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すっかり秋めいて来たなあ……。 成歩堂はパーカーのポケットに手を突っ込んで、俯きがちに田舎道をゆっくりと歩いていた。 サンダルを直穿きした素足がひんやり寒い。 自然が多い山里は、成歩堂が普段暮らす都心の街よりも、いくぶん季節の進み具合が早いよ うだ。 視界の前方に広がる山の頂上付近は、かすかに朱に黄色に色付き始めている。 これから寒さが厳しくなって来るに連れて、山裾に向かって彩り鮮やかに染め広げて行くの だろう。 そんなことを思いながらのんびり歩いていると、背後から小さな足音が近づいて来た。 成歩堂がゆっくりと振り返ると、少女が二人、息を切らせて駆けて来るところだった。 路線バスが一台通れる程度の道幅はあったが、一歩左に寄って立ち止まり、進路を譲ってや る。 こちらを向いて道を開けている人物に気付いた少女達は、各々小さな口を「あ」と開けて驚 きの表情を見せたあと、ニッコリ微笑み「こんにちは!」と挨拶した。 反射的に「ああ、こんにちは」と返す彼を、軽やかな風と共に追い抜いて行く。 その背中で、赤いランドセルが揺れていた。 少女達の体格では少し重そうな革のランドセルの中に、一杯に詰まった教科書やノート、そ れに筆箱や、その中で揺れる鉛筆達が、カタカタと音を立てていた。 視線で追った少女達のラベンダー色の上着と、小さな膝小僧が丸見えの装束の裾が向かい風 に翻る。 少女達は少し行ったところで速度を緩め、やがて速足になると、未だその場所で佇む成歩堂 の方をチラリと振り向いた。顔を寄せ合い、ヒソヒソと何かを話して、クスクス、 キャッキャと笑っている。 首を傾げて笑んでやると、少女達はパッと顔を見合わせて一際高い笑い声を上げて、駆けて 行ってしまった。 「……なんだ?」 気のせいか、笑われた気がして成歩堂は首を捻った。 笑い話のネタにされるようなおかしなところでもあったか……? そう言えばまたこの数日ひげを剃っていなかったが、それがだらしなく映ったのだろうか。 それとも女ばかりの山里に向かおうとしている男の存在自体が珍しかったのだろうか。 コソコソと少女特有の噂話でもしたのか、もしくは陰口でも叩いたのか、とにかく少女達は 確かに成歩堂を見て笑った。 笑われるような心当たりはないんだけどな……。 いささか不愉快ではあるが、本気で腹を立てるほど成歩堂は子どもではなく、むしろ数年前 の娘を見ているようで懐かしさすら覚えながら再び歩き始めた。 少女達が姿を消した先が目指す場所だ。彼女達の独特な和装がそれを示していた。 西の空が少しずつ茜色に染まり始め、夕焼けの色を反射したいわし雲が気持ち良さげに泳い でいる。 いつの間にか、空が高くなっていた。 ああ、秋の空だ。 こうして空を見上げるのは、いつ以来だろう……? 成歩堂はトレードマークのニット帽を脱ぐと、左手に握り締めた。 彼が目指す先は、もうすぐそこだった。 ****** 若き家元は、すぐに見つかった。 成歩堂と同世代と思しきスーツ姿の男と玄関先で立ち話していたからだ。 成歩堂は邪魔をしないように、少し離れた門の柱に背を預けてその様子を見ていた。 来客だろうか、それとも知り合いなのだろうか。 話の中身までは聞こえて来ないものの、真宵は時折声を立てて笑っていて、随分と楽しそう だ。 背の低い真宵が男を見上げて眩しそうに笑う姿が面白くない。 何、話してるんだよ……。 かつてカレーをぶちまけられた掛け軸にあった彼女の母親と同じように、一族の中でただ一 人だけ丈の長い装束を身に着け、背筋をしゃんと伸ばし、豊かな黒髪をさらさら と風に靡かせるその姿は、成歩堂の助手をしていた女の子と同一人物だとは思えなかった。 風に吹かれて装束の裾が優雅に舞う。 真宵はどこか天女にも思える神秘的な雰囲気を纏うようになっていて、成歩堂は七年という 歳月の重さを改めて知った。 少女から女性へと目覚しく変化する時期に離れたからだろうか。 会う度に優美さや清艶さを増して大人の女性になって行く真宵の姿に、ただただ成歩堂は驚 かされ、一方で子どもが巣立ってしまったような寂しさを感じたことすらあった。 その時、ぼんやりと目で追っていた真宵が、何かを言いながら男の腕をパシンと叩いた。 冗談を言われたのか、お世辞の一つでも言われたのか、真宵はわずかに頬を赤らめて笑って いる。 ふーん。楽しそうじゃないか。 成歩堂は帽子を被り直しながらひっそりと舌打ちした。 いよいよ面白くなかった。 成歩堂は真宵のことをとても大切に思っている。 友人として、妹として、一人の女性として。 その真宵が自分以外の男に笑いかけている姿は、見ていて気持ちの良いものではなかった。 ひそかに向かっ腹を立てていた成歩堂が何気なく門の外を見遣ると、ちょうどそこを歩いて いた少女と目が合った。 娘のみぬきと同じ年頃か、もしくはもう少し年少かもしれない。栗色がかった髪をおさげに して、古ぼけた本とノートを腕に抱えている。独特な衣装から、一目でこの少女 もまた、倉院流の修験者だとわかった。 パーカーのポケットに手を突っ込んだまま門柱によりかかって屋敷の中の様子を窺う怪しい 男に、少女はじろじろと遠慮のない視線を投げかけて来る。澄んだ瞳に警戒と敵 意が浮かんでいた。 成歩堂は苦笑した。 昔はスーツ姿であればこれほど警戒されることなどなかったし、万が一身分を怪しまれたと しても、襟に付けた弁護士バッジを見せれば皆が一様に納得と安堵の表情を見せ たものだ。 だが今はヒゲは生やしたままだし、着の身着のまま、素足にサンダルだ。 これで家の中を覗かれれば、そりゃあ通報の一つもしたくなるというものだ。 警察を呼ばれなかったことに感謝しつつ、成歩堂は言い訳がましく言った。 「……ああ、ぼくは真宵ちゃん……、いや、家元さんの友達なんだ」 まじまじと成歩堂を見つめていた少女は、ハッとなにかを思い出したかのように目を丸くし、 小走りで近寄って来てまっすぐに彼を見上げた。 「あのっ、“ナルホドクン”ですよね?」 「え。……そうだけど」 見覚えのない少女の顔が、「やっぱり!」と言わんばかりに輝いた。 「あの。家元さまの未来の旦那さま、とか」 「え。ええっ?」 「さすが、家元さま。こんなに大人の男性と……! あの、あの。家元さまを、よろしくお願 いしますね!」 一方的に告げると、少女ははにかんだ笑みでペコリと頭を下げ、外へ駆けて行ってしまった。 成歩堂は走り去って行く少女の後ろ姿を半ば唖然として見送った。 昔から、真宵と彼との関係を勘違いしていた春美が願望混じりで似たようなことを言ってい たので、そう言われること自体には慣れっ子だったが、見知らぬ少女からの突然 の言葉には面食らった。 倉院の里は、一体どういう教育をしてるんだよ……。 不意を衝かれて目を瞬かせていた成歩堂の背中に、背後から素っ頓狂な声が飛んで来た。 「あれっ? なるほどくんッ!?」 成歩堂に気付いて驚きの眼で見ている真宵は、男と二言三言言葉を交わすと、こちらに駆け 寄って来る。 真宵の肩越しに、彼女のあとを遅れて歩いて来る男と目が合った。 すれ違う瞬間、男はチラリと成歩堂を見て口元に微笑を浮かべた。 小さく会釈をした切れ長の目が、瞬時に成歩堂を値踏みしたように見えた。 成歩堂はまっすぐにその視線を受け止める。一瞥して目礼を返して、それから余裕を見せつ けるようにゆっくりと真宵に目を移した。 走り寄ってきた愛嬌たっぷりの笑顔が、無邪気に腕を絡めて来る。 「突然どうしたのっ? 久し振りだねえ!」 「いや、なんとなく。顔が見たくなったんでね、遊びに来たよ」 「そっかそっか。とりあえず入りなよ、ねっ!」 もう20代後半になったというのに、真宵のその姿はコロコロとじゃれ付く仔犬のようだ。 人懐っこさは10代の頃と何ら変わりなくて、成歩堂は思わず笑んでしまう。 真宵に引っ張られて連れて行かれた先は、控えの間だった。 倉院の里に遊びに来ると、大抵成歩堂はここに泊まっていた。 真宵は座卓に差し向かいで座ると丁寧な手つきでお茶を淹れた。 わずかに渋みのある香ばしい香りを漂わせる緑茶が、これ以上ないくらいにトノサマンが存 在を主張している湯呑みに吸い込まれていく。 これは、倉院の里の綾里屋敷における成歩堂専用の湯呑みだった。 弁護士を辞して間もない頃、久し振りに里を訪ねて来た彼に、真宵は嬉々として湯呑みを差 し出しこう言ったのだ。 『この前ね、いいモノ見つけちゃったっ! なんとね、サイズ違いでお揃いのお湯呑みが、二 個セットでお買い得だったんだよ! これ、一つはなるほどくん用ね』 「……(おいおい、これ夫婦茶碗じゃないか)」 彼女の辞書に『夫婦茶碗』という言葉はなかったらしい。 お買い得の湯呑みセットを見つけた時の真宵の喜びようが目に浮かぶようだった。 それは決してセットでお買い得だったのではないよ、と教えてあげようかと思ったけれど、 やめた。 真宵が嬉しそうだったから、それはそれで良いかと思ったのだ。 ──あの頃よりも使い込まれて風格を増した湯呑みを成歩堂の前に置きながら、真宵は笑っ た。 下校中と思しき少女達に道を譲ってあげたのに笑われたこと、そして先ほど門のところで話 しかけて来た少女の話を聞かせたからだ。 ただし、“未来の旦那さま”の話は伏せて。 「あはは。その子達、なるほどくんのコト知ってるんだよ」 クルクルとよく動く瞳を三日月型にして朗らかに笑う真宵を尻目に、成歩堂は後頭部をポリ ポリと掻いた。 「ぼくは知らないんだけどな」 「なるほどくんは知らないだろうけどさ。はみちゃんが吹聴して回ってるからね、『真宵さま の大切な方』って。だからなるほどくん、この一帯では有名人だよ? 里の子達 はみんな、なるほどくんのコト知ってるんだから! はみちゃんの影響受けちゃってさ、『家 元さまの王子さま』とかなんとか言ってるみたい」 「……相変わらずなんだね、春美ちゃん」 「うん。背と胸ばっかりあたしより大きくなっちゃったけど、性格はあのまんま。あたしに似 て、素直な良いコに育ったよ」 真宵は小首を傾げて笑って見せると、漆器に盛り付けられた饅頭を一つ手に取り頬張った。 茶目っ気たっぷりの表情と物言いは、真宵の八面玲瓏の性格をよく表していた。 あっという間に一つ目の饅頭をたいらげた真宵は、二つ目の饅頭に手を伸ばしながら言った。 「ところでなるほどくん。何か用があって来たんじゃないの?」 お茶を啜っていた成歩堂が、ピタリと動きを止めた。 真宵がじっと見つめている。 「用がなきゃ来ちゃいけないのかな」 「別に良いけど。でも、なーんか変だなあ」 「変?」 「うん。憑き物が落ちたような顔してるよ。こんななるほどくん、久し振りに見る気がする」 彼の心臓がドキンと一度高鳴った。 心理錠が見える勾玉も、王泥喜やみぬきのように“みぬく”ことが出来る能力があるわけで はないのに、真宵は成歩堂のことはいつもお見通しだった。 直感が鋭いのか、洞察力が磨かれたのか、“絶対”と言われる倉院流家元の霊力の一種なの か、それとも長年の付き合いで彼を知り尽くしているからなのか、とにかくよく 分からないけれど、ポーカーフェイスばかりが上手になった成歩堂でも真宵には嘘は通用しな かった。 「真宵ちゃんに隠し事は出来ないなあ」 成歩堂はお茶を飲み干してテーブルに湯呑みを置くと、真宵をまっすぐに見つめた。 彼の手から離れたトノサマンが、コトン、と可愛い音を立てた。 「……実は、ね。昨日全部片付けて来たんだ」 「え、本当?」 真宵は嬉しそうに胸の前で合掌し、ニッコリ笑った。 ずっと気がかりだったのだ。 何故かトイレ以外の場所を掃除しようとしない成歩堂と、幼いみぬきだけになってしまった 事務所が。 デスクの上が山積みの書類で酷いことになっているにも関わらず、かたくなに片付けようと しない成歩堂には手を焼いたものだ。 そんな面倒くさがりの彼が心を入れかえたのだから、事ある毎に口を酸っぱくして来た甲斐 があったというものだ。 「えらいえらい。やっと重い腰上げたんだ?」 「まあ、ね」 「確かに、ちょっと雑然とし過ぎてたもんね。 せっかくみぬきちゃんが片付けても、ダメな パパが散らかしちゃってさ」 「……え。」 雑然? 散らかす? ……なんの話だ? 成歩堂はようやく二人の会話が噛み合っていないことに気が付いた。 まったく別の話題にも関わらず、まるでコントか漫才のように上手く歯車があっていた。 嬉しそうにうんうんと頷いている真宵に、成歩堂もまた、微苦笑を浮かべる。 「いや、そーいうことじゃなくて」 「なに?」 「七年前の、あれ」 真宵はキョトンと成歩堂を見つめ返した。 「七年前って……七年前……?」 「うん、七年前。心配するだろうから、全部終わってからと言おうと思ってたんだけど」 「それってつまり……ど、どういう……」 真宵の心臓が、まるでトノサマンシリーズ最新作の初回放送を目前にしている時のようにド キドキと高鳴って行く。 そこにあるのは、期待と不安をごちゃ混ぜにした、ある種の予感。 己の鼓動を確かめるように胸元に置いた手を、知らず知らずの内に真宵は握り締めていた。 成歩堂の目がほのかに笑っている気がするのは気のせいだろうか。 息を呑んで成歩堂の言葉を待つ。 「全部、終わった」 「終わった……?」 「ああ、終わったんだよ」 「つまり……つまり……。それは、なるほどくんの無実が証明された、ってコト?」 「──うん、そうだよ」 成歩堂が口元を綻ばせると、真宵は一気に相好を崩した。 そして彼の隣に迫り寄ると、バシンっと思いっきり背中を叩いた。 成歩堂の背中に熱を伴った痛みがジンジンと走る。 小さな手で叩かれると痛みも大きかった。 「きゃわわああっ! すごい! やったね、なるほどくん! すごいよッ! よくやった! おめでとう……!」 「い、痛いよ、真宵ちゃん……」 「こりゃ今日はお赤飯だね! お赤飯炊こうっ!」 成歩堂は顔を歪めて叩かれた場所を擦り、真宵の小さな手が生んだ熱を冷ます。 そんな成歩堂の背中をこれでもかと満面の笑みを浮かべてバンバン叩いていた真宵が、ふと 手を止めて彼のダークグレーのパーカーの袖を握った。 「そっかあ……。とうとう……」 成歩堂が視線を落とすと、頭頂部で綺麗に結ったちょんまげが、彼にしがみつくように俯い ている。 真宵は今でもあの日のことを忘れられなかった。 翌朝の新聞で事件を知った時の衝撃。 電車に飛び乗ってもなお、半信半疑だったこと。 駆けつけた事務所で見た、疲れきった成歩堂の姿。 ある事ない事、でたらめばかりを並べ立てるマスコミ。例の事件だけでなく、成歩堂がこれ まで扱って来た裁判までも持ち出して、捏造の証拠が使われたのではないかと言 い出したのには心底呆れた。 今まで彼が積み重ねて来た信頼は、一瞬にして崩れ去った。 あの日、いつものように一緒にいれたら良かったのに。 そしたらこんなことにはならなかったかもしれない。 当時家元を襲名したばかりで多忙を極めていた真宵は、わずかばかりの自由になる時間を 遣り繰りしては事務所を訪ねた。 手のひらを返す者達の薄汚さを見せつけられて、やり場のない怒りに震える真宵とは対照的 に、成歩堂は日に日に表情を失っていく。 怒りもしなければ、泣きもしない。 以前とは別人のように快活さを消し、次第に周囲から心を閉ざして行く成歩堂の姿が未だに 脳裏に焼きついて離れない。 まともに人の目を見なくなってしまった成歩堂に、少なからず真宵はショックを受けた。そ して自分を責めた。 それに、事件のあったあの日。成歩堂から事件を知らされなかったことも悲しかった。 姉を亡くして一人になってから、誰よりも真宵のそばにいてくれたのは成歩堂だった。 成歩堂がいてくれたから今、自分は笑えているのだと真宵は思っていた。 それなのに、支え続けてくれた成歩堂の人生に関わる重大な危機に……、一番大切なその場 面でそばにいることが出来なかった。 成歩堂が、幼い頃に濡れ衣を着せられてクラスで孤立した苦い経験から、孤独な人の味方に なりたいと弁護士を志したことを真宵は知っていた。 それほどまでに孤独を嫌う成歩堂を、絶対に一人にしてはならない場面で一人にしてしまっ た。 独りぼっちの辛さを味わわせてしまった。 だから今こそ、かつて成歩堂がそうしてくれたように、彼のそばで少しでも支えになれたら と思った。 だが、家元の名前はそれすら許してはくれなかった。 家元という身分で得た権力は彼を助ける為に役に立つこともあったが、真宵には単なる足枷 にしか思えないことの方が多かった。 申し訳ない。 真宵は少なからず彼に対する罪悪感を抱いたまま、この七年を過ごして来た。 昔のように手伝うことが出来ないのであれば、せめて……。 真宵は祈った。 なるほどくんがまた笑えますように。 こんなコトに負けませんように。 いつか真実を見つけられますように。 なるほどくんの無念が報われますように。 この七年、願わない日はなかった。 雨の降る朝も、太陽が照り付ける昼日中も、風の強い夕暮れも、雪の舞う夜も。 ──いつだって祈っていた。 お姉ちゃん、なるほどくんがやったよ。 バッジを失っても、たった一人で真実を暴いたよ。 やっと、終わったんだ。 なるほどくんの、長い長い夜が……。 「真宵ちゃん……?」 呼び掛けられた真宵は「なんでもないよ」と言って、面を上げた。 顔は笑っていたが、声がかすかに震えていた。 成歩堂は不意に鼻の奥がツンと痛くなって、慌てて唇を噛み締めた。 予想外に訪れた逆転のチャンス。 引きずり出した真実。 七年探し続けていたものが、余りにも呆気なく終焉を迎えてしまい、正直なところ、成歩堂 の中に実感は湧いていなかった。 が、自分のために声を震わせてくれる真宵に終幕を報告出来た今、ようやく全てを終えられ た気がした。 真宵は成歩堂の右隣にちょこんと正座して、彼を見上げた。 パーカーの袖を握ったまま、離そうとしない。 「……今日どうするの? 泊まっていくなら準備しなくちゃ」 「お願いするよ」 「わかった。ゆっくりしてってね」 そう言って、ニッコリ笑った。 成歩堂は真宵の媚びない笑顔が大好きだ。 その笑顔が不意に神妙な顔つきになった。 おや、と思う間もなく真宵は一歩後退りして居住まいを正すと、畳に三指をついて深々と頭 を下げた。 「なるほどくん。……長い間、お疲れ様でした」 「え。ちょ、ちょっと真宵ちゃん……!」 真宵の長い髪が、サラサラと畳に流れた。 思わずうろたえてしまった。 まさか真宵にそんなことをされるとは思わなかった。 端然と姿勢を正した真宵のそれは、とてもさまになっている。 堂々とした振る舞いはさすが名家を束ねる当主というところだろうか。 いつもニコニコと天真爛漫な真宵だとは思えないほど凛としていた。 これが真宵ちゃんの家元の顔か……。 初めてだった。 今までこんな威厳を見せられたことなどなくて照れくさい上に、妙な迫力に気圧されて成歩 堂は咄嗟に気の利いた答えが浮かばなかった。 「……三指なんて、初めて見た」 やっと顔をあげた真宵はもう普段通りになっていた。笑いながら涙ぐんでいた。 「よく頑張ったね、なるほどくん」 「……ん。真宵ちゃんのお陰だ」 「あたしなんて何もしてないよ。本当に良かったねえ」 「……ありがとう」 労われて万感の想いが胸を過り、不意に目頭が熱くなり真宵の肩に顔を埋めた。 面食らいながらも真宵は優しく「よしよし」と頭を撫でる。 「昔はさ、『あたしがなるほどくんとはみちゃんのお姉さんがわりだから』なんて言ってたよ ね」 「……言ってたな、そんなコト」 懐かしかった。 七つも年下の真宵が言うものだから、成歩堂は苦笑したものだ。 その真宵が、大真面目な顔で言う。 「……泣いても良いよ、七年分。あの時、泣けなくてツラかったでしょ?」 何が何だか分からないまま弁護士として最後の法廷が終わり、マスコミには好きなように書 かれ、酷く傷ついていたあの頃。 心ない誹謗中傷から隠れるように過ごした日々。 いつの間にか心の痛みを感じなくなっていることに気が付いた。 人間の心はこうやって死んでいくのか……とぼんやり思ったものだった。 ──あの時も、真宵は言った。『泣いても良いよ』と。 だが成歩堂は泣かなかった。泣かない代わりに、こう言った。 『泣きたいんだけどね、涙が出ないんだ。まるで心が麻痺しちゃったみたいだ』 真宵は経験で知っていた。 涙が出ない……、それは心の叫びだと。 傷ついた心が、これ以上傷つかないように自分を閉ざしてしまおうとしている。 泣きたいのに涙が出ない、それは心の悲鳴なのだと。 「ははっ。泣かないよ。──もう、良いんだ」 おどけたように言うわりに、悲しさの色が透けて見える瞳。 全てを悟って諦めたような寂しげな表情は、以前の成歩堂には無かったものだ。 こんな成歩堂を見ると、決まって真宵は胸が締め付けられるような切なさを覚えた。 「まったく、なるほどくんは意地っ張りだねえ」 そう言って、上目遣いで睨んで見せた。 そうでもしないと本格的に目から水滴が零れ出しそうだった。 ──涙目で自分を見つめて不貞腐れる真宵を見た時、成歩堂の中で何かが弾けた。 変わらないなあ、真宵ちゃんは……。 あの頃と同じように弟扱いして、自分は姉のように振る舞う。 外見はすっかり大人びてしまったのに、中身はそのままだ。 あの事件を境に、風貌も、物事の捉え方すらもどこか卑屈に変わってしまった自覚があるの に、今、目の前の真宵の網膜に映っているのは、あの頃と何ら変わらない自分な のかもしれなかった。 ──ふと、成歩堂の顔から力が抜けた気がした。 いや、実際は表情に変わりはなかったのかもしれない。 成歩堂がまとっていた、どこか他者を寄せつけぬ空気が緩んだように真宵は感じた。 成歩堂は俯いて、ポツリと言った。 「……じゃあ、さ。このまましばらく、肩、貸しててくんない?」 「肩? どーぞどーぞ」 薄い肩に顔を埋めて華奢な背中に腕を回すと、猫の毛のようにしなやかな真宵の髪の毛先が、 天使の羽根のような肩甲骨の位置で、成歩堂の手をくすぐる。 「……」 片手に納まりそうなほどに小さな後頭部から背中まで、絹のようにサラサラの髪を撫でる。 漆黒だと思っていた髪は、障子から射し込む西日に透けて栗色がかって見えた。 ふんわりと柔らかな真宵の髪は、いつまでも触れていたいと思うほど心地良かった。 「昔はもう少し長くて、腰のトコでまとめてたよね。前髪も一直線に『パッツン』って切り揃 えてさ」 「うん、家元になって“いめちぇん”してやめたけどね」 頬の辺りまで伸びた前髪を中心よりも右で分けて、サラリと顔に落ちるそれを手で流す。 その横顔から幼さはスッカリ影を潜めていた。 真宵の温もりを感じながら深呼吸すると、懐かしい香りが胸の中に広がった。 髪から漂うシャンプーと、服に焚き染められたお香の香りが優美な梅の花を思わせる。 滑らかな髪の毛がそよそよと成歩堂の頬をくすぐる。 背筋をピンと伸ばして正座した真宵は、肩に寄り掛かったまま顔を埋めている成歩堂の背中 を、むずかる赤ん坊をなだめるように叩いてあやす。 ポン…ポン…という優しく温かい調べが彼の心の殻を一枚ずつ剥がしていき、柔らかく丸く なったそこから堪えていた想いが溢れ出しそうだった。 この七年に想いを馳せた。 時折、無性に真宵に会いたくなっては、何だかんだと理由をつけて遊びに来る生活。日陰の 生活を送る成歩堂には、真宵のお日さまのような笑顔は疲労回復の特効薬で、会 えばいつだって元気をもらえたし、発破をかけられたこともあった。 会う度に女性らしくしなやかに成長して行く娘盛りの真宵がどれだけ眩しかったか。 ずっと言いたかった。 でも言えなかった。 黒い噂の付きまとう自分では相応しくないから。 危険に巻き込んでしまうかもしれないから。 だから、いつか疑惑を晴らしたら……。 ──ああ。その「いつか」がやっと来た。 無邪気に笑う真宵は自分をどう思っているのだろう? 元弁護士と元助手? 兄妹? 姉弟? 友達? ほんの少しでも異性として見てくれているのだろうか。 若かった頃の関係を打破出来るだろうか。 成歩堂の鼓動は緊張で高鳴り、いつの間にか手のひらは汗でじんわり湿っていた。 みぬきや王泥喜がいればたちまち異変を見抜き、成歩堂らしくないと目を丸くして驚いただ ろう。 すっかりスレてしまったと思っていたけれど、まだ自分にもこんな初々しい一面が残ってい たのが意外だった。 それほどまでに募らせた想い。 「あはは、大きい子どもみたいだね」 「……うるさいなあ」 真宵は愉快そうに笑う。 三十路も半ばに差し掛かろうとしている大柄な男が、一回りも二回りも小さな自分の肩に頭 を預けてその背中をポンポンされているのだから、真宵にとっては面白い絵面で あることは間違いない。 だが今の成歩堂には、自分をからかう笑い声すら愛しかった。 背中に回した手をすっと驚くほどに薄い肩に置く。 その手を支えにして成歩堂はゆっくりと顔を下げて行く。 装束越しに触れる鎖骨。 そして、その下の女性の膨らみ。 二つの丘の狭間に耳を付けるとトクトクトクトク…と規則正しい鼓動が少し速めのテンポで 刻まれていた。 頬に乳房の柔らかい感触が当たる。 もちろん触れたことなどなかったが、事務所にいた頃よりも幾分豊かになっているようだっ た。 そのまま右の盛り上がりに頬を寄せると、その頂点を布地越しに正確にとらえて、大きく食 んだ。 「ぁ……ッ……!」 胸の先端から走った電気のような感覚に、反射的にか細く鳴いてしまった真宵は、突然のこ とに目を白黒させて息を引いた。 震える声。 「え……? なるほ……どく……ん……?」 だが成歩堂は真宵の戸惑いなど気にかけることなく唇でそこを甘噛みし続け、瞬く間に装束 に丸い唾液の染みを作り上げた。 湿って透けた装束の下に息吹く、淡い桜色の突起がうっすらと浮き出ている。 成歩堂の唇は、より精度を高めて突起をつかまえて行く。その動きに合わせて真宵は肩をピ クッピクッと小さく跳ねさせた。 真宵は視線を宙にさまよわせながら切なげに吐息を漏らす。 装束越しに形を変えた突起を認めると、成歩堂は口を離して真宵を抱き締めた。 「ダメかな……? ずっと我慢してたんだ。……もう、何年も」 「なるほどくん……」 真宵はしばしためらったあと、吐息を震わせながらおずおずと彼の背中に腕を回した。 真意を確かめるように覗き込むと、頬を赤らめて困ったような表情で目を逸らす。 その仕草は予想外に大人の女性の艶っぽさを秘めたもので、成歩堂は胸を締め付けられるよ うな妙な気分になった。 無言の受容を得て、ゆっくりと体重を掛けて畳の上に押し倒すと、真宵は呟いた。 「ここまでして、ダメも何もないよ……」 切なげに見つめる真宵を、成歩堂はたまらず抱き竦めた。 次へ
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成歩堂×真宵⑥ 冷たい霊洞の中で、刹那に導かれた想いが、やがて二人を向き合わせる。 誰も楽をして生きられないように、誰も無理をして生きられない。 ただ、そこに在る真実と共に。 -太虚- (こくう) 肌に触れる寒さが、思わず身を震わせた。 ごくり、と唾を飲みこんでから、隣を成歩堂 龍一は見た。 そこには同じく身を震わせている綾里 真宵が居た。 (・・・・はあ・・・・ はあ・・・・ ・・・・くそっ! なんでぼくがこんな目に・・・・) 成歩堂は唇を噛んだ。 (・・・・あのとき・・・・ぼくはどうして、あんなコトを!) 脳裏に、数日前の会話が思い出された。 ぱたぱたと、駆け寄って来る足音に、成歩堂は目を向けた。 そこには、何か紙を持った真宵が居た。 「なるほどくんなるほどくん! ちょっと良いかな!」 「え? あ、ちょっと待ってて。今、トイレ掃除が……」 「何時までトイレ掃除してるの! もう一時間もトイレ掃除してるでしょ!」 そう言って、真宵が成歩堂の腕を引っ張る。 「うわわ、ちょ、ちょっと真宵ちゃん! み、水がっ、水があぁぁっ!」 「あーもう、そんなのクリーニングに出せば良いでしょ! それより聞いてよ! ビキニさんが、あたしを招待してくれたんだよ! あの時の、スペシャル・コース!」 真宵は騒ぐ成歩堂に、持っていた紙を突き付けた。 突き付けられた成歩堂はしばらくそれに目を通し、「ふうん。良いんじゃないかな」と言った。今の成歩堂には、紙よりもトイレの水に少し濡れてしまったスーツの方がショックである。 「じゃ、なるほどくん。例によってよろしく」 両手を前に持って来て、真宵がにこにこ笑いながら言った。 「え?」 「ホラ、前もそうだったでしょ? 二十歳以上の人と同伴じゃないと行けないの」 「な! ま、またかよ! 大体それ、ぼくじゃなくても、御剣と行けば良いじゃないか!」 「御剣さんは冥さんと仲良くしてるから、駄目だと思うな」 あっさりと言われたし、容易に想像出来て、成歩堂はそれ以上勧められない。 「くっ……じゃ、じゃあイトノコ刑事と……」 「マコちゃんと一緒に、留守番するんだって。吐麗美庵で」 幸せそうな顔をするイトノコが想像出来る。 (客の入りも悪いのに、良くやるよ、イトノコ刑事) それも愛の成せる技なのだろうか。 「うっく……じゃ、じゃあ……じゃあ……」 「ヤッパリさんと?」 「それは絶対駄目ーっ!」 真宵のこれからが心配になり、成歩堂は間髪を入れず異議を申し立てる。 「じゃあ、誰も居ないじゃん」 「さ、裁判長が居るだろ!」 「あの寒さは、裁判長さんには無理だよ」 確かに言えている。 言えているが、心の何処かで、あの裁判長なら平気な気がすると思っている成歩堂。 しかし確信も無いのに裁判長を勧め、裁判長がそれで死んでしまったら、夢見が悪い。仕事で忙しいだろうし。 「うう……じゃ、じゃあ春美ちゃんに、千尋さんを霊媒して貰えば良いだろ」 「駄目だよ。はみちゃんに負担掛けちゃうし、心配掛けちゃうから」 (ぼくなら良いのかよ……)と突っ込みたくなる成歩堂。 「……! そうだ! 真宵ちゃんが千尋さんを霊媒すれば……」 「この紙、あたし宛てだから無理だよ」 そう言って、真宵は紙の上部を指差した。 確かに、そこには『綾里 真宵 様』と書かれている。 「ね、ね。良いよね! なるほどくん!」 正直「うへえ……」とも思ったが、ここまで来たら仕方ない。 しぶしぶではあるが、成歩堂は「分かったよ……」と言った。真宵はそれを聞いて、「やったあ!」と喜ぶ。 「じゃあ、なるほどくんも参加してね!」 「………………え?」 魔の抜けた声で、真宵の言葉に反応する成歩堂。 「折角ビキニさんが招待してくれたんだもん! ほら、今なら春の大セールで二人以上申し込みの場合、二人で一人分の料金で良いって、書いてあるんだよ!」 「あーあー、それは良かったね。春美ちゃんと一緒にすれば良いだろ?」 「はみちゃんは、しばらく里に帰るって」 (何で帰っちゃうんだよ、春美ちゃーん!!) 「だ・か・ら! 決定だね」 「ま、まままままま、待った! 大体ぼくが参加しなくても料金は変わらないし………」 「それに……」 そう言って、真宵が目を伏せる。 「本当は、一人では入りたくないんだ。あそこ」 (あ……) 「ね、なるほどくん。一緒に修行しようよ」 真宵の物言いに、成歩堂は黙った。 そう。真宵はある事件に巻き込まれ、あの場所に一人でずっと居たのだ。 生と死の境目で。 その時の恐怖は、恐らくどんなに言葉に表せる事が出来ても、表せしきる事は出来ないだろう。 「……お願い、なるほどくん」 真宵がもう一度、成歩堂に懇願した。 そうだ。 護ってやらなくてはならない。 かつて、護り切れなくて危ない目に遭わせた事は沢山在る。 だからこそ、今度こそ成歩堂が護ってやらなければならないのだ。 「…………分かったよ、真宵ちゃん」 「やたっ!」 そう言って飛び跳ねる真宵の姿に、成歩堂は苦笑した。 そして、その結果がこれである。 ここは、おぼろ橋を渡った対岸。 修験者が霊力を上げるための、霊境である。 そこでは、修行用の服をまとった真宵は震え、何とかしてスーツ姿のまま修行が出来る許可をもらった(修験者の服は寒そうであったし、殺人級に似合わないだろうと思ったからだ)成歩堂は、過去の事を思い出している。 「ま、ま、真宵ちゃん。ほ、本当に入るの? あそこ」 成歩堂は奥に在る奥の院を指差して言った。真宵は震えながらこくこくとうなずく。 (か、勘弁してくれ……) 正直、ここまで身体的に追い詰められたのは初めて(精神的にはそうではないのだが)で、成歩堂はスーツの上から腕をさすりながら心の中でそう思った。 「そ、それじゃあ、入ろっか。じゃ、なるほどくん、お先にどうぞ」 「え! こ、こう言う時はやっぱり、専門家であり本家本元、家元さまの真宵ちゃんからどうぞ」 「あたしは家元だから、まあ、じゅ、重役出勤?」 「訳分からない事言うなよ!」 「ぜ、ぜんとるめんふぁーすと、ってヤツだよ」 「何だよそれ! 大体それはレディーファーストだろ!」 「男女差別良くない!」 「真宵ちゃんが先に言って来たんじゃないか」 などなどと口喧嘩をしている内に、身を切るような冷たい風が吹く。 「……」 「……」 「喧嘩している場合じゃないよな」 「そだね」 二人の意見は合致した。 確かに、この気温の中、争い続ける事さえ不毛だし、百害在って一理無し、である。 「それじゃあ、早速行くか」 「ちょっと待って、なるほどくん」 成歩堂が歩き出そうとした時、真宵がそれを止める。成歩堂は呼び止められて、振り返った。 そこには、中庭に目を向ける真宵が居た。 そう。中庭。 (あ……) 成歩堂はつい最近弁護した裁判を思い出していた。 その時の現場は中庭で。 そこで、真宵は……その事件に巻き込まれた。 この中庭は、沢山の思いが詰まった場所だ。 妬み、恨み、迷い、苦しみ……思慕。 全ての結果、迷いが今こうして成歩堂の隣に居る。 「少し……お参りさせて」 真宵の言葉に、成歩堂はうなずいた。 そして、一緒に中庭に入る。 灯ろうの周りは、雪がどけられたままだった。 真宵は目を細め、その雪の在る場所と、無い場所に交互に触れる。 「……あたし、色んな人に助けられたから、ここに居るんだよね」 「そう、言ってたね」 「……」 黙って真宵は目を閉じ、手を合わせた。 本当に長い間、その格好のまま、真宵は立ち尽くした。 きっと、真宵の中にも色々な思いが在るだろう。 「……だから、あたし……強くならなきゃいけないの」 「うん。それも、言ってた」 真宵の背中が、小さく見えた。 「あたし……時々思うんだ。あたしだけ、取り残されちゃった、って」 「……」 「あたしのお父さんも、お母さんも、おねえちゃんも……皆、居なくなっちゃった。あたしだけになっちゃった、って」 「でも…君には春美ちゃんも居るじゃないか」 「うん……そうだけど………」 沈んだようにそう呟いてから、真宵は顔を上げた。 「……そう、だよね。あたしにはまだ、はみちゃんも、なるほどくんも居るもんね!」 あはは、と真宵はそう言って笑った。 その笑顔を見た瞬間、成歩堂は後悔した。 真宵のその笑みが、あまりにも虚しかったからだ。 「………よしっ! じゃあじゃあ、早速修験堂に行こっか」 虚しい笑みであるけれど、満面の笑みを浮かべながら、真宵が成歩堂の方を振り返り、そう言った。 「え、あ…そ、そうだね」 言われた成歩堂は、多少何処か取り残された感を拭えないまま、うなずいた。 そして、二人は中庭を後にし、奥の院の修験堂へと向かった。 「アンタたち、やっと来たね。わは、わはは、わははははは」 「お久し振りです、ビキニさん!」 けらけらと笑うビキニに、真宵が声を掛ける。 「もお、オバさん、準備は出来てるし。何時でも修行が出来るわよ」 「うわあ。ありがとうございます」 「そこのアンタも、しっかり修行して、霊力をぐっぐーんと伸ばしなさいね」 「ええ!? ぼ、ぼくもですか!?」 「なるほどくん! 光栄な事なんだよ? あたし達倉院の里の人間も、なかなかスペシャル・コースには拝めないんだからね」 (光栄、なのか……? 一般人にとって) あえて口で言わなかったけれども、成歩堂はそう突っ込んだ。 そう。 こんなにギザギザな頭と眉毛をしているが、成歩堂はれっきとした一般人なのだ。 周りにとって見ればそうは思えないのが、哀しい事なのだが。 「それにしても、残念だねえ。しゃんとした修験者の格好をした方が、一層身も引き締まって、霊力が上がる要因にもなるのにねえ。今時それをスーツなんて……」 「ま、まあ殺人的に似合いませんからね、ぼくがそれを着ると」 「ま、それも言えてるけど」 ビキニはさらりとそう切り返す。 「しっかりご飯は食べたんだろうね」 「はい! そりゃあもう、お腹が悲鳴を上げるまで食べましたよ!」 (それってスゲェ!) 以前、真宵は甘い物とステーキは別腹、などと言うすさまじい『別腹』宣言をした。 そこから考えると、真宵の腹部が悲鳴を上げるほどの食糧と言うのは、かなりの量、と言う事になる。 少なくとも、常人には食べ切る事の出来ない量であろう。あくまでも、常人の話だが。 「少しは暖かくなって来たし、もう修行を初日から始めても構わないね?」 (何処が暖かいんだ!!) 成歩堂は異議を唱えようとしたが、どうにもこの寒さではなかなかツッコミを入れる事が出来ない。 一方のビキニはこんな寒さなど慣れているのだろうか、相変わらずけらけらと笑っている。 成歩堂は真宵の方をちらりと見たが、一方の真宵も寒さに震え、表情も凍り付いていた。 やはり初日から始めるとは思っても居なかったらしい。 「それじゃあ、早速始めましょうか。未来の家元さん」 「は、はひぃ……」 もはや寒さに反対する気力すら凍り付き、真宵は鼻声でビキニの言葉に答えた。 「死なない程度に頑張るんだよ。わは、わはは、わははははは」 笑いながら、ビキニは奥の院の扉を開けて、成歩堂達を中へ促した。 もはやこれまでと言った感じで、成歩堂と真宵は顔を見合わせた後、諦めたように密かに溜息を吐き、案内された奥まで入って行った。 ひやり、とした風が肌を撫でるたび、成歩堂は、真宵は、身震いをした。 ビキニは途中まで案内すると、成歩堂に申し訳程度の明かりを手渡し、「ここから先は修験者さんが自分で行く事になっているんだよ」と言って、やはりわはわは言いながら帰って行ってしまったのだ。 「ま、真宵ちゃんは、一度ここに入ったんだよね?」 「うん……そ、そうだね」 二人とも奥の院の修験堂の寒さに震えながら、言葉さえも凍り付いているのではないかと思ってしまうくらい覇気の無い声で語り合った。 「じゃあ、迷う事も、無いよね?」 「う、うん。迷わない、けど……や、やっぱり寒いなあ」 「あの時と、今と、ど、どっちが寒い?」 「うーん、ど、どっちも寒いよ。た、多少暖かくなったと言っても、や、やっぱり奥まで、暖かさは、来ないし」 そう言いながら、真宵は腕をさすり続ける。 真宵の言葉を聞きながら、成歩堂は寒さを覚悟した。 「それにしても、物寂しい所だな」 「うん……やっぱり、修行って、寂しい所でやった方が、何となく雰囲気出るでしょ?」 そう言う問題なのか、と成歩堂は真宵に突っ込みたくなったが、突っ込めば突っ込むほど体力が消耗されそうな気がしたので、体力温存も兼ねて黙っていた。 やがて、一番奥まで辿り着く。 お互いの顔が、見えるとは言えないが見えないとも言えない、本当に微妙な薄暗さである。明かりが無ければ、恐らくは全く見えなかっただろう。 「こ、ここ?」 「うん。一番奥が、ここだよ」 寒さに慣れたと言う訳ではないが、始めに感じた寒さよりは寒くは無くなっていた。 とは言っても、霊氷の上に正座して呪詞を三万回唱える修行をすると言うのだから、生半可な寒さではないだろう。 「あ、あの時は修行どころじゃなかっただろう? い、いや、修行すら出来なかったか」 肌を刺す寒さに成歩堂は震えながら、数ヶ月前の事件を思い出していた。 真宵が、殺されそうになった時の事を。 「ううう、それにしても、本当に寒いなあ」 氷が在るからだろう。尽きる事無く、冷たい空気は成歩堂達に訪れた。 「まま、真宵ちゃん。本当に、するつもり?」 笑みが凍っているのは、成歩堂自身でも分かった。 もはや普通に立っていても、身体中の皮膚と言う皮膚が、まるで痙攣しているかのように寒さを訴えている。 先程から鳥肌は立ちっぱなしだし、歯もがちがちと鳴っていた。 「…………」 成歩堂の言葉に、真宵は何も答えなかった。 「ま、真宵ちゃん?」 遂に寒さに、立ったまま気絶してしまったのだろうか、と成歩堂は心配した。 真宵の傍まで行き、顔を覗き込む。 「!」 薄暗くて、お互いの表情はあまり良く見えなかったけれども。 「ま、真宵ちゃん……」 それでも、たった一つ分かった事は。 「……泣い、てるの?」 真宵が、声を立てずに泣いている事だった。 「え、ええと。ぼく、何かいけない事、言ったかな?」 全く心当たりが無い。もしかすると無意識の内に真宵の事を傷付けてしまったのかも知れない。とにかく成歩堂は何とかしてこの泣いている少女の支えになりたいと思い、尋ねた。 だが、真宵はふるふると首を横に振った。 「ううん。なるほどくんは、何も悪くないの……」 そう言われるものの、やはり突発的な真宵の涙に動揺し、成歩堂は真宵に呼び掛けたり、肩を軽くさすってあげたり、とにかく真宵の事をなだめようとした。 「真宵ちゃん……そんな、どうして…ぼくが、やっぱり何か……?」 「……違うの。なるほどくんが何か言ったとか、そんなのじゃ、ないの」 鳴咽混じりに言いながら、真宵は微かに首を横に振り、涙をその指で拭った。 「ただ、何もかもが遅かったんだ、って……」 「遅かった?」 どう言う意味なのだろうか。 真宵が何かに付いて、何もかもが遅いと感じたと言う。 それは一体、何を指し示していると言うのだろうか。 「そんな。ぼくだって行動を起こすのが遅い時だって、在るよ」 「違うの。そうじゃないの。そう言う事じゃ…ないの」 泣きながら、真宵はそれでも成歩堂の言葉を否定する。何が何をどう言われているのか、さっぱり分からずに、成歩堂はただただ焦燥感に駆られていた。 「じゃあ、どうしたって言うんだよ」 焦燥感に駆られるあまり、ついつい成歩堂は強い口調で真宵に問いただしてしまう。そして、強い口調で問いただしてから、(しまった……)と成歩堂は思った。 「…………」 強い口調に押され、真宵は黙ってしまう。 しかし焦燥感に駆られ続けている成歩堂は、どうしても素直に真宵に謝る事も出来ずに、黙っていた。 「…………」 「…………」 冷たい修験堂は、成歩堂達の心を表しているようであった。 冷たくて、そして空っぽな。 「…………」 どちらも黙ったままで、時が流れるだけ。 徐々に冷えて行く身体は、まるで今の二人をあざ笑うかのよう。 どうしても、どちらからも言い出せない。 その一言を。 二人は黙ったまま、やがて目を逸らした。 何も言う事が出来ないまま、二人は修行を始めるに至ってしまったのだった。 身も心も凍り付いて、そのまま凍死してしまうのではないかと成歩堂は思ったくらいだ。 それくらい、修行は過酷な物であった。 がちがちと歯を微かに鳴らしながら、それでもなるべく何も言わないようにして(どう言う呪詞を言えば良いのか分からなかった事も在る)、成歩堂は霊氷の上に真宵を隣にして正座をしていた。はっきり言って死ぬ。本気で。 ちらり、と成歩堂は真宵の方を見た。 「…………………」 黙ったまま、目を閉じて正座をし続ける真宵の姿が、そこに居る。 先程の口喧嘩を、涙を、修行をする事で忘れようとしているのだろうか。 そんな無理をし続ける彼女を見て、成歩堂は先程の自分の言葉を、後悔した。 今までから見ても、真宵は無理をし過ぎである。 初めて成歩堂と真宵が逢った時…真宵が容疑者となった時も、面会に来た成歩堂に嫌な思いをさせないために、明るさを何とか保とうとしていた。 ある事件の最中で真宵が霊媒を上手く出来なくなって、役に立てなくなりかけた時も(そうは成歩堂は思わなかったのだが)、身体を張って証拠品を、真相を引き出してくれた。 再び容疑者となった時だって、不安で何も分からない状態であっても笑おうとしていた。 誘拐された時だって、伝言で成歩堂の事を真っ先に励ました。 つい最近の事件も、自分が殺されかけた時に、真宵の事を助けてくれた犯人を護ろうとしていた。 そして、その事件の真相を知って傷付いた春美の事を励ました。 何時だって、そうだった。 何時だって、真宵は何よりも他人の為に自分を犠牲にしていた。 自分を犠牲にして、何時だって無理をして生きている。 多少、おどける時もあるかもしれない。 けれど、そんな物はちっぽけと感じてしまうくらい、それくらい目に見えず、気付きにくい真宵の犠牲は大きかった。 「…………」 二人は黙ったままだ。 (ううう……あんな風に言わなければ良かった) もっと、違う言い方が在っただろう。 なのに、自分が疎外されているような気になって、勝手に焦燥感を感じて。 そして真宵の事を抑え付けてしまった。 (謝りたい……でも…) そうできないのが、成歩堂の不器用さ。 何処かで、意地を張っている自分が居た。 それでどうなる訳ではないのに。 ぶるっ、と成歩堂は身体を震わせた。 寒さは、成歩堂の集中力を下げて行く。 そしてその集中力が下がれば下がるほど、成歩堂の体感温度はどんどん低いものになって行った。 「………」 ぶるぶると震えながら、成歩堂はじっと真宵の事を横目で見ていた。 自分はこんなに寒いのだ。 とうぜん、素肌が成歩堂よりも見えている真宵は、もっと寒いに違いない。例え普段真宵が着ている修行中の霊媒師が着る装束よりも裾や袖が長いとしても、所詮はその程度なのだ。 「……ま、真宵ちゃん」 たどたどしく、成歩堂が声を掛けた。 薄明かりの中、はっきりとは見えない視界の中で、微かに真宵がこちらを向いた気がした。 「…その……さっきは、ごめん」 あんなに言うのをためらっていた言葉を、一言を。 成歩堂はこんなにもすんなりと言える自分に驚いた。 永遠に言う事が出来ないのではないかと心配さえしたと言うのに。 「……あ、ええと…うん」 真宵がうなずいたのが分かった。その顔に、もう傷付いた色は無い。 隠しているだけなのかもしれない。 「……その、嫌じゃなかったらどうして泣いていたか、教えてくれないかな」 ぽつり、と成歩堂が尋ねた。真宵は困惑した表情で黙り、うつむいた。 「い、嫌なら良いんだ! その、誰にだって聞かれて困る事は在るし」 うんうんとうなずいて、成歩堂は明るく笑った。 その様子を見て、真宵は柔らかく微笑んだ。 「……あのね」 真宵が自分の手元に視線を落とし、静かに口を開いた。 「さっきも、言ったよね。何もかもが遅かったんだ、って」 「…うん」 「……あたし、初めてここに来た時の事、思い出してたの」 「初めて、って……2月7日の?」 成歩堂の言葉に、真宵はうなずいた。 心無しか、酷く疲れ、そして辛そうな、寂しそうな表情をしているように見える。 「あたし……心の何処かで、分かってたの」 「え……?」 成歩堂が聞き返すと、真宵が成歩堂の方へ顔を向けた。 「あたし、あたしのお母さんっ! あの時、何処かで分かってたのに!」 「ま、真宵ちゃん?」 「お母さん……あの時、あたしの事、呼んでくれたの。『真宵』さんって……」 真宵の言葉に成歩堂ははっとした。 脳裏に、2月7日の事が蘇る。 -春美ちゃんも手伝ってくれるかしら?- -わあ! わたくし、なんでもやりますとも!- -あ。じゃ、あたしも……- -…いいえ。気にしないでいいのよ。真宵さんたちは、ゆっくり遊んでらっしゃいな- あの時、確かに彼女は呼んだ。 『真宵』さん、と。 初めて逢ったばかりで、名乗ってもいなかったと言うのに。 なのに……彼女は呼んだ。真宵の事を。 「でも、あたし……何の確証も無くて…お母さんだったのに、何処かで分かってたのに……」 真宵の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。 成歩堂が何か行動を起こすよりも前に、真宵は成歩堂にすがりついた。 「呼びたかった!」 「!」 「お母さん、って……逢いたかったよ、って!!」 胸元に顔を擦り付ける真宵の目から流れる涙が、成歩堂の衣服に染み込まれて行く。 「他にもいっぱい言いたかった。ずっと待ってたよとか、大好きだよ、って」 「……」 「なのに……あたしが、勇気が足りなくて、一歩踏み出せなくて……確信が持てた時にはもう、遅かった……」 泣きじゃくり、すがりついて真宵が成歩堂に身を寄せる。 そんな真宵に、一体自分は何が出来るのだろうと思った。 ただ、彼女の泣く姿を見て。 それに対して、どう言う事も出来なくて。 ただただ、彼女の後悔を、真宵自身に対する責めを見詰める事しか出来ないのか。 「お母さんが失敗を全部背負って、居なくなって……でも、それはお母さんのせいじゃないよ、って言いたかった。これからはずっと一緒だよって、一緒に生きようねって…そう、言いたかった……」 慟哭は続いた。成歩堂の目の前で。 懺悔は続いた。成歩堂の腕の中で。 ただひたすら、後悔の念だけが真宵の事を縛り付けて。 何もかもが手遅れだった事が、真宵の事を責めていた。 成歩堂はそんな真宵の事を、じっと見詰めていた。 やがて、成歩堂は唇を噛み締める。 (ぼくが彼女の一番傍に居るから……) 寒さに今までなかなか動かなかった腕が、ぴくりと動いた。 (彼女の事をぼくが護らなければならないんだ!) 腕は、真宵の身体を抱きすくめた。 「っ!」 抱きすくめられた真宵は、目を見開いた。 やはり、真宵の身体は冷え切っていて、震えていた。 「真宵ちゃん……きみの証言には、ムジュンがある」 「え……」 腕の中で、抱きすくめられながら、真宵は成歩堂の目を見詰めた。 「きみは言った。『何もかもが手遅れだった』と」 「う、うん」 「でもね、真宵ちゃん。きみは何処かで予感していた。きみのお母さんの事を」 「そうだけど……でもっ! あたしはお母さんに何も伝えられなかった。結局気付かなかったし……」 「異議あり!」 裁判所で言う成歩堂の声とはいささか違い、声は震えていたけれど。 成歩堂はそれでもまっすぐに真宵の事を見詰め返していた。 「きみが予感した事は、真実だ。そして真宵ちゃんのお母さんも、真宵ちゃんの事を分かった。お互い、顔も分からなかったであろう状況で、予感は当たったんだ。それが言葉にならなかったとしても、真宵ちゃんの想いは、真宵ちゃんのお母さんに、絶対届いていたはずだ」 「なるほどくん……」 「真宵ちゃんには、真宵ちゃんのお母さんの、あの優しさが伝わらなかったの?」 「……ううん…」 涙を再び激しく流し、真宵は首を横に振る。 「とっても……温かくて、優しくて……お母さんは、思ってた通りだった」 顔を成歩堂の胸にすりつけ、ほう、と真宵は溜息を吐いた。 「ね……伝わっただろう? きみのお母さんの優しさが。それと同じくらい、真宵ちゃんのお母さんだって、きみの温かさと優しさが、伝わっているはずさ」 そう言って、成歩堂はきつく真宵の事を抱きしめた。 「だから……もう、自分に無理をさせないで。自分だけを責めないで」 「!」 「きみはいつだってそうだ。無理をして、その無理を感じさせないようにしてる」 そう言って、成歩堂は額を真宵の額と合わせた。 「ぼくにも、きみの負担を背負わせてよ」 「……っ」 真宵の目が見開かれた。 目の前には、成歩堂の顔が在る。 その成歩堂の目は、真剣な色で。 「真宵ちゃん……ぼくは、真宵ちゃんの事が、好きだよ」 「え……っ」 「何処かで、ぼくは言い訳してた。きみはぼくの助手だから、千尋さんの妹だから、傍に居て、護らなきゃいけない。でも……そんなの、ちっぽけな事だったんだ」 抱きしめる腕が、感情の高ぶりによって震えた。 「真宵ちゃんが……真宵ちゃんの事が好きだから…だから、ぼくは……」 「……なるほど、くん」 目を細め、微かに真宵が成歩堂の名を呼んだ。 「あたし…も、なるほどくんの事は好きだよ。でも、あたしは幸せには……」 「異議は認めない。認めなくない」 成歩堂は首を横に振って、真宵の事を見詰めた。 「沢山の人の想いの上に生きているからこそ、きみは幸せになるべきだ」 そう言って、成歩堂はそっと、真宵に口付けた。真宵は困惑したような表情をしていたが、やがて目を静かに閉じ、身体中の力を抜いて成歩堂に預けた。 ふるふると震える真宵のまぶたは、いまだに涙をこぼしていたけれど。 薄暗がりで、相手の表情は見えなかったけれども、確かに二人は気持ちが一つの表情をしていた。 成歩堂はそっと顔を離した。 「好き、だよ。真宵ちゃん」 もう一度、真宵に言ってやる。 真宵はしばらく黙っていたが、やがて静かにうなずいた。 「あたしも、なるほどくんが好き。ずっと前から」 微かな返答に、それでも成歩堂は嬉しく、愛しく思った。 だが、心が温かくなっても、身体的には二人ともかなり冷え切っていた。 ぶるっ、と真宵が身体を震わせる。 「……寒い、ね」 真宵の言葉に、成歩堂はうなずく。 「真宵ちゃん……」 そっと、成歩堂は真宵の名を呼んだ。 ずっと、気付かないふりをしていた二人。 ふりを続けて月日が経ち。 二人はようやく向き合えた。 それが、冷たい霊洞の中で、刹那に導かれた想いが、やがて二人を向き合わせたかのようだった。 成歩堂は霊氷から降りると、真宵の事も降ろした。 「まだ修行中なのに、良いのかな」 不安そうな表情をする真宵に、成歩堂は「大丈夫だよ」と言って、真宵の頭をそっと撫でた。 コトを行うのに、やはり氷の上でやる勇気は、成歩堂には無かった。 「ホラ、要するに寝ずに頑張れば良い訳だろ?」 「霊氷の上でだよ。しかもお経を三万回唱えなきゃならないし」 「早口言葉なら任せておいてよ。って言うか、お経じゃなくて、呪詞だろ」 「……早口なんかじゃ、霊力は上がらないよ」 「心を込めれば上がるってモンじゃないだろ?」 「そ、そうだけど」 何時の間にやら漫才になってしまうのは、普段のノリからだろうか。 その漫才を引き止めたのが、霊洞の冷ややかな空気だった。 「……漫才してる場合じゃ、無いな」 「……そだね」 二人は顔を見合い、うなずいた。 きっと明かりが無ければ、相手が何処に居るのかも分からなかっただろう。 成歩堂はそんな事を思いながら、真宵の身体を引き寄せた。 そして、再びキスをする。 ただ、先程と違うのは、より長く、より深い所。 成歩堂の舌が真宵の舌を求め、口内へと侵入しようとする。 「んんっ……」 そうしたキスをした事も無い真宵は、少し眉をしかめながら、成歩堂の舌に困惑した。 成歩堂の舌は、真宵の唇に割り込み、歯を押し上げさせ、そして、真宵の舌まで辿り着く。 そのまま成歩堂は、真宵の事を貪った。 始めは困惑した表情の真宵だったが、やがて成歩堂の舌を受け容れ、真宵の舌もまた成歩堂の舌に合わせ、ぎこちなくではあるが答えて行った。 二人は、互いの温もりを貪った。 ここが神聖な霊穴である事をすっかり忘れてしまったかのように、二人は互いの温もりに高まって行く。 だが、寒さを忘れるため、辛さを忘れるために、二人は今こうして行為に及んでいるのである。 やがて、二人は唇を離した。つ、と互いが受け容れていた名残が糸を引いて静かに落ちる。 それが、淡い明かりに妖艶に反射し、二人の目に映った。 真宵は思わず頬を赤らめ、目を逸らす。 そんな真宵を見ながら、成歩堂は真宵の修行服の上から、胸の膨らみに手を置く。 ぴくり、と真宵が微かに身体を震わせて反応した。 「あ…っ、なるほどくん……」 とても恥ずかしそうな顔で、おずおずと真宵が成歩堂の名を呼んだ。 「どうしたの、真宵ちゃん?」 「…その、あたし……」 もぞもぞとくすぐったそうに、恥ずかしそうに身体を動かしながら、成歩堂の手を何とか離そうとしている。 「あたし、こうした事、初めてで……だから、その………」 「大丈夫。怖くないよ」 ぼくに任せて、と成歩堂が言って、真宵の身体をより引き寄せた。 そして、指先で真宵の膨らみをそっと掴む。 真宵の胸は、覚悟していた(思っていた?)よりも大きかった。恐らく、千尋の胸を見たりしていたから、無意識に比較していたのだろう。 全く無いのだろうか、と思っていた成歩堂にとって、その膨らみは大きくないにしても、思わず目を丸くするくらいの大きさはあった。 「そ、そんな顔、シツレイだと思うなっ!」 真宵が頬を膨らませて、成歩堂の方を見る。成歩堂は「ごめんごめん」と言って、真宵の頭を空いている手で撫でてやった。 真宵はしばらく黙っていたが、やがて頬を元の大きさに戻した。 どうやら機嫌を直してくれたようである。 成歩堂は安心して、再び指先を動かした。 「ふ、ぁ……」 とろん、とした目で真宵は成歩堂の方を見る。そして、冷たい指先で成歩堂の腕を掴む。 その必死さに、成歩堂は愛しさを覚えた。 「真宵ちゃん……可愛い」 成歩堂が小さくそう言ってやり、指の動きをやや激しくする。 それに対して、真宵は敏感に反応し、成歩堂の腕にすがり付いた。 「んんぅっ…!」 切なげな声を上げ、真宵が頬を染めながら、あえぎ声を上げる。 その反応を楽しみながら、成歩堂はするりと真宵の装束の隙間に指を入れ、素肌に触れた。 「あっ……」 びくりと身体を震わせる真宵。 冷たい指先に、身体が震えたのも在るだろうし、不意の肌の感覚に困惑したのかもしれない。 「ご、ごめん。冷たかったかな?」 「う、うん……でも、大丈夫」 頬を先程よりも赤く染めながら、おずおずと真宵が言った。 未知の感覚に対する不安と、それを越える成歩堂に対する愛しさ。 それが、真宵の中でぐるぐると回る。 成歩堂が触れ続けると、だんだんと真宵の鼓動が速くなって来た。 「あっ……ぅ…」 恥ずかしさと、冷たさの中に在る温もりと快楽に真宵の声は切なげに上げられる。 指先を動かしながら、成歩堂は空いている手で真宵の冷えた身体を抱きしめる。 けれど、二人の身体は先程から始まった行為に、熱くなって行った。 「真宵ちゃん……」 成歩堂は真宵の名を呼び、その胸の先端を、しきりに撫で、時に押し付ける。 徐々に、その先端が堅く、立って行くのが分かる。成歩堂が高まるのと同じように、真宵もまた高まって行く。 如実に真宵の身体が素直にそれを表している。 「ほら、すぐに立っちゃった」 先端をいじり続けながら、成歩堂は真宵に言った。 「や…だぁ……っ」 成歩堂の言葉に、真宵は首を横に振ってその言葉を振り払う。 「真宵ちゃん、感じてる?」 「う……くぅっ」 慌てて真宵は胸をまさぐる成歩堂の腕を止めようとしたが、それを成歩堂は強く抱きしめる事で阻む。 だんだん、真宵の身体が熱くなって来るのが分かる。 「……ね、真宵ちゃん」 成歩堂が真宵の耳元で言葉を発する。 「ぼく、真宵ちゃんの可愛い反応にもう…」 「やっ……!」 それ以上成歩堂に言わせないように、真宵は首を激しく横に振り、紅潮しながら、成歩堂の方を見詰めた。 その瞬間、すかさず成歩堂は真宵の唇を塞ぐ。 成歩堂はその間にも、真宵の胸の先端を摘まんだ。 ひくり、と真宵の身体が震えた。 「んっ、ふ……」 口を塞がれたままの状態で、真宵はかすかにあえぐ。 胸の先端はしこりとなっており、摘まんでも優しく撫でても指先にはっきりとその形を伝えていた。 成歩堂は唇を離すと、そのまま真宵の事を見詰めながら、胸の先端を攻め続けていたが、しばらくしてから一旦止めて、帯にゆっくりと手を掛けた。 「ぅ……なるほど、くんっ…恥ずかしいっ……」 目をきつく閉じて訴える真宵に、成歩堂は微笑んで頬ずりをしてやった。そして、帯を緩めて行った。 しゅるしゅる、と静かな霊洞に帯が解けて行く音が静かに響いた。 やがて、真宵の装束を固定していた帯が完全に解け、自然と真宵の装束も微かにはだけた。 真宵の白い肌が、ビキニから手渡された淡い光にぼんやりと照らされた。 止める事の出来ない衝動に駆られながら、成歩堂は思わず真宵の見え隠れしていたうなじに口付ける。 「あふっ…!」 成歩堂の行為に、真宵は身体を震わせる。 その様子をちらりと見ながら、成歩堂はそのうなじに舌を這わせた。 生温かい感触に、成歩堂の胸板にすり寄り、くすぐったさと微弱な快楽にすがった。 その2
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ミツマヨ2 「御剣・・・どういうことだ」 私と成歩堂は、倉院の里で顔を合わせた。 焦りと不安を隠せ無い成歩堂に対し、私はまるで・・・そう、裁判の時のような冷静さを保っていた。 「どういうこととは?」 「僕はお前に真宵ちゃんを頼んだはずだぞ」 「そのことか。彼女が実家に帰ると言ったから連れてきただけだ」 「連れてきただけって・・・お前が真宵ちゃんから目を離したことに責任は無いって言うのか」 私が真宵くんをここに運んだのは2日前の夜。 ここで一緒に寝食を共にしていた春美くんの話では、昨日の夜、お互いが床に着くまでは顔を合わせていたと言う。 そして、今朝、朝食を知らせようと真宵くんの寝所を訪れたところ、彼女は姿を消していた。 「むしろ、責任があると言うなら・・・成歩堂、貴様にあるのではないか?」 「なんだって」 「ウソをついて、彼女を自分から引き離した・・・それを問題にしなくていいのか?」 成歩堂の顔つきが変わる。 「知ってたのか」 「あぁ」 「真宵ちゃんは」 「・・・知っている。貴様の乗ったタクシーを発見したのは彼女だ・・・全て説明した」 「そうか」 握り締められた成歩堂の拳が小さく震えている。 「もう一度聞く・・・なぜウソをついた」 成歩堂は驚いた顔で私を見た。 「なぜだって?そんなの・・・頭のいいお前ならわかってるだろう」 「言い方を変えよう。なぜウソをつく必要があった?彼女には正直に言ってしまってもよかったのではないのか?」 「あぁ・・・そういうことか・・・そうだな。確かにそうかもしれない」 「失恋の痛みはいずれ消えるが、騙された悲しみはなかなか消えないものだぞ」 「失恋?お前・・・何を言って」 成歩堂が何か言い出そうとした時。突然、近くの山林の中から悲鳴が上がった。 「この声」 「春美くんか」 私と成歩堂は顔を合わせて頷いた後、声の方向へと駆け出していた。 「真宵さま。真宵さま!」 「春美ちゃん!!」 春美くんが居たのは、山林に入ってすぐの川の側だった。 彼女の膝元には真宵くんが横たわっている。 「あぁ、なるほどくん!みつるぎけんじさん!!」 「春美ちゃん、一体何が」 「わたくし・・・真宵さまのためにと思って薬草を取りに山に入ったのです。そうしたら真宵さまが倒れていて」 見たところ外傷は無く、呼吸の乱れも無い。 「成歩堂とりあえず、場所を移そう。春美くんを頼む」 「あ・・・あぁ」 私は彼女を抱き上げる。 冷たい・・・彼女の体は冷え切っていた。まだ残暑の残る季節だと言うのに。 「真宵くん・・・しっかりするんだ」 「ただ寝ているだけです。あのまま寝かせておけば時期に目を覚ますでしょう。どうやら寝不足とストレスが重なったようですな」 「ありがとうございます」 医者が屋敷から出て行く。 「ふぅ。よかった」 「そうだな」 私と成歩堂は、眠っている真宵くんを見ていた。 「やっぱ僕が原因なのかなぁ」 「だろうな」 「うわ・・・そう、真っ向から肯定されると、立つ瀬ないな」 「きちんと彼女と話をするべきだ」 「うん・・・あ、そうだ。さっきお前が言ってた失恋って」 「んっ」 真宵くんの目蓋が微かに動く。 「真宵くん」 「真宵ちゃん」 半分ほど開いた小さな瞳。顔がこちらの方を向き、私たちを見る。 「なるほどくん?それに。御剣検事」 「よかった・・・あ、今、春美ちゃんが温かいものを作ってるから、呼んでくるよ」 成歩堂が寝所から出る。 私は、何を話していいのかもわからずに、ただ彼女の顔を見ていた。 「・・・ごめんなさい。迷惑・・・かけちゃったみたいですね」 「気にするな」 もっと優しく接することは出来ないのか? 何か気の利いた言葉は? 様々な言葉や行動が頭に浮かんでは・・・それを実行する前に消えてしまう。 「私をここまで運んでくれたの・・・御剣検事ですよね」 「あ。あぁ」 「・・・あのとき、すごく温かくって・・・嬉しかったです」 「気づいていたのか」 「なんとなく・・・ですけど。でも、まるでお父さんに抱かれているような・・・懐かしい温かさでした」 「そうか」 私は気まずいというよりも、気恥ずかしさを感じた。 「迷惑でした?」 「ん?」 「・・・眉間に・・・さっきより皺がいっぱいよって」 「あ。あぁ・・・いや。そんな事は無い」 心配そうに私の顔を覗き見る。 本当に、感情がすぐに表に出る子だ・・・だが、感情の表現が苦手な私にして見れば、少々羨ましいとも思う。 今の気持ちを、正確に表に出すことが出来れば、真宵くんにこんな表情をさせずにすむのに。 「~~~さま~~~真宵さま~~~」 廊下を小さな足音がトタトタと駆けてくる。 春美くんのようだ。 「真宵さま!!・・・あぁ・・・真宵さま真宵さま」 「はみちゃん。ごめんね、心配かけちゃって。朝ご飯までには戻るつもりだったんだけど」 真宵くんの胸元に抱きついて、大粒の涙を流す春美くん。 ・・・私はどうもこういう場面は苦手だ。 「席をはずさせてもらう」 私は立ち上がり襖に手をかける。 「あ、御剣検事」 外に出ようとした私を真宵くんが呼び止める。 「なんだ?」 「ありがとうございました」 「・・・礼を言われるようなことをした覚えは無い」 外に出て襖を閉める。 なんなのだろうか。この、こみ上げてくる高鳴りと温かさは。 「こういうのも、なかなか悪いものではないな」 「ん~。生き返るなぁ」 食卓に私と成歩堂、それに真宵くんと春美くん。 4人で少し遅めの昼食を取っていた。 朝の衰弱がウソのように、真宵くんはいつもの元気を取り戻し、目の前の丼からラーメンをすすり上げている。 「あ、そだ。はい。なるほどくん」 「へ?あ・・・何これ?」 真宵くんは、着物の袖から小さな巾着を取り出し、成歩堂に向かって差し出す。 「お祝い。こんなものしかあげられないけど」 成歩堂は首をかしげたまま、巾着を受け取り、その口をあける。 中には小さな丸い水晶のようなものが入っていた。 「これ」 「昔・・・お姉ちゃんが、お母さんから貰ったものなんだ」 「千尋さんが?」 「お姉ちゃんだけが貰って、私は貰えなくて・・・悔しくて、里の氷室に隠してたの」 「まぁ、あそこにですか?」 真宵くんの言葉に春美くんが驚く。 氷室か・・・なるほど、そんな場所に行ってたから、あれほど体が冷えていたのか。 「でも、それじゃあ、千尋さんと真宵ちゃんのお母さんの形見みたいなものなんじゃ」 「いいの。なるほどくんに持ってて欲しいから」 「え?」 「・・・あやめさんと・・・仲よく・・・ね」 真宵くんが急に立ち上がり、部屋を飛び出して行ってしまった。 顔を手で隠していたからわからなかったが・・・泣いていたのではないだろうか。 「真宵さま!!」 春美くんも後に続いて部屋を飛び出す。 「真宵ちゃん。何で?」 成歩堂は彼女の行動の意味がわからず、頭を掻きながら彼女の出て行った方を見ている。 「成歩堂・・・お前、本気でそれを言っているのか?」 「本気って。仕方ないだろ、わからないんだから」 「そ、そんな洞察力でよく今まで弁護士を続けてきたものだ・・・呆れて物も言えないぞ」 「そんな僕に負けた御剣はなんなんだよ」 「人の揚げ足を取るのだけは本当に上手いな・・・真宵くんはな、キミとあやめくんのことを」 こんなことを説明している自分が馬鹿らしくなってきた。 そもそも、どうして私がこんなことを。 「あ~・・・やっと色々理解したよ。はぁ・・・全部誤解なのに」 「なんだと?」 「あのさ、御剣。僕が彼女と一緒に居たのは」 私の目の前に真宵くんが座っている。 膝を抱えて。見た目に悲しみに耐えているのがわかる。 ここまで来たものの・・・なんて声をかければいいのだ? そもそも、これは私ではなく成歩堂のするべきことではないのか? 「大丈夫ですよ・・・私は」 「気づいてたのか」 真宵くんの隣りに立つ。気づかれていたのなら、話の切り出し方を悩むことはない。 「真宵くん・・・成歩堂と美柳あやめのことなのだが」 真宵くんはなにも返事をしない。 「どうやら私たちの勘違いだったようだ」 「・・・勘違い?」 「あぁ。成歩堂は私情で彼女に会いに行ったのではなく、仕事で会いに行ったらしい」 「どういうこと・・・ですか?」 真宵くんが顔を私の方に向ける。 「あの日、仮出所を迎えた美柳あやめだが、身寄りも親族もいない。そのため、成歩堂が身元を引き受けたというのだ」 「でも、ならどうしてあんなウソを」 「・・・キミのためだそうだ。母親との思い出・・・それを思いださせないように」 真宵くんはまた顔を自分の膝にうずくめる。 「ありがとうぎざいます・・・御剣検事」 「あ・・・あぁ」 私もその場に腰を下ろす。 空が青く、木々はまだ茂っている・・・本当にここはいい場所だ。 どれだけの時間、そうしていただろうか。 急に真宵くんがその場に仰向けに倒れこんだ。 「真宵くん?」 「・・・うん。すっきりしました。もう、なるほどくんのこと吹っ切りましたから大丈夫ですよ」 顔を私の方にむけて笑顔を見せてくれる。 笑顔。しかし、心なしか普段の彼女とは違っていた。 「いや、成歩堂とあやめくんのことは」 「だって。身寄り無いって言ったって、葉桜院だってありますし」 「まぁ・・・確かにそうだが」 「なるほどくん、自覚してるのかどうかわかんないけど・・・きっと、あやめさんを好きなんです」 本来ならば正規の保護観察官がつくし、身寄りがなければそれ相応の施設がちゃんと備わっている。 にもかかわらず、成歩堂が身元引き受け人になるなんて、特別な感情でもなければおかしい。 確かに成歩堂と美柳あやめの間には何かがあるのかもしれない。 「さて。遅くなる前に帰らないとまたはみちゃんに心配かけちゃうな」 真宵くんは立ちあがろうと、地面に手をつく。 「あ・・・あれ?」 が、体に力が入らないのか、バランスを崩し私の方に倒れこむ。 「ごめんなさい。よっ・・・あっ」 再度立ち上がろうとする彼女の腕を掴み、私は彼女を抱き寄せる。 「御剣検事?」 真宵くんは大きな瞳に涙を溜めながら私の方を見上げる。 小さい体で一生懸命に我慢し無理をしたのだろう。 表面では理解し吹っ切ったつもりだろうが、内心では泣きたい気持ちを我慢しているのだろう。 「泣いていい・・・今は私しかいない」 「え?」 「泣き顔を見られたくないのなら私の胸を使うといい・・・声が聞かれたくないなら耳を塞いでおこう」 「・・・みつるぎ・・・けんじ」 大粒の涙が零れ落ちる。 「う・・・うぅ・・・うわぁぁぁーーーーーーー」 彼女の温もりと重さを感じながら、その頭をゆっくりと撫で続けた。 太陽は完全に地に落ち、空にはうっすらと星が瞬き始めた。 真宵くんは泣き疲れたのか、私の胸の上で穏やかな寝息を立てていた。 「んっ」 微かに目蓋が動く。 そう思ったら、勢いよく顔を上げて私の顔を見る。 「はっ・・・あ、御剣検事・・・あれ?私」 彼女の顔が見る間に赤くなっていくのが薄暗い中でもわかる。 だが、その顔は先ほどまでの表面だけの笑顔ではなくなっていた。 「ご、ごめんなさい。私・・・なんで」 「気にするな。少しは楽になったか?」 「え?あ、はい」 「ならばいい。キミは、その心からの笑顔がとても似合う」 真宵くんがさらに顔を赤くして何かを呟いたが、誰かがあげている大きな声にかき消されてしまった。 「あ、はみちゃんの声。いこ、御剣検事。今日は私がごちそうしてあげきゃっ」 まだ完全に体に力が入らないのか、立ち上がった時にまたバランスを崩した。 私はそれを抱きとめようと腕を伸ばす。 「真宵く」 目の前に真宵くんの顔がある。 そして唇には温かい・・・彼女の唇が。 あの日。私は用事があると言って倉院の里を後にした。 真宵くんは『あれは事故だよ事故。だから気にしないで』と言っていたのだが・・・気にするなと言うほうが無理に近い。 やはり悪いことをしてしまった。 何かお詫びの品を持って行かなくては。しかし、何を持って行けば彼女は喜んでくれるのだろう。 いやいや、喜んでもらうために行くのではない。許してもらうためだろう。 「う~む」 私はネットや贈り物のパンフレットなどを眺めながら、ここ数日、唸り続けていた。 どうもこういうことは苦手だ。 「この服は・・・いや。こっちのカバンなんて似合いそうではないか?」 「え~。出来ればもう少し明るいのがいいなぁ」 「そうか。では、こっちなんてどうだ?」 「いいね。うん。その色好きかな」 「ふむ。これに・・・ん?」 私は見ていたパソコンから視線をはずし、後ろを振り向く。 「こんにちは。御剣検事」 そこには、いつもの笑顔と変わらない表情を浮かべた真宵くんが立っていた。 「あ・・・あぁ。真宵くん?」 「はい。そうですよ?」 夢でも幻でもないな。確かにあの日から寝不足の日は続いていたのだが。 「何故ここに?」 「あ~。なんか、なるほどくんの所居づらくなっちゃって」 「実家は」 「みんな私のこと家元家元って言って窮屈で窮屈で」 不思議な沈黙が訪れる。 彼女は不法侵入してきたのだ、私にはそれを問い詰める権利が・・・いや、違うな。 「・・・ぎ検事?」 検事として彼女を真っ当な道に・・・それも違う。 「るぎ検事・・・御剣検事ってばぁ」 「あ・・・あぁ。何の話だったかな・・・あぁ、そうだ、来週の裁判の資料を」 「み・つ・る・ぎ検事!!」 真宵くんが頬を膨らませて私を睨んでいる。 「どうして私を無視するんですか」 「あ~・・・いや、私自身、こういう場になれていないというか・・・どうしていいかわからなくてな」 「もう。じゃあ、羊羹持って来たんで、一緒に食べながらお話しませんか?」 「でだ。なぜキミがここに?」 「一つは居場所が・・・で、もう一つは御剣検事にお礼を言いに」 「お礼?」 「はい。慰めてくれて・・・すごく・・・嬉しかった」 「あ・・・あぁ。いや。あれは、別に」 邪気の無い笑顔とは彼女のような笑顔を言うのだろうな。私には絶対に無理な話だ。 「御剣検事って、冷酷で冷静で冷淡な氷みたいな人だなって思ってた時期もあったけど」 今まで有罪にしてきた者たちにも同じように思われているのだろうか。 狩魔の業・・・いや、報いだな。 「でも、抱き締められた時、すごく温かくって・・・あの、キス・・・した時」 「あ、あれは事故だ。キミもそう言って」 「事故です・・・事故なんです・・・でも・・・あのキスで・・・私の心がずっと温かくなったのは事実で」 気づいた時には真宵くんの顔が紅くなり、私から視線をそらすようになっていた。 彼女は私を責めに来たわけではないのか? 「もう一度・・・今度はちゃんと・・・して欲しい」 彼女は立ち上がって私の隣に座る。 「・・・御剣検事」 私の顔を見上げる彼女の顔は、少女から大人の顔へと変化していた。 艶かしくも美しい表情。 「後悔は無いな」 「・・・はい」 私は彼女の頬に手を当て、顔を近づける。 小さく震えた唇に、自分の唇を重ねた。 「んっ」 温かい。まるで彼女の温もりが全身に伝わってくる。そんな感じが体を駆け抜けた。 「御剣検事」 「・・・真宵くん」 私は彼女を抱き締めた。 小さな体は私の腕の中に完全に収まり、お互いにお互いを感じることが出来た。 「私は今まで本当の恋愛というものをしたことが無い。誰に対しても必ず一歩以上の距離をあけるようにしてきたからだ」 真宵くんを愛しいと思うようになったのはいつからだろうか。 「だが、キミは違う。その一歩を踏み出し。心から抱き締めたいと思う」 最初はただ変わった子としか思っていなかった。いや、つい先ほどまでそうだったはずだ。 「・・・愛している」 こんなにも私の心を掻き乱す。だが、今はとても気持ちがいい。 「卑怯だよ」 真宵くんの声が耳に入る。 「冷たい御剣検事しか知らなかったのに・・・こんなに温かくて優しいなんて」 私は目を瞑って彼女の一言一句、聞き漏らさないように集中した。 「失恋したばかりの女の子に、こんな一面見せるなんて卑怯だよ」 彼女の顔を見る。 涙に潤んだ大きな瞳が私の方を見ている。 「私も・・・御剣検事のこと・・・好き」 彼女はそう言うと、その口で私の口を塞いだ。 「で、この後はどうするのだ?」 「ん~・・・里に帰ると皆うるさいし・・・なるほどくんはあやめさんの受け入れ準備に忙しそうだし」 そういえば、美柳あやめが正式に出所することになったのだったな。 まだ半年は先の話だが。 「行くところが無いなら、ここに住むといい」 「え!?あ・・・でも・・・」 「どうした?」 「ほ、ほら。若い男女が2人っきりって・・・私は別にいいんだけど」 「あぁ。その心配はない」 私はコーヒーをすすりながら、カバンから書類を出す。 「明日、アメリカに立つ」 「ちょ、ちょっと待ってよ。どういうこと?」 「向こうの裁判で少し気になる判例があってな。見てきたいと思っていたのだ」 本当は真宵くんのことが気になりどうしようかと考えていたのだが。 その心配もなくなり、心置きなく旅立てると言うものだ。 「・・・御剣検事の・・・ばかぁぁぁぁ!!」 突然、真宵くんは大きな声で怒鳴りだした。 「ばかばかばかばかばかばかばかばか。もう決めた、絶対に浮気するんだから。私だって、結構美人だし」 「ふぅ。まだ抱いてすらいないのに、いきなりの浮気宣告とは。先が思いやられる」 私は真宵くんを抱き寄せる。 「抱い・・・うぅ。だって、御剣検事が」 「一ヶ月だ。一ヶ月で帰る。そして、それからはずっとキミの側にいよう」 「・・・ホント?」 「あぁ。アメリカの検事局を止め、日本の検事局に復帰する。日本を拠点とすればいいのだからな」 「・・・わかった。一ヶ月だからね。それ以上は絶対に待たないから・・・もう、ウソはやだからね」 私は肯定の変わりに、彼女にキスをする。 一ヶ月後まで彼女を忘れないように。長く・・・長く・・・
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西鳳民国の某ホテル、ラウンジ。 カーネイジの裁判も終わり、御剣は狼捜査官の招きもあってこの国へ降り立った。 深いソファに身を沈めて何とはなしに周囲を眺めていると、 斜め前の席にふと目が吸い寄せられた。 柱の陰に見え隠れする細い首、きっちり纏めた特徴的な長い黒髪。 もしやあの怒涛の日々で関わったCAではないだろうか。 (……まさかな) ゴーユーエアラインは西鳳民国への直通便もあったように記憶するが、そんな偶然もあるまい。 人違いだろうと御剣が結論付けかけた時、その人が何気なく振り向いた。 真っ直ぐ目が合う。 「やはり。コノミチさんだったか」 「え?あ、御剣さま!」 「あ、待ちたまえ」 制止も間に合わず、驚いて立ち上がった彼女の膝からばらばらと何かが散らばる。 「大丈夫ですか」 「も、申し訳ありません」 (鉛筆?……いや、色鉛筆か) 御剣は足元に転がってきたものを拾い上げ、手渡した。 「スケッチですか?」 「はい。実はあのスーツケースがご好評を博しまして、他にもデザインをしてみないかと言われているんです」 「……なるほど」 ちょうど拾い集めた色は、かのスーツケースを構成していた黄色、緑、ピンクだった。 あのスーツケースが好評とは御剣には解せなかったが、人の好みはそれぞれなのだろう、何はともあれ喜ばしいことだ。 拾い集めた色鉛筆を間に置き、御剣はコノミチの隣に座る。 「改めまして、その節はありがとうございました」 ソファに腰掛ながらも、深々と頭を下げるその仕草は流れるように優雅だ。 思わず見とれていた御剣は慌てて首を振る。 「うム、いや、こちらこそあなたにはお世話になった」 「とんでもございません。私、御剣様のおかげで、今もプロのCAとして働くことができています」 「それは何よりです。そこが実は気になっていたので」 いくら事件を解決しても、それまでと同じ日々は戻ってこない。 同僚が密輸組織と関わっていたのだ、彼女も疑われていなければいいのにと、御剣は何度も考えた。 いつもはそんな感情にもきちんと折り合いをつけてきたのに、今回はどうも上手く行かない。 どうしたことか、御剣にとって彼女は初めての例外なのだった。 そんな動揺も「気になっていた」だなんて短い言葉で伝わるはずもない。 コノミチは御剣の言葉に、ご心配下さってありがとうございますと微笑む。 「でもあの後少しだけ取調べを受けたり、会社も捜索されたりと大騒ぎだったんです。 やっと落ち着いたので、フライトと組合わせてここで休暇をいただくことにしました」 「ああ、そういえば、このホテルはゴーユーエアラインの系列だとか」 「はい。御剣さまこそ、西鳳民国へはご旅行ですか?」 「この国へは……」 「それともお仕事でございましたか?」 旅の目的を聞かれて思わず躊躇う。 この国の復興を見届けなければ一連の事件に区切りがつかないような気がして、狼捜査官の招きに応じた。 そんなことは余人に説明することではない。 「――強いて言うならば、厄落としといったところか」 「厄落とし?…………あっ!」 御剣の科白を不思議そうに反芻したのも束の間、土下座でもしそうな勢いでコノミチは頭を下げた。 「あの折は本当に、御剣さまには多大なご迷惑を……!!」 「な、なんのことだろうか」 「厄落としなのでしょう?アクビー様の件は、西鳳民国から日本へ向かう途中だったではありませんでしたか」 「そう言われれば、あれは確かに厄日の始まりだったが……。あ、いや違う、そういう意味ではない!」 慌てて否定するも手遅れ。コノミチは遠い目になっている。 「お気遣いはご無用です。やはりそうなのですね。旅に出たくなられるほどの厄日でございましたか」 「誤解だ、そのようなアレではない」 「お客様をそのような目に合わせてしまうなんて、私はプロのCAとしてどうお詫びすれば……」 (くっ、このままでは落ち込ませるばかりだ。どうすればいい) あれこれ考えても結局は事件の話しかなかった。 今にも絨毯の上に膝をつこうとしているところを、手をつかんで制止した。 「その、コノミチさん、私はあなたに感謝しているのだ。どうかこれ以上謝らないでいただきたい」 「……感謝?御剣さまが私に?」 何をと言わんばかりにコノミチの目が見開かれる。 「そうだ。私は確かにあの状況では一番疑わしい人物だったにも関わらず、あなたは私を軟禁まではしなかった。 そしてあなたが私の話に耳を傾け、理を受け入れてくれたからこそ、真犯人を捕らえることができたのだ」 「私、そんな大層なことは」 「いや。あなたは同じプロとして尊敬に値する」 「御剣さま……」 「検事も同じだ。常に冷静に、どんな声も細大漏らさず聞き届け、真実と思われる道を探る。 ――だから私はあなたに惹かれるのだろうか」 「み……」 最後の方は独白に近かった けれども聞こえないような距離ではない。 力が抜けたように、手を御剣に預けたままコノミチが絨毯の上に座り込んだ。 「御剣さま、そんな冗談をおっしゃらないで下さい」 「ム、冗談などではない。心外だ」 「本気ならなおさらタチが悪いですわ。私を喜ばせて遊んでいらっしゃるんでしょう」 「何故そうなる」 一つの事件をこのような形で引きずるのは初めてだ。 偽りの許可を出してまで責任を取る潔さ、CAとしての誇りと、それだけでは昇華できない白音若菜へのコンプレックス。 華奢な横顔に見え隠れする、自嘲で覆ったプロの仮面は美しかった。 「私はあなたを守りたいと思ったのだ。それはあなたが犯人でないからというだけではない」 「御剣……さま」 「あの時のように、私を信じてはもらえないだろうか」 自分を無実だと信じ、そして事件を解決すると信じてくれたあの時のように。 握った手に力を込めると、コノミチの視線が絨毯から上を向く。 「……ます」 「コノミチさん?」 「信じますわ。御剣さま」 真赤な顔をして、それでも真っ直ぐに自分を見つめる彼女から目を逸らせない。 今更ながら、大胆な告白をしてしまったことに気づき、御剣はうろたえた。 「ところで」 「はい?」 「私は、あなたのセンスを理解できない男かもしれないのだが、それでもいいのだろうか」 「……そんないじわるをおっしゃらないで下さい」 くしゃりと、コノミチの表情が崩れる。 「すまない。そのようなつもりはなかったのだ」 もし泣かれてしまったらハンカチを差し出すべきか。 それともこの手で拭っても――触れてしまっても構わないのだろうか。わからない。 困った顔の御剣に、コノミチは泣笑いのような微笑を浮かべた。 そして御剣の唇に指を当てて、それ以上の言葉を封じる。 「私もあの発言には、そんなつもりはなかったんです。その、勢いで、つい……」 「……つまらぬ事を言った。私はあなたの言葉を信じたいのだ」 「はい、御剣さま。信じて下さい」 真実を見抜く目など持ち合わせていないけれど、この場には仮説もロジックも要らなかった。 微笑に吸い寄せられるように御剣は長身を屈める。 柱の陰で、唇が重なった。
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御剣×冥 昼下がりの情事 ちょうど正午のこと、成歩堂法律事務所を一人の男が訪れた。 「おっ。いらっしゃい、御剣。わざわざ来てもらって悪いね」 「いや…。きみから呼び出されることなど滅多にあることではないからな」 成歩堂はなんとなくソワソワした感じを漂わせて、御剣に茶を勧めたまま何も言わない。 昼時に来たけれど一緒に食事をという雰囲気でもない。 「…?で、なんなのだ」 話しにくいことなのであろうかとこちらから水を向けると、ようやく口に出したのはなんと御剣自身についての話だった。 「うん。あのさぁ、こんなこと聞くのもどうかと思うんだけど…最近、狩魔検事とうまくいってる?」 「な、な、な…なにを突然。まぁ変わりはない、と思うが」 局内では完璧に同僚の仲を演じているふたりの交際を知っているのは、成歩堂や真宵などごく内輪の人間に限られていた。 その年齢も含めて『天才検事』としてなにかと騒がれることが多い両人は、少々狭苦しい思いをしながらも 恋人同士としてふるまうのは二人きりのときだけという道を選んだのだった。 当然、職場では事務的な態度を取らざるを得ない。いくつもの裁判を抱えているときは、何週間も逢えないこともままあった。 こうしたやり方は多くの女性、とりわけ10代の少女にとっては酷だったのではないだろうか。 平静を装ってはいたものの、成歩堂の一言で御剣の思考はめまぐるしく展開した。 「あの…御剣?」 「ハッ!すまない、考え事を。その、メイがなにか君に相談でもしてきたのだろうか」 もしそうならどうしても聞いておきたかった。彼女が自身の悩みを打ち明けられる相手はそうはいない。 しかしその相手が成歩堂だと思うと、かすかに嫉妬めいた感情が立ち上ってくるのを感じずにいられなかった。 「いやいやいや、そうじゃないんだ。そうじゃないんだけど、ね」 あわてて手を振りながら否定する。 「そうじゃないのなら、なんなのだと聞いている!」 つい語気荒く成歩堂に迫ってしまう御剣。冥のことになると自制の効かなくなる自分が少しばかり恐ろしく感じる。 「いや、これ絶対内緒だよ。真宵ちゃんの机の上の手紙にさぁ…」 そう言いながら一枚の紙をぴらぴらと振りかざす成歩堂。 「ム、成歩堂。信書の開封は法律違反だぞ」 検事の手前そうはいったが、内容には興味がある。ものすごくある。 「違う、違う!僕は開けてないよ~。置いてあったのがたまたま目に入っただけで…」 「は、早く見せたまえ」弁解しようとする成歩堂からひったくるようにして手紙を受け取ると、中身に目を走らせてギョッとした。。 真宵ちゃんへ ヤッパリ冥はいまの彼氏と別れようと思います。 あの人のことがどうしても忘れられない…。自分の気持ちにウソはつけないわね。 真宵ちゃんもよく知ってるあの人…、きっと幸せになれると思うの。 うんぬん、かんぬん…。普段の彼女からは想像もつかない「乙女の心情」とでもいうべきものがワープロ用紙に綴られている。 「こ、これはなんなのだ~~~!!メイが、メイがまさかほかの男と…っ!」 「お、落ち着けよ御剣。まだ狩魔検事の手紙って決まったわけじゃないんだしさぁ」 ぽんぽんと肩をたたく成歩堂。しかし御剣にはどうやらその声は聞こえていないようだ。 「第一これ、ワープロ打ちだしさあ。なんか、狩魔検事のキャラじゃないって言うかあからさまに騙ってる感じがするし…。 ただまあ、御剣たちのことに気づいてる人がいるってことかもしれないから用心しろって言いたかっただけで…って聞いてる、御剣?」 「急用を思い出した!これで失礼する!!」 手紙を引っ掴んだまま、御剣は成歩堂の事務所を飛び出していた。成歩堂は呆然とその後姿を見送った。 検事局に帰るとすぐに冥のオフィスの扉をたたいた。 「どうぞ」中から短く答える冥の声が聞こえた。 「あら、レイジ。ちょうどよかった、この書類なんだけど…」 ツカツカと冥のデスクまで近寄ると、バンッ!と両手を机にたたきつけた。 「メイ!…君は、君は私になにか不満があるのではないか?正直に言ってほしい」 「なんなのよこんなところで…。ないわよ、別に。それよりね、この証拠品だけど」 御剣に取り合わず話を進めようとする冥。 「証拠があるのだ!」手紙を冥につきつける御剣。 パッと目を走らせて冥は冷笑した。 「なにこれ。あなたまさか私がこんな恥ずかしい手紙を綾里真宵に書いたとでもいうの?」 「君の名前が入っている。我々のことを知っている人間はほかにいないのだからそう考えるのが当然というものだろう」 バンッ!冥は思わず立ち上がり机をたいていた。 「お話にならないわ!こんなワープロ打ちの手紙なんて証拠能力はゼロよ!検事失格ね!!」 一息つくと、髪をなぎ払いながら 「これ以上何も言うことはないわ。書類を持って出て行って」と御剣に命じた。 だが御剣は冥の腕を掴み彼女をぐっと見つめて離さない。机越しに二人は向かい合っていた。 「まだ、聞きたいことがあるのだ…君は私を、愛しているか?」 昼間から仕事場でする話でないことは明白だ。しかし御剣は熱に浮かされたように言葉を続ける。 「この手紙がニセモノだというなら…君の愛をいまここで証明してほしい」 「立証の必要を認めないわ」冥が反論する。 「それなら君も、検事失格だ」机の横を滑るように移動して冥の前に立った御剣は、彼女の背中を引き寄せ強く口付けた。身を捩る冥の唇を強引に幾度も奪う。 やがて冥の瞳がゆっくりと閉じていき、舌を絡ませあう長いキスを交わした。部屋には二人の密やかな息遣いだけが聞こえる。 「レイジが、好きよ」唇を離したあと、俯いた冥が小さな声で言った。この場で言える精一杯の告白だ。 御剣が彼女の腕をようやく離す。しかしすぐにまた、冥をからだ全体でいっそう強く抱きしめる。 「君の体も、同じように私を好きだといいのだが…」 抱きしめたまま、冥のほっそりとしたうなじに口付けをする。背中の手は徐々に下へとおりていき、臀部をやわらかく掴んだり撫であげる。 「ちょ、ちょっとレイジ…!答えたでしょっ、ダメこんなとこで…あ、ん!」 服の上からの愛撫に冥は少しあわてる。御剣を押しのけることはちょっとできそうになく、冥は体中を這い上がってくる快感と懸命に戦っていた。 スカートなんてはいて来なければよかったわ…冥が考えたその時、御剣はスカートをたくし上げ太腿にツツ、と指先を滑らせた。 冥がぴくんと体を硬直させる。ブラウスのボタンも半分ほどはずされ中身をチラリとのぞかせている。 オフィスの中で冥は少しずつ服を乱され、体を熱くしていった。見慣れた風景が冥に現実を思い出させ、羞恥で顔を赤らめる。 「んんッ――――誰か…来たらどうするのよ。あぁ…あなただって見られたら…」 うるんだ瞳で男をにらんだが、冥のブラジャーからはみ出ている胸元に口付けながら、御剣は涼しい声で答えた。 「ロックはしてある。君がそれ以上大きな声を出さなければ…ここで起こっていることは誰にも知られない」 「そ、そういう問題じゃ…あっ―――はぁッ!!」 冥の体が跳ねるように大きく反応した。御剣が彼女の中心に中指を押しつけぐりぐりと刺激したからだ。 「声を出すな、と言ったのだが。外に聞かせたいのか?」 言うなり覆いかぶさるようにキスをして冥の口をふさぐ。指先の責めはやまない。 秘所に置かれた中指を小刻みに震わすともう湿り気をはっきりと感じるほどに濡らしていた。 冥は中指に体を支えられながら、爪先立ちで御剣の口付けを受けている。やっと息ができるようになると、冥は熱い吐息を漏らしながら御剣に懇願した。 「あぁレイジ…お願いよ。もう、ダメ」 これ以上触られたら、この場所で自分がどうなってしまうか分からない…冥の体はもはやさらに強い快感を望んでいたが、理性がそれを許さなかった。 御剣は黙って冥の下着に指をかけ半分ほどおろしてしまう。 「そうだな。このままでは後ではけなくなってしまうだろう」 「そうじゃ、なくて…きゃあっん!」 膣穴から溢れでてくる淫液を絡ませながら二本の指で陰唇を弄る。往復する指のスピードが早くなっていく。ソコはもう滴るような水音をさせ御剣の手を濡らしていた。。 冥は目をきつく閉じて声を出すまいとしているが、御剣の執拗な愛撫に時折甘い声が漏れてしまう。 さらに突起に指を這わせ、二本の指で挟みこみ円を描くように摘みあげた。 「…!!くぁあああ―――ッ!!」たまらずに嬌声をあげて絶頂を迎えてしまう。両足をガクガクと痙攣させもはや立っていられないといった風情だ。 御剣は冥を抱え上げ椅子に座らせる。 「ねぇ、ホントにもう…午後は人が訪ねてくるのよ。続きは夜にしましょ、ね?」 恥ずかしそうに冥は提案した。 しかし御剣はデスクの受話器をとりあげ素早くコールしたあと、冥の耳に押し付けた。 「アポイントを断りたまえ。私はもう少し君を楽しみたい」冥は観念してそれを受け取る。 片足だけ下着を脱がせ、冥の足を椅子の上で大きく開かせると太腿の付け根から丹念に舌と手を這わせていく。 プルルルルル、プルルルルル…ガチャッ――抗議をしようとした矢先、相手が電話に出る。 「はい、受付ッスが…」 よりによって糸鋸刑事が出た。 「なっ、なんであなたが取るのよ!!」 いきなり怒鳴られたイトノコがしゅんとした声で答える。 「えっと、自分は御剣検事に話があって来たッス。ちょうど人がいなかったので思わず取ってしまったッスが…マズかったッスか?」 糸鋸、と聞いて御剣は一瞬動きを止めたが、すぐに愛撫を再開する。指で秘所を押し広げ、膣口に吸い付きぴちゃぴちゃと音をさせながら啜り上げる。 「…ッ!午後の予定は、キャ、キャンセルよ。誰も部屋に入れないで。そう伝えてちょうだい!ふぅ…んっ」 「午後は、キャンセルと。はぁ、ところで御剣検事どこか知らないッスかねえ…どうかしたッスか?」暢気な口調でイトノコがしゃべる。 御剣は舌を尖らせて冥の中へ押し入ると、舐るように抜き差しを繰り返しながらぐちゃぐちゃと掻き回した。 「ぁぐぅッ……何でもないわ。レイジと、いま裁判の打ち合わせしてるの…だから…」 受話器を取り落としそうになるほど悶えながら、やっとそれだけ言うと御剣が立ち上がり電話を切ってくれた。 「レイジぃ…」 はやく火のついた体を鎮めてほしい…淫らな感覚が冥を支配した。 御剣は自身のスカーフをはずすと冥の口に噛ませる。 「もう一度、イってからだ」 そう言うと、中指をズブッと根元まで差し入れ、間髪いれず前後に揺さぶった。 「―――!!!ふぐぅ!……む、んぐ―――ッ!」 スカーフを押し込められた口から喘ぎ声がとぎれとぎれに聞こえる。 「もっと、か」 さらに二本目の指が挿れられる。指の激しい動きはそのままに、御剣は突起を口に含んで舌で転がした。 「んぅ―――――――――ッッ!!!」 冥が中で指をぎゅうっと締め付けた。御剣が皮をめくった真珠を強く吸い上げたのと同時だった。 仰け反るように顔を上向かせた冥の白い喉が微かに震えている。 指を抜き取られたあとも膣口はヒクヒクと誘うようにその身を蠢かせている。 太腿まで愛液が伝わるほど濡れており、椅子の上には小さな水たまりをつくっている。 御剣は彼女を立たせスカートを脱がせると窓際に手をつかせた。 (あぁ…みえちゃう。外、から…っ)ブラインドの向こうには日常が見える。 後ろから入り口にあてがうと、少しずつ先端をのみ込ませていく。 ぐぐ…と押し拡げられる感覚は眩暈がしそうなほどの快感だった。 半分ほど沈ませたところで動きをとめた御剣を、冥が首を捩って切なげに見つめる。 (欲しい…もっと、レイジのが欲しいの…) 「奥まで、欲しいか?」冥がコクンとうなずく。 「ぬうぅ…っ」ダラダラとイヤらしい涎をたらすソコを御剣が強く突き上げた。 「はうぅ――――ッ!!…ぃあぁああっ」 浅く、深く緩急をつけて抽送を繰り返すと、冥の口からスカーフがすべり落ち淫靡な泣き声が上がる。 「可愛い声だ…たまらない」両腕で冥を抱きしめて御剣が呟いた。 「そろそろ…イクぞ」さらに激しく御剣が責める。 腰を使ってどぉん、どぉんと最奥に打ち付けるようにして出し入れすると、膣口がぬちゃぬちゃと泡立つような音をたてた。 「ああっイイ!イイのぉっ……んぁあああああ―――ッ!!」 服の乱れを直し、椅子に座った冥は窓を開け空気を入れ替えている御剣に笑いを含む声で言った。 「レイジがこんなに情熱家だったとはね。それにしても、この手紙いったい誰の真似なのかしら?」 考え込むように冥が手紙を見つめていると、デスクの電話が鳴る。 「個人的なお客?わたしに…?約束はしていないわね。・・・え?もう部屋の前まで来てる?!」 手紙を奪い返した御剣は早口で冥に告げる。 「客が来るのならもう失礼しなければ。君の気持ちはよくわかった。コレはきっとなにかの間違いだろう」 少しばかり顔を赤らめてそそくさと部屋を後にする御剣だった。 扉を開けると目まぐるしい色合いの服を着た男がけたたましい声で叫んだ。 「メイちゃ~~~ん!!オレの新作のモデルやる気になってくれたぁ~~~?」 「ヤ…ヤハリなぜ、キサマがここにいるのだ!」 とてつもなく嫌な予感が頭をよぎる。コイツの現れるところにはいつもなにかしら面倒なことが起こるのだ。 「チッチッチ。ヤハリじゃなくて、マ・シ・ス。今をときめくゲージュツカよ、オレ」 御剣の握り締めている紙切れにヤハリが目を丸くした。 「ん…アレ?なんでオマエがそれ持ってんの?オレの小説の下書き。真宵ちゃんに送ったつもりだったけどなぁ」 「な、な、ななんだとおおおっ!!!」 御剣の剣幕にヤハリは目を白黒させている。 「どうして小説なのに手紙形式なんだ!」 「イヤ、あれよ。絵本と融合させた新しい小説の形態を模索してるわけよ、オレとしては」 「なぜ実在の人物名を使うのよ!」冥もヤハリに詰め寄る。 「メイちゃんまでど~したのよ。それはヤッパリ、メイちゃんはオレのミューズだから…タイトルは『メイちゃんのドキドキ恋模様』にしたいと思ってるわけよ、オレとしては。―――イテェッ!!」 モノも言わずに鞭を振りまくる冥。 あのジンクスはいまだ健在、か…。ガックリと肩を落とし御剣はその場を後にした。 余談だが、胸元のフリルがない御剣はその日周りの視線を一身に浴びていたが、本人はまったくそれに気づかなかったということだ。 おしまい
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「一応…ひと段落ついたかな?」 成歩堂は大きく肩を回しながら、ソファーの背もたれで伸びをした。 時刻は夜明け、暗闇で眠っていた太陽がそろそろ目を覚ます時間だ。空は明るくなりかけている。 日頃は閑古鳥が鳴く事が多い事務所であったが、たまに事件の依頼が入ると事務所に缶詰にならなければいけない、もっと効率よく仕事ができないものかと成歩堂は思う。 しかし依頼人を助けた時の笑顔を見れば、全てが報われるから成歩堂は遣り甲斐を感じている事も事実だった。 事務所の所長室に閉じこもって数日で、部屋は変わり果てた姿になっていた。 コンビニ弁当の空箱と、眠気と戦う為に飲み干した缶コーヒーと栄養ドリンク、事件の為に集めた大量の資料が成歩堂の周囲を埋め尽くしていた。 成歩堂は無意識に自身の顎に手を当てた。集中していた時は気が付かなかったが、すっかり髭が伸びていた。 連日の徹夜で疲労がピークに達し、目は座り、目の下にはクマもできている。投げ出されたスーツとネクタイ、連日着込んでいたシャツはくたびれていた。 「…ちょっと休憩しよう……」 成歩堂はソファーに置いてあった資料の山をドサドサと乱雑に床に置き、足場を作って横になった。 大きなあくびとともに、ソファーのクッションが沈んだ。 目を瞑ると全身の疲れが一気に眠気を呼び込んだ。 *** しばらくして、扉の開く小さな音が聞こえた。 連日の徹夜で神経が興奮状態であった為か、ほんの些細な音で成歩堂は目を覚まし、うっすら目を開けた。 身体のだるさは抜けていないのか、音の主を確認しようとはしなかったが、足音が自身に近づいてくるのが分かった。 この時間帯に自分以外に事務所に居る人物はただ一人。成歩堂は確認する事なく近づいてくる人物に声をかけた。 「……真宵ちゃんかい?」 「え!?」 てっきり眠っているものだとばかり思っていた真宵は成歩堂に突然声をかけられ驚く。 成歩堂は真宵の顔を見る為に少し身体を起こした。 疲労しきっていた成歩堂の表情が少しだけ和らいだ。 「どうしたの?」 「…なるほどくんが心配で…様子を」 成歩堂が事務所で徹夜をする時、真宵も家には帰らなかった。一応助手として同じ時間を同じ場所ですごし、成歩堂の協力がしたかったからだ。 しかし真宵にできることは少ない。コーヒーや夜食を用意するぐらいしかできない。 いつも真宵は歯がゆい思いをしながらも、成歩堂におやすみのあいさつをして、仮眠室で眠っていくのだった。 「ありがと…うれしいよ…」 成歩堂は真宵を引き寄せソファーに座らせた。 今の真宵は髪の毛をおろし、パジャマを着ていた。 先日真宵にせがまれて一緒に買いに行ったものだ。真宵はトノサマン柄がいいと言っていたが、成歩堂は断固反対し、水色の生地で白い花柄のものに決まった。 優しく真宵の髪を撫でながら、この柄にして正解だったと成歩堂は思うのだった。 いつものチョンマゲ頭と謎の髪飾りを付けていなければ、女の子らしい服も絶対に似合うのにと…成歩堂は密かに思っていたからだ。 成歩堂も真宵もその後会話らしい会話はしていなかった。ただ成歩堂は真宵の髪を撫でるだけ。しかし成歩堂の顔が徐々に穏やかになっていった。 連日の徹夜で残酷な事件の資料ばかり見ていた成歩堂は、真宵と触れ合って精神的な安らぎを得たようだ。 「なるほどくん?」 「なぁに?」 「…もう大丈夫?」 「ああ…仕事はひと段落ついたよ…」 「そ…か…よかった…」 真宵は安堵の笑みを浮かべ、そっと成歩堂に身体を預けた。成歩堂の厚い胸板に顔を埋める形になった。 突然真宵の頭が動いたので、撫でていた成歩堂の手は行き場を失った。 真宵はぎゅっと成歩堂のシャツを掴んだ。 「どうしたんだい?」 「……なんでもない…」 「寂しかった?」 真宵はしばらくしてからゆっくりと頷いた。 先ほど行き場を失った手が再び真宵の髪を撫でた。 「そっか…久しぶりの徹夜だったもんな…」 「…ずっと心配だったんだよ?」 「ごめんよ…」 その後自然に二人は唇を寄せた。久しぶりの温もりは暖かく優しい…。 触れ合いが徐々に濃厚になって行くと、部屋に二人の激しい息遣いが響いた。 しばらくたって二人は大きく息を吐きながら唇を離した。二人の舌は名残惜しそうに透明な糸で繋がっていた。 「ぼく、今日は徹夜明けで疲れてるから…真宵ちゃんにしてもらおうかな?」 「…え?」 「いいだろ?…いつもぼくがしてる事を思い出してやってごらん?」 成歩堂は再びソファに横になり、混乱してる真宵を自分の腹に座らせた。 二人が肌を重ねるようになったのは最近だ。いつも真宵は緊張と羞恥で成歩堂のされるがままになっていた。 真宵は年齢の割に幼い。真宵の今までの環境に異性の影がほとんど無かった事が原因なのか、真宵は色恋沙汰に鈍く自分の想いを打ち明ける事にすら恥ずかしさがあったようだ。 日頃人懐っこい性格で成歩堂にベタベタしていたにも関わらず、成歩堂を異性だと意識しだすと、急にしおらしくなる。 その時真宵は真っ赤で少し困った様な表情をする。成歩堂はそんな真宵を見るのが最近の楽しみだったりする。 そんな真宵が、自分から成歩堂にそんな事をするなんて、考えたこともなかったに違いない。 自分から…という事は、成歩堂にされる優しい愛撫も、激しい騒動も、自分で… 一部始終を想像してしまった真宵は、成歩堂のそのお気に入りの表情をしたまま固まっていた。 オトコを知っても尚、無垢なままの真宵。成歩堂の予想通りだ。 成歩堂はパジャマの裾にそっと手を入れた。 突然のことに真宵は目を瞑りビクッと小さく身体を震わせた。 「…あ…はぁ…」 成歩堂の大きな手が真宵のくびれを撫でる。 肉の少ない華奢な身体は、くびれを強調していた。成歩堂はこの曲線を堪能するのが大好きだった。 待ち望んでいたかの様に、真宵は素直に反応を示しす。背筋をゾクゾクと震わせながら熱い息をこぼした。 「ほら?…気持ちいいだろ?」 「はぁ…うん…」 成歩堂の腹に座っていた真宵は、徐々に身体の力が抜けていった。 うなだれるように、成歩堂に覆いかぶさると、真宵からついばむだけのキスをした。 「いい子だね…」 成歩堂は真宵に身をゆだねるように身体の力を抜いた。 真宵は数回成歩堂にキスをしながら、シャツのボタンをぎこちなく外していった。 シャツを開けると成歩堂の引き締まった筋肉質な身体が現れた。 唇を外した真宵は、成歩堂の身体に視線を移し、そっと成歩堂の胸を撫でた。 最近食べ過ぎが原因で、少し太ったと言っていた。胸板は確かに少し弾力があるが、その奥にはしっかりした筋肉がついていた。 真宵はこの成歩堂の胸でぎゅっと抱きしめられるのが大好きだった。 うっとりと成歩堂の胸板を撫でていた真宵は成歩堂の首筋にそっと舌をはわせた。 それに合わせて成歩堂が身じろぎをし大きな息を吐いた。 「はぁ…」 いつも成歩堂がするように、肌に吸い付く。 すると真宵の口に合わせて小さな赤い跡ができた。 成歩堂に愛された次の日、自分の身体に出来るあの跡だ…それが成歩堂にもつくなんて…。 真宵はなかば夢中で、肌蹴た部分に跡をつけて行った。 「…真宵ちゃ…っ…は、甘えんぼ、だね…」 成歩堂の大きな胸に乗っかる小さな身体。 自身の肌に夢中で吸い付く姿が可愛くて、成歩堂は真宵の頭を撫でた。 それに気が付き真宵は顔を上げる。 トロンとした熱っぽい視線成歩堂へよこし、再び視線を下へ。 肌蹴たシャツの隙間に手を滑らせる。腹筋と胸板の凹凸を撫でて行くと、真宵の手に小さな突起が当たった。 途端成歩堂は跳ねた。 「…っ」 「…?」 真宵はシャツで隠れたソレを露わにした。 それは大きく胸で息をする成歩堂の動きに合わせて上下していた。 「なるほどくんの…」 これをどうするのか、あたしは知っている。だっていつもなるほどくんはこれを… 真宵はいつも成歩堂にされるように、突起を口に含んだ。 「うあ…」 成歩堂の喘ぎが一層大きくなる。 小さな口、そこから伸び出る小さい舌、細い指。 右を口で含めば、左手で。左を口に含めば、右手で刺激を与える。 ―――初めは少し真宵をからかうだけだった…。 きっと恥ずかしがって、助けを求めるだろうと思って…けど 「とんだ、小悪魔が、居…っ…」 小さくて幼くて世間知らずで…いつも自分が教えて助けてあげないといけない娘だったはずなのに… 否、今もそう。自分の身体に乗っかる小さな身体に変わりはない。 なのに、こんな大胆でいやらしいことを…。 しかし成歩堂は気が付く。この愛撫はいつも自分が真宵にしている行為。 その事に気が付いた成歩堂はより一層真宵が可愛く思えた。 初心で無垢で…だから自分が教えた事しか知らない真宵。 いつも恥ずかしがっていた。だから自分でするなんてきっと顔から火が出る思いに違いない。 それでも成歩堂に任せないのは、真宵の「役に立ちたい」という健気な思いがあるから。 ―――この後、塗れた花弁の隙間に己の雄が滑り込んで行けば…。 すると予想通り、真宵は恥ずかしそうに自身のパジャマと下着を下そうとしていた。 成歩堂に乗っかった状態だとなかなか難しい。 手こずっている真宵を見かね、成歩堂が脱がした。 「きゃ…いや…」 「ぼくをこんなにしておいて、恥ずかしがるなよ…」 成歩堂は息が整いだし少し余裕が出てきたようだ。 自分の身体に乗っかったままの真宵の頭を撫で、そのまま小さな臀部へ…。 「きゃわっ…」 柔らかくてもち肌の臀部を撫でると、成歩堂の手は溝へと侵入していく。 今までの大胆さが嘘の様に、成歩堂の胸で小さくなって行く真宵…。 固くしまった後ろの穴を軽く指で触れる。真宵の身体が小さく震えた。 穴があると差し込みたくなるのは人間の本能なのか、右手の二本指で少し押し広げて左手の人差し指を押し込む。 「あ!」 真宵は下半身に力が入る。 この反応は、初めて処女を奪った時に似ていると成歩堂は思った。 しかし指をねじ込むように進めるが、いつもの穴と違い筋肉という壁に阻まれてなかなか入らなかった。 「い、嫌…そこ…ダメ…」 頑張れば第一関節が入りそうであるが真宵がこれ以上ないぐらい大きく顔を振るので、悪戯をするのはやめた。 後ろの穴はそこそこに、成歩堂の指は目的地へ…しかしそこで躊躇する。左手はさっき使ったから、使うなら右手を…。 先ほどの穴とは変わって、潤滑油で潤ったそこは成歩堂の指を容易くのみ込んで行った。 「あ…あ…ぁ…」 真宵は身体を反らせる。すると自然に成歩堂と顔が合わさる。 きゅうきゅうと締め付けた後、ゆっくりと弛緩していく…。 しかし弛緩しきらないうちに、真宵の弱い部分を重点的に刺激していった。 「あ!…だ、め…ああ…」 「今日はいつも以上に反応がいいね…」 「あ、あ、うあ…っ」 真宵はあっけなく達した。 その時手に力が入ったらしく、成歩堂の胸板に小さなひっかき傷が付いた。 真宵の付けた吸い付いた跡と共に、赤い線が浮かび上がった。 「…ひど…いよ…」 「うん?」 「きょうは、あたしが…なるほどくんを…」 最後まで聞こえなかったが、どうやら途中で形成が逆転してしまった事が不満なようだ…。 真宵の愛撫はぎこちなくてたどたどしくて、とても可愛いが欲に急かされると、どうも焦らされている気がする。 つい魔がさしていつもの様に真宵を虐めてしまったが、そこまで言うならこのまま慰めてもらうことにしよう…。 「…ごめんよ?…ほら、分かる?ぼくもう限界なんだ…真宵ちゃん任せたよ」 「ぅん…」 成歩堂は子どもをあやす様に頭を撫でで真宵のご機嫌をとる。 少し腰を浮かして真宵の身体に己の高ぶりを押し当てた。 自分で言ったものの、恥ずかしいのか真宵は消え入りそうな声で小さくうなずき、身体を起こした。 そこはズボンの上からでも分かる程に溜まり切っていた。 真宵は目を丸くし、手のひらでズボンの作る山なりをなぞった。 「きゃわわ…」 しばらくその言葉しか出てこなかった。 自分の身体に入ってくるもの。大きくて硬くて熱くて…いつも不思議だった。 どうして成歩堂の身体がこんな形になるんだろう。一緒にお風呂に入った時に触らせてもらったら柔らかかったのに…。人間の身体は不思議だ。 「なるほどくんお仕事で疲れてないの?なんでこんなに元気なの?」 「…あ…いや…違うんだ…疲れた方がその…げ、元気になるんだ、そっちの方は…」 「そうなの?」 「ああ…」 真宵は初めて知ったらしく、再びテントの張るそこに目をやった。 女の真宵にはこの感覚は分からないのだろうか。疲れが興奮へと繋がる様は…。 そういえば、二人で捜査で歩き回った日の夜、真宵と楽しもうと思ったらそのまま熟睡されてしまったことがあった。 可愛い寝顔を起こす勇気もなく、無防備な真宵を尻目に一人で高ぶりを処理する羽目になったあの時の空しさと来たら…。 「そろそろ…いい?」 「うん…」 おずおずと青いズボンに手をかけていく真宵。 ボタンとチャックを外し、トランクスを下げる。 すると押さえつけたられていたものから解放され、ゆっくりと顔をもたげた。 「………っ」 先走りで濡れそそり立つ雄に、真宵は目を白黒させつつも目が離せなかった。 とても、おいしそう…下の口に入れてしまいたい… 結合した時の快感が、真宵の脳裏に蘇る…それだけで下半身がひくついた。 そそくさと真宵は腰を上げた。座ってたそこに糸を作る…。 持ちあがる成歩堂の雄の付け根に恐る恐る触れて、握った。やはり熱くて硬い…。 もう片方の手で自身の濡れた花弁を広げる。その部分だけがぬるぬるしていて容易にわかる。探る時に高ぶる秘芯の存在にも気が付いた…。 宛がうとそれだけで蜜が滴り落ちる。 真宵は小さく深呼吸して、ゆっくりと腰を沈めていった…。 「ぁ…ああああっ…」 真宵は吐息と共に小さな声を出した。 重力に合わさってゆっくりと奥へと入り込んで行く…。 潤滑油で潤うそこはスムーズに滑り込み、奥へと入りきった。 「はぁ…!」 ジワリジワリと生暖かいものに包まれて行きながら、徐々にきつく締め上げられ、成歩堂も大きな息を吐いた。 しばらく二人は結合しきった状態で恍惚に浸る。 互いに待ち望んだものを全身で味わう。 しかし徐々に物足りなさを感じだす。結合だけでは満たされない欲求は衝動へと変わっていく。 初めに動いたのは、真宵だった。 いつも以上に顔を赤らめ、口をぎゅっとつぐみながら前かがみになり腰を動かし始めた。 「…っ…ふ、ん…」 男に跨りながら腰を振る…その姿が恥ずかしくて真宵は出そうになる声を必死に我慢した。 自分で快楽を求めるのははしたない。けど成歩堂を慰める為に…と真宵は自分自身を奮い立たせる。 は、恥ずかしい…けど…なるほどくんに、気持ちよくなってもらいたい ダメ。ダメ。なるほどくんの。きもちいいよ… 頭が真っ白になっていく…けどダメ…こんなの…はしたない… 一生懸命に自我を保とうとするが、下半身は自然に腰を動かす速度が上がってしまう…。 快感の一点に当たると更にそこを重点的に当ててしまい…真宵は泥沼にはまっていく。 真宵は羞恥と快楽の狭間で、必死に葛藤した。板挟みにされるとより一層背徳感が強まって行く…。 もう何が何だか分からなくなって涙がこぼれた。 「…真宵、ちゃん!」 真宵の葛藤を解いたのは成歩堂だった。 恥ずかしがりながら一生懸命腰を落とす真宵は可愛らしい。しかし物足りない。 成歩堂は真宵の膝に手を差し入れて、無理やり持ち上げると、大きく広げた。結合した状態で、開帳され恥ずかしいところが露わになった。 「きゃっ、わ!?」 夢中で腰を振っていた真宵は、突然体勢が変わりバランスを崩した。 そして自分の状況が徐々に理解していくと、より一層顔を赤くして焦った。 繋がっているところを成歩堂に見られている。そこは先ほど自分で触っても分かるように、ドロドロになっていて、秘芯も顔を覗かせているに違いない…。 「い…いや!?」 「真宵ちゃん可愛いよ」 「だ、め…あ…だめ…」 「そう言ってるのに隠そうとしないんだね?」 「やっ」 触って欲しいんだろ?と成歩堂は不敵な笑みを浮かべながら、真宵の秘芯をに手を伸ばした。 「あ…あああっ!」 今まで声を我慢していたせいで、真宵の嬌声は一際高く、事務所に響いた。 真宵は大きく身体をのけ反る。足を閉じるのも忘れる。まるで成歩堂にもっと触ってくれと秘所を差し出しているようだった。 更に押し込めるようにグリグリと弄ると、声にならない悲鳴を上げる。 「…ひっ!?…あ…」 秘芯の刺激で腰を動かせない。しかし中の動きを止めることもできず、成歩堂の刺激に合わせて緩やかに蠕動運動をする。 成歩堂にはその刺激がもどかしい…。一気に突き入れたいのを我慢してもう少し真宵の痴態を楽しむことにした。 成歩堂はもう片方の手を真宵のパジャマに滑りこませる。 快楽に身をよじらせると、真宵の小さな胸が成歩堂の手の中で揺れていた。 「あ…いや、いやああ…」 「真宵ちゃん、今、とっても可愛いよ」 緩やかにもみしだくと、今度は上半身をくねらした。 成歩堂の両手の動きに合わせて、成歩堂を咥えるそこが大きく締め上げる。 「…っ!」 成歩堂も限界が近い。けど、我慢。もっと真宵を追い詰めてそこで一気に逆転する。 「う…あ…ダメ…あ、たしが…」 真宵は成歩堂の刺激に負けまいと、再び腰を振ろうとする。 頭を大きく振って快感から逃れようとするが、できない。成歩堂の刺激がタイミングよくやって来るから…。 しかし真宵の抵抗が効いていないわけではなかった。 成歩堂を締め上げる度に、成歩堂も小さく声を上げてしまう。 互いに上り詰める。しかし勝負強さでは成歩堂には勝てなかった。 「…あ、あ、あ、ひああああぁっ!!」 手の刺激と共に、真宵を突き上げたからだ。 こうなっては真宵にはどうすることもできない。子宮口の与える強烈なオーガズムに真宵は我を忘れる。 視界は真っ白になり、だらしなく開き切った口からはよだれが垂れる。 必死に我慢していたせいで、真宵の小さな身体には今でに感じた事のない波が押し寄せた。 「…う、あっ!」 しかし成歩堂自身も、真宵にキツク締め上げられ、小さくのけ反った。 ここで出すわけには行かない。もっともっと真宵を追い詰めてから…成歩堂のプライドに火が点いた瞬間だった。 真宵の身体が倒れそうになる。 成歩堂は真宵の腰を支えながら、慌てて起き上がり、そのまま真宵を自身の下敷きにした。 突然の体位変換に真宵は状況が呑み込めず目を大きく見開いた。 「え?」 疑問を成歩堂に投げかけるが答えはなかった。 成歩堂の顔が不敵に笑う。まるで法廷で暴かれた真犯人に最後の一撃を食らわせようとしている時みたいだ。 「真宵ちゃん、ありがと」 その言葉を言い切る前に、成歩堂は大きく腰を動かした。 突然の衝動に混乱し暴れる真宵を力づくで押し込める。 「あ、あ、あ、あ!」 真宵の華奢な足を折りたたみ、結合部を晒した。 穴が二つ見える。手前の穴はもはやドロドロになって開き切っている。 そのまま力づくで雄を押し込める。 真宵の身体に自身の肉体を刷り込むように。真宵の小さい穴に己を記憶させるように。 もっともっと高みに昇りたい…。 まだ足りない…。 「あ、あ、あ…すごっ、あ」 「う、あ、あ…!」 力強く打ちつけていく。 今までの疲れや、真宵に与えられた刺激が一気に解放された。 頭が働かない。今までの欲が暴走する。 ――真宵ちゃん、小さくて華奢で…このままだと、壊れちまう… 理性ではそうわかって居ても、身体が言うことを聞かない。 無垢な真宵に教え込んでいたはずだった…けど違う、自分自身も日々真宵と繋がる中で、のめり込んでいた。 真宵のからだに…。 理性が吹っ飛ぶと、無意識に真宵の胸にかぶりついていた。 「あああ!…だめ!だめええっ!!」 更なる刺激に真宵は混乱し、成歩堂の頭をどけようと手で髪の毛を引っ張った。 しかし真宵の華奢な腕と小さな手ではどうすることもできなかった。 真宵の抵抗をものともせず、細い腰を抱え、上下の刺激をさらに強めて行く。 「う、あ、あ、あっ!」 力任せに動くせいでソファーがきしむ。 肉と肉が重なり合う音、愛液による粘着音。 激しい息遣いと、最奥を突き上げられる度に出る甲高い声。 多くの音が事務所の中で響く。 しかし経験不足な真宵の身体では全てを受け入れることはできず… 成歩堂より一足先に高みに昇りつめた。 「―――あ…くぁ…ひ…」 ガクンと顔をのけ反らせ、全身を硬直させる。 顔は真っ赤に紅潮し、口は酸素を求めるようにパクパクと動かした。 「く…ぅ…!」 硬直した真宵の中で、真宵を追いかけるように、成歩堂も腰を小刻みに動かす。 そのせいで、最奥を重点的に突かれ続けることになる。弛緩する間もなく再び強烈な波が真宵を襲った。 「か…あ、あ…」 真宵はもう声すら出せない。吐き出した空気を吸うことができない。 真宵の視界は白から黒へと変わった。意識は絶頂の高みから一気に奈落へと落ちた。 「あ、ぁあ…!」 それにつられるように、成歩堂も溜まり切った己の欲を真宵の中に吐き出した。 しばらくして力が抜けると、成歩堂は真宵に覆いかぶさった。 小さなな波がゆっくりと収まって行くと、そのまま力尽き眠りについた。 *** 「…真宵ちゃん?大丈夫?」 「…大丈夫…じゃないよ…からだが…痛いよ…」 「ごめんよ…?」 「そういうなるほどくんだって、腰にサロンパス貼ってるくせに…」 「う…」 今二人は事務所のベッドに居る。 しばらく力尽きていた二人だったが、真宵が目を覚まし、成歩堂を起こした。 まだ早朝だったので、寝なおす為にベッドへ移動した。 「………ねえ?なるほどくん?」 「なに?」 「あの…あの…」 真宵は顔を赤くしてもじもじする。結局恥ずかしくなったのか枕で顔を隠した。 「え?どうしたの?」 「…なんでもない…」 「なんだよ…」 「うう…」 顔を隠すが、耳が真っ赤になっている。 しばらくするとおずおずと顔を上げて小さい声で成歩堂に問いかけた。 「…き、気持ちよかった…?」 「へ?」 「きゃわわ…もういい…聞かなかったことにして…!」 真宵は再びさっと枕に顔を隠した。 真宵に言われた言葉を脳内で反復させる…次第に意味が分かって成歩堂の顔が綻ぶ。 ―――か、かわいいっ! 「ははっ…何言ってるんだ!あれだけぼくをのめり込ませておいて…!」 今だ顔を隠す真宵の頭を優しく撫でた。 すると羞恥で涙目になる真宵が顔を上げた。 「あたし、なるほどくんの役に立った?」 「もちろんさ!徹夜明けの疲れもふっとんじまった!」 「………」 真宵は無言のまま成歩堂の胸へ顔を隠した。 成歩堂も飛び込んで来た小さな身体を力いっぱい抱きしめた。 事情中の時とは違う優しい温もりが二人を包んだ。 真宵はいつもそうだった。 一生懸命、自分の役に立ちたいと頑張ってくれる。 本人は、法律も分からないし、霊媒師としても未熟だし…と落ち込むが、考え過ぎだ。 真宵の存在で成歩堂はどれだけ励まされているか。 新米の自分が、迷走しながらでも真実へたどり着けるのは、いつも真宵が深みにはまりそうな自分をこうして助けてくれるから。 「…なるほどくん…」 「ん?」 「…なんだかベタベタする…」 真宵は成歩堂の胸を触る。 「ああ…そりゃあ真宵ちゃんが頑張ってくれたから…」 「!」 すると一瞬で真宵の顔が紅潮した。 自分が先ほどした事を思い出したらしい…。 さっきまであんなに大胆だったのに、いつもの無垢な真宵に戻っていた。 「…じゃあ一緒にお風呂はいろ?」 「え?…シャワー室しかないよ?」 「シャワーでもいいだろ?」 成歩堂は再び真宵の頭を撫でて、勢いよく…一瞬腰に痛みが走るが…立ち上がると、真宵を抱きかかえてシャワー室へと向かった。 真宵も照れ隠しに生意気な事を言うが、また大人しくなる。 逞しい腕に抱きかかえられながら、真宵は成歩堂のあごを撫でた。 「後でヒゲ剃ってあげる…」 「…気を付けてよ」 「大丈夫だよ!あたしを誰だと思ってるの!」 「それは関係ないだろ…!」 二人はまた狭いシャワー室でじゃれ合う。そして再び盛り上がってしまった。 了
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神乃木×千尋 真夜中のシンデレラ 「納得いきません!」 つい、千尋は声を荒げてしまう。 「どうしてかね、千尋クン。公訴棄却で依頼人は無罪。結構なことじゃないかね、チミ」 星影センセイは新人弁護士の発言に少々鼻白んだ様子を見せた。 祝賀会の雰囲気を悪くする発言を慎めと言いたいらしい。 一ヶ月前、ある汚職事件に絡んで若手議員が自殺した。 発見者は金満政治家と揶揄される大物代議士の秘書、川上徹司。 発見から通報まで一時間もかかった上、当然あるべき遺書が紛失していた。 その場にいた理由も曖昧で勾留理由は十分なものであったといえる。 この男が被告なわけだが、直接の依頼人は被告の雇い主であり父親の代議士・川上一徹である。 (被告は否定したが)川上一徹も事故現場にいたという証言をつかんだ検察はこの事件にかなり力を入れていたのだが…。 証人が当日になって証言を拒否し、裁判所も「自殺の可能性が高く、審理の必要を認めない」 として第一回公判で早々と公訴棄却が言い渡されたのだった。 これが真相ではない、千尋はどうしてもその思いを捨てることができなかった。 しかし無論、川上親子は上機嫌で星影センセイと握手を交わした。 そしてそのまま所員を引き連れて代議士主催の祝賀会へとなだれ込んだのである。 会場には政財界の大物や芸能関係者の姿も見られるなど、豪勢なパーティだった。 会場の隅で川上徹司がちょっと崩れた感じの服装の男とヒソヒソ話をしている。千尋の記憶にはない顔だ。 「あの男が、裁判を結審させたのさ」ふいに千尋の背後から声がした。 ダークブラウンのスーツを着た堂々たる体躯の男の姿を見つけ、千尋はドキッとした。 「神乃木センパイ…!どういうコトですか?」彼の姿を見つけると、いつもそこから目が離せなくなってしまう。 「あのコナカという男が証人を脅して証言を撤回させた、そう俺は睨んでいる」 カクテルグラスが揺れるパーティ会場にはそぐわないマグカップでいつものようにコーヒーを啜りながら、神乃木は話を続けた。 「たぶん、遺書には川上代議士にとって不都合なことが書かれていたんだろうさ。もう存在はしねぇだろうがな」 神乃木もこの事件の決着に納得はしていないようだ。視線をコナカという男に合わせたままはずさない。 「そんな…!だったらそのコナカという男のことを調べれば…」 新米弁護士の自分ではどうにもならないが、彼ならなんとかできるのではないかという期待をこめた目で千尋が見つめる。しかし神乃木が首を振ってこう言った。 「裁判は終わったんだ。そして、俺たちの依頼人は自由になった。調査を続ける理由はどこにもねぇ」 「そのとおり。弁護士は被告人の利益を第一に考えるべきだよ、綾里くん」 同じ事務所の先輩、生倉弁護士も薄笑いを浮かべながら近寄ってきた。 どうやら先ほどまで、周囲に名刺を配りまくっていたらしい。 事務所の先輩ふたりに諭される形で、千尋は事件に対する不満を今後おもてに出さないことを約束せざるを得なかった。 しかし生倉弁護士が離れてから、神乃木は元気をなくした千尋に言った。 「コネコちゃん、旨いコーヒーを飲むにはそれなりの手順が要るってコト覚えておくといいゼ」 「はぁ…?」訝しげに神乃木を見上げる千尋。この男のたとえはいつも千尋を困惑させる。 「今はまだヤツを追い詰めるときじゃないってコトさ。そのうち俺がとびきり旨いコーヒーを奢ってやるから楽しみにしてな」 どうやら神乃木は今後も独自調査を続けるつもりらしい。無論、星影センセイ達には内緒で。 (…やっぱりカッコいいなぁセンパイは) 千尋は自分も絶対に手伝おうと密かに心を決めていた。 祝賀会は終わったが、まだ宵の刻。星影センセイのオゴリで二次会へ行くことになった 「銀座の『サンドリヨン』がいいぢゃろう」 その名前を聞くと生倉弁護士はなぜか少し引き攣った笑いで二次会参加を辞した。 「色気のねえヤツだゼ…。コネコちゃんは門限のほうは大丈夫かい?」と、神乃木がからかう様な瞳で覗きこむ。 「一人暮らしですッ…あの、私も行っていいんでしょうか?」 もう少し神乃木と一緒にいたい千尋は星影センセイにたずねる。 自分など相手にされていないことはわかっていたがプライベートの彼をもっと見ていたかった。 『サンドリヨン』は入り口にバーカウンターを置いた、静かで落ち着いた雰囲気のクラブだった。 星影センセイの姿を見つけると、わらわらと女の子達が駆け寄ってくる。 みな、モデルといっても遜色ない長身の美女ばかりであった。 「あぁ~らセンセイ、いらっしゃい!」 「わっはっは。まあまあ、チミたちもゆっくりしていきたまえ。ワシはこっちでやっとるから」 そういうと5、6人の美女を両脇にかかえて奥の個室に姿を消してしまった。 中央のソファに案内され、神乃木と千尋は90度の向きに座った。 和服のひと際美人な女性が現れ神乃木の隣に腰を下ろす。 「リュウちゃん、御無沙汰だったわねぇ」 親しげな口調であでやかな着物姿のその女性は神乃木に挨拶をした。 「おう、いづみママ」 「相変わらず、1ダースの恋人を泣かしてんでしょ」 酒場のありふれた会話だったが、ふたりの関係に思いをめぐらせた千尋の胸がチクリと痛んだ。 いづみの着物がかなり高級であることは一目でわかる。千尋は自分の紺のスーツ姿をこの日ばかりは惨めに思ったのだった。 「あら、そちら…きょうはずいぶんカワイイ子連れてるのねェ」 いづみが千尋のほうを見て上品に微笑む。女ぶりでも勝てっこないと思わせる流し目だ。 「綾里千尋です。せんぱ、神乃木と同じ事務所の」できるだけ品よく答えたつもりだった。 自己紹介がすんだ後もいづみは神乃木の隣でなんやかやと世話を焼く。 神乃木が「独占してちゃほかの客に悪い」と暗に断りを入れても「いいのよ、放っときゃ」と聞かない。 神乃木とのやり取りをちらちらと千尋が見ているといづみと目が合い、 その度にたしかにクスリと笑われているように感じ千尋の気分は悪くなる一方だった。 「水割りでいいかしら」 神乃木にロックグラスを渡した後、いづみが千尋に問う。 千尋は洋酒にはなじんでいなかったので断りたかったが、子供だとバカにされているようでつい見栄を張った。 「いただきます、ロックで」 ほんの少し眉を動かし、黙ってグラスに酒を注ぐいづみ。 「お嬢ちゃん、無理しねぇほうがいいゼ」 「お、お酒くらい私だって飲めます!」 千尋にグラスを渡してしまうと、いづみはまた神乃木にピタリと寄り添う。 耳元に口を寄せ何事か囁くと、神乃木が薄く笑う。 …次の瞬間、いづみの唇が神乃木の頬に――限りなく唇に近い――に触れるのを千尋は見た。 ゴクッゴクッゴクッゴクッ!!千尋はロックグラスを呷るように一気に傾けた。もうこの場にはいたくない。 それこそ子供じみた振る舞いだったが、千尋はそれを気にする余裕はなかった。 「あちらで少し酔いをさましてきます。センパイはどうぞごゆっくり」 ソファを立つと少し危なっかしい足取りでバーカウンターまで進む。 バーテンにチェイサーを頼むと、ソファの方角を背に千尋は一息ついた。 「ここ、いいですか」千尋が答えるよりはやくその男が隣に座った。 「あ、あの…」 「お一人とお見受けしましたので、少しお話をと思いまして。お嫌ならせめて、一杯奢らせてください」 礼儀正しく男性が頼む。神乃木が見ていてくれたらな、チラリとそう考える千尋。自分を誘う男だっているのだ。 「えーと、そうね。それでは、お言葉に甘えて…カルア・ミルクいただけます?」 ミルクとコーヒーリキュールのカクテルは子供っぽい自分にぴったりだ。 いたずらっぽく笑いながらバーテンに告げる。 千尋の前に置かれようとしたグラスを隣の男が取り上げて彼女を見つめる。 「今宵の出会いに乾杯させてください」 ちょっとキザだが、神乃木を見慣れている千尋にはそれほどくすぐったくも感じない。 あらためて男が千尋にグラスを差し出す。乾杯して千尋がそれに口をつけようとした瞬間…… グラスが千尋の手を離れ、男の頭めがけさかさまに落下していった。 「…!!な、何をするんだ君ィッ」 「それはこっちのセリフだ。まだここを出て行かないつもりなら…今度はオレのスペシャルブレンド、奢っちゃうゼ?」 熱いコーヒーなどかけられてはたまらないと男が脱兎のごとく店を飛び出していく。 「センパイ…な、何してるんですか?」 「まったく情けねえザマだぜ…」 「いや、頭からお酒かぶったら誰でも情けなくなりますよ…」 「オレはアンタの危機管理能力の低さについて、言ってるんだゼ?」 神乃木が男のいたのとは反対側の、千尋の隣に腰掛ける。 「あの野郎がグラスに錠剤入れてたのに気づかなかったのか。ありゃあ合法ドラッグだ。 まぁオレが止めなきゃ今頃アイツと一方的なアバンチュールを愉しむ羽目になっていたかもなァ」 千尋の顔がカァッと赤くなる。 「わっ私、ぜんぜん気づきませんでした!すみません、センパイ。…ありがとうございました」 ふと、いづみはどうしたのだろうと思う。彼女を置いて私のところまで来てくれたのか。 気持ちが顔に出たのだろうか、神乃木が答える。 「藤見野イサオが来て、みんなそっちへ群がってるぜ。いづみもな…薄情なヤロウだよ」 有名な二枚目俳優だ。千尋も名前は知っている。 しかしあんな美人にヤロウはないだろう、と思ったが口には出さないでおいた。 しばらく黙った後、千尋が席を立った。 「センパイ、私もう帰ります。やっぱりまだ私には早かったみたい、大人の時間」 「もう少しいろよ、コネコちゃん」そう言って神乃木が千尋の腕を掴む。 思いもよらない言葉だった。嬉しかったが、本気で神乃木が言ったとは思えない。からかわれている、そう思うしかなかった。 「私じゃ、センパイの13番目の恋人にはなれませんよ」少し拗ねた声で千尋が言った。 「いづみの戯れ言真に受けてんじゃねェよ」 その名前にまた千尋は反応してしまう。(キス、してたくせに…) 千尋の顔色をまた読んだのだろう。神乃木が千尋の腕を引き寄せ耳元で囁いた。 「あのな…いづみは男だ。ここは、いわゆるゲイバーってやつだゼ」 うそぉーーーー!ショーゲキの告白に千尋は言葉もない。 いづみがカウンターにやってきた。驚きで口をパクパクとさせている千尋を見て、神乃木を睨む。 「千尋ちゃんにバラしたわね」 「じゃ、じゃあホントに…?」 ふふっと笑うと、「彼女」はうなずいた。 「こんなに綺麗なのになぁ…」正直な感想だ。 「ありがと。週に3回は注射打ったりしなきゃならなくて大変なのよぉ、これでも。魔法が効いてる間は、世界一の美女にだってなれるってワケよ。 さっきはごめんね。リュウちゃんが可愛い子連れてきたもんだから、ちょっとからかってみたくなっちゃって」 イヅミはそれだけ言うと、また奥へと引っ込んでしまった。 なんとなく、帰りそびれてまた神乃木の隣に座りなおす。 「試してみるかい、大人の時間ってヤツを」千尋を見つめて神乃木が笑った。言葉には甘い響きがある。 ああ、やっぱりセンパイは素敵だな、などと思って見とれている場合ではなかった。 神乃木の手が伸びて千尋の膝の上に置かれたからだ。 「な…っ何するんですか」男の乾いた手の感触に千尋の身体が反応した。 「レクチャーの間、最後までイイ子にしてたらご褒美をヤルぜ」 神乃木の右手が千尋の膝の間を割って内腿を撫で上げた。 千尋は膝を閉じ合わせようとしたが、神乃木が耳に息を吹きかけそこにキスをするものだから身体になかなか力が入らない。指が千尋の奥に到達した。ゆっくりと指の腹を使い、ストッキング越しにそこを下から上へなぞり上げる。 「くぅ……んっ、こんなところでダメです、センパイ」秘所を擦られ、千尋が存外に甘い声を漏らす。 「オトナの道は厳しいんだゼ?」 やめるつもりはさらさらないらしい神乃木は、今度は爪を立ててカリカリと引っかくようにそこを刺激しだした。 「―――ッ!!おね、がいです。だめ…」必死に声を堪えて泣きそうな顔で神乃木を見つめる千尋。 「その顔、十分オトナっぽいゼ…誘ってるみたいでソソる。レクチャーの効果アリ、だな」 神乃木は爪にストッキングを引っ掛けると、ピリピリと中央部分を破き穴を開けてしまった。 下着の上から触られると、はっきりと彼の指を感じてしまい奥から愛液が溢れてくるのを感じる。 衆人環視の中で大事なところを弄られて、千尋は身をくねらせることもできずにただ愛撫を受け続けていた。 (クッ…イイ反応だゼ。こんな顔をみせられちまうとマジにオレもヤバいな…) クチョクチョという音がするたびに恥ずかしさに身を竦ませてしまう千尋から、神乃木は目を離せないでいた。 やがてふっくらと突き出してきた花芯を探り当てると、爪先で何度も弾くように愛撫を加える。 「ふぅ……んッ!そ、れ…だめェ」千尋がピンと身体を反らす。薄く開いた口からは官能の吐息が洩れる。 絶頂が近いと見て取った神乃木は千尋の肩を抱くと、グリグリと捏ね回しながら中心を強くひねりあげた。 「ふ…むぅ……ッ!!!」 その瞬間、神乃木が千尋の口をふさいだ。抱いている身体が徐々に柔らかく弛緩して、しなだれかかってくる。 千尋の前に黄金色のカクテルグラスと神乃木のコーヒーが置かれた。 「これ、は…?」 「約束のご褒美だ。角砂糖を口に入れて、カルバドスとコーヒーを交互に飲みな…それがオレのルールだゼ」 林檎の芳香が鼻を打つ。千尋はトロリとした液体をゆっくりと飲み下すと、次にコーヒーを口に含んだ。 「美味しい……前より、コーヒーが好きになりそうです」 「そいつはなによりだ」 センパイのことはもっと好きになった。神乃木の横顔を見ていて千尋はそう言いたくなったが簡単に告白してたまるかと思い直し、澄ました顔でまたカルバドスに手を伸ばした。 シンデレラのように12時が過ぎるまでは、大人の女でいたかった。 おしまい
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参加方法・ゲームの流れ このページではダンゲロスSS5に参加する方法や、ルールをおおまかに説明します。 過去のダンゲロスSSキャンペーンに参加した方や、SSキャンペーンのルールを知っている方は改めて確認する必要はありません。必要に応じてキャラクター作成方法を確認してキャラクター投稿用メールフォームよりキャラクターを投稿してください。 ※今回のSSの書式や投稿、幕間についてはSS作成・投稿方法をご確認ください。 ※今回の投票によるゲームの勝利条件の詳細については本戦投票をご確認ください。 概要 ダンゲロスSS5は、参加プレイヤーの誰がもっとも面白いお話を書けるか競いあう、ダンゲロスの番外編です。 このゲームの目的はダンゲロス本編と同じく「勝利すること」だけではなく「他のプレイヤーたちとともにゲームを楽しむこと」にあります。 マナーはしっかり守りましょう ダンゲロスSS5では、各人が特殊能力をひとつ持ったキャラクターを投稿し、集まったキャラクター達をトーナメント方式でマッチングし、能力バトルを行なってもらいます。 この能力バトル部分を、各プレイヤーが「自分のキャラクター」と「マッチングした相手キャラクター」とのバトルSS(ショートストーリー)として作成・投稿してもらいます。 投稿されたSSはこのwikiの専用ページに公開されるので、あとはその作品をwikiを訪れた不特定多数の読者に委ね、より面白いと思った方の作品に投票してもらいます。 投票期間内により多くの票を得た作品と、その作品の作者が投稿したキャラクターが試合の勝者となり、トーナメントの次の試合に駒を進めます。 以上の手順を、それぞれあらかじめ決められた期間内に行なってもらい、トーナメントの優勝者が決まるまでゲームを続けていきます。 一番面白いお話を書いたプレイヤーが、そのプレイヤーが投稿したキャラクターがトーナメントの優勝者だ! ダンゲロスSS5にプレイヤー参加する方法 ゲームにプレイヤー(作者)として参加したい方は、まずSS5スレッドに参加表明の書き込みをお願いします。参加表明をせずいきなりキャラクター投稿をしても構いませんが、プレイヤー数の予測などありますので特段の事情がなければ参加表明していただければ幸いです。 次に、キャラクターを作成しましょう。キャラクターの作成方法はキャラクター作成方法をご確認ください。 キャラクターを作成したら、キャラクター投稿用メールフォームよりキャラクターを投稿してください。 以降のゲーム進行は主にSS5スレッドで行われます。wikiが更新された場合もスレッドにてお知らせしますので、こまめに確認しておきましょう。 対戦相手が決まり次第、相手キャラクターのキャラクター説明を確認し、自分のキャラクターが勝つSSを作成して、トーナメント優勝を目指しましょう! ダンゲロスSS5に読者として参加する方法 事前申告はいりません。 ゲームが始まると、トーナメントの各試合のSSと投票ページがこのwikiに公開されます。 公開されたSSを読み比べて、より面白いと思った作品に投票しましょう。面白いと思う判断基準は完全に個人の自由です。どうぞ気軽に投票していってください。 ゲームの公平性を保つため、多重投票はどうかご遠慮ください。 プレイヤー参加している方も読者として気軽に投票していってください。ただし、公平性を保つため、自身のキャラクターが参戦している試合の投票はご遠慮ください。 ゲームのおおまかな流れ SS5スレッドでゲーム開催告知 ↓ SS5スレッドでネットラジオ公開・事前説明ラジオ実施 ↓ 参加表明をSS5スレッドに書き込む(プレイヤー参加する方) ↓ キャラクター募集開始 ↓ キャラクターを作成し、投稿(プレイヤー参加する方) ※詳細はキャラクター作成方法をご確認ください。 ↓ キャラクター募集終了 ↓ 投稿キャラクター公開・予選公開 ↓ 公開されたキャラクター設定・プロローグSSを読み、あなたが見たいと思ったマッチングに投票(読者参加する方) ※詳細は予選投票をご確認ください。 ↓ 予選投票終了・本戦進出者発表 ↓ SS投稿受付開始 ↓ 基本設定を元に対戦相手との能力バトルSSを作成し、投稿(プレイヤー参加する方) ※詳細はSS作成・投稿方法をご確認ください。 ↓ SS投稿受付終了 ↓ 投稿されたSSをこのwikiにて公開・投票開始 ↓ 公開されたSSを読み、面白かった作品に投票(読者参加する方) ※詳細は本戦投票をご確認ください。 ↓ 投票終了 ↓ 残った参加者で再びマッチングし、SS投稿受付~投票を繰り返す ↓ 最後まで勝ち残ったプレイヤーが優勝! ゲームの雰囲気を理解したら さっそく次のページ【キャラクター作成方法】からキャラクターを作成してみましょう!
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検事局の地下駐車場に降り、御剣怜侍は自分の車の脇に立った。 5分もしないうちに、レモンイエローのスプリングコートの狩魔冥が現れた。 「待たせたかしら」 「いいや、私も来たところだ」 助手席のドアを開けると、冥はするりと座席に滑り込む。 「で、なに?」 御剣がエンジンをかけると、冥が窓の外を見たまま言った。 「うむ。成歩堂から連絡があったのだ。真宵くんと春美くんが倉院の里から遊びに来ているので事務所に来ないかと」 「・・・私も?」 「イトノコギリ刑事も呼んだようだ。ソーメンフルコースをごちそうすると息巻いていたが、ケータリングを頼んでおいた」 そう、と冥がつぶやく。 「ひさしぶりだわ、真宵と春美に会うのは」 13歳で検事になった冥にとって、真宵は初めての同年代の友人だった。 ぶっきらぼうに聞こえる言い方をしながらも、少し嬉しそうにほころんだ冥の横顔を見て、御剣も頬を緩めた。 成歩堂法律事務所に車を横付けにし、助手席のドアを開けると、すらりとした脚が車から出た。 手を取って降ろしてやると、窓を開けて見ていたらしい真宵が、 「あ、なるほどくん!きたよー!」 と叫ぶのが聞こえた。 事務所のドアを開けると、真宵が飛び出してくる。 「ひさしぶり、冥さん!」 「元気そうね、真宵」 御剣は、久々の再開で手を取り合わんばかりの二人から、テーブルにケータリングで届いた料理を並べている成歩堂に目を移した。 「今日は、すまなかったな」 「いやいや、こっちこそこんな豪華な料理を届けてもらってさ。イトノコ刑事がいたら、泣いて喜んだのになぁ」 「ム・・・、イトノコギリ刑事はまだ来ていないのか?それに、春美くんは」 「んー、イトノコ刑事は、急に事件が起きたらしくって。電話で『捜査ッスーーー!』って叫んでたから。春美ちゃんは」 成歩堂はちょっと困ったように笑った。 「なんでも、修行がいそがしいって」 一緒に行こうと真宵が言ったのに、 「せっかく久しぶりになるほどくんとお会いになるのに、わたくしなどお邪魔できません!」 と言い張ったらしいが。 「さあさあ、冥さん、座って座って。なるほどくんも、・・・御剣検事も」 真宵が元気よく言って、コートを脱ごうとした冥が手を止めた。 「車に携帯電話を忘れたわ」 勤務時間外とはいえ、いつどんな連絡が入るかわからない。 「怜侍、車のキーを貸してくれるかしら。取ってくるわ」 御剣がキーを渡すと、冥は「すぐ戻るわ」と事務所を駆け出していった。 「いやー、さすが御剣検事だよね、なるほどくん。この事務所に不似合いなくらいの料理だよ」 「不似合いで悪かったな」 「はみちゃんとイトノコ刑事に、申し訳ないなあ」 「そんなこといって、食べる気まんまんだろ」 成歩堂と冥の掛け合いに、ブランクはないようだった。 取り皿や箸をそろえて、冥が戻ってくるのを待つ。 「・・・遅くない?冥さん」 真宵が言い、御剣は立って窓から外を見た。 「今、なにか声が聞こえなかったか?」 ふと成歩堂が、御剣を見た。 御剣が、通りを見下ろす。 あまり人通りがない上に街灯も少ない。 「・・・ゃあ!」 今度は、はっきり聞こえた。 「冥だ!」 御剣が事務所を飛び出す。 成歩堂と真宵も後を追った。 事務所のビルから外に出たところで、御剣はなにかを踏んだ。 拾うと、それは冥の鞭だった。 コートのポケットから落ちたのだろう。 行かせるのではなかった、と御剣は唇を噛んだ。 「御剣検事、それ、冥さんの!」 「車の音はしなかった、遠くまで行っていないはずだ!」 車の中から携帯電話を取って事務所に戻ろうとしたとき、建物の影から男の声が冥を呼び止めた。 「狩魔検事さん、だよね」 足を止めてふりむきながら、コートのポケットに手を入れて鞭を握った。 「おっと、そんなもの振り回すのは法廷だけにしてくれよ」 ゆっくり姿を現した男に、冥は後ずさりした。 「誰っ」 「忘れたのかい、あんたが有罪にしたチンケな強盗犯をさ」 男が、冥の腕をつかんだ。 「きゃあっ!」 みぞおちに激痛が走って、冥は意識を失った。 ・・・どのくらいの時間がたったのか、意識が戻ると、腹部の痛みと吐き気が襲ってくる。 「・・・う」 両手を後ろで縛られて、片方の足首もどこかに縛り付けられた状態で、冥は板敷きの部屋に転がされていた。 目を上げると、ブラインドのない窓から建物の灯りが見える。 「気がついたのかい、検事さん」 冥を覗き込むように屈んでいた男が、ニヤニヤと笑いながら言った。 「裁判のときはずいぶんと威勢がよかったけど、なんだい、まだ女の子じゃないか」 男の手には、サバイバルナイフ。 この声には、聞き覚えがあった。 ほんの少し前に有罪になった被告人だ。 もうすぐ、高等裁判所で刑期が決められる頃なのに。 ・・・脱走した犯人に誘拐されたのだ。 冥の背筋に冷たいものが流れた。 ナイフが襟元に差し込まれ、服を胸元まで切り裂いた。 「・・・っ!」 「つまり、さかうらみってわけなんだけどさぁ」 ナイフの冷たさを胸に感じて、冥はこくりと喉を鳴らした。 「こんなことをして・・・逃げ切れると思っているの?罪が重くなるだけよ」 「えらそうなことをいうんじゃないよ!」 犯人がナイフを振り上げ、冥は固く目をつぶった。 ビシッ! 犯人の手から、ナイフが落ちた。 「いてぇっ!」 冥が恐る恐る目を開けると、ドアのところに人影が立っていた。 「キサマ・・・冥になにをした!」 冥の鞭を構えた御剣が、叫んだ。 「お、おまえ、鞭が使えるのかよ御剣・・・」 御剣の後ろに、呆然とした顔で成歩堂と真宵も立っている。 直後に、御剣が手配した警官隊が飛び込んできた。 人ひとりを抱えて遠くへ逃げるのは無理がある。 成歩堂法律事務所の隣にあるホテルの、使われなくなった従業員休憩所にたどりつくのに、時間はかからなかった。 あわてたらしい犯人が、取り落としたナイフを拾い上げようと飛びつく。 一瞬早く、冥の自由なほうの足がそのナイフを蹴り飛ばした。 「ちっくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 警官が犯人を取り押さえ、御剣は冥を抱き起こすと手と足を縛っていたロープを解いた。 「大丈夫か、冥」 自分の上着を着せかけて、御剣は冥の肩を抱いた。 「・・・ええ、これくらい平気よ」 殴られたみぞおちを押さえて言った言葉は強気だが、ほっとしたのか震えが止まらないようだった。 「よかった・・・」 冥の無事を確認して、安心したのは御剣も同じで、埃っぽい床に膝をついて冥を抱きしめた。 ぐったりと抵抗をあきらめた犯人が連行されるのを見送って、成歩堂は真宵を見た。 「狩魔検事が無事でよかった。ね、真宵ちゃん」 「・・・」 「真宵ちゃん?」 「・・・なぁんだ」 真宵が、成歩堂の隣でうつむいた。 「あの間になんて、入り込めないよ・・・」 成歩堂は、冥を抱きあげて歩いてくる御剣と、隣でうつむく真宵を交互に見る。 やっぱり、そうか。 遊びに来る、と言った時もしつこいくらい御剣と冥に裁判の予定がないか確かめてきたのも。 そろそろ来るという頃になると、窓に張り付いてずっと外の様子を伺っていたのも。 それなのに、いざ会うと冥にばかり話しかけて、御剣に見向きもしなかったのも。 「少し、冥を事務所で休ませてもいいだろうか、成歩堂」 「あ、ああ。そうだな。行こうか、真宵ちゃん?」 冥を抱きかかえてそっと階段を上る御剣の後ろ姿を見ながら、真宵はまたため息をつく。 その真宵の隣を歩きながら、成歩堂は頭をかきむしる。 ああ、まさか真宵ちゃんが、御剣を? 事務所に戻ると、冷めた料理がぽつんとテーブルに取り残されている。 御剣は、奥の応接室を借りる、と言って冥を運んだ。 「えと、食べる?真宵ちゃん」 真宵が黙って首を横に振る。 ・・・まいったなぁ。 「あのさ。真宵ちゃん」 「・・・」 成歩堂は、思い切ったように真宵の隣に座った。 「やっぱり、あいつのこと?」 今度は、ゆっくり首を縦に振り、それから激しく横に振った。 頬が、真っ赤だった。 「どっち?」 「わかんない。自分でもわかんない。でも、さっき御剣検事が冥さんをすっごく大事にしてるのを見たら、なんか、ちょっとさびしくって、それで」 「そうか」 成歩堂は膝に肘をついて手に顎を乗せた。 「うん、でもさ。あいつは狩魔検事の保護者気分でいるのかもしれないよ。なんせ、兄弟子だし」 「・・・弟弟子だって言ってたよ、冥さん」 「う、うん。どっちにしても、そういうんじゃないかも」 「なるほどくん。あたしだって、アレは見ればわかるよ。いいんだ、あたし。ほら、ちょっとカッコいいなあって思ってただけで、別に好きとか、そんな」 真宵は顔を上げて、にっこり笑って見せた。 ああ、かわいいなぁ。 ふいに、成歩堂はそう言いそうになってどきっとする。 「・・・あの、じゃ、じゃあ、さ」 ちらっと応接室の方を伺う。 「ぼく、は?」 「なるほどくん?」 「ぼくのことは、その」 喉がはりつくように渇いて、うまく言葉が出ない。 成歩堂は、テーブルの上にあった缶飲料のプルタブを開けた。 すっかりぬるくなったそれを、喉に流し込む。 「・・・げほ」 ビールだった。 冷えていないビールがこんなにまずいものだとは。 「なるほどくん、だいじょうぶ?」 軽くむせた成歩堂の背中を、真宵がさすった。 「まったく、あわてんぼだなぁ。しっかりしてよね」 「真宵ちゃん、ぼくは」 成歩堂にいきなり手首をつかまれて、真宵がびっくりした顔をする。 「ぼくは、よくわかんないわけじゃなくて、すっごくよくわかってる」 「なるほどくん、それだけのビールで酔っ払っちゃったの?」 「真宵ちゃん」 真宵の唇に、冷たくて柔らかいものが触れた。 少し、苦い味がした。 「ぼくは、アイツみたいにかっこよくないし、事務所の家賃も払えないくらいだし、それに、それに、でも」 「・・・・」 「真宵ちゃんが、好きだよ」 もう一度触れた唇は、少し強く押し付けられた。 息をするのを忘れるくらい長く、そして舌が進入してくる。 成歩堂は、ゆっくりと真宵をソファに押し倒した。 「なるほどくん、み、御剣検事と冥さんが」 唇を離すと、真宵が抗議する。 それを無視して、成歩堂は和服の胸に手を入れた。 「あ・・・」 小さな胸は、手のひらにすっぽりと収まった。 ゆっくりと、つかみ上げる。 「やわらかい」 「だめだよ、なるほどく・・・」 いつ応接室のドアが開くかと、真宵はひやひやした。 「しっ・・・、静かにしてればだいじょうぶだよ・・・」 そんなわけないよ。 真宵の言葉は、成歩堂の唇でふさがれる。 成歩堂は、真宵の乳房を揉みしだく。 柔らかなふくらみと、先端の突起を、やさしく。 鎖骨を唇でなぞり、もうひとつのふくらみにも舌を這わせた。 「な・・・る」 「真宵ちゃん・・・」 手で、太ももをそっとなで上げた。 外側から、内側へ。 指がそこを捉えたとき、真宵は悩ましい吐息をついて、成歩堂の首に手を回した。 「・・・やさしくしてね」 な、なにをやっておるのだ、あいつは。 水を取りにいこうとして応接室のドアを開けた御剣は、真宵におおいかぶさっている成歩堂を見て、あわててドアを閉めた。 あいつ、ヤる気だ。 ここに、私と冥がいることを忘れているのか?! 「怜侍・・・、お水は?」 応接ソファに横になっていた冥が、少し体を起こして言った。 「う・・・うム。いや、その」 まぶたの裏に、今見た光景が焼きついている。 成歩堂の肩にかかった素足。こぼれだした胸。高潮した頬・・・。 「いいわ・・・、私がもらってくる」 ドアの前で石像になっている御剣を当てにするのをあきらめたのか、冥が立ち上がる。 「いや、まだ横になっていたほうがいいのではないか、その、水ならまたあとで」 「なに言ってるの?」 御剣を押しのけてドアノブに手をかける。 「・・・・ん、ああん」 冥が、ぴたりと動きを止めた。 御剣が、耳まで真っ赤になっている。 一瞬、意味がわからないような顔をした冥も、遅れて頬を染めた。 「あ、あん、はあん・・・」 冥は、黙って御剣の手を引いてドアから離れた。 「立ち聞きなんて、フケツよ、御剣怜侍」 「・・・うム、そういうアレでは」 「・・・・」 きまずい。ものすごく気まずい。 冥はソファに腰掛け、御剣は意味もなく部屋の中を歩き回る。 「どう、したらいいのかしら」 「・・・待つしかなかろう」 「いつまでよ」 「それは・・・終わるまでではないか」 冥は首筋まで、真っ赤になった。 「なに考えてるのかしら、まったく」 御剣は、冥の後ろで足を止めた。 ピンク色に染まったうなじに、どきりとした。 思わず手を伸ばすと、冥の体がびくっとふるえた。 「いや、その・・・さっきは怖い思いを、させてしまった。私が携帯電話を取りに行けばよかった」 とっさに言い訳しながら、その通りだと思う。 すぐ近くとはいえ、女の子にひとりで人通りの少ない夜道を行かせるなど、無用心すぎる。 「二度と、あんな思いはさせない」 冥の肩に置いた手に、力がこもった。 「・・・ん」 冥が小さく頷いた。 「怜侍が、来てくれると思ってた」 御剣の脳裏に、ついさっき見た光景がよみがえる。 視界がぐらりと揺らいで、気づくと冥の肩に置いた手をそっと胸元に滑り込ませていた。 かがむようにして、後ろから冥の頭に口付ける。 「ちょっと、なにして・・・」 冥は体をよじって、進入してきた手から逃げる。 「・・・ム」 御剣はソファを回り込んで、冥の前に立った。 「だがしかし・・・、こうなってしまった」 目の前に、服地がぴんと張って盛り上がっている。 「バ、バカがバカなことを考えて、バカッ!!」 あまりの近さに、両手で顔を覆う。 「そんなかわいいことをされると、ますます大きくなってしまうのだが」 御剣は、冥の肩にかかっている自分の上着をすべり落とし、犯人が切り裂いた服からこぼれる白い胸元にそっと手の甲を当てた。 「バカ・・・っ、ち、ちっちゃくしなさいよっ」 御剣は片手で冥が頬を押さえている手をはずした。 顔を上げた冥を見つめて、御剣はそっと唇を寄せた。 「無理だ」 真宵の吐息が甘い声に変わる。 成歩堂は舌で舐めたりつついたりしていた乳首を甘噛みする。 つんと尖ったそれが、ますます固くなる。 その間にも、片足を腕にかけて開かせた秘所を指先でまさぐる。 音を立てて、蜜がからみついた。 膣口をかきまわし、小さな突起の周囲をこねまわす。 「・・・・ん、ああ」 思わず、真宵の口から大きな声が漏れた。 成歩堂は隅々まで真宵の体を撫で、口付け、そして十分に濡れたそこに指を入れた。 「あ、あん、はあん・・・」 進入した指が、敏感な壁をなぞり、真宵は体を反らせた。 「・・・はぁっ、なんか、なんか変だよ、なるほどく・・・ん、あたし」 成歩堂にしがみついて、真宵が言う。 「変じゃないよ。すごく、感度がいいんだ」 成歩堂が、ズボンを下げた。 ソレは、ぴんと屹立している。 「いくよ・・・」 「ん、はぅっ」 先端が真宵の秘所をまさぐるようにし、それからゆっくりと入ってくる。 「や、あ、ん、はっ、あ・・・あん」 抵抗するかのように締め付けてくる真宵の中を、成歩堂は進んだ。 「奥まで、入ったよ」 「ああ・・・、すごい、いっぱいだよ、なるほどくん」 ゆっくり、引き抜く。 また、押し込む。 引き抜く。 「あんっ」 ぐい、と進入する。 腰を引くと、また真宵が震えた。 「ああんっ」 引く時がイイらしい。 成歩堂はたまらなくなって、腰を動かす速度を上げた。 「んぁっ、あ、あっ、ああああああんっ」 「ぁぁ・・・・」 耳を澄まさなくても、隣の部屋の声が聞こえる。 冥を抱きしめたまま、御剣はごくりと喉を鳴らす。 「・・・バカ!」 自分を抱きしめながら、他の女のあえぎ声に興奮するなんて。 両手で御剣を押し返そうとすると、より強い力で押さえつけられ、一気にスカートを引き降ろされた。 「やっ、ちょっとそんな急に!」 準備の出来ていないその場所に、御剣は己を押し当てた。 痛みとともに、ぎゅっと押し込まれる。 こんなに乱暴にされたことはなかった。 「バカっ、ゆ、許さないっ」 半分ほど入ったところで、御剣が息をついた。 「だが、早くちっちゃくしろと言ったのはキミだ・・・。他に小さくする方法がない」 耳元で息を吹きかけるように囁かれる。 いつも眉間にしわを寄せながら法廷で容赦なく被告人を糾弾する男が、冥にだけ見せる素顔。 「許して、くれるだろうか?」 うなじに、舌を這わせる。 手が、二の腕を強くさすりながら下がり、冥の手を握る。 指と指を絡ませ、その手にも口付ける。 冥の指先を口に含む。 一本ずつ丹念に舐めながら、乳房に触れる。 抵抗するように締め付けられていた御剣自身が、するりと動いた。 冥の目を見つめながら、御剣がふっと笑った。 「許して、もらえたようだ」 潤いをたたえた冥の中に、ぐいと突き進んだ。 「・・・・ん」 冥が、目を閉じる。 何度も突き上げると、真宵は成歩堂にしがみついたまま目を潤ませた。 「やっぱり、やっぱりあたし、変だよ、すごくムズムズする、の・・・、あんっ」 「いいよ。もっと、もっとムズムズして」 肩に担ぐ脚を変えて、成歩堂は突いた。 熱くて、強く締まる。真宵の中はとても気持ちが良かった。 もう、限界が近い。 腰を打ちつけながら、指でぷっくりとふくれた突起に触れる。 「ひゃあんっ」 ぐるぐると回したり押したりすると、真宵が体をひくつかせる。 ぎゅっと成歩堂が締め上げられた。 「あ、あああああん!!」 その声があまりに艶かしい。 引き抜くのも忘れて、成歩堂は真宵の中に精を放った。 命令どおり、ちっちゃくなっって抜き取られたそれを、細い指が丁寧にウェットティシュで拭く。 「まったく、信じられない。あなたも、な、成歩堂も」 隣の部屋の声は、おさまったようだった。 きれいにしてもらったソレをしまいながら、御剣が軽く咳払いする。 「ム。すまない」 冥が御剣の足元に屈んだまま、破れの大きくなった服をかき合わせた。 「ん、もう。今度買ってもらうからっ」 それが可愛くて、御剣はまた冥を抱きしめる。 「何枚でも、買おう」 さて。 しかし、服を買いに行くその前に。 御剣は、ため息とともにドアを見た。 ・・・どんなタイミングで出て行けばよいものだろうか。 しなだれかかる真宵を抱きとめながら、成歩堂は応接室にいる御剣と冥を思い出して、冷や汗をかいた。。 気づいてない・・・わけ、ないだろうな。 出るに出れなくなっているのではないだろうか。 真宵の声。 ドア一枚を挟んだだけでは、まる聞こえだったにちがいない。 成歩堂は、ため息とともにドアを見た。 出てきたら、どんな顔でなにを言えばいいものか・・・。 終
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神乃木×千尋? 例え身体で理解しても、頭で理解出来ない時が在るように。 頭で理解出来たとしても、身体が理解出来ない者が、確かに在る。 ただ、残された記憶だけが、鮮やかに息付いている。 -追悼恋慕- 木槌が法廷内に響いた。その音を聞き、ゴドーは一人、「クッ……」と、誰にも気付かれないような小さな声で笑った。 「被告人に、判決を言い渡します」 お馴染みサイバンチョこと裁判長が、甘杉 優作に無罪を言い渡した。 それを聞き届けてから、ゴドーはちらりと今回の相手弁護士、成歩堂 龍一の方を見た。その成歩堂は先程ゴドーからコーヒーをおごられたため、頭に、スーツにコーヒーが滴り落ちていた。 隣から伸びた手が持っているハンカチが成歩堂の顔を拭いているのが分かる。 「では、本日はこれにて閉廷!」 裁判長がそう締めくくり、木槌を鳴らした。 それを合図に、傍聴人などもどやどやと法廷を出て行く。 「……」 しばらくゴドーは立ち尽くしていた。 -よろしいですね、検事さん- あの時…綾里 真宵の姿ではない真宵が放った言葉が、今でもゴドーの何処かに残っていた。 まぎれもない、服装は真宵の物では在るが……やはり、あれは。 数年前まで、敏腕弁護士ともうたわれた、綾里 千尋その人だった。 彼女は死んでいるはずだ、とゴドーは思った。千尋が死んだ後に、あの成歩堂が後を引き継いだ、と。 だが、成歩堂の隣には、千尋が居る。 「…………」 若手にして敏腕。 女性にして常勝。 それが綾里 千尋。 法曹界でもその名を知らぬ者は居ない。 例にも漏れず、ゴドーも千尋の事を知っていた。 死んだ、と報じられた世に反し、千尋は格好を違えて存在している。 しばらくゴドーは黙っていたが、やがてくるりと後ろを向き、法廷を後にした。 成歩堂達も、法廷を後にし、控え室に居た。 真宵の中にまだ居る千尋はしきりに成歩堂の頬にハンカチを当てる。 滴り落ちる液体が熱い。 「まあ、随分な格好になったわね、なるほどくん」 「ううう……まさかいきなりコーヒーカップを投げ付けられるとは思いませんでしたよ、しかも中身入りで」 「そうね。わたしも思わなかったわ。あの人がコーヒーカップを投げるなんて」 その言い方が、あまりに含みを感じられたので、成歩堂は怪訝な顔をした。 「……」 「千尋さん?」 「……え。あ、ああ。どうしたの、なるほどくん」 弾かれたように千尋は目を見開き、慌てて目を伏せた。 「いえ……何でも無いです」 その表情があまりにも全てを拒絶していたので、成歩堂はそれ以上何も言えず、口を閉ざした。 「なるほどくん………真宵は今、悩んでいるわ」 「え……」 千尋の言葉に、成歩堂は顔を上げた。 千尋は伝える。 真宵が今、霊媒師としての自分を見詰め、悩んでいると。 迷っていると。 そして、傍に居てやって欲しいと言った。 成歩堂はそれに対し、肯定した。 それを見届けると、千尋は去って行った。 そして、真宵が帰って来る。 倉院流霊媒術とは、そうしたものなのだ。 真宵はその事について悩んでいると千尋は言った。 それについて、成歩堂は何とも言えずに、自分の依頼人と大切な仲間と会話をした。 成歩堂は視線を感じ、その視線の持ち主へと目をやった。 そこには、真宵が居た。 「うわ。なるほどくん……随分と酷い格好になったね」 「ううう…ゴドー検事のコーヒー……苦い上に熱いし…散々な目に遭ったよ」 スーツの染みに指先を遊ばせる真宵に、苦笑しながら成歩堂は言った。 「クリーニング代、幾らくらいかなあ……」 「コーヒーの染みだもんね、結構掛かると思うよ」 そう言って他人事のように笑う真宵に、成歩堂は「笑い事じゃないよ、全く」と口をこぼした。 (今度から、ああ言う感じになるのか? 法廷…) そう考えると、これから先の裁判ではクリーニング代が例年に比べて掛かるであろう。 「あ」 真宵が声を上げる。成歩堂は何事かと思った。 「ゴドー検事にコーヒーカップ、返してないね」 成歩堂の頭に在った白いカップを指差しながら、真宵が言った。 そう……あれからゴドーに返すタイミングを逸していて、成歩堂の手元にまだゴドーの愛用しているコーヒーカップが残っていたのだ。 「あちゃあ……返さないとなー」 成歩堂は頭を掻きながら言う。 返さなければとは思っていたものの、何故か成歩堂はゴドーに憎まれていた。その理由が分からずに居たし、そんな状況で成歩堂がゴドーに話し掛けても、はたして相手にしてくれるかどうか…… 「今度の審理の時に返す…じゃあ、駄目かな?」 「駄目だよ。だってゴドー検事、大切そうに飲んでたじゃない!」 力みながら言う真宵に、(大切なら何でカップを投げ付けるんだよ…)と成歩堂は思った。 「きっと、今頃ゴドー検事の指先が寂しくて、震えてるかもしれないし!」 「微妙にワケの分からない例え方だね真宵ちゃん」 苦笑しながら、成歩堂はコーヒーカップを見た。 「でもまあ、このままなし崩しって訳にも行かないか」 「そうだよ! このままだと窃盗犯だよ!」 「いや、好きで持ってるわけじゃないんだけど…」 成歩堂は苦笑しながらカップをまじまじと見詰めた。 何の変哲も無い、少し大きめの無地のカップ。ただ。そこにはコーヒーの液体の跡だけが残っていた。 「なるほどくん、あたしに貸して」 「え…別に、ぼくが行っても良いんだけど」 「だって、なるほどくんって何だか嫌われてるみたいだし。返しに行って話がこじれちゃったら、大変でしょ?」 「……何が条件?」 成歩堂の言葉に、真宵は「そんな!」と言う。 「あたしそんなに腹黒くないよ! ただみそらーめんおごってくれないかな、なんて思ってるだけで」 「メチャクチャ下心在るじゃないか! そう言うのを腹黒いって言うんだよ!」 その腹黒さに成歩堂が異議を申し立てるが、真宵は「じゃあ、なるほどくんが行ってこじれず話は着く?」と行って来る。その言葉に、成歩堂は言葉に詰まった。 心当たりは無いが、何故か成歩堂はゴドーに憎まれている。それで話がこじれないとは言えない。 「……分かったよ。お願い出来るかな」 「みそらーめん大盛り、お代わり自由でね!」 (なな、何て事を言うんだこの子は!) 思わず成歩堂は真宵の事を引き止めようとしたが、真宵は既に成歩堂の手からカップを奪取、そのまま控え室を出て行ってしまっていた。残された成歩堂は、はあ…と溜息を吐く。 「なるほどくん…真宵さまは大丈夫でしょうか?」 春美が心配して尋ねて来る。成歩堂は「多分大丈夫だよ」と言ってやった。 真宵は半ば強引にカップを奪った後、鼻歌を歌いながら控え室から出て、検察側がいつもどやどやしている所へと足を向けていた。 (コーヒーカップ一つでみそらーめんお代わり自由なんて約束して貰っちゃった) 真宵が上機嫌なのもうなずける。 こちらは『行動』と言う労力一つで『食料』と言う報酬が貰えるのだから。 「すみませーん、ゴドー検事は居ますかー?」 「ゴドー検事なら向こうの部屋で休んでいますよ」 警官に声を掛けて聞いた所、そう返事が帰って来て、真宵はその警官に「ありがとうございます」と言ってから、指し示された部屋の方へと向かった。 真宵は扉の前まで来ると、二回ほどノックをする。 「ゴドー検事、お届け物でーす」 しばらく待ってみたが、返事は無い。 「ゴドー検事ぃー?」 「………………」 名を呼んでみても、やはり反応が無かった。 真宵は首を傾げながら、重い扉を押し開けた。 そこには、くたびれた革のソファに身体を預け、じっとしているゴドーが居た。 「あ、ゴドー検事! 居るんだったら返事して下さいよ!」 そう言って真宵はゴドーの元に近付いた。 「………………」 「………ゴドー検事?」 「・・……………」 真宵の言葉に、ゴドーは答えなかった。 黙ってゴドーの返事を待っていた真宵は、うんともすんとも言わないゴドーの姿に膨れ面になった。 「ゴドー検事!」 「………………」 「……」 「………………」 「…うぇーん…そんな、無視しなくても良いじゃないですかぁー」 泣き顔になって、真宵はゴドーの事を見詰めた。 ソファに身を預けているゴドーの表情は法廷の時に付けていた仮面に、疲れた雰囲気を漂わせている口元であった。 (……) 口元だけしか表情が分からないのは、何処かエロティックに感じられる。 どきりとしながら、真宵はゴドーの事を見続けていた。 相変わらず返事も無く、ゴドーは黙ったままであった。 「……」 真宵はゴドーの口元に、そっと手を持って行った。 もしかしたら、死んでいるかもしれない。 そんな有り得ない事を思っていたからだ。 「………」 しばらく手を近付けていた真宵は、正確なリズムの呼吸に、ゴドーは死んではいないと言う事が分かった。まあ、それは考えれば分かる事なのだが。 大体、外には警察が居たし、こんな部屋に刃物が在るはずも無い。 殺害、と言う事は無いだろう。 自殺するとしても、せいぜい毒薬を服用する事くらいしか手は無い。 だが、この部屋に水道も無い上に、ゴドー愛用のカップは真宵の手に在る。 「…ゴドー検事、眠ってるんですか?」 真宵が尋ねるが、ゴドーはそれに一定のリズムの息で答えた。 そっと、真宵は指先でゴドーの頬骨にそって頬を撫でた。 途中、ヒゲに指先が当たり、背筋がぞくりとするような、何処か異形の快楽を感じた。 そうされても、なおその呼吸を乱さないゴドーの姿に、真宵は彼が眠っている事を確信した。 「こんな所で寝てると、風邪引きますよー?」 そっとゴドーの耳元まで唇を持って行き、忠告する真宵。 「………………」 相変わらず、ゴドーは眠ったままなので、いささか真宵は不満を感じた。 (こんな所で無防備に眠ってるなんて…) 真宵はそっと指先をゴドーのメガネに触れた。 無機物である金属の冷たさが、真宵の指先に広がる。 そのメガネの輪郭を、真宵の指がそっと撫でる。 「…………ヘンなメガネ…」 呟いてから、真宵はそっとゴドーのメガネに手を掛けた。 (眠ってるし、少しくらい外しても良いよね。それ以前に、眠る時くらいメガネは外すもんね。そうだよね、あたし、悪い事何一つしようとしてないんだよ、うん!) 自分の行動に言い訳をしながら、真宵はそのメガネを持ち上げるべく、力を入れた。 指の腹全体に、その金属の冷たさが伝わる。 「…何をしてる?」 「きゃわああああっ!」 いきなり声を掛けられ、真宵は弾かれたようにゴドーから離れた。 一方のゴドーは「クッ…」と喉の奥で笑ってから、真宵の方を見た。 「よく来たな、迷えるコネコちゃんよぉ」 「……」 正直、寒いシャレに思えて仕方が無かったが、真宵は突っ込むのを止めておいた。 成歩堂が幾度と無くゴドーに突っ込んで、成果が在った試しがない。 「え、ええと……」 真宵は持っていたカップをゴドーに差し出した。 「これ…ゴドー検事のですよね?」 「クッ……わざわざ届けに来てくれたのかい。健気だねぇ」 笑ってから、差し出されたコーヒーカップを受け取るゴドー。 「……悪魔のように黒く、地獄のように熱く、接吻のように甘い」 「…へ?」 急にゴドーが訳の分からない言葉を言い始め、真宵は目を白黒させた。 「タレーランの言葉、だ」 「たれ…? 焼肉のですか?」 真宵の言葉に、ゴドーは「クッ……」と笑った。 「いや、タレーランは人の名前だ。フランスの元首相で1814年頃フランスで政党主義を唱えたヤツだ」 「はあ」 「…オレとタレーランとは気が合いそうだな」 「へ? 『たれらんと』さんと、ですか?」 「ああ」 真宵のボケに、もはやツッコミさえも入れずに、ゴドーは真宵から手渡されたカップを一口あおった。 何故かコーヒーを呑み下す音が聞こえる。 (な、何で!? あの中、すっかり空っぽだったのに!!) まさに、謎はミステリー、である。 「ところで……さっきの、法廷での姿は何だ?」 ゴドーが急に真宵へ尋ねる。 「え…さっきの、って?」 「審理中に、急に姿が変わっただろう。アレはどんな魔法だい?」 その言葉に、「ああ、アレですか」と真宵が答える。 「あれは、霊媒なんです」 「…霊媒?」 「はい。死んだ人の霊を降ろして、身に宿らせるんです」 その言葉に、ゴドーの身体中に戦慄が走った。 「死んだ者の…霊、か」 心無しか、ゴドーの指先が震えているように真宵には思えた。それだけではない。何処と無くぎこちなく、そしてせわしなく辺りを見回し、晴れない気を紛らわせようとしているようにさえ見える。 「じゃあ、当然さっきのネエちゃんも……死者、って訳か」 「……」 真宵は胸にちくりと来る物を感じた。 成歩堂や真宵にとっては、千尋は『居る』ような者に思えていて、死者と考えた事すら最近は無くなっていたからだ。 そう。綾里 千尋は死んでいるのだ。 「そう……ですね」 心の動揺を隠せずに、真宵はゴドーの言葉に答えた。 その様子を見て、ゴドーは軽く首を横に振った。 「クッ……オレとした事が、コネコちゃんに余計なねこじゃらしを与えちまったみたいだな」 カップをゆらゆらと揺らし、ゴドーは乾いた己の唇をそっと舌で拭った。 「……オレの目がイカれてなければ…あのネエちゃんは……この法曹界の、女弁護士、だな」 「! す、凄い! どうして分かったんですか!?」 目を丸くして尋ねる真宵に、ゴドーは「クッ……」と笑い、カップを真宵に向けた。 「結構有名になっていたからな。この世界であの女弁護士を知らないヤツは…コーヒーを飲んだ事の無いタレーランのように愚かなヤツ、さ」 「それって凄いレベルなんですか?」 「ああ。そうだな。コネコちゃんにとって見ればこれは……この世にみそラーメンが無くなるのと同じくらい、愚かで絶望的な事、だな」 ゴドーの言葉に「ひゃああああっ!」と叫び、真宵は愕然とした表情になる。 「み、み、み、みそラーメンの無い世の中……お終いだぁ」 「おいおい。これはちょっとした言葉の文であってだな」 その真宵の落胆ぶりに、思わずゴドーはたじろいだ。そしてぽんぽんとゴドーは真宵の背中を叩いてやる。 とても小さな背中だった。 「……」 ゴドーはしげしげと真宵の後ろ姿を眺めた。 カラスの濡れ羽色をした、漆黒の髪。 つややかな髪は、その毛先付近で結わえられている。 七分丈の上着から出た白い腕は細く、上品で美しい指先を持つ。 服の裾から伸びるしなやかな足は、むしろ心地よさを感じさせる脚線美だ。 ついつい、爪先まで自然と目が向いてしまうほど、真宵の四肢はくどくない魅惑を持っていた。 だが恐らく、その魅力は普段は何気ない物として見落とされがちだろう。現に、ゴドー自身もこうして近くによって見詰めるまで、真宵の魅力をここまで意識はしなかった。 「クッ…そんなに落ち込んじまうと、コーヒーが渋くなっちゃうぜ」 「渋く……それはお茶ですよ」 はふう、と溜息を吐いてから、急にぱっと持ち前の明るい表情に戻る真宵。 「とにかくっ、カップ返しましたから。それじゃ……」 「っ! ちょっと、待て…」 言いながら、ゴドーは真宵の腕を掴み、引き寄せていた。 「え……?」 真宵はすっとんきょうな声を上げながら、そのたくましい胸板に背中を付けていた。 (う、うわ…うわわわーっ) 一気に血液が頭部に噴き上がるのが分かる。 その、あまりにも力強い指先の動きと、心地よさを何処かで感じられる胸板に居て、真宵は目を白黒させている。 一方のゴドーは、何かとんでもない事をしてしまったかのように(実際しているのだが)、表情を凍り付かせていた。 「………あー。その、何だ…」 気まずい雰囲気の中、重々しくではあるがゴドーが言葉を発する。 「…コネコちゃんの、その、魔法みたいなアレを……」 「え?」 「いや…その、何だ……」 ぽりぽりとゴドーは高頭部を困ったように掻いて、もごもごと言う。 「霊媒を…見せてくれねえか?」 「!」 真宵はゴドーの腕の中でもぞもぞと動き、顔をゴドーの方に向けた。 「霊媒…ですか?」 「ああ……ダメかい?」 「……」 真宵は困惑した表情になった。 正直、迷っているのだ。 霊媒と言う物を、そもそも最近は恐ろしいと思う事件も在った。まあ、それは一年前の事なのだが。 それは肉親に裏切られた、しかも自分が逃れる事の出来ない、運命(さだめ)にも似た、代々受け継がれて来た『霊媒術』を利用した事件。 そうでなくとも、霊媒によって真宵は二人の人物と逢えなくなった。 霊媒に失敗したとされ、失脚した母。 そしてそれを追いながらも、母を追いやった者を突き止めようとした姉。 真宵の中では、霊媒とはどうしようもなくなった時の切り札でしかなかった。 逆に言えば、それ以外には触れたくなかったのだ。 「………」 「コネコちゃん?」 「…あ、の……あたし…」 おどおどと真宵は言葉を発する。 その様子を見て、ゴドーはそっぽを向き、「クッ……」と笑って真宵を解放した。 「…冗談だ。こんな得体の知れねえ検事に、ほいほいと秘術を見せる訳にもいかねえよな」 そう言って、ゴドーは真宵の身体から離れた。 …どうしようもない、高揚するような感情を残しながら。 「……ゴドー検事」 真宵が、ゴドーの事を呼ぶ。 「…どうして、あたしが……みそラーメン好きだって、分かったんです?」 「どう言う事だ?」 ゴドーが真宵の目を見る。 「あたし、ゴドー検事の目の前で、みそラーメンが好きだなんて、言った事無いですよ?」 「!」 「それに……霊媒を素直に信じるし……秘術だって、分かってるみたいだし」 ちらり、と真宵はゴドーの方を見る。 (ゴドー検事、悪い人じゃないみたい。何だかあたしの事知ってるみたいだし。それに……優しい感じがする) 真宵は目を細めた。 「……誰を、霊媒して欲しいんですか?」 その言葉に、ゴドーは驚いた。 この少女は、たったその二つを根拠に、この見なれない検事に霊媒を見せてくれると言う。 ゴドーは微かに唾を飲み下した。 「……そう、だな」 肩をすくめ、ゴドーはカップを見詰めた。なるべく真宵の事を見たくなかった。 自分はどうしようもなく卑怯で臆病だ、と心の何処かでゴドーは思った。 ふっ切れない想いが、彼を駆り立てる。 「千尋……」 「え!?」 「…綾里弁護士を、霊媒でもして貰おうか」 ゴドーの言葉に、真宵は思わずゴドーにすがった。 「お、おねえちゃんの事、知ってるんですか!?」 「クッ……言ったはずだぜ、コネコちゃん?」 空のはずのカップをあおり、ゴドーは真宵の方を見る。 「この世界であの女弁護士を知らねえヤツは、コーヒー豆を買いあさって満足している愚かなヤツと同じ、とな」 「さっきとセリフが違いますけど」 「クッ……さっきも末期もねえぜ。アンタは捨てたゴミをまたあさるクセでも在るのかい?」 「在りません!」 「それと同じ、さ。セリフ? そんな物、捨てるために在るのさ」 「それって捨てゼリフじゃあ…」 「早すぎるツッコミ…カッコつかねえぜ」 「突っ込まないとゴドー検事、止まりそうに無いですから」 「クッ……違えねえ」 そう言って、ゴドーはカップをあおった。 「……分かりました」 「ぶっふおおおおおおッ!」 「きゃわああああっ! き、汚いッ!」 真宵が顔をしかめてコーヒーしぶきから避ける。幸いな事に、彼女に掛かる事は無かった。 「本気で、良いのか?」 「良くないですよっ! コーヒーのシミって、落ちないんですよ!!」 「そうじゃなくてだな…本当にアンタ、千……綾里弁護士を霊媒してくれるってのか?」 ゴドーの言葉に、「ああ、それですか」と真宵が言う。 「はい! 良いですよ」 「……良いのかい?」 「む、ゴドー検事。ここまで来て怖じ気付いちゃったんですかー?」 「いや、そう言う訳じゃねえが」 そう言って、ゴドーはカップの中を見る。カップの中は虚空だった。 「けど……アンタはオレを良く知らない」 「まあ、そうですね」 「オレとアンタには、何の関わりも無い」 「なるほどくんとなら在りそうですけどね」 「更に、オレとアンタとは価値観が合いそうにもねえ」 「合う人が居たら見てみたいです」 「そんなヤツの言う事を聞くのかい、コネコちゃん」 「……一つ、聞いて良いですか?」 ゴドーの言葉に答える前に、真宵は尋ねた。 「…言ってみな。聞いてやるぜ」 「どうして、おねえちゃんに逢いたいって、思ったんですか?」 その言葉に、ゴドーは言葉に詰まった。 彼女のその言葉に答える事は、難しくは無い。 逢って、話をしたい。ただそれだけである。 たったそれだけを言う事は、容易な事だ。 以前の、『彼』であったら。 「……クッ」 唇の端を持ち上げ、ゴドーは真宵から目を逸らす。 「オレは新人だからな。法曹界でも有名だった女弁護士サンから色々聞きたいんだよ」 嘘混じりの証言をするゴドー。 その姿をじっと見てから、真宵はうなずいた。 「分かりました。じゃあ、ちょっと待ってて下さいね!」 真宵はそう言ってから、ソファの影に隠れた。一応、秘術と言う事で隠れているらしい。その姿の滑稽さに吹き出しそうになりながら、ゴドーは黙って目を逸らしていた。 元々、直視する事さえ禁忌のような気がしてならないのだ。 いや、もしかすると、逢う事さえ禁忌なのかも知れない。 「……」 何だか、懐かしい感覚がした。ゴドーは思わずソファの影に目を向ける。 そこには呆然と立ち尽くす女性の姿が在った。 先程の法廷と同じだ。 服装、髪型こそ綾里 真宵の物であるのに。 けれど、そこに居るのは真宵ではなく。 真宵よりもっと大人びた顔つき、妖艶さを感じさせるような肢体がそこにある。 常勝の女弁護士。 成歩堂の師匠。 そして…… 「…千尋」 「!」 そして、彼がまだ『彼』だった頃の……後輩。 綾里 千尋がそこに居た。 「……数分ぶりですね、検事さん」 「……」 始めは驚いた表情をしていたが、やがて自分の置かれた状況を理解したのか、にこやかに、でも何処か寂しそうな笑顔で、千尋がゴドーに声を掛けた。 その言葉に対し、何も言う事が出来ないゴドー。 話したい事は沢山在った。 けれど、彼女を目の前にした時、ゴドーは言いたかった事全てを頭の中から消し去ってしまった。 「何か、わたしに用事ですか?」 「……! あ、ああ…」 やっとここまで来て、ゴドーは我に返った。 こんな所で呆然としていては意味が無い。 その2