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8823 【投稿日 2006/01/14】 カテゴリー-笹荻 とある冬の日。げんしけんの部室に笹原と咲が居た。 咲 「ねー、笹やん、どう?ラブラブ?」 笹原「やー、はは……まあ、普通だよ」 咲 「あれでしょ、年下の彼女だと甘えん坊で困っちゃうな~ み・た・い・な?」 笹原「うーん、むしろ全く甘えてくれないんだけど(苦笑)」 咲 「えー、二人の時もあんま変わんないの?面白くないな~アレ買ってコレ食べたいとかさ」 笹原「何か欲しいものあるか聞いても 特に無いデス で」 咲 「ディズニーランドとかショッピングに休日行きたがるとか」 笹原「……言われたこと無いけど、どうなんだろうねぇ」 咲 「一緒に帰れないとイジケてふくれちゃうとか?」 笹原「それは――」 ガチャ。 荻上「あ、こんにちは」 笹原「やー、今日は授業終わり?」 咲 「オギー、ラブラブかーい?」 荻上「ラブ…!フツーですよ!あ、授業はまだ2つ有りますので、今日は帰っておいて下さい」 笹原「ん、了解りょーかい」 咲 「ほんとフツーだぁ……」 笹原「ねぇ……」 その夜。 荻上『なんか喉が痛いような…』 笹原に「今日は風邪っぽいからもう早寝します。おやすみなさい」とメールを送っておく。 荻上『笑ゴールドでオリエンタルテレビだけチェックしたらもう寝るかぁ』 布団に入ったところから半纏を着て、TVをつける。 荻上『はあ…声ぐらい聞きたいなぁ』 ~~~♪ 電話の着信メロディーが鳴る。個別指定してあるからすぐわかる。 荻上「あ、もしもし……すみません、ちょっと喉が……」 確かに、ちょっと喋りづらそうだ。 荻上「いえ、いえ、……ありがとうございマス。ではおやすみなさい」 荻上『喋りづらいとはいえ、素っ気無かったかな(汗)』 ちょっと後悔しつつTVを眺めていると―――。 「デンデンデンンデ……」「あっちゃんカッコイー!」「カッキーン」 このコンビ、眼鏡の相方が抱きしめてるんですけど…! そして軽くワープ。 それから3時間、鉛筆を走らせる荻上だった。 翌朝目が覚めると、喉がふさがっているような感触。暑くて寒くて体が重い。 荻上『本格的に風邪とは…今日一日寝てりゃ治るかな』 引越しの時に実家から持たされた木製の救急箱を押入れの下から出してくると 体温計を取り出した。ヒヤリとした感触にビクッとなりながら脇に挟む。 ボーっとしばし待つと…ピピッピピッという電子音。 37.6度だ。 笹原に 「今日は風邪っぽいので寝ます。感染したらいけないし、寝てるので来ないで下さいね」 とメールを送る。 荻上『迷惑かけらんねぇもんなぁ。風邪をうつしてもいけないし』 今日は風呂にも入ってないし、机には昨日描き散らかした絵が散乱している。 笹原だけには見られたくない状況ではある。片付ける体力は無いし。 そして食パンとオレンジジュースだけ採ると、救急箱の風邪薬を飲んで寝るのだった。 目が覚めると部屋は真っ暗。 荻上「はー……」 トイレに立つが、よろめいている。 布団に戻って携帯を見ると、メールが返って来ている。 「了解です。ホントお大事に。どうしても悪かったら言ってよね。すぐ行くからね」 今までの交友関係では携帯メールに不慣れだったぶん、いつも短文だ。 しかしそれは荻上も同じこと。 荻上『せっかくの休日が……はぁ…寝よ………』 それから、意外なほど深く眠ってしまったようだ。 目を覚ますと部屋は暗くなっていた。 体温計はベッドの所に置いているので測ってみる。 38.2度。 荻上「うっ」 もう日曜も寝込みそうだ。 真っ暗な窓の外を見ると、1日が終わった実感が強くなる。 荻上『寂しいなぁ……笹原さん……』 ピンポーン。不意に呼び鈴が鳴る。 荻上『まさか、笹原さん!?』 一瞬、思わず笑顔で扉の方に振り向く荻上だったが 荻上『いやいや、もしそうだとしてもそんな急に、この状況じゃ駄目だって』 玄関にヨタヨタと歩いていく。 荻上「は…はーい……」 覗き窓から外を見ると、見知らぬ女性が二人。 女性「すみませーん、世界の平和について―――」 荻上「間に合ってます!!」 喉が痛いのに叫んでしまった。 荻上「うう………喉が……」 冷蔵庫からお茶を出すと、コップに注いで飲む。 流石に昨日からの食器が流しに溜まってきた。 荻上『これじゃ駄目だなぁ。でも、仕方ないか、風邪だし』 布団にもぐりこむと、枕元の携帯から歌が流れる。 ~~~♪ 荻上『笹原さんだ!』 バッと携帯を開くと、息を整えて通話ボタンを押す。 荻上「もしもし……ええ、いえ、いえ……そうです……」 昨日よりも、声は出ていない。 荻上「………は?いえ、駄目ですよ!うつりますよ!」 荻上『うう~~~ほんとは逢いたいのに……でも、お風呂に入ってないし』 荻上「今からまた寝ますけど、合鍵使って入ったりしちゃ駄目ですからね」 荻上『しまった――。昨日描いた絵や、読みかけのBL誌や、流し台が(汗)』 荻上「ええ、ええ、ホントに具合悪かったら……はい、ではおやすみなさい」 電話を切ると、ガックリとうなだれる荻上。 荻上『眠くないけど、体は重いし、なんかあちこち痛いし…』 仕方なく、布団に入るが、TVでもつけておく。 荻上『明日朝には治ってるかなァ』 そうして一晩、寝たり起きたりして、やがて窓からに朝の光が差し込む。 汗びっしょりなのでパジャマを着替えて、体温を測ってみると…。 40度6分! 荻上『えーーーっ!これってまさか、インフルエンザ?』 ガガーーーン! 荻上『病院も日曜じゃ休みか、開いてても救急病院の窓口だろうし、それは嫌だし』 ドサッと布団に倒れこむ荻上であった。 夕方、薄暗くなった部屋に呼び鈴が響く。 しかしベッドの中の荻上は額に汗を浮かべたまま、起きる気配が無い。 枕元の携帯電話は、着信を知らせるランプが点滅している。 ガチャ…ガチャリ。しばらくしてから、玄関のドアに鍵を差し込む音がする。 笹原「荻上さん、大丈夫!?」 姿を現したのは、やはり笹原だった。手にはコンビニのビニール袋を提げている。 部屋の中は寒いとはいえ、荻上の存在によってやや甘い女の子らしい汗臭さが満ちていた。 ベッドの上で目を覚まさない荻上を見ると、荷物をソファの上に投げて駆け寄る。 笹原「すごい汗だし」 右手で汗で張り付いた前髪をかき上げると、そのまま額に掌を当てる。 笹原「熱っ……」 荻上「………んぅ」 額に触れる笹原の手の下で荻上のまぶたが開き、黒い瞳が笹原の方に彷徨う。 荻上『頭に手が……え?笹原さん………??体も汚れてるし、部屋が、は、恥ずかしい―――』 荻上「…だ…め……す……ょ」 笹原「え、何? 大丈夫?じゃないよね」 荻上「はず……しぃ…し」 どうやら上手く声が出せないようだ。乾いた喉に唾を飲み込むと、なんとか声を出す。 荻上「うつりますから………」 そういうと、額に伸びた笹原の腕の肘あたりをぐいと押し返す。 笹原「とりあえず病院に連れて行くよ。すごい熱だし、インフルエンザじゃないかな」 荻上「………スミマセン」 消え入りそうな声で、喉の奥でつぶやく荻上だった。 笹原「着替え手伝おうか?」 全力で首を振り、真っ赤になって拒否する荻上の姿に苦笑しつつ笹原は隣の部屋へ。 着替える荻上を待つ間、下駄箱の横にあったタウンページを見てタクシー会社に電話をする。 荻上はタンスから、服の中でも着易いトレーナーとセーター、カーゴパンツを選ぶと、 もそもそと着ている。壁に掛かったダッフルコートを羽織っていこう。 荻上『はぁ、今回は凄い迷惑かけちまって申し訳ないし、部屋を見られちまうし………』 そして隣から聴こえてくる笹原の電話の声。近場の病院に電話している。 荻上『でも、やっぱりいざとなると頼もしいなぁ……かっこいい~~~』 ちょっと嬉しそうな荻上の笑顔は、笹原に見られることは無かった。 医者「はい、インフルエンザね。熱もまだ41度あるし、隣の処置室へ行ってください」 笹原「わかりました」 ぺこりと会釈する荻上は、病院に来たことで疲労もあるようだ。 医者「あと、解熱剤とトローチ3日分出しておきます。お大事に」 年配の看護士にいざなわれると、先に立ち上がった笹原は荻上の手をとり 隣の処置室へ向かう。と、ここで荻上独りが連れて行かれる。 そう、高熱が出たときは定番の解熱剤は座薬だから―――。 荻上『うう、カーテン2枚の外には笹原さんが……』 看護士さんに服をずらされ、なすがままのうちに薬の処置は終わった。 カーテンから出てきた荻上は疲れと熱だけではなく、恥ずかしさでも顔を赤くして うつむいたまま手を引かれて受付ロビーに戻るのだった。 笹原「最近話題のタミフルって、やっぱりインフルエンザかかってすぐじゃないと駄目みたいだね」 休日の病院なので受付ロビーや廊下の照明は少ない。 他にも救急で来ている小さな男の子と母親が、待合ベンチの逆サイドに座っているだけで がらんとした病院は物寂しい雰囲気だ。 受付に呼ばれて笹原は支払いと薬の受け取りをしている。 薬の説明を受けた笹原が、少し赤くなって戻ってきた。 笹原「座薬って冷蔵庫に入れておくんだね」 荻上「もう使いませんから…!」 笹原「う、うん、熱が下がって使わずに済むといいよね(苦笑)」 荻上は部屋に戻ると、着替えで出てもらっている間に微かな抵抗で 昨夜描いた絵などを箱に入れるが、その疲れもあってか飲み薬の作用か、 布団に寝かし付けられるとすぐに眠りについてしまうのだった。 荻上が再び目を覚まし、携帯を見ると0時をまわっていた。 額にはジェルの入った冷却シートが乗っていた。 今日は今まで未チェックだったが、メールと電話の着信が笹原から数件有った事に気づく。 朝からメールが何度か入ってから、電話が何度か有ったようだ。 荻上『そっか、完全にダウンしてたんだなぁ(汗)』 トイレに立とうと真っ暗な部屋の中ベットから起き出すと、笹原が台所の方から入ってくる。 笹原「あ、目が覚めた?具合はどう?」 手に持ったPSPの液晶が明るく光る。 部屋の電気をつけられると眩しくて目が痛い。 枕元の眼鏡を探してかける荻上。 荻上「色々と本当にスミマセン。だいぶ楽になりましたから」 笹原「熱、測ってみようか?」 うなずいて笹原に背を向けると、荻上は胸元を開け体温計を脇に挟む。 38.1度。 笹原「うーん、まだまだ高いね…。今夜は泊まるよ」 荻上「そんな、悪いですよ。うつりますし」 笹原「看病ぐらいするよ。だって俺、彼氏なんだし、こんな時ぐらいもっと甘えてよ(苦笑)」 ボッと真っ赤になってしまう荻上。 笹原「食欲ある?何か作ろうか?」 問われて、少し考える荻上。 荻上「…いえ、まだ食欲は無くって」 笹原「何か食べたいものはある?何でも言ってよ」 荻上「……そんな、いいですから」 笹原「遠慮しないで、ほら―――。」 荻上「………アイスクリームが」 笹原「アイスだね?どんなの?」 荻上「バニラの…できれば、キャラメルのが……」 要望を出すことに対して何故か照れがある様子だ。 笹原「うん、わかったよ。じゃあ寝て待っててね。電気消すよ?」 にっこりと笑顔で答え、笹原はベッドの脇から立ち上がる。 荻上「あ、電気はつけてて下さい。ありがとうございます」 へたりと深々、頭を下げる荻上だった。 コンビニに買いに行くのだろう。笹原は出かけていった。 よく寝たので眠気はあまりない。ふらつきながらトイレに立つと 台所の食器が一応全て洗われている事に気づく。 荻上『優しい―― 笹原さん。もっと甘えてって言われても、どうしたもんか?』 すぐ下の弟のお姉さんとして育てられた荻上は、あまり甘え方を知らない。 やっぱり寝汗がひどいので、ふたたびパジャマを着替える。 荻上『笹原さん、遅いなぁ。大丈夫かな……』 まだ出てから10分ぐらいしか経っていないが、恋する乙女モード発動中のようだ。 そうしてさらに10分ぐらい待つと、笹原が帰ってきた音がした。 荻上『帰ってきた~~~』 ドキドキする荻上。 精神的には玄関にダッシュして飛びつきたいぐらいだが―――。 荻上『いやいや、ありえないし』 飛びつく自分をシミュレーションしてみるが、やはり自ら否定している。 笹原「ただいま、お待たせ」 荻上「おかえりなさい、ありがとうございます」 笹原がソファの上の大きなクッションを荻上の背中側に入れ、起き上がり易くしてくれる。 買ってきてくれたのはハーゲンダッシのカップアイス(キャラメル)。 笹原にしては奮発したようだ。 胸まで布団を被ったまま起き上がった荻上だったが、腕が寒い。 荻上『あ、思いついちゃったけど、甘えすぎのような……』 自分の思いつきに荻上は赤面しながら、布団に腕をしまう。 荻上「あ、あの……」 笹原「ん?どうしたの?アイスどうするの?」 手に持ったアイスを渡そうとしていた手を止めながら、笹原が聞いてくる。 荻上「………」 じっと笹原と視線が合って―――、 恥ずかしくて言えない台詞をテレパシーで送ろうとしているのだろうか? その口元が、あーんと開いたのを見て笹原はようやく気付いた。。 笹原「あ、ああそうね」 笹原は急いでカップを開け、固くてスプーンが刺さらなくてさらに焦っている。 荻上『ああっ、やっぱりやめときゃ良かった』 後悔し始めたときに、笹原はようやく掬い取ると、照れた笑顔で口元にスプーンを運んできた。 ぱくっ。 美味しいし、食べさせてもらうというシチュエーションが嬉しくて 笑顔がポロリと顔から落ちるんじゃないかといった様子の荻上だ。 笹原「美味しい?」 荻上「はい」 喜色満面で答える荻上。 笹原も、介抱冥利に尽きるというものだ。 荻上『ふふふふふふ 笹原さん大好き~~~』 乙女モード継続中のようだが、言葉には出さない。 小さなカップだが、けっこう時間は掛かった。 背中に入れていたクッションを外すと、荻上はそろそろ再び寝る準備に入る。 笹原から受け取ったホットレモンを飲み干すと、荻上はまだ筋肉痛もあるだろうが 幸せそうに笹原を見続けている。 荻上『ん?笹原さんもこっちを見ている……見すぎたべか(汗)?』 近づいてくる笹原の顔の、その意図に気付いたものの荻上は素直に目を閉じた。 軽い接吻。 荻上『あ…唇の感触が気持ちいい―――』 そして荻上は笹原に頭を撫でられると、そのまま寝そうになる。 荻上『はーーー、幸せ………』 しかし、目をぱちっと開くと荻上はがばっと起き上がった。 荻上『はっ!でも、インフルエンザがうつっちまう』 荻上「だ、駄目ですよ笹原さん!すぐに口を洗ってください!インフルエンザうつりますから!」 笹原「えーーー」 荻上「早く早く!」 洗面台に向かう笹原の背中を見送ると、荻上は今度こそ安心して布団にもぐりこんだ。 戻ってきた笹原が見ると、微笑みを浮かべたまま荻上はもう眠っていた。 それを見て電気を消すと、笹原もソファーと寝袋で眠りに就くのだった。 翌朝、荻上は目が覚めるとすぐに笹原の姿を探す。 スリガラス越しに、台所に笹原の居るシルエットが見える。 ほっとした様子だ。 荻上『トイレトイレ……』 布団から出ると、昨日までよりは体が楽になったような気はするが、まだダルイ。 笹原「おはよう、まだ無理しちゃ駄目だよ」 荻上「おはようございます」 布団に戻ると、荻上は笹原が来るのを待っていた。 笹原「まずは、また熱でも測ってみようか」 37.4度。 笹原「あともうちょっとだね。食欲は?」 言われて荻上のお腹が鳴った。 荻上「あっ…あります……」 荻上『あーもう、私のお腹のバカ!』 恥ずかしさに赤くなるが、笹原には熱のせいだと見えるかも知れない。 笹原「インスタントだけど、おじや作ったんだ。ちょっと食べて薬飲もう」 荻上に半纏を着せてあげると笹原は台所からお盆を運んでくる。 今度は笹原の方から、スプーンを荻上の口に運んでくる。 荻上「あーん」 思わず声が出ているが、気付いてないようだ。 荻上『鼻が詰まってるからあんまり味がしないけど、美味しいなぁ』 荻上が食べたあと笹原も食べ終わり、台所で食器を洗いながら笹原が言う。 笹原「今日はゼミも無いし、ずっと居るからね」 荻上「あ、ありがとうございます。ほんとすみません」 荻上『わーい、やった!』 台詞と裏腹に、荻上から嬉しそうな様子が溢れている。 まあ、笹原は台所なのでそれを見ることは無いのだが。 荻上は、今までにない甘えっぷりだった。 荻上「あの、何か音楽を掛けていて下さい」 笹原「ん、分かった」 荻上「ミルクティー、ロイヤルで砂糖いっぱいのが飲みたいんですけど……」 笹原「うーん、買ってくるよ」 荻上「あ、今日発売のジャプンもお願いします」 さらにトイレに行く時は、半纏は笹原に着せてもらって、手を取ってエスコート。 そんな感じで寝たり起きたりの状態で、暗くなるまで布団で過ごした。 夕方になって体温測定。荻上は体温計を取り出して見てみた。 荻上『あ、36.3度だ。もう治ってる?』 もう筋肉痛は治っている。体も軽くなった。 荻上『もう甘えられないのは、勿体な―――』 そこまで考えると、頭を振って思い直す。 荻上『いやいや、勿体無いじゃなくて、迷惑掛けすぎだし!』 と思いつつ、ガッカリの雰囲気がちょっと漂っている。 荻上『でも、笹原さんもう帰っちゃうんだなぁ。結局居てもらっただけだし』 寂しさが募ってくる。 ソファーでジャプンを読んでいた笹原が顔を上げる。 笹原「ん?もう熱は下がった?」 荻上「はい、おかげさまで、36.3度でした。病院とかほんとご迷惑を……」 笹原「苦しかったし、動けないと大変だったよね」 荻上『さ……!ささはらさーーーーん!』 内心叫んでいる。 その荻上の大きな目が潤んでくる。ちなみに今は眼鏡。 笹原「今晩の夕食は煮込みうどんにするよ。鶏肉でいいよね」 荻上「はい、鶏肉は好きですので」 笹原「荻上さんが寝るまでは居るよ。DVD借りてきてるんだ」 荻上「…嬉しいです」 みるみるうちにニヤケてくる荻上に釣られて、笹原もニヤケてしまう。 荻上『やた!やった!』 荻上は3日も入浴してないし、いくらなんでも流石に今夜は健全に過ごすはずだ。 しかし、今後は二人っきりの時は今までより荻上は甘えるようになるんじゃないだろうか。 ……まずはインフルエンザを完治させる事が肝心だ。 ちなみに笹原は、運良くインフルエンザにうつりませんでしたとさ。
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その三 扉【投稿日 2006/01/29】 カテゴリー-4月号予想 まだ夜明けといった早朝、外ではスズメだろうか、鳥の声が聞こえる。 笹原は目を覚まして起き上がっていたが、泣いていた。 笹原『……もう駄目だ、もう――――………あれ??』 涙を拭うと、大きく一つ息を吐いた。 笹原「はぁ~~~、夢、か………よかった~~~」 笹原はさっきまで見ていた夢を思い出していた。 荻上が現視研から去った砂を噛むような日々、そして―――― 病院の霊安室で触った、冷たい荻上の遺体。 その冷たくなった荻上に触れた指に残るひやりとした感触。 自分を囲む世界が全て歪んで、肌の内と外が入れ替わるような感触。 それがいまだに笹原の感触としてリアルに残っている。 笹原『よりによって今日、なんでこんな夢をみちゃったんだ………』 『昨夜は予習の為に女性向け同人サイト巡りをしたのに、どうせ見るなら男同士の絡みじゃないの?』 一昨日の夕方、橋のところで荻上から「現視研やめます」と言われた時に感じた喪失感の強さか 荻上が内心思っていた死ぬこと、それが伝わったのだろうか。 笹原「荻上さんが居なくなるのが、ほんとに怖いんだな。俺……」 喪失への不安感に焦りを感じる笹原だった。 荻上にメールを送りたいが、早朝過ぎたので9時まで待つのが長く感じすぎて胃が痛くなった。 「おはよう。今日はお昼過ぎ、13時ごろには行くつもりです。よろしく」 そんなメールを送ると、笹原はさっきの夢のこともあり、荻上から返信が来るのか心配になってしまう。 しかし1分ぐらいでメールが返ってきた。 「おはようございます。わかりました、お待ちしております」 と、返ってきた。荻上はもう起きているようで、笹原は安堵の溜息を小さく漏らした。 笹原『でもほんと、今日は何が有っても……どんな絵でも、俺がいいリアクション出来なくても(汗)』 『荻上さんを受け入れてあげたいんだ。……うん、今日からじゃなくて、これからずっと』 トーストを食べていた荻上は、笹原からのメールを返信して朝食も終えると、 とりあえず部屋を片付け始めた。 といっても、夏コミ前に大野と笹原が来たときにざっと片してあったので、 それ以降そんなに散らかっていない。 荻上は机に座ると、その横には今日渡して見せる予定のイラストが積んである。 「荻上さんとつき合いたければ そうゆうのも全部―――」 一昨日の笹原の一言が頭の中で繰り返される。 荻上『笹原さんと、つきあうかも…今日、夕方からか、明日からか………』 荻上の頭の中には、頼り甲斐のある格好良い笹原の姿が思い浮かぶ。 そして、告白の台詞も、俯いていて姿は見ていないが耳に張り付いている。 「好きっ……だから…… ここに居るし 守りたいと 思うし……」 夕日の差し込む放課後の教室に、人影がふたつ。 学生服を着た笹原が汗をかきながら必死に告げている。 笹原「好きっ……だから…… ここに居るし 守りたいと 思うし……」 セーラー服姿で二つ結びに眼鏡、中学生の荻上が顔を真っ赤にして告白し返している。 荻上「私も、笹原さんの事が大好きで、大好きで―――ー」 台詞を遮って、笹原の抱擁。夕日に映るシルエット。 そしてキス―――。 荻上『はっ!こんな時間に!?』 いつの間にか、らくがき帳に漫画を描いてしまっていた荻上は、振り返って時計を見ると もうお昼前になっている事に気づいた。 鉛筆を置いて台所に向かい、急いでご飯を軽く掻き込むと、着替え始めるのだった。 着替えて鏡台に向かうと、軽く化粧水を付け、薄い口紅だけを載せ始める。 鏡に映る自分を見ながら、笑顔や真面目な顔を作ってみる。 荻上『表情を出すのって、苦手なんだなぁ』 荻上『でも、これから見せるんだ……アレを』 洗面台から部屋に戻って床に座ると、これから起こることに考えを巡らせ始めた。 「うわーーすごい、俺×斑って萌えるね!最高だよ荻上さん!」すごい嬉しそうな笹原。 荻上『なにこの展開!?有り得ないにもほどがある(汗)』 「はは…うーーん、まぁ、こういうのもいいんじゃない(苦笑)」困ったような笑顔の笹原。 荻上『これが妥当な感じかな…でも、これってホントは嫌なのに、無理してるよね、笹原さん……優しいから』 『また今度は、笹原さんを傷つけながら、つきあっていける……??』 「うっ………これ………は………」青ざめて冷や汗をかき、無言になってしまう笹原。 荻上『やっぱり、アレを見たらいくらなんでも、これかな……』 さっきまでは期待感にそわそわしていた荻上だが、背を丸め、うつむき始める。 荻上『……笹原さんが見て、大丈夫じゃなかったらもう現視研やめるんだった。辞めないと――』 『もう笹原さんに自分の趣味を隠すことから逃げない、昔の傷つけたことから逃げないって思っても』 『それで結局、笹原さんに無理をさせるような事は駄目だ。笹原さん、無理しそうだし』 脳裏に浮かぶ笹原の笑顔。そして暗くなり遠ざかる――――。 荻上『嫌!笹原さんともう会えないなんて……でも……そうなったらもう、ここに居場所なんて』 『実家に帰ってヒキコモルか………』 笹原から、現視研から離れ、部屋に閉じこもる日々を想像する。 荻上『胸が……痛い……。生きてても、仕方ないのかな』 時計を見ると、もうすぐ笹原が来る時間になっている。 荻上『今から見せないといけないなんて……絶対、駄目』 顔色が悪く、青ざめてきた荻上は、その細い肩も少し震えてきている。 荻上『恐い…………』 「………っ!!」 そしてはっと気付くと、さっきまで描いていた告白シーンの漫画をラクガキ帳から破ると、 ぎゅっとひねってゴミ箱へ押し込んだ。 キンコーーーン。呼び鈴が鳴る。 玄関に向かわないといけないが、荻上は足がすくみ、ちょっと時間が掛かってしまう。 覗き窓から見ると、笹原が扉の向こうに立っている。 荻上「お待たせしました」 笹原「やあ」 荻上の顔色は非常に悪い。そして、扉を開けたまま、立ち尽くしてしまっている。 部屋に笹原を招き入れるでもなく、数秒の沈黙。 笹原「………!? 荻上さん、大丈夫??」 荻上「―――はい」 目を伏せながらそう答えると、全然大丈夫そうじゃないが、笹原が入れるように部屋に入ってく荻上だった。 それについていく笹原。後ろ手に鍵を閉めると、靴を脱いで奥の部屋へ向かいかけるが、少し足を止める。 笹原『全然大丈夫じゃないじゃん、荻上さん。やっぱり見せるのって恐いんだよね』 『男の子の友達を一人転校に追い込んだってのが、やっぱりあるんだな………男の子の、友達、ね………』 『俺って、荻上さんに好きになって貰えるんだろうかな……昔の思い出より、大きく』 ここに来て、妙な考えが頭を巡る。しかし荻上を待たせるわけにもいかない。 笹原『自分の心配してる場合じゃないな、今は。そうだ、荻上さんが居なくなったら―――』 夢で感じた喪失感を思い出すと、背中がゾクリとする。 目の光に陰りが差した笹原だが、ふたたび決意を固めると荻上の待つ奥の部屋に入った。 そこには、紙の束を両手に持って部屋の真ん中に佇む荻上の姿があった。 荻上「その………これが………………」 荻上の声が震えている。うつむいて居るので表情は見えない。 今日は髪を下ろしているので、前髪も邪魔になっている。 笹原のほうにイラストの束を差し出してくるが、その手もよく見ると震えているのがわかる。 いや、その白い肩も、震えている。クーラーが効いているといってもまだ暑い9月のこと。 尋常な様子ではない。 しかし、今日はこれを見るために笹原は来ているし、荻上も招いている。 笹原『荻上さん……!! ソレを読んで大丈夫だと安心させてあげないと……』 イラストの束に手を掛けて受け取ろうとする笹原。 笹原「荻上さん、見るね? 俺なら大丈夫だから……心配しないで」 しかし荻上の手は固く束を掴んだまま離れようとしない。 荻上「や、やっぱり……やっぱり無理です―――」 顔を伏せた荻上の前髪の下から、床にぽたぽたと雫が落ち始める。 笹原「大丈夫、大丈夫だから―――」 イラストの束ではなく、固く握られている荻上の手の上に掌を添える笹原だったが、その冷たさにはっとする。 脳裏には、夢で見た荻上の遺体の冷たさ、その触れた時の冷たさが掌に蘇る。 笹原『荻上さんが、消えてしまいそうだ………!』 思わず、荻上の肩を抱く笹原だったが、荻上の小ささ、脆さ、そして冷たさが、腕に、胸に伝わってくる。 その腕の中でイラストの束を抱え、荻上は無言で泣きながら震えている。 笹原「俺は今日、荻上さんの全部を受け入れるために来てるんだよ」 荻上「見せちゃったら、今日でお別れです……私……わたし………」 笹原「今日駄目でも、明日大丈夫かも知れないじゃない?人は変わるものだよ」 荻上「ごめんなさい、ごめんなさい………私は、ヤオイ辞められなくて、変われなくて」 笹原「………! 違うって!」 荻上「笹原さん、絶対に無理しそうですよ……私なんかの為に」 笹原「いや無理って……、趣味は広がりこそすれ、狭くなる方にはあんま変わらないでしょ?」 荻上「趣味が広がるって、笹原さんが腐男子になるってことですか?」 笹原「そこまで言っていいのかな…でも、昨夜サイト巡りしてみたんだけど」 「荻上さんが絶対ヤバイとか言うから、過激なの探したけど、なかなか見つからないんだよね(苦笑)」 会話をするうちに、冷たかった荻上の体に温かさが戻ってきたのが笹原の腕に伝わる。 笹原「しかもだんだん、絵が上手くて、過激だったり萌えるシチュエーションに凝ってるのじゃないと納得しなくなるし」 荻上「な、何を言ってるんですか??」 笹原の胸に伝わってきていた荻上の震えも止まっている。 笹原「恐がらないで、荻上さん。俺も恐いんだ」 荻上「……私の絵を見るのが、ですか」 笹原「今朝、荻上さんが居なくなって、死んじゃう夢を見たんだ」 荻上「………!?」 笹原「夢でもあんなに辛いなんて………お願いだよ、荻上さん。居なくならないで………」 笹原『荻上さんは、ここに居るんだ。ここに、腕の中に………』 5分ぐらいだろうか、ひょっとしたら30秒ぐらいかも知れない。 部屋の中には二人の吐息と、外から聞こえるアブラゼミのジワジワジワ……という声だけが響いている。 笹原の腕の中に包まれた中で、今までにない初めての感覚に包まれている荻上。 荻上『これは、安心感?…頼っていいの?笹原さんに……頼るのはいいんだか?これって一体………』 しかし、自分ひとりでは落ち込みの悪循環だった荻上にも上昇する力が生まれてきたのも事実だ。 荻上『笹原さんも、私のアレから逃げないで居てくれる……私も逃げない……!!』 『アレからも、笹原さんからも、私の笹原さんへの気持ちからも、逃げないんだ!』 決意を固めると、荻上はようやく口を開いた。 荻上「笹原さん、ありがとうございます。もう大丈夫ですから」 笹原「え?そう?………あっ!ごめん」 慌てて腕を解いて荻上から離れる笹原だった。 赤くなっている笹原を見て、荻上は逆に落ち着いてきた。 荻上「改めまして、どうぞ見て下さい」 笹原「うん、じゃあ……」 テーブル横のクッションに座ると笹斑のイラストを見始める笹原。 荻上『うわ……見てる、見てる(汗)!』 机の椅子に座って、笹原を斜め後ろから見る格好の荻上。 同じテーブルに座るのは真正面過ぎて無理なようだ。 いくら覚悟を決めたところで、自分の妄想そのもの、荻上の一部といっても良いものを見られるのだ。 しかも描かれているのは当の本人。 笹原「うわ、俺、カッコイイな(笑)」 荻上「………(汗)」 笹原「うん…… うん……… なるほど」 荻上『な、何がなるほどなんデスカ?(大汗)』 数十枚に及ぶイラストをパラパラと飛ばすことなく、じっくりと見ていく笹原。 荻上『きっ、緊張する……ああっ!その絵は納得してないし!………それは、不自然に暴走しちゃって!(汗)』 笹原「うん、今まで見た女性向けの中で、一番良いよ」 荻上『評価キターーーー!(汗)』 荻上「え、いや、そんな」 笹原「出来たら、漫画も見せてもらえるかな?荻上さんの事、もっと知りたいし、漫画そのものにも興味有るし」 荻上「漫画って言われても―――」 笹原「夏コミ前に来たときに、オリジナルの見せて貰い損なったしね」 荻上「あ―――」 笹原はさっきまでの恋愛的な荻上を愛しむ表情から、やや仕事的な熱心さの表情が出始めている。 その雰囲気に流されて漫画の原稿を探し始めた荻上だったが、 荻上『ん―――? 見せるのはいいんだけんども、なんか私の想いはどうしたもんだか』 振り返ると、けっこう集中して荻上のイラストを見ている笹原の姿がある。 部室で一人、熱心に漫画を読んでいる時の笹原の表情だ。少し目が細く伏せられている。 荻上『あんなに無抵抗に熱心に見られるとはナァ……それはそれで嬉しいけど、今日は違うんじゃ?』 ふっと思いつくとゴミ箱から捻ってある紙を1本取り出した。 そう、午前中に描いていた「笹荻告白編」だ。 その紙をガサガサと机の上で出来るだけ平に伸ばすと、荻上はテーブルの笹原の横に座った。 荻上「どうぞ、これ読んでください」 笹原「え?1枚?なんかシワが………」 言いながらそのラフ画の漫画に目を通すと、笹原の顔に赤みが差し、ゴクリと生唾を飲み込むのがわかる。 その様子を微笑みながら見ている荻上は、本当に嬉しそうだった。 笹原「あ、あの―――」 何か喋ろうとするが、軽くパニックになっているのか台詞がまとまらない。 しかし、再び荻上から渡された漫画に目を落とすと、言うべき台詞が分かった。 笹原「好きだから、ここに居るし、守りたいと思うし」 横に座る荻上に真っ直ぐな眼差しを向けながら、一昨日の台詞を繰り返す。 荻上「私も、笹原さんのことが大好きで―――」 そこまで言ったところで笹原がガバッと荻上を抱き締めた。 荻上『ちょ、私の漫画より早いって――(苦笑)』 笹原「ずっとずっと、居なくならないで欲しい。一生―――」 荻上『まるで結婚のプロポーズみたい………』 そんな感想を抱きながら、同時に荻上の口からは返事の言葉が出ていた。 荻上「ありがとうございます………ずっと居ます。居させて下さい」 そして近づいてくる笹原の顔。緊張で真剣すぎて、ちょっと恐い。 荻上『えーーっと、目、目を閉じないと……?』 重なる二人の陰。 部屋の中は夕日には包まれていないが日は傾き、いつの間にか ヒグラシのシシシシシ……というか細い声が遠く響いていた。
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目眩く夢酔い 【投稿日 2007/02/20】 カテゴリー-荻ちゅ関連 ―荻上!! 彼女の表情が微笑みに変わったとき、私はフェンスから手を離した。 落ち際に見えたのは、微笑んでる自分の姿だった。 ハァッ、ハッ、ハァ・・・ 体中、嫌な汗でベットリしてる。 荻上は笹原と付き合い始めてから、あの悪夢で目覚めたのは初めてのことだった。 それは彼女に再会したのが理由だろうか。 ―荻上!? 笹原とのデート中。 懐かしい声に、荻上は振り返った。 荻上「中島っ・・・!?」 中島「やっぱり荻上だぁ、コミフェス以来じゃん」 あの悪夢以前の関係のように、中島は馴れ馴れしく接してきた。 中島は荻上に、就職活動の最中であると話した。 中島は立派な社会人の女性のように、凛々しい出で立ちをしていた。 中島「ふーん、やっぱり彼氏だったんだ」 笹原は一歩引いた感じで、中島と会話を交わした。 中島は、自分も東京の大学に在学してると話した。 その後。中島は強引に、荻上と再び会う約束をして去っていった。 そして今日が、その約束の日。 中島は是非、笹原も一緒にとのことだった。 荻上は、笹原の卒業式のときのような出で立ちで、笹原と共に出かけた。 中島「ごめーん、お待たせー」 その声に振り向いたとき、荻上に衝撃が走った。 中島の横には、一緒にコミフェスにきてた中学時代の腐女子仲間いた。 その後ろにいる、眼鏡をかけた男性。 荻上「えっ!ま・・・巻田くん!?」 巻田「お・・・荻上さん!?」 荻上は信じられないという感じで、両手で口を押さえた。 巻田が少し胸元の開いた、白いシャツを着てるのが印象的だった。 巻田「中島さん!これ、どういう・・・」 事情を知らなかったのか、巻田は困惑していた。 巻田は、やり切れないという表情で去ろうとした。 中島「まぁまぁ、いいじゃーん」 中島は去ろうとする巻田の腕に、両手と胸をくっつけながら引き留めた。 以前の出で立ちとは違い、キャミソールを着た中島。 巻田は視線を横に背けながら、立ち止まった。 荻上「中島、これぇ・・・」 中島「まあ、お互い積る話もあんべ」 荻上の東北訛りの問いに、中島も東北弁で返した。 中島は、困惑してた笹原に視線を向けた。 中島「つーわけだから、じゃ行きましょーか」 中島は笑顔で、笹原の背中を強引に押した。 腐女子仲間も背中を押すのを手伝って、笹原は困惑しながら場を離れた。 三人が去った後、荻上が口を開いた。 荻上「あ・・・謝っても謝っても許されることじゃないけど、あの時はゴメンッ!」 荻上は涙ながら、その場に手をついた。 荻上「ス・・・スンマセンッ!ホント、スンマセン・・・」 それをじっと見ていた巻田は、笑みを浮かべながら口を開いた。 巻田「荻上さん、いまプロの漫画家なんだってね。中島さんから聞いた」 荻上「ま、漫画家つーか、まだ読み切り数本載せてもらったくらいで」 荻上は静かに、腰を上げた。 荻上「巻田くんは、なんで中島と?」 巻田「うーん、なんか数日前に突然尋ねて来たんだよ」 巻田は、照れとも困惑ともいえない表情で、微笑みながら話した。 荻上「じゃあ東京に?」 巻田「うん、東京に引っ越してたんだ」 荻上「ゴメンね、本当にゴメン!」 荻上は、力強く目をつむりながら謝った。 巻田は、構わず話しを続けた。 巻田「今はそれくらいの個人情報なんて、手に入れるのは容易いみたいだね」 荻上「ま、巻田くんは、今何を・・・」 巻田「去年から大学に通ってるんだ。それまでは・・・分かるでしょ?」 笑みを浮かべながら話す巻田を見て、荻上はなんともいえない気分にさせられた。 去年から大学生ということは、それまでは社会に参加しづらい状況であったこと。 それを話す巻田の表情を見れば、自ずと理解できた。 荻上「わっ、私になんか出来る事があったら!」 巻田「今更?そんなのないよ」 巻田は苦笑しながら、淡々と話した。 荻上は、ただ呆然としていた。 自分への嫌悪感と、巻田への申し訳なさでいっぱいだった。 巻田「・・・でも、そうだな。一つだけあるかも」 荻上「な、なに!?」 呆然としていた荻上は、大きな目を更に見開いた必死の表情に変わった。 巻田「荻上さん。僕と、もう一回付き合ってよ」 荻上は、ただただ困惑していた。 巻田は、微笑みながら続けた。 巻田「冗談だよ。さっきの笹原さんだっけ?あの人が今の彼氏なんでしょ。 やっぱ、あの人のも描いたのかな?」 荻上「描いたよ。自分の本性は、やっぱ変えらんねぇ!笹原さんも理解してくれたから だから付き合ってる。でも、巻田くんが描くの止めろって言うんなら止める!」 荻上は、腕を力いっぱい真っ直ぐ下に伸ばしながら言った。 巻田「僕も理解できてたら、こんな遠回りせずに済んだのかな」 荻上「そんな、そんなこと。悪いのは全部私で!」 巻田「違うよ。責任は僕自身と中島達にもある。中島達が絡んでたことも なんとなく気づいてた。でも、今日ここに連れて来られて、それが確信に変わったよ」 荻上は、目を白くしながら巻田の話を聞いていた。 巻田の表情は微笑ではなく、少し口元が締まった表情になっていた。 巻田「あの本にショックを受けたことは事実だ。でも、君だけが責任を負うのは間違ってる。 あの本にショックを受けたのは、ほんの数日だけだったんだよ。でも僕は事を大袈裟に捉えて そのウチ学校でも噂が広まり、学校に行きづらくなった。ここからは君に責任なんてないんだ。 勿論、中島達にもね。今日、君が謝ったことで、その数日の苦しみの責任は果たされたんだよ。 でも中島達の責任は果たされてないかな?ハハッ」 巻田は、そう言って笑った。そして話を続けた。 巻田「その後の引き篭もってた期間は、僕だけの責任だ。でも僕は、それを君や親のせいにしてきた。 本当は、あの事件の話が学校中に伝わる前。いや、伝わってても学校に行くべきだった。 あの事件を、引き篭もった“キッカケ”にしようとして、イジけて引き篭もってただけだ。 好きな人の些細な妄想も許せず、噂で周りの視線を気にして逃げた。逃げただけだった。 ただ自分が弱かっただけだ。その証拠に引越してからも引き篭もってた。 なんてね。引き篭もってたとき、そんなこと考えたんだよね」 巻田は、寂しく微笑んだ 荻上は巻田の言葉に救われつつも、全てを納得したわけではなかった。 荻上「そんな、自分を卑下しないで。それに、そう言われて、ハイそうですかって言えない」 巻田「いや、ホントに。荻上さんの責任は果たされたんだよ」 そう言うと、巻田はビル間に垣間見える夕日を見た。 巻田は、少しトーンを低くして言った。 巻田「もし今、僕が荻上さんの趣味を理解できるなら荻上さんは・・・」 また声のトーンを戻し、巻田はこっちを振り返って微笑んだ。 巻田「いや、うん。なんでもないよ、ハハハ」 寂しそうに微笑む巻田に、荻上の心はキュンと痛んだ。 辺りが暗くなり始めた頃、あの三人も戻ってきた。 笹原は不安げで、申し訳なさそうな表情をしてた。 中島「二人で、なに喋ってたの?怪しいー。ねぇ、笹原さん?」 中島は悪びれる様子も無く、無邪気に言い放った。 荻上と巻田は、お互いの顔を見合って苦笑した。 三人は近くのファミレスで、ヨタ話に浸ってたそうだ。 中島「ふーん・・・」 中島は、じっと荻上と巻田を見つめた。 見つめられた、荻上と巻田は困惑気味だった。 今日は、ここでお開きになることになった。 荻上「じゃあ、中島」 中島「うん!また会おうね」 中島は、満面の笑みで荻上と別れた。 荻上「じゃ・・・また、巻田くん」 巻田「うん、またいつか」 遠くの方で中島と腐女子仲間が、巻田を待っているようだった。 荻上と巻田は、互いの携帯番号を交換して別れた。 巻田が中島達の元へ駆け寄るのを見届けて、荻上と笹原も反対側へと歩き始めた。 巻田「ごめん。じゃあ、行こうか」 巻田が、そう言うと三人も反対側へと歩き始めた。 中島が足を止め、反対側へ去っていく二人へと振り向いた。 そして、気味の悪い表情で微笑んだ。 シャアアアアー・・・キュッ ―ガチャッ シャワーから上がった荻上は、笹原の寝ているベッドに入っていった。 二人は当然のように、お互いの身体を求め合った。 荻上が、いつにも増して求めていると笹原は感じてた。 荻上「今日は、いつもより感じるんで・・・」 荻上の、その言葉に笹原の動きが一段と激しくなった。 荻上は笹原の下で、体を抱きながら天井を見てた。 頭に浮かぶのは、巻田の寂しそうな微笑みばかりだった。 朝起きたら、荻上はベッドにいなかった。 朝食の仕度か、台所から音が聞こえてくる。 もう一週間くらい、笹原は荻上の家で寝泊りしていた。 笹原「おはよー」 眠い目を擦りながら、台所で挨拶した。 寝癖も無く、身だしなみを整えた荻上が笑顔で答えた。 笹原も、会社に出掛ける準備を始めた。 笹原「じゃあ、行って来るね」 笹原が照れながら言うと、荻上は玄関で笑顔で見送った。 玄関を閉めると、すぐさま昨日の夜のことが頭を過ぎった。 笹原「それにしても昨日の、荻上さんは凄かったな・・・」 笹原は膨らみそうな股間に気づき、すぐに妄想を止めた。 いつものように満員電車に揺られて本社に向かう。 今日は派遣先ではなく、本社で一日中仕事だ。 ―笹原さん? 人口密度の高い車内で、笹原のすぐ横からだった。 笹原「えっ?中島さん!?」 中島「昨日はどうもー」 中年サラリーマンに押し潰されながら、中島が苦しそうに挨拶した。 香水と甘い香りに、笹原も苦しみの中に快感を感じた。 だが、すぐに荻上のトラウマの原因であることを思い出し、気を引き締めた。 中島「きゃっ!」 中島は群集から押し出されるように、笹原と密着した。 笹原は、背中に中年男の独特の臭いを感じながら、前では中島の柔らかさを感じていた。 中島がどういう人間かは理解してたが、一方では悶々としたものを感じざる得なかった。 中島「ハハ。なんか、すいませんね。」 苦しそうに、少し息を乱した中島の声。笹原の股間はMAXだった。 とまらないドキドキ。悲しいかな。エロゲーの、似たようなシーンとダブらせていた。 そうこうしてる内に目的の駅に着いた。 笹原「ふうー、大変だったね。大丈夫?」 中島「ええ、大丈夫です。でも、笹原さんとあんなにくっつけて嬉しかったかな。」 笹原は、少し驚いた表情で中島を見た。 中島は、少し息を乱し火照った顔で笹原を見つめた。 笹原「おはようございまーす」 程よい声で挨拶すると、そのままデスクに向かった。 以前は、おぼついてた仕事も、今では慣れた手つきでこなすようになってた。 そんな仕事も一段落着いて、休憩室からコーヒー片手に窓から外を眺めたとき。 笹原「あれ、中島さん?」 それは、どこか緩んだ表情の中島ではなかった。 いつもと違い、真剣な表情で社内に入っていくのが見えた。 そんな大人っぽい女性的な一面が、笹原のオタクの性を刺激した。
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その六 夢を見た【投稿日 2005/12/04】 カテゴリー-2月号予想 皆が寝てしまった深夜のロッジだが、荻上は一人起きていた。 過去を語って泣いてしまったあと、他の者には気丈に振る舞い、 男性メンバーも交えて談笑したあと就寝となったのだが、やはり眠れないのだ。 ノートを取り出し、過去の友人や今の仲間の絵を描いている。 といっても泥酔近いのでぐちゃぐちゃだ。それを直して…という事を繰り返している。 荻上「私が駄目だったんだァ…。でももう引き返せね…。」 独り言まで出ているが、ワインをかなりのスピードで飲み トイレに行ってはリバース。なんという飲み方だろう。 今時の体育会系でもそんな技を実践している所は少ない。 小柄な割りにリセットを多用したこともあり、また肝臓が強いのだろう、 明け方に咲がトイレに起きた時、まだ荻上は飲んでいた。 咲 「うわ、オギーまだ飲んでたんだ(汗)」 荻上「あー、ろうも…なんふぁ眠れなふて…」 咲 「ついててやるから、もう寝なよ」 荻上「すみあへん…」 ろれつが回っていない。そして表情はとても暗かった。 ぐにゃぐにゃになっている荻上に水を飲ませ、ベッドまで荻上を 連れていくと、嘔吐窒息予防で横向けに寝かせた。 咲 「大丈夫かい、飲みすぎだよ」よしよし… 荻上の頭をしばらく撫でている咲だが、 荻上「すいあせん…もうらいじょぶですから…ひとりで…」 と繰り返す荻上に、逆に落ち着かないか…と思って一旦離れた。 荻上はその後、独り涙を流しながら眠りに落ちていったのだった―――。 翌朝、というか1時間後。 田中が始発近い新幹線に乗ってやってきた。 皆が起きても、荻上は眠りについてすぐだ。しかも在庫の酒を 空にしてしまっている。 今日は起きれないことは明白だったし、起きたら介抱が必要だろう。 大野は、昨夜の話と、泣きながら眠る荻上を見て、今すぐ 笹原に荻上を救出させねば!と決意を固くして、笹原を ロッジの外へ連れ出した。 大野「笹原さん、荻上さんはこのままじゃ幸せになれません!」 「そんな訳にはいかないんですよ!」 笹原「え、ちょっとどうしたの…?まあ介抱は必要だけどさ」 大野「もう、何を呑気な…。いいですか、笹原さん…」 過去のいきさつを説明する大野。 笹原「なるほどね…」 笹原『そうか…避けられてたのは、そういう事か…』 『性格だと思ってたなんて、俺は―――。』 大野「どうなんですか、笹原さん。荻上さんの事が」 今まで淡々と語っていた大野だが、抑えていたものが溢れる。 大野「荻上さんの事が、好きなんでしょう?」 真剣な眼差しが笹原を射る。 笹原「うん、好きだよ。何があっても。」 笹原の方も真っ直ぐな視線で…いや、より強い意志が瞳に宿っている。 大野は安心と同時に、弱すぎると思っていた 笹原の強い瞳に少し驚き、後ろを向いてロッジに帰り始めた。 大野「じゃあ今日は、荻上さんの事、任せましたよ」 笹原『何があっても…。そう、荻上さんが幸せになるには、望んでいるのは何なのか。』 『初恋と、自分の業、そして傷つけた罪の意識、か―――。』 森を見やる笹原。夏空がその上に広がる その後、田中と大野、高坂と咲と恵子、斑目とクッチーが それぞれ出かける姿があった。 見送っているのは笹原が一人。 3人で出かける咲を見て、心なしか斑目は気が楽になった表情だが それは一瞬のことで誰も見る者は無かった。 いや、見られる斑目では無いだろう。 皆を見送った笹原は、荻上の傍に座っていた。 眠りが浅いのか、寝返りをうったり何やら寝言が漏れたりしている。 夢でも見ているのだろうか。 手持ち無沙汰になった笹原は、ふと荻上の眼鏡を掛けてみた。 笹原『うわ、クラクラするな(汗)!これはかなり度がきつい』 そんな事を思いつつも、荻上の眼鏡は少し嬉しい笹原だった。 真剣に悩んでいても、嬉しいものは仕方ない。 経験が無いぶん、未だに思春期真っ盛りか。 いや、触れられる事だけで嬉しい、これが原動力でも有るだろう。 その頃、荻上は夢の中に居た………。 801コピー誌事件のあと、荻上は家族内でも一度叱られたあとは 責められ続けはしなかったが、家庭も居心地の悪いものだった。 そして全校生から「ホモ上」。かつての文芸部仲間とも 表面的には親しくしていても、しこりは消えるものでは無い。 そんな時、転校した巻田が何故か学校に戻って来た。 夢の中なので整合性は取れてないが、転校した立場だがここに居る。 荻上はとにかく謝りたかった。 荻上「あ…あの、巻田君…。」 話しかけようとすると、巻田は冷たい視線で遠ざかってしまう。 しかも、周りの同級生達も、近づく事を妨害してくる。 男子「ホモ上、お前なにしてんだぁ。」 女子「ホモ上さん、あんた今更ずうずうしいべ。」 悲嘆に暮れる荻上は、階段の踊り場で坊主の同級生に声をかける。 坊主「俺もオメの事、許せないし気持ち悪いと思ってる。 けんど、謝りたいっていうのはよく解った。 呼んでくるから待ってろ。」 階段で待ち続ける荻上だが、息苦しさがどんどん増してくる。 誰がどう見ても、倒れる寸前だ。しかし巻田は来ない。 ついに荻上は気が遠くなり、その場に座り込んでしまった。 巻田「あ…!荻上さん、大丈夫・・・!? 保健の先生呼んでくるから」 荻上はその声を遠くに聞いたように感じた。 荻上「あ、巻田くん…。」 不意に発せられた声に笹原は驚いた。 眼鏡をかけたまま、見ると荻上がこちらを見ている。 荻上「巻田くん、運んでくれてありがとう」 笹原『巻田君って、中学の…!しかし寝ぼけてるんだよな…?』 荻上「やっと話を聞いて貰えて良かったぁ。」 笹原「大丈夫?荻上さん。寝ぼけてる?」 荻上「や…私は大丈夫…。それよりも、話を聞いて。」 笹原『どうしよう…。いや、気がすむなら…話を合わせよう。』 笹原「うん、話してよ、荻上さん。」 ぼんやりとしか見えない笹原を巻田と勘違いした荻上は、 夢の中の続きのままに話しかけ続けた。酒も抜けてない。 目はなんとなく笹原に向いているが、ほとんど見えてないだろう。 荻上「ほんと、私のせいで…私の絵で、ひどい事しちゃってごめんね。 謝って済むもんじゃないし、言い訳も出来ないし。」 笹原「うん…。いいよ。」 笹原『どうする…?夢の続きかも知れないけど、荻上さんは今、 中学時代に戻ってる。俺は巻田君か。』 荻上「ううん、よくないよ。気持ち悪いよね。でも、あれが私… 本当の私なの。」 笹原『中学の時の後悔している事を、和らげられたら良いんだけど…。 せめて今の眠りの中だけでも。』 荻上「こんな事なら、巻田君から付き合ってって言われた時に 断っておけば良かったね。こんな気持ち悪い子。」 笹原「そんなこと…。」 荻上「今、大丈夫になった?今でも傷ついたままだったらどうしよう… そればっかり気になって…。」 笹原『これは、もう大丈夫としか言う他ないな…』 笹原「うん、もう気にしてないから心配しないでよ。」 荻上「良かったぁ…!ほんとごめんね。それでもやっぱり、ありがとう。 こんな私でも、付き合ってって言われて嬉しかった。」 笹原「うん、そりゃ…好きだから。荻上さんこそ大丈夫?」 笹原は、自分の気持ちと、巻田に対する気持ちが複雑に胸中で渦巻く。 汗が滲んでいるのは冷や汗だろうか。 荻上「うん、ありがとう。私、もう大丈夫だから…。安心したから…。」 笹原『どうなんだ?荻上さんが中学生だとしたら…何を望んでいるんだ?』 笹原「良かったらさ、また仲良くしてよ。一緒に帰ろう。」 荻上「え…!」 しばしの沈黙。 笹原『あれ?どうしたんだ…?目が覚めたか寝ちゃったかな?』 荻上「巻田君は…転校先で幸せになってるんだよね?私は…私も…。」 「私も、好きな人が出来たんだよ…!まだ憧れてるだけだけど…。」 笹原『ええーーーっ!!』 荻上「私みたいな趣味の子から巻田君は離れられるんだから、幸せになってよ。」 笹原「え、いや…うん。」 荻上「私はどうなるか解らないけど、ひょっとしたらって…。」 「や…どうにもならなくても…ほんとに好きなものは離れられないし…。」 笹原「荻上さん…。」 どう受け答えしたものか、笹原にはどうしようも無くなってしまった。 荻上「………スー…スー…」 荻上はちょうど、また眠り始めたようだ。 笹原は溜息をついた。汗びっしょりである。 眼鏡を拭いて横に戻した。 笹原『巻田君が今、幸せになってるかどうか俺には解らないけど…。』 『癒えない傷じゃないと信じたいな。せめてその後一生801に無縁なら…。』 眠る荻上の肌布団をかけ直す。軽井沢なので涼しいし 泥酔していると体温調整もあまりされていない。 荻上の頬に触れると、しっかりと温かい。大丈夫なようだ。 笹原『俺は、彼女の趣味を、全て受け入れられるだろうか…。』 『俺が会った荻上さんは、801好きで、過去に傷つけた事に傷ついて…。』 荻上の寝顔を見つめる笹原の表情には、決意と少しの自信が覗えた。 笹原『恋愛経験、付き合った経験は無いから、何が不安かすら実感無いけどね。』 『でも、俺も荻上さんが好きなんだ!これからもずっと…。』 結局、トイレに2回ほど起きただけで、荻上は夕方まで寝っぱなしだった。 荻上は夢のことはぼんやりとしか覚えて居ないし、笹原と会話したとは思ってなかった。 翌日の飲み会では荻上はもちろん禁酒だった。 しかし早朝に咲が見た時のような影はもう無い。 荻上「あー、もう今日はお酒は要りませんよ。」 一同「あたりまえだ!!」 そして大野や咲に、隅の方でひそひそ話しに引き込まれては責められる笹原の姿が有った。 大野「もう、笹原さん、介抱だけって…!弱すぎですよ!」ヒソヒソ 笹原「え、いや、だってずっと寝てたし…!」ヒソヒソ 前日までは笹原を避けていたが、今日も距離は遠い。 いや、今日は笹原を見ている。その眼差しは和らいでいるようにも 何かの決意があるようにも見えることに、咲は気付いた。 咲「ふふ~ん。」 「ま、じれったいけど、なんとかなるかな…?」 少し微笑むと、咲は高坂傍に座りなおすのだった。
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その四 雪溶けの前に【投稿日 2005/12/02】 カテゴリー-2月号予想 荻上『あいたた…昨日、飲み過ぎて…』 女子の寝室から出て、水を探す。 荻上『色々と喋りすぎ…。でも、やっぱり私は―――。』 笹原も起きていた。 荻上『・・・!』 笹原「おはよう、大丈夫?」 荻上「え…ええ、おはようゴザイマス」 ペットボトルの水をコップに注いで手渡す笹原。 荻上「ありがとうございます」 笹原「明日は一緒に全員で飲むみたいだけど、無理しないでね」 荻上「・・・ハイ。」 「・・・・・・・・・あ、遅れましたけど、就職おめでとうございました」 笹原「うん、ありがとう。漫画好きだから頑張れるよ」 いい笑顔の笹原。心なしか荻上と話せてる事を楽しんでるようだ。 しかしさっと顔をそらし移動していく荻上。 荻上「トイレ行ってきますので」 笹原「あ、うん、じゃあ…」 明らかに落ち込み顔で見送る笹原であった。 荻上『やっぱり私、笹原さんの事―――。』 『でも、だからこそ、私は傷つけないように離れるしか…』 ロッジの外に出て、朝もやの中うつむき座り続けるしかなかった。 合宿2日目お昼前には、田中が合流した。 田中「よぉー。どう?楽しんでる?」 斑目「ん、まぁね。宅配で衣装、さっき受け取ったぜ。」 笹原「おはよーございます」 大野「お疲れ様です~」ふふふ 皆、口々に挨拶を交わす。 田中はにこやかに玄関脇に着いた宅配の大箱を開け始める。 咲 「う…それは、ひょっとして(汗)」 大野「現視研の合宿ですから!コスプレ合宿ですよ!」 うっひゃ~~~ 全員冷や汗。 恵子「あ、でも興味あるー。アタシのも有るの?」 大野「モチロン!恵子さんにはコレ!」 笹原「おいおい」 なし崩しで全員着替えさせられる。 春日部さんは抵抗するも、笑顔の高坂によって別室へ連行。 全員着替えるとなると荻上さんも空気を読んで着替える事になる。 田中「長物を全員分用意するの大変だったよ。」 と言いながら喜々としている。 ナムコの武器格闘ゲーム、ソウルキャリバーシリーズだ。 一同勢ぞろいでじゃれ合いや撮影開始になる。 春日部…ソフィーティア 高坂…セルバンテス 大野…ソン・ミナ 田中…アスタロス 恵子…タリム 笹原…御剣 荻上…シャンファ 斑目…吉光 朽木…ヴォルド 恵子「うわーアニキ、無理有る~。」 春日部「斑目とクッチーはオチ要員だね(笑)」 斑目「くっそー切腹してりゃ良いのか?」 朽木「コーホー(リアルに喋れません!)」 なんだかんだ言いながらノリノリ。全員やってる事と 身内だけで屋内なのも奏功だろう。 斑目は笹原を、女性陣は荻上を、それぞれ隣に隣にと押しやり ツーショット撮影など試みるが、荻上は頑ななまま時間は過ぎていった。 終わって女子部屋で着替えながら 荻上「ちょっと皆さん、あからさま過ぎますよ!」 「余計なことはしないで下さい!」 小声ではあるが、例の固い表情の荻上。 恵子「アニキの事、嫌い?なわけ無いよね。」 「昨日の話聞いたけど、昔の男と兄貴は違うんだよ。」 荻上「違うことぐらい解ってます!」 「でも私は私を許せないんですよ! 一生801だけ書いて生きていくしか無いんです!」 恵子「好きなものを好きで居て良いじゃん!あたしだって コーサカさん好きだし、同人誌も読み始めたし。 あんたも801好きで!兄貴にも素直になりなよ。 絶対、兄貴も気があるって。」 荻上「だったら尚更、私は離れるしかありません」 「絶対に、傷つけたくない人だから…」 最後のつぶやきは、しかししっかりと部屋の皆に聞こえた。 荻上「夜まで自由時間ですよね。昼食に出ます。」 部屋から出て行く荻上を追いかけたのは大野だった。 大野「荻上さん、わかりましたから。せっかくの合宿だし 一緒に出ましょ。ね?」 咲 「悪ぃな、あたしゃ高坂と出かけるわ。頼んだよ、大野。」 恵子「あ、あたしも―――。」 咲 「おめーは今日は駄目だ!」 結局、田中・大野・荻上、高坂・咲、斑目・朽木・笹原兄妹、 という組み合わせでばらばらと出かけていった、げんしけんの面々。 湖畔の道を歩きながら、恵子が話しかけた。 恵子「兄貴、荻上さんの事、ちゃんとしなよ。」 笹原「ばっ、な、何言ってるんだよ。」 クッチーはヤバイ話になると急速離脱がお得意だ。 恵子「昨日、聞いたんだよ。あの子がああなった理由を。」 笹原「ストップ!それは聞かなくて良いよ。勝手に喋るもんじゃないだろ」 恵子「バカ!もう黙っちゃ居られないよ、兄貴!」 昼食を採りながら、ひとしきり昨夜の事を語ってしまう恵子。 笹原「そうか―――。」 恵子「可哀そうじゃない。あの子、このままじゃ…いつまで引きずれば良いのさ」 「兄貴もあの子も、見てて好きなの見え見えなのに。」 一瞬赤面する笹原だったが、真面目な顔になり 笹原「確かに好きだよ…でも、可哀そうっていうのはどうでも良いんだよ」 恵子「はぁ?ヒドくね?」 笹原「なんていうかな…確かになんとかしてあげたいけど、 俺が今、無理してアプローチしても、余計傷つくでしょ。 彼女の重荷を軽くしてあげたいのと、ずっと見守ってあげたいとは思うよ。」 恵子「…それじゃあ二人とも、平行線じゃん。そんなの納得いかない―――。」 斑目「まぁまぁ、確かに急いでもどうにもならないけど、好きな気持ちってさ 消そうと思っても消えない物でしょ?本物だったら。」 「今日、どうこうしようと結果を求めるもんじゃあ無いよ。」 いつもは頼りない姿として恵子の目に映っていた斑目だったが、 今日のこの一言に説得力のある佇まいだった。 恵子「そう、か…。」 斑目「ただまぁ、もうちょっと喋れないと、今の状況は辛いなぁ。」 「ま、そういうわけだ、恵子ちゃん。皆にも、もうしばらくは 見守ってあげるように言っといて。」 笹原に苦笑を投げかけ、笹原も納得したようすで嘆息する。 その二人を眺めつつ、恵子も黙るしかなかった。 夕食は定番のバーベキューだ。 男連中は網や炭の準備だが、流石オタク、手際は悪い。 高坂と田中に任せる形になる。 女性陣は野菜を切っている。 恵子「昨日の話、兄貴に話しちゃったよ」 荻上「なっ!」 咲 「おいおい、お前…」 大野も咲も汗ダラダラ状態。 一瞬焦った荻上だが、諦めにもにた表情を浮かべ冷静になる。 荻上「笹原さんは優しいから、可哀そうとか言ってくれたんですか? 笹原さんを縛ったりしたくないですから―――。」 「前にも言いましたけど、私がオタクと―――。 いや、誰とも付き合うわけないじゃないですか!」 恵子「わかったよ、でも何にも話さないのなんてオカシイじゃん」 大野「そうですよ、全く会話が無いなんて、同じげんしけんなのに」 荻上「そうですね、今後は腐女子全開で行きます。」 大野さんも恵子さんも、801話全開でいきますからね。」 大野・恵子「え、私たち(あたしら)も?」 荻上『笹原さんへの想いを吹っ切るんだ、もう―――。』 そしてバーベキュー&飲み会。 本当にカップリング話を繰り広げる女性陣…。 荻上「麦男×千尋が―――。」 恵子「えー、逆の方が萌えねぇ?」 笹原「はは…。」 斑目と田中、クッチーは二つある網のもう一方で半笑い。 笹原は、喋ってくれるようになった荻上に呼ばれてお隣だ。 さらに酒も時間も深くなり、室内に移動しても宴は続く。 完全にリミッター解除状態で全員黒目は白くなっている。もしくは渦巻き。 恵子「ねぇねぇ、今日気付いちゃったんだけど、身近な所でも カップリング考えない?」 荻上「それは私に対する挑戦ですか!」 恵子「いやマジで!!斑目と兄貴って良くね??斑×笹萌えとか―――。」 荻上「それは逆だァ!」 大野「まあ普通は斑×笹でしょう」 荻上「解ってませんね!ちょっと待ってて下さい!」 スケッチブックを取りに行って、例の絵を披露してしまう。 荻上「ほらコレ!これが萌えるんですよ…これをこうして…」 ネクタイを引っ張る絡みを描き始める荻上。 荻上「ほらー見てください!笹原さん!アハハハハハ」 「メガネ君受けじゃないと萌えないんですよ!」 荻上「もう高坂さんなんて魔王ですから!魔王!」 大野「あーそれは禿げ同。禿げサイコー!」 完全にヤケになっている荻上…。 しかしこういう合宿で泥酔すると定番なのが、脱走&徘徊だ。 トイレに行ったかに見えた荻上だが行方不明になる。携帯も置きっぱなし。 生き残った男性陣の斑目、笹原、田中で捜索開始。 高坂は体力低下と咲の絡み酒で、二人して撃沈していた。 意外にも第一発見者は斑目だった。けっこう遠くまで歩いて来ている。 少し距離を置き見守りながら笹原を携帯で呼ぶ。 斑目「なんか飲み会の時、話すようになったっていうより痛かったしさ」 笹原「ええ、落ち着かせて帰りますから」 ふらふらと歩く荻上を呼び止める笹原。 笹原「荻上さん!帰ろうよ」 荻上「あ、笹原さん。私、家に帰ってるんですよー。一緒に行きますか?」 笹原「え?ああ、そうだね、こっちの道だよ」 荻上「私の実家は山奥ですからねー。どんどん歩かないと」 完全に正体を失ってると判断した笹原は、話を合わせつつ帰路に誘導する。 荻上「えーもー引っ張らないで下さい!やらしいですねぇ。」 「って、私の方がエロエロですから!」 笹原「いやいや、俺の方がエロいってば・・・」 荻上「きゃー私、危ないですか、今?」 「なーんて、こんな腐女子ですから。安全ですよね、ごめんなさい」 笹原「まあまあ」 荻上「極悪腐女子ですから! 笹原さんも夏に私の本見ちゃったから呪われてますよ!」 笹原「いいから。」 荻上「ハトよめですか?どんどん歩かないと。私の実家は山奥ですよー」 てくてくと歩く二人。 さらにしばらく歩く。酔いはすこし冷めてきたようだ。繰り返し発言は無くなった。 荻上『なんでこんな所歩いてるんだろう~。 あれ?ロッジで飲んでたはずなのに~。 それに笹原さんと二人で。キャーやばい!この背中…。』ドキドキ 意識は戻ったもののまだ脳内も酔っている。 荻上「笹原さーん、なんで今歩いているんですか?」 笹原「うん?帰ってるところだけど、疲れた?少し休もうか」 自販機の明かりが見えた。道沿いに屋根とベンチの休憩所が有る。 荻上『そうだった、私は801だけで生きていくんだった。 さっきも自分の絵を笹原さんに見せて―――。』 荻上「なんか、すみませんご迷惑お掛けします」 笹原「はは…今日は凄かったね。意外と笑い上戸だったんだね。」 荻上「ええ、今日から素直に腐女子全開で行きますから!」 その表情はまた固い。 笹原「素直っていうか、辞められるもんじゃないよね。おれも一生オタクだよ」 荻上「なんで笹原さんは私にまだ優しいんですか?」 笹原「何言ってるのさ、荻上さんは荻上さんじゃない。」 まだ笹原は笑顔だ。 荻上「話、聞きましたよね。さっきも私の絵を見て…。 笹原さんでも妄想してるんですよ」 笹原「うーん、それを言われると………。 俺も荻上さんのコスプレ姿が脳裏に焼きついてるよ」 荻上「残念でしたね、私がこんなにひどい女で。」 笹原「そんな事ないよ。」 真面目な目でじっと見つめる笹原。 荻上『―――!!』 『ああ、このままじゃ駄目だ、また私傷つけちゃう…。』 目を逸らす荻上。涙がにじんで来る。いや、酔いのせいか早い。 もう雫が落ち始めている。 (私がオタクと付き合うわけないじゃないですか!) (絶対に嫌です!!)の時並みに強張っている。 荻上「無理しなくて良いんですよ、気持ち悪いに決まってるじゃないですか。」 「可哀そうな子とかじゃないですからね。業の深い801スキーなんですよ」 笹原「うん、そうだね。…それでも今日は荻上さんといっぱい話せて嬉しかったよ」 涙に動揺しつつも、指で涙を少し拭ってあげる。 荻上「そんな…私は…私だって…。」 頬に感じる笹原の指。 荻上『…あったかい。』 荻上「私は男の人を傷つけるんですよ…。801で…。昔も、今も…。」 笹原「…荻上さんは801好きなのが荻上さんでしょ。」 「そういう所も含めて、俺の知ってる荻上さんなんだよ。」 荻上『ああ、見なくても解る、笹原さんの笑顔…。』 頬に触れる笹原の手に、荻上の手が重なる。流れる涙の種類が変わる。 笹原「あれ!?荻上さん?」 笹原にもたれ掛かる荻上。酔って寝てしまったようだ。 その表情はいつしか穏やかになっている。 流石に応援を呼ぼうと電話するが誰も出ない。 小柄な荻上といえど、負ぶって帰るには遠い。とはいえ、放置する訳が無い。 途中で休憩を挟みつつ、なんとか背負って帰った笹原だった。 全員寝てしまっているのか?斑目が報告しているから心配はしていないだろう。 荻上さんを空いている女子室ベッドに横向きに寝かせると… 高坂「笹原君、お帰り。」 笹原「あ、起きたんだ?」 高坂「酔ったというより寝ちゃってさ。」 「咲ちゃんと二人で酔っちゃった人の様子見てるから。」 笹原「うん、ありがとう。眠くなったら交代するから起こしてね。」 笹原は広間に戻っていった。しばらくして高坂も広間に戻る。 高坂「どうだったの?咲ちゃんから聞いたけど、告白とかしちゃった?」 笹原「はは…告白なんてとてもとても。」 高坂「そう・・・でも心配なさそうだね。荻上さんの表情も、笹原君の表情も。」 笹原「うん、ありがと。」 翌朝、二日酔いに苦しむげんしけんの面々だったが、笹原を避ける荻上―――。 という姿は無く、そこには荻上の良い笑顔が有った。 荻上の長い冬は終わり、雪溶けと芽吹きが萌える季節が来る。
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その一 点灯夫【投稿日 2005/12/25】 カテゴリー-3月号予想 笹原「荻上さん」 荻上「あ………」 振り返って笹原の方を向いていた荻上だが、すぐに山の方に向き直る。 荻上「追いかけて…来られても、私どうしたらいいかわかんないんですよ」 笹原「駄目だと思うけど、もう一回言うよ」 荻上「………」 笹原「俺、やっぱり…… 荻上さんが好き……だから」 「さっきも 笑ってたけど、泣いてたよね? …守りたいんだよ」 背中で聞いて、やはり嬉しさが込み上げる。 笹原の笑顔が脳裏に浮かぶ。が―――。 次に浮かぶのは、屋上から飛び降りる巻田でなく、落ちていく笹原だった。 荻上『私はこの人を…殺してしまう…』 そして涙がこぼれる。 振り返ると、やはり冷たい笑顔で泣いている。 荻上「さっきも言いましたよね 私は男の人とは つき合わないんです」 笹原「うん、ごめん、オタクとは付き合わないって言ってたしね…」 「俺はオタクだし、なんの特技も無くて、地味で、冴えない男だし…」 荻上「違うんです!」 叫んでうつむく荻上。 荻上「ありがとうございます…けど、駄目なんです」 笹原「え……?」 ありがとうございます、で一瞬喜色が浮かぶ笹原だったが再び神妙な面持ちで話を聞く。 荻上「気持ちは嬉しいです、本当に…でもきっと、笹原さんの心を」 荻上は顔を上げて、涙が流れ落ちる強い瞳を笹原に向ける。 荻上「…心を殺してしまう事になるんですよ」 笹原「そんな……え? そんなわけ無いじゃない!」 一瞬、笹原はきょとんとしてしまったが、次の瞬間には必死で否定する。 笹原「心を殺すなんて…さっき断られて一人で残ってた時の方が、よっぽど死ぬかと思ったよ」 普通だったら親しい人を振った相手を追い詰める台詞だが、笹原は思わず本音を述べてしまう。 荻上『笹原さん…私の事をそこまで!?』 荻上は、笹原への想いが笹原からの想いと繋がる嬉しさが胸の奥から込み上げてくる。 荻上『ああ、でも…つきあっても結局私は傷つけてしまう…この大事な人を…』 『なのに、断っても死ぬかと思うって…どうしたら……』 きっぱりと断ろうとしていた気持ちに動揺が生じて、鋭かった目に迷いの色が浮かぶ。 しかし、意を決して笹原に過去を語り始める荻上。 その行為は、無意識に笹原に救いを求めているのかも知れない。 荻上「聞いてください、中学の頃、私は……」 その頃、げんしけんのメンバーは 斑目「今頃、どうなってるかなあ~~~(冷や汗)」 咲 「ま、笹やんもヤルときゃヤル男になってるでしょ」 斑目『笹原、お前、男だぜ……』 茨の道を歩み続けるのも、それはそれで男の中の男なのだが、 本人はそこまで客観的に自分に酔ってる余裕は無い斑目だった。 大野「う~~~」 田中「まぁまぁ、今日全てが解決するとも限らないでしょ。じっくりと一歩ずつ前進すれば良いんだよ」 今日夜の宴会の用意をしながら、大野をなだめるのだった。 恵子「あれ、クッチーが居ねぇ……」 ひとしきり話し終えた荻上は、今は泣かないように堪えている。 荻上「巻田君はきっと、今でも傷ついてます…一生…」 笹原「荻上さんの罪の意識は…一生消えないかもしれない」 「それは巻田君が赦してくれたからといって、過去は永遠に変わらないし」 告白という人生初のステージに浮足立っていた笹原だが、荻上の人生の話に気構えが定まってきた。 落ち着いた表情で荻上を見つめる眼差しは、暖かい。 笹原「過去は変わらなくても、人は変わっていくものだよ。荻上さんも、俺も、巻田君だって」 荻上「それでも私は、801を辞められないんですよ…変わろうとして、変われなかったんです」 笹原「うん、変えようと思って変えられない事は有ると思うよ」 「俺みたいなヌルイ隠れオタクだった奴でも、辞められなかったんだし」 荻上「私はやっぱり、男の人…いえ、笹原さんと付き合ったら必ず傷つけちゃうんですよ…!!」 笹原「もう、傷ついてるよ」 荻上「……!」 笹原「断られるのって傷つくんだよ(苦笑) 俺の存在が全て無駄みたいでさ…」 「それに、荻上さんが一生傷ついて生きていこうと傷ついてる事に、俺も傷ついてる…」 はっと笹原の目を見遣る荻上。頭でなく心が、通い合ってくる笹原に反応している。しかし―――。 荻上「やめてください! 私は私のことが一番赦せないんですよ!」 笹原「荻上さんは本当はどうしたいの?一生誰とも…俺とじゃなくても付き合いたく無いの?」 荻上「それは……」 荻上『ううん、笹原さんとじゃなきゃ、嫌……なんだ。それはもう分かったけど……』 荻上「私にそんな資格 あるわけないじゃないですか!」 「人を 傷つけて…今度は笹原さんを…」 もう、何に必死なのか荻上自身も分からなくなってきた。罪の意識に縛られているので仕方ないが。 笹原「誰だって…俺だって、妄想は止められないよ」 顔を真っ赤にさせながら笹原は告げはじめる。 笹原「荻上さんの内面だって好きだけど、同じように身体だって、全部好きで…」 赤さにおいてはそれを聞いた荻上も負けてはいない。 笹原「その…荻上さんの体で、想像して…妄想して…○○○○した事だって!」 荻上「なっ……!!」 笹原「だっ…だから! 妄想は止められないよ」 荻上「………。」 真っ赤になりすぎて荻上の表情は判別不能だ。脳内も真っ白かも知れない。 笹原「止められないんだから、俺も荻上さんの妄想も込みで好きになるよ!」 荻上「……無理ですよ」 笹原「だって男でも801読む奴も居るし、荻上さんの作品だってこの先きっと…」 「いろんな人に読まれるよ!」 編集者の卵としての性もあらわれたような夢を語る笹原の表情は嬉しそうだ。 笹原「それで、一番のファンは俺なんだよ」 「それに、編集者の一番の特権ってさ、最初に読める事だよ(笑)」 荻上「笹原さん……私…でも、あの……」 笹原「すぐにオッケー貰えなくても良いから」 荻上「でも、まだ801好きになってないじゃないですか…」 「うん…傷ついても構わないから 傍に居る方が嬉しいんだ」 「好きだから… これからも、守らせて…よ…」 荻上の目から流れる涙は、悲しいものじゃない。笑顔から生まれる涙だ。 荻上「ありがとうございます、私も……私も、笹原さんの……」 パシャッ! 朽木「…あ、オートフラッシュが働いたにょー」 笹原「朽木くん、なにをしてるのかな……?」 珍しく怒り顔で青くなっている笹原は貫禄が出てきている。 朽木「イェーーーー!!」 猛ダッシュでホテルに戻っていく朽木であった。 結局その後、とりあえずホテルの浴場を借りた荻上も合流して、 合宿2日目のバーベキューでの宴会になるのだった。 冷やかし過ぎると、笹原がマジギレしそうになるので みんな空気を読んで、今日はあんまり根掘り葉掘り聞かない。 荻上は今日は流石に酒は飲まないし。 しかし、荻上に寄り添って肉やおにぎりを皿に取り分ける笹原と それを素直に受け取る荻上の姿を見て、皆ニヤニヤせずに居られない。 まぁ斑目はいじけ気味だし、クッチーは撮影熱心だが。 しかし確かに、言葉少なめだが、荻上の目には喜びの光が宿っていた…。
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普通の日 【投稿日 2006/04/10】 カテゴリー-笹荻 それは何でもない普通の日。 強いて言えば、とても天気の良かった日のこと。 荻上はいつも真っ直ぐ前を見て歩く。 ちょっとだけ不機嫌そうに。 別に機嫌が悪いわけではない。地顔なのだ。 実は本人も結構気にしていて、いくらかでも変えようと、毎日鏡の前で百面相しているのは秘密だ。 その度にため息をついて、自分が「かわいく」ないことに落ち込んでしまうのも秘密だ。 ついでに鏡に向かっているときに、うっかり「完士さん♪」などと囁いてしまい、照れくささと恥ずかしさで一人で大暴れした事は、荻上にとって最大級の秘密だ。 それらは誰にも知られてはならないのだ。絶対に。 特に笹原に知られたら…間違いなく飛び降りようとするだろう。 閑話休題。 荻上はふと足を止め周りを見渡した。 どこからか漂ってくる、かすかな花の香り。 名前も知らない人の家の、小さな庭の片隅の潅木に咲いた小さな花々。 その花の名前を、荻上は知らない。 でもバラのように派手でもなく、ランのように官能的でなく、桜のように圧倒的でないその花を、荻上は好ましく思った。 少しだけうれしくなる。 再び歩き出す。 その顔はわずかに笑っていた。 それはとてもかわいらしく。 その日笹原は、大野から借りた本を返すため、部室を訪れた。 しかしそこには誰の姿もなく、仕方無しに返すはずの本で復習を始めた。 不意に扉が開いて荻上が入ってきた。 「やあ、荻上さん」 荻上の返事はない。彼女は部室を見渡し、向かいの児文研の部室を覗き、窓に背中を向ける。 それから軽く咳払いすると、満面の笑みを浮かべて言った。 「こんにちは、笹原さん」 この笑顔を見るたびに、笹原は照れてしまう。 「そこまで警戒しなくても…それに、荻上さんはかわいいんだから、もっと自信を持って笑えばいいと思うよ?」 照れ隠しに笑いながら、笹原は提案する。そう言いながら、その笑顔を独占したい自分に気付いて苦笑する。 「どっちもいやです」 荻上は不機嫌な顔で答えると、笹原の隣に座った。 「ところで、何を読んでいる…」 荻上はさっきまで笹原が読んでいた本を手にとって、絶句した。 机の上に置かれた紙袋の中身を確認する。 間違いない。荻上は確信する。なぜなら、その内のいくつかは、彼女も持っているから。 「笹原さん…?」 固く暗い声で荻上は笹原に詰め寄った。 「え~と…」 笹原はあらぬ方向を見ながら頬を掻いている。 「どうして笹原さんが801本を読んでるんですか!?嫌がらせですか!?…まさか、本当に801に目覚めた、なんて言う…んじゃ……目覚めて…」 (『ふふ、どうしたの斑目さん?こんなに体を硬くして…』『だって、荻上が見てる…』『そう?見られて興奮してるんじゃないの?ほら、ここもこんなに硬い』『ち、違う!ああっ!』) (『完士さま、私もどうか…』『だめだ。お前はそこで黙って見ていろ』『ああ、そんな…』) (そして二人は私の見ている前で愛欲の限りをつくし…) 「…えさん!…ぎうえさん!聞こえてる?荻上さーん!!」 「ハヒッ!?」 荻上は我に返る。どうやら軽くワープしていたようだ 「大丈夫?まだ顔が赤いよ?」 「大丈夫です!それより、これはなんなんですか!?」 心配する笹原に、荻上はむきになって食って掛かった。 「笹原さんはこんなもの読まなくていいんです!こんな不潔でいやらしくて、作者の恥ずかしい妄想を固めたようなもの!」 「でも荻上さんも書いてるよね?」 笹原の一言で、今まで沸騰していた荻上がみるみるしぼんでいく。 「ああ、ごめん!それを責めてるわけじゃないんだ。ただ、いままで俺はこういう世界を知らなかったから、少しでも知りたいと思って…」 「何のためですか」 すねたような表情をして、荻上は笹原を見上げた。 そんな荻上を正面から真剣に見つめ、笹原は言った。 「荻上さんの力になりたいから」 荻上はトマトやりんごもかくや、というほどに真っ赤になる。 「俺は男だから、完全に理解できる自信はないけど、それでも何かの役に立てればいいな、と思ったんだ。」 「実際あの時以来、荻上さん、俺にそういう原稿を見せてくれないし…」 「俺はそういう趣味ごと、荻上さんが好きなんだ。だから、協力させてください」 しばしの沈黙の後、荻上はうつむいて、搾り出すように答えた。 「…アリガトウゴザイマス。コチラコソヨロシク…」 その答えに、笹原は満面の笑みを浮かべて荻上を抱きしめる。 荻上は何度か躊躇ったあと、笹原のシャツの背中をしっかりと握り締めた。 二人で荻上の家に向かう。 ふと笹原が足を止める。 「どうしました?」 「いや、なんかいい香りがするな、と思って」 荻上は黙って庭の片隅の潅木を指す。小さな花々が咲いている。 「ああ、それだったんだ。すごいね、荻上さん。すぐにわかるなんて」 「違います」 「何が?」 怪訝そうな顔をする笹原。 「秘密です」 荻上はそう言って笹原に笑いかけた。 そして彼の手を取ると、先になって歩き出した。 それは何でもない普通の日。 強いて言えば、とても天気の良かった日のこと。 そして初めて荻上から手を繋いだ日。
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その五 夢を見る方法【投稿日 2005/12/28】 カテゴリー-3月号予想 朽木が笹原から少し時間をおいて追跡すると、遠くで言い争う… いや、一方的に怒っている荻上の声が聞こえた。 そして、向こうから荻上が走ってきた。 朽木のことは完全に無視で横を駆け抜けていった。 といっても、息も絶え絶えだ。 「ゼハ・・・ゼハ・・・」 そして、触るなという強い壁を身に纏っている。 ロッジに戻っていくのだが、朽木にも追いかけるのがためらわれた。 道の向こうの方には、道端にうなだれて座り込む笹原の姿が見える。 朽木『う………むしろ、あっちの方が 離れておいた方が良いよね』 ロッジに入ると、またしても怒っている荻上の声だ。 叫んでこそいないが、とりつくしまも無い。 荻上「よりによって、笹原さんをけしかけて…! 周りで介抱とか…仕組んで!」 「私は誰とも付き合わないんですよ、なんで解からないんですか!」 大野「荻上さん、聞いて――!」 荻上「つきあったら、傷つけるんですよ、絶対に。それに私に資格なんて無いのに…」 「断るしかないのに!……断るしか!」 大野「そんな事ないでしょ――」 荻上「それなのにあんな優しい…笹原さんまでさっき、断るしかなくて……もう」 「もう、帰ります……そして、みなさんサヨウナラです………」 着替えもせずに荷物だけ掴んで、ロッジから飛び出す荻上。 流石に咲や田中、高坂も留めようとするが、駄目だった。 力ずくでなら小柄で弱っている荻上を止めることなど容易だろうが 触ったところから壊れてしまう、そんな雰囲気であった…。 流石にスゥェットは駅で着替えたが、帰りの新幹線では 二日酔いのにおいが漂う虚ろな少女の隣に座る人は居ない。 荻上『ああ、なんて事…… 大事な居場所を無くしちまった……』 『笹原…さん……本当はありがとうと言い尽くしても足りないのに……』 とめどなく涙が溢れる。嗚咽が漏れるのが止められないので ダッシュでトイレに駆け込んだ。 荻上『でも、私なんかと付き合うより、これで良かったんだ』 『私の罪は私だけのものだもの』 しかし、そんな考えのさらに奥の気持ちが別の声を叫ぶ。 荻上『また新しい罪を犯しちまってどうする!?まだ間に合う、引き返すんだ!』 『本当はどう思ってるの?そうじゃないでしょう?本当は笹原さんと―――』 それ以上は荻上は自分の心を聞けなかった。涙で塗り潰す東京までの帰路となった。 後期の授業が始まったが荻上は履修の手続きすら気が乗らなかった。 今まで真面目に単位を取得していた荻上は、必修以外の授業は受けなくても 通常の学生と同じペースに並ぶだけなのだが、ほぼヒキコモリになってしまった。 荻上『出席の返事以外、1ヶ月誰とも話してないわ…』 たぶん、声の出し方すら忘れたんじゃないかと思う。 荻上『まあ、中3から高校の時も一人みたいなもんだったし、慣れてるもんさ』 短期のアルバイトと仕送りで生活していたが、バイト代は夏コミで使い果たした。 仕送りだけで暮らすと、月の食費は5000円ぐらいしか無いが、なんとかなるものだ。 米は実家から送られてくるし、何しろ漫画しか描いてない。 今日も午後からの必修授業だけ受けて帰ってきた。 荻上『寂しいもんだなぁ、なんだかんだ言っても』 『……でも、こんな私でも笹原さんに愛されていた、その思い出だけで生きていける、かな』 あの時必死に拒否する荻上に、それでもなんとか笑顔を作りながら笹原が最期に言ったのは 笹原「忘れないでよ、ずっと好きだから…荻上さんの見たい夢を見守りたいから」 荻上「いえ、私の事は忘れてください。それが私の一番の願いです」 それが最期の会話だった。 荻上『駄目だ!あの時の会話は思い出しちゃ駄目だって……』 駄目も何も、何枚笹原の絵を描いたんだろう。 801以外のオリジナル漫画は全て描きかけだが、どれも暗い恋愛ものだが 話として進まないので完成したものは無い。 荻上『私の見たい夢って、漫画家になる事なのかな……』 げんしけんのメンバーとはすれ違いそうになるルートは通らないし、 見かけても視線を動かさない。今日も遠くに大野が居るのは分かったが 無反応で通してきた。 笹原も4年の後期なのでほとんど来ないだろう。 げんしけんは今はどうなっているのだろうか?しかし 荻上『もう行けるわけがねぇんだ。どの面下げて……だいたい笹原さんも居るし』 生活リズムが狂って夕方から寝ていた荻上は、また悪夢で目が覚めた。 巻田が飛び降りる所では終わらずに、今度は落ちるとまた自分になり 助けに来た笹原を屋上から突き落とすのだ(何故かまた屋上に居る)。 荻上『ひでぇ…本当はこんな夢じゃくて、笹原さんと―――』 思いかけて、やめた。 荻上『いや、考えんのもいけねぇな、それは……』 起き出してTVをつけても深夜の通販しかやっていない。 PCを起動して、何の気なしに巻田の名前でgoogle検索してみる。 と、ずばりヒットする項目がある。 荻上『え…?』 思わずクリックしてサイトを見てみると、まさしく巻田のブログだった。 普通は実名じゃないと思うのだが、内容はオサムシの収集に関するブログ。 研究目的の真面目なサイトには実名のものが時々有る。 昆虫採集の様子の写真を見てみると、どうみても本人だった。 荻上『………どうしよう』 謝ることも出来ずに別れたのだ、許されたいと思うのもおこがましいが 謝ることだけはしたいと思う。そして出来れば今どうしてるのか まだあの本のことは気にしてるのか……。メールを送ろうか……。 荻上『返事、期待しても駄目だな。謝罪を送るだけ送って、 帰ってこなくても悔いの無いように書いて送ろう。』 最悪の場合、巻田がショックを受けすぎてサイト閉鎖とかしたら またしても罪を重ねてしまう。慎重に書かねば―――。 結局、翌日は授業が無いとはいえ、メールを送ってから徹夜してしまった。 神経が昂ぶって眠れなかったし、眠りが浅いと悪夢を見そうだったから。 昼前まで無理やり起きていると、寝すぎないように夕方に目覚ましと 携帯のアラームを仕掛けると、泥のように眠り込んだ。 と、思ったらもう時計が鳴っている。 ああ、全く夢を見なかったんだ。良かった…。 起きてシャワーを浴びると、胃が動いていない。 メールチェックをするが、巻田からの返信は無い。 今のうちに買い物に行くか、という事でスーパーに行って 納豆と海苔佃煮、秋の安売りで1尾95円だったサンマを買ってきた。 グリルではなくコンロに載せる蓋付きの焼き網でサンマを焼くと 簡単に食事を済ませた。 荻上『ま、今日は豪勢なほうだなぁ』 食事が終わり、またメール受信をするが、迷惑メールの類しか来ていない。 荻上『ま、返事は無理だよな…いや、まだ早いはず』 そしてメールチェックを繰り返すうちに夜中になり、ついに返信が来た。 荻上『来ちまった…!!』 自分で出しておいて返信が来ちまったも無いものだが、開封するのは恐かった。 「お久しぶりです。突然でびっくりしました。なんだか懐かしい気もしますね。 椎応大で東京に出てるなんてびっくりです。すっかり都会人なんでしょうね。 僕の方は、東北からは出てません。大学ではまだ研究室に分属してませんが 昆虫学をやり、もう山に採集に出たり、標本を作ったりしている日々です。 最近流行のオタク、昆虫オタクとでも言うのかな。昆虫は流行ってないけどね。 さて、前置きはこれぐらいにしてお返事します。 あの時の事を謝られてますが、確かにかなり吃驚しました。 それにショックで、理解も出来なかったです。 正直に書いて来られてるので僕も正直に書きますが 今でも気持ち悪いと思っていますし、理解できません。 それに君と親しくしていたのに、あんな事を考えていたなんて 正直裏切られた気がしましたし、今でも引きずってないかと言えば まだ多少、女性が恐い気がします。 全員が全員、あんな趣味の女性じゃないとは思いたいです。 許してもらう気は無いと書かれていますが、奇麗事を言わなければ お互い、許さず、許されずで良いんじゃないでしょうか。 荻上さんにとってああいう趣味が止められない、生きる習性そのもの だとしたら、僕とは相容れない関係だったという事でしょう。 僕が好きな虫のひとつ、マイマイカブリはカタツムリを食べるしかないし カタツムリとしてはマイマイカブリを恨むしかないし、一生会わずに 過ごせば幸運だったと思うでしょう。 生き物の世界ってそんなもんじゃないでしょうか。 自然の摂理に沿って考えれば全ては無罪で、全ては有罪の生き物です。 僕がカタツムリだったということでしょう。 面と向かってたら、良いから気にしてないとか言いそうだけど メールだからか、素直に語れた気がします。 まあ、30歳か40歳で同窓会ででも会えば宜しくです。 さようなら。」 荻上『………なんだ?』 意外な形で全く別種のオタクと遭遇したことに頭がついていけないが 思ったよりサバサバしたメールに拍子抜けした気がした。 荻上『許されてない、巻田君は気にしてる、罪は消えない…』 再確認しただけだが、なんだか大きな荷物だと思っていたものが 体の一部になって、自由に動き出せそうな気がした。 だがしかし―――。 荻上『笹原さんへの片想い人生、か―――。こりゃ長い旅路だわ。』 『なにしろ、もう目が無いどころじゃないもんな、一生』 自虐的な笑みを(ニヒ)と浮かべると、発売日になった雑誌を 並べ始めた深夜のコンビニに出かける荻上だった。 メガネ分は少ないが、おおフル(おおきくフルスイング)は外せない。 とある分厚いオマケ付き雑誌を買うと、荻上は店を出て暗い夜道を歩き帰る。 暖かな風の匂いが強くなる。雨が近いかも知れないが傘は無い。 そこでバッタリ。 真正面から笹原に会ってしまった。 荻上『えっ!?近所じゃないのに……どうしよう!?』 笹原「や、やあ荻上さん、こんばんは」 どうやら笹原も動揺している。 荻上「………ど」 「…………こ、こんばんは」 すれ違っていく二人だった。 荻上『……ごめんなさい笹原さん』 荻上の笹原への罪の意識からすると、荻上からは話しかけられない。 意を決して振り返り、声を掛けたのは笹原だった。 笹原「荻上さん、ちょっと話、いい?」 荻上「…っ!!」 話しかけられた背中が跳ね上がる。 荻上の家まで歩きながら、途中の児童公園の水銀灯の下に寄る。 笹原「携帯にも出ないし、訪ねても出ないって、現視研のみんなも心配してるよ」 荻上「すみませんけど、もう…」 笹原「いや、大野さんも強引だったって反省してたし……」 荻上「いえ…」 笹原「俺も、…あのときはごめん」 荻上「えっ…そんな」 荻上『それって、やっぱりもう、私の事……』 『そりゃ、自分でそう言っておきながら想い続けて欲しいなんてわがまま過ぎんだな』 荻上「そんな、謝らないで…下さい……」 そう言いつつ、荻上は足元が無くなるような感覚に襲われた。 笹原「いや、俺って大学で少しはマシになったかと思ったけど、情けないね」 荻上「そんなことありません」 笹原「でも…でも、さ」 「ストーカーっぽいけど、断られても、まだずっと」 荻上の鼓動が大きくなりはじめる。 呆然とした感じに笹原の顔を見続けてしまう。 深夜だし二人っきりとはいえ、完全に無防備だ。 笹原「…好き、だし …守りたい」 「荻上さんの夢を一緒にみていきたいと思う」 荻上『…っ!いけない、私はこんな事は許されない、許せないんだ、自分が』 荻上「わ、私の…夢?…ゆ―――」 夢なんて悪夢しか見ない、そう言い掛けた時に ザアッ――――――――― 大粒の雨が辺りを叩き始めた。温暖前線のようだ。 荻上「キャッ!」 雷まで鳴り始め、最近では珍しくなってきた電話ボックスに 二人で駆け込み雨宿りをする。 雨音が強くなり、電話ボックスの屋根は騒音を立てている。 そして稲光と轟音。 笹原「大丈夫?」 雷に反応して思わずその場で縮こまる荻上に優しく手を回す… なんて事は笹原には出来ない。 笹原「しばらくしたら、通り過ぎると思うから」 とはいえ、雷が恐いのは生理的なもので、鳴り響くたびに荻上は過剰反応をし いつしか笹原に寄り添っていた。 おびえる子を突き放すことも出来ないし、その服の下の細い肢体の感触に惹かれ どさくさ紛れ気味に荻上の背中に腕を回す笹原だが、その行動は正解だった。 荻上『私の夢、私の欲しかったものはこれだったんだ……』 笹原の腕の中で荻上は、ようやく自分の心の底の声に耳を向ける事が出来た。 自分の思考だけでは辿りつけなかったが、体からの声も手伝った。 荻上「私の夢は…」 笹原「ぅん?」 笹原の胸に顔を伏せたままで荻上が喋り始めた。 荻上「私の夢は、同人やヤオイや一般作も自由に描ける漫画家になることです」 笹原「うん!」 荻上「それと…… それと、笹原さんと一緒に居たい事…です……」 荻上『バカ……今更、あんな笹原さんを傷つけたのはなんだったの?図々しい…!』 荻上の肩、いや体は震えていた。寒さのせいではない。 笹原「うん…ずっと一緒だよ」 荻上の震えを止めようとするように、笹原はそっと回していた腕に力が入る。 荻上『―――許された、私は許されたんだ』 そう思うとともに、荻上の目から大粒の雫があふれ出した。 荻上「私も…好きです…」 か細い声だし、雨音がうるさいが笹原の耳には直結しているようにクリアに伝わった。 もう二人に言葉はいらない。 あとしばらく、電話ボックスは雨に包まれているだろう。
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その四 それなんてエロゲ【投稿日 2005/12/26】 カテゴリー-3月号予想 何で逃げてんだ私… …今更戻れねえし… 顔も合わせられねぇ… 謝れねぇ…けど… 謝らねえと…そして… …また傷つけるのか…? …だめだ、私じゃ… 迷惑だって… 最低だ… 俺何で走ってるんだ? そりゃ荻上さんを連れ戻しに… でもさっき振られたばっかなのは もう分かりきってるけど… 何て話せば… …いや そんなことより…ついさっきまで寝てたのに… あのままじゃ風邪ひいちゃう… 放っておいたら何処に行くのか分からないし… まさか…川に飛び込んだり… ……! 荻上 「笹原さん……」 笹原 「…ハァ、ハァッ……」 ようやく追い付いた橋の上で、荻上さんが振り返る。 名前を呼ぼうとしても、喉がひりついて声が出ない。全速力で走ったのなんて、何年ぶりだろう。 荻上 「……何しに来たんですか…」 笹原 「……ハァハァ……何って……」 荻上 「……」 言葉が続かない。 連れ戻しに来た、なんて言った所で、今の彼女が素直に頷いてくれるだろうか。 それが先程あんな事を言った相手だったら、尚更だ。 荻上 「さっき言ったじゃないですか… 私は男の人とはつき合わないって…」 改めて聞かされると堪(こた)える。 拒絶されてる以上、一体俺に何が言えるんだろう。無力感が募る。 笹原 「あ……ごめん……」 結局反射的に漏れる言葉。自分で自分が情けない。 荻上 「……なんで謝るんですか」 だって荻上さん、そんなに辛そうな顔をしているのに。 今は目の前にいる君を、ただ安心させてあげなきゃいけないのに。 何も出来ない。 なんの言葉も浮かばない。 今謝ったって何にもならないのは分かっているけれど。 荻上 「悪いのは私です」 笹原 「…どうして!?」 俺の視線から少し目をそらしつつ、荻上さんが答える。 荻上 「せっかく優しくされても……、………また裏切っちまう…」 …一体何の話だろう? ……荻上さんが?裏切る?誰を? 荻上 「もう怖いんです…」 笹原 「え?……」 荻上 「…もう私の所為で、人を傷つけるのは怖いんですっ!!」 今にも壊れてしまいそうな声で、荻上さんが叫ぶ。 荻上 「私と関わったら、ロクなことにならねえっす!!間違いないです!絶対に…!」 今立っている場所からほんの数歩歩けば、荻上さんの場所まで行ける筈なのに。 今の俺と荻上さんの距離が、ものすごく遠く感じる。 この人は、ずうっと今までこうして、人との距離を測りながら生きてきたんだろうか。 まるで、自分のトゲで仲間を傷つけないよう、臆病に生きるハリネズミのように。 そんなの、あまりにも辛すぎる。 荻上 「絶対に…」 笹原 「そんなことあるもんかっ!!」 思わず叫んでしまった。 荻上さんは驚いた目で、俺の目を見つめる。 笹原 「こ、コミフェスで、荻上さんを見てたときっ…」 視線があってドギマギしてしまい、舌が思うように廻らない。 笹原 「どれだけ、…どれだけ嬉しかったか!!」 相手の目を見つめ返しながら、あの時の気持ちを。 少しでも、ほんの少しでも、自分の気持を伝えられたら。 そう心の底から思いながら、言葉を口にする。 荻上 「ふっ…は、ははっ」 笹原 「何も可笑しくなんかっ!…」 荻上 「嬉しいんす」 笹原 「え?」 荻上 「笹原さんの気持ち、嬉しいんです」 ドクン。 一瞬、心臓が飛び跳ねる音が聞こえた気がした。 微笑みを浮かべながら、荻上さんが話す。 さっきコテージで見せた、どこかで何かを諦めきっているような、哀しい微笑み。 荻上 「でも駄目なんです」 笹原 「…」 荻上 「もう、決まってるんです」 笹原 「荻上さん、何を言って…」 荻上さんの言葉と表情に気を取られていた俺は、すぐに後悔することとなる。 気付いた時には、荻上さんが橋の柵を跨いだ後だった。 荻上 「来ちゃ駄目です!それ以上来たら…」 笹原 「だっ、駄目だよ、荻上さん…!」 手を膝ほどの高さの柵の手摺りに引っ掛けて、つま先だけ地面に乗せながら、 こちらを今にも泣きそうな目で睨んでくる。いつ川に転落してもおかしくない。 ここからもし落ちれば、一体どの位の高さなのか。荻上さんから目を逸らせず、確かめようも無い。 山の奥から、激しい滝の音が聞こえる。 追いかけて来た時の嫌な考えが頭をよぎった。 笹原 「何で…!なんで、そんなにっ、荻上さん…、自分を…」 なんて上ずった声だろう。一瞬自分の声か分からなかった。 荻上 「だって、…わがんねえんです!…」 笹原 「……」 荻上 「嬉しくても…駄目なんです…」 荻上 「もう、私、どしたらいいか…!」 (笑えば良いと思うよ) 突然、ふっと頭の中に例のフレーズが浮かんでくる。 笹原 「わ…わら…」 (…こんな時に何浮かんでんだよっ!!馬鹿っっ!!) 笹原 「笑わなきゃ…!」 荻上 「えっ…?」 笹原 「そんな…嬉しいんだったら…笑わなきゃ…!」 笹原 「そういえば荻上さん…あんまり笑ったことないよね…」 荻上 「…」 笹原 「ずっとそうやって…、周りに壁作ってたの?」 自分でも何を言っているか分からない。 恥ずかしさを抑えるように、一気に話しかける。 笹原 「確かに、ヌルい部活だけどさ…」 荻上 「…」 笹原 「俺ら同じ部活仲間じゃん」 いつもなら絶対言えないような言葉だと思う。 俺じゃない別の誰かが喋っている感じだ。 笹原 「皆だって荻上さんのこと…好きだと思うし…」 振られたことが頭をかすめて、とっさに”俺”を”皆”に置き換える。 言っていることに間違いはないと思うけれど。 荻上さんはまだ俺の方から目を離さないでくれている。 話し掛けながら、気付かれないよう少しずつ、足を近づけていく。 笹原 「そんなに、自分のこと…責めないでよ」 荻上 「!」 荻上さんの表情が変わった。 自分の言葉が空回りじゃなかったと思えて、少しほっとする。 あと一歩歩けば荻上さんに届く場所まで近づいた。 笹原 「とりあえず…、戻らない?…皆の所へ」 そういいながら、そっと手を伸ばしてみる。 荻上 「…、……」 荻上さんの視線が、俺の頼りない手へと落ちていく。 そして。 彼女の手が、だんだんと近づいて… 荻上 「ひゃっっ?!」 笹原 「!!」 突然足場の土が崩れて、荻上さんがバランスを失う。 近づいてきた手が、今までと反対の方向へ離れていく。 まるでスローモーションのように。 笹原 「荻上さんっ!!」 すぐに離れた手を追いかける。 次の瞬間には二人とも地面から離れていた。 相手の手を掴む。 水が激しく跳ねる音がした。 何も見えない中で、腕を引っ張り手繰り寄せる。 身体の何処かが擦れたような痛みが走った。 とにかくがむしゃらに水を掻く。 笹原 「っぱ、はぁ、ハァっ…、」 水中から顔を出して、息を吸い込む。 荻上さんは…。 腕の中を確認する。 きちんと、その存在があった。 彼女を抱えたまま急いで、川原へと移動した。 荻上 「……ぷぁ、はっっ、ごほっ…っ、がはっ…」 笹原 「だっ、大丈夫!!?」 荻上 「…はっ、あ、いえ…、……ちょっと、水飲んだだけっす…」 俺の呼び掛けに、荻上さんは答えた。 どうやら、怪我らしい怪我も無いようだ。 笹原 「…は……良かったぁ…」 荻上 「…!!笹、原さ…」 笹原 「…ん?」 荻上 「…ち、…血が…」 そう言われてから鉄くさい匂いに気付き、慌てて自分の顔に手を当てる。 赤い。 もう一度顔を触る。 いったい何処から。 しばらく出血場所を探すと、額の左上から目尻にかけて傷が走っていた。 その場で傷を洗い、箇所をこする。うっすらと水で薄められた赤色。 …どうやら浅い傷みたいだ。 それほど大した痛みもない。 笹原 「…大丈夫、ちょっとこすっただけ…」 ツー… 荻上さんの目から、涙が頬を伝って落ちる。 荻上 「…う…うぅっ…」 とうとう声を出して、泣き出してしまった。 目を腕で隠しながら、必死に声を抑えようとして、嗚咽を漏らす。 きっとこんな状況になってしまい、また自分を責めているのかもしれない。 …こんな時、泣いている女の子に対して、一体どうすればいいのだろう。 以前どこかで見たことがあるような気がする。 何時だったかの、高坂君と春日部さんの姿がちらついた。 笹原 「ごめっ…」 荻上 「!!」 (声でねぇぇっ…) 行動に移すべきか考える前に、体が先に動いてしまった。 荻上さんの頭を抱え込む。 笹原 「ご、ごめんねっ…」 荻上 「うっ、ひぐっ、なんであやっ、まるんす、かっ…」 笹原 「いや、その…」 荻上 「わたすの、せいでっ……けが」 笹原 「…じゃなくて!…そうじゃなくて…」 そうじゃなくて…何か言わないと… ……あの時、高坂君はなんて言ってただろう? ……… そういうこと? …そういうことなのか。 荻上 「わげ、わがんねっ…」 笹原 「荻上さんのこと!」 笹原 「気付いて、あげっ、あ、あげられなくて」 笹原 「ごめ…」 荻上 「…っう、うぅ…ぁあっ、うわあっ…」 全て言い終わる前に、彼女は泣き崩れた。 荻上 「うーっ…、ぁう…ひぐっ…ぁっ…ひはっ…」 背中に、彼女の腕が廻ってくる。 自分の腕の中で泣きじゃくる声に、胸が痛む。 荻上 「はぁ…も、怖くでぇっ…はっ…ぅあ…」 笹原 「…うん」 ただ頷くことぐらいしかできない。 荻上 「えぐっ…ひぃ、う…」 ……… ~~ ~~ ……… 笹原 「お、…落ち着いた?」 荻上 「…」 辺りが静かになり、 今まで意識へ入ってこなかった音に包まれた。 ひゅう、と風の音が聞こえる。 荻上 「寒…」 笹原 「あ…」 荻上 「い、いや!何でもないっす…」 周りには何も風避けになるようなものがない。 彼女の頭に回していた腕を背中に回す。 少しでも寒さをしのげるように自然と力がこもる。 荻上 「先輩…苦しい」 笹原 「あっ…ごめ…」 そう言われ、とっさに腕を放す。 密着している状態じゃ息もできない。当たり前だ。 …セクハラまがいのことをしてしまったのでは。 急に不安になる。 荻上 「…さっきから…、謝って、ばっかりですよ…」 腕を放した筈なのに、荻上さんと俺との距離は離れない。 荻上さんの腕は俺の背中に廻ったままになっている。 …もしかして、ものすごくありえない状況では。 そういえばお互いの服がびしょ濡れのままだ。 シャツが腕に張り付いて気持ち悪い。 ……。 やはり荻上さんの服も…。 …さっきから胸の辺りに感じるやわらかいようなものは… ………。 笹原 「は…、早くもどろっか!か、風邪引いちゃうし…」 荻上 「…りたくねっす」 笹原 「え!?」 一瞬自分の耳を疑う。 荻上 「戻りたくないです…」 笹原 「…でも…」 荻上 「…もう少し、こんまま…」 笹原 「!…?!」 背中から、力が服越しに伝わってくるのが分かる。 トクン 自分の心臓の音が聞こえる。…それしか聞こえない。 ドクン こんな大きな音、相手にも伝わってしまうんじゃないか。 笹原 「お、荻上さん!?」 荻上 「先輩…」 か細い声を漏らしながら、荻上さんが上目で見つめてくる。 …こんな表情、見たことが無い。 笹原 「…荻上…さん…」 名前を呼びながら、彼女の肩に手を乗せる。 改めて、小さな身体だと分かり、何だかとても愛おしくなる。 ずっとこの小さい身体で、周りに虚勢を張りながら頑張って来たんだろうか。 …もう、無理しなくたって大丈夫だよ。 そんなことを思う。 …自然と、顔が近づいていく。 荻上 「…だ…駄目っすよ!」 荻上さんの突然の制止に、ふと我に返る。 荻上 「さ、さっき…、吐いたばっかですしっ!」 そういいながら二人の間に腕を挟み、押し返される。 少しだけ距離が離れる。 荻上 「っ…、何でそんなこと言わせるんですか…」 泣きそうな顔で、そう俯きながら零す。 濡れた髪のせいか、曇りがちの表情がより健気に見えた。 まるで落ち込んだ子犬みたいだ。 …可愛い。 笹原 「…ごめん」 荻上 「え…?」 笹原 「…もう我慢できないや」 そういいながら、目をつむって顔を近づける。 ほのかに唇に当たる感触。 高坂 「なんてことになってたり」 斑目 「…それ何つーエロゲー?」 咲 「……ちょっと…キャラが違うような…」 大野 「高坂さん仕事のしすぎじゃ?」 恵子 「…ハハ……」 朽木 「タイトルは"おぎちん"とかドーデスカ?」 田中 「ありそーで嫌だな…」 朽木 「名前に引っ掛けてふたなりモノなんかイケそーな」 男一同「…………」 恵子 「何それ?」 咲 「…さぁ?」 大野 「…ちょ//……ちょっと!」 朽木 「… (うゎ、ハズしちゃったかにょー…)」 斑目 「朽木ー、後ろ、後ろ…」 朽木 「…はい?」 笹荻 「……………」 朽木 「……(大汗」 一同 「………………………」 荻上 「人が居ない所でなんの話してるんですかっッッ!!!!」 咲 「…何で二人とも濡れてんの?」 荻上 「へ?…!! …/////や、…あの、そのっ…」 笹原 「…ふぁっ……ックシュン!!」 翌日。 大野 「そんな曇り顔じゃ駄目ですよ荻上さん!」 荻上 「でも…私が原因で…」 咲 「いーからいーから!!笹原は男共に任せとけって!」 大野 「そこじゃ映りませんよ!せっかく可愛いワンピースなんですから!!」 荻上 「先輩、ちょっ…、引っ張っちゃ…」 恵子 「おーい、撮るよー」 『パシャッ』
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(方言はわからないのでとりあえず標準語でお送りします) 登場人物呼称 荻上 中島 デブ お下げ 名無し 1 薄暗いコミケ一般行列 中島とツレが座って寝ている 二人は手をつないでいる こっくりこっくり眠る中島 アップ 2 扉 タイトル「ごねんせい」 3 中学時代、クラス分けの張り紙の前、文芸部員揃い 中島「――また一緒のクラスだね」 荻上「そうだね」 中島「これで一年荻上と一緒だ!」 オギーに抱きつく中島 荻上「わ」赤面 名無し「お、レズプレイ?」 中島「バーカ」 全員「あはははは」 4 帰り支度をするオギー 中島「荻上」「文芸部行こ」 荻上「うん」 廊下を歩く二人 5 中島「いやー でも」「この前の裏本」「気合入ってたなー」 荻上「その言い方やめようよ;」 中島「でもうちらの本も雑誌に紹介されて」「2年間頑張った甲斐があったよ」オギーの肩を抱く中島 荻上「私達は4年間だけどね」 中島「……」「まー」「そうだなー」 「……」「……」ちょっといい雰囲気 6 お下げ「あ」「こんにちは」 中島「よ!」「あ それ」「今週号のマガヅン?」 お下げ「うん」「何かネタ無いかなって」 荻上「この前始まった『くじびきアンバランス』は?」 お下げ「うーん」「とりあえず主人公カップルはできそうだけど」「様子見かな」 中島「でも麦男×千尋ってよくない?」 荻上「うん」「メガネ受け最高」 中島「結局そこか;」 7・8 部活動中のショット 妙にオギーにじゃれつく中島 巻田総受け本を相談するコマ 中島と荻上 赤面しながら描きものをするオギーを見下ろしたショット 教室の天井 中島「荻上ー」 9 中島「文芸部行こ」 荻上「あっ」「ごめん 今日もちょっと用事が……」 中島「……」 一瞬不審そうに見る中島、次のコマでは笑顔 中島「そっか……」「なら仕方ねぇなァ……」 いそいそと帰る荻上、見送る中島、何か言いたげ 10 例の神社 仲良く話す荻上と巻田 覗く中島、超ショック 11 自室の中島、目を腫らして、机に肘をついている 何か思いつめている「……巻田か」ボソリ おもむろにワープロを叩き出す 超集中している 12 部室 デブ「中島ー!! これヤバすぎだー!!」 名無し「キャー!!」 文芸部員たちの黄色い声。オギーはいない。 中島「いやぁ……」「やっぱ素材が身近にいると」「つい気合入っちゃって……」 中島テレ笑い。 中島「というわけで」「巻田総受け本 作ってみない?」 名無し「やるやる! こんな凄ェ原稿見たら黙ってらんね!」 デブ「たまにはこんなんもやるべ!」 13 中島「……ま、今回は内輪だけだから」「……みんなも気合入れてくれ!」釘をさす 全員「お――――!!」 中島の口元、笑み 荻上「え?」帰宅中オギー、315ページと同じコマ 14・15(全部無言の絵、トーン全面貼り) 316ページ1コマ目 316ページ5コマ目 318ページ4コマ目 319ページ1コマ目 319ページ5コマ目 320ページ3コマ目 中島が文芸部員に話をする、全員ビックリする(トーン貼ってないコマ) 「巻田くん総受化計画」を持つ手(トーン貼ってないコマ) 323ページ1コマ目 323ページ4コマ目 324ページ3コマ目 326ページ1コマ目 16 青い顔して教室に戻る荻上 中島「荻上ー」「どうしたー?」興味津々 オギー、中島を怯えた目で見る 中島、一瞬ひるむ 逃げるオギー 中島「あ……」 呆然とする文芸部員 17 一人で帰宅する中島 [荻上が巻田のホモ本描いたんだって] (荻上、なんで私に黙ってた?)(私達友達じゃなかったの?) [それで巻田転校したんだって?] (なのになんで隠したの?)(やましい事だとでも思ってたの?) [それじゃ荻上じゃなくてホモ上だな] (私は悪く無い)(荻上が悪いんだ)(巻田が悪いんだ)(私に黙ってるなんて) [ホモ上か、そりゃいいや] (私が悪い)(『絶対にそんなわけ無い』) 18 (私が悪いんじゃない) 教室 音楽を聞くオギー、話す中島 中島のアップ「ホモ上」ボソッ 中島キレる(私は悪く――) 19 中島「誰だ今言ったの――!!」中島のアップ 「なんだウゼェよ中島」「誰かって聞いてんだよ」中島本気 「誰も何も言ってねぇよ」「ウソこけ!聞こえた!!」 バッ 中島「あっ 荻上!!」 荻上を追いかける中島とデブ 20(例の回で、オギーのコマは中島、中島のコマは荻上で) 中島「荻上!!」 フェンスの外にいる荻上 荻上と目が合う 中島を見る、荻上の怯えた目 消える荻上 21 何も無い屋上のフェンス外 動揺する中島 フェンスに走り寄るデブ、立ちすくむ中島 その場に倒れ込む中島 大文字「私が」 22 薄暗いコミケ一般行列 中島が目を覚ます、涙目、ガタガタ震えている そっと手を伸ばすツレ ツレ「どうしたの中島」 中島「……なんかイヤな夢を……」 ツレ「どんな夢?」 中島「……覚えてない」 23 ツレ「大丈夫」『中島は悪く無いよ』耳元に囁くツレ 急に冷静さを取り戻す中島「うん……」 ツレ「それにしても」「今回荻上のサークル出てないんだね」 中島「うん」「落ちちゃったのかな」 ツレ「それにしても」「あれってやっぱり彼氏なのかな」 中島「そりゃそうでしょ」「変わってないよね荻上」 24 横顔で普通に笑顔の中島 行列遠景 「あとどのくらい?」「1時間半くらい」「うわーきっつーい」 ザワザワザワザワ、行列風景 笹原、荻上、斑目が行列に並んで楽しそうに話している おわり 【感想・ご意見】