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「おい、起きな」 ガン!とルイズのベッドを蹴り飛ばす。しかしルイズは起きない。 ガン!もう一度、更に強く蹴り飛ばす。しかしルイズは目覚めない。 ドガン!更にもう一度、勢いをつけて蹴り飛ばす。しかしルイズは気付かない。 ベッドを蹴り飛ばしていた男の眼がスッと感情をなくす。 「クソガキ・・・このオレがわざわざ早起きまでして仕事をしてやってる ってェのによォォ~~」 ギアッチョの糸より細い堪忍袋の緒は音も立てずに切れた。 「ホワイト・アルバム」 ギアッチョがその言葉を口にした途端、ルイズの部屋は北極の海にでも 投げ込まれたかのように急激に冷え始めた。 ビシィッ! 窓が凍る。 ビシィィッ!壁が凍る。 ビシビシィッ!!絨毯が凍り、 ビキキキキッ!!シーツが凍り始めたところで、 「さ、さささ寒ッ!!?」 ルイズはようやく眼を覚ました。 「ようやくお目覚めかァ?お嬢様」 「なななななッ!何してんのよあんたはァーーーッ!!危うく二度と起きられ なくなるところだったじゃないッ!!」 「別にいいじゃあねーか そうなりゃ二度と早起きしなくて済むんだぜ それによォ これでおめーは『起きなきゃ殺される』って事が理解出来た わけだ 明日からはちゃんと目覚められるんじゃあねえか?ええおい」 ギアッチョの詭弁にもなっていない発言にルイズがブチキレかけた時―― バガンッ! ドアを開けたとは思えないような音を立ててキュルケが部屋に入ってきた。 「何やってるのよあなた達ッ!私の部屋まで凍り始めたわよッ!!」 「このお嬢様がいくら起こしても起きねェもんでよォォ~~ 手っ取り早く 起こす方法を取ったってェわけだ もう解除はしてある 安心しな」 勢いで飛び込んできたもののギアッチョは正直怖い。キュルケは怒りの 矛先をルイズに向けることにした。 「ああそう・・・それにしてもルイズあなた何歳よ?それとも睡眠に何か こだわりでもあるワケ?生死を賭けた状況になるまで起きないなんて そうそう出来ることじゃあないわよねぇ」 「うっ、うるさい!昨日は色々疲れてたのよ!」 昨日の礼を言うどころか罵倒で返してしまった。これだから私は、と ルイズは内心自分が情けなくなる。 「やれやれ、それじゃあ私は部屋に帰るわ。明日はこんなことになる 前に起きてよね」 そう言い残してキュルケは去って行った。 「ギアッチョ!あんたのせいよ!」ルイズはギアッチョをキッと睨む。 「あんたは今日から雑用だからね!まずは私の服を着替えさせてそれから ――、って!どこ行くのよッ!!」 ルイズが気付いた時にはギアッチョは既にどこかへ行ってしまった後だった。 「あのダサ眼鏡・・・どうやら使い魔としての自覚が足りないようね・・・! 私の従者としての立場を教育してやる必要があるわッ!!」 喉元過ぎればなんとやら。ギアッチョの呼び方があなたからあんたに戻って いることといい、どうやらルイズは昨日の恐怖をすっかり忘れ去って いるようだった。 あの後、結局ギアッチョは部屋に戻ってこなかった。ルイズの怒りは 収まらないようで、「せいぜい勝手に歩き回って朝食を食いっぱぐれれば いいんだわ!」と怒りもあらわに一人食堂に向かった。 食堂に入り、適当な場所を探していたルイズだが―― ドグシャアァ!! というおよそ食事をする場所では耳するはずのない音を聴いて振り返り。 そして奴を発見した。 ルイズ言うところのダサ眼鏡は―貴族専用の椅子にどっかりと鎮座し、 テーブルを殴りつけながらワケの分からないことを叫んでいた。 「テーブルマナーってよォォォ~~ イギリス式とフランス式で作法が 違うんだよォォォ~~~ スープの飲み方とかフォークの置き方とか よォーーーッ それって納得いくかァ~~?オイ? オレはぜーんぜん 納得いかねえ・・・ どういう事だッ!どういう事だよッ!クソッ!オレを ナメてんのかッ!一つに統一しろッ!ボケがッ!」 何度も殴られたテーブルは形が歪み始めたが、そんなことおかまいなしに ギアッチョは暴れ続けている。一方ルイズは、口の端を引きつらせたまま 完全に固まっていた。 数秒して我に返ったルイズが採った行動は、とにかくこの場から逃げる ことだった。「あいつが私の使い魔だってことがバレたら・・・!」と思うと ルイズの心臓は凍りつきそうだった。が、1秒後彼女の心臓は脆くも ブチ割れることになる。 「ああ~?ルイズじゃあねーか 遅ェぞご主人様よォォ~~!」 その瞬間食堂にある数十対の目が全てルイズに集まり―彼女は本気で 泣きたくなった。 「何やってんのよあんたはァーーーーーーッ!!!」 ルイズは激怒した。必ず、この横暴無比の使い魔を躾けねばならぬと決意 した。ルイズには裏社会の事がわからぬ。ルイズは、貴族のメイジである。 杖を振り、失敗を重ねて生きてきた。けれども無礼に対しては、人一倍に 敏感であった。 「見なさいよこれッ!テーブルがバキバキにヘコんじゃってるじゃないのよ! ああっ!?しかも貴族用の料理を平らげてる・・・食前の唱和すら始まって ないのに!!」 「ああ?何か悪かったかァ?こっちのルールはまだよく知らないもんでよォォ」 「このバカッ!周りを見なさいよ!誰一人食事をしてないのに待たなきゃ いけないってことがわからないの!?いやそれ以前にあんたの世界じゃ テーブルは殴り壊していいってルールでもあったわけ!?ええ!?」 物凄い剣幕である。しかも涙目。これにはギアッチョもちょっとだけ悪い事を した気分になった。 「そりゃあ悪かったな。ま・・・次からは気をつけるとするぜ」 しかしその余裕の態度が更にルイズの怒りを燃え上がらせる。 「・・・あんた 今から私の部屋を掃除してきなさい!それが終わったら 教室の掃除よ!授業が始まるまでにね!」 「ああ?」 「ご主人様には敬語を使いなさい!私が上!あんたは下よッ!!私の 事はルイズお嬢様と呼びなさい!そして常に私の後ろに控えていることッ! 良いわね!!」 そこまで言うと一瞬ギアッチョの眼が温度をなくしたように見えたが、ルイズ は負けじと睨み返した。 「・・・やれやれ 仕方ねえ・・・ 掃除をさせていただくぜェェ ルイズお嬢様 よォォー」 どうみても敬意はこもってなかったが、 「わ、解ればいいのよ!行きなさい!」 ルイズはとりあえず妥協することにした。なんだかんだでやっぱりギアッチョの 眼は怖かったようである。 前へ 戻る 次へ
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グゥゥゥゥ~~ッ 大きな音を立ててギアッチョの腹が鳴る。 「チッ・・・」 何も食べずに食堂を飛び出してきたのだ。腹が減るのは当たり前で ある。他に食うものがないというのなら、彼もあれを食べる事に抵抗は ない。しかし、あれがルイズ―主から出されたものだというのなら、 例え飢え死にしようが絶対に!口をつけるわけにはいかない。 ギアッチョはそう決意していた。 「しょぉぉおがねーなぁぁあ」 ギアッチョの口からは無意識に戦友の口癖が飛び出していた。実際の ところ問題は切実である。早いところ安定した食糧確保の方法を 考えなければ飢え死には免れない。 ――貴族のガキ共から日替わりでメシを奪うか? と思ったが、食堂には入りたくないし、毎日そんなことを続けていれば 間違いなく問題が起こる。 「プロシュートの野郎ならよォォーー 今ここで奴らを皆殺しにしそうな もんだが」 自分以上にキレっぱやいものはいないということに気付いていない ギアッチョである。 「あ、あのー・・・」 ギアッチョの後ろで声がした。 「ああ?」 色んな要因でかなり気が立っているギアッチョは、気だるげな声を 上げて肩越しに後ろを見た。 そこにいたのはメイド服を着た黒髪の少女だった。 「何か・・・用か?このオレによォォ~~~」 「す・・・すいません その・・・失礼かとは思ったのですが 食堂での お二人のお話を聞かせていただきました」 ――大人しそうなツラしやがってよォォーーー 堂々と盗み聞きって ワケかァァ~~? ギアッチョが発する殺気の量が更に上昇する。それに気付いたのか、 少女は慌てて本題を口にした。 「そっ、それでですね!あの、よろしければ厨房に来ませんか?賄い食 ですが料理をお出しします」 「・・・・・・」 ギアッチョは少女に向き直ると、その眼を覗き込む。少女はちょっと 驚いたようだったが・・・瞳に嘘は感じられなかった。 「・・・いいだろう 世話にならせてもらうぜ」 罠ではなさそうだ。ギアッチョは素直に好意に預かることにした。 「・・・こいつはうめぇな」 「貴族の方々にお出しする料理の余りで作ったシチューなんですが、お口に 合われたならよかったです」 「ああ マジによォォ~ 助かったぜ ルイズのヤローに出されたエサは ブチ割っちまったからな・・・」 「凄い握力なんですねギアッチョさんって・・・ 私ビックリしました」 どうやら、シエスタにはトレイ自体は見えていなかったらしい。単純にトレイを握り つぶしたのだと思っているようだった。 「ところでよォォーー 何故オレを助けた?」 ギアッチョにはそこが解らなかった。ルイズの物言いから察するに、ここでは 貴族と平民には絶対的な上下関係がある。今オレを助けたことで貴族――ルイズの 恨みを買う危険性もあったはずだ。するとメイドの少女――シエスタと名乗った―― はニコリと笑って言った。 「ギアッチョさんは平民でしょう?平民が平民を見捨てるような時代になってしまえば、 私達はおしまいです。貴族の圧政に耐えるためには、私達平民は常に団結して いなければならないんです」 ――何も考えてない小娘かと思ってたがよォォー・・・ ギアッチョは少し感心した。 「それに・・・ 貴族にあんなに堂々と逆らう人なんて初めて見たんです それが その・・・なんていうか 格好よくて」 シエスタは少し照れたように眼を伏せる。こう言われてはギアッチョも悪い気はしない。 「なるほどな・・・気に入ったぜェーーシエスタ! 改めて自己紹介するがよォォー オレの名はギアッチョだ ここに来るまでは、遠いところで暗殺稼業をやってたッ 気に入らねえ奴がいるならよォォ~~ いつでも暗殺してやるぜ」 「暗殺・・・!?ギアッチョさんて 殺し屋さんだったんですか!?」 普通なら、ここで殺人者に対する拒絶が心の中に芽生えるであろう。しかし シエスタは、というよりシエスタ達は違った。純粋に「凄い」と思ったッ! だって平民である。単なる平民がそんな凄まじい技量を持っている!シエスタと 話を聞いていた厨房の平民達は、そんな男が自分達の仲間であることに「誇り」と 「勇気」を感じた!! 「『我らの剣』ッ!オレぁおめーが気にいったぜ!!おら!こんな余りモンで よかったらいくらでもおかわりしてくんなッ!!」 マルトーというらしい四十がらみのコック長がガシッとギアッチョの肩を抱く。 厨房は一転熱気に包まれた。当のギアッチョはというと、これがまんざらでもない ようだった。ギアッチョが生きていた頃は、チーム以外の人間と親しくするなど ありえないことだった。知っての通りリゾットチームは暗殺を生業にしていたが、 その報酬だけでは毎月生きていくこともかなわなかった。ギアッチョを含めて メンバーはそれぞれが色んな表の仕事を転々として何とか糊口をしのいでいた のだが、彼らは暗殺に対する報復などに四六時中警戒しなければならない身で ある。敵の刺客はどこに潜んでいるか分からない。仕事仲間にさえも気を許す ことは出来なかった。彼らが心を許せる相手は、リゾットチームの仲間のみ だったのである。 ――ここは・・・違う ここではギアッチョはただの平民だ。暗殺者という職業、ボスへの反逆者という 立場、命を狙われる身という立場・・・、ここではその全てがリセットされている 事にギアッチョは気付いた。今、ギアッチョは真っ白だった。―もし。もし永遠に イタリアへ帰れないのなら。ここでの行動全てが――トリステインの平民としての ギアッチョの境遇を決することになる。それを理解したギアッチョは、自分が 突然何も無い宇宙の真ん中に放り出されたような眩暈を感じていた。 ――どォォォすりゃいいんだよッ!!!クソッ!!! ギアッチョは――自分がどうするべきなのか解らなくなってしまった。昨日、 ルイズはギアッチョを元の世界に帰す方法について、「私は知らない」ととても 悲しげな声で答えた。その声はまるで、そんな例は古今東西ありえないとでも 言外に告げているかのようにギアッチョに聞えた。 ――どォすりゃあいいんだッ!!ええッ!?教えてくれよッ!!リゾット!! プロシュート!!メローネ!!ホルマジオ!!イルーゾォ!!ソルベ!! ジェラート!!ペッシッ!!ええおいッ!!答えてくれよッ!!! ギアッチョがいくら問いかけても――彼らは答えてはくれなかった。 ギアッチョが心中凄まじい葛藤をしていたその頃、シエスタはルイズによって 厨房の外に呼び出されていた。 「・・・あ、あの・・・何の御用でしょうか・・・ミス・ヴァリエール・・・」 ギアッチョを厨房に招いていることは、ルイズにはとっくに気付かれていた ようだった。ルイズはうつむいたままシエスタに言う。 「・・・これからも あいつに料理を出してやってくれないかしら」 「えっ!?」 シエスタは驚いた。そもそもギアッチョ用にあの貧相極まる食事を出させた のはルイズなのだ。まさかギアッチョの剣幕に怯えたわけでもあるまい・・・ シエスタは内心首をかしげながらも、 「・・・分かりました、ミス・ヴァリエール。ご用命とあらば、喜んでお世話を させていただきます」 と答えた。ルイズは「よろしくお願いするわ」とだけ答えると、返事を待たず 歩き出した。ルイズは見ていた。厨房の窓から、馬鹿騒ぎする料理人達と その輪の中心にいるギアッチョを。 ――あいつの居場所は・・・私の隣じゃない ルイズは悲しげにそう呟いてその場を後にした。 ←To Be Continued?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2032.html
さて、日の出前の一見平穏そうな学院を眺める二つの視線。 当然、元暗殺者とそれに半分脅されている現役盗賊である。 一見静かそうに見えるが、よく見ると死体が転がっていたりもする。 遠目だが、あの装備は銃士隊の物だ。 つーまーり、隊長であるアニエスが居る可能性が高い。 まぁ、居たからっつっても特に関係無いのだが。 戦争がおっ始まったこの時期になれば、後はどんだけ早くアルビオンに向かいクロムウェルを始末するかなので 見知った顔にバレても特に問題ないのである。 問題は、どうするかだ。 どうするにしろ、いきなり広域老化ブチ込んで学院側に余計な死者が出たら交渉にもならんだろうというぐらいは分かる。 関係なけりゃあ纏めて老化させるとこだが。 少なくとも、まずは探りを入れ接触する必要があるのだが、そういう事に向く能力ではない。 そういうわけで、横のフーケに話を振る。 「よぉ…オメー、ゴーレムとか出せよ」 「あんなバカデカイもん出したら一発でバレるよ」 「じゃあ派手に魔法ブッ放せ」 「わたし一人であれだけの人数相手にできるはずないじゃないか。あんたがやりな」 「ちッ…使えねーな」 プッツン ―き…切れた…わたしの中の決定的な何かが…! 必要最小限のモーションで杖を取り出しゴーレムを瞬時に練成ッ! 「あんたが無理矢理手伝えって言ってるから付き合ってるんだ…」 背後に練成させたゴーレムの親指を目の中に突っ込んで殴りぬけるッ! 「それを、よくも!このクソがッ!このフーケ様を『使えない』などと抜かしたなァああっ----ッ!」 今のフーケに美貌というものは一切存在しないッ!今のこいつの心はドス黒い真っ黒な闇のクレパスだッ! 「この…ド畜生がァーーーーーーーーーーーーーッ!!」 その叫びと共にゴーレムがプロシュートに無数の蹴りを放つッ! 「ゴーレムで踏み潰すのは一瞬だッ!それではわたしの怒りがおさまらんッ!」 鉄のゴーレムがッ!プロシュートの全身を満遍なく蹴り付けるッ! 「お前が悪いんだ!お前がッ!わたしを怒らせたのはお前だッ!お前が悪いんだ!」 その形相たるや鬼か悪魔か、まさにオーガの如し。 今ならば奇声をあげながら飛び蹴りを放っても全く違和感がございません。 フーケ改め、サウスゴータ海王お得意のゴーレム練成による渾身の打岩にございます。 「思い知れッ!どうだッ!思い知れッ!どうだッ!どうだッ!」 黒曜石も砕けよといわんばかりの音がその場に流れ続けていた。 遂に、本体であるサウスゴータ海王も蹴り始めました。 もう誰も止めようがないのであります。 一頻り蹴り終えると、大きく息を吸い込み虚空に向け思いっきりシャウト。 それと共に、WRYYYYYYYY!という叫びが最も似合うサウスゴータ海王渾身のポージングにございます。 「勝った!ゼロの兄貴完!!」 ………………ってやれたらいいのになぁ。 軽く現実から逃避していたが、どんなに辛くても現実から目を背けていられないので戻ってきた。 一人なら酒瓶に塗れて、酒と目から流れ出る水分の混合物に長い髪を濡らしている所である。 魔法を使うには呪文が必要であり、唱える際に時間が掛かる。 コモンマジックならともかく、ゴーレムなんぞを作るとなると、それなりの呪文が必要だ。 対してスタンドは即時発動可能である。 装填済みの銃相手に未装填の大砲で相手にするようなもので、この場合分が非常に悪い。 おまけに、相手の銃の射程はとんでもなく長い上に効果も最悪ときたもんだ。 こいつとエンカウントしてから、妙な幻覚に悩まされるのも頭が痛くなる種の一つだ。 妙なフード被った、目の色が妙な男と何か良い感じになっている自分という幻覚を何回か見た。 そんな幻覚を見た事自体がアレでナニでシャウトしたい気分にさせてくれたが、現実はかーなーりーシビアである。 ああ、それにしても、こいつに捕まえられてから不幸続きだ。脱獄させて貰ったとはいえワルドに脅され、そしてこいつに脅される。 ひょっとして、わたしの人生これから常に誰かに脅され続けられるのか。それなんてイジメ? いくら貴族から盗みをしてきたとはいえ、あんまりじゃないですか始祖ブリミル。誰でもいいから誰かたーすーけーてー。 ぶっちゃけまだ現実世界に戻りきれていない。逃げれるものなら逃げているのだが、逃げれない。 「ま…オメーを頼りにしてんだからよ。何考えてるのか知らないがしっかり頼むぜ」 そんな思いをよそに横からかかる兄貴のお声。 「嬉しくて涙が出るよ」 本当に涙が出そうだ。 左手で肩を掴んで右手で木の幹を触って、木だけを恐ろしい程の速度で枯らしてさえいなければ。 言葉で言わなくても分かる。 目がマジだ。 明らかに裏切ったら、『なにがあろうと、例えどんな障害があろうと必ず排除してオメーをババァにする』 そう言っている目だ。 不言実行。そう思った時、スデに行動は終わっているッ!って感じの! アルビオン軍全てを敵に回しても、こいつはヤる。 直感だがそう感じた。 ボスを斃すという目的のためにパッショーネを離反したという暗殺チームの意地の片鱗を確かに感じ取っているッ! なるべく目を合わさないように空を見上げると、懐かしい顔が笑顔で手を振っている姿を幻視した。 思わず目から冷たいものが流れ出る。 ―畜生、汗が冷たいや。…………泣いてなんかいないやい。泣いてたまるか、絶対に泣くもんか。 もう一人の自分にそう言い聞かせるが、精神的に大分参っている。 今、DISCがINすれば、確実にハイウェウイ・トゥ・ヘルが発現するだろう。 ぶっちゃけこいつ連れて行きたくないが、生きてアルビオンに着いたら一度孤児院に戻ろう。 戻ってあの笑顔で癒されよう。そう堅く決意する。 「なに呆けてやがる」 「…なんでもないよ」 またしても現実に引き戻されたが、ここで死ぬわけにもいかないし、老化して孤児院を養老院にするつもりもない。 なんというか、後者の方が嫌だ。 あの子達からフーケおばあちゃんなどと言われる所を想像したら寒気がした。 おばちゃんを通り越して一気におばあちゃんというのはキツイ。いやまぁ、おばちゃんも嫌だけど。 つまり、前進するしか無いわけだ。後退すれば最悪な結果が待っている。 後退するより前に出た方が良い結果が出るという、ある特定世界の法則もある。 しかしながら、死者を蘇えさせる事のできる虚無の使い手(とフーケは思っている)と もんのスゴイ勢いで老化させる訳の分からん能力を持つプロシュートのどちらを相手にした方がマシかとまだ大分悩んではいるのだが。 虚無と言えば、伝説のアレであり、えげつない魔法を使うので相手にしたくないのだが グレイトフル・デッドもアレな能力なので相手にしたくない。 ぶっちゃけストレスで胃が痛い。よくこんなのを使い魔にできたなとルイズの事を思わんでもない。 (火薬樽の近くで火遊びするようなもんだよ、まったく…) 使い方次第では強力な武器になるが、一歩間違えば自爆する。 暗殺チームとしては抱く感想としては間違った感想ではない。 「そういや、クロムウェルの系統は何だ?」 唐突にそう訊かれたフーケだが、思わずコケそうになった。 こいつ知らないで暗殺しようとしてたんかい!と突っ込みそうになったが、ギリギリ耐える。だってまだ老化したくない。 「虚無だよ、虚無。わたしの前で死人を生き返らせたんだ」 「?ありゃあアンドバリだったか、その指輪の効果じゃねーのか?」 「わたしには分からないよ。本人は虚無は生命を操る系統だった言ってるけど」 顔に手を当てて少し考えたが、答えはすぐに出た。 「成程…大したタマだな」 「どういう事さ」 フーケは訝しそうにしていたが、実際に虚無を見ている側としては違う事が分かる。 まだあるだろうが、確認した『エクスプロージョン』と『ディスペル』は生命を操る魔法ではない。 中にはそういうのもあるかもしれないが、それだけで『生命を操る系統』などとは言いはしない。 「ま…死人生き返らせたってのは指輪で間違いないだろ。…オレの直を食らっても動こうとしてたヤツなんざ死人以外の何モンでもねー」 ただ、虚無ではないにしろ、指輪の効果がまだ他にあるかもしれないので迂闊には接近できない。 死人といえど自在に操っていたからには、洗脳という効果も考慮に入れておいた方がいいと判断した。 「要は国を巻き込んだペテンだ。皇帝より盗賊のが向いてんぜ。そいつはよ」 「ふーん、そうか…そういう事か」 フーケ自身、レコンキスタに特に興味が無かったし、誰が皇帝になろうが知ったこっちゃあないが ただ一つ、守る物がある。 死人を生き返らせた事から、クロムウェルにビビッっていたが、それが虚無ではないと知ると途端にムカついてきた。 別段、騙されたからという事ではない。 クロムウェル自身が言っていた事だが『忌まわしきエルフから聖地を取り戻す』などとほざいていたのである。 そうなると万が一だが、あの娘の身が危ない。 あの人一倍世間知らずで、自分が唯一守るべき者が。 平時ならともかく、戦争となればあの場所に敗残兵などが雪崩れ込む可能性すらあるのだ。 トリステインであれ、アルビオンであれ、軍となればどちらであろうとそれは拙い。 なら、このエルフなんぞどうでもよさそうで、ある意味『全ての生命を終わらせる』という クロムウェルに相反する力を持つこの男に乗ってみるのも悪くない。 「気が変わった。しばらくだけど、あんたに付き合わせてもらうよ。ただし、わたしと、その周りに危害を加えない事。これが条件」 「ふん。まぁいいだろ。頼んだぜフーケよ」 前と同じ『頼む』という言葉だが、意味は異なる。 さっきのは、グレイトフル・デッドで半分脅しながらだったが、今回は違う。 マジに、言葉のままだ。 何故に変わったかというと、フーケが変わったからである。 グレイトフル・デッドで脅していただけあって、それで従っているような感じだったが、今は違う。 こちらに条件を要求してくるあたり、フーケ自身がそう自分で判断した結果だ。 無論、完全に信用したわけではないが、無理矢理従わせた10人より、自分自身でそう行動すると決めた一人の方が余程信用するに足りるのである。 なにより、余計な気やスタンドパワーを回さずに済むので楽で良い。 「それじゃあ行くか。マンモーニどもはついでだがな」 「…メンヌヴィルは任せたからね」 フーケとプロシュートが二手に別れる。 まだフーケが、こちらに付いたという事は知られていないので単独行動させた方がいいと判断しての事だ。 フーケは、手筈どうりなら人質が集められているであろう食堂に。 プロシュートはしばらく状況を探るために人の居なさそうな場所へと身を隠すために。 互いに身の心配などはしていない。その辺りは両者ともプロである。 混乱の学院にグレイトフル・デッドという『悪魔』を従える暗殺者が舞い戻った。 プロシュート兄貴―マジに殺る気の兄貴がヤバイ『学院』にINッ! はぐれ犯罪者コンビ―改めて結成 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/980.html
「遅せーぞ」 「…なんであんなのを普通に食べれるのよ…どっかおかしいんじゃない…?」 「…ほっとけ」 ふらつきながら教室に向かうルイズとその後ろを歩くプロシュートだが その後ろに今にも「Amen!」と叫ばんばかりに眼鏡を光らせたタバサがそれを見ていた事は誰も気付いていない。 教室に入り座るっているとコッパゲことコルベールが喜色満面の笑顔でなにやら珍妙な物を置いている。 それはおよそ一切のハルケギニアにおいて、聞いたことも見たこともない奇怪な物体であった。 長い円筒状の金属の筒に金属のパイプが延び、パイプはふいごのようなものに繋がり円筒の頂上にはクランクが付き、そしてクランクは円筒の脇に立てられた車輪に繋がっている。 そしてその先には車輪がギアを介して箱とくっついている。 コルベールが肉の芽でも埋められたかの如くニコニコと笑いながら火の魔法の講釈をたれる。 「で、その妙なカラクリはなんですの?」 キュルケが半ばどうでもいいと言った様子で聞き返すが最高に『ハイ!』な状態のハゲは笑いながらその正体を答える。 「うふ…ぐふふふふ…よくぞ聞いてくれました。これは油と火の魔法を使って動力を得る装置です」 どこぞのスーパー漫画家と同じ笑い方でハゲが答える。正直言ってキモイ。 「ふいごを踏み油を気化させ、この円筒の中に気化した油が放り込まれます。 そうして、その円筒の中に火を付けるとぉ~~~爆発を起こしその力で上下にピストンが動きます」 そうするとクランクが動き車輪が回転する。そしてギアを介して箱の中からヘビの人形が出たり入ったりしている。 「見てください!その爆発で生じるエネルギーの発生空間はまさに歯車的技術革新の小宇宙!!」 だが、生徒達の反応はハッキリ言って薄い。むしろ寒い。 「で、それがどうしたってんですか」 ホワイト・アルバムの冷たさの答えにハゲが少し凹むが気を取り直して説明を始める。 「えー、今は愉快なヘビ君が顔を出すだけですが、例えばこの装置を荷車に載せて車輪を回させる。 すると馬がいなくても荷車は動くのですぞ!例えば海に浮かんだ船の脇に大きな水車をつけて、この装置を使って回す!すると帆が要りませんぞ!」 「魔法で動かせばいいじゃないですか。そんな妙ちくりんな装置使わなくても」 「妙ちくりんと申したか」 ザ・ワールド! 何時もと違う妙に重い声で答えたコルベールに先ほどまでざわついていた教室が一気に静まり返った。 「おほん…!諸君!よく見なさい!もっともっと改良すれば、この装置は魔法が無くても動かす事が可能になるのですぞ! ほれ、今はこのように点火を『火』の魔法に頼っておるが、例えば火打石を利用して断続的に点火できる方法が見つかれば……」 咳払いをすると何時もの調子に戻ったコルベールだが『ハイ』になっているのはただ一人である。 生徒達は全員『それがどうした』という宇宙最強の台詞を頭に思い浮かべている時、一人声を上げる物がいた。 「エンジン…形態からして熱機関の火花点火式機関…ってとこだな」 妙に詳しかったりするが、ぶっちゃけギアッチョのたまものだ。 ギアッチョは妙に雑学に詳しいのである。 その手の知識だけならチーム1と言っても過言では無いのだが決まってキレるためギアッチョが雑学を披露しはじめたら周りの物を片付けるというのがチームの暗黙の掟となっている。 「えんじんとな?」 「オレんとこじゃそいつを使って、さっき言ってた事をやってる。ま…そいつじゃ無理だな。 出力が弱すぎるし、基本的な技術が足りねぇ。要はまだまだ発展途上って事だ。…だが独力でこれを作ったのには、いやマジに恐れいったよ」 「分かってくれるのかね…ミス・ヴァリエールの使い魔だったね君は…これで、船や馬車が動いているとは君は一体どこの生まれなんだね?」 「イタリ…ッ!」 イタリアと答えようとするプロシュートの腕に思いっきり肘撃ちをかましたルイズが小さく話しかける。 「…余計な事言うと、怪しまれるわよ」 この世界にイタリアが無い以上説明したとしても理解して貰えまいと思い、この場はルイズに任せる事にした 「ミスタ・コルベール。彼は…えー、その…そう!東方のロバ・アル・カイリエからやってきたんです」 コルベールが驚いたようにして一応の納得をする。メンドイのでプロシュートもそれに話を合わせそこで一応話は収まった。 「さぁ!では皆さん!誰かこの装置を動かしてみないかね?発火の呪文を唱えるだけで愉快なヘビ君がご挨拶!」 もちろん誰も手を上げる者は居ない。その様子に『家族は来ない』と寝ている横で何百回と囁かれた病人の如く肩を落すコルベール。 そこにモンモランシーがルイズを指差す 「ルイズ、あなた、やってごらんなさいよ。土くれを捕まえ、秘密の手柄を立て、あんな使い魔を召喚したあなたなら簡単でしょ」 『あんな使い魔』という言葉に教室が凍りつく。 今でこそ、大人しくしているがルイズの使い魔はギーシュを決闘で斃しているのである。 しかも老化というわけのわからない先住魔法ともいえる力で。 「やってごらんなさい?ほらルイズ。『ゼロ』のルイズ」 プッツン 「貴様程度のスカタンにこのルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがナメられてたまるかァーーーー!!」 と心の中で叫びながら無言で教壇の装置に歩み寄る。 「止めとけ、オメーの爆発じゃその装置が持たねぇ」 その台詞でルイズの二つ名の由来を思い出したコルベールが半泣きになりながら説得を試みる。 ――が、無駄だった。鳶色の瞳がマジシャンズレッドの如く燃えている。 「やらせてください。わたしだって、いつも失敗しているわけではありません。たまに成功、します。止めてもやります」 声が震えているルイズを見てプロシュートは無駄だと悟った。 ギアッチョと同じである。ギアッチョもキレる前には声が震えている。 そう思った瞬間、即座に撤退を決め込みここら辺共に行動しているキュルケとタバサを引っつかみ教室を出た。 出てしばらくすると、爆発が起き窓ガラスが割れ中から悲鳴が聞こえ 「ミスタ・コルベール、この機械壊れやすいです」 という声が聞こえた。 頭を押さえながら教室に入ると、消火に使われた水で教室が水浸しになり椅子や机の燃えカスが散乱していた。 「ギアッチョの方がまだマシだな…」 ギアッチョならキレてもせいぜい机か椅子一つで済むが、この被害はそれを圧倒的に上回っている。 まぁキレる頻度はギアッチョの方が圧倒的に多いのでどっこいどっこいなのだが。 「余計なお世話だったかしら?なにせあなたは優秀なメイジだもんね、あのぐらいの火、どうってことないもんね」 勝ち誇ったようにモンモランシーが言うがルイズは悔しそうに唇を噛み締めるだけだった。 「…ちったぁ学習しろオメーは」 教室の片付けを終え、ここにきて扱い方をペッシからギアッチョに変えようかと思っていたプロシュートが半分呆れたように言い放つ。 「オメーの爆発は使いどころと場所を考えねーと洒落になんねーんだからな オレの仲間の一人がよく言ってたが能力ってのは使い方次第でいくらでも変わるもんなんだぜ」 「能力って言うけど…だったら、どうしてわたしは魔法が使えないの?あんたが伝説の使い魔なのに… 強力なメイジになんてなれなくてもいい。ただ、呪文を普通に使いこなせるようになりたい。得意な系統も分からずに失敗ばかりなんて嫌」 (スタンド使いがてめーの能力に気付かずに能力が一部暴走してるのと同じ…ってとこか) それを聞いて、やはりペッシ扱いだなと心でそう思う。 「得意な系統を唱えると体の中に何かが生まれて、そのリズムが最高潮に達すると呪文が完成するって言うんだけど、そんな事一度も無いもの」 「得意な系統がねーんなら自分で探しゃあいいだろ。ロクな道が無いんなら自分で草掻き分けてでも突っ走りゃあそのうち辿りつくもんだ」 もちろん意図は、ヤバイ状況で後退するよりむしろ前に出ればいい結果が出るという特定の世界の法則だが、当然そんな事知らないルイズは別の方にと受け取った。 「系統なんて全部試したわよ!『土』『水』『風』『火』知ってるでしょ!?あんたまでわたしの事、馬鹿にしてるのね!もう知らないわよあんたの服の事なんて!!」 そういって部屋へと駆け出す。 残されたプロシュートは苦笑いだ 「ペッシとギアッチョを足して2で割ったら、ああなんだろうな。試してねーのが一つだけあんだろーによ」 一応ルイズの部屋の前に行くが当然鍵は掛かっている。軽くノックをしても返事は無い。 どうしたもんかと下に目をやると文字が書かれた紙きれを見付けた。 「読めねぇな…やはり文字も覚えないと駄目か」 書置きという手段を取るとは思えないが、一応確認しておく必要はある。 タバサかキュルケあたりに読んでもらうという手もあったが、タバサの部屋は知らないしキュルケは何か色々悪化しそうなので除外した。 厨房の連中なら問題無いだろうと思い食堂に向かうと、シエスタが歩いているのを見付けた。ご都合主義万歳 「よぅ」 「ひゃあああああ」 「……オメーもか」 今朝凄まじく、同じ光景を見たような気がして軽く頭痛がする。 「驚かさないでくださいよ…ってどうしたんです?こんな時間に」 「ルイズの地雷踏んで締め出し食らってな」 「まぁそれは大変ですね…」 「で、そっちは何やってんだ?」 「あ!あの…!その…!珍しい品が手に入ったのでプロシュートさんにご馳走しようと思って厨房に行く途中だったんですけど」 「珍しい…?まぁオレにとっちゃあほとんどが珍しいもんなんだが…」 「東方のロバ・アル・カイリエから運ばれた『お茶』っていうんですけど」 (茶?…珍しいもんでもないだろうが…) イタリア人であるプロシュートにとって茶とは当然紅茶のことであり、ハルケギニアにも存在するため珍しくもなんともない。 目的地も同じだったため、厨房に向かうとマルトーが出迎えてくれ、茶を淹れてくれた。 「…こいつぁ…紅茶じゃねぇな」 「どうだ、珍しいだろ」 あまり口にする事が無いが、過去数度味わった事はある。 (日本…か、任務で数回行ったきりだが、そん時に飲んだな) 日本への任務は数が少ない上、色々と厄介なのでベイビィ・フェイスの分解で死体も残らないメローネが主に担当していた。 帰ってきたメローネが大量の紙袋や背負った鞄に巻いた厚紙などの荷物をよく持ち帰ってくるので、任務がついでという感じだったのだが。 (確か、メローネのやつそれをびーむさーべるとか言ってたな…どうでもいいが) とにかくプロシュートも数度行った事はあり、その時に着物を着て飲んだ事はある。 外人が着物というのも目立つと思うだろうが、時期が時期だけにそっちの方が逆によかった。 ただし、もう二度と着たくねぇというのが感想だったが。 「…まぁ懐かしいっちゃあそうだな」 「懐かしい?ああ、プロシュートさんは東方の出身なんでしたね」 懐かしいという言葉が思わず口にでてヤベーと珍しく少し焦る。 「プロシュートさんの国の話、ぜひ聞かせてください」 「おう、そいつぁ俺も聞きてーな」 一瞬言葉に詰まる。さすがにイタリア・ギャングの勢力状況などを話すわけにもいかない。 どうするかと思ったが、まぁ日常生活の範囲で話せばいいと思い茶を啜りながらイタリアの事を話し始めるハルケギニアとは大分違う文化に目を丸くする二人。 とりあえず全面的に信じてくれているご様子。 「凄いですね…」 「スゲーもんだな…」 「まぁ…それだけ厄介な問題もあるがな」 警官や役人の汚職の事など話でも意味が無いので割愛し一通り話を終えると結構な時間が経っていた。 「もう、こんな時間か。俺はそろそろ部屋に戻るがお前さんはどうするんだ?」 「締め出し食らってるからな…まぁ適当な場所で寝る」 「勝手なもんだな貴族ってのは!」 「オレが地雷踏んだからな」 と、そこにマルトーがプロシュートを見ているシエスタを見て、笑みを浮かべながら天までブッ飛ぶような台詞を吐いた。 「…そうだ、使用人の部屋が空いてたな。シエスタと同じ部屋だが…なに問題はあるまい!」 豪快に言い放つがシエスタは真っ赤である。 「マママママ、マルトーサンナニヲイッテルンデスカ」 「ん?嫌だったか?そりゃあ残念だ。それなら俺んとこにくるか?」 「イイ、嫌ダナンテイッテマセン…ケド」 「じゃあ、決まりだ。ほれ行った行った」 もう急き立て二人を厨房から出すが、去り際に一言残す 「ああ、鍵は掛けとけよ?急に誰かが入ってきて色々と見られたくないなら」 メイド・イン・ヘヴン!アドレナリンは加速し脳内妄想は一巡する! ボッシュウゥゥゥゥっというような音がして茹で上がったシエスタが倒れこんだ。 「あー、ちぃっとばかしからかいすぎたな」 ガハハとヘビー・ウェザー笑いをかますマルトーだがシエスタをプロシュートに預けると真顔になる。 「こいつは、本当にいい娘なんだ…だから…Goだ!Go!」 「表情と台詞が合ってねーぞ…」 「ハッハッハッハッハ!まぁ冗談だ!冗談!それじゃあ頼んだぜ!」 シエスタを部屋に運ぶと、適当な所に寝かせ自分も別のところに横になる。 さすがに教室の掃除なんぞをさせられたため疲労感はあった。 「あのオッサン、誰かに似てると思ったが…ホルマジオだな」 全てがそうではないが、誰かをからかう所がそっくりだと思いそのまま眠りについた。 余談だが、朝起きた時同じ部屋に居るプロシュートを見てシエスタが気絶するという事を三回程繰り返したのだが割愛させて頂く。 「…落ち着け」 「す…すいません…」 やっとこさ落ち着つかせたのだが、昨日拾った紙切れを思い出しそれをシエスタに見せた。 「これ何て書いてあるか分かるか?」 「…ミス・ヴァリエール宛の仕立て屋の請求書ですね…結構な額ですよこれ」 仕立て屋と聞いて昨日プッツンしたルイズが言った台詞を思い出した。 (しょぉ~~~がねぇなぁ~~) 思わず仲間の口癖が思い浮かぶ。 「手持ちじゃ足りそうにねーな…悪るいが頼みがある」 「え、その、はい!プロシュートさんの頼みならなんでも!」 「ふにゃ…わたしの側に…近寄るなぁぁぁぁぁぁぁ!」 どんな夢を見ているのか知らないが某ボスの如く寝言で叫んでいると扉が開き、キュルケが入ってきた。 ちなみにフレイムも一緒だ。 「きゅるきゅる…(これが初登場?遅くないかな?かな)」 グレイトフル・デッドの能力と凄まじく相性が悪いため出番は多分あまりない。合唱。 「おーい、起きなさい」 「うーん…次はいつ…どこから…」 「フレイムー♪」 ボウッ!っとフレイムが炎を吐きルイズの鼻先3セントまで炎を出し炙る。 「くらってくたばれ…かいえ…わきゃあああああ!熱!熱っい!」 「相変わらず寝起きが悪いわねぇ。地震とか起こったら死ぬわよ?」 「ななななな、なに勝手に入ってきてんのよーーーーー!」 「わざわざ起こしにきてあげたってのにその言い草?…ダーリンが居ないようだけどどうしたの?」 10秒ぐらい、どこ行ったのにあの馬鹿使い魔ーーーーー!と心中で叫ぶが脳に酸素が廻ると自分が締め出した事を思い出した。 「なにやってるのよヴァリエール。ダーリンがあなたを励ましてくれたのにそれに逆上して締め出すなんて」 一晩寝て頭が冷めたのか、圧倒的に自分に非がある事を自覚し言葉が出なくなる。 「はぁ…早く謝ってきなさいな。 彼、結構厳しいけど相手を信頼してるから厳しくしてくれてるのよ?ま…それが分からないから『ゼロ』なんでしょうけど」 キュルケが部屋を出ると、ルイズが着替え食堂に向かう。 「そうよね…あいつも自信を持てって言ってくれたんだから」 そう思うと急に足取りも軽くなる。 とりあえず謝るのは食事を済ませてからでいいやと思い朝食を摂りながらどうやって謝ろうかと考える。 (昨日は、失敗して落ち込んでただけで、ほ、本気で怒ってたわけじゃないんだから!…でもごめんね) 数度考え直し、これだ!と心の中で小さくガッツポーズを取る。 完璧なツンとデレ。脳内に『パーフェクトだウォルター』という幻聴まで聞こえる。 意気揚々と食堂を出てプロシュートを捜し回るが、居なかった。 いい加減叫びたくなった頃ふと目を窓にやるとそこから見えた光景を見てルイズが固まった。 「別に付いてこなくてもいいんだがな」 「いえ…まだ慣れてないでしょうから。マルトーさんの許可もとってありますし」 「あと、落ちねーようにしろと言ったがつかみ過ぎだ」 「へ…?あ、す、すいません!」 と、プロシュートを前に後ろから抱きつくようにして馬に乗っているプロシュートとシエスタの姿を見たッ! ルイズの目には色々と、その、何だ。背中に当たっている物が見える。というかそこしか見ていない。 「……( ゚Д゚)」 一時間経過 「………( ゚Д゚)」 二時間経過 「…………(゚Д゚)」 三時間経過 「授業サボって何やってるんだ『ゼロ』のルイズ」 「…あ…あ…あ……あんの馬鹿ハムーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 ドッギャーーーーーz_____ン その日トリステイン魔法学校において一人の若きメイジがヘブンズ・ドアー(天国への扉)を開くことになった。 風上のマリコヌル ― 重ちーのように爆破され死亡 ゼロのルイズ ― 爆破の後片付けでその日、一日を潰す。 兄貴 シエスタ ― 夜頃、学院に帰ってくるもプッツンしたルイズにより締め出し継続。再びシエスタが気絶する事になる。 「まだ…死んでないど…」 ←To be continued 戻る< 目次 続く
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なんというブチキレコンビ。ギアッチョの怒りは、まるで次はオレの番だと でも言うかのように静かに爆発した。 「ところでよォォ~~・・・ 朝こいつを食った感想はどうだったよお嬢様?」 ギアッチョは波一つない海のように静かに尋ねる。 「最悪だったわッ!・・・そういえばあんたよくも貴族の私にこんなもの 食べさせてくれたわね!後でお仕置きを――」 ゴバァアァ!! 穏やかな海が突然嵐に変わるように、ギアッチョの全身から突然冷気と 殺気が噴き出し始めた! 「うぅッ!?ちょっ・・・何!?こんなところで・・・!!」 ルイズは慌てて辺りを見回すが、周囲の貴族達にはギアッチョの異変に 気付いたようなそぶりは見受けられない。ギアッチョがミスタ達との戦いで 得た教訓の一つ、それは他のスタンド使い達が当たり前にやっている 「自分の能力を安易に敵にバラしたりしない」ということであった。己の命と 引き換えに得た教訓は、彼の心の根っこにしっかりと突き刺さっている。 激しくブチ切れた今も、「周囲に己の能力を悟らせない」という事に関して だけは自制が働いていた。つまり――ルイズが感じた冷気と殺気は、 他でもないルイズただ一人に向けられたものだったのである。 ギアッチョはすっと地面にかがむと左手で食事の入ったトレイを持ち上げ、 背中を曲げた体勢のまま、色をなくした眼でルイズを見る。 「つまりてめーはそんなものをこのオレに食わせるってぇわけだ・・・」 「なッ・・・あんたは使い魔なんだから当然でしょ!?使い魔の上に平民! 貴族と同じ地平線に立つことなんて一生ありえないのよ!!」 ビシッ!! ルイズがそう言い放った途端、最近聞き慣れた音が彼女の耳に響いた。 ビシィッ!!ビシビシビシッ!!ビキキィッ!! この音は、他でもないこの音は。ルイズは恐る恐る、音のした方向へ 眼を向ける。 音がしていたのはギアッチョの持っている食事・・・いや、食事だったもの からだった。パンとスープを載せたトレイは、ギアッチョの左手の上で まるで彫刻のように完璧に凍っていた。 「・・・・・・こんな・・・ええ?こんな『ささやかな糧』でよォォォ~~~~~ てめーの命を守らせようってのかァ?・・・え?おい」 ――てめーの人生のかかった仕事を・・・ 「あ・・・!」 クソみてーなはした金でよォォォ・・・―― バキィィィィインッ!!! ギアッチョがどんな仕事をしていたのか――ルイズがそれを思い出した 瞬間、白磁の彫刻は彼の手の上で「ブチ割れ」、そしてそれと同時に ギアッチョは食堂を震わせるような大声で叫んだ。 「オレ達の命は安かねェんだッ!!!」 いつもの薄っぺらな怒りではない。ギアッチョは本気で「怒って」いた。 ルイズは声も出せなかった。ギアッチョの剣幕に怯えていたのでは ない。一体自分がどれほど酷いことを言ってしまったのか、それを 理解したのである。自分はギアッチョ達を皆殺しにした『ボス』と 何も変わらない。ギアッチョの彼らしからぬ心の底からの叫びに、 ルイズの胸は千切れ飛びそうな痛みを感じた。
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「お待たせ」 着地したシルフィードからぴょんと飛び降りて、キュルケは開口一番そう言った。 「お待たせじゃないわよ!何であんたがここにいるわけ!?おまけにタバサまで・・・あっ、あとギーシュも」 「『あっ』てなんだい『あっ』て」と呟くギーシュには眼もくれず、ルイズはキュルケに詰め寄る。 「助けに来てあげたんじゃないの 今朝廊下からあなた達が『姫さま』だの『任務』だの話してるのが聞こえてきたのよ 面白そうだからついてきたってわけ」 キュルケは本当に心底面白そうな顔でそう言った。 「あのねキュルケ、これお忍びなの 会話を聞いてたのならそれくらい察しなさいよ」 ルイズは呆れ顔で指弾するが、 「なんだ、そうだったの?言ってくれなきゃ分からないじゃない」 キュルケはそうしれっと言ってのけると、折り重なって倒れている男達に眼を向ける。 「ところでこいつら何なの?そこの素敵なアナタ、魔法衛士隊とやらの隊長なんでしょう?この国ではグリフォンはグリフォン隊の象徴だって言うじゃない いくら大人数とはいえ、そんな人間を物取り目的で襲うものかしら?」 「ふむ しかしこの任務は姫殿下が私とルイズだけに内密で依頼したものだ 情報が漏れるとは考えにくいが・・・」 ワルドが顎髭をいじりながら応答する。それを聞いて、「ハイハイッ!」とギーシュが元気に手を上げた。 「はいギーシュ君」 キュルケがどうでもよさげに相手をする。 「こういうときこそ尋問じゃないか 僕に任せてくれたまえ」 一度やってみたかったんだなどと言いながら、ギーシュはまだ意識のある男の前に腰を落とす。身振り手振りを交えながら二言三言何かを話すと、ふんふんと頷いて立ち上がった。 「皆!彼らはただの物取りだって言ってるフんッ!!」 キュルケの掌底が綺麗に決まった瞬間であった。 「な、なんてことするんだねキュルケ!舌を噛んだらどうするつもりだよ全く・・・」 頭から倒れたギーシュは顎と後頭部をさすりながら立ち上がった。実にタフな男である。そんな彼をキュルケは屠殺場の豚を見るような眼で一瞥して言う。 「今のは尋問じゃなくてただの質問じゃない このバカ王子」 「バッ・・・!?」 「もういいからどきなさい 私がやるから――」 そう言いかけたキュルケを、横合いから突き出た一本の手が遮る。いいストレス解消を見つけたギアッチョだった。 「尋問ならよォォ~~、オレに任せな・・・ もっとも、拷問にならねえ保障はねぇがよォォォォ」 捜し求めていた玩具を見つけた喜びに、ギアッチョの顔がかつてないほど凶悪に歪む。その慈悲の欠片もない形相に、キュルケ達どころか今から尋問を受ける男達までもが震え上がった。 「・・・ああそう・・・・・・じゃあお任せするわ・・・ ・・・ほどほどにね・・・」 心の中で男達に合掌しながらキュルケは後じさった。ギアッチョはゆっくりと男達に近寄り、肩越しに振り返ってギーシュを見る。 「てめーも見るか?後学の為によォォォ~~」 ギーシュは首をブンブンと取れそうな程に振って遠慮の意を表した。 ギアッチョはフンと鼻を鳴らして笑うと、 「それじゃあてめーらは後ろを向いてな 女子供にゃ少々刺激が強いからよォ~」 実に楽しそうにそう言った。 光の速さで後ろを向いたギーシュに続いてルイズとキュルケが身体の向きを反転させる。その直後、彼女達の耳に微かに何か軽快な音楽のような幻聴が響き、数秒の後それを掻き消して、 「ウんがァアアアアーーーー!!」 という絶叫が轟いた。 「終わったぜ」 というギアッチョの声で恐る恐る振り向くと、彼の後ろでは数人の男達がピクピクと痙攣しながらのびていた。 よかった五体満足だ、と敵の安否を気遣ってからルイズ達はギアッチョの狼藉を見ていた二人に眼を向ける。ワルドの顔は微妙に血の気が引いていた。 口の端は妙な形に引き攣っている。タバサに視線を移すと、彼女はいつもの人形のような無表情のまま固まっていた。 デルフリンガーは小刻みに震えながら、もっとも恐ろしい者の片鱗を味わったなどとぶつぶつ呟いている。 そしてギアッチョは、信じられないことにまだ暴れ足りないといったような顔で首の骨をコキコキと鳴らしていた。「白い仮面をつけた貴族の男に雇われたらしいぜ」とあっさり手に入れた情報を話しているが、もう誰も彼の声など聞こえていなかった。 ギアッチョを除いた全員がそれこそホワイト・アルバムを喰らったかのように凍っていたが、やがてワルドがなんとか我を取り戻す。 「・・・さ、さあ皆 はやく宿まで行ってしまおうじゃないか ほら、もうここから見えてるよ」 彼はどうにかそう言葉を絞り出し、そこから彼らの泊まる『女神の杵』亭まで皆殆ど口をきかずに歩き続けた。なんとかルイズと話題を作ろうとして、 「・・・確かに凄い使い魔だね・・・彼は・・・」 と言ってみるが、ルイズは「あはは・・・は・・・」とただ乾いた笑いを返すだけだった。 宿の扉をくぐって、ルイズ達はようやく我を取り戻した。ぷはぁ、と息を吹き出して「なんかどっと疲れたわ・・・」とキュルケが言い、それを引き金にルイズ達の身体からは次々と力が抜けていった。ぽつぽつと会話が始まり、彼女達はようやくいつもの空気を取り戻す。 ギーシュが周りを見渡すと、タバサは懐から本を取り出し、キュルケはあくびをし、ルイズはギアッチョに怒鳴り始めた。「君、凄いね」という視線をルイズに送ってから、同じく緊張が解けたギーシュはへらへらと笑いながら軽口を叩く。 「しかし疲れたね どうにも運動不足らしい・・・これだけ歩いただけで足が棒になったよ」 それが、いけなかった。 「・・・てめー・・・今なんつった・・・?」 「え?」 ルイズの怒鳴り声など全く耳に入っていないかのような動きで、ギアッチョはギーシュに眼を向ける。 ワルドを除く全員の脳裏に一瞬である一つの予感がよぎり、「疲れたってのは分かる・・・・・・スゲーよく分かる てめーらは移動に魔法を使いまくっとるからな・・・」 それは三秒で的中した。 「だが『足が棒になる』ってのはどういうことだァァ~~~ッ!?人の足が棒に変わるかっつーのよォォォッ!!ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜぇ~~~ッ!!棒になったらその場で倒れちまうじゃあねーか!なれるもんならなってみやがれってんだ! チクショーーーッ!!」 事態を把握した三人娘の心は一つだった。ルイズが宿の扉を空け、キュルケがギーシュを押してギアッチョにぶつけ、そしてタバサがウインド・ブレイクで二人纏めて宿屋の外へ吹っ飛ばした。 地面に転がったまま絶望的な表情でこっちを見るギーシュから全力で眼を逸らして、ルイズは「ごめん」と一言呟くが早いかバタンと音を立てて扉を閉めた。 「えええええ!?ちょっ、何やってんの!?冗談だよね!冗談だよね!!」 ギーシュは弾かれたように跳ね起きると、ぶつかるほどの勢いで扉へ駆け寄った。 「ギーシュ!あなたの犠牲、わたし達は敬意を表するッ!!」 「か、『鍵が閉まっているッ』!!いやいや何言ってんのキュルケ!!開けてーー!! お願いだから開けてーーー!!ていうか助け・・・」 必死の形相でそう叫びながらギーシュはドンドンと扉を叩くが、あえなく時間切れとなる。ガシィ!!と後ろから肩を掴まれて、彼は恐怖の叫びを上げた。 「どういうことだ!どういうことだよッ!!クソッ!!棒になるってどういうことだッ!! ナメやがって!クソックソッ!!聞いてんのかてめー!!ええ!?クソッ!クソッ!!」 「ヒィィィイ!!どうして僕ばっかりがァアァアアァァ!!」 扉を通してギーシュの断末魔が宿屋に響き、ルイズ達は瞳を閉じて彼に黙祷を捧げた。 ワルドは普通にドン引きだった。 ボロ切れと化したギーシュを引きずってギアッチョが戻って来たので、一行はまずは一階の酒場で一服することにした。 ギーシュの恨みがましい視線を受けながら彼女達はしばらく歓談していたが、 「さて、僕は『桟橋』へ乗船の交渉に行ってこよう 君達はゆっくり食事でもしていてくれ」 頃合を見てワルドが立ち上がった。マントを翻して彼が扉の向こうへ消えるのを見届けてから、 「イヤッホォォォウ!やっと食事にありつける!」 ギーシュは両手を上げて吼えた。実に現金な男である。とは言え、彼が機嫌を治してくれたことは有り難かった。 ウェイトレスが持ってきたメニューを覗き込んで、ルイズ達はあーだこーだと言い合いながら料理を決めてゆく。一通り注文する ものを決め終えて、ルイズは隣に座るギアッチョを見た。 「ギアッチョ あんたはどれにするの?」 「ああ?前に言ったろーが 言葉は喋れても文字は読めねーんだよ」 「あ・・・そうだったわね あんまり流暢に喋るからすっかり忘れてたわえーと、まずこれが・・・」 ルイズはひょいと身体をギアッチョのほうに傾けると、メニューの文字を指差してギアッチョの顔を見上げながらあれこれ説明をする。 ギーシュはそんな二人をなんとはなしに見ていたが、ふと面白いことを考えて隣のキュルケを見た。 丁度同じことを考えていたらしい彼女と眼が合うと、二人して悪戯っぽくにやりと笑う。ルイズは未だにメニューの説明中で、 「うーん・・・あとはこれとか美味しいわよ 牛肉と卵を・・・」 などと言っている。ギーシュは「君!君!」と会話に強引に割り込むと、 「これこれ、凄くオススメなんだけどどうかな!はしばみ草のサラダなんだけど――」 輝かんばかりににこやかな顔でサラダを勧めた。 「ちょ、ちょっとギーシュ!あんたまだ懲りないの!?」 何かを察したルイズがそれを止めようとするが、いつの間に呼んだのかそばに来ていたウェイトレスに、既にキュルケが最高のコンビネーションで注文を終えていた。 ドン、とテーブルに料理が並ぶ。色とりどりのそれらの中に、はしばみ草のサラダはあった。 所狭しと置かれている料理に手もつけず、ギーシュとキュルケは何かに期待しているような眼でギアッチョを見ている。 同じく彼を見ているタバサの瞳にはうっすらと興味の色が伺える。 そして彼のご主人様は、何かを心配するような顔でギアッチョとギーシュ達を見比べていた。 ――・・・何なんだこいつら・・・ 四色四対の瞳が全て自分を注視しているのである。正直言って気持ち悪い。 理由は分からないが、とにかくこいつらは自分がこのはしばみ草のサラダとやらを食べることに期待しているらしい。 得体の知れない期待に一つ溜息をつくと、ギアッチョはサラダに手を伸ばした。 はしばみ草。それは地球にはない独特の苦味を持つ植物である。その名状しがたい苦味の為に、好んで食べる者は少ない。 以前ルイズの父が誤ってそれを食べ、ブフォッという音を立てて見事に口から吹き出したことがあった。 厳格な父の有り得ない姿とその後の怒りように、ルイズははしばみ草のことを強烈に覚えていた。 はしばみ草がギアッチョの口に合えばいいが、そうでなければギーシュとキュルケはこの食事が最後の晩餐になるかも知れない。 ルイズはそんなわけで彼らの命の心配をしているのだが、当の二人は悪戯心と復讐心で後のことなど一切考えていなかった。 そんな彼女達の心も知らず、ギアッチョはあっさりとはしばみ草をフォークで突き刺す。 彼は無表情のままそれを口に放り込み、そして無表情のまま咀嚼し、ついに無表情のまま嚥下した。 ――な・・・なんて男だ!顔色一つ変えないぞッ!? はしばみ草を胃に送り込んで尚表情を変えないギアッチョに、ギーシュとキュルケは眼を見開く。 タバサは少しだけ嬉しそうな顔を見せ、ルイズは胸をなでおろした。 ギアッチョは無表情のままスッとフォークを置き、静かに席を立つと、4メイルほど離れた場所にある部屋へ静かに入って行く。 トイレだった。 そのままギアッチョは一分経っても戻らず、二分が過ぎても戻らず――そこまできて、ギーシュとキュルケはようやく嫌な予感がし始めた。 「・・・ね、ねえキュルケ・・・ これってひょっとして凄くヤバいんじゃないかな・・・?」 「・・・わたしもそんな気がしてきたわ・・・・・・」 不気味に静まり返るトイレが、芽生え始めた彼らの恐怖を加速する。 「どっ、どどどどどうしよう!!」 キュルケはガタガタと震え始めるギーシュの襟首を掴んで、 「ええい逃げるわよッ!!」 一目散に外へ逃げようとする、が。 「えっ!?」 「なっ!?」 二人の足は、その場から一歩も動かすことが出来なかった。 「ぼッ、僕達の足がァァァ!!」 「こ・・・『氷で固定されている』ッ!!」 二人の足は容赦なく凍結されていた。そして炎の魔法でそれを溶かす間もなく、氷よりも冷たい双眸に灼熱の怒気を纏わせて、ギアッチョが姿を現した。 「・・・や、やあお帰りギアッチョ・・・ はしばみ草のお味は ど、どうだったかな?」 一縷の望みを掛けて、ギーシュは蒼白な顔に無理やり笑みを浮かべて尋ねる。 「ああ・・・実に美味かったぜ 意識が飛ぶほどな・・・」 そう言ってギアッチョはニヤリというよりはニタリと表現するべき笑みを返した。 はしばみ草のあまりの美味さに一瞬のうちに阿頼耶識を潜り普遍的無意識を越え銀の鍵の門を通ってオオス=ナルガイを旅し未知なるカダスに至ったギアッチョの意識が現実世界に戻ってまず思ったことは、「よし、こいつら殺す」ということだった。 その後の展開は語るまでもないだろう。 こうしてラ・ロシェールが誇る高級旅館『女神の杵』亭は、昼は変な男が宿前で暴れ、夜は二人分の悲鳴が轟き、深夜は氷付けになった男がベランダに放置される恐ろしい宿として数ヶ月の間その評判を落とすことになったのである。 「一つ、聞き忘れていたことがあった」 薄汚い酒場で、仮面の男は土くれのフーケと会話をしていた。 「・・・なんだい」 男に一瞥をくれてから、フーケは煩そうに髪をかきあげる。 「貴様を倒したのは、あの得体の知れない平民の使い魔だったな」 「それがどうしたんだい」 その質問に、フーケの顔はいよいよ不機嫌さを増す。 「奴の力を教えろ」 有無を言わさぬ口調で仮面の男が命令する。しかしフーケはどこ吹く風で嘲笑うと、 「嫌だね」 と一言そう言った。フーケは脱獄と引き換えに自分達への協力を約束させられている。 しかしその実、それは「従わなければ殺す」という約束とは名ばかりの脅迫であった。己の目的の為の道具として扱われることに、フーケは強い不快感を抱いている。 「貴様・・・死にたいのか?」 「フン、やれるもんならやってみるがいいさ あたしだって土くれのフーケと呼ばれた女・・・こんな姿でも、あんたを無事で済ませるつもりはないよ さて、それであんたはそうして消耗した状態で任務に挑むつもりかい?」 フーケはニヤリと笑った。仮面の男は決して失敗出来ない任務を負っている。 無駄な消耗など出来るはずがなかった。 「――くだらん知恵が働くようだな」 そう吐き捨てて、男は出口へと歩き出す。 「一つだけ教えてあげるわ」 その背中に、フーケは勝ち誇った笑みを浮かべて言葉を投げつける。 「あいつは『ガンダールヴ』よ」 「・・・何だと」 唐突に登場した「伝説の使い魔」を表す言葉に、仮面の男はフーケに振り返るが、しかし彼女はもはや何も言う気はないといった仕草で手を振る。男はそんなフーケを忌々しげにねめつけると、二度と振り向かずに歩き去った。
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第2章 前編 「Buongiorno!(おはようございます!)」 爽やかな朝、爽やかな挨拶を、爽やかな笑顔で、爽やかな使い魔が、御主人様へ申し上げる。 ……返事が無い。ただの屍(?のようだ。 「朝ですよ! 起きて下さい!私の可愛い御主人様!」 「…おーい。 …朝ですよー」 「早く起きないと食べちゃうぞー(性的な意味で)」 「……(まだ夢の中か? オイ)」 少しイラっときたが、我慢々々。これもコミュニケーションの一つだ。 『やりたい事をやりたい時にやる』 『”明日”のため”今日”我慢する』 『両方』やらなくちゃあならないってのが『人間』のつらいところだな。 大きな『矛盾』も、楽しめればそれで良し! とはいうものの、流石に無反応は面白くなく、ちょっとだけ悪戯することに決めた。 「朝ですよー」 プニ (お やわらかい…) 幸せそうに眠っている御主人様の頬をつつく。 「…うにゃ」 !? 「…朝ですぜー」 プニプニ 「…うにゃあ」 (こ、こりは!?) お も し ろ い ! 「朝朝朝ー」 プニプニプニ 「…うににゃあ」 (もう起きてんじゃねぇのか? これ…) でも反応が”おもしろい”ので、もっと続けることにした。 「右からつつく。 左からつつく。 つまり……挟み撃ちの形になるな」 プニー 「…ぷー…」 「あぶなァーい! 上から襲って来るッ!(小声)」 鼻を上からプニー 「…むー…」 (絶対起きてるし、絶対”わざと”だ…。 しかし…) 何だこの感情は? こう、心が満たされるというか… 癒されるというか… 自分に新たな嗜好が生まれ出る瞬間に戸惑う。 「うーん…」 (お? 流石に起きるか?) 寝返りをうっただけで、起きようとしない。 「…やれやれだぜ?」 両手の人差し指を、御主人様の頬へ近づける。 「オラ オラ オラ オラ」 プニプニプニプニプニプニ…… 「…UUU、UREEYYYYYYYYYッ!!」 まるで、人間を辞めたかのような咆哮でベッドから飛び起きるルイズ。 「何すんのよ! もっと普通に起こしなさいよ!」 両手で頬をさすりながら、使い魔を怒鳴る。 「スイマセェェン……。 余りにも”可愛らしい”寝顔だったのでつい……」 遊んでしまいました。 「……ま、まあ、素直に謝ったから今回は許してあげる! でも、次はちゃんと起こしなさい!」 ほ~んの少しだけ嬉しそうな顔で、簡単に許すルイズ。 …もしかして「可愛らしい」って言ったから? だとしたら…。 なんて不憫な子……。 オレがもっと褒めてあげないと。 「可愛い」程度で満足したらもったいない。 この娘は御世辞抜きで可愛いのだから。 もっと輝いてもらうためには、少々のことで満足してはイカン! 『自信』を持つことは、強く美しく生きていくためには欠かせないのだ。…自信過剰は困るが。 わずか1秒弱で御主人様への感想と決意を固めたスクアーロだった。 そんな使い魔を尻目に、背伸びをして目を覚ましているルイズ。 「ウーン…… そんじゃ、服」 椅子にかかった制服を、ルイズへ手渡す。 ネグリジェを脱ごうと、裾を掴んだ。そこで動きが止まる。 「…あっち向いてなさい」 スクアーロに命令する。 ……恥ずかしくないんじゃ? 「いいから! あっち向いてて!」 「へいへい」 「返事は『ハイ』! 次、下着! クローゼットの一番下の引き出し!」 言われた通り、引き出しを開ける。 その中から”今日の気分”で選び出すスクアーロ。 (色気のあるヤツがないな…) 少しションボリしながら、選び終える。 「とっとと渡しなさい。 こっちを見ずに」 「相手を見ずに、物を渡すのはマナー違反だと…」 「うるさい」 しぶしぶ下着を投げ渡し、次の指示を仰ぐ。 「着せましょうか? 服」 「…いいわ。 自分でやる」 「そんな! フツー、使い魔とか召使いに手伝わせるだろ!?」 「自分を知れ… そんなオイシイ話が…… あると思うのか? おまえの様な(スケベな)使い魔に」 「…ヤッダーバァァァ…」 声にもならない声で、心の叫び(?をゴミ箱になげかけるスクアーロであった。 部屋を出ると、赤い髪の”bella donna ベッラ ドンナ”がいた。 bella donna(伊:美人) 特に胸がグンバツな美女が。 「おはよう。ルイズ」 ルイズは顔をしかめると、嫌そうに挨拶を返した。 「おはよう。キュルケ」 「あんたの使い魔って、これ?」 何故か自分の隣にいるスクアーロを指差す。 スクアーロは、手をキュルケの腰へまわしつつ、キュルケの手にキスをする。 「Buongiorno! あなたほどの『炎のように激しく、熱を持った美しさ』は初めてです。 お嬢さん♪」 「あら? お上手ね。 わかってるじゃない?あんたの使い魔さん♪」 「ダァッシャッ!!」 キュルケが言い終えると同時に、使い魔へA・猪○ばりの延髄蹴りを決めるルイズ。 さん付けにランクアップしたことを喜ぶ暇も無く、床を泳ぐ鮫。 「あらあら」 「ごご、ごめんなさいね? まだ躾がなってなくて。 すす、すぐに床に寝てしまうのよ。困ったものだわ」 肩を小刻みに震わせながら、使い魔に止めを刺す寸前のルイズ。 どこと無く全身にオーラを纏っているような……。 「だけど、『平民』を使い魔にするなんて、やるじゃない”ゼロ”のルイズ?」 怒りのスーパーモード状態のルイズを目の前にしても、動じることも無く挑発するキュルケ。 (後頭部とか首はヤバイだろ。常識的に考えて…) 瞬時に当たり所をずらして、即死だけは防いだスクアーロ。だが当然、床の上に寝ている。 「でも、どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。 フレイムー」 のそのそと、赤い何かがキュルケの部屋と思われるドアから出てくる。 「! …これって、サラマンダー?」 ルイズが悔しそうに尋ねる。 そうよー。火トカゲよー。と自慢するキュルケの足元で、フレイムと呼ばれたサラマンダーが行儀良くしている。 「…Buongiorno……。 使い魔どうし仲良くやろうや」 「きゅるきゅる…… きゅるきゅる?」 「…ありがとよ。 元気いっぱいだぜ?」 なんとなくだが、意思疎通に成功したことに満足するスクアーロ。 フレイムとの挨拶を終えた鮫はぼんやりと、タイプの違う2人の美女のおしゃべり(?を聞く。 「―――あなた、お名前は?」 御主人様同士の会話が終わり、ゆっくりと起き上がろうする平民使い魔へ問いかける。 「スクアーロ。 オレのクニで”鮫”って意味だ」 「すくあーろ? 珍しい名前ね」 「だろうな」 「ま、よろしくね。使い魔さん。 じゃあ、お先にし・トゥ・れいィィィ~」 …キュルケがとっびきりのギャグを披露しながらいなくなると、ルイズは拳を握り締めた。 「ぐーやーじ~~! (さっきの”し・トゥ・れいィ”も”ゼロ”と”れい”をかけて馬鹿にしてんだわ!)」 「別にいいじゃないか。 気にしたらイカンよ?」 「よくな~いッ! メイジの実力をはかるには使い魔見ろって言われるぐらいよ!」 「『平民』と『サラマンダー』では比較にならない?」 「当然でしょ! 人間同士でいえば『平民』と『貴族』ぐらい違うわよ!」 「……(他の『パッショーネ』のメンバーなら、ぶっ飛ばされてんぞ?)」 未だ興奮冷めやらぬルイズに問う。 「なあ、さっき話してた微熱とかゼロって『二つ名』ってやつか?」 「……そうよ」 「ふーん」 「……聞かないの?」 「何を?」 「二つ名の由来」 「君が教えてくれるなら」 「……。 ……行くわよ」 (やっぱり。さっきの会話からじゃあ、あんまりいい意味じゃなさそうだよな) ご機嫌ナナメの御主人様の後を、さっきのダメージの後遺症か、ナナメに歩きながらついて行く。 (やっぱり自信を持たせないと。) この娘には色々頑張ってもらわなければ…。 帰る方法を調べてもらうっていう大事な仕事があるからな。 それに何より……。 「美人は笑顔が一番ッ! これは真理だッ!」 ……今の鮫には親衛隊だった頃の獰猛さは全く感じられない。 ……異性に対する貪欲さは増しているが……。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 前編終了 To Be Continued ==
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3話 窓から差し込む光を感知して、ホワイトスネイクは姿を現した。 「サテ……コレカラドウスルベキカナ」 そう言って、窓の外に目をやる。 空はまだ薄暗く、太陽も地平線から少し頭を出した程度。 朝まではまだもう少し時間があるようだ。 「トリアエズハ現状確認ダナ」 ホワイトスネイクが「自分自身の変化」と疑うものはいくつかあった。 1つ目は、「スタンドパワーの供給源」。 エンリコ・プッチが死んでいる以上、彼からスタンドパワーを供給されていることはあり得ない。 自分の限界射程の20メートルという距離を考えればなおさらだ。(これは昨日のうちに確認している) ではいったい誰からスタンドパワーを供給されているのか? 「多分……コイツダローナ」 ホワイトスネイクが白い目を向けた先には、ベッドの上でぐっすりと眠りこけるルイズの姿があった。 確かにそれ以外に考えられない。 事実、昨日からずっと自分の20メートル以内にいたのはルイズだけだったのだから。 となると、ルイズはホワイトスネイクのスタンド本体である、ということになるのだろうか? 答えはノーだろう。 ルイズがホワイトスネイクのスタンド本体であるとするといくつかの矛盾が生まれるからだ。 例えば昨日ルイズはホワイトスネイクの足をふんづけたが、その際にルイズが足に痛みを感じた様子はなかった。 スタンドとスタンド本体の間での「ダメージの共有」がなされていないのだ。(これが2つ目の変化と疑うものである) 他にもホワイトスネイクが「自分の意志で」発現できたということもあるが、 ホワイトスネイクが「自分の意志でスタンド本体を守る」というかなり特異なタイプのスタンドであることを考えれば、 さほど大きな変化でもないのだろう。 いずれにしてもそういった変化もある以上、今この時点で「ルイズが自分の本体である」と決めるのはまだ早い。 ホワイトスネイクはそう結論付けた。 そうこう考えているうちに太陽はそれなりの高さまで昇り、窓から差し込む日差しも強くなってきた。 ホワイトスネイクは改めてルイズに目をやる。 「ふにゃ……」 だが未だにルイズは寝ている。 さっきから何も変わっていない。 「コレヲ起コスベキカドーカ……」 ホワイトスネイクはそんなことを呟きながら椅子に腰かける。 確かに昨日「賭け」には乗ってやったが、ここまで面倒を見てやるつもりはホワイトスネイクにはない。 働くとしても、せいぜいスタンド本体に対するスタンドぐらいの程度でだ。 とその時。 コンコン、と部屋のドアを軽くノックする音が響いた。 だがルイズはまだ寝ている。 応対できるのはホワイトスネイクだけだ。 再びノックオンが響く。 ホワイトスネイクは仕方なくイスから立ち上がり、鍵を開けてドアを開いた。 「誰ダ?」 「おは……って、あんた誰よ!?」 ドアを開けた先に立っていた赤毛の女が頓狂な声を上げる。 「ホワイトスネイクダ。ドウイウワケカ昨日『召喚』サレテキタ、ナ」 「召喚……って、ああ、そういうことね。 へぇ~、あんた亜人ね? にしては随分流暢にしゃべるわねえ」 「ソンナコトハドウデモイイ。 ダガ相手ガ名乗ッタカラニハオ前ノ方モ名乗ルグライシロ」 「あら、失礼。 私はキュルケ。それで……」 キュルケと名乗った女が後ろをちらと見ると、向い側の部屋からのそのそと赤い生き物が出てきた。 「この子がフレイム。私の使い魔よ。 フレイムはただのサラマンダーじゃないわ。火竜山脈のサラマンダーなのよ? 好事家に見せたら、そりゃもう値段なんかつかないわよ?」 そういって豊満な胸を張るキュルケ。 その様子を白い目で見ながらホワイトスネイクは、 「ソウカ……スゴクウラヤマシイナ」 と抑揚のない声(つまり棒読み)で答えた。 「ソレヨリ、ルイズノ部屋ニハ何ノ用デ来タンダ?」 「ああ、そんなことね。単にこの子を見せに来ただけよ」 実に単純な小娘らしい発想だ。 心底うらやましいな、とホワイトスネイクは思った。 「ソウカ。ダガルイズハマダ寝テイル」 「あら、やっぱり? あの子ったらすごい寝ぼすけなのよね」 そう言ってキュルケはくすくす笑った。 「しかしあなた……なかなかいいカラダしてるわね。背もすごく高いわ。 その服は民族衣装か何かなの?」 「民族衣装……ソウダナ、ソンナモノダ」 うっとりした目つきで言うキュルケ。 だがいちいちスタンドの説明をするのも面倒なので、ホワイトスネイクはあえて嘘をついた。 「それに体のイレズミ……これはどんな意味があるの?」 「……一族ノ繁栄トカ、ソノ辺リノ意味ダロウ」 またも当たり障りのない、嘘の回答をするホワイトスネイク。 「ふ~ん……なるほど、ね。あなたに興味がわいたわ。またお話ししてくださる?」 「余裕ガアレバナ」 「ふふ、なかなかガードが堅いのね。 じゃあ私は食堂に行くから、はやく『ゼロのルイズ』を起こしてあげなさいな。 朝食に遅れると朝ごはん抜きになっちゃうもの」 そう言って、フレイムを従えて去っていくキュルケの後ろ姿を尻目に、ホワイトスネイクはルイズのベッドへと向かった。 だが、そこでふと思い当たって立ち止まる。 「『ゼロのルイズ』……ト呼ンダナ、アノ女。ルイズノコトヲ……。『ゼロ』トハ何ダ?」 だが一人で考えても仕方のないことなので、ルイズを起こす作業を始めた。 「オイ、起キロ」 「むにゃ……ふぁ……」 「起キロト言ッテイル」 「ふにゃ…………」 「……仕方ナイナ」 そう呟くと、ホワイトスネイクはおもむろに自分の腕に指を突き刺した。 だが出血はない。 むしろ、水面に指を静かに入れたかのように、ごく自然に指が腕に入ったのだ。 そして指が腕から抜かれたとき、一枚の輝く円盤がその指に挟まっていた。 これが「DISC」。 ホワイトスネイクの能力を語る上でもっとも重要な存在である。 そのDISCを、ホワイトスネイクはルイズの額に静かに「差し込ん」だ。 そしてしばらくして―― 「きゃああああああああっ!!!」 ルイズが悲鳴をあげて跳ね起きた。 その拍子に額のDISCが抜け落ちる。 「はあっ、はあっ、はあっ、………」 「オ目覚メハイカガカナ、ルイズ」 あえて茶化すように言ったホワイトスネイク。 「さささ、さ、最悪、よ。 い、いい夢見てたのに、いいいいいいきなり空から、カカ、カ、カ、カエルが、たくさん降ってくるなんて……」 「ソレハ実ニ酷イ夢ダナ。同情スルヨ」 悪夢を見せた張本人がさも知らぬかのように言った。 「トモカク、朝ダ。 朝食ガソロソロ始マルンジャアナイノカ?」 「それも……そうね。っていうか、何であんたが朝食の時間を知ってるのよ?」 「サッキ部屋ヲ訪ネテキタ女ガソウ言ッテイタ」 「女?」 「赤イ髪ノ……」 「わかった、もう言わなくっていいわ」 ルイズはむっとした顔でそれだけ言うとベッドから降りた。 そしてホワイトスネイクに振り向き、 「着替えるから手伝いなさい」 「……何ダト?」 「ニ度もおんなじこと言わせないで。わたしの着替えを手伝うのよ」 「私ヲ召使カ何カト勘違イシテルンジャアナイノカ?」 「しょうがないでしょ。だってあんた、わたしの目にも耳にもならないし秘薬の材料だって探せないんだもの」 さも当然、と言わんばかりのルイズ。 それを冷めきった目でホワイトスネイクは見下ろした。 「何よ、文句でもあるの?」 「……賭ケニ乗ッテヤッタノハ私ダカラナ……仕方ナイ、トイウヤツカ……」 そんなことをぶつぶつ言いながらホワイトスネイクはクローゼットから服を出し、ルイズに着せてやった。 無論、下着を履くぐらいのことはルイズは自分でやったが。 そして支度を終えたルイズは部屋を出て、食堂へ向かった。 ホワイトスネイクも後に続く。 「改めて確認するけど……あんたは1年間はちゃんとわたしの使い魔でいるのよね?」 「オ前ヲ査定スルタメニナ。アト1年間ジャアナイ。半年ダ」 「は、半年? 半分に縮んでるじゃない!」 「1年ハ長スギル。私ニトッテモ、オ前ニトッテモ。 受験生トイウ連中ハ誰モガ1年トイウ期間ヲ与エラレテイルガ、 ソノ期間ノ内デ多クガ中弛ミヲ起コス……彼ラニトッテ常ニ必死デイルニイハ1年ハ長スギルカラダ。 オ前モ必死ニナルノダロウ? ダッタラ半年ガイイ」 正論だった。 「うぅ~~…………わ、わかったわよ。その代わり、絶対に約束は守りなさいよ!」 「ソウイウコトハ、少シデモ私ニオ前ヲ認メサセテカラ言エ」 つんけんした会話をしているうちに、食堂についた。 ここトリステイン魔法学院の食堂、「アルヴィーズの食堂」には、 百人は軽く席につけそうなぐらい長いテーブルが三つも並んでいる。 そしてその三つともに豪華な飾り付けがなされていた。 「どう? びっくりしたでしょ」 「……学生ナラ、コノ程度カ」 「どういうことよ、それ!」 「王族ノ血縁ノ子女モイルトイウカラ、『エカテリーナ宮殿』ミタイナノヲソウゾウシテイタガ……マア、学生ダカラナ」 「『エカテリーナ宮殿』?」 「壁中ニ金細工ヤ大理石ノ彫刻ダノガ飾ッテアル。壁一面ニ琥珀ヲ張ッタ部屋モアッタナ」 「……見え見えのウソだわ。そんな場所、トリステインの王宮にだって無いわよ?」 呆れた口調でルイズが言う。 「……コノ世界シカ知ラナイオ前デハ確カメヨウノ無イコトダカラナ。ダガソレハイイトシテ……コレハ何ダ?」 ホワイトスネイクが指さした先――床には皿が一枚あった。 どうしようもなくショボいスープと、硬そーなパンが二切れ入った皿だ。 「あんたの食事よ」 「……言イ忘レタガ私ハ食事ヲシナイ。 スタンド本体カラ常ニ供給サレルスタンドパワーガ私ノエネルギーノ源ダ」 「ふーん……ってことはまさか!」 「貰ウベキエネルギーハサッキカラズット、オ前カラ貰ッテイル」 「何でそれを先に言わないのよ!」 「ソレヲ今後悔シテイルトコロダ。 言ッテイレバ……コンナ屈辱ヲ味ワウコトハナカッタノダカラナ……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と大気が振動しているかのような雰囲気がルイズを包む。 何十、何百のスタンド使いをその手にかけてきた悪魔のスゴ味を間近で感じて、思わずルイスはたじろいだ。 「で、でも、ご主人様と使い魔の立場の違いを教育するのも……」 「ダガコレハ『アル意味』正解ダッタ。 イイ判断基準ダ……スゴク……イイ判断基準ニナル……」 ルイズの弁解は完全に無視し、言葉の節々に怒りを滲ませながら、ホワイトスネイクは姿を消した。 自分自身を「解除」したのだ。 その長身ゆえに食堂の人目を引いていたホワイトスネイクが突然消えたことで周囲は一瞬騒がしくなったが、 教師が食事の前のお祈りをするよう大声で促すとすぐに静かになった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。……」 お祈りを唱和する生徒たち。 ルイズもそれに加わるが、心中は穏やかではなかった。 (わたし……なんだか、大変なことをしちゃったのかも……) To Be Continued...
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「…ッ!…が…ッ!!」 「…ふにゃ……うるさぁ~~い…!」 明け方妙に音がするので寝起きが壊滅的に悪いルイズですら目を覚まし音源の方向を見る。…見たのだが、ヤバイものを見た。 「グレイトフル・デッ…」 「ちょ、ちょっと!なに寝ながら危ない事口走ってんのよ!!」 「……クソッ…!またか…」 広域老化発動ギリギリで起きたプロシュートが頭を押さえながら壁に背を預ける。 全身から嫌な汗が流れ気分も最悪というところだ。 「凄いうなされてたけど…大丈夫なの?」 「ああ…」 生返事はするものの、最近例の夢を見る頻度がかなり高くなってきていてヤバかった。 (あいつらは地獄から人を呼びつけるようなタマじゃあねぇんだがな…) 原因の検討は付いているがその手段がいまのところ存在しないのが問題だ。 「こいつはダメだな…」 結果がどうあれ、イタリアに戻りそれを己の目で確かめないことには、この夢は消えないであろうという事も。 「…邪魔したみてーだな。寝直す気にもなれねぇ…外に出てくる」 「ま、待ちな…!」 それを言い終わる前に先に外に出られた。 「もう…最近調子悪そうだし…もしかして、病気にでも罹ったんじゃないんでしょうね…」 「俺が見る限り、どっちかっつーと精神面みたいだな」 鞘から少しだけ刀身を出したデルフリンガーが答える。 「精神面?プロシュートが?…ダメ、とてもじゃないけど想像できないわ」 「んーそういう柔な理由じゃなくて、イタリアってとこにスゲー重要なやり残した事があるんだろうな」 イタリアと聞いて思い当たる事はあった。 「んで、それが夢か何かに出てきてあんな風になってるってわけだ」 「そういえば…ラ・ロシェールの宿屋で仲間が命を賭けて闘ってるって言ってた」 「そりゃあ戻りてぇだろうなぁ…」 イタリアに戻る…その言葉に戸惑う。 今のところ戻る手段は見付かっていないが、見付かればプロシュートはどうするのだろうか。 迷わずその手段を用いてイタリアに戻るのか…それともここに残り使い魔としていてくれるのか。 今のルイズの心情は非情に複雑だった。 フーケやワルドに殺されそうになった時も自分が見失っていた道を照らし出してくれたような気がしたし シルフィードの上でプロシュートが気を失って自分に向けて倒れてきた時も何故か安心感があった。 確かに、かっこいいところはある。ボロボロになりながらもワルドから助けてくれた時や、自分の魔法を信頼してくれた所も。 「…もしかして兄貴に惚れたのかぶらばァッ!」 デルフリンガーの刀身目掛け爆発を起こしとりあえず黙らせる。 「そ、そんなんじゃないわよ!たた、確かに頼りになる所もあるし何回も助けてもらったけど!考え方が妙に物騒なのが問題よね…誰にでも遠慮しないし」 初対面のキュルケや、今は亡きギーシュ。そして姫様にすら容赦しなかった。 「メイドの娘っ子と馬で出かけた時に俺をハムに刺しといてよく言うわらば!」 「だ~から!好きとかそんなんじゃないつってんでしょ!」 「…じゃあなんなんだ?」 「分からないけど…こう…」 「こう?」 「結構頼りになるし…『成長しろ』…とか言ってくれるし……年上の…兄妹…みたいな…」 「あー、つまりアレか。『お兄様』って呼びたいわけダッバァァァァアア!」 三回目の爆破によりデルフリンガーの口を封じる。 「し、知らないわよ!わたしだってエレオノール姉様とちぃねえ様しか姉妹が居ないんだから!!」 そう叫びベッドに潜り込んだが心臓の鼓動音がやたら大きく聞こえて中々寝付けなかった。 (イテェ…本気で折れるかと思った…しかしまぁ…俺も『兄貴』って呼んでるから分からないでもねぇが) 「戻る方法が見付かってるわけでもなし…八方塞ってやつか」 日が出て明るくなってきた頃、プロシュートが一人庭を歩いている。 「ジジイが30年前に会ったヤツは…どうやってここに来たんだ…? 使い魔としてなら本体ってわけじゃねぇが呼び出したヤツも……いや、オレが良い例だな。常に行動を共にしてるとは限らねぇ」 そうして思考の渦に漬かりきっていたので後ろから近付く気配に気付けなかった。 「わっ!」 「ハッ!?………向こうじゃ攻撃されてんぜ…オメー」 「この前、驚かされたお返しです」 後ろからシエスタが大声で驚かすという古典的な手段だったが、一瞬列車内でブチャラティに奇襲された事を思い出し攻撃しかけそうになった。 が、スタンド使いは居ないと認識していため何とか踏みとどまる。 「で、わざわざオレを驚かせるためだけに、こんな朝っぱらからきたってわけか?」 「あ!いえ…お洗濯物を洗いに行くところでお見かけしたので…その、この前のお礼もしてませんでしたし」 「礼される事をした覚えはねーな。アレはモット伯と護衛のメイジの問題なんだからよ…」 その言葉には『バレるからあまり話すな』という意味が含まれているのだが、そこは一般人であるシエスタ。謙遜してるようにしか受け取れない。 「そんな!助けていただいたのは事実ですし、もう少し遅ければ………」 モット伯に胸を揉まれていたことを思い出すと赤くなり口ごもると同時にゾッとした。後2~3分遅ければ洒落になっていなかっただろうから。 俯き加減にもじもじしながら何か小さく言っているが、このまま待っても時間がかかりそうだったし何よりまぁ言いたい事もあったのでとりあえず軽く一発叩く事にした。 「大体だ、連れてかれる三日前にそういう事があんならオレかルイズあたりに言ってりゃもっと楽に済んでんだよ。人質が居ると居ないとでは大分違ってくるんだからな…」 かなり綱渡り的任務だったはずだ。 最初の時点で、衛兵が金に釣られなければその時点で失敗。 モット伯が部下の顔を全て把握していれば、魔法を使われか叫ばれるなりして他の連中にこちらの存在がバレた可能性もある。 そして、殺害ではなく捕獲命令を出していれば老化させていたとはいえ、アレがモット伯だとバレるかもしれなかった。 正直、よくこうも上手くいったものだと思う。 本来、攻めでこそ本領が発揮される能力であり、こういう守り・奪還に適した能力ではないのだ。 「……す、すいません…」 言いながら恐る恐る顔を上げたが、予想に反してプロシュートの顔は苦笑いだった。 「……怒ってないんですか?」 「これがペッシならブン殴ってるとこだが…まぁオメーはギャングでもメイジでもねーしな。今ので勘弁しといてやるよ」 「す、すいません」 「……もう一発か」 「へ?あの…?うひゃぁぁぁぁ」 「いたた…それで、その…お礼なんですが」 「…オメーも結構しぶといな」 シカトして戻っちまおーかとも思ったが目を見て止めた。 何かに似てると思ったが…借金だ。それも金利がバカ高いやつ。 借金なら色々な手で揉み消せない事も無いが礼を揉み消すというのもなんなので早い段階で清算しておく方が良策だと判断した。 (後にすればするほど膨れ上がって収拾が付かなくなるタイプだな…) 「そうだな…この前オレんとこの故郷の話したからオメーのとこの話聞かせてくれりゃあそれでいい」 「わたしの故郷ですか?タルブの村っていって、ここから、そうですね、馬で三日ぐらいかな…ラ・ロシェールの向こうです」 「三日?えらく遠いな」 「それでも、もっと遠くから来ている方もいますし。何も無い、辺鄙な村ですけど… とっても広い綺麗な草原があって、地平線のずっと向こうまで季節ごとのお花の海が続いて、今頃とっても綺麗だろうな…」 (ダメだな…いいとこ麦畑しか浮かばねぇ) 花畑に立つ暗殺者というものほど矛盾した存在はあるまいと失笑気味だが、自分自身が常に死の中に居る。 生き方的な問題だけではなく、能力的な問題だ。生物なら全て無差別に朽ち果てさせる能力。 花畑なぞに入っても自分の周辺だけその花が枯れ果てている姿を想像し思わず自嘲的な笑みが零れた。 それを見たシエスタだが、その笑みが普通に微笑んでいるようにしか捕らえられずさらに話を続ける。 「この前、お話してくれた…そう!ひこうきとやらで、あのお花の上を飛んでみたいんです」 「勘違いしてるようだが言うが、鳥程自由には飛べねーからな」 目を輝かせるようにして思い出話に浸っているシエスタだが 村に来て欲しい事、草原を見せたい事、ヨシェナヴェなる料理がある事。まぁこれはよかった。 「………プロシュートさんはわたし達に『可能性』をみせてくれたから」 「可能性を見せた…?くだらねぇな…」 「く、くだらなくなんかないです!わたし達なんのかんの言って、貴族の人達に怯えて暮らしてて そうじゃない人がいるってことが、なんだか自分の事みたいに嬉しくて…わたしだけじゃなく厨房の皆もそう言ってます!」 「可能性ってのは、自分自身ががそこに向かい成長しようと意志さえあればいくらでもあんだよ。他人の成長を見ても自分の可能性ってのは掴めるもんじゃあねぇ」 同じスタンド使いがいねぇようにな。 さすがに、スタンド使い云々に関しては口に出さなかったが。 「…難しいですね」 「簡単に分かりゃあ誰も苦労しねーよ。ここのマンモーニどもも、魔法が使えるってだけで分かってねぇのが殆どだしな」 「また、今度…それを教えてくえませんか?」 これがペッシとかならギャング的覚悟を叩き込むのだが、この場合はどうしたものかと悩んだ。なので一応の答えで場を濁す事にしたのだが…それが不味かった 「オレの分かる範囲でなら…な」 肯定と受け取ったのかシエスタさんのスイッチが入ったご様子。 「是非お願いします!あ…でも、いきなり男の人なんか連れていったら、家族の皆が驚いてしまうわ。どうしよう… そ、そうだ。旦那様よって言えば…け、結婚するからって言えば皆、喜ぶわ。母様も父様も妹や弟たちも……」 ……… …………… (シエスタは…『壊れた』のか…?いや違う…ッ!こいつは『素』だッ!明らかに『素』の目をしている……ッ!) 今にもシエスタの後ろに効果音とかが現れそうだったが、引き気味にそれを見ていたプロシュートに気付いて我に返って首を振る。 「あ、あはははは!ご、ごめんなさい…!そ、そんなの迷惑ですよね…あ!いけない!お洗濯物を洗いにいかないと…それじゃあ失礼します!」 「…手遅れか…トイチってとこだな」 収拾が付かなくなる前に清算を済ませるつもりだったがスデに金利が膨れ上がり手の付けられないとこまで突入している事にようやく気付いた。 まぁかなり前から手遅れなのだが、それは兄貴。 誰でも対等に扱おうとするが故に平民と貴族が区別されているここにおいては、それが類を見ない事である事に気付けてすらいない。 少し引いていたが、今はイタリアに戻るという事が最優先事項だ。 リゾット達がボスを倒しているのなら、その姿だけ見届けどこかに消える。途中脱落した自分にそれに加わる資格は無い。 だが、もしリゾット達がボスに敗れ全滅しているのなら…成すべき事は一つ。 「…考えたくはねぇが…ボスにその報いを受けさせる…ッ!」 死んだ事になっているのならば少しはボスの事も探りやすくなるはずだ。 暗殺チームの誇りと矜持に賭けて、それこそ『腕を飛ばされようが脚をもがれようが』何があろうとボスを殺す。 だが、現状は戻れる気配すら掴めていない。 「チッ…戻れる当てがねぇのにボスを殺す事なんざ考えても意味がねぇな」 そう呟き、頭を掻きながら空を見上げると、その事は一時頭の片隅に追いやり今は使い魔としての任務を果たすべきだと切り替えルイズの部屋に戻った。 そろそろルイズを叩き起こそうとドアを開けながら声をかけたのだが、反応は実に意外だったッ! 「起きろ」 「え、ちょ、ちょっと待ちn」 「珍しく起きてんのか」 特に気にした様子もなく後ろ手でドアを閉め視線を部屋に向けると…着替え途中で産まれたばかりの状態一歩手前のルイズが固まっていた。 「……ぅぁ…っぁ…ぁぁ……」 「ようやく自分でやる気になったか…まぁ今までやらなかった方がおかしい事だったんだが」 特に気にした様子も無く、デルフリンガーと新しいスーツの上着を掴むと外に出るべく固まってるルイズに背を向ける。 普通なら、まぁ見た方が焦って慌てながら後ろ向いてしどろもどろになって逆にいい感じに発展するというのが王道パターンなのだが この場合、一片の動揺すら見せず何時もと同じような扱いをしたのが『逆に』不味かったッ! もっとも、この前まで着替えさせていたというのに急に変えろというのが無理がある事なのだが。 「……み…み…みみみみ見た…見たわね…?」 「あ?この前まで着替えやらせといたマンモーニが何を今更」 気だるそうにかつどうでもいい風にそう答えたプロシュートにルイズの何かがキレかかった。 「…って…出てって!」 「今やってんだろーが…ま、自分でやる気になったんだから少しは『成長』したんだろうな。褒めといてやるよ」 この場合当然、精神的成長なのだが、キレかかっているルイズは、まぁその何だ、肉体的な意味の成長と受け取ったらしい。主に胸とか。 「……だだだ、誰の胸がすす、少ししか成長してないですってぇーーーーーーーーー!!」 「…なッ!誰もんなこたぁ言って「兄貴…そりゃ俺もそう思うが本人の前で言うのはヒデーと思うぞ」」 否定する前に空気の読めないデルフリンガーの一言。これで完全にルイズがキレた。 「で、出てってーーーーーーーーーー!!」 ドッギャァーーーーーz____ン 「なによ…見ておいて…いつもと変わりないなんて…わたしを対等に見てないってことじゃない…!」 さすがに泣きはしないが、信頼していると言われていたのに、対等に扱って貰えないという事が今のルイズにはそれが無性に悲しかった。 一方、間一髪爆破に巻き込まれる前に部屋の外に逃げたが再び部屋を追い出される事になりプロシュートがデルフリンガーを冷めた目で見ていた。 「あ、兄貴…俺なんかマズイ事言ったか…?」 「…じゃあこれからオメーがされる事を説明すんのは簡単ってわけだ…さっきオレが言ってないと言っている途中で余計な事言ったよなオメー」 「あ、兄貴ィ!ま、まさかッ!!」 ……… …………… ズッタン!ズッズッタン! 「うんごおおおおおおおおおお!!!」 ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! 「うんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 ズッタン!ズッズッタン…… ゼロのルイズ―しばらく引き篭もる事になる。 デルフリンガーパッショーネ伝統拷問ダンスを食らいしばらく鞘から出てこなくなる プロシュート兄貴ー再びフリーエージェント宣言&ザ・ニュースーツ! ←To be continued 戻る< 目次 続く
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「ここにフーケがいるの?」 「ええ、わたくしの調査によれば」 中から気取られない程度の距離を保って、一行は茂みの中から廃屋を観察 する。「ここからじゃ分からないわね」とキュルケが口にしたのを合図に、一同は一斉に顔を見合わせた。 「誰かが偵察に行かないとね・・・」 「セオリーとしては捨て駒が見に行くべきかしら」 「ちょっと!なんで僕を見るんだい!?」 あーだこーだと言い合うハデな髪の三人を尻目に、タバサが「ギアッチョ」と呟くのとギアッチョが腰を上げるのはほぼ同時だった。 「ちょ、ちょっとタバサ!?」 ルイズが抗議の声を上げる。青髪の少女はちらりとルイズを見ると、 「無詠唱」 ギアッチョを指してそう呟いた。そしてギアッチョがそれを受ける。 「なかなか実戦慣れしてるじゃあねーか小せぇのよォォー いい判断だ・・・この中で最も不意打ちに対応出来るのはオレってわけだからな」 無詠唱という単語にミス・ロングビルがピクリと反応する。腰に下げた剣を抜こうともせずに廃屋へ向かう男の背中を見ながら、ミス・ロングビルは誰にともなく尋ねた。 「ミスタ・ギアッチョはメイジなのですか?」 その質問に、全員が今度は一斉に彼の主を見る。ルイズはどう言っていいものか少々言いよどんだが、 「ま、まぁ・・・そんなものです 厳密には少し違うらしいですけど」 とりあえず当たり障りの無い程度に答えておくことにした。というか、ルイズもそれ以上のことは知らないのである。 魔法ではないとキッパリ言われたのだが、じゃあどこが違うのかと言うことまでは教えてくれなかった。 緑髪の秘書は無詠唱という部分を詳しく知りたがっているようだったが、今はそんな話をしている場合ではない。ルイズは使い魔が襲われてもすぐ助けられるよう、杖を抜いて彼を見守った。 木々に身を隠しながら小屋へと向かう。ギアッチョは別にいつ襲われてもいい、むしろ手間が省けるからとっとと襲ってこいぐらいの気持ちだったのだが、万一逃げられると後が非常に面倒なことになるので真面目にやることにした。 「ねえ、何かあいつ凄く隠れ慣れてない?」 後方で様子を伺うキュルケがそう口にする。タバサやギーシュ達も、その洗練された動きを興味深げに見守っていた。自分の使い魔が褒められて嬉しくない主人がいるだろうか? 「そりゃ、凄腕の暗殺者だったんだからね」 と胸を張りたかったルイズだが、流石にそんなことをバラしてしまうのはどうかと思って黙っていた。 そうこうしているうちに、ギアッチョは廃屋に辿り着く。入り口の横にスッと身を隠し、 ――ホワイト・アルバム スタンドを発動させる。 「人の気配はしねぇが・・・気配を殺す魔法なんてのがあってもおかしかねー 念を入れておくとするぜ」 ギアッチョの足から、小さくビキビキという音が発生する。その音は入り口へ 向かって進み、そしてそこを見事な氷の床へと変えた。 「逃げようとしてもこいつでスッ転ぶってわけだ」 そうしておいて、一分の無駄も無い動きで小屋の中へと滑り込む。身を低くして一瞬で周囲を見渡し、隠れている者がいないかを探した。 「・・・誰もいねぇな」 わざと声に出して呟き、そして敢えて隙だらけの挙動で小屋の中心に立つ。 五秒、十秒。何かが襲ってくる気配はない。逃げ出す気配もない。 「やれやれ」 どうやら本当に誰もいないようだ。別の意味で面倒なことになるなと思いながら、ギアッチョはルイズ達にOKのサインを送った。 「二番手は僕に任せたまえ!!」 誰もいないと分かって俄然やる気が出たギーシュが猛然と小屋に突進し、 「ワアアアアーーー!!」 見事に氷のトラップに引っかかった。一回転したのち背中から落下したギーシュを確認してから、ギアッチョはホワイト・アルバムを解除する。 わざとだよね?わざと解除しなかったよね?というギーシュの恨みがましい視線を清々しくスルーして、ギアッチョはキュルケ達を迎え入れる。 ルイズは小屋の外で見張りをし、ミス・ロングビルは周囲の偵察をすることになった。 まだ床で呻いているギーシュを「てめーも見張れ」と蹴り出して、キュルケ、タバサと共に家捜しにかかる。 程なくして、タバサが無造作に置かれていた破壊の杖を見つけ出した。 「ちょ、ちょっと待って 何かおかしくない?こんな簡単に・・・」 キュルケの疑問はもっともである。ギアッチョは警戒するように辺りを見渡した。 「普通に考えて罠だろうな これから何かを仕掛けてくるか・・・あるいは既に何かを仕掛けているかよォォ」 タバサはスッと杖を掲げると、探知魔法を唱える。 「周囲に魔力の痕跡は見当たらない」 タバサは簡潔に結果を報告すると、指示を待つようにギアッチョを見た。 「となると 外・・・か」 その言葉に答えるかのように、外から何かを叫ぶルイズとギーシュの声が聞こえ――それと同時にミス・ロングビルが室内に飛び込んで来る。 「皆さんッ!土くれのフーケが現れました!!」 ギアッチョ達は急いで外に飛び出す。そこには自分達に背を向けて魔法を唱えているルイズと、杖を取り出したもののどうしていいか決めかねているのかオロオロするばかりのギーシュがいた。 そして二人の視線の先に見えるのは、今まさに森の中へ逃げ込もうとしている黒いローブの人物だった。 次々と放たれるルイズの爆撃をかわそうともせず一目散に茂みを目指している。 「あのローブ・・・間違いなくフーケだわ!」 すぐさま追いかけようとするキュルケとルイズを手で制止すると、 「てめーらは破壊の杖を守れ マンモーニ!てめーはついてこい!」 言うが早いかギアッチョが走り出す。 「えええっ!?ぼぼ、僕がかい!?」 「何しに来たのよあなたはッ!」 キュルケがうろたえるギーシュの尻を蹴っ飛ばし、ギーシュはその勢いで泣きそうになりながらギアッチョの後を追った。 「どうして待機なの!?私も――」 ルイズが今にも走り出そうとするのを見て、ミス・ロングビルがそれを優しく諭す。 「ミス・ヴァリエール もしフーケが逃げている先に罠があった場合、全員で行けば一網打尽にされてしまう可能性があるのです ミスタ・ギアッチョの判断は的確ですわ」 それを聞いて、彼女はしぶしぶながら納得した。 ――そう、的確な判断の出来るあんたなら・・・必ずこうすると思ったよ ギアッチョとおまけの身を案ずる3人の後ろで、有能極まる秘書は彼女を慕う者が見れば卒倒するような笑みを浮かべていた。 小屋から二十数メイルは離れただろうか。土くれのフーケは依然逃走を続けていた。 チッ、とギアッチョは舌打ちをする。 ――こいつは罠を設置してある地点に向かって逃げている可能性がある・・・ そこに辿り着かれる前に、今動きを止める必要があるってわけだ。 ギアッチョはおもむろにデルフリンガーを掴むと、「え、ちょ、何を」という声も無視してそれを大きく振りかぶり、フーケ目掛けて投げつけた! ゴワァァァーンッ!! 金属同士がぶつかり合う派手な音を響かせて、フーケはどうと地面に倒れた。 デルフリンガーに悲しい親近感を覚えているギーシュを放置して、ギアッチョは己の剣を回収する。 「初めてだ・・・こんな酷い扱いをされるなんて・・・」 デルフがぶつぶつ呟いているのも無視。そんなことよりギアッチョには一つ気になったことがあった。 ――今、何故「金属同士がぶつかる音」がした? 脳裏に去来する最悪の可能性を払拭すべく、倒れているフーケを強引に引き起こす! 「――ッ!!」 ローブを身に纏っていたものは、ギーシュのワルキューレを髣髴とさせる青銅の甲冑であった。 「な・・・!?なんだいそれはッ!!」 ギーシュが異変に気付き声を上げる。 「ハメられたっつーことだッ!!」 ギアッチョはそう言い捨てて甲冑の頭部を蹴り飛ばす。氷を纏ったその蹴りに青銅の兜はあっさりと胴から分断され、鬱蒼とした森の茂みへと消え去った。 「コケにしやがって・・・!後ろを見ろマンモーニッ!!」 ギアッチョはブチ切れていた。悪鬼羅刹をも射殺さんばかりの双眸をギーシュに向けて怒鳴る。 「ヒィッ!」という声と共に、ギーシュは殆ど条件反射で元来た道を振り返った。 「ンなッ・・・!!」 ギーシュは絶句した。八体の青銅の騎士が、蟻の子一匹通さぬ密集隊形でこちらへ向かって来ていたのだ。 「既にオレ達はよォォ~~・・・罠にかかっていたっつーわけだ」 バギャアア!!と土に戻りつつあった黒いローブの青銅人形を踏み潰して、ギアッチョは今や2メイル程にまで距離を詰めた甲冑の一個分隊に向き直る。 「わ、罠だって・・・!?」 ギーシュがオウム返しに口にする。 「オレ達とあいつらを分断し・・・あわよくば始末するってところだろうなァアァ。ナメやがって!クソッ!クソッ!!」 ギーシュはとりあえずギアッチョから1メイルほど距離を取った。 「そ、それでどうするんだい!?」 造花の杖を引き抜いてギアッチョに問う。 「ブッ潰して戻るッ!!」 言うがはやいか、ギアッチョの右手が氷に包まれ始め――、数秒後、それは氷の曲刀を形成していた。 「剣の作法は知らねーが・・・こいつで首を掻っ切るなぁ慣れてるからよォォー!」 ギアッチョは腰を落として氷刀を構え、ギーシュがワルキューレの練成を開始し――そして、戦いが始まった。