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己の担当契約者である三面鏡の少女、逢瀬佳奈美からの連絡に、黒服Hは急いで彼女の自宅に向かった 鍵は、あいている 両親は出かけているのだろうか 家の中の気配は、佳奈美のものしか感じない 「大丈夫か!?」 「あ……H、さん」 ガチガチガチ 暖房機の前で毛布に包まり、佳奈美は震えていた かなり、温められている部屋の中 しかし、その唇は青紫になってきていて、寒さに震えているのがはっきりとわかる 「な、なんだか、寒くて…もしかして、何か都市伝説のせいかな、って…」 「外歩いてる時か何か、誰かに抱きしめられたような感覚はなかったか?」 「…そう、言えば…家に入る直前、に…」 原因は、それだ ファーザー・フロストによる被害 それが、佳奈美にも及んでいたとは そっと、佳奈美の頬に触れる黒服H かなり、体温が下がってきてしまっている 意識を保てているのが、奇跡のような状態だ 「…ちょっと、じっとしてろよ」 「……にゃ??」 しゅるり 黒服Hの髪が、伸びる しゅるしゅると、目にも止まらぬ速さで伸びていく髪 それは、H自身と…佳奈美の体を、包み込んだ するり、Hの腕が佳奈美の背中に回されて…ぴったりと、抱きしめられる 「ひゃ!?」 ぺとり 顔を胸板に押し付けられ、その感覚に佳奈美は目をぱちくりとさせる 伸びた髪は、二人をまるで繭のように包み込んだ 視界が、一気に真っ暗になる 「いいか、絶対に寝るなよ。俺が温めておいてやるから」 「え、ええええ、Hさん!?」 「体温をこれ以上さげると不味いからな。この状態で、温める」 …確かに 髪で包み込まれている事と、Hに抱きしめられていることにより…温かみを、感じる 体温が下がり続けている状況ではあるが、ほっと一息つけたような、そんな感覚 どくん どくんっ、と 感じる、Hの心臓の鼓動 その鼓動よりも、速い速い、佳奈美の鼓動 青白くなってきていた頬を真っ赤にそめて、佳奈美は半ばパニック状態だった 「…大丈夫だ」 ぼそり Hが、佳奈美の耳元で、低く囁く 「大丈夫だ……必ず、護ってやるから」 「H、さん…?」 「原因が払拭されるまで、こうしていてやる。絶対に眠るなよ………絶対に、放さない。護ってやるから」 いつになく真剣な、Hの言葉に 佳奈美は、ぎゅう、とHにすがりつく どくん どくんっ、と しばし、二人の鼓動だけが、この場を支配し続けた 三面鏡の少女 37 吹雪の中で その裏で その後でへ続く 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
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星鋼京で計画された新都市の設計により、管理および維持のための行政人員が、新規に雇用されています。 これを読む方の中には、履歴書を送った方も居られるでしょう。 昨今、セプテントリオンによる秘密裏の国内浸透の懸念があるため、採用者の経歴チェックは特に厳重に行われています。他国の方であれば、該当国への問い合わせまで行っております。 別にセプテントリオン自体が嫌なのでなく、常識の範囲で健全に活動する分には問題はありません。常識外だったり、常識かつ不健全な活動が目立つので警戒しているのです。 皆様にはご理解のほど、宜しくお願いします。 文責:ポレポレ・キブルゥ
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黒服Hと呪われた歌の契約者 09 (禿の黒服より) 「…っとと、何だぁ?今の爆発音は」 どこからか聞こえてきた爆発音 何事なのか? …仕事が増えたら嫌だなぁ 浴衣観察の時間が減ってしまう 「……先ほど、部下が二名ほど、全裸で徘徊していた男性を追いかけていました。片方が、何やら妙な事を口走りながら追いかけていたので……若干、嫌な予感がしますね」 そう呟いたのは、黒服と一緒にいた女性 今は浴衣姿だが、この女性、警察官である 学校町では、それなりの地位にある存在だ 「…ま、都市伝説とかこっちの「組織」関係だったら、適当に握りつぶしとくよ」 「いつも、すみません」 「あぁ、いや、こっちの方こそすまんな。詫びとして今度気持ちよくしてやるから」 「訴えますよ?そして勝ちますよ?」 にっこり、笑顔のままそう言いきられた ほんの冗談だったのだが……まぁ、冗談じゃなくて本当にやりたいが 「とりあえず、だ。昨日の件に関しては、もう終わった事だからな」 「はい、わかりました。我々警察としても、それらについては特に探りません」 うん、それでいい 警察に、都市伝説やら「組織」やらについて調べられては困るのだ こうやって、なあなあにするのが一番だ 「………で、そっちの問題のアレだが」 「はい、「都市伝説対策課」については、現実味を帯びていないので、まだ、問題にはならないでしょう。それについて提案している人間は、正気の沙汰を疑われてますから」 「ま、かわいそうだが、しゃあないか。んなもん作られちゃこっちが困るからな」 都市伝説の存在を隠す それが、「組織」の役割 だと言うのに、警察に「都市伝説対策課」なんてものを作られては困る …だからこその、内部協力者 この女性には、まだまだ、役に立ってもらわなければならない こちらとしても、ある程度は利用されてやろう 「………ところで、浴衣の下は」 「全裸ではありません」 「っち」 残念 でも、まぁ、下着の種類とか色を想像するのもまた… 「その卑猥な妄想を止めてください、歩く猥褻ラジオ。訴えますよ?勝ちますよ?」 「はいはい」 しゅるるるるん 伸びた髪を抑えつつ、その黒服はおかたいこの女性を相手に、苦笑するのだった 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
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「いよぉ、メリークリスマス」 「あ、Hさん」 それは、12月24日のこと 三面鏡の少女の元に、黒服Hが姿を現した 「どうしたんですか?突然」 「今日はクリスマスだろ?そうなったら…用件は、一つだけだろう」 ニヤリ、黒服は笑って ほら、と少女に、そのクリスマス雰囲気一色の包装がなされたプレゼントを手渡した 「わ……もらっちゃって、いいんですか?」 「もちろん。お前さんは、今年大活躍だったしな?」 黒服Hにそう言われて、少女は若干、複雑なものを感じた …秋祭りの事件の時、自分の能力は役に立ったらしい だが、未だにどこか…その実感を、感じられないままなのだ それでも、この黒服Hを始め、「組織」の人間が彼女に感謝の言葉を述べてくれて そのお陰で、辛うじて、自分が役に立てたのだと、ほんの少しだけ自覚できている そんな、宙ぶらりんの状態 「どうした?」 「あ、い、いえ、なんでもないです」 ありがとうございます、と 少女は、大切そうにそのプレゼントを受け取った 「あぁ、それと、これ」 「?」 続けて、黒服Hが少女に渡したのは…何やら、チケットのようなもの これは…? 「「呪われた歌」の契約者が、今夜、どこぞの店のクリスマスディナーショーで、少し歌うらしくてな。他に予定がなかったら、行って見たらどうだ?」 「え、あ、く、クリスマスディナーって……い、いいんですか?こんなのまで受け取っちゃって」 「あぁ。それは、俺からってより、彼女からのクリスマスプレゼントだ。受け取っておけ」 くっく、と黒服Hは笑う そんな黒服を前に、少女は途惑っているような、しかし、同時に嬉しそうな そんな表情を、浮かべているのだった 黒服Hが、帰った後 少女は、家の中で、黒服Hから受け取ったプレゼントの包みを開けていた 何だろう?随分と軽いけど… ガサガサ、包装を解いて ピシ、と 思わず、固まった 「…うん、予想はできてた、うん」 中の、そのなんとも際どい、ギリギリラインの下着の数々に 予想通りだった事とか、予想できてしまった事などに複雑な感情を感じつつも しかし、同時に、相手は96%は善意で渡してくれたであろう事も、わかってしまって 少女は、軽く頭を抱えたのだった 終わってしまえ 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
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動員/契約/結成
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アナザープロローグ -あり得る状況の一つ 注:このSSはあくまで幕間です。採用するしないはSS執筆者の判断に任せられます。 夜の中庭を歩くのは、亡者のごとき人の群れであった。 その緩慢な、しかし奇妙に秩序だった動きは、ある種の行軍を思わせる。統率者のいない、死者の軍隊。それはコシヒカリに寄生された、有象無象の希望崎学園生徒の成れの果てである。 (悲惨な) 彼は、眉をひそめてそれを見下ろす。 (これが校外に解き放たれれば、未曾有の災害が引き起こされる) ――生徒会執行部、伊達友晴。 レスリング部所属。 その大柄な体躯と獣じみた形相とは裏腹に、慎重さと決断力併せ持つ男であるため、生徒会内部での人望はあつい。なによりその戦闘能力は、単純な接近戦ならば学園内部でも最上位に位置する。 彼は二階の窓から、じっと中庭を睨みつけている。ゆっくりと迫りつつある、コシヒカリに寄生された亡者たちを。 「――ふん」 伊達の傍らで、かすかに鼻を鳴らす音。 「馬鹿だよね、あいつら」 その声には、嘲笑うような響きがあった。伊達は顔をしかめる。 それとほとんど同時、先頭を歩いていた亡者のひとりが、何の前触れもなく爆炎に包まれて吹き飛んだ。少し遅れて、校舎を震わせるような轟音。夜の中庭が炎に照らされ、亡者たちの姿を鮮明に浮かび上がらせる。 彼らの顔にあるのは、無表情、あるいは無感情。 先頭の男が吹き飛んだというのに、亡者の行軍はすこしも鈍ることがない。それも当然か。彼らはすでに人間ではなく、動物ですらない。そう、 「ただの植物だから。簡単、簡単」 伊達は傍らを振り返る。 その顔に幼さの残る少女。着崩した制服。窓枠に腰掛け、足をぶらぶらとさせながら、空中で指揮棒らしきものを振っている。伊達は、それこそが彼女の能力の制約と聞いたことがあった。 「私のコンサートにようこそ! はは! 次はもっと派手にいってみる?」 ――生徒会執行部、松永薫。 一年生にして生徒会入りを果たした、吹奏楽部の《天才》少女。その能力は、指揮棒をつかった遠隔爆破と聞いたことがある。実際のところは、伊達が見る限り、彼女は空気中を飛ぶごく微小な『何か』を操作して、爆破を引き起こしている。 おそらくは蚊か、蠅か、そのあたりの生物を能力の媒介に使っているようだ。 間違いなく強力な術者である――その精神性とアンバランスなほどに。彼女は爆発によって生じた炎を見て、ある種の興奮を覚えているようだった。 「油断はするな」 伊達は、いくぶん上気している彼女の横顔に釘を刺した。 「ただの植物ではない。《新潟県》のコシヒカリだ。緊急事態宣言の発令には、相応の理由があると考えろ。なにより、いまだ本体である道明寺の姿も捕捉できていない」 「はいはい。心配性だよね、伊達先輩」 松永は明らかに気分を害したらしく、伊達を睨むように視線を向けてくる。彼女は自分の『演奏会』を邪魔されるのが嫌いだ。 「将来、ハゲるよ」 それだけ答えて、松永は大きく指揮棒を振る。 また、夜の中庭に炎と轟音が放たれた。今度は先ほどよりもさらに規模が大きい。四、五人ほどのコシヒカリ亡者が吹き飛ばされ、焼かれ、粉々になった。 「植物だから、炎には弱いでしょう? 今夜は、私がいてよかったね」 なんらかの賞賛を期待したのかもしれない。松永は伊達を横目に見て笑った。しかし、伊達は首を振ったのみである。松永は不機嫌そうな顔を作る。そのときであった。 「――来る」 伊達の背後で、不意に声がした。 ひどく気配の薄い、小柄な男だった。松永よりもさらに身長は低い。異様なのは、赤いボロ切れのような布を身にまとっているところだ。その目はいっそ昆虫のように静かであり、この事態の只中にあっても、感情の欠片さえ感じさせない。 ――生徒会執行部『臨時』役員、カササギ。 本名は伊達も知らない。執行部において、『臨時』役員とは傭兵以外の何者でもない。こうした状況に対応するため、ジョン・雪成が雇用契約を結んでいた男だ。 所属は手芸部。得体の知れない集団だが、あの部に所属するのならば、腕が立つのは間違いない――戦闘ではなく、暗殺を任務とするのなら、特に。能力は、『死』の概念を扱うとだけ聞いている。 (これだけか) 伊達は嘆息する。伊達と松永に、彼を含めて、三人。 このスリーマンセルが、道明寺羅門の『足止め』のために集められた先行部隊であった。ジョン・雪成の判断に対して、伊達は疑問を持たない。彼が三人で足止めをするように指示しているのなら、それが最善手なのだろう。ならば、やるしかない。 緑化防止委員本隊の本体の『三人』が、準備を整える時間を稼ぎ出す。 「あのさ、来るって、ナニが?」 伊達が考え込む間に、松永が尋ねている。 彼女は明らかに、この得体の知れない小柄な男を嫌悪しており、それを隠そうともしていなかった。彼女の性格からして、暗殺者というものを受け入れられないのだろう。 「道明寺のこと? あんたにソレがわかるわけ?」 「やけに歩みが遅い」 手芸部の男、カササギは彼女の問いに答えず、代わりに低く呻いた。ただ、夜の校庭の彼方を見つめているのみである。闇の中に何かが見えているのか。 「これは、……苗を増やしているか。この遅さは、そのためか」 「あのねえ」 松永は片方の眉をつりあげ、さらに指揮棒の先をカササギへと向けた。 「私、無視されるの嫌い。言っておくけど、私はあんたたち程度の」 「そこまでにしておけ、どちらも」 伊達は両者の間で、手を振って無駄口を遮る。 「仲良くしろとは言わんが」 「絶対やだ。伊達先輩、コレよりも私の方が百倍役に立つでしょ」 指揮棒の先端を、松永は小さく動かす。と、中庭で再び爆炎があがった。またしても何人かの亡者が吹き飛び、今度は跡形も残らない。その能力は、おそるべき破壊力といえた。 「必要ないって。根暗な手芸部とか」 「彼を同行させるのは、生徒会長の指示だ」 伊達の答えは、いつも明確で、揺らぎがない。 「あっそ」 つまらなさそうに、松永は顔を背けた。伊達から見て、彼女は強力な魔人だ。だからこそ自信がありすぎる。その部分さえ制御できれば、生徒会を支える戦力になるだろう。今夜を、生き延びさえすれば。 伊達はその不吉な思いを振り払うように、首を振った。気づいたことがある。 「それに、カササギの目は正しい。来たぞ。道明寺羅門――さすがに」 夜の中庭に、ゆらめく陽炎が立ち上った。伊達の目にはそう見えた。 「こうしてみると、なるほど……異質だ」 麦わら帽子と、油断ない農作業姿であった。 屈強な肉体のあちこちから、コシヒカリの稲が発芽している。亡者の群れの後方から悠然と、無人のあぜ道を征くかのように歩いてくる。 その無感情な瞳は、校舎二階から中庭を見下ろす、伊達たち三人の姿をたしかに捉えていた。その事実を認識したとき、伊達は全身に鳥肌が立つのを感じた。未知の脅威に触れる感触であった。執行部としての経験が、伊達にそれを警戒させる。 「松永!」 伊達は反射的に怒鳴って、窓枠に足をかける。 「援護しろ。雑魚を寄せ付けるな。そして、俺が死んだら、即座に撤退を開始しろ。――道明寺羅門。あの本体には手を出そうと思うんじゃない。他のザコを少しでも足止めして、これから到着する本隊の負担を軽減することに専念しろ」 「はあ?」 松永は不快げに肩をすくめた。 「逆でしょ。一人で楽しいとこだけ持ってくつもり? 援護するのは伊達先輩で、道明寺をやるのは私の能力――」 「カササギ、契約の履行を求める。続け」 伊達は松永の発言を最後まで聞くことなく、窓枠を蹴って跳んだ。中庭の闇へと身を投じる。寸分の遅れもなく、カササギもそれに続いた。赤いボロ布のような装束を翻し、追ってくる。 「俺が先に仕掛けて、動きを止める」 どっ、と重たい音を響かせ、まず伊達が地上に降り立つ。純粋な戦闘型の魔人である伊達の身体能力ならば、この程度の高度は『飛び降りる』というほどのものでもない。 「確認するぞ、カササギ。条件が成立すれば、お前の能力は必殺のものと考えていいんだな?」 「必ず」 返答は短かった。 こちらは着地に音も立てない。それと同時に、掌で何らかの手芸道具を閃かせ、手近なコシヒカリ亡者をひとり仕留めている。首と胴体を一瞬にして分断されて、うめき声もあげずに亡者は崩れ落ちた。 「よし」 伊達はうなずいた。走り出す。正面には道明寺。こちらを見ている。感情はない。 彼との直線距離上にコシヒカリ亡者が数名――手を伸ばし、伊達を掴もうとしてくる。が、問題にはならない。伊達は一瞬だけ身を沈めると、思い切り地面を蹴って前方へ跳ぶ。 中庭の土が激しくえぐれ、伊達の身体はひとつの砲弾と化した。 一人目のコシヒカリ亡者の頭部をラリアットで破壊し、二人目を回し蹴りで吹き飛ばす。三人目は、伊達が攻撃に移る前に、爆炎に包まれて吹き飛んだ。松永の能力に違いない。文句は言っていたが、真面目に援護するつもりはあるようだ。 ならば、自分は正面に集中できる。 伊達は加速し、姿勢を低くする。タックルの構え。道明寺は、緩慢な歩みを止めぬまま、正面からそれを迎え撃つ。 (まともに、正面から、俺とやる気なのか?) このとき、伊達は怒りや恐怖よりも、レスラーとしての好奇心を感じた。農作業で鍛えた道明寺の肉体と、日々の練習で鍛えた己の肉体。ぶつかり合えば、果たして。 (面白い!) 激突の瞬間は、地面が震えるほどだった。 大型の重機がぶつかり合うような、およそ人間の肉体があげるものとは思えぬ、激しい衝突音が響く。伊達はその感触に、戦慄を覚えた。 「道明寺、貴様、この力は」 道明寺は、構えすらしていなかった。伊達に腰から組み付かせたまま、ただ立っている。それだけだ。しかし伊達は押せない。押し倒すことができない。 伊達の戦闘計画は、まず道明寺を地面に引き倒し、寝技に持ち込むことだった。そこからなら、自分の能力で自由を封じつつ時間を稼ぐことができる。 その見立ては、破綻した。 (だが!) 伊達は四肢に力をみなぎらせる。正面から道明寺の顔を睨みつける。 「――さて」 不意をつくように、道明寺が乾いた声をあげた。 「いまのうちに聞いておこう、生徒会執行部」 妙に不快な、脳裏を金属片で引っかかれるような響きがあった。サワサワと、道明寺の体から伸びる稲穂が揺れる。 「お前は、いや、お前たちは――我々を阻む障害となり得るか? お前たちの他に、まだまだ立ちはだかる者はいるのか?」 「だとしたら?」 伊達は全力で道明寺を押し倒そうとする。が、すこしも動かない。大地に根を張ったようだ。周囲からは、連鎖する爆音。松永の援護だ、それでいい。いま、コシヒカリ亡者どもに襲われれば、対処はできまい。 「だとしたら――」 道明寺羅門は、ゆっくりと右腕を伸ばしていく。 「お前たちという『外敵』を克服し、我々はさらなる力を手にする。品種改良を」 不意に、道明寺の腕の動きが加速した。拳ではなく、フック気味に掌を打ち付ける動き。およそ格闘術の概念とはかけ離れた、ただひたすらに無造作な、野生に近い攻撃動作である。 しかし、その腕には圧倒的な破壊力がみなぎっていることが、伊達には見て取れた。 (ここだ) 伊達は左腕を掲げ、その掌をブロックする。異音。インパクトの際に空気に火花が飛ぶような、あまりにも重たい一撃。防御した伊達の太い腕が、その一撃で大きく捻じ曲げられる。 砕かれた。 そう見えた瞬間、伊達の腕は柔らかな泥細工のように歪み、折れ曲がった。道明寺の腕に絡みつくようにして、逆にその肘関節を捕らえている。みしり、と、道明寺の腕が軋んだ。 (掴んだ!) 《クレイフォージ》と、伊達はこの能力を名づけている。 己の体を金属と化し、硬度、展性、靭性を自在に変化させる能力。鋼の肉体を目指し、過酷な鍛錬を己に課していた際に目覚めた魔神の力である。伊達はその真の用途について、肉体の硬度を増すことではなく、むしろ柔らかくすることにあると考える。 打撃を柔らかく受け止め、捉えたところで硬度を限界まで増強する。精密な能力の操作が必要とされる作業であり、一瞬の見切りが必要だ。 しかし、この方法で、捕らえてしまいさえすれば――いかにコシヒカリの力を得た道明寺といえど――生徒会執行部において、魔人としても最上級の腕力を持つ伊達ならば。 「自由にはさせん。しばらく付き合ってもらうぞ、道明寺」 「そうか」 道明寺は無感動につぶやき、伊達の腕によって捉えられた腕を引き抜こうとする。 だが、そう簡単にはいくまい。今度は伊達が攻めの手を打つ番だった。伊達は自由な右腕で、道明寺の頭部へ打撃を放つ。純粋な近距離戦闘型魔人である伊達の、振りかぶっての一撃であった。 「ああ。剛腕だな。格闘技をやらせておくには惜しい」 ごっ、と、道明寺の頭部に拳が打ち込まれ、ごくわずかに彼の表情を変化させる。 ――笑っていた。 あるいは、ただ、目を細めただけだったかもしれない。 それでも伊達は、背筋が一瞬で粟立つのを感じた。 「良い環境だ」 道明寺は、顔面に打ち込まれた伊達の拳を掴んだ。 「我々は、今夜、この世界に生まれ落ちる」 道明寺の全身に力が漲るのがわかった。 伊達は咄嗟に右拳を軟化させようとした。しかし、それは間違いでもあった――次の瞬間、呼吸が奪われた。鋭い痛み。なにか、腹部に、 (なにをされた? 膝? いや、こいつの足は動いていない……これは) 理解する前に、一瞬の意識の空白があった。 それは、能力を発動させる前に、道明寺に致命的な一手を打たせるのに十分であった。 ばつん、と、右肩に異様な感触を覚えた。 激痛よりも先に、圧倒的な喪失感があった――右腕である。引きちぎられるのを、伊達はその目で見ることになった。 (……しかし、いま、この瞬間なら) 伊達は痛みに叫ぶ代わりに、その名を呼ぶ。 「カカサギ! ……やれ!」 道明寺の右腕は、いまだ伊達の左腕が捕えている。左腕は、いま伊達の右腕を力任せに引きちぎったところだ。両腕は封じた。今ならば。 カササギが道明寺の背後から跳躍し、襲い来るのが見えた。 彼はまとっていた赤いボロ布を、瞬時に脱いで広げている。どうやらそれは、衣服のようであった。痩せさらばえ、肋の浮いたカササギの肉体は、幽鬼のごとく舞った。 伊達にはその名を知るべくもないことであったが、これこそがカササギの能力。 《赤睡童》。 赤いちゃんちゃんこを着せた相手に、『死』という概念を押し付ける必殺の術。相手が魔であれ神であれ、生きているのならば、この能力を防ぐ術はない。たとえ、相手が異界《新潟》の存在だとしても。 だが―― 「おお」 道明寺は天を仰いだ。 伊達は勝利への道を見た。道明寺の両手はふさがっている。振り返ることすら、この自分が許さない。体を密着させ、動きを封じようとする。ほんの、コンマ数秒間だけ、動きを止めれば、それで終わる。そのはずだ。 「いいぞ」 道明寺は、はっきりと笑った。 「我々は、成長している!」 その瞬間に、伊達は見た。 道明寺の背中から、無数の槍の穂先のようなものが突出した。それは背後から迫るカササギを、まっすぐ刺し貫く軌道であった。カササギは空中で体をひねり、それでもどうにか致命傷を避け、道明寺にその手中の赤い襤褸――『赤いちゃんちゃんこ』を着せようとした。 そして、彼の額から上が吹き飛んだ。 無表情な、昆虫のようなカササギの顔はそのまま赤く爆ぜ、主を失った体が地面に崩れ落ちる。 (見えた――稲! か!) 伊達は道明寺の背中から生えた、槍のごとき武器の正体を知った。 稲、である。 道明寺の体を苗床として成長するコシヒカリ、その瞬間的な成長の速度は、人間の肉を貫き、頭蓋を砕くに足るというのか。カササギの頭部を貫き、血に濡れる稲穂の先端は、まさに鋼の矛先のようである。不意に、急激な目眩に襲われる。 (そして、俺も) 伊達は己の腹部を見た。さきほどの鋭い痛みの正体がわかる。伊達の腹部にも、コシヒカリの稲が突き刺さっていた。それは自らめきめきと成長し、伊達の血を吸い上げんとしている。さらに根を張り、伊達の内蔵に食い込もうと。 自分が、他のなにかに搾取されようとしている感覚は、あまりにも冷たい恐怖であった。 伊達は即座に覚悟を決めた。もとより、この任務を受けた際に、己の中にあった覚悟だ。 「――松永!」 逃げろ、という意味だ。 生き延びれば、これから来る本隊の三人の役に立つだろう。コシヒカリ亡者の駆除をさせれば、十分に活用できる能力だ。 しかしその返答は、かすかな羽音と、あまりにも小さな爆音であった。 かっ、と、伊達の左腕を爆炎が包んだ。ごくごく小さな爆発。松永には、これほど自在に爆発の規模を制御できたのか。そのことは伊達にとって、かすかな驚きであった。伊達の腕だけを破壊する、限定された爆撃。 鋼以上の強度を持った伊達の腕が、粉々になって砕けている。道明寺はつまらなさそうに腕を離す。その手が、かすかに焦げているのが見えた。 (なんということを) 伊達は、爆発によって失い、代わりに自由となった己の左腕を見た。肘から先が欠けている。 そして、その腕が捕えていた道明寺は―― (最悪の展開だ) 伊達は振り返る。 「伊達先輩」 松永は、あろうことか、彼のすぐ背後にいた。指揮棒を空中に遊ばせ、いまだ己の能力への自信を意味する笑みを浮かべている。 「やっぱり私がいてよかったでしょ? 正直、ホッとしてる? さっさと保健室に行って、その腕、なんとかしてきなよ」 松永は片目を閉じて、指揮棒を大きく振るった。 「こいつは、私がぶっ壊しておくから」 「やめろ!」 もはや手遅れではあったが、それでも伊達は怒鳴った。空中をかすかな羽音が飛ぶ。やはり、なんらかの小さな虫を媒介にして、松永の能力は成立しているようだ。 だがそれらの虫はついに、道明寺の周囲に近づくことさえなかった。 自由となった道明寺は、 「え? こいつ――」 松永がかすかに呟いた。 地面がえぐれ、風圧が伊達の全身を打った。 あるいは、伊達ならばかろうじて反応できただろう。しかし、魔人とはいえ近接戦闘に優れているわけではない松永にとっては、不可避の速度と圧倒的な質量であった。 伊達が次に見たのは、その腹部に抜き手を深々と打ち込まれた松永の姿である。 「遅い能力だ」 道明寺がかすかに呟いた。 続いて、間髪を入れずに放たれる裏拳が、松永の頭部を破壊する。彼女には回避も、防御を試みることすらできなかった。松永は状況を理解できないまま、簡潔な打撃音が響き、その思考を終わらせた。 「――そこで、お前は」 道明寺が振り返る。 「いま少し、我々の糧となるか? より過酷な環境を、我々は歓迎しよう」 「道明寺」 伊達は自分が雄叫びをあげたことに気づいた。前へ踏み出す。彼に残された攻撃手段は、ほとんど何もなかった。道明寺は一瞬だけ瞑目した。 まさか憐れんだわけでもあるまい。 ――そして、道明寺は完膚なきまでに破壊された、伊達の巨体を見下ろす。 「少し時間をとられたか」 道明寺は空を見る。黒々として、明ける気配のない夜空であった。 周囲のコシヒカリ亡者どもは、緩慢な行進を続けている。彼らには感情も思考もない。ただ、水と土と、太陽の光を求めるのみだ。 夜が明けてすぐに、この地に住むすべての人間がこうなる。 「ゆくか」 誰にともなく、道明寺は声をかけた。 おそらくは、己の体の内にて渇望のうめき声をあげる、コシヒカリへ向けたものであっただろう。 (この先の、短い旅路に――) 道明寺は摩耗した精神で考える。いつから自分はこうなっていたのだろう。コシヒカリのことを知ったときか。父を殺したときか。それとも、園芸の名家に生まれ落ちた、そのときからか。 (虚無が横たわっていようとも) 道明寺羅門、園芸の修羅、コシヒカリを宿す者は、破滅へと向けてゆっくりと足を踏み出した。 To Be continue……
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2009年9月21日 景気低迷の影響で雇用情勢が悪化する中、障害者の就職はより厳しさを増している。働く意欲のある障害者を支援するための「就職面接会」が名古屋市内で開かれたが、職を求める参加者は急増しているのに対し、求人する企業は逆に減少。障害者の雇用情勢の厳しさが浮き彫りになった。 県や愛知労働局などが共催した面接会は、18日に同市中区の県体育館で開かれた。会場には所狭しと各企業のブースが並べられ、真剣な表情の求職者と企業の人事担当者が熱心に話し合う姿がみられた。 参加者数は、昨年10月にあった面接会の2倍以上の750人にも上った。一方で、求人する企業数は、181社から161社に減っていた。 今年4月、5年間勤めた派遣会社から退職勧告され、辞めた同市内の男性(30)は「人事担当者に直接アピールできるので、このような面接会がもっと多くあれば」と、期待を込めた。 愛知労働局によると、県内では昨年6月1日時点で、障害者実雇用率は、法定雇用率(1・8%)を下回る1・53%。雇用情勢が回復する兆候はまだみられないという。 ソース:CHUNICHI Web http //www.chunichi.co.jp/article/aichi/20090921/CK2009092102000025.html?ref=rank 【コメント欄】 名前 コメント
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厳しい雇用条件にあるタクシー運転手と失業者を対象とした大量雇用計画を実行します。ワーキングシェアを導入し、全員の一割にあたる人数をホームレスから採用し、訓練し、社会に送り出すことでホームレスゼロを目指します。
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黒服Hと呪われた歌の契約者 25 (サムディ男爵の華麗なる(?)日々より 雪が降る中、月を見上げる 雪が降ろうが振るまいが、いつもと変わらぬ月の光 はらはら、はらはら 静かに、静かに、雪は降り続けている 明日になれば、積っているのだろうか? 雪が積もれば、世界は白く染め上げられる まるで、浄化でもされたように 「……柄でもないな」 何を考えているのやら その黒服は、頭を掻いた …まったく、ここ数年、そんな事は考えないようにしていたのだが 「…か~~~~っらからからからからからからからからからから!!!黄昏ているであるなぁ?友よ」 「ゲデか」 何時の間にか、黒服の背後に出現していたヤクザ紳士…ゲデ 黒服の様子を見て、からからと笑う 「何を考えていたであるか?」 「別に。ただ、マッドガッサーの力でもっと綺麗なねーちゃんが増えないかな、と」 マッドガッサー、もっとやれ 心から、そう思う それもまた、本音だ 「からからから!!なんとも友らしい考えであるよ!因みに、我輩ついさっき、そのマッドガッサーと遭遇してきたである」 「へぇ?それで、どうだったんだ?」 「「薔薇十字団」に誘ったら、さらっと断られたであるよ」 「………だろうな」 向こうにはマリ・ヴェリテのベートがいるのだ フランスで長きに渡って暴れたあいつのことだ、「薔薇十字団」に討伐された事も一度や二度じゃないだろう そんな奴が、「薔薇十字団」を信用するとは思えない 「話に聞いたとおり、なんとも仲間思いであるようだよ、連中は」 「信じあえる仲間同士で集まって、ってか。おめでたくて羨ましい限りだ」 マッドガッサーもマリ・ヴェリテも、かつては人を殺していた存在 …いや、マリ・ヴェリテは、今だって人を殺していることだろう ……そんな奴らが、信じあえる仲間を手に入れた、だ? なんともおめでたくて……羨ましいではないか 「いっそ、あいつらの思うような世界にでも変わっちまえば、おめでたくて平和なのかもなぁ」 「マッドガッサーのハーレム世界、であるか?そのおこぼれがもらえるなら我輩もちょっと興味津々であるなぁ」 「ちょっとじゃねぇだろ?かなり、だろ?」 そんな事を言い合い、笑い合う 互いに、これも本音なのだ 嘘偽りの考えを口にしている訳ではない …ただ、口にしない事が在るだけだ 「…………友よ」 「うん?」 …不意に ゲデが、黒服に、こんな言葉を投げかける 「友は、まだ世界が憎いであるか?都市伝説という存在を生み出す、この世界が」 「……お前にゃあ、どう見える?」 そう言って、笑ってやる ゲデは、しばし黒服を見つめ……笑った 「わからないであるなぁ?友は、隠し事がベリィ上手いであるよ」 「わからないなら、わからないままでいてくれや」 俺だって、わかりゃしない いや、わかろうとしていないのだから かつて、世界を憎んだ 都市伝説という存在を生み出す、世界そのものを 都市伝説さえなければ、自分はこうならなかったのだから 自らも、都市伝説と成り果てて …結局、自分はあんな事をしでかした 世界を憎んだところで、どうにもならないとわかっている、わかりきっている しかし、憎しみはどうにもならず しかし、憎んでもどうしようもなく だから、それについて考える事はやめた ……やめたはず、だったのだ だが、雪が降って、白く染まっていく街を見て、勘が得てしまう いっそ、世界が全て壊れて、まっさらで、真っ白な状態に戻るなら その時は…もう、都市伝説なんて存在が生まれなければいい その世界に、もう一度生まれる事が出来るなら……俺は、今度こそ…… (……いや) そんな事、考えても意味がない 無駄な考えだ それでも、考えてしまうと言う事はやはり…自分は、どこかおかしいままなのだ 「ゲデ。俺が馬鹿な事やらかそうとした時は、頼んだぞ?」 「……っからからから、了解しているであるよ、それは、友との約束である…友の担当契約者の事も、全て任せたであるよ!」 「後半却下。あの二人だけはてめぇにゃ任せねぇ」 「からからからからからからから!!ちょっぴり酷いであるよっ!?」 雪振る中、二人で笑う 肩に積もった雪を払いもせずに …いっそ、まっさらに浄化されるべきは俺なのだと 思考の奥深く、自分でも気づかず、そう考えた fin 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
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このページは見なくてもそれ程支障はありません。 契約した場合のキャプション表記例です。 ===== Name(槍): Name(盾): Rank: 紋章の位置: 【初期能力】型:「」 属性:「」 【吸収能力】型:「」 属性:「」/型:「」 属性:「」 ===== 吸収能力毎にスラッシュで区切り分け。 吸収能力がない場合、吸収能力はあるが「属性」がない場合は -- で表記。 例:【吸収能力】型:「○○」 属性:「○○」 / 型:「○○」 属性:-- 例:【吸収能力】型:-- 属性:-- ※略奪による吸収能力は2つまでです。 【関連Link】 → ■ 槍と盾 → ■ 特徴 → ■ 個々のランクと紋章色 → ■ 槍の能力は唯一無二 → ■ 型と属性 → ■ 略奪について → ■ キャラクターシートの表記もどうぞ。(`・ω・´)