.5弾- 「All right buddy!!」 第3弾 - 「ACE」 大会関連情報
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替え絵 魔弾戦記リュウケンドー 誰かがなにか(ロストロギアが光)を狙ってる異次元(デバイス)の扉が開く、闇に抱かれて訪れる(初期フェイトの姿)愚かな願い(闇の書) GO×3(なのは達の変身)諦めたりしない(空港火災のシーン)決して(翠屋)未来の(六課)邪魔は(ユーノ達)させない(クロノ達幹部) 熱く(スバル達)燃え盛れ(変身)GA×3(必殺武器)全てを賭けて(回想)希望の鍵(ロストロギアとデバイス)が輝けば(光)戦士が舞い降りる(そのままバトルシーン) この胸の(なのは胸に手を置く)鼓動(ウィウイオ)DA×3(ナンバーズ)全てを捧げ(ゆりかご)正義の魂(最終決戦シーン)動けば(必殺技)奇跡が舞い降りる(最終決戦終了シーン) 魔弾×2(その後シーン)戦記(集合)リリカルstriker(集合図) (各思いでシーン) (明日に向かって行く) 単発総合目次へ テーマ曲系目次へ TOPページへ
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第一部 第十五話『眠れない二日間』⑦ 〈二十一時二十一分 綺璃斗〉 「【喫茶「白桜雪」】のミルフィーユはウマかったな」 「そうですね」 教導隊が出している喫茶店から出たカリムたちは至福そうな表情で歩行者天国を歩いていた。 外食をする人たちが多いのか、はたまた既に参拝へ行く予定なのか、外には大勢の人が歩いている。 向こうから歩いてくる人たちを避ける様に歩きながらアキは訊ねる。 「次はどこに行くか?」 「この時刻なら至高の遺産がレストランになっているらしいから、そこで良いだろ~。そこの雰囲気の方がカリムに合っているかもしれないからな~」 夕食について話し合う二人にカリムは少しおどおどしながらも割り込もうとする。 「あっ。あの……」 「他にカリムが気になっている店があれば、そこでもいいんだぞ。心配するなぁ~。私はお金を余り使わないからたんまりとある。どんどん言いたまえ~」 「教導時に破壊した物の修理費が経費で落ちなかったら、財布が極寒地獄と化していたけどな」 ぽつりと口にこぼすアキ。 「何をぉ~!」 アキの一言が癇に障ったアサギは怒り出す。 怒りの余り、専用デバイスである『雷皇麒』か『雷鮫』を抜くのではないだろうか。 「本当の事じゃねぇか」 茶色いスラックスのポケットに両手を突っ込みながらにやりと笑うアキ。 民間人の密集する歩行者天国で戦闘が開始されそうな雰囲気を醸し出す二人の間にカリムが割り込んだ。 「私はホットドックとかが良いです。私にとっては何を食べたかというより、二人と何を食べたかの方が重要ですから」 「カリム……」 その一言で熱くなった頭が冷えたアサギは武器に伸ばしていた手を戻す。 「なら、陸士部隊の「冬天市場」か自然環境保護隊の「闇鍋屋」になりそうだな」 少し黒くなって見える空を怪訝そうに見上げながらアキは、カリムの要望に沿った物を出す店の名前をピックアップする。 「じゃあ、そこに行こうじゃないかぁ~」 そう言ったアサギは隣にいるカリムの手を何気なく握る。その仕草はとても自然であった。 アサギが何気なく手を握って来た事に驚くカリムであったが、微笑みながら頷いた。 「……はい」 カリムと手を繋いだアサギは大きく手を振りながら歩き、アキはそんな二人の後ろから眺めていた。 「そろそろ陸士の部隊が屋台を出している位置だな」 アキが前方で楽しそうに歩いている二人にそう言ったその時の事だった。 少し先にある建物の影から少女がよろけながら出てきた。 身体から煙の様な物が噴き出ている。 咄嗟にカリムはアサギの手を振り払い、歩行者天国に倒れた少女に駆け寄る。 「はあ……はっ………か…がふぅっ……」 少女の吐息から吐き出さる吐息は荒々しくてとても痛々しい。 「かふ…………」 いきなり喀血する少女。アスファルトに落ちたその血は異様に黒かった。 そして喉を痛めるのではないかと思えるくらい大きな声で少女は絶叫する。 「あがっ……あっ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 周囲の悪意や煩悩が黒い靄となって少女の身体を飲み込み、渦を巻きながら新たなる姿をとる。 レキとの戦闘時は石像のような姿であったが、今度は西洋甲冑を装備した騎士のような姿であった。 身長が三メートルぐらいありそうな漆黒の騎士は拳を振り上げ、カリムを強引に叩き潰さんと振り下ろす。 カリムは恐怖で瞼をぎゅっと閉じる。目の前にいる恐怖を拒絶するかのように。 地面を砕くような威力を孕んだ騎士の拳が振り下ろされる。しかしカリムに衝撃が来る事はなかった。 少しおどおどしながらもカリムは瞼を開く。瞼を開くとアキの顔が間近にあった。 いつの間にかアキの腕の中にいたカリムは突然の事に状況判断が出来なくなり、頬を紅潮させながらも目を白黒させる。 カリムを横抱きにしながらもアキは器用に携帯電話を操作し、友好のある陸士部隊の部隊長宛てに電話をかける。 約三十秒ぐらい時間が経過してから相手が電話に出た。 [おぅ。アキか……どうした] 電話の相手は陸士一〇八部隊の部隊長であるゲンヤ・ナカジマ三等陸佐であった。 「えっと……少々申し訳ないですが、交通規制を引いて貰えませんか? ナカジマ三佐」 騎士と鎬を削りあうアサギを軽く一瞥してからアキはゲンヤに頼み込む。 電話の向こうからゲンヤが楽しそうな声で笑う。 [てめぇがそう言うなんて珍しいな] 「いや~。資質のある子が暴走したんで……今、アサギが対応しているんですよ……」 そう言ってアキはため息をつきながらも、飛んできた槍を蹴り飛ばす。 ため息の意味が分かると同時に修理費の文字が思い浮かんだゲンヤもため息をつきながら言った。 [……分かった。他の奴らにも連絡を回してやる。お願いだから、公共物を破壊するなよ] 「無理」 アサギか騎士のどちらかが道路を砕いた事によって飛んできたアスファルトの破片を展開した結界で防ぎながら即答する。 […絶対、通行人に怪我を負わせるな。それ以外は……この際、目をつぶってやる] 軽く間を置いてから疲れた様な声で言うゲンヤ。電話の向こうで頭を抱えている様が頭に浮かぶようだ。 「りょ~かいっと」 「篠鷹アキ戦技教導官」 ゲンヤと電話を終わらせたアキは甚平を着た局員に声をかけられた。きっとその格好で警邏に出させられていたのだろう。 「カリム・グラシア中将を安全区域までお願いします。規制範囲はココから半径二十五mのプラスマイナス五m以内で」 通信が終わるまでずっと待っていたと思われる局員にカリムを引き渡し、アキは二人に背を向けて歩いていく。 「了解いたしました。皆さん! 今からココは戦場になります。危険回避の為に避難して下さい!」 局員の言葉に周囲で見ていた通行人たちは蜘蛛の子を散らす様に走り出す。 「グラシア中将。私たちも……」 カリムの安全を確保する為に局員も離れようとするが、カリムはその場から離れようとしない。 「アキさんっ!」 被害をこうむらない様に避難しようとする人ごみに押されそうになりながらもカリムはアキの方を向いて叫ぶ。 「大丈夫です。アサギと自分が……負けると思いますか?」 「……いいえ」 騎士の飛ばして来たトゲを野太刀で打ち据えるアサギを見たカリムは一瞬でも友人を信じられなかった事が恥ずかしいらしく目を伏せる。 そんなカリムにアキは軽く苦笑する。 「じゃあ、待ってて下さい。ちゃんと迎えに行きますから」 出来るだけ被害を出さないように戦うアサギと今も結界を展開してカリムたちを守っているアキの背中を見つめながらカリムは懇願するかのように言った。 「……負けないで下さいね」 「ヤーヴォール」 アキはカリムたちに背中を向けたまま、そう答えた。 安心したカリムは顔を戻し、局員に背を押されながら他の人と共に避難する。 しばらくしてから展開していた結界を解除し、アキは苦笑する。 「楽しそうだな。私たちの姫さんは何て言ってたんだ? 全部吐き出したまえ」 いつの間にかアキの隣に立っていたアサギがニヤニヤしながら訊ねる。 「『負けないで下さい』だってさ」 「そりゃあ、負けられないな」 飛んでくるトゲを魔力球で相殺しながらアサギは笑う。 「どっちが前衛?」 前面に重力の壁を発生させる事で飛んでくるトゲを落とすアキにアサギは答える。 「愚問だなぁ。制圧の類いはお前の十八番ではないか」 「りょ~かい。アサギっ!」 首にかけていたゴーグルをつけるアキ。前方に展開した重力の壁を解除すると同時に重力制御魔法で周囲の重力を下げ、地を強く踏み込む事で初速を高める。そして質量に変換した魔力を纏わせる事で更にスピードを上げた。 弾丸の如きスピードを得たアキは両手の先に漆黒の魔力球を生み出す。 騎士も迎撃する為に靄《モヤ》を終息させてナイフを作り出そうとする。 しかしその隙にアキは騎士の懐へ入り込み、黒球のついた左の拳で騎士の腹部を突く。 質量を上乗せされた拳を叩き込まれた騎士の装甲はメキメキという音を立てながらひしゃげた。 その一撃で意識が飛んだのか、ナイフの形を取っていた靄が霧散する。 更にその隙を狙ってアキは右の拳をすくい上げ、騎士の胸部に叩き込む。 重量を秘めた黒球のついた拳を叩き込まれた騎士はズドンという鈍い音と共に上へ殴り飛ばされる。 アサギは騎士を指差して呟く。 「紫雷の猟狐《フォックスハウンド》」 その言葉が空間に紡がれて溶けた瞬間、アサギの周りに狐が何匹も出現する。 「狩りの時間だ《セット&イグニッション》」 アサギの一言を合図に周囲で待機していた狐が紫電を放ちながら騎士へ様々な方向から攻めにかかる。 騎士は咄嗟に靄を集めて厚い壁を作り出し、アサギの飛ばして来た狐たちに備える。 ガリガリという音を立てながら狐たちは壁を削っていき、壁を突破した最後の数匹は騎士の装甲に突き刺さって爆発する。 人差し指と中指を騎士に向けたアキは黒の雫《シュヴァルツトロプツェン》と呟き、詠唱を破棄して魔法を発動。 指先に魔力が集束し、小さな黒球が形成される。 「さっさとくたばれ《グゥーテ ナハト》♪」 黒い奇跡を描きながら黒球は機関銃の様に撃ち出され、騎士の右腕を貫通する。 「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 甲冑の中から少女らしき声がくぐもって聞こえてきた。 「女の子の腕に貫通痕を作るのは胸が痛むなぁ~」 騎士の右腕に出来た貫通痕から黒い靄が血の様に噴き出す様を眺めながら楽しそうに笑うアキ。 「でも仕事だからなぁ~。黒き断頭台《シュナイデン シュヴァルツシルト》」 落下してくる騎士に止めを刺すように魔力が集束して出来た刃が叩き落される。 本来なら重量で強引に物体を切断する魔法であるが、流石に人体を切断する訳には行かない。 威力は道路に軽くめり込む程度まで軽減されていているのだが、グシャっという耳障りな音と共に騎士は地面にめり込んだ。 「ひとまず鎮圧完了?」 「そんな訳無いだろ~。馬鹿めぇ~」 気楽なアキの呟きにアサギは武装を解除せずに突っ込みを入れた。 二人によって一方的にやられっぱなしであった騎士は周囲に漂う煩悩などを吸収しながら立ち上がる。 「まだまだ大丈夫なようだな」 「あぁ、戦り甲斐があるではないか」 鎧を修復し、身体も十mぐらいまで肥大した騎士を見上げながら呟くアキとアサギ。 「本体の位置は分かっているのか?」 「アサギこそ」 騎士を見上げながら楽しそうな笑みを浮かべるアサギに、アキは両手の指を鳴らしながら返す。 「今夜は陸士部隊の奴らが優しいなぁ。交通規制だけじゃなくて、ご丁寧に結界まで張ってくれているぞ」 「あいつが壊れるまで思う存分、戦っても良いという事だろ~」 騎士を見ながらニヤリと笑う二人。獣のように歯を剥き、新しい玩具を貰った子供のように目をキラキラさせている。 その二人から放たれる気配に騎士もわずかに退いたように見えた。 雷皇麒を納刀したアサギと左手に超重力を孕んだ黒球を生み出したアキが動いたほとんど同時。 二人を潰さんと、高密度の靄で作った大剣を叩きつける。 しかしアサギはその攻撃を回避し、大剣の刃を駆け上がる。 騎士の顔面に右の拳を叩きつけると同時にアサギは楽しそうに魔法の銘を紡ぐ。 「スタン…クレイモア♪」 アサギの右拳から高圧電流に変換された魔力がスタンガンのように弾けた次の瞬間には爆発音と共に騎士の頭が弾け飛んだ。 反撃の隙を与えない為か、擬似的に作り出した無重力空間で瞬間移動と言っても過言ではないスピードまで加速したアキが騎士に突っ込んできた。 「必殺っ! ディバイぃぃぃぃぃン……」 銃弾如きスピートまで加速した状態で腰を捻ると同時に右肘を軽く引き、騎士の装甲めがけて突きを叩き込む。 超重力を孕んだ右拳の魔力球が騎士の装甲を突き破り、右腕がめり込んだ。 「おろしがねぇぇぇぇぇっ!」 騎士の装甲にめり込んだ程度でその勢いは納まらず、道路のアスファルトと騎士の装甲をガリガリと削りながらも前に進み、アスファルトの破片と靄を撒き散らす。 更にアキは開いた左拳の先に重力球を展開し、再び強烈な一撃を騎士の胸部に叩き込んだ。 地面に叩きつけられ、大きくバウンドしたところで重力と質量を利用して瞬間移動したアキの追撃が騎士に突き刺さった。 弾き飛ばされた騎士であったが、陸士部隊の展開した結界に背中を叩きつけられることで止まり、そのままその場に倒れ込んだ。 凄く満足げな顔をするアキの隣に立ったアサギは淡々とした口調でツッコミを入れる。 「アキ……その技。使うのは止めといた方が良いと思うぞ」 「ん? 何でだ?」 周囲に漂う黒い靄が騎士に集まるのを眺めながらアキは適当な返事を返す。 「スバル・ナカジマ一等陸士が泣くから」 「そうか」 立ち上がった騎士を一瞥したアサギは楽しそうに笑う。 靄によって新しい姿を得た騎士が二人の方に歩み寄ってきた。その姿は禍々しく、凶悪でなっていた。 まるで相手に畏怖を与え、心に恐怖を植えつけるように。 「はっ。戦意を失わせようとする気なのか知らんが……甘いなぁ~。ブリッツ・リヒト……シュトライヒェン」 片目が紅く染まり、片目が黒く染まったアサギが楽しそうに笑いながら抜刀する。 魔法の発動と轟音はほぼ同時。紫電を纏った野太刀が勢い良く抜刀された野太刀が煌めいた。 光となった雷皇麒の刃が腹部から騎士の身体を分かち、腹部から下を焼き尽くした。その切り口はまるで定規を当てたのごとく綺麗な一文字。 「恐怖心を与える事による戦意喪失は良いアイディアだけど……悪いね。俺たち…こっちが壊れちゃっているから。黒き断頭台《シュナイデン シュヴァルツシルト》」 魔力が集束する事で発生した巨大な断頭台が騎士の両肩に落ち、両肩を重量で強引に切断する。 腹部から下の部分と両腕を失った騎士にアサギはニヤリと笑いながら呟く。 「ダルマの出来上がりだな……」 隙を見せたアサギを睨みながら、口から黒い槍を勢いよく吐き出す。 「星喰らう暴食者《エッセン・シュヴァルツシルト》」 アサギの前に躍り出たアキが手を合わせて魔法を発動。開かれた手の間から黒い球体が出現し、飛んできた騎士の槍を飲み込む。 「あぶねっ……」 間一髪で騎士の攻撃からアサギを守ったアキは冷や汗をかきながら息を吐き出す。 青筋をぴくぴくさせながら笑みを浮かべているアサギはアキを呼ぶ。 「何だ?」 アサギの口から出たのは一言のみ。 「犯《や》れ」 「ええっ!」 ろくでもない命令をされたアキはギョッとする。 しかし妙に嬉しそうなアキにアサギはため息をつきながら補足説明をした。 「別に青姦……路上プレイしろと言っているわけではないぞ」 「ちょっ! 言い繕っても意味は同じだからっ!」 ツッコミを入れるアキにアサギはいつの間にか納刀していた雷皇麒の鞘でその喉に突きを入れた。 「ちょっと黙りたまえ」 「い…イエズ……ザー……」 咳き込みながら頷くアキ。 「アレを使うから時間稼ぎをしてくれたまえ~。アキなら、動きながら準備は出来るだろう?」 「まぁ……な。でも、何で犯《や》れって言ったんだ?」 アサギに騎士の黒い槍を飲み込んだ球体を渡し、指を鳴らしながら訊ねるアキ。アサギはのんびりと答える。 「人外でもノンケでも食べるんだろ~?」 「それは朱乃さんだけですから!」 アサギの口から出た意味の分からない理論に焦る余り、アキの口調がいつの間にか敬語になる。 息を吹きかけるようにアサギはアキの耳元で囁く。 「……ご褒美ですよっ♪」 「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 悲鳴の様な叫び声を上げながらアキは周囲の悪意を吸収して身体を修復する騎士に突っ込む。 騎士は突っ込んでくるアキを迎撃する為に身体を修復しながらも靄を槍に変えて発射する。 アキの身体に槍が突き刺さるが、全く動じずにニヤリと笑って魔法を発動した。 「スタぁーライトっ《星》!」 周囲の上空に漆黒の球体が幾つも精製されて配置された。 騎士は身体を修復し終えると、発射する槍の数を増やす。 身体に槍が突き刺さりながらもアキは笑みを崩さすに魔法を完成させる。 「フォーリンッ《堕ちつ》……ダウンっ《日》!」 上空に浮いていた漆黒の球体が一気に落とされる。 落ちた球体は地面にクレーターを作り、球体を喰らった騎士はいきなりかけられた重みで膝をつく。 「流石、高町教導官の対SLB用として編み出した魔法だな……」 自身が編み出した魔法の一つによって膝を突いた騎士を見ながら呟くアキ。 その言葉が挑発に聞こえた騎士はアキを睨みながら身体を少しずつ持ち上げていく。 「マジっ!?」 「アキが時間稼ぎをしてくれている事だし、手早く完成しないとなぁ……」 アサギは雷鮫に球体を装填。電気へ変換された魔力を注ぎ込み、銃身に小さいが強力な磁場を作り出す。 漆黒の球体は銃身の中で急速に回転し始め、ひし形のような長細い物体へと姿を変える。 「アサギっ! 早くしろっ! 押し切られるぞ」 「……OKだっ!」 その言葉を合図にアキは騎士から退き、〈スターライトフォーリングダウン《星堕ちつ日》〉を解除する。 「抉り穿ち抜く《ストレイト》……」 アサギの前に超重力に変換された魔力の壁が出来上がる。 「神威《ディヴァインド》!」 超重力の壁に向けてアサギは作り出した磁場の中にいる物体を解き放つ。 弾が纏った電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用によって、針のような形をした球体が加速して発射される。 超重力の空間でスピードが微かに落ちたが、勢いを失って落ちることなくそのままその空間を抜けて騎士へと迫る。 咄嗟に騎士は靄を限界まで使って分厚い壁を形成する。 超重力の空間を突き抜けた一撃は空気摩擦で白銀の閃光に変わる。その解き放たれた一閃は空気を押し出し、発射時に立ち込める粉塵すら吹き飛ばす。 発生した衝撃波が分厚い靄の壁を少しだけ吹き飛ばし、一閃は壁を穿ち抜いて騎士の身体を貫かんと突き進む。 「……ちっ」 アサギはわざとらしく舌打ちをする。 二人の放った〈抉り穿ち抜く神威《ストレイトディヴァインド》〉は騎士の装甲に接触するギリギリで止まってしまう。 騎士は二人の攻撃を封じた歓喜に身を震わせながら展開していた壁を靄に還元して攻撃を叩き込もうとした時。 騎士が見たのは、凄く嬉しそうな笑顔を浮かべる二人の姿。 獰猛な肉食獣のように歯を剥き、新しい玩具を貰った純粋無垢な子供のように目をキラキラさせている。 「あぁ……本当に残念だ」 アサギはニヤリと笑いながら騎士に言った。 立てた人差し指と中指を騎士に向けながらアキは、魔法の銘を紡ぐ事で発動させる。 「喰らいつけ―――黒の暴君《テュラン・シュヴァルツシルト》」 その言葉に従うようにアキの周囲に漆黒の球体が幾つも精製される。 精製した球体が泡を立てながら膨らみ、漆黒の鮫を生み出す。 「喰い散らかせ―――白銀の雷鮫《グラトニー・ヴァイス》」 直後、魔力がアサギの身体からほとばしる。 魔力は放電に似た現象を起こし、まるでイルミネーションのように周囲で雷球が作られる。複数の雷球が多数の雷球となって分離し、遂には無数の雷球を生む。 雷球は空中で回転し、雷球は紫電を纏う白い鮫となる。 「破軍!」 「抜砦!」 「「破軍鮫陣《ストレイト・オーヴァ》!!」」 アサギとアキは腕を横に大きく振り抜いて怒鳴ったのを合図に、白と黒の鮫は鋭い牙を見せつけるように大きく口を開けて騎士へと迫る。 白銀の鮫は纏った雷をほとばしらせながら弾丸のように突っ込み、漆黒の鮫はその身を跳躍させて自重で相手を潰しにかかる。 騎士も二人の〈破軍鮫陣《ストレイト・オーヴァ》〉から身を守るために再び靄を集めて壁を展開。今回は白と黒の鮫を破壊する為に巨大なとげが無数に生えていた。 しかし鮫たちはその身がトゲで突き刺さって霧散しようとも、機関銃から撃ち出される銃弾の様に特攻を行う。 その身を滅ぼしながらもトゲの生えた壁を穿ち抜き、粉砕し、破壊していく白と黒の鮫たちの姿は消える前に一際輝くろうそくの炎の様にある種の儚さと命の輝きを感じさせた。 黒い靄となった悪意や煩悩が陸士部隊が張った結界を透過して騎士に集束し、装甲と展開されている壁が徐々に凶悪な姿に変わりながらも分厚くなっていく。 それでもアサギとアキが放つ〈破軍鮫陣《ストレイト・オーヴァ》〉は二人の魔力を貪りながら、騎士が壁を強化するのを上回る速度と物量で壁を削り取って行く。 遂には展開されただけではなく騎士の装甲まで抉り取り、最終的には核となっていた少女が地面に叩きつけられた。 アキは少女が逃げないように重力結界で押さえつける。 数分後に結界は解除され、陸士部隊の局員が走ってきた。 「和泉アサギ教導官。篠鷹アキ教導官。お疲れ様でした。護送は私たちが行います」 「ん……悪いね」 少女に局員が駆け寄ってきた事を確認したアキは重力結界を解除する。 その瞬間、少女が自身を包み込むように球体を形成。全方位に巨大なトゲを出して近づいてきた局員をひるませる。 局員をひるませた少女は球体を靄に戻して羽に変え、そのまま空に飛び立ってしまった。 アキは黒っぽい空を見上げながらアサギに尋ねる。 「なぁ、逃がしたのは俺の責任になるかな?」 「……ならんだろ」 〈二十一時四十五分 幽霧〉 ヴィアフが抜けた緊急時に仕事をした事と、人の入りが少し収まったという二つの理由で幽霧は休憩を貰っていた。 休憩時間を誰かと一緒に出かけるという事が無い幽霧は次の仕事先へ向かおうと裏口の扉を開ける。 「こんばんは」 「雫先生……」 そこにいたのは開発部主任の雫・鏡月だった。 何故かいつものように男物スーツを着た上に白衣を羽織っている。 驚く幽霧に雫は微笑みながら言った。 「デートしましょうか」 〈二十二時一分 無限書庫〉 雫と幽霧は転送ポートを通って無限書庫に向かっていた。 何故か雫の片手には茶色の大きな紙袋が抱えられていた。 無限書庫に入る為に必要な最後の扉を二人は潜り抜ける。 中では大晦日に関わらず無限書庫で仕事をしていた司書たちの目が既に死んでおり、いたる所で過労によって気絶した司書がぷかぷかと浮いていた。 「夜分遅くに失礼します。差し入れに来ました」 雫の一言によって司書たちの目に光るが宿る。その目つきはまるで獲物を見つけた肉食獣のようでもあった。 「首都防衛部隊が出店している中華飯店『覇道軒』の翔龍饅頭です」 目をギラギラとさせた司書たちが微笑む雫へと群がる。 雫は饅頭を手に入れようとやって来る司書たちに配る前に、首都防衛部隊とプリントされた長方形の箱を幽霧に手渡す。 「これを司書長と司書長補佐に渡して置いて下さい」 言われるままに幽霧はその箱を持って、司書長であるユーノ・スクライアと司書長補佐の久世ノインシュヴァンを探すために下へゆっくりと降下した。 飢えた司書に追いかけられつつも二人を発見する幽霧。そして目の前に広がる光景に絶句する。 「あら、霞。久しぶりね」 「や……やぁ。幽霧霞三等陸士と会うのは久しぶりだね」 作業用のテーブルと椅子が無重力空間に固定された状態で置かれており、二人はそこで作業をしていた。問題はユーノの姿であった。 胴体から足までが鎖や捕縛魔法《バインド》で椅子に縛り付けられてきた。 ノインの足元には専用デバイスである棺型デバイス『グレイヴ・オブ・クラウン』が浮いており、重厚そうな装飾がなされた棺の隙間からおびただしい数の鎖が覗いていた。 「えっと……雫先生から翔龍饅頭の差し入れです」 趣味は人それぞれなのだと割り切った幽霧はテーブルに首都防衛部隊と書かれた長方形の箱をテーブルの置く。 無重力だからか、箱はテーブルの上でふよふよと浮いていた。 「まあ、ココで休憩しましょう。ただし……」 ノインの休憩と言う言葉に目をキラキラさせるユーノ。 そこでノインはユーノに釘を刺す。 「司書長の外出は十二時間後ですからね?」 「うん……分かってるよ」 凄く残念そうにうなだれるユーノに首を傾げる幽霧。 箱から翔龍饅頭を取り出したノインはかじりながら詳細を説明する。 「司書全員で外出時間を決めたのに、このユーノ・スクライア司書長様は教導部隊の高町なのは一等空尉さんのウェイトレス姿の画像を見た瞬間、ナニカが切れたかのように逃げ出すから強引にでも椅子に縛り付けて仕事をさせているの」 「……なるほど」 ろくでもないユーノの執着心に若干ひきながらもノインの説明に納得する幽霧。 箱の翔龍饅頭に手を伸ばしつつ、文句を言うようにユーノは呻き始める。 「饅頭……取れないんだけど」 「それでも鎖と私の分のバインドは外しませんからね」 凄く爽やかな笑顔で言うノイン。拘束を緩めるどころか鎖とバインドの数を増やして更に締め上げる。 「の……ノインシュヴァン司書長補佐? 僕は最近のレン・ジオレンス陸曹長や弥刀餅二等空士みたいにマゾじゃないんだけど……」 「……どうぞ」 幽霧は箱から翔龍饅頭を取り出し、下に敷かれていた髪を外してユーノに差し出す。 「ありがとう」 そう言ってユーノは幽霧が差し出した翔龍饅頭をかじる。その瞬間、ノインが凍りついた。 ある意味で生命の危機に気づいていないユーノは美味しそうに差し出された翔龍饅頭をほおばる。 そして饅頭がなくなると、ユーノはその味が移っていると思っているかのごとく幽霧の指をしゃぶり始めた。 「ひゃうっ!」 まさか指をしゃぶられると思ってみなかった幽霧は女の子のような声を上げた。 指先には多くの神経が通っているだけに、何かが背筋を這い上がってくるような寒気と同時に軽い虚脱感に襲われる。 口から指を抜いたユーノは少し虚脱したような顔をする幽霧を見ながら楽しそうに笑いながら話す。 「幽霧三等陸士の指って……長くて細いんだね」 少し照れ臭そうに頬を掻きながらユーノは更に付け加える。 「それに柔らかくて……良い匂いがしたし……」 微かに頬を朱に染める幽霧。 ノインはその冷ややかな青の瞳を半目にして、あくまで冷静に命令を下す。 「汝。その鋼鉄の腕を持って我が領域へ招待せよ」 ガリガリという音を立てながらユーノを束縛する鎖が動き出す。 自身を棺の中に飲み込もうとする鎖にユーノはギョッとするが、抵抗する事は出来ずに飲み込まれる。 「ノインっ……!」 「流石にプライベートの話を易々と聞かせる程、私は尻軽の女ではないわ。長月さんも言っているでしょう? 『弱みを見せた女は漬け込まれる』って」 各部署から求められている報告データをまとめながらノインは淡々と答えた。 あいかわらず冷静沈着なノインに幽霧は苦笑いするかのように口元を微かに歪める。 彼女はそこで作業をしている手を止め、幽霧の方に向いてゆっくりと手を伸ばす。 「……貴方の口から、雫先生という言葉を聞くのは久しぶりね」 そう言ってノインは幽霧の頬に触れ、顎の線をなぞる様に優しく撫でる。 「長月さんたちと一線を引こうと、家を出た貴方にしては珍しいわね……霞」 「前の癖が出ただけです」 淡々とした幽霧の言葉に少しだけ残念そうな顔でノインはその手を放す。 「変わらないわね。霞」 「そう言う貴女もですよ。ノインシュヴァン」 無表情な幽霧の顔は彼女の方に向いているが、目はどこを見ているのか全く判断がつかない。 「幽霧。そろそろ行きましょうか」 二人の会話に割り込むように頭上から雫の声が響く。 「それじゃあ、失礼します。久世ノインシュヴァン司書長補佐」 ノインに別れを告げた幽霧はそのまま上に上昇して行った。 幽霧が去った後もノインは作業に戻らず、自身の手の平を見つめていた。 そこには幽霧の体温と触れたときの感触が微かに残っていた。 ノインは無言でその手を胸に当ててぎゅっと抱きしめながら瞼を閉じる。 それはまるで何かを祈っているかのように。 しかしノインがその心中で何を願っているか誰にも分からない。 『グレイヴ・オブ・クラウン』の蓋が微かに動き、小さな呟きが漏れ出た。 「難儀だね……あの幽霧霞三等陸士も。そして……君も」 〈二十二時三十五分 屋台「和み鍋」】〉 「はぁ……」 エリオは冷たくなった手に息を吐きかける。 しかし温かくなったのはほんの一瞬ですぐに冷たくなってしまう。 寒そうにするエリオにミラたちは心配そうに声をかける。 「エリオ。寒かったら、もう撤収しても良いよ? ほら、キャロとルーテシアも」 三人ともスカートが短いメイド服であるだけに足が冷えないか、ミラは心配のようだ。 「だっ…だだだ、大丈夫です」 「……大丈夫です」 心配そうな顔をするミラに大丈夫だと言う二人だが、身体は寒さで微かに震えている。 「それよりも……メイド服から別の服に着替えちゃ駄目ですか?」 「駄目」 迷う事もせずに即答するミラにエリオは肩を落とす。 「こんばんは」 そこで男物の黒いスーツの上に白衣を羽織った雫が声をかける。 「あっ。いらっしゃいませ! 雫さん。ご注文はどうしますか?」 「私はヒツジ汁で」 「じゃあ、自分は具沢山の優しいシチューで」 雫とミラの会話に割り込んだ存在にエリオは驚く。 そこにいたのはエリオが片想いに似た感情を抱いている幽霧だった。 何故か濃紺のワンピースの上にフリルのついたエプロンを付け、頭にはフリルのカチューシャがきちんとつけられている。 スカートの下からフリルのついた白いぺチコートがちらりと見えた。 「こんばんは」 「あっ! あぅ…こんばんはです」 仕事用の笑顔で挨拶をする幽霧にエリオは慌てて頭を下げる。 「雫さん。ヒツジ汁だお」 顔を真っ赤にしているエリオとそれをぼんやりと眺める幽霧の脇で、ヒツジは雫に熱々のヒツジ汁の入った発泡スチロールのおわんを手渡す。 「ほら、エリオ。幽霧君にシチュー渡す」 「あっ! はいっ!」 ミラの耳打ちでエリオは我に返り、寒さと緊張で手を震わせながらも熱している寸胴鍋に入ったシチューを発泡スチロールに移す。 手の平は発泡スチロールから伝わるシチューの熱で痺れ、身体は寒さで痺れに似た感覚を感じながらもエリオは幽霧に『具沢山の優しいシチュー』を手渡す。 「どっ……どうぞ」 熱いシチューを持っているはずなのに、幽霧が触れたエリオの手はとても冷たかった。 「雫さん。ちょっとシチューを持っててくれませんか?」 いきなり言ったにもかかわらず、幽霧の意図を悟った雫は微笑みながらシチューを受け取る。 そして一緒にアルフィトルテも連れて行く。 「エリオ・モンディアル二等陸士。両手を出してくれませんか?」 長机をはさんで向かいにいる幽霧の意図が分からなかったが、エリオは言われた通りに両手を差し出す。 幽霧は差し出してきたエリオの両手を自身の両手で包み込む。 周囲の寒さで毛穴が開き、敏感になったエリオの手が幽霧の柔らかくて仄かに温かい手の感触を鋭敏に感じ取る。 片想いを抱いていた幽霧によっていきなり両手を握られた驚きと羞恥でエリオの心臓は大きく跳ね、鼓動の速度が一瞬でトップスピードに切り替わった。 心臓の動く速度が早くなった事で血行も良くなり、幽霧の手に包まれた両手どころか身体まで熱くなっていく。 「まだぬるいですね」 血行が早くなる事でほとんど興奮状態になっているエリオに止めを刺すかのように幽霧は包み込んだ手に息を吐きかける。 温かくて柔らかい幽霧の手に包まれた両手に吐き掛けられた幽霧のあたたかい吐息にエリオはこそばがゆさを感じた。同時に殺意混じりの視線が背後に突き刺さっているのを感じた。 壊れたロボットのようにギチギチと音を立てながらゆっくりと後ろを振り向くエリオ。 そこには今にもヴォルテールや白天王を召喚しそうなキャロとルーテシアが半目でじっと睨みつけてきていた。 幽霧が手を放した瞬間、エリオは二人によってリンチされるかもしれない状況。 「これであったかくなりましたね」 いつもなら気づくはずなのに、幽霧はこのすさまじい状況に気づかずに微笑みながらその両手を離す。 寒さで霜焼けになりかけていたエリオの手はさっきとうって変わり、興奮と羞恥によって発生した熱で真っ赤になっていた。 エリオの手を包んでいた幽霧の手が離れたのを見計らい、キャロはエリオを押し退ける。 「幽霧おねえさん。私もお願いしますっ!」 上目遣いで頼み込んでくるキャロとルーテシアに幽霧は苦笑する。 「はいはい……」 苦笑しながらも幽霧はキャロの差し出してきた両手を両手でぎゅっと包み込む。 「ふぁ…おねえさんの手……柔らかくてあたたかいよぉ……」 恍惚とさせながら幸せそうな顔をするキャロ。幽霧もキャロの幸せそうな顔に笑みをこぼす。 十分に温まった所で幽霧はキャロの両手を離す。 そして嬉しそうな顔をするキャロを羨ましそうに見るルーテシアに声をかける。 「ルーテシアさんも?」 「……うん」 頬を赤らめながら小さな頷き、ルーテシアは両手を差し出す。 幽霧はまるで主の手を取る騎士のようにルーテシアの両手を手の上に乗せ、もう片方の手で被せる事で両手をゆっくりと包み込んだ。 「……あったかい…」 幸せそうにルーテシアがそう呟いた途端、近くでフラッシュが焚かれる。 幽霧はルーテシアの手にかぶせていた手を退けて、フラッシュが焚かれた方を見る。 カメラを取っただろうと思われる青年は片手でカメラを構えながらも片手でジェスチャーを取りながら言う。 「どうぞ。続けて下さい…」 「手を温めあう姉妹メイド萌えっ!」 「というか、あれは幽霧三姉妹次女の朧さん!?」 「いや、あれ……ミラージュじゃないのか」 周囲で色々と囁かれている中、幽霧は何事も無かったかのようにルーテシアの両手を包み込んで温める。 恥ずかしいのか、包み込んだルーテシアの手に熱が帯びていく。 安心させようと思ったのか、幽霧はルーテシアの耳元に顔を寄せて囁く。 「大丈夫」 「……うん」 真っ白な頬に朱を混じらせながらルーテシアは小さく頷いた。 湯気が出るんじゃないかと思えるくらい温かくなった所で幽霧はルーテシアの手を放す。 「ありがとう」 囁くような小さな声でルーテシアは幽霧に礼を言う。 「どういたしまして。それでは、しつれいします」 そう言って幽霧は少し離れた場所でヒツジ汁を食べている雫とアルフィトルテの方へ歩いていく。 「ご苦労様です」 雫は微笑みながら幽霧を出迎えた。 「幽霧は相変わらず、年下には甘いんですね」 「そうでしょうか?」 過去に似た事をアサギに言われた事がある事を思い出した幽霧は不思議そうに首を傾げる。 「ええ。貴方は年下に甘すぎます」 微笑みながら言う雫に幽霧は何も言えなくなってしまう。 「そういえば、自分が頼んだ具沢山の優しいシチューはどうなったのでしょうか?」 「ごめんなさい。幽霧がルーテシアさんの手を温めている間にアルフィトルテがお腹をすかせていたので食べさせてしまいました」 「はぁ、そうでしたか」 別にアルフィトルテはデバイスであるから食事が必要というわけではない。 しかし人間の少女と同じ姿を取っている為に人間の習性というものにひきづられるらしい。 そして食事で取った物を稼動するためのエネルギーや魔力に変換しているので無駄というわけではない。 約二ヶ月の生活で幽霧も知っているので、アルフィトルテが自身の頼んだシチューを食べた事について怒ってはいなかった。 「じゃあ、そろそろ行きましょうか」 雫はそう言って発泡スチロールを近くのゴミ箱に捨て、アルフィトルテは幽霧の手をぎゅっと握る。 「ママの手……少し冷たくなっちゃったね」 「そう?」 アルフィトルテは握った幽霧の手をもう片方の手で包み込みながら純粋無垢な笑顔で言った。 「冷たくなったママの手はアルフィトルテがあっためてあげるね」