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これは 未知との遭遇(1)第一種接近遭遇 の続きとして書かれたものです。 変人さんはそこらに落ちてるので探してお読み下さい。正常な方は今すぐ閉じて下さい。どちらでもでもない方は慧音と霖之助が少し仲良くなった状態と考えてお読み下さい。 接近遭遇の順序がおかしいのは仕様です。 第三種接近遭遇 その日は本格的な冬の訪れを告げるかのような寒さだった。霖之助はストーブをつけている、これからしばら く世話になるだろうが今季では初稼働だ。 香霖堂には人影ふたつ、茶を啜る少女と読書に励む青年。青年の方は一応この店の店主なのだが客がいようが いまいが変わらない、そもそも少女は霖之助の客ではあるが香霖堂の客ではない。香霖堂の客でないなら店主と してもてなす義理はない。茶を飲んでいるのは霖之助としてのもてなしだ。客でもない人間をもてなすほど香霖 堂の経営状態は芳しくないが、幸いにも彼は生活に困窮することもない。 空になった少女と自分の湯呑に茶を注ぎながら質問をする。 「魔理沙には会えたかい?」 「ええ、なんとか。神社で捕まえました」 汚い店内を眺めていた慧音はやっと上げられた声に霖之助を見る。どういう話になったか教えてくれと言われ ていたのを覚えていたからこそ訪れたというのに、この店主ときたら二、三言挨拶を交わしたかと思えば読書に 耽ってしまった。これではいい人間関係など築けるはずもない、客が少ないのも頷ける。 人を挑発するようなことも言うし。 「人間というのはわかっていましたからね。誠意を込めて謝罪したつもりなのですが……」 「人違いだと言われた、かな?」 魔理沙が言いそうなことを読んで慧音よりも先に霖之助が答えた。 「よくわかりましたね。“なんのことを言ってるかわからないぜ”と言われました。私が覚え違いをしていると は考えにくいのですが彼女に覚えがないならそうなのかもしれません」 「じゃあもうその件はそれで終わりにするのが賢明です。たぶんなんとかなってますよ」 慧音は首をかしげ、霖之助は笑いを噛み殺している。 用は済んだとばかりにそれきりまた霖之助は読書を始めてしまった。手持ち無沙汰な慧音は店内を見て回る。 とはいえ整理されていないのでろくに見られない。よくわからないものを下手に触って壊してしまうのもはばか られるので、結局見るものもろくにない。おまけに店主が読書をやめる気配もない。 慧音は本読み半妖にひと声かけて帰ることにした。しばらくここを訪れることはないだろうと予測をして。 上白沢慧音はまた香霖堂を訪れていた。慧音からすればこの店主はいけ好かないが、里外の者に挨拶回りをし ようとするとちょうどいい場所にこの店があるのだ。発端である「謎の人間探し」はもう達成されているが、中 途半端を良しとせず踏破しようとしている。 霖之助としてもこのような好き者はいい退屈しのぎになると受け入れている。魔理沙や霊夢などとはち合わせ になることもあるが、その度に慧音は念入りに情報収集をしていた。 まあ早い話がこの店は店主の性格や嗜好を除けば慧音の目的にうってつけなのだ。霖之助がそういう場所を選 んだのだから当然である。しかし残念ながら客の姿は今日も、ない。 普段は日光が和らぎ始める頃合いに訪れる慧音だが、今日はまだ日が頂点にも行きついていない。 「今日はずいぶんと早いね。奥まで行くのかい?」 「それもありますけどちょっと今日は報告がありまして。普段は森近さんを楽しませるようなことを言えないの でどうかと」 霖之助は慧音なんぞに面白い話を期待していない。彼の楽しみ方はあくまでも彼女を観察することに集約され ており、話すも聞くもこれ以上つまらない存在はないと思っている。一応顎をしゃくって先を促す。 「二年ほど前から温めていたのですが稗田家との連携や場所の確保ができたので、挨拶回りがひと段落着いたら 里に学校を開こうと思います」 慧音の言葉が終わる前に霖之助が茶でむせた、そしてそのまま噛み殺すこともできずに大笑いに移行。彼女の 真剣な言葉は時に練りに練られた皮肉や冗談よりも彼の腹を苦しめる。しかもこれは今までにない大当たりだ。 「はあ、はあ、ふう、苦しかった。それにしても言うに事欠いて学校! 半妖が人間にものを教えるのかい、君 もたった数ヶ月でずいぶんと言うようになったものだ」 「私は本気だ、人が真剣に準備してきたことを嘲笑うのは感心しないな。次世代を担う里の子らに歴史を教える ことが笑われるようなことだとは思えない。それとも教えるのが私だからでしょうか?」 思わず地の言葉使いが出ている、そしてそれに気付かないほど興奮している。彼女も面白いこととは言ったが まさか笑い飛ばされるとは思っていなかったのだろう。霖之助は素早くそれを察知して声のトーンを下げる。ま たぶん殴られるのは嫌なようだ。 「すまない、僕が笑ったのはそこじゃないんだ。確かに人間は忘れっぽいからそういうのも必要だろう。教える のが白沢というのも理想的と言える。でも、昔の人間の半妖への態度を思い出すと、ね」 霖之助もわかっている。当時、大多数の人間にとって妖怪とは畏怖の対象でしかなく、人間のすべてが強くは なかったことを。ましてや半分もそれらの血が混ざっている子供がどれほど気味の悪い存在だったか、も。 「後で混ざったとは言え、君もわからなくはないだろう?」 慧音がは息を飲む。彼が先天性であることを失念していたのだろうか、彼女が比較的恵まれた環境だったのだ ろうか。 「す、すみませんでした。でも――」 「その学校のおかげで妖怪について理解が進み、結果僕のような子供が今後たとえ昔のように荒れたとしても出 ないのならば、喜ばしい限りだよ」 椅子から立ち上がり、そもそも笑いはしたが反対をした覚えはないな、と優しく言い放って目の前に座る少女 の頭に手を乗せる。 慧音はその手を取り、はっきりと宣言する。 「はい、私の力が及ぶ限り」 「香霖邪魔――」 見事なタイミングでドアが開けられる。魔理沙と霊夢は店内をぽかんと眺め。 「したぜ!」 すぐさまドアが閉じられる。 「あれ? 魔理沙に霊夢、来たそばから帰るとはどういう了見なんだ?」 さすがは霖之助。慧音はそれを受けて。 「そういえば最近私が来ているとこういう風なことがありますね。もしかして嫌われてしまったのでしょうか… …」 負けてはいなかった。 薄暗い店内で近い境遇の男女が互いに手に手を取り合い、見つめあう様が人にどうとられるか、などという簡 単なことを、博学聡明と言われるふたりは考えたことはないのだろうか。 「いやーしかし香霖もやるときはやるもんだな」 香霖堂から離れながら魔法使いが巫女に声をかける。 「そうね、霖之助さんは死ぬまでああなのかしらと思っていたわ。でもいいの? 霖之助さんのこと、好きなん じゃないの?」 「ああ、大好きだぜ。大好きなお兄ちゃんの幸せを祈るのはかわいい妹の大事な大事な役目だ」 強がりのない本心からの明るい声。 「それに香霖はいろんなところが適当だから少し真面目すぎるくらいがちょうどいい。そこ以外はいろいろと似 た者同士だしな!」 「でもあそこが使えなくなるといろいろと不便ね」 「女を気にして私たちを嫌がるほど気の利いたやつじゃないのは私が保障するぜ?」 「なら問題はないわ」 「まったく、冬はまだまだ続いてるってのにけしからんやつだぜ」 ストーブもあるしね、とは巫女。ふたりは、霖之助は冬を楽しむ気がないと結論付けたようだ。 当然ながら歴史の学校が始まってから慧音の香霖堂を訪れる回数は激減した、激減はしたが休日になるとひょ っこり顔を出し続けている。挨拶回り珍道中が学校の生徒談義と切り替わってしまったのが霖之助としてはいさ さか残念に感じていた。 ひとつ彼が気づいたことがある。この少女、話しだすとやたらと長い。しかも自分の話にのめりこんでこちら の言うことなぞ聞きやしない。話し相手としては落第だ。 「……という具合でな。断ってはいるんだが授業料として食べ物を頂くんだ。いつまでも断れるものでもないし 結局受取ってしまうのだが、少しならいいんだが量が多すぎてこれがなかなか困る。もらったものを腐らせて しまうのも悪いし――」 霖之助が誰かのことを棚に上げ、その長い話を聞き流してさりげなく読書を始めようとすると。 「こら、人の話を聞くときは相手の顔を見なさい」 という具合で、仕方なしに慧音の顔を見つめる羽目になる。魔理沙霊夢にもこういうときに限って訪れると同 時に帰られる。おかげで彼は彼女の顔をはっきりと覚えてしまっていた。笑うとどこがへこむだとか、渋い顔を するとどこに皺がよるだとか。だからと言って何かがあるわけではないが。 「で、今日は何の用なんだい? 学校での話をするためだけにうちに来るほど暇じゃないんだろう。先、生?」 一瞬の隙をついて霖之助が話の腰を折る。話題は何でもよかったので適当だったのだが何やら痛いところを突 いてしまったらしく、先ほどまでいい調子でしゃべっていた慧音が急にしぼんでしまった。 「えっと……あの、ええとええと。もっ! 森近さんは、いや違う、香霖堂は……妙に女性客が多いですよね。 霧雨の娘さんに博麗の巫女、紅魔館のメイドとか」 言われてみれば確かにそうだ。一見さんは同じくらいの割合だが常連は少女が多い。常連連中は客じゃないこ とが多いのが悩みの種でもあるのだが。 「実は、ですね。教え子のひとりに相談をされまして」 これでもかというほど言いよどむ。その姿を見てさしもの霖之助も深刻な話なのかと息を飲む。 「す……好きな男の子と仲良くなるにはどうしたらよいのかと……」 「それとうちに女性客が多いのと、何か関係が?」 当然の疑問である。 「き、近所の方に聞いたらすぐに広まってしまう! そんなことになったら私を信頼して相談してくれた子に申 し訳ない!」 本人にとってはとても深刻な問題らしく、顔を押さえて髪を左右に振っている。霖之助はあきれ顔で溜息をつ く。彼はうちにはどうして一風変わった客しか来ないのだろう、と考えているのだが答えは簡単だ。まともなや つはこんな場所に寄り付かない。来ても霖之助が追い払う。 「ならば自分の経験から抜粋して答えてやればいいだろう。相談者が女の子なら尚のことだ」 「ぐぅっ」 彼女は変な声をあげてうつむいてしまう。 「……んだ」 「よく聞こえない。悪いがもう一度大きな声で頼む」 「私にはそういう経験がないんだ!」 やけっぱちの悲鳴のような怒号のようなものが場を凍らせる。 慧音はうつむいたまま動かない。霖之助は呆れて動けない。 「君は長い人生何をしていたんだ」 静かな声に反応して、まるで痙攣するように顔が跳ね上がる。 「そんなの人の勝手だろう!? 恥を忍んで頼んでいるのだから何も言わずに教えてくれ……」 「生憎彼女らが寄り付いているのは僕じゃなくて外の道具だ、ちなみに僕もその類の経験はない、そんなことに 時間を割くくらいなら道具の手入れか読書をするね」 首まで朱に染め、目を潤ませた慧音をただの一言で切り捨てた。 霖之助は置物のように固まってしまった慧音を放っておいて読みかけの本に取り掛かる。二、三頁を捲ったあ たりで素っ頓狂な声が上がった。 「それにしてもこの店は整理されてないな。言い方が悪いがまるでがらくたの山だ」 哀れな半獣を見て霖之助は眉間に指を当てて考える。追い討ちを掛けてもいいがそれはさすがにかわいそうだ ろうか、それに逆上されても面倒だ。 「ひどい言い分だね。ここにあるものはみんな僕の宝物の、がらくたの山さ。君にだって宝物のひとつやふたつ あるだろう?」 珍しく霖之助が救い舟を出す。泥船かもしれないがないよりはましなはずだ。慧音もこんな苦し紛れで話をそ らしてもらえるとは思っていなかった。 「あ、ああ、ある。どれだけ金を積まれても絶対に手放したくないものがね」 「それは興味深い、ぜひともお目にかかりたいものだ」 慧音はきょとんと霖之助を見る。窓の外を見る。見たいかと尋ねる。 何か不審な気配を感じながらも霖之助が肯定の意を表すと、慧音はそそくさ帰り支度を始めた。 「ちょうどいい、いつかの話を聞いてからずっと見せたいと思っていたんだ。ここに持ってくることができない ものだから付いてきてくれないか? まだ時間も早い」 霖之助が窓の外を見ると確かに陽は天頂を過ぎたばかりのようだ。 すっかり支度を終えたところでやっと思い出したらしく、苦々しい口調で声をかける。 「しまった、店番をしなければいけないのだったな。また今度にしよう」 「こうすればいい。どうせ客なんか来ないさ」 朝と晩に付け替えられる木製の板を取り出す。そこには「準備中」と書かれていた。 霖之助の胸には後悔が渦巻いていた。慧音の家を知らない手前金魚の糞のように彼女に付いて行くしかないの だが、老若男女問わず道行く人々のほぼ全てに声をかけられる、もちろん慧音が。いや、それだけならかまわな い、たとえひとりひとりと談笑するせいでやたら時間がかかろうともそれだけならかまわないのだが、これまた ほぼ全ての人が霖之助のことをちらちら見ながら慧音に素性を聞いているのだ。これは見世物になっているよ うで霖之助としては面白くない。不満は言うのだが。 「もうしばらく辛抱してくれ」 と繰り返されるばかりだ。 しばらくはそんな状態にも耐えていた霖之助だが、一向に家に着く気配がないのでいよいよ飽きてきた。もう 「あの人誰?」だの「そちらさんは?」だのには反応する気にもなれない。それでも彼が帰らないのは慧音の言 ういくら積まれても手放したくない代物を拝んでないからだ。彼女は物に執着するタイプではない、その彼女を してそこまで言わせる物……興味がある。 やがて日が暮れる。もうかなりの距離を歩き回り、自称インドア派の霖之助にはやや疲労の色が見える。 「もういいだろう。そろそろ家の方に連れて行ってくれ」 「私の家? 別にかまわないが」 こういうときの慧音の不思議そうな顔は本当に無防備で、永い年月を歴史にしてきた賢人には見えない。 そしてその表情が霖之助が感じていた違和感をさらに顕著にする。なんだろう、この「家に行く」を本当に意 外とでも思っていそうな雰囲気は。 いざ家に向かうとものの半刻ほどでそこに着いた。上がると部屋は外観からの予測以上に広い、というより物 がない。霖之助は香霖堂を基準に考えるので物が多い家などほとんどないのだが、慧音の部屋には本当に物がな い、学校で使うと思われる道具がなければ箪笥と机ぐらいしかない。半妖などの存在は生命としての根源的な欲 求を捨てるときに一緒に他の欲求も一部捨ててしまうのか、物に対する執着心が極端にないか極端にあるかのど ちらかであることが多い。ただ単に慧音がそういう性格なだけかもしれないので考えるだけ無駄なのだが。 「緑茶紅茶豆の茶があるがどれがいい? ああ、すまない。紅茶は切らしていた」 勝手から声がする。霖之助は一応客として扱ってもらえるらしい。 「珈琲で頼むよ」 そういえばいつの間にか彼女の敬語が影を潜めている。どうでもいいことだが。 「これは……苦いな」 運ばれてきた珈琲を一口啜るなり霖之助は渋い声を上げた。 「砂糖とミルクを持ってこようか?」 「いやいい。慣れてないだけさ、それにいつだか読んだ本に珈琲は苦くて黒くないといけないだかそんなことが 書かれていたはずだ。確か続きもあったはずなんだけどちょっと思い出せないな」 霖之助がちびちびと珈琲と格闘する一方、とっくに飲み干してしまった慧音がその様子を眺めている。 「それで件の宝物とやらはどこにあるんだい?」 どことなく不快な視線をそらさせようと本題を切り出す。これも最初は慧音のごまかしから始まったので本題 もへったくれもないのだがここまで来て見ないという選択肢はない。 「おや、たっぷりと見せてきただろう?」 妙な違和感は……これか。 「人里の風景とか言うんじゃないだろうな」 「安心しろ、違う。里の中を練り歩いてたくさんの人と言葉を交わしたわけだが、私から声をかけたのがその内 の何人だか覚えているか?」 霖之助は今日のことを思い返す。最初は確か村人の方から声をかけてきた、次もそうだ。それから……。 ん? 「そう、普段はもちろん違うが、今日はあえて私からは一度も声をかけていない。若い衆はまだしも、ご年配の 方の中には妖怪の恐怖が身に染み付いている方もいるのにだぞ? こればっかりはいくら積まれようが手放す ことはできないな」 霖之助は自らの額を手で覆った。 この半獣、愚直な堅物かと思いきやなかなかやるではないか。半妖と人間の信頼関係、ね。いつかの話とやら を今ここで持ち出してくるとは。 「確かに素晴らしい宝物ですが、これはうちでは取り扱っていない代物ですね。買い取りはあきらめてお暇させ ていただきますよ」 空のカップを机に返し、立ち上がる。もう時間も遅いし長居は無用、ボロが出る前にさっさと切り上げるのが 上策だ。 「そうか。ここからなら帰りに襲われることもないだろうが一応気をつけるんだぞ? 何かがあってからでは遅 い」 わかりましたよ先生、と皮肉で返したつもりなのだが、彼女は満足気にうなづくだけだった。 「土産に持って行け」 「ついさっき素晴らしい宝物をごちそうになったばかりでね、遠慮しとくよ」 大量の食糧を霖之助に押し付けようとする慧音をかわし、霖之助は帰路に着いた。彼は暖房の効いた部屋にい たわけでもないのに冬の寒風を実に心地よく頬に感じていた。 ふたりは気づいているのだろうか。今日の行動が俗になんと呼ばれるものなのか、人々の目にどう映っていた のか。気づいているのだろうか。 つづけーね
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《森近(もりちか) 霖之助(りんのすけ)/Morichika Rinnosuke》 1272986789.gif アイコン 森近霖之助 性別 漢 年齢 120歳程 種族 半人半妖 能力 未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力 二つ名 半人半妖 呼称 香霖、霖之助さん、こーりん、霖之助、(キバヤシ) 等 香霖堂を経営している。東方シリーズでは数少ない男性キャラで、 人間と妖怪とのハーフ。 名前で呼ばれない人二号。本名での呼ばれなさ度は一号をも凌ぐ。 原作の常識人と二次の変態の両派の溝は深い。(どこでも褌一丁。) 外から来たさまざまな商品を扱うが本人にあまり売る気が無い。 と言うか、便利と判った物は全て非売品にしてしまう。 魔理沙が生まれる前に、霧雨店で修行をつんでいた事がある。 そのため魔理沙には昔から遠慮しているらしいが、実は魔理沙の勘違い。 ガラクタの山に良品が混じっていることを魔理沙に秘密にして 引き取っているため、もしもバレた場合に返せと言われないよう 予防線を張っているのが実家に遠慮した態度に見えるだけである。 (人として軸がぶれている。) 香霖堂は26話でまさかの連載終了。ありがとう、さようなら、こーりん……。 関連ページ キャラクター紹介へ戻る|キャラクター紹介 【東方Project】へ戻る コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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第一種接近遭遇 「ということはあのやたらと長い夜は月の民によるものだったのか」 秋も暮れ、冬妖怪の対策もそろそろ気になり始めた幻想郷。魔理沙は香霖堂を訪れていた。これは別段珍しい光景でもなく、これからの季節はことさら多く見られるであろう日常のひとコマである。 霖之助があの異変についてやっと口を割らせたのはつい先ほどのこと。代償にたんまりとたかられたが大して痛手を負っていなかった。差し出したのは彼にしてみればいつ「勝手に死ぬまで借りられ」たり「店主に無断で返る当てのないツケにされ」たりするかわからない品ばかりだったからだ。悲しいことに、その危険性があるのはこの店の用法がわかっている商品ほぼ全てなのだが。 しかし得た情報はそれらをはるかに上回る価値があった。霖之助は道具屋のはしくれであると同時に――もしかしたらそれ以上に――熱心な蒐集家である。風に聞く彼らの持つ高い技術力はさぞかし霖之助の蒐集欲を刺激したことだろう。その月の民が幻想郷内にいる、この情報に価値がなくてどんな情報に価値があるだろうか。おまけに出奔したとはいえ元は地位ある人物というから期待もできる。 魔理沙に約ひと月もの後れをとったがなにせ相手は魔理沙だ、ろくな交渉もしていないだろう。まだまだ価値あるものがごまんと残っているはずと霖之助は睨んでいた。 「人間の里で襲ってきたやつが半妖だったらしくてな。誰かを守るとかなんとか言って角生やして襲ってきたんだ、ただ肝試しに行っただけなのにひどい話だぜ。それに奥にいたのも不死の人間だったしな」 霖之助が自分の考えに夢中になっている間も魔理沙は話し続けていたらしい、後になって肝試しの話はごく最近のことだと知った。 正直どうでもいいと思っていたがある単語が霖之助の耳に引っかかった。 「半妖?」 「ん? ああ、半妖だ。しっぽも生やしてたから半獣の方かもしれないな」 「弾幕勝負をしたとなると女性か。半獣で少女でおそらくは後天性、何人かいるな……」 興味のないことにはとことん興味を持たない霖之助だが自身の関係もあって里の半妖については少しだけ覚えていた。そもそも彼らの時間は永いので耳にする機会が多くなるだけともいう。 「歴史がどうだの堅っ苦しいことばっか言ってたぜ」 「上白沢の娘さんか」 ちょうど喉につかえた魚の小骨がとれたような感覚を覚えると同時にこの話題に対しての興味を失くした。霖之助の興味の対象はあくまでも人知れず人里を守る半妖の正体であり、上白沢慧音と名付けられた半獣ではない。 霖之助は魔理沙の語る武勇伝に耳を傾けることにした、どうでもよくとも代価を払っている以上、聞くに値する話までも聞き逃すのはどことなく癪に障る。願わくば少しでも有益な情報を得られることを祈りつつ、魔理沙の話で暇つぶしをする。 「くしゅんっ! しまった、風邪でも引いたか」 上白沢慧音は頭を抱えていた。六日前の月に一度しかない満月の日に仕事をほっぽり出して迷いの竹林に行ってしまったことだ。それだけならまだしもそこで勝負した見知らぬ娘達には惨敗、聞くところによると妹紅も敗れたらしい。おかげでかなりの量の仕事が未消化になってしまっている。 生活必需品以外何もない質素な部屋にごろりと横になる。歴史の編纂は満月の日でなければならない、それまでは特にすることもない退屈な日が続く。 慧音は整理された引き出しからある帳簿を取り出した。その帳簿にはびっしりと何かが書かれている、どうやら人名のようだ。その人名にはひとつひとつチェックが付けられている。 ええとまだ顔を合わせてない人は、と。もう里にはいないか。慶事も弔事もなし。 彼女は里の人間に挨拶をしてまわっている。良い人間関係は気持ちの良い挨拶から、と数十年前から始めたことだが人里は端から端までもうとっくに回ってしまった。人口もそう多いわけでもないので最近はもっぱら身よりのない人に声をかけるだけになっていた、日々の糧を得る必要のない半獣故にできることである。しかし今日 は少し考えることがあった。 異変のとき出会ったあの二人組、人型妖怪だろうか? しかし片方は人間のようなことを言っていたような……。もしそうだとしたら大変失礼な真似をした。確認したいがどこの誰なのだろうか? 里の人間ではないとすると……。 頁をめくりある箇所を見る。そこには「里外の人間及び半妖。里に近い妖怪」と銘打たれている。チェックはまだほとんど付けられていない。 日を改めて香霖堂。暖かい陽気に恵まれているにも関わらずいつも通り客はいない、加えて今日は魔理沙の姿も霊夢の姿もない。しかし誰もいなかろうが店主の日常に変化はない、少し読書がはかどるだけ。それに特別騒がしくなったのはここ最近の十年程度のことだ、あと六十年もすればあっさりと入れ替わる。あの子らがそれを 素直に受け入れるかどうかまでは霖之助にはわからなかったが。 本人は気づいてないが、霖之助がらしくない妄想をしているとふと渇きを覚えた。そういえば昨日の朝から何も口にしてないなと独り言を浮かべながら茶を淹れるために奥へ下がる。 幻想郷はそろそろ申の刻を迎える。 時は少し巻き戻る。 上白沢慧音が魔法の森方面に向けて歩いていた。その足取りはしっかりしたもので、お嬢様然とした外見とミスマッチを起こしている。晴れているが日傘は差さず、機能性という言葉を真っ向から否定するようななんとも珍妙な形をした帽子を頭に乗せているばかりである。しかし、たとえ夏真っ盛りのカンカン照りであろうとも彼 女が熱中症に倒れることなどありえないのでなんら問題はない。 慧音は人探しをするにあたってまずは所在の知れている者から尋ねることにした。もしあの少女がわざわざ里から離れて暮している人間だとしたらそう簡単には見つけられないだろう、ならば里外の者から情報を集めながらの方が結果的に早くなると判断した。 帳簿によると里に最も近い里外在住者は半妖である。以前は里に住んでいたが里を出てからからは街での目撃談はあまりない。森の間近に住居兼店舗の一軒家を構えて商店を営んでいる。名前は森近霖之助。 「森近霖之助、か」 たかだか三十年も経っていないことを思い出すなど、彼女にとってはなんの労苦でもない。 そのころ霧雨店で修業していた優男がいたはずだ。霧雨の旦那さんが彼が人間ではなく、私の側の存在だと笑って言っていたのをはっきりと覚えている。 「ふふっ」 若かりしころの霧雨店店主を思い浮かべて慧音が微笑みを浮かべる。あのころは旦那さんもまだまだ若かった。 「おおい、慧音ちゃぁぁぁぁん」「こんにちわ、上白沢さん」「おっ、慧音ちゃんご機嫌だね。なんかいいことでもあったんかい?」 こうして歩いてる間にもすれ違う里の人間から次々と声がかかる。慧音も律儀に返しているものだから目的地に着いたのは彼女が想定していた時間より遅れ、太陽の傾きから推測するにそろそろ未の刻が終わろうとしているころになっていた。 慧音の知っている常識では商店とは訪れた客と店員が顔を合わせ、互いに挨拶を済ませてから商談を始めるものだと決まっていた。しかしここ香霖堂は里の外にあるだけあって一風変わった営業法をしているようだった。 彼女が入店したのは霖之助が茶を淹れに奥に引っ込んだ直後だった。慧音がごめん下さいと口を開く前に、霖之助が魔理沙か霊夢が来たと早とちりをして「適当に掛けてくれ」と言ったがために今の状況になっている。 彼女は不快な生温かさが残る椅子に座っていた。 「やあ、お待た……、誰?」 ややあって盆に急須と三つの湯呑を乗せた霖之助が見知らぬ後ろ姿を見ての第一声がこれだった。営業口調でもなければ親しい相手への口調でももちろんない。すぐに客が来たという発想に行きつけないあたりでこの店の経営状態が推察できて物悲しい。 慧音から椅子を返してもらいひとつに茶を注ぎ、迷うことなく自分で飲む。霖之助は今日もマイペースだ。 「いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか?」 「ああ、いや。すまないんだが今日は冷やかしなんだ」 冷やかし自体は珍しいことではない。香霖堂の利益の大半は冷やかしの客を煙に巻いてよくわからない品を押し付けることによって発生している。数少ないビジネスチャンスだと喜ぶ方が正しいくらいである。 ただし、この店の商品は基本的に店主である霖之助の言い値が売買価格となる。霖之助が客のことを気に入れば真っ当な価格で――あくまでも幻想郷での真っ当ではあるが――購入できる、そうでなければその客は香霖堂の売り上げに大いに貢献できる、という素晴らしいシステムである。 立ち尽くしている慧音をちらりと流し見て霖之助は確信する。この少女はこちら側だ、なら今回はこういう手口で行ってみよう。 「へぇ、客でもないのにひとのテリトリーにずかずか入って来たのか。僕のことを知らないのかい?」 霖之助は自分でも白々しいと感じながら、できる限り敵意というものを演出する。 「森近さんが半妖だということは伺ってます」 若干緊張していることが窺える慧音に対して、霖之助は第一関門は可とした。いくら作り物でも気付けぬような愚鈍なら可能なかぎり毟ってさようなら、だ。 「そう、君と同じでね。じゃあなんで来たのかな? 妖怪同士なら互いのテリトリーを守るのが鉄則ってことくらいわかるだろう? 生まれつきじゃないとそこら辺鈍いのかもしれないけどそこまで半妖歴が浅いわけじゃないらしいし……。やはり妖怪と違って妖獣さんは躾がいるのかな?」 もし空気が個体だとしたら、壊れるときはこんな音がするであろう音を、霖之助は、確かに。 「森近……さん。私にも自身への誇りというものがあってですね、既にこれは私の一部なんです。ですから、そこまで言ったからには……もう後には引かせないぞ?」 腫れた頬を押さえながら霖之助が必死に弁解をしている。曰く、これは一種の商人の職業病だとか、自分の悪い癖でそのせいで客が付かないだとか、あなたみたいな人はかっこいいと思いますよだとか。 「お詫びに大特価でお売りしますよ、ここにあるものは全て貴重で高価な品物なんですが」 霖之助の言葉はもちろん真赤な嘘だ。皮肉のひとつも返せないようなつまらない人間なら用はない。せいぜい売り上げに協力してもらおう。それにもしかしたら本当に貴重ながらくたが混じっているかもしれないから完璧に嘘というわけではない。 自分のはしたない行為の自覚と霖之助の言い訳でようやくいつもの落ち着いた雰囲気に戻った慧音――それでも十分不機嫌だった――はここを訪れた本来の目的を思い出す。 「いや、冷やかしといってもそういう冷やかしでもないんですよ。ちょっと人探しをしていまして、昔人里で暮していらっしゃった森近さんを訪ねさせていただいたんです。このくらいの背丈の、こう言ってはなんですが絵本に出てくる魔女のような格好をした女の子と前々回の満月前に人間の里と、前回の満月の晩に迷いの竹林で会ったんです。そこでのことを少し確認して必要なら謝罪したいんです。ご存じではありませんか?」 霖之助は少し考え込むふりをすると何かを思い出したかのように。 「心当たりがないわけではありません。すいませんがあなたのお名前をいただけますか?」 「これは失礼、上白沢慧音と申します」 ビンゴ。間違い様がない。それにしてもまさか魔理沙に……。 「クッ、クックックックック」 霖之助は必死にこらえようとしたがつい笑いがこぼれてしまった。目の前の人間はあの魔理沙に謝ろうというのだ! こらえきれなかった笑いをもらし終えると慧音と向き合う。 「いやぁあなたは実につまらない、しかし奇特な人だ。それを先に言ってくれればお互い不快な目に合わずに済んだというものを! いやいやあのステップがあったからこそか。うん、そうだそうに違いない」 一体何がおかしいのかわからずに戸惑っている慧音を無視してぶつぶつ言い続ける霖之助。ひとしきり楽しんだ後にあっさりと魔理沙のことと彼女のねぐらを教えてしまう。家出中の霧雨店の娘と聞いて慧音も合点がいったようだ。 「もし家にいなかったら神社かここだ。さらにそのどちらにもいなければ森の中か物を借りに行ってるかだから出直すといい。ついでにもしよかったら魔理沙と会ってどういう話に展開していったか教えてくれると嬉しい」 最後に、予想はついてるんだけどね、と付け加える。 日はだんだんと短くなっており、窓の外はもうオレンジに染まり始めていた。 「ああ、もうこんな時間だ。済まないが私はそろそろお暇させていただくとしよう」 そのままなし崩しに突入した霖之助の独演会から逃れるチャンスができたことを慧音は本気で感謝していた。 もし今が夏だったらと思うと背筋が凍りそうだ。 「もう日暮れか、これからが面白いところなのに残念だな」 慧音はこれからの人生で決して天道虫だけは殺さないことを誓い、店主の気が変わらない内にとそそくさと帰り支度をする。そして逃げるように、というより香霖堂から逃げ出す。 「あ」 ドアに手がかかったところで不吉な声が聞こえた。 本人の意思とは別に礼儀として振り返る。かわいそうなことに首のあたりのネジに油を差す必要があるんじゃなかろうかと思われるほどに動きがぎこちない。 そこにはついぞ中身が客人に振る舞われることのなかった空の急須を持ち上げる霖之助の姿があった。 「次はお茶をごちそうするよ。祖茶でよければ」 やっと帰路に就けた慧音は自問していた。 (私の記憶にある森近霖之助はもう少しまともだったはずだが、あそこまで変容するものなのだろうか? 住所録に間違いでもあったんじゃないだろうか。あの好青年は一体どこへ……) 堅物の少女の混乱する様を想像していた。 (そういえば霧雨店で世話になっているときは半妖の客がいたら片っ端から挨拶させられたな。霧雨店の名前を背負っている以上変な真似をしないようしていたから記憶と食い違いがあるだろう。それにしても堅物もあそこまでいくと逆に見ていて面白いものだ。弾幕勝負は基本的に両者の合意があった場合に行われるものだからどちらが挑んだか、なんてほとんど関係ないのに) 霖之助の抑えた笑い声と頁をめくる音は実に気味が悪い。 つづけーね
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前の話へ 【彼女の葛藤】後日談 霖之助とめでたく結ばれて以来、紫は香霖堂に生活の場を移すことになった。 これから記すのは、2人の幸せな日常の一幕である。 朝、霖之助はいつもどおりの時間に起床した。その傍らでは紫が霖之助の腕を抱きしめ、安らかな寝息を立てている。 紫と暮らすようになって以来、布団は2人用の大きなものを購入し、毎晩こうして仲良く寄り添って眠っている。 霖之助は紫を起こさぬようそっと腕を抜き取ると、艶やかな金髪に手を滑らせ、額に軽く口付けた。 振られたり立ち直ったり一芝居打ったりする間にどうも感覚がずれたらしく、今ではこういうことも恥ずかしげもなくできるようになってしまった。 着替えて顔を洗った霖之助は朝食の支度を始める。 そろそろ完成という頃合になって寝室に戻ると、まだ半分眠っている紫は目を閉じたまま、 「ん~……」 と切なそうな声を上げ、霖之助が眠っていたあたりを手で擦ったり叩いたりしている。 起きた瞬間霖之助がそばにいないのが寂しかったようだ。 そんな紫の様子に苦笑しつつ、もぞもぞしている紫の体に手をかけて上半身を起こす。 それでもぼや~っとしている紫の顔を真っ直ぐ見つめ、朝の挨拶を告げた。 「おはよう、紫」 紫はしばらく眠い目を瞬いていたかと思えば、もそもそと霖之助の首に手を回して抱きついてきた。 そんな紫の背中をさすりつつ、朝食が出来たことを伝える。 「紫、朝ごはんが出来たから起きてくれないか」 「いやぁ~、もっとこうしてるぅ~」 寝起きだからかやたらと甘えてくる紫が微笑ましいが、折角作った朝食を冷ますのも勿体無い。 「ちょっと失礼……よっと」 しがみついて離れない紫の背中と膝の裏に手を回し、いわゆるお姫様抱っこで居間へと運ぶ。 座布団の上に降ろそうとするものの、紫はいまだに離れようとしない。 「紫、御飯が冷めてしまうよ」 「……まだ離れたくないんだもん」 「やれやれ、全く仕方ないな」 ちっとも仕方なさそうに見えない霖之助は、そのまま胡坐をかいて紫を横向きに抱く格好を取った。 紫は霖之助の腕と胸に支えられ、何とか座っている状態だ。 「ん」 目を閉じて口を開ける紫。迷いがないところを見ると、こんなことを割りと頻繁にやっているらしい。 霖之助はさながら小鳥に餌をやる親鳥のように、朝食を紫の口に運んでやった。 最初の一口で紫の目はほぼ完全に覚めているのだが、二人ともやめる気配は微塵もない。 紫は満面の笑みを浮かべて愛する人の手料理を食べさせてもらい続けた。 朝食を全て食べさせてもらうと、今度は紫が箸を取って霖之助の口に料理を運ぶ。もちろん霖之助の上に座ったまま。 「「ご馳走様でした」」 「それじゃあ、僕は食器を片付けてくるよ」 「ええ、よろしくね霖之助さん」 チュッと軽いキスを交わし、霖之助は食器の片付けに台所へ、紫は着替えや洗顔などの身繕いを済ませに別れた。 霖之助は片づけが終わると開店準備を始め、紫はエプロンをきて掃除に取り掛かる。 朝の様子とは打って変わり、今度は紫が霖之助の世話を焼いていた。 掃除が終わったかと思えばお茶と茶菓子をそっと置き、霖之助の目が疲れる頃を見計らっておしぼりを渡す(目に当てると非常に効きます。念のため)。 さらには洗濯ものなどを干しつつ、1時間に一度は霖之助のそばに来て肩をもんだりお茶を入れ替える。 そして大体午前11時頃になると、紫は包みを1つ拵えて霖之助に渡した。 「それじゃあ、結界の点検に行ってくるわね。はい、お弁当。 夕方には帰るけど、晩御飯は何か食べたいものはある?」 「別になんだって構わないよ」 そっけない言葉に困ったような笑みを浮かべ、紫は霖之助に近づく。 その頬を両手で掴み、おでことおでこをコツッとぶつけた。 「もう、そういうのが一番困るっていつも言ってるじゃない」 「僕もいつも言っているが、君の作る料理に優劣なんか付けられないよ。どれも最高さ」 鼻がつくほどの近さにある紫の顔を見つめて言い返すと、霖之助は本を置いて紫の背中に手を回し、その体をグッと引き寄せた。 「んんっ」 霖之助の舌に口内を蹂躙され、紫はわずかに悲鳴を上げたが、がっちりと霖之助に掴まれているので逃れられない。 もちろん逃れる気などないが。 たっぷり数分間そうした後、やっと霖之助は紫を解放した。紫の頬は薄っすら上気し、目は潤んでいる。 「いきなりなんて随分ひどいんじゃない?」 「夕方まで君にあえないんだ。こうでもしておかないと寂しくて死んでしまうよ」 「それは大変ね。じゃあもっとしておこうかしら」 今度は紫のほうが霖之助を抱き寄せる。 結局、紫が香霖堂から出て行ったのはさらに十数分が経過してからのことだった。 夕刻。 霖之助がちょうど本を読み終わり、ぐうっと伸びをした瞬間、目の前にスキマが開いて紫が膝の上に降りてきた。 「ただいま霖之助さん。今日も疲れちゃった~」 紫は霖之助の首に手を回し、霖之助は体を傾け、紫が自分にもたれやすい姿勢をとる。 「お疲れ様。夕飯にはまだ少し早いし、ゆっくり休むといい」 「うん」 紫が夕食を作り始めるまで30分強、2人はただ互いの体温を感じていた。 そして、夕食。 この日の献立はうなぎ、にらたま、ニンニクの蜂蜜漬け、レバ刺しなどなど。 「……いくらなんでも露骨過ぎないか?」 「あら、霖之助さんはお嫌?」 「まさか。むしろ望むところさ。今晩は覚悟しておくといい」 その後見事に完食してみせた霖之助と紫。 この日香霖堂のそばを通った者は、なぜか皆顔を真っ赤にして帰ってきたそうな。 終われ 前の話へ
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機織とは、好機であるにも関わらずそれを逃す行為、フラグブレイク(旗折り)を指す。 フラグ自体はある出来事(恋愛の成就、死亡など)の前触れとなる起点を指す。 幻想郷はファンにとってまさしく理想郷であり、登場人物の少女達もまた理想である。 そんな少女に囲まれるというのは羨ましい限りのことだが、現在唯一東方世界で実態を伴った存在が確認されるのは霖之助のみである。 境遇だけならばハーレムと捕らえる輩もいるであろう中、少女達の思わせぶりな態度を流すように裁ききった霖之助はしばしばフラグブレイクの達人と称される。 と言っても原作中で明確に霖之助に思いを寄せる少女の描写は皆無である。 そもそも霖之助が相応の態度しか見せなかったのは当たり前とも取れるが、二次創作における「鈍感」のような設定に生かされる要素にもなっている。 ちなみに死亡フラグは何故か折れない。
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霖之助(ショップ) 霖之助(ショップ)1章 2章 3章 Extra 1章 名前 価格 お弁当(Lv.5) 414 ゴッド☆土下座 500 コイン 100 木の枝 100 フィールドノート 200 倫敦人形 1000 京人形 1000 京人形を購入できるのは1章のみ 2章 名前 価格 お弁当(Lv.10) 919 ゴッド☆土下座 500 龍の涙 2000 視肉 2000 種籾酒 2000 コイン 100 木の枝 100 ビー玉 100 フィールドノート 200 仏蘭西人形 1000 オルレアン人形 1000 倫敦人形 1000 爆発キノコ 900 3章 名前 価格 お弁当(Lv.30) 2939 ゴッド☆土下座 500 龍の涙 2000 黄金の桃 8000 視肉 2000 太歳 8000 種籾酒 2000 八塩折之酒 8000 コイン 100 木の枝 100 ビー玉 100 玉虫 3000 フィールドノート 200 和蘭人形 1000 露西亜人形 1000 西蔵人形 1000 仏蘭西人形 1000 オルレアン人形 1000 倫敦人形 1000 爆発キノコ 900 水銀 1100 Extra 10品目ランダム。買ったアイテムはメニューからなくなる。 一度戦闘すればリセットされ、またランダムで10品目が並んでいる。 そのため、シナリオマップでもフリーバトルでも一度戦闘するたびに 足しげく品目を確認することになる。
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「人形劇を手伝って欲しいんだけど」 【嘘から出た真】 いきなり本題を切り出すという行為は、話術としては褒められたものではない。 それでも、主導権を握るという意味ではまずまず有効だ。 切り出されたほうは、相手の言ったことを理解し、その背景を推察し、つまるところ何を要求しているのか予想した上で返答しなければならない。 この作業が終わらないうちに次々と言葉を放たれればどうなるか。 大概の人間は混乱するはずである。 そのように有利な立場にいるにもかかわらず、目の前の少女は最初の一言を発したまま沈黙を保っていた。 どうやら、相当気合を入れてきたか、もしくは極度に緊張していたようだ。二の句を告げることも忘れるほどに。 霖之助はたっぷり時間をかけてアリスの言葉を咀嚼し、最も可能性が高いと思われる仮説を立て、これを証明すべく質問することにした。 「それは今度の祭りでの話かい?」 「ええ、どうしても霖之助さんの協力が必要なの」 どうやら仮説は真理の一片を捉えていたらしい。要はアリスが祭りで披露している人形劇を手伝えということだ。 すがるようなアリスの顔に、ふむ、とあごに手をやって考える。 魔理沙や霊夢とは違い、こうして真摯に頼みに来るあたりがアリスの好ましいところだ。 また、普段見せるそっけない言動の割りに、アリスという少女は人が嫌がることはほとんどしないし、なんだかんだで面倒見もいい。 そんなアリスの頼みとなれば、ここは一つ受けてやろうという気になるのが人情と言うものだ。 北風と太陽の童話を思い出しつつ、霖之助は快く協力を申し出た。 「僕に何が出来るのかはわからないが、君の頼みなら断るのも忍びない。喜んで手を貸すとしよう」 「そ、そう……ありがと」 『君の頼みなら』、『喜んで』と言う言葉に反応するアリス。 その頭は、裏の意味を探ろうとフル回転を始めた。 今の言葉はどういう意味だ? 霖之助にとって自分は特別なのだということか? 突飛な想像だが、あながち間違っていないかもしれない。 この男がここまで言うのだ。なにかよほどの理由があると考えたほうが自然だろう。 もしかしたら好意を抱いてくれているのかもしれない。霖之助が、この自分に。 そう言えば、今までなんとも思っていなかったけど、見た目も悪くないし性格も……。 などと、霖之助が段々と魅力的な男性に思えてくる。 現金な自分に呆れつつも、アリスはなんとなく嬉しくてもじもじしていた。 それに対し、もっと喜んでもらえると思っていた霖之助は首をかしげていたが。 「それで、具体的には何をしたらいいんだい? 正直僕は人形繰りに関しては門外漢もいいところなんだが」 「え、ああ、まだ説明してなかったわね。ごめんなさい」 霖之助の声で我に返る。 冷静になると、さっきまでの自分が恥ずかしい。 たった一言好意的な言葉をかけられたくらいでなにを舞い上がっていたのか。 先ほどとは違った意味で頬を染めつつ、アリスは霖之助の質問に答えた。 「人形は操れなくても大丈夫よ。欲しいのは霖之助さんの声だから」 別のことに意識を割いているせいか、今日のアリスは言葉が足りなくていけない。 またしても頭に『?』を浮かべる霖之助を見て、アリスは今度やる人形劇には声を当てるつもりでいるのだと説明した。 男役も自分で声を当てようとはしたのだが、どうにも画竜点睛を欠くような気がしたので、こうして男の霖之助に頼みに来たとのことだ。 なんとか納得することが出来た霖之助は、まず今回の演題がどういう物なのかあらすじについて尋ねる。 アリスが語ったあらすじは以下の通りである。 ある国の王宮のお抱え魔法使いが王女と恋に落ちた。 身分の違いから周りに反対され、密かに逢瀬を重ねるもこれが発覚。 2人で駆け落ちし、国からの追っ手を含め様々な困難に立ち向かう。 全ての困難を乗り越えた2人はやがて小さな村に辿り着き、身分を隠していつまでも幸せに暮らした。 「ふむ、身分違いの恋に襲い掛かる困難、そしてハッピーエンドか。 使い古されている内容だが、使い古されるということはそれほど人の心を揺さぶるということだろうし、悪くはないな」 「まあ、奇抜さはないのは認めるわ。 でも私の持ち味はストーリーじゃないもの。ここは奇をてらわず王道で行くのが無難でしょ?」 「それには同意しておこう。それで、僕にこの魔法使い役をやれ、と」 「ええ。出来れば王様とか追っ手の騎士もお願いしたいんだけど、そこまでは言わないわ。 ナレーションでなんとか誤魔化せるしね。 それじゃあ台本を渡しておくわ。明日から稽古を始めるからしっかり覚えて頂戴」 どうやら霖之助が承諾することまで予想済みだったようだ。 まあ、たまには物語の傍観者をやめて登場人物になるのも悪くはない。 その日、霖之助は夜遅くまで台詞練習に没頭していた。 そして次の日。 「おはよう、霖之助さん。セリフは覚えられた?」 「大体はね。あとはやりながら覚えたほうが早いと思うんだが」 「あら、頼もしいわね。それじゃあ早速始めましょうか」 まずは人形抜きでセリフの確認と演技の稽古をする。 これは打ち合わせをした際、とにかくここさえしっかりしておけばなんとかなると言う結論に至ったためだ。 最悪セリフ練習しかできなかったとしても、アリスならぶっつけ本番で人形の動きを演技に合わせられるだろう。 そんなこんなで稽古は続き、今はこっそり落ち合った2人が愛を語る場面を練習している。 「どうして私は王女になど生まれてきたのかしら? ただの町娘に生まれていれば、身分の差に苦しむことなんかなかったのに」 「ですが、もしあなたが王女として生まれていなければ、私とこうして出会うこともなかったかも知れません。 ならば今はこうして、互いに愛する人と出会えた幸せを喜びましょう」 「もう、2人でいるときは敬語なんてやめてっていってるじゃない」 「おっと、これはすまないね。ついいつもの癖が出たようだ」 感情移入しやすくするため、台本に書かれている2人の口調は霖之助とアリスそのまんまになっている。 もちろん2人きりの場面に限ってだが。 そんなアリスの狙い通り、霖之助はかなり演技に熱が入っている。が、今回は入りすぎたことが問題になった。 そう、人形も置かずに向かい合って演技をしているため、霖之助とアリスが本気で愛を語りあっているような状況になっていたのだ。 アリスもなんだかんだ言って女の子。こういう場面はかなり気合を入れて書いているし、アリス本人の憧れるシチュエーションやセリフも存分に盛り込んである。 そんな"アリスが言って欲しい愛の言葉"を、霖之助が真剣そのものの顔で語ってくるのだ。おまけに今は香霖堂に2人きり。 恥ずかしいようなくすぐったいような思いで徐々に頬が熱くなるアリス。 一方、そんなことは微塵も意識していない様子で演技に没頭する霖之助。 演技に集中するのは悪いことではない。 それでも、自分だって面と向かって愛の言葉を投げかけているのだ。もう少し照れたりしてもいいではないか。 やはり霖之助に女として見られてはいないのだろうかと、少しだけ悲しくなるアリス。 だが、そんな悲しみなど吹き飛ばすような事態が起こった。それは、この場面も終わりに近づいたときのこと。 「そろそろ戻るとしよう。あまり長く抜け出していては怪しまれるからね」 「そうね……。どうして楽しい時間はすぐ終わってしまうのかしら。 ねえ、別れる前にもう一度聞かせてくれる? 私のことを愛してるって。 言われなくてもわかってるつもりだけど、あなたの口から聞いておかないと不安で仕方なくなってしまうもの」 「もちろんだとも。……愛しているよ、アリス。この世界の誰よりも」 「……え?」 「……あ」 いつの間にか劇の役と現実の自分が混ざってしまったらしく、王女の名前を呼ぶところでアリスの名前を呼んでしまった霖之助。 思わぬ不意打ちに、アリスは真っ赤になって口をパクパクさせている。 一方の霖之助も、あんまりといえばあんまりなミスに気まずくて仕方ない。 第一、これでは隠していた想いがつい口をついて出てしまったようではないか。 「す、すまない。ずっと君を見て稽古していたものだから、つい」 とにかくこの空気を何とかしようと声をかける霖之助。 アリスもこのままでは不味いと気が付き、なんとか事態の収拾をつけるべく霖之助の言葉に乗ることにした。 「ま、全く仕方ないわね。本番でやったら承知しないわよ」 「ああ、気をつけるよ」 どうにか落ち着くことは出来たようだが、こんな心境で稽古を続けられるはずもない。 霖之助は慣れていないから疲れたのだろう、ということで今日の稽古は終了となった。 2人ともこれが建前なのはわかっているが、わざわざそこを指摘して稽古を再開する理由もない。 明日また同じ時間に稽古を再開するということにして、アリスは自宅へと戻っていった。 その帰り道、アリスは帰り道を歩きながらため息を吐く。 「見ていたらつい、か」 やっぱり意識しすぎなのだろうか。ホッとしたような残念なような不思議な気持ちだ。 霖之助という協力者を得て、祭りの準備はとても順調だというのに、何か心が晴れない。 気が付けば霖之助のことばかり考えている自分に、アリスは顔をパシンと叩く。 そうだ、とにかく今は劇をやり遂げよう。自分が霖之助をどう思っているのかなんてその後で考えればいい。 「さあ、明日も頑張るとしますか!」 おー、とアリスは右手を振り上げた。 一方、アリスの帰った香霖堂にて、霖之助は最後にやらかしたミスについて考えていた。 なぜ自分はあそこでアリスの名を呼んだのか 目の前にアリスがいたから? 違う。アリスにはああ言ったが、どうも他に理由がある気がしてならない。 その違和感が気になって考えていると、一つの可能性に思い当たった。 「気付かぬうちにアリスに惹かれていた……か?」 流石にそれはない。確かに目を閉じればアリスの顔が浮かぶが、これは今日ずっと2人で稽古をしていたからだ。そうに決まっている。 ぶんぶん、と頭を振り、今日の自分はどこかおかしいのだと結論付けた霖之助は、普段より早めに就寝することにした。 そんなこんなで稽古は続き、ついに迎えた祭り当日。 生まれてこの方味わったことのない濃密な特訓を乗り越えた2人は、意気揚々と道の小脇にセッティングを進めた。 結果としては大成功。あまりの人だかりが通行の妨げになるほどだ。 観客たちの中には、感動して涙すら流しているものまでいる。 また、劇が終わった後は次々にアリスや霖之助の手をとり、その想いをぶつけてくれた。 「感動した!」 「いい話をありがとう!」 「また次の祭りでもお願いします!」 「辛い思いをしてきたんだねえ」 「おめでとう! お幸せに!」 どう聞いても劇の感想ではない発言も紛れ込んでいたが、とにかく返事を返すのに必死な霖之助たちは気付かない。 疲れ果てながらもなんとか香霖堂まで荷物を運んだ2人は、そのまま奥の部屋で眠りに付くのだった。 数日後、 『発覚! アリス=マーガトロイドと森近霖之助に隠された波乱万丈の過去!』 なる見出しの新聞が大量に発行される。 どうやら人里では、あの人形劇が2人の過去を忠実に再現したものということになっているらしい。 そこには連れ添って香霖堂に戻る2人の写真もあり、アリスが朝帰りした所も見ていたと鴉天狗が証言している。 これを見た幻想郷の女性陣はアリスと霖之助を尋問すべく結託。 逃げ回る2人の間にはいつしか愛情が芽生えたりもするのだが、それはまあ別のお話。
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森近 霖之助 森近 霖之助 キャラクター シンボル:黒 必要コスト<黒:1 無:0> 攻撃力:0 耐久力:1 属性:半人半妖 【白:3 休】自分の墓地にある目標のエンチャント1枚を手札に移す。 「香霖堂へようこそ。 どんな客でも歓迎するよ。 客であればね。」 illus:宮本たかし コメント コストは若干重いが、手札を消費せずに墓地からカード回収が行える点は重要。 紅符「スカーレットマイスタ」や、魚符「龍魚ドリル」 といった使うと墓地に落ちるエンチャントとはさらに相性が良い。 ただ、使い回せる体勢を構築しても如何せん耐久1。除去されるのは時間の問題だろう。 生存力の低さに対して場に出てすぐに使えないことや、能力コストの指定白3も難点。 関連
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前の話へ 【彼女の葛藤】後編 紫と人里の甘味処へ行って以来、霖之助は暇さえあれば紫のことを考えていた。 ついこの前までは寝食を忘れて没頭していた読書。それすらも、気が付けばページをめくる手が止まっている。 あれから何度も2人で人里へと足を運んだ。ある日は紫の服を買うのに付き合い、ある日は有名な食事処で舌鼓を打つ。 紫の弾む声、ふと見せる仕草、くるくる変わる表情に、我を忘れて見とれていたことも少なくない。 奔放な彼女には振り回されてばかりだが、今ではそれすらも心地よい。 紫に惹かれている。自分にそんな感情があったとは驚きだが、一度自覚したらもう止まらない。 出来ることならば、友人以上の関係を。そんな想いが日々膨らんでいく。 だが、心のどこかからその想いを否定する声が湧き上がる。 何しろ紫は幻想郷でも指折りの大妖怪だ。それに比べ、自分は少々知識があるだけの半妖に過ぎない。 それに、彼女が幻想郷をどれだけ愛しているのかはよく知っているが、自分に対しては愛と呼べる感情を抱いてくれているのかどうか、そんなことにすら自信がない。 もし紫に告白して、『もう幻想郷と結婚しているの』などと言われたら、きっと自分は立ち直れないだろう。 虎子は欲しいが、虎穴を守る親虎が強大すぎる。 だから今の関係で十分。箱に入った猫の生死は既に決まっているが、箱を開けさえしなければいつまでもその生存を信じていられるのだから。 そう考えていたある日。 「おーっす、香霖。最近紫とよろしくやってるみたいじゃないか」 香霖堂の2大赤字要因の一角、魔理沙が店に訪れた。 「……魔理沙、そんな話をどこから聞いたんだい?」 「どこからも何も、里中で噂になってるぜ。偏屈者の香霖に女が出来て、相手は長い金髪の美女とか。 香霖の知り合いでその条件に一致しそうなのはあいつくらいのモンだろ。 第一私も甘味処で見たしな。鼻の下伸ばして『あ~ん』なんて、まっさか香霖がやるとは思わなかったぜ」 ニヤニヤと笑う魔理沙。 どうやら噂と人の目を甘く見ていたらしい。ため息が出そうになるのを、眼鏡の位置を直して誤魔化した。 「んで、どこまでいったんだ? 祝言とかはまだなのか? 仲人ならやってもいいぜ?」 魔理沙もいつの間にか耳年増の仲間入りを果たしてしまったようだ。 妹のような少女の歓迎しがたい成長に、一抹の寂しさを覚える。 「確かにぼくが彼女に惹かれているのは確かだ。それは否定しないよ。 だが向こうは幻想郷でも最高クラスの大妖怪だし、僕が釣り合う相手じゃないだろう。 それに、彼女は結界の維持という使命がある。重荷になるくらいなら今の関係で十分だよ。 そもそも僕がどれだけ焦がれたところで、紫にその気がないなら意味がない」 「女心がわかってないなあ香霖。そういう時は力づくでも奪って見せるとか言って欲しいもんだぜ。 おっと、香霖より紫のほうが強いとか野暮なことは言うなよ。 第一、見てる限りじゃ紫だって期待してるようにしか見えないしな」 「……そう思うかい?」 すがるような目をしているのが自分でもわかる。 さっきの言葉は建前。本当は彼女と一緒にいたい。朝起きるときも、昼の穏やかな一時も、夜眠りにつく瞬間もずっとだ。 これまでにも、つい紫を抱きしめそうになって我に返ったことは何度もあった。 もし、紫も自分を好ましく思っていてくれるのならば―― 「ああ、間違いないな。女の勘ってやつだ。 思い切って告白してみろよ。どうせダメだと思ってんだろ? なんかの間違いでも上手くいけばめっけもんじゃないか」 「……そう、だな。どうせダメなら、あがいてみてもいいかもしれない。 どの道、何もしなければ僕が本当に望む関係にはなれないんだ。たまには大勝負に出てみるとしよう」 「ようし、その意気だぜ香霖。なあに、ほとんど結果は見えてるさ。私の目をなめるなよ」 強気な言葉に苦笑しつつ感謝する。確かに、自分はちょっと諦めが早すぎたかもしれない。 もやもやしていた胸は、告白すると決めた瞬間やけにすっきりした。 ――なんだ、結局僕は現状で満足する気なんか微塵もないんじゃないか。 数日後。紫と出かけたその帰り道。 「……紫。大事な話があるんだが、いいかい?」 霖之助はここで勝負に出ることにした。 「なあに、改まったりして」 いつもの達観したような雰囲気とは違い、何かを決意したような霖之助。 それを感じ取った紫は、いつもの態度こそ崩しはしないものの、どんな言葉が飛び出してくるか気が気ではない。 こちらを向いた紫と目が合う。今からこの目に向かって告白するのだという事実を前に、心に一滴の逡巡が落ちる。 じわじわと心を染め上げようとするそれを無理やりぬぐい取り、霖之助は生涯で最も緊張する瞬間を迎えた。 「紫、僕は君が好きだ。君がよかったら、僕の恋人になって欲しい。」 最初の一言を乗り越えると、後は止まらなかった。つたなくてありきたりな言葉だけれども、これが今の正直な気持ち。 「……」 一方、この展開は予想していなかったらしく、唖然としている紫。 霖之助が自分を憎からず思っていくれていることは確信していたが、まさか告白されるとは思っていなかった。 いや、楽観していたのだ。 彼の想いがどれほど強かろうが、自分の立場や諸々の状況を理由に今の関係で踏みとどまるだろうと。 だが、彼はそんな障害を乗り越え、紫のことが好きだとはっきり伝えてきた。 自分がそこまで想われていたことが嬉しくてたまらない。 それでも、霖之助の想いには応えられない。 かつて自分に誓ったのだ。特別な恋人は作らないと。 自分は幻想郷にとって必須の存在であり、自分も幻想郷を誰よりも愛していると自負している。 そんな自分が愛する人を持ち、万が一その人物の存在が幻想郷より大きくなってしまったら? 最初に結界を作ったときは、妖怪たちと大揉めに揉めた。 今ではその有効性からほとんどの妖怪が結界を支持してくれているが、それでも反対派が根絶できたかどうかはまだわからない。 霖之助を人質にとられ、その存在を盾に結界の解除を迫られたとき、自分が幻想郷を選んでくれるかどうか。 それでなくとも、愛する人が出来たことで不測の事態が発生する恐れがある。 だから、この申し出を受けることはできない。今までの自分をいつか否定してしまうかもしれないから。何より、霖之助が危険にさらされるかも知れないから。 もう一度、霖之助の気持ちを確認する。 「……本気なの?」 「僕は本気だ」 一瞬の迷いもなく答える霖之助。 その目には一点の曇りもなく、どうやら誤魔化すことは出来ないと紫は悟った。 2人の間に沈黙が下りる。 紫は、返事を言おうとしては踏み出せない自分に歯噛みしていた。 辛いのだ。既に答えは決まっていても、それをはっきり告げることが。霖之助を拒絶することが。 だからと言って逃げることは出来ない。 霖之助が待っている。彼が望む答えを迫ることも、急かすこともなく、ただ紫が決断するのを待っている。 顔を俯け、ぎゅっと服を握り締めると、ようやく紫は蚊の泣くような声を絞り出すことに成功した。 「――ごめんなさい」 それからどうやって帰ってきたかは覚えていない。 気にしなくていいとか、これからも今までどおりとか会話をした気はするのだが。 気が付いたら布団で寝ていて、一晩寝ても虚脱状態は治らず、ただ椅子に座ってぼうっとしていた。 それでも後悔だけはしていない。 自分は現状に満足せず、勇気を振り絞って告白した。その結果なら、甘んじて受け入れよう。 長い煩悶の末、ドロドロと定まらなかった気持ちをようやく形にすることが出来たその時、 「よう香霖! たしか昨日決行だったよな。結果はどうだった?」 先日背中を押してくれた少女が飛び込んできた。 その口調はおそらく成功と信じて疑っていないからだろう。ありがたい話だが、今はその信頼が痛い。 「ああ、ダメだったよ」 「だろう? だからあれだけ言って……ってはぁ!? ダメ!? ダメって言うのはあれか、ごめんなさいってことか!?」 「まさしくそう言われたよ。自分は幻想郷を守る義務があるから、特定の一人に入れ込むわけにはいかないってさ」 「なんだそりゃ!? 納得いかーん! 第一あいつは間違いなく香霖に惚れてるはずだぜ!? どう見たって間違いなしだ!」 バシバシとカウンターを叩く魔理沙。どうやらかなり釈然としないようだ。 「君の目も曇っていたということだろうね。とにかく今はそっとしておいてくれないか?」 「いーやダメだ! 可能性が全くなくなるまでは足掻いてもらうぜ! 一度告白したなら突っ切って見せろよな! 第一これで見捨てたら恋の魔法使いの名が廃る!」 どうやら魔理沙はまだ可能性があると思っているようだ。 この諦めの悪さは既に美点だな。苦笑しつつも、霖之助はまたしても勝手に諦めようとしていた自分に気付いた。 そうだ、まだ自分はやれることを全てやりきってはいない。 一度紫の気持ちを手に入れてみせると決めたなら、力尽きるまで前進し続けよう。 どうせ振られた身、これ以上失うことなど恐れはしない。 「やれやれ、僕はまた弱気になっていたようだね。ありがとう魔理沙。 君に目を覚まさせてもらうのはこれで2度目だが、今度こそ3度目の正直だ。こうなったら、とことん悪あがきをしてみせる。 2度あることを3度繰り返す気はない!」 「ようし! そうと決まればまずは情報収集だ! 油揚げ借りるぜ!」 「というわけだ。紫の様子はどうなんだ? 藍」 「……人をいきなり呼び出しておいて尋問とはいい根性をしているな」 「人様の油揚げ食っておいて言うことじゃないぜ。そらキリキリ話せ」 「話すと言っても、昨日から部屋に閉じこもって呆然としているばかりだ。話しかけても返事すらまともに返ってこない。 あれは下手に号泣するよりショックが大きいな」 どうやら紫のほうもかなり気にしているようだ。それを聞いた魔理沙はいっそう活き活きとして話を進める。 「ようし、とにかく紫のほうも香霖がかなり気になってるってことだな。 まったく義務とかなんとかわかったようなこと言いやがって。 そんなにショックを受けるってことは、それだけ香霖が好きでたまらないんだろうに」 「それで、お前はどうするつもりなんだ? 私としても紫様が元気になるなら協力は惜しまんが」 「ふっふっふ、要は簡単だぜ。紫だって本当は香霖といい関係になりたいんだろう? そこんとこの気持ちをちょちょいとつついてやれば向こうから香霖の懐に飛び込んで来るはずだ。 まあ恋の魔法使いに任せておけって」 こうして、魔理沙発案の作戦がスタートした。 それからさらに数日後。 霖之助が会って話をしたいらしい、と藍から伝えられた紫は、気まずい思いを引きずりつつ香霖堂へ向かった。 「……こんにちは」 「やあ、よく来てくれたね。この前はすまなかった」 「ううん、私のほうこそ。それで、話したいことって?」 胸の痛みはともかく、なんとか平静を保つことが出来た。そんな紫の安堵は次の一言で木っ端微塵に砕かれる。 「……実は、この前君に振られた後、ある人物に告白されたんだ」 「え……」 さあっと血の気が引いていく。 告白された。それはつまり、霖之助を好きだと言う女性が現れたということ。 「あ……相手はだれ?」 声の震えに霖之助はあえて気付かない振りをした。 「……申し訳ないんだが、それは言えないことになっているんだ。 向こうも僕が誰かに振られたことまでは知っているけど、誰かまでは伝えていない。そういう約束で話をしたからね」 「……そう。それで、霖之助さんはどうするの?」 手足の震えが止まらない。 霖之助の答えを考えただけで倒れそうになるが、彼を振った自分にそんなことは許されない。 たとえそれがどんな答えだったとしても、その結論に至った原因は間違いなく自分にあるのだから。 「最初は断ったよ。君に振られたばかりで、すぐに誰かと付き合う気にはなれなかったから。 でも、彼女がこう言ったんだ。 私のことが嫌いならきっぱり諦めるけど、誰かに振られたからなんて理由で振られるのは納得できない。 私と付き合うかどうかを、私と関係ない理由で決めないで欲しい。ちゃんと私を見た上で決めて欲しい。 それを聞いてショックだったよ。 僕は僕が振られたばかりで辛いからって、僕を好きでいていくれるその子に同じ思いをさせるところだったんだ。 だから、彼女の申し出を受けることにしたよ。情けない話さ。君に振られたから、僕に言い寄ってくる別の子となんてね。 でもそんな自己嫌悪は彼女には関係ないんだ。だから、せめて彼女の気持ちには応えたい」 喉がヒリヒリする。手足の感覚などとうになく、崩れ落ちそうになるのをこらえるので精一杯だ。 事ここに至って、自分がどれだけ霖之助を想っていたのかを思い知らされた。 なにが今の関係は続く、だ。小ざかしいことを考えて、悲劇の主人公を気取っていた自分を八つ裂きにしてしまいたい。 霖之助にしがみついて、恥も外聞もなく泣き喚いて、やっぱり自分も霖之助が好きなのだと叫びたい。 だが、それは出来ない。 自分は彼を拒絶したのだから。彼が何をしようと、文句を言う資格など自分にはありはしないのだから。 「……わかったわ」 なんとか搾り出した声は掠れ、普段の鈴がなるような声とは程遠い。 だが、後一言だけは言わねばならない。 「私が言えた立場じゃないけど、おめでとう……霖之助さん」 自室に戻った紫は、後悔の念に押しつぶされそうだった。 なぜ自分は彼を拒絶したのか。結界の維持という使命は、本当に彼と生きることとは相容れなかったのか。 自分がもっと覚悟していれば。どんなに辛くても、霖之助との生活も幻想郷を守る使命も投げ出さないと腹を括っていれば。 だが、もう取り返しがつかない。 結局自分のせいで、今までのように彼と話すことも、一緒に里へ出ることも出来なくなる。 彼の隣には別の女性がいるのだから。 「……そんなの、嫌」 それでも、湧き上がってくるこの感情は止められなかった。 霖之助の隣を取られたくない。 霖之助の目が、声が、気持ちが、自分でない誰かを向いているのは嫌だ。 そういえば霖之助はこう言っていた。 『明後日、その子と里へ行く約束もした』 と。 紫は自分の中でなにかがメラメラと燃え上がるのを感じていた。 2日後、紫は香霖堂で霖之助を覗いていた。 みっともないことをしているのはわかっている。 霖之助を失いたくないならそう告げればいい。告げることも出来ないなら諦めるべきだ。 心のどこかで冷静な自分がそう叫んでいたが、どちらを選ぶことも出来ず、こうして覗きをしている。 今度は自己嫌悪で心が重苦しくなりつつも、霖之助の監視は緩めない。 見るほうに気持ちが偏りすぎて隠れるほうがおろそかになり、霖之助にはバレバレだったが。 しばらくすると、香霖堂の扉が勢いよく開いた。 「よう、香霖。待たせたか?」 入ってきたのは、霖之助とも紫とも馴染み深い魔法使いの少女だった。 いつもの魔法使い然とした格好ではなく、前の開いた黒いショートジャケットに黄色のレディースTシャツ、 下半身は赤いチェックのプリーツミニスカートにボーダーのオーバーニーソックスと、女の子らしい格好をしている。 頭は帽子を被らず、よく梳いた髪をいつものように一房だけ三つ編みにしていた。 「ずっと家にいたんだから、待っているも何もないさ。 ……ふむ、わざわざ着飾ってくれたのかい? よく似合っているよ」 霖之助がそういうと、魔理沙は照れくさそうに頭をかいた。 「そ、そうか? よくわかんないからアリスに聞いたんだが。 な、なあ、香霖は……その、か、可愛い……とか思って……」 最期は恥ずかしくて言えなかったらしい魔理沙に微笑みつつ、霖之助はその先の言葉を拾った。 「ああ、とても可愛いよ。いつもそうだが、今日は一段とね」 それを聞き、パアッと顔を明るくする魔理沙。 部屋の隅から『くぅっ』といううめき声が聞こえたが、2人とも聞こえない振りをした。 「そ、そうか。よかった。 よし、急いで里に行こうぜ! 時間が勿体無いからな!」 「ああ、そうしよう」 苦笑しつつ立ち上がる霖之助。その左腕に魔理沙が右腕を絡めてきた。 「魔理沙?」 「い……いいだろ別に。今はその、こ、恋人同士なんだし」 顔を背けながら言う魔理沙。 紫はギリギリギリギリ……という歯軋りの音を隠しもしない。ちらりと目の端をその顔が掠めたが、血涙のようなものが見えたのはきっと気のせいだ。 「もちろんだよ。それじゃあ行こう」 腕だけでなく、手も握って歩き出す2人。 背後からは『はぅぅぅぅぅぅぅぅ』という声と、だれかが崩れ落ちるような衣擦れの音が聞こえてきた。 そして、道中。 「ふっふっふ。動揺してる動揺してる。作戦は順調のようだな。 スキマを動かしてついて来てるが、こっちの視界をあんまり考慮できてないみたいだぜ。バレバレだ」 「……僕としては、君の演技力に驚かされているよ」 「女を甘く見るなよ香霖。子供と思って舐めていると気がつかないうちに大きく成長しているものだぜ」 話しているのはこんな内容でも、2人とも一応満面の笑みを浮かべている。 傍から見れば睦言を囁きあっているようにしか見えないだろう。 紫のブツブツブツブツ……という声をBGMに、2人は人里に到着した。 例のバイキングに行った霖之助と魔理沙は腕を組んだままケーキをとり、そのまま壁際の席に並んで座る。 「魔理沙、君は右利きじゃなかったのかい?」 「いいじゃないか。一時でも離れたくないんだ。 ほらほら、可愛い彼女に食べさせてくれよ。あ~ん」 女は怖い。ひとつ賢くなった霖之助は、言われるがままに魔理沙の口へケーキを運んでやった。 紫は流石に店内でスキマを開くほどには自分を見失っていなかったらしく、変装して2つとなりの席に座っている。 店内でサングラスはどうかと思ったが、まさか指摘することもできず演技を続ける2人。 「美味しいかい?」 「美味しいに決まってるぜ! 愛情というスパイスが効きまくってるからな!」 ビキッという音が聞こえた。 顔を動かさずに横を伺ってみると、紫が握っているカップにヒビを入れたらしい。 しかし、ここでひるんでは作戦の意味がない。心を鬼にして笑顔を浮かべ、霖之助は慣れない言葉を囁く。 「それはよかった。胃がもたれるくらいかけてあげるから、存分に味わうといい」 「それはありえないな。かけてもらえばもらうほどもっと欲しくなるんだぜ?」 甘すぎて口から砂糖でも吐けそうな気分だ。 一方の紫はといえば、もう隠れることすら念頭にないのだろう。 どこから取り出したのやら、ハンカチをギリギリかみ締めている。 その異様な雰囲気のせいか、周りの客は見て見ぬ振りをしているらしい。 やりすぎたんじゃないだろうかと内心冷や汗ものの霖之助だったが、魔理沙は手を休めるつもりはないようだ。 「なぁ、ぼおっとしてないでもっと食べさせてくれよ。 こんな可愛い彼女以外に見るものなんてないだろう?」 肩に頭を預け、上目遣いでこちらを見つつ胸の辺りを人差し指でぐりぐりする魔理沙。 ブチィッという音が聞こえた気がしたが、気にしてはいけない。僕は何も聞いていない。 そう自分に言い聞かせ、霖之助も行くところまで行く覚悟を決めた。 そして帰り道。 精魂尽き果てたらしい紫は、上空でスキマから上半身をだらりと垂らしてまたブツブツ言っている。 行きのように呪詛が篭ってはいない所を見ると、どうやら本格的に打ちのめされたようだ。 「今日はありがとう、魔理沙。楽しかったよ」 香霖堂に入り、ここまでやれば十分だろうと声をかける霖之助。 しかし、魔理沙はもじもじしながら目配せしてきた。 その目はこう言っている。 『ここからが最後の一押しだ』 「あ……あのさ……。 その……。 き、今日は……泊まっていっても……いいかな……。 も、もちろん恋人としてだぜ……」 まさかそんなことまで言うとは思っていなかった霖之助が呆然としていると、魔理沙はとろんとした目で霖之助に近寄り、目を閉じて顔を近づけてきた。 どう見ても本気にしか見えない魔理沙に霖之助は目を白黒させ、気が付くと互いの息がかかるほどに顔が接近していた。 そしてまさに唇が触れようとしたその瞬間、 「だぁめえええーーーーーーーーーーーーーーーーー!」 絶叫と共に紫が魔理沙を突き飛ばし、霖之助に抱きついた。 「いっ……たあ。何すんだよ紫!」 「ダメよ! もう我慢できない! 霖之助さんをとられるなんていやあ!」 「そうか、お前が香霖を振ったやつだな! 今さら何しに来たんだよ!? 香霖がお前を振ったんならともかく、お前が振っておいて香霖をとるなだと!? ふっざけんな!!」 「だって……だってぇ……」 「人にとられるのが嫌なら最初から振ったりすんな! とにかく、今香霖の彼女は私だ! お前の出番はないからすっこんでろよ! それとも何か!? 実はお前も香霖が好きだとか言うんじゃないだろうな!?」 「う……そ、そうよ、私は霖之助さんが好き! 大好きよ!」 「ならなんで振ったりしたんだよ! どうせ結界を維持する義務とかなんとか言い訳して自分から勝手に諦めたんだろ!? 香霖の気持ちも考えずに! そんなやつに香霖を渡してたまるか!」 演技をしているうちに本気で腹でも立ったのか、火を吐くような剣幕で怒鳴る魔理沙。 紫も売り言葉に買い言葉とヒートアップしていく。 「ええそうよ! 確かに最初はそう自分に言い聞かせて誤魔化したわ! 一度霖之助さんを振った私が、あなたと何をしたって文句を言う資格なんてないのもわかってる! でも嫌なの! 霖之助さんが私以外の誰かと幸せそうに笑ってるなんて耐えられないのよ!」 「調子のいいことを言うな! じゃあ何か!? 一度振ったけどやっぱり香霖の恋人にしてくれってのか!? ほいほい言うことを変えやがって! そんなやつの言うことが信用できるかってんだ!」 「調子のいいことを言ってるのは百も承知よ! それでも軽い気持ちで言ってるつもりなんかないわ! 悩んで悩んで、悩みぬいてやっと出た答えだからこんなことまでしてるのよ! はっきり言っておくわ! もう霖之助さんが私を見ていてくれなくても構わない! みっともなくても、誰になんと罵倒されても、霖之助さんが振り向いてくれるなら全力を尽くすって! そして霖之助さんが応えてくれたら、どんな辛いことがあっても彼を切り捨てたりはしないって! 命を懸けて、霖之助さんと一生添い遂げてみせる! 八雲の名において誓うわ!」 「……」 「……」 永遠ににらみ合いが続くかと思われたが、よく見ると魔理沙の肩が震えている。 その震えが大きくなり、顔も引きつってきたかと思うと、ついに魔理沙が限界を迎えた。 「ぶはあっはっはっはっはっはっはっはっは!」 さっきまで怒鳴りあっていたかと思えば、いきなり爆笑し始めた魔理沙に呆然とする紫。 「いや~ここまで上手いことハマってくれるとはなあ! よかったな香霖! やっぱりこいつお前にベタ惚れみたいだぜ!」 「え? え? え? なに、どういうこと?」 まだ混乱している紫。すると物陰から申し訳なさそうに藍が現れる。 「すみませ~ん、紫様」 「え、あ、藍!?」 「いやいや、いじめて悪かったな紫。 お前がどうしても意固地になってるみたいだったから一芝居打ったんだ。藍も一枚噛んでるぜ。 それにしても熱かったぜ。熱くて熱くて死にそうだった!」 ようやく事態を把握する紫。 しかしまだ衝撃のほうが強いらしく、ただただ3人の顔を見渡している。 「それじゃ、邪魔者は退散するぜ! 香霖、今度は逃がさないようにしっかり捕まえとけよ!」 そんな紫を尻目に、魔理沙と藍はもう自分たちに用はないとあっさり帰って行った。 「……あれでよかったのか?」 「ん? なにがだ?」 「いや……お前は店主殿のことを……」 「よしてくれ。香霖は小さい頃から一緒にいた兄貴みたいなもんだぜ? お兄ちゃんに彼女が出来たんだから、嬉しいに決まってるだろ」 「……そうか、なら何も言うことはないな」 「さあ、今日は宴会だ! アリスに服の礼もしないといけないしな!」 そして香霖堂では、霖之助に抱きついたまま紫が硬直していた。 「……コホン」 霖之助が咳払いをすると、紫はビックゥッといった感じで飛び上がる。 「ああああああああの、霖之助さん、さっきのはその、えっと」 霖之助から離れて手をわたわたさせる紫を、霖之助はそっと抱きしめた。 「……あ」 「さっきのは、嘘だったのかい?」 寂しそうに囁く霖之助に、紫は慌てて首を振る。 「そ、そんなことはないわ! こないだはああ言ったけど、やっぱり私は霖之助さんが好きなの。 勝手なことを言ってるのはわかってるけど、それでも霖之助さんが誰かにとられると思ったら辛くて我慢できなかった。 だから……」 「もういい。それだけ聞かせてもらえれば十分だ。 君を騙すようなひどい男だけど……今度こそ、僕と付き合ってくれるかい?」 「……ええ、もちろんよ。 わたしこそ、一度振ったくせにこんなことを言う我侭な女だけど、それでもいい?」 「ふふ、じゃあお互い様ってことだね。 似たもの同士、これからもよろしく頼むよ……紫」 そう言うと、霖之助は真っ直ぐ紫を見つめ、紫はつい、と顔を上げて目を閉じた。 2人の影がゆっくりと重なり、記念すべき一日の夜が更けていった。 翌朝、日の光を顔に受けた霖之助が目を覚ます。 片腕に重みと痺れを感じて見てみれば、最愛の人が頭を預けて眠っていた。 安らかなその寝顔に微笑みながら、そっと髪に指を滑らせる。 「……ん」 どうやら起こしてしまったらしい。寝ぼけ眼でこちらを見つめる紫に、朝の挨拶をささやいた。 「おはよう……紫」 「ん~、霖之助さん……」 ふわふわした笑みを浮かべ、紫は霖之助の首筋にかじりついてきた。 霖之助の首に鼻を擦り付ける紫。霖之助は紫の髪を梳きつつ、自分の頭をコツンと当てた。 結局その日は一日中、同じ布団でゴロゴロとじゃれあうことになるのだった。 前の話へ 後日談へ
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ゆかりんとは八雲紫の愛称であるが、しばしば八雲紫とは別の存在とも認識される。 この項では後者について解説する。 八雲紫は東方作品に置いて非常に重要な地位を持つ存在であり、それ故魅力的なキャラクターであるのだが、 その存在は不定なもので、彼女を彼女らしく描き切る作品はごく稀である。 そのため、その立場と万能性を用いて扱いようにアレンジされてしまうことが多い。 主に霖之助スレで描写される内容としては ・霖之助が好きで好きでたまらない(この設定はしばしば他のキャラにも使われる) ・ストーカー・覗きは当たり前 ・ありとあらゆる手で霖之助を自分のものにすべく行動する。時には痛い行動も ・ただし強制的に霖之助を自分のものにしようという手段は用いない。 ・賢者というには頭が弱く、諦めが悪い。 どっから見ても別人でしかないが、東方自体が描くのが難しいキャラクターばかりなのである意味仕方ないといえば仕方ない。 とはいえ聖典を見た人の反応から察しても不思議な存在である彼女の人気は高い。 安易に「ゆかりん」の出番を増やすのではなく「八雲紫」を意識して考えるのもキャラ愛ではないだろうか。