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768 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05 45 25.52 ID DOHI9W8F [2/7] 日曜日の朝が来る」 雨は神様の流した涙といったのは誰だったろうか、神の愛の形を示す天からの恵みといったのは誰だったろうか 季節柄しとしとと降り続く雨は、今日も朝から、愛の形のごとく、神の涙のごとく、遠慮なく、そして風流に降りそそぎ 大地を濡らし続けていた。 こんな日でも朝は来るのだ、そう、朝起きて活動を始めなくてはならない、たとえそれがどんな憂鬱な行為だとしても 「んんん…ふぁあ…くぅ…」 だらしなく口から漏れるあくび、まるで甲子園球児のような大きな隈取、ぼさぼさの髪と伸びきった服装、気だるい意識は 軽い頭痛に吐き気を覚えている。 朝だ、とりあえず起きよう、そして朝ごはんを食べよう。 薄暗い、雨の日特有の日差しを浴びて僕は起き上がった。フローリングの床に敷き詰められたゴミの山は昨日も片付かなかった。 実に無気力だ、それでも朝は勝手にやって来る。 部屋の中で着替えを済ませ、そのまま洗面所に向かおうとすると部屋のドアがこんこんと控えめに音を立てた。 「あ、その…おはようございます…空けても…大丈夫ですか?」 「うん、構わないけど…あんまり見られたくない顔をしているんだ」 感情の抑揚を抑えたような、それでいてどこか可愛らしい声が響く、僕は出来るだけやさしい声を出して彼女に答えた。 がちゃりという音と共にドアが開く、そこには黒髪のミディアムボブに、デニムエプロンをセーラー服の上に身に着けた少女が立っていた。 「おはようございます和明さん…その、あんまりいい朝じゃないかもしれないですけど…ご飯は用意しておきましたから、ちゃんと朝ごはん、 食べてくださいね?」 彼女…斉藤裕香は心配そうに僕の顔を見つめながら言葉をかけた。 無理もない、いつも僕はこんな死にそうな顔をしているのだから、彼女もせめて食事くらいはと考えているんだろう。 「ありがとう裕香ちゃん、とりあえずご飯はいただくから、君は先に学校に行っていてもいいからね?」 「だ…ダメですよそんなの!私、その、そんなことしたら和明さんに申し訳が立たないですから…」 彼女は声を震わせてそう言う、その言葉にはどこか引っかかるようなものがあった。 僕はその引っ掛かりを解くべく声をかける、そうすることでどこか心が満たされ、痛みが消えていくような感じがした。 「愛の事なら君は気にしなくていいんだ…君は自分のことを考えていればいい、だから、先に学校に行っていて欲しいんだ…もう、愛は死んだんだから」 愛は死んだ、この言葉をつぶやいたのはもう何回目だろうか。 つぶやくことで心が痛む、それでも認識しなくてはいけない事実、呟くたびに僕の心が楽になった気がした。 「ご…ごめんなさい、私、その…申し訳がなくて…ごめんなさい、ごめんなさい…」 彼女をこの一言で傷つけたかもしれない、そう思うと心が痛かった でも僕には彼女を責めるつもりはない、そう示すために彼女の肩を優しく叩き、そのまま僕は浴室にむかって歩み出した。 そう、そのまま朝の支度をして学校へ行き、この部屋に閉じこもっている苦痛を忘れるために。 愛は死んだのだ、そしてあと2日で日曜日が来る。 日曜日、僕は何をすればいいのだろうか…。 769 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05 46 07.31 ID DOHI9W8F [3/7] 2 僕と彼女…裕香の通っている学校までは電車と自転車を経由するためにそれなりの距離がある。 田舎のためか朝の電車はそれほど人も少なく、痴漢にあう心配もあまりないのだが、それでも隣家の幼馴染である愛と裕香の両親の心配はさしたるものだっ たろう、海外出張が多い両親に代わり、僕は二人のボディガードを勤め、いつも一緒に電車に乗って、その後さらに自転車をこいでは学校に向かっていた。 何故だろう、たった数ヶ月前には当たり前だった光景が、今はどこか遠く消えかけた記憶のように思えるのは。 がたごとと揺られる電車の中、向かい合って座る僕と裕香の間に会話はない。 「そんなに見詰め合ってて…まさか和明、僕よりも裕香に気があるんじゃないでしょうね?」 愛がここに居ればそんな冗談を飛ばしていただろうか?それともあのときの彼女にはもうそんなことを言う気力も無かっただろうか? 参考書と単語カードに目を通す僕はそんなことを考える、裕香はそれをちらちらと観察するように視線を送りながらも文庫本を読んでいた。 「あの…大変そうですね、勉強…私なんかぜんぜんダメなんですよ、暗記とか苦手って言うか…和明さんはいつも30番代はキープしてるのに…駄目、ですよね?」 自嘲気味に話しかける彼女に目をやり、そんなことないよと首を振る、できるだけ優しく頭も撫でてあげよう、僕もそうされたように 「そんなことないさ、裕香ちゃんはとてもよく出来た娘だよ…料理も上手いし可愛いし、それに手芸だって得意だ、勉強しか出来ない僕なんかよりもとてもスゴい …それに僕だってもう、どれだけ勉強が出来るか、わかったもんじゃないからなあ…いっそ永久就職でもしてしまおうか…」 今度は僕が苦笑しつつも自嘲気味に語る、ここ数ヶ月学校に行っていなかった僕は果たしてどこまで授業についていけるのか、不安はあった。 でもそれもどうでもいいことだ、勉強をすることの価値はどれほどのものか、それがどんな意味を成すか、愛という存在の前ではそんな些細なことは全て無意味だった 電車の揺れは続く、二人で出来るだけたわいのない話を繰り返し、そして時間が過ぎていく。 駅に到着し、改札を出てから自転車置き場に向かい、鍵をかけて自転車を走らせ、僕たちは学校に向う。 愛という持ち主を失った自転車は僕らの止めた自転車の近くでそのまま放置されていた、彼女がこの世に残したもののひとつだ。 散らかった部屋の思い出同様、できるだけ早く片付けてしまいたいが、それも拒まれるほどに僕の気分は重かった。 このまま彼女がこの世に残した足跡を全てふき取って何になるのだろう?確かに部屋も駐車場も片付くかもしれない。 でもそれでいいんだろうか?そんな事をして完全に彼女を忘れることは出来るんだろうか? 「自転車…後で、取りにいきましょうね?」 「ああ、あれ…片付けないとね…」 そんな考えをめぐらしているせいか、返事はどこかあさっての方向を向いている。 そんな調子でも山奥に立てられた学園に僕らはたどり着き、そしてそのまま駐車場で僕らは別れることとなった。 時間はただ過ぎていく、それはあの部屋に居ても、学校に居ても、どこかに遊びに行っても変わるものではなかった。 無慈悲に確実に、そして正確に過ぎ行く時間、僕が思っていたそれに意味を与えてくれていたのは愛だけだった。 だからこそ時間の流れはとても速く感じられるのだろう、そして過ぎていくことがむなしくもあり、ほっとしているのだろう。 このまま一気に時間が過ぎて、老人になって死んでいければ幸せだ。 そうすればもう一度愛に会えるかもしれない。 僕の心は死を純粋に求め、乾き続けている。 裕香もそれは同じなのだろうか?きっと同じだろう…でも、そこには僕と彼女の思考と、愛との関係性での隔たりもあるのだろう。 お互いに水を砂漠にまいては、わずかな湿り気で安定をえるような日々、いっそ彼女を傷つけて、全て終わりにしてしまえばいいん だろうか。 僕に答えを出すことは今のところ出来ていなかった 770 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05 46 56.93 ID DOHI9W8F [4/7] 3 久久の学校生活は期待通りのものだった。 進学クラスに在籍している分これと言った友人も少なかったが、それでも僕を見るクラスメイトの、まるで幽霊でも見るかのような、どこか違和感を感じるような 同情と哀れみを込めたような、そして半分興味本位の視線は、僕に愛という存在を忘れさせ、さらに休み時間も、まるでいつもと別人格のように陽気に振舞わせる のにはちょうど良かった。 こうしていれば他の事に気を取られていて、愛のことを考えずに済むからだ、愛を思い出さずに済むからだ。 一月ほど学校を休み、悲しみにくれてはいつも愛のことを思い出していた日々とは全く違う、有意義な生活を僕は送っている。 そう信じるしかない、いつまでも一人の女性のことを引きずっていては人は生きていけないはずだ。 そうだ、もっと授業に集中しよう、そうすれば思い出なんか思い出さないはずだ 「ねえ、君…僕の家の隣に引っ越してきたんでしょ?なら、一緒に遊ばない?あそこの公園ってね、楽しい遊具がいっぱいあるんだよ?」 初めて声をかけてくれた、まだ変声期に入っていなかった頃の、可愛らしい彼女の声と、女性らしい長髪に、男の子のような出で立ちを思い出すこともない。 「一緒に遊ばないと苛めるからね?ほら、うちに帰るまでランドセル取りじゃんけんしよう?」 控えめな裕香がまだ保育園に通っていた頃、日課のように二人きりで家まで帰っていた、女の子と遊ぶことを恥ずかしい、なんて思うのも持っての外、彼女は 誰にでも好かれる男まさりな性格の分、ぐいぐいと僕を引っ張っては一緒に遊ぶことを強要していた。 「もういっぺん言ってみろ!和明はオカマなんかじゃない!!」 時に僕が女の子しか友達の居ないオカマ野郎、なんてからかわれれば、いつもムキになっては男を相手に喧嘩までしていた、たとえ多人数でも一歩も引かずに こぶしで勝利を収める彼女には、正直頭も上がらなかったが、それ以上にだんだんと僕は彼女を好きになっていった。 裕香という妹分が出来たせいか、僕もどこか愛に負けたくない一心で勉強を頑張り始めた、習い事も…強くなりたい一心で拳法を習い始めた 「へえ、和明でも僕の背を追い越せるんだね…関心関心♪」 中学生になっても続いていた関係、成長期に入り、彼女の身長を追い越した僕を見る彼女の目は、口でいくら庇っていてもどこか寂しそうだった。 次第に肉体的にも勉強でも、彼女を追い越していった僕を見る度、喜んでいる彼女の顔は少なくなり…ついに冬のあの日、彼女は言った 771 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05 47 10.92 ID DOHI9W8F [5/7] 「…和明、やっぱり嫌だよ、僕は君に一緒に居て欲しいんだ!君が必要なんだ!、僕から離れないでよ、お願いだ!…僕は君が好きなんだ!!愛してる! いくらでも言う!愛してる、君が誰よりも必要なんだ、だから僕から離れないでくれ!!僕はあげられるものなら何でもあげるからっ!!」 彼女が涙を流して、まるで駄々をこねる子供のようにこういう言葉を口にするのは初めてだった 彼女は泣いて話し始めた、クラスの皆は君を格好いいと言っている、学園で一番美人なんて言われてる先輩は君をよびだしたそうじゃないか、と 彼女は嗚咽を漏らして話した、僕と一緒に居てくれと、君にどんどん追い抜かれていって、いずれ君が僕の元を去るんじゃないかと思うと悲しいと 彼女は涙ながらに僕を抱きしめて話した、ずっと昔から僕のことが好きだったと、君のためなら何でも出来る、いや、何でもする、女の子らしく変わってみせると 僕は答えた、僕も君が必要だ、君しか見えないと、先輩の告白も断った、と、そして、君には今のままでいて欲しい、それが一番魅力的だから、と 彼女と僕は抱き合って同時に答えた、君が大好きだ、と 抱き合った体の感触、全て覚えている、唇から皮膚、舌に至るまで、その体温も匂いも、涙の味も、愛を誓い合った言葉も、彼女が裕香に教わって作った、美味くも ないがまずくもない弁当の味も、バレンタインに手作りで作ったトリュフの味も、つないで帰った手の感触も、卒業式の日に後輩の女子にお互いともボタンをむしられて あげるボタンがワイシャツのものくらいしか残っていなかったことも、高校に行ってからの裕香と3人でのたわいのないやり取りも、消えることなく、全部覚えている… 「ねえ和明、もう僕は駄目だ、君が居なくちゃ何も出来ない…不安でたまらないんだ、だから離れないでくれ、僕と一緒に居てくれ、手を繋いでくれ」 互いに生徒会に抜擢され、部活も忙しくなるうちに彼女との交流は次第に遠ざかり、彼女はまた、例の寂しげな表情を見せ始め、そう言った。 「あの女子は誰なんだ?君はもしかして…その、そんな馬鹿なことはないはずだ!?なあ、そうだろう?そうだと言ってくれよ!!僕は君の言うことを信じる!信じる から!!」 不安定になる彼女を助けたかった、姉として、何でも出来る娘として、常に人生において一人立ちを強要された彼女は、反面とても脆く、人に甘えたいという気持ちが 強かったのだろう。 僕は出来るだけ時間を作るために部活も辞めた、生徒会の仕事も必要以上に時間をかけずに徹した、彼女との交際時間を長引かせるため、家が近いということを利用して 半同棲に近い生活を送った。 全部彼女のためだ、救ってあげたかった、あの時僕を引っ張ってくれた分、僕も彼女を引っ張っていきたかった、守ってあげたかった。 これこそ愛のなせる業だと思う、理想だと思う、思うだけならば、相手がそれを理解してくれるのならば。 772 名前:リッサ ◆6l0Hq6/z.w [sage] 投稿日:2011/05/05(木) 05 47 55.08 ID DOHI9W8F [6/7] 4 それでも事態は悪化した。 彼女は次第にクラスの女子にも敵意を見せ始めた、僕を問いただすだけに収まらずに、他の女子生徒を詰問するようなことを始めた。 孤立していく人間関係を、それでも僕がいてくれればいい、そう言っては僕を求め続けていた。 そして最後には裕香にも敵意を向け始めた、僕と愛の朝食を作ったことに対して、僕を自分の出来ない料理の腕前で誘惑しているんじゃ ないのか、などというとても下賎な疑惑すら向け始めた。 ついに怒る僕に泣いてすがりつく愛と、泣き出す裕香、二人を見てなんとも言えなくなる僕、何でこんなことになったんだろう、二人ともとても仲の良かった 姉妹だというのに。 この時点で僕はもう、愛と関わることをやめるのも致し方ないと考え始めていた、愛は病みすぎている、このままでは皆が不幸になる。 そしてあの日、僕はついに愛にそのことを切り出した、このまま行けば不幸になるのは僕と愛だけでは済まないかも知れない、だからその心を治そう、依存をやめよう、と 僕は君を愛したい、だからこそきちんと心も元気にしよう、元の皆に好かれる愛に戻ろうと。 「君までそんなことを言うのかい?僕は必要ないって捨てるのかい?」 「そんなことないに決まってるじゃないか!僕は君が好きだ、だからこそ君が僕に溺れて依存するのは見ていられないんだ!君は裕香ちゃんまで不幸にしていいって言うのか?」 「……ごめんね和明、それなら僕は…僕は、君を選ぶ、君を不幸にする、そして…君をモノにする」 ごつん、と僕の頭部に鈍い衝撃が走る。愛の手にはワインボトルが握られていた。 そうか、そう選んだのか、つまりは僕を殺して自分も死ぬと、二人は永遠に愛し合う、と。 ……… いつの間にか僕は授業中に泣き出していた、声すらあげないが目には涙が溜まり、嗚咽をあげて机の前で崩れ落ちている。 忘れたいはずだった、授業に集中していればそれは出来ると思っていた。 でもダメだった、そう簡単に、一月足らずであの悲しみが掻き消えるなんて事はありえない。 愛は死んだ、あの日に、確実に死んだんだ。 嗚咽をあげ、鼻水まで垂らして泣きながらそう僕は悟った、もうこの感情は押さえ込めるものや我慢できるものでもないんだと。 心配する教師や、興味半分に覗き込んでくるクラスメート、そして手を貸そうとするクラス委員の手を解き、僕は立ち上がる。 「すみません…保健室に行きます…」 そう言って僕は教室を後にする、そしてそのまま、保健室には向わずに、まるでこの現実そのものから逃げるように学校から立ち去った。 靴を履き替え、裕香が心配するだろうなと思いながらも、僕は自転車に乗って高校から郊外に向う。 そう、あの日死ねなかった僕に待っていた、とても甘い甘い、残酷な処刑場へ…
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大きな墓碑と比べたら小さな曼珠沙華。 それでも大きく妖しい曼珠沙華。 その花を植えたのは奇妙にも墓の者に近き人物ではなかった。 大きく豪華な作りの家があった。 その家は町外れにあった。 町から近かったが、それは遠く離れていたという。 家に住んでいる人間は一人だった。 少年は一人ぼっちだった。 それが人間だったならば、大層哀れな事だった。 しかしそれは人間ではなかった。 化物は、ずっと一人ぼっちだった。 「問おう、僕は何故人間なのだ。」 それは著しく愚問だった。 それは大きな間違いである。 お前は人間ではないのだ。 お前は悪魔だ。お前は悪魔の使いだ。お前は悪魔のしもべだ。 「そうか、僕は、人間ではなかったか。」 彼は死に際にまたヒトを殺したという。 その顔は酷く歪に笑っていたという。 「なぜお前は人間ではないのだ。」 「なぜお前は生きているんだ。」 「なぜ殺されなくてはならなかったのだ。」 問いたのだから、今度は問われる番だった。 しかし、彼は何も答えやしなかった。 ただ無言でそれらを黙殺したという。 少年は遂に、長く住んでいた家から逃げ出した。 次の目にしたのは、火に包まれた町だったという。 「俺を軽蔑してくれよ。」 「…。」 「俺が恐ろしいだろう。」 「…。」 「俺は人間じゃない!」 「………。」 少年の問いは、決して報われず、答えられることはなかったという。 それから長い時間が経っても、少年はずっと少年だった。 「俺が愛しているのはお前だけだよ。」 「そう、そりゃあどうも。」 こうして、少年は愛という感情を覚えていた。 少年は今まで、愉しみという感情しか知らなかったが。 それは初めての感覚で、大きく少年の心を揺さぶった。 時は、人が支配する時代。 少年が手を下さずとも人は血を流し、人は町を燃やした。 人は血を被り、悪魔どもを崇拝した。 人は国を支配し、奪い取った。 人は力を振りかざし、殺し尽くした。 少年の手の中のヒトさえも、人…によって殺された。 「…俺を軽蔑するかい。」 「………。」 「俺が…恐ろしいかい。」 「………。」 「………そうか。」 返答はなかった。 少年は人という化物を殺し尽くし、最後は天をも殺し尽くし、 殺し尽くし、殺し尽くし、どこまでも、どこまでも殺し尽くした。 生きる者はいなくなったという。 しかし、ついに、少年が憎しみという感情を知ることは最期までなかったという。 どこかの昔話さね。 「……昔の女かい?」 少女の声からは、若干憤りの感情が感じられた。気がした。 しかし俺は正直に答える。 「誰だか忘れてしまったな。困った。」 昔の事なんてどうでもいい。 俺は余りに少女の顔が人間らしかったので、 「はっは」 人間らしく笑ってみた。 「白々しい奴だね。仮にも私は妻なんだが。」 白々しい、と。 「なぁホトちゃん。一つ聞いて良いかな?」 「なんだアーク、改まって。気色悪い。」 「君は俺のことを恐いと、感じたことはあるかい?」 「ふふ、気色悪い奴とは、今も思っているが。私がお前に恐怖など感じるわけない。」 胸を張って、答えられた。 そうだな。当たり前の返事だ。 少女は突拍子も無い俺の言葉に、なぜだか疑問符を抱かない。 「昔の女のこと、本当に覚えてないみたいだな。」 少女がくつくつ笑いながらそう言った。 「…どうしてそう思うんだよ?」 「そんな女のこと、私は知らないが、お前のことなら知っているぞ。」 俺の問いはいつも報われて、答えは必ず返ってくる。 当然のことだが、何故だか慣れず。 「…いこっかな。」 「どこへ?」 「散歩。じゃあまたね。」 「本当、突拍子も無いやつだね。」 そんな少女は「まったく下らん」と少年を一蹴するように、踵を返した。 少年にとって、見覚えのある家に住むその少女は、綺麗に整った中庭でくつろぎ始めた。 もう少年など眼中にないと言わんばかりだ。 しかし少年は、恐らく最後までその事を気に止めない。 『過去は忘れ去られた。』 俺は、綺麗にそう言い包めることにすると、なんとなく散歩道にいた人間を踏み潰した。 曼珠沙華のように地面に咲いた赤い華。 「君は俺を軽蔑するかな?」 ………。
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某国某所。 足場は石で出来ていた。歩く度に、コツ・コツと小気味良い音が響く。 息を吸うたび清々しい。草原が風に靡いて美々しい。 灰色の通路は狭かったし、石でできた階段など幼い体の私には段差が一々高すぎる。 しかしそれさえも私にとっては心躍るのだ。 全ての感覚から得られるあらゆる情報が、私の魂を潤していた。やっぱり歩行は素晴らしい。 そんな私の視界は常に遥か遠くを捉えていた。 それは既に夕暮れ時の赤い空である。 また、見えなくなるまでずっと続く石路でもあり、夕焼け色に染まった草原でもある。 私は自分がよくわからない。今だって具体的な目的はない。特別な出会いもない。 ただ自分の中に存在している原始的な欲求を、満たすためだけに歩行するし、不具合は何もない。 「着いたっ」 私は声に出し、達成感に満ち溢れた。 目指して歩いていたのは、石の道を外れた草原の中、一本だけ佇んでいる綺麗な木であった。 私は木を撫でた。そして思った。なんて美しい魂だろう…生きているというのは素晴らしい! この魂だっていずれは枯れてしまう。魂という存在は物質としてきっと不完全なのだろう。 「グルルルルル……」 そんな思いを馳せていた私の耳が、突然誰かさんの唸り声をキャッチした。 そこにいたのは、黒い犬達。それも狼のような図体のワンコ達であった。 私にとっては未だ些末事だったが、彼らにとってはきっと私はとても久しぶりの食料なのだろう。 犬達は私に野性的な殺気をぶつける。囲まれた私は、朗らかに笑ってみせた。 彼らに私の気持ちはきっとわからない。しかし、私は彼らの気持ちが分かったのだ! 「ねえ、私は美味しそう?」 犬達は一斉に私に襲いかかると、私の体をその顎で容易く破壊した。 千切れた四肢を大事そうに咥えて、暫く私の内蔵を物色すると犬達は去っていった。 …日は完全に暮れて、夜がきたから寒くなる。 もひとつ、私は知っている。 特にこの一帯は寒いんだ。 とても寒い。 寒い寒い寒い…まあ、平気なんだけど。 肉の塊になっても私は平気。どんなに寒くても私は平気。平気なものは平気なのだから仕方ない。 これだから、私はいつまで経っても、よくわからないモノなのだ。 …もう寝ようかな。 「今日は………もうちょっと降りたかったな」 日はまた昇る
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錆びついた車輪が擦れて、耳慣れた音を立てる。 傍らの少年は「着きましたね」と無感情に呟くと、「では、行きましょう」と動き始めた。 しかし、私の脚は意に反して止まった。ちょうど、降車しようという時にだ。 思わず動揺して、声を上げてしまう。 「お、おい!身体が動かないぞ!」 私の声に早く反応したのは青磁だったが、彼の口を遮るようにして鶸が前に出た。 「あー!ツルちゃん、電車に乗る時にとりついたでしょ?それと逆のことをするの!」 逆?逆とはどういう事だ。 幽霊たる我々には実体がない。故に、電車などの乗り物に乗って移動する際には、それに「とりつく」事を要求される。 なるほど、降車する時は逆に「離れる」必要があるのか。 私は目を閉じて集中し、電車の事を頭から追い出した。 暫時あって、ぷつり、と頭の中で音がした。 目を開くと私は駅のホームに立っていて、電車はがたごとと響く音を遠ざけていた。 「いやー、あせったあせった」 「……もう少しで面倒な事になってた」 二人は暢気に話している。 私はため息をつき、この先を憂いながら、駅の看板を見上げる。 古びた木製の駅舎、昼間の暗がりに剥げた文字は、『玄珈村(げんかむら)』── ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; #-2 ~旅のはじめに~_後編 ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; 「──それで、その……ツルちゃんの言ってたおじさんの娘……えーっと、湊(みなと)ちゃん?が住んでる家って、どのあたりにあるのかな」 草の茂る道を行く私達三人、もとい三幽霊は、湊の預けられている家へと歩を進めていた。 「私の記憶が確かなら、そう遠くない場所にあるはずだ」 私の言葉に、鶸はそっかと気のない返事をして、ふよふよと漂いながら空を見ていた。 青く澄んだ空は、きっといい天気と言われるにふさわしいもので、だからこそ私達にはふさわしくないような心持ちがした。 鶸とは反対の方へ目を向けると、青磁が無表情で漂っている。 感情を表に出す事が少ないであろうその瞳は、一体何を映しているのか。 一見して陽気に振舞っていた鶸の方も、電車に乗ってからというもの少し元気がない。 私は若干の憂いを増しつつも、悲観に憑りつかれてはならないと思い、気を引き締めて歩いた。 湊の預けられている家は親戚方の家だそうだ。 私は何分部外者であったから、生前にそれ以外の碌な情報は仕入られなかった。 いや、仕入れなかった、というのが正しかろう。 元より偶然の繋がりで、その偶然の糸が途切れてしまったのだから、おじさんの葬式に出てからというもの彼女の家の話は聞かなかった。 ただ、家に篭ってこっくりさんをしている、という話だけを、葬式の際に小耳に挟んだ。 事実、湊はおじさんの葬式に出席しなかったのだ。 生前の事を思い起こすにつれて、頭の痛みがちりちりと大きくなる。 私の感じた罪悪──救えなかったこと──があるはずもない脳味噌を擽り、耐え難い痛みをもたらす。 「ツルちゃん、大丈夫……?」 声に気付いてはっと我に帰り顔を起こすと、少女の顔が目の前にあった。 視界の隅には恨めしげな表情の少年もいる。妹を困らせた老いぼれが憎いのだろう。 「ああ、大丈夫だよ」 答えて、私は作り物の笑顔を見せる。 不安げな少女は口を閉じて、歩き出す私の後ろを漂う。 少年はその横について、ぼそぼそと何か囁いている。 図らずも険悪な空気を作ってしまった事が私に更なる罪悪をもたらし、頭の痛みはますます強くなる。 私は振り切るように口を開いた。 「大丈夫だ」 根拠もなければ、自信もない言葉だった。 「湊ちゃんを助けたいんだろう?この通り私は元気だ、鶸ちゃんも青磁も、そんな陰気な顔をしていては駄目だ。 行くぞ我らが幽霊三人衆!不幸の少女を救うのだ!!」 我ながら白々しい台詞だった。羞恥に顔を覆い隠したい気分だ。事実、青磁は私をあからさまに睨みつけていた。 しかしその横に収まっていた鶸は目を見開いて輝かせ、今にも駆け出さんばかりだ。 「うん!ツルちゃんの言うとーり!!ゴミ拾いのボランティアだって、嫌そうな顔でやってる人がいたら嫌だもん!」 笑顔に戻った鶸に、青磁が無表情で横槍を入れる。 「……それを言うなら、病院の看護師や医者が腐った肥溜めみたいな顔をしている方が…………」 「青磁にぃはすぐそうやってひどいこと言うー!だめー!!」 「……ひゃへいいうひはははへへ」 鶸に頬を揉まれて顔を変形させる青磁に、ひっそりと「いい顔もできるじゃないか」と呟くと、私の痛みが何処かへ行ってしまった事に気付いた。 もうしばらく行けば湊の預けられているという家に着く。 あたりは草と田んぼと畑に覆われ、車は殆ど走っていない。 私達は田舎道を歩く。時折現れる鳥や蜻蛉に鶸が興味を示す度、青磁がその名前を答えていた。 私達の旅は始まり、初めての人助けの局面を迎える事になる。 青く澄んだ空は、きっといい天気と言われるにふさわしいもので、だからこそ私達にはふさわしくないような心持ちがした。 しかし、そこに浮かぶ白い雲は、私達の結成を祝うような、虚ろな輝きに満ちていた。
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書き手@糞ぬこ 龍我魔崎は普通の人間ではない。 普通ではないといっても、アニメや漫画のような超能力を持っているわけではない。 人一倍欲望が強く、そして欲望に忠実なだけである。そして普通の人間よりも肉体が少々強力な程度である。 ただ、彼が抱く欲望の半分以上が殺人欲であり、欲望に忠実故に簡単に人を殺す。 本人は欲望を満たすことしか考えていないので、人を殺すことに躊躇いもなく、罪悪感もない。 魔崎が人を殺し何か事件を起こすたびに姉である那岐沙が苦労する。 そして、彼ら──魔崎と那岐沙──は裏社会の住民でもある。二人は裏社会でも上の方にいる存在で、時には警察を使い事件を揉み消すことができる。 そんな彼は、今日も欲望を満たすためだけに喫茶店で人殺しを楽しんでいた。 床、机、椅子、ガラス……いたる所に血がついており、喫茶店内は、バラバラになった人間の死体や穴だらけの死体、血まみれになった死体などが倒れているのみだった。 その死体を笑顔で眺めていると、次につまらないという顔をして立ち上がる。 辛うじて息をしている人間を見つけると、それに止めを刺す。 恐怖に歪んだ顔を蹴り飛ばすと、辺りを見回す。 外には何がなんだか分からない、どうしてこうなった、という顔をしている人々が喫茶店内を覗いており、中には携帯電話で警察に通報しようとしている者も居る。 だが魔崎にはそんなことは関係ない。姉である那岐沙が全てを揉み消すからだ。 口では那岐沙に色々暴言を吐いているが、感謝はしている。 魔崎にとって那岐沙は必要な存在であるとともに、那岐沙にとっても魔崎は必要な存在である。 異常な信頼関係で結ばれている二人。だが、二人にとって、それは異常ではなく通常。非日常でなく日常なのだ。 警察が来ない内に魔崎は喫茶店を出ようとする。 外に居た人々は魔崎が出てくると同時に足早とこの場を去ろうとする。 ──つまらないな。 不意とそんなことを思う。確かに人を殺すのは楽しい。 人が自分に恐怖を感じ顔を歪ませる、恋人を身を挺して助けようとする…… 魔崎には、自分を見たときに人が採るこれらの行為がおかしくてたまらなく、またそれを見ることによって、それを壊すことによって欲望が満たされ、快感となる。 だが、力も持たない人間を殺すのは簡単すぎてつまらない。 多くの人間を殺していった結果、魔崎はただの人間を殺すことに飽きてきたのである。 そして欲望が変化していった。ただの人間を殺すことだけでなく──力を持った者を殺すということに。 そんな魔崎の前に数人の黒服の男達が現れる。 身長、体系こそは違えど、皆同じ黒服を着、顔にはサングラスをかけている。 そして、その中でも身長は2mはあるだろう、大男が口を開く。 「龍我魔崎様ですね。貴方は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 そう言って、後ろの黒い高級車へと道を開ける。その車を見た瞬間、魔崎の顔が変わる。 いや、正確には車ではない。車の中にいる人物を見て顔が変わった。 車の中に魔崎の姉『那岐沙』が乗っているのだ。 「どうして那岐沙が貴方達の車に乗っているのかな?」 先ほど人を殺していた笑顔で、魔崎より少し大きい程度の身長の黒服の男へと問いかける。 だが黒服の男は答えず、ただ車の方を向いているだけだった。 ──いい度胸じゃねぇか! 魔崎は握っているナイフを構え、黒服の男へと襲い掛かる。 黒服の男を避ける動作もせず、ただ魔崎のナイフによる斬撃を受ける。 だが、斬ったはずの男からは血は吹き出ず、そして斬ったはずの箇所の傷がゆっくりとだが塞がっている。 ──おもしれぇ……! やっと、俺が求めている物に会えるかも知れない。少なくとも目の前の黒服の男は人類ではない。 魔崎は先ほどの笑顔とは違う──獲物に出会えて、それを狩るような笑い顔で車へと乗り込む。 その後に、黒服の男が車へ乗り込む。そして魔崎と那岐沙が黒服の男達に挟まれる。 「やぁ那岐沙。こんなところで会うだなんてね。」 「本当、可笑しな話よね。」 魔崎が那岐沙の喉元にナイフを突きつけると、那岐沙も魔崎の頭へと拳銃を向ける。 暫くにらみ合い、そしてお互い武器を下ろす。 「くく……那岐沙が何故居るのかは知らないが、面白そうじゃないか。 やっと俺の欲望が満たされそうだ。くく……くはははは!!」 そういって、魔崎は不気味に笑う。 今まで見たことの無い笑いに、那岐沙は初めて魔崎に恐怖を感じる。 そんな二人を余所に車はエンジン音を上げ、発進する──
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夕陽に。 夕陽に、さんさんという言葉を当てはめるのは、どこかおかしい気もするけれど。 それくらいに燦めく夕陽を見つめていたら、意味も分からない涙が零れた。 居眠り姫の目覚め 授業が終わった午後三時。それから掃除を終えて諸々の連絡が終わる頃には、午後四時を回っていたと思う。 学級委員が号令をして、みんなが鞄を背負って教室を出ていく。 ただ一人、机に突っ伏していた私を除けば。 別に寝ていたわけではない。それならば、学級委員の号令を聞く事もなかったし、一人だけ号令に背いて机に突っ伏していた私を、クラス中が睨み付けていた事にも気付かなかったはずだ。 「…………」 話し声は遠ざかっていく。 授業の内容、次のテストについて、昨日やっていたテレビ番組、好きなアイドルの話、特定の教師に対する愚痴、────特定の生徒に対する陰口。 そういった類のものが遠ざかり、完全に聞こえなくなって、ようやく私は顔を起こす。 やはりというか、教室には人っ子一人いない。 のそのそと鞄に教科書を詰める。本来ならば持って帰る必要もないけれど、机の中に入れっぱなしにしておけばどうなるか分からない。 新品同様の教科書を見つめながら、そんな事を考える。 鞄に封をして立ち上がると、窓から射し込む夕陽が教室を橙に染めていた。 この夕陽もじきに沈んでいくだろう。夏も過ぎたこの季節、日が沈むのはあっという間だ。 椅子に触れていた部分が、少しひやりとする。 「秋か」などと、誰もいない教室で一人呟いてみる。 当然ながら空気が返事をくれるはずもなく、私はため息を一つ吐いて教室を後にした。 廊下を歩いていると、部活動に励む生徒達のかけ声が聞こえた。 部活。私は何部に所属してたっけ。 「上坂(うえさか)」 私を呼ぶ声が、唐突に背中からやってきた。 振り返って見てみると、見知った顔の女教師が立っていた。 「……谷内田(やちだ)先生、何か」 「何かじゃない。お前、部活にもカオ出さないでドコ行く気だ」 ああ、そうだった。 私が所属しているのは文芸部だ。少なくとも名目上は。 まあ、一年生は部活動に所属する義務があるから仕方なく、というところだ。 志望動機はそれはもう愚直なもので、『一番サボっても問題なさそうだったから』である。現に、文芸部に所属している部員は根暗そうな性格をした人ばかりで、幽霊部員も多いようだった。 …故に、この顧問谷内田は私にとって想定外というわけである。 ともかく、私は鬱陶しげに口を開く。 「どこって……決まってるじゃありませんか。家ですよ。自宅」 「帰宅だと?何故だ。部活には来ないのか?」 「はい」 「そうか……なあ上坂。別に私は部活に来ない事を咎めてるワケじゃないんだぞ?」 始まった。 私の大嫌いな、『説教』という奴だ。 谷内田は神妙な面持ちで尚も続ける。 「部活を休むのは構わない。誰だって、今日は行きたくないって気分の時はあるもんだ。 …だけどな、休む時はせめて誰かに伝えて欲しいんだ。来るか来ないか分からない部員っていうのは、他の部員に迷惑が──」 「じゃあいいですよ。私は金輪際顔を出しません。……これでいいですか?」 谷内田の言葉を遮って私は言う。自然と、眉間に皺が寄る。 谷内田は一瞬狼狽えたが、しかしすぐに私に視線を合わせて紡ぎ出す。 「いいわけがないだろう!活動に参加しない部員などを置いておくワケにはいかない!」 「それならどうしますか?別に私は退部でも構いませんが」 「……どこか他の部にアテでもあるのか?知ってるだろうが、この高校は一年生は必ず部活に所属しなきゃならんぞ」 「ええ、知ってます。ですから、私は全く部活に顔を出さなくとも問題ない部活に入ります」 「なっ……」 谷内田は再び狼狽えた。今度は隠すような素振りすら見せない。 ああ、なんというか、生徒の私が言うのも何だが、この谷内田という教師は非常に身長が低い。どの位かと言えば私より小さい。そして、私の予想外であろう言葉の一つ一つに反応しては狼狽えるその姿は、一種の小動物じみて見えて、愛らしさすら覚える。 そんな思考を頭の隅に追いやって私は続けた。 「先生方にも色んな人がいます。それこそ、谷内田先生みたいに熱心な人も、山本先生みたいにずぼらな人も、道先生みたいに変な人も。 その中には、顧問をしている部活に幽霊部員がいても、全く気にしない先生だっているんじゃありませんか?」 「それは……」 谷内田の表情が目に見えて曇っていく。 図らずとも、嗜虐心を煽られる。 彼女の身長もあいまって、なんだか弱い者いじめをしているような感覚だ。無論、立場上弱いのは私なのだけれど。 「そろそろ失礼します」 「あっ……こら、上坂!」 彼女の横を通り過ぎた時に肩を叩かれるかと思ったのだが、ついに叩かれる事はなく、私はそのまま昇降口に向かっての道をすたすたと歩いていった。 少し話し込んだせいか、ぼろぼろの靴を履いて外に出ると、もう夕陽はとっくに沈んでいた。五時を回ったか、回らないか。それくらいの時刻だろう。 沈むのは夕陽だけではない。夜は私の気分をも沈ませる。 さっさと家に帰ろうか。 でも、家に帰ったところで、気分がどうにかなるものでもない。宿題を終わらせてしまえば、後はずっと暇で、退屈しのぎに始めた思考が、きっと深い奈落の底へと渦を巻いていく。 何故産まれたのか何故生きているのか、そんな半端な哲学で時間を棒に振りながら。 馬鹿のようだ。いいや、実際馬鹿なのか。 それでも、家に向かう足取りは重い。お腹も空かない。何も食べたくないし、それが冷凍食品のパスタとかであるなら尚更だ。 どうせ家に帰らずとも、私を心配する人はいない。 私がいなくなっても、誰も困らない。 それが、逆に私を生かす。どうせ消えるのなら、誰かに惜しまれて消えたい。 そんな、一握りの願いにぶら下がって、私は幸福を蹴飛ばして歩いている。 灯りのない家に向かう事を拒んだ私の心は、自然と足をあらぬ方向へ向け始めた。 行く当てはない。ああ、これならば文芸部にでも顔を出しておけば良かったかもしれない。 家に帰ったところで何もないのなら、まだ、全くやる事などないとしても、誰か人がいる場所にいた方がいい気がする。 文芸部は今頃何の活動をしているだろうか。顧問の谷内田はきっと私のような幽霊部員を捜して校内を走り回っているだろう。何が彼女をそうさせるのかは分からないけれど。 流されてしまえば楽なのに。 流されていく人を引き留めるのは辛いのに。 てくてく、歩く音は街の喧騒に消える。 おかしなものだ。人は沢山いるというのに、私はこの街でひとりぼっちのように感じる。 冷たくなった風が冬服の袖を揺らして手首を吹く。 横断歩道の信号が赤く染まる。物思いに耽るせいで、どうやら渡り損ねたらしい。 赤信号を見つめる。時折通る車がそれを隠す。やがて車のエンジン音が同じ場所に溜まり出す。すると信号は色を変える。私の横に並んだ人達は、それを合図に一斉に向こう側へと渡る。 白い線を踏む。私も、その流れに倣って歩く。 こうやって、他人と同じようにしていれば間違いはない。 幼い頃に私はそう悟った。 どこで道を踏み外したのかは覚えていない。小学生の頃だったかもしれないし中学に入ってからかもしれない。 少なくとも高校に入学する頃にはすっかり壊れていて、授業は上の空、会話はぎこちなく、しかも人見知り。間もなくして私はクラスの置いてけぼりになった。 人が沢山いるのが落ち着かない。 要は怖かった。私は、私以外の人間が、同じ場所にいっぱいになっているのが、たまらなく怖ろしかったのだ。 特に休み時間は最悪で、それぞれが吐き出す言葉の群れがノイズのようになって私の耳を犯した。 「高校は義務教育じゃないから」と言ったのは誰だったか。担任の教師が面談で言ったか、カウンセラーの先生が業を煮やして私に吹っかけたか、それとも、碌に私の面倒を見なかった私の両親のどちらかが、高校を受験する時に刺した釘だったか。 何にせよ、私は高校に留まるという事だけは自分の意思で行ってきた。出席はするし遅刻や早退は滅多にしない。授業態度も、まあそこまで酷くはないだろう。居眠りが多いのは自覚している。たぶん、そういう日は、前日に変な事を考えてあまり眠れなかったんだと思う。 …いいや、違う。今私は自分に嘘を信じ込ませようとした。私はいっぱいになった人間を視界に収めるのが、嫌だったんだろう。 高校に留まりたい理由というのも馬鹿げたもので、単に社会に出て働く事に対する不安感が、学校生活で感じる不快感に勝ったというだけの話である。 ふっ、と地面に置いた視線を正面に向ける。知らない学校が目の前にあった。 表札には市立霞高等学校とある。私の通っているのが転寝高校で、それは霞市内の学校であるから、この古く大きな学校は、そこまで離れた場所にある訳ではないだろう。そう思うと少しだけ安心した。歩くだけ歩いて、帰れないほどの遠くへ来てしまったのではないと分かったから。 門を抜けて校舎を見上げると、殆どの教室は消灯されているようだった。運動部もとっくに活動を終えて、あたりは静まり返っている。 まだ灯りが点いている昇降口に向けて私は歩き出した。 当然、こんな場所に私の靴箱はない。 仕方なく、靴を鞄に入れて校舎に上がった。あまり長く靴下で歩くと穴が開いてしまうな、などと考えながらも、足はふらふらと校舎をさまよい始めた。 人は殆どいなかった。時折すれ違う生徒は私を見ても何も言わなかったし、教師もまた同様だった。制服のデザインがまるっきり一緒だったのが功を奏したのかもしれない。 歩いているうちに、大体の教室の位置を把握できた。一年から三年までの教室の位置は、もう覚えたと言っていい。 後は特殊教室だろう。理科室、音楽室、視聴覚室、その他…まあ、大体は消灯済みで、当然のように鍵がかけられていたから、入れはしなかったが。 最後に残ったのは三階。最上階の隅に位置する図書室だった。まだ灯りが点いている。 おそるおそる扉に手をかけ、ゆっくりと開く。 中に入る。後ろ手で扉を閉め、中をきょろきょろと見回す。 そこそこ広い図書室のようだった。教室八個ぶん程度はある。 しかしやはりというか人はいない。ノッポのついた大きな古い置き時計を見ると、もう六時をとっくに過ぎていた。 誰もいないのなら、何故灯りが点いているのだろう。それに施錠もされていない。そこまでここの管理は杜撰なのだろうか。 ため息を一つ吐く。もう、これも癖になってしまっているようだ。ため息を吐けばその度に幸せが逃げていくとどこかで聞いたが、幸せには足が生えているものだろうか。 一度冷静になって考えてみると、私はどうしてこんな事をしているのだろう。思い返せば、街を当てもなくさまよい出したあたりから、もう頭の中は夢心地のような状態だった気もする。 ともあれ、帰らなくては。これ以上家に帰るのが遅くなっては明日に支障を来す。 私は図書室の出入り口に向かって歩き出した。 ちょうど、その時だ。 「もう……下校時刻……ですよ」 「っは!?」 ぞわりと背に鳥肌が走った。淡白な声と共に肩を叩いたのは、私と同じくらいの身長の女の子だった。 どこから現れた!?だって、この図書室には確かに誰もいなかったはずなのに! 「何か図書室に用……?」 「あっ、えと、その……」 焦りで言葉が喉で競合した。 女の子は不思議そうにこちらを見た後、おもむろに近寄ってくる。 「大丈夫……?何かあったの……」 「あっ、あ、あの、あ、あ」 駄目だ。 無理だ。 そもそも人見知りを患って久しい。まして、こんな焦燥した状態でまともな思考が巻ける訳がない。 私は返事を一言も返せずに呻くような声を漏らしながら、ただ本能的な恐怖に従って一歩ずつ後ろへ下がっていった。 「落ち着いて……取って、食べたりしないよ……」 「えあ…っ…………あ」 とすん、と背中に何かが当たって、すぐ後に、地面に何かが落ちる音がした。 視線を彼女から外せない私は、その音の正体も分からない。第一、考える余裕は既に無い。 ついに壁まで追い詰められ、私は震えながら目を閉じた。根拠もないのに、殺されるような圧迫感を覚えていた。 彼女の影が、気配が、すぐそこに迫っているのが分かる。それでも、目は開けられない。 早く、早く終われ。殺すならいっそ、殺せ。そんな言葉ばかりが意識の上を駆け巡った。 沈黙はどれくらいだったろう。一秒にも足らなかったかもしれないし、一時間ほどだったかもしれない。 少なくとも私にとっては永遠に近い時間が流れた後に、私はのしかかってきた何かに驚き目を見開いた。 「────────」 それが、人間で、さっきの女の子だという事に気付くのに、随分と時間がかかったような気がする。 肩に回された手は暖かく、私の顔の横にある頭からは綺麗な黒髪が彼女の腰にまで伸びていた。 私は初対面から数分の彼女に抱き締められていた。 けれど何故だろう。さっきまで濁流のように脈打っていた私の心臓は嘘のように寝(しずま)って、胸の中から染み出した暖かい血が、否が応にも私を安堵させた。 宙に浮いたままだった手を、ゆっくり、ゆっくりと、彼女の背に持ってくる。 右手、左手を、それぞれ彼女と対になるように。 手にかかった黒髪が、さらさらとして心地良かった。 「……落ち着いた?」 「…………うん……」 訳が分からなくて、意味もなく泣きたいような。腹の底から笑い上げてしまいたいような。 等身大の暖かさは離れて、彼女は床に落ちた本を拾い集める。 ああ、さっき私がぶつかった時に落ちたのか。すぐに悟って、「手伝うよ」と自然に声が出た。 温もりは名残惜しかったが、不思議と消えてしまった焦燥は、もうどこからも顔を出さなかった。 「ありがとう」と返す彼女は本を本棚に仕舞い終えると、そのままこちらに向き直って口を開く。 「私は……待鳥黎(まちとり れい)。待つ、鳥に、黎明の黎…………あなたは……?」 「私は上坂仁代(うえさか ひとよ)。上の坂に仁義の仁、代用の代」 私の言葉を聞いて、彼女──待鳥黎は、しばらく思案しているようだった。「そう」とだけ返事を返して、本棚の木板に指を這わせている。 やがて動きをぴたりと止めると、私に向き直り言った。 「ごめんなさい……」 「え、な、何が?」 さっき抱き締められた事なら全く気にしていないのだが。 いや、気にしていないというのは嘘になるかもしれないが、不快であった訳ではなく、寧ろ、いや、何を考えているんだ。 「……仁義の、仁って……どういう字だったかしら……」 そこか。 私がもう少し明るい性格をしていて、かつ彼女とそこそこ見知った仲だったら肩を叩いて「そこかよ」とツッコミを入れたくなる着眼点だった。天然入ってるのだろうか。 「えっと……こう、人偏を書いて、一二三の二を右に書くとできる」 「…………!」 黎は無言で手を叩いた。お分かり頂けたらしい。 「ありがとう……」 「いや、別に、名前教えただけだから」 私は照れ臭さから頭を掻いた。 その日は、それまでだった。下校時刻だから、と外に出る黎。慌ててついていく私。 本当なら、もっと話をしていたかったけれど、彼女に迷惑をかける申し訳なさがそれに歯止めをかけた。そうだ、私なんか、きっと鬱陶しいと思われているに決まっている。 今更になって顔を出した水平性の暗鬱とした考えは、星も見えない夜の闇に紛れて、そのまま奈落に落ちていきそうな気がした。 私はぶんぶんと頭を振って歩いた。彼女──待鳥黎の家とは、私の家は反対方向のようだった。校門を出て直ぐに、彼女とは別れた。急に吹きすさんだ風は、遅刻した秋の訪れを告げるように、私が家の玄関を開けるまで止まなかった。 その日、寝る前にふと思った。 いつもなら暗鬱とした思考に頭を奪われるところが、黎の顔に上書きされていくような感覚があった。 そしてその後に、不意に、過ぎった。正確には、冷静に思い出していた。 『誰もいない図書室の、一体何処から彼女は現れたのだろう?』 分からなかった。想像もつかなかったし、私の背後に音もなく現れた彼女の存在は奇妙極まりなかった。 私が思考に没頭していたとしても、背後からの気配と足音に気付かない事は、まずあり得ないと思えた。 「……黎って、幽霊のレイじゃないでしょうね」 私は言って、我ながらつまらない考えだな、と自嘲しつつも、それを完全には否定できずに、ぶる、と肩を震わせて、冷えて縮んだ布団が暖かくなるのを、胸を冷やしながら待っていた。
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「えい。」 名前:生成 纁(きなり そひ) 能力:ありとあらゆるものの『存在の否定』 年齢:16歳 性別:男 種族:人間 趣味:ひまつぶし 嫌いなもの:心 二つ名:外道爛漫(クルールチルドレン) 解説↓ 異能者。 夢幻学園に通っている高校一年生だが、あまり学校には行かず、街のどこかをふらふらしている。 学園での通称は『問題児』。度々問題を起こす。 言動はとても幼く、また精神年齢も相応に低いようだ。 その上に能力が危険極まりない為、いつもどこかで非道を振舞う。 彼の過去などは謎に包まれており、何故このような人物になったのかは不明。 彼の能力「ありとあらゆるものの『存在の否定』」について なお、この能力の名前は仮称である(本人が学園での異能検査を受けていないため)。 彼が『存在を否定』したものは、例えそれがなんであっても、その存在を消し去ることができる。消し去ったものがどこに行くかは本人すら知らない。 本人が望めば『この世界の否定』や『自分自身の否定』なども可能だが、彼にその発想があるかは不明。 結構細かいところまでコントロール可能で、望むなら『死の否定』をして結果的に生き返らせることも可能。尤も、やはり彼にその発想があるかは不明。 異能の力の度合いで言えば超越者クラスであるが、本人の頭がぱっぱらぱーなので異能者としてカウントされている。 この力によって自身も守っている為、人間にも関わらずほとんどの方法で彼を殺害することは不可能に等しい。 なお、彼の本質は子供のような心にあり、それは言い換えれば「無邪気」である。 ありのままの自分を曝け出しているだけなので、それをどうにかできれば、あるいは……? 台詞 「僕の名前は“生成 纁(きなり そひ)”!年齢は16歳!ぴかぴかの高校一年生…… 」 「ごめんなさい!もう二度としません!すいませんでした!」 「人を殺すのに理由がいるかい?いや、いらない!悔しかったらきみも僕を殺してみたらいいんだよ♪」 「ヒトの心臓って、ほおずきみたい!ほんのり赤みがかかった、纁色みたい……綺麗だよね!きみもそう思…ああ、死んでたか。」 「いっちにっ、さーんしっ、今日も元気にいきまっしょーい!」 「えー?めんどくさーい!死ねー!うりゃー!」 「もう死んじゃったのー?つまんなーい!」 主な登場作 生成 纁。
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創始者不明の謎の学園。 そこに通う生徒、職員達や学園内の施設、広さなどの設定を書くます。 とりあえず最低のカス野郎兼ド畜生である粗大ごみが書くのでアレな所とかあったら修正and加筆よろ>ぬこ それと新規設定とか大概の設定がブッ壊れないレベルならどんどん追加して良いと思うのでどうぞご勝手に。 夢幻学園や夢幻街は皆で作っていく物なので全部公式になりますよッッッ 週刊夢幻街を作る、増刊号は880円 ここからぬこによる適当な設定 理事長、学園長共に不明。何を目的に作られたかすらも不明だが、強力な能力者ばかりが集まるアブナイ場所。 教師陣はフラックス氏、竜胆氏、ギルバート氏など癖の強い者達。ちなみに強いらしい。 学園は中等部、高等部に分かれており、教師も違う(一般科目、クラス担任)。高等部だと竜胆氏やギルバート氏が有名か。 非常勤の教師もおり、度々目撃情報が入るが、その殆どが「カロリーメイトを片手に不良を片手で捻り潰していた」というものなので気をつけたし。 学園の授業は一般科目に加え、各々の能力適性を入学時に計り、それを元に振り分けられた授業を行う。 一般科目については通常の学生が勉強するものと同じであるが、能力科目は錬金術、読心術、黒魔術、空間操作、時空学など様々な物が存在している。中等部も高等部も能力科目は合同である。 高等部の連中の能力はおかしいのばかりだが、偶に中等部でもバカみたいな能力を持った正真正銘のバカがバカみたいに能力を行使してバカみたいに下克上の様な真似をしてくるので上下関係なんて無かった。 夢幻学園に細かい規則は存在していないが、多少は存在している。 その中でも有名なのが、夢幻学園三大規則であり、内容は 廊下を走ってはならない 自分の身は自分で守らなければならない ギルバート先生に毎月1000円の寄付をする というものである。 破った場合は教師陣による理不尽な私刑が待っている。急ぎの場合は生きている可能性も。 施設は充実しており、ほぼ何でも売っている購買(マンガやゲーム、裏では銃器や刃物も)、人気度が高すぎて戦場になる学食堂、夏場には無償開放される大きめのプール(健全な男子が健全な思考をもって集まることで有名)、他にも道場や射撃場など様々。 高等部と中等部の危険度は中等部>高等部であり、中等部は校舎がよく無くなる。大体こいつとかこいつのせいかも知れない。 そんな学校の風紀を守っているのが風紀委員であり、その他諸々の委員会を統括しているのが生徒会である。 それらに所属する彼ら彼女らは、夢幻学園でも最高にハイな連中だと信じてる。 夢幻街との関係は不明だが、街の治安は自称警察機関や学園の者に守られているので絶対安心安全。街にはあいつとかあいつとかいるしね。 ここからゴミの非公式設定 これら設定をどうするかはぬこ次第。 小学校から大学までがこの夢幻学園。一つの校舎に丸々収まっている。 校舎の大きさは、あの有名なバベルの塔より少し小さいぐらい…のが、幼等部、小等部、中等部、高等部と四つに別れて存在している。 売店も超巨大。 学園の土地量もまたそれに見合った巨大っぷりで、バベルの塔5個分ぐらい。 学園内には売店ならまだしもファミリーレストランから病院まで最早街レベルとなっている。 さらに店員なども異能者だったり生徒のバイトだったりする為大抵は油断出来ない。 学園内に存在する派閥を簡単に分けるとする。 『学園側』。教師陣とその他職員達。エドワードさんやゆかりんも学園側?戦力は未知数で、決して喧嘩を売ってはいけない相手である。 『風紀委員会』。学園側ではないがやる事は不良の壊滅と特に変わらないので学園側から恩恵を受けていたりと協力関係。 『不良グループ(仮名)』。学園側に並んでかなり昔から存在した不良グループ。数が多く、風紀委員会の宿敵でもある。北斗で言うモヒカン。 主に表に存在しているのはこれら。他に目に見えない巨大組織(多分コピペの組織)などが存在しているかも。 また、『個人』でも十分これら組織と渡り合うことの出来るまさに未知数の存在とか都市伝説とかいるかも知れなかったり。 禁止とされている行為、通称校則は下述。 『教師に対する反抗行為』『教師が迷惑だと思う行為先般』『戦争行為』 校則は完全に俺得なものとなっており、上記の校則を破ると死が待っている。(教師にもよる。) 駄菓子菓子、校舎外は基本的に生徒がフリーダムとなる。 その為、校舎から出ればそこは不良達のワンダーランドと化している。 ただし風紀委員会、別名正義の暴力団がいる為あまり派手にやっていけないらしい。 また、この学校をまともに卒業した人間はまだ誰もいない。 さらに年間の死者数は100人を超えてたりする。 だが何故か入学者は増える一方である。その為か、度々敷地や校舎が何故か大きくなったりする。夢幻学園七不思議の一つやで。 そこは多分俺の中だと創始者が関わってくるんだけど、創始者はまだ未登場のオリキャラってことでここは一つ。 また、校舎ごとの死亡率は中等部が圧倒的である。やっぱり血気盛んな時期なんやね……。 ここからflaxの超絶非公式設定 これをどう扱うかは書き手次第。 とりあえずflaxが夢幻学園モノを書くときはこの設定にのっとる気でいます。 夢幻学園とは、そもそも現実から剥離した平行世界に存在する一種の国家のようなもので、 まあ知っている人はダンス イン ザ ヴァンパイアバンドあたりを思い浮かべてくれると分かりやすいかもしれない。 夢幻学園の周りには夢幻街(むげんがい)と呼ばれる街がどこまでも広がっており、 夢幻学園に通う者は大概の場合そこに居を構えている。 街はあらゆる平行世界から様々なモノを吸収しており、 現在も広がっているのではないかと思われる。 よって、現実世界では漫画やアニメの中に描かれた程度の存在が出現し、 また世界を滅ぼしかねないような危険なモノまで平気で吸収し受け入れる。 しかし、この特異な世界を破壊したいと願う者は少なく、 また破壊しようとすれば誰かさんあたりに存在を抹消されるので、 街は奇妙な所でバランスを保ち続けている。 この世界に至る術は誰もが持っているが、 存在に気付き、また結界を見つけて入ってこれるのは大概が異能者である(まあ例外もあるのだが)。 外の世界では存在はほぼ知られておらず、また話題に上がるとしても都市伝説の域を出ない、 御伽噺のようなものだと思われている。 その他 エスカペが講師になって就任したり。 割と生徒目線で良い教師らしいが、喧嘩を売られたら逃げて返すことに定評があるとか。
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① 「まずい・・・このまま俺が同じ色の星を2個持っているってバレたら・・・。」 メタキゾは必死に右腕の腕輪に銀の星が2個あることを隠していた。 銀の星2個所持ということは誰かを殺したという証拠になりかねない。 その星を手に入れた時に誰かが殺されたというのは非常にタイミング、運が悪かった。 俯いて考え込むメタキゾの肩を何者かに叩かれる。軽く。 振り向けば手榴弾で負傷した自分を手当てしてくれたクラスメイトの男子と女子生徒2人がいた。 「メタキゾ。さっきはありがとうな。お前が手榴弾を捨ててくれなかったら俺は死んでいた。 それはそうと、お前右腕の方を痛めたんじゃあないのか?自分で抑えているけど。」 「そうよ。右腕を怪我したのならまた保健委員のあたしが包帯巻いてあげるわ。」 2人共メタキゾの安否を気遣っているらしい様子である。 彼らからしてもメタキゾとライムは命の恩人だった。 「いや、これくらいの傷は自分で治せるし。いやマジで。」 しかし2人に対して必死になって遠慮をしているメタキゾ。今は右腕を見せれない理由がある。 「で、でもこの格好はいくらなんでも恥ずかしいよぉ・・・。」 そこへ赤面で目の前に出てきたライム。上は着ているべき制服は着ておらず、 胸の周りに包帯を巻いているだけという露出度の高い格好。だが年の割にあまり膨らんでいない。 貧乳と言うことが改めてうかがえる。 下のスカートは見えそうで見えない程度まで切り取られていた。 普段露出度の低い厚着を好む彼女にとってはこの格好は凄く辛いのである。冬だし。 その割に軽く動きやすいのではあるが。 「なぁライム。何も話してくれないけどお前ひょっとして胸が陥没しt」 悪戯心でメタキゾが言いかけた時メタキゾのつま先の前にシャドーボールが飛んできた。 「それ以上言うと貴方の星を頂いちゃうから。分かった?」 ライムの影がメタキゾに覆いかぶさる。 コンプレックスに触れられた時の彼女の顔はこれといって怖くは無い。 むしろ可愛らしいかもしれないが奥に黒いものが潜んでいるのである。 「えあはいマジすいませんでした ライムちゃん今日はいつになくチャーミングだねマジで」 その場を必死に取り繕うメタキゾ。ライムはまだ頬を膨らませて睨んでいる。 そして誰もが耳を傾けた。何者かがこちらに向かって走ってくる。落ちつきなくこちらに迫る足音。 一同の顔が一気に強張る。 だがこちらがそれに準備する暇もなくそいつはひょっこり顔を出した。 そいつはどうやら看護してくれた女子生徒がよく知っている生徒であったらしい。 「あ、暗刻君・・・!どこ行ってたのよ!」 暗刻とは誰かが死んだ時にロキとともに行方不明になっていた生徒。その彼は眼鏡をかけている甘いマスクの少年だった。 そいつが汗を浮かべて走ってここまで来ていたということだった。 「悪ぃ。ようやくここに戻って来られたが・・・お前達大丈夫か?俺がここを離れている間に どっかから手榴弾投げられて大変なことになったそうじゃないか。」 「俺らはなんとかなった。くそっ、俺達のクラスは滅茶苦茶だぜ・・・。 誰かが殺されるわ、爆弾放り投げられるわ、皆どっか行ってバラバラになるわで。 犯人め、タダじゃおかねーぞ!」 「やめておけ。外は既に乱戦混戦状態だ。どこ行っても誰かに狙われるだけだしな。」 怒りに震える男子生徒を暗刻が抑える。どこか頼りになりそうな奴だった。 「え、暗刻君あんたも右腕を怪我したの?ってもう包帯巻いてあるから心配いらないわね。」 「ああ。ちょっと敵にやられたもんでうまく撒いて逃げてきたんだ。 大丈夫。もうここには来ていないから。」 ん?右腕に包帯・・・。 メタキゾが彼の腕に何か気がかりになっている時 暗刻がやや大きめ、いや叫ぶような声で言った。 それも怯えたような声で。突然のことだった。 「メタキゾ・・・。お前・・・その腕の星、一体どこで手に入れたんだ?」 全員が彼の言葉で右腕をじっとみつめる。遂に第二の恐れるべきことが起きた。 「え・・・なんで・・・どうしてメタキゾが星を2個も持っているの・・・? しかも私達と同じ色の・・・。」 「ひょっとしてまさか・・・クラスメイトを殺した犯人は・・・。」 殺人犯へ導く憶測が始まる。本来なら彼らの推理はいい加減ではなく適切なものであったが メタキゾは確かに無実であった。しかし誰もが彼に疑いの目を向けた。 「違う・・・!俺はあいつを殺してなんかいないっ・・・!!」 メタキゾは必死に叫ぶが星2つが腕についている時点で誰も信用はしなかった。 ライムも不安、戸惑いを隠せずただじっと見ていた。 彼女にもメタキゾが確実にやっていないという確信がない。 メタキゾは彼が死亡した時、トイレと言ってライムと分かれていたから。 肝心のアリバイは無い。 更にまたトドメを刺すかのように暗刻が指を突きつけて放つ。 「ああっ、そうだ!あれはメタキゾだったのか!! 僕は見たんだ!誰かがが死んだ彼と何か揉めてたところを!!何かの像で殴り倒していたのも」 (そ、そんなの絶対に何かの間違いだっ・・・!) 駄目。こうなたらどう言っても説得出来そうにない。 更なる絶望がメタキゾを包んだ。急に展開がひっくり返った。 事態はいつの間にか既に収まらない展開になっていた。 メタキゾが考えていたシナリオは最悪な結末へと向かっていく。 ゆっくりと迫る生徒達。それに合わせるかのように部屋の中でメタキゾも後ずさる。 その時微かに誰かに見下ろすかのような眼で見ていたような気がした。まるで転落している自分を見下ろされているかのような。 だがそれを気にしている余裕も今は無かった。 「俺はやっていないんだっ・・・・・!! っ・・・!」 『次の瞬間男子生徒が自分を取り押さえるだろう。』 そう悟ったメタキゾはいち早く後ろの窓から身を乗り出す。 次の瞬間、そのまま身を放りだして外に飛び出した。 彼の居た部屋はあろうことか2階。当然メタキゾは地面に強く打ちつけられて倒れるが、 身を這いずって起き上がり無我夢中でそこから逃げだした。無様な姿だった。 彼は逃げた。犯人と悟られて逃げた、と全員は思い込んだ。 仕方なしとの状況とはいえ逃げたという行為はメタキゾが犯人だと認めるようなものだった。 「追いかけよう!!あいつは今度何をしでかすか分からない!!今すぐにあいつの凶行を止めないと・・・」 今度も男子生徒が怒りに震えながら言う。がライムがすぐさま言葉を遮った。 「貴方達は手を出さないで。私が私自身の手であいつを殺すわ。」 ライムの声も一層強張ったようであり、彼女に何かのオーラを感じさせた。 「でもライムちゃん、その怪我だと・・・」 女子生徒が止めようとするがまたライムが言葉を遮る。 「あいつはかなり手強いけど、私はあいつの能力を熟知しているわ。 なにより・・・ 裏切られたのが・・・とても許せないの・・・!!」 ライムはもはや誰にも止められない。瞳の中には何かの焔が映っているようであり、 歯をくいしばっているような様子だった。 「だから・・・あいつは私に殺させて・・・? メタキゾをぶっ殺すのよ。私が。私が!私が!!」 口調も既にストロングと化している。彼女は既に復讐の色に染め上がっている。 真面目で誰よりもメタキゾのことを信頼していた上に正義感が強かった少女だから性格が豹変してしまうことは仕方がないだろう。 颯爽とメタキゾを追って駆け出す彼女を生徒達はそのまま見送った。 「メタキゾはなんであんな凶行に走ったんだ? まともな奴だと思っていたのに。」 「少なくとも怪我をしてまで私達を助けてくれたのは真実だった・・・よね?」 残された生徒の心にはただの虚無しか映っていなかった。 信頼していた者の裏切り。逃げだした彼にただWhyと問うのみ。 もはや誰も信頼することは出来ない。 自分達は誰にも後ろも任せられない戦場の中に居る。誰もがそう実感した。 ある1人の黒幕以外は・・・。 ② 「クソッ!!なんで・・・なんでこんなことに・・・・・!俺は・・・クラスの指名手配になっちまったっ・・・!」 メタキゾはどこまでも駆け抜けた。逃げる為に。汗を浮かべて息を切らしながらただ走って走って走りまくった。 人目のつかない路地を駆けて、辺りを警戒しながらも出来る限りその場から遠くへ離れていった。 景色は街中から海岸へと変わっていく。そして水平線が見えてきた。 「こんな・・・今クソの役にも立たないこんな星がこんな、絶対にあってはならないことを起こすなんてっ・・・・・! ちくしょう!ちくしょう・・・!くそっ・・・!!」 メタキゾは自分が死体から剥いだ星を思い出して嘆く。 ただ半分無意識に逃げた末に自分は埠頭の高台の上にある灯台に辿り着いていた。 辺りは殺し合いの舞台に似合わない位の綺麗な海の景色が広がっている。 メタキゾは更にその塔の上へ上へと駆け上がる。 一段一段と階段を上がっていく。何もかもから逃げ出したいような心地で。 だが遂に力尽きて倒れてしまう。 もう帰る場所も無い。もう戻ることは出来ない。 例え自分が生き残ったとしてもその後クラスの連中が自分をどのように見るのかも分からない。 そう感じる度にメタキゾの目に涙が浮かんだ。運命によって孤独に追いやられた。 ともかく、今はそれどころではない。 この塔に誰かがいる様子はパッと見て無かったからここはまだ大丈夫のはず。しばらく休む。 満身創痍でここまで落ち伸びてきたが・・・ここから先のことは考える気もしない。 激しく爪を噛むメタキゾ。全身の傷が痛み、頬の傷に涙が染みる。 そんな悲しみに浸っている時、 そこに何者かの影が入った。涙を拭いて後ろを振り返る。 「メタキゾ。私よ。誰だか分かるわね?どうしてここにいるかも・・・!」 追ってきた少女はライム。低い声音で冷たく言い放ち彼の後ろに立った。 「ははっ・・・ライム。俺のことは・・・信じてくれるはずねえか・・・。 お前の手にかけられるなら俺は本望だよ。」 メタキゾは遂に自らの死を悟った。孤独に彷徨うことよりは彼女に殺されることはまだ幸せ。それだけは確かなことだった。 果たして今彼女はどんな気持ちなのであろう。憎しみで覆われているのであろうか。それとも殺意をむき出しにしているのであろうか。 だがしかし、 こうなってしまったのならば少なからず自分は彼女に何か言っておかなければいけない。 彼女は自分を殺したら色は全て同じだが星3つとなって生き残れる。 ライムが星を3つ持っている間に殺される危険性があるが。 「ライムよ・・・俺を殺したらこの星を持って 決して道草を食わずにセーフティーエリアに向かってくれ。 分かっていると思うが、この銀の星を誰かの星と交換するんだ。そしたらお前は晴れてここから出れる。いいな?」 地図で見る限りこの辺りにセーフティーエリアは無いが、もし星3つ持ってで辿りつけたら彼女だけは生き残れる。 このことにメタキゾの心はとにかく喜びの感情ででいっぱいだったかもしれない。自分は死ぬが。 しかし彼女はうんとも言わず、首も縦に振らずにメタキゾの頬を思い切りに引っ叩いた。 ライムの目にも・・・さっきの自分と同じように涙が浮かんでいた。 「どうしてよ・・・。どうして?」 彼女もまたWhyとしか聞かなかった。それ以外は何も言えないのかもしれない。 「どうしてっつっても成り行きでこうなっちまったんだ。星2つ持っているとはいえ俺は犯人じゃない。 俺は誰も殺してなんかいない。 信じてくれとはもう言わないが嘘も言わまい。」 まだこんな悲しい会話とはいえ彼女と話せることもメタキゾにとっては幸せだった。 「そんなこと分かっているに決まってるじゃないっ!! どうしてそんな悲しい事を言うの・・・?メタキゾはいっつも私を置いてけぼりにして 今度は先にあの世にいっちゃうって言うの?この最低の馬鹿ぁ!!」 これがライムの予想外の回答だった。思い切り力一杯に叫ぶ彼女の声はいつまでも耳の中に響いた。 「メタキゾは私のことを信じてくれてないの?私がメタキゾを手にかけるとでも思ったの? 私が貴方を信用しないとでも思ったの!?貴方が無実の罪だって・・・ことを!」 メタキゾの膝の元に崩れるライム。 しかし 「やれやれ・・・。 全く、構っていられない・・・。そんな場合じゃあなかったようだ。」 膝の元にいるライムを他所にメタキゾは何かを感じていた。人が迫るという感じを。 海岸を歩んでくる足音。戦慄。 辺りを見渡すと・・・塔の入り口から城碑露貴が姿を現した。 相変わらず神出鬼没であった。 ③ 「ったく・・・。お2人ともそんなデカい声出して何があったんです? (メタキゾさんはボロボロ。ライムさんに至ってはそんな色っぽい格好で・・・。) 集団の中は煩わしいと思ってここに来てみたんですがね。アンタらもここに来ていたとは。奇遇ですね。」 「し・・・城碑くん・・・!」「伏せろロキッ!!」 メタキゾが感じた気配はロキのものだけではない。その時後ろから何者かが躍り出て城碑の背後に回る。 そしてロキにピストルを向けた。やり慣れているようなかなりの早業だった。 「アンタ、その拳銃でオレを撃ってもオレは死なないし、 撃ったら容赦しない。警告だ。」 背後を取られて頭に拳銃をゴリゴリ押されているのに動揺しないロキ。 それでも数秒の間が合った後にロキを撃った。 「やったぞッ!!」 制服傷だらけ血だらけの別のクラスの男子生徒がロキを撃った。撃ちやがった。 その場で倒れるロキをよそに男は喜びの声を上げてガッツポーズを取る。 だが男にそれで止まる様子は無い。今度は自分達の存在に気付くや否や、こちらに銃を向けた。 ロキがまた起き上がってくることを知らずに。 「こんなんでオレを殺せるとでも?」 ロキが立ちあがって銃を持っている男を睨む。男の顔は真っ青になっていった。 男が更に銃を撃ちだすが・・・弾丸が切れる前にロキを倒すことは決してなかった。 「確かに至近距離から撃ったら大抵は即死だ。」 凶弾すらロキには効かない。物理攻撃は大抵ロキには届かない。 「おめぇ・・・まさか悪鬼ロキ・・・・・!」 「悪鬼はアンタだろ?オレと比べれば。」 怯えて逃げだそうとする男の胸倉を掴んでロキが般若の目でじろじろ覗いた。 「メタキゾさん達。ちょっとそこで待っててください。すぐに戻るんで。」 男を引きずってロキは塔を出てどこかに行ってしまった。 メタキゾとライムはただその様子をポカーンと見つめているだけだったが。 しばらくすると辺りの波の音に混じって男の悲鳴が聞こえてきた。そして男の悲鳴が聞こえなくなった。 「ただいま帰りました。」 塔の入り口でロキが平然と言う。 戻ってきた時ロキの腕には星が2つついていた。自分の持っているのと同じ銀の星と緑色の星2つを持って。 メタキゾはゴクリと息を飲む。ロキを襲った男も星を1つしか持っていなかったから。 ロキが新しく持っている星をつけていたから。 ライムも同様に青ざめてしまった。 「旦那とライムさんが嫌な顔でこちらを見る理由なんて分かりますよ。 だが、オレは正しいと思ったからやった。生き残る為に喰った。それだけのことですよ。」 「旦那って俺か?」 ロキは未だ平然としている。旦那と言われたメタキゾもライムもなかなか喋らないものだからロキが続けて喋る。 「醜いですよねー・・・全く。オレが最初警告してやったのに。 それに、アイツはオレに銃を撃った時『やったぞッ!!』と言った。悪びれる様子もなくむしろ喜んでいるように。 即ち仕方がなくオレを撃ったんじゃあなくゲームに乗っているからオレを撃ったということ。 こいつはオレに返り打ちにされても文句は言えねぇ。オレはその後簡単に念仏を唱えたし。極楽浄土にいけるかどうかは保証できないけど。」 これがただの言いわけではなくロキの信条だったということは分かったが 未だに何か納得が出来ないような気がした。 仕方がなくロキがまた続ける。 「それに、アイツについていた血は何だったかか。後々調べてみると自分の血じゃあなくて返り血だったんですね。 その後ピストルの弾丸の数を確認していたわけだが・・・少々減っていたんすよ。 つまりアイツは俺を撃つ前に誰かを撃っていたということ。 逃げられたのかどうかは知らないがあいつがバリバリで乗っていたということは分かる。 こいつはオレに殺されても文句は言えねぇ。 誰かを蹴落として自分は助かろうとする。こんな奴が敵に情けをかけられるなんてこと、はなからおかしいですよね? 特にこのゲームの中では。」 ロキが純粋な奴だと言うことは分かったが自分ではそれをまだ理解することが出来なかった。 「いい加減目を覚ましてくださいよ旦那。今は甘ったれている場合じゃあない。 ま、当然同じクラスの連中が見ても旦那と同じ反応すると思いますけどね。(だからちと集団から離れた訳ですけどね。) 他人を殺さないと自分は生き残れない。これが現実。日常世界とは別の次元。 少なくとも3分の2が死なないと助からないわけですから 他人を殺さないで自分がちゃっかり生き残るというのもおかしい話。 (オレは正当防衛、悪くても過剰防衛ですけどね。)」 メタキゾは渋い顔をしたまま首をどうとも動かさない。 「とは言えまだ他の方法があるかもしれない内は・・・。」 あくまで平和的な言葉を述べるメタキゾにロキは呆れるように言った。 「殆どない。これも現実。それとも旦那は他人の死体をあさって星を手に入れようとでもお思いなんですかね? 図星。死体から星を取ったことがロキにも既にバレていた。一瞬汗をかく。 「まるでハイエナ。それでもアンタも無意識にゲームに乗ってることになるんですよ。 やり方がどうであれクリア条件である星を集めているうちは。 旦那が持っている星2つってことではアンタもオレも大差ない。 俺からしたら偽善的で気に食わねぇですね。そんなやり方。」 「死んだ者の分まで生きるって言い方してほしいね。」 メタキゾは思わず舌打ちして顔をそらす。 険悪なムードなのかもしれないが相変わらずロキは平然としている。 そして意味深に語り始める。 「本当に旦那は慈悲深いのかもしれないが、 少なくともアンタには殺すべき相手が1人はいる。暗刻とやらをね。」 「何・・・?」「暗刻って・・・。」 メタキゾとライムが顔を上げて続きを喋らんかい、と言わんばかりにロキを見る。 「旦那、アンタはアイツに一杯喰わされたんじゃあないですか? 現在アンタはクラスを追われてここまで来ている。違いますかね?」 「な、なんでそんなことを・・・。」 ロキが空気中で火花を散らしながら指を振る。 「大体の話はオレにも分かっている。まずアンタらのクラスの中で誰かが殺されたこと。 そして手榴弾が放り込まれて半ば戦争状態になったことも。 暗刻って奴・・・右腕に包帯巻いていませんでした?」 「あ、ああ。」 「もう分かりますよね?彼もまた星を2つ持っているということ。 オレの推理では恐らく奴がクラスの1人を殺した。そしてメタキゾに濡れ衣を着せたんですよ。」 「・・・。」 しばらく考え込むメタキゾにロキがまた喋り始める。 「彼も恐らく最初のモニターの説明の時に殺された死体の星を手に入れようと試みたが 先に旦那に手に入れられて失敗した。そこにつけこんだんでしょうね。 旦那が星を2つ手に入れていることを利用して誰かを暗殺した。 その時は同じクラスの人間に殺されるなんて誰も考えていなかったから容易に暗殺出来た。 灯台もと暗しってやつですかね。遠くや周りばかり警戒しすぎて内部の異変に気付かないなんて。」 灯台の中、辺りを流れるロキの推理は自然にメタキゾ達を頷かせていく。 「暗殺のもたらす疑心暗鬼によってクラスの空気が不穏を帯び始めると 焼け石に油を注ぐかのように誰かが手榴弾をビルの中に放り込む。これも多分暗刻の仕業ですね。 クラスを敵としている奴にとっても混乱に巻き込んだ方が利益は高いですし。 そして これによってクラスは完全にバラバラになった。 その後のこのこビルの中に戻ってきては旦那を犯人と仕立てあげる。 旦那が星2つ持っていたら誰もがそれを真実だと思い込むでしょうね。 そこで更にデタラメな説明を付け加えてもクラスの連中はますますメタキゾを疑う。 そしてやむを得ず旦那は逃げたんでしょうね。その状況から逃げられたのも奇跡に近いと思いますが。」 どこまでも透視されているかのようだった。どこまでも地獄耳のようだった。 ロキは事を完全に把握していた。彼もどこかから見ていたのだろうか。 完全なるロキの推理にメタキゾは冷や汗を背中に浮かべていた。 「そしてそうなるとクラスの連中の誰かが旦那を追って来ている可能性が高いが・・・。」 「その心配はないわ。私がうまくメタキゾを追わないように言っておいたから。」 ライムが横から口を挟む。この少女がとても頼もしく思えた自分はもうお終いか、とメタキゾは苦笑いする。 「黒幕はあの暗刻って奴だったのか・・・。してやられたよ・・・全く。」 メタキゾが呟く。その言葉から怒りが感じられた。 「ま、そうなると暗刻って奴が残ったクラスを喰い荒している可能性が高いですね。」 城碑がまた言うとメタキゾは立ちあがった。そのまま灯台を出ようとせんばかりに歩き始めた。 「どこ行くんです?」 「決まっているだろうが。あいつを殺しに行くんだよ。 誰があいつの凶行を止めるっていうんだ・・・!」 硬く拳を握りしめてメタキゾはまた歩み始める。 「ちょっと無茶よ!まだそんな怪我しているんだし、それに今戻ったらクラスの人達にやられちゃうじゃない!!」 半分暴走しているメタキゾを止めようとするライム。 それをよそに静かにロキは笑っていた。 「ふふ・・・。旦那。アンタからそんな『殺す』なんて言葉聞くなんて思いもしませんでしたよ。 頭に血が上ってるんでしょうね。旦那らしくない。」 「俺は至って冷静なつもりさ。」 「いいや、今のアンタは自分を賢いと思い込むヘタレの愚か者に過ぎない。」 「ああ?」 メタキゾが歩む方向をロキの居る方向へと変える。相当今のメタキゾはキレていた。 「ちょっといい加減にしなさいよ!!! こんな状況下でそんなことやってる場合じゃないでしょ!?」 ライムもキレた口調でメタキゾにドスをつく。一気にメタキゾが冷める。 これはさすがのメタキゾもたじたじだった。 「僕やっぱりヘタレか・・・。」 「いやこれはライムさんだから仕方ない。アンタの嫁さん意外とおっかないですね。」 ロキが口を滑らせた時、ライムの影がロキを包んだ。 これはさすがの悪鬼もたじたじだった。 「とにかく旦那は暗刻のいる場所に戻るべきではない。 ライムさんが言った通り今のメタキゾさんはクラスの指名手配になっていますし、第一能力も分からない敵に挑んでは一溜まりもない。 あいつも狡猾な奴ですし、恐らく強敵だから一筋縄とはいかない。」 ロキがトーンを大きくしてメタキゾに訴えるがメタキゾもなかなか退こうとしなかった。 「かと言ってこのまま逃がすのか?もしくはそのまま放置するのか?」 「あいつは恐らく逃げません。星を満足するまで集めるタイプの人間でしょうから ヘマをやらかすまでエリアの殺人鬼として居座り続けるでしょう。 第一自分を犠牲にしてはいけない。アンタを心配してくれている人がいる限りね。」 メタキゾがロキに促されたかのように後ろを振り返るとそこにはライムがいた。 今自分の目の前にいる彼女はどんな状況でも自分を支えてくれた掛け替えのない存在。 この娘は自分が生涯最も感謝しなければならない人だろう。 「だから頃合いをみて復讐に行ったらどうですかね。」 「ああ・・・。俺もどうかしていたな。 今はやめておくよ・・・」 ようやくメタキゾは頭をかきながら下げた。 命は投げ捨てるものではない・・・。よく言ったものだ。 「どうかしているのは元からでしょ?」 2人とも照れくさそうに笑う。 「お2人さん、なにやらここら一帯に人が集まってきていますね。」 不吉な知らせをロキが呟く。慌ててメタキゾとライムが灯台から出て辺りを見下ろすと・・・ まず目に入ったのがコンテナの傍でゆっくり歩いている少女。誰かにやられたのか血まみれだった。 やがてコンテナの横で力尽きるように倒れた。まだ辛うじて生きているが体力は限界に近いように見えた。 「見て・・・ケガしている女の子以外にもなにかぞろぞろ居るわね。」 確かにライムが言った通りその周りに2、3人少女を尾行している者達がいた。コンテナの陰に身を潜める者達。 少女はそいつらに気付いていないのだろうか。 尾行している者達は何か悲しそうな顔をしつつ気付かれないように彼女に接近していた。 (尾行しているあいつらの顔・・・同情や慈愛と言うより・・・別の何か・・・ 罪悪感のようなものに満ちている・・・。 それなのにどうして気付かれないようにケガしている人間を追っているんだ・・・?) その時メタキゾは気付く・・・このゲームにおける彼らの心理状況にっ・・・! 「こいつら・・・息絶えるのを待っているんだ・・・! 星を手に入れたいとはいえ、自分で殺したくもないから、ケガを負ったあいつを助けようともせずに かといってトドメを刺そうともせずくたばるをじっと待っているんだよ・・・!顔に出ている罪悪感が何よりもその証拠・・・。 死人の星は誰のものでもないから・・・それを狙って・・・。きたねぇっ・・・!」 メタキゾがまた怒りに震え始める。無責任なる者達への憤怒を露わにしていた。 「死人から星を取っている旦那と何か違いがあるんですかい?」 ロキがまた呟くが、メタキゾは彼に自分の信条を語り始める。 「俺は死んだ者の分まで生きる必要がある、と思ったから死体から剥いだ。 さっき言ったように死人の星は誰の星でもないからな。 そんな格好悪い言いわけを言わせてもらう。」 メタキゾは何か自分を悔いるかのように俯いた。 が、また頭を上げてまた語る。 「だけど 奴らの場合は俺とは明らかに違う、と思っている。 連中は、ただ生きている命が尽きるのを待っているだけじゃあねぇか・・・! 救える命を見捨てるなんて見殺し・・・見殺しは殺人じゃないのかっ・・・!? とどのつまり奴らがやっているのは殺人だっ・・・! 俺は違う!俺はそんな奴らになんかならないっ・・・!!」 メタキゾは硬く拳を握りしめて駆け出す。瀕死の少女の方に向けて。 「旦那!!」「こればかりは止めるな!俺が偽善だと思うなら偽善だとなんとでも言えっ・・・!」 彼はそのまま突っ走って行ってしまった。 「私も行くわ!」 やはりライムもメタキゾを追って出て行ってしまう。 「クソッ旦那もライムさんも・・・無茶しやがって!怪我人と尾行者以外にまだ誰かがそこに迫っているんだ・・・! 銃を持った別の誰かが・・・!!」 メタキゾ・・・星2個1色 ライム・・・星1個1色 城碑露貴・・・星2個2色
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書き手@糞ぬこ 「今から皆さんには殺し合いをしてもらいます。」 それが全ての始まりだった。 4月中旬── 冬の寒さも消え、いよいよ春の陽気が訪れた 桜は既に殆ど散ってしまっているが、それでもまだ残っている桜がその花びらで街を彩る そんな街中を歩く二人の人物── 一人は優男な雰囲気が漂う青年。もう一人は活発的な見た目をしている少女 そんな二人が街に咲く桜を見ながら、とある人物の家へと訪ねようとしていた 「あー・・・えーと、ここをこういって・・・ってあれ?ここ違くね?」 白紙に書かれた雑な地図を見ながら、現在のいる場所と照らし合わせる男 隣にいる少女は先ほどから焦燥としている。 そして遂に限界にきたのか、隣で地図を見ている男を殴る、蹴る 「先刻から街を歩いて二時間。貴様は何をしているのだ!」 「ちょ、子乃さん痛い痛い痛い痛い痛いやめてほんとマジでやめてシャレにならなうぼへぇ!」 男に『子乃』と呼ばれた少女は、殴るのをやめると、今度は男の襟元を掴み、持ち上げる 「 一 体 い つ に な っ た ら 着 く と い う の だ 白 鳥 ! 」 問いかけながら、少女が白鳥と呼んだ男を左右上下前後に揺らす。 当然そんな状態では答えられるはずはないが、そんなことは少女には関係ない 答えない白鳥を地面に投げ捨て、白鳥が持っていた地図を見る。 いつ見ても雑な地図──それをびりびりに破り捨てる。 「ちょ、子乃さん何やってるんすか!?」 ところどころから少量の出血をしている白鳥が立ち上がり言った。 びりびりに破り捨てた地図を足で踏みつけながら、こう答える。 「地図などいらぬ……奴の家が分かるようにこの街を──」 言い終わる前に、白鳥によって口をふさがれる子乃 その白鳥を無理やり剥がし、投げ捨てる。 「分かっている、冗談だ。」 「冗談に聞こえないんだよな……どこも。」 いたる所に傷ができているが、白鳥はそれを気にしないで子乃に言う 何故こんなになっても平気かというと、白鳥自身が既にこれくらいの怪我なら慣れているからだ そんな白鳥を余所に、子乃は辺りを見回す。 先ほどから、今の出来事を見ていた人々と目が会うと、人々は皆一斉にまた元のように歩き始める 白鳥も地図が無いが、それでも探せばどこかにあるだろうと思い歩き出そうとするが──子乃が不意と構える 一瞬疑問に思う白鳥だったが、すぐにその理由が分かった 黒い高級車から降りる黒服の男達 それは、子乃と白鳥を囲むようにすると、その中の一人が口を開く。 「白鳥裕也様と若林子乃様ですね。貴方達は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 子乃が今にも黒服の男達に殴りかかろうとするが白鳥がそれを制する。 とりあえず、行くだけ行って見よう。危険だと感じたらいくらでも暴れていいから、な?と子乃を説得する が、白鳥はこの時点で何か危険なものを感じていた あれ?これって絶対何かあるよね?この人達ホトさんの知り合いじゃあなさそうだし…… そう思いながらも、行ってみない限りは分からないと思い、男達と一緒に車へと乗り込む ギルバート先生の自宅はまた今度行けばいいや…… 白鳥はそう思いながらこれからどうしようかを考え始める だが既に手遅れだった この後、あんなことに巻き込まれるだなんて知る由も無かった──