約 243,077 件
https://w.atwiki.jp/msityureview/pages/29.html
540円 赤い少女のカチェロット 分量 7/10 シチュ 4/10、ゲーム性5/5 かなり厄介な難易度とシーンの遠さ-1 15点 「ほのぼの」 ゲームとしての分量は多いが、シーン数はそこまでじゃない。安いから分量的には甘い採点。登場キャラのゲームがほかにもある模様。 男性受けな雰囲気があるが、女性上位 はそこまで多くもない。 ゲームとしては遊びがいがあるが、シーンまでが遠い……後、最も簡単にしてもむちゃくちゃすると詰む。難易度はかなりのものであり、めんどくさく感じる人もいるかも。 byドM162号 カチェロットクリアしたやついる? マジめんどいんだが カチェロットは先々週2日ぶっ通しでやってクリアできず、該当のMシチュは指カンチョウだけ 終盤あるのかもしれないが、ほぼ終盤であのCG枚数は無い ゲーム的に変わったシステムでもご褒美CG無いんじゃ乗り切れない スレ32の250、258 編注:遊びがいがある一方で難易度が非常に高く、シーンが遠いので軽くやりたい人には向かない。また、ダイスロールのところで動作が止まってフリーズする人もいるので注意
https://w.atwiki.jp/gummi/pages/45.html
サワーズ 赤いちご味&白いちご味(ノーベル製菓、グミ) スペック メーカー:ノーベル製菓株式会社 内容量:45g 発見日:2015年12月22日 入手場所:セブンイレブン大田洗足池店 食レポ サワーズシリーズの2種類混合いちご味。 白いちご味のほうが酸味が強いが、どちらもそれほど大きな違いはないかも。 サワーズシリーズで2種類の味が混ざっている物は珍しい。 味わいは、やはりサワーズシリーズらしくお菓子感のある甘酸っぱくファンシーな風味。 味(5点満点) 硬さ 5点 柔らかさ 1点 食べ応え 4点 硬いので長持ちする 酸っぱさ 2点 甘さ 4点 赤いちご味はお菓子らしい甘さ 味のリアル感 1点 特に白いちご味はケミカルな味 その他 2種類の味が混ざったサワーズは歴史上貴重か。 総評 2点(5点満点) (個人的感想です) 白いちご味がものすごく、子供向けの舐めても平気なイチゴ味の歯磨き粉みたいな味になってしまっているのが残念。 赤いちご味の方が どちらの味も味のリアル感は弱く、いかにもお菓子の「いちご味」といった仕様になっている。 全体にまあ美味しいのだがすごく美味しいというわけでもなく、特にこのいちご系商品がひしめく2015年12月のグミ市場では見劣りしてしまっているように感じる。
https://w.atwiki.jp/legends/pages/844.html
…カプセルの中の人型の命を奪いながら進んでいく 赤いはんてんに、こんな事をさせなければいけない事実 それに、赤マントは悩む ……あそこで、エレベーターに乗らなければ良かったのか? 否、廃ビルに、逃げ込まなければ良かったのだ しかし、後悔しても仕方ない 今は、自分たちが自分たちで在り続けるために…自分たちが、できることをしなければならないのだ 「赤いはんてん、プレゼントですっ!!」 ぽっぽっぽっぽっぽ 赤いはんてんが見えている範囲の人型に、次々浮かぶ赤い斑点 容赦なく命を奪う呪いの奇病 他のトイレに出没する、「赤」を冠する都市伝説…赤マントや赤いちゃんちゃんこたちと、赤いはんてんは、似ているようでどこか違う存在だ 他の「赤」を冠する都市伝説が、赤い衣服を纏っているかのように相手を血塗れにさせるのに対し…赤いはんてんは、「はんてん=斑点」と言う語呂合わせから、相手に斑点を浮かび上がらせる そして、「赤い斑点=致死性の伝染病」と言う関連から、呪いの奇病を発させるのだ 伝染性が低くなっているのが、幸いと言えば幸いだろう 無差別に命を奪える力 赤いはんてんのかつての契約者は、それを赤いはんてんに使わせないようにしていた 戦う必要性がある時は、なるべく、青いはんてんの姿で戦わせていたくらいだ 相手を青痣だらけにする青いはんてんの時の方が、彼女が誰かを殺してしまう確立は低いから 「…赤マント?どうしたですか?」 「………いや、何でもないさ」 近頃、昔の事を思い出してばかりだ 自分も歳をとったのだろうか、と若干憂鬱になる ……と、その時 ぞくり 赤マントの全身を、悪寒が走りぬけた 「---っ!?あ、赤マント!!」 「ぬ……!?」 …前方から迫ってくるのは、灼熱の炎 まるで、西洋の竜の口から吐き出されたような、慈悲なき、全ての命を奪う炎 これは…まずい!? 赤マントは、ひらり、マントを翻す 遠くへ 出来る限り、遠くへ、遠くへ遠くへ!!! とにかく、遠くへ移動しなければ 2人とも、この炎に巻き込まれて、焼き殺されてしまう!? 「夢の国」の影響下にある中、どこまで遠くへ移動できるかわからない しかし、出来る限り、炎から逃れる範囲へ……!! 視界が赤く染まりあがり …その直後 2人は、夜空に浮かぶ満月を見上げる位置にいた 「……あぅ??」 「…おや」 …どうやら、地下から、一気に地上へと移動できたようである これは、つまり… 「…「夢の国」の影響が、消えたようだな」 「それ、って…」 そして、傍にあった祭用のスピーカーから、聞こえてくる放送 『悪夢の国は落ちた。各々方始末を着けなさいますよう』 ……あぁ、そうか 「夢の国」は倒されたか、正気に戻るかしたのか だから、赤マントの空間転移が、本来の力を発揮できるようになったのだ 人攫いはどこにでもいる だから人攫いの赤マントはどこにでも現れる 「……終わっちゃった、ですか」 ぽつり 赤いはんてんが、呟いた …結局、自分は仇を取れなかった そうとでも、考えているのかもしれない 俯く赤いはんてんを、赤マントはそっと抱きしめる 「……あぅぅ、苦しいのですよ、赤マント」 「あぁ、すまん。しかし、我慢してくれるかね?何故だか、こうしていたい気分でね」 「あぅ、どう言う理屈ですか、それは……でも、まぁ、許してやるのです。私もなんだか、そんな気分なのですよ」 赤マントの腕から逃れようとしない赤いはんてん …彼女の表情を、赤マントは見る事は、できない 北区、祭会場の一角 突如現れた赤い衣装を纏った2人は、数分後…現れた時と同じように、忽然と消えた 悪夢の国と因縁を持ちながら、しかし、その戦いに深く関わらなかった二人 悪夢の国が倒された時の二人の心境が、どういったものだったのか それは、誰にもわからない… 前ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
https://w.atwiki.jp/maoyu/pages/259.html
村はずれの館の玄関。2年目夏に青年商人が紅の学士(魔王)と『同盟』の方向性を変える交渉をした帰りに、青年商人が紅の学士に求婚した場所。 初出 1-5 1スレ760レス 2009/09/05(土) 23 12 13.90 ――冬越しの村、村はずれの館、玄関 中央大陸の地名 人界の地名 冬の国の地名 冬越しの村の地名 地名 建造物 村はずれの館の内部
https://w.atwiki.jp/touhourowa/pages/208.html
赤い相剋、白い慟哭。 ◆m0F7F6ynuE 人のいない、晴れた人里。 その中を一人、蓬莱山輝夜が歩いていた。 ルナは相変わらず行動を制限されたまま、そして輝夜はカタカタとずぶぬれの体を震わせながら、時折周囲を警戒しつつ、休めるところを探していた。 先ほど輝夜は、冬の妖怪から冷気の攻撃を受けて随分と体が冷えてしまった。行動不能には陥らなかったものの、このままでは体調が悪くなる一方だ。 できれば体を温めて、服を着替えたい。ルナチャイルドを小脇に抱えながら、あまり人に見つからなさそうな場所を選んで、輝夜はさまよっていた。 人里をうろうろしている途中で、二回目の放送が流れた。だが、新しい禁止エリアのこと以外は、ろくに聞いていない。 一回目と同じく、永琳が放送をしている。輝夜にはそれだけで十分だったのだ。 永琳が生きているなら、それでいい。 どれだけ有象無象が死のうが、もはや私には関係ない。 真昼の日の高い時間帯だが、時折吹く風が容赦なく輝夜の体温を奪っていく。もはや彼女は限界だった。 辺りを見回し、適当な小屋を見つけ、中に入った。凍えきった手指に息を吹きかけ、無理やり動かして温める。 そういえば、と、少し前に銃を撃ってから、弾を装填してないことに思い至った。指が動くことを確認してから、バラのままの銃弾を詰め始める。 ウェルロッドの弾を装填しながら、彼女は思う。 今の幻想郷は、穢れに満ちている。 誰かを殺し、誰かに殺され、誰かを恨み、誰かから恨まれる。 自分だけは生きていたいと望み、同じ願いを持つ他者を蹴落とす。利己的な願望から出来ている世界だ。 まぁ、ある程度なら、どこへ行ったって地球人はそんなものなのだろう。昔世話になった翁の家でも、偉ぶった連中が何人も押しかけてきたものだ。 ひとつ、ひとつ。輝夜は5発の弾を丁寧に詰めていく。 もうこの世界は、殺意が極限まで膨れ上がりどこもかしこも破裂寸前だ。 これからもっとたくさんの人妖が死ぬ。もっと数が減っていく。自分だけは、と抜かす阿呆があがき始める。 そんな連中が囚われの永琳のことを気にかけるわけがない。 そう、私しかいない。自力で生き抜いて永琳の元へたどり着いてみせる。 私しか、永琳は救えない…。 輝夜の思考は、そこで一時中断した。複数の足音と、話し声が聞こえてきたからである。 輝夜は、ウェルロッドがきちんと装填されているか今一度確かめ、物陰から大通りをにらみつける。 数は、二人。背の高い女と、ワンピースの女。知らない顔だった。二人とも、それぞれ赤い髪と赤い服という目立つ格好なので、狙いやすくて好都合だ。 一人殺すごとに、一歩永琳へ近づく。輝夜が躊躇うわけが、なかった。 微かな希望を抱いて、紅美鈴と秋静葉は人里に着いた。 鈴仙からの情報によると、穣子に最後に会ったのは、里の東だという。だが、具体的な場所までは聞いていなかった。 しらみつぶしに探してみよう、と二人が歩き始めた時、二回目の放送が鳴り響いた。 情報をくれた鈴仙の様子から、希望はほとんどないのだろうと実は9割方諦めてはいた。 それでも、いざ「秋穣子」の名が呼ばれると、覚悟したはずでも、静葉は涙をこらえられなかった。 「っ…く…ごめ…なさい。もう泣かないっ…決めたのに…。」 静かに美鈴が静葉の肩を抱く。 「…探しましょう。探して…弔うんです。」 静葉はあふれる涙を必死にこらえ、優しく背中をなでる美鈴に強くうなずいた。 そんな静葉を見て、美鈴は思う。 日本の「神」というものが、こんなにも人間じみたものだとは思わなかった。 海を渡り初めてこの国に来た時、「日本には万物に『神』が宿る」という話を聞いて、驚いたことを覚えている。 そして今度は、その「神」と親しくなり、その命を守ることになるとは。全く運命とはわからないものだ。 「神」といえばそれこそ最近やってきた神様たちのように、途方もない力をふるう遠い存在のような気がしていたが、目の前の「神」は、たった一人の妹を亡くし、嘆き、その亡骸を探そうとしている。 人間と、何も変わらない。もしかすると人間よりも人間らしいかもしれない。 「ありがとう、大丈夫。行きましょう美鈴さん。」 目を少し赤くした、静葉が笑う。 静葉さんは私に救われたと言った。でも、むしろ私の方がその素直でまっすぐな心に救われた。 こんな最悪な状況の中で、ただ信じることのどれだけ難しいことか。 『凡人が運命を変えたければ、ただ、意思を強く持つことね。それが運命の力を上回れば、未来は変わる。』 運命を操る私の主人、レミリア様の言葉だ。 誰かを殺さなくてはいけない運命なんて、変えてみせる。誰も殺さずに、生き抜いてみせる。静葉さんを、守り抜いてみせる。 美鈴が決意を新たにした、その刹那。 二人が顔と顔を合わせていたその間の空間を、音もなく銃弾が空を裂き、その先にあった塀にひびを入れた。 最初に反応したのは美鈴だった。即座に静葉の腕をつかみ、物陰に投げ飛ばす。 「そこから動かないで!!!」 叫びながら、跳ねるように美鈴はジグザグに動き回り、狙撃者の姿を探した。 横に飛び退く美鈴の足元の土が、爆ぜた。 油断した!! 誰がいるかもわからない場所で不用意に体をさらした後悔の念に駆られながらも、美鈴の頭は冷静に状況を分析する。 美鈴は、パチュリーや慧音など知識人たちほど頭が回るわけではないが、同じ性質の攻撃を見きれないほど頭が悪いわけでもない。 ルーミアから銃撃を受けた際に、ある程度「銃」と「銃弾」というものについて対策を考えていた。 「(弾幕ごっこに例えれば、銃弾っていうのは、ものすごい速さでこちらに直線で向かってくる小さな弾…。 追尾したり曲がったりすることはないみたい。だから射撃軸線上にいないように、横軸をずれてでたらめに動けば多分当たらない。 そして弾はまっすぐこちらに向かってくるから、銃弾の向こう側に、敵がいる!!!)」 美鈴は、大通りを猫のようにくるくると跳ね、土を蹴り、二度あった銃撃の延長線の交点を探した。 目を凝らすと、かすかに、小さな小屋の窓から不自然な日光の照り返しが見えた。 「そこかぁっ!!!!!」 近くにあったリンゴ大の石を、小屋の窓に向けて全力投球する。野球選手も真っ青な剛球ストレートは、見事に狙った所へ飛んでいった。 窓を突き破った石が何かにぶつかる音と、どたんばたんと慌てているらしい音が聞こえた。 これで怖がって逃げだしてくれたらとてもありがたいが、二度も撃ってきたところをみると、そう簡単にはいかないだろう。 ここは一度穣子さんの捜索を諦めて、静葉さんと安全なところに逃げた方が賢明だ。 背中を気にしながら、美鈴は投げ飛ばした静葉のもとへ駆け、ひょいと抱える。強く投げ飛ばしすぎたようで、静葉は少し目を回していた。 「逃げますよ、しっかりつかまっててくださいっ!」 静葉を横抱きにしたまま、姿勢を低く保って駆け抜ける。美鈴の頭があった位置のかなり上を銃弾が抜けた。 「ッ……当たらない…」」 対する輝夜は、撃った端からことごとく避けられて、徐々に顔を紅潮させてきた。 おまけに石まで投げつけられた。さすがにこれには驚いて思わず悲鳴を上げてしまったが、ルナチャイルドの力で外に漏れていないはず。 もう一度視線を外に向けると、赤い髪の女が背を向けて逃げようとしている。逃がしてたまるかとろくに狙わず撃ったが、勿論当たらない。 3発撃ったので、残り2発。もう超近距離から確実に撃ち殺さなくてはならない。 「こちらから行かなきゃ、駄目ね。立ちなさい、ルナ。」 怯えて頭を抱くルナを抱えて、スキマ袋から予備マガジンと破片手榴弾だけ取って輝夜は小屋を飛び出した。 ちなみに、輝夜の撃った弾が当たらなかったのは、輝夜が銃を扱いなれていないという理由以外に、三つある。 美鈴の判断力と素の身体能力が高かったことと、使用している銃が災いしている。ウェルロッドは特殊作戦用の銃で、減音と携帯に重きを置かれている。 故に、普通の拳銃より命中率が高くなく、敵に密着、あるいはかなり接近してから撃つのが原則だ。この銃は、熟達した人間が使用して、初めてその力を発揮する。 そして、輝夜はいまだに体の末端まで温まってはおらず、これでは手先が震えて動く的に当てることなどできるわけがない。 輝夜はそこまでこの銃を知っているわけではなかったが、もっと近づかないといけないということだけは気づいていた。 獲物を逃がすわけにはいかない。あいつらの屍を積み上げて登った上に、永琳がいるのだから。 …まずい。 細い路地を選んで北に走っていた美鈴は、右腕の違和感が大きくなるのを感じていた。静葉に応急処置をしてもらったものの、また少し傷が開き始めてきたらしい。 抱えられていた静葉も美鈴の異変に気付き、 「美鈴さん、おろして!もう歩けるから!!」 と、がっちり自分の体をホールドしていた美鈴の腕から無理やり降りた。 美鈴が辺りを見渡しながら、息を整える。 「はぁ…はぁ…すみません、油断してました…」 「私も気を抜いてたわ…そうだ、どこか撃たれてない!?傷は…」 「大丈夫です。随分と下手くそなようで、かすりもしてません。」 不安で青くなっている静葉を元気づけようと、美鈴は無理やり笑った。 「多分もうすぐで里を抜けます。一時撤退、ですかね…。」 美鈴が背後を振り返り、追跡されてないか耳をすませる。 タッタッ……タッ…と、変に途切れた足音がだんだん近づいてきていた。どうやら決着がつくまで殺し合いをする気のようだ。 「静葉さん。」 注意を足音に向けたままで、静葉に声をかける。 「時間を稼ぎます。紅魔館へ向かってください。場所は地図に書いてあります、そこで待ち合わせましょう。」 「だ、ダメよ!!相手は銃を…」 「だーいじょうぶですよ。言ったでしょう、下手くそだ、と。」 少しだけ振り返り、にこ、とまた美鈴は笑った。 「適当に撒いたら私も紅魔館に向かいます。それから今後のことを話し合いましょう。さ、行って!」 無理やり、さも朝飯前かのように腕をぐるぐると回して臨戦態勢に入る美鈴。それを見て少しの逡巡の後、静葉は里の出口へ向けて駆けて行った。 静葉が行ったのを見届けて、もう一度、足音の主へ注意を向けた。むき出しの殺意が体に刺さる。 「さて……加油、紅美鈴!!」 拳を握り気合いを入れ、体中の気を高める。 ほんの少しでも、相手の殺意に押し負けるわけにいかなかった。 美鈴を追う輝夜は、走りながらあることに気付いた。 徐々にではあるが、足音が漏れているのである。ルナチャイルドの能力はONにしてあるはずだった。 仕方なく立ち止まり、ルナチャイルドにつけられた首輪の沈黙スイッチをOFFにする。 「ちょっとルナ、消音出来てないじゃない、どういうことよ。」 「ヒッ……た、多分もう月が出るまで音消せない…エネルギー切れだと思う…」 おびえた顔をして、ルナチャイルドが答える。輝夜は舌打ちをして、ルナチャイルドの能力スイッチと拘束スイッチを切る。 「あれ…動ける…」 「抱えて動く余裕はもうないから、頑張って私についてきなさい。貴女は知らないだろうけど、私から離れると貴女の首輪が爆発して、死ぬからね。」 実際は輝夜じゃなくても参加者が近くにいさえすれば爆発することはない。真実と嘘をほどよく織り交ぜて輝夜はルナチャイルドを言葉で拘束した。 その台詞にまたびくっとおびえるルナチャイルド。これなら逃げ出すことはないだろうと輝夜は目線を道の向こうに戻す。 美鈴が逃げ出した方向を見やると、お店やお茶屋が乱立する商店街のような通りがあり、少し脇道に入っただけで入り組んでいて、探し出すのに骨が折れそうだった。 まだ着替えてもいないのに鬼ごっこをやる羽目になるなんて、と輝夜の怒りのボルテージがまた徐々に上がり始める。 その時、輝夜は視界の外にかすかに「紅」をとらえた。 とっさに上体をそらすと、輝夜の鼻先を突進してきた美鈴の拳がかすめた。 逃げたと思いこんでいた方角の、反対側。まったくの死角からの攻撃だった。輝夜が気づけたのは幸運としか言いようがない。 輝夜も、いきなり襲撃を受けたにもかかわらず、苦しい体勢ながら銃の照準を美鈴に向けようとするが、その前に地面に這うように伏せた美鈴の足払いを受けて、見事に転ばされた。 「っ…!!!」 追撃を恐れた輝夜が再度銃を構えて狙い撃つが、被弾する前に美鈴はまた物陰に隠れて姿をくらましていた。 さて、どうしようか。 転倒した輝夜にわざと追い打ちはせず、美鈴はすぐに退いて輝夜から見えない位置に身をひそめた。 あくまで静葉が逃げ切るまでの時間稼ぎであり、輝夜を倒す必要はないからである。 銃を奪って無力化することが出来たらラッキーだが、無理はせずヒットアンドアウェイの戦法で逃げる算段である。ここで自分があっさりとやられて、輝夜が静葉の元へ向かわれたら困るのだ。 だが、輝夜の姿を見て、美鈴はある一つの可能性に思いいたる。 着物に長い黒髪、ね。もしかして、あれが噂に聞いた永遠亭のお姫様なんだろうか?あんな華奢な子がバンバン撃ってくるなんて、正直意外だった。 でも、本当にそうだとしたら好都合だ、この最悪なゲームの元凶に一番近しい人物じゃないか。もしかしたらこのゲームを終わらせる切り札になるかもしれない。 ゲームから脱出する方法を知っている可能性もかなり高い。 …これは一度「お話し」する価値がありますね。 美鈴は何かを決意し、身を隠しながら輝夜に聞こえるよう大声で叫んだ。 「貴女!!!もしかして永遠亭の人ですか!!!!」 それを聞いた輝夜も、声の聞こえた方角へ向けて答える。 「ええそうよ!私が永遠亭の主、蓬莱山輝夜!!」 やはりか、それならばと美鈴は必死に頭の中で相手を挑発できそうな台詞を探す。 「わ、私は紅く気高き悪魔の館を守る門番、紅美鈴だっ!!!お前が如きお、愚かでか弱き人間など、私の拳でね、ねじ伏せてやるっ!!!」 相手を見下し挑発する、と考えて、美鈴の頭で一番に出てきたのが、美鈴の主のレミリア・スカーレットだった。 レミリアが言いそうなことを考えに考えて言ってはみたものの、案の定噛んだ。 「(挑発なんて、やったことないですよ…こんな台詞、私じゃ言えませんお嬢様…)」 それを聞いた輝夜が、ほんの少しだけ噴き出しながら、また美鈴に話しかける。 「じゃあ何?貴女は私を倒すというのかしら?」 輝夜があからさまに馬鹿にするが、もう言いだしてしまっているので後には引けない。美鈴はめげずに続ける。 「そ、そうだ!貴様だけじゃなく貴様の関係者、皆根絶やしにしてやる!!!紅魔の力を侮るなよーっ!!!!」 なんだこの台詞…私って一体何者なんでしょう…。 ほとんどやけっぱちで言ったセリフだが、少しだけ輝夜の反応が変わった。 「へぇ…私の関係者、ねぇ。」 声色が変わり、わずかに殺気が強くなる。 「そ、そうだとも!何だったか!?えいらんだったかとれいせ…」 「永琳よ。」 殺気が、今までよりも強く美鈴へ刺さってきた。言葉に籠る怒りがはっきりと伝わってくる。 『永琳』がキーワードか。美鈴は言葉の追い打ちをかける。 「そいつから倒してやろう!!いまごろどこで、這いつくばっているんだろうな!」 言い終わった辺りで、また一段殺気が強くなる。それだけで射殺されそうな気がしてしまうほどだった。 「…言うわね、木っ端妖怪が。」 低く、輝夜が呟く。 脳みそが空っぽだとしか思えない台詞を吐く妖怪に、永琳を虚仮にされたことがとても気に入らなかった。 「やれるものなら、やってみなさい。こちらこそ、貴女程度の妖怪なんて殺すのは造作もないわ。」 一歩、輝夜が美鈴の方へと踏み出した。美鈴をあざけるように、宣言する。 「難題とはとても呼べない。でも、貴女の死も永琳への一歩よ。随分とお安い挑発だけど、乗ってあげる。自分の頭の悪さを後悔するがいいわ。」 また一歩、輝夜が美鈴の元へ迫る。 「(よし、何とか上手くいった…!)」 輝夜が確実に自分に迫っているのを確認してから、静葉が逃げた方角とは反対の道を選び、美鈴は駆けだした。 通り過ぎる店々の中からあるものを探しつつ、美鈴は逃げ続ける。 銃というのは、距離を離せば離すほど、当たらなくなる。まぁ当然ですね。弾幕ごっことほとんど一緒。 ならあの銃の射程よりも離れた位置から攻撃すればいいのか、と言っても私は弾幕張るの苦手なんですよねぇ。 それなら、あのお姫様は肉弾戦が得意そうには見えないから、隙をついて一瞬で接近して、沈める。これですね。 路地を駆け抜け、入り組んだ道をでたらめに、でも少しでも静葉から遠ざかるように選んで進む。途中で一度後ろから銃声が聞こえたが、明後日の方向へ着弾し怪我はない。 途中で、美鈴はがらんどうの店先から白い座布団と赤い布を失敬した。座布団を丸めて自分の着ていたベストを着せる。 「不入虎穴、不得虎子。いっちょ、やってみますか。」 逃げ続ける美鈴を追って、とうとう輝夜は里の外れまで来てしまった。最初に美鈴を追いかけた方向とは正反対の南であるので、相当の距離を走らされたことになる。 「はっ、はっ…よく走るわね…もう!」 膝に手をついて、肩で息をしてしまう。なにせ普段はふよふよと飛んで移動するため、ここ最近マラソンなどした覚えがなかった。 「鈴仙と…一緒に訓練でも…してみるべき…だったかしら…。」 汗が額から垂れてきた。もともとびしょぬれだった服が体温の上昇で蒸れて、不快度指数が天井知らずに上がっていく。 「潔く殺されなさいよ…あの妖怪…どこに…」 里も外れまで来ると、建物はまばらになる。ぎらぎらとした目を四方八方へ向け、どこかに隠れた美鈴を探す。 時刻は真昼、太陽も空高く、輝夜の額からまた一筋汗が垂れる。 その、燦々と輝いているはずの太陽の光が、一瞬輝夜から隠れた。太陽をさえぎるように輝夜に何かが向かってきたのだ。 逆光であったが、赤い色が太陽に煌めくのを輝夜の目がとらえた。 「(来た!!)」 反射的に空に銃を構えて…すぐ自分の誤りに気付く。 白い座布団に赤い布を半分押しこんで、ベストで丸められた…囮だった。 さっと顔から血の気が引く。しかも太陽の方角を向くように投げられたせいで、太陽光を直視してしまった。 顔をそむけた、一瞬の隙。その隙を突いてすぐ近くに隠れていた美鈴は輝夜の懐をめがけて、突進した。 慌てて銃を向けるも、それよりも速く美鈴は輝夜の目の前まで接近し、懐へもぐりこむ。ここにきて砲身の長いことが仇になった。 一撃。美鈴の手刀が輝夜の右腕をはじく。手首の内側を正確に叩かれ、持っていた銃が明後日の方向に飛んでいった。 輝夜の体もはじかれた勢いにつられてバランスを崩す。このチャンスを見逃さず、美鈴は腰を落とし、構えた右手に気をためる。 「激符!!」 一瞬で美鈴の周りの空気が固まり、右手に収束していくような錯覚を輝夜は覚えた。だが体勢の立て直しが間に合わない。 「『大鵬拳』!!!!!!!」 掛け声一発、輝夜は腹に正拳突きを食らい、放物線を描いて青空の向こうに吹き飛ばされた。 美鈴は地面で呻く輝夜の元まで走り、気絶しているのを確認してから、飛んで行った銃を回収した。 見たときから思ってましたけど、へんてこな銃ですねぇ、トンファーみたい。 でもまぁ、これで無力化は完了。あとはちょっとばかり情報を仕入れましょう。 わざと水月(みぞおち)から外しておいたし、死んではいないはず。 まぁ、それでも鍛えてる人じゃないから、しばらく動けないでしょう。 ここで、何かしらの手枷をはめるなどをしなかったということが、美鈴の甘さを表している。 いつもなら優しさとなるその甘さがここでは命取りになるということを美鈴はわかっているのだが、生来の性格なのか、ここにきてもそれを捨てきることが出来なかった。 美鈴がなんとなく周りを見渡すと、少し離れたところに小さな人影が倒れているのを見つけた。 赤いものがかすかに見える、怪我を負っているようだった。 美鈴は一瞬迷ったが、助かる命かもしれないとその人影の様子を見に行ってしまった。 人影の輪郭が見えてきた。二本の大きな角が生えている、鬼だろうか…。 美鈴が声をかけようとした瞬間、草の擦れる音と嫌な気配がした。振り返ると、倒れていたはずの輝夜がしっかりと立ち上がって、手に何かを持っていた。 「死ねえええええええええええ!!!!!」 とっさに美鈴が背負っていた自分のスキマ袋を広げるのと、輝夜が手に持っていた破片手榴弾を投げたのは、ほぼ同時だった。 閃光、そして、炸裂。 美鈴の眼前の世界は、白く消えていった。 体が、よくわからない。痛くないけど、間違いなく流れているはずの自分の気が読めない。 腰から下が、一番わからない。もしかしたらもうないのかもしれない。 もうすぐ、死ぬ。たぶん。からだから気がぬけていくから、きっとしぬ。 驚異的な反射神経とスキマ袋のおかげで、美鈴は頭部及び上半身への破片の直撃だけは免れた。 だが、飛んできた破片で両足は完全に破壊され、美鈴は先ほどの瀕死の鬼のすぐそばに吹き飛ばされたのだ。 焼けて痛々しい美鈴の腕が、空を泳いで、鬼の体に触れた。 おにさん、まだいきてる。 でもたすけなきゃ。たすけなきゃ、しんでしまう。 しんじゃ、だめです。たすけなきゃ、はやくたすけなきゃ……… 薄れる意識の中で、美鈴の頭にあったのは、ただそれだけだった。 輝夜は、ようやく終わったと、大きなため息をついた。 美鈴の強烈な一撃を受けた時、確かに輝夜は一瞬意識が飛んだ。 だが制限を受けてもそこは蓬莱の力を得た月人、普段とは全く比べ物にならないものの、常人よりはわずかにダメージからの回復が早かった。 これで体を拘束されたら厄介だったが、美鈴は銃だけ奪って輝夜から離れてしまったので、輝夜は気を失っている振りをして、じっと機を待った。 そして、十分に自分から離れたのを見て、懐に隠し持っていた破片手榴弾を投げつけたのだ。 いままで溜まっていた鬱憤が一気に晴れて、気分がいい。輝夜はとても清々しい笑顔で美鈴のもとへ優雅に歩いて行った。 微かにまだ美鈴は動いていた。とどめを刺そうと、同じく吹き飛んだウェルロッドを回収して、銃口を美鈴の頭に密着させて引き金に手をかける。 「まったく、こんなにイライラさせてもらったのは久しぶりだわ。これでもう外さないからね。さようなら、紅美鈴さん。」 迷わず引き金を引いた。だが、カチンと鳴るだけで何も起こらない。弾切れだ。 「あぁ、そうだ。私ったらここに来るまでに全部撃っちゃってたんだわ。」 いけないいけない、と懐から予備マガジンを取り出して、のんびり交換する。今度こそ、ウェルロッドに5発の弾丸が込められた。 これを始末したら、そこの鬼にも念のためもう一発、おでこに撃っておきましょう。あんだけ撃ったのにまだ死んでないみたいね、さすが鬼。まぁ今終わらせるわ。 そうしたら、スキマ袋を回収して、別の方向に逃げたらしいもう一人を探して… もう勝利が確定していると思っている輝夜の、余裕だらけの思考は、そこで止まった。 なぜなら、どこから来たのか分からない『炎の剣』が、自分の腹から顔を出していたからだ。 呆けた顔で振り返った輝夜の視線の先には、歯をカチカチ鳴らしながら剣を握っている秋静葉と、精根尽き果てて地面に座り込むルナチャイルドがいた。 結論から言うと、静葉は里を出ずに途中で引き返したのだ。理由は単純、美鈴一人を置いていくことが出来なかったから。 震える手を無理やり抑え込む。怖くて怖くて仕方がない。銃の恐ろしさを考えると、今すぐにでも逃げ出したい。それでも、今まで身を挺して自分を守ってくれた彼女をここに置き去りにして一人逃げ出すのは、どうしてもできなかった。 物音を頼りに二人を追いかけていると、子供の泣き声が聞こえてきた。不審に思い声の発生源へ向かってみると、妖精が空を仰いで大泣きしていた。 「うわぁぁぁぁん、おねえさんどこぉぉーっ!!!どこいっちゃったのぉーっ!!!!」 どうやら迷子らしい。この状況で迷子というのも誠に不思議な話だが、どこからどうみても、迷子だった。 「あぁーーーーん!!!やだぁーー!!!!死ぬのやだぁーっ!!!」 「ちょっ、ちょっとあなた、落ち着いて!!ね、お願いだから!」 「ひぇっ!!!!」 声をかけたら、妖精が飛び上がって体をこわばらせた。驚かせてしまったらしい。静葉は努めて落ち着いた声で、優しく話しかけた。 「あなた、こんなところで、何をしているの?誰かとはぐれたの?」 「え、あ、えと、私死んじゃうの!!!このままじゃ死んじゃうのっ!!!助けて!!!」 「…へ?」 静葉が話を聞くと、ルナチャイルドと名乗る妖精は先ほどの襲撃者の支給品で、その襲撃者から離れるとルナチャイルドにつけられている首輪が爆発して死んでしまうことを、ものすごい早口で説明された。このままじゃ死ぬ、とはそういうことか。 離れないように急いで美鈴と輝夜を追いかけながら、二人は情報交換を続けた。 おおよその情報を交換し終えた辺りで、美鈴たちの姿が見えた。 襲撃者が地面に倒れていて、美鈴は何かを見つけたのか襲撃者に背を向けて駆けだそうとしている。 静葉が美鈴さん、と声をかけようとした時、倒れていたはずの襲撃者がゆらりと立ち上がって、何かを投げる構えを見せた。 反射的に静葉が足を止めた次の瞬間、美鈴に向かって投げつけられた「それ」は爆発し、大きな土煙を上げた。 「美鈴さん!!!!」 思わず叫ぶ。ハッとなり慌てて口を塞ぐも、襲撃者は静葉に気付かず美鈴の方へ向かっていく。 かなり大声だったのに、と静葉が不思議がっていると、隣にいるルナチャイルドの様子がおかしい事に気付いた。力を振り絞るように歯を食いしばり、脂汗が顔から滲んでいる。 そういえば、と、静葉は先ほどルナチャイルドから聞いた話を思い出す。ルナチャイルドという妖精は、自らの周囲の音を消す力を持っているらしい。今の大声に向こうが反応しなかったのは、ルナチャイルドのおかげだったのか。 そう考えながら、目を美鈴たちの方向へ戻すと、襲撃者が倒れている美鈴に銃を突き付け、引き金を引いた…が、銃声は響かない。襲撃者が頭をかしげ、銃に何かしている。 不具合でも起きたのかもしれない。 今が美鈴を助ける最後のチャンス、もう猶予はない。でも「アレ」は出来れば使いたくなかった。このゲームが始まってすぐにスキマ袋を開けた時、あまりの恐ろしさにすぐ袋に戻して、記憶の奥にしまいこんだのだから。 でも、ここで何もせずに見ていれば、そのうち美鈴は殺されるのだろう。見れば足が先ほどの爆発で酷いことになっている。早く手当てをしてあげなければいけない。 美鈴を見殺しにするか、襲撃者を倒すか。どちらも選びたくない最悪の選択肢だ。でも美鈴を殺す銃がもうすぐ火を噴いてしまう、美鈴が死んでしまう。 迷ったのは、そこまでだった。 「ああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」 吠えながら、使うまいと誓った西洋剣「フランベルジェ」の柄を握り、一気に襲撃者の背へ向けて刃をつきたてた。 輝夜を倒した後、静葉はすぐに美鈴の元へと駆けた。 「美鈴さん、美鈴さん…」 涙を流しながら、倒れている美鈴の肩をゆする静葉。だがもう美鈴はぴくりとも反応せず、静葉に揺さぶられるがままになっていた。 「嫌だ、なんでぇ、一緒にいるって、ねぇ、美鈴さん。」 ゆする力が強くなる。それでも美鈴から反応は返ってこない。 偶然、静葉の手が、不自然に伸びた美鈴の右腕に触れた。痛々しい傷がまだ残っているその腕だけ、妙に温かかった。 右手は、他の参加者に襲撃されたらしい傷だらけの鬼に触れている。 その小さな鬼は、弾に撃たれたような酷い傷を複数負っているにもかかわらず、血が流れたような形跡もない不思議な状態だった。しかも、その傷跡がすごい熱を帯びている。 どういうことだろう?と疑問に思っていると、 「ねぇ…」 殺したと思った輝夜が、小さく声をあげた。 「お願い…この剣抜いて…邪魔よ…もう貴女たちを殺す力はないから…」 静葉は一瞬怯えた様子を見せたが、どうも輝夜には、言葉通りもう殺意はないようだった。 おそるおそる輝夜のもとへ行き、背に突きたてたままのフランベルジェをゆっくり引き抜く。この剣独特の、肉を引き裂く嫌な音が響いた。 「がはっ…」 「な、なんでまだ話せるの…なんで…」 「貴女が…肺を傷つけなかったからね…でもどの道もう…駄目よ…再生が間に合わない…」 そう言い切ると、うつ伏せに倒れていた輝夜が渾身の力を込めて、仰向けに寝転ぶ。 「な、何を…」 「空、見たかったから…。昼にも月は消えず、空にあるのよ…見えないだけ。」 ここにあるのは、偽物の月だけど。声に出さず、愚痴る。 「行きなさいな…爆発音で人が来る…死にたくないんでしょ、貴女達も。」 「で、でも。」 「あぁ…そこの鬼もひっぱって行きなさい…この妖怪が何かしてたわ…鬼が一瞬…光ってたから。」 静葉がとっさに鬼に振り返った。たしかに呼吸がよわよわしいが、しっかりと生きている。 それに、先ほどは傷の周りだけだったのに、今は発熱しているのではないかと思うくらい体全体が熱かった。 「それと…ルナ、そこにいるのね?」 「う、うん…」 「貴女もどっか行っちゃいなさい…爆発って、アレ、嘘だから…」 どこか投げやりな様子で、言う。ルナチャイルドは最初茫然としていたが、数秒たってから言葉の意味を飲み込み、 「嘘なの…わたし大丈夫なの?」 「えぇ大丈夫よ…大丈夫ですとも…だからもうどっか行って…どっか…」 最後はもう、懇願だった。 静葉は最後に、輝夜と同じくうつ伏せになっていた美鈴を起こし、仰向けにして腕を胸で組ませた。温かいと思った右腕は、もう冷たくなっていた。 最後まで、誰かを守った腕だった。 小さな鬼を背負い、疲れすぎてフラフラになっているルナチャイルドの手をとって、静葉は里へ向かって歩き出す。 時折、輝夜が血を吐く音が聞こえたが、静葉は振り返らなかった。 静葉は、輝夜のことを知らない。このゲームに積極的に参加している人、ということだけしかわからなかった。 ただ、里で銃撃戦を繰り広げたあの勢いが失せ、見えない真昼の月を眺めながら死んでいく輝夜がとても哀れに思えて、美鈴を殺した仇であるはずなのに、復讐しようとか、 とどめを刺してやるとか、そういう気持ちを持つことが出来なかった。 静葉は青空を見上げ、昨夜輝いていた歪んだ月を思い浮かべる。 あぁ、あの人の名前、聞いてなかったな…。 聞けばよかった、な。 【紅美鈴 死亡】 【残り31人】 【D-4 人間の里・南の外れ 一日目 真昼】 【秋静葉】 [状態]軽い精神疲労 [装備]フランベルジェ、ルナチャイルド [道具]支給品一式、紅美鈴の写真、不明支給品(0~2) [思考・状況]妹に会いたい [行動方針] 1. 美鈴が助けようとした命を助ける。 2.手当てが済んで鬼が動けるようになったら、同行を提案してみる。 3.誰ももう傷つけたくない。この不気味な剣も極力使いたくない。 4. 幽々子を探すかどうかは保留 ※鈴仙と情報交換をしました。 ※ルナチャイルドはエネルギーが切れました。夜になり月が出てからでないともう能力は使えません。 ※静葉は輝夜からルナチャイルドに関する説明を受けていません。なので制限等の細かい仕様を知らない可能性があります。 【伊吹萃香】 [状態]体力低下による意識不鮮明 重傷 疲労 能力使用により体力低下(底が尽きる時期は不明。戦闘をするほど早くなると思われる) [装備]なし [道具]支給品一式 盃 [思考・状況]基本方針;命ある限り戦う。意味のない殺し合いはしない 1.にとりたちを捜す 2.紅魔館へ向う。ある程度人が集まったら主催者の本拠地を探す 3.鬼の誇りにかけて皆を守る。いざとなったらこの身を盾にしてでも…… 4.仲間を探して霊夢の目を覚まさせる 5.酒を探したい ※無意識に密の能力を使用中。底が尽きる時期は不明 ※永琳が死ねば全員が死ぬと思っています ※レティと情報交換しました ※美鈴の気功を受けて、自然治癒力が一時的に上昇しています。ですがあまり長続きはしないものと思われます。 [備考] フランベルジェは中世に製作された実在の剣です。詳しくはウィキペディア等を参照してください。 大型の両手剣から細身の片手剣まで様々ありますが、静葉が扱うことのできるサイズということで小さめのものを想定しています。 その他は次の書き手様にお任せします。 静葉達が里に向かうのを見て、輝夜は大きなため息をついた。息を吐くのと同時に、腹の大穴からごぽっと血がこぼれる。 制限下では、さすがにここまで傷が深いと治せない。蓬莱の体は必死に変化に抗っているが、どくどくと脈動に合わせて、変わらず血は吹き出し続けている。 そのくせ、意識だけはやたらと鮮明なままだった。瞼が重くなってはいるが、痛みなどとっくの昔に許容量を越えて、もう何も感じない。 まさか、逃げたと思ったもう一人が後ろから迫っていたとは、全く気がつかなかった。 ルナが寝返ったから…いえ、ただ脅して従わせていただけだから、寝返りとは言わないわね。 血は止まらないのに、頭だけは回る。自分が徐々に死んでいくのを、自覚しながら、逝くのね。 これも、蓬莱の薬を飲んだ罰かしら。いまさら罰を食らうなんて、なんかもう、馬鹿馬鹿しいわ。 輝夜はもう、半ば自棄になっていた。これではもう永琳の元へ行くことは出来ない。地獄で永琳の来訪を待つことしかできないのだ。 他人の命を奪ったから、自分が地獄に連れて行かれるのは間違いない。永琳が地獄に来てくれるかどうかはわからないが、と苦笑した。 それから、ゆっくり目を閉じる。どうせあと自分にできることは何もない、とただ死を待つ。 輝夜が目を閉じると、瞼の裏に永遠亭の皆の姿が浮かび、懐かしい記憶の数々が白黒映画のように映し出された。 まさか、こんなにはっきりと走馬灯を見ることができるとはね。 輝夜は千年を越える時を、数秒のうちにさかのぼった。 月の都で初めて永琳に会った時。永琳から言われた宿題をすっかり忘れていてこっぴどく叱られた時。 蓬莱の薬を永琳と二人で作り、飲んだ時。地上に落とされた自分を、永琳が迎えに来てくれた時。そしてそのまま二人で逃げ出した時。 永遠亭に隠れ住むことを決めた時。月から逃げ出してきた鈴仙をかくまった時。てゐが率いる地上の妖怪兎達が初めて永遠亭を訪れた時。 永琳が自分のために密室の術をかけてくれた時。永琳が、蓬莱の薬を飲んだ時。 そう、私のために。 永琳。 「…えー…りん…。」 声が、思わず出てしまった。輝夜は、これが自分の声かと驚いた。あまりにも弱弱しく、か細かった。 「ごめ…な…さい……私駄目だった…一人…じゃ…駄目だったよう…」 死に物狂いで鈴仙の元から逃げ出した因幡てゐは、わき目も振らず走り続けた。 だが、突如目の前からいきなり爆発音が響き、反射的に頭を抱えて物陰に転がり込む。 きゅ、と目を強く閉じ、異変が収まるまで体を縮こまらせていた。 爆心らしき場所を見ると、見知った着物を着た女性が地に倒れている。 「あれ…ひ、姫様だ!!」 長い艶のある黒髪に桃色の着物、見間違うはずもなかった。 「あ、姫様怪我してる…」 思わず駆け寄ろうとするが、鈴仙の冷たい声が頭によみがえる。 ――姫様も殺し合いに乗ってらしたわ―― 輝夜へと駆け寄ろうとした足が止まった。もう少ししたら再生が始まり、何事もなかったかのように手元の銃を持って輝夜はまた殺し合いへと赴くのだろう。 わざわざ兎肉になりにいくことはない。だが大慌てでバタバタと逃げ出したら、バレて後ろを取られるかもしれない。 息をひそめて、輝夜が動きだすのを待つ。もう少し、もう少ししたら姫様はきっとどっかへ行く。ずーっと遠くへ行ったら逃げよう。 しかし、3分、5分と、ずっと待っていても、輝夜が動きだす気配はない。 まさかこんな状況でほかほか日向ぼっこなんてするわけがない。むしろ呼吸が、心なしか弱々しくなっているような気もする。 ここで、ようやくてゐが異変に気付いた。いくらなんでも再生が遅すぎるのだ。いつもなら、たとえば藤原妹紅と殺し合いをして手足を吹き飛ばす大けがを負っても、10分もかからず元に戻っている。見ればお腹に刺し傷が出来ているようだが、この程度の怪我で立てないほど衰弱するなんて、ありえない。 「――――っ…よ……――――――」 何かつぶやいている。聴覚の良さなら自信があるてゐの耳でも聞き取れないほど、小さな声だ。 「姫様…?」 そろり、そろりと、輝夜に近づいていく。少しでも輝夜に動きがあったらいつでも逃げ出せるように心の準備だけしておき、少しずつ距離を詰めて様子を見る。 だが、全く輝夜に動きがないので、とうとうてゐは輝夜の元まで来てしまった。 輝夜は、静かに涙を流していた。 「姫…様…」 てゐが声をかける。輝夜は閉じていた目をわずかに開き、てゐを見る。 「…あぁ…てゐ…」 「ね、姫様、どうしたんですか。何かあったんですか。」 「てゐ…きいて…」 てゐの問いには答えず、ただ輝夜は言葉を紡ぐ。 「わたし…もうだめ…だか…ら…永琳を…助け…」 「お師匠様?姫様、駄目ってどういうこと?姫様?」 てゐの頭が混乱し始める。暇潰しにゲームに参加している、と言った鈴仙の情報と、目の前の輝夜の状態が全く一致しない。 輝夜の体はまだ血を流したままだ。一向に再生が始まる気配がない。 「姫様、どうして再生しないんですか?ね、姫様は死なないでしょ?死なないはずでしょ?」 「不死も…封じ…られ…」 輝夜は必死にてゐに伝えようとするが、口から血があふれて上手くしゃべることが出来ない。ずっと死という変化に抗い続けた体も、そろそろ限界だった。 不死じゃ、ない? 姫様は何があっても死なないんじゃないの? 暇つぶしのゲームで死にそうになってるって、どういうこと? 「いい…?てゐ…みな…ごろしに…」 輝夜が、最期の力を振り絞って、てゐに自分の願いを伝える。 「皆殺しに…しな…さい…優勝…すれば…あなたも永琳も…助か…る…。生きたい…でしょう…てゐ…。」 輝夜の目から、どんどん光が失われていく。 「ま、待って姫様!お師匠様が助かるって、どういうことなの、姫様!」 てゐがもっと言葉を聞こうと、耳を輝夜の口へ近づける。だが、 「てゐ…貴女が来て…よかっ…た…」 言葉は、そこまでだった。 再び孤独となったてゐは、剣と銃をその手に携えて、その場を離れた。もう後には誰もいない。 はずみで出てきたのだろうか、花弁のほとんど散った彼岸花が、二人を弔うようにぽとりと、ぼろぼろになったスキマ袋と一緒に手榴弾の爆心地に落ちていた。 【蓬莱山輝夜 死亡】 【残り30人】 【D-4 人間の里・南の外れ 一日目 真昼】 【因幡てゐ】 [状態]中度の疲労(肉体的にも精神的にも)、手首に擦り剥け傷あり(瘡蓋になった)、軽度の混乱状態 [装備]ウェルロッド(5/5) 白楼剣 [道具]なし [基本行動方針]死にたくない [思考・状況]1,生き残るには優勝するしかない? 2,輝夜の言ったことがひっかかる。 ※鈴仙から聞いた情報を疑いはじめています。 ※落ちていたウェルロッドはてゐが回収しました。 ※美鈴のスキマ袋は破片手榴弾の直撃を受けてボロボロになりました。中身に関しても絶望的です。 ※輝夜のスキマ袋は里のどこかに放置されたままです。 109 崇拝/Worship 時系列順 112 絆 109 崇拝/Worship 投下順 111 少女、さとり 105 ウソツキウサギ 紅美鈴 死亡 105 ウソツキウサギ 秋静葉 121 繋がる夢、想い、そして―― 86 悪石島の日食(後編) 伊吹萃香 121 繋がる夢、想い、そして―― 86 悪石島の日食(後編) 蓬莱山輝夜 死亡 105 ウソツキウサギ 因幡てゐ 118 吾亦紅
https://w.atwiki.jp/sowaka-fan/pages/177.html
また儚夢(フラジャイル)な恋が Em D Em 悲愴(パセティック)とは呼べない終焉(エピローグ)を迎え Em D G MARO(ボス)からの次の指令(コマンド)を伝える D G 使い魔(メールボーイ)が届く C D Em 壁に映る暗号化映像(クリプトノミコン) Em D Em 鍵映像(キーイメージ)を重ね合わせる Em D G 隠された文字(エクリチュール)を解読(デコード)してみせるの D G 常套句(クリシェ)に伴う作業 C D Em 直ちに我執を振り払えば Em D 標的(ターゲット)しか見えない Em G 男なんてただの気休め Em D 男性用下着(ブリーフ)は加速していく Em G 全速力(フルスロットル)で目的地に向かうの D G 愛用の麗子号(マシン)で C D Em 戦場(オルレアン)に咲いた F C 薔薇(ロサガリカ)一輪 F C 葡萄酒(シノン)で染められた F C 私の赤い数珠(ルシャプレルージュ) A# C 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/epicofbattleroyale/pages/351.html
「あー、混乱する」 休息所として勝手に利用させてもらっていた家からようやく出た途端にこう呟いたのは、他でもない立香であった。 無理もなかろう。黒幕の正体、セイバーの真名、それらに迫る話をしていたさなかに、佐々木小次郎が行方不明という報が上がったのだから。 とはいえ、だからといってここで歩みを止めていては解決する問題も解決しない。 故に立香は英霊と共に歩を進め続けるのだが、 「セイバーの真名が絞られたのはいいよ、凄い収穫だ。ただなぁ……やっぱりヨーゼフ・メンゲレ? あれが困る」 どうしても、愚痴だけは止められなかった。 『すまないね、立香君。やはり開示する情報量が多すぎたな。こちらも〝小出しに小出しに〟とは思ったんだが、いざ本番となると、口がね』 「いや、それはいいんだ。ただまぁ俺みたいな普通怪獣からしてみりゃ、メンゲレの話だけでもかなり頭を使っちゃう感じなんだよなぁ。 だってのに、そこにきて今度は小次郎が行方不明とか……間が悪すぎるんだよ! 甘いもの欲しいなー! 飴ちゃん持ってくるべきだったー!」 立香は頭をがしがしと掻きながら、まだまだ口を開き続ける。 「そもそも〝行方不明〟っていうのが怖いんだよなぁ。なんかまた敵の術中にはまっちゃいましたって感じでさぁ。 例えばほら、アガルタで〝登場人物の一人〟にされたりとか、平行世界で〝英霊剣豪〟にされたりとか……色々あったじゃん、色々と。 ああ、オルレアンではバーサーク・サーヴァントってのもあったよなぁ。やっぱり霊基とか弄られて敵に回ってくんのかなぁ。あぁー、超不安」 『おいマスター。大将はうじうじすんなって言ったばかりだよな?』 するとトサカに来たのだろう。再びモードレッドが通信に乱入してきた。 「分かってるって、モードレッド。だけどやっぱ過去の事件が頭によぎるのだけは止められないっていう話でもあるわけよ、実際。 だからむしろここは、何が来ても驚かないよう今までを振り返って今の内に愚痴ってストレス発散する、って手段に出た俺を褒めて欲しいね」 『相変わらず、口から生まれたみたいな奴だな、お前は……』 『ですがモードレッドさん。実際に先輩のメンタル値は安定してきています。手段はどうあれ、結果が出せるのなら……』 『あー、はいはい。分かった分かった。にしてもマジな話、よくこれで人理修復出来たもんだって改めて思うぜ』 「安心してくれモードレッド。割と自分でもそう思ってる」 『何一つ安心出来ねぇ……』 ともあれ、また本気で叱りに来たわけでもなかったのだろう。 彼女は大きな溜息をつくと、立香に『せめて戦うときくらいは格好良く立ってろよ。それが義務だ』と言い残し、再びマイクから離れていく。 だが立香はへこまない。むしろ愚痴ることに加え、こうした他愛のない会話を交わしたおかげで、かなり不安が取り除かれていると感じていた。 確かな手応えを感じ、最後に残ったひとしずく分の不安を吹き飛ばすようにその場で大きく伸びをすると、 「よっし、じゃあ……本格的に、世界を救うとするか!」 後ろを歩くケツァル・コアトルと燕青へと振り返り、先程まで纏っていたうじうじした雰囲気を脱ぎ捨てて高らかに言った。 ケツァル・コアトルは「ええ」と優しく答え、燕青は「その意気だ、マスター」と愉快げに口角を上げる。 怖れを全て取り除けたわけではない。だがしつこいようだが、ここで歩みを止めていてはどうにもならない。故に立香は進むのだ。 『しかし水を差すようですまないが、ここから動くとなるとどこへ向かうべきかが重要になってくるな』 「ああ、そこなんだよな」 だがここで、ダ・ヴィンチが口を開く。内容は至ってシンプルであり、なおかつ真っ先に考えるべきことであった。 そもそも立香達はまだ敵の根城を突き止めていないのだ。このまま適当に進んだところで、当然だが事態は進展しない。 故に、考える必要がある。読んで字の如く〝方向性〟をだ。 「ちなみにダ・ヴィンチちゃん、俺らってさ……今どこにいんの?」 『ああ、失念していたよ。君達の現在地はコロンビア。南米大陸の北部だな。加えてその町自体も、コロンビアの中でも北に位置している様だ』 立香の質問に、ダ・ヴィンチは素早く解答する。 するとここで燕青が「ほうほう、成程ねぇ」と、したり顔で話し始めた。 「マスター、姐さん。この大陸はかなり広い。にも関わらず、俺達は到着してすぐ……それこそまさに〝息つく間もなく〟戦う羽目になった。 しかもあの武装した子ど……ホムンクルスだけじゃなく、二騎ものサーヴァントとも出会うおまけつきだ。これが何を意味するか、解るか?」 探偵の推理ショーじみた言葉に、立香は「いや……?」と顎に手を当てる。 一応、考えてはみるのだがさすがにすぐには思いつかない。結局、立香は両手を挙げて素直に「降参」と宣言した。 一方でケツァル・コアトルとダ・ヴィンチは察しが付いたようで、各々で〝なるほど〟という旨の相づちを打つ。 そうした光景を一通り眺めて満足したらしい燕青は、片手の人差し指を立てて「いいかぁ?」とウィンクすると、 「俺達は大陸の端っこにいる。それも北に位置する国の更に北部にだ。だってのに俺達はあろうことか〝サーヴァントと〟交戦した。 サーヴァントは敵さんにとっては最高戦力であるはずだ。なのにそんな大事な連中が、なんと同時に二騎も出てきたっていうじゃないか! それならもう自然と相手の狙いは絞られる! そう、敵さんは〝戦力を北に集中させてる〟のさ。恐らくは北アメリカの占領を考えてな!」 実に大胆な話をぶちかましてきた。 「って、待て待て待て燕青。じゃあむしろ、ここが本拠地に近いから二騎もサーヴァントが来たって可能性も高いんじゃないか? しかも数が多いのはサーヴァントだけじゃない。ホムンクルスだってそうだった。まるで津波みたいに押し寄せてきてたじゃんか」 ほぼ反射的とも言える勢いで立香は反論する。 「確かにそう考えるのも悪くはないな。だがそうなると〝出てきたサーヴァントは二騎だった〟という事実が奇妙に映ってくる。 ほぉら、考えてもみろよマスター。もしも俺達が本当に本拠地近くに来ちまってたとしたら、敵さんには戦力をケチる理由が全くない。 梁山泊のやり方が異常だって言われりゃそれまでだが、少なくとも俺が敵さんの立場だったら、迷わず〝ありったけの戦力で潰す〟な!」 だが燕青の話は途切れなかった。 「ええ、燕青の言う通り! たった二騎……本拠地を護らせるために出撃させる数としては、あからさまに少なすぎマース!」 「更に付け加えようか。百歩譲ってあの二騎が〝俺達カルデア組に対する斥候だった〟と考えた場合、今度は新しい違和感が生まれてくる。 もうマスターも気付いてるだろう。そう……ホムンクルスの数だ。斥候役として動かすにはあまりにも多すぎる。はっきり言ってお粗末だ」 「た、確かに……」 「だから俺達がやるべきことは〝南下〟だ。そうすればいずれ本拠地も見つかるだろうし、同時に敵さんは北米攻略を企む場合じゃなくなる。 俺達が黒幕目指して移動するだけで、相手の予定が乱れちまうわけだな。そうなれば一石二鳥。この状況下では、かなり有効的だと思うがね」 それどころか説得力が増したと感じ、立香は圧倒されてしまう。 「故に我が主……どうか、ご検討いただければ」 そういうわけで、そのまま従者ムーヴに移った燕青に対し、立香は「じゃあそうしようか」と迷わず答えた。 だがそれは同時に、ある一つの悩み事を発生させる返事でもあった。 ずばり、移動手段である。 「でもどうするよ? さすがに南米大陸を徒歩で縦断コースだけはマジで勘弁したいんだけど?」 「あら? でも私、聞いたわよ。マスターは英霊達と共に、あの北米を横断して悪を討ったって!」 「あれは〝結果的にそうなっちゃった〟だけで、望んでやったわけじゃないんだよなぁ……」 「北米横断! ひえぇ、事実は小説よりもなんとやら、か」 「お前それ荊軻さんへの持ちネタだろ。雑に使うな雑に」 大きな溜息を零した立香は「まぁ、現代だから車くらいはありそうなのが救いか」と辺りへと視線を向ける。 だがすぐさま視界に自動車が入るほど、特異点は甘くない。 「仕方ない。探すか」 「だがマスター。見つかったとして、誰が運転するんだ?」 「何言ってんだ燕青。そこに騎乗スキルEX持ちの素敵なお姉さんがいるじゃんか」 「あぁ……でも姐さんの騎乗って言われると、リング上でカウント取ってもらうイメージしかないんだが」 「大丈夫よ、燕青。アーサー王がバイクに乗る時代だもの。だったら神様が車の一台や二台運転したところで何も問題ありまセーン!」 「理論武装してるぅ」 というわけで三人は、車探しのために町の中を注意深く徘徊するのであった。 ◇ ◇ ◇ 「マスター、姐さん、来てくれ! 良さそうなのが見つかったぞ!」 「マジで!? どれどれ……おぉー、燕青やるぅ!」 「だろぉ? あからさまに頑丈そうなのに加えて荷台付き。色も悪目立ちしない黒ときた。なかなかの上物だと思うがね?」 「ええ、いいわね。機構もシンプルそうだし、大陸縦断には丁度よさそう……だけど、鍵はあるのかしら?」 「ああ。車の近くに落ちてたからその心配はない……問題があるとすれば〝どうして近場に落ちてたのか〟ってところなんだが」 「……燕青。その鍵、差し込む部分の色が絵の具で塗ったみたいに赤黒いけど、人がいない町でそんなになってるってことは、つまり……」 「まぁ想像通りだろう。恐らく、こいつの元の持ち主が逃げようとしたところで運悪く敵さんが……」 「二人とも、それ以上の追求はやめましょう。解りきったことをわざわざ口にすることなんてないわ」 「……そうだな。悪かったよ、ケツァ姉」 「はい。じゃあそういうわけで……ごめんなさい、元の持ち主さん……車、お借りするわ。どうか私達を見守っていて……」 といった会話を交わしてケツァル・コアトルがハンドルを握ってから、どれほど時間が経っただろうか。 立香一行は燕青が提案した通り、ありがたくレンタルさせてもらった自動車で南下を続けていた。 運転席には勿論ケツァル・コアトルが、そして助手席には立香が座り、燕青は荷台で腰掛けたまま辺りを警戒している。 鍵の問題が解決した理由も〝アレ〟だったせいだろう。随分と重苦しい雰囲気が充ち満ちた移動だな、と立香は感じていた。 おかげで、視界に入っては消え去っていく建物に対しても何の感慨もわかない。 「誰かこの車のトリビア教えてくれー」 というわけで、精神的な負担を軽減するために立香はカルデアへと通信を飛ばした。 その声にすぐさま応えたのはマシュであった。 『先輩方が乗っている車についてですか?』 「まぁ、暇つぶしにな。トヨタのマークがあったから、作った会社はそりゃトヨタなんだろうなってのは解るんだけども」 『なるほど。退屈を吹き飛ばせるかどうかは、この私にかかっているわけですね……では……』 「え、もう語れんの? 早くね?」 『モニタリングしていますからね。移動手段に用いたもののデータも、念のため把握しておくのがスタッフの務めです』 毎度毎度凄ぇな……立香は素直に感心する。 そして頑丈そうなビルが視界を横切った直後、マシュによるトリビア披露タイムが始まった。 『まずその自動車の名は〝ハイラックス〟です。先輩が仰る通り、というよりもエンブレムが示す通り、トヨタ自動車が開発しました。 名の由来は英語で〝高級な〟や〝優れた〟といった意味のHighに、更に〝贅沢な〟や〝豪華な〟という意味のLuxuryを合わせた造語です』 「ハイラックス……そんな名前だったのか、こいつ」 「あら、動物の名前じゃないのね?」 ケツァル・コアトルも雰囲気に耐えきれなかったのだろう。 彼女もマシュの話に相づちを打った。 『元々の設計思想が〝乗用車と肩を並べられる程の豪華なピックアップトラックを目指す〟というものでしたからね。 ですがこのハイラックスを知った人々が注目したのは、豪華さだけではなく……燕青さんも仰っていた〝頑丈さ〟でした。 道路事情の悪い発展途上国や、険しい道を進まざるを得ない趣味を持つ方々から歓迎されていた事実がそれを証明しています』 「へぇ。それじゃ燕青の見立ては間違ってなかったのか」 『また、BBCで放送されているイギリスの自動車番組〝Top Gear〟では、この車がどこまで頑丈なのかを試す回がありました。 身体を張る実験車となったのは、イギリス向け仕様の四代目ハイラックスの中古車です。皆さんが乗ってらっしゃるものと近いですね。 そんな中古車に対し、まずは〝階段を下らせて木に激突させる〟というジャブを放ったのを皮切りに、番組は悪ふざけを続けていきます。 車体を海中に五時間沈め、解体用の鉄球をぶつけ、小屋に体当たりさせ、最後には高層ビルの屋上に放置し、そのビルを爆破解体させました』 「うっそだろオイ」 笑いをこらえきれないのか、ハンドルを握るケツァル・コアトルの両肩が震えている。 だがそんなことはお構いなしというように、マシュは言葉を続けた。 『結果、車がどうなったかというと……なんと、その場で基本的な工具による修理を行っただけでエンジンがかかりました! それどころか自走してスタジオに到着するという偉業までも達成し、出演者達から大きな拍手を受けるというおまけつきです!』 「マジかよ! 中古車でそれって……おいおい、どうなってんだこの車」 『ですがその頑丈さ故に、軍隊やテロリストに重宝される……という、いかんともしがたい問題も生まれてしまっています。 事実〝チャド内戦〟ではハイラックスなどのピックアップトラックを、政府軍と反政府軍の両者が戦闘車両として改造し、争いました。 そのため、チャド内戦には〝トヨタ戦争〟という、関係者の皆さんにとっては不愉快の極みであろう呼び名を付けられてしまっています』 「長所と短所は表裏一体、ってわけか」 『ええ。また、世を騒がせているイスラム過激派組織〝ISIS〟もハイラックスを使用していますね。 その為、アメリカのテロ対策局が米国トヨタに対し、自動車の入手経路に関する説明を求めたこともあります』 「そりゃそうもなるか……まぁでも、そういう戦いで使われるほど丈夫な車を手に入れられたってわけだから、俺達は運がいいんだな」 突然真面目な話になったので、ケツァル・コアトルの肩の震えが止まる。 このままでは暗い話が続きそうだ。そう考えた立香は前向きに相づちを打つのだが、 『ええ。ですから道中は幾分か安心出来るとは思います……と、そういった具合でこの話は締めたかったのですが……』 「……マシュ?」 『敵性反応を多数確認……その内の一つはサーヴァントです!』 「なんだと!?」 「ああ、もう! 災難の連続ね!」 ケツァル・コアトルは急ブレーキで強引に車を停止させると、すぐさま外へと飛び出した。 続いて荷台から跳躍した燕青が車の真正面に着地して構えを取ると、立香も自分なりに辺りを警戒しながら助手席から降りる。 「敵性、って言ってたな……小次郎じゃありませんように小次郎じゃありませんように小次郎じゃありませんように小次郎じゃありませんように」 彼は念仏を唱えるかの如く、小次郎が敵として襲来する未来を勝手に想像して怖れるのだが、果たしてそれは杞憂であった。 ケツァル・コアトルが持つ豪華絢爛な盾が、迫り来る一本の矢を見事に防いだからである。 この時点で立香達は同時に「なるほど、アーチャー!」と叫ぶ。すると微かに「そうだよーっ」と返事が聞こえてきた。 高い声だ。恐らく相手は声変わり前の少年、またはいたいけな少女の姿をしているのだろう。 「バルベルデのアーチャー……とかでいいかな。うん、それでいいやっ」 やってきたのは前者であった。 例によって男女一組のホムンクルスを連れているが、アーチャーを名乗る少年の身長は彼らとそう変わらない。 遂にホムンクルスだけに留まらず、子どものサーヴァントまで登場ですかい……と、立香は辟易した。 だが気分を害されるのはここからだ。今度はアーチャーの背後から現れた複数のホムンクルスが、即座に立香達の周囲を取り囲んだ。 彼らの装備はマチェットに軽機関銃と、相変わらずの少年兵スタイルである。 「相変わらず、ゴージャスなお迎えだな……」 なお、二人一組のホムンクルスの方には動きがない。 装備こそ他と同じだが、セイバーとアヴェンジャーについていた者達と同じく〝マスター業に専念する〟腹づもりなのだろう。 どうもこの辺りの役割分担は徹底されているようだ。ならば、こちらもそうするだけである。 「燕青。長引くと面倒だ。マスターを処理しよう。いけるか?」 「当然いけるよぉ。そもそも、丁度そう進言しようと思ってたところだ」 「そうなると、私がマスターを護るわけね。解ったわ」 「ごめんな、ケツァ姉。またつらい思いをさせるけども……」 「またそんなことを言ってると、今度こそモードレッドに蹴られちゃうわよ」 「……だな。なら二人とも、頼んだ」 非常に簡易的かつ単純な作戦――作戦というにもお粗末な感はあるが――を立てた立香は、邪魔にならないよう立ち位置を修正する。 そうこうしている内に、ホムンクルス達はじりじりと距離を詰めだし、アーチャーは血液のように赤い弓を屋根の上で構える。 その所作はとても美しく見えた。いや……今回の場合、所作だけを褒めるのはとんでもない間違いだろう。 そもそもこのアーチャーの風貌自体が、とてつもなく美しいのだ。同じ男性から見ても〝素直に色気を感じる〟と立香が評価する程に、である。 褐色の髪は絹のようにさらさらだと遠目でも解るし、その青い瞳でじっと見つめられれば、うっかりすると釘付けにされてしまうかもしれない。 同性愛者じゃなかったはずなんだけどな……と、立香は心中で呟き自嘲した。戦闘中にこんなことを考えてしまう自分の救えなさも含めてだ。 「じゃあマスター、姐さん。お先ぃ」 などと考えている間に、まずは燕青が予定通りにアーチャーの背後に立つホムンクルスへと肉薄する。 どちらがマスターなのかは判別出来ていないが、あの燕青のことだ。目ざとく察知し、即座に処理するに違いない。 そうなると問題は立香自身とケツァル・コアトル、ということになる。 出来る限り受け身の態勢は避けたいところだが、それは諦めた方がいいだろう。 ケツァル・コアトルの心情を考えれば、後手に回ってしまうのは必至だろうからだ。 「……ごめんなさいね」 と思っていたが、ここで意外や意外……最も近くにいたホムンクルスに対し、ケツァル・コアトルは自分から間合いを詰めた。 そして相手を一撃で仕留めるやいなや、周囲の敵をも倒していったのだ。反撃させる暇も与えずに、である。 驚きのあまり硬直する立香だが、いかんいかんとすぐに正気に返る。戦闘中に呆けるなど、あってはならない。愚の骨頂だ。 「嬉しい誤算、ってやつか……」 誰の耳にも入らないよう、立香はぼそりと呟く。 まさかあのケツァル・コアトルが、自ら子どもを倒しにかかるとは思わなかった。 ここにきて完全に割り切った、ということなのだろうか? 「……いや、楽観視は危ないな」 しかしよくよく思い出してみれば、先程ケツァル・コアトルは突撃の際、ホムンクルスに〝ごめんなさいね〟と一言添えていた。 やはり何かしら無理はしているということなのだろう。割り切ったのではなく、深く考えないように努めているだけなのかもしれない。 だとしたら、長期戦は危険だ。このまま長引くとケツァル・コアトルのストレスは許容範囲を超え、いずれ思わぬ痛手をくらうことは必至である。 やはりマスターを狙う作戦は正解だったな……と、立香は声に出さずに心中で独りごち、燕青へと視線を向ける。 「成程ぉ。マスターなのは、そっちか!」 早くも燕青は狙うべき相手を見定めたらしい。彼は地を蹴って跳躍すると、アーチャーの後ろに控える少女へと迷わず肉薄した。 当然〝そうはさせない〟とでも言うようにアーチャーが割って入るが、接近戦の鬼である燕青の前ではまさに読んで字の如く無力。 燕青は屋根の上に辿り着いた瞬間に勢いを付けて回し蹴りを放ち、弓を構えようとしていたアーチャーをあっという間にダウンさせた。 そして得物に手を伸ばした少女の腕を力強く掴むと、 「劇終だ」 マチェットを奪い取り、そのまま彼女の首を切断した。 「そしてアンコールもさせない」 更に燕青は血に塗れたマチェットの刃先を、やっとこさ立ち上がったアーチャーに向ける。 クラススキル〝単独行動〟を警戒しての行動だろう。さすがは燕青、抜かりはない。 「さぁ死ね! 我が主のために! 太阳姐のために! 他でもない、この俺の手で!」 起き上がった相手に向かって、燕青は容赦も躊躇もなくマチェットを振りかぶった。 終わりだ。ケツァル・コアトルの守りが固いこともあって、立香は燕青の勝利を確信する。 ならば後は、うっかり自分が死なないように立ち回るだけのこと。 立香は自衛に集中するため、燕青から視線を外そうとした。 だが、その瞬間……彼は理解に苦しむ光景を目にすることとなる。 「……燕青?」 なんと、王手をかけていたはずの燕青が、何故か動きを止めてしまったのである。 まさか何かしらのスキルを打ち込まれたのでは……という不安が立香を襲う。 だが本当に訳が分からなくなる事態が発生するのはこれからだった。 「はぁ!?」 事態を目撃した立香は、まるで逆ギレでもしたかのようにガラの悪い声を上げてしまう。 だがこのような反応をしてしまうのも致し方ないだろう。 何故なら……あの燕青が〝アーチャーの回し蹴りをノーガードで受けてしまった〟のだから! 「おい、燕青! 燕青っ!?」 アーチャーが意趣返しを放ったのは、まだ理解出来る。 だが燕青が防御も回避も出来ずに攻撃を受け、挙句に〝建物を挟んだ向こう側へと吹き飛ばされる〟というのは、理解不能極まりなかった。 立香は「くそっ!」と叫ぶと、アーチャーを注視したままカルデアに通信を飛ばす。 隙が生まれるリスクは承知している。だがマシュやダ・ヴィンチにすがりたいという思いは止められなかったのだ。 「誰か答えてくれ! あの男の子、マジでアーチャーなのか!? あいつ嘘ついてねぇだろうな!?」 『先輩! 厄介なことに嘘はつかれてません! あの子はアーチャーのサーヴァントです!』 「燕青はどうなった!?」 『死んではいないが動きがない! 軽い脳震盪を起こしていると見た!』 「ああもう! 何が何だか!」 そして予想通り、事態は更に悪化していく。 一時的にでも邪魔者を消し去ったアーチャーが、立香に向けて弓を構えたのだ。 「……って、ちょっ、待て待てアーチャー! 一旦タイム!」 「ごめんね、それ無理っ! というわけで……」 否、ただ構えているだけではない。 「……宝具、発動」 アーチャーは、こちらを確実に仕留める気であった。 宝具の開帳を宣言した彼は、まずは矢を持たずに弦を弾く。 すると突如として、絵にも描けないほどに美しい真っ赤な花弁が無数に発生した。 色からして桜ではないものの……〝花吹雪〟と表現しても差し支えはしないだろう。 そんな美麗な花弁は小さな渦を描きながらアーチャーの手元へと集い、粘土のようにくっつき合ってゆく。 やがて完成したのは、先が尖った細長い棒状のもの。そう、真紅の矢であった。 「『血風を貴女に(セサス・アイマ・アネモス)』」 果たして宝具は、容赦なく放たれる。 本能的に死を察知したためか、立香は急激に時間の進みが遅くなる感覚に襲われた。 幾多もの花弁によって作り出された矢が、その身を散らしながら迫り来る。 当たったら死ぬのは確実なので、絶対に避けなくてはならない。頭では解っている。だが出来なかった。 当然だ。本当に時間の進みが遅くなったわけではないのだから。 「マスターっ!」 すると、全てを察したのであろうケツァル・コアトルが視界の外から現れ、立香の眼前に立ちはだかった。 花弁の矢はケツァル・コアトルの胸に突き刺さり、背中から顔を覗かせ……やがて矢の形を失うとただの花弁へと戻る。 おかげで立香は死ななかった。立香の命を断つかと思われた矢は、女神の身によって確かに阻まれたのだ。 だが、 「うん。やっぱり、お姉さんならそうするって思ったよっ!」 「……まさか」 「これで用心棒は全滅。キャスターさんが言ってた〝将を射んと欲すればうんぬんかんぬん〟は、大成功だね!」 ケツァル・コアトルを宝具で排除する。それこそが本当の目的だったらしい。 恐ろしきかな、バルベルデのアーチャー。立香達は見事、彼の掌の上で踊らされてしまったのだった。 「それじゃ、今度こそこれでお終い。入れ墨のお兄さんの言葉を借りるなら……」 今度はごく普通の矢を手にしたアーチャーが、構えていた弓を引き絞る。 それを見た立香は焦るあまりに、眼前でうつぶせに倒れているケツァル・コアトルの身を揺すった。 だが反応はない。彼女は虚ろな目を開いたまま、倒れ伏すのみだ。 奇妙なことにその身体には風穴が空いておらず、出血すらしていないというのに。 「げきしゅー、だねっ!」 立香が戸惑う中、勝利を確信したらしいアーチャーは無邪気な声音でそう宣言した。 「いいや、幕引きはさせん!」 するとその直後、アーチャーの背後へと跳躍した燕青が相手の顔面をぶん殴り、攻撃を中断させた! まるで〝ヒーローは遅れてやってくる〟という法則をその身で示したかのようである。 「ぎゃあっ!」 回避に失敗したアーチャーは落下こそしなかったが、代わりに明後日の方向へと矢を飛ばしてしまう。 またも命を拾った立香は、燕青が無事だったこともあって「よっしゃ!」と喜びの声を上げた。 と、そこまではよかったのだが、再び立香の表情は曇る。またもケツァル・コアトルがやられている以上、未だに戦況は不安定なのだ。 「退くぞマスター!」 「だよな! 了解!」 燕青も同じことを考えていたようで、急いで撤退の準備を始めた。 まずはケツァル・コアトルが倒しきれなかった少年兵スタイルのホムンクルス達を処理するため、牙を剥く。 幸いにも敵の数は少なかったので、倒しきるまでさほど時間はかからなかった。 「マスター! 運転手はアンタだ!」 「マジで!? 無免許だぞ俺!」 「俺だって騎乗スキルないんだ! なら戦えない方が運転して、戦える方が追っ手を警戒するしかないだろう!?」 「ロジカルです!」 続いて燕青は意識不明のケツァル・コアトルを回収して跳躍し、車の荷台に乗るとすぐさま寝かせ、自身は戦闘態勢に入る。 こうなったらやぶれかぶれだ。立香は「揺れるぞ!」と言いながら運転席に滑り込み、刺さったままのキーを回す。 そして両親の見よう見まねでまずはバック走行にチャレンジ。見事に成功させると、そのまま勢いよくハンドルを切った。 すると荷台の最後部が建物にぶつかったらしい。宣言通り、車全体が大きく揺れた。 「どわっ!? 大丈夫か!?」 「俺も姐さんも心配ない!」 『それより急げ、立香君! 狙撃されるぞ!』 「ああ!」 不安に苛まれながらも、拙いなりに車の向きを変える。 これでようやく前を見て進めるようになったので、立香はギアを変えて思い切りアクセルを踏んだ。 オートマチック車だったのが幸いし、スピードは勝手に上がっていく。 しばらくしてからバックミラーへと視線を移すと、アーチャーは見えなくなっていた。 単に遠いから見えなくなったのか、それとも身を隠しつつ追ってきているのか、念のために確認を取る。当然、カルデアにだ。 「アーチャーはどうなった? こっちからは見えなくなったけど」 『先輩の進行方向とは真逆の方角に移動し、程なくしてロストしました。狙撃を諦め、撤退したと考えて間違いないでしょう』 「そっかぁ……解った。ありがとな」 答えを聞いて安心した立香は一旦ブレーキを踏んで停止させると、安堵の溜息をつきながらシートベルトを装着した。 「無免許運転に衝突事故、シートベルトは無着用……ああ、前科持ちになっちまった!」 そして嘆く。 大忙しだ。 『まぁ、不可抗力だ。見なかったことにしておくよ。そもそもサーヴァントだって無免許だしね』 「確かにそうだけどもよ……あーあ、俺も無頼漢デビューか……」 『だがマシュはちゃんと教習所に通いたまえよ?』 『はい、ダ・ヴィンチちゃん。平和を取り戻したら、そのときにでも……』 「あー、ところで二人とも。ここら辺に敵性反応ってある?」 『ないね』 「了解」 ダ・ヴィンチの返答に感謝し、立香は再びアクセルを踏む。 そして「燕青。ちょっと向こうに丈夫そうなビルがあるよな? あそこに停めるぞ」と言いながら速度を上げた。 唐突な提案だったが、燕青は気にしていない様子で「あぁ、それは助かる」と返答すると、 「積もる話もあるからな」 と、極めて真剣な声音で付け加えた。 「……やっぱりな」 立香も、短く答える。 相手を責めるつもりは毛頭無いのだが、自然と声は低くなっていた。 BACK TOP NEXT 第4節:りつかクンは助けられてしまった! 南米瞋恚大戦 ダス・ドゥリッテス・ライヒ 第6節:欧州より愛を込めて
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3933.html
ここはお馴染みタウンズビル ・・・ごめん、嘘 気を取り直して ここは「組織」本部にあるR-No.専用の研究室 今日も大勢の黒服が、持ち場についてカタカタと――――― ―――震えていた 新年が明けて間も無いというのに、暖房がついていない それどころか、全ての電子機器が作動している様子もない 照明も無く、たった1台のPCのディスプレイだけがぽつんと光っていた (蓮華 R-No.111、調子はどうですか? (R-No.111 《こいつら意外にしぶといです・・・でももうちょっとで終わるんで》 緑色の髪の少女――R-No.1、六条 蓮華がディスプレイに向かって話し掛けると、 画面の向こうで漫画のバイキンのような姿をした物と戦いながら彼女と話している、 どう見ても日曜朝8時に見るような姿の男がいた 実はこのR-No.111、契約都市伝説は「仮面ライダー555(仮)」 『仮面ライダー555』が放送される以前、ネットではこのような噂が流れていた 『主人公はネット回線に入り、ネットの中で悪と戦うサイバーライダーである』 つまり、彼はネットの中で戦闘を行えるサイバーファイターなのだ ちなみに、現実世界ではライダーに変身できないらしい それと、バイクじゃなくてサーフボードに乗るらしい、ライダーじゃなくてサーファーである 話は戻り、彼は未知のコンピュータウィルスと戦っていたのだった 何せ、暖房は起動していないし、自動ドアが動いていないので密室である 幸い被害はこの部屋だけのようだが、これだけの人数が凍死、または酸欠になると甚大な被害である (R-No.15 R-No.1! つ、ついに室温が零度を下回りました! (R-No.1213 あ、R-No.1さん・・・わたし・・・眠く、なって・・・ (蓮華 目を醒ましなさい! ビシィッ!バシィッ!! (R-No.1213 ひゃぁ!! (蓮華 何とかして全員の体温を・・・R-No.11、トウモロコシの用意を! (R-No.11 了解ぃ! おら野郎共! トウモロコシだ、食え!! そういって、気の強そうな女性が周囲にトウモロコシをばら撒く 彼女――R-No.11は「トウモロコシは地球外植物」に飲まれた黒服 地球外の未知なる力を持ったトウモロコシを生み出すことが出来る それを食べ、ぽつぽつと表情が和らぐ者が増えた (R-No.119 さ、さすがR-No.11・・・ (蓮華 最高の補佐ですよ、あの人は (R-No.18 ねぇR-No.1ちゃぁん? まだウィルス退治終わらないのぉ? (蓮華 もう少し我慢していて下さい、R-No.111も頑張っていますから (R-No.18 そっかぁ、じゃああとでおねーさんがご奉仕してあげちゃおっかなぁ~ (蓮華 卑猥な表現は謹んで下さい (R-No.18 えぇ~、深読みしすぎよぉ、R-No.1ちゃんのえっちぃ♪ (蓮華 というか、貴方が言うと洒落にならないので真剣に控えてください 貴方の所為で男性黒服が何人犠牲になったと思ってるんですか? (R-No.18 えぇ~? あれでも手加減した方なのになぁ~ 最近の若い子って精力がないのねぇ、凄く元気そうだったのにぃ (蓮華 卑猥な発言は控えろと何度言えば・・・ とにかく、貴方の「テクノブレイク」は危険すぎるので、「組織」内では使わないように 尋問の時だけ認可します (R-No.18 はぁーい (R-No.119 OKしちゃっていいんですか!? (蓮華 そういう方面では打ってつけの能力ですからね・・・ まぁ、攻められてる男の顔と声はいつでも飽きませんし 「こんなのでいいんですか?」というように、ちらりとR-No.15の方を見るR-No.119 彼女はただ首を横に振り、「手遅れよ」とでもいうような哀しげな視線を返した 暫くして、パッと部屋の中が明るくなった (R-No.111 《申し訳ない、少々梃子摺りました》 (蓮華 ご苦労様です、速やかに戻ってきてください 徐々に上がる室温に、沸き起こる喜びの声 (蓮華 喜ぶのはまだ早いですよ? 今日中に資料をまとめるまで我々に休みなどありませんからね! 終わらなければ全員ただでは済みませんので覚悟していてください! (一同 おに!おに!! 頑張れR-No.研究班 鬼上司に負けないように ...To be Continued 前ページ次ページ連載 - 赤い幼星
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2187.html
あぁ、またこの季節が来たな、と思う 赤いはんてんは、今日は朝から出かけている 今年のバレンタインは、ちょうど休日だ そのせいか、赤マントと赤いはんてんが普段暮らしている小学校は、酷く静かだった 例年だったら、児童達が賑やかに、チョコのやり取りをしている光景を見たりもするのだが 「…まぁ、たまにはこう言うバレンタインも良いか」 トイレの窓から、外を眺める 雪深い学校町 それでも、バレンタインが終わって三月が近づいてくれば、そろそろ雪も解けていくだろう ゆっくりと、春が近づいてきている 彼らが死んでから、何度目のバレンタインだったか 彼ら死んでから、何度目の春が近づいているのか 赤いはんてんが何処に出かけているのか、赤マントは知っている …彼女の、元の契約者の…墓参りだ 彼女は毎年、バレンタインには彼の墓に行って、墓にチョコレートを供えて来ている それに、赤マントはついていくことはない ……付いていく事など、出きやしなかった 結局、自分は彼女と彼の間に入ることなどできなかったのだ 自分は、彼の代わりになる事すらできないのだから ただ、自分は赤いはんてんを護り続ける事 彼女を、復讐に走らせない事 ただ、それだけに集中し続けた 彼女の傍に居る事に、言い訳でもするように 去年の、秋祭りの騒動が終わって 赤いはんてんは、少しずつ気持ちを落ち着けていっていた それでも、完全には心が晴れたわけではないだろう だが、それでも…一区切りは、つけたのだ 今年は、きっとその事も墓前で報告しているのだろうな 赤マントが、そんな事をぼんやり、考えていると 「あぅあぅ、ただいまなのですよ」 きぃ、とトイレの扉が開き、ひょこり、赤いはんてんが顔を出した 寒いのす、と赤マントにぺたり、くっついてくる 「う~、寒いのですよ。赤マント、マントの中に入れやがれなのです」 「全く…君は、冬くらいはもう少し暖かな格好をしたまえ」 こんな時期だと言うのに、はんてんの下は晒しとスパッツだけと言う赤いはんてんに苦笑しつつ、赤マントは彼女をマントの中に招き入れた ヒヤリ、冷たい体 真っ赤なマントに包まって、赤いはんてんはぬくぬくしだす 「あ、そうなのです、赤マント」 「ん?」 「どうせ、赤マントのことだから、誰からもチョコレートをもらえないに決まっているのです。だから、仕方ないから、お前にもやるのですよ」 す、と 渡される、チョコレート 例年通りの言葉に、赤マントは笑いながら、それを受け取った そう、例年通り 毎年毎年そう言って、赤いはんてんは、赤マントにチョコレートをくれるのだ 元契約者への分を用意したついでに、とそう言って 「ありがとう。後でいただくとしよう」 「あぅ。ありがたく食べろなのですよ」 そう言って、赤いはんてんはぬくぬく、マントの下で温かさを味わう事に集中しだした 赤マントは、そんな赤いはんてんをそっと抱きしめる 赤いはんてんは嫌がるでもなく、されるがままだ かつて、彼女をこうやって抱きしめていた存在は、もういないから 冷え切った彼女の体を温める、その役割を、自分が請け負う事を どうか、許して欲しい 腕の中の温もりを感じながら、赤マントは祈るように、そう願うのだった fin 前ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
https://w.atwiki.jp/legends/pages/490.html
これは彼女の記憶 これは私の記憶 これは、私たちの、記憶 Red Cape むにに~……アイスハニーミルクお代わりなのですよ~…」 すぴすぴ ふと、目を覚ませば、胸の上から赤いはんてんの寝息 …また、布団にもぐりこんできたのか 「まったく…」 苦笑しつつ、その小さな体をそっと抱きしめた むにむに、赤いはんてんは眠りから覚めない …そして、ふと、考える 私に、彼女を抱きしめる権利など、あるのか? 「………」 彼女は、まだあの悲劇から解放されていない …そして 私も、また、あの日の悪夢から、解放されていない …賑やかなパレードだった しかし、それは悪夢のパレードだった 「あぅあぅ!一時退却なのです!」 「あぁ…!」 赤いはんてんが、契約者の手をひいて走る 若い、誠実な青年だった 彼女に相応しい契約者だった あの契約者といる時の彼女は、本当に幸せそうで たとえ、何が相手になろうとも、彼女たちには敵わないだろう 少なくとも、私はそう考えていた きっと、彼女たちもそう考えていたのだと思う しかし、相手が悪すぎた 「逃がさないよ?」 「----っ!!」 彼女たちは、あっさりと『夢の国』の王様に追い詰められた 相手が、悪すぎた そして、そこは赤いはんてんのテリトリー外だった …全ての条件が、悪すぎた 『夢の国』の王様が、彼女の契約者に攻撃を加えようとする 当然、彼女は契約者を護ろうとした …しかし 「…え?」 ぱっ、と 飛び散る鮮血 ----赤いはんてんの契約者は、彼女が傷つく事を拒絶した 代わりに、自分が刺された 「あ………あぁぁ…………!?」 「っ……だい、じょうぶ、かい?」 血塗れの姿で にこり、あの契約者は笑っていた 首を切り裂かれ、もはや、ほとんど喋る事など出来ないはずだと言うのに …それでも、赤いはんてんを安心させようと、笑って ぞろり、黒い畸形たちが現れる 赤いはんてんと、その契約者に止めを刺そうと …その前に、とでも言うように 彼女の契約者は、口を開く 「…君との契約を、解除する」 「----!?」 「……だから。君だけでも、逃げて。生き延びるんだ」 …あぁ、きっと あの契約者は、本当に、赤いはんてんの事が好きだったのだろう だから、そんな方法を選んだのだ その優しさが、どれだけ彼女の心に傷を残すかも知らずに 畸形たちの攻撃が届くよりも、先に 彼女の契約者は目を閉じて……その命の灯火を、消してしまった 彼女は泣いていた その大きな瞳から、涙を溢れさせて そして、ぼそり呟く 「…殺してやる」 ぽつんっ 黒い畸形に、赤い斑点が浮かびだす 「……っ殺してやる!!!」 契約者を失った事で、力を弱体化させたはずの、赤いはんてん しかし、怒りが、憎しみが、悲しみが、むしろ彼女の力を増大させていた 「殺してやるっ!殺してやるっ!!殺してやるっ!!!殺してやるっ!!!!殺してやるっ!!!!!!」 ぽつん、ぽつん 黒い畸形に、マスコットたちに、『夢の国』の王様に 次々と赤い斑点が浮かび上がり、皆倒れ付していく だが、ここは『夢の国』のテリトリー 倒れた者共は、そのうちまた起き上がるだろう 彼女には、分が悪すぎる 「…っ逃げるぞ!」 「っ!?放すのです!赤マント、放すのです!!!」 姿を隠していた私は、赤いはんてんの前に姿を現すと…自身の能力で、彼女の行動を封じた 一瞬で、その体を麻袋に押し込めると…マントを翻し、姿を消す 私は赤マント 人攫いの赤マント 私はどこにでもいて、どこにもいない だから、どこにでも現れることができる 赤いはんてんと、『夢の国』が戦っていた場所から、遠く離れた場所に、姿を現す …ここまで、来れば 「…ぅお!?」 ばり!!と 麻袋が突破された はんてんを翻し、青いはんてんになった彼女が…私を、睨みつけてくる 「っどうして、邪魔をしたの!?」 「君では、『夢の国』に敵わない。分が悪すぎる」 「どうして!!どうしてよっ!!」 私の言葉は、青いはんてんに届かない 鉄拳が、私に襲い掛かる …私はそれを避けない それを避ける権利は、私にはない 「どうして……っどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!!!」 ぽろぽろと、涙を流して彼女は泣いている 契約者を護れなかった、事実に その仇をとることすら許されなかった事実に ただただ、涙を流し続けていた …彼女の拳が、止まった 彼女は泣き続けている ぼろぼろ、大粒の涙をこぼし続けている …彼女が泣いている顔など、見ていたくなかった きっと、彼女の契約者も、彼女が泣き続ける事を望んではいなかったはずだ …だから 私は、泣いている彼女に手を伸ばした 「…あそこで、君が命を落とす事を…君の契約者が、望んだと思うかね?」 「………っ」 「彼の事を想っていたならば。生き延びたまえ。『夢の国』を倒す手段が見付かるまで…立ち向かうべきではない」 …彼女は、がくり膝をついて そして、子供のように、泣きじゃくり続けた 私は、その体を抱きしめる そんな権利などない、と知りながら 優しい契約者だった 血に塗れていた私にすら、手を差し伸べて…私を、一昔前の赤マントに戻してくれた 私は、契約こそしなかったが 赤いはんてんとあの契約者が共にいる様子を、見ているだけで楽しかった …それ以上は、何も望まなかったのに あの契約者は、赤いはんてんを庇って死んでしまった もう、彼女を愛した契約者は、どこにいない 「むにゅ~…」 すぴすぴ 眠り続ける赤いはんてん 小さな体を抱きしめ続けてやる …『夢の国』 この町に、現れたと言うのか もし、赤いはんてんが、『夢の国』と遭遇してしまったら… ……また、怒りに、我を忘れてしまうのではないか? そんな恐怖が、頭からこびりついて離れない 私には、彼女を護る事すらできないかもしれない 一昔前の赤マントに戻った私には、戦う力がないのだから …だから、せめて 赤いはんてんが、命を落とさないよう 『夢の国』と彼女が遭遇してしまったら…遠く遠く、はるか遠くに逃がしてやろう そのためにも…彼女から、離れない 赤いはんてんの重みを感じながら、私はそう、誓った 貴方の望みを叶えたい 貴方の事を想うから 貴方に傷ついて欲しくない 貴方の事を想うから だから、どうか傷つく事を望まないで それが、それだけが …………私の、願いです Red Cape 前ページ連載 - 花子さんと契約した男の話