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~第一章~ 一口に探すと言っても、何処に向かえば良いのか、皆目見当が付かない。 旅支度を済ませたはいいが、さて、どうしようと悩んでいたところへ、 昨夜の声が語りかけてきた。 目を覚ましていたにも拘わらず……だ。 自らの内より発せられる声に導かれるまま、真紅は、とある村へ向かっていた。 この辺りは未だ、去年の大飢饉の無惨な痕を残している。 一見すると穏やかな田園風景だが、空気に、悲嘆や哀愁の情が満ち溢れていた。 「もしかして……この気配は」 朝から歩き詰めだったため、木陰で旅の疲れを癒していた真紅は、 不意に我が身を襲った悪寒に、腕を掻き抱いた。 空を見上げると、俄に暗い雲が広がり始めていた。 ついさっきまで晴れていたのに、この急変は異常すぎる。 胸の奥底から、不安な影が頭を擡げ、沸き上がってきた。 退魔師の能力が、禍々しい気配を感知している。 得体の知れないモノに包み込まれる様な、不愉快な感覚。 「どうにも慣れないものね……気色が悪いわ」 左手の甲にある痣が、籠手の下で焼けるように熱くなっている。 それは、真紅の不安を肯定する反応だった。 「間違いないのだわ。この反応は……穢れの者!」 真紅は、巫女装束の袖をバサリと風に靡かせ、神剣『菖蒲』を引き抜いた。 穢れの者どもが連れてくる腐臭が、真紅の鼻腔を刺激する。 近い。もう……そこまで来ている。 がさっ! 頭上の枝が揺れたかと思った瞬間、穢れの者どもが奇声を発しながら飛び降りてきた。 足軽の格好をしているが、中身は骸骨である。数は……三匹。得物は、いずれも刀。 真紅は襲撃者の第一撃を躱しざま、端の一匹に斬りつけた。 真紅の斬撃を浴びて胴丸ごと両断され、骸骨は瞬く間に塵となって消えた。 息も吐かせぬ早業で、真紅は残る二匹も斬り伏せる。 「他愛のない。所詮は、死に腐れた穢れどもね」 と、余裕めかして軽口を叩いたものの、真紅は状況が好転していないことを悟っていた。 まだ、第一派を撃退しただけ。痣の熱と疼きは、まだ収まっていない。 それどころか、更に熱くなっている。 真紅は木陰から飛び出して、路上に陣取った。 道の左側は、先程まで休んでいた森の際。右側には水田が迫っている。 足場の悪い水田を背にすることで、回り込まれる危険性を弱める狙いだった。 それに、枝が迫り出していない此処なら、先程のように、頭上から不意を衝かれる心配も無い。 空が泣き出し、大粒の雨が真紅の服を叩き始めた。 直後、森の中から、戦場を彷彿とさせる怒号が響いてきた。 「来たわね。団体さんの、お出ましなのだわ」 漆黒の闇と化した森の奥から、長槍を構えた骸骨の群が押し寄せて来る。 総数は、計数不能。多勢に無勢である。 真紅は小さく舌打ちして、袖の中から呪符を抜き出した。 呪符と言っても紙ではない。心血を注いで打ち込んだ玉鋼に、 精霊と契約を交わす言霊を刻み込んだものだ。 あれだけの数を相手にするには、こちらも防御力を強化しなければならない。 「法理衣!」 術を発動させるや、真紅の身体は赤い陽炎に包まれた。 これで、暫くは直接攻撃に耐えられる。 効果が持続している間に、穢れの者どもの包囲を突破、脱出せねばならない。 素早く周囲を見回し、手薄な部分を捜した。 (後ろは水田……正面の敵中突破は有り得ない。となると、右か……左か) 田圃の細い畦道を行く手もある。 足場の悪さを利用すれば、追い付かれるまで、かなりの時間を稼げるだろう。 だが、一歩しくじれば、自分が足を取られてしまう危険があった。 それに、身を隠す場所のない所で、雨の如く矢を射られたら、躱しきるのは困難だ。 びゅっ! と、鋭く空を切る音。 目前に迫った足軽どもが、一斉に槍を突きだしてきたのだ。悠長に考えている暇など無い。 真紅は右へ飛んで、そのまま街道に沿って走り出した。 左脇の茂みから、刀を振り翳した骸骨が四つばかり、飛び出してくる。 「邪魔よ。この死に損ないどもが」 赤い陽炎に包まれた神剣を一閃させた途端、四つの穢れは忽ち両断され、飛び散った。 散発的な攻撃なら、どうとでも対処できる。厄介なのは、数に物を言わせ、圧してきた時だ。 真紅ひとりでは、いずれ疲れて動けなくなってしまう。 走りながら、茂みの中を一瞥する。 そこには、矢を番えて弦を引き絞る穢れの者どもの姿が有った。 狙われているのは、自分。 (っ! まずいのだわ) 雨足が強まる中で、無数の矢が真紅を目がけて放たれた。 瞳に飛び込んでくる雨粒に邪魔されながらも、真紅は薄目を開けて剣を振り、矢を叩き落とした。 何本か直撃を食らったが、法理衣のお陰で貫通はしていない。 しかし、身体に伝わる衝撃だけは中和しきれず、真紅の身体に打ち身と疲労を残していた。 矢継ぎ早に……の表現そのままに矢が放たれ、その度に、真紅は矢の直撃を浴びた。 赤い陽炎は、今や淡い桃色に変わっている。 法理衣の効果は、あと僅か。体力の消耗も激しい。 (このままだと……長くは保たない) 一瞬の気力の乱れが、真紅から注意力を奪った。 空を裂いて飛んできた矢に左脇腹を直撃されて、真紅は息を詰まらせ、もんどり打った。 路上の泥濘に顔から突っ込んでしまい、泥水が口の中に流れ込んできた。 泥水を吐き出しながら、仰向けになって起きあがろうとする真紅。 その青い瞳には、刀を振り上げた骸骨が、今まさに自分を斬りつけんとする姿が映っていた。 無意気の内に息を呑んで、身を強張らせていた。 神剣を振り上げ、敵の刃を受け止めようなんて考えは、全く思い付かなかった。 (ダメ……間に合わないっ!) 真紅は反射的に、ぎゅっ……と瞼を閉じた。 刀で固い物を叩き斬る音が真紅の耳に届いたのは、その直後だった。 斬られたのは、私? 怖々と目を開くと、真紅の前には、一人の剣士が背を向けて立っていた。 栗色の髪を短く刈り揃えた、凛々しい青年だった。 「あ、あの……貴方は――」 真紅が素性を訊ねるより早く、剣士は穢れの群に切り込んでいった。 その闘いぶりは、正に獅子奮迅。 忽ちの内に、二、三十の穢れの者を斬り伏せていた。 なんて壮絶な殿方だろう。 思わず見惚れていた真紅の視界に、矢を番えた骸骨が飛び込んできた。 彼の背中に狙いを付けているのは、一目瞭然。 「――っ! 危ないっ! 後ろよっ!」 真紅が叫んだ直後―― 弓を引き絞っていた骸骨は、どこからか飛んできたクナイに刺し貫かれて消滅した。 クナイが飛んだ方角から見当を付けて凝視すると、木々の間を縫って走る影を捉えた。 あれは、忍びの者? 俊敏な影は、森の中を縦横無尽に走り回って、弓足軽を掃討していく。 何者かは知る由もないが、かなりの手練れである。 が、感心ばかりしてもいられない。まずは、この状況を打開するのが先だ。 真紅は気を取り直すと、立ち上がって、穢れの者たちを斬り捨てていった。 それから幾らも経たずに、穢れの群は、綺麗サッパリ消滅していた。 と言っても、壊滅させた訳ではない。 忍びの者が足軽大将を始末したから、穢れの群は統率を欠いて、遁走したのだ。 暗雲が途切れて、空には再び陽光が戻ってきた。 皐月の日射しに照らされ、雨に濡れて冷えた肌が温もりを取り戻していく。 (漸く、終わった――) へたへたと座り込んだ真紅の前に、麗人の剣士と、長髪の忍びが近付いてきた。 鳶色の長い髪を風に遊ばせ、歩み寄って来た忍びは、真紅と幾つも歳が違わないだろう若い娘だ。 それに、よく見れば、男性と思っていた剣士の方も―― 「怪我は無い? 危ないところだったね」 「は? え、ええ」 「お前は巫女のくせして、なかなか腕が立ちやがるですぅ」 「はあ……どうも」 なんだか、やたらと友好的な二人。初対面なのに、馴れ馴れし過ぎはしないか? とは言え……助けてもらった事に変わりはない。 泥だらけで見窄らしい格好を恥じらいながらも、真紅は座ったまま、二人に頭を下げた。 「助太刀してくれて、本当にありがとう。助かったのだわ」 神妙な面持ちの真紅に対して、麗人の剣士と忍びの娘は、顔を見合わせて笑った。 「気にすることねぇです。あいつらは、私たちにとっても敵ですから」 「そうそう。だから、お礼なんて言わなくても良いよ」 剣士の娘は人懐っこい笑みを浮かべて、真紅に手を差し伸べた。 「立てる?」 「……別に、腰が抜けた訳じゃないのだわ」 言った後で、そんな必要などなかったと、真紅は気付いて赤面した。 これでは、腰を抜かしてますと白状してる様なものだ。 「ふふふ……強がりなんだね。姉さんと、気が合うかも」 「姉さん?」 問い返した真紅に、剣士の娘は隣に佇む忍びの娘を指差した。 なるほど、よく見れば、面差しが瓜二つである。左右逆だが、緋翠の瞳も共通した特徴だ。 「ボクは蒼星石。彼女は双子の姉、翠星石。キミの名前は?」 「私は…………真紅」 「真紅、かぁ。なんだか情熱的で、良い名前ですぅ」 なんだろう、この和やかな雰囲気は。 さっきまで穢れの者どもと、命を賭けて闘っていたというのに。 「……おかしな人たちね」 真紅はぎこちなく微笑みながら、腕を伸ばし、差し伸べられた蒼星石の左手を握った。 その瞬間、真紅の腕に電流が走った。静電気なんて生易しいものではない。 それは蒼星石も同じだったらしく、小さな悲鳴を上げて、二人は繋いだ手を離した。 今の衝撃は、一体なんだったのだろう? 蒼星石の悪戯で無いことは、彼女の驚愕ぶりからも分かった。 しかし、そうなると原因は全く判らない。 (なにか、体質的な相性があるとでも?) そんな話は、今まで聞いたことも、体験した事も無かった。 茫然と立ち尽くす蒼星石の手を、じいっ……と見詰める真紅。 眺めること暫し、真紅は、あることに気が付いた。 (蒼星石と翠星石も、私と同様、左手の甲を隠しているのだわ) 真紅は、夢で聞いた言葉を思い出していた。 ――運命を共有する七人の同志を探しなさい。すぐに解る筈です―― もしかしたら、この二人こそ、私の同志なのではないか? 試しに、翠星石とも左手を繋いでみたら、やはり電気が流れる様な衝撃が走った。 いくら双子の姉妹とはいえ、偶然にしては出来過ぎている。 一応、確かめてみた方が良いだろう。 「貴女たち、もしかしたら……こんな痣があるんじゃない?」 真紅は籠手を外すと、二人の眼前に、左手の甲を突き出した。 内出血したかの様な青黒い痣は、神秘的な真円を描いている。 真紅の痣を見詰める蒼星石と翠星石の瞳には、明らかな動揺が見て取れた。 驚いた……と、二人は殆ど同時に呟いていた。 双子だからって、そんなところまで息を合わせなくてもいいのに。 真紅は微笑みながら、もう一度、二人に問い掛けた。 「それとも、こんな醜い痣なんか、見たこと無かったかしら?」 「見たことが無いどころか――」 「産まれた時から、毎日、目にしてるですぅ」 二人は籠手を外して、露わになった左手の甲を、真紅に見せた。 形といい、大きさといい、真紅の青黒い痣と同じものだ。 三人の拳を近付けると、痣が熱を帯びて、何やら文字が浮かび上がってきた。 それは真紅にとって、初めて体験する現象だった。 「これはっ!? まさか…………こんな事が?!」 「驚いたですか? 無理もねぇです。私も最初はビックリして、死ぬかと思ったです」 「そうだったねぇ。姉さんってば、もう泣いて喚いて大騒……痛っ!」 「余計な事は言わねぇで良いのですぅ」 二人で掛け合い漫才をしている最中、真紅は三者三様の文字を見詰めていた。 「私の【義】とは……」 「ああ……それは、五常のひとつ。正しき道を示す者の証ですね。 私の【悌】は、厚情……おもいやりの心を意味するですぅ」 「そして、ボクの【信】は、誠実と真実を表しているんだ」 なるほど、確かに、あなた達はそんな関係なのかも知れない。 真紅は微笑ましい姉妹を眺めながら、文字の意味を噛み締めていた。 「ところで、真紅。キミはこれから、何処に向かうつもりなの?」 「え? ええ、と……」 不意に話題を振られて、真紅は返答に窮し、歯切れ悪く応じた。 同志とは言え、今日、初めて出会ったのだ。どこまで正直に話して良いものやら。 真紅が思案に暮れていると、間怠っこしそうに口を開いた。 「あぁもう、鬱陶しい奴ですぅ! 行く所が決まってねぇなら、取り敢えず、近くの町まで行きゃあ良いですっ」 「うん、まあ……その方が良いかもね。キミ、泥だらけだし」 言われるまで、真紅はすっかり忘れていた。 巫女装束は元より、髪や足袋なども、泥だらけだ。 ふんだんに雨を吸った袴は、重い上に、脚に張り付いてきて気持ちが悪い。 「そうしましょう。貴女たち、この辺りに土地勘は有るのかしら?」 「少なくとも、お前よりは詳しいですぅ」 「ちょっと距離があるけれど、今から向かえば、夕刻までには着けるよ」 「ならば、直ぐに出発するわよ。いつまた、敵が襲撃してくるか分からないのだわ」 蒼星石は「そうだね」と呟くと、翠星石と目を合わせて、軽く肩を竦めた。 姉の方も、戦い疲れが出たのか、憂鬱そうに溜息を吐いた。 「私たちも、つい最近になって、奴等に襲われだしたです。理由は解んねぇですけど」 「ああ。それで、さっき『私たちにとっても敵』だと言っていたのね」 「そう言うコト。その辺の事情は、歩きながら話すとしようよ」 蒼星石の提案に、真紅は頷き、神剣を両腕に抱えて歩き出した。 =第二章につづく=
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Arkham Ghul Alptraum ◆Jnb5qDKD06 【アーカム】アーカムに白髪の食人鬼が出たらしい【ヤバイ】 181.名無しさんはアーカム市民 今朝大学に行く途中にパトカーが何十台も停まってたけどどうやらこのスレタイの奴の仕業らしい 182.名無しさんはアーカム市民 アレってそんなんだったのか。 おかげで講義に遅刻したじゃねぇか。 邪魔者なんじゃボケェ! 183.名無しさんはアーカム市民 え、デマでしょ? テロだって聞いたぞ。 爆弾が爆発したみてーにクレーターできていたぞ 184.名無しさんはアーカム市民 建物が粉々になっていた時点で人間技じやねぇ! 185.名無しさんはアーカム市民 いや、マジだって白髪の奴がジェンガみてーに建物を粉々にして人間喰ってたって 186.名無しさんはアーカム市民 それでその白髪の奴はどんな姿だったの? 187.名無しさんはアーカム市民 それは……なんと! ─────とある電子掲示板より * * * 「ええい! 時の神すらも我が行く手を阻み嘲笑うか! 約束の地はもうすぐだというのに、既に時の長針が十度刻まれてしまっているではないか」 ノースサイドの自宅から出て、仕事場へと向かった神崎蘭子。 いつもならばスタジオのある商業区域にはノースサイド線に乗っていく。 しかし今日に限ってはノースサイド線の照明器具がいくつか破損していたことにより、いつもの時間帯にノースサイド線に乗れなかったのだ。 アメリカ人サラリーマン達の怒声が飛び交うノースサイド線の駅から脱出し、タクシーでダウンタウン、リバータウンを経由してようやく商業区域についた。 それでも十分の遅刻である。蘭子の顔には焦りが見え、急いでいることが誰の目にも見て取れるだろう。 しかし霊体化して同伴しているサーヴァントの落ち着き払った姿は恐らく見えまい。 見えるとしたら聖杯戦争参加者くらいだ。 「なぁマスター」 「フッ、韋駄天の如く天地を駆ける我に何用か」 「韋駄天、確かスカンダのことをそう呼ぶらしいな。俺の槍を与えたインドラと同等の速さを持ち、力においては圧倒的と聞いている。 見事だ、マスター。一見して華奢なその肉体からは想像もできないほどの力を秘めているということか。一体どれほどの修練を積めばそこまで引き締まるのか俺では想像すらつかない」 「と、疾く今の呪文を忘却の彼方へ沈めよ」 「それが命令ならば忘れるが、近くにサーヴァントがいることを言っておくぞマスター。 だが、その鍛えぬいた肉体があれば例えサーヴァントが束になろうとも勝てるだろう。俺の御守りなど無用の長物に過ぎん」 と爆弾発言をして黙りこくるランサー。二人の間に気まずい空気が流れた後、消え入るように蘭子は呟く。 「ま、まも、守って下さい」 「了解したマスター」 タクシーの運転手が一人で話す少女に訝しげな表情をしながらラジオの番組を変える。 ラジオは本日の天気予報を告げている。どうやら午前中は曇るらしい。 * * * 188.名無しさんはアーカム市民 わかんない。ゴメンね(・ω<) 189.名無しさんはアーカム市民 ROMれ 190.名無しさんはアーカム市民 いや、目撃者はいるよ? でもソイツ、事件を見たショックで正気じゃないらしくて病院運ばれたらしい。 191.名無しさんはアーカム市民 胡散臭い 192.名無しさんは観測者 【いたとしたらどんな姿だったと思う?】 193.名無しさんはアーカム市民 汚ないオッサン。ストレスで白髪になった感じの 194.名無しさんはアーカム市民 むしろ俺はマリーアントワネットみたいな悲劇の白髪の美少女がいい。 195.名無しさんはアーカム市民 然り! 然り! 然りィ! 196.名無しさんはアーカム市民 美女になら食べられたい(性的な意味で) きょにゅーならば更に良し。 197.名無しさんはアーカム市民 ( ゚∀゚)o彡゚ ─────とある電子掲示板より * * * スタジオビルでの収録を終え、若干の駆け足でビルを出る。 ランサー曰く、すぐ近くで様子を伺っているのか、動かないらしい。 もしや、戦いは好かない性分なのかもしれないし、話し合いがしたいのかもしれない。 ────もしかしたら協力できるかもしれない。 そんな希望を胸にランサーに案内されて行った先はスタジオのあるビルの裏側。人気のない屋外のバスケットコートだった。 スタジオビルによって少ない太陽の光を奪われ、ほんのわずかに朝の冷たさを残すコートは今や廃れており、空き缶や萎んだバスケットボール、紙屑などのゴミが散らばっている。 そんな荒れ具合にも関わらず、不法侵入を防ぐべくコートはフェンスに囲まれ入口には錠前もされていた。 もしかしたら何かの建物を建てるために土地の保有者が錠をしたのだろうか、と蘭子は考えたが、その錠前もやむなしとランサーが素手で錠を切断してしまったためもう用を為さない。 「我が友よ。我が瞳に適う者は見当たらないが?」 「いいや、用心しろマスター。いる……いや、くるぞ!」 そしてランサーとそのマスターがコートに足を踏み入れた瞬間、世界が変わった。 「えっ!?」 蘭子のいる場が突如として青紫色の濃霧に包まれ前後左右の視界を完全に埋め尽くした。 そして場に蔓延する妖気、蘭子達へ向けられる殺気。 考えなくてもわかる。これは初めから話し合いというものを放棄している。 「化生の類か」 ランサーが呟く。それに応えるようにペチャペチャという足音と女の声が乱反射して耳に届いた。 強烈な腐臭と鉄の匂いに蘭子は鼻を抑える。 「くぅくぅお腹が空きました」 まるで奈落の底から呻くような、もしくは天の祝福に歓喜するような正と負の感情が絶妙に混ざった声。 壊れている。破滅している。演技であっても常人が出せる声ではない。 歪なその声に、蘭子は生理的不快感を感じる。 「マスター。俺の側から離れるな。それと耳を傾けるな。あっという間に食われるぞ」 蘭子を傍らに寄せ、ランサーは注意を促す。 されど顔の向きは蘭子ではなく前方の霧に向けたままなのは敵がそこにいるからであり、同時にカルナをもってしても油断できない相手であることを意味している。 カルナの実力は英霊の中でどれくらい強いのか蘭子は知らない。だが、とてつもなく強いことは分かる。 巨峰や大海原のように見ただけでその光景にただ凄いと感じるように、カルナの力を感じるのだ。 反面、現れた凶象は文字通り霧のように掴みどころのない、手ごたえの無い感じだ。カルナほどの圧力を感じない。あるのは意味の分からない声だけ……。 「これは『宝具』だ。聞き流せ。まとも聴くと狂うぞ」 「宝具……」 聖杯戦争の知識を与えられたため宝具に関する情報はある。 曰く、伝説の再現。曰く、英雄のシンボル。なら声が宝具? でもこの霧は一体……。 「この声が宝具と思っているのならば違うぞマスター。おそらく、この空間そのものが宝具だ」 「然り」 ぶわっと突風が吹いて前方の妖霧が晴れる。 霧の帳が取り除かれて良好になった視界の先に白髪で黒衣の女の子が立っていた。 その子の足元からは血管のように赤い筋が走る黒い泥が拡がり出した。 まるで軟体生物の触腕のようにうねり、コート内に捨ててあった吸殻や空き缶等のゴミが泥に呑まれてそのまま暗黒の海に沈む。 「あ……」 あれに触ると死ぬ、間違いなく死ぬと平和な国で生まれた少女に僅かに残っていた生物の本能が告げた。 * * * 【SANITY CHECK――『タタリ』の一部を視認】 マスター/神崎蘭子……『失敗』 * * * 「────────────ぁ」 そして突如、神崎蘭子に襲いかかる『この聖杯戦争のルール』。脳髄の奥に突如埋め込まれる狂気の波長。すなわち邪神からの極上の祝福(どく)。 この世、人類、総ての悪性を謳い、そして死ねと連呼する■■。 悪意が、害意が、そして■■……■の……が……を■ねと。■■■しまえ。 耐えられない。耐えきれない。耐えてはいけない。耐えるな■ね。 蘭子が、ホラーやスプ■ッタを、苦手としているとか、そういう次元ではなく、まともな思考の持ち主ならばこれは■■だ。■■すぎて■■■■■がなくなる。 「あぁ……ぁあ……」 壊れてゆく。崩れてゆく。融けてゆく。蘭子の精神が。音もなく、誰にも知られることがなく────いいや、ここに一人いるぞマスター。 死人の如く蒼白となっていた蘭子はぬくもりを感じた。彼女の肌を温めたのは眩き炎。 視界を覆い尽くしたカルナの炎が、蘭子の精神の崩壊を防いだ。 「まだ戦いは始まってすらないぞ、マスター」 * * * カルナは現れた者を見た。白髪で黒衣。容姿から察するに東洋人だろう。 異国人のカルナから見ても整っていると思う顔は薄気味の悪い笑みを浮かべ、濃密な殺気をばらまいていた。 「壮絶な悲劇で精神が壊れ、箍が外れ、気が触れてしまった少女 。 それが白髪の食屍鬼の正体に違いない、そうであってほしいという願望に吸血鬼としてアレンジを加えて再現したのか」 カルナの観察眼は少女の背後で蠢く無数の人影を見通していた。 『白髪の食屍鬼』というイメージにドラマを求める無数の声。 こういった大衆の趣向は古今東西として珍しい話ではない。 シェイクスピア気取りの悲劇好きが、フランケンシュタインのような哀れな怪物を求める。 ジャック・ザ・リッパーのような殺人鬼を好き勝手に妄想し、あるいはヴラド三世のように何かを怪物に仕立て上げて物思いに耽る。 英雄が華々しく活躍するよりモードレッドの反逆やジークフリートのような英雄が散る物語を好む。 事実として人々の声はそれら全てとは言わないが、言っていることは大体こうだ。 ────怪物があってほしい。 ────悲劇があってほしい。 ────何か物語を寄越せ。 そうした思想、妄想、噂をする人々が目の前の怪物を生み出す母体であり、だが同時に被害者でもあった。 なぜなら目の前の怪異が放つ殺意は座標を彼らに向けていた。 お前たちの願いは叶えてやった。だから望み通り怪物としてお前たちを殺してやろうと。 つまり、コレは己を生み出した者を殺す、そういう現象だ。 「自業自得。身から出た錆と言えば大団円に聞こえるのだろうが。 被害者(おや)への感謝も無ければ、自覚も無い彼らを殺すのは英霊として恥ずかしくないのか?」 歪な笑みを浮かべるばかりで返答はない。いや、あった。 黒い泥のような影がゴボと音を立てて膨れ上がり、次の瞬間には爆発した。 赫黒の津波と化してコンクリートの地面を木屑のようにバラバラにしながらカルナ達へ迫る。 「そうか、それが答えか」 しかし、それらが目標に届く前にカルナの炎によって阻まれる。 泥が炎を地面へと沈めようとするが、逆にカルナの炎に喰われてその体積を焼滅されていく。 燃え盛る魔炎の中、カルナは敵を見据える。 「ならば是非もなし。マスターを守護するサーヴァントとして、貴様を排除する」 槍は必要ない。あれを使うにはマスターに相当な負荷を強いる。 そも、この程度の相手に武具など無粋。己の目に魔力を込め──── 「真の英雄は眼で殺す!」 そして放たれた眼力は質量と煌めきを伴って視線上の全てを破壊した。当然、相対していた少女も消し飛ぶ。 「所詮は曖昧な噂を象っただけのモノ。膨らんだ風船程度のものでこの俺は倒せん」 カルナの言う通り、所詮は偶像であり、その内容(なかみ)も曖昧(スカスカ)。 実像とは程遠い、風船を膨らませた程度のもの。 こと英霊の中でも最上位に分類されるカルナの攻撃も防御も突破できる道理があるはずもなく一撃で終了である。 これがタタリでなければ。 * * * 198.名無しさんはアーカム市民 白髪美少女といえばあのアイドルを忘れてませんかねぇ 199.名無しさんはアーカム市民 あの子は白髪ではなく銀ぱ……おや、誰か来たようだ 200.名無しさんはアーカム市民 【あの子って一体誰さ?】 201.名無しさんはアーカム市民 ついこの間、日本から来たアイドル。 202.名無しさんはアーカム市民 我等がアイドル。神崎蘭子ちゃん! 203.名無しさんはアーカム市民 そういえば白髪の食屍鬼と彼女が来た時期って被るよな。 もしかすると…… ─────とある電子掲示板より * * * 出演中止(カット)! 役者交代(カット)!! 情報構築(カット)!!! 再演開始(カット)!!!! 聞きなれた業界用語が蘭子の耳朶を打つ。 その音源は少女が消失する前に立っていたた場所。 「え?」 男の声がする。ノイズが走る。空間が歪む。そして──── 「第二幕開始(キャスト)!」 およそビルの二階ほどの高さにある空間にピントがずれたようなにぼやけた。そして今度は黒に限りなく近い紫色をした砂が次々と人型を象っていく。 まずは華奢な白い四肢、そして漆黒の四枚羽。そして白、黒、赤を基調とした魔王調(ヘルロードゴシック)の衣装。 邪眼を宿した大鎌が次々と露わになり────ああなんてことだろう。 顕現したものを神崎蘭子は知っている。なぜならそれは 「傷ついた悪姫────第二形態! 魔王ブリュンヒルデ降臨!」 紛れもなく自分なのだから。 (後編へ)
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216のプレイレポート PlayReport/ScourgeOfTheHowlingHorde-1(216) PlayReport/ScourgeOfTheHowlingHorde-2(216) PlayReport/ScourgeOfTheHowlingHorde-3(216) 「誰がために君は哭く」 第二回 初心者の初心者による初心者のためのサークルin東京 第7回 2007/4/14 邦訳版のリリースが決まった本シナリオ "Scourge of the Howling Horde"、 当初「ゴブリン団の襲撃」というセンスのカケラも無い仮題が付いておりましたが、 いつのまにか「鬼哭き穴に潜む罠」というタイトルに変わった様子。 さて、プレイレポートも今回が2回目となりましたが、 どちらかというと「ゴブリン団"を"襲撃」って感じで進んでおります。 どっちが悪役か、わけわからなくなるのはD Dではよくあることなので、 あまり気にしないようにしましょう。 私、ゼコビは、プレイレポートの提出特典として、 DMより180gp相当の金品と200xp相当の経験値を頂きました。 これはすぐに適用されるようなので、とりあえず マジックミサイル2本、スリープ1本のスクロールを取得しました。 また、今回から agatamoさんが飛び入り参加しました。 キャラは人間/ドルイドの"ジャコモ"、 動物の相棒ウルフのトトを連れております。 ゲオルグ 人間/ファイターLv1 植埜 ホルグ ハーフオーク/バーバリアンLv1 ひらた サミオル 人間/ローグLv1 エノン ゼコビ ノーム/ソーサラーLv1 216 ジャコモ 人間/ドルイドLv1 agatamo ジョウゼン 人間/クレリックLv1 NPC 毎回、駄文ばかり読まされてもつまらないと思いまして、 今回は、ビジュアルメインでいきたいと思います。 それでは、冒険再開です。 森の守護者 「荒らぶる心に戻ってしまった静かなる森のゴブリンを平常な心に改心せよ。 まずは今森に訪れている冒険者と合流し、目的を達せよ!」 ベテランドルイドの師匠にミッションを授かった新米ドルイドのジャコモ。 師匠から預った治癒のワンド(キュアライトウーンズ10チャージ)を手に、 相棒トトを連れてゴブリンのねぐらへ向かっていた。 今回から参加となった人間のドルイド、ジャコモの登場です。 少々強引な話の展開ですが、そこは御愛嬌。 洞窟の入口での再会 前回の戦闘が終り、生き残ったゴブリンたちをまとめて縄で縛っていたところに、 一人のドルイドと一匹のウルフがパーティの前に登場。 「よお!ジャコモ!」 「おお!ゲオルグ!」 わざとらしい挨拶。 ゲオルグは知人だったようで、ここでめでたくジャコモが パーティに加わることになった。 (前回とは逆の位置から撮影) さっそくゴブリン語の堪能なジャコモが生き残ったゴブリンを尋問。 洞窟の奥の詳しい情報を聞き出す。 どうやら奥には、ゴブリンや大きなゴブリンが何匹も、 それに新しいゴブリンの族長が待ち受けてるらしい。 ゲオルグと新人ジャコモの尋問で詳しい見取図も作成してしまう。 「地図」 では、スロープを上がっていざ探索開始! 通路の攻防 ゴブリンが逃げていった待機部屋に、まずはサミオルが偵察・調査に。 ここからがローグの本領発揮。 視認 技能でチェックして、奥の通路の陰からバグベアが覗いているのを発見! ジェスチャーで待機しているパーティに、必至に伝えるサミオルだが、 パーティはなんのことだかさっぱりわからず…。 そうこうしているうちに、奥から不敵な笑みを浮かべてバグベアが出てくる。 「話によってはここを通してやってもいいぜ」 今やすっかりパーティの尋問係、 じゃなくてネゴシエーター(交渉人)となったゲオルグとジャコモ、 前に出てきて話をするが、うさんくさい用心棒のバクベアに、 すっかり足元見られてしまい、結局交渉失敗。 怒ってバクベアがさっと奥に引き返す。 「ゴルァァ!まちやがれ~ェ!」 と後を追うゲオルグとジャコモ。 ここで本日最初の戦闘開始! 通路を曲がった先では、3匹のゴブリンが待ち構えており、 奥にバグベアが陣取っている。 手前のゴブリンはタワーシールドでバリケードを築き上げ、 完全遮蔽の臨戦体制を取っている。 弓持ちのゴブリンが放つ矢を受けながらゲオルグが突っ込む。 続くホルグ。 通路の幅は5フィートで狭く、パーティは寿司詰め状態。 ゼコビはスリープのスクロールを使用開始。 ジャコモは後ろでウルフと待機中。 最初にサミオルが放った自慢の矢がゴブリンを一基撃墜! しかし、次のホルグの強悪な攻撃でも、相手のタワーシールドは沈まず、 敵にダメージを与えることができない。 そこに、ゼコビのスリープが発動し、バグベア以外が眠り、 バリケードとなっていたタワーシールドの障害が無くなる。 ここぞとばかりにゲオルグが寝ているコブリンを飛び越え、 通路の先に踊り出て、攻撃! 対するバグベアもモーニングスターを振り上げて、ゲオルグに攻撃! さすがに敵の用心棒だけあり、ゲオルグは沈み、戦闘不能なってしまう。 回復呪文をかけに駆け寄るジョウゼン。 ホルグ、サミオル、ジャコモも援護しに入り込む。 その後、復活したゲオルグがタワーシールドを構えながら立ち上がり、 ホルグのとどめで本日一回目の戦闘が終了。 とりあえず、バグベアを一旦回復させて尋問。 ゲオルグが聞き出した情報によると あと四匹程度のホブゴブリンがいる 前に来た村人はウルフのえさに 十字路の右手の奥には用心棒の自分の部屋、左手は礼拝堂、奥は食堂と大広間 自分の用心棒の部屋には大部屋に続く隠し扉があるらしい ここで昼休憩。 礼拝堂 とりあえず、ウルフを十字路へ見張りとして配置して、 礼拝堂を調査することになった。 サミオルが偵察。 (ここでテーブルの都合で90°右周りに方角が変わります) 途中にある通路の裂け目の横道を見つける。 避け目からは不気味な叫び声が聞こえる。 とりあえず、サミオルが礼拝堂の扉を調べて聞き耳。 何か水の音が聞こえる カギがかかってる 後は不気味な叫び声に聞こえる洞窟に反響する風の音 サミオルがじっくり時間をかけて鍵をあけ、ゲオルグが扉をあける。 そこはバグベアの情報通り朽ちた礼拝堂で、 礼拝者のための古い長椅子や、 奥には一段高くなった祭壇のような場所があった。 右手の手前には水たまりがあり、 どうやらここから水の音がしていたようだ。 また、左手の奥には扉がある。 残されたレリーフの上に忌々しい落書のようなもので潰されたりしている。 現在の状況から、ジョウゼンが言うに ここは、元ドワーフの神モルディンの礼拝堂で 今はゴブリンの神マグルビエイドを祭る場所に変わっているらしい。 サミオルが忍び足をしながら奥の段差に上がり祭壇の漆喰を調べると、 流水を表すような絵と何か文字が隠れてるのを発見。 また、左手のとびらにはゴブリン語で文字がある。後でジャコモが読むと 「ラトベンの瞑想部屋、用があればノックのこと。」 そして、ただ今不在の札が。 祭壇の方は、漆喰を取り除いては見たものの、 ゴブリン系の文字だが読解できるものがいなかったが、 捕虜となったバグベアに読ませることで解決。 『モルディン様は強い! 』 …。 とりあえず、ジャコモがデテクトマジックをかけてみることに。 微弱な防御術の魔法が祭壇から 左手の扉の奥にも死霊術の魔法が 水たまりの中からも… 祭壇の仕掛けを開けると、石の跳ね上げ式の扉が現れる。 ゲオルグが扉を開けようとすると、 頭の中に何かドワーフの声が・・・ 危険を感じて扉をすぐに締める。 水たまりからは、水が延々と湧き出すかけらを発見する。 ゲオルグが何を思いついたのか、捕虜のバグベアに飲ませてみると、 たちまち苦しみだして、やがて死んでしまった。 どうもよく分からないので、 とりあえず左手の扉を開けることになる。 ラトベンの瞑想部屋 扉を開けると鼻をつくような強いお香の匂い。 5フィート先まで通路になっており、 その先にはカーテンがかかって部屋の様子はわからない。 ゲオルグが一歩踏み入った瞬間、床が光り激しい激痛と共に頑健セーブ! セーブ判定には成功したのだが、半分のダメージをくらってしまった。 たまらず戻るゲオルグ。 どうやら、床に魔法のトラップがかかっていることがわかる。 持っていた10フィート棒で先のカーテンを開けてみたが、 カーテンの向こうには特になにもいないようだ。 自分の 跳躍 技能を確認し始めるパーティ。 しかし、ローグのサミオル以外、 マトモに技能ポイントを振ってるメンバーはいなかった。 特に、ソーサラーのゼコビはHP4なので、 たぶんセーブに成功しても戦闘不能は確実。 さてさて、どうしようか、という中、 ホルグが10フィートのハシゴを持っていたのを思い出す。 そんなかさばるもの、どうやって狭い洞窟の中に 持ってきたんだという疑問はさておき、 床にハシゴを架けて、難なくトラップの回避に成功。 ゲオルグから部屋に突入したのであった。 今度は、得意気に部屋に入ったゲオルグ。 部屋の奥にいるモンスターと御対面。 壁際にゾンビが3、スケルトンが6…。 戦闘開始。 入ってきた侵入者のゲオルグ、問答無用でタコ殴り状態。 ゾンビとスケルトンにたかられ、○#◆%▽■☆…。 ジョウゼンがターンニング・アンデットするも失敗。 ゼコビの巻物でプロテクションフロムイービルをかけてもらった ホルグが後を追うが、足場も悪いし奥に入れず立往生。 2ラウンド目にジョウゼンが再度ターンを試み、 なんとか、ゲオルグの周囲5体のスケルトンを退散させることに成功。 続いて3ラウンド目にもう一匹のスケルトンもターンさせ、 本日のターンニングアンデットの使用回数はゼロに。 のこりゾンビ3体。 ホルグが突っ込み、ゼコビはマジックミサイル。 サミオルは、さっきの水たまりで拾った水が湧き出るかけらを使って、 ずっと空き瓶に水を貯めていたようで、その瓶をゾンビめがけて投擲。 少しダメージを与えてるようだ。 ネタが切れたジョウゼン。 敵の中に突っ込むが機会攻撃でどつかれる。 ゲオルグは斬撃武器ではないので、 なかなかダメージが通らず苦戦気味。 ホルグとサミオルの攻撃で削っていきながら、 最後、ホルグがトドメを刺して戦闘終了となった。 この強過ぎるお香の匂いは、 ゾンビの腐臭を打ち消すためのものだったようだ。 部屋の角でターンされたスケルトンたちにとどめを刺し、 脅威が去った部屋を調べる。 右手の部屋:寝室で日記を発見 左手の部屋:書斎で謎のポーションを2本を発見 日記は、この部屋の主のものらしくゴブリン語。 ゲオルグが読んでみてわかったこと。 このゴブリンの部族の中で反乱が起きたこと ダラクスという若いゴブリンがボスを倒して新たなボスになったこと ダラクスの背後には何か恐ろしい何かがいる ラトベンはその正体を目撃したようだ その対策のため、彼は旅に出たらしい ジョウゼンは、その背後についているものの正体は 赤い竜に違いないと騒ぎだす。 探索 礼排堂から戻って、横道を調べる 奥は蜘蛛の巣が張っており、なにかいそうな気配。 いや、絶対いる。ヤバいものがいる。 君子危うき近寄らず。 ここはパスしよう。 さらに戻って、用心棒バグベアの部屋を調べる。 彼が言っていたとおり、左手壁側に回転式の隠し扉があった。 他のゴブリンは知らない秘密の通路。 サミオルが入って、通路の先で聞き耳、 その奥の部屋は大広間でゴブリンが何匹もいるようだ。 今度は食堂の前に移動し、中の様子を伺う。 調理の音や指示を出す音。 食事の支度の真最中らしい。 大広間の方もチェック、カギがかかっており、 ゴブリンの大人や子供の声が聞こえる。 先ほどの騒ぎのため、残りのゴブリンたちは、 ここに立てこもっているようだ。 ゴブリンと交渉 扉に火をつけてあぶり出すだの、 強行突破するだの、散々悩んだ挙げ句、 ジャコモがゴブリンと交渉し、やばくなったら 油断させている隙に例の隠し通路から不意を打つ作戦でいくことに。 交渉役にでてきたゴブリンに、 投降して、おとなしくこの巣を離れるなら、 子供と護衛のゴブリンを逃がすと、持ちかける。 結局、交渉は成立。 ちょうど、食事の時間だと出てきた 食堂の方から出てきたコックのゴブリンも、 話を聞き、素直に承諾。 早速彼らは荷物をまとめ、 家財道具を抱えて逃げ出すように去っていく。 食堂の炉には小さなファイアエレメンタルが住んでいたり、 コックのゴブリンが飼っていた巨大なイタチに驚きながら (彼らと一緒に出ていった)、彼らが出ていった食堂を探索。 インク、酸のビン2本、陽光棒、等のがらくた。 虫メガネ、高品質のフルート、シルクのローブ、 ゴブリンのへそくり22gp、ポーション2本をゲット。 さて、物語は幾つかの謎を残したまま、佳境に入って来たところ、 ちょっと早いが今日はここで中断。 今回は、交渉を有効に利用した、とても和マンチな解決方法で、 ちょっと最後は拍子抜けな感もしますが、 D D3.5eではガチな戦闘をしなくても、交渉や他の方法でも、 脅威を排除すれば経験点が貰えますので、 必ずしもやっつける必要はないのです。 気になるのは礼拝堂の謎の仕掛けと、 ゴブリンの族長のバックにいる存在。 次回、すべてが明らかになるのか? 最終回に続く! 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ある何の変哲も無い夜 後編 『変……身…』 まるでその言葉自体に言霊が宿っているかのように、罅割れた隙間から零れ出たシンの言葉は不思議とその場に響いた。 バックルに嵌め込まれたベルトから血管のような光が奔り、シンの神経に絡みつくように覆いつくす。 手に手にそれぞれシャベルや斧を持った男達が飛び掛るが、発光する光に弾かれていく。 まるで篝火に群がっていく虫のように、弾かれた男達の身体が燃え、炭化していく。 発光現象はほんの数秒であり、その中から出てきたのは異形の存在であった。 鉛色のボディースーツにコートのような衣装、頭部を覆うのは兜のような金属質であった。 何よりも目を引くのはその顔だ。 無貌の仮面 鉛色のそれは、瞳に類する部位も、口元に類するものも存在していなかった。 それが何よりもシンを異形のものとして見る者を震撼させる。 もっとも、この場にいる者の中にそのような正常な判断を下せる者が果たしているのかという疑問が残るが。 先ほどシンに眉間を打ち抜かれ顔中から黒い触手を生やした男が小刻みに身体を震わせると、身体中から皮膚を食い破り黒い羽が生える。 それを合図とするように、その場にいた者達が次々と身体を振動させると、身体中から同じく烏のような羽を生やす。 狭い宿の部屋が、皮膚を食い破る水音と、トマトを落としたような不快な音で埋め尽くされる。 木造の床や壁には赤黒いシミがペンキをぶちまけた様に所々に広がっていく。 正常な感覚を持つ者であれば或いは嘔吐さえしかねない地獄絵図のような光景であった。 シンの表情はその仮面からは全く伺うことが出来ない。 異形の化け物と化したモノ達が、彼らにだけ伝わる合図と共にその触手を鞭のようにしならせながらシンに向かっていく。 次々と繰り出される触手は、ベッド、タンス、椅子といった家具を紙粘土の細工か何かのように粉砕していくが、 狭い室内をシンは器用に身を翻しながらかわしていくと、窓ガラスを蹴破り空へと飛び出す。 眼下に目をやると、宿の客達と同様に異形と化したモノ達で、一面が覆い尽くされていた。 おそらく町中の人間が最早人間としての姿を保っていないであろうと大方の目途を付けながら落下していくシンの心は依然として揺るぎ等無く、 ただ、黙々と腰に下げた円盤を手にする。 グリップを握ると同時に、円盤からは幾つモノ突起が出現する。 それは、一つ一つが銃口に似ていた。 視界に、先ほどの宿屋の主らしきモノが映ったがシンは躊躇する事無く言葉を口にする。 『ドラグーン』 主の声に応えるように、円盤から生えた十もの銃口から一斉に光の矢が照射され、眼下にいるモノ達を焼き払っていく。 空中で器用に回転しながら、足場を作るべく、真下の化け物達を焼き払い、炭化した躯に着地する。 枯れ木を踏み砕いた感触に頓着せず、シンは回りを見渡す。 「これはまた……随分な数だな…」 『マスター…このフォームですと、些か持久戦には不利かと進言いたします』 「お前に言われるまでもない……」 シンは周囲をドラグーンで焼き払うと、素早くバックルにある四つのボタンの一つに指を掛ける。 黒・赤・青・金の四つのボタンの内、シンは金色のボタンを押す。 発光と共に、ジャケットの細部と、背中に二門の細長いライフルを備え付けた金色の姿に変わる。 異形のモノ達が次々と触手を伸ばしていくのを、今度は避けようともせず、すぐさまシンは無数の羽の触手によって埋め尽くされる。 しかし、触手は触れた傍から不可解な音を立てて焼け爛れていく。 肉を熱した鉄板で焼くような音と共に、依然変わらぬ様子のシンが悠々と歩みを始める。 腰に付けた筒を手にすると、その先から刀のような光の刃が現れる。 シンは、軽く肩を回すと、一歩踏み出す。 同時に、引き絞られた矢のような踏み込みと共に、一振りで纏めて五、六匹の化け物たちが光の刃で断ち切られる。 それに化け者達は怯む事も無くシンに踊りかかるが、怯みも躊躇も無いのはシンもまた同様であった。 ◇ 「これで片付いたか……」 バックルを外すと共に、金色の姿から、シンは元の姿に戻り、傍らに少女が現れる。 「マスターから著しい消耗が見受けられます。汚染の少ない場所にて休息されることを進言致します」 「ああ…確かに休みたいよ」 フウッと大きく息を吐いたシンの回りには、一面腐臭と、焼け爛れた断面から煙を上げる屍が転がっていた。 最早、服装で辛うじて生前男であったか女であったのかがわかる程度だ。 一体何匹倒したのか、数えるのも馬鹿馬鹿しいものであったが、シンは肩をゴキゴキと鳴らし、大きく伸びをする。 ここ最近ではこれほどの数を相手にした事は無かったな、とシンは白み始めた空を見上げながら思う。 その時、シンの視界に微かな物音と共に、人影が現れる。 「誰だッ!」 懐から銃を抜き放ちながら、人影に向き直る。 「ヒッ…」 銃口を向けられ、怯えたように短い悲鳴を上げたのは、シンに外国の話をねだったあの少女だった。 少女は怯えながら、おそるおそる口を開く。 「そ、その…私…怖くて……それで、隠れていて……」 自分も化け物の仲間と思われているのだろうと、幼心に察したかのように、少女は足を震わせながら口を開く。 涙を浮かべながら、痞え痞えに声をあげる少女に、銃口を向けたまま、シンは傍らに寄り添ったデスティニーに小声で話しかける。 「ティニー……奴らに擬態する能力は?」 「今のところは確認されてません」 「そうか……」 今のところ、アサキムの分身、使い魔とも言える鴉達は群れを成し、恐怖心どころか感情らしい感情を持たない。 そして、シンに対してだけであろうか、ただひたすらに好戦的であるというのがデスティニーの中のデータであった。 少女は、自分に掛けられてた疑いが晴れた事に、表情を明るくし、シンに駆け寄る。 パンッ もんどりうって倒れたのは少女であった。 その眉間には風穴があり、どろりとした脳漿が零れ出る。 今尚、硝煙を上げたままの銃を下ろしながら、シンは無感情な瞳をもって少女の死体を見下ろす。 「じゃあ、こいつが最初のケースってわけだ」 「そうですね」 デスティニーもまた、一切驚きの表情も浮かべずに少女を見下ろす。 それは、主の判断が正しく、自分のデータにない事にシンが気付いていたからというわけではなかった。 それは彼女にとっては瑣末な事である。 言ってしまえば、シンが勘違いしていただけで、この少女は本当にただのいたいけな人間の少女であっても構わなかった。 シンが誤って無辜の少女を撃ち殺していようがどうでも良かった。 シンの下した判断である、それがデスティニーの全てであり、白か黒かという問いかけでさえ下らない問いであった。 ◇ 「酷い……酷いよ……」 無感情な幼い声が倒れた少女の口から漏れ出る。 シンもデスティニーもそれを黙って見遣る。 少女はゆっくりと立ち上がると、かぱりと小さな口を開く。 シンには聞き取れないが、喉の震えから少女「らしきモノ」が何かを叫んでいるのがわかった。 そして、その声に呼応するように、周囲から何かを引き摺るような音が次々と響く。 それはシンが先ほど片付けた化け物達の死体であった。 「オイオイ……マジかよ」 言葉とは裏腹に、シンは平坦な声で、しかしどこかうんざりしたように声をあげる。 宿からも、その音は響いてくる。 下半身が無くなり、這って出てくるもの、逆に上半身が無く下半身だけで歩いてくるものと様々な有り様に、シンは微かに眉を顰める。 デスティニーは、僅かに瞳を細め、少女と、再び動き出したもの達を見比べる。 「マスター…」 「何だ」 「どうやら、今までとは異なり……一体の母体……いわば女王が統括するというシステムに変わっているようです」 「なるほど……それを殺さない限り甦ってくるっていうオチか」 「確証はございませんが」 そう囁き合うシンとデスティニーの背後に音も無く化け物が忍び寄る。 振り下ろされた触手を、シンとデスティニーは横跳びにかわすと、すぐさまシンはデスティニーに視線を向ける。 「なら話は早い…」 「ハイ」 主の意を汲んだデスティニーは即座に粒子化し、自身に追い討ちのように振り下ろされた触手が触れる前にシンの身体を包み込む。 バックルにデッキを嵌め込むと、赤いボタンに手を掛ける。 赤い光と共に、先ほどとは異なり、シンプルなフォルムの赤い姿に変わる。 横薙ぎに払われた触手をシンは素早く蹴り払うと、触手はシンの脚部に出現した光の刃によって切り裂かれる。 「咄嗟とはいえ……嫌なフォームになっちまったな…」 赤い戦士に変貌したシンは、無貌の仮面の下から心底嫌そうな声をあげる。 そう独りごちるシンに、再度化け者達は次々とシンに襲い掛かる。 シンは赤銅色の脚部、手甲からそれぞれ紅い刃を抜き放ち、舞踏を舞うように切り裂いていく。 先程までのやり取りと同様に、一方的な展開が続く。 しかし、確実に異なる点があった。 「クッ…」 数十度目のやり取りの後に、赤銅の戦士がよろめく。 そう、確実に異なるのはシン自身の体力には限界があるという点であった。 そして、それを従者であり、奴隷であり、兵士であり、傀儡達に自らを守らせながら、女王である少女は見て取った。 初めて、少女の表情に変化が現れる。 それは紛れもない『笑み』であった。 しかし、シンはその笑みの意味するところに、ふとした違和感を覚えた。 それは、一見すると、優越に浸った勝者の笑みのようであったが、シンの中の長き時を修羅場の中で過ごしてきた嗅覚が何かを告げていた。 その違和感が何かを考えながら、更に幾度目かの攻防の後に遂にその時は来た。 「ハッ…ハァッ…」 荒い息を立てながら、遂にシンは膝を付く。 『マスターッ』 珍しく、狼狽したデスティニーの声がバックルから漏れるのを、女王は聞き逃さなかった。 その幼い外見には不釣合いな笑みが浮かぶ。 シンは仮面の下から、その笑みをジッと睨み付ける。 女王が、喉を震わせると、突如としてシンの眼前で、身体が欠損した無数の異形のモノ達が集まっていく。 その光景は、互いを補い合うようであり、もしくは貪り食うようでもある。 そうして異形のゲテモノ達は不愉快な水音を立てて纏わり合い、肥大化していく。 町中の人間の集合体とでも言うべき巨体は優に高層ビルの如くである。 少女はその巨人の肩にちょこんと乗りながら、少女の人差し指程度の大きさのシンを見下ろす。 「やっぱりね……」 シンは仮面の下で呟く。 ◇ 女王は、抑え切れない感情に身を委ねていた。 彼女の創造主から植え付けられたこの『感情』というもののおかげで、自分は同属の中から一つ抜きん出た上位固体となる事が出来た。 感情を持つが故に、心理を読み取り、また同属が寄り代とした人間達の脳に電気信号を送る事で意のままに操る事が出来る。 だが、一方でその感情故に、理解の出来ない衝動を抱いた。 眼下にいる、主によって殺す事を命じられた対象の戦力が自身の演算能力を上回りつつある事への衝動。 その衝動が理解出来ない内にようやく対象の戦力に翳りが見えたことに、彼女は抑えきれない顔面の筋肉の動きを覚えた。 それが『笑み』と呼ばれる筋肉の運動だとは知らなかった。 そんな彼女の眼下で、赤銅の戦士は膝を付いたまま、ベルトのバックルに手を掛けていた。 ◇ 「予想通り、一気にケリを付けに来たわけだ……そりゃあそうだよな、さっさと終わらせたいよな……しんどい事は。くどいくらい繰り返してりゃあうんざりしてくるよな。終わってくれって、焦るよな………終わりが見えたらさ……笑うよな」 語りかけるように、一人シンは呟く。 ゆっくりと指をバックルの青いボタンに掛け、力強く押し込む。 「ようやく終わるって安心するもんなぁッ!!」 発光現象と共に現れたのは、血生臭さの漂っていた他の形態とは異なった清浄な空気を纏った青。 海のように深く、空のように澄み切った青い戦士。 そして、その手には、シンの身長程もあるという強大であり、巨大な鉄槌のような兵器が鎮座していた。 それを、軽々と両手で構えると、鉄槌の側面が開き、巨大な砲門と化す。 青白い光が辺りの空間すら歪め、急速に集束を始める。 「ゲテモノには過ぎた見世物だ!!感謝して死ね!!」 女王は、自身の眼下で起きている現象を理解出来ぬままに、巨大な僕に命ずる。 しかし、振り下ろされた大木のような触手も、巨体も、町の家々も、そして女王も、全てを光が呑み込んでいく。 自身が蒸発していく音を聞き取りながら、女王は最後にようやく自分の中の感情に合致した名前を検索し終える。 「コレが……キョウフ……」 ◇ 網膜を焼き尽くすような光の奔流の後には、最早何も残っていなかった。 シンは鉄槌を傍らに置くと、バックルを外す。 傍らに現れた少女に目もくれることなく、静かに、深く溜息を吐く。 それは、最後の最後に、あのような汚らわしいゲテモノ達に『彼女』の力を使った事についての自分自身への自己嫌悪からの溜息であった。 デスティニーは、何も言わずに、静かに佇むシンの横顔を見つめる。 暫らく、瞑目していたシンは、何かを振り切るように顔を上げる。 「デスティニー……」 「ハイ」 「使えるベッドを見つけたら少し寝るぞ……」 「かしこまりました」 残骸ばかりが目立つ街並みを見渡しながら、シンはもう一度大きく溜息を吐いた。 ~FIN~ 前へ 次へ 一覧へ
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夜が明けた。 崩れ落ちた校舎。 未だ炎上する倉庫群。 各所に転がるメサイアの無惨な骸。 目の前に広がる惨状を前に、皆がため息をつく暇さえ与えられなかった。 「都築、宗像、メサイアのセンサーで生存者を捜せ!」 残骸の中に横転していた演習用の野戦指揮車から引っ張り出した通信装置を手に指示を飛ばすのは長野教官だ。 その横では、美奈代達が、その野戦指揮車を、高機動車に結びつけたワイヤーで引っ張って元に戻そうと悪戦苦闘していた。 全員、顔や制服はすすで汚れ、あの事件以降、水の一滴も飲んでいない。 「敵の再襲来は!?」 「あったら終わりだ。考えるな!」 「“雛鎧(すうがい)”はどうしたんです!」 「再組み立てをやっている人手がない!大体、トレーナー騎で戦闘が出来るわけないだろうが!つべこべ言わずにさっさと生存者を捜せっ!」 怒鳴るだけ怒鳴ると、長野大尉は通信を切った。 あちこちに指示を出し続けていたので、張り付くような喉の痛みに、少しだけ顔をしかめた。 強い日差しが焼けたアスファルトに照り返す。 ―――せめて水がほしいな。 長野大尉はそう思うが、戦闘でライフラインは完全に破壊されている。 おかげで飲み水どころか、負傷兵の医療用の水も不足している有様ではどうしようもない。 「―――ご苦労。引き続き、生存者の発見・保護に全力をあげてくれ」 警備隊の生き残りから報告を受けていた二宮が、長野に振り返った。 「さっき、岩見教官の上半身が見つかった。これで校長以下、昨晩、施設内にいた教職員の1割が―――」 二宮は言い淀んだ後、 「“戦死”した」 そう、言った。 「―――生徒達は?」 長野は、近くに転がっていた燃えさしを拾うと、口にくわえたタバコに火を付けた。 煙の向こうに転がる“幻龍(げんりゅう)”達には、未だ誰も手を付けていない。 生存者を捜す手でさえ足りない中だ。 例え騎士だろうと何だろうと、確実に死んでいる死体一つを引っ張り出すなら、まだ生きているかも知れない場所に埋まっている不明者捜索にこそ人員を割くべきなのだ。 「犠牲は思ったより少ない」 二宮が視線を向けた先。 瓦礫の間をゆっくりと進む二騎のメサイア達からは何の報告もない。 装備がないため、メサイアとのデータリンクが出来なければ、二宮達といえど待つしかない。 「行方不明の連中も、瓦礫の下で頑張ってくれていることを祈りたいが―――」 「現在、生存が確認されている生徒達は―――」 長野大尉は近くの瓦礫に腰を下ろした。 せーのっ! せーのっ! 指揮車をひっくり返そうと躍起になってワイヤーを引っ張る女子生徒達の声が、高機動車のエンジン音に負けじと響く。 「―――約8割程度にとどまります」 「よく生き残ったものだ」 「染谷も、無事だったんですね?」 「ああ。MES(マジック・エジェクト・システム)を上手く使った結果だ。コクピットブロックごと回収されている」 「さすがですな」 「ああ……救援部隊がもうすぐ来る」 「助かります」 二宮は、長野のポケットからタバコを抜き取った。 ―――1時間後。 上空をTAC(タクティカル・エア・カーゴ)が盛んに行き来する。 地上では、重機が動き出し、赤十字の天幕が張られ、衛生兵達が駆け回る。 「災難と言えば、これ以上の言葉はないわ」 二宮にそう言ったのは、彼女とほぼ同年代の女性。 高い背と切れ長の目、寸分の隙もなく着こなされた軍服と徽章の列が、どういう性格で、どういう経歴の女性かを物語る。 肩章は中佐。 胸には艦長を示すドルフィンマークが輝いている。 “鈴谷(すずや)”艦長、平野美夜(ひらの・みや)中佐だ。 「ニュース速報で富士学校で大規模爆発事故っていうじゃない?びっくりしたわよ」 「何してたのよ」 「嫁が数ヶ月ぶりに帰ってきたってのに、接待で飲んで帰ってきた旦那ぶん殴っていた」 「ご愁傷様」 「……もう離婚してやりたいけど」 「お金?」 「子供っていったら、どうする?」 「はぁっ!?」 「うそよ―――で?」 「敵の奇襲を受け、為す術もなく“幻龍(げんりゅう)”4騎を喪失。訓練校は壊滅」 美夜は横たわる“幻龍改(げんりゅうかい)”の残骸を見た。 コクピットハッチが吹き飛び、中から煙が出ている。 「人的犠牲は最小限度―――不幸中の幸いよ」 「“幻龍(げんりゅう)”の全騎喪失は痛いわよ」 「安心なさい」 美夜は瓦礫の中を縫うように歩き出した。 「真理に責任負わせようなんて、誰も考えていないから」 「……イヤミ?」 「ん?」 「私達が“雛鎧(すうがい)”を動かすことも出来ず、みすみす指をくわえて“幻龍(げんりゅう)”の全滅を見ているしかなかったこと」 「まさか!」 美夜は肩をすくめた。 「真理からの報告の通りだったことは、すでに司令部も承知しているわ」 「一騎でも動いてくれれば、みすみす犠牲は出さなかったわよ」 二宮はそう言うのが精一杯だ。 命がけでハンガーに飛び込んでみたら、“雛鎧(すうがい)”はエネルギーバイパス周りの整備のため、主骨格(マスターフレーム)から主要部品がほとんど外されていた。 つまり、“雛鎧(すうがい)”はメサイアとしてどころか、機械としてすら動かなかったのだ。それを知った二宮が、皆をすぐにシェルターへ退避させたのは、教官として妥当な判断だった。 もしかしたら、敵が“雛鎧(すうがい)”を“メサイアの残骸”と誤認して攻撃しなかったおかげで、“雛鎧(すうがい)”は無事だったかもしれないことも含めて、二宮はなにやら複雑な思いで美夜の後を歩く。 その耳に聞き慣れたディーゼルエンジンの音が聞こえ出した。 指揮車がようやく動けるようになったらしい。 二宮達の横を、ジープに乗った美奈代達がすれ違う。 二人に気づいて敬礼する顔が浮かないのは、なにも自分達の母校が破壊されたせいだけではない。 彼女たちの次の任務だ。 死体の回収作業。 自分で命じておいてなんだが、年頃の女の子達が喜ぶ仕事ではない。 美晴あたりが吐きまくるか、失神することは覚悟の上だ。 「……それと」 目的地に到着した美夜が足を止めた。 「……司令部も、“あいつ”にはかなり興味があるみたいね」 そこは、あの“鳳龍”達が入ってたハンガー。 ハンガーの床にころがされている“それ”は、“鈴谷(すずや)”から降ろされたベルゲ騎達によって、大型のベースキャリアに移動されつつあった。 昨晩、撃破された魔族軍のメサイアだ。 二宮にも、たかが訓練校が奇襲攻撃を受けたからといって、どうして飛行艦を司令部が差し向けるなんて大盤振る舞いに出たのか、それだけでもう察しがついていた。 おそらく、魔族軍のメサイアと聞いただけで、開発局から相当な圧力が加わったのは確かだろう。 「魔族軍のメサイアってヤツかしら?」 「近衛開発局は、全力を挙げてこいつの解析にかかる。そのために彼女も送られてきた」 「彼女?」 「―――お気の毒様」 日付が変わる頃、雨が降り出した。 静かに降り続ける雨音を聞きながら、美奈代達は焼け跡から見つけだした毛布にくるまっていた。 「きっと、涙雨ですね」 教室の一角、雨風が入らない程度の中、誰かのそんな呟く声が聞こえた。 祷子か美晴、どちらの声かわからない。 「そう、だな」 美奈代は小さく頷いた。 染谷が生きていたと聞いたときは、涙が出るほど嬉しかった。 その安堵感があったものの、体がこの異常事態に反応して、興奮して眠れない。 建物の残骸に雨が当たる音に回収作業が続く音が混じる。 ザッザッ。 不意に、軍靴が2つ、壁の向こうを歩いていく音が聞こえた。 「気を付けろ」 声がした。 「下手に扱うとワタがこぼれるぞ」 「……ああ」 二人が何を運んでいるか。それでわかった。 「重いな」 「ああ」 美奈代は頭まで毛布を被ると、無理矢理目を閉じた。 デートもなにもない。 あるのは地獄だけだ。 どんな夢を見たのか。 夢を見たのかさえはっきりしない中、結局、美奈代は朝を迎えた。 講堂で食事の配給が始まるぞ! そのメガホンでの声に誘われるように目を覚ました美奈代達は、他の多くの生き残った者達がそうだったように、無言で講堂に向かった。 雨は止んでいた。 途中、死体袋の山の横を通る。 気温が低いので腐臭はしない。ただ、自分達が血の臭いに鈍感になっていることに気づかないだけかもしれないが、心の中には、はっきりと違和感も恐怖も、なくなっていた。 天井が半壊した講堂に入ると、整備兵や警備兵達が配給にありついていた。 皆、憔悴しきった顔で、手の中の一時の暖かさにすがっていた。 美奈代達も、列に並んでようやく配給にありついた。 列に並ぶ数の少なさが、犠牲者の数を教えてくれる。 食事はポタージュに非常用の乾燥米をかけただけのもの。 それでも、口に広がる暖かさとポタージュの甘さが、何より有り難い。 その後、指示を求めて二宮の姿を探した。 見つかったのは、瓦礫の影で誰かと立ち話をする後ろ姿。 立ち話が終わってからと思い、美奈代は物音を立てないように慎重に二宮に近づいた。 「つまり」 二宮は苛立った声をあげた。 「ここは意図的に狙われた、というのですか?後藤中佐」 そっとのぞいた美奈代は、すぐに顔を引っ込めた。 二宮の話す相手は、黒服だ。 黒服―――近衛左翼大隊、魔導師や魔法騎士によって編成される特別部隊の関係者。 一般的に言って、下手に関わるべき相手ではない。 単なる教官に過ぎないはずの二宮が、なぜ黒服相手に、こんな所で話しているのか、美奈代は気にはなるが、あえて話を聞くつもりもなかった。 だが、耳にどうして入ってきてしまう。 「まぁ、そうなっちゃうねぇ」 「何故です?」 「一般の騎士が知っていいこっちゃないけど」 「……」 「まぁ、二宮中佐は今の立場もあるし……この地下にね?」 やる気があるのか疑わしい声が言った。 「門(ゲート)があるんだそうで」 「門(ゲート)?」 「アフリカや南米で暴れた連中が閉じこめられていたトンネルみたいなもんだそうで」 「この地下に?」 「そう。連中、それを復活させようって、動いてるんだわ」 「この施設を吹き飛ばし、その―――門(ゲート)とやらを解放……トンネルってことは、アフリカとここをつなげようとした?」 「もしくは、この地下にも仲間が眠っているのかもしれないねぇ」 「……」 アフリカで暴れる無数の妖魔達。 それが自分達の足下に巣くっていると言われ、美奈代は足下が急に不安になった。 「まぁ、ここの襲撃が失敗したから?しばらくは大丈夫でしょう」 「本当に、その確認だけで、ここに来たんですか?」 「おろ?」 「本当は、後藤中佐がここにいらしたのは、“あの騎”の安否確認では?」 「ははっ。こりゃ鋭い」 「この中では、祷子ちゃんの騎体が一番貴重だからね」 「本当なら、風間が搭乗して敵と交戦。その戦闘データが収集出来れば最高だったんでは?」 「ご名答っ!」 ……風間? あのぼんくらちゃんがなんだと言うんだ? 美奈代は耳を澄まして二人の会話に聞き入ろうとした。 だが――― 「とりあえず、ハンガー行きましょうや。あの安否、目で確認してこいってうるさくて」 「御苦労様です」 肝心の二人が遠ざかってしまう。 美奈代は肩をすくめて、その場を立ち去った。 それから1時間ほど後。 「お勉強は終わった」 二宮の声が響く教室が、普段とは違う。 崩れ落ちた校舎の隅。復旧作業の邪魔にならない所に、かろうじて無事だった椅子と机を見つけてきて並べているだけ。 それが、今の美奈代達の“教室”だ。 凡そ帝国最強兵器を駆る騎士の養成施設の有りようではない。 すでに美奈代達の服も、今着ている作業服だけで、本来の軍服は、その私物の一切と同様、宿舎と共に灰。 ここには、テキストもなにもない。 あるのは、瓦礫と死体の山だけだ。 そんな中、二宮は複雑そうな顔で言った。 「魔族軍がこんなところを叩いてくるとは、正直、予想さえしていなかった」 教壇に立つのは二宮と長野。 椅子に座って話を聞くのは、あのハンガーにいた連中だけ。 「すでに訓練校(ここ)には、貴様等に与えることの出来るものは何もない。本当なら」 二宮は少しだけ疲れたという顔になった。 「貴様等には、アフリカに行ってもらう」 「え?」 「最早、この学校にいても仕方ない。そのうえ、アフリカでの作戦行動は予定通りに実施するように司令部から通達が出ている。該当する生徒で戦死・負傷者はいない。使用騎体は司令部が都合してくれるということだし、何とかなるだろう」 「派遣部隊の出発は確か」 「出発まではまだ若干の日時がある。それまではこの富士学校の片づけだ。 泉。何かあるか?」 「い、いえ!」 「教官―――質問」 突然、二宮に声をかけられ、とまどう美奈代の横で、都築が手を挙げた。 「根城っていうか基地はどこです?どこに移動するんですか?それともここで?」 「都築。いい質問だ。根城はここじゃない」 「どこへですか?」 「“鈴谷(すずや)”だ」
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(パターン1) 「あっあんなの聞いてないぞ!」 大きな屋敷の中、余りにも不審人物といった黒装束に目出し帽の三人組が、僅かな光源となる燭台の下で震えていた。 彼らはいわゆる暗殺者……幾分か精度が劣るので鉄砲玉といった存在だった。与えられた仕事は酷く単純で、この館の主を殺すこと。 その人物が持つ権利が組織の運営上で邪魔になると言う理由なのだが、そんな事に興味は無い。 問題はどれだけスマートに、確実に殺して賃金を貰うかという一点に過ぎないのだから。 「そうだ! 護衛はガキと小さいトカゲだけだって言われたのによ!」 この仕事を行うのに重要になってくるのは護衛、つまり殺しを邪魔する存在だ。 その有無、量、質は全て調べつくした。その結果として得られた結果は「少女と不思議なトカゲ」だけ。 余りにも貧弱、余りにも容易い仕事のはずだった。それが…… 「なんだ……あの化け物どもはぁああ!?」 そう、自分達の行く手を阻んだのはまさに化け物。 壁に並んでいた鎧が頭部を取り落として歩いていた。 何気ない絵画が笑いながら空を舞っている 腐臭を放つ亜人の死体が剣を振り上げて迫ってきた。 まさしく悪夢。想像し難い非現実ではなく、目が捉える現実こそが真に奇異なる。 「まあ、落ち着こう。今のはたぶん幻影や無機物操作の応用だ。 幻影はこっちに触れないし、無機物操作じゃ動きはたかが知れてる。 あんな連中は無視して、さっさと仕事を済ませないと……」 暗殺者の一人が冷静に状況を分析し、仲間たちの落ち着きを取り戻そうと試みた。 しかし所詮それは自分が知りうる知識の中でのこと。真実はそんなところにはないのだ。 もちろん目の前の異形を打ち砕くような力があるのならば、原理は何の問題にもならない。 だが彼らにはソレが無かった。 「カシャン……カシャン……」 ゆっくりと近づいてくる金属音に誰もが大なり小なり、ビクリと体を震わせた。 だが相手は唯の木偶人形。注意すれば容易くやり過ごせる。そう思っていのたのだが……音が変わった。 「ガシャンガシャンガシャン」 ゆっくり一回ごとに区切られた音は連続したものに…… 「ダンッ! バタン!! ガガガガガ」 不規則な変音は木で出来た床が、高速で強打されたされる事で発生した音。 急な変化や大きな音は人間に根源的に恐怖を与える。神経の相応な反応なのだが、実感するほうは堪らない。 音の理由を考えれば……何かが高速で移動している。 「あっ! あぁああああ!!」 気がついたときは既に遅い。彼らは複数の異形に完全に囲まれていたのだ。 恐怖が先行し誰もが動けない中、一斉に振り上げられた剣が振り下ろされて……何かが断たれる音がした。 「終わり……大した事ねぇぜ」 暗殺者たちが見舞われた恐怖と終焉を見ている者がいた。 チューブトップ、タイトなミニスカートには二重にベルトを巻き、その上からゆったりとした作りの紅いコートを着ている。 小さな桃色の髪の少女は手に嵌めた手袋型デバイス ディアディアンクを光らせ、いくつかの魔法陣を従えて、シモベたちの挙げた成果に満足そうに嗤う。 「やっぱ多量に展開、高速で囲んで袋叩きにするのは、間違った戦略じゃなかったな?」 『あんまり印象がよくないけど……有効なのは確かですね?』 「キュク~」 盛大に嘲笑を作っているのは、胸に輝くオカルトグッズ・千年リングに宿る魂 バクラ。 犠牲者に僅かにも申し無さそうに補足するのは、体の持ち主であるキャロ・ル・ルシエ。 そして事態が解っているのか解らないのが、白銀の幼竜がフリードリッヒ。 間違いなく暗殺者たちが仕入れた情報人に有った護衛だ。 「はん! 他人様のご意見など知った事か! オレ様達はオレ様達の好きなようにやる! だろう? 相棒」 一人多いがバクラは肉眼で捉えることができないのだから仕方が無い。 そして魔道師である可能性の失念、更に特殊な術式による死霊制御まで加わるとなれば、鉄砲玉風情に勝ち目は無かった。 「はい!……でもあんまり他の人に迷惑をかけるのもダメ!……だと思うんですけど」 『はいはい、あいも変わらずヌルイな。まっ……ソレこそが……』 「? 何か言いましたか?」 『何でもねえよ。とりあえず雇い主様に報告といこうぜ?』 そう、これは仕事だ。多くの人を用いた物々しい警備を好かない金持ちが募集した護衛の仕事。 では仕事をする理由とは何か? お金を得て……生きていく為に。と言う事で…… 『キャロとバクラはこんな風に日々を生きています』 (パターン2) キャロは古びた部屋を掃除していた。ソレは熱心に。真心を君に!って程に。 ハタキで丁寧に埃を落とし、箒によってゴミを取り、雑巾で拭き掃除。 他にも色々とした小技を挟みつつ、それはもうやる気満々。ランランル~である? 『なぁ……相棒』 「なんですか? バクラさん」 片や全くやる気が無い人が一人。荒事とトラブルとハプニングと盗みをこよなく愛するエジプトの盗賊は酷く退屈していた。 キャロだけが見ることが出来るビジョンの中で、その体をグデ~と仰向けに寝そべらせていたりする。 『退屈だ……』 「キュクゥ~」 それに賛同するフリードリヒも外を飛び回りたいと羽をバタバタ。だがそれも「埃が飛ぶ!」とキャロに怒られて中断。 「そうですか? 私は楽しいですよ?」 憧れていた普通なこと。それが一時のものであろうとも、キャロは確かに安らぎを感じていた。 「キャロちゃん、ご苦労様。ちょっと休憩にしましょう」 「はい、お婆ちゃん」 部屋の掃除を終えたころに顔を出すのは、腰が見事に曲がり、白髪と顔に刻む無数の皺が生きた年数を語る老婆だった。 彼女こそこの『仕事の依頼人』である。 「本当に助かってるわ、こんなにお掃除できたの何年ぶりかしら?」 二人はキャロが掃除をして、見違えるようになったダイニングで、テーブルを囲んでいた。 テーブルの上にはティーセット、これまた灰塗れになって掃除したオーブンで焼かれたクッキーが並んでいる。 そう、老婆から貰った仕事は家の大掃除。平和で平穏な仕事。故にバクラは退屈そうだったのだ。 今は亡き主人と独り立ちした子供達との思い出が詰まっているという屋敷を手放したくはない。 だが老いた自分だけでは掃除も整備も手が回らないし、人を雇って如何にかしてもらうほど金銭的余裕も無かった。 「私もお掃除なんて随分してなかったから不安だったけど……何だか楽しくて」 はにかんだようにキャロは眼前に置かれたティーカップに口をつける。 味はまあ……普通。危ない仕事をしていると飲ませてもらえる高そうな品と比べれば。 だがそれら高級品には無い人の温もりがキャロに数段美味しく感じさせた。 「……老いぼれがこんな町外れの大きな家に一人で住んでいるのも大変だけど、貴女も色々と大変ね~小さいのに」 「イエ! 意外と楽しくやってますよ、大変な事もありますけど。フリードも居てくれるし……」 「キャウ~」 心配そうな老婆の言葉をキャロは僅かに困ったような笑顔で答えた。 本当はバクラの存在も誇りたいところだが、老婆には見えないはずだしその存在を明かしては居ない。 余計な心配や誤解を生み仕事が円滑に進まない可能性があるからだ。しかし老婆は不意にキャロの背後へと視線をズラして聞いた。 「後ろに居る彼はキャロちゃんの良い人かい?」 「えっ?」 『この婆さん……見えてやがるのか!?』 二人と一匹のうちを走り抜ける驚愕、一匹は実際解っているのかは謎。何せ変わらないペースでクッキーを食べているから。 「ふふ、年をとってくると見えなきゃいけないものは見えなくなるけど、見えなくても良い物は意外と目に入るのさ。 もしかしたら私もそっち側のお迎えが近いのかもしれないね?」 カラカラとボケた風に嗤う老婆を見て、キャロはなぜか『そういうものなのだ』と納得してしまった。 なんだかこの老婆にはそんな不思議な魅力があり、『自分もこんな風に年をとりたい』なんて未だ10にも満たないキャロは考える。 バクラはと言えば…… 『こんな気味の悪い奴をお迎えしたくねえな』 ……取り付く島も無い。 「さて! 次は屋根を直しますよ!!」 「お願いね~私はしっかり夕飯の準備しておくよ?」 「はい! あとはふかふかのベッドと……暖かいシャワーも」 契約の内容は至って簡単。 キャロが掃除から屋根の修繕まで魔法とか駆使して行う代わりに、老婆は三時のオヤツと夕飯、ベッドとシャワーと次の日の朝食を提供する。 現金では支払えない老婆が提示した苦肉の策なのだが、キャロとしてはそういう方が非常に嬉しい。 幾ら金での報酬を貰おうとも、その金ではきっと買えないだろうとっても大事な物。 それは……人の温もり。 (パターン3) 「バクラさん、世界には不思議な仕事がありますね。なんと『コレ』を配るだけでいいそうですよ!?」 キャロは寒いで白い息を吐きながら、かなり大きな都市の街角に立っていた。 支給されたカラフルな会社のロゴ入りジャンバーを着て、手に持っているのは……同様に会社のCM用ティッシュだ。 その傍らには綺麗にモールを巻かれ、宴会でしか見ないようなトンガリの派手な帽子を被ったフリード。 いわゆるティッシュ配りのお仕事。 「よろしくお願いしま~す」 『相棒……少しは仕事を選べ』 粉雪が僅かに舞い散る寒さの中で、キャロは何時も通りの可愛らしい微笑。 電車の到着と連動するように勢いを増す人の群れにティッシュを差し出す。 その様子に心底呆れたような、微妙な表情をバクラは浮かべる。 別に金が無いわけではないのだ。その気になれば今すぐちょっと高そうな喫茶店に入って、十時のオヤツに洒落込むことも可能だ。 だと言うのに…… 「お願いしま~す、マイフルで~す」 『もっと派手な仕事をしようぜ、相棒。美術館から絵を盗むとか……』 「う~ん、この前に見た絵はちょっと欲しかったですけど……って! 違います、今はこのお仕事が大事! 全部に全身全霊、一生懸命やるからお給金が貰えるんです!」 なんだかよく解らん勤労の精神に目覚めてしまったような相棒にバクラは二度目のタメ息。 『ほっとけばそのうち自由気侭に戻るだろう』今まで一度だってハズレたことが無い認識だが、恐らく今回もハズレはしないだろう。 故にしばらく捨て置く事にしたのだが…… 「……中々受け取って貰えません」 「キュウゥ……」 一時間ほど経った位だろうか? キャロが『クスンッ』と鼻を鳴らして呟いた。 確かに誰でも経験が有ると思うが、人が歩いている時にいきなり目の前に何かを差し出されると……正直、邪魔である。 まあ、ティッシュだから少々マシな方でビラだけなんて場合は……目も当てられない。 『じゃあ、やめようぜ~』 「ダメです!」 コレ幸いと離脱を提唱するバクラだが、キャロの意思は固い。 フリードは……寒くて溜まらないのか? 珍しく自分からバッグに潜り込んでいる。 「これ全部配り終わらないとお金がもらえません……」 『なあ、別に金に困ってるわけじゃねえんだぜ?』 「でも、稼げるならなんでもやります。また……バクラさんに迷惑をかけられません」 冷えてきた自分の小さな手に息を吐きかけながら、キャロが告げた言葉に思わずバクラは目が点になる。 基本的にこの旅の一行内で一番お金がかかるのはキャロだ。育ち盛りの女の子であり、他の幼竜や魂と比べるのもバカらしい。 故にバクラはキャロが自身の為に頑張っているのだと思っていた。それが何故にして幾ら貧乏生活でも死ぬことが無い自分の為だと? 『あのな? 相棒、お前はオレ様の事なんて心配する必要はねぇんだ。 こちとら千年リングに魂を宿すだけの存在。病気にもならねえし、死にもしない』 「でも……」 『相棒は相棒のやりたい事をすれば良いんだ。オレ様が……なんでも叶えてやるからよ』 そう言うと無言で体の所有権を奪取したバクラが手近な通行人を捕まえた。 ティッシュを『手渡す』のではなく、なぜか通行人を捕まえる。 「持ってけ」 お願いではなくて命令。いきなり美少女にネクタイを掴まれ、大量のティッシュを押し付けられたサラリーマンは目を白黒させている。 そんな裏技を数回繰り返せば、ダンボールに詰まっていたティッシュはカラ。そんな様子に思わずキャロは笑い出した。 『なるほど……そんな方法があったんですね~』などと考えているのだが、確実にルール違反です。 「さて、仕事終了。サテンで暖かいコーヒーでも飲もうぜ」 『私は紅茶の方が…「キュクル~」…フリードはホットケーキね?』 追伸……確かにノルマは達成したので給金はもらえたが、何故か仕事自体をクビになった。 何か問題があっただろうか?と一行は首をかしげることになる。 前へ 目次へ 次へ
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ばねあしジャックと人形の家 ◆faoWBgi.Rg ◆◆◆◆ Jack be nimble, (さあさあ ジャック) Jack be quick, (いそいで ジャック) Jack jump over (ろうそくたてを) The candle stick. (とびこえろ) ◆◆◆◆ 小さな机と破れたソファが一つずつ。 曇りかけた、古い鏡台が一つ。 貧相な棚が一つ。 棚の中に放り込まれた、前の住人が置いて行ったらしい、くたびれた聖書が一冊。 さして広いとは言えない部屋にあるのは、せいぜいそれきりであった。 あとは――片隅にあつらえられた、畳敷きのスペースの上に、行儀よく膝を揃えて座る人形が一体。 或いは、少女が一人、と言い換えてもいい。 零れるようなブロンドの髪も、濡れた宝石のような瞳も、真っ白い肌も、彼女が腰を下ろした一角には、まるで見合っていない。浮いている。 ――本当に、置物みたいに座っていやがる。 己がマスター、ララの横顔を眺めて、サーヴァント・アサシンことウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドは、そんなふうに考えた。 怪人「バネ足ジャック」としての仮装を解いた姿で、アサシンは、机のそばの古びたソファに窮屈な長い両脚を広げてもたれかかり、片手には空っぽのワイングラスを弄んでいる。 市民劇場の裏手にある、くたびれた通りの色に同化したような、安アパートの一室。 ララに住居としてあてがわれたのは、舞台へ上がる歌姫のイメージにおよそ似つかわしくない、そのような場所であった。 ララはそれへ不満を唱えるでもなく――生身の人間と同じ衣食住を必要としない、ということもあるのだろうが――、むしろ、どこか愛おしんでいるような風ですらあり、アサシンはと言えば、下手に人目につきそうな場所よりはこちらの方がマシだろうと、彼なりの実践的な観点から、この狭苦しい居城(生前の彼の屋敷からすれば、掌の上の小箱のような!)を肯定していた。 ソファのスプリングの鳴らすギシ、という音が、低く響く。 顔を歪め、足を投げ出し、乱暴に背を沈めたアサシンは、一晩の間変わらないララのポオズを見つめる。 ――眠る前に、歌はいかが。 昨晩、聖杯戦争の裁定者たるルーラーからの通達があった後、二人きりの部屋でそう言って来たマスターに対し、彼は半ば呆れながら、サーヴァントに睡眠は必要ないことを告げた。 そして気がついた、マスターにも、ララにも、それは必要がないということに。 「グゾルが眠るときには、いつも歌を歌ってあげたのよ」 どこか寂しそうな顔のまま、ララは、この朝まで、同じ姿勢でそこへ座っていた。それはまるで、子供の寝床にあつらえられた御守りのようにも見える。 アサシンは、遠い、彼にとっては、生きていた時すらあまりに遠かった、幼い日の記憶をふとよぎらせる。 顔だけがぽっかりと抜け落ちている、ドレスを着た女性の――死んだ母の肖像。 一人きりの夜に、もぐりこんだベッド。 眠りが恐ろしく、寂しく、得体の知れぬ悪夢を幾つも見たこと。 子守唄を歌うことができても、人形は、眠ることはない。夢を見ることもないのだろう。どれほど長い夜を、どれだけの数、過ごしてきたのか。 見た目こそ少女であっても、彼女は、アサシンが生前に人として生きた時間より、はるかに多くの時間をその矛盾した身に降り積もらせてきたのだ。「変わってゆく」人間に寄り添い、歌いながら。 窓の外で、小さく鳥の啼く声が響いた。 見つめるアサシンの前で、ララが、すうと顔を上げる。アサシンを見る。 「……もう、始まってるのね」 ――朝は、同じように来るのに。 その瞳にあるのは、迷いと、当惑と、そればかりでない何かが入り混じった、不思議な光であった。 「私、何も決められなくて。付き合わせちゃって、ごめんなさい」 主従としてまともに向き合ってから、幾度となく呟いた謝罪の言葉を、ララはまた、アサシンへ向かって呟く。 アサシンは、ふん、と鼻を鳴らす。 「言ったはずだろう。オレは暇潰しをしてるだけだ。 たいがいの遊びはやってきたが、人形との付き合いってのは、さすがに経験がないからな」 なかなか愉快なものだ、と顔に張り付いた悪辣な笑みに乗せて言う彼に、ララは怒るでもなく、ありがとう、と返した。 調子が狂う。舌打ち混じりに顔を背けながら、今後の方針に水を向ける。 「目下のところ、どうするか…だな。 前にも言った通り、癪な話だが、オレは大して強くない。“三騎士”の連中は言わずもがな、他の奴らと小細工なしに正面からやり合って勝てる――今のオレたちの方針からすると、生き残れる、と言った方がいいか――可能性は、低い」 ララは、静かにうなずく。聖杯戦争の知識は、当然ララも得ていた。アサシンのクラスは、そもそも強大な戦闘能力を誇るクラスではないのだ。 「だが、やりようはある」 アサシンはテーブルにグラスを置き、虚ろな双眸を宿した仮面をトランクから取り出して、目の前に掲げた。 怪人たるバネ足ジャックにとって、通常は悪手と言える「早期から姿を晒すこと」は、必ずしもマイナスにならない。 目覚めたララに呼ばれずにいた間、彼はこの街の夜を怪人として跳び回っていた。 それは当初は、隷属者として呼び出されたことへの反発であり、好きにやってやるという意思表示だったのだが――結果として、「バネ足ジャック」ならぬ「火吹き男」の噂の流布のみならず、この街の大まかな地理を頭に入れ、ロンドンと異なる建物や地形に対する、バネ足の具合も確かめることができた。 加えて、アサシンは、「バネ足ジャック」としての気配を消して民衆(NPC)に同化できる。 それを利用して、表向きララの「伯父」であり「マネージャー」のような立場の人物として、劇場の関係者へも顔を見せておいた。 マスター周辺を動き回るのに不審がられない、それなりの役柄というものはあった方がいい。 幸い、この造られた街には、人種も装いも種々雑多なNPCが多く配置されていると見えて、金髪に碧眼、痩身大躯なアサシンの姿も、さほど目立たずに済んでいるようだった。 アサシンは、その間に得た情報を、ララに伝える。 「昨晩、劇場に来る客から、おかしな噂をいくつか聞いた。 ひとつは、『チェーンソー男』とかいう化物」 機械式の回転鋸を振り回し、人を襲う異形の巨漢。唐突に現れ、唐突に空を飛んで消える怪物。そして、不思議と顔の印象が記憶に残らないという。噂では、それは「少女」と戦っているのだとも。 「もう一つ。街で目撃された、これも大男だ。『包帯男』とか言われていたがな」 ボロボロのコートと帽子、腐臭を纏った巨漢が、平然と、「当たり前のもののように」街のただ中に存在していた。そしてこれも、「少女」と共にいたという。 「『チェーンソー男』に、『包帯男』……」 ララが反復する。 バネ足と異なる、二つの怪人の噂。或いはそれら二つは同じものなのかもしれない。いずれにせよ。 「断言はできないが、参加者とサーヴァントに関わる何かだろうよ。 すでに動き出してる連中がいた、と見るべきか。 そして少なくとも、今日以降は否応なしに動き出す奴らが増える。……あんな通達があった後だしな」 アサシンは、ララが握りしめている手紙と写真とに目をやる。 それは、昨日の夜、ララの元へ直々の通達に現れたルーラーが、残して行ったものだった。 どこかおどけたような予選通過の告知や、ささやかな資金の同封、諸連絡……それらの中でも、参加者の一人「フェイト・テスタロッサ」の捕獲を示唆する文言は、特に目を引いた。 写真の中、幼さを多分に残した少女の面立ちを見ながら、開始以前、或いは早々に「やらかした」のだろうと二人は話し合った。少なくとも、ルーラーに目をつけられる何かが、その少女にあったことは間違いない。 捕獲の礼は、「令呪一画の贈与」によってなされるという。この街で何を成すにせよ、それは魅力的な褒賞であったが、今は釣られて動くべきではない、アサシンはララへとそう告げた。 ララは、この聖杯戦争において最初の贄と定められてしまった、見知らぬ少女のことを気にしているようだ。アサシンとて、内心では、自分の姪ほどに見える、写真の少女が気にならないわけではない。 しかし、アサシンはララに下手を踏ませるつもりはなかった。 己の意思で、この不思議な矛盾をはらんだ人形の少女が、新たな願いを見つけるまで付き合うと、決めた以上は。 未だ、ララは何をなすべきかに迷っている。決めかねている。 ただ、少なくともあの劇場で「歌う」ことは、彼女にとって大きな意味を持っているらしい。 彼女を生みだした人間から厭われ、傷つけられ、「怪物」と恐れられ、自身もまた「怪物」として振舞い――――その中でたった一人見つけた愛する者のために、すがるように歌い続けて生を燃やした彼女にとって、不特定多数の人間たちに向けて歌を歌うことが、たとい用意されたNPCといえ、いやむしろそれだからこそ、自分の中の新たな「何か」を手探るきっかけになっているのは確かだった。 だから、今はまだ、渦中へと飛び込ませるわけにはいかない。 ララは夜の舞台の時以外、この目立たぬ住居から出ないことをアサシンと約束した。あくまで、他の陣営が動き出すのを待ち、アサシンが情報を収集し、備える。 ――そうだ。跳び回るのは自分だけでいい。 ――日中は街に紛れ、必要ならば、夜は「怪人」となって。 ――かつて一度忘れ去られた、滑稽で悪辣なバネ足の道化として。 ソファの背へ差し始めた、窓から昇る日の光に目をやると、アサシンは大きなトランクを片手に、ゆっくりと立ち上がった。 見上げるララ。その、不思議な光をたたえた瞳を、アサシンは今一度、見つめ返した。 「何かあったら、すぐに令呪を使え。 ……街の端にいようが、月の向こうにいようが、すっ跳んで来てやる」 そう言って背を向け、戸口へ向かったアサシンへ、言葉が投げかけられる。 「貴方にも」 アサシンは、足を止めた。 「今晩は……貴方にも、ちゃんと歌を聴いてほしい。 だから、帰ってきて」 背を向けたまま、アサシンは――ウォルターは、バネ足ジャックは、少し黙った後、ぞんざいに後ろ手を振ってこたえながら、部屋を出て行く。 バタリ、と戸の締まる音。 そうして、さして広いと言えない部屋には、再び顔を落とした人形が一体。 或いは少女が一人きり、残された。 【D-3/市民劇場裏、アパートメント/1日目 早朝】 【ララ@D.Gray-man】 [状態] 健康 [令呪]残り三画(イノセンスの埋め込まれた胸元に、十字架とその中心に飾られた花の形で) [装備] なし [道具] なし [所持金] 劇場での給金(ある程度のまとまった額。ほとんど手つかず)、QUOカード5,000円分 [思考・状況] 基本行動方針:やりたいことを見つける。グゾルにまた会いたい…? 1. 今は歌いたい。 2. アサシン(ウォルター)に歌を聴かせたい。 3. フェイト・テスタロッサが気になる。 [備考] ※「フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。 ※「バーサーカー(チェーンソー男)」及び「バーサーカー(ジェノサイド)」の噂をアサシン経由で聴取しました。 【D-3/市民劇場裏手の通り/1日目 早朝】 【アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)@黒博物館スプリンガルド】 [状態] 健康、スキル「阻まれた顔貌」発現中 [装備] バネ足ジャック(バラした状態でトランクに入っていますが、あくまで生前のイメージの具現であって、装着を念ずれば即座にバネ足ジャックに「戻れ」ます) [道具] なし [所持金]一般人として動き回るに不自由のない程度の金額 [思考・状況] 基本行動方針:マスター(ララ)のやりたいことに付き合う。 1. 街で情報収集をしながら、他の組の出方を見る。 2. 夜までには帰ってきて、ララの歌を聴く。 3. 『チェーンソー男』『包帯男』に興味。 [備考] ※「フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。 ※「バーサーカー(チェーンソー男)」及び「バーサーカー(ジェノサイド)」の噂を聴取しました。サーヴァントに関連する何かであろうと見当をつけています。 ※街の地理を、おおむね把握しました。 ※劇場の関係者には、ララの「伯父」であると言ってあります。 BACK NEXT 001 惑いのダッチアイリス 投下順 003 目覚め/wake up girls! 時系列順 BACK 登場キャラ NEXT 000 前夜祭 ララ 027 尊いもの 000 前夜祭 アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド) 017 機械式呪言遊戯 -006 ララ&アサシン
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開催日:2011 / 02 / 11 参加人数:36名 フォーマット:Pauper(~SOM) Constructed Pauper Event #2064523 on 02/11/2011 in Daily Events 4-0:赤単ゴブリン/Goblin 4-0:青黒赤ストーム/UBR Storm 3-1:青黒赤ストーム/UBR Storm 3-1:黒単コントロール/Black Control 3-1:赤単ゴブリン/Goblin 3-1:赤単ゴブリン/Goblin 3-1:緑赤青コントロール/GRU Control 3-1:赤単ゴブリン/Goblin 3-1:黒単コントロール/Black Control 3-1:赤単ゴブリン/Goblin 3-1:青単コントロール/Blue Control 4-0 赤単ゴブリン/Goblin 使用者:THIAGOLUCENA Main Deck 17《山/Mountain》 4《ゴブリンの奇襲隊/Goblin Bushwhacker》 4《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》 4《ゴブリンのそり乗り/Goblin Sledder》 4《ジャッカルの使い魔/Jackal Familiar》 4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》 3《モグの下働き/Mogg Flunkies》 4《モグの略奪者/Mogg Raider》 4《モグの戦争司令官/Mogg War Marshal》 4《火花鍛冶/Sparksmith》 4《Chain Lightning》 4《稲妻/Lightning Bolt》 Sideboard 3《炎の斬りつけ/Flame Slash》 4《紅蓮破/Pyroblast》 4《倒壊/Raze》 4《粉々/Smash to Smithereens》 4-0 青黒赤ストーム/UBR Storm 使用者:Timthehappy Main Deck 4《古き泉/Ancient Spring》 3《用水路/Irrigation Ditch》 1《島/Island》 4《硫黄孔/Sulfur Vent》 1《ほくちの加工場/Tinder Farm》 4《陰謀団の儀式/Cabal Ritual》 2《彩色の宝球/Chromatic Sphere》 4《彩色の星/Chromatic Star》 2《強迫的な研究/Compulsive Research》 4《暗黒の儀式/Dark Ritual》 1《巣穴からの総出/Empty the Warrens》 4《ぶどう弾/Grapeshot》 4《留まらぬ発想/Ideas Unbound》 4《水蓮の花びら/Lotus Petal》 4《魔力変/Manamorphose》 2《思案/Ponder》 4《定業/Preordain》 4《炎の儀式/Rite of Flame》 4《血の署名/Sign in Blood》 Sideboard 3《綿密な分析/Deep Analysis》 4《ディミーアの水路/Dimir Aqueduct》 4《強迫/Duress》 2《残響する真実/Echoing Truth》 2《鋭い痛み/Flaring Pain》 3-1 青黒赤ストーム/UBR Storm 使用者:TheNextPhenom525 Main Deck 4《古き泉/Ancient Spring》 2《地熱の割れ目/Geothermal Crevice》 2《用水路/Irrigation Ditch》 4《硫黄孔/Sulfur Vent》 1《ゴブリンの奇襲隊/Goblin Bushwhacker》 4《陰謀団の儀式/Cabal Ritual》 4《彩色の宝球/Chromatic Sphere》 4《彩色の星/Chromatic Star》 4《暗黒の儀式/Dark Ritual》 3《巣穴からの総出/Empty the Warrens》 4《ぶどう弾/Grapeshot》 4《留まらぬ発想/Ideas Unbound》 4《水蓮の花びら/Lotus Petal》 4《魔力変/Manamorphose》 4《思案/Ponder》 4《炎の儀式/Rite of Flame》 1《引き裂かれた記憶/Shred Memory》 3《血の署名/Sign in Blood》 Sideboard 3《綿密な分析/Deep Analysis》 2《ディミーアの水路/Dimir Aqueduct》 2《強迫/Duress》 2《残響する衰微/Echoing Decay》 1《巣穴からの総出/Empty the Warrens》 1《鋭い痛み/Flaring Pain》 1《ゴブリンの奇襲隊/Goblin Bushwhacker》 2《煮えたぎる歌/Seething Song》 1《引き裂かれた記憶/Shred Memory》 3-1 黒単コントロール/Black Control 使用者:Adherent Main Deck 23《沼/Swamp》 3《騒がしいネズミ/Chittering Rats》 4《墓所のネズミ/Crypt Rats》 4《ファイレクシアの憤怒鬼/Phyrexian Rager》 4《貪欲なるネズミ/Ravenous Rats》 4《堕落/Corrupt》 3《見栄え損ない/Disfigure》 4《残響する衰微/Echoing Decay》 4《闇の掌握/Grasp of Darkness》 4《血の署名/Sign in Blood》 3《発掘/Unearth》 Sideboard 1《汚れ/Befoul》 2《困窮/Distress》 4《強迫/Duress》 4《腐臭の地/Rancid Earth》 4《堕落の触手/Tendrils of Corruption》 3-1 赤単ゴブリン/Goblin 使用者:3soteric Main Deck 16《山/Mountain》 1《ぐらつく峰/Teetering Peaks》 4《ゴブリンの奇襲隊/Goblin Bushwhacker》 4《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》 4《ゴブリンのそり乗り/Goblin Sledder》 3《ジャッカルの使い魔/Jackal Familiar》 4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》 4《モグの下働き/Mogg Flunkies》 4《モグの略奪者/Mogg Raider》 4《モグの戦争司令官/Mogg War Marshal》 4《火花鍛冶/Sparksmith》 4《Chain Lightning》 4《稲妻/Lightning Bolt》 Sideboard 1《死の火花/Death Spark》 2《ゴブリンの女看守/Goblin Matron》 4《紅蓮破/Pyroblast》 2《大祖始の遺産/Relic of Progenitus》 4《粉々/Smash to Smithereens》 2《よろめきショック/Staggershock》 3-1 赤単ゴブリン/Goblin 使用者:Darkhorse985 Main Deck 17《山/Mountain》 4《ゴブリンの奇襲隊/Goblin Bushwhacker》 4《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》 4《ゴブリンのそり乗り/Goblin Sledder》 1《ジャッカルの使い魔/Jackal Familiar》 2《ケルドの匪賊/Keldon Marauders》 4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》 4《モグの下働き/Mogg Flunkies》 4《モグの略奪者/Mogg Raider》 4《モグの戦争司令官/Mogg War Marshal》 4《火花鍛冶/Sparksmith》 4《Chain Lightning》 4《稲妻/Lightning Bolt》 Sideboard 4《炎の斬りつけ/Flame Slash》 1《ケルドの匪賊/Keldon Marauders》 4《紅蓮破/Pyroblast》 2《地鳴りの揺るぎ/Seismic Shudder》 4《粉々/Smash to Smithereens》 3-1 緑赤青コントロール/GRU Control 使用者:Lparson13 Main Deck 2《進化する未開地/Evolving Wilds》 3《森/Forest》 2《グルールの芝地/Gruul Turf》 4《島/Island》 3《イゼットの煮沸場/Izzet Boilerworks》 4《山/Mountain》 2《シミックの成長室/Simic Growth Chamber》 4《広漠なる変幻地/Terramorphic Expanse》 4《日を浴びるルートワラ/Basking Rootwalla》 3《コー追われの物あさり/Looter il-Kor》 4《熟考漂い/Mulldrifter》 2《ブリキ通りの悪党/Tin Street Hooligan》 4《野生の雑種犬/Wild Mongrel》 1《噴出の稲妻/Burst Lightning》 3《綿密な分析/Deep Analysis》 2《除外/Exclude》 3《癇しゃく/Fiery Temper》 2《炎の稲妻/Firebolt》 1《炎の突き/Flame Jab》 4《稲妻/Lightning Bolt》 3《否認/Negate》 Sideboard 4《古えの遺恨/Ancient Grudge》 4《マナ漏出/Mana Leak》 4《地鳴りの揺るぎ/Seismic Shudder》 3《ウェザーシード・フェアリー/Weatherseed Faeries》 3-1 赤単ゴブリン/Goblin 使用者:joaoclaudioms Main Deck 17《山/Mountain》 4《ゴブリンの奇襲隊/Goblin Bushwhacker》 4《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》 4《ゴブリンのそり乗り/Goblin Sledder》 4《ジャッカルの使い魔/Jackal Familiar》 4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》 4《モグの下働き/Mogg Flunkies》 3《モグの略奪者/Mogg Raider》 4《モグの戦争司令官/Mogg War Marshal》 2《火花鍛冶/Sparksmith》 4《Chain Lightning》 2《死の火花/Death Spark》 4《稲妻/Lightning Bolt》 Sideboard 1《死の火花/Death Spark》 4《炎の斬りつけ/Flame Slash》 4《紅蓮破/Pyroblast》 4《粉々/Smash to Smithereens》 2《火花鍛冶/Sparksmith》 3-1 黒単コントロール/Black Control 使用者:Shyft4 Main Deck 4《やせた原野/Barren Moor》 1《ボジューカの沼/Bojuka Bog》 2《汚染されたぬかるみ/Polluted Mire》 15《沼/Swamp》 4《騒がしいネズミ/Chittering Rats》 4《リリアナの死霊/Liliana s Specter》 4《ファイレクシアの憤怒鬼/Phyrexian Rager》 4《貪欲なるネズミ/Ravenous Rats》 4《見栄え損ない/Disfigure》 4《葬送の魔除け/Funeral Charm》 1《カラスの罪/Raven s Crime》 2《鋸刃の矢/Serrated Arrows》 4《血の署名/Sign in Blood》 4《闇の旋動/Spinning Darkness》 3《発掘/Unearth》 Sideboard 1《ボジューカの沼/Bojuka Bog》 4《押し寄せる砂/Choking Sands》 3《破滅の刃/Doom Blade》 3《強迫/Duress》 2《闇の掌握/Grasp of Darkness》 1《カラスの罪/Raven s Crime》 1《鋸刃の矢/Serrated Arrows》 3-1 赤単ゴブリン/Goblin 使用者:dtphelan Main Deck 17《山/Mountain》 4《ゴブリンの奇襲隊/Goblin Bushwhacker》 4《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》 4《ゴブリンのそり乗り/Goblin Sledder》 4《ジャッカルの使い魔/Jackal Familiar》 4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》 3《モグの下働き/Mogg Flunkies》 4《モグの略奪者/Mogg Raider》 4《モグの戦争司令官/Mogg War Marshal》 2《火花鍛冶/Sparksmith》 4《Chain Lightning》 2《火炎破/Fireblast》 4《稲妻/Lightning Bolt》 Sideboard 4《噴出の稲妻/Burst Lightning》 3《炎の突き/Flame Jab》 4《地鳴りの揺るぎ/Seismic Shudder》 2《火花鍛冶/Sparksmith》 2《炎の覆い/Wrap in Flames》 3-1 青単コントロール/Blue Control 使用者:wsantini Main Deck 19《島/Island》 4《流砂/Quicksand》 4《方解石のカミツキガメ/Calcite Snapper》 2《熟考漂い/Mulldrifter》 3《海門の神官/Sea Gate Oracle》 4《尖塔のゴーレム/Spire Golem》 4《対抗呪文/Counterspell》 2《剥奪/Deprive》 2《除外/Exclude》 1《妖精の計略/Faerie Trickery》 3《睡眠発作/Narcolepsy》 4《定業/Preordain》 4《広がりゆく海/Spreading Seas》 4《熟慮/Think Twice》 Sideboard 2《払拭/Dispel》 3《残響する真実/Echoing Truth》 3《否認/Negate》 1《霊魂放逐/Remove Soul》 4《絡み線の壁/Wall of Tanglecord》 2《ウェザーシード・フェアリー/Weatherseed Faeries》 未分類
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眼が眩むほどに美しい太陽の下。 どこまでも続く蒼穹の中、その翼を悠然と羽ばたかせ上へ上へと飛んでいく者が居た。 身に纏うは、白装束。背中から生える翼もまた、美しい純白であった。 大空を羽ばたけば羽ばたくほどに、眼下に見える村も小さくなっていく。 清々しい風が身体を吹き抜け、遥か天に輝く太陽の温もりにまどろみすら覚えてしまう。 今この時だけは、全てを忘れて空を羽ばたいていられる気がした。 それ程までにこの美しい空の心地は良く、彼の心を和ませるようだった。 だが、幸せな時間は長くは続かないものだ。 太陽へ近づくに連れ、彼はその身体に、次第に熱を感じるようになって行った。 このままではいけない。高度を下げなければ。 しかし、そう思った時には、全てが遅かった。 太陽に憧れて、高く高く飛んだ翼は、その熱に熔かされ、見る間に黒く焼け焦げていった。 狼狽する彼の気持ちを知ってか知らずか、ただの燃え糟になり果てた翼は空に溶けて行く。 翼が無くなっては、この大空を羽ばたくことなど出来はしない。 結果として、彼の身体は重力に引かれ急降下して行く事となった。 そして、その先に待っていたのは――泥沼だ。 腐臭が立ち込め、明らかに致死量を超えたガスが周囲を満たしていた。 それでも彼は、底なしの闇のような沼から這い上がろうと必死に足掻いた。 先程まで自分の居場所だった蒼穹へと手を伸ばし、足掻き、もがき苦しむ。 だが、足掻けば足掻くほどに沼の奥底に沈んだ気味の悪い藻が彼の身体を掴み、それは決して離れようとはしない。 やがて彼の身体は完全に泥沼に沈み、どす黒い淀んだ水は咽喉から彼の体内を侵食して行った。 気づけば身体はおろか、指の先まで泥沼に侵され――その身体は最早、人間の物ではなくなっていた。 「そうか……夢、か……」 今この瞬間、全てを理解した。 彼が今まで見ていたもの全てが、夢幻。 蒼穹を翔けるビジョンも、地へと堕ちて行くビジョンも、全てが彼の心を映し出した夢なのだ。 そこまで理解した彼が、周囲を見渡せば、気づけばそこは泥沼では無くなっていた。 どこまでも続く漆黒の暗闇の中、不意に自分の足元を見やれば、そこには死体が横たわっていた。 それも、ただの一体や二体どころの騒ぎではない。 どこまでもどこまでも、彼の周囲にあるものは死体のみ。 身体がひしゃげた死体。四肢を失った死体。骨の髄まで焼き尽くされた死体。 どれも全て、自分に着いてきた仲間たちの死体であった。 「いや、違う」 不意に呟く。 そうだ。断じて違う。こいつらは仲間などではない。 こいつらが仲間であるのならば、「哀しみ」という感情を抱く筈だ。 だが、彼の中にそのような感情は微塵も沸いては来ない。それも当然だろう。 ある者は自分の力に恐れ、またある者は自分の力の恩恵を受けるため。 ここで死んでいる奴らの内、誰一人として孤独な彼の心を理解しようとした奴は居なかった。 この死体の山は全て、己の利益の為だけに彼の後を着いてきた俗物共の、なれの果ての姿だ。 大した力も無い癖に、彼と一緒に居るだけで強くなった気でいる。 そんなどうしようもない屑共を殺して出来上がったのが、この死体の山なのだ。 ――或いはその言葉自体が、彼の孤独さを表していたのかも知れない。 彼は寂しげな表情を浮かべながら、その言葉を呟いた。 ただ一言だけ。「誰も僕を笑顔には出来なかった」、と。 そこで、彼の夢は終わりを告げた。 EPISODE.013 覚醒 海鳴市、私立聖祥大学附属小学校―――08 22 a.m. 朝の日差しが、登校中の生徒たちを照らしていた。 一人、また一人と教室に入ってくる生徒たちは皆楽しそうな表情を浮かべていて。 これが本当に平和と呼ぶに相応しい光景なのだろう、と高町なのはは思った。 心配そうな表情を浮かべながら、なのはは背後に視線を送った。 そこにいるのは、教室の後方、二人きりで佇む少女たちの姿だ。 一人は八神はやて。一人はアリサ・バニングス。 遡ること一日、二人はちょっとした擦れ違いが理由で喧嘩をしてしまった。 アリサの方は前前から若干の憤りを感じている節はあったようだが。 結果として、火に油を注いでしまったのははやてなのである。 故に、話を付けようとはやてが彼女を連れだしたのだ。 なのはが見守る中、睨み合うこと十数秒。 やがて沈黙を引き裂くように、二人が同時に声を発した。 「「あの……昨日はごめん――!」」 関西弁と、標準語。 若干のイントネーションは違うものの、彼女たちが言いかけた言葉は完全に一致していた。 お互いにぱちくりと目を見合わせる。 どうやらお互いに謝ろうと思っていたとは、思いもよらなかったようである。 「ううん、私が悪いんや。アリサちゃんの気持ち考えたら、それくらいわかることやったのに……」 「はやて……」 「だから、ごめんなアリサちゃん。昨日はあんなこと言ってもうて……」 はやてが深々と頭を下げた。 見かねたなのはが、横から割り込む。それに追随する形で、フェイトもやってくる。 「私たちも、ごめんねアリサちゃん。もうこれからはアリサちゃん達をのけものにするような事はしないよ」 「友達だもんね、私たち。だって隠し事されるのって、もし私でも嫌だと思う。だから、ごめんね」 「なのは……フェイト……」 なのはに続いて、フェイトがアリサの目の前で頭を下げる。 対峙するアリサはというと、どうしていいのか解らずに慌てている様子であった。 それもその筈だろう。アリサもまた、はやて達に謝るつもりでいたのだ。 それをこうも一方的に謝られてしまえば、何と返せばいいのか解らなくなる。 混乱するアリサの肩にぽん、と不意に手が置かれた。 すずかだ。 すずかはただ、アリサに微笑みを浮かべるのみであった。 だが、何を言いたいのかはアリサにも解る。素直になればいい、と。そう言いたいのだろう。 思えばすずかはいつもそうだった。彼女もまた、アリサにとっての良き理解者の一人であり、親友だ。 やっぱり皆、本当は仲良くしていたいのだ。 ◆ 木々が生い茂る雑木林の中、彼は眼を覚ました。 木にもたれ掛っていた身体を起こし、周囲を見渡す。 「ここは……」 見れば首から足の先まで、全てが白で覆われた衣類に身を包んでいた。 この世界の外見年齢で表現するならば、彼の年齢はまだ十代中ごろ程度だろう。 それ程に幼く、子供染みた表情を彼は浮かべていた。 ふらふらと数歩歩く。その姿は、やはり何処か頼りない子供のようにも見えた。 されど、彼が放つ異様なまでの気迫は、明らかに子供のそれとは訳が違っていた。 彼はやがて足を止め、先程まで自分が見ていた夢の内容を思い出す。 どこまでも続く常闇の地獄絵図。その頂点に君臨するのは、鬼のような姿をした自分自信だ。 だが、それを思い出したからといって何ということはない。 自分を笑顔に出来ないのであれば、そんな奴を生かしていく意義など無いのだから。 進む先がどこまでも闇ならば、その闇の頂点――究極の闇の道を進むのみ。 彼の行動理念はただ、それだけだ。 ふと不意に、思い起こすのは黒と金の戦士。 黄金に輝く四本角。禍々しく突き出た体中の突起。 身体の隅々から自分と同じ臭いを放つ凄まじき戦士。 されど、燃える様な赤の瞳は、確かな人間の意志を感じさせる。 自分と等しい存在でありながら、自分とは何処かが根本的に違う。そんな矛盾を覚える相手だ。 他の雑魚共等では何百人徒党を組んだところで足りはしない。 そうだ。奴が――クウガが居てくれさえすればそれでいいのだ。 リントの戦士クウガとの決着はまだ着いてはいない。 クウガを連想する彼の表情は、次第に緩んでいった。 「でも……まだ足りないね」 浮かべた小さな笑顔を消し去り、彼はぽつりと吐き捨てた。 足りないのだ、決定的に必要な物が。クウガと決着を着けるために、絶対に必要な物が。 目覚めたばかりの王はまだ、万全ではない。それが足りない事に、彼は僅かな苛立ちを覚えた。 何が足りないのか。彼をの表情を不機嫌たらしめているものは何なのか。 その答えは至って簡単なもの。 単純に“力”が足りないのだ。 今のままでも十分、規格外の力を発揮する事は出来る。 だが、それでもまだ足りない。クウガとの決着は、万全のコンディションで着けなければならない。 究極の闇を齎すもの同士の戦いだ。少しの油断が命取りになりかねない。 彼にこんな事を考えさせた相手は、クウガが初めてだ。 もう少しだけ待ってやろう。今度はお互いの全力を以てぶつかり合い、確実に倒して見せる。 それまでは、力を回復するまでは。クウガとの決着はお預けだ。 そんな事を考え、くすりと口元を吊り上げる。 手の中に転がる金色のかけらをぎゅっと握りしめ、彼はゆっくりと歩きだした。 ◆ アリサは、自分の背後で優しい微笑みを浮かべるすずかにやれやれとばかりに小さなため息を落とした。 ふっ、と。自嘲気味に笑みを漏らしながら、目の前の三人に視線を向ける。 やがて、少し恥ずかしそうに目線を泳がせつつも、元気よく言った。 「あー、もう……皆してそんなに謝られたら、私が悪者みたいじゃない。いいから顔を上げてよ」 いつも通りのアリサだ。 いつも通りの表情で、いつも通りの声色で。 頭を下げる三人に顔を上げるように促す。 「そりゃあ私たちには魔法とか無関係だし、なのは達の話もわかるわけないわよ。 まるで魔法が使えない私たちはのけものみたいな、私もちょっと腹が立っちゃうこともあったけど」 言葉を発するアリサの声が、だんだんと小さくなっていく。 「でも」や「その……」などと言った言葉で繋いで、場を持たせる。 次第に何が言いたいのか混乱してきたのだろうか。不意にすずかが、名前を呼んだ。 アリサちゃん、と。それだけで、アリサは何もかもが吹っ切れたような気がした 「と、とにかく! 悪いのははやて達だけじゃなくて、その、えっと……もう、私も悪かったわよ!」 それだけ言うと、少しばかり顔を赤らめて眼前のはやて達から視線を反らした。 何だかんだ言いつつも、やはり気恥ずかしいのだろう。 そんなアリサの心境を察したのか、はやて達三人の表情はいつの間にか明るい笑顔に変わっていた。 「ほな、これで仲直り成立や。今まで通り、この事はもう言いっこなしな?」 元気よく切り出すはやてに、一同は揃って大きく頷いた。 気づけば五人は、つい先日までの笑顔を取り戻していた。 また皆で楽しく笑い合える関係。最も信頼し、共に幸せを噛み締められる、そんな関係。 そうだ、今も昔も、何も変わらない。最初からお互いに距離を取る必要など無かったのだ。 何故なら―― 「私たちもこれからは出来るだけアリサちゃんたちにも解るように説明するね?」 「そうだ、魔法の事とか、アリサにももっと解るように――」 「あー、もうそれはいいのよ」 不意にフェイトの言葉が、アリサに遮られた。 何事かと、僅かに眉をしかめる。え?と一言聞き返すフェイトに、アリサは答えた。 「どうせ聞いたってわかんないし、あんたたちにはあんたたちの事情があるんでしょ? “昨日なにがあった”、とか教えてくれるのは嬉しいけど、私だってもう無理に聞き出そうとはしないわよ」 「アリサちゃん……」 「それに、魔法が使えるとか使えないとか関係ないのよね。だって、それ以前に私たちは……」 ――友達だから。 少し照れながら、アリサはそう続けた。 そうだ。魔道師だとか、一般人だとか、そんなものはほんの些細な違いでしかない。 その程度の違いがあったからといって、彼女らの関係は何も変わりはしない。 何故なら彼女たちは……友達なのだから。 ◆ 時間は流れ、学校へと登校する生徒達もそのほとんどが校舎内に入り終えた頃だった。 登校時間を過ぎた校門の前を通る人間は、そのほとんどがただの通行人だ。 学校に見向きもせずに素通りする者もいれば、家族が通っているのか少し気にかけながら歩いて行く者もいる。 そんな中でも、明らかに不自然な男が一人。 不健康そうな紫色の唇。ぼさついた髪の毛の下、目元には隈が出来ていた。 体中に垣間見えるアクセサリはどれも何処かの国の伝統工芸のようにも見える。 ストリート系のファッションを着こなした男は、自分の長い爪を噛みながら、小学校を睨んでいた。 その目的はただ一つ――復讐だ。 男は嬉しそうににやりと口元を吊り上げ、ぽつりと呟いた。 「クウガの仲間のリント、殺すよ……100人」 戻る 目次へ 次へ
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そうなると、話は早かった。 ホストもそのケツ持ちも私の前で土下座した。 ホストはビビリ上がって、小便を漏らしかねない様子だった。 ホ「す、すいませんでした。秋山さんにご迷惑をおかけするつもりは無かったんです」 澪「彼女は結局、どうしたの?あれから話してないから分からないんだけど」 ホストはそれまでよりさらに一段高いレベルの怯えを見せる。 澪「あはは、結局ソープなんだ?」 ホストは私が笑って見せたのに追従するように、歯を見せる。 不愉快な奴だね。 澪「ねえ、顔面打った時、歯折れたんだよね」 ホ「は、はい」 澪「歯外して見てよ。見てみたいから」 ホストはビビりながら、自分の前歯を抜いて見せる。 前歯の無い間抜け面。 イケメンホストも形無しだ。 澪「それで一月勤務しなよ。そしたら許すよ」 私はわざと(だからわざとね)酷い振る舞いをする。 侮られると終わりとか、そう言う下らない決まり事が横行する世界に自分を放り込んでしまったからには、そうするしかない。 知ってるか? 心が死んでしまった人間は何でも出来るんだ。 何でもだ。 だって、行動を押し留める鎖も無くなってしまっているんだから。 有名になりたい女の子をそう言うのにしか興奮しない業界人に宛がったりとか、有名になりたい男の子をそう言うのが好きなのに宛がったりとか。 逆にそう言う人間からの依頼で、仕事が欲しい子を見繕ったり。 女の私がそう言う女衒みたいな仕事をする事自体に興奮を抱くようなのも多かったし、女の子は特にそうだけど、男の子も間に入るのが私のような女である事に精神的な緩衝となるらしく、だから私は非常にこう言う仕事は上手くやれたよ。 ああ、この程度ことなら苦にしない人も多いかも知れないな。 他にも色々あるよ。 義理を欠いた芸能人を酷い汚名を着せて社会から抹殺。 色んなところと関係を結びすぎたせいで、関係がごちゃごちゃになってしまった組織をリセットさせるために社長を自殺に見せ掛けて…、とかその手の仕事も平気だった。 一例を上げると、こんな感じだったね。 私の座るソファの前に、二人の強面によって、一人の中年男性が引き立てられてくる。 中年男性は書類の束を大事に両手で抱えるようにしている。 澪「権利関係の諸々は全部持って来た?」 男はきつく口を結んで答えない。 それが男に出来る唯一の抵抗だからだ。 それはきっと、無駄な努力に終わるのだけど。 強面のうちの一人が、男の頬を張る。 男は吹っ飛んで、壁に身体を打ち付ける。 それでも書類束を離さないのは大したものだった。 強面は床に転がったままの男の上に馬乗りになると、顔面を張る。 一発、二発、三発…。 そのまま、10分。 男「うぅ…、勘弁してくれ…」 私は、強面に目で合図する。 強面は自分の仕事を完遂した、と言う満足そうな顔をして男の上から立ち上がる。 もう一人の強面がまた馬乗りになって再び顔面を一発張る。 男「渡す、渡すから…」 澪「はい、ストップ」 強面は既に抵抗する力を失った男の手から書類束を取り上げると、私に手渡す。 澪「ちょっとばかりの抵抗なんか無意味なのにね」 ゴミクズのように転がっている男が必死で発声する。 男「わ、私の会社だ…」 澪「まだ喋れたんだ」 男は涙を流していた。 男「わ、私の…」 澪「違うよ。あんたが運用した資金も、組織も何もかも、元々あんたのものじゃないよ」 男「わ、私が…、少しばかり、借りて…」 澪「それが間違い。返すとかそう言う事じゃないんだよ。あんたには最初から手札は渡されていないんだよ。あんたが、自分の意思を介在させて何かしようってのが間違いなんだよ」 男「わ、私の会社…」 私は、男のあまりのしつこさに辟易する。 澪「あんたの手元には結構な額の金が残る。ノウハウも人脈にも制限をかけないでやると言う話にした。随分な温情だと思うけど、何が不満なんだ?」 男は私の足に縋りつこうとする。 男「私の全て…」 澪「おい、こいつを連れてってくれ」 入って来た時と同様に、男は強面二人に引き立てられて部屋を出て行く。 入って来た時と違って、男はあらん限りの力で抵抗し、声を張り上げていたけど。 結局、この男は一週間後に自殺した。 「私の全ては失われた」と言う遺書を残して。 警察の「公式発表」によれば「女性関係で家族に迷惑を掛けた」と言う遺書が発見されたらしい。 な、どこまでも良くある話じゃないか。 ほら、こんな事件を仕組んでも私は何も感じていない。 私に限った話では無いけれど、結局のところ、どれもこれも苦にしない人間は何も感じはしないんだ。 つまり、ギャングの社会はあまりに狂ったもので、でも、私もそんな世界を何も感じないで、日常として生きる人間の一人になっていた。 ヤ(親類)「おい、澪」 澪「なんです?」 ヤ「あのロリコンから話が来てる」 澪「また、あいつですか?」 絵に描いたような醜悪な人間だった。 父親が大物政治家だか何だか知らないが、本人はどうポジティブに評価してもボンクラ、普通に評価すれば屑か豚、としか言えないような人間だった。 屑である自分によほどコンプレックスがあるのか(ある意味、今の私より人間臭いのが皮肉な事だよ)、自分が特別な人間である事を確認するためだけに、若いアイドル志望を摘み食いする。 しかも、女の子の扱い方が極めて乱雑。 避妊具を使用しないぐらいならまだ良い方。 ドラッグは使う、暴力は振るうとこっちに取っても良い迷惑だった。 おまけに、そのアイドル志望の子達が自分の身を差し出す理由。 つまり見返りである、仕事やコネも用意するのは全てこっちまかせだと来ていた。 つまり、親だけでなく、私達にとってもかなりの厄介ものだった。 澪「で、今度はどんな娘を御所望なんです?」 ヤ「いや、俺は良く知らないんだが、最近CD出したシンガーソングライターって言うのか?そう言うのらしいだけどな」 澪「はあ…」 つまり、売れないアイドルじゃつまらなくなって来たから、アーティスト気取りの若い娘を嬲って、へこませて満足したいって言う事だ。 いやはや、絵に描いたような下衆野郎だな。 澪「んで、どいつですか?」 ヤ「ああ、この『YUI』ってので…」 私は、ユイと言う言葉を聞いて目の前が真っ白になる。 ユイ?! 唯?! まさかな、まさか幾らなんでも…。 ヤ「ああ、確か写真が…、おお、これだ、これ」 差し出された写真はまさに唯だった。 私はまず眩暈がして、それから嘔吐した。 ヤ「どうした?!」 私が意識を取り戻すと、そこは病院だった。 私は嘔吐し、その後失神したらしい。 親類が少しばかりの人間らしさを見せて(いや、内側の人間に対しては過剰な程に優しさを見せて、外部に対しては過剰な酷薄な攻撃性を見せること自体がそうか)、私を労わる様な振る舞いをする。 ヤ「大丈夫か?今回の仕事は別の人間に…」 澪「いえ、やりますよ」 私は今この場に居合わせた運命と言うものに、感謝をする事にした。 下種男「あ?」 澪「すいません、ちょっと向こうが難色を示してるみたいんですよ」 下「使えねーな」 澪「すいませんね」 下「どうすんだよ」 澪「取り合えずのところはこれで勘弁お願いします」 私は数十粒の粒状のモノが入った小瓶を渡す。 下「大丈夫なんだろうな」 澪「ウチが都合付けたもんですよ?」 下「そうだな、ありがたく貰っておくよ。でも、出来るだけ早く用意しろよ」 これまでの貢献振りが功を奏してか、私をまったく疑う様子は無かった。 致死量ギリギリの農薬入り。 殺虫剤入り。 一粒だってまともなのは無い。 粗悪品のオンパレード。 真に天国行きの片道切符で、人に「お裾分け」せずに個人使用に限定してくれる事を思わず願ってしまうような代物だ。 結局のところ、男はそれを飲んで失明したらしい。 イビサ島の馬鹿レイヴァーみたいに死んでくれれば良いと思ったが、そこまでの事にはならなかった。 ただ、その替わりと言っては何だけど、巻き込まれた女の子もいなかったようで、私の中では一人、二人、まあ、その程度の犠牲は織り込み済みだったので、他に犠牲者が出なかった事は幸運な話ではあった。 上昇志向の強いタレント志望の子達の人生を救った事になるかどうかは分からないけど(「仕事」を奪ったと言う側面もあるだろう)、取り合えず唯達から遠ざけられたと言う今回の成果に、私は久しぶりの満足感と言うものを味わった。 今回の事を通して、私は唯が私との約束を達成しようと未だ苦闘を続けている事を知った。 そして、その脇には私が思った通りに律がちゃんといたのだ。 その事実は私にも感情が有ったのだと言う事を思い出させた。 だが、それは唯がPVなどで死んだ目を見せているに対しての怒りや憤りに似た感情で、律への不満でもあった。 澪「お前が傍にいるのに、何で唯にそんな顔させてるんだよ!!」 私の言っている事が、論理的でない事は私自身が一番知ってる。 きっと、芸能界は律と唯に対して悲しい思いをさせるもので(例えば今回の事のように)、でも、二人にそれを選択させてしまったのは、私の言葉だったり、あの時の行動だったりするのだ。 悪い魔女である私は、二人に呪いを掛けてしまったのだ。 二人のところへ帰る資格の無い私は、ただ二人に降りかかる災厄を、少しばかり払ってやるぐらいの事しかしてはならないんだ。 和「あら、澪?」 澪「の、和?!」 懐かしい人間との再会。 それが予期せぬ場所や時間だったりすると、その驚きも一層のものになる。 私は、「親類」の付き添いで高級料亭に来ていた。 「親類」が誰と会うにしろ、その腐臭のする場に居合わせるのは…。 私は何も感じていない。 だけど、同席しないで済んだのは幸運ではあった。 私は庭に出ると、その景観をなしてる文化、厳粛さに泥を掛けるようなつもりで煙草を取り出し火を着ける。 糞みたいな世界の人間が使うような所がいくら表面的に取り繕った何がしかを醸し出したところで、そこは結局のところ糞でしかない。 私は煙を吐き出す。 風が吹いて煙を散らす。 ?「ケホッ、ゲホッ」 あ…。 ?「あら、澪?」 澪「へー、上司の接待の付き添いね。でも、この時期こんなところを接待で使えるなんて、業績も…」 和「見栄よ、見栄。自分達があまり良い状況じゃないなんて思われたら、上手く行く話もポシャるものよ?」 澪「ふふ、なるほど」 和「ねえ、澪はどうしてここにいるの?」 澪「そ、そりゃ…、そ、そう、和と同じようなものだよ、接待、うん、接待さ。上司がさ、見栄っ張りだからね、こう言うところじゃないと駄目だと思ってるんだよ。バブル入社の世代はさ…」 和「ふーん?」 澪「な、なんだよ」 和「嘘ね」 澪「う、嘘じゃないぞ。会社だ、うん会社」 ああ、「会社組織」である事は間違い無いぞ。 和「まあ、良いわ。それより…」 和は今までの軽口を叩き合っていたのと少し違う雰囲気。 和「私、澪は唯たちとずっと一緒にやってくと思ってたのよ」 …。 和「ねえ、私、唯とまだ結構やり取りあるのよ?まあ、唯達も忙しいから、今はメールで月に二、三回ってレベルだけど」 …。 和「唯ね、泣かなかったの。あの唯がよ?えっと、いつの話とかそう言うのは言わなくて良いわよね?」 澪「ああ」 和「私、ちょっと澪の事を恨んでるのよ、今でも。唯に随分悲しい思いを強いた訳だし」 澪「だろうな」 和「戻る気は無いの?」 どうやって? 和はわざとらしく大きなため息をつく。 和「唯ね、契約を蹴ったらしいわ。『メジャーは糞。おさらば御免だよ!』って言ってたわ」 ?! 和「でも、安心して。音楽は続けて行くし、もっともっと上に昇ってみせるからって言ってたわ」 澪「和は唯とどこまで話してるんだ?」 和「さあ?あ、私もう仕事戻るわね」 なんだよ、「さあ?」って。 和は手を振って去って行き、私は一人取り残された。 鹿威しの音がうるさくて、思わず蹴飛ばす。 澪「どうすれば良いんだよ!」 二人に取って幸運だったのは、唯が真に才能のある人間で、かつ律がそれを理解していて、すぐ行動に移せる人間だったことだ。 私が聞くところによれば、レコード会社の方は晴天の霹靂だったらしい。 レコード会社側は、当初他社への移籍と考え、芸名の使用禁止など、様々に条件を付けたが、それらによって二人の翻意を引き出す事は出来なかった。 YUIのCDが売り場から撤去されるのは早かったし、まだ新人だったYUIはあっと言う間に世間から忘れ去られた。 4