約 632,141 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1887.html
※俺設定 ※読みづらそうな部分では、ゆっくりの台詞でも漢字を混ぜてあります 何の変哲もない、ごく普通の部屋でゆっくりれいむは目を覚ました。 ゆーん・・・あれ? ここはどこだろう? 今までのおうちとは違うところだね。 でもここの方が今までのおうちよりゆっくり出来そうだよ! きめたよ! 今日からここをれいむのおうちにしよう! ん? あそこに人間がいるよ。 白い服を着たお姉さんだね。 挨拶しようっと。 「ゆっくりしていってね!」 「・・・・・・」 あれ? こっちを向いたけど何にも言わないよ? よく聞こえなかったのかな。 じゃあもう一度! 「ゆっ! ゆっくりして・・・」 すっ、と、そのお姉さんが部屋の奥を指差した。 なんだろうと思ってそっちを見たら、もう一人ゆっくりがいた。 ゆっ! あれはいつも一緒にいた友達のまりさだよ! まりさもここに来たんだね! 「ゆっくりしていってね!」 「ゆ・・・ゆっ! ゆっくりしていってね!」 まりさとほっぺをすりすりする。 やっぱりまりさとすりすりするのが一番ゆっくりできるよ! これからも一緒にいようね! でも・・・ 「ゆぅ・・・おなかすいてきたね。」 「お姉さんにご飯をもらおうね!」 さっきのお姉さんのところに行って、お姉さんに言う。 「おねえさん! おなかすいちゃったよ!」 「れいむとまりさにごはんを持ってきてね!」 「・・・・・・」 お姉さんは立ち上がって、扉を開けて外に出て行った。 「れいむたちのごはんを取りにいったんだね!」 「それまでゆっくり待とうね!」 お姉さんを待ってる間、どっちが高く跳べるか比べて遊んだ。 きょうはまりさに負けちゃったよ。 でもこの間は勝ったもんね。 明日はれいむが勝つよ! カチャ・・・パタン ゆっ! お姉さんが帰ってきたよ! 「お姉さん! れいむたちのご飯は?」 「・・・これ」 お姉さんが持ってきたのはおっきなつるつるのおまんじゅう。 「ゆっ! おいしそうだね! まりさ!」 「そうだね! いっぱいたべるよ!」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁ!! やめでえ゛え゛え゛ぇぇぇ!!」 「れ゛い゛む゛を゛たべな゛い゛でえ゛え゛え゛ええぇぇぇ!!」 おまんじゅうが何か言ってるけど、どうでもいいね! 「まりさ! まりさにおっきい方のおまんじゅうをあげるね!」 「ゆゆっ! ありがとう、れいむ!」 ぱくっ! 「い゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!! い゛だい゛い゛い゛いいいぃぃぃ!!」 「あ゛り゛ずはたべものじゃな゛い゛い゛い゛いいぃぃぃ!!」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!」 「むぐむぐむぐ・・・おいしー!!」 甘くてとってもおいしいよ! まりさも満足してるみたい! 「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「げふぅ・・・おなかいっぱいだね!」 「ゆっくりやすむよ!」 おなかいっぱいになったらなんだか眠くなってきたよ! 「れいむ! これ! これ!」 まりさが座布団を見つけてきた。 さすがまりさだね! お姉さんの方を見たけど、怒ってないみたいだからこのまま使っちゃうよ! 「まりさ。 おやすみー」 「おやすみー」 まりさとくっついてるとすぐ眠れるね。 やっぱりまりさは一番の親友だよ! 「・・・む。 れいむ! れいむ!!」 ゆ? だれだろう・・・うーん 「れいむうううぅぅぅ! まりさのお帽子がああああぁぁ!!」 「ま、まりさ!?」 たいへんだよ! まりさのお帽子がなくなっちゃってるよ! 早く探さないとゆっくりできないよ! 「おねえさん! まりさのお帽子がなくなっちゃったよ! いっしょにさがしてね!」 「ほぅ? 帽子がなくてもまりさだと分かるのですか」 あれ? お姉さんとは違う方から声がした。 そっちを向くと、お姉さんとは別の人が・・・あれ? 「き・・・きめぇまる!!」 「はい。 清く正しいきめぇ丸です」 「おねえさん! きめぇ丸はゆっくり出来ないよ! 早く追い出してね!」 「おお、悲しい悲しい。 ところで」 「ゆ? なぁに?」 「私は今帽子をかぶっていませんが、私がきめぇ丸だとわかるのですか?」 「ゆっ! あたりまえだよ!ばかにしないでね!」 「帽子のないまりさも認識できた・・・と。 ではあれは?」 「ゆゆ?」 きめぇ丸がお姉さんを指差した。 ゆー? 別に普通のお姉さんだよ? 「お姉さんはお姉さんだよ? なにいってるの?」 「ふぅむ・・・」 「なんなの? なにがいいたいの!?」 「いえいえ、特に何も。 ところで、テーブルの上にあるこれはまりさの帽子ではないですか?」 「ゆー! まりさのおぼうしー!! はやくかえしてね!!」 「返しますよ。 今日のところはね」 まりさのお帽子が戻ってきてよかったぁ でも探し回ったらおなか空いちゃったな。 「おねえさん! おなかすいちゃったからごはん持ってきてね!」 「早く持ってきてね!」 「・・・・・・」 お姉さんはれいむたちのごはんを取りにお部屋から出て行った。 お姉さんは命令すればすぐにごはんを持ってきてくれるね! この人はいろいろ利用できるよ! 今日のごはんは、昨日より小さなおまんじゅうがお皿に山盛りになっていた。 「ゆー! ゆっくちたしゅけてね!」 「ゆっくりさしぇてね!」 「ゆっくち! ゆっくち!」 うるさいなぁ。 うるさいおまんじゅうはこうだよ! 「ゆっく・・・ゆべっ!」 「ゆっぐ・・・どうじでえええええぇぇぇ!!」 「ゆっくぢさしぇてええええぇぇぇぇぇ!!!」 体当たりで動かなくしてからゆっくり食べるよ! 「今日のおまんじゅうは昨日のよりあまいね!」 「おいしいね! むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!」 「むっちゃ、むっちゃ、べちゃべちゃ・・・」 「げふー、おなかいっぱーい!」 「おいしかったね!」 まりさのほっぺについたあんこを舐めて取ってあげた。 まりさもおんなじことをしてくれたよ! 床も汚れちゃってるけど、どうせお姉さんが綺麗にするかられいむたちはしなくていいんだよ! 「ゆゆー。 おやすみなさーい・・・」 「あしたもゆっくりしようねぇ・・・」 目を覚ましたとき、まりさが隣にいなかった。 「ゆゆ!? まりさ、まりさー! どこー!?」 辺りを見回してもどこにもいないよ! 「ゆっ! おねーさん! きめぇまる! まりさはどこ!?」 「さぁ? 知りませんねぇ」 「・・・知らない」 「しらないじゃないでしょ!? はやくさがしてね!」 「そんな義理はありませんねぇ」 「ゆゆー!! なにいってるの!? きめぇまるはゆっくりしないでさがしてね!」 ガチャ・・・パタン ゆゆ? お姉さんが外に行ったよ! お部屋の外を探してくるんだね! れいむはお部屋の中をゆっくり探すよ! 「おお、必死必死」 「ばかなこといってないではやくさがしてね!」 まりさと一緒じゃないとゆっくりできないよ! 早く出てきてね、まりさ! カチャ・・・パタン 「ゆゆ!? おねえさん! まりさがみつかったの!?」 「ううん。 ・・・はい、これ」 お姉さんは、手に持っていたおまんじゅうをれいむに差し出した。 ゆー・・・まりさを見つけられなかったんだね! 役立たずなお姉さんはゆっくりしなくていいよ! でもおなかがすいてきたから、このおまんじゅうを食べてからまりさを探そうかな! 「れいひゅううううぅぅぅ!! たひゅけてえええええぇぇぇ!!」 「ゆー・・・またうるさいおまんじゅうなんだね!」 たまには静かなおまんじゅうを持ってこれないのかな! 全くお姉さんは気がきかないね! 「れいひゅううううぅぅぅ!! まりひゃだよおおおおおおぉぉぉ!!」 「ゆー・・・うるさいね! なにいってるのかわかんないよ! ゆっくりしねっ!」 「がひゅっ!! ・・・れ゛い゛びゅう゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅぅぅ!!!」 「おや? あのまりさは歯でも抜いてあるんですか?」 「・・・舌を抜いてあるの。」 「おやまぁ・・・」 「ばくっ! むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!」 「い゛ぎゃあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!! れ゛い゛びゅう゛う゛う゛ぅ!! わ゛がっでえ゛え゛えぇぇぇ!!」 「うるひゃいね! だまってたべられてね!」 あーあ、しゃべったらお口の中のおまんじゅうがちょっとこぼれちゃったよ! でもまだいっぱいあるから大丈夫だね! ゆっくり食べ終わったらまりさを見つけて、またおいしいものを持ってきてもらうよ! 「そろそろではないですか? これ以上やると・・・」 「うん・・・そうだね」 「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ・・・」 やっと静かになってきたね! これで静かにゆっくり食べられるよ! そのとき急にからだが浮き上がる感じがした。 わあ、おそらをとんでるみたい! 「・・・よっと」 「ゆべぇっ!」 いた・・・・・・なん・・・・・・ ゆゆ・・・ ここはどこ・・・? さっきのお部屋とは違うところだね。 なんだか前すんでたおうちに似てるよ。 それよりなんだか体中が痛いよ・・・ あのお姉さんが何かしたんだね! 食べ物を持ってくるだけのぶんざいでれいむにこんなひどいことをしたんだね! 絶対に許さないよ! 「う~。 おきたよ~」 「・・・ん。」 ゆっ! いたね! ゆっくりできないお姉さんにはおしおきだよ! 「ゆっくり・・・!」 「はいこれ。」 ドン! おっきな音を立てて板みたいなものがれいむのとなりに置かれた。 ゆ? おっきなおまんじゅうがあるよ! 「いただきま~・・・ゆびゅっ!?」 「・・・よく見て。 それは鏡。」 ゆゆ? これが鏡なわけないよ! だってここに写ってるのは・・・ 写ってるのは・・・・・・・・・!? 「ゆびゃあああああぁぁぁ!? れいむのかみのけはあああああぁぁぁ!?」 「う~♪ れみりゃが抜いたの~」 「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!」 れいむのきれいな髪の毛が!! れいむの髪飾りが!!! こんなみっともない姿まりさに見せられないよ!! あのれみりゃがやったんだね!! 殺してやる! 殺してやる殺してやる殺してやる!!! あのれみりゃはまだ子供だよ!! れいむでも勝てるよ!! あのれみりゃを殺してまりさと一緒に食べてやる!! 「ところで、これは先程あなたが食べていた"お饅頭"なのですが」 「ゆっ!! いまいそがしいんだよ! きめぇ丸はゆっくり黙っててね!!」 「今でないと困るのですよ。 この帽子を・・・こうします」 れいむの食べかけのおまんじゅうにきめぇ丸がまりさのお帽子をかぶせた・・・・・・? ・・・あれ? あの位置は・・・あの角度は・・・あのお顔は・・・・・・・!!?? 「まっ、まっ、まりざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁ!?」 「ゆ゛っ・・・ゆ゛ひゅっ・・・ゆ゛ゆ゛っ・・・・ゆ゛っ・・・」 「ま゛り゛さあああ゛あ゛ぁぁぁ!! おへんじして゛え゛え゛え゛え゛え゛ええぇぇえ!!!!」 ちがう!! 違う違う違う違う違う違う違う違う!!!! れいむはまりさを食べたりなんかしてない! まりさはあのお姉さんとれみりゃに何かされたんだよね!? 一緒にあいつらをやっつけてまた一緒にゆっくりするんだよね!? お返事してよ、まりさあああああぁぁぁぁ!!!! 「ゆ゛・・・ぐ・・・に・・・げ・・・・」 「ゆっくり逃げてね、だそうですよ。 自分を食べた相手に向かってけなげな事ですねぇ」 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁ!! ぢがう゛う゛う゛う゛う゛うううぅぅぅ!!!!」 れいむはまりさを食べたりなんかしてない!! れいむがまりさを間違えるはずない!! だってまりさはれいむの一番の・・・・ 「ところで、今のあなたの姿やまりさの姿は、あなた達が今まで食べてきたものに似ていると思いませんか?」 「ゆ・・・ゆあ・・・・・・? ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅぅぅう!?」 「あなた達は今まで共食いを続けてきていたのですよ。 これはゆっくり出来ませんねぇ。」 「わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあ!!!!」 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!! こいつらは皆うそつきだ!! 早くまりさをたすけてここから逃げるよ!! 早くしないとまりさが・・・ 「まりさあああぁぁぁ!! こっちにきてねええぇぇぇ!! いっしょににげるよおおおお!!!!」 「・・・うん。 これで全部終わった。」 「う~?」 「結果が全部出たの。 だかられみりゃ」 「う~・・・」 「食べてもいいよ」 「う~♪」 れみりゃ!!!! あいつだけは殺してやる!! まりさをこんな風にしてれいむもこんな風にして他のゆっくりもあんな風にしてみんながあんなふうになったのもみんな・・・ 「えーと・・・ここ、だっけ」 「い゛っ!? い゛だあ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁぁ!!!」 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!! れいむの中に何か入ってきてる!! 痛いいた・・・あ・・・あれ? なんだかからだにちからがはいらない・・・ 「・・・うん。 正解」 「う~♪」 「ほぅ。 さすがですね」 「つぎは~・・・ここ!」 「ゆ゛ぎっ!?」 痛ああああああ!? もうやだ! おうちかえる! おうちでまりさといっしょにゆっくりする!! あ・・・あれ? めのまえが真っ暗になったよ! こわいよ! まりさ、助けて!! あ・・・あれ? なんだかぼーっとしてきたよ・・・ 「あ、ちがう。 そこ壊しちゃうと一気に・・・」 「う~?」 「おや、死んでしまいましたね」 まりさ・・・・・どこ・・・・・・・ ゆ・・・く・・・・・・・・・・り・・・・・・・・・・・・・ ゆっくり加工場・ゆっくり研究部非繁殖課課長、琥珀様 この度預からせていただきました実験体の結果が出ましたのでご報告させて頂きます。 貴方の提示された"認識能力"、そこから生まれるパートナーとの"絆"に絞り、順を追って結果報告致します。 まず、パートナーに限らず、帽子や髪飾りが無くなった程度では相手の認識が不可能になると言うようなことはないようです。 きめぇ丸、当方で用意した飾り無しゆっくり等も、きちんとその種類まで認識できていました。 しかし、髪を剃ってしまうとゆっくりとは認識できなくなるようです。 髪飾りを髪ごと剃ったゆっくりを"饅頭"として出したところ、言葉を発しているにも拘らずあくまで"饅頭"として捕食していました。 更に、羽を隠し服装を変えたゆっくりフラン(白衣に黒いジーンズ)にも、"人間のお姉さん"として接していました。 何度かゆっくりであることを示唆してみましたが、特に反応は無く、最後まで人間であると認識していたようです。 最後にパートナーへの認識ですが、残念ながらこちらも他のゆっくりとそう変わらなかったようです。 片方の視界の外でもう片方の髪を剃り、発音不明瞭の状態で"饅頭"として出したところ、パートナーの必死の呼びかけにも構わず迷い無く捕食しました。 その後そのゆっくりも髪を剃り、自分の形状を認識させたところ、ようやく今までの"饅頭"がゆっくりであることに気付きました。 ただ、捕食された方が、髪の無いパートナーに向かって「逃げろ」等と言っていたので、条件次第では認識も可能なようです。 そして加害者を明白にし、言葉による挑発をしたところ、ゆっくりには珍しいほどの憤りを見せましたが、それによる身体能力の向上は見受けられませんでした。 実験体はそのまま破棄してよいとのことでしたので、実験が終わり次第当方のゆっくりの餌とさせて頂きました。 当方はまだ時間的余裕がありますので、以前仰っていた溜まっているという研究もこちらに回して頂いて構いません。 草々 追記 貴方が永遠亭の八意様より預かったと言う『緑の日』ですが、危険が大きいので結果を出すのに少々時間を頂けたらと思います。 「う~ん・・・うちのゆっくりじゃまだまだ力不足って事だなぁ・・・」 「そうですか? 条件次第では丸坊主でも相手が分かったんですよ?」 「条件次第で、でしょ? あそこのゆっくりだったらどんな条件だろうが分かるんだよ?」 「ではあちらのゆっくりを借りて実験させてもらっては?」 「う~ん・・・ところできめぇ丸、どうだった? ゆっくり研究所は」 「少なくともここの数倍居心地がよかったですねぇ」 「どうせここは生活しにくい構造だよ・・・」 終わり ************************************************************************************************************ 台詞以外を全てゆっくり視点で書いて見ました。 久しぶりに来たらいろいろ様変わりしててびっくりしました。 チル裏ってここにも出来たんですねぇ・・・そしてドロワ な ん ぞ (゚Д゚) こういうのってよくあるもんなんですかね? まぁ、ドロワの設定等については特に気にしませんので、好きにしてやってください 598 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/713.html
突然だが、俺は二重人格である。といっても、俺と”もうひとり”はさほど人物相が異なっていないらしく、 日常生活において不都合になることはあまりない。 あまりない、のだが…… 「まったく、面倒臭い」 俺は混沌の坩堝と化した台所を片付けていた。 流しにはうずたかく皿や碗が積み重ねられ、床もごみから何から散らかり放題。 俺は結構綺麗好きな性質で、こうした状態が我慢ならない。 その反対に、”もうひとり”はかなりずぼらである。 「今回は、向こうが長い間表出してたからな……」 俺と”もうひとり”の場合、相手側が意識の上に表出している間もう一方は完全な無感覚の眠りについており、 相手側に口出しすることは一切不可能。 ふと意識を取り戻して、この台所の惨状を見たときの脱力感といったらなかった。 「……!」 まったく、これは晩までかかる……。 「ぅっぅー!」 「ん?」 俺は手を動かすのをやめて、耳を澄ませる。 「うー!」 今度は確実に聞こえた。うわさに聞く、ゆっくりとかいう生き物の声だ。 しかし、何か妙だ。 「ぅー!」 どこからか聞こえてくる声はこもっていて小さい。俺はさらに耳を澄ます。 「うー!うー!」 その声は、まだ片付けていない部屋の隅から聞こえてきていた。 重箱の隅 by ”ゆ虐の友”従業員 十分ほどもかかって俺はそれを発掘した。 声源である、正月のおせち料理のわずかにこびりついた重箱。その中に二匹のゆっくりがいる。 確かれみりゃとかいわれる、胴付きの種族だ。 二匹のれみりゃ――おそらく親子なのだろう――が俺を見上げる。 「う~ぷっでぃんなぐなっちゃったどぉ~もっともっでぎでぇ~」 「ぷっでぃん~!」 餌…を要求しているのか? 「とっとともってこないとぉ~たーべちゃーうどぉー。ぎゃおー☆」 「ぎゃおー☆」 その動作が効果ありと本気で考えてか、元気よくこちらを威嚇する二匹のれみりゃ。 うぜえ。森にでも捨ててくるか…… 「って、小さくね?」 「あう?」 通常、胴つきのゆっくりは体長1メートル弱はあるという。 しかし、目の前のこの二匹は大きいほうでも俺の手のひらぐらいの大きさしかない。小さいほうはその半分だ。 「言うなら豆れみりゃってところか……」 ゆっくりの生態はいまだ謎が多く、新種のゆっくりも日ごとに発見されている。 もしこれがそうした新種だったらと考えると、あまり無碍に扱うのもためらわれる。 「”もうひとり”なら、こういうの詳しいんだけどな……」 いや、詳しいなんてもんじゃない。”もうひとり”は、いわゆる虐待お兄さんと呼ばれる趣味の人間だ。 個人の趣味をどうこういうつもりはないが、畳に落ちた餡子は完全にふき取って欲しい。 「しょうがない。あいつが表出するまで飼うか」 俺はそう決意した。 「さっさとするどぉ~たべたいどぉーぷっでぃんー」 「うー!ぷっでぃんー!」 こいつらの処遇は、”もうひとり”が決めてくれるはずだ。 * * * * そのようなわけで、あくまで暫定的にだが豆れみりゃを飼育する生活が始まった。 はじめに住んでいた重箱を”こーまかん”だと言い張ってやまないので、仕方なく巣箱としてくれてやる。 あとで覚えとけよ……。 「うっうー!ものわかりのいいじゅうしゃはほめてつかわすどぉ♪」 「まんまぁのじゅーしゃー!」 死ね。 こいつらときたら、ずうずうしいことに見境なく餌を要求してくるのも日常茶飯事であるらしい。 「ぷっでぃんたべたいどぉー!」 「うーうー!」 「黙らっしゃい」 「おぜうさまはぷんぷんだっどぉー!とっとともってこないとさくやにいいつけるどぉー!」 「いいちゅけるどぉー!!」 「うるさいうるさい」 体に見合った量しか食べないからいいようなものの、そう何度も何度も飯の用意をさせられてたまるか。 ”もうひとり”なら気にしないのかもしれないが、俺はその重箱をくれてやるのにもかなり抵抗があるんだぜ。 「このっ」 重箱の縁から身を乗り出して、口うるさくわめく親れみりゃにでこぴんを食らわせる。 「ぎゃぶぅぅぅぅーーー!!??」 うはは、よく飛ぶこと。 「うーー!!まんまぁをいじめるなーー!」 「生意気言いやがって。お前も飛ぶか?ん?」 「いだいのはやだどぉー!」 「だったら黙っとけ、ボケが」 「うううーー!ここはおぜうさまとまんまぁのこーまかんだどぉーー!」 でこぴん。 「うあーーー!!」 おっと、ここで選手交代のようだ。 余人には説明しがたい、人格交代に伴う疼きが脳裏を冒してゆく―― あとは任せたぜ、”もうひとり”―― * * * * ――意識を取り戻すと、部屋が散らかっていた。しかしこのぐらいはいつものことだ。 暦をめくるまでもなく、部屋の汚れ方で三日経ったとわかった。伊達に長い付き合いではない。 ごみをまとめ、玄関を掃き清める。庭先の木の枝とごみをまとめて焼く。 「そういえば、あいつらどうなったかな」 俺は掃除を終えると台所に向かった。まあ、おそらく死んでるだろうがね。 「うおっ、なんじゃこりゃ」 予想は大きく外れた。 「うっうーうあうあ☆」 「れみ☆りゃ☆うー!」 元気に台所を飛び回る二匹。いや、それどころか、俺が世話していた時よりも良い扱いを受けているのが、 重箱の中に散らばった食い残しの量からわかる。 「おぜうさまはこばらがすいたどー!ぷっでぃんもってこいだどぉー!」 「てぃらみすでもいいどぉー!」 「んだと蚊トンボども。餌ならそこにまだあるだろう」 「こんなのえれがんとじゃないどー!」 「おぜうさまはじゅうしゃとちがってぇ、かり☆すまなんだどぉー!」 「こんなの、ぽーい!だどー!」 「うっうー!おぜうさまもやるどぉー!」 「おい、やめやがれ!重箱から食べ残しを投げ捨てるんじゃない」 「おもちろいどぉー!」 「ぽーい!」 「うおおおおおおおお!!!」 「ぐずなじゅうしゃだどぉ。とっととぷっでぃーん、もっでくるどぉ~」 おかしい。あの”もうひとり”がゆっくりをこんな風に甘やかし、生かしておくなど過去になかったことだ。 まさか、それほどまでに貴重なゆっくりなのか……? そう考えると、俺は振り上げた拳の落とし場所を失う。 うなだれた俺を見て、豆れみりゃどもはいっそう調子付く。 「あう~~ぷっでぃんはみっつずつだどぉ~。わかったかぁ~ばぁか~!」 「ばぁかぁ~~!!」 「うぐぐぐぐぐ……!」 仕方ない。……俺は歯を食いしばって、あいつらのための餌を用意する。 (おい、”もうひとり”) (どうしてこんなやつをそのままにしておくんだ?こいつらを虐めるのが、お前の望みなんじゃないのか?) 俺は心の中で問いかけるが、もちろん返事はなかった。 * * * * それから何度か俺と”もうひとり”は入れ替わったが、豆れみりゃどもは俺が表出するたびに増長していく。 まず、子供が三匹に増えた。 次に、餌の回数が日に五度となった。 のうさつ☆だんすともけーれむべんべごっこの拝謁は義務。 「なめとんのか!!」 ――そしてまた、目覚める。 足取りも重く、”もうひとり”が汚した部屋を掃除しては台所へと向かう。 (いっそ潰してしまうか) いや、ここまできてそれは…… 行きたくない。 しかし、こんどこそやつらの無残な有様を眺められるかもしれないという希望が俺を縛り付ける。 おい、今度こそ頼むぜ”もうひとり”。 虐待お兄さんなんだろ? しかし、今回も期待は裏切られた。 「うっうー!」 「「「うー!」」」 台所から聞こえてくる、相変わらずの騒々しいわめき声。今日も今日とてだんすぱーてぃーか。優雅なご身分だ。 俺は引き戸を引く。 「あうー!ぷっでぃんもっでぎでぇ~」 「「「ぷっでぃんー!」」」 とうに聞き飽きたぷっでぃんコールなど、ほとんど気にもとまらなかった。 俺の目は床に釘付けになっていた。 「お前ら…それは何だ…」 親れみりゃが悪びれもせず答える。 「こんなものもしらないんだどぅ?ものしらずなじゅうしゃをもっておぜうさまははずかちーどぉー! これはぁ、おぜうさまのえれがんとなべっそうだどー」 床に並べられているのはすり鉢、酒枡、お猪口。 それらを豆れみりゃが持ち上げられるはずはないから、”もうひとり”がやったのに違いない。 それぞれにれみりゃが一匹ずつ取り付いている。 「ここはおぜうさまのべっそうだどー!」 「こっちはおぜうさまのー!」 一番遅く生まれた、末っ子の子れみりゃが”べっそう”からあぶれて重箱にいる。 「まんまぁー!おぜうさまもべっそうほしいどぉー!」 「うっうー!おちびぢゃん、そういうときはじゅうしゃにめいれい☆するんだっどぅ♪ それがえれがんとなれでぃのたしなみだど~」 「わかったどぉ♪じゅうしゃははやくべっそうもってこいどぉー♪」 俺は絶望的な気分で、数日前までは整然としていた俺の食器棚から茶碗を一つ取り、床に置いた。 っていうかお前、重箱独り占めしたほうが得じゃねえか。 俺は黙ってそいつらの餌を床にぶちまけると台所を出た。 * * * * <俺だ。連絡を乞う> 自分にあてて手紙を書くなんてはじめてのことだ。馬鹿馬鹿しくて涙が出る。 俺には”もうひとり”の意図が理解しかねる。 頼むから返事をくれ。 * * * * ――目覚める。部屋の掃除を最優先にしたいところだが、俺はあたりを探し回って、 ”もうひとり”からの手紙の返答を求めた。 机の上。ない。 戸棚の中。ない。 食卓の上。ない。 「……」 大きく息をつき、目を閉じる。 この数日のうちにれみりゃはまた二匹増え、全体では六匹となっている。 我が物顔に台所を飛び回って遊ぶそいつらに触れないよう、また足元の”べっそう”食器類に注意しつつ台所を突っ切り、 料理の用意を始める。 考える時間が必要だった。 森のはずれの古道具屋で手に入れた自慢の調理器具を振るって、思考を整理しよう。 これまた古道具屋由来の料理教本を眺める。 「ん?」 後ろのほうのページ――デザートと書かれた一群の中にそれはあった。 『プディング』。これこそ、やつらの言う正統ぷっでぃんなのでは? 「材料がない……」 バニラエッセンスというのがない。ほかにもいろいろ足りない。というか卵と砂糖と牛乳しかないが…… 「まあ為せば為るってことで」 俺は試行錯誤の末、どうにかそれらしいものを仕上げた。そのころには豆れみりゃたちがぶんぶんと俺の周囲を飛び回り、 ことあるごとに振り払わなくてはならなかった。 「とーってもえれがんとなかおりだどぉーー!!」 「さすがはえれがんとなおぜうさまのじゅうしゃだどー!」 れみりゃの賛美を受けながら、俺はそれを器に盛る。 「はやくたべたいどぉ~~」 「とっとともってくるどぉーー!」 俺は戸棚にその適当プリンをしまうと、里へと出かけた。 * * * * 用を終えて俺は帰宅する。 台所の引き戸を開けると、プリンを待ちかねたれみりゃ達の大合唱だ。 「おそいどぉー」 「おなかすいたどぉー」 「さくやにいいづけるどぉーー!!」 「ぷっでぃーんはやぐぅ~」 「まあ待て」 俺は里で買ってきたものを台所に運び込む。ガラス箱に入ったゆっくりは、豆れみりゃの原形とも言うべきゆっくりれみりゃだ。 今は箱の中で眠っている。 豆れみりゃ達は仰天した。 「すっごいどぉー!」 「おっきぃどー!」 * * * * 以下は俺の推理である。 ”もうひとり”はある日、珍しいゆっくりを手に入れた。 彼は、それが珍しいばかりでなく、ある目的に向いていることに気づく。 豆れみりゃは普通のゆっくりに比べ力がないため物的被害を出さない。 扱いやすく、しかし増長しやすい。 彼はこう思ったに違いない。「なんと初心者向けのアイテムなんだ」と。 そして今回のことを計画したのだ。 「これは、もうひとり(つまり俺のことだ)を巻き込んで、面白いことができるぞ」と。 彼はあの重箱をこーまかんとして豆れみりゃにあてがう。 やがて俺は当然の帰結として豆れみりゃと出会い…その後はごらんのとおり、というわけだ。 俺が豆れみりゃへの鬱屈した感情を育み続ける一方で、彼は出番の間一貫して甘やかし続ける。 俺を煽るためと、あとでの虐待のたのしみを倍増させるためだ。 相当期間の間――そして、俺が彼の意図を解明するまで――俺がぶち切れて豆れみりゃを殺したりしないことなど、 彼にはわかっていたのだ。なぜなら俺は彼で、彼は俺なのだから。 彼は、「おい、”もうひとり”。一緒に面白いことをしないか」と誘うかわりに、不可解な状況を俺に投げてよこしたのだ。 状況が解明されることを信じて。 * * * * 俺は戸棚から適当プリンを取り出す。 「うっうー!」 「あまあまのにおいだどぉー!!」 飛び掛ってくる豆れみりゃをかわしながらガラス箱をたたいて通常れみりゃを起こし、 まだ寝ぼけているそいつの前に皿を置いてやる。 「あう?」 「「「「「「だめぇ~~それおぜうざまのぉ~~!!!!」」」」」」 箱の中のれみりゃは、初めて味わう人間手製の甘味に舌鼓を打ちながら平らげていく。 「うああ……!あんまぁぁ~~いどぉぉ~~!!ほっぺがおちちゃうどぉ~~!!うっうーーー!!!」 通常れみりゃは、一口食べては昂ぶる心のままに踊り、気が済むまで踊ってはまた一口食べる。 「おぜうさまにふさわしいぃ~、とってもえれがんとなすいーつだっどぅぅ~~♪ れみ☆りゃ☆うー!!にっぱぁ~~☆」 その様子を見せられる豆れみりゃ達はたまったものではない。 「まんまぁ~あれたべたいどぉーー!」 「じゅうしゃーー!はやくおぜうさまたちにもあれもってくるどぉーー!!」 (しかしまだまだこんなもんじゃない) (俺達ふたりがかりの甘やかしからの逆落としはこれからが本番なんだぜ) (なあ、”もうひとり”) * * * * 通常れみりゃは、長い時間をかけてプリンを食べ終えた。 「うっぷぅ~~。とってもでぃりしゃーすだったどぅ~♪またたべたいどぉ~♪」 「ぜんぶだべぢゃっだぁぁぁ~~!!」 「しゃくやー、しゃくやぁー!!」 「おっきいおぜうざまずるいっどぉー!!」 ガラス箱をぺしぺしと叩いている者もいるが、プリンの余韻にひたる通常れみりゃに気づかれてさえいない。 「じゅーしゃーー!!」 「おぜうざまにもぷっでぃんーー!!」 飛び掛ってくるれみりゃを手で払いのけながらガラス箱に近づく。 「れみりゃ。おいしかったかい?」 「うー?もちろんだどぉ~。おぜうさまはだいまんぞくだどぉ♪」 「そうかいそうかい」 俺はそういいながら、台所の床を片付けはじめる。 「だめだどぉーー!!それはおぜうざまのえれがんとなべっそうだっどぉーー!!」 「ん~?聞こえんな~?」 ひっかき傷とかついてないだろうな……大事な食器を一つずつ検分しながら、流しで洗ってゆく。 「ヒャッハァーー!!掃除だぁーー!!」 「べっそうがえじでぇ~~!!」 「ざぐやーー!ざぐやーー!」 しばらくすると、かつて豆れみりゃの帝国であった台所は、ほぼ完全に元の様相を取り戻した。 「すすす……すっきりーー!!」 「じゅうじゃのばがーー!!」 「うあーー!うあーー!」 今や台所の床に残っているものといえば、通常れみりゃのガラス箱と”こーまかん”重箱だけである。 水拭き、空拭きを終え、丁寧に食器を戻した食器棚のガラス戸をパチンと閉める。それは今までにないほど高く澄んだ音を立てた。 * * * * 「さて」 豆れみりゃを重箱に押し込め、本格的に通常れみりゃとの面通しをしなくては。 「うー!せんまいどぉー!」 「おぜうさまはおそとでれみ☆りゃ☆うーするのぉー!」 「駄目だ」 聞き分け悪く外へ飛び出そうとする一、二匹を手でひっ捕まえ重箱に戻す。 「せまいのやだどー!」 また一匹飛び出す。ああもうきりがねえ。 「おらっ」 ちょうど飛び出そうとしていたゆっくりを下敷きにする形で、重箱に蓋をかぶせる。 「ゆびゃあああああ」 殺してしまったかと思ったが、れみりゃは蓋と重箱の縁の間に挟まれたままもがき苦しんでいる。親れみりゃが、 見えないながらも子の危険を悟ってうろたえ出す。 「あう?おちびちゃーん!?でびりゃのえれがんどなおちびちゃーん!?」 「まんまぁーぐるぢいどぉー」 案外頑丈にできてるんだな。蓋が閉まらないので、重箱の中へと指で押し込んでやる。 「ぎゅぶぅぅぅぅ……いたかっだどー」 「おちびぢゃーーん!!」 きっと箱の中で感動の再開をしているのだろう。 「うーん、どうしたものか」 とりあえず、蓋をぴったりと閉じてみる。たちまち反応があがる。 「くらいどぉーー!?」 「なんにもみえないどぉーー!」 「ごあいぃぃぃぃーー!!」 これはなかなかの好反応。 とはいえ、ただでさえ人の話など聞かないゆっくりが恐慌状態に陥っているのだ。今は話をするだけ無駄だろう。 俺は蓋の上に重しを載せて散歩に出かけた。 * * * * 散歩から帰ると、豆れみりゃどもは騒ぎ疲れたのか重箱は静かになっていた。 「うーおなかすいいたどぉー、ぷっでぃんー」 と暢気な声は通常れみりゃ。お前はもう少し黙っててくれ。 俺は重箱に顔を寄せる。 「もしもーし、れみりゃ、聞こえるかい」 「うー!じゅうしゃだどー!」 「くらくてえれがんどじゃないどぉー!なんとかするどー!!」 「いいか、よく聞けよ。 蓋を開けてもお外に出ないで、こーまかんで俺の話を聞けるかい?」 箱の中でれみりゃ達が飛び回る気配がする。 「うーぞんなのやだどぉー」 「おそとでだいぃー」 「じゃあ、ずっとその中にいるんだね」 「どーじでぇ~~!?」 「やぁだぁ~!!」 そのとき、親れみりゃが言った。 「おちびぢゃんだぢぃ~、いいこにしてじゅうしゃのはなしをきくんだどぉ~。まんまぁはまっくらいやだどぉ~!」 「ううー!」 「わがっだ~」 どうやら話は決まったようだ。それにしても、”まんまぁはまっくらいやだどぉ~!”。 威厳もカリスマのひとかけらもない親だな。 「お外に出ないこと。わかったね?」 「わがっでるどぉ~はやくあけるんだっどぉ~」 不遜な言葉遣いはひとまず聞き流し、俺は蓋を開けてやった。 重箱に豆サイズのれみりゃが並んで座っている光景はそれなりにかわいらしい。それを、 ガラス箱の通常れみりゃによく見えるように重箱を押し出してやる。 俺は通常れみりゃに聞く。 「こいつを見てくれよ……どう思う?」 満腹感から眠たげにしていたれみりゃだが、重箱の中にいるものが小さな同属だと気づくと興味を示した。 「うーちっちゃくてかわいいおちびちゃんたちだどぉ~♪」 それを聞いて豆れみりゃもまんざらではない。 「ほめられたどぉ~!」 「おぜうさまはかわいいどぉ~!あうー!」 しかし、その中に一匹だけ釈然としない表情の者がいる。親れみりゃだ。 「おい、どうした?可愛いってよ」 俺は親れみりゃに水を向ける。 「うー、おぜうさまはおちびちゃんじゃないどぉ~」 「だとさ」 通常れみりゃはきょとんとしている。 「そんなことないど?おちびちゃんもかわいいどぉ~?」 「うー!おぜうさまはまんまぁだどー!おちびちゃんじゃないどーー!!」 通常れみりゃは頷いた。 「あうーわかったどぉー」 「わかればいいんだどぉ!」 「きっとけんそんしてるんだどぉ!ちびちゃんなのにえれがんとだどぉ~。えらいどぉ~なでなでしてあげるど~」 「ううううううーーー!!!」 はっはっは、こりゃいい。 そのとき、俺の脳裏に次のプランがひらめいた。 to be continued... ■ □ ■ □ 次回予告という名の備忘録 「餌は全部お前に管理してもらうからな。おちびちゃん達にもちゃんと分けてやるんだぞ」 「わかったどぉ!おぜうさまがちびちゃんたちをりっぱにやしなってみせるどー!」 生きるためには通常れみりゃから餌を与えてもらうしかなくなった豆れみりゃ。 「おぜうざまはぢびぢゃんじゃないぃぃ~~!!!」 自らの立場を否応なく理解させられていく豆れみりゃ達。 多重人格コンビのエスカレートする虐待攻勢、親れみりゃの止めどもないカリスマブレイク。 通常種とかは出るのか!従業員は三種類のれみりゃをこのまま書き分け続けられるのか!? 豆れみりゃの明日はどっちだ! 次回『豆れみりゃと多重人格お兄さん』に――Take it easy!
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3827.html
ゆっくりいじめ系59 大好きゆっくり魔理沙 ゆっくりいじめ系118 ゆっくりのなくころに ゆっくりいじめ系140 ゆっくりんかわいいよゆっくりんりんⅡ 賢者と大図書館 ゆっくりいじめ系201 コードアイス-反逆のゆっくりゆかりん ゆっくりいじめ系278 永夜緩居― 二匹のゆっくり_1 ゆっくりいじめ系279 永夜緩居― 二匹のゆっくり_2 ゆっくりいじめ系293 愛はゆっくりすれ違う ゆっくりいじめ系334 ドスまりさ暗殺 ゆっくりいじめ系384 永夜緩居[ゴミクズ]_1 ゆっくりいじめ系385 永夜緩居[ゴミクズ]_2 ゆっくりいじめ系386 永夜緩居[ゴミクズ]_3 ゆっくりいじめ系403 ゆっくり横とび ゆっくりいじめ系404 ゆっくりできない町 ゆっくりいじめ系409 きれいなれいむ ゆっくりいじめ系417 ドスまりさ暗殺 mission-Ⅱ ゆっくりいじめ系476 永夜緩居[胎動]_1 ゆっくりいじめ系477 永夜緩居[胎動]_2 ゆっくりいじめ系523 ゆっくりしすぎた逆転裁判_1 ゆっくりいじめ系524 ゆっくりしすぎた逆転裁判_2 ゆっくりいじめ系569 愛のある食卓 ゆっくりいじめ系574 午後の紅茶 ゆっくりいじめ系586 ドスぱちゅりー『感染拡大』 ゆっくりいじめ系603 ゆっくりそんぐ ゆっくりいじめ系604 ゆっくりの一人カラオケ ゆっくりいじめ系612 ゆっくり詰め ゆっくりいじめ系639 ゆかりんのピーッくっせぇ~~! ゆっくりいじめ系648 狂ったドスまりさ ゆっくりいじめ系649 ギャルゲーでゆっくり ゆっくりいじめ系738 永夜緩居[ゆっくり] ゆっくりいじめ系762 星とゆっくり ゆっくりいじめ系779 やあ、僕は虐待お兄さん ゆっくりいじめ系790 ある夏祭りとゆっくり菓子 ゆっくりいじめ系796 まりさをみて_1 ゆっくりいじめ系797 まりさをみて_2 ゆっくりいじめ系859 ぐだり話 ゆっくりいじめ系898 脛毛話 ゆっくりいじめ系919 黒い黒い瞳一つ ゆっくりいじめ系987 僕とわがまままりさのギスギスした朝 ゆっくりいじめ系1037 僕とわがまままりさのギスギスしたおもてなし ゆっくりいじめ系1079 僕とわがまままりさのギスギスしたごっこ遊び ゆっくりいじめ系1114 最強の遺伝子 ゆっくりいじめ系1152 僕とわがまままりさのギスギスした山登り ゆっくりいじめ系1187 ジュースを片手に森で踊ろう ゆっくりいじめ系1250 緩動戦士まりさ ゆっくりいじめ系1478 壁の上のまりさ ゆっくりいじめ系1544 幻想の宇宙史_01 ゆっくりいじめ系1545 幻想の宇宙史_02 ゆっくりいじめ系1836 同情するなら飼ってくれ ゆっくりいじめ系2275 まんじゅうこわい ゆっくりいじめ系2284 ゆうかの白い花畑 ゆっくりいじめ系2285 花とゆうか ゆっくりいじめ系2319 永夜緩居[三匹のゲス、一匹目-グズ(前編)] ゆっくりいじめ系2320 永夜緩居[三匹のゲス、一匹目-グズ(後編)] ゆっくりいじめ系2321 永夜緩居[三匹のゲス、二匹目-れいぱー](前編) ゆっくりいじめ系2322 永夜緩居[三匹のゲス、二匹目-れいぱー](中編) ゆっくりいじめ系2323 永夜緩居[三匹のゲス、二匹目-れいぱー](後編) ゆっくりいじめ系2324 永夜緩居[三匹のゲス、三匹目-ゴロツキ](前編) ゆっくりいじめ系2325 永夜緩居[三匹のゲス、三匹目-ゴロツキ](中編) ゆっくりいじめ系2326 永夜緩居[三匹のゲス、三匹目-ゴロツキ](後編) ゆっくりいじめ系2327 永夜緩居[三匹のゲス、一人と四匹目] ゆっくりいじめ系2330 永夜緩居6前編-1 ゆっくりいじめ系2331 永夜緩居6前編-2 ゆっくりいじめ系2332 蠢符「永夜緩居」(永夜緩居6後編-1) ゆっくりいじめ系2333 蠢符「永夜緩居」(永夜緩居6後編-2) ゆっくりいじめ系2334 蠢符「永夜緩居」(永夜緩居6後編-3) ゆっくりいじめ系2335 永夜緩居― EX[眠れるゆっくりは饅頭の夢を見るか] 藍×ゆっくり系1 ゆっくりマスター 妹紅×ゆっくり系4 ゆっくりほーらい ゆっくりれみりゃ系いじめ16 ゆっくりゆかりんとゆっくりれみりゃ ゆっくりいじめ小ネタ94 ゆっくりんりんゆっくりんりんかーわいいよー ゆっくりいじめ小ネタ210 神よあのものにどうか報いを その他 こんな俺に誰がしたってお前だこの野郎 その他 ゆっくりとは…
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3271.html
れいむが逃げて行った直後、まりさはありすと共に絶頂を向かえ、望まぬ我が子を頭に宿すことになった。 「ゆっぐ・・・ゆぅううぅ・・・どうぢでばりざが、ゆっ・・・」 「んほおおおおお!ばでぃさああああ!もっどずっぎぢぢまぢょおおおおお!!」 「ゆ゛っ!やべっ!やべでぇ!?もうずっぎぢぢだぐないいいいいい!?」 必死で抵抗しようとするも、すっきりさせられたショックと子どもに餡子を奪われた疲労で抵抗することすらままならない。 ありすのなすがままに犯され、注がれ・・・4度目の絶頂を迎えるその直前に、まりさは黒ずんで朽ち果ててしまった。 「もっと・・・ゆっくり、したかったよ・・・」 「ゆふぅ・・・すっきりー」 もはや物言わぬ饅頭となったまりさを相手に最後のすっきりをしてありすは満足した。 「ゆぅ?まりさったら、すぐにへばっちゃうなんて、いなかものね!」 「・・・・・・ゅぅゅぅ」 「ゆほっ!かわいいあかちゃんがいるわ!」 そして賢者モードに突入したありすはまりさの事など気にも留めずに、我が子の誕生を喜んだ。 それは母になる喜びでは断じて無かった。 可愛いまりさがいっぱい、4本の蔦に4匹ずつ、あわせて16匹も居ることが嬉しかったのだ。 すぐに死んでしまう赤ちゃんでも1回くらいはすっきり出来るから、まりさで16回もすっきり出来る。 「ありすのとかいはなあかちゃん、ゆっくりいそいでうまれてきてね〜」 勿論、ありすをすっきりさせるために。 ありすのほうはどうしようか? そうだ、れいむにでも育てさせてあげよう。 あの子は可愛いものが大好きだから、きっと泣いて喜ぶに違いない。 それから、ご褒美に1回くらいすっきりの相手をしてあげよう。 「ゆふふふっ」 すっきりがいっぱいのありすの素敵な未来予想図。 想像するだけで涎が溢れ出てくるような最高の生活。 しかし、それが叶うことは永久になかった。 「うっうっー♪」 「ゆがっ!?」 「うー」という聞き慣れない鳴き声とともにありすを襲撃したのは幼児体系の胴体を持つゆっくりそっくりの顔をした生き物だった。 ゆっくりれみりゃ。ゆっくりでありながら災厄とともに封印され、昨夜、箱から解き放たれたその怪物はゆっくりを好んで喰らう恐ろしい存在である。 まるっとした2本の腕を伸ばしてありすを掴み、鋭い牙の生えた口へと彼女を誘う。 大きく開いた口はありすにとっては地獄の入り口も同然。 ひとたび閉じてしまえば、彼女は二度とこちらの世界に帰ってくることが出来なくなってしまった。 「うまうま〜♪」 「がっ・・・い゛っ、やべでぇ・・・いだい゛いぃぃぃいい・・・!?」 「うるさいんだど〜、がぶっ☆」 「あ゛っ・・・もっど、どど・・・い゛っ・・・」 ゆっくりにとっての悲願であるゆっくりすること。 それに対する悲壮なまでの欲求を如実に表すあの断末魔を口にすることさえも許されずに、れみりゃの口の中へと収まった。 「う〜・・・ちいちゃいのはもってかえ゛っ!?」 ありすを食べ終えて満足したれみりゃは赤ゆっくりを生やしたまりさを巣にもって帰ろうとする。 が、彼女は失念していた。自分もまた脆弱なゆっくりであり、しかも他の動物を惹きつけやすい匂いを放っているということを。 ワォーン!とでも記述すればいいのだろうか。 とにかく、そのような鳴き声とともに姿を現したのは群れることのない変わり者のあの野犬だった。 最初の奇襲同然の一撃だけでれみりゃの右腕を食いちぎり、思いっきり突き飛ばして近くの、木の幹に叩きつけた。 「うぶふっ!?」 失った腕から、そしてたたきつけられた時に背の低い木の枝に刺さり、そのまま千切れた右足から、そして口から肉汁を漏らす。 そう、ゆっくりの多くが饅頭であるように、れみりゃは動く肉まんであった。 立つことはかなわない、反撃することも当然不可能。なす術のないれみりゃは取った行動は・・・ 「ごーばがんのおぜおうさばになにずるんだどー!?」 実際にはここまではっきりと喋れていない。 痛みと恐怖でろれつが回らず、ぼろぼろになった口内は思うように音を発してくれなかった。 よって、犬には「ぼーばばんほおへーふぁふぁ、ひ・・・はひふはほー!?」くらいにしか聞こえていない。 もっとも、ちゃんと喋れたところで言葉は通じないのだが。 「うぎゃああああああ!?」 問答無用で今度は左手を噛み千切る野犬。 それから左足を、背中の羽を噛み千切り、痛みで気を失って静かになったところでれみりゃと傍にあったまりさだった饅頭を巣へと持ち帰った。 れいむがちぇんの巣に到着した時、巣の入り口付近にぱちゅりーが横たわっていた。 「ぱ、ぱちゅりー!どうしたの、ゆっくりしてねっ!?」 「む、むきゅう・・・れいむ、く・・・るしいわ・・・ゲフッゲフッ!?」 ぱちゅりーは喋るたびに咳き込み中身のクリームを吐き出す。 辺りを見てみるとちぇんの巣の傍にあるぱちゅりーの巣からクリームの跡が点々と続いていた。 恐らく、ちぇんに助けを求めるために、まともに動くこともかなわない身体でここまで這いずってきたのだろう。 「ぱちゅりー!ゆっくりしてね!ゆっくりしてよー!」 「む、むきゅぅ・・・・・・ゲフゲフ!?」 喋るたびに、ではなかった。 苦しみのあまりに呻くたびに咳き込み少量ながらも中身を吐き出してしまう。 なのに、これだけ入り口で騒いでいるにも関わらず、ちぇんが姿を現す気配は一向にない。 「ぱちゅりー!ゆっくりしようよー!?」 そう言ってぱちゅりーの頬をさするれいむ。 そうやって刺激を与えることが危険なのだが、混乱しているれいむにそのことに気付く余裕はない。 「やべ・・・やべtゴホッゲホッ!?」 「ぱ、ぱちゅりー!?」 ぱちゅりーは今までの中で一番盛大にクリームを吐き出した。 そして二度と彼女が喋ることも、動くことも、咳き込むこともなかった。 涙と吐き出したクリームに塗れ、長い髪はくしゃくしゃで、げっそりとやつれた正視に堪えない死に顔だった。 「ぱちゅりいいいいいいいいいいい!?」 「だめだよ!ゆっくりしないでゆっくりしようね!」 「ゆっくりしちゃだめだよ!ゆっくりしてよー!?」 「ゆっくりしたらゆっくりできないよおおおおお!?」 「ゆっくりしようね!ゆっくりー!?」 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってねー!?」 「ゆっくりー!ゆっく、ゆっぐりぃ・・・・」 れいむはぱちゅりーだった饅頭に頬擦りをし、顔を舐めながら呼びかけるが、彼女が返事することはなかった。 そして、数十分後。 れいむは頬を膨らませながらちぇんの巣の中に入っていった。 当然、入り口でぱちゅりーがゆっくり出来なくて苦しんでいるのに助けようとしなかったことを叱るために。 「ちぇん!どうしてぱちゅりーを・・・?」 が、巣の中の光景を目の当たりにしたれいむは怒ることを忘れてしまった。 食い散らかされた餌、巣の中に散乱するちぇんの宝物。そして、部屋の隅でぶるぶると震えるちぇん。 何か恐ろしい化け物にでも襲撃されかたのような惨状。 「ちぇ、ちぇん・・・?ゆっくりしていってね!」 「ゆ゛っ!ゆっぎぢぢでいっでね!?」 反射的に返事したちぇんだったが、れいむの顔を見るや否や恐怖に青ざめて再び震え始めた。 「ちぇん、どうしたの?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「おこえがちいさいよ!それじゃゆっくりきこえないよ!」 そう言いながらちぇんの傍に這いずって近寄るれいむ。 ようやくちぇんの言葉が聞こえたとき、れいむはまたしても呆然とする事しか出来なかった。 「ぎゃくたいおにーさんがくるよー、わからないよー」 「おにーさんがぎゃくたいおにーさんだねー、わかるよー」 「ちぇんはぎゃくたいされたくないよー、わかってよー」 「すっきりさせられるんだよー、わからないよー」 「ちぇんもすきですっきりしてるんじゃないよー、わかってよー」 「すきだけどそーじゃないんだよー」 「どうしてちぇんにゆっくりできないこというのー、わからないよー」 「やめてねー、あかちゃんいぢめないでよー」 「ちぇんはあかちゃんとすっきりーしたくないよー」 「やらないところすんだねー、わかるよー」 「したくてすっきりしたんじゃないんだよー、わかってよー」 「しんだらゆっくりじごくにいっちゃうんだねー、わかるよー」 「ゆっくりじごくはもっとゆっくりできないんだねー、わかるよー」 「どうしてもゆっくりできないよー、わからないよー」 「うまれかわってもきっとゆっくりできないんだよー、わからないよー」 何がなんだかよく分からないが、途轍もなくゆっくり出来ないことをぶつぶつと口走っていた。 結局、れいむはちぇんが怖くなって、巣からそそくさと立ち去った。 れいむは森の中を必死で駆けていった。 何故か森の中は全然ゆっくり出来なかった。 見たこともない体つきのゆっくりが、そいつと良く似た空を飛ぶゆっくりがれいむ達を襲い喰らっていた。 昨日まではれいむ達に食べられるばかりだった虫さんが、群れを成してれいむ達を食べていた。 濁った目をしたまりさ種がれいむ種を犯し、蔦になった子ども達を食い漁っていた。 焦点の定まらない目をしたありす種が涎を垂らしながらまりさを犯し尽くし、犯されたまりさは黒ずんで死んだ。 ぱちゅりー種は道端でクリームを撒き散らしながら野垂れ死んでいた。 そして、その亡骸に幼いちぇん種やみょん種が我先にと喜び勇んで食いついていた。 「「「んほおおおおおおおおおおおおおおお!」」」 「やべぢぇええええええええええええ!?」 「なにいってるの!?れいむはかわいそうなんだよ!」 「れいむをゆっくりさせないれいむはゆっくりしね!」 「いなかものをすっきりさせてあげるありすはすごくとかいはだわ!」 「「ばりざああああ!ありずごずっぎぢぢましょおおおおおおおおお!!」」 「「ずっぎぢぢだぐないんだじぇえええええええ!?」」 「「「うっう〜」」」 「やめちぇね!れーみゅたべにゃいでにぇ!?」 「たべりゅんなられーみゅにちてにぇ!?まりしゃはにげりゅよ!」 「「「どほちちぇしょんなこちょいうにょーーーーー!?」」」 「「「うっめ、これめっちゃうめぇ!」」」 「「「「おきゃーしゃんのきゅじゅ!にょろみゃ!おきゃーしゃんにゃんてゆっきゅちちね!」」」」 「そんなこというゆっくりできないこはれいむのこどもじゃないよ!ゆっくりしね!」 「「どほぢちぇしょんなこちょいうにょおおおおお!?」」 「むきゅぅ・・・もってかないでー・・・」 「「むーしゃむーしゃ、しあわせ〜!」」 「「「ちーんっぽ!!」」」 もはや、れいむの住んでいた森はかつての最高のゆっくりプレイスではなくなっていた。 同族が同族を傷つけ、家族同士で罵りあい、他の種族や生き物に蹂躙される脆弱なゆっくり達。 それを尻目にれいむは必死に逃げた。 お兄さんに助けてもらうために。お兄さんとゆっくりするために。 「おにーさあああああん、こわいよおおおおおおお!?」 あまりの恐怖にいつの間にか涙は垂れ流しで見栄も体裁もない有様になっていた。 それでもれいむは必死に跳ねる。 川まで行けば少しはゆっくり出来る。川を流れていけばお兄さんに会える。 その願いに一縷の望みを託し、れいむは運良く川まで到着した。 が・・・・・・ 「ゆゆっ!なんだかへんだよ!?」 「どほぢででいぶどげでるのおおおお!?」 「ごんなのどがいはじゃないわあああああ!?」 「まりささまはぼうししゃんにのるぜ!・・・どうほぢでおみずさんはいってぐるのおおおお!?」 川も全然ゆっくり出来ない有様へと変貌してしまっていた。 穏やかな流れに浮かぶ無数の饅頭はどれもふやけ、やがて破れていった。 破れた饅頭からは餡子やカスタードが漏れ出し、川を醜く染めている。 「ゆゆっ・・・さすがまりささまだぜ!おぼうしさんで・・・やべでええ、ばりざをたべないでえええ!?」 「「「「うーうー」」」」 運良く、何かの上に乗ることのできたゆっくりも上空を飛び回る顔だけのれみりゃ達の餌食となった。 その光景を、絶望に満ちた面持ちで見守ること約10分。 れいむ達はすっかり忘れていたことだが、れみりゃ達は日光を嫌う。 れいむは幸運にも、見つかる前に日の光が降り注ぎ、れみりゃ達は森の奥深くへと退散していった。 「ゆ・・・ゆぅ・・・かわさん、どうぢでゆっくぢしてぐれないのぉ・・・」 川の中のの地獄絵図を目の当たりにしたれいむにそこに飛び込む勇気などあるはずもなかった。 数時間後、れいむはお腹を空かせながら、底部の痛みで涙目になりながらもなんとかお兄さんのおうちまでたどり着くことが出来た。 とっくに昼を過ぎ、日も沈み始める頃、お兄さんはいつものように軒先でのんびりとくつろいでいた。 「ゆぅ・・・やったぁ、これでゆっくりできるよぉ・・・」 そう呟く彼女の頭の中にかつての友人達の存在はない。 忘れたいのか、ゆっくり欲が全てを忘れさせているのか、そんなことは定かではないが。 それともお兄さんに会えた喜びで記憶が軽く飛んでしまったのか。 重い足を引きずって、ゆっくりゆっくりとお兄さんの家へと這いずって行く。 「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ゆっくりついたよぉ・・・」 数十分後、れいむはようやくお兄さんの家の目の前へと到着し、ほっとため息を吐いた。 が、そこで、れいむは信じられないものを目撃することになる。 「ゆ゛っ・・・・・・!?」 お兄さんの家と畑の周りにはゆっくりの死体が散乱していた。 成体も子どもも赤ちゃんも、れいむもまりさもありすもぱちゅりーも、皆ぼろぼろのぐちゃぐちゃの酷い有様だった。 「ゆひぃ・・・・・ゆっ・・・」 耳を澄ませば、死体の中から嗚咽のようなものが漏れてくる。 が、駆け寄ってみるとどのゆっくりもいつ死んでもおかしくないような姿だった。 目はうつろで、餡子が大量に漏れ出している死体同然の仲間達。 助けを求められても、れいむは足がすくんで何も出来なかったし、すくまなくても結局何も出来なかっただろう。 「おい、クソ饅頭」 唖然とするれいむの頭上から聞こえてくる声。 それは紛れもなくれいむの大好きなお兄さんのもの。 しかし、今までに聞いたことのない餡子が凍りつきそうな冷たい声だった。 「お、おにーさん・・・ゆっくりしていってね!?」 「うるせぇんだよ!!」 振り返って、何とか笑顔を浮かべたれいむは問答無用の蹴りが浴びせられ、そのまま意識を失った。 夕暮れ時の薄暗い森の中を男は歩いていた。 彼の向かう先にあるのはゆっくり達の集落だった場所。 「ゆゆっ!ばかなにんげんさん!ここをとおりたかったら、ゆげぇ!?」 行く手をさえぎり通行料を要求しようとしたまりさを踏み潰し、男は歩き続ける。 それから、いちいち絡んでくるれいむを、ありすを、みょんを踏み潰し、男はあるゆっくりの巣へと到着した。 「ゆっくりしていってね」 「ゆっくりしていってね・・・どうぢでおにーざんがいるのー、わがらないよー!?」 「勿論、虐待しに来たのさ。れいむがあんまりいい声で泣くものだから目覚めちゃったよ、ははは」 「あわないようにおうぢにいだのにー!」 それだけ告げると問答無用にちぇんの尻尾を掴み、巣を後にした。 が、その時、男はどこからか妙な声が聞こえてくることに気がついた。 「ん・・・?」 耳を住ませてみると、その声はかなり近くから聞こえてきている。 そして、夕暮れ時にこんなところまでやってくる男は言うまでもなく物好きの部類であり、それゆえにその声に興味を示した。 「お前は・・・・・・」 声の出所をたどって到着した洞窟にはあの野犬の姿があった。 男の姿を確認した野犬は低い声でうなる。が、男とて森に入る以上用心のために農具の一つくらい持っている。 その得物の恐ろしさを野生の勘で理解した野犬は決して飛び掛ってこない。 ただ、じっと男の出方を伺っている。 ((((((((((いにゅしゃん・・・ゆっきゅちがんばっちぇね!)))))))))) 赤ゆっくり達が目を覚ました時、そこには夜の闇と薄暗い洞窟と、ふさふさの体毛をもつ野犬の姿があった。 赤ゆっくり達はまりさ種が16匹とありす種が16匹の計32匹。 対する野犬は成体が1匹とその子どもと思しき小さな犬が5匹の計6匹。 仔犬は母親に目いっぱい甘え、母親もまんざらでもなさそうな様子で対応している。 その幸せそうな光景を見ながらまりさ達は思った。 まだ喋ることもできないけれど、まだ動くことも出来ないけれど。 生まれたら真っ先におかーさんに甘えよう。 何度も何度も「ゆっくりしていってね!」って挨拶しよう。 みんなで一緒にずっとゆっくりしよう。 そして、今、目の前では野犬が大きな生き物と対峙している。 その大きな生き物の手にはありす達と同じゆっくりが握られていて、とてもゆっくり出来ない表情をしていた。 これだけの状況証拠があれば十分。 きっと、犬さんはありす達を守ろうとしてくれているんだ。 そう勘違いしたありす達は心の中で野犬にエールを送る。 「ん・・・?」 しかし、野犬は突然、男に背中を向けて洞窟の中へと戻ってゆく。 ((((((((((ゆゆっ!いにゅしゃん、はやきゅあいちゅやっちゅけちぇね!)))))))))) (((((ときゃいはにゃありしゅたちのいうこちょをきいちぇね!))))) (((((やきゅたたじゅはゆるしゃにゃいよ!ぴゅんぴゅん!))))) そんな野犬の行動を訝しがる男と赤ゆっくり達。 そんな両者を尻目に犬はまりさの頭の蔦の一本を食いちぎった。 (((((((((ゆぴゃあ!?))))))))) (((((((((どうちちぇしょんなこちょするのおおおおお?!))))))))) 赤ゆっくり達は物言えぬ口で悲鳴を上げ、あるいは必死に抗議する。 が、その声は誰の耳にも届くことなく、野犬は男にその蔦と、蔦に成った赤ゆっくりを差し出した。 「・・・くれるのか?」 くぅーん・・・と、野犬は肯定するように鳴いてみせる。 その振る舞いにただならぬものを感じた男は農具を下ろし、目をこらして洞窟の奥を見て、全てを理解した。 「そうか、お前・・・子どもが居たんだな・・・」 そう呟き、一気に差し出された赤ゆっくり達を食べると、口内に上品な甘みが広がった。 野犬はれみりゃという安定して手に入る食料を得たことで男の畑を荒らす必要があまりなくなった。 男もまた、ゆっくりという非常食を得たことで多少畑を荒らされても笑って許せるようになった。 もっとも、最近では野犬が男の家に来れば、犬の食べられそうなものをあげる関係になっているので、荒らされる事など全くないのだが。 「お、今日はれみりゃの腕を持ってきてくれたのか?」 「じゃあ、ちょっと洗って、温めるからそこで待っててくれよ」 男は野犬の持って来たれみりゃの腕を抱えて台所へと駆けていく。 5匹の仔犬を連れた野犬は涎を垂らしながらも男が戻ってくるのをお利口に待っている。 一緒に美味いものを食べ、持ちつ持たれつの関係を気付いた一人と一匹と、その子ども達は今では最高の友人同士だった。 「「ゆっくりしたいよぉ・・・・・・」」 「「「「「「「ゆぴぇーん・・・どうちちぇゆっきゅちできにゃいのー・・・」」」」」」」 「「「「「わきゃらにゃいよー・・・」」」」」 そんな両者の幸せそうな姿を底部を焼かれて身動き一つ取れないゆっくり達が羨ましそうに見つめていた。 【おまけ?】 「どほぢではござんあげぢゃっだのおおおおおおお!?」 ゴッドスまりさはれいむの愚考に怒り心頭だった。 せっかくゆっくり出来ないものを全て封印してあげたのに。 我を忘れて怒り狂うゴッドスまりさはどすんどすんと飛び跳ねる。 「鬱陶しいぞ、まりさ?」 そう言いながら、何者かが跳ね回るゴッドスまりさの頭を掴んだ。 恐る恐る振り返ると、封印にクレームをつけた別の神様が陰険な笑みを浮かべている。 そこでようやくゴッドスまりさは彼が何の神であるかを理解した。 かつて、きめら丸を拳一つで倒した男がいた。 彼は生涯のうちに318匹のドスまりさを己の肉体だけで痛めつけ、102匹のりおれいむを嬲り殺した。 年老いてなお森の賢者ぱちゅりーを、ティガれみりゃを、ありとあらゆる巨大種を虐待し続けた。 勿論、通常種も伝説とすら呼べるほどの勢いで殺し尽くした。 死後、彼はゆっくり虐殺の咎で地獄に落とされた。 しかし、それでも彼は地獄を抜けだしてはゆっくり地獄に赴き、ゆっくりを殺し続けた。 その常軌を逸した虐待中毒ぶりは、鍛えすぎた肉体も相まって鬼すらも手が付けられず、秦広王を苦笑させた。 初江王も、宋帝王も、五官王も匙を投げ、閻魔王の長い説教すらもどこ吹く風だった。 そして、五道転輪王の「ここまで来るとある意味悟りを開いてね?」という一言によって彼は人を超えた存在としての地位を得た。 そう、彼こそ虐待お兄さんの神だったのだ。 「ひゃっはー、我慢できねぇ・・・虐待だぁ!!」 「ごれぢゃゆっぐぢでぎないよぉ!?」 ちなみに、他の神様達は関わるのも馬鹿馬鹿しいので無視を決め込んだ。 ‐‐‐あとがき‐‐‐ パンドラの箱の中に残っていたのはもっとも恐ろしい災いで「それが外に出なかったことだけが唯一の希望」という解釈があるそうです。 で、そのもっとも恐ろしい災いというのが絶望であり、もっと詳しく言うと予兆、つまり未来を知ってしまい、なおかつそれが不可避であることを理解してしまうことだそうな。 ちぇんがラリっていたのはその最後の災いを食べてしまったからです。もっとも、元々ゆっくりに予知能力なんてないような気もしますが。 この説明で訳が分からないという人はJOJO6部のブッチ神父の最後のスタンドのを思い出すと分かりやすいかも。 あのスタンドの発想はニーチェか仏教に通じるものがあるような気がするが、何にせよ神父が口にする主義・主張ではないんだよー。 というか、そんな壮大な絶望を覚悟一つで吹き飛ばせるわけがないんだよー。 byゆっくりボールマン
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3973.html
注意 パロディあり 自分設定有り。 れみりゃザウルスと遊んであげました 俺は気まぐれでれみりゃを育てていたんだが、いつのまにかれみりゃザウルスになっていた。 こんなはず無かったのにな? 「う~♪れみりゃはつよぐなっだどぉ♪」 コイツもいつも以上に調子に乗りおって。 「う~♪おいわいにぷっでぃ~んちょうだい♪」 普通お祝いってのは頼んで貰うものではない。 そんなの一般常識だぞ? 元俺のペットのれいむだって…あれ? れいむって誰かに殺された気がする…あ!アイツに殺されたんだ! そんで信頼させてから殺す計画を立てていたんだ! そうだ!そうなんだ!何て俺は物覚えが悪いんだ! ヒャッハァ!!拷問だ!! まず俺は、爪楊枝を持って笑顔でれみりゃザウルスに話し掛けた。 本当はスタンガンでバチィと行きたいけど、某2Pじゃあるまいし、スタンガンないし、 なんとなく不謹慎だし(某2P的な意味で)、着ぐるみが分厚くて電気が通り切らない可能性もあるのでやめた。 「おいれみりゃ。お前何度も言わせるんじゃねェよ」 「う?なんのことだどぉ?そんなこといいからくそじじぃはさっさとぷっでぃ~んもってくるどぉ☆」 「言う事きかねぇクソゆっくりなんかこうじゃ!」 グサァ れみりゃザウルスの目に爪楊枝が刺さった。当然れみりゃザウルスは悲鳴をあげる。 「あがぎゃああああああ!!ざぐやぁああああああ!!」 まあな。俺は癪に障りつつも優しく接してきたからな。 コレは頑張った自分へのご褒美(笑)ってやつだな。自分らしさの演出(笑)とかともいうらしい。 「あームカツク…」 とりあえず爪楊枝を抜く。 「いだいどぉ!はやくおぜうさまのためにおーきゅーそちをするどぉ!!」 うるせぇ。ちなみにおーきゅーそちじゃ無くて応急処置だからな。肉餡脳に刻み込んどけ。 ていうかそんなこと言ってっと逆に虐待されるよーわかってねーと思いながら鋏を持ってきた コレでおててをちょん切ってやるぜ! 「お前が俺の大事なれいむを食ったんだろ!?な?」 チョキン☆ 「ぐぎゃあ!ざぐや!!」 いまだ謎だった着ぐるみの中身は無かった。 そう。着ぐるみが皮だったのだ。 何故わかったって?それは、切った着ぐるみの皮には普通の皮が無く、直接肉餡が入っていたからだ。 「ふーん。れみりゃザウルスってこんなのだったんだ」 そんな暢気なことを言いながら口に放り込んでみた。 「むーしゃ♪むーしゃ♪」 れいむがご飯を食べるときの様に…ってあれ?目から汗が出てきた… 「うああああ!!!まずい!!!ぺっ☆するのぺっ☆」 目から汗を出した理由はれいむのこととあまりのまずさの二つだった。とても差があった。 「うるぜぇ!れびりゃはまずくないどぉ!」 「あらあら。おぜうさまがそんなこと言っていいんですかァ~www」 「れ~みりゃはおぜうさまだがらぁ~ゆるされるんだどぉ♪」 調子に乗りやがって。そんなれいむ以下の希少種なんてコレだ! バチィ! なぜかあったスタンガン。 そしてそれをれみりゃザウルスの肉餡に直接当てた。 「あぎゃあ!ざぎゅぎゃあ!!!なんでごねぇんだどぉ!!」 れみりゃザウルスはジタバタしながら騒いでいる。 糸冬 by.名前ってなんですか? 蛇足 今だにれみりゃのSSしか書いた事無い人間です。 いろいろとヤバかったアレのもうひとつのバージョンです。 こっちは特にヤバくもなく、ザウルスであることをちょっとだけ生かした作品です。 正直、アレについては反省してます。コピペ改変の話で無駄な事書いたしね。 でも私は悪くないんですよーわかってくださいー …すいません。ではここら辺で。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/419.html
今までに書いたもの 神をも恐れぬ 冬虫夏草 fuku4385(タイトル付け忘れた……) ※注意事項 人間は介在しません。 登場するゆっくりは全滅しません ぼくのかんがえたさいきょうゆっくりが登場します。 ……最強っていうか、ゆっくりしろよ的ゆっくりか。 ここは、人里から遠く離れた博麗大結界に間近い山の中。 妖怪の山からも遠い幻想郷の外れでは、人間どころか妖怪の姿さえほとんど目にする事はできない。 そんな幻と現の境界地帯の主は、大きく分けて二種類だった。 一つには、結界の内外いずれの側にも満ち溢れた自然の具象である妖精たち。 そしてもう一つには、生き物と食べ物の境界に位置するナマモノ――ゆっくりと呼ばれる生き饅頭たちだ。 山際に残る朱の色が、月が高くに上ると共に紫へと塗り替えられてゆく。 冬の太陽は早くに沈む。日のある内はまだ温みを残していた山の空気も、空に紺と紫の領域が増すに連れて 突き刺すような冷気で地上を満たし始めていた。 野山から生けるモノの気配が極端に少なくなる、死と静寂に満ちた季節。厳しいこの時期をやり過ごす為、 巣穴に閉じ篭るという習慣は捕食種のゆっくりにとっても例外ではない。 「うー! よるがきたどぉー!」 ここは、厚く堆積した柔らかい土壌を掘り進めて作られたれみりゃ一家の巣穴である。 もともとは、彼女らのモノではない。先住者は子連れのれいむとまりさのつがいだった。その先住者はこの秋、 老幼あわせて十匹残らずこの冬の入りにれみりゃ一家の保存食となっている。 晩秋、より中心部――紅魔館の近くに適当な住処を見つけられず、辺境を流れ流れてここまで来た家族だった。 「みゃんみゃ〜、にぇみゅいぢょぉ〜」 「うりゅさきゅちぇよくねむれなかったぢょぉー……」 親に続いてもそもそと起き出してくる、体のない子れみりゃや赤れみりゃ、その数五匹。 器用に羽根で眠い目を擦る。どうやらまるで寝たりないらしい。それは両親――体つきと体なしのつがいだった――も同じらしく、 二匹揃ってみっともない大あくびをすると疎ましげな眼差しを入り口へと送る。 「ふぁ〜。まんまたちもねむいんだどぉ〜……」 「らぶり〜なれみりゃをゆっくりさせないなんて、ひどいかぜさんなんだどぉ〜」 ぐるぐる頭の中をかき回す眠気のせいで、楽しい家族の会話もどこへやら。きちんと戸口の閉じられた巣穴は 地中の温もりもあって眠気を覚ますほどの寒さもない。家族揃って言葉もなく、じーっと扉の様子を見詰めてみる。 ばたん、もしくは、ごつん。 静かになった部屋の中は、木の皮を引っぺがして接着用餡子で固めた扉は、今もガタガタいってる物音だけに 支配されてしまった。 今日は日中ずっとこんな感じだった。夜もこんな感じのままなのかもしれない。うるさいのは扉が立てる音ばかり ではなく、外の枯れ葉が擦れあう音、モノが落ちたり転がったりするような物音なんかも同じこと。 きっと、今日はとても冷たい風さんがゆっくりしていない一日なのだ。 さすがに閉じた戸をわざわざ開けてまで外の『かぜさん』に抗議する気にもならず、れみりゃ家族は寒気の 差し込まないおうちの奥からせめても大声を張り上げて呼びかける。 「かぜさん、ゆっくりするんだどぉ〜♪」 「ゆっくりしなきゃ、あとでさくやにいいつけるどぉ〜♪」 「「「ちゃくやにいいしゅけるどぉ〜♪」」」 ……と。 まるで、間延びした二匹の呼びかけをまるで理解したかのように、戸を叩く音が一時に止まった。 もちろん、れみりゃたちが風をどうこうできる訳もないのだが、餡子脳は全てを都合よく解釈するものだ。 「う〜♪ かぜさん、れみりゃがこわくてだまったんだどぉ〜」 「おちびちゃんたち、これでまんまぁとゆっくりできるどぉ♪」 「「みゃんみゃ、しゅごいんだどぉ〜♪」」 勝ち誇る両親に、それを真に受けて褒め称える子供たち。 万が一にも風の妖精がれみりゃの言葉に従ったのだとしても、それは引き合いに出された『さくや』が怖かったんじゃ? なんて謙虚な発想はゆっくりにはないわけで。 「「おちびちゃん、すーりすーり♪だどぉ〜♪」」 「「「すーり、すーり♪しゃわしぇだどぉ〜♪」」」 勝利の余韻に浸った家族、一頻り体を寄せ合わせる。 既に変な空気になった餡子脳の中では『かぜさんもさからえないこうまかんのおぜうさま』は伝説にすらなっているらしい――が。 ―――どがあぁぁんっ!!――― 伝説、粉砕。文字通りに。 「うーっ!?」 「と、とびらさんがこわれたどぉぉ!?」 「みゃんみゃーっ!? さささっ、さむいんだっどぉ〜!!」 「ゆぐっ、ゆっぐぢぢだい゛どぉ〜……」 いったい、何事が起きたのか。 突然入り口から大きな破壊音が響いたと思うと、薄く立ち上った土煙の向こうに壊れた扉と真っ暗な空が見えた。 お外とおうちの間を遮るものはすでになく、びゅうびゅうと吹き込んでくるのは、冬の夜の容赦ない寒気。 両親れみりゃには一つ思い当たることがあった。こんな時期、 「う〜っ……もしかして、れてぃがきた!?」 「れてぃやだどおおぉぉっ!!?」 「「みゃんみゃぁ、きょわいどぉ〜!!」」 地中の巣に篭っていたのでは、長く伸びるれてぃの舌からは逃げられない。 かといって、出口が一つしかないこの巣では、外に出るのはわざわざ「おたべなさい!」するのと同じ事だ。 進むは地獄、引く事は出来ず。まさしく進退窮まった状態で、一家はお星様が綺麗に覗くおうちの入り口から 長く伸びる死への誘いがやってくるのを、ただ身を寄せ合い震えながら待ち受ける。 両親はせめて子供だけでもと、背中、巣の奥に子供たちを押し込めて守るが……蟷螂の斧、報われるまい。 「……う〜?」 「う〜、う〜?」 そう、親子揃って観念して、しばらく縮こまっていた。 扉が壊されてからすぐ。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてからちょっと。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてから少し。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてから大分。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてからしばらく。れてぃの舌は入ってこない。 扉が壊されてからかなり。れてぃの舌は、入ってこなかった。 「……う〜? れてぃ、ちがったどぉ?」 「うっう〜♪ ちびちゃんたち、もうしんぱいないどぉ〜」 「「「……う〜?もうだいじょうぶだど?」」」 さすがにこれは、れてぃではないらしい。 恐怖がゆっくり溶け、疑念に変わり、安堵に移り変わるまでたっぷり十分ほどは待った。 最後まで、れてぃの舌が入ってくることはなかった――怖がる必要なんてなかったのだ。 「うっう〜♪ おぜうさまのれみりゃにこわいものなんかないどぉ♪」 「みゃんみゃはとてもつよいんだどぉ〜♪」 「つよいまんまぁはおうちのとびらもさくやがいなくてもなおせるんだどぉ〜♪」 「みゃんみゃはなんでもできるんだどぉ〜」 そうと知ると、一転して強気である。餡子脳には先ほど見せた自分の(親の)みっともない姿なんて欠片も残ってない。 扉が壊れた原因を、突き止めようという考えすらなかった。 ただ、そんな餡子脳でも流石に扉を直さなければというぐらいの思考はあるらしく、両親を先頭に寒気厳しい外界との 入り口に向かう。一応野生で生きてきたれみりゃである。扉の作り方、治し方ぐらいは知っている。 「……とっ、とびらさんがどこかいくんだどぉ〜」 ただ、一から作るとなるとさすがにこの時期、面倒だ。 壊れた扉に逃げられては困る。だから真っ二つに割れた扉の片割れが、急に巣穴の外の方へと動き出したことにれみりゃは 少し慌てて這う速度を上げる。 「う〜、おいかけっこだどぉ〜♪ とびらさん、ゆっくりまつんだどぉ〜♪」 「はやくつかまえるんだ……どぉ?」 どうして扉が動き出したのだろうか。 風の仕業だろうか? そんなはずはない。扉は中から外に動いているのに、風は外から中に吹き込んでいる。 巣穴が斜面になっているから? それなら滑り落ちる方角が逆だし、巣穴はそんなに急な角度で地面に潜っている訳ではない。 その答えを知らず、考えもせず、家族は無防備に入り口近くまで近づいた。 「どうした……う〜?」 「「「うゅ〜?」」」 そしてそこで目にした光景に、全員が思わずぽかんとした。 巣穴の入り口、そのすぐ側。覗き込む顔がいくつも、いくつも。見知ったものばかり並んでいたからだ。 「う〜!? あまあまがいっぱいいるどぅ〜♪」 「あまあまがいっぱ……い……」 やがてれみりゃたちの口から漏れたのは、喜び半分、驚き半分。 巣穴から見えるのは、れいむが三匹にまりさが四匹。 喜びはおいしいあまあまが向こうから巣の近くまで来てくれたからで、驚きはこんな冬場に外をうろつくゆっくりがいる なんて思っていなかったからだ。 「……う〜☆ たべきれないんだどぉ〜♪」 「「「うー! たーべちゃうぞー!!」」」 よく考えたら起き抜けで、ちょうどおなかがすいていたところだ。 親れみりゃと子れみりゃたちは、みんなそろってお決まりの台詞をごはんになってくれるあまあまたちに投げかけた。 もそり、もそもそ。 ……反応が、おかしい。まるで恐れる様子のない獲物たちの様子が、ちっぽけなれみりゃの肥大したプライドに小さな 棘となって突き立った。 「……? あまあまのくせに、さからうつもりなんだどぉ〜?」 のそり、のそのそ。 反応は、変わらない。 恐れるでなく、猛るでなく、のっぺりとした笑顔を浮かべたままで蠢くだけ。 まるでこちらの存在を軽視――むしろ無視するかのようなその態度。自分が軽んじられていることを自覚するに至って、 ようやく状況に思考が追いついた。 扉を壊したのは、こいつらではないか。 おひさまがある間から、おうちの周りでがたがた物音を立てていたのもこいつらではないか。 たかがあまあまが。 このこうまかんのおぜうさま相手に。 勝てるわけもないのに、一体なんのために? 「……う〜。どっちでもいいどぉ〜」 「はやくごはんにするどぉ〜♪」 「「「うっう〜♪ ごはんだどぉ〜♪」」」 その理由がなんであるにしても、食ってしまえば同じことだ。それ以上小難しいことを考えるのは、れみりゃの脳には 手に余ることだった。 もういい、めんどうだ。何匹いるか知らないが、こいつらをご飯にしよう。みんなおなか一杯になってもまだ残るなら、 この冬の保存食としてありがたく巣の奥に保管させてもらえばいいのだから。 早々に思考を打ち切って、両親れみりゃは子を引き連れて寒い巣穴の外へと這い出していく。 そして、外の空気にじかに触れたれみりゃ家族の体はたちまちのうちに凍りついた。 「……だれつかられみりゃたちのごはんになってくれる……んだ……ど……?」 いや、凍りついたのは体ではなく心だ。だぶついた顔からは、満面の笑みが凍って砕けて消し飛んでいる。 巣穴を、出た。 外の景色が見渡せるようになった。 見渡す限りに、あまあまがいた。 そう、見渡す限りに。 数十、といった数ではない。 成体のれいむとまりさを中心に、百を軽く超えるゆっくりがひしめいていた。 れみりゃが空を飛ぶことを思い出していれば、百や二百で利かない数と、ずらりと敷かれた陣列の後ろの方にみょん種や めーりん種の姿がある事にも気が付いたかもしれない。 だが、どうせ三つ以上の数を数えられない餡子脳だ。『とてもたくさん、いろんなあまあま』ぐらいにしか考えられなかった かもしれないが……。 それでも。同じ高さで目の前に見える数しか把握することができなくても、流石に今なにが起ころうとしているかぐらいはわかる。 襲うものと襲われるもの。 その逆転が、今まさに起ころうとしているのだ。 「……っ。あまあまは、たべられるものなんだるどぉーっ!!」 気付かなければいいのに、察してしまった。 知性などないに等しいれみりゃなのに、気付かされてしまった。 心の中に急激に広がる真っ暗な何かを、知ってしまった恐怖を振り払う為に親れみりゃは叫んだ。 叫ばなければ、子供の為に立ち向かう意志が挫けそうだった。必死の形相へと変じた顔色からは、狩猟者としての精神的 優位など疾うの昔に消え去っている。 まるで風のように、親れみりゃたちは奔った。 父れみりゃの正面すぐ近くにいたれいむの顔面が弾け、突き抜けた腕がその後ろのちぇんの眼球を抉り出した。死んだれいむの 両脇にいたまりさとれいむが振り向くより早く、二匹の側頭部を父れみりゃの左右の腕が貫いていた。 母れみりゃの側方、仲間のれいむやまりさを挟んでやや間合いを取っていたぱちゅりーは、跳躍して直上から襲い掛かる 母れみりゃに踏み潰され、あっさりと大量の生クリームを吐いて死んだ。その周囲を固めていた四匹のれいむとまりさも、力尽くの 強襲にろくに抵抗することもできないままただの動かぬ饅頭へと変えられた。 両親れみりゃが進むところ、たちまち取り囲むれいむやまりさ、ちぇんやぱちゅりーはただの中身を垂れ流す饅頭へと変えられてゆく。 両親れみりゃが進むところ、たちまち取り囲むゆっくりたちの陣列に穴が開く。 両親れみりゃが進んだ後には、たちまち孤島を取り巻く潮の満ち引きのごとく、取り囲むゆっくりに新たなゆっくりが補充される。 声もなく屠られ、声もなく足されてゆく。 それはれみりゃと同じゆっくりというナマモノではなく、ただのゆっくりという記号、数字として親れみりゃの前に分厚く、 冷たく立ち塞がった。 「う、ひぁっ……!」 一体、あまあまはどれほどの数がいるというのだ。 幾ら殺しても目の前の獲物がまったく減らないという事実にやっと気が付き、父れみりゃが乱れた息にやがて来るべき破局への 怯えの色を滲ませた。 夫婦それぞれ十を潰し、十を引き裂き、十を貫き、十を噛み破り、その全てを容赦なくばらばらの餡子の塊へと変えた。その間、 無言で襲い掛かる無言のゆっくり達を蹴散らし寄せ付けず、れみりゃは傷一つ受けていない。 でも、あまあまは逃げない。逃げずに、最初のゆっくりできない笑顔を浮かべたままで突出した二匹を取り巻いている。 にこにこではなく、にやにやと。一様に作ったような、相手を、獲物を。 れみりゃという、狩られるべき獲物を、明らかに作られた笑いを一様に浮かべて。 「ゆっくりしていってね!」 ただ、明るい呼び掛けが返ってきた。 散々仲間を殺されたというのに、何の心も篭らない、無駄に明るい呼びかけだった。 ああ、と両親れみりゃはようやく理解する。 こいつらには、怒りはない。恐怖も知らない。笑顔を浮かべているけど、楽しいことすら知らない。 役割以外の何も知らないから、何もかも失っても平気なのだ――命を失うことの恐怖すら、この連中は知らないのだ、と。 「うぎゃああぁぁっ、まんまぁああぁぁぁあっ!!」 「だずげでええええええぇぇぇっ!!」 愕然として棒立ちになるれみりゃ夫婦の後ろの方から、求める子供たちの悲痛な叫びが聞こえたように思う。 気が付けば、すでに巣穴から遠い。意図したものか、そうではないのか……いずれにしても、戦ううちに両親と巣穴は遠く離れ、 子供たちは敢え無く敵の手に落ちてしまったのだ。 悲鳴は長く、しかし元気に続いている。 どうやら子供たちはその身柄を抑えられただけで、すぐに危害に晒されているわけではないらしい。 でも、今の両親にとってもうそんなことはどうでもよかった。 「……うっ……うぅっ、うううううぅぅぅああぁぁぁっ!?」 「ぐるな゛っ、ぐるな゛っ! じゃぐや゛! じゃぐや゛あああぁぁぁっ!!!」 死が、あまりにも確実な死が、自分たちの目の前にも迫っていた。 例え今は捕まるだけでも、後で必ず殺されて食べられる。飛んで逃げるにしても、間合いがあまりに近すぎた。体がふわりと 浮かんだと思った瞬間には、無防備な足や腹に食いつかれ、力尽くで地上に引き降ろされるだろう。 そうなった時にはもう戦う力も残っていない。そこから先は、なぶり殺しだ。 その確実な未来を、目の前の『生きていない』笑顔の群れが担保している。 無機質な笑顔を連ね、瞬きのごとに縮まる彼女らとの距離。それはれみりゃたちが三途の川へたどり着くまでの道のりに等しい。 どれほどれいむを殺しても、どれほどまりさを壊しても、ただの黒ずんだ餌になったあまあまたちからすらその不気味な笑いを 消し去ることはできない。 それを、思い知ってしまった。何もかもが無駄だと、すでに二匹は知ってしまったから。 「ウサウサ☆ミ」 「ゲラゲラ☆ミ」 連中の作り出した分厚い壁、後ろの方から聞こえる二組の笑い声。その声にだけ、意志の存在がはっきりしていた。 そしてその二匹の意志が、ここにいる全てのあまあまの意志を支配している。そのことに、母れみりゃも気付いた。 それと気付いた所で、この分厚い壁がある以上どうなるということでもないのだが。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりさせてあげるね!」 「ひめさまをゆっくりさせてね!」 「ゆっくりしね!」 ――虐殺がはじまった。 一斉に、だがばらばらな内容の言葉を叫んで無数のゆっくりが全周囲で動いた。 不気味な笑顔は崩れない。まるで同じ笑いを浮かべた連中が、れみりゃたちを『ゆっくり』させるために襲い掛かる。 「でびりゃのおべぶぇぼびゅぁっ!?」 「ゆっくりしね!」 「ゆっくりしね!」 心がほとんど折れかけていた父れみりゃは、その動きに反応することができなかった。 前から飛びついたれいむに腹を噛み破られ、服を毟り取られてようやく我を取り戻すがもはや遅い。 後頭部にちぇんが、肩口にまりさが、左右の足にまた別のまりさが、次々と食いつくゆっくり達の中にたちまちれみりゃの 体が消えてゆく。 「でっ、でびりゃのでびりゃがあああぁぁぁ!!」 母性の役割を受け持ったれみりゃの性質だろうか、まだ生きる意志を強く失わなかった母れみりゃが、襲い来るゆっくりを 力任せに振り払いながら、目にした惨状に何度目かの絶叫を上げた。 連れ合いに食らい付いたゆっくりが歪な形に固まって、その姿はまるで葡萄の房のよう。 中の様子をうかがい知ることはできない、だがもはや生きてはいないだろうことは母れみりゃにも容易に知れた。れみりゃ種の 再生力といっても、限度はあるのだ。 「ゆっくりかむよ!」 「ぎや、いぎゃっ! ご、ごろじでやるううぅぅ!」 「ゆっくりひめさまにもってかえるよ!」 右の腕を噛み砕かれ、羽根を食い千切られ、あられもない悲鳴をあげて、なおいきり立つ。 捕食種のプライドではない。囚われた子を救う為でもない。殺された伴侶の仇だからでもない。 ただ単に、そうしないと、生きられないから。 早くも再生を始めた傷口から迸る肉汁。それが一張羅を汚すことを気にする暇もない。 残った左腕でなぎ払い、叩き落しためーりんを踏み潰し、咥えた枝を顔面に突き立てようと襲い掛かってきたみょんを 真っ向から噛み潰す。 「う゛あああぁっ!! ごろずっ、ごろじでやるううどおぉぉ!!」 「ゆっくびゅべっ」 口を餡子まみれにして、天に向かって吼え猛る様はまさに獅子奮迅――だが、悲しいかな。もはやれみりゃは単騎であった。 さらに不用意に近づいたみょんを蹴り飛ばす間に、今度は左腕が噛み千切られた。両腕がなくなると、腹と足が噛み千切られる まで一瞬だった。 「ううぅぅぅっ、う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!」 もはや立つ事もできなくなった体をパージして顔だけとなり、それでもなお前へ、前へと目指す。 そこに、さっき聞こえた笑声の主がいるはずだった。この群れの意志を支配する存在がいるはずだった。 そいつさえ殺せば、そいつを殺す事にしか、この場を切り抜ける可能性をれみりゃは感じとることができなかった。 そして、その可能性は結局の所、ほんの欠片ほども残ってはいなかった。 「うううぅっ……うびゅいいぃぃぃっ!!」 「うさっ♪」 「げーら♪」 頭をパージして、二度ジャンプした。 二度ジャンプしただけで、両脇から飛び掛ってきたゆっくりにプレスされ、地べたに落ちた。 「う゛ぅぅ……う゛ーっ! う゛っう゛う゛ぅ゛ぅ゛!!」 最初に感じたのは潰された痛みと、地面に打ち付けられた痛み。 それを圧倒したのは、助かる見込みが完全にゼロになったという恐怖。 「ぼうやべべええぇ、おでがいじまづうぅぅ!!」 聞き入れられることなんかない、そう知りつつれみりゃは命乞いを叫んだ。 自分が何匹殺したか、自分の家族がどれだけ殺されたか、そんなことは頭の中になかった。 「うさうさ☆ いいよやめてあげるよ♪」 「……うー?」 一瞬、痛みと恐怖が消し飛ぶかと思った。 次の一瞬に、それが錯覚だったと思い知った。 「……これいじょうばらばらにして、あんたまでおうちでひめさまのごはんになるまえにしなれちゃこまるからね♪」 「げーらげーら!!」 それくらいなら、まだしなないでしょ。 うさぎ耳のゆっくりたちは、そう冷たく囁いて笑っている――当たり前の事だが。母れみりゃの最初の予感が、正しかったのだ。 「ぃ……ィやだどおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」 「れいむのおくちのなかでゆっくりしていってね!」 「ばらばられみりゃをうんぱんするね!」 「ゆっくりひめさまのごちそうになってね!」 泣き喚くれみりゃの体に数多のゆっくりが群がり、その体を手際よく解体していく。 れみりゃの強力な生命力も見越して、生死のぎりぎり、中身が漏れぬよう、適度に塞がるよう。 周囲を削り取るように、抵抗力を完全に奪って運ぶのだ。 「ゆっくり!」 「ゆっくり!」 作業が進むにつれ、長く響いていた泣き声は徐々に擦れ、小さくなり、ゆっくりたちの声の中に消えてゆき。 やがて一際大きなれいむの口に収まる程度にまで縮小される頃には、限界ぎりぎりまで体を剥ぎ取られたもうれみりゃの声は 聞こえなくなっていた。 五体ばらばらにした母れみりゃ、肉片となった父れみりゃ、完全に怯えて抵抗の意志も見せない赤れみりゃ。 そして両親れみりゃに殺された、百に迫る仲間のゆっくりたちの死体。 その全てを『獲物』として、未だ数百を数えるゆっくりたちの隊列は『おうち』への帰路に着く。 「……んーっ。かなりへったかな」 「げらげら!」 「まあもんだいないよね」 「げらげら!」 わかっているのかいないのか。 同じように仲間――というより配下の隊列を後ろから眺めながら、ただげらげらと笑うだけのうどんげに構わず、てゐは体を 前に傾けて頷くような仕草を見せた。 「うーん、だよね。へったぶんは、ひめさまとおししょうさまがつくればいいんだし」 「げーらげらげら!」 少し、うどんげの笑い方が変わった。何か意味のある内容なのかもしれない。 それの証拠にゆっくりてゐのウサギ耳がぴょこんと動き、彼女はにんまりと皮肉っぽい笑顔を見せてうどんげの方に頷いた。 「うさうさ☆ じゃ、かえろっか」 * * * 「ゆっくりしないでね!」 「ゆっくりいそいでね!」 既に季節は冬の入り。本格的な降雪はまだだが、外界には既にろくな食べ物がない。 本来なら、ゆっくり達は既に餌を巣穴に溜め込んでゆっくり冬篭りに入っていなければならない季節のはず。 となると、今聞きなれた挨拶の声に送られて落ち葉に埋もれた巣穴から飛び出してきたみょんとちぇんの二匹は、十分な食べ物を 集め損ねた怠け者ということになる。 ここが普通の巣であるなら、という但し書きがつくのだけど。 「ちんぽー!」 「わかるよー、ゆっくりいそぐんだねー!」 凍月は既に山の上に上り、飛び出したみょんとちぇんはちっともゆっくりしてない忙しなさで一直線に走り去ってゆく。 周囲の様子には脇目も振らない二匹の表情には、どこかしら作り物めいた笑顔が張り付いていた。 愛で派と呼ばれる人々からは愛くるしいと、虐待派と呼ばれる人々からはふてぶてしいと称されることの多い大きな双眸には意志の 存在が見られない。 生き饅頭がゆっくりと呼ばれる所以、『こころ』の存在が、どこにも感じられず――しかしこの生き饅頭たちもまた、ゆっくりと 同じように喋り、飛び跳ね、駆けて行くのだ。 「ゆぅ……もんだいなくおわれば、いいのだけどね」 全速力で徐々に遠ざかっていく二匹の姿を見送って、入り口に佇むえーりん種がぽそりとかすれた呟きを洩らした。 このえーりん種は、ゆっくりであると確かにいえる。見詰める両の眼差しには、確かな意志と知性の力が宿っているからだ。むしろ ゆっくりにしては不相応なほどの強い光を宿した両眼を不安に揺らがせ、えーりんはその場を動かない。 「じゃお?」 まるでアストロンでも掛かったかのように身動きを止めたえーりんに、背後に控えるめーりんが気遣わしげな声を掛けた。 どうやらこの巣穴の門番らしい。その気遣いはえーりんの様子というよりはこの寒い中に開け放たれたままの入り口へと向けられて いるのだろう、自分と『扉』――枯れ枝と枯葉を組み合わせ、少量の餡子で固めたもの――を見交わすめーりんに冷ややかな一瞥を投げ、 えーりんはわざとらしい溜息を一つ吐く。 「……ゆっ。わかったわ、しめてちょうだい」 「じゃおっ!」 きびすを返すえーりんの後ろで、手馴れた様子で数匹のめーりんが手早く扉を閉ざしていく。 扉が覆う面積を増すに伴って巣穴の中を照らす光量は乏しくなり――だがしかし、ゼロにはならなかった。 ぼぉっと巣穴を包み込むのは、月のように淡く儚い金緑色の光。 その光が照らし出すのは、深く深く、冥府まで招き入れるような外界の光を拒む大きな洞穴。 「ひめさまにほうこくしないと」 その光――巣穴(それは既に洞穴に近い)一面にヒカリゴケが生み出すエメラルドの輝きに照らされて、えーりんはゆっくり二匹が 行き交えるほどの道を急いだ。 目指すはこのコロニーの長、何もしない支配者、『ひめさま』と称されるゆっくりかぐやの下である。 真社会性動物、という生き物の一群が、外の世界には存在している。 というよりも、幻想郷の中にもそれらはいる。スズメバチやアリの仲間がその代表で、哺乳類にもネズミの仲間が一種のみ存在する。 名前に社会性とあるように、その特徴は多数の同種で共同社会を作り上げて生活する点にあるが、真社会性動物は人間他の哺乳類の ような社会性動物とは幾つかの点において違っている。 一つには、繁殖活動を行う個体と行わない個体がカーストとしてはっきり分かれていること。 一つには、共同して子供の養育を行うこと。 一つには、複数の世代に渡って共同生活を営むこと。 少なくともこの三点、特に不妊の個体が存在する事が重要な要素となる。 繁殖個体は目的にあわせて数多くの子を生む。 生むだけで、育てない。子を育てるのは、ある程度育った他の子供。その中でも労働カーストに育った個体だ。 兵隊カーストも育児や餌集めには参加しない。その代わりに、巣穴の防衛という重要な任務がある。 この巣穴に暮らすゆっくりの群れも、まさにその真社会性に区分される成り立ちから形作られた群れだった。 辺境にしか住まない上、地中でその生活の大半を過ごす生態のために、一つの群が大きい割には人にはその存在を知られていない。 ゆっくり達も、辺境地域の群れ以外はあまり知ることはないだろう。 実際、不幸にして中央から流れてきたあのれみりゃの家族はこんな存在を知らないがために、安易に彼らが支配する領域に 住居を構えてしまったのだ(もちろんこの地にも彼らの巣の先住者のように、家族単位で暮らすゆっくりも多くいるのだが)。 全てのカーストに属するゆっくり達が、ほとんど例外なく目的別に産み分けられた親族だ。真社会性を持つゆっくり種は、女王が どの種であるかに関わりなく、作業目的によって子を産み分けられるらしい。 働きゆっくりはれいむやまりさ、ぱちぇりーやちぇんなどに。 兵ゆっくりはめーりんやみょん、より上位の個体としててゐやうどんげに。 昆虫や鼠に比べれば多少の知恵を持つゆっくり独自の特徴的な例として、知的労働階級としてえーりんが存在する。 そして繁殖階級即ち女王として――まあ、この巣では女王はおらず、ひたすらに怠惰な姫君が代わりに君臨しているのだけれど。 「ひめさま」 「ゆっ。えーりん、ゆっくりしなさい。おいしいれみりゃはてにはいった?」 報告に入るなり、奥の間から掛けられた言葉に側近のえーりんは脱力する思いだった。 もともと、この冬場に働きゆっくりと兵ゆっくりを大勢繰り出してれみりゃ狩りなんぞを試みたのは、完全にこの引き篭もりの姫君が 唐突に言い出したわがままのせいである。 最大で数千にもなるこの種のゆっくりの巣だが、通常種でも同種を捕食するようになる特性にあわせて、枯れ葉と排泄物を混ぜ合わせた 『畑』で巨大キノコを栽培するなどして食料状況に問題はないのだ。 ……支配者の気まぐれでこの手の贅沢を言い出さない限りは。 普段はほぼ先天的に自由意志を奪われた働きゆっくりの姉妹を馬鹿にしながらも、こういう理不尽に付き合わされる時ばかりは 自由意志があるばかりに直面させられる悩みに苦しむえーりんである。 「ゆっ、今はそれどころじゃないの。じゅんかいの『つきのししゃ』が、よそのむれにこうげきされたのはおぼえてる?」 目標を捕獲した、という情報は入っていたが、えーりんはとりあえずその問い合わせを一蹴した。 れみりゃを捕獲したうどんげとてゐの狩猟部隊が、同時にもたらした報告のほうが何倍も重要だったからだ。 つきのししゃ――かぐやの巣では、兵ゆっくりはそう呼ばれる。冬場であるにも関わらず、縄張りの巡回に借り出された『ししゃ』が 正体不明のゆっくりに襲撃されたのは、一週間ほど前のことだった。 正確には最初に次々と襲われたのは働きゆっくりで、兵ゆっくりは生き残りの連絡を受けて見回りに出かけたところを襲われたという 順番である。 ただ、地上に出かけた働きゆっくりが天敵に襲われて連絡を絶つなんて事はいつものことなので、生き残りの報告が出るまで誰も問題 だとも思っていなかっただけだ。 この群れのゆっくり達は、かぐや種とえーりん種以外の生命の維持に関心を払わないのである。 「ゆぅ? おぼえてるけど……もこうのしわざじゃなかったの?」 そのことは、かぐやもまだ覚えていた。しかし、同時にすでに解決したものだとも思っていた。 このかぐやの巣から森を一つ挟んだ向こうに、やはり真社会性を持ったゆっくりもこうを女王とする群れの巣穴があった。 かぐやの群れとは代々縄張りを巡って対立し、何度かお互いの巣の奥深くにまで攻め入るほどの激しい戦い――増えすぎたゆっくり 人口の調節という側面を強く持つ――を交えた宿敵と呼ぶべき相手だ。 お互いに同等の勢力を持つ群れである為に、屋外の戦いで勝利しても相手の巣穴を攻め切るまでには至らないまま泥沼の抗争が続いて いる両者が、そろそろ前の戦いから随分時間が経っている。 そろそろあちらの動きがあってもおかしくない頃合だから、どうせまた小競り合いでも起きたのだろうと思っていたのだが。 「それもかのうせいとしてはきえていないけれど……」 「ゆぅん。べつのよそものがみつかったのね」 言いよどむえーりんの様子に、かぐやはその先を察して面白そうに口の端に笑みを灯す。 かぐやもえーりん同様、ゆっくりにしては知性の高い種だ。普段は何事にも面倒くさがりな正確が災いして通常種ゆっくり以下の 鈍重さを見せるのだが、興味が沸いたことには積極的になることもある。 「どこからきたかしらないけど、ながれゆっくりをみつけたわ。ドス、とかいうまりさがじょおうらしいの」 ドス、という言葉を口にした時、えーりんはまるで知らない未知の何かについて話す人特有のあいまいな表情をした。 ゆっくりかぐやにしても、人間が首を傾げるように頭部しかない体をやや右に傾けて、聞きなれない言葉が意味する所を探りあぐねている。 二匹は『ドス』が何を意味するか知らなった。通常のゆっくりと異なる習性に生きる彼女たちに、ドスとなる個体は存在しない。 繁殖種はゆっくりを他のゆっくりさせる存在ではなく、他のゆっくりにゆっくりさせられる存在だからだ。 だが、群れの経験が培ってきた知識としては知らずとも、どこかざらついた感覚が『ドス』について思うたびに餡子脳を這い上がる。 なにか、ゆっくりとしての本能というべき部分が二匹に強く訴えかけていた。それと戦うべきではないと。 それはただ大きいだけではない。まともに正面から戦ってはいけない存在だ。 戦いを挑めばゆっくりできなくなってしまうかもしれない、と。 「……ゆぅ。どうせふゆなんだし、ゆっくりしすぎたやどなしなんてほっておいてもいいんじゃないの?」 「いいえ、ながたびでよわってるみたいだもの。いまたたかったほうがらくにかてるわ」 だがその本能から来る警告が二匹に齎した結論は、まるで正反対のものだった。 即ち、根が怠惰なかぐやが選んだのは、いずれ消え去るだろう存在をはじめから無視するという選択肢。 即ち、根が慎重なえーりんが選んだのは、或いは生き延びるかもしれない存在をあらかじめ除去するという選択肢。 どうして、とは聞かない。理由ならお互いわかっているから。 相反する結論を得た二匹はお互いにしばし無言で見詰めあい、沈黙の中に相手の反応を待ち続ける。 「……ゆゆ。わかったわ、えーりんにまかせる」 ……ほどなく、先に折れたのはかぐやだった。 この群れの『ひめさま』であるかぐやの役割は、考えることでも決断をくだすことでもない。それはえーりんの役割だ。 だから、かぐやはえーりんの判断にことを委ねた。 そうだ。群れでのかぐやの役割は、知的労働ではない。 「わかりました。ではひめさま……なにを?」 兵ゆっくりや働きゆっくりに新たな指示を出す為、ひめの間を辞去しようとしたえーりんが、当惑を隠さぬ声で問うた。 それもそのはず、いつの間にかえーりんのすぐ側に寄り添ったかぐやが彼女の頬を甘噛みしてきたからだ。 「ゆっくり、していきなさい」 「かぐや、いまはそんなこと」 「ちいさいけど、いくさなんでしょう?」 かぐやは、繁殖相手としてえーりんを求めているのだ。このゆっくりできそうにない忙しい時に。 えーりんもこの世代が一つ下の主君とは、もう長い付き合いである。呆れと共に姪の意図を理解して、とんっと軽く突き放す。 だが窘めようとするえーりんにさらに体を寄せて、ゆっくりの姫君は蕩けるような笑みを血縁でいえば叔母にあたる腹心へと向ける。 「ししゃのかずがへるぶん、かわりをつくっておかないと……ね?」 「……もう、かぐやったら」 かぐや種は同種に働く強力なフェロモンを持つという。 それでなくともかぐや種と強い相互依存性で結ばれたえーりん種が、その誘いを拒むことはゆっくり離れした知性をもってしても難しい。 それ以上えーりんは拒絶の言葉を口にすることなく、かぐやを受け入れた。 ヒカリゴケの燐光の中、二匹の影が一つに重なる。 明日には多くの働きゆっくりの実が、かぐやが長く延ばした茎に連なるだろう。 そして巣は何事もなかったように日常を続けるのだ。 一握りのゆっくりを、ひたすらに他のゆっくりがゆっくりさせ続けるだけの日常を。 続
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1063.html
夕日の中を木枯らしが吹き抜け枯葉を巻き上げる。 晩秋から初冬への境 豊饒の季節はもうすぐ終わりを告げる。 この季節はゆっくりたちがもっともゆっくりできない、否ゆっくりしてはいけない季節である。 なぜなら冬篭りの準備をしなければならないから。 皆準備の為に跳ね回り食料と資材を集める。 今年生まれた子供たちも母親と同じ仕事が出来るほどに成長し 姉妹達を率いて下草を集めたり、木の実を埋めたりと忙しい。 食料を集め、下草を敷き、入り口を塞ぐ頃には冬が来る。 「まつんだど~」「みゃ~て~」 「ゆ!ゆ!ゆうぅぅぅぅぅ…」 日に日に三日月に近づく月の下 ご多分に漏れず冬篭りの準備に急ぐのは体つきのれみりゃの親子 ただし彼らの準備は食料集めではない。 食いだめである。 冬の間に外に出るゆっくりは少ない。 必然的にれみりゃの餌も少なくなる。いくら狩りに出ても十分な食料は得られない。 したがってれみりゃ種は冬眠するゆっくりとなった。 冬の訪れまでに出来るだけ沢山の栄養分を蓄え、後は眠るのだ。 春先と盛夏に生まれた二匹の子供たちも狩りの仕方を覚え、多くのゆっくりを狩った。 体は指先まで丸々と太り、パンパンに張った血色の良い肌は白桃色に輝いている。 「やったどぉ~ごはんだどぉ~」 捕まえたゆっくりを抱えて巣に戻るれみりゃ親子 少々飛行するのに支障が出ているらしく がさがさと木の枝に体を擦っているが、この程度でなければ冬は越せない。 今回の冬眠場所は大きな木の下に掘った穴の中 入り口は残雪の心配の少ないよう東向き しっかりと下草を敷いたので寝心地は抜群 春まで快適に過ごせるだろう。 「お~いし~どぉ~」「う~」「さいごのでなーだどぉ~」 れみりゃ親子は今年最後の食事となるゆっくりありすを食べていた。 このありすは少々ゆっくりしすぎたの。 この季節の夜に外を出歩いていたのだから。 寒さに強くないゆっくりは晩秋の夜にはけして出歩かない。 夜はれみりゃの時間だからだ。 おそらくこのゆっくりしすぎたありすは 皆が巣を塞ぎ始めるのを見てあわてて冬篭りの準備を始めたのだろう。 食料になるものは殆どとり尽くされた森の中を彷徨い 冷たい秋風に吹かれ動きが鈍ったところをれみりゃに襲われたのだ。 たっぷりと栄養を取った健康なれみりゃは少々の寒さにもへこたれない。 秋風の中を自在に飛び、獲物を狩って冬に備える。 知能は消して高くないれみりゃが今日まで生き延びている理由は このあたりにあるのかもしれない。 「うぅ~はぁっぱぁ~ぱぁっぱぁ~はぁっぱぁっぱぁ~」 ばさばさと落ち葉や枯れ草、小石や小枝を巣の入り口に撒くれみりゃ 遊んでいるのではない。巣穴を偽装して隠しているのだ。 捕食種といえど油断は出来ない。長い眠りに付く冬眠中は尚更だ。 「うぅ~いぃしをつぅんでぇ~すぅきぃまぁをつぅめぇてぇ~つぅちぃをぉぬぅってぇ~」 親子代々伝わる歌のようなものを呟きながられみりゃは内側から穴を塞いでゆく。 巣穴の入り口に石と土と小枝を積み上げ、草や苔を隙間に詰め込む。 さらにその上から土をぺたぺたと塗りつければ封鎖完了だ。 「かんせいだどぉ~」 「やったどぉ~」「これであんしんだどぉ~」 入り口を塞いだらあとは眠るだけだ。 下草の上に親子三匹、川の字で寝転ぶ。 「う~!ふゆどをこすどぉ~!!はるまでぐっすりだどぉ~」 「はるまで~」「ぐっしゅり~」 おそらくもう数日で初雪が舞う。 この一家はそれすらも知らずに眠り続けるのだろう。 暖かい春の日差しが雪を溶かすまで となるはずであったのだが。 「うぅ~」 …ックザッ… …ックザック… 「う~?」 ザック…ザッ… 「うううぅ~!?」 ザクッ 「よしやったぞ!!」 「うー!!」 突然巣の中に光と寒気が流れ込んでくる。 飛び起きたれみりゃの目に白銀の世界と黒い二つの影が飛び込んできた。 「おし、大当たり!れみりゃだ。」 「やりましたね兄貴!!」 男たちはれみりゃを縛り上げると次々と袋の中へ放り込んでゆく。 「みゃあみゃあ!!」 「あがぢゃあああぁぁぁぁん!!あがぢゃあああぁぁぁぁん!!」 泣き叫ぶれみりゃたちを無視して袋を荷車に放り込む。 「ゆっぐりじねぇぇぇ!!」「だぜえぇぇぇ」「う~う~う~!!」 荷台には既にいくつもの袋が並んでいる。中身はすべて体つきのれみりゃかふらんである。 「こいつらは高く売れるからな。これで首が繋がったぜ。」 「兄貴が闘ゆっくりで有り金全部スっちまった時はどうなるかと思いましたけどね。 こんな特技があったんですね。兄貴って。」 この二人は人里に住む与太者たち。金策の為に一稼ぎしに来たのだ。 「死んだ親父がゆっくり取りの名人でな。俺もよく一緒に取りに行ったもんさ。」 「しかし饅頭なんざいつでも一緒じゃないんですかね?なんで今だけ高くなるんです。」 「ばーか、ゆっくりだって旬ってのがあるんだよ。れみりゃやふらんは今ぐらいの奴一番だ。 冬を越すためにたらふく食って油が乗ってるからな。質が違うんだよ。 知ってるか?なんでこいつらに体がついてるのか。」 「いえ、知りませんね。人間みたいに動けるからですかい?」 「それが違うんだよ。こいつらは道具を使える頭がねえからな。 栄養を蓄えるためなんだよこいつらが体つきなのは。」 「へえ、じゃあ兄貴の下腹といっしょですかい。」 「おめぇあとで覚えてろよ。まあそんなもんさ、冬眠中に困らないようにそうなったんだろうな。 同じ肉まんでも頭と体じゃ味も値段も違うんだ。」 荷車をがらがらと引きながら歩く二人 荷台には二十匹ほどのれみりゃとふらん。 「じゃあこないだのれみりゃに自分の子供で肉まん作らせてた店。 だから高かったんですね。」 「そうさ、あの店のは本物の親子だからな。体は取っても死なないってわかってるから体で作るんだ。 赤の他人のれみりゃに作らせると頭も体も関係なしに…おっとまたあったぜあそこだ。」 「よくわかりますね。俺にはぜんぜんわからねえや。」 「年季がちがうさな。年季が」 男はそういいながらスコップでざくざくと雪を掘っていく。 数十センチ掘ればぼこりと土がへこみその向こうには体つきの 「むきゅうぅぅぅ…ごほん……」 紫色の奇妙な物体。そして大量のチラシや新聞紙 一瞬ゆっくりぱちゅりーのようにも見えたが微妙に違う。 もやしのように細いが体がついているのだ。 「ありゃ、違ったぜこいつは」 「なんですこの紙くずまみれのは」 「こりゃあぱちゅりぃだな。体つきのゆっくりぱちゅりーだよ。 穴の塞ぎ方が似てるから間違えたんだ。」 「案外兄貴もあてになりませんね。」 「うるせえな久々なんだから仕方ねえだろ」 男達の会話をよそに冬眠中の巣穴を暴かれたぱちゅりぃは 大量の紙屑に囲まれて眠ったままだ。 いや、反応が薄いだけで起きてはいるのかもしれない。 どちらにせよ頭に霞が掛かっていることに代わりはないが。 「で、こいつは売れるんでしかい?兄貴 こいつの体も油が乗ってるんでしょ?」 「こいつの体はなぁ…ちょっと違うんだよ。」 「と、いいますと?」 「こいつは食うモンがなあ…ああ、見ろよほれ。」 むきゅむきゅと寝言を呟きながら手を伸ばすぱちゅりぃ その手が掴んだのは干からびた野菜くず。 ではなくなんと紙屑の山の中のチラシだった。 「えっと兄貴、まさかこいつ。」 「そのまさかだ。見てろよ。」 チラシを掴んだぱちゅりぃは 「むきゅうぅん。むきゅうぅん。」 それをそのまま口に運んだ。 しばらくの間もしゃもしゃと咀嚼したあとゆっくりと飲み込む。 この間なんと35秒、驚異のゆっくりっぷりである。 よく見てみれば紙屑だらけのぱちゅりぃの巣に食料はほとんどない。 あるのは紙屑ばかりである。 防寒材としては優秀かもしれないが普通なら食料にはならない。 それを食料にしてしまうのが歩く紫もやしことぱちゅりぃである。 虚弱でありながら妙に頑丈な肉体を持つ彼女は 生き延びるために驚異の消化力を身につけたのだ。 「こいつってこんなもんばっかり食ってるんですかね?」 「らしいな。弱くてまともな餌は取れないからこんなもんを食うんだろうが。 栄養も殆どないだろうからな。だから弱いのかもな。」 「卵が先か鶏が先かみたいな話ですね。で、こいつは食えますかね?」 「筋だらけだろうさ。やめとこう。」 その時男たちは下から見上げる視線に気づいた。 いつのまにかぱちゅりぃが目を覚ましていたのだ。 独特のどろりと濁った目で男達を見つめるぱちゅりぃ 常にもぐもぐと動き続ける口をゆっくりと開くた。 「ごほんはどこ?」 「は?」 「むきゅぅ、もってかないでぇぇ…」 蚊の鳴くようなか細い声で喋るぱちゅりぃ 白い雪と黒い土、灰色の紙屑と紫色のぱちゅりぃ 前衛芸術家かなにかなら喜ぶかもしれないが男たちにはもう限界だった。 「はいはいごほんね、ごほんだよ」 そういってちり紙代わりの天狗の新聞をぱちゅりぃに押し付ける。 「むきゅぅぅぅごほん、ぱちゅりぃのごほん」 嬉しいのだろうか上体を陽炎のように揺らすぱちゅりぃ 「あーはいはいよかったねごほんだね。おやすみね。」 「春までねむってようなぁぱちゅりぃ」 「むぎゅうううぅぅぅぅ!!」 ぱちゅりぃの体を紙屑の山に押し込むと そのまま土をかけて埋めもどす。 少々手荒すぎる気もするがなに紙を食べて生き延びられるゆっくりだ。 これくらいはどうということもあるまい。 「しかしあんなゆっくりもいるんですね。兄貴」 「わからんもんだな。案外と」 荷車を引きながら人里を目指す男達 荷台のれみりゃ、ふらんの体力も尽きたらしく静かなものだ。 冬を生き延びようとゆっくりを食べたこのゆっくりたちは 冬を彩る肉まんアンまんとして人々に食べられる。 なんとも因果な事ではないか。 「おそくなっちまったな。しかし」 「晩飯にこいつらでも食いましょうか。」 「馬鹿言うんじゃねえよ。まったく」 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/315.html
『その8 全力みょん』 花が散って尚その威容を誇る桜の木々に囲まれた、広大な敷地を誇る日本家屋――白玉楼。 その些か以上に年代を感じさせる建物の縁側に、二人の少女の人影があった。 「ねえ妖夢、わたし、お腹が空いてしまったわ」 言って縁側に座布団を敷いて座している少女が、傍らに控えるように佇んでいた少女へと声を掛ける。 声を掛けられた少女――魂魄妖夢は、相手の声が聞こえているのか居ないのか、特に反応らしい反応は見せずに、しかしその眉間には薄らと皺が寄せられていた。 「…………」 会話を返さない妖夢に対して、座したまま目の前の桜木を眺めていた少女は、その視線を外して傍らの少女へと視線を向けた。 見上げるような体勢。 その小首を傾げてみせる。 「妖夢?」 反応を返さない自らの警護役に対して、大丈夫かしら、この子、と少々斜め上へと思考が走り始めた頃、少女の傍らで一歩下がるように控えていた妖夢がようやく口を開いた。 「……幽々子様、確か私の記憶によれば……昼食をとられたのが三刻前、大福と饅頭を御召になられたのが二刻前、羊羹と草餅を御所望なされたのがつい一刻前……となっているのですが」 芯の通った声色。 何処か、確認を求める口調だった。 反応を返した従者に対して、その主――西行寺幽々子はくすくすと喉を鳴らし、どこかあどけない笑顔を浮べ、目の前の木々達へと視線を戻した。 「ああ、そういえば、お昼に出た鮎の塩焼きは美味しかったわねぇ」 昼間の食事を思い出しながら嬉しげな気配を発している主人に対して、その従者は憮然とした様子を湛えて見せる。 「いえ、そういう事では無く……」 聞いていますか、お嬢様、と妖夢は問う。 しかし相手は聞いているのかいないのか、何所かふわふわとした印象でその会話を聞き流す。 「苺大福とか、あるかしら?」 苺はもう過ぎてしまったかしら、と何処か遠くの心配をしている幽々子に対して、もう一度、と妖夢は口を開く。 「あの……」 「水羊羹も捨てがたいわねぇ」 芋……いえ、栗……と、やはり何処か遠くの事を考えている幽々子。 「いえ、ですから……」 「お願いね~」 にっこりと笑顔でお願いされてしまっては、妖夢に拒む術は無い。 「…………みょん」 諦めの気配をかもし出しながら、何処か煤けた様子で従者はその場を離れた。 ………… お嬢様は少々食べすぎではないだろうか……、と白玉楼の庭師兼警護役は首を捻りながらお勝手へと向かう。 「うーむ、これが食道楽というものなのだろうか……」 ぎしぎし、と床板を鳴らしながら長い廊下を進む。 さて、流石にこう立て続けに甘味はどうだろうか、何を作るべきか、と思考を進めながらお勝手の扉を潜るとそこには、 「むーしゃ♪ むーしゃ♪」 「…………?」 くぐもった声が聞こえる。 はて、と首を傾げて辺りを見回す。 気配がするのは、空間の一角。 「…………」 「おいしーい!」 「…………」 「しあわせー!」 「…………む、妖怪か?」 洗い場から離れた場所に備えてある、味噌や塩などが収められた壷の数々。 その一つに丸い身体を突っ込み、なにやら上機嫌で中身を貪り食っている物体。 「あれは……砂糖壷だったか?」 背中に差した楼観剣へと片手を這わせ、じりじりと近付き、中身を覗く。 「むーしゃ♪ むーしゃ♪」 「…………」 「あまーい!」 「…………」 「ぜんぶわたしのー!」 まるで、大きな饅頭のような物体だった。 壷の中身、砂糖にその身体を沈め、一心不乱にその口を動かしている。 「…………おい、そこのまんじゅう」 「ゆ?」 謎の物体が振り向く。 まるで巨大な饅頭のような身体にはしっかりと顔があり、その黒髪に対して赤いリボンを巻いてた。 一瞬、その姿を妖夢はどこかで見たことがあるような気がしたが、特に気に留める事も無く、改めて口を開く。 「其処で何をしている」 「ゆゆ?」 余りというか、全然状況が判っていないのだろうか、疑問符を浮べたまま此方を見上げている物体に対して、妖夢は威圧することもないだろうと身に纏っていた緊張感を解した。 特に害意は在りそうには見えないし、どこぞから迷い込んだのだろう、とあたりを付け、どこか気を軽くしたような口調で物体へと声を掛ける。 「どうしたんだお前は、迷ったのか?」 「おねいさんだれ!」 緊張を解した妖夢に対して、目の前の物体は今更ながらに警戒心が湧き上がってきたらしい。 頬を膨れさせて、威嚇するように声高に叫んでみせる。 思わず、妖夢の表情に苦笑が浮かぶ。 「私か? 私の名は――」 「わたしがさきにみつけたの! ぜんぶわたしのもの!」 名を告げようとする妖夢の声を遮り、物体は声を張り上げる。 どうやらこの砂糖壷は自分のものだと言っているらしかった。 他にある味噌や糠床などか荒らされていない辺り、この物体は甘味が好きなのだろうか、と妖夢は考えてみるが、だからといって貴重な砂糖を丸ごとこの物体に与えるわけにはいかない。 そう思い妖夢は口を開くが、 「おねいさんにはあげない! あっちいってね!」 「いや、しかし――」 「ここはわたしがみつけたおうちだよ! おねいさんはあっちにいってね!」 「おうちとは――」 「はやくあっちにいってね! とっととあっちにいってね!」 「…………」 どうやらこの砂糖壷は目の前の饅頭の様な物体にとって、如何ともし難い魅力を発しているらしい。 口角泡を飛ばすといった勢いで、激しく言葉を捲し立ててくる。 その一生懸命に妖夢を追い払おうとしている姿は笑みを浮べるに値するが、この屋敷にある物はすべからくお嬢様の物である、というのが妖夢の思考である。 よってどうにかこうにか説得を試みようとしてみるが、しかし、 「どうしたの? なんであっちいかないの? おねいさんばかなの?」 「な」 真坂馬鹿と言われるとは思いもしなかったのか、呆気にとられる妖夢。 さらに目の前の物体は言い募る。 「なにしてるのばかなおねいさん? どうしたのばかなおねいさん? うごくためののうみそもたりないくらいばかなの?」 「…………」 「おねいさんあたまわるいのね! むずかしいこといってごめんね!」 「…………」 「ごめんね、ばか! ゆるしてね、ばか!」 「…………ふっ」 思わず、妖夢の口角が歪む。 妙に黒い笑みだった。 「少々私はお前の事を誤解をしていたようだ」 言って、すらりと楼観剣を引き抜き、片手で上段に構えてみせる。 「ゆ?」 「どうするまんじゅう妖怪。早く其処から出ないと、壷ごと真っ二つになってしまうぞ?」 「ゆゆ?」 半ば何も考えずに引き抜かれた銀光を眺めていた物体。 次いで述べられた妖夢の言葉にも、その危機感が働く事は無かった。 何を言っているのだろう? この相手は、といった様子である。 「…………ひょっとしてお前は刀を知らないのか」 言って妖夢は楼観剣の刀身を奔らせ、砂糖壷の直傍に置かれた壷の一つ、その上に載せられた漬物石を一線した。 妖夢の動作に遅れて一拍、丸石の表面に斜線が走り、ずるり、とその上部が床へと落下した。 重く厳しい音が室内に響く。 改めて楼観剣を上段に構える。 「さて、改めて聞くが、どうする?」 物体の収まった砂糖壷の中からは、妖夢が振り上げる白刃も、先ほど切り落とされた漬物石の様子も、はっきりと見えていた。 事此処に到って、ようやく己に危機が迫っている事を認識したのだろう。 「ゆ♪ ゆー♪」 先ほどの態度とは打って変わって、精一杯の愛嬌を妖夢に対して振りまいて見るが、今更過ぎて、もう遅い。 「なるほど。笑顔のまま逝きたいと、そういう事か」 「ゆ゛ゆ゛!??」 思わず混乱状態に陥る物体。 右往左往といった様子でゴトゴトと壷を揺らす。 しかしこのままの状態ではさすがに拙いと思ったのか、物体は砂糖をもりもりと口に含み、妖夢の前へと吐き出して見せた。 妖夢の足元が砂糖で汚される。 意識して眉根が寄った。 「おねいさんにもわけてあげるから、これでゆっくりしてね!」 「…………」 どうやらこれで妖夢を懐柔しようという心算らしかった。 自信満々といった表情で物体は笑みを浮べている。 その様子を受けた妖夢は重々しく頷き、 「ふむ、魂魄の昇天すら所望するか」 言って、空いていた片腕で白楼剣を引き抜く。 二刀を改めて構えてみせる。 「ゆ゛っ!?」 慌てた様子でもう一度同じ動作を繰り返す物体。 足元に盛られた砂糖が一回り大きくなる。 妖夢の眉根がさらに寄った。 「まずは生き地獄から味わいたいと」 「む゛っ!」 未だ刀を構えたままの妖夢に対して、物体は一転してむくれた表情を表してみせた。 どうやら目の前の物体にとっては、砂糖二口が妥協点であるらしかった。 妖夢の足元に盛られた砂糖の小さな丘。 片手で掴み取れそうな程の量しかない。 それは人が摂取するには多すぎる量だったかも知れないが、壷の中身からすれば微々たるものだったし、というかそもそも妖夢は砂糖を欲していない。 妖夢の内心を想像することもしないだろう物体は、強気な姿勢で声を張り上げる。 「それでゆっくりしてね! さっさとゆっくりしてね!」 「私は、其処から出て行けと言っているのだが?」 「よくばりなおねいさん! なんてずうずうしいの!」 「その砂糖壷はこの屋敷の物、引いてはお嬢様の所有物だ。さっさと其処から出て行くがいい」 「ここはわたしがみつけたおうちなの! そんなことしらない!」 「なんて厚かましい妖怪だ」 「なんてききわけのないおねいさんなの! ほんとにばかなのね!」 「ああ、もういい。言い合うだけ無駄のようだ」 言って、妖夢は間髪いれずに楼観剣を相手の柔肉へと突き刺した。 物体がその身に起こった事を理解するよりも疾く刀身を振って床に転がし、上から足で押さえつけ、両手に持った二刀を相手へと向ける。 一瞬のうちに目まぐるしく回転する視界に物体は数秒ほど呆然とした様子を見せていたが、やがてその身体に宿る熱に気付き、痛みを自覚する。 「い゛……!?」 「どうした? なんだ? さっさと言え。辞世の句ぐらいしっかりと聞いて――」 「い゛た゛い゛ぃ゛!! い゛た゛い゛よ゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」 「……ここで泣くか」 「じぬ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!! じん゛じゃう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」 妖怪ならばこの程度で死にはしないだろうに、と妖夢は思う。 実際、刀で一突きされた程度で死ぬ妖怪は稀だ。 目の前の物体にとっても、これが致命傷とは程遠い状態である事くらい妖夢の目にも見て取れる。 「だずげでね゛!!! だれ゛がだずげでね゛!!!」 「……さらに他力本願とは」 なんて見下げた根性だ、と妖夢は溜息を吐いた。 「ゆ゛っ゛ぐり゛ざぜでね゛!!! ゆ゛っ゛ぐり゛じよ゛う゛ね゛!!!」 「ああ、もう分かった分かった」 呆れた口調で言葉を吐いて感情を収める妖夢。 もとより、口で言うほど物騒な行動を取る心算は妖夢に無かった。 多少痛めつけて追い出せば良い、というぐらいの思考である。 それがこうも相手に大声で泣き叫ばれては、さすがに痛めつけることに対して抵抗を覚えたくもなる。 気勢を削がれたと言うべきだろうか、楼観剣と白楼剣の二振りを鞘に収め、足元の物体を持ち上げる。 「ゆ゛……っ!?」 両手の中で、びくり、と身体を振るわせる物体には気にも留めず、お勝手から水汲み場へと繋がる扉を抜け、外へと足を運ぶ。 そして、それを地面へとそっと置く。 「ゆ゛?」 「ほら、何処へなりとも行くが良い」 「…………」 「何をしている、早く去れ」 「…………」 「いい加減にしないか」 「むーっ!」 渋々といった様子で、不貞腐れた表情のまま井戸の近くに茂っていた藪の中へと消えていく物体。 がさり、と草音が鳴り、沈黙が訪れる。 「……ふぅ」 とりあえず、これでこの白玉楼に近付く気は失せただろう、と一息吐いた妖夢は踵を返したのだが、 「すきありーーーーーーーっ!!!」 「なに? って、うわ!?」 予想外にも藪の中から転がるように飛び出してきた物体は、背中を向けていた妖夢に対して足元を狙うように体当たりを試みる。 ちょうど膝の裏側を押されるように足を払われ、妖夢は思わず尻餅をついた。 「きゃん」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛っくりー!!!」 「こふ」 さらに追い討ちとばかりに、妖夢の腹部へと体当たりを敢行する物体。 尻餅をついたままの体勢ではそれを支えることも出来ずに、仰向けに倒れ込んでしまう妖夢。 地面に背中を強かに打ちつけ、肺の空気が零れる。 「ゆーーーーーーーっ!!!!」 「むきゅ」 止めとばかりに妖夢の顔へと圧し掛かる物体。 一抱えほどもあるその大きさは、見た目に比例してしっかりと重かった。 妖夢は固く冷たい地面の感触を後頭部に感じ、次いで顔を塞いでいる重みが消失するのを感じた。 そして、衝撃。 「!」 「ゆっくりしてやったね!!! ゆっくりしてやったよ!!!」 顔の上で上下に飛び跳ねられるという行為は、もしかしなくても首が折れるかもしれないと妖夢に思わせるに十分な威力があったが、しかしどうにかその攻勢に首は耐え切る。 やがて物体はこのぐらい痛めつければ十分だと思ったのか、もちもちと柔らかい感触の身体を妖夢の首の上から退けた。 顔をずっと塞がれていた為だろうか、肺に酸素を取り込むべく肩で息をしている妖夢と、妙に勝ち誇った笑顔を向けてくる物体。 「おもいしったか!!!」 相手は、そのまま意気揚々とお勝手の中へ消え去っていく。 「…………」 その光景を暫し無言で眺め続け、自らを地に付けたその相手が見えなくなってからも無言を続ける妖夢。 どれぐらいの時間が経ったのだろうか、妖夢はおもむろに立ち上がり、やはり口を開かぬままにお勝手へと足を進めた。 「…………」 「むーしゃ♪ むーしゃ♪」 「…………」 「しあわせー!」 「…………」 「むーしゃ♪ むーしゃ♪」 「…………」 「おいしーい!」 「…………」 「むーしゃ♪ むーしゃ♪」 「…………」 「あまーい!」 「…………」 「むーしゃ♪ むーしゃ♪」 「…………」 「ゆっくりー!」 やはり砂糖壷の中に納まっていた相手は、真上から見下ろす妖夢の視線に気付いているだろうに、その存在を気にすることは無い。 これが勝者の余裕、とばかりに敢えて大仰に砂糖を貪り喰らう物体。 やがて妖夢を無視するのにも飽きたのか、饅頭のようなその身体をくるりと回転させて妖夢を見上げてみせる。 暗澹とした光を湛える妖夢の瞳と視線が合う。 「おお、こわいこわい」 まるで格下の相手を馬鹿にするかのような表情と台詞に、しかし妖夢は反応を返さない。 「どうしたの、まけいぬのおねいさん! どうしたの、ゆっくりできないおねいさん!」 続けてつくられる満面の笑顔と蔑んだ台詞にも、やはり妖夢は微動だにすることも無かった。 「ほしいの? これがほしいの?」 そう言って口に含んだ砂糖をねちゃり、と見せてみる目の前の物体。 「あげなーい! これはぜんぶわたしのー!」 口を閉じ、むぐむぐと砂糖を租借し、やがて空になった口の中を開けてみせる物体。 「わかったらあっちへいってね! とっととあっちへいってね!」 妖夢に笑みを向け、もう用は済んだとばかりに砂糖に向き直る物体。 改めて、砂糖の租借音が室内に響き始めた。 「むーしゃ♪ むーしゃ♪」 「…………ふ」 妖夢の口に歪な笑みが浮かぶ。 耳を澄ませばようやく聞こえる程度の風切音が鳴った。 いつの間に抜いていたのか、横に振りぬかれた楼観剣が鞘に収められる。 一拍遅れてバラバラと解体される砂糖壷。 「ゆゆ!!?」 「……どうせ、得体の知れない妖怪の唾液で粘り固まった砂糖など、お嬢様にお出しする料理の材料には使えたものではないだろうからな」 どのような芸当か、その中に納まっていた物体には傷一つ無い。 ざらざらとその中身があふれ出し、壷の残骸を覆い隠すように広がった砂糖の上に鎮座した物体。 状況が判っていないのか、辺りをきょろきょろと見回し、その表情に疑問符を浮べてみせる。 「ゆ? ゆゆ?」 しかし、広がる砂糖、解体された壷、投げ出された自分、と状況を理解していくにつれ、その表情が怒りの方向へと高潮していく。 やがてその怒りの温度が沸点へと近付いた頃、頭上より妖夢の声が振ってくる。 「どうした? なにをそんなに呆けているんだ」 「ゆ!」 どのような方法であるかは理解が及ばなかったようだが、これが妖夢の仕業であると物体は思い至った様子だった。 妖夢を睨みつけ、身体全体で感情を表すように上下に飛び跳ねて怒りを見せ始める。 「なんでわたしのおうちこわしちゃうの!! これはわたしのみつけたおうちだったのに!!」 「そうか、それは済まなかったな」 言いつつ妖夢は一歩踏み出すが、その時足にしてしまった砂糖が相手の逆鱗に触れたらしい。 「なにしてるの! これはわたしがさきにみつけたんだよ!」 「それは済まなかったな」 「ゆっくりあしをどけてね! ぜんぶわたしのものなんだからね!」 「それは済まなかったな」 「もう! なんてききわけのないおねいさんなの! じぶんかってね!」 「それは済まなかったな」 「ゆっくりしなくていいからあっちへいってね! わがままなおねいさんのあいてはすごくつかれるから!」 「それは済まなかったな」 再び楼観剣の鯉口が切られ、今度はどこか緩慢な動作でその刀身を突き刺す。 「ゆ゛……っ!?」 引き抜き、突き刺す。 「い゛、い゛い゛……」 引き抜き、突き刺す。 「い゛だい゛いいい!!!!」 引き抜き、突き刺す。 「い゛、い゛だっ! い゛だい゛っ!!!」 引き抜き、突き刺す。 「いだい!! やめ゙てやめでね゙!!! はやくやめでね゙!!!」 引き抜き、突き刺す。 「や゛め゛、や゛め゛て゛ね゛!!!」 引き抜く。 「い゛た゛い゛ぃ゛ぃ゛い゛い゛い゛!!!! う゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!」 突き刺す。 「ゆ゛っぐり゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!」 あまりの連続した痛みの発生に恐慌状態に陥った物体は後先を考えることもせずに後退を試みるが、その身体には深々と楼観剣の刀身が沈められたままである。 楼観剣の刃は妖夢自身の方へと向けられている状態であり、それで後退を試みるとどうなるのか。 「ゆ゛? ゆ゛ゆ゛!??」 自らの後押しで、その身体の一部がすっぱりと縦に斬り裂かれた。 「なんだ、自ら傷つくような真似をして」 「……!??? ……!!!!???」 呆れた表情を見せる妖夢に対して、相手は激痛で頭が一杯になっているのか呻き声をあげるばかりだった。 裂かれた体から黒い何かか零れ出すものの気に留める事も出来ず、ただ痙攣を繰り返しながら痛みを耐え続けていた。 「なるほど、そうか。お前はチクチクと突き刺され続けるよりも、バラバラに切り刻まれるほうが好みなのだな」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ!!!??」 淡々と紡がれた妖夢の言葉に身体と精神が恐怖に震わされるものの、うろたえる以上の行動を起こす前に楼観剣の冷たい感触がその身体を通り過ぎる。 薄く、ほんの少しだけ、身体が削り取られた。 「一枚」 切り裂く。 「二枚」 切り裂く。 「三枚」 切り裂く。 「四枚」 切り裂く。 「五枚」 切り裂く。 「六枚」 切り裂く。 「七枚」 切り裂く。 「八枚」 切り裂く。 「九枚」 切り裂く。 「十――」 「い゛た゛い゛ぃ゛ぃ゛い゛い゛い゛!!!! う゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!」 薄く相手の身体を削っていき、その回数が十を数える頃にようやく物体は叫び声を上げた。 「だれ゛がだずげでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ぶむ゛っ!??? ぐぐ!!????」 現れることも無い誰かに対して助けの声を張り上げる物体に対して、妖夢は靴のつま先に砂糖を擦り付け、それを相手の口内へと蹴り上げるように突っ込んだ。 「今更だが、五月蝿いぞ。ほら、お前の大好きな砂糖だ。たんと舐め取るがいい」 「むぐっ!!? むぐぐ……っ!!??」 「そうか、美味いか。よかったな」 作業を再開する。 少しずつ、少しずつ。 薄く、丁寧に、何度も何度も。 切り裂き、削ぎ落とし、刃を奔らせ、肉を剥がす。 やがて磨り減った外側の奥から現れる黒い中身。 ごぼりとあふれ出すそれは、まるで餡子のようにも見受けられる。 さらに作業は続く。 まるで墨汁を垂らしたような黒髪を無理矢理に引き剥がし、その身を彩った赤の装飾も髪と一緒に毟り取られた。 淡々と作業を進める。 妖夢が白刃を振るう風切音と、物体のくぐもった呻き声が室内を静かに満たしていた。 裸同然の状態にされた物体。 見れば、顔面部分を除いて全ての表皮を切り落とされていた。 ようやくと言うべきか、妖夢がその足を相手の口から引き抜く。 零れ出て広がった黒い中身の上に乗せられた顔面部分。 様々な感情に顔を歪ませ涙と涎を垂れ流し続けていた物体は、開放されたばかりの口をぱくぱくと動かし、思い切りの吸気を試みる。 「……っ! ……っっ!!! ……っっっ!!!!!!!」 しゃくりあげながら大きく口を開き、やがて何事かを叫ぼうとする物体。 冷やかな視線のまま、改めて妖夢の足が踏み下ろされる。 「ゆ゛っく゛り゛ぶぶふぅ!!???」 「ああ、すまない。何か言う心算だったのか」 「……ぶぶぶっ!!!!!!」 意識を苛む激痛と、身体を切られた喪失感と、砂糖に対する独占欲と、妖夢に対する怒りと憎しみと、激情が渦巻くままに唸り声を上げる物体。 「何を言っている。ちゃんと言葉を喋れ」 「む゛む゛む゛……っ!!!!!!」 「お前の言っている事は判らないな。私が馬鹿なのだろうか、それともお前が人語を話せないのだろうか」 「ゆ゛ーっ!!!!! ゆ゛ーっ!!!!!」 「そうか、お前が言葉を喋れないのだな。ははっ、馬鹿め」 「ゆ゛む゛む゛む゛む゛む゛む゛む゛む゛む゛ーーっ!!!!!」 膨れたまま唸り声を上げ続ける物体だったが、妖夢の足に押されてどんどんとその顔が黒い塊の中へと埋もれていく。 足を除けると、その面にはしっかりと妖夢の足跡が刻まれていた。 「ほう、よく伸びる面の皮だ」 「ゆ゛っぐり゛ーーーーーー!!!!!」 どうやら妖夢に攻撃を加えようと飛び掛ろうとしている様子が見受けられたが、もはや面の皮しか残っていない状態ではそれが叶う筈も無い。 気持ち悪く蠢いて見せた程度で、その行動は終了した。 「さて、そろそろお嬢様がお待ちかねの頃合だ」 言って、手に持った二振りを鞘に収め、物体の顔面部分へと手を掛ける。 それを勢いよく引き剥がし、砂糖と黒い塊の山とは反対の方向へと投げ捨てた。 「ゆ゛ぶ!?」 ぺたーん、と既に質量の大半を失った物体は、情けない音を立てながら床板と接吻を交わす。 「此処の掃除は後回しにするとして……」 言って先ほど両断した重石を両手に持ち、足音を立てながら物体へと近付く。 「……? ……??」 「そうだな、当たり障りの無い所で煎餅と……ああ、団子があったか」 二つの重石を床を向いたままの物体の上に置き、ぐいぐいと面の皮を引っ張って包み込み始めた。 「……!? ……!??? ……!!!???」 「後はお茶、と。うむ、これで良いか」 包む為に寄せた面の皮を、傍らに落ちていた赤いリボンで縛り上げ、まるで巾着のような姿が完成する。 「……っ!? ……っ!????」 「さて、それでは先ず手を洗ってくる事にするか」 人面巾着袋と化した物体を掴み上げ、外へと足を進める妖夢。 扉を潜り、そしてそのまま井戸の前を通り過ぎてさらに足を進める。 辿り着いたのは、地面に深い穴が開いており、その直傍に大量の土が盛ってある裏庭の一角であった。 「ん? ああ、参ったな。古井戸の方まで足を運んでしまうとは」 片手で掴み上げていた人面巾着袋を穴の中へと放り入れる。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」 次いで傍らに用意してあった梅の枝と葦の葉を穴に落とし、盛った土に挿してあった円匙に手を掛け、土山を崩し始めた。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ゆ゛ぶっ!!!??」 「お嬢様は此処を埋めるのは後で良いと言っておられたが、そうだな、折角の事だ。少しばかり埋め立ててしまうのも悪くないだろう」 既に外観を解体されて穴だけが残る干からびた古井戸に、その穴を埋め立てる為の土が降る。 「ゆゆっ!?」 暫し無言で動作を繰り返す妖夢。 「こ、ここからだしてね! ゆっくりだしてね!」 何やら穴の底が騒がしい様子だが、穴は深く、反響して届いた声はくぐもった音に劣化して、言葉として妖夢の耳に届くには程遠い。 「おもいの! からだがおもいの!! つぶ、っぺ! な、なんなのー!?? なにがおこってるのかぜんぜんわからなーい!!!」 妖夢が円匙で土を削る音にも紛れ、やがて人面巾着袋の姿は深い穴底の只中で土に埋もれて見えなくなった。 「だ、だれかたすけてね! ゆっくりたすけ……!!?? ……!! …………!!?? ……………………!!!!??」 最後に一際大きい土の塊を落とし、妖夢は円匙を盛り土に突き挿す。 両手を叩いて幾らかの汚れを落とし、ふぅ、と一息を吐く。 「……………………さて、これでゆっくり仕事ができる」 『その9 ゆっくり+@』 「幽々子様、本日三度目の間食をお持ちしましたよ」 「あらあら妖夢、ずいぶんと遅かったわね。私、待ちくたびれちゃったわ」 「その点については申し訳ありません、不肖妖夢の至らなさでござい、ま……す?」 「へぇ、お煎餅とお団子なのね。私、嬉しいわ」 「あ、あの……」 「ほら、妖夢もこっちへいらっしゃい。一緒に食べましょう」 「あの、幽々子様……」 「? 何かしら」 「その傍らの丸い物体は……」 「ちーんぽっ!」 「この子?」 「ちーんぽっ!」 「ふふ、さっきこの庭に迷い込んでいたところを拾ったの」 「ちーんぽっ!」 「おもしろいでしょ」 「ちーんぽっ!」 「? どうしたの妖夢」 「ちーんぽっ!」 「妖夢? あら、ちょっとこの子には刺激が強すぎたかしら」 「ちーんぽっ!」 「…………あの、それ、斬っていいですか?」 「ちーんぽっ!??」 「あらあら、急に物騒なのね。駄目よ、そんな無闇に刀を振り回しては」 「ちーんぽっ!」 「では、叩いていいですか」 「ちーんぽっ!??」 「あらあら妖夢……ほら、この子を良く見て見なさい」 「ちーんぽっ!」 「…………むかつく顔ですね」 「ちーんぽっ!??」 「うーん、そう見えるかしら」 「ちーんぽっ!」 「他になんと見れば……」 「ちーんぽっ!」 「私には、あなたに似ているような愛嬌のある顔に見えるわ」 「ちーんぽっ!」 「…………似てますか?」 「ちーんぽっ!」 「あなたはもう少し鏡を見たほうが良いかもしれないわ。ほら、この髪の色と髪飾りなんかそっくり」 「ちーんぽっ!」 「妖夢、あなたも女の子なんだから、もっとおめかしするようにならないと」 「ちーんぽっ!」 「…………」 「ちーんぽっ!」 「妖夢? ふぅ……また黙っちゃって、どうしたのかしらね、この子は」 「ちーんぽっ!」 「…………えいっ」 「――――!!!!!」 「あら、叩いちゃった」 「――――」 「って、あらまあ」 「――――」 「物凄い顔で固まってるわね」 「――――」 「今、口から飛び出したのは魂かしら」 「――――」 「うーん、この表情はなんだか気持ち悪いわ」 「――――」 「捨ててきます」 「はぁ、仕方が無いわね、ちゃんと弔ってあげるのよ」 「ええ、同類と一緒に埋めて固めて均しておきますので、その辺りのご心配はなさらずに」 「あらあら」 「では、失礼いたします」 『その10 十六夜咲夜の教育的指導(解体編)』 ~あらすじ~ 紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの思いつきでお嬢様代理となったゆっくりれみりゃ。 館のメイド長である十六夜咲夜は一時的にれみりゃの付人に任命され、その世話を甲斐甲斐しくする羽目になる。 「くっきーいらない! ぷりんじゃないとやだぁ! ぷりんたべるのぷりん!!」 溜まるストレス。 「おやさいきらい! ぷりんちょうだいぷりん! さくやどこ! さくやきて! ぷりんたべたいぷりん!」 溜まるストレス。 「ざくや! ざくやどこ? ざくやー! ざくやー!!! ごろんだー! いだいのー!」 溜まるストレス。 「さくやー♪ ぎゃおー♪ たーべちゃうぞー♪ さくやー♪ ぎゃおー♪ たーべちゃうぞー♪ さくやー♪ ぎゃおー♪ たーべちゃうぞー♪」 溜まるストレス。 「うっ♪ うー♪ あそんでめいりん♪ あそんでくれないとさくやにいいつけちゃうぞー♪ さくやにおこられちゃうぞー♪ がおー♪」 溜まるストレス。 そろそろ我慢の限界です。 ………… 四方を木々に囲まれた暗い空間。 周囲を見渡しても、木々に遮られたその奥を見通す事は出来ない。 上を見上げても、周囲の木々から伸びた枝葉が月明かりをか細く突き通しているだけであった。 風が草葉を揺らす音も無い、虫の鳴き声すら聞こえない、どこか寂しげな印象を抱かせる森の只中。 一人、ゆっくりれみりゃがただ呆然とそこに座り込んでいた。 「どこ……? さくやは……?」 虚空に問いかける声に、答えは無い。 「……さ、さくやー」 もう一度と暗闇に言葉を投げかけるが、やはり答えは無い。 「…………さくやぁ……」 暗闇に対する恐怖と、一人で居ることに対する孤独と孤立に襲われる。 暗い。 寒い。 怖い。 寂しい。 心細い。 感情の波が決壊へと近付き、溢れ出す。 「ざ、ざくや! ざくやどこ!? ざくやー!!! ざくやー!!!」 何でこんな所にれみりゃは居るのか。 先ほどまで、れみりゃは紅魔館の一室にてふかふかのベットに包まれながら咲夜のお話を聞いていたはずだった。 咲夜の用意してくれた柔らかくて良い匂いの布団の感触を、まだ覚えている。 記憶の中にある幸福感が今現在の恐怖感をより一層際立たせていた。 「ざ、ざぐ、ざぐや゛ー! ざぐや゛どごい゛る゛の゛!? ね゛え゛ざぐや゛! どご!?」 涙を零しながら叫び声を上げても、聞きたい声は聞こえず、見たい姿は見られず。 張り上げる声は虚空に響き、闇夜に紛れ、消えていく。 ………… 「……おながずいだぁ……」 どれくらいの時間を泣き続けたのだろうか。 やがで泣き疲れ、目元を腫らせたまま、しょんぼりとした空気を纏いながらお腹を鳴らすれみりゃ。 そっとお腹に手を這わす。 「ぷりん……」 思い起こすのは、咲夜が作ってくれた甘くて美味しいぷりん。 スプーンをそっと通して掬い取り、口の中へと運べば蕩ける様な食感と甘美な一時を与えてくれる。 れみりゃが今まで食べた物の中で、一番美味しい食べ物。 食べたい、と呟いてまたお腹が鳴った。 「ざぐや゛ぁ……どごぉ……」 人恋しさに呟く声にも、空腹の為か力が無い。 一層夜の闇が広がった暗がりの中で、れみりゃは一人孤独に震えながら優しい咲夜が助けに来るのを待ち続けていた。 ………… がさり、と草音が鳴る。 「……っ!??」 れみりゃがびくりと肩を震わせ、怖々といった様子で音が鳴った方向へと首を回した。 視線を向けた先は深い暗闇。 何が音を立てたのか、ただ先の望めぬ光景が広がっているばかりだった。 「さ、さくやー?」 恐る恐るといった様子で、自らが待ち望む名を暗がりへと告げてみせるが、反応は無い。 「さ、さくやー」 もう一度、何かしらの期待を込めて名前を呼んでみる。 しかしやはり、何の反応も見られなかった。 れみりゃがしょんぼりと首を俯ける。 「うー……」 がさり、と草音が鳴る。 「……っ!? ……さ、さくや……?」 慌てて顔を上げて問いを発するも、返答は無い。 静寂が場に満ちる。 再び、れみりゃの首がしょんぼりと垂れ下がる。 「うー……」 がさり、と草音が鳴る。 「っ!」 がさり、と後ろから。 「!?」 がさり、がさり、と左右から。 「な゛、な゛に゛……!??」 がさり、がさり、がさり、がさり、と四方から。 「う゛、う゛ぁ……ざ、ざぐや゛ぁ…………」 周囲から聞こえる草葉のざわめきに、れみりゃの顔がくしゃりと恐怖に歪む。 嗚咽が漏れ出し、あと少しで泣き始めるというその時、 「――――」 れみりゃの直後ろで、草を踏む音がした。 「っ……!!????」 真後ろ、とても近い位置から聞こえた足音に、れみりゃの身体が一瞬震え、次いで恐怖に強張る。 「――――」 その背中に感じる気配に、れみりゃは動けない。 まるで心臓を鷲掴みにされてしまったかのような息苦しさを味わい、浅い呼吸が口から零れた。 そんなれみりゃが感じている恐怖を知ってか知らずか、足音はれみりゃを回り込むように進んで、やがてれみりゃの目の前に一つの人影が現れた。 「!!!」 「――――」 黒い人影だった。 全身を黒の衣装で身に纏い、黒い覆面で顔を隠したその姿。 まるでこの周囲に満ちている暗闇が人の形をとって現れたかのような印象をれみりゃは覚える。 知らず、後退る。 「う゛、う゛ぁ……」 「――――」 じり、と無意識に後ろへ下がるれみりゃに対して黒い人影は大股で一歩詰め寄ると、姿勢を屈めてれみりゃと顔の高さを同じくする。 れみりゃの視界に、黒い人影の覆面が一杯に納められる。 得体の知れない相手に対する恐怖に身体が震える、精神が竦む。 「――――」 「い゛ぁ……っ!?」 急に胸が圧迫される感触、上へと流れる視界。 黒い人影がいきなり突き出した片腕によって、れみりゃは仰向けに倒れるようにと突き飛ばされた。 「……い゛や゛ぁ!」 何をされたのか、と考えるよりもこの黒い人影が怖いという思考が頭の中を満たし、慌てて立ち上がり逃げ出すべ走り出そうとするれみりゃ。 その足が払われる。 「――――」 「い゛だぃ!?」 うつ伏せに倒れ込み、その顔が土に汚れる。 目じりに浮かぶのは涙。 背後から聞こえた草を踏む音にに、足をもつらせながらも立ち上がり、改めて駆け出そうとするれみりゃ。 その視界が暗闇ではない黒に染められる。 「――――」 「!!??」 いつの間に回りこんだのか、れみりゃの視界に映るのは、鼻先まで迫った黒い人影の衣装。 上を見上げると、黒い覆面がれみりゃをただ見下ろしている。 「――――」 「う゛……う゛ぁ……」 額に掌を添えられ、押し出す様に力が加えられる。 どん、と尻餅を突かされたれみりゃに対して、屈んで視線を合わせて見せる黒い人影。 「――――」 「い゛、い゛や゛ぁ……」 恐怖が胸の内を満たす。 感情の渦は直に臨界を迎え、れみりゃはこの恐怖をどう消化するべきかも判らぬままに大声を上げて泣き出し始める。 「――――」 「い゛や゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛!!! ごわ゛ぃ゛ぃ゛い゛い゛い゛ぃ゛!!!」 「――――」 「ざぐや゛ー! ざぐや゛どごー!! ばや゛ぐぎでー!!!」 「――――」 「ばや゛ぐれ゛み゛り゛ゃを゛だずげでぇえ゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛え゛!! ざぐや゛ぶっ!!??」 頬を張られる。 振りぬいた腕を戻し、再びれみりゃを見つめ続ける黒い人影。 赤く腫れた頬を思わず押さえ、次いで滲んでくるその痛みにれみりゃの表情が歪む。 「い゛だ、い゛だい゛い゛い゛い゛!!! ざぐや゛ー! ばや゛ぐぎでざぐぶっ!!??」 頬を張られる。 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!! ざ、ざぐや゛に゛い゛い゛づけ゛ぶっ!!??」 頬を張られる。 「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛ぶっ!!??」 頬を張られる。 「ざぐや゛ー!!! ざぐや゛ー!!! ざぐや゛ざぐや゛ざぐや゛ぶっ!!??」 頬を張られる。 「――――」 「い゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! お゛う゛ち゛がえ゛り゛ゅう゛う゛う゛う゛う゛ぶっ!!??」 泣き叫ぶ事に頬を張られ、逃げ出そうとするたびに足を払われ、偶に突き飛ばされる。 真赤に腫れた量頬と、擦り剥いた肘や膝。 何度も転ばされた為か身体の彼方此方が痛みを訴え、少し前までは綺麗だったお気に入りの衣装は、今や土や草葉に汚れて見る影もなくなっていた。 「――――」 「……っく……ひっく……ぅう……」 しゃくり続けるれみりゃ。 泣き出せば、叩かれる。 逃げ出せば、転ばされる。 泣いたらまた叩かれる、と嗚咽が零れ出しそうになるのを堪え、黒い人影を見ないようにと俯いたまま痛みを堪えるれみりゃ。 「――――」 「っ…………」 先の如く姿勢を下げて、俯いたままのれみりゃを覗き込むように見上げてくる黒い人影。 もう何度も繰り返された為か、その黒い覆面を見ない様にとあらぬ方向へ視線を逸らすれみりゃ。 その視線の先に黒い人影は移動し、再び視線を合わせるべく顔を近づける。 「――――」 「…………ぅー」 もうその手は食わない、とばかりに視線を逸らしてみるれみりゃ。 と、れみりゃを見つめ続けていた黒い人影はれみりゃが馴れ始めている事を悟ったのか一転して少しばかりの距離を取り、じっとれみりゃを眺め始めた。 次は何をしようかというように、暫し考え込むような仕草をし、やがて何かを思いついたのか大股でその足を進める。 恐る恐るといった様子で黒い人影を見上げるれみりゃの瞳には恐怖の色合いが浮かんでいた。 「――――」 思い切り、れみりゃの胸板を蹴り上げる黒い人影。 「い゛ぁっ!!!???」 大きく弧を描いて地面へと叩きつけられるれみりゃ。 先ほどまでの頬を叩いたり足を払ったりする嫌がらせ染みた行動とは違う、相手を壊す為の全力の蹴り。 足先が鋭く突き刺さった胸は熱く焼け付く様な痛みを訴え、圧迫された肺の空気が口から零れる。 強かに地面に打ちつけた身体は酷く痛み、れみりゃはその赤く腫れあがった顔を苦悶に歪ませていた。 「――――」 倒れ付したれみりゃの視界に、黒い人影の足元が映る。 「――――」 「い゛ぅっ!!?」 仰向けに倒れる様にと、蹴り転がされるれみりゃ。 黒い人影はれみりゃの身体に足を掛け、その片腕を無造作に掴み上げる。 「――――」 それを、思い切り引く。 「い゛……っ!!!???」 黒い人影に掴まれた腕の肩口から、ごきん、と関節の外れる音がした。 手にしていた腕を放し、もう一方の腕を掴み取る。 「――――」 そして、もう一度。 「や゛、や゛め゛……っ!!????」 ごきん、とれみりゃの身体に音が響く。 「――――」 無言のままに、黒い人影は今度は足に手を掛ける。 れみりゃは苦悶の表情を浮べたままその意味を悟り、じたばたと両足で抵抗を試みるが、しかし、 「――――」 「……っぎ、ぃぁあ!!??」 思い切り、肉を骨ごとを握りつぶすかという程の握力で足首を握り締め、れみりゃの抵抗を圧殺する。 ごきん、と股関節から音が響き、次いで、ごきん、ともう一度同じ音が続いた。 ………… ずるり、ずるり、とれみりゃの襟首を後ろから掴んで引きずり、直傍にあった木を背もたれにして座らせる。 間接を外された四肢は力無く投げ出されており、れみりゃは間接を外された痛みからか、下唇をかんで必死に痛みを堪えていた。 「――――」 黒い人影はれみりゃの直傍に腰を降ろすと、相手の衣装に手を掛け、それを引き千切ってみせる。 シルクが裂かれ、リボンが毟られ、ボタンが弾け飛ぶ。 「…………ぁ」 咲夜がれみりゃに似合うようにと用意してくれた、お気に入りのお洋服が無残にも襤褸切れへと変貌していく。 下着すら失って曝け出された少女の柔肌は、先ほどの暴行を受けてその白い肌の彼方此方に赤黒い染みを作っていた。 外気に触れた、その穢れを知らぬ少女の体躯に宛がわれたのは、銀のナイフ。 その暗がりでもなお輝く銀光にれみりゃの目は見開かれ、胸に触れた冷たい感触にその肌は震えた。 声を上げようとする間も無く、つぷり、とその先端が沈む。 「――――」 音も無くナイフは鎖骨の間から下腹部までを通り過ぎ、一拍遅れてその軌跡をなぞる様に朱色が刻まれる。 「ひぐぅ……ぁ……!!??」 感じたのは熱い熱。 痛みなどではなく、ただ熱かった。 吸血鬼の弱点である銀による切断である。 れみりゃに刻まれた縦の朱線の切り傷は、焼き切ったかの様な傷痕を見せていた。 その縦に裂かれたれみりゃの胸板に、黒い人影の両手が突き入れられる。 「――――」 「!!!!!!!!????????」 めりめりと肉を引き剥がす音を立てながら、その胸肉をこじ開けていく黒い人影。 肉を内側から触られる感触が気持ち悪い。 突き入れた両手に対する異物感に怖気が走る。 そして何よりも、痛い。 ただ、痛い。 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!?????????????」 「――――」 ぐっちゃぐっちゃと音を立て、黒い人影はれみりゃの胸肉を掻き分けながらその両手を突き入れていく。 腑を握る。 掴んで、潰す。 掴んで、捨てる。 肋骨を引き剥がし、肺臓を握り潰し、肝臓を毟り取り、膵臓を放り捨て、腎臓を押し潰し、胃袋を捻り取り、大腸を千切り捨て、小腸を掻き出して、心臓に手を掛ける。 「い゛ぎ、あ゛っ、が、がががががががが」 泡を吹き、血を零しながら呻き声を上げ続けるれみりゃ。 脂肪と血液と肉片と腸液に汚れた手が心臓と共に引き抜かれる。 未だ微かに鼓動を繰り返すそれをれみりゃの口の中へと無理矢理押し込み、圧し潰す。 「――――」 「ぐががががががも゛ごごご」 さらに解体は続く。 未だ間接が外されたままの四肢に手を掛け、薄く皮を引き剥がし、筋に沿って肉を削ぎ落とし、やがて現れる骨を叩き砕く。 下腹部へと新たにナイフを奔らせ、やはり先ほどと同じようにその中身を蹂躙する。 最後に背骨を引き抜かれ、残ったのはズタズタに引き裂かれた四肢と中身を失った胴体。 れみりゃは身を切り刻まれる激痛に耐え切れなくなったのか白目を剥いて気絶をしており、だらしなく開かれた口からは先ほど押し込んだ心臓の肉片が涎と共に地面へと零れ落ちていた。 「――――」 ………… 東の彼方から薄らと射された日の光を感じて、れみりゃがその瞼をゆっくりと開ける。 夢を見ていたようだった。 夢を見ているようだった。 どこか虚ろな表情で目の前の風景を眺めてみるが、見覚えのある景色ではない。 陽の光を浴びてはいけませんよ、と咲夜に言われていたのを思い出して、手を翳そうとしたところでふと気付いた。 「うー?」 手が動かない。 首を動かして確認してみようと思ったが、何故か首も動かない。 どうしたんだろう、と頭に疑問符を浮かべ、ならば何時もれみりゃに優しくしてくれる咲夜に聞こうと口を開いた。 「さくやー、さくやどこー」 何時もならばすぐさま駆けつけてくれる筈の呼び声に、しかし望んだ人物は現れてくれない。 「さくやー、れみりゃがよんでるよー、はやくきてー」 ならばともう一度声を上げてみるが、やはり咲夜は現れてくれなかった。 「……うー」 何故か空虚さが胸の内を満たし、心寂しくぼんやりとしていた所で、れみりゃの視界が影で覆われた。 「う?」 首は動かないままに、精一杯視線を上に向けるれみりゃ。 すると其処には、 「――――」 「…………ぁ」 黒い人影。 「…………ぅぁ?」 刹那の内に記憶が呼び起こされる。 鮮明に光景が蘇る。 克明に激痛が蘇る。 叩かれた事も転ばされた事も突き飛ばされた事も蹴り飛ばされた事も間接を外された事も身体を切り刻まれた事もぐちゃくちゃにされてしまった事も。 瞬間、 「ぎゃあああああああああああああ!!!!! でだああああああああ!!!!!」 「――――」 どこか茫洋としていた精神は一瞬で恐慌状態へと陥り、れみりゃの思考は脇目も振らずに逃げることを選択する。 だが、 「う゛、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?? あ゛!? あ゛あ゛!!?? な゛ん゛っ!? な゛ん゛でえ゛え゛え゛え゛え゛!!???」 地を蹴って駆け出そうとして足が動かず、目の前の恐怖を振り払おうとして手が動かず、そもそも顔を逸らす事すら出来ていないという事に気付いて、れみりゃの精神は限界を迎える。 「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛づい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!?????」 さらに、少しずつ上り始めてきた太陽の光がれみりゃの顔を焼き始める。 陽に照らされた肌は焼け付くように熱く、じわじわと真赤に変色し始め、瞬く間に乾燥した表皮に罅が入り、剥がれ落ちる。。 熱に燻られた髪はやがて煙を上げて灰へと変化し、れみりゃの頭部は砂山を壊すかの如く崩れ出す。 「だ、だ、だず、だずげでざぐや゛あああああああ!!!! ざぐや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」 黒い人影は何もせず、ただ眺めているばかりだ。 「ざぐや゛!!! どござぐや゛どご!!? あ゛づい゛だずげで!!! あ゛づぐでい゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!!」 涙を流し涎を飛ばし、喉が潰れるかというほど声を張り上げる。 なんで自分がこんな目にあっているのか、どうして咲夜は助けに来てくれないのか。 激痛が思考を苛み、絶望が意識を侵食する。 現実逃避の為に磨り減っていた自己意識がさらに削り取られ、錯乱と混乱と狂乱の極地へと精神は進む。 あと少しで、れみりゃの砕けてはいけない何かが砕け散る。 もう少しで、れみりゃの砕けたら元に戻らない何かが砕け散る。 「い゛や゛あ゛あ゛あ゛!!! ごな゛い゛でえ゛え゛え゛!!! だぁべじゃう゛ぞ!!! だぁべじゃう゛ぞお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」 その何かに罅が入り、もう一押しで割れ散ってしまうという所で、不意に視界の中に変化が訪れる。 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……………………ぁ?」 目の前には、咲夜の姿。 ………… 咲夜は、眉根を下げて相手を気遣うような表情を作り、れみりゃの顔を見やっていた。 気付けば、れみりゃの視界が先ほどよりも陰っている。 先ほどまで感じていた身を崩すような陽の光も、いつの間にか届いていない。 咲夜は、れみりゃが陽の光を浴びないようにと、日傘をれみりゃの頭上へと差し出していた。 「大丈夫ですか?」 優しい、相手を安心させるような声色だった。 「…………? …………さ、さく、や……?」 数秒前まで感じていた絶望の余韻は未だ確りと残っており、どこか恐る恐るといった様子で咲夜へと語りかけるれみりゃ。 夢か、幻か。 待ち望んだ人影をすぐには現実と認識できないほどに、れみりゃの心は追い詰められていた。 「はい、そうですよ」 「ほ、ほんとに……?」 言葉の通りに本当であって欲しいと、れみりゃは縋るように声を絞り出す。 「あら、お嬢様代理には私が他の誰かに見えているのですか?」 「ち、ちがう!」 「ふふ、では、少しお待ち下さい。直に下ろして差し上げますから」 そう言って咲夜はれみりゃの頭部を上へと引き上げ始める。 れみりゃは自らの頭の中にあった異物感を初めて自覚し、奇妙な感覚に表情を歪ませる。 やがてれみりゃの視界に映ったのは、長い、一本の棒だった。 真っ直ぐ地面に突き立てられた長い棒。 その上の辺りにれみりゃは突き刺されていたのだった。 れみりゃの身体は、無い。 あの時、最後には首まで切断されてしまったのか、他のゆっくり生物のように頭部だけになってしまったれみりゃ。 「傷は痛みますか」 「……うん」 器用にも、れみりゃを片腕で胸元に抱き留める咲夜。 もう片方の手で日傘を差し、れみりゃに日差しが射さない様にと位置を調節する。 「一日も過ぎれば元に戻るでしょうから、それまでの辛抱ですよ」 ゆっくり生物は総じて僅かばかりの再生能力を持っており、さらにれみりゃは吸血鬼としての特性も有していた。 よって、このような物理的に昇天してもおかしくないような状態になったとしても、結果として生き残る事が出来る。 咲夜の言い通り、食事をとりつつ一日ほど時間が経過すれば、以前と変わりない姿を取り戻すことが出来るだろう。 「さくやー♪」 「なんでしょうか?」 「さくやさくやー♪」 「ふふっ」 咲夜の胸に抱かれた事で安堵を覚えたのか、ようやく安心した表情を見せるれみりゃ。 心が安らぎ、温かい何かで満たされる。 何も疑問に思う事は無かった。 あの黒い人影は何処に行ったのか。 どうして咲夜はれみりゃに起こった事を何も聞かないのか。 れみりゃの幼い思考ではそれらの疑問を思いつくことも無く、ただ目の前の事実だけを受け入れる。 「ぅー……」 ようやく訪れた心安らぐひと時に、れみりゃはゆっくりと瞼を下ろし始める。 頭の後ろに咲夜の暖かさと胸の鼓動を感じながら、まどろみへと誘われていくれみりゃ。 やがて零れ落ちる安息の吐息と共に、咲夜は紅魔館へと足を進め始めた。 ………… 「そういえば、お嬢様代理、知っていますか?」 「うー?」 「黒いお化けのお話です」 「ぅ゛あ゛っ!?」 「何でも、聞き分けの無い悪い子を夜に連れ去って、物凄く酷い事をしてしまうという話だそうです」 「…………!!???」 「でも、お嬢様代理は皆を困らせる事の無い良い子ですから、そんな怖いお化けが来る事もないでしょうね」 「う、うん、れみりゃはよいこだよ」 「そうですよね、プリンは一日一度、野菜はきちんと残さず食べる、転んだって一人で起き上がれて、中国や他のメイド達を困らせる事も無くて、四六時中私を呼び付けて扱き使う事の無い、良い子ですよね」 「う、うん…………」 「ちなみに、黒いお化けが来るのは一度だけではないそうです」 「!!!!??」 「悪い子が良い子に変るまで、何度も何度も連れ去っていってしまうそうですよ」 「ひぃ……っ!???」 「まあ、皆を困らせる事の無い良い子のお嬢様代理には関係の無い話かもしれませんが」 「…………ぅ、うん」 ………… 「最近、お嬢様代理がやけにおとなしいですけど、何かあったんですか?」 「さぁ? 何か怖い目にでもあったんじゃないかしら」 紅魔館は今日も平和だ。 『その11 テイクⅡ』 「…………? …………さ、さく、や……?」 「はい、そうですよ」 「ほ、ほんとに……?」 「あら、お嬢様代理には私が他の誰かに見えているのですか?」 「ち、ちがう!」 「そうでしょう、そうでしょう」 「う、うん」 「ほら、ちゃんとプリンも持ってきましたよ」 「えっ!?」 「美味しいプリンですよ」 「ぷりんー♪」 「あら、手が滑って落としてしまいました」 「あ゛っ!?」 「あら、足が滑って踏みつけてしまいました」 「あ゛っ!?」 「いえ、でも大丈夫です」 「ぅ゛?」 「もう一つ、こちらに」 「ぷ、ぷりんー♪」 「ええ、あら、これ本当に美味しいわ」 「ぇ゛え゛!!??」 「あら、私ったらうっかり食べてしまったわ」 「ぷ、ぷりん、れみりゃもたべたいな♪」 「なんてことでしょう、もう手元に一つも無いのです」 「うー……」 「しかし大丈夫です」 「う?」 「お屋敷に行けば、沢山あります」 「れみりゃ、ぷりんたべれるの?」 「ええ、食べられますとも」 「ほんと?」 「本当ですよ」 「わあい♪」 「では、取りに行ってきますので、また後ほど」 「うん♪ さくやいってらっしゃいー♪」 「それでは失礼いたします」 「あ゛づっ!?」 「…………」 「あ゛、あ゛づい゛!?」 「…………」 「あ゛! あ゛、がざ!! ざぐや゛がざ!!!」 「…………」 「ざ、ざぐや゛も゛どっでぎでえ゛!!! がざ!! がざがな゛い゛どれ゛み゛り゛ゃも゛え゛ち゛ゃう゛う゛!!!」 「…………」 「あ゛づい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!! ばい゛に゛な゛り゛ゅう゛う゛う゛う゛う゛!!!」 「…………」 「ざぐや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「…………」 「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「…………ふふふっ、あそこまでしておいて本気じゃ無いだなんて、そんな事あるわけないでしょう」 『おわれ』 駄文製作者:ななな
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2362.html
森の中を、一人の男が歩いていた。 「~~~♪」 上機嫌で鼻唄を歌う男の前に、小さな生き物が立ちふさがった。 「「ゆっくりしていってね!」」 「ゆっきゅりしていってね!」 ゆっくりれいむとまりさ、そして子れいむだった。 「おお、ゆっくりか」 「おじさんはゆっくりできるひと?」 「できないならゆっくりでていくんだぜ! ここはまりさのゆっくりぷれいすだぜ!」 「ゆっきゅちー!」 男は答える。 「もちろん、ゆっくりできるよ」 男は紙芝居屋だと言った。 「かみしばい?」 「まりさはそんなのしらないぜ!ほんとうにゆっくりできるのかだぜ!」 「本当さ。 そうそう、ゆっくり用の紙芝居もあってだね……」 男は背負ったつづらを地面に降ろし、懐紙に包んだお菓子をゆっくりの前に放ってやった。 紙芝居屋とゆっくり 「ゆゆ!おかしをくれるなんてよくできたにんげんだね!」 「うっめ!これめっちゃうっめ!」 「ゆっきゅりおいちいよ!」 男はつづらから大きな画板を取り出し、それをゆっくり達に見せた。 「これが紙芝居でね……って聞いてねえ」 ゆっくり家族がお菓子を食べ終わるまで待たねばならなかった。 まりさを筆頭に、家族はお菓子を食べ終わる。 「まあまあのかみしばいだったぜ!」 「れいみゅ、かみちばいだいちゅきだよ!!」 「いや、それは紙芝居でもなんでもなくて紙芝居の前に配るただのお菓子なんだけど……」 「なんでもいいぜ!もっとおかしをよこすんだぜ!」 「そうだよ!もっとおかしをちょうだいね!」 「ゆっきゅりー!」 「…この紙芝居が終わったら、お菓子のいっぱいあるところへ連れて行ってあげるよ?」 「ゆゆ!それならいいぜ!」 「ゆっくりかみしばいしてね!」 それでは、はじまりはじまり。 最初の一枚には、ゆっくり家族の絵。奇しくもこの家族と同じ構成だった。 「ゆゆ!かみのなかにれいむがいるよ!」 「まりさもだぜ!あかちゃんもいるぜ!」 男は朗々と物語を読み上げる。 「あるところに、ゆっくりの家族がいました。 一家はゆっくりとご飯を食べたり…」 物語はゆっくりの生態を追って進行する。 「草原でゆっくりしたり」 「すっごくゆっくりしてるよぉぉぉぉ!!」 「川で水浴びをしたり」 「おみじゅでちゅっきりだにぇー!!」 「ご飯をたべたりします」 「まりさのほどじゃないけど、りっぱなごはんだぜ!」 「おや!れみりゃに見つかってしまいました!」 「ゆびいいいいい!!!!」 「やめてね!!ゆっくりあかちゃんをはなしてね!!」 「(…かみしばいのまりさはばかだぜ!まりさだったらかぞくなんかみすててにげるぜ!)」 男はさらにめくる。必死な表情でれみりゃから逃げる家族が、画板何枚にもわたって描写される。 「ゆゆーん!!がんばっちぇーーー!!」 「れいむをゆっくりさせてあげてよぉぉぉぉ!!!!」 「あぶないんだぜ!つかまるぜ!!」 すっかり感情移入し、ぴょんぴょんと跳ねながら紙芝居に見入るゆっくり達だ。 「……家族は一生懸命に逃げました。 飛び跳ねて、飛び跳ねて…… そしてとうとう、一家はれみりゃから逃げ延びたのでした!」 「ゆっくりたすかったよ!ゆっくりしていってね!」 「れみりゃがばかでたすかったぜ……」 「れみりゃ、こわかったよぉぉぉ……」 ほっと息をつくゆっくり。 「れみりゃから逃げ延びた一家は、次に人間と出会いました」 「ゆゆ!かみしばいのおにいさんが、かみしばいのなかにもいるよ!!」 描かれている人間は、確かに紙芝居屋の男とそっくりだ。 男は次の一枚をめくる。 「え……なにこれ……?」 れいむはわが目を疑った。 画板には、男が透明な箱に泣き叫ぶゆっくりを詰め、道を歩いて行く絵が描かれている。 「人間は虐待お兄さんでした。お兄さんは家族を加工所に持って行き、おいしいお菓子にしてもらいました。 めでたしめでたし」 「なんでぇぇぇ!!!???どぼじてそうなるのぉぉぉぉぉ!!!!????」 「ゆっきゅりできないぃぃぃ!!!」 急転直下の展開に、のたうちまわるれいむと子れいむ。 「ほ…ほんもののおにいさんは、こんなひどいことをしたりしないんだぜ…?」 まりさだけが危険を察知し、後ずさりを始める。だが、男はまりさを難なく掴みあげた。 「いだいぜ!ゆっくりはなすんだぜ!?」 続いてれいむと子れいむを捕らえる。つづらから透明の板を取り出し、手早く箱に組み立てる。 三匹は狭い箱に閉じ込められてしまった。 「お前達がさっき食べたお菓子は、加工所で作ってもらったものさ。 次はお前達がお菓子になるんだよ」 「じょうだんなんだぜ!?おにいさんはじょーくがじょうずなんだぜ!?」 「冗談であるものか。お兄さんは嘘なんかつかないよ。 さあ、紙芝居は終わりだ。 最初に約束したとおり、お菓子のいっぱいあるところへ行こうね」 「やべろおおおお!!!!ぞんなごとじたらゆるざないぜ!!まりさだけでもゆっくりみのがすんだぜ!!!」 「かごうじょはいやだよ!!ゆっぐりでぎないよ!!!ゆっぐりざぜてよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 「かこうじょこわいぃぃぃぃ!!!!おそとにだちてよぉぉぉぉ!!おねがいぃぃぃぃぃ!!!!」 男はつづらの蓋を閉めた。それで、何も聞こえなくなった。 おしまい。 □ ■ □ ■ 書いた人:ゆっくり用品店”ゆ虐の友”従業員 過去の作品: 豚小屋とぷっでぃーん 豚小屋とぷっでぃーん2 エターナル冷やし饅頭 れみりゃ拘束虐待 無尽庭園 ゆっくりできない夜 ゆっくりぴこぴこ 何かがいる ぽんぽんいたいよ!ゆっくりできないよ! 踊り師とれみりゃ 小ネタ-瓶ゆっくり ゆっくりゆうぎ ゆっくりだんじょん りぇいみゅのりぇみょんに! れみ☆りゃ☆ぎゅー☆ このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1380.html
「まりしゃ!これからもずっとゆっくりしようね!」 生まれたときから一緒だった。 「まりさ!これとってもおいしんだよ!」 一緒に行動して一緒の物を食べた。 「まりさの髪ってとってもきれいだね!うらやましいよ!」 私の金髪が綺麗だといつもほめてくれた。 「まりさ・・・!がんばってかわいい子供をつくろうね!」 家族になることを決めたときから大家族を目指していた。 「まりさは狩りが上手だね!いつもごちそうありがとう!」 子供が生まれてからは持ち前の運動神経でたくさんの虫や木の実を巣に持って帰った。 「まりさ!だいすきだよ!」 いつも言ってくれた愛の言葉。いっつもいっつも。 私だって好きだった。愛していた。嫌いだったわけが無い。 確かに喧嘩もしたしそっぽ向いたりもしたけど傷つけたいなんて思わなかった。ましてや殺したいなんて思うわけが無い。 思ってなかったのに・・・見捨てた。私は自分の子供を、れいむを見捨てた。見捨ててしまった・・・!!! それに嘘もついた。些細だったはずのその嘘はあの時、子供達にとって唯一の希望だった。 見られもした。顔を見られ、背中も見られた。 違うんだよ。違うんだって。別に嘘は・・・言ったけど・・・あの状況とは違ったから。 仕方ないじゃない・・!私がいてどうなったの?ただ一緒に食われるだけじゃない!助けられるわけが無かったんだよ!! そんな目で私を見ても無駄!呼びかけても無駄!助かろうとすることが無駄! じゃあ私が逃げたことは無駄じゃなかったの? え・・・?なんで?なんでそういうことぉおおおおおおお!!!! 「無駄なわけないよおおおおぉ!!!そんなこと言わないでよおぉおおおおお!!!」 私とれいむは赤ん坊の頃から仲がよくいつも一緒に遊んでいた。 他の子とも遊んではいたけどお互い二人きりで遊ぶのが一番楽しかった。 遊んでいる途中に食べ物を見つけたりすれば二人仲良くそれを分け合った。 れいむは私の周りのゆっくりの中で唯一私の髪をほめてくれた。人間らしい感情だなどと馬鹿にされるかもしれないが そのれいむの言葉は私の体にとても響いた。 ゆっくりという簡単な生き物にとってそういう縁は次第に愛へと変わっていく。 月日が流れるのは早く、私たちが成体へと育った頃にはお互いにそういう意識をし合っていた。 その後の展開は早かった。ご多分に漏れず、私とれいむも将来を誓い合う仲へと発展していた。 交尾、妊娠が終わりれいむの頭に子供が生り始めると私たちは将来の子供達とのゆっくりライフを語り合った。 子供は何匹欲しいだとか、巣はどこに作ろうかとか、人間達に対する意識の持ち方を教えてあげようとか。 突拍子も無い夢や目標を語る私にれいむはいつも微笑んでくれた。それは赤ん坊だった頃から変わること無い笑顔だった。 一ヶ月後、新しく新調した巣には元気な子供達が20匹程騒いでいた。 特別賢くもないが格段に馬鹿なわけでもない、ただ無邪気な子ゆっくり達を見て私は毎日癒された。 母親であるれいむは子供達の世話を必死にこなしていた。 好奇心に負けそうになり巣から出そうになる子供を止めたり、泣き止まない子供に歌を歌ってあげる等 その姿は正に母親の鏡だった。 一方の私はというとひたすら食料集め、狩りに力を注いでいた。 もともと運動は得意だったから普通のゆっくりよりも多くの珍しいごちそうを巣へと運んでいた。 私がそのごちそうの山を運ぶ度にれいむと子供達は目を輝かせて私とごちそうを交互に見比べたのだった。 おいしそうに虫や木の実をほおばる私の家族。 それを見るだけでもまた、私の狩りの疲れはスーッととれていった。 そう、私にとっては家族の幸せが何よりの食事だったのだ。そうだ。そのはずだ。 だからこそ私は体が泥だらけになってもおいしいごちそうを持ってきたのだ。ほらね。間違ってない。 そんな私をれいむはもちろんのこと、子供達も尊敬していた。当たり前だけどね。 「おとーさんはすごいなあ~。こんなにおいしい食べ物をいつもとってくるんだもん!」 「湖で遊んでた子達にまりさ達のお食事の話をしたらみんなだらだらよだれを垂らしてんだよ!」 「ねーどうしておとーさんはそんなにすごいの?」 子供達はいつも私に質問をしてきた。それは大きくなったら私のようになりたいという思いからきていたのだろう。 「ゆっ!それはね~」 軽い気持ちだった。別に信じてもそんな場面が実際にあるわけないとタカをくくっていたのだ。 「おとーさんはれみりゃ二匹をいっぺんに倒してゆっくりと食べことがあるからだよ~!」 「ほんとー!?」 「ゆぅぅ!!すごいよおとーさん!」 「れいむ今度友達に自慢するよ!」 「だめだよ!これを知られるとれみりゃが嫉妬してその子達を襲っちゃうかもしれないからね!この話は誰にも内緒だよ!」 「ゆぅ・・・わかったよ、おかーさんにもいわないよ!」 「誰にも内緒だよ!」 「ゆっ!みんな良い子だね!」 これでこの嘘は誰にもバレずに私は子供達からより多くの尊敬を集めることができる。 親ならば一度はやるであろうそんな行為。ただそれだけのちょっとした嘘だった。 あの日。 私はいつも通り巣からちょっと遠出し、子供達のためにごちそうを集めていた。子供達の為に。 夕方、捕食種も出てくるこの時間にまともなゆっくりは出歩いたりはしない。 だが、私は捕食種からも逃げ切れるだけの逃げ足を持っているのでこの時間ギリギリまで食事を集めていた。 それでももう日も暮れはじめている。ここが瀬戸際だ。 私は口の中いっぱいにごちそうを詰め込み家路につこうとした。そのときだった。あれは、私の5m程先を飛んでいた。 「「「う~う~かりかり~♪」」」 捕食種の代名詞ゆっくりれみりゃ。通称れみりゃ。我がままで団体行動がまともにとれないくせに他のゆっくり種よりも 攻撃性、腕力がある為に捕食種として幅をきかせている、正直腹立たしい生き物だ。 そんなれみりゃが・・三体?どうして? 野生のれみりゃなら一匹でも十分食事は確保できるはず。一匹で行動する方が手慣れているれみりゃが三匹とはいえ群れを作るなんて。 だがその時はそんなことは大して気にならなかった。 重要なのは彼らが私に気づかずにどこかに消えてくれることだった。 息をひそめてれみりゃが見えなくなるのを待った。 人でいう五分程だろうか。れみりゃ達は私の視界から完璧に消えた。 今日も生き残ることができた、緊張から解き放たれた私はふぅと一息吐いた。口の中から虫の足がひょっこりと出てくる。 ああそうだ、このごちそうを早く子供達とれいむに食べさせてあげないと。私も早く帰らないと。 木陰から這い出た私は再び家路につきはじめた。 ここで気づく。今私が進んでいる道。この道は・・・あああこの家路はああああ 今れみりゃ達が進んでいった道だああああああああああ!!!! 私は急ごうとした。れみりゃ達よりも速く家に着こうとした。だけど・・だけどお!!! 進んだられみりゃが前にいるぅ!!三匹もいるから回り込んでたら気配で気づかれるよぉ!!! 私はその場で立ちすくんだ。進めばれみりゃ、止まれば家族が・・・ どうしようどうしようどうすればどうすればどうすれば ああああああああああああああああああああああ 待とう。 今行ったられみりゃに食べられる。そしたら家族には何も伝えられない。そうだ、この判断は正しい。 普通のゆっくりには到底思いつかない冷静な判断だ。そうだそうに違いない。 れいむも子供達も同じことを言うだろう。よし待とう、そうしよう。 こうして私はその場所ですこーしだけゆっくりした。別に怖かったわけではない。これは作戦だ。 家に着いたばかりのれみりゃ達の虚をつく。私ならできる。そうだあれは作戦だったのだ。そうに違いない。 だから私が一眠りしてしまったのも作戦だったのだ。体力温存の為の作戦。そうに違いない。 目を覚ますと外はもう夜だった。綺麗な月が出ていたこと、それが三日月であったことは覚えている。 ただ、そこからどうやって家族のもとへ行ったのかは覚えていない。 気づいた時には体中傷だらけで自分の巣である木から10m程離れた所の木陰にうずくまっていた。 私は静かに巣の様子を覗いた。あのれみりゃ達がここをスルーしてくれていることを願って。 だがそこには奴ら三匹が当然であるかのように立っていた。 そして聞こえる笑い声、叫び声、泣き声。 あぁ、一体何匹が犠牲になったんだろうか。せめてその中にれいむは、れいむだけはいないことを願うしか無い。 暗い夜が三日月の光のおかげで幾らか明るんでいる。 いつもだったら子供達と一緒に軽くこの辺をお散歩しようと思う程のいい夜だった。 だが今日は違う。一緒にお散歩ができる子供達が今や1、2、3、・・・ あれ?全員確認できる。子供達どころかれいむもはっきりと生きている。 じゃあいったいれみりゃ達は何をしているんだ。まさか遊びにきているわけではないだろうに。 この瞬間、私はさっき聞こえていた叫び声と泣き声を完璧に忘れていた。 その二つの声が遊んでいる時に聞こえてくるわけが無いのに。 しかし、その甘い考えも次に聞こえてきた悲鳴で軽く吹き飛ぶことになった。 「いやあああああ!!!おくちがあああああああ!!!」 「う~!お口もっとかぱかぱしろ~!」 その悲鳴はれみりゃの一匹が私の子供の口を限界以上に開こうとした時に我が子から発せられたモノだった。 一体そんなことをして何になるのか。れみりゃは執拗に子供の口をカバの様にしようとしているらしい。 「いはあああああああ!!!おふひがはけふうううううう!!!」 「なれ~!かばさんになれ~!う~!!」 「ふ、ふりだよ~!ほれいほうひらはなひよぉ~!!」 「わっからな~い♪なにいってるのかわっからな~い♪う~!うぅぅぅぅ~!うっ!!」 あぁ!とうとう力任せにれみりゃが子供の口を引き裂いた!れみりゃの手にピピッと餡子が小さく飛び散る。 当然子供はその痛みに黙って耐えられるわけが無い・・ 「いはああああああんんんっっむごああはあああああんんっむごはあああああ!!!!」 「うっう~!ぱかぱかぱかぱか~♪」 叫び続ける子供におかまい無しに口をぱかぱかと閉じたり開いたりさせるれみりゃ。 止むことの無い子供の叫び声がれみりゃの手によって滑稽な声へと変わっていく。 「う~あきた~う~」 もう飽きたのか子供の口の開閉を止めるれみりゃ。そのままここから立ち去ってほしい。 そんな願いが届くわけが無いことは今日彼らを見たときから分かっていた。 「おめめぶちゅ!」 おもむろにれみりゃは口裂けの子供の眼に指二本を差し込んだ。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 まるでお化け提灯の様に口が開きっぱなしの子供にはそれ以外の叫び声ができなかった。 その痛みが私の耳を通して共感できる程に、その叫び声は痛ましい。 「ぱかぱかがこれでりゃくりゃく~!れみりゃてんさい!う~!!」 眼に指を引っかけることができるので握る手間が省けた、ただそれだけで私の子供の眼を奪ったというのか・・・ 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おがあああざあああんはあ゛あ゛あ゛あ゛!!!おどーざあああああんはあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 やめて。呼ばないで。今は助けにいけない。まだそのチャンスはきていない。それが来るまでここで待たなきゃいけない。 「おどおおおおざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛んんはあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 無理、助けにいけない。その場の空気がまだ適した物じゃない。 「どおおおおおおおおおおざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛はあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 無理だって・・・!気づいてよ・・!れみりゃ三匹が戦闘態勢にすぐにはいれるこの・・・並び・・布陣?そう、布陣。 それがしっかりしている今は助けにいけない。今は耐えて・・・! 「どお゛お゛お゛お゛お゛はあああああ・・・・」 声が止んだ。 「う~ねむっちゃった~」 「じゃあつっぎ~♪」 「いやああああ!!どおしでええええ!!!どおしてこんなことするのおおおおおお!!?」 れいむの叫び声が聞こえる!そうだ、何ですぐ食べないでこんなことをわざわざ三匹でするんだ! 「にんげんにきいた~♪」 「たっくさんいじめると~ゆっくりはとっってもおいしくなるって~♪」 「だかられみりゃたちでいじめるの~♪おいしいゆっくりあまあまするため~♪」 そんな・・・私たちにそんな恐ろしい呪いの様な特徴があったなんて・・・ ということはあそこにいる皆今の子供みたいに酷い目にあうことになるの・・? 改めて目を凝らす。 10匹しっかりといる子供の五匹はもう既に大地に寝そべっている。 皆どこかしらからか餡子を少し垂れ流している。 あれで生きてるなんて。余程このれみりゃ達は手慣れているのだろう。 じゃあ、私が今あそこに躍り出ていったら。 まだその時期じゃない。チャンスを待つんだ、チャンスを。 「おねがい!もうやめて!れいむがなんでもしますからぁ!!!」 え?何いってるのれいむ。そんなこと言ったら! 「なんでも?」 「なんでもぉ?」 「なんでも~♪」 あああほら調子乗ってきたじゃないかああああああ やめてれいむ。れいむがいなくなったらそれこそ耐えられない。それだけはだめなんだよ。それだけは。 他の子達は・・・いや、それは言ってはいけない。それも言ってはいけないんだ。 「おくちあ~んしておくち!」 「ゆっ・・!わかったよ!あ~ん!」 「よいしょ!」 あっ、一匹のれみりゃが手近にあった、いや、いた私の子供をぎゅっと掴んだ。 「ぐゆっ!?ななななに!?ゆっくりはなしてね!」 「ぽーい!!」 当然れみりゃは子供の声に耳も貸さない。そのまま思いっきりれいむの口の中に子供を放り投げた。 「うごぇ!!?むぐぅうう!!!」 口に入った途端他のれみりゃがれいむの口を強く抑えた。まさか共食いさせる気じゃあ・・・ 「うー!これかられみりゃ達がれいむをぼこぼこにするよ!お口の中の子を潰さなかったられいむのかち~」 「でも潰したられ見りゃたちの勝ち~!」 「お口から子供だしたら、そのときはすぐにあまあま~ね♪」 「!!!!!!」 れれれれいむをぼこぼこにする!? いや、やめてえ!!そんなことしてなんになるのお!! 「それじゃあすたーとぉ!!!」 「・・・!んぐぅ!んぐっ。んぎぃ!!?んごぉ!!」 「ぼっこぼこ~ぼっこぼこ~れいむのおかおをぼっこぼこ~♪」 「おいしくな~れ!おいしくな~れ!」 三匹がかりで前後左右に均等に拳をれいむに沈めていくれみりゃ達。 口の中の子供に多少の衝撃が伝わるのかうっすらと幼い悲鳴が聞こえてくる。 「ゆぎぃ!?おがーしゃんなにぃ!!?だして!暗いよ!ゆっくりできないし・・ひぃっ!?」 れみりゃの拳がどずんどずんと音を立てる。最初よりペースを上げているのだろう。 人間にとってはとるにたらないその幼い攻撃も、れいむやその子供にとってはまるで鉄球の様に響くのだろう。 「おがーさああん!!くらいよお!!うるさいよお!!だしてええええ!!」 くぐもった声は止まるのをやめない。その情けない声は助けを呼んでいるだけだ。 これだから子供はだめなんだ。私だったら隙をみてすかさずれみりゃ達に攻撃を仕掛けるだろうに。 そう、私だったらあの真正面のれみりゃが手を引いた瞬間に・・・ 「おどーざあああんん!!!おどーざあああああん!!!おどおおおおおおおざああああああああんん!!!!」 「おとーさん・・・そうだよ!おとーさんがきたらお前らなんかやっつけてもらうんだからね!」 「おとーさんは強いんだよ!れみりゃ達なんてぽんぽーんだよ!」 「お前らなんか明日の朝ご飯になっちゃえ!」 れいむが子供達に訴えかける様に睨みつけている。その顔は今まで私ですら見たことが無い程の緊張感と喪失感に満ちている。 れみりゃ達の手が止まった。 「れみりゃたちよりつよい~?」 「ぽんぽ~ん?」 「あしたのあさごは~ん?」 「「「それじゃ~あ!」」」 各々のれみりゃ達が一匹ずつ子供達を握り 「「「今日の夕御飯を~!!」」」 「いや!やめてえ!うんぐ!!?」 それを・・・あああ、れいむの口の中に放り込んでぇえ 「「「はやめにするう~!」」」 三匹でまた殴りはじめたぁ!!! 「うぐぅ!?おぶ!!うぎい!ぐんぐ!!ぐうううううううう!!!」 「いやあ!!暗い狭い!!なんで入ってきたのお!!?びゅ!?」 「いだいいい!ちゅぶれりゅううううう!!」 「おがーさんのおお!!!おがーざんの歯がささっだああああ!!!」 「れいむのりぼんがあ!!おかーさんの喉のんぎゅ!!?べへぇ!?れいむあんこがぁぁぁ!!!」 さっきの4倍の体積がれいむのお口の中に入り込んでる・・・! あれじゃあ子供達どころかれいむの餡子もでてきちゃうよおお!! 動くしか無い。作戦なんてどうでもいい。ただれいむを助けたい!ここで止まったらゆっくりがすたる。 いくぞまりさぁ!これがほんとのゆっくりだまし・・ 「あぁ!おとーさんだぁ!!!」 え 「ゆっ!?おとーさん?」 ばか 「本当だ、おとーさんだあ!!」 バカァ 「おとーさん!はやくれみりゃ達を明日のご飯にしちゃってね!!」 馬鹿馬鹿馬鹿ぁ・・・ 「うっう~♪おっとーさんを~みっけたみっけた~!」 バカアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!! 倒す前にばれっちゃったじゃないかあああ!!こんなんで倒せるわけないよおおおお!!!! これだから馬鹿な子供はだいっきらいなんだよ!!しね!さっさと死んでね!!! でも、れいむ、れいむをたすけないと!! 「・・・んぐ・・!むぃさぁぁ・・・」 れいむ・・・口を開けられないのにそれでもまりさに助けを求めてるんだね。わかったよ、今すぐ 「おとーさん!おかーさんの口かられいむ達を助けてね!」 「はやく!はやくだしてぇ!」 「でてるぅ!まりさの体からあんこがぁ!!」 「れいむのぉお!れいむのリボンがぁああ!!!」 うるさいよ!!馬鹿な子供達は少し黙っててね! そもそもお前達が騒ぐからタイミングを失ったんだよ!そのままれいむに食べられちゃってね! 「がお~た~べちゃ~うぞ~♪」 うわあああああきたあああああああ!!! 作戦作戦作戦作戦さくせんさくせんさくせんさくせんサクセンサクセンサクセンサクセンskすかうsっkすあkすえかう 「「「がお~!!!」」」 むりいぃいぃぃぃぃ!!!!いやあああああああああああああああああ!!! 「おとーさん!?」 「どーじでにげるのおおおおおお!!!」 「まっておとーさん!まってええええ!!!!」 「・・・・・・!!!!むぃ、むぃさあ!?まりさあ!!」 「あ!おくちあけたあ!えいっ♪」 「ゆぎゅう!?おがあざ・・・」 「ああああああ!!!れいむのおおおおおおお!!!」 走りながら気持ちを落ち着けていくまりさの後ろで二つの悲鳴が聞こえた。 ああ、れいむの悲鳴も聞こえる。でも大丈夫。悲鳴が聞こえるって言うのは生きてるってこと。 今はまず自分の安全の確保だ。 「またみえた!えいっ!」 「いぎゃあ!!いやああああああ!!!」 「おがーざんおくちしべてえ!!!」 「はやくはやくぅう!!!」 「ああああああああああ・・・」 「うっう~あまあm・・・・」 声が次第に遠ざかっていく。待っててねれいむ。きっと助けるからきっと。 「まてぇ~オトーサーン♪」 「朝ご飯にしてみろ~♪」 だれかたすけてぇ!!!だれかぁ!!!! 二匹のれみりゃがまりさをおってくるよぉ!! こんなに頑張ってるのにあの二匹はまるで諦めない。羽で空を飛んでるのに森の木々をすいすい避けていく。 ずるいずるい!まりさもお空を飛んでにげたいよぉ!! 今まりさの願いが叶うなら翼をください!ゆっくりの神様ぁ!! ゆっ!これは・・・!目の前の景色は、神様が願いを叶えてくれたのだろうか。そうこれなら飛べる、とても高く素早く!でも・・・ 崖じゃあ生きられないよぉ!!がみざまぁ!!! 「うっう~おいつめたぞぉ~!」 「めいどのじかんだぞぉ~!」 追いつめられたぁ!! おねがいじまず!子供達はあげるからまりさはたべないでくだざい!おねがいじまず! 「子供達はたべちゃうよ~」 「でもおとーさんもたべちゃうよ~」 やめでえ!!まりさはおいしくないからあ!ウンコみたいな味がするからあ! 「じゃあおとーさんのいじめ方はぁ」 「馬乗りでぼっこぼこ!」 いやあ!だずげでえ!!うぎゅぅ!?なにもみえないよぉ!!? 「あごの方は短くて乗れないからお目めに乗っかってぼっこぼこ!」 いやああああああああああああああ!!!!いやだあああああああああああああああああああああ!!!!! あれ?なぐられない? どうしたんだろ。怖くて目をつぶっちゃったけど今は暗闇を作った元凶も消えてみるみたい。 何か聞こえる。ちょっと目を開けてみよう。フェイントだったらイヤだよぉ・・・ 「・・・・ぎゃ・・・・ああああ・・・・・」 ゆっ!?れみりゃがれいむの上で痛がってる!? 叫んでるみたいだけどれみりゃの両足がまりさの耳をちょうど押さえつけていた何を言ってるのか分からないよ。 あ、どいた。 「いっぎゃああああああ!!!おめめがあぁ!!」れみりゃのお目めがぁ!!!!!」 叫んでいるれみりゃが手で押さえている目を見るとそこはぶくっと大きく腫れている。 一体何が怒ったのか。私は今までに出したことが無い様な大声で叫んだだけだ。それがダメージにでもなったというのだろうか。 その謎は私の足下にある物が解決してくれた。 そこにはお口に入れてたごちそうの数々、山菜、木の実、ダンゴムシ、ムカデ。 「ささったぁ!!おめめに虫さんがささったぁ!!!」 そう、れみりゃの目には私が叫び声とともに勢いよく吐き出したムカデの顎がうまい具合に刺さったのだ。 「う・・うぅ~?う・・うー・・・!」 今までに無い程騒ぎわめく仲間に戸惑いを隠せないもう一匹のれみりゃ。 チャンスだ。これこそ私が求めていた絶好の機会だった。 静かにもう一匹のれみりゃの背後に回った私は絶好の機会の中の最高の機会をじっと待った。 声を出しては終わりだ。だが心配は無い。私はあの子供達の様に愚かでは無いのだから。 そして今、二匹のれみりゃが私と崖の直線上に揃った。よしっ! 「ゆっくりしねええええええええ!!!!」 スッ !?交わされた!馬鹿な!タイミングはばっちりだったのになんで!? 「うっう~ば~か!そんな大声だしたら・・・」 「いだいいいい!!!たずけでえええ!!!」 「う~!じゃま!どいてえ!!うー!!」 眼を押さえるれみりゃがもう一匹のれみりゃにまとわりつく。未だに痛みは引かないらしい。 むしろ激しくなっているのだろうか。その動きはこの場所の地形を全く忘れた動きだった。 「いやー!はなしてえ!!押さないでえ!いやー!!」 「いだいよお!!れみりゃのおめめだれかなおしてえ!!!ああ・・・ああああああ」 「「あああああああああああ!!!!!」」 抱き合ったまま奈落へと吸い込まれていく二匹。 片方が飛ぶことを忘れたままもう一匹に抱きついている為互いに空を飛ばずに仲良く落ちていった。 しかし・・・夢ではないだろうか。このゆっくりまりさである私が捕食種二匹相手に見事に勝ち星を奪ったのだ。 そうこれは、あの、子供達についた、些細な嘘が、現実になった瞬間なのだ・・・ ぃぃぃいやったあああ!!!勝ったよれいむ!みんな!まりさはとってもつよいつよいおとーさんだよ! ゆぅー!これでれいむにも嘘つきだなんて思われないよ!子供達もよりいっそう喜んでくれるだろうね! たのしみだなあ、ゆっゆっー!! 『すごいなあーおとーさん!』 『れいむ今度ぱちゅりーにじまんしちゃお!』 『まりさもおとーさんみたいになりたいよぉ!』 『さすがまりさだね、かっこいいよ!』 ゆっふっふ。皆の喜ぶ姿が目に浮かぶよぉ。 ただいまぁれいむぅ!ゆっ? 現実に戻された。 私の家はいつもより茶色な土壌、気にこびりついた子供達、こちら側に背中を向けて直立しているれいむと一緒に私を出迎えてくれた。 直立・・・いやまて、本当にれいむは生きているのだろうか。既に顔がないということもあり得る。 私は酷く冷静なままれいむの顔をゆっくりと直視しにいった。そこには あった。いつもとは違い歪にぼこぼこになったれいむの顔が私をしっかりと見つめていた。 た、ただいま。れいむ 私はなるべくれいむの体に差し障りの無い様に静かに帰宅の言葉をつぶやいた。 いつもの様にゆっくりしていってねと言っては本能のままに体を動かしてしまうかもしれないと思ったからだ。 今のれいむの状態ではそれだけでもダメージになりかねない。いやあ、賢い私。 「どうして」 ん? 「どうして帰ってきたの」 何を言っているのか。ここは私たちの家だから帰ってきたのだ。 「どうして帰ってこれたの」 また馬鹿なことを、いつも住んでいるんだから道ぐらい当然知っている。いったいどうしたっていうんだ。 「どうしてかえってこれたのおおおおお!!!!」 えっ!? 「あんなに子供達がまりさのことを信頼してたのになんであそこで逃げたのぉ!!! 皆おとーさんおとーさんって必死にさけんでたのにぃ!!!それなのにぃ・・・ぞれなのにぃ!!!!」 ま、まってれいむ。口から餡子が飛んでるよ。 あれ?れいむ、口の中は別に怪我してない。ってことは・・・ 「はじめてきいたよ!まりさ、れみりゃを二匹も倒したことがあるんだって!?」 ゆっ!どうしてしってるの!?そうだよ、さっきそこの崖で見事に私が、 「なんでそんな嘘をこどもたちについたのお!!」 ゆっ!? 「あんな嘘を聞いてなかったらまだ希望を持たずに楽になれたろうに・・・! あんな嘘のせいで子供達は余計な期待を抱いてしまったんだよ!! れみりゃ達に敵うはずのおとーさんがなんで私たちをおいて逃げたの? おとーさんは私たちのことが嫌いなの?って叫びながられいむに聞いてたよ!!!」 いや、嘘じゃないよ!まりさは本当に 「みんな!みんなぁ!!!みんなしんじゃっだああああ!!!れいむのこどもだぢいいいいい!!! まりさが助けにきてくれればどうにかなったかもしれないのにぃ!!!まりさながおとりになってくれればぁ!!!」 な、なんてことを言うの!!ひどいよれいむ!! 「まりさなんて食べられちゃえばよかったんだぁ!!!家族を守れないまりさなんて大嫌いだ!! しねぇ!!!ゆっくりしねえええええ!!!」 なんて言ったの今。 しね?れいむがまりさにむかってしね? 違う・・・そんなことれいむは言わない。そんなひどいことれいむは言わない。 そんな汚いことをれいむはいわない。絶対に言わない,れいむは言わない。 一緒に遊んだれいむは 一緒にごはんをたべたれいむは 髪をほめてくれたれいむは 家族になったれいむは 狩りをほめてくれたれいむは 大好きだと言ってくれたれいむは そんなこと・・・そんなことおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 「おまえはれいむじゃない!!まりさのれいむなんかじゃない!!しねえ!!さっさとしねええ!!!!!」 ぼこぼこのれいむに体当たりをかましその上でストピングを始めるまりさ。 もうれいむ自身に抵抗する力は無かった。 「おまえは偽物だ!かえせ!!本物のれいむをかえせえ!!」 「そう思ってれば!まりさは一生そうやって自分の都合のいい様に生きていけば!!?」 「だまれえ!!れいむの偽物はだまってしねえええ!!!」 「ごめんね、皆・・・こんなおとーさんを選んだれいむが馬鹿だったよ・・・」 「だまれぇ・・・!だまれえええええ!!!!」 「次に生まれるときはぱちゅりーと結婚しようね。」 「だまってよおおおおおおおおおおお!!!!!!」 れいむが潰されているにもかかわらず、まりさとれいむとの会話はまるで電話での会話の様にスムーズに進んだ。 1時間後、まりさの足下には餡子一粒の隆起さえ見当たらなかった。 それでもストピングを続けるまりさは気づかない。気づけない。 「だまれ!だまれ!!だまれえええ!!!」 誰に言ってるのか。少なくとも後ろのモノに対してではなかった。 「だまってってばあああああああ!!!れいむうううううううう!!!!」 崖の下の惨状を見たそのモノはまりさを食料とすら思っていない。 ただ必死に叫び続けるまりさをどうやって苦しめるか考えていた。 そうだ、こいつがはねるのをやめたら・・・ 「だまってえええええええええ!!!おねがいいいいいいいいいいいい!!!!」 半日後、まりさは自分の嘘を完璧に立証することになる。 まりさが勝てたのはやはり二匹までだったのだ。 完 このSSに感想を付ける