約 228,405 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4056.html
結局その後、俺達は飲めや騒げやなんとやらで一晩中宴会場で騒いでいた 分かった事は喜緑さんは備中と呼ばれる城下町出身の飯綱使で、眼鏡の男の人と一緒に旅をしていると言う事ぐらいだ。 その眼鏡の人は自分の名前が分からないらしく、それを含めた全ての記憶を探す旅をしているんだとか ==宴会所・朝食== ハルヒ「ねえアンタ」 眼鏡の男「なんだね?」 ハルヒ「なにか呼ばれたい名前とか無いの?眼鏡の男じゃ違和感があるわ」 眼鏡の男「そんなものはどうでも良かろう」 ハルヒ「でも眼鏡の男じゃなんかあれよねえ…」 喜緑さん「う~ん、そうですね。あ、そういえば東の方の城下町では会長なんて呼ばれてますよ?」 古泉「会長とは?」 喜緑さん「私もよく分らないんですけど…『短筒を愛する会』と呼ばれる集りのまとめ役を会長と呼ぶらしいんです」 ハルヒ「決まりね!そっちの方が呼びやすいし!アンタこれから会長って呼ぶわ」 会長「お、おいそんな勝手に…」 キョン「まあ、いいじゃないですか。眼鏡の人より呼びやすいですよ。」 会長「…まあ呼ばれ方にはそう拘らん。それより君達は此れからどうするんだね?」 キョン「此処でもう少し掘り出し物を探してから…比叡山に行こうと思っています」 会長「比叡山だと…?あらゆる生命を司る神々の住む領域…人呼んで【神霊域】と呼ばれるあの場所へか…?」 キョン「ええ、あそこが一番手っ取り早く腕を鍛える事が出来ると思うんです」 喜緑さん「やめた方がいいと思います…あの洞穴は神の領域。私の母もあの地で命を…」 キョン「・・・・」 会長「好きにすれば良い」 喜緑さん「でも・・・」 会長「止めはしない。だがもう少し時を置いても良いんじゃないか?」 キョン「・・・?」 古泉「具体的にどうすれば良いのでしょうか?」 会長「相模天狗の森に行け」 古泉「!」 ハルヒ「何よその相模天狗の森っていうのは」 古泉「僕から説明します。この城下町を少し北へ行ったところに一際不気味な森があります。それを万民は『天狗の森』と呼びます」 キョン「なんだそりゃ?天狗と戦えとでも言うのか?」 会長「その通りだ。今の君達の力がどれ程の物かは知らん。だが相模天狗と言えば古来より伝承されてきた仙術を駆使する、いわゆる仙人だ。噂によれば、かなり好戦的とも聞く。経験に勝る知恵無しとでも言うべきか…比叡山に行くつもりならその前に寄ってみて損は無いだろう。腕試し、と言ったところか」 キョン「なるほど…わかりました。色々ありがとうございました」 喜緑さん「良いんです。久しぶりに楽しかったですし・・・そうだ!今日は皆様一緒に相模市場を周りませんか?」 ハルヒ「いいわよ!有益な情報を提供してもらったし人数は多い方が楽しいわ!!」 古泉「どうやら決まりのようですね。」 長門「・・・決まり」 うお長門! 今日初めて声を聞いたぜ あれ・・・朝比奈さんは? ハルヒ「みくるちゃんなら知らない女の子に連れられてどっか行っちゃったわよ。アタシも起きたところで寝ぼけてたから止められなかったのよね」 な、なんですとっ!? ==相模城下町・市場== ???「どうだいこのお茶っ葉!めがっさいい品じゃないかなっ!!どうにょろ?」 みくる「いい品ですぅ~これも買いですぅ!」 ???「はい毎度ありぃ!」 みくる「このお店は広くて大きくてどんなお茶っ葉でもありますぅ~凄いですぅ」 ???「相模市場の中でもこの鶴屋商店はめがっさ人気の店なのさ!刀、鎧、薬、食糧なんでもござれって感じだねっ!」 みくる「こんないい店に連れてきてくれて嬉しいですぅ。本当にありがとうございますぅ~」 ???「良いって良いって!うちの親父がやってる店だからねこれっ!」 みくる「ふぇえ~!?そうだったんですかぁ?」 鶴屋さん「そうそう!アタシのことは鶴屋さんって呼んでくれていいよっ!」 みくる「私は朝比奈みくるって言います。宜しくです鶴屋さん」 鶴屋さん「よろしくっ!」 会長「私も見たぞ。確か鶴屋商店の若い娘に連れられていったな」 ハルヒ「鶴屋商店?」 会長「相模商店の中で最大の権力を持つ鶴屋家の営む店だ」 キョン「とりあえずその鶴屋商店に案内してください!」 会長「うむ。急ぐのならば走るぞ。付いてこい」 みくる「あ、みなさぁ~ん」 鶴屋さん「ん?みくるの知り合いにょろ?」 みくる「旅の仲間なんです」 キョン「あっ朝比奈さん・・・・ぜえぜえ・・」 ハルヒ「あんた早いわよ・・・はあはあ・・」 会長「こっ・・・これぐらいの速度で無ければ走るとは言わん・・・」 喜緑さん「何気合い入れて走ってるんですか・・・もう・・・」 会長「き、気合いなど入れてない!」 喜緑さん「隠したってバレバレですよ~」 会長「ま、全く何を言っているのだか」 古泉「それより朝比奈さん、ご無事で何よりです」 長門「何より・・」 みくる「ふ、ふえ?」 鶴屋さん「そういう事にょろか~ごめんよーこの子があんまりにも可愛いもんだからつい手を引きたくなったのさ」 うほっ・・・いつか見た相模美人・・・ この店の人だったんだな 流石にいい店にはいい美人がいると言ったところか・・ しかし・・・朝比奈さんまでとは言わないが・・・大盛り・・・って何を考えているんだ俺は!? 話を聞くところによると、鶴屋さんは宿屋にある物を配達しに来たらしい その時に宿の入り口で寝起きの背伸びをしている朝比奈さんを見て何となく自分の店に連れて行きたくなったらしい 動機が素晴らしく無茶苦茶だな…この人は それから遠慮する俺達を遮り、鶴屋さんがお茶と団子を御馳走してくださった ハルヒも長門も鶴屋さんとは非常に気が合うらしく、まあこれはこれで良かったと思っている。 楽しい時間を過ごす内に、日はやがて傾き、俺達は宿に戻る事になった 長門も古泉も鶴屋商店で自分の買い物をすませたらしい さて、あと一つだな・・・ ==宿屋・キョン、古泉部屋== 朝、ゆっくりと顔を見せる日の出を見つめながら、俺は一つの懸案事項を抱えていた。 それは平泉の洞窟で手に入れたこの刀…鋼忍刀(義経刀)の事である。 キョン(なぜ抜けないんだ・・・?) そう、抜けないのである。 洞窟で一度抜いたきり、後から何度やっても鞘からこの刀を抜くことが出来なかったのだ 俺が足りない頭を動かして、必死に鞘から刀を抜く方法を考えていると古泉が起きてきた 古泉「…どうもおはよう御座います。どうかされましたか?何か思い詰めているような顔付きですが・・・」 キョン「ああ、少しな」 古泉「僕で良ければ御話を伺いますよ?」 古泉「成程…つまりあれから一度も抜刀していないと?」 キョン「ああ、手入れも出来ない」 古泉「昨日、鶴屋さんに少しお話を伺ったのですが、この町の外れに宗兵衛と言う名匠が住まれていらっしゃるそうです。その方なら何か分かるかも知れません」 キョン「そうだな。今日はそこに行ってみるか」 古泉「お供しますよ。涼宮さん達はどうされます?」 キョン「あいつらも連れて行こう。特にハルヒは愛用の双剣が欠けちまったらしいからな」 古泉「了解しました」 ==相模城下町付近・山道== 鬼道丸「あの民家か…」 影の軍中忍「そのようです。捉えますか?」 鬼道丸「その必要は無い。私は頼み事を行う立場にいる。成らば、剣術家として最大限の礼儀を払うべきは、この私だろう」 影の軍中忍「相も変わらぬ剣術家精神…感服致します」 鬼道丸「行くぞ・・・」 ===相模町外れ・山道寄り== キョン「あの民家がそうなのか?」 古泉「町の人の情報によると、そうらしいですね」 ハルヒ「早くアタシの双剣直してもらいたいわ」 キョン「先に俺の刀を説明するぞ」 ハルヒ「別にいいわよ。アタシは急ぎじゃないし」 みくる「ふ、ふえええ!」 ハルヒ「どうしたのみくるちゃん?」 みくる「あ…あれ…」 ハルヒ「へ?」 みくる「ほらあそこに・・・」 ハルヒ「…!あれは」 キョン「どうしたハルヒ?」 ハルヒ「キョン、あれって影の軍じゃないの?」 黒い忍者服に身を包んだ群衆…間違いない!! キョン「!!・・・確かにそうだ!」 ハルヒ「まさか…」 古泉「どうやら目的は僕達と同じあの小屋にあるようですね」 ハルヒ「何をしに来たのかしら?」 キョン「何でもいい!あいつらの事だから何か悪事を仕出かすに違いない!」 古泉「しかしその考えは聊か早計では…」 ハルヒ「あいつらは信長が動かす影の軍よ?いい事なんかする筈ないわ!!」 そうだ、あいつらが今までどんな事をしてきたか考えれば俺達が成すべきことは決まっている!! キョン「行くぞみんな!」 涼宮ハルヒの忍劇11
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/19.html
ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その3から 飛行機は快調に空を飛び、涼宮ハルヒは俺の二の腕に盛大に頭をぶつけて眠っている。 「おい、ハルヒ。起きろ、飯だ、機内食だぞ」 「ん……あ?」 「どっちにしろ寝ちまうんだな」 「"What would you like, beef or fish? 」 「ああ、うん。……キョン、あんた、魚とお肉、どっちがいい?」 「ああ、肉にするか」 「Can I have the fish meal ? He says he d like to have the beef.(わたしは魚料理をちょうだい、彼は肉料理を食べたいそうよ)」 「いまさら驚かんが、英語もできるのか?」 「親父の持論だと、ハロー、プリーズ、サンキュの3つとクレジット・カードがあれば、どこへ行ってもなんとかなるらしいけどね」 ハルヒがトイレに立った時、ハルヒの母さんが寄ってきた。 「キョン君、ありがとうね」 「ハルヒの飛行機嫌いのことですか?」 「ハルが小さいときに乗った飛行機で、車輪が出ないトラブルで胴体着陸したことがあってね。最初に相談しとこうかとも思ったけど、あの娘、気を使われたりするの嫌がるから」 「そうですね」 「まあ結局、何に乗るか、よりも、誰と乗るか、が重要ということね」 ハルヒがトイレから戻ってきたので、ハルヒの母さんは一度通路側に出て、ハルヒを通らせる。 「なんの話?」 「ねえ、セネカだったかしら?『大事なのは何を食べるかではなく、誰と食べるかである』というの?」 「知らない。キョン、知ってる?」 「いや、わからん」 ハルヒの母さんは肩をすくめた。次にハルヒが肩をすくめ、最後に俺が肩をすくめた。 「何やってんだ、おまえたち?」 と親父さんが言って、3人のパントマイマーは我に返った。 その後、いつのまにか俺は眠っていたらしい。 ハルヒの話では、ハルヒの左手を握りしめて、どうやっても離そうとしなかったのだそうだ。 「ったく、律儀というかバカというか」 あきれた声でハルヒは言った。 「で、結局どうしたんだ?」 「何が?」 「どうやって、手を振り解いたんだ?」 「叩いたり、つねったり、ぺろんと舐めたり、いろいろしたんだけどね」 「舐めたのか?」 「効果はなかったわね」 「うむ」 「結局、耳元に『トイレに行きたいんだけど』というのが正解だったわ」 「……」 それがパスワードか……俺のキーロック。 「ったく、律儀というかバカというか」 結局、俺が再び目覚めたのは、飛行機の車輪が大地を踏む瞬間の、ドスンという振動によってだった。 「つ、着いたのか?」 飛行機は飛行場の上をしばらく向きを変えながら走りつづけていく。 「着いたわよ」 ハルヒは笑っていた。 「寝てる人間にシートベルトをしめさせるのは骨が折れたわ」 「ああ、すまん」 「冗談よ。寝ぼけてない? 大丈夫、キョン?」 ハルヒは自分の右手を俺の顔の前で振ってみせる。 「あ、それと、これ、ありがと」 これ、というのは、俺の右手に握られたハルヒの左手だった。目の前で見せられて、何故か反射的に手を離してしまう。 「お、おう。どういたちまして」 痛っ、舌かんだ。 バカ笑いするハルヒ。 それを見て親父笑いする親父さん。 完全に止まってから、との指示を待たず荷物を出そうと立ち上がる他乗客のみなさんの目をそれほど引かなかったのは不幸中の幸いだった。 ハルヒはよほどツボにはまったのか、タラップを降りながら、まだ笑ってる。 「というより、あんたの笑いの取り方は反則よ、人倫にも劣るわ」 目に涙までためてやがる。 「そうだそうだ。笑わせるためなら尻まで見せる芸風だ」 そこに親父パワーが上乗せされる。 「別に笑いを取りに行ってないぞ」 「じゃ天然? えーん、どうしよう、親父。キョンが本当のバカになっちゃった」 自分が吐きだす一言一句に、反応して笑っているのだ、こいつは。まったく、いまいましい。 「なんだ、それっておれのせいか? キョン君、自分の墓穴は自分で掘れ」 そこに親父さんのハードボイルド(?)なボケが上乗せされる。この父娘(おやこ)、実は息もぴったりじゃないか。 飛行機を降りて地上に足を降ろすと、空港は夕暮れ時にもかかわらず、南国らしい夏の熱気を残していた。 こうなると(そういや、いつのまに着替えたんだろう?)ハルヒの親父さんの着ている派手なアロハ・シャツが妙に似合う。まだ会ったことはないが、こういういでたちの人が、現地にたくさんいそうな気がする。 俺たちは滑走路の脇の歩道を、ぶらぶらと空港の建物の方へ歩いていった。 出発の時より、さらにあっさりと、入国その他の手続きは片付いた。 飛行機の旅は、それでも負担ではあったらしく、感情的には上機嫌なハルヒは、体のほうは憔悴しているらしく、めずらしくも俺の腕を杖の代わりに握っていた。 しかしそれもトランクを受け取る頃には、ハイ・テンションが疲労感を凌駕したらしく、まるで誰かに見られたらまずいところを見られでもしたように、ぱっと手を離し、手はそのままハルヒの頭の上にあがったままで止まった。まさにホールド・アップの状態。 「傷つくなあ、なあキョン君?」 と、しなくてもいい心理描写をしてくれたのは、無論ハルヒの親父さんである。 「うっさい!」 今度はアドレナリンとトランクを身の支えにして、さっさと行こうとするハルヒ。 「バカ娘、ここは右も左も分からぬ外国だ、軽率な真似は慎め。予約してあるコテージまではレンタカーでいくから、ちょっと待ってろ」 親父さんは背中に「ワクワク」といった文字を背負うがごとく、人の波をかいくぐりながら目的のカウンターへと進んで行く。 「何が外国よ。日本語も英語も使えそうじゃない」 「暗くなってきているからよ。言葉が分かっても、意に添う人とはかぎらないわ」 ハルヒの母さんはニコニコと、空港の出口でプラカードをもって飛び跳ねている連中たちに目をやった。 「たとえばね、……『鈴木様、田中様、格安タクシー』というの見える?」 「あんなのに引っかかる奴なんていないわよ」 「おい、ハルヒ、どういう・・・」 うっ。言い終わる前に肘をいれるな。 「確かにこういう善良すぎる日本人もいるっちゃいるわね。……簡単に言えば、モグリのタクシーよ。メーターなんかついていない。こっちが道が分からぬことを良いことに、デタラメに走ってとんでもない金額を請求するのよ。日本人ってのはお人よしだから、日本語で書いてあれば山田さんだろうが佐藤さんだろうが、それだけで警戒心を緩めちゃうの、誰かさんみたいにね」 「俺は、別にだな……」 用が済んだらしく、にかっと笑った親父さんが戻ってくる。 「カーナビぐらい、おごりやがれ、べらぼうめ、と言ってやった」 「どこの江戸っ子よ?」 「そしたら、うちの車はぜんぶカーナビつきだとさ。矢印どおり走ればいい。ハルヒ、運転するか?」 「誰が?」 「家族と彼氏の命も預けられないような娘に育てた覚えはないぞ」 「眠いから相手しないわよ」 「飛行機の中じゃずっと寝てたじゃないか、キョンの腕の中で」 「何の中だって!?」 「じゃあ膝枕か?」 「どうやってシートベルトしめんのよ!?」 「はいはい。空港で親子漫才なんて、家族仲良くて母さんとてもうれしいけれど、お腹がすいちゃったわ」 このメンバーで事態を収拾してくれるのは(それができるのは)、いつもハルヒの母さんである。感謝します。 「それじゃあ、街で何か食っていくか。ハルヒ、マクドナルドを襲うぞ。お前はビッグマックを30個、おれはてりたまバーガーを25個だ」 「こんなところで村上春樹読んでる奴なんていないわよ」 「あと、少しは買い物もしないと、明日から食べるものがないわ」 と冷静な意見を述べるハルヒ母。 「聞いてのとおりだ。我々はミッションを変更して、レストランとスーパーに立ち寄ってから基地(ベース)へと帰還する。質問は?」 「というか、それが予定どおりじゃないの?」 「じゃあ、出発!」 夕食は最初に目に入った店に決めようと言う「ハラペコ事前協議」に基づき、大きな交差点にある、国際的な(?)ファミレス・チェーン店のような店に自動的に決まった。 車を駐車場に止めて中に入った俺たち4人は、無節操に多国籍なメニューを制覇するほどの勢いで注文し、そして食べた。 ハルヒの「やせてるくせに大食い」特性については言うまでもないだろう。 そしてハルヒへの遺伝子提供者もまた、そうした特性を持っていたとしても不思議ではない。 ガタイのいい親父さんは、その体と悪知恵とマシンガン・トークを維持・活動させるに必要な相当量の食料を摂取した。 ハルヒの母さんは、小柄で軽そうな外見にも関わらず、終始マイペースで食べ続け、結果として皿の山を築いた。 俺もどちらかといえば小食な方ではない。何よりも、ここは日本でなく、いつもの集合場所の喫茶店でなく、さらに言えば俺の奢りではない。ここでは、涼宮家の3人に、いかほども遅れをとらぬ大食漢ぶりを披露したとだけ記しておこう。 俺たちが宿泊するのはコテージであり、基本的に食事は自炊なので、俺たちは次に明日朝以降の食料調達を行うべく、夜10時まで開いているらしい大型スーパーへ向かった。 そこで、牛のように巨大なショッピングカートを、親父さんと俺とで1台ずつ押し、そこへハルヒ母とハルヒがどんどん食材を放りこんで行く。競り合いのようでありながら、ダブったものは何一つないという母娘のコンビネーション。 「いつもですか?」 俺はこっそり隣の親父さんに聞く。 「どうだろうなあ。日頃、あまり買い物に付き合わんからな。母さんは体力がないから、普段は通販なんか利用してるみたいだし、気合が入ると中央市場へ買い出しだしな」 「ほんとは品物を見て買う方がよいけれどね。最近は宅配もいろいろあるし、ネットスーパーなるものもあってね。その日の広告をネットで見て午前中に注文しとけば夕方に配達に来てくれるわ。主婦もいよいよ引きこもりの時代なのかしら」 親父さんが運転する車は、夜のなかをカーナビの矢印だけを頼りに進み、それでも十数分でコテージの管理棟のようなところに着いた。 親父さんはそこで鍵やら備品一式を受け取ってサイン、それを後部座席のハルヒの上に放り投げて出発。ハルヒは当然わめくし暴れるが、親父さんはゲラゲラ笑いだけで応じる。 数分、車で進むと、どうやら俺たちが泊まるコテージへと着いたようだった。 親父さんはガレージに車を止め、親父さんと俺でトランクをコテージの中に運び込む。 ハルヒの母さんとハルヒは、何往復かして(無論、おれたちにも手伝わせて)買い込んで来た食料をキッチンに運び込んだ。 コテージは、中央に大きなリビングがあって、その正面は大きなベランダがあり、そこから先はこのコテージ利用者のためのプライベート・ビーチとなっている。 ベランダを正面にして、リビングの左手にはキッチンや風呂、それとは別のベランダから直接入れるシャワールームなどがあり、リビングの右手には、手前から大きな寝室、中ぐらいの寝室、同じく中ぐらいの寝室、となる。 「あー、ごほん」 親父さんがわざとらしく咳払いをする。 「長旅ご苦労。飯も食ったし、後は順次、風呂に入って寝るだけだ。明日から気が狂うまで遊ぶから、それに備えて、各自英気を養うように」 そして、咳払いをもう一つ。 「なお部屋割りだが、手前のでかい寝室は俺たち夫婦が占拠する。異論は認めん、たまには年長者を敬え。なお、残りはおまえら好きに使え。父は心の準備はできてる。以上だ」 言うだけ言って、親父さんは風呂へ退避する。さすがのハルヒもハダカの親父は苦手分野のようだ。 「何言ってんのよ!バカ親父」 と、せいぜい見えなくなった親父さんに怒鳴るくらい。 「ちなみに、母も心の準備はできてます」 ニコニコと目を細くして微笑み、追い打ちをかけるハルヒ母。 「母さん!」 リビングのソファに、距離を開けて座り、親父さんとハルヒの母さんが、寝室(大)に消えるのを、二人して見届けた。 ハルヒと俺のトランクは、まだリビングに置いたままである。部屋を決めないと、着替えも取り出せず風呂にも入れない訳だが、親父さんの呪いか、いらぬプレッシャーのせいか、なんだか「先に動いた方がやられる」状態に陥ってないか、俺たち? 「と、とりあえず」 小一時間ほど続いた沈黙は、ハルヒの声で破られた。 「あたしが真ん中の部屋を使うから」 「ああ。端の部屋が俺だな」 「じゃあ、そういうことで」 「おう」 ハルヒと俺は、トランクをそれぞれ自分の部屋に押し込んだ。 ベッドに腰を下ろし、荷物も解かず、しばしぼーっとしているとノックがあった。 「あ、はい。どうぞ」 「いや、開けなくていい。……キョン、お風呂、あたし、先にいいかな?」 「……ああ、かまわんぞ」 「じゃあ、お先に」 「ああ」 しばらくして「これはまずい」ということに、俺はようやく気付いた。 リビングはそこそこ広いと言っても、俺の部屋はそのリビングを挟んで風呂の対面にある。 水音とか、シャワーの音とか、人間誰でも汚れを落としたりお湯の温かさでリラックスしたりすると漏れる声だとか、ダイレクトに届いてしまう位置ではないか、この部屋は。 喧噪を離れ、BGMは波の音だけ、という心もとない状況では、そうした音を遮るのは風呂のドアとすでに無人のリビングと薄い俺の部屋の扉だけだ。 し、静まれ、俺のジョン・スミス。 どれくらい経ったのだろう。俺はノックの音に我に返った。 「キョン、お風呂空いたから」 「わかった」 ハルヒが自分の部屋のドアを閉じる音を確認してから、俺は部屋を出て風呂へ向かった。 適当に旅の汗を流して、そそくさと部屋に戻って、そのままベッドに倒れ込む。 すると、枕元の電話が軽い電子音をたてた。って電話? 「もしもし。ディス・イズ・キョン・スピーキング?」 「室内電話。どっからかかってきたの思ったのよ?」 ハルヒか。すぐ隣なのに、なんだって電話なんてついてるんだ? 「……寝ぼけてたんだよ」 「今、部屋に入った音がしたわよ」 「……」 「キョン、そっちの部屋はどう? こっちのべッドは広いわよ。あんたんちの1.5倍はあるわね」 「うちのはシングル・ベッドだからな」 「いつも2人だと狭い感じがするわね」 「こらこら、『いつも』とか、いつもみたいなこと言うな」 「すぐ隣にいるのに室内電話ってバカみたいね」 「まあな」 そしてかけてきたのはお前だぞ、ハルヒ。 「キョン、あんた、ちょっとこっちに来なさい」 「は?」 その5へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1039.html
さて、静かな時間が進んだのは、翌日の朝までだ。どうやら嵐の前の静けさって奴だったらしい。 日が昇るぐらいの時刻、前線基地の北1キロの辺りを警戒中だった小隊が数十両に上る車両に乗った敵が 南下してきていたのを発見したのだ。ハルヒと一緒にいた俺は小隊を引き連れて迎撃に向かったのだが…… 「おいドク――じゃなくて衛生兵! 負傷者だ来てくれ!」 俺は道の真ん中で鼻血を垂らしている生徒を抱えて叫ぶ。 だが、民家の路地で敵と撃ち合っていた彼には声は届かない。幸い、近くにいた別の生徒が俺の呼びかけに気がつき、 衛生兵の生徒をこっちによこさせる。 どこを撃たれたんだ!と叫ぶ彼に、俺は、 「足だ! それでもつれた拍子に頭から転んだ! 意識もなさそうだ!」 彼はわかったと言い、処置を始めようとするが、なにぶん道のど真ん中だ。そんなことを敵が許してくれるわけがない。 近くの民家の二階からシェルエット野郎がひょっこり姿を現すと、俺たちめがけて乱射を始める。 足下のアスファルトに数発が命中して道路の破片が飛び散り、俺の身体に振りかかった。 「邪魔すんな!」 俺はそいつめがけて撃ち返すと、あっさりと民家の中に引っ込んでしまう。 北山公園じゃ乱射して絶対に隠れたりしなかったくせに、ここに来てチョコマカと動くんじゃねえよ。 何はともあれ今の内に俺たちは負傷者を抱えて道路脇まで運ぶ。しかし、ここでも悠長に治療なんてやっていたら、 そこら中から銃撃を加えられるだろう。何せ、俺たちの周りに立ち並ぶ民家のどこに敵が潜んでいるのかわからないのだ。 とにかく、学校に負傷した生徒を戻すしかない。 俺は無線を持った生徒を呼びつけ、 「おいハルヒ! 負傷者だ! 数人つけてそっちに送り返すから、学校へ運んでくれ!」 『わかった! でも、さっき負傷者を満載したトラックを学校に返したばかりだから、ちょっと時間がかかるわよ!』 身近にいた二人の生徒に負傷者を担ぐように指示し、ハルヒのいる前線基地へ走らせた。 仕方がない。それでもこんなところにおいておく訳にはいかないんだからな。 負傷者を送り出した後、今度は2軒先の民家の塀の上から銃撃を受けるが、国木田が見事な腕前でそいつに弾丸を命中させる。 今じゃ、俺の小隊じゃこいつが最強の位置にいるからな。頼りにしているぞ。 と、国木田が俺の方に振り返り、 「キョン。3人減ったから結構パワーが落ちるよ。どうする?」 ここは前線基地から数百メートル北に位置する、住宅の密集地帯だ。ここを通り抜けられるともう前線基地の目の前に出る。 敵の侵攻を事前に察知した俺たちは、この住宅地帯で防御線を築こうとしていたんだが、 敵の動きが昨日とはまるで違うために苦戦続きだ。突撃バカみたいだったのが嘘のようで、 あっちの路地陰から銃撃を受けたと思えば、民家の屋根から手榴弾を投げつけたりしやがる。 しかも、ちょっと攻撃したらとっとと民家の海の中に消えてしまうのだ。 浴びせられる銃弾の量は昨日よりも遙かに少ないが、これは精神的にかなりきつい。 おまけに民家から民家へ器用にすり抜けていっているらしく、ハルヒのいる前線基地へも攻撃が加えられている。 もはや俺の防御線の意味がなくなりつつあった。 俺は国木田の指摘に、しばらく頭の脳細胞の血流を加速させて、 「どのみち、ここで防御していても犠牲が増えるばかりだな。大体ハルヒの方も攻撃を受けているんじゃ、 ここにいる意味が全くない。防御線を下げてハルヒたちの方に戻るぞ」 「賛成。その方が良いと思うよ」 国木田もいつものマイペース口調で賛成する。 俺の小隊はじりじりと南側――前線基地へ移動させ始めるが、 「敵車両だよ!」 国木田の叫び声とともに、路地から一両の軽トラックが現れる。普段その辺りを走っているようなタイプだが、 後ろの荷台には12.7mm機関銃搭載という凶悪な代物だ。そこにシェルエット野郎が3人乗り、 一人が12.7mm機関銃の火を噴かせ、他の二人はそれを援護するようにAKを撃ちまくる。 「撃ち返せ!」 俺たちは一斉に民家の塀の陰に飛び込み、車両めがけて一斉に射撃を始めた。 12.7mmの銃弾が塀に直撃するたびに、コンクリートの破片が飛び散る。 こいつが人間の肌に直撃したらどうなるのか。怪我なんて言うレベルじゃねえぞ。もはや人体破裂といった方が良い。 もう3度それを目撃する羽目になったが、絶対に慣れることはないと断言する。 しばらく銃撃戦が続くが、一人の生徒が撃ちまくっていた5.56mm機関銃MINIMIが12,7mm機関銃を乱射していた シェルエットマンに直撃。一番の脅威が消滅したと言うことで、俺たちは前に出て残り二人も射殺した。 だが、肝心の軽トラックはとっとと逃げ出した。あれだけ銃弾を撃ち込んでぼろぼろだってのにまだ動けるとは。 さすがは日本製とでも言っておこう。 敵が去ったのを確認すると、俺たちはまた前線基地へ向けて移動を開始した。 ◇◇◇◇ 「キョン! こっちよこっち!」 前線基地前にたどり着くと、ハルヒが手を振っているのが目に入る。しかし、隣接している住宅地帯には すでに敵が潜んでいるらしく、うかつに飛び出せば狙い撃ちされかねない状態だ。 案の定、俺たちの真上に位置する民家の窓から敵が飛び出してきて―― 「やばい!」 てっきりいつものようにAKで銃撃してくるかと思いきや、シェルエット野郎の手にはRPG7が握られていた。 真上からあれを撃ち込まれれば、ひとたまりもない! 俺は無我夢中でM16を撃ちまくる。放った銃弾がどこかに当たったのか、発射寸前に手元が狂い 俺たちとはあさっての方向の民家の壁に直撃した。だが、やはりぶっ放した野郎はとっとと民家の中に引っ込んでしまう。 「キョン! 後ろから敵車両2! 近づいてくるよ!」 国木田の声で振り返ると、また武装軽トラックが背後から接近中だ。もちろん、12.7mm機関銃の銃口が向けられている。 ここからじゃ、狙い撃ちにされる! ――その瞬間、バタバタという轟音とともに、俺たちの頭上に一機のヘリコプターが出現した。 「ようやく来たか!」 俺の歓喜の声と同時に、UH-1からミニガンの攻撃が始まる。まず、俺たちに接近中だった車両2つが吹き飛び、 今度は住宅地帯の屋根に向かって撃ちまくった。俺たちの頭上を飛ぶたびに、ミニガンの薬莢が雨あられと降りかかり、 指先に当たったときは思わず「アチイ!」と叫んでしまう。 しばらく掃射が続いたが、やがてそれも収まり前線基地の上空あたりでホバリングを始める。 と、無線機を持った生徒から無線を渡された。古泉からの連絡らしい。 『やあ、どうも。敵は大体つぶしましたから、今の内に移動してください』 「恩に着るぜ。助かった」 古泉は今小隊の指揮官からはずれて、UH-1のパイロットなんてやっていたりする。何でも本人曰く、 (何の訓練も免許もなくヘリの操縦ができるんですよ? せっかくだから操縦してみたいと思いませんか?) と、いつものさわやか顔でUH-1に乗り込んだ。とはいっても、学校の校庭に置かれていたものは輸送用らしく、 武装が一切ついていなかったので、学校のどこからか持ってきたミニガンを両脇キャビンに装着してあり、 それをヘリに乗った生徒が撃ちまくっている。なんだかんだで器用な野郎だ。 まあ、今の状況を仕組んだ奴から頭の中にねじ込まれた知識だろうが。 しかし、あの学校は4次元ポケットか何かか? 昨日はカレーと米が出てきて長門カレーができたが、今度はミニガンかよ。 「よし、敵の攻撃が収まっている内に戻るぞ」 俺たちは一気に前線基地の建物内までに戻る。そこにハルヒが駆け寄ってきて、 「キョン、向こうの様子はどうだった?」 「ああ、すっかり民家に敵が入りこんじまっているな。あっちこっちで敵が飛び出してくるんで まるでモグラ叩きだ。キリがねぇ」 「こっちもさっきから同じ状態よ。正面の民家から敵が出ては引っ込んでの繰り返し。むっかつくわ! もっと潔く突撃してきなさいよ!」 「俺に言われても困る」 そんなやりとりをしている間に、またガガガガとAKの銃声音が鳴り響き始めた、 だが、てっきり前線基地に向けた銃撃と思いきや、こっちには一発も飛んできていない。 代わりに前線基地上空を旋回していたUH-1があわてたように高度を上げ始める。 どうやら、ヘリが攻撃を受けているようだ。 ハルヒは無線機を通信兵から受け取ると、 「古泉くん! 大丈夫!?」 『ええなんとか。あまり高度は下げない方が良いですね。ちょっと驚きました』 「無理しないで。有希の砲撃が使えない以上、古泉くんのヘリが頼みなんだから」 『わかりました』 言い忘れていたが、現在長門の砲撃は自粛中だ。敵車両部隊の南下を確認した時点で、 それを阻止すべくありったけの砲弾を南下ルートの道路に撃ち込んだんだが、 調子に乗ってやりすぎたため、砲弾の残りが見えつつあるようになってしまったからだ。 こいつに関してはハルヒの指示とはいえ、俺も砲弾が無限にあると勘違いしていたことを反省すべきだろう。 しかし、ミニガンとカレーが出てくるなら、砲弾も一時間ごとに2倍に分裂するとかサービスしてくれりゃいいのに。 と、古泉との通信を終えたハルヒが俺のヘルメットをぽかぽか叩きつつ、 「なにぼさっとしているのよ、キョン! 敵がどっかに隠れているんだから、怪しいものに向かってとにかく撃ちまくるのよ!」 「それをやったから砲弾が尽きかけているんだろうが!」 そんなことをしている間に、前線基地正面の民家の窓からまた影野郎が出現だ。 しかも、狭い窓から3人が身を乗り出し、全員RPG7を構えて一斉発射だ。 「RPG! 隠れて!」 ハルヒの声が飛ぶと同時に、俺たちは物陰に隠れる、一発は前線基地前の道路に、2発はそれぞれ建物の壁に直撃する。 「みんな無事!? 怪我はない!?」 ハルヒの確認の声に、建物内の生徒たちが一斉に返事をする。どうやら、けが人はいないようだ。 俺がほっと無でをなで下ろしていると、またもやハルヒからの鉄拳パンチがヘルメットを揺るがし、 「だーかーらー! ぼさっとしていないでさっき出てきた奴に反撃しなさいよ!」 「さっきの仲間にかける優しさの1割で良いから、俺にもかけてくれよ」 ひどい扱いだぞ、まったく。 とはいっても腐っている場合ではない。第2射を撃とうと、同じ窓から出てきた敵めがけて撃ちまくる。 何とか、一発ぐらい当たったらしくいつものように敵がはじけ飛んで消滅した。主を失ったRPG7は、 そのまま窓から地面に落ちる。 「よくやったわキョン! ナイスショット! 学校に帰ったらみくるちゃんを――違う違う! ビールをおごってあげるわ!」 「未成年者に酒を勧めるなよ!」 こんなやりとりをしていると、つい俺の頬がゆるんでしまうのがわかる。 なんだかんだでハルヒの威勢の良い声が今はとても気持ちよく感じているからだ。 「また来た!」 今度は路地から2人の敵がそこら中に向けてAKを乱射し始める。それに対して、ハルヒは持っていたM14を構え、 2発発射。当然のようにシェルエット野郎2人に命中して飛散させる。大した奴だ。 「このくらいできないと指揮官は務まらないわ! 当然よ当然!」 得意げに笑うハルヒ。昨日ほど落ち込んではいないようだな。 ちなみに、ハルヒが持っているのは他の生徒が持っているM16A2ではなく、 どこからか引っ張り出してきたM14――しかも狙撃用にカスタマイズされたものだとか。 昨日北山公園に行ったときはM16A2だったが、途中でMINIMIに持ち替えて乱射していたらしい。 ところがこれがさっぱり敵に命中しないものだから、今では一発一発確実に命中させる方に転向している。 「下手な鉄砲も数撃ては当たる!なんて言うけどさ、あれって絶対に嘘よね。 昨日、あれだけ撃ちまくっても全然命中しなかったし。きっと弾を売っている商人が流したデマよ。 そういう連中にとってはいっぱい撃ってくれた方がどんどん売れて大もうけって寸法よ、きっと!」 根本的にお前の使い方が間違っているんだよ。とまあ指摘してやりたかったが、胸の内にしまう。 何でかというと、今度は前線基地前の民家の屋根上に10人くらいの敵が出現して、 こっちに銃撃を始めやがったからだ。 こっちも負けずに一斉射撃で反撃を開始するが、上からと下からでは差があるのは当然だ。 敵を一人やるまでにこっちは二人は負傷するという不利な状態だ。 「だったら、さらに上から撃てばいいのよ! 古泉くん! やっちゃってちょうだい!」 『了解しました』 ハルヒ指令の指示通り、古泉ヘリのミニガン掃射が始まる。もう敵どころか民家の屋根ごと吹き飛ばしている威力を見ると、 頼もしいような恐ろしいような。 「敵車両がまた来たよ、キョン! 三両も!」 「しつけぇな!」 東側を見ていた国木田から声の声に、俺は思わず出る愚痴を吐き捨てながら敵の迎撃に向かう。 先頭に一両で背後に2両が併走していた。当然どれも12.7mm機関銃付きだ。 とにかく、先頭の車両の連中をつぶそうと銃を構えるが、突然、背後の車両に乗っていた数人が RPG7を手に立ち上がった。前の車両はおとりかよ! やられた! だが、向こうが発射する前に敵の先頭車両が吹っ飛ぶ。さらに、後続の一両も同じように爆発で破壊され、 残った一両だけはRPG7を発射することなく、路地に逃げ込んでいった。 「へへん、やったわ! 作戦通りね!」 ハルヒは笑顔を浮かべながら、周りの生徒たちに向けて親指を立てる。 どうやらこっちも迎撃のために携行型のロケット弾あたりをあらかじめ用意していたらしい。 放たれたのは俺たちの隣の建物らしいので、具体的はわからないが。 やがて、さっき逃げ出した最後の一両も古泉ヘリがとどめを刺す。この時点で敵からの攻撃は完全に収まっていた。 「……収まったのか?」 「さあ、どうかな……?」 さっきから出ては引っ込んでの繰り返しだからな、俺とハルヒもすっかり疑心暗鬼になっちまっている。 そのまま、1時間が過ぎたが結局なにも起きず。その間、神経張りつめっぱなしで銃を構えていたもんだから、 いい加減疲れたのかハルヒが座り込んで、 「ちょっと一休みするわ。あ、キョンはそのまま見張ってなさい」 鬼軍曹かお前は。そのうち、後ろから撃たれるぞ。 「あとで交代してあげるから。もうちょっとがんばりなさい。SOS団の一員でしょ」 「……SOS団であるかどうかは全く関係ないんだが」 結局、しぶしぶと俺は前方の民家に向けて警戒を続ける。しかし、敵は何でいきなり攻撃をやめたんだ? このまま、延々と攻撃を続ければ俺たちもどんどん消耗していくだけなんだが。 「バッカバカバカね。こんなのゲリラ戦の基本じゃん。いつ攻撃を受けるかわからないあたしたちは こうやってぴりぴりしていなきゃならないけど、向こうは数人こっちを見張っているだけで、 他はのんびり休息中ってわけよ。きっとホーチミンもそう教えていたに違いないわ」 わかるようなわからんような……そもそも常識はずれな連中だから、休息も必要ないだろうしな。 『涼宮さん、僕の方はどうしましょうか?』 無線で語りかけてきたのは古泉だ。そういや、さっきから延々と前線基地上空を飛んだままだったな。 ハルヒはしばらく考えてから、 「とりあえず、学校に戻って。ただし、すぐに飛べるようにしておいてね」 『了解しました』 そう言ってUH-1が学校に帰還する。一瞬、帰ったとたんに攻撃されるんじゃないかと緊張が走ったが、 敵は動こうとはしなかった。 ◇◇◇◇ それから数時間状況は動かず、俺たちは神経を張りつめながらひたすら警戒するだけの時間が続いた。 もう正午をすぎようとしている。そういや、このあり得ない世界に放り込まれてからようやく1日半か。 一年ぐらいいるようなくらいの疲労感だが。 この一応平穏な時間の間に、前線基地の南側に北高からトラック輸送部隊が来て弾薬やら食料を置いていった。 死者や負傷者と入れ替える予備兵も到着する。 ハルヒはせっせと指示を出していたが、戦死した生徒や重傷者を乗せて帰って行くトラックを見送ると、 おもむろにメモを取り出してなにやら書き込み始めた。 「……なにやってんだ?」 「…………」 俺の問いかけにも反応せずハルヒは一目散にボールペンを走らせ続ける。それも普段にないような真剣な目つきでだ。 ちらっとのぞいた限りでは名前が延々と列挙されていた。これってまさか…… 「……ふう」 ハルヒは全部書き終えたのか、パタムとメモ帳を閉じた。 そこでようやくハルヒをのぞき込むように見ていた俺に気がついたのか、 「なっなによ! なんか用!?」 あからさまにびびったような声で抗議する。気がついたら俺とハルヒの顔の距離が30センチ未満だった。 俺もあわてて、ハルヒとの距離を取ると、 「いや……なにやってんだと聞いていたんだが」 さっきと同じことを聞く。するとハルヒはメモ帳をぴらぴらさせながら、 「死亡した生徒と負傷した生徒の名前を書いていたのよ。指揮官たるものそう言うのは逐一把握しておくもんでしょ? って、なによその意外そうな目つきは!」 「何にも言ってねえだろうが」 変な疑いをかけるなよ。俺はただ単にハルヒがしっかりしているんだなと感心しただけであってだな―― と、ハルヒは俺の抗議を無視して目をそらすと、 「でも、そんな精神論だけの話じゃないわ。昨日と併せて、死者はすでに70人を越えているし、 負傷者も50人に達したのよ。しかも、ほとんど戦えるような状態じゃない生徒ばかり。 やっと1日半だけど、すでに生徒の半数近くが戦闘不能になっているじゃ、この先どうすればいいのか……」 そうあからさまに不安げな表情を浮かべた。ハルヒの言うとおり、確かに人員不足は否めない。 前線基地には常に50~80人は詰めているので、相対的に北高の守備隊や長門の砲撃隊、 さらに朝比奈さんの輸送や医療のチームがどんどん削減されている状態だ。 後方支援を削って前線を守っているんだからほとんど共食いに等しい。 大体、敵とこっちじゃ条件があまりにも偏りすぎているってんだ。相手は戦車や爆撃機を使ってこないとはいえ、 シェルエット野郎は無限に出現してくるし、武装トラックもどこからともなく現れやがる。 あまりにフェアじゃねえ。一方的すぎる。もてあそばれている気分だ。 だがハルヒは首を振りながら、 「敵があたしたちの要望なんて聞いてくれる訳がないじゃない。あたしがうまくやっていないだけの話よ。 もっときちんとみんなを守っていれば……」 そう肩を落とすハルヒ。俺は何とか励ます言葉を考えるが、どうしてもいい励ましが思いつかない。 こんな俺に果てしなく憂鬱だ。 「あーやめやめ! お腹がすいているからこんな暗いことばっかり考えるんだわ。ご飯食べてくる!」 ハルヒは2・3回頭を振ってから、先ほど届いたばかりの缶詰の山をあさりだした。 まあ、確かに腹が減ってはなんとやらだしな。俺も食うか。 と、このタイミングで古泉からの連絡だ。 「何の用だ?」 『やあどうも。そちらはどうですか?』 「今飯を食おうとして、寸止めを食らったせいで大変不機嫌な気分だ」 古泉は無線機越しに苦笑しながら、 『それは失礼しました。なら後にしましょうか?』 俺はちらりと缶詰にがっつくハルヒを確認してから、 「いや、せっかくだから今の内に話せることは話しておこうか。またいつ敵が襲ってくるかわからんしな」 俺は飯を食うのはあきらめてハルヒの見えない位置に移動する。 「とりあえず、散々お前の援護には助けられたからな、礼を言っておくぞ」 『これはどうも。あなたから感謝の言葉をいただけるとは光栄ですね。今までの奉仕が実ったというものです』 気色悪い表現を使うな。 『しかし、ミニガンの威力はすごいですね。辺り一面を吹き飛ばす威力にはやっているこっちがぞっとしますよ。 しかし、実際に撃っている人は気分爽快らしく、フゥハハハーハァーとか笑いながらやっていますが』 「……その勢いで俺たちまで撃たないように注意しておいてくれ」 そんな笑い方をされると動くものすべてに撃ちまくるようになっちまいそうだ。 古泉は俺の言葉をジョークと受け取ったのか、苦笑しながら、 『それはさておき、そちらの状況はどうですか?』 「めっきり敵の攻撃が収まっているな。ただ大方その辺りの民家には敵が潜んでいそうだ。 こっちから仕掛けたりしたら返り討ちに遭うだろうよ。癪だが、今はここで粘るしかない」 『賢明な判断だと思います。今は現状維持に努めた方が良いでしょう。何せ敵はこっちが消耗するのを狙っているようですから』 ――ハルヒが缶詰を生徒たちに配っているのが目に入る―― 「学校の方はどうなんだ? いつ攻撃を仕掛けられてもおかしくない状況だが」 『北高への攻撃はまだないと思いますよ。少なくともあなたたち――涼宮さんが学校への籠城を指示するまではですが』 「そうか? 俺たちの消耗を狙うなら、学校を攻撃して武器弾薬を使えなくした方が効果があると思うんだが」 『お忘れですか? これを仕組んだ者は涼宮さんにできるだけの苦痛を与えることです。 通常の軍事作戦なら当然学校制圧を目指すでしょう。しかし、今学校を制圧されれば僕たちは降伏する以外の道はありません。 それでは意味がないんです。涼宮さんをほどほどに絶望させつつも、世界を改変するまでには絶望させない。 じりじりと追いつめていっているんです』 「……俺たちをこんなところに放り込んだ奴は相当陰険な野郎って事だな」 俺はいらつくながら頭をかく。 『全く同感です。しかし、学校制圧は当然この後のイベントとして考えているでしょうね。 ただ、今は前線基地で涼宮さんの精神の消耗に務めるはずです』 「イベントなんて言葉使うなよ。まるでこの戦争がただの催しみたいに聞こえるじゃねえか」 『戦争? あなたはこれが戦争だと思っているんですか?』 俺は珍しく語気を詰め読める古泉に少し驚いた。そのまま続ける。 『これは戦争なんて言える代物ではありません。戦争にはそれなりの理由があります。 民族とか資源とか国益とか、ある時は意地やプライドなどもあります。 しかし、それを実行するには大変な労力が必要な上、多くの人々の支持が必要です。 でも、今我々がいる世界はどれも当てはまりません。戦う理由もないというのに、 無理矢理知識とやる気を頭の中にねじ込まれ戦わされている。さらにその目的が一人の少女に精神的苦痛を与えるためだけ。 こんなものは戦争なんて呼べません。頭のおかしい者が仕組んだゲームにすぎないと思っています。 だからこそ、僕は腹立たしい。こんなばかげたゲームのためにこれだけ多くの人命を費やしているんですから。 成り行きで転校してきたとはいえ、9組にはそれなりに親しい人もいました。 ですが、その大半がすでに戦死しているんです。堪えるなんて言うものではありません』 口調だけ聞いても古泉のテンションがあがっていることがはっきりとわかった。あの全く表情を変えない古泉が。 一体、無線の向こう側ではどんな顔をしているんだろう。ふと、そんな考えが頭を過ぎる。 しばらく、古泉は黙りこくってしまうが、やがて大きくため息をつき、 『……すみません。こんな事を言うつもりではありませんでした。僕自身も相当追いつめられているようですね。 それが敵の狙いだというのに』 「構わねえよ。むしろ本音が聞けてほっとしているくらいだ。言葉は違ったが俺もお前と同じ考えさ」 古泉がこれだけ感情をあらわにするなんてことは今までに一度もなかった。 古泉の言うとおり、敵の狙いはそこにあるのだろう。だからこそ、たまにはガス抜きも必要だ。 俺は話題を変えて、 「で、長門からは何か進展があったとかいう話はないのか?」 『長門さんは喜緑さんとずっと学校の教室でこもりっきりです。僕らには想像を絶するような作業を行っているのかと』 そうか。長門はまだ突破口を見つけられていない。ならしばらくはこれが続くと見て良いだろう。 「そろそろ戻るぞ。あまり長話をしているとハルヒにどやされるからな」 『わかりました。では涼宮さんをよろしくお願いします。彼女も相当堪えているはずですから』 そう言い残して無線を閉じた。 ◇◇◇◇ 「何やってたのよ。せっかくのご飯がなくなっちゃうわよ」 まだがつがつ缶詰の肉を食いあさっているハルヒ。なんつー食欲だ。どんな胃袋しているんだ? 「食べられるときに食べておかないとね。ほらキョンも食べなさい。食欲がないなんて許さないわよ。 無理にでもカロリーを蓄えておかないと後が厳しくなるんだからね」 ハルヒから放り投げられた缶詰を受け取ると、俺もそれを食い始めた。 冷たくて大した味もしないのにやたらと旨く感じる。 ハルヒは細目で俺の方をにらみつけ、 「で、誰と連絡していたのよ。有希? みくるちゃん?」 「古泉だよ。というか何であいつを選択肢からはずすんだ」 「へー古泉くんとね……へーえー」 なんだその疑惑の目つきは。言っておくが俺から連絡した訳じゃない。それに俺はれっきとしたノーマルだぞ。 朝比奈さんを見てほんわか気分になれるほどにな。 「はいはい、わかったわよ。早く食べちゃいなさい」 しかめっ面なハルヒだが、そんな事で言われるとお袋を思い出すからやめてくれ。 で、そのまましばらくむしゃむしゃと食べていた俺たちだが、ふとハルヒが手を止める。 「ん……どうした?」 俺の問いかけにも答えずにハルヒはじっと怖い目つきで―― 次の瞬間、横に置いてあったM14をつかむと、前線基地前方の民家に向かって構える。 俺もあわててそれに続いてM16を取ったときにはすでにハルヒは発砲していた。 ようやく銃を構え終えたときには、シェルエット野郎がはじけ、手にしていたRPG7が地面に落ちる光景だった。 何で気がついたんだ? 「野生のカンってヤツよ! でも違うわ! あれじゃない! あと、古泉くんにヘリで援護してもらうように言って!」 訳のわからんことをわめくハルヒ。だが、同時に前方の民家の窓という窓から敵が飛び出して、 AKの乱射をはじめた。戦闘再開だ! まったく! 俺はひたすら窓めがけて撃ちまくったが、ハルヒはじっと構えたまま発砲しない。一体何を待っているんだ? と思ったら、民家の木製の壁を突き破って一台の武装トラックが出現した。さらにハルヒが待ってましたと M14で狙撃するが…… 「ミスっちゃった!」 素っ頓狂な声を上げる。ハルヒの放った銃弾は、フロントガラスをぶち破り武装トラックに乗っていた運転手と 荷台に載っていたAKをもったシェルエット野郎一人をつぶしたが、肝心の12.7mm機関銃の射手は撃ち漏らしたからだ。 壁からド派手に登場したトラックは今までとちょっと違った。器用にトラックの荷台の両脇に 鉄板のようなものが張り巡らせサイドからの銃撃を受けないようにされていた。 前後から攻撃するしかないが、後ろは論外、なら前面ならってそりゃ12,7mmの銃口を向けられているって事だろうが! ハルヒのミスったっていうのは、12.7mm射手を一番最初に仕留められなかったことを言っているのだろう。 ものすごい勢いで乱射され、こっちは建物の陰に隠れて身動きすらとれねえ。 こんなんじゃ、そのうち誰かに当たるぞ……と思った瞬間、移動しようとしていた生徒の脇腹を直撃――いや貫通した。 肉がさけるいやな音とともに、生徒の背後に血しぶきがぶちまけられる。くそ、この調子じゃ古泉が来る前に死者多数だ。 ハルヒは必死に地面にはいつくばりながら、撃たれた生徒に近づき、 「暴れないで! 傷口が広がるからじっとしてなさい! 衛生兵! 早く来て!」 何が起きたのかわからない状態になっている負傷した生徒を必死になだめる。 ちくしょう、このままじゃただ的にされるだけじゃねえか! ハルヒはやっていた衛生兵に負傷者を任せると俺の元に戻ってきて、 「このままじゃらちがあかないわ! とにかく、向こうの弾に当たらないように、牽制するの! あの車両のヤツの弾切れが狙い時だわ! あたしがきっちりと仕留めるから援護して!」 「わかった! てか、さっき使ったロケット弾みたいな奴はないのかよ! あれで吹っ飛ばした方が早いだろ! ないのか!?」 「さっきので打ち止めよ! みくるちゃんたちに探させているけどまだ見つからないって!」 「肝心なときに役にたたねえ4次元ポケット学校だな。わかった援護する!」 俺はハルヒとの意識あわせを終えると、近くにいた国木田を呼びつけ、 「あの野郎が弾切れを起こさせるように、牽制するぞ! 援護してくれ!」 「了解! 任せて!」 俺と国木田は交互に物陰から出ては、武装トラックに向けて発砲した。最初は狙い撃ってやろうかと思ったが、 目があったとたんに射殺されるシーンが脳裏に過ぎったので、とにかく何でも良いから乱射しまくった。 数分間この撃ち合いが続いたが、ようやく向こうが弾切れだ。給弾をはじめようとしたタイミングで、 ハルヒが身を乗り出して狙撃しようとしたが―― 「うへっ!?」 ハルヒの素っ頓狂な声が上がる。俺もあげた。当然だ。突然あり得ない動きで荷台左側の鉄板がぐるっと回って、 12.7mmの射手を覆い隠したからだ。おいレフリー! 今のはどう見ても反則だろ! 「あたしが出て仕留める!」 俺が考えるよりも早くハルヒがM14を片手に飛び出した。おいバカやめろハルヒ!と口に出す暇もない。 ハルヒは鉄板がなくなった左側から回り込み、数発発射して12.7mmの射手を仕留めた。 早く戻ってこい――げ! 「ハルヒ! 東側からRPGだ! 伏せろ!」 いつのまにやら発射されていたRPGがハルヒめがけて飛んできた。ハルヒは飛び込むように地面に伏せる。 その瞬間、ハルヒのすぐ手前の地面にRPGが直撃。衝撃でハルヒの身体が俺たちの方に転がってきた。 俺は全身から血の気が引く音をはっきりと聞いてしまう。 「ハルヒっ!」 もう頭よりも身体が先に動いた、銃弾が飛び交っているのにも構わず、俺は路上に飛び出して 倒れて動かないハルヒを物陰に引きずり込もうとする。だが、敵もそれを阻止すべく、路地の陰、民家の屋根や窓から 俺たちに向け銃撃を開始する。しかし、ようやく到着した古泉のUH-1がミニガンの掃射を開始し、 何とか被弾せずにハルヒを物陰に引きずり込んだ。 「おおい! ハルヒ! しっかりしろよ! 目を開けろ!」 俺は自分でもわかるほどに泣き出しそうな声でハルヒに呼びかける。すると、ハルヒは突然ぱっちりと目を開けて、 「あーびっくりした!」 驚きの声を上げた。俺は安堵のあまり全身の力が抜け、 「よかった……無事なんだな。心配させやがって!」 「なに!? さっきから頭の中で除夜の鐘がぐわんぐわん鳴り響いて全然聞こえないんだけど! もっとはっきり大声で言いなさいよ! 聞こえないじゃない!」 至近距離で爆音を浴びたせいだろうか、どうやら耳がおかしくなっているらしい。 俺はまた銃を握ると、 「そんだけ元気があれば十分だって言ったんだよ!」 「やっと聞こえてきた――ってあったりまえでしょ!」 怒鳴り返すハルヒを見る限り、全然無事だなこりゃ。 俺たちは国木田のいた位置まで戻り、また敵に向けて応戦を再開した。しかし、俺たちのちまちました援護なんかより、 古泉のミニガンの方が手っ取り早い。あっという間に民家を破壊しつくして敵を黙らせる。 「よっし、何とか押さえられそうね! 古泉くん様々だわ! これが終わったらSOS団団長代理にまで昇格させようっと」 こんな時までSOS団のことを考えてられるとは大した精神力だ。いや、ひょっとしたら今のハルヒにとって この非常識世界で唯一現実とつなぎあわせを求めているのがSOS団なのかもしれないが。 だが、そんな俺たちの安心感も、前線基地とされるサンハイツの最西端の建物が吹っ飛ばされたと同時に消滅する。 かつてない大爆発で、大地震が起こったんじゃないかと思うほどに地面と建物を揺るがした。 「な、なによなになに!?」 驚きのあまり路上に飛び出しそうになるハルヒを俺が止める。しかし、何だってんだ今の爆発は! 今までの比じゃねえぞ! 古泉のUH-1が状況を確認しに西側に移動する。しばらくして無線連絡が入り、 『まずいですね。原因はわかりませんが西側が木っ端みじんです。かなりの負傷者も出ています。早く救出を』 手短に古泉からの報告を終える。俺はハルヒの元に駆け寄り、 「ハルヒ。とりあえず、俺が西側に行って防御に入る。何人か借りていくぞ、いいな?」 「…………」 ハルヒはしばらく口をへの字にしたまま黙って俺をにらみつけていたが、やがてそっぽを向いて、 「……わ、わかったわよ。でも無理はしないでよ! いいわね!」 ハルヒの許可が下りたので、周辺にいた生徒9名+国木田を集める。 「よし、今から西側に移動するぞ。前線基地の裏側を通ってな」 「了解」 国木田と他生徒の同意の下、俺たちは西側へ移動を開始した。 ◇◇◇◇ 『気をつけてください。北側に広がる空き地には敵が多数潜んでいるようです』 「よし、すまんが空き地の敵を掃討してくれ。それが終わり次第、負傷者の救出に入る」 『わかりました。任せてください』 俺たちは今前線基地の西側にいる。ただし、正面――北側には敵方数潜んでいるので、 前線基地の裏である南側で待機中だ。 最西端の建物は木っ端みじんといっても良いほどに崩れていた。辺りにはここを守っていた生徒の破片――そうだ、 人間の破片ががれきに混じって散らばっている。あまりの凄惨さに吐き気を催しそうになった。 ドルルルルルと耳につく発射音なのか回転音なのかわからない騒音が辺りに響きはじめる。 古泉のミニガンが炸裂をはじめたようだ。 「よし、俺たちも表側に出るぞ」 俺の合図とともに、粉砕されたがれきを乗り越えつつ建物の残骸に身を潜める。 ハルヒのいた前線基地の中間付近とは違い、西側の正面には民家はなく空き地が広がっている。 起伏がそこそこあるために、その陰に敵が潜んでいるようだが、現在古泉がそれを掃討中だ。 起伏に隠れても真上からではいくら隠れても無駄だからな。 俺が残骸の陰から外をのぞこうとしたとき――目に入ったのは、空き地と民家の壁にぴたりと隠れるようにいた 武装トラックだ! しかも、こっちが来るのを待ちかまえていたように12.7mm機関銃を向けていやがる! とっさに頭を引いたとたん、ドドドと12.7mmの乱射が始まった。民家の残骸をさらに細かく粉砕していく。 さらに間髪入れずにRPG7が発射され、残っていた壁の一部が吹っ飛ばされた。 幸いそこには味方の生徒はいなかったが。 「手榴弾だ! 国木田頼む!」 「任せて!」 国木田が思いっきり腕を振って武装トラックに手榴弾を投げつけ、俺もそれに合わせる。 距離が遠いため武装トラックまでは届かなかったが、近距離での爆発にとまどったのか、 一瞬12.7mmの銃口があさっての方に向いた。 「撃て撃て!」 俺の指示で、一斉射撃による反撃開始だ。M16やら5.56mm機関銃MINIMIが一斉に火を噴き、 武装トラックを穴だらけにする。しかし、肝心の12.7mmの射手には当たらずまた銃口がこっちに向けられようとした瞬間、 トラックごと粉砕された。古泉ヘリのミニガンが炸裂したのだ。 『すみません。死角になっていたので気がつきませんでした』 「頼むぜ。お前だけが頼りなんだからな」 古泉に無線で釘を刺すと、俺たちはそこら中に転がっている負傷者の救助を始めた。 しかし、あれだけミニガンで掃射したってのに、まだ空き地からちょろちょろと銃撃してくる奴がいやがるおかげで、 容易には行かない。 「国木田! あとそこの4人! 物陰に隠れながら、俺たちを援護しろ! 敵が見えたら遠慮なく撃ち返せ! 他は負傷者を救助するんだ!」 俺たち救助チームは路上にかけだして、負傷者の回収を開始する。しかし、人間としての原型をとどめている方が 少ない状態だ。しかし、それでも虫の息ながらまだ生存している生徒も何人かいた。 俺はそいつらを担ぎ上げて、民家の残骸の陰に引き込む。 そんな調子で息のある生徒を5人ほど救出できた――いや、まだ戦場のど真ん中だから救出という表現はおかしいか。 古泉ヘリがまたミニガンで掃射を開始した。見ると、空き地の向こう側から数十人の敵が接近しつつある。 それを迎え撃っているようだが…… 「キョンあれ見て!」 国木田が俺の肩を叩き、近くの民家の屋根の上を指さす。そこには3人のシェルエット野郎が UH-1に向けてRPGを構えるとしていた。あれでヘリを攻撃する気か!? しかも古泉のヘリはそいつらにちょうど背を向けるような状態になっていて気がついてねえ! 俺は奴らに向けて銃撃を加えるように指示する一方、古泉に無線をつなぐ。 「おい古泉! 東側の民家の上でお前を狙っている奴がいるぞ!」 『む。それはまずいですね……』 こっちから必死に撃ちまくって阻止しようとするものの、距離が遠いために当たりそうにもない。 もう弾頭を空に向けて今にも発射しそうだ。どうする? 古泉に逃げろと言うか? いや、もう間に合わない…… 「古泉! そこから90度左に旋回してミニガンで吹っ飛ばせ!」 『……そうしましょうか!』 古泉はくるっと機体を90度旋回させる。ちょうどミニガンの目の前に敵があわれる形になり、 一気に掃射を開始する。即座にシェルエット野郎3人を吹っ飛ばしたが、時すでに遅し。 三発のRPGが古泉ヘリに向かって発射された――が、奇跡的にといっても良いだろう。 かろうじて機体を外れてどこかに飛んでいった。 「ぎりぎりかよ……あれを連発されるとまずいんじゃないか?」 『ええ、これでは掃射を行うにも高度をあげる必要がありますね。当然、命中率も下がるので、 無駄弾が増えそうですよ』 古泉はそう言い終えると、UH-1の高度をぐっと上げていった。それで勢いづいたのか、 敵がまた空き地にどんどん入り込んで来やがった。 しばらく、空き地側の敵と俺たちで銃撃戦が続いたが、突然背後でまた大爆発の轟音が鳴り響く。 って、何で背後から聞こえてるんだ!? まさか、また北高へのロケット弾とかでの直接攻撃か!? 俺は無線で学校に連絡を取ろうとするが、向こうはパニックに出もなっているのか、誰も応答しようとしない。 迫る敵に反撃しつつ必死に呼びかけを続けたが、やがて無線機から聞き覚えのある声が流れてきた。 『聞こえる?』 「長門か!? 何かあったのか!?」 『……学校と前線基地をつないでいた橋が爆破された。現在、そっちとは断絶状態』 俺は長門からの報告に絶句する。北高と前線基地の間には一本の小さな川が流れている。 歩いてわたるにはどうって事ないものだが、荷物を持って移動するには一苦労するだろうし、 溝のような構造になっているため、トラックでわたるのは不可能だ。それを唯一つないでいた橋が爆破された。つまり―― 『こちらから物資などの補給を送るのはほぼ無理になった。このままではそちらの弾薬が尽きるのを待つだけ』 「…………」 途方に暮れてしまう。他にルートはないのか? 光陽園学院前に川を渡る橋はあるが、 敵もわざわざ橋を爆破したぐらいだ。そっちからも通れないように何らかの手を打っているだろう。 どうすりゃいい? どうすりゃ―― 『何とかしたい』 そう言い放ったのは長門だ。いつもなら、頼もしい言葉に聞こえるが今の状況じゃ…… 『何とかする。約束する』 長門はそれだけ言い残すと無線を終了させた。ちっ、何だかわからんが、今は長門に期待するしかないのか!? また空き地側からの銃撃が活発になる。俺も反撃に加わって近づく敵を片っ端から銃撃した。 だが、無駄弾は撃てない。何しろ今手持ちの弾がなくなれば、もう何もできなくなってしまうからだ。 敵が増えてきたタイミングで、古泉ヘリからの掃射が始まる。空から学校に戻れるUH-1ならいくら撃っても 補給に戻れるからな。ガンガン撃ち込んでくれ! 古泉ヘリの掃射の間、俺は周りの生徒に発砲を控えるように指示する。とにかく節約だ。 さっきまで遠慮なく撃ちまくっていたのが懐かしいぜ。 この間に国木田が近づいてきて、 「キョン。このままだといずれはやられるのが保証済みだよ」 「わかっているが……だからとって負傷者を見捨てるわけにもいかねえだろ」 俺はちらりと振り返ると、あの大爆発で虫の息にされた生徒たちの方を見る。 呼吸を続けているところを見るとまだまだ生きながらえるはずだ。何としても助けてやりたい。 だがどうする? どうすればいい? 「とにかく徹底抗戦。後は何かが起きるのを待つ。それで良いんじゃない?」 いつものマイペース口調で国木田が言う。全くのんきな奴だ。だが、それしかないか。 ◇◇◇◇ 最西端の防御に入ってから1時間。俺たちはえんえんと北側の空き地から接近してくる敵を撃ち続けた。 その間、何も起きていない。長門からの連絡もない。たまに古泉ヘリが掃射で支援してくれるだけだ。 この間に生徒二人が射殺されていた。残りは9人。だんだん厳しくなりつつある。 「くそ、いつまでこれを続けてりゃいいだよ……」 「指揮官が弱音を吐くと周りに伝染するよ」 国木田はこんな状況でも自分のペースを崩さずに敵めがけて撃ち続けている。 だが、時間が過ぎたことによって一つの問題も発生していた。 『ちょっと悪い知らせです』 古泉から深刻な報告が来やがった。大体想像はつくが。 『ミニガンの残弾が10%を切りました。もう少ししたら学校に補給に戻らなければなりません』 今の状態では古泉の支援がなくなると言うことは、しゃれにならん。 俺は周りの生徒たちに残弾の報告をさせると、マガジン一つ分だけとか、今装填している分だけなんて返ってきているほどだ。 ヘリが去ったとたんに敵は一斉攻撃を仕掛けてくるだろうし、俺たちにそれを迎撃するだけの弾もない。 しかし、このまま上空を飛ばしているだけでは全く意味がないのだ。 『選択肢は二つあります。このまま支援を続けて、なくなり次第学校に補給に戻る。 これはタイミング次第では最悪な展開になるかもしれません。 逆に今の内に敵を徹底的にたたいてから補給に行き、すぐにこっちに戻るという方法もありますが……』 「補給に戻ったとして、何分で俺たちの支援に復帰できる?」 俺の問いかけに、古泉はしばし思案して、 『20分……いや、15分で戻ってみせます』 15分か。なら耐えられるかもしれないな。その後は、またそのときに考えればいい。 「よし、古泉。今あるだけの弾を敵にぶち込んでくれ。終わり次第、即刻補給して戻ってこい。 その間は何とか耐えてみせるさ」 『わかりました。健闘を祈ります』 古泉のUH-1が高度をやや下げ一気にミニガン掃射を開始する。俺たちは近づいてくる敵以外には 発砲を控え終わるのをじっと待った。 やがてミニガンを撃ち尽くした古泉ヘリは、学校側へ方向転換し、 『終わりです。すぐ戻りますので、その間はお願いします』 そう言い残して学校に戻った。俺は生徒全員を見回し、 「よし、古泉が戻るまで何としてでもここを守りきるぞ! 残弾には気をつけろよ!」 檄を飛ばしてまた――その瞬間、俺の右手にいた二人の生徒が崩れ落ちる。射殺されたのだ。 ヘリがいなくなったとたんに二人!? しかも、衛生兵と通信兵だ。よりによって……! 同時にこちら側に浴びせられる銃弾の量が突然増大した。民家の残骸の陰から空き地の様子をうかがうと、 まるでさっきのヘリからの掃射がなかったかのようにシェルエット野郎がこちらに向けて移動してきていた。 一番近い敵はすでに前線基地建物前の路上のすぐそばまで来ている。もうここから10メートルもない距離だ。 いつの間にここまで来やがったんだ!? 俺は必死に敵を追い払おうと撃ちまくったが、すぐに弾切れを起こしてしまう。 あわてて懐から新しいマガジンを取り出し銃に装填する――これが俺の最後の命綱だ。 かなり至近距離での撃ち合いになったおかげで、こっちは物陰から敵の様子をうかがうことすら 難しくなってきた。 ふっと、俺の目線に中を浮く黒い物体が目に入る。柄のついたそれは、俺から少し離れた残骸の陰で 敵と撃ち合っていた4人の生徒たちの足下に落ちた――手榴弾だ! バァンと破裂音が響き、彼らが吹っ飛ぶ。ぼろぞうきんのようにされた彼らは力なくよろけ、地面に倒れ込んだ。 俺は唖然として腕時計で時刻を確認する。まだ古泉が補給に戻ってきてから1分半しか立っていない。 そのわずかな時間で6人がやられた。残りは俺と国木田と後一人――残りの生徒も今銃弾が頭に命中してやられちまった。 ついに俺と国木田の二人だけだ。 国木田はすぐに手榴弾で倒れた生徒たちを救助しようと――と思ったら、息も絶え絶えの彼らを放って、 マガジンやら銃を回収し始めた。俺は反発心と納得が両方とも頭に埋まり、複雑な気分になる。 「ひどいことをしているように見えるかもしれないけど、今は生き残る方が重要だよ。 そのためには使えるものは徹底的に使わないとね」 いつもより少し真剣なまなざしを向ける国木田。そうだな、今俺たちが死んだら、負傷者生徒たちも死ぬことになるんだ。 善意だとか道徳心だとかは乗り切った後で考えればいい。 俺は国木田からマガジンを受け取り銃撃戦を続行する。国木田の的確な射撃のおかげか、 敵が路上を越えることだけは阻止続けた。 ふと、もう1時間は過ぎたんじゃないかと腕時計で時刻を確認すると、まだ古泉が戻ってから8分しか経っていない。 こんな時ばっかり時間が遅くなりやがって! 国木田がマガジンを交換しつつ叫ぶ。 「キョン! これで最後だよ!」 これが国木田の最期の言葉だった。ガガガガとAKが炸裂する音が響いたとたん国木田の身体が崩れ落ちる。 弾丸が顔面に命中したのだ。 「国木田っ!くそっ!」 俺は声をかけるものの、額を撃ち抜かれた国木田はぴくりとも動かない。完全に即死状態だった。 路上を越えようとしていたシェルエット野郎2人を撃ち殺し、すでに息絶えている通信兵から無線を取り出す。 「……ハルヒ聞こえるか?」 『どうしたの!? 何かあった!?』 ――また接近してきた敵を撃ち殺し―― 「国木田がやられた。もう残っているのは俺一人だ」 『……うそ』 唖然とした声を上げるハルヒ。 「何とかできるところまでは粘るつもりだ。もうすぐ古泉が戻ってくるだろうしな。それまではなんとか――」 『キョン!』 せっぱ詰まった声を上げるハルヒ。 『いい!? これは絶対命令よ。拒否なんて許さない。今すぐに川を渡って学校に戻りなさい。 そこをこれ以上守る必要なんてないわ。あの川なら徒歩でも何とか越えられる! だから戻りなさい! そこで出た犠牲の責任は全部あたしが背負うから! だから逃げて! お願い!』 「できるわけねえだろうが、そんなことっ!」 思わず怒鳴りつけてしまう。俺は額を抑えて――また敵がやってきたので撃ち返して追い払う―― 「ここには俺が行くって言ったんだ。それで仲間がついてきてくれた。なのに、その仲間がみんな死んでいるってのに、 俺だけおめおめと逃げ出すなんて絶対に拒否するぞ! 絶対にここから動かないからな!」 『キョン……キョン……!』 ハルヒは悲痛な声で俺のあだ名を呼び続けるだけ。見れば、数十人にふくれあがったシェルエット野郎が次々に こちらに突撃を始めていた。 「ハルヒ。俺からの頼みだ、聞いてくれ」 俺は息を吸い込んでありったけの思いを込めて言う。 「死ぬな。絶対にだ!」 そして、ハルヒからの返答も聞かずに俺は無線機を投げ捨て、路上を越えて突撃してきたシェルエット野郎数人に向けて 乱射する。不意を食らったのか、あっさりと命中していつものようにはじけ飛んだ。だが、続々と後続が接近してくる。 俺はとにかく無我夢中に撃ち続けた。弾が尽きればマガジンを交換し、それもなくなれば別の生徒が持っていた M16に持ち代える。路上を越えてくる敵は、昨日の北山公園の時と同じく突撃バカみたいにつっこんでくるだけだった。 残骸の破片が銃弾を受けて飛び散り、俺の頬を傷つけたがもはや痛みすら感じている暇もなかった。 乱戦の中、自分自身をほめてやりたくなるぐらいに粘っているが、弾は減る一方だ。 ついに今握っているM16が最後となる。これを撃ち尽くせば、俺も終わりだ。手を挙げて降伏しても、 助けてくれそうな敵でもないしな。 また一発また一発と撃ち、敵を打ち倒す。それがついに最後の一発となった瞬間―― 「うっ!?」 最後の一発は発射されなかった。数え間違えていたらしい。敵を真正面にしながら残弾ゼロ。 もう敵はAKをこちらに向けて構えている…… ……終わりか。また学校の部室でハルヒやSOS団の連中と会えれば良いんだが…… 呆然と放心状態に陥りかけていた俺を現実に引き戻したのは、突然目の前に現れたトラックだ。 北高と前線基地に物資を輸送していた大型のトラック。だが――橋が爆破されたって言うのに、 どうしてここにいる? 荷台には武装した生徒たちが乗り込み、空き地から突撃してきていたシェルエット野郎に向けて一斉射撃を始めていた。 同時に上空に古泉ヘリが舞い戻りミニガンの掃射を開始する。 「……助かった……のか?」 「ええもちろん」 呆然とつぶやく俺に言葉を返したのは、トラックの運転席に座っていた喜緑さんだった。昨日見たときとは違い、 セーラー服ではなく、迷彩服に身を包んでいる。 「遅れてすみません。なかなか手こずりました」 「えと……あの、どうやってここに?」 死んだと思ったが、突然現世に復帰したもんだからどうも違和感が抜けない俺。言葉遣いもたどたどしくなっているのが、 自分でもよくわかった。 喜緑さんはいつものにこやかな笑顔を浮かべつつ、 「橋は修復しました。長門さんの努力のたまものです」 「長門が……ってまさか情報ナントカができるようになったのか!?」 俺は歓喜の声を上げそうになるが、残念ながら喜緑さんは否定するように首を振り、 「それはまだです。3つほどの突破口を見つけましたが、そのうち一つを犠牲にして、 橋の修復を行いました。貴重な手段なので、安易に使うのはどうかと思いましたけど、 長門さんにとってあなたを救出できるようにすることが最優先だったようですね」 そうにこやかに喜緑さん。長門……本当に何とかしちまいやがった。すごすぎるよ。 「さて、ここは学校からの予備人員で守ります。今の内に遺体と負傷者をトラックに乗せてください。 それとあなたも。総指揮官からの絶対命令のようですので」 さっきからトラック据え付けの無線機からキーキー聞こえてくるのはハルヒの声か。 どうやら俺に学校に帰れ!と叫んでいるらしい。 ふと、トラックの荷台に載っていた生徒たちの射撃が収まる。空き地方面を見てみると、 敵が後退していくのが見えた。なんだ? どうしてこのタイミングで逃げ出す? 「おそらく予期せぬ情報改変に敵が混乱しているのでしょう」 にこやかに喜緑さんが解説してくれる。何はともあれ、今がチャンスだろう。とっとと負傷者を回収しなけりゃな。 ◇◇◇◇ 「本当に戻るんですか? 命令違反ですが」 負傷者と遺体を載せたトラックが北高へ向けて戻っていく。喜緑さんは最後にそう言っていたが、 俺はハルヒの方に戻ると言って、学校への帰還を拒否した。なあに、命令違反なら今までも散々やっているいまさらだ。 大体、ハルヒも長門も古泉もたぶん朝比奈さんもみんな必死なのに、俺だけ学校に引っ込んでいられるわけもない。 で、ハルヒのところまで戻ると予想通りの反応を見せてくれた。 「あーんーたーはー! 一体どれだけ命令違反を犯せば気が済むわけ!? 逃げろって言っているのに拒否するわ、 学校の守備に行けって言ったらこっちに戻ってくるし! 総大将の命令をなんだと思っているのよ!」 とまあものすごい剣幕で胸ぐらをつかみあげられた。一体どんな腕力をしているんだこいつは。 俺はあたふたと説明しようとするが、胸ぐらをつかみあげられてまともに口がきけるわけもなく、 ただ口をぱくぱくされるぐらいしかできない。ハルヒはひたすらガミガミ怒鳴っていたが、 やがて言いたいことも尽きたのか、俺から手を離し、 「……とにかく! 今後はあたしの命令に従うこと良いわね! 仕方ないから、ここにいてもいいけどさ。 これからはあたしのサポートをしてもらうわよ。どんなときでもあたしのそばにいなさい! 絶対絶対命令だからね!」 そう言ってぷんぷんしながら去っていった――ってどこに行くんだあいつは。 しかし、よくもまあ乗り切ったものだと自分で自分に感心する。普段の俺なら絶対に精神的におかしくなっていただろうが、 これも仕組んだ奴が頭をいじくったせいということにしておこう。だが。 俺はふとハルヒの背中を見る。長門と古泉の予測ではハルヒは何の人格調整も受けていないと言っていた。 なら、あいつは普段の精神状態のままこの地獄のような世界で指揮官なんて言う役割を演じている。 その両肩にかかっている重圧や責任感はどれだけのものなのだろうか。 そして、ハルヒは一体どんな思いでそれを背負っているのだろう。俺はハルヒの背中を見ながらそんなことを思った。 ~~その6へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1840.html
さあ、SOSバンドのライブの始まりだ。 1曲目は――『パラレルDAYS』 ハルヒ書下ろしの新曲だぜ。 『パラレルDAYS』は1曲目に相応しい疾走感のあるロックナンバーだ。 しかしこの曲、ドラムの難易度は半端じゃない。 なんせ曲の入りが俺のドラムからなのだ・・・! しかし、思い切って叩き出したビートは、自分でもびっくりするくらい、素晴らしい出来だった。 ドラムをしばき倒す打撃音が体育館の壁に反響し、俺の鼓膜にまで返ってくる。 よし!イントロ成功だ。 即座にキーボードが、ギターが、ベースが、俺のビートに一気に覆いかぶさってくる。 長門のギターが流れるようなメロディラインを、ハルヒのギターが正確なリズムカッティングを刻み、 古泉の弾き出す重低音がそれを支え、そして朝比奈さんのキーボードが色とりどりの彩色を加える。 今まさに、バンドが走り出したんだ。 そしてハルヒがスタンドマイクの前に歩み寄り、歌い出す。 体育館の天井を突き破って、空の先まで、月まで、届きそうな程の伸びやかで美しい輪郭を持った声。 今日のハルヒはどうやら絶好調らしい。 ああ――この歌声を聴くために俺はドラムを叩いているんだ―― いつか思わずハルヒにこぼしてしまった失言も、この歌声を聴いた今は本音だって胸を張って言えるね。 観客はハルヒの歌声、長門の超絶ギター、朝比奈さんと古泉のプロ並みの演奏に驚いている。 俺のドラムも何とか4人についていけている。 そして曲はサビへと展開する。 『おいで忘れちゃダメ 忘れちゃダメ 未来はパラレル―― どーんとやってみなけりゃ 正しい? いけない? わからない!』 まさにハルヒを象徴するような歌詞だ。 俺は夢中にドラムを叩きながらも、最初は驚きに静まり返っていた観客が 曲に合わせ手拍子を鳴らし、拳を振り上げ、声をあげる様子を視界の端に認めることが出来た。 そして俺の真正面に立って、マイクに向かい、天上の美声を紡ぎだすハルヒが普段よりずっと大きく見えた。 そして曲は間奏の長門のギターソロパートへと進む。 ココは『パラレルDAYS』における最難関とも言えるパートである。勿論長門はどんなに難しいソロであろうと 完璧に弾きこなしてしまうだろう。問題は俺である。 ドラムのソロパート(しかも叩きまくり)がある上に、長門のソロのバックではツーバスという高等技術を披露せねばならない。 ツーバスとは、ドラムセットの中で最も大きく、足でペダルを蹴って低い音を出すドラムのことだが、 通常は1つのこのドラムを2つセットし、両足でドカドカ連打するのである。 (※こんなの http //www.cozypowell.com/images/kit1981.jpg) 要するにムチャクチャ高度なテクと体力が必要って訳だ。 正直、あのENOZの岡島さんですら「このパートはちょっと難しいね~」とおっしゃっていた。 つまるところ、1曲目から初心者ドラマーであるこの俺に最大の山場が訪れてしまったというわけだ。 ハルヒの歌が止み、古泉が軽やかなフレーズをベースで刻む。そしてドラムソロ―― 「うおりゃーっっ!!!!」 思わず声に出てしまう程の力を込めてドラムをしばき倒す。スムーズさはイマイチだったが何とか成功! するとハルヒが流れるようなピックスクラッチ(※弦に対してピックを垂直に当てて滑らせることにより独特の効果を得る奏法) を決め、それに呼応するかのように長門がスッと前に出てソロを取り始める。 さあ、こっから俺はツーバス連打だ。動け!俺の両足よ! 『ドカドカドカドカドカ・・・・・・』 自分でも不思議なくらい両足が動く!そんな俺に触発されたのか、長門のソロにも一層熱がこもる。 古泉も朝比奈さんもノリノリで身体を揺らしながら演奏している。 ハルヒは最大の難所を越えて見せた俺の方にちらりと顔を向けると満足そうな笑みを浮かべた。 そして、再びマイクに向かい、サビを熱唱する。 観客の熱気も1曲目にして最高潮だ。アウトロの『ラララ~』のパートもハルヒと共に合唱までしてくれている。 所謂シングアロングってやつだ。そしてそんな熱狂を保ったまま、長門の再びの超絶ギターソロと共に曲は終了する。 湧き上がる拍手と歓声。当初はその珍妙な名と衣装から好奇の目を向けられていた俺達SOSバンドは、 1曲目にして完全に観客に受け入れられたようだ。 間髪置かず、ハルヒの合図と俺のスティックのカウントから2曲目が始まる。 2曲目はこれまたハルヒ書下ろしの新曲『冒険でしょでしょ?』だ。 1曲目とは打って変わってのポップなミディアムナンバーである。 『パラレルDAYS』の主役が俺のドラムだとするならば、この曲の主役は朝比奈さんの表情豊かなキーボードプレイと ハルヒの情感のこもったボーカルが主役だ。 俺や古泉は黒子に徹し、堅実にリズムキープに勤める。長門は朝比奈さんのキーボードにあわせコードを鳴らす。 その朝比奈さんは何と左右2台!のキーボードを両手を使い、引き倒す。まさに神業だ。 (※こんな感じ http //www.messyoptics.com/bird/ELP-1.jpg) しかもキーボードを弾きながらバックコーラスまで付けている。ただし、歌声は相変わらずポンコツだがな。 そしてハルヒはあの閉鎖空間の神人でさえ、聞き惚れて破壊活動を止めてしまいそうな程の歌声を体育館中に響かせる。 『冒険でしょでしょ! ホントが嘘に変わる世界で―― 夢があるから強くなるのよ 誰の為じゃない』 とうとうあの長門までも、曲のリズムに合わせて微妙に身体を揺すり始めた。 俺にしかわからないぐらいに微妙な、小さな揺れではあるが。 あの長門をもノらせてしまうとは、音楽の力とは何と恐ろしいものだろう。 観客はハルヒの歌にあわせ、手拍子を叩く。大勢の人間が一度に手を叩くとこんなにも大きな音になるモノなのか。 正直、その微妙にズレた手拍子に何度かリズムを狂わせかけられた俺ではあったが、 その度毎に古泉が気味の悪いアイコンタクトを俺に送ってリズムを修正してくれる。 そういえばヤツは「バンドにおいてはベースとドラムのコンビネーションが大事」なんて言ってたが、こういうことだったのか。 まあ、さすがに一心同体にまでなる気はないがな。 そして、曲はエンディングを迎える。一層に大きくなる観客の歓声と拍手。 歌い終えたハルヒは肩で息をしている。2曲続けてあれだけの熱唱をしたんだ。疲労も当然だろう。 それと同じくらい疲労している俺も備え付けのペットボトルの水に口をつける。 そういえば懸念されていた腕の痛みは今のところ感じない。何とか持ったみたいだな。 ハルヒは息を整えると、再びマイクに向かって歩み寄る。事前の段取りではここで一旦MCが入るはずだが・・・。 「えー、こんばんは。SOSバンドです――」 ハルヒが観客に向かって語り出す。 「もしかするとあたしとこっちの有希は去年の文化祭の時に見たことあるっていう人がいるかも知れないけど、 そう、去年ENOZのステージに急遽出演させてもらいました。あの時はホントに急の出演で・・・ あまり準備する時間も無かったんだけど・・・今回は自分達のバンドでこうして出演しています」 ハルヒはウサミミを揺らしながら一言一言搾り出すように話す。何というか緊張しているみたいだ。 アイツでも緊張するなんてことがあるんだな。 「私達SOSバンドは殆どのメンバーが楽器初心者で・・・さっきの演奏も上手く出来たかどうか自信ないけど、 練習だけはしっかりしてきたからそんなに恥ずかしくない出来だったんじゃないかしら」 いや、あの観客の盛り上がりを見れば恥ずかしくない出来どころか、とんでもなく素晴らしい出来だったと言えるだろう。 「ああ、ちなみに今演奏した2曲、『パラレルDAYS』と『冒険でしょでしょ?』は・・・ 実は今回の文化祭のためにあたしが作ったオリジナルの曲です。 作曲なんて今回が殆どはじめてみたいなものだし・・・イマイチだったかもしれないけど、 皆凄い盛り上がってくれて・・・ホントにありがとう」 先の2曲が実はハルヒの作詞作曲だったことが判明し、観客は一様に驚いているようだ。 そりゃそうだろう。ハルヒ自身は珍しく謙遜しているが、 2曲共オリコンランキングに入ってもおかしくないくらいのクオリティであり、 そんな曲を一介の女子高生が作ってしまったことには驚きを隠せないってのが普通だ。 「えっと、それじゃあバンドのメンバーを紹介したいと思います!」 さて、文化祭バンドの定番、メンバー紹介である。 事前の打ち合わせでは、ハルヒにコールされたメンバーは各自自分の楽器で短いソロを披露しなければならない、 ということになっている。 「キーボードはあたし達SOS団の萌え萌えマスコット!未来からやってきた戦うウェイトレスにして 狂気のキーボードプレイヤー、みくるちゃん!」 「ふええ~!?いきなり私ですか~!?」 いきなりハルヒに振られた朝比奈さんはまさか最初に自分がコールされるとは思っていなかったらしく、酷く狼狽している。 観客席からは「ウオーッッ!!!」という主に朝比奈ファンクラブの男子連中が構成すると思われる野太い歓声が沸く。 その歓声の中には谷口の声なんかも聞こえた気がしたが、まあ気のせいだろう。 朝比奈さんは戸惑いながらもキーボードの鍵盤に両手を添えると流麗なフレーズを弾いてみせた。 その音色はまさに天使の歌声のような甘さを持って、体育館中に響いた。 まあ、弾いているのが天使のようなお方だからな。 「みくる~っ!!めがっさかっこいいにょろよ~っ!!」 この歓声は鶴屋さんに相違ない。あの人もしっかり見に来てくれているようだ。 「ちなみにみくるちゃんは私達が制作した映画『朝比奈ミクルの冒険 EPISODE01』にも主演しているわ。 みんな是非是非見に行ってね!みくるちゃんの歌う『恋のミクル伝説~第2章~』も聴けるわよ!」 そしてちゃっかり映画の宣伝までしているハルヒであった。 「ベースはSOS団のクールな副団長!古泉君!」 朝比奈さんに続き、ハルヒのコールを受けた古泉は相変わらずのニヤケ顔でベースを構えると、 目にも留まらぬスピードでファンキーなフレーズを次から次に弾き出した。 いつかアイツが披露して見せたスラップ奏法というヤツである。 弦が古泉の指に弾かれる『バチン バチン』という音が響く。 そしてそれを受けて上がる歓声。その殆どが女子の黄色い歓声である。 やっぱりムカツクな。古泉ファンの皆さん、騙されないでくれ。 ソイツは全裸でステージに上がろうとした真性の変態だぞ。 「ギターはSOS団が誇る最強のオールラウンダーにして無口キャラ!有希っ!」 長門はコールを受けはしたものの、ピクリとも反応しない。 オイオイ長門よ、そこは何でもいいからギュイーンといつもの超絶ギターソロをかます所だぞ。 まあ、何と言うかその無反応は予想通りではあるが。そもそも黒魔術にご執心の不気味なギタリストって設定だし、 コレくらいの不気味さやナゾを抱えていた方がちょうどよいのかも知れない。 「ドラムはSOS団のヒラ団員にして雑用係!キョン!」 そして俺の名前がコールされるが・・・なんか随分他の3人と差があるな。 一応そのコールに呼応する形で、適当にドラムソロを叩く。 おお、それでも観客は沸いてくれているみたいだ。その歓声の中に国木田や谷口の声も聞こえる。 アイツらも見に来てくれていたのか・・・。 「そしてボーカルとギターはあたし。去年はギターは殆ど担いでるだけだったけど、今年は少し練習しました。 なので、去年よりはギターの方も少しはマシになっていると思うわ」 そして最後に自分の紹介をするハルヒ。いつもの傲慢な態度はおくびも見せず、 至極恐縮しきった自己紹介である。何かハルヒらしくないな。アイツもやはり緊張していたのだろうか。 そんなことを考えている内に、ハルヒは更にMCを続ける。 どうやら次に演奏する曲の紹介をするようだ。 「それじゃあまた曲をやります!次は・・・皆も知っていると思うお馴染の曲をやるわ。 今回の文化祭出演にあたり、オリジナルのENOZ本人達にも演奏の許可をもらいました。 あたしにとっても去年の文化祭ではじめて歌った思い出の曲です。 『God Knows...』と『Lost My Music』―― 2曲続けていくわよっ!!!」 『God Knows...』と『Lost My Music』―― 今回の文化祭で最もみっちり練習してきた曲だし、ENOZのドラムである岡島さんから アドバイスまで受けた曲だ。いくら俺でもこの2曲を失敗するわけにはいかない。 「シャンシャン」という俺のシンバルによるカウント。 それに反応した長門のギターが火を噴く――まさに神業と形容するに相応しいソロである。 去年より正確に、そして更に速くなっている。まさにギターの鬼だ。 そんな長門のフレーズにハルヒの刻むリズム、朝比奈さんの紡ぐメロディ、古泉の重いベースが覆い被さり、 まるで音が鉄の塊のような質量を持って体育館を揺さぶる。 俺はそんな音の洪水に流されぬよう、必死にビートを叩き出す。 『私ついていくよ どんな辛い世界の闇の中でさえ きっとあなたは輝いて―― 超える未来の果て 弱さ故に魂こわされぬように my way 重なるよ いまふたりにGod Bless...』 サビを熱唱するハルヒ。 観客のボルテージも最高潮に達している。地鳴りのような歓声が響く。 俺達5人の演奏に人々がこんなにも熱くなっている。 ――なんて快感なんだろう。音楽ってこんなにもキモチイイものだったのか。 そして、SOS団の5人で演奏することは――こんなにも楽しいものだったのか。 『あなたがいて 私がいて ほかの人は消えてしまった―― 淡い夢の美しさを描きながら 傷跡なぞる』 搾り出すように歌詞を吐き出すハルヒ。 もはや熱唱というより、絶唱という表現が相応しいかも知れない。 ドラムセットから見るその後姿には冗談じゃなく後光がさしているように感じられた。 そんなハルヒに引っ張られるように長門はギターを加速させ、朝比奈さんは鍵盤を叩き壊さんかという勢いで掻き毟る、 古泉はとうとうヘッドバンキングまで始めやがった。 俺も飛び散る汗を気にもせず、無我夢中で両手両足を動かす。 そして曲は再度長門の超絶ギターソロに導かれ、終わりを迎える。 俺は言葉に出来ない快感が体中を電撃のように走り抜けていくように感じていた。 俺の今までの十何年間のどちらかと言えば無難だった人生で、ここまで『自分が今何かを成し遂げている』、 という感覚を味わったことはない。 そんなこれまでの俺の人生の体たらくぶりが恥ずかしくなるような体験を、こうしてステージの上で、 長門や朝比奈さんや古泉、そしてハルヒと共有しているのだ。 こんな体験が出来るなら今までの苦労もどうってことはない、本気でそう考えていた。 次の曲は『Lost My Music』である。 『God Knows...』と同じく曲は俺のシンバルでのカウントから始まる。 長門の流れるようなフレーズで曲の開幕を告げる。まるで戦いの始まりを告げるファンファーレのようだ。 ハルヒが腕を回すようなストロークでコードをかき鳴らす。その動きに合わせてウサミミも揺れる。 古泉はそれまでの指弾きからピックに持ち替え、弦を力いっぱい叩く。 朝比奈さんが2台のキーボードを駆使し、彩りを添える。 『星空見上げ 私だけのヒカリ教えて―― あなたはいまどこで 何をしているのでしょう?』 ハルヒの歌声に導かれ、バンドは更に加速する――と、その時、 俺は急に自分の腕に違和感を感じた。収まっていたはずの痛みがここにきて再発したのだ。 まるで腕が千切れそうな、熱い、苦しい痛みが俺を襲う。 なんてんたってこんな時に・・・。さっきまでは何ともなかったハズだぞ? それともこれまで練習でも4曲ぶっ続けで演奏したことがなかったことが災いして、 とうとう限界が来てしまったのだろうか? とにかく痛い。腕の感覚がなくなりそうだ。 曲の方は今にもサビに入ろうかというその瞬間―― 自分でも全くその感覚がわからなくなってしまっていたが――気付けば俺はスティックを落としてしまっていた。 急に刻まれるのを止めてしまったビート。 最初にその異常に気付いたのは長門だった。ギターを引く手を止め、俺の方に振り返る。 ヤバイ・・・!!早く替えのスティックを取って演奏を再開させねば・・・!! 焦る俺であったが・・・全く持って腕が動かない。どうやら痛みで神経もマヒしてしいるようだ。 他の3人もドラムとリードギターの演奏が急に止まるという異常事態に気付いたようだ。 ビートを失ったバンドは失速し、とうとう演奏自体が止まってしまった。 急に静まり返るステージ。俺の落としたスティックはころころと転がっていき、 ハルヒのマイクスタンドにこつんと当たってその動きを止める。 観客もその異常事態を察知したのか、さっきまでの熱狂はどこへやら急に静まり返ってしまった。 腕の痛みに顔を歪める俺に最初に声をかけたのは古泉だった。 「大丈夫ですか!?」 いつもニヤニヤしている古泉の顔に恐々とした緊迫感が見て取れる。 「ふええ~!?キョンくん、一体どうしたんですか~!?」 そういって駆け寄ってきたのは朝比奈さん。 さっきまであんなに威厳たっぷりに演奏していた彼女も当惑している。 「ちょっとキョン!いきなり演奏止めるなんてどうしたのよ!? って、もしかしてアンタ腕を・・・」 その先は言うなハルヒよ。今まで隠していた俺が馬鹿みたいじゃないか。 長門は液体ヘリウムのような目で事の成り行きを見守っている。しかしその瞳の中には心配の色も見て取れる。 相変わらず静まり返ったままの観客。 そして、ハルヒ達は一様に当惑した表情を浮かべている。最悪の展開だ・・・。 チクショウ・・・俺のせいで・・・演奏が止まっちまいやがった。 しかもこんな最悪の形で・・・。 俺は胸の中を掻き毟られるような憤怒に駆られていた。 それは大事なところでスティックを落としてしまう不甲斐ない自分への憤怒であった。 それでも・・・俺は諦めきれない。こんな形でステージを・・・SOSバンドを終わらせてたまるか! クソッ!動け!俺の腕よ!あと2曲だ、それぐらい何とかなるだろう! それに俺はもう火がついちまってるんだ!腕がぶっ壊れたって構いやしない!最後までドラムをブッ叩いてやるんだ! 必死に俺は腕を動かそうと力を入れる。 「キョンッ!あんた腕を怪我してたんでしょ!?何でもっと早くそのことを言わなかったのよ!?」 と、俺を見つめ、怒鳴るハルヒ。俺はそんなハルヒを見つめ返し、言い放った。 「ハルヒ、演奏を続けるぞ。早くマイクに戻れ。他の3人もだ、早く演奏再開の準備をしてくれ」 そんな俺の発言を聞き、驚いたように目をひん剥いたハルヒは 「あんた馬鹿!?自分の状態をわかって言ってるの!?そんな腕じゃ演奏なんて無理に決まってるじゃない!」 しかし俺は止まらない。 「わかってるさ。俺の腕は限界だ。さっきから痛くて痛くて仕方ない。 でもあと2曲ぐらいなら何とかなる。だから演奏を続けるぞ、ハルヒ」 「何とかなるって・・・」 「そうですよ~キョンくん・・・これ以上演奏するのはムリですよ~・・・」 「僕もそう思います。これ以上は本当に危険です。早く病院に行くべきかと・・・」 朝比奈さんや古泉も俺を説得しようと言葉を投げかける。しかし俺の気持ちは揺らがない。 「俺が大丈夫と言ったら大丈夫だ。それにだ、ここでやめちまったら一生後悔が残る。そんなのは耐えられん」 俺の決意がよほど固いとみたのか、その言葉を聞くや否や長門はスッと黒装束を翻し、自分の立ち位置に戻る。 「アンタ・・・どうしてそこまで・・・」 「それはお前のほうがよくわかってるだろ、ハルヒよ。俺は今このバンドで、このメンバーで演奏するのが 楽しくて楽しくて仕方ないんだ。この瞬間の1分1秒たりとも無駄にしたくないんだ。本当だ。 その気持ちはハルヒ――お前も同じだろ?」 「・・・・・・」 ハルヒも俺の真剣さに気付いたのか、神妙な顔つきをして黙り込んでいる。 朝比奈さんと古泉は互いを見合わせて「どうしたものか」といった表情を浮かべている。 その時、静まり返っていた観客席から声が上がった。 「キョンくんっ!頑張れっ!!」 この声は・・・ENOZの岡島さんの声だ・・・! 見れば岡島さんはじめ、財前さん、榎本さん、中西さんのENOZ全員の姿が客席の最前列にある。 皆今日のステージを見に来てくれていたのか・・・。 「キョンくん負けるな~!頑張るにょろよ~っ!!」 この声は鶴屋さんだ・・・。 「キョン!頑張れーっ!」 この声は国木田・・・。 「立て!立つんだ!キョン!」 谷口まで・・・。 そしてその歓声はやがて観客全体へと広がっていく。 気付けば体育館中に響き渡る「頑張れ!頑張れ!」の大合唱だ・・・。 「ほら見ろ、ハルヒ。観客は俺達の演奏を聴きたがってるぞ。 ここまで来て止めるなんて選択肢は俺には存在しないが」 相変わらずダンマリのハルヒ。俺は更に続ける。 「それにハルヒ、お前の歌、やっぱりスゴかったよ。正直鳥肌が立ったくらいさ。 だからこそ俺はあと2曲、お前の歌が聴きたい。 そしてそんなお前の後ろで俺もドラムを叩きたいんだ。 ヘタクソな演奏だけど・・・それでもこのドラムでバンドを、お前を支えたいんだ。」 そう言いながら俺は痛みに震える腕を何とか動かし、替えのスティックを手に取り、握りしめた。 後から冷静に考えれば、自分で言っていて余りのクサさに卒倒するような台詞だったかも知れない・・・。 しかし、恥ずかしい話、言っていた俺は真剣そのものだった。 ハルヒは一瞬顔を赤らめたものの、頭をブンブンと振ってすぐに表情を戻した。 そしてこれまで以上に真剣な眼差しで俺を見つめ、一言、 「わかった」 とだけ答えた。 そして朝比奈さんと古泉に目配せをする。2人も状況を察したのか、ひとつ頷くとそれぞれの演奏位置に戻った。 長門は既にスタンバイしている。 最後にハルヒがもう一度マイクスタンドの前に歩み寄り、態勢は整った。 観客もその様子を見届けると再び熱狂を取り戻し始めた。 さあ、仕切りなおしだ! 再びビートを刻みだす俺。腕はヒリヒリと痛み続ける。 力が入らないためか、音も随分弱々しくなっている。テンポも遅れている。 しかしそれでも長門のギターが、朝比奈さんのキーボードが、古泉のベースが、 そしてハルヒの歌声が、そんな俺を盛り立てる。 『大好きな人が遠い 遠すぎて泣きたくなるの―― あした目が覚めたら ほら希望が生まれるかも Good night!』 ああ、ハルヒよ。本当に希望が生まれてるぞ。 今にも腕が引き千切れそうな俺だが、それでも何とか叩けているのはこの歌声に引っ張られてるからなのかも知れない。 『I still I still I love you! I m waiting waiting forever―― I still I still I love you! とまらないのよ Hi!』 ああ、本当に止まらないね。例え本当に腕が千切れてもな。 やがて曲は再度の熱狂に包まれながら終了した。 俺は放心状態だった。腕の感覚は正直言って、無いに等しい。 途中から自分がどんなフレーズを叩いていたのかも記憶に無い。 ただ、熱唱するハルヒと必死に楽器をかき鳴らす長門、朝比奈さん、古泉の後姿が見え、 熱狂する観客の歓声が耳に届いていただけだ。 ああ、今すぐにでも大の字になってぶっ倒れたいくらいだぜ・・・。 ハルヒは曲が終わるや否や俺のほうに振り返り、心配そうな視線を向けている。 意識も飛んでいってしまいそうなぐらいに疲弊していた俺だったが、 何とかハルヒの目を見据え、言葉を発することが出来た。 「さあ、最後の曲だ。思い切ってかましてやろうぜ、ハルヒ」 ハルヒは小さく頷き、振り返ってマイクに向かい、語りだした。 「演奏を止めてしまってごめんね、ちょっとトラブルがあったけどもう大丈夫! 気を取り直して・・・次が最後の曲です。今回SOSバンドで文化祭への出演を決めてから最初に作った曲で・・・ この曲をこのSOSバンドのメンバーで演奏することを本当に楽しみにしていました・・・。 歌詞もこのSOS団のことを思い浮かべて書きました・・・」 切々と語られるハルヒのMCに観客は静かに聞き入っている。 「今回こうしてこの曲を皆で演奏できることを本当に嬉しく思っています・・・。 それにこんな大勢の人の歓声まで受けて・・・本当にありがとう! そんな感謝の気持ちも込めて、一生懸命演奏します! それでは聴いてください!『ハレ晴レユカイ』!」 ハルヒがそう叫ぶや否や、沸き上がる観客。 ギターを構える長門、鍵盤に指を置く朝比奈さん、俺の方を見てタイミングを伺う古泉、 そして、メンバーを見渡し、ひとつ大きく頷いたハルヒ。 さあ、本当に最後の曲だ――思いっきりブチかましてやろうぜ!! ハルヒの合図に従い、感覚の無い腕で思い切り俺はドラムを叩く。 唸りを上げる長門のピックスクラッチ。朝比奈さんが2台のキーボードを駆使し、イントロのメロディを紡ぐ。 古泉のベースがステージの床を振動させる。 『ナゾナゾみたいに地球儀を解き明かしたら みんなでどこまでも行けるね』 ハルヒのパート、とうとう5曲通してこの伸びやかで張りのある歌声は輝きを失わなかった。 『ワクワクしたいと願いながら過ごしてたよ かなえてくれたのは誰なの?』 何と驚くことなかれ、ここは長門のパートだ。というかあの長門が歌えることは意外の極みだが、 もともとこの『ハレ晴レユカイ』はハルヒ、長門、朝比奈さんの女性メンバーが交互にボーカルを取るという 異色の一曲である。練習では殆ど歌ってくれなかった長門だったがここにきてやっとその神秘的な歌声を披露してくれた。 何と言うか・・・こんな歌声だったのか。地声と全然違うな・・・。 『時間の果てまでBoooon!! ワープでループなこの想いは――』 朝比奈さんのパート、正直言ってポンコツな歌声だが俺としては萌えるから別に良いのだ。 しかも2台のキーボードで主旋律を奏でながら歌うんだから、まさに神業である。 『何もかもを巻き込んだ想像で遊ぼう!!』 そして3人のユニゾンだ。観客の盛り上がりも最高潮。最前列ではとうとうモッシュの波まで起こっている。 ハルヒと長門のギター、朝比奈さんのキーボード、古泉のベース、俺のドラム、全ての楽器の音がひとつになりステージを揺さぶる。 まさに窓ガラスを割らんばかりの音圧だ。というかマジで割れてるし・・・。 『アル晴レタ日ノ事 魔法以上のユカイが―― 限りなく降り注ぐ 不可能じゃないわ――』 まさに魔法以上のサウンドだ。腕の痛みより先にこの高揚感でぶっ倒れてしまいそうだ。 『明日また会うとき 笑いながらハミング―― 嬉しさを集めよう カンタンなんだよ こ・ん・な・の――』 3人の歌声が体育館に響く。 後姿に汗が飛び散るハルヒ、意外に楽しそうに身体を揺らす長門、身体と一緒に胸も揺れる朝比奈さん。 俺と古泉は必死に3人の歌と演奏を盛り立てる。 古泉は何か変な境地に達したようで、光悦とした顔になってやがる。 ムチャクチャ気持ち悪いぞ。まあその気持ちはわかるがな。 『追いかけてね つかまえてみて――』 俺は感覚の無い腕で必死にドラムを叩く。感覚が無いから叩いたときの感触も手ごたえもわからない。 それでも俺は、今叩き出しているビートが、ハルヒ達の歌声に、そして演奏にジャストフィットしているという不思議な確信があった。 『おおきな夢&夢 スキでしょう?』 ああ、大好きだね。やっと認める気になったよ。 まさにこの瞬間、俺達の夢そしてハルヒの夢が叶ったんだ。 この5人で、バンドとして、ステージに立って演奏して、観客を沸かせる、という夢がな――。 とどまることを知らない大歓声。タカが外れたかのように腕を振り上げる観客。 俺達の演奏は止まることを忘れたかのように体育館に響き渡り続けた・・・。 あの文化祭の後、即刻病院へと担ぎ込まれた俺は、見事に腱鞘炎との診断を受け、 しばらくの間、ドラム演奏は禁止との旨を医者に宣告された。 まあ、俺としても限界だということはわかっていたんだがな。 しばらくはサポーターをつけて、腕に負担がかかることは避けて生活せねばならなくなってしまったわけだ。 あの後、俺達SOSバンドの評判は凄まじく、全校あらゆる所から演奏のデモテープを求める声がどこからともなく上がってきた。 それに気を良くしたハルヒは当初、 「こうなったらCDを作りましょう!そしてゆくゆくはメジャーデビューよ!」 なんて息巻いていたが、俺の怪我であえなくその案は立ち消えになってしまった。 俺としてはホッとしたのと少し残念なのが半々というところだ。 そんなこんなで今日も今日とて、放課後にSOS団の部室に出向き、 今こうして朝比奈さん特製のお茶を美味しく頂いているところだ。 うーん、やはりこうした何も起こらない安穏とした日常が一番落ち着くのかもしれないな。 「キョンくんがスティックを落としちゃったときは本当にびっくりしました」 いつものメイド服に身を包んだ朝比奈さんが俺に語りかける。 「ほんと、もうダメかと思ったんですよ?」 いやいや、あなたに心配をかけるくらいなら俺は何度でもゾンビのように生き返って見せますよ。 「でも、やっぱり楽しかったな~。 私、歌もあんまり上手くないし、昔から音楽の授業も苦手だったけど、文化祭での演奏は本当に楽しかったです。 それにあの時のキョンくん、凄くカッコ良かったです」 あなたにそう言ってもらえるのならば、腱鞘炎にまでなった甲斐があったというものです。 むしろいくらでもなってやりますよ。 「涼宮さんも凄く満足してたみたいですし。これも皆キョンくんのおかげですね。 やっぱりキョンくんは、涼宮さんの期待を裏切りませんでした」 いやいや、買い被りですよ。 「あと・・・実は鍵盤にナイフを突き刺すタイミングをずっと伺ってたんですけど・・・結局出来なかったですね」 やっぱり本気だったんですか・・・朝比奈さん。 「実はですね、僕達のあのパート配置は偶然ではなく必然だったのかもしれません」 ニヤケ顔で古泉が話しかけてくる。必然って何がだよ。 「僕達のパート配置はそのままSOS団での僕らの役割とリンクしてしていた、ということです。 団長の涼宮さんが花形のボーカル、天才型のオールラウンダーである長門さんがリードギター、 団に彩りを添える朝比奈さんがキーボード、そして彼女達を影から支える僕とあなたががベースとドラムです」 まあ、たしかに考え方によってはそうかも知れんな。 「特に、涼宮さんがあなたをドラムに抜擢したのはまさに必然ですよ。ドラムはバンドにおける根幹、 縁の下の力持ちです。あなたはまさにSOS団を支えるキープレイヤーであり、その認識が涼宮さんにも勿論あります。 だからこそ、あなたはドラムを担当したのですよ」 偶然だろ、偶然。 「良いですか?バンドというものはいかにボーカルが上手かろうと、ギターが超絶テクニックだろうと、 ドラムがしっかりしていないと全く魅力のないものになってしまう、と言われています。 だからこそ、あなたがいかにこのSOS団にとって大切な存在か、ということです。 言い換えれば涼宮さんにとって大切、ということでもありますけどね」 いい加減、お前の薀蓄は聞き飽きたぜ。 「まあ、何にせよ、あなたのおかげで僕にしましても非常に有意義な文化祭になりましたよ。 前も言いましたけど、機関の思惑は抜きにして、楽しみたいと思っていましたからね。 涼宮さんの精神状態も安定していますし、言うことなしですよ。これ以上のハッピーエンドは望めません」 そうかい、そりゃあ良かったな。 「ただ、ひとつだけ後悔しているのは、やはり何としても全裸でステージにあが(ry」 五月蝿いぞ、変態。 「・・・マッガーレ・・・」 長門は今日も相変わらず、部室専用の漬物石のようにパイプ椅子に鎮座し、静かに本を読んでいる。 俺は何となしに文化祭の話題をふってみることにした。 「長門、文化祭のステージで演奏した感想は?」 俺の急な質問に、本に向けていた視線を上げる長門。 しかしじっと答えを待つが、沈黙が流れるのみ。俺は質問を変えてみた。 「楽しかったか?」 長門は本に視線を戻ってしまったものの、ポツリとした声で、 「それなりに」 と答えた。 俺は更に続ける。 「というかお前歌えたんだな、なかなか良かったぞ。お前の歌」 長門は表情を変えず、コクンと小さく頷いた。その頷きがどういう意図かはわからん・・・。 「また、来年も出てみたいと思うか?」 その質問に対する答えは返ってこなかった。 しかし俺は、長門の手が時折本から離れ、その指がステージで見せたように―― 目にも留まらぬ速さで動いているのを見逃さなかった。 その日、SOS団の部室にはいつになってもハルヒがやってこなかった。 今日は掃除当番でもなんでもないはずだし、一体どうしたのだろう? いつものアイツならいの一番にこの部室にやってきて、朝比奈さんをオモチャにしたり、 ネットサーフィンに励んでいるというのに・・・。 「涼宮さん、今日は遅いですね・・・」 心配そうな朝比奈さん。 「俺、ちょっと探してきますよ」 そう言い残し、俺はハルヒ探索の校内行脚へと向かった。 結論から言うと、ハルヒは中庭の芝生にゴロンと寝転がって空を見つめていた。 こんな光景は確か去年も見たような気がする。 「よう。こんな所で何してるんだ?団長ともあろうものが活動に顔を見せなくてもいいのか?」 そう声をかける俺にハルヒは空をボーっと見つめたまま答える。 「何よ、あたしの勝手でしょ。 それよりキョン、あんた腕の具合はどうなのよ」 「どうもこうもない。前に言ったとおり腱鞘炎で絶対安静だ。ドラムなんかしばらく叩けんぞ」 俺は苦笑しながら答える。 「あっそ」 そう呟くとハルヒはまた空をボーっと見つめ始めた。 俺はふとハルヒにこんな質問を投げかけてみた 「なんでバンドなんかやろうって言い出したんだ?」 ハルヒは少しムッとして、 「何よ、あんたまだ不満でもあるの?」 「いや、別に。何となくだ」 それからしばらく黙って空を見つめ続けていたハルヒだったが、 急に思い立ったように語りだした。 「去年、あたしと有希が飛び入りでライブをやったでしょ――」 ああ、そんなこともあったな。 「あの時、ろくな準備も出来てなくて、本物のENOZに比べたら全然稚拙な演奏だったかもしれないけど――」 そんなこともなかったと思うけどな。 「凄い楽しかったのよ。それで『自分が今何かをしてる』って、心底そういう気分になれたの――」 「お前はいつも何らかの騒動を巻き起こしているし、十分何かをしてる気分を味わってるんじゃないのか?」 「そうだけど・・・っていちいち揚げ足取るんじゃないわよ!」 スマンスマン。 「とにかく、あんなに楽しくて充実感を味わった経験はこれまでになかったのよ」 ハルヒは一層遠い目をして空を見上げる。 「それで単純に、あの楽しさと充実感をあたしと有希だけじゃなくてSOS団の皆で味わいたいなって。 そう思っただけよ」 なるほどな。 俺はやっとなぜここまでハルヒがバンドに熱意を注いだのか、俺にドロップキックを食らわせるまでに夢中だったのか、 その理由が完全に理解できた気がした。だからこそその後の台詞もすんなりと吐き出せた。 「俺は楽しかったぜ。腱鞘炎も気にならなかったくらいに、な。 長門も朝比奈さんも古泉もきっと俺と同意見さ」 ハルヒはフンと鼻を鳴らし、 「当たり前でしょっ!この私の完璧な計画に狂いはないのっ!」 と言い放つ。 起き上がるハルヒ。俺は続けざまに言葉を投げた。 「それでお前は――楽しかったか?」 「当たり前でしょ!!」 満面の笑みである。 ぶっ倒れそうなくらいの疲労と腱鞘炎の代償がこの笑顔だって言うなら―― きっとお釣りが来るぐらいだね。 立ち上がり、急に俺に顔を近づけるハルヒ。 オイオイ、顔が近すぎる!息がかかるって! 「今回の文化祭であたし達SOSバンドの評判はうなぎ上りだわ! キョン!あんたの腕が治ったら早速デビューアルバムのレコーディングよ!」 マジかよ・・・。 「そうすると、スタジオを借りなきゃいけないし、レコーディングの仕方も学ばなきゃね。 早速軽音楽部に言って色々聞いてきましょ」 オイオイ、いくらなんでも気が早いんじゃないのか? 「何よ、今度はあたし達SOSバンドが日本の音楽シーンを変革させるときが来たのよ! あんたもドラムが叩けないならその間機材の使い方でも勉強しなさい!」 んな無茶な。 「さあ、SOSバンドの活動はまだまだこれからよ!!」 ハルヒが俺の手首を掴み、引きずっていく。コレも去年と同じ光景だ。 ただ去年と違うのは、俺の手首を握るハルヒの力が少し強かったことと、 俺がどうしようもなく気恥ずかしかったことだがな。 この後、SOSバンドのデビューアルバムがレコーディングされることは無かった。 別に、ドラマーが一生ドラムを叩けないほど腱鞘炎が悪化したからとか、 ベーシストがワイセツ物陳列罪で逮捕されたからとか、 そんな理由からではない。 要はハルヒの興味が完全に別のことに移ってしまったからなのである。 俺達がステージで最後に演奏した『ハレ晴レユカイ』は、 5曲の演奏曲の中でも最もその反響が大きかった。 それに目をつけたハルヒがこの曲のPVを作成してDVDに焼いて売り出そうとか言い出したのだ。 そもそも音源が無いじゃないかという俺の主張は、後に演奏を別取りして被せるということで却下されてしまった。 まあ、別にPVを作るのはよい。ドラムを叩くよりはラクだしな。 ただ・・・なぜに俺達がPVで珍妙なダンスを踊ることになってしまったのであろう!? ハルヒ考案の振り付けは正直無茶苦茶恥ずかしい・・・。 そして今日も今日とて、部室では振り付けの特訓が行われている。 「ちょっとみくるちゃん!今のタイミング遅れてたわよ!」 「ふええ~、振り付けなんてムリですよ~、身体が動きませ~ん・・・」 「古泉君!最後のジャンプは画面のフレームから首から上が外れるくらい高く跳躍しなさい!」 「団長の仰せのままに」 「有希!あんた振り付けは完璧だけどその無表情をもうちょっと何とかしなさい!画面栄えしないわよ?」 「・・・・・・」 こんな感じである・・・。 「ちょっと、キョン!また間違ったわよ!やる気あるの!?」 ハイハイ、真面目にやってますよ・・・。 この珍妙なダンスを収めたPVがどういった形で世に出るのか・・・。 そしてそれが出てしまったら最後、本格的に俺達は変人の烙印を押されてしまうのではないか・・・。 そんなことを考えながら、今日も元気な団長様の声に耳を傾けている。 古泉は俺が、『SOS団の縁の下の力持ち』だと言った。 ああ、そうさ。俺はこのSOS団を、ドラマーのように、後ろからしっかり支えていく運命にあるんだよ。 だからな、ハルヒ。お前がどんな無理難題を言い出そうと俺は後ろから支え続けるぞ? 無論、腕がぶっ壊れようとな。覚悟しとけよ? そして、まあそんな日が万が一、億が一にも来るかはわからんが、 いつの日か、お前の後ろじゃなくて―― お前の隣に立って―― どこまでも支えていってやりたいなんて―― そんな柄にもない恥ずかしいことを考えたりして、な。 ―――END―――
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/355.html
コンコン ど、どうぞー 何時もどおり部室にノックで確認をとって入る俺。 ヒュー紳士的ー、しかし今朝比奈さんの声、どこか上擦っていたような? 「うぃーすってみんなどうした?」 何時もと同じ面子だが、何時もとは様子が違う。 特にハルヒ以外のメンバー 「どうしたんだ?みんな?」 「いえ、別に何もありませんよ。」 と言った古泉の顔が笑いながら少し引きつっているように見える。 長門は相変わらず本を読んでるが席が窓側の近くから、廊下側の近くに移動されている。 朝比奈さんもここなしか、いや明らかに廊下側の近くの席に座っている。 そして皆の正反対の位置でハルヒがニヤニやしながらパソコンに向かっていた。 しかし朝比奈さんならまだしも、長門や古泉が観察対象から自ら離れるなど、なかなかないことだ、どんな近寄りがたい事をしてるんだ? 俺はハルヒが何をしているのか気になり、ハルヒ近ず。 何やら何かBGM的な音楽と女の声がパソコンから聞こえてくる。 オイMASAKA!? 俺は素早くハルヒの後ろに回りこむと、そこにはゲームの画面があった。 『えへへへ、キョンくーん。』 メッセージウインドウにはそう書いてあった。 さらに足元にゲームのパッケージが落ちていた、なになに? 東鳩2?意味わからん、だがパッケージのあるシールでこれがどういうものかが確定した。 さあ深呼吸だ★ 「エロゲーかぁぁぁぁ!!」 「そうよ。」 「うお!びっくりした突然振り向くな…。」 「突然叫んだヤツの台詞じゃないわよそれ。」 いやお前に問題がってそんなことはどうでも良い。 「でどこから仕入れてきた、こんなもん。」 「コンピ研ロッカー室から」「許可は?」 その時隣の部屋から。 『ああーマイユートピアはいずこに!!!?』 『お気を確に部長!』 『オレのこのみんが…オレのまーりゃんが…』 『諦めるな!まだ探して無いところがあるはずだ!』『エヘヘへもう生きてる意味すらわからない…』 『部長ー!部長ー!』 ………ご愁傷さまだが学校に持ってきてまでやるお前らにも問題あるぞ? そしてこいつにも大問題があるぞ、俺柄みでな! 「つーか俺の名前でプレイするなぁぁ畜生がぁ!!」 「だって、誰かに見つかった時にあんたのせいに出来るしー。」 SATUGAIしてー。 そんな沸き立つ感情を内に秘め、なんとかこの場を納める事に専念した。 「なあハルヒそれやるんならみんな帰していいだろ?俺は残るからさ。用事があるんだってさ。」 そういうとハルヒが皆の方を向く。 待っていましたと全員が逃れたくて、必死に首を縦にふる。 それを見たハルヒは、 「じゃあ良いわよ、今日は用事がある人はかいさ「「「おつかれさまでした!!」」」 「ハヤ」 ものすげー速かった。 おいおいこいつは世界を狙えますよ? 「さてハルヒ、部室に二人きりだな?」 ちょっとご機嫌に言ってやると 「そうね?じゃあどうするぅ?」 やけに挑発的だ。 「決まってるだろそんなの…。」 だんだんとハルヒの陰と俺の陰が一つに重なっていく。 「エロゲーじゃー!エロゲー祭りじゃー!!」 「うほほーい!この展開有り得ないけど胸が土器☆土器☆するぜぇ、なあハルヒ!」 俺たちは一つの画面に身を寄せてエロゲーを楽しんでいる、いつもはすれちがっていた二人が一つになれた。 俺らはこの一体感とエロゲーを満喫している、青春最高! 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4331.html
午前中。休み時間とは名ばかりの、次の授業への移行時間かつ執行猶予時間の際。 俺は……古泉は登校しているのだろうか、長門はどうしているだろうかなどを自分の席に着いたまま黙考していた。 「どうしたんだい? あまり元気がないみたいだけど。なにか悩みでもあるの?」 国木田はこちらへと近づきつつ俺に問いかけ、俺は背後にハルヒが居ないことを確認すると、 「……悩みが多すぎるのが悩みだな。正直まいってるよ」 「ふうん。てかさ、涼宮さんも何だか元気がないみたいだね。ひょっとしてケンカした?」 普通は聞きにくいようなことを飄々と聞いてきた。国木田よ、俺とハルヒはケンカするほど仲が良いわけじゃ……。 いや、あるのか。いつも俺がボッコボコにされてるが。国木田はなおも飄々と、 「聞きにくいって? もしかして、キョンと涼宮さんのケンカは犬も食わない感じになってるの? それなら、僕がそれを聞いちゃったのは野暮だね。ごめん、謝るよ」 謝られたが、考えてみれば野暮なことはないよな。そして、 「……勝手に俺たちを夫婦にするのはよしてくれ。それより、ハルヒが元気ないって?」 あいつが? ……俺には、息巻いて不思議探索に精を出そうとしていたようにしか見えなかったが。 「キョンは気付かなかったの?」 「……俺には世界を作り変えちまいそうなほど元気に見えたがな。もしハルヒがそうだってんなら、多分、俺がまだポエムを書いてないのが原因だろう」 「おいおい、いい加減早く書いちまえよな? お前なら、いままで恋愛経験がなくても関係ねえ。涼宮とのアレコレでも書いてりゃいいじゃねえか」 谷口がどこからか沸いてきた。谷口、俺はハルヒと、それこそ人に言えないようなもんしかしてないぜ。 「それは大胆だねキョン。ここは学校だし、そういった情事的な告白は自重した方がいいんじゃない?」 俺の言葉に国木田がひどい齟齬を発生させちまった。こいつが耳年増なことを言ってるのは、人畜無害そうなツラしてるのが原因だろうか。谷口は国木田に、 「バカ言え。こいつにそんな甲斐性があったら困るってよ。ムッツリな奴ってのはそんなんじゃねえ」 「誰がムッツリだ。おいお前たち、いや、アホその一とその二。妙な勘違いしてやがると俺の怒号より先に、ジェットエンジンを積んだ地対地ハルヒミサイルがアホを感知して飛んできちまうぞ。俺はそれの巻き添えを喰らいたかないね」 「勘違い、ねえ」と声を揃える二人。もといアホ供。そのなかでも特にアホな方が、 「……しかしもう一年になるんだな。お前と涼宮が、一緒に過ごすようになってから」 ――この谷口の台詞は、まんま俺が自分の部屋のカレンダーを見て思った言葉と一緒だった。 四月。ハルヒと出会った日付に、俺が記した印。 記憶をなくしちまった異世界の俺は……その印を見て、何を思っているのだろうか。 「俺はなキョン。涼宮とお前が出会ったのは良いことだったと思ってんだ。あいつが奇行をするのは変わっちゃおらんが、中学の頃のそれとはダンチだぜ」 右手を肩の位置ほどまで掲げながら、やれやれとばかりに話す谷口。 ――俺は話の内容より、谷口の姿を改めて見たことによって一つ思い浮かんだことがあった。すぐさまそれを聞こうと、 「……そういえば谷口。お前は、ハルヒとずっと一緒のクラスだったよな?」 「ん? ああ、中一の時から現在進行形でそうだろ。なにを今更言ってんだ?」 「聞きたいことがあるんだが」 もしかして、こいつはハルヒが異世界を作っちまったヒントを知ってるんじゃないだろうかと思った俺は、「あいつさ、中学の頃から宇宙人やら諸々を探し回って、不思議なものと会いたがってたんだろ? それでさ、なにか……他に変わったことしちゃいなかったか? もしくは、あいつの悩みでも願いでもなんでもいいんだ。教えてくれ」 そうだ。異世界じゃそういったハルヒの願いは叶ってる。その世界がそんなイレギュラーな事態になってるんなら、他に……何かがあるはずなんだ。若干の期待を込めつつ聞いた俺に谷口は、 「知るか」 という端的な答えを出した。冷たい言い方に俺がすこし傷ついていると、 「中学の涼宮の行動はオールラウンドに変わってたぜ。それこそ全部が変だったもんで、それがあいつの普通になってたくらいだ。……そりゃ今でも変わんねぇが、高校に入ってから変わったもんが一つあるな」 谷口は、話の後半部分になるとニヤニヤした顔を俺へと向けて話していた。やめとけ。マジモンのアホみたいだぞ。 とは言わず、それは何だと聞き返すと、 「高校に入ってから涼宮に告白したヤツがいたんだが……涼宮は断ったらしい。中学の頃じゃ考えられねーよ。でな、東中出身のヤツらの間じゃ眠り姫伝説ってのがあったんだ」 もちろん眠り姫ってのは涼宮だ。と続けて、 「眠り姫ってのはつまるところ、涼宮が寝ぼけたこと言いながら正気の沙汰とは思えん行動ばっかやってたからさ、皮肉で付けられたあだ名だよ。そんで、あいつが目を覚ますのは、あいつにちゃんとした男が出来たときだって言われてた」 また谷口は俺をアホ面で見ながら、 「涼宮が男をとっかえひっかえしてたのは、いつまでたっても現われやしない王子様を探してたんじゃねえかって噂が立っててさ。で、あいつは眠ったまんまで王子様が誰だかわからねーから、とりあえず全員オーケーしてたんだろって話だ」 「馬鹿言え。ハルヒが王子様を探してる? あいつが全員の申し入れを受けてたのは、単に断るのがメンドーだっただけだろ」 「それは違うんじゃないかな? そっちのほうが面倒じゃん。涼宮さんなら、斬り捨て御免でサヨナラすると思うけど」 「だが……」 ……と俺は言いかけて停止した。谷口の話を聞いて、一つ不安な考えが頭をよぎっちまった。こいつらとハルヒの恋愛観について侃々諤々としてる場合じゃない。 眠り姫。 スリーピング・ビューティ。 まさか……あの、閉鎖空間から抜け出たときの行動をやれなんて言わないよな? ……俺がなんとも言えない気持ちになっていると、 「でもさ、涼宮さんはその人の告白を断ったんでしょ? じゃあ、もう涼宮さんは王子様を見つけちゃったの?」 「――なっ!」 思わず驚嘆の声を発した俺に、 「何驚いてんだよキョン? いつになく素直な反応じゃねえか」 「うん。まるで好きな人に彼氏がいたのが発覚したみたいな反応だったね」 アホがアホなことを言ってきた。こいつらにアホ言うなとは無理かもしれないと思いつつ、 「お前等がアホらしいこと言ってるからだ。あいつに男なんかいやしないし、第一、今でもハルヒは天真爛漫な行動してるじゃねえか。谷口の予測も外れてるってことだ」 そう言うと、谷口は何故か盛大に嘆息した後に、 「噂は噂だ。与太話でしかねえよ。けどな、じゃあなんで涼宮はそいつの告白を断ったと思う? 俺が言うのは業腹だが、そいつは中々の良識人だったぜ。見た目だって悪かねえ」 「そりゃSOS団があるから……」 「ああ、わかった気がするよ。谷口の言いたいこと」 俺の言葉を途中で止めた国木田は、 「涼宮さんは、今度は王子様と一緒になってキテレツな行動をやり倒してるんだね」 「そういうこった」 俺の目の前に二つのアホ面が広がった。 つまり、こいつらは俺が王子様だと言いたいらしい。なんとアホな。谷口、国木田よ。俺が王子様に見えるんなら、俺が跨っている馬はハルヒだぞ。むしろ、俺がじゃじゃ馬に乗っかってるから王子様に見えるのか? 何処をどう見たら、無残に振り回されまくりの俺の格好がそう思えるんだろうね。 俺はそんなことを考えながら二人を追っ払い、少々残念な気持ちをそのまま溜息として吐き出していた。 実を言うと俺は、谷口がこの異世界問題の解決の糸口を持ってきてくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのだ。 そう。長門が世界を改変し、俺以外のみんなの記憶が消えちまった時、あいつは俺とハルヒを引き合わせるキッカケをもたらしてくれた重要人物だったからだ。そして、この谷口は―― 残念以外のなにものでもなかった。 そして昼休みになる。俺はいつものトリオでの昼食会を辞退し、文芸部室へと足を運んでいた。 理由なら沢山ある。長門の様子だって気になるし、ポエムだって書かなきゃならない。教室じゃ恋のポエムなんぞ書けるはずもないため、どうせなら部室で長門と肩を並べながら頑張るのも良いかなと考えたのだ。長門にとっても、戦友がいたほうが退屈しないで済むだろうしさ。古泉は……まあ、気にならないわけではないが来てないとしても俺にはどうしようもないことだし、そもそもあいつが学校にまで来れない理由というのがわからん。よって、俺は数ある懸案事項の中で、ポエム作成と長門についての問題を優先して選択し対応することにしたのだ。 そんな雑多なことを考えながら部室へと到着し、扉を開いた俺は…… 「うお」 室内の長門の様子を目に入れて思わず声を漏らす。 「……今日は、本読んでないのか」 長門はこちらへと振り返ることもせず、顔を窓際へと向けたまま、自分の席に閑寂と着座していた。 「長門?」 俺が呼びかけてみても、一ミリの返答すら返ってこない。 「……機関誌借りていいか?」 「…………」 沈黙を了解の合図とした俺はかつての長門を見習い、ポエムの作成に温故知新的な希望をもって小説誌を開いた。 ……が、何故か俺は自分の小説ではなく、長門の小説を読み返したいと思いながらボンヤリとページを捲っていた。 「………ん?」 長門の小説を探していた俺は、機関紙が検索を終えてパラリと閉じられたことに違和感を感じた。なぜなら、俺はあいつの小説を見つけることが出来なかったのだ。 そして何度か再検索してみるものの、一向に長門の小説は姿を見せない。 というより、ない。 それが俺の勘違いでないというのは、目次として記されている作品掲載順序と実際の順番の不一致が証明してくれている。 そう。本来ならあるべきはずの場所に、あいつの小説がポッカリと消えてしまっているのだ。 「………?」 ――なにかがおかしい。嫌な予感がする。何か……とてつもなく大きなものが俺を待っている気配が、この部室内からですら漂っている。 「長門」 もちろん返事はない。しかし、それがもちろんのことになったのはつい先程のことだ。これも、本来なら変なんだ。 「……機関誌なんだが、お前の小説は何処へ行った?」 「…………」 無言で部室の隅を指差す。俺はまるで札を貼られたキョンシーの如く何も考えず諾々とその指示に従い、長門が指差す先へと歩き出した。 「………?」 壁に突き当たった俺は、またもや沈黙と疑問符を浮かべることとなった。 ここには、円筒状のゴミ箱しか置かれていない。 行動の選択肢が一つしかなかったため、俺は何を思うわけでもなく、ゴミを漁るというあまり宜しくない行動に出た。 ……そして思わぬ収穫物を手に入れた俺は、ここで、やっと意識を取り戻すこととなる。 「――誰が……こんなことしやがった」 俺が手にしているのは……長門の小説だ。見事なまでの手際で切り取られたであろう数枚の紙の姿に、俺はそれを認めることが出来ないでいた。 いや待て。待て待て。わからん。不愉快よりも、不可解さが先に来る。 何が起きてる? いつ始まった? どうしてこうなってる? 真っ白になった頭の中で数々の疑問がひしめく中……俺は思わぬ言葉を、紛れもない長門の声で耳にする。 「わたしがやった」 ……は? なにをだよ。 「それ」 俺は手元を見る。そこにあるのは、もちろん…… 「―――長門っ!?」 質問するには不明なことが多すぎた。俺は長門を一瞥し、そして普段とは違うこいつの雰囲気を認識するやいなやすぐさま駆け寄り、あいつの肩を掴みながらあいつの名前を叫ぶ。 「……なっ……お前、どうして……」 そして長門の双眸と目を合わせた俺は……そこにあるものを感じ、狼狽を隠せずにいた。 「今のわたしには、必要ないものだったから」 そう話す長門の瞳の中には…… 何も、存在していなかった。 今つくづく思う。昨日までのこいつには、いや、初めて出会ったときだってそうだ。無感動ながらも、確かに何かが存在していたのだ。 しかし、俺の目の前にいるこの長門には……何もない。あの黒い瞳はまるで乾いた氷のようにくすみ、光を失ってしまっている。初めて俺は……こいつの姿に虚無というものを見て、例えようのない戦慄を覚えた。 何かが起きてる。それは間違いない。この長門がおかしいってのも間違いない。 じゃあ、何で……長門はおかしくなっているんだ? 《あの日》を思い出したからといって、流石にこうまでなるとは考えにくい。ってことは、なにか他の原因でこうなっちまってるんだ。考えろ。どこかに……ヒントがあったはずなんだ。 昨日は何があった。なにかおかしかったところは?(帰り際にあったな)もしかして、長門は誰かに妙なことでもされたのか?(長門が?)じゃあ誰に?(あいつはどうだ)大体、長門をこんな風にして何の得がある?(ある。あいつには)今日何かおかしなところはあったか?(あいつは来ているか?)機関誌は……(最近あいつがずっと読んでたな)。 「……ふざけるな」 これは俺の馬鹿げた思考に対する言葉だ。くそ。何考えてんだ俺は。わかってるじゃないか。 古泉が……こんなことするわけねえだろうが!(機関はどうだ?) ――いい加減にしろ。そうだ、原因を考えたところでどうなるわけじゃない。今必要なのはトルストイ的思考方法だ。 まず、現在一番優先すべきことはなんだ?(そりゃもちろん長門を元に戻すことだ)それを果たすには?(思いつかないね)じゃあどうする。(何が出来る?)俺に出来るのは……(俺に出来ないなら……) 「喜緑さん……!」 あの人なら何か知っているはずだ。確証はないが、もとよりここで俺が無為に思考を巡らせるよりは彼女に何かしら聞いてみた方が上策というものだろう。 だが、ここの長門はどうする? 下手に校舎内を引っ張って連れて歩こうものなら、ハルヒが追尾してきたりだとか俺が破廉恥な輩だという無用の心配が生徒や教師間に蔓延ってしまうかも知れん。そんなもんに構ってる暇などありゃしない。 俺が行動を決めかねていると部室の扉がガチャリと音を立て、 「……おや」 立ち尽くす俺の姿に少々驚きつつ、見慣れたハンサム顔が進入してきた。 「いえ、長門さんが心配だったのでね。僭越ながらここへやってきたわけです。お邪魔なら引き返しますが」 何も聞いちゃいないのに訪れた理由をいつものスマイルで話す古泉に、 「古泉、これ頼む! あと、長門もだ! 俺は今から喜緑さんの所に行ってくる! 理由はすぐ解るはずだ!」 「……ど、どうしたんですか?」 俺は古泉の胸元に長門の小説を押しやり、されるがままにそれを受け取った古泉は当惑しながら俺に説明を求めた。 「何がどうなってるかは知らんが、事態は風雲急を告げまくりだ! よろしく頼……」 一目散に扉へと駆け出していた俺は途中で足と言葉を止め、唖然としている古泉を見ながら、 「……古泉。俺は、お前を信じてるぜ」 たとえ『機関』が――いや、誰が長門をこうしちまったとしても……古泉は、目の前の長門を守ってくれるはずだ。 俺はそれ以上足を部室に留めることなく、一路喜緑さんの元へと駆け出した。 とは言うものの、俺が目指したのは生徒会室だった。目的地に着いた俺はすぐさまドバン!と無作法にも勢いよく扉を開き、 「……なんだキミは。ここはそちらのイカガワシイ部室と違い、ひどく真面目に学内活動に取り組んでいる場所なのだ。無礼な入室の是非は推して測るべきだと思うがね」 突然の闖入者に呆れ顔の生徒会長。少しも怯んだ様子が見受けられないのは感嘆だ。 「そういえば、機関紙の上稿の件があったな。詩集は完成したのかね? もっとも……キミのその様から鑑みるに、期日の延長でも哀願しに来たと考えるのが妥当な判断だが」 肩で息をしている俺に、会長は訝しげに言い放つ。 「……それも頼んでおきますよ」 ちゃっかりしたことを言う俺に、 「ふん。その程度の用件でわざわざ参られては、こちらが困るというものだ。期日を設定したのはそちら側だろう。そもそも今の私は、奇怪な団体に付き合ってる暇など皆目持ち合わせてはいない。この度の生徒会からの要求も実の所、便宜上の活動内容が欲しかっただけなのだ。詩集とやらはあのお祭り女が勝手に決めたことだ。今回、生徒会側はキミたちに契約不履行の罰則を何も提示してはいない。勝手に四苦八苦でも七難八苦でも起こしていたまえ」 会長があまりにも正当なことを言っているのでちょっと逆らおうと思った俺は、 「……少しばかり要求を急ぎすぎだった感は否めませんがね。せめて二学期から活動を求められれば良かったんですが」 「ふん」 いわれのない非難を受けて呆れ返ったような息を吐き、 「キミは喜緑くんの、折角の厚意を無下にするつもりかね。当初の生徒会側の申し入れを提案したのは彼女だ。……理解したのなら、早く退出したまえ。こちらは昼食をロクに摂れぬ程忙しい身なのだ」 「待ってくれ。俺はそれで来たんじゃないんだ……いや、ないんです。喜緑さんはいないんですか?」 「ほう。キミが我が生徒会秘書と謁見したいというのは何故だ」 答えてるヒマはない。いるかいないかどっちかだけ答えてくれ……という俺の質問は愚問だった。清濁併せ持つというか本来黒い会長がこの喋り方だってのは……。 「会長。どうやら彼はわたしに火急の用があるみたいです。すみません、少し席を外していて頂けないでしょうか?」 「……む。私とてヒマではないのだが。キミも良く知って……」 会長にニッコリと微笑む喜緑さん。これ以上会長が話しを続けていたらどうなるかわかったものじゃない。 「……よかろう。だが、手短に済ませたまえ」 絵に描いたような渋々とした風情で歩き去る生徒会長。生徒会活動に精力的なあの人の邪魔をするのは少々気が引けるな。 「構いません。わたしたちはここで、お弁当を食べていただけでしたから」 一転して会長に越権行為疑惑が浮上した。ちくしょう。権力を傘にきて、喜緑さんにちょっかい出してやいないだろうな。 「いえ。会長は素晴しい殿方ですよ?」 明るく言い放っているが、この人は会長の本性を知っているのだろうか。知らないとは思えないが……。 ――って、そんなどうでもいいことを考えてる場合じゃない。 「喜緑さん! あなたに聞きたいことがあるんだ! 長門の様子なんですが……」 急に笑顔のトーンを落とし、喜緑さんは悲しむ口調で、 「……はい。彼女に異変が発生しているのは知っています……その原因も」 ――よし、ビンゴ。当たりだ。原因が判明すれば、後はなんとでも対策は講じられる。 「……あいつはどうしちまったんですか? 多分、誰かに干渉されて――」 喜緑さんはゆるやかに首を横に振り、 「そうではありません。彼女は……禁を破り、死を願ってしまったんです。そして情報統合思念体からの処分を受け、現在の状態に保持されています」 「な……。あいつらが、長門を――?」 ――待て。思念体にとって長門は……世界人仮説を解明するとかいう、進化の希望だったんじゃないのか? それがあいつらの最重要目標だったはずだ。なのに、禁を破っちまったからといってホイホイとあんな状態に変えちまうのか? いや……もしかして、解明の作業には影響しないのだろうか? だがな、だからといって長門をあんな風にしちまうのは許され――って、 「ちょっと待ってください。長門が……死を願っただって? 死にたいなんぞを思ったってことですか?」 喜緑さんは視線を落としながら軽い困惑の色を顔に貼りつけ、 「……はい。長門さんのパーソナルデータが消去されていることから、それは間違いありません」 「長門のパーソナルデータが消えた? ……何となく意味は掴めるんですが、どういうことなんです?」 俺の質問に、喜緑さんはまるでカマドウマ事件をもたらした際のたじろぎ気味な雰囲気で、 「言うなれば……彼女はもう長門さんではないんです。現在の彼女は、いままでの長門さんの行動形式を思念体から暫定的に付加された、素体が一緒なだけの別人なんです。そして……」 更に沈み込み、唇を噛み締めるような様子で…… 「――もう、わたしたちが知っている長門さんが帰ってくることはありません。……彼女の中に存在する思念体は長門さんのものですが、これからどうしようとも……あの長門さんと同一のパーソナルデータが形成されることはありませんから……」 「………うそだろ」 ……喜緑さん。頼むから、そんな顔をしないでくれ……。それじゃ……。 まるで、打つ手がないみたいじゃないか……。 ――打つ手が……ない? いや……あるのか……? 「…………」 俺は揺らめく意識とおぼろになった現実感の中で、懸命に思考を成り立たせようと煩悶していた。 ……大人の朝比奈さんは言っていた。今日、長門の為に《あの日》へ飛ばなければならない、と。 だが、行ってどうなる? ――そう、そこなんだ。この現在は過去の延長なんだから、過去の空白を埋めても今が変わるわけじゃないはずだろ。 つまり……それは、長門がこうなっちまう現在を変えろってことなのか? だが、それは危険なんだ。俺たちは、歴史がどう変わるかなんて予想出来やしない。大人の朝比奈さんにいいようにされちまう可能性があるんだ。それに……。 長門が復調することは、大人の朝比奈さんにとって不利益なんじゃないか? 思念体は俺に、世界の矛盾を消して元の姿に戻さないかと提案してきた。それは、大人の朝比奈さんが消えちまうってことだ。ああ。そうだよ。そもそもが宇宙人や未来人や超能力者の上の繋がりは、純粋な利害関係で目的が一致してたから互いに敬遠していただけだ。思念体が長門を見限った今、『機関』や朝比奈さんの『未来』があいつを助けようなど考えるわけがない。 ……だが、最も頼りになる奴らは、長門を助けることに微塵の躊躇もありはしないんだ。 ――俺たち、SOS団には。 そして、今は俺の判断が一番重要な意味を持っているんだ。長門や古泉、恐らくは朝比奈さんも背後の黒幕から行動を制限されている。俺の行動如何によって、事態はあらゆる方向に進行してしまうのだ。世界の分岐点とやらがあるのなら、今が一番大事なポイントだ。 よく考えろ。俺に何が出来る? 俺の朝比奈さんに大人バージョンの彼女の存在を打ち明けてみるか……もしくは、博打だがハルヒに俺がジョンスミスだと名乗り出るかだ。危険度を考慮すれば前者だが、効果を考えるなら後者だ。どっちに………。 「………くそ」 どちらを選んだとしても、あまり良い結果が出るとは思えない。 ……それに現在俺の中では、上の奴らに向けているものとは別の怒りが大きくなり、思考することを邪魔している。 ――長門。お前は今大変な状況だが、一つ……言わせてくれ。 なにやってんだ。お前は。 死を願っただって? んなもん、願い事でも何でもねえ。お前は、死ぬほど悩んでたんだろうが。それで死にたくなったんなら、なんでこうなっちまう前に俺に言わねえんだ。いや、俺じゃなくてもよかった。ハルヒでも、朝比奈さんでも……古泉でも。そうさ、お前は一人で抱え込み過ぎるから《あの日》を起こしちまったんだろうが。……いや、それは俺が気付くべきだったよな。お前は何も悪かない。 けどな、長門。俺は誓ったんだ。お前に二度と……あんな思いはさせないと。 それはSOS団のみんなだって一緒だ。だから、俺たちはお前の悩みでも何でも共に背負って行きたいんだよ。 だが、お前がそれを教えてくれなきゃ……俺たちは、寄り添いようがなだろうが……。 長門。お前に一番必要なのはさ、自分が抱えてる悩みを仲間に伝えること――――。 ――ドクン。 ……この瞬間、俺の心臓がまるで今始めて鼓動し、その存在を知らしめるかの如く高く鳴り響いた。 「まさか……」 頭の中では、一人の少女の……笑わない仮面が笑ったような笑顔の映像が勝手にフィールインされていた。 「――喜緑さん! あいつは……朝倉はいないんですか!? いや、とにかく聞きたいことがあるんだ!」 慌てふためく俺を見ることなく、喜緑さんは視線を落としたまま、 「朝倉さんは……現在、思念体内に存在していません。彼女のパーソナルデータのバックアップも、失われています……」 「…………」 ――決まった。 俺は、行かなければならない。二度と行きたくはなかった《あの日》に。 そして俺は……二度と会いたくはなかったヤツに、今一番会いたいと感じている。 そう。朝倉は……長門の願いを、あいつの悩みを聞いているんだ。 ……《あの日》はまだ、終わっちゃいなかった――。 第三楽章・臨
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5956.html
涼宮ハルヒの切望Ⅱ―side H― キョンが欠席した翌日。 今日もあいつは欠席していた。 ただ何かが違う。 岡部は今日も「家の都合」って言った。 でも詳細は教えなかったんだから。 よく考えたら昨日はあたしも頭に血が上っていたのか、もう一つ欠席表現としての言葉を思い出した。 もし親戚に不幸があったなら『忌引き』って言うはずよ。 それが無かったということは答えは一つしかない。 と言っても、まだこれは憶測の域を出てないから軽はずみなことは言えないんだけどね。 あたしの昨日までの怒りは完全に収まってたわ。 ううん。そんな状況じゃなくなった気がする。 そんな疑心暗鬼のまま、一日は過ぎ去り、そして放課後。 あたしはいつものように部室へと向かう。隣にあいつがいないことになんとなく隙間風を感じてしまっていることは自覚しているわ。 んで否定する気もない。 そりゃそうでしょ? 犬だって三日飼えば情が移るんだから。 それが三日どころか一年以上、隣にいたんだし、それが当たり前だと思っていたから寂しくなって仕方がない。 あ、言っておくけど、これがキョンじゃなくてみくるちゃんや古泉くん、有希が傍にいなくなっても同じ感情を抱くわよ! 絶対に勘違いしないように! って、あたしは誰に何を言っているのかしら。 などと考えながらあたしは部室のドアをくぐる。 「お待たせー! キョン以外のみんな! いる!?」 キョンが居ないことでみんな気にしてたみたいだから少しでも明るい雰囲気を作らないとね。てことで、あたしは努めて明るい声を張り上げたわけだけど。 「ハルにゃん!」 って、え!? まったく予想していなかった泣き叫んでいるような幼い声を耳にして、あたしは思わず素っ頓狂な表情を浮かべてしまったの。 ちょっと待って……今の声は…… 「妹ちゃん!?」 「ハルにゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 あたしが目を丸くして呼びかけると同時にキョンの妹ちゃんが泣きながらあたしにむしゃぶりついてきた。 いったい何がどうなって……? あたしの胸の中で泣きじゃくる妹ちゃんの様子にどうやらあたしの疑念は確信に変わってしまったらしい。 自分でも分かる。 周りの世界がどこか遠くなって、色彩が薄れていく感覚に包まれて―― キョンに……何かあった…… 茫然自失と立ち尽くすあたしの頭の中はそのフレーズをリフレインするのみになってしまった…… 「えっとね……ひっく……あのね……ひっく……おとといの日曜日にね……ひっく……」 妹ちゃんはみくるちゃんの腕の中で、泣きじゃくりながら語り始めていた。 「家に着いたらね……ひっく……真っ暗で……ひっく……でも鍵がかかってなくて……」 「鍵がかかってなくて真っ暗、ですか?」 「う、うん……」 古泉くんの神妙な確認に、まだ震えながら頷く妹ちゃん。 そうね……あたしも今、まだ茫然としているし、ここはみんなに任せましょう…… 「それでね……ひっく……キョンくんのお部屋に行ったらね……ひっく……誰もいなかったの……」 「妙ですね」 「でしょ……」 「で、今日まで彼から連絡もなかったということですか?」 「そうなの……うっうっうっ……」 それっていったい…… 「ハルにゃぁぁぁぁぁぁぁん!」 ととっ! 今度はあたしにむしゃぶりついてきたし! 「SOS団って不思議を探し出すところなんでしょぉ! いきなり消えちゃったキョンくんって不思議だもん! だから、キョンくんを、キョンくんを探してよぉ! お願いだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 あたしの胸の中で泣き叫ぶ妹ちゃんの気持ちはよく分かる。 今の話をそのまま信じるならキョンが日曜日の時間は不明だけど、その日から消息不明になっているってことだから。 でも……なぜ……? しばし、あたしの胸でむせび泣いていた妹ちゃんが静かになったと思ったら―― ん…… そっか、泣き疲れて寝ちゃったんだ…… 優しく頭をなでてあげる。 と、妹ちゃんは一瞬、びくっと震えて、またすすり泣く声だけが聞こえてきた。 キョンの夢でも見てるのかしら…… などと、あたしもどこか物哀しげになってくると、 「わたしは明日、明後日とSOS団の活動を休止する。許可を」 うわ! 顔近いし有希! 息もかかる! って、そうじゃなくて今何て? 「彼を探索するため、わたしは情報統合思念体にアクセスし、この惑星のみならず銀河系規模で捜索する。そのためには二日から三日ほど必要であり明日と明後日、学校に来ることも不可能。だからSOS団活動の休止の許可を」 銀河規模でキョンを探す!? ちょっと! なんたってそんな大事になるのよ!? 思わずあたしは聞き募っていた。 ん? 有希が宇宙人ってことなら知ってるわよ。正確には宇宙人が造り出した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス、だったかしら? つい最近、ちょっとした……じゃないわね、かなりの大きくて衝撃的な出来事があって、その時にキョンが有希が宇宙人だって教えてくれたの。あとキョンがジョン・スミスでみくるちゃんが未来人ってこともね。しかもその言葉に嘘がないことの証言もあったし信じるしかないってもんよ。んで、その衝撃的な出来事の時に異世界人で『魔法』という名の超能力を振るう存在にも出会ったんだけどそれは別の話。 今はもっと重要なことがあるし。 すなわち―― キョンを探し出す―― 「昨夜、情報統合思念体から連絡があり、彼がこの惑星外へ飛ばされた可能性がある、と報告を受けた。むろん杞憂かもしれないが確かめる必要はある。そうなると銀河の広さを鑑みれば二日から三日は捜索期間として妥当」 何ですって!? 「杞憂かもしれないと言ったはず。だから、あなたたちはこの地域を捜索してほしい」 ええっと……何か一足飛びどころか、百足も千足も、と言うよりそれ以上ははるかに飛んでる気がする想定なんだけど…… しかし、あたしの苦笑を浮かべた困った表情は有希の真摯な両眼に迎撃されてしまい、 そ、そうね……宇宙規模となれば有希以外誰も何もできないでしょうけど…… 「わ、分かった。有希は明日と明後日、団活を休んでいいからね」 苦笑のまま不承不承に頷くあたし。 「感謝する」 有希が深々と頭を下げた。 「もう一つ確認したいことがある」 って、また顔近いし! 「あなたは仮に彼がこの惑星外に強制送還されたとしても生きていると思う?」 そんなあたしの焦りを無視するがの如く、有希は何でもないような顔で聞いてくる。 ……? 何、今の質問。んなの答えは決まってるじゃない。 「もちろん生きているわ。ヒラで雑用のあいつの生殺与奪の権限はあたしが持っているんだから。それがたとえ宇宙空間だろうと生きてなきゃ許さないわよ」 「それを聞いて安心した。これでわたしも希望を持って創作……もとい、捜索できるというもの」 何で言い直したのかしら? 「単なる言語表現の間違い。深い意味はない」 本当に? 「嘘つく意味もない。わたしという個体も彼のオリジナルが戻ってきてほしいと望んでいる。わたしだけでなく、あなたはもちろん、古泉一樹も朝比奈みくるも」 「分かった。じゃあしっかり探してきてね。あたしたちもこの辺りはくまなく探すから」 「了解した」 あたしが了承すると同時に、有希は颯爽と部室を後にする。 その後ろ姿を見送って、 頼んだわ……有希…… 妹ちゃんを抱きかかえたまま、あたしは、自分では気付けなかったけど、悲壮感漂う表情で有希を見送っていたらしい。 涼宮ハルヒの切望Ⅲ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅱ―side K―
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1383.html
新学期が始まり、一ヶ月程過ぎた5月のある日。 SOS団の私室と化した元文芸部室で、 いつものように、朝比奈さんの淹れてくれた美味いお茶を飲みながら、古泉相手に将棋をしていた。 古泉が次の手を考えてる間、ふと顔を上げてSOS団メンツを眺めた。 長門はいつもの場所で本を読んでいる。 朝比奈さんはハンガーの前に立ち、コスプレ服を整頓したり掃除している様だ。 平和な部室。それというのも、いつも何かをしでかすハルヒが居ないからだ。 どこにいったのやら。どうせまたろくでもないことを考えなら校内を徘徊しているのだろう。 視線を元に戻す。古泉が駒を握り、手を進めたと同時に扉が勢いよく開かれた。 我らが団長様の登場である。ハルヒはニコニコとご機嫌な顔つきをしている。今度は何を思いついたんだ? そして俺は久しぶりに驚かさせられる事になる。 一応言っておくが、俺は今までに散々色々な事に巻き込まれ、ちょっとやそっとのことでは驚かない自信がある。 だが、今回のハルヒには意表を突かれた。ハルヒの横には小柄な少女が立っていた。 そんなに校内をうろついた事はないが、その少女を今まで見た記憶がない。 推測から言うと、新入生って所だろうか。俺が驚いたのはハルヒの次の言葉だ。 ハルヒは少女の手を引いて中に入ると、立ち止まりこう言った。 「皆、注~目!紹介するわ。新しい団員よ!」 今、なんて言った?WHAT?新しい・・団員!? 続いて横の少女が自己紹介を始める。 「新しくSOS団に入る事になった伊勢 海奈でーす。よろしくお願いしまーす」 伊勢と名乗った少女をよく観察する。見た目は本当に高校生か?というような童顔である。 さらに胸はぺったんで、長門といい勝負かもしれない。 総合的に考えて、妹と同じ年齢だと言われても驚かない様な容姿である。 ハルヒの指示で現SOS団の自己紹介が始まる。俺の番はハルヒによって遮られ、案の定キョンと紹介された。 しかし、そんな事はどうでもいい。普通の部活動ならロリ属性の一年生が入団しましたー。ですむだろう。 だが、ここはSOS団は普通の部ではない。未来人、宇宙人、超能力者が一同に集まるというおかしな集団なのだ。 という訳で、ここには俺を除いて普通の一般人はいないし、入団することもないだろう。 ということは、目の前のロリ少女も普通ではないはずなのだ。 ふと周りのSOS団メンバーの顔を見る。 長門は無表情の中にどこか怪訝な顔付きをしている。 古泉はぱっとみれば、いつものニコニコハンサムスマイルだが、どこか影りがある気がする。 朝比奈さんは慌てた様な、どうしたら良いのか分からない様な困った顔をしている。 ハルヒだけが能天気にニコニコ笑っている。お前はいいよな、悩みが無さそうで・・。 思い返すのは2ヶ月程前の朝比奈(みちる)さん拉致事件である。(参考原作小説陰謀) 古泉の機関に敵対する組織。その尖兵である可能性もあるのである。 メンバーの紹介後、ハルヒは伊勢にある程度のSOS団活動の簡単な説明をし、 既に時刻が日暮れ時な事もあり、その日の活動は解散となった。 ハルヒ達が帰った後、ハルヒを除いたSOS団メンツの集会が行われた。 内容は言うまではないとは思うが、伊勢についてである。 集まっているのは俺、古泉、長門の3人だ。 朝比奈さんの伊勢の見張りという事でハルヒと一緒に帰っている。内容は後で連絡するつもりだ。 「で、伊勢の正体についてだが・・何か心あたりはあるか?」と俺が2人に聞く。 「こちらにはなんとも言えない、といった感じですね。敵対組織の情報はある程度聞いていますが、 その数も少なくも無く、完全に特定はできません」と古泉。続いて長門が、 「ある程度は理解した。でも・・ありえない存在」 どういうことだ?という俺の更なる問いに、長門が続ける。 「彼女はこの世界に存在するはずの無い存在」 よく分からないな・・存在しているのに存在するとは・・幽霊とか、そういう類のものなのか? 「違う。貴方にも分かるように言えば・・彼女は別の次元の存在」 つまり・・、異世界人ってことか? 「そう」 俺は初めてハルヒを知ったあの強烈な自己紹介を思い出していた。 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところまで来なさい。」 現在そのハルヒの望み通り宇宙人、未来人、超能力者はSOS団に所属している。 ということは、1年越しで異世界人がやってきたということになる。 けれど妙だ、最近のハルヒは、今のSOS団の活動に結構満足している様子だった。 時には、ハルヒの気まぐれかもしれないが、まったく謎に関係のない事もしている。 そんなハルヒが、今頃になってそんな事を望むのだろうか?俺の問いに答えたのは、やはり長門だった。 「今回は、涼宮ハルヒが望んだ事ではない」 そうなのか?だったら、なぜ伊勢は俺たちの前に現れたんだ?古泉の敵対組織に関係あるのか? 「敵対組織に関係あるのかは分からない。でも伊勢海奈が自ら望んで私達の前に現れた事は事実」 「今まで割りと大人しく影で行動していた彼らが、とうとう表まで出てきたんでしょうか」 「わからない」古泉の問いに長門が答える。 いくら長門が万能宇宙人だとしても、未来との同期を止めた事で先のことは分からない。 結局伊勢が異世界から来たであろう、ということくらいしか分からなかった。 古泉は機関で情報を集めてみますといい、その日は解散になった。 完全に日も落ち、薄暗い道を歩いていた時。 「あの、---さんですか?」ふいに後ろから名前を呼ばれ立ち止まった。 自分の本名など久しぶりに聞いたので一瞬自分のことかわからなかった。 が、次の言葉で気づいた。「それとも、キョンさんと呼んだ方がいいでしょうか?」 振り返る。薄暗い夜道を照らす街頭の下に、一人の少年が立っていた。 北高の制服を着ているその少年は、俺と同じぐらいの年頃だろうか。 古泉の様に気持ち悪いほどのハンサムスマイルとはいえないが、それなりの笑顔で俺を見ている。 「こんばんは、キョンさん」そういいながら俺に近づいてくる。 「1年2組の鏡野と言います。時間が無いので手っ取り早く説明しますね」 俺は黙っている。というよりはいまいちよく分かっていなかっただけだが。 「僕はこの世界の人間ではありません。もう伊勢海奈には会いましたよね?彼女と僕は同じ世界の人間です。」 次々に喋る。その表情はどこか焦っているように見えた。 「彼女の動向に注意してください。彼女は・・」鏡野と名乗った少年は次に恐ろしいことを口にする。 「涼宮ハルヒさんの命を狙っています」一瞬、頭の中が真っ白になった。 なんだって?伊勢がハルヒの命を狙っている?そんなもん狙ってどうすんだ?新手のギャグか? いきなりの爆弾発言に完全に動転してしまい、何がなんなのか分からなくなる。
https://w.atwiki.jp/jibunno/pages/312.html
ハルト 【はらみこ】【Selen】(2009-04-24) 【ガールズbeアンビシャス!】【SCORE】(2013-08-30) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart22 847 名前:名無したちの午後:2013/06/24(月) 20 30 57.42 ID /XBDyBrZ0 848 名前:名無したちの午後:2013/06/24(月) 20 33 39.80 ID /XBDyBrZ0 849 名前:名無したちの午後:2013/06/24(月) 23 00 44.13 ID /XBDyBrZ0 体験版(TG版)より仮報告 【ガールズbeアンビシャス!】[SCORE]・・・2013/07/26発売予定 主人公 島田遥斗(シマダ ハルト)・・・名前変更不可 弓槻風香(CV:海乃奏多) 「島田さん」「遥斗くん」 堤唯芹(CV:柚木サチ) 「遥斗」 御陵英玲那(CV:倉田まりや) 「遥斗」 青野瀬菜(CV:民安ともえ) 「遥斗」 ※体験版は日常シーンが短かく、風香の「島田さん」以外は全てエッチシーンでの呼称です (瀬菜は幼馴染みの為日常から「遥斗」呼びですが…) とりあえず全国の「ハルト」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ 【彼女と俺と恋人と。】【PULLTOP LATTE】(2012-12-14) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart22 850 名前:名無したちの午後:2013/06/25(火) 01 10 24.99 ID +t/1f/260 こちらも体験版報告。ハルト多いね 【彼女と俺と恋人と。】【PULLTOP LATTE】 主人公 松上 遥人(マツガミ ハルト)・・・名前変更不可 美萩野綾乃(CV:奏雨) 「松上様」→「遥人さん」 《遥人様》 徳吉優子(CV:美月) 「ハル兄」 白兎つくし(CV:百瀬ぽこ) 「あんた」「ハルト」 《ハルト様》 小沢見千景(CV:遠野そよぎ) 「遥人くん」「松上さん」 美萩野小乃花(CV:小倉結衣) 「お兄さん」 《遥人お兄ちゃん》 松上すすき(CV:藤咲ウサ) 「お兄ちゃん」 用瀬 簾(CV:海乃奏多) 「遥人くん」 全国の「ハルト」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ 【ぜったい最胸☆おっぱい戦争!! ~巨乳王国vs貧乳王国~】【softhouse-seal GRANDEE】(2012-10-26) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart21 538 名前:310:2012/11/14(水) 00 07 08.67 ID EsO1yjlq0 体験版だけ報告しましたが、製品版もコンプリートしましたので通常報告に差し替えお願いします。 【ぜったい最胸☆おっぱい戦争!! ~巨乳王国vs貧乳王国~】 【softhouse-seal GRANDEE】 (コンプ済) 主人公 ハルト 名前変更不可 ミルファリア・ウル・ウルリラ(cvこのは) 「ハルト様」 イリス・ミリャ・サーペッタン(cv奥山歩) 「ハルト」、(一部ルートで)「お父様」※あんた エストレア・マニュー・パイクオーツ(cv飯野汐里) 「ハルト様」「ハルト」 コトネ(cv御苑生メイ) 「お兄様」「お兄ちゃん」《→「パパ」》 ニコ(cv片倉ひな) 「パパ」 ショコラ・コレーション(cv佐藤遼佳) 「ハルト」《「バカハルト」》、(一部Hシーンで)「ご主人様」《(1回)「ハルト様」》 以下、立ち絵のあるサブキャラ(エンディングテロップで出た順に表記) アリア・アリアリア(cvこのえゆずこ) 「ハルたん」 ルーミャ・ハワワード(cv春河あかり) 名前を呼ぶ機会はなかったと思います※お前 ティアラ・フィロ・サーペッタン(cvヒマリ) 「ハルト様」→「お父様」、《(イリスルートで1回)「ハルトさん」》 クリュー・サンテムム(cv御苑生メイ) 「ハルト」※貴様、お前 ボイーヌ(cvヒマリ) 「ハルトちゃん」 ペタン(cv佐藤遼佳) 「ハルト」 《 》は1~3回レベルの稀な呼び方。 全国の「ハルト」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ ※「ハルト」はHシーンで呼ばれまくりですのでぜひどうぞ(あと、「ハルたん」もHシーンで呼ばれます)。 ※ 310の体験版で記したママ(cv片倉ひな)はcvは設定されていますがボイスはないようです。 【嘘と真琴にお仕置きを】【10mile】(2012-01-27) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart22 718 名前:名無したちの午後:2013/05/28(火) 00 01 57.46 ID bbnux9qP0 【嘘と真琴にお仕置きを】【10mile】 主人公 青木 春人(アオキ ハルト) …変更不可 黒井真琴 (CV:天上舞) 「春人くん」 《青木春人・青木春人さん》 《》内は1~数回の稀な呼び方 プレイ時間1時間程度の一本道シナリオですが、全国の「ハルト」さんオメデトンヽ(´ω`)ノ 【孕ら☆みん!! ~催眠中だし子づくり宣言~】【スワンアイ】(2008-05-30) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart13 415 名前:名無したちの午後 :2008/10/31(金) 23 24 43 ID P+vQRWPM0 それじゃあ、キリが良いところで2つほど報告。 【孕ら☆みん!!】 [SwanEye] 主人公 都々御 遥人(つづみ はると) 変更不可 小泉とうあ(CV:箱森ゆめ) 「遥人」 雛凪つむじ(CV:友咲綾乃) 「都々御くん」 都々御日名子(CV:相元ゆうき)「遥人」(「都々御君」※学校) 都々御ゆか(CV:今井舞) 「お兄ちゃん」(「兄さん」) 都々御みさき(CV:友咲綾乃) 「遥人」(「ハルちゃん」※過去回想) 相原愛璃(CV:相元ゆうき) 「あなた」 ※呼ばれる頻度が少ないものは( ) 全国の「ハルト」さん&「ツヅミ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ 【CONCERTO.】【SUCCUBUS】(2001-07-27) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart2 405 名前:名無したちの午後 :03/04/03 06 31 ID cxwXMk8H 【CONCERTO.】 (SUCCUBUS) 主人公 晴登(はると) 椿 cv赤威林檎:晴登 桜 cv長崎みなみ:晴登さん シオン cv涼森ちさと:晴登さん(普段はご主人様) 佐藤 cvプログレス:晴登様 ・メインヒロインの2人は名前で呼ばない ・佐藤は男(801展開にはならないので、御安心を) 全国のハルトさんオメデトンヽ(´ー`)ノ
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/57.html
575 どうすればいいのかわk 2007/07/24(火) 03 44 48 ID kfDLrDVI 「ちょっとキョン、お茶淹れなさいよ」 放課後、SOS団の部室でのことだった。 いつもお茶を出してくれる朝比奈さんは、本日は所用で不在。 ハルヒは口が寂しかったらしく、そんなことを言いだした。 あーはいはい、仕方ないな。古泉、お前は? 「僕もお願いしますよ」 「有希、あんたは?」 ハルヒが、いつものように窓際で読書にふける長門にも声をかけた。 「…………」 長門は顔を上げた。 そしてそのまま、ハルヒをじーっと見ている。返事に困っているようにも見えた。 おいそこ、そんなに考えるところか? さすがのハルヒも困惑したようだ。 「え、有希? お茶、いらないの?」 「私はあなたが欲しい」 ……。 は? 長門? 何を言っているんだ? まるで意味がわからなかった。古泉が驚きと微笑の入り交じった変な顔をしていた。 ハルヒも、頭上にクエスチョンマークを浮かべたまま固まっていた。 長門はおもむろに立ち上がると、そんなハルヒに近づいて(省略されましt 576 名無しさん@秘密の花園 2007/07/24(火) 22 39 00 ID iB5pCIfr rァ[続きを読む]