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「ここにフーケがいるの?」 「ええ、わたくしの調査によれば」 中から気取られない程度の距離を保って、一行は茂みの中から廃屋を観察 する。「ここからじゃ分からないわね」とキュルケが口にしたのを合図に、一同は一斉に顔を見合わせた。 「誰かが偵察に行かないとね・・・」 「セオリーとしては捨て駒が見に行くべきかしら」 「ちょっと!なんで僕を見るんだい!?」 あーだこーだと言い合うハデな髪の三人を尻目に、タバサが「ギアッチョ」と呟くのとギアッチョが腰を上げるのはほぼ同時だった。 「ちょ、ちょっとタバサ!?」 ルイズが抗議の声を上げる。青髪の少女はちらりとルイズを見ると、 「無詠唱」 ギアッチョを指してそう呟いた。そしてギアッチョがそれを受ける。 「なかなか実戦慣れしてるじゃあねーか小せぇのよォォー いい判断だ・・・この中で最も不意打ちに対応出来るのはオレってわけだからな」 無詠唱という単語にミス・ロングビルがピクリと反応する。腰に下げた剣を抜こうともせずに廃屋へ向かう男の背中を見ながら、ミス・ロングビルは誰にともなく尋ねた。 「ミスタ・ギアッチョはメイジなのですか?」 その質問に、全員が今度は一斉に彼の主を見る。ルイズはどう言っていいものか少々言いよどんだが、 「ま、まぁ・・・そんなものです 厳密には少し違うらしいですけど」 とりあえず当たり障りの無い程度に答えておくことにした。というか、ルイズもそれ以上のことは知らないのである。 魔法ではないとキッパリ言われたのだが、じゃあどこが違うのかと言うことまでは教えてくれなかった。 緑髪の秘書は無詠唱という部分を詳しく知りたがっているようだったが、今はそんな話をしている場合ではない。ルイズは使い魔が襲われてもすぐ助けられるよう、杖を抜いて彼を見守った。 木々に身を隠しながら小屋へと向かう。ギアッチョは別にいつ襲われてもいい、むしろ手間が省けるからとっとと襲ってこいぐらいの気持ちだったのだが、万一逃げられると後が非常に面倒なことになるので真面目にやることにした。 「ねえ、何かあいつ凄く隠れ慣れてない?」 後方で様子を伺うキュルケがそう口にする。タバサやギーシュ達も、その洗練された動きを興味深げに見守っていた。自分の使い魔が褒められて嬉しくない主人がいるだろうか? 「そりゃ、凄腕の暗殺者だったんだからね」 と胸を張りたかったルイズだが、流石にそんなことをバラしてしまうのはどうかと思って黙っていた。 そうこうしているうちに、ギアッチョは廃屋に辿り着く。入り口の横にスッと身を隠し、 ――ホワイト・アルバム スタンドを発動させる。 「人の気配はしねぇが・・・気配を殺す魔法なんてのがあってもおかしかねー 念を入れておくとするぜ」 ギアッチョの足から、小さくビキビキという音が発生する。その音は入り口へ 向かって進み、そしてそこを見事な氷の床へと変えた。 「逃げようとしてもこいつでスッ転ぶってわけだ」 そうしておいて、一分の無駄も無い動きで小屋の中へと滑り込む。身を低くして一瞬で周囲を見渡し、隠れている者がいないかを探した。 「・・・誰もいねぇな」 わざと声に出して呟き、そして敢えて隙だらけの挙動で小屋の中心に立つ。 五秒、十秒。何かが襲ってくる気配はない。逃げ出す気配もない。 「やれやれ」 どうやら本当に誰もいないようだ。別の意味で面倒なことになるなと思いながら、ギアッチョはルイズ達にOKのサインを送った。 「二番手は僕に任せたまえ!!」 誰もいないと分かって俄然やる気が出たギーシュが猛然と小屋に突進し、 「ワアアアアーーー!!」 見事に氷のトラップに引っかかった。一回転したのち背中から落下したギーシュを確認してから、ギアッチョはホワイト・アルバムを解除する。 わざとだよね?わざと解除しなかったよね?というギーシュの恨みがましい視線を清々しくスルーして、ギアッチョはキュルケ達を迎え入れる。 ルイズは小屋の外で見張りをし、ミス・ロングビルは周囲の偵察をすることになった。 まだ床で呻いているギーシュを「てめーも見張れ」と蹴り出して、キュルケ、タバサと共に家捜しにかかる。 程なくして、タバサが無造作に置かれていた破壊の杖を見つけ出した。 「ちょ、ちょっと待って 何かおかしくない?こんな簡単に・・・」 キュルケの疑問はもっともである。ギアッチョは警戒するように辺りを見渡した。 「普通に考えて罠だろうな これから何かを仕掛けてくるか・・・あるいは既に何かを仕掛けているかよォォ」 タバサはスッと杖を掲げると、探知魔法を唱える。 「周囲に魔力の痕跡は見当たらない」 タバサは簡潔に結果を報告すると、指示を待つようにギアッチョを見た。 「となると 外・・・か」 その言葉に答えるかのように、外から何かを叫ぶルイズとギーシュの声が聞こえ――それと同時にミス・ロングビルが室内に飛び込んで来る。 「皆さんッ!土くれのフーケが現れました!!」 ギアッチョ達は急いで外に飛び出す。そこには自分達に背を向けて魔法を唱えているルイズと、杖を取り出したもののどうしていいか決めかねているのかオロオロするばかりのギーシュがいた。 そして二人の視線の先に見えるのは、今まさに森の中へ逃げ込もうとしている黒いローブの人物だった。 次々と放たれるルイズの爆撃をかわそうともせず一目散に茂みを目指している。 「あのローブ・・・間違いなくフーケだわ!」 すぐさま追いかけようとするキュルケとルイズを手で制止すると、 「てめーらは破壊の杖を守れ マンモーニ!てめーはついてこい!」 言うが早いかギアッチョが走り出す。 「えええっ!?ぼぼ、僕がかい!?」 「何しに来たのよあなたはッ!」 キュルケがうろたえるギーシュの尻を蹴っ飛ばし、ギーシュはその勢いで泣きそうになりながらギアッチョの後を追った。 「どうして待機なの!?私も――」 ルイズが今にも走り出そうとするのを見て、ミス・ロングビルがそれを優しく諭す。 「ミス・ヴァリエール もしフーケが逃げている先に罠があった場合、全員で行けば一網打尽にされてしまう可能性があるのです ミスタ・ギアッチョの判断は的確ですわ」 それを聞いて、彼女はしぶしぶながら納得した。 ――そう、的確な判断の出来るあんたなら・・・必ずこうすると思ったよ ギアッチョとおまけの身を案ずる3人の後ろで、有能極まる秘書は彼女を慕う者が見れば卒倒するような笑みを浮かべていた。 小屋から二十数メイルは離れただろうか。土くれのフーケは依然逃走を続けていた。 チッ、とギアッチョは舌打ちをする。 ――こいつは罠を設置してある地点に向かって逃げている可能性がある・・・ そこに辿り着かれる前に、今動きを止める必要があるってわけだ。 ギアッチョはおもむろにデルフリンガーを掴むと、「え、ちょ、何を」という声も無視してそれを大きく振りかぶり、フーケ目掛けて投げつけた! ゴワァァァーンッ!! 金属同士がぶつかり合う派手な音を響かせて、フーケはどうと地面に倒れた。 デルフリンガーに悲しい親近感を覚えているギーシュを放置して、ギアッチョは己の剣を回収する。 「初めてだ・・・こんな酷い扱いをされるなんて・・・」 デルフがぶつぶつ呟いているのも無視。そんなことよりギアッチョには一つ気になったことがあった。 ――今、何故「金属同士がぶつかる音」がした? 脳裏に去来する最悪の可能性を払拭すべく、倒れているフーケを強引に引き起こす! 「――ッ!!」 ローブを身に纏っていたものは、ギーシュのワルキューレを髣髴とさせる青銅の甲冑であった。 「な・・・!?なんだいそれはッ!!」 ギーシュが異変に気付き声を上げる。 「ハメられたっつーことだッ!!」 ギアッチョはそう言い捨てて甲冑の頭部を蹴り飛ばす。氷を纏ったその蹴りに青銅の兜はあっさりと胴から分断され、鬱蒼とした森の茂みへと消え去った。 「コケにしやがって・・・!後ろを見ろマンモーニッ!!」 ギアッチョはブチ切れていた。悪鬼羅刹をも射殺さんばかりの双眸をギーシュに向けて怒鳴る。 「ヒィッ!」という声と共に、ギーシュは殆ど条件反射で元来た道を振り返った。 「ンなッ・・・!!」 ギーシュは絶句した。八体の青銅の騎士が、蟻の子一匹通さぬ密集隊形でこちらへ向かって来ていたのだ。 「既にオレ達はよォォ~~・・・罠にかかっていたっつーわけだ」 バギャアア!!と土に戻りつつあった黒いローブの青銅人形を踏み潰して、ギアッチョは今や2メイル程にまで距離を詰めた甲冑の一個分隊に向き直る。 「わ、罠だって・・・!?」 ギーシュがオウム返しに口にする。 「オレ達とあいつらを分断し・・・あわよくば始末するってところだろうなァアァ。ナメやがって!クソッ!クソッ!!」 ギーシュはとりあえずギアッチョから1メイルほど距離を取った。 「そ、それでどうするんだい!?」 造花の杖を引き抜いてギアッチョに問う。 「ブッ潰して戻るッ!!」 言うがはやいか、ギアッチョの右手が氷に包まれ始め――、数秒後、それは氷の曲刀を形成していた。 「剣の作法は知らねーが・・・こいつで首を掻っ切るなぁ慣れてるからよォォー!」 ギアッチョは腰を落として氷刀を構え、ギーシュがワルキューレの練成を開始し――そして、戦いが始まった。
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キュルケとタバサが急いで降りてくる。勝利を喜びあいたいところだが、今は そんな場合ではない。 「ルイズッ!!足見せなさい!!」 シルフィードから飛び降りるや否や駆け出してきたキュルケがルイズの足を とった。傷口を確認しようとして、思わず悲鳴を上げそうになる。 「――ッ!」 それはそうだ。骨が折れたとか肉がえぐれたとかいうレベルではない。 ルイズの左足首から先は、文字通りちぎれ飛んでいるのである。 よほど痛いのだろう、ルイズはギアッチョにしがみついたまま声も出さず 首を曲げることすらしない。しかし何が彼女を支えているのか、それでも ギリギリで意識は保っているらしい。 タバサがルイズの左足を持ってきた。それを元のように切断面に当て、 ギアッチョに支えるように指示し、タバサはそこからキュルケと共に水の 詠唱を始める。 「・・・治んのか?」 言ってしまってからギアッチョはルイズの前で聞くべきではなかったかと 少し後悔したが、キュルケは少し笑ってそれに答えた。 「大丈夫よ、まだ時間が経ってないからなんとかくっつくはず・・・ もっとも 私達は水のメイジじゃないから、あくまで応急手当しか出来ないけどね はやく学院に戻ってちゃんとした治療を受ける必要があるわ」 なるほどな、と呟いてギアッチョは腰を下ろす。支えてくれと言われても ルイズが未だにしがみついているのでかなり難しい。しかし今彼女が 戦っているであろう言語を絶する痛苦を考えると、少し離れろとか ましてどっちを向けだのどこに座れだの言えるはずがないので、 ギアッチョは仕方なく彼女を半ば抱き込むようにして足を支えた。 そんな自分の姿を見て、ギアッチョは自嘲気味に笑う。 ――このギアッチョがガキを抱えて何やってんだ?暗殺者から保父に転職ってか? しかし軽口を叩きながらも、自分が徐々にここに馴染みつつあることを ギアッチョは薄々自覚し始めていた。 ガサリ、という茂みを掻き分ける音が聞こえ、ギアッチョ達は一斉に振り向いた。 満身創痍でよろめきながら現れたギーシュはルイズを抱きかかえるギアッチョ という有り得ない光景に数秒言葉を失ったが、「遅かったじゃない」という キュルケの言葉に我に返ると、「ただいま」とだけ返事をして彼は糸が切れた かのようにその場に転がった。 ギーシュにこっちで起きたことをあらかた伝え終わる頃には、ルイズの 応急処置も終わっていた。 「動けるか?」 とギアッチョが聞くが、ルイズはふるふると首を横に振る。ギアッチョは やれやれと言うように息を吐き出すと、キュルケとタバサに眼を向けた。 「悪いが・・・オレ達も治療してくれねーか 力が余ってんならだがよォォ」 その言葉に頷いて、キュルケはギーシュの治療に取り掛かった。 「切り傷だらけじゃない」 彼女は驚いてギーシュを見る。そんなキュルケにギーシュは辛そうに笑い ながら答えた。 「正直泣きそうだよ 早いところなんとかしてくれたまえ」 「まだそんな軽口が叩けるなら問題ないわね」 フーケを倒し、ルイズの足もとりあえずの処置が済んだ今、キュルケは ようやく余裕を取り戻してきた。横目でギアッチョを見ると、タバサが治療を 施しているところだった。 本当に、この男は一体何者なんだろう。全身血だらけだというのに辛そうな 顔一つ見せないギアッチョを見ながらキュルケは思う。何が凄いとかどこが おかしいとか、そういう次元の問題ではない。ギアッチョの一挙手一投足、 その全てが常にキュルケの理解を超えていた。殺人に一切の躊躇を持たない こと、戦闘に慣れすぎていること、よく分からないことでキレまくること、そのくせ 普段は冷淡なまでに静かなこと、あと変な服とか変な眼鏡とか変な髪形とか、 そしてそれより何より彼の魔法――魔法としか思えない何か――・・・。 自分の火球を消し去ったと思えばギーシュの魔法を完全に跳ね返し、 あのフーケのゴーレムをも一撃で土に返す。こいつの能力は一体どこまで いけば底が見えるのだろうか。ギアッチョがその力を発揮するたびに、 彼女達は彼への評価を改めざるを得なかった。 ギアッチョはいつも同じ文句を唱えている。「ホワイト・アルバム」・・・発動に 必要な言葉はそれだけらしい。だがルイズがギアッチョを召喚した時、 あの男は一言も呪句を発さずルイズを凍らせていたはずだ。してみると あの言葉は発動の為のキーワードというよりは、己の精神を励起させる為の 合言葉と捉えたほうがいいのだろうか?そこまで考えて、キュルケはあとで 聞いてみるか、と思考に蓋をする。今はそれよりもっと気になっていることがあった。 「踏まれた時」 タバサがキュルケの疑問を代弁する。 「どうやって?」 治療を続けながら、タバサはその蒼い瞳だけをギアッチョに向けた。 要領を得ない質問だったが、ギアッチョはその意味するところを理解した。 だがこいつらにスタンドのことをバラしていいものだろうか。数秒の思案の 後、ギアッチョは当たり障りのないレベルで答えることにした。 「・・・あの木偶の足と地面との間に氷の支柱を作った 完全には間に合わ なかったんで御覧の通り地面にめり込んだ上に小石が刺さって血塗れ だが・・・薄切りハムみてーになっちまう前にギリギリ完成出来たってわけだ」 ギアッチョのタネ明かしに、その場を目撃していないギーシュまでもが眼を 丸くした。 「ギリギリって・・・飛び込んでから足が完全に地面につくまでの一瞬で そこまでやってのけたって言うの!?」 キュルケが思わず口を挟む。ギアッチョはこともなげな顔でキュルケに眼を 遣るが、内心自分でも驚いていた。 ホワイト・アルバム ジェントリー・ウィープス。膨大なスタンドパワーを消費 して、空気をも凍らせる力を引き出すホワイト・アルバム最大最強の能力。 しかしいくらなんでもあの0.5秒にも満たない時間で完全に足を固定し切れる とはギアッチョも思っていなかった。言わば捨て身の賭けだったのである。 そしてそれ以上に驚いたのがゴーレムの凍結粉砕だ。ジェントリー・ ウィープスを発動していることを計算に入れても、あれは速過ぎる氷結速度 だった。ギアッチョはデルフリンガーに眼を落とす。ビクッ、とその刀身が 震えた。相変わらず情けなく怯えているが、こいつを握った瞬間に加速した ことをギアッチョは思い返していた。思えば加速してからゴーレムをブチ砕く まで、自分はずっとこいつを握ったままだった。 ――こいつを抜くと力が強化されるってわけか・・・?身体能力だけでなく ・・・オレのスタンドまでも ギアッチョはじっとデルフリンガーを見つめると、おもむろに声をかけた。 「おいオンボロ」 「はヒィッ!!」 お・・・俺は何回殴られるんだ!?次はどこから襲ってくるんだ!?俺の そばに近寄るなァァーーー!!と叫びたかったデルフだったが、 「てめーがいなきゃあルイズは死んでた・・・助かったぜ」 「え」 ギアッチョの意外すぎる一言に、彼は口――のように見える鍔――を 開いて固まった。てっきりさっきとっさに彼に命令してしまったことを 怒られるのかと覚悟していたのに、ギアッチョの口から出てきたのは 正反対の言葉だったのである。ギアッチョはその妙な髪形の頭を掻いて 続けた。 「それとよォォ~~ その卑屈な口調はもうやめろ いい加減鬱陶しいぜ」 「・・・・・・ダンナ・・・」 敬語は使わなくていい、とギアッチョは言外に言っている。デルフリンガーは この暴君に自分が認められたことに気付き、 「・・・へへっ」 彼の口からは思わず笑みが漏れた。 ギアッチョの胸にかかっていた圧力がすっと無くなる。ルイズを見下ろすと、 彼女はギアッチョに押し付けていた顔を上げ、キュルケ達から見えないように ごしごしとこすっていた。ギアッチョはそこで初めてルイズが泣いていたことに 気付いたが、黙ってルイズが落ち着くのを待つことにする。 「・・・・・・・・・ギアッチョ・・・あの・・・・・・」 しばらくして少し気を取り戻したらしいルイズが、恐る恐るギアッチョを見る。 怒られるのを恐れているのだろうということは理解出来たが、ギアッチョは そんなルイズの心を忖度することなく、氷のような声で問いかけた。 「どうしてあんなことをした?」 その声にルイズの身体が一瞬こわばる。 「・・・それは・・・」 「オレが昨日言ったことを覚えてなかったと そういうわけか? え? おい おめーはこいつらの再三の制止を振り切って地上に残った そうだな そしてそのせいでフーケに逃亡を許しかけ・・・その上てめーの命まで 失うところだった それを踏まえてもう一度聞くぜ」 何故あんなことをした、とギアッチョは繰り返した。 ルイズは顔を俯かせ、しばらく沈黙を続けていたが、やがて絞り出すように 声を出した。 「・・・・・・だって・・・・・・ギアッチョが・・・」 「ああ?」 オレのせいかこのガキ、と怒鳴りかけたギアッチョだが、 「ギアッチョが・・・幻滅する・・・から」 その後に継がれた言葉を聞いて、彼の顔は「はぁ?」という形に固まった。 俯いていた為そんなギアッチョの顔を知らないルイズは、とうとう完全に 見放されたと思い込んだらしい。地面を見つめたまま肩を震わせている。 ギアッチョは心底困惑していた。すると何か?こいつはオレに見直して もらおうとしてこんなバカをやらかしたってわけか? ギアッチョは改めてルイズを見る。俯いていて表情は分からなかったが、 悄然と落としたその小さな肩は彼女の感情を如実に物語っていた。 ――どーしろってんだ 彼女が自分に相当な依存をしていたことに気付き、ギアッチョは心底 困惑した。生前――そして死んでからも――子供から好意を向けられた ことなど一度たりとてないギアッチョである。初めて向けられた、それも 殆どすがりつくような好意に彼が戸惑うのは当然のことだった。 ――こいつの様子がおかしいのはそういうことか・・・ およそプライドの高いルイズらしからぬ行動の理由がようやく解った ギアッチョだったが、 ――だからどーしろってんだ 結局目の前で死にそうに落ち込んでいるルイズに何と声をかければ いいのかは解らないわけで。万策尽きた彼は・・・もっとも策が一つとして 浮かばなかっただけなのだが、とりあえずこういうことに慣れていそうな ギーシュを見た。ボロボロの顔でにやにや笑いながらこっちを見ている。 よし、殺す。次にキュルケに目を向けた。実に楽しそうな眼でこっちを 見ている。てめーも覚えてろ。最後にタバサに眼を向ける。いつも通りの 読めない顔でこっちを見ていた。 ギアッチョはチッ、と大きく舌打ちをした。考えたって解らねーならとにかく いつも通りに喋るしかねーかと開き直る。失敗したらてめーをボコってやる という意思を込めてギーシュを一つ睨んでから、ギアッチョはルイズに向き 直った。 「顔を上げな 聞いてなかったみてーだからよォォー もう一度だけ言って やるぜ」 ルイズがゆっくりと上げた顔を覗き込みながら、ギアッチョは「いいか」と 前置きした。 「てめーに出来ることをしろ 勝ち目もない敵に無為無策で突っ込んで 行くのは『覚悟』でもなんでもねぇ・・・ただの自殺だ」 ギアッチョはルイズの宝石のような瞳を睨みながら続ける。 「ええ? 解るかルイズ 『覚悟』は道を作る意思だ・・・てめーの暴走は違う」 そこまで言って、ギアッチョは返事を求めるように言葉を切った。ルイズは ギアッチョの強いまなざしから逃げたい気持ちをなんとか抑えて、一言 「・・・はい」 と答えた。 ――何でオレはこんなガキに説教してんだ・・・? こういう役目はオレじゃあ ねーだろ ええ?おい ギアッチョは心の中で一人ごちると、小さく嘆息してから今一番彼女に必要な 言葉を口にする。 「・・・いいかルイズ 失敗なんてのはよォォ 誰にでもあるもんだ 重要なのは そこじゃあねー そこから成長出来るかどうかだ ええ? 違うか? てめーの失敗なんてオレは気にしちゃあいねーんだ ま・・・次同じようなことを やらかしゃあ今度はブン殴るがよォォ」 その言葉でルイズの瞳はまず驚愕に見開かれ、次に何かをこらえるように 細くなり――そして最後に、堰が決壊したように涙が溢れ出した。 ギアッチョはそんなルイズを呆れたような安心したような眼で見ると、オレの 仕事は終わりだと言わんばかりに立ち上がった。 ――我侭だったり素直だったりプライドが高いと思えばよく泣いたり・・・ 全くガキってのは解らねーな ギアッチョは新入りに兄貴と呼ばれていた仲間を思い起こし、改めてこんな キャラはオレじゃねえと強く思った。
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部屋割りは、男同士でギアッチョとギーシュ、女同士でキュルケとタバサ、そして婚約者同士でワルドとルイズが同室になった。 「ダメよ!まだ結婚もしてないのに!」 とルイズが抗議するが、ワルドは「大事な話があるんだ」と言って微笑み、彼女は複雑な顔をしながらもそれを承諾。ちなみにギアッチョが「学院で俺と同室なのはいいのかよ」と突っ込むと、ワルドに物凄い眼で睨まれた。 アルビオン行きの船は明後日まで出ないらしい。ルイズは困った顔をしたが、どうにもならないと分かっているようで何も言わなかった。 「そういえば、彼はどこにいるんだい?」 姿が見えないギーシュを指してワルドが言う。ギアッチョは未だ抜け切らないはしばみ草のダメージに顔をしかめながら口を開いた。 「疲れてるらしいんでよォ~~ 一足先に適当な部屋で就寝中だ」 オレもそこを使わせてもらう、と言うギアッチョに、ワルドは特に疑問は抱かなかった。 「・・・それで、大事な話って?」 二人にあてがわれた部屋でワルドに注がれたワインに口をつけながら、ルイズは彼にそう促した。飲み干したグラスを置いて、ワルドはふっと遠くを見る眼をする。 「覚えているかい?あの日の約束・・・ ほら、君のお屋敷の中庭で・・・」 「あの、池に浮かんだ小舟?」 ワルドは優しげに頷いて続けた。 「君はいつもご両親に怒られた後、あそこでいじけていたね お姉さん達と魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われてた」 「ホントにもう・・・変なことばっかり覚えているのね」 口を少しとがらせて、ルイズは拗ねたような顔を作る。そんな彼女を見て、ワルドは「婚約者との思い出を忘れたりするものか」と楽しそうに笑った。それから彼は急に真面目な顔になると、 「・・・だけどルイズ 僕は君が才能の無いメイジだなんて思わない」 と言った。 「ガンダールヴ・・・?」 「そうさ あの使い魔君の左手に刻まれているルーン、あれは『ガンダールヴ』の印だ 始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔だよ」 「ワルド、からかうのはやめて」 ルイズは信じられないといった顔をする。確かにギアッチョはそれこそ魔人のように強い。 しかし、ギアッチョが伝説の使い魔であるなどということはにわかに信じられるものではなかった。メイジの実力を知るには使い魔を見ろと言う。 魔法の成功率が殆ど0%に近い、「ゼロ」という嘲りすら受けている自分の使い魔が、始祖ブリミルの使役していた伝説の存在?信じられない。というか、有り得ない。 もし万が一、いや億が一兆が一、そうであったとしてもだ。それはどう考えても、何かの間違いだ。己の無能さは、自分が一番よく分かっている。 そもそも伝説云々以前に、自分がギアッチョを召喚出来たこと自体が何かの間違いか、そうでなければ神か悪魔の起こした奇跡であるとしか―― 「ルイズ、またネガティブなことを考えているね?」 どんどん落ちてゆくルイズの思考は、ワルドの言葉で停止した。ワルドはルイズの鳶色の瞳を覗き込むと、屋敷の小舟の上で彼女を励ました時の優しい顔で言う。 「君は偉大なメイジになるだろう そう、始祖ブリミルのように・・・歴史に名を残すような、素晴らしいメイジになる 僕はそう信じているよ」 「・・・ワルド、私は」 「――この任務が終わったら、僕と結婚しよう ルイズ」 「・・・え・・・?」 いきなりのプロポーズに、ルイズは眼を白黒させる。そんなルイズを穏やかに見つめて、ワルドは言葉を継いだ。 「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない いずれは国を・・・いや、このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っているんだ」 ワルドはそこで一度言葉を区切ると、ルイズの頬にすっと手を触れる。 「ずっとほったらかしだったことは謝るよ 婚約者だなんて言えた義理じゃないことも分かってる・・・だけどルイズ 僕には、君が必要なんだ」 ワルドの口調は本気だった。彼は今、本気でルイズに求婚している。 「・・・ワルド ・・・・・・で、でも」 とっさに口をついた言葉に、ルイズははっとした。 でも――なんだ? 幼い頃から憧れていたワルドからのプロポーズに、今自分は「でも」何と返そうとした? ルイズは「でも」の続きを思い浮かべようとするが、しかしいくら考えても一体自分が何を言おうとしていたのか分からない。そんなルイズの胸中を知って知らずか、ワルドは困ったような顔をして口を開いた。 「僕のルイズ、まさか君には好きな人でも出来たのかい?」 「好きな人」と言われた瞬間、ルイズの脳裏に何故かギアッチョの姿が浮かび、 「ちっ、違うのワルド!そうじゃないわ!」 そうじゃないと連呼しながらも、彼女の頭の中はギアッチョで一杯になってしまった。 予想だにしない事態に、ルイズの頭は今必死に心を整理しようとしている。どういう ことかと言えば、要するに彼女はギアッチョを恋愛の対象としてはっきり意識したことなど一度もなかったわけで、ギーシュだのマリコルヌだの・・・まあ前者はともかく後者は論外だが、ともかくそういう順当に思い浮かべるべき男達をあっさりスルーしていの一番にギアッチョを思い浮かべてしまったことについてルイズの脳が納得のいく説明を求めているわけである。 ――ど、どどどうしてあいつの姿なんかが浮かぶのよ! ルイズは耳まで真っ赤にして俯いた。よりによって、よりによってどうしてギアッチョが浮かんだのだろうか。 ルイズは俯いたまま考える。「好き」という言葉で一瞬、本当にほんの一瞬だが、ギアッチョを思い浮かべてしまったということは・・・つまり多少は、いやきっと塵ほどに少しだが・・・・・・・・・その、気になっていたということなのだろうか。 ――そ・・・そんなはずあるわけないわ だってギアッチョよ、とルイズは思う。すぐにキレるし物は壊すし周りは気にしないし礼儀もなってないし常識的に考えて最悪ではないか。穏やかで優しいワルドとは全く正反対だ。 それにワルドは礼儀正しいし気配りも出来る。強さは・・・どっちが上か分からないが、なんたってワルドはスクウェアだ。 それにワルドは頭もいいし・・・いや、ギアッチョも多分頭はいいか。「ま、まぁそこはいいわ」とルイズは次を考える。第一ギアッチョは使い魔ではないか。 使い魔に恋するメイジなんて聞いたことがない。それにあいつは異世界の人間だし・・・それにワルドのほうが格好いいし、それに変な髪形だし変な眼鏡だし変な服だし変な名前だし――・・・。等々、後半はもう殆ど言いがかりなのだが、どうにかして否定しようと躍起になっているルイズにはもはや関係なかった。 あらかたギアッチョの悪口を並べ立てた後、彼女は「と、とにかくありえないわ!」と強引に結論を下した。 「普通に考えたらあんなのもう公害とか災害レベルに迷惑じゃない!誰がそんな奴をす、好きになるのよ!そうよ、何かの間違いだわ!はい決定!終了っ!」 どうしてこんなにうろたえるのかも分からないまま、ルイズは己の思考に強引な結論で無理やりに蓋をする。 ――・・・でも・・・ しかし閉じたはずのその蓋から、かすかに言葉が漏れ出す。 ――でも・・・あいつはいつもわたしを助けてくれる・・・ わたしの・・・かけがえのない・・・ 心ここにあらずといった感じで悶々としているルイズを眺めて、ワルドは苦笑まじりに 溜息をつく。 「君の心の中には、誰かが住み始めたみたいだね」 それを耳にして、ルイズはハッと顔を上げた。 「ち、ちち違うわワルド!そうじゃないの!」 「いいさ、僕には解る 取り消すよ・・・今返事をくれとは言わない でもこの旅が終わったら、君の気持ちはきっと僕に傾くはずさ」 ワルドは気にしないという風に笑うと、「さ、それじゃあもう寝よう」と言いながらベッドに潜り込んだ。 ワルドを見てルイズもベッドに入るが、その胸中はさっき以上に混乱していた。どうして、ずっと憧れていたワルドにはいと言えないのだろう。 どうして、こんなに優しくて凛々しいワルドを拒んでしまったのだろう。ワルドとギアッチョに対する疑問が、ルイズの頭を埋め尽くしていた。 ギーシュのベッドにデルフリンガーを放り投げると、ギアッチョは自分のベッドにぼすんと転がった。 ――ゆっくり考えてる時間がなかったからな・・・ 頭の後ろで手を組んで、ギアッチョは眼を閉じて夢のことを考える。 あの時は何の疑いも持たずに信じてしまったが、リゾットは本当に死んだのだろうか。 ――いや・・・ きっとあれは本当の光景だ、とギアッチョは思う。ただの夢にしては何もかもが精密すぎる。全てがただの夢ならば、どこかで必ず光景のブレや矛盾が出てくるはずだ。 あの夢にはそれがない。最初から最後まで、全てがまるで一本の映画のように精密無比に展開されていた。 しかしあの光景が現実だというのなら、リゾットの死をも受け入れなければならない。 ギアッチョはほんの一瞬苦しげに眉根にしわを寄せたが、すぐになんでもない顔に戻ると、口元に小さく笑みを浮かべた。 「全くよォォー 何うじうじやってんだァオレは?そんなキャラじゃねーだろーがよォォ あのバカ共はきっと地獄で笑ってやがるぜギアッチョさんよ 誇ると言ったからにゃあせいぜい胸張るしかねーだろーが ええ?オイ」 あいつらがどう思うかを考えると、不思議と力が沸いてくる。一人呟いて跳ね起きたギアッチョの眼鏡の奥の双眸は、もういつもの覇気を取り戻していた。 それから彼はしばらくデルフリンガーと話をしていたが、部屋に入ってからずっと「助けてくれ」だの「僕が悪かった」だのという声が煩いので仕方なく立ち上がって開けっ放しの窓からベランダを覗く。 見事に冷凍されたギーシュがギャーギャーとひっきりなしにわめいているので、ギアッチョはギロリと彼を睨んで「仕方ねぇな」と言うが早いかバタンと一片の慈悲も無い音を立てて窓を閉めた。 幸いなことにギアッチョが眠りについたと同時にホワイト・アルバムが解除され、ギーシュはガチガチと歯を鳴らして震えながらも何とか毛布に包まることが出来た。 ベッドと毛布の存在に無上の感謝を捧げながら、彼は眠りに落ちてゆき―― コンコンというノックの音で、ギーシュは眼を覚ました。窓からは燦々と陽光が差し込んでいる。 条件反射で「ふぁい!」と情けない返事をしてから、ギーシュは疲労が回復し切っていない身体を引きずるようにして扉へ向かう。 「おはようギーシュ君」 扉の向こうにいたのはワルドだった。憧れの隊長に名前を呼ばれて、ギーシュは思わず姿勢を正す。ワルドは部屋の中を見回してから、ギーシュに目線を戻して尋ねた。 「使い魔君はいないようだね」 「そ、そのようでありますね きっと一階の酒場とかその辺にいると思われるであります」 ワルドと話をしている緊張と寝起きで働かない頭の為に、ギーシュは口調がおかしくなっている。そんなギーシュに爽やかに笑いかけると、ワルドは礼を言って出て行った。 「珍しいな てめーが起きてるとはよ」 ワルドと殆ど入れ違いのような形で階下に下りたギアッチョは、既に酒場のテーブルに座っていたルイズを見てそう言った。ルイズは明らかに寝不足と解る顔でギアッチョを睨む。 「誰のせいだと思ってるのよ!」 「ああ?」 何を理不尽に怒ってやがるんだ、とギアッチョは自分を軽く棚に上げて思う。 何のことだと言い返そうとしたが、後ろからかかった声にそれは中断された。 「ここにいたとはね おはよう使い魔君」 使い魔君などと呼ばれてあっさり怒りゲージが針を振り切りかけるのを珍しく作用した理性で抑え、ギアッチョは後ろに眼を向ける。人好きのする笑みを浮かべたワルドがそこに立っていた。 優しげな微笑の裏側で、ワルドは激しく思考を巡らせていた。ルイズの気持ちを自分に傾ける為に、そして彼の力を知る為に、なんとかこの男、ギアッチョと「決闘」をしたい!しかし何故だか分からないが、かなりの確率で断られる予感がするッ!ならばどうするか?言い方を工夫するしかないッ! 「決闘したまえ」と命令してみるか?いや、この男は勝手に逆ギレする可能性がある。 この場で暴れられてはいくらなんでも話にならない。やんわりと雑談から入ってみるか? いや、それも却下だ。散々盛り上げておいて断られましたではみじめにも程がある。「頼む、決闘してくれないか」ではどうだ?勿論ダメだ。 貴族が平民にものを頼む時点でルイズは幻滅するだろう。ならば最善手は やはり、「決闘してくれ」だろう。これなら断られても僕の矜持は傷つかないし逆にルイズの使い魔に対する好感度を下げることにもなる・・・よしこれだッ! 奴の能力が見られないのは残念だが、3度ほど頼んでみてダメならさっさと諦めればいい。やはりシンプルだ・・・シンプルがいいッ! 「君に頼みがあるんだが」 平静を装って、しかし真面目な顔でワルドはギアッチョを見る。ギアッチョは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐにワルドに向き直った。 「言ってみな」 その尊大な態度にワルドはピクリと眉を動かしかけたが、なんとかそれをこらえて今考えた必殺のセリフを放つ。 「僕と・・・決闘してくれ!」 「いいぜ」 「早ッ!」 予想外の展開に思わず叫んでしまい、ワルドは慌てて咳をした。聞き間違いかと思ったが、ギアッチョは面白い暇潰しを見つけたという顔をしている。 とりあえず今の情けない返事を誤魔化す為にも、貴族らしい返事をしなければならないと考えたのだが――色々と慌てていた為になかなか言葉が浮かばず、焦りに任せて「グッド!」などと更によく分からない返答をしてしまったワルドだった。 渡りに舟だとギアッチョは思った。色々と忙しくて試せていなかったが、あのオールド・オスマンに聞いた力・・・「ガンダールヴ」の効果を確かめるいい機会だ。 それにワルドの実力を知るチャンスでもある。ギアッチョの尋問のせいで誰も聞いていなかったが、彼らを襲った傭兵達を雇ったのは貴族だった。 この任務はアンリエッタの密命で、ワルドも彼女から直々に拝命したと言っていた。 手続きも通さずこっそりルイズの部屋に忍んできたほどなのだから――勿論これは推測に過ぎないが、ワルドにも内密のうちに直接依頼した可能性が高い。 自分はあれからずっとルイズのそばにいた、ならばあの王女様がヘマをしていない限りは、この任務が漏れることはワルド自身からしか有り得ないのだ。もっとも、事実は小説より奇なりなどという言葉を借りるまでもなく、こういった推理は思わぬところで穴が空いたりするものである。ギアッチョはあくまで可能性の一つとして、ワルドを警戒していた。 決闘の介添え人を任されたルイズは「バカなことはやめて」と怒鳴ったが、ギアッチョもワルドも聞く耳持たないことを理解して諦めた。 「なんなのよ、もう!」 「殺しゃしねーから安心しな」 臆面も無くそう言ってのけるギアッチョにワルドがブチ切れそうになったが、一つ深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着ける。腰の杖を引き抜いてビッと前に突き出すと、 「どこからでもいい 全力で来たまえ」 と言い放った。ギアッチョはフンと鼻を鳴らすと、剣を乱暴に抜いて腰を落とす。 それを見届けたルイズの怒りと心配の色を含んだ開始の合図で、決闘の幕は上がった。
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トリステイン魔法学院本塔最上階学院長室 そこにどこからどう見ても仙人としか言いようの無い老人が椅子に座っていた。 動きは無い、ボケているようにも見えるが、まぁただ単に暇なだけだ。 微妙に震えている気がするが多分ボケてはいないッ! 「学院長、き、緊急事態です!」 そこに飛び込んできたのは見事なU字禿を持つコルベール。 「………………」 返事が無い (遂にボケたかッ!?)と本気で心配になる。 「……はッ!何か用かの?」 (とうとうか…) だが、緊急事態の内容を思い出しオスマンのボケの可能性の心配を消し飛ばす。 「ヴェストリの広場で、決闘を始めた生徒が…」 その言葉をオスマンが遮る。 「貴族というのは暇な生き物が多いようだのぉ。で~誰と誰がやらかしとるんだね?」 正直「ま た 決 闘 か !」という反応である。 「一人はギーシュ・ド・グラモン。相手はメイジではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民ですが…」 「いかんのぉそれは…メイジと平民では勝負にならんではないか、止めてきなさい」 だが次のコルベールから発せられた言葉はオスマンを驚嘆させるに十分であった。 「それがその…もう決闘は終わったようなんですが…」 「なんじゃ、それを早く言わんかね」 「いえ…その…実は……『死者』が出まして…」 「何じゃとぉぉおおおお!!」 その報告にオスマンがブッ飛んだように立ち上がる。無理も無い、メイジと平民の決闘などメイジが勝つに決まっている。 だから、オスマン自身も必然的に死んだ方は平民の使い魔と判断した。 「まったく…ミス・ヴァリエールも変り種とは言え使い魔の召喚に成功したというのに…」 「違います、死者は……ミスタ・グラモンの方でして…」 『オスマンも月まで吹っ飛ぶこの衝撃!』 本日最大級のオスマンの叫びが轟いた。 「なんとしたことじゃ…」 今までメイジと平民が決闘をしたとういう事すら前例が無いというのに 平民がメイジに勝った挙句それを殺したという異常事態に生きる魔法辞書オスマンも精神的動揺を隠せない。 「それで、どうやってその平民の使い魔がメイジに勝ったんじゃ」 「決闘の原因は分かりませんが…それを見ていた生徒達の話によると 見えない何かがミスタ・グラモンの首を掴み中空に持ち上げた瞬間…信じられないかもしれませんが『老化』させたというのです」 「なんと…その使い魔はメイジではないのじゃろう?」 「杖など持っていませんし…それに老化させる魔法など聞いた事もありません」 「ふむ…召喚した時とか何か妙な事は無かったかの?」 「…実は、ミス・ヴァリエールが使い魔の儀式を終えた後 その使い魔が何かを叫んだと思ったら私が急に倒れてしまって…」 その瞬間オスマンの目がカッと開かれ叫んだ 「なぜそれを早く言わぁーーーーーーん!!」 「気が付いた時は特に異常は無かったものですから…」 だがオスマンは奇妙な違和感に気付く。 「ミスタ・コルベール…髪……いや何でもないぞい…」 視線をコルベールから反らし唯でさえ少なかった毛髪がさらに減少している事に目を押さえ泣く。 「じゃが、どうしたもんかのぉ…」 平民がメイジを殺す、普通の状況なら即刻死刑というとこであるが、決闘という場合は前例が無い。故に対処が分からない。 「…ともかく話だけでも聞いておかねばならんようじゃな その使い魔とやらを呼んできてくれんか。それとミス・ヴァリエールもじゃぞ」 「ミス・ヴァリエールは決闘の最中に気を失ってしまい医務室で治療中です」 「なら無理に呼ぶわけにもいかんようじゃの…ともかくその使い魔だけでも来るように伝えておいてくれんか」 暗い闇の中でワルキューレに囲まれたあいつが居た。 自分はそれを止めようとして必死にそこに向け走る。でも距離が縮まらない。 ワルキューレが武器を構え動きだし叫ぼうとする。でも声が出ない。 それぞれの武器が振り下ろされるのを見た。その光景に思わず目を閉じた。 しばらくして目を開ける、ワルキューレ達はどこにも居ない。 でも、私の足元にあいつがボロ雑巾のようになって倒れていた。 決闘をすると知っていても何もできなかった。何もできなかった自分に無性に腹が立って泣きたくなった。 自分が殺したようなものだ。そう思った。 だけど、自分の手に杖が握られているのに気付く。 勇気を出して恐る恐るあいつの体を見る。 あいつの体はワルキューレの持っていた武器で傷つけられたものじゃなかった。 これは、爆発を受けた傷だった。さっきまでワルキューレに囲まれていたはずなのにそれが不思議に思えた。 杖を手に持っていてあいつが爆発を受けて倒れている。そう思った瞬間何かが繋がった。 まさかと思った。あいつを助けようとして自分の魔法が失敗したせいで殺したんじゃないかと。 必死になってそれを否定する。でも状況がそれを肯定していた。 自分の頭の中で様々な声が聞こえる。だけど聞こえる内容は一つだけだった。 『お前が『ゼロ』のせいであいつを殺した』―と 蹲り耳を押さえそれを否定する。けれど頭の中の声は消えなかった。 泣きそうになるのを必死になって耐えた。でも無理だった。 ――――そして泣きに泣いてる最中急に意識が遠くなった。 目を開けると医務室の天井が見えた。 (…………夢?) 周りを見る。キュルケとその親友のタバサがそこに居た。 「やっと起きたの?寝ながら泣いてたわよ貴方」 そういえばさっきから少し目が痛い。 「私…どのぐらいここに?」 「丸一日」 状況が今一掴めない。何故自分がここに居るのかという事も。 夢の内容を思い出そうとして肝心の事に気付く。 「そうだ…決闘!一体どうなったの?」 そう聞くと、キュルケが何か言いにくそうに答え始めた。 「落ち着いて聞きなさいルイズ。あまり言いたくないんだけど…」 だがタバサが途中から口を挟む 「死亡確認」 『ザ・ワールド!』 そんな声と共に何も考えれなくなった。 さっき見た夢の内容と現実との状況が重なる。 また意識が遠のくけどギリギリのとこで踏みとどまる。 気が付けば医務室を飛び出し自分の部屋に走り出していた。 部屋に飛び込み視点が一点に集中する。 ベッドの上にあいつの服が洗濯され置いてあった。 その瞬間あいつを自分が殺したという実感が沸いてきて―また泣いた。 ベッドに倒れ込み服の上で泣く。 だがそこに後ろから声が掛かる 「…人の服の上で何やってんだオメーは?」 泣き顔のまま後ろを振り向き…一瞬にして涙が止まる。 そこには教員の服を着たプロシュートが居たッ! 「………何時から見てたの?」 「部屋に入ってくるなりいきなり泣きはじめたとこからだ。つーかシワになるからどけ」 「…この服と今着てる服は一体何よ?」 「こっちに来てからそればかりなんでな ついでに洗濯したとこだ。この服は乾くまでの代わりだ。」 スーツを着るプロシュートを尻目にルイズが無言で部屋を出る。 そして部屋に来る時以上の速度で医務室に走り出し、ドアを勢いよく開ける。 「急に飛び出してどこ行ってたのよ」 キュルケが半ば呆れ気味に言い放つ。だが当のルイズはそれを無視しタバサに詰め寄る。 「謀ったわねタバサ!何が『死亡確認』よ! 生きてるじゃない!思いっきり生きてるじゃない!!何?何か私に恨みでもあった!?」 もうキュルケの髪より顔を赤くしたルイズに詰め寄られるタバサだったが何事も無かったかのように一言だけ言い返す。 「最後まで話聞かないのが悪い」 「うぐ……じゃあ何で『死亡確認』なのよ」 「だから、ほら…ギーシュがね」 『スタープラチナ・ザ・ワールド!』 またそんな声が聞こえた気がして思考が止まる。 「えぇーーーーーーーーーーーー!?」 だが、今度は気付けば思いっきり叫んでいた。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
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「何考えてんのよ、あいつは!」 ルイズが廊下を走っている。 「私が…ご主人様が心配してあげてるっていうのに…」 いくら腕力が強かろうと、ギーシュの操るゴーレムの前ではひとたまりも無いだろう。 「何のために剣を買ったと思ってるのよ!」 剣を使えば勝てないまでも、一矢報いることが出来るかもしれない。 そうしたらあの使い魔も、臆病者と呼ばれる心配もなくなり、素直に謝るだろう。 「ボロ剣!あんたの出番よ!!」 勢いよく自分の部屋の扉を開けて、デルフリンガーが置いてある場所に向かって叫ぶ。 「あ~ん?出番…いいよ、相棒には俺なんていらねーんだ。もう実家に帰る!」 しかしデルフリンガーはすっかり駄目になっていた。 「実家ってどこよ!?」 「武器屋。だいたい俺が必要な相手ってなんだ?ドラゴンの大群でも湧いたか?」 「なに大口叩いてんのよ!貴族よ、貴族!ドットだけど平民が素手で、 あんたがいても無理だと思うけど…とにかく勝てるわけ無いでしょ!」 「じゃ俺帰るわ」 「どうやってよ!?そうじゃなくて!あーもうこのボロ剣、とにかく行くわよ!」 デルフリンガーを掴んで走り出す。 「あいつ、私が行く前にやられたら承知しないんだから…」 「今日はどんな風にミス・ロングビルとスキンシップをとろうかのう…」 学院長室にて、オールド・オスマンはこれからやってくる秘書に、 いかにセクハラするかを考えていた。老いて益々盛んなスケベジジイである。 「やはりここはオーソドックスにモートソグニルに覗かせるべきか、 ボケたフリをして尻をさわるべきか、悩むのう…そうじゃ! 胸を揉まねば治らない発作というのはどうか!? しかし流石に胸はまずいかのう、本気で殺されるかもしれん…尻でさえあれじゃから」 今朝、尻を触ったら『こいつはメチャ許せんよなあああああ!』とバックブリーカーを 決められた時の事を思い出していると、ノックの音が聞こえた。 「む、誰じゃ?」 「オールド・オスマン、私です!」 「ふむ、入ってきたまえ」 立てかけてあった杖を振って扉を開けると、秘書のミス・ロングビルがそこにいた。 「ヴェストリ広場で、決闘をしようとしている生徒達がいます! 何人かの教師が止めようとしましたが、生徒達に邪魔されて、止められないようで…」 「なんじゃ、それぐらいの事で騒々しい…で、その暇な貴族は誰と誰なんじゃ?」 「一人は貴族なのですが…その、もう一人はイクロー君… いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民です」 「なんと、あの少年か!相手の貴族は?」 「ギーシュ・ド・グラモンです。教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の 使用許可を求めおりますが…」 「ふむ…」 鬚をいじりながらしばし黙孝した後、オスマン氏は口を開いた。 「たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使うわけにはいかん、放っておきなさい」 「はい…」 不満そうなミス・ロングビルに、オスマン氏は続ける。 「…と、言いたいところじゃが。ミス・ロングビル、君が止めてきなさい。 なに、少々手荒な事をしてもかまわん。ワシが許可する」 「は、はい!」 その言葉を受け、急いで部屋を出ようとすると、一人の教師がドアの外に立っていた。 「おや、これはミス・ロングビル。どうかしたのですか?」 「すいません、急いでいるもので…」 入れ替わりで、太陽拳ができそうな教師が部屋に入ってくる。 「何かあったのですか?」 「いや、グラモンの馬鹿息子が平民と決闘をするとかいう話でな。 ミス・ロングビルに止めに言ってもらったのじゃよ、ミスタ…コルレル?」 「コルベールです!しかし、彼女に止められるなら、他の教師達が止めているのでは?」 チッチッチッ、と指を左右に振ってオスマン氏が答える。 「相手の平民なんじゃがな…ありゃミス・ロングビル、たぶん惚れとるな」 「なななな何ですと!?」 実はコルベールは影ながらミス・ロングビルを狙っていたのだ。 「ま、実際は惚れとるとまでいかんじゃろうが、きっかけがあればすぐじゃ」 うんうんと一人で納得するオスマン氏。 「そこでじゃ!そのきっかけを与えてやったというわけじゃ」 「というと?」 「察しが悪いのう、ミスタ・ブリトヴァ」 「コルベールです…」 「良いか?はっきり言ってただの平民では、すぐにやられてしまうじゃろう… ミス・ロングビルが駆けつけるころには、少年はボロボロになっておる。 彼女は間に合わなかった事を悔やんで、せめて少年を看病しようとする 保健室で若い男女が二人きり…これはもう何か起こることは間違いない!」 「そ、そうでしょうか?」 「わかっとらんのう…一人はやりたい盛りの年頃、一人は婚期を逃した女ざかり。 これで何かおこらんはずがあるまい!というかワシなら無理にでもおこすね! 少年は真面目そうじゃったから、責任を取ってミス・ロングビルとゴールイン! ミス・ロングビルはきっかけを作ったワシに感謝!きっと尻を触っても許してくれる! あるいは胸もOKになるかもしれん!いや、なるに違いない!」 「おい、ジジイ」 そのころミス・ロングビルこと、土くれのフーケは 「ふふふ、ボロボロになった坊やを看病することによって、アタシへの高感度はアップ! 東方の情報や、ラ・ヴァリエール家の情報をゲット!夢がひろがるねぇ!」 あんまりオールド・オスマンと変わらない事を考えていた。 「ところで何しに来たんじゃ、ミスタ・ガブル?」 「コルベールです!ってそうでした、大変な事がわかりました!」 先程の冷めた態度とはうってかわって、コルベールが興奮した様子で告げる! 「あのミス・ヴァリエールの呼び出した少年なんですが、 変わったルーンだったので調べてみたら…これを見てください!」 コルベールが机の上に、ルーン文字のスケッチと、古びた本を置く。 「『実践!ブリミル式毛根復活法 私はこれでフサフサに!』もう手遅れじゃと思うがのう…」 「それは部屋に置いてあるはず!?」 「嘘だよお~~ん!冗談じゃ、冗談ッ! しっかしそんな本、本当にあるんじゃな。適当に言ってみただけなんじゃが」 キレそうになるのを必死で抑えて、コルベールが本を開けて話を続けようとする。 「…見てください、彼のルーンは始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に 刻まれていた物とまったく同じだったのです! つまりあの少年は…伝説の『ガンダールヴ』になったんですよ!」 机を叩いて、オスマン氏に詰め寄る。 「落ち着かんかい、ミスタ・ラスヴェート。あと顔が近い。 ルーンが同じじゃからといって、そうと決まったわけではないじゃろう」 「コルベールです!まあ、それはそうですが…」 「しかし、それはちょうど良いかもしれんな」 「は?」 オスマン氏が壁に掛かった大きな鏡に向かって杖を振ると、ヴェストリ広場の様子が 映し出された。コルベールが、人だかりの中心にいる2人の少年の片方に目を奪われる。 「彼は!?」 「そうじゃ、先程の話の平民じゃよ」 はっ、となってオスマン氏を見るコルベール。 「もし少年が『ガンダールヴ』なら、これではっきりするはずじゃ…」 「諸君!決闘だ!」 ヴェストリ広場の中心でギーシュが薔薇の造花を掲げた後、育郎にそれを向けた。 「とりあえず、逃げずに来た事は、褒めてやろうじゃないか」 隣ではモンモランシーが『あ~~~ん…頼もしいわ!アタシのブルりん!』という目で ギーシュを見つめている。 「モンモランシー、この勝利を君に捧げよう」 薔薇を口にくわえ、優雅に礼をするギーシュをさらに熱っぽい目で見るモンモランシー。 ギーシュは、思わずこの状況を作り出した育郎に感謝したくなってくるが、 もちろんそんな態度はおくびにも出さない。 「………」 対する育郎は、ギーシュとは対照的にその心は沈んでいる。 彼自身、本来争を好まない性格という事もあるのだが、ここ数日で魔法にいくらか 触れてきたとはいえ、さすがに戦いに使う魔法など見たことがないのだ。 危険な状態になれば、取り返しがつかなくなるかもしれない。 しかしそれでも、震えるシエスタの姿を、そして自分の事を『ゼロ』と言った時の ルイズの悲しそうな顔を思い出すと、決闘をやめる気にはなれなかった。 「では始めようか…ワルキューレ!!」 ギーシュが叫んで薔薇を振ると、花びらが一枚宙に舞い、それが全身金属でできた、 戦乙女の姿に変化した。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ! 従って青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ。行け!僕の美しき戦乙女よ!」 ワルキューレが育郎に向かって走り出し、その青銅の拳を突き出す。 しかしその拳の先には育郎はいない、軽く体を捻ってかわしている。 ワルキューレは次々と拳を繰り出すが、その全てが空を切った。 自分に向かって放たれた銃弾すら知覚できる今の育郎にとって、ワルキューレの拳は 止まっているに等しい。 「なかなかやるじゃないか、あの平民」 「ギーシュが遊んでるだけだろ。おいギーシュ、そろそろ本気を出せよ!」 「はっはっはっ、まかせたまえ!」 周りの生徒の声に答え、ギーシュは薔薇を振ってさらに3体のワルキューレを生み出し、 育郎を襲わせる。 ひょっとしてこれはまずいんじゃないか? ギーシュは少しだけ焦っていた。 4体に増えてもワルキューレ攻撃はさっぱり当たらないのだ。 モンモランシーの方を見ると『何やってんの?』という顔でこちらを見ている。 勿論自分が負けるわけは無いのだが、そもそもモンモランシーは野蛮な事は 嫌いなのである、長々と戦いを見せても喜ばれる事は無い。 逆に考えるんだ、避けられると言うのなら… 「…避けられない攻撃をすれば良い!来いワルキューレ!!」 育郎から離れ、ギーシュの傍に移動したワルキューレ達が横一列に並んでいく。 「突撃だ!!」 その声と共に4体のワルキューレ全てが、一斉に育郎に向かって突進する。 これなら例え避けようとしても、全てのワルキューレを避けた方向に動かせば、 完全に避けられる事は無いだろう。 対して育郎は、なんと突進するワルキューレに向かって走り出した。 「ふっ、恐怖のあまりおかしく…ってワルキューレを踏み台にしたぁ!?」 確かに横方向には対応できただろうが、縦の方向は想定していなかった。 もっとも、突進するワルキューレに向かって飛び上がり、その頭を踏み台にする という事を、想像出来る物はこの場にはいなかっただろうが。 一呼吸の後、ギーシュの後ろに育郎が降り立つ。 そしてその瞬間、ギーシュの背筋に冷たいものが走った。 「うわわわわわ!!」 ギーシュ・ド・グラモンの中に眠る軍人の血が、あるいは生物の純粋な本能が、 自分の後ろのいる生き物が、尋常な代物で無いと激しく警告する。 「わ、ワルキューレ!」 振り向きながら薔薇を振り、さらに2体のワルキューレを、今度は素手ではなく、 槍を持たせた状態で練成し、攻撃の指令を与える。 しかし、その槍は受け止められた。 並みの人間よりは強い力を持つはずのワルキューレが、特別に体格がいいわけでもない 育郎に、それぞれ片手で攻撃を止められている様は異様であった。 この瞬間、彼は自分が相手にしているのは、人間であるという認識は吹き飛んだ。 育郎はこのまま、手に持った槍を投げ飛ばし、ギーシュの杖を奪えば終わりと考えた。 この数日の出来事で、魔法を使うのには杖が必要だという事はわかっている。 これで終わり、そう安堵していた。 しかしそれは油断だった。 ギーシュにとっての幸運は、それほど強力なメイジではないという事だった。 故に育郎はその力を使う必要は無いと判断した。 ギーシュにとって不幸は、それでも彼はメイジであり、簡単に人を殺せる力を 持っているという事だった。 「ぐぅ…ッ!?」 育郎の腹部から槍が突き出ていた。 彼の背後にはその槍の持ち主、ギーシュが作り出せる最後のワルキューレが佇んでいる。 育郎がギーシュの杖、薔薇を奪おうと手を伸ばすと、ギーシュはその手を払うように 杖を振った。もっともそれは、育郎にはそう見えたというだけであって、 実はワルキューレを作り出す為の行動だったのだ。 それが分からなかった育郎は、背後に現れたワルキューレに気付かず、その攻撃を まともに受ける事となった。 「ああ……」 呆然とするギーシュ。 いくら相手が平民でも、ここまでする気など無かった。 しかしあの瞬間、己の体を駆けずり回った恐怖が、彼を過剰な行動に移らせた。 「ギーシュ!後ろから攻撃するなんて卑怯だぞ!」 「平民相手に情けないぞ!」 周りの声でなんとか冷静になっていくギーシュ。 モンモランシーを見ると、口を押さえて真っ青になっている。 「そんな!?」 ルイズが広場にたどり着き、人ごみを掻き分けて見た物は、自身の使い魔が 槍に貫かれている姿だった。 こんな事なら剣なんてとりにいかなければ良かった 何としてでもあの時止めるべきだったのだ これは自分のせいなんだ… 涙で視界がぼやけてくる。 やっぱり自分はゼロなんだ 使い魔も止められない、おちこぼれのメイジ あの傷じゃ死んでしまうかもしれない 自分がゼロだからあの使い魔、イクローが死んでしまう… 「泣くな娘っ子、相棒なら大丈夫だ」 手の中のデルフリンガーが、ルイズに声をかける。 「何が…何が大丈夫なのよ…あいつが、イクローが…私がゼロのせいで…」 「しゃーねーな……相棒を見てみな」 「………え?」 『変化』がおきていた 「なななななな何だこれは!?」 ギーシュの目の前で信じられない光景が展開されていた。 育郎を貫いている槍が、ひとりでに押し出されたのだ。 『「寄生虫バオー」の麻酔作用開始! 育郎の肉体を槍が貫いた瞬間、体内の「寄生虫バオー」は育郎の精神を麻酔し、 彼の肉体を完全に支配した!』 渇いた音を立てて槍が地面に落ち、その傷が見る見るうちに塞がっていく。 『「寄生虫バオー」の分泌液は血管をつたって細胞組織を変化させ……… 皮膚を特殊なプロテクターに変える!』 育郎の肌の色が変わっていき、顔にひび割れが入り、髪が伸びていく。 蒼い、その肉体は人間にはありえない質感と色をしていた。 『筋肉・骨格・腱に強力なパワーをあたえるッ!』 そこに立っていたのは人間ではなかった 金色の目と蒼い肌、蒼い髪を持つ異形が唸り声を上げたッ! こ れ が ッ ! こ れ が ッ !! バルバルバルバルバル!!! こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ ! そいつに触れることは死を意味するッ! アームド・フェノメノン 武 装 現 象 ッ ! ウォォォォォォォォォオオオオオオオム!!!!
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珍妙な帽子を被った男が机のケーキを見て何やら喚いていた。 「なんで残り4個なんだよクソッ!なんて縁起悪ィんだ!」 「それなら最初から3個にしておけばよかったじゃあないですか、ミスタ」 「そうなんだがよぉーー……まだ、クセが抜けきらねーで、つい5個買っちまうんだよ……」 ブチャラティ。アバッキオ。ナランチャ。フーゴ。 かつて5人だった仲間は、新入りの……現在、パッショーネのボスであるジョルノを除いて全て居なくなってしまったのだ。 「そうですね…ですが、彼らの意思は僕達が受け継いでいるんです。それに……フーゴだって時間が経てば戻ってきてくれますよ」 『サン・ジョルジョ・マジョーレ島』で組織を裏切った時、唯一その場に残ったフーゴだが、彼なりに協力をしてきてくれていた。 ディアボロを倒し組織を掌握した際フーゴが戻ってきてもいいように体制を整えていたが、フーゴ自身がそれを許さなかったようで戻るには至っていない。 やはりブチャラティ、アバッキオ、ナランチャが死んだ事に負い目を感じているのだろう。 「ミスタァーーーウエエエーーーンハラヘッタヨォ~~~~~」 「おいおい、だから言ったろうがよォ~~~4は縁起が悪りーんだ我慢しろって…!」 「モウガマンデキネーーヨミスタァーーーー!クレークレーーー」 ミスタがピストルズ達をなだめているが、収まりそうにない。 それを見たジョルノだが、薄く笑みを浮かべ言った。 「好きにして構いませんよミスタ。今日はもうやる事は特にありませんからね」 「お!?そうか、悪りーなジョルノ!」 「アギャギャギャギャ!メシ食イニイクゾーーーー!」 「何かスゲー美味いトマトを使った料理を食えるとこがあるらしいんだが、オメーも行くか?」 「そんな店ができたんですか?残念ですけど、トリッシュがこっちに来るらしいんで、一人で行ってきてください」 「出迎えってやつか。パッショーネのボスもトリッシュだけには敵わねーらしいな」 「そういう事です」 「日本でやってたクオーコ(コック)が里帰りしてきて、知り合いの店手伝ってる間だけらしいから、行くならオメーも早い方がいいぜ」 そう言うとアギャギャギャギャと騒ぐピストルズ達を連れミスタがドアを開け外に出て行った。 「さて、店はこっちだったな」 軽い足取りで歩くが、何かに正面からぶつかった。 「うぉぉぉ!いてて…なんだじーさんじゃあねーか。立てるか?」 「あ……ああ、スイマセンがああああ、手を貸してくれないかなあああああ」 倒れている老人と、立っているミスタ。 面倒だったが、状況的に見て放置すると色々と誤解を受けかねない。 「しょうがねぇな……ほらよ。俺は今から飯食いに行くんだから早くしてくれよ」 「それはそれは……」 老人がミスタの手を両手でガッシリと掴み立ち上がるが…次に言った言葉はミスタをブッ飛ばすに十分だった。 「だが、お前は、もう何も食えないさ……ミスタ」 あまりにも覚えのある状況と台詞。 唯一自分が、何も出来ずに敗北した相手を思い出すが、ヤツはブチャラティに列車から突き落とされ死んだはずだ。 だが、これは……! 「て、てめェーーーー!まさか!!」 片手で銃を抜き老人に向けるが、あの時と同じなら間に合わない。 そう思い、何とかジョルノに遺す術を張り巡らせたが、『それ』はやってこなかった。 「はて……?何か言いましたかなああああああ?」 「と、とぼけるんじゃねぇーーーーーッ!オメー今、確かに俺の名を言ったじゃあねーか!」 「ここ最近、曖昧になりもうして、よく覚えとらんのですよおおおおお」 銃を突きつけられている事にも関わらず変わらないペースで老人がそう答える。 周りも騒がしくなってきたようだ。老人に銃を突きつけている男。どう考えても分が悪い。 「チッ!」 手を振り解くと、その場から逃げるかのように走り去った。 「ジョルノォーーーーーーーーーーーー!!」 「ずいぶん早かったですね。トリッシュならもう来てますよ」 扉を蹴破らんばかりに入ってきたミスタに少し眉を潜めたが、まぁ何時もの事だと思い大して気にしていないジョルノだったが 次にミスタが言った台詞には、さすがに反応せざるをえなかった。 「暗殺チームの……確か……そうだ!プロシュートが生きてたんだよッ!!」 「……それは無いはずですよミスタ。見間違えじゃないんですか?」 「いや、マジだって!」 「考えてみてください。ブチャラティから聞いただけですが、150キロの列車から突き落とされたんですよ?万が一生きていたとしても再起不能なはずです」 なおも食い下がるミスタに少し辟易したのか、ジョルノが何があったのか聞き出す事にした。 「とりあえず、落ち着いてください。何があったんですか?」 さっきあった事をミスタが説明をするが、当のジョルノは何かこう…何時もと変わらない表情だったが、何かを諦めたような顔をしている。 「つまり手を掴まれて、あの時と似たような事を言われたからそうだって言うんですか?」 「オメーは直にあいつを相手にしてねーから分からねーだろうが…!ありゃマジで本人だぜ!?」 必死になってミスタがそう力説するが、ジョルノは醒めた目でミスタを見ている。 「……ミスタ。確かに僕はパッショーネに入団する時ブチャラティに『やるのは個人の勝手』と言いましたが……貴方が手を出すとは思っていませんでしたよ」 「……?何が言いてーんだ?ジョルノ」 何かこう、ガッカリしたような口調だ。 「腕を見せてください」 「お、おう」 腕を見せるが、ジョルノは腕の真ん中あたりを凝視している。 「……痕はありませんね。吸引系ですか?」 「ジョルノ…オ、オメーまさかとは思うが……!」 「マリファナかコカイン……どのルートを使って手に入れたんですか?僕が組織を乗っ取ってから麻薬チームは解散させたはずです」 「薬じゃねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 その日最大の叫びがその場に響いた。 「大声出して何やってるの?」 奥から出てきたのは、ディアボロの娘、トリッシュだ。 「ええ、ちょっとミスタが麻薬を…」 「違うっつってんだろーがッ!!」 「……違うんですか?」 「たりめーだ!」 「何があったのよ」 状況を知らないトリッシュにさっきあった事を説明したが、似たような反応だ。 「いいですか?さっき手を両手で掴まれたと言いましたよね?」 「ああ、そうだぜ」 「ブチャラティが言うには、もう一人のスタンドを利用してスティッキィ・フィンガースを叩き込み、彼の右腕を切断して突き落としたんです」 「ブチャラティは嘘を見抜いても嘘を付く理由は無いから、そのとおりなんでしょうね」 「時速150キロで地面に激突したんです。生きていたとしても 僕のゴールド・エクスペリエンスで部品を作ったのならともかく、そんな手が無事にくっつくはずがありませんよ」 「で、でもよォーーーー!確かに『だが、もう何も食えないさ…ミスタ』って言ったんだよそいつは! 銃を抜いちまって騒ぎになったから、それ以上追求できなかったけどよォーーーー」 「……それだけの情報なのに街中で銃を抜いたんですか?…しかも老人相手に」 「スタンド使いに襲われたんだから当然だろうがよ」 「……トリッシュ」 「……ええ、分かったわ、ジョルノ」 ジョルノに促されトリッシュが電話を取り、どこかに掛け始める。 「……どこに電話してんだ?トリッシュ」 「ミスタ、ちょっとそこに座っててください」 ミスタが椅子に座ると同時に、ロープを持ってきたジョルノがスタンドで手早くミスタを縛った。 「な、なにすんだてめェーーーーーー!」 「じっとしててください。時間がかかるかもしれないんで」 「ト、トリッシュ!オメーも何か言え……」 トリッシュの方を見るが、その話し声を聞いて愕然とする事になる。 「……ヴェネツィア総合病院ですか?……ええ、そうです。精神科のベッドの予約を一つ……名前は『グイード・ミスタ』でお願いします」 「な、なにやってムゴォ!」 そう叫ぶミスタをジョルノが手早く猿轡で黙らせる。 「心的外傷後ストレス障害……PTSDですね。さっさと入院して良くなってくださいよ」 「ウンガァァァァァアアア(違うつってんだろーが!)」 「何です?聞こえませんよ。そんなに不安なら氷でも持っててください」 「ウンゴォォオオオオ(オメーが話せないようにしたんだろーが!)」 グイード・ミスタ―ヴェネツィア総合病院 精神科に強制入院 スタンド名『セックス・ピストルズ』 簀巻きにされ、どこかに運ばれるミスタを建物対面のオープンカフェに座った壮年の男が薄く笑いながらそれを見ていた。 「ああはなるとは思ってなかったが…ま、恨むなら信用されてないテメーを恨めってこったな」 そして机の上の紅茶を口に運ぶが、一口飲んで顔を顰めた。 「…………不味い」 どうにも合わない。以前ならそうでもなかったろうが、『向こう』に居たせいで味覚が変わったらしい。 貴族用の茶の葉。ネアポリスのある意味淀んだ水とは違う天然水。 どう見ても、味に格段の違いがある。 金を払わずに店を出るが、その時『青年』になっていた男は誰にも気付かれる事無く外に出ることが出来た。 再び自身を多少老化させ懐からサングラスをかけ街を歩く。 髪も結構伸び、それを降ろしているため見知った顔に見られたとしてもバレる事は無いだろう。 「さて……どうすっかな」 ミスタにちょっかい出したとは言え、現在のボス―ジョルノを相手にする気はさらさら無かった。 「まさか、あの新入りがボスを倒してるとはな」 この5日間、組織の事を調べたが、ボス―ディアボロが倒されジョルノにパッショーネが乗っ取られている事を知る。 ディアボロが相手なら何があろうとも暗殺を慣行するが、ブチャラティの新入りがボスの座に収まっていると知りそんな気は雲散していた。 まして、暗殺チームは壊滅しているのだ。結末を知り心に納得する事はできたが、やる事が無くなっていた。 良く言えば自由。悪く言えば暇。 ちなみにゼロ戦は発見された後、日本に運ばれたらしい。 大戦中の戦闘機が稼動状態で見付かったのだ。ニュースにもなっている。 気付いた時は燃料ギリギリでルーンも消えていたため危うく墜落しそうになったのだが、操縦法は辛うじて覚えていた事で何とか建て直し着陸を慣行する際にメローネが「後輪からディ・モールト優しく着陸するんだ。前輪から着陸すると教官に怒られるからな!」と言っていた事を思い出し、何とか墜ちる事無く戻る事ができた。 航空機の着陸の基本だそうだがゲームの受け売りだ。タイトルは『パイロットになろう2』 「国外(そと)に出るか」 イタリアでは見知った顔が多すぎる上に、それなりに襲われる理由もある。 金はあった。ポルポの隠し財産ではないが、ソルベとジェラードが殺された日から緊急用としてチーム全員が出し合い貯めた金が一括され隠されていた。 「悪りーな、オレ一人で使っちまう事になりそうだが……先に逝ったオメーらには必要ないだろ?」 納得させるようにそう呟くと、さっそく行動すべく動き出していた。 草原に立つのは桃赤青の三色。後、太陽光を反射するのが一つ。 「まだ一週間しか経ってないけど…ホントにもういいの?ルイズ」 「もちろんよ、神聖で美しく、そして、強力な……あいつに負けないぐらいの使い魔を呼ばないといけないんだから」 二日程引き篭もっていた事を知っているため、それなりに心配し聞いたキュルケだが、そう答えるルイズを見て、結構成長したわねと素直に感心していた。 かくいう本人も帰ったと聞かされた時は小一時間ほど呆然としていたのだが、立ち直りは早かった。 学院に戻ってきたシエスタにも話したのだが、ゼロ戦が日食の中に消えていく様子を見て、もうスデに知っていたようだった。 何時もと変わらない笑顔だったが、どこか寂しそうに見えたのはルイズだけではあるまい。 表情を崩さなかったのはタバサぐらいか。 ちなみにコルベールはゼロ戦が消えた事にもんのスゴイショックを受け徹夜の影響もあり3日程寝込んでいた。 ストレングスが沈黙した後、戦意喪失したアルビオン地上軍であったが、『レキシントン号だッ!』やストレングスの砲撃でトリステイン軍も一杯一杯だった。 両軍疲弊の半ば引き分けのような形だったのだが、帰る手段を失ったアルビオン軍が降伏するという形で終結した。 戦勝パレードの後に戴冠式も行われアンリエッタの婚姻も消し飛んだらしい。 なにせ、トリステイン単独で精強なアルビオンを破ったのだ。何もしていないゲルマニアに対し強気に出る事ができるのは当然だ。 「では、ミス・ヴァリエール。サモン・サーヴァントを」 コルベールがそう促すとルイズが一歩踏み出し詠唱を始める。 あの時とほとんど同じだが、ただ違うのは指に嵌めた水のルビーと虚無の使い手であるという事。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよ 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よ!わたしは心より求め、訴えるわ…我が導きに、答えなさい」 杖を振り下ろすと……爆発が起きた。 『イタリアで発見された、旧日本海軍所属『佐々木武雄少尉』が登場していたと思われる零式艦上戦闘機が、修復を終え展示され……』 街頭テレビのニュースがそう伝える街を、髪を整えスーツでキメたプロシュートが歩いていた。 言葉は分からないが、映像を見る限りあのゼロ戦だと判断したようだ。 二日経ち場所は、ある者は魔都と呼び敬遠し、またある者は聖地として崇める混沌の地。かの有名な秋葉原。 外国人ですら知れ渡っているため、外人は珍しくはないが…どう見ても場違いというか、ぶつかったりしたら狩られそうなので皆避けていた。 「メローネのヤロー……よくこんな場所に入り浸ってたな……」 つくづく感心する。訪れた理由は、ただ単にメローネが入り浸ってた場所に興味があったからだ。 訪れてから結構後悔したが先に立たず。 メイド喫茶なるものを発見した時なぞ、敵スタンドに襲われた時よりブッ飛んだ。 元ギャングと混沌の街『秋葉原』。カルチャーショックを通り越してデカルチャーである。 当面の定住先として日本を選んだのは幾つかあるが、入国関連の審査が甘い事と簡単に身分を偽造できるからだ。 その気になればイタリア語講師で食っていけるだろう。 「なんでメイドが居るだけで、あんな馬鹿高い金取られるんだ?理解できねー」 まぁ店先で立っていた、セミロング黒髪メイドを見た時、シエスタを思い出したのだが。 「ま……もうオレの関われる事じゃあねーな」 行ける場所なら、する事が無くなった以上、ペッシようなあいつらの面倒見てもいいとは思うが、もう関わりの無い事だ。 金はまだまだあるとは言え限りがある。とりあえず食っていかねばならない。現実的な問題は山積みだった。 「う~~~~パソコン、パソコン」 今、修理が終わったノートパソコンを求めて全力疾走している俺は高校に通うごく一般的な高校生 強いて違うところをあげるとすれば出会い系に興味があるってとこかナ――― 名前は『平賀才人』 そんなわけで秋葉原にあるPCショップにやってきたのだ 修理が終わったパソコンを受け取り、ウキウキ気分で家路に着く途中、思いっきり人にぶつかった。 「いってぇな……前見て歩けよ……」 余所見していたのは思いっきり彼である。だが、せっかく修理したパソコンが壊れては洒落にならないという考えからそんな言葉が出た。 ……出たのだが正面を見て後悔した。 外人だ。それもこんな場所にも関わらずブランド物っぽいスーツでキメている。 彼の貧弱ゥな想像力は場所に関わらずスーツ装備=マフィアor某機関の工作員という結論に達したのだった。 そして次に取った行動は―― 軽くデカルチャーを感じながらモーゼの如く街を歩いていたのだが、人にぶつかった。 前を見ていないわけではなかったが、デカルチャーを受けていたため気付けなかったようだ。 もっとも、相手も前を見ていないようだったが。 現役時代なら、蹴りが飛ぶとこだがここは日本。入国管理はザルだがイタリアと違い警察は優秀な方である。賄賂も効かない。 ベイビィ・フェイスとは違うが携帯用のパソコンを庇うようにして少年が倒れていたので手を顔の前に差し出すと…恐ろしい速度で土下座された。 「スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!」 必死だった。なにせ謝まるために起きようとした瞬間、腕が伸びてきて目を指でえぐろうとしてきたのだからッ! 17年生きてきてヤクザな世界の方々とは一切関わった事が無いので、ちょっと勘違いしているご様子。 「目はホント勘弁してくださいッ!いや、できる事なら全部勘弁してくださいッ!」 相手が外人であるという事も忘れ日本語で言いながら、『組織の工作員』だの『殺し屋』だの『血も涙も無いマシーン』だの色々な想像をしながらなおも地面に頭を打ちつけるかのように土下座をする。ハッキリ言う。スゲー目立っている。 ギャラリーも出来始めているが誰も助けようとはしない。東京砂漠だ。この時ばかりは馴染んだこの街を恨んだ。 「なんだ?このマンモーニは……」 目の前には叫びながら思いっきり土下座する少年。 日本語でなにか言っているが、ポーズと照らし合わせると謝っているのだろうと思う。 当然の事だが、目をえぐる気なぞ無い。ただ単に手を差し出しただけだが、勘違いされたようだ。 「腑抜け野朗がッ!なんだ?そのザマは!?ええ!?」 ボギャア!ドカッ!ボゴッ!ボゴッ!ボゴッ! (ペッシならこうだな…) 少年を踏みつけていたようだが、どうやら想像だったようだ。 説教したい衝動に駆られていたが、その姿が同じ黒髪のもの凄い勢いで人に謝り倒すメイドと被った。 「日本人ってのは皆こうなのか?」 ちょっとばかし偏見だが、出会った二人がこうなのだから仕方あるまい。 ギャラリーも出来てきたので面倒ごとになる前にカタを付ける事にした。 「スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマはぐぉ!」 土下座していると、頭に衝撃。なんだ、凶器か、凶器で殴られたのか。 バールのようなモノ。という凶器名が思い浮かんだが、よくよく考えれば衝撃が軽すぎる。 恐る恐る顔を上げると、その外人が呆れたような顔で犬を追い払うかのような手をしながらこっちを見ている。 「い、行っていいって事ですかね……?」 当然日本語だから返事は無い。 恐る恐るその場を離れる。走らない。走りたいけど走ったら逃げたと思われ何か追われそうだったからだ。 ゆっくりと歩きながらその場を離ようとした時『マンモーニ』という単語だけよく聞こえたのだが イタリア語なんぞ知ったこっちゃあないし怖かったので気にせずその場を離れる事にした。 「このマンモーニが」 恐る恐る、背を向け歩き出した少年に向け、そう言い放つ。 歳は分からないが、10代後半といったとこだろう。 その時スデにギャング世界に片足突っ込んでいたオレ『達』に比べてなんっつー平和な世界だと思ったのだが本来これが正しい世界なのだろうとも思う。 スーツのポケットに手を入れると何かある感触。 取り出してみると少しばかり驚いた。 「ヤッベ……そのうちオレが渡すと言ってたが……返すの忘れてたな」 手にするは大きなルビーが付いた指輪。風のルビーだ。 こちらの世界では盗品というわけではないから裏で売ろうと思えば、かなりの高値で売り捌ける。これからの事を考えるとそうしてもいい。 だが、そうする気は無い。 「持ってきちまったもんは仕方ねーな」 手で弄びながら歩く。さっきの少年と同じ方向だ。 しばらく歩いていると、正面に光る鏡のような物体を見た。 「……マン・イン・ザ・ミラー、イルーゾォか!?」 暗殺チーム、鏡の中のスタンドと本体の名前が出る。 戻った時、新聞を漁ったりして仲間の墓は確認したのだがイルーゾォだけ確認できなかった。 もちろん状況的に見て、その可能性は低い。 実際、パープルヘイズでドロドロに解けて死体が残らなかっただけだが、一瞬でもそう思わせるには十分だ。 思ったらなら行動する。スデにそちらに向け走り出していた。 先ほどのウキウキ気分から一転。かなり凹んだ感じで歩いていると何か嫌な予感して後ろを振り向いた。 「ok。これはドッキリだ。ドッキリテレビだな?皆して俺をハメようとしてるんだ。だからさっき誰も助けてくれなかったんだ」 言うまでも無いが軽い現実逃避である。 だって後ろを振り向けば、さっきの才人の中では『工作員』『殺し屋』『殺戮マシーン』と認定された外人が後ろに┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨という文字が浮き上がらんばかりにこっちに走ってきたのだから。 「最近ネタが無くてまた始めやがったな!カメラはどこだ!?」 必死こいてあたりを見回すが当然そんなものは無い。 だが、前方の光る鏡のような物体に気が付いた。 「カメラはアレだな!」 そう思った瞬間走り出す。これがカメラじゃなかったら死ぬ。 「もうホント、今時ドッキリなんて流行らないからやめろって!」 そういう思いに支配されていた彼は迷うことなく、その物体に触った。 「あのマンモーニ……!鏡に半身を…やはりイルーゾォか!」 あの少年をイルーゾォが襲う理由は分からないが、元暗殺チームだからそういう仕事を続けているのだろうと思った。 別段、かれこれ言うつもりは無かったが、自分より先に死んだと思っていたイルーゾォが生きている。 鏡の中の世界は許可された物しか通る事はできないが、向こうからでもグレイトフル・デッドかこちらの姿を見れば分かるはずだ。 「グレイトフル・デッド!」 スタンドを発現させ少年の腕を掴もうとする。 そんなもので止まらないというのは当然承知の上だ。 これで少なくともグレイトフル・デッドの存在には気付く。 だが、腕を掴もうとした瞬間、どこからか虹のような光が出ているのを見た。 腕を掴み発生源を確認すると発生源は握っていた右手の中だ。 「なんだ……?こい……つ……がッ!」 向こうで喰らった『ライトニング・クラウド』程ではないが似たような衝撃を受け意識が遠くなる。 「なん……だ……!?マン・イン・ザ・ミラー……じゃあ…ねぇ……!」 迂闊だったと思うが、スデに遅い。 ただ、意識が途切れる瞬間、前にもどこかで似たような感覚を受けたと体が覚えていた。 「……なんでまた爆発なのよ」 「ま、そう簡単にいかないってことよ」 「臥薪嘗胆」 虚無に目覚めたのに、またハデ爆発を起こした事に凹むルイズと、虚無に目覚めたことを知らないキュルケとタバサが何時の事という感じで流すが煙が薄くなるとコルベールがちょっと『ハイ』になりつつそっちを見ていた。 見覚えのありすぎるシェルエット。この世界では届くことの無い技術の塊。 「また、これを再び見れるとは思ってもいませんでしたぞ!ミス・ヴァリエール!」 ゼロ戦がそこにあった。 「なんで……?プロシュートと元の世界に戻ったんじゃ……」 そこまで思ってハッとした。 元の世界に帰ったはずのモノが再び現れたなら、乗っていた本人も居るのではないかと。 ゼロ戦の周りを捜すと影に脚が見える。 期待と、また呼びつけた事に殴られるんじゃないかという二つの思いが交錯する中、その脚の先を覗き込むと黒と白の見た事の無い服を着た、自分と同じぐらいの歳の少年が倒れていた。 「……また平民かしらね」 キュルケがルイズを覗き込む。声の調子がちょっと下がっているあたり期待していたのは同じらしい。 以前のルイズなら、ただの平民と判断しロクな扱いをしなかっただろうが、今は違う。 奇妙な事だが…… 悪事を働き、法律をやぶる『ギャング』、その中でも特に忌諱されるべき存在の『暗殺者』がルイズの心を成長させたのだ。 もう、『ゼロ』などというイジけた目つきはしていない… ルイズの心には、まだ少しだけだがさわやかな風が吹いていた…… 自分のやった事には後悔せず前向きに受け入れていこうという気持ちが多少なりとも目覚めていた…… だから、この少年が目を覚ました時も見下したような目はしていない。もちろん使い魔にする気ではあったが。 「あなた、名前は?」 「ってぇ……俺?……俺は平賀才人」 その瞬間、黄金のような風がその場に流れた。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
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キュルケは戸惑っていた。パーティーと言われたからには一応の着飾りはしたが、だからと言って酒を飲んではしゃぐような気分にはなれそうにない。周りを見渡して、彼女はひっそりと溜息をついた。 アルビオン王党派最後の牙城、ニューカッスル城。パーティーはそのホールで行われていた。上座に設置された簡易の玉座に腰掛けて、国王ジェームズ一世は老いた双眸を細めて集った臣下を見守っている。貴族達はまるで園遊会であるかのように豪奢に着飾り、テーブルの上にはこの日の為に取っておかれたと思しき様々な御馳走が並んでいた。キュルケでさえ滅多に御眼にかかれないほど華やかなこのパーティーに、燃え尽きる寸前の蝋燭の炎のような儚さを覚えて、キュルケはたまらなく虚しかった。 しかし、それにも増してキュルケを当惑させたのは、ルイズ達仲間の行動だった。ルイズは悲しげな顔一つ見せず、話し掛けてくる貴族達と微笑んで会話を交わしている。ギーシュは沈鬱な顔をしている女性の元へ駆けて行っては、彼女達を笑わせていた。タバサはいつも通りの無口だが、同好の士であるのか十数人の貴族達と共にはしばみ草のテーブルを囲んで会話に興じている。ワルドも また如才なく笑顔を浮かべて挨拶に回っていた。そしてあのギアッチョまでもが、貴族達に勧められたワインを嫌な顔一つせず飲んでいた。 ――どうしてそんな顔が出来るのよ……! キュルケにはさっぱり理解が出来なかった。貴族達にも、悲痛な顔をしている者は誰一人としていない。悲しんでいるのは自分だけだとでも言うのだろうか。まるで自分だけが仲間外れのようで、キュルケはいたたまれない気持ちになった。 キュルケはもう部屋に戻ってしまおうかと思い始めたが、その時彼女の後ろから声がかかった。 「何やってるのよ、キュルケ」 キュルケは反射的に身体を捻る。腰に手を当てて、困ったような顔でルイズが立っていた。 「一人でどうしたのよ キュルケらしくないじゃない」 「……らしくないって、そりゃこっちの台詞よ」 キュルケは疲れた眼をルイズに向ける。 「揃いも揃ってどうしたのよあなた達 何でそうやって笑っていられるわけ?さっぱり解らないわ!」 無理やりにワインを飲み干して、キュルケは首を振った。 「明日全員死ぬのよ?あなた達それが分かってるの?」 「分かってるわよ」 「だったら……!」 理解出来ないという感情が、キュルケに怒りを感じさせる。珍しく声を荒げるキュルケに、ルイズはどこか優しげな声を掛けた。 「キュルケ」 「……何よ」 「明日全滅するなんてこと皆分かってるわ だけど彼らには死して何かを為す『覚悟』がある だったらわたし達がするべきことは、嘆き悲しむより彼らと一緒に笑うことよ」 わたしはそう思うわ、と静かに言うルイズをキュルケはハッとした顔で見直す。 「――…………そう……よね」 何を勘違いしていたのだろう。彼らの為の涙など、もはや溺れてしまう程に流されているに決まっているではないか。今彼らが 欲しいものは涙か?同情か?答えはきっと違うはずだ。 キュルケはもう一度彼らを見渡す。明日死ぬ身とも思えぬ笑顔で、彼らは穏やかに談笑していた。その笑顔に一片の曇りもないことを、キュルケはようやく理解する。その葛藤も覚悟も理解して、ただ笑って彼らを見送ること。彼らアルビオン王家最後の戦士達が欲しいものは、きっとそれだけなのだ。キュルケは薄く笑って首を振る。 「……まさかあなたに諭されるなんてね」 「しっかりしなさいよ、キュルケ」 キュルケを悪戯っぽく見上げて、ルイズは彼女に応えた。 衣装を整えながら、キュルケは「それにしても」と呟く。 「ルイズ……あなた変わったわね」 「……そう?」 きょとんとした顔をするルイズを見遣って、キュルケは笑う。 「以前のあなただったら、早々にここを抜け出して一人で泣いてたでしょうからね」 「なっ……それはあんたでしょ!肖像画に描かせてやりたいぐらいの顔してたくせに!」 などと言い返しながらも、ルイズは何かを考え込むような仕草をした。 その格好のまま、ルイズはぽつりと口にする。 「…………そう、かも知れないわね」 片手に持ったワインに口をつけて、ルイズはホールに眼を向けた。 中央近くでウェールズと言葉を交わしている男を見つけて、ルイズは嬉しいような困ったようなよく分からない顔をする。 「……感化されたのかしらね あいつに」 「……ギアッチョ、ね……」 キュルケはルイズに習ってホールの中央に眼を向ける。 不思議な男だった。所構わずキレる暴れる、殺人に躊躇すらない無愛想な平民。なのにルイズは、そしてギーシュやタバサまでが彼に何らかの影響を受けているように思う。恋愛感情ではないが、 キュルケもまたギアッチョにどこか惹かれている自分を感じていた。 有体に言えば――友情、だろうか。それとも、 ――友愛……かしらね? キュルケは腕を組んで呟いた。 学院の教師達よりも遥かに頼りになる男。それが彼女達の共通した認識だった。しかしそれでいて、ギアッチョには何故だか危うげな所がある。頼れる仲間であると同時に、キュルケにとってギアッチョはどこか心配になる友人だった。もっとも、友人とはこっちが、というか殆どギーシュが一方的に名乗っているだけの話だったが。 ――やれやれ……こっちのラブコールが届く日は来るのかしらね ギアッチョが自分達に自身のことを話す日は、果たして来るのだろうか。ギアッチョと共にいればいるほど、彼の正体が知りたくなる。 もしもギアッチョが口を開く時が来るのならば、それはきっと自分達を友人として認めてくれた時なのだろうとキュルケは思った。 「……ところで……あの、キュルケ」 「え?あ……何?」 思考に没入していたキュルケは、その声で我に返った。ルイズに眼を遣ると、彼女は何だか不安そうな顔で自分を見ている。 「…………その ラ・ロシェールで…………どうして、助けてくれたの?」 「へ?……え、えーと、それは……」 あまりにストレートなルイズの質問に、キュルケは思わず焦った。 今までのルイズなら、「誰が助けてくれなんて言ったのよ!」で終わりだったはずだ。やっぱりルイズは変わったと、少々混乱気味の頭でキュルケは考えた。 「…………か、考えてみれば ギアッチョを召喚した時も、キュルケが真っ先に……た、助けてくれたじゃない……?フーケの時だって……」 不安げな眼で二十サント近く身長の違うキュルケを見上げて、ルイズはおずおずと問い掛ける。 「……どうして?」 「ど、どうしてって……当たり前でしょ?あなたはと……」 「と?」 友達、と言いかけてキュルケはハッと我に返った。 「う……と……と、当代きってのライバルなんだから!」 ――あ……危ない危ない ギーシュに影響されてたわ…… 初めて自分に向けられたルイズのしおらしい言動に混乱していたキュルケは、何とか自律を取り戻した。心でほっと溜息をついてルイズに向き直ると、彼女は少し俯いているように見える。 「……そうよね わたし達、宿敵だものね……」 ――う………… しん、と二人の間が静まり返る。今まで何度も言ってきた言葉のはずなのに、キュルケは何故だかどうしようもなく胸が痛んだ。 「宿敵」というたった二文字の言葉がこれほどまでに心を抉るものだとは、今まで思いもしなかった。 優しい言葉の一つも掛けてやりたかったが、プライドと家名に邪魔をされて、キュルケは何を言うことも出来なかった。 自分もルイズと同じだということに、キュルケはようやく気付く。 二人を嘲笑うかのように続く静寂が痛い。今すぐそれを打ち消したくて、キュルケは思わず言ってしまった。 「……そうよ、こんなところで死なれちゃあなたの恋人を奪う楽しみがなくなるもの …………さ、私はパーティーを盛り上げて来るとするわ 格の違いを教えてあげるからよく見てることね」 捨て台詞のようにそう言って、キュルケはルイズの返答も聞かずに歩き出した。背中に感じるルイズの視線を振りほどくように、キュルケは足早に去ってゆく。歩きながら、キュルケは思わず胸を抑えていた。いつもと同じ売り言葉のはずなのに、どうしてこんなに胸が痛いのだろうか。答えに気付かない振りをして、キュルケはパーティーの人ごみに姿を消した。 わたしは馬鹿だ、とルイズは思う。自分は一体キュルケに何を言って欲しかったのだろう。ヴァリエールとツェルプストーとして、同じ一人の人間として今まで散々いがみ合ってきたキュルケに、今更何を言って欲しかったのだろうか。 ――馬鹿よ、わたしは…… わたしとキュルケは永遠に宿敵同士……それ以外に、わたしを助けるどんな理由があるというの? ルイズは俯いて片手のワインに眼を落とす。「宿敵」という言葉の重みを、彼女もまた痛い程感じていた。 ポロン、と澄んだハープの音が響く。耳慣れないその音に、ルイズは思わず顔を上げた。 「……キュルケ」 ジェームズ一世の御前でハープを奏でているのは、他ならぬキュルケであった。己に集う幾百の視線を物ともせずに、キュルケは優雅にハープを弾いている。その旋律の美しさに、ルイズは眼を見張った。普段の彼女からは想像もつかない繊細な手つきで紡がれる音色に、この場の誰もが聞き惚れていた。 「これはなかなか、大したものだね」 隣から見知った声が聞こえて、ルイズはそっちに顔を向ける。 ワインを傾けながら、ワルドがそこに立っていた。 「ワルド」 「彼女にこんな特技があったとはね…… それに面白い弾き方をする静かな曲だというのに、どこか情熱的だ」 ルイズは改めてキュルケを見る。正しくワルドの言う通り、キュルケの演奏には繊細さと情熱が渾然一体となって現れていた。まるでキュルケ自身を表したかのようなその音色に、いつしかルイズも瞳を閉じて聞き惚れていた。 万雷の拍手に包まれて演奏を終えたキュルケを見届けてから、ワルドはルイズに向き直った。 「ルイズ 今、少し話せるかい?」 「ええ……どうしたの?」 ワルドは真剣な顔でルイズの瞳を覗き込む。 「ウェールズ殿下が式を挙げてくれる…… 明日、結婚しよう」 「え…………」 ワルドのプロポーズに、ルイズはワイングラスを取り落としそうになった。何だかんだで結論を先延ばしにしているうちに、ルイズは結婚の話などまだまだ先だといつの間にか思い込んでいたのである。ワルドは既に明日の挙式の媒酌をウェールズに頼んでいるらしい。つまり、これ以上話の先送りは出来ないということになる。 いきなり決断を迫られて、ルイズはしどろもどろで返事をした。 「え…………えっと、その……わ、わたし……」 「いきなりで驚かせてしまったかな しかしどうしてもあの勇敢な皇太子殿に、僕らの婚姻の媒酌をお願いしたくてね」 ワルドはそこで言葉を切って、ルイズの両肩に優しく手を置いた。 「愛しているよ、可愛いルイズ 君は僕を都合のいい男だと罵るかもしれない だけどルイズ、君を前にして自分の気持ちを偽ることなんて僕には出来ないんだ」 ルイズから一瞬たりとも眼を逸らさずに、ワルドは堂々として言う。 「……受けてくれるかい?僕のプロポーズを」 「……ワルド、わたし……」 ルイズは強制的に、思考の海に引き戻された。どうして快諾出来ないのか、どうしてギアッチョが心に引っかかるのか。蓋をしていた疑問が、再びルイズの中で回りだした。自分はワルドが好きではないのだろうか?いや、それは違う。ワルドのことは好きだ。好きなはずだ。 幼い頃からの憧れは、今だって消えてはいないのだから。 ワルドとの婚姻を拒否すれば、父や母は悲しむだろう。しかし結婚してしまえば、ギアッチョはどうなるのだろうか。同じ部屋に暮らすというわけには勿論いかないだろう。それどころか、気軽に会うことさえ出来なくなるかもしれない。未だウェールズと話し合っている彼に、ルイズはちらりと眼を向けた。 ――だけど………………きっと、そのほうがいいんだわ 少し悲しげに眼を伏せて、ルイズは独白する。 この旅で解ったことがある。ギアッチョの心は、未だに暗殺者のものなのだ。彼は常に敵を殺すつもりで戦っている。ワルドとの決闘でさえも、一度はワルドの首を薙ごうとしていた。恐らくそれは、半ば以上に無意識の行動なのだろう。ギアッチョにとっては、敵は殺すものであり、攻撃は命を絶つ為のものに他ならない。そして、ギアッチョはもはやそういうことを意識すらしていないのだ。刃を使うなら首を、臓腑を、腱を断つ。拳を使うなら眼を狙い喉を潰す。 急所以外の場所を狙うという選択肢は、そうする必要がある時初めて現れる。神経、細胞の一つに至るまで、彼の心身は未だ暗殺者のそれに他ならなかった。 しかし、彼はもう暗殺者ではないのだ。いずれイタリアへ送り返す日が来るとしても、その地でさえ彼は暗殺者「だった」男に過ぎない。 ルイズはこれ以上、彼に血に塗れた道を歩かせたくなどなかった。 もう十分じゃない、とルイズは呟く。ギアッチョ自身がそう思っていなくとも、殺人という行為は確実に彼の心を蝕んでいる。 出来ることなら、ギアッチョには平穏に暮らして欲しかった。 だが、自分と一緒にいればまた今回のような事態が起こるかもしれない。自分と――いや、メイジと関わり続ける限り、争いと無関係ではいられないのではないか。ならば、とルイズは思う。 ならば、自分とはもう一緒にいないほうがいいはずだ。ギアッチョにはマルトーやシエスタ達がいる。彼らと共に生きることこそが、ギアッチョにとっての幸福なのではないだろうか。 出来ることなら、ギアッチョにはずっと傍にいて欲しい。しかし、それがギアッチョを殺人へ向かわせるというのなら。 スッと顔を上げて、ルイズははっきりとワルドに答えた。 「……喜んで、受けさせてもらうわ」 パーティーは和やかなムードのまま幕を閉じた。宴の始末をしているメイド達の他には殆ど人のいなくなったホールで、ギアッチョ、キュルケ、タバサの三人は、眼を回して床に倒れているギーシュを呆れた顔で見下ろしていた。 「…………うっぷ……」 どうやら調子に乗って飲みすぎたらしい。ギーシュは真っ青な顔を気持ち悪そうに歪めている。 「あなた船の上から酔いっぱなしじゃない しっかりしなさいよ」 「ふぁい……調子に乗りすぎまひた……っぷぁ……」 キュルケは溜息をついて隣の二人を見遣る。 「……ねぇ、これどうするの?こんなの担いで行きたくないわよ私」 「しょうがねーな……凍らせて転がすか」 「ええっ!?二つ目の選択がそれ!?」 「せめてもっと人間らしい方法を」と言うギーシュと「今のてめーは家畜以下だ」と言うギアッチョ達の間で、結論はなかなか出なかった。 いい加減業を煮やしたギアッチョはもうここに放置していくかと言いかけたが、その時タバサが何かを考え付いたように顔を上げた。 「待ってて」 と短く口にしてどこかへ行ったタバサが持って帰ってきたものは、ご存知はしばみ草のサラダだった。小皿に山のように盛られたそれを、タバサは構えるように掲げ上げる。ギーシュは真っ青な顔から更に血の気を引かせてあとずさった。 「……あはははは……じょ、冗談がキツいねタバサは…… その量は明らかに致死量を超えウボァーーー!!」 タバサの右手に構えられた毒物はギーシュの口に裂帛の気合と共に叩き込まれ、ギーシュは見事な放物線を描いて再び頭から倒れ落ちた。 ウェルギリウスと名乗る男に連れられて辺獄から氷結地獄までたっぷり地獄観光をした後で、ギーシュの意識はようやくハルケギニアへ帰ってきた。 「ハッ!?ハァハァ……こ、ここは一体!?あの悪魔は!?」 冷や汗をダラダラと垂らしながら怯えた様子で周囲を見渡すギーシュに、キュルケはこめかみを押さえてタバサを見た。 「……タバサ」 「何」 「やりすぎ」 「……修行が足りない」 「ところで君達聞いたかい?」 はしばみ草のおかげで酔いと共に抜けてしまった抜けてはいけないものが何とか身体に戻ると、ギーシュは何事もなかったかのように平然と口を開いた。 「何のことよ?」 三人を代表して、ややうんざりした顔でキュルケが問う。 「結婚だよ!さっきそこで子爵がルイズにプロポーズしてたんだ」 「……それホント?」 「本当さ しっかり聞き耳……じゃない、聞こえてきたんだから」 胸を張るギーシュを無視して、キュルケは簡潔に問う。 「ルイズの返事は?」 「……OK、だそうだよ 明日ウェールズ殿下の媒酌で式を上げるらしい」 その言葉に、キュルケは顔を複雑にゆがめた。 「何よそれ…… バカじゃないの?学院やめることになるかも知れないのよ!」 「ぼ、僕に言われても困るよ 本人が決めたことならしょうがないだろう?ねぇギアッチョ」 ギーシュが助けを求めるようにギアッチョに眼を向ける。いつも通りの読めない顔で一言、彼は「まぁな」と呟いた。 「何か悩んでる風ではあったがよォォ~~ それに自分の意思で答えを出したってんならオレ達に文句を言う余地はねーだろ」 ギアッチョは顔色一つ変えずにそう言うと、キュルケが言葉を差し挟む前にパン!と手を鳴らす。 「ほれ、てめーらはとっとと部屋に戻って寝ろ 追って沙汰はあるだろーが、式に出るにしろ出ねーにしろ朝は早くなるからな」 確かに、非戦闘員を乗せる船の出港は早い。睡眠を取っておかなければ、最悪アルビオンに骨を埋めることになるだろう。 まだ不服そうな顔をしているキュルケを促して、ギーシュはホールの出口へ向けて歩き出す。タバサがその後をついていくが、 「タバサ、てめーは残れ」 ギアッチョの言葉で、彼女はぴたりと足を止めた。次いでギーシュとキュルケも彼を振り返る。 「ギ、ギアッチョ まさかとは思うが君、そんな趣味が」 全てを言い終える前に、ギーシュはウインド・ブレイクで扉の外へ消え去った。 「意外と荒っぽいことするわね」 「口は災いの元」 殊ギーシュに関しては正にその通りだと思いながら、キュルケはギアッチョに顔を戻す。 「で、私達がいるのはお邪魔なわけ?」 「そうだ」 即答されてキュルケは少し驚いた顔をしたが、ギアッチョがそう言うなら仕方ないと判断して、少し唇をとがらせながらも頷いた。 「……そう言うならしょうがないわね じゃ、私達は先に戻ってるわ」 片手をひらひらと振って、キュルケはあっさりと歩き去った。 彼女が扉の向こうへ消えたのを確認してから、タバサはギアッチョを見上げて口を開く。 「……何?」 廊下に大の字になって伸びているギーシュを見下ろして、キュルケは溜息をついた。 「なんなのよ、もう……」 「ギアッチョのことかい?」 言いながらギーシュはむくりと起き上がる。 「……ルイズのことよ どうしてこんなに慌てて結婚しなくちゃいけないわけ?退学することになるかもしれないしギアッチョとも疎遠になるじゃない!」 「全くだね 薔薇は多くの人を楽しませる為にあるというのに」 「……あなたが言ってももう何の説得力もないわよ」 造花の杖をキザに構えるギーシュをジト目で睨む。なんだかバカらしくなって、キュルケは更に一つ溜息をついた。そそくさと薔薇の杖をしまうと、ギーシュは急に真面目な顔でキュルケを見る。 「……学院に居たくないということも、あるのかも知れないね」 「……え?」 「だってそうだろう?学院内に自分の味方が誰一人いない状態で、僕はむしろよくルイズがここまで頑張ってこれたと思うよ」 「そ、それは違うわ!」 慌てたように言うキュルケに、ギーシュは困った顔で笑う。 「そう、違うよ。僕達はもういつだって彼女の味方だし、先生にもルイズをなんとかしてやりたいと思っている人だっているはずさ。 だけどルイズは、きっと言わなきゃそれに気付けないんだ」 「……私は――」 「……ねえキュルケ そろそろ素直になるべきじゃないのかい? 両家の確執は僕にも分かるよ だけどルイズはルイズで、君は君だ。そうだろう?」 答えないキュルケの瞳を覗き込んで、ギーシュは続けた。 「これが最後のチャンスかもしれない 彼女に会いにいこう、キュルケ」 キュルケは言葉もなく立ち尽くしている。ギーシュもまた、他に言うことはないという眼で、無言のままキュルケを見つめていた。 重い沈黙が場を支配する。ほんの数秒、しかしキュルケにとっては無限のように感じられた数秒の後、彼女は苦しげな顔を隠すようにギーシュに背を向けた。 「………………私は、あの子の友達なんかじゃないわ」 絞り出されたその言葉に、今度はギーシュが溜息をついた。 「……それが君の答えかい」 「事実を言っただけよ」 素直じゃないのは分かっている。意固地になっているのも理解している。だけど、認めるわけにはいかない。自分達の意思がどうあれ、自分はツェルプストーで彼女はヴァリエール。未来永劫、それだけは変わらないのだから。だから――そう、今自分がここにいるのは、ただの気まぐれなのだ。他に理由などありはしない。それが、キュルケの答えだった。 「……それじゃしょうがないな、この話はおしまいにしよう。僕一人頑張ったところでどうにもならないからね ……僕は寝るとするよ」 「え?ちょ、ちょっとギーシュ……!」 キュルケの声を掻き消すように「おやすみ」と言い放って、ギーシュはマントを翻して去っていった。 「……何よ 一人前に怒ったってわけ……?」 キュルケはその場から動けなかった。後を追うことも怒鳴ることも出来ずに、彼女はまるで叱られた子供のような顔で立ちすくむ。 綺麗な指先で赤い髪を弄って、キュルケは自分の心を誤魔化すように呟いた。 「……つまんない」 「……概ね理解した」 相変わらず小さな声でそう言うタバサを見下ろしてギアッチョは問う。 「頼めるか?」 こくりと頷いて、タバサは了承の意を表した。ついと眼鏡を押し上げて、ギアッチョは「悪ィな」と口にする。 「どうして?」 「見れねーだろ」 「……別にいい あなたが正しいなら、見る意味はない」 「ま……あくまで可能性の話だがな」 そう言うと、ギアッチョは次々に片付けられてゆくテーブルに眼を移す。 「……ここまで深く関わってんだ 任務の詳細ぐれーは教えてやってもいいとは思うんだがよォォ~~」 ままならねーもんだ、と呟くギアッチョを見事な碧眼で見つめて、タバサはふるふると首を振った。 「かまわない あなた達の立場は理解出来る」 その言葉に追従ではないリアルなものを感じて、ギアッチョはタバサに眼を戻す。どうにも不思議な少女だった。 燭台に照らされた廊下を並んで歩きながら、ギアッチョはここでも本を読むタバサを見て一つ知りたかったことを思い出した。 「……学院のよォォ~~ 図書館とやら、ありゃあ誰でも入れるのか?」 タバサは怪訝な顔でギアッチョを見上げる。ギアッチョが読書に勤しむタイプだとは、どう見ても思えなかったのだ。 「……平民は、入れない」 タバサは怒るかと思ったがどうやら予想の範囲内だったらしく、ギアッチョは一言「そうか」とだけ返事をした。 「……調べ物?」 と訊いてから、タバサはハッとした。自分はこんなことを訊く人間だっただろうか。他人に干渉しなければ、干渉されることもない。それが「タバサ」の生き方のはずだった。だというのに、自分は一体どうしてしまったのだろう。そんなタバサの胸中など知らず、ギアッチョは当たり障りのない言葉を返す。 「そんなところだ」 そこでタバサはふと思い出した。そういえば、ギアッチョが召喚されてから程なくして、ルイズが毎日図書館に通うようになったはずだ。 勤勉な彼女は今までも週に数回は勉強の為に足を運んでいたが、日参するようになってからはどうも別のことをしているようだった。 一度彼女に使い魔を送り返す方法を知らないかと訊かれたことがある。その時はギアッチョと喧嘩でもしたのだろうと思っていたが、ひょっとすると何かのっぴきならぬ事情で今もそれを探しているのではないだろうか。そう認識したタバサの理性がストップをかける前に、彼女の口は言葉を紡いでしまっていた。 「……帰りたい?」 言ってから、タバサはしまったと思った。ギアッチョは二重の意味で少し驚いたが、しかし特に追求もせず口を開く。 「――……どうなんだかな」 タバサははぐらかされたのかと思ったが、彼の表情を見るに、どうやら本当によく分からないらしい。自分の推測が当たったことよりも、今のタバサには何故かギアッチョの去就が気になって仕方がなかった。 「ルイズじゃあねーか どこに行ってたんだおめー」 ギアッチョの声で、タバサの思考は中断された。前に眼を遣ると、そこにはルイズがギアッチョに出くわしたことに驚いたような顔で立っている。 「……あ…………」 かと思うと、彼女の顔がみるみるうちに真っ赤に染まり――次の瞬間、ルイズは一言も発さぬままに俯いて駆け出していた。 「ああ?」 ギアッチョが何か問い掛けるより早く、自分達の横を一目散に駆け抜けて、ルイズはそのまま回廊の薄闇に走り去った。 肩越しに後ろを覗き込んで、ギアッチョはやれやれと言わんばかりに首を振った。 「……相変わらず行動の読めねーガキだな。まだ何か悩んでやがるのか?」 パタリと本を閉じて、タバサは呟くように答える。 「……恐らくそう」 自分に眼を落としたギアッチョを見返して、タバサは「でも」と言葉を繋ぐ。 「私の考えが正しいなら、これは彼女自身の問題」 「ほっとけっつーことか?」 「私達が何かを言っても、彼女は頑なになるだけ」 フンと鼻を鳴らして、ギアッチョは再び歩き始めた。 「全然解らんが……ま、てめーがそう言うならほっとくか」 オレにもまだやることがある、と呟くギアッチョをタバサは幾分歩調を速めて追いかけた。 どこをどう走ったのかは全く覚えていない。ギアッチョと眼が合うことだけが恐くて、ルイズはただただ闇雲に廊下を走り回り――気付けば彼女は、いつの間にか自室に辿りついていた。思い切って扉を開くと、ギアッチョはまだ戻ってはいないようだった。服も着替えずにベッドに飛び込み、頭から毛布を被る。煩く鳴り響く心臓を押さえて、ルイズはぎゅっと身体を縮こまらせた。 ――何なのよ………… ルイズは自分が解らなかった。ワルドのプロポーズを受けてから、彼女の脳裏にはずっとギアッチョの姿がちらついている。頭から追い出そうとすればするほど、それは鮮明な像を結んでルイズの心を責め立てた。理由なんて知らない、分からないとルイズは己に言い聞かせるように繰り返す。 しかし、この胸の苦しさだけはどうしても誤魔化せなかった。廊下で偶然ギアッチョと出くわした時、ルイズは思わず何かを叫んでしまいそうで――反射的に、逃げ出してしまった。 ――……最低…… ぽつりと呟いて、ルイズは深く眼を閉じた。 今は眠ろう。明日になれば、きっと忘れられる。だから、今はただ眠ろう。 しかし、意志に反して――彼女は一向に眠れなかった。 屋上の見張り台から、ギアッチョは一人地上を見下ろしていた。 「……流石に冷えるな」 雲の上の更に上を、風が容赦なく吹きすさぶ。チッと舌打ちして、ギアッチョは視線を前方に向けた。双つの月が、見渡す限りの雲海を煌々と照らしている。 「絶景かな、ってぇやつか」 身を投げたくなる程の美しさだった。チームの奴らにも見せてやりたいもんだと考えて、ギアッチョはフッと笑った。 ――あいつらにそんな情緒はありゃしねーか かく言う自分もそうだったが、とギアッチョは思い返す。 イタリアにいた時には、周囲のものを景色として見たことなど殆どなかった。この世界に召喚されて、ギアッチョは初めて物事をあるがままに見ることが出来たのだった。 ――……そこんところは感謝してやってもいいかもな そう考えて幾分自嘲気味に笑った時、背後からギィッと扉の開く音が聞こえた。 「……よーやくおいでなさったか」 雲の海を眺めたまま、ギアッチョは待ち人に声だけを投げかけた。 「待たせたね さて、こんな深夜に一体何の御用かな?二人仲良く月見酒と洒落込もうというわけでもなさそうだが」 風に長髪をなびかせて、背後の男は薄く笑う。フンと退屈そうに鼻を鳴らして、ギアッチョはそこでようやく彼に振り向いた。 「何、大した用件じゃあねーんだがよォォ~~ ちょっと腹割って話でもしようや、ええ?ワルド子爵サマよ」 帽子のつばを杖で押し上げて、ワルドは口の端をつり上げて嘯いた。 「いいだろう こんなに月の美しい晩は、誰かと話もしたくなる」 前へ 戻る 次へ
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「ささやき いのり えいしょう ねんじろ!」 旧式の召還呪文を唱える。旧式だが伝統ある呪文である。 この呪文では神代のものが呼ばれると言われている。 が、落ちこぼれの魔術師がそんな呪文を成功させられるはずもない。 瞬間、爆発がおこった。 「なんだってのよ!」 爆発を起こした本人が叫ぶと煙の中から地獄の底から絞り出したような声が聞こえた。 「UREYYYYYYYYYYYYYY」 ぞくぞくとした感覚があたりの者たちに伝わって行く。 自分が呼びだしたモノだ、そういった意識が働いたのか、落ちこぼれの魔術師は勇気を振り絞った。 「あんた・・・名前は?私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 煙の中の影が答える。 「お前が、私をよんだのか? そうか・・・私の名は・・・」 煙が晴れ、姿が現れる。 圧倒的な存在だった。そして続ける 「・・・荒木飛呂彦だ」
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ニューカッスル城礼拝堂。始祖ブリミルの像が置かれている場所に皇太子の礼服に身を包んだウェールズが佇んでいた。 周りは戦の準備や脱出者の手伝いなどで忙しいため他には誰も居ない。 ウェールズもこの式が終わり次第すぐにでも戦の準備に駆けつける予定だ。 そこに扉が開き。ルイズとワルドが現れた。ルイズの方は昨日プロシュートから式があると聞かされていたものの、まだ戸惑っている。 もっとも、昨日言われた『なら、気絶させてでも連れ帰るか?オメーにそれをやるだけの覚悟があんのならやってやってもいい』 これを本気で考えていたため、結婚の事など頭から消し飛んでいたのだが。 確かに気絶させるなりすればウェールズをトリステインに連れ帰る事はできる。 …だが、問題はその後だ。『自分一人無様に生き残ったと思い命を絶つ』 そうなった場合、下手をすればアンリエッタまでもがその後を追いかねない。 もちろん、自殺するとは限らないが『覚悟』という言葉が重くのしかかっていた。 死を覚悟した王子を止める『覚悟』ができない自分に対して自暴自棄な気になり落ち込ませていた。 ワルドはそんなルイズに「今から結婚式をするんだ」と告げアルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に載せ 続いて、何時も着けている黒のマントを外し同じく借り受けた純白のマントをまとわせる。 ワルドによって着飾られても、思考の渦に埋まっているルイズは無反応でワルドはそれを肯定の意思と受け取った。 だが、一つある事に気付いたルイズがワルドに問う。 「………プロシュートは?」 「彼なら今頃イーグル号に乗ってるところさ」 それを聞いた瞬間ルイズの心にさらに影が差す。 あれだけ『今のオレの任務はオメーの護衛だ』と言っていたプロシュートが自分を置いて先にトリステインに帰る。 (何時までたっても『覚悟』ができない自分に対して呆れ見捨てられたんだ……) そう思いさらに自暴自棄な気持ちが心を支配した。 「では、式を始める 新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズは頷き、今度はルイズに視線を移すが当のルイズはハイウェイ・トゥ・ヘルが発現してもおかしくない状態だ。 そんな、状態でウェールズやワルドの声がマトモに聞こえるはずはなかった。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と誓いの詔をウェールズが読み上げる段階になってようやく結婚式をやっているという事に気付いた。 相手は、幼い頃からこの時をぼんやりと想像し憧れていた頼もしいワルド。 その想像が今、現実のものとなろうとしている。 ワルドのことは嫌いじゃない。おそらく、好いてもいるだろう。 でも、それならばどうして、こんなに心に迷いがあるのだろう。 そう思い、宿屋でワルドに結婚を申し込まれた事をプロシュートに相談した事を思い出した。 どうして自分は、プロシュートにそれを相談したのだろうかと思う。 (自分で決められずに他人に決めて欲しかったからだ) なぜ決められなかったか。その答えはスデに自分が知っている。 (肝心な時に『覚悟』ができていなかったからだ) プロシュートがよく言っている言葉を借りれば自分は『マンモーニ』だという事だ。 そして、その覚悟の意味を知っているであろうプロシュートは自分から離れていった。 「兄貴ィィィ起きてくれよォーーー」 壁に打ち付けられ体中に傷を作り血に塗れたプロシュートのが辛うじて握っていたデルフリンガーが己の主の名…もとい敬称を呼ぶが返事は無い。 「『ガンダールヴ』の事を思い出せそうなのに兄貴が死んだら意味がねぇだろうがよォーーー」 だが、それに答えるべき主は沈黙したままだった。 ……… ……………… ……………………………… 気が付くとさっきまでとは別の場所を歩いていた。 見覚えが無い場所ではない。いや…見覚えが無いどころかよく知っている場所 一定のリズムで規則正しく流れる音。自分が召喚される前居た『ヴェネツィア超特急』の中だ。 無意識の内に車両を進むと、一人の男が釣竿を持ってそこに居た。列車に釣竿、ミスマッチもいいとこな組み合わせだがそいつの事はよく知っている。 「ペッシかッ!」 しかし、ペッシはそれに答えずに何かを叫んでいる。 「まさかッ!この糸から墜落した一人分の『体重』っていうのはッ!うっ嘘だッ! う…嘘だ!嘘だッ!あ…兄貴がッ!ま…まさかッ!オ…オレのプロシュート兄貴がッ!う…嘘だ!」 ペッシが床に蹲りパニクって泣き始める 「どうしよう~どうしよう~あ…兄貴がう…嘘だ!!オ…オレどうすれば……? う…ううう…うう~~~そんなぁああああ…亀の中のヤツらも、でっ出てくる!ど…どうしよう~オ…オレ」 『マンモーニ』、その言葉に相応しいうろたえ様だ。当然そんな弟分にする事はただ一つ。 「オレがさっき言った事がまだ分かんねーのかッ!?ママっ子野郎のペッシ!!」 その言葉と同時にペッシの顔面に思いっきり蹴りをブチ込む。それを受けたペッシは吹っ飛びいつもの説教に突入するはずだった。 だが、それは虚空を蹴る。 「なん…だと…!?」 もう一度同じようにして蹴り上げる。だが同じだ。 さっきと同じように空を蹴るだけだ。いや、ペッシには当たっている。当たっているが、何事もなかったかのように『通り抜けて』いる。 「も…もうダメだあああああ」 「なんだパニクってらあ~~~こいつマンモーニだな~ちェッ!」 誰かにまでマンモーニと言われるペッシだがその声の主は老化が解けた乗客だった。 そこでプロシュートが理解をする。自分が居なくなった事により老化が解除された列車だという事を。 そこで全ての光景が途絶え闇になり自分がどこで、何をしていたかを思い出す。 「あの野郎にやられてくたばってるってわけか…」 こうして、考えることができるという事は恐らくまだ生きてるのだろうとそう検討を付ける。 断崖に置かれた樽と同じ状況だ。少しでも押せば谷底に、引き戻せば手元に戻る。 そして、出した結論は一つだった。 「ったく…情けねーなぁおい?何が『腑抜け野郎』だ?誰が『マンモーニ』だ? オレがここで覚悟見せねーと…この先オレがペッシにマンモーニって言われちまうじゃあねーか!!」 その言葉と同時にどこからか 「兄貴ィィィィィィィイイイイイイイ」 と聞こえたような気がし意識が光に包まれた。 「兄貴ィーーーー!」 「ペッ…いやオメーか」 デルフリンガーを杖代わりにして立ち上がる。 状態は最悪に近い。左脚にヒビが入り、全身打撲。おまけに頭も打っていてまだ視界がボヤけている。 「チッ…左目が妙だな…」 「そりゃああれだけ、やられればな」 デルフリンガーは頭を打ったせいだと言うが、それが右目と左目で微妙に違っている。だが、まだその違いに気付けないでいた。 「新婦?」 妙な様子に気付いたウェールズがルイズを見ている。思考の渦からそれに気付いたルイズは慌てて顔を上げた。 「緊張しているのかい?初めての時は事がなんであれ緊張するものだからね」 緊張…などではない。自分は一人では何も決められない『マンモーニ』だ。 だからこそ、今ワルド…いや誰かと結婚する事などできない そう思い、深く深呼吸をし生涯初めての『真の覚悟』を決めウェールズの言葉の途中首を横に振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔でルイズの顔を覗き込んむ。ルイズはワルドに向き直り、悲しくも何かを決意した顔で再び首を振る。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 ワルドがルイズの目を見るが、その視線は反らさない。 「日が悪いなら、改めて……」 「そうじゃない、そうじゃないの。ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」 声そのものは小さいが、その言葉には確かに『決意』と『覚悟』が込められていた。 その言葉にウェールズが首を捻る。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二人には大変失礼を致すことになりますが…わたくしはこの結婚を望みません!」 その瞬間、ワルドの顔に朱が差し、ウェールズは残念そうにワルドに告げた。 「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」 だが、ワルドはウェールズを無視しルイズに詰め寄りその手を取る。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳がないッ!」 「ごめんなさいワルド。確かに憧れてた、恋もしてたかもしれない。でも…わたし自身がまだ結婚なんてできる段階じゃない」 ワルドがルイズの両肩を掴み熱っぽい口調で語りだし、目が爬虫類を思わせるような冷たい目に変わった。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」 人格が入れ替わった…そう思えるほどに豹変したワルドに脅えながら何とか首を振る。 「僕には君が必要なんだ! 君の『能力』が! 君の『力』がッ!」 プロシュートが怒っている所を見て怖いと思うことはあったが恐ろしいと思うことは無かった。 あいつが人に対して本気で怒る時は必ず相手に何らかの原因があったからだ。 だけど、このワルドは違う…! 「ルイズ!宿屋で話した事を忘れたか!君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう!君がまだ自分で気付いていないだけだ!その才能に!」 この感情は…恐怖そのものだ。目の前のワルドはルイズが知っているワルドではない。 それだけに、今のワルドが無性に恐ろしかった。 「子爵…君はフラれたのだ。ここはいさぎよく……」 「黙っていろッ!!」 そう叫ぶと再びルイズの手をヘビが獲物に絡みつくがの如く両の手で握る。 「君の才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは『ゼロ』よ!そんな才能のあるメイジなんかじゃあないわ」 「何度も言っている!自分で気付いていないだけだ!」 「あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという在りもしない魔法の才能だけ… そんな理由で結婚しようだなんてこんな侮辱はないわ!そんな結婚…たとえ死んでも嫌よ」 ルイズがワルドの手を振りほどこうと暴れるが離れない、尋常ならざる力で握られていた。 見かねたウェールズがワルドの肩に手を置き、二人を引き離そうとするが突き飛ばされる。 ウェールズが立ち上がると同時に杖を引き抜く。 「なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 その段階になってようやくルイズから手を離すが、その顔はどこまでも優しい、『偽善』で固められた顔だった。 「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 「嫌よ…誰があなたと結婚なんかするもんですか…!」 「ふぅ…この旅で君の気持ちを掴むため随分と努力をしたんだが…仕方あるまい。目的の一つは諦めよう。」 「目…的…?」 頭に『理解不能!理解不能!理解不能!理解不能!』という幻聴が聞こえる。 「まず一つは君だ。ルイズ、君を手に入れる事。しかし、これは果たせないようだ」 「…当然よ!」 「二つ目は…君が受け取ったアンリエッタの手紙」 「ワルド、あなた……」 「そして三つ目…」 アンリエッタの手紙という言葉で全てを理解し杖をワルドに向け詠唱を始めるが それよりも、ワルドの方が閃光の如く杖を引き抜きウェールズの心臓を青白く光る杖で的確に貫いた。 「き…貴様…『レコン…キスタ』…」 ウェールズの口から血が溢れる。誰がどう見ても致命傷だった。 「三つ目…貴様の命だ」 「貴族派…!アルビオンの貴族派だったのねワルド!」 「Exactly。いかにも僕はアルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」 「トリステインの貴族のあたながどうして!」 「答える必要は無いな…これから君はウェールズや…プロシュートだったか?彼らの下に逝くのだから」 その言葉にプロシュートの名が入っている事に衝撃を受ける。 ウェールズと同時に言われたという事はスデにプロシュートもワルドに殺されたという事だ…! 杖を握ろうとしたがそれをあえなくワルドに弾き飛ばされる。 「助けて…」 蒼白になり後ずさる。立って逃げようとしても腰が抜けて立てないでいるが、その様子をみてワルドが首を振り『ウィンド・ブレイク』で吹き飛ばす。 「もう遅い…だから共に世界を手に入れようと言ったではないか…鳴かぬなら殺してしまえと言うだろう?なぁ…ルイズ…」 壁に叩き付けられ床に転がる。呻き声をあげ泣き、もうこの世にいないであろう使い魔に助けを求めた。 「助けて……お願い……」 そう繰り返し助けを求めるが、ワルドは愉しそうに呪文を唱え始めたが扉の外から足音と声が聞こえてきた。 「『殺す』…そんな言葉は使う必要はねーんだ…」 声と足音が大きくなる。そしてその声はルイズにとって聞きなれたものだ。 「なぜならオレやオレ達の仲間が…その言葉を頭の中に思い浮かべた時には…」 次の瞬間ドアがブチ破られ、ドアの破片が飛びそれをワルドが回避する。 「実際に相手を殺っちまってもうスデに終わっちまってるからだ…!」 慌てるわけでもなく、怒りをもっているわけでもなく、いつもの調子で危険極まりない言葉を吐き出し歩くのは全身傷だらけになったプロシュートだ。 「…貴様!」 「プロシュート…!」 二人が驚愕の目で傷だらけのプロシュートを見るが、ワルドの目は怒りを含み、ルイズの目は動揺を含んでいる。 「オレが昔やった事と同じ事をしたようだから忠告…しといてやる……敵の頭に銃弾をブチ込んだとしても…生死の確認ぐらいしておくんだったな…」 列車内でミスタに直触りを仕掛け、拳銃を奪い頭に3発の銃弾をブチ込み死んだものと思い亀に向かったが どういうわけか脳天に弾をブチ込んだはずの『ミスタのスタンド』が『氷』を持って『ブチャラティ』の所に居た。 生死さえキッチリ確認していれば今頃は、ブチャラティ達は全滅しボスの娘を奪っているはずだったのだ。 「…ったく、どっちの世界もマンモーニだな…!なに泣いてやがる」 ギャングであるペッシとそうでないルイズを比べるのもどうかと思うがまぁ似たようなものとして扱っているプロシュートには関係無い。 「生きてるなら…早く来なさいよ…!」 そう叫ぶが顔の方は泣き顔のそれだ。 「さっきのお前の魔法…本当にオシマイかと思ったよ…ワルド…今までお前の事『老け顔のヒゲ』だなんて思っていたが 撤回するよ…無礼な事だったな…お前は信頼を裏切れる男だ…『婚約者の信頼』を含めてな…いやマジにおそれいったよ」 淡々とした口調だがその言葉にははっきりとした意思がある。そのままゆっくりとワルドに近付くが『ウィンド・ブレイク』が飛び吹き飛ばされ壁に激突する。 だが、それでも何事も無かったかのように立ち上がり再びワルドに近付く。 「オメーは『ゲス野郎』なんだよワルド…裏切ったんだ…組織のようにな…!分かるか?え?オレの言ってる事…」 「信じるのはそちらの勝手だ。勝手に信じたものを利用して何が悪い?」 また『ウィンド・ブレイク』が飛びまた吹き飛ばされそうになるが、今度はデルフリンガーを床に打ち込みスタンドパワー全開で支え飛ばされないようにする。 「どうした『ガンダールヴ』!動きが鈍いぞ?今にも死にそうではないか。攻撃しないと僕を倒せないぞ?せいぜい僕を楽しませてくれるんだな」 だが、その言葉にも動じずその目はワルドのみを見据え歩みを進める。その歩みには一片に迷いなど無い。 「…分かったよ兄貴!兄貴がいつも言っている『覚悟』ってのが俺にも言葉でなく『心』で理解できたッ!!」 三度『ウィンド・ブレイク』が飛ぶがデルフリンガーが自分を前に突き出すように叫びそれに応じるかのように手を前に突き出す。 「無駄よ!無駄無駄ァァアアア!剣などでは風は受けることはできん!」 風がプロシュートを飛ばそうとした時デルフリンガーの刀身が光だし風を全て吸い込んだ。 「魔法を吸い込むと思ったなら兄貴…!スデに行動は終わっているんだな…!」 「そんな事ができるなら最初からやりやがれ…!」 「六千年前も昔に『ガンダールヴ』に握られて以来だからてんで忘れてたんだよ でも、これからは任せてくれていいぜ兄貴ィ!ちゃちは魔法は俺が全部『吸い込んだ』からよ!」 「…なるほど。私の『ライトニング・クラウド』を受けて生きているのはおかしいと思っていたが… その剣のおかげか。それならばこちらも本気を出そう。何故風が最強と呼ばれるのか、その由縁を教育してやる」 プロシュートとルイズはそれを見据えたまま動かないでいる。前者はあえて動かないでいるが、後者は動けないでいる。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 そうしてワルドが分裂するが、今度は1体だけではなく4体…計5体のワルドがプロシュートと相対した。 「また同じか芸がねーな」 分身が懐から仮面を取り出し顔に付ける。 「『エア・ニードル』…杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込む事は不可能よッ!!」 それを見てプロシュートがルイズの方に向かい話し始める。ワルドx5は完全に余裕の態度でそれを見ている。 「なに…ボケっとして…やがる。正念場だぜ…ルイズよォーー! フーケの時の覚悟見せやがれ…!オレが…突っ込むからよ…オメーは爆発を起こせ。自信を持て…いいなッ!」 「無茶よ!そんな…!それに、そんな怪我してるのに巻き添え受けたらどうするのよ…!」 それを聞かずに、ワルドの本体へと歩き出す。 後ろ取られないようにワルドへ向かう。 剣とグレイトフル・デッドで受け流すが、相手は五体。後ろを取られないようにしているとはいえ入れ替わるように分身と本体が攻撃を仕掛けてくる。 腕に一撃を受ける。だが止まらない。 脇腹を杖が掠め血が流れ出る。だが止まらない。 大腿部に『エア・ニードル』が突き刺さる。だがそれでも止まらない。止まろうとしない。 急所に受ける攻撃だけを受け流し、後は全て体で受け止めている。 傍から見れば一方的に攻撃を受けているだけに見えるが、ジリジリと後退しているのはワルドと分身の方だ。 「こ…こいつ!何故だ…?何故、貴様を使い魔として使役しているあの高慢なルイズのために命を捨てる!?」 「『恩には恩を…仇には仇を…』それがオレ達チームのリーダーの流儀だ… だから…オレもそれに従っている……オレの命を救ったという借りを返さねーってのは…オレがチームの流儀を裏切る…って事になるからな…!」 「兄貴!それだ!心を振るわせられればなんでもいい!『ガンダルーヴ』もそうやって力を溜めていた!」 それを聞いた瞬間ルイズに衝撃が走る。 プロシュートは自分の魔法を信頼してくれているからあんな無謀な行為をしてくれている。 ここで自分が何もしないという事はその信頼を裏切る…つまりワルドと同じ事をするという事だ…! 「まだ『覚悟』っていうのはよく分からない…けど!わたしを信頼してくれているのは『心』で理解できたわ!」 その声と共に杖を本体と分身に向け、詠唱の短いコモンマジックを連発する。 狙いはプロシュート以外の全ての物だ。 一発が分身に直撃し消し飛ばす。 それでも爆発は止まらない。残りは命中はしていないが爆風がワルドと分身を容赦なく襲う。当然突っ込んでいるプロシュートにもそれは襲いかかる。 「…くッ!邪魔だ!!」 3体の分身がルイズに襲い掛かる。だがそれでもルイズは魔法を止めようとはしない。最後まで自分の使い魔を信頼すると決めたからだ。 『エア・ニードル』がルイズを突き刺そうと飛び掛った瞬間…分身の動きが急激に鈍くなった。 「グレイト…フル・デッド…」 そう呟くように言う本体のワルドへと突き進む。 「こ…これは…!?貴様…まさか…私や貴族達を…道連れに死ぬ気か…!?」 「一瞬だ…一瞬老化させて掴めればそれでいい。爆風の熱で温まってる今なら…オメーだけよく老化するだろうよォーーーーーー!」 それだけ言うとワルドに突き進む。速い、満身創痍な状態とは思えない速さだ。 ワルドの左腕を右腕で掴むと老化を解除する。この程度の時間ならば城の連中に効果はあまり及んでいないはずだ。 「てめーにも…覚悟してもらうぜ…」 だが、そこに広域老化が解除され動きが元に戻った分身の杖が振り下ろされ… 空中に『腕が舞った』 ←To be continued ゼロの兄貴-23 戻る< 目次 続く
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第2章 中編 「……50Mプールぐらいあんじゃねぇか?ここ。」 トリステイン魔法学院の食堂は(ry …とにかく広くて豪華です。 この学院では、マントで学年分けしてるみたいだ……。 一年生は ”marrone”(伊:茶色の) 二年生は ”nero” (伊:黒い) 三年生は ”viola”(伊:紫色の) 一年生より、三年生の方が凄い魔法とか使えるのか? 食堂には生徒以外にも教師が朝食をとりに来ていた。 (教師か…。 それこそ”凄いヤツ”がいてもおかしくないな) キョロキョロと辺りを見渡していると、ルイズが講釈し始めた。 「どう? 凄いでしょ。」 「あぁ。とても豪華だし、人もいっぱいいるな。」 得意げにふふんと鼻を鳴らし、話を続けるルイズ。 「トリステイン魔法学院が教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 「魔法だけじゃない?」 「メイジはほぼ貴族なの。貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ」 食事も”貴族らしく”ってことらしい。 マナーは勿論、質と量も。 ほんとは、この食堂へは『平民』は一生入れないらしい。 それはそれは。とあいまいな返事を返しつつ、ルイズのため椅子を引く。 桃色がかったブロンド娘は気品良く、椅子に腰掛ける。 「隣に座っても?」 こちらもマナーとして一応御主人様にお伺いを立てる。 「残念でした。 あんたは…」 そこまで言って、ルイズは固まってしまった。 どうした? スタンド攻撃でもされたか? オラオラですか? 無駄無駄ですか? 「……」 「もしかして…」 「……」 「オレの分、準備していない?」 「…Yes!Yes!Yes!……(OH MY GOD!)……」 「………(ドジこいたーッ! 昨日厨房に言い忘れてた! とっておきの作戦があったのに!こいつはいかーん! チクショー!!)」 「……それはねぇよ。 ルイズ…」 「き、貴族でも、極々稀にミスはするものよ!」 「………」 今度は使い魔が黙る。何か訴えるかのような目つきでルイズを見つめる。 「……な、何よ?」 「―――ミスより」 「は?」 「ミスよりキスがいいな……」 「…なッ!!」 今度はルイズが赤くなる。それにして感情の起伏が激しい娘だ。 「御主人様より、『ごめんねのキス』を頂ければ幸いです…」 仰々しくお辞儀をして、ゆっくりと頭を上げる。 …ヤバイ。 肩を小刻みに震わせている。 キレるな。これ。 調子に乗るんじゃあない!とテーブルにあったフルーツを投げつけられる。 貴族のマナーは一体何処へ……。 「『食べ物を粗末にしちゃいけません!』って、危ないっ!」 至近距離である。いくら少女の力でも痛い。 特に落とさないように、掌で受けるから痺れる痺れる。 数個投げると、ルイズは椅子に座りなおし、そっぽをむいたまま告げる。 「……そ、それでも食べてなさい!」 「……キスは?」 今度は燭台を投げようとするルイズを見て諦めた。 …朝は『濃い目のエスプレッソに、砂糖をたっぷり入れたヤツ』って決めてんだがなぁ……。 怒るルイズから逃げるため、食堂の壁際まで逃げてきていた。 でもエスプレッソどころか、コーヒー自体あるかどうか……。 パスタやピッツァは? そもそもトマトはあんのか? …すげー不安だ。 朝食は軽めに済ませる性質(たち)のスクアーロは、フルーツと思わしきものに噛り付く。 リンゴだよな?… こっちは…どう見てもオレンジ……。 元の世界とほとんど似ているが、なんとなく違う気がするフルーツを味わう。 味は悪くない。というか美味い。……良かった。これで食事は期待できる。 この味が”美味い”という感覚ならば、料理も高水準だろう。 しかし、これはあくまでも貴族用だ。 使い魔でしかも平民(とされている)の自分の食事はどうだろう? 朝はともかく、昼食や夕食が貧しいものであったら……。 「かなりヤバイな…(自制が利くかどうか… きっと暴れるね…)」 交渉なり、実力行使なりで、どうにかしなくては……。 ルイズと交渉するか…? だめだろうな… きっと…。 窃盗・恐喝でもするか…? …それじゃ、ただのチンピラだ。 …最終手段だな…。 もっと、楽で確実で。できれば美味いものを…。 一年生の女子生徒が数人、こちらを”ちらちら”見ているのに気づく。 笑顔で手を振る。 あ… 貴族様だから、怒るか無視する? (あれ… 笑ってる… というか、喜んでる?) 以外にも邪険にするでもなく、キャッ!キャッ!とはしゃぎながら食堂を出て行った。 少しだけ気分が和んだ。 なるほど。どこの世界でも”乙女は乙女”なのか。 ついで(…といっては失礼だが)に、料理を運ぶメイド達にも手を振る。 一人一人、目が合った順に手を振る。 流石に仕事中であるし、目の前で貴族様の給仕をしているからか、表情や仕草に変化は無い。 そりゃそうだ。と割り切ろうと思った時、一人の黒髪のメイドが横を通る。 (この子には、最初の方で手を振ったな… 黒髪か… うん!”ディ・モールト”可愛い!) 通り過ぎると思った時、目の前で立ち止まり、感謝の意を述べきた。 「御心遣い、ありがとうございます。 貴方様も、お仕事頑張ってくださいね」 …マジで? この世界の女性は優しいなー。 …たとえ社交辞令だとしても。 コチラコソ、アリガトウ。キミモガンバテネ。 ……何故かカタコトでお礼を返す。 メイドは微笑を湛えたまま、礼をして厨房の方に下がっていく。 なるほど、貴族相手(オレは違うが)には笑顔と礼儀が基本てか? 感心しながら、メイドが下がっていった厨房の方をぼーっと見る。……厨房? ―――厨房関係者を味方につける? 余った食材なら、少しぐらい分けてくれるだろうし、さらに料理できるやつなら申し分ない。 良し。決定。後で厨房に行こう。 とりあえず、行けば何とかなるだろう! 気づくと、昨日は何も食べていなかったせいか、果物を残さず全て食べていた。 遠くにいる御主人様も、どうやら食事を終えたようだ。 さあ、御主人様の元へ馳せ参じますか―――。 「…意外と順応してるなぁ。オレ。」 自分の適応能力の異様な高さを感心しながら、うんと背伸びをした。 なんだかんだで、朝飯抜きにせず、 ちゃんと自分に果物を(投げつけて)与えたくれた (すこ~しだけ)優しい御主人様に (すこ~しだけ)感謝しながら ルイズの元へ歩き出す―――。 「…あんた、一年生とかメイドに『手』振ってたでしょ? 笑顔で。」 「え? あ、あれは…。 挨拶です。挨拶。」 「今日から三日間、ご飯抜き。」 「……飛びてー」 前言撤回! 全然優しくない! …早く食料事情を何とかしなければ……。 ―――今晩当たり襲いかかろうか? ……なんとも不穏当なことを考える鮫であった。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 中編終了 To Be Continued ==