約 579,072 件
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/168.html
「オレは、姫のしあわせを守るのも、近衛隊長の仕事だと思うんだがな」 ラプソーンを倒し、皆がそれぞれの生活に戻ってから三カ月が経った。 明日は、ミーティア姫と、あのチャゴス王子との結婚式。 ククールは、さっきからエイトに結婚式をぶち壊すようにけしかけている。 でもエイトは首を縦には振らない。ミーティア姫のことだけじゃなく、自分を今まで育ててくれたトロデ王や、トロデーンの人達のことを思ってしまって動けないでいる。エイトはそういう人。 「・・・わかった。お前がどうしても動かないっていうなら、オレがやる。明日、姫様を大聖堂からさらって逃げる」 ククールのその言葉に、私は心臓が止まるかと思った。 「よく考えたら、近衛隊長なんて肩書背負っちまったお前と違って、オレは騎士団を抜けた身軽な体だしな。最初からオレがやるべきだった。じゃあ、そういうことで。無理言って悪かったな」 そう言ってククールは宿屋を出ていってしまう。 唖然としているエイトとヤンガスを残して、私は彼の後を追う。 さっきの言葉を、本気で言っているのかどうか確かめたかった。 ククールはすぐに見つかった。彼はとても目立つから。階段の途中に立って大聖堂を見上げていた。 「ゼシカ? お前、女の子がこんな時間に一人で出歩くなよ。・・・って、何かこういうセリフ、もうそろそろ言い飽きたな」 私の気配に気づいたククールは振り返って、呆れたように言う。 その響きがカンに障った私は、つい声を荒げてしまう。 「だったら、言わなきゃいいじゃない! そうやって保護者ヅラしないでよ。私、ククールのこと兄さんみたいだなんて思ったこと、一度もないんだからね!」 ククールは私の顔をしばらくジッと見つめてて、それからちょっと寂しげに笑った。 「そうだな。ゼシカの兄貴はサーベルト一人で充分だよな。前に言ったあの言葉、取り消すよ。変なこと言って悪かった」 ・・・違う。違わないけど、違うの。こんな言い方したいんじゃない。だけど、訂正するよりも先に、訊きたいことがある。 「さっきの話、本気で言ってたの?」 今の私には、他のことを考える余裕はない。 「ククールは、ミーティア姫のこと、どう思ってるの?」 「そりゃあ、姫様は美人で可愛くて、健気だからな。幸せになってほしいと思ってるよ。あんなチャゴスなんかにくれてやるのは、もったいなさすぎる」 「愛してる、わけじゃないの?」 「そう訊かれると、違うっていうしかないな」 ククールはあっさりと言い放つ。 「そんな軽い気持ちでよくあんなこと言えたわね。もし捕まったら、きっと死罪よ。あんた一人の問題じゃなくて、いろんな人に迷惑がかかるのよ。同情でそうするんだったら、無責任すぎるわよ」 「同情で何が悪い?」 刺すようなククールの言葉の響きに、私は何も言えなくなった。 「同情でも何でも、助けが必要な時は誰にだってあると思うぜ」 それはわかるわ。でも私が言いたいのはそんなことじゃない。 「それに、捕まるようなヘマはしないさ。ゼシカも知ってるだろうけど、花嫁っていうのは父親にエスコートされて、外から入場する。その時に乱入してルーラを使えばいい。 行き先は、そうだな。レティシアあたりがいいか。普通の奴らは追ってこられないし、あそこの服装はオレ好みでもあるしな」 ・・・確かに、そのやり方ならうまくいきそうだわ。 わかってる、ククールは勝てない勝負は決してしない人。成功するとわかってるから、あんなこと言い出したんだって。 「あとは、あの時のパーティーメンバーが見逃してくれれば、それでOKだ。それともゼシカ、オレたちをチャゴスの奴に売ってみるか?」 私は一瞬で頭に血が昇った。 「バカにしないで!」 ククールを殴ろうとするが、あっさりとかわされてしまう。 「危ねえな、こんなところで暴れるなよ。悪かった、冗談だって。そういうことする奴は一人もいないって信じてるよ。そうでなきゃ、こんなにペラペラ喋るかよ」 冗談だっていうのは、もちろんわかってる。でも私にとっては冗談じゃすまない。私、ミーティア姫に嫉妬してる。旅をしている間、私だけに差し出されていた手が、今度はミーティア姫に伸ばされる。 私と同じだけククールと旅をして、彼が本当に優しい人だってこと、ミーティア姫はきっとちゃんとわかってる。始めはエイトのことを想っていても、いつかはククールの事を愛するようになるかもしれない。そして、ククールはそんなミーティア姫を決して裏切ったりしない。 私は自信がない。そうなった時に、ククールが言ったように、醜い感情にかられてチャゴス王子に二人を売らないなんて言い切れない! 好きなのよ。私はククールを愛してるのに! 私はバカだ。どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。 会えなくなって初めて自分の気持ちに気が付いて、何度もククールに会いに行こうと思った。でもククールが私を守ってくれていたのは、世話の焼ける妹を見るような気持ちだったんだって知らされて、どうしても訪ねてなんていけなかった。 だけど、こうしてミーティア姫の護衛の同行を頼まれて、また会えるんだと思ったら、その前にこの気持ちに決着をつけたいと思った。妹じゃイヤだって。ククールのこと、お兄さんだなんて思えない。男の人として好きなのって、そう伝えたかった。 だから覚悟を決めてドニの町まで会いに行ったのに、その時ククールは出かけていて会えなくて。しかも、それを教えてくれたのが、ククールと今お付き合いしてるっていう踊り子さんで、ククールは今、その人の部屋で寝泊まりしてるってことまで教えてくれた。 確かにショックだったけど、私にそれを、どうこう言う権利はないのはわかってる。 だけど、それならどうして女の人をもう一人連れてきたりするの? それって二人ともに対して失礼じゃないの? ・・・でもそういうククールを最低だと思うのに、どうしても嫌いになれない。やっぱり好き。自分でもバカだと思うけど、どうにもならない。 花嫁強奪。それも一国の王女を一国の王子から奪うなんて危ないこと、してほしくない。 今よりも遠くには行かないでほしい。 でも言えない、どうしても。私は意気地無しだ。拒絶されて傷つくのが怖いのよ。 そして運命の夜が明けた。 ククールとヤンガスが起き上がって出て行くのがわかったけど、私はそのまま寝たふりをしていた。何となく、ククールと顔を合わせたくなかったから。 エイトは、まだ目を覚ます気配はない。一晩中ベッドに腰掛けて考えこんでたみたいだから無理ないけど。 でも私なんて横になってても眠れなくて、そのまま朝になっちゃったっていうのに、こうやって最終的に寝てるエイトも、やっぱりよくわかんない。 旅の間は、どこでも、どんな状況でも熟睡してる姿を頼もしいと思うこともあったけど、呑気者なだけなのかも。 そもそも、エイトが自分でミーティア姫をさらってくれれば、ククールが代わりにやろうなんて言い出さなくて済んだのに。その辺り、わかってるのかしら。 ・・・ごめんね、エイト。今のは八つ当たり。相手は仕えてるお城のお姫様だもんね。そんなこと簡単にできるはずないよね。 『好き』って一言さえ言えない私に、そんなこと思う資格なかったわ。 そろそろ結婚式が始まってしまう。エイトはまだ眠ってるけど、私もとりあえず宿屋を出た。 大階段の下で、ククールとヤンガスが何か相談してるらしき雰囲気。本当にミーティア姫をさらって逃げるつもりなのかしら。 そう思って見ていたら、いきなりヤンガスがククールの向こう脛を蹴飛ばした。遠目に見ても、すごく痛そう。 「一応これで勘弁してやる。今度はちゃんとやれよ」 私が近づくと、珍しくヤンガスが真面目な口調でククールに言っているのが聞こえた。 「じゃあ、アッシはエイトの兄貴を呼んでくるでげす。あ、ゼシカの姉ちゃん、おはようでがす」 ヤンガスは普通に私に朝の挨拶をして、宿屋へと歩いていった。 「何やってたの?」 私が訊いてもククールは何事もなかったような顔をする。痛む足はおさえてるくせにね。 「いや、別に何も」 そうやって、私はいつも仲間外れ。何よ、いいわよ、もう。 ・・・ククールを止めるなら今が最後のチャンスなのよね。でも何て言えばいいの? 私は散々助けてもらっておいて、ミーティア姫を助けるのはやめてって? 言えるわけないじゃない、そんなこと。 エイトが起き出してきた。もう結婚式は始まってしまっている。 「あんだけ人が多けりゃよ、どさくさにまぎれて、何かやらかしても大丈夫なんじゃねーかな」 ククールはあっさりと言う。人が多いとか少ないとか、そういう問題じゃないと思うわ。 「ミーティア姫様もガンコよね。いくら先代の約束でも、イヤなら、やめればいいのに・・・」 ・・・イヤだ、こんな自分勝手なこと言うの。だけど思っちゃうのよ、どうしても。こんな結婚無かったことにしてくれれば、ククールだって無茶なことしなくて済むのにって。 「一国の姫君ともなると、そういうわけにも、いかないのかな?」 フォローの言葉のつもりで付け足したけど、だからって私の醜い感情が消えてくれるわけじゃない。 「あとオレたちは仲間だ。お前が何かするつもりなら、ちからを貸すぜ」 ククールの言葉に、それまでうつむき加減だったエイトが顔を上げた。その目には輝きが戻っている。 「ほら、行ってこい。姫様が待ってるぜ」 ククールに背を押され、エイトは弾かれたように階段を駆け上がっていった。 「はあ~っ、やっと行ったか。全く世話の焼けるヤツだぜ」 エイトの背中を見送るククールの目は、とっても優しかった。でも何だか、もう自分の役目は全部終わったって感じ。 「・・・ククールは、行かないの?」 「何で、オレが?」 「何でって、昨夜言ってたじゃない。ミーティア姫をさらって逃げるって」 「その時ちゃんと言ったろ? エイトが動かないならオレがやるって。あいつが自分でやるなら、オレの出る幕じゃないさ」 ・・・何よ、それ。要するにエイトにハッパかけただけってこと? 「ま、エイトが最後まで渋るようなら、姫様をさらった後にエイトのヤツもぶん殴って、レティシアに強制連行するつもりだったけどな」 ・・・やりかねないわ、この人なら。でもこんなこと言ったって、多分ククールは信じてたと思う。エイトが自分の意志でミーティア姫を迎えに行くこと。 だけどどっちにしても、エイトとミーティア姫を結び付けるつもりだったってことで、自分が姫と暮らすつもりは無かったってことよね。私一人でヤキモキしてバカみたい。 「でも退路は確保してやらないとな。大聖堂の警護の騎士団員は腕の立つヤツが揃ってそうだしな」 そうね。私、自分のことばかりで、エイトのこともミーティア姫のこともちゃんと心配してあげられなかった。そのお詫びをしなくちゃ。 それに、煉獄島に押し込められたお返しをするチャンスでもあるんだわ。 「ゼシカ、手加減て言葉知ってるよな?」 またククールが見透かしたようなことを言ってきた。 「失礼ね、当たり前でしょ」 ・・・ベギラマくらいはいいかなって思ってたけど、メラで勘弁してあげるわ。 エイトが大聖堂に乗り込むより先に、ミーティア姫とトロデ王は式場から逃げ出していた。 一国の主としては間違った行動かもしれないけど何だか嬉しい。土壇場で自分の気持ちに正直になってくれたミーティア姫も、王であることよりも娘の幸せを願う父親であってくれたトロデ王も。 騎士団員たちを蹴散らした私たちは、エイトたちが乗っている馬車が見えなくなるまで、その姿を見送った。 また私たちは解散して、それぞれの生活に戻る。そして・・・。 そして? それでいいの? エイトたちは国同士の結婚をぶち壊してまで、自分たちの想いを貫いたのよ? 私には失うものなんて何もないのに、何をためらってるの? 「ククール~! 見てたわよ、すごくカッコ良かったー!」 私がやっとの思いで絞り出そうとした声は、バニーさんの声であっさり遮られた。 「エイトさんに会わせてくれてありがと。でもお姫様と駆け落ちしちゃうんだもの、つまんない。ねえ、そっちの丸くてワイルドなお兄さん。あたしのヤケ酒に付き合ってくれない? 一人で飲むのは寂しいの。でも飲むだけよ、パフパフとかはナシよ」 「アッシの場合はヤケ酒じゃなくて祝い酒でがすが、それで良ければ付き合うでがす」 意外なほとアッサリとお誘いを受けたヤンガスは、ククールを上目使いで睨んで言った。 「さっきの話、覚えてるな? これ以上ゴチャゴチャしてると・・・」 「わかってるって。今度は大丈夫だ、ちゃんと言う。もう蹴られるのはゴメンだしな」 何? 言わないと蹴られる言葉? ヤンガスは今度は私の方を向く。 「いいでがすか、ゼシカの姉ちゃん。ククールに泣かされるようなことがあったら、すぐにアッシに言ってくるでげすよ」 「うるせえよ、いいからサッサと行け」 ククールが追い払うような仕草を見せる。私は全然ついていけない。 「じゃあね~、ククール~」 ヤンガスとバニーさんは、キメラのつばさを使ってどこかへ飛んでいってしまった。 「ほんとにそのお嬢様、強いんだ」 今度は踊り子さんが声をかけてきた。 ・・・この二人は今、一緒に暮らしてるのよね。ってことは、この場のお邪魔虫は私ってことで、私がどこかに消えた方がいいのよね。 「いいよ。もうこれで許してあげる。お嬢様、ククールのことよろしくね。ククール、このコのことまで泣かせたら、承知しないんだから」 ・・・えっ? ククールが申し訳なさそうにうなだれる。 「ああ、わかってる。本当に・・・」 「ゴメンなんて言ったら、別れてやらないよ」 「・・・ありがとう」 「そう、それでいいの。じゃあね、二人とも、お幸せに」 そう言って踊り子さんも、キメラのつばさでとんでいってしまう。 「とりあえず、オレたちも移動しよう。騎士団員たちが追ってきたら面倒だ」 そしてククールはルーラの呪文を唱えた。 着いたのはリーザス村の入り口。私の頭は本当に置いてけぼりで、何がおこってるのか考えが追いつかない。 「ゼシカ・・・」 ククールの手が、私の前髪を掻き上げる。そこまでは三カ月前の別れの時と同じ。 でも、今ククールの唇が重なっているのは額じゃなくて、私の唇。 「・・・愛してる」 今、何がおきてるの? 「今までごめん。オレは本当に意気地無しで、ゼシカに悲しい思いさせてきた。でももう逃げない、約束する。ようやく勇気が持てた、自分の気持ちに嘘はつかない。許してくれるのなら、ゼシカとずっと一緒に生きていきたい」 ククールの目はとても真剣で・・・でも、私はすぐには信じられない。 「だって・・・じゃあ、なんで女のひと二人も連れてきたりするの? それでそんなこと言われたって、信じられないわよ」 ククールはちょっと目を泳がせて、それからようやく聞き取れるような声でボソリと呟いた。 「断れなかったんだ・・・」 ・・・何だか、急に納得いってしまった。 「・・・そうよね。ククールって、意外と押しに弱くて、頼まれたらイヤって言えないところあるわよね」 エイトの寄り道も、文句言いながら全部付き合わされてたものね。 「ん、まあ、そうなんだけど・・・。ほんとゴメン。なんていうか、こんな情けないヤツで。多分この先、いろいろガッカリさせることあると思うけど、出来るだけ直すようにするから」 「・・・知ってるわ。他の人の為だと大胆だけど、自分のことになると結構臆病なところあるのよね」 でもそれは誰でも同じ。私だってそうだったもの。 「嘘つきなのも、見えっ張りなのも、意地悪なのも、単純なところあるのも、お調子者だったりするのも、全部知ってるわ」 それをうまく隠せてると思ってるあたりが、またマヌケなのよ。 「クールぶってるのがカッコいいって勘違いしてるところや、見た目は大人っぽいけど中身は子供なところも、全部知ってるわよ。今さら何を見たってガッカリなんてするわけないじゃない」 ククールはガックリと肩を落としてしまった。 「前からそうじゃないかと思ってたけど、ゼシカ、男の趣味悪いんじゃないか? どこがいいんだよ、こんなヤツ」 もうダメ、なんてカワイイ人なの! 好きになる以外、どうしようもないじゃないの。 「そういうとこ、全部よ!」 いろいろ言いたいこともあるけど、今はいいわ、全部許せちゃう。 我慢できなくて、ククールに抱き着いた。ククールもちゃんと抱き返してくれる。 「信じられないかもしれないけど、ほんとにずっとゼシカだけ見てた」 「知ってたわ・・・ずっと」 そうよ、気づいてなかってけど知っていた。ククールがどんなに私を優しく見ていてくれたか。だから私は自分の信じた道を進むことが出来た。 「愛してる」 声と身体の振動で二重に伝わる言葉。今度こそ本当に信じられる。 「私も、愛してる」 ようやく素直に伝えられた言葉。幸せすぎて怖いくらい。 また仲間たちは解散して、それぞれの暮らしに戻って、そして・・・。 そしてその後はこう続くのよ。 二人はいつまでも、仲良く幸せに暮らしましたって! <終> そして-前編
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/154.html
神鳥レティスの願いを受けて、人質にされてる卵を救うために神鳥の巣がある山を登っていた私たちは、魔物の不意打ちをくらった。 態勢を整える間もなくヤンガスは集中攻撃を浴びてしまい、深手を負ってしまう。 何とか魔物は蹴散らしたけれど、ベホマの呪文すら全く効果が見られない程にヤンガスの受けたダメージは大きく、ククールとエイトが二人掛かりでザオラルを唱えている。 ザオラルは死者を蘇らせる呪文だなんて言われてるけど、そんな都合のいい魔法なんてものが、この世にあるわけがない。ホイミ系の呪文は本来人間が持っている治癒力を、爆発的に引き上げて傷を塞ぐ魔法。 でも、それすら効かなくなる程に弱ってしまった体に、生命力を吹き込むことが出来る呪文がザオラル。それだって成功するとは限らない、難しい魔法。 こんな時、自分がもどかしくて、どうしようもない。。 私だって役割は決まっている。せいすいを使って魔物を近寄らせないようにし、治療の邪魔をされないようにこの場を守る。今、この状況で戦えるのは私だけ。 だけど、どうして私は回復魔法が使えないの? こんなふうに仲間が弱っていく姿を、ただ黙って見ているしかない。 ザオラルを使わなくちゃならない状況は今までにも何度かあったけど、こんなものに慣れることは出来ない。 ヤンガスがこんなことで負けたりしないって、わかってる。ククールとエイトが必ず助けてくれるってことも信じてる。 だけど、やっぱり不安にはなるのよ。 まして、今日はいつもより治療に時間がかかってるみたいなんだもの。 エイトのザオラルが効果を発揮し、ヤンガスの顔に生気が戻る。 続けてベホマがかけられると、ヤンガスはすぐに目を覚まして口を開いた。 「血が足りねえ、メシと酒・・・」 ・・・こんなこと言えるんなら、もう大丈夫ね。心配して損したわ。 レティスには悪いけど、卵を取り戻すのは一日待ってもらうことにして、この闇の世界のレティシアで体力とMPを回復させてもらうことにした。 いつもはミーティア姫とトロデ王のお世話をするエイトだけど、今日は私が代わることにした。今日くらいはヤンガスに付き添ってあげたいってエイトが言うから。 なんだかんだ言っても、やっぱりエイトは優しいわよね。 ますますヤンガスの『兄貴ラブ』が白熱しそうだわ。 「ゼシカは心配性じゃな。昔から美人薄命と言うじゃろう。その言葉に従うと、ヤンガスのやつは殺しても死にゃあせんわい。心配して損したのう」 トロデ王に,神鳥の巣でヤンガスが死にかけたことを話したら、こんなことを言って笑ってる。 素直じゃないわ。その場にいたら一番心配するの、きっとトロデ王なのにね。 「ワシらのことはいいから、お前も休んだ方がいい。明日もまた山登りじゃろう? 疲れを残すと後が辛いぞ」 私はお言葉に甘えて、そうさせてもらうことにした。せいすいを念入りに馬車の周辺に振り撒いて、魔物が近づけないようにしてから村に戻る。 水場の近くを通ると、私と同じように色の着いてる人が、この村の娘さんと何やらお話ししていた。 視線を感じたのか二人は私の方を振り返る。村の女性の方は、慌てたように立ち去ってしまった。 何よ。ククールは怖くなくて、私は怖いわけ? 失礼しちゃうわ。 「あの人『光の世界の人なんて信用できない』って言ってた人よね。そのわりには随分親しげに話してたじゃないの」 つい、トゲのある言い方をしてしまう。 「親しげでもないさ。洗濯道具借りてただけだよ。ヤンガスの服、血まみれであんまりだと思ったから洗ってやってたんだ」 ・・・確かにククールの手には、濡れたヤンガスの服がある。 「言ってくれれば私が洗ったのに。何度もザオラル使ったから疲れてるでしょう?」 「ゼシカはトロデ王と姫様の世話してただろ? その上洗濯までさせられないさ」 ククールはどんな時も、私をあてにしてはくれない。出来ることは全部、自分でやってしまう。そして、大抵のことは一人で出来ちゃう。 「ククールはすごいね」 思わずこぼしてしまう。 「覚えてる呪文の数は私と同じなのに、攻撃も補助も回復も全部揃ってて、バランス良くて。おまけにMP無くなったら役立たずになる私と違って、ちゃんと武器でも戦えるんだもの。 出来ることが多くて羨ましい。私だってせめて回復魔法だけでも覚えられたら、みんなを守れるのにね」 ククールは一瞬だけ私の顔をジッと見て、それからいきなり笑い出した。 「何よ、何がおかしいのよ! 私は真剣に言ってるんだからね!」 ククールが、ひとのコンプレックスを笑うような人とは思わなかったわ。 「悪い悪い。ゼシカのオレに対する評価が意外と高かったのに、驚いちまった。まさか羨ましがられてるとは、夢にも思わなかった。 この上ゼシカに回復魔法まで覚えられたら、オレの立場が無くなるっつーの。贅沢なこと言ってんじゃねえよ」 ククールはまだ笑いが収まらないようで、私はますますムキになってしまう。 「あんたみたいに一人で何でも出来る人に、私の気持ちなんてわかんないわよ。 私なんて、攻撃魔法しか取り柄がないのよ。もう一つくらい出来ること増やしたいと思って何が悪いの?」 「わかってねえのはゼシカの方さ。一人旅するならともかく、パーティー組む上で何でも一通り出来るヤツなんて、大して重要じゃない。 何か一つ得意なものがある人間の方が、ずっと役に立つんだ。それに回復魔法は皆を守る呪文なんかじゃない。全く逆で、守れなかった結果だ」 ククールの声が厳しいものに変わる。 「回復しなきゃならないってことは、誰かが傷ついたってことだ。大事なのは攻撃をくらう前に敵を全部倒しちまうこと。 ゼシカはいつでも、真っ先に魔法を放って敵の頭数を減らしたり、体力を削ってくれてるだろ? そのことでケガさせられる確立が激減する。 一番理想的な形でオレたちを守ってくれてるんだ。回復魔法なんて、使わずに済むなら、その方がいいに決まってるさ」 ・・・最近、少しわかってきた。ククールは優しい人ではあるけど、決して甘くはないって。 慰めたり励ましたりはしてくれるけど、気休めの嘘は言ってくれない。本当に必要な時は必ず助けてくれるけど、半端な気持ちでやっていることに手を貸してはくれない。 だから、その言葉も行動も信じていいんだって。 「それに、エイトの奴がベホマズン覚えてくれやがったから、オレは回復役としても二番手に降格だぜ? それを羨ましいとか言われたら、笑うしかねぇだろ。 そんなことより早く戻ろうぜ。昼も夜もわからないなら、サッサと寝ちまった方がいい。起きたらまた、あのキッツイ山登りが待ってんだからな」 そう言って、村長さんの家に向かって歩きだしたククールの後ろ姿。 何だか突然、その姿が消えてしまいそうな気がした。 「ククール!」 私は思わずククールの腕にしがみついてしまう。 「何だ、どうした?」 ククールは驚いたように振り返る。蒼い瞳が私の顔を覗き込んでいる。 「・・・何だか、ククールがいなくなっちゃうような気がしたの・・・」 そう思ったら、急に怖くなった。足元が崩れてしまうような気持ちになった。 「何だよ、それ。疲れてるんじゃないのか? 今日はヤンガスが死にかけたり、色々あったからな」 ・・・そうね。きっとヤンガスのことがあったから、不安な気持ちになったのかもしれない。 「それと、あれか。美人薄命っていうからな。オレのことは儚く見えても仕方ないよな」 そのククールの言葉に、私は吹き出してしまった。 「やだ、さっきトロデ王も同じこと言ってたのよ、美人薄命って」 変な所で発想が似てるのよね、この二人って。 「あのおっさんと同レベルかよ・・・」 ククールは肩を落としてしまった。 男のくせに自分を美人だなんて言うアホな人の、どこが儚いのよ。消えちゃったりするはずないじゃない。私ったら、バカみたい。 さっきのはきっとアレだわ。この黒一色の世界で、こんな真っ赤な格好してる人、浮いて見えて当たり前よ。感覚がおかしくなってただけよ。 ・・・でももしククールに何かあった時、私は守れるのかしら。 いつも助けてもらうのは私ばかりで、泣き言言って励ましてもらうのも私の方。だって、ククールには基本的にスキがないから、私にはしてあげられることがないんだもの。 守られるばかりはイヤ。私だってククールのこと守りたいのよ。 確かに回復魔法を覚えたいなんていうのは、ないものねだりだと思うけど、強くなりたいって思うことは間違ってないわよね? 不安-後編
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/170.html
ラプソーンを倒し、ドニの町に落ち着いてから二カ月近く経つ。 いや、落ち着いてっていう表現は正しくないかもな。そんなヒマなんてまるで無かったから。 ラプソーンを倒しても、全てが解決するほど、世の中甘くなかった。 マイエラ修道院とドニの町の周辺は、もうメチャクチャというしかない状態になっていた。オレが余計なことをしたのも原因の一つだ。 三大巡礼地の一つである聖地ゴルドが崩壊し、神頼みが好きな連中は救いを求めるように、サヴェッラ大聖堂とマイエラ修道院へ殺到した。 だけどマイエラ修道院では、騎士団員たちが毎日飲んだくれてて、まともな運営がされてなく、かろうじて修道士によって支えられてた。 それなのに、オレが下手に教会のお偉方にゴルドへの救援要請なんかしたもんだから、マイエラに残っていたまともな聖職者たちのほとんどが、ゴルドへと派遣されちまった。 マイエラ修道院は機能停止状態になった。 修道院の回りを警護する騎士団は役目を放棄し、巡礼者たちを魔物から守るヤツは誰もいない。それでも何とか逃げ延びて、ようやく修道院に辿り着いた巡礼者たちの傷の治療を出来る聖職者も、ほとんど残っていない。 だけど、巡礼者たちにそんなことが事前にわかるはずがない。巡礼をやめさせる手段なんてものも無い。 おまけにラプソーンのせいで、闇の世界から出て来た強い魔物たちがまだ残ってて、この辺をウロウロしてるもんだから、死人ケガ人、続出の状態だった。 そんな中でオレに出来ることは、人を襲ってる魔物を退治することと、ケガ人をドニの教会に誘導して治療することぐらい。 毎日修道院の周りを巡回し、魔物を倒して、巡礼者たちを死なせないようにはしてる。 大分慣れてはきたけど、一人で戦闘能力の無い人間を守りながら魔物と戦うことは、正直かなりキツい。 ラプソーンと戦う方が楽だったような気がするくらいだ。 今思うと、あのラプソーンも、ほんとに小者だぜ。 普通だったら、暗黒神なんてものを倒せば、魔物が人を襲うことなんて無くなって、世界は平和になるって話は決まってるだろうに、そんな気配はほとんど無い。 もう心配なくなったっていうのに、空が赤く染まったことを不安に思い続ける連中が、神にすがろうとすることも変わらない。 ゴルドの女神像が暗黒神だったなんて皮肉すら、何も変えることが出来てないんだからな。 一人で生きていきたいと何度も口にしたことがあるけど、実際にはなかなか難しい。 今も、ドニの町の人間を巻き込んで、迷惑かけてる。 特にシスターには申し訳ない。自分で誘導したケガ人は、自分で治療するようにはしてるけど、それでも傍観してられない優しい人で、手伝おうとしてくれるもんだから、ただでさえ一人できりもりしてる教会なのに、負担がデカくなってる。 それと、居候させてもらってる踊り子のリンダにも迷惑かけてるとは思う。 言葉遣いは少し粗いが、昔から細かいことにこだわらないサッパリしたアネゴ肌で、面倒見のいい女だった。 魔物退治とケガ人の治療に追われて、教会で仮眠を取るだけのオレを見かねたんだろう。二週間ほど前にいきなり教会にやってきて、ケガ人の治療を終えたオレの腕をつかんで有無を言わさず部屋に引きずり込み、自分のベッドに寝かせてくれた。 そしてオレはそのまま住みついちまった。 初めの一カ月は闇雲に魔物退治に一日のほとんどを費やし、何も考える余裕がなかったけど、最近は大分慣れてきたせいで、部屋に戻るといろんな事を考えちまう。 首から下げている、騎士団長の指輪を取り出す。 オレが今ここでやってることは、自己満足の範囲を出てないことはわかってる。 本当にこの土地で起こってることを解決したいなら、この指輪を使って団長命令とでも何でも得意の嘘を吐いて、騎士団員たちに修道院の周りの警護をさせればいい。 でもオレがサヴェッラで打った芝居が元で、修道院が機能しなくなった。今度もまたどこかに無理が生じるんじゃないかと思うと、二の足を踏んじまう。 つくづく中途半端な自分に呆れる。 そして、視線は指輪を通している鎖へと移る。 指には嵌められないブカブカな指輪を失くさないようにと、ゼシカがくれたもの。 旅の間に集めた武器も防具も、全部トロデーンに置いてきたから、これだけが唯一の旅の記念にもなる。 ・・・あんな別れ方をしたけど、そのままにしておくつもりじゃなかった。 自分の気持ちにもっとはっきり区切りをつけて、もう少しマシな態度で接することができるようになったら、様子を見に行こうと思ってた。 なのに日々にただ追われて、二カ月も放ったらかしにしちまってる。 ・・・オレは本当に何もない人間なんだと思う。 何やらせても中途半端なうえに、まともな感情も持ち合わせていない。 あんなに別れが辛かったはずのゼシカとも、会わなけりゃ会わないで何ともない。 それどころか、他の女の部屋に住みついて、平気でその女を抱いてる。 親代わりの院長の仇さえ、まともに憎めなかった。暗黒神なんて名乗っちゃいるが、滅ぼされるために復活させられた、哀れな化け物としか思えなかった。 マルチェロのことだって、一応気にはなってるが、本当に心配してるんだかどうだか自信がない。 きっと、オレはどこか感情が欠けてるんだろうな。 人間、必要に迫られれば、何でもできるようになるもんだ。 レイピア一本で魔物退治するのはかなりキツくて、もう少し切れ味のいい剣を貰っとけば良かったと後悔もしたもんだが、おかげで剣の腕はあがって、武器の性能に頼らなくてもいい大技も習得できた。 だいぶ落ち着いた状態になったのか、ゴルドにいた騎士団員や派遣されてた修道士が戻り始め、修道院の周辺も落ち着きを取り戻しつつある。 ようやく少し身体を空ける余裕が出来たので、オレは時間を見つけてルーラでベルガラックへととんだ。 カジノのオーナーの、フォーグとユッケに呼ばれてたからだ。 先代のギャリングは、オレの死んだ親父がここのカジノで負け込んだカタに、領地を没収したっていう、それだけ聞くと険悪になりそうな関係なんだが、ガキだったオレにいろいろ良くしてくれて、養子縁組の話までもちかけてくれた恩人だ。 イカサマカードを初め、ロクでもないことばかり教えてくれた師匠でもある。 だから、ここの兄妹が困ってる時はいつでも力になると約束した。それが少しでも恩返しになってくれればと思いながら。 「久しぶり、クク兄。元気だった?」 ユッケの出迎えの言葉を聞いて、思いっきり脱力した。 「ユッケ、頼むから『クク兄』はやめてくれ。力が抜ける」 「えー。でもお兄ちゃんだと、フォーグお兄ちゃんと区別つかないし」 「だから、無理に兄呼ばわりしないでいいから。ククールでいい」 「だって、せっかく背が高くて顔のキレイなお兄ちゃんが出来たんだもん。自慢したいじゃない」 「背も高くなくて、顔もキレイじゃなくて悪かったね」 フォーグがちょっとスネたような声で抗議した。 「今日来てもらったのは他でもない。三カ月前の大王イカの件なんだ。うちの用心棒たちが不甲斐ないばかりに、キミの手をわずらわせたそうだね」 ・・・ああ、あったな。そういうこと。ラプソーンとの最後の戦いの前、大当たりしそうな予感があってカジノに立ち寄った時に、水遊びしてる大王イカを退治したんだ。せっかく黙っててやったのに、バレたのか。 「こんなことでは、彼らに身辺警護を任せるのは心もとない。そこでキミに彼らを少し鍛え直してもらいたいんだよ。引き受けてもらえないか? よければそのまま、この街に残ってもらいたいとも思ってるんだ」 フォーグの誘いに、正直少し心は動いた。 マイエラの周辺は落ち着いてきたし、いつまでもドニの町の人間の好意に甘えてるわけにはいかない。それにベルガラックの街はオレには合ってると思う。・・・少なくとも、リーザス村よりは。 「少し考えさせてほしい。引き受けるにしても、今いる所をすぐに離れるわけにはいかないんだ。ちょっといろいろ立て込んでてさ」 「何、クク兄? 暗黒神とやらを倒しても、まだ何か大変なことあるの?」 「だから『クク兄』はやめろって・・・ユッケ、お前何で暗黒神なんて?」 フォーグとユッケは顔を見合わせて呆れ顔をする。 【世界一のカジノのオーナーの情報網をナメないでほしいね】 兄妹仲のいいこった。見事にハモって答えてくれた。 ・・・またオレは、助けられてたんだ。 大王イカを退治した日、オレは100コインスロットで二時間の間に『777』を三回出した。隣で見てたエイトは、イカサマしたと勝手に決めつけてたけど、無理に決まってるだろ、そんな芸当。 あれはこの二人が、裏で手を回してくれてたんだと気づく。オレたちが暗黒神なんてものと戦ってるのを知って、武器や鎧を遠回しに差し入れてくれたってことか。 「あと、父の遺品を整理してたら、こんなものが出てきたんだ」 フォーグが見せてくれたものは、一枚の書類。土地の権利書だった。 今は何もない、ただの荒れ地になっているこの土地は、かつてオレの生まれた家があった場所・・・。そして名義人の欄には、オレの名前があった。 「その権利書の名義が書き換えられたのは、父が亡くなる前の日なんだよ。そういうことを決して口にする人ではなかったけど、何か予感めいたものがあったのかもしれないな」 「それとこれ、多分一緒に書いたと思うんだけど、クク兄あてだと思う。中は見てないからわかんないんだけど、多分ね」 ユッケが封がされた手紙を渡してくれる。宛て名には『デカくなったチビスケへ』と書かれてある。予感めいたものがあった人の書く言葉とは、とても思えなくて、思わず苦笑しちまった。 オレは権利書をフォーグに返す。 「これは、受け取れねえよ。もらう理由がない」 「そう言われても、こっちだって困る。父がどんな気持ちでこうしたのか、わからないわけじゃあるまい? はい、そうですかと引き下がるわけにはいかないよ」 「・・・それはそうだよな。・・・正直、ちょっと動揺しててさ。悪いけど、とりあえずは預かっといてくれ。あと、こっちの手紙はもらってっていいんだよな?」 ユッケが黙って頷く。 「悪いな、今日はこれで帰らせてもらうよ。近いうちにまた来る。さっきの話もそれまでに考えとく。・・・ほんとに、いろいろありがとな」 ギャリングの屋敷を出てすぐ、オレはルーラの呪文を唱えた。 移動した先は、ふしぎな泉。他に一人になれる場所を思いつかなかった。 我ながら取り乱しっぷりがすごい。指先が震えて、手紙の封を切るのにも苦労するくらいだ。 なのに、ようやく取り出した便せんに書かれていたのは、あっけないほど短い言葉。 『幸せになれ』 「なんっ、だよ、これ・・・」 宛て名より短いじゃねえかよ。こんなもん、わざわざ封筒に入れてんじゃねぇよ。 何なんだよ、ほんとに・・・。ちくしょう、不意打ちくらわせやがって。目からヨダレが止まんねえじゃねぇかよ。 「師匠っ・・・」 あんた、ほんとにずっとオレのこと忘れずにいてくれてたんだな。なのにゴメン、オレはすっかり忘れてた。 あんたが教えてくれた、たくさんのこと。いつか巡り会える本物も、諦めるなと言ってくれた言葉も。そして何よりオレにだって、幸せを願って心配してくれる人がいるんだってことを・・・。 オレはいつだって誰かに助けられてた。勝手にスネて諦めて、そのことから目を背けてただけだったんだ。 ありがとう、思い出させてくれて。もう少しで、気づかずに生きていくところだった。オレを取り巻く世界は、いつだってこんなに暖かかったんだってことを・・・。 「ゼシカ・・・」 口にしただけで、胸に柔らかな光が差す名前。オレが手に入れることのできる『幸せ』なんてものがあるのなら、それは彼女のところにしかない。 「・・・愛してる」 ・・・ゼシカのことはずっと心配してたんだよな。あいつ、絶対ロクでもない男に騙されるって。まさかそれがオレのことだとは思わなかった。 練習しなくちゃ愛の告白もできないほど情けない男だとは、思ってないだろうな。本性知られて『だまされた』って言われても文句は言えない。 でも、それで愛想つかすかどうかは、ゼシカに決めてもらえばいい。 母親との板挟みになる心配なんかも、オレの空回りだった。 ゼシカはどんなことだって、自分で決めた道をまっすぐに進んできたんだ。オレはそれに従えばいい。 知ってたはずなのに、すぐ忘れる。ほんとにオレは忘れっぽいんだ。 ドニの町に戻ると、教会の前に人だかりが出来ていた。何でもトロデーン城からの使者が来てたとかで、王家とか城に縁のない町の人間たちには、ちょっとした話の種になってたらしい。シスターが預かっててくれた、エイトからの手紙を受け取る。 内容は、一週間後にサヴェッラへ出発するミーティア姫様の護衛の付き添いを頼みたいというもの。 おい、一週間後って何だよ! 話が急すぎるっつーの! こっちにだって予定とか事情とかあるって、考えろよ。人が良さそうな顔して、相変わらず呑気者のマイペース野郎だぜ。 だいぶ落ち着いてきたとはいえ、今この土地で、闇の世界の魔物を相手できるやつは他にいない。その状態で何日も、留守にするわけにはいかないんだ。 「使いの方にはお引き受けすると、お返事しておきましたから」 シスターにあっさり言われて、オレは面食らった。 「返事したって、引き受けるって、でもオレは・・・」 「いい加減に一人で何でも背負い込もうとするのは、おやめなさい。あなた一人がいないくらいで、この地方が滅ぶわけでもないでしょう? それよりも大事なお友達が困っているのなら、助けてあげなくてはいけませんよ」 言われて初めて思い至る。いくら一緒に世界を旅した仲間だからって、オレたちみたいな馬の骨を姫様の護衛につけなきゃならない程、トロデーンが人手不足とも思えない。エイトはエイトなりに悩んでて、自分でも気づかないうちに助けを求めてきたのかもしれないんだと。 「ねえ、ちょっと話変わるんだけど、ククール。あんたが留守の間に、胸の大きなお嬢様がも訪ねてきてたよ。ほんとにタイミングの悪い男だね」 リンダが呆れたような声で教えてくれた。 胸の大きなお嬢様って・・・。 「ゼシカが?」 「そう、一目でわかったよ。ほんとに水風船みたいな胸してたから。あんたが今、あたいの部屋に寝泊まりしてるって言ったら結構ショック受けてたよ。ちょっと悪いことした」 うっわ、最悪だな、おい。我ながら、我ながら本当にタイミングが悪い。でも事実だし、口止めしてたわけじゃないし、リンダを恨むわけにもいかない。 「ふ~ん・・・大層な慌てっぷりだね。なーにが『オレは誰にも本気にならない』さ。『本気の相手がちゃんといる』だけじゃないか、この大嘘つき!」 返す言葉もないとは、このことだ。 「あんた、何やってんの? あのコの気持ちに気づいてないわけじゃないんでしょ? あたいに『ククールをお願いします』って頭下げてったよ。それ聞いた時、あんたのこと殴ってやりたくなったね」 ・・・そうだ。本当に、オレは今まで何をやってたんだろう。 オレは誰の気持ちも受け入れなかった。どうせ誰も本気じゃない、女たちだって見た目の良さにつられてるだけだと決めつけて、二股かけるのだって毎度のことだった。 でも今ならわかる。オレがどれだけの本当の気持ちを踏みにじってきたのか。今だってそうだ。リンダだって、寂しさや同情からだけでオレと一緒にいるわけじゃない。人の心なんて、そんなに器用にできてない。 彼女たちがオレを想ってくれていた気持ちに不足があったわけじゃない。・・・だけど、今さら悔いてもどうにもならない。 「ごめん、リンダ。今までのいろんな事、全部含めて申し訳なく思ってる。世話になりっぱなしで勝手だけど、オレはもうキミとは暮らせない。別れてほしい」 オレの心はもう決まってしまった。たった一人の相手を見つけてしまったんだから。 「甘いね。それで許されるとでも思ってんの?」 「・・・え?」 「決めた。あんたはちょっとこらしめてやんないとね。お姫様の護衛とやら、あたいもついてく。それで思いっきりベタベタして、あのお嬢様に見せつけてやる」 ・・・何で、そういう話になるんだ? 「それで愛想つかされるようなら、自分の今までの行いが悪かったって諦めるんだね。今まであんたに弄ばれてきた女たちの分、まとめてお返しさせてもらうよ。せいぜい覚悟しな」 「ちょ、ちょっと待て。お返しはこの際いいとして、これは遊びで行くんじゃなくて、王女様の護衛なんだから、ついてくとか言われてもダメだって」 いや、そもそもオレ、行くって決めたわけでもないし。 「あ、それならアタシも行く~。手紙くれたエイトさんて、お城の近衛隊長さんなんでしょう? 会ってみたい、連れてってぇ」 ドニの町でも一番のミーハーバニー、エレナが話をこじらせてくる。 「だから、遊びじゃないんだって。無理に決まってんだろ」 「もし連れてかないって言うんなら、あんたのちょっと言えないような話、あのお嬢様に全部吹き込むよ。それがイヤなら観念するんだね」 リンダ、こえーよ。っていうか、ちょっと言えない話って、心当たりありすぎてシャレにならん。 「そのお嬢様に嫌われたくないんでしょ? リンダと二人きりなら完璧カップルになっちゃうけど、アタシも一緒ならただの連れですむじゃない? だから連れてって。エイトさんに紹介して」 エレナの言葉に、つい納得しそうになり、慌ててその考えを振り払う。 「ほんとに勘弁してくれ。他のことなら何でもするから、これだけは絶対無理だって!」 ・・・オレはほんとに情けない。結局押し切られ、二人ともトロデーンに連れてくるハメになった。 ゼシカはかなり怒ってる。城の中庭で再会した時も、サヴェッラへ向かう船の中でも、ほとんど口をきいてくれない。リンダが宣言通り、見せつけるようにベタベタしてくれるからってのもある。 だけどゼシカの怒り方を見て、少し安心もしてる。脈ありな怒り方っていうのかな。 ごめん、ゼシカ。ずっと寂しい思いさせてきた。そしてこれからも、しばらくそれが続くと思う。 オレはこの護衛が終わったらまたドニに戻る。闇の世界や空飛ぶ城から来た魔物だけは、何とかしてマイエラ地方から一掃したい。それだけはどうしても譲れないんだ。 面倒なヤツですまないとは思うけど、選んだ相手が悪かったと思って諦めてくれ。 そのかわりオレはもう二度と諦めたりしない。この先に何があったって、ゼシカと一緒に生きることだけは、決して諦めないことを約束するから。 <終> 暖かい世界-ゼシカ編
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/50.html
ククールは指先でゼシカの首をたぐった。 「随分前から気になってたんだけどこれ何だ?」 彼が指し示したのは先に青い石がついてる首飾り。 「…ん、兄さんが買ってくれたの。欲しい欲しいって騒いだらお小遣い はたいてくれてね。子供の頃のことだから安物だけど、結局これが形見に なっちゃった」 ククールはそっと首飾りをはずした。そのまま自分の懐に突っ込む。 「他の男から貰ったものなんて外しとけ」 「他の男って…兄弟よ?」 「妬いてるんだよ、わかんねえ?」
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/186.html
ククゼシスレ1 ~小ネタ~ 小ネタ1(216さん) 夜の不思議な泉にて(220さん) 小ネタ2(323さん) 小ネタ3(353さん)未完? 小ネタ4(357さん) 小ネタ5(152さん)転載物 小ネタ6(446さん) 小ネタ7(◆DeYjggYHksさん) 小ネタ8(661さん) 小ネタ9(アネモネ ◆KJ/KITTY/w さん) 小ネタ10(868さん) ~SS~ 無題1(265さん) 無題2(398さん) 無題3(◆DeYjggYHksさん) 無題4(522さん) 無題5(◆DeYjggYHksさん) 無題6(537さん) 無題7(na・na-siさん) 無題8(◆DeYjggYHksさん) 無題9(671さん) 無題10-前編- 無題10-後編-(アネモネ ◆KJ/KITTY/wさん) 無題11(◆DeYjggYHksさん) 無題12(アネモネ ◆KJ/KITTY/w さん) 無題13(◆DeYjggYHksさん) ホワイトデーSS(◆g1.bkqd.Tsさん) ホワイトデーSS2(◆DeYjggYHksさん) ククゼシスレ2 ~小ネタ~ 不覚(トト ◆.eBujHzjTYさん) ~SS~ 家政婦は見た!part1(アネモネ◆KJ/KITTY/wさん) 2-無題1(見習 ◆pTeaOudvY6さん) ピロートーク(アネモネ◆KJ/KITTY/wさん) 2-無題2(トト ◆.eBujHzjTYさん) 2-無題2 続編(トト ◆.eBujHzjTYさん) 雪の夜(アネモネ◆KJ/KITTY/w さん) 2-無題3(アネモネ◆KJ/KITTY/wさん) 2-無題4(◆DeYjggYHksさん) 2-無題5(見習 ◆pTeaOudvY6さん) ハニー(◆aO0Gallp8sさん) wish(アネモネ◆KJ/KITTY/wさん) 2-無題6(トト ◆.eBujHzjTYさん) 2-無題7(アネモネ◆KJ/KITTY/wさん) 603(◆aO0Gallp8sさん) ゲーム(アネモネ◆KJ/KITTY/wさん) 2-無題8(◆DeYjggYHksさん) 2-無題9(◆aO0Gallp8sさん) プティのたまご(◆aO0Gallp8sさん) 恋の病3(アネモネ ◆KJ/KITTY/wさん) ククゼシスレ3 ~小ネタ~ 3-小ネタ1(571さん) 3-小ネタ2(845さん) 3-小ネタ3(890さん) お盆ネタ(934さん) 3-小ネタ4(940さん) 3-小ネタ5(943さん) プレイボーイ・パーティージョーク(948さん) 村上春樹作品パロ小ネタ ~SS~ はじまりの唄(トト ◆.eBujHzjTYさん) 独占欲(トト ◆.eBujHzjTYさん) 墓穴(◆aO0Gallp8sさん) 3-無題1(M ◆m.wfq0Dq3Eさん) 恋の病4(アネモネ ◆KJ/KITTY/wさん) innocence(◆aO0Gallp8sさん) 煉獄痛(328さん) 3-無題2(◆aO0Gallp8sさん) 言霊(◆aO0Gallp8sさん) ぎゅ(M ◆m.wfq0Dq3Eさん) 3-無題3(626さん) ぎゅ~続編(M ◆m.wfq0Dq3Eさん) 一万HIT記念(M ◆m.wfq0Dq3Eさん) so sweet…前編 so sweet…後編(◆aO0Gallp8sさん) 知らない人(◆JbyYzEg8Isさん) 星に願いを(◆JbyYzEg8Isさん) 3-無題4(905さん) おとぎ話(◆JbyYzEg8Isさん) お花摘み(◆JbyYzEg8Isさん) ククゼシスレ4 ~小ネタ~ 4-小ネタ1(25さん) 4-小ネタ2(◆JbyYzEg8Isさん) ~SS~ 進歩(◆JbyYzEg8Isさん) 君を見てる(◆JbyYzEg8Isさん) 約束(◆JbyYzEg8Isさん) 味方(◆JbyYzEg8Isさん) 理不尽(◆JbyYzEg8Isさん) 呪われしゼシカ戦(154さん) 杖と闇と仲間と呪われしゼシカ戦(154さん) 蒼紅の十字(271さん) ククゼシスレ5 ~小ネタ~ 5-小ネタ1(276さん) FF12発売時に 5-小ネタ2(281さん) ~SS~ 手綱(◆JSHQKXZ7pEさん) わかってない-前編 わかってない-後編(◆JbyYzEg8Isさん)
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/152.html
そんなふうにしてオレの、ロクでもないことばかり教えられる日々が始まった。 オレはその人のことは『師匠』と呼ばされてた。男は秘密が無くなると色気が三割落ちるとか、わけのわからないことを行って名前を教えてくれなかったからだ。 あの男のどこにそんなもんがあるのかと思ったもんだが、老婦人にまで口止めしていたらしく、お茶目なところがあった彼女も『師匠さん』なんて呼んで笑ってたっけ。 その師匠自身のことで教えてもらえたのは、ほんのわずかだった。数年前にドニの周辺の土地を手に入れたことと、その土地で事業を興す計画のための下見に来ていたってことぐらいだった。 ああ、あと女性にはさっぱりモテずに独身だったってこともあったか。 だから、オレが自分の外見の良さを逆にコンプレックスに感じてることを知られた時には拳骨くらったっけ。世の中には中身がナイスガイでも、外見の悪さが災いしてモテない男もいるってのに、贅沢なこと言うなってな。 言われてみるとその通りだった。顔だって何だって、悪いより良い方が得に決まってる。せっかく恵まれた容姿に生まれてきたんなら、最大限に活かす方がいいっていうのも、あの時学んだ。 何でも自分でやろうとしないで、頼めることは誰かに頼んで楽をしろっていうのも、師匠に教わったことだ。 勝てない勝負は避けて通れ。勝つためだったらイカサマもあり。抜ける部分では手抜きしろ。騙すヤツより騙される方が悪い。逃げる時は一目散に逃げろ。 全部師匠が教えてくれたことだ。 才能があると妙に見込まれて、カードでのイカサマもたたき込まれた。ケンカする時は殴るよりケリ、更に有効なのは体当たりなんて、暴力に関しても一通り教えてくれた。うまいウソの吐き方とか、相手にダメージ与える物言いなんてのもあった。 真っ当なことといえば、泳ぎくらいなもんだった。 ・・・ほんとに、ロクでもないことばかり教えてくれたもんだぜ。あの人にさえ逢わなければ、オレはもっと真っ当な人間でいられた気がする。 だけど不思議と楽しかったし、その教えのほとんどが今でも役に立ってるっていうのが、何とも笑えるところだよな。 だけど別れの時はやってきた。 師匠が持ってた土地は、計画していた事業には向かないと判断されたからだ。 そうと決まった以上、いつまでもドニの町に滞在している理由はない。修道院のガキの面倒を見るなんて酔狂なマネも終わりの時だった。 そのことを告げられた時、寂しさはあったが、かなり安心もしていた。 オレはあまり出来の良くない教え子だったからだ。 教えられたことは理解出来たし、実践出来なくもなかったけど、修道院で暮らしていくのに役に立つことだとは思えず、どうしても身につかなかった。 むしろ、身につけるのはヤバイと思ってた。 要は本気で相手にはしてなかったってことだ。 だから、その後の師匠の申し出には本気で驚いた。 「なあ、お前、オレと一緒に来ないか? 実はよ、昨日マイエラの修道院長と会って話をつけてあるんだよ。お前さえその気なら構わないって、許可ももらってあるんだ」 サングラスと髭で、表情なんてものはほとんど読み取れなかったが、全体に落ち着きがなく、そわそわしていた。テレていたんだと思う。 「修道院で暮らすのが悪いってんじゃねえんだ。ただ、お前には向いてねえと思うんだよ。手先も器用で、このオレのイカサマを見破るような、いい眼を持ってる。 世界一のギャンブラーのオレが保証するんだから間違いねえ、お前には才能があるぜ」 おそらく師匠は自分でも何言ってるのか、わかってなかったと思う。世界一のギャンブラーなんて言ってるだけあってポーカーフェイスは得意だったくせに、顔にびっしり汗をかいてたからな。動揺っぷりが伺えたってもんだ。 「それによ、オレは結構お前のこと気にいってんだよ。泳げもしなかったくせに、猫を助けに川に飛び込もうなんざ、男気ってやつがあるじゃねえか。オレはバカな奴は嫌いじゃねえ。 育ててくれた修道院長の為に、イヤな思いをしても金を稼ごうとする義理堅さも泣かせてくれるぜ」 猫を助けようと思ったのは男気なんてもんじゃなかった。ただ、あの時の猫の姿を自分と重ねてしまって、放っておけなかっただけだ。貴族の家への訪問だって、自分が修道院にいたくなかっただけの部分が大きくて、義理堅さなんかじゃなかった。 でも、外見ばかりを褒められてきたオレには、その言葉は嬉しく感じられて、ほんの一瞬だけど夢を見ちまった。 この男についていくのも悪くないって、そう思った。 「実はオレ、結婚は出来なかったんだけど、お前と同じ年頃の子供が二人いるんだよ。血の繋がりが無くても、やっぱり可愛いもんでな。娘なんて、こんな髭面オヤジを『パパ』なんて呼んでくれてな。家族ってのはいいもんだって、つくづく思うぜ。 二人育てるのも三人育てるのも一緒だ。オレみたいなのが父親なんてイヤかもしれねえけどよ、あんまり堅苦しく考えねえで、一緒に暮らしてみねえか?」 だけど、師匠が口にしたある一言が、オレの気持ちにブレーキをかけた。 「・・・ごめんなさい。ボクは行けません・・・」 他に二人子供がいることなんて、気にならなかった。家族ってもんを否定する気もなかった。師匠のことがイヤだったわけでも、もちろんない。 あの時、オレの心を凍らせたのは『父親』って言葉だった。 「だって兄さんは、ボクが生まれたことで父さんに家を追い出されたのに・・・」 それなのに自分がまた新しい父親に引き取られて、新しい兄弟と暮らす。そんなことが許されるなんて思えなかった。 バカな考えなのはわかってたさ。親父が兄貴にした仕打ちの責任がオレにあるなんて考えたことは一瞬だってない。それほどのお人よしじゃなかった。兄貴の憎しみは逆恨みだってことなんてガキでもわかる。 でも、どうしてもダメだった。自分だけ幸せになろうなんて出来なかった。 だから、オレは覚悟を決めた。 「・・・ゴメン、せっかく誘ってくれたのに・・・。でも、さ、平気だよ。オレだって、男なんだから、自分の面倒くらい自分で見れる」 修道院で兄貴の憎しみを受けて生きること。金づるとして、貴族相手に見世物のようなマネをして生きること。それまでは他にどうしようもないことだった。 でも、その時から変わったんだ。避けられなくて仕方なかったことじゃない。そこから救い出そうとしてくれる手を、オレは自分の意志で振り払ったんだから。 強くなるしかなかった。心配してくれる人に、せめてそれ以上の心配をかけないように。 「オレの生き方に、ゴチャゴチャ口出ししてくんじゃねえよ。あんたみたいな髭面男に心配されたって嬉しくなんかねえよ。ここにいれば綺麗に着飾ったご婦人がたに優しくしてもらえるんだ。そんな悪い生き方でもないぜ」 必死に師匠の話し方のマネをしたけど、ほとんど棒読みだったと思う。みっともない話だが、涙が溢れてどうにもならなかった。 おそらく師匠は、オディロ院長からオレの境遇を全て聞いていたんだろう。全てを察したようだった。 「・・・すまねえ、オレは結局お前に何にもしてやれなかった。本当に見てられなかったんだ、お前みたいなガキが自分を押し殺してるのは辛かった。何とかしてやりてえと思ったんだ。でも結局はお前の傷口を広げるようなマネしか出来なかった・・・」 「そんなことない、あんたには感謝してる。ほんとに平気だって。オレ、来月にはもう十二歳だぜ? そうしたら騎士見習いになれる。これでも一応貴族の出身だから、聖堂騎士団に入団出来るんだ。剣や格闘を習って強くなる。 そうして、自分一人の力で生きていけるようになってみせる。だから、大丈夫」 騎士になることを決めたのはその時だった。それまでは正直悩んでたんだ。チビで細かったオレに、剣や格闘の修行についていく自身は無かったし、何より兄貴と同じ騎士団に入るってことは、それだけあいつを刺激することになるのは、わかりきってたから。 でも、少しでも強くなるためなら、それは避けては通れないと覚悟した。 師匠はいきなりオレを抱き締めてきた。相変わらず風呂に入ってなかったみたいで臭かったのと、加減したつもりでも元が馬鹿力だったおかげで、かなり息は苦しかった。 「そんな悲しくなること言うんじゃねえ。お前みたいな寂しがり屋が、一人でなんて生きられるもんか。いいか、今は辛いことがあるかもしれねえ。でもな、ちゃんと自分のことは守ってやれ。お前みたいなガキが、誰かのために自分を犠牲にするなんて十年早いんだよ。 そしてな、そうやっていれば必ず一緒に生きていける奴に逢える日が来る。お前のことを本当にわかってくれて、必要としてくれる人間は絶対いるから、諦めるな。 お前は本物がわかる眼を持ってる。そのせいで面倒な思いすることは多いだろう。でもな、その眼は誰もが持てるもんじゃねえんだ。 本当に信頼できる仲間や友達。目的に信念。必ず見つけられる日がくるから、とりかえしのつかない傷を自分に残すような生き方すんじゃねえぞ」 師匠の気持ちは嬉しかったけど、正直その時は気休めだと思ってた。 だけど今、あの時のあの人の言葉の通りに生きてる自分がいる。 信頼できる仲間と、果たすべき目的。確かに本物に巡り逢うことが出来た。 ※ ※ 「何よ、さっきから黙り込んじゃって」 ゼシカが怪訝な顔をしてオレのことを見ている。 やっぱり無理だ。いろいろ考えてみたけど、都合の悪い部分は省略して話すなんて出来そうにない。他の人間相手ならともかく、ゼシカが相手だといつの間にか全部話しちまってるなんてハメになりそうだ。 「知ってるか? 男は秘密が無くなると、色気が三割落ちるんだぜ。そんなことになったら世界の損失だから、教えられない」 「そんな話、聞いたこと無いわよ。だいたい、あんたに色気なんて初めから無いんだから、そんなもの落ちようがないじゃないの」 ゼシカの反撃は本当にいつでも容赦がない。 「さてと、それなりにコインも溜まったことだし、ギャンブルは引き際が肝心だ。そろそろ引き上げるか」 チマチマと貯めたコインは四千枚を越えてたんで、それを景品交換所へと運びスパンコールドレスと交換する。 「ここの景品は結構気が利いてる物が多いよな。やっぱりレディにプレゼントできるものが無いと、モチベーションが上がらないってもんだ」 そのドレスをゼシカに差し出す。だけど彼女はそっぽを向いた。 「いらない」 自慢のボディラインを引き立たせ、動きやすくスリットの入っているドレスにゼシカは一目ぼれしてたはずなのに、すっかりスネちまってる。やっぱり物でつってごまかそうとしてもダメってことか。 「じゃあ、これはユッケにでもプレゼントするかな。オーナー就任のお祝いにするか」 ゼシカがピクリと反応する。 「何? やっぱり欲しくなったか?」 あんまり可愛い反応なんで、つい意地悪な響きが声に混ざっちまう。 「いらないったら、いらないのよ。それに、自分が誘えばどんな女の子でも乗ってくるなんて思わない方がいいわよ。ユッケはああ見えて手ごわいわよ。フラれてから泣いたって遅いんだからね」 そう言い放ち、ゼシカは不機嫌さを隠さない足取りで、カモられてるエイトとヤンガスの方へと向かっていった。 手ごわいなんて言葉を、お前が言うか? まあいい。今の内に一人で例のことを確かめておくとするか。 ギャリングの屋敷では、すぐにオーナーとの面会を許された。 実際に業務を取り仕切るのはフォーグで、ユッケはその見張りという役割に落ち着いたらしい。 「キミ、バカじゃないの? あたしは一応あのカジノのオーナーなんだよ。こんなドレス、自分でも持ってるに決まってるじゃない」 スパンコールドレスを差し出されたユッケは、呆れた声を上げる。 まあ、それは初めから計算の内のことだった。 「そうじゃないかとは思ってたんだけどな。手ぶらで訪問ってのも、何となく気が引けたもんでね」 さて、カマをかけたら乗ってくるか? 「単刀直入に言わせてもらう。お前ら、いつからオレのことに気づいてた?」 フォーグとユッケは、顔を見合わせる。だが、その顔には特に何の表情も浮かんではいない。 「何のことを言っているのか、サッパリわからないね。気づくというのは一体、何を指して言っているんだね?」 フォーグが逆に問いかけてきた。 「とぼけんなよ。ユッケ、オレはお前に『兄が一人いる』とは言ったけど、それが『たった一人の肉親だ』なんて言った覚えはないぜ。知ってたんだろ、オレのこと」 ユッケの護衛を引き受け、竜骨の迷宮での会話の中、オレに兄弟はいるのかって話になった時、確かに彼女は口を滑らせた。『たった一人の肉親なんだから、大切にしないとダメだぞ』と。オレはそれを聞き逃しはしなかった。 オレは思わず、壁にかけられている肖像画を見上げる。 たいしたもんだぜ、ギャリング師匠。あんたが育てた子供たちだけあって、見事なポーカーフェイスだ。ギャンブラーとしての基本だもんな。 初めてこの町に来て賢者の像を見た時、あんたに似てるとは思ったんだよ。でも気のせいで片付けちまった。 世界一のギャンブラーといえば、世界一のカジノのオーナーを指すってことぐらい、思いついても良さそうなもんだったのに、賢者様なんて偉い人物を先祖に持ってるってイメージがどうしてもわかなかったんだ。 この部屋に入って、あんたの肖像画を見た時には驚いた。懐かしかったけど、もう二度と会えないんだって思うと寂しかったよ。助けられなくてゴメンな。もっと早くこの街に着いていたら、もしかして力になれたかもしれないのに。 フォーグはユッケを軽く睨む。ユッケの方も、自分の失言を思い出したようだ。軽くため息を吐いて、話し始めた。 「ごめんね、確かにパパからキミの話は聞いてたよ。別に悪気があって黙ってたわけじゃないんだけどさ。あの時は二人の決着をつけるので精一杯で、とても他のことまで考える余裕は無かったんだよ」 「それにキミのことは、女性のようなキレイな顔した、おとなしくて上品なチビスケと聞いていたものでね。少しイメージと違っていたんだよ。まさかこんな言葉の汚い大男になってるとは、想像もつかなかった。 それに父は君の名前すら我々に教えてはくれなかったんだ。変なところで秘密を持つのが好きな人だったからね」 フォーグが後を引き継いだ。『チビスケ』だの『言葉が汚い』だの、ズケズケと物を言う辺りも、ギャリングの教育の賜物だろうな。 言葉遣いは苦労したんだぜ? ギャリングと別れてすぐに、うまい具合に変声期に入って喉の調子がおかしくなったオレは、声が出せないふりをして貴族への訪問をサボタージュした。 その間に隠れて猛特訓さ。師匠に教わった粗暴な言動は、あの頃の自分には全く似合ってなかったのは承知してたから、自分なりに精一杯考えてアレンジした。 そして、まあ何とかサマになるようになって実際に試してみた時は傑作だった。 それまでずっと柔順でおとなしかった子供が、ある日突然に言葉は汚く、態度も悪くなって、すっかりヒネくれちまってたんだから、周囲の人間が驚くのも無理は無かった。 何かの病気だと疑われて、ちょっとした大騒ぎになり、絶対安静を言い渡されて、回復魔法漬けの日々が何日か続いたぐらいだった。 その騒ぎの中でも兄貴の態度が全く変わらなかったのには、ある意味感動したね。でも、だいぶ気楽になった。おとなしくして気を遣っても憎まれるなら、好き勝手なことして憎まれた方が理不尽さを感じなくて済む分、まだマシってもんだった。 それと、不思議とオディロ院長もアッサリと受け入れてくれた。いや、むしろ面白がってたみたいだった。そのことには、素直に感動した。尊敬の念が一層増したよ。 「だけどその服は、確かにこのギャリング家に伝わる特別な布地だからね。父がそれをマイエラ修道院のキミ宛てに贈ったのは知っていたから、それでわかったんだ」 フォーグのその言葉は、オレの長年の疑問の答えを示してくれた。 オレの十五歳の誕生日は、同時に正式な聖堂騎士団員となった日だった。 院長の館に呼ばれたオレは、オディロから真紅の布地と、黒の布地を見せられた。 「これはある人から先日送られてきたものだ。お前の誕生祝いと一人前になった祝いの品だそうだ。本当は仕立てた状態で届けたかったようだが、遠方にお住まいの上に忙しい方でな。 お前がどれだけ大きくなったかを確かめることが出来なかったと、残念に思っておられる旨の手紙が添えられていたよ」 一目見て、それがかなり高価で特別な品だってことはわかった。だから、当然送り主を訊ねたけど、オディロ院長はそれには答えてくれず、代わりにこう提案してくれた。 「もし良ければ、お前の騎士団の制服はこれで仕立ててみてはどうだ?」 その頃にはすっかり問題児の称号を得ていたオレも、かなり驚いた。聖堂騎士団の制服と言えば青だっていうのは、オレだって破るつもりもおきない程の常識だったんだから。 「お前は他の者と違って外に出る機会が多く、魔物と遭遇する危険もあるだろう。この布地にはお前の身を案じる気持ちが込められている。きっとその心が、いろいろなことからお前を守ってくれることだろう」 確かに、炎や冷気を防ぐとかいう特殊な効果は無かったけど、特別な製法で織られていたのか、強度は普通の布地とは比べ物にならなかった。更にオレの制服のように黒の布の方を裏地につかえば、動きは全く制限されないのに、皮のよろいなんかよりも遥かに防御力は高かった。 でも聖堂騎士団の制服に、こんな真っ赤な布を使う許しを出すなんて、オディロ院長はさすがだと思ったよ。聖職者のくせにお笑い好きなんて、結構な破戒僧だっただけある。まあ、オレはあの人のそういうところが好きだったんだけどな。 でも、そうか。やっぱりこれは師匠からの贈り物だったんだな。薄々そうじゃないかとは思ってたけど、オディロ院長は結局最後まで教えてくれなかったから、確かめようがなかった。。 何しろ、オレは不良な騎士見習いになってからというもの、背も伸びて、声も低くなって、ワイルドな魅力ってやつまで身についちまったから、それまでの悲劇の美少年のファンとはまた別の層のご婦人方に人気が出ちまってた。 それでわりとプレゼント責めになってたから、今一つ自信が持てなかったんだよな。 「まあ、だからどうってわけじゃねえんだ。ただ、お前らがオレのことを知ってるのかどうか確かめたかっただけだ。気づいちまったことを、そのままにしておくのは、どうにも落ち着かない気分だったからな。 まあ、ギャリングには世話になったことがあるのは確かだから、この先困ったことがあったら、いつでも呼んでくれ。力は貸せると思う」 もし、あの時オレがつまらない考えにとらわれずにギャリングに引き取られていたら、こいつらとは兄弟だったかもしれないんだよな。 ・・・断って良かったぜ。危うくつまらない遺産相続なんかに巻き込まれるところだった。 でも、ようやくいろんなことに合点がいった。 師匠が手に入れた土地っていうのは、オヤジがここのカジノで作った借金のカタに没収された領地のことだったんだな。 だから、オレがその領主の忘れ形見だって知った時、あんた、あんなに辛そうにしてたんだろう? そりゃあ、後味悪いよなあ。その忘れ形見が若いみそらで修道院暮らししてて、不幸だってオーラを垂れ流してるところなんて見せられちゃあ。 自分は悪くないのはわかってても、罪の意識で何とかしてやりたくなるのも無理はない。 だけどさ、あんたがそれとは別のところで、本当にオレを気に行ってくれてたことを疑う程のひねくれたバカにならずに済んだのは、やっぱりあんたのおかげだよ。 この何年かの間に、結構イヤな思いはしてきたけど、自分を守っていいんだっていう、あんたの言葉はオレを救ってくれていた。とりかえしのつかない傷なんてものは、受けずに済んでこられた。 一人で生きていける強さを求めはしたけど、その一方で、こうして自分を心配してくれる気持ちの証しを身に纏って生きている。いつだって、オレは一人じゃなかった。 あんたの命を救えなかったことは、やっぱり残念だけど、代わりにあんたの大事な子供たちに力を貸すことは出来た。ほんの少しでも恩を返せたなら、嬉しいんだけどな。あんたが導いてくれたんだって、そう思っていいのかな? でも、ドニの土地にカジノを建てようとした商魂の逞しさはどうかと思うぜ? 修道院のお膝下で、そんなもの造る許可なんて下りるわけねえだろ。何考えてたんだよ、まったく。 正直、オレの存在が新しい揉め事のタネになるんじゃないかと心配したんだが、フォーグもユッケも、実にアッサリとした調子でオレのことを受け入れてくれた。 「今回のことでキミには世話になったことだし、ここを自分の家だと思って、いつでも遊びに来てくれたまえ。それと、カジノではお手柔らかに頼むよ。ギャンブルの才能はかなりのものだと聞いてるからね。 まあ、キミみたいな人間を警戒して、うちのカジノにはカードゲームは無いんだがね」 「もう一人のパパの息子って、どんなコか気になってたけど、思ってたよりカッコ良くて嬉しいよ。もし呼んでほしいなら、お兄ちゃんて呼んであげてもいいよ」 ・・・ほんとに、死んじまった後でさえ、あんたはオレにいろんなものをくれるんだな。 心から思うよ、あの時あんたに逢えて良かったって。やっぱり、もう一度、生きてるあんたに会いたかったよ。そして会ってほしかった。あの後で、オレが出会うことが出来た大切な人たちと。 そんなに長居したつもりは無かったのに、ギャリング邸を出ると、もう日が暮れかけていて、夕陽が辺りの風景を紅く染め上げていた。 その中でピョコピョコと落ち着きなく動き回っている赤毛のツインテールが眼に入った。 迎えに来てくれたと思っていいのかな? 機嫌を直してくれてるといいんだけど。 「こんなところで何やってんだよ。オレがいないと寂しいのか?」 声をかけたオレをゼシカは睨みがちに見上げる。まだ機嫌は直ってないらしい。 「違うわよ、ユッケにフラれた姿を、笑ってやろうと思ってきたの」 ・・・何でフラれるって決めつけてんだよ。 ギャリングが言ってくれた言葉がもう一つある。 『お前はオレと違って見た目もいいんだからよ。ちゃんと結婚して家族ってやつをつくるんだぜ。お前だけの、たった一人のひとを見つけるんだ。だけど忘れるなよ、ちゃんと外見に惑わされずに中身で選んでくれる女を選べ』 ・・・オレにとっては確かにたった一人だし、外見に惑わされない相手ってのはピッタリなんだが、困ったことに、さっぱりなびいてくれやしない。ましてや『オレだけのひと』なんて笑い話にしかならない。 こういう時はどうすりゃいいんだよ。どうせなら、そこまで教えておいてほしかったぜ。 まあ、それが出来たら、あんたも結婚できてたんだろうけどな。 「まだそのドレス持ってるってことはフラれたんでしょう? だから言ったのよ、ユッケは手ごわいって」 ゼシカの声は妙に嬉しそうだ。ほんとに、いい気味だと思ってんだろうか。 「あのね、そのドレスなんだけど、エイトが錬金の材料に欲しいって言ってるのよ。だから、譲ってあげてくれない?」 ここまでデリカシーの無い発言が続くと、さすがにオレの我慢も限界になる。 「何が悲しくて、ヤロウにドレスなんてくれてやらなきゃならないんだよ! そんなに欲しけりゃ自分で稼げってんだ。やってられるか!」 ゼシカが一瞬、身をすくめた。 ・・・やっちまった。 女の子にとって、男の怒鳴り声っていうのは、それだけで怖いもんなのはわかってるのに、ついカッとなっちまった。 「何よ、ケチ! 意地悪! バカ! 大ッキライ!」 目に涙を浮かべながらオレを罵ったあげく、ゼシカが歩きさろうとする。 こうなるともう、平謝りして許してもらうしかない。女性の扱いは得意なはずなのに、ゼシカが相手だと本当に何もかもうまくやれない。 「ゼシカ、ごめん、悪かった。ちょっと待ってくれ・・・」 ゼシカの後を追いながらそう言った時、突風が吹いた。 その風は噴水の水を小さな竜巻のように巻き上げ、狙ったようにオレの頭から浴びせてくれた。おまけに、何かが後頭部直撃したぞ、目に星がとんだ。 ・・・ありえねぇよ、こんなの。 ゼシカはずぶ濡れになったオレの姿を見て、思いっきり指さして笑ってくれた。 「な、何、今の。絶対自然の力じゃないわよ、それ。天罰よ、天罰。ああ、いい気味」 ほんと、結構イイ性格してるよな、この女。 オレは天罰なんて信じちゃいない。・・・でも。 オディロ院長の使うバギ系の魔法はちょっと変わってて、普通の切り裂く風と違って、今みたいに巻き上げたり、押し出したりするような風の使い方をしていた。 それに頭への衝撃は、ギャリングの拳骨の感触によく似てた。ふと見上げると賢者の像がいかつい目でオレを見下ろしてるように見える。 もしかして、大事な女の子を泣かすなって説教くらった? なんて、そんなことあるわけない。 ・・・けど、もしそうなら…反省する。 ちゃんと大事にしないとな。 親に心配かけるような恥ずかしいマネ、いつまでもしてるわけにいかないもんな。 <終> 秘密1
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/324.html
348!omikuji!damasage2009/01/02(金) 00 45 09 ID aAki6IX+0 よお、ゼシカ ∩;;;∩ あけおめ~ (Y;;;;;;;;;;ヽノ) i;;;;;;;;;;゚;;;゚ヽ /;;;;;;\;;;;'⌒) 〟.|;〈((/(~ヾ》. ).|;;ヾ巛゚ー゚ノ" ι|;;;;;;;;つ ;;;/つ ヽ..;;;;;;;;;/ U"U .,'^y'⌒⌒ヾヽ .))!#八~゙リ(〈 ク、ククール?! (.(ヾ!;゚ o゚ノ!)) 何なの、その格好は… ∩;;;∩ (Y;;;;;;;;;;ヽノ) i;;;;;;;;;;゚;;;゚ヽ /;;;;;;\;;;;'⌒) 今年は丑年だからな 〟.|;;〈((/(~ヾ》. あ、ゼシカの分もあるぜ ).|;;;ヾ巛^ヮ゚ノ" 牛の着ぐるみ… ι|;;;;;;;;し ;;;/つ イガイトカイテキ .,'^y'⌒⌒ヾヽ .))!#八~゙リ(〈 (.(ヾ!;゚д゚ノノ!)) そんなの着る訳ないでしょっ カッテニヤッテナサイヨ ◆◇◆ ∩;;;∩ (Y;;;;;;;;;;ヽノ) i;;;;;;;;;;゚;;;゚ヽ /;;;;;;\;;;;'⌒) (;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;) (;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;) あれは…! .,'^y'⌒⌒ヾヽ さっきククールが着てた着ぐるみ… )人 ,人〈 ∩;;;∩ ちょっとだけ… (Y;;;;;;;;;;ヽノ) i;;;;;;;;;;゚;;;゚ヽ /;;;;;;\;;;;'⌒) 〟.|;.))!#八~゙リ(〈 ).|(.(ヾ!;´∀`ノ!)) ι|;;;;;;;;つ ;;;/つ コソーリ ヽ..;;;;;;;;;/ U"U コソ|彡ミヽ|(~ヾ》 。O○{ 計 画 通 り !|∀`ノ ⊂) ノノ| / ∩;;;∩ (Y;;;;;;;;;;ヽノ) i;;;;;;;;;;゚;;;゚ヽ /;;;;;;\;;;;'⌒) 〟.|;.))!#八~゙リ(〈 あ ).|(.(ヾ!*´∀`ノ!)) イガイトキゴコチイイ… ι|;;;;;;;;つ ;;;/つ ヽ..;;;;;;;;;/ U"U
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/164.html
随分、時間を無駄にしてしまったわ。 ラプソーンが自らの城を取り込み、完全な復活を果たしてしまったっていうのに、ヤンガス以外の全員が、まともに歩くことさえ出来ないダメージを負ってしまい、戦える状態に戻るまで一週間も費やしてしまった。 レティスに指示された七つのオーブを集め終わり、これからレティシアに向かおうという時、エイトはミーティア姫と話をすることを望んだ。 私は別れの挨拶のようなことは好きじゃないんだけど、これは違うとわかる。 エイトは必ず勝つためにそうするんだって。エイトが戦う理由は、世界を救うためだけじゃなく、ミーティア姫を元の姿に戻してあげるため。その気持ちをもう一度力に変えるために、彼女に会いたいんだって。 でも最近、移動する時は空を飛ぶか、ルーラを使うかしてたもんだから、ミーティア姫は人の姿に戻れるほどの量の水を飲めなかった。 それでどうしてるかっていうと、エイトとミーティア姫は一生懸命、泉の周りを走って喉を乾かそうとしている。 ダイエットを兼ねたヤンガスもそれに付き合ってるんだけど、私は辞退させてもらった。 もちろん魔物が襲ってくるようなことがあったらすぐに加勢するつもりだけど、今のところそういう様子はない。 私は泉から少し離れた場所に座って、空を見上げた。 暗黒神、ラプソーンが待つ空。 追いかけて、追い詰めて、今度こそと何度も思ったのに、あいつはそれをあざ笑うかのように、次々と犠牲を増やしていった。 もう許さない。もう次はない。ラプソーンは必ず、この私の手で倒してみせる。 不意に視界が遮られた。 「そちらの美しいお嬢さん。私めに貴女のそばに座る栄誉をいただけますか?」 ククールがすました顔して、私の顔を覗き込んでいた。折角ひとが気合入れてたっていうのに、拍子抜けしちゃうじゃないの。 「勝手にどうぞ」 今は彼の軽口に付き合う気分じゃない。 「それでは、お言葉に甘えて」 そう言ったククールは、わざわざ私の真後ろに回り込んで腰をおろした。 何してるんだろうと思うと同時にククールは、いきなり私に全体重を預けてきた。 完全に油断していた私は、手の指が足のつま先についてしまうほどの、完全な屈伸を強いられる。 「いたたたたたっ! いたっ、おもっ、ちょっと重い! 痛いってば!」 パッと見、細く感じるけど、鍛えてる上に背も高いから結構重いのよ、この男。 「へえ、途中で胸がつかえるかと思ってたのに、ゼシカは身体やわらかいんだな」 妙に感心したような声をあげられた。 「このっ・・・ドアホーッ!!!」 渾身の力を込めて押し返す。何とか元の体勢まで戻すことは出来た。 「おおーっ。すごいすごい」 拍手までされてしまった。何なのよ、このバカ。 付き合ってられないとは思うけど、ククールの力加減は絶妙で、立ち上がって逃げるまでは出来ない。 「あんまり上ばっかり見てると疲れるぜ? 足元が疎かにもなるしな」 ・・・何よ、その見透かしたような言い方。 いつもそうよ。自分は何もかも全部わかってるっていうような顔をして、私のことは子供扱いする。 この一週間で、やっぱりククールは私には理解しきれない人なんだっていうことがわかった。 立つのもやっとっていう時は、辛い気持ちやオディロ院長との思い出なんかを、本当にちょっとだけなんだけど話してくれたりして、少し距離が縮まったような気がしてたのよ。 だけど少し回復すると、ククールはマルチェロから渡された指輪を見つめて考え事することが多くなって。そして私はそれを、お兄さんを心配してるんだと受け止めてた。 マルチェロときたら死にそうなケガしてたのに、治療もしないでゴルドから歩き去ってしまったから。あの姿を見送る時も、本当に回復魔法が使えない自分が歯痒かったわ。 だけど、それは私の思い込みだった。 普通に歩けるようになるとすぐ、ククールは一人でサヴェッラに行くと言い出した。 私もエイトも、やっぱり歩けるようになったばかりの時で、どうせ戦えないんだし、ルーラを使うからすぐに戻るって。 もちろん私たち、止めたわよ。何をするつもりなのかわからないけど、行くなら全員で行こうって。 だけど、同行を許されたのはエイトだけ。私とヤンガスは置いてけぼり。 キメラのつばさを使って後を追うことも考えたけど、絶対についてくるなってクギを刺されて、出来なかった。本気で怒らせると、ククールは結構怖いから。 その夜、二人が戻ってきた時もククールは何も話そうとはしてくれなくて、何があったのかを教えてくれたのは結局エイトの方だった。 ククールはサヴェッラ大聖堂のお偉方のところに行って、『行方不明の新法皇様から即位式の直前に、煉獄島の囚人たちを新法皇誕生の恩赦による減刑で出獄させるよう、命令を受けていた』なんて涼しい顔して大嘘ついて。 マルチェロからもらった騎士団長の指輪を証拠の品だって見せて、ニノ大司教たちを助け出す手筈を整えてしまったんだって。 それと崩壊してしまったゴルドへの救援も一緒に要請したらしい。 もちろん、嘘ついたのが悪いなんて言うつもりはないわよ。 煉獄島みたいなひどい所、助けられるなら一日だって早く出してあげた方がいいと思う。崩壊してしまったゴルドにも、回復魔法の専門家の聖職者たちを送り込むのは何よりの助けになると思う。 でも、どうして一人でやろうとするの? 聞くまでもなく、理由はわかってるわよ。もし嘘がバレた時でも、自分一人が捕まれば済むなんて思ってるんだわ。だけどそういうところが本当に腹立つのよ。 ・・・でも多分私が一番ショックを受けてるのは、マルチェロに貰った指輪を見ながらククールが考えていたことが、マルチェロの行方じゃなくて、その使い道だったっていうことの方なのかも。 ククールがマルチェロのことを全く心配してないとは思わないわ。でも私だったらきっと、あんな形でお兄さんに渡されたものを、何かに使おうだなんて思いつきもしない。 そして、いくら人助けのためだからってそれを使って公の場でサラッと嘘ついて、その帰りにベルガラックのカジノに寄るなんて絶対無理よ。 そばで見ていたエイトにも教えなかったらしいんだけど、多分とんでもないイカサマをして、わずか数時間の間にコインを40万枚も稼ぎ、大量の剣やら鎧やらをお土産にすました顔して帰ってきた。 私にもグリンガムのムチなんていう最高級の武器をプレゼントしてくれたもんだから、いろいろ言ってやりたいことがあったのに、何も言えなくなってしまった。 本当にわからない。繊細で傷つきやすい人なのかとも思うのに、変なところで人並み外れて図太いんだもの。 そういうところ、半分くらい分けてほしいもんだわ。 「最後の戦いの前に、ゼシカに話しておきたいことがあったんだ」 自分の考えにふけっていた私は、背中越しにつたわるククールの声の響きに、ちょっとドキッとした。 「やめてよ。戦いの前にどうとかって、私、そういうの好きじゃないのよ。話なら帰ってきてから聞くわ」 「今じゃないと、意味ないんだ」 いつになく真剣な声に、それ以上は拒絶できない。 「・・・わかったわ、どうぞ」 「オレがこのパーティーに加わる時、ゼシカに言った言葉、覚えてるか?」 何よ、何言うつもり?」 「・・・覚えてるわよ。私だけを守る騎士になるとか何とかでしょう?」 「そう、それ。あれ、無かったことにしてくれ」 頭をウォーハンマーで殴られたような衝撃がきた。 「あの頃のオレは何も考えてなかった。ひと一人守るってことがどれだけ難しいことか、わかってなかったから簡単にそういうことを口にできた。本当にバカだったと思う」 ひどい・・・。 ククールのバカバカバカ! 何よ。どうしてそういうことを、今言うの? 守ってくれてたじゃない、ずっと。私がどれだけ支えられてきたか、わからないの? これから決戦だっていうのに、いきなりそんなこと言って突き放すなんて、ひどすぎる。一気にテンション下がっちゃったじゃないの。 ・・・本当に、私ずっと頼りっぱなしだったんだ。ククールのこんな一言でショック受けるほど。 もしかしてククールは、もういやになったのかしら。この間だって私のために危うく命を落とすところだったんだし。 そう考えると、これ以上甘えちゃいけないんだと思う。 そうよ、初めは私一人で兄さんの仇を討つつもりだったじゃない。 私だけを守るなんていうククールの言葉も、言われた時は全く信用してなかった。 それなのにククールは、私を何度も助けてくれて、守ってくれた。 これ以上望むのは間違ってる。次が最後の、それも一番大きな戦いなんだもの。こんなことで落ち込んでるようじゃあ、暗黒神なんてものに勝てるわけないわ。 「それにゼシカつえーしな。ドラゴンキラーやもろはのつるぎなんて片手で振り回してるのを見た時には、うかうかしてたら剣でも負けると思ったもんだ」 でも何か、こういう言われ方されるのはムカつく。 確かに身体が回復してからというもの、今までは重くて上手く扱えなかった剣が嘘のように軽く感じるようになった。 力が特別強くなったわけではないんだけど、私にも少しは魔法剣士だったご先祖様のチカラが受け継がれてたっていうことなのかしら。 でも、だからって剣でククールより強くなれるなんて思ってないわよ。ククールだって、きっと本気では思ってない。 こういう時でも、私をからかうのは忘れないのね。 「それにゼシカだけ守ったって、そんなものに意味なんてないんだよな。大事なものが何もない世界に一人だけ取り残されても寂しいだけだ。ケチなこと言わずに、守れるものは全部守る」 ちょっと泣きそうだったんだけど、続くククールの言葉に、そんな気分は吹き飛んだ。 「オレ一人じゃキツいけど、ゼシカと一緒だったらこの世界全部だって守れる気がする。・・・頼りにしてるんだぜ、これでも。ラプソーンとの戦いでも、よろしくな」 ・・・どうしよう、目眩がする。 「ゼシカ?」 私が返事をしないもんだから、ククールがこっちの様子を伺おうとしてる。 ダメ! こっち見ちゃダメ。 「・・・まかせといて」 それだけ言うので精一杯だった。でも、ククールの動きは止まったので一安心。 見られたくないの。私きっと今、すごく変な顔してるから。嬉しすぎて、頭がおかしくなりそうなんだもの。 ずっと聞きたかったの、その言葉。『頼りにしてる』って、そう言ってほしかった。嘘や慰めじゃないよね? ククール、そんなに甘くないものね。 言葉は何も思い浮かばなくて、でも何かは伝えたくて、私もククールの背に体重をかけた。広くて温かくて、力強い背中。命も何もかも、全て預けられる。 うん、私も頼りにしてる。あなたを信じてる。一緒に守ろうね、私たちがこれから生きていく世界を。 さあ、首を洗って待ってなさいよ、ラプソーン。今の私には怖いものなんて、もう何もないんだから! ほしかったもの-後編
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/158.html
ここまで心底驚いたような顔しなくても、いいと思うの。 『悩んでることがあるのなら、私に話して』 これって、そんなに珍しい言葉じゃないわよね。ククールがどれだけ私のことを子供だと思ってるか、改めて思い知らされるわ。 でも引き下がらないわよ。仲間が何かに悩んでるって気づいたのに、知らないフリなんて絶対にしないんだから。 本当に自分が恥ずかしいわ。 暗黒神に操られてからずっと、私一人が辛いような顔をしてた。 ククールは私にずっと優しくしてくれてた。 泣き言も全部聞いてくれて、体調も気遣ってくれて、いろんなことから庇ってくれた。 今日だって先回りして、ラジュさんたちにチェルスの死の理由を説明してくれた。私がそのことで辛い思いをしないようにって。 私のこと、ずっと守ってくれてた。 そして私はそのことに甘え続けてきた。 だから気づかなかったのよ、私がこの頃感じていた不安の理由。 ククールがどこかに消えて、いなくなってしまうんじゃないかって怖かった。 だけどそれは自分の心が弱いからだと思い込んでた。ククールに頼りすぎてるから、彼がいなくなってしまうことを恐れてるだけだって。だからチェルスのことからも逃げずに、しっかりしようと思った。 自分のことしか考えてなかったんだわ。 今だって、ククールを心配して探しに来たんじゃない。目を覚ましたらククールの姿が見えなくて、おまけにアークデーモンに見張られてるみたいで私が心細くなったから、こうして起き出してきちゃったのよ。 そしてここでククールの姿を見つけて、その様子を見ていてやっと気づけた。彼が何かに悩んでイライラしてるってことに。 だから私までつられて不安になってたんだって。 ククールが私をあてにしてくれない事を不満に思うのは間違ってた。 子供扱いされて当たり前よ。悩みなんて打ち明けられるわけないじゃない。こんな自分のことで精一杯の私なんかに。 ククールは考え込んじゃって、何も言ってくれない。 いつだってポーカーフェイスで、自分で見せてもいいと思ってる部分しか見せてくれない人だから。 文句が多いようで、本当に辛いことは口に出してくれない。自分の中で処理してしまおうとする。 そりゃあ私は頼りにならないかもしれないけど、信じてもらえてないのかと思うと、寂しくて悲しくなる。 「・・・自分でも、どう解釈すればいいかわかってねえし、かなり回りくどい話し方になると思うけど・・・短気おこさずに聞いてくれるか?」 ククールのその口調から、何だか大変そうな話だってことは伝わる。だけど私に話してくれるのよね? でも私ってそんなに短気に見えるの? まあいいわ、今は話を聞くのが先よ。私は無言で頷いた。 「オレ、蘇生呪文習得したかもしれない」 ・・・蘇生呪文って、ザオラル? そんなのずっと前から使えてたわよね? でも今更、意味もなくそんなこと言うとは思えない。・・・ということは、違う呪文? 「まさか、ザオリク?」 自分で口に出しておいて、バカなこと言ったと思った。 だってザオリクって完全死者蘇生呪文よ? 何百年も前、それこそ賢者の時代には使える人もいたって書いてある本はあるけど、半分おとぎ話のようなもので、そんな呪文が本当にあったなんて信じてる人、多分いないわ。 死んでしまった人が生き返ったりするはずないじゃない。そんな魔法が本当にあるなら、誰も大切な人を失って悲しい思いすることも無いのに・・・。 「さすがゼシカ、知ってたか。話が早くて助かった」 なのに、ククールはあっさりと私の言葉を肯定した。 私は今の話をどう受け取っていいのか、わからない。 「・・・やっぱり、信じられないか?」 困ったような、寂しそうなククールの声。 私は慌てて首を横に振る。 「信じるわよ、決まってるじゃない」 ククールは涼しい顔して嘘つくし、軽口ばっかり叩いてるけど、こんなことで嘘や冗談は言わない。 命が失われる痛みは、誰よりもよく知っている人だから。 だったら、どんなに信じられない話でも、信じるしかないわ。 不意に手をとられた。あんまりスムーズな動きなんで、何をするつもりなのか疑問に思う 間もなく、顔の位置まで上げられる。 そしてククールの唇が、私の手の甲へと当てられた。 一気にその部分に全神経が集中する。身体が固まってしまう。 「ありがとな、ゼシカ」 その声も瞳も穏やかで、下心なんて微塵も感じさせない。 ククールは、ただ感謝の意を示しただけなのよね。やり方がキザってだけで。 暗くて良かった。きっと私、赤くなっちゃってると思う。この程度のことで動揺してるのには気づかれたくないわ。 「で、ここからが困ったとこなんだけど、どうやら、その呪文は使えないらしい。唱えられないんだ」 話が続いてるんだけど、手をとられたままなことが気になって集中して聞けない。 こんなことじゃダメだわ。自分から話してって言っておいて失礼よ。 「唱えられないって、使ってみたことないの?」 確かに新しい呪文が使えるようになった時って感覚でわかるけど、大抵の場合は覚えた魔法は使ってみて、威力や効果を確かめてみる。 ああ、でも死者蘇生呪文ともなると、そう簡単に試してみるなんて出来ないわよね。他の呪文なら実験台になってあげてもいいけど、ザオリクの場合は死なないといけないから、ちょっと無理だわ。 ククールを信じないわけじゃないけど、ザオリクが伝えられてるような完全な蘇生呪文じゃなかったら困るもの。 「もちろん使ってみようとしたさ。でも出来なかった。さっき唱えられないって言ったけど、そういうレベルじゃないんだ。その言葉自体、口に出せない。呪文として唱えようとせずに普通に言おうとしても、喉にひっかかって声にならないんだ」 ・・・言葉の意味がわからない。 私だって当然ザオリクなんて使えないけど、声に出すくらいは出来る。 「それさえ無ければ、自分の願望から、ありもしない呪文を覚えたような思い込みに囚われたんだって解釈で済むんだが、声にも出せないなんて不可解すぎるんだよな。そんな話、聞いたことないしな」 私も聞いたことないわ。魔法に関する本はそれなりに読んできたつもりだけど、似た話すら見たことがない。 「そのくせ、何か魔法を使おうとすると、頭の中でその言葉が鳴り響きやがる。オレの使う呪文は博打性の強いのが多いから、呪文を唱える時に集中できないのは迷惑以外の何ものでもない。 初めは何か耳鳴りがする位にしか思ってなかったけど、段々頭の中の声がでかくなってきやがった。特にザオラル使う時なんて最低だな。ついうっかりザオ・・・」 ククールが顔をしかめる。さっき言ってたように言葉が喉につかえたみたい。 「・・・一応は、あてにならない呪文に頼って、使えない魔法を覚えたと思い込むほど落ちぶれちゃいないつもりだから、何かあるとは思うんだが、それが何かはわからない。ホント、ムカつくんだよな」 軽い調子で話してるけど、明らかにイライラしてるのがわかる。 それなのに私、つい思ったことを口に出してしまった。 「ククールって、賢者みたいよね」 ククールは面食らった顔して私を見る。 どうして私って、こうなんだろう。思った次の瞬間には、もう言葉にしてるのよ。 「だって普通、僧侶がルーラやマホカンタ覚えたりしないじゃない。その上、ザオリクでしょう? だから、ちょっとそう思っちゃったのよ」 慌てて言い訳めいたことを言ってしまう。 「確かに修道院でもルーラ使いは変わり種とは言われてたけど、オディロ院長だって使えてたぜ? 僧侶だからって絶対使えないってもんじゃねえんだろ」 「だって、オディロ院長は賢者の末裔じゃないの」 ・・・何だろう、今の言葉。自分で言ったことなのに、何かとても重要なことのような気がする。ククールも同じように感じたみたい。黙り込んで何か考えている。 でもククールはその考えを振り払うように頭を振って、いつもの調子に戻った。 「まあ、あれだ。オレが言いたかったのは、その言葉のせいで呪文を唱える時の集中力が落ちてるってことだ。だから回復のタイミングが遅れたりして、皆を危険に晒すかもしれない。 一応真面目にやってはいるんだが、そのことを踏まえてオレのことはあんまり当てにしないでほしい。 ほんとはもっと早く話しておくべきだったんだろうけど、例の言葉を使わずにどうやって説明するか考えてて遅くなった。悪かったよ。ゼシカが博識で助かった。エイトたちに話す時にも補足してくれると助かる」 ・・・ククールは本当に強い・・・。もっと早く話すべきだったって言葉は、それなりの時間、一人で抱え込んでたって意味になる。なのに全然気づかせてくれなかった。気づけなかった私が未熟だっただけかもしれないんだけど・・・。 それに、私なんてついさっきまで、ククールが私をあてにしてくれないことにスネてたのに、こんなにあっさりと『自分をあてにするな』なんて言い切っちゃう。誰に何と思われても揺るがない自分を持ってる人なんだ。 「私に、何か出来ることある?」 ククールが私にしてくれたようには出来ないかもしれない。でも、どんな小さなことでもいい。力になりたい。 再び手を持ち上げられて口づけられた。今度は指先。またまた私は硬直してしまう。 どうしてこの人、こんなこと恥ずかしげもなく出来るの? それとも意識しちゃう私がおかしいの? 「そうだな、ゼシカには楽しいこと考えててほしい」 ククールの言葉は意外すぎて、咄嗟に意味がわからなかった。 「身近な人間がイライラしてると、つられて不安になったりするだろ? オレの苛立ちがゼシカを巻き込んでたことは何となく気づいてた。 だから今度はゼシカが楽しい気分をオレに分けてほしい。杖を封印した後、何をするかとかがいいかな。キツい戦いの後の楽しみは必要だろ?」 ・・・ドルマゲスとの戦いの前、ククールは私に何度も言ってくれていた。敵討ちが終わった後のことを考えろって。あの時はその言葉の意味を考えなかった。だからドルマゲスを倒しても虚しさしか残らなくて。そして、そこを暗黒神に付け込まれた。 「うん、考えてみる」 また同じことを繰り返すわけにはいかない。せっかくの忠告、今度こそ無駄にしないわ。 「・・・今日は有意義だったな。何事も考えてないで実行してみるもんだ」 ククールの声から苛立った感じが消えている。話してみたことで、少しでも気が楽になってくれてると嬉しいんだけど。 「真面目な顔さえしてれば、ゼシカは結構ガードがユルいこともわかったし」 ・・・? 「さすがに二度目は『調子に乗るな!』って怒鳴られると思ったのに、振り払おうともしないんだもんな」 そして、三度目のキスが手の甲に贈られた。 私はやっと、からかわれてたんだって気づいた。深刻な話の最中に随分な余裕じゃないの! 「離してよ、バカ!」 私はククールの手を振り払う。ククールはいかにも可笑しそうに笑ってる。 まったく! どこまで本気で、どこまで冗談なのかサッパリわかんないわ。 ・・・でもいい、このくらいなら。真剣な話の後ほど、こうやって軽口でごまかそうとするんだって、知ってるんだから。いつまでも、その手にはのらないわよ。 それにちょっと考えたの。戦いが終わった後の楽しいこと。 いろんな所を旅してきたけど、戦うことに精一杯で、ゆっくり町を歩いたり、キレイな景色を眺めたりなんて、ほとんど出来なかった。 だから皆でゆっくりと世界を回りたい。 船に乗って地図にない島を探したりするの。そう思うと本当に楽しい気持ちになってきた。 ・・・さっきのことは許してあげるから、その時にはククールも一緒に来てね。 そうしたら、どんな辛い戦いでも、私きっと勝てる気がする。 <終> 強さ-前編
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/257.html
いつも楽しませてもらっております。「懊悩ククゼシ続々」の、ククの「好きだ」というセリフのあとのゼシカ視点の数行が入ってないと思うのですが…大好きな話なので、追加していただけると嬉しいです。 -- 名無しさん (2008-12-06 13 35 01) 返信遅れてすみません。編集しなおしました。 -- 名無しさん (2009-01-17 15 49 51) どうも。隠れ屋管理人です。リンクありがとうございます!こちらも掲示板にwikiリンクさせていただきました。 -- 名無しさん (2009-02-08 22 37 56) すみません、何度もスレ汚しする訳にはいかないのでこちらに書かせていただきます。とあるホワイトデーの話保管の際はこちらをお願いします。ttp //www12.uploader.jp/user/kj/images/kj_uljp00049.png -- 名無しさん (2009-03-16 01 32 55) 名前 コメント