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その瞬間に何が起きたのか、彼には理解できなかった。 作戦開始から28分。 C50区画にて強襲艇へと搭乗中の4分隊、そして救出したパイロット2名、計38名のバイタルサインが強襲艇のシグナル諸共、唐突に途絶えたのだ。 ジャミングを疑ったものの、中枢は既にこちらが抑えている筈。 不可解な事態に彼は他の分隊の状況を確認すべく回線を繋ぐが、同時に意識へと飛び込んだのは信じ難い言葉だった。 『中枢を奪還された。繰り返す、中枢を奪還された。バイドによる侵蝕ではない。管理局側の抵抗と思われる』 その内容を理解すると同時、彼は自身の意識を疑わざるを得なかった。 信じられなかったのだ。 プログラムの発動から30分と経たずに中枢の奪還を果たされるなど、本作戦の実行前段階に於いては完全に想定外だった。 それ程の技術を有する人材を、管理局は温存していたのか。 『トランスポーターの暴走を確認・・・第5・6・9・10分隊が空間歪曲に巻き込まれた。反応消失・・・』 『第14分隊からの応答が2分前より途絶したままだ。第2分隊より「ウーパー・ルーパー」。サーチを実行、第14分隊の状況を報告せよ』 『ウーパー・ルーパーより第2分隊、第14分隊は2分前にバイタルをロスト。最初のトランスポーター暴走に巻き込まれたものと思われる』 『第18分隊よりウーパー・ルーパー、敵のアクセスポイントは何処だ』 『バイド汚染区画からの干渉が激しく、特定不能。フィールド出力を下げると、こちらが汚染されかねない』 錯綜する情報は、戦況が秒刻みで悪化し続けている事を告げていた。 バイドまでもが本局へと侵入していた事も予想外だったが、この状況はそれ以上の脅威だ。 再び中枢を掌握されたという事は、こちらが完全な敵地に取り残されているという事を意味している。 中枢を再度奪取する手段を講じるか、或いは早急に脱出を図らねばならない。 『第13分隊よりウーパー・ルーパー、援護機はどうした?』 『ウーパー・ルーパーより第13分隊、既にツァンジェンは侵入に成功、Aブロックにて局員の殲滅に当たっている。「ウラガーン」、「エグゾゼ」は潜航中に遭遇したバイドの一群を殲滅次第、本局へと突入する』 『ならブロックだけでも良い、アクセスポイントを突き止めてツァンジェンを誘導してくれ。ブロックごと破壊するんだ。パイロットについては既に全員を確保している』 『戦闘機人はどうする。現在、確保しているのはNo.2の残骸とNo.3の射殺体のみだ。ジェイル・スカリエッティは?』 『中枢を掌握された状態では作戦続行は不可能。中枢再奪取後に生存していれば確保する』 『了解。ウーパー・ルーパーより全部隊へ。「ラップドッグ」を起動せよ。繰り返す、ラップドッグを起動せよ』 インターフェースによる通信を行いつつ、同時に彼は並列処理によって隊員に指示を出し、互いをカバーしつつ歩を進める。 現在地、D33区画主要通路。 彼等の後方には、銃弾によって粉砕されたデバイス、そして人体組織の破片が散乱していた。 大量のどす黒い液体によって描かれた染みが、力無く点滅を繰り返す照明の中に浮かび上がっては消えるを繰り返している。 周囲に各種反応が無い事を確認し部隊の歩みを止めると、彼は周囲警戒を命じ右腕に繋いだ漆黒のケースを床面へと下ろした。 信号を送りロックを解除、開いたケース内の端末にインターフェースを接続。 疑似信号を織り交ぜながら正規のコードを入力し、更に起爆コードを手動で直接入力する。 そして全ての操作を終えるとケースを閉じ、管制機へと回線を繋いだ。 『第13分隊よりウーパー・ルーパー、ラップドッグ起動完了・・・ウーパー・ルーパー? ラップドッグを起動した。聴こえているか? ウーパー・ルーパー・・・』 しかし、呼び掛けに答えるのは沈黙のみ。 幾度繰り返しても、結果は変わらなかった。 ウーパー・ルーパー、通信途絶。 『第2分隊、応答せよ・・・第2分隊・・・第17分隊、そちらの状況は? 応答せよ・・・』 他の分隊へと通信を試みるも、こちらもまた繋がらない。 管理局によるジャミングか。 すぐさま対抗手段を講じようとするものの、それより早く隊員からの警告が飛び込んだ。 『高密度魔力反応検出・・・300m前方、魔力障壁展開を確認』 『後方220m、同じく魔力障壁展開』 その警告に従い視線を上げると、主要通路の前後に展開した薄緑の光を放つ障壁が、拡大表示された視界内へと飛び込む。 表面に無数のミッドチルダ言語の羅列と魔法陣を浮かび上がらせるそれは、障壁前後の空間を完全に遮断していた。 通路の反対側へと視線を投じれば、同様の障壁がもう1つ展開している。 すぐさま最寄りのドアを開けようと試みるが、何時の間にかロックされていたそれらは微動だにしない。 『ドアを撃て!』 軽装甲車両程度ならば紙の様に引き裂く銃弾が、嵐の様にドアへと撃ち込まれる。 しかしそれらの銃弾は、ドアを引き裂いた先に展開していた数重の障壁、その数枚までを破壊して停止、或いは兆弾となって通路内を跳ね回った。 その十数発が周囲に展開する隊員を襲い、更に内数発が装甲服を貫通し内部の人体を破壊する。 インターフェースを通じて彼等の苦痛の声が届く事はないが、被弾の衝撃で弾き飛ばされた身体が床面へと叩き付けられ、更にのた打ち回る事もなく倒れ伏す様は、負傷の度合いが決して軽くはない事を窺わせた。 装甲服の医療機構が作動し、すぐさま大量のナノマシンが負傷個所の修復を開始。 それを確認し、彼は残る隊員へと指示を下す。 『どうやら完全に隔離されたらしい。警戒しろ、すぐに局員が・・・』 『障壁、急速接近!』 その言葉に反応した時には、既に障壁との距離は100mを下回っていた。 300m前方に展開していた筈の障壁は、一瞬にして200m以上もの距離を高速移動していたのだ。 反射的に彼は後方へと振り返り、自動小銃のトリガーを引絞っていた。 周囲から同様に発射された大型火器の銃弾が、前方と同様に急速接近する障壁へと殺到する。 数十発もの大口径対魔力障壁弾による集中射撃を受けた緑光の壁は、忽ちの内に粉砕されて同色の光を放つ魔力素へと還元された。 しかしその向こうから、更に同様の障壁が急速に接近してくる。 射撃継続。 連射される銃弾が、通路の前後より迫り来る障壁を次々に破壊してゆく。 しかし幾ら破壊しようとも障壁の発生が止む事はなく、それとは逆に隊員は次々に弾薬切れを起こし始めた。 視界内に隊員の弾薬欠乏、或いは装填中を示すマーカーが次々に表示される。 そして遂に、彼自身も自動小銃の弾薬を撃ち尽くし、腰部に掛けられたPDWへと手を伸ばした。 だが、それすらも間に合わない。 『来るぞ!』 掃射が途切れた瞬間、障壁が一気に距離を詰めてくる。 視界を完全に覆う緑光の壁を見据えながら、彼は任務失敗を悟った。 そして恐らくは、この作戦自体が既に破綻しているであろう事も。 衝撃、暗転。 人工筋肉と自身の骨格が破壊される耳障りな音を最後に、彼の意識は暗黒に閉ざされた。 * * 主要通路の奥から衝撃音が響き、僅かな振動が壁面越しにも身体を震わせる。 腕の中の義娘が僅かに身を強張らせた事を感じ取り、リンディは彼女の肩を支える手に微かな力を込めた。 直後、傍らに展開した小さなウィンドウから、聴き慣れた音声が響く。 『敵勢力排除。もう大丈夫ですよ』 その言葉を受けて、通路の角へと身を潜めていた数人が前方の様子を窺い、後方へと合図を送った。 彼等の更に後方で息を潜める者達はそれを目にし、恐る恐るといった体で動き出す。 リンディもまたフェイトへと肩を貸しつつ、周囲の局員達と共に歩を進めた。 そして数分後、彼等は障壁の消失地点へと辿り着き、侵入した地球軍部隊の末路を目にする事となる。 「う・・・」 「年少者には見せるな・・・よせ、反対側を見てろ!」 その凄惨な光景を前に、リンディは吐き気を堪える事で必死だった。 地球軍は特殊な銃弾を用いていたのか、1つ1つを呆気なく破壊してはいたが、本来ならばSランク相当の砲撃ですら防ぎ切る魔力障壁。 通路の両端より高速にて接近する2つのそれらに挟まれた地球軍兵士達は、見るも無残な有り様となり果てていた。 外観からは21世紀の第97管理外世界にて普及している野戦服、その発展形にしか見えないが、実際には人工筋肉を主とする各種機能を搭載した装甲服の様な物なのだろう。 強固な装甲に身を包んでいた彼等は、しかしその事実によって更に悲惨な末路を辿る事になった。 彼等は装甲服の耐圧限界が訪れると共に、まるで卵の如く破裂して砕け散ったのだ。 薄い板の様に圧搾された、漆黒と濃灰色の迷彩装甲服。 その其処彼処から、断裂した人工筋肉と思しき組織と大量の水気を含んだ赤い有機組織、そして無数の白い破片が噴水の様に噴き出し、2つの障壁の隙間、僅かな空間を真紅に染め上げている。 こちらへの配慮か、障壁が解除されてそれらが通路へと撒き散らされる事はないが、迂闊にもその様を直視してしまった者達の中には、込上げる物を抑え切れずに嘔吐してしまう者も少なからず存在した。 リンディは嘔吐しそうになる自身を抑制しつつ、フェイトの視界を覆い隠す様にして歩を進める。 フェイトも義母の意図を察したのか、何も言葉を発する事なくそれに従っていた。 しかし、その見るに堪えないオブジェの傍を通り過ぎる際、水音と共に金属的な接触音が鳴り響く。 思わず足を止めると同時、新たに展開されたウィンドウから声が発せられた。 『誰か、そのケースを回収して下さい。中を確かめて』 足音が1つ、集団を離れて障壁の方向へと歩み去る。 それを確認するとリンディはそのまま直進し、集団と共にリニアレールの停車場へと辿り着いた。 此処で一旦、休息を取るのだ。 フェイトを優しくベンチへと下ろすと、リンディの目にケースを手にした局員の姿が映り込む。 彼はウィンドウの向こうからの指示に従い、漆黒のそれを開こうとしていた。 地球軍部隊の血に塗れているのか、床に置かれたケースの周囲には小さいながらも血溜まりが拡がっている。 意外にも呆気なく開かれたそれに対し数名の局員が魔法による解析を開始するが、程なくして上がった声が作業の終了を告げた。 「うそ・・・」 「戦術核・・・奴ら、正気か!?」 戦術核。 少なからぬ局員が、その名称に反応した。 リンディ、そしてフェイトも例外ではない。 彼女達が驚愕も露わにケースを解析する局員達の方向を見やると、ウーノを伴ったスカリエッティがその場へと歩み寄るところだった。 彼は局員達の後ろからケースを覗き込み、傍らへと展開したウィンドウと僅かに言葉を交わす。 やがて表情を顰めて吐息をひとつ、諦めた様に言葉を紡いだ。 「・・・完全にロックされている。介入は不可能だ」 「起爆装置は?」 「既に作動している。状況から推測するに、恐らくは時限式ではなく感応式だ。作戦領域内からの友軍バイタルサイン完全消失を以って起爆すると思われる」 『つまり全ての核を処理できない限り、本局から彼等を逃がす訳にも、かといって全滅させる訳にもいかなくなった訳だね』 結論として紡がれたウィンドウからの言葉に、一同は緊張を深める。 だが、錯乱して騒ぎだす者が居なかっただけでも、僥倖だったかもしれない。 自らが身を置くこの巨大艦艇内部に、起爆装置の作動した核弾頭が複数存在する。 そんな事実を知って、その上で冷静でいられる者は少ない。 幸いにもリンディは、その数少ない者の1人だった。 彼女はケースへと歩み寄り、スカリエッティと同じくそれを覗き込みつつ言葉を発する。 「正確な数は?」 『分かりません。しかし探知した地球軍部隊の数からして、20は下らないと思います』 「初めから此処を吹き飛ばすつもりだったのかしら?」 『さあ、其処までは・・・君はどう思う?』 ウィンドウの向こう、問い掛ける言葉。 返す声は、何処か馬鹿にする様な響きを含んでいた。 聞き慣れない女性の声。 『向こうは目標だけを確保して、後は口封じに周囲の人間を皆殺しにして脱出するつもりだったんじゃないですか? 地球軍が管理局と完全に敵対する方針を選んだ、その事実を隠蔽する為に。 でも局員の皆さんが予想外に優秀だったものだから、本局内の全区画に事態が知れ渡ってしまった・・・そちらの提督さんが発動したプログラムを打破してね。作戦続行は困難、しかも放っておけば管理局の全戦力に自分達の敵対が知らされてしまう。 そうなったら、本局を残しておいても百害あって一利なし。後々の為にも後腐れなく一切合切、纏めて吹き飛ばした方が利口・・・って、私ならそう考えますけど?』 その言葉に、一同が沈黙する。 良心の呵責も、自身ならば殺戮も辞さないと宣言する事に対する躊躇も、少なくとも表面上は微塵も感じられない声色。 幾人かが嫌悪も露わに表情を顰めるが、続く声はその言葉の内容を肯定するものだった。 『成程、合理的だね。確かに、彼等なら躊躇なくやってのけるだろう』 『あら、無限書庫司書長から直々にお褒めの言葉を頂くなんて、光栄ですわ』 感嘆する様な声、そして楽しげな声。 リンディは歯噛みし、フェイトの方を見やる。 案の定、自身の傍らに展開したウィンドウを通して今の会話を聞いていたらしき彼女は、悔しさと憤りを隠そうともせずに、此処には居ない人物への敵意を表情に滲ませていた。 ウィンドウの向こうに存在する人物、即ちユーノの容態をフェイトが気に掛けていた事はリンディも知っている。 自身の判断ミスから彼に重傷を負わせ、その四肢を奪い去ったとの自責の念を抱えていた事も。 そして同時に、なのはと並ぶ恩人の1人でもあり古い友人でもある彼が見せた行動に、単なる友情を越えた感情が芽生えつつある事にも、リンディは気付いていた。 その感情が、彼に対する罪悪感と地球軍に対する憎悪によって自覚を妨げられているであろう事も、少し前にレティと交わした会話を通して確信している。 だからこそ、フェイトは彼の現状が気に喰わないのだ。 あろう事か戦闘機人の中でも最も酷薄な人物に協力を仰ぎ、しかも現状の分析と対処に於いて表面上ではあるが意気投合しているという事実が、どうしても素直に受け入れられない。 正確に云えば、彼女の記憶の中に存在するユーノ・スクライアという人物像と、無限書庫という情報機関の長であり現状に於いて冷酷とも取れる対応と実力行使を為すユーノ・スクライアという人物像、その両者の相違を受け入れる事ができないのだろう。 確かに今のユーノは、長らく指揮官としての立場から実戦と相対してきたリンディから見ても、必要とあらば敵対勢力の殺害すら厭わない冷酷さというものが感じられた。 嘗てのプレシア・テスタロッサ事件に於いて、リンディが自身の乗艦であるL級次元航行艦アースラ魔力炉からの魔力供給を受けていた事例と同じく、今のユーノはEブロック第2予備魔力炉からの直接魔力供給を受けている。 魔導師としては補助系統全般に長け、術式構築などの精密性に於いても並ぶ者の無い才覚を発揮するユーノだが、如何せん攻撃魔法に対する適性の無さと、Sランクには到底届かない魔力保有量がネックとなり戦場に於ける主力とはなり得ない。 だからこそ、嘗ての彼はなのは達の補助に徹し、裏方ながら重要な役割を果たしてきた。 それは無限書庫という情報機関の頂点に立った今でも変わる事はなく、桁外れの情報処理能力と検索魔法という力を用いて、彼は前線の局員達を支え続けている。 しかし、外部からの強大な魔力供給を受けている現在、ユーノにはこれといった欠点が無い。 膨大な魔力を用いて、過去の事例と同じく最適な補助を齎してくれる。 リンディ達は、そう信じて疑わなかった。 補助ではなく、攻撃。 彼が実行したのは、それだった。 しかもその方法、彼が中枢を介して展開した結界魔法、それを応用した複数の障壁を用いて実行した攻撃は、過去のユーノ・スクライアという人物像からは想像もできない程に凄惨なものだ。 高速移動する2つの障壁の間に敵を挟み圧死させるなど、果たしてこれまでに実行した魔導師がどれ程に存在する事だろう。 そもそも敵勢力の殺傷を目的とするにしても、本来の用途からして防御用である障壁を攻撃に転用するなど、同じく補助を得意とするリンディですら発想し得なかった。 否、するにしても間接的な手段として用いただろう。 直接的に、障壁そのものを用いて殺傷しようとなど、考えた事もない。 しかし、彼はやってのけた。 Sランクの砲撃すら防ぎ切る魔力障壁、魔力炉からの供給を得て更に強固さを増したそれを用いて、9名もの地球軍兵士を殺害してみせた。 過去のユーノ、即ちリンディの記憶にも存在する心優しい少年しか知らぬフェイト、彼女の目と鼻の先で。 一部門の長として成長した結果というだけでない事は、リンディにも分かっている。 恐らくは彼なりに地球軍という敵性組織を分析し、その目的を推測し、現状を理解した上で決意した行動こそがこれであるという事も。 だがそれでも、フェイトのみならずリンディでさえ、今この瞬間に彼が身を置く状況を許容する事はできなかった。 本局内の其処彼処で地球軍を殺傷し、その事象についてあの酷薄な戦闘機人、クアットロと意志の一致を見せている事実など。 「フェイト!」 「・・・アルフ!」 そんな事を思考する内に、別の一団を引き連れたアルフが他の通路より現れる。 最近では珍しく、成人女性の姿だ。 クラナガンへと下りたエイミィ達と別れ本局へと残った彼女は、ユーノを欠いた無限書庫に臨時の戦力として組み込まれていた。 彼女の有する魔導資質がユーノと近似であった事もあり、検索魔法を展開する事ができた為だ。 そして、ユーノの誘導に従って彼女がこの場所を目指していた事も、ユーノ自身からの報告で聞き及んでいた。 「アルフ、無事で良かったわ」 「そっちもね。ユーノの方から連絡が入ったんだって?」 アルフの言葉に、リンディとフェイトは複雑な笑みを浮かべる。 実際にアルフの言葉通りなのだが、その事実は自身等が彼に頼り切っている現状を証明するものでもあったのだ。 心中の苦いものを自覚しながらも、リンディは言葉を絞り出した。 「ええ・・・中枢を奪還したと、連絡が入ったのよ。後は彼の誘導に従って・・・」 「そっか・・・あの、さ・・・リンディ、あんたの旦那は・・・」 アルフが何処か言い難そうに、リンディへと問い掛ける。 彼女が何を訊こうとしているのか、リンディは正確に理解していた。 半身をずらし、後方で2人の局員が手にする偏向重力発生結界に覆われた、灰色のポッドを指す。 それを目にしたアルフは、瞬時に悟ったらしい。 「・・・良かった、何とかなったんだね」 「プログラムを発動していたのは彼ではなく、ポッドを固定していた電子機器群だったわ。ユーノ君とスカリエッティが気付いて、すぐに分離する事に成功したの」 「危なかったよ。気付くのがもう少し遅れていたら、武装局員が義父さんを殺していたかもしれない」 全てではないにせよ、家族が揃った事で幾分か雰囲気が和らぎ、互いの口数も多くなる。 他の者達も同様で、総数が500人を超えた事で少なからず安堵の気配が漂っていた。 武装局員を始めとする魔導師の数も200人に達し、強力なバックアップの存在もあってか状況打破への希望が湧いてきたらしい。 だが其処に、ユーノから新たな情報が齎される。 『リンディさん、ロウラン事務官は其処に居ますか』 「グリフィス君・・・?」 ユーノからの問いに、リンディは周囲を見渡した。 目的の人物はすぐに見付かった。 既にこちらを気に掛けていたのか、彼の方から歩み寄って来るところだったのだ。 「此処に居ます。何の御用件でしょうか、スクライア司書長」 『・・・リンディさん、ロウラン事務官。レティ提督の消息についてご報告があります』 その言葉にレティは息を呑み、グリフィスは無表情に言葉の続きを待つ。 御世辞にも好ましいとは言えない予感が、リンディの脳裏を掠めた。 そして無情にも、その予感は現実のものとなる。 『セキュリティ・サーチャーがレティ・ロウラン提督の執務室にて、彼女の遺体を確認しました。現場の状況から推測するに、重火器による至近距離からの銃撃を受けたものと思われます』 瞬間、リンディは自らの呼吸が止まった事を、確かに認識していた。 直後にグリフィスの方向へと視線を投じるも、彼は無表情のまま、取り乱す事もなく佇んでいる。 どんな言葉を掛ければ、と半ば混乱する思考を廻らせるも、彼は特に目立った反応を見せる事もなく、平静を保ったまま言葉を紡いだ。 「・・・了解しました。有難う御座います、スクライア司書長」 敬礼をひとつ、彼は踵を返す。 そんなグリフィスの背を呆然と見送っていたリンディだったが、彼の進む先に待つシャリオの表情を目にし、全てを悟った。 平静を装ってはいるが、やはり彼は大きな衝撃を受けている。 自分にはそれと判らなかったが、彼女は全て承知しているらしい。 傍らのベンチへと腰を下ろしたグリフィスの傍へと佇み、項垂れるその背を静かに見つめるシャリオは、まるで母親の様な慈愛を感じさせる。 今、彼の心を慮れるのは母親の友人であった自分ではなく、幼い頃から傍にあった彼女だろう。 少なくとも今は、彼の事については自身の出る幕は無い。 『ところで、これからの行動ですが』 そんな思考を遮る様に、ユーノが言葉を発する。 見ればウィンドウの傍らに、本局の立体構造図が表示されていた。 紅く点滅するのは、現在地であるDブロック、その端。 『皆さんには、Dブロック脱出艇格納区を目指して貰います。道中の地球軍はトランスポーターの暴走により排除済みですが、システムの一部が破壊されている為に完全なサポートは不可能ですのでご留意を』 「リニアレールで移動すれば4分といったところだな。最終停車場まで行けるのか?」 『いいえ。地球軍強襲艇突入の影響により、D61区画の路線が破壊されています。其処から先は徒歩での移動になりますね』 「逆方向は? 中央区の脱出艇はどうなっているの?」 『中央・A・B・F区画はほぼ全ての接続が破壊された為、現在はいずれも独立機能しています。回復を試みてはいますが、まだ暫く掛かるでしょう。よって現在、こちらからの干渉はできず、状況は不明。そちらへの移動は危険です』 「待って、中央区の状況が不明? 市街は? 住民はどうなったの!?」 中央区の状況不明。 ユーノより齎されたその情報に、少なからぬ人数が反応した。 中央区といえば、本局に於いては生活の中心である。 本局内部12万の人間、局員とその家族が住む街そのものが、中央区には築かれているのだ。 それは単なる居住施設ではなく、広大な自然公園を含む生存空間だった。 上空にはホログラムによる空が拡がり、小規模ながら生態系が存在し、ビルやショッピングモール等の建造物が建ち並ぶ。 次元世界に浮かぶ巨大艦の内部とは到底信じられぬ、クラナガンの縮小版とも云える街が3つ、階層状に築かれているのだ。 最下層の第1階層から順に、自然区・居住区・商業区が建造されている。 特に、居住区には局員の家族7万人が生活しており、彼等の生活を支える為に4000人が商業区に常駐していた。 即ち、少なくとも74,000人の民間人が、中央区には存在している筈である。 だと、いうのに。 『脱出艇の射出は観測されていません。システムが完全ではないから、これが本当に正しい情報とは言い切れないけど、もしそうなら誰も中央区から脱出していない事になる』 「そんなっ!?」 『民間人が生存している事は確実です。中央区にはかなりの数の武装局員が存在するし、地球軍にしても居住区に侵攻するメリットは無い筈。バイドによる汚染も・・・』 『そうでもないみたいですけれど』 唐突に、クアットロの声が通信に割り込む。 誰もがウィンドウへと視線を釘付けにされる中、非情な報告が発せられた。 『E19から8までの区画で、バイド係数の上昇を確認。どうやら汚染は中央区へと近付いているみたいですねぇ』 「な・・・」 『それとC1から7までの区画で異常振動を観測。魔力反応が多数に、戦闘によるものと思われる轟音も未だに響き続けています。多分、バイドか地球軍が局員と戦闘を行っているんじゃないですか?』 その報告に、リンディは絶句する。 7万を超える民間人が存在する空間で、戦闘が発生したというのだ。 逃げ場の無い閉鎖空間での戦闘によりどれ程の被害が出るのか、想像する事は難しくない。 何より、クラナガンという先例があるのだ。 バイドは勿論の事、地球軍が民間人への配慮を行う事はないだろう。 周囲の局員達も、同じ事を考えたに違いない。 だからこそ、その言葉が発せられた事は当然と云えた。 「中央区へ行こう! 民間人を助けなければ!」 「まだ戦っている連中が居るんだろう!? 援護に向かうべきだ!」 「中央区を奪還して脱出艇を確保すれば・・・」 展開された数十のウィンドウを経て、一連の会話を聞いていたのだろう。 其処彼処から中央区へ向かうべきとの声が上がり始める。 非戦闘員の存在さえなければ、リンディもまたその声に賛同していただろう。 しかし今、当の彼等でさえ中央区への移動を支持している。 無理もない。 今まさに彼等の家族が、其処で危機に瀕しているのだから。 だが、続くクアットロの言葉は、そんな事を熟考する暇さえ与えてはくれなかった。 『・・・D1から9区画までのシステムが次々に沈黙している・・・警告、何かがそちらに近付いている!』 その言葉とほぼ同時、壁面に設けられたトンネルを出た5両編成のリニア車両が2本、停車場へと侵入してくる。 歓喜の声と共に、30人程が車両へと向かい始めた。 瞬間、鋭い声が飛ぶ。 「戻れ!」 それは、狙撃銃型のデバイスを携えた局員の叫びだった。 車両へと駆け寄ろうとしていた局員達が、一斉に振り返る。 トンネルの奥より響く、断続的な重低音。 「こっちに戻るんだ! 早く!」 次の瞬間に起こった事を、リンディは明晰さを取り戻した思考の中で捉えた。 トンネルより飛び出してきた、巨大な鉄塊。 薄青色に塗装されたそれは高速にて飛来し、停車中の車両、内1本へと減速もせずに衝突した。 大音響、衝撃。 巨大な質量同士が激突するその余波に、リンディは耐え切れずに床面へと倒れ込む。 嘗ては実戦に身を置いていただけあって即座に身を起こしたものの、その視界へと飛び込んだ光景は信じ難いものだった。 車両が、潰れている。 5両のリニアが大質量によって拉げ、飛び散った破片と火花とが周囲を埋め尽くしていた。 衝撃と破片を至近距離から受けた者達が其処彼処へと転がり、ある者は絶叫と共にのたうち、ある者は呻きつつ這いずり、ある者は微動だにせず血溜まりに沈む。 そして大音響により麻痺した聴覚に代わり、一定のリズムで響く重低音を全身が感じ取っていた。 皮膚は叩き付けられる重圧に緊張し、髪は場違いなまでの強風によって踊り狂う。 恐怖と混乱に満ちた念話が飛び交う中、リンディの視界へと飛び込んだ、その存在は。 「・・・ヘリコプター?」 管理局武装隊正式採用輸送ヘリ「JF704式」。 『おい、あれは実験用の機体だぞ! 技術部の格納区にあった奴だ!』 『誰が搭乗してる!? 何て操縦をしてやがるんだ、馬鹿野郎!』 『負傷者を救助しなさい! 医療魔法の使える者は壁際に!』 30人前後の負傷者及び死者が転がる中、救助活動へと移るべく動き出す局員達。 しかし数十発の直射弾が、衝突後も未だに滞空し続けるヘリへと襲い掛かった事により、その作業が実行される事はなかった。 その一方でヘリは閉鎖空間にも拘らず高機動による回避運動を実行、ローターを壁面へと擦りつつも、完全ではないにせよ直射弾の弾幕を回避していた。 すぐさま発せられる、非難の念話。 『武装隊、何をやっているの! 何で攻撃なんか!』 『あれは味方だぞ!?』 返されたのは武装局員からの念話のみならず、ウィンドウ越しのそれも含まれていた。 緊迫したユーノの声が、音声と念話の双方として総員の意識へと響き渡る。 『コックピットが潰れている! 生きた人間なんか乗っていない!』 『JF704式よりバイド係数検出、11.80! なおも上昇中!』 次の瞬間、全身を重圧が襲った。 高出力AMFによる、魔力結合阻害。 技術者の1人から、ウィンドウを通した音声での警告が飛ぶ。 『機載型高出力AMFの実験機体だ! 不完全だが、200m以内ではプログラムの展開すらできない!』 『対抗策は!?』 『とにかく距離を取るしかない! 集束砲撃か魔力密度の高い直射弾なら、AMFの最大効果域を突破できる筈だ!』 『総員、敵機から離れ・・・』 その指示が、最後まで紡がれる事はなかった。 ヘリは唐突に機体を旋回させ、出現の際とは反対のトンネルへと飛び込み、そのまま姿を消したのだ。 誰もが呆然としたまま、遠ざかる重低音と震動の源を呆然と見送る。 AMF効果域、消失。 「何が・・・」 「見逃された、って事かい・・・?」 唖然としつつ呟く、フェイトとアルフ。 その言葉は、この場の全員の総意だったろう。 1本の車両を破壊し、そのまま立ち去った輸送ヘリ。 何を目的として現れたのか、それが解らない以上は見逃されたと考えるしかなかった。 だがその予想は、すぐさま否定される。 『・・・路線管理システムの一部が沈黙・・・いや、D47区画以降のシステムが次々に沈黙していく・・・バイド係数、検出! 汚染拡大!』 『車両に乗り込んで! 早く! 中央区へ!』 トンネルの奥から轟く、不気味な衝撃音。 誰も彼もが一斉に動き出し、悲鳴と怒号が折り重なって停車場に響く。 リンディもまた、アルフと共にフェイトを支えつつ、残る車両へと向かい必死に走り始めた。 時折、背後へと振り返ってはクライドのポッドを運搬する2人が尾いてきているかを確認しつつ、数十秒ほど掛けて3人は最後尾の車両内へと乗り込む。 ユーノが呼び寄せた車両は物資輸送用であり、500人以上であっても余裕を持って乗り込む事ができた。 全員が乗り込むと同時に搬入口が閉じられ、車両は中央区へと向けて加速を始める。 そして、負傷者の呻きと指示を飛ばす声が響く中、リンディの傍らに新たなウィンドウが展開された。 『中央区との接続が一部復旧。リンディさん、中央第5・第8魔力炉を確保しました。供給ラインをそちらに繋ぐので、適当な人員に接続をお願いします』 「分かったわ」 ユーノの言葉に応を返すと、リンディは周囲の武装局員、その全てのデータを表示する。 それらの中から「AC-47β」非所持の人員を選別すると、更に高ランクの魔導師を2人ほど選出した。 しかし本人達に連絡を取った結果、2人が先程の負傷者の中に含まれている事が判明。 リンディは集団の纏め役となっている数人と短く議論を交わした後、軽く息を吐きつつ背後へと振り返る。 「アルフ」 「何だい?」 フェイトの具合を確かめていたアルフは、リンディの呼び掛けに顔を跳ね上げた。 少しでも長くフェイトの傍に居たいであろう事はリンディにも理解できたが、しかしその内心を押し殺して用件を告げる。 「ユーノ君が中央区の魔力炉を確保したわ。でも、此処には大量の魔力を扱える攻勢特化の余剰人員が無いの。だから・・・」 「攻撃は「AC-47β」を持っている連中に任せて、リンディとあたしは供給を受けつつ援護だね。了解」 だがアルフは、リンディが全てを言い切るまでもなく、要請の内容を正確に把握していた。 言葉もなく佇むリンディの目前で、彼女は新たに展開したウィンドウ上に指を滑らせると、魔力供給回路の接続完了を告げる。 「終わったよ・・・何だい、リンディ。ぼうっとしちゃってさ」 「いえ・・・」 アルフの言葉で我に返ったリンディは、すぐさま自身も魔力供給回路の接続作業を開始した。 本来ならば山の様な数の手続きを踏む必要のある作業だが、ユーノとクアットロが気を利かせたのか、1分と掛からずに全ての作業が完了する。 リンカーコアを通し、全身に漲る膨大な魔力。 背面からは余剰魔力蓄積の為の光る羽根が出現し、その表面から幻想的な光を放つ。 その気になれば周囲一帯を消し飛ばす事さえ可能であろう程の力を得て、しかしリンディの胸中を満たすのは心強さではなく、際限の無い不安ばかりだった。 だが、その不安は新たな通信によって和らぐ。 『こちら第7管制室。新たにEブロック第1予備魔力炉、中央第3魔力炉の制御を確保しました。既にシグナムとアコース査察官が接続を完了、これよりそちらに対する攻性支援を行います』 「了解した・・・助かるよ、スクライア司書長」 『2人はシステムを用いた間接戦闘に不慣れな為、支援は通常行使とほぼ同様の魔法による攻撃手段に限られます。一応、こちらでもイメージを付加しますが、炎と犬型の魔力集束体は味方なので注意を・・・』 「おい、居住区からの通信だ!」 ユーノからの通信に局員の1人が答える中、唐突に別の局員が声を上げた。 彼が放った言葉にほぼ全員が反応し、無数のウィンドウが展開される。 リンディもそれに倣い、アルフ、そしてフェイトと共に、流れ出る音声に耳を傾けた。 『・・・こちら・・・応答・・・居住区、市街・・・攻撃・・・』 「駄目だ、雑音が酷過ぎる。管制室、そちらで通信状況を回復できないか」 『少し待って下さい・・・これで良い筈』 『聞こえますか!? 1046から接近中のリニア! すぐに離脱を!』 通信状況、回復。 車両がトンネルから巨大な空間、第2階層内部へと飛び出し、窓から差し込む眩い光に眼が眩む。 そして、同時に飛び込んできた言葉が、リンディの意識を凍て付かせた。 『区画全体が崩落します! お願い、離脱して!』 頭上に拡がる、第2階層の人工の空。 其処から降り注ぐ人工の陽光に目が慣れるや否や、窓越しに信じ難い光景が視界へと飛び込んだ。 「・・・嘘だろ」 それは、誰の言葉だったか。 リンディには、それを確かめる余裕すら無かった。 只管に眼前の光景、理解の範疇を越えたそれを眺める以外に、採り得る行動など無かったのだ。 その、余りに常軌を逸した、現実のものとは思えぬ光景を前にして。 空に「穴」が開いていた。 人工の空に、漆黒の空間。 直径が数百mにも達するその「穴」が実に4つ、作り物の蒼穹に漆黒の闇を穿っていた。 商業区のビルが数棟そのまま落下してきたのか、「穴」の直下は大量の瓦礫と粉塵に覆われている。 第3階層崩落、第2階層へと落下。 大地が「焔」を噴き上げていた。 空と同様に穿たれた巨大な「穴」から、赤黒い「焔」が巨大な柱となって立ち上っている。 「穴」の淵に建っていたビルが、僅かに傾いたかに見えた、次の瞬間。 そのビル、更には隣接する1棟までもが、巨大な力によって「焔」の中へと引き摺り込まれた。 第2階層崩落、第1階層へと落下。 「階層が・・・崩壊している・・・!」 「そんな! 階層構造は破壊できる硬度や厚さじゃない筈・・・!」 『第7管制室より警告! 第1階層・自然区全域、異常高温! 階層全体が炎に沈んでいる! 現在2500℃!』 『こちらクアットロ、第2階層全域で温度上昇を確認! 現在53℃、なおも上昇中! 耐熱遮断障壁が保ちません! 第2階層底部が融解を始めています!』 リニアが居住区内を疾走する間にも、周囲には頭上よりビルそのものが降り注ぎ、また別の個所ではビルの一群が大地の下へと沈み込み姿を消す。 更には小規模から大規模なものまで爆発が頻発し、魔力光の炸裂と誘導型らしき質量兵器の弾体が曳く白煙の線が中空を埋め尽くしていた。 その光景は地球軍の侵入を意味していたが、同時に局員の生存をも示している。 すぐさま、全方位通信回線が開かれた。 飛び込む音声は、生存者達の叫び。 『第6避難所は全滅! 全滅だ! みんな死んじまった! 化学兵器だ! 畜生、ケダモノどもめ! 化学兵器で武装した地球軍部隊が居るぞ!』 『こちら2103! 現在地、市街4区2-7! 地球軍部隊の撃破に成功した! この地区の地球軍は全滅だ!』 『誰か、誰か聴こえますか!? こちら避難所・・・第10、いえ、第11避難所です! 地球軍に出口を封鎖されました! 現在、約1800人が避難しています! 室温が上昇中、既に68℃に・・・お願いです、早く救援を! もう死者が出始めているんです! 誰か、誰か助けて・・・』 『無人清掃車が民間人を襲っている! メンテナンスシステムもだ! 今は地球軍と交戦しているが・・・奴等・・・奴等、捕獲した人間を破砕機に放り込んでやがる! くそ、くそ! 何て事だ! 人間を砕いてやがる!』 『良いぞ、地球軍残党が7区1-1のビルに集結中だ! ビルを包囲しろ! 建物ごと吹き飛ばせ!』 『2区2-7から4-3、連鎖崩落! 地球軍が巻き込まれている!』 『11区の壁面に肉腫が・・・スフィアだ! オートスフィアが出現しました! 肉腫から魔導弾の発射を確認! 侵食域が拡大しています! バイド係数、更に増大!』 爆発と崩落、射撃と砲撃の轟音が紛れる中、怒号が幾重にも折り重なる。 絶望に叫ぶ声、歓喜に沸く声、恐慌に喚く声。 それらが念話・通信として飛び交う中を、リニアは常と変らぬ速度で以って駆け抜ける。 そして状況はリンディ達を、傍観者としての立場に留め置いてはくれなかった。 『運行中のリニア車両! ヘリが後方に迫っているぞ!』 その言葉が終るや否や、無数の光条が車両天井部を撃ち抜く。 極限まで高密度集束された魔力砲撃。 ユーノのそれよりもやや淡い緑、そして褐色の障壁によって構築された2重の防御壁に阻まれ、それらの矛先が局員へと至る事はなかった。 しかし、その事実にも拘らず砲撃が止む事はなく、逆に機銃の如く連射される光条が虫食いの様に無数の穴を天井部へと穿ちゆく。 その執拗な連射を前に、魔力が尽きる事さえないものの、出力端子となっているリンディ等の身体に苦痛が奔った。 「く、う・・・っ!」 「ユーノ、君・・・!」 『援護します、伏せて!』 次の瞬間、車両外部が爆炎に覆われる。 シグナムによる、魔力の過剰供給を用いた空間爆破だ。 感知した魔力からして、アギトとのユニゾン状態にあるらしい。 膨大な魔力の爆発を感じ取ったリンカーコアを通し全身が悲鳴を上げ、更に直前に伏せた身体を衝撃波が打ち据えた。 鼓膜が破れんばかりの破裂音と全身を叩く強風に、天井部が吹き飛んだのだと理解するより早く、続く地鳴りの様な重低音に素早く身構える。 完全に吹き飛んだ天井部の先、疾走する車両の200mほど後方に、あのコックピットの潰れたJF704式が滞空していた。 明らかにこちらを追跡している。 「リンディ、上!」 アルフの警告。 咄嗟に障壁を展開すると、再度頭上から襲い掛かった砲撃が褐色と緑の壁に弾かれる。 障壁越しに見上げれば、滞空するオートスフィアの群れが視界へと飛び込んだ。 それらは散発的にリニアレールの路線上へと配置され、車両の通過に合わせて砲撃を放つ。 どうやら先程の焔は、あのオートスフィア群の一部を狙ったものらしい。 次々と襲い来る砲撃に、リンディは焦燥を押し隠しつつ鋭く叫んだ。 「アルフ、暫く時間を稼いで!」 「了解!」 結界を解除、ディストーション・フィールドの発動準備に入る。 その作業すらも、膨大な処理能力を誇るユーノと本局データバンクからのバックアップにより、僅か5秒程で発動段階へと到った。 すぐさま、アルフへと声を飛ばす。 「アルフ!」 「はいよ!」 アルフの展開していた障壁が消失すると同時、入れ替わる様に車両上部へと空間歪曲が出現。 可視化した揺らぎが降り注ぐ砲撃を呑み込み、その全てを片端から掻き消してゆく。 高ランク魔導師であるリンディが、更に魔力供給を受けた上で展開したフィールドだ。 新型とはいえオートスフィア程度の砲撃では、万が一にもその防御を抜く事はできない。 その間に周囲では、後方より接近するJF704式に対する迎撃が開始されていた。 直射弾と集束砲撃が薄青色の機体へと襲い掛かり、高出力AMFによってその威力を減じられながらも機体表面を削りゆく。 だが、ヘリは怯まない。 回避行動を取るどころか、更に速度を上げてリニアへと接近してくる。 敵機は飽くまで輸送ヘリであり、AMF以外にこれといった武装を施されてはいない筈だが、しかし危険な事には変わりがない。 攻撃がより一層に激しさを増し、更にシグナムの炎と局員に対してのみ可視化されたヴェロッサの「無限の猟犬」がヘリへと襲い掛かる。 しかし、いずれにしてもAMFの効果範囲内へ侵入すると同時に減衰を始め、決定的な損傷を与えるには至らない。 幾ら高出力とはいえ、余りに異常に過ぎる魔力結合阻害効果。 どうやら汚染によって、安全回路が完全に破壊されているらしい。 今やあのJF704式は、次の瞬間には魔力暴走による爆発を起こすとも知れない、制御できない爆弾の様な存在なのだ。 局員の間に、焦燥を含んだ念話が奔る。 『駄目だ、魔力弾が減衰してしまう! 何か構造的弱点は無いのか!?』 『ヴァイス陸曹、何か知りませんか!?』 『テール・ブーム側面の排気口を破壊できれば、トルクを相殺できずに墜落する筈なんだが・・・誘導操作弾じゃAMF効果域を突破できないだろうしな・・・』 『不味いわ、フィールドが!』 念話が交わされる間にもリニアとヘリの距離は縮み、徐々にAMFの効果がリンディ達にも影響を及ぼし始めた。 そしてあろう事か、ディストーション・フィールドまでもが綻び始める。 空間歪曲の範囲が、明らかに狭まり始めたのだ。 このままでは未だ続くオートスフィア群からの砲撃を、直接的に受ける事となってしまう。 だがそんな中、クアットロからの通信が入った。 『ウーノ姉様、そちらで車両のコントロールを掌握できます?』 『・・・20秒程あれば』 『では、お願いしますね。それと皆さん、何かに掴まっていた方が宜しくてよ?』 その会話の内容に、リンディはスカリエッティ等が座していた方向を見やる。 彼女の視線の先では、ウーノが壁際のコンソール前へと佇んでいた。 信じ難い速さでキーウィンドウ上に踊る指を見つめていると、今度はスカリエッティからの警告が意識へと飛び込む。 『さて、急停車するぞ。そろそろ準備した方が良いのでは?』 その瞬間、リンディはフェイトを庇う様にその上へと覆い被さった。 視線だけは頭上へと向けたまま、同じくフェイトへと寄り添ったアルフが再度、障壁を展開する様を視界へと捉える。 直後、鼓膜を劈く金属音と共に車両へと急制動が掛かり、同時に30を超えるデバイスが頭上の空間へと向けられた。 そして、車両が急減速した結果、ヘリは一瞬にしてその上方へと躍り出る。 AMFによる重圧が急激に増すと同時、ヘリの至近距離に展開していたディストーション・フィールドは霧散し、アルフの結界が綻び始めた。 防御手段を奪われれば、後は砲撃の餌食となる以外に道は無い。 だが次の瞬間、轟音と共に頭上のヘリが「潰れた」。 砕け散る緑光の壁、飛び散る魔力光の残滓。 メインローターの一部が捻じ曲がり、既に圧壊していたコックピットが更に小さく押し潰される。 歪んだ機体は其処彼処から大小の破片を零し、亀裂と火花、赤々とした炎が一瞬にして表層を覆い尽くす。 金属が圧壊する巨大な異音が容赦なく鼓膜を叩き、飛び散る無数の破片がAMFにより減衰した障壁へと殺到した。 「まだ・・・!」 だというのに、ヘリはまだ飛んでいた。 減衰していたとはいえ、リニア進路上の空中に展開されたユーノの障壁、強固さでは並ぶ物の無いそれへと高速で突入し、機体各所より炎を噴き上げつつも未だ飛行している。 フレームが歪み十分な安定性すら確保できない状態となっても、メインローターとノーター・システムはその役目を放棄してはいなかった。 しかし、機内のAMFシステムはそうではなかったらしい。 元々が繊細な魔法機器である上に、耐久性を考慮されていない試作品だったのか、フレームの歪みに耐え切れず損壊した様だ。 全身を圧迫していたAMFの重圧が消失し、同時に鋭い念話が局員の間へと奔る。 『撃て!』 連射される直射弾、簡易砲撃。 シグナムの炎が機体を貫き、ヴェロッサの猟犬がテール・ブームを喰い千切る。 メインローターのトルクにより回転を始める機体へと更に大量の直射弾が撃ち込まれ、爆音と共にハッチが弾け飛んだ。 業火を噴きつつ、機体の高度が下がる。 そして、ユーノの警告。 『伏せて!』 視界へと飛び込んだユーノの障壁は、これまでとは異なる形で展開していた。 地表に対して垂直ではなく、水平に展開されていたのだ。 ヘリは回避する事もできずに障壁へと突入、鋼を引き裂く異音と共に機体が上下に分断される。 切断された機体下部は車両を掠めて路線へと接触、高架橋を破壊して市街へと落下した。 残る機体上部は回転運動の激しさを増し、更に路線に沿って建ち並ぶビルの壁面へと接触して大量のガラス片を周囲へと撒き散らす。 『やった!』 誰かが、念話で叫んだ。 ヘリは制御を失い、更に大きく速度を落として車両から離れ始めている。 あの様子からして、数秒後にでも墜落するだろう。 リンディも、そう信じて疑わなかった。 数瞬後、機体切断面より現れたそれを見るまでは。 「な・・・」 反応する間も無かった。 切断面から出現した、巨大な1本の触手。 有機的柔軟さと骨格の強固さを併せ持った赤黒い外観のそれは、車両とヘリの間に存在する40m程の距離を一瞬にして詰め、先端が4つに分かれると其々が天井部を失った車両へと突き立ったのだ。 異様な光景と衝撃に目を見開くリンディ達の眼前で、床面を抉ったそれは徐々に有機的な組織を構造物へと侵食させ始める。 鋭い、悲鳴の様な声が上がった。 「前へ! 逃げて!」 それがフェイトの声だと理解した時には、既にリンディはアルフと共に駆け出している。 周囲に展開していた局員やスカリエッティ達も、前部車両との連結部を目指し走っていた。 そして全員が4両目へと移ると共に、ベルカ式の武装局員が自身の槍型デバイスに魔力を纏わせ、連結部を切り裂く。 「これで・・・」 彼が言わんとした言葉を、最後まで聞く事はできなかった。 振動と共に5両目が離れ行く様を見つめる中、破壊された連結部から離れようとしたその武装局員は、天井部を貫いて侵入してきた触手により頭頂部から2つに分たれたのだ。 その惨状に凄まじい悲鳴が上がり、頭上では天井面へと血管状の組織が奔り始める。 だがユーノ達が、その状況を黙って見ている筈がない。 忽ちの内に障壁とバインド、各種結界と炎、無数の猟犬が侵食された天井部を吹き飛ばし、襲い来る異形の姿を露わにする。 「さっきのヘリ・・・あれが!?」 「節操の無い化け物だね、バイドってのは!」 メインローターは未だ回転していた。 機体上部もほぼ原形を保っている。 だが、それは最早ヘリではなかった。 機体下部からは6本もの触手が伸び、内4本が切り離された5両目に、残る2本がこの4両目へと打ち込まれている。 それらを用いて機体を固定する事によって、バイド化したJF704式はトルクに抗っていた。 素人目に見ただけでも触手の総質量は、明らかに機体のそれを超えていると解る。 しかし増殖は未だ止まらず、無数に枝分かれした極小の触手群が、最寄りの局員達へと一斉に襲い掛かった。 「うあ・・・げ、ひ!」 「ぎ、い・・・ぎッ・・・!」 「嫌、嫌・・・! ぎ、う・・・ぅ・・・ッ」 『退がれ、退がるんだ! 巻き込まれる!』 悲鳴に告ぐ悲鳴。 それらが絶叫へと変化する前に、触手の群れは哀れな犠牲者達を津波の如く呑み込んでいた。 縫い針ほどにまで細分化した数千、数万もの触手が銃弾さながらの速度で伸長し、それらの先端が局員の身体を貫いてゆく。 人体を貫通したそれらは更に伸長、先端が床面に達し構造物と同化すると同時に増殖を停止。 植物の根、或いは神経ネットワークの如く張り巡らされた触手の枝の中、全身を貫かれた局員達の影が網状となった赤黒い触手の中に蠢く様は、他の生存者達の正気を乱すには十分に過ぎた。 そして無数の悲鳴が上がる中、更なる狂気じみた事実が発覚する。 『バイタルが・・・バイタルが残ってる!』 『何の事だ!?』 『デバイスのバイタルサインが残っているんだ! 生きてる! 彼等はまだ生きてるぞ!』 『何を馬鹿な・・・!』 『見て!』 局員の1人が、触手の一部を指した。 反射的にその先へと視線を滑らせたリンディの視界に、褐色の制服が映り込む。 数十本もの極小の触手に貫かれた、局員の腕。 僅かずつ滲み出す血液に、褐色の制服が徐々に紅く染まりゆく。 その末端、同じく微細な触手に縫い止められた五本の指が、確かに動いた。 当然の帰結として、その腕の付け根へと視線を移動した結果。 「ッ・・・!?」 「見ちゃ駄目だ、フェイト!」 アルフの叫び。 もう少しそれが発せられる瞬間が遅ければ、叫んでいたのはリンディ自身だったろう。 尤もそれが、果たしてフェイトへの注意であったかは怪しいが。 「何て・・・事・・・」 信じられなかった。 否、信じたくなかった。 こんな事実を認識したところで、何ができるというのだ。 彼等は、まだ「生きて」いた。 全身を隈なく、それこそ四肢の先端から胴体、顔面から頭頂部に至るまでを数百もの極小の触手によって貫かれながらも、確かに「生きて」いたのだ。 それら触手の貫通する箇所から少しずつ血液を滲ませながら、眼球から鼻腔内までを貫かれながら、そして恐らくは心肺から脳髄までをも侵されながら。 彼等は「死ぬ」事もできずに「生かされて」いた。 くぐもった悲鳴混じりの呼吸音を漏らし、自らの身体を襲う異常な感覚に恐怖の涙を零し、触手によって貫かれた傷という傷からあらゆる体液を溢れさせながら。 「あ・・・ぁが・・・ぁ・・・げ・・・」 「ひ・・・!?」 そして、最も近い位置に囚われていた1人、その奇跡的に触手の刺突を受けなかった右眼球が動き、リンディ達を瞳の中心へと捉えた。 瞬間、リンディと腕の中のフェイト、傍らのアルフの身体が小さく跳ねる。 小刻みに揺れ動く瞳とか細い呼吸音、動かそうと必死に試みては傷を拡げ血液を噴き出す五本の指。 その局員が何を求めているのか、想像する事は容易だった。 彼は助けではなく、救済を求めているのだ。 「死」という名の救済を。 「あ・・・ああああぁぁぁッ!?」 「フェイト!?」 「フェイト、見ないで! 落ち着いて、目を閉じて・・・!」 『何をやっているんです! 逃げて下さい、統括官!』 『畜生、畜生! どうしろっていうんだ、どう助けろっていうんだ、畜生!』 『また伸び始めた・・・増殖が始まったぞ! 退がれ!』 肉体的に問題はなく、魔力の供給も問題なく行われている。 にも拘らず、リンディは限界が近い事を認識していた。 再度ディストーション・フィールドを展開し、触手に取り込まれた犠牲者達と生存者達の間を遮断しながらも、彼女の内心はこれまでにない焦燥と諦観とに染まりゆく。 炎が触手を焼き、猟犬がヘリ本体を貫通し、結界が触手の殆どを切り裂く様を視認してなお、その認識は揺らぐ事がなかった。 果たして、何時まで保つだろうか。 自身の、フェイトの、アルフの、延いてはこの場に存在する全員の精神は。 ただでさえ、実戦の場は精神を消耗する。 それに加えて家族の安否不明、地球軍による殺戮、そしてバイドによるこの惨劇だ。 精神に異常を生じる者が現れたとしても不思議は無い。 寧ろこの状況で取り乱す者は居るものの、未だに深刻な精神障害を生じる者は居ない事が奇跡的なのだ。 先程の光景は、人の心を破壊するには十分に過ぎる。 「死ぬ」事ができるならば、個人差はあれど納得はできるだろう。 如何なる要因かの差異はあれど、生ある者はいずれ「死ぬ」のだから。 だが、死すべき時に「死ねない」、死が救済となる場面に於いて「死ぬ事を許されない」という可能性を、現実の光景として見せ付けられたなら? 彼等は、あの触手の犠牲者達は、明らかに致命傷を負っていた。 全身を数百もの触手に貫かれ、口腔内へと侵入したそれらによって舌から食道、気道の奥までをも貫通されて。 にも拘らず、彼等は「生きて」いた。 死ぬ事も許されず、生ある事が苦痛以外の何ものでもない状況へと陥れられた状況で、自らを破滅へと誘った存在によって「生かされて」いたのだ。 安楽たる死へと至る事もできず、自身を貫く苦痛の源、醜悪な生命体によって生き続ける事を強要されるという恐怖。 それを齎す脅威が眼前に存在しているというのに、正気を保ち続ける事ができるものだろうか。 『その車両から出ろ! 焼き払うぞ!』 シグナムからの通信。 上空では無数の猟犬が宙を翔け回り、展開したオートスフィア群を片端から喰らい尽くしている。 周囲の市街にはユーノが展開したらしき巨大なラウンドシールド、サークルプロテクション、スフィアプロテクションが乱立し、バイド・地球軍双方の攻撃から局員と民間人を守護していた。 それらを視界の端へと捉えながら、リンディは再度アルフと共に、フェイトを支えつつ3両目を目指して走る。 その必死の逃走を遮ったのは、ユーノからの警告。 『第1階層隔壁面F、完全崩壊! R戦闘機、居住区侵入!』 リニア進行方向、右前方に立ち昇る赤々とした焔。 第1階層・自然区とこの第2階層・居住区を隔てる階層構造に穿たれた巨大な穴。 溶鉱炉と化した第1階層、魔女の大釜へと繋がるその只中から、1つの影が浮かび上がる。 濃緑色の機体、緋色のキャノピー。 主翼に相当する機構は存在せず、見るからに重装甲のエンジンユニットらしき構造が左右に突き出している。 機体後部には尾翼の間に姿勢制御用らしき左右一対のユニットが迫り出し、其々の後方からは更に噴射炎の青白い光が僅かに零れていた。 そして何より、機体下部に据えられた箱型のユニット。 射出口らしき無数の穴が並んだ平面を機体前方へと向けるそれは、明らかに大規模破壊を目的とした特殊重兵装であった。 「来やがった・・・!」 アルフの呟きは、この中央区に存在する管理局側の人間、その全ての心を代弁しているだろう。 中央区はバイドによる汚染が進行し、更に展開する地球軍は局員の抵抗により少なからぬ被害を受けているのだ。 この状況下で、中央区へと侵入したR戦闘機が取る行動とは何か。 『R戦闘機、波動砲充填開始!』 リンディの予想は的中した。 地球軍はバイド諸共、本局の人間を殲滅するつもりなのだ。 それを理解した瞬間、彼女は叫ぶ。 「緊急停車ッ!」 複数の人物が、その叫びに応えた。 リンディ、アルフ、ユーノの障壁が其々に角度を変えて空中へと展開され、それらは一瞬にして触手群を切り裂き車両とヘリを物理的に切り離す。 ほぼ同時にウーノが非常用の摩擦・空気抵抗複合式緊急停止機構を作動させ、更に武装局員が自身のアームドデバイスを床面へと突き刺し、車両の前進運動に急制動を掛けると、ヘリは先程と同様に車両直上へと躍り出でた。 更にトルクによる回転運動を開始し、制御を失ったまま車両を追い抜く。 リンディは周囲の者と同じく、急制動によって身体を3両目と4両目を隔てる壁面へと打ち付けつつ、その様を見届けた。 直後、R戦闘機が滞空していた周辺で光が爆発。 そしてほぼ同時に、車両を追い越したJF704式の姿が、幻影の様に掻き消える。 轟音、衝撃。 「ッ・・・!?」 アルフが、フェイトが何かを叫んでいる。 だが、聴こえない。 聴覚が麻痺する程の轟音と、床面へと倒れ込んだ身体を容赦なく襲う衝撃を前に、互いの声を聴き止める程の余裕などありはしなかった。 念話も同様で、とても言語の認識などしている暇は無い。 そんな状態が数秒ほど続いた後、全ての圧力が消失した事を確認し、漸くリンディは身体を起こした。 周囲の局員達も、既に立ち上がっている者が殆どだ。 車両は完全に停止し、纏わり付く外気は今更ながら異様に高温となった大気を認識させる。 燃えゆく市街を呆然と見詰めていると、ウーノからの報告が飛び込んできた。 『緊急停止機構がロックされました。解除は不可能・・・前方の路線に重大な異常が発生した様です』 『異常?』 ウーノの報告を受け、1人の局員が吹き飛んだ壁面の残骸を飛び越え、前方の様子を窺う。 その間、リンディは何とか自力で立ち上がったフェイトの身を気遣い、更にユーノとの通信を行おうと新たにウィンドウを展開していた。 そんな彼女の意識に飛び込んできたのは、理解できないと云わんばかりの局員の声。 『路線が・・・路線が無くなってる』 前方の車両から、幾つもの悲鳴が上がる。 それは恐怖の、というよりも悲嘆を色濃く含むものだった。 リンディはアルフへと視線をやり、フェイトは任せろとの意思を示す。 アルフは頷きをひとつ返すと、他の局員と共に車両外へと飛び出した。 「義母さん・・・?」 「大丈夫。大丈夫よ、フェイト・・・」 不安げに声を零すフェイトを、リンディは優しく抱き締める。 被曝と化学物質汚染により疲弊した身体が、彼女を常ならぬ不安の最中へと落とし込んでいるのだろう。 何時になく弱気な義娘を気遣い、髪を撫ぜてやるリンディ。 その傍ら、唐突にウィンドウが開き、切迫したアルフの声が木霊した。 『リンディ、聴こえるかい!?』 「聴こえるわ、アルフ。路線はどうなの?」 『それどころじゃないよ!』 続くアルフの言葉、そして映し出された光景に、リンディの意識が凍り付く。 同時に、彼女の腕の中のフェイトまでもが全身を強張らせたが、それに気付く事は終ぞなかった。 リンディの意識を釘付けにしているのは、ウィンドウ越しに映る悪夢の光景。 『街が・・・街が薙ぎ払われてる! あのヘリが居た周辺、全部だ! 路線もビルも、みんなバラバラになっちまった!』 波動砲充填音。 反射的に視線を投じた先に、あのR戦闘機が浮かんでいた。 居住区の空を悠々と漂いながら、青い波動粒子の光を貪欲に機体下部へと取り込んでいる。 周囲のオートスフィアは既に殲滅されているらしく、機体へと襲い掛かるのは地表部からの直射弾と砲撃、そして無限とも思える程に枝分かれしては壁となって襲い掛かるバイドの触手ばかり。 どうやらバイドはあのJF704式のみならず、既にこの階層全域に侵食しているらしい。 だがR戦闘機は見事な機動でそれら全てを回避すると突然、機種を反転させて地表へと向き直る。 そして先程と同じく、光が爆発した。 「うあッ!?」 思わず、悲鳴が零れる。 その強烈な閃光は、従来の青い波動粒子の光ではなかった。 黄金色の閃光が奔り、その光は巨大な奔流となって市街を襲ったのだ。 市街もろとも、バイドと局員の全てを呑み込む金色の奔流。 だがそれは、単一の砲撃などではない。 リンディは見た。 市街を襲う光の奔流の正体、無数の小さな光弾を。 あの波動砲は強力な単発の砲撃ではなく、高密度凝縮された何らかのエネルギー弾を極高速連射するタイプだ。 機体下部のユニットより薙ぐ様にして発射されたそれらは、ホースから放たれる水飛沫の如く市街へと押し寄せ、弾体軌道上の全てをコルク材の如く貫き崩壊させたのだ。 時間にすれば2秒にも満たない時間だが、その間に放たれる弾体数は万を優に超えているだろう。 でなければ、たった2度の掃射で1区画を完全に崩壊させる事など、できる筈がない。 掃射を受けたビル群はいずれも一瞬にして無数の穴を穿たれ、あるものは自重に耐え切れず崩壊し、またあるものは異常な密度の弾幕によって徹底的に細分化されて四散した。 リニアレールの路線も、あのバイド化したJF704式を砲撃した際に巻き込まれ、跡形も残さずに削り取られたのだろう。 ヘリが掻き消えた様に見えたのは、錯覚などではない。 あの弾幕に呑み込まれ、形ある物を何ひとつ残す事もなく、完全な塵と化したのだ。 否、弾体形成に波動粒子が用いられているであろう事を考えれば、塵すらも残ってはいない可能性すらある。 そして地球軍はそんなものを、無数の局員とその家族が存在する居住区へと、些かも躊躇う事なく撃ち込んだのだ。 当該区画に存在していた局員及び民間人、彼等の生存は絶望的だろう。 「何て・・・事を・・・!」 『どうやら彼等は、この本局内で滅菌作戦を行う腹積もりの様だ。汚染の事実があるのなら、局員の殲滅にも正当性が生じる』 思わず呟いた言葉に返す声。 スカリエッティだ。 彼が返した言葉の内容に、フェイトが感情も露わに反論する。 「これが・・・この蛮行が正当ですって!?」 『ある意味ではそう捉える事もできるというだけだ。何も私自身がそう思っている訳ではない』 「だからって・・・!」 『其処までだ! 8区上空、2機目の侵入を確認!』 冷静に言葉を紡ぐスカリエッティ、感情的な反応を返すフェイト。 今にも論戦を始めそうな2人の間に割り込んだのは、緊迫したユーノの声だった。 彼の言葉に従い、8区上空の空間を見やる。 其処に2機目のR戦闘機、その姿があった。 群青の機体、漆黒のキャノピー。 これまでに確認されたR戦闘機の外観としては、オーソドックスな部類に該当するだろう。 だがリンディは、その機体の細部に見覚えがあった。 それはフェイトも、多くの武装局員も同様だろう。 「R-9Leo」。 捕虜となったR戦闘機パイロット達より齎された情報に基づき判明した、R戦闘機の1機種。 嘗ての地球軍による襲撃の際に、本局内部へと侵入した3機のR戦闘機、内1機。 Sランク1名を含む67名の魔導師、彼等を塵も残さず消し去った、忌まわしき機体。 波動砲の出力を犠牲に、フォースを介して放たれる光学兵器全般を極限まで強化した、殲滅戦特化機体。 リンディ等の視線の先に浮かぶ機体は、証言に基いて描かれたスケッチに瓜二つだった。 恐らくは、R-9Leoの上位互換機であろう機体。 それに付属するフォースは、6本のコントロールロッドを備える異様な外観だった。 機体左右に展開したビットシステムもまた、バイド体の半面を装甲と何らかの機能を伴う機器に覆われ、更に砲口までもが設けられている。 数瞬後、そのフォースの先端とビットシステムの砲口に、微かな青い光が宿った瞬間。 反応する暇すら無く、視界を強烈な光が覆い尽くした。 眼窩の奥に鋭い痛みを覚え、目を覆って床に伏せた事は認識している。 衝撃が全身を襲った事も、轟音によって再び聴覚が麻痺した事も理解していたが、続く生産的な行動を実行できない。 視覚を焼いた光が薄れ、痛みが薄らぐ瞬間を待つ事、それだけが自らの意思で選択し得る行動だった。 「な・・・あ・・・!」 『リンディさん! リンディさん、応答して下さい! リンディさん!?』 ユーノの声。 光が薄れ、痛みが消えた。 治癒効果を備えるラウンドガーダー・エクステンド、それが自身を含め全ての局員を覆っている事に気付いたリンディは、それまでの疲労が嘘の様に身体を起こした。 飛び交う念話を正常に拾い始めた頃、リンディは自身の身体が健在である事を確認し、市街へと視線を投じる。 だが、彼女の視界に映る光景は、既に一変していた。 街が無い。 ビルも、第1階層から噴き上がっていた炎すらも、全てが掻き消えている。 群青のR戦闘機が青い光を纏った事は覚えているが、その後に何が起こったのか、まるで理解できない。 何もかもが嘘の様に、抉れた階層構造物だけを残して消えている。 一部始終を観測していたであろうユーノへと詳細を尋ねようとするも、それより早く複数の声が悲鳴の如き叫びを返した。 『高架橋を降りて! 階層構造内に逃げるんです、早く!』 『6区、掃射型波動砲により壊滅! 敵機、再度充填を開始!』 『こちらで時間を稼ぐ! 猟犬の後を追え!』 ユーノ、クアットロ、シグナムの叫び。 視線の遥か先で、群上の機体が機首をこちらへと向けた。 だが、シグナムの炎が襲い掛かった事により、進路を変更すると異なる方向へと飛び去る。 彼方で炸裂する、青い光。 虹色の燐光が奔り、遅れて轟音が届く。 『くそ、迎撃された!』 苦々しく呻くシグナム。 だが、それに答える暇は無い。 彼方に点る、赤い光。 そして、赤い光条が大気を打ち抜いて飛来した。 周囲には眩い燐光を纏い、漂う粉塵をすら触れる片端から消滅させてゆく。 隣接区のバイド触手群を狙ったそれは車両上部を掠め、照射箇所の構造物を瞬時に溶解・気化させた。 熔鉄が降り注ぎ、気化した金属が路線上の生存者達を身体の内外から焼き尽くす。 絶叫が上がる中、リンディは障壁を展開しつつ、車両外より戻ったアルフと共にフェイトを支えて走り出した。 一分、一秒でも早く高架橋を降りなければ、あの常軌を逸した攻撃に巻き込まれて消滅する事となるだろう。 「リンディ、あれ!」 車両外へ出ると同時に、アルフが後方を指した。 R戦闘機が、こちらへと戻ってくる。 そのフォース先端には青く輝く波動粒子が集束しており、明らかに波動砲発射態勢へ移行していると判る。 そして砲撃が放たれるが、それはリンディ等の頭上を突き抜け、彼方に展開するバイド群の中央へと着弾した。 ビルが2つ、弾体の炸裂に巻き込まれて崩壊する。 これまでに確認された機体の砲撃と比して、明らかに低出力だ。 ならば構造物を盾に、何とか逃げ切れるかもしれない。 そう、考えた時だ。 『高速飛翔体、接近!』 警告と共に、燐光を纏って飛来した2つの光球が、先頭車両を粉砕した。 衝撃に煽られ、リンディはフェイトとアルフ共々に吹き飛ばされる。 その視界の端を、光球が掠めて消えた。 局員の誰かが、掠れた声で叫んでいる。 『ビットだ! ビットが襲ってくる!』 立ち上がる暇は無かった。 空間が赤く光り、振動と浮遊感がリンディを襲う。 背中に触れる高架橋のコンクリートに罅が入り、次の瞬間には崩れ始めた。 そして重力に引かれるまま、リンディの身体は落下を始める。 無数の瓦礫の中、上下逆転した視界の内へと映り込むは、接近してくるフォースと2つのビット。 腕の中のフェイトを強く抱き締め、瓦礫と敵機の攻撃を防ぐ為に有りっ丈の出力で障壁を張る。 だが無情にも、瓦礫の1つが彼女の腕を直撃した。 悲鳴を上げる間もなく、フェイトの身体が腕の中から逃れ、奈落へと落下してゆく。 「フェイト!」 「義母さんっ!」 母親としての悲痛な声、義娘としての叫び。 アルフ、そして彼女に抱えられたフェイトが必死に手を伸ばす。 それに応え、リンディもまた手を伸ばそうとして。 背後での青い光の炸裂と同時、全てが漆黒に塗り潰された。
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第一部 第九話『なのはと諜報部の一日』④ 「………」 ゲストの一人であるレクス・レオンハルト二等空尉は緊張で顔が強張っていた。 「大丈夫ですか?」 顔を強張らせているレクスを心配そうに見るなのは。 「だ……大丈夫です…」 レクスは顔を寄せるなのはに動揺し、頬を赤らめる。 確かにゲストとしてラジオに参加する事に緊張しているが、この場の状況が更にレクスを緊張させていた。 紙で指を切って出血してしまったクロエの人差し指をくわえた涼香。 今、自身に顔を寄せているなのは。 女性が苦手なレクスには効果的過ぎる状況であった。 会話をして気を紛らわそうにも涼香は、はがきの整理をしている。 本当は男性であるという噂の幽霧は何故か寝ている。 寝顔がかなり女の子っぽいので、噂も疑わしいが。 幽霧の寝顔を見ていると更に顔が熱くなってきたので、レクスはガラスの向こうの収録スタジオを見る。 ガラスの向こうでは、キーパーの方がカンペを出していた。 カンペには、「開始まで後、五分」と書かれている。 周辺の空気が更に緊張し始めた事をレクスは感じた。 「ん……」 ちょうど良く幽霧は瞼をあける。 幽霧が起きた事を確認すると、涼香は楽しそうに言った。 「後、五分で開始です。頑張って下さいね」 その言葉に、レクスは気が重くなった。 キーパーはガラスの向こうにいる涼香たちに手で合図を送る。 一秒ごとに指を折っていく。 「5」 「4」 「3」 「2」 「1」 ゼロの代わりにキーパーは放送ボタンを押した。 「今週も始まりました!ミッドチルダナイトステーション。」 「略して!」 「「みどすて!!」」 ハイテンションな司会の涼香三等空尉と司会補佐の蔵那クロエによってラジオ番組『ミッドチルダナイトステーション』略して『みどすて』が開始される。 ゲストである幽霧たちはハイテンションな二人に気圧されて更に緊張していた。 「今回はゲストが三人です!」 「どうぞ!!」 涼香とクロエが三人にウィンクで合図する。 幽霧は冷静に自己紹介をする。 「時空管理局諜報部所属の幽霧霞です」 「じ…時空管理局第21特殊編隊「ナイツ」のレクス・レオンハルト二等空尉でず……」 レクスは緊張と女性恐怖症で舌を噛んでいた。 「そして、緊急ゲスト!時空管理局のエース・オブ・エース」 「高町なのは一等空尉!!」 涼香とクロエの紹介に顔を赤らめながらなのはも自己紹介をする。 「戦技教導隊所属の高町なのはです」 その顔は恥ずかしさで少し顔が赤くなった。 「先週はヴィアッリ執務官と鉈部隊長代行でしたが……今週は、幽霧霞三等陸士。レクス・レオンハルト二等空尉。高町なのは一等空尉の三名をゲストにお迎えして90分お送りいたします」 「では、まずゲストの三人に一つ目の質問です!趣味はなんですか?」 クロエは三人に問い掛ける。 その質問には幽霧があっさりと答えた。 「チェスの駒を彫る事です」 「はい!?」 「チェスの駒彫り!?」 幽霧の言葉に驚く涼香とクロエ。 まさか、職人のような趣味を持っているとは思いもしなかったからだ。 「デバイスを磨く事」 レクスはぽつりと言う。 「意外と普通ですね」 涼香は意外そうな顔をする。 「お菓子を作ること……ですね」 「えっ!なのはさんはお菓子作れるのですか!?」 なのはの言葉にクロエが驚く。 他の人も少なからず驚いていた。 「まあ…実家が喫茶店なので」 苦笑しながら答えるなのは。 「ということで!幽霧三等陸士がチェスの駒彫。レクス二等空尉がデバイスを磨く事。高町一等空尉はお菓子作りですか……」 「レクスさんとなのはさんの趣味は意外と普通でしたが……」 涼香とクロエは幽霧を見る。 そして、感嘆するように言う。 「まさか、幽霧三等陸士にそんな職人芸の趣味があるとは思いませんでした……」 涼香の意見に幽霧を除く全員が同意する。 そこでクロエが四人が驚く理由が分かっていない幽霧に言った。 「出来れば作ったチェスの駒を見せて頂けないでしょうか?」 「分かりました」 クロエに頷き、幽霧は隊服のポケットを漁り始める。 チェスの駒を持ち歩いている事に涼香たちは驚く。 駒を見つけたらしく、幽霧はチェスの駒を机に置いた。 涼香たちは更に感嘆する。 置かれたチェスの駒はまるで、小さい木製のリインフォースがいるようであったからだ。 「ルークの駒です。駒のデザインは最近、三等空尉に昇格したリインフォースⅡさんを元にしています」 それにしては似過ぎだろうと全員が思った。 涼香たちは驚愕の事実に驚く。 局員の間では没個性で有名だったのに、まさか職人的な趣味を隠し持っているとは思わなかった。 唖然としている涼香たちの中でなのはは納得したかのように呟く。 「アルフィトルテちゃんを創ったのは幽霧くんだと知っていたけど…こんな事も出来たんだね……」 その言葉に涼香・クロエ・レクスの三人どころか、収録スタジオの向こうで放送している局員たちも驚く。 放送の担当責任者は驚きで吸っていた煙草を口からポロリと落とした。 「なのはさん…今……なんて言いましたか?」 次にする質問の事などすっかり忘れ、涼香はなのはに尋ねる。 かなり驚いた顔で質問してきた涼香になのはは答えた。 「アルフィトルテちゃんを創ったのは幽霧くんだと知っていたけど…こんな事も出来たんだねって……」 首からギチギチという変な音を奏でながら涼香は幽霧を見る。 「…………ホントウデスカ?」 「…………はい……」 幽霧の頷きに涼香は口元を引きつらせた。 最近、幽霧の後をついて回る少女がいるという話は広報部でも有名であった。 涼香はクロエから幽霧の後をついて回る少女はアルフィトルテと言う名で、幽霧のデバイスだという事を聞いたのは最近の事である。 まさか、アルフィトルテを創ったのが幽霧だとは涼香も思わなかった。 それはクロエもレクスも同様らしく、唖然としている。 「でも、ヒューマノイド形態は開発部の鏡月主任ですよ」 デバイスの核を内蔵する少女の人形を作ったのが雫という幽霧の言葉に四人は納得する。 しかし、そこで四人は気付いた事があった。 「ヒューマノイド形態を創ったのは、雫・鏡月開発部主任ですよね?」 「ええ」 クロエの問いに幽霧は素直に頷く。 幽霧の頷きに四人どころか、放送担当の局員たちも体から汗が噴出し始めた。 「もしかして……他の所は………」 「はい。デバイスのデザインから内蔵している核に搭載された魔法まで自分でしました。しかしメンテナンスを時々、忘れます」 苦笑しながら幽霧は答えるが、他の面々はまたもや幽霧の有り得なさを感じた。 「次の質問は………」 涼香は次の質問に移ろうとしたとき、誰かが小さくガラスを叩いた。 視線を移す涼香。キーパーがカンペをホワイトボードに出していた。 キーパーからの指示は、「時間が無いからそろそろ、個人的な質問に移れ」。 指示に従い、涼香は送られてきたはがきを読む。 「PN「書類担当のミーナ」さんからです。 時空管理局第21特殊編隊「ナイツ」のレクス・レオンハルト二等空尉は付き合っている女性がいないって本当ですか?」 はがきの内容にはさっきまで黙っていたレクスが噴いた。 「そこの所はどうなのですか?レクス・レオンハルト二等空尉」 涼香はてがみの内容にニヤリと笑いながら涼香はレクスに尋ねる 。 「もしかして………レクスさんって…衆道の方ですか?」 「違います」 かなり見当違いなクロエの予測にレクスは頬を紅くしながら反論する。 レクスは恥ずかしさで頬を紅くしながらはがきの質問に答えた。 「俺は女性と付き合うのが苦手なんですよ………緊張するというか……なんというか………」 溜め息をつくレクスにクロエは微かに悪戯っぽい笑みを浮かべた。 クロエの悪戯っぽい笑顔に涼香は嫌な気がしたが微笑みながら見守る。 悪戯っぽい笑みを浮かべながらクロエは尋ねる。 「女性が苦手なら………ココの状態もやっぱり緊張する?」 「はい……」 顔を寄せてきたクロエに顔を赤らめながらレクスは頷く。 収録スタジオにいるのは、レクスを除けば女性が二人で男性が二人。 ただし、レクスから見ると幽霧が明らかに女の子にしか見えない。 左右はなのはと幽霧に挟まれ、前はクロエが顔を近付けられているレクス。 レクスとしては左右と前を女性に挟まれているような心境らしく顔を真っ赤にし始めた。 涼香は、微笑みながらはがきを読み始める。 「では、次はPN「カイゼル髭」さんのお便りですが……その前に前々会の『みどすて』で寄せられたお便りの返しです。 諜報部の調査によると、次元航行部隊のレン・ジオレンス陸曹長には………恋人が五人位はいるそうです」 「「ぶふぅ!!」」 涼香の報告に全員が噴いた。 まさか、前々回寄せられた「次元航行部隊所属のレン・ジオレンス陸曹長には恋人が何人いるのですか?」という質問の答えが今回で出されるとは誰も思っていなかった。 「では、遅れました。PN「カイゼル髭」さんの質問に移りたいと思います」 涼香が質問を読み上げ始める。 放送スタジオで放送を担当する局員は、遠くから誰かの叫び声を聞いた気がした。 「諜報部所属の幽霧霞三等陸士の性別はどちらなんだろうか?幽霧霞三等陸士自身は男性だといっているが、自分には女性にしか見えない……」 「だそうですが?」 クロエはまたもや悪戯っぽい、笑顔を浮かべる。 「カイゼル髭」と名乗った人の質問には放送担当の局員もリスナーも気になった。 幽霧は本当に男性なのだろうかという事に。 「この質問にはどうお答えしますか?」 クロエは悪戯っぽく幽霧に尋ねた。 「どっちだとおもいますか?」 顔を寄せるクロエに妖艶の笑顔で返す幽霧。 「ーーーーーーーっ!!」 妖艶な笑顔を浮かべる幽霧にクロエは顔を真っ赤にする。 いきなり顔を真っ赤にするクロエに幽霧は首を傾げた。 「大丈夫ですか?」 幽霧はクロエに顔を近づける。 妖艶な幽霧の顔を見た後に顔を近付けられると流石に心拍数なども上がるらしく、クロエの顔は湯気が出るほど真っ赤になる。 涼香は顔を赤らめるクロエに一種の新鮮さを感じながら、ニコニコと笑っていた。 「本当に大丈夫なんですか?クロエさん………」 更に顔を近づける幽霧。 クロエは顔を赤らめ、幽霧から視線を逸らしながら恥ずかしそうに言う。 「だ……だいじょうぶ…です……お姉さま……」 「………はい?」 クロエの言葉の意味が上手くつかめず、幽霧は首を傾げる。 「ぶっ!」 顔を赤らめながら言ったクロエのセリフで放送担当の局員たちは噴いた。 徐々に放送担当の局員たちの肩が震え始める。 「ぷっ……はははははっはははっははは!!!」 一人の笑い声が伝播して、全員が爆笑し始める。 放送スタジオが騒がしくなり始めた。 キーパーは笑いを堪えながら、ホワイトボートに指示を書いて出す。 涼香はキーパーの指示を見て、納得して頷く。。 指示は、「終了時間も近い。これ以上続けたら収拾がつかなくなる。だから、上手くまとめて切れ。」 顔を赤らめ、悶死しかけているクロエの代わりに涼香が幽霧に質問する。 「結局、幽霧霞三等陸士の性別はどちらなのですか?」 クロエの言った意味が分かった幽霧はかなりへこんでいた。 「………男です」 「幽霧霞三等陸士が男性と分かった事で、今夜の「みどすて」を終わります。 今夜は幽霧霞三等陸士。レクス・レオンハルト二等空尉。高町なのは一等空尉の三名をゲストにお迎えしてお送りしました」 涼香の声はとても冷静であった。 キーパーはタイミング良く放送ボタンを切った。 「お疲れ様でした。皆さん」 放送スタジオから聞こえる爆笑を聞きながら、涼香は収録スタジオにいる四人に言った。 「お疲れ様でした……」 衆道と勘違いされたレクスは必至に恥ずかしさと笑いを堪えている。 「お疲れ様…でした……」 最後の最後でクロエに『お姉さま』と呼ばれた幽霧は人生の終わりのような顔しながら席を立つ。 「お疲れ様でした~」 緊急ゲストだった為、話題の矛先を向けられなかったなのはは笑顔で答える。 「お…つかれ…さま……です…嗚呼……恥ずかしい…」 幽霧に『お姉さま』発言をしてしまったクロエは悶死しそうな顔であった。 挨拶を終え、収録スタジオの面々は解散する。 「幽霧くん」 「なんでしょうか……」 人生の終わりのような顔をしながらなのはを見る幽霧。 「ごはん…食べにいこっか」 幽霧に笑顔で言うなのは。 「………はい」 軽く溜め息をつきながら、幽霧は了承した。 居酒屋「苺壱枝」で雪奈はグラスを磨きながら空を見上げていた。 空には漆黒の帳が下ろされ、幾多の星が宝石の様に瞬いている。 息を吐く雪奈。雪奈の口から白い息が吐き出される。 「本格的な冬も近づいてきたね」 「そうですね。雪奈さま」 雫はヒツジのシチューをかき混ぜながら言う。 鍋の中からは美味しそうな匂いが漂う。 二人は夜の寒さから本格的な冬の訪れを感じた。 「こんばんは」 声と同時に青年が居酒屋「苺壱枝」の暖簾をくぐる。 「こんばんは。レキさん」 入ってきたのは、「Debil Tear」店主のレキであった。 椅子に座るレキに雪奈が尋ねる。 「レキさん。お店はいいの?」 雪奈に渡されたお冷やを飲みながらレキは答える。 「今夜はお休みです。心配しなくてもちゃんと事前に今夜は休む事は言ってありますから」 その言葉に雪奈は安堵する。 二人の会話を眺めていた雫はシェイカーの中身をグラスにあけ、レキに差し出す。 「どうぞ。「龍王の吐息」です」 「…………手際が良いですね……」 驚きながらレキは「龍王の吐息」を口に含む。 一種の暴力に似た辛さが口の中に広がり、焼け付くような痛みと共に液体が喉を滑る。 「やっぱり、雫さんの作る「龍王の吐息」は美味しいですね………」 感嘆の声を出すレキに雫は微笑みながら答えた。 「主である雪奈さまを影から尽くす事と同じ様に、主のご友人に尽くす事は私にとって重要なことですから」 「こんばんは~」 暖簾をくぐって、なのはが入ってきた。 それに続いて、幽霧も入る。 「こんばんは。お二方」 雪奈はニヤリと笑いながら二人に言う。 屋台のカウンターでは、雫の作るカクテルを飲むレキとシェイカーを振る雫がいた。 なのははレキの姿を見て驚く。 「レキくん。久しぶり~」 声をかけるなのはにレキは顔を向ける。そして、のんびりと挨拶を返す。 「こんばんは。なのはさん」 「お店は?」 「休みです」 なのはの問いにレキは即答する。 「お二方。注文は?」 「ヒツジドリアと………『カルマ』をグラスに一杯」 酒に弱い癖に赤ワインも注文するなのは。 雪奈はなのはが酒に弱い事を知っていたが、流石に今のなのはは客であるので止めはしなかった。 『カルマ』のボトルを開け、空気と混ぜるようにゆっくりとグラスに注ぎ込む。 まだ少し腐敗臭のする赤い液体がグラスに注がれた。 更に雪奈は軽く『カルマ』の入ったグラスを振り、空気と馴染ませる。 空気と触れることで腐敗臭が薄れて、葡萄の良い香りに変わった。 「去年に出荷された『カルマ』で御座います。 香りを楽しみながらゆっくりお飲み下さい」 なのはは雪奈に差し出された去年の『カルマ』をまず一口、口に含む。 味わい深い葡萄酒の味が口一杯に広がる。 「幽霧は何にする?」 「鴨雑炊で」 「アルフィトルテも~」 雪奈は鴨肉と出汁を取ったスープを鍋に入れ、煮込み始めた。 出汁の良い香りが屋台に広がっていく。 鴨肉をスープで煮込みながらなのはに尋ねる。 「なのはさん」 「………なんでなんでしょうか?雪奈さん」 『カルマ』のアルコールが回っているからか、なのはの頬は赤い。 雪奈は雑炊に焦げ目が付かないように鍋をかき混ぜながら静かに尋ねた。 「何か悩み事でもありましたか?」 「ーーーっ!」 なのはの身体が凍り付く。 雪奈に自身の中で今もなお、くすぶっている悩みを見抜かれたかと思ったからだ。 次第に自身の心臓の音が聞こえてきた。 その時、頭に激痛が走った。 昨日、弾を喰らった時の痛みがぶり返したようだ。 頭の怪我を心配しているだけだと自身に言い聞かす。 そう考えると次第に硬直が薄れ、なのはが口を開く。 「………気のせいですよ」 「じゃあ何故、なのはさんの目から涙が出ているのでしょうか?」 「!?」 雪奈の言葉になのはは自身の頬を撫でる。 頬には冷たい滴が付いていた。 「今、なのはさんがオーダーした『カルマ』には面白い逸話があるのでございます」 なのはの顔を見ながら雪奈は語り始める。 「実はこのワインは死刑が確定されている囚人の奥さんが夫の為に作ったワイン だったのです。 死刑が執行される当日。奥さんは、囚人である夫にグラス一杯の『カルマ』を飲ませて欲しいと頼み込んだ。 執行人たちも奥さんの熱意にうたれて、執行直前にグラス一杯の『カルマ』を囚人に飲ませたの。 奥さんの作ったワインの味に囚人は罪を犯した後悔で涙を流したそうです」 最後に雪奈は付け加える。 「今でも奥さんの血筋が『カルマ』を作り続け、この話に出てくる水の都では今 でも死刑執行前に『カルマ』を飲ませる習慣があるそうです」 話を締めくくる雪奈になのはが尋ねる。 「その話と、私に何の関係があるのですか?」 雪奈はなのはを見据えながら答えた。 「悩みや後悔がある人が『カルマ』を飲むと、涙をこぼすという伝承があるので すよ。 内容的に眉唾物だけど、今のなのはさんを見ると信じられますね」 蒼天の様に蒼い雪奈の瞳がなのはを射抜く。 まるでなのはの心を見透かすように。 なのははその蒼い瞳に吸い込まれていく。 「吐いた方が楽になりますよ」 雪奈の一言になのはの肩の力が抜ける。 そして、ポツリポツリと途切れ途切れになりながらも話し出す。 「雪奈さんは……いなくなった……知り合いが……再び………現れたら………ど うしますか…………?」 なのはの問いに少し驚く雪奈。 更に問いは続く。 「そして……その…人……が………拒絶……したら……」 「簡単ですよ」 雪奈はあっさりと言った。 なのははあっさりと言った雪奈に驚いた顔を見せる。 「何度も出会いを重ね、コミュニケーションを取れば良いのです。 少し拒絶された位で泣いていたら、キリがありません。 人という物は出会いを深めることで関係を深めていくのです…………それはな のはさん。貴女が一番よく分かっているはず」 「でも…………」 言いよどむなのはに雪奈は苦笑する。 そして、一本のボトルを開けた。 「これは私のお気に入りのボトルの一本。『氷蒼の薔薇』です。」 そう言って、雪奈は用意したグラスに『氷蒼の薔薇』を注ぎ込む。 「どうぞ」 雪奈は全員に『氷蒼の薔薇』が入ったグラスを渡す。 渡された『氷蒼の薔薇』を一口だけ口に含むなのは。そして、顔を強くしかめ る。 『氷蒼の薔薇』の味は飲めたものではなかったからだ。 『氷蒼の薔薇』には強い腐敗臭がする上に強い渋さと苦みがあった。まだ水の方が美味しいと感じる。 レキのグラスも同様らしく、顔をしかめている。 雪奈と雫は『氷蒼の薔薇』の入ったグラスを揺らしていた。 「なのはさん」 雪奈は顔をしかめるなのはに言う。 「ん……なんでしょう…か………?」 未だ口に広がる渋さと苦みを感じながらなのはは反応する。 「もう一度、飲んでみて下さい…………大丈夫。今度はちゃんと飲める筈です………私を信じて」 なのはに笑顔でいう雪奈。 雪奈の言葉を信じて、なのはは『氷蒼の薔薇』を恐る恐る口に含む。 再び口の中に流れ込む液体になのはは硬直する。 「雪奈さん!」 レキはなのはが『氷蒼の薔薇』の不味さで遂に思考すら止まったのかと思った。 レキに怒鳴られても雪奈は微笑んでいる。 しばらくして、グラスを唇から離すなのは。そして、惚けたの様に呟く。 「………おい…しい……です………」 「え………?」 レキはなのはの言葉を疑った。雪奈の顔を見るも、雪奈は微笑んだままだ。 なのはの言葉にレキは疑いながらも『氷蒼の薔薇』を口に含む。 口腔に流れ込んだ液体の味にレキもなのは同様、驚くしかない。 最初に飲んだ時にあった渋味や苦味が無くなり、鼻を突き抜けるような爽やかさと仄かな甘みが口一杯に広がったからだ。 雪奈は幽霧とアルフィトルテに鴨雑炊を出し、笑顔でなのはに言った。 「このお酒は………時間をかければかける程、美味しくなる薔薇のお酒なんですよ。まるで、硬く閉じた蕾がゆっくりと時間をかけて開くようにね」 感嘆するなのはに雪奈はウィンクする。 「まるで、人間関係の様ではないでしょうか?」 「!?」 なのはは何かに気付いたらしく、身体を強張らせる。 身体を強張らせるなのはをチラリと見る雪奈。 グラスに注がれた『氷蒼の薔薇』を揺らしながら言う。 「フェイト・T・ハラオウンと初めて出会った『P・T事件』 後の夜天の王となる八神はやて。シグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラ。そしてリインフォース。計五人の守護騎士と出会った『闇の書事件』 全て、最初から友好的な関係から始まった訳ではないでしょ?」 なのはは雪奈の言葉に耳を傾けながら、心の中で頷く。 雪奈の言う通り、親友であるフェイトとはやてとは最初から友好的な関係から始まった訳ではなかった。 想いの食い違いで戦い合い、戦いの末に友情が芽生えた。 更に雪奈は続ける。 「例え、一度は想いや絆が食い違ってバラバラになっても………時間や想いをゆっくりと重ね、そうやって出会いを重ねることが出来る。 それが………」 雪奈は一度、口を閉じる事で区切り、優しく微笑みながら言った。 「本当の友達だと思いますよ」 なのはにそう言って、グラスの『氷蒼の薔薇』を口に含む雪奈。 飲んだ雪奈は嬉しそうに唇を舐める。 『氷蒼の薔薇』を飲んでは、空を見上げるレキ。 レキにも何か想う事があるのだろう。 なのははグラスの中で揺れている『氷蒼の薔薇』を見ながら呟いた。 「時間や想いを重ねることが本当の友達を作る条件……か…………」 「長月部隊長。自分はこれで失礼します。 なのはさん。お先に失礼します」 「ばいばーい!」 幽霧はなのはたちに一礼し、アルフィトルテは大きく手を振りながら帰っていく。 なのはたちは軽く手を振りながら幽霧とアルフィトルテを見送る。 「さて!」 幽霧の姿が見えなくなってから、雪奈はなのはを見る。 「まだ悩みはあるかな? 神威からセクハラでもされてるとか」 蒼い瞳がなのはを見る。 綺麗に澄んだ蒼になのはは引き込まれそうになる。 笑顔で雪奈はなのはの瞳を覗き込む。 なのはは思った。確実に悩みを見透かされていると。 意を決し、なのははにこやかに言う雪奈に尋ねた。 「幽霧くんの事なんですが………なんで時々、悲しそうな目をするのでしょうか………?」 なのはの問いに雪奈は尋ねる。 「幽霧が気になる?」 「いえ………時々、死んだ魚のような冷たい目をするので………」 言いよどむなのは。 雪奈は少し苦笑しながら言った。 「幽霧があの目をするときは………感情を捨てないといけないときだよ。」 「感情を………捨てる?」 なのはは雪奈の言葉を反復する。 雪奈は蒼い瞳でなのはを射抜きながら淡々と言った。 「幽霧はね…………ある事故で家族を失っているの。あれは言わば………その後遺症であり、名残………」 「え…………」 なのはは雪奈にその続きを聞こうとしたとき。 雪奈は手を叩いた。 「はい!その話はもう終わりです。そろそろ帰りなさい! なのはさんも明日は仕事でしょっ!」 なのはは手叩く雪奈につられて、席を立つ。 勘定を払って帰ろうとするなのはに雪奈は言った。 「なのはが知り合いとの関係を改善することも、幽霧の過去を知ることも、時間と想いを重ね続ける事が必要です」 「…………ありがとうございます」 雪奈の意味深長な発言の意味が分からないが、なのはは頭を下げる。 そして、家路を急いだ。 なのはの足取りは少しだけ軽くなっていた。
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報告書 ― 不祥事の分析と改革の方向性― 20.7.15 防衛省改革会議 目次 報告にあたって………………………………………………………………… 1 Ⅰ はじめに…………………………………………………………………… 3 本会議の任務― 問題事案への対処…………………………………… 3 ネガとポジ…………………………………………………………………… 3 新たな国際環境と自衛隊の多機能化……………………………………… 4 戦後日本の文民統制………………………………………………………… 4 官邸と防衛省― 二つの焦点…………………………………………… 5 幕僚監部と部隊……………………………………………………………… 6 Ⅱ 不祥事案― 問題の所在……………………………………………… 7 1 給油量取違え事案― 報告義務不履行…………………………… 7 (1) 不規則な展開………………………………………………………… 7 (2) 問題点………………………………………………………………… 8 2 情報流出事案― 通信情報革命と情報保全……………………… 9 3 イージス情報流出― 先端技術の学習と情報保全……………… 11 (1) 特別防衛秘密の拡散………………………………………………… 11 (2) 問題点………………………………………………………………… 13 4 「あたご」衝突事案― 基本動作のゆるみ……………………… 14 (1) 「方位落ち、危険なし」…………………………………………… 14 (2) 破局への道― 錯誤の連鎖……………………………………… 16 (3) 問題点………………………………………………………………… 19 5 前事務次官の背信……………………………………………………… 20 6 諸事案の総合検討……………………………………………………… 22 Ⅲ 改革提言(1) ― 隊員の意識と組織文化の改革……………………… 29 1 改革の原則……………………………………………………………… 29 2 規則遵守の徹底………………………………………………………… 30 (1) 幹部職員の規則遵守の徹底………………………………………… 31 (2) 規則遵守についての職場教育……………………………………… 31 (3) 機密保持に関する規則の徹底的遵守……………………………… 31 (4) 防衛調達における透明性及び競争性の確保並びに 責任の所在の明確化…………………………… 32 (5) 監査・監察の強化…………………………………………………… 32 (6) 規則の見直し・改善………………………………………………… 33 3 プロフェッショナリズム(職業意識)の確立……………………… 33 (1) 幹部教育の充実……………………………………………………… 33 (2) 基礎的な隊員教育の充実…………………………………………… 34 (3) 情報伝達・保全におけるプロ意識の醸成………………………… 34 4 全体最適をめざした任務遂行優先型の業務運営の確立…………… 36 (1) 文官と自衛官の一体感と陸・海・空の一体感の醸成…………… 36 (2) PDCA(Plan Do Check Act:計画・実施・評価・改善) サイクルの確立……………………………………………… 37 (3) 機能する基本組織単位(部隊など) ……………………………… 37 (4) 部局間の垣根を越えたチームによる課題への対処……………… 38 (5) 防衛調達におけるIPT の推進……………………………………… 38 (6) 統合運用体制の促進………………………………………………… 39 (7) 組織として整合性のとれた広報…………………………………… 39 ア) 平時における広報の在り方……………………………………… 39 イ) 緊急事態等における広報の在り方……………………………… 39 Ⅳ 改革提言(2) ― 現代的文民統制のための組織改革………………… 40 1 組織改革の必要性……………………………………………………… 40 2 戦略レベル― 官邸の司令塔機能の強化………………………… 41 (1) 安全保障戦略の策定………………………………………………… 42 (2) 三大臣会合(内閣官房長官、外務大臣、防衛大臣など) の活用………………………………………………… 42 (3) 防衛力整備に関する政府方針策定のための仕組み……………… 42 (4) 内閣総理大臣の補佐体制強化……………………………………… 43 3 防衛省における司令塔機能強化のための組織改革………………… 43 (1) 防衛大臣を中心とする政策決定機構の充実……………………… 44 (2) 政策面での施策― 防衛政策局の機能強化…………………… 45 (3) 運用分野における施策― 統合幕僚監部の機能強化………… 45 (4) 整備分野における施策― 整備部門の一元化………………… 46 (5) その他の重要分野における施策…………………………………… 47 ① 管理部門…………………………………………………………… 47 ② 人事、教育・訓練………………………………………………… 47 Ⅴ 結びにかえて……………………………………………………………… 47 防衛省改革会議の開催について……………………………………………… 50 防衛省改革会議の開催実績…………………………………………………… 52 防衛省改革会議勉強会等の開催実績………………………………………… 54 図表1 …………………………………………………………………………… 58 図表2 …………………………………………………………………………… 59 防衛省改革会議「報告書」の概要…………………………………………… 60 別添参照資料 - 1 - 報告にあたって 『防衛省改革会議』は、昨年12 月に、前防衛事務次官の不祥事、報告義務の不 履行、情報の流出などがきっかけとなって発足しました。当初は3 ヶ月程度で中間 報告をまとめる予定でいましたが、議論の深まりを受け、11 回の本会議、15 回の 勉強会、専門家へのヒアリング、陸・海・空各自衛隊の現場の視察や自衛官との意 見交換など半年以上の議論の積み重ねを経て、ここに改革の原則と指針を答申する に至りました。 議論で力点をおいたことが2つあります。一つは、それぞれの不祥事案(とりわ け前事務次官の不祥事は語る言葉も見当たりませんが)について、個別事象への対 策に留めるのではなく、その背景や根本にある原因にできるだけ接近しようと努め たことです。もう一つは、近年の安全保障環境の大きな変化を認識しつつ、それに 即した防衛省・自衛隊の在り方に敷衍したことです。 「防衛省・自衛隊の不祥事はなぜこのように繰り返すのか」と、初回の本会議冒 頭から多くの委員が疑問を呈されました。事務方から、不祥事案が発生する度に積 み重ねてきたこれまでの対策をお聞きしながら、それでも続発するのはなぜかを、 会議は問わずにはおれませんでした。そのため、会議は、この報告書にかなり詳細 に採録した不祥事案等の分析・評価に加え、防衛省・自衛隊の組織管理状況や気風 等にまで立ち入って議論を重ねました。 我が国の自衛隊は、戦前の痛烈な経験から、警察予備隊として創設以来58 年間 「抑止力として存在することに意義がある」、「自衛隊の暴走を抑止する」との認 識の下での文民統制(シビリアン・コントロール)が貫徹されてきました。これか らの自衛隊の役割への期待の大きさを考えますと、文民統制は、更に強化・充実さ せる必要があります。他方、これまでの文民統制は、防衛省・自衛隊の「逸脱」を 厳しくチェックする国会やマスコミの存在を背景に、内部部局の文官がその役目を 代行してきた感がありました。文官と自衛官、内部部局と各幕僚監部に判然と分れ て相互の人事交流も乏しく、ともすれば全体の目標に向かって相互のコミュニケー ションに不足や齟齬をきたし、更には自衛官の主体的・自律的な責任意識の希薄化 をもたらすなど、不祥事が続発する一因になったのではないかとも考えました。全 ての民主主義国に不可欠なシビリアン・コントロールを我が国も大事に守りつつ、 内部部局と各幕僚監部が共に政治を支えて、我が国の安全保障を全うすることが必 要と思います。 また、半世紀以上が経ち、我が国自衛隊は、海外派遣任務や国際平和協力活動な - 2 - ど活動範囲が拡がり、安全保障の概念が従来の「国対国」だけでなく「対テロ」も 加え多面的になってきているなど、今日の自衛隊を取り巻く環境の変化や求められ る役割の重要性に鑑みれば、文民統制を確保しつつ、人材を有効に活用して自衛隊 をより積極的・効率的に機能させることができるように、防衛省・自衛隊の組織を 改革することが必要な時期に来ているとの結論を得ました。 報告書には「改革の三つの原則」と「現代的文民統制のための組織改革」の指針 を示しましたが、今後、これらに血肉をつける具体的な検討は、内閣官房と防衛省 ・自衛隊に委ねます。特に、我が国の平和と独立を守るという崇高な任務を与えら れた防衛省・自衛隊の諸君が、本報告書の本旨を汲み取って、自らの変革に自発的 に挑戦していくことを切に期待しています。また、自衛隊の活動に対する政府と国 民との相互理解が益々重要になってきていますので、多くの国民が文民統制の最終 権限者として、今後の改革に関心と叱咤激励を寄せられることを強くお願いするも のです。 今回、検討し切れなかった諸課題もありますが、福田内閣総理大臣に本報告書を 答申するに当たり、町村内閣官房長官、石破防衛大臣、多忙な中を精力的に議論に 参画し、報告書の執筆に当たられた委員の方々、事務方として会議を支えてくれた 内閣官房、そして防衛省の皆さんのご尽力と協力に深く感謝します。 平成20 年7 月 防衛省改革会議 座長南直哉 - 3 - Ⅰ はじめに 本会議の任務― 問題事案への対処 昨平成19 年12 月に、防衛省改革会議が官邸に設置されたのは、防衛省・自衛 隊にあるまじき事件・事故が頻発したのを受けてのことであった。 当然ながら、本会議の第一の任務は、そうした諸事案について何が起こったの か、そしてその原因は何かをレヴューし、再発防止のためにどんな対処が必要か を検討することにあった。もとより本会議は、捜査や調査を自ら行えるわけでは なく、また司直の手により解明中で結果が未だ公表されていない事案も存在する。 そうした中、本会議はとりあえず防衛省などに資料提供を求め、関係者・有識者 へのヒアリングを行って、検討と評価を試みてきた。個々の事案を問うとともに、 不祥事を許容した組織の問題をも問わねばならない。防衛省・自衛隊に何が起こ っているのか。その解明を基に対処と改革の方向を示すことが、本会議の第一義 的任務である。 ネガとポジ ただ本会議は、不祥事への対処をもって任務完了とは考えていない。なぜなら ミスやエラーを犯さないことは必要条件であって十分条件ではないからである。 スポーツを例にとれば、エラーを連発するチームが優勝することはありえないが、 エラーを犯さないことを至上目標とするチームが優勝することも難しいであろ う。選手がミスを恐れてダイビングキャッチも試みないチームは強くなれない。 より重要なことは、チーム全体が高い志と目的意識を共有し、結束して試練に立 ち向かう気風である。その息吹の中で各プレイヤーが積極的に高度な技術をめざ して訓練を重ね、ミスやエラーの可能性を極小化していくのが強いチームの姿で あろう。国家と国民が危殆に瀕するとき、その安全のために働くべき最後の手段 である自衛隊も、同じことが求められるのではなかろうか。 ミスをしない、不祥事を起こさないと否定形で語られることは、全て必要であ り重要である。そのためにあらゆる措置がとられねばならない。しかし人間と人 間組織は否定形の山の中でよい仕事を長期に続けることはできない。管理強化の 山によって不祥事から逃れることができると考えるのは、人間性への洞察を欠い た暗い統制主義である。ポジ(肯定形)が組み合わされなければならない。ほと - 4 - ばしる流水は腐らない。健全で積極的な前進目標を主軸とし、それに向う組織全 体の息吹の中で、否定的な逸脱が強力に抑制されねばならない。エラーを極小化 するためにも、組織のミッションが明確に提示され、それに沿って実効的な活動 が行えるよう組織構成と意思決定システムができ上がっていることが必要なので ある。 新たな国際環境と自衛隊の多機能化 今日、積極的な側面はとりわけ強調されねばならない。なぜなら冷戦終結後の 国際秩序が流動化する中で、自衛隊にはこれまでよりも実際に働き、役に立たね ばならない局面が増加しているからである。世界的に民族紛争や地域紛争が多発 し、21 世紀の開幕とともに9.11 の無差別大量虐殺テロまで勃発した。その結果、 非在来型の脅威にも備えねばならなくなった。貿易によって生計を立てる日本に とって世界の平和維持が存立の基盤であり、PKO をはじめとする国際平和協力 活動は自衛隊の本来任務となった。我が国周辺における近年の国際環境の変化も 顕著であり、核とミサイル、拉致と不審船などにより、我が国が脅かされる事態 を招いた。日本はミサイル防衛に着手し、また自然災害の多発を受けて自衛隊が 内外の救援活動に赴くことも増えた。「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告 書が示したように、我が国の安全を全うするため、自衛隊が多機能・弾力的・実 効的に行動しなければならない時代を迎えている。すなわち現在は、防衛省・自 衛隊が、多様な事態に対し迅速かつ的確に対処できるよう組織と意思決定システ ムを再検討しておくべき時期なのである。 戦後日本の文民統制 機能する自衛隊という21 世紀の課題は、全ての政府が例外なく直面している 政軍関係及びシビリアン・コントロールという普遍的難問とあいまみえることを 我々に迫るであろう。あの戦争と敗戦から学んだ戦後日本は、「下克上」や「独 断専行」、クーデターや軍部支配を二度と起こさないことに注意を集中し、「軍 事実力組織からの安全」を最重視してきた。 戦後日本において、民主主義とシビリアン・コントロールを重視する社会意識 は定着し、防衛省・自衛隊もそれを共有している。吉田茂首相は「下克上のない 幹部」を育成するために防衛大学校の前身である保安大学校を創設したが、槇智 雄初代学校長は、幹部自衛官が民主主義社会において確立すべき徳目を防大生に 説き、シビリアン・コントロールを自らの自発性において内面化するよう求めた。 - 5 - 他の多くの民主主義社会と同じく、今日の日本にクーデターの挙はありえないで あろう。 ただ、人の世にあって、油断とゆるみ、慢心や驕りが容易に人と組織を転落さ せうることは、近年の不祥事の多発を含む歴史の示すところである。例えば情報 の隠蔽や操作による不服従はあらゆる官僚組織に稀ではないが、究極的な実力組 織機関がそれを行うとき、格別な政治社会的意味を帯びるであろう。自衛隊がシ ビリアン・コントロールをほぼ内面化したことを評価しつつも、その制度的担保 を消失させない考慮を残すべきである。全ての民主主義社会はシビリアン・コン トロールの制度を内蔵していなければならないのである。 ここで、戦後日本における文民統制(シビリアン・コントロール)の在り方が 独特であったことを想起しておかねばならない。戦後の政党政治がなお未成熟で あり、社会が安全保障問題に理解を欠いていたことを想えばやむを得ない面もあ るが、防衛庁内部部局が自衛隊組織の細部に至るまで介入することが、文民統制 の中心的要素とされてきたのである。国民→国会→首相→防衛庁長官→自衛隊と いう議院内閣制民主主義の本旨に沿った文民統制のラインの確立よりも、いわゆ る「文官統制」ともいうべき状態をもって文民統制とした戦後日本であった。 戦後日本のこうした文民統制の問題点を承知しつつも、本会議はそれを全壊さ せるのではなく、内部部局の文官と自衛官の双方によって補佐される政治という 基本骨格を鮮明にすることが、21 世紀に安全保障上の任務を達成する上で最も 適切と考える。 官邸と防衛省― 二つの焦点 安全保障と防衛の分野については、首相官邸と防衛省の二つが焦点であり、両 者の連携において政策展開がなされる。双方の健全な機能強化が求められる。 国会によって選出された内閣総理大臣が、安全保障政策と文民統制の根幹たる 主体である。内政・外交にまたがる全体性の中で安全保障戦略を策定し、主要な 防衛政策と重大事態への対処を決定できるのは首相官邸のみである。それを完遂 するため、首相官邸の安全保障機能は強化されねばならない。 他方、防衛省の任務は、防衛をめぐる政策と人材を用意し、かつ精強にして規 律正しい部隊を整備し、加えて政治の決定を実施することにある。 防衛省中央組織の再編については、現行の内部部局と四幕僚監部(統合・陸・ 海・空)の組織を基本的に存続しつつも、必要な改革を大胆に行うものとする。 その際の基本的観点として、文民統制を守りつつ安全保障を効果的に遂行しうる - 6 - ことの他、セクショナル・インタレストに立つ部分最適化を克服し、全体最適化 を求めること、多くの組織に同種の機能が重複的に存在する場合、できる限り統 合化・重点化することにより、無駄をなくし、人材を有効活用し、かつ決定の迅 速化を期すこと、を本会議は重視している。 政治行政的観点に立つ文官と、軍事専門家である自衛官とが完全に一体化する ことはありえないが、相互補完的な協働が求められる。内部部局と幕僚監部の双 方において、文官と自衛官を混在化させる人事配置を積極的に推進し、互いの視 野拡大と相互理解、双方の活性化と力量向上を期する。 防衛会議を政治家、文官、自衛官の三者構成とし、公式化する。大臣を文官と 自衛官によって補佐する文民統制の中心的機関として、全ての重要問題を審議す る。 幕僚監部と部隊 幾多の不祥事を検討する中で、士気と規律、装備と能力を含めて自衛隊がどの 程度の水準にあるのか気にかかるところであった。従来、専守防衛を旨とする自 衛隊の能力は自制的であっても、装備の近代化は進んでおり、実戦経験はなくと も、日米共同訓練などで高い練度を示してきたとされる。また世界的に地域紛争 が増え、平和構築や災害救援、社会再建などのため、軍隊の非戦闘活動の拡大が 注目されているが、その点、自衛隊は戦後期を通じ日本国内で行ってきた住民へ の協力活動を、カンボジア、東ティモール、サマーワなどにおける国際平和協力 活動でも行い、高い評価を受けてきた。不祥事の頻発は、そうした自衛隊の崩壊 を意味するのであろうか。 豊かな先進社会における一般国民の気風と、軍隊が求める高い規律との間のギ ャップを考えれば、精強にして規律正しい部隊を築き維持するのは容易ではない であろう。けれども事例分析においても見るように、不祥事に対する改善努力が 成果をあげている例もないではない。要は、任務に向っての全組織的な結束と前 進姿勢を如何につくり上げ、その中でミスやエラーを如何に極小化するかであろ う。それができなければ、近年の不祥事は自衛隊の崩壊の始まりであったと後に 位置づけられることであろう。逆に取り組みに成功すれば、この時代の不祥事に 反省し、それをバネに、かえって立派な防衛省・自衛隊を築いたと評価されよう。 後者のコースを辿るための幕僚監部と部隊でなければならない。 陸・海・空の幕僚長は、隊務(人事、教育・訓練、補給等)に関し防衛大臣を 補佐し、精強にして規律正しい部隊を教育・訓練、整備し、それを防衛大臣と統 - 7 - 合幕僚長の下での、統合運用に供する。三自衛隊が統合運用に移行した近年の実 績を評価し、今後も21 世紀の安全保障環境に適合的な統合化を進めるものとす る。 Ⅱ 不祥事案― 問題の所在 近年、相継いで発生した防衛省(庁)・自衛隊によるあるまじき事案のいくつか を検討しておきたい。何故にそれが起ったか、どこに問題があったのか。それを起 こした個人の問題として済ますことができるだろうか。国の安全保障を担う機関が 格別に高い規律と職業意識を求められるのは当然である。ある不祥事について、組 織構造がそれを必然化もしくは助長していないにせよ、それを許容し看過するなら ば、やはり組織の体質が問われねばならないであろう。 社会に小さくない衝撃を与えた諸事案のうち、給油量取違え、自衛隊情報流出、 イージス情報流出、「あたご」衝突、前事務次官の供応・収賄の5 つのケースをま ず簡潔に振り返り、点検しておきたい。その上で、その他の諸事案とあわせて問題 点の究明に努めたい。 1 給油量取違え事案― 報告義務不履行 平成15 年(2003 年)5 月6 日、米空母キティーホークを率いるM.G.モフィッ ト司令官が、海上自衛隊より間接的に約80 万ガロンの給油を受けた、日本政府 に感謝する、旨の発言を横須賀基地内の記者会見で行った。 日米同盟の深まりを象徴する情景であった。 (1) 不規則な展開 2 日後の5 月8 日、統合幕僚会議議長は記者の質問に対し、去る2 月25 日 に海上自衛艦「ときわ」が米補給艦「ペコス」に約20 万ガロンの給油を行い、 その後、キティーホークはペコスから80 万ガロン受給した、と説明した。 統合幕僚会議議長の説明は、海上幕僚監部防衛部の防衛課長(1 等海佐)が 用意し、直接持参した資料に基づいていたが、それは誤った情報であった。 実際には、「ときわ」は2 月25 日、「ペコス」に約80 万ガロン、駆逐艦「ポ ールハミルトン」に約20 万ガロン給油した。ところが、海上幕僚監部運用課 のオペレーション・ルームにおいて給油量の集計表を作成する際に、担当者が - 8 - 誤って両者を逆に入力してしまった。それに基づいて、防衛課長は「ペコスに20 万ガロン」という誤った数字の報告を統合幕僚会議議長に言ったのである。 海上幕僚監部の防衛課長が、間を飛び越して直接、統合幕僚会議議長に情報 と方策を持ち込むのは、官僚機構のプロセスとして普通ではない。もちろん緊 急を要する事態であれば課長の行動は異とするに足りないであろう。ただ、こ の件は緊急重大という程の事態でなく、同じ海上自衛隊の先輩への好意的配慮 からの情報提供と推されるが、不幸にもそれは誤った情報だったのである。 ところで、統合幕僚会議議長が記者発表した翌9 日、海上幕僚監部需品課の 燃料班長(2 等海佐)がこの誤りに気付き、海上幕僚監部防衛課に指摘した。 防衛課長は、課員らとこの件につき検討した上、前日に統合幕僚会議議長が 会見で表明した数字がそのまま社会的に受け止められており、在京米大使館よ り、海上自衛隊より提供された燃料をテロ特措法の目的に反して使用されたこ とはないとの回答をすでに受けてもいた。給油量が80 万ガロンであっても、 それが例えばイラク作戦に使われた可能性はないと防衛課長は考えた。事務的 な数字の誤りは重大な実質にかかわるものではないので、あえて訂正するには 及ばないと判断した。平穏化しつつある事態を、さして意味のない数字の正確 さにこだわって紛糾させる必要はないとの趣旨である。 しかし自らが誤った情報を、組織内の通常プロセスを飛び越して高官に提供 し、かつその誤りに気付きながら、訂正と陳謝を行わないのは、許されること であろうか。こうした無責任な対応が、このアクティブな課長に例外的なのか、 組織内で普通のことなのかが気にかかるところである。 この小さな虚偽のレールに乗って日本政府全体が動き、やがて日本政府は困 難に陥る。9 日に福田内閣官房長官、15 日に石破防衛庁長官が同じ誤情報に基 づいて発言を行った。 (2) 問題点 もし防衛課長が別のオプションをとり、速やかに訂正措置をとっていれば、 高官からのお叱りに加えて、メディアによる批判が巻き起こったかもしれない。 しかし、4 年後の平成19 年(2007 年)9 月に、米国の情報公開法に基づい て米艦関係の資料を入手した市民団体の指摘を受けて、インド洋における海上 自衛隊の給油活動そのものを揺るがす政治問題となることはなかったであろ う。誤りそれ自体は訂正・陳謝すればそれ程大きな傷にはならないが、それを 隠蔽することがしばしば致命傷となるのである。 - 9 - 課長の情報に基づいて内部部局が答弁資料を作成し、政府高官が公的に発言 しなければならないとすれば、本件はすでに微妙な判断を必要とする政治案件 なのである。これについて、課長が自ら最終決定を行い、上司への報告すらし なかったのは驚くべきである。日本の官僚機構にあって課長は政策起案の実質 的中心であるのが普通である。しかし自らの誤りによって作り出した政治判断 を要する案件について、上司の決裁を求めず、放置するのは、秩序と責任を重 んずる如何なる組織にあっても許されるものではない。防衛庁長官・内閣官房 長官そして国会を誤った認識に巻き込みつつ、それへの正しい情報提供を履行 しなかったことは、本人の動機が何であれ、客観的に文民統制への背反である。 本件の場合、個性が強く行動力に富む課長個人の要因が主要であるが、次い で組織の在り方も問われなければならないであろう。海上幕僚監部内では取違 えに気付いた者がいたにも拘らず、4 年後に外部から問題提起されるまで、格 別の対処はなされなかった。海上幕僚監部運用課オペレーション・ルームの集 計表には誤入力されていたのに対し、海上幕僚監部装備課は正しい給油量を記 した実施報告書を作成し、これを事件となる以前の3 月10 日に内部部局へ送 付していた。同文書は管理局装備企画課にファイルされていたが、問題が生じ た後、参照され問題提起されることはなかった。モフィット司令官の発言以来、 内部部局もこの問題を重視し、事実を確かめて対処すべきであったろう。誤り を正すべき責任を持つ部署が省内で明確でないという組織上の問題も正されな ければならないであろう。 民主主義は国民に選ばれた政府が、文武の官僚の補佐を受けて統治するシス テムである。政治の優位が文民統制の本旨であり、文官も自衛官もそれに服し つつ、専門家としての技量を駆使して任務を達成する職業意識(プロフェッシ ョナリズム)が求められる。本件は自衛官の中枢にある幕僚に文民統制への認 識が不十分であるとともに、国会に対する説明をはじめ対外説明責任の重要性 が今日の民主主義社会において高まっていることへの認識が備わっていなかっ たことを示している。 また海上自衛隊がインド洋での国際活動を展開する状況を迎えて、不都合な 事実を内部に伏せておくことが、国際的文脈からも困難となったことをも本件 は示している。透明性について新たな水準の認識が求められていると言えよう。 2 情報流出事案― 通信情報革命と情報保全 二種類の問題が連動して、自衛隊からの情報流出事案が頻発した。一つは急速 - 10 - な通信情報革命に防衛庁と自衛隊員の認識がついて行けなかったことである。い ま一つは、自衛隊内において秘密情報についての保全意識が不十分であり、不徹 底であったことである。両要因の連動によって情報流出する事案が平成18 年 (2006 年)までたて続けに起こった。 例えば、平成15 年2 月輸送艦「おおすみ」の3 等海曹が、通信に関する秘密 情報を、「秘」であるとの自覚なしに艦内で私有ノートパソコンにとり込み、後 にそれを自宅に持ち帰った。自宅の別のパソコンに保存したところ、それがコン ピューターウイルスに感染し、業務用データが部外に流出した。流出は平成17 年12 月確認された。 また隊員が業務用データを可搬記憶媒体に落として持ち出し、自宅のパソコン でウィニーなどファイル共有ソフトを使用してコンピューターウイルスに感染 し、情報流出を招くケースが、佐世保造修補給所(平成15年10 月より、平成16 年10 月頃までの間に、1 等海尉が無許可で持ち出し、平成18 年2 月流出を確認)、 自衛隊病院(平成16 年6 月より平成17 年6 月までの間に、3 等空佐が無許可で 持ち出し、平成17 年9 月流出を確認)、第4 化学防護隊(平成17 年7 月より8 月頃までの間に、2 等陸曹が無許可で持ち出し、平成18 年2 月流出を確認)、第7 航空団(平成16 年7 月に、2 等空尉が無許可で持ち出し、平成18 年2 月流出を 確認)などで起こった。 護衛艦「あさゆき」海曹長も、平成17 年1 月頃から海上自衛隊の訓練・通信 に関する秘密情報を同じように自宅のパソコンに持ち出し、平成18 年2 月に流 出が確認された。 この「あさゆき」事案に、防衛庁は衝撃を受け、全庁的レベルで対応を検討し、 平成18 年4 月にいわゆる「抜本的対策」(正確には、「秘密電子計算機情報流出 等再発防止に係る抜本的対策の具体的措置」と不必要に長々しい表題の文書)を 取りまとめた。これにより業務用パソコンが隊内に十分配備され、私有パソコン によって業務用データを取り扱うことが明確に禁止された。業務用データの外部 持ち出しに対するチェックが行われず、また予算の制約等により業務専用のパソ コンが十分に配備されなかったため、個人用パソコンの業務利用の誘発を免れな かった「あさゆき」以前と、それ以後では情報に対する自衛隊内の扱いが異なる。 にも拘らず、それ以後も同じタイプの情報流出は根絶されなかった。第14 旅 団の3 等陸曹及び第83 航空隊の2 等空尉が、禁じられた私有パソコンによる業 務用データの取り扱いを継続し、それぞれ平成18 年8 月と11 月に、流出が確認 された。これらはパソコン技術に熟達していると自信過剰の隊員が自分は大丈夫 - 11 - と、「あさゆき」以後も改めずにいて、陥ったケースと見られる。 自衛隊における業務用データへの保全意識の不徹底と、コンピューターという 新しい技術のメカニズムへの理解不足が重なって、流出事案がたて続けに起こっ たのである。 3 イージス情報流出― 先端技術の学習と情報保全 イージスシステムに関する情報管理の問題は、以上のいくつもの情報流出事案 と同じ理由による不始末である面と、いささか趣を異にする面とがある。異なる 点は、情報拡散が個人的・散発的ではなく、海上自衛隊がこなすべき最高軍事技 術を積極的に学習教育しようとの意図を持って、高位の責任者の許可はなかった ものの、中堅幕僚クラスの教官の保有するイージス知識をかなり広域に共有した ことにある。そして何よりも重いのは、「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保 護法」に規定する「特別防衛秘密」がそこに含まれていたことである。 一言で「秘密」と言っても、防衛省においては三種類の秘密が取り扱われてい る。外部に出してはならない通常の「省秘」(これを犯した場合、自衛隊法によ り1 年以下の刑)、大臣が我が国の防衛上特に秘匿を要するものとして指定した 「防衛秘密」(同5 年以下の刑)、そして米国から供与された装備品等の性能等 に関する「特別防衛秘密」(上記秘密保護法により、10 年以下の刑)である。イ ージスシステムの性能に関する情報がこれに当たることは言うまでもない。 最高レベルの秘密を厳しく管理保全しなければならないとの意思と、最先端技 術を深く広く理解し、有能に使いこなして日米同盟の実をあげたいという意思の 双方が、二律背反的に海上自衛隊内に存在するであろう。何人かの中堅幕僚が、 後者の意思に主軸を置き、前者を甘く扱ったのが本事案である。 (1) 特別防衛秘密の拡散 海上自衛隊においてイージスシステムを取り扱っていたのは、横須賀のプロ グラム業務隊であった。平成9 年(1997 年)から平成12 年(2000 年)頃にか けて、同隊の新着任者への教育のため、3 人の3 等海佐が「イージス概要」と 題するパワーポイント教材を作成した。それは米国留学中に得たイージスシス テムについての知識などを基にしていたが、上記「特別防衛秘密」に該当する 情報も含まれていた。部内教育用であるから柔軟に扱ってよいと考えたのか、 特別防衛秘密としての登録は行われなかった。 平成14 年(2002 年)3 月の組織改編により、プログラム業務隊は廃され、 - 12 - 同じく横須賀の艦艇開発隊がイージスシステムを担当することになった。上記 3 人のうち引き続き艦艇開発隊でイージス教育に当たっていた3 等海佐Iは、 同年5 月から米国の「イージスシステム幹部課程」へ留学することになった3 等海佐Bに対し、先の「イージス概要」を用いて教育を行った。 米国から帰国後、江田島の第1 術科学校の教官として、「イージスシステム の概要」という教科を担当することになった3 等海佐Cは、留学仲間である3 等海佐Bに参考となる資料の提供を求めた。3 等海佐Bは、上司であり、「イ ージス概要」の作成者の1 人であった3 等海佐Iの了解を得て、それを含むイ ージス資料をCD にコピーし、江田島の3 等海佐Cに送付した。その際、特別 防衛秘密を送付するために必要な手続きはとられなかった。同秘密が含まれて いるとの認識がなかったわけではないが、米国に留学しイージスシステムに通 じた専門家仲間が、部内教育のために用いる限り、杓子定規に手続きを踏まな くてもよいと考えたのであろうか。 それ以後、海上自衛隊内のイージスシステム教材の中に含まれた特別防衛秘 密は、受講した学生たちの間に広く拡散することになる。最高軍事技術であり、 重要な秘密が含まれるとの認識は、教える側にも教えられる側にも存在したよ うである。教官が席を外した間に学生がイージス資料を自分のPC にコピーし たりしたことは、その認識を前提とするであろう。しかし教官側にも、学生が 情報の重要性を認識し、厳重に注意してイージス資料を保管し利用するなら所 持させてよい、との判断があったと推される。席を外してコピーの機会を与え たり、時にはコピーを許したり与えたりしたと思われる。 イージスの情報流出は、以上の経路が全てではない。それと類似の型を踏む ものであったが、江田島の第1 術科学校自体で開発された教材が別に存在した。 平成11 年(1999 年)9 月に米国「イージスシステム幹部課程」へ留学した2 等海佐Jは、帰国後の平成12 年8 月頃、その知識を利用して「誘導武器シス テム」と題するパワーポイント教材を作成した。これにも特別防衛秘密に該当 する内容が含まれていたが、それとしての登録は行われなかった。この教材は MO(光磁気ディスク)に記録され、当人の転出後も歴代教官に引き継がれ、 前記イージス資料とともに、平成15 年(2003 年)から平成18 年(2006 年) までの8 つの課程(幹部中級一般課程、幹部任務射撃課程、幹部中級射撃課程、 海曹射管課程、海士射管課程、幹部中級船務課程など)において教材として用 いられた。受講者のうち特に関心を持って希望した者に、この教材を所持・保 管することを許したこともあった。 - 13 - また、第1 術科学校の諸課程とは別に、イージス艦の職場でも有用な参考資 料として上記教材が個人的なチャンネルを通じて複製利用された。(図表1参 照58頁) イージス資料で教育を受けた多数がイージス資料をCD に保存したまま、様 々な職場に動いた。その後、平成18 年2 月に「あさゆき」事案が、前記のよ うに大きな問題となるに及んで、かなりの者がCD や私有PC からイージス資 料を削除した。 イージス資料を入手した者の1 人である護衛艦「しらね」の乗組員2 等海曹 Aの妻は外国人であり、出入国管理及び難民認定法違反の容疑で、平成19 年1 月神奈川県警により家宅捜索を受けた。その際に特別防衛秘密を含んだ外付け HD が発見され、事件が発覚することとなった。 (2) 問題点 以上のように、特別防衛秘密に該当するイージス情報が、海上自衛隊の佐官、 尉官、曹士クラスに広く共有された。この尋常でない拡散は、前述のように世 界の最先端技術への好奇心と学習意欲、それを米国留学等を通じてマスターし たことに誇りを持つエリートが、本場米国に劣らない高水準の授業を行って海 上自衛隊のイージス理解と運用能力を高め、この分野で日米同盟を担う人材イ ンフラの育成を望んだがゆえと解される。それ自体は悪いことではなく、明治 以降の日本が非西洋社会の中で真先に近代化に成功したのは、外部文明の優れ た点に心ひかれ、それを学んでわがものとするとともに、仲間や後進にそれを 分ち合おうとしたからこそであった。日本人の特質、未だ失われずの想いを一 面において抱かせる。こうした気風は、海上自衛隊がイージスシステムを迅速 に使いこなすことに資したと推される。 もとより、そのことは重大な秘密情報の流出をいささかも正当化するもので はない。不用意な最高秘密情報の取り扱いは、海上自衛隊内専門家以外への流 出の危険を高め、そのことは米国の同盟国日本への信頼を失墜させ、日米同盟 そのものを揺るがすであろう。それゆえ、学習と教育は、情報保全のための万 全の防護措置を伴って展開されねばならなかったのである。 まず、プログラム業務隊と艦艇開発隊が、イージスシステムという特別防衛 秘密を扱う責任部署であるにも拘らず、定められた登録手続を踏むことなく、 秘密情報を含む教材を作成し、規則の枠外で最高秘密を流通させる道を開いた ことは、根本的な誤りであり、その責任は重い。規則に定められた手続きを略 - 14 - した上、上位責任者の判断を仰ぐことなく、指導的な教官たちが、教育の向上 や勤務の参考のために、特別防衛秘密を含む教材を作成し使用しただけでなく、 個人ベースで複製し提供する柔軟な慣行を作ったことが、上流における決定的 な誤りであった。受講生や同僚・後輩から教材のコピーを求められたときには、 厳格な資格審査と手続きを踏んだ上でなければ渡さないというルールを励行す べきであった。 それを怠った帰結が、規律を欠いたイージス資料の拡散であり、別件で家宅 捜索を受けた2 等海曹の所持品から特別防衛秘密の流出が発覚するという不名 誉な事態である。海上自衛隊の部外へ流出しなかったことを、天に感謝すべき であろう。 4 「あたご」衝突事案― 基本動作のゆるみ イージス型護衛艦「あたご」と漁船「清徳丸」が平成20 年(2008 年)2 月19 日午前4 時7 分、房総半島野島崎の南南西約40 キロの海上で衝突した。 本件につき、6 月27 日に横浜地方海難審判理事所は、横浜地方海難審判庁に 対して海難審判開始の申立てを行った。その申立て書は、双方の記録を吟味して 事故の経緯と原因を判定せんとするものであり、従来の諸情報よりも詳細にして 総合的である。以下の記述もそれに負うところが多い。 (1) 「方位落ち、危険なし」 舞鶴を母港とする第3 護衛隊群所属の「あたご」(7,750 トン)は、ハワイで の性能確認試験を終えての帰国途上であり、横須賀へ入港するため、速力10.6 ノット、針路北北西(328 度、海潮流のため、実航針路は324 度)、自動操舵 で浦賀水道に向って航行していた。他方、房総勝浦漁港を午前0 時55 分に出 港した「清徳丸」(7.3 トン)は、マグロはえなわ漁のため、三宅島方面の漁場 へと南西(215 度)に針路をとり、速力15.2 ノットで航行していた。当時、天 候は晴、視界良好(約20 キロメートル)、日の出2 時間15 分前の夜ながら、 月齢11.8 の月が沈む1 時間前であった。 「あたご」に即して見るならば、問題は衝突1 分以内の午前4 時6 分まで「清 徳丸」を認識できなかったことにつきる。それは誠に不思議な事態である。な ぜそんなことが起こったのか。 「あたご」艦橋において航行の責任を負うのは当直士官であり、当時は通常 航海の方式で、2 時間または2 時間半で5 組の当直が輪番する5 直体制をとっ - 15 - ていた。 艦長は前日の夕18 時頃に艦橋から降り、夕食後は艦長室で入港・通関等の 準備作業を行った。0 時30 分頃より休み4 時頃に目を覚まして、艦橋に上が ろうかと思っていたところであった。 艦橋では、航海長が午前2 時から4 時前まで当直士官として指揮をとり、12 名が配置についていた。見張りは艦橋の左右ウィングに各1 名いたが、当直士 官は2 時10 分に2 人を艦橋内に入れ、窓越しの見張りを行わせていた。その 理由について、防衛省の記録は「通り雨があったので」としており、上記申立 て書は「北上して外気温が低下したことと、周囲に接近するおそれのある他船 を認めなかったこと」をあげている。いずれにせよ、他船が接近する海域に入 れば、寒い2 月であってもウィングへ出して見張らせねばならなかった筈であ る。 3 時30 分頃、右舷側の見張りが、右30 度水平線付近に白灯1 個とその左右 に白色の光芒を双眼鏡で視認し、40 分頃にそれが3 個の実光に変わった。こ れらを電話で当直士官に報告した。 当直士官は自らも視認した上レーダーで確認し、3 時40 分、右30 度から50 度にある「これら3 隻の映像の捕捉操作を行ってシンボルを付け」た。レーダ ー上でマークして動きを確かめるというなすべき注意を払ったのである。とこ ろが「間もなく、この3 隻の速力表示が約1 ノット」と読まれた。15 ノット で走る漁船群を1 ノットとする誤りがなぜ生じたのか不明である。当直士官は、 これにより3 隻が操業中の漂泊漁船であろうと判断し、接近はないと見て、45 分頃レーダー上で3 隻につけたシンボルを消去した。この早過ぎた見切りによ って、漁船群はノーマークとなった。「あたご」は接近する漁船群への回避措 置をとらず、自動操舵のまま航行を続けた。 4 時の交代時間を前に、3 時55 分、当直士官は航海長から水雷長に交代し、 新たに11 名が配置についた。前直は漁船群に対する持続的な動静監視を行わ ず、そのために生じた誤認を申し継いだ。船首の右に点在する灯を指差して、 「右艦首の漁船群は、方位落ちるので危険性なし」と告げたのである。(距離 は5 ~ 6 海里、1 万メートル程度と見られた。) 「方位落ちる」とは、この場合、右舷に見える目標の方位が右に変化してい く状態であり、自艦が他船より前に進んでおり、衝突の危険がないことを意味 する。 「方位落ちる」共同幻想に、なぜ「あたご」は陥ったのか。交代した新チー - 16 - ムは、10 分程度の短い時間で、幻想から現実に立ち返ることができるだろう か。 艦橋内左舷で見張りについた信号員は、3 時56 分頃双眼鏡により、右30 か ら50 度にかけて「白・紅2 灯を表示した4 隻を視認した」。しかし、いずれも 申し継がれた漁船と判断し、「一見して方位が右方に変化しているように見え たことから」当直士官に「右の漁船方位落ちる」と報告した。幻想に支配され、 幻想を補強したのである。 船舶はマスト上に白灯をつけることになっており、遠くから最初に見えるの はこれである(船長50 メートルを超える大船は、前後に2 つの白灯をつける のがルールである)。そして右舷に緑灯、左舷に紅灯をつけており、それによ り船のどちら側が見えているのか分る。この場合、左舷の紅灯まで見えたこと は、ある程度接近したことを意味し、警戒すべきである。が、漁船群の動きは スローであり、「方位落ちる」との申し継がれた誤認を「一見して」受け入れ、 再検証しなかったのである。 当直士官は、「危険性なし」との申し継ぎを受けはしたが、「念のため16 海 里レンジとしたレーダーで確認したところ、右舷艦首に4 ないし6 個の映像を 認め捕捉操作を行い、その映像にシンボルを付けた」。しかし「見張り員やCIC に対し、漁船群の動静監視を行うよう指示しなかった。」 レーダーにより一応チェックする準備を行ったが、チーム全体で注視する態 勢を命じなかったのである。そうであれば、当直士官自身が、レーダー上でシ ンボルを付けた漁船の映像をどう読み取るかが問題であった。ただレーダーに も映像の錯誤がありうるので、過度に依存してはならないとされている。レー ダーを参照しつつも、自ら視認し艦橋の中央にあるジャイロコンパスレピータ ーなどを用いて確認する必要があった。 (2) 破局への道― 錯誤の連鎖 この時期、漁船群はどう動いていたのか。上記申立て書によれば、午前3 時58 分少し前、「あたご」の艦首の右「41 度3.0 海里に清徳丸、同29 度3.1 海里に 幸運丸、同38 度4.6 海里に金平丸、及び同50 度5.7 海里に第18 康栄丸」の4 隻がいた。 清徳丸は、出港後約2 時間の午前3 時、「針路を215 度に定め15.2 ノットの 速力で自動操舵により」航行した。清徳丸の右前方には幸運丸が先行し、右後 方には金平丸と第18 康栄丸が続き、ほぼ同じ針路と速力で進んでいた。(図表 - 17 - 2参照59頁) 当直士官はこの4 隻の「白・紅2 灯を視認し、また、レーダーで各船の映像 を探知」した。申立て書は、この時点で当直士官が二つのことをなさねばなら なかったと示唆している。一つは「航行指針に従って艦長に報告した上で避航 措置について指示を受け」ること、いま一つは「大きく右転するなり、大幅に 減速又は停止するなど」清徳丸を避ける操船である。 しかしながら、「あたご」はなお「動静監視を十分に行っていなかったので、 清徳丸と衝突のおそれがあることに気付かなかった。3 時59 分少し前に、当 直士官が各紅灯の方位を確認して「右20 度の漁船のCPA(最接近距離)が近 い」と言ったので、信号員が8 海里レンジのレーダー画面をチェックした。右4 海里あたりに3 隻のシンボルを認め、そのうち「あたご」の航路に近いシンボ ルを「針路260 度及び速力3 ノット」と読み取った。そこで著しく遅い「これ ら3 隻はいずれも艦尾方を通過するものと予測した。」この期に及んで、なお 「方位落ちる」幻想を脱することができなかったのである。人間の幻想に機械 までが同調するのであろうか。15 ノットで走る漁船を先には「1 ノット」、こ の衝突8 分前の時点で「3 ノット」と示すレーダーをどう理解すればよいのだ ろうか。 4 時3 分、幸運丸が右16 度1.3 海里に上っているのに信号員が気付き、当直 士官に「右の漁船、増速、方位上る」と報告した。当直士官はこれをレピータ ーで確かめ、更に「8 海里レンジとしたレーダーで幸運丸が艦首方を通過する ことを確認した。」これまで足が遅く、「あたご」の後方へと「方位落ちる」 と想定していた4 隻が、依然右前方にあり、そのうちの1 隻が「あたご」の後 方ではなく、前方を横切ることが明らかとなった。それでも、それを1 隻のみ の「増速」とみて、他の3 隻については双眼鏡を使用して目視しただけで、特 に注意を払わなかった。 この時点で、清徳丸は約1 海里(1852 m)に接近していた。レーダーの中 でシンボルを付けられていた清徳丸の映像は、「レーダー画面中心部の海面反 射を抑制する不感帯に入って」表示されなくなった。清徳丸のシンボルは、後 方の金平丸に乗り移ったが、そのことに気付かなかった。 15 ノットを1 ノットや3 ノットとしたり、1 海里以内に入ると消えたり、表 示が近所の船に乗り移ったり、一般人には想像もつかない話であるが、それだ けレーダーのみに頼らず、海のプロたる人間がしっかり認識し操船せねばなら ないということであろうか。 - 18 - しかし、人間の錯誤が続く。レーダー上で金平丸に乗り移った清徳丸のシン ボルは、「あたご」前方を通過するものと判断された。4 時4 分、これを複数 のレーダーで監視しているCIC(戦闘情報センター)が「5 度、5000 ヤード(2.5 海里)に映像を探知」した。「5 度」とは、真方位(北に対して)「5 度」の意 味である。CIC は艦橋の見張り員に対し「5 度、5000、何か視認できないか」 と質した。見張り員は、「5 度」を「あたご」艦首に対するものと誤解し、そ の方向に、前方を横切る直前の幸運丸を見出して報告した。 錯誤の中で、その時が来た。4 時6 分、艦橋の左にいた信号員が、艦尾を通 過すると予測していた漁船の灯火を確認しようと右舷側を見たところ、至近に 清徳丸の紅灯を視認、「漁船増速、面舵」と当直士官に告げた。 当直士官は艦首を通過したばかりの幸運丸のことと思い、前方を見ていたと ころ、信号員が「近い、近い、近い」と連呼しながら右舷ウィングに出て行こ うとした。 4 時6 分少し過ぎ、当直士官は、身を乗り出して窓に近づき、海面を覗き込 んで清徳丸の紅灯を視認、「両舷停止、自動操舵止め」を命じた。距離は100 メートル以内に迫っていた。 4 時6 分半わずか前、当直士官は艦首に向っている清徳丸の船影を月明かり で視認し、直ちに汽笛で単音の連吹を行い、「後進一杯」を令した。右舷ウィ ングへ出た信号員は、探照灯を清徳丸の船尾付近に照射した。 100 メートル以内に迫ってから、7,750 トンの護衛艦が何をしても、ほとん ど航行に変化を起せない。申立て書は言う。「原針路及びほぼ原速力のまま、 その艦首部と清徳丸の左舷中央部が衝突した。」 申立て書によれば、「あたご」「清徳丸」の双方とも、自動操舵で衝突軌道 を直進していたことになる。「清徳丸」がどの時点で「あたご」の接近に気付 いたか明らかではない。「あたご」側は100 メートルに迫ってから、ようやく 「清徳丸」に気付き、「清徳丸」が増速しつつ右に舵を切って「あたご」の前 方を横切ろうとしたと見た。ただ、「増速」の前提は、遅くて方位の落ちてい く漁船という誤認である。 申立て書は言う。「清徳丸は、あたごが避航動作をとらないまま間近に接近 したが、大幅に減速又は停止するなどして、「あたご」との衝突を避けるため の最善の協力動作をとることなく、大きく右転し、279 度に向首して進行中、 原速力で前記のとおり衝突した。」 しかし、「清徳丸」側の「最善の協力動作」の不在が、「あたご」の責任を - 19 - 免ずるものでないことは言うまでもない。 (3) 問題点 まず、「清徳丸」は「あたご」の右側から接近した。航海のルールはこの場 合、「あたご」に避航の義務を課してる。「あたご」は全くそれを行っていな い。小回りの利く小船の方が避けることが多いという海面におけるならわしは、 「あたご」の過失をいささかも正当化するものではない。 より根本的に深刻な問題は、艦橋に立つ2 組の当直チームが、1 分前まで「清 徳丸」を認識できなかった点である。11 ~ 12 名が艦橋に林立して監視しなが ら、誰一人最も危険な目標を見出せなかったことを、どう理解すればよいのだ ろうか。基本的な事態認識ができないことほど、安全保障と防衛を担う者にと って耐え難いことはないであろう。 海技訓練のはじめに、入門者がABCとして教えられることの一つは、自船 から見て方位の変わらない船こそ、自船への衝突軌道に乗っている恐るべき存 在だということであるという。先に見たように、右舷にあって方位が右へ落ち て行く目標に衝突の危険はない。逆に方位が左へ上る目標は自艦の進行前方を うかがっているのであり、距離と速度との関係で要注意である。それよりも危 険なのが、艦橋から見て同一方位にあり続ける目標である。夜であれば、左右 いずれにも動かない灯である。 「あたご」艦橋の海の男たちにとって、もちろんそんなことは常識であろう。 ならば、なぜそのような存在であった「清徳丸」を認知できなかったのか。不 運もあった。レーダーが漁船の動きにつき「1 ノット」や「3 ノット」と示し た。前直も現直も、時に間違いを起こすレーダー表示のみで「方位落ち、危険 なし」と見切りをつけることなく、しばし継続監視を行い、ジャイロコンパス レピーターを用いて方位と動きを測定し、漁船群の中で一番近く、方位の動か ない「清徳丸」を見出さねばならなかった。 当直士官は、現場責任者として自ら以上の判断をなすべきであるが、同時に チームを統率し、機能を分担する当直員を有効活用する責を負う。その点で、 左右ウィングの見張り員を、やさしさから艦橋内に招き入れ、漁船群が視認さ れるようになった後も、外へ出てしっかり見張るよう指示しなかったことは誤 りであった。もし、外へ出て右ウィングの見張りに漁船群を注視するよう指示 していれば、「清徳丸」を妥当に認識した可能性は高かったと思われる。「右 舷のウィングに出て行こうとした」とか、「窓に近づき、身を乗り出した」と - 20 - いった行動は、艦橋内で見る限界を外の見張りが補う意味を持つことを示唆す るであろう。 艦橋で当直の任にあった個々人の責を問えば済むのであろうか。前記申立て 書によれば、艦長は「護衛艦あたご航行指針」を定めていたが、それは徹底さ れていなかったと指摘している。例えば、他船とのCPA(最接近距離)が2,000 ヤード(約1 海里)以内と予測される場合は、5 海里に接近するまでに当直士 官は艦長に報告すべきと定めていたが、艦長は何の連絡も受けなかった。 艦橋とCIC のレーダー電測員との連絡に齟齬が多かった。3 時40 分に艦橋 が漁船群を視認した際の報告をCIC は聞き逃した。3 時58 分段階で、CIC は 漁船4 隻を捕捉(この時は、「清徳丸」は2.9 海里の距離)したが、艦橋と連 絡をとっている電測員に伝えなかったため、当直士官には報告されなかった。 艦首に対する5 度と真方位の5 度を取違えて理解しあった。 ハワイでの性能確認試験での緊張を、太平洋の帰途はゆるめたのであろうか。 ゆとりある5 直体制をとり、艦長は当直士官に基本的に任せ、各人の自覚ある 行動をまち、航行指針にもとる行動を一々とがめたりしない方針であったよう に見える。もし艦長が早くに昇橋していれば、艦橋内の緊張と士気は高まった であろう。他の船跡も稀な太平洋ひとりぼっち状況から、日本近海に近づき、 もう一度厳しい緊迫感をとり戻すべきときに、一瞬早く危険な事態を迎え、重 大な認識の誤りを犯した「あたご」であったと言えよう。 なお、「あたご」事案については、事故発生後、防衛大臣や総理大臣に報告 がなされるまで約2 時間を要したことから、幕僚監部と内部部局における緊急 時の情報伝達システムの問題が改めて浮き彫りにされた。 5 前事務次官の背信 守屋武昌前防衛事務次官は、昭和63 年に防衛局運用課長となって以来、20 年 近くにわたり、防衛庁(省)内部部局の中枢を進んできた。有力者らしく毀誉褒 貶ともに多い人であったが、その退任後に公務の裏側が明らかになるとともに、 社会も防衛省関係者も唖然とするばかりであった。様々な報道と記事があったが、 まだ裁判が始まったばかりであり、事実関係が確定されたわけではない。ここで は、去る4 月21 日の東京地方裁判所における検察側冒頭陳述を参照しつつ事案 の輪郭を探り、最終的な判断を留保しつつも、あるべき対処の方向を考えたい。 守屋前事務次官は装備局航空機課長であった平成2 ~ 4 年頃から、株式会社山 - 21 - 田洋行の宮崎元伸専務取締役と、次期支援戦闘機のエンジンをめぐって話し合う 間柄になり、防衛政策課長となった平成6 年頃からゴルフの接待を定期的に受け るようになった。接待・供応については、守屋前事務次官自身が国会の証人とし てすでに認めたところである。平成19 年8 月に事務次官を退任するまで約13 年 にわたって、月3 ~ 4 回の日帰りゴルフ、年1 ~ 5 回のゴルフ旅行の接待を受け、 金品の供与も様々な機会に受けたとされる。 全自衛隊員に綱紀粛正を呼びかけ、公務員倫理規程の励行を求める最高幹部が、 自らについては全く正反対の行為を恣にしていたことは、省内と社会に衝撃を与 えた。また、これほど遊興に時間を割いて、国家安全保障を担当する省の最高幹 部が務まるのかとの疑念と憤りをも招いた。 より一層重大な問題は、接待や金品供与を受け前事務次官が職務を通じて便宜 を供与したか否であり、収賄罪をめぐって裁判は争われる。本人は全面的には容 疑を認めていない様子であるが、検察側の陳述は、次のようにかなりの多くの調 達につき、宮崎らの利益に沿って職権や影響力の行使を試みたとしている。 ・化学防護車にドイツのヘンセル社製FOX を推す(平成11 年、日本の道路 事情に不適合で、実現せず。官房長時代)。 ・山田洋行がBAE システム社の見積書を改ざんしたことが発覚した際、自 発的減額変更申請で済ます穏便な処理へ誘導(平成14 年、防衛局長時代)。 ・掃海・輸送ヘリMCH-101 用エンジンにロールスロイス社製を採択するこ とを抑え、GE 製の検討を要求(平成14 年、防衛局長時代)。 ・生物偵察機材にスミス社製を、随意契約により選定するよう指導(平成16 年、実現。以下、全て事務次官時代)。 ・ロッキード・マーチン社の長距離大型地対地ミサイルATACMS の購入を 提案(平成15 年-平成17 年、実現せず)。 ・次期輸送機C-X 用エンジンにGE 社の販売代理店である日本ミライズを推 す(平成19 年、実現)。 ・新型護衛艦19DD 用エンジンにロールスロイス社だけでなくGE 社製を併 用するよう指導(平成19 年、実現に傾いたが、事務次官退任後再変更によ り実現せず)。 ・早期警戒機E-2C のアップグレードを促進(平成19 年、実現)。 かなりの年月を要するであろう最終判決まで、決めつけることには慎重でなけ ればならないが、一定の根拠を持ってこれだけの立件がなされたことを厳粛に受 - 22 - け止めねばならないであろう。 ここに列記されていることは、公務員として、高級官僚として最もしてはなら ない背信行為である。ルールを知り、その遵守を全隊員に求めつつ、自らは長期 にわたり踏みにじってきただけではない。調達に当たってはセクショナルな部分 最適化ではなく、国家的必要に沿った全体最適化を求めねばならないところ、も しここに書かれたことが事実であれば、個人最適化のゲームを密かに演じていた ことになる。国民の納めた税を無駄なく有効に用いるのは全ての官僚に課せられ た任務であるが、税による調達に際して私的利益へのキックバックを動機の一つ とすることは、最も忌まわしい背信行為である。内部部局官僚が誇るべき職務意 識(プロフェッショナリズム)から最も遠いと言わねばならない。 前事務次官は、省移行をはじめとする懸案実現に手腕を示し、省内に大きな力 を振った。大臣による文民統制に服するよりも、自らを組織意思の体現者と自負 していたように感じられる。前事務次官は、大臣から退任を求められた際、次の 事務次官の選定を問題にし、防衛省生え抜きの者でなければならないとの反論を なしたとされている。そのことは、大臣(文民)ではなく、事務次官(文官)中 心の省という思想を前提にしてないだろうか。政治による大局判断を補佐しつつ 服し、その実現のために専門技術を駆使して支えるという職業意識を文武の官僚 は求められる。 本会議にとって重要な関心は、前事務次官が防衛省組織の中で誰からもチェッ クされることなく、頻度高く業者から接待を受け続け、また調達について個人的 利益のために職権に基づく影響力を行使したと疑われることである。有力な高官 による恣意的な行為が放置される防衛省を改めねばならない。 6 諸事案の総合検討 ここでは、すでに論じた4 事案を含め、以下の9 事案を総合的に検討すること とする。これらの事案は、(1)武器管理、(2)文書・情報管理、(3)事故、(4)前事 務次官の背信、の4 分野に区分されよう。 (1) 武器管理をめぐる事案 ① 東富士演習場の射場における違法射撃H6( 94).11.16 ② 舞鶴港での護衛艦「はるな」20 ミリ機関砲不時発射H11.( 99)2.18 (2) 文書・情報管理をめぐる事案 - 23 - ③ 「とわだ」航泊日誌誤破棄H19( 07).7 ④ 業務用データの部外流出「あさゆき」(H18( 06).2)ほか ⑤ イージス情報の部内流出H19( 07).1 まで ⑥ インド洋での給油量取違えH15( 03).2 発生、H19( 07).10 問題化 (3) 事故 ⑦ 「しらね」火災H19( 07).12 ⑧ 「あたご」衝突H20( 08).2 (4) 前事務次官の背信 ⑨ 前事務次官の供応・収賄容疑H19( 07).8 まで 自衛隊は、国家安全保障のための最終機関であり、日本における究極の実力組 織である。憲法と国策により「専守防衛」の制約が設けられているが、もちろん 国内における実力組織として保有する武器・装備は、他の機関と比較できない強 大さである。 それだけに、武器の管理は、自衛隊の重大な職責である。もし管理されざる武 器使用が行われるならば、国民は大きな不安を覚え、改めて「軍事実力組織から の安全」を求めねばならないと感じるであろう。国際的にも日本国家の信用が揺 らぐであろう。つまり自衛隊がその保有する武器を自律的に間違いなく管理して いることが、文民統制を進んで受け入れている民主主義社会の軍隊であることの 証なのである。些細な武器の不正使用にも厳しい目が注がれる所以である。 はじめに①東富士演習場の射場における違法射撃事案に注目したい。 平成6 年(1994 年)11 月16 日、東富士演習場内の小火器戦闘射場での射撃訓 練には、3 名の部外者が招かれていた。そこで二種類の不正射撃が行われた。 一つは、部外者の携行した猟銃を、演習指揮官であった第1 空挺団普通科群長 が借りて、自ら試射した。二つは、群長が部外者に射場での小銃及び機関銃射撃 を体験させたのである。群長は市民・支持者との友好関係増進のため、望ましい と思ったのであろうか。官民の違法な射撃交流となった。 本事案それ自体以上に、陸上自衛隊内における取り扱いが、新たなより大きな 事案を作り出した。 事実を知った第1 空挺団長らは、安全管理の徹底した射場内でのことであり、 - 24 - 社会に迷惑は及ばないので、軽く扱いたいと考えた。服務を担当する陸上幕僚監 部の人事計画課長は、管理された自衛隊の射場内で自衛官が猟銃を撃ったことだ けが報告の対象となったため、人に危害を与えたわけでもないので、公にしない 処理が望ましいと考え、内部部局にも報告せず、猟銃試射のみを内々軽微に処置 する方針をとった。 ところが、5 年を経た、平成12 年(2000 年)1 月になって、この処置につき、 報道関係者から疑問が提起され、防衛庁長官は徹底的な調査を命じた。その結果、 二種の不正射撃が明らかとなり、群長は銃刀法違反容疑で逮捕され、懲戒免職、 陸上幕僚監部人事部長及び人事計画課長が停職20 日の処分を受けることとなっ た。 この事案が陸上自衛隊全般に与えた影響は大きい。不祥事が起こったとき、社 会的非難を恐れて表沙汰にするのを避け、当人たちの地位と組織の体面を守ろう とする傾向が、自衛隊組織には(のみならず、全ての組織に)、根深く存在する。15 万人を擁する陸上自衛隊全体が一朝にして変わることは不可能であるが、少なく ともこの事案を契機に、陸上自衛隊幹部は考え方を変えたように思われる。不祥 事を隠蔽しようとすることこそが破滅的な結果を招く。問題が生じたら、直ちに 上部機関に報告し、社会に公表して全力で対処に当たる方針を示して陳謝する。 それ以外にない、という対応が陸上自衛隊内で優勢となったように思われる。い わば政治社会の文民統制に服する姿勢である。 その点で気にかかるのが、平成19 年(2007 年)2 月14 日の中部方面総監部(兵 庫県伊丹市)におけるUSB紛失事案である。 今では、海上自衛隊や航空自衛隊だけでなく陸上自衛隊も日米共同訓練を行っ ている。YS 訓練と呼ばれるコンピューター画面を日米で結んでの模擬演習であ る。日本側は各方面総監部持ち回りで主催しており、平成19 年(2007 年)は2 月8 日から16 日まで中部方面総監部がホストした。 共同訓練が幕を閉じようとしていた14 日、調査部資料課において課員が、共 同演習に使用するシステムの概要や利用案内などを記した可搬記憶媒体(USB メモリ)を机の上に残したまま帰宅し、翌日それが課員の机の中の2 千数百円な どとともに紛失していた。 警務隊の捜査により、4 月11 日、同課の1 等陸尉が犯行を自供した。USB メ モリはゴミ捨て場に投棄したという。 この事案について、方面総監部もしくは陸上自衛隊内で情報の隠蔽があったの - 25 - ではないか、との疑いが一部に持たれた。 そうだとすれば、陸上自衛隊が先の違法射撃事件を扱った際の隠蔽体質は、何 ら変わっていないことになろう。 事実は、紛失したUSB メモリには秘密情報は含まれておらず、「注意」扱いの 文書であった。また方面総監部は3 月2 日、陸上幕僚監部に対し本件を報告し、 陸上幕僚監部は内部部局の人事教育局へ3 月上旬報告した。内部部局は秘密情報 が含まれていないので、規定に従い、これを防衛大臣に報告せず、米国にも伝え なかった。とりたてて問題はないように思われる。 にも拘わらず隠蔽を疑われたのは、一つには、陸上自衛隊には違法射撃事件の ような「前科」があり、同種の事案と感じさせたからであろう。二つには、方面 総監部がUSB メモリ紛失については公表せず、犯人の1 等陸尉の処分発表の際 も金銭の件を理由とし、メモリの件は伏せたからであろう。それを平成20 年6 月に至って記者が知るに及び隠蔽を疑って報道したのである。防衛省はメモリ紛 失を伏せた理由を、それを公表すれば未回収の紛失データ探しを社会的に助長す るなどの弊をあげている。未回収捜査中のときはともかく、処分を行う5 月下旬 段階で、なお伏せねばならない十分な理由があったか否かについては、情報事案 をめぐる広報方針全般にかかわる検証が必要であろう。 ある事案を重大に受け止めて、組織的な対処方針が根本的に変わり、それが組 織全体に浸透して、その種の不祥事が大きく抑制されるに至ることが時に起きる。 その種の組織変革として、前述の情報管理をめぐる、平成18 年2 月の「あさゆ き」事案後の全庁的な「抜本的対策」をあげることができよう。業務用データの 持ち出しに関するチェックが全省的に行われ、入念を極めた。翌年には、業務用 データの暗号化の措置もとられた。技術革新は速く、攻防が止むことはあるまい が、とりあえず情報流出防止措置は徹底されたと見てよいのではないかと思われ る。 ②舞鶴港での護衛艦「はるな」20ミリ機関砲不時発射は、理解困難な事件であ る。平成11 年(1999 年)2 月18 日、舞鶴港における護衛艦「はるな」の高性能20 ミリ機関砲(CIWS)の発砲回路試験中、混入されていた実弾2 発が不時発射さ れた。その原因はCIWS を管理する員長が、計画弾数と発射弾数が一致すること が技能の高さを示すものであると誤って認識し、そうであるように見せかけよう と、残った実弾2 発を砲の中に隠した。それがテスト中に発射されたのである。 - 26 - 機関砲の責任者が、技量評価について誤った思い込みをし、それが正されなか った。その誤認に基づいて、実弾を隠すという偽装工作まで行うとは、どういう 精神状態であろうか。ルールを守り、正直であるという基本的モラルを見失った 者が、高性能砲を扱う員長でなぜありえたのか、理解に苦しむところである。 そして、この件についても事故の取り扱いが問題を拡大した。「はるな」艦長 から順次上に報告されたが、護衛艦隊司令官が、民間への被害がないので自らの 職責で対処しうると考え、上級司令部等へ報告しなかった。そのことが違法射撃 事案と同じく、不祥事の組織的隠蔽として糾弾されることとなった。 現代世界の軍事組織にあって、文書・情報の管理は武器管理と同様に重要であ る。情報と認識をめぐる競争が、武器をとっての戦いに劣らず事態を左右しうる。 すでに見たように、④業務用データの部外流出の頻発は隊員の情報保全意識の 欠如と、急速な通信情報分野の技術革新に自衛隊がついて行けなかったことに起 因していた。 ⑤イージス情報の部内流出は、最先端技術への学習教育意欲が情報保全意識の 欠如と結びついて生じたものであった。 双方の事案とも、情報保全をめぐるルールを厳格に励行するとともに、省全体 として現代の技術水準における情報保全システムをたえず再構築する努力を要求 するものであろう。 それに対し、③「とわだ」航泊日誌誤破棄事案は、素朴きわまるルール誤認に よるものであった。航泊日誌についての文書管理ルールは、1 年間艦内で保存し、 その後、更に3 年間は地方総監部において保存することを定めていた。平成19 年(2007 年)7 月、「とわだ」航泊日誌の整理・処分に当たった3 等海曹Aは保 存期間を2 年と誤解しており、2 等海曹Bに対し、その理解で正しいか確認を求 めた。Bは「2 年でなく3 年である」と、これまた誤った認識を持って答えた。 1 年プラス3 年で4 年間は保存すべきところ、3 年保存すればよいと2 人は誤 解し、平成15 年分の航泊日誌を裁断・破棄してしまったのである。インド洋派 遣中の航泊日誌が翌月求められる事態となり、この誤った処置が明らかとなった。 この件を受けて、防衛省が調査を行ったところ、同様の誤破棄が3 隻の護衛艦そ の他でも行われていたことが判明した。 隊員のルールへの無知・誤解が問題であるが、それに劣らず文書の破棄処分に 際して、責任ある幹部の決裁を得るルールが確立していないのは驚くべきである。 - 27 - 航泊日誌の文書管理は、隊員が勝手に破棄してよい程に軽く認識されていたので あろうか。 そのことを、誤りを犯した個々人のみの問題に留めてはならない。ルールを明 確にし、それを隊内に徹底するのは組織全体の問題であり、リーダーシップの責 任である。 同じことは⑦「しらね」火災事故についても言える。平成19 年(2007 年)12 月14 日、横須賀停泊中の「しらね」のCIC(戦闘情報センター)から出火し、CIC を全焼し、約7 時間を経てようやく鎮火した。火災の原因としては、冷蔵庫の上 に置かれた缶コーヒー等を保温するための冷温庫が疑われている。家電製品を艦 内に持ち込む際の申請手続が定められていたが、冷温庫についてその手続きが踏 まれていなかった。また、冷蔵庫と冷温庫はAC100V の電圧用のものであった が、艦内の電圧はAC115V であり、用いるべき変圧器を用いていなかった。誠 に些細なことから、海上自衛隊の誇る護衛艦の中枢部を大きく痛める結果となっ た。ルールを適当に扱い、細心の注意を欠いた行動が原因であり、規律のゆるみ が広がっているのではないかと気にかかるところである。 ⑧「あたご」衝突事案もすでに見たとおり、ルールを厳しく励行して任務を立 派に完遂しようとの艦内の息吹が感じられない。規律のゆるみと航海技量を疑わ せる事態を招いた。気のゆるみ、ちょっとしたルール無視の組織的蔓延がどれほ ど恐るべき結果を招くかを教える事案である。 同じく文書・情報管理をめぐる事案であっても、いささか趣を異にするのが⑥ インド洋での給油量取違え事案である。技術的な入力ミスに基づく誤情報を、海 上幕僚監部防衛課長が統合幕僚会議議長に提供したこと以上に、それが翌日に誤 った情報であることを認識しながら、訂正しなかった不作為の作為がより重大な 問題である。そこには違法射撃の事実を公にしないよう画策し、内部部局にも報 告しなかった①②の事案と通じる情報操作による不服従の要因が感じられよう。 これら中堅幕僚や幕僚監部による事実の隠蔽と情報操作は、単純なルール無知 ・誤認や規律のゆるみというレベルを越えて文民統制への不遜な不服従を含意し ているのではないだろうか。陸上幕僚監部が違法射撃の件を機に21 世紀を迎え る年に示した変化が、徹底されることを望みたい。 本会議は、限られた情報を基に事案の究明・分析・対処を試みてきたが、それ は不完全で仮説的であっても、建設的な方向性へと導くことの重要性を感じたか - 28 - らである。 近年における諸事案を再検討する中で、興味深い事実に行きあたった。航空自 衛隊において、航空事故件数が著しい減少傾向を示している事実である。航空自 衛隊では、航空事故を大中小に区分しているが、ここでは死亡又は機体破壊に至 った大事故のみを見ておこう。 昭和31 年(1956)~昭和42 年(1967)年10 ~ 20 件 昭和43 年(1968)~昭和53 年(1978) 5 ~ 10 件 71 年雫石事故 昭和54 年(1979)~平成12 年(2000) 1 ~ 4 件 平成13 年(2001)~平成19 年(2007) ほぼ0 件 05 年の1 件のみ これほど、顕著な改善がなぜ可能となったのか。機体自体の性能向上もあろう。 日本の整備は国際的に高い水準を誇るが、この間一層の熟達を遂げたことであろ う。しかし多くの事故は人的要因や偶然的要因がからむ。それをどう管理・抑制 するかが、組織の問題である。 かつて昭和46 年(1971 年)に自衛隊機が全日空機と雫石で衝突して大きな犠 牲を出したとき、自衛隊の中でも航空自衛隊が社会的非難の対象であった。この 悪夢の後、航空自衛隊は再発防止に全力をあげたが、それでもほぼ1970 年代を 通じて、5 ~ 10 件の大事故が毎年のように起こった。ようやく80 年代には、年5 件を越えることはなくなった。昭和57 年(1982 年)には航空安全管理隊を創設 した。20 年にわたる努力で、次第に年1 件程度に抑制されるに至ったかと見え たが、世紀末の3 年間(平成10 年(1998 年)~平成12 年(2000 年))に8 件の 大事故が連発した。航空自衛隊は改めて組織をあげて考えられるあらゆることを やることを決断した。監査・監察の制度を最高レベルから部隊レベルまで拡げる とともに、指揮官・隊員の技量と意識の向上に力を注いだ。興味深いのは、人間 と人間の組織が必ず誤りを犯すものと前提(エラートレラント)し、それが事故 につながるのを阻むための方途を制度化する努力である。21 世紀に入って、7 年 間で大事故は1 件のみである。しかし、中事故は5 件も起こっているから油断は できないと航空自衛隊の安全担当者は言う。1 つの決め手があるわけでなく、事 故原因は多様で複合的であり、安全対策も多様で総合的である必要があろう。そ れを全組織あげて完遂しようとする上層部の強い意思が、気風として隊内に浸透 するとき、事故がゼロに近づくこともありうると、このケースは告げているであ ろう。気をゆるめることなく、更なる前進を遂げることを望みたい。 - 29 - 今日の社会にあって、国民の欲する自由と快適さの水準は高い。豊かさと少子 化の結果、子供たちの多くは個室を与えられ不自由なく育てられる。自衛隊員も 概してそのような普通の家庭に育った若者たちである。それゆえ、彼らは自衛隊 に入っての訓練、規律、団体生活の厳しさに、大きなカルチャーギャップを覚え る。 自衛隊は、国家と国民が安全を脅かされる事態において対応すべき組織であり、 任務を遂行できる隊員となるために、高い水準の鍛錬が不可欠である。多くの隊 員はそのことを理解してギャップを超える努力を重ねる。とはいえ、ギャップの 拡大は、隊員募集と教育・訓練の困難を増す。妥協なく高い基準を若い隊員に求 めるとき、「では辞めます」との反応にあえば、上官はたじろぐ。とりわけ長期 の艦艇勤務を要する海上要員にとってギャップを埋めることは容易でない。 自衛隊はこうした困難に屈することなく、全組織的な対応によって規律正しく 有能な部隊を養わねばならない。ここで扱った不祥事を決定的に過去のものとす る再出発の時を迎えねばならない。その意味から、海上自衛隊が、「海上自衛隊 抜本的改革委員会」を設けて検討を開始したことに注目したい。そこでの自身の 手による本格的な検討と対処が、根深い変革をもたらすことを期待するものであ る。 Ⅲ 改革提言(1) ― 隊員の意識と組織文化の改革 1 改革の原則 前章において詳述したように、本会議は、最近防衛省で起こった様々な不祥事 を詳細に分析・検討してきた。その結果、本会議は、このままではいけない、ど うしても抜本的な改革が必要であるとの認識に達した。最近の不祥事は、個別に 観察すれば、それ自体として日本の安全保障を脅かすとは言えない事案も多いが、 全体として観察したとき、我々に小さくない不安を与えるものであった。最高幹 部が規則違反を行い、現場部隊では初歩的なルールさえ守られない。現代社会に おける自衛官としての責任ある意識を欠いた隊員の行動がある。高度な秘密の保 持についての明確な心構えの欠如も見られた。圧倒的多数の自衛隊員がまじめに 任務を遂行していることは事実である。しかし、このままで、日本の安全保障の 根幹を担う防衛省・自衛隊が、緊急事態において真に有効に機能するのであろう - 30 - か。脅威が多様化し、過去の先例のみに従っていては対処できないような複雑な 事態の発生が想定され、しかも実効的で確実な対処が必要な現代の安全保障環境 の下で、適時・適切な対処ができるのであろうか。近年の国際平和協力活動など で諸外国から高く評価されてきた自衛隊だけに、最近の不祥事に見られる規律面 ・行動面・組織面での弛緩現象は、憂慮の念を禁じえないものであった。 このような不祥事の検討・分析を踏まえ、本会議は、如何なる改革がなされな ければならないかを検討した。その結果、以下の三つにまとめられる原則が実施 されなければならないとの結論に達した。更に、現代的な安全保障環境の下で、 このような原則の実施を担保し、しかも、平時から有事にかけて、日本の安全保 障政策が有効に機能するためには、文官と自衛官とが協働して任務遂行を可能と することを含む、大胆な組織改革が必要であるとの結論に達した。 三つの原則とは、 ① 規則遵守の徹底 ② プロフェッショナリズムの確立 ③ 全体最適をめざした任務遂行優先型の業務運営の確立 である。以下に、この三つの原則のそれぞれに関連する具体的措置を提言する。 防衛省・自衛隊が、減点主義に劣らず加点主義を重視する能動的で積極的な組織 となっていくためには、このような原則の具体化が必要である。更にこれを担保 する必要な組織改革については、章を改めて次章で詳述する。 2 規則遵守の徹底 防衛省・自衛隊に対する国民からの信頼を回復するためには、何よりもまず、 幹部職員をはじめとして、法令など様々な規則の遵守という基本に戻らなければ ならない。圧倒的多数の自衛隊員にとって、今更言うまでもないことであろう。 しかし、自らには規則を適用されないと考えた人物が、防衛省・自衛隊の事務方 のトップたる事務次官を務め、自衛隊員の倫理保持の実務上の責任者である倫理 監督官たる地位を有していたということは事実であった。更にルールを自らのも のとして真剣に考えこれを遵守するという態度が徹底していれば、例えば、補給 艦「とわだ」航泊日誌誤破棄事案や護衛艦「しらね」の火災、情報の流出、調達 に関わる業者との癒着といった不祥事案は起きなかったであろう。 隊員一人ひとりに自発的な規則遵守意識が浸透し、組織風土として定着するよ - 31 - う、適切な施策を講じていくことが必要である。同時に、不祥事案の度に積み重 ねられ、繁文縟礼になっている規則類を、基本に立ち返って見直し、不要なもの を整理して、本当に遵守しなければならない規則となるよう改善する必要もある。 (1) 幹部職員の規則遵守の徹底 防衛省の最高幹部であった前事務次官自らが規則を守っていなかったこと は、国民の自衛隊に対する信用を失墜させたのみならず、規則を遵守し日々ま じめに任務を遂行している圧倒的多数の自衛隊員に大きな衝撃を与えた。幹部 自らが規則を守らない組織で、いくら部下に規則遵守を語っても、その効果は ない。規則遵守は、幹部職員が率先垂範するという姿勢から始まらなければな らない。 (2) 規則遵守についての職場教育 隊員一人ひとりに自発的な規則遵守意識が浸透し、組織風土として定着する ためには、職場教育などの施策を講じていくことが必要である。隊員の自発的 な規則遵守を促す最大の要因は、隊員の高い任務意識である。いたずらに規則 遵守の形式を求めるのではなく、規則の制定目的や趣旨を十分に理解させた上 で、自衛隊の任務遂行を担保するための規則遵守という視点で指導、教育を行 うべきである。 (3) 機密保持に関する規則の徹底的遵守 自衛隊の扱う情報の中には、国の安全に直結する重大な情報が存在する。情 報保全のための規則こそ、数ある規則の中でも、特に厳重に遵守されなければ ならないものである。情報保全に対する規則を、それが制定された意味合いを 含めて更に徹底的に周知するとともに、違反者に対しては厳正な処分を行い、 その上司に対しては監督責任を問わなければならない。 具体的な措置として、情報保全機能強化のためにすることは、各自衛隊の情 報保全隊を統合して新設が予定されている自衛隊情報保全隊(仮称)を育成・強 化し、部内の犯罪捜査や規律違反防止などの保安職務を任務とする警務隊が、 現在、陸・海・空自衛隊にそれぞれ設置されているものを統合することにより、 その能力を格段に強化しなければならない。そのため、陸・海・空自衛隊が組 織横断的に連携し、情報の共有を推進するとともに、警察等の捜査機関からの ノウハウの吸収により、情報保全に対する自律的チェック体制を強化する。 - 32 - (4) 防衛調達における透明性及び競争性の確保並びに責任の所在の明確化 防衛調達の意思決定過程から特定業者との癒着など不適切な要因を排除せね ばならない。そのためには、意思決定過程の初期の段階から、その可視化を図 り、透明性と競争性を確保するとともに、責任の所在を明確化することが必要 である。このような視点に立ち、輸入調達に係る監査・監察機能の強化、過大 請求事案に対する制裁措置の強化、外国メーカーとの直接契約の推進、調達職 員の人材育成等の強化など「総合取得改革推進プロジェクトチーム」の報告書 で掲げられた施策を、着実に推進していくことが必要である。更に、個別の装 備品の選定のための意思決定を行う過程において、会議等の記録を作成するこ とを義務づけ、その要点の公表を行う。また、会議録全文も、一定の期間後に は情報公開の対象とすべきである。 また、文官、自衛官を問わず、幹部隊員と特定の防衛関連企業との過度の結 びつきが疑われることは、防衛調達全体の公正性について疑念を生じさせるこ とになる。こうした疑念を生じさせないようにするため、幹部隊員の再就職に ついては、単に形式的なチェックのみならず、新たな職務の内容などに関し従 来に増して厳格なチェックを行うとともに、特に、60 歳定年の幹部隊員の退 職後の再就職については、一般国家公務員の再就職見直しにあわせて、その在 り方を見直していく必要がある。 (5) 監査・監察の強化 防衛監察本部は、職員の職務執行における法令の遵守を始め、職務執行の適 正を確保するため、高い独立性を有した防衛大臣直轄の組織として、平成19 年9 月に新設された。防衛省は、同本部が実施する監察を積極的に活用するこ とにより、防衛大臣からの指示等が徹底しているか、各種規則等は遵守されて いるか、隊員が実力組織に相応しいより強固なプロフェッショナリズムを持っ ているか、規律が維持されているかなど、部隊の状況をつぶさに確認すること が必要である。この結果を受けて、改善に向けた措置を講じていかねばならな い。 そのため、防衛監察本部の体制を強化するとともに、いわゆる「抜き打ち監 察」をその対象を限定せず実施するなど、監察の厳格性、実効性を確保するよ う配慮すべきである。 - 33 - また、調達に関する規律維持のため、あわせて、会計監査機能を充実させる ことが必要である。 (6) 規則の見直し・改善 隊員が守るに値し、自ら必要なものとして規則をとらえるようになるために は、そのような規則の中に任務に合致した合理性があることが認識できなけれ ばならない。様々な規則のうち、不必要かつ形式的なものが残っていないかど うか徹底的に検討すべきである。 特に、情報保全に関しては、安易な秘密の指定が、かえって秘密に対する保 全意識を弱める危険性を注視しなければならない。秘密指定の理由を明確化し、 一定期間を経過した後に原則として情報公開の対象とするルールを確立する必 要がある。この場合、秘密指定が適切に行われていることを確認するため、部 内の専門家による委員会を置くことも有効である。 3 プロフェッショナリズム(職業意識)の確立 規則遵守は、しかしながら、規則だけを考えていて実現するものではない。ま た、規則が遵守されるだけで、組織が高度な機能を発揮することもない。第Ⅰ章 で指摘したように、規則遵守のみでは「ネガ」(否定形)を減らすことだけに終始 してしまう可能性がある。「ポジ」を実現するためには、この規則に則って組織の 構成員が、自らの仕事に誇りを持ち、その組織全体の中での自らの仕事の意味を 理解し、しかも、仕事の内容について高度の知識と技能を保持しつつ積極的・能 動的な行動をとらねばならない。防衛に関するプロフェッショナルである自衛隊 員は、文官であると自衛官であると問わず、自らの任務に関する知識と技能を常 に向上させるための研鑽を怠らず、自らの任務が省内、更には日本社会の中に占 める意味を理解し、より高次の倫理観、使命感、責任感を持って仕事に当たらな ければならない。規則の遵守は、このようなプロフェッショナルに担われてこそ、 組織全体を強固にしていく。このようなプロ意識に裏打ちされた上司・上官・指 揮官が統率してこそ、組織・部隊全体に同様な意識が共有されるのである。自衛 隊が全体として高い士気を維持するためには、幹部職員がまずもって、自らのプ ロフェッショナリズムの質を日々高める努力を行っていかなければならない。 (1) 幹部教育の充実 プロとしての防衛省・自衛隊の再確立もまた、幹部職員から始まらなければ - 34 - ならない。文官であると自衛官であると問わず、「長」の任務に当たる者は、 日々、任務の内容、部下の統率につき研鑽を続けなければならない。このよう な人材を養成するためには、幹部要員の教育プログラムや経歴管理の在り方を 見直すとともに、各自衛隊の幹部学校の見直しや高級幹部に対する教育課程の 統合化を推進していくことも必要である。 文官については、日々の業務に追われ、まとまった教育を受ける機会が十分 に与えられていないことが問題である。また、自衛官についても、米国軍人な どに比べて修士号や博士号の学位や法曹などの資格を有する者が極めて少ない のが現状である。このため、国内外の大学院への留学など、軍事はもとより他 の分野についても幅広い視野を養う機会を積極的に与えていくことが必要であ る。 また、様々な行政経験の機会を与えることにより、旧来の仕来りにとらわれ ない人材を養成していくことが必要である。このため、特に、文官や自衛官に 対して内閣官房や外務省を始めとした他府省に出向する機会を計画的に与えて いくべきである。更に、防衛省・自衛隊にとって、地域社会との良好な関係を 築くことも重要な任務である。地方自治体や基地周辺の住民の考えを十分に理 解することができる人材を養成していかなければならない。 (2) 基礎的な隊員教育の充実 護衛艦「あたご」の衝突など様々な事案が発生した背景として、自衛隊の各 部署における業務量と人員の配置がバランスを欠き、現場部隊等に日常的に過 度の負担が課される結果、隊員の基礎的な教育が行き届いていなかったという 問題があったと考えられる。このような状況を改善するためには、幕僚監部、 司令部、部隊等の各レベルにおける業務量と人員配置を見直すことが必要であ る。特に、日常業務についての必要性・緊急性を見直し、またその優先順位を 厳しく精査して業務の効率化・簡素化を図ることにより、今、最も必要とされ る隊員の基礎的な職場教育の充実を図るものとする。 また、隊員の自衛隊の学校における教育に当たっては、隊員個々に求められ るべきプロフェッショナリズムに重点を置いて、教育体系の見直しを行う。基 礎的な教育の充実強化を図りつつ、陸・海・空自衛隊の統合運用を支える統合 教育の充実強化を図る。 (3) 情報伝達・保全におけるプロ意識の醸成 - 35 - 現代の安全保障において、情報を如何に正確に伝え、しかも必要な秘密を保 全するかは、決定的な意味を持っている。正確な情報伝達と情報保全の分野ほ ど、単なる規則の遵守を超えてプロ意識が必要な分野はない。伝達した情報に 誤りを見出したときに、これを直ちに修正することは、情報伝達の基本である。 また、国の安全に関わる秘密情報は、何があっても守り抜かなければならない。 給油量の取違えの事案にしても、その他情報流出にしても、この面でのプロフ ェッショナリズムが未だに十分確立していないことを物語っている。 また、秘密情報に限らず、未だ意思決定に至っていない情報などを正当な理 由なく部外に漏らすことは、中央組織であると、現場の部隊であると問わず、 自衛隊に対する国民の信頼を損なうおそれがあるのみならず、政府が行う必要 な政策決定を妨害する可能性すらある。国民に開かれた自衛隊が、マスコミと の関係を重視するのは当然のことであり、必要な情報は適時にマスコミに提供 すべきである。しかし、情報発信が無分別であってはならないことは言うまで もない。 たしかに、防衛省は、平成12 年の幹部自衛官による秘密漏えい事件を始め とした過去の情報流出事案を受け、情報保全体制の見直し等を行い、他府省よ りも先進的な情報保全体制を構築してきた。それにもかかわらず、秘密情報の 流出事案が繰り返されてきた事実を厳粛に受け止めなければならない。情報伝 達及び情報保全についての教育の見直しは不可欠である。文官、自衛官を問わ ず、幹部も含めて、全ての隊員と部隊を対象とした情報関連教育のプログラム を作らなければならない。 また、安全保障に関する情報に関しては、単に保全するという心構えだけで なく、我が国の秘密情報を取得しようとする意図的な試みに対して、カウンタ ーインテリジェンスの仕組みを整えていかなければならない。防衛省において これまで実施されてきたカウンターインテリジェンス機能の強化対策を徹底す るとともに、内閣官房に置かれているカウンターインテリジェンス・センター を活用する必要があろう。同センターは、防衛省を含む各府省に対し、カウン ターインテリジェンスに関する政府統一基準の達成状況を評価し、改善の助言 を行うなど、官邸を交えた全政府的な重層的チェック体制を構築することが必 要となる。 更に、IT の重要性が増す中で、情報セキュリティ対策をより一層強化する ことが必要である。そのため、内閣官房の情報セキュリティセンターが行って いる政府横断的・統一的な情報セキュリティ対策を着実に進めるとともに、各 - 36 - 府省に対する対策実施状況の検査・評価を厳格に実施せねばならない。情報セ キュリティに関する重層的な評価と対処が必要である。 4 全体最適をめざした任務遂行優先型の業務運営の確立 現代の安全保障環境に適合し、不祥事を防ぐためには、規則遵守の徹底、プロ フェッショナリズムの確立という、主として個々の隊員の行動を念頭に置いた改 革に加えて、組織の運営の仕方についても改革を進める必要がある。個々の隊員 への教育や研鑽を支え、更にプロフェッショナリズムを生かしていくためには、 組織文化とも言うべき領域における改革も必要である。 その際、打破しなければならない組織文化とは、第1に、全体最適よりも部分 最適を重視する組織文化であり、第2に、任務に着目してこれの実現のために日 々改善を遂げようとする意欲に乏しい消極的・受動的組織文化である。すなわち、 必要な改革は、まず、組織における基本的な考え方であり行動基準である。防衛 政策の実現に当たっては、防衛省・自衛隊全体として何が最適になるのかを常に 考える文化を定着させることであり、新たな環境の下で次から次へと生じる新し い任務を、よりよく積極的・能動的に実現しようとする文化である。 全体最適をめざした任務遂行型の業務運営のためには、以下の方策が必要であ る。 (1) 文官と自衛官の一体感と陸・海・空の一体感の醸成 今後の安全保障政策の遂行に当たって、文官と自衛官の区別がなくなること はないし、陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の区別がなくなることもない。 政府を構成する1 つの省としての防衛省が、国全体の中で整合的に運営される ためには、政策企画文書作成、法令案作成、人事管理、国会対策などに関して 専門的知識と経験を有する文官が必要である。また、軍事実力組織としての自 衛隊を実効的に整備・運用していくために、国内外情勢を踏まえた戦略眼を持 ち、企画立案能力や人事管理能力の優れた人材を、自衛官の中にも数多く養成 していかなければならない。そして、陸・海・空のそれぞれの任務への誇りと アイデンティティを持ち、それぞれの術科に通じた精強にして規律正しい部隊 が必要である。 しかし、文官と自衛官の区別、そして、陸・海・空の区別は、現代の安全保 障環境の中では、かつてほど截然と分けられるものではなくなってきている。 文官もまた軍事専門的知識を保持しなければならないし、自衛官もまた国際環 - 37 - 境や国内社会の在り方に高度の見識を持たなければならない。いずれにしても、 文官と自衛官で別々の防衛省や自衛隊があるのではなく、一つの防衛省と自衛 隊があるのである。文官と自衛官は、防衛省・自衛隊という全体最適のために 協力しなければならない。また、陸・海・空という各自衛隊のアイデンティテ ィや伝統は異なるにしても、それぞれが別の国を守っているわけではない。一 つの日本を守っているのである。あらゆる局面で、文官と自衛官が協働し、陸 ・海・空が協働するとの精神が徹底しなければならない。そのために、次節で 詳述するように、組織的にいって、内部部局においても統合幕僚監部において も、整備部門においても、文官と自衛官、そして陸・海・空の自衛官を混在さ せるなど、緊密に協働する体制を作らなければならない。 (2) PDCA(Plan Do Check Act:計画・実施・評価・改善)サイクルの確立 全ての任務において、体系的な遂行体制が実現しなければならない。具体的 には、企業経営の分野などで強調されるPDCA サイクルの考え方を防衛省・ 自衛隊の各部門でも常に意識していかなければならない。PDCA サイクルとは、 プロジェクトの実行に際し、計画を立て(Plan)、実行(Do)し、その評価(Check) に基づき改善(Act)すると言う過程を継続的に繰り返す仕組みのことをいう。 各自衛隊においても、隊員がその任務意識を共有し、適正な任務遂行ができて いることを検証するため、自律的なPDCA サイクルを確立していくことが望 まれる。そのため、指揮官が、自らの部隊等における任務遂行、規則遵守や規 律維持の向上について、具体的な行動計画を策定し、それに基づいて指導、評 価を行い、計画に沿っていない点を検証し、改善に向けた措置を講ずる仕組み を作る必要がある。前述の「監査・監察の強化(Ⅲ-2-(5))」は、このための 貴重なデータを提供するであろう。 (3) 機能する基本組織単位(部隊など) 様々な形の全体最適を実現するといっても、軍事実力組織としての自衛隊の 基本単位は部隊であり、部隊が適切に機能しなければ、全体最適どころか部分 最適さえ実現しない。様々な不祥事において、この基本単位に機能不全が起き ていたこと、チームワークが機能していなかったことが確認されている。基本 単位を統率する指揮官と部下との間に、規律正しく、活き活きとした任務遂行 関係を生み出さなければならい。そのためにも、上述のPDCA 手法によって、 業務の課題を常に可視化(目に見えるものと)し、これを隊員一体となって実 - 38 - 現・検証していることがなされなければならない。防衛省・自衛隊は、かかる 指揮官の努力を支援し、評価して不足点の改善を促すための一貫した方針を持 ち、全組織的なチェック体制を確立しなければならない。 その際、民間企業などで行われているいわゆるカイゼン方式などを参考にす るのは有益であろう。中央は、各部隊が業務改善を進めるに当たってのガイド ラインを策定し、一方、各部隊は、それを参考にしながら自律的な業務改善を 進めるとともに、改善内容を幕僚監部に報告し、それがガイドラインに反映さ れる仕組みを確立することによって、一部隊の優れた改善提案を組織全体に波 及させる必要がある。 (4) 部局間の垣根を越えたチームによる課題への対処 政策課題に対し、各局、各幕僚監部の立場を離れた全省的な観点から検討を 行うことができるよう、政策課題毎の組織横断的なプロジェクトチーム(政策 形成過程におけるIPT ※手法の導入)を作り、機動的に対応していくことも重 要である。 このような、個々の人材の役割を固定しないプロジェクトチームにおいて文 官と自衛官が一緒に仕事をすることにより、相互の研鑽が図られるとともに、 両者の一体感の醸成が期待できる。 ※ IPT の概要については、次の「(5)防衛調達におけるIPT の推進」の記 述を参照のこと。 (5) 防衛調達におけるIPT の推進 特別な技術に依存し、数多くの業者が供給力を保持するという条件の整わな い防衛調達に関しては、民間企業や他国の防衛部門で実施されつつあるIPT (Integrated Project Team)による調達方式を本格的に導入すべきである。装備品 などの構想、開発、量産、運用から廃棄に至るライフサイクルについて、明確 な責任体制の下、関係する部門や利害関係者を一堂に集め、情報共有と意見調 整を図る組織横断型チームをIPT というが、この手法は、トヨタなど競争力の ある民間企業で発達したものであり、各国の防衛部門でも実施されつつある。 コスト管理においても、品質管理についても、全体最適を達成する試みとして 実現すべきである。目標と情報を共有するこのチームが機能すれば、調達への 不当な介入や不祥事が発生する余地を極小化することができよう。次章で提言 - 39 - するように、このIPT 手法が機能するために必要な組織改革も実施しなければ ならない。 (6) 統合運用体制の促進 (1)で強調した全体最適をめざした「陸・海・空」の協働を具体的に促進する ため、統合幕僚監部を中心とする統合運用体制を更に実効あるものとしていく 努力を重ねなければならない。特に緊急時・重大事における情報の伝達などに 関して、セクショナリズムや他の部門への責任転嫁の対応が起こらないような、 体制を整備していく必要がある。 (7) 組織として整合性のとれた広報 民主的文民統制の重要な柱の一つは、主権者である国民に対する説明責任を、 政府・防衛省が適切に果たすことである。「正しい情報を」「より早く」伝え ることは極めて重要であり、そのための体制を平時・有事を問わず整備してお くべきである。 ア) 平時における広報の在り方 同一事項に関して防衛省内の各組織が独自に整合性のとれていない形で情 報を発信すれば、国民に対して大きな誤解を与え、ひいては、防衛省・自衛 隊に対する国民からの信頼を損なうことにもなりかねない。広報分野におい ても、基本的な考え方において整合性のとれた全体最適をめざした広報体制 を構築していく必要がある。このため、省幹部の記者会見や防衛省・各自衛 隊の情報発信について、内部部局に置かれている報道官の下で一元的に把握 し、整合性のとれたものとする体制を構築する必要がある。 また、部隊にあっては、マスコミの取材を通じて国民に実態を理解しても らうことが重要である一方、中央の方針と一致しない見解を述べることによ って組織全体への信頼感を損なうおそれもないとは言えない。このため、中 央における各機関のマスコミ対応だけでなく、部隊等におけるマスコミ対応 のルール化を図ることが必要である。あわせて国民との直接対話、広聴の機 会も一層充実させることも重要である。 イ) 緊急事態等における広報の在り方 更に取組むべき課題として、護衛艦「あたご」の衝突事件において明らか - 40 - となった、自衛隊の報道対応における混乱の問題をあげなければならない。 これにより、結果として国民の重大な不審を招くとともに、危機管理組織と しての防衛省・自衛隊の鼎の軽重が問われることとなった。緊急事態におけ る広報について、基本的なルールや意思統一の方法を確立する必要がある。 Ⅳ 改革提言(2) ― 現代的文民統制のための組織改革 1 組織改革の必要性 様々な不祥事の再発防止の措置を検討するとともに、現代の安全保障環境の中 で、防衛省・自衛隊をどのようにして実効的な組織として機能させるかというの が、本会議に与えられた課題である。この課題に答えるため、すでに、規則遵守 の徹底、プロフェッショナリズムの確立、全体最適をめざした任務遂行型の業務 運営の確立の三つの分野について、現在の組織の在り方を前提として、数多くの 提言を行ってきた。しかし、本会議は、現代の安全保障環境の下で、防衛省・自 衛隊が、不祥事を起こさないだけでなく、日本の安全と独立を確保していくため には、また、上記三つの分野の改革をより確実にかつ効果的に実行するためにも、 どうしても組織面での改革が必要であるとの認識に達した。 本報告書冒頭で述べたように、かつて文民統制と言えば、「軍事実力組織から の安全」を担保するための仕組みであると考えられてきた。軍が国を敗戦に導い た過去を持つ我が国にとって、とりわけ重い課題である。戦後の自衛隊の運営に おいて、この意味での文民統制が必要であるとされてきたのには十分理由がある。 しかし、自衛隊誕生以来の実績を見れば、自衛隊が民主的政治の意向を無視して 行動する可能性がほとんどないことは明白である。このようないわゆる消極的な 文民統制という考え方に対して、いまや、軍事実力組織を如何に効果的に使って 安全保障を高めるかという積極的な観点の文民統制の考え方も十分考慮にいれな ければならない。軍事実力組織の暴走は防がなければならないが、軍事実力組織 が、必要とされるとき機能しないのでは、国の安全保障は保てないからである。 しかも、不祥事の検討・分析から明らかになってきたことの一つは、部隊・現 場のレベルにおける、消極的で退嬰的な姿勢、失敗さえしなければよしとする減 点主義の傾向であった。徹底的に自衛隊を統制しておかなければならないとの組 織の在り方が、このような消極的な姿勢を助長した側面がある。減点主義からよ り積極的な任務遂行体制へ移行し、その中で不祥事を極小化するためにも、自衛 - 41 - 隊を国と国民の安全のため十全に活用するための組織改革が必要とされている。 いまや、昭和29 年(1954 年)以来形成されてきた防衛省の組織についても、「軍 事実力組織からの安全」という機能は堅持しつつ、「軍事実力組織を活用した安 全」という機能を更に高度に発揮させるための見直しが必要になってきたのであ る。 不祥事の再発を防ぐという側面を超えて、現代的安全保障環境の中で適切に自 衛隊を活用しようとすれば、国全体の安全保障政策の最高責任者たる内閣総理大 臣の下における官邸の体制も整備していかなければならない。如何なる意味であ れ、文民統制の根幹たる主体は、国会で選出される内閣総理大臣だからである。 従って、以下では、まず官邸における安全保障政策のための組織改革を論じ、そ の後、防衛省における組織改革を提示していきたい。防衛省内部における組織改 革を詳述する前提として、官邸における戦略レベルの司令塔機能について、まず 提言する。 2 戦略レベル― 官邸の司令塔機能の強化 内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊に対する最高の指揮監督権を有してお り、我が国の安全保障政策について行政面における最終的な意思決定主体である。 本来、安全保障政策とは国の総力をあげて行う総合的なものであって、内閣総理 大臣が統合的な戦略の下で、防衛省のみならず、政府全ての機関を指揮し実施し ていくものである。防衛省・自衛隊が担う防衛政策もまた、内閣総理大臣が主宰 する国全体の安全保障政策の一要素として位置づけられることによって、文民統 制の根幹が規定されるとともに、現代的な安全保障環境により適合したものとな る。 しかし、内閣全体としての安全保障戦略は、これまで、ほとんど意識的かつ体 系的には示されてこなかった。これまで、内閣には国防会議、これを引き継いだ 安全保障会議が設置されてきたが、危機における決定のための機関としてはとも かく、戦略作成に関しては、やや形式的な機関となってきている。防衛省・自衛 隊を根本的な意味で適切な文民統制の下に置くためには、内閣総理大臣を中心と した官邸が、実質的な我が国の安全保障戦略の策定機関とならなければならない。 また、近年、官邸における危機管理機能の強化(例:内閣危機管理監の設置) や事態対処法制の制定等を契機として、官邸の安全保障に関する役割は増大して いる。また、我が国を取り巻く安全保障環境が変化する中で、イラク人道復興支 援特措法に基づく航空自衛隊の輸送活動や、補給支援特措法に基づくインド洋に - 42 - おける海上自衛隊の補給活動など、自衛隊の国際平和協力活動において、官邸・ 内閣官房の果たす役割も大きくなっている。今後、新たな脅威や多様な事態に対 する迅速かつ適切な対応が一層求められていくことを考えれば、緊急事態への対 処とともに安全保障に関する戦略的判断を迅速・的確に行うため、官邸の司令塔 機能の強化を図ることが必要である。 従来、安全保障会議は、防衛力整備計画や毎年度の防衛予算の審議を通じて、 文民統制の大枠を設定する機能を果たしてきた。しかしながら、我が国の安全保 障環境が大きく変化した今日、官邸は、安全保障会議やその他関係閣僚会議など も活用し、安全保障に関する重要事項について幅広く積極的に議論し、我が国と しての安全保障戦略を策定し、各省に指示を与えていかなければならない。 そのため、内閣総理大臣は、安全保障会議やその他関係閣僚会議などを活用し つつ、以下の施策を行っていくべきである。(現行の安全保障会議設置法第2 条 の規定する諮問事項については、本格的な見直しが望ましいと思われるが、同法 を改正しないとすれば、安全保障会議に関わる、以下の提案は、同法第2 条第1 項第8 号にいう「その他内閣総理大臣が必要と認める国防に関する重要事項」と して実施されるべきである。) (1) 安全保障戦略の策定 世界情勢の変化、新たな脅威や多様な事態を考慮した上で、我が国全体とし て、安全保障の目標と手段を明示し、今後の方策の優先順位を示した戦略を策 定する。この戦略の下で、防衛計画の大綱が改訂され、自衛隊の海外任務の在 り方や、有事・緊急事態における自衛隊の運用をめぐる基本的な方針が策定さ れねばならない。 (2) 三大臣会合(内閣官房長官、外務大臣、防衛大臣など)の活用 流動する国際情勢の下で、安全保障上の課題に適切に対応するためには、我 が国を取り巻く安全保障環境についての基本的な情勢認識を分析・共有すると ともに、安全保障に関する諸課題につき戦略的観点から日常的、機動的に議論 する場が必要である。このため、「三大臣会合」と近年呼ばれている、内閣官 房長官、外務大臣、防衛大臣など関係閣僚による協議を積極的に活用し、内閣 総理大臣を補佐するとともに、安全保障会議の機能を補完する。 (3) 防衛力整備に関する政府方針策定のための仕組み - 43 - 防衛力整備に関する重要事項について、政府レベルで議論する場として、安 全保障会議をより一層活用していくとともに、防衛政策を柱とした産業・技術 基盤に関する方針を策定し、装備体系や主要な装備品の選定等について議論す るための関係閣僚会合を設置する。同時に、このような機能を支えるために、 安全保障会議の下に、事態対処専門委員会(安全保障会議設置法第8 条)に加 え、政府レベルでの防衛力整備の在り方を検討するための常設の検討機関(局 長級の実務レベルの委員会)を設置する。 かかる常設の検討機関においては、防衛計画の大綱、中期防衛力整備に基づ く施策の進捗状況、毎年度の防衛力整備の改善点等について議論するとともに、 防衛省で行われている総合取得改革に基づく契約制度の改善の進捗状況の検証 などを行う。 (4) 内閣総理大臣の補佐体制強化 安全保障政策に関わる内閣総理大臣の補佐体制を充実強化するため、内閣総 理大臣に直結し、機動的に内閣総理大臣を補佐する安全保障政策に関して高度 の知見を持つアドバイザーを置く。また、内閣官房の外交・安全保障に関する スタッフの体制強化を図るとともに、専門的知識を有する人材や軍事専門家で ある自衛官の更なる活用を図る。 3 防衛省における司令塔機能強化のための組織改革 国民が防衛政策を統制するという文民統制の根本は、国会が内閣総理大臣を指 名し、内閣総理大臣が自衛隊の最高指揮権を持つとともに、防衛大臣を任命する ことによって具現化されている。更に、この仕組みは、防衛省内においては防衛 大臣が防衛省・自衛隊全てを適切に指揮監督することによって貫徹されることに なる。防衛省における近年の不祥事を分析・検討して見ると、この防衛大臣によ る適切な指揮監督が十分貫徹しない組織の実態があったことがわかる。単なる法 令違反や規律のゆるみにとどまらない組織としての問題がひそんでいるのではな いかと思われた。 更に、このような不祥事の連鎖は、平成16 年(2004 年)に決定された「防衛 計画の大綱」にいう「多機能で弾力的な実効性のある」防衛力が発揮できるのか に懸念を抱かせるものであった。おそらく、平成19 年(2007 年)1 月の防衛省 の省移行時に、本来であれば、これまでの組織について全面的な見直しが行われ - 44 - るべきであったろう。現実には、省移行は、それまでの組織についての変更なし に行われた。不祥事の検討と、現代の安全保障環境とを全面的に考察した結果、 本会議は、この際、防衛省において、現行の内部部局と統合幕僚監部、陸・海・ 空幕僚監部の組織を基本的には存続させつつも、大胆な改革を行い、更にその機 能や責務の割り振りを組み替えることによって、不祥事の発生を防ぎつつ、文民 統制を機能させ、より実効的な防衛政策が実施できる体制を作るべきであると提 言する。 (1) 防衛大臣を中心とする政策決定機構の充実 防衛省の機能を大きく分類すれば、防衛政策の企画・立案・発信、自衛隊の 運用、防衛力の整備、その他管理機能と分けることができるが、このいずれに ついても、最終的には防衛大臣が、全てを適切に指揮監督できる体制がなけれ ばならない。そのためには、以下の改革が必要である。 ① 形骸化している防衛参事官制度を廃止し、防衛大臣補佐官を設置すべきで ある。防衛大臣補佐官は、防衛政策に関して見識ある者の中から、防衛大臣 が自ら選任し、政治任用として採用するものとする。 ② 現在、防衛省では、訓令に基づき防衛会議が置かれているが、これを法律 で明確に位置づけ、より実効的に防衛省の最高審議機関として活用していく べきである。防衛会議においては、副大臣、政務官及び防衛大臣補佐官など 政治任用者と、事務次官、主要な局長などの文官、統合幕僚長及び陸・海・ 空幕僚長など自衛官の三者が、防衛省・自衛隊に関する万般の政策に関して 審議し、大臣の政策決定及び緊急事態対応を補佐するものとする。防衛政策 の企画立案、自衛隊の運用の方針、防衛力整備の方針などは、全て防衛会議 での審議と大臣の決裁を経て、首相官邸での審議に供されるものとする。防 衛会議は文官と自衛官が政治を補佐しつつ服するという、文民統制の在り方 を具現するものでなければならない。 とりわけ重要なことは、新しい体制の下の防衛会議を決して形骸化させて はならないことである。会議は、できる限り頻繁に開催し、防衛省の最高幹 部の意思疎通を良好なものに、相互のチェック体制を確立しなければならな い。こうしたチェック体制は、前事務次官の不祥事に見られたような有力な 幹部による恣意的な行為を排除する機能を持つことを意味する。 - 45 - なお、防衛会議は議事録を作成し、国家安全保障に重大な影響をおよぼす 事項以外については、一定期間後に公開するものとする。 ③ 官邸の情報集約・危機管理センターに倣い、防衛省において、護衛艦「あ たご」の衝突事案のような緊急事案が起こった際に、情報集約や幹部への適 時適切な報告が行いうるよう、内部部局と幕僚監部が一体となった情報集約 や危機管理への対応を行うセンターを設置すべきである。 ④ 緊急事態の際の報告手順等も含め、各種事態における対処要領を確立する とともに、随時の訓練によって不断の組織的検証を行う。 (2) 政策面での施策― 防衛政策局の機能強化 ① 内閣の制定する安全保障戦略の一環として、防衛政策の企画・立案・発信 機能を向上させるため、防衛政策局を拡充しなければならない。 ② 文官を局長とし、次長クラス以下に自衛官を組み入れるべきである。統合 幕僚監部と陸・海・空幕僚監部からの人材補給により、運用面での実情も踏 まえた活気ある政策面での中枢機能を強化する。 ③ 国際的な自衛隊の活用は益々必要となると想定される。国際的平和活動、 国際的災害援助活動、その他国際的活動の企画立案、そのための情報分析能 力の向上は、とりわけ防衛政策局が取り組まなければならない課題である。 (3) 運用分野における施策― 統合幕僚監部の機能強化 ① 実態としての業務の重複を合理化するため、運用企画局は廃止し、作戦運 用の実行は、大臣の命を受けて統合幕僚長の下で行うものとする。 ② 現代社会においては、国内外の様々な政治情勢を考慮しつつ、自衛隊の運 用をしていかなければならない。そのため、文官を統合幕僚監部の副長クラ ス以下に組み入れるべきである。 ③ 部隊出動等の決定やその作戦計画の承認などは、防衛政策局を通じ、防衛 会議の議を経て、防衛大臣の決裁を仰ぐものとする。 - 46 - ④ 自衛隊は、現場部隊と中央組織との間に存在する多くの中間司令部の在り 方について見直しを行い、情報伝達を迅速かつ正確にし、また、現場の部隊 により有能な人材を配置するため、全体として組織のフラット化を図るべき である。 (4) 整備分野における施策― 整備部門の一元化 ① 防衛力整備の全体最適化を図るため、内部部局、陸・海・空幕僚監部の防 衛力整備部門を整理・再編して、整備事業等を一元的に取り扱う新たな整備 部門を創設することとし、その具体的在り方については、更に検討するもの とする。 その際、統合幕僚監部は、防衛力整備部門に対して、運用上の全体最適の 観点から、各自衛隊の装備体系の優先順位などについて、意見を述べるもの とする。 他方、陸・海・空幕僚監部は、人事、教育・訓練、補給等の観点から、現 場部隊の声が各自衛隊の防衛力整備に適切に反映されるよう、防衛力整備部 門に対して意見を述べるものとする。 ② 重要整備事項については、内閣として策定される防衛力整備の方針に基づ き、防衛省の整備部門が選択肢を作成し、内部部局を通じ、防衛会議の議を 経て、防衛大臣の決裁を仰ぎ、かつ、内閣レベルでの審議・決定を仰ぐもの とする。その他の整備・調達案件は、整備部門において精査し、内部部局を 通じ、防衛会議の議を経て、防衛大臣の決裁を仰ぐものとする。 ③ 整備部門の一元化に当たっては、組織構造はできる限り柔軟なものとし、 IPT 方式の調達を本格的に実施できる体制にすべきである。 ④ 地方調達については全面的見直しを行い、陸・海・空自衛隊の調達に関す るデータの一元化を推進するとともに、できる限り中央調達に移行させるべ きである。 ⑤ 調達の透明性を更に確保し、不正を防ぐ観点から、防衛省において、防衛 調達に関する規則、及び防衛調達の実施に関する計画について調査審議すべ - 47 - きである。必要に応じ、防衛大臣に対して意見を述べることを業務とする防 衛調達審議会を強化するなど、独立性の高い第三者チェック体制を確立すべ きである。 (5) その他の重要分野における施策 ① 管理部門 防衛省・自衛隊の基盤を支える予算、調達、渉外広報、その他の管理部門 については、行政的事務が主体であるが、内部部局の組織的充実・活性化を 図るため、部隊の実情に精通した自衛官を積極的にスタッフとして登用する ことが必要である。 また、これらの分野は各機関の重複を避け、防衛省として統合的に遂行す べき分野であることから、極力統合化を図るべきである。その際、これらの 分野における重要な事項は、内部部局を通じ、防衛会議の議を経て、防衛大 臣の決裁を仰ぐものとする。 ② 人事、教育・訓練 自衛官の人事、教育・訓練については、規律を維持しつつ精強な部隊を建 設するという意味で、陸・海・空幕僚長の下で幕僚監部が主たる責任を負う べき分野である。同時に、内部部局も制度や政策面から統一的に防衛大臣を 補佐する必要がある。 Ⅴ 結びにかえて 昨年12 月3 日に発足して以来、本会議は、防衛省・自衛隊で発生した様々な不 祥事について詳細に検討するとともに、防衛省・自衛隊の現場の視察、省内外の関 係者との意見交換を数多く行い、防衛省改革にとって何が必要であるかについて議 論を重ねてきた。我が国の平和と安全を守り、国際平和活動や災害救援に、日夜献 身的な役割を果たしてきた自衛隊員に対して敬意と感謝の念を抱いてきた本会議メ ンバーの全てにとって、防衛省・自衛隊で最近起きてきた不祥事を分析・検討する ことはつらい作業であった。圧倒的多数の自衛隊員がまじめに任務についているの に、どうしてこのような不祥事が発生するのか。我々が何か錯覚しているのか。こ のように思ったこともある。 - 48 - しかし、不祥事の実態を検討すればするほど、やはり改革は必要だと確信するよ うになった。前事務次官の規則無視から始まって、初歩的ルールについての無知、 基本的作業が遂行されない部隊、情報革命への対応の遅れ、正確な情報伝達に関す る心構えの欠落、秘密保全意識の甘さ、組織としての一体感の欠落など、個々の事 例を検討すればするほど、この際抜本的な見直しが必要であるとの認識が深まった。 本報告書では、隊員個々人に自らの行動を振り返ってもらうために、「規則遵守 の徹底」と「プロフェッショナリズムの確立」という原則を提示し、組織としての 行動を変えるために、「全体最適をめざした任務遂行優先型の業務運営の確立」と いう原則を提示した。自衛隊員各位におかれては、この三つの原則の意味するとこ ろを深く認識することを求めたい。 更に、本会議は、これらの原則を空文とさせず、現代の安全保障環境に実効的に 対応するための組織改革を提言した。有効で機能する安全保障政策を実施するため、 防衛省の範囲を超え、官邸における安全保障政策形成の仕組みについても、提言し た。本報告書冒頭で述べたように、本会議は、不祥事さえなければよい組織である とか、ミスさえなければよいのだ、というような考え方をとらない。我が国の安全 保障の根幹である防衛省・自衛隊は、規律正しく積極的に任務遂行に当たる組織で なければならない。 提言の内容については、本文で詳述してあるので繰り返さないが、是非、防衛省 そして内閣として、真剣に検討し、改革を推し進めていっていただきたい。改革の 実施に当たっては、更に詳細な実務的な実施計画が必要となる。防衛省には、規則 遵守、プロフェッショナリズムの確立、業務の改善、更には組織改革に至る実施計 画をできるだけ早急にまとめ、官邸に報告し、実施に移すことを求めたい。本報告 書で提示した業務配分の見直しや組織改革は全て実行可能なものであると判断する が、真に機能する改革とするため、事前に多面的なシミュレーションを行うことに よって、不必要な混乱を招かぬよう、円滑な実施を期すことを求めたい。国の安全 保障の根幹を担う組織が、改革のためとはいえ、混乱や停滞をきたしてはならない からである。 今回の検討を通して、防衛省改革については、必要な原則の確認や組織改革は提 示できたと思う。しかし、今後検討すべき課題もいくつかある。 防衛省として今後検討すべきテーマとしては、退職した自衛官を如何に活用でき るか、処遇するかという課題がある。例えば、多くの退職した幹部自衛官の予備自 衛官への採用など、退職した自衛官を国の防衛にどう活用するか、国としてどう処 遇するかということについても考えるべきであろう。 - 49 - 国全体として安全保障政策を考えたとき、二つの課題を指摘したい。第1は、防 衛省と他省庁とりわけ警察・海上保安庁との関係である。安全保障上の脅威が多様 化しつつある現在、防衛省・自衛隊と警察、海上保安庁との関係は、運用面を重視 し、更に緊密なものとしていかなければならない。同時に、国全体として必要な機 能をどう果たしていくかとの観点から、その役割分担についても検討がなされるべ きである。 国全体として考えるべき第2の課題は、国会における秘密会制度の確立という問 題である。言うまでもなく憲法は国会が秘密会を開催することを想定している。国 会が、安全保障の問題を適切に議論し判断することこそが、文民統制の根幹である。 しかし、安全保障問題の特性からして、全てを公開で議論できないことはありうる。 だからこそ、他の民主主義国の議会において秘密会が開催されるのであり、日本国 憲法もこれを想定しているのである。我が国としても国会における秘密会の在り方 について議論することが必要なのではないか。国会に対して意見を述べることは本 会議の任務ではないが、国民として、この問題について国会が真剣に取り組んでほ しいと希望するものである。 繰り返しになるが、本会議は、防衛省・自衛隊に対して、ミスを防ぐためのみを 目的とする些末な規則の網の目をかけようとしているのではない。国際平和活動や 災害救援活動で、高い評価を得ている世界の自衛隊である。不祥事を契機として縮 こまるのではなく、誇りを持ったプロフェッショナルの集団として再生しなければ ならない。日本の安全保障の根幹は、まさにこの改革にかかっている。 そして、不祥事の抑制と改革の実現のためには国と社会の理解と励ましが必要で ある。これら不祥事を犯した防衛省・自衛隊の過去を厳しくとがめるとともに、国 の平和と独立を守るという本来の任務を立派に果たそうとする防衛省・自衛隊の今 後を、社会は見守り支えねばならないのである。 - 50 - 防衛省改革会議の開催について 平成19年11月16日 内閣官房長官決裁 1.設置の趣旨 今般の補給支援特措法案の審議等を通じて、我が国の防衛・安全保障を担う防 衛省の業務遂行について様々な指摘を受けたことを踏まえ、現在、防衛省が抱え る問題について、基本に立ち返り、国民の目線に立った検討を行う場として、有 識者の参加を得つつ、「防衛省改革会議」(以下「会議」という。)を開催する。 2.検討事項 (1) 文民統制の徹底 (2) 厳格な情報保全体制の確立 (3) 防衛調達の透明性 3.構成 (1) 会議は、内閣官房長官及び防衛大臣並びに別紙に掲げる有識者により構 成し、内閣官房長官が開催する。 (2) 内閣官房長官は、別紙に掲げる有識者の中から、会議の座長を依頼する。 (3) 会議は、必要に応じ、構成員以外の関係者の出席を求めることができる。 4.その他 会議の庶務は、防衛省の協力を得て、内閣官房において処理する。 - 51 - 「防衛省改革会議」の委員 五百籏頭眞防衛大学校学校長 小島明社団法人日本経済研究センター特別顧問 佐藤謙財団法人世界平和研究所副会長 (元防衛事務次官) 竹河内捷次株式会社日本航空インターナショナル常勤顧問 (元統合幕僚会議議長) 田中明彦東京大学大学院情報学環教授 御厨貴東京大学先端科学技術研究センター教授 ◎南直哉東京電力株式会社顧問 上記の他、町村内閣官房長官及び石破防衛大臣が委員である。 注)◎は座長 役職については、平成20 年7 月現在 - 52 - 防衛省改革会議の開催実績 第1回会議(平成19年12月3日(月)) 議題:防衛省・自衛隊をめぐる諸課題について全般的な意見交換 第2回会議(平成19年12月17日(月)) 議題:文民統制の徹底について 第3回会議(平成20年1月9日(水)) 議題:厳格な情報保全体制の確立について 第4回会議(平成20年2月1日(金)) 議題:防衛調達の透明性について 識者:及川耕造独立行政法人経済産業研究所理事長 西口敏宏一橋大学イノベーション研究センター教授 第5回会議(平成20年2月13日(水)) 議題:文民統制の徹底について 第6回会議(平成20年3月3日(月)) 議題:①イージス艦「あたご」の事案について、情報の連絡体制などに関す る問題点等 ②これまでの議論の論点 第7回会議(平成20年4月7日(月)) 議題:総合取得改革推進プロジェクトチーム報告書について(防衛省報告) 第8回会議(平成20年5月8日(木)) 議題:これまでの議論の論点 - 53 - 第9回会議(平成20年5月21日(水)) 議題:防衛省における組織等の在り方に関する検討状況等について(防衛省 報告) 第10回会議(平成20年6月19日(木)) 議題:これまでの議論の論点についての全般的な整理 第11回会議(平成20年7月15日(火)) 議題:「報告書」の取りまとめ - 54 - 防衛省改革会議勉強会等の開催実績 ○ 防衛省改革会議勉強会 第1回勉強会(平成19年12月11日(火)) 議題:文民統制の徹底について 第2回勉強会(平成19年12月27日(木)) 議題:①秘密保全に関する政府全体の取り組みについて ②厳格な情報保全体制の確立について 第3回勉強会(平成20年1月28日(月)) 議題:防衛調達の透明性について 第4回勉強会(平成20年2月12日(火)) 議題:文民統制の徹底について 第5回勉強会(平成20年2月28日(木)) 議題:イージス艦「あたご」の事案について、情報の連絡体制などに 関する問題点等 第6回勉強会(平成20年4月4日(金)) 議題:①国家公務員制度改革について ②総合取得改革推進プロジェクトチーム報告書について 第7回勉強会(平成20年5月2日(金)) 議題:これまでの議論の論点 第8回勉強会(平成20年5月16日(金)) 議題:防衛省における組織等の在り方に関する検討状況等について - 55 - 第9回勉強会(平成20年6月4日(水)) 議題:これまでの議論の論点整理 第10回勉強会(平成20年6月6日(金)) 議題:これまでの議論の論点整理 第11回勉強会(平成20年6月16日(月)) 議題:これまでの議論の論点整理 第12回勉強会(平成20年6月24日(火)) 議題:「報告書」の取りまとめ 第13回勉強会(平成20年6月26日(木)) 議題:「報告書」の取りまとめ 第14回勉強会(平成20年6月30日(月)) 議題:「報告書」の取りまとめ 第15回勉強会(平成20年7月9日(水)) 議題:「報告書」の取りまとめ ○ 防衛調達勉強会 第1回防衛調達勉強会(平成20年1月17日(木)) 第2回防衛調達勉強会(平成20年1月22日(火)) 第3回防衛調達勉強会(平成20年1月28日(月)) 第4回防衛調達勉強会(平成20年4月18日(金)) 識者:江畑謙介軍事評論家、防衛調達審議会委員 及川耕造独立行政法人経済産業研究所理事長 小林信雄トヨタ自動車株式会社常務役員 - 56 - 坂井一郎弁護士、防衛調達審議会会長 佐藤達夫三菱商事株式会社顧問 清水俊行公認会計士、防衛調達審議会委員 庄野凱夫財団法人ディフェンスリサーチセンター専務理事 西口敏宏一橋大学イノベーション研究センター教授 日手間公敬全日本空輸株式会社専務取締役 (五十音順) ○ 部隊等視察及び意見交換 視察(平成20年2月26日(火)) 訪問先:航空自衛隊百里基地、陸上自衛隊習志野駐屯地 意見交換(平成20年2月26日(火)) 議題:防衛省改革について 相手方:防衛事務次官、陸上幕僚長、航空幕僚長、海上幕僚監部防衛部 長 意見交換(平成20年3月13日(木)) 議題:イージス艦「あたご事案」を踏まえ、海上自衛隊の組織の問題 等について 相手方:海上自衛隊幹部(海上幕僚副長、護衛艦隊司令官ほか) 視察(平成20年3月17日(月)) 訪問先:海上自衛隊横須賀地区、統合幕僚監部統合幕僚学校 意見交換(平成20年3月17日(月)) 議題:自衛隊の部隊等の現状について 相手方:統合幕僚学校統合高級課程学生 - 57 - 意見交換(平成20年3月24日(月)) 議題:防衛省改革に関して 相手方:防衛事務次官、統合幕僚長、陸・海・空幕僚長、全防衛参事官 意見交換(平成20年4月10日(木)) 議題:海上自衛隊抜本的改革委員会の検討状況について 相手方:海上自衛隊幹部(海上幕僚副長、海上自衛隊幹部学校副校長ほ か) 意見交換(平成20年4月23日(木)) 議題:防衛省改革に関して 相手方:防衛事務次官、統合幕僚長 - 58 - ( 図表1 ) - 59 - ( 図表2 ) - 60 - 防衛省改革会議「報告書」の概要 平成20 年7月15日 防衛省改革会議 Ⅰ はじめに 1 平成19年12月、防衛省・自衛隊の不祥事の頻発を受け防衛省改革会議を官邸に設置。 2 個々の事案とそれを許容した組織の問題を解明し、再発防止の方策と改革の方向を 示すための検討を重ねる。改革の原則を機能させ、また、組織の任務に沿った実効的 な活動が行えるよう、防衛省・自衛隊の組織と意思決定システムの再構築が必要。 3 自衛隊は、多機能・弾力的・実効的に行動すべき時代を迎えている。戦後強調され た「軍事実力組織からの安全」の更なる充実強化とともに、今後は「軍事実力組織に よる安全」という観点との組み合わせが必要。 4 文民統制を確保しつつ、安全保障機能を効果的に果たしうるシステムの改革をここ に提案。 Ⅱ 不祥事案― 問題の所在 1 給油量取違え事案(報告義務不履行):米海軍艦船への給油量について、海幕防衛 課長が報告した誤った数値によって統幕議長の記者会見や、防衛庁長官及び官房長官 の発言が行われた。誤りを認識した後も訂正をしなかった報告義務不履行は、プロフ ェッショナリズム(職業意識)の欠如と文民統制への背反。誤りを正す責任が明確で ない組織上の問題も正されるべき。 2 情報流出事案(通信情報革命と情報保全):秘密情報を含む業務用データを私有パ ソコンに取り込んだファイル共有ソフトを介して部外に流出するなどの事案が平成18 年まで立て続けに発生。急速な通信情報革命に自衛隊の認識がついていけなかったこ と、秘密情報についての保全意識が不徹底であったことが原因。 3 イージス情報流出事案(先端技術の学習と情報保全):特別防衛秘密に該当するイ ージス情報が正規の手続きを経ることなく教材として利用され、海上自衛隊内に拡散 した事案。最先端技術への学習意欲が情報保全意識の欠如と結びついて生じたもの。 4 「あたご」衝突事案(基本動作のゆるみ):海自護衛艦「あたご」が漁船と衝突。 基本的な規律のゆるみやルール無視の組織的蔓延、航海技量の欠如がどれほど恐るべ き結果を招くかを教える事案。また、事故発生後の幕僚監部と内部部局における緊急 時の情報伝達の問題が浮き彫りに。 5 前事務次官の背信:前事務次官が接待や金品供与を受け、防衛装備品の調達に当た って影響力を行使したとされている事案。調達に際して私的利益を動機にすることは、 内部部局官僚が誇るべきプロフェッショナリズムから最も遠く、忌まわしい背信行為。 最高幹部による重大な逸脱が放置された組織的な背景にも問題。 6 諸事案の総合検討 不祥事の抑制のためには全組織をあげて目標と任務意識を鮮明化しつつミスを極小 化する継続的な取組みが不可避。 - 61 - Ⅲ 改革提言(1) ― 隊員の意識と組織文化の改革 1 改革の原則 不祥事案の検討・分析を踏まえ、①規則遵守の徹底、②プロフェッショナリズムの 確立、③全体最適をめざした任務遂行優先型の業務運営の確立、の改革の原則を提唱。 2 規則遵守の徹底 自発的な規則遵守意識が組織風土として定着することが必要。また、守るべき事項 を明確にするための規則の整理が必要。 (1) 幹部職員自身が規則の必要性を理解し、率先垂範すること。 (2) 形式よりも必要性に着目した規則遵守についての職場教育。 (3) 機密保持に関する規則の徹底と違反行為の厳正な処分。 (4) 防衛調達における透明性確保のための責任の所在の明確化、会議録の作成・公開。 (5) 抜き打ち監察など監査・監察の強化。 (6) 規則の必要性の検討及び見直し。 3 プロフェッショナリズム(職業意識)の確立 プロ意識に徹した上官の統率によって組織全体に高い倫理観、使命感を与えるべき。 (1) 幅広い視野を持った幹部要員を養成するため、教育プログラムや行政経験の在り方 を見直し。 (2) 自衛隊の各部署における業務量と人員配置のバランスを見直し、現場の過度な負担 を軽減しつつ、基礎的な職場教育の充実を図る。 (3) 現代の安全保障に決定的な意味を持つ情報伝達・保全におけるプロ意識の醸成。 4 全体最適をめざした任務遂行優先型の業務運営の確立 個々の隊員、部隊等の意識改革に加え、任務遂行を中心に全体最適をめざす組織文 化を創出することが必要。 (1) 文官と自衛官の一体感と陸・海・空自衛隊の一体感醸成による協働体制の確立。 (2) 自律的なPDCA(Plan Do Check Act:計画・実施・評価・改善)サイクルの確立。 (3) 民間のベスト・プラクティスを参考にしつつ、自衛隊の基本単位である部隊を統率 する指揮官と部下との共通の改善努力。 (4) 組織横断的プロジェクトチーム(IPT(Integrated Project Team))方式による政策立 案を通じた政策課題への機動的対応。 (5) 防衛調達におけるIPT 方式の本格的導入。 (6) 統合幕僚監部を中心とする統合運用体制の更なる促進。 (7) 国民が不信を抱かぬよう、各種会見や中央と部隊の間で整合性の取れた広報の実施。 Ⅳ 改革の提言(2) ― 現代的文民統制のための組織改革 1 組織改革の必要性 防衛省・自衛隊が、上記の改革の三原則をより確実・効果的に実行するため、組織 面での改革が必要。 2 戦略レベル― 官邸の司令塔機能の強化 防衛省のみならず官邸の司令塔機能強化が必要。 - 62 - (1) 防衛政策の前提となる国全体としての安全保障戦略を明示。 (2) 官房長官、外相、防衛相などの閣僚により、安全保障に関わる重要課題を日常的・ 機動的に議論する会合の充実。 (3) 防衛力整備に関する政府の方針等を議論するための関係閣僚会合の設置。あわせて これを補佐する常設の機関の設置。 (4) 安全保障に関わる内閣総理大臣の補佐体制を充実強化するため、内閣官房のスタッ フの強化。 3 防衛省における司令塔機能強化のための組織改革 (1) 防衛大臣を中心とする政策決定機構の充実 ① 防衛参事官制度を廃止し、防衛大臣補佐官の設置。 ② 防衛会議を法律で明確に位置づけ、副大臣、事務次官、統幕長などの政治家、 文官、自衛官の三者による審議を通じ防衛大臣の政策決定・緊急事態対応を補佐。 ③ 省としての情報集約や危機管理の対応を行うセンターの設置。 (2) 防衛政策局の機能強化 防衛政策の企画・立案・発信機能の向上を図る。また、自衛官を登用して運用面 での実情を踏まえた機能強化を図る。とりわけ、国際平和活動等の企画立案や、情 報分析能力の向上に取り組む。 (3) 統合幕僚監部の機能強化 運用企画局を廃止し、作戦運用の実行は、大臣の命を受けて統合幕僚長の下で実 施。また、部隊出動等や作戦計画等の重要事項については、防衛政策局を通じ、防 衛会議の議を経て、防衛大臣の決裁を仰ぐ。なお、文官を登用して機能強化を図る。 (4) 防衛力整備部門の一元化 ① 防衛力整備の全体最適化を図るため、内部部局、陸・海・空三幕の防衛力整備 部門を整理・再編して、整備事業等を一元的に取扱う整備部門を創設することと し、その具体的在り方を更に検討。IPT方式の調達を本格実施できる体制とする。 ② 地方調達については、できる限り中央調達に移行させる見直しを実施。また、 独立性の高い第三者チェック体制を強化。 (5) その他の重要分野における施策 ① 管理部門については、部隊の実情に精通した自衛官を積極的に登用すると共に 極力統合化を図る。 ② 自衛官の人事、教育・訓練は、陸・海・空三幕が責任を負うが、内部部局も制 度や政策面から防衛大臣を補佐。 Ⅴ 結びにかえて 本提言の改革の実施計画を早急にとりまとめ、実施に移すべき。また、組織改革に当 たっては、事前に多面的なシミュレーションを行うべき。 防衛省・自衛隊と警察、海上保安庁との関係を更に緊密にするとともに国全体として の機能をどう果たしていくか、というような今後検討すべき課題を提起。 防衛省・自衛隊が誇りを持ったプロフェッショナル集団として再生することを期待。
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久間氏は「相手が(ミサイルを)撃つ状況がはっきりしてきた時の攻撃を憲法9条は否定していないということは論理的には言えるかもしれない」と指摘する一方、「それをやるかやらないかは政策判断で微妙な問題だ」と語った。また、米国が「大量破壊兵器がある」として始めたイラク戦争について「自衛とは言えないような気がする」と述べた。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0714/004.html 0713 米次官補、日本の「敵基地攻撃」議論に理解 中国は批判 [朝日] 2006年07月13日12時45分 ヒル米国務次官補は13日、北京で記者団に対し、北朝鮮のミサイル発射を受けて「敵基地」への攻撃をめぐる議論が日本で浮上したことについて「こうした脅威に対する自国の防衛能力について議論することは理解できる」と語った。これに先立ち、中国外務省の姜瑜副報道局長は12日、日本での議論を「まったく無責任」で「北東アジアに緊張をもたらす」と厳しく批判した。 宿泊先のホテルを出発前、記者団の質問に答えたヒル氏は「日本にとって北朝鮮のミサイル技術は相当な懸念のはずだ」と指摘した。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0713/004.html 0712 額賀長官「敵基地攻撃、法理論的には認められる [朝日] 2006年07月12日02時13分 額賀防衛庁長官は11日の記者会見で、北朝鮮のミサイル発射をうけ議論されている敵基地攻撃の能力保有問題について、「他国から例えば精密誘導兵器で攻撃され、防ぎようのない時にどうやって国民と国家を守るか。その場合は相手基地を攻撃することもやむを得ない手段として、法理論的には認められる」との見解を改めて示した。 そのうえで「現実的にどうするかは、きっちりと議論をしていない経緯がある」として「98年や今回の北朝鮮のミサイル発射を契機に、少なくとも与党内で議論されたらいかがか」と述べた。 また、敵基地攻撃の議論に韓国大統領府が反発していることについて、額賀氏は「(日本が)戦後60年、自由に徹し平和を守ってきた実績を考えれば、理解してもらえると思う」と述べた。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0712/001.html 0711 「敵基地攻撃論」に野党から批判続出 [朝日] 2006年07月11日21時03分 北朝鮮のミサイル発射を機に政府・自民党内で敵基地攻撃能力を検討するべきだという主張が出ていることについて、野党から批判が相次いでいる。民主党の小沢代表は11日の記者会見で「(相手が)攻撃していないのに(基地への攻撃は)できない」と指摘。共産、社民両党も北朝鮮によるミサイル発射で議論が加速していることに警戒感を強めている。 小沢氏は会見で「敵というのは、北朝鮮だけとは限らない。敵と決めたとたんに戦わないといけなくなる。大事な立場におられる方は、よくよく国民全体、国全体のことを考えて発言しないといけない」と述べ、敵国の存在を前提にした議論にくぎを刺した。 その上で、ミサイル基地を攻撃する能力を持つことについては「撃つ前にどこに向けたか分からない。日本に撃ったか、他に撃ったかは、どうやって判断するのか」として、現状では困難だという認識を示した。 ただ、ミサイル防衛(MD)システムの早期配備には積極的な意見が強い民主党内の中堅・若手には、基地攻撃を容認する考えもある。鳩山由紀夫幹事長も「向こうが意図を持って日本を狙っていることが自明な場合に、専守防衛の範囲の中で基地をターゲットにできると思う」と言及している。小沢氏の発言は、こうした党内の意見を牽制(けんせい)するねらいもある。 一方、社民党の福島党首は11日、国会内で記者団に「今の段階で敵基地攻撃論まで政府の中から出てくることに非常に危機感を感じる。北東アジアで緊張を高めることになる」と、議論が出ていること自体を批判した。 共産党の市田忠義書記局長は10日の記者会見で「向こうがやるなら、それ以上の軍事力を、と。そうすると、際限のない軍拡競争になる。しかも一種の先制攻撃論だ」と指摘。その上で、北朝鮮のミサイル発射問題には「外交的な努力によって解決すべきだ。これを奇貨として日本の軍事力を増強しようというのは正しくない」と語った。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0711/009.html 0712 官房長官「先制攻撃論批判」に反論、山崎氏「憲法違反」 [朝日] 2006年07月12日20時18分 安倍官房長官は12日、北朝鮮のミサイル発射を踏まえ、敵基地攻撃能力を研究する必要があるとした自らの発言について「攻撃された場合という前提条件で言っている。だれも先制攻撃とは言っていない」と述べた。同日の記者会見で質問に答えた。国内外で「先制攻撃発言」(盧武鉉(ノ・ムヒョン)・韓国大統領)と受け止められていることに反論した。 安倍氏は「相手が武力攻撃に着手していない時点で自衛権を発動しようとしているかのような批判があるが、全く当たっていない。何もない空中を棒でたたいているのではないか」と反論。敵基地攻撃ができるのは、日本に対する攻撃への「着手」があった後になるとの立場を強調した。 攻撃に着手した時点の判断については「非常に難しい。着弾、被害発生後という可能性が当然高くなる」と語った。 ただ、日本が敵基地を攻撃する能力を保有すべきかどうかについては「議論をしなければいけない」と指摘。「日米で共同対処をしていくうえで、盾(防御)と矛(攻撃)の役割分担があるなか、ベストのコンビネーションを常に研究する必要がある」と語った。 一方、自民党の山崎拓・安全保障調査会長は12日、大阪市内で講演し、敵基地攻撃能力を検討すべきだとの主張について「非常に乱暴な議論だ。国是である専守防衛に反するし、重大な憲法違反になる。政府の外交安保の担当者は、自ら進んで発言するのは慎むべきだ」と強く戒めた。 さらに「『全面戦争になるおそれがある』と神崎公明党代表が言ったが、その通りだ。国民は『発進基地をたたく』というテーマに限定してとらえるので、非常に危険な要素がある。『やっちゃえ、やっちゃえ』と戦前回帰の危険性を持っている」と語った。 URL http //www.asahi.com/international/update/0712/019.html 0719 防衛大学校長に五百旗頭真氏が内定 [読売] 政府は19日、第8代防衛大学校校長に、五百旗頭真(いおきべ・まこと)神戸大教授(62)を起用する人事を内定した。21日の閣議で決定する。 発令は8月1日付。防大校長は、西原正・前校長が3月に勇退した後、空席となっていた。 五百旗頭氏は京都大法卒。日本政治外交史や日米関係が専門で、2004年4月に小泉首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」のメンバーに就任。防衛力整備について、弾道ミサイルなど「新たな脅威」への対処や国際平和協力への積極的取り組みなどを求めた報告書づくりに参画した。 (2006年7月19日19時52分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060719i312.htm 0709 敵地攻撃能力の保持は当然、ミサイル問題で防衛長官 [朝日] 2006年07月09日13時13分 額賀福志郎防衛庁長官は9日午前、北朝鮮の弾道ミサイル発射に関連して「日米同盟によって(日本は防御中心、敵基地攻撃は米国との)役割分担があるが、国民を守るために必要なら、独立国として限定的な攻撃能力を持つことは当然だ」と述べた。日本に対する攻撃が差し迫った場合に備えて、ミサイル発射場などを先制攻撃する能力の保持を検討すべきだとの考えを示したものだ。都内で記者団に語った。 ただ、額賀氏は「まず与党の中で議論し、コンセンサスをつくる必要がある。こういう事態が起きたからといって拙速にやるべきではない」と述べ、あくまで将来的な課題だとの認識を示した。(時事) URL http //www.asahi.com/politics/update/0709/003.html 0629 イージス艦「きりしま」に帰国命令…テポドン2号警戒 [読売] 海上自衛隊は29日、ハワイ沖で日米などが参加して今月26日から実施中の環太平洋合同演習(リムパック)に派遣していたイージス艦「きりしま」に、帰国を命じたと発表した。 北朝鮮が発射準備を進めている長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の発射を警戒するための措置とみられる。 (2006年6月29日13時33分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060629i306.htm 0623 日米、次世代迎撃ミサイルの共同開発に正式移行 [読売] 日米両政府は23日、ミサイル防衛(MD)システムの次世代型迎撃ミサイルについて、日米の開発担当部分などを定めた文書を取り交わし、共同開発段階に正式に移行した。 また、日本の武器輸出3原則の関係で、米側がミサイルを第三国に輸出する際には、日本側の事前承認を必要とすることなどを盛り込んだ交換公文も締結した。 共同開発する次世代型迎撃ミサイルは、イージス艦に搭載するSM3(スタンダード・ミサイル3)で、2007年度中に配備を始める現行の海上配備型ミサイルに比べると、防護範囲が約2倍になる。開発期間は9年間を見込んでいる。 日米は1999年から、次世代型迎撃ミサイルの共同技術研究をしていた。 (2006年6月23日22時58分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060623ia23.htm 0624 米軍レーダー運用前倒し、テポドン2監視目的か [朝日] 2006年06月24日01時13分 米軍の移動式早期警戒レーダー「Xバンドレーダー」が航空自衛隊車力分屯基地(青森県つがる市)で運用されるのに伴う飛行禁止区域の設定について、国土交通省は23日、当初予定より2日早い26日に区域設定することを発表した。米軍が運用開始を早めたためで、北朝鮮が長距離弾道ミサイル「テポドン2」の発射準備の態勢を解いていないことと関連しているのではないか、と防衛庁関係者はみている。 Xバンドレーダーは、米本土などを狙う大陸間弾道ミサイル(ICBM)の追尾のための移動式の装置。米軍三沢基地(青森県)で保管されてきたが、23日未明、車力分屯基地に移送された。 レーダーは当初、28日から運用される予定だったが、在日米軍が23日、外務省に「運用開始日を26日に変更する」と連絡してきたという。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0624/001.html 0623 米、海上ミサイル迎撃実験に成功 日本のイージス艦参加 [朝日] 2006年06月23日23時12分 米国防総省ミサイル防衛局(MDA)は22日、イージス巡洋艦「シャイロー」から発射する迎撃ミサイルSM3で、弾道ミサイルから切り離された弾頭の迎撃実験に成功した、と発表した。実験には初めて日本から海上自衛隊のイージス護衛艦「きりしま」が参加し、標的をレーダーで捕捉、追尾する実験を行った。 ハワイ沖で同日夕(米東部時間)に行われた。海上配備型の実験は8回目で、成功は7回目。シャイローは8月に米海軍横須賀基地(神奈川県)への配備が予定されている。 ミサイル防衛局のオベリング局長は23日、ワシントンで記者団に対し、「今回の実験で北朝鮮の長距離ミサイルを迎撃できるとの確信を持った」と述べた。局長は「北朝鮮の脅威を念頭にシステムを配備している」とも指摘した。 URL http //www.asahi.com/international/update/0623/014.html 0609 防衛庁の「省」昇格関連法案を閣議決定 [読売] 政府は9日午前の閣議で、防衛庁の省昇格関連法案を決定した。防衛庁を「防衛省」とすることや、自衛隊の国際平和協力活動を本来任務化することが柱だ。 同日午後、衆院に提出した。 通常国会は、会期末が18日に迫っているため、政府・与党は継続審議とし、秋の臨時国会での成立を目指す。 防衛庁設置法を「防衛省設置法」に改正して、防衛庁を防衛省にする。防衛長官は防衛相となる。防衛省の任務や所掌事務、組織などは、現行の防衛庁設置法の規定を基本にする。防衛庁は内閣府から独立し、各省並びの防衛省と位置づけられる。 自衛隊法3条で定めている自衛隊の本来任務には、国際平和協力活動と周辺事態への対応を新たに加える。その前提として、日本防衛に「支障を生じない限度」と、「武力による威嚇、武力の行使に当たらない範囲」を盛り込んだ。 シビリアン・コントロールをより明確化するため、安全保障会議設置法を改正し、安保会議に対する首相の諮問事項に、自衛隊の国際平和協力活動と周辺事態への対処を明示した。自衛隊の最高指揮監督権や防衛出動を命じる権限は、首相に残した。 談合事件が起きた防衛施設庁を2007年度に廃止し、防衛省に統合する。 自民党には、省名を「国防省」と主張する声もあったが、当初、公明党が「防衛国際平和省」「防衛国際貢献省」などとするよう求めていたことを踏まえ、「防衛省」とすることに落ち着いた。 (2006年6月9日18時54分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060609i103.htm 0610 国防 諸国並み組織に 防衛「省」法案閣議決定 [産経] 2006年 6月10日 (土) 03 21 政府は9日、防衛庁の「省」昇格法案を閣議決定、国会に提出した。政府・与党は今国会では継続審議とし、秋の臨時国会での成立を期す。成立はなお流動的だが、省昇格を悲願としてきた防衛庁は、党内に根強い慎重論があった公明党の了承を得たことで、「大きなヤマを越えた」(幹部)と安堵(あんど)している。 法案では、防衛庁を防衛省、防衛庁長官を防衛相に改称、内閣府の外局から独立させる。諸外国では国防担当はミニストリー(省)が一般的で、エージェンシー(庁)は特異な例だ。 小泉純一郎首相が9日、記者団に「なんで『庁』である必要があったのか。当然だ」と述べたように、国防を担う組織を常識的な“格付け”に修正する措置といえる。 実務的には、これまで防衛庁は、閣議にかける必要のある法案提出や予算要求を内閣府を通じて手続きをしなければならなかったが、省になれば直接できる。不審船に対処する「海上警備行動」発令の承認を得るための閣議開催も要求できるようになり、「対処が迅速化する」(防衛庁幹部)メリットもある。 ただ、自衛隊の最高指揮監督や、武力攻撃事態における防衛出動発令については、従来通り首相の権限で、「防衛相の権限は限定的」(政府筋)といえる。 また、現行自衛隊法で付随的任務と規定されている国連平和維持活動(PKO)やイラク派遣などの国際平和協力活動は、省昇格に伴う法改正で、防衛出動と並ぶ「本来任務」に格上げされる。 ■拒否反応に配慮 公明、3原則条件 防衛庁の省昇格問題について、公明党の神崎武法代表は8日、(1)自衛隊の活動は憲法9条の枠内に限定(2)集団的自衛権の行使は認めない(3)防衛費の増大を防ぐ-の三原則を条件に容認する考えを示した。同党や支持母体である創価学会の一部に「防衛省」への拒否反応があることに配慮した形だ。公明党としては、統一地方選、参院選が続く来年に法案処理を持ち越すのは避けたいのが本音で、同党の東順治国対委員長は9日、「秋の臨時国会で必ず成立させねばならない」と強調した。 臨時国会は防衛「省」昇格法案以外にも、教育基本法改正案、国民投票法案、社会保険庁改革法案など多くの重要法案を抱える見通しになっているが、自民党は「新政権発足の勢いで成立させる。防衛軽視と言われないため、小沢民主党は反対できないだろう」(国対幹部)と楽観視している。 URL http //news.goo.ne.jp/news/sankei/seiji/20060610/m20060610002.html 0610 「防衛省」法案、国会提出 秋の臨時国会へ継続審議方針 [朝日] 2006年06月09日17時14分 政府は9日の閣議で防衛庁の「省昇格法案」を決定し、国会に提出した。54年に発足した同庁を防衛省に格上げする法案が政府によって提出されたのは初めて。自衛隊の海外活動の本来任務への格上げも盛り込まれた。会期末が18日に迫り、政府・与党は法案を継続審議にして秋の臨時国会での成立を目指す方針。だが、教育基本法改正案など他の重要法案も軒並み先送りされるうえ、処理の優先順位の判断は次の首相に委ねられることになり、省昇格法案の成立の見通しは立っていない。 安倍官房長官は9日の記者会見で「近年、防衛問題が重要性を増すなか、諸外国と同様に防衛庁を省と位置づけ、各種の事態により的確に対応することは必要なことであり、自然な流れだと考える」と述べた。 法案は(1)防衛庁を「防衛省」に、防衛庁長官を「防衛相」に格上げする防衛庁設置法改正(2)自衛隊の海外活動を付随的任務から本来任務に格上げする自衛隊法改正――などの一括改正。 現在の内閣府の外局から独立の省に格上げすることにより、法案提出などの閣議開催の要求や、予算の財務相への要求などが直接可能になる。不審船に対処する「海上警備行動」などの発令の承認を得る閣議の開催も要求できる。同庁は「危機に迅速に対応できる」と意義を強調する。 本来任務に格上げする海外活動は、自衛隊法で雑則に定められている(1)国際緊急援助活動(2)国連平和維持活動(PKO)(3)周辺事態での後方支援、付則の(4)テロ特措法の活動(5)イラク特措法の活動――などで、国土防衛や災害派遣などと同等の重みを持たせる。 同法案が成立しても、首相が自衛隊の最高指揮監督権を持つことは変わらない。国内外に根強い慎重意見に考慮し、同庁は「シビリアンコントロール(文民統制)の基本的枠組みは変わらない」としている。 省昇格法案は64年の池田内閣時にも閣議決定されたが、国会提出は見送られた。01年に旧保守党が議員立法で提出したが、03年の衆院解散で廃案になった。 政府は公明党の要求を受けて法案の付則に07年度の防衛施設庁解体を盛り込み、了承を得た。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0609/002.html 0609 鳩山幹事長「議論できる環境ではない」 防衛省格上げ [朝日] 2006年06月09日23時09分 民主党の鳩山由紀夫幹事長は9日、党本部で記者会見し、政府が防衛庁を「防衛省」に昇格させる法案を提出したことについて「防衛庁は米軍再編問題で巨額の費用負担について説明責任を果たしていない。防衛施設庁で不祥事も起きたのに、防衛庁長官の責任も取られていない。『省』への格上げなどという議論ができる環境ではない」と批判した。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0609/005.html 0608 安保会議、防衛省への昇格法案了承…衆院提出へ [読売] 政府は8日夜、安全保障会議を開き、防衛庁の省昇格関連法案を了承した。 9日に閣議決定し、衆院に提出する。今国会は会期末が18日に迫っているため、政府・与党は秋の臨時国会での成立を図る考えだ。 また、安保会議は、インドネシアに巡視船3隻を政府開発援助(ODA)で供与することも了承した。 (2006年6月8日22時28分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060608ia24.htm 0608 防衛省法案9日に閣議決定 政府提出は初めて [共同] 与党安全保障プロジェクトチーム(座長・山崎拓自民党前副総裁)は7日午後、防衛庁の「省」昇格法案について、公明党部会の了承を受け、政府に同法案の提出を要請した。政府は8日の安全保障会議(議長・小泉純一郎首相)などを経て、9日に閣議決定、国会提出する方針だ。 省昇格法案は1964年に閣議決定まで至った例があるが、政府としての法案提出は今回が初めて。旧保守党が2001年に「防衛省設置法案」を出したが、03年の衆院解散で廃案となった。ただ会期末が18日に迫っており、成立は次期国会以降に持ち越される。 公明党の神崎武法代表は7日午後の記者会見で「秋の臨時国会で安全保障分野の最優先課題として取り組み、必ず成立させたい」と強調した。 URL http //flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM PG=STORY NGID=poli NWID=2006060701003610 0528 自民・中川氏 防衛政策見直し、次期政権の課題と認識 [毎日] 自民党の中川秀直政調会長は28日、鹿児島市内の会合であいさつし、「中期防衛力整備計画も防衛計画大綱も『ポスト小泉』時代に検討を進める」と指摘、防衛政策の見直しが次期政権の課題になるとの認識を示した。在日米軍再編問題については「経費の在り方を歳出・歳入一体改革の中でどうしていくか」と述べ、6月のとりまとめを目指す財政改革論議の対象にする考えを明らかにした。【谷川貴史】 毎日新聞 2006年5月28日 20時52分 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20060529k0000m010083000c.html 0526 「防衛省」昇格法案提出へ…今国会成立は困難 [読売] 政府・与党は26日、防衛庁の省昇格関連法案を今国会に提出する方針を固めた。 防衛施設庁をめぐる談合事件などで難色を示していた公明党が提出は認める方針に転換したためだ。ただ、6月18日までの会期を大幅延長しない限り成立は困難と見られる。 法案は、〈1〉防衛庁設置法を防衛省設置法に改正する〈2〉自衛隊法を改正し、自衛隊の国際平和協力活動などを本来任務に格上げする――などが主な内容だ。自民党は26日の内閣・国防部会合同会議で、法案の提出を了承した。 公明党は同日、安保政策の専門家を招き、意見交換をした。公明党の東順治国会対策委員長は記者団に「今国会は法案が提出できればいいのではないか」と語った。 (2006年5月26日23時16分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060526ia23.htm 0526 日中韓ロ米加が海上訓練、不法入国・密輸防止が狙い [朝日] 2006年05月26日00時26分 海上保安庁は27日から、中国、韓国、ロシア、米国、カナダの計5カ国の海上保安機関と、大規模な合同訓練を行う。入港に必要な書類の提出を拒んだ船を追跡するなどの想定で、日本側が各国に呼びかけた。中国・上海からロシア・ウラジオストクまでの約2000キロに及ぶ追跡訓練など東シナ海と日本海を舞台に、来月8日まで実施する。北太平洋沿岸の主要国がこれほど多く参加する訓練は初めてという。 6カ国共同訓練の追跡想定航路 この取り組みは、米国主導で中韓が不参加の大量破壊兵器の拡散防止構想「PSI」とは別に、不法入国や違法薬物などの密輸といった犯罪の防止、海上テロの抑止や制圧能力を高めることに主眼を置く。00年から4カ国で協議が始まり、カナダ、中国が順次参加し情報交換システムの開発や机上訓練を続けてきた。 昨年9月、神戸で開かれた6カ国の長官級会合で石川裕己長官が海上訓練を提案し、各国も同意した。 訓練では、米沿岸警備隊の船が大量破壊兵器の流出が懸念される国の貨物船にふんする。船の仕様や寄港地などの保安情報の提出を拒んだことから上海で入港を拒否され、ロシア方向に航行するのを、沿岸各国が自国の排他的経済水域(EEZ)で追跡し、情報交換システムでデータをやりとりする。追跡を引き継ぐ地点は各国が追跡しやすいように、各国のEEZの中間線や参加航空機の飛行可能領域を考慮して決めたという。 URL http //www.asahi.com/national/update/0525/TKY200605250345.html 0524 防衛庁に「装備本部」新設 組織改編の改正法が成立 [朝日] 2006年05月24日10時27分 防衛庁の組織を改編する同庁設置改正法などが24日の参院本会議で自民、公明、民主各党などの賛成多数で可決、成立した。98年の旧調達実施本部の背任事件を受けて分離していた契約本部と同庁内局の原価計算部を再統合し、「装備本部」を新設する。同庁は外部監査を導入してチェックするという。 また、米軍基地に関する防衛施設庁の企画立案機能を内局に移し、強化する。陸上自衛隊に中央即応集団も新設する。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0524/006.html 0520 中期防、正面装備など削減へ…米軍再編の財源確保で [読売] 政府は19日、巨額の在日米軍再編関連経費の財源を確保するため、現行の中期防衛力整備計画(2005~09年度、総額24兆2400億円)を見直し、正面装備の予算などを削減する方針を固めた。 見直しの対象は、07年度予算から3年間とするか、08年度から2年間とするかで調整している。米軍再編の最終報告の内容を実施するために近く閣議決定する際、中期防見直しに言及する方向だ。 米軍再編経費としては、在沖縄海兵隊のグアム移転費102億7000万ドル(06年度予算の換算レートで1兆1400億円)のうち、日本側負担が60億9000万ドル(6760億円)で、そのうち直接の財政支出が28億ドル(3108億円)、出資金が15億ドル(1665億円)となっている。 一方、国内の基地再編費は「地元振興策を含め1兆5000億~2兆円程度」(防衛庁幹部)として、総額で2兆円を超すとの見方がある。この場合、再編を10年程度で完了するには、年間平均2000億円以上を要する計算になる。 これらの経費について、防衛庁は、沖縄施設・区域特別行動委員会(SACO)関係経費と同様、防衛庁予算の「別枠」を設け、政府全体で財政措置を講ずるよう求めているのに対し、財務省は防衛庁予算の枠内で処理するよう主張し、対立している。 ただ、防衛庁も、中期防を見直し、正面装備などを一定程度削減することには理解を示している。 (2006年5月20日3時17分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060520i101.htm 0517 ネット流出、海自文書計3千点 有事演習計画も [朝日] 2006年05月17日06時08分 海上自衛隊の内部資料がインターネット上に流出した問題で、防衛庁は03年に行われた海自最大の実動演習「海上自衛隊演習(海演)」の作戦計画を含む大量の文書が流出していたことを確認した。総数は約3000点にのぼる。同作戦計画は事実上、朝鮮半島有事を想定したものだが、秘匿性の高い海演のシナリオが公になるのは初めて。流出文書は通信や暗号の分野にも及び、海自は共通するものも使っている米海軍と協議し、暗号については全名称を、通信については周波数の一部を変更した。 03年11月に行われた海演(10日間)には、艦艇約80隻、航空機約170機、人員約2万5000人が参加した。 その内容を周辺事態と防衛出動事態に分けて詳述した3点の資料は、九州・沖縄を管轄する海自の佐世保地方隊が、主力部隊の自衛艦隊や米海軍とともに事態に応じて実施する作戦を列挙。いずれも防衛庁が定める3段階の秘密区分のうち、3番目にあたる「秘」に指定されていたが、問題発覚後に指定を解除された。 海演のシナリオは、周辺事態で日本周辺の2カ国が、日本に対しても弾道ミサイルを発射する準備に入ったり、南西諸島の「S諸島」の領有権を主張したりするという筋書きになっている。 佐世保地方隊は、対馬海峡から九州西方にかけての海域で、警戒監視活動や船舶検査活動、邦人輸送、機雷掃海などを行う。 日本有事に移行すると、海自の主力部隊の自衛艦隊は、作戦海域に向かう空母部隊などの米海軍部隊を護衛、S諸島に陸上自衛隊の部隊を揚陸させるために艦船による海上輸送作戦を行う。また、米海軍は、朝鮮半島を中心に作戦行動を展開する一方、日本海でも海上阻止行動(MIO)などを行うとしている。 このほか流出が確認された資料には、有事の際にも使う通信や暗号に関するものが多数確認された。有事に九州の沿岸部に派遣される移動通信部隊の周波数や通信可能範囲などを図示した「秘」指定文書もあった。 一方、海上幕僚監部の調査で、佐世保基地所属の護衛艦に勤務していた隊員が資料を流出させた時期は、今年1月21日とわかった。04年から自宅のパソコンでファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を使い始め、05年から業務用データを勝手に自宅に持ち帰り私物パソコンに保存していた。 海自がネット上に秘密文書が流出しているのに気づいたのは2月16日。5日後の同21日、ようやく流出元を突き止めた。 再発防止策として、防衛庁は(1)ファイル交換ソフトの削除(2)私物パソコンからの秘密文書の削除などを定めた通達を出す一方、パソコン約5万6000台(約40億円)を購入。今年9月末までにパソコンが必要な全隊員に行き渡るようにした。 同庁は流出元の隊員を含め処分を検討中だ。 URL http //www.asahi.com/national/update/0516/TKY200605160541.html 0512 自衛隊の災害派遣、過去2番目の892件 [読売] 2005年度に自衛隊が災害派遣に出動した件数は892件で、1996年度(898件)に次いで過去2番目に多かったことが、防衛庁のまとめで分かった。 一方、派遣人員は、のべ3万4026人で、新潟県中越地震への派遣があった04年度に比べ、約12万8000人減った。 内訳をみると、急患輸送が609件(68%)で、例年通り最多。このうち、582件が九州、沖縄地方などの離島からの輸送だった。次いで、山林火災などの消火支援が147件、その他65件、捜索救難55件など。 (2006年5月12日23時23分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/national/news/20060512ic22.htm 0509 米ミサイル実験に海自イージス艦が参加 [朝日] 2006年05月09日23時24分 6月中旬から下旬にかけて米ハワイ沖で予定されている米海軍の海上配備型迎撃ミサイル「SM3」の発射試験に、海上自衛隊のイージス艦「きりしま」が初めて参加することが分かった。齋藤隆海幕長が9日の記者会見で明らかにした。 イージス艦の「SPY―1」レーダーによる標的の追尾能力と、米軍との情報連絡の方法を確認するのが目的。 海自が保有する4隻のイージス艦のうち、「こんごう」が07年度末までに迎撃ミサイルSM3と発射誘導システムを装備し、弾道ミサイル防衛(BMD)能力を備えた第1号艦として改修を終えることになっている。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0509/009.html 0506 武器輸出3原則の緩和求める 久間・自民総務会長 [朝日] 2006年05月06日12時39分 自民党の久間章生総務会長は4日、訪米中の与党の安全保障議員団のメンバーとともに記者会見し、「在日米軍なども日本でメンテナンス(整備)できるようにしたらどうか。武器輸出3原則もある程度の緩和をしなければならない」との考えを示した。武器輸出3原則は04年末にミサイル防衛(MD)に関する共同開発・生産が例外とされているが、さらなる緩和を求めた発言だ。 会見で久間氏は「日米関係をさらに深化するためには、政府対政府、軍対軍だけでなく、産業界も含めてやっていかないといけない」との認識を示した。「太平洋、在日米軍が持っている装備品、艦船、飛行機を米国まで運んで修理するとコストがかかる」と、日本国内で修理・整備をする必要性を強調。「それをするためには、武器輸出3原則も今までみたいにかたくなにやっていたら、部品の取り換えをやった時に部品を米国に持って帰ることができず、意味がない。ある程度の緩和はしなければならない」と述べた。 米国防総省当局者らと与党議員団との一連の会談で、こうした考えを米側に伝えたという。 久間氏はまた、「武器の交換や部品の交換、メンテナンスをする時に即時に情報の交換をしなければならない」とも指摘。日本政府として、米軍の軍事情報に関する包括的な秘密保全協定の検討に入ったことも明らかにした。米国は約60カ国と同協定を結んでいるが、日本は個別案件ごとに協定を結んでおり、一般的協定がないという。 武器輸出3原則を巡っては、日本経団連が04年に見直しを提言。政府は同年末の官房長官談話で、ミサイル防衛の共同開発・生産を武器輸出3原則の例外と位置付け、緩和に踏み切った。元防衛庁長官で自民党国防族の久間氏が、与党議員団を代表して緩和を求めたことで、論議を呼びそうだ。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0506/001.html 0505 麻生外相:NATOで閣僚初の演説 対テロ協力を強調 [毎日] 【ブリュッセル福原直樹】麻生太郎外相は4日午後(日本時間同日夜)、北大西洋条約機構(NATO)本部で日本の閣僚として初めて演説し、今後、テロ対策などで日本とNATOが協力を深めていくべきだと強調した。日本政府高官によると、将来、自衛官をNATOの幹部養成機関に留学させるなどの人的交流も考えているという。 演説で外相は、北朝鮮や中国・台湾問題など、アジアの安全保障状況を説明。イラクでの自衛隊活動など最近の日本の国際貢献の実績も紹介した。また、テロ対策や平和維持活動などで、憲法の枠内でNATOに協力する意向であると述べた。 毎日新聞 2006年5月5日 2時27分 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20060505k0000m010139000c.html 0430 「戦争の危険ある」過去最高 「自衛隊に良い印象」も [朝日] 2006年04月30日18時31分 自衛隊に良い印象を持っている人が84.9%に達したことが内閣府の「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」で分かった。一方、日本が戦争に巻き込まれる「危険がある」と感じている人は45%で、いずれも過去最高だった。自衛隊の国内外の活動が定着していることや、北朝鮮の核問題が決着しないことなどが国民のこうした意識につながっているようだ。 調査は2月16日から26日にかけて、20歳以上の全国3000人を対象に面接で実施、1657人が回答した(回収率55.2%)。69年からほぼ3年ごとに実施している。 自衛隊に良い印象を持っている人は、72年調査の58.9%を最低にほぼ上昇傾向が続いている。一方、悪い印象を持っている人は10%にとどまり、過去最低だった。 日本が戦争に巻き込まれる「危険がある」と感じている人は、前回調査(03年)の43.2%を1.8ポイント上回った。その理由を複数回答で聞いたところ、「国際的な緊張や対立があるから」が77.4%で最も高く、次いで「国連機能が不十分だから」が29.8%、「自衛力が不十分だから」が19.1%、「日米安保条約があるから」は17.3%だった。 また、日本の平和と安全で関心を持っていることについて10項目から複数尋ねたところ、「朝鮮半島情勢」が63.7%と最も高く、次いで「国際テロ組織の活動」が46.2%、「中国の軍事力の近代化や海洋における活動」が36.3%だった。 イラクでの自衛隊の活動については「役立っている」が66.7%で、「役立っていない」の24.1%を大きく上回った。また、弾道ミサイル防衛(BMD)システム整備については、「賛成」が56.6%、「反対」が25.2%だった。 国を守る気持ちを教育の場で取り上げる必要があるという人は65.7%で過去最高を記録、取り上げる必要はないとした人の22.1%を大きく上回った。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0430/004.html 0413 防衛庁 省昇格関連法案の骨子、与党に提示 [毎日] 防衛庁は12日、今国会への提出を目指している同庁の「省昇格関連法案」(仮称)の骨子を与党に提示した。「省」昇格とともに、国際平和協力活動を自衛隊の本来任務に格上げする自衛隊法の改正も抱き合わせで一本の法案として提出する内容。 骨子によると、防衛省に移行後も、首相や防衛庁長官の指揮監督権はそのまま継承され、文民統制(シビリアンコントロール)の基本的枠組みは維持される。 自衛隊法3条に定められている「自衛隊の任務」に、(1)周辺事態に対応して行う活動(2)国際協力の推進を通じて安全保障環境の安定化に資する活動--の二つを新たな項目として加え、本来任務と位置付ける。 テロ対策特別措置法、イラク復興特別措置法は、これまで通り自衛隊法の付則に位置付けられるが、活動そのものは本来任務と解釈する方向。来週以降、与党内の調整が本格化する見通しだ。 【田中成之、古本陽荘】 毎日新聞 2006年4月13日 3時00分 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20060413k0000m010157000c.html 0411 防衛庁天下り、前年比49人増の852人 [読売] 自衛隊法に基づき、2005年中に防衛長官の承認を受けて、防衛庁と密接な関係にある企業に再就職(天下り)した自衛隊員は前年比49人増の852人に上ることが11日、防衛庁が発表した「自衛隊員の営利企業への就職の承認に関する報告」で分かった。 本庁課長級以上の承認数は106人(前年比18人増)で、人事院が3月に発表した他省庁全体の64人を防衛庁単独で上回っている。同庁は「自衛官は、部隊の精強さを保つための若年定年制があるため」などと説明している。 また、106人について、04年度の同庁契約本部との契約高上位20社への天下りを見ると、三菱重工業8人、日本電気6人、三菱電機5人、日立製作所4人などとなっており、上位20社で42人を占めた。106人全員が「官のあっせんや仲介などによる就職」で、自発的な就職活動や知人の紹介はなかった。 官製談合事件が摘発された防衛施設庁からは、札幌防衛施設局長が設備工事会社に顧問として、また、那覇防衛施設局会計課の課長補佐が建設会社に嘱託として再就職していた。 (2006年4月11日12時29分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/national/news/20060411it03.htm 0328 自衛目的で軍事利用も可 自民、宇宙基本法案提出へ [共同] 自民党は28日、これまで非軍事目的に厳しく制限してきた日本の宇宙開発政策を転換し、自衛の範囲であれば軍事利用も可能とする「宇宙基本法案」(仮称)を議員立法の形で提出する方針を決めた。 同日開いた党宇宙開発特別委員会小委員会(委員長・河村建夫元文部科学相)で確認した。8月までに法案をまとめ、次期通常国会に提出する。 防衛庁による高解像度偵察衛星の開発・運用や、弾道ミサイルの発射を検知する衛星の開発も可能になる。民間の参入により、宇宙の産業化促進も目指す。 宇宙の平和利用原則は国会が1969年に決議。当時の科学技術庁長官がこれを「非軍事を指す」と国会答弁し、宇宙開発事業団法にも盛り込まれて定着した。 URL http //flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM PG=STORY NGID=soci NWID=2006032801000368 0327 中台軍事力「中国に有利」 防衛研究所の概観 [朝日] 2006年03月27日22時50分 防衛庁防衛研究所は27日、中国や朝鮮半島など東アジアの軍事情勢を分析した06年版「東アジア戦略概観」を発表した。中国と台湾との軍事バランスについて、昨年は「不透明になりつつある」と表現していたが、中国の軍事力増強をうけ「中国側に有利に傾きつつある」と踏み込んだ。 台湾をにらんだ中国軍の動向について「概観」では(1)独立の動きを阻止するため、核・ミサイル戦力や海空戦力の近代化を継続(2)武力による統一を念頭に各種訓練を実施、と分析している。 一方、北朝鮮が昨年2月に核兵器保有宣言をしたことを挙げて「米国への牽制(けんせい)を続けている」と指摘。「大量破壊兵器や弾道ミサイルの保有は東アジアの大きな脅威」との懸念を示した。 日米両政府が協議中の在日米軍再編では、こうした中国や北朝鮮の情勢などを踏まえ「兵力削減と抑止・緊急対処力維持という矛盾した要求を満たしていかなければならない」と記した。 URL http //www.asahi.com/international/update/0327/010.html 0327 陸海空3自衛隊の運用一元化、新統合体制スタート [読売] 陸海空3自衛隊でこれまで各自衛隊ごとに行われていた運用を一元化し、自衛隊の効果的な運用を図る、新しい統合運用体制が27日、スタートした。 防衛長官を一元的に補佐する新設ポストの統合幕僚長には、先崎(まっさき)一・前統合幕僚会議議長(61)が就任した。 移行に伴い、従来の統合幕僚会議が廃止され、500人体制の統合幕僚監部を新設した。 (2006年3月27日23時1分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/national/news/20060327ic24.htm 0322 自衛隊の統合運用 命令一下の戦闘をめざすのか [赤旗] 自衛隊は二十七日から、陸海空三自衛隊の指揮・命令を一本化する新しい統合運用体制に移行します。 自衛隊は米軍と同じ常設統合軍に変わり、防衛庁長官の指揮を受けて新設の統合幕僚長が、三自衛隊、二十五万人の巨大な実力部隊を動かすことになります。指揮形態が米軍と同じになることで、日米軍事一体化の強化と海外で戦争する軍事体制づくりが大きく進むことになります。それはまた、「制服組」の政治介入を生む危険と隣り合わせです。 「制服組」主導の危険 自衛隊は、どのレベルであれ、一人の指揮官が陸海空部隊を指揮する常設統合軍になります。指揮体系が米軍と同じになることは共同作戦を効果的に進めるテコになります。 米軍は、一人の指揮官が陸海空などでつくる統合部隊を指揮し、たたかいます。多国籍軍をつくる場合も、同盟国軍が一人の指揮官によって指揮されるのを前提にしています。 統合運用体制移行の背景には、海外の戦場で自衛隊が米軍作戦を分担し、戦闘部隊としての役割を果たさせるというブッシュ政権のねらいがあります。陸海空三自衛隊の各幕僚長がそれぞれ個別に部隊を動かす現行体制では迅速な共同作戦が難しいとして、統合運用体制への移行を求めてきたのです。 小泉政権は、「防衛計画の大綱」(二〇〇四年十二月)で、イラク戦争のようなアメリカの先制攻撃戦争参加を中核とする「国際平和協力活動」を安全保障政策の柱にしました。それはイラクで行っているような輸送などの後方支援に限定されるものではなく、武力行使を想定にふくんでいるのはいうまでもありません。 統合運用体制は、憲法九条改悪を見越して、海外で武力行使を効果的に実施するためのものであり、到底認めることはできません。 統合幕僚長の権限強化による「制服組」の発言力増大も心配です。 統合運用体制は自衛隊創設時から問題になってきました。しかし、政府は、「昔のような弊害を再び繰り返させてはいかん」(一九五四年五月三十一日 参議院内閣委員会 木村保安庁長官、七月から防衛庁長官)として拒否してきました。 自衛隊創設のさい、軍部横行の再来を許さないために、防衛庁設置法で、「官房長及び局長」が自衛隊のすべてについて防衛庁長官を補佐すると明記もしました(一六条)。 このしくみを実質的に変えるのが統合運用です。内局と統合幕僚長の防衛庁長官補佐権限を対等な形にするだけでなく、内局の権限を弱め、相対的に統合幕僚長の権限が大きくなるようにしています。 二〇〇二年までの防衛白書で明記していた「基本的方針の作成について長官を補佐する防衛参事官が置かれている」の表記を〇三年から削除しました。内局の自衛隊統制のかなめである防衛参事官(官房長と局長などから構成)も十人から八人に減らしました。軍事優先政治の危険を軽く考えるわけにはいきません。 過去の教訓をふみつけにし、海外での戦争推進のテコとなる統合運用体制は憲法九条とは相いれません。 歯止めは憲法九条 アジアと世界では、紛争を戦争ではなく話し合いで解決する流れが本流となっています。アメリカ政府も、イラク戦争の失敗にこりて外交重視を示すようにもなっています。 小泉政権の平和と進歩への異常な逆流を許すわけにいきません。 憲法九条を守り抜くことがいよいよ重要になってきています。 URL http //www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-03-22/2006032202_01_0.html 0317 自衛隊、懲戒の9割を匿名発表…逮捕・免職者も [読売] 防衛庁や各地の自衛隊が今年2月末までの約半年間に自衛官らの懲戒処分を発表した際、9割近くのケースで氏名を伏せていたことが分かった。 内部でも本人が特定されないよう、年齢や階級すら明かさない例も目立つ。防衛庁は「処分公表は個人が特定されない形が原則」としているが、逮捕や懲戒免職でさえ匿名発表があり、重要な職責を担う組織としての姿勢が問われそうだ。 防衛庁によると、昨年8月15日から今年2月末までに、自衛隊法に基づいて懲戒処分を受け、公表されたのは、陸海空各自衛隊の自衛官453人、事務官28人の計481人。421人は匿名で、実名は自衛官55人、事務官5人だけだった。実名の大半は、警察の逮捕時などに既に氏名が発表されていたケースとみられる。 陸自郡山駐屯地(福島県郡山市)で、事務室から63万円の入った金庫を盗んだ3等陸曹(25)が、昨年12月に懲戒免職になった際は、内部の警務隊が逮捕していたのに氏名、経歴を伏せた。酒気帯び、無免許運転などによる停職処分でも年齢が伏せられた。 今月になっても、女子学生へのセクハラ行為で懲戒免職にした防衛大学校助教授(37)のケースでは、「被害者が特定されないため」として、助教授の略歴を明かさず当初は年齢も伏せたが、被害者には処分すら伝えていなかった。痴漢行為で逮捕された防衛庁技術研究本部の陸自幹部(43)の停職処分でも、通常公表する階級を「佐官級」とした。 こうした発表方式は、昨年8月の防衛次官通達に基づくもので、職務関連のすべての処分と私的行為でも降任や停職以上は、発表するよう求める一方、「個人が識別されない内容を基本とする」としている。だが、通達でも、ベースとなった人事院指針でも、不祥事の内容や被処分者の職責によっては、個別に判断して実名発表が可能だ。防衛庁広報課では「内外に個人が識別されないことが原則で、公表内容は適切」としている。 ジャーナリストの櫻井よしこさんは「政治家や公務員は、国民の信頼を裏切った場合は顔を出して責任を取るべきで、匿名にすることが不祥事や失敗がなくならない一因ではないか。自衛隊は普段、安全保障や防災に努力しているのに、氏名も年齢も出さないのでは信頼を失う」と話している。 (2006年3月17日3時2分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/national/news/20060317it01.htm 0317 初代統幕長に先崎氏 3月27日付 [共同] 額賀福志郎防衛庁長官は17日午前の閣議で、新設した統合幕僚監部の初代幕僚長に先崎一統合幕僚会議議長(陸将)を充てるなど自衛隊の将官人事を報告、了承された。発令は27日付。 URL http //flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM PG=STORY NGID=poli NWID=2006031701000315 0220 米の最新鋭戦闘機F22「日本への輸出有力」 専門紙 [朝日] 2006年02月20日06時18分 米空軍の最新鋭戦闘機F22ラプターを日本へ輸出する案が空軍内部で検討され、有力になりつつあると、空軍関係専門紙が18日までに伝えた。機密性の極めて高い先端軍事技術が多用された軍用機で、これまで他国と共有することには否定的だったが、日米同盟関係の緊密さを優先させる判断に基づく方針転換とみられる。ただし、巨額のコストなど課題は多く、日本側が受け入れるかどうかを含めて今後の曲折が予想される。 軍事産業業界のニュースレター「インサイド・ジ・エアフォース」の最新号によると、主製造社のロッキード・マーティン幹部が対日輸出について「まだ最高レベルの検討には及んでいないが、そこへ向かいつつある」と述べたという。 同紙によると、日本の防衛当局者もF4戦闘機の後継としてF22に関心を持っており、同社や空軍と協議したことを認めた。年内に米国へ航空自衛隊の調査担当者を派遣する方針も示したという。 F22は、レーダーに捕捉されにくいステルス性と超高速巡航能力を兼ね備えた高性能戦闘機として90年代から開発されてきたが、冷戦の終了で計画が縮小され、現時点では合計約180機調達が予定されている。昨年12月に初めてバージニア州ラングレー空軍基地に実戦配備されたばかり。 同紙によると、1機の調達価格は約1億3000万ドル(152億円)で、同社幹部は日本側にもほぼ同様の価格を提示しているという。 URL http //www.asahi.com/international/update/0220/001.html 日米共同訓練中止求め1200人行進/奈義 [赤旗] 2006年02月12日 陸上自衛隊日本原演習場(奈義町、津山市)での日米共同訓練に反対する「2・11日米共同訓練反対日本原集会」(連合岡山などでつくる実行委員会主催)が11日、奈義町豊沢の広場であった。労組員ら約1200人(主催者発表)が参加し、「訓練の中止を求める決議」などをしたあと、陸自日本原駐屯地まで約3キロをデモ行進した。 集会で連合岡山の森本栄会長らが「いつか来た戦争への道を許さないため、自信と誇りを持って訓練に反対しよう」などと訴えた。参加者は中国地方各県からバス計27台で駆けつけた。 今回の日米共同訓練は、米軍250人、陸自350人が参加し、あいば野(滋賀県)と日本原の両演習場で19日から3月3日まであり、日本原へは20日に参加部隊が来るという。 URL http //mytown.asahi.com/okayama/news.php?k_id=34000000602130005 「防衛省」見送りの公算大 官製談合で与党に冷めた声 [朝日] 2006年02月13日13時54分 小泉首相は13日昼、防衛庁を「省」に昇格させる法案について「自民、公明の協議の状況を見守っていきたい。急ぐ話じゃないし、ゆっくりと協議していただければ」と記者団に述べ、今国会での法案提出にはこだわらない姿勢を示した。自公両党の幹部からも提出に慎重な発言が相次いでおり、防衛施設庁の官製談合事件が発覚したなか、法案は見送られる公算が大きくなった。 この問題では、自民党の武部勤幹事長が12日のNHKの番組で「出せばいいというものでもない。国会の状況を見ながら考えていく必要がある」と見送りもあり得るとの考えを示し、公明党の冬柴鉄三幹事長も同じ番組で「(防衛施設庁の事件が)燃えさかっているなかで冷静な議論が出来ない」と語った。 安倍官房長官も13日午前の記者会見で「与党で方針が一致すれば、政府としてはその方針を踏まえて対処していく」と述べ、与党次第との考えを示した。 防衛省設置法案は政府・与党が今国会での提出・成立を目指してきたが、防衛施設庁の事件発覚で情勢が変化。世論の批判が集まるなかで、「焼け太り」につながる省昇格の論議はできないとして反対論が急速に強まった。防衛庁長官経験者の一人は13日、「この法案は出すことに意味があるが、一国会でやるのは無理だ」と述べ、提出の可能性はなお残されているものの、成立までこぎつけるのは難しいとの考えを示した。 法案に慎重姿勢だった公明党は、昨年末に執行部が前向きに転じて党内論議を始めていたが、党幹部からは「もう無理ではないか」という声も上がっている。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0213/002.html 武部幹事長 防衛「省」法案の提出に慎重発言 [毎日] 自民党の武部勤幹事長は12日のNHKの討論番組で、防衛庁の「省」昇格法案について「出せばいいというものでもない。出した以上、成立を期さなくちゃいけない。党内の論議や国会の状況を見ながら考えていく必要がある」と述べ、今国会提出について慎重に判断する考えを示した。 公明党の冬柴鉄三幹事長も同番組で、防衛施設庁の官製談合事件を踏まえ「この問題が燃えさかっている中で冷静な議論はできない」と指摘し、当面は党内議論を見送る考えを示した。 これに関連し、自民党幹部は「今国会提出方針は変わらないが国会は生き物だ。事件の推移を見ないといけない」と語った。【田中成之】 毎日新聞 2006年2月13日 11時29分 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20060213k0000e010061000c.html 防衛庁設置法 閣議で改正案決定、国会提出へ [毎日] 政府は6日の閣議で、在日米軍再編を担当する防衛施設課の新設など、防衛庁の組織改編のための防衛庁設置法改正案を決定、7日国会に提出する。今夏、実施の方針。 米軍施設に関する事務は防衛施設庁の担当だが、在日米軍再編では、防衛政策に直結する案件が多いため、防衛庁防衛局に防衛施設課を設け、対応する。また、装備品の開発から廃棄までの一連の流れを効率的に管理するため、調達担当の契約本部と内局の原価計算部を統合し、装備本部を新設。新たに監査担当審議官や外部の監査法人による検査を導入する。 全国に50カ所ある自衛官募集のための地方連絡部は、災害対策などで地方自治体との渉外業務や広報などの業務を新たに付与し、地方協力本部として衣替えする。また陸上自衛隊に、ゲリラなどに備える長官直轄の中央即応集団を新設する。【古本陽荘】 毎日新聞 2006年2月6日 23時23分 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/seiji/kokkai/news/20060207k0000m010146000c.html 米国防計画見直し 日本の戦争動員は既定事実か [赤旗] 米国防総省は、「四年ごとの国防計画見直し」(QDR)報告を公表しました。ブッシュ政権がすすめている地球的規模での米軍事態勢の見直し計画を具体化するものです。 米軍の統合化とともに同盟国の戦争動員をめざしており、先制攻撃戦争の態勢づくりを進展させます。米軍事戦略に組み込む形で進んでいる日米軍事一体化も加速されます。 ■「日本防衛」と無縁 QDRは、「長期戦争のための同盟能力の強化」を強調し、「日本、オーストラリア、韓国などとの同盟が太平洋地域での関与と共通の安全保障上の脅威に対処する協力行動を促進」「世界全体の軍事と安全保障の負担分担」とのべています。日本にアジア太平洋と世界での軍事責任を分担させようというのです。日米同盟を地球的規模に変質させることを許すわけにはいきません。 日本政府は、日米安保条約を、「純粋に防衛的な安全保障の条約」(外務省「新しい日米間の相互協力・安全保障条約」)と説明してきました。自衛隊について、「わが国を防衛するための必要最小限の実力組織であるから憲法に違反するものではない」(八〇年政府答弁書)ともいってきました。QDRの指摘は、政府見解でも認められないことです。 QDRは、イラク戦争で非人道的活動をしている特殊作戦部隊を増員、海兵隊の特殊作戦機能の強化、無人偵察機中隊の創設を明記しています。これらは、先制攻撃戦争に備えた装備の強化、配置の変更です。 小泉政権は、日米軍事一体化を進め、QDRの内容を先取り的に具体化しています。先月、陸上自衛隊は、米国西海岸で米海兵隊から強襲上陸のやり方の手ほどきを初めて受けました。額賀防衛庁長官は、無人偵察機を〇七年度に導入することをあきらかにしました。 QDRは中国について、「軍事的に競争する最大の潜在力をもつ」と指摘しつつ、米国の目標は、「責任ある利害関係者になること」だとしています。小泉政権は、〇四年十二月の「防衛計画の大綱」で軍事力の「近代化」をあげて中国の「動向には今後も注目していく」とのべて、事実上の仮想敵にしています。麻生外相も「中国は軍事脅威になりつつある」とのべました。 小泉政権が世界でも突出した異常な従属内閣であることは明白です。 QDRは、太平洋地域に展開する空母を「少なくとも六隻」とし、約七十隻ある潜水艦のうち60%を太平洋地域にまわすこともあきらかにしました。横須賀を恒久的な空母母港とし、通常型空母を原子力空母に変えることを当然視しています。佐世保基地の空母利用をふくめて日本は二隻の空母の拠点になる可能性があります。横須賀、佐世保、ホワイトビーチへの原潜寄港が激増するのは必至です。 QDRの同盟関係強化計画は、日本の「平和と安全」どころか、世界とアジアの平和を脅かす震源地に変えるものです。国民にとって絶対認められるものではありません。 ■平和の流れ大きく アメリカの先制攻撃戦略は、世界の平和と安全を脅かす不当不法な軍事方針です。そのための地球的規模の米軍事態勢見直しに反対するのは当然です。この中核ともいえる在日米軍再編に反対することは、アジアと世界の平和を守る重要な大義をもちます。 アメリカの危険な軍事戦略に反対するとともに、日本国内で米軍再編に反対する運動を広げることがいよいよ大切になっています。 URL http //www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-02-06/2006020602_01_0.html ゴラン高原PKO、6か月間延長…閣議で決定 [読売] 政府は27日の閣議で、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づき、中東・ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に参加している自衛隊の活動期限を、3月31日から9月30日まで6か月間延長することを決めた。 (2006年1月27日13時43分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060127ia03.htm 防衛庁「省」昇格後、施設庁を統合…政府・与党検討 [読売] 政府・与党は26日、今国会で防衛庁の「省」昇格が実現した場合は、「防衛省」を外局の防衛施設庁と統合する方向で検討を開始した。 早ければ2007年度予算案に組織改編費を計上し、来年の通常国会に関連法案を提出する。 自民党の久間総務会長は26日、「(米軍や自衛隊の)施設整備は、(組織を)一つにまとめた方がノウハウが統一されていい」と統合に前向きな見解を示した。公明党内に、「省」昇格の際には両庁の統合を求める意見があることにも配慮したものだ。 (2006年1月27日3時33分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060127ia01.htm 宇宙の「防衛目的」利用を提言へ 自民特別委 [朝日] 2006年01月25日17時53分 防衛目的の宇宙開発を厳しく制限してきた国の「宇宙平和利用原則」について、自民党の宇宙開発特別委員会は、政府解釈の見直しを求めることを決めた。宇宙の平和利用を「非軍事目的」と解釈してきた政府に対し、非攻撃的な防衛目的の利用は容認するよう求める。3月に中間報告をまとめ、8月に政府へ提言することを目指すという。実現すれば、69年以来の大きな転換となる。 宇宙平和利用原則は69年に国会決議され、政府は「非軍事目的」とする解釈を示した。85年には、自衛隊が衛星を利用する場合でも、民生分野で「一般化」した技術に限定するとの政府見解をまとめた。98年の北朝鮮による弾道ミサイル発射をきっかけに政府が開発した情報収集衛星の解析度も、1メートル四方と、民間衛星の水準にあわせた。 自民党政務調査会の宇宙開発特別委員会は「日本の解釈は国際的に特異」として、非攻撃的な防衛目的の利用は認めるよう働きかける方針。27日の会合から検討を始める。ただ、党内や政府内の理解は十分には深まっておらず、実現するか流動的だ。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0125/007.html ヤマハ発動機 無人ヘリ、防衛庁にも納入 軍事転用を認識 [毎日] 「ヤマハ発動機」(静岡県磐田市)が昨年、軍事転用可能な無人ヘリコプターを中国に不正輸出しようとした外国為替法違反事件で、同型ヘリが04年以降、防衛庁に納入され、陸上自衛隊が駐留するイラク南部・サマワに配備されていることが分かった。福岡、静岡両県警の合同捜査本部は、同社が軍事分野への転用が可能と認識していたとみて、防衛庁との取り引きの経緯を調べる。 ヤマハ発動機は「会社として法令に違反しているという認識はなかった」と釈明し、社内基準においても軍事転用の恐れはないとしている。 ところが、同型のヘリは4機が04年9月から防衛庁に納入され、サマワの宿営地周辺で利用されている。防衛庁は空中監視用として発注しており、サマワでは周囲を監視するためのUAV(無人航空機)として使われている。 UAVに最新のセンサー類を搭載すれば、従来以上に詳細な情報分析ができるうえ、パトロール中に事故に遭う危険性も減る。サマワでは、武装勢力による攻撃の兆候を早期につかむなど、宿営地の安全確保に役立っているという。 ヘリ納入について防衛庁関係者は「暗視カメラなどを取り付ければ、軍事用に転換可能なのは明らかだ」と指摘する。経産省安全保障貿易管理課も「過去の輸出の経緯などからも、ヤマハが知らなかったというのはありえない」と話している。 毎日新聞 2006年1月25日 3時00分 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20060125k0000m040160000c.html 防衛庁のミサイル研究データ、総連系企業に流出 [読売] 防衛庁は24日、ミサイルシステムの研究開発データの一部が、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の傘下団体「在日本朝鮮人科学技術協会」(科協)の幹部だった男性が社長を務めるソフトウエア会社に流出していたと発表した。 警視庁公安部が昨年10月、薬事法違反容疑で男性の関係先として同社を捜索した際、自衛隊法上の「秘」に相当するデータが含まれた資料が見つかり、連絡を受けた防衛庁が調査していた。データ流出によって、ミサイルの運用に直接的な影響はないという。 男性の関係先から見つかったデータは、「03式中距離地対空誘導弾システム」(中SAM)に関連する研究開発データの一部。 防衛庁などによると、この研究開発は1993~95年、将来配備予定の地対空ミサイルに関して三菱電機に委託されたもの。三菱電機は同研究に絡み、社内報告書の作成を三菱総合研究所に委託。三菱総研はさらに、男性が社長を務める東京・豊島区のソフトウエア会社に、報告書作成関連業務の一部を委託していた。 報告書には、敵の戦闘機を撃ち落とせる距離など、ミサイルの性能に関するデータが記載された図表があり、図表と同一の内容のデータが記載された資料が、男性の会社から見つかった。防衛庁は、同社に業務の一部が委託されていたことは知らなかったという。 (2006年1月24日14時49分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/national/news/20060124i105.htm 中国への武器輸出、露に透明性求める…額賀防衛長官 [読売] 【モスクワ=今井隆】額賀防衛長官は13日午前(日本時間同日夕)、ロシアのセルゲイ・イワノフ国防相と国防省で会談し、ロシアから中国への武器輸出について「透明性を確保し、地域の安全保障バランスに配慮してほしい」と慎重に対応するよう要請した。 国防相は「国益と国際法にのっとって実施している」と述べるにとどめた。 額賀長官は、中国の軍事力の透明性が欠如しているとの認識を示した上で、中露が昨年8月に実施した大規模な合同軍事演習について、「演習内容の透明性を確保してほしい」とも伝えた。 (2006年1月13日22時38分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060113ia23.htm 無人偵察機、日本に導入へ 北朝鮮動向などに備え [朝日] 2006年01月12日11時00分 英国訪問中の額賀防衛庁長官は11日夜(日本時間12日朝)、同行記者団に対し、早ければ07年度に米国製の無人偵察機(UAV)を導入する方針を示すとともに、機種はプレデターかグローバルホークを検討していることを明らかにした。北朝鮮による弾道ミサイル発射や、外国からの離島侵攻があった場合、いち早く情報を把握するためだとしている。 無人偵察機導入には、北朝鮮や中国などの画像情報を収集する狙いがあると見られる。両機種は米軍がイラク戦争で投入し、プレデターはミサイルを搭載してイラク軍を攻撃したが、日本政府は専守防衛との整合性から「攻撃能力は持たせない」(防衛庁幹部)という。 飛行できる高さはプレデターが中高度(最大約15キロメートル)、グローバルホークは高高度(同約18キロメートル)。プレデターは全天候に対応でき、グローバルホークはより広域で監視できるなどの利点がある。1機あたりの費用はプレデターが約14億~18億円、グローバルホークが約64億円の見通し。 機種選定のため、防衛庁は3月に担当課長を米国に派遣するほか、プレデター5機を運用するイタリアや、グローバルホークの改良型5機を使っているドイツにも派遣する。 無人偵察機による情報収集は、日米両政府が昨年10月に合意した在日米軍再編中間報告で協力を強化する分野で挙げていた。防衛庁はミサイル防衛(MD)システムで無人偵察機を活用し、海上配備型迎撃ミサイルを搭載したイージス艦に弾道ミサイルの発射情報を伝え、迎撃能力を高めることも検討している。 同庁は03年度から無人偵察機の国産化の研究開発を進めていたが、「約20年かかる」(防衛庁幹部)とされ、配備を急ぐため米国製を導入する。国産化は断念する方向だ。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0112/006.html 在日米軍再編:防衛人事「沖縄シフト」最終調整が本格化 [毎日] 日米外務・防衛審議官級協議が11、12日、額賀福志郎防衛庁長官とラムズフェルド国防長官による日米防衛首脳会談が17日にともにワシントンで開かれ、3月に予定される在日米軍再編の最終報告へ向けた調整が本格化する。ただ、普天間飛行場の移設先として昨年10月の中間報告に盛り込まれたキャンプ・シュワブ沿岸案に対する沖縄県や地元・名護市の反発は強く、防衛庁は地元自治体や在沖縄海兵隊との調整を進めるため、1月下旬の人事で「沖縄シフト」を強化する。 審議官級協議には日本側から外務省の梅本和義北米局参事官、防衛庁の山内千里防衛局次長、米側からはローレス国防副次官らが出席。防衛首脳会談では、中間報告に盛り込んだ再編案の実現へ向け双方が努力することを確認する。 額賀長官は22日の名護市長選後、審議官級協議の担当者を約2年半にわたり務めた山内氏を那覇防衛施設局長に充てるなどの人事を発令する方針。中間報告ではシュワブ沿岸案の詳細が固まっていないほか、沖縄海兵隊7000人削減や沖縄本島南部の基地返還など、沖縄関連であいまいな部分が多く残されており、地元の自治体や米軍と調整する態勢の強化が必要と判断した。【古本陽荘】 毎日新聞 2006年1月10日 3時00分 URL http //www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20060110k0000m010119000c.html 離島防衛、日米で訓練 9日から南西諸島重視 [朝日] 2006年01月07日20時10分 陸上自衛隊は9日から27日まで、離島侵攻を想定した米海兵隊との初めての共同訓練を米カリフォルニア州の演習場などで実施する。島国である日本の地理的特性から、04年末に閣議決定された新防衛大綱で「島嶼(とうしょ)部に対する侵略への対応が防衛力の新たな役割」と位置づけられており、新大綱に沿った訓練が具体化されることになった。 04年11月に先島諸島周辺の領海で原子力潜水艦が潜没航行するなど中国が日本近海で活動を活発化させており、今回の訓練は南西諸島を念頭に日米のプレゼンスを示す狙いがあるとみられる。 参加するのは陸自西部方面普通科連隊(長崎県佐世保市)の一個中隊(125人)。同連隊は離島へのゲリラ攻撃に備えるため02年に編成された専門部隊だ。米側からは、海兵隊第1海兵遠征軍が参加。「武装ゲリラや敵の特殊部隊が離島を占拠するおそれが出てきた」との想定で実施する。 九州・沖縄を管轄する陸自西部方面隊(熊本市)の管内には離島が極めて多いが、離島に配置されている陸自の部隊は、沖縄本島の第1混成団と対馬の対馬警備隊だけだ。制服組幹部は「広範囲に島が点在している南西諸島は『攻めやすく、守りにくい』だけに対応が困難なのが実情だ」と打ち明ける。 一方、これとは別に、1月下旬から約10日間、西部方面隊と米陸軍第1軍団(ワシントン州)などが、健軍駐屯地(熊本市)でコンピューターによる戦闘シミュレーションを使った「日米共同方面隊指揮所演習」も実施する。 URL http //www.asahi.com/politics/update/0107/009.html 宇宙の防衛利用解禁へ、自民が夏にも政府に提言 [読売] 政府による防衛目的の宇宙利用を厳しく制限してきた「平和利用」の原則について、自民党が今夏までに見直す方針を決めた。 従来の「非軍事」という解釈から、攻撃的でない技術の軍事利用は認めている世界の潮流に合わせた解釈へ変更を図る。実現すれば、高解像度の偵察衛星打ち上げなどが可能になり、欧米に比べて劣勢だった宇宙産業に新たな需要を呼び込むのも確実。日本の宇宙開発は、歴史的な転換点を迎える。 宇宙開発を「平和目的の利用に限る」という原則は1969年、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)の設置法と、同法制定時の国会決議に盛り込まれた。その際、政府が「非軍事」との解釈を示した。このため、自衛隊は自前で衛星を開発できず、通信など広く一般に利用されている衛星技術しか使えない。 テロの拡大など国際情勢が複雑化する中、毎年膨大な予算を投じて開発している宇宙技術を国民の安全確保に生かす必要性が高まり、政府解釈の見直しが避けられない課題となってきた。同党政務調査会の宇宙開発特別委員会は今月から、河村建夫・元文部科学相を中心とする小委員会で、平和利用の問題について集中審議。今夏には政調として政府へ提言する方針だ。 「平和利用」の定義を世界の潮流に合わせた場合、民間より解像度の高い偵察衛星のほか、弾道ミサイルの発射を検知する早期警戒衛星などを、自衛隊が開発・利用できるようになるとみられる。 (2006年1月6日3時6分 読売新聞) URL http //www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060106i101.htm ●自衛隊・防衛05 から続く
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以前、高速コンテナ船にスキージャンプ台を取り付けて簡易軽空母に改造するキットを売り出したという妙な企業の記事を読んだことがあるのですが、こんな話は本当にあったことなのでしょうか? コルト社が銃器の製造中止していると言うのはホント? 日本で周波数拡散レーダーを使った兵器の開発やXAAM-5の開発に携わるいわゆる軍事産業に就くためには学歴があればなんとかなるもんなのでしょうか? 護衛艦や潜水艦、戦闘機を作ってるメーカーって割と有名だけど、魚雷や機雷、ミサイルってどんなメーカーで作ってるの? 戦闘機の契約の記事でよく見かけるオフセット○○パーセントとはなんの事ですか? オフセットとはどういう意味ですか? デザイナーは兵器開発する人の中にも居るんでしょうか? 軍事産業が世界の産業全体の牽引役になっているということは間違いでしょうか? ソ連崩壊後、ミグ、ヤコブレフ、スホーイなどの航空機開発機関はどうなったんですか?政府から離れて、民営化されているのですか? 以前に防衛庁出入りの武器商人から聞いたのですが、チョバムアーマーというのは登録商標だって本当ですか? 警察のニューナンブって日本の会社が作ってるんですか? オフセット契約ってなんですか? ショートサンダーランドという航空機、または航空機メーカーについて詳しく教えて! ライセンス生産ってなんですか? 国、相手の商売(軍需)は儲かるんですか? 震電を作った九州とか、ゼロ戦作ってた中島とか、本当に無くなってしまったのですか? マクドネルダグラスとグラマンはどこに編入されたんですか? トンプソンの製造メーカーって何処なんでしょう。 陸自のMLRSって何処がライセンス生産を担当してるんですか? ヘリコプター作ってるシコルスキーって、ロシアの名前だと思うんだけどなんでアメリカで西側諸国むけにヘリ作ってるの? 航空機のエンジンについて質問なんですが国産のエンジンはあるのですか? 日本が兵器をライセンス生産するのは、技術力をつけるためなんですか。 防衛産業に従事したいのですが、どんな仕事がありますか? メッサーシュミット・ブローム・ベルコウ社の社名の「ブロームベルコウ」ってなんなんですか? 「軍事研究」の裏表紙に、ミサイルの広告が載っていましたが、あれは誰向けの物なのでしょうか。 ノックダウンってなんですか!? 今の日本で兵器の開発に直接携わっているエンジニアって何人くらいいるんですか? 外国の戦車をライセンス生産するとしたら、どこら辺まで面倒を見てもらえるものなのでしょうか? 軽装甲機動車のエンジンと車体はどこが製作してるのですか? 自衛隊に兵器が納入される月日を、兵器作ってる会社に電話すれば教えてくれますか? 電器メーカーの「松下」は軍需関連の仕事をしたことあるんですか? プロペラメーカーのラチエやエアロプロダクツ、ハミルトンスタンダード戦後のジェット時代にどうなっちゃったんでしょうか? 砲メーカーOTTメララ→OTTブレダになった経緯をどなたか簡単に教えていただけないでしょうか? 武器会社から民間人や民間組織が軍用兵器を購入することは可能なのでしょうか? 軍用機の歴史を調べると、多くのメーカーに競作させてうち一種を採用する事が多いですが、試作機の開発費用は軍が出しているのでしょうか? 豊和工業のHPには銃の話が載っていませんが、 自衛隊の銃を作っている豊和は別のとこなんでしょうか? ヘンシェル社やMANってもともとは何の会社なのですか? アメリカのレイセオンとはどのようなメーカーなんですか? ユーロファイターを作ってる会社は、エアバスみたいにいろんな会社の集合体なんですか? 契約のあとにいろいろゴタゴタがあった兵器輸出の例はないのですか? アメリカの軍需産業にはユダヤ系が多いと聞いたのですが本当ですか? コルセアはなぜ「シコルスキー」と呼ばれていたのですか? ドイツのBMWってどんな意味の略名なんでしょうか? 兵器を輸出するあるいはライセンス生産を認める場合、その兵器が完全に純国産だったら良いですが、 米軍は民間企業に武器の開発を依頼してたりするんですけどこれってホントなんですか? 「Kak」ってなんですか 元々は全く別の事業をしていた会社が兵器産業に乗り出すと言う事は良くあるのでしょうか? グラマンは今どうなった? 三菱重工が兵器作ってるって聞いたんですが、どこで何を作ってるんですか? ボーイングとかロッキードマーチンって会社名だよね? ロシアではモンキーモデルの輸出は止めたのでしょうか? GEって軍事兵器も作ってんの? トマホークや精密誘導爆弾に日本製部品が使われてるって聞いたんですが、どの会社のものか分かりますか? 日本の重工系企業がどーしてアメリカの軍事産業だしぬけないのか 「軍需産業からの圧力」が、国家が軍事行動に踏み切る理由たりえないと主張する軍事板住人の意見を拝聴したい イスパノとイスパノイザって関係があるんでしょうか? アメリカの軍事産業って日本人のエンジニアとかっているのですか? 兵器を自国で開発生産するメリットは何ですか? 日本の兵器産業は最先端の研究とかやってるんでしょうか。 戦車等の生産に携わる仕事に就きたいのですがどのような勉強が必要でしょうか。 銃のメーカーのH&K社についてなんですが、正式にはヘッケラー&コックなんですか? スパス散弾銃で有名なフランキ社と、単車や自動車、自転車の著名メーカーであるフランキ社は同じ会社なのでしょうか? ベアリング製造会社のミネベアは銃も製造していますがベアリング製造と銃製造って共通点があるのですか? ローズベルトが軍産複合体を作り上げたというのは本当でつか? 一昔前はソビエトの戦闘機の代名詞といったらミグだったのに、最近はスホーイばかり耳にします。どうしてこうなってしまったのでしょうか? 1944年 8月15日 軍需省が、精密兵器用にダイヤモンドの買い上げを実施 映像ドキュメンタリーなんかで第二次世界大戦の記録を見ると、ひょいひょい新型の戦車や航空機といった新兵器が開発されているような気になります 現在、純日本製の戦車や戦闘機ってあるんでしょうか? 兵器製造を目的に電子機器やエンジンを作っている日本企業があるのかな? ナチスドイツのフィーゼラーなる会社って戦後はどうなったんですか? ライセンス生産って、日本の会社で製造していても、アメリカとかにライセンス料をもってかれるのですか? 航空学部出身で防衛産業に関われる人ってどれ位いるんでしょうか? フェアチャイルドってドルニエと合併してたんですか? サーブとか三菱以外に戦闘機と自動車両方とも製造している会社を教えて下さい。 日本で軍事関連の会社はどこでしょうか? 自衛隊の軽装甲機動車ってホントにコマツで全部作ったのか 何故兵器生産は民間に委託されるんでしょうか?公営でやったほうが生産資本の充実に有利だと思いますが。 ライセンス国産って設計図買って自国で生産するであっていますか? ノックダウン生産とライセンス生産の違いを教えて下さい 陸上自衛隊の火器84mm無反動砲や機関銃はどこのメーカーが作っているのですか? 小銃や武器の製造や設計の勉強したい人は大学の何学科で学ぶのがいいの?もしくはそういう会社に就職したい場合でもいいです。 軍産複合体は儲かってないって話ホント? 軍事への支出は非生産的であり道路建設のような公共事業への支出より経済への貢献度は低いというのは事実ですか? 対テロ戦争、イラク戦争でアメリカの軍需産業の需要は増えてるという意見と減ってると言う意見があるのですが? 軍需産業は、結構特殊な分野で特別な知識等も必要なので、天下りも必要なのではないでしょうか? マクダネルダグラスの合併ってやはり軍用機の生産で儲けられなかったから? H KやFNなどの銃器メーカーが他国に銃を売る時は本社が置かれている国の許可を得ないといけないのでしょうか? MHI汎用特車に入ってMBTの開発に携わりたいのですがどうしたらいいですか? 自衛隊で使っている兵器で、設計から(が)日本企業のものというとどんなものがありますか? 海上自衛隊の装備を研究開発する仕事をしたいのですが 兵器を開発する企業は国防機密の塊みたいなものだと思うのですが国は兵器を開発する企業に対して機密漏洩などの対策を求めたりするのでしょうか? 航空機とか量産すると値段下がりますよね?その場合の値段の目安は単純に「開発費÷生産数」に企業の利益を足したものになるんですか? アメリカの軍需産業って、やたらと兵器を諸外国へ売りまくっているイメージがありますが、今現在、兵器輸出に関してはどのような制限があるのでしょうか? 「Su-47はスホイのプライベートベンチャーで開発された」なんてのを読んだのですが、「プライベートベンチャー」ってのは技術者が自腹で(資金調達して)趣味で作ったということですか? 軍需産業は、儲かればいいと敵対する二つの国の両方に兵器を売ることもしているのですか? 新規採用した新兵器の稼動データや戦績、浮上した問題点などは軍から軍需産業に逐一流しているのですか? グラマンはF-14を最後になぜ潰れたのですか? サーブとか三菱以外に戦闘機と自動車両方ともつくってる会社教えて下さい 戦闘機はよくいろんな社が競合して軍に採用されますが、採用されなかったら開発にかかった莫大な金額は泡と消えるのでしょうか 軍需産業はWW2で大もうけしたの? 以前、高速コンテナ船にスキージャンプ台を取り付けて簡易軽空母に改造するキットを売り出したという妙な企業の記事を読んだことがあるのですが、こんな話は本当にあったことなのでしょうか? ハリアーがいろいろ使えるんじゃないかと思われた頃は、そういう話がいっぱいあったぞ! (スカイフックとかな) まぁ、大抵は 「簡易モノよりモノホンが欲しい」 「モノホン買えないとこは大抵貧乏で簡易モノすら買えない」 「そもそもハリアーを買えないorz」 ってなもんで、売れなかったわけだ! (俺初質スレ430 149) コルト社が銃器の製造中止していると言うのはホント? アメリカでは銃の排斥運動だけでなく、支払能力のない犯罪者に代わって銃犯罪の責任をメーカーに押し付ける訴訟が増えています。 中には96億円支払いの判決が出た前例もあり訴訟逃れのために民間向けの製造を中止しました。 その分の穴埋めにコレクター向け製品を作っています (くだらない質問はここに書け! 38) 日本で周波数拡散レーダーを使った兵器の開発やXAAM-5の開発に携わるいわゆる軍事産業に就くためには学歴があればなんとかなるもんなのでしょうか? わが国には防衛事業のみで成り立っている大企業はほとんどありません。 ですから防衛事業部門を抱えている企業に入社したとしても、あなたが誘導弾の開発に携われる保証はどこにもありません。 上をふまえたうえで、あくまで一般論として申し上げますが、指導教官(研究室)選びに気をつけて下さい。 すでにどこかの研究室に所属しておられるのなら、周知のこととは存じますが、防衛関連とつながりのある研究室を選んで下さい。 あるいはそういった教官とお付き合いをしましょう。結局仕事がまわってきますよ。 (くだらない質問はここに書け! 534) 護衛艦や潜水艦、戦闘機を作ってるメーカーって割と有名だけど、魚雷や機雷、ミサイルってどんなメーカーで作ってるの? ミサイルなら三菱、東芝、エンジン部分は日参・石針かな? (4 148) 石川製作所が地雷、機雷を作っています。 (4 210) 戦闘機の契約の記事でよく見かけるオフセット○○パーセントとはなんの事ですか? オフセット生産と言うのは、購入額の何%分の部品を購入国側に生産させる事で購入国の仕事量を確保する生産方式。 オフセット生産率はその比率。 (6 G_Tomo) オフセットとはどういう意味ですか? オフセットoffsetとは「相殺する」という意味です。 つまり、兵器の輸入契約を結んだ代償として何がしかの埋め合わせをするわけです。 契約の内容はさまざまですが、購入した国からのパーツ購入や購入国への技術移転、 さらには購入国への投資など、場合によっては兵器の購入金額を大幅に上回る 見返りを購入国に与えることもあります。 (125 名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE) デザイナーは兵器開発する人の中にも居るんでしょうか? デザイナーという言葉で指す範囲がよくわかりませんが、いわゆる工業デザイナーと いわれる人はかかわっているはずです。 (7 76) 信じ難いですがコルトとS Wの銃器デザイナーはペプシに勤めてたそうです。マネをしてFNはコカコーラのデザイナーをヘッドハントしたそうです。 (7 78) 軍事産業が世界の産業全体の牽引役になっているということは間違いでしょうか? 史上、「軍事産業が世界の産業全体の牽引役になっている」という事実はありません 軍事産業最大手の企業のひとつであるボーイングの年間総売り上げは、トヨタカローラの 売り上げにやや負けています 軍事産業は単価が高いものが多いので派手に見えるだけで、産業界では中小企業集団といっていい存在です 軍事産業ではなく、軍産複合体が牽引役と言えるのではないでしょうか。 軍は巨大な消費者の塊みたいなものですから。 規模はともかく、技術の先導という意味で、軍事産業が牽引役になったシーンはあると思います。 しかし、冷戦後は予算制約がキツくなり、また民需による技術開発も進んだため、 いまや民間の技術進歩を当てにした兵器を設計するのが普通になりつつあります。 とはいえ、ナノテクや情報自動解析技術、航空宇宙技術などの分野では軍事予算によって先端技術が開発される場面も多々あります。 軍事産業がなければ、現在の技術水準もなかったでしょうし、これからも無視できない影響があるでしょう。 (7 632-634) ソ連崩壊後、ミグ、ヤコブレフ、スホーイなどの航空機開発機関はどうなったんですか?政府から離れて、民営化されているのですか? 民営化されています。ロシア政府は国際競争力強化のため、多数ある 航空宇宙開発機関、兵器開発会社の合併統合を図っており、一部は 進みつつあります。航空機は、ミグ、スホーイに二分されそうな雰囲気ですが、先の事はわかんないです(^^; (10 system) 以前に防衛庁出入りの武器商人から聞いたのですが、チョバムアーマーというのは登録商標だって本当ですか? イギリスのメーカーが今も商標権を保持しているはず (10 226) 警察のニューナンブって日本の会社が作ってるんですか? http //www.hitec.city.hiroshima.jp/nj/level7/n100360001.html (12 699) オフセット契約ってなんですか? 「これこれ額の製品を購入するから、その額のXX%の部品を生産させてくれ」っていう契約。 製品の方は、他国でも売れてたりするから100%のオフセットなんて事も有る。 (15 G_Tomo) ショートサンダーランドという航空機、または航空機メーカーについて詳しく教えて! ショートブラザース社は、英国北アイルランドのBelfastにある飛行機製作会社です。 その歴史は古く、航空黎明期から存在しています。 製作していたのは主に水上機、大型機です。 第一次大戦時にショート184水上雷撃機で世界初の軍艦撃沈を行いました。 また、第二次大戦では、ショートサンダーランドの他、その主翼構造を流用した 英国最初の純粋4発単葉爆撃機ショートスターリングを製作しています。 戦後は、大型爆撃機ショートスペランを試作し、英国最大の大型輸送機、 ショートベルファストを製作しましたが、いずれも時代にそぐわず、小型輸送機部門に転換しました。 その第一弾が、フランスの輸送機を手本にした、ショートスカイバンです。 これは見事に起死回生の一打となり、その発展型、ショート330は米空軍にC-23として採用されました。 しかし、発展型ショート360は成功せず、1996年にカナダのボンバルディエ・グループの傘下に加わって、航空機製造の幕を下ろしました。 ショートサンダーランドは、1936年に製作された、 BOAC向け民間用旅客飛行艇のエンパイアから発展したもので、1937年に製作されました。 英国空軍初の全金属製単葉哨戒救難飛行艇です。 前方、後上方、後方に銃座を設け、特に後方には4連装の7.7ミリ動力銃座を設置しています。 このため、しばしばドイツ戦闘機を返り討ちにしたことから、「ハリネズミ」と恐れられました。 発展型のシーフォードも加えて各型合計769機が製作され、戦後も長らく使われています。 特にニュージーランドでは、1960年まで現役として活躍しました。 (17 眠い人 ◆ikaJHtf2) ライセンス生産ってなんですか? 開発メ-カー以外の会社が開発元に一定の権利料を払って生産する事です。 零戦を三菱以外に中島も生産していましたが、中島は一機ついて幾らかのライセンス代を三菱に払っていました。 (19 692) 生産する許可をもらって設計図どおりに1から作るのか、部品を輸入してプラモデルのように組み立てるのか、 どちらですか?また、ロイヤリティはどうなっているのでしょうか? 前者です。部品を輸入して組み立てるのは「ノックダウン生産」といいます。これは ライセンス生産とは違います。 ただしライセンス生産でも、一部の部品は輸入して組み付けたりします。 もちろん一定のロイヤリティは払っています。 (74 358) 国、相手の商売(軍需)は儲かるんですか? 一般的にいって「儲かる」といってよいです。 予算の無駄うんぬんの話ではなく、 国相手の商売ってのは確実にカネが支払われるので経営上めっちゃ楽になるのです。 どんな形であれ商売やった経験のあるヒトなら、 仕入れ数と売れる数が確実に分かるということのメリットはお分かりいただけるはず。 日本の場合、それに加えて軍需産業の自前育成という大義がありますんで ますます安定的に商売ができるという利点があります。 (20 951) 震電を作った九州とか、ゼロ戦作ってた中島とか、本当に無くなってしまったのですか? 《川西航空機》 代表作 九七式大艇、二式大艇、強風、紫電改 戦後→新明和工業 《愛知航空機》 代表作 九九艦爆、彗星、流星改 戦後→愛知機械(日産のエンジン製造) 《中島飛行機》 代表作 隼、疾風、九七艦攻、天山、彩雲、銀河 戦後→スバル 《三菱》 代表作 零戦 雷電 九六式陸攻、1式陸攻、九七式重爆、四式重爆 百式司偵 戦後→三菱 《川崎航空機》 代表作 九五式戦闘機 飛燕 五式戦 屠竜 戦後→川崎重工業 《石川島航空工業》 代表作 ジェットエンジンなどを製作 戦後→石川島播磨重工 《九州飛行機》 代表作 零式水偵、震電 現→渡部自動車工業(車体や自動車部品の製造メーカー) メジャーなところではざっとこんなところでしょうか。 航空機の油圧脚を制作していた萱場製作所は、 現カヤバ工業となってバイクや車のサスペションを製作する一流メーカーとなっています。 日本の兵器産業に従事していた企業の大多数は、戦後になっても自動車、航空機、造船、電気機器、家具などのメーカーとして生き残り、 復興を果たして高度成長の立役者として活躍しました。 今もシリーズが続いている名車の数々は、かつては航空機の設計者達が行っているのは有名です。 (21 881) 補足だけど、中島飛行機の三鷹製作所は富士精密となって、立川飛行機 と合併してたま電気自動車を作り、朝鮮戦争における鉛の高騰でガソリン 車に転じて、プリンス自動車となっています。 今の日産の一部ですな。 (21 眠い人 ◆ikaJHtf2) マクドネルダグラスとグラマンはどこに編入されたんですか? マクダネル・ダグラス<ボーイング グラマン<ノースロップ・グラマン (24 117) トンプソンの製造メーカーって何処なんでしょう。 WW1の退役将軍の興した オート・オーディナンスという会社だそうな 名前は担当重役の名前から 現在も好評発売中とか(ホントかよ) (24 657) 陸自のMLRSって何処がライセンス生産を担当してるんですか? 日産の旧宇宙開発部門(今のIHIエアロスペース) (28 192) ヘリコプター作ってるシコルスキーって、ロシアの名前だと思うんだけどなんでアメリカで西側諸国むけにヘリ作ってるの? 創設者の本名、イゴール・シコルスキー(1889~1972年) キエフ生まれだが、1917年の革命後はアメリカに亡命。 その後アメリカで実用ヘリVS-300を開発、飛行させた。 (31 371) 航空機のエンジンについて質問なんですが国産のエンジンはあるのですか? ピストンエンジンの頃は、中島飛行機、三菱重工、川崎航空機、愛知航空機など大小 取り混ぜて製作していましたが…。 戦後日本の最初のエンジンは、航空再開後の1953年に、川崎航空機がKAE-240 レシプロエンジンを試作しています。 (これはライカミングエンジンに性能が劣るので試作のみでした) その後、ピストンエンジンはヴァンケルのロータリーエンジンとか、小松ゼノアのG72C エンジンとか有りましたが、これらは物になっていません。 最近ではトヨタ自動車が開発に乗り出したのかな? ジェットエンジンは、石川島重工、富士重工、富士精密、新三菱重工が出資して 出来た日本ジェット・エンジン株式会社による、1954年の試作機JO-1が最初です。 この後、1956年にJO-1を基にJ3を製作し、国産のT1F1(T-1B)練習機に採用されています。 その後は少し飛んで、石川島が1964年にVTOL用のJR100/200が製作されました。 また、初のターボファンエンジンとして石川島FJR710エンジンが試作され、 これがRR社の目にとまり、この技術を基に、XJB/RJ500に発展します。 そして更に、国際共同開発のV2500に結びついていきます。 軍用の物は1978年に製作されたターボファンエンジン、石川島F3エンジンで、これはT-4に搭載されています。 (34 眠い人 ◆ikaJHtf2) 日本が兵器をライセンス生産するのは、技術力をつけるためなんですか。 技術力維持、他国への依存性の減少など理屈はあり、まあ、確かに それは正しいのですが、必然性とかコストに見合うとか、現代の 世界情勢の中でとか考えていくと、本当に国産で作り続ける必要が あるかどうかは疑問だと思います。既得権益・予算とか政治的圧力とか 軍事的必要以外の理由がたくさんあります。まあ、米でも同様に 軍事的必要性と関係なく開発されたり配備された兵器が多くありましたし、 クルセーダーの中止時、B-1の減数時、基地の統合化などのたびに たっぷり圧力がかかってますが。結局、軍事は政治、経済の下流に位置する わけで、軍事態勢は軍事の必要性で決まるばかりではない、それどころか、 といったところです。 異論も多々あるでしょうし、簡単に決定的な正解が返ってくる質問ではありません。 (34 419) 防衛産業に従事したいのですが、どんな仕事がありますか? 色々あります。 「特機事業部」と言った、怪しい言葉のある会社は、例えそれが平和産業 を装っていても武器を製造しています。 あと、特殊鋼を製造している会社は原発か戦車の装甲、潜水艦の船体に 使用する鋼を作っていることが多いです。 大抵の場合、文系は営業に回されるものと思います。 特機関係に配属になったら、冬の下北半島とか弾薬の転がった呉など に漏れなく出張が出来ます。 たま~に、自衛官とかとお友達になれると、機関砲などを撃たして貰えるようです。 (34 眠い人 ◆ikaJHtf2) メッサーシュミット・ブローム・ベルコウ社の社名の「ブロームベルコウ」ってなんなんですか? メッサーシュミット・ベルコウ・ブロームじゃなかったかな。 メッサーシュミットはかの有名なメッサーシュミット社。 ベルコウというのも、ベルコウ社というHelicopterメーカー。 こっちはあんまり有名じゃないけど。 ブロームは、ブローム&フォス社の後身。 (36 眠い人 ◆ikaJHtf2) 「軍事研究」の裏表紙に、ミサイルの広告が載っていましたが、あれは誰向けの物なのでしょうか。 広告というものはいろんな意味合いがございまして、 観る人に自社の宣伝をするために、というときもあれば 広告媒体に合法的に資金を移譲するための隠れ蓑としての意味合いがあるときもございます。 で、この場合はどちらかといえば後者の側面が強いのですな。 (36 869) ノックダウンってなんですか!? 原産国から部品すべてを輸入し、国内で組み立てのみを行う生産方式のことです わが国でも韓国でも、「ノックダウン生産機」から国産機として勘定しております (37 409) 今の日本で兵器の開発に直接携わっているエンジニアって何人くらいいるんですか? 「兵器専業」エンジニアなら実質ゼロです 「少しは兵器に関連した仕事をしている」エンジニアなら10万人単位です (37 512) 外国の戦車をライセンス生産するとしたら、どこら辺まで面倒を見てもらえるものなのでしょうか? 普通の自動車と同じでは無かったかな、と思います。 まず、図面渡して、見本となる完成車渡して、部品を輸入。 その部品の国産化比率を高めていって、最終的に100%国産化。 このパターンは発展途上国の場合ですけど。 (39 眠い人 ◆ikaJHtf2) 補足するなら、たいていは工場レベルでの技術指導が入ります。 とゆーより、対等な技術レベルでない限り、詳細な仕様書をもらっても 理解できない or 実行できません。パソコンのマニュアルが理解できるのは マニュアルが必要ない人間だけ、みたいなもんです。 それですら、基礎工業力がないところでは技術指導を活かせず、 あるいはなあなあになってしまって、不良品が続出します。 昔は中国、今インドが有名ですね。誰もが一度はたどる途。 (39 251) 軽装甲機動車のエンジンと車体はどこが製作してるのですか? 車体は小松製作所製です。 エンジンは判明しませんでしたが、エンジンは市販品のチューンだという噂があります。 実際、あの装甲車は専用部品を4割に抑え、残りは市販部品の変更に対応でき、 細かい仕様変更が可能になっているそうです。 エンジンは将来の排ガス規制にも対応できるようになるとか。 (40 289) 自衛隊に兵器が納入される月日を、兵器作ってる会社に電話すれば教えてくれますか? 兵器輸送中は警官なり武装した自衛官なりが警護してるんですか? んなもん、教える訳ない。 護衛は物による、としか言えないだろう。(警察の出番は無し) どしても知りたきゃ、それなりの工場を張り込む。 自衛隊の車両は目立つし、すぐ判るよ。 (41 546) 電器メーカーの「松下」は軍需関連の仕事をしたことあるんですか? 軍需品の生産と木製飛行機生産もやらざるを得なかったようです。 (42 眠い人 ◆ikaJHtf2) プロペラメーカーのラチエやエアロプロダクツ、ハミルトンスタンダード戦後のジェット時代にどうなっちゃったんでしょうか? ハミルトンスタンダードは、今でもターボプロップ機のプロペラや、 軽飛行機のプロペラを製作してたはずです。 ラチェは忘れましたが、フランス機のプロペラを作っていたような。 (44 眠い人 ◆ikaJHtf2) 砲メーカーOTTメララ→OTTブレダになった経緯をどなたか簡単に教えていただけないでしょうか? オットーメララは1994年にブレダ・メカニカと合併し、 アレニア傘下のオットーブレダとなりました。 (46 715) 武器会社から民間人や民間組織が軍用兵器を購入することは可能なのでしょうか? 可能と言えば可能です。 お金を出しさえすれば、兵器市場でいくらでも購入することが出来ます。 手段は一番多いのが密輸ですが、それなりに名の通った国で友好国なら、 友好国価格で供与されます。 通常兵器の輸入手続きを明確にしようと国連が頑張っていますが、まだそこ まで行くに至っていません。 (51 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 軍用機の歴史を調べると、多くのメーカーに競作させてうち一種を採用する事が多いですが、試作機の開発費用は軍が出しているのでしょうか? メーカーの自腹です。おかげで冷戦期は星の数ほど合った米国の軍用機メーカーは どんどん潰れてボーイングの天下になりました。 (52 784) 基本的には試作費も官が負担。 ただし官からの予算に加えて、自腹を切って研究開発するのも普通。 試作競争に入る前の自社研究で勝負が決まる面もあるし。 (52 800) 開発形態に依ります。 昔は軍が仕様を出し、その仕様に従って、各社が設計案を提示、それで審査を 行い、2~3社を選定して軍が試作機を発注します。 この場合は予算は軍から出ます。 一方、軍の仕様に囚われず、自社開発のものを軍に持ち込む場合もあります。 ニッチな機体ならこういうケースもあります。 最近では、軍は開発経費を出しますが、試作機数機を何時までに飛ばすのに 必要な経費を予め算出し、その経費分だけ開発予算を軍が出します。 それを超過したら、自社の持ち出しになると言うケースが主流です。 (52 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 豊和工業のHPには銃の話が載っていませんが、 自衛隊の銃を作っている豊和は別のとこなんでしょうか? 別の会社ではありませんよ、そこの会社で正解です、 小銃を購入する所は限られていますので。 (53 28) ヘンシェル社やMANってもともとは何の会社なのですか? ヘンシェル社は鉄道車両の製造会社です。 M.A.Nはボイラーメーカーだったかと記憶しています。 {(54 眠い人 ◆gQikaJHtf2) アメリカのレイセオンとはどのようなメーカーなんですか? いわゆる軍需産業関係の企業です。 軍用機や艦艇の電子機器やミサイルを専門としています。 http //www.raytheon.com/ (56 FFH 331 ◆3.CSSBl9VA) ユーロファイターを作ってる会社は、エアバスみたいにいろんな会社の集合体なんですか? ユーロファイターはトーネードのあるビル内に設立 ロールスロイス、MTU、フィアット、SENERが共同でエンジン開発(ユーロジェット) (62 482) ユーロファイター社自体はミュンヘン登録のドイツ法人だが、 この会社の仕事は計画の取りまとめ(マネジメント)だけで、 実際のハードウェア製造と最終組立ては各国の計画参加企業が行っている。 (62 493) 契約のあとにいろいろゴタゴタがあった兵器輸出の例はないのですか? 契約が誠実に履行された例ではゴタゴタが起きたことはないのではないでしょうか 少なくとも私には思いつきません しかし契約が一方的に放棄されたり内容の変更が強要されて揉めた例は数多くあります ex パキスタンへのF-16輸出契約(第2期分) (62 928) ペルーの警察が北朝鮮のAKを購入したら、作りが雑でとても使える物じゃなかったので、 代金払い戻しを要求したという話を聞いたことがあるが。 (62 929) かつて読売のアフガンレポでゲリラ連中が「北朝鮮製のAK47は弾がまっすぐ飛ばない」と 嫌われているという記述が 電力供給が不安定なため、ライフルをちゃんと掘れないことが原因だそうだ (62 930) アメリカの軍需産業にはユダヤ系が多いと聞いたのですが本当ですか? 軍需産業の定義にもよると思いますが、私の知る限り重工業関連で ユダヤ系の企業というのは聞いたことがないので、ガセネタと思います。 連中が強いのは、投資銀行や証券関係、映画、マスコミや百貨店、不動産などですね。 (63 予備語学陸曹見習い) コルセアはなぜ「シコルスキー」と呼ばれていたのですか? Sikorsky、Voughtとも、United Aircraftの傘下にありました。 1939年にSikorsky社と合併して、 United AircraftのVought Sikorsky Divisionとなりました。 このときに、F4Uは試作されています。 後に1942年にこの合併は解消され、再び独立しましたが、日本に伝わった際、 そのまま、Sikorsky社製として認識されましたので、日本ではSikorskyとして言われています。 (66 眠い人 ◆gQikaJHtf2) ドイツのBMWってどんな意味の略名なんでしょうか? こんな説明をしているところがあった オレの知識とは異なるが… BMW BMW社の本社のあるミューヘンはドイツのバイエルン地方にあります。 そこでエンジン工場をスタートさせたので「バイエルン地方の自動車工場」の意味。 Bはバイエルン地方の頭文字B。 Mはモーターの頭文字M。 Wはワークス(工場)の頭文字Wです。 BMWの青と白のマークは航空機エンジン製造メーカーとしてスタートしたため プロペラの回転を表し青い空と白い雲をマークにしています。ちなみにオートバイは 1923年より作り始めています。 http //homepage2.nifty.com/yurai/name2A.htm#-ヒ- (66 193) 兵器を輸出するあるいはライセンス生産を認める場合、その兵器が完全に純国産だったら良いですが、 外国からの輸入品・ライセンス生産品が混ざっている場合、あるいは複数の国で共同開発した場合、 その部品の原産国や共同開発国の同意も得なければならないのでしょうか? もちろん、同意を求めなければなりません。 そして当然、、原産国はなかなか同意してくれません。 なぜならば例えばドイツは、日本の90式が輸出されて戦車砲のライセンス手数料が入ってくる よりはレオパルド2A5が売れたほうがうれしいわけで(以下略) (67 910) 基本はそうではないでしょうか。 空軍の場合の例ですが…。 イスラエルの国産戦闘機に、I.A.Iクフィルというのがありました。 機体自体は自主開発ですが、エンジンは米国製のJ79です。 で、これを台湾に輸出しようとしたときなどには、米国の許可が下りずにキャンセルとなっています。 もう一つの例を…。 イタリアの輸送機にG.222と言う機体がありました。 これも機体は自主開発ですが、エンジンは米国製のT64です。 これもリビアに輸出しようとしたときには、エンジンが米国の禁輸政策に引っ掛かるため、 英国製のRRタインに換装して輸出しています。 (67 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 米軍は民間企業に武器の開発を依頼してたりするんですけどこれってホントなんですか? 普通、アメリカでは民間企業が兵器の開発を行います。 政府や軍に依頼されて行う事もありますし、自主的に開発を行って 軍に売り込む事もあります。 と言うか、日本でも普通兵器の開発は民間企業が行いますよ。 (68 408) 本当ですよ。 ただひとくちに「開発」といっても非常に幅広いですので、ひとくちには 言えません。 政府や軍内部にも計画・開発部門はありますよ。 ただ、 実際に「モノ」を「開発」し、「製造」するのはほとんどの場合民間企業です。 たとえば戦闘機等は、軍でその戦闘機に求める性能仕様を決め、それ をいくつかのの民間企業にだします。 そこで民間企業はそれを満たす 自分の案を軍にだし、軍はそこから2社程度を選択、実際に作らせます。 で、試作機を作ってテストし、軍はそのどちらかを選択する、というわけ です。 もちろん製造はその企業です。 軍とは関係なく、自主的に作る場合もあります。で、米国や他国に売り 込む、と。 軍の開発部門はそうした要求案のもととなる基礎的なレベルであったり、 逆にもっと実際的な現場の要求レベルのものであったりと、いろいろやる でしょうが、製造力はないですからね... ただ、核爆弾とかは話は別でしょうが... (68 412) 技術研究の機関は国がやってることが多いよ。アメリカのNASAとか日本の 技術研究本部とか、、、 しかしこういう研究機関での研究は軍需企業との共同の事が多く、研究結果も 企業に渡されて兵器開発に役立てる。逆に企業が独自に研究をすることもある けど、この場合大抵国からの資金援助がついたり。 (68 414) 大学での工学系の研究や応用の利きそうな基礎研究には国防総省から資金が 出ることも有る。 また,国防総省の付属機関であるDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)でも兵器に関する基礎研究(例えばコンピューティング, ネットワーク研究,未来戦闘システム,歩兵用の強化外骨格, 無人兵器関連等々)を行っている。 ただ,兵器そのものの開発は基本的に民間企業。 (68 416) それにアメリカでいえば、 412にかいた「最終的に選択される企業」ってのも、兵器の性能だけでは なく企業の状況も考慮にいれられるといわれてます。(たとえば、最近業績 悪いけど、国防上この企業がなくなっちゃまずい、なんてときに優先して発注するとか) 軍産複合体なんて言い方もあるくらいで、研究なんかでも密接に関連してますしね。 なんせ多額&長期にわたる計画が多いうえに、最新技術の習得・維持という点からも、企 業にとっちゃ軍の注文をとれるか否かは死活問題になることもありますよ。 (68 412) 「Kak」ってなんですか ロシア(旧ソビエト)にYak(ヤコブレフ)やKa(カモフ)という略称を持つ航空機やヘリがあるけど。、 kaなら、対潜ヘリのカモフ・ホーモンのKa-25というのがあって、K型は民間用なんだけども。 (68 772) Kakというのは、「Kungl Automobil Klubben」の略で、 スイスの自動車協会っぽい模様です。 で、なんやよぉワカりませんが、スイス陸軍とつながりがある模様です。 (68 780) ああ、スイスには自転車部隊があったよ。 (68 782) ※過去形に修正 元々は全く別の事業をしていた会社が兵器産業に乗り出すと言う事は良くあるのでしょうか? 近年は無いです。 類似メーカーが売り込みにくる事(車両とか)はあっても、ご丁寧に追い返されるのがオチだそうです。 (69 206) 兵器とひとくちに言っても色々ですからね。 飛行機や車両といった「デカい物」ではほとんどないんじゃないですかねぇ。 まぁ、今まで民間にしか納入実績のない航空機会社の飛行機が 軍用機として採用される、という程度のことはあっても。 そういう目に見えてデカイもの以外だと、どうかわかりません。 たとえば素材レベルのものだったりすると、ね。 (69 207) グラマンは今どうなった? ノースロップに吸収されて、ノースロップ・グラマンとなった でも、グラマン部門は航空機開発は止めちゃって、電子戦機器 専門企業になってるらしい (70 781) 米空軍のジェームズ・ロッシュ元長官は 先のノースロップ・グラマン社の副社長で、政権内部で同社のためにロビー活動を やっているとか (70 783) 三菱重工が兵器作ってるって聞いたんですが、どこで何を作ってるんですか? ほとんどの武器にかかわっています。戦車から鉛筆まで。 どこで作っているかは防秘です。 (73 剣恒光@自衛隊板 ◆yl213OWCWU) 三菱鉛筆は三菱重工とは何の関係も無かったりします。 (73 名無し軍曹) ボーイングとかロッキードマーチンって会社名だよね? ならミグとかミルとかも会社名なの? それとマクドナルド・ダグラスだっけ?とかってなに? MiGとMil、これは設計局の名前です。 MiGはミコヤンとグレヴィッチの共同設計局、Milはミル設計局です。 McDonnell Douglassは、メーカー名。 今は、Boeingに買収されましたが。 元はMcDonnell社と言う軍用機を主に作っていたメーカーと、Douglass社 と言う民間機を主に作っていたメーカーがあり、Douglass社が苦境に陥っ たのを、当時好景気だったMcDonnell社が、民間機への進出を目論んで 買収したものです。 McDonnellもDouglassも会社を興した人の人名です。 (75 眠い人 ◆gQikaJHtf2) ロシアではモンキーモデルの輸出は止めたのでしょうか? 航空兵器は第4次中東戦争で評価を下げたのでグレードを上げている。 湾岸戦争の戦車戦の大敗の原因はT-72がモンキーモデルだったことだけがでは無いようだ。 基礎設計から改めない限り、状況は変わらないだろう・・・。と、ユーザー達にばれました。 要するに、根本的に売れなくなっちゃったんですね。 一応、主砲身から発射する対戦車ミサイルなんぞ新たに用意しまして、 「こいつを使えば相手(西側の戦車)の射程外から倒せます。」などとセールスしてますが、 四発の値段がT-72のモンキーモデルと同じくらいして、売れない。 (75 130) GEって軍事兵器も作ってんの? F-4EJやF-2のエンジンのライセンス元、どこだか知ってる? GE社は世界有数の航空機用ジェットエンジンの会社でもあるの。 F-117用 F404-GE-F1D2ターボファンとかF-14D用 F110-GE-400ターボファンとか ボーイング747用のCF6-80とか…… 詳しくはGE社のHPで確認してね。(日本語だから大丈夫) (75 232) トマホークや精密誘導爆弾に日本製部品が使われてるって聞いたんですが、どの会社のものか分かりますか? かつてEO誘導爆弾にソニーのビジコンが使われたという事が話題になりました。 現代の物は分かりませんが、ミルスペックを通った汎用品が使われている可能性は有るでしょう としか言えないのでは。 (77 10) 日本の重工系企業がどーしてアメリカの軍事産業だしぬけないのか なりません。そうまで拘るメリットがありません。 (77 88) 日本で独自開発するとアメリカ以上に高コストになりますし、 防衛産業にそこまで金をかける必要もないでしょう (77 89) 最大の理由は費用です。全部自前で作り始めたら、アメリカが つぶしに来る前に勝手に日本が潰れます。アイボや新幹線作れたら 実用ミサイル作れるというものではまったくないので。 (77 system) 「軍需産業からの圧力」が、国家が軍事行動に踏み切る理由たりえないと主張する軍事板住人の意見を拝聴したい たとえば戦闘機をつくってる会社は民間の航空機も作っていて、軍需より民需の方が 規模が大きい。戦争が起こると軍需部門はもうかっても民需部門が不景気で落ち込む ため、全体としては赤字になってしまう。 (77 142) えー「軍需産業からの圧力」が、国家が軍事行動に踏み切る理由になるんじゃないの? という質問だと考えますが アメリカにはロビイストという様様な立場の人の利益を代弁する圧力団体がいますし、 軍需産業のロビイストが要因の一つとはなり得るでしょうが、 それが軍事行動の原因だということがバレたら大きなスキャンダルになるでしょうね。 ほかにも軍事行動の原因となるものは沢山ありますし、そちらの方が主な原因であるでしょう。 (77 143) えー「軍需産業からの圧力」が、国家が軍事行動に踏み切る理由になるんじゃないの? という質問だと考えますが アメリカにはロビイストという様様な立場の人の利益を代弁する圧力団体がいますし、 軍需産業のロビイストが要因の一つとはなり得るでしょうが、 それが軍事行動の原因だということがバレたら大きなスキャンダルになるでしょうね。 ほかにも軍事行動の原因となるものは沢山ありますし、そちらの方が主な原因であるでしょう。 (77 143) 現代では戦争しても軍需産業がボロ儲けするわけではない。 戦費は国家財政を圧迫するし、景気が後退すれば 一般の企業はかなりのダメージを受ける。 まともな思考力を持った政権なら、国内全体の景気よりごく狭い軍需産業の利益を 優先させることは無い。 (77 144) イスパノとイスパノイザって関係があるんでしょうか? イスパノとイスパノイザって関係があるんでしょうか? 単なる私の想像ですが、「×、イスパノイザ」では無くて「○、イスパノ・スイザ」 が正しいのでは無いでしょうか。 「イスパノ」 = 「スペインの、スペイン系の」と言う意味だそうです。 「 スイザ」 = 「スイス」と言う意味だそうです。 研究社 リーダーズ+プラス (EPWING CD-ROM 版)より引用。 His・pa・no-Sui・za 1 イスパノスイザ(社) 《フランスの乗用車と航空機エンジンのメーカー; スペイン語で Hispano-Swiss を意味し, スペインでスイス人によって車がデザインされたことからこの名がついた; 1910 年代に創業, 第 2 次大戦後 SNECMA (フランス国立航空機エンジン開発製造公社) の一部となった》. 2 【商標】 イスパノスイザ 《(1) 同社で 1910-20 年代に限定生産された高級乗用車 (2) 同時期に同社が製造し戦闘機などに用いられた航空機用エンジン》. (79 ≡ 6等兵 ≡) アメリカの軍事産業って日本人のエンジニアとかっているのですか? いるんじゃないですかねぇ 向こうの大学でてそのまま就職した人とかもいるでしょうし。 っていうか「軍需産業」に属する会社に勤めてる人なら確実にいます そのなかで実際兵器の開発に携わっているひとがいるかは私は知りません。 いてもおかしくないと思いますが。 (79 70) 兵器を自国で開発生産するメリットは何ですか? あと、同等な物を国内で開発出来る場合、他国から購入する場合に足元を見られて 価格をボッタクられないで済むと言うメリットも有ります。 90式MBTがドイツ・ラインメタル社製の44口径120ミリ滑腔砲を採用した際も、同等の 技術を持っているという事で、ライセンス国産に当たってはロイヤリティはかなりリーズ ナブルだったらしいです。 (79 404) 日本の兵器産業は最先端の研究とかやってるんでしょうか。 防衛庁には技術研究本部という機関が存在し、そこを中心として研究開発を行なっています。 研究内容など詳しくは技術研究本部のHPを参照のこと。 (79 852) 戦車等の生産に携わる仕事に就きたいのですがどのような勉強が必要でしょうか。 普通に大学の工学部を目指せば良いのでは? で、出来れば院まで進んでMHIに就職すれば、運が良ければ戦車関係 に携われると思うが。 (80 684) 生産って、ラインでモノつくりたいのか? 開発がしたいのか?なら684の言う通り。 注意すべき点としてどの大学に逝くかなのだが、 重要なのは大学ではなく研究室という点。 (80 685) っていうか確実に戦車などの兵器開発に携わりたいなら技本とか そういうの目指すしかないんじゃないの? 企業入ったって希望の 部署にいけるかわかんないじゃん。 (80 686) 三菱重工には配属予約採用というのがあって、ある程度配属先が自分で選択できるみたいですよ。 ttp //www.dianet.or.jp/mhi-rec/engineers/recruit/adoption.pdf かなうなら相模原の特車事業本部に配属してもらえばいいわけで。 (80 687) 俺の先輩だった人が、飛行機やりたいという望みをかなえるため、 某有名大学の工学部大学院を出て、M菱重工入社したまではいいが、 結局そこでやっているのは、もう十年以上スプリングの耐久実験。 基本的に非常にニッチな市場だから、特定の大学の特定の研究室の院卒で、 さらに、会社側で丁度いいタイミングで欠員が出た時くらいしか、チャンスはないのでは? (80 688) 銃のメーカーのH&K社についてなんですが、正式にはヘッケラー&コックなんですか? 現在H k社は英国ロイヤル・オードナンス社に買収されてその傘下にあります。 したがって英語読みのヘッケラー コックでいいです。 (83 720) スパス散弾銃で有名なフランキ社と、単車や自動車、自転車の著名メーカーであるフランキ社は同じ会社なのでしょうか? 同じ会社。 (85 616) ベアリング製造会社のミネベアは銃も製造していますがベアリング製造と銃製造って共通点があるのですか? 製造に関しては知識がないので答えられませんが、 ミネベアが銃を製造しているのは、1975年7月に新中央工業(株)(現 ミネベア(株) 大森製作所) を買収したからです。 新中央工業は戦前は中央工業として各種拳銃・38式小銃・99式軽機等を製造していました。 また元をたどれば南部麒次郎が創立した「南部銃製造所」にたどり着きます。 この時期ミネベアは新興通信工業(株)・大阪車輪製造(株)・(株)東京螺子製作所と 多くの会社を買収しており、新中央工業の買収も事業拡張の一環だったと思われます。 (88 名無し軍曹) ローズベルトが軍産複合体を作り上げたというのは本当でつか? 「軍産複合体」と言う言葉を作り出したのは、Eisenhower大統領だったと記憶しています。 従って、更に時代は下ると思うのですが。 (90 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 一昔前はソビエトの戦闘機の代名詞といったらミグだったのに、最近はスホーイばかり耳にします。どうしてこうなってしまったのでしょうか? MiG(ミコヤン=グレビッチ設計局)はソビエト軍の主力戦闘機をほぼ独占的に受注しており、 「黙っていても仕事が来る」状態でした。 それに比べてSu(スホーイ設計局)は、MiGに比べると一歩低い位置に置かれてました。 そのため、スホーイ設計局は研究開発等、さまざまに”企業努力”(社会主義国家のソビ エトに”企業努力”という概念はないけど)を重ねており、ソビエトが崩壊してロシアとなり、 ”民営化”が進んだロシア社会においては、ソビエト時代からの努力が身を結んだわけです。 一方MiGは”親方赤旗体質”が仇となり、ユーザーのニーズを掴めない上、軍事費激減に よる発注数の激減で業績が激悪化。 斜陽の一途を辿っています。 (93 435) 1944年 8月15日 軍需省が、精密兵器用にダイヤモンドの買い上げを実施 当時、ダイヤモンドをどのような精密兵器のどの部分に使うのか教えて下さい ダイヤモンドは,地球に現存する物質の中では最高の硬度と強度を持っている。 故に超精密切削用バイトなどの精密加工用工具として用いられてきた。 超鋼なんかだと、あっさり磨耗したりして駄目になるしな。 (94 転ばぬ先の杖) 映像ドキュメンタリーなんかで第二次世界大戦の記録を見ると、ひょいひょい新型の戦車や航空機といった新兵器が開発されているような気になります ガン○ムのMSじゃあるまいし、そんなに簡単に新兵器というものは開発できるのでしょうか。 自動車や電気製品だって毎年何十台の新型が出てるだろう (94 752) 戦争が始まってから新型の兵器を開発してるわけじゃありません。 それ以前からの努力の結晶が、新型兵器なので。 また、戦時中は新型兵器の採用基準が甘くなるということも影響しております。 (94 753) 戦時中は数ラインの新兵器開発を同時に行うし 採用基準も甘いため。 負けている方は、試験的に作った兵器や珍兵器まで ありったけ投入する傾向がある。 (94 755) 現在、純日本製の戦車や戦闘機ってあるんでしょうか? 純国産というのは定義が人の数だけありそうですが 例えば自衛隊の90式戦車などは設計から素材、エンジン、電子機器などは国産ですが 120mm滑空砲などはライセンス生産によるものです (95 215) 何をもって“純”と定義しようとしているのでしょうか? 戦車で言えば、日本は61式、74式、90式と開発していますが、 主砲を含めて完全に国産で開発したのは61式だけで、74式も 90式も、主砲はライセンス生産の物を使用しています。 戦闘機はF-1が一応、1から開発した国産戦闘機ですが、エンジン はイギリス製の物をライセンス生産した物を使用しています。 垂直尾翼からランディング・ギアまで、ネジ一本に至るまで完全に 国内の部品を使って作られた戦闘機は、日本には有りません。 (95 216) 兵器製造を目的に電子機器やエンジンを作っている日本企業があるのかな? F-2なども三菱です 例によってエンジンはライセンス生産でまかなっています (95 218) 防衛産業で言えば、大きい所で三菱重工、川崎重工、富士重工、などが 航空機を製作しています(ニッチの新明和も有りますが)。 エンジンなら石川島播磨重工が、戦車、装甲車では三菱の他にコマツが 手掛けたりもします。 電子装備関係ですと、東芝やNECとか、意外な所では、エアコンで有名な ダイキンが大砲の弾なんか作っていたりします。 (95 221) ナチスドイツのフィーゼラーなる会社って戦後はどうなったんですか? 1945年、敗戦と同時に会社は消滅しています。 但し、機体の製作は、戦後もFranceとCzechoslovakiaで継続されていました。 なお、創設者のG.Fiezeler自体は、1987年まで生きていました。 (98 眠い人 ◆gQikaJHtf2) ライセンス生産って、日本の会社で製造していても、アメリカとかにライセンス料をもってかれるのですか? どこの国でもライセンス生産は通常有償であり、相場としては輸入価格の数分の一(1/2~1/4とか)だったように思います。 手元に今資料がないのでなにですが。 高いようですが、技術移転の費用を含みますし、国内生産する結果、 雇用も景気も改善されますから、十分見合うという計算で契約が成立するようです。 このあたりを見てると、軍事って経済の下流なのね、としみじみ感じます。 101 system) 航空学部出身で防衛産業に関われる人ってどれ位いるんでしょうか? 防衛産業に関われるかどうかを決めるのは、企業の場合人事課であって学歴ではないからなあ。 たとえばMHIやIHIには入れたからといって、という話な訳で。 それとも技研を狙ってるのだろうか。 (103 164) 留学してレイセオン社を目指せ レイセオンにも民需部門あるけどね (103 165) 確か防衛産業に携わってるのは10~20万人と何かで読んだけどね。 これには設計の人はもちろん工場で組み立ててる人や商社の立場で輸入を担当 してる人間まで含んでると言うことだからかなり裾野は狭いし、民間部門と兼 任でやらされるケースも多いようだ。 (103 167) 例えば軍用ヒコーキ作るって言っても 機体の形を設計すんのも、エンジン組み立てんのも 座席のシート作るのも、フロントパネルの配置考えるのも レーダーのアンテナ立てるのも、通信機の回路組むのも 全部分野が違うし担当する会社も別々。 自分がどの分野をやるのか考えとこう。 ついでに言うとどの仕事も想像してるよりつまらない。 そんでもって、君と同じ業種を目指てるやつはみんな 既に設計図の書き方をマスターしてるし 金属材料の種類や性質を熟知してるし 流体の計算も暗算でできる。 そういう連中よりも上にならないと希望の会社に入る事も出来ないよ。 (実際そんな事ないだろうけどエリートになるならそれぐらいに考えといた方がいい) (103 175) フェアチャイルドってドルニエと合併してたんですか? うん。 T-46の失敗でリパブリック部門がダメになった後、 ヒラーやスウェリンジェンを吸収してた民間部門フィアチャイルド・エアクラフト社は、 サーブと一緒に現Saab340を開発するも何故か手を引いて、 ドルニエを吸収、フェアチャイルド・ドルニエ社となり、 Do328をジェット化したDo328Jetとか大型リージョナル機Do728を開発するが、 9・11で左前になって更生法適用だったと思う。 (記憶に頼ってんで間違いあるかも) (105 314) サーブとか三菱以外に戦闘機と自動車両方とも製造している会社を教えて下さい。 過去も含めてならGM、フォード、クライスラーとか それに三菱重工と三菱自動車は70年ごろに分離しちゃったんで 今の「三菱」は戦闘機は作ってるけど自動車は作ってない (105 390) 現在開発生産していてプライムとなるとそれくらい。 強いてあげれば、タイフーン作ってるユーロファイターとダイムラー・クライスラーが資本的には繋がっている。 (105 391) 20世紀初頭~第一次大戦後の頃には戦闘機と自動車を作っている会社は結構ありました。 イタリアならFiat、フランスのRenaut、Panhard、ミサイルメーカーですが、Matra、 英国のAustin、Morris、Bristol、Armstrong-Siddley、 反則気味ですが、ドイツのMesserschmitt、Heinkel、 アルゼンチンのFMAもその昔、Gracielaと言う車を製作していますし、 インドのHindustanも自動車を製造しています。 (105 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 日本で軍事関連の会社はどこでしょうか? 有名どころだと、石川播磨とかカワサキとか。 でも、兵器に使われてるアンテナだの半導体だの燃料だのに関わる 企業まで含めると、結構な数になると思いますが。 (106 895) 防衛省の調達実施本部のホームページを覗いてみて下さい。 可成りの数の企業が軍事に携わっていることが判るはずです。 ダイキンの様に、意外な会社も軍事部門を持っています。 (106 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 自衛隊の軽装甲機動車ってホントにコマツで全部作ったのか とりあえず、メガクルーザーやパジェロとは車体のサイズが違います。 なので、そのまま架装したって事はないでしょう。 コマツ製でも一部に三菱やトヨタの部品を使ってるって事は充分ありえます。 というか、部品レベルではみんな同じ下請けの会社が作っているということはよくあることなので。 (108 577) 何故兵器生産は民間に委託されるんでしょうか?公営でやったほうが生産資本の充実に有利だと思いますが。 もし貴方の考えが正しいなら、なぜ公的部門に関わる企業は全て公営ではないのでしょうか? 公営でやったほうが生産資本の充実に有利なら大半の企業が公営であるべきだと思いませんか? (108 711) ある意味、間違ってないよ。 でも、日本みたいに、商社が受注して重電、重工系のメーカーが生産して、みたいな場合、箱物行政的に民間企業が潤う。 他方で年1ペースで潜水艦を廃棄するなんて形で技術を継承しなきゃいけない。 特に極厚鋼板の溶接だの、民需に使えそうで使え無い、実は機密度の高い技術の継承は大変な問題です。 特に昨今、兵器の性能と値段が高くなってますから、大量発注をゆるやかにこなして会社を維持するのも難しいのです。 従って半公営的な体制で軍需産業を維持するケースはままありますよ。 (108 719) ライセンス国産って設計図買って自国で生産するであっていますか? ロイヤリティー(ライセンス料)を払って許可を得て、生産すること。 (113 658) 設計図を買うだけで生産は出来ません。 冶金や組み付けのノウハウ、完成後のメンテナンスなど含めて買います。 (113 659) ノックダウン生産とライセンス生産の違いを教えて下さい ノックダウン生産とは部品を輸入して組み立てだけを自国で行うこと。 多少の技術力があり、人件費の安い国が行います。 (113 661) 一例をあげるとこんな違いがある。 ライセンス生産 設計図しか買わない- 自前で適切な材料を加工する必要がある (それを下支えする粉体粉末冶金学などの技術が必要) ノックダウン生産 完成品の部品を買い集めて自前で組み立てる。従って高度な加工技術は不要。 (113 663) ライセンス生産→部品単位の製造設備が必要 ノックダウン生産→組み立て道具があればいい と考えてください。 ノックダウン生産の場合は完成後不具合が出ても原因が分からないので、 開発国送りになることが多い、いつまで経っても開発技術が付かないなど不利な点があります。 (113 664) 陸上自衛隊の火器84mm無反動砲や機関銃はどこのメーカーが作っているのですか? 詳しくはこちらで。 https //www.howa.co.jp/products/firer/defense/product06.html 84mm無反動砲は豊和工業だったかと。 (118 名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE) ※リンク修正済 小銃や武器の製造や設計の勉強したい人は大学の何学科で学ぶのがいいの?もしくはそういう会社に就職したい場合でもいいです。 例えば豊和工業は89式や64式を作っているところなんですが、そこの募集要項を調べる。 あとはリクナビなどでOBの出身大学に学科、研究室を調べてそこの教授の年齢と専門を調べるとよいでしょう。 ただし、理系の研究室は師匠と弟子の世界であり、教授が大学を移ったり留学しちゃったり、 お亡くなりになったり、転職したりするとそこでその研究室の伝統は途絶える可能性もかなりある。 (365 77) 防衛大で技官になるという手もアリ。ただ防大はハードルが高いぞ、頑張ってくれ。 (365 81) 金属材料系で何処の企業へ行っても通用する大学となると東大、京大、東北大ならば何処へ行っても伝統的に通用する。 それ以外となると、企業と大学の研究室(指導教官の専門分野)の結びつきということになる。 (365 93) 軍産複合体は儲かってないって話ホント? ヒント:軍縮 よくいわれる邪悪な死の商人ってイメージで陰謀やりまくりな感じに儲かるってのは嘘。 しかし需要はあるので普通の産業の一つとしてなら企業ごとに儲かったり儲からなかったりする。 ただ、軍需産業はその性質上、多くてもその国のGDPの3%程度の市場しかなく 顧客も異常なほどに限られている為、産業としての規模は非常に小さい。 つまるところ軍需産業が強力な力を発揮できるのは、 冷戦期のように国家の強力な後押しがあるのが大前提。 軍事産業にとって都合がいいのは どう戦うべきかはっきりしている明確な仮想敵国がいて、 適度な緊張状態の中で軍備の開発と増強競争で予算が大盤振る舞いされて、 しかも他に予算を回される心配のある緊急事態に至っていないこと。 具体的にいえば90年以前の冷戦時代のような状態。 まあ多少儲かったり赤字になったりの浮き沈みはあるけど 人類が軍事力を手放さない限り、一定の需要、つまり食い扶持だけは失わない って点では旨みのある分野だよな(それはそれとして新製品競争に敗れて潰れる企業は出るが) 政治屋と利権で繋がってたりするとなおさらだが (472 490-495) 湾岸、イラク戦争では精密誘導爆弾や通常弾頭トマホークがたくさん使われ、このため補充や 後継兵器の製造が行われています。もちろん利益が上がります。 また現在でも紛争地域ではヘリや航空機に対する攻撃が予想されるため、フレアの使用が日常的に行われており、 可視的な炎を発さず、火災を起こしにくいフレアを作っている英のメーカーは大増産体制です。儲かってます。 間接的にも、戦争という脅威があれば、現用兵器では安心できず、増数から始まって、アップグレードや 次期兵器の開発、発注が行われます。これらが一定の間隔以上で行われないと、兵器産業は存続できません。 輸出に大きく依存するロシアやフランスなどだと戦争がなくなったら兵器産業は倒産し、国家財政にすら影響します。 ただ、議会や審査委員会がうるさいので、昔ほどボロ儲けができず、納期遅れなどがひどいと 違約金を払わさることもあります。儲かるけど昔ほどではない、というところでしょうか。 原油価格高騰とか、試作品製作費用とかは別の話ね。本来それも請求書に上がる金額だから。 最近は米だと軍の要求仕様変更に振り回されるのを嫌って(あるいは先取りを狙って) 自己資金で開発しちゃう部分も多くなっているようですが、それも最終的には儲けを考えてのこと。 事実、自己開発で始めたプレデターは工場増築で儲けまくり。 (295 129-132) 軍事への支出は非生産的であり道路建設のような公共事業への支出より経済への貢献度は低いというのは事実ですか? 「戦争」への支出が非生産的なのは確かだが「軍事」への支出は似て非なるもの。 基本的にその説は社会インフラが未発達な途上国においては事実だが先進国では必ずしも当てはまらない。 軍事部門への投資で得られた技術が民生部門に転用されたりして産業への貢献は相応にある。 たとえばどの国も航空宇宙産業は軍事産業と表裏一体。 ちなみにケインズの有効需要の原理では公共投資の内容が何であれ雇用が拡大できれば経済効果は同じ。 恐慌対策としてアメリカで行われたニューディール政策はこの原理に基づいていた。 もっとも新自由主義の流行でケインズ批判も高まってきたが。 (初心者スレ475 949) 対テロ戦争、イラク戦争でアメリカの軍需産業の需要は増えてるという意見と減ってると言う意見があるのですが? http //d.hatena.ne.jp/D_Amon/20061019/p1 http //mltr.ganriki.net/faq09f05.html どちらのサイトが正しいのですが? 上のサイトが正しいですね。 軍需産業といっても兵器メーカーだけでなく民間軍事会社と呼ばれるもの、そして軍と取引のある エネルギーや食品関連企業まであって厳密な定義は困難なのですが、とりあえず戦争があって軍事費が 増えれば当然「軍需全体」は激増します。 戦争の種類によって売上げが減る企業もありますが。 参考までに「アメリカの軍需経済と軍事政策」で検索してください。 対テロ戦争が始まった2001年からアメリカの軍事費は増え続け、2008年には2倍近くになっています。 人件費や傷病手当などの経費があるので軍事費の増加率と軍需産業全体の売上げの増加率は必ずしも 一致しませんが。 下のサイトの消印所沢という人は「軍需産業といっても民需も請け負っており,戦争になると民需が落ち込むから 会社全体としては儲からない」といってますが? 戦争になると民需が落ち込む?逆です。戦争期間中は乗数効果によって民需も増加するのが一般的です。 これが戦争特需と呼ばれるもの。もちろんかつての日本のように国家が破滅しかねない戦争は論外ですし、 戦争による財政赤字増加が長期的には経済にとってマイナス影響を及ぼす可能性も大ですが。 なお、ミクロ経済とマクロ経済の違いを理解して下さい。 戦争で国家から直接の発注を得ることによる売上げ増を、マクロ経済指標の低下で相殺するなんてコメディーに過ぎませんよ。 なお、戦争特需というのがあれば戦後必ず反動があるのですが、過去アメリカにおいてその反動は特需によるGDP増加分を 相殺するほどのものではありませんでした。 このサイトで1939年からのアメリカのGDPの推移を調べて下さい。 http //www.bea.gov/national/nipaweb/TableView.asp?SelectedTable=1 FirstYear=2004 LastYear=2006 Freq=Qtr 消印所沢という人は、売上げ高が増えたというデータには意味が無く、利益を出したデータがなければ「戦争で儲かった」 ことの証明にはならないというようなことを書いてますが。 その人は自分で「軍需産業といっても民需も請け負ってる」と書いてますね。 ボーイングとエアバスが熾烈な受注合戦をやってるように民需部門というのは完全な競争原理が働く領域なので 四半期ベースで業績が激変します。 現代の軍需産業は民需部門が増えてるからこそ売上げ高の増減と利益はイコールになりません。 戦争と軍需産業の因果関係が明白なのは唯一つ。 戦争が起きて軍事費が増額されたら「軍需産業全体」の売上高は増えるということだけです。 (軍事板常見問題スレ 125-130) 上の記述のうち、 「なお、戦争特需というのがあれば戦後必ず反動があるのですが、過去アメリカにおいてその反動は特需によるGDP増加分を 相殺するほどのものではありませんでした。 」 という部分は正確ではないと思います。 過去の戦争特需の評価は別にして、少なくともこのイラク戦争に関してはほぼ全てのエコノミストが ネガティブな評価をしています。 現在アメリカ経済はサブプライム問題や、投機マネーによるドル安・原油高に苦しんでますが、 アメリカ政府が大規模な財政出動による対策を行えないのはイラク戦費による財政赤字増大が原因です。 もちろんサブプライム問題が深刻化したのは2007年からでありイラク戦争と時期が重なるわけではありませんが、 アメリカ経済のためには米軍は早期にイラクから撤退すべきというのが大半のエコノミストの見解です。 (軍板FAQ掲示板 経済板住人) 軍需産業は、結構特殊な分野で特別な知識等も必要なので、天下りも必要なのではないでしょうか? 諸外国では、軍需産業での天下りとか癒着はどうなんでしょうか? 諸外国の癒着の例というと最近では、米空軍の調達担当の高等文官が空中給油機を売り込んでいた ボーイングに天下りすることが問題になった事件があります。 ちなみにこの事件の余波は今なお続いているといえる。 欧州のエアバスと米国のボーイングが応札しており、エアバス(システム・インテグレータはノースロップ)が 一旦は勝ったものの、GAO(会計検査院みたいなところ)がやり直しを勧告したりしている。 前半についてはたしかにそういう議論があるが、それ以前に天下りには2種類ある。 理事長を短期間で転々と渡り歩き退職金を貰う行脚のパターンと、老後のために早期退職後働くパターンです。 自衛隊の人が天下りするのは後者の意味合いが大きいように思う。 (484 548) 定年退職後の生活水準の保証を条件に在職中に便宜を図るのが「天下り」の害なので、 禁止したほうが兵器開発にも競争原理が厳しく働き、むしろ良い影響があると思います。 (357 886) マクダネルダグラスの合併ってやはり軍用機の生産で儲けられなかったから? それとも民間機が売れなかったから? ダグラスがマクダネルに吸収されたのはベトナム戦争のせい ダグラスはDC-9が大ヒット、受注を大量に抱えたが、折りからのベトナム戦争で アルミ材を始めとする航空機の原材料が高騰 当時の慣行で旅客機は固定価格での受注だったので造れば造るほど赤字になった マクダネルは軍需中心でコストアップ分は簡単に価格に転嫁できたから業績好調で 小が大を呑む合併になったわけさ (396 919) H KやFNなどの銃器メーカーが他国に銃を売る時は本社が置かれている国の許可を得ないといけないのでしょうか? あと、銃器メーカーは他国に支店(例:H K USA)を出す際も自国の許可を得なければいけないのでしょうか? 製造許可と共に輸出許可も取って居ます H K USAについて説明すると、米国は銃器の輸入について制限を設けている為 独逸からH K製品を直接米国に出荷する事は出来無いので、米国に代理店を置き 米国にて部品を組み立てる事で、米国製品として実質的な輸出をする為の措置です、 これは本国は元より当然ながら相手国の許認可が必要なのは言うまでもありませんし 基本的には輸入する国の許認可が無ければ出荷できませんしね、 ちなみに日本の場合はMINIMI等のFN製品はライセンス生産し MP-5F/9mm機関けん銃等H K製品は直接輸入しています。 (355 485 三等自営業 ◆LiXVy0DO8s) MHI汎用特車に入ってMBTの開発に携わりたいのですがどうしたらいいですか? 入隊してすぐに開発部門には携われない。 学歴というか大学の格は不問だが、部隊で初・中級幹部勤務の後にTACに合格は必須 理系卒ならCGSでも可能性あり。 (自衛隊板初質スレ97 ローレディ ◆5xsookHc2o) つ技官 (自衛隊板初質スレ97 840) 自衛隊で使っている兵器で、設計から(が)日本企業のものというとどんなものがありますか? 企業主導の兵器はない。 (自衛隊板初質スレ101 670) では自衛隊主導の兵器を。 SSAMとかDADSとか、陸の高射システムは国産が増えてるな。 米さんとのしがらみでHAWKはしばらく捨てられないだろうが、中SAMも配備が始まったし。 師団のDADSや群のTSQ-51も、国産の後継機の試験が始まってるし、 陸自の短~中距離の防空システムは10年後には純国産に変わるだろう。 (自衛隊板初質スレ101 669) 航空機で国産品なら技術研究本部が試作機と呼ばれる1号機2号機を計画して 主契約メーカーが主体で開発・試飛行・引き渡しとなります 防衛省技術研究本部 ttp //www.mod.go.jp/trdi/ ホーム 各種資料 研究開発の仕組み ここに具体的な開発の流れが出ています 飛行艇のPS-1/US-1の時は新明和が積極的に動いたと開発話の本に有った記憶が 80式空対艦誘導弾は今では陸海空自衛隊が保有する対艦ミサイルの最初のミサイルで 88式地対艦、90式艦対艦、91式空対艦、93式空対艦と発射場所・誘導装置・エンジンと様々な改良を加えています そこで三菱が主導して設計・セールスをしたのかは不明 (自衛隊板初質スレ101 予備海士長 ◆0J1td6g0Ec) 海上自衛隊の装備を研究開発する仕事をしたいのですが 三菱重工などメーカーに行くのと、技術研究本部に行くのだとどう違いますか? 技本は「あんなの欲しい、こんなの欲しい」ってだだこねる部署 開発したいならメーカーに行け (自衛隊板初質スレ110 229) 兵器を開発する企業は国防機密の塊みたいなものだと思うのですが国は兵器を開発する企業に対して機密漏洩などの対策を求めたりするのでしょうか? 軍隊とは違って民間企業の技術者に対して人間関係の調査や24時間の監視などを行うのは人権上難しそうですが・・ 日本でなくアメリカの例だが、たとえばステルスぐらいのプロジェクトになると受注前から雑用係に いたるまでCIAの身元調査が入る 本人、親族とも政治的思想的経済的に問題なくても、たとえば女装趣味があったりしたら仕事から 外すように猛烈な圧力が軍からかかってくる 開発作業が始まったら主要人物は24時間監視体制、そうじゃない人でも定期的に調査と監視が行われる (565 82) 航空機とか量産すると値段下がりますよね?その場合の値段の目安は単純に「開発費÷生産数」に企業の利益を足したものになるんですか? 多くの場合(日本や米国の予算など)開発費の割りがけは含まれていません。 しかし生産設備への償却等は含まれますし(償却終了後の値下がりに)、 生産ライン稼動の為のコストは(年)生産数により割り掛けになります。 ラーニング(学習効果)カーブにより生産コスト自体も下がる事が期待できます。 学習効果ってなんですか? あと先行型とか先行量産型と初期型の違いはなんですか? 前段: 同じ製品を作る場合でも、後になるほど「カイゼン」効果により生産コストが下がる事。 その生産コストを生産年次でグラフにした物 = ラーニング・カーブ (まあ絶対そうなるって話でもない事は判ると思う) 後段: 最近の米軍機の場合で簡単に例示すると 試作機:その機体のコンセプトを実証する機体 FSD/SDD機:量産機に準じた機体で開発・実用テストに従事、後に量産規格に改造配備される事が多い。 量産機(低率生産/フルスケール生産):量産機 (338 191,199) アメリカの軍需産業って、やたらと兵器を諸外国へ売りまくっているイメージがありますが、今現在、兵器輸出に関してはどのような制限があるのでしょうか? 米国の軍需産業は、国益に敵うかどうかで輸出品目をコントロールしています 小火器や一部の車両等、米国製武器が対峙しないように あるいは米国に対しての攻撃に使用されないように細心の注意を払って輸出品目に反映させています このコントロールの失敗例がスティンガーミサイルが拡散してしまった「イラン・コントラ事件」です これはCIAだかの暴走が原因とされていますが、詳しい事は別スレで。 (310 三等自営業 ◆LiXVy0DO8s) 「Su-47はスホイのプライベートベンチャーで開発された」なんてのを読んだのですが、「プライベートベンチャー」ってのは技術者が自腹で(資金調達して)趣味で作ったということですか? 技術者が、会社の方針とは関係なく、会社の許可、資金、資材の提供を受け、 自己技術の研鑚、保持をお題目に金の稼げそうなものをつくる社内部活。 政府や軍の予算が付かず、買ってもらえる保証がない状態で企業が自己資金で開発するものを プライベートベンチャーといいます。最近だとプレデターUAVの開発なんかが有名。 (302 647-653) 軍需産業は、儲かればいいと敵対する二つの国の両方に兵器を売ることもしているのですか? アメリカ製兵器を使用している国は、アメリカ軍の目を通らないとその兵器は手に入らないのですか? とりあえず、敵対する二つの国に兵器を売る場合もあります。 そこは輸出許可を出す政府の判断次第です。 後、抜け道で、ライセンス生産している海外の会社を通す場合もあります。 米国製兵器の入手は別に米軍が管理している訳ではありません。 「敵の敵は味方」と言うことで米国の友好国から入手する場合もありますし、 先述の様に、米国製兵器をライセンス生産している海外の会社から入手する 場合もあります。 (302 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 新規採用した新兵器の稼動データや戦績、浮上した問題点などは軍から軍需産業に逐一流しているのですか? 一応、その辺については、軍と製造メーカー側との定期的な会合、あるいは、 報告書などで情報をフィードバックします。 メーカーはそれを基に、製品を改修してよりよい製品にして行く訳で。 てか、軍需品だけではなく、民需でも言えることではないか、と。 (302 眠い人 ◆gQikaJHtf2) グラマンはF-14を最後になぜ潰れたのですか? 経営が傾いた要因としては、 技術の進歩による航空機の開発費高騰 そして巨額を投じて開発した新型機もことごとくトライアルで破れる そもそも冷戦の終結とともに新型機の需要がなくなった (291 13) サーブとか三菱以外に戦闘機と自動車両方ともつくってる会社教えて下さい 20世紀初頭~第一次大戦後の頃には戦闘機と自動車を作っている会社は 結構ありました。 イタリアならFiat、フランスのRenaut、Panhard、ミサイルメーカーですが、Matra、 英国のAustin、Morris、Bristol、Armstrong-Siddley、反則気味ですが、ドイツの Messerschmitt、Heinkel、アルゼンチンのFMAもその昔、Gracielaと言う車を製作 していますし、インドのHindustanも自動車を製造しています。 (105 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 戦闘機はよくいろんな社が競合して軍に採用されますが、採用されなかったら開発にかかった莫大な金額は泡と消えるのでしょうか 相当昔ですが、第二次大戦前のイタリアや英国などでは自社開発の戦闘機というのが 結構ありました。 一応、自国空軍に売り込む為に製作されていますが、不採用に成った場合は、そのまま 自社に留め置いて、エンジンテストベッド、新装備などの実験機として使用するか、自家 用機にするか、はたまた、輸出用に国外に売り込むかの何れかを行なっています。 最終的に箸にも棒にもかからなければ、Scrapですが。 (120 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 軍需産業はWW2で大もうけしたの? 終戦によるキャンセルで大幅な損害を被った しかしすぐに冷戦が激化、こっちは大儲け (戦争板初質7 620)
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前回までのあらすじ 日出生台演習場に武器弾薬を移送中の片桐三曹以下6名の自衛官は、突如見知らぬ世界ヌーボルに召還された。 ア ムター村の聖女スビアが蛮人アンバードの襲撃から自分たちを救うために、古代ロサールの魔法で片桐たちを召還したのだ。そこはガンドールと呼ばれるこびと とクーアードと呼ばれる人間が混住している村だった。元の世界に帰る方法は、アンバードを倒し、ヌーボルに召還された目的を達成することだった。 聖女スビアに一目惚れした片桐は彼に同意した部下とともに戦いに望む。須本、中垣、岡田の3名は戦死するが目的は達成され、元の世界に帰ることができるようになった。しかし、片桐はスビアに愛を告白し、自らこの世界に残ることを決心した。 ゾードと呼ばれている赤い満月の夜が来ても、アンバードは襲撃してはこなかった。あの襲撃から半月たっていた。村人ともに粗末な外壁の上で見張りに立つ片桐はまっすぐ正面を見据えていた。 村人は手に89式小銃を持っている。高崎士長たちが元の世界に帰った後に残されたトラックには大量の武器弾薬が積まれていた。片桐は彼らに武器の使い方を教えてこの村を自衛できるようにしたのだ。 片桐は残り少なくなったタバコに火をつけた。もうすぐこの味ともお別れだ。 「俺・・・我ながら大胆なことをやったもんだ・・・」 片桐にとってスビアとの出会いは運命的であった。片桐とて女性との交際経験はないわけではない。しかし、彼が今までに出会ったどの女性よりもスビアは美し く、純粋だった。だからといって、彼女との生活のためにこの世界に残るということは高崎の言うとおり、「正気の沙汰ではない」ことだった。冷静な指揮官と して隊内での評価の高かった片桐らしくない行動だった。 だが片桐自身それは後悔していない。 「片桐・・・」 アムター村の聖女スビアが片桐に声をかけた。 「スビア、どうしたんです?こんな遅くに」 「あなたに相談があって来ました・・・」 村人たちの前で堂々と愛を語った片桐だったが、スビアとの関係は現代日本からしてみればかなりプラトニックなものだった。そもそもこの世界に結婚という概 念はなく、男女はいわば夫婦ではなく、パートナーとしてともに生活するのだ。そのかわり、カップルはお互いの愛を表明した後少なくとも3年は、その愛に偽 りがないことを証明するために純潔を守る。つまり、片桐はあと2年11ヶ月は彼女にいわゆる「手をつける」ことはできないわけだ。 「相談・・・ですか?」 「はい、あなたにしかできない相談です」 スビアはこの世界のことも含めた話を片桐に始めた。 「と、とんでもないです!」 村の長老ザンガンはスビアの申し出を聞いて仰天した。腰をぬかさんばかりの驚きとはこのときの彼を言うのだろう。 「危険すぎます!」 「いえ、わたくしは決めたのです」 スビアも一歩も譲らない。聖女と言われているがこんな時には、二十歳そこそこの女の子をかいま見せる。 「この世界に安寧をもたらすためにもわたくしは行くのです!」 片桐への彼女の相談とは、このことだった。 あの夜、片桐に語ったスビアはこの世界の歴史を教えてくれた。 この世界、ヌーボルはかつてロサールと呼ばれる国が支配し、平和に満ちていた。人々はロサールのもたらす魔法で繁栄を謳歌していた。しかし、突然謎の滅亡 を遂げたロサール。世界は一変した。それまで押さえ込んでいた、蛮人アンバードが森を支配し、人々は村落にこもって生活するようになった。時代が流れ、ロ サールの魔法の知識も徐々に失われると村落にまでアンバードが侵入してくるようになった。かろうじて保たれていた他の村々との交流も途絶えがちになり、こ のままではアンバードが完全にこの森を支配することになる。 「遙か遠くに、ロサールの都だった聖地があると聞きました。そこに行ってかつてこの世界に安寧をもたらした古代魔法を修得し、世界を再び平和にしたいのです。聖女として生まれてきたわたくしは、村人だけでなく、世界の人々の平和を望んでいるのです!」 片桐はスビアのこの純粋な気持ちに心打たれた。世界を支配できる魔法を会得しながら、それを支配ではなく平和共存のために使う。 単純だが純粋な気持ちだと思った。元の世界の大統領たちに聞かせてやりたいせりふだった。 「わかりました・・。そこまで言うならわしも止められますまい・・・・」 片桐が夕べのことを思い出している間に結論が出たようだ。ザンガンがとうとう折れた。 「片桐、スビア様のことをくれぐれも頼むぞ・・・。それから、スビア様の願いだ。おまえにひとつ力を授けよう・・・」 「力?」 ザンガンは片桐に歩み寄った。彼の額に手を当てる。 「今、話したい相手のことを想像しろ」 「誰でもいいのか?」 「よい・・・」 片桐は考えた。高崎は無事に帰ってどうしているだろう・・・。その瞬間、片桐の視界が真っ暗になった。 「話しかけてみろ」 ザンガンの声だけが聞こえた。とりあえず、言われたとおりに話しかけてみる。 「高崎、高崎!」 暗闇の中かから声が聞こえてくる。聞き覚えのある高崎の声だ。寝ていてベッドから飛び起きたということまでなぜかわかった。 「三曹?片桐三曹ですか?」 「そうだ、俺だ」 「夢じゃないですよね・・・・」 「たぶん夢じゃない・・・」 片桐はうろたえる高崎を落ち着かせてこれまでのいきさつを説明した。 「こっちも大変でしたよ。結局我々は土砂崩れに巻き込まれて、三曹を含め4名死亡ってことになりました。自衛隊が公式にこんな話を認めるわけにはいきませんからな。しかし、三曹も大変ですな。3年も蛇の生殺しとは・・・」 高崎がくすくすと笑うのがなぜかわかった。照れ隠しに軽く咳払いする。 「そうか、また何かあったら連絡する」 「了解、お元気で」 視界が戻った。ザンガンの顔が目の前に見えた。 「今のはいったい・・・・」 「古代ロサールの魔法のひとつだ。目を閉じ、話したい相手を想像するんだ。精神と精神がお互いにつながれば話ができる。つまり、初対面の人間には使えぬということだ。 おまえはポルの量が多い。いろいろ修得するとよい」 「ポル?」 ザンガンの話によれば、ポルとは簡単に言えば精神力だ。すべての魔法はポルを使い発生させる。魔法の種類に応じてポルを消費するが、消費されたポルは休息することで補うことができる。 「それから・・・」 ザンガンは1枚の紙を片桐に手渡した。紙には大きな大陸が描かれている。地図のようだった。 「大昔に命知らずが書いたとされるヌーボルの地図だ。どこまで正確かはわからんがね」 大陸はオーストラリア大陸を逆さまにしたような形だった。ちょうどキャンベラのあたりだろうか、この村の位置が記されている。そのまわりにいくつかの村があるようだが、他の地域は白紙だ。まったく頼りない地図だ。ザンガンはもう1つ、何か詰まった袋を片桐に手渡した。 「持っていけ。この村では使うことはないが、よその村で何か使うときに役に立つ。900サマライある」 「いけません!それはザンガンがこつこつ貯めていたものではありませんか!」 スビアが大声をあげる。どうやら通貨の一種らしいことが片桐にもわかった。 「よいのです、スビア様。どうぞお使いください」 スビアはザンガンを抱きしめた。 「ありがとう、ザンガン。わたくしを許して。でもこの世界でこれ以上、わたくしのような境遇の者を作ってはいけないのです・・・!」 スビアの両親はアンバードとの戦いで死んでいた。このために、若い彼女が村の聖女としてのプレッシャーに耐えながらこの村を率いてきたのだ。それ以来、ザンガンのところで彼女は育ったのだ。そのザンガンは彼女を優しく抱きしめた。 「さあ、スビア様、お行きなさい。村人一同、あなたと片桐の無事を神に祈っておりますぞ・・・」 翌朝、村の門の周りに村人たちが集まっていた。片桐とスビアを見送るためだ。みな、一様に寂しそうな顔をしている。 「片桐・・・・無事で帰ってこいよ」 ガンドールのバストーがいつになく神妙に片桐に話しかけた。片桐は笑って彼の肩を叩いた。 「おまえこそ、村を守るんだぞ!」 そう言って片桐は数名の村人に手を借りてトラックの奥から偵察用のオートバイをおろした。こいつがあったのは幸運だ。片桐は確かめるようにエンジンキーを回した。心地よいエンジン音があたりに響く。 「うわあ!!」 村人は初めて聞くバイクのエンジン音に驚いて後ずさった。これでどこまで走れるかわからないが、少なくとも荷物を担いて歩く手間は当分考えなくていいよう だ。荷物はざっと見積もってもかなりあった。水、食料はもちろん、89式小銃。護身用のシグザウエル。弾薬、手榴弾はバックパックに詰められるだけ詰め込 んだ。これらをバイクの両側にバランスよくつり下げた。 「さあ、でかけましょう」 片桐はバイクにまたがってスビアに声をかけた。彼女はおずおずと片桐の後ろに乗り込んだ。 「俺の腰に手を回して、で、これをかぶってください」 片桐は自分のヘルメットを彼女にかぶせた。バイクの腕には自信があるが、万が一のことを考えてだ。 「銃は教えたとおりに使うんだぞ!弾は今あるだけしかない。無駄につかっちゃいけないぞ!」 片桐に銃の操作を習った村人が手を挙げた。それを確認した片桐はバイクのエンジンを思いっきり吹かした。 「さあ、出発しますよ」 「はい・・・」 軽くうなずくスビアを見て片桐はバイクを発進させた。それを村人たちの後ろで見守っていたザンガンが小さくつぶやいた。 「いにしえの神よ、彼らを守りたまえ・・・・」 バイクは快調に不整地の道を走っている。スビアは片桐にぎゅっと捕まっていた。片桐は彼女の豊かな胸の感触が彼のベストのせいでほとんど感じられないのを少し残念に思った。 「スビア、大丈夫ですか?」 自分に浮かんだよこしまな感情を打ち消すように彼女に質問した。ヘルメットをかぶったスビアはそれからはみ出した長い黒髪を風でなびかせながら答えた。 「大丈夫、わたくしたち、風を追い抜いて走っていますわ!」 「とりあえず。海に出ましょう!」 「海?」 大声でスビアが質問を返した。確かに、地図上はこのまま左(すなわち地図上では東)に進めば50キロほどで海に達する。しかし彼女は村からほとんど出たことがない。海の存在を知らないわけだ。 「巨大な湖ですね。行ってください!そこにわたくしの村と友好関係のある村があるはずです!」 片桐はバイクのスピードを少し上げた。ヌーボルに来て初めてアムター村以外の集落を目にするのだ。好奇心が沸いてくるのを押さえられない。 「片桐!怖いわ!もっとゆっくり走ってください!」 とたんに後ろのスビアから抗議の声があがった。片桐は苦笑しながらスビアに答えた。 「免許は持ってますからご心配なく!」 3時間ほど走ると片桐たちは森を抜けた。土地はほとんど平坦で走るのにさほどの技術も要しなかった。だがそのかわり、周囲の状況を確認できないストレスもあった。今ようやく森を抜け、片桐はバイクを止めた。 「スビア!海ですよ!」 彼らの眼前には大きな広い砂浜が広がっていた。ゴミ一つない美しい砂浜だ。そしてその海は遙か水平線が見えた。これは同時に、少なくともこの大陸のこちら側には目に見える距離で島は存在しないことを意味していた。 「片桐!あそこ!」 スビアが指さした。片桐は首に下げた双眼鏡で彼女の指さした方向を見つめた。1人の男が見たこともない怪物に襲われている。大きさはおよそ3メートル。ワニのように見えるが、その頭には角が生えている。 「それはクブリルだわ!急がないと!」 スビアの言葉を聞いて片桐は素早くバイクを発進させた。男は砂に足を取られながら必死にクブリルから逃げているが、クブリルは4足歩行で着実に彼を追いつめているように見えた。そして、片桐のバイクの発する奇妙な音を聞きつけるとその注意を彼に向けた。 「気がついたようです!」 スビアの言葉を聞くまでもなかった。クブリルはその凶暴な顔を片桐たちに向けると、およそ心地よくない叫び声を発した。片桐はクブリルから20メートルほど離れたところでバイクを止めると89式を構えた。それと同時に驚くほどの早さでクブリルは片桐たちに突進した。 パパパン!!! 確実に89式の5・56ミリ弾はクブリルの脳を直撃したはずだった。しかしクブリルはその頭から青い血を吹き出し、大声を上げただけだ。怒りの雄叫びということは初めて見た片桐にもわかった。 「くそっ!」 もう一連射片桐はクブリルに浴びせた。それでもクブリルは青い血を流しながら片桐たちに突進を開始した。 「来るわ!」 スビアがバイクの後ろで大声をあげた。片桐は89式のセレクターをフルオートに切り替えた・・・。しかし、次の瞬間、クブリルはぴたっと動きを止めた。そしてそのままぐったりと倒れて動かなくなった。 「いったい、どういうことでしょう・・・」 スビアが不思議そうに言った。 「ヤツの脳が自分の死を体に伝達するのに時間がかかったんでしょう・・・・」 間一髪のところを救われた男は口をぽかんと開けて一部始終を見ていた。片桐はバイクを降りてその男の元へと歩み寄った。 「あ、あなたはいったい・・・・」 男の問いかけに片桐は少しとまどった。まさか、異世界の日本国から来たとは言っても信じてはくれまい。 「アムター村から来た。片桐だ」 聞き覚えのある言葉を聞いて男は顔を明るくした。男は30歳前後、やはり古代ローマ風の服装をして黒髪だ。 「アムター村から?よく来られましたな!さあ、村はこっちです」 男の案内で村に赴くことにした。片桐はバイクを押して男の後に続いた。 村は海沿いの岩場の上に作られていた。アムター村と同じく、周りを岩で作った外壁で囲んである。やはり外敵の脅威はここでも大きいようだ。 「ここはシュミリ村です」 タボクというあの男が説明してくれた。スビアは片桐にこの村はアムター村との友好関係がある村と教えてくれた。彼女が目指そうとしていた村のようだ。アムター村と同じく、長老がいた。タムロットという長老はスビアを見て感激の涙を流した。 「ようこそおいでくださいました。スビア様、こんなにご立派になられて・・・・」 スビアが言うには、子供の頃両親と訪れたことがあるらしい。どんな用事だったかまでは覚えていないと言うが・・・。タムロットの感激ぶりから推測するにかなり重要な訪問だったことは見て取れた。 「で、こちらの方は?」 タムロットがスビアに質問した。片桐の格好を見て不思議な顔をしている。無理もない、彼は迷彩服に防弾チョッキを着込んで、ゆったりとした古代ローマ風のこの世界の一般的な服装とはかけ離れているのだ。 「彼は片桐です。わたくしの村を救うために異世界から来ていただいたのです」 スビアの答えにタムロットは思い出したように目を大きく開いた。 「おおお!そういえばスビア様が以前来られたときにご両親が召還された異世界人の置きみやげがございます!」 長老は片桐たちを村のはずれに案内した。 「これは・・・」 その置きみやげを見せられてまず驚いたのは片桐だった。見覚えのある長い足、美しいたてがみ・・・。タムロットの言う「置きみやげ」とは2頭の美しい若い馬だった。 「15年前に召還した異世界人の乗っていた動物です。今はその子供たちが2頭います」 片桐は納得した。スビアの両親がこの村に赴いた理由は、異世界人の召還のためだったのだ。そして、この馬の親に当たる馬に乗った人物を召還し、元の世界か別の世界へ送り出した。そのとき残された馬が出産してこの馬たちがいるわけだ。 「長老、この馬を貸していただけないでしょうか?」 片桐は不意にタムロットにお願いした。バイクも捨てがたいが、残りの燃料を考えたらそう長く乗ることはできないだろう。 「それは結構ですが、これに乗れるのですか?」 「ええ、そのための道具さえあれば」 片桐の言葉にタムロットは世話をしている村人に何か命じた。村人は近くの小屋から鞍を持ってきた。 「異世界人がこれを使って乗っておりました。我々は使い方を知らないのでしまっておいたのです」 片桐はその言葉を聞くが速いか、スビアの手を取った。 「さあ、こいつの乗り方を教えましょう!」 スビアは要領がよかった。たった半日で乗馬のこつを修得した。片桐は自分の幸運に感謝した。学生の頃、両親に連れられて何度か乗馬スクールに通ったことがあったのだ。「人間、無駄に覚えておくことはない」と言っていた父親に改めて感謝した。 2頭の馬にはそれぞれ名前を付けることにした。スビアが気に入った馬にはローズ。片桐が乗る馬にはセピアと名付けた。 「ここから歩いて3日ほどのところに大きな都市があります。最近大きくなった都市です。あなたがたの旅の目的にかなうかわかりませんが、参考までにお教えします」 旅立ちの前に、タムロットが教えてくれた。 「感謝します。みなさんもお元気で」 スビアがタムロットに挨拶を返した。村人に見送られ片桐たちは出発した。長い長い砂浜を軽快に2頭の馬は進んでいく。 「まったく幸運でした」 「どうしてバイクをあそこに残したんです?」 「正直、ガソリンが心細かったのです」 片桐の言葉に馬上のスビアは首を傾げた。 「ガソリンとは・・・・、あれを動かすポルのようなものです。それがなくなるとあのバイクは動かなくなるのです」 「よくわかりました。それにしてもこの動物はかわいらしい・・。わたくしすっかり気に入りました」 スビアはローズの首を優しくなでた。彼女がご機嫌なのを見て片桐は一つ提案してみようと思った、 「これから我々は見たこともない世界に足を踏み入れます。そのためにはあなたを縛る掟が時に重大な危険を及ぼすこともあるでしょう・・・。」 スビアは片桐の言葉を誤解して顔を紅潮させた。 「わ、わたくしはそんなふしだらな女ではありません!まだあなたと愛を交わして一月もたっていないというのに・・・!」 「いえいえ。そのことではなく、長老格以外と話をしてはいけないという掟です。もし、俺に万一のことがあれば あなたは天涯孤独の身となる。今のうちに他人とコミュニケーションをとる練習をしておいた方がよいのではないのですか」 自分が片桐の言葉を多いに誤解していたことを気がつくと彼女はますます顔を紅潮させた。 「あ、そ、そのことですか・・・。努力はしてみましょう・・・」 それっきり彼女は黙ってしまった。片桐は軽く苦笑いするとしばらくスビアの機嫌が収まるまで黙っておくことにした。 シュミリ村を出て2日は海岸沿いに進んで平穏な旅路だった。幸い、あのどう猛なクブリルにも遭遇することなく、全くの平穏な旅路だった。3日目、スビアが永遠に続くと思われた砂浜の先に何かを見つけた。 「都市のようです!」 片桐は双眼鏡をのぞいた。なるほど、海沿いに大きな都市が見えた。周囲は煉瓦のような城壁で囲まれてその内側は今まで見た村の建物よりも大きい、2階3階建ての建物が見える。片桐がこの世界に来て初めて目にする巨大な都市だ。 「すごいわ・・・あんな大きな都市は初めて見ました」 スビアが感激したように言う。片桐は双眼鏡で都市の様子を眺めていた。そのときだった。 「何者だ!」 誰何の声で片桐は思わず肩に下げた89式に手をかけた。声を発したのは砂浜の切れ目の森から出てきた一団だった。今までのローマ風の衣服と違い、黒い革製 の鎧のようなものを身につけている。手にはパタトールではく、ボウガンそっくりの武器を持っていた。その武器を持った兵士が4名。指揮官はそれとは違って 黒いライフルのようなものを持っている。 「どこから来た」 指揮官が片桐に質問した。その威圧的な言い回しから明らかに敵かどうか疑っているのがわかった。 「アムター村から来た。こちらは聖女のスビア様だ」 片桐が代わりに答える。その言葉を聞いて一団は少しうろたえた。 「こ、これは失礼しました。てっきりガルマーニへ侵入するゲリラかと思い・・」 隊長らしき人物が丁重に頭を下げた。 「では、ガルマーニにご案内します。外部からの客人にはヘラー自らお会いになる決まりでして・・・」 一団は馬におっかなびっくりしながら片桐たちを先導し始めた。その先には巨大なローマ風の都市が見えている。 「スビア、油断してはいけません・・・」 片桐はスビアに近づいてそっと耳打ちした。片桐は警戒していた。明らかに今までの村とはその雰囲気が違ったからだ。 「わかっています・・」 ガルマーニは巨大な都市だった、まず門には片桐たちを誰何したのと同じ格好をした衛兵が詰めていた。外壁は高さ10メートル近く、その上には4,50メー トルおきに衛兵のいる詰め所が見て取れた。都市は今でも拡大しているようで、あちこちで工事が行われている。片桐とスビアは乗馬を門の外につなげた。 「日に2,3度草を食わせてやってくれ」 衛兵にそう頼むと、隊長に付き添われて都市の中に足を踏み入れた。ガルマーニ市内は片桐の想像以上に巨大だった。人々はせわしなく歩き、兵士たちの列が時 折行進していった。兵士は、ボウガンのような武器を持って、腰には長剣を下げている。指揮官はライフルのような武器を持ち、同じように長剣を下げている。 一糸乱れぬ行進で街を徘徊している。 「すばらしいですわ・・・」 スビアがその光景に感動したようにつぶやいた。たしかに、片桐もその光景にある種の関心はあった。だが、彼の直感に近い部分で警告を発している気がした。だがそれが何かは彼自身よくわからなかった。 「さあ、こちらです」 隊長が片桐たちを案内した。大きな通りで彼は歩くのをやめた。彼らの目の前には大きな通りが走っていて、その向こう側にも多くの市民が同じように止まっている。 「いったいこれは・・・」 スビアが隊長に質問しようとしたときだった。通りの向こうから巨大な箱が走ってきた。片桐にはそれがバスのようなものであるとわかった。しかし、彼の知っ ているバスとは違い、ディーゼルの臭いガスもうるさいエンジン音もなく、その窓には多くの市民が乗っているのが見えた。 「ポルを使った公共交通機関です。おかげで我々は街の端から端まで自由に動くことができます」 魔法を動力にした自動車だった。隊長はバスが通り過ぎると片桐たちを促した。 「さあ、ヘラーがお待ちです」 隊長が案内したのは街の中心にある巨大な神殿風の建物だった。その中は豪華な彫刻や絵画で彩られ、多くの黒い服の軍人が行き来している。宮殿と言うよりは軍の司令部のようだ。 「さあ、こちらです」 隊長はその宮殿の3階のドアをノックした。中から入るように促す声が聞こえて隊長はかしこまってドアを開けた。 「アムター村の聖女様ご一行をお連れしました!」 ドアの向こうはヨーロッパ風の広間だった。その中心に据えられた長テーブルで数名の人物が食事をとっているのが見えた。テーブルの中心に座った人物が口を開いた。 「ごくろう。彼らを残して下がれ」 「はっ!」 隊長はすばやく後ずさるとドアを閉めた。残されたのは片桐とスビアだけだった。 「さあ、遠慮しないでどうぞ・・・」 テーブルに座っていた1人が立ち上がって片桐たちに座るように促した。片桐はこの一見友好的な会談にも一抹の不安を抱いていた。しかし、今彼が持っているのは腰のシグザウエルだけだ。 促されて2人はテーブルの真ん中あたりのイスに腰掛けた。片桐の隣の人物は背が高く、端正な顔立ちをしている。そして彼の髪の毛を見て片桐は驚いた。この世界の住人ではありえない、見事な金髪だったのだ。 「ようこそ、アムターの聖女。さあ、とりあえずはどうぞ・・・」 中心に座っている人物が言うと、目の前のグラスになみなみとワインらしき赤い液体が注がれた。それを合図にして一斉に座っていた面々がグラスを手に立ち上がった。 「勝利のために・・・・・ジーク・ハイル!」 一同は一気にグラスを空けた。片桐は異世界で聞いた聞き覚えのあるフレーズに軽いショックを覚えた。間違いなく、今のはドイツ語だ。 「さて、聖女の付き添いの君の名前を聞いていなかったな」 中心の人物が問いかけた。片桐は答えた。 「自分は日本国陸上自衛隊の片桐三曹です」 質問者の目が驚いたように大きく見開かれた。その周りの人物も一様に驚いた表情を浮かべた。 「日本・・・・・、かつての同盟国だな。私はボルマン。マルティン・ボルマンだ」 片桐は驚愕した。目の前の初老の人物がボルマンと名乗っている。60年前に死んだとされるナチの幹部を名乗っているのだ。その動揺を見越したようにボルマンは笑った。 「無理もなかろう。ここにいるのはすべてドイツ人だ。君は何年生まれかね?」 「1977年です」 「ほお・・・あのときから32年後に生まれた訳か・・・」 ボルマンは感慨深げな表情をした。片桐は落ち着こうとグラスのワインを飲み干した。 「あなたがボルマンとしても、どうしてそんなに若いのです?本物のボルマンだったら100歳をとうに越えているはずだ」 片桐のとんちんかんな質問にボルマン以下、部下たちは大声で笑った。ドイツ人特有の低く大きな笑い声だった。 「それは君たちの飲んだワインだ。このワインはガンドールの住んでいた森で見つけたブドウみたいな実から作ったのだ。ドイツワインが恋しくなってね。ところが、その実には思わぬ効能があったのだ。さて、片桐君、ガンドールの寿命を知っているかね?」 「だいたい、100から150年と言われています」 ただならぬ片桐の様子に警戒しながらスビアが答えた。ボルマンは模範的な回答をした生徒をほめるような目でスビアを見た。 「そ の通り。だが、この実があった地域のガンドールの寿命を調べると、続々と300歳、600歳という連中が出て来るではないか。調査の結果、その原因がこの 実にあることがわかった。君たちが飲んだグラスで寿命は30年は延びたはずだ。その間の老化も遅くなるはずだ・・・。もっとも不老不死ではい。老化が遅く なるというだけのものだがね。」 「片桐、この人物を知っているんですか?」 スビアがそっと片桐に質問した。先ほどからの片桐の態度がおかしいことにスビアも気がついていたのだ。 彼女の声が聞こえたのだろう。ボルマンが高らかに笑った。 「アムターの聖女よ。私もこの片桐三曹と同じ世界から来たのだよ。もっとも私の方が遙か前にたどり着いたのだがね・・・」 ボルマンは語り始めた。1945年4月30日。ベルリンから脱出したボルマンは一握りの親衛隊員とまだドイツ軍が占領していたデンマークへ向かった。コペンハーゲンから2隻のUボートで大西洋に抜けた。目的地はアルゼンチンだった。 「Uボートには私の財産と、武器弾薬が満載されていた。しかし、大西洋に出てすぐに、英軍の駆逐艦に見つかったのだ」 爆雷が次々と投下されて2隻はほとんど沈没寸前だった。しかし、ソナー手が大西洋上ではあり得ない場所に陸地を発見し、ボルマンたちは生き残りをかけてそこに上陸した。 「それがこの都市、ゲルマニアのある場所だ。現地人は聞き違えてガルマーニと呼んでいるがね」 ボルマンたちは乗組員40名と親衛隊員50名だけだった。海の近くにあった村に食料を分けてもらいに訪ねると、そこはアンバードに襲撃されている最中だっ た。歴戦の親衛隊員はそれをあっという間に撃退し、村人は狂喜乱舞した。親衛隊の中には技術者や科学者も混じっていた。村人に城壁の建築や、ボウガンの作 り方を教え、アンバードを完全に村の周囲から追い払った。村人の求めでボルマンが村の指導者になったのは半年もたたないうちだった。 「私たちは、 このワインを飲み不老の体を手に入れた。その永遠にも近い時間を使ってこの都市を建築し、現地のクーアードたちに教育を施した。そして彼らにも扱える強力 な武器を開発し、彼らに与えた。噂を聞きつけた、周囲のクーアードたちが続々とゲルマニアに訪れ都市は大きくなった。その技術の結集がこれだ!」 ボルマンは衛兵を呼んだ。黒い服の衛兵がドイツ式敬礼をして入室してきた。手には例のライフルがある。 「客人にゲベールの威力をお見せしろ!」 「はっ!マイン・ヘラー!」 衛兵は窓を開けて指を指した。彼の指し示す方には30メートルほど先に塔が見えた。その先端に人間の頭ほどの丸い石が見えた。衛兵はライフルの要領でそれ を構えると引き金を引いた。「かしゅっ!」と、せき込むような音が聞こえた。そしてその音が聞こえると同時に、塔の上の石が砕けた。 「クーアード の持つポルを使ったライフルだ。ドイツ式でゲベールと呼ばせているがね。火薬の代わりにポルを推進薬にして鉄片を飛ばすのだ。銃よりは威力は落ちるがこの 世界では十分な破壊力だ。それからまもなく戦車も開発が完了する。君も見ただろう、公共交通機関を。あれの応用だ。」 「すごい・・・、なんて兵器なんでしょう」 スビアが素直に感嘆の表情を浮かべる。その彼女をボルマンがなめ回すような目で見ているのを片桐は見逃さなかった。 「で、こんな兵器をそろえる目的は?とても自衛のためとは思えませんな・・・」 ボルマンは再び席に着いた。片桐たちにも促す。席に着いた片桐はワインをすすった。今彼がこの都市に入る前に感じた違和感ともつかない警戒感の謎ははっきりしていた。 「我々はまもなく進撃を開始するのだ。かつて古代ロサールが支配していた土地を、蛮人どもから奪い返すのだ。クーアードの生存権を確立して平和な社会を作るのだよ。そうだ・・・」 ボルマンは視線をスビアに向けた。 「今夜、片桐君と一緒にコロセウムにおいでなさい。すばらしいものをお見せしよう・・・」 スビアは片桐に視線を向けた。判断に迷っているようだ。片桐もむげに彼の申し出を断る理由もなかった。ここに長居する気もなかったが、ボルマンの心証をあえて悪くする必要もないだろう。 「わかりました。」 スビアの答えにボルマンは満足げに頷いて、傍らのドイツ人を呼んだ。 「ハルスマン!この客人をゲストハウスにお送りしろ!」 「はっ、マイン・フューラー!」 ハルスマンと呼ばれた背の高いドイツ人は片桐たちに頭を下げた。 「それでは少し外でお待ちください。準備して参ります」 片桐とスビアはボルマンに食事の礼を述べると外に出た。ボルマンはハルスマンを近くに呼んで耳打ちした。 「あの女。聖女とか言っておったな」 「はっ、この世界では聖女はまさに聖なる存在と呼ばれております。」 ボルマンはワインを一気に飲み干していやらしい笑いをうかべた。 「わが世継ぎを産むにはうってつけの女だ・・・」 ハルスマンはちょっと顔をしかめた。あの美しい女とボルマンの取り合わせはさすがの彼にも違和感を感じたのだ。 「あの女が日本人を見る目は愛し合う者の目だ。いづれじゃまになる。」 「殺しますか・・・?」 「手に余れば拘禁してキャンプに送ってもよかろう」 今はもうハルスマンはさっまでの表情を浮かべてはいなかった。任務に忠実なドイツ人の顔に戻っていた。 「はっ!マイン・フューラー!」 ハルスマンに案内されて片桐たちは外に出た。近くの士官に命じて車を回すように言った。 「自動車まで開発したんですか?」 思わず片桐が質問した。ハルスマンは笑いながら指さした。 「はい、フォルクスワーゲンとまでは行きませんが・・・」 見ると、確かに自動車に近い形の物体がこっちに向かって来るのが見えた。木のホイールでタイヤは皮で覆われていた。ボディは薄い鉄板で簡単に装甲が施され ている。エンジン音は先ほどのバス同様ほとんどなかった。運転兵が後部のドアを開けて片桐とスビアを乗せた。ハルスマンは助手席に座った。静かに車は発進 した。 「いくらポルが強くてもこんな大きなものを動かすことは相当難しいはずです・・・」 スビアが車窓を興味深く見ながら言った。ハルスマンは助手席から後ろを振り返りながら言った。 「スビア様、アクサリーという石のことを聞かれたことはありませんか?」 「・・・あります。古代ロサールの神秘だった謎の石ですわ」 「左様、この都市の郊外の山からそれを産出することに成功しました。その場所と精錬方法は極秘なのでお教えはできませんが・・・」 アクサリーとは簡単に言えばポルを増幅させる媒体であるようだ。普通のクーアードのポルではあまり大きな物質を動かすことなどはできな。しかし、ポルをアクサリーに経由させて物質に働きかけることでその力は増大するのだ。 「それに、ここまで大勢のクーアードが同じようにポルを使いこなせるなんて・・・・」 「それは我がドイツの徴兵システムで教育可能でした」 ガルマーニでは多くのクーアードが2年ほどの兵役を課せられているのだそうだ。その間、ドイツ人の教官がみっちりとドイツ式訓練でポルの使い方を教え込む という。車はハルスマンの説明が終わる頃にちょうどゲストハウスに到着した。ゲストハウスは3階建ての木造。北欧建築の特徴が色濃い様式だった。 「片桐軍曹、拳銃はフロントに預けていただけますか?」 「三曹だ・・・」 片桐は不承不承拳銃をフロントに預けた。ハルスマンはそれを見届けると2人を3階のもっとも豪華であろう部屋に案内した。 「では7時にお迎えにあがります・・・」 うやうやしくスビアにお辞儀するとハルスマンはドアを閉めた。なるほど、部屋はたしかに豪華だった。ボルマンの趣味だろうか、完全なヨーロッパ様式のス イートだった。片桐はとりあえず、ふかふかのベッドに身を投げ出した。アムター村を出発してからほとんど野宿に等しい宿泊だったので、ベッドの心地は懐か しいものだった。片桐はさっきまでのボルマンとの会見を思い出していた。歴史の教科書に出てきていた人物との会談はおよそ奇妙だったが、彼の語りはこの都 市の繁栄ぶりを見るに間違いなく事実であろうことが想像に安かった。そして今夜、自分たちになにを見せるのか・・・、おおかたの想像はついた。 「片桐・・、夜までどうやって・・・」 スビアが片桐に歩み寄ってきた。彼はすばやく彼女を抱き寄せるとベッドに横たえて熱いキスを浴びせた。 「これは掟に違反していますか?」 抱き締めながら片桐が問いかけた。スビアはほほえみながら彼の肩に体を預けた。 「ここまでなら許容範囲ですわ」 「では、一緒に夜まで優雅にシェスタとしゃれこみましょう・・・」 「同感です。わたくしもくたくたですわ・・・」 2人はしばしの仮眠を楽しむことにした。 街に作られたコロセウムはローマのそれを彷彿とさせた。今、この客席には数万の市民が集まって、真っ暗な中心部を見つめている。そこへ一筋のサーチライト のような明かりがともされ、中心のステージ脇に立っているラッパ手に向けられた。ラッパ手は口にラッパをくわえると荘厳なソロを奏でた。それにかぶせるよ うにドラムの単調なリズムが聞こえてくる。 「ごらんください」 片桐とスビアに随行するハルスマンが暗闇を指さした。そこからはたいまつ を抱えた数百の黒服の兵士が一糸乱れぬ行進で中心部に向かって進んでくる。その後方には旗を手にした部隊が続く。無数のサーチライトがこの部隊を照らし出 した。彼ら兵士の持つ旗は見間違う事なき、ハーケンクロイツである。 「ジーク・ハイル!ジーク・ハイル!」 片桐とスビアの周りの市民がその旗を見るや大声で歓呼し始めた。ライトが中心部の舞台を照らした。壇上にはボルマンがナチ党の正装で彼ら兵士たちを敬礼で迎えている。ボルマンの姿が照らし出されるや、市民の歓呼は最高潮に達した。 「すごい・・・・」 初めて見る光景にスビアはただただ驚きの声を上げた。それを見てハルスマンは満足げな表情を浮かべている。行進は旗を持った部隊に続き、ゲベールと呼ばれるライフル部隊が続く。その後方にはボウガンを持った部隊がやはり一糸乱れぬ行進で入場してくる。 「いよいよ今夜の主役のおでましです」 ハルスマンが2人に耳打ちする。出てきたのは数台の戦車だった。 「まだ量産はできていませんがこれだけで相当な戦力になります。」 15両の戦車は、本場の戦車に比べて貧弱に見えた。木のホイールに皮のキャタピラ。薄い鉄板の装甲はオリジナルとはほど遠かったが、この世界の攻撃には十 分な防御力を持っているように見えた。そして、主砲も50ミリ砲くらいの大きさに見えたが、昼間見せられたゲベールの威力から考えると十分な脅威だった。 たいまつの部隊はボルマンを中心として左右に展開し、一糸乱れぬ動きで大きなハーケンクロイツを映し出していた。戦車がボルマンの正面に停車すると音楽 も、部隊の動きも止まった。とたんに市民の歓呼も収まり、数万の人々で埋まったコロセウムは水を打った静けさに包まれた。 「諸君!!」 ボルマンが第一声をあげた。 「我らクーアードのたゆみない努力が今日、ついに実を結んだ!ここにそろった15両の戦車がついに完成したのだ!!これはアンバードのいかなる野蛮な攻撃も通用しない!」 「ジーク・ハイル!!」 客席の市民が歓呼の声を上げた。その声が収まるのをボルマンは待った。 「古代ロサールが滅亡して長きにわたった、我々クーアードの苦境は今日この日を持って終結する!我々は生存権を確立し、この地に君臨する!古代ロサールの偉人に代わり、この世界に安寧と平和をもたらす偉大なる生存戦争に乗り出すのだ!」 「ジーク・ハイル!!」 ほとんど絶叫に近い市民たちの歓呼の声がコロセウムを包んだ。それを満足げに見たボルマンはさっと、別の方を指さした。サーチライトが彼の指の先のものを照らし出した。それに気がついたスビアは驚きの声を上げた。 「あ、あれは・・・」 ライトに照らされたのは柱に縛り付けられた数名のガンドールだった。それを見た市民が口々に罵声をあびせる。それをボルマンは余裕綽々と言った感じで制した。 「奴 らガンドールはその矮小な肉体を利用し、我ら勤勉なクーアードの生産した食料を無駄に消費し、あまつさえ、アンバードに荷担した。この劣等な人種さえいな ければ我らの苦境は半減したはずだ!諸君!!今こそのろしをあげるときだ!我らクーアードは民族の生存と繁栄のための戦いを開始するためののろしをだ!」 ボルマンが合図を送った。戦車の砲塔が彼ら無抵抗の哀れなガンドールに向けられた。彼らは足をばたつかせ悪態をついているのが見て取れた。ハルスマンは半笑いでそれを見ている。 「見ちゃいけません!」 片桐はこれから起こるであろう悲劇を推測してスビアを抱き寄せた。 「ファイア!!」 大きな咳払いのような音が立て続けに響いて、それと同時にガンドールたちは土煙で見えなくなった。それを見た観衆はよりいっそうの歓声をあげた。 「諸君!子を軍に送りだした母親よ!父を送り出した息子たちよ!夫を送り出した妻たちよ!今こそ、誇りに思うのだ!クーアードは最強の武器で劣等民族を駆除し、高等民族たる我々の手で真の理想郷を作り上げるのだ!我らの勇敢な兵士に輝ける勝利を!ジーク・ハイル!!」 観衆のボルテージは最高潮に達した。、口々に「ジーク・ハイル」と叫び、隣の者と抱き合い。感涙をこぼす者さえいる。ボルマンは行進する黒の兵士に敬礼を捧げて見送っている。その後ろには数十名の親衛隊の制服に身を包んだドイツ人が見えた。 ハルスマンに送られて2人はゲストハウスに戻った。片桐はもはやここに1分でもとどまりたくなかった。 「わたくしも同感です」 スビアと意見の一致を見た片桐はフロントに降りた。 「俺の銃を出してくれ」 フロントのクーアードは首を縦に振らなかった。 「それはハルスマン様の許可がないと・・・」 片桐はフロントの首根っこをつかんだ。指をのどに食い込ませて再び質問した。 「出してくれるかな?」 フロントは顔面蒼白になりながら首を縦に振った。シグザウエルを受け取って街に出た片桐は簡単にナチスのことをスビアに話した。それを聞いたスビアは明らかにショックを受けているようだった。 「まさか、クーアードをまとめるためにガンドールを敵にして殺すなんて・・・」 「やつらの常道手段です。俺もうかつでした。この街に入ったときに気がつくべきでした。ここにはガンドールが1人もいないことにね・・・」 片桐がこの都市に来て本能の部分で感じた警戒感はそこだったのだ。スビアはそれを聞いてはっとした。彼女も同じ様な疑問が引っかかっていたんだろう。片桐は街の入り口に向かって進んだ。街路には人がほとんどいない。まだコロセウムで熱狂しているのだろう。 「止まれ・・・」 人気のない街路の真ん中に人影が見えた。片桐は腰のホルスターに手を伸ばした。 「無駄だ、君は四方から狙われている。」 声の主はハルスマンだった。見るといつの間にか、長剣やボウガンを構えた兵士に囲まれている。片桐はスビアを自分の後ろにやって後退した。 「聖女スビア様、フューラーがお待ちです。ご同行願います」 ハルスマンが手にワルサーP38を構えながら言った。スビアは片桐にしがみついた。もはや2人の後ろには建物の壁が迫っていて逃げ場はない。 「片桐・・・、わたくしを撃ってください。あんな男にとらわれるくらいなら・・・」 片桐はその言葉にショックを受けた。そんなことできるわけがない。しかし、彼女の言うとおり、ボルマンの手に落ちるくらいなら、彼女の望み通り愛する者の手で運命を決めるのも彼女の権利だ。 「それはいよいよの時だけにしましょう」 そう言って振り返ったときだった。すでにスビアの姿は片桐の後方にはなかった。建物の陰に隠れていた兵士に口を押さえられてハルスマンのところへ引っ張られていく最中だった。 「スビア!」 思わず叫んだ片桐の後頭部に強烈な衝撃が走った。がっくりひざを突いてそのまま倒れ込む。片桐が意識を失う前に見たのは必死に抵抗するがハルスマンの手に落ちたスビアの姿だった。 どれくらい眠っただろうか・・・。片桐は目を覚ました。背中の感触でどうやら粗末だがベッドに横たわっているのはわかった。 「目が覚めたか、日本人・・・」 その言葉に頭をあげる。まだ少し痛みが走るがそれにかまわず片桐は起きあがった。周囲を見回すと、そこは巨大な牢獄だった。壁は大きな岩でびっしりと覆わ れ、わずかに数カ所の窓には格子がつけられている。中にいるのは皆クーアードだった。その中で片桐の一番近くにいた人物が声をかけた。 「私はハルス大尉、U-689の艦長だった」 金髪に白髪が混じりの男だった。少々汚れているがドイツ海軍の軍服を着ていることがわかった。 「自分は陸上自衛隊三等陸曹、片桐です。ここはいったい・・・」 改めて周囲を見回すと、そこには大勢のドイツ軍の軍服を着た兵士がいた。ほとんどは海軍の制服だが、2,3名親衛隊の制服の者も混じっていた。 「ここは政治犯の収容所だ。それと同時に絶滅収容所でもある・・・」 ハルスが力無くつぶやいた。そして窓の1つに片桐を見せた。彼はその光景に絶句した。大勢のガンドールが強制労働に従事している。しかもその労働内容と いったらまったく意味があるとは思えなかった。一団のガンドールはひたすら穴を掘るだけだ。別の一団は彼らが掘ったであろう穴を埋め戻している。時折、力 つきたガンドールは巡回する兵士のゲベールで容赦なく射殺されていった。 「なんてことだ・・・」 思わず片桐が目を背けた。ハルスは片桐の肩に手をやった。 「幸い我々は強制労働は課されていない。そのかわり、永遠に似た苦痛を与えられているのだ。」 そう言ってハルスはテーブルのポットを持った。コップを片桐に渡すとポットの中身を注いだ。それは赤い液体だった。片桐がボルマンとの会食で見たあのワインだった。 「水分はこれ以外与えられない。我々は不老の体を維持しながらここで思想を転向するまで閉じこめられるのだ。」 死よりもつらい拷問といえた。ある意味、あっさり殺すのではなく、極力生きながらえさせて洗脳する。その方が効果的に洗脳できるのだ。ドイツ人らしい効率的なオルグの方法だった。 「だが我々もじっと閉じこめられているだけではない」 ハルスは牢獄の中央にあるテーブルを動かすように命じた。数名の海軍兵士がそれをどかした。そこには2枚の板が敷かれている。 「中はトンネルだ。25年かけて掘り進めた。君は運がいい。明日、外のレジスタンスと呼応して脱走する計画があるのだ」 片桐はこのハルスの言葉に希望を見いだした。そして希望を持ったと同時に気になることもあった。 「自分と一緒にいた女性のことはなにか聞いていますか?」 ハルスはそれを聞くと悲しげな顔をして首を横に振った。 「君と一緒にいた聖女のことは知っている。しかし、彼女はボルマンのところに連行されたようだ。」 片桐は絶句した。あの会食で見せたボルマンのスビアに対するいやらしい視線を思い出した。ボルマンが彼女を獲得したならば、その目的はひとつしかない。し かし、ボルマンがその目的を達成する前に誇り高い聖女で、いとおしい片桐の恋人は自ら死を選ぶであろう。もはや一刻の猶予もないように思えた。それを察し たハルスは片桐をひとまずは安心させる情報を教えてくれた。 「ボルマンは新鋭の戦車隊と出征した。今、彼女はヤツの司令部に幽閉されているだけのはずだ。焦らずにまずはここから抜け出してレジスタンスと合流するんだ・・・」 ここでごねたところでどうにもならないとわかっている片桐はハルスの意見に従うことにした。それと同時に心に誓った。必ずスビアを助け出すと。 「まずは夜を待て。ここの警備は厳重だが親衛隊ほどじゃない。それまでゆっくり休むんだ」 片桐はハルスの忠告に従うことにした。ワインを飲んで粗末だがパンを食べて腹を満たした。その間、ハルスはここに幽閉されているドイツ兵の運命を話してくれた。 「ボ ルマンが指導者になり、ゲルマニアを建設してからしばらくしてからだ。彼は自らをフューラーであると宣言した。現地のクーアードがヘラーと言ってるのを聞 いただろ?そして、自らの権威を大きく確実なものにするためにボルマンは、ガンドールの弾圧を始めたのだ。共通の敵を作ってしまえばクーアードは団結し、 ボルマンの権力を支持するからな。我々海軍兵士の多くはその政策に反対して投獄された。ここにいる親衛隊員はボルマン自らがフューラーを名乗ることに反対 したため投獄されたのだ。ヒトラーの遺言では今でもフューラーはデーニッツだからな・・・。だが今は彼らも同じ志を持つに至った。フランツ中尉!」 ハルスは親衛隊の士官を呼んだ。フランツはこれまたがっしりした金髪のドイツ人だった。 「ボ ルマンはヒトラー総統の考えを受け継いだと言っているが、大嘘だ。ヤツは自分の利益だけのためにこの世界を混乱に陥れている。第3帝国なき今、我々はこの 世界の人々と共存していくしかない。外のレジスタンスと協力してクーデターを起こす計画がある。ぜひ、協力して欲しい。」 どのみち、スビアを救出するにはボルマンの本拠地に乗り込む他はない。それには味方も武器も必要だ。彼らの計画に乗ってみるのも一計だ。片桐は快諾した。 赤い満月、ゾードが南中した。格子の入った窓から片桐はその赤い月明かりを眺めていた。この月明かりの下で髪をなびかせていたスビアを思い出した。たった 2日離れているだけでこんなにも寂しく感じるとは・・・。ふと、片桐は出発前にザンガンに教えられたあの力を試してみる気になった。目を閉じてスビアのこ とを思い浮かべてみる。 「片桐?・・・片桐ですか?・・・・」 ごくかすかだが、彼女の声が聞こえる。まだまだ不慣れでポルの力が一定でないようだ。電波の悪い携帯電話のようだった。 「スビア・・・、必ずあなたを助けます。けっしてあきらめてはいけません」 「いけません・・・、わたくしのことは構わず逃げてください・・・・」 片桐は心揺らいだ。彼女の気持ちが痛いくらい伝わったからだ。それは自己犠牲の精神だった。そのせいか、ただでさえ不安定だったポルがますます不安定になったのか・・・、スビアの声がますます小さくなった。 「必ず!必ず、迎えに行きます!」 「・・・・・!」 最後の声は聞き取ることができなかった。片桐は目を開けた。少なくとも彼女が生きていることだけは確認できた。それだけで片桐は戦う気力が沸いてきた。こ の牢獄を脱し、レジスタンスと合流してできるだけ速くボルマンの司令部に潜入しスビアを救い出す。たったこれだけのことじゃないか、とすら思えた。 「さあ、時間だ・・・」 フランツが言った。広大な収容所の隅っこから鳥のような鳴き声が聞こえた。レジスタンスの迎えの合図だった。窓を見張っていた海軍兵士が合図した。歩哨がいないことを示す合図だった。 「行くぞ!」 ハルスが床板をはずしてトンネルに潜り込んだ。フランツに続いて片桐も潜り込む、その後ろに海軍兵士が続々と後に続いた。片桐はふと「大脱走」の一場面を 思い出した。あれは連合軍の兵士がドイツ軍の収容所から脱出する映画だったが、今はドイツ兵と自衛官が一緒に脱走をはかっているのだ。ちょっと笑いが出そ うになった。 トンネルはさすが25年かけて掘られたものだった。しっかりと天井にも板が張られ、崩壊の心配を感じさせる要素はなかった。四つん 這いになって数十メートル進むと突き当たりに出た。ハルスが土がむき出しになった天井に手をやった。そのまま素手で土をほじくり返す。すぐにハルスの手が 地上に出た。 「成功だ・・・!」 ハルスが周囲を警戒しながら外へ出た。フランツに続いて片桐も地上に飛び出した。 「こっちだ・・・」 少し先の茂みから声が聞こえた。トンネルの出口は収容所の柵のすぐそばだった。20メートルほど離れた場所でクーアードの歩哨がゲベールを提げて立っている。片桐は体を低くして声の聞こえた茂みに駆け込んだ。 「よく脱出できましたな」 片桐を迎えたのはガンドールの一団だった。手にはワルサーやボウガンがあり、よく訓練されていた。リーダーのサクートが片桐と握手を交わした。その間にも 続々とトンネルからはドイツ兵が踊りだしてくる。牢獄にいた20名ほどの兵士が全員脱走するのにそう時間は要しなかった。 「ではアジトに行きましょう・・・」 サクートの先導で脱走者たちはおぞましい収容所に別れを告げた。 アジトはガルマーニの外壁工事が行われているすぐそばの洞窟だった。そこはかなり大きな洞窟でガンドールだけでなく、クーアードも多く待機していた。皆手にはゲベールやボウガンがあった。ドイツ兵は洞窟の奥から大きな木箱をいくつか運び出してきた。 「片桐三曹、君にはこれを貸そう。使えるかね?」 フランツが片桐に手渡したのはサイレンサー付きのステンSMGだった。以前英軍の輸送船を拿捕したときに押収した武器だった。 「ボルマンは昼間に戦車と1000名の兵士を連れて出陣しました。目的は東の森にあるガンドールの村です。」 サクートがハルスに報告した。彼の報告では司令部には数十名の兵士と数人のドイツ人が残っているだけだ。完全に油断していることが見て取れた。 「よし、司令部を攻撃して市内を掌握しよう。できるだけ戦闘はさけて転向をうながせ。ドイツ人に指揮されている部隊は例外だ。容赦するな!」 今やガンドール、クーアード、ドイツ人の混成部隊は2手に分かれて市内に潜入を開始した。 「フランツ中尉、自分は司令部に潜入したいんですが・・・」 「片桐三曹、だったら俺と一緒に来るんだ」 フランツは数名の部下を連れて市内の裏道に入った。深夜の街路は静まり返っていて誰もいない。その中を片桐たちは素早く駆け抜けた。フランツが通りの角から次の通りを確認して動きを止めた。街路に警備の兵士が立っているのだ。 「まかせろ」 フランツは背後からそっと兵士に忍び寄るとMP-40の銃床で兵士の頭を殴りつけた。一撃で兵士は昏倒した。 「縛ってその辺に隠しとけ」 フランツは部下に命じた。片桐とフランツは安全を確認した角を曲がった。その先はボルマンの司令部がある。大きな司令部の周囲には歩哨はほとんどいないよ うだった。周りには2メートルに満たない塀があるだけだ。片桐たちは造作もなくそれを乗り越えると司令部内に侵入した。 「別働隊も反対側から侵入しているはずだ。片桐、君は目的を果たしてこい。集合場所は正面ロビーだ。聖女様によろしくな・・・」 フランツが片桐の肩をぽんと叩いた。片桐もフランツの肩を叩き返して行動を開始した。外壁の出っ張りを利用して2階のテラスに登った。テラスは端から端ま で続いていて窓の多くからは明かりがこぼれている。兵士たちが大勢いると言うことだ。その窓を一つ一つ確認しながら片桐は進んだ。一番端の開け放たれた窓 から女性の叫び声が聞こえた。 直感で片桐は確信した。間違いない、彼女だ。片桐は駆け出したい衝動を抑えながら窓の下にとりついた。そっと中を覗いてみる。 「やめなさい!」 「騒ぐんじゃない!」 背の高いドイツ人がソファーにスビアを押し倒している。必死に抵抗する彼女の細い腕が見えた。そのドイツ人がハルスマンということは一目でわかった。 「静かにしろ!」 ハルスマンはスビアを平手で叩いた。そしてぐったりしたスビアの上に覆い被さった。このドイツ人がこれからしようとしていることを瞬時に理解した片桐は怒 りで顔を紅潮させた。さっと、音も立てずに室内に侵入すると、ステンの銃床で思い切りハルスマンの後頭部を殴りつけた。 「あっ!」 怒りのあまり手元が狂ったのか、ハルスマンは間一髪でそれをかわして片桐に飛びかかった。手に持っていたステンが床に転がった。もつれ合って床を転がった後、片桐はハルスマンの腹を足で押して彼から離れた。2人のちょうど中間あたりにステンが転がっているのが見えた。 それに飛びついたのは2人同時のようだったが、一瞬ハルスマンが速かった。間に合わないと悟った片桐はブーツを彼の顎めがけて振り上げた。ハルスマンはそれを両手で受け止めて再び片桐を床に押し倒した。それと同時に太い腕を片桐ののどに押しつけた。 「片桐・・・、まさか強制収容所から抜け出してくるとはな・・・・。」 獲物にとどめを刺すような獣のように興奮で目をぎらぎらさせながらハルスマンは腕に力を込めた。片桐も必死で彼の脇腹にパンチを食らわせるがびくともしない。 「久しぶりに人間を絞め殺すんだ。楽しませて・・・」 がしゃん!という音ともにハルスマンの頭から血が流れ出た。腕の力がゆるんだ。片桐はそれを確認して一気に起きあがって、反対にハルスマンの首を締め上げた。ハルスマンはしばらくの間、足をばたつかせていたが、やがてぴくぴくと痙攣してそのまま動かなくなった。 スビアは割れたワインボトルを持ったまま立ちつくしていた。彼女の一撃の助けがないと片桐はハルスマンに絞め殺されていたのは確実だった。ハルスマンだった死体から手を離して、そばに落ちていたステンを拾い上げた。 「片桐・・・」 片桐の無事な姿を確認したスビアはその胸に飛び込んできた。片桐もまた彼女をしっかりと抱き留めた。肩が震えているのがわかった。無理して気丈に振る舞っていたのがすぐにわかった。 「どうしてもっと早くきてくださらなかったのです?本当に怖かったのですよ!」 「スビア、今こうしてきたではありませんか・・・」 片桐はきつく彼女を抱きしめた。しかし、その再開の余韻に長く浸っているわけにはいかなかった。すでに司令部のあちこちで銃声が響いていた。レジスタンスが戦闘を開始したことを意味していた。 「さあ、ここから逃げましょう!」 片桐がドアを開けようとしたとき、そのドアが外から開かれた。開けたのはボルマンとの会見でゲベールを撃った衛兵だった。そいつは片桐の持っているステンの一連射で後ろに吹っ飛んだ。スビアはその衛兵からゲベールとベルトに提げられた弾薬箱を持ち出した。 「わたくしになら使えるはずです」 片桐はスビアからゲベールを受け取って構造を調べてみた。ごく簡単な構造だった。弾丸は銃身の後ろから込め、ボルトを締める。激鉄の先にはアクサリーと呼 ばれるほんの小さな石がついている。トリガーを引くとその激鉄が下りて、増幅されたポルの力で弾丸が発射される構造だ。 「本当に大丈夫ですか?」 片桐の問いかけに答えずにスビアは、柱の向こうから現れた抜き身の長剣を持った兵士に向けてゲベールを発射した。せき込むような音と同時にその兵士は肩から血を吹き出してうずくまった。 「大丈夫なようですね」 新たな弾丸を込めながらスビアが笑顔で答えた。片桐は若干彼女の適応力に辟易しながらも彼女の手を取った。 「待ってください!」 さらにスビアはハルスマンの死体から小さなカギを取り出すと部屋の中にある書棚のような家具の扉を開けた。中には片桐の89式と防弾チョッキ、ホルスターがしまわれていた。 「他の装備はローズとセピアと一緒に外の小屋にあります。衛兵がよく調べていないようでまだ見つかってはいません」 「あなたは優秀な自衛官になれそうですよ」 使い慣れた装備を身につけながら片桐はただ感嘆するばかりだった。 正面ロビーに達するにはいくつかの難関を越えねばならなかった。ドイツ人に指揮された敵兵はいくつかの場所にバリケードを作って抵抗していた。多くの部隊 はレジスタンスに降伏したようだ。今片桐とスビアの目前にも、廊下一面にバリケードを作ってレジスタンスに応戦している一団がいた。 「突破するしかありませんな・・・」 連中の背後にある部屋から様子を見ながら片桐はつぶやいた。3名のドイツ人と数名のクーアードがバリケードに隠れてレジスタンスに発砲している。片桐たち には気がついていないようだ。89式のセレクターをフルオートにして片桐は深呼吸した。そして呼吸を整えると意を決して柱の影から飛び出した。 「日本人だ!」 ドイツ人の1人が気がついて振り向きざまにワルサーを発砲した。弾丸は片桐の耳元をかすめたが、それにかまわず彼はトリガーを引いた。そのドイツ人ごと敵 は全員撃ち倒された。本来ならスリーバーストショットで撃ち倒すべきだったのだろうが、残念ながらこの状況では難しい。 反撃の収まったバリケードにレジスタンスが突入してきた。ドイツ人は全員死亡。クーアードは3名が重傷だったが命は助かりそうだ。レジスタンスは生き残った敵兵を連行していった。 「片桐!生きていたか?」 フランツが駆け寄ってきた。彼はスビアを見つけると礼儀正しく一礼した。 「お目にかかれて光栄です。アムターの聖女スビア様。フランツと申します」 「片桐の脱出に力を貸していただいたことに御礼を申し上げます」 一通り挨拶の終わったフランツは片桐の方を向いた。すでに司令部の銃声は収まっている。ほぼ制圧したようだ。 「司令部は制圧した。ハルス大尉の別働隊が市内を回ってレジスタンスの参加を市民に呼びかけているところだ。残っていたSSは全員射殺した。君のやってくれた連中も含めてな。海軍の兵士はハルス大尉の名前を聞くとたちどころに武器を捨てたよ。まずは大勝利だ」 片桐はまずは安堵した。当面スビアの安全は確保できた。そして気になることがあり、外に出た。外には捕虜が整列させられている。その中で見覚えのある衛兵を見つけた。 「君は、門番をしていたな・・・」 片桐の質問に、これからの自分の将来を危惧していた衛兵が顔を上げた。 「俺たちの乗ってきた馬の世話を君にお願いしたと思うんだが・・・」 「はい!ヘラーの命令でこっちで休ませてあります!」 レジスタンスの許可をもらって片桐とスビアはその衛兵に案内役をまかせた。衛兵は司令部の裏手にある小屋に2人を案内した。 「あそこです。あの動物が抱えていた荷物もそのままにしてあります。」 片桐が扉を開けてみた。2頭の馬がのんきに草を食べているのが目に付いた。 「ローズ!無事だったのね!」 スビアがうれしそうにローズを抱きしめた。ちゃんと餌も水も与えられているようでどちらの馬の健康状態も良好に見えた。 「ちゃんと餌をやっていてくれたようだな」 「はい!そりゃあ、初めて見る動物ですからきちんと言われたとおりに・・・」 衛兵はここぞとばかりに自分の仕事をアピールしているようだった。片桐はその衛兵を見て肩をすくめると彼の肩を叩いた。 「俺たちが旅立つまでの間、馬の世話を君にお願いしたいが、引き受けてくれるか?レジスタンスには俺から言っておこう」 片桐の言葉に衛兵の表情がぱっと花が咲いたように明るくなった。当面自分の身の安全が保証されたのだ。無理もないだろう。 「捕虜が逃げたぞ!」 そのとき、銃声とともにレジスタンスの大声が聞こえた。フランツが小屋まで走ってくるのが見えた。 「門番が逃げた!まずい。ボルマンが戻ってくる・・・」 「戦うしかないようだな・・・」 フランツの表情が暗くなった。確かに、道はそれしかないことはわかっていたが、戦力差がありすぎる。 「司令部にパンツァーシュレッケがあるのが見つかった。しかし相手は15両の戦車を持っているんだ。それに歩兵だけでも1000人だぞ。こっちは寝返った捕虜を入れても300名にも満たない・・・」 「わたくしに考えがあります」 スビアが顔を上げて言った。フランツも片桐も怪訝そうな顔で彼女を見つめた。 「クーアードに語りかけるのです!」 翌朝、市内の広場にスビアの姿があった。その周りにはハルス、フランツ、片桐、サクートはじめガンドールのレジスタンスが集まった。ものものしい様子に市民は遠巻きにそれを見守っている。 「ガルマーニのクーアードよ、わたくしはアムター村の聖女スビアです!」 第一声は緊張のせいか、いささか震えているが、聖女自らの言葉にクーアードたちはざわめいているのがわかった。 「ボルマンはあなたがたに、強力な武器とすばらしい文明を授けました。これは疑い様のない事実です!しかし、あなたがたは大切なことを忘れていませんか?この世界はクーアードだけのものではありません。ガンドールの運命を忘れてはいませんか?」 彼女の声に引き寄せられるように市民たちは続々と広場に集まった。今や広場は埋めつくされんばかりの市民でいっぱいだった。その市民に向けてスビアは再び言葉をかけた。 「ここにいるクーアードでガンドールがどうなっているか本当に知っている者は?」 「遙か遠くに追放されたはずだ!」 「集団で遠くに移住したと聞きました」 「アンバードに荷担したガンドールは殺され、それ以外は西に移住したはずだ!」 口々にうわさで聞いた話を声にあげた。それを聞いたサクートが叫んだ。 「そ れはボルマンたちの嘘だ!奴らは俺たちを収容所に入れて強制労働させているんだ。しかもその労働も全く無意味なものだ!穴を掘っては埋める。それだけだ! 奴らは俺たちに反抗する気力をなくさせるためだけにこんなことをさせているんだ!それに耐えきれなくなったら、奴らのゲベールの的になるだけだ!」 サクートの言葉に市民たちは衝撃を受けているようだ。互いに顔を見合わせている。群衆から声があがった。 「嘘だ!スビア様はそこのガンドールにそそのかされているだけだ!」 市民がとたんにざわめき始めた。自分たちの信じていたことをいきなり否定されてもすんなり受け入れられないのだろう。 「本当だ!」 今度はハルスが声を上げた。 「俺 はボルマンと同じ異世界人だが、彼の政策に反対して30年、収容所で過ごした。その間、多くのガンドールが収容されて殺された。村ごと捕まって収容所送り になった連中も見てきた。ボルマンは独裁者だ。ヤツは諸君の力を利用してこの世界に自分の帝国を作ろうとしているにすぎない!」 群衆は静まり返った。もはや彼女の言葉に反論しようとする者はいなくなった。スビアはそれを確認して再び口を開いた。 「ボルマンはまもなく戻ってきます。あの男はこの街が占領されたことを知っているでしょう。レジスタンスを皆殺しにするために容赦ない攻撃をはじめるでしょう・・・。一緒に戦ってください!」 「ボルマンがひどいことを考えていることはわかりました。しかし、わかりません!何のために戦うのですか?何のためにですか?いったい何のために?」 市民から疑問の声があがった。その答えにスビアは少し考えているようだった。再び市民からどよめきが起ころうとしていた。しかし、それを素早くスビアは制して答えた。 「わ たくしたちの祖先も、わたくしたちも古代ロサールが滅亡後、苦しい日々を送ってきました。しかし、わたくしたちは誇りがありました。クーアードとガンドー ルと手を取り合ってこの苦境を乗り越えてきた誇りです。あなたがたにはその誇りは残っていないのですか?偽りの繁栄にあなたがたの誇りは奪い去られてし まったのですか?ボルマンの見せた幻の繁栄を買うために売ってしまったのですか?」 スビアは一気にまくし立てた。ボルマンの演説や演出には足元 にも及ばないと自分でもわかっていた。一か八かの賭だった。市民は再び静まり返っていた。片桐もスビアの言葉を聞いての市民の反応を手に汗を握って見守っ ていた。この市民の反応次第で、これから起こるであろう戦いの運命は決するのだ。そして、その賭はスビアの勝ちだった。 「我らクーアードの誇りのために!」 「ガンドールととも異世界の独裁者と戦おう!」 「スビア様の名のもとに戦うぞ!」 市民が完全にレジスタンスについたことを確信してハルスが叫んだ。 「みんなで武器を持って集まってくれ!持ってない者には支給する!」 フランツは片桐を見やった。片桐も我がことのように得意満面な表情になっているのが自分でもわかった。 「たいしたお嬢さんだ・・・・」 「お嬢さんではありません。聖女です・・・」 フランツの言葉を聞いてスビアが笑顔で2人に歩み寄った。そしてそのまま片桐に抱きついた。フランツが驚いた表情でそれを見ている。 「緊張しました。わたくし、こんな大勢の前で話なんてしたことないんですもの」 それを聞いてフランツが大声をあげて笑った。そしてスビアを抱き留めている片桐の肩をぽんぽんと叩くと言った。 「いやはや、たいした聖女様だよ!俺もできることならお仕えしたいくらいの度胸だ!」 脱走した衛兵の報告を聞いてボルマン軍はきびすを返してガルマーニ郊外まで迫っていた。自動車の上で双眼鏡を構えた副官がボルマンに報告した。 「やはり占領されているようですが・・・」 後部座席でボルマンが外に唾を吐き捨てた。かなりイライラしているようだ。 「砲撃を加えてうろたえたところを歩兵と戦車で一気に蹴散らせ。敵は少数だ。」 「市民に犠牲が出ます。まだ戦車の主砲は試作段階でまともな標準は遠距離では期待できません」 ボルマンは車のドアを激しく蹴った。そんなことは副官に言われなくても百も承知であった。 「だったらパンツァーシュレッケの有効射程ぎりぎりまで接近して砲撃しろ!」 副官はその言葉を聞いて無言で頷いた。そして伝令に命令を伝えた。 「戦車隊は横隊で散開。距離500で待機。歩兵隊もそれに続け」 伝令が各隊にただちに命令を伝える。各隊の指揮官のドイツ兵は命令を忠実に実行した。 「来るぞ・・・」 城壁の上でハルスは双眼鏡を片桐に渡した。片桐はかなり接近したボルマン軍の様子を見てみた。 「これはまた、フリードリヒ大王の時代だな」 彼の言うとおり、ボルマン軍は城壁から500メートルほどのところに展開している。戦車は最後尾。その前にドイツ兵に指揮された100名ほどの歩兵が10隊ほど、2段構えの横隊で整列している。片桐はボルマン軍の両翼を見てみたが、時折灌木がある程度だった。 「サクートの別働隊が見えないようですが」 「彼らはうまく隠れているはずだ。後は手はず通りにことが運べば完璧だ」 片桐は城壁の内側を見下ろした。市街のあちこちにはクーアードが潜んで油の入った壺にいつでも火をつけられるように準備している。それを指揮するスビアが片桐に手を振っているのが見えた。 一方、城壁にも仕掛けを施した。手榴弾をいくつか仕掛けてわざと爆発させる準備をフランツが終えて戻ってきた。 「あの戦車の砲はまだ試作でまっすぐ飛ばないって本当ですか?それが嘘ならこの仕掛けも全くむだになっちまう」 「捕虜の情報にかけるしかないですな・・・」 片桐がそう言ったときだった。いよいよボルマン軍の攻撃が始まった。戦車が砲撃を開始したのだ。 「やっぱり、警告もなく無差別砲撃だ」 ハルスがひとりごちた。これでスビアの言葉を疑っている市民も納得するだろう。しかし、多くの市民は彼女の言葉に応えて今では武器を持ち、いつでも戦える体勢を整えて、城壁に、建物の屋上に待機している。 最初の砲弾は城壁の手前に着弾した。しかも不発弾だった。 「これは・・・あの情報はホントなのか?」 第2弾は城壁の真ん中あたりに着弾したがこれも不発で城壁に少し大きな穴を開けただけだった。 「くそ!仰角をあげろ!市内に落ちれば不発でもダメージはでかいはずだ」 戦車隊を指揮するドイツ兵は砲身の角度を変更して一斉砲撃を命じた。 「来るぞ!伏せろ!」 片桐は市内に潜む市民に叫んだ。しかし、その声は弾着音にかき消された。市内のかなり奥まったところに着弾した。今度はちゃんと爆発したようで火の手が上 がるのが見えた。女や病人を街の外に避難させていて正解だった。そうしている間にも砲弾は次々と着弾したが爆発する砲弾は2割に満たなかった。 「そろそろだな・・・」 フランツは部下に命じて城壁の一部を爆破させた。砲弾で破壊されたと見せかけるようにタイミングをずらしての爆破だった。片桐もスビアに合図をおくった。 「さあ、火をつけるのです!」 市民たちは街のあちこちに仕掛けた油の壺に火をつけた。真っ赤な火と黒煙があがった。 「やった!燃えているぞ!」 ボルマンは双眼鏡で街の様子を見てはしゃいだ。そして全軍に前進を命じた。 「もう少し制圧砲撃を加えてもよいのでは・・・」 忠告する副官の進言をボルマンは無視した。もはやこの戦いは勝ったも同然だ。ハルスと片桐は最後まで生かしておいてこの手で八つ裂きにしてやろうと思っていた。あの女・・・。もったいないが火あぶりにでもしてやれば市民への警告になるだろう。 「城門に砲撃を集中しろ。戦車が門をくぐればこの戦いは勝ちだ!」 「前進して来るぞ!」 市民たちが城壁にとりついた。戦車は前進しながらは発砲してこない。弾込めができないようだ。戦車を盾に歩兵の横隊が一糸乱れぬ行進で前進してくる。ボル マンはなめてかかってきているのだ。こんなに大勢のレジスタンスと市民が手に手にゲベールとボウガンでボルマン軍を狙っているとは思っていないのだろう。 戦車がいったん前進をやめた。砲を城門に向けている。 「ファイア!」 一斉砲撃だった。砲弾は城門の周りに次々に炸裂して、大きな木の城門が吹き飛んだ。それを確認してボルマン軍は前進を始めた。ゲベール隊が歩きながら城壁を狙って発砲を開始した。銃弾が城壁の煉瓦に当たって砕ける音が聞こえた。 「よし!撃て!」 ハルスの合図で市民たちが一斉に射撃を開始した。次々と横隊の兵士たちが銃弾に、矢に倒れた。しかし指揮官の号令で後列の兵士が前に進んで隊列を維持して いる。片桐はセミオートでドイツ兵を狙って撃つが、まだ遠いためなかなか命中しない。フランツがパンツァーシュレッケを構えた。 「中尉、弾は5発です!狙ってください!」 ドイツ兵がフランツに念を押す。「わかってるさ」と笑顔で答えるとフランツは横隊の真ん中の戦車めがけて発射した。弾丸は見事に真ん中の戦車に命中して砲塔が吹き飛んだ。市民から歓声があがった。 それを合図にして両翼に隠れていたサクートの率いるガンドールがボルマン軍に突撃を開始した。彼らは地面に潜ってボルマン軍を待ち伏せていたのだ。奇襲にあわてたドイツ兵が横隊を両翼のガンドールに向けるべく横隊を動かした。 「今だ!撃て!」 ハルスの号令で城壁の市民が再び一斉射撃を行った。隊列が移動のため乱れたボルマン軍は次々と撃ち倒された。それでもうまく方向転換した横隊はガンドール に向けてゲベールを一斉射撃した。ぱたぱたとガンドールたちは倒れたが、それでも突撃をやめなかった。新たな弾を装填される前にガンドール隊はボルマン軍 の先頭の横隊に襲いかかり白兵戦を開始した。今や、ボルマン軍もボウガンやゲベールを捨て抜刀して迎え撃っている。ナイフを口にくわえたガンドールが戦車 の砲塔から内部に侵入して、動きのとれない戦車兵を血祭りにあげた。 「こんなショートレンジの戦闘じゃ撃てません!どうします?」 フランツはハルスに尋ねた。ガンドール隊は勇敢だが彼ら全軍で当たってもボルマン軍の第1線を白兵戦に巻き込んだにすぎなかった。 「よし!行くぞ!」 ハルスは市民とレジスタンスを城門に集めた。片桐はハルスに続いて城壁を下りた。 「ハルス大尉、いったいなにを・・?」 片桐の質問にハルスは「愚問だ」と言わんばかりの笑顔を向けた。そしてワルサーを抜くと片手に抜き身の剣を持った。 「ナポレオンは自ら先頭に立って部下の士気を鼓舞したそうだぞ!」 片桐はハルスの作戦を悟って89式に着剣した。訓練ではやっていたが、まさか実戦でやるとは夢にも思わなかった。武者震いが出るのを感じた。 城門から出たハルスとレジスタンスは横隊を組んだ。先頭はゲベールとボウガンの部隊だ。片桐も先頭の列に加わった。ハルスが剣を天に振り上げた。訓練もしていないレジスタンスと市民が一歩一歩前に進んだ。 ボルマン軍もそれに気がついて、戦闘に参加していない部隊が横隊を組んで迎え撃とうとしている。 「ファイア!」 ボルマン軍の指揮官が号令した。ゲベール隊が一斉射撃をおこなう。数名のレジスタンスが倒れたが前進は止まらない。レジスタンスと市民は第2射も受けたが 止まらず、ボルマン軍と黒目が見えんばかりの近さまで進んだ。そこで前進をやめてゲベールを構えた。ボルマン軍は後列の横隊はすでに抜刀して白兵戦に備え ている。片桐は89式のセレクターをフルオートにした。これで少しでも敵戦力を削っておきたいところだ。と、ふと横を見て片桐は銃を落とさんばかりに驚い た。片桐の横にはゲベールを構えたスビアがいたのだ。 「ど、どうしてこんなところに!?」 片桐の質問にスビアはゲベールを構えたまま答える。 「わたくしも戦います。聖女であるわたくしが逃げたら戦いは負けです!」 「ねらえ!」 ハルスの号令が聞こえた。ボルマン軍も標準を合わせるが2度の一斉射撃でも逃げないレジスタンスにかなり動揺しているようだ。銃口が上下左右に揺れている。 「それはわかりますが、なんでわざわざ一番前にいるんです?」 「わたくしは剣は苦手です。このゲベールの方が向いている、それだけです」 「ファイア!」 双方、ほとんど同時の一斉射撃だった。しかし、動揺の大きいボルマン軍の銃弾はほとんどが上方へそれた。反射的に恐怖を抱いて銃口を上に向けたためだ。一 方のレジスタンスはスビアが一緒にいるという心理効果も相まって正確に敵を撃った。戦闘の隊列を指揮していた親衛隊の士官は額をボウガンで射抜かれて倒れ た。慌てて下がった横隊に代わって無傷の抜刀した横隊が現れた。片桐はフルオートでその横隊をなぎ倒した。 「突撃!」 ハルスがワルサーを乱射しながら前進を開始した。彼の前にいた数名の抜刀した敵兵が倒れた。それに続いてレジスタンスたちも抜刀してボルマン軍に襲いかかった。片桐とスビアも後列に押されるようにして前進した。片桐は慌ててマガジンを交換する。 「スビア!俺の陰に隠れて!」 ゲベール以外武器を持たないスビアをかばうように片桐は先頭で剣を構えていた敵兵に銃剣を突き立てた。もはや戦場は黒服のボルマン軍とローマ調の白い服を着たレジスタンスが入り乱れる大混戦となった。 大 混乱の戦場で片桐はスビアをかばいながら撃破された戦車の影に隠れて、走り回るボルマン軍の兵士をセミオートで撃ち倒した。戦車の影からのぞくと、後方に ボルマンが無傷のゲベール隊に守られて自動車に乗っているのが見えた。副官と時折襲ってくるガンドールを拳銃で撃っているのが見えた。 狙撃しようにも遠 すぎる上、ゲベール隊の人垣で狙うことができない。 そこへサクート率いるガンドール隊が襲いかかった。ゲベール隊は隊の中でも精鋭のようだ。落ち着いて第1掃射で半数近くのガンドールを撃ち倒した。サクートもワルサーで数名のゲベール兵を撃った。弾を込めたゲベール隊は再び一斉射撃をおこなった。 「サクート!!」 片桐はサクートのガンドール隊が彼を含めてすべて撃ち倒されたのを見て戦車から駆け出していた。 「スビア!あなたはそこにいてください!」 彼女は彼の言葉を無視して後に続いた。片桐はそれに気がつかず、弾を込めている横隊にフルオートで5・56ミリ弾を浴びせた。全弾撃ち尽くすと神業的なス ピードでマガジンを交換し、指揮官の親衛隊大尉を蜂の巣にした。それを見たレジスタンスも剣を振りかざして片桐に続く。もはやボルマンと片桐の間には数十 メートルの距離と数名の兵士しかいない。 「ここは任せてください!」 片桐の後に続いたレジスタンスたちが残った兵士に斬りかかる。片桐は片膝をつくとまず、彼に気がついた副官を3発で撃ち倒した。自動車の座席の上に立って片桐を狙っていた副官は後ろにはじき飛ばされた。 ようやく片桐に気がついたボルマンがワルサーP38を片桐に向けようとした。しかし、それよりも早く片桐はトリガーを引いていた。 「なにっ?」 弾詰まりだった。慌ててコッキングレバーに手を伸ばすが、ボルマンは片桐に両手で構えてワルサーを向けた。 「八つ裂きにできないのは残念だが、わし自らの手で殺してくれるわ!」 間に合わない!そう思った片桐の頭上を何かが音を立てて通過した。そしてそれは、ボルマンの眉間を確実にとらえていた。ぼすっっ!という感じでそれはボルマンの頭を撃ち抜いた。 「あ・・ぐ・・・」 ボルマンは座席に崩れ落ちた。目はすでに生気を失っている。片桐は自分の命を救った何かが飛来した方を振り返った。スビアだった。彼女の放った銃弾が間一髪、片桐を救ったのだった。 「やった!スビア様がボルマンを倒したぞ!」 レジスタンスの1人が叫んだ。その声は、次々と戦場に伝わり、今だ抵抗を続けていたボルマン軍もそれを聞いて次々と降伏した。 「片桐・・・!」 ゲベールを放り出してスビアは駆け出した。片桐は自分の命が助かった安堵でその場に座り込んだ。そこへスビアが後ろから抱きついてきた。 「スビア、今度という今度はあなたの勇敢さに御礼を言わなければいけないようです・・・」 「そんなことより、あなたは怪我はないのですか?」 後ろから抱きつくスビアの顔を右手をあげてなでながら片桐は自分の傷の有無を確認した。 「どうやら無傷のようですな・・・」 ハルスとフランツが駆け寄ってきたときに、ようやく片桐は立ち上がることができた。このときになって初めて、スビアに対してかっこわるいと後悔する感情が生まれていた。だが、その自己嫌悪をスビアは一掃してくれた。 「片桐、あなたはなんて勇敢なの?たった1人で敵の30人以上を撃ち倒してしまったのですよ!」 「スビア様!ご無事でしたか?ボルマンを自ら撃ったとはおみごとです!」 ハルスがスビアに一礼しながら言った。フランツがサクートをおんぶしてやってきた。サクートは肩に銃弾を浴びているが生きていたのだ。サクートはフランツの背中で笑顔で叫んだ。 「これで戦いは終わった。スビア様、片桐、あなたたちのおかげだ!」 「スビア様万歳!」 彼らの周りに集まったレジスタンスと市民が口々に万歳を叫んだ。 「どうしても行くのですか?」 ガルマーニの広場には大勢の市民たち、ドイツ兵が集まっていた。その代表としてハルスがスビアに質問した。スビアは彼女のお気に入りのローズの上でうなずいた。 「わたくしは古代ロサールの謎を求めているのです。この世界全部がこの都市のように平和になるために・・」 「片桐、君も同じ考えなのか?」 ハルスの質問に片桐も馬上でうなずいた。彼らは嘆願に集まっていたのだ。新たなこの街の指導者として、スビアにここに残って欲しいと。残念そうにハルスはため息をついた。それに続いてフランツが質問した。 「何か必要なものはありませんか?何でも用意します!」 「この都市の人々の、わたくしたちの旅への祝福だけで結構です。・・・ありがとう、フランツ中尉」 スビアの言葉にフランツはいささか感激の涙をこぼしかけている。 「光栄です、スビア様。なにか困ったことがあればいつでもおいでください。我々評議会が全力で、スビア様と片桐三曹を助けます!」 この街は当面、ハルス、フランツ、治療中のサクートの3名の合議で運営することになった。いずれ全市民の選挙で指導者を決めることになる。民主主義がまもなく産声をあげるのだ。 「ところで、どちらに向かうご予定ですか?」 ハルスの質問にスビアが答えた。 「南です。当分は海沿いに進みたいと考えています。」 その答えにハルスは少し表情を曇らせた。そして率直に意見を述べた。 「南ですか。お気をつけください。南にはクーアードがいるのですが、連中はちょっと妙な連中でして。ボルマンですら手を焼いておりました。とにかくやっかいな連中です」 ハルスの話だけでは大した手がかりは得られずに片桐たちは巨大都市ガルマーニを旅立った。市民たちやドイツ兵の別れを惜しむ声がいつまでも耳について離れないようだった。 砂浜をのんびりと馬で進みながら片桐はスビアを見つめていた。その視線に気がついたスビアは少し頬を赤らめながら片桐を見つめ返した。 「あなたといると楽しい。新しいあなたを発見する楽しみが満ちているのですから・・・」 「あら、わたくしのどのような部分を新たに発見したとおっしゃりたいのです?」 片桐は愛馬のセピアをぐっとローズに近づけた。そしてスビアの腰に手を回した。 「なかなかあなたの戦いぶりは男勝りでしたよ。元の世界の自衛隊でもあなたみたいな男まさりの隊員はいませんな。」 スビアはその言葉に頬を膨らませた。 「失礼な人・・・」 「で、そんな今のあなたはとても女らしい・・・」 片桐の誘導尋問じみた言葉にすっかりやられたスビアは顔を真っ赤にした。これだけ見ると本当に、あの勇敢な聖女の面影はまるで感じない。そう思って片桐がより強くスビアを抱き寄せようとしたときだった。 「うっ」 片桐の左腕に激痛が走った。見ると1本の矢が左腕のチョッキのない部分に突き刺さっている。本能的にそれを抜こうとするが力が入らない。目の前がぐるぐる回り始めるのがわかった。 「片桐!片桐・・・しっかり!」 スビアの声が子守歌のように聞こえた。そのまま愛馬から落ちると片桐は意識を失った。 つづく 【異世界用語辞典】順不同 アンバード=蛮人 アービル=別世界。この場合、片桐たちの日本を指す アムター=スビアの村の名前。古代ロサール語で「豊かな森」の意 アクサリー=ロサールの伝説の石。これを使うことで魔法の力=ポルを増幅できる ガンドール=人種名。こびとの総称。 ガルマーニ=ボルマンの都市名。ゲルマニアのなまり クーアード=人種名。人間の総称。 クブリル=海に住むどう猛な生物。ワニに似ているが頭部に鋭い角を持つ ザンガン=アムター村の長老。両親を失ったスビアを育てた サマライ=通貨単位。 サクート=ガルマーニのレジスタンスを率いるガンドール シュミリ=村落名。海沿いの村。スビアの両親が訪れた。異世界から召還した馬を育てていた。 スビア=アムター村の聖女。自衛隊を召還する。片桐と恋に落ちる。世界を平和にするため古代ロサールの謎を求めて旅に出る。ヒロイン セピア=シュミリ村で育てられた馬に片桐がつけた名前 ゾード=赤い満月の夜。なぜそうなるかは不明 タボク=片桐に救われたシュミリ村の村人 タムロット=シュミリ村の尊重。スビアを敬愛している ヌーボル=異世界の総称。地形はオーストラリア大陸に似ているが詳細は不明 バストー=片桐が最初に出会った異世界人。ガンドール パタトール=武器。アンバードやアムター村の人々の武器。原始的な弓が原型 パンサン=異世界の戦士を別の世界に送る古代ロサールの魔法。高崎士長たちはこれで九州に帰った ハルス大尉=Uボートの艦長。ボルマンに反抗して強制収容所に30年服役した ハルスマン=ボルマンの副官。長身のドイツ人。 フランツ中尉=元親衛隊。ハルスの副官的存在 ヘラー=ドイツ語のフューラーがなまった。 ボルマン=ナチ党幹部。ヌーボルにたどり着き独裁政権を作った。 ポル=魔法力。人それぞれその力は違うがすべての魔法の原動力 ミスタル=アムター村周辺に咲く花。 ローズ=スビアの愛馬。 ロサール=遙か昔に滅亡した古代の国。民族名。
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第一部 第九話『なのはと諜報部の一日』③ そのまま幽霧を地面に寝かせるのも可愛そうなので、なのはは膝枕をしていた。 睡眠をとっている幽霧の顔を眺めていると、女の子にしか見えないのは何故なのだろうか。 その寝顔は起きている時の幽霧を知る者には違和感を感じるような、幼い顔であった。 幽霧の寝顔を見て、なのはは溜め息をつく。 なのはにも幽霧が男だという事は分かっている。 でも、この無防備な寝顔を見るとなのはですら幽霧が女のこに見えてしまう。 幽霧の髪に触れるなのは。市販のシャンプーしか使っていないと思うのに、幽霧のこげ茶色の髪は妙にサラサラだ。 不健康そうな白い肌も幽霧の見た目が女の子っぽいので、薄幸の美少女に見えてしまう。 なのはは頭を振る。 「ちがうよ…幽霧くんは女の子じゃなくて……男の子だよ……」 幽霧は男だ。れっきとした男の子だ。肌が白くて、髪の毛がサラサラなだけの男の子だ。 そう言い聞かせても、この寝顔を見てしまうと女の子にしか見えない。 「どうしてだろ……私も幽霧くんが女の子に見えてきた………」 なのはは思った。もしかして幽霧は同一性障害があって、本当は女の子ではないのだろうか? そんな事を考えながら幽霧の寝顔をじっと眺めるなのは。その顔は妙に赤い。 なのはは我に帰り、頭を振る。 「あはははっ、こんなコト考えたら、幽霧くんに失礼だよ」 そんな事を言いながらなのはは幽霧の髪を撫でた。 幽霧の髪は引っかかる事無く、綺麗に流れる。 「……なんでだろね………」 突然、幽霧の瞼が開かれる。 幽霧が突然目を開いたので、なのはも動揺する。 なのはの膝から起き上がり、幽霧はなのはに言った。 「じゃあ。模擬戦を開始しましょうか。」 「では、僭越ながら開始の合図をこの弥刀二等陸士が行わせていただきます。 高町なのは一等空尉。幽霧霞三等陸士。準備はよろしいでしょうか?」 「私は大丈夫だよ」 「レイジングハート」を起動し、エクシードモードとなるなのは。 「大丈夫です」 幽霧はコート型のバリアジャケットを羽織る幽霧。その目は死んだ魚の様な目であった。 「では、模擬戦………開始です」 開始と同時に幽霧はなのはに疾駆する。 しかし、まだ拳銃形態の「アルフィトルテ」は抜かない。 〈アクセルシューター〉 「シューートっ!」 なのはは接近してくる幽霧に向かって「アクセルシューター」を発動。 桃色の魔弾が幽霧に目掛けて撃たれる。 「葵葉流領空制圧戦闘術。『流水』」 なのはの撃ちだした弾幕の嵐を幽霧は両手でさばきながら突っ込む。 そして、脚部限定で「パンツァーガイスト」を発動。 先手必勝を狙ってなのはに回し蹴りを叩き込む。 〈プロテクション〉 オートで「レイジングハート」が「プロテクション」を発動。 幽霧の蹴撃が受け止められる。 「ディバイン……」 〈シュートバレット〉 〈プロテクション〉解除と同時に幽霧は「アルフィトルテ」を抜き、早撃ちの応用で銃口から「シュートバレット」を発動。 銃口から圧縮された魔力が弾丸として撃ち出される。 「……バスタぁぁぁぁぁぁ!」 撃ち出された「シュートバレット」がなのはのバリアジャケットに腹部に衝撃を叩き込んだが、かわりに零距離から「ディバインバスター」を喰らう。 喰らった幽霧は弾き飛ばされる。しかし、簡単に負ける事は出来ない。 「葵葉流領空制圧戦闘術……『落葉』」 幽霧は地面に衝突する瞬間、全身に力を抜いて受身の姿勢を取る事で衝撃を拡散させる。 「大丈夫~?」 「ええ。大丈夫です」 遠くから聞こえるなのはの声に反応する幽霧。 「流石になのはさんに不意打ちされたら死にそうなので、10秒くらい待って下さい」 「い~よ~」 なのはの言葉に幽霧は跳ね起き、バリアジャケットについている土くれを払った。 軽く土くれを払った後、幽霧は「アルフィトルテ」をホルスターに仕舞う。 「アルフィトルテちゃんを使わなくてもいいの?」 なのはは「レイジングハート」を幽霧に向けながら言う。 「ええ。自分は砲撃魔法が少し苦手なので」 幽霧は拳を握る。そして、再びなのはの方へ走る。 シグナム達から接近戦が強いことは知っていたが、まさか「アクセルシューター」を受け流して突っ込んでくるとはなのはは思わなかった。 少し覚悟を入れて模擬戦を行わないといけないようだ。 「エクセリオン……バスタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 なのはは走ってくる幽霧を狙って「エクセリオンバスター」を叩き込む。 迫ってくるなのはの「エクセリオンバスター」を幽霧は避ける。 なのはの「エクセリオンバスター」を避けると同時にアルフィトルテを抜く。 そして形態をレイルブラストモードに変換し、零距離発射で「其は白き炎」を発動。 詠唱破棄されている上に溜めが無い分、威力が格段に落ちるが零距離発射で放つとなると全く関係ない。 〈ラウンドシールド〉 「其は白き炎」 砲筒の銃口から純白の熱線がなのはを目掛けて撃ち出される。撃った反動により、幽霧の身体が後ろに下がる。 なのはと「レイジングハート」は向かってくる純白の熱線に対し、防御魔法である「ラウンドシールド」を駆使して受け止める。余りの熱量に出てきた汗すら、瞬時に蒸発した。 次第に網膜を焼くような純白の閃光が収まっていき、段々と前も見えてくる。 「ん~。後少し効果が長かったらやばかったかも」 なのはは今もなお、陽炎をあげている地に立ちながら言った。 書類作業をしていた鷹斗は凄まじい爆発音を事務所の方で聞いた。 少し嫌な予感がして第五鍛錬場に急ぐ鷹斗。 そこで見たのは、凄まじい光景であった。 本日は諜報部所属の幽霧霞三等陸士が自然環境保護隊所属の弥刀二等陸士と結城優衣三等陸士と模擬戦をするという話であったのに、何故か教導隊所属の高町なのは一等空尉が模擬戦を行っている。 「……………」 唖然とする鷹斗に弥刀は話し掛ける。 「お久しぶりです。鷹斗一等空尉」 「弥刀さん!これはどういう事ですか!?」 鍛錬場に吹き荒れる魔力や爆風を「葵葉流領空制圧戦闘術」で受け流しながら弥刀に尋ねる。 「高町一等空尉が申し込んだのですよ!!」 「幽霧の戦闘は割と面白いという意味で言いましたのに……まさかそうなるとは思いませんでしたね」 軽く溜め息をつきながら鷹斗は笑う。 弥刀はそんな鷹斗を見て、実は狙っていたのではないかと思った。 幽霧は「其は白き炎」を発動させた時の反動と脚部の筋力で後ろに下がり、なのはと距離を取る。 距離をとると同時になのはが「ストレイトバスター」を撃つ。 幽霧は「アルフィトルテ」をレイルブラストモードのまま「アイギス」発動。 なのはの「ストレイトバスター」を石化させる。 〈アクセスシューター〉 「シューットッ!!」 間髪も無く、なのはが「アクセルシューター」を発動。 集束して一本の閃光となったが石化した「ストレイトバスター」も撃ち抜いて幽霧に迫る。 「バリアバースト」 幽霧は拳に「バリアバースト」を纏わせた状態で集束された「アクセルシューター」に突っ込む。 「アクセルシューター」が零距離に迫る。 しかし、それはもはや致命ではない。 常人を凌駕した知覚にはその一撃までの刹那は無限であった。 踏み締める大地、そして跳躍。 虚空に幽霧の体が舞う。蝶の如く軽やかに宙を跳び、大地へと舞い降りる。 「えっ……!?」 「なっ……」 「はい!?」 なのはたちの驚愕が鍛錬場に響く。 当然だった、確かになのはの「アクセルシューター」は幽霧を捕らえたはずなのに一瞬でその姿が掻き消えたのだ。 今もなお、幽霧は拳に「バリアバースト」を纏わせて突貫する。 迷いはなく、ただ真っ直ぐ突き進むのみ。 〈ディバインバスター・エクステンション〉 「シューっトっ!」 高密度で圧縮された魔力が減衰することなく対象を撃ち抜く、強力な砲撃魔法が魔法陣から放たれる。 「長月流舞闘術……拳技『舞闘拳武』」 幽霧は「バリアバースト」を纏わせた連撃を「ディバインバスター・エクステンション」に叩き込みながらただ真っ直ぐに突き進む。 その拳撃は音速を超え、超速を超え、刹那を超え、認識を超え、大気を超え、 知覚を凌駕した認識領域で幽霧の拳が繰り出される。 「バリアバースト」を纏った拳と大気が放たれた砲撃魔法を爆砕する。 爆砕した大気が暴風を生む。 質量を伴った残像が放たれた砲撃魔法に顕現する。 繰り出す拳は無限数、穿たれ抉られ放たれた砲撃魔法は拡散される。 なのはの放った「ディバインバスター・エクステンション」を拡散させた幽霧の拳撃がなのはの身体に触れようとしたその時。 〈バレルショット〉 なのはは殆ど零距離発射で「バレルショット」を幽霧に叩き込む。 幽霧はなのはの「バレルショット」によって吹き飛ぶ。 衝撃波を喰らった幽霧は動こうとした途端、身体が動かないのに気付いた。 どうやら不可視のバインドを喰らっているらしい。 なのはの方を見ると「レイジングハート」を中心に魔法陣が展開され、周辺からの魔力を集束されていた。 どうやら、集束魔法を放とうとしているらしい。 〈ジャケットパージ〉 「アルフィトルテ」は幽霧にかけられたバインドを解く。 しかし、既にもう遅い。 「受けてみて幽霧くん!」 なのはの集束魔法はほとんど完成しており、あとは撃つだけだ。 幽霧は瞼を瞑る。そして「アルフィトルテ」の砲筒をなのはに向ける。 「スターライト……」 なのはは「レイジングハート」を振り下ろす。 幽霧は「アルフィトルテ」のトリガーを引く。 「ブレイカあぁ!!」 魔方陣から桃色の魔力の奔流が撃ち出される。 「其は穿孔する螺旋!」 銃口から魔法陣が展開され、半径だけでも1mくらいありそうな円錐が出てきた。 魔力の奔流と螺旋の溝が刻まれた円錐がぶつかり合う。 円錐が前に進むごとに魔力の奔流が溝を伝って、魔力が拡散していく。 なのはの「スターライトブレイカー」の魔力が完全に拡散した瞬間、円錐は霧のように消滅する。 霧を吹き飛ばして次の攻撃が来ると、なのはは思った。しかし、攻撃は来ない。 なのはは不思議そうに霧の向こうを見る。 霧が晴れた時、前にいたのは後ろに倒れた幽霧の姿だった。 「幽霧くん!?」 バリアジャケットを解除し、幽霧に駆け寄るなのは。 「すみません。なのはさん……」 幽霧は宙を見ながら言った。 「なのはさんの「スターライトブレイカー」を拡散させて防ごうと思って、大量の魔力を注いで「其は穿孔する螺旋」を発動したら……魔力が俗に言うガス欠を起こしました……」 そう言う幽霧の顔は妙にやつれていた。 「もう……」 幽霧の言葉になのはも力が抜けてへたり込む。 弥刀と優衣は幽霧が拡散させたなのはの「スターライトブレイカー」を喰らって撃墜され、鷹斗は葵葉流領空制圧戦闘術でさばいたおかげで平気ではあったが冷汗をかいていた。 「そろそろ決着をつけないといけないな………ケイン」 「そうですね…………ジンナイさん」 向かい合う二人。 まさしく、一触即発の状態 「ジンナイ空曹長もケイン陸曹長も止めて下さい」 睨み合う二人をなだめるクロエ。 「「クロエは黙ってろ!」」 ジンナイとケインは申し合わせたかのように言う。 端から見ると、実は仲が良いのではないかと思える。 そこに幽霧となのはが入ってきた。 「失礼します。諜報部所属の幽霧霞三等陸士です」 クロエはジンナイとケインが広報部の部署で喧嘩を始めないか心配であったが、幽霧たちの元へ行く。 「こんにちは………いや。もう、こんばんはですね。お待ちしておりました」 「こちらが広報部が諜報部に依頼した調査の結果です」 「あ~ありがとうございます。」 クロエは幽霧から資料の入った封筒を受け取る。 「………で。この書類を届けるときに聞かされた自分への依頼とは、何なのでしょうか?」 「幽霧霞三等陸士。アナタには、ラジオに出て貰います。 これは広報部の独断ではなく、リスナーの総意です」 そのクロエの顔は真剣であった。 クロエのそんな顔に幽霧は頷かざるを得なかった。 頷いた幽霧にクロエは安堵したような顔を見せ、なのはの方を向く。 「高町一等空尉。出来れば、ラジオに緊急ゲストとして参加していただけないでしょうか?」 「うん。良いよ」 なのはは笑顔で了承する。 クロエはなのはと幽霧の二人に言った。 「では、よろしくお願いいたします」 放送スタジオでは、後数分で開始されるラジオ番組の放送準備に追われていた。 マイクの微調整やBGMの選曲に余念が無い。 司会進行の涼香とクロエも寄せられた質問やリクエストのはがきの整理に追われている。 送られてくるのは今から行われるラジオ番組のはがきだけではないからだ。 本来ならば、はがきを整理する担当者がいるのだが何故かいなかった。 涼香は、送られてきたはがきの整理をしながら呟く。 「ジンナイさんもケインさんも何をしているのでしょうか……」 口をつむぐクロエ。流石に担当者であるジンナイとケインが屋上で殴り合いをしているとは言えない。 「暑いですね……」 クロエは小さく呟く。 室温調整を間違えたらしく、少し蒸し暑い室内。 しかし、後数分でラジオ番組を行わないといけない為、室温調整する時間すらない。 少し蒸し暑い中で二人ははがきの仕分けをする。 「いたっ!」 痛みで小さく悲鳴を上げるクロエ。 紙で指の皮を薄く切ったらしく、人差し指から血がにじんでいる。 涼香のほうは仕分けが終わったらしく、痛みで顔をしかめるクロエを見た。 「大丈夫……です…」 クロエはそう言うが痛いらしく、目から涙が溢れかけている。 「むぅ……」 人差し指を見ているクロエを見る涼香。 そしてクロエの腕を掴み、今も血が流れているクロエの人差し指をくわえた。 クロエの人差し指に舌の生暖かさと、ザラザラ感が伝わってきた。 涼香の口に、クロエの血の味が広がる。 お互いに動くことが出来なかった。 クロエはいきなりの事に、思考が停止してしまっている。 涼香はクロエの人差し指から流れている血を止めるのに気がいっている。 お互いに何も言えず。お互いに口を開けない。 ただ、時だけが進んでいく。 涼香は口から、クロエの人差し指を抜く。涼香の口とクロエの人差し指の間に透明な糸を引いていた。 持っていた絆創膏をクロエの人差し指に巻き、整理が終わっていないクロエのはがきを何事も無かったかのように仕分けを始める。 クロエは惚けたかのようにはがきの仕分けをする涼香を見ていた。
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「自爆攻撃」ってジュネーブ条約に照らし合わせると,やはり違反行為? 「宣戦布告」というものが国際社会において常識となったのはいつごろなのでしょうか? 宣戦布告すれば、その直後に攻撃しても問題はないんですか? たとえば数人が私軍を作ってどこかの軍隊と交戦して投降したような場合、私軍での階級で取り扱ってくれるんですかね。 軍縮条約というのは具体的にどういった取り決めがあったのですか? 日本国内が戦争状態になったとして,私のような民間人が敵兵の死体から銃とか,その他の装備を奪って,戦闘に参加しても,罪(日本の法律上)にはならないのでしょうか?。 もし他国の軍隊が攻めてきた場合、民間人が勝手に武器を取って闘うことは国際法で認められているのですか? 今日本でWWⅡ当時の戦闘機を復刻させる事ってできるのでしょうか?(機銃など武装も含めて)これは、法律的にって事です。 米軍のアフガン空爆で民間人が巻き込まれた場合、米軍は国際法違反ということになるのでしょうか? 「ハーグ条約/国際法によって民間人は軍の攻撃対象にしてはいけない」という話を聞きますが、「軍属」の扱いはどうなっているのでしょう? 士官候補生、訓練兵を戦争中に殺しても問題にならないか ABMってありますが、そもそも「弾道弾を迎撃するミサイルを制限しよう」という意図はなぜ発生したのでしょう? 敵が上陸してきた場合に、人間の鎖によって阻止しようとした場合 国内法的、国際法的にどのような問題があるでしょうか。 現代で、無制限潜水艦戦をするのは国際法上まずいんですか? 反乱部隊にはジュネーブ条約は適用されないのでしょうか? ジュネーブ条約その他こういった条約を読みたいのですが何処で読めますか? 終戦後に敵が盗られたりした兵器を見つけて「あの野郎!」と訴えたりはしないのか 1907年の開戦に関する条約って、この条約後の国際情勢の現実、様々な紛争や、 「軍事施設の近辺には民間住宅を設置してはいけない。」国際的にそのような法律等があるのでしょうか? 捕虜に「氏名階級生年月日軍番号連隊番号個人番号登録番号」以上のことは 少しでも質問したら即ジュネーブ条約違反。 アメリカはハーグ陸戦条約かジュネーブ条約かのどちらかを批准してないとききましたが本当なんですか? 一般市民の住んでいる区画に大砲を大量に配備って後々問題にならないの? 住宅地に軍を配置して住民に被害が出たら防衛側の責任だそうですが、「どこからどこまでが住宅地か」は、やはり常識の範囲内で判断するんでしょうか? アメリカがもし国際法破ったとしてもほんとに裁けるのでしょうか? 兵士が民間人の振りをして攻撃するのは禁止するような条約ってあるのでしょうか? 祖国防衛の時は私服で戦ってもジュネーヴ条約違反にならないって本当でしょうか? クラスター爆弾や無差別絨毯爆撃の非人道性が討議された国際的な会議はこれまでにあったのでしょうか? 敵国の国民が自国にいる場合、国際法上はどう処遇するのであるか? ウルニスム大将軍派は、1974年にクーデターを首謀して首切りされて晒し首にされたそうですが、これは国際法か何かに抵触しないのですか? 戦争時ではないときに領海内に機雷を置くことは国際法とか国際関係において問題がありますか? 敵の空挺部隊が降下をし始めたときから地上に着陸するまでは、地上の軍隊は空挺隊員を攻撃してはならないというのは本当でしょうか。 深夜、海岸に密かに上陸をはたした国籍不明の武装集団に対して無警告で武力を行使するのは国際法に触れますか? 今の時代でも国際的な海軍軍縮条約ってあるんですか? イージス艦の艦艇保有数って各国の規定で決まってましたか教えてください 軍隊が催涙ガスを用いて暴徒鎮圧を行ったら国際条約(生化学兵器に関する物)違反になるのですか? 戦車から出て手を上げて降伏の意思を示している敵を撃ち殺したら戦争関連の法規に違反になるんでしょうか 50口径以上の弾丸で人を撃ってはならないという国際法があるって本当ですか? 空母と爆撃機の生産が国際条約か何かで規制されてるというのは本当ですか? 救急車に固有の武装を付けることは国際法規上認められるのか 国際法により軍服など所属が明らかでないものが戦場で戦闘行為を行った場合、 M2用の12.7mm弾を利用したライフルは対人用には使っちゃいけないって聞いたんですけど本当でしょうか? イラク戦争で、旧イラク軍残党将兵が米軍の捕虜になってしまった場合、捕虜としての待遇をしてもらえたのでしょうか ライフルを持った歩兵が他国の軍艦に乗り込んで甲板上を移動したりするのは違法なのでしょうか? 敵の衛生兵は撃ってはいけないんですか? 常任理事国は拒否権を行使できないという決まりはある? 戦時国際法上、捕虜の官姓名を相手方に通知する義務ってあるんですか? ハーグ陸戦条約ですとか、ジュネーブ条約と言ったものは、どの程度法的拘束力があるもんなんでしょうか? 銃弾や砲弾に毒を塗るのは国際法違反ですか? 宣戦布告は攻撃のどれくらい前にしておけばOKですか? 無防備都市宣言ですが、過去にこの宣言が実際に使用された例はあるのでしょうか? 地方自治体に無防備地域宣言をさせる条例を作ろうとしている連中があっちこっちにいるのだが、 第二次世界大戦では欧州・アジアを問わずに無差別爆撃が行われましたが、国際法的にはどのようにして正当化したのでしょうか。 わざわざ軍服のデザインを敵に教える理由がわかりません 武器を持って戦闘を行っていれば国際法上は女子供も兵士として扱っていいの? ジュネーブ条約では平時からすべての国民にその内容を学校で教えることが義務づけられている? ハーグ陸戦条約などが締結された当時、それらの規定の条文などの将兵に対する教育を各国の軍隊は行ったのでしょうか? 麻酔銃は化学兵器禁止条約に抵触するのでしょうか? 催涙ガスを正規軍同士の戦闘で使うと化学兵器(毒ガス)を使用したということになって国際条約違反? 降伏の仕方ですが、現代の部隊でも、敵への投降の際は白旗を揚げて出て行くのですか? ハーグ陸戦条約の23条「兵器を捨てた自衛手段を持たない投降者を殺傷すること」は捕縛されたゲリラには適用されないのでしょうか? ソマリア沖に派遣されてる国の軍隊は警察権など持ってるのでしょうか? 国際海洋法が軍艦には公海上の警察権を認めてるが警察組織には認めてない? 沖縄に核積んだ原潜とか来るんだけど非核三原則に違反してないんですか? 自衛隊は存在が違法ですよね? 戦場で殺してはいけない敵にはどんなタイプがあるのでしょう? 投降の意思の有無を確認することなく虐殺したのは戦争犯罪だという主張がありますが 通常兵器の使用について禁止・制限した条約にはどんなものがあるの? ジュネーブ条約で禁止されている武器や兵器の詳細ってネットで見られる所ないでしょうか 現代で国連の場で講和した場合、賠償金の請求や領土の割譲要求などはできませんか? 戦時海上捕獲権・捕獲審検とはどんなものか簡単に説明してほしいのですが 軍人同士の殺し合いである戦争において、ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約を適用する事って倒錯した考え方ではないんでしょうか 日本軍の占領地域に適応される法律(刑法、民法?)などって存在したのでしょうか? 国連の敵国条項には,どんな国の名が挙げられているのですか? ハーグ協定ってどんなものか教えて貰えませんか? 公海上では各国軍艦には臨検の権利があるって条約ある? 国際法上、50口径のM2で人を撃つのってありなんですか? 大戦中のB-29による空襲とかは戦争法規でいうところの民間人への攻撃にはならないんですか 衛生兵は撃っちゃいけないとか補給船は襲っちゃいけないとかいう決まりはあったの? トヨタが中国でGPSカーナビ付きの車を売り出すと言ってるけどココム違反にならないのですか。 「交戦団体」かは、当事者が認定すれば済む話なのでしょうか? 降伏してきた敵軍人に対して「捕虜なんかいらねえよ。自分の陣地へ帰れ!」と言って追い返した場合ジュネーブ条約等の違反になるでしょうか? 救急車に固有の武装を付けることは国際法規上認められるのか 日本が戦争になったら貿易船や旅客機は撃墜されても文句言えないのでしょうか? 高陞号事件は、現在の国際法ではどういう判定になりますか? ベトコンはハーグ条約違反ですか? 対物狙撃銃での対人狙撃は、国際条約違反じゃない? 中立国が交戦国に軍需物資を提供するのは国際法違反だそうですが、食料などはどうですか? 大戦中輸送船?が連合軍から安全を保障されていたが、米軍潜水艦に撃沈させられた事件について教えてください。 国連安保理の拒否権について質問です。 国連軍の白い装甲車やジープってのはよくテレビなどで見ますが、白い戦闘機とかってのもあるのでしょうか? 軍隊の戦闘行為って法律的にはどういった理屈で、正当化、あるいは免責されているのでしょうか? 敵兵が海にプカプカ浮いているのを発見したら救助する必要があるのでしょうか? 中立国の船舶を攻撃できないなら、海上封鎖は無理ですよね? 戦争に関して人道的な条約が最初に作られたのはいつ頃でしょうか? よくアニメやゲームで敵の軍服装備をして潜入破壊工作とかしてますが発覚したら問題になる行為ですよね? 軍事施設の隣に民家があり、その民家が軍事施設破壊の巻き添えになった場合、国際法違反になるのでしょうか? 原爆は国際法違反ですか? 「自爆攻撃」ってジュネーブ条約に照らし合わせると,やはり違反行為? 自爆攻撃はともかく、兵士が民間人の格好をして戦闘をするのは明確なる違反行為。 「宣戦布告」というものが国際社会において常識となったのはいつごろなのでしょうか? 詳しくは漏れも知らないが、大体ナポレオン戦争が終了した、戦後処理の ウィーン会議で概略が決められたのではないだろうか。 実際に手順とかが決められたのは、19世紀後半、1848年以降の万国国際法会議の席上だったかと。 基本的に宣戦布告は文書形式にして相手国の大使または外務大臣に 手渡すことになっている。 一種の手切れの儀式やな。 で、宣戦布告を手渡さずに戦争を始めた場合、それはだまし討ちとして 国際世論から袋だたきに合う。 (真珠湾攻撃の際、日本大使館の外交員が全員パーティに出払っていて、 本国から来た宣戦布告を解読できず、結局、布告書の手渡しが攻撃後に なったため、「だまし討ち」として、米国世論の激高を買ったのは周知の通り) ただ、現代の戦争はその殆どが第三世界で行われるため、万国公法が通じなく なってきたのも確か。 よって、きちんとした宣戦布告は為されないことの方が多くなった。 (8 名無しさん@眠い人 ◆ikaJHtf2) 宣戦布告なしの戦争の典型はベトナムだと思われる。宣戦布告がな ければ国際的な条約を無視できるので便利。 (8 805) 昔の欧州大陸での戦争では、兵隊がわんさか動員されて国境に行進してくるんで、 これから戦争するぞってのが丸わかりだった。 ぶっちゃけその前の動員と行進が事前警告になってるので、 宣戦布告の有無は政治的・法的にはともかく、軍事的にはあまり重要ではなかった。 ところが、20世紀になって海空軍が発達すると、開戦直後の大規模な奇襲攻撃が可能になった。 こうなると、宣戦布告で事前警告するかどうかが、軍事的にも大きな意味を持ってくる。 これを最大限利用したのが日本海軍で、利用されて驚いたのが米海軍。 なお、日本海軍は攻撃の30分前に宣戦布告するつもりだったが、 宣戦布告の意義が相手に対応の余裕を与える事前警告だとすると、30分前で十分なのかは疑問が残る。 (一体、攻撃の何分前に警告すれば「騙し討ち」にならないのだろうか?) 単に適法に戦争を行える宣言とすれば直前でも構わないが。。。 さらに二次大戦後は、陸軍も主力は常備軍で臨戦態勢を取るようになってきたし、 戦略核兵器は5分~30分で決定的打撃を与えてしまう。 全面核戦争に於いては、相手に対応の余裕を与えるわけがないから、 宣戦布告は「もう貴国は詰んでます」という勝利宣言になるだろう。 こうなると、宣戦布告の有無を問うのは再び無意味になってくる。 真珠湾攻撃は、ちょうど、宣戦布告が軍事的にきわめて重要となっていた時期の象徴的な事件だと言える。 (8 taka) 宣戦布告すれば、その直後に攻撃しても問題はないんですか? 別に問題はありません。 真珠湾攻撃はそのためにだまし討ちと喧伝されました。 (しかし、これで米国大使館にいた大使館員が処罰されたという話は聞かないな) とは言え、昨今の風潮では宣戦布告自体が無くなりましたけどね。 (32 眠い人 ◆ikaJHtf2) たとえば数人が私軍を作ってどこかの軍隊と交戦して投降したような場合、私軍での階級で取り扱ってくれるんですかね。 たとえば「国分寺軍大佐779」と名乗るのは勝手。馬鹿だと思われるだろうけど。 でも「陸上自衛隊一佐779」と名乗ったら詐称になるよね。 私軍を編成したとして、相手がそれを「軍」と認めてくれるのなら 階級に見合った扱いを受けることはできるかもしれない。 でもね、私軍って存在が相手に「軍」と認めてもらえる可能性は少ないよ。 認めてもらえなければゲリラ扱いで処刑されるだけ、だけど。 (12 780) 日本国の刑法93条に、 「外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備または陰謀を した者は、三月以上五年以下の禁固に処する」 とありますので、私設軍を設立だけにしておいた方がよろしいかと。 当然、武装をすると他の刑罰(銃刀法や爆発物取締法等)に引っかかります。 また、私設軍隊の兵員は恐らく傭兵やゲリラ兵として扱われ、各種条約に ある「捕虜取り扱いに関する項目」は適用されないと思われます。 (12 784) 1904年の日露戦争での明示の戦意表明のない開戦に対する批判を契機に,07年のハーグ平和会議で〈開戦に関する条約〉が成立した. これにより締約国は,理由を付した〈開戦宣言(宣戦)〉または〈条件付開戦宣言を含む最後通牒〉という形式の 明瞭な事前の通告なしに相互間に戦闘を開始してはならないことを承認した. もっともこの条約には,非締約国が1国でも加わる戦争にはこの条約は適用されないという総加入条項が付されている. 国際連盟体制下で戦争自体が違法化されるとこの条約の意義も減じ,逆に違法という非難を避けようとして戦意の 表明さえなしに開始される事実上の戦争が出現するに至った.その代表例は,満州事変,日華事変を契機とする日中戦争であった. 国際連合体制は国家間の武力行使のみならず武力による威嚇をも禁止するから,最後通牒さえ国連憲章と両立しがたく, 憲章上定められる自衛権の行使においても宣戦を行う余地はなくなったといえる. しかし現実には,現在,戦意の表明がなく戦争状態の承認されない武力紛争が多く見られるが, これらについても49年のジュネーブ諸条約など戦争法の適用は認められる. ((世界史板)) 軍縮条約というのは具体的にどういった取り決めがあったのですか? ワシントン条約とかSTARTとか部分的核実験禁止条約で検索かければ いくらでも事例はひろえます。 大体に於いて軍縮条約は、兵器の総量の規制、質的な規制、場合によっ ては相互査察や通報を含みます。 ワシントン条約の場合、主力艦の排水量を1.5万トン以上3.5万トン以下とし、 また、主砲の口径を8インチ以上16インチ以下に制限しました。これが質的 な規制。また総排水量の比率を英米5 日本3 伊仏1.67に制限しました。これが 量的な規制。 面倒なので、他の軍縮条約については検索で調べて下さい。 (9 518) 日本国内が戦争状態になったとして,私のような民間人が敵兵の死体から銃とか,その他の装備を奪って,戦闘に参加しても,罪(日本の法律上)にはならないのでしょうか?。 自衛のためでしたら刑法の緊急避難の条項が適用されると思われますが、そこらへんは まだ研究の余地があると思います。 ただし、民間人が武器を取って紛争相手国の軍隊と戦闘した場合、ゲリラとみなされ ジュネーブ条約が適用されません。この場合降伏してもその場で処刑されるのは必至です。 万が一(億が一?)そのような状況に追い込まれても決して武器を取って抵抗しない事を強くお勧めします。 (9 92) 国内法の問題ですか? 正真正銘の非常時(投降勧告すらなしに銃撃されていて、目の 前に装備があるような状況)であれば、その状況から逃れるまでの間は緊急避難になる可 能性が高いのですが、持ち続けると確実に銃刀法違反です(対象者を一般人と仮定)。 それ以外の場合、「善意による自発的な協力」ということになりますが、入隊しない限り銃 を最寄りの自衛隊・警察などに届けるだけになります。ここで発砲すると、銃刀法違反(+ 発射罪)になりますし、本題ではありませんがゲリラ扱いとなって問題になります。 (9 94) もし他国の軍隊が攻めてきた場合、民間人が勝手に武器を取って闘うことは国際法で認められているのですか? 別に禁止されてないけど。ハーグ条約でも群民兵の規定があるし、ジュネーブ条約には「組織的 抵抗運動団体」の規定がある。日本は批准していないけど、既に慣習的に通用するようになってる ジュネーブ条約第一追加議定書ではもっと広範囲に認められている。 自発的に「自分たちの町は自分たちで守る! 誰の許可を貰えなくても!」といったイメージの ゲリラ戦を、市民の立場で勝手に始めるのは、どうなんでしょう、というような意味でした 少なくとも4条件を満たせば国際法上は違法という訳ではない。 1)部下について責任を負う指揮官の存在 2)遠方より認識しうる固着特殊標章装着 3)公然武器遂行 4)戦争法規慣例遵守 軍隊はこの4条件を最初から満たしているので無条件に合法という事になってる。 当たり前だが、「内戦」とか、「独立戦争」を許可を貰ってはじめる香具師は居ない し、そういった戦争の形態は現実に有るのだから、ソレに対応した慣例というのも有 るわけだ。 (106 284-298) 今日本でWWⅡ当時の戦闘機を復刻させる事ってできるのでしょうか?(機銃など武装も含めて)これは、法律的にって事です。 銃器や武装は銃刀法や危険物取締法なんかに引っ掛かる可能性があるね。 届出を出そうにも模擬武装でなく実銃でレストアする理由付けが無いので おそらく不可能だと思う。 (9 名無しさん@799) 米軍のアフガン空爆で民間人が巻き込まれた場合、米軍は国際法違反ということになるのでしょうか? なりません。 なぜなら国際法と言っても、戦時交戦に関する規定は慣習法ではありませんので、 条約加盟国以外は、法的には適用外です。 (独ソ戦時の共産主義ソ連が良い例) タリバン政権は国際的に、国家としても認知すらされていません。 ちなみに人道的に残虐だとして、使用制限されている兵器(ダムダム弾など)も ジュネーブ条約加盟の国家の正規軍(武装部隊)にのみ適用です。 つまりゲリラやギャング、テロリストには適用外です。 (14 630) 「ハーグ条約/国際法によって民間人は軍の攻撃対象にしてはいけない」という話を聞きますが、「軍属」の扱いはどうなっているのでしょう? 1907年のハーグ第4条約(陸戦法規慣例条約・付属陸戦規約)が根底にありますが、これは正規軍しか認識していません。 従って、軍属の存在は極めて曖昧なものでした。 1949年にWWIIの教訓をふまえて、ジュネーブ第1~4条約が締結されました。 日本の判例は今のところ、この辺りから出ています。 特に捕虜条約と文民条約が根底にあるようです。 更に、「国際的武力紛争の犠牲者の保護に関し、1949年8月12日のジュネーブ諸条約に追加される議定書」(第一議定書)において、 「戦闘員と明確に区別する場合に於いては、交戦国は敵国の文民を保護し、人道的に扱うことが義務付け」られています。 当然ながら攻撃対象にしてはならないと規定されています。 ただ、軍属は戦闘員に準ずるものですから、戦闘員たる資格を持つはずで、条約上軍人扱いになります。 余談ですが、日本はまだ第一議定書を批准していなかったりするんですね。 これが…、どおりで検索しても出ないわけだ。 (15 眠い人 ◆ikaJHtf2) 士官候補生、訓練兵を戦争中に殺しても問題にならないか 民間人の無差別殺戮を行わない限り国際法上では問題ありません。 この場合、軍事施設の攻撃なので何ら問題になりません。 民間施設であっても敵の軍事力を削ぐ目的で攻撃するのであれば問題無しです。 (24 638) ABMってありますが、そもそも「弾道弾を迎撃するミサイルを制限しよう」という意図はなぜ発生したのでしょう? 「やったらやられる」という抑止力がなくなってしまうから。 迎撃ミサイルで相手のミサイルを落とすことができるなら、 「んじゃ、いっちょICBMでも打ち込んでみるかな」 という気になっちゃうかもしれないでしょ。 本当のところ、米ソとも真に有効なABMを作り出すだけの経済力も技術力もないことがはっきりしたからです そこで、「我々は世界平和のことを考えているのだ」というポーズをみせるための手段として、ABM条約締結に合意しました だから、アメリカで弾道弾迎撃が技術的に可能という幻想が広まったとたんに、条約は廃棄されようとしています (16 876-877) 敵が上陸してきた場合に、人間の鎖によって阻止しようとした場合 国内法的、国際法的にどのような問題があるでしょうか。 問題なしです。 上陸軍は人間の鎖にナパーム落として解決です。 ドンパチ始まったら平和憲法なんて消滅します。 (33 一等自営業 ◆O8gZHKO.) まぁ、しかし世論に敏感な国。特にアメリカなんか相手だったら、民間人をバタバタ機関銃で なぎ倒してる映像を世界に配信すれば、何らかの効果はあるかもね。 (33 839) ジェネーブ条約法規 第4章 戦時における文民及び一般住民の保護 一般住民又は個人たる文民の所在又は移動をもって、軍事目標を攻撃から遮蔽し、又は作戦 行動を隠蔽し、有利に導きもしくは妨害するために使用してはならない。 にばっちり引っかかります。民間人の犠牲者が出たとしたら文民を戦闘地域に 出すことで保護義務を怠ったとして日本側の責任も問われるでしょうね。 あと、少なくとも上陸側は容赦しないと思われ。 (33 840) 現代で、無制限潜水艦戦をするのは国際法上まずいんですか? まずいどころではなく禁止されています (38 236) 反乱部隊にはジュネーブ条約は適用されないのでしょうか? 内乱には適応外です (43 812) 1907年のハーグ陸戦規定(改定版)には、 軍服等の識別可能な服装・公然武器携帯・指揮系統あり 等の条件を満たした集団は規定の対象とするとの表記あり。 1977年のジュネーブ四条約議定書では、条約の対象に内紛・騒乱等の国内衝突も加えた。 一遍条約読んでみそ。 (43 823) ジュネーブ条約その他こういった条約を読みたいのですが何処で読めますか? 条約集に載ってます。たいていの図書館にあります。 HPでは日本赤十字と国際赤十字HPにあります。 (43 860) 終戦後に敵が盗られたりした兵器を見つけて「あの野郎!」と訴えたりはしないのか まあ状況によるますな。 例えば敵の新型だったら後方に送って調査するだろうし、 補給が厳しかったり自分たちの武器より強かったら前線で使われる (69 248) 現場をみたわけじゃないし その場に捨ててあったとか 持ち主が現れなかったとか どうにでも言い逃れできます (69 250) 1907年の開戦に関する条約って、この条約後の国際情勢の現実、様々な紛争や、 第二次大戦中の状況(ソ連のポーランド、フィンランド攻撃、フランス降伏時の英国のフランス攻撃、 米国参戦前の米国駆逐艦のドイツ潜水艦攻撃参加、等)によって、無効化している、という説についてはどう思われます? 湾岸戦争の際の国連決議が”最後通牒”としての形式をとったように 今日でもある程度の影響力をもっているのではないでしょうか? (71 22) 「軍事施設の近辺には民間住宅を設置してはいけない。」国際的にそのような法律等があるのでしょうか? ないと思いますよ。 厚木基地なんてフェンスの外すぐに住宅ありますし。 市街地にある自衛隊の基地なんてみんなそんなものです。 (73 481) 基本的には軍事施設を攻撃された際に巻き添えをくっても 文句が言えない程度だとは思います. ただ民間施設を軍事施設の盾にしていることが明白な場合には (軍の通信施設を病院と学校で囲むなど),1949年ジュネーブ第4条約の第28条 (非戦闘員の)軍事的利用の禁止に違反すると思われます. 具体的な条文は以下の通り. 第二十八条〔危険地帯〕 被保護者の所在は、特定の地点又は区域が軍事行動の対象と ならないようにするために利用してはならない。 (73 486) 捕虜に「氏名階級生年月日軍番号連隊番号個人番号登録番号」以上のことは 少しでも質問したら即ジュネーブ条約違反。 記者会見なんてもってのほか でもどの国でもそれを無視して捕虜の訊問はしているということであってますか? それ書いた人間ですが,条文を読み直したところ,質問に対して”自発意志”に基づいて 協力をしてもらうことには,おそらく問題はないのだと思います. しかし協力を拒否された場合に,暴行を加えたり食事を与えなかったりすると違反となります. また記者会見は「公衆の好奇にさらす」こととなるので,ジュネーブ第三条約第十三条第2項違反となります. 第十三条〔捕虜の人道的待遇〕 ② また、捕虜は、常に保護しなければならず、特に、暴行又は脅迫並びに侮辱及び公衆の好奇心から保護しなければならない。 (73 806) イラク人の捕虜の映像もたくさん報道されていたけどあれも違反なわけですね。 判例にまではあたっていないので,詳細は分かりませんが あの程度の個人が特定しにくいレベルでの遠景ではOKでは? (73 809) アメリカはハーグ陸戦条約かジュネーブ条約かのどちらかを批准してないとききましたが本当なんですか? Geneva条約の追加議定書を批准していません。 俗に言う、「国際人道法」と呼ばれる部分です。 これを批准してしまうと、アメリカの両手を縛りかねない状況にあるためです。 ちなみに、日本もそうだったりします。 (74 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 最近は1949年ジュネーブ4条約などをも含む戦時国際法そのものを”国際人道法”と呼ぶ傾向がありますので, 国際人道法というものは1977年の追加議定書に限定されていませんよ. (74 74) なお,アメリカが追加議定書を批准しない理由としては これが反政府ゲリラなどにも合法戦闘員としての資格を与えることがあります. つまり,政府軍兵士やこれの要請により派遣された米軍兵士を殺害したゲリラを 殺人罪で裁けなくなるということがあります. アメリカも基本的には追加議定書の規定を尊重すると宣言していますし, 実際にこの戦闘員資格を除いては,だいたい遵守していると思いますよ. (74 75) 一般市民の住んでいる区画に大砲を大量に配備って後々問題にならないの? 亀レスですが,いちおう法的な問題はないはずです. おすすめはされてませんし,赤十字は明らかに文句を言ってきますが. しかし攻撃により民間人に死傷者が発生した場合の責任は,本来は都市に兵力を配置した 防御側の責任となるはずですが,今回の場合には攻撃側のアメリカ軍の責任にされてしまいます. マスメディアはもちろんですが,イラクの一般的な国民感情としても民間人を殺した側を 非難したくなるのは当然ですし. というわけで,軍事的な効果だけではなくこういった政治的な効果をも狙ったイラク側の作戦と思われます. (74 名無し法務将校) 住宅地に軍を配置して住民に被害が出たら防衛側の責任だそうですが、「どこからどこまでが住宅地か」は、やはり常識の範囲内で判断するんでしょうか? 「被害が出たら防衛側の責任」と言うのはアメリカ側の論理ですな。 ジュネーブ条約の精神から反した行為ですが、そういう解釈には恣意的な部分が残ります。 (74 752) アメリカがもし国際法破ったとしてもほんとに裁けるのでしょうか? 米国は、国際刑事裁判所の設置条約に署名し、それは前政権時代に 発効しましたが、小Bush政権はその条約を破棄しています。 従って、現在の所、米国の国際法違反を明確に裁ける場所は存在しません。 例えば、米国が何処かとの戦争に敗れて、他国の軍隊がWashingtonに 駐留するようになれば、裁けると思いますけど(藁。 (75 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 兵士が民間人の振りをして攻撃するのは禁止するような条約ってあるのでしょうか? ジュネーブ条約がその条約です。 (75 108) 祖国防衛の時は私服で戦ってもジュネーヴ条約違反にならないって本当でしょうか? 間違いです。 例えば第2次大戦時、英国は祖国防衛の為の市民軍を組織しましたが、 黒い腕章などで普通の市民と区別をつけていました。 要は、非戦闘員、戦闘員の区別が何らかの形で見分けがつくようにして おかねばならない、ということです。 (75 454) 群民兵とレジスタンスがごっちゃになっていますね。まず、問答無用でアウトになるのは、 以下の場合。 スパイ・傭兵・「武器を隠し持った」便衣兵/レジスタンス。 さて、 454さんの挙げられた例は、「編成する余裕がある場合」の事であり、国際法上、 「正規の軍隊」の一部としての「民兵」として扱われます。 指揮官・固定徽章・武器の公然所持・戦争法規/慣例の遵守が、正規軍の国際慣例上 の要件です。 452の田岡発言は、「群民兵」であって、侵略に対する抵抗としての自発的戦闘参加で すから、元来「戦闘員」としての保護対象ではありません。しかし、これでは実情に全く合わ ない上、虐殺の口実になりかねないので、「編成する余裕のない急場」であれば、「交戦者」 として保護の対象になります。具体的には、指揮官(いるわけがない)と固定徽章(間に合う わけがない)を免除されます(レジスタンスは、免除されません)。 ではイラクの場合はと言うと、武器の公然所持がほぼ間違いなく引っかかりますから(隠 し持った武器で攻撃されたとの発表が相次いでいます)、結果的に「交戦者」としての資格 を有しないことになります(アメリカは、追加議定書を批准していないため、「占領地におけ る反逆行為・レジスタンス」と強弁して切り抜ける可能性もありますが、タリバンの扱いと同 様、内外から袋だたきにあいますし、戦後を考慮して転換せざるを得ないでしょう)。 結論から言えば、田岡発言の大筋は正しいが、イラクについては該当しない蓋然性が高 いといえるでしょう。 (75 774-3) クラスター爆弾や無差別絨毯爆撃の非人道性が討議された国際的な会議はこれまでにあったのでしょうか? 無差別爆撃は軍事目標主義から慣習法で禁止されてる。一応、形になってるのは 1922年の空戦法規案の第24条だ。要約すれば破壊する事が軍事的に意味のある目 標以外は攻撃してはならないというような事が書いてある。 じゃ、米英による都市への戦略爆撃は何だったのかと言えば、ドイツに関しては無制限潜 水艦戦に対する戦時復仇、日本に関しては「工業地帯」という分けられない面目標に対する 攻撃と説明された。 (78 493) 国家総力戦においては、民間人も戦争に協力している ↓ 民間人と軍人の区別はない ↓ つーことで、P51やF6Fで農村の民間人機銃掃射してもOK! byアメリカの論理 (78 494) クラスター爆弾に関しては不発弾の問題を討議する国際会議が開かれました。 (NGO系のみではなく、国連関係も出席する会議です) (78 495) ※表現を過去形に修正 現在では、上で挙げたような「絨毯爆撃」は1977年のジュネーブ条約追加議定書によって 「無差別攻撃」の一種として明文(51条5項で「特に」)で禁止されてる。 クラスター爆弾自体は明らかに戦術用で軍事目標を攻撃する事を目的とした爆弾ではあるが、 不発弾が民間人に対しても被害を与える事から、「無差別」ではないかという疑問が出ている訳だ。 (78 496) つーことで、P51やF6Fで農村の民間人機銃掃射してもOK! それはない。一応の言い訳は・・・・ 「国民服」?「学生服」?「セーラー服}?、空から見たら軍服にしか見えねーよ・・・です。 まぁ、カーキ色の「国民服」を着ていたら区別のしようが無いのは確かでしょう。 (78 498) 敵国の国民が自国にいる場合、国際法上はどう処遇するのであるか? 国際法上は,敵国国民自身が第三国への出国かそのまま残留のどちらかを選択できる. その場合戦争中のホスト国は,自国の国家的利益に反しない限り,国外退去を認める義務がある. 自発的,強制を問わず,ホスト国に残留した敵国国民に対し,ホスト国は住所指定や抑留などの措置をとることが 自国の安全がこれを要求するときに限り許される.ただし抑留などでそれまでの仕事ができなくなった場合には 有給の仕事を提供する必要があり,また自国国民と同等程度の待遇を提供する必要がある. (83 名無し法務将校) 敵国の住民が自国にいる場合は、バラバラにせず、まとめて抑留する場合があります。 とは言え、その時に強制など非人道行為をしてはいけません。 戦争の最中でも中立国を通じて交戦国両国が交渉を行い、必要な場合には、 航行の安全を保証した交換船などの手段を通じて本国に帰国させるようにします。 第二次大戦中、日本と英国、米国についてもそのように取り計らっています。 また、日本の場合、抑留する地域に軽井沢の別荘地が使われたりしています。 (83 眠い人 ◆gQikaJHtf2) ウルニスム大将軍派は、1974年にクーデターを首謀して首切りされて晒し首にされたそうですが、これは国際法か何かに抵触しないのですか? いくつかの国際条約に抵触している可能性はあるが、基本的にクーデター は発生した国の国内問題なので、国際法は関係ない。 独立主権国家の国内法が例えどんなものであろうと、それに対して外国が 何かすることは出来ない(それは”内政干渉”になる)。 (85 53) 戦争時ではないときに領海内に機雷を置くことは国際法とか国際関係において問題がありますか? 無害航行している自国や他国の船が触雷、沈没するなどして 多額の保障を求められたり大きな紛争が発生する危険があります (85 784) 敵の空挺部隊が降下をし始めたときから地上に着陸するまでは、地上の軍隊は空挺隊員を攻撃してはならないというのは本当でしょうか。 一応、降下中の落下傘を撃っちゃいかんというのが「空戦に関する規則案」にある。 1922年当時の慣習法だったらしい。 もっとも、当時は空挺部隊なんて無かったわけだし、 条文にも「航空機がその行動の自由を失った場合」と書いてある。 「空挺部隊が降下をし始めたときから地上に着陸するまで」ってのは慣習を拡大解釈した結果だろう。 (86 502) 「遥かなる橋」や「史上最大の作戦」読め。 どっちにも、降下中に撃たれてる空挺部隊隊員のコメントが書かれてる。 (86 506,507) 「史上最大の作戦」の中でドイツ警備兵に討たれる空挺部隊の図があったけど。 (86 508) 降下中のパイロットだろうが兵士だろうが、自由に撃ってもかまわない、つーことだな WW1(「空挺部隊」が出来る前)の慣習が元なんだから、 空挺部隊は撃って良いってのが一般的な解釈だろう。 対空用の砲には400g以下の焼夷弾を用いても良いとか、あの時代の慣習法が集成されてる。 「難船者保護」と同じなんだから、当然の慣習だろう。 (86 519) 深夜、海岸に密かに上陸をはたした国籍不明の武装集団に対して無警告で武力を行使するのは国際法に触れますか? 国際法と言うより国内法の問題ですな。 (86 738) 無警告で『武装』集団であると確認できればいいが無理でしょ。 自動小銃らしきものを所持→実はガスガン、サバゲーやってた。 無反動砲らしきものを所持→実は釣り竿ケース、夜釣りの集団。 こういう可能性も完全には否定できないので、無警告の攻撃は まず、無理。確認できる距離まで近づけば、向こうも何らかのリアクションを取る。 攻撃してきた→正当防衛で反撃。 逃走を試みた→結局、止まれ!と「警告」することに。 (86 739) 今の時代でも国際的な海軍軍縮条約ってあるんですか? 一カ国のみを対象にした条約(軍縮というか軍備制限だが)ならいくつかあるが、国際的なのはないね。 (88 438) イージス艦の艦艇保有数って各国の規定で決まってましたか教えてください 艦艇の保有数を決める条約は現在存在しません (88 445) 「各国の規定」とは何でしょう?日本の防衛大綱の様なものを想定しているのでしょうか? なんにせよ、それぞれのお国の事情であり一概には言えないが「イージス艦保有数」で規定される事は普通無いでしょう。 (88 446) 軍隊が催涙ガスを用いて暴徒鎮圧を行ったら国際条約(生化学兵器に関する物)違反になるのですか? 該当しない。 (93 950) 戦車から出て手を上げて降伏の意思を示している敵を撃ち殺したら戦争関連の法規に違反になるんでしょうか 戦車から手を上げるだけじゃ降伏の手続きにはならないよ。 (94 329) 50口径以上の弾丸で人を撃ってはならないという国際法があるって本当ですか? たしか1982年の定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW Convention on Conventional Weapons) ”過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器は使用しちゃだめぽ”が根拠。 まあ,実際のところ 「人を撃ってるんじゃない。たまたま射線に人が居たか 遮蔽物を撃ってるつもりが人に当たっちゃったんだ。ゆるしてちょんまげ」 ってことで,CNNのカメラが隣りに居るとき以外はほぼ意味無し。 (95 161) しばらく前にも出てたけど、1868年の「サンクト・ペテルブルク宣言」って のがあって、弾頭400グラム以下の榴弾の対人使用は禁止されています。 まあ、非炸裂製の弾丸を使う分には、この条項には引っかかりませんが。 それから、1899年の「ダムダム弾の禁止に関するヘーグ宣言」 これは鉛をむき出しにした弾丸の使用を禁じたもの。 1907年の「陸戦の法規慣例に関する規則(ハーグ陸戦規則)」では、第22条 で害敵手段が無制限ではないことを宣言し、第23条のホで不必要の苦痛を与 える兵器の使用を禁じています。 大口径狙撃銃は、ハーグ陸戦規則に引っかかる可能性があります。 ただ、「即死させるんだから、苦痛はないだろ?」などと無茶な主張をする 香具師もいますが。 (95 169) 空母と爆撃機の生産が国際条約か何かで規制されてるというのは本当ですか? 直接的な規制はありません (96 967) おそらくSALT条約のことだと思いますが、これはアメリカとロシア(旧ソ連)のみを 拘束する条約で他の国は無関係です (96 970) 救急車に固有の武装を付けることは国際法規上認められるのか 知らないかもしれないんで、一応お約束のジュネーブ第1条約を引っ張り出してみると 第二十二条〔保護をはく奪してはならない事実〕1項により自衛・もしくは負傷兵を守る 防衛行為のための武装は認められています。 ただし、それを逸脱した目的で使用された場合、第二十一条〔保護の消滅〕により 衛生部隊として保護する権利を剥奪する事も可能です。 救急車の使用に何らかの制限はあるのか 第三十五条〔保護及び捕獲〕により車両等の輸送手段は衛生部隊と同様に尊重し、且つ 保護しなければならないと規定されています。 使用の制限に関する記載は見つかりませんでした。 救急車が偶然にも敵を見つけた場合これを味方に知らせても良いのか 自分達で積極的に探したのでなければ問題ないと思われ。 衛生兵が順守すべき国際法規は一般の兵と異なるのか 一般兵だろうが衛生兵だろうが同じくジュネーブ第1条約を遵守すべきと思われ。 (103 913) あとは、これまたお約束の 「陸戦の法規慣例に関する条約」あたりを絡めれば、大体答えは出るんではないかと。 救急車の使用に何らかの制限はあるのかということ これに関しては、明らかに上記条約二十三条の制約を受けるわけです。 (103 914) 国際法により軍服など所属が明らかでないものが戦場で戦闘行為を行った場合、 無条件(捕虜としてとらえても)で射殺しても良いと明記されているって本当? 少なくともこれは明確な間違い。 (106 20) M2用の12.7mm弾を利用したライフルは対人用には使っちゃいけないって聞いたんですけど本当でしょうか? 本当だとしたら、M2は対人用にバリバリ撃ってるわけでしょ?なんか矛盾を感じるんですけど。 アンチ・マテリアル・ライフルが正しい。日本語訳だと対物ライフル。 条約で対人用には使ってはいけないことになってはいるだけ。 使おうと思えば使える。 (108 93) 『不必要な苦痛または過度の傷害を与えるなど、その影響を理由に使用を禁止される害敵手段(兵器、投射物その他の物質)』 のひとつとして禁止されています>50口径弾の対人使用 しかしこの”対人使用”というのがキモで、明確に”人間を狙って撃つ”のが禁止されているということなので、 「撃ちまくっていたら人間に当たりました。すいません」といえば許される(苦笑 50口径長距離狙撃銃を”アンチマテリアル(対物)”としなければ、 基本的に狙撃と言うのは”人を狙い撃つ”行為だからXになる。 (108 94) イラク戦争で、旧イラク軍残党将兵が米軍の捕虜になってしまった場合、捕虜としての待遇をしてもらえたのでしょうか それともただのテロリスト扱いでしょうか? 間違いなくテロリスト扱いだと思われ。 その「旧イラク軍残党将兵」は軍服を着て行動しているわけでも 武器を公然と携帯しているわけでもあるまい? (108 794) ライフルを持った歩兵が他国の軍艦に乗り込んで甲板上を移動したりするのは違法なのでしょうか? また、公海上で臨検する際の特殊部隊員はどうなるのでしょうか? 公海上で軍艦の武装を使用可能状態にすること・武装した兵員を配置すること OK。但し正当な理由無しに他国の船を攻撃したり威嚇するのはダメ(公海条約2条等)。 他国の領海・港湾内で武器・兵員を配置 海洋法条約 第3節 により、 原則としてダメ(武力による威嚇にあたる)。 領有国は実力をもって領海外に追い出す(あるいは沈める)ことができる。 ただし領有国は許可することもできる。 公海上での臨検 公海条約22条(の類推解釈) により、 公海上でも、軍艦は不法行為の疑いのある船に対して軍人による検査を行うことができる。 (110 457) 敵の衛生兵は撃ってはいけないんですか? いけません。自分が捕虜になったとき、治療してくれるからです。 (111 510) 撃ったら罰せられますか? 衛生要員の殺害は、国際法で禁じられています。 ただ、それに対する罰則は、それぞれの国内法の規定によることになっています。 (111 512) 常任理事国は拒否権を行使できないという決まりはある? 常任理事国が拒否権を行使できない場合は以下の通りです。 国連憲章27条 1.(略) 2.(略…手続事項の表決について) 3.その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、 常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。 但し、第6章及び第52条3に基く決定については、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない。 したがって、その他の事項(例えば国連憲章7章に基づく決定・措置)については 常任理事国は紛争当事国であっても拒否権を行使することが出来ます。 (114 974) ソ連のアフガン侵攻やアメリカのグレナダ介入では、 それぞれ拒否権を行使しとるよん。 (114 976) 戦時国際法上、捕虜の官姓名を相手方に通知する義務ってあるんですか? 捕虜の官姓名を相手方に通知する義務に関する条約 ハーグ陸戦条約第14条: 「交戦国毎に、開戦時に戦争捕虜に関する情報局を開設する。必要なときその局は 中立国に置かれる。その局は捕虜についての情報を提供するとともに、個々の捕虜に ついて報告書を保存し全ての必要な情報に関する業務を執行するものとする。 移送中または病院で死亡した捕虜が遺した、または戦場で発見された個人的所有物、 貴重品、手紙などを集め、受領することは、この情報局の任務である。」 ジュネーブ条約第三条約第六十九条〔措置の通知〕 「抑留国は、捕虜がその権力内に陥ったときは、直ちに、捕虜及び、利益保護国を通じ、 捕虜が属する国に対し、この部の規定を実施するために執る措置を通知しなければ ならない。」 通信を捕虜に許す義務に関する条約 ハーグ陸戦条約第16条 「情報局は郵便料金免除の特権を受ける。戦争捕虜に送られる、または戦争捕虜が 発信する手紙、支払い指図書、郵便小包、その他の貴重品は発信地または受領地 もしくはその中継地点のいずれの国においても郵便料金は免除される。 戦争捕虜あての贈り物と援護物資は郵便料金が無料のみならず、国有鉄道の輸送費 も免除される。」 ジュネーブ条約第三条約第七十一条〔通信〕 「捕虜に対しては、手紙及び葉書を送付し、及び受領することを許さなければならない。(以下略)」 以上の条約の下において抑留国は捕虜に対してあなたが訊ねた義務を負いますです。 ハーグ陸戦条約は蛇足ですた。 とにかくジュネーヴ条約(第三条約)ではその点に関して定めてありますので 詳しくはネットで全文を検索してくださいまし。 (120 名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE) ハーグ陸戦条約ですとか、ジュネーブ条約と言ったものは、どの程度法的拘束力があるもんなんでしょうか? 拘束力の背後には強制力がなければなりません。条約を批准していなければ そもそも拘束されない理屈ですし、仮に批准していても強制するものがなければおとがめなし、 てーか、追求のしようもないでしょう。せいぜい本に書いて残すぐらいで。 (120 system) 個人レベルなら戦勝国の将兵も戦争犯罪の裁判にかけられることはある。 ソンミ事件など。 (120 351) 銃弾や砲弾に毒を塗るのは国際法違反ですか? ハーグ陸戦規定の第23条に引っかかりますです。 (121 850) 宣戦布告は攻撃のどれくらい前にしておけばOKですか? どれくらい前かは最後通牒の内容、両国間の 状況が絡むので、定まった時間では言えない。 ハーグの開戦に関する条約でも「どれくらい」という条項はない。 (121 723) ※リンク先消滅 無防備都市宣言ですが、過去にこの宣言が実際に使用された例はあるのでしょうか? 無防備都市宣言なら、フランス戦時のパリとか、イタリア上陸作戦の時のローマ などがありますけど、無防備地域宣言は無かった様な気がします。 第二次大戦でのサンマリノとかで出したような記憶もあるが、定かでは無し。 (122 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 地方自治体に無防備地域宣言をさせる条例を作ろうとしている連中があっちこっちにいるのだが、 そいつらが「第一追加議定書は条約なんだ。憲法98条にも条約を遵守しろと書いてある。地方自治体に条例に基づく無防備地域宣言をさせない日本政府が問題なのだ」という主張をしているのだが、こんな主張ってありなのですかね? これとは別に憲法では94条で「条例は法律の範囲内でのみ制定可能」とあり、たとえば自衛隊の指揮権を定めた自衛隊法、国民保護法と無防備地域条例とは真っ向からぶつかることになるのですが。 「これとは別に憲法では94条で「条例は法律の範囲内でのみ制定可能」とあり、たとえば自衛隊の指揮権を定めた自衛隊法、国民保護法と無防備地域条例とは真っ向からぶつかることになるのですが。」 これは議論の要点(と、彼等が主張する部分)を勘違いしてる。 確かに憲法には 第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。 と、あるが、彼等が根拠にしてるのはこちら。 第98条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。 2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。 つまり、「第一追加議定書に反する法令そのものが違憲だ」って主張な。 学説的にもこの主張は裏付けられていて、日本国は 確立された国際法規には無条件に従わねばならない 締結した条約についても、国内法の整備をもって尊守しなければならない ってのが主流な説となっている。 簡単にいえば「国際的な基本ルールは守りましょう。条約に参加したら実行しましょう」って事な。 まあ条約と憲法含めた国内法との優劣や実際の効力等に付いては諸説あるが、ここでは省略する。 ただ、ぶっちゃけジュネーヴ諸条約第一議定書は軍組織の指揮権が所属国家の中央政府に独占される事なんて全く否定してないので、 無防備条約推進団体の主張は前提が根本的に間違ってる。 ついでにいっとくと日本の平和団体は日米安全保障条約はサンフランシスコ平和条約と同時に締結された旧条約の頃から それ自体が憲法違反だと主張する事が多い。 憲法9条は日本以外の国の事なんて何も書いてないし、憲法草案も立憲作業もアメリカの意思と同意の元に進められて、 そのアメリカによる庇護も始めから視野に入ってたというのにね。 で、それに伴って制定された安保条約刑事特別法も憲法違反なんだってさ。 (初心者スレ478 311) 第二次世界大戦では欧州・アジアを問わずに無差別爆撃が行われましたが、国際法的にはどのようにして正当化したのでしょうか。 ハーグ空戦規則案(批准が行われていないため、法としての効力は発生して いないものの、空戦に関して各国はこれに準拠している)では、24条1で、 軍事目標に対する爆撃のみが適法であるとされています。ここでいう軍事目標とは、 「その破壊もしくは毀損が明らかに軍事的利益を交戦者に与えるような目標」と 規定されています。また、24条3では、陸上軍隊の作戦行動の直近地域でない 都市への爆撃は禁止され、4では、直近地域にある場合には、「兵力の集中が 重大であって、爆撃により普通人民に与える危険を考慮してもなお爆撃を正当と するに十分であると推定する理由がある場合に限り」適法である、とされています。 25条では、4の場合にも爆撃の対象とならない施設と、その施設を明示する標識、 および標識の不正な使用の禁止について述べられています。 第二次世界大戦以前の法的な状況は以上のようなものなのですが、問題は、 第二次世界大戦において総力戦が遂行されるとともに、文民やあらゆる産業が 戦争遂行体制に組み入れられるとともに、航空機および防空能力が飛躍的に向上した ことです。この流れの中から現れたのが「目標区域爆撃」という概念で、これは、 軍需工場(戦争の遂行に必要な産業)の密集地域で個々のの軍事目標の選択が 不可能な場合、その地域全体を一つの軍事目標とみなす、とする考え方です。 これを最初に提出したのはイギリスですが、日本では、都市全体を防護する防衛施設 や軍隊が駐屯する都市を、それが戦場から遠く離れていても防守都市とみなし それへの無差別攻撃を正当とする拡張された防守都市の概念もあらわれました。 第二次世界大戦中の法概念の変遷は、概略以上のようなものです。ちなみに、戦後は、 ジュネーブ条約の第一追加議定書において「紛争国当事国の軍事行動は、軍事目標 のみを対象とする」(48条)とされており、51条5(a)で、目標区域爆撃は無差別攻撃として 禁止されています。また同時に同議定書においては、軍事目標の定義についても、 空戦規則のものより更に精密なものになっています(52条2)。また、爆撃の被害を避ける 予防措置についても、攻撃側に一定の義務を課し(57条2a-c)、同時に、被攻撃側にも 攻撃の影響から文民が被害を受けることを予防する義務を課しています(58条)。 58条絡みでこないだのイラク戦争でフセイン政権がやった「人間の盾」が非難の対象になったのは記憶に新しいところ。 以上、国際人道法(藤田久一著)pp.109-117より (106 158-159) わざわざ軍服のデザインを敵に教える理由がわかりません 本土決戦に向けて編成された国民義勇兵の正式軍服は、胸と背中に「義勇」と書いた布を張ったもので、 それをスイスの大使館を通して連合国に通知した、と聞きましたが、そんなふざけた軍服でも、敵国に連絡しなきゃいけないんですか? 軍服がないなら私服で戦えばいいような気が。 ハーグ陸戦協定の「第一章 交戦者の資格」の 第1条 戦争の法規、権利、義務は正規軍にのみ適用されるものではなく、下記条件を満たす民兵、義勇兵にも適用される。 1.部下の責任を負う指揮官が存在すること 2.遠方から識別可能な固有の徽章を着用していること 3.公然と兵器を携帯していること 4.戦争法規を遵守していること 上記の2を満たしている必要があるから。 (525 377) 戦闘隊員の服装は昭和20年6月23日公布・施行の「国民義勇戦闘隊員服装及給与令」(勅令第386号)で次のとおりとされた。 1 行動に容易な適宜の服装であること 2 陸海軍の肩章・襟章・袖章等を付けたものでないこと 3 布製の隊員徽章又は職員腕章を付けること (525 423) 武器を持って戦闘を行っていれば国際法上は女子供も兵士として扱っていいの? 15歳未満の児童は戦闘に参加したしないを問わず等しく保護しないといけません。 そのことはジュネーヴ条約第二追加議定書において規定されています。 (第四条3-d) 捕虜としての女性に関する保護は、第三条約第二編第十四条2で規定されています。 (528 154 名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE ) ジュネーブ条約では平時からすべての国民にその内容を学校で教えることが義務づけられている? とここに書いてありますが http //www.jiyuu-shikan.org/jugyo15.html ググった限りではそんな項目見当たりませんでした。これは本当ですか? ここで言ってる「ジュネーブ条約」は、1949年のジュネーブ第3条約のことと思われます。 127条1項で「できる限り」軍民問わず普及させる義務が定められています。 ただし、非軍事教育の過程に入れることは「できれば」という努力義務にとどまっています。 つまり、普通の民間人について教育しなくても、直ちに条約違反ではありません。 参考条文(http //www.mod.go.jp/j/library/treaty/geneva/geneva3.html) 127条1項 締約国は、この条約の原則を自国のすべての軍隊及び住民に知らせるため、 平時であると戦時であるとを問わず、自国においてこの条約の本文をできる限り普及させること、 特に、軍事教育及びできれば非軍事教育の課目中にこの条約の研究を含ませることを約束する。 (529 ◆yoOjLET6cE) ハーグ陸戦条約などが締結された当時、それらの規定の条文などの将兵に対する教育を各国の軍隊は行ったのでしょうか? 農村から徴兵された文盲の兵士にまでいちいち「捕虜の処遇について~」などと手間ひまかけて教えていたのか疑問に思います。 ハーグ陸戦条約自体は、ロシア皇帝が主唱者です。 でもって、日露戦争では、日本側は士官を中心にきちんと条約の内容を教えています。 更に、各師団に、法律顧問が付いて、師団全体に国際公法を知らしめるようにしています。 これは、当時、日本が国際公法から逸脱した行為を取れば、ロシアの方が有利になると、首脳部が理解していたからです。 しかし、時代が下ると夜郎自大になった日本軍や、そもそも、国際公法について無知だった赤軍については、そう言った教育を 行っていません。 軍隊の規模が大きくなると、教育も大変になりますから。 (336 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 麻酔銃は化学兵器禁止条約に抵触するのでしょうか? 軍隊で麻酔銃を装備してる国は無いのですか? 催涙弾を装備している国はあっても対人用麻酔銃に装備してる国はまずない。 そもそも麻酔は、効果の個人差が大きいので、非常に使いにくい。 動物保護活動やってる部隊なら装備してるかもしれんが。 それ以前にハーグ陸戦条約の第二三条で規定された禁止事項の、 「毒又は毒を施したる兵器を使用すること」に抵触するだろ。 麻酔ってのは結構危険なんだぞ。 (529 430,431) 催涙ガスを正規軍同士の戦闘で使うと化学兵器(毒ガス)を使用したということになって国際条約違反? その上、使った相手に本物の毒ガスで報復されても相手は国際条約上違法ではないので非難もされない、というのは本当ですか? 一番最初に締結された化学兵器に関する国際規定(1925年のジュネーブ議定書)では 「報復使用の権利」は留保されていたけど、その後に化学兵器そのものを無条件で 規制する方向に進んだので、今はそれは認められない。 現行の規制下でも国内での治安任務に使用することは認められてるけど、正規軍が 正規軍に対して使用することは非致死性の催涙ガスでも「化学兵器」の扱いになる。 (586 761) 降伏の仕方ですが、現代の部隊でも、敵への投降の際は白旗を揚げて出て行くのですか? 降伏する時の要式みたいなのが指示されている模様 戦車は砲塔を後ろ向きに 兵舎に戻る時は車両を開けた場所に残すように (71 871) 白旗についてですが、ハーグ陸戦条約中に「白旗を掲げる者は軍使と見做し、攻撃はしない様に」って内容の条文があります。 そこから白旗を掲げる事で「攻撃しないでくれ」→「降伏します」の意思表示へと変化したのかも知れません。 現在では白旗を掲げる事は降伏の意思表示として広く認識されていますから、相手に判りやすい手段ではあるでしょうが、 「抵抗の意思無し」を表明すればいいので白旗を掲げる以外に、武器を捨て両手を高く挙げる等もありますね。 (362 528) ハーグ陸戦条約の23条「兵器を捨てた自衛手段を持たない投降者を殺傷すること」は捕縛されたゲリラには適用されないのでしょうか? ハーグ陸戦規約よりは1949年のジュネーブ四条約と1979年の第1、第2追加議定書 を見た方がいい気がしますが、それはまあおいておいて。 ゲリラと言っても、正規軍の兵士が軍服を着用してゲリラ的な作戦をしていたの であれば当然捕虜として扱われます。 外国の侵略を受けたときに、民間人がゲリラ活動をするのは、議論の余地があり ますが、民間人のふりをしてだまし討ちをするとかでない限り保護されます。 内戦の場合は微妙です。というのは、ハーグ陸戦規約も1949年のジュネーブ4条 約も国家間の戦争を対象とした条約(ジュネーブ条約には内戦に関する規程も少 しだけありますが)なので、内戦に関しては捕虜の扱い、資格についてなどの規 程が無いのです。第2追加議定書には内戦の場合の規程があるのですが、締約国が あまり多くありません。 資格が無いにも関わらず戦闘行為をなしたものは捕虜になれず、り犯罪者となりますが、 ジュネーブ条約には犯罪者の取り扱いについても規程がありますので、いきなり銃殺とか はさすがに違反です。 ただし、これらの保護は第2追加議定書を締結してない限り内戦の場合には適用されませんが。 もっとも、戦争法規が適用されなくても人権規約がありますので国際法的には何 をやってもいいというわけではありません。ただし、国際法の実際の執行には 多々問題があるのはご存知の通りです。 (354 630) ソマリア沖に派遣されてる国の軍隊は警察権など持ってるのでしょうか? ソマリア沖への自衛隊派遣についてですが、海賊対策は海保の仕事だという意見がありますが 海賊船への攻撃や乗り組み員の拘束はどういう法律を根拠にしてるのでしょうか? 国際海洋条約により、軍艦には公海上の警察権が無条件に付与される。 (536 94) 国際海洋法が軍艦には公海上の警察権を認めてるが警察組織には認めてない? だから海上保安庁の公海上及び他国領海内での警察活動は国際海洋法上問題がある? いわゆる国連海洋法条約上、海賊取締りに関する公海上の警察権行使の主体は、 ①公船・公航空機で、②公船であることが識別可能で、③国内法上の取り締まり権限があるもの。 明らかに軍艦以外の公船を含みます。 参考:国連海洋法条約(抜粋) 105条 いずれの国も、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所において、 海賊船舶(略)を拿捕し(略)人を逮捕し又は財産を押収することができる。 107条 海賊行為を理由とする拿捕は、 軍艦、軍用航空機その他政府の公務に使用されていることが明らかに表示されており かつ識別されることのできる船舶又は航空機で そのための権限を与えられているものによってのみ行うことができる。 110条 1項~3項 (軍艦による臨検に関する規定) 4項 (軍用航空機への1項~3項の準用) 5項 (前述の要件を充たす公船・航空機への1項~3項の準用) 海上保安庁の場合、この3要件を満たすものと考えられます。 要件①②は明らかですね。 ③については、海上保安庁法の以下の規定が根拠となりえます。 2条1項 海上保安庁は、(略)海上における犯罪の予防及び鎮圧(略)捜査及び逮捕、 (略)その他海上の安全の確保に関する事務(略)を行うことにより、 海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする。 5条 海上保安庁は、第2条第1項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。 12号 沿岸水域における巡視警戒に関すること。 13号 海上における暴動及び騒乱の鎮圧に関すること。 14号 海上における犯人の捜査及び逮捕に関すること。 25号 所掌事務に係る国際協力に関すること。 17条~20条 (立ち入り検査等の権限) (540 459,460) 沖縄に核積んだ原潜とか来るんだけど非核三原則に違反してないんですか? 違反していません。なぜなら核兵器が搭載されている潜水艦内部は、アメリカ合衆国だからです。 (くだらない質問はここに書け! 756) じゃあ最初から、「持ち込ませず」というのは有名無実なものだったの? そう。そのことを揶揄して、非核2.5原則なんて言われることもある (658 900) 日本本土に「持ち込ませない」と言う解釈。(上陸させない) 米艦艇から荷降ろししない限りは、核兵器は米国内にあると言えるから。 (658 901) 自衛隊は存在が違法ですよね? 自衛隊法や防衛省設置法があるので、違法ではないけど。 (自衛隊板初質スレ94 617) 戦場で殺してはいけない敵にはどんなタイプがあるのでしょう? とりあえず以下のタイプは知ってますが ①武器を捨てて手を上げるなど降伏の意思を示している兵士 ②衛生兵 ③白旗を掲げて交渉にやってくる兵士 他にありましたら教えていただけますでしょうか。 武器を捨てて逃げてる兵士とか、負傷して倒れてる兵士はどうなのかなと思うのですが? 拘束した敵兵は捕虜として扱う必要があるが、その前の段階では武装解除かつ 投降の意を示さない敵兵はあくまで敵兵。 あと③の補足で軍使に随伴する随従する喇叭手、鼓手、旗手、通訳も不可侵権を有する。 (ハーグ陸戦条約第32条)) (552 581) 投降の意思の有無を確認することなく虐殺したのは戦争犯罪だという主張がありますが 降伏の意思というのは降伏する側が示すものです。 もちろん意思を示した相手に攻撃を続けることは問題になりますが そうでなければ全く問題ありません。 日本海海戦でもただ白旗を揚げただけのロシア艦隊に対して日本軍は攻撃を続けました。 それは機関を停止するという、降伏条件をロシアが満たしていなかったからです。 それに気づいたロシア側は機関を止め、それを確認した日本艦隊も直ちに攻撃をやめました。 (565 877) 通常兵器の使用について禁止・制限した条約にはどんなものがあるの? ○セント・ピータースブルグ宣言 (炸裂性・爆発性あるいは燃焼性物質を充填した重量400㌘以下の投射物) ○ジュネーブ諸条約第一追加議定書 (その性質上過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器、投射物及び物質並びに 戦闘の方法」) ○特定通常兵器使用禁止制限条約、および議定書一~三 (エックス線で検出不可能な破片を利用する兵器、対人・対車両含めた地雷 およびブービートラップの無差別使用、地上兵力による戦闘が未発生、又は 戦闘が急迫していると認められない都市等における地雷・ブービートラップ の使用軍事目標地域外での遠隔散布地雷の使用、文民・民用物あるいは人口 稠密地に対する焼夷攻撃) ○対人地雷禁止条約 ○ダムダム弾の禁止に関するヘーグ宣言 ○クラスター爆弾禁止条約 (336 302*加筆) ジュネーブ条約で禁止されている武器や兵器の詳細ってネットで見られる所ないでしょうか いわゆるジュネーブ条約において、禁止されている兵器は存在しません。 よって、詳細を解説しているページも無いと思われます。 とくに指定が無い場合の「ジュネーブ条約」は、一般的に「ジュネーヴ諸条約(1949年)」 を指すか、これに「ジュネーブ諸条約の追加議定書(1977年)」を加えたものを指します。 ジュネーブ条約は別名「赤十字諸条約」とも呼ばれ、負傷者・捕虜・非戦闘員・その他の 戦争被害者への保護を目的としたものです。 紛らわしい条約の一つに「ジュネーブ議定書(1925年)」があり、これでは毒ガス・生物・ 化学兵器等の使用を禁じています。しかし初期の兵器禁止条約の常として、定義が曖昧で 実効性が低く、現在では化学兵器禁止条約などが実効力のある条約となっています。 古い条約を学ぶことは非常に重要ですが、それでは実情は理解できません。 禁止兵器について知りたいのであれば、以下の各条約を当たってみましょう。 条文を恣意的に解釈せず、軍事常識や軍事史と平行して調べることが重要です。 化学兵器禁止条約(CWC) 生物兵器禁止条約(BWC) 特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW) 核兵器不拡散条約(NPT) 対人地雷禁止条約(オタワ条約) 蛇足ながら・・・ 禁止兵器について解説しているサイトは多数ありますが、その大多数がイデオロギーに 基づくプロパガンダです。注意しましょう。 とくに「ジュネーブ条約」「ハーグ陸戦条約 第23条」だけを論拠にするサイトは要注意です。 (324 534) 現代で国連の場で講和した場合、賠償金の請求や領土の割譲要求などはできませんか? 国連には「国連賠償委員会(UNCC)」なるものがあって、湾岸戦争の際には イラクからクウェートへの賠償金500億ドル超が認められています。 もちろん大戦前のような賠償金に名を借りた戦利金ではなく、戦争で負った損害と 戦費を補償するものなので、クウェートは儲かっていません。 (そもそもまだ半分も支払われていない) 国連加盟国が然るべき理由もなく戦争行為に及び、他の国連加盟国に対して 損害を負わせたとしたら、当然ながら賠償責任が認められます。 (324 784) 戦時海上捕獲権・捕獲審検とはどんなものか簡単に説明してほしいのですが 国際慣習並びにロンドン宣言(確か)に基づくものです。 簡単にいますと、戦時海上捕獲権とは戦時中に中立国の船舶が敵国の戦争に役に立つ物資を 運送している場合、その船舶を拿捕していい、という国際慣習上の権利です。 そしてその拿捕が正当であったかどうかを審判するのが捕獲審検所ということになります。 何を禁制品とするかとか、拿捕国の国内に捕獲審検所を設置することの当否など 細かい点で色々と問題が生じやすいんですけどね。 確かハーグ条約の関係で国際捕獲審検所を作ろうという話もあったのですが、 批准国が少なく(なかったかっも)実現しませんでした。 (323 379) 軍人同士の殺し合いである戦争において、ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約を適用する事って倒錯した考え方ではないんでしょうか 民間人に被害を及ぼさないのなら、戦闘員を殺傷する為にどんな方法を用いてもよいと思うのですが。 戦争行為を軍人だけで遂行しなおかつ可能な限り人道的に継続させる この点を徹底するお約束、という側面があります、基本的に戦闘においては何でもありですが 「無力化手段のエスカレーションと攻撃対象の無差別かによる全人類の自滅を防止する」 という大まかな目的も含まれます、そしてこれは国際的な圧力を伴う事である程度の実効力をもっています。 (318 三等自営業 ◆LiXVy0DO8s) 「戦争とは血を流す外交である」つまりただの殺し合いではない、という点を理解されると さまざまな条約の存在意義がおわかりかと思います。 最終目的は敵の皆殺しではなく、我の意を彼に強要することにあるわけで、 一局面では「どんな方法を用いても」が正しくとも、全体となると逆に妨げになることもあるわけです。 早い話、戦争があまりに残虐非道だとこっちの兵士もなり手、やる気がなくなるわけで。 もう少し分かりやすい言葉にしてみます。 戦争は、相手の国に言うことを聞かせるのが目的です。 敵を殺すことは目的ではありません。手段です。 そして戦時国際法は、戦争の行方があまり左右されない範囲で、できるだけ死人 を減らすためのルールの集まりです。 このルールを守ることで、自国の市民や兵士の命を守ることができます。 医療施設を攻撃しないという条約に加盟することで、戦いで傷ついた兵士の命を守れます。 その代わり敵の病院も攻撃できなくなりますが、攻撃したところで怪我人ばかりなので、 敵の戦力を削ぐ効果がなく、戦争の行方には影響しません。 投降者を殺してはならないという条約に加盟することで、自国兵士は絶望的な戦いで 犬死にする必要がなくなります。 その代わり敵の投降者も殺せなくなりますが、すでに銃を捨てた相手を殺したところで、 戦争の行方には影響がありません。(補給に不安がない限り) 以上のように、戦争の行方に影響しないルールほど、遵守されやすい傾向にあります。 戦時国際法の中には禁止武器の項目もありますが、こちらは戦争の行方を大きく左右 することがあるため、守られにくい傾向にあります。 (318 16-18) 日本軍の占領地域に適応される法律(刑法、民法?)などって存在したのでしょうか? 国際法上、占領地域に占領国の法律を適用してはいけないことになっています。 あくまでも、自国の法律が通用するのは、戦後の講和によって、当該地域が自国領土になった場合です。 従って、占領する場合は、軍政を施行して、軍刑法もしくは軍律令による法支配を行うのが一般的です。 まれに、当該地域に傀儡政権を打ち立てて、その権限の下に、傀儡政権から法律を公布するということも あります。 (298 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 国連の敵国条項には,どんな国の名が挙げられているのですか? ん?一般に「敵国条項」というものは国連憲章上には存在しませんよ。 それと解釈されている、国連憲章第107条には以下のように規定されていて、どの国がと言うのは記述 されていません。 第107条〔敵国に関する行動〕 この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動で その行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は 排除するものではない。 従って、解釈のしようによっては、その中にイタリアも入る場合があります。 (246 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 「敵国条項は依然として憲章に姿を留めたままとなっている」。 「しかし、憲章は一つの国際条約に該当し、この採択が効力を有し正式に改正されるためには、 憲章108条の規定により、総会の構成国の3分の2の多数で採択され、 且つ、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって批准されることが必要であり、 これによりすべての国連加盟国に対して効力が発生する。批准手続きの詳細は各国で異なるが、 通常、批准には政府による最終確認と同意過程を経た上で、 これを議会が承認することが必要とされるといった複雑かつ迂遠な手続きを踏まなければならない。 こうした状況から、第53条と第107条の削除を決議した国連総会採択から月日を経た今日において、 同採択を批准した国は効力発生に必要な数には及ばず、敵国条項は依然として憲章に姿を留めたままとなっている」 下記、ウィスキペディアの敵国条項の 敵国条項の現状を参照ください。 ttp //ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A7%E6%95%B5%E5%9B%BD%E6%9D%A1%E9%A0%85 (671 霞ヶ浦の住人 ◆1qAMMeUK0I) ハーグ協定ってどんなものか教えて貰えませんか? ハーグ協定 ハーグでは世界的な平和会議や軍縮の協定が行われているため、どれを 指すかが問題ですが、一般的には、戦時の取り決めについてのハーグ陸戦 規定(協定)が有名でしょう。とりあえず、 http //ww1.m78.com/topix-2/hague.html ではどうでしょうか? (53 818) 公海上では各国軍艦には臨検の権利があるって条約ある? 海洋法条約第110条、公海海上警察権。 国旗を掲げていない場合、無条件で。 (54 450) 国際法上、50口径のM2で人を撃つのってありなんですか? 明文で禁止されてるわけじゃない。が、大砲で直接人体を狙っちゃ いけないというようなのは、セントピータースブルグ宣言にある。 でも、事実上は無視されてるよな。400g以下の炸裂弾、焼夷弾の全 面禁止なんて。12.7mm以上は大砲だから駄目なんだろう。 (55 197) 建前上は人間を狙うのは駄目なんだけど、基本的に直接人間を狙って当てる ことが禁じられているだけなので、狙って当てなければよいのです。 M2の場合は、「一定の空間を狙っている中に敵兵が自分から入ってきた」と いうことにでもなるのでしょう。 (55 150) 大戦中のB-29による空襲とかは戦争法規でいうところの民間人への攻撃にはならないんですか 民間人への攻撃が禁止されてる訳じゃなく、軍事目標以外への攻撃が禁止されてる。 つまり、「軍需工場地帯」という面目標に対する攻撃と解釈されていた。 イギリス軍の市街地に対する夜間爆撃はUボートの無制限潜水艦戦に対する「戦時復仇」。 現在では明文で「都市、町村その他の文民又は民用物の集中している地域に 所在している多数の明白に分離した別個の軍事目標を、 単一の目標として取り扱うような方法又は手段を用いた砲爆撃による攻撃」を禁止してる。 (56 213) 衛生兵は撃っちゃいけないとか補給船は襲っちゃいけないとかいう決まりはあったの? 病院船は交戦国に通告されて、攻撃対象外になります 通常の補給船は攻撃対象です。 WW2の大西洋では、イギリスと協定を結んだ(戦闘に参加しないとの協定) ドイツの補給船が活動していましたが ビスマルク追撃戦の後に、戦闘に参加したとして撃破されています。 (58 45) そういうきまりは存在したが赤十字などはしばしば無視された。 (58 69) トヨタが中国でGPSカーナビ付きの車を売り出すと言ってるけどココム違反にならないのですか。 ソ連や東側の崩壊によりココムはもうなくなっています。 新しく似たようなのが出来ましたが・・・ (58 248) 「交戦団体」かは、当事者が認定すれば済む話なのでしょうか? 滅多にないけど、国家機関「以外」の「交戦団体」ってのも存在しうる。よく 「傭兵は国際法の対象外」って事を言う人間がいたりするけど、これは誤りで 傭兵も(交戦者たる要件を備える限り)適用範囲。 まぁ、基本的には当事者が認めれば、って話なんだが、現実問題として周辺国の コンセンサスを得ずにってのは難しいかね。 (59 ミリ屋哲@モバイリ ◆4EZIX.r92I) 降伏してきた敵軍人に対して「捕虜なんかいらねえよ。自分の陣地へ帰れ!」と言って追い返した場合ジュネーブ条約等の違反になるでしょうか? ジュネーブ条約では 「降伏しまたは降伏の意思を表明した敵を攻撃目標としてはならない」 と規定されています。 あ、でも「自分の陣地へ(・∀・)カエレ!!」って言うのはどうなのかなあ。厳密には 違背ではないような気がする。教えて戦時国際法のエライひと。 (62 713) 結構状況次第な気もしますが、一般的には違法だと思いますよ。 捕虜を取ることを拒否していると考えられますから。 具体例を考えると、一方が圧倒的に不利な状況にあって兵士が投降してくる場合に 優勢な側が「自分の陣地へ(・∀・)カエレ!!」では、 戦意を失った相手方兵士に捕虜となる権利を認めないことになりますからね。 (62 予備語学陸曹見習い) 救急車に固有の武装を付けることは国際法規上認められるのか 知らないかもしれないんで、一応お約束のジュネーブ第1条約を引っ張り出してみると、 第二十二条〔保護をはく奪してはならない事実〕1項により自衛・もしくは負傷兵を守る 防衛行為のための武装は認められています。 ただし、それを逸脱した目的で使用された場合、第二十一条〔保護の消滅〕により 衛生部隊として保護する権利を剥奪する事も可能です。 救急車の使用に何らかの制限はあるのか 第三十五条〔保護及び捕獲〕により車両等の輸送手段は衛生部隊と同様に尊重し、且つ 保護しなければならないと規定されています。 使用の制限に関する記載は見つかりませんでした。 (103 913) 日本が戦争になったら貿易船や旅客機は撃墜されても文句言えないのでしょうか? 場合によります。しかし、本来敵性商船は拿捕のみが許されており、無警告での 撃沈は国際法的に見て問題があることは押さえておくべきでしょう。また、封鎖という 手段がとられることもあり、第二次世界大戦あたりからは、海域を設定してそこに 進入する船舶をすべて攻撃する戦争水域の宣言も行われるようになっています。 (107 546) 高陞号事件は、現在の国際法ではどういう判定になりますか? 日清戦争の開戦劈頭、英国所有の商船「高陞号」が清国兵、大砲、弾薬を輸送しているのを 日本海軍が発見し、戦時国際法に従い、接収を宣言するも清国兵は乗組員を脅した為、やむ なく高陞号乗組員の退船を命じて後にこれを撃沈したというものですが…。 まぁ、まず日清戦争の様な状況が違法状態とされるのではないかと思いますが。 戦争当事国が第三国との傭船契約を締結し、その輸送中にもう一方の紛争当事国の臨検を受けた場合、 当該船は速やかにこれに従わなければなりません。 これを無視した場合は、威嚇射撃などを受ける可能性があります。 でもって、戦争当事国の強制という状況で、警告を繰り返し、それでも臨検に応じなければ、最終的に撃沈 に至っても問題はありません。 但し、撃沈に際して、乗組員の保護と、敵国兵員の速やかなる救助が求められるでしょう。 特に後者は、これを無視すれば、国際法上、甚だ難しい状況に陥ります。 また、第三国の船主に対しては、その船舶の対価は賠償しないといけないのではないでしょうか。 (114 眠い人 ◆gQikaJHtf2) ベトコンはハーグ条約違反ですか? ハーグ陸戦条約を持ち出すのであれば、むしろ第二条に注目してください。 「敵が接近するにつれて、未だ占領されていない地区において軍民が急遽抵抗軍を 結成する場合において、1※を満たすことができないとき戦争の規則と慣習を尊重する 範囲で、交戦団体として認められる」※武器の公然携帯や戦争法規を順守する等の条項 つまり、すでに特定の勢力に支配された地域で結成された不正規兵の交戦は陸戦規定を 満たしていない犯罪行為であると解釈できるわけです。 これではいわゆるパルチザンは交戦者資格(捕虜資格)を充たすことが出来ないため、 1949年のジュネーヴ第三条約では、捕虜の規定の中に、 「紛争当事国に属するその他の民兵隊及び義勇隊の構成員(組織的抵抗運動団体の構成員を含む。) で、その領域が占領されているかどうかを問わず、その領域の内外で行動するもの」 (第四条〔捕虜〕A 第2項)という規定が追加されました。 さらに、1977年のジュネーブ第一追加議定書43条1項では 「 紛争当事国の軍隊は、部下の行動についてその国に対して責任を負う指揮の下にある、 すべての組織された武装の兵力・集団及び団体から成る」 同第44条3項では、 「戦闘員は(略)敵対行為の正確のために武装紛争がそのように区別しえない状況が 武装紛争中に存在することが認められるので、そのような状況においてその者が、 次の場合に武器を公然と携行しているのならば、戦闘員としての地位を保持するものとする」 と、明確な指揮下にあることと、武器の公然の携行が最低条件とされました。 ただし、この追加議定書にはアメリカをはじめ批准していない国家もいまだ多数あります。 当然ながら、当時米軍はベトコンには交戦者資格は無いとみなしていました。 (118 名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE) 対物狙撃銃での対人狙撃は、国際条約違反じゃない? それは自主規制のようなもので、軍事行動において歩兵火器に総被甲のみを使用するのと同様です アンチ・マテリアルライフルは飽くまで対物・対装甲用に限るという、人道に(一応)配慮した制限で 明文化されたものでは無いですね。 (336 三等自営業 ◆LiXVy0DO8s) 1907年制定のハーグ陸戦規定によると、 「特別の協約により禁止された措置に加えて次のものが殊に禁止される。(中略) 不必要な傷害を与える性格をもつ武器、発射物、素材を用いること(後略)」(第23条) またジュネーブ条約追加第一議定書には 「その性質上過度の傷害又は無用の苦痛を与えられる兵器、投射及び物質並びに 戦争の方法を用いることは、禁止する」(第35条第2項) という一文があり、これらを根拠として人体に対して過剰な破壊力を持つ 大口径銃を狙撃に用いることを禁止していると解釈されています。 ただ、上記の通りこれはあくまでも解釈論であり、大口径銃の対人使用禁止を明確に 謳ったものではありません。 ダムダム弾のように禁止が明文化されているわけではないのです。 使用者(米軍)が「これはあくまでも対物狙撃銃であり、緊急かつやむをえない使用である」 と抗弁すればそこまででしょう。 1980年に採択された特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)に関する会合の中でも、 「小口径兵器及び弾薬への取り組み」は引き続き非公式会合を行うとされているのみです。 (121 名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE) 中立国が交戦国に軍需物資を提供するのは国際法違反だそうですが、食料などはどうですか? 一般的な戦時禁制品については、1909年のロンドン宣言で規定されています。 この条約自体は未発効ですが、慣習法として認められていたことを成文化した物なので、 通常はこの規定が準用されています。 さらに、ロンドン宣言のリストにないものでも、ロンドン宣言で「自由品」と 規定されている物を除き、交戦国が自由に「禁制品」のリストに追加してもかまわないことになっています。 ただし交戦国は、このリストを広く公表しなければなりません。 なお食料は、ロンドン宣言では、軍隊や政府機関向けの場合は禁制品になります (271 218) 大戦中輸送船?が連合軍から安全を保障されていたが、米軍潜水艦に撃沈させられた事件について教えてください。 病院船の場合は、使用10日前までに、船名、総トン数、全長、Mast、煙突の数など細目を 敵国に通告しなければなりません。 しかも、軍事目的に使用しないこと、外部を白色に塗り、国旗と共に赤十字旗を掲げること、 と言った細目があり、戦場の至近では行動しないことが規定されています。 勿論、疑わしい場合は、敵国の臨検を受ける場合もあります。 で、これら病院船が明確に攻撃されたのは、ぶえのすあいれす丸(1943.11.26)で、B-24に Rabaul~Palau間で爆撃を受け、70名爆死など、患者154名が戦死、行方不明、船員、衛生班 293名のうち、4名(うち2名が看護婦)で、漂流中には銃撃を受けています。 有名なのは、阿波丸事件で、これは、東南アジア方面の日本軍に捕らえられていた165,000名 の連合国軍捕虜、抑留民間人に救援物資を輸送することで連合国の「安導券」を得ていました。 これは、往路、復路とも攻撃、臨検、停戦命令を受けない、と言うもので、緑地に白い十字標識を 戦隊の九箇所に書き、夜間はイルミネーション、航行灯を灯して航行しているものです。 日本政府は米国政府に対し、往路、復路の寄港地、正午位置の通報を細かく行い、日程変更の 場合も至急報で伝えています。 ところが、米国潜水艦Queenfishが、この米国政府が絶対安全を保証していた船を駆逐艦と見誤った (故意に近い過失とされる)として撃沈してしまいました。 詳しいことは、「阿波丸事件」でググると色々出てくると思います。 (129 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 国連安保理の拒否権について質問です。 国連憲章第27条【表決手続】で、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない ということですが、常任理事国が紛争当事国であった場合、その常任理事国の投票は 必ず棄権である=常任理事国の同意投票が得られない=否決となるのですか? 安全保障理事会の採決における棄権に関しては、憲章上明文では規定さ れてませんが、一般的には拒否権の行使ではないと見なされています(現 在では、欠席に関しても同様とする)。 (『現代国際法講義(第2版)』(有斐閣 平成7年)271頁および445頁) (248 805) 国連軍の白い装甲車やジープってのはよくテレビなどで見ますが、白い戦闘機とかってのもあるのでしょうか? 国連平和維持部隊のあの「白塗装の車両と青いヘルメット」はあくまで武力行使を 伴わない「平和維持活動」のものなので、戦闘機を動員するような本格的な 「武力行使」が行われる場合にはあの塗装は成されない。 実際にコソボには戦闘機や戦車を伴う「国際平和維持部隊」が展開した事があった けれど、白塗装も青いヘルメットもしていない(KFORは「国連軍」とはちょっと 異なる組織だが)。 (244 144) 1960年代のCongo動乱では、国連の要請で、SwedenのJ29が出動していますが、 塗装的には、本国で行っていたような銀塗装ではなく、迷彩塗装です。 (244 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 軍隊の戦闘行為って法律的にはどういった理屈で、正当化、あるいは免責されているのでしょうか? 現代で言えば、国連憲章2条4項で国際間での武力行使全般を禁止、除外規定として 国連決議によるものと自衛権によるものが国際法上は合法。あと抑圧に対する抵抗運動 (独立運動とか反政府運動)も事実上合法に近い扱いを(国連では)受けてきた。 歴史的に言えば、 正戦論(17c):神学的な意味で正しい理由があれば正当化される。国の上に神という上位概念を置いた物 無差別戦争論(18c):主権国家は等しく平等な最高機関であり、その行為は各々正当である。白黒付ける のに決闘(戦争)するのは当然で、戦争法というルールさえ守ってれば理由を問わずに合法。 上二つでは、戦争の正当性とは別に勝者の当然の権利として、敗者にはペナルティー(領土奪われるとか)が課せられる。 んでWW1以後は、国際連盟規約や条約なんかで一定の制限が課され、WW2以降原則禁止されたハズ…なんだが国の上に 立って判定する機関が確立されてないんで結構グダグダ。国連は対等な国家の寄り合いみたいなもんだから… (182 741) 敵兵が海にプカプカ浮いているのを発見したら救助する必要があるのでしょうか? 保護しなければなりません。 「海上にある軍隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(第二条約)」 http //www.mod.go.jp/j/presiding/treaty/geneva/geneva2.html (187 ) 中立国の船舶を攻撃できないなら、海上封鎖は無理ですよね? アメリカが参戦する前、中立国だった時はイギリスとの貿易は当然で、 またドイツからすれば戦争に影響するかもしれない物資の輸入を阻止するのは当然に思えます。 しかし攻撃が認められなければ、Uボートによる封鎖など不可能になりますよね? 臨検を行なって船内に中立義務に違反する物資や人員がないかどうかを確認。 あった場合はその船舶の拿捕、物資の没収、乗組員の拘束などを行うことが国際法上できた。 実際には無理だから怪しいと思ってもほとんどは見逃すしかない。 兵器や人員を載せてることが確認できない限りは輸送は止められない。 (721 147-150) 戦争に関して人道的な条約が最初に作られたのはいつ頃でしょうか? 一般的戦時規約の一番最初のものは、1863年に制定された米国北軍の「リーバー・コード」、 正式名称を「陸戦の法規慣例に基づく軍隊の守るべき規則(陸軍一般命令第一〇〇号)」という。 総合的成文戦時国際法制定の協議を提唱したのは、ロシアのアレクサンドルII世皇帝で1874年のこと。 ロシアは、その時纏められたものを基に、露土戦争では、「露国捕虜取扱規則」を定めた。 更に、1899年に開催された、万国平和会議。 その主唱者も、ロシアのニコライII世皇帝だったりする。 で、この時活躍したのが、世界最高の国際法の権威である、フョードル・F・マルテンス教授。 彼もロシア人で、日露戦争時には、俘虜情報局の局長を務めたため、日本の捕虜取扱にも深い影響を及ぼした。 特に、明治期の日本軍の軍隊手牒には、Geneva条約を中心とする戦時国際法の内容がきちんと説明されているし、 これに先立つ1886年、日本がGeneva条約への加盟を認められたときには、翌年の陸軍省訓令で、当時の大山巌陸軍 大臣は、そのポケット版解説書を発行し、将兵に持たせ、その熟読恪守を求めた。 (しょうもない知識を披露するスレ8 眠い人 ◆gQikaJHtf2) よくアニメやゲームで敵の軍服装備をして潜入破壊工作とかしてますが発覚したら問題になる行為ですよね? 国際社会の批判とかあんまり気にしない国ならやるんじゃない? 実際第二次大戦中のドイツ軍がやってたような まあ捕まったら捕虜としての保護は受けられないかも知れんが (俺初質スレ2050 306) 軍事施設の隣に民家があり、その民家が軍事施設破壊の巻き添えになった場合、国際法違反になるのでしょうか? なるべく周辺被害を出さないように努力していれば、結果的に巻き添えが出ても無問題 (俺初質スレ2050 782) 原爆は国際法違反ですか? 軍事板的に言うとハーグ陸戦協定にもジュネーブ条約にも 原爆禁止との条文がない以上、違法じゃない。 (俺初質スレ2050 838) 不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること に抵触するのでは? そう主張してる法学者も少なくない数いる でも主流にはなってない (俺初質スレ2050 840)
https://w.atwiki.jp/trinanoss/pages/219.html
■ 13 軌道上に待機していた管理局艦は、アルザス政府へ攻撃可否の問い合わせを行った。 ロストロギアの事故などにより、惑星ごとアルカンシェルで破壊処分とすることは過去にも何度か行われてきた。 独立した領土を持つ次元世界に対する攻撃も、行われたことがある。 バイオメカノイドが湧き出してきている次元断層は、規模が小さくアルカンシェルによる破壊が可能と見積もられた。 ただし、バイオメカノイドが次元断層を経由してアルザスにやってきているということは、ここへアルカンシェルを撃ち込めば空間歪曲のエネルギーが虚数空間に漏れ出し、周辺時空に比較的大型の次元震を誘発するおそれがある。 狙うとすれば次元断層が消えてからにするべきかもしれないが、それを待っていてはバイオメカノイドたちがアルザスからあふれ出してしまうかもしれない。 アルザス政府は、避難に成功した一部の閣僚たちによる検討で、惑星本体を残したままのバイオメカノイド駆除ができないかと管理局に依頼した。 アルカンシェルを撃てば、アルザスの惑星自体が消滅してしまう。 そうなれば、仮にバイオメカノイドを殲滅できたとしても、生き残った住民はどうすればいいのかとなる。 どのみち他の世界へ移り住まなくてはならないのなら、意味がない。 惑星は何とか残存させてほしいと、管理局は依頼を受けた。 アルカンシェルを使用しない場合、魔導師および次元航行艦を大気圏内に降下させ、通常兵器を使用してバイオメカノイドを各個撃破していく必要がある。 管理局はアルザス政府への返答として、大出力魔力爆弾の使用可否を問い合わせた。 バイオメカノイドが分布している面積の広さ、また個体数の多さから、爆弾を使用して一度に多数のバイオメカノイドを破壊していかなければきりがない。 また同時に、次元断層を破壊してこれ以上のバイオメカノイドの流入を防ぐ必要がある。 攻撃力の高い武器を使用しなければ、バイオメカノイドの殲滅は困難であると管理局はアルザス政府に通告した。 魔力爆弾の投下や、軌道上からの次元航行艦による艦砲射撃を行えば、惑星自体は壊れないかもしれないが地上はクレーターだらけ、穴だらけになってしまう。 焦土と化した地上を、それでも惑星が消滅してしまうよりはいいと考えられるだろうか。 バイオメカノイドを殺しても、その後に死骸は残る。しかもその死骸は金属の殻と毒性の強い化学物質を大量に含んでいる。 アルザスの地表で増殖したバイオメカノイドは、山岳地帯の岩盤に由来する炭酸カルシウムを大量に含み、水分と接触して激しく燃焼して炭酸ガスを撒き散らしていた。 フッ素を含まないのが幸いといえたかもしれないが、これによってバイオメカノイドの死骸を経由して大量の炭素がアルザスの地殻から大気に放出され、アルザス全域で異常気象が起こり始めていた。 雨が降れば、さらにバイオメカノイドからの炭酸ガス放出が加速する。 これを除去し、人間の生活に適した環境を復元するには大変に大量な作業が必要になる。 アルザスは比較的早くに次元世界連合に加入した世界であった。 元々惑星の地理的条件から、大都市は首都周辺の貿易港に限られ、ほとんどの住民は自然の中で、昔ながらの暮らしを続けてきていた。 また召喚魔法が発明され実用化されていたほぼ唯一の世界であり、希少技能保有者──レアスキルとは微妙に異なる──である召喚士の保護と技術継承の観点から、大掛かりな魔法技術の輸入も避けてきた経緯がある。 住民感情への配慮から、管理局はアルザスには大規模な戦力の配置を避けてきた。 ここにきてそれが裏目に出た形となった。 アルザスには管理世界でありながら管理局の目が届かない地域が多くあり、バイオメカノイドがまさにそこから出現してきたため、すべての対応が後手後手になってしまった。 クラナガンと違い、現地政府がバイオメカノイドの事実を詳しく知らなかったことも災いした。 少なくとも、首都の住民やアルザス政府の閣僚たちは、正体不明生物の出現を、単に野生の魔法生命体が山から里へ降りてきた事例だと当初は認識していた。 それが野生動物などではなく、異世界より現れたモンスターエイリアンであると認識したときにはもう遅かった。 管理局でもクラナガン宇宙港での緒戦の戦闘分析データを整理しきれておらず、バイオメカノイドに対する応戦方法がまだ組み立てられていなかった。 いずれにしろ、次元航行艦の到着が遅れた時点ですべては手遅れだったのかもしれない。 ヴァイスは武装局員に支給される防水防塵のミリタリーウォッチを見やり、時刻を確かめた。 午後5時を回り、日は暮れ始めている。 しかし気温は、日中よりも上がってきているように感じられる。 広がった雲が熱を溜め込み、また地表を埋め尽くしたバイオメカノイドたちが吐き出す炭酸カルシウムが水と反応して熱をさらに供給し続ける。 バイオメカノイドは変温動物の様相を呈し加熱による活動への影響が無いため、いったん熱を持ってしまうと際限なく排熱し続ける。 その熱量は、惑星全体の気温を上げるほどのものがあった。 軌道上からの観測で、バイオメカノイドはアルザスに生息する竜を狙ってやってきた可能性が高いと分析された。 アルザスでは、通常の生物よりもはるかに高出力のリンカーコアを持つ大型は虫類が生息しており、これを使役して戦闘に利用する召喚術が古くより研究されてきた。 召喚術は竜を使い魔に似た魔法生命体に変換して格納し、転送魔法を応用してこれを任意に実体化させる技術によって成り立つ。 使い魔の場合は死んだ個体への人工魂魄の注入によって作成され、能力は作成者の魔力によって上限が生じるが、魔法生命体へ変換された動物は生前の記憶を保ち、また使役者との自然言語による対話を用いて高度な制御が可能である。 魔法生命体への変換のためにはあらかじめ目的の動物を制圧する必要があるが、逆にそこさえクリアすれば使役者よりも大きな魔力を持った動物を召喚獣にすることも技術的には可能である。 召喚術では魔法生命体への変換作業を“契約”と呼び、その術式は通常の攻撃魔法に比べて非常に複雑である。 そのため召喚術を習得した魔導師、召喚士は非常に高度な専門職であるとされている。 キャロ・ル・ルシエは召喚士として類稀な才能を持ち、神職としての側面もあるアルザス文化圏においては当代きっての逸材といわれていた。 それゆえに、既存派閥との軋轢もあったと予想される。 草むらを踏みしめるブーツの音が聞こえて、キャロとヴァイスは後ろを振り返った。 管理局武装局員の略式軍装を着たギンガが、二人に向かって歩いてきていた。 ギンガの口から紡がれる言葉を、ヴァイスもキャロも既に予期していた。 こうなってしまっては、もはやとれる手段はそう多く残っていない。 第6管理世界アルザスを放棄、生存者を管理局艦に乗せて取り急ぎミッドチルダへ避難させる。 アルザスは元々人口がそれほど多くない世界なので、避難民を乗せるにはL級巡洋艦が3隻もあれば十分だろうということだ。 「沖合いに待機している空母への移送が完了したら私たちも撤退します。 ヴァイス陸曹、それまでの間あなたの班で周辺警戒をお願いします」 「了解です」 「念のため、避難民には防疫処置をとります」 「バイオメカノイドが紛れ込んでいないかを調べるんですか?」 「人間の体内に侵入していないとも限らないわ」 キャロの質問に、ギンガは顔を伏せて眉間の皺を隠した。 やりきれない無力感を、部下に当たり散らすなどもってのほかだ。 キャロにもまた、かねてより問題になっていた魔法生命体の異常増加を、管理局上層部に訴えかけても無視され続けてきたという事実があった。 自然保護隊にはその性格上、上層部に発言力を持つ幹部が少なかった。 タントやミラにしても、所詮は一介の現場隊員である。彼らが上に報告を提出しても、それが上の目に留まらなければ仕方がない。 もともと自分の担当ではなかったアルザスにおける魔法生命体の異常増加は、キャロがその事実に気づいたときには既に1年前の3倍近くにまで達していた。 生息している竜族に突然変異の個体や、異常な創傷を負って死んでいる個体が発見され、これらはいずれも死骸が酷く焼け焦げており、自然に存在する動物同士の戦闘で死んだものではないとみられていた。 何者かが──人間でなくてもたとえば宇宙怪獣かもしれない──、アルザスに侵略行為を行っていたことになる。 「調べるなら、遺体も余さず調べてください。人間だけじゃなく、動物も、竜もです」 鋭く、キャロはギンガを見上げる。 フリードはキャロの背負っているナップザックから顔を出して、低くうなるような鳴き声を発している。 「それは、もちろん──」 「竜も調べます。搬送する遺体の中に召喚術習得者がいればそれは運び出してはいけません。アルザスの外に持ち出したら、拡散を止められません」 「キャロちゃん」 ヴァイスが面を上げて、キャロの横顔をのぞく。 生まれ故郷のはずのこの世界に、彼女は何を思っているのだろうか。 この世界特有の禁忌を、キャロは知っている。そして、ミッドチルダの基準では対処できない事柄も、アルザスに限らずさまざまな世界には存在する。 そして今、管理局がアルザスでの事件に対処するために頼れる人間はキャロ一人だ。 他の住民は、ほぼ全滅してしまった。 離島などでバイオメカノイドの襲撃をかろうじて免れた小さな村落くらいしか残っていない。 管理局としてとれる作戦は、生き残った彼らを安全なほかの世界へ避難させることだ。 次元航行艦隊による殲滅作戦も、これほど大規模にバイオメカノイドが増殖してしまった状態では、惑星全域に艦を配置して一度に攻撃しなくてはならない。 物理的には可能でも、それだけの戦力を、いってみれば既に回復の見込みのない世界に割り振る事は、作戦立案上できない。 考えうるもっともコストのかからない作戦は、LZ級戦艦を1隻回航し、安全が確保できるじゅうぶんに離れた距離からアルカンシェルを撃つことである。 もしくは、旧時代の次元破壊弾道ミサイルを撃ち込むこともできる。ただしこれは質量兵器禁止の風潮が広がった現代ではとでもではないが不可能な戦法だ。 アルザス政府は管理局の作戦案に対し、嘆願書を添えて再検討を依頼する旨の親書を返送してきた。 自分たちの故郷が消滅してしまう悲しみは、理解できる。 しかし、これはアルザスだけの問題では済まない可能性が高い。 バイオメカノイドが次元断層から出現したということは、バイオメカノイドが虚数空間への次元潜行能力を持っているという証拠になる。 次元断層は宇宙のあちこちに暗礁のように点在し、自然に出現や消滅を繰り返すが、小さなものなら次元属性魔法によって作り出すこともできる。次元航行艦はとくに、魔力センサーによる探知を回避するために次元断層の中に隠れる事もある。 次元潜行は、単に航行するだけの艦船に比べて非常に高い精度での魔法制御が求められる。 バイオメカノイドは、次元間を自在に移動できる。 これが事実なら、バイオメカノイドはアルザスだけでなくミッドチルダやヴァイゼン、他のあらゆる次元世界に侵攻することが可能になる。 そしてもちろん、管理世界だけでなく管理外世界にも、魔法技術や次元間航行技術、外宇宙航行技術を持っていない管理外世界にも現れる可能性が生じる。 事実、バイオメカノイドが巣食う巨大要塞、インフィニティ・インフェルノは第97管理外世界に出現した。 大気圏外より日本列島に向かってくる未確認飛行物体が、既に発進していたE-767のレーダーに探知された。 目標の大まかなサイズや速度、進行方向を分析した後、未確認飛行物体に最も近い石川県にある航空自衛隊小松基地からただちにスクランブルが発令され、2機のF-15戦闘機が発進した。 早朝に墜落した宇宙戦艦と違い、こちらは自ら大気圏内に降下してきた。 おそらく、異星人の乗る別の艦で、墜落した艦の捜索にやってきたことが考えられる。 それでも念のため、戦闘機パイロットによる目視、またカメラによる光学撮影で確認する必要がある。 未確認飛行物体は大まかに見て細い楔のような形をしており、かねてより地球に来訪しているといわれていた異星人の宇宙船──ビュロー・シップに比べて、表面がごつごつしていて複雑な形状をしている。 大気圏内に降り、高度25キロメートルに達して速度はおよそ800km/hで未確認飛行物体は日本へ向け南下を開始した。 降下地点は日本とソ連のちょうど中間あたりの日本海上空で、このまま進んでいけば未確認飛行物体は南アルプスを縦断し、中部地方に達する。 その先には、宇宙戦艦が墜落した現場である海鳴市がある。 宇宙戦艦は何らかの手段でレーダー欺瞞や光学観測の妨害が可能であるとみられていた。 レーダーの反応はまるで雨雲を見ているように揺らぎ、あるいは透き通り、それが金属の固体であるような振る舞いを見せなかった。 過去、いわゆるUFOと呼ばれる飛行物体に対して戦闘機が向かっても捕捉できず翻弄されてしまうという事態は日本だけでなくアメリカを始めとした世界各国で何度も起きていた。 国によってはUFOに対し空対空ミサイルでの攻撃を試みたこともある。 しかし、UFOは全くそれを認めず、ミサイルは空を切って落ちてしまっていた。 今回、日本上空に現れた飛行物体が地球に訪れた異星人の乗り物であることがはっきりとわかっている。 これまでの接触事例から、宇宙戦艦側からの地球への攻撃はまずないとみられていた。 真に敵として対処するべきは、巨大無人機動要塞である。 地上からは小惑星のように見えていたそれは、全長100キロメートル、総質量30万ギガトン以上にも達する人工惑星のような物体だ。自由軌道をとって宇宙を遊弋し、進路上の惑星を侵略していくのである。 この巨大無人機動要塞から現れた戦闘メカは、異星人たちの母星にも出現し甚大な被害をもたらした。 はるかな何万光年もの宇宙を航海する技術をもつ異星人ですら対応しきれないほどの脅威である。 宇宙における危険な猛獣とも呼ぶべき存在だろうかと、対処を検討している内閣官僚たちは思っていた。 この現代における宇宙開発分野では、日本は特異な立ち位置である。 前世紀より宇宙空間の占領を拡大していったソ連、それに対抗してハイテク兵器を次々と作り出したアメリカと違い、日本は表向きには目立った宇宙兵器をつくることはできなかった。 少なくとも公式には戦争放棄を謳っている。 しかしそれは、戦わずに降参するという意味ではないことは、政府内の、特に若手の官僚たちには深く苦く思い募らせられていた。 その端緒となったのは、2005年の海鳴市での事件である。 この年は、史上初めて、日本が直接異星人の訪問を受けた年であった。 異星人たちは自分たちの世界から地球へやってきてしまった暴走兵器を破壊するため、現地政府──すなわち日本へ、便宜を図るよう依頼した。 彼らに協力していたのは日本人であった。 ただでさえ、中国香港やイギリスの工作員が多数潜伏し、防諜上のアキレス腱として内閣情報調査室を悩ませていた海鳴市である。 そこへきて異星人まで現れるとあっては、日本の、殊に自衛隊の面目が立たなくなってしまう。 西暦2005年12月24日、このときまでにJAXAおよび防衛省は運用する軍事偵察衛星、観測衛星を日本上空から退避させ、軌道平面上を見る方向へ移動させてカメラを構えていた。 さらに航空自衛隊と海上自衛隊により、近海の中国艦やソ連艦を追い払い、日本上空をクリアな状態にした。 この夜に起きるであろう出来事は、他のどこの国にも見せない。 日本だけが保有できる異星人とのコネクションを、わずかでもいいから入手する。 それがその当時の日本において急務であるとされた。 過去に起きていたいくつかの事件でも、日本ではいわゆるUFO研究というものを体系的に行ってこなかった。 所詮空想、幻覚の産物、絵空事である、という認識ももちろんあったが、それ以上に、世界の厄介な紛争ごとはすべてアメリカかソ連がやっているので対岸の火事であるという意識がぬけきっていなかった。 そんなところに現れたのが、ミッドチルダ人を自称する異星人と、そして彼らが操る次元航行艦の存在である。 彼らの出現は予期されていなかったか、あるいは示唆されていても無視されていた。 少なくとも日本においては本格的な異星人対策プロジェクトが走り出したのは2006年以降である。 2005年末、JAXAは海鳴市上空1200キロメートルの宇宙空間において巨大な重力場を観測した。 それは通常考えられる天体の質量に由来するものではないことが、観測データから示された。算出された重力場は、超新星爆発にさえ匹敵する規模でありながら、周辺の空間に与えた影響が極めて少なかった。 あたかも、爆発の衝撃波が異次元へ逃げていってしまったかのようであった。 異星人が用いたこの兵器に関する技術は最高機密に属する情報であり、地球へは知らされなかった。 しかし、日米はじめ各国の科学者たちが解析を試みた。 物理現象としては対消滅である。これはすぐに予想が立てられた。対消滅を起こすほどの反物質をどうやって作り出したのかはさておいても、予想されるエネルギー量が、非常に狭い範囲に集中して投入され、そしてその外には影響を及ぼさない。 距離による減衰以上に、エネルギーをあらかじめ決められた空間の範囲内に押しとどめる技術も用いられていることは明らかであった。 重力波が観測されたことから、異星人の持つこの兵器は異層次元制御技術を用いているとの見解が物理学者らから出された。 20世紀中ごろより提唱されてきたスーパー・ストリングス理論によれば、宇宙空間は通常人間が認識している3次元空間と1次元時間の他に素粒子以下の領域で丸め込まれた26次元の空間が存在する。 この次元にアクセスすることによって、まったくの真空からエネルギーを取り出すことが可能であるとされた。 現実的には当時の技術ではそれを再現できるだけの装置が作れなかったが、CERNが擁するLHCをはじめとして近年になって幾つも建造された大型加速器や、やはり異星人から入手した墜落した宇宙船を解析するなどして少しずつ装置の製造が行われてきた。 アメリカが開発したとされる新型戦闘機には異星人の技術が用いられている。 日本の情報収集能力ではその正体まではつかめていなかったが、今回の巨大宇宙船接近に伴い、新型戦闘機の実機が出撃しているとみられていた。 降下してきた宇宙戦艦は高度20キロメートルで日本列島上空へ侵入した。 通常であれば領空侵犯の対象となるが、今回は事情が異なる。F-15編隊は規定に従って宇宙戦艦を追尾する態勢に入る。宇宙戦艦は亜音速で飛んでいるので、ジェット戦闘機でも追跡が可能だ。 過去の事例では、大気圏内を衝撃波も起こさずマッハ10以上もの速度で飛ぶUFOが目撃されたりなどしていたが、少なくとも今回はそのような行動を見せる機体ではないことが信じられる。 「後方乱気流が感じられない」 F-15のパイロットは司令室へ報告した。 接近し、宇宙戦艦は目測で400メートル以上の大きさがあるように見える。 通常これほどの大きさの物体が飛行すれば、押しのけられた空気が強烈な乱流を生み出す。ジェット旅客機クラスの大きさでさえ、小型機を巻き込んで墜落させてしまうほどの気流が残る。 しかし、宇宙戦艦はF-15がその真後ろについても全く操縦に影響を及ぼさなかった。 何らかの手段で気流を制御し、航跡を残さずに飛行することができるようだ。 『MAD(軍事遭難信号)とIAD(国際航空遭難信号)を使用して警告を』 「了解、周波数を変えながら送る」 F-15から宇宙戦艦へ向け、領空侵犯警告が送られる。 もちろん、向こうがこちらの通信を受け取る手段を持っているとは限らない。 また何らかの信号が発信されていることを探知できたとしても、その意味するところを解せないだろう。 もし宇宙戦艦が地上への攻撃をしようとするならこちらもただちに応射しなくてはならない。 「目標は水平飛行を続けている」 『まもなく小牧のサイトに入る。管制を引き継ぐ』 「了解した、名古屋上空は晴れている、目標のシルエットはおそらく地上からも見えるはずだ」 『伝える』 高度20キロメートルを飛ぶ400メートルの大きさの物体であれば、地上からも肉眼で見える。 さらに南アルプスを越えるあたりで宇宙戦艦は高度を下げ始めた。 「下降する」 『確認した、現在セントレアと小牧は民間機の発着を止めている、支援機の発進を要請するか?』 「頼む」 『了解、追跡を続けてくれ』 降下に伴って速度はやや低下して760km/h程度になった。 宇宙戦艦はやや艦首を引き上げた姿勢で、毎秒50フィートほどのペースでゆっくりと降下していく。 降下開始からおよそ30秒後、宇宙戦艦は船体を左へ傾け、旋回を始めた。船体の軸線に対して艦尾側がまず外へ向き、それにつれて艦首が軌道の内側を向く。後尾翼式の航空機に近い動きをする。 「目標が旋回を始めた」 『予想軌道を算出する、少し待て』 宇宙戦艦に対し70メートルの距離をとり、後方と左真横にそれぞれF-15がついている。 相手の動きに対してぴったりと位置を合わせる。 未知の物体が接近すれば軍用機が迎え撃つのは異星人たちにとっても通用する常識であるかどうか、F-15に乗る2人のパイロットたちは宇宙戦艦の姿を注視する。 全体的なシルエットは旧来の水上艦艇のように見える。レールガンにも似た細い板状の砲身と、船体の中央やや後ろ寄りに配置された多数の針のような構造物はおそらくレーダーやセンサーだろう。 船体表面は光沢のある黒色に輝き、地球のいかなる軍艦や航空機とも異なる外見をしている。 『航空灯を使用して発光信号を送るプログラムを今からそちらの機に入力する。これで目標に知らせろ』 「向こうはモールスを?」 『大西洋に現れたミッドチルダ艦が米軍機に対しモールスらしきものを打ったそうだ、今向こうでも解析しているらしいが、通じる可能性はある。ミッドチルダの言語は英語に似ている』 「わかった、やってみる」 管制を引き継いだ小牧基地からF-15に向けデータが送られ、完了すると、主翼に取り付けられている航空灯を使って発光信号を打てるようになった。 モールス信号で簡単な文章を送ることができる。 宇宙戦艦が通信に電波を使用していない以上、F-15がもともと持っている通信設備では宇宙戦艦と交信することができない。 意思疎通をはかるためには機体を動かす身振りや、発光信号のやりとりが空中では使えることになる。 宇宙戦艦の左舷およそ70メートルまで接近し、F-15からモールス信号が送信された。文面は“Follow me”に続けて方位、距離。可能であれば、小牧基地の滑走路へ誘導する。 この光を艦内から見ることができていれば、こちらからの交信を受け取れる可能性がある。 岐阜基地から発進してきたF-2が、誘導のために宇宙戦艦前方へ向かう。万が一の可能性を考えて対艦攻撃能力を持つF-2を使用する。 『返信はあるか』 「いまのところ無い」 F-15のパイロットは、少年時代にハリウッド映画で見た光景を思い浮かべていた。 地球に現れたUFOに対しアメリカのアパッチヘリコプターが投光機を使って交信を試みたが、UFOに乗っていたのは侵略エイリアンであり、ヘリは一瞬にして撃墜された。 風防に叩きつけられる空気の流れが見え、高度計はゆっくりと下降方向へ針を回している。降下速度は変わらず一定で、こちらも宇宙戦艦に合わせて旋回率を一定に保つ。 Gメーターは降下と旋回が釣り合ってほぼ1Gを示し、ある種異様なほどに機内は静穏に包まれている。 もし向こうが攻撃を行ってきても、この距離ではかわせない。 宇宙戦艦の照準装置が電波を使っているとは限らない。敵戦闘機や地上砲台のレーダー電波を検出するロックオン警告装置は役に立たないだろう。 レーザー砲やビーム砲などの武器であれば、こちらは脱出する猶予さえないかもしれない。現在使われている空対空ミサイルはあくまでも現在使われている戦闘機を撃墜するためのものでそれ以上の威力は無い。 戦闘機を落とすためには翼やエンジンなどを破壊して飛べなくすればいいわけで、たとえば機体を丸ごと粉々にしてしまうような大威力の弾頭は必要なく過剰性能である。 お互いに使用する機体のだいたいの耐久力がわかっているからこそ、威力は最小限に抑えられているのである。 しかし、もしかしたら異星人の使用している戦闘機はもっと防御力が高いかもしれない。とすれば必然的に、それを撃墜するための対空兵器も威力を高める必要がある。 そのような兵器で撃たれれば、地球の戦闘機は一瞬で蒸発させられることさえありうるのだ。 「ロールが戻る、再び直進降下に移るようだ」 『確認した、方位を報告しろ』 「方位1-8-0、真南へ向かっている。このままの速度なら──いや、待ってくれ降下率が上がっている、目標が大きく減速を始めた、いったん前方に出てから反転する」 『了解、距離を取り直せ』 「どうやらこちらの通信は受け入れられなかったようだ」 『まあ仕方ない。こちらでも捕捉した、このまま降りると目標は三河湾上空へ達する』 「海鳴市か」 『どうやらそのようだ。向こうは味方艦が墜落した場所をかなり正確に特定している』 「どうする、着陸するまで付き合うか?」 『念のためだ。給油機を準備しておく、そのまま待機しろ』 「了解」 F-15の機内燃料ではあと2時間程度の飛行が可能だ。 宇宙戦艦の速度ではあと数分で海鳴市上空に達するため、ただちに着陸するのであればそれを見届けてから小松基地へ帰投することが可能だが、もし上空にもうしばらくとどまるのであれば給油が必要になってくる。 小牧基地には救難機が主に配置されているため、実戦装備を持つ戦闘機はたとえば浜松や岐阜から向かう必要がある。 F-15の速度なら10分程度で射程距離に達することができる。 空中管制機は一旦瀬戸内海に移動して宇宙戦艦の追跡を続ける。 この時点で、ソ連空軍のTu-95偵察機がオホーツク海から日本列島の東海上を南下しつつあった。 通常の偵察飛行のコースであればこのまま日本南岸に達する。Tu-95が南回りで太平洋側から海鳴市にやってくる可能性が考えられ、航空自衛隊はこれへの対処も行う必要がある。 過去のスクランブルの事例から、Tu-95を陽動にして日本海側から別の機が現れる可能性があった。 その場合、使用される機材はミグである。 「背中を刺される事態にならなければいいが」 F-15のパイロットもその可能性は考慮している。 ソ連空軍では航続距離が非常に長いMiG-25SFR型の配備を進めており、これが現れた場合、ハバロフスクから日本南岸までマッハ3以上の超スピードで駆け抜けることができる。 『日本海の警戒は続けている、情報があれば知らせる』 原因が何であれ、日本側の注意が宇宙戦艦に引き付けられている間は、ソ連側にしてみれば日本に付け入る隙になる。 ソ連にとってはUFOへの対処と同時に、日本の防空能力を確かめることも行わなくてはならない。 ある意味でお互いの予想通りに、ソ連はハバロフスクにある防空軍基地からMiG-25SFRを発進させた。 水平離陸による単独大気圏離脱が可能な熱核ロケットの利点を生かし、領空外となる高度150キロメートルに一旦上昇してからの日本縦断を試みる。 ここまで上昇すると宇宙戦艦よりも高い高度まで達するため、機体を反転させて大きく背面ロールするような姿勢で再突入を行う。 再突入時の速度は5000km/h以上にも達し、これほどの速度を追うことのできる短距離AAMはない。 地球の戦闘機もこれほどの性能を持っているのだと異星人に見せつける意味もソ連では考えていた。 大気圏高層部、高度30キロメートル以下に達したところで航空自衛隊のE-767に探知される。 MiG-25SFR型による強行偵察はこれまでにも何度か行われたが、その機体特性から日本に大きく接近することはなく、沿岸から離れた海上を、その速度性能を見せつけるような飛び方をしていた。 しかし今回は、まっすぐ日本へ向かってきている。 その目標はひとつしかない。 現在、愛知県海鳴市上空にやってきている異星人の宇宙戦艦である。 『ソ連の“Starfox”が現れた、あと5分で追いつく』 「速いな」 『全速だ。機体が熔けてもおかしくない』 超音速飛行を行う戦闘機にとって最大の壁は、抵抗によって圧縮された空気が高熱を発生させて機体の構造材を熔かしてしまうことだ。 F-104などの第2世代機の頃からすでに、エンジンパワーにはまだ余裕があっても機体強度が耐えられないために最大速度が制限を受けるというケースはままあった。 そして実際の戦闘では亜音速域を使うことが多いとわかったため、世代が下るごとにエンジンの特性は最大速度よりも中間加速に重点が置かれていった。 『舞鶴の護衛隊群が捕捉している』 「海自さんに頼るしかないか」 宇宙戦艦は海鳴市の市街地を越え、今朝がたの墜落地点を発見したようだ。 ブルーシートで隠されているが、そこにある物体の大きさやシルエットを見れば、それが自分たちの仲間の艦であることは、異星人にはすぐわかるだろう。 「墜落した艦の乗組員はどうなっている」 『司令部の話ではイギリスのPMCが保護しているらしい、海鳴はもともとやっこさんの縄張りだ』 「交渉は俺たちが出張る話でもないということかな」 『ソ連機が彼らに対しどう出るかだ』 「発砲許可は」 『オーケーだ』 F-15のパイロットは操縦席のコンソールを操作し、主翼下に搭載したAAM-5空対空ミサイルのスイッチを入れる。 現在の航空自衛隊が装備する主力ミサイルだ。 「距離60マイル、まっすぐこちらに向かって突っ込んでくる──」 真正面から近づけば、侵入機側は迎撃ミサイルのロックオンを受けることは明白である。 ましてやMiG-25SFRは既に日本領空内に侵入している。この状態では警告なしで撃たれても文句は言えないことになる。 対空警戒レーダーに、ソ連機の影が映る。猛スピードだ。 音速で表現するならマッハ4を超えるほどだ。 これほどの速度で飛べば、まともに旋回などできないだろう。ソ連機といえど現代ではフライバイワイヤを採用しているが、操縦桿はフォースフィードバックによってほとんど動かせないほどに重くなり、水平尾翼も垂直尾翼もわずかしか動かせないはずだ。 少しでも進行方向がずれてしまえば、そのまま真っ直ぐ突き抜けるしかなくなる。 「距離40マイル、目標ロックオン──」 発射ボタンに指を置く。 この距離で向かい合いながら互いにミサイルを撃つなら、こちらは反転してフレアなどによる回避ができる。しかし向こうは動けない。速度が速すぎて、旋回による回避ができない。頭からミサイルに突っ込んでいくことになる。 撃つのか、撃たないのか。 空に上がる者同士に通じる、心の駆け引き。 ──交差。 F-15は右へ、MiG-25SFRは左へそれぞれロールして離れる。 旋回したF-15の正面に、空中静止状態で徐々に高度を下げつつある宇宙戦艦の姿が見えてきた。 今日の海鳴市は晴れており、空中に静止する巨大な宇宙船の姿は地上の誰の目からもよく見えるだろう。 西の青い空に、白い針のようなきらめきが見えた。 対空レーダー上では、後方へ距離75マイル、右旋回で大きく離れて名古屋市上空を飛んでいるMiG-25SFRが映っている。 方位、速度──速度、3300km/h。鋭く右へターンし、こちらへ向かって分裂した影が飛んでくる。 ミサイル。 この距離で撃つなら、R-37だ。最大射程距離110キロメートル以上、最大速度はマッハ6にも達する。 どちらを狙って撃っているか──それは距離が近づき、指令誘導からアクティブホーミングに切り替わった時にわかる。 「ミサイル接近、ソ連機がミサイルを発射した」 『確認した、こちらが攻撃を受けた。反撃は可能だ』 「こちらに向けたかどうかがまだわからない」 管制室のオペレータがわずかに言葉を止める。 「宇宙戦艦を狙っているかもしれない」 『──わかった、着弾前に空中で迎撃しろ』 「了解──」 2機のF-15はそれぞれ宇宙戦艦の前後に付くように位置を取り、高度を下げてミサイルを見上げるように機首を向ける。 宇宙戦艦に対し地球のミサイルが有効であるかどうか──核ミサイルは、機動要塞にはダメージを与えた。 だとすれば、通常弾頭のミサイルも宇宙船にはダメージが与えられる可能性がある。 海鳴の山の斜面をなぞるように上昇に転じたF-15から、AAM-5空対空ミサイルが発射される。 距離、7マイル。R-37ミサイルのロケットモーターの炎をロックオンし、真下から突き上げるように命中する。AAM-5の機動性と命中精度は世界最高峰だ。戦闘機だけでなく、敵の発射した長距離高速ミサイルも迎撃できる。 空中に小さな炎と鉄の白い粒が散り、煙を吹きながらミサイルの残骸が散らばって落ちていく。 宇宙戦艦までの距離は1キロメートルを切っていた。 砲身が動くような様子は見られなかった。また、異星人の武器は地球のものと同じような火砲の類ではないかもしれない。 もし、異星人の宇宙戦艦と地球の戦闘機が交戦するような事態になればますます厄介なことになる。 「ソ連機は左へ旋回していく、こちらから離れていく」 『了解、小松基地の別部隊に追わせる。引き続き宇宙戦艦の上空直掩を続けてくれ。総理から直接の命令が下った。戦闘機を使用して異星人の宇宙船を護衛せよ──だ』 「日本国内に受け入れるということか」 『乗組員の身柄を引き渡さなくてはいけないからな。浜松の教導隊が来てくれるそうだ、例のド派手な“ストライカーズイーグル”でな。連中が到着したら一旦小牧に降りて給油してくれ』 「了解、海鳴市上空を旋回して待機する」 宇宙戦艦はまったく動揺するそぶりを見せず、ゆっくりと降下して、墜落した艦の上空50メートルに位置を取って停止した。 現場に待機していた空自救難ヘリの乗員と、イギリス特殊部隊の隊員たちが連絡を取っている。 やがて、宇宙戦艦から数名の乗組員が降りてきて、墜落艦の乗員が避難しているPMC訓練所へ案内されていった。 空中からは、山林の上に巨大な影を落として停泊する宇宙戦艦の姿がはっきりと見える。 晴れた昼間の日光を浴びて、船体が輝いて見える。金属素材は、おそらく宇宙空間での電磁波防御を考慮して非常に反射率を高く作られているのだろう。 地球の戦闘機は視認による発見を避けるため濃紺や灰色、黒色系の迷彩塗装が施されているが、これをそのまま宇宙へもっていけば太陽光線の直射によってあっという間に熱せられてしまうだろう。 MiG-25SFR型ではその対策として、旅客機やスペースシャトルのようなあざやかな白い機体色をしている。 巨大な船体が、空中に微動だにせず停止しているのはよく考えれば異様な光景だ。現在の地球では反重力の技術など無いし、あくまでもSFの中だけの概念とされている。 空中で静止するためには機体の重量を支えるだけの推力を常に真下へ噴射し続けるか、気球のような軽い素材で機体をつくることが必要だ。 しかし宇宙戦艦は、数万トンはあるであろう金属の船体をまるで空間に貼りついたかのように停止させている。 その存在がごく自然に風景に溶け込み、それでいて現在の地球の科学力を超越した技術水準を見せ付けている。 ソ連が撃ったミサイルは幸いにして打ち落とせたが、異星人たちは、地球人同士のこの行動を、果たしてどう受け取っただろうか。 自分たちに刃向かう蛮族の行いと受け取っただろうか。ミサイル攻撃が地球人の総意と取っただろうか。 その場合、今周辺にいる自分たちも、攻撃の機会をうかがっていると見られているだろうか。 宇宙戦艦は撃たれたミサイルに対して何の回避行動も防御行動もとらなかった。 それは被弾してもダメージはないということだったのか、それとも、地球人に対して武器を向けないという意志の表れなのか。 MiG-25SFRは再び加速して高度を上げ、日本側の追尾を振り切って大気圏外へ逃げていった。 この件に対しては外交ルートでのソ連への抗議が必要だろうが、それは自衛官である自分たちが口を出す領分ではない。 武器を搭載した異星人の宇宙戦艦を領土内に迎え、日本周辺は非常な緊張に包まれていた。 時空管理局本局では、第97管理外世界に派遣したヴォルフラムからの報告と、第6管理世界アルザスに対するバイオメカノイド急襲の報告を受けて、対策案を検討していた。 管理局に与えられた権限として、次元世界各国が保有する次元航行艦を必要に応じて徴発する事ができる。 組織の性質上、管理局に常時在籍する艦は比較的小型のものに限られ、攻撃力の高い戦艦や、外征能力を持った空母などは原則として各国海軍が独自に保有するものとなっている。 国際特務機関でありどの国家からも独立した組織を建前としている以上、管理局自身の戦力というものは各次元世界の話し合いによって厳密に管理され制限されている。 ただし、その話し合いの場においても最も発言力を持っているのは首席理事国たるミッドチルダであり、そこにヴァイゼン、アルザス、オルセアなどが続いている形となる。 リベルタは安全保障理事会には参加せず独自の防衛体制を提唱しており、またオルセアの場合は加盟そのものはしているが管理局による治安維持は受け入れないとしている。 管理局システムの構造的欠点として、出資額の大きい世界の発言力がどうしても大きくなり、他の世界の意見が引きずられてしまうということがかねてより言われてきた。 定期的に開催される公開意見陳述会ではミッドチルダといえどもあくまで1票の議決権しか持たないが、しかしミッドチルダには多くの多国籍企業が本社を構えており、彼らの経済活動によって成り立っている次元世界はミッドチルダの意向に逆らえないという問題がある。 ミッドチルダに不利な投票などをすれば、経済的、外交的さまざまなルートで圧力がかかる。 このため、管理局はミッドチルダの出先機関であり次元世界支配のための隠れ蓑であると、たびたび指摘されてきた。 オルセアが管理局体制に反対し、管理局部隊の駐留を認めていない原因である。 世界の規模自体は大きいため、周辺次元世界を巻き込んでオルセアは独自の経済圏を構築しようと目論んでいる。 これとは対照的に、リベルタやアルザスなどは元々地理的にミッドチルダに近く、古代ベルカ時代から隣国どうしとして同盟したり対立したりの歴史を重ねてきた。 ミッドチルダ陣営について世界統合を行おうとする意見は古くからあった。 アルザスもまたミッドチルダとヴァイゼンの勢力境界付近に位置し、ベルカ時代にもまたミッドチルダの勢力圏にたびたび入るなど歴史的には禍根が少なくない。 管理局が大規模な艦隊派遣を行うためには、ミッドチルダの協力が必要不可欠である。 各管理世界に派遣されている管理局所属艦はせいぜいが巡洋艦どまりで、アースラのように古いL級を近代化改装しながら使っている程度だ。 新型であるXV級も、クロノが乗るクラウディアを含む30隻程度以外は、建造されたほとんどがミッドチルダ海軍に優先的に納入されている。 また、対惑星攻撃を行える大型戦艦は管理局は保有していない。多数の艦載魔力戦闘機を搭載する空母も同様である。これらはその使用目的が正規戦争であるとされ、管理局の任務には過剰な装備であるとされた。 したがって、もし戦艦でなければ対処できない事件が起きた場合、管理局はミッドチルダから艦の貸与を受けて出撃することになる。 名目上は徴発という形をとるが、実のところ権力的にはミッドチルダの方が立場が強いものである。 ミッドチルダは、今後の対バイオメカノイド作戦を主体となって行いたい旨を管理局に対し申し立ててきた。 そこには、今回の一連の事件に深く関わっている企業であるアレクトロ・エナジーを庇おうとする姿勢がありありと見えていた。 アレクトロ・エナジーには、既に管理局執務官の捜査の手が入っている。 違法な生体魔力炉製造の疑いが持たれている。さらに、同社に対する破壊工作の捜査を行っていた執務官が不審死する事件が起きている。 これで疑うなという方が無理なものだ。 管理局もまた、保有する次元航行艦のエンジンはその多くがアレクトロ社製であり、もし同社によるメンテナンスや機材の導入を受けられなくなると、艦の維持ができなくなる可能性がある。 もしアレクトロ社に対し行政処分が下るにしても、業務を行う企業そのものは存続させなくてはならない。 そうでなければミッドチルダのみならず多くの管理世界でのインフラが大混乱をきたすことになる。 そのために、ミッドチルダは先陣を切って対バイオメカノイド作戦を展開し、その事後処理も含めて主導権を握ろうとしているのだ。 今回の事件はいってみればミッドチルダがその極秘プロジェクトにおいてミスを犯したことが原因の一つともいえる。 そして、その極秘プロジェクトが明るみに出てしまえば、管理局もまた堪えがたい大ダメージを負うことになる。 選抜執務官──エグゼキューターの存在は、これまでの管理局執務官の権限を大きく超える、まさに絶対君臨者とも呼べるものだ。 装備すべき兵器は次元航行艦さえも凌駕する威力を持ち、従来のように何百人もの武装隊を動員して捜査を行わなくとも、それ“一機”だけで、標的とした組織もしくは個人を抹殺することが可能になる。 その任務の性質上、エグゼキューターの持つ力とは単なる巨大な破壊力そのものではなく、それを隠密裏に、察知されることなく執行可能だということである。 エグゼキューターが必要とされる任務は、正規の手続きを経たものではない。 それはいうなれば、定期的に人間に降りかかる試練のようなものだ。 それをはねのけ打ち勝つことができれば、人間がさらに強くなっていく。 ロストロギアという形で人類の繁栄を妨げている超古代文明の軛を振り払うために、それは必要と考えられた。 選抜執務官になる者は、あえて言えばすでに人間を辞めた者である。 角を嵌められ、街に解き放たれた闘牛である。 それは人を襲うように仕向けられながら、最後は人に狩られる運命である。 従来の管理局システムに縛られない力の執行者として、エグゼキューターは次元世界を渡り歩いている。 ミッドチルダ政府は管理局に対し、LFA級戦艦2番艦「フューチャー」をアルザスへ派遣可能であると申し出た。 同級が搭載するアルカンシェルでバイオメカノイドを確実に殲滅可能であるし、また必要とあらば大気圏内で掃討作戦を行ってもよいという。 この事態に対し、ミッドチルダの軍事的プレゼンスを発揮する絶好の機会であるとミッドチルダは考えた。 LFA級の戦闘力を実戦で示せば、他の次元世界はミッドチルダ海軍による安全保障にさらなる期待を寄せるだろうということだ。 事実上、管理局を貶める意図のある発言である。 現在の管理局には次元世界の平和を守る実力がないと言っているのと同じだ。 それは誰もが口には出さずとも、8年前のJS事件以降薄々思っていたことである。 ジェイル・スカリエッティによるロストロギア「ゆりかご」の起動と浮上は、管理局、殊更にミッドチルダ地上本部の体制の古さと機能不全を浮き彫りにした。 ミッドチルダ側からの情報がなければ地上本部は動けなかった。現場に到着したのは管理局の次元航行艦隊と、ミッドチルダ海軍の沿岸警備艦隊である。 ミッドチルダ政府は既にゆりかごの戦闘力は現代艦を相手にしては脅威たりえないと分析を下しており、外洋に出ていた艦隊を呼び戻したりということはしなかった。 沿岸哨戒などで近海に待機していたXV級だけで対処可能であると判断され、管理局艦とともに軌道上へ向かったが、結果的には管理局──“海”であるが──に花を持たせる形で止めを譲った。 このような体たらくでは、レジアス・ゲイズが熱弁していた地上本部の強化などといっても当てにできないというのは正直な感触だ。 少なくとも地上の警備においては、ミッドチルダ陸軍による対処を行うべきであると、政府内では意見が強まった。 もし管理局が外洋警備をすべて行うと宣言したとしても、それは信用できないとミッドチルダが言えばそれまでである。 少なくとも海軍としては、シーレーンの防衛をすべて管理局に任せてしまうというのは、これもまた自らの存在意義を否定することだ。 管理局はあくまでも次元世界間の紛争調停をその職務として専念すべきであり、今回の事件はミッドチルダ海軍が対処するべき、あくまでもミッドチルダ国内における問題であると、ミッドチルダの大使は管理局に対し見解を述べた。 ゆえに、アルザスに向かうなら管理局部隊としてではなくミッドチルダ海軍としてということである。 リンディ・ハラオウンは第97管理外世界より時空管理局本局に召還され、査問会に出頭していた。 今回の事件の、“表向きの”発端となった、クロノ・ハラオウン一佐が指揮する次元航行艦クラウディアの独断行動に対してのものである。 管理局側からはリンディの他に、レティ・ロウラン軍令部総長、ラルゴ・キール名誉元帥、ミッドチルダ側からは国防省幹部、次元航行艦建造を請け負っている重工業企業重役、さらにアレクトロ・エナジーのシルフィ・テスタロッサ相談役が姿を見せていた。 居並ぶ面々を見渡し、これはまさにミッドチルダにおける軍産複合体のトップ会談がセッティングされたのだとレティは察していた。 伝説の三提督のひとりであるラルゴ・キールがこの場に呼ばれているのも、彼の権威を利用したいミッドチルダ大企業の意向が働いていることは想像に難くない。 特に宇宙開発において、魔法技術は必要不可欠である。 次元航行艦の建造技術を持つ企業は、それゆえに各国次元世界政府との結びつきが強く、ヴァイゼンのように政府が直轄する研究所や設計局を持ち、官民一体となって運営が行われているところもある。 次元世界においてトップレベルの技術力を持つミッドチルダは、その豊富な開発リソースを生かし、次元の海を制圧できる強力な艦の開発を進めていた。 それと同時に、惑星上などで運用する搭乗型機動兵器の開発を試行していた。 管理局がもくろんだ、次元世界に対する死刑執行人──エグゼキューターである。 ミッドチルダの野心、ともいうべき、管理局に成り代わって次元世界の警察の称号を名乗ろうという計画である。 また現代のミッドチルダはそれだけの国力──軍事力とそれを維持するための経済基盤、他次元世界への金融や情報技術をはじめとした外交基盤──を持ち、次元世界を事実上支配する事が可能だと信じられている。 それはミッドチルダが自称するだけではなく、ミッドチルダと国交を持つ次元世界の人々が実感として受け止めていることだ。 過去の戦乱時代でも、長年にわたって続いた戦争によって最終的に疲弊していったベルカをついに下したのはミッドチルダである。戦乱時代からの世界平定は、ミッドチルダが主導して行われている。 終戦直後はさすがに管理局構想に従う素振りを見せていたが、情勢が落ち着いてはや50年近くが経過し、分裂した次元世界は同盟や連合を重ねて二大陣営に分かれ、いよいよヴァイゼンとの軍拡競争が限界に達してきた様相である。 当初よりミッドチルダ周辺が次元世界内でも先駆けて勢力圏を拡大し、辺境世界であるオルセアやヴァイゼンは近代文明の発展が遅れていた側面があった。 現代でこそヴァイゼンは政府主導の強力な開発計画によって巨大なハイテク都市が建造されているが、辺境では古い時代のままの鉱山村も多く残り、またオルセアは依然として小都市ごとに分かれた国内民族勢力の内紛が続いている状態である。 このような情勢の中で、ミッドチルダによる世界支配が進んでいく事は国際的にみて非常に危険であると、ヴァイゼンならずとも思っているところだ。 「(ミッドチルダだけじゃない、ヴァイゼンの新興軍需企業の幹部たちも──ここまでくると13人委員会さながらね)」 この査問会の会場では念話は傍受結界が張られているため使えない。 レティは黙って胸の中で独白する。 現実に次元世界に存在した影の統治機構としては最高評議会があるが、こちらは表向きには、名前だけなら管理局の組織概要にも記載されて公表されている諮問機関であり、彼ら三人が脳髄だけの身体であるという実態を抜きにすれば真っ当な組織ではあった。 次元世界において都市伝説や陰謀論などの形で囁かれる、影で世界を支配している組織というものはさまざまな形態が喧伝されている。 特に有名なのは古代ベルカ時代から続く13の諸王の家柄が大企業や財閥を支配し、次元世界各国政府に影響力を持っているとするものである。 JS事件以降、聖王の存在が公表されたことでこの論はかなり勢いを増していた。 次元世界では最も広範に布教されている聖王教会は、それだけに各種陰謀論の題材にされやすい。 もっともレティたち管理局首脳部の人間からしてみれば、それもあながち全くの妄想とは言い切れないところがある。 現実問題として聖王教会は各地に伝わる古代ベルカ時代の伝承を取りまとめる考古学研究的な事業も行っており、特に発見されるロストロギアの多くは古代ベルカ時代に一旦復元されて稼動していたものも多いことから、分野によっては民間企業よりも解析が進んでいる。 聖王教会は次元世界によっては現地政府との結びつきが強い場合もあり、旧ベルカ領周辺の世界などでは教会出身の聖職者が閣僚として国家運営に携わっているケースもある。 実質的には、カリム・グラシアを筆頭とする聖王教会本部騎士団はミッドチルダに事実上黙認された独立国軍といえる。 第97管理外世界でいえばイタリア国内にあるバチカンのようなものだ。 「クラウディアは既に第97管理外世界に接触したのですか」 「敵戦艦を追ってイギリスに降下したとの報告が1時間前に」 「やはりハラオウン艦長は我々の計画を知った上での行動をとっていると思われます」 ラルゴ・キールは革椅子に深く腰掛け、管理局礼装のマントを羽織りなおしながらミッドチルダ官僚たちを見渡した。 「ミッドチルダ海軍隷下での作戦立案に無理があったのではないですかな」 官僚たちがわずかに目を曇らせる。 ラルゴ・キールは管理局参入前からミッドチルダ海軍の名提督として戦功を挙げており、ミッドチルダにとっては無碍に扱えない人物である。そのラルゴから指摘を受けては、ミッドチルダ側としても反論がしにくい。 「乗組員名簿を改めたのですが、現在クラウディア副長として配置されておりますウーノ・スカリエッティ三佐……彼女の出自と申しますか、人格面については問題は無いのですか」 沈黙から最初に口を開いたのは、今回集まっているミッドチルダ政府の者では最も若手になる、角眼鏡をかけた国務次官だった。 レティもラルゴも、かつてのJS事件の犯人グループの一員であったウーノをクラウディアに配置するにあたっては、対外的に問題が生じる可能性は承知していた。 いかに機械を組み込んだ戦闘機人とはいえ、意志を持った個人として扱われる以上その意志を100パーセント信用するということはできない。信用を得るためには、それまでの経歴や言動、交友関係などを審査にかける必要がある。 管理局内部での事務処理上は、ウーノもその審査をパスしたことになっている。 機動六課解散直前、ウーノを含む戦闘機人11名には、思考発生器のリプログラムが施されている。 一般的な人間の思考を再現できる、インテリジェントデバイスのAIに搭載されるものと同等の思考発生器に積み替えられているのだ。 ただし機人技術そのものが市民権を得たものではない以上、技術的な検証によって安全であると証明するには難しい面があるのも事実だ。 「クラウディアの全乗組員のパーソナルデータおよび経歴については先に提出した資料の通りとなります。 ウーノ・スカリエッティ三佐はミッドチルダクラナガン出身、新暦64年にミッレミリア士官学校を卒業し管理局へ入局しています。82年4月の艦隊編成替えに伴いクラウディアへ配属されました。家族はクラナガン湾岸区に父と妹の二人がいます」 各席の端末へデータを送り、レティがウーノの身分について述べる。 ウーノの家族とされる人間が存在するのは事実である。経歴もまた、それは現在のミッドチルダにおいて事実である。 それは戦闘機人技術の開発に協力した以上、ミッドチルダ側としても認めざるを得ないことだ。 「いずれにしろ、我々ミッドチルダの主導するエグゼキューター計画が非常な困難に直面しているのは事実です。特に惑星TUBOYにおけるバイオメカノイドの発見は、これが次元世界全体の危機に発展する危険性をはらんでいます」 「わがミッドチルダとしては海軍部隊による捜索を行い、クラウディアに対する事実確認をしたい意向です」 「クロノ・ハラオウン艦長以下クラウディア乗組員に対する処置は」 「クラウディアはわがミッドチルダ政府の指揮下にありました。したがってミッドチルダ国内法に基づく軍法会議を開く事になります──厳しい処分となる可能性は覚悟していただきたい」 別の高官が、右手を挙げて発言を求めた。 「ロウラン総長、先日第97管理外世界に派遣された管理局艦ですが、こちらはクラウディアに接触できたのですか。報告では、バイオメカノイドとの戦闘により被害甚大との事ですが」 「第97管理外世界、地球上空で敵バイオメカノイドとの戦闘が発生しました。クラウディアはわが方の艦『ヴォルフラム』に対し、バイオメカノイドの存在を全次元世界へ公表すべきとの声明を発しております。 またこの声明はオープンチャンネルによりミッドチルダ、ヴァイゼンの両艦隊にも送られました」 「全次元世界への公表……──」 ミッドチルダ国防省の高官たちが、椅子に背を沈めて唸る。テスタロッサ相談役も彼らを見やり、険しく眉間をつまんだ。 これはミッドチルダ側としては絶対に避けたい事態の一つだったはずだ。 もし、バイオメカノイドが惑星TUBOYから発生していることが知られ、惑星TUBOYにミッドチルダとヴァイゼンの軍艦、企業が向かっていたことが知られてしまった場合、この事件がミッドチルダに対する非難の口火になってしまう。 惑星TUBOYと、あえて含めてもクラナガン宇宙港での戦闘までで対処しきれていればまだ言い訳はできたかもしれない。 だがクラナガンがバイオメカノイドに襲撃され、しかも主要先進国のひとつであるアルザスがほとんどなすすべなく全滅してしまった現在では、これらの事実を公表すればミッドチルダの軍事力をもってしても対抗できない存在の証明をすることになってしまう。 そのような事態になれば、管理局だけでなく、ミッドチルダもまた次元世界連合における求心力を失う。 バイオメカノイドの脅威は想像以上である。 それでも政府内では、情勢に疎い者などはまだこれを単なる小型野生動物のように捉えている。魔導師によって対処が可能であると考えられている。 しかし実際は、単体での戦闘力のみならず圧倒的かつ爆発的に発生する物量によって、次元航行艦ですら応戦困難な場合さえある。 バイオメカノイドと戦うには、人間同士の戦争のようにはいかない。 人間を相手に想定した魔法では打撃力不足であり、ましてや交戦法規の縛りがある正規戦争のようにもいかない。 持てる火力の全てを投入してやっと勝負になるかどうかというものである。 しかもバイオメカノイドは人間のように逃げたり撤退したりなどしない。いったん前進を始めたら、殲滅されるか他に優先度の高い攻撃目標を見つけない限り、その命が尽きるまで攻撃をし続ける。 クラナガンでも、惑星TUBOYでも、アルザスでも、その津波のような圧力に、管理局部隊や次元世界正規軍はまさに押しつぶされてしまっていた。 ミッドチルダやヴァイゼンが配備している次元破壊兵器は、その性能、目的からそれが実際に使用されるときとは終末戦争であるとされてきた。 この兵器を使用してしまえば世界が滅んでしまう、だから反撃にこれを使用される可能性がある戦争を仕掛ける事はできない──というのが、現在の次元世界の軍事バランスである。 それがいかなる目的であれ、次元破壊兵器を実際に使ってしまうと互いに配備している兵器の量が減り、そうすればミッドチルダとヴァイゼンの間の軍事力の均衡が崩れてしまう危険がある。 だからこそミッドチルダはヴァイゼンと共同で惑星TUBOYに向かわざるを得なかったし、管理局設立以降100年近くにわたって続けてきた二党体制をここに至って放棄し、水面下で手を結ぶことになったのだ。 艦船搭載型と違い、地上基地や次元潜行艦から発射して射程距離内の目標宙域に直接弾体を転送する戦略級アルカンシェルの場合、危害半径はまさに天文学的範囲となる。 居住惑星を、その所属する恒星系ごと吹き飛ばせる。あるいは恒星中心核などに衝撃を与え核融合を狂わせて超新星爆発を誘発させたりなどといった事も行える。 かつての戦乱時代には、各国がこれら次元破壊兵器の実験をこぞって行い、各地に甚大な環境汚染をもたらした。 現在では、艦船搭載型アルカンシェルを除く次元破壊兵器の実戦使用および発射実験、技術供与や新規開発は軍事管理条約によって禁止されている。 しかしここに至り、その破滅兵器でなければバイオメカノイドに対抗できない可能性が出てきた。 アルザスに出現したバイオメカノイドは次元断層から現れ、わずか数時間で──戦略的には一瞬と表現してよいタイムスケールである──ひとつの惑星を埋め尽くしてしまった。 これに呼応するように、惑星TUBOY宙域で生存者の捜索救助を続けていたミッドチルダ艦隊の駆逐艦が、惑星TUBOY内部にさらなる重力場の出現を探知していた。 インフェルノが発進した後、惑星TUBOY表面に現れた火山活動のように見えた噴出物は、やがて溶岩ドームのような洞穴をつくり、それは惑星内部で製造されたバイオメカノイドの搬出口であった。 惑星自体が、あたかも卵を産むように無数の産卵口を表面に出し、バイオメカノイドが次々と生み出されていた。 惑星TUBOY表面に出現した大型バイオメカノイドは、トラクタービームを放って駆逐艦を引き寄せ始めた。 インフェルノ内部でヴォルフラムに向かって放たれたものと同じで、出力はさらに強く、効果範囲も広いものだった。駆逐艦隊のうち2隻が引き込まれ、惑星TUBOYに墜落した。 駆逐艦はインフェルノ浮上直後の戦闘で撃沈された艦の乗員救助を行っており、1000名以上が乗っていた。 やわらかい岩盤にめり込むように墜落した駆逐艦は船体を潰しながら地中へ貫通していき、崩れた土砂によって埋まってしまった。 かろうじてトラクタービームを逃れたほかの駆逐艦からは、惑星が艦を食べているようにさえ見えていた。 惑星TUBOYは、地中から噴出する火山ガスが表面を取り巻き、大気圏の厚さを急激に増しつつあった。 まさに生きた惑星、惑星サイズの巨大生命体であった。 バイオメカノイドと戦った人間は、それを身にしみて実感させられる。 ラルゴ・キールは、クロノの意向に結果的には沿う形になるが、次元世界全体への協力を呼びかけてバイオメカノイドに対処すべきであると提言した。 ミッドチルダ側の閣僚たちは戸惑いを隠せない。この事件の真実が明るみになれば批判を受けるのは自分たちである。そして少なくともクロノが命令違反を犯した事には変わりは無いのだから、それに対して管理局は償いをすべきであると答えた。 「このラルゴ・キールの頭でしたら幾らでも下げますが。しかし、これは我々だけの問題では収まりませんぞ」 「そこを何とか我々だけで」 「事実ですよ。事実から目を背けてはいけません」 ラルゴの言葉を、先ほどの角眼鏡の次官が継いだ。 ミッドチルダ閣僚たちも、さすがに言葉を詰まらせる。 形式的にはクロノの親族であり第97管理外世界にほぼ唯一、公式に派遣されていた総務統括官たるリンディを矢面に立たせての査問会の形をとっていたが、実質的にはミッドチルダと管理局は互いに脛に傷をつけてしまった格好となる。 ミッドチルダも管理局も、互いに出し抜こうとすればするほど泥沼にはまる。 面子にこだわっている場合ではなく、事実を説明し、対応するべきである。 「カワサキ次官、それではわが政府からも何人か首を差し出さねばならなくなるぞ」 「それほどの覚悟でこの計画を推進していたのではないですか、われわれは」 ミッドチルダ国務省で次元世界の新たな枠組みを模索している彼は、多国籍企業との癒着が指摘されがちなミッドチルダ政界において若い新風と期待されている。 管理局で人事部を統括していたことのあるレティは、国務省の一年生官僚だった頃から、彼──アンソニー・カワサキの活躍ぶりは聞いていた。 既存の権力を恐れず、また阿ることなく己を貫く、かつてのレジアス・ゲイズを思わせるような理想に燃える青年だった。 今ではミッドチルダ国務大臣も一目置く、ロジカルかつラジカルな新進気鋭の政治家に成長していた。 「自国の軍人さえ欺いたんです、もはや管理局だけに責任を押し付けて済む問題ではありません。ハラオウン統括官、われわれミッドチルダ政府としてはまず敵の詳細な情報を共有するべきと考えます。 また、第97管理外世界への正式な訪問、現地地球政府への交渉を開始する必要があります。そうなりますと、PT事件、闇の書事件の両方において地球に赴いたハラオウン統括官が適任です。 まず地球と次元世界連合の間で連絡が必要です、さしあたっては無限書庫司書長ユーノ・スクライア氏への面会許可を頂きたい」 「高町教導官、また八神司令の両名に顔が利く彼ならば、ということですか」 「無限書庫に保有されている第97管理外世界の情報を検索します。あちらも次元世界の一つである以上、過去に他の次元世界との行き来がなかったとは言い切れません」 「既にヴァイゼン艦隊のイリーナ・M・カザロワ少将が第97管理外世界に艦を降下させています。このまま地球とヴァイゼンが衝突すれば、必ずわがミッドチルダにも飛び火します」 カリブラ・エーレンフェストがトゥアレグ・ベルンハルトに質したように、第511観測指定世界に派遣された艦の乗組員のみならず、艦長さえもが惑星TUBOYの真実を知らされていなかった。 それだけが原因とは言い切れないが、惑星TUBOY地表での戦闘、およびインフィニティ・インフェルノとの戦闘で多数の戦死者を出し、艦が撃沈されている。 ミッドチルダもヴァイゼンも、艦隊司令であるベルンハルト、カザロワ以下、ごくわずかの司令部要員にしか情報を知らせていなかった。 そのような状態では、艦長は足りない情報を補う為、それぞれの裁量で独自の行動を取らなくてはならなくなる。 そうなれば、艦隊の統率が乱れ、落伍した艦などが艦隊の指揮を離れた状態で地球と接触してしまう可能性がある。 事実、ヴァイゼン所属の巡洋艦が1隻、地球に墜落し、イギリス特殊部隊によって乗員は保護されている。 ヴァイゼンが、独自に第97管理外世界と接触を持った。墜落した艦と、その救助に向かった艦を領土内に受け入れた日本は当然、ヴァイゼンとの接触を公式に発表するだろう。 そうなれば、これまで秘密裏に工作員を地球に滞在させていたミッドチルダは激しい非難を浴びる事になる。 敵戦艦が地球に向かっているのがわかっていたのなら、なぜもっと早く情報を公開せず、現地政府の協力を求める事もしなかったのか、また現地政府に脅威を報告する事もしなかったのか。 ミッドチルダにとってはまさに足元をすくわれた形となる。 この状態で、ただ管理局だけを糾弾して済む問題ではないというのはもはや明らかであった。 「わが管理局としては渡航封鎖が解かれ次第、ただちに執務官を第97管理外世界に派遣したいと考えています。 その任にはハラオウン統括官を充てたいと考えていますが──よろしいですね、カワサキ次官?」 「問題ありません」 「しかし、カワサキくん彼女は──」 「ハラオウン家に対する査察部の調査は行われております。思想、生活記録、交友関係など全てにおいて厳重なチェックを重ね、問題は報告されておりません」 リンディの本局への帰還直後、インフェルノの第97管理外世界への出現によって渡航が停止され、エイミィと二人の子供は海鳴市に残ったままである。 彼女たちがただちに地球の現地警察もしくは軍隊に拘束されるような事態はさすがにないとはみているが、それでも、リンディとしては不安になるのは致し方ない。 レティは眼鏡をなおし、再び面を上げた。 「クロノ・ハラオウン艦長については我々の方でも呼びかけを続けます。今回の彼の行動の真意をつかむ事が重要であると私は考えています」 テーブルの上で手を組み、シルフィ・テスタロッサがレティとリンディを順番に見やる。 彼女はアレクトロ・エナジーの創業時からのメンバーであり、定年退職後も相談役として経営陣に参加している。 フェイトの実母であるプレシア・テスタロッサとは特に血縁ではないが、同じアルトセイムの出身でありまた同じテスタロッサ姓ということで、アレクトロに勤めていた頃のプレシアとは面識があった。 「ロウラン総長、これは私どもの──わが社の意向でもあるのですが、現在管理局にて編成されているエグゼキューター部隊、こちらについては既にご存知で?でなければ、改めて組織概要をお渡ししたいと思いますが」 「レティ、それは──」 リンディは小声でレティに囁いた。 管理局の人事および組織編制を取りまとめるレティの立場なら、当然、新たに部署を立ち上げる際には届けが上がってくることになる。 普通なら、新たに編成された部隊である選抜執務官の存在を、レティは知っている事になる。 「把握しております。こちらも、我々で対策部署の手配を致します」 「わかりました。宜しくお願いします」 時間にしてほんの5、6秒のやりとり。 この中に、レティとシルフィの間で交わされたのは、互いにそれぞれの組織の黒いものを抱えているのだという事を確かめ合うものである。 レティはその立場上、公開非公開を問わず管理局のいかなる組織についても──その存在程度は──知っていなければならず、またシルフィも、アレクトロ社最高幹部として、エグゼキューター計画に基づいて同社が管理局に納入している機材を知っていなければならない。 それを知らないと言ってしまえば、互いにそれぞれの組織に対する背任となる。 一見、なにげない確認の言葉のやり取りに、丁寧なやわらかい言葉のやり取りに見えて、その中にこめられたのは互いの疚しさを握り合う恫喝である。 管理局は現在、実質上のトップが空席となってしまっている状態である。 レティや、故レジアス、またそれぞれの部門の事務長官はいるが、管理局は組織としては非常に権力が分散し、トップダウン構造を避けた体制となっている。 最高評議会を例外とし、中央集権を避ける事で、次元世界各国の政府指揮下にない軍事力の存在に対する批判をかわす狙いがあった。 言ってみれば、それぞれの部門の長は自分の下にある組織全ての責任を負っている事になる。 レティには、なのはやフェイト、はやて、リンディ、そして管理局で対処にあたる局員に対し、エグゼキューター計画について説明する義務がある。 そして、それをシルフィによって確認された事になる。 そしてそれは管理局だけでなく、ミッドチルダ政府にとっても同様である。 時空管理局本局の奥深く、厳重に隔離された実験モジュールの中で、マリエル・アテンザ技官の指揮の下、大規模クラスタードデバイスの構築作業が行われていた。 通常、魔法戦闘に用いられるデバイスを、高機能コンピュータとして使用するものである。 原理としてはマルチタスクと同じであり、多数のストレージデバイスを管制人格に接続し、スーパーコンピュータとして使用する。 電源供給ケーブルと魔力通信ケーブルを組み込んだラックに、3万台以上もの魔導書型デバイスが積み込まれ、接続されていく。 無限書庫も実装形態こそ違えどこれとほぼ同じ仕組みだ。ただし、その規模は無限書庫のほうがはるかに巨大である。 8年前、JS事件解決直後の時期、無限書庫司書長ユーノ・スクライアの提言により、カリム・グラシアのレアスキルである預言の解析を主目的としてこのスーパーコンピュータ開発計画はスタートしている。 ストレージデバイスは大量の魔法を溜め込む用途から特に大規模計算に適しているとされ、これを多数組み合わせて学術計算に用いるアイデアは古くからあった。 連結されたデバイスは8台または16台ごとのユニットにまとめられ、これを管制人格AIが制御し、モジュールとして複数をスイッチによって基幹バスに接続してクラスタを構成する。 現在、管理局が構築しているものは32768台のS8C型ストレージデバイスを広帯域の魔力回線にて接続し、550ZFlopsの計算能力を発揮可能としている。 デバイスの本質は超高性能コンピュータであり、打撃武器としての筐体や戦闘用魔法を発射する魔法陣はあくまでも単なる出力装置である。 その外部出力を省き、データストリームの処理に特化させることは実装変更の範疇である。 預言解析もさることながら、このクラスタードデバイスの上で走らせる検索魔法の開発も並行して行われていた。 自然言語で書かれたデータを直接分析することで、預言だけでなくあらゆる現象を分析できるようになる。 そして現在、取り組むべきはバイオメカノイドの正体と真実を解き明かすことである。 この未知の敵に対し、管理局は、ひいては人類は、どのように立ち向かい、戦えばいいのか。 そのためにはどんな武器が必要なのか。人間が作り出したコンピュータと魔法は、人間自身の能力を超えて動き始める。 ヴェロッサ・アコースは、実験モジュールを取り囲む真空断熱ブロックの窓に手を映し、冷却装置の轟音に包まれて静かに稼動し続ける巨獣の姿を見つめていた。 3万台ものデバイスを連結した大きさは、一辺の長さが20メートルもある。フロアは空調の効果を出すために広く作られ、その中央に鎮座する堅牢なラックはまるでSF映画の中の光景のように、それぞれのチップセットごとに色とりどりの魔力光を放っている。 いくら人間が訓練を積み、肉体を鍛えても、一人の魔導師が発揮できる魔力には限界がある。 そして、一人の魔導師が処理できる魔法の術式にも限界がある。 機械は、いくらでもその大きさを巨大化させられる。もし人間も肉体の縛りが無ければ、魔法生命体のように巨大なリンカーコアを持ち、巨大な魔力を行使できるようになれるだろう。 しかし、そうなった人間は、そのときかつての自分と現在の自分を、客観的に比較できる意識を保てているだろうか。 自分のレアスキルゆえに、人間の意識の限界をいやおうも無く見せつけられる。 思考操作はあくまでも出発点であり、もし強力な魔導師の脳を見てしまい、意識に飲み込まれたら、丁度仮想空間から出られなくなったハッカーのように、意識が永遠にさまよい続ける事になるだろう。 そして、今自分の目の前にあるクラスタードデバイスは、これまでに建造されたあらゆるデバイスをしのぐ処理能力を持ち、まさに化け物のような意識空間を持っている。 デバイスはあくまでもコンピュータ、機械であると一般的には見なされているが、ヴェロッサにはそれもまた人間と同じ意識を持ち、しかし人間とは隔絶したものごとのことわりを持っている存在なのだと思えていた。 足音を感じ、ヴェロッサはゆっくりと振り返る。 「気晴らしに休憩、ですか?」 はためく白衣に、空気が揺れる。 足音の主は、白衣のポケットに手を隠したまま、薄笑いを浮かべながらヴェロッサを見やっている。 「それもあるが、司書長殿が君をお呼びでね。私も、君の意見を聞きたいと思っていたのだよ」 「僕の、ですか。自分で言うのもなんですが僕はかなりの捻くれ者ですよ」 「ぜひお願いしたいね」 肩でため息をつき、ヴェロッサは苦笑した。 この男は、良くも悪くも鎖に繋がれていない。どんなときでも自由であろうとする。 それがこの男、ジェイル・スカリエッティをして稀代の天才科学者と謳われた所以だろう。 周囲との折り合いを気にしてしまうと、心は身動きが取れなくなる。 歴史上でも、後世に天才と語り継がれる人物はどこかネジが外れたような者ばかりだ。伝記小説などは非の打ちどころのない偉人、というような書き方をすることもあるが、それはあくまでもきれいごとである。 もし何百年か後、後世になって、ジェイル・スカリエッティの伝記が書かれたとしても、ゆりかごにまつわる記述はさらりと流されるだろう。 そしてそれは、今の自分たち自身がそうしようとしている。 本局内のレストルームで、ヴェロッサ、スカリエッティ、ユーノは集まっていた。 ユーノはここ数日ずっと本局内の個室にこもって完徹で業務を行っていたので、やや目元が青くなっている。 「おえら方の具合はどうなのかね。最近、ミッドチルダの部隊がこっぴどくやられて逃げ帰ってきたと聞いたが」 先行してミッドチルダへ帰還していた駆逐艦は生存者の引き揚げを行い、できる限りの報告を行っていた。 けして少なくはない戦力を投入したはずだが、それでも敵ははるかに強大であり、ミッドチルダ、ヴァイゼンとも多大な損害を被り、このまま補給なしでの第97管理外世界での作戦継続は厳しくなってきている。 ヴェロッサはいつものように、テーブルにチーズケーキの包みを広げた。 「実はそれです。ミッド政府とうち(管理局)の話し合いの結果、今回の事件の元凶──バイオメカノイドの存在を、次元世界連合および第97管理外世界へ情報公開を行うことが決まりました。 それで、我々にやってもらいたいのは分かっている限りの資料をとにかく手あたり次第集めてくれということだそうです」 「簡単に言ってくれるね。まあしかし、そういう方向だったら僕としては願ったり叶ったりだ。この件は管理局全体で取り組む必要がある」 「随分調子がいいな。ここに高町君がいなくて幸いだったね」 ヴェロッサはソファに背を沈めて姿勢を低くし、無精ひげにこけた頬で笑みを浮かべるユーノを不敵に見上げる。 バイオメカノイドとの戦闘によってミッドチルダや管理局の艦隊が大打撃を受け、しかも市街地での戦闘が発生したことで市民にも大勢の犠牲者が出ている。 こんな状況で、研究が解禁される、予算がたくさんつく、といったことを馬鹿正直に喜ぶそぶりを見せては、現場で戦っている人間にとっては怒りさえ覚えるだろう。 ヴェロッサと向い合せに座ったユーノの隣で、スカリエッティは相変わらずの調子でゆっくりと紅茶を啜っている。 「ところで、査察部の方では私には何か話はないのかね。ミッド政府のおえら方連中の喧々囂々具合だと、ウーノの身辺も突っ込まれているのではないのかね?」 「それについては僕らが良しと言えばそれで。彼女自身、家族が居るのは“嘘ではない”ですからね」 「しかしまあよくも探し出したものだ」 ふん、と鼻を鳴らし、スカリエッティはちびちびと紅茶のカップを口につけている。 「その様子だと、私の出自、テスタロッサ博士の出自についてもおおよその調べがついているのだろう」 JS事件の際、ヴェロッサは戦闘機人ウーノたちに思考捜査を行っている。 そこから得られた情報をもとに、管理局情報部では各地の次元世界において、アルハザードの由来にまつわる情報──これはスカリエッティ自身のルーツをたどることでもある──を集めていた。 かつての最高評議会が、どこからアルハザードの真実にたどり着き、スカリエッティを擁して戦闘機人計画を進めるに至ったのか。 スカリエッティ自身が自分の生まれについて詳しく知っているわけではないので、彼の出生当時──少なくとも180年は遡ることになる──に存在した組織でそのような研究を行っていた可能性のあるものを、資料を改めていかなくてはならない。 戦闘機人技術は、スカリエッティ以前のものはあくまでも部分的なサイボーグにとどまっていた。 人体を含めた生物の肉体は常に新陳代謝によって細胞が入れ替わるものであり、いったん埋め込んでしまうと自然消滅や再生成が起きない機械は、人体にとっては異物となってしまう。 スカリエッティが最高評議会に対して提出した研究報告は、人体の幹細胞を調整することで機械部品に対する拒絶反応を緩和するものだったが、これはあくまでも間に合わせの発想であった。 本来の戦闘機人技術とは、生命体と機械体の融合である。金属で出来た血肉、あるいはタンパク質でできた機械。それらを相互に互換可能とするのが目的である。 それはまさに、惑星TUBOYで発見されたバイオメカノイドそのものであった。 「ミッドチルダ政府は驚愕しただろう。自分たちが追い求めていたのがどれほど強大で、そして恐ろしいものであったのか。 神話や伝説などというのは往々にして人間の願望が入り込む。神というからには全知全能であるはずだというのは思い込みだ。実際には、それは非情で俗なものなのだよ」 現代のミッドチルダだけでなく、ゆりかごと聖王が持つレリックウェポン・システムをはじめ、古代ベルカなど様々な時代、世界で生命融合機械が研究されていたのは、それらが同じ一つの伝説を起源にした資料を基にしていたからである。 それが、次元世界人類がアルハザードと呼ぶ未知の次元世界であり、そしてそれは新暦83年の現代になって、第511観測指定世界『惑星TUBOY』として発見された。 伝承は、人から人へ伝わるうちに変化していく。何百年も、何世代もを重ねていけば、次第に抽象的に、おぼろげに変化していく。 アルハザードは、失われた数々の魔法技術が眠る場所とされていた。 そこに眠る技術を使えば、死んだ人間さえ蘇らせることができる。 また、生命、そして時間、さえあやつることも可能であるとされた。 たしかにアルハザード(とされる場所)には、魔法技術があった。現代の最先端魔法科学でも実現できていない数々の技術があった。 しかしそれは、おおよそ、人間に歓迎されるような代物でもなかった。 そこは、目指してはならない場所だったのかもしれない。 惑星TUBOYに眠る技術は、やがて人間を人間でなくしてしまうだろう。 戦闘機人技術が、アルハザードのオリジナルによって完全に実用化された場合、それは戦闘機人が子孫を残すことを可能にする。 現時点では、スバルとギンガの二人、またナンバーズ9名、彼女たちから産まれるのは普通の人間であり、その体内には機械部品などもちろん無い。受精卵がいくら細胞分裂してもできるのは普通の人体であり、機械部品は組み込めない。 しかし本来の戦闘機人から産まれてくるのは戦闘機人の赤ん坊である。生まれたときから機械が体内にあり──言い換えれば機械の肉体を持っており、機械部品も肉体と同様に成長していく。 外見以外は、もはやバイオメカノイドと全く同じ生態といえる、とスカリエッティは述べた。 「ナカジマさんにとっては、受け入れ難いことでしょうね」 「最高評議会の御三方にも同様に、だろうね。私の上げた報告の中でそれだけは却下されたよ」 結果として、スカリエッティは通常のサイボーグの延長上の形態を持たせてナンバーズを製造した。 試作した戦闘機人の素体も全て破棄し、それは完全に破壊されている。 スバルとギンガの二人──“タイプゼロ”を製造した組織の施設に管理局の捜査員が踏み込んだ時には、既に製造設備は破壊され失われていた。 生体融合機械を、これから新しく製造することは不可能になったと思われていた。 しかし、惑星TUBOYがあった。 そこには、今も生体融合機械たるバイオメカノイドが棲息し、外宇宙へ向けて動き出す準備を着々と整えていたのだ。 次元世界人類はそれを見つけてしまった。そして、目覚めさせてしまった。 確かにそれは危険なものだった。 だがそれならなぜ、人はアルハザードを目指していたのだろうか? アルハザードについて研究を進めていく限り、たとえミッドチルダやカレドヴルフ社が手を出さなくても、いずれ惑星TUBOYは発見された。 そしてバイオメカノイドは次元世界人類の存在を知り、人類を絶滅させるために動き出しただろう。 仮にそのようなアルハザードの実態が伝承されていたとしたなら、絶対に手出ししてはならない禁断の世界、というふうになるはずだ。 どこかで伝承が変化したのか、それはもはやわからないが、少なくとも多くの冒険家が夢見るような理想郷でないことだけは確かだ。 「確かにPT事件以前にも、アルハザードを目指した魔導師はいました。それらの試みの多くは成果をあげることはできませんでしたが、いくつか、アルハザードを目指す手がかりは少しずつ得られていました」 「宇宙探査機#00511号の打ち上げとはどちらが早かったかな?」 「00511号は新暦75年の打ち上げです。丁度、機動六課が設立されていた年ですね」 「君は知っていたかね?」 「いいえ、その当時は特にこれといったニュースもありませんでしたので。宇宙開発に対する市民の関心も薄かったでしょう」 ヴェロッサの言葉に、ユーノは腕組みをして薄笑いを浮かべた。 実際はこの当時既に、高町なのはを含む管理局戦闘魔導師たちと、ユーノは距離をとり始めている。 「まあ、00511号を含む新暦75年の探査機打ち上げは、少なくとも学会では期待を持たれていたようだよ。ボイジャー台長もよく知っている」 ミッドチルダ国立天文台のクライス・ボイジャーは、ユーノと共に00511号の観測データ分析を行い、第511観測指定世界が発見される契機をつくった。 ボイジャーの観測と、ユーノの資料捜索で、ミッドチルダにおける外宇宙探査はここ数年でひそかに、そして大きく前進していた。 「ゆりかごのことだが」 ユーノの言葉を受けて、スカリエッティが口を開く。 彼自身、JS事件は自分の楽しみのためだったと言いきっている。 ゆりかごそれ単体で管理局やミッドチルダを制圧できるとは考えていなく、次元世界人類がいまだ知らないロストロギアの真実をもし人々が知ろうとするならこうなるのだということを知ってもらい、興味のある者たちの研究参加が増えれば幸いだと、言った。 是非はともかく、ゆりかごの復活と浮上は管理局のロストロギアに対する認識を大きく改めた。 あくまでも古代ベルカ時代の魔法アイテムというイメージだった従来のロストロギアに対し、その背後には現代の次元世界人類の技術水準をはるかにしのぐ、超古代先史文明が存在するのだという説が非常な現実味を持って浮上してきた。 管理局の古代遺物管理部──特に著名な機動六課以外にも一課から五課までのタスクフォースを持っている──は、ゆりかごの復活によって、それまで仮説の域にとどまっていた超古代文明の存在を確信したと報告していた。 ゆりかごは、古代ベルカ当時においてさえその全容が把握されていなかった。 確かに当時としては世界最強を誇る戦闘艦であり、多くの次元世界軍を撃破した歴史がある。純粋な戦闘力だけなら現代次元航行艦には譲ってしまうが、実際、JS事件当時に発揮した性能がそのすべてだというわけではない。 実際には、ゆりかごは生体融合機械を格納する輸送船のようなものだ。 そのため、武装は“自衛用の最低限のもの”しかなく、ガジェットドローンはあくまでも積み荷である。 搭載されるレリックは単なる動力源であり、それを聖王家が人体強化に転用しただけだ。 そして、レリックは古代ベルカ人が特に手を加えなくとも、発見されたそのままの状態で、人間を強化できる機能を持っていた。 すなわち、レリックを製造した文明は、この一見無機物のように見える魔力結晶を、生体融合機械に適応するように設計したということである。 彼らは、現代の一般的な人類──ホモ・サピエンスと同じ外見をしているとは限らないかもしれない。 それこそ本当に、バイオメカノイドのような種族だったのかもしれない。 超古代先史文明がなぜ滅びたのか、その正確な理由は分かっていない。 ただ、各地に残されている1万~2万年前の地層に含まれる物質を分析した結果、全宇宙規模の星間戦争が行われていた可能性が高いとみられていた。 ゆりかごが浮上する前ならば、それは神話に語り継がれるうちに描写が誇張されていった、おとぎ話のようなものと一笑に付されていたかもしれない。 しかし、JS事件によってそれがおとぎ話では済まない可能性が出てきた。 第97管理外世界にも、たとえばアトランティスやムー、ラーマーヤナなどの、いわゆる古代核戦争説を示す伝承は残っている。 当時の次元世界が、現代人の想像をはるかに超える科学技術を駆使し、宇宙戦争を行っていた可能性は否定できない。 「聖王家でも手を加えることができなかった部分がある。そこの分析を私のところではこれまで進めてきた──古代ベルカ人が、あの船を発掘して使い始める前のものをね」 「魔力残滓の分析で?」 「半減期が短すぎて使えない。放射性元素年代特定法では、1万4千プラスマイナス1500年という結果が出た。年代的には合致する。 第97管理外世界に伝わる伝承では、宇宙からやってきた神の船という記述を数多く見ることができる。これが我々の考える次元航行艦ではないとは、あながち言い切れないだろう」 「ゆりかごはかつて第97管理外世界にも進出したことがあると」 「可能性は高い。そして、聖王家が自分たちのクローニングに用いていた装置も、これも彼らが独自に開発したものではない。ゆりかごにもともと備わっていたものだ。 これは現代の技術をもってしても再現不可能だ。ゆえにロストロギアに該当した」 「解析、復元のめどは?」 ユーノの質問に、スカリエッティはテーブルに肘をついて口元を歪めた。 「できあがるものの“姿かたちにこだわらなければ”すぐにでも可能だ。何しろ現在稼働している現物が見つかったのだからね」 その言葉に、ユーノもヴェロッサも神妙に、見つめ合い沈黙する。 互いに向け合う表情に、現代の次元世界人類が恐るべき禁断の扉を開けてしまったという事実の実感がにじみ出ている。 聖王家が、生命操作のために用いていたレリックウェポンは、バイオメカノイドの製造システムと全く同じであった。ゆりかごに残されていたバイオメカノイドの孵卵器(インキュベーター)を、人間に転用したのだ。 「第511観測指定世界に、すでに準同型艦の存在が多数発見されている。 昨日、ミッドチルダ海軍のトゥアレグ・ベルンハルト少将の署名入りで正式な報告書が時空管理局本局に届いた。現在同世界において遭難者救助と惑星TUBOYの監視を行っている艦から、同惑星内部で多数の艦艇が発進し、そして建造されつつあることを観測した」 「アルザスを襲ったのも」 「おそらくその可能性が高い。彼らは惑星TUBOYの資源をほぼ使いつくし、新たなエネルギー補給の必要に迫られているはずだ。 今の状態では、どこの次元世界に突如出現してもおかしくない」 アルザス政府の依頼に基づき、ミッドチルダ海軍は空母機動部隊の出撃を決定した。 管理局からの、大規模な艦隊出撃はひかえてほしいという要請をおしての出撃となる。 戦略級次元破壊兵器の使用ができない以上、惑星全体に広がってしまったバイオメカノイドを掃討するには空母艦載機および艦載魔導師による航空攻撃しかない。 通常のタスクフォース8個艦隊に相当する、空母8隻および巡洋艦32隻、攻撃型次元潜行艦16隻の艦隊がアルザスに派遣されることになった。 この時点で、アルザスが完全にバイオメカノイドに覆われる前に対処することは不可能となり、ミッドチルダ艦隊の到着は年明けになるとミッドチルダはアルザスおよび管理局に通告した。 「選抜執務官にとってはまさに格好の事件だろう。旧来の防衛体制で対処が不可能な事件に対し、その力を誇示する。 ミッドチルダとしても本当に空母部隊をぶつけるつもりは無いのだろうね」 「アルザスの世界は」 「惑星自体は残るだろうが、はたして住めたものかね。テラフォーミングで環境を修復するよりも、そこで生存できるように遺伝子改良をした方が手っ取り早いと私は思うね」 いかにもスカリエッティらしい言い分である。 しばしため息をついて茶菓子に手をつけ、やがてヴェロッサの携帯電話が鳴った。 右手に通信ウインドウを出すと、次元航行艦隊司令部からの入電だった。 ヴェロッサとも顔なじみの、いつもの若い女オペレータの顔が映る。 「アコース査察官だ。どうしたんだい?」 「管理局近衛艦隊所属、ヴォルフラムより入電です。現在次元間航路を航行中、本局への到着予定時刻は明朝0730とのことです。 それから──、ヴォルフラム艦長八神はやて二佐が敵バイオメカノイドとの戦闘で負傷し意識不明の重体、シグナム一尉以下ヴォルケンリッター4名、全員──戦死と」 慄いた声色で、オペレータはヴォルフラムからの報告をヴェロッサに伝えた。 ユーノもスカリエッティも、報告の内容を理解し、神妙に通信ウインドウを見つめる。 「それは確かか」 「はい。指揮を代行しているエリー・スピードスター三佐からの報告です」 「わかった。レティ提督にもよろしく頼む。ご苦労様」 「はい──」 通信を閉じ、数秒ほど息を詰め、やがてゆっくりと吐き出す。 痛恨の損失である。 はやてとヴォルケンリッターは、元機動六課メンバーの中では最大の戦力であった。 なのはとフェイトの二人もかなりのものだが、単独での総合戦闘能力でははやてが群を抜いていた。 襲い来るであろう大量のバイオメカノイドを相手にして、はやての広域殲滅魔法が大きな力になると見込まれていたが、その選択肢は使えなくなってしまった。 「──マリーに連絡だ。クラスタードデバイスで闇の書の解析作業を再開する」 ユーノは腕を組んで口元を隠し、眼鏡の奥で眼光をきらめかせた。 「八神二佐以外にも夜天の書を使えるようにするのかね?」 「守護騎士システムの再起動をする。デバイスとしての能力はこちらのものが闇の書を超える。はやてには悪いが──これはチャンスだ」 夜天の書は、現在はやてが持ち、ヴォルフラムに搭載されている。 しかしすでに、はやての協力によって大半のデータをバックアップすることに成功していた。 データそのものはコンパイルされた機械語の術式プログラムだが、それを走らせるための実行環境はほぼ組み上げられている。あとは実際にプログラムを走らせ、起動することを確認すればよい。 「術式の読み込みは5分でできる。必要ならヴォルフラムが到着してから人工魂魄のリッピングとデクリプトを行いデータを吸い出す」 本来の守護騎士システムは、魔法によって作成されたプログラム生命体であり、そのプログラムが走るハードウェアさえ無事ならば何体でも作り出せる。 もちろん4体だけとはいわない。魔力さえ供給できるのならコピーを取ることもできる。 闇の書の破壊に伴い、再生能力を失いつつあったヴォルケンリッターだが、今、それを新たに再構築することが可能になった。 そのデバイスは管理局が新たに建造したものである。 ユーノが提案したクラスタードデバイスシステムは、闇の書を超える大型大容量デバイスをつくり、闇の書に備わった独自の機能を現代の技術で再現することを目標にしている。 再現が可能になれば、それは失われた技術ではなくなり、闇の書はロストロギアではなくなることになる。 そして同時に、闇の書が幾千年にもわたって続けてきた次元の旅の過程で得られた、ロストロギアをこの世に遺した超古代先史文明の手がかり──それをも、入手することができるだろう。 管理局の技術者たちが点検をしている実験モジュールのフロアの中には、数えてきっかり3万2千7百6十8冊もの魔導書が収められて巨大なスーパーコンピュータークラスターが構成され、それは闇の書に生まれ変わる。 第97管理外世界から虚数空間へ移動したヴォルフラムは、本局まであと10時間で到着可能な位置までたどり着いていた。 バイオメカノイドによる追尾もなく、ひとまずは無事に帰れそうである。 当直に立っていたルキノに、医務室からの緊急コールが届いた。 「こちら発令所、モモさんどうしました?」 「大至急、副長をお願いします!艦長が、八神艦長が──!」 切迫したモモの声に、ルキノは胸が絞まり、全身から血の気が引くのを感じ取った。 「わかりました、すぐに向かいます!ポルテ、副長を起こしてください!緊急事態です!」 「は、はいっ!」 フェイトとともに医務室に向かったエリーは、装置に立てられた治療ポットを見た。 5台のポットには、はやてと、ヴォルケンリッターたちが入っていたはずである。 「これは……」 そこには、空のポットがあった。 左端に、はやてが入った小さなポットがある。 しかし、残りの4台のポットには、何も入っていなかった。 透明な魔力溶液だけが、静かに揺れていた。 何も無かったわけではない。ヴォルケンリッターたちが着ていた管理局制服──騎士甲冑を装着したまま意識を失ったため脱がせることができなかった──が、服だけの状態でポットの中で揺られていた。 これが示す状況とは、ヴォルケンリッターの肉体が完全に消滅してしまったということである。 ヴィータが入っていたはずのポットには、うさぎのぬいぐるみが縫い付けられた帽子が、ポットの底に沈んでいた。 フェイトは言葉を失い、ひざが崩れて、その場にへたり込んでしまった。 何度も死線をくぐってきた戦友であった。かけがえの無い人間であった。 消えてしまった。 死んだ──そう表現していいのかわからない。 彼女たちは、人間になりつつあったはずだ。人間と同じように、言葉を交わし、心を通じることができた。 共に笑い、共に訓練し、共に戦ってきた。 それは人間であったはずだった。 「そんなっ……モモ軍医、いったいどうして、凍結できていたはずじゃ……」 「わかりませんっ、ほんの、ほんの1分もしてないんです、消毒薬の片づけをしてて、それでふと見たら──」 「──フェイトさん、見てください。ポットには誰も触れていません、スイッチは入ったままです。生命維持装置は動き続けています」 「じゃあっ、どうして」 「──考えられるとすれば」 言いかけて、エリーは言葉をつぐんだ。 これはそのままフェイトには言えない。 考えられる可能性としては、はやてが自ら守護騎士システムをシャットダウンしたということである。 守護騎士がその行動に支障をきたすほどの重大な損傷を受けた場合、プログラム生命体は肉体を新たにつくりなおすことが可能である。 実際、過去の闇の書として活動していた時代にはそれはごく当たり前に行われていた。 人間の魔導師なら不可能である、帰還を前提としない特攻作戦を行い、肉体が破壊されても、主の魔力があるかぎり何度でも復活できる。 そういう戦い方を、過去のヴォルケンリッターたちは経験している。 しかし、闇の書事件によってその機能は失われたはずだった。 今のヴォルケンリッターは、その外見とおおよその肉体は、人間と変わらなくなってきているはずだった。 それでも、目の前で起きたことは事実である。 「──定時報告の時間です。本局へ報告を──殉職者を4名、追加します」 エリーが重く告げる。フェイトは何も言えなかった。 治療ポットの中で魔力溶液が揺れる、かすかな水音だけが、ヴォルフラムの医務室に漂っていた。 エリーははやてのメディカルチェックをやり直すようモモに言い、報告書の再作成に取り掛かった。 はやての容態は今のところ安定しており、リンカーコアの出力はやや回復している。 それが肉体の治癒によるものか、ヴォルケンリッターの存在を維持するための負荷がなくなったからなのか──は、はやてのみぞ知るところである。 治療ポットのカプセルの表面をそっとなで、エリーは胸の中ではやてに呼びかけた。 意識を失っている状態では念話も通じない。そっと、はやての貌を見つめる。 ここからどう、立ち上がるか。 バイオメカノイドは、肉体なしにリンカーコアのみで生きる可能性を自分たちに示した。バイオメカノイドの声を聞いたのは、エリーとはやての二人だけである。 この状態からどうやって命をつないでいくか、はやてならどう考えるだろうか──エリーは、胸の詰まる思いだった。 管理局に勤め、戦闘魔導師として前線に出る人間で、その時が来ることを考えない者などいない。 毒吐きのスピードスターとあだ名されたこともある、裏腹に心に仮面を被っていた自分を、はやては気にせず迎えてくれた。 忌憚なく、腹を割って話し合える友人だった。 2つ違いの後輩だったはやてを、ずっとずっと見ていた。 それなのに、今、考えを思い浮かべることができない。 心が通じるなどというのは幻想だったのか。うわべだけの関係だったのか。 そんなことはない、と、強く想う。 八神家のパーティーの思い出、士官学校の同期会で遊び明かした夜の思い出。同じ寮の部屋で、寝食を共にした思い出。毎晩、消灯時間になるまでずっと勉強していた。 ずっと、はやてを見ていた。 今ここから、どうやって、よみがえる。 はやては絶対にあきらめていない。 夜天の書は健在である。新たな主を探して転生を始める気配は無い。 はやてはまだ、生きている。 そして、守護騎士システムも、生き続けている。 それは希望であると同時に、生きようとする意志がときに死よりも恐ろしいものを生み出してしまうという現実を、この世に見出しつつあった。 ヴォルフラムからの報告を受けて、管理局ではクラスタードデバイスによる闇の書復元プログラムを起動させる。 次元世界人類が建造した史上最大の儀式魔法である。 これを使えば、はやての命を救い、シグナムやヴィータたちの命をよみがえらせることができる。そして、バイオメカノイドに打ち勝つ事ができるだろう。 しかしそのとき、人間が人間の姿を保っている保証は、無い。
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前回までのあらすじ 神聖ロサール王国の自治都市リターマニアの生け贄、「神の御心」に当選したスビアを助け出すため、友人であり警備隊長のドロス、その伴侶タローニャを出し 抜き都市を抜け出した自衛官片桐。たちまち、6000サマライのお尋ね者になってしまう。船を手に入れ通りすがりのミストを雇って、首都ヴァシントを目指 す。しかし、ミストは海賊のメンバーで、海賊船に遭遇する片桐だが、あっさりと海賊を降参させ、彼らは進んで片桐の部下になる。 ヴァシント沖で 海軍に捕捉された片桐だが、客人としてグンク・シュブに招かれた。そこで彼は、自分を罪人とし、スビアを生け贄としたリターマニア評議会が否定されたこと を知る。グンク・シュブは一見、善良な王に見えたが、ずる賢い政治家だった。会談のさなか、スビアを含めた「神の御心」当選者が北方のウィンディーネに拉 致されたという情報がもたらされた。 片桐は自ら志願してウィンディーネへの潜入を承知し、グンク・シュブは剣士であり国務長官のパウリスを同行 させる。だが、この作戦はグンク・シュブの邪魔者を追い払うことだけにすぎないことをパウリスから聞く。政治闘争に巻き込まれた片桐だが、ウィンディーネ の女王セイレースと出会い、神聖ロサール帝国の真実の姿を知ることになる。パウリスも少なからずショックを受けるが、3年前に「神の御心」に選ばれた親族 パロウスの生存を見せつけられ、セイレースを信じる。 セイレースは片桐とスビアの愛を確かめ、彼らに協力することを申し出た。パウリスを包囲下のリターマニアに送り、グンク・シュブの野望を明らかにすると共に、片桐たちをヴァシントにある「ロサールの聖地」に送ってくれた。 聖地で片桐たちが見たのは、神聖な神殿ではなく、ロサール人の集団墓地のような場所だった。興味本位で彼らの棺桶に入った片桐は彼らの記憶をかいま見る。それをスビアに話す前に、グンク・シュブに見つかり、彼の飼育する伝説の魔人オーガの罠に落ちていった。 永遠に落ちていくかと思われた2人だが、その高さは大してないことがわかった。3,4メートルだろうか。少なくとも足を骨折するほどではなかった。 「スビア、怪我はないかい?」 「ええ・・・」 起きあがって周りを見渡すと、暗くてよくわからないが大きな地下室のようだった。どこか見覚えがあるような気がした。暗くて全貌は見渡すことはできないが、デジャビュのような感じで彼の記憶の奥底に残っている光景だった。 「ここはオーガの巣の1つだ。オーガは貴様のゲベールでは死なない。首を切り落とさないかぎりな。せいぜい楽しめ!」 またどこからともなくグンク・シュブの言葉が聞こえてきた。どうやら、ここの様子をどこからか見ているようだ。片桐は近くのドアを調べてみたが、外からカギがかかっているようで開かない。 「ここは・・・」 スビアもまた、どこかで見たこの部屋を思い出したようだ。片桐も思い出していた。セイレースが見せてくれたあの、おぞましい記憶の映像に出てきた部屋だ。 「ぐるるるる・・・・・」 聞いたことのある、あのおぞましい声が聞こえ、暗闇の向こうに4つの光る目が見えた。片桐はスビアを部屋の奥へと後退させ、89式を構えた。グンク・シュ ブが彼を武装解除もしないままにここに放り込んだと言うことは、彼の手持ちの武器ではこいつらに歯が立たないであろうとグンク・シュブが確信していること を示していた。 「くそっ!」 とりあえず、単発で化け物の胴体に数発撃ち込んだが、まったく通用しない。一応命中はしているようだが、痛みを感じる感覚がないみたいで、全然ひるむ様子もない。 「くそ!首を斬るって言っても、銃剣で斬れるわけがねえ!」 思わず悪態を叫びながら、さらに数発撃ち込むがオーガはびくともしない。少しずつ片桐に近づいてくる。彼らの間合いに入るのも時間の問題だった。 「首を斬る・・・首を斬る・・・首を切り離す・・・・切り離す・・・・あっ!」 グンク・シュブの残したヒントをつぶやきながら片桐は思いついた。発想の転換をすればどうということはない.。 「よし!さあ、かかってこい!」 いきなり、片桐はオーガを挑発し始めた。通じるはずもない中指を立てて見せたり、唾を吐いたりして思いっきり挑発した。 「片桐!何をしているのです?」 部屋の隅まで後退したスビアが片桐の狂ったとしか思えぬ行動に声をあげた。それを無視して彼は化け物に向かって挑発を続けた。 「さあ、こい!足りない脳味噌で何考えてる!さっさとこい!」 言葉が通じるはずもない怪物でも彼の挑発がわかったらしい。気持ち悪い叫び声をあげると一気に間合いを詰めるべく走り出した。それを見逃さず、片桐は89式の5・56ミリ弾を連続して怪物の頭に撃ち込んだ。 至近距離からの二十数発の弾丸は強力な皮膚に守られたオーガの頭部を完全に吹き飛ばした。化け物はそのまま仰向けに倒れた。 「ははは!ざまあみろ!ほら!遠慮するな!かかってこい!」 残ったもう1匹も片桐の挑発と仲間を殺された怒りから、彼に襲いかかったが、マガジンを交換した89式の弾丸に同じく頭部を吹き飛ばされて倒れた。 「すごい!片桐!」 意外な展開に思わずスビアが声をあげた。片桐は2匹のオーガが完全に息絶えたことを確認してマガジンを交換した。コロンブスの卵だった。「首を斬らないと 死なない」とは言ってみれば、固定観念の産物だった。白兵戦でオーガの首をはねるのは容易ならぬことだろう。白兵戦を戦う武器のない片桐にとってそれは一 見、至難の業に思えたが、首を斬るのと同じ結果をもたらすのは彼の手持ちの武器で十分可能だった。今頃グンク・シュブは顔を真っ赤にして怒っているだろ う。そしてすぐに次の手を打ってくるに違いない。 「まだ終わってないよ」 そう言って片桐はバックパックから手榴弾を取り出し、信管を短く切った。それを外界と彼らを隔てるドアにピンを抜いて仕掛けた。仕掛け終わるとすぐに大勢の足音が聞こえた。 「さあ、下がって」 片桐は興奮するスビアを下がらせて待った。派手な花火を見せてやる。 「くそ!こうなれば、親衛隊の名にかけて一気に押し包むぞ!」 グンク・シュブの親衛隊らしき声が聞こえてドアが開かれた。数十名の抜刀した兵士がどやどやと地下室に入ってきた。次の瞬間、片桐の仕掛けた手榴弾が炸裂 した。煙と絶叫のあがるドア近辺に数発撃ち込んで、片桐はスビアの手を取って走り出した。ドアの付近には人海戦術で彼らを押し包もうとした抜刀した親衛隊 の無惨な死体があったが、それを越えて階段を登った。 階段はすぐに終わり、守備隊の休憩所らしきところに出たが、そこは無人だった。グンク・シュブは事態の急変を悟って逃げたようだ。この場から逃げたとはい え、彼の最終目的はわかっていた。強力な艦隊を率いてアムターやガルマーニ、才蔵の村を「神の名において」征服するのだ。一刻も早く、彼らのところに帰っ てそれを知らせなければならない。2人は休憩室の奥にあるドアを開け、その先の階段を駆け登った。 思ったより、あっさりと2人は「聖地」の外に出た。すばやく、上空のショークに報せるべく発煙筒を発火させた。いつしか夕闇の迫るヴァシントの空に発煙筒の煙が一筋あがった。夕闇の空にショークの操るクランガートが見えた。 「いいぞ!こっちだ!」 ショークの操る怪鳥はまっすぐ片桐の方に向かっていた。だが、数百メートル手前で警備隊が放ったゲベールの一斉射撃を受けた。ショークらしき操縦者が怪鳥 から落ちるのが見えた。操縦者を失ったクランガートはそのまま北方へと飛び去った。それはあたかも、2人の希望が飛び去っていくようにすら思えた。セイ レースの忠実な部下は彼の女王の元に帰ることはできなかった。 「なんてことでしょう・・・」 脱出の手段を失ったスビアが絶望の声をあげ たが、まだ片桐はあきらめていなかった。すばやく、聖地前の広場を見回した。大きな広場は野球場くらいの広さだった。その先に巨大な石の門が見えた。その 向こうは田園地帯が広がっている。この先がヴァシント市のようだ。見ると、その正門らしき石の門をくぐってボスポースに乗った騎兵隊が数騎、駆けてくるの が見えた。 「あいつを奪おう!」 そう言って片桐は単発で次々と騎兵を撃ち倒した。マガジン1本で10騎の騎兵を全滅させた。その中に生き残った無傷のボスポースを見つけるとスビアを乗せて颯爽と駆け出した。目的地は港だった。六本足の馬はすばらしい速度を出しながらヴァシント市内に入った。 「どけ!危ないぞ!」 市内に入って通行人をかき分けながら六本足の馬、ボスポースは疾走した。さすが親衛隊の愛馬で、その速度はかなりのものだった。その証拠に時々遭遇する歩兵隊のゲベールはあまりのすばやさにまともに命中しなかった。 「片桐!どこへ行くのです?」 疾走するボスポースの背中でスビアが叫んだ。 「港だよ!俺の部下が待ってるはずだ!」 彼の部下はみんな元の世界に帰ったはず・・・。いったい誰だろうとスビアは疑問に思ったが、片桐の自信満々な答えに彼を信じることにした。 「おい!見ろ!キャプテンだ!」 市街での騒ぎに気がついていたミストが波止場で叫んでいた。他の海賊たちもボスポースで駆けてくる彼らのキャプテンに気がついたらしい。ヴァシント兵は彼 らを拘束することもしなかった。おかげで彼らはゆっくりと彼らのキャプテンの帰りを待ちながら出航に備えて英気を養うことができた。 「キャプテン!早く!」 口々に叫ぶ部下のところまでボスポースを乗り付けた片桐はすぐに船を出航させるように命じた。部下たちは長いこと待たされたうっぷんを晴らすようにてきぱきと準備を始めた。 「キャプテン・片桐の出航だ!」 「キャプテン!目的地はどこです?」 準備の合間も次々と指示を求める部下の声があがった。それを聞いてスビアが怪訝な顔をして言った。 「片桐、わたくしの知らない間にあなたは海賊になっていたんですか?」 「いや、これにはいろいろと事情があってね・・」 言い訳する片桐の言葉を遮るように準備を終えたタリマが大声をあげた。 「よーし!海賊旗をあげろ!出航だ!」 その声を合図に上げられた三等陸曹を模した旗を見たスビアが驚きの表情を浮かべ片桐の方を見た。その間に、やくざな海賊船は出航した。間一髪、ボスポース に乗った親衛隊が港に到着する直前の出港だった。一息ついて、背中に抱えていた弾薬と食料の入ったバックパックを甲板におろしながら片桐がいいわけがまし くスビアに言った。 「まあ、いろいろと成り行きでね・・・・・」 その言葉にもスビアは納得していないようだったが、それ以上説明のしようがない。そこへミストがやってきた。無事な彼のボスの姿と、見慣れぬ聖女の姿を交互に見ながら彼は言った。 「キャプテン、よくぞ戻られました!こちらは?」 「ああ、アムターの聖女スビアだ」 気まずい雰囲気を感じながらミストにスビアを紹介した。ミストは聖女の名を聞くや、片桐に対して以上に服従と尊敬の姿勢を示した。 「これは、聖女様!キャプテンのご伴侶とは存じませんで大変失礼をいたしました!」 海賊とは思えないあからさまな平身低頭ぶりにスビアは思わず笑った。 「片桐、とんだ海賊のリーダーになったものですね」 その時、やくざな海賊船のすぐ近くで水柱があがった。軍港を出た艦隊が追跡を開始したのだ。甲板の後方で見張りをしていたトータが叫んだ。 「グンク・シュブの旗艦も混じってますよ!キャプテン、いったい何をやらかしたんです?」 虎の子のオーガを殺され、自分の王権を保証している古代ロサールの秘密を見られた以上、片桐とスビアを世界の果てまで追いかけて殺すつもりのようだ。50 隻を越えるコルベットの追跡を受けながら、片桐はパウリスの待つリターマニアへ船を走らせた。おそらく、フェルドの艦隊に封鎖されているだろうが、小舟の 俊敏さでどうにか接近できるかもしれない。 片桐の楽観的な考えは2日後、リターマニア沖で打ち砕かれた。都市の沖は50隻以上を数えるフェルドの艦隊でアリの這い出る隙もなく封鎖されていた。 「キャプテン、まずいです。このままじゃ追跡の艦隊と挟まれる!」 トータが叫んだ。それを確認するまでもなかった。海上封鎖している艦隊は、片桐の船を見つけて追跡艦隊とで挟み撃ちにしようとしていた。一部、岬に隠れた伏兵を残して彼を追跡するようだ。 「このまま西に向かえ!南に向かって西海岸へ抜けることができるはずだ!」 だが、船はリターマニア包囲艦隊の射程に入ってしまったようだ。次々と水柱があがった。片桐の指示を聞き取れなかったトータが操舵室から出てきた。 「キャプテン、なんですって?」 その時、至近弾が船を襲った。すごい揺れが片桐たちを甲板に転がした。 「きゃあ!」 甲板から海に落ちそうになるスビアをどうにか抱えて転落から守った。が、そのスビアが声をあげた。 「あっ!弾薬が!」 見ると、片桐が背負っていたバックパックが海に落ち、いくつかの泡を残して沈んでいった。今や、彼に残されたのは、89式に差し込んだマガジンと、腰の9ミリだけだった。残りの弾薬はアムターのトラックにあるばかりだ。 「キャプテン!」 トータの悲壮な叫び声で片桐は振り向いた。見ると、海賊の部下が4人とも海に投げ出されている。トータがさっきまで操縦していた船は彼の残留のポルでゆっくりと走って、彼らから離れている。 「待ってろ!」 片桐はいささか賢さに欠けるが忠実な部下を救うべく船を止めようとした。だが、それをおぼれかける部下が止めた。 「キャプテン!逃げてください。敵がきます!」 「俺たちはいいから!聖女様を連れて逃げてください!」 彼らの言葉通り、状況は切迫していた。今や、フェルドの包囲艦隊が片桐の船を射程に収め迫っている。次の攻撃は間違いなく小さな海賊船をこっぱみじんにするだろう。断腸の思いで片桐は目に付いた浮かびそうなものを片っ端から泳げない部下に投げた。 「死んでも岸まで泳ぎ着け!」 そう叫ぶと片桐は自衛隊式の敬礼を、どうにか彼の投げた浮遊物に捕まった部下に捧げた。今の彼にできる精一杯の敬意だった。スビアがそれを認めて操舵室に入り、彼女のポルで出せる限りの速度を出して西に向かった。 「キャプテン!聖女様!どうかご無事で!」 ミストの叫びが2人の背中に届いた。片桐もスビアもその声に振り返ることができなかった。 グンク・シュブの艦隊と、フェルドの艦隊を水平線の向こうに見るまで引き離したスビアは少しスピードを緩めた。果たして、ミストや他の海賊たちは無事なの だろうか・・・。短い間だったが、彼らとは心通じ、信頼関係を(彼らにとっては自発的な服従だが)築いていたのだ。その心配を察したのか、スビアが操舵室 から片桐に声をかけた。 「片桐、あなたが「聖地」で見たものを教えてくれませんか?」 彼女の言葉に片桐も操舵室の彼女のそばに座った。彼の見たものをスビアに話していいものか、少し迷っていたが、下手な嘘をつくよりもいいと思った。 「見えたんだ、古代ロサールの人々の記憶の断片が・・・」 片桐は話し始めた。古代の偉人のたどった末路を・・・。 ロサールは繁栄の絶頂を極めていた。ヌーボル、コロヌーボルのいずれも支配し、市民は魔法文明と占領地からもたらされる富を享受していた。その繁栄の中、 さらなる快楽を人々は求め始めた。不老不死。精神的、肉体的、物質的な苦しみからの解放だ。そして、それら苦しみの原因は最終的に、肉体の維持、肉体に 宿った有限の生命そのもの、すなわち「生と死」が根元であるとされた。有限の生命の中で人々は富や快楽を求め、時には他人とその利益が衝突する。それらを 超越してこそ、究極の繁栄と快楽を享受できると考えた。魔法学者は長年、研究を重ねた。 ついに、学者たちは、人間が持つ究極の苦しみである 「死」を逃れる装置を開発した。人々はそれに群がった。強力なポルを持つ学者階級が先導して、市民階級は究極の装置にこぞって押し寄せた。そして、その装 置は稼働を始めた。人々は肉体の苦痛を、有限の生命を持つという根本的な恐怖から逃れて永遠の精神世界へ旅立とうとした。ヴァシントの聖地だけではない。 多くの都市で多くの市民が同じ装置に飛びついて精神世界の快楽を求めた。半数以上の市民がその装置で、限りある命を持つ肉体からの束縛を逃れ、悠久の快楽 に身を投じ始めた時、ある学者はこの装置の根本的な欠陥を発見したが、市民たちはそれを省みることはなかった。少々のリスクよりも、「永遠である」と定義 された快楽におぼれたのだった。 結果、ほとんどすべての市民が永遠の快楽を求める装置に入り、その欠陥で死んでいった。欠陥とは、ごくごく基本 的なレヴェルのものだった。この装置の原動力もやはりポルだった。そのポルを制御する者が装置の定員いっぱいに人々を迎え、人々を精神世界へ旅立たせる と、その制御する役目の者も旅立った。 制御者がいなくなった装置は暴走し、人々は死んでしまった。欠陥の可能性を訴えた学者たちですら、置いて いかれることを恐れてリスクを覚悟して装置に入った。それだけ人々は新たな、究極の快楽を求めていたのだ。各地の装置が同じような暴走を始めたとき、ロ サールの運命は突如として決したのだ。 究極的な繁栄は、さらなる繁栄と快楽を求めた欲望によって、ある日突然、滅亡を迎えたのだった。それが謎 とされたロサール滅亡の真相だった。わずかに生き残ったロサール人は各地に散って現地人と混血を繰り返し、わずかに残された魔法を今に伝えたのだ・・・。 片桐がかいま見た記憶は、あの巨大な「墓場」に眠った人々の残留思念とも言うべき、ポルの残り物から伝わったのだ。 スビアは片桐の話を黙って聞いた。そして聞き終えるとその場に座り込んだ。 「なんてこと・・・・。神に等しいロサール人がそんなことで滅びたなんて」 片桐は悲嘆にくれる聖女を後ろから抱きしめた。彼には、グンク・シュブの話を聞いたときから、うすうすはわかっていたことだが、彼女がそれを受け入れるのはつらいものがあるだろう。言葉を選びながら片桐はスビアに優しく言った。 「魔法で世界が平和になれば誰も武器を持つこともないかもしれない。でも、そんな世界はひょっとしたらものすごく、窮屈で自由のない世界かもしれない」 「でも、その平和を求めたわたくしが行くところ行くところで多くの人が死にました・・・。わたくしのせいで・・・」 どうにか立ち上がって操縦を続けながらスビアが答えた。ちょっと考えて片桐がそれに答える。 「うーん、俺のいた世界から見ると君たちの世界は平和とはほど遠かった。君が訪れたところには結果的に平和と、優秀な指導者がもたらされた。世界を平和にする魔法って、君のような純粋な強い信念を持った人のことかもしれないって、俺は思うんだ」 ちょっと言葉を区切ってまた彼は言葉を考えた。片桐は日本人だ。実際、平和だの戦争だのは教科書や新聞やテレビで見たり聞いたり、教わったりしたが、実感 として感じることはできなかった。だが、この世界の状況は彼が習った平和とは全然違う。平和を求めるために戦わないと人が実際に死ぬのだ。そして平和を守 るために戦わなければならない。それは理屈ではなかった。 「俺のいた世界でも、武器を捨てろとか、国境をなくせば平和になるって言う連中はいたけど、俺は違うと思う。もしも、みんなが武器を捨てても、そんなことで平和はくるはずがない。だって、その武器を拾って平和を壊す連中がきっといるんだから。」 再び、片桐は言葉を止めて少し考えた。 「俺 も向こうの世界じゃただの公務員だし、こっちの世界でもちっぽけな人間だ。世界中をどうこうとかは、今まで考えたこともなかったから、うまく言えないけ ど・・・。偉そうに演説するだけの連中よりも実際に戦って、ちょっとの地域でも、一部の人々に対してでも平和を勝ち取った君の方が、よっぽど立派と思うん だ・・・。うん、きっと、そうだ!」 片桐の言葉を聞いてスビアが思わず吹き出した。大まじめに答えたつもりの片桐は少しむっとした。 「変な理屈だけど、あなたが言うんですもの。そうかもしれませんね・・・」 口べたな片桐が精一杯考えた慰めの言葉を快く彼女は受け取った。 少しの間、2人だけの船を沈黙が支配した。自分の世界での感覚でいろいろと話したことを若干後悔していた。しかしそれは片桐の杞憂にすぎなかった。 「片桐・・・」 前を見つめたまま、スビアが声をかけた。 「ありがとう・・・」 彼女のこの言葉には、聖女として女性として、すべての意味で彼に対する気持ちが込められていた。それを察したがとっさに返事が続かない。片桐がそもそもこ の世界に残ったのは一目惚れした目の前の女性のためだけだった。その彼が今更平和だなんだと言ってもさして説得力がないような気がしていたのだ。だが彼が そう考えているのを悟ったかのように、彼女はさらに言った。 「自分の言葉に自信を持って。あなたは聖女であるわたくしがただ一人、愛した男なのですから。わたくしが村の聖女という域を越えて、この世界を平和にしたいと真剣に考えたのは、あなたという存在があったからです」 彼女も同じ気持ちだった。漠然としていた聖女としての夢を片桐に出会って、彼と一緒に実現しようと初めて思った。強力な力を持ちながら、まるでそれを持っ ていることをためらうような優しさと理性を持つ彼にだったら、自分の漠然とした、大きな願いを託せると思ったのだ。そして彼はその旅に喜んで同行してくれ た。これ以上、スビアの気持ちを奮い立たせるものはなかったのだ。 片桐にとってこの言葉で十分だった。これ以上、何の理屈も必要なかった。たとえ、この旅の最初の目的が無駄だとわかっても。2人には普通の生活では得難いものを得ていた。親愛なる友人たち、そして彼らを慕う多くの人々・・・。そして目の前の最愛の人物。 「操縦を変わろう・・・」 照れくささを隠すように片桐が操縦桿を手に取った。すると、さっきまですいすい進んでいた船がよれよれと減速を始めた。 「ちくしょう、俺じゃだめか」 やはり、片桐にはポルをうまく操る能力が欠けているようだ。それを見届けたスビアは笑いながら再び操縦桿を握った。船は先ほどと同じくスムーズに進み始めた。 「わたくしが動かします。」 「でも、何日もかかるし、君が休む間もなくなってしまう。食料もないし、水だけで何日もポルを使うことはできない。俺が操縦を練習すればいいじゃないか」 そう言う片桐にスビアはさっきまでとは全然別の表情を向けた。もう、悲嘆にくれる顔ではない。決意に満ちた顔だった。 「さっき、片桐が言ったでしょう?平和になって、友好的関係を結んだわたくしの友人が、グンク・シュブの侵略に遭おうとしているのです。一刻も早くこのことを知らせなければいけません」 確かに、彼女の言うとおりだった。グンク・シュブはあの大艦隊を古代ロサールの秘密を知ってしまった片桐たちを抹殺するためだけに動員しているとは思えなかった。その勢いでそのまま、ガルマーニやアムター、才蔵の村を侵略するだろう。 「わかった・・・・」 彼女が迎えるこれから長躯の旅を思うと、とうてい納得できない。しかし、ここまで決意を固めた聖女の決心を変えることも不可能だとわかっていた。片桐は甲板に出て最後に残った手榴弾を手でもてあそびながら海を見つめた。まだ水平線にはヴァシント艦隊は見えない。 「おっ・・・」 船から少し離れた水面に魚影が見えた。飛び魚のような魚の群が通過している。釣り竿でもあれば食料にできるのだが・・・。 「くそ、何もないな」 一応甲板を探したが、漁具らしきものは見あたらなかった。その時、さっきまでいじっていたチョッキに挟んでいた手榴弾がころんと転がった。それを見て、片桐は不意に安全ピンを抜くと、魚群の近くに放り投げた。轟音と水柱が数秒後にあがった。 「スビア!そっちにゆっくり船を進めて」 片桐は慎重に水面を観察した。そして彼の思惑が成功した証拠を発見して思わず歓喜の叫び声をあげた。 「やった!やったぞ!」 水面には数匹の魚が手榴弾が爆発した衝撃で失神して浮かんでいた。昔テレビで見たダイナマイト漁法を思い出して一か八かでやってみた賭だった。今の片桐に できることはこれくらいしかない。それはとても歯がゆく、悔しいことだったができないものは仕方がない。できることで彼女の決意を支えていこうと決心し た。 3日後、ようやく船は西部海岸沿いに到達していた。やはり、休憩なしでポルを消費し続ける船の操縦は負担が大きいようだった。目に見えて船の速度は落ちて いった。この間、片桐はザンガンから習ったテレパシーを使った精神での会話をハルスに、フランツに、才蔵に、エルドガンのタロールに試してみたが、まった くうまくいかなかった。1度だけ、スビアと会話に成功していたが、あれは奇跡的なまぐれだったようだ。今や、ヴァシント艦隊は数キロまで迫っていた。 「あそこに浅瀬がある。そこからガルマーニまで歩こう」 スビアが今にも倒れそうなのを見かねた片桐が声をかけた。 「あそこですね・・・」 そう言って船の向きを変えたところで彼女は倒れた。片桐が駆け寄って抱き上げるが、その顔は真っ青だった。ガルマーニまでそう遠くない砂浜に2人は上陸した。消耗しきったスビアをおぶって片桐はガルマーニに向かって歩き始めた。 「片桐・・・、わたくしを置いて行って・・・、すぐに追っ手に追いつかれてしまいます・・・」 片桐の背中でスビアがつぶやいた。ぐったりとした彼女に片桐は歯を食いしばって前進しながら答えた。 「そんなことは絶対しない、2人でガルマーニまで逃げれば、あの城壁に逃げ込めば当分は安全だ」 彼がシュミリを通過し、ガルマーニを行き先に選んだのはあの城壁だった。あれだけの防備があればヴァシント軍の少々の攻撃も防げるはずだ。アムターや才蔵の村の防備ではとうてい守りきれないだろう。 「え?片桐・・・・?あなたの言っていることが・・・わからない・・・・」 ぐったりとしたスビアが片桐の耳元で言った。まずい、と思った。彼女が極限まで衰弱している証拠だった。この世界ではポルは物質的な魔法だけでなく、様々な生活手段に密着している。片桐たち自衛官が現地の人々とコミュニケーションをとることができたのもこのおかげだ。 ポルは無意識のレヴェルで耳から入ってきた音声情報を脳に伝わる間に、それぞれがなじみの深い言語に変換する。その中で聞き慣れない単語などがそのまま外 国語として伝わるのだ。片桐が聞いているのはスビアの声であるが、厳密には声でないわけだ。「耳で聞く」という行為が、脳を経由して行われているのに加え て、この世界ではさらにポルを介して行われるということだ。 そして、彼女が片桐の言葉を理解できないということは、無意識レヴェルで使用するポルまで消耗したことの証拠で、生命に危険がある状態であると言えた。 「もうすぐだ・・・、もうすぐガルマーニだぞ」 2人は小高い丘を登っていた。これを越えると、ボルマン軍と決戦を繰り広げた平原に出る。ガルマーニの城壁が目にはいるはずだ。 その時、片桐の背後から上陸したヴァシント軍の騎兵が10騎、走ってきた。その向こうには2人が上陸した海岸を埋め尽くさんばかりの100隻近い大艦隊が次々と小舟で部隊を上陸させているのが見えた。 「片桐・・・あなただけでも、早く逃げて・・・」 そう言うスビアを背中から降ろして地面に横たえると最後に残ったマガジンを89式に差し込んだ。3発ずつ、確実に撃ち込んで10騎を全滅させた。5・56 ミリ弾はなくなってしまった。銃声を聞きつけ、次の騎兵が突撃してくるのが見えた。今度は4騎。片桐は腰のシグを抜くと驚くほど冷静に2発づつ撃ち込んで 倒した。 「さあ、行こう」 横たわるスビアに手を出した片桐の右足に激痛が走った。振り返ると、先ほど倒した騎兵がよろよろと立ち上がってゲベールを向けている。彼の撃った弾丸が片桐の右足をかすめたのだ。痛みで思わずその場に座り込みながら、最後の1発をその騎兵の心臓に撃ち込んだ。 「ちくしょう。全部撃ち尽くしたか・・・」 アムターにあるトラックの中に山のようにある弾薬が恋しくて仕方がなかったが、今や彼はほとんど丸腰に等しい。騎兵の突撃の次は、横に並んだ歩兵の前進 だった。海岸線からきれいに整列したままゲベールを持ったヴァシント兵が前進してくるのが見えた。89式を杖代わりにして立ち上がった片桐は、腰の銃剣を それに装着した。 「早く・・・わたくしを置いて逃げて・・・」 スビアの言葉を無視して片桐は銃を構えた。惚れた女1人守れなくて何が自 衛官だ。そう言おうとしたが、今の彼女に片桐の言葉は通じないことに気がついた。目の前、200メートルほどまで近づいたところでヴァシント軍の行進は止 まった。その理由は着剣した89式を構える片桐にもすぐにわかった。 「まじかよ・・・」 思わず、彼はつぶやいた。今、彼の耳にははっきりと聞こえていた。この世界ではまず聞くことのできない音だった。鼓笛隊の太鼓の音と、数百人のたくましい 男の声だった。やがて、軍靴の出す規則的な音も聞こえてきた。ドイツ語の軍歌を高らかに歌いながらやってくる兵団は丘の上に姿を現した。黒革の鎧に身を包 み、一糸乱れぬ隊列で行進している。フランツ率いるガルマーニ兵だった。彼らは片桐たちの横を通り過ぎ、立ちつくすヴァシント兵の一隊まで数十メートルま で接近した。 「全体!止まれ!」 50人横隊が3段になった150人編成のガルマーニ兵は3隊。対するヴァシント兵は100名に満たな い。数の上で不利なことを悟ったヴァシント軍の指揮官は一斉射撃を命じた。次々とせき込むようなゲベールの銃声が隊列で起こった。十数名のガルマーニ兵が 倒れたがその穴を埋めるように後列の兵士が整然と一歩前に進むのを見て、ヴァシント軍は驚いたようだ。 「よし!撃て!」 今度はガルマーニ兵の番だった。訓練度の高い兵士たちは次々とヴァシント兵を撃ち倒した。数の違いと敵の命中精度にヴァシント軍は思わず後退した。戦況を見届け、指揮を別のドイツ人に任せたフランツが片桐のところまで走ってきた。部隊も丘の上まで後退するようだ。 「片桐三曹!生きてたか?」 盟友のドイツ人は銃を構えたまま突っ立っている片桐に飛びついた。そして、倒れているスビアを見るや、彼を突き飛ばして彼女に駆け寄った。 「スビア様・・・。おい!早く車を回せ!」 フランツが丘の向こうに向かって大声をあげた。片桐も足を引きずって丘に登った。ガルマーニ軍が続々と出撃してきているのが見て取れた。平原が一面、彼らの黒い鎧で埋まりそうだった。一体何が起こったんだろう・・・。 「片桐三曹、ハルス大尉が待ってる。司令部へ行こう」 フランツはスビアと片桐を車に乗せると丘を下った司令部に向けて出発させた。 ガルマーニ軍の司令部は大きなテントで覆われていた。その周りには元親衛隊のドイツ兵が迷彩ヤッケを着て警戒している。 「衛生兵!」 フランツが司令部前に車を止めさせて大声を出した。慌ててドイツ人衛生兵と数名の兵士が駆けつけた。 「中尉、スビア様ですが・・・」 衛生兵がフランツに声をかけた。彼は衛生兵の胸ぐらをつかんだ。 「助かるのか?どうなんだ!」 「はあ、極度に消耗されているので点滴と睡眠で十分回復します」 それを聞いて片桐もフランツもほっと胸をなで下ろした。衛生兵は片桐の足も診察した。 「ああ、かすっただけです。どうということはないですね」 そう言って衛生兵は包帯を足に巻いた。どうにか引きずりながらだと歩けるようだ。片桐はそのまま、フランツと司令部のテントに入った。中にはハルスとサクートがいた。 「おお!無事だったか!」 ハルスとサクートが代わる代わる握手を求めた。片桐はフランツを含めて3人にこれまでの旅の経過を報告した。だが、古代ロサールのことだけはまだ、話す気になれなかった。それを話すかどうかは彼が決めることではない。スビアが決めることだと思っていた。 「夜には才蔵殿の部隊も到着する。君も少し休んでおけ」 ハルスはそう言って、司令部の隅っこのソファーを片桐に勧めてくれた。ハルスの好意に甘えて彼は横になるとそのまま眠り込んだ。 夜になって、才蔵率いる武士団が司令部に到着した。たいまつを持って甲冑の当たるカチカチという音が夜の平原に響いていた。彼の率いる騎兵隊の機動力は平原の戦いですばらしい戦力になるだろう。 「片桐殿!無事で何よりでした!」 才蔵は親友の手を取って再会を喜んだ。その中にあって、片桐だけ、いまいちこの状況を理解できていなかった。なぜ、これほどまで手際よくみんなが部隊を率いて集結できたかを、だ。 「片桐三曹、君の知らせがなければ我々はあの大軍を無防備で迎えるところだったんだよ」 ハルスの言葉に片桐はきょとんとした。そして数秒たってようやく、船上でどうにかテレパシーで危機を知らせようと挑戦したことを思い出した。 「片桐殿とスビア様が船でこちらに向かっていることはわかりましたが、正確にはどこに、いつ到着するかまではわかりませんでした。そこで我々は話し合って、各地に偵察隊を出し、いつでも出動できるように準備していたのです」 才蔵がこの手際のいい展開を解説してくれた。それに続いてフランツが言葉をつないだ。 「もうちょっと君がポルの使い方が上手だったらよかったんだが、相変わらず、魔法のたぐいは下手くそらしいな・・・」 その言葉に司令部の一同が声を出して笑った。それを聞いて片桐もようやくリラックスできた。やっと友のところに帰ってきたと実感できた。そして自分の努力がちょっぴり報われたことをうれしく思った。 「ハルス大尉!」 司令部に連絡士官が入ってきた。ドイツ国防軍式の敬礼をハルスと交わした。 「先ほど、スビア様がお目覚めになりました。すっかり回復されたご様子です。こちらにお連れいたしました」 士官の報告を聞いて片桐は胸をなで下ろした。一時は、コミュニケーションができないまでに彼女のポルは長躯の旅で消耗していたのだ。これだけ短期間に回復したのが驚きだった。彼女は見た目にも完全に回復していた。司令部に集った一同が彼女を迎えようと起立した。 「スビア様!もうよろしいのですか?」 才蔵の言葉に笑顔で頷きながらスビアは司令部のテントに入ってきた。 「片桐、あなたがヴァシントで見たことをまだお話ししていないでしょう?お話ししてください」 開口一番の聖女の言葉は片桐のとった行動を見事に見抜いていた。この件に関しては片桐はスビアと一緒にしか話すつもりはなかった。そして今、その許可が下りたと感じた。 「実は・・・」 片桐は彼らが見た、古代ロサールの滅亡とグンク・シュブの野望について語った。 一通り、片桐の話を聞いた一同は静まり返った。古代ロサールを神とあがめるグンク・シュブの権威は否定されるだろうが、現実には100隻近い艦隊と1万名 近い兵員がまだ彼にはある。そして、彼の神を逆手に取った権威を打ち崩すための証言者は片桐とスビアだけだった。もしも、ヴァシント軍にそれを伝えたとこ ろで、「謀略」と言われるのは目に見えていた。 「でも、リターマニアに行ったパウリスがいるじゃないか」 フランツの言葉に元海軍のハルスが残念そうに首を振った。 「海 上封鎖は都市から見れば、解かれたかもしれないが、海上に伏兵の艦隊が残っている。そいつらをどうにかしない限り、彼らがここまで到達できるとは思えな い。この世界の艦船は搭載砲が少ないようだし、奇襲を受けたら案外もろいみたいだ。伏兵に襲われればそれまでだろう。それに来たところでどうする?やつら の船に乗り込んで1人1人説得するか?」 さすがの才蔵も腕を組んで考え込んでいる。いかに精鋭揃いとは言え、数が違いすぎる。しかもヴァシント軍は海を背中に陣取っていた。その沖には大砲をこちらに向けた艦隊がいるのだ。 「敵 は1万に100隻の艦隊だ。こっちはせいぜい3000。戦車も6台。戦車砲の射程は600メートルだ。片桐三曹の話では敵の砲も600メートル前後の射程 と言うが、数が違いすぎる。それに自動小銃でどうにかこうにか倒せる怪物までいるんだ。状況はかなり不利だと言わざるを得まい」 ハルスは静かに言った。おそらく、こちらからは仕掛けられない戦いになるだろう。 「いや、1万対6000だ・・・」 その声に一同が振り返った。テントにエルドガンの警備隊長タロールが入ってきた。みんな驚きの表情を浮かべたが、彼はそれを気にする様子もなかった。 「エルドガンの部隊を引き連れてやってきた。我が種族が異種族と肩を並べて戦う初めての戦争だ。みんな張り切ってる」 そう言ってにやりと笑った。それに続いてエルドガンの王女、エル・ハラもテントに入ってきた。 「他者への友情と理解を教えてくれたみなさんを見捨てることは我がエルドガンの誇りが許しません。」 彼女は片桐とスビアにいたずらっぽい笑みを見せた。思わぬ援軍を得たハルスは腕を組んで考えていたが、不意に口を開いた。 「フランツ中尉、俺の艦にいた連中を貸してくれないか?」 「えっ?」 フランツは思わぬ言葉に聞き返した。ハルスは一同にボルマンからガルマーニを開放した後の彼の行動を語った。 「実は、俺の艦なんだが、故障廃棄したわけじゃないから。暇を見つけては部下と修理してたんだ。まだG7が4発残ってる。浸水がひどくて浮上航行しかできないが、やつらに奇襲をかけてみたいんだ」 修理したとはいえ60年前のUボートがまともに動くとは思えなかった。ましてや、魚雷がちゃんと作動するかはもっと怪しい。 「大尉、危険すぎやしませんか?」 「どのみち、このまま地上戦でこっちが敵を海岸に追いつめても艦砲の攻撃は脅威になるだけだ。それに・・・」 ハルスはちょっとにやけながら口ごもった。一同がその言葉の続きを待っている。それを見て彼は照れくさそうに言った。 「俺は潜水艦乗りだ。獲物があんなに海に浮かんでると食指が動くんだ。海に帰るのさ・・・」 間もなく夜が明けようとしている。双方の陣地では馬や、ボスポースのいななき以外には何も聞こえない。海上と海岸にはヴァシント軍の明かりが、丘を隔てた平原にはガルマーニ、才蔵、エルドガンの連合軍が灯す明かりが見えている。 「だいぶ、いいようだな・・・」 片桐は負傷した足の具合を確かめるように歩いてみた。確かに、かすっただけの足はもうほとんど痛みもなかった。彼は戦車隊に同行する歩兵隊の指揮を任された。エルドガンとクーアードの混成部隊だ。戦車に乗って敵陣に到達して戦車に近づく敵を倒す護衛隊だった。 「あれは・・・」 暗闇の中、ハルス大尉と部下たちがヴァシント軍の陣取る方向とは別の海岸に向かった。彼の乗艦だったU-774の最後の出動だ。 「お、片桐三曹。おはよう」 テントから出てきたフランツの姿に片桐は驚いた。いつもの略帽に迷彩服ではなく、将校用の帽子に黒の戦車兵の制服を着込んで磨き上げた長靴を履いていた。記録映画に出てきそうな制服姿だった。片桐の視線に気がついて彼は照れくさそうに言った。 「今更、ナチスに帰依するつもりはないが、戦死するならかっこよく死にたいからな・・・」 かっこよくというのはわからなくもないが、少なくとも彼だけは浮いていることは確かだ。部下もその姿に目を見張っている。だが、部下に合わせて黒衣を選んだのは理解できる。フランツなりの部下への敬意の表し方だった。 「片桐、いよいよですね・・・」 いつの間にかテントから出てきたスビアが片桐の横に立っていた。彼はぎゅっと彼女の肩を抱きしめた。 「今日、この戦いで勝たなきゃ、俺たちの大事な人がみんな死んでしまう。今日ほど自衛隊に入ってよかったと思う日はないよ・・・。」 そう言うと片桐は人目もはばからず思いっきり熱いキスを交わした。周囲の兵士から歓声があがった。 「じゃあ・・・、行って来る」 真っ赤な顔のスビアを残して片桐は指揮下に入った兵士と共に待機する戦車隊に合流すべく出発しようとした。彼女は司令部でエル・ハラと共に護衛隊に守られて待つことになっている。その方が片桐にとっても安心だった。そこへ才蔵のいとこ、弥太郎が馬で駆けつけた。 「片桐殿!よかった、間にあったようだ!」 そう言うが早いか、弥太郎は馬から降りて肩からぶら下げていた荷物を片桐に渡した。ずっしりと重い感触が片桐の手に感じられた。 「才蔵様の言いつけでアムターまで早馬を走らせておきました。お役立てください!では!」 そう言って馬に乗るや走り去った弥太郎を見送った片桐は彼の渡した荷物の中身を確かめて喜びの声をあげた。 「はははは!最高だ!!」 ずっしりと重いその中身は、10本の89式小銃のマガジンと3本のシグザウエルのマガジンだった。 海岸に作られた本陣でグンク・シュブはフェルドを伴って内陸を観察していた。どうやら、片桐や異世界人たちはヴァシント軍と一戦交える気でいるようだ。 「フェルド、艦隊の支援に抜かりはないだろうな?」 好物の菓子をほおばりながらシュブはフェルドに再度確認した。戦術は完璧のはずだった。3000の騎兵、7000の歩兵、沖には100隻の艦隊が砲門を陸 に向け、沖の船には最終兵器のオーガが10匹、檻の中で待機している。せいぜい6000の異世界人の連合など、取るに足りないはずだ。万が一、こっちの攻 撃兵力が押し戻されても、沖の艦隊が調子に乗った敵をこっぱみじんにするはずだ。 「フェルド、全軍を前進させろ。これで余の世界制覇は完璧なものになる」 グンク・シュブは菓子をほおばりながら彼に忠実な将軍に命令を下した。 ヴァシント軍と連合軍を隔てる丘に向かって、兵士たちは前進を開始した。武士団のホラ貝が鳴り響き、鼓笛隊の太鼓が平原を飛び回った。あちこちで炊事の煙 を上げる駐屯地からばらばらと、中には隊列を組みながら兵士たちが歩き始めた。太陽は森から顔を出し、意気揚々と前進する兵士を照らしている。ばらばら だった兵団も次々と合流し、歩兵は足並みをそろえて丘を登った。 「おい、こっちはまだか?」 丘向こうで待機する片桐と戦車隊にはまだ前進の命令は出ていない。丘を登りきってその存在を敵に悟られないためだ。 「まだです。命令は通信機でフランツ中尉から直接来ます」 戦車隊の隊長はじりじりする片桐に答えた。彼の目には、続々と丘を登るガルマーニの歩兵隊や、才蔵の長槍隊、エルドガンの抱え大筒隊が見えていた。それに遅れて武士団とエルドガンの騎兵隊も密集体型で続いていく。 「よーし、止まれ!」 丘を下ったあたりで歩兵隊は前進を止めた。丘の下り勾配を利用した理想的な防御態勢だ。ヴァシント軍は登り坂を上りながら幾重ものゲベールの掃射を浴びることになる。その後方にも歩兵の後詰めを配置して敵からは全軍が見えないように配置されている。 「片桐三曹、前進命令です!丘の8合目まで前進せよ!」 戦車長がフランツからの命令を片桐に伝えた。戦車は丘の勾配を利用して砲の射程を伸ばす位置に陣取るつもりのようだ。 「行くぞ!」 異世界産の戦車はゆっくりと前進を開始した。それと同時にヴァシント軍の先頭の歩兵隊も前進を開始した。この世界で史上最大の戦闘が始まろうとしていた。 「ははは!!どうだ!走ったぞ!」 ガルマーニに近い海岸からU-774は出航した。浮上したまま、6ノットも出ていないが間違いなく走っていた。艦橋に乗り出したハルスが双眼鏡で目標をに らんだ。ヴァシント海軍は完全に陸に砲を向けている。その上、艦砲射撃の効果をあげるため、3列縦隊で横腹を陸に向けている。やつらの鼻っ先を突っ切って 沖側から放射状に魚雷を発射すれば大きな戦果が期待できた。 「艦長、魚雷が爆発するかあやしいですよ・・・」 副長のホルグ少尉が艦橋にやって来て艦長に報告した。彼からすればこうやって走っているのが奇跡としか言えない状態だった。 「爆発しなくてもいい。あの木造船を見ろ。喫水線近くに大穴を開ければ充分沈没する」 ハルスはホルグに双眼鏡を貸して見せてやった。ホルグもおいしい獲物に思わず舌で唇をなめた。 「なるほど、あれだったら爆発しなくても貫通して隣の船までぶち抜くかもしれないですね」 「そういうことだ。さあ、下に行って準備しろ」 ホルグはうれしそうに艦に戻った。今、U-774はヴァシント艦隊の先頭を見ながら沖に出ようとしている。ヴァシント兵が浮上航行する潜水艦を見つけ、艦首砲にとりついた。砲撃音はほとんどなく、ぴかっと光っただけだった。数秒後、U-774の近くに水柱があがった。 「当たるもんか!さあ、走れ!最後の出撃だ!」 次々とあがる水柱のしぶきを浴びながらハルスが叫んだ。彼の言葉通り、命中弾はなかった。彼の言葉を挑発と受け止めたのか、艦隊は次々と砲弾を浴びせかけるがハルスに水しぶきをかけるばかりだった。数回の斉射をものともせずに、U-774は艦隊をかすめて沖に出た。 「よーし!沖に出たぞ。転回して800まで接近して発射しろ。はずすなよ!」 ヴァシント軍の鼻先を悠々と通過したU-774は沖で大きく回頭してヴァシント艦隊の背後に出た。沖側の縦列では水兵が陸側に向けた砲を大慌てで移動させている。 「何の騒ぎだ!」 艦隊の騒ぎに気がついたグンク・シュブがフェルドに尋ねた。彼も状況をつかめないようでいささか慌てている。やがて伝令が本陣に到着して状況を告げた。 「敵の戦艦が現れたそうです。その・・・見たこともない形で我が艦隊の背後に回っております。」 フェルドの報告を聞いてグンク・シュブはイライラしながら菓子をほおばった。 「たった1隻か?さっさと片づけて陸軍の支援に回せ。歩兵隊はすぐに後退させて奴らをこっちの射程に誘い込むんだ。最後の仕上げにオーガを放て。」 グンク・シュブの頭の中には勝利の方程式ができあがっていた。そしてそれは崩れることがないことを確信していた。最も進歩したヴァシント軍が数の上でも上回って、完璧な戦術で望もうとしているのだ。 U-774は敵艦隊から800メートルまで接近した後も前進を続けた。ハルスは双眼鏡で様子を確認しながら万感の思いを込めて命令を下した。すでに魚雷の標準と調整は終わっていた。 「1番、2番発射!」 前部魚雷管から2本の魚雷が発射されたのを確認してさらに命令を下す。 「3番、4番発射!」 全魚雷の発射成功を確認した。あとは戦果だ。ホルグも艦橋に出てきて戦果を確認したがった。魚雷は放射状に航跡を出しながら進んでいく。 「ホルグ、最後の仕掛けは準備できたか?」 「ええ。最後の戦果だ・・・。派手にいきましょう」 ホルグの言葉と同時に最初の魚雷が爆発した。爆発は密集する艦隊で絶大な効果をもたらした。命中した艦の前後も轟沈に至らしめた。 「2発目は・・・、くそ!不発だ!」 不発の2発目は沖側の艦を貫通して真ん中の艦を貫通、さらに一番陸側の艦に命中した後爆発した。思わぬ効果にハルスも歓声をあげた。3発、4発目は見事に命中、爆発して全魚雷は撃ち尽くされた。 「よし!脱出して岸まで泳ぎ着け!」 乗員は次々と艦から海に飛び込んだ。微速前進していた艦はどんどん艦隊に接近している。水兵の撃つゲベールが時々飛んでくる距離まで接近していた。乗員の脱出を見守っていたホルグが声をかけた。 「艦長、あとは我々だけです。」 飛び込もうとしてホルグは水平線に新たな艦隊を見つけた。敵か味方かはわからない。それにもう撃つだけの魚雷も残っていない。 「とにかく脱出だ。仕掛けに巻き込まれるぞ!」 ハルスはそう言ってホルグを突き飛ばして艦橋から海に落とした。Uー774は最後の一撃の準備を終えていた。すなわち、最後は潜水艦自身が魚雷となるのだ。成功すれば大損害を与えることができる。 「とにかく、最後の大戦果だ・・・」 そう言って艦橋から飛び込もうとしたハルスを流れ弾が襲った。幸運な狙撃手の弾丸はハルスの眉間を撃ち抜いていた。 「艦長!」 立ち泳ぎするホルグの叫びむなしく、彼の艦長の姿は艦橋の中に消えた。副長は艦長に敬礼を捧げると最後の仕掛けに巻き込まれないように、岸に向かって泳ぎ 始めた。ハルスの遺体を乗せたU-774はヴァシント兵の銃撃を跳ね返しながらゆっくりと艦隊に近づいた。一番近い艦船の水兵が接舷に備えて抜刀して集 まった。次の瞬間、U-774は閃光をあげて最後の仕事を果たした。 沖で起こったひときわ大きな爆発はグンク・シュブを驚かせた。思わずイスから転げ落ちて沖を見やった。 「いったい何が起こっておるのだ!!」 菓子をぼりぼりとほおばりながら王は状況の報告を求めた。伝令の士官が恐る恐る状況を伝えた。 「敵の戦艦が自爆した模様です。我が艦隊は40隻以上を撃沈、撃破されました・・・」 その報告を聞いてグンク・シュブは顔を真っ赤にした。彼の考える戦略の一部が崩れたのだ。だが、深呼吸してどうにか王の威厳を保とうとしながら彼は士官に言った。 「残った艦隊で地上を支援する体制を整えるのだ。それとオーガを上陸させろ」 「はっ」 そう言って士官は本陣を退出した。それと入れ違いに別の伝令が入ってきた。 「我が艦隊の沖に別の艦隊が現れました!」 「なんだとっっ!!」 グンク・シュブは色を失って海が見渡せる場所まで走り出した。艦隊の沖に数十隻の艦隊がまっすぐこちらに向かっているのが見えた。 「どこの艦隊だ!!」 フェルドが新たな艦隊にはためく旗を見て驚きの声をあげた。グンクは菓子をほおばりながら彼を見て質問した。 「どこの艦隊だ・・・?フェルド」 「リ、リターマニアと諸都市の艦隊です・・・」 艦隊は横腹を見せるヴァシント艦隊に突入した。突入された運の悪い艦船の中にグンク・シュブの旗艦もあった。ひときわ大きな旗艦は横腹にぶつけられて真ん中からぱっくり割れてしまった。 「あっっ!オーガが・・」 フェルドの言葉もむなしく、檻に入ったままだった伝説の魔人は旗艦から海に転落し沈んでいった。それを見てグンク・シュブは怒りで真っ赤になった顔を今度は青くしながら叫んだ。 「陸軍に命令しろ!総攻撃だ!数で押しつぶせ!艦隊に連絡!余の旗艦を失った不名誉を取り返すべく全力で反乱軍を鎮圧しろ!皆殺しだ・・・・んが・・・んぐ・・・」 そう言うと真っ青になったグンク・シュブはその場に倒れた。慌てて駆け寄ったフェルドが王を抱きかかえると大声で叫んだ。 「医者を!グンクが菓子をのどに詰められた!医者だ!」 丘に展開した連合軍は接近するヴァシント軍を目前数十メートルまで引きつけた。フランツも沖で展開された海戦の様子は双眼鏡で確認していた。ハルス大尉はうまいことやったらしいと確信した。 「一列目!撃て!」 地面を埋め尽くすような数のヴァシント兵はばたばたと倒れた。対してヴァシント兵は一斉射撃でそれに答えた。数百のゲベールの一斉射撃で連合軍もかなりの死傷者を出した。穴の開いた隊列に後列の兵士が黙々と前進してその穴を埋めた。 「突撃!突撃!」 ヴァシント兵が一斉に突撃を開始した。手に手にゲベールや抜き身の剣を持って、隊列を組んだまま駆け出してきた。総攻撃のようだ。フランツは全部隊に一斉 射撃を命じた。咳き込むような銃声と共に前列のヴァシント兵がばたばたと倒れるが、それを乗り越えて後続の兵士が突進してきた。弥太郎が率いる長柄隊が ヴァシント兵の前に立ちふさがった。 「たたけ!!」 弥太郎の号令以下、5メートル以上になる長柄が上下に振られた。日本の長槍は騎馬隊を止める槍ふすまのためだけに長いのではない。鉄の穂先をつけ、その重みできしみながら敵をたたく。ヴァシント兵の剣が届く前に、弥太郎が率いる部隊の槍の穂先が彼らを頭上から襲った。 「ぎゃああ!」 阿鼻叫喚の地獄がヴァシント兵を襲った。数名の兵士が逃げ出し、すぐに大勢がそれに続いた。ヴァシント軍の隊列が崩れた。長槍隊は槍を突き出しながらヴァシント兵を追って前進を開始した。それに恐れをなしてヴァシント兵は我先に逃走を開始した。 それをついて才蔵の騎馬隊がヴァシント軍の側面を突くべく突撃を敢行した。細い槍の切っ先で逃げる歩兵の背中を突く。指揮官の周辺にいた数十人の薄い隊列 が銃撃を浴びせるが、騎馬武者の勢いで次弾を装填する間もなく、薄い隊列は指揮官ごとはね飛ばされていった。それを見たヴァシント軍は第2派を繰り出し た。3000もの騎兵隊が一気に動き始めた。 「砲撃開始!」 丘の上に姿を現した6台の戦車は砲撃を開始した。ほとんど砲撃音はない。ドイツ人たちが開発した炸裂弾は次々とヴァシント騎兵の中で爆発していく。それで も数にものを言わせてヴァシント騎兵隊は突撃を止めようとはしない。ひとかたまりになって丘に展開する連合軍の隊列を目指した。 「槍ふすま!!」 弥太郎の号令で前進した長柄隊が隊列の先頭で槍を構えた。5メートルの長槍が隙間なく並ぶ隊列に勢いをつけたヴァシント騎兵隊は突入した。次々と騎兵隊は槍の餌食となっていく。だが、2列目以降の騎兵たちは先頭の犠牲でできた隙間をぬって槍隊に剣を浴びせかかった。 「たたけ、たたくんだ!」 続々と突入してくる騎兵隊を長槍でたたく。頭上からの一撃を恐れることなく騎兵はまるで死兵のように隊列に飛び込んできた。 「弥太郎!いったんさがるぞ!」 騎兵の第1派をはねのけた才蔵が指示した。ガルマーニ兵とエルドガン兵は武士団の後退に備えて支援射撃の準備を完了していた。 「援護射撃だ!100落とせ!」 片桐は砲塔の上で戦車長に目標を指示した。丘の上にいる彼は戦況がよくわかった。武士団は少し突出してしまったように見えた。3000の騎兵隊で反撃に出たヴァシント軍が武士団の隊列を押し破ろうとしているのがわかった。 「才蔵様!騎馬隊を連れて先に退いてください!」 弥太郎が大声で叫んだ。それに呼応するかのように彼の指揮下の槍隊は騎馬隊を援護するようにさらに両翼に展開した。ヴァシント軍は体勢を立て直し、再び騎 兵突撃を再開した。先頭の騎兵を次々と槍の穂先が捕らえていく。だが、薄く延びた隊列を2列目以降の騎兵が突破すると、背後から槍隊に襲いかかった。 「退がれ!」 弥太郎の合図で槍隊は後退を始めた。それを追い越して騎兵隊は丘の連合軍を目指した。徒歩の武士団は個々の戦闘に移って組織的抵抗はできなくなった。このままでは同士討ちになってしまう。そしてその躊躇が戦列を引き裂く結果になることは明らかだった。 「方陣だ!方陣!!」 連合軍歩兵部隊は数百名の方陣を組んで騎馬隊を迎え撃った。後詰めが戦車隊という形になり戦線の崩壊を防ぐつもりだった。同士討ちに注意しながら方陣の兵 士たちは騎兵隊をねらい撃ちした。撃ち倒されながらも騎兵隊の剣は方陣の外側にいる兵士を斬り倒していった。外側の兵士が倒れれば内側の兵士がそれに代 わって続々と一歩前に進んだ。そして味方の死体で身を隠しながら襲い来る騎兵を撃ち倒し、銃床で殴りつけた。高度な訓練で作り上げられた人間の楯は強力な 騎兵突撃を防ぎきったように見えた。 鼓笛隊は方陣の外側に取り残されたが、兵士たちの士気を高めるべく演奏を続けた。小太鼓を持つ兵士はまっす ぐに前を見据えながらリズムを変えることなく太鼓を叩き続けた。その背中をヴァシント兵の剣が襲ったが彼は演奏を止めなかった。さらに、ヴァシント兵の剣 が彼の背中を刺した。地面に倒れる瞬間まで彼は演奏を止めることはなかった。彼に代わって数名の兵士が太鼓に駆け寄った。最初にたどり着いた兵士が代わり に太鼓を叩き始め、残った兵士は自らを盾にしてそれを守った。混乱を極める戦闘の中でガルマーニ鼓笛隊の太鼓はとぎれることはなかったのだ。 「サクート、君たちの出番のようだな・・・」 戦車の護衛隊である片桐はガンドール隊を率いるサクートに声をかけた。このままでも騎兵隊を打ち破ることもできるだろうが、損害は大きい。数が違うのだ。味方の損害は少ないに越したことはない。 「任せておけ!」 サクートは言うが早いか部下を引き連れて散開した。ガンドール隊は小柄な体型を活かしてさっそうと騎兵の暴れ回る平原に出ると、敵兵の死体の影に隠れて 次々と騎兵を狙撃し始めた。通り過ぎるボスポースの六本足に斬りつけ、騎兵を落馬させて襲いかかる者もいた。愛馬を傷つけられて動きのとれなくなった騎兵 は方陣の兵士から繰り出される銃弾で撃ち倒され、サクートの部下たちのナイフで心臓を刺し貫かれていった。サクートは伝説の猟師のように次々と騎兵を狩っ ていった。方陣の歩兵と協力して1時間もたたぬうちにそのほとんどを撃破した。生き残った騎兵は本陣に向けて敗走を始めていた。 「よし!行くぞ!」 片桐は戦車に飛び乗り砲塔をガンガンと蹴った。それを合図に戦車隊は敗走するヴァシント騎兵を追って前進を開始した。砲塔に乗った兵士の銃弾が逃げる騎兵隊を背中から襲った。 「いいぞ!どんどん撃て!!」 方陣の横を6台の戦車がすり抜けていく。歩兵から歓声があがった。ヴァシント艦隊の砲撃がない以上、戦車隊を繰り出しても大きな危険はないはずだ。 両翼の森まで後退した武士団は丘を下ってくる戦車を見て士気を高めた。その1台に乗って指示を飛ばす片桐を才蔵は見逃さなかった。返り血を浴びた武士は不敵な笑みを浮かべると部下に命令した。 「さあ、行くぞ!最後の決戦だ!」 棟梁の声を合図に武士団が鬨の声を出しながら森から躍り出た。 正気を取り戻したグンク・シュブは自分の出した命令の愚かさに今頃になって気がついていた。ヴァシント軍の総攻撃は失敗に終わり、今や敵軍が隊伍を整え前進しているのだ。 「あの騎兵隊の指揮官は誰だ!余は騎兵隊の突撃など命じていないぞ!」 大声で叫ぶグンク・シュブの本陣に戦車のはなった砲弾が着弾した。爆風でグンクはイスごと後ろにひっくり返った。慌ててフェルドが王を助け起こすが、怒り狂った王はその手をはねのけた。 「撤退だ!ヴァシントに撤退して軍を整えるぞ!」 王の言葉に、先ほどの士官が本陣に入ってきた。彼の言葉を聞いていた士官は言いにくそうな顔をして立っている。 「なんだ?報告があるなら早く言え」 グンクに代わってフェルドが士官を促した。それを聞いて士官が顔をひきつらせながら報告した。 「我が艦隊は降伏した模様です・・・・。目下、ヴァシントへの帰還は・・・」 士官の報告を聞いて今度はフェルドが唖然とした。グンク・シュブはもはや口をぽかんと開いて呆然としている。この事態を打開するには最後の部隊を繰り出すほかなかった。 「近衛旅団を出せ。陸に活路を開くしかない・・・」 フェルドの命令を合図に美しい旗が本陣周辺の部隊からあがった。近衛旅団出撃の合図だった。近衛旅団とは文字通り、グンク・シュブ直属の部隊で神と王のために命を捧げるためだけに存在する。彼らの出撃は、すなわち勝利を意味していた。 敵本陣の動きを片桐も戦車の上から確認していた。先頭を行く戦車隊の前にはヴァシント軍は少数しかいない。主力は数百メートル後方まで後退してしまってい た。片桐を乗せた戦車隊は横に広がってゆっくり前進していた。その間には武士団やガルマーニ兵、エルドガン兵の隊列が歩いている。時折、ヴァシント兵の士 官に率いられた逃げ腰の兵士が戦列を組んで銃撃戦を挑むが、連合軍の歩兵は数名が銃撃で倒れるだけで、前進を止めようとしなかった。そのまま敵が弾込めを 終わらないうちに白兵戦に持ち込み捕虜にしていった。 「片桐三曹!新手です」 言われるまでもなかった。本陣に撃ち込んだ砲弾に動じることなく、4000近い兵士が整然と行進を開始していた。逃げ腰に近かったさっきまでのヴァシント軍とはまるで別の軍隊のようだった。連合軍は歩みを止めて新たな兵団を迎え撃つ準備を始めた。 「タロール!俺の合図で一斉射撃だ」 片桐は右翼に展開したタロールの部隊を呼んだ。戦車砲といっしょにエルドガン軍の強力なゲベールの一斉射撃を行うのだ。ヴァシント軍は美しい旗を持つ少年 兵を先頭に無言で抜刀したまま前進してくる。剣を自分の胸の前に捧げるように持ったまま、密集体型で歩いていた。連合軍は彼我の距離400メートルで一斉 射撃を開始した。 「撃て!」 「発射!」 エルドガンの持つ抱え大筒に似た大口径のゲベールが隊列を引き裂いた。そしてその後方に戦車砲が次々と炸裂するがヴァシント軍の隊列は止まることはない。死体と重傷者を残したまま黙々と前進を続ける。今までの部隊と違い、ひるむこともなく歩いてくる。 「なんなんだ。こいつら・・・」 後方のガルマーニ兵を指揮するフランツが思わず口に出した。それだけ、この集団は不気味だった。鬨の声をあげるでもなく、ばたばたと倒れながら無言で前進 してくる部隊。やがてガルマーニ兵のゲベールの射程に入り、一斉射撃を食らっても彼らは前進を止めなかった。抜刀した剣を捧げるように持ったままだった。 「おい!撃てよ!」 片桐は89式のマガジンを交換しながら戦車長に言った。戦車長は砲塔から顔を出して抗議した。 「無茶言わないでください。もう近すぎて撃てませんよ!」 「だったら白兵戦に備えろ!」 そう言って片桐は戦車長を戦車から引っぱり出した。無言の隊列は片桐たちの数十メートルまで迫っていた。その間もゲベールの射撃が続くが、すでに1000名近い死傷者を出しながらも敵兵は止まるつもりはないようだ。 「こやつら・・・、全員討ち死にするつもりだ」 才蔵は馬上で思わずつぶやいた。これは恐ろしい戦いになる。通常、密集体型の戦闘においてはその戦闘目的は、敵の戦列を破壊することにある。破壊すればい いのであって皆殺しにする必要はない。敵の士気を砕き、敵を逃走か降伏に追い込めばいいのだ。だが、彼らは違った。指揮系統を乱し、恐怖心からの敗走を促 すこともできなければ、降伏をさせることもできない。勝つためには文字通りの殲滅しかない。 「来るぞ!」 タロールの号令で大口径ゲベールを至近距離から浴びせたエルドガン軍に、ヴァシントの近衛旅団が最初に襲いかかった。無言のまま、生き残った兵士が一斉にエルドガンの隊列に襲いかかった。 「だああああああ!!」 抜刀したエルドガン軍に襲いかかったヴァシント軍先頭の隊列は、迎え撃つエルドガン兵の剣と後に続く隊列の兵士の剣を背中から受けた。彼らは前列の仲間ごと敵兵を刺そうとしていた。 「なんだこいつら!」 それは武士団に襲いかかった部隊も同じだった。ヴァシント正規軍を散々苦しめた長槍を先頭の兵士は刺されながら身体で受け止め、後列の兵士がその合間をぬって槍を持つ兵に斬りかかったのだ。 「さがって砲撃できる距離を確保しろ!」 片桐は砲塔から89式を乱射しながら叫んだ。その彼の周りも自殺志願者としか思えないヴァシント兵が群がってきている。戦車長が剣で戦車に登ってこようとする敵兵を必死で斬りつけるが数が多すぎた。 「片桐三曹!このままじゃ戦車が乗っ取られます!」 「砲身を下げられるだけ下げるんだ。目の前で爆発させろ!」 片桐の声は地獄のような白兵戦の中でかき消されていた。 連合軍の司令部には少数の部隊が残されているだけだった。捕虜を収容する部隊、負傷者を手当する部隊などだった。捕虜の数は1000名近くになっていた が、おとなしく従順だった。司令部のテントでは、スビアとエル・ハラが彼女らの愛する伴侶の帰りを待っていた。司令部を警備するのは元親衛隊伍長だった が、彼は無口で彼女たちともあまり口を聞かなかった。まるで自分が前線に行けないことを呪っているようだった。 「伍長、戦況はどうなんです?」 テントの外を新たな捕虜が連行されていくのを見守りながらスビアが伍長に尋ねた。丘向こうの司令部には鬨の声と時々聞こえる、片桐やドイツ兵の撃つ銃声しか聞こえなかった。彼は彼女を一瞥して直立不動のまま答えた。 「敵は近衛旅団を繰り出してきているそうですが、目下戦闘中です」 その言葉を聞いてスビアとエル・ハラは顔を見合わせた。敵は最後の兵団を繰り出してきたようだ。まもなく戦闘は終わるのだ。だが、それを聞いていた捕虜が大声で言った。 「近衛旅団だって!」 それに気がついた捕虜たちもざわめき始めた。見張りの兵士がゲベールを彼らに向けた。 「敵ながらかわいそうに・・。あいつらは決して降伏しない代わりに、敵の降伏も受け入れない。グンクの命令があるまで殺し続けるんだ・・・」 捕虜の言葉に伍長が顔をぴくっとさせて、その捕虜を列から引っぱり出した。彼は知っていた。4000名近い近衛旅団と全軍が恐ろしい白兵戦になっているということを。 「どういうことだ?」 伍長は捕虜の胸ぐらをつかんで質問した。捕虜はおびえながらも詳しく話を始めた。 「あいつらは神とグンクに命を捧げている。グンクの命令で出動すれば捕虜にならない、捕虜は取らない。全滅するまで殺し続ける・・・」 なんということだ。スビアはその戦闘の結果を想像して鳥肌が立った。4000名の死を恐れぬ軍団と戦えば味方の損害は計り知れない。伍長が捕虜に質問をしている間に彼女はエル・ハラに近づいた。 「わたくしは行きます。このままでは片桐たちが危ないはずです・・・」 「でもスビア様、わたくしたちだけでどうやって・・・?」 スビアはゲベールを持ちながら彼女に言った。彼女のやるべきことは決まっていた。 「グンク・シュブの本陣へ行きます。近衛兵を止めることができるのはグンク・シュブだけです」 それを聞いてエル・ハラは少し驚いたが、すぐに頷いて準備を始めた。愛するタロールを死なせないためにも、一刻も早くグンク・シュブの本陣に攻め込みたいと思ったのだ。 「さあ、スビア様。まいりましょう!」 「それはできませんな」 彼女の言葉を伍長が遮った。いつの間にか、伍長は2人のすぐ近くに立っていた。伍長は迷彩ヤッケを着込んだたくましい身体をテントの入り口に置いて彼女たちの行く手をふさいでいた。 「自分の任務はあなた方の安全確保です。危険なことはさせられません」 その言葉にスビアは素早く反論した。決意を固めた聖女の言葉ははっきりと、そして威厳に満ちていた。 「今、敵を止められるのはわたくしたちだけです!全部隊は今、必死に戦っているのです。わたくしたち以外に、戦場から抜け出してグンク・シュブのところへ行くことができる者はいますか?」 そう言うとスビアはゲベールに弾丸を込めて彼を押しのけてテントを出た。エル・ハラもゲベールを手に後に続く。伍長は少し迷っていたが決心したようで、彼女の後に続いた。 「クリューガー!後を任せた!部下を数名借りるぞ!」 そう言って持っていたMP40のマガジンを確認した。伍長は自分でも不思議だった。東部戦線を戦い抜いたベテランが、年端もいかない女性の言葉に心打たれ て行動を共にしようとしているのだ。スビアとエル・ハラはそれを見て伍長の手を取った。美しい聖女とエルドガンの王女が示す感謝の行為に思わず伍長は赤面 した。 「ありがとう、伍長。あなたのお名前は?」 赤面しながら胸に騎士十字章を持つ伍長は答えた。 「シュナイダーライト、アルフレド・シュナイダーライト伍長です。さあ、森を抜けて海岸まで出ましょう」 全戦線で両軍は白兵戦に突入していた。剣が交差し、咳き込むようなゲベールの単発の銃声。武士団の鬨の声が戦場に交錯していた。片桐は銃剣をつけた89式 を手に戦車隊の間を走り回っていた。今や、後退も前進も不可能になった戦車隊は白兵戦に巻き込まれ混乱を呈していた。戦車を乗っ取られないことだけが目的 だった。各戦車長は砲塔から身を乗り出し、ゲベールや剣で登ってくるヴァシント兵を迎え撃っている。護衛隊も戦車の周りで円陣を組んで応戦するので手一杯 だった。 「おい!前を開けろ!」 そう叫んで片桐は89式のマガジンに残った弾丸を全弾撃ち込んだ。10名以上のヴァシント兵が倒れて戦車と戦車の隙間を護衛隊と共に確保した。 「できるだけ戦車同士を密集させろ。お互いに援護するんだ」 部下に命じて各戦車を可能な限り接近させた。中にはキャタピラをこすり合わせるほど接近した戦車もあった。6台の戦車は半円を描くように接近し、その後方 を片桐たち護衛隊が援護する形になった。他の部隊も方陣を組んで壮絶な白兵戦を展開していた。ヴァシント軍の近衛旅団は目に付いた敵兵に見境なく斬りかか り、戦死するまで剣を振り回し続けた。 武士団も下馬して馬を中心に方陣を組んでいた。才蔵自ら先頭に立って刀を振り回していた。負傷者や死者から回収した刀を周りに刺して、使えなくなった刀を捨ててはそれらを抜いて敵を斬っている。 「どっちかが皆殺しになるまで続くのか・・・」 才蔵は返り血を浴びながらつぶやくと、目の前で上段に剣を構えるヴァシント兵を斬り倒した。 「くそ!撃っても撃ってもきやがる!」 フランツもガルマーニ兵の方陣で指揮を取りながら叫んだ。彼の持っていたモーゼルも全弾撃ち尽くし今は腰のワルサーを抜いて戦っていた。兵士もゲベールに弾を込める余裕がなく、銃床で敵を殴りつけるばかりだった。 「いいか!疲れたら後ろの連中と交代しろ!隊列を崩したらおしまいだぞ!」 フランツはそう叫ぶと部下に斬りかかろうとするヴァシント兵を撃ち倒した。 森に入ったシュナイダーライトは慎重に銃を構えながら前進した。ヴァシント兵は大半は捕虜にするか、戦死したはずだが、敗残兵が残っている可能性があった。主戦場をさけ、森から一気にグンク・シュブの本陣を襲うつもりだった。 「スビア様、エル・ハラ様、ここから先は自分たちだけで行きますから」 周囲の安全を確認したシュナイダーライトは2人の女性に訴えた。だが、彼の忠告を素直に聞き入れる聖女たちではなかった。 「わたくしたちは構いません。ほら、あれが本陣のようです」 そう言ってスビアが指さしたのは、豪華な旗がきらめく海岸に近い陣地だった。少数の警備隊を残して出撃しているようだ。中心のイスには彼女が見覚えのある男が座っている。その人物は聞き覚えのある声で部下に命令を下していた。 「まだ未開人の連中を皆殺しにできないのか!」 その声を聞いてスビアはその人物がグンク・シュブであることを確信した。茂みに隠れるシュナイダーライトに駆け寄って彼女は軽く耳打ちした。 「あのイスに座っているのがグンク・シュブです。間違いありません」 「間違いないですか?スビア様」 シュナイダーライトは周囲をさらに見回して状況を確認した。たしかに、彼を襲うには絶好の機会だ。シュナイダーライトは数名の部下に手で合図した。一斉に射撃を開始して敵の王を生け捕りにするのだ。 「3,2、1・・・・。行くぞ!」 シュナイダーライトは立ち上がってMP40を乱射した。森に近い場所にいた衛兵を数名撃ち倒した。それを確認した彼の部下がMP40やモーゼルを手に森か ら躍り出た。騒ぎに気がついた衛兵が森に銃撃を浴びせようと集まってきた。敵の反撃を予感した伍長は森から飛び出そうとする女性たちに振り向いた。 「スビア様、エル・ハラ様!頭を下げて!」 彼の言葉が発された直後に、ヴァシントの衛兵たちはばたばたと倒れた。彼らの反対側からヴァシント兵と少し格好の違う兵士の一団が突入したのだ。シュナイダーライトはそれを見届けて一気に本陣へ突入した。本陣を挟んで、ドイツ兵の一団と別の襲撃者は互いに対峙した。 「誰だ!貴様らは!」 シュナイダーライトの誰何にも彼らは剣を構えたままだ。先頭の隊長らしき青年士官は剣を構えたまま彼を観察している。 「ドロスではないですか?」 シュナイダーライトの背後からスビアが声をかけた。彼女の声に気がついた青年士官は剣を収めて彼女に駆け寄った。シュナイダーライトはこの展開を理解できずに立ちつくすばかりだ。 「おお!スビア!あなたでしたか!」 青年士官、リターマニア警備隊長のドロスは友人の姿を認めて駆け寄った。 「神の御心のことについては、あなたと片桐に心からお詫びしたい・・・。先日リターマニアに来訪されたパウリス様からすべて聞いております。そして評議会は彼の記憶を嘘ではないと判断し、神の権威を偽ったグンク・シュブを逮捕するべく、諸都市に呼びかけたのです。」 スビアはその言葉を聞いて作戦が全て成功したことを確信した。パウリスは無事リターマニアに到着し、すべてを彼らに話したのだ。そうなった以上、襲撃者に よって捕らえられたグンク・シュブはグンクとして最後の仕事以外にすべきことは残されていなかった。フェルドも襲撃者によって拘禁されていた。 「さあ、グンク・シュブ・・・」 スビアは威厳を込めて、リターマニア警備隊に囲まれている王座で固くなっている王に告げた。 「あなたの最後の仕事をなすべきです。近衛旅団に攻撃中止命令をくだすのです」 多くの剣に囲まれてもなお、グンク・シュブはまだ王であろうとしていた。スビアを見ると見下すような笑みを浮かべて答えた。 「ふん・・・、たかが未開の地の聖女風情が余に命令するというのか・・・・」 あまりに無礼な言葉にスビアは美しい顔をひきつらせた。ドロスもかつての王が放つあまりに慇懃な言葉に思わず反論の言葉を失った。それを見て、シュナイダーライトが腰のワルサーを抜いてグンク・シュブに歩み寄った。 「伍長、いけません!」 彼が王を射殺すると思い、とっさに声をかけたエル・ハラにシュナイダーライトは笑顔で振り返ると、そのままワルサーをグンクの膝に向けて発射した。突然の激痛に哀れな王はイスから転がり落ちて足を抱えた。 「グンク・シュブ、聖女様のお言葉を実行してください・・・」 シュナイダーライトは静かに王に問いかけた。だが痛みで興奮したシュブはなおもそれを否定した。それが彼のさらなる悲劇につながることも知らずに。 「そんなこと・・・、できるか・・・!」 王の返答を聞いたシュナイダーライトは無言で彼の膝をブーツで踏んだ。痛みでもがきながら今度こそ王は承知した。 「こ、こっ、近衛兵に停戦を命じる!命じますぅぅ!!」 グンクの命令を確かに聞いた伍長は王に丁重に一礼すると一歩後ろに下がった。そして、あっけにとられるスビアとエル・ハラに向き直ると再び丁寧に一礼した。 「出過ぎたまねをいたしました。お許しを。ドロス隊長、我々はもはや彼に用はありません。お願いします」 そう言うとシュナイダーライトは部下から信号弾を受け取ると、白の信号を上空に打ち上げた。 敵の本陣で打ち上げられる信号弾を片桐は呆然と見つめていた。敵も味方もそれに気がついて戦場は不思議な静けさに包まれた。その中を、ヴァシント軍の本陣から出てきた数騎の騎兵が走り抜けた。 「グンク・シュブは降伏された!」 「近衛旅団は即刻、戦闘を中止せよ!!」 ヴァシント兵から発せられる言葉に近衛兵は目をむいていた。だが、その言葉の意味を察すると、突撃と同じように素早く数十メートル後退した。そのまま、連合軍と向かい合って整列した。 それぞれの部隊を指揮していた、フランツ、タロール、才蔵、サクート、そして片桐は互いに集まっていた。あまりの事態の展開にどうすればいいかわからなかったのだ。 「いったいどうなったんだ?」 ほこりまみれのフランツが返り血を浴びた才蔵に問いかけた。彼とて状況がわかるはずがない。 「さあ、こんな戦は初めてです・・・」 「ホントにどうなっちまったんだ?」 片桐もマガジンを交換しながら事態の推移を不思議な感じで見守っていた。タロールも兵に待機命令を出しながら、何とも言えない表情で片桐を見ている。つい、数分前まで続いていた地獄のような白兵戦は不気味な静寂に変わっていたのだ。 その時、整列するヴァシント近衛旅団の隊列が真ん中から別れ始めた。数メートルのスペースを作った隊列の中心を一団の兵士が歩いてくるのが見えた。 「おい!あれはグンク・シュブじゃないのか?」 フランツの声に一同が振り返った。近衛兵の間をドロス率いる警備隊に護衛されたグンク・シュブが足を引きずりながら歩いているのが見えた。その後方には、迷彩服のシュナイダーライト伍長とドイツ兵に護衛された聖女とエルドガンの王女が意気揚々と歩いていたのだ。 「スビア様がやったんだ!」 「エル・ハラ様だ!」 武士団やガルマーニ兵から、エルドガン兵からそれぞれ歓声があがった。 「いったいどうなってんだ?」 フランツの疑問に満ちた視線を浴びた片桐は思わずタロールに視線を移した。タロールも敵陣からやってくる彼の王女にあっけにとられているだけだ。 「なんで、ドロスとスビアがいっしょにいるんだよ・・・」 リターマニアで別れたはずのドロスはスビアとエル・ハラをエスコートしながら連合軍の隊列までやってきた。満面の笑みを浮かべてドロスは連合軍の居並ぶ指揮官たちに一礼した。 「リターマニア市警備隊長のドロスです。我が王国の大罪人であるシュブの鎮圧にご尽力いただき感謝します。そして、彼の所行で多くの人命が失われたことを心からお詫びいたします」 状況を理解できなくて呆気にとられる片桐、タロール、サクート、フランツに代わって比較的冷静な才蔵がドロスの言葉に応じた。 「お役目大儀に存じます。つきましては、今回の戦はこれで終結と受け取ってよいのですな?」 才蔵の質問にドロスはもちろん、という感じで一礼した。連合軍の兵士たちから勝利の雄叫びがあがった。 それを聞いたフランツは我に返って、シュナイダーライトに駆け寄った。 「伍長!いったいどういうことだ?なんで君とスビア様、エル・ハラ様が敵陣から戻ってきたんだ?」 上官の矢継ぎ早の質問にたじろぐシュナイダーライトに代わってスビアがフランツに答えた。 「彼はわたくしたちの提案を受け入れて助けてくれただけです。降伏しない降伏させない近衛兵から皆を救うにはグンク・シュブに命令させるしかなかったのですから・・・」 「まあ、たしかにそれはそうですが・・・」 聖女の言葉に反論できないフランツは口ごもったが、彼女たちの伴侶は違っていた。 「スビア!あれだけ無茶はしないでくれって言ったのに・・・」 「エル・ハラ様!どうしてあなたは・・・」 同時に口を開いた片桐とタロールに、スビアとエル・ハラは同時に彼らの胸に飛び込んだ。 「ごめんなさい・・・・・・」 急にしおらしくなった2人の女性を胸に抱きながら、片桐とタロールは互いに顔を見合わせて肩をすくめた。 少しして状況を理解したフランツとサクートも加わり、雰囲気が和やかになった。ドロスは片桐と目を合わせるや、彼に駆け寄って跪いた。 「片桐!どうかわたしを許してくれ!「神の御心」のおぞましい真実を知らずにいた愚かなわたしを許してくれ。」 ドロスの謝罪の意味は十分に理解できた。片桐は自分に跪く友人の手を取った。 「もういいよ。君も知らなかったんだし、こうしてグンク・シュブは逮捕できたんだ」 彼の言葉にドロスは感謝の笑顔を浮かべた。 「こっちこそ、タローニャを縛った上に君の部下にまで危害を加えて申し訳ない」 雰囲気が落ち着いたところで片桐はさっきから疑問に思っていたことを口にした。 「でも、どうして君の艦隊はグンク・シュブの伏兵から目を盗んでここまで来れたんだ?」 それを聞いて立ち上がったドロスはうれしそうに笑った。 「それは片桐、君のおかげだ」 そう言ってドロスは懐からあるものを取り出した。それを見た片桐も「あっ」と声を出すと彼の返答に納得した。それは片桐がリターマニアの城壁でドロスに貸したままにしていた双眼鏡だった。 「こ のおかげでわたしは、グンク・シュブが岬の向こうに艦隊を残しているのを見つけることができた。彼らにばれないように諸都市に使いを送って、艦隊を集め、 一気にやつらを攻撃してここに向かったんだ。さらに、この沖で勇敢な異世界の戦艦がヴァシント艦隊に戦いを挑むのも見ることができた。おかげで浮き足だっ た敵に奇襲をかけることにも成功したんだ・・・」 そう言ってドロスは兵士に命じて収容したUー774の乗員を連れてこさせた。副長のホルグ少尉以下、全員が無事だった。彼はフランツ中尉に戦果報告した。 「報告します。U-774は敵戦艦40隻以上を撃沈、撃破しましたが、艦長のハルス大尉は戦死されました」 この報告にフランツ以下、連合軍の指揮官は肩を落とした。落胆するフランツに代わって才蔵がホルグに尋ねた。 「ハルス大尉のご最期はどうだったのですか?」 「はっ、敵艦隊に魚雷攻撃を行った後、乗組員を脱出させて最後に艦を後にしようとして銃撃を浴びました」 ホルグの報告を聞いてフランツがやっとのことでホルグ以下の乗員に敬礼した。 「ご苦労だった。後方で休んでくれ・・・」 サクートの案内でU-774の乗員たちは連合軍の隊列の間を司令部に向かって進んでいった。それを見てフランツが力無くつぶやいた。 「ハルス大尉、ホントに海に帰っちまいやがった・・・」 片桐もスビアもタロールも、そして才蔵も同じ気持ちだった。司令部での彼の最後の言葉が脳裏を走った。彼にとっては本望だったのだろう。彼の奇襲のおかげでこの戦いは勝利できたのだ。 「ハルス大尉に敬礼!!」 フランツの大声が戦場だった平原に響いた。彼は夕暮れ迫る海に向けて国防軍式の敬礼を捧げていた。片桐もそれに続き、各軍の兵士もそれぞれの慣習でそれに習った。敵味方ない敬礼がハルス大尉のために、夕刻迫る海岸に捧げられた。 そこへ、リターマニア兵が伝令としてやってきて一同に告げた。 「たった今、リターマニア他、諸都市の評議会が新たなグンクとしてドロス様を任命されました!」 その言葉に一番驚いたのは他ならぬドロス自身だった。 「えっ?パウリス様はどうなさったのだ?」 ドロスの言葉に伝令は少し迷ったが、忠実にその質問に答えた。 「パウリス様は、今後の神聖ロサール王国をドロス様にゆだねられ、北方のウィンディーネの女王、セイレース様の招きに応じて旅立たれました。」 片桐とスビアには、セイレースの気持ちがわかったような気がした。セイレースは誠実でまっすぐなパウリスにきっと心惹かれていたのだろう。誠実な愛を求めるセイレースと誠実なパウリスはきっと似合いのカップルになるだろう。 「グンク・ドロス!!」 突然、整列して黙ったままだったヴァシント近衛兵たちから歓声があがった。王に忠誠を誓う近衛兵は手に手に剣を捧げ、新たな王に口々に忠誠を誓っているのだ。その声を聞いてドロスも決心を固めたようで剣を抜いてその声に答えた。 「グンク・ドロス!!」 捕虜になっていたヴァシント兵からも同じ歓声があがった。彼らの声を聞きながら片桐はスビアに近寄るとそっと耳打ちした。 「な、俺の言ったとおりじゃないか・・・。君の通ったところ、必ずすばらしい指導者が現れて平和をもたらす」 スビアはその言葉に苦笑を浮かべながら、片桐の肩に頭を乗せた。リターマニア兵がやってきて彼らに報告した。 「実は、片桐三曹の部下と主張する連中が拿捕したヴァシント艦隊の牢獄にいたのですが・・・」 2人は顔を見合わせて、とりあえず連れてくるようにその兵士に命じた。彼が連れてきた連中は片桐とスビアを見るや大声をあげて駆け出した。 「キャプテン!」 「聖女様!」 忠実な海賊たちは2人のところに走ってきて、ぴしっと自衛隊式の敬礼を捧げた。 その後の数週間は戦後の処理で忙殺されることになった。各勢力はそれぞれ、不可侵条約を結び、大平原世界ヨシーニアはそれぞれが軍を出して平定し、各勢力が協力して開発することが確認された。 各勢力は「大同盟」を結成して相互の平和維持と相互協力を約束した。文字通り、世界が平和になった瞬間だった。 そこで議題になったのは聖女スビアに関してであった。古代ロサールには全世界を平和に導く魔法などは存在せず、ロサール人の神格そのものが否定的であると 結論付けされたが、それでは不十分だった。せっかく築かれた平和の象徴が必要だった。そこで持ち上がったのがスビアだった。 「スビア様がいなければこの世界の平和は実現できなかったし、この先も平和を維持できないだろう」 リターマニアで開催され各勢力の会議で満場一致、スビアをこの世界の聖女と認め、彼女は名実共にアムターだけでなく、「大同盟」の聖女となった。式典は、 世界の中心とされたリターマニアで盛大に行われ、スビアはフランツやグンク・ニル、才蔵や長老ザンガン、グンク・ドロスそしてセイレースの代理として出席 したパウリス立ち会いで戴冠式に望んだ。 片桐はすべてが終わったリターマニアの城壁にたたずんでいた。この数週間でこの世界は急に平和な世界に変身した。それはスビアがアムターを旅立つにあたっ て望んだ世界だった。そしてそれは、古代ロサールの魔法ではなく、彼女自身がもたらした結果だった。それはそれで片桐には満足だった。しかし、それと同時 に彼女は世界の聖女になり、彼から遠い存在になったような気がしていた。事実、彼は彼女とこの週週間、ろくに会話もできないくらいだった。 「俺の役目は終わったのかな・・・」 つい、弱気になって言葉に出した。答えは返ってこない。城壁には片桐と、数名の当直兵以外の姿はない。片桐は初めて彼女と出会った数ヶ月前を思い出してい た。思えば高飛車な女性だった。長老のザンガンを介さないと会話すら受け付けない。それが幾多の戦いを経て愛を交わし、才蔵のとりなしで愛し合うまでに なった。彼女の夢は彼の夢になり、そしてそれは現実のものとなった。そうなった瞬間、彼のもとから彼女は遠く離れてしまった感じがした。 今、彼の最愛の聖女は豪華なドロスの宮殿で人々に囲まれて世界の聖女となった祝宴の最中だろう。市内はお祭り騒ぎだった。城壁にいる彼の耳にもその騒ぎは聞こえている。 「ここらが潮時かな・・・」 片桐は考えていた。思えば、異世界人の自分が今や、この世界の平和の象徴になったスビアを独占すべきではない。してはいけない、と。たとえ、自分がこの世 界に残った理由が彼女のためだとしてもだ。祝宴に出席するように言っていたフランツや才蔵の言葉を辞して、城壁の守りにつくと言って逃げた片桐だが、これ からの行動は決めていた。城門の警備隊とも話は付いていた。 もちろん、あの掟のことは知っていた。その掟を積極的に破ろうとは思わないが、守っていける自信が今の彼にはなかったのだ。 「おお・・・」 市内からあがった花火に思わず城壁の兵士も見とれていた。それを一瞥して片桐は地上に降りる階段に向かって歩き始めた。馬小屋に寄って愛馬を連れ出し、話 をつけた警備隊に門を開けてもらうのだ。簡単なことだった。花火を見ないように、うつむきながら歩き出した片桐の視界に、花火の光に照らされて城壁の地面 にうつる影が目に入った。 思わず片桐が顔をあげる。そこには今、まさに祝宴の主役であるスビアが立っていた。いつも以上に豪華な装飾具に身を包み、頭には豪華な冠を抱く聖女の姿はまさに、この世界の平和の象徴だった。 「よく似合ってますよ・・・」 片桐の言葉に聖女は表情を全く変えることはなかった。無表情のまま片桐を見つめている。時折あがる花火の光が、彼女の表情を鮮明に写し出した。思わず、目をそらして片桐は彼女の横を通り抜けようとした。 「待って!」 それをスビアが止めた。彼女も片桐のここ最近の様子に気がついていた。戦後処理と、世界の聖女任命の忙しさでろくに会話もしていなかったが、愛する男の変化くらいはわかっているつもりだった。 「才蔵様のバートスから聞きました。馬を用意しているそうですね・・・」 あえて彼女は片桐の考えていることを具体的に言葉にしなかった。はっきりと口に出すことでそれが現実のものになることを恐れたのかも知れない。片桐は彼女に背を向けて城壁の外を見ながら答えた。 「俺の役目は終わった。世界は平和になり、君は俺の手の届かない存在になった。俺は、前も言ったけど、ただの公務員で兵隊だ。天下国家を考えたこともない存在だ。これからこの世界を守っていく君の役には立たない・・・」 「だから、わたくしから逃げるように去っていくのですか?」 背中に突き刺さるようなスビアの言葉に片桐は思わず言葉に詰まった。彼とて、彼女に愛想を尽かしたわけではない。彼なりの愛情を示したつもりだ。それを「逃げる」と言われるのはいささか心外だった。 「ただの兵隊と、聖女様。この先きっと俺の存在が君の重荷になる。俺は君の苦しむ姿を見たくない・・・。死ぬまで一緒にいるだけが愛情表現じゃあない・・・」 彼女に背中を向けたまま片桐は言った。その片桐の肩にスビアは手を伸ばし、彼がびっくりするくらいの勢いで引っ張った。花火の光の下で2人の顔が向かい合った。 「ばかっ!」 不意に片桐の頬をスビアが叩いた。思わず頬を押さえて片桐は彼女を見た。美しい彼女の目から涙がこぼれているのが見えた。 「何がバカなんだ?俺は君のことを考えて・・・」 叩かれた勢いで反論しようとした片桐は彼女の表情を見て途中で言葉を止めた。今、彼の目の前にいるのは世界の聖女でもなく、1人の愛する女だった。そう思ったとき、彼自身自分の考えの愚かさを悟った気がした。 「世界が平和なっても、あなたがわたくしの前から消えてしまったら・・・・、あなたは本当にバカです!」 そう言ってスビアは今度は片桐に背を向けた。その肩が花火に照らし出されて震えているのがわかった。それを見て片桐は思わず後ろから愛する聖女を抱きしめた。自分の考えていた愚かな計画が、最愛の女性をここまで傷つけてしまったことを、心から恥じていた。 「すまん・・・、君が遠い存在になったと思っていた。なんか、手の届かないところに行ってしまった気がしたんだ。本当にすまない・・・」 「あなたは本当にバカです・・・」 そう言ってスビアは愛する自衛官の腕に涙で濡れた顔を埋めた。花火はそんな2人を祝福するように、盛大に打ち上げられていた。 「まったく・・・、最後の最後まで世話が焼けますな・・・」 「本当だ・・・。こっちの身にもなって欲しいですよ」 別の階段の影からこっそり見守っていた才蔵とフランツが互いに苦笑いしながら顔を見合わせて言った。別の階段の影からはドロスとタローニャも彼らを見守っていた。 「どうやら、うまく元の鞘に収まったようですね」 「まったく、不思議な人たちだ。でも、最高にいい人たちだよ」 新しい時代を歩み始めたこの世界を祝福するひときわ大きな花火をバックに、自衛官と聖女は二人の新しい門出を祝うかのように熱い口づけを交わした。