約 1,352,370 件
https://w.atwiki.jp/loli-syota-rowa/pages/480.html
すべては妹のために(前編)◆CFbj666Xrw ――フランドール・スカーレット。 その名前が呼ばれたとき、彼女は咄嗟にその意味を理解できなかった。 だってそれは、有り得ない事なのだから。 フランを殺せる者なんて居るはずがない。だから放送で呼ばれる事は無い。 ただ単にそれだけの事が、覆った。 「――アイゼン」 『なんでしょう?』 「リピート」 『……放送で呼ばれた名は、フランドール・スカーレットです。 加えてプレセア・コンバティールも死亡したとの事です』 「そう」 死んだものは死んだこと。それを確認する。 死んだのが事実だというならば、事実を元に考えるしかない。 「驚いた。あの子、殺されたのね」 ただそれだけの事だ。 だからレミリアはさっぱりとした口調で言った 憎しみが篭もる事はなく、悲しみに満たされる事もなかった。 「ついでにプレセアも死んで、しんべヱっていう餓鬼も死んだか。 しんべヱの死体捜し……はもういいか。レイジングハートという奴を捜すとしよう」 『――レイジングハートはデバイスです』 「へぇ……」 グラーフアイゼンが唐突に情報をもたらした。 「おまえと似たような物かしら。なんだ、喋る杖の方だったのね。 そうすると仮にそこで死んだとすれば、殺した奴は謎の仮面の女か。……どうでもいいな」 レミリアは訊いた。 「まあいいわ。その杖について詳しく説明なさい」 * * * 「………………」 「………………」 レックスは。アルルゥとレベッカは息を潜めて睨み合う。 敵である少女を、少年を警戒しながら子供達は静かに睨み合っていた。 定時放送が流れていた。 ジェダはまず、禁止エリアを告げた。 19時よりB-7。島の南西部。 21時よりH-8。島の南東端。 23時よりA-1。島の北西端。 1時より G-4。島の東部。 3時より E-7。島の南部。 5時より E-2。島の北部。 しばらくの間、この中央部周辺に禁止エリア指定は無いらしい。 その事に三人ともが小さく安堵する。 次に無数の名前が連ねられる。 死者達の名だ。 その場にいた彼ら、彼女らが聞いた名も幾つかあげられた。 01番、明石薫。アルルゥとレベッカは敵の一人が死んだ事を知った。 11番、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。更なる敵の死を知った。 18番、城戸丈。アルルゥは脱出を目指した一人の少年の死を知った。 死者の名前は十を数えても止まらない。 31番、ジーニアス・セイジ。アルルゥとレベッカは彼の死を知った。 「………………」 アルルゥはただ戸惑った。 「そんな……ジーニアス、死んだのか!?」 レベッカは衝撃を受けた。心は千々に乱され、冷静さをこそぎとる。 34番、真紅。35番、翠星石。彼女達の死をレベッカは知っていた。 レベッカは翠星石の死を思い出した。自分とジーニアスを庇って死んだ彼女の死を。 翠星石の友人である真紅は、今や無惨な首飾り。 ……どうにもならない。 44番、永沢君男。レックスは自らが殺した少年の名を知らない。 死者の名前は二十を数え尚止まらない。 だがそれでもレックスは安堵する。 発音順に読み上げられる死者の名はタバサを呼ばずに通り過ぎた。 (タバサはまだ、生きているんだ) 死者の羅列はアルルゥ達に暗澹たる未来を告知し続ける。 58番、福富しんべヱ。 「……ウソだろ」 レベッカは言葉に詰まる。ほんの数分前に仲間を呼びに行った少年は死者へと変わる。 60番、フランドール・スカーレット。 「レミリア…………」 アルルゥは呟く。フランドールの“おねえちゃん”である吸血鬼の名を。 63番、プレセア・コンバティール。 「……ぁ…………」 そして茫然となる。この島に来てから出会った、アルルゥにとっての“おねえちゃん”。 その名を読み上げられた。 殺された。死んだ事を告げられた。衝撃はただ激しくて。 「ぁ……バカ! 前!!」 「え……」 “一足早く何も失ってない事を確信した”レックスがそれにつけ込む事は容易だった。 「オピァ……」「させるか!」 一閃。 タマヒポを喚ぼうとサモナイト石をかかげたその手が、斬り飛ばされた。 右手の手首から先が宙を舞い、血飛沫が夜天の光を照り返す。 アルルゥがその激痛と恐怖に襲われるよりも早く、勢いを殺さず飛び込んだレックスが剣を振るう。 懐まで飛び込んでは刃を振るえない。それでも突進の勢いを乗せた柄の打突は重かった。 人として鍛え抜かれた腕が、人として有り得ない怪力を絞り出す。 ――レックスの手の中で刀身が黄金色の輝きを放っていた。 肋骨を折りながら食い込んだ柄がアルルゥの小さな体を跳ね飛ばす。 背後の樹に叩きつけられ、湿った嫌な音が響きわたる。 めりめりと音を立て、へし折れた樹が地に伏していった。 「アルルゥ!!」 レベッカの悲鳴が上がる。 アルルゥは動かない。悲鳴を上げる事もない。 それを確認すると、彼女達の敵対者は安堵の息を吐きだした。 「……今度こそ、ようやくだ。もうミスなんてするもんか。 ここでこれまでの失敗を纏めて取り返す。この場で二人殺してご褒美をもらってやる」 「ひっ……」 この場における二人目、レベッカは恐怖した。 ――だけど、逃げる事はできない。 (だってアルルゥはまだ、生きている) 右手首を切り飛ばされて、肋骨の骨は恐らく何本もへし折れ、 その挙げ句に樹がへし折れるほどの勢いで叩きつけられた小さな少女。 それでもアルルゥはまだ生きていた。 胸が上下しているのが見えた。かすかな息づかいと呻き声が聞こえた。 アルルゥはまだ生きていた。……まだ。 (でもあんなの……もうどうしようもないじゃないか) 確実に致命傷だ。放っておけば確実に死ぬ。 治す方法だって見当も付かない。どうしようもない。 見捨てて逃げるしか手はないはずのに、それさえも出来なかった。 (くそ、何か無いのか、何か……! 今、私が持ってる物で! 魔導ボード……ダメだ、こんな森の中じゃあいつの足の方が速い! ていうか壊れてるし! 木刀……あんなの相手にできるか! 宇宙服……意味ねー!? くそ、なにか、なにか……!) 手が、布きれを掴んだ。 レックスが駆け出す。剣を振り上げて。距離が詰まり間合いが迫り刃が走り。 「このぉっ!」 レックスが剣を振り下ろす瞬間、レベッカは反射的にその布切れを振るっていた。 …………ひらり。 「え…………?」「な、なんで!?」 レベッカの放心とレックスの動揺が交差する。 レックスはすぐに気を取り直して第二撃。だがレベッカはそれに対して再び振るった。 ……ひらり。 振るわれた赤いマントに当たる寸前、剣は逸れて空を切る。 「なんでだ!!」 レックスは続けざまに剣を振る。 袈裟切り。逆風。逆袈裟。右薙ぎ。刺突。唐竹割り。 ひらり。ひらり。ひらひらり。 「さっきは当たったじゃないか! なのにどうして、どうしてまた当たらないんだよ!?」 「うわ、来るな!?」 逆上したレックスは無闇矢鱈に斬りつける。 その斬撃は全て重く、神速を持っていた。だがその全てが空を切る。 レベッカは当然ながら気付いていた。 この赤いマントが全ての攻撃を受け流している事に。 しんべヱのちょんまげに絡んでいたこのマントは、本人も知らなかった強力な防具だ。 一太刀一太刀が必殺の攻撃を全て完璧に受け流してくれる。 (ど、どういう原理なんだ。いや、それはどうでもいい。とにかく今の内にどうにかしないと……!) レックスは逆上して無闇に斬りつけてばかりいる。 だけど落ち着けばこのマントが盾である事に気付くだろう。 それまでに何か手を打たないと殺される。アルルゥだって助けられない。 何かを手を打たなければならない。どうにかして。 マントを振るい続けなければ一瞬で斬り殺されるこの状況から。 (……こんなのどうにもなるもんか) どうしろというのか。 時間を稼ぐ以外に何が出来る。負けを引き延ばした所で何がある。 ジーニアスとプレセアは放送で死を告げられた。 助けを呼びに行ったしんべヱは数分で殺されて、きっと何処にも辿り着けなかった。 レミリアはまだ生きているようだけど、この状況で間に合うわけがない。 そんな都合の良い展開なんて……。 「どいつもこいつも落ち着きのない奴らね」 「え……?」 ……有るわけ無いと思った。ただの幻想だと。 「くそ、仲間を呼んだのか!?」 だけどレックスが悔しげに距離を取り、視線を逸らした事で知った。 どういう偶然かそれ以外の何かか、それともしんべヱが間に合ったのか。 レミリア・スカーレットが現れたのだ。 レベッカは思った。助かったかもしれないと。だから喜色を露わにレックスの視線の先を追って。 「レミリ……ひっ、おまえさっきの!?」 先程レベッカから血を吸った、紅い悪魔の姿を見た。 「ああ、さっきのB型の血の奴ね」 気にもせずに言うレミリアの姿は紅く血に濡れていた。 爆発で受けた傷を治そうとレベッカから血を吸った名残だ。 血を飲む時に派手に零して服を真っ赤に染めてしまう事から、かつてレミリアはこう呼ばれた。 スカーレット・デビル(紅い悪魔)。 理由を辿ればどこか抜けた異名とさえ言えたが、 それでも全身を紅く血に染めたその姿は否応なしに一つの事実を突きつける。 此は人ではない物だ、と。 「まあおまえの事はどうでもいい」 レミリアはレックスとレベッカの間を堂々と横切って、倒れ伏すアルルゥへと近づいた。 レミリアはアルルゥを見下ろした。 アルルゥの右手は手首から切断され、折れた木の下敷きになっていた。 服の上からは見えないが、服の破れ方は体が壊れるほど強烈な打撃を受けた事を物語っていた。 アルルゥはレミリアを見上げた。 痛みに涙が零れる。 「……れみ……りあ…………いたい…………」 息も絶え絶えに声を絞り出したアルルゥに、レミリアは冷たく言い放つ。 「あの二匹の『召喚獣』を喚びなさい」 「おい、まだ戦わせる気かよ!」 レミリアは背後で憤るレベッカを無視して、言った。 「今度こそきっちり叩きのめしてやるわ。私の勝ちを確認するためにね」 三者三様の動揺が場に広がった。 「れみり……どうして……?」 アルルゥの掠れた声。 「フランが死んだから、最強の証明でもしてみようかと思ったのよ」 レミリアの冷たい言葉。 「どういう事だよ、それ。フランドールって、おまえの妹なんだろ」 レベッカの声を荒げた叫び。 「………………」 レックスは傍観していた。いわば様子を見ていた。突然現れた彼女の目的を知るために。 それぞれの射線上から離れて静かに傍観し様子を観察し続ける。 (フランドール? そういえばさっき、放送にそんな名前が有った。 あのモンスターの女の子の妹なのか。だけどそれじゃどうして……あんなに冷たいんだ? それにここに居るアルルゥっていうモンスターの女の子も仲間じゃないのか?) レックスが見守る中、少女達の言葉が交わされる。 「ええそうね、フランドール・スカーレットは私の妹よ。どこかで死んだみたいだけど」 レミリアの言葉はあまりにも素っ気なくて、冷たかった。 「それじゃ、悲しくないのか?」 「悲しい? 私が?」 「そうだよ、妹が死んだんだろ! お姉ちゃんなんだろ! それなら……悲しくなったり、怒ったりするだろ。そういうもんだろ……」 (……なのに、どうしてそんなに冷たいんだ) レミリアはレベッカを見つめて……嗤った。 その笑顔はこれっぽっちも楽しそうではなくて、見ている誰も楽しくなれなかった。 何かを嘲笑う昏い嗤いだった。だからみんな、嗤うレミリアが気に障った。 そしてレミリアは、酷いことを告げた。 「495年間地下に閉じこめて一緒にいてやった時間すら殆ど無い妹の死に、どう悲しめというんだ?」 レミリアは嗤う。 「フランを殺した奴も別に恨んで何かいないよ。 フランはこの島でも弾幕ごっこで遊んでいたみたいだし、その結果の生き死にを気にする理由は無いな。 弾幕ごっこで死んだなら、それはフランの行為の結果に過ぎないんだし」 レミリアはただ嗤う。 「結局こうなる運命だったのよ、あの子は」 なにも楽しげではないのに、なにかを面白がるように嘲笑う。 おかしくて無様だと嘲笑う。 「久しぶりに外に出されて、はしゃいで遊んで殺されて。まあそれだけの事よ、大した事じゃないわ」 そして全てを切り捨てて。 「遊びの時間が終わっただけ。 冥界でも地獄だろうとフランの魂を捜し出して、引きずってでも家に連れ戻せば一件落着。 まあちょっぴり面倒くさいか」 自らの方針を確固と示す。 「だからフランの死はそれだけの事」 レミリアは嗤う。 「私の戦いにはこれっぽっちも関係無いわ」 吸血鬼は嗤う。 「私はこれから最強を証明する」 悪魔は嗤う。 「立ち塞がる者は全て叩き潰す。 フランを殺した奴も、他の兵どもも、そしてジェダ・ドーマも、一切合切区別せず。 全て纏めて叩き潰すことで勝者となって、何者も怖れることない無敵の存在だと証明してやるわ。 その後で冥界の底からだろうとフランを引きずり出す。 たったそれだけの事」 傲然と。 「バ、バカ言うな、生き返らすとかみんな殺すとかそんな無茶苦茶出来るわけ……」 ハッと我に返るレベッカの常識を、レミリアは軽くはね除けた 「私を誰だと思っているのかしら。 私の名はレミリア・スカーレット。『運命を操る程度の能力』を持つ吸血鬼よ」 そして迫る。 アルルゥに要求する。 「さあ、『召喚獣』を喚びなさい。昼に遊んだときだってもちろん私の勝ちだけど、確認するわ。 私の方が強いって事を」 ……アルルゥは、手を伸ばした。 「やめろ、アルルゥ! 殺されるぞ!」 レベッカの叫びを聞かず、アルルゥは言った。 「……アルルゥのおねーちゃんは、やさしい」 アルルゥは、言う。 「アルルゥのおねーちゃんは、薬師をしてる」 アルルゥは目の前に転がっていた、切り飛ばされた右手首を掴んだ。 レックスに切り飛ばされた自分の手。その根本は今、叩きつけられ倒れた木に挟まれている。 「人をたすけるおしごと。おとーさんの戦争も手伝ってるけど、でも人をたすけるおしごと」 左手で自分の右手を掴み取る。 痛みは無い。切り飛ばされた右手がものすごく痛かったのに、今は何故か気にならなかった。 「アルルゥのおねーちゃんはとってもやさしい。時々しかられるけど、でもすごくやさしい。 アルルゥのこと、気にしてくれる。アルルゥがケガしたらすごく心配してくれる」 その右手首が掴み続けていた、小さな石を摘み取る。 タマヒポのサモナイト石。念じることで召喚獣を呼び出す不思議な石だ。 「プレセアおねーちゃんも、おねーちゃんだった」 一瞬感覚が無くなり、左手から石がこぼれ落ちる。暗い地面に紛れてしまう。 それでも諦めずに足下を見回して、月明かりを照り返す小さな石を摘み上げた。 「プレセアおねーちゃんはとってもかっこよかった。アルルゥのこと、気にしてくれた。 ジーニアスはにげだしたけど、でもプレセアおねーちゃんはかっこよかった」 指先には強い力が篭められて、もう石を落とさない。 アルルゥは、怒っていた。怒りのあまり痛みも忘れていた。 「生き返らせてくれるのはすごい。でも……」 サモナイト石がゆっくりと掲げられる。 「アルルゥ、アルルゥがいたがってるのを笑うおねーちゃんなんてキライ!!」 その側に一人、寄り添った。 「……どうした。おまえには関係無いでしょう?」 レミリアの問いに、レベッカ宮本は答えた。 「…………私も、お姉ちゃんが居るんだ」 それがレベッカの答えだった。 「私に色んな服を着せて楽しんだり、料理してくれたりもするお姉ちゃんでさ。 時々いじわるだったり、怒るとすっごく怖かったりするけど……私はお姉ちゃんのこと、大好きだ」 レミリアはただ聞いている。 彼女達の答えを聞いている。 「私はレミリアとレミリアの妹の関係なんて知らないし、口出す権利も無いんだろうけど……でも」 レベッカはレミリアをキッと睨んだ。精一杯の怒りを篭めて。 「おまえなんて最低のお姉ちゃんだ! このバカ姉!!」 宣戦を布告した。 * * * 「オピァマタ!」 アルルゥが叫び、空間が捻れ、限りなく球体に近い不格好な巨犬が姿を顕わした。 アルルゥの命名とは違い、本来の名はタマヒポという。 そのタマヒポは軽く息を吸い込み、次の瞬間、溜めに溜めた毒素を吐息に乗せて吐き出した。 毒消しの手段が無いとき、毒は必殺の武器となる。その毒は吸血鬼すら冒すのだ。 更にレベッカはひらりマントを手にしてアルルゥの前に立ち、レミリアからの攻撃に備える。 万全の布陣で吸血鬼に挑む。 レミリアは毒の魔獣と攻撃を逸らすマントを前に、宣言した。 「スペルカード……『マイハートブレイク』!」 手を掲げる。掲げたその手に強大な魔力が集中する。 瞬時にその魔力は長大な紅い槍へと姿を変えた。 迫り来る毒の吐息と、その先に居るタマヒポ、その向こうに居る守りのマントを持つレベッカ、そしてアルルゥ。 レミリアはその全てを睨み付けて狙いを定める。 『よろしいのですか?』 逆の手に握るハンマーから声がした。 「……良いのよ」 レミリアは短く答えて。 ――全力で必殺の槍を投げ放った。 槍はまず毒の吐息とぶつかった。 ――魔槍が纏う魔力の渦は毒の吐息を吹き飛ばす。 槍は次に召喚獣タマヒポに直撃する。 ――タマヒポはドーナツの様に消し飛んだ。 槍は瞬時にレベッカの構えるマントに到達した。 ひらりマントの力が槍を押しとどめる。それはありとあらゆる攻撃を弾き飛ばす鉄壁の盾。 だがひらりマントも無敵というわけではない。 幾度も使い続ければボロボロになるように、決して無敵の盾ではないのだ。 「く、くそぉ……」 特にこの『マイハートブレイク』は纏う魔力の渦によってギリギリの見切りを無効とし、 ありとあらゆる防御を貫き穿つという、レミリアの大技グングニルの強化版たる必殺の槍だ。 全力で投げる隙につけ込む高速回避こそが最も効果的な防御法。 知った所でレベッカにもアルルゥにもどうしようもない、正面から防ぐ者を叩き潰す必殺の正面突破。 相手がそうである事を知って放った以上、これはもう弾幕ごっこの域を外れた殺意の具現に他ならない。 穂先は徐々に、確実に、ひらりマントの防御圏へと食い込んでいく。 「は……弾けえ!!」 レベッカは力を篭めて、マントを大きく翻した。 ――――弾いた。 即座に続く魔力の渦が襲い掛かった。 「え……!?」 槍の後に泡のように残った無数の魔弾が、槍の作った魔力の渦に流れて襲い来る。 威力は劣る。必殺とは決して言えまい。だが充分な威力を秘めた第二の槍。 「あ……」 ギリギリでレベッカはもう一度マントを振るおうとして、数個の魔弾を弾き飛ばした所で渦に呑み込まれた。 背後のアルルゥ諸とも。 ――直撃した。 レミリアはゆっくりと足を進める。 地に伏すのは二人の少女。レミリアのではない、だけど誰かの妹達。 呻き声を上げて藻掻く敗者達。 「……まだ二人とも生きてはいるようね」 少し離れた所にはレベッカ、目の前にはアルルゥが倒れている。 レベッカはひらりマントをボロボロにしたが、体中の数ヶ所を魔弾に小さく抉られた程度だった。 血が流れ出ているが、血を止めれば助かるだろう。がんばれば動けるかもしれない。 しかし気を失っているのか、動く様子は無かった。 アルルゥは……こちらも思ったほどではない。まだ息はしているし意識もある。 切断された右手が木に挟まれ止血されていた事も幸運だったのだろう。 即死するかと思ったが、まだ生きていた。死を目前に迎えて生きていた。 「だけどすぐに死ぬわね。楽にしてあげようか?」 アルルゥの瞳にレミリアが映る。 傲然と高慢に聳える吸血鬼が目に映る。 「……れみ……りあ…………」 アルルゥがレミリアを見つめ、か細く呟く。 戸惑いと苦痛と、恐怖と悲しみと、無数の雑多な感情が湛えられた瞳。 その目に映るのは仲間だったはずなのに突如凶行に走った悪魔の姿だろうか。 その瞳が、冷たい眠気と苦痛に呑まれてゆっくりと閉じていく。 レミリアは結局何も手出しせず、自らの与えるその死を見送ろうとする。 別れはゆっくりと確実に訪れて。 とさっと。空き瓶が草むらに落ちる音がした。 「ベホマ」 割り込んだ声は僅かな戸惑いを秘めていた。 「ベホマ」 暖かい輝きを持っていた。 強い憤りと、純粋な意志を持っていた。 「ベホマ! ベホマ!」 制限されて尚強い癒しの力を、ありったけに注ぎ込む。 冷たく青ざめていたアルルゥの肌に温もりが戻る。 血が止まる。傷が塞がる。切断された右手首すら、薄皮が張り出血が停止する。 アルルゥは閉じかけていた目を、開いた。唇が潤い言葉を紡ぐ。 「…………たすけてくれたの……?」 でも……どうして? レックスはアルルゥの困惑に直接答えず、彼女を背にレミリアと向かい合う。 「しばらく動かない方が良い。多分、まだ痺れが残ってるだろうから」 背中越しの労りが確かな答え。 「おまえ、名前は?」 「…………レックス」 悪魔の問いに少年は名乗る。 「僕の名前は、レックスだ」 * * * 最初は勿論、アルルゥとレベッカを助けるつもりなんてなかった。 レックスの望みはただ妹のタバサを生還させる事だ。 それに“出来れば”タバサと一緒に自分も生還したいと続く。 他の者達は全て、その為なら犠牲にしても良いと思っている。 (……いや、良いわけじゃない。悪い。悪いけど、それでも僕は、タバサを守りたいんだ) そしてもしタバサが殺されたなら、優勝のご褒美で生き返らせてもらう為に殺し続けようと思ってい。 生き返らす為に戦うのは彼にとっても理解できる。 「……復活は貴い。それは僕達に与えられた奇跡だ。それは知ってるし、否定もしない。 この世界に制限されていなければ僕も使える……回復の奥義だ」 「へぇ……」 「僕は妹のタバサの為にこのゲームに乗っていた。タバサを帰す為に殺し合いを認めていた。 もしタバサが死んでも、優勝した後にタバサを生き返らせれば良い。そう考えてた。 今も間違ってたなんて思わないし、おまえがおまえの妹を生き返らせるのも貴いと思う。 ……でも、だから」 生も死も溢れた世界に居たレックスは、その思想を持っていた。 これまでもここまでは。 「だから……おまえとは違う! 僕はタバサが居なくなるのはイヤだ。 タバサが死ぬのもイヤだ。タバサが傷付くのもイヤだ、タバサが泣くのもイヤだ! 生き返らせる事が出来たって死んでほしくない。傷付いてほしくない! 僕はタバサが居なくなるのも、死ぬのも、傷付くのも、泣くのも……」 最低でもタバサが生き続ければそれで良いと思っていた。 そうでなくても傷付くことも泣くことも無ければそれで良い。満足だ。 そう思っていて、でもアルルゥとレベッカの言葉を聞いて、思った。 「………………妹に嫌われるのも、イヤだ」 兄としてタバサの事を守らないといけないと思っていた。 タバサが守れれば、タバサが幸せになれればそれで良いと思った。 (でもやっぱり……イヤだ) タバサに嫌われるのは、イヤだ。 タバサを助ける為に身を磨り減らして、顧みられずに捨て行かれるのはイヤだ。 タバサに憎まれるのは、イヤだ。 「だから殺し合いに乗るのは、もうやめにする。 僕はタバサに嫌われたくない。タバサに好かれるように生きたい」 「なんだかみっともないわね」 「みっともなくてもいい。もっとみっともないままでいるよりマシだもの」 烏滸がましくても自分の中では筋を通せる。 だから、決めたのだ。 「僕の名はレックスだ。 誇り高きグランバニアの王子にして魔物使いの息子、天空の勇者レックスだ! 今からもう一度、そう生きる!」 レミリアは笑った。 「それなら力を示すがいい。今も昔も妖怪を屈服させるのはそれがルールだ」 レックスは小さく頷いた。 レックスはアルルゥを背中に守り、闇夜に立った。 その手に握る両刃の剣は黄金色に輝いている。 天空の勇者は光輝を手に悪魔と対峙する。 レミリアはグラーフアイゼンを固く握り締め、構えた。 月光を浴びるだけのその姿は、殆ど暗闇と一体に見えた。 悪魔は闇夜を背に勇者と対峙する。 そして両者は駆け出した。 光を伴って。闇に潜んで。 ラグナロクとグラーフアイゼンが交差した。 * * * 先手は吸血鬼。視界から消える神速の踏み込みがレックスに迫る。 (速い!) 振るわれたハンマーの狙いは正確に頭部。翳した剣がそれを受け止める。 衝撃は重く、弾かれまいと踏みしめる足が土を削った。 「へえ、受けたか」 レミリアの小さな驚き。レックスはそれに乗じて剣を振り上げる。 レミリアはグラーフアイゼンでそれを受け流し、足が宙に浮く。 すかさずレックスは再び剣を振り下ろした。受け止めたレミリアの足が地に沈む。 「ちっ……」 「力なら負けない!」 レックスは即座にレミリアとの能力差を理解した。 (攻撃は相手の方がずっと速い。力も相当だ。多分どっちも、生物としての限界近い。 だけど僕も、この剣を足せば力は限界を超えられる!) それは天賦の素質を絶対条件にどこまで鍛えられるかという世界。 人間のみならず魔物も含めた生物としての限界領域。レミリアの身体能力はそれに近い。 レックスも鍛えれば何時かは辿り着ける、だけどまだ辿り着けない領域に居る。 本来あるその差を、手の中の剣が埋め尽くした。腕力においてレミリアを超える場所に導いた。 「受けろ!」 レックスは体勢の崩れたレミリアを下から逆風に切り上げる。 レミリアはそれを受け、支えの無い空中へ。即座にレックスは追撃の斬撃を放ち。 「甘いよ」 空中で半回転したレミリアの足が木の枝を踏みしめた。蝙蝠のように逆さに直立する。 振るうハンマーが剣を弾き、羽が夜気に膨らみバランスを保つ。 「今度はこっちのターンね」 その言葉と共に続けざまに振るわれるハンマーの連撃。天から墜ちる暴力の乱打。 剣で受け止め、流し、必死に凌ぐ。地面に足が打ち込まれていく。 (まずい! この体勢から使える手は……) レックスは上半身に向けて集中する連撃を必死に受け流しながら唱えた。 「ライデイン!」 更なる上空から降りた雷撃は木を焼き、枝を貫き、レミリアを穿つ。 しかしその雷撃は当然そのまま下へと流れ落ちた。 レミリアからグラーフアイゼンへ、グラーフアイゼンからラグナロクへ、そしてレックスを突き抜ける。 「ぐうっ」 レックスは呻きを上げて膝をついた。 レミリアは優雅に地面に舞い降てり、僅かに足取りをふらつかせる。 「痛ぅ……随分と無茶をする奴ね……」 「この位……なんてことないさ」 睨み合いつつ、ベホマを一回。ライデインの痺れを回復する。 レックスはしっかりとした足取りで立ち上がった。ダメージはもう残っていない。 ただでさえ頑強なレックスに、ラグナロクの体力精神力大幅強化効果が重なっているのだ。 普通人なら即死するライデインのダメージも、制限下のベホマで回復出来る程度まで軽減されていた。 「……訂正。面倒な奴ね」 レックスがまだ何度か回復出来るならば、レミリアは優勢とは言えない。 相打ちでもダメージを与えていけば、長く耐え、多く回復できる方が勝つ。 本来ならそれは圧倒的耐久性と再生力を誇る吸血鬼有利の出来レースになるはずだが、 この局面においてはむしろレックスの方が優勢だった。 「行くよ」 一声を上げて、レックスが再び駆け出す。 「まあいい、一撃で叩き潰してやる」 レミリアもそれに応え飛翔した。 再びの激突は最初から地と空の激突となった。 レミリアが鉄槌を振り下ろす。レックスは受け止め、切り返す。 レミリアは押し合わずに距離を取り、立木の側面に着地。そして宣言ではなく、唱えた。 「グラーフアイゼン、ラケーテンフォルム」 『Raketenform』 グラーフアイゼンがカートリッジを装填、炸裂、排出した。 変形する。ハンマーの打撃部に尖角が生え、逆側にはジェット噴射の排出口が形成される。 そこから魔力がジェット状に噴き出す。アイゼンを握るレミリアを中心にくるりと回転。 くる、くる、くるくるくるくるくるくるくるくる。 そこに宣言を重ねた。 「受けなさい。『バッドレディスクランブル』!」 自前の螺旋加速をそこに重ね、跳躍。踏み締めた木がそれだけでへし折れた。 アイゼンの加速とレミリアの加速が。それぞれの螺旋運動が絡み合い、捩れて尖る。 「ベギラマ!」 レックスが試しに放ったベギラマはレミリアの纏う魔力の渦を破れず消えた。 舌打ちと共に次の手を打つ。 「スクルト。……スクルト!」 スクルトを重ね掛けラグナロクを構える。鉄壁の防御でレミリアの必殺の一撃と交錯する。 そしてグラーフアイゼンとラグナロクが、激突した。雌雄を決する為に。 それは長い長い一瞬の激突。 螺旋に歪み捩れた軌道を描き、ハンマーの先端がラグナロクの刃先と噛み合う。 火花が散り金属音が響く。閃光と轟音の世界。夜を照らす激突。 ジェット流を噴き出すハンマーが、黄金に輝く刀身が互いの意義を主張する。 より強い武器である事を声高く咆哮する。 ……ピキリと音を立て、アイゼンの尖角にヒビが入り。 しかし力の奔流を抑えきれなかったのはレックスの方だった。 打撃自体は物理攻撃。だがそれに伴うレミリアの魔力の渦とアイゼンから流し込まれる力は魔法攻撃。 (ダメだ、スクルトじゃ一手足りない――!) 気付いたときにはもう遅い。レックスの手からラグナロクが跳ね飛ばされた。 直撃を受けて吹き飛ばされたレックスは夜の木陰へと吹き飛ばされ、叩きつけられる。 宙を舞うラグナロクはレミリアの手へと納まった。 「――――神々の黄昏。いや、“神々の運命”……ね」 レミリアは剣の銘を読み上げた。 「…………ふふっ。ふふ、あは、あはははははははは! 面白いな。そうね、神の運命すらも私の物にしてやるわ。全ての運命は私が操る。 この世界の全てを跪かせてやる! 私の下に!」 それは傲慢で子供じみた、禍々しい宣言。 まるで魔王のように、吸血鬼は闇夜へと宣言する。 「……させない、そんな事」 そんな宣言を聞いたなら、立ち上がらなければならない。 「そんな事は、絶対にさせない!」 魔王の侵略に抗するのは勇者の務めだ。ならば戦わなければならない。 どれだけそれが強大でも挫けず、どれだけ打ちのめされようとも立ち上がらなければならない。 戦って戦って打ち勝たなければならない。 (エーテルもこれで打ち止めだ) レックスは空き容器を投げ捨てる。エーテルはこれで使い切った。 直前に受けた攻撃の傷は癒えたが、残ったマジックポイントを使い切ればもう回復は無い。 (それがどうした) それでも立ち止まらない。まだレックスは戦える。 「人間が、武器も無しに?」 「武器なら有る」 レックスはランドセルに仕舞っていたもう一本の武器を抜き出した。 ドラゴンの杖。伝説の聖剣と同格の強大な力を秘めた杖。 「父さんの愛用の杖だ」 「……本当に面白いわね、人間って」 ドラゴンの杖を装備したレックスを前に、レミリアはラグナロクを構えて言った。 「おまえは休みなさい、アイゼン」 『……Jawohl』 了解の意を示し、グラーフアイゼンが待機状態に移行する。 ペンダントのようなそれを首にかけ、ポケットに入っていた爆薬を地面に投げ捨てる。 ライデインに引火しなかったのは騎士甲冑が雷撃を大幅に緩和していた事を意味する。 「防護服も今は良いわ」 だがその騎士甲冑もレミリアの言葉に従い、解かれた。 つまり防具であり、衣服を脱ぎ捨てた。 「な、なんで……?」 「ハンデと思うことね」 月と剣の光を浴びて、吸血鬼の裸体が夜闇に浮かび上がる。 露わになった肋が浮き出るほどに未熟な肢体には無数の青痣が浮かんでいた。 (こいつ、こんな傷を負っていたのか) おそらくはレックスと戦う前に受けていた傷だ。レックスも似たような傷を見た事はある。 イオ系やメガンテなど魔力の爆発による傷に違いない。 それも死に瀕するほどの重傷。防具も無い今なら、当たれば終わる。 それがドラゴンの杖による打撃なら当然のこと、ベギラマでも今直撃すれば致命傷となる。 一撃で吹き飛ぶたった一つの命を賭場に出して、レミリアは不敵に笑った。 「そろそろ本気で殺すわよ。健気な勇者」 やはり踏み込みは神速。小細工無しにレミリアは突撃、斬撃を振るう。 レックスはドラゴンの杖をかざしその斬撃を受け止めるが、重い。 (あの剣の力か……!) レミリアの手の中でラグナロクは黄金に輝き、その力を爆発的に増大させる。 レミリアとレックスの力を逆転させていた強大な力が根こそぎレミリアに流れたのだ。 効力を発揮するスクルトの重ね掛けが打撃を大幅に緩和し、辛うじて受け止めた。 瞬間には人間を凌駕する反射速度で横薙ぎの斬撃が迫っていた。 後ずさり受けた次の瞬間には刺突が。頬を切られながらも避けた瞬間には避けた方向からの袈裟斬りが。 体を捻りかわし強引に杖を振るい反撃。だが杖を突きだし始める瞬間には既に半歩の見切りでかわされている。 (さっきより速くなった!? いや、違う!) 脳天から叩き降ろされた斬撃を更に体をよじりかわす。肩口を刃が通り抜けた。 そこから血が噴き出すより早く迫る次の斬撃。完全に体を転倒させて空振りさせる。 「ベギラマ!」 そこから放った炎の筋は髪がちりつく程の距離で見切られた。 それで生まれた刹那の隙に体を転がし地に突き立つ追撃を躱す。 力任せに地面に突き立ったまま横薙ぎに迫る更なる斬撃を杖で受け止め跳ね飛ばされて起きあがる。 「ライデイン!」 既にこちらに向けて突進していたレミリアの行く先にライデインを放つ。だがそれすらも速度を落とさずすりぬける。 右薙ぎの斬撃を後退して避けた瞬間に刺突に変化した切っ先を杖で受けた次の瞬間に脳天から次の斬撃。 (レミリアは攻撃を見切ったんだ!) レックスの白兵攻撃。ベギラマ。ライデイン。全ての攻撃の速度と間合いを完璧に把握し、見切った。 だからレックスの攻撃が当たらない。レミリアは全てをかわして全ての時間を攻撃に注ぎ込んでいる。 それは回避行動の時間が減るだけではない。攻撃からも余分が消えた。 一見無謀な突撃をして防御を顧みない前のめりな攻撃をしても、 その裏には相手の反撃を躱す絶対の自信が潜んでいる。 (だけどはぐれメタルとは違うんだ。一撃当たりさえすればそれで……!?) 脳天からの斬撃を紙一重で凌ぎ、刃が離れレミリアの居るはずの目の前を睨み、何も居ない空間を見た。 寒気に襲われて全力で前に跳躍する。次の瞬間背中に熱い感覚が走った。 「うあっ」 「ふん、仕留めきれないか」 高速で背後頭上まで回り込んで放たれた斬撃に背中を大きく切り裂かれた。勢いよく血が噴出する。 (スクルトを重ね掛けしたのに……!) 鋼鉄の如き守りもレミリアとラグナロクの合力の前には薄紙のように脆い。 レミリアはラグナロクの刃先をレックスに向けて突きつけると、余裕を見せて笑った。 「回復してもいいわよ? その位は待ってやるわ」 「くそ……」 当たれば一撃。だがその一撃が当たっていない。防戦の合間に放つ攻撃ではとても倒せない。 (どうすれば良い? どうすればこいつを倒せる?) 既に見切られた攻撃は当たらない。一度でも使った攻撃は全て見切られている。 逆に言えば一度も使ってない攻撃を放つしかない。 (ドラゴンの杖の力を使うか? だけど……) ドラゴンの杖で竜になった時の攻撃は底無しだが、単調だ。 それで押しきれる相手なら良いが、レミリアを倒せるとはとても思えない。 (そうなると残るは……ギガデインだけだ) ライデインより強烈な雷の一撃で吹き飛ばす。これなら当たる見込みはある。 そしてだとすればその機会は“今をおいて他にない”。 (回復する為に呪文を使う時間を与えられた今だけが勝機だ) レックスはレミリアを見つめた。 「あら、もう回復しないの? それならそれでいいけど」 「……一つ、聞いていいかな」 「何かしら」 レックスは問い掛けた。 「本当に君は、妹が死んだ事を何とも思っていないの?」 「………………弟妹が死んでも泣けない兄姉なんて幾らでもいるわ」 「……そっか」 レミリアの答えは何も変わらなかった。 「それだけかしら?」 「ううん、あと一つだけ……僕から送る言葉がある」 決意を固めた。そして息を吸って、発した。 一撃必殺の破壊の呪文を。 「――ギガデイン!」 * * * その瞬間だけ、そこは確かに真昼と化した。 凄まじい閃光はまるで地上に太陽が生まれたかのようで、轟音は音とすら認識できない衝撃だった。 「やったか!?」 その強烈な閃光が落ちる直前、レックスは確かに見た。 虚を突かれたレミリアの体勢は飛び退く準備が出来ていなかった。 幾らあの速度が有ったとしても、当たったはずだ。当たっていなくてはならない。 これはレックスにとって最後の切り札なのだから。 果たして閃光が収まり、闇夜に目が慣れたレックスが見たのは……クレーターに突き立つ聖剣だけだった。 「……勝った…………」 ホッと安堵の溜息を吐いた。 ――――微かな違和感。 「今度こそ、決まりだ」 そう思う。 ――――何かを忘れている。 「今度こそ…………」 そう、今度こそ……? ――――思い出せ。 「………………」 そうだ、前にもこんな事が有った。 ――――警鐘が鳴る。 (…………本当に、終わったのか?) あの時はどうなった? ――――前に撃った時も仕留め損ねたのに? 羽音が、聞こえた。 無数の黒い影が夜闇を飛び交う。それぞれに光るは二つの紅い瞳。 キイキイと耳障りな鳴き声と共に影の獣共が舞い降りてくる。 その中の一際大きい一匹の首にはアイゼンのペンダントと首輪が輝く。 無数の蝙蝠は地に突き立つラグナロクにまとわりつき……凝縮された。 「悪いけど、もう油断も慢心もする気はないんだ」 レミリア・スカーレットは地に突き立つ聖剣を引き抜く。月の光を照り返し、刀身が黄金に輝いた。 首飾りと剣に飾られた生まれたままの姿で、レミリアは傲然と宣言する。 「それじゃ、続きをやろうか」 (この戦い、僕の負けだ……) レックスはがくりと膝をついた。 * * * アルルゥは、徐々に痺れが抜け自由を取り戻していく体で足掻いていた。 何かがおかしい。 何か……今の、ここの、この状況は何かがおかしい。 何かを見落としている。 (レミリア……) その中心は間違いなくレミリアに他ならない。 そもそもレミリアの心変わりはあまりにも唐突だった。 レックスは……朧気ながら判る。彼は妹と自分の為に動いているのだ。 例え方針が変わろうともその根底は変わらない。だから引っかかりがない。 だがレミリアは何かが足りない。 レミリアは妹に対して酷い仕打ちをしていたのかもしれない。 その上にアルルゥに戦いを挑んできたから、アルルゥは怒ってそれを受け、戦った。 (……どうして?) どうして急にアルルゥを襲ったのだろう。アルルゥとレミリアの間には何も起きていなかったのに。 「どうして……」 アルルゥは息を吸い込み、言葉を紡ぐ。 レミリアがそれに気づき、アルルゥの方を振り向いた。 アルルゥの透明な眼差しがレミリアの瞳を射抜く。 「レミリア……どうして……」 どうしてだろう。 あの時、アルルゥとレベッカに向けて魔槍を投げた時のレミリアが―― 「…………どうして、泣いてるの……?」 ――まるで泣きじゃくっているように見えたのはどうしてだろう。 後編へ続く
https://w.atwiki.jp/hideaki-love/pages/12.html
記念すべき 第一回「海外ドラマ スタートレック ヴォイジャーのススメ」
https://w.atwiki.jp/team_netradio/pages/30.html
役職 メンバー ID名 にせ 愛称 にせさん 肩書き 魔法のAK使い 補足 ただのイケメン()笑 偽者と言う名の本物 オリジナル スパ4が好きみたい 少し腹黒そう 主な使用武器 AK大好きです あの反動が癖になります 一言 俺が N to the I to the S to the E niceじゃねっつの見ろよスペル! (00 30) にせ そんなに俺のことが知りたいの?/// 今では間違い探しのにせと呼ばれるまでになったよ。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3946.html
ハルヒを駅まで送り届ける為に、途中自宅に立ち寄って自転車を回収した俺は、駅にてハルヒを見送った後、長門の母の話を聴く為に、長門邸まで引き返した。その後長門邸を後にしたのが午後七時。古泉に電話を入れたのもちょうどその頃だ。再び駅前に到着したのはそれから約二十五分後。示した待ち合わせ場所に古泉の姿はまだなかった。電話では一時間は掛からない程度で到着できると言っていたので、そもそも時間には余裕があったのだ。とは言え、俺の精神状態は切迫しており、古泉の到着にあわせて、此方もノンビリ自転車を走らせる……などと言う精神的な余裕は持てなかった。真冬だと言うのにじっとりと汗ばんでしまったシャツのボタンを一つ開け、上がった息を整える。流石に長門の家から此処までの距離を立ち漕ぎはつらい。 一息を付いた後で、俺は携帯電話を取り出し、家に連絡を入れることにした。このところ頻繁に帰りが遅くなってしまい、母親に不審がられているかもしれない。ついでに、この件についての言い訳も古泉に考えてもらうとするか? メールを打つのはなんとなくかったるく、俺は電話帳から自宅に電話を掛けた。程なくして、妹の声が電話口に登場する。 『はーい、キョン君?』 「お前か。母さんはいるか?」 「うとね、今いそがしーって。キョン君、今日も遅いの?」 「ああ、実はもうちょっと掛かりそうなんだ。まあ、いつだかほどには――」 ちなみにいつだかというのは、結局帰りが十時過ぎにもなってしまった、いつぞやの朝比奈さんを尾行した際の事だ。 それは兎も角、俺が言葉を終えないうちに黙り込んでしまった原因を説明すべきだな。 携帯電話を耳に当てながら、ふと周囲に視線を泳がせたその時。俺の視界に、見覚えのあるコートを着た後姿が入ってきたのだ。北校指定の学生用コートを着込み、ふらふらと頼りなげに揺れながら歩く女性。その長いブラウンの髪の毛と、華奢で弱々しい体躯が俺の頭の中で結びつき、その人物が一体誰であるのかを直感的に察知する。その人物は、間違いなく朝比奈さんだった。アルバイトへ向かう途中なのだろうか。しかし、歩いて行く先は駅も方向ではなく、その足並みは、ロータリーの外れへと向けられている。アルバイト先を変えたのだろうか? ……そう考えた直後、俺の頭の中で強烈な音を立て、二月前に耳にした、あの噂話が蘇ってきた。 ―――あー、ありそう。なーんかこそこそしてるし。貧乏そうじゃない? いけないバイトでも――― 「わるい、やっぱ何時になるかわからん」電話の向こうで妹が何かを行った気がしたが、構わず電話を切ってしまう。 まさかそんな筈が。そう思いたい。しかし、先ほど聞かされた長門の父親の事も噂の力による物だとしたら、あの朝比奈さんの噂も…… 携帯電話をポケットにねじ込むと、俺は朝比奈さんの歩いて行った方向に向けて駆け出した。汗など気にしている場合じゃない。 運の悪いことに、俺は何度か赤信号に阻まれてしまい、なかなか朝比奈さんに追いつく事が出来なかった。途中何度か、半ばヤケクソになって朝比奈さんの名前を読んでみたりもしたのだが、周囲の人々からの煩わしげな視線を集めてしまうのみで、何かに操られているかの様な朝比奈さんの足取りを止める事は出来なかった。 やがて朝比奈さんはロータリーの最果ての一角。我々健全な学生達には縁遠い、近くてはいけない歓楽地帯へと足を踏み入れて行った。俺は背中一面に汗をかきながら、猥雑なネオンに飾られた門をくぐり、泥のような人ごみを掻き分けながら朝比奈さんを探す。この人ごみの中で、朝比奈さんの姿を見失ってしまわずに済んだのは軽い奇跡と呼んでもいいだろう。 朝比奈さんは通りに入って間も無くのうちに、以前のアルバイト先とちょうど似たようなビルの前で立ち止まり。暫く迷うように制止した後、そのビルの裏手へと入って行ってしまった。俺は出来るだけ人畜無害そうな人のいる場所を選びながら人ごみを泳ぎ切り、朝比奈さんの消えたビルの前にたどり着くと、其処が何のビルであるかもまともに見ないまま内部へと侵入し、コンクリートの階段を駆け上がった。一階と二階には怪しげな点はない。俺が足を止めたのはビルの三階、いかにもと行った風な電飾の看板を掲げた扉の前だった。 どう見てもそういうお店です。本当にありがとう御座いました。これが女帝か嬢王の舞台にでもなりそうな空間なら、まだ救いようがある(のか?)のだが、それよりももう一回りイケナイ、申請上は公衆浴場とされているような類いの店であったのだから、これはもうどうしようもない。 入り口の扉に体当たりをするようにして桃色の照明に照らされた店内に侵入する。目の前に狭いカウンターがあり、法被を着た男が、驚いた表情で俺を見ている。 「い、いらっしゃいま……な、なんだ君、此処は大人の……」 そういえば俺は制服を着ていたんだった。でもそんなの関係ねえ。 「朝比奈さんはどこにいる!」 「あ、朝比奈さん? ……ああ、ひょっとして、あの新人のコの話を聞きつけて来たのかい? ダメだよ、今日は大事なお客さんの予約が入ってて、それにそもそも君、学生じゃ……」 ビンゴ。俺はカウンターから視線を逸らし、室内を見渡した。待合のソファに座る何人かの男たちが、何事かと俺を見ている。そのソファの脇に、恐らく店内へと続くのであろう扉があった。 「ちょ、ちょっと、ダメだって! 何なんだアンタ……な、ちょっと、誰か来て!」 俺が扉に近づくと、法被の男がカウンターから飛び出してきて、俺の行く手を阻み、声を上げた。すると、カウンターの脇から……もう見るからに近寄りがたい、まるで映画に出てくるヤクザ物のような男が数人現れる。……流石にまずいか? 「ちょっと兄ちゃん、うちの店で何やってくれとんの?」 「あ、い、いや、俺はその、朝比奈さんをですね……」 先ほどまでの威勢は何処に行ったのか、この俺にも分からない。心臓がすっかり萎縮してしまっている。ぶっちゃけ怖い。 「うちの女の娘たちに用があるんか? ほーそうかそうか、とりあえず、奥行って話そか?」 「え、いや……すいません、あの、すぐ済みますんで、ちょっと会わせてもらえたら帰りますんで……」 「店に殴りこんできてちっとで帰りますってなんじゃ? 冗談はスパッツだけにしてくれんかのう?」 俺はあっという間に男たちに取り囲まれてしまい、身動きが取れなくなってしまう。うん、これ無理。ゲームオーバー。一介の男子高校生である俺に切り抜けられるレベルじゃねえぞ。 俺の脳ミソが本格的にコンクリート詰めにされる可能性を考え始めた時。入り口のドアが音を立てて開き、聴き覚えのある救いの声が飛び込んできた。 「ちょっと待ってください!」 俺を取り囲む男たちが一斉に音の方向を振り返る、ドアを開いた手を此方に向けたまま、颯爽とポーズを決めるイケメンが立っていた。 「こ、古泉!」 「なんやお前……あっ、こいつ……」 「……社長のところの若手や」 急に男たちがどよめきだす。何事だ? 俺が何も理解出来ないまま立ち尽くしていると、古泉は例の笑顔を浮かべながら俺の傍までやってきて、言った。 「彼は僕の友人です。……すみませんが、こちらの従業員の方に、ちょっとした手違いで、我々の学友が紛れ込んでしまっておりまして。彼女を連れて帰るために参上したのです」 「は、はあ……でも、そんな事を言われても……ちょっと待って、なんだって、学友?」 古泉の言葉に、法被の男が青ざめる。 「はい、学友です。一年先輩です。分かりますね、店長さん? 今、なかなかまずいことをやってしまっているんですよ」 「そ、そんな……」 「ご安心を。大人しく引き渡していただければ、この件は内密にしておきます。社長に話しておきますので、今回の件の穴埋めも必ずいたします……その代わり、決して彼女の事を口外なさらないように……よろしいですね?」 古泉は法被の男と顔を近づけ合わせ、薄ら笑いを浮かべながら耳元で何やらを囁いている。さぞかし気色悪いことだろう。法被の男は冷や汗を浮かべながら、俺を取り囲んでいた男たちに向けて、店の奥へと戻るように手で合図をした。男たちは俺を睨みつけながら、渋々といった様子でカウンターの奥へともどって行く。古泉は笑顔で俺を見つめながら、手のひらを上に向けて、店の奥へ続く扉の方向を示している。 「芸能界というのは、案外つながりが広いものでして……ちょっとしたコネと言うやつです」 ……業界のウラ、というヤツか。 「朝比奈さんは何処にいる?」 「は、え、えーと……この時間なんで、もう部屋のほうに……入って右側の、一番奥の突き当たりの部屋、です」 男の説明を聞き、俺は古泉と顔を見合わせて頷き合うと、扉を開け、法被に言われたとおりに右に折れ、部屋の突き当りを目指した。狭い廊下を抜けた先に、高級な部屋なのであろうか、周囲の部屋よりも一段と豪華に装飾されたドアが有った。 「朝比奈さん!」 「え……ふぇっ、キョンく……え、ええええ!?」 音を立てて扉を開き、室内に駆け込む。探すまでも無く、朝比奈さんは壁際のベッドに腰を掛けていた。以前不思議探索の際に着ているのを観た事がある、ワンピースにブラウスを羽織った姿だ。 ……本当に居た。分かっていたことなのだが、こうして実際に目の当たりにすると、正直言ってかなりショックだった。噂の力とは言え、朝比奈さんがこんなところに来てしまうなんて…… 「朝比奈さん!」 「ひ、ひぃっ!」 思わず怒鳴ってしまった俺を、朝比奈さんは、恐怖と驚愕の涙をいっぱいに溜めた大きな瞳で見返し、肩をすくめて小さくなった。俺はそんな朝比奈さんに駆け寄り、ブラウス越しの両肩に掴みかかる。 「朝比奈さん、どうして……一体、何が会ったって言うんですか!」 「ひ、ご、ごめんな……さい」 突然の事態に頭が回っていないのだろうか。可愛い朝比奈さんを慌てさせるのは偲びないが、状況が状況だ、仕方ない。 「喫茶店のアルバイトは、どうしたんですか!?」 「あ、あの……わたし、どじ、しちゃって、クビに……」 今にも涙が零れ落ちそうな目が、俺の顔から逸らされる。 「俺を見て答えてください、朝比奈さん」 「は、はいっ! ……そ、れで、わたし、戸籍が無くて、なかなかバイトが……そしたら昨日、このお店の方にスカウトされて……すごくお金が良くて、すぐもっともらえるようになるって……それで、おもわず……」 なんてこった。涙ながらに話す朝比奈さんを見て、俺の胸は怒りなのか悲しみなのかわからない、泥水のような感情で満たされた。 「なんて馬鹿な……一言でも、相談してくれれば、何かしてあげられたかもしれないのに!」 「ご……めん、なさい……わたし、ごめいわくかけたくなくて……」 本当なら、或いはここで、頬の一つでも叩くべきなんだろうか。しかし、俺にそんな事は出来ない。そう。わかっているのだ。悪いのは朝比奈さんじゃあない。 全ては噂が悪いんだ。誰かの軽率で、心無い噂話のために、朝比奈さんは、ここまで追い詰められてしまった。 俺は頬を叩く代わりに、朝比奈さんの震える体を抱き締めた。香水の甘ったるい匂いと、朝比奈さんの髪から漂う太陽のような匂いが鼻に触れる。 朝比奈さんは想像以上に細く、か弱く、儚げだった。この小さな体で味わった絶望の事を思うと、俺の胸は、まるで妹を抱き締めているかのようないとおしさでいっぱいになった。 「きょ、キョン君……う、ううぇ……ぐず、ごめんなさい、あたし……あう、あ……ぐすっ、ふえ、ふえぇ……」 ◆ 「とりあえず。彼女の面倒は我々機関が見ます。衣食住に困ることはないくらいの待遇はしてくれるはずです。このままずっと、と言うわけには行きませんが……とりあえず、当面の間は保障いたしますよ」 「すまなかったな」 歓楽街の出口で待っていたタクシーに朝比奈さんを託した後。ようやく俺と古泉は対面する事が出来た。俺の家へと向かう機関の車の中、一先ず、この一件の礼を述べた後で、俺は本題に入る。 「長門に続き、朝比奈さんもだ。古泉、まさかハルヒのやつが、こんなのを望んでいた……とか言うつもりじゃないだろうな?」 「言いませんね」 常に回りくどい古泉が、珍しく断言した。こういうときは大概、こいつは真顔なのだ。 「率直に申しますと……この世界、少なくともこの街は、既に涼宮さんの手に負える領域ではなくなっています」 古泉は語りだした。 「人の噂というものは、途絶える事がありません。毎日毎日、どこからか現れた小さな噂が現れては消え、現れては消え。其処には或いは、目を被いたくなるような人の業(ごう)……欲望や悋気。他者の不幸を喜ぶ心……それらは少なからず、誰の心の中にでもあるのです。僕のなかや、あなたの中にもね。噂とはそんな業を糧に燃え上がる炎のようなものです。そして、糧となった業の強さだけ、醜く姿を変えて行く。涼宮さんはそんな噂の一つ一つを、心の奥底で察知し続けていたのです。この数ヶ月の間、ずっと、休むことなく。常人なら一週間でノイローゼになるでしょうね。無意識とは言え、それは間違いなく涼宮さんの精神のなしている業(わざ)なのですから」 古泉はそこで一度息をついた。俺が何か相槌の言葉を捜しているうちに、再び話し出す。 「彼女の精神が参ってしまい、力に支障が現れ、噂を司る機能が壊れてしまったのも、仕方ないことなのかもしれません。しかし、涼宮さんの精神がいくら疲弊しても、噂は止まらない。まさに炎のように、強さを増し、彼女を襲い続ける。噂は涼宮さんの力を贄に、事実と言う魔物になってこの街を舞い踊る……いまやこの街は、彼女の意思とは関係なく、全ての噂が現実化する魔界と化した。……以上が、我々の見解です」 ……悪夢だ。悪夢以外の何者でもない。どんな奇天烈だこれは。 「校内にて流布している有名な噂話については、北校内の機関に所属している生徒達によって調査されています。さすがに昨日今日で生まれたものまではサポートしきれていませんが……長門有希、朝比奈みくる……両名について、今回の事件と概ね一致する内容の噂が流れています。……胸糞が悪くなりますね、正直」 「まったく同感だ」 こんなものをいくつもいくつも、毎晩夢に見せられる……馬鹿な。冗談はスパッツだけにしてくれ。三日で可笑しくなっちまう。 「危ないのは、噂の被害者だけではありません。涼宮さん自身も……まあ、最早彼女も、噂の被害者であると言っていいかもしれませんが。自らの力を制御することもままならぬほど疲労しながら、今もなお噂を現実化しつづけているのです。このままでは彼女の心身が保ちません。……それに今日、長門さんの様子が可笑しい点と実際に対面してしまったのが、少々効いているかもしれませんね」 俺は長門とドア越しに会話をしてからの、ハルヒのテンションの下がりようを思い出した。 「現在、現状をどう対処したら良いか、機関で緊急の会議が行われています。こういった事態に陥る事の予想はされていたのですが、想像以上に展開が早かったもので……申し訳ありません」 「お前の所為じゃないだろう」 「今日は随分とお優しいんですね?」 古泉が微妙な笑顔を浮かべ、俺の顔を覗き込む。 勘違いしないでくれ。あまりにも疲れていて、頭が追いついていないだけだ。 「長門さんの件は……もうしわけないのですが、我々にどうこうできる問題ではありません」 まるで腫れ物に触るような様子で、古泉は言った。 「ただ、少なくとも彼女のお父さんは今週一杯お帰りになられないようです。少なくとも、その間は安全かと」 「……その間に、何もかもが解決すればいいんだがな」 古泉は少し考えるように沈黙した後 「正直……現段階で、確実な打開策を考え付く事は、我々には不可能だと思われます。もしも……長門さんに。彼女たちに協力していただければ、事態はもう少し順調に進むのかもしれませんが」 と、呟くように言った。 ああ、確かにそうだな。……でもな、古泉。今だけは許してやってくれないか。 今の長門は……本当に普通の、か弱い女の子なんだ。かわいそうなくらいにな。 ◆ 翌日。昨日教室に転がっていたはずの死体は綺麗に片付けられていた。二人仲良く欠席。ハルヒがどうしたかは分からないが、谷口は恐らくいつものやつだろう。朝からお勤めご苦労様です。最初はどうでもよかったが、今となってはすこし同情する。谷口、頑張ってくれ。 砂利粒のような些末な時間が過ぎ去り、時は放課後。文芸部室にて、俺は古泉と向かい合っている。いつものように。 「このところの寝不足と疲労が一度に出たらしく、朝比奈さんは、数日間学校を休んで療養なさるそうですよ。 緊張の糸が解けて、昨晩はとても良く眠られたようです」 古泉は俺の入れたお茶を前に、嫌に機嫌よく話した。ちなみに、このお茶は、俺の親切心からのもてなしなどではない。断じてない。ただ俺が一人でお茶を淹れていたら、古泉のやつが現れ、さも当然のように空の湯飲みを差し出してきたのだ。あまりの自然さに、俺は思わずそこにお茶を注いでしまった。と言うわけだ。失態である。これは大失態である。 それにしても古泉。この一大事に、何がそんなにお前のテンションを上げていると言うのだ? 「涼宮さんについては……恐らく昨日、長門さんの家での事を引き摺っているのでしょう。彼女自身精神が脆くなっていたところに、長門さんに拒絶され、ショックを受けているご様子で。現に、昨晩から閉鎖空間が多発していると聴きます。そして、谷口君がその対処に向かわれているようです」 ハルヒより先に谷口がくたばるかもしれないな。……いや、ハルヒにくたばってもらっては困るのだが。 「ハルヒは、大丈夫なのか?」 「閉鎖空間が出現している限りは、精神状態はどうあれ、この世界に留まってくれてはいるわけですから。……しかし、可能ならフォローに向かったほうが良いでしょうね。とにかく、できるだけ涼宮さんの気を紛らわせて差し上げる事が先決です。僕なりにそのための準備をしてきたんですが、無駄になってしまいましたね」 そう言った古泉の傍らには、ボードゲームやらなにやらが大量に詰められた巨大なトートバッグが寝そべっている。やめとけ。どうせ鬱陶しいと一蹴されるだけだ。機関の企画ならまだしも、古泉個人の思いつく遊び事は、ハルヒには退屈すぎるんだ。 「とりあえず、放課後だな。……そうだな、ハルヒの家に行ってみるか」 「……悪くない思いますよ。あなたが顔を見せることで、涼宮さんが悪い気になると言う事はないでしょうから。……そうですね。仕方ありません、放課後は涼宮さんに譲るとしましょうか」 は? 何だって? 「失礼。何でもありません……さて、どうですかひとつ。どれかで対戦でも……」 「古泉、キョン! 此処かぁ!?」 古泉がトートバッグに手を突っ込み、その中から何やらを取り出そうとした矢先。部室の扉が音を立てて弾け飛び(大丈夫。蝶番は繋がっている。そういう比喩だ)、現れるは我らがわすれものばんちょう、谷口だ。 「……谷口君、どうかされたのですか? 血相を変えて」 古泉は訝しげな表情で、現れた谷口を見て――今、一瞬舌を鳴らさなかったか?――取り出しかけた何かをバッグの中にしまった。谷口は肩で息をしながら部室内に入り、俺たちが挟んでいたテーブルに両手をつく。ドシン。と、耳障りな音がする。 「なんだ、どうした、何事だ。お前、閉鎖空間は一段落着いたのか?」 「そ、それだ。閉鎖空間、が、だな」 俺が口にした閉鎖空間と言う言葉を聴き、谷口は魚が食いつくように身を乗り出し、俺に顔を近づける。何だ? 機関の人間はみんな、顔を近づける癖があるのか? 「その閉鎖空間が、消えちまったんだよ。俺たちがまだ戦ってる途中だったってのに、突然神人が消え出して……ただの時間切れかと思ったんだが、違うんだ。それが二時間前のことだったんだが、それっきり閉鎖空間が一切現れなくなったんだ。何かあるんじゃないかと思って……古泉、お前なんでケータイの電源切ってるんだよ? 通じないから、慌てて戻ってきたんだ」 「ああ、すみません……邪魔をされたくなかったものでして」 ポケットから赤い携帯電話を取り出し、微笑みながら言い放つ古泉。邪魔? ……何を言ってるんだ、こいつは? まあいい、それよりハルヒの事だ。 「単にハルヒが落ち着いたって訳じゃないのか?」 「まあ、その可能性もあるんだが……念のため、何があるか分からないから、確認がしたかったんだが涼宮のヤツ、部屋に篭ってるらしくて、機関からもどうなってるか分からないらしいんだよ。キョン、お前、試してみてくれないか」 谷口に言われるままに、俺は携帯電話を取り出す。胸の奥底で、嫌な予感の灯かりが生まれていた。 妙な緊張を覚えながら、俺はハルヒの番号へと電話を掛けてみる。しかし、電話はコールされることさえ無く途切れてしまう。 ―――お客様のお掛けになった電話番号は、現在使われて――― 俺は眩暈を覚えながら、二人を振り返る。 「これはどういう事だろうな、古泉?」 「持って行ってしまわれた……と、言うところでしょうか」古泉は真顔だ。 「持って行った? ……まさか、五月の時みたいに、か?」 「はい。閉鎖空間の消滅に、涼宮さんの携帯電話の消滅……それも、データごとです。これは……恐れていた事態が発生してしまったのかもしれません」 古泉は立ち上がり、胸の前で腕を組み、何やらを考え出した。 「……涼宮さんの精神状態が良い状態でなくなって来ていると知った時から、最終的に、涼宮さんが以前のように新たな世界を作ろうとするのではないか。という可能性は、考えていました。ですが、もし涼宮さんが、我々にも観測出来ない次元上に世界を作ったとなると……最悪の状況かもしれません」 一人で分かったような口ぶりをされても、さっぱりわからん。俺にわかるように説明してくれないか。 「涼宮さんが新世界の創造を開始したとして、我々は、その新世界の設立先に成り得る次元を、あらかじめチェックしてあります。それがは即ち、普段の閉鎖空間が発生するのと同じ異次元空間なのですが……もしも涼宮さんが、我々に観測の出来ない次元に新たな世界を創造したのだとしたら。我々には太刀打ちできなくなってしまいます」 馬鹿な。まさか、考えすぎだろう。ただ携帯電話が通じなくなっているだけで、そんな…… 「ただ携帯電話が通じないだけなら、涼宮さんの携帯の番号が、存在しない番号であると言うようにはなりません。それに加え、絶え間なく発生していた閉鎖空間が前触れも無く途絶えた……涼宮さんが消滅したとする判断材料は十分だと思われますが」 数秒の沈黙。その後で、俺は鞄を引っつかみ、コートを肩に掛け、谷口が開け放ったままのドアへと向かった。馬鹿な。そんな事がある訳が無い。ハルヒはちゃんとこの世界にいる筈だ。自分の目で確かめなければ気がすまなかった。心臓が痛い。 しかし。今まさに部屋を飛び出そうとした時、突然現れた小柄な体躯によって阻まれ、俺は再び室内へと押し戻されてしまう。 「……確認の必要はない。涼宮ハルヒは、既にこの世界には存在していない」 見ると、包帯の隙間から覗くフォノスコープの瞳が、真っ直ぐに俺を見つめていた。 つづく
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4318.html
たとえば百億年の後、人間社会は存続しているだろうか。 おそらく”していない”だろうが、長命ならぬ我々には、現在時点でそれを知るすべはない。 その遙かな未来について我々は”ありえる”ものと認識し、かつ”ありえぬ”ものと想定せざるを得ない―― 今回幻想入りしたのは、そんな”可能性”のうちの一つだ。 すべての森が by 十京院 典明 黄色く燃え盛る太陽がれいむを照らしている。ちらりとでも空を見上げれば、いやでも目に入るほど大きな太陽。 れいむが生まれた日からずっとそこにあった太陽。 順調に繁栄してきた人間と妖怪とを、文明を、自然さえもを、この数百年の間に殺戮しつくした炎の塊―― 「ゆああああーーーん!!ゆああああーーーん!!」 声を上げるが、それすらもむせかえるような燃える空気に吸い込まれて消えていく。 直射日光が身を焼く恐ろしい感覚。 「もうやだ!おうちかえる!」 れいむはほんの少し体を膨らませると、跳ねだした。 * * * * ある時、幻想郷の太陽が病んだ。 しかし、その変化はあまりにもゆるやかだった。 全世界を包む気温の上昇。 それは、文明の担い手である人・妖が気づいたその時、すでに手の施しようのないところまで進んでいた。 それでも彼らは生き残りを期して対抗せんとした。 それはある意味では成功し……またある意味では失敗に終わった。 ――つまり、即座の死は免れたが、回復もまたありえなかったのだ。 千と数百年の時をかけて、ある種の病魔が犠牲者を手足から心臓へと蝕むように人・妖の版図は後退していった。 川津波が里を襲った。異常気象、疫病が飢える貧者を大量に生み出し、 一握りの富者は自分たちだけの”人間らしい生活”をすこしでも手元に引きとめようともがいた。 天は焦げ、地は熱に悶えた。 暴動、抗争、戦争が頻発した。 芸術は自由に駆けるための大地を、はばたくための空を失い、科学はその手を休めた。 誰にも、そのゆるやかな終わりを停めることはできなかった。 そして、さらに数百年―― すべての森が消えていった。 * * * * れいむは生まれたとき、”にゃんだかあつくてゆっきゅりできにゃいよ!”と思った。 それはこの数百年の間、すべての赤ゆっくりが同じことを思っていたのであるが―― 「おかーしゃんゆっくりちていってね!」 それでも、元気に挨拶をした。 「ゆゆ!れいむのあかちゃん!ゆっくりしていってね!」 れいむの周囲には、自分と似たような小粒のゆっくりれいむが数十匹もいる。 「ゆっくりちていってにぇ!ゆっくりちていってにぇ!」 「れいむのいもーちょゆっくりちていってにぇ!」 「おねーちゃんゆっくちちていってにぇ!」 * * * * はじめの三日間で七匹の子ゆっくりが萎れた塊となって茎を離れた。 「あぢゅいよ……おきゃーしゃんたしゅけて……」 「もっぢょ……ゆっぎゅりちたかったよ……」 親れいむは無言で、それらの亡骸を住処である洞窟の奥へと放り込んだ。 これらは大切な食料だ。一粒たりとも残すわけにはいかない。 また、今の段階では食べるわけにもいかない。食料は、”最終的に”生き残った子だけのためのものだ。 「おねーしゃーん!おねー……しゃー……ん……」 先に逝った子を呼ぶ子がまた一匹、地面に落ちた。 次々に子が落ちていくなかで(後に生き残ることになる)一匹の子れいむは過酷な状況を悟っていた。 なるべく声を上げず、身動きもせずに体力を温存する……また、そうしているとわずかにゆっくりできることにも気づいた。 暑い空気を吸い込まないよう、日差しに目をやられないよう、ただ眠る。 餡子の中に受け継がれている、ゆっくり出来た遠い優しい日々の記憶だけを頼りに子れいむは揺籃期を過ごした。 そして、茎から落ちる。 「ゆっくりちていってね!」 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」 れいむは生まれ落ちるとすぐにおかーさんの舌で捕らえられ、ゆっくりできるおぼうしの中に入れられた。 おぼうしは、つがいであるまりさの形見のものだ。 「ゆゆぅ!とってもすずちいにぇ!」 おぼうしの中はとても涼しく、またいい匂いもした。 「にゃんだかいいにおいがしゅるよ!」 おかーさんが言う。 「おちびちゃんゆっくりたべてね!」 おぼうしの先の方に入っているもの、それは小さく萎びた、れいむのおねーさん達の成れの果てだ。 「ゆ、ゆぐっ……」 れいむは涙ぐんだが、嫌がることなくそれをむーしゃむーしゃした。 「ゆゆぅーん!れいみゅのおねーちゃんたち、ゆっくりちていってにぇ!」 たくさんの孕み子のうちの、最後の生き残り達―― れいむは仲良く、赤ゆっくりの死骸を食べた。 れいむは成長していく―― ある日、子れいむがおぼうしに収まりきらなくなる時がやってきた。 親れいむは親がる子れいむを、ミシミシときしむおぼうしから引きずり出す。 「おかーさんやめてね!れいむをゆっくりさせてね!」 「おちびちゃんゆっくりがまんしてね!」 「ゆえーん!あついよぉぉぉ!!」 おぼうしは日除けや夜のベッド、食物の貯蔵にも使う貴重なものだ。 このまま子れいむにだけ使わせておいて、破損の危機にさらすわけにはいかない。 「おそとにでようね!ぺーろぺーろしてあげるから、ゆっくりがまんしてね!」 「ゆーん!ゆーん!」 夜は寒い。ゆっくりできない。 日が落ちて、急激に温度が下がった地面の上で妹れいむはみじろぎをした。 「ゆぅ……ゆぅ……」 背中に感じるのは親れいむの感触。 二匹はおぼうしのわずかな温かみを分かち合うように一箇所で眠っている。 子れいむは思う。 (こんにゃのおかしいよ!) 母の茎で夢見ていた、ゆっくりとした生活。それはここには無い。 我慢を強いられ、耐えて、耐えて……それでも報われることのない日々。そしてそれはずっと続いていくに違いないのだ。 「ゆっく……ゆっく……れいむはどうしてうまれてきたの……?」 「ごめんね、おちびちゃん」 おぼうしの反対側で眠っていたはずの、母れいむの声がした。 「ゆゆ!?」 「ごめんね……ごめんね……」 子れいむは面食らった。 しかし、しだいに反発の気持ちが湧き上がってくる。 「し……しょうだよ!おかーさん!れいみゅはゆっくりしたいよ!れいみゅをゆっくりさせてね!」 「ごめんね……ごめんね……」 「れいみゅは、もっとおみずいっぱいのみたいよ!もっとごはんいっぱいたべたいよ! れいみゅはもっとゆっくりしたいよ!」 それは身勝手ながら、発育期の子供としては当然の欲求。今までの憤懣を吐き出すように、子れいむは跳ね、わめき散らす。 それを見守る母れいむの目はさびしげだった。 「おちびちゃん……おうたをうたってあげるから、ゆっくりしてね」 母れいむは、小さな声で歌を歌いはじめた。 「ゆ、ゆぅ……?おかーさん、おうたってなに?ゆっくりできるの?」 この灼熱の世界ののゆっくり達は、おうたを好きに歌うこともできない。 何よりも貴重な水分の蒸発を防ぐため、おうたは特別な場合にしか歌われることはないのだ。 妹れいむがおうたを聞くのは、これがはじめてだった。 ――ゆ~、ゆ~、ゆっくりしたおちびちゃん、いつもおかーさんのいうこときいて、えらいね―― ――ゆ~、ゆ~、ゆっくりしたおちびちゃん、いつもがまんしてくれて、ありがとうね―― ――ゆ~、ゆ~、ゆっくりしたおちびちゃん、いつまでもいっしょにいてね―― 餡子の芯にまで響くようなその旋律を、妹れいむは不思議さに戸惑いながら聞いていた。 (おかーさん、とってもゆっくりしてるよ) (おかーさんは、すごいね――) * * * * 次の日、子れいむは母れいむにおうたをせがんだ。 「おかーさん!おうたきかせて!」 母れいむは困り果てるが、今まで厳しくしつけてきたという引け目もあり、結局は子れいむの勢いに負けて歌を披露することになる。 「おかーさんすごいよ!すっごくゆっくりしてるね!」 「ゆ……ゆふん、ありがとうね。だけど、おうたはおくちのなかがかわいてゆっくりできなくなるから、 これでおわりにしようね」 しかし子れいむは引き下がらない。 「やだやだ!もっとききたいよ!それと、れいむもおうたうたいたいよ!」 母れいむはため息をつくと、 「そうだね……それじゃあ、いっしょにおうたのれんしゅうしようね」 と言った。 「ゆゆぅ!」 「ゆっくりーー!」 二匹はゆっくりとした時間をすごした。 * * * * 「ゆんゆんゆん……たいようさんまぶしいよゆっくりしてね……」 いつものように、子れいむは苦しく目を醒ます。 「……!」 「……!」 遠くの方で姉れいむの声がする。寝ぼけているので何を言っているかは解らない。 「ゆっくりしていってね!」 子れいむは元気に挨拶をする。 しかし、いつもならゆっくりしていってねを返してくれるおかーさんが近くにいない。 日差しから身を守ってくれるおぼうしさんもない。 「ぷっくー!ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」 意地になって繰り返す子れいむだが、一向に母れいむが現れないので怒りながらあたりを探し始めた。 「ぷんぷん!おぼうしをひとりじめするなんてわるいおかーさんだね!」 熱い陽射しの下を子れいむは跳ね、岩の陰についに母れいむを発見した。 「おかーさ……」 母れいむは地面に伸びるようになって痙攣していた。 「ゆ゛…ゆ゛…」 「おかーさん!?ゆっくりしていってね!?ゆっくりしていってね!?」 「おかーさーん!?」 時折髪飾りがぴくりと震える。しかし、子れいむの必死の呼びかけにも反応する様子は無い。 「ゆっくりして!ゆっくりしていってよぉぉぉぉ!!!」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛……」 その時、子れいむは唐突に気づいてしまった。 (おうたはおくちのなかがかわいてゆっくりできなくなるから) 「ゆゆ!!」 (ゆっくりできなくなるから、これでおわりにしようね) 母れいむは、確かにあの時そう言っていたではないか。 それを無理強いしたのは、自分だ―― もちろん原因はそればかりではない。親れいむの想像を超えて上昇した気温のせいでもある。 それでも、子れいむのわがままが引き起こした事態であることもまた事実であった。 「ゆ……ゆ……ゆあああああああああああああ!!!!!!!」 子れいむは吠えた。 「ゆあっあっ……あああああ……」 これは罰だ。 「おがーしゃん!おがーしゃん!」 母れいむにすがりつく。 「おがーしゃん!ゆっぐじじで!ゆっぐじじでよぉぉぉぉ!! でいぶがわるがっだよぉぉぉぉ!!!もうおうだうだっでぐれなぐでもいいがらゆっぐりじでよぉぉぉぉ!!!!!」 「おぢびぢゃ…ん…」 母れいむは混濁した意識の中でわが子の声を聞き分けると、渾身の力で身を起こした。 「おがーじゃん!?おがーじゃーんん!?」 「おぢびぢゃんゆっぐりぎいでね……けふっ……おがーざんみたいになりたくなかったら、おくちをとじてゆっくりしていってね」 子れいむの騒ぎようでは、あっという間に水分を失い母れいむと同じ道を辿ることになってしまう。 それをさせないため、母れいむは苦しさに耐えて言葉を紡ぐ。 「おぢ……び…ぢゃん……ゆっぐり……していっでね……」 霞んだ視界に、目に涙を溜め、言いつけどおり口をつぐんで頷く子れいむの姿が映った。 (おちびちゃん) 地熱を煽り立てるように熱い風が吹いた。 (しゅじゅしぃ……) 「ゆぐ……!おが……ゃん……!」 (さよなら、おちびちゃん) その慈悲深い感触にもたれるように、母れいむは最後の意識を手放した。 * * * * 「あぢゅいよ……ゆっぐいぢだい……」 子れいむは炎天の下を彷徨っていた。 熱い地面を我慢して跳ねる。跳ねてどこか安らげる場所を求めるが、実のところどちらへ行けばいいのかさえ解らない。 「おがーざん……ゆっぐじじだいよぉ……」 渇く。 「おがーざん……」 乾く。 「おぼうしさん……」 焼ける。 「ゆ……ゆ……ゆ……もう……げんかいだよ……」 思考が、運動能力が、そして餡子から餡子へと受け継がれてきた記憶が灼き切れていく。 「………………」 ふと、あの歌を歌おうと思った。 (ゆ~……ゆ~……) 「………………」 (ゆ……ゆ……) だが、できなかった。 干乾びた口をぱくぱくと動かし、子れいむは仰向けに寝転がった。 まぶしさに目を閉じて、その瞳は二度と開かれることはなかった。 * * * * 「ゆぅぅぅ!!」 子れいむが恐ろしい夢にうなされ目を醒ますと、そこにはゆっくりとした母れいむが居て、何匹かの姉妹も寝息を立てている。 「ゆっどうしたのおちびちゃん?」 「ゆぅぅぅん!!!とってもこわいゆめをみたんだよぉぉぉぉ!!ゆっくりできないよぉぉぉぉ!!!」 子れいむは母れいむのぽんぽんに飛び込んで、思うさま泣いた。 「おお、よしよし。おかーさんがついてるから、ゆっくりしていってね」 「ゆぐっ、うぐっ、たいようさんがあづぐで、おかーさんもれいむもしんぢゃうんだよ」 「ゆふふ……だいじょうぶだよ。ほら、ゆっくりねんねしようね」 「ゆー……ゆっくりぃ……」 やがて子ゆっくりは眠った。それを見守っていた親ゆっくりも、やがて目を閉じた。 その頭上に青々と生い茂る緑、そのさらに上を、翼持つ捕食種ゆっくりが通り過ぎていった。 END このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/2chsckiken/pages/21.html
http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ http //www59.atwiki.jp/2chsckiken/ 2ちゃんねる.sc ぼったくり 2ちゃんねる.sc トロイの木馬 2ちゃんねる.sc 感染 2ちゃんねる.sc ウイルス 2ちゃんねる.sc マルウェア 2ちゃんねる.sc 著作権法違反 2ちゃんねる.sc 無断転載 2ちゃんねる.sc 危険 2ちゃんねる.sc スパム 2ちゃんねる.sc スパイウェア 2ch.sc 個人情報盗まれた 2ch.sc スパイウェア 2ch.sc 著作権法違反 2ch.sc ぼったくり 2ch.sc 危険 2ちゃんねる.sc 無断転載 2ちゃんねる.sc 個人情報盗まれた 2ちゃんねる.sc ウイルス 2ちゃんねる.sc スパム 2ちゃんねる.sc 感染 2ch.sc トロイの木馬 2ch.sc マルウェア 2ch.sc 感染 2ch.sc 著作権法違反 2ch.sc マルウェア 2ちゃんねる.sc 危険 2ちゃんねる.sc スパム 2ちゃんねる.sc 無断転載 2ちゃんねる.sc ウイルス 2ちゃんねる.sc ぼったくり 2ちゃんねる.sc スパイウェア 2ちゃんねる.sc トロイの木馬 2ちゃんねる.sc 個人情報盗まれた 2ちゃんねる.sc スパイウェア 2ちゃんねる.sc ぼったくり 2ちゃんねる.sc 著作権法違反 2ちゃんねる.sc トロイの木馬 2ちゃんねる.sc 個人情報盗まれた 2ちゃんねる.sc 感染 2ちゃんねる.sc マルウェア 2ちゃんねる.sc 危険 2ちゃんねる.sc スパム 2ちゃんねる.sc ウイルス 2ちゃんねる.sc 無断転載 2ちゃんねる.sc ぼったくり 2ch.sc スパム 2ch.sc ウイルス 2ch.sc 個人情報盗まれた 2ch.sc スパイウェア 2ch.sc トロイの木馬 2ちゃんねる.sc マルウェア 2ちゃんねる.sc 著作権法違反 2ちゃんねる.sc 感染 2ちゃんねる.sc 無断転載 2ちゃんねる.sc 危険 2ちゃんねる.sc 個人情報盗まれた 2ちゃんねる.sc 感染 2ちゃんねる.sc マルウェア 2ちゃんねる.sc スパム 2ちゃんねる.sc ぼったくり 2ちゃんねる.sc 無断転載 2ちゃんねる.sc 危険 2ちゃんねる.sc トロイの木馬 2ちゃんねる.sc スパイウェア 2ちゃんねる.sc ウイルス 2ch.sc 著作権法違反 2ch.sc スパム 2ch.sc スパイウェア 2ch.sc 個人情報盗まれた 2ch.sc ぼったくり 2ちゃんねる.sc トロイの木馬 2ちゃんねる.sc 感染 2ちゃんねる.sc マルウェア 2ちゃんねる.sc ウイルス 2ちゃんねる.sc 無断転載 2ちゃんねる.sc 危険 2ちゃんねる.sc 著作権法違反 2ちゃんねる.sc ぼったくり 2ちゃんねる.sc 感染 2ちゃんねる.sc 著作権法違反
https://w.atwiki.jp/alolita_asai/pages/206.html
事件の概要 タヌキの身柄拘束に至るまで タヌキの釈放から麻薬取引失敗説への発展 エージェント暗殺説 名探偵Gomiの登場犯人はGomi 事件の概要 こる殺害事件とは、2010年12月30日にこるが殺害された事件。 こるの死体が発見された当初はデブのタヌキに 階段から突き落とされて死んだとする説が有力視されたため、 タヌキが身柄を拘束された。 しかしその後も大君による麻薬の取引失敗説、 エージェントによる暗殺説などがとびかうなど、 以前として「」板は混乱につつまれたままであった。 しかし名探偵Gomiの名推理によって、 無事事件は解決された。 タヌキの身柄拘束に至るまで 「こるがデブに突き飛ばされて死んだ」 この訃報が「」板を驚愕させた。 「」板警察総本部長、アズールムーンは ただちにこるを殺害した犯人であるデブの身柄を拘束するよう 部下の宇宙警察Starneonに命令したとされる。 しかし当時ある女に夢中になっていたStarneonは 近くを歩いていたデブのタヌキを 容疑者扱いしてそのまま留置所にぶちこみ、 自らは夜のネオン街の中に消えていったという。 タヌキの釈放から麻薬取引失敗説への発展 取調べと指紋認証の結果、タヌキが犯人でないことが発覚。 さらに、こるが死ぬ直前に大君とコンタクトをとっていたことから、 麻薬の取引に失敗して激怒した大君が殺害したのではないか、 という説が新たに生まれた。 これを聞きつけたアズールムーンは ただちにこるを殺害した犯人である大君の身柄を拘束するよう 部下の宇宙警察ジョンバンニに命令したとされる。 しかしジョンバンニが捜査の途中、 幼女(8歳)に恋をして行方不明になったため、 代役として宇宙刑事テルミドールが出勤。 大君は無罪だったが、テルミドールの厳しい取調べの結果死亡した。 エージェント暗殺説 階段から気配を消してこるを突き落としたのは、 気配を消すことのできるエージェントしかありえない、 といった説も浮上。 これを聞きつけたアズールムーンは ただちにこるを殺害した犯人であるエージェントの身柄を拘束するよう 部下の宇宙警察妖光に命令したとされる。 しかし妖光はエージェント捜索の際に AKB48のゴリラに遭遇。 「やびゃあ」「やびゃあ」とはしゃいでいたところを 何者かに銃で撃たれ、妖光は死亡した。 その後もさまざまな警察官がくりだされるが、 そのたびに暗殺されたため、捜査は打ち切りとなった。 名探偵Gomiの登場 暗礁に乗りかかった事件を解決したのがGomiだった。 犯人はGomi という名言を残し、 名探偵Gomiはさまざまな証拠を集め、 見事に自分が犯人であることを立証。 ただちに逮捕され、事件は幕を下ろした。 .
https://w.atwiki.jp/queerpuzzle/pages/82.html
十年ぶりの捜査 チャーチル怪死事件から約十年警察署内からも迷宮入り事件として見なされ又、この事件に関わった者は次々と消えていくので誰も関わりたがらなくなっていた。 そんな中一人の刑事とその部下が小規模化した本部で捜査を続けていた。 あるイギリスの北方地帯へ二台の車がある屋敷へ向かっていく。 その車に乗っているのは十年前行方不明になったイギリス情報機関の機関員の友人ストラウス刑事とその部下だった、十年前まではかなりの規模だったはずたが有力な情報を入手した者は次々に消え始めた、 そして事件発生から二年行方不明者が異常なためチャーチル怪死事件の調査は一時休止行方不明者の捜査を始めようとしたがマスコミが「又警察が無駄な犠牲を作ろうとしている」と記事に暴露これにより捜査を中止しざえなくなった。 しかし遺族とストラウス刑事の熱い説得によって小規模ながらも調査が進められていた。 「どうですか?」 部下が心配そうに聞く。 「なんとも言えん、そういや貴族のボンボンは幾つだっけ?」 運転している方の部下が得意げに「十七です。」 と答えた。 「ほうよく知っているな」 しかし褒めたのと裏腹に彼の表情は怒りに溢れていた。 ストラウスはしまった!と思った、そもそもこの事件は誰もが気味悪がってこの捜査に関わってくれないものだ、関わると言えば事件に関わってしまったせいで上司を失ったり友人を失ったりして、 この事件に対し恨みを持っているやつしか来ない。 だからもっともポピュラーなことを聞いて「ほうよく知っているな」など言えば怒るのも無理はないと思い。 「すまないしかし勘違いはしないでくれ。」 「え!?」 彼は不思議そうな顔をした又その反応を見たストラウスの方も不思議そうにしていた。 「どうしたのですか?いきなり」 「え?だってさっき凄く厳つい顔をしていたじゃないか」 彼はようやく意味が分かっらしく 「ああそれは違いますよストラウス刑事、僕はあの豪邸に住んでいる貴族に対して苛立ってたんですよ、理由はですね、あんな歳で憧れのメイドに囲まれて世話されていると考えたら、誰だって腹立つでしょ~~??」 「ナヌ~~~~~~~!!??」 ストラウスだけではない車の中にいるみんなが驚いた。 「馬鹿か貴様は~~~~!?」 「わっちょっとタンマ!?」 車の中では怒りの鉄拳と(ツッコミ?)叫び声が響いていた。 屋敷の前 「Welcomeみなさんよくぞ・・・・・・どうしたんですか?」 屋敷から出向いてきたこの屋敷の執事だった彼は一人だけボコボコになっているのに気がつき心配そうに問いただしたが みんなが口を揃えて「いいえ心配する必要はありません。」と言った。 「?まあとりあえず部屋へご案内いたします。」 中へ入ると年代物の物がずっさりと並んで又随分と豪華な造りになっている。 「よくぞおこし下さりました。」 一斉に百人以上の執事とメイドが出迎えてくれた。 「なんとまぁ良くやるねぇ」 「え~このボコボコなのがウォルターその隣がハットンそんでそっちがキャルロンそしてこちらが・・・」 「そういやトーマスのお坊ちゃんは?」 「ああ今お坊ちゃまは本屋で買い物をしています。」 執事は手際よく荷物を運びだした。 「金持ちの坊ちゃんが行く本屋はどんな所だろうかねぇ」 案内された部屋は大きなベットと机などが置かれていた。 「テレビは普通か高くも安くもないか・・。」 「用あったらこちらのボタンをお押し下さい。」 そう言うと執事は部屋から出ようとしたが 「すみませんが一つの部屋に二人泊めてもらえませんか?」 同じような部屋に二つのベットと不機嫌そうな顔あった。 「刑事?なんで同じ部屋に男二人なんですか?」 まったくと言った顔をして答えた。 「警察でも消される事件に関わっているんだ。一人でいたら危険だろう」 「あ、成る程」 実際ここのコードネームは(人食い屋敷)と呼ばれているほどあってどんな優秀な刑事や探偵でも変死もしくは行方不明になる。 もちろん警察もほって置くはずはないから、調査をするが。 それの支持者が同じように変死などで見つかる。 恐らくこの捜査が最後だろうと覚悟しながら皆は来たのだ。 上は反対した、家族も反対した。 そればかりか人食い屋敷に直接泊まり調べると言い張る。 色々な理由があって来た者がほとんどだった、あのウォルターでさえ。 部屋に入ってから数時間後にトーマスが帰ってきた。 「いやすみません、ちょっと面白い本があったのでつい」 身長は175センチぐらい少し細長い手足と黒い髪、そこら辺の青年と変わらない。 「私がトーマスです。遠いところからよくぞお出でなさりました。」 広い談話室腰を下ろしストラウスは単刀直入に聞いた。 「君の親つまり母親の方は知ってるのか?」 トーマスは何とも言えない顔をしながら「いえ知りません。」 やはりと言う顔をした。 報告書によると母親どころか事件以前の記憶はないと証言していた。 それから数時間後 「結局何も分かりませんでしたね・・・・」 「当たり前だ、そうでなければ世間でこんなに騒がれるはずないし、それにそうでなければ・・・この事件に関わって消えて、いや消された者達が報われない。」 部屋に戻ったストラウス刑事は部屋で今までの話の整理をしてみた。 怪死事件の死体の回りには車のタイヤの跡があった。 不思議なことに帰る時にできるはずのワラジ(タイヤの跡のこと)がなかった。 だとしたなら車はその場所に残っているはずしかし車がない。 後、死体を捨てに行く時に使われた車の目撃証言すら出てきない。 だが代わりに球体型の自動車(?)が森に入っていく所を見たと言う人が数名いた。 警察は見た目からカナリ怪しそうな車から捜査しようとしたが森から出た所を誰も見ていないのと、そんな変わった車があるのなら今頃見つけているだろうと言うことでそっち方面の捜査は放棄された。 もう一つは何故親族がこのトーマスの世話を見なかった、第一知らぬ内に出来た子を心良く向かえ入れないのは分かるが、イギリス中に話題なったのなら話は別のはず、普通ならどこかに引き取られるのが普通である。 謎はそれだけじゃなかった。 捜査していた人が行方不明だけではなく自殺する者までいた。 自殺と言っても状況からして他殺の可能性が高いと言う理由で自殺関連の捜査は今でも続いている。 「スタートがここにあるのにそのスタートが見つからないなんてな~」 彼ストラウスは捜査が始まったばかりなのに疲れきってしまった。 ←前へ 次へ→
https://w.atwiki.jp/lls_ss/pages/331.html
元スレURL 【SS】善子 「恋をした。あなたのすべてに」 概要 彼女の亡骸に、恋をした。 タグ ^津島善子 ^短編 ^シリアス 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/apahama/pages/26.html
537 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 12 18 31 ID EF9+dV5E0 第13話「すべてが綺麗に見えた頃」 ~小島厩舎~ 豊「スカウトされた?」 アプリ「うん!友達と原宿歩いてたら、声かけられたの!」 太一「すげぇじゃん!」 アプリ「ねーいいでしょ?これで私アイドルになれるんだよ!?」 太「お前は2歳の時からアイドルに憧れてたしな…でもなぁ…」 豊「先生、俺からもお願いしますよ」 太一「俺もアプリを応援するぜ!」 アプリ「豊!太一!」 太「うーむ…いいだろう、好きにしなさい。ただし、悔いのないようにな」 アプリ「うん!ありがとう先生!!」 538 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 12 29 09 ID EF9+dV5E0 ~モズバーガー美浦トレセン前店~ モズ「いらっしゃいませー!」 アパパネ「小島さんOKしてくれたんだ…意外ね」 アニメイト「でも良かったね、アプリ!」 アプリ「うん!これで私もアイドルになれるのか~」ポワーン ミオリチャン「ちぇっ、いいよな~」 シーズンズ「私も応援するであります!アプリコット中尉!」 アパパネ「でも芸能界も大変らしいよ?」 アニメイト「成功できるのは、ほんの一握りだもんね」 アプリ「はう~私はアイドル…」 ミオリチャン「駄目だコイツ聞いちゃいねぇ…」 539 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 12 40 39 ID EF9+dV5E0 ~国枝厩舎・優作の部屋~ 優作「閉じ込められてから1週間が経った…」 優作「ま、いいや。テレビでも見るか」 岡部『こんばんわ岡部です』 エアグルーヴ『エアグルーヴです』 優作「おっMステやってんじゃん」 岡部『それでは歌っていただきましょう』 エアグルーヴ『今週第1位に輝きました、アプリコットフィズで「すべてが綺麗に見えた頃」』 アプリ『~♪』 優作「なんだこれ!すげぇいい曲じゃん!これは買わなきゃ!!」 ガチャガチャッ 優作「やっぱり開かなねぇorz」 540 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 12 49 31 ID EF9+dV5E0 ドンドンッ オーイ! ダシテクレー! ドンドンッ 国枝「なんかうるさいなぁ…ポルターガイストか?」 ソニック「それにしても、これいい曲ですね」 アパパネ「まさか、いきなりMステに出るなんて…」 浜中「才能が開花したんだろ」 ドンドンッ ダレカー!ココカラダシテー! ドンドンッ 国枝「明日耳鼻科にでも行くか…」 542 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 12 56 32 ID EF9+dV5E0 ~小島厩舎~ 太「100万枚!?」 豊「このご時世に、しかもシングルで100万枚はすごいですね」 太一「俺なんて100枚も買っちゃったぜ!」 オオゾラ「相変わらずアホwwwwww」 太「またお前はそんな無駄遣いをしおって…」 太一「大丈夫だって、全部豊さんにツケといたから」 豊「おい」 543 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 13 06 27 ID EF9+dV5E0 ~武市厩舎~ マヤノマヤ「すごいわねアプリちゃん。今度武道館ライブやるんだって?」 武市「俺もめっちゃファンになっちゃったよ。見て見て、これがそのチケット!」 ミオリチャン「ただでさえ貧乏なのに無駄金使ってんじゃないわよ!」 ユメノキズナ「ミオリチャン先輩、あの…お願いがあるんですけど…」 ミオリチャン「ん?ああ、サイン?」 ユメノキズナ「は、はい!」 ミオリチャン「ったく世話焼けるわねぇ……。いいよ、もらって来てあげる」 ユメノキズナ「ありがとう!」 ミオリチャン「べ、別にお礼なんていらねーっつの///」 544 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 13 22 38 ID EF9+dV5E0 ~武道館~ アニメイト「うわぁー、芸能人の楽屋なんてドキドキしちゃうね!」 アパパネ「でも勝手に入っちゃっていいのかしら?」 ミオリチャン「かまやしねーよ、関係者の特権ってやつ?」 コンコンッ アパパネ「アプリー、差し入れに来たよ」 アプリ「ああ。なんだあんた達か」 アニメイト「入ってもいい?」 アプリ「悪いけど、今忙しいのよねー。帰ってくれる?」 アパパネ「な、何よ、その態度!」 ミオリチャン「てめぇ!ちょっと売れたぐらいで偉ぶってんじゃねえよ!」 アニメイト「ふ、二人ともやめなよ…」 545 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 13 30 48 ID EF9+dV5E0 アプリ「私はミリオンセラーアイドルよ?忙しくて当然てしょ、あなた達に構ってる暇はないの」 アパパネ「何よそれ!」 アニメイト「アプリちゃん…私たち友達じゃない…」 アプリ「ともだち?…まぁあなた達からすればそうなのかもね。私は違うけど」 ミオリチャン「んだとテメェ!」 アニメイト「お、落ち着いてミオリン!」 ミオリチャン「チッ…。あっそうだ、サインしてくれよ。サインぐらいならいいだろ?」 アプリ「サイン?」 ミオリチャン「キズナちゃんへ。って入れてくれ」 547 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 13 40 35 ID EF9+dV5E0 アプリ「…嫌だね。あんな小汚い娘に書くサインはないよ」 ミオリチャン「おい!キズナのこと悪く言うな!!」 アパパネ「アプリ!言って良い事と悪い事があるよ!!」 アプリ「…」 アニメイト「…もういいよ、行こう」 ミオリチャン「アニメっち…」 アニメイト「今私達の前にいるのは、私達の知ってるアプリちゃんじゃない」 アニメイト「世間に踊らされてるただの道化だよ…、私達の友達じゃない…」 アパパネ「ちょ、ちょっとアニメイト、待ってってば」 ミオリチャン「…お前、変わったな。じゃあな」 アプリ「…」 548 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 13 57 05 ID EF9+dV5E0 アプリ(お前らに…お前らに何が分かるってのよ…) アプリ(2歳の時からずっと、ずっと上だけ見て頑張ってきた…) アプリ(頑張ってればきっと、GⅠを勝ってアイドルになれると思ってた…) アプリ(そしてついにそのチャンスを私は掴んだ) アプリ(もっと上を目指すには、犠牲だって払わなきゃならないのよ) アプリ(頂点に登るのに、友達なんて必要ない) アプリ(必要ない…) 549 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 14 09 18 ID EF9+dV5E0 ~小島厩舎~ アプリ「ただいま」 太一「アプリコット、武道館ライブ無事終了おめでとーう!」 みんな「おめでとー!!」 太「さあアプリ、ケーキ用意してあるぞ♪」 アプリ「…ごめん忙しいから」 豊「お、おい」 アロマカフェ「…」 550 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 14 17 46 ID EF9+dV5E0 アロマ「アプリ…、入っていいか?」 アプリ「…何?」 アロマ「い、いや…ほら、最近お前あんまり友達呼ばなくなったな~、なんて思ってさ」 アプリ「…忙しいから。遊んでる暇なんてないの」 アロマ「そ、そうか。そうだよな!トップアイドルだもんな!」 アプリ「そうよ。私はアイドル…トップアイドル」 アロマ「だ、だよな。あと曲聴いたよ~。『すべてが綺麗に見えた頃』?あれいいよなぁ~」 アプリ「…そう」 アロマ「何か昔のお前を歌ってる唄みたいだよな」 アプリ「…」 アロマ「なあ、アプリ」 アプリ「何?まだ何か用?」 アロマ「四ツ葉のクローバーを探すために、三ツ葉のクローバーを踏むことだけは止めろよ。 幸せはそんな風にして手に入れるもんじゃない」 アプリ「…そう」 551 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 14 28 35 ID EF9+dV5E0 ~国枝厩舎~ 浜中「へ~アプリコットフィズ、社台フェス2010に出場決定!だってさ」 ソニック「社台フェスって言ったら、アイドルの登竜門ですよね?」 国枝「毎年優勝者はドラマや映画、海外にまで活躍の場が与えられるからな」 アパパネ「んもう、そんな事どうだって良いじゃない!早く調教行くわよ!」 国枝「はいはい」 552 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 14 35 58 ID EF9+dV5E0 ~牧厩舎~ ヨートー「伸びろwww如意棒wwwwwww」 ニゴウハン「すっげぇ!!ヨートーさんの妖刀がどこまでも伸びてる!!!!」 コツンッ アニメイト「痛っ……っざけんじゃないわよぉぉぉ!!」 ボキッ ヨートー「ぎゃあぁぁぁぁwww」 ニゴウハン「ヨートーさんwwwご愁傷様ですwwwww」 牧「にしてもアプリちゃん凄いねー。社台フェス最有力候補だって」 アニメイト「もういいじゃない、その話題は…」 ツーピース「アニメたん、どうかしたの?」 アニメイト「別に…」 553 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 14 44 47 ID EF9+dV5E0 ~武市厩舎~ ミオリチャン「ごめんね、キズナ…サイン貰えなかった…」 ユメノキズナ「ううん、別にいいですよ!だから元気出してください!」 ミオリチャン「うん…」 武市「ニュースでも見るか…。うわーすごい事故だなこりゃ」 マヤノマヤ「高速道路で衝突事故?これって競走馬用の輸送車よね…」 オルレアン「えっ!ちょっとこれ、アプリコットじゃない!?」 ミオリチャン(!?) ミオリチャン(………) ミオリチャン(私の知ったことか…ざまぁみやがれよ……) 554 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 14 52 37 ID EF9+dV5E0 ~高速~ アプリ「代わりの車出せないんですか!?」 トランスワープ「そう言われましても…この渋滞ですし…」 アプリ「そんな!それじゃフェスに間に合わないじゃない!」 ワープ「残念ですが、今回は諦めた方がいいかと…」 アプリ「嫌よ!あんたワープって名前に付いてんだから、ワープさせなさいよ!」 ワープ「そんな無茶な…」 アプリ「何で!何でいっつもこうなっちゃうのよ…」 555 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 14 59 01 ID EF9+dV5E0 アプリ(昔からそうだった…いつも、いつもいつもいつもいつも!) アプリ(あと一歩なのに届かない…目の前にあるのに、あと一歩が届かない!) アプリ(こんなところで諦めるなんて嫌…) アプリ(なんで、どうして…) アプリ(もう、嫌………) ???「ったくだらしねーなぁ」 アプリ「…え?」 ミオリチャン「ダメじゃんアプリ~。こんな所でグズグズしてちゃ」 556 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 15 14 11 ID EF9+dV5E0 アプリ「ミオリン…?」 アパパネ「私たちもいるよ!」 アプリ「アパパネ…アニメイト…!」 アニメイト「アプリちゃんに涙は似合わないよ?ほら、急ごっ!」 アプリ「で、でも…こんな渋滞じゃあ…」 アパパネ「あらあら?私を舐めてもらっては困りますねぇ~」バサッ アニメイト「私たちの翼で連れてってあげるよ。…私のは黒いけどサ」バサッ アプリ「あ、ありがとう…私…グスッ」 アパパネ「あーもう!だから泣くなっての!ほら、早く掴まる!」 ミオリチャン「私は…何にもできないや。悪りぃなアプリ、力になれなくてさ」 アプリ「ミオリン、そ、そんなこと……あっ」 アニメイト「じゃあ、先に行ってるね!」 アパパネ「達者でな、ミオリ」 ミオリチャン「永遠の別れみたいに言うな!アホパネ!」 ミオリチャン「ったく…ごめんなアプリ。私にも、翼があれば…ね…」 557 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 15 24 04 ID EF9+dV5E0 ~高速上空~ アプリ「そんなこと…ないのに」 アパパネ「え?何か言った?」バッサバッサ アプリ「ミオリンの言ってたこと…」 アニメイト「仕方ないよ、ミオリンには翼もないし…」バッサバッサ アプリ「私、ミオリンに謝らなきゃ…許してくれるか分からないけど」 アパパネ「…許してくれるよ、きっと」バッサバッサ アニメイト「私達が助けにきたのは、ミオリンが呼びかけてくれたからなんだよ?」バッサバッサ アプリ(ミオリン…) 558 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 15 33 09 ID EF9+dV5E0 ~高速~ ミオリチャン「はぁ…はぁ…だぁもぉ!これじゃアプリの出番までに間に合わねぇ!」 ???「大変そうね、平民の娘さん?」 ミオリチャン「んー?げっ、テメェは…」 ブエナビスタ「なんなら私が会場まで連れて行っても構わんが?」バサッ ミオリチャン「何が目的だよ?」 ブエナビスタ「ふふふ。別に?単なる気まぐれよ」 ミオリチャン「そうかい…」 ~会場~ ミオリチャン「ありがとよババア!」 ブエナビスタ「バッ!?な、何よ1歳しか違わないじゃない!バーカバーカ!貧乏娘!」 ミオリチャン「へいへい。じゃあまた今度な!」 ダイシンプラン「良かったんですか?アパパネ一派に手を貸すような事をして…」 ブエナビスタ「さっきも言ったでしょ?単なる気まぐれよ…」 559 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 15 39 36 ID EF9+dV5E0 アニメイト「あっ、ミオリン来た!」 アパパネ「おーい、こっちこっち!」 ミオリチャン「いやぁーお待たせー」 アパパネ「意外と早かったわね」 ミオリチャン「あ、ああ…ちょっとな…」 アニメイト「?」 ミオリチャン(ブエナのことは伏せといた方がいいかもな…有馬の前だし) アパパネ「ほら!もうすぐアプリの出番よ!」 560 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 15 47 16 ID EF9+dV5E0 池江「きゃー!アプリちゃーん!!」 音無「アプリ様最高ですぞぉぉぉぉ!!」 アプリ「歌う前に、一ついいですか?」 アプリ「私には、2歳のときからずっと一緒に遊んできた大切な3人の友達がいます」 アパパネ「…」 アプリ「みんな優しくって、明るくって、本当に大切な友達です」 アニメイト「…」 アプリ「でも、私は有名になったことで彼女たちの存在を疎ましく思い始めました」 ミオリチャン「…」 アプリ「私は最低です。今まで支えてくれた仲間を…裏切ったんだから」 アロマ「…」 アプリ「私は、最低です。だから…この舞台で歌う資格なんて、私にはありません」 ざわざわ… アプリ「…出場を辞退します、すみません!」ダッ アパパネ「アプリ…」 ミオリチャン「…」 561 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 15 58 02 ID EF9+dV5E0 ~舞台裏~ アプリ「これでよかったんだよね…これで…」 ミオリチャン「よくねぇよ」 アプリ「ミオリン!どうして…」 ミオリチャン「私達を裏切ったから辞退する?ふざけんなよ…」 ミオリチャン「そんな押し付けがましい事言われて、余計むかつくじゃねーか」 アプリ「ごめんね…でも、もう無理…」 ミオリチャン「夢だったんだろ?早く行けよ!!」 アプリ「でも…いまさらステージになんて上がれないよ」 ミオリチャン「夢が叶うかも知れないんだぞ!?大丈夫だって、私達が全力で後押しの声援送ってやるよ!」 ミオリチャン「もしもアプリを笑うような奴がいたら…そんな奴、私がぶっとばしてやるから!!」 アプリ「ミオリン、本当にごめんね。そしてありがとう」 562 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 16 00 42 ID EF9+dV5E0 アプリ「ミオリン、私たち…またあの頃に戻れるよね?すべてが綺麗に見えた、あの頃に…」 ミオリチャン「戻れるよ…当たり前だろ」 アプリ「…ありがとう!ミオリン大好き!!」 ミオリチャン「は、早く行けよバカ!///」 563 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 16 10 02 ID EF9+dV5E0 アプリ「~♪」 キャー キャー キャー キャー アパパネ「いい曲ね」 アニメイト「今まで気付かなかったけど、この歌詞ってまるで昔の私たちを投影してるみたいだね」 ミオリチャン「…」 アパパネ「あれ~?ミオリ何泣いてんの~?」 ミオリチャン「泣いてねえよバカ!」 バゴンッ アパパネ「ちょっと顔面パンチしないでよ!この美しい顔に傷がついたらどーすんのよ!」 ミオリチャン「もともと崩れてるから治してやったんだよ!」 アニメイト「んもー二人ともやめなよー」 564 :名無しさん@実況で競馬板アウト:2010/11/01(月) 16 21 54 ID EF9+dV5E0 ~後日~ ミオリチャン「~♪」 武市「ミオリ、最近アプリちゃんの曲ばっかり口ずさんでるな」 マヤノマヤ「あんなに嫌ってたのに…」 ミオリチャン「え、え?私口ずさんでた?」 オルレアン「気付いてなかったの?」 ミオリチャン「~!///」 武市「はっはっは!まぁ親友の曲だもんなぁ」 ミオリチャン「っさいわね。…あっそうだキズナ、はいコレ」 ユメノキズナ「サインだ!やったー!ありがとう、ミオリチャン先輩!大好きですっ」 ミオリチャン「だ、大事にしろよ…わ、私のしし親友のサインなんだから…(ボソッ)」 ユメノキズナ「はい?」 ミオリチャン「なんでもねぇよ……よかったな、キズナ」 ミオリチャン「~♪」