約 1,678,930 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/125.html
最近、私にはちょっとした楽しみが増えた。 私だけが味わえる、ほんの一時の幸せ。 愛してるあなたの顔を鏡越しで見る至福の時間。 「ラブ・・・、今日もいいかな?」 「お~、来たかぁ~。もっちろん、OKだよ!さ、どうぞ。」 お風呂上がり、私はわざと髪を不完全に乾かしたままラブの部屋を訪れる。 あゆみお母さんには内緒だけど、私のために買ってくれたシャンプーやリンス、実は使ってない。 ラブと一緒のをこっそりお小遣いで買っている。勿論、ラブにも内緒で・・・。 「せつなぁ、もう少し水分拭き取ってからおいでよぉ。パジャマちょっと濡れてるよ?」 最初は心配してくれてたラブも次第に呆れたり、困ったり、ちょっぴり怒ったり。 そんな顔を鏡越しで見るのも幸せに思えて。 「ごめんなさい。ラブが乾かしてくれると思うと何だか焦っちゃって・・・。」 「照れるからやめてよ~。」 そう言って、顔をほんのりピンク色に染めるラブがとても可愛い。 「せつなの髪ってほんとサラサラしてるよね。羨ましいなぁ~」 「サラサラしてないとダメなの?私はラブの髪、好きよ。」 髪だけじゃなく、笑顔も声も暖かい心も、みんな好き。私を大切にしてくれるラブが一番好き。 「ここんとこずっと気になってたんだけどさぁ。」 「何?」 「せつな、シャンプーかリンス変えた?」 そう言って私の顔を覗き込む。ドキっとするぐらい近くにラブを感じる。 「ど、どして?」 別に焦る必要は無いんだけど。やましい事をしてる訳じゃないのに。ちょっぴり自分が面白い。 「ドライヤーしてるとわかるんだ~。せつなの髪の匂い。すっごくいい匂いなんだよ~。」 「ほんと?何だか嬉しいな・・・」 私はどこか照れくさいと言うか、再び鏡越しにラブの顔を確認して。勿論、ラブは私に微笑みかけてる。 「はい!終わったよ。」 至福の時間はあっという間に終わってしまう。あまりにも短く感じてしまうのは何故なんだろう。 「ありがとラブ。いつもごめんなさい。」 「うぅん。また明日もおいでよ!いつでもせつなだったらウエルカムなんだから!」 「ねぇラブ・・・」 「ん?」 「今度は・・・、私がラブの髪を・・・」 真正面からは恥ずかしくて言えなかった。鏡越し、ラブが何だか遠くに感じる。すぐ後ろにいるのに。 「お願いしてもイイ・・・かな?」 ラブの顔がまたピンク、いや赤く染まってるのが私にはわかった。お互い照れてるのも楽しくて。 「でも私はちゃーんと髪を乾かしてくるからねっ!」 「嫌よ。」 「ちょっとぉ・・・」 困惑気味のラブをよそに、私はこう呟く。 「・・・待ちきれないから・・・」 「せつなのいじわるぅ~。」 「ふふ。ごめんなさい。」 私の至福の時間。幸せの一時。お互いを大切な存在だと確認出来る空間。 ラブ、今度は私の部屋でね。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/189.html
ここはクローバータウン。幸せが集う町。 そして数年前、人々を不幸にする謎の集団から伝説の戦士が守った町でもある。 今は不幸と言う文字は存在せず、ただ幸せな一時があるだけ。 「ママー!お母さーん!みさとちゃんと遊んでくるねー!」 「うふふ、愛那ったら美里ちゃんとほんと仲良しね」 「そうだね。なんだか以前のあたし達みたい」 「む。それじゃ今は仲良しじゃないみたいじゃない」 「タハー、ごめんごめん。今も前と変わらず…ううん、前よりずっと大好きだよ!」 「も、もう!愛那の前で恥ずかしいじゃない」 「ママとお母さんを見てるとあたしまで幸せになっちゃうみたい。どしてかな?」 「愛那も、美里ちゃんと仲良くしてれば分かるわよ」 「あいなちゃーん!遊ぼー!」 「あ!みさとちゃんだ!じゃあ行ってきまーす!」 「愛那!幸せゲットだよ!」 「精一杯、遊んでらっしゃい」 「はーい!」 とある家族の何気ない風景。 そこから湧き出る幸せの泉。 様々な場所で湧き出るその泉はクローバータウン全体を覆うように広がっている。 いつしか町が幸せの湖と呼ばれる日がくるのかもしれない。 「みさとちゃん!あたしみさとちゃんが大好きだからね!」 「ありがとう、私もあいなちゃん大好きだよ!」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/202.html
突風が吹き、開いた扉の先には、東せつなが立っていた。 「ようこそ、占いの館へ」 「えっと、アタシは・・」 「知ってる。ラブのお友達よね」 「ええ。正式に自己紹介するのは、初めてだったわね。ラブの幼馴染の蒼乃美希です」 「東せつなです。このまえラブが占いの館へ来て、それから仲良くしてもらっているの」 「もし良かったら、私のことは、せつなって呼んでもらえないかしら、ラブみたいに」 「ええ、じゃ、アタシのことは美希って呼んで」 「嬉しい。この街に来て間もないから、友達が少ないの」 「立ち話もなんだから、こちらに」 そう言ってせつなは背を向け、アタシを促す。 コツコツコツ・・・ カツカツカツ・・・ アタシ達の靴の音だけが響きわたる。 確か、ラブは「大輔達は男の占い師さんに見てもらったんだってー」 って言っていたから、少なくともせつなの他にもう一人はいるはず。 けど、アタシ達の他に人の気配は全くしない。 目の前のせつなの後ろ姿さえ、現実のものでないかのような錯覚に陥る。 「美希、美希」 「えっ・・」 「あ、ごめんなさい、名前で呼んで気を悪くしたかしら」 「ううん、ちょっとぼっとしてただけ」 「ここが私の部屋兼仕事部屋ね」 と言って、前の扉に指差し、苦笑いをする。 なんでも、休む部屋は他にあるらしいが、 仕事上の研究で(占いの研究なのかな)いつも夜遅い時間まで起きていて、 仕事部屋であるここの部屋で寝てしまうことが多いらしい。 「さあ、入って」 「お邪魔します」 3脚の椅子が並んだ先には、水晶玉が置かれた机。 占いの館らしく、薄暗い照明。 奥には暗幕が張られ、部屋は続いているようだが、 仕事道具でも置いてあるのか、こちらから窺い知ることはできない。 「どうぞ、座って」 と言って、せつなは机の奥の椅子に座る。 アタシは3脚の内の真ん中の椅子に腰かける。 「それで、用件は何かしら。用があるからここに来たのでしょう?」 「・・・」 3-728へ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/217.html
せつなに、会いたい。 あたしは美希の家から全速力で走って帰った。さすがに心臓がバクバク言ってる。 気づけば、もうとっぷり日が暮れて月が顔出している。 お母さんにお小言くらうだろうな。 玄関にせつなのローファーがきちんと揃えて置いてある。 よかった、帰ってるんだ。 「お帰りなさい。ラブ、遅いわよ。」 お母さんがちょっと怖い顔をする。 「ゴメンナサイ。美希たんとお喋りしてたら遅くなっちゃって。」 あまり遅くまでお邪魔しないのよ、と軽くお小言。そんなに怒ってないみたい。それより…… せつなは?そう聞く前にお母さんが口を開く。 「せつなちゃん、また具合悪くて寝てるから静かにね。」 すごい熱なのよ、と、お母さんは心配そうに溜め息をつく。 「まったく、ラブと言いせつなちゃんと言い、どうして倒れるまで無理 するのかしら。」 病院に連れて行こうとしたみたいだが、せつなは寝てれば平気だから、と 頑なに拒んでいるみたいだ。 お母さんの事だ、明日も熱が下がらなければ有無を言わさず引き摺って 連れてかれるだろうけど。 せつなの部屋の前に立つ。ノック一つになんでこんなに勇気がいるんだか。 (あたし、今日こんなんばっか…) コンコン……。 返事なし。そっとドアを開けて音を立てないように、ベッドに近づく。 せつなは浅い呼吸を繰り返している。寝苦しいのかも知れない。 額に触れると、火のように熱い。それに、何だか痩せた。 昨夜の、抱き締めたせつなの体の熱さを思い出した。 昨日も、その前もきっとずっと熱があったんだ。 考えてみれば、放課後に祈里と会い、夜もあたしがろくに眠らせない。 それにも係わらず、家でも学校でも変わらぬ笑顔で過ごしてたんだから、 ものすごい精神力だ。ストレスだって半端じゃなかっただろうに。 「……ごめんね。」 あたし、せつなが苦しんでるの分かっていながら知らん顔してた。 自分が傷付くのが怖くて、せつなを無視してた。 せつなはあたしが好き。そう信じてたはずなのに。 自分が一番辛いと思ってたよ。 少し汗ばんだ額にかかる髪をはらうと、せつなが軽く呻いて寝返りを打った。 「……ラブ…?」 せつなの瞼がゆっくりと開く。少し、ぼんやりしてダルそう…… 「…ごめん、起こしちゃった?」 あれ?………何だろう、この感じ。 (ああ……、そっか。) せつな、あたしの目を見てる。 弱々しい、力のない目。だけど、真っ直ぐに見つめてくれてる。 せつなの瞳に映った自分を見るのは、どれくらいぶりだったっけ。 「熱、どれくらいあるの?」 「………さっきは、38.8度だった。」 そんなにあるんだ。お母さんが心配するはずだ。 あたしはベッドの横に座り、寝ているせつなに視線の高さを合わせる。 「……ゆっくり、寝てなきゃね。」 せつなの髪を撫で、熱を確かめるように額や頬、首筋に触れる。 なるべく優しく。少し前まで、当たり前にしてたように。 少し戸惑った様子のせつな。 そうだよね、あたしだってこの頃せつなの顔マトモに見てなかったんだから。 それに…… こんなふうに、ただ何もせずに触れるだけって言うのも。 マジであたしがせつなに手を伸ばすのって、ベッドに押し倒す時だけだったな、 なんて……。せつなも倒れるはずだよ。 「お腹とか、空いてない?」 「………さっき、お母さんがリンゴ持ってきてくれた……」 擦りおろしたやつ、と少しせつなが笑う。 やっぱりちょっと戸惑ったような表情。 それでも、目はそらさない。 何となくそのまま見つめ合っていたい気分だった。 あたしはせつなの髪を指に絡めたり、頬や顎に触れる。 こんなにちゃんとせつなの顔を見るのは本当に久しぶりだ。 (……痩せちゃったな。) 改めてそう思う。顔色も熱が高いのに何だか蒼白い。 本当に、具合が悪そうだ。 せつなは物言いたげに何度か唇を開きかけ、また躊躇うようにつぐむ。 瞳が揺れて、伏せてしまいたいのを必死に堪えているように潤む。 「……あのね、……ラブ……」 震える声が懸命に言葉を紡ぎ始める。 「………私、……話さないと、…いけないことが、あるの……」 髪を撫でていたあたしの手を、せつなの火照った手が握る。 「………私…ね……」 握る手に力がこもり、じっとそらす事のなかった眼差しが、とうとう伏せられる。 せつなは握ったあたしの手を自分の額に押し当て、ぎゅっと目を閉じる。 まるで、神に跪き懺悔する罪人のように。 ……ただひたすら、許しを乞うように。 「……せつな。」 もう片方の手で、また髪をすくように触れる。 どう言えば、伝わるか。怯えなくていいと。 分かっているから、恐がらないで……と。 深呼吸する。とても大事な事を言うために。 どうか、ちゃんと伝えられますように……… 「あのね……、せつな。あたし、せつなが話したい事なら。何でも聞く。」 なるべく、優しく。出来るかぎり、心に触れられるように。 「…でも………ね、」 「せつなが、話したくない事は、言わなくてもいいんだよ?」 握られていた手の力が少しだけ弛み、意味を問うような視線を送ってくる。 きつく瞳を閉じられていた間に滲んだ涙が長い睫毛を濡らしていた。 「あたしね、せつなが大好きだから……。」 せつなの瞳が大きく見開かれる。 「せつなが、側にいてくれれば……それでいいんだ。」 せつなが大きく、溜め息のような息をつく。 瞬きするたびにポロポロと雫がこぼれ、枕を湿らせる。 綺麗な子は泣き顔も綺麗なんだなぁ……なんて。思わず関係ないこと考える。 あたしなんか、いつも瞼は腫れるわハナミズ出そうになるわで悲惨なのに。 「………たし、も…好き。」消え入りそうな、せつなの声。 「……ラブだけが……好き。」 だから、まだ、側にいさせてくれる? どうして、こんなに好きなんだろう。 こんなに大好きなはずなのに……… どうして、こんなに泣かせちゃうんだろう。 「……そっか。両想いだね。あたしたち。」 あたしは、明るい笑顔で、軽く言った。つもり。 せつな、笑ってくれないかな? 「うん………。」 ダメだ……。まだ泣いてる。 泣き顔も可愛いけど、また笑顔が見たいよ………って。すぐには無理だよね。 「着替えて、下、行かなきゃ。」 立ち上がろうとすると、少しせつなの手に力が入る。 「お母さんにね、念押されてるの。せつなが疲れるからあんまり話し込むなって。」 あたしはもう一度座り直し、せつなに微笑みかける。 「また、後で来るからね。」 「…本当に?」 「うん…、なるべく早く来るから。」 あたしの方から軽く手を握り直し、ゆっくり放す。 もう一度立ち上がろうとして、……ちょっと、迷ったけど、 せつなの唇に小さくキスした。 一瞬、触れるだけの軽いキス。 せつなの唇は熱のせいか渇いていて、少し震えていた。 あぁ、また泣いちゃったよ。 「後で、来るからね。」 もう一度繰り返し、あたしは部屋を出る。 ドアを閉める前、せつながベッドの上で胎児のように体を丸めているのが 見えた。 4-405へ続く
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/282.html
ラブがこっそりベランダからせつなの部屋へ カラカラ・・・ ラ「せつな、おまたせ」 せ「・・・」 ラ「・・・せつな? もう寝ちゃったかな・・・?」 モゾモゾ・・・ せ「・・・・・・んっ・・・」 ラ「なーんだ、起きてるじゃんw どうして寝たふりしてたの?」 せ「だ・・だって、ラブ遅いから・・・」 ラ「へぇ~、口答えするんだw 悪い子にはおしおきが必要だね」 せ「そんなつもりじゃ・・・!・・・・・・んっ・・・・・・あっ!」 ラ「声抑えて」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/72.html
「ちょっとラブ、もうお湯沸いてるわよ?!」 「は~い。・・・ブッキー、そっちタマネギ切ったぁ?」 「ごめん、今やってるー。せつなちゃん、サラダは大丈夫?」 「今、精一杯キャベツ刻んでるわ」 今日は、ラブちゃんのお家で、お泊り会。 ご両親もお出かけなんで、わたし達4人でお夕飯の準備をしてるところ。 メニューは、カレーライスと、サラダ。 わたしはカレーに入れるお野菜を切る当番なんだけど。うー、タマネギが目にしみる・・・。 ・・・・・・でも、これくらい我慢しないと。 みんな一緒とはいえ、せつなちゃんと一晩過ごすことができるんだもの。 もう一週間も前から、今日という日が来るのを夢にまで見たんだし・・・・・・。 それに!ご、ご飯の後にはみ、みんなでおおおおお風呂入ることになってるし・・・・・・。 一気にわたしの頭の中には邪な妄想が広がる・・・・・・。 (ブッキー、背中流してあげるわ。こっち来て) (せせせせつなちゃん!い、いいって、それくらい自分でやるから!) (?何を恥ずかしがってるの?・・・ほら、次は前を洗ってあげるから、あたしの方を向く!) (いや~!いくらこっちの世界の常識に疎くても、やり過ぎだよ~!!) 「・・・・・・ブッキー・・・お腹空いてるからって、はしたないんじゃないの?・・・よだれ出てるわよ」 「・・・・・・は!え!?ゴメンゴメン!」 美希ちゃんにたしなめられ、現実に戻るわたし。せつなちゃんにだらしない子だって思われちゃう・・・。 「―――――痛っ・・・!」 その時、せつなちゃんが小さな呻きを漏らした。 見ると、包丁を離し、右手で左手の指を押さえている。 「せせせせつなちゃん!指切ったの?!ちょ、ちょっと待って―――」 慌てたわたしは、咄嗟にいつも持っている救急セットを取り出そうと、バッグに手を伸ばす。 「―――――せつなっ!手出してっ!!」 わたしの行動よりも早く、ラブちゃんがせつなちゃんの元へ駆け寄る。 彼女はせつなちゃんの左手を掴むと、躊躇うことなく、怪我している指を口に含んだ。 「―――――――!!」 その一連の動きから、目を離せなくなった。 「・・・・・・・・・」 「・・・ラ、ラブ・・・そ、そんなとこ・・・な、舐めたら・・・き、汚いわ・・・」 せつなちゃんが、顔を赤くして、ラブちゃんを止めようとする。 でも、ラブちゃんはそんな制止も聞かず、指を口から離そうとしない。 それは、甘くて淫靡な、恋人同士のキスに見えた。 ラブちゃんの口元からする、ぴちゃ、ぴちゃ、という水音のような響き。 その度にせつなちゃんは押し殺した喘ぎを漏らし、背を反らす。 バッグに手を入れたまま、わたしは固まっていた。 目を逸らしたいのに、逸らせない。 ・・・・・・嫌だ・・・こんなの見たくない・・・・・・。 一瞬、ラブちゃんとわたしの目が合う。 「―――――!」 その目が、嘲笑っているように、感じた。 高価な玩具を、手に入らない子に自慢している子供のような目―――。 ―――これはあたしだけのモノよ?羨ましいでしょう? ・・・彼女は、わたしに、そう言っているのだ。 ―――永い一瞬が、過ぎた。 ゆっくり、別れを惜しむように、唾液の糸を引きながら、ラブちゃんが口を離す。 「ンぅっ!・・・・・・ラ、ラブぅ・・・・・・」 「・・・・・・こっちの世界では指を切ったら、こうするんだよ、せつな・・・・・・」 頬を染め、息を荒げているせつなちゃんに、ラブちゃんは優しく、ふしだらに微笑みかける。 「・・・・・・ブッキー、バンソーコー、ちょうだい。」 「――――――え?!あ、あ、うん!」 その声に我に返ったわたしは、ラブちゃんにバンソーコーを渡す。 彼女は、可愛がっているお人形にリボンでも結ぶように、それをせつなちゃんの指に巻きつける。 ・・・わたしは、魂の抜けた案山子みたいに、その光景を見つめる事しか出来なかった。 「ちょっとブッキー、あなたもどっか怪我したの?」 「・・・え?」 「・・・・・・もう、涙浮かべてるじゃないの!」 美希ちゃんに言われるまで、気付かなかった。 「や、やだ。タ、タマネギ切ってたから・・・い、イタタタ・・・・」 ゴシゴシ、っと目をこする。 ・・・・・・本当に痛いのは、目なんかじゃないのに。 目を開けたとき、再びラブちゃんと視線が絡む。 ――――せつなで遊んでいいのは、あたしだけなの。あなたの手は決して届かない・・・・。 長い夜は、まだ始まったばかりだった。 了 分岐します。あなたはどちらの美希を選ぶ? 2-257テーマは〝イライラ〟 避-128テーマは〝嘘〟
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1194.html
しんしんと、雪が降り続いている。 黒一色に沈む夜の街が、ほのかに輝く銀のヴェールを纏う。 この窓の外は、ぬくもりの欠片もない凍てつく冷たい氷の世界。かつての―――この私のように。 あの時の私なら、きっとこの光景を美しいと感じることはなかっただろう。 命の溢れた春よりも、心の安らぎを覚えることならあったかもしれないが……。 窓一枚隔てただけの、この部屋のなんと暖かいことだろう。耳には優しいピアノの旋律。芳しいご馳走の香りと、楽しげな談笑の声。 こちら側が幸せで―――あちら側が不幸。 この窓が幸せを分けるラインなら、それを越えるための条件とは一体なんだろう? それさえわかれば、みんなをこちら側に入れてあげられるかもしれないのに……。 「せつな、どうしたの?何か考えごと?」 「ラブ……。メニューは決まったの?」 「あっ、ううん。なんか迷っちゃって」 ニハハと笑って、ラブはまた、心配そうに私の顔を覗き込む。私はラブの視線から逃げるように、再び窓の方に顔を向ける。 ガラスに映ったその表情は、確かに元気がなさそうに見えた。 (このガラスの内側に入れたのは、きっとラブの愛情のおかげ。) 「ねえ、ラブ。LOVEって、愛するって意味よね。それは、どんなものなのかしら?」 「どうしたの?せつな。熱でもある?」 「茶化さないで!」 思わず厳しい口調になった私に驚いて、お父さんとお母さんがメニューを置いてこちらを見る。 「……ここは、私がラブの家族になれた場所、私が初めて幸せを知った場所よ。そして、今夜は互いの幸せを願うクリスマスイブでしょ?だから……」 お父さんとお母さんが、静かに顔を見合わせる。そして二人は、入り口のサンプルを見てくると言って席を立った。きっと、少しの間ラブと私の二人だけにしてくれたのだろう。 「ごめんなさい、せっかく外食に連れてきてもらったのに……」 「ううん。あたしもよくわからないんだけどさ~。愛情ってね、相手のことを大切に思う気持ちなんじゃないかな?」 「ラブは、みんな大切なんでしょ?私も美希もブッキーも、お父さんやお母さんや、ううん、会ったことのない人だって!」 「そうだよ」 「だったら、私が私じゃなくたって、ラブはその子を家族に迎えていたの?一緒にダンスをしていたの?」 「それはわからないけど……せつなはやっぱりせつなで、誰かの代わりになんてならないよ。きっと代わりの効かないものが、本当の愛なんじゃないかな?」 「ラビリンスに居た頃の私は、いくらでも代わりが効く存在だったわ。この窓の外にたくさんあって、埋もれていって……やがて忘れ去られ、溶けて消えてしまう雪のように……」 そんな私に、愛される資格なんてないのかもしれない。その言葉が、次第に小さくなっていって、消えてしまいそうになったとき……ラブが立ち上がって、私の肩に手を触れた。 「せつな、こっちに来てみて!」 「えっ?なに?この季節にテラスは使えないはずよ?」 「さっき、カギが開いてるのを確認したの。いいからいいから」 ラブは端の方にあるテーブルに近づいていく。それは椅子ごとブルーのシートで覆ってあって、それをさらに覆うように雪が積もっていた。 「これは、あの時のテーブル……」 「うん。でも見せたいのはテーブルじゃなくて、これっ!」 「……雪よね?それがどうかしたの?」 ラブは得意げに雪をすくい上げて私の方へ差し出す。 「近くでよぉく見て。あたしでもなんとか見えるから、せつななら形がハッキリとわかるはずだよ」 「これは……どうして?ひとつひとつ、ぜんぶ違う形をしているわ!」 驚きの声を上げる私に、ラブは満足そうに頷いて、夜空を見上げる。 「みんな同じに見える雪でもね、本当はひとつひとつ、ぜーんぶ形が違うんだよ。メビウスはきっと、国民のことをまとめて雪だと思ってたんじゃないかな?そんなの愛じゃないよ」 「ラブやお母さんやお父さんは、私という、代わりのない形を見つめてくれたのね。だから――」 「相手をよく見て、よく知って、その形を大切だって思えたら、それは愛なんだと思うの。あたしはさ、会ったことのない人だって、みんな自分の形を持ってるって思えるから」 「みんなを、愛しているのね」 「うん!」 ラブは私に背を向けて、また雪をいじりだした。 「私にもできるかしら?ラブのように、みんなを見つめて愛することが」 「できるよ!だって、せつなは誰よりも目がいいんだもん!」 「もうっ、そこに視力は関係ないでしょ!しかも、後ろを向いたままで言わないで!」 「ごめんごめん」 ラブは、今度は手にしたものを後ろに隠してこちらを向いた。 「ラブったら、さっきから何を作ってるの?」 「これだよ!」 そう言って、ラブは白い塊を私に投げつけた。 「フン!そんなことだろうと思ったわ。私に当たるとでも?」 「せつな、後ろっ!お母さん!」 「えっ?」 「スキありっ!」 一瞬後ろを向いた私の頬に、ふんわり柔らかい雪の塊がぶつかって弾けた。 パウダースノーの雪だから痛くはなかったけど―――その一撃で、私の身体に流れる戦士の血が目覚める。 「やったわねーっ!もう許さないから!」 「望むところだよ、せつな!」 いつの間にか、重たかった私の心は軽くなり、バカみたいに笑いながら、ラブと雪の塊をぶつけあっていた。 もう少しだけ、待っていてもらおう。 ラブと一緒なら、きっと見えるようになるから。 ラビリンスの人々それぞれの形を見つめて、愛して、笑顔に変えられると思うから。 だから―――もうしばらくだけ、このままで。 fin
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/511.html
少し肌寒くなってきた秋の夕暮れ。 公立四葉中学の校門で部活を終えて帰る学生達が何やら騒いでいる。 彼らの視線の先、門から少し離れた壁際にたたずむ一人の美しい少女が居た。 ちらちらと携帯を見ながら嬉しそうな顔をして待っている。連絡待ちか時計を見ているのか。 どちらにしても彼氏との待ち合わせに違いない。 鳥越学園の子と、こんな美少女と釣り合うような男の子がこの学校に居たっけ?などと囁かれていた。 「あ、せつな」 そう言って門から出てきた女の子に駆け寄った。 友達との待ち合わせだったのかと、少しがっかりした者や安心した者などがちらほら。 相手の子の名前は知る者も多かった。 東せつな。最近転入してきた子で、こちらも相当の美少女だ。 容姿だけでなく学力は学年でも有数。スポーツはそれぞれの運動部のレギュラーに匹敵した。 それでいて物腰は柔らかく、自然体。気取ったところが全く無い。 男女問わず、クラス内でも外からでも人気が高かった。 「またね、由美」 「うん。今日はありがとう、せつなちゃん」 せつなの後ろ、一歩遅れてついてきていた女の子は美希にもペコリと挨拶して帰っていった。 「ごめんねせつな、邪魔しちゃったかな?」 美希がちょっと申し訳なさそうな顔をした。 「由美のことなら平気よ。勉強を教えていただけだし、帰る方向が逆だからどうせここで別れていたわ。」 「でもどうして校門で?公園かどこかで待ち合わせてもいいのに…」 「少しでも長くお話したくって。今日はラブもブッキーも用事で先に帰ってるし、 たまには二人でってね。」 「熱でもある?」 悪戯っぽく、美希の額にせつなが手をあてる。 「ちょっとコラっ!どういう意味よ」 怒った声を出すが、顔が笑っていては迫力も何も無い。 最近、せつなが冗談を言うようになってくれた。とても嬉しい。 歩きながら色んな話をした。学校帰りだからか、学校の話題が多い。 仲良しになった由美のこと、授業が楽しいってこと、クラブ活動に誘われて困るってこと。 静かに話してくれるせつなの声が耳にとても心地よかった。 少し前なんて、「問題ないわ」の一言で切り捨てられてしまったものだと苦笑する。 以前のラブは、こんなせつなを独り占めにしていたのね…と、少し羨ましく思う。 ラブほど明るいわけでもない。 ブッキーのように癒しの雰囲気を持つでもない。 でも、せつなには言葉にできない魅力があった。 一緒にいるだけで何故かそわそわしてしまう、ハラハラしてしまう。 笑ってくれたら凄く―――幸せになる。 四人一緒は最高の幸せ。不満なんてあるわけがない。 でも、美希は滅多に訪れないこんな二人きりの時間も大切にしたかった。 せつなはアタシのことどう感じてるんだろう? 思い切って聞いてみた。 「どうって?美希は美希よ、もちろん一緒に居られて楽しいわ。」 ……いまいち通じなかったみたいだ。こんな鈍いところも魅力に思えてくる。 話題を変えてみた。 一度どうしても話したかったこと。でも、口にするには躊躇われたこと。 それは、クローバーボックスを自分の不注意で無くしてしまった時のこと。 あの後ブッキーは気になることを言っていた。 「あの時はありがとう、アタシのことをわかってくれていて」 だから美希は美希なのよ、とせつなは苦笑した。 「それに、あの女の子の責任にしたくなかったんでしょ?」と言葉を続ける彼女。 嬉しかった…。信じてくれていたんだ。誰も―――責める訳でもなく でも!甘えてはいけないと思った。 「それもあるわ。でも、本当はもっと自分勝手な理由で話せなかったの……」 「わたしたちにではなく、自分に言い訳をさせたくなかったんでしょ」 せつなが美希の告白をさえぎった。 今度こそ息を呑んだ、どうしてそこまで…… アタシは完璧でありたかった。それは目標、何処までも遠くて届かなくて。 それでも、決して諦めてはいけない―――――希望のしるし 一度自分に言い訳をさせてしまったら、二度と届かなくなる気がした。 成功も失敗も全て、自分で受け止めて進みたかった。 「私も同じだから。私は美希みたいに完璧じゃない。その逆だけど、自分のしたことは 受け止めて進みたいの……。私たちは似てるのかもしれないわね。」 そう言ってせつなは微笑んだ。 心が痛んだ。 そうだ、せつなは今でも自分を責め続けている。 でも、せつなに一体どんな罪があると言うのだろう。 やってきた事は確かに許されない。でも仕方ないじゃない。どうしようもないじゃない。 生まれた時からメビウスに忠誠を誓わされ、洗脳教育を受け、寿命まで管理されて服従させられてきた。 誰がせつなを責められる?アタシだって同じ環境で生まれたら同じ事をしない自信はない。 けれど、せつなは一度も―――言い訳をしなかった。 似ていると言われて嬉しかった。そして、誇りに思えたと実感する。 やっぱりアタシは――――せつなが好きなんだと。 素直な気持ちで美希は話す。 「そうね、アタシたち似てるわよね。意地っぱりな所や強情なところ、寂しがりやなところも。 そして…優しいところも…一緒になれたらいいな」 「やっぱり熱があるのね?」 せつなが背伸びして腕を回し、自分の額をアタシの額に当ててくる。 今度は真っ赤になった自分を隠すために怒ったフリをする。 「人が真面目に話してるのに~~もう許さないんだから!」 「私に追いつけたらあやまってあげるわ」 せつなは駆ける。 アタシも駆ける。 一緒に歩める幸せをかみしめながら。 避-214へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/940.html
わたしは夢をみていた。 近頃の夢の中にはいつも桃色の戦士が出てくる。そしてあれは彼女の仮初めの姿だ。 変身を解除した彼女――――それが桃園ラブ。桃色の戦士キュアピーチの本来の姿。 「せつな!」 ラブは、身体を擦り寄せてくる。わたしはせつなじゃないのに。 「せつな?」 その名前で呼ぶな!お願いだ……。 本当のわたしの名は、イース。 ラブ、わたしはイースとしてお前と出会いたかった。イースとしてお前と友達になりたかった。イースとして、お前と……。 夢の中だからなのか、わたしの強い気持ちが通じたと見えて、ラブは素直に名前を呼び変えた。 「イースぅ!」 強く抱きついてくるラブに戸惑いながらも、嬉しくて抱き締め返す。 ここなら、この夢の中でなら、素直になれる。自分の気持ちに正直に。 「イース、はい、あーんして」 いつのまにかラブの手にはドーナツが握られていた。 恥ずかしいが彼女には逆らえない。 「あ、あーん……」 もぐもぐ……。噛み締めたドーナツからふくよかな味が広がる。幸せってこういうことなんだろうか。 「美味しい?」 「あ、ああ……」 「じゃあ次はアタシの番だよ!いただきまーす」 いきなりラブはわたしの唇にキスをした。 その柔らかい舌で、強く深くえぐられる。 息ができない。苦しい。なのに何故か、嬉しくて。唇から何かが注ぎ込まれてくるような不思議な感覚。 みるみる力が抜けていき、代わりに今までに味わったことのない熱い戦慄が駆け抜け、身体の隅々を満たしてゆく。 ぐったりと、半分溶けたアイスクリームみたいになったわたしを見て、ラブは囁いた。 「イース、可愛いよ……可愛いあなたをもっと見せて……」 わたしを見つめ、ラブは陶然としている。 やがて貪るようなキスが再開された。 食べられている。口づけられながらそう思った。 ラブになら、いいわ。あげる。わたしのすべてを。 気づけば戦闘服は消え去っていて、あらわになった胸の膨らみにラブが口づけていた。 ふたつの頂きを優しく吸ったり、離したり、舐めたり、甘く噛んだり、指で転がして、軽く弾いたり。 そうされていると、何故だか鼻にかかった甘えるような声が出てしまう。 「イース、もっともっと、いっぱい気持ち良くしてあげるね」 そんな風に、わたしのために一生懸命になるラブが、何だかとても愛しいと思った。 彼女によってもたらされた感覚のせいで、息遣いが速く、荒くなってゆく。 波のようにうねった快感が押し寄せる。その未知の感覚に、身体のすべてが絡め捕られていくようだった。 胸の尖端を一心に愛撫されながら、強く激しいラブの舌で耳を舐め上げられ、わたしは小さく痙攣した。 「そんなに気持ち良かったの?」 ぴくぴくと震えるわたしの身体を優しげにさすりながら、ラブは寄り添うように我が身を横たえた。 「疲れた?」 「ううん、なんだかよく、わからない。けど……嫌じゃない」 それを聞くと、ラブはニコッと微笑んだ。 「じゃあ、続き……する?」 わたしは黙って頷く。 「もしも嫌なら、やめるよ」 心配そうに言うラブ。けれどやめてほしくはない。むしろ続けてほしいのだった。 ラブがしたいのなら、もっとわたしに触れてほしい。そして、未知の世界に連れて行って欲しい。そう心から願っていた。 わたしは今や、蜘蛛の巣に捕らえられた一匹の羽虫のようだった。 ぐるりと張り巡らされた巣は、朝露に濡れたようにキラキラと輝いていた。 その真ん中では、わたしという小さな供物が喜びに胸を震わせている。巣の主に食べられる瞬間を、今か今かと待ち焦がれながら。 この愛しい蜘蛛になら、わたしは喜んでこの身を捧げるだろう。 「どうする?」 「……して……」 「いいの?これ以上したら……もうあたし止まれないよ」 「止めないで……最後までして。ラブになら、何をされてもいい……」 「好きだよ……イース」 ラブは口づけをくれた。微力ながらわたしもそれに答える。 キスに夢中になっているわたしの両脚をラブの片脚がそうっと拡げる。 膝頭が脚の間に触れ、何かを確認するようにやわやわと撫で回した。 「イースのここ、すごく熱くなってるよ。いっぱいこぼれてる……」 熱のこもった眼差しで見つめられながら報告を受けると、ますますそこは熱くたぎり、燃えさかるようだった。 ラブのしなやかな指が、わたしのぬめりに入り込んだ。かき混ぜられ、一枚、もう一枚と拡げられていく。 やがて、最も敏感な部分に触れられると、自然と身体がよじれ息が乱れた。 「ここ……好き?」 聞かれても声が出なくて答えられない。 いや、そうじゃなかった。さっきから声はずっと出続けている。とどまることなく。 「好きだよね……だってこんなに喜んでくれてるもん」 ラブは嬉しそうに呟いた。 けれどわたしは、そんな可愛いラブに、つい意地悪をしたくなる。 「好きなのは……そこじゃない」 「じゃあ、どこ?」 「好きなのは、ラブ、お前だ」 案の定、ラブはもっと嬉しそうな顔になった。 どこからか水の音がしている。その音は、こんこんと湧き出る泉のように尽きることを知らない。 濃密な匂いが充満した空間の中、ラブの指の動きが速まっていき、それに呼応して水音も速くなる。 何度となく腰が跳ねる。きつくつぶった瞳には瞼の肌色が透けて見えていた。 ああ、何も考えられない。身体ごと跳んでいくようだ。次の瞬間、本当に跳んでいた。 気づくと、目の前には心配そうなラブがいた。 「だいじょぶ?」 「……ああ……終わったんだな……」 「今夜はこのくらいにしとくね。イースが壊れちゃう」 「……ラブになら何をされてもいいのに。例え壊されたって平気だ」 「そんなのだめ!」 「どうして?」 「だってあたしがイースを幸せにするんだから!」 見つめ合い、微笑み合う。自然と唇が重なり合い、身体は絡み合う。 終わらない夜が、明けることなく更けてゆく。 夢を見ていた。最大の敵にして、最愛の友の夢を。 彼女を愛し、彼女に愛される。そう。これは、夢。わかっている。 けれど、夢の中で確かにわたしは幸せだった。 了
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/838.html
差し出されたクローバーを、私は―――受け入れられなかった。 散々、みんなの幸せを踏みにじってきたのだから。 例え生まれ変わったとしても、私はもう―――。 行く宛ても無く、ただただ、歩き続けた。 止まってしまえば楽になれる。けれど、それでは都合が良すぎる。 私の事など誰も許してはくれないのだから。 ―――あの子を除いては――― もう何時間経つのだろう。 私の目の前は暗闇その物だった。 どうしていいか、わからないのだから。 〝楽になりたい〟 一瞬、私はふいに足を止めてしまった。 「やっと止まってくれたね」 「…」 「座ろ?」 「…」 丘の上。 今思えば、何かに導かれていたような気がする。 私はまだ―――目を見る事は出来なかった。 「これはね、本当に幸せを願ってる人しか見付ける事が出来ないんだよ」 「―――無理。私は…受け取れない」 「頑固だね…せつな」 「もう―――終わりに…」 「イヤだ!絶対イヤだ!!!」 大粒の涙が零れていた。 どうして? どうしてそんなに私を――― 本当は―――望んでいた 例え、卑怯と言われようと 私は彼女を―――ラブを愛してしまったのだから 私の色に染めたかった 私だけの物にしたかった でも。 私は何かが足りなかった。 悪魔にはなりきれなかった。 ラブ…。 私も…人間なの。 「もうみんなの所へ帰って」 「やだ」 「お願い」 「そんな事…出来ない…」 彼女を見ていると、本当に居た堪れなくなった。 自分の過ちもそう。全てを後悔した。 もう一度やり直せるのなら。 私は全てを投げ打って、彼女と―――幸せになりたい 「ご両親が心配してるわ。だから、お願い」 「せつな…。約束して」 「えっ?」 「もうどこにも行かないって。あたしを悲しませないって」 「ラブ…」 「わかった」 精一杯の返事だった。正直、私は自信が無かったから。 例えこの先、もう二度と会えなくなっても。 この一瞬が私には、最高の幸せだったのだから。 ラブは偽りの無い瞳と言葉で―――私を包んでくれたのだから。 あなたの瞳が好き あなたの笑顔が好き あなたの声が好き あなたの姿は眩しすぎて あなたの事が本当に――― ラブ、ごめんなさい いつも正直になれなくて 本当に…ごめんなさい ~END~