約 2,714,828 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/288.html
「宴の幕開け」 走る、走る。 影を探して、ひた走る。 「はっ、くっ……!」 すでに息は上がり、普段使われない足の筋肉が悲鳴をあげている。 浴衣の裾を翻し、ただ彼女は走り続けていた 後ろを振り返る余裕など当の昔に失せている。 しかし背後に迫る足音が、振り返らずとも何かが彼女を追って来ている事を明確に告げていた。 太陽は頂点を過ぎたばかり、まだ陽はさんさんと降り注いでいる時刻。 そしてこんな時にこそ現れるはずの騎士の姿は未だなく、彼女はたった一人で走り続けていた。 それもそのはず、今まで彼女のパートナーである首無し騎士が姿を現すのは陽が落ちた闇の中でのみでしかなかった。 元が死んだ身である騎士にとって、清浄な日差しはその身を焦がす危険な光でしかないのだ。 その上いかに騎士が強力な都市伝説とは言え、その契約者たる彼女もまた力を手に入れられるわけではなかった。 都市伝説の性質によっては、確かに契約者本人もまたその都市伝説に由来する力を手にできる事もある。 しかし首無しの騎士はそういった都市伝説とは全く違う系統のもの――その筋では≪使役系≫、あるいは≪操作系≫などと呼ばれる部類に入る都市伝説であった。 つまり、彼女が契約によって得られる恩恵は全くないのだ。 そんな所以で、彼女は陽の光の差し込まない場所を探して走り続けていた。 以前昼間にそういった都市伝説に襲われた時も、運よく陽が差さない場所にいたおかげで間一髪騎士の助けを得る事ができたのだ。 ならば今回も影に覆われた場所さえ見つけられれば……それだけを一心に、彼女は足を動かし続ける。 「……あっ!」 そんな矢先、下駄が段差か何かに引っかかったのか、とたんに膝ががくりと落ちる。 その拍子に身体は前方へと投げ出され、次の瞬間彼女の身体はアスファルトの地面に叩きつけられていた。 圧迫された胸から一気に空気が押し出され、一瞬息が詰まる。 こんなところでつまづいているわけにはいかない、でないと――でないと! なんとか震える手をついて身体を起こすが、同時にこちらに駆けて来る足音が耳に入ってくる。 きっと顔を上げれば、目に飛び込んでくるのは幾人もの黒服の男達。 確かに祭りの間中にも黒服は目にしていたが、それらとはまったく違う、異質なオーラを纏う彼らを目の前にして彼女はびくりと身をすくませた。 せめて近くに日陰は……そう願って辺りを見回すが、運悪く彼女が倒れたのは高い建物のない路地の真ん中。 いつしか彼らはカツカツと靴音を響かせ、ついに男達は彼女を取り囲んだ。 「一体……いったい、なんなんですかあなたたちは!」 静かに己を見下ろす彼らをにらみつけ、彼女は叫ぶ。 さっきまでは、確かに町は祭りで賑わっていた。 それが一瞬空気がざわめいたかと思った次の瞬間、空気は徐々にゆがみ始めたのだ。 そしてそれと時を同じくして、彼ら黒服たちは次々と現れたのだった。 しかし黒服達は彼女の叫びを、うっすらと涙を浮かべて睨みつける彼女の瞳にも一切気にも留めないのか、いずれも口を開こうしない。 無表情に、ただ自らの落とした影に埋もれた彼女を見つめている。 しかしそれもつかの間の事、遅れて現われた最後の一人が取り囲む輪に加わった次の瞬間、彼らは彼女を捕らえようと一斉に手を伸ばした。 「…………っ」 己の運命もついにここまでかと、彼女はぎゅっと目を瞑る。 きっとあの数多の手は、私を掴んでどこかへ引きずり込んでしまうのだ。 そう思って、身をこわばらせた次の瞬間。 「………………!」 一陣の風が、吹きぬけた。 「――!」 ざくりと肉を切る音、そしてばたばたと何かが倒れる音。 思いもよらぬ音にたまらず目を開けば、飛び込んできたのはたなびくマントと大きな背中。 そして、抜き放たれた見事な両刃の剣を持つのは。 「――――ホロウさん!」 「………………」 首無しの騎士は彼女に答えるでもなく、ただ剣を振るう。 その一振りで目の前に立っていた黒服の首が飛び、翻す刃でもう一人の胸を貫く。 空気が重い。 張り詰めた、それでいて肌があわ立つ様な感覚を覚えて彼女はぞくりと身を震わせた。 ああ、まずい。 首無しの騎士が、首狩りの騎士に変わる証が解き放たれてしまった。 首無しの騎士、その姿は見るもの全てに明確な「死」のビジョンを抱かせる。 明らかな「死」の姿に人々は恐れを覚え、そして不完全な姿の彼は、やがて自らの首を探すだろうという文末を付け加えさせた。 それが今、首狩りの騎士が撒き散らす≪恐怖≫の正体。 己に仇なす者の首を狩り尽くすまで、騎士の剣は振るわれ続けるのみ。 久々に目にした首狩りの騎士の姿を、ただ彼女は眺めるしかできなかった。 怒りのままに振るわれる剣は次々と彼らの首をとらえ、いつしかそこに立つのは首無しの騎士のみであった。 やがて黒服たちが完全に塵となったのを確認すると、彼は静かに剣を納めて振り返る。 「よ、よかったあ……でもホロウさん、一体どうやって……」 重い空気が緩んだのと同時にほっと安堵の息をついた彼女は、そこではたと思い出す。 もうだめだと目をつむる瞬間、己に落ちていたのは……。 「ま、まさかあの影から?」 「…………」 その通り、と言うかの様に騎士はぽんと彼女の頭に手を置く。 たったそれだけの動作に、彼女はようやく心からほっとする事ができたのだった。 「……って、ホロウさん! ここ、今は影が……!」 そう、黒服たちがいなくなった今、ここは完全に日が照りつける屋外である。 慌てて彼女が騎士の身体に目をやれば、そこかしこにまるで焦げた様な黒ずみの後がぽつぽつと見受けられる。 それはゆっくりと、しかし確実に広がり続けている。 「だ、ダメですよホロウさん! 戻ってください、でないと……!」 「…………………………」 そう彼女が口にすると、途端に空気が重くなる。 いつもならばここで彼女が折れているのだが、今ばかりはそういうわけには行かない。 騎士としてはなんとしても彼女のそばにいたいのだろうが、それを望めば彼が消えてしまうのは明白だった。 「この辺りにいた連中はあらかたホロウさんがやっつけてくれました、だから大丈夫です! 戻ってください!」 「………………………………」 きっぱりとそう告げても、騎士は動こうとしない。 その間にも、黒い焦げがまた一つ、鎧の上に現われて。 「お願いです、ホロウさん……ホロウさんが消えてしまったら元も子もないんです。あれを倒せるのは私じゃ無理です、だから、戻ってください。 私……ホロウさんに消えて欲しくないんです…………」 己を優しく撫でてくれる手にすがり、心からの願いを口にする。 騎士がいなければ、今のこの町で生き残ることはおそらく……いや、確実に無理だ。 その為には、今は何としても騎士に戻ってもらわねばなかった。 それと同時に、騎士が消失するという事を思い浮かべると途端に胸がざわついた。 彼には消えて欲しくない、それもまた紛れもない彼女の願いだった。 「…………」 ぽん、と再び頭をなでる感覚を覚えた次の瞬間、目の前がぱっと明るくなった。 さっきまで己に影を落としていた存在、騎士はようやく説得に応じてくれたのだと気づき、彼女は先程よりさらに深いため息をついたのだった。 <To be...?> 前ページ次ページ連載 - 騎士と姫君
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4282.html
ゲーム王国編 第三話 【千闘開始】 ……どうしてこうなったのかわからない。 どうしてこんな所にいる羽目になったのかもわからない。 いや、わかってはいるんだけども。 「ほらほら、走れ走れー!」 「なんでだああああああああああああああああああああ!」 至村賢さんと知り合った後、至村賢さんの指導の下で対都市伝説戦について学ぶことになった。 経緯は簡単、『人面犬』が言い出した一言。 ――こいつに戦い方を仕込んでやってくれないか? ――OK! サッパリわからない。 どこがどうなったらこんなメチャクチャな話しが通るのかわからない。 そもそも本人の意向を無視して成り立つ会話というのが有り得ない。まずは本人に許可を取って、いやその前に本人が会話に加わった上で話しをするのが筋というものだ。 そこから数多くの議論をした上で本人を説得し、納得し―― 「余計なこと考えるヒマあるなら走れアホ」 「痛ぇ!」 とまあ、そんなこんなでマラソンをする羽目になっているというわけだ。 もう十時間ぐらいぶっ続けで走らされてヘトヘトだ。これだけ走らされる高校生はいないんじゃないか。 「ほらほら、まだ十分も経ってないぞー」 ……体感時間で十時間ってことで。 「てかさ、あのさ」 「何だ?」 「走って強くなれるの?」 「マラソンしゅーりょー」 ええー、何だよそれー。 あれだけ走らされてそんなこと言われたって納得できるかよー。 「じゃあまだ走っててもいいぞ」 「滅相もございません」 ……そんなヘタレを見るような眼で見られるとへこむ。 走るのが苦手であって、それ以外はそこそこいけるんだって、きっと。 「お前さん、どこまで都市伝説について把握してる?」 「ある程度はコイツから聞いたけど基礎的なものくらいかな」 都市伝説とは情報生命体のようなものであり、人々から忘れられるとその存在も消える。 だから都市伝説は自分の存在確定のために人間と契約し、自身の存在の希薄化及び消滅を防ぐ。 契約することにより都市伝説は元々の能力が強化されたり、新たな力を得ることもあり、それらは拡大解釈と呼ばれる。 契約した人間は契約者と呼ばれ、契約した都市伝説と同じ能力が付与される場合もあるが、どのような条件下でどのような能力が契約者に付与されるのかは不明。 また、都市伝説と契約する上で大きく関わってくるのが容量。 コスト、心の器とも呼ばれるそれは、都市伝説側の容量と契約者側に受け入れる容量とが合えば問題は無い。契約者の容量が小さい場合、都市伝説の容量が大きい場合、どちらも契約はできなくなり、最低でも精神崩壊、最悪では都市伝説に飲み込まれる。 都市伝説に飲み込まれるとは、その都市伝説と同化や同種の都市伝説化等、様々ありこちらも不明。 神と呼ばれる都市伝説、古くから在る都市伝説ほど容量が大きいことが確認されている。 稀に契約者側が都市伝説を飲み込むこともあり、人間でありながら都市伝説以上の存在と化す場合もある。その場合は契約者側の容量も関係あることはあるが、心の強さ、精神の強靭さが強いほどその傾向は顕著。 「――大体、こんなところかな」 「そんだけわかってりゃ合格点だな。満点じゃねえけど」 「他にも何かあるのか?」 『人面犬』の問いににやりと笑う至村さん。 「幾つかのタイプについては説明受けてないのか?」 「タイプ?」 「そうだな。大きく分けると自律型と概念型、とかな」 自律型とは『人面犬』や『口裂け女』のように自分の意思を持ち、自らで行動するタイプ。 概念型とは『カメラで真ん中に写った人は早死にする』や『ブルーベリーは眼にいい』などの意思を持たず自ら行動できないタイプ。 そこから細かく分けると物質系、生物系、空間系となり、『雷切』は物質系、『注射男』は生物系、『夢の国』は空間系となる。 中には例外もあるが大まかには自律型物品系、概念型空間系など全六種に分別が可能となる。 「例えばお前さんの契約している『人面犬』は自律型生物系だな。俺の都市伝説なんかは概念型物質系となる」 「……何の都市伝説だ?」 「企業秘密」 ポロッと言ってくれてもいいのだが残念。 いつか教えてくれたりするんだろうか。 「それとは別に各能力で各系統に分かれたりするんだよ」 「うう、頭痛くなってきた……」 強化系、放射系、操作系、変化系、創造系の五つに加え、そのどれにも属さない特異系。 強化系は肉体、筋力、視力、反射神経、回復力、道具の強化。 放射系は炎、礫、弾丸、武器、紫外線、マイクロ波、イオン等の自然物非自然物問わず放射。 操作系は動植物の操作、人間の操作、自分自身の操作、異空間の操作。 変化系は水を武器に、炎を柱に、赤を青に。事象の変化。 創造系は生物の創造、無機物の創造、無から有の創造。 特異系は強化変化操作放射創造、そのどれにも属さない異端。 「人によっては例外、特質、異質、奇異、特例……色んな呼び方してるがな」 「もうわけがわからない」 「まあそう言うな。都市伝説の系統と契約者の系統がピタリと一致すればかなり強いんだぞ」 「俺は自律型生物系の属性は強化系ってところか。――こいつは?」 こっちを見て困ったように考え込む至村さん。 そんなに考え込むようなこと? 「そいつがわっかんねえんだよなあ」 ◆ □ ◆ □ ◆ 「言ってることはわかるんだけど、理解が追いつかない。――江良井くんを閉じ込めたってどういうことだい?」 公園で黒服と江良井が閉じ込められてからすぐ、高城は錨野に連絡を取っていた。 連絡を受けた錨野とたまたま近くにいた嘉藤が高城の元を訪れたのは連絡から十五分後のことである。 「どうやって……いくら君の『アメリカ村』でもそう簡単に幽閉される人ではないと思うけど」 「〈組織〉の黒服が現れてその隙を突いた」 「詳しく話してくれるかな」 敵対するなとの命令に反して江良井に接触したことも隠さず、高城は全てをふたりに話した。 江良井に殺されかけたこと、黒服が登場したこと、〈組織〉が自分達を監視対象にしていること。 江良井に対面した時の心情すら聞き終えると、錨野はこの男にしては珍しく長い溜息を吐き出した。 「おっかない真似だ。ぼくには到底真似できやしない」 「すまない。早計だった」 「いや、責めてはいないよ。遅かれ早かれ君には江良井くんの幽閉を頼んでいたんだからね。それが多少早まっただけのことさ」 「江良井はどうでもいい。一緒に閉じ込めた〈組織〉の黒服の言葉は本当なのか?」 「ああ。そう言っていた」 ――高城楓さん、貴方達〈ゲーム王国〉の情報収集を担当しています 「僕達〈ゲーム王国〉が最早漏れている……ね。この前黒服殺したからだろうね」 「江良井に接触したのもバレているしな」 「そういやそうか」 「そんなことはどうでもいい。江良井はいつまで閉じ込められてる?」 嘉藤の問いに首を振る高城。 彼の契約している都市伝説『アメリカ村』は至村の言葉を借りるなら概念型空間系に属される。 一九九六年に発売されたゲームの発売後に子供達の間で噂されたデマ。 そこに行けばレアなポケモンが手に入るということも手伝い、子供達の間で瞬く間に広がったガセネタ。 『アジア村』とも呼ばれるそれは今でこそガセネタであることが判明しているが、当時の子供達の間では多くが信じ、中には実際に行ったことがあると口にする子供すら現れた。 「わからない。今の設定は都市伝説使用不可、時間は一日三年設定にしてあるから出られることない」 「都市伝説の使えない精神と時の部屋か。ついでに黒服も殺しておいてくれると助かるんだけど」 「三日で四十路近く、十日経てば江良井は七十過ぎ。流石に出て来れるはずないだろうが……」 それでも一抹の不安を拭えないのは相手が他でもない江良井卓だからだ。 高城の制約で都市伝説の使役は封じた。 だが、それでも――そう思わせる何かが江良井にはある。 かつて敵対したことがあると言う錨野は勿論だが、間近で対面した高城は身に染みて感じている。 ふたりの不安が伝染したかのように嘉藤すら体を震わせる。 「彼の容量から考えると空間を破る能力を持つ都市伝説とは契約できるはずない。心の器と表現するならもっと容量があっても良さそうなものだけどね。また、彼の仲間という線も可能性はないではないがまずありえない。こと戦闘において彼が頼りにするのは〈地獄の帝王〉のみだ」 ふう、と一息吐いてから錨野は次の言葉を口にする。 「当面の敵は〈組織〉だ。これから先は遠慮も容赦もなしでいこう」 ◆ □ ◆ □ ◆ 「わからないってどういうこと?」 もしかして自分でも知らない血筋を引いてるとか、隠された潜在能力があるとか、一億人にひとりの資質を持ってたりするとか。 いやいや、本当はすでに契約者としての最高峰にいるとか? 「こいつ、ヘタレな上に体力もゼロ、おまけに頭もあまりよろしくないだろ? しかも話しを聞くに最近契約したばっかりらしいじゃないか」 最近っつーか、一昨日の話ですが。 「判断材料が無い、ってことか」 「そ。見たとこ〈異常〉持ちでも無さそうだしな」 「そんな……って〈異常〉って?」 「読んで字の如く〈異常〉さ。都市伝説は一切関係ない能力者――でいいのかな? そういうのがたまーにいるんだよ」 例えば記憶力、洞察力、言語能力、収納力、認識力、共感覚。 人間が普段意識せず当たり前のように使っている能力とも呼べぬ能力、それらが異常なまでに発達した、都市伝説とは全く異質の異能。 詳細は一切不明。 人間が生身で怪異と対するために身についた新人類とも呼べる能力だと口にする学者もいれば、古い時代に人と妖しが交じり合った結果だと告げる識者もいる。 「ま、俺も会ったことは無いんだけどな」 「ないのかよ!」 「だからお前、ツッコミ所おかしいって」 「要するにこのガキにはその〈異常〉とやらの素質も無いってことだな」 「そういうこった」 「もしかしてダメダメ?」 「ダメだな」 「ダメだ」 ヤバい、泣きそう。 何もふたりで言うこと無いじゃないか……本気でへこむ。 でも、〈異常〉持ちにあったらどうすればいいんだ? 「都市伝説相手にしてる時と同じさ。戦うか、逃げるか」 「でもさ、相手の能力っていうのかな、それがわからないと逃げようにも逃げれないってことあるんじゃない?」 「お前はたまに核心つくんだな。――そうだな、その辺りは明日にでも教えてやるか」 ◆ □ ◆ □ ◆ そのやり取りの三日後。 江良井卓が『アメリカ村』に閉じ込められてから四日が過ぎていた。 「彼はまだ?」 「破られてはいない」 「そうか……入口を開くことはできるんだよね?」 「可能だ。だが、江良井が出てくる可能性もある」 高城の言葉にやや悩み、錨野は思い直すように首を振った。 「やめておこう。ここで江良井くんが出てきては今日の行動に支障が出そうだ。高城くんは当初の予定通り待機で」 「了解した」 「他のふたりは僕と一緒に予定通りってことで」 「応」 「わかりました」 嘉藤と中元のふたりが頷く。 ふたりから視線を彼らの後方へと向ける。 そこには四人の黒服が立っていた。 「や、お待たせして申し訳ない」 「作戦会議は終わったか?」 「お蔭様で」 A-№102。 A-№103。 A-№104。 A-№109。 〈組織〉陣営は四人。 錨野蝶助。 嘉藤千也。 中元浩志。 高城楓。 〈ゲーム王国〉陣営からも四人。 どちらも数を揃えたつもりはない。ただの偶然だ。 四対四。 奇しくも同人数。 「何か言うことはあるか?」 「別に何も」 この場での全権を与えられているA-№102が問い、同じく〈ゲーム王国〉の面々をまとめている錨野が応える。 「では始めようか」 「いざ尋常に勝負――なんてね」 〈組織〉と〈ゲーム王国〉の戦いの幕が切って落とされた。 続 前ページ次ページ連載 - 葬儀屋と地獄の帝王
https://w.atwiki.jp/legends/pages/880.html
ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 03 黒犬の処理後、巨大アナコンダを路上に放置したまま帰宅した俺たちの前に例の如く黒服が現れたのは、翌日の夕方の事だった。 丁度、三人分の夕飯をちゃぶ台に盛りつけていた俺に黒服は読めない曖昧な表情で首を傾げてくる。 「あなたはいつも、一人で三人分の料理を食べるのですか?」 「俺は夕飯はガッツリ食べる方なんだよ、それで何のようだ?」 正直、「組織」に、処分者(の幽霊)を匿っている事を知られるのは不味い。 あまりボロが出ないうちに追い出した方が賢明だろう。 「ふむ、今日、私がここに来た理由は二つあります」 「勿体ぶらずに早く言え」 「おや、今日はいつも以上に不機嫌ですな、何か不都合でもお有りで?」 「別に、ただ早く用事を済ませてくれないと飯が冷める」 そう言いながら視線の端で鏡を覗くと、既に俺の渾身の豆腐ハンバーグに箸を付け和気藹々と食事を始めている、糞餓鬼とロリ婆の様子が見えた。 「成る程、まあ良いでしょう、一つ目の用事はこれ、今回の報酬です」 そう言いながら、何処からともなく取り出された「契約書」を手渡してくる。 「そして、もう一つの用件とは、貴方に少しばかりご忠告を、と思いましてね」 「忠告?」 「そう今回の件、只でさえ世間を賑わせていた事件です、もう少し秘密裏に事を進める事は出来なかったのか、という事です」 「…………」 「今回の事後処理の為に「組織」がどれ程、手を煩わされたのかお分かりですか?」 そんなこと、知らんがな… 「まあ、単刀直入に言いますと、これ以上派手に動くようであれば貴方自身を処理させて頂く事にもなりかねないのです、その事、努々お忘れなきようお願いします」 そう一方的に言い捨てると黒服は扉を出て行った。 「相変わらず、むかつく奴らねー」 背後からかけられた声に振り向くと、そこには既に食事を終えて茶を啜る糞餓鬼が一人。 「まあ、でも今回は俺も悪いしなー」 流石に、巨大アナコンダを住宅街に放置したまま逃げたのは不味かったようだ。 「けど、まあ、むかつくっちゃ、むかつよな……」 「そうそう、私もあいつらの所為で殺されたしー」 それも自業自得だけどな、心の中で突っ込む俺に気付かずさらに続ける糞餓鬼、あいつらの陰口を叩き合うのが楽しいのだろう、珍しく笑顔を俺に向けてくる。 「何か、あいつらをギャフンと言わせられないかしらね」 「ギャフンねー……お前、たまに古くさい言い回しするよな」 「う、うるさいわね、で、あるの? ないの?」 「いや、そう急に言われてもなぁ……あ」 「あ?」 「ん、いや、ちょっと、昔本で読んだ怪談話を思い出してな……上手くいけば組織どもにギャフンと言わせられる、かも」 そう言いながら、ニヤリと嗤うと、先ほど黒服に手渡されたばかりの「契約書」を見る、どんな都市伝説とも契約出来るこれさえあれば……。 くっくっくと、黒い笑みを漏らしながら、さっそく組織の鼻を明かす為に行動を開始する俺であった。 「ん、ところで、さっきから姿が見えないけど、ご先祖様はどうした?」 「は、今更何言ってんの? ご先祖ちゃんなら、お腹いっぱいになって、もうとっくに寝ちゃってるわよ」 ちくしょう、こいつらもいつかギャフンと言わせてやる……。 * 新しい「契約書」が青白い光を放つ、 契約によって生み出された一冊のノートを前に俺の傍らに座る少女が首を傾げた。 「ジャ○ニカ……学習帳?」 「あー…うん、確かに……一見ただのジャ○ニカ学習帳に見えるな…」 俺自身も、まさかジャ○ニカ学習帳が生み出されるとは思ってもみず、少々呆気にとられてしまう が、学習帳の中に書かれた記述を読み、それが俺の望んだ都市伝説である事を確信する。 「この内容、間違いない、人工怪談作成ノート、通称「太郎さんのノート」だ!」 「……何それ」 「まあ知らんか、マイナーだしな、これはな……」 太郎さんのノート、それはとある小学校で生み出された怪談の一つである。 その小学校には、全国的にもっともポピュラーであるだろう「トイレの花子さん」の怪談が例に漏れず存在した。 ある時、心優しい一人の生徒が、クラスメートたちに提案した。 「花子さんは誰もいなくなった夜の学校で一人寂しくトイレに籠もっていて可哀相だ、僕たちで花子さんが寂しくならないように恋人を作ってあげよう!」 トイレの花子さんにとって大きなお世話であり甚だ迷惑千万であっただろう、その提案はクラスメートたちの支持を得て実行される事になった。 優しく格好良く力持ちな男の子、子供達が精一杯考えだした理想の太郎さん像は一冊のノートへと纏められる事となる、そして子供達に作られた「太郎さん」は、いつしか学校に伝わる一つの怪談として人々に語り継がれるようになった。 それから数十年後、「太郎さん」の誕生秘話を知らない一人の少年が古びた一冊のノートを旧校舎で手に入れる。 そこに書かれた「太郎さん」が気にくわなかった少年は、ノートに書かれた設定を書き換える事にした。 「優しい幽霊ではなく子供を襲う悪い幽霊の方が面白い、格好良い姿の幽霊なんて怖くない、もっと怖い姿に、全身は血まみれ腕は片手しかなく足は三本、大きく裂けた口で殺した子供を頭からバリバリと食べてしまう」 内容を書き換えられたノートがその後どうなったのかは分からない、しかしそれからというもの、その小学校では頻繁に児童が行方不明になり、いつしかそれは「太郎さん」の仕業と噂されるようになったという。 そんな太郎さんのノートに関する逸話を話し終えた俺に、少女は首を傾げている。 「そんなもんと契約してどうするの?」 「この都市伝説、いや学校の怪談か? まあ兎に角、この話のキモはノートの内容を書き換える事で「太郎さん」という都市伝説が変容すると言う事だ、例えばこう書き足すと……」 そう言いながら太郎さんの設定に―太郎さんは「組織」に怨みを持ち「黒服」を付け狙い攻撃する―と書き足す。 「これで、太郎さんは対「組織」専用アタッカー都市伝説となった、黒服達の慌てふためく姿が想像できるぜ」 「おーー成る程、成る程! 私も何か書かせて!」 俺から鉛筆を引ったくると少女はすらすらとノートに設定を書込んでいく、横から覗き込んでみると 俺の書いた太郎さんの設定の下に、さらに必殺技という項目が出来ており、そこにはこう追加されていた。 ―太郎さんの必殺技は”バニシングブラックライトニング”これを喰らった「黒服」は死ぬ― 「ほう、そう来るか……ならば俺はこうだ」 ―太郎さんは、悪の組織「組織」と戦う為、その姿を”怪談仮面TAROⅢ”へと変身する― 「じゃあじゃあ、こんなのはどう?」 ―太郎さんは、その身に宿る異能の力”エーテライズインフィニティ”によって傷ついても瞬時に再生される― 「やるな、では俺は…」 ―太郎さんは、「組織」を倒す為に開発された巨大ロボット”伝説巨人ラバトリーZ”のパイロットである― 「じゃあ、私は……あ、ご先祖ちゃん、おはよう、え、自分も書く?」 ―太郎さんは、秘剣”外道黒屠瞬獄陣”の使い手である、その一撃は山をも砕くという― 「ふっ、流石は俺のご先祖様、恐ろしい設定を思い付くもんだぜ……俺も負けてられんな」 「私も負けないからね、次、私が書く番!」 こうして、いつしか止まらなくなってしまった俺たちは、その身から迸るリビドーのままに「太郎さんノート」を厨二臭い裏歴史ノートへと魔改造していくのであった。 「やば、やりすぎた…なんだこの対花子さん専用エターナルラブハートって…」 「勢いって怖いよね……ちょっと、これ、どうする?」 「まぁ、この内容だったら俺達には実害無いだろうし……放っておくか」 「……そだね」 前ページ次ページ連載 - ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4203.html
ゲーム王国編 第一話 【怪始宣言】 別にいつも通りの日常に不満があったわけじゃない。 朝起きてメシを食って学校行って授業を受けて友人と他愛ない話をして帰ってメシ食って風呂に入って寝て。 そりゃまあ、確かに単調な生活だなと思わないこともない。 でも、学生時代に一度は夢見る麻疹のようなものだとは思っていた。盗んだバイクで走りだしたり太宰治に共感を得るようなものだと思っていた。 今までのように平坦で、単調で。 これから先も平坦で、単調で。 彼女とか嫁さんとか子供とか孫とか、人並みにできちゃったりしてこの先過ぎていくんだろう。 別に不満とも思わなかったし、それに満足して一生過ぎていくんだろうな――なんてことは当たり前すぎて考えたことや意識したことすらない。 自分の――まだ十六年しか生きてないけど――人生が劇的に変わることなんてない、と思ったことはあるが。 ――それもこれも今日までは。 「少し、お話をよろしいでしょうか」 こう言って現れたのは黒いスーツを着た男。 当然見覚えはない。 何かのアンケートや道を訊ねるようでもない。 「失礼ですが、昨年の十二月二十六日の晩、貴方はどこで何をしていたのか教えていただきたいのですがよろしいですか?」 「……そんな前のことなんて憶えてません」 去年。 去年の十二月二十六日。 憶えてないと答えながら、あることを思い出す。 「十二月二十六日の午後十一時、この先にある西区の公園で、貴方は殺し合いを目撃した。――違いますか?」 この男は何を見たのかを知っている。 ――そう、あれは殺し合いだった。 ふたりの男と、ひとりの少女。 彼らは殴り合っていた。殺し合っていた。 あの日、あの時、あの場所で。 「どうでしょう、お答えいただけませんか?」 怖くなって逃げ出した。 あの日の晩と同じように。 今も。 助けてくれと願いながら。 何から助けてほしいのかはわからないが、きっと――「今」から。 ◆ □ ◆ □ ◆ 「助け舟ってのはそう都合よく現れるもんじゃない。君もそう思わないか、江良井卓くん」 「知らんな」 嫌そうな顔を隠そうともせず、中年の男の問いに黒のスーツに身を包んだ男――江良井卓は答えた。 「勿論、僕は都合よく現れたわけじゃない。紹介を兼ねた宣言をしようと思ってね」 背後に向けて中年が合図するとどこに隠れていたのか、四人の男達が現れた。 頭髪のほとんどが白髪の初老と呼んでも差し支えのなさそうな男。 どことなく三枚目の雰囲気があるが、歌舞伎俳優のように整った顔立ちの男。 スポーツ選手のようにがっしりとした体格の眼鏡の男。 片手にスナック菓子の袋を抱えている肥満体の男。 わずかな特徴こそあるものの、誰もがどこにでもいそうな男達である。四人が四人ともただの中年だ。 「〈禁縛背理《ファントムペイン》〉こと新居忠と申します。得意なゲームは特にありませんが以後お見知りおきを」 「嘉藤千也だ。〈深淵《リリース》〉だそうだがそれはどうでもいい。好きなジャンルはRPGだがそれもどうでもいい。以後よろしく」 「〈地裂奇術師《グラインドサプライズ》〉中元浩志です。アクションを得意としています。どうぞよろしく」 「高城楓。〈静寂刹那《アンノウンサイレンス》〉。育成ゲームこそ至高。よろしく哀愁」 白髪混じりの男が名乗ったのを始めに、順々に名乗る男達。 そして最後に中年の男が名乗る。 「それじゃ僕も改めて。――錨野蝶助、人呼んで〈火焔歯車《プラズマジャンキー》〉。得意ジャンルはSTG。これからもよろしく。あ、ちなみに『二つ名メーカー』で検索してもらえば君も素敵な名前をゲットできるよ」 「要らん」 「それは兎も角。もうひとりいるんだけど都合で遅れててね。〈螺旋連撃《スパイラルバスター》〉って名前のギャルゲ好きなんだけどさ」 どこまでが本気なのか。 どこまでも本気なのだ。 「ひとり足りないが今のところは僕ら六人が〈ゲーム王国〉造りのメンバーさ。――君が加わってくれれば七人になる」 七人目になれ、との勧誘。 少しでも野心のある人物ならば魅惑的な勧誘であったろう。 しかし、対する言葉は至極単純であり、簡潔なものであった。 「断わる」 勧誘者が思わず苦笑いを浮かべるほど簡潔な答え。 落胆した様子がないのはその答えを予想していたからであろう。 「……そうか。もしかしたらと予想していたけど、いわゆる想定の範囲内というやつだけれど、それでもさすがにショックかな」 落胆した様子での呟き。 断った本人はと言うと、迷惑そうに形の整った眉を歪めているばかりだ。 「……話は終わりか?」 「ああ、そうそう。紹介は済んだから――宣言だったね」 少しだけ恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながら、錨野は宣言する。 「〈ゲーム王国〉編の始まりだ」 今、この瞬間。 たったひとりの学校町の住人に対して。 錨野の宣言を持って、〈ゲーム王国〉を巡る物語が静かに開催された。 ◆ □ ◆ □ ◆ 逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる、逃げる。 走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る、走る。 逃げる、走る、逃げる、走る、逃げる、走る、逃げる、走る、逃げる、走る、逃げる、走る、逃げる。 右に左に学校町を駆け逃げる。 自分がどこを走っているのかもわからない。 そして違和感を覚える。 ――どうして、誰にも会わないんだ? これだけ走って走って走りまくっているのにどうして誰とも出会わない? 確かにがむしゃらに走りまくったが、人気のないところを走っているわけじゃない。 どこを走っているのかもわからないが、人と出会わないわけがないだろう。 怖くなり、後ろを振り向く。 いないことに安堵し、前を向くと――いた。 公園で出会った黒スーツの男が。 「かの〈怪獣王〉戦で使用した視覚結界の小型版です。――何のことかわからないでしょうが」 懐から……なんだ、あの趣味の悪いオモチャは。……銃、か? こちらに狙いをつけ、ヤバい、撃たれる! 「う、うわあああああ!!」 「こっちだ、ガキ!」 体を丸めると同時に、誰かの声が聞こえた。 正体もわからぬまま、声に向かって走り出す。 「飛び乗れ!」 声の通り、目の前に走ってきた犬に飛び乗る。 「しっかり掴まってろよ、行くぞ!」 言うや否や、今までに体験したことのないスピードで犬が走り出した。 あまりの風圧で眼を開けていられないほどだ。 犬が走り出してからどれくらい経っただろう。 五分? 十分? もっと? スピードが遅くなってきたのでゆっくりと眼を開ける。 そこには―― 「うわあああああああああああ!」 人の顔をした犬がいた。 「ひひひひひひ人のいいいい犬うううううううううう!」 「耳元で叫ぶな」 「しゃべったああああああああああああああ!」 「落ち着け」 「どわああああああああああああああ!」 「やかましい」 ゴン、と頭突きを入れられた。 「それ以上叫んだら殺すぞ、ガキ」 「わ、わわかった」 「見ての通り、俺は『人面犬』だ」 「そ、それって都市伝説じゃ……」 「そうか、てめえは都市伝説初めてか。学校町にいるくせに珍しい奴だな」 「え、あ、ちょ、ど、どういうこと……ですか?」 「この学校町ってところはよ――っと、もう来やがったか」 『人面犬』の視線の先にはさっきの黒スーツがいた。 あれだけの距離を走ったのに。 「随分と早いお着きだなあ、おい」 「私からは逃れられません」 「それがてめえの能力ってわけかい」 「さあ、どうでしょう」 カチャリ、と黒スーツが再びおかしな形の銃を取り出す。 その弾道は精確にこちらを狙っている。 ヤバいヤバいヤバい! 「ガキ、俺と契約しろ」 「こんな時に何を言ってんだよ!」 「こんな時だからこそだ。そうすりゃこの場は逃げられる。さあ、どうする? このままおっ死ぬか、生き延びるか。てめえが決めろ、ガキ」 こんな状況で二択を出されても決まってる。 「するよ、契約する! だからここから逃がしてくれ!」 「――契約、完了だ」 どくん――と心臓が高鳴る。 状況は何ひとつ変わってはいないのに、何故か安心感が生まれる。 もう、大丈夫だ。 そんな気分になれる。 「悪いな、〈組織〉の黒服野郎。お前の能力が何であれ、もうお前如きじゃ俺には追いつかねえよ――ちゃんと掴まってろよ」 「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」 言うが早いが、次の瞬間には黒スーツは遥か遠くに見えるほどに走り去っていた。 「契約をしてしまいましたか。『都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者』でしたか……余程この町を戦渦に巻き込みたいと見える」 ◆ □ ◆ □ ◆ 「この町で一番有名な都市伝説を知っているかい?」 「知るか」 「『都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者』って名前の都市伝説なのさ。僕はこの都市伝説は学校町が契約している都市伝説なんじゃないかと睨んでいるんだが江良井くんはどう思う?」 「どうでもいいことだ」 「そう言うなよ。これは根幹のことなのかもしれないじゃないか。――もしかしたら、僕の目的もその辺にあるのかもしれないよ?」 「俺にはどうでもいいことだ。何度も言ったが、俺は静かに暮らせればそれでいい」 邪魔をするなら容赦はしない――その言葉に錨野は肩を竦める。 「僕達は邪魔しないさ。ただ、それを許してくれるかどうかはこの町次第だね。もしかしたら、今この瞬間にも契約者が生まれているのかもしれない」 「俺には関わりのないことだ」 「だといいけどね。この町の契約者はどこかで必ず繋がっている。君が担当した葬儀の遺族の中にも契約者が居て、繋がりができているのかもしれないよ」 江良井の答えはない。 思い当たる節があるのか、それともすでに関わっているのか。 「まあいいさ、それじゃ僕達はこれで。僕達は君の敵にはならない。――できれば、君も僕達の敵にならないことを祈るよ」 ◆ □ ◆ □ ◆ 凄い勢いで黒スーツから離れた頃には落ち着きを取り戻せていた。 都市伝説のこと、契約のことを『人面犬』から説明され、半信半疑ながら理解できた。 「で、大体わかったか?」 「一応は。これから、どうなるん……ですか?」 「タメ口でかまわねえよ。――そうだな、お前はこれから都市伝説と戦うことになるだろうな」 ……はい? 「どういうこと?」 「さっきまでの俺のような野良都市伝説や、契約者持ちの都市伝説、さっきの黒服なんかもそうだな」 「いやいやいやいや、何で?」 「そういう宿命と割り切っとけ。そんな風にできてるんだよ」 「無理。マジ無理。大体契約しただけで何で?」 「安心しろ、契約したことで都市伝説は能力が上がる。拡大解釈ってやつもあるが、それは追々教えておくか」 その辺はさっきも聞いたことだ。 だけど戦うってどういうこと? 「喧嘩なんかしたことないよ?」 「お前と契約したことで俺の力も底上げされたからな。安心しろ、悪いようにはならんさ」 「『人面犬』はいいとして、こっちに戦う力なんてないよ? あ、契約者にも付与される力があるって言ってたけど……」 「ああ、あるぜ」 だとしたら、まだ何とかなる……か? 「犬の言葉がわかるようになる」 「戦闘用じゃないよね?」 「鼻が犬並みになる」 「むしろデメリットだろ!」 「生ゴミを食っても腹を壊さない」 「食わねえよ!」 どうなるんだ、これから……。 続 前ページ次ページ連載 - 葬儀屋と地獄の帝王
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2610.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある乙女の小さな願い プロローグ 乙女の日常 ある春の日、御坂美琴は友人の初春飾利と佐天涙子と共にファミレスでお茶をしていた。 「願いを叶える魔法の鏡?」 「そうです!今ネットで有名な都市伝説ですよ!」 会話を切り出したのは佐天だった、彼女はインターネットで面白い話を見つけては友人の美琴達に教えている。 佐天は自分の携帯に表示された都市伝説のサイトを美琴に見せた。 「ふーん、この学園都市でそんな噂が流れるなんてねー」 美琴は興味なさそうに話を聞いていた、ここは学園都市である。 超能力など科学的根拠がある超常現象は信じられていても、さすがに魔法というオカルトは信じられない。 初春もあまり興味なさそうにパフェを食べている。 「でも『幻想御手』(レベルアッパー)や『脱ぎ女』『誰かが見てる』も実在したんですから、都市伝説と言われても実在するかもしれないって思うじゃないですか!」 過去に美琴がかかわった事件ばかりだった、改めて見ると結構厄介な事件にかかわってると思う。 美琴は佐天の言葉に考えさせられた。 (どんな能力も効かない能力も持つ男も実在したし・・・・・・・でも、まさかね) 「ね、初春だったらどんな願い事をする?」 佐天は隣で幸せそうにパフェを食べている初春に話題を振った。 「私ですか?そうですねー、私だったら佐天さんが二度とスカートをめくられないようにってお願いしますねー」 初春はパフェを食べるのをやめることなく答えた。 「別にスカートめくりくらい良いじゃん、あたしと初春の挨拶だし他にあるでしょ?」 「挨拶で人のスカートめくらないでくださいよ!」 頬をふくらませて抗議するが佐天は笑っている。 「で、他に何か願いは無いの?」 「うーん、甘いもの食べ放題とかですかね」 「初春さんって本当に甘いものが好きなのねー」 「甘いものは正義です!」 初春はどこかで聞いたことあるようなセリフを言った。 ガールズトークに花を咲かせている美琴達、楽しい時間を過ごした。 ちなみに初春のパフェは現在7杯目 さすがに店員の営業スマイルも引きつっているのがわかる。 「そういえば今日は白井さんは?」 「黒子はちょっと用事があって今日は来れないって言ってたわ」 白井黒子はジャッジメントの仕事があってここには来れないようだ。 「そうですか、それじゃこの後どうします?」 佐天は少し残念そうに切り出した。 「んー、久しぶりにゲーセンでも行かない?」 「いいですねー、それじゃ行きましょうか!」 ファミレスを出た3人はいつものゲームセンターに向かっていた。 「それにしても魔法の鏡かー、本当にあったらその願いで能力者になるのになー」 「あははー、佐天さんまだ都市伝説のこと言ってるんだー」 「だって何でも願いが叶うんですよ!本当だったらすごいじゃないですか!・・・・・・ってあれ?」 佐天は普段見慣れないところに露店が開かれているのを見つけた。 「ゲーセンに行く前にあの露店見に行きません?」 人通りの少ない通りに開かれていた露店 独特の雰囲気を漂わせている。 「人通りの少ないこの場所に露店って珍しいですね、御坂さんどうします?」 「別に私はかまわないけど」 「それじゃ行きましょー」 3人は露店を見に行くことにした。 露店の店主は30歳くらいの男だった。 「いらっしゃい」 露店には古い骨董品やアンティークのような物が並べられていた。 一部最近の物と思われる小物もあるが、とても若い世代をターゲットにした物ではなかった。 「いろいろあるんですねー」 「うーん、アクセサリーとか期待してたんだけど、あんまり欲しいもの無いなー」 佐天は少し残念そうに品定めをしている。 『 』 美琴はどこからか声が聞こえた気がした。 「ん?佐天さん呼んだ?」 「いや、呼んでないですよ?」 何の事ですか?という表情をする佐天 どうやら初春でもないみたいだ。 「うーん、何かに呼ばれた気がしたんだけど・・・・・あれ?」 美琴は鏡が置いてあるのを見つけた。 「佐天さん、さっき言ってた都市伝説の魔法の鏡ってこれのことじゃない?」 「まさかー、こんなところにあるはずが無いですよー」 「そっそうよねー、それじゃもう行こうか」 美琴達は露店をあとに本来の目的地であるゲームセンターへ向かった。 (さっきの鏡から何か妙な感じがしたんだけど、まっ気のせいよね) ゲームセンターについた3人は時間を忘れて楽しんだ。 巡回に来たアンチスキルに「もうすぐ完全下校時刻じゃん」と言われたので帰ることにした。 「あー楽しかったー、次は黒子もいるときに行きましょ」 「そうですね、あたしと初春はこっちなので御坂さんさようなら」 「うん、またね!」 初春達と別れた後、美琴も帰り道を歩いていた。 (それにしてもあの鏡はなんだったんだろう?) 美琴はあの露店で見た鏡を気にしていた、都市伝説など信じていなかったが鏡が発していた独特の雰囲気がどうしても気になった。 (もう一度あの露店に行ってみようっと) 「いらっしゃーい、さっきのお嬢さんか・・・何か気になった物でもあったの?」 「あの、えーっと・・・・・・・この鏡なんだけど」 「鏡?あーこれのことか、これが欲しいのかい?」 「えっ?いや。そういう訳じゃなく・・・・」 「お嬢さん可愛いから特別におまけしちゃう!普通だったら1000円なんだけど300円でいいよ!」 「いや・・・・・だから・・・・」 「毎度あり!」 (結局買わされてしまった・・・・300円だしまぁいっか) 『安すぎない?』 「えっ?誰?」 返事は無い、美琴は周りを見回した。 少し離れたところに見慣れたツンツン頭の高校生が歩いているのを見つけた。 「ちょっとアンタ!」 高校生は美琴に気づかずに歩いていく。 「ちょっと無視すんな!」 美琴は高校生に向かって電撃を飛ばした、高校生は美琴の存在に気づくと同時に右手で電撃を打ち消した。 「いきなり何だよ御坂!!」 「アンタが無視するのが悪いんでしょうが!!」 いつものやり取り、いつもの会話。 「それで何か用なのか?」 「別に用って訳じゃ・・・・・・、ただアンタを見かけたから声をかけただけよ」 「用が無いなら俺は行くけど、それじゃまたな御坂」 「ちょっと待って! 行っちゃった・・・・・・」 走り去っていく上条の背中を見ながら立ち尽くしていた。 (もっと素直になれたらアイツとも仲良くなれるのかな・・・・・・) 時間は過ぎ、美琴は自分の部屋に戻っていた。 部屋に白井の姿は無い。 (黒子はまだ帰ってないのか・・・・・・) ベットの上で『きるぐまー』のぬいぐるみを抱きながら考え事をしていた。 (どうして素直になれないんだろ・・・・・・) 軽い自己嫌悪に陥っていた。 「願いが叶う魔法の鏡があれば、その願いで素直になってアイツに告白できるのに」 都市伝説を信じているわけじゃないが、上条のことを考えるとそういう話にもすがりたくもなる。 願い事で素直になるより、上条の恋人にしてくれと願ったほうが早いのだが、 美琴も恋する乙女、やはり自分で告白して恋人になるというシチュエーションにあこがれていたのである。 (さっき買った鏡があったな) 美琴は鞄の中から夕方に露店で買った鏡を取り出した。 ずいぶんと古い鏡のようだ、露店で見たときはじっくりと見れなったので精巧なつくりまでは見ていなかった。 鏡を覗き込むと、自分の部屋を背景に移した美琴の顔が映った。 (この鏡が都市伝説の鏡なら・・・・) 「なーんて、そんなことあるわけ無いのに、えっ?」 とたんに鏡が大きくなりだした。 「えっ?えっ?何?」 美琴は状況を理解できない、どんどん鏡が大きくなっていく。 そうしているうちに大きくなった鏡が重くなりすぎて美琴は手を放してしまった。 ベッドや机も大きくなっているので自分が小さくなっていることに気づいた。 「どーいうことよコレ・・・・・」 美琴は20cmくらいまで小さくなってしまった。 美琴は自分のおかれてた状況を整理していた。 (能力者の仕業?どんな能力よコレ・・・・、それとも・・・まさかあの鏡?) 「ただいま帰りましたの、ってお姉様はまだお戻りになられてませんのね」 「あっ!黒子!」 「はて・・・?今お姉様の声が聞こえたような?」 「黒子!私はここよ!」 「お姉様を思う気持ちが強すぎて、ついにお姉様の幻聴まで聞こえるようになるなんて」 「何言ってるのよ黒子!」 白井黒子は幻聴ではないことに気づき、声の聞こえるベッドの方を見るとそこには小さくなった美琴の姿があった。 「おおおっお姉様!?いいいいいっいったいどどどどうなされたんですの?そんなお姿になってしまって・・・・・・」 「・・・・・・・分からないわ、鏡を見ていたら急に小さくなって」 「鏡ですの?」 「夕方無理やり買わされたんだけどね」 「鏡を見せてもらっていいですの?」 「そこのベッドの上に置いてる鏡だけど」 鏡を持ち上げようとする白井を見て美琴は何かに気づきあわてて白井を止める。 「鏡に映ったらダメよ黒子!アンタまで小さくなってしまうかも!」 「・・・・・・・そうですわね、この鏡を調べれば何か分かるかもしれないですが」 「どうすれば元に戻れるのかな?」 「もう一度鏡に映れば元に戻るかもしれないですね」 鏡に写って小さくなったのなら、もう一度鏡に写れば大きくなれるのではと思ったのである。 「そうだわ!きっとそうだ」 美琴一人では鏡を持つことも出来ないので、白井は自分が鏡に映らないように注意しながら鏡を持ち 美琴に向かって鏡面を前にして鏡を立てた。 ・・・・・・・しかし、何も起きない。 美琴は映り方が悪いと思い鏡に映る角度を変えてみたり、鏡面に顔がぶつかるくらい近づいてみたが元に戻る兆候は見られなかった。 「どうしよう黒子・・・・・・」 「お姉様・・・・・・」 (そうだ!アイツなら・・・・・・) 美琴はあの高校生の存在を思い出した、アイツならなんとかしてくれる!そう思ったのである。 「黒子!私をアイツのところに連れてって」 「アイツと申されますと、お姉様とよく逢引されている類人猿のことですの?」 「逢引って!?アイツとはまだそんな関係じゃ・・・・・・」 美琴は顔を真っ赤にして否定したが、白井はため息をつきながら美琴の反応をスルーをして話を進めた。 「それで、上条さんと会ってどうするんですの?」 「アイツの右手にはどんな能力も打ち消す不思議な力があるの」 「なるほどそうでしたわね。これが何かの能力の仕業なら上条さんの右手も有効かもしれませんわね」 白井は美琴を自分の肩に乗せた。 美琴は気丈に振舞っているが、ブルブルと震えているのが分かる。 (お姉様・・・・・・) 白井は心の中で美琴の名前をつぶやいた。 こうして御坂美琴と白井黒子は上条の部屋へと向かった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある乙女の小さな願い
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1477.html
とある廃工場に二人の男が居た 中年「って、事だから気をつけろよ?」 警官A「了解・・・っと、女体化マッドガッサーなぁ・・・・・・逮捕するとしたら何の罪だ?強姦罪?」 中年「知らねぇよ・・・気をつけろよ?マッドガッサー単独ならお前が負けるとは思わないが、マリ・ヴェリテやもう一人居るらしい近接型が出たらお前じゃキツいぞ?」 警官A「その場合は尻巻いて逃げるさ、流石にロケランすら効かない様な奴とそう何度も戦りたくねぇからな・・・」 始末書もゴメンだ、と続けるコイツを見て思う 口では逃げると言ってるが実際にそういう状況になったらコイツは多分逃げない 特に他の人間の命がかかってるような状況なら尚更だ 中年「・・・なぁ、やっぱりお前も契約した方が良いんじゃ無いか?流石に契約も無しで戦うのはキツいと思うぞ?」 だからこそ、この先もコイツが都市伝説と戦うなら、契約した方が良い 今はまだ何とかなっているが今後も銃火器が通じる相手だとは限らない 警官A「ハッ、絶対しねぇ」 中年「・・・」 警官A「化け物に頼らないといけないほど人間は弱くねぇよ・・・人間より力が強い?足が速い?だからどうした、能力が劣ってるならソレを道具で補えるのが俺ら人間だろうが、人間は人間なりに化け物と戦う手段を持っている、だから態々リスクを犯してまで化け物の力を借りる必要は無ぇ」 中年「そうか・・・ならこれ以上言ってもムダだな」 警官A「あぁ、無駄だな」 中年「そこに頼まれてた弾薬やら何やら用意しておいた・・・また、何かあったら言え」 警官A「悪いな」 中年「何、元同僚の好だ、これ位大したこと無いさ・・・じゃあな、人待たせてるんで俺はコレで失礼するよ」 警官A「おう」 そして、俺は廃工場を後にした アイツは化け物を、都市伝説を嫌う 例えどんな事情があったとしても、都市伝説を見逃す事はしない そういう奴だ なら、もし この先俺や、『一年生になったら』が都市伝説に飲み込まれたとしたら アイツはどうするだろうか・・・ できれば、俺が人で無くなったとしても 元後輩と殺しあう様な事にはならないで欲しい そう思った 前ページ次ページ連載 - はないちもんめ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/812.html
合わせ鏡のアクマ 23 私の名前は倉田ミカゲ、フリーの幽霊さ!・・・つまり、浮遊霊。 昔から衝動に流されやすかった私はある日、「幽霊になりたい」と思い首を吊って死にました。 いやー、我ながらぶっ飛んだ思考回路と行動力だよね! そして念願の幽霊になれてハッピーな私。なれたと知った時の空でも飛ぶかというくらいの喜び!! ただ、なって初めて幽霊にも制約が多く存在することを私は知った。 まず私は空を飛べない。浮遊はできるがそれも地面から10センチ程度までだ。 次に物や人に触れるとき、ただ手の感触だけを与えるというものが私にはできない。 幽霊であることに慣れればできるようになるのかもしれないけど・・・ 何かに触れる時は全身を「実体化」させなければならない、これはさほど力を使わないけれど人にぶつかる。 あ、でも声は「実体化」せずに届かせることができるらしい。一度、あくびをしたら近くの人がビックリしてたし。 それと・・・当たり前だけど、生前の友人達に会いづらい。死んだ人間が会いに行けば、必ず騒ぎになる。 いっそ友達も全員忘れてしまえば良かったのに・・・私は、死んだ瞬間とその前後以外は記憶がある。 だから、まだ友人達と会っていない・・・いや、通っていた学校にすら行っていない。 それには友人達に再び悲しい思いをさせそうだからとか、色々理由はあるけれど・・・ 「今は人を驚かしているのが一番楽しいしね!」 おっと、声が出ちゃった。大丈夫周りには誰もいない・・・ 今はまだ友人達と会う気はない。まずはこの幽霊ライフを存分に楽しみたいから!! 「・・・お、私と同じとこの生徒じゃん」 人があまりいない公園を走って通り抜けようとしている一人の少女・・・制服が私のものと同じ、少女。 (なんか見覚えある顔だけど・・・ま、今日の最後のターゲットは彼女で決まり!) 私は幽霊なのに、疲れる。いや幽霊は元々疲れるのかもしれないけれど・・・とにかく、夜は眠らねばならない。 普通は昼間休むのかもしれないけど、私は深夜の怖いニーチャンに声をかける勇気がない。 と に か く ! 「実体化」して彼女とは逆方向から歩き出す。 彼女は私に気付き、怪訝な表情をしている・・・よし完璧! 少女とすれ違う瞬間、声をかける。 「あなた、見えtぐぇっ!!」ドスン! 脳天に重い衝撃が伝わり、私の視界は暗転した・・・ * ・・・・・・しまった。 「わ、私に後ろから話しかけるからそうなるのよ・・・」 まさか都市伝説に突然話しかけられただけで反射的に投げ飛ばしてしまうなんて・・・ 「・・・どうしよ、これ。害はなさそうだけど・・・」 地面で目をグルグル巻きにしている都市伝説をしげしげと眺める。 (なんか、この子見覚えがあるような・・・?) 首を捻って考えるが、思い出せない。・・・あ、ロープみっけ。 「ま、こんなもんでしょ」 都市伝説をロープで縛ってベンチの後ろに置く。早く帰って調べないといけないことがあるのだ。 「・・・『夢の国』」 ボソッとその名前を口にする。おそらく史上最悪の部類に入る強大な都市伝説。 それが、秋祭りの最中に攻撃をしかけてくるという・・・おそらく、街を呑み込む規模で。 その情報を教えてくれた『声』との会話を思い出す・・・ 『・・・ですから、私達『怪奇同盟』にはあなたの力が必要なのです』 「だってさ、妹ちゃん。手伝うくらいはいいんじゃないの?」 夜の墓地で携帯電話を持つ私と、置いてあった黒電話の受話器を持っている妹ちゃん。 ××に『怪奇同盟』という都市伝説と契約者達の集団の話を聞き、直接話を聞くためにやってきたのだ。 代表だという『声』は、現在の『学校町』の状況を大まかに伝えてくれた。 いわく、二大勢力である『組織』と『首塚』組織が協力関係を結んだということ。 それが『夢の国』の大攻勢に備えてのことなのだということ。 また、多くの契約者達が『夢の国』と戦う為に準備を始めているということ。 そして・・・『怪奇同盟』でも、『組織』等の援護のために準備をしているということ。 その中でも重要な作戦を決行するのに・・・妹ちゃんの力が必要だということ。 はっきり言って、一度に色々聞かされても整理がつかない。もっと時間がほしい。 でも、その時間は刻一刻と過ぎ去っている・・・秋祭りまで、もう何日もない。 決断は早ければ早いほどいい。しかし、妹ちゃんは決めかねている。 「・・・あの、私が姫さんから離れたら姫さんが危険に晒されるのでは」 つまり、自分がいないことで私を『夢の国』から守れないかもしれない・・・と。 * 「そんな細かいこと気にしててどーすんのよ!」 バンッと強めに背中を叩く。 「・・・痛いです」 「そーかいそーかい。あのね、私のことなんて気にしなくていいのよ」 叩いた背中をさすってやる。 「私が家の中で寝ててもだーれにも迷惑かかんないし、『夢の国』の侵攻にも関係ない」 でも、と続ける。 「妹ちゃんの力があれば、人を守れるかもしれないんでしょ? だったら私のことなんていっそ忘れてドーンとやっちゃいなさい!」 「姫さん・・・」 妹ちゃんがいない私は、一般人となんら変わりはない。 でも、そんな私でも人の背中を後押しすることはできる。 「というか、やりなさい。契約者としての命令よ!」 「別に私達ってそういう関係じゃないんですが・・・ま、いいです」 妹ちゃんが笑い返す。 「それじゃあ、手を貸しましょう。具体的になにをすればいいんですか?」 『ありがとうございます。まず、あなたには山の隠し神と一緒に山で待機していてください」 「『神隠し』事件の、あの神様とですか?」 『はい。それでなにをやるのかということですが・・・・・・』 そう、妹ちゃんも立派に戦いに役立とうとしている。××も勿論戦うという。 戦闘能力などない私が役に立つには・・・情報戦しかない。 『怪奇同盟』も独自のネットワークで情報を集めているが、それにも穴はできている。 そんな穴を少しでも埋めるため・・・ネットを介しての掲示板や、自らの足で情報を得る。 ほんの少しでもいい・・・彼等の、役に立ちたい。その為には・・・ 「遊んでいる暇は無いのよ、それじゃあね」 遅れてしまった分を少しでも取り戻すため、姫さんは走る。 彼女は知らない。この時、縛り上げた都市伝説が何であったかということも、 この後、帰宅した彼女に父親がまとわりついてその頭に見事なハイキックを決めることも。 なにも・・・・・・知らない。 前ページ次ページ連載 - 合わせ鏡のアクマ
https://w.atwiki.jp/yamamura2/pages/3778.html
【TOP】【←prev】【GAMEBOY ADVANCE】【next→】 遊戯王 デュエルモンスターズ 7 決闘都市伝説 タイトル YU-GI-OH ! 遊戯王 デュエルモンスターズ 7 決闘都市伝説 機種 ゲームボーイアドバンス 型番 AGB-P-AY7J ジャンル カードバトル 発売元 コナミ 発売日 2002-7-4 価格 4800円(税別) 遊戯王 関連 Console Game PS 遊戯王 モンスターカプセル ブリード バトル 遊戯王 真デュエルモンスターズ 封印されし記憶 GC 遊戯王 フォルスバウンド キングダム Wii 遊戯王5D's Wheelie Breakers 遊戯王5D's Duel Transer Handheld Game GB 遊戯王 デュエルモンスターズ 遊戯王 デュエルモンスターズ II 闇界決闘記 遊戯王 モンスターカプセルGB 遊戯王 デュエルモンスターズ III 三聖戦神降臨 遊戯王 デュエルモンスターズ 4 最強決闘者戦記 遊戯デッキ 遊戯王 デュエルモンスターズ 4 最強決闘者戦記 海馬デッキ 遊戯王 デュエルモンスターズ 4 最強決闘者戦記 城之内デッキ GBA 遊戯王 DUNGEONS DICE MONSTERS 遊戯王 デュエルモンスターズ 5 エキスパート 1 遊戯王 デュエルモンスターズ 6 エキスパート 2 遊戯王 デュエルモンスターズ 7 決闘都市伝説 遊戯王 デュエルモンスターズ 8 破滅の大邪神 遊戯王 デュエルモンスターズ インターナショナル World Wide Edition 遊戯王 デュエルモンスターズ エキスパート 3 遊戯王 双六のスゴロク 遊戯王 デュエルモンスターズ インターナショナル 2 遊戯王 デュエルモンスターズ GX めざせデュエルキング ! 遊戯王 デュエルモンスターズ EX 2006 駿河屋で購入 ゲームボーイアドバンス
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3684.html
第五話 【悪人正義】 十二月二十四日――クリスマスイブ。 日本中が、世界中がどことなく浮かれている当日。 学校町も例外ではなく、色とりどりのイルミネーションやクリスマスツリーが街中に飾られ、商店街だけではなく街中を彩っている。 そんな折、彼の元に一本の電話が入った。 『メリークリスマース! 我が息子! 人生エンジョイし』 何も言わず電話を切り、業務に戻る。 再度、着信。 相手はたった今電話を切った相手である。 『なんで切るんだよ』 「こっちは忙しいんだ」 『え? それじゃあダーツバーとか行く時間無くない?』 「黙れ」 『実はな、この時期にぴったりのもん見つけてよ』 「『性の6時間』だろ」 『それどこ情報? どこ情報よー?』 「一昨年お前から聞いた」 ◆ □ ◆ □ ◆ 12月24日の午後9時から翌25日の午前3時までの6時間は 1年間で最もセックスをする人の多い「性の6時間」です。 貴方の知り合いや友人ももれなくセックスをしています。 普段はあどけない顔して世間話してるあの娘もセックスをしています。 貴方が片想いしているあの綺麗な女性もセックスをしています。 貴方にもし年頃の娘さんや姉・妹がいて、いま家にいないのでしたら間違いなくセックスしてます。 貴方と別れたあの娘も貴方がその娘にやってきたことを別の男にやられています。 貴方の将来の恋人や結婚する相手は、いま違う男のいちもつでヒィヒィ言っています。 ◆ □ ◆ □ ◆ 十二月になると度々目にする『クリスマス中止のお知らせ』と並ぶ『性の6時間』が都市伝説であることを知っているのは何人いるだろうか。 仮にそれが都市伝説だと知っていても己の商売に利用する者はいまい。 「都市伝説を商売に利用するなアホ」 『アホはてめえだ、使えるもんを使わないでどうするってんだよ』 「せめて自分で契約しろ」 『そんなリスク背負えるかバーカ』 彼、江良井卓の父が経営するラブホテル――ローペロペコンマは数多くの都市伝説と契約している。 代表的なものを挙げるとするならば『鏡がマジックミラー』『膣痙攣を起こして繋がったまま病院に搬送』『シャンプーの中身は精液』『コンドームには穴が開いている』等である。 これらに加え、一昨年の十二月二十四日に『性の6時間』が加わった。 どれもが同系統の都市伝説であるため、多少の器の広い契約者であれば多重契約するにしてもそう大きな問題はないのだが、問題は別のところにあった。 「……ラブホに契約させるって何考えてやがる」 『るせー、新技術舐めんな』 彼の言う通り、これら全ての都市伝説と契約しているのは人間ではなく、ラブホテルそのものなのだ。 彼の父親自身はどの都市伝説とも契約していない。都市伝説の存在を知っていることを除けばただの一般人である。 どこでそのような技術を身につけ、どのような理論で無生物が契約できるのか等は語ろうともしないので詳細は一切不明だが、ラブホテル自体が契約者ならぬ契約社なのは間違いない。 世にも稀な多重契約するラブホテル、ローペロペコンマが今晩盛況するであろうことは間違いない。 ◆ □ ◆ □ ◆ そして――夜。 祝日休日があろうとも何かしらのイベントがあろうとも葬儀屋には一切関係ない。 それが例え聖夜であってもである。 人の生死に暦は関係ない――葬儀屋に勤めて江良井が学んだことのひとつである。正月でも人は死ぬし、盆でも人は生まれる。当たり前過ぎて認識すらしていなかったことだ。 ただ、今日は珍しく通夜が早々に終わったおかげでいつもよりは――気持ち程度ではあるが――早く帰路についていた。 コンビニでカップラーメンを買い、自宅までもう少しというところで男が立っていた。 それも、逢いたくもない。 「メリークリスマス、江良井くん。人生楽しんでるかい?」 「……誰かと思えばお前か」 声をかけてきた男に、嫌そうな顔を隠そうともせずに溜息を吐く。 彼に声をかけてきたのは中年の男であった。 「相変わらずつれないね。そんな顔されると傷つくじゃないか」 「用件は何だ?」 面倒そうな表情を隠そうともしない彼の言葉に、笑みを浮かべる男。 その笑みは子供にも老人のようにも見える。 「ちょっとした話だよ。そう時間はかけないからそのまま聞いてくれ」 「『ゲーム脳』探しは断わったはずだ」 「そうじゃない、僕と一緒に〈国〉を造らないか?」 あまりに簡単な口調。 思わず冗談かと思ってしまうほどあっさりと簡単に。 冗談と思えなかったのは穏やかな視線の中に微かに存在する、射抜くような鋭い光があったからである。 「ゲーマーのゲーマーによるゲーマーのための王国――その名も〈ゲーム王国〉さ」 「……小猫といっ平でも誘ってろ莫迦が」 「彼らは一般人じゃないか」 にこやかに笑う男。 仮にこの場に第三者がいたとしても、どこにでもいる温厚な中年が冗談を口にしているとしか見えないだろう。 「国造りは僕達のような都市伝説契約者でなければできない仕事さ」 「本気で言っているのか?」 「勿論本気さ。冗談や悪ふざけを口にするわけがないのは君も知っている通りさ。それとも――」 そこで言葉を区切る。 どこか試すような、それでいて無邪気な瞳で彼を見据える。 「僕の行動に理由が必要かい?」 「いいや。あったとしても興味はない」 「それでこそ江良井くんだ。君に声をかけた甲斐があったというものさ」 「お前がどんな理由で国を作ろうが俺に声をかけようがどうでもいい。だが――」 「俺を巻き込むな、だろ? 僕だってそうしたいところではあるが、今回に限り生憎とそうはいかないかもしれない」 男の外見だけを見ればただの温厚な中年にしか見えない。 身に着けているスーツも安物だろう。 手にしている鞄――ボストンバッグだが――も使い込まれているようだ。 口調も穏やかな波を思い起こさせるほど落ち着いている。 見た目だけでは人の好さそうな中年――それなのに、口にしている内容は見た目からは到底想像できない内容だ。 「僕達は〈組織〉と敵対する。〈首塚〉や〈第三帝国〉や〈教会〉や〈アメリカ政府の陰謀論〉ともだ」 「気は確かか?」 「僕達の邪魔をするのであれば、だけどね。敵対する勢力は全て潰す。都市伝説、非都市伝説に関わらずだ。――それがこの国を相手取るとしても」 強く握る右拳には強い意志。 その瞳には狂気の片鱗すら見えはしない。 しかし、野望という言葉すら似合わぬ中年の言葉には誰よりも強い気迫が込められていた。 ふ、と体の力が抜ける。 「でも、今言った組織の連中なんかよりもこの町の人達の方が何百倍もおっかないね。外道御三家や五大旧家を抱えているのを抜きにしてもだ。ここの住民は誰も気づいていないかもしれないが、この町にはある共通の意思がある。正義、使命、快楽、守護、復讐……人によって表現方法は様々だけどね。知らず知らず心の奥底に秘めているものがこの町の契約者――いや、この学校町には確実に存在する」 「……」 「学校町は何度も危機に直面した。ちょっと前だと『夢の国』事件、最近だと『CoA』事件や〈組織〉のK-№の乱なんかもそうだ。その都度危機を乗り越えてきたのは君も知っているだろう? 他の国、他の都市なんかじゃ絶対にこうはいかなかった。どうしてこの町は大丈夫か、なんてことは聞かないでくれよ。それは君もわかっていることだろう?」 「……ああ」 「だからこそ、この町は素晴らしいのさ。人間誰しもが持つ意思が――っと、話がそれすぎたな」 小さく苦笑して男は続ける。 「君を誘った理由はいくつかある。情けない話だけど、この町での知り合いが君しかいないってのがひとつ」 「他の理由は?」 「君とエスタークの戦闘力。雷獣と槍のコンビは二体で一体の妖だったけど、君達がまさしくそれなのさ」 都市伝説の力を使わぬ彼の単体での戦闘力、都市伝説の力を使っての彼の単体の戦闘力。 これに〈地獄の帝王〉と冠されるエスタークの力が加わればどうなるのか。それを知る者は彼と敵対してきた者だけだ。 それらを踏まえたうえで男は彼を勧誘してきたのか。 「これが最大の理由になるんだが、江良井くん、君のあまりにも高潔で非情で誇り高い精神性だ。敵と認識した時点で、老若男女問わず言葉通り赤子でも長年つきあってきた無二の親友でもこの世にたったひとりの親兄弟でも一切躊躇せず懊悩せず顔色ひとつ変えずに殺せるだろ? その逆もまた然り。――気を悪くしたのなら謝る。だが、僕が君の精神性を高く評価している証拠だと思って欲しい」 挑発している様子も馬鹿にしている様子もない。 男の言葉には思わず頷きたくなってしまう響きがあった。 「すぐに答えを出してくれとは言わない。近いうち、また君の元を訪れるからそれまでに決めておいて欲しい。――そうそう、これは手土産だ」 ボストンバッグの中から取り出したのは生首であった。 その表情は苦悶に歪んでいる。 しかし、彼にはその男の顔は見覚えがなかった。 「しばらく前から君を監視していた〈組織〉の黒服だよ。ナンバーは……忘れてしまったな」 こともなく告げる男の口調に罪悪感は微塵も感じられない。 対する彼にも嫌悪感は見えない。ボストンバッグから生首が出てきたことに驚く様子も、反応する素振りすらない。 だからというわけではないだろうが――反応した者は別にいた。 「同胞の首、返してもらいたい」 現れたのは黒スーツの男。 夜だというのにサングラスを外しもしない姿から〈組織〉の黒服と察するのはあまりに容易なことだ。 「君は? 〈組織〉の黒服なのは見てわかるけど」 「お初にお目にかかる。私は〈組織〉所属の黒服、ナンバーはA-№102。貴殿が手にしているA-№106は同胞に当たる」 「用件は?」 彼の男へ放った最初の問いと同じ問いを、今度は男が黒服へと投げかける。 彼に向ける言葉とは違い、やや敵意のこもった男の言葉に黒服は動じた様子もなく答えた。 「先も言った通り、貴殿の手にするA-№106の首を返してもらいたい。用件はそれのみだ」 「へえ。で、どうするつもりだい? 彼の敵討ちでも?」 「戦さにて死ぬのは仕方なきこと。また、私に貴殿らとの戦闘許可は出ておらぬ。A-№106の供養を行なうのみ」 私の独断だが、との小さな呟きを聞いた彼らふたりは何を感じたか。 生首を手にするのも平然としているのは人間。供養を望んでいるのは都市伝説そのもの。 人間と都市伝説――どちらが化物なのか。 「ま、首さえあれば供養はできるからね。江良井くんへの手土産のつもりだったけど渡しちゃってもいいかな?」 「俺が頼んだわけじゃない」 にべもない彼の返事に気を悪くするでもなく笑い、黒服に投げ渡す。 本来は江良井へ渡されるはずであった「手土産」は弧を描き、男の手の中へと収まった。 変わり果てたかつての同胞へ片手で拝んでから、彼へと向き直る。 「江良井卓よ、A-№106は殿の命により貴殿を監視していた。決して害意があるわけではないことは信じてもらいたい」 「俺は静かに暮らせればそれでいい。お前らはお前らで監視なり何なり勝手にしてろ。ただし――降りかかる火の粉は払う」 「我らは殿の命があれば従うまで。それまでは一切手出しなどせぬ。――然らばだ」 それだけを言い残し、現れた時と同じように音もなく静かに黒服は立ち去った。 黒服の残した「殿の命」の言葉。命令があればいついかなる時でも命を狙うということ。 彼は言葉の意味に気づいているのかいないのか、A-№102の危険な発言に脅える様子はなく、むしろ嫌そうな目で見送った。 「……寒いと思ったら雪が降ってきたか」 手の平で雪を受け止め、空を見上げる。 静かにひらひらと飛ぶ蝶のように、わずかな風に乗った雪が舞う。 「僕は帰る。風邪を引かないように気をつけて」 「……お前もな」 ――こうして、聖夜に突如行なわれたふたりの邂逅は終わりを告げた。 彼らの足跡が、はらはらと降り積もる雪に覆われるまでそれほどの時間はかからなかった。 まるで、彼に――学校町にこれから先も訪れる危機のように。 了 前ページ次ページ連載 - 葬儀屋と地獄の帝王
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4332.html
ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 17 ~襲撃一日前~ 最後の夜。 牛スジカレーを食べながら、平将門から手に入れた組織の「情報」が書かれた紙の束を、 「ちょっと、大事な資料がカレーで汚れてもしらないわよ」 などと、半眼で注意してくる幽霊少女をカレーに、いや華麗にスルーしながら捲る。 首塚の隠れ里の一室で、急性アルコール中毒になりかけながら手に入れたその「情報」はその苦労に見合うものであった。 「暗部」。 そう呼ばれる集団が、「組織」の中にあるらしい。 「暗部」は「組織」の中でも一握りの人間しか知らされていないらしく。 その実態も、その活動内容も、謎に包まれているという。 しかし唯一、分かっている事がある、 それは「鮫島事件」という強大な都市伝説を所有し、この学校町全体を対象にそれを発動させようとしている事だ。 「鮫島事件」、俺の敵。 俺がこの世界へと足を踏み出す切っ掛けとなった忌むべき都市伝説。 幼馴染である「 」を俺のもとから奪った憎むべき存在。 こいつを、この都市伝説を葬る事だけが、今の俺の存在理由と言って良い。 それが、明日、この街で、発動される。 発動しすればどうなってしまうのか、その条件は一体何なのか、その全ては謎に包まれているが。 「俺のやるべき事は、変わらない……か」 「情報」の一番最後に書かれた地図。 北区、今居る場所から大体一時間程の場所に、組織の重要施設であった廃ビルが存在した場所がある。 その重要施設の存在理由は今まで不明であったが、地質をスキャンしてみるとどうやら、その下には広大な規模の地下施設が存在し それこそが、「暗部」の秘密基地である可能性が高いとのこと。 先日、「夢の国」がその施設を奪取したさい、その施設ごと敵対勢力を消滅させたという……そう「鮫島事件」を使って。 そこまでして「敵対勢力」に知られたくない存在が、その地下に存在する巨大空洞にある、という考えは不自然で無いだろう。 現在、「組織の黒服」達が多数警戒しており、その警備を突破する事は限りなく不可能であろう場所。 しかし明日ならば、「夢の国」の大攻勢の混乱で、その警備も緩くなる可能性がある。 ならば、そこに賭け、その秘密の地下施設とやらに潜入する。 秋祭り二日目、「夢の国」がこの街に姿を表すタイミングに合わせて「鮫島事件」を発動する可能性が高いだろうと最後に締め括られた紙の束を丸め。 意味もなく、俺の横で牛スジカレーを食べている太郎さんの頭をポコンと叩く。 いきなり叩かれ、意味が分からずクエスチョンマークを頭上に多数浮かべる太郎さんを無視して、頭上を見上げる。 地上から祭りの熱気と強い人工の光に照らされてもなお、妖しく光り輝き続ける気丈な満月を見上げ、ふと溜息を一つ吐く。 「先日の「鮫島事件」発動の際の実行命令を下した黒服……ね」 手渡された資料にクリップで止められた一枚の写真、見覚えのあるその姿。 「まさか……アンタが?」 俺が「組織」に入た頃から、先日担当から外れるまでの十数年間をずっと俺の担当をしていた「黒服」 その冷静、冷血、無表情な、その顔は思い出すだけでも忌々しいく思う。 しかし、それでも、俺が天涯孤独の身となり、只一人となった俺に、何かと世話を焼いてくれた存在で、 俺は、きっと口に出す程には、あいつのことを嫌っては居なかった、と思う。 そんなあいつが、 「俺の敵だったとはなぁ…」 もう一度溜息を吐く。 しかしそれでも、俺の胸に宿る復讐心は変わらない、揺るぎない我が怨嗟は黒く濁りきっている。 たとえ誰であろうと、我が敵ならば屠るのみ、全ては明日、俺は全てに決着を付けるのだ。 周りから聞こえる祭囃子を聞きながら、俺は頭上に映る月へと向け、鈍く輝く銅貨を指で弾いた。 前ページ次ページ連載 - ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗