約 492,192 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4010.html
はらはらと、降り続ける雪 ぱらぱらと、降り続けるコンペイトウ ……ロマンチック、と、一言で片付けても良いのやら 「はい……はい。わかりました。すみません、お言葉に甘えさせていただきます」 「組織」と連絡をとっていた大樹が、通話を切った ふぅ、と小さくため息をついている 「大樹さん。どうなの?このコンペイトウの雨については」 ひょこ、と 通話を終えた大樹に、近づいてきた望 大樹は望に優しく微笑みかけ、説明を開始する 「予知班などの解析によれば、コンペイトウは明日の日の出前には降り止んでいるそうです。降り注いだコンペイトウに関しては、範囲が広すぎて除去できないので……降ってきた理由付けをするようですね」 「理由付け?」 「はい。輸送機で運んでいたコンペイトウが、何らかの理由で輸送機から漏れ出した……そう言う事になるでしょうね」 無理のない範囲での、理由付け 超常現象ではなく、「現実的」な理由があった コンペイトウの雨が降った理由を作る 「組織」がもっとも得意とする隠ぺい工作は、「情報操作」 今回も、それを行う ……ただ、それだけの事だ 「残念だねー。空からコンペイトウとかロマンなのに」 「ちゅちゅー」 「…あんた達、いつの間にコンペイトウ確保してるの」 ちゃっかり、窓を開けて降ってきたコンペイトウをいくつかキャッチしていたらしい カリコリ、堪能している詩織とノロイ 都市伝説コンビ(片方なりかけ)はどこまでもマイペースだ 「おぉ、いい砂糖使ってるわ、これ」 「ちゅっちゅぅ」 「あー、ほら。夕食前にそう言うもの食うなっての」 料理を盛りつけ始めた翼が、苦笑してくる 私の分大盛りにしてねー、と、詩織がノロイを頭に載せたまま、キッチンに駆けていった ……っとん、と 望が、大樹にもたれかかる 「望?」 「えーと、その……これからまた、仕事、って事、ないわよね?」 コンペイトウシャワー事件 その後始末で、大樹にまた仕事が入るのでは… 望は、それを危惧した だが 「いえ、大丈夫です。ジェラルドさんからは、今夜はもう、ゆっくり休め、と言われましたから」 大樹は、上司に恵まれていた そして、上司は、判断したのだ …「過労死候補生を堂々と休ませられるチャンスを不意にして溜まるか」、と クリスマスだから、と言う理由で、残業を許さず帰させたのだ 周りに、無理なしわ寄せが来ないよう気を使い……と、言うか、「組織」全員が日頃仕事をサボらなければ、しわ寄せなど来るはずもないのだが…、大樹が罪悪感を感じないように休ませた そのチャンスを、不意にする訳には行かなかったのだ 「…じ、じゃあ、今夜は、ずっと一緒に居られるのね?」 「はい、そうですよ」 そっと、頭を撫でられて 望は、幸せを噛み締めて笑う 大切な人と一緒のクリスマス …昨年は、「家族」として そして 今年は、「恋人」として 大切な大切な、愛しい人と一緒に居られるクリスマス それを、望は幸せに思う 「さぁ、翼の料理が出来たようですし、いきましょうか」 「えぇ………あ、そ、その、大樹さん」 「はい?」 じっと、見つめられる サングラスを外した状態での、優しい眼差し 翡翠色のそれに包み込まれ、望は赤くなってしまって やや視線をそらしつつ、答える 「そ、その……こ、今夜は、一緒に寝てもいい?……さ、寒くなりそうだし」 言い訳も、一緒につけて 己の願いを、口にする 「えぇ、構いませんよ」 望の願いに、気付いているのか否か 当たり前のように、そう答えてくれる大樹 大樹の優しさに、包み込まれているような感覚を覚えて 望は、心から、心から 幸せに、笑ったのだった fin 前ページ次ページ連載 - とある組織の構成員の憂鬱
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/4667.html
522: 194 :2017/07/13(木) 18 19 02 『神崎島鎮守府×銀河連合日本』支援?ネタ その二 「速報です、中国から出発したと思われる漁船船団が神崎島に大挙押し寄せつつある事が確認されました。 これに対し、神崎島側の警備艦隊が船団に接触。領海から退去する様警告を発した模様。 中国政府は「民間の船が領海に迷い込んだだけであり、中国政府は関与していない。神崎島側の過剰反応に 強い懸念を覚える」と声明を発表しており・・・・」 ――――漁船船団接近と、神崎島側の警備活動について速報を出したN〇Kの報道。 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ お、おい ○HKのニュースの映像に出てる神崎島側の艦って・・・ 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ どした? 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ どれどれ・・・? って、駆逐棲姫だー! 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ なん・・・だと・・・ 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ と、取り敢えず画像を取ったので、みんな見てみろ つttp //www.xxxxx/upxxxxa/www.dotup.org818567.png 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ おいおい、マジじゃねーか 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ 深海棲艦キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ ええええええええええええええええええええええええええ 名前: 名無しさん@T督たちの憂鬱 投稿日:~ ( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)ポカーン… ――――NH○の速報の映像に駆逐棲姫 が映っているのを見た某掲示板でのやり取り。 「ヲ。・・・ハジメマシテ。元「ヲ級空母改flagship」コト航空母艦「カヲル」デス・・・。ヨロシク・・・」 「ハ、ハワワ・・・元「駆逐イ級」コト駆逐艦「伊織」ト言イマスゥ・・・。ヨ、ヨロシクデスゥ・・・////」 ――――神崎島にて行われた記者会見にて、深海棲艦側代表として出て来た二人の挨拶のシーン。緊張気味な二人をよそ、会見の瞬間視聴率が最も高くなった瞬間でもある。 523: 194 :2017/07/13(木) 18 19 55 「わくわく動画の佐古田と申します! 動画視聴者から多数の質問の書き込みが来ているので、ズバリお聞きします。 「神崎提督とは既にケッコンカッコカリ済みなのでしょうか?」。差し支えなければ、お答えお願いします」 ――――マスコミの質問時間時のわくわく動画の質問。それに対し二人は頬を赤らめながら、左手の指輪を見せた。 「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」 「ウソダドンドコドーン!!ウソダドンドコドーン!!」 「天よぉおおおおおおお!!何故我らを見捨てたもうたかぁあああああ!!!!」 「畜生!!この世界に俺等の居場所はないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 「ま、まだだ。こっちで出ていない艦がいるかもしれんからまだワンチャン(グルグルお目目)」 「モゲロ、神崎モゲロォォォォォォ!!!!!」 「おう、公式。はよ!鹵獲システムの実装化はよ!!」 ――――↑の二人の反応を見た視聴者達のコメント(一部抜粋)同時に公式へ「鹵獲システム実装はよ」と凸する奴が多数出た模様 空母 「カヲル」 229件 駆逐艦「伊織」 256件 ――――会見翌日までの一日間の間に、某渋に投稿された二人のイラストの検索数の結果。二人とも恐縮していた模様。 「マルヒトサンマル。 提督の皆さんこんばんは! サーバーの臨時メンテが、ようやく終わりました ご不便をお掛けしました事を、スタッフ一同お詫び申し上げます」 「なお各方面から要望が多数殺到している「深海棲艦鹵獲システム」の実装化についてですが、 現在神崎島側の協力を仰ぎつつ、実装化に向けて邁進中です。最も、具体的時期を明言するには程遠い状態ですが(汗)」 「いずれにせよ必ず実装いたしますので、開発/運営元への突撃はくれぐれもお控え下さいます様、お願い申し上げます。 冗談でもなんでもなく、業務に支障が出ておりますので(汗)」 ――――「艦これ」開発/運営の公式ツイッターより。 524: 194 :2017/07/13(木) 18 26 43 以上です。いつかは表に出さないといけないし(深海棲艦の存在)、こんな展開もありかも。 なお、艦名や口調は完全にでっち上げです。イ級に関しては 鹵獲時は、よく知るあの姿 ↓ 以下レベルが上がっていくにつれ、徐々に体が形成 ↓ レベル50で完全に擬人化 てな感じで想定してみました(適当) こんな出来ですが、作品の盛り上がりの一助になれば幸いかと。それでは。 PS 艦これのプレイに関しては、未だ踏ん切りがつかない状態(ヲイ)
https://w.atwiki.jp/legends/pages/978.html
「------っ、ん……」 …深夜、胃の辺りに痛みを感じて、目が醒めた むくり、起き上がる ……何故だろうか 同僚の誰かが、どこかで何かをやらかしたような気がする 気のせい、だと言いのだが ちらり、寝台の傍に置いてあった時計に視線を移すと……まだ、2時 …2時間しか、眠っていないか 改めて、眠ろうとして… 「………」 …ふと、嫌な予感がした 過去に経験したある事を思い出し、寝台から起き上がり、玄関に向かう 悲しいかな、彼の予想は当たっていた 新聞受けに、朝刊と夕刊が入っている かつての友人から、「薔薇十字団」のバックアップを受けられるよう、取り計らってもらい 同じ日の夜に、将門と対面し、籠釣瓶のことやらなにやら話し合い、一部苦言を呈してきて… その翌日は、完全な休日だった いい加減しっかりと休まなければならない、と言う自覚は充分にあった だから、その日はゆっくりと休むつもりだった ……休むつもりだったのは、事実だったの、だが 「……まさか、26時間も眠ってしまうとは……」 …そう 将門との話し合いを終えて自宅に戻り、半ば力尽きるように寝台に沈んだのが、あの日の夜12時 ……それから、2時間しか眠らなかった、のではなく あれから、26時間もの間、自分は眠ってしまっていたのだ 新聞受けに入っていた朝刊と夕刊の存在、そして、この二つの新聞の日付が、それを物語っている 急いで携帯を確認し、メールや着信のたぐいが一切きていない事実にほっとする 「まったく……5年ぶりですね、こんな事は」 「籠釣瓶」の捕獲作戦に結果的に失敗し、後始末やらなにやらで激務に追われ、仮眠ベッドに倒れこんで眠り続けて以来である つまるところ、今回はそこまで過労を溜めてしまった訳か 「……駄目ですね、私は。もう少し体調管理ができるようにならなければ…」 苦笑しながら、黒服は小さく呟く 彼の場合、体調管理以前に頼まれた仕事をNOと言えない事が原因だ、とか、天性の貧乏くじ特性により、同僚がやらかした事を感じ取ってしまうのが原因だ、とか 本人が自覚していない問題が多多あるのだが…自覚していない以上は、直しようがない …26時間も眠ってしまった、となると、再び眠る気にもなれなくて さて、この時間をどう有効に使おうか 黒服は、そちらへと意識を以降させていったのだった 終わっておけ 前ページ次ページ連載 - とある組織の構成員の憂鬱
https://w.atwiki.jp/25438/pages/1641.html
私は6月になると憂鬱になる。 それはあることを思い出すからで、決して雨のせいというわけではない。 雨が降ったら降ったで私はギー太をかき鳴らし、雨に唄えばいいのだから、 天候の変化は私にとっては何の障害にもならないのだ。 じゃあ、一体どうして憂鬱になるのか、と訊かれたら、 私は何も答えずに、もしくは「雨が続いているからねぇ」と言って 視線を窓の方に向けて簡単にすべての気持ちを雨のせいにしてしまう、フリをする。 6月というのはそういった意味ではとても気楽なもので、ギー太が湿気に弱いということを除けば、 やっぱり、雨は私にとっては何の障害もないのだ。 私は現在大学1年生で寮で仲間たちと暮らしている。 妹のういは私と1歳違いだから現在高校3年生。 ずっと私は妹にべったりと甘えた生活を過ごし、 幼馴染の和ちゃんには「ニート予備軍」と言われたことが2回ある。 なにをするにも、ういに頼りきってきた。 私はういに何でも任せ、ういはそんな私の何でもに全部笑顔で応えてくれた。 そうすることで、私たちはお互いを認め合い、本当の意味で姉妹になろうとしていた。 自堕落な姉、出来のいい妹。 2人の間で笑顔が絶えないのは、その笑顔を絶やすのが怖かったからだ。 私たち2人の血のつながりは2分の1程度である。 初対面の人に会ったときによく言われたのが 「2人は全然似ていないね」ということだった。 幼いころはその言葉がなんだか無意味に楽しく聞こえて、嬉しくて、 2人で顔を見合わせてクスクスと笑いを立てていたものだけど、 事情を理解していくに連れて、その言葉が全然笑えないものであるということに 2人とも気がついてしまった。 人の妊娠期間は十月十日と言われていて、それは大体290日程らしい。 私の誕生日は11月27日で、ういは2月2日だ。 ういの誕生日から290日前はいつなんだろう、と私は暇なときに数えたことがあった。 あまり細かいことは得意ではないけど、大体4月の上旬くらいになった。 私の誕生日とは4か月ちょっと間が空いているけど、 そもそもそれがおかしいことなのだ、と気がついたのは、 私が小学校6年生の時、1人で留守番をしていて 興味本位で入った父の部屋で、父の手帳を見つけた時だった。 父の手帳には私の誕生日の翌週から海外へ4か月ほど出張したという記録が残っていた。 その手帳には父が出張先で仕事の人と撮ったであろう日付入りの写真が挟まっていた。 3月24日…4月3日…4月8日…4月9日…。 写真の日付は4月9日で途切れていた。 私は、手帳を見ておかしなことに気づいていた。 父の手帳だと父の出張は半年ほどの予定になっている。 でも、父は4か月ほどで出張を切り上げ日本に帰国しているのだ。 そして、ういの誕生日だ。 写真の日付が気になった。4月9日。 この日に、なにかあったのではないだろうか。 父が仕事を放り投げてでも日本に帰国しなければならない事態が。 うすうす気がついてはいる、のど元まででかかっている、 でも言葉にしたくないことがあった。 呆然とする私に、写真の中で黒く日焼けした父は笑顔で述べた。 「憂は僕の娘ではないよ」 それから私はいろいろなことを注意深く探りながら家族との日々を過ごす。 不自然なくらい一緒に行動する両親。 全然似ていない姉妹。 私以上にあるかもしれないういの幼いころの写真。 私は初め、母の浮気を疑ったのだけど、 あまりにも幸せすぎる雰囲気や父の母に対する態度からそれはありえない、と思った。 父は誰の目から見ても、母のことを愛していた。 あーでもない、こーでもない、と足りない頭を何度も働かせて私が辿りついた結論は、 母は、父の留守宅で何者かに強姦された、ということだった。 はじめてその考えに辿りついた時、 私の頭の中にある映像が流れ始めた。 それは雨の日で、窓の外には湿気を含んだ激しい雨が降り注いでいた。 私はまだ生まれて間もないの赤ん坊で、ダイニングルームに置かれたベッドの上ですやすやと眠っている。 何か、悲鳴のような音と全身が強く締め付けられる衝撃で私は起き、その力の強さに泣いた。 その声に、「うるせぇ」という誰かが怒鳴り声をあげ、 その後すぐに母の鳴き声にも似た悲鳴のような声が頭の近くで響き、 だけどそれは、激しく降り注ぐ雨の音にかき消されてしまう。 すぐにはわからなかった。気づきたくはなかった。 うぐっ、と私はその場面の痛々しさに吐き気をこらえた。 母は逃げようと思えば逃げられるはずだった。 でも、私がいたから。 生まれたばかりの私がいたから、母は思うように身動きが取れなかったのだ。 母は私を守り、そして犯された。 その結果、母はういを身ごもったのである。 それからの父と母がどのように悩み苦しんだのかは私にはわからない。 だけど、少なくともういは生きていて、私の妹として成長を続けてきた。 妹の成長の代わりに父は母を海外の出張にも連れていくようになったのだろう。 不自然なほどに多いういの写真は、両親の決意の象徴なのかもしれない。 でも、「憂」という名前には父のささやかな抵抗が隠されているような気もする。 ういは、私と違って賢い子だから、 自分の出生に関する秘め事に気づいたのは私よりも早かったように思う。 でも、私は小さい頃から妹をまるで姉のように頼り、 ういは私にまるで妹のように接し続けてきた。 私なりに本能が働いたのだろうか。 自分がそうやってういに甘えることで、ういは自分の居場所を見つけた。 本能的にそうするべきなのだと悟ったように私の面倒を見続けた。 私は、だらしない姉としっかり者の妹という関係性が崩れた時に ういが居場所を見失ってしまわないか、ということがただ怖かった。 そのような恐怖は高校に入って、 私がお菓子に釣られてまんまと入部したけいおん部の仲間との触れ合いによって ずいぶん軽減したように思う。 ういにも新しい友達ができた。 2人でずっと一緒にいなくても、2人の間で笑顔は絶えなかった。 それは演技ではなくて、私たち2人の内側から溢れてくるものだった。 高校3年生の夏休み、私たちけいおん部の5人とさわこ先生は夏フェスに行った。 初めての光景に胸は高鳴り続け、その興奮は陽が落ちてからも続いていた。 あずにゃんと2人で聴いた音。5人で見上げた夜空。 私は、ずっとこのままでいたい、と心から思った。 それが永遠ではない瞬間だということをどこかで確かに私は知っていて、 でもだからこそ、きっと私はその想いに気づけたんだと思う。 帰りのバスの中、6人全員が疲れで眠りながら、それでも誰かがうつらうつらと起きて 時間や場所を確認してまた夢の世界に旅立つということを繰り返しているうちに 私とムギちゃんの起きるタイミングが重なった。 2人でもにゅもにゅとぼんやりした頭で数時間前までに見ていたバンドの話をしていて 私はふと思い立ち、ムギちゃんにある相談をする。 なんてことはない。ただの相談だ。 「夏休みの終わりくらいに空いている別荘の1つを貸してほしいんだけど」 ムギちゃんが手配してくれた別荘は、 私たちが2年生の時に使った別荘だった。 ムギちゃんには「2人でのんびりしたいんだ」と言ってみたけど、 本当は誰にも万が一にも話を聞かれるということをさせたくなかったからだ、と 別荘に着き、少し秋めいた陽差しを浴びながら私は思った。 「受験勉強も順調に進んでるし、ちょっと私の息抜きを手伝ってよ」 と私は洗濯物を取り込んでいるういにアイスを食べながら言った。 初めは浮かない顔をしていたういだけど、何度となく話をしていたら ようやく「いいよ、一緒に行こう」と言ってくれた。 ただし、別荘で勉強することが条件となった。 「順調だからって気を抜いちゃダメだよ、お姉ちゃん」 楽観主義な姉。現実主義の妹。 「たはは」と笑う、私たちはきっとなんだかんだでお似合いなんだ。 「妹と行く旅行なんて最後かもしれないし」 ボソっと私がつぶやいた言葉は、はたしてういには届いただろうか。 ういは私の方を振り返らずに洗濯物を畳んでいた。 初日は、海で遊ぼうと思っていたけど 意外とくらげの出没は早くて、もう海に入ることはやめておいた方がいい海の様子だった。 2人で代わりに砂のお城を作って遊んだ。 その時2人は子どものころに戻っていたように無邪気だったように思う。 何にも縛られず、周りの目も気にする必要もなく。 私のお城は途中でトンネルが崩れて崩壊したけど、 ういのお城はムギちゃんが作ったもののように立派にそびえたっていた。 崩れたお城と形を成したお城はその後、波に飲まれて跡形も無くなった。 砂と陽差しで身体はクタクタで、夜は2人でサンドイッチを作って食べた。 私の作った荒いタマゴサンドをういは「とてもおいしい」と言ってくれた。 夜は2人で勉強をした。 私が「ぐぬぬ」とつまづく問題もういは2年生の範囲内なら教えてくれたし、 3年生の範囲のものでも解説を読めば大体は理解できているようだった。 私はひそかに父の遺伝子を呪った。 5泊6日は思っていた以上に短くて、 5日目の昼には「明日もう帰るんだねぇ」という話をしていた。 私はこの旅行の核の部分に触れる機会を見つけられないまま5日間をういと楽しんでしまったので、 内心とてもあせっていた。 そこで、思ったままに「外、さんぽしよっか」とういに提案してしまった。 肝試しをしたあの森は、昼間にその中を歩くと うまいこと陽を遮ってくれて、体温が下がるような気がした。 涼しいような、少し気味が悪いような。 でも、木漏れ日が優しげな雰囲気をかもしだしてくれていて、 晩夏の午後に2人で歩くにはとてもいい条件の場所だった。 少しの間お互い無言で歩いた。 右手側を歩くういは汗もかかずに涼しい顔だ。 さすがだ、と思う。 私はと言えば、汗はかいていないものの、 これから自分がする話が2人にどんな影響をもたらすのかという考えに 脳がふっとうしそうなくらい熱くて、心臓がバクバクしていた。 のどが渇いた。冷たい麦茶が飲みたい。 みんなに会いたい。 ホッとした空間に身を置いて、ちょっとだけ何もかもを忘れていたい。 「お姉ちゃん?」 ハッと前を向くと、数歩先でういは振り向いてこちらを見ていた。 どうやら緊張しすぎて歩くスピードが遅くなっていたみたい。 誰もいなくて、知らない鳥とか虫の鳴き声がする森で、 私たちは向かい合っていた。 「大丈夫?」と私を心配してくれるういの顔には やっぱり汗は見つけられない。 謎の感心に包まれていた。 ういはすごいな。 いや、本当にういはすごいんだ。 自分の出世にうすうす気づいているであっただろう小学生時代から今の今まで 泣き言の1つも言わないで、自分の生を呪いもせずに、 自分のやるべきことをしっかりと見据え、ひたすら努力している。 自分のことですぐにいっぱいいっぱいになる私のこともカバーして、 なおかつ家のことまでしてくれて。 「うい」 唾液をのみこみ、のどを潤す。 なんの足しにもなってはくれない。 「なに、お姉ちゃん」 憂の顔の上で木漏れ日は揺れている。 不自然なほど目が合い続けて、でも逸らしたくなかった。 「そのさ」 「うん?」 「結婚してほしいんだけど」 「う、ん?」 ういが驚くのも当たり前であるような非常識を私は口にした。 何故だろう。夏フェスで夜空を見上げたあの日、憂とずっと一緒にいるためには 結婚するしかない、と思ったんだ。 私たちに血のつながりは2分の1だけ。 でも2分の1たす2分の1は1なんだ。 きっと憂と結婚したら、私とういは本当の家族になれる。 きっとそうだ。絶対そうだ。 私は間違いなく父の娘だ。 「もう大丈夫だから」という母を必ず海外出張に連れていかなければ もう安心が手に入らない父のように、 私は、ういといなければ気がすまない。 甘えるのだってういでないと嫌だ。 ごはんだってういが作ってくれないと嫌だ。 ういがいないなんて本当に嫌だ。 恐怖は高校に入って軽減された。 でも、恐怖が去って行った分、 私はまた別の恐怖に囚われ始めた。 「ういが私を必要としなくなったらどうしよう」 その想いは、ういに新しい友達ができてから 私の悩みの大部分を占めはじめた。 私は、生まれたばかりの自分がいたばかりに ういが生まれてきてしまうことになったことで自分を責め続けてきた。 でも、私は、ういなしでは私ではなかった。 私として生きてこられなかった。 私の命には、父や母の人生を狂わせ2人を苦しませてでも ういの命が必要だった。 帰りの電車は行きと違って妙に気まずかった。 まるで、今までがにせものだったように 妹に対して私は変に緊張していた。 それはういも同じだったんじゃないのかな。 見知った街並みが窓から流れ始めた頃、 ういは「まずは1人暮らしでもしてある程度はできるようになってもらわないと」と言った。 それは今までになかった言葉だった。 手厳しい言葉のはずなのに、私の耳にその言葉はとても心地よく響いた。 姉妹としてではなく、1人の人として平沢憂という人物と生き始めようとしている自分を実感した。 アナウンスが到着を知らせ、プシュウ、と押し出された空気が抜けるような音でドアが開く。 「この1歩からはじまるのかな」 突然の予感にいてもたってもいられなくて、 私は憂の左手をギュっとつかみ、電車を降りた。 終わり 戻る
https://w.atwiki.jp/legends/pages/840.html
「はい……あぁ、あなたたち。良かった、ご無事でしたか…」 「組織」の同僚たちへの連絡の合間、かかってきた電話 彼は、すぐにそれに対応していた 電話口から聞こえてきた声に、ほっとする 「はい、私は大丈夫です………いえ、問題ありませんよ。あと一箇所、連絡を終えたら、一時間程仮眠をとりますので」 …正直、一時間でも、多いくらいだ 30分程度で、仮眠はすますべきだと思うのだが ……しかし、自分などと契約してくれた2人を、無駄に心配させる訳にもいかない 「そちらは、お怪我は?………そう、ですか。そうですね、明日の、朝一番にでも、顔を合わせられますか?……こちらも、明日は街の被害状況の確認・及び修復作業の確認などで、出歩く必要もありますから…」 2人の事が、心配だ 出来る限り、早く顔を合わせたい その無事な様子を、確認したいのだ 「…え?…………あぁ、住宅街の破損住所を聞いて嫌な予感はしていましたが…………はい、わかりました。せめて、通帳などの貴重品だけでも回収できないか、やってみます」 はい、はい……と、連絡を終えて ふぅ、と彼は息を吐く 「あなたの契約者さんたちから?」 ひょこり 12時には解けてしまう魔法がかかった姫君が、顔を覗き込んできた はい、と黒服は頷く 「…良かった、無事で」 心からほっとしたように、笑みを浮かべる黒服 そんな彼を、姫君たちはじっと見つめる 「…?どうかなさいましたか?」 「ふふっ、やっと戻ったな、って」 「人間だった頃に。感情、大分表に表れるようになったわね?」 きゃいきゃいきゃい はしゃぎだす姫君たち …あぁ、確かに 元々、感情の起伏はさほど激しい方ではなかったような覚えがあるが しかし、黒服になって以来、感情はさらに表に表れにくくなっていたように思える ある意味で、それが「組織」で生きていくうえで必要だったのだから、仕方ないのだが… (…これも、契約した効果、なのでしょうかね…) 自分は、二人と契約した 「組織」からその存在は切り離され、一個の独立した都市伝説となった ………さて 自分は、これからどうするか? 独立した都市伝説となった自分を、「組織」が置いてくれるかどうか それは、正直自信はなく ……自分の身を振り方を、考えなければならない そう思いながらも、まずは優先すべき仕事を片付けるべく 彼はまた他の同僚へ連絡をとるべく、携帯に向かうのだった to be …? 前ページ次ページ連載 - とある組織の構成員の憂鬱
https://w.atwiki.jp/legends/pages/506.html
「はい……はい、そうです。「鮫島事件」、それがどんな能力なのか…私は、把握できていません。しかし、その能力が発動する事は、「組織」にとっても学校町になっても、不利益であると思われます」 …「かごめかごめ」の契約者への連絡を終え、彼は小さくため息をついた そして、携帯を手に、悩む 「はないちもんめ」の契約者に、どこまで連絡するべきか? 決戦の日が秋祭りである事 せめて、それだけは連絡すべきだと思うのだが… 「鮫島事件」を中心とした、「組織」の暗部 それについては…駄目だ、話せない 危険に巻き込んでしまうような気がする まだ子供である彼女を、危険に巻き込みたくない 「…「鮫島事件」については、将門公ともしっかりと話し合わなければなりませんね………「籠釣瓶」を誰かに譲渡した、と言う事の真相を聞きだす意味もこめて」 …あぁ、もう、あのお人と来たら 「籠釣瓶」は危険すぎるからこそ、任せたというのに… 盛大な頭痛と胃痛を覚えながら、黒服はとにかく、「はないちもんめ」の契約者に、秋祭りにあまり近づかない方がいいと、連絡を入れるべく 彼女の携帯番号をプッシュした ……彼の後をつける気配は、今は、いない 「……くそっ」 それは、小さく舌打ちしていた B-No.004と呼ばれる、その黒服 ターゲットであるD-No.962と呼ばれる黒服の現在位置を確認しようとしたのだが… 「…エラー、だと?」 おかしい 組織の端末は、K-No.711のような規格外を除けば、全員の黒服の現在位置を瞬時に検索できるはずなのだ それは、たとえ異空間に入り込もうと有効のはず 「組織」が、黒服を管理する為に、確かにそんな機能があるはずなのだ …だと、いうのに 組織の端末が、D-No.962の位置を検索できない 「ったく、面倒だな、おい…!」 端末の調子がおかしいのだろう B-No.004は、そう判断した 後で、もう一度検索し直そう そうすれば、現在位置はすぐに把握できるはず…! しかし、現実にはB-No.004がD-No.962の現在位置を端末で確認する事は、ついにできず D-No.962を見つけ出すのは、秋祭り当日となるのだが… B-No.004は、そんな未来を知る余地もない …だからこそ 何故、D-No.962の現在位置を、「組織」の端末が検索できないのか? ………その事実もまた、彼は知ることは決してないのだ 前ページ次ページ連載 - とある組織の構成員の憂鬱
https://w.atwiki.jp/tsvip/pages/827.html
136 :「高原望の憂鬱」 ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 12 36 03.20 ID mw/Gd73PO ピピピピッ…ピピピピッ… 目覚まし時計の規則的な電子音が朝の訪れを告げる。 「……んむぅ~…」 それをのろのろと止め、俺はベッドの中で小さく伸びをした。 目覚ましは鳴ったものの支度するにはまだ余裕がある。 しばしの微睡みを堪能しながら、俺はふと一昨日のことを反芻した。 恋人である秋野とのすれ違いや痴漢事件などと散々な一日だったけれど、結果的に仲直りも出来て、二人の絆を深めることが出来た日。 (キスもいっぱいしたし、ちょっとエッチなことも……) そこまで思い出して、ぼんっと噴火する俺の顔。 それと同時に(勝手に設定された)秋野専用の着うたが大音量で鳴り響き、俺は本気で心臓が止まるかと思った。 何のことはない恒例のモーニングメールなのだが、こうもタイミングがいいと脳内監視でもされているのではないかと疑ってしまう。 動揺を抑えつつメールを開けば、それは今日の予定を訊ねる内容だった。 そういえば今日は交際一カ月記念日。 放課後デートは断られてしまったものの、代わりにと秋野家の夕食にお呼ばれしたのだ。 交際が一カ月続いたなんて正直大した話ではない。だが始めから障害だらけだった俺たちからすれば、そんな些細なことすら快挙なのである。 『ケーキでも買ってささやかに祝おう』 そう言ってくれた秋野のはにかんだ笑顔を思い出し、俺は頬を緩ませながら返信メールを打ち始めた。 (あれ……?) 気のせいか、腹が痛い。連日の気苦労で胃でも荒れたのだろうか。 しかし痛みは胃ではなく明らかに下腹部。何かがおかしい。 (…何だろ、体もだるい…) おまけに何やら下半身に違和感がある。――かーなーり嫌な予感。 俺は自分の予想が当たらないことを祈りつつ、恐る恐る掛け布団をめくる。 「――っひ!」 刹那、早朝の高原家から壮絶な悲鳴が上がった。 137 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 12 39 59.71 ID mw/Gd73PO 先日の痴漢事件から恋人・高原望とのすれ違いをきれいさっぱり解消した秋野遥は、朝から上機嫌だった。 おまけに今日は交際してから初めての記念日。 (そして何より…高原がうちに来る……!) 秋野は性転換して以来、念願の一人暮らしを許されていた。実家は女ばかり(一部女体化含む)なので、手狭なワンルームでも男体化した彼女にとっては天国である。 (高原呼ぶの初めてなんだよな~…やべー楽しみすぎる!) 初イベントへの興奮に、おかげさまで朝からにやつきが治まらない。 もちろん一番の目的は彼――彼女に手料理を振る舞い、記念日のお祝いをすることだ。 平日だから当然お泊まりもナシ(お互いそこまで非常識でもない) だが秋野とて立派な日本男子である。あわよくばあーんなことやそーんなことを、と目論んでもいた。 まあ元女とはいえ、今や多感な思春期の少年なのだ。可愛いすぎる彼女を前にして下半身と脳が直結してしまうのも致し方ない。 込み上げる過度な期待を抑えもせず、締まりのない笑みを垂れ流す秋野少年。すれ違う生徒は皆その異様さにドン引きしているのだが、今の彼がそれを意に介すはずもなかった。 138 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 12 41 26.99 ID mw/Gd73PO 妄想がクライマックスの秋野にもしかし、一抹の不安があった。 それは高原から朝のメールの返信がなかったこと。 くだらないものならスルーされるのも慣れているが、あの常識人な恋人が質問を無視するとは考えられない。 だからこうしてわざわざ別棟の高原のクラスまで足を運んだわけだ。 (高原高原~…あれ?) 廊下から雑然とした教室内を覗き込む。しかしそこに目当ての人物はいない。 トイレかな?と首をひねった秋野は、一応近くにいた女子に声をかけてみた。 「あ、ちょっとごめん」 途端、周辺の女子たちが小さくざわめいた。しかも声をかけられた当人は薄く頬など染めている。 女受けする外見のせいとは分かっているが、高原以外の女子にそんな反応をされても嬉しくも何ともない。 「高原どこいるか知らない?」 何気なくその名を出した瞬間、目の前の女子どころか周辺の女子たちまでが、さっと顔色を変えた。 「……?」 「高原さんに何の用?」 一変して負のオーラをまとった語調に少々ムッとしつつ「俺アイツにCD貸してて」などと当たり障りのない嘘をつく。 「で、高原は?」 「高原さんなら欠席だよ」 「えっ、何で!?」 「…知らなぁい」 突然冷たい反応になった女子は、予鈴と共にそそくさと自分から離れていってしまう。 どこか釈然としないまま、本鈴に追われた秋野はその場から離れざるを得なかった。 139 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 12 43 00.67 ID mw/Gd73PO 秋野はその後も度々メールチェックをし、昼休みには高原に電話も掛けてみたがへんじがない、ただの(ry (……おかしい) いくら連絡不精の高原とはいえ、電話に出なかったことなど今まで一度もないのだ。 風邪か何かで寝ているのだろうと無理矢理自分を納得させてはみたものの、やはり落ち着かない。 もしかして一昨日の痴漢事件が尾を引きずっているのだろうか。 しかし昨日は至って元気そうだったし……何か他ののっぴきならぬ事態に巻き込まれているのか。 とりあえずミーティングが終わったら高原の家に即行で行こうと決めて、秋野は携帯をポケットに仕舞い込んだ。 141 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 12 45 13.21 ID mw/Gd73PO 「あらぁ、遥ちゃん。いらっしゃい」 そう言って高原家を訪ねた秋野を出迎えたのは、望の母・尚(なお)である。 どこか冷めた印象の強い望とは対照的に、綿菓子のような笑顔が似合う穏やかな美人だ。 「こんばんはおばさん。つか今は『遥くん』っすよ、俺」 苦笑しながら訂正すると、彼女はそうだったわねぇ、と柔和な笑みを浮かべる。 「もしかして望のお見舞いに来てくれたのかしら」 「はい、休みって聞いて。携帯も繋がんないし…あいつどうかしたんですか?」 よほど心配なのだろう、深刻な表情の秋野を見て、尚は頬に手を当てつつ吐息した。 「それがねぇ……」 142 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 12 47 34.95 ID mw/Gd73PO 階下から母の呼ぶ声がする。 掛け布団を頭までかぶりベッドにうずくまっていた俺は、それに反応して重い体を少しだけ起こした。 「……なにー?」 「のぞむー、遥ちゃんがいらしたわよー」 「えッ!?」 今一番会いたくない人物の名前を耳にして、ざぁっと血の気が引く。 「いい…!帰ってもらって!!」 「あらぁ…でも」 のんびりした母の声に合わせて、バーンッと勢いよくドアを開け放つ音。 「もう上がってもらっちゃったわよぉー」 「!?」 「突撃!愛しの高原さーんッ!!」 突如、意味不明なことを叫んで秋野がズカズカと部屋に侵入してきた。 「お前は変質者か!!」 「違うぜ!俺は捕らわれの姫を救いに来た通りすがりのプリンスさ☆」 「捕らわれてねーし姫でもねぇ!!ってか何そのポーズ!?気持ち悪い!キモイじゃなく気持ち悪い!!」 「何とっ!?貴様…俺が長年かけて編み出した秋野式☆求愛のポーズを愚弄致すかァア!」 「んな求愛いるか!!…っ、つぅ~…」 うっかり秋野のテンションに乗せられたせいで、ただでさえひどい腹痛が悪化しやがった。 腹部を押さえて呻く俺に近付き、秋野が静かにベッドの端へ腰掛ける。 「高原、…『始まった』んだって?」 「ッ!……う、うぅ~……」 秋野の言葉に全てを悟り、俺はとうとう泣き出してしまった。 「泣くなよ~。おめでたいコトじゃんか」 しれっと無責任なことを言う相手にも、今は反駁する気にすらなれない。 女体化して一ヶ月。とうとう俺にもこの日がやってきた。 女体化者が恐れる生理現象のひとつ――いわゆる女性につきものの『アレ』が始まってしまったのだ。 143 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 12 49 10.44 ID mw/Gd73PO 「…っんく…せーりが…んな、キツいなんて聞いてないぃ~…ッ」 未経験の痛みに耐えきれず、しくしくと泣き言を洩らす俺。いい歳して情けなさすぎる。 「まぁ始まるのが遅い子は重いって言うしねぇ…お前の場合仕方ないけど」 掛け布団の上から俺の腰をさすりつつ、秋野が小さく苦笑する。 それがひどく恥ずかしくて、俺は秋野の手を振り払うように布団をかぶり直した。 「秋野にだけは知られたくなかったのに…っ」 「何で?これでも経験者なんだから相談くらいしてくれよ」 「…『彼女』に生理痛の相談する彼氏なんてヤダ…」 その呟きに秋野は少々面食らった。 こんな姿になっても自分を彼女だと思ってくれていることが嬉しくもあり、またおかしくもあったのだ。 「――ま、そう言うなって。ところでお姫様、どこが一番つらいか仰って下さいませんか?」 「姫じゃない。……腹と腰」 「了解。ちょっと横向きに寝て、端に寄ってくれる?」 「?」 脈絡のない秋野の言動に疑問符を浮かべつつ、大人しく指示に従う。すると彼はさも当然とばかりにベッドへ滑り込んできた。 「おいっ!?ちょ……!」 (まさかこんな時までエッチな悪戯を!?) 思わず身構える俺だったが、それは杞憂に終わった。 144 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 12 52 36.29 ID mw/Gd73PO そつない動きで俺に腕枕した秋野は、後ろから抱き締めるように痛む下腹部へと掌を当てる。 するとどうだろう。すぅ、と苦痛が軽くなったのだ。 「え…何か楽になった…」 驚いて秋野を顧みる俺を見て、彼はにっ、と相好を崩した。 「なんつーの、ヒーリングってヤツ?一回すげー重かった時に母さんにやってもらったんだよ」 効き目抜群だろー?と胸を張る秋野に、こくこくと何度も頷く。 「秋野すげー……」 素直に感嘆を口にすると、秋野が突然噴き出した。 「えっなに?俺何か変なこと言った?」 「や、うん、まー…高原かわいーなっつうね」 笑いを堪えながら答えにならないことを言う秋野。 (何で可愛かったら笑うんだ?意味が分からん) そもそもこいつの可愛いの基準自体がおかしい。俺の何をもってして可愛いなどとほざくのだろう。 納得いかない様子の俺に、秋野はくすくすと笑い続けるばかり。 愛らしい外見と、男としての矜持を捨てきれない初心なリアクションとのギャップがいかに男心をくすぐるものか、まるで自覚のない望であった。 「気に入ったんなら毎回コレやったげようか。高原がつらいのは俺もヤだし」 「…ん、悪い。頼む」 「ありゃ、高原もしかして眠い?」 彼の問いとほぼ同時に、俺は盛大に欠伸をかましてしまった。 朝から痛みと不快感に緊張しっぱなしだった体は、予想以上に疲労していたようだ。 苦痛が和らいだ途端にそれが睡魔となって一気に俺を襲う。 おまけに背中から伝わる温かさがひどく心地好くて、俺の目は今やまともに開けていられない状態。 「しばらくこうしとくから。ゆっくり休みなよ、高原」 「ごめ、秋野…寝る……」 そう言い残して、俺は夢の世界へと旅立った。 145 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 13 00 13.21 ID mw/Gd73PO 早くも寝息を立て始めた望に小さく笑いを零し、秋野は彼女の黒髪に優しく指を通した。 さらさらの手触りに、髪質まで女の子なんだなぁ、と妙な感動を覚える。 そこで今さら約束のことを思い出した。 (そういや記念日…、…まぁいっか) せっかくの計画はオジャンになってしまったが、添い寝できた上にこんなにも可愛い寝顔が見られたのだ。それだけで良しとしよう。 (あーあ、無防備な顔しちゃって……) これは男として喜ぶべきか悲しむべきか。 「おやすみ、俺のお姫様」 そっと呟いてから、あまりの臭さに苦笑する。 いつから自分はこんなにも気障な人種になってしまったのだろう。 高原を見ていると、まるで自分が彼女の騎士にでもなったかのような気分に陥るのだ。 たまに愛が暴走してセクハラ紛いになってしまうのは、ご愛敬ということにしてもらいたい。 しばらく愛らしい寝顔を眺めた後、秋野は彼女のこめかみにキスを落として、華奢な身体をぎゅっと抱き締めた。 (どんなことがあっても、絶対に『私』が守ってあげるからね…高原――) 148 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/29(土) 13 09 38.06 ID mw/Gd73PO 「――母さん」 「あら、お帰りなさい」 いつの間にやら帰宅していた夫・忍に驚く風もなく、尚はいつも通りにこやかに彼を出迎えた。 「ただいま。一つ訊きたいんだが、玄関にある男物の靴は一体……」 神妙な面持ちの夫に、尚はと可愛らしく小首を傾げる。 「靴?…ああ、そういえば忍さんはまだ会ったことなかったかしら。いまね、望の彼氏さんがいらっしゃってるのよ~」 のほほんと尚が答えるや否や、忍の双眸がぎらりと底光りした。 「なん…だと…?」 そこに浮かぶのは、明らかな敵意。 「俺の可愛い一人息子…じゃなく一人娘をたぶらかすとは不届き千万!その男、成敗してくれりゃぁああ!!」 「あらあらダメよ忍さん」 「ヒョギフッ!」 いざ鎌倉!とばかりに娘の部屋へ突撃しかけた忍の背後から、尚が強烈な延髄斬りをかます。 「ふふ、ひとの恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじゃうのよぉ~?」 床に崩れ落ちた夫の横に膝をつき、あくまで穏やかに物騒な発言をする彼女。 半死半生の忍が「…馬じゃなく妻に蹴られて死にそうです…」と呻くのを笑顔で黙殺する。 「それにね、彼氏さんは彼女さんでもあるのよ」 「……?」 「あなたならこの意味、分かるでしょう?」 にっこりと笑んだ妻に忍はしばし眉を寄せていたが、その顔が徐々に驚きのそれへと変化していく。 まさか、と呟いた夫に、尚は小さく頷いた。 「若い二人を温かく見守るのが『俺』たち先人の務めじゃねーの?忍」 懐かしい口調で笑いかける妻に、忍もまた懐かしい名を口にして頷き返す。 「分かったよ、……『尚斗』」 Fin.
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/5949.html
736: 昭和玩具の人 :2019/10/27(日) 14 31 25 HOST p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp 艦娘“ふじ”の誕生―――その発表は世界中を巻き込んでの大騒動となった。 なにせそれまで神崎島にしか所属していなかった存在が現れたのだ。「ふじ」の建造時に神崎島が大きく関わっていたとはいえ、所属する組織が異なる艦娘(ついでに神崎提督の妻でない艦娘)の出現は、各国政府はもとより、神崎提督や艦娘達、さらにはティ連までもが大きく注目することになる。 そんな世界どころか別銀河でも注目の的となった当の本人は現在、私の目の前に移るモニターの中で、十数隻の深海棲艦達との実弾演習を繰り広げていた。 737: 昭和玩具の人 :2019/10/27(日) 14 32 21 HOST p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp 銀河連合日本×神崎島ネタ ふじ艦長の憂鬱 その2 「これは凄いな・・・」 就役前の護衛艦「ふじ」のCICで演習の様子を眺める一同。上空を飛ぶ偵察機(妖精さん達が操る小型飛行機)や、何をトチ狂ったのかギリギリまで“ふじ”に近づくものいて映像を届けるものまでいる(巻き込まれて撃墜されたのか、たまに映像が途切れるのはご愛敬だ)。 そのおかげで、大迫力の光景をここまで届けてくれている。食堂に設置されているテレビにもこの映像が届けられているので、恐らく手すきの乗員達も食い入るように見ているのではないだろうか。 「ああ、これが艦娘達の戦い・・・」 画面に映る“ふじ”の戦い。それは数的劣勢にも拘らず、全ての装備を駆使して徐々に優勢に持ち込んでいることから、その凄さが分かるだろう。 確かに演習相手を務める深海棲艦達は第二次世界大戦当時の装備で固めており、技術格差は“ふじ”が圧倒的に優位にある。だがそれを補うほどの物量で攻められれば、質を追求し続けた現代兵器では早々に息切れしてしまい、最終的には敗れ去る。以前自衛艦隊との演習では、序盤こそ自衛艦隊が圧倒していたものの、深海棲艦達が巡洋艦や戦艦を前面に押し出すと対艦ミサイルでは装甲を貫けず、最終的には弾薬が欠乏して一方的に蹂躙された。余談ではあるが、以来技本では対装甲用対艦ミサイルの開発に躍起になっているという。 だが、“ふじ”の戦いは異なる。 ―――“ふじ”、ひいては「ふじ」には前時代的ともいえる砲を多く備えている。近接防御火器である二〇ミリCIWS四基、対空対地対水上目標に対応できる傑作艦砲、オットーメララ七六ミリ速射砲四基、そして世間が本艦を“戦艦”と(間違って)呼称する原因ともいえる大口径砲、五〇口径三五六ミリ連装砲三基――― 彼女は現代に生まれた“護衛艦”にも拘らず、全時代の主兵装たる砲熕兵器を主に戦っていたのだ。 接近する球体型の艦載機に対し、両手とサブアームの七六ミリ速射砲で効率よく迎撃し、それでもなお近づいてくる敵には二〇ミリCIWSでハチの巣にする。VLSのESSM近距離空対空ミサイルなど、演習が始まってからまだ数発しか放っていない。 艦載機からの波状攻撃中にも無数の一六インチ砲弾や八インチ砲弾が頭上から降り注ぐが、これを持ち前の機動力で回避、あるいは艦載機と同じく迎撃し、敵の攻撃が緩んだわずかな隙をついて、三基の三五六ミリ連装砲が火を噴く。六秒に一発というとんでもない連射力で放たれるその砲弾はほぼ全て相手に命中し、対一六インチ用以上の装甲を持つ戦艦クラスにすら効率的にダメージを与えて、それ以上に装甲が薄い重巡洋艦クラスに至っては、一斉射で大破させている。 無論ミサイルだって全く使っていないわけではない。演習開始早々、九〇式艦対艦誘導弾を全弾発射して軽巡洋艦、駆逐艦を多数片付け、それでもなお残っていた相手は三五六ミリ砲弾をお見舞いして戦線離脱させているし、海域に潜んでいた潜水艦には発見次第〇七式VLAで撃破、例え魚雷攻撃を受けても回避するか短魚雷で迎撃していた。 とはいえ、今までの演習内容を見るに、“ふじ”は間違いなく砲熕兵器を主として戦っている。ミサイル全盛期ともいえる現代において異端ともいえる戦い方だ。 738: 昭和玩具の人 :2019/10/27(日) 14 33 07 HOST p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp 「―――だが、理に適っている」 ミサイルは迎撃されなければほぼ一〇〇パーセント目標に命中する射手座(サジタリウス)だが、その分コストは高い。しかし砲熕兵器は砲弾自体に誘導装置を備えていないため、安価かつ多数揃えられる。つまり物量攻撃にも対応できるだけの弾薬が揃えられるのだ。ましてや現代の砲熕兵器でも十分ミサイルを迎撃できる能力はある。限定的ではあるものの、この場においては完全に立場が逆転していた。 「・・・なんというか、想像はしていましたが、実際に出来るものなんですね」 「そうだな。あれこそが我々が目指す領域なのだろう」 副長の呟きに、私はそう答える。最も、そんな能力を発揮する機会など来てほしくはないが。やはり平和が一番である。 『―――赤軍旗艦大破。演習終了、“ふじ”の勝利』 「終わったか」 「ええ、凄いですね。“ふじ”さんはまだ誕生したばかりなのに」 「まあ相当な技術格差があったからな。それに物量攻撃にも対応できるなら負ける要素などないだろう」 演習が終了し、画面では大破した深海棲艦達と談笑をしている“ふじ”。至近弾こそあったものの、被害らしい被害はなかったようで、あちこち煤だらけ絆創膏だらけ(それも白い十字型の。実際に現実で見れるとは思わなかった)な彼女達とは対照的だ。 「いやはや、まだ「ふじ」は就役前だというのに、あんなの見せつけられては自分も奮起せざるを得ないじゃあないですか」 「勇み足すぎるぞ、副長。まだ本艦は全ての試験を完了していないのに」 「それはそうなんですがねぇ」 私も副長も、思わず苦笑する。平和が一番だが、あんなものを見せられては艦乗りの血が騒いでしまう。恐らく他の乗員達も同じ気持ちだろう。艦を預かる身としては喜ばしいことだ。 『艦長さん』 “ふじ”から通信が入る。 「“ふじ”か、お疲れ様。怪我はないか?」 『大丈夫です、被弾はありませんし。まあ弾薬はだいぶ使っちゃいましたけど』 「そのくらい問題ない。無事で何よりだ」 『ありがとうございます。―――あ、そういえば今日って金曜日でしたね!』 「それはそうだが―――まさか」 予感は的中する。 『はい! 今日演習相手を務めてくださった深海棲艦の皆さんにもふじカレーをご馳走したいんですけど、よろしいでしょうか?』 “ふじ”からの唐突な提案。現在給養員達が必死に夕食を作っているだろうが、それはあくまで人数分。多少多めに作っているだろうが、全員となると恐らく新たに作らなければならないだろう。流石にそれは大変だが――― 「―――許可する」 「よろしいんですか?」 隣で聞いていた副長が訪ねてくるが、意見を変える気はない。 「問題ないだろう。我々の分を少し減らせば問題ない。食べ盛りの隊員達も喜んで提供してくれるだろう」 「まあ“ふじ”さんの頼みであれば、誰も断りませんか」 誕生してまだ半年も経っていないが、既に全乗員達から慕われている“ふじ”。上目遣いで“お願い”されたら、若い男性自衛官等喜んで全ての夕食を差し出すくらいはするんじゃないだろうか。 『ありがとうございます、艦長さん。では皆さんにお伝えしておきますね』 声を弾ませて通信を切った“ふじ”。有事となれば無機質な戦闘モードに移行するCICが、朗らかな空気に支配された。 「―――“ふじ”さんは、我が艦の清涼剤ですね」 「まったくだ」 ―――余談だが、今夜の「ふじ」では一時的に、カップラーメンの価値が激増したらしい(“ふじ”が申し訳なさそうに教えてくれた)。 739: 昭和玩具の人 :2019/10/27(日) 14 34 09 HOST p1304131-ipngn11701hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp 以上、第二話でした。 ネタは色々出てきますが、それを文章化してまとめるのはやはり難しいなぁ
https://w.atwiki.jp/harrypotter_tcg/pages/148.html
ハグリッドの憂鬱 / Hagrid Needs Helpアドベンチャー 効果:相手は、ターンごとのアクション回数を1回分減らされる (このアドベンチャーを克服したターンも含む)。 ただし、ターンごとのアクション回数が0回になった場合は、1回だけアクションを行ってよい。 対策:相手は、8ダメージを受ける。 相手へのプライズ:相手は、山札からカードを3枚引いて、手札に加えてよい。 参考 クィディッチ・カップ - Rare
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/6497.html
991: ライスイン :2020/10/21(水) 16 43 52 HOST g219-100-239-052.scn-net.ne.jp 1940年9月25日 上海 在沖米軍司令部 「閣下、中国軍の第12波攻撃を撃退しました。」 「市内の暴動を制圧、但し弾薬の消耗が大です。」 上海の在中米軍司令部では総司令官のスティルウィル中将に戦闘の結果が報告されていた。 8月末に米本土で大規模なバイオハザードが発生。それに伴い感染拡大阻止に全力を阻止でいるアメリカを見て、掌を返いしたかのように奉天軍は在沖米軍及び在中アメリカ人に 襲い掛かっていたのだ。名目としては ”疫病の中華への浸透阻止” ”中華搾取への報復” を掲げていた。上海沖に停泊していた米アジア艦隊支隊の軽巡マーブルヘッドと駆逐艦2隻はほぼゼロ距離まで接近してきた”中華英雄艦隊”の奇襲攻撃で撃沈。 これを合図として奉天軍は上海へと侵攻を開始した。ただアメリカにとって幸いな事に大規模演習と将来の対日戦へ向けて膨大な武器弾薬が運び込まれており、同時に パットン少将指揮下の第1騎兵師団(※1)を演習の為に呼び戻していたおかげで奉天軍の度重なる攻勢を撃退できていた。また郊外の飛行場を保持できていた事も幸いした。 「援軍はどうなっているのですか?」 第1海兵師団を率いるヴァンデグリフト少将がスティルウィル中将に尋ねた。しかし・・・ 「本土からは疫病感染が確実な為に援軍は来れない。フィリピンからはアジア艦隊と2個フィリピン師団が、ハワイからも太平洋艦隊と1個師団が来るそうだが・・・大幅に遅れるとの事だ。」 本土からは当然の事ながら援軍は出せない、その為ハワイとフィリピンから軍を派遣するのは理解できたし準備に時間がかかるのも当然だ。 しかし何故大幅に遅れるのか・・・司令部の皆が疑問に首をかしげているとスティルウィル中将は語りだした。 「日本が領海通過を拒否している為に大幅に迂回しなければならない為だ。更に日本企業が取引を拒否している為に近場・・・特にフィリピンでは物資調達に困難とのことだ。」 「何故です、人道上の危機だというのに。日本人は外国人とはいえ女子供が暴虐にさらされて良いというのかっ!!」 司令部要員に一人が日本の領海通過や取引拒否について怒りの声を上げる。 「疫病を領域内に入れない為だというが・・・本音では奉天と組んで散々嫌がらせ・・特に女学生への暴虐を止めなかった我らを信用できないとの事だ。」 その言葉を聞いた司令部の面々は今更ながらに政府の命令とはいえ日本に対して奉天軍と組んで日本へ嫌がらせした事を公開していた。特に女学生の乗った避難船を襲撃した 英雄艦隊の拿捕を阻止した件は日本側を酷く激怒させており、領海通過を拒否させていた。 「今東京の在日大使館を通して交渉中だ、最悪女子供だけでも助けなければ・・・」 在日米大使館を通して領海通過を認めてもらう様に交渉中だと明かすスティルウィル。最悪市民・・・特に女子供だけでも助けなければと悲痛な決意をする。しかし・・・ 「た・・・大変です、上海外縁部に奉天軍が接近中です。無理矢理徴兵したと思われる市民や多数の暴徒も伴い、数は100万以上と推測されます。」 「市内の〇〇地区で暴動が発生しました。しかも地区の武器庫が無数の暴徒に襲撃され、大量の武器が奪われた模様。」 「港湾地区で大規模な毒ガス攻撃です」。 彼らの先は暗かった。 日ソ同盟の憂鬱 第5話「どくそせん」 992: ライスイン :2020/10/21(水) 16 44 45 HOST g219-100-239-052.scn-net.ne.jp 1940年10月1日、世界は混沌に陥っていた。アメリカ本土は疫病の感染が必死の努力にもかかわらず拡大し、外に出る力を無くしつつあった。更に衰退するアメリカの今を好機と見た奉天軍の手のひら返しで中国大陸の米国系市民は本国よりも悲惨な状況に陥っていた。在中米軍が保持する上海とその周辺まで逃げ込めたものは何とか助かったが逃げ込めなかった者の運命は残酷であった。男は戯れに殺されるか奴隷として強制労働に従事させられ、若い女は奉天兵に愛を与える仕事に就かされた。 そして当然ながら在中資産は接収、更にその対象はアメリカ人以外の白人にも広がっていた(疫病を恐れて香港には手出ししていなかった)。 同じ頃、日本を連合国から追放し、アメリカと交流を深めていた英国と英連邦(+各亡命政府)も混沌を極めていた。彼らは支援物資と共に疫病も受け取ってしまい、それが英連邦各国に拡散。更に被害は英本土に拠点を置いていた亡命政府も多大な被害を受け幾つかが機能を停止。中には自由フランス政府(※2)の様に崩壊した所もあった。 そんな中でもドイツを盟主とする枢軸陣営は軍備増強を続け、勢力下の欧州各国をまとめ上げて欧州統合軍を編成。近い時期に実施される対ソ侵攻へ向けて着々と準備を進めていた。 因みにドイツは疫病の流入を防ぐため、英国と英連邦からの渡航を一切禁止しており、領域内に侵入した航空機や艦船は追い返すか撃沈していた。特に英国に憎悪を募らせるヴィシー政府は嬉々として英本土から逃れてくる船舶が領海内に入り次第、無警告で撃沈するほどだった。 1940年10月9日 東京・夢幻会会合場所 「アメリカ本土の惨状は凄まじいようですな。」 会合の席上で誰かが切り出した。感染の拡大で医療機能がマヒし始め、更に物資の流通が滞り始めた事によって大都市圏では市民の生活が立ち行かなくなり一部では配給制が敷かれる程の 有様であった。おまけに何所からともなく中国人が疫病の保菌者であるとの噂が飛び交い、奉天軍の手のひら返しによる惨状も相まって各地で中国人(と中国系市民)狩りが続発。 中国人側も応戦し、それを制圧しようと警察や州軍も加わる等、内戦に似た状況も置き馴染めていたのだ。 「それだけでなくメキシコにも流入し始めましたね。」 「このままだとパナマ辺りまで拡散するだろうな。」 「抗生物質は完成しているが・・・連中に分けてやる必要は無いだろうな。」 更にアメリカの傀儡政権となっていたメキシコにも疫病が侵入し、人種の区別なく感染が拡大。最悪パナマ北側まで感染の拡大が予測されていた。 また抗生物質を始めとしたワクチン類の開発が成功し、全臣民分の備蓄を目指して生産が進められていた。しかし夢幻会としては万が一ワクチンの存在が発覚し、アメリカから提供を求められても今の所は供給するつもりは無かった。 「それよりも大陸は凄まじい惨状ですな。上海へ逃げ遅れたアメリカ人は奴隷か慰み者になっているとか・・・。」 「アジア艦隊とフィリピン師団が到着して一息つけましたがまだまだ劣勢。太平洋艦隊が到着しても補給問題で挽回できるかどうか・・・。」 在中米軍ではフィリピンからの2個師団が加入した事で防御を厚くすることに成功していた(ただしフィリピン人主体の師団な為、戦闘力は低かった)。 また到着したアジア艦隊の戦艦ニューヨークとテキサスの艦砲射撃、空母ラングレー(※3)の航空支援により沿岸部に入り込んでいた暴徒を吹き飛ばし、生意気にも奇襲を仕掛けてマーブルヘッド他を撃沈した”中華英雄艦隊”を撃滅(※4)。取り敢えず一息付けていた。 但し毒ガス攻撃や損害無視の波状攻撃、そして痛みや恐怖をものともせずに突撃してくるバイオソルジャー部隊(※5)により甚大な被害を受けていた。 993: ライスイン :2020/10/21(水) 16 45 24 HOST g219-100-239-052.scn-net.ne.jp 「それはそうとアメリカ大使館から悲鳴のような救援要請が来ておりますが・・・。」 「領海通過は良いにしても疫病の流入を防ぐためにも避難民の上陸は認められないな。まったく・・・奉天軍と組んで嫌がらせを繰り返したアメリカを助けろだと、それも奉天軍から。」 会合の面々も現状のままでは最低限の人道的措置(監視付の領海通過)以外でアメリカを助けるつもりは無かった。 「外相、どうしてもというなら本国政府にこれまでの行いに対する謝罪と我が国への不当な措置を全て撤回することを決めさせてからにしてくれと言ってください。」 近衛の言葉に外相の東郷が頷く。因みにイギリスからも支援要請が来ていたが無視されていた(※6)。 「まあそれよりもいよいよ独ソ戦が始まりますね。」 「ああ、T-34/76(97式中戦車)やT-34/85、そしてKV-1A(98式重戦車1型)とKV-1B(98式重戦車2型)などを装備した大量の機甲師団、率いるのは トハチェフスキーやジューコフなどの名将たち。」 「空でもYak-9U やIl-2、海でも41㎝砲に換装した我が国が売却した扶桑型(ピョートル・ヴェリキー級)や伊勢型(ペレスヴェート級)がいますし・・・。」 「我が国も義勇軍として航空隊や潜水艦隊を派遣していますし・・・。」 幾つかの声が上がった後、しばしの沈黙の後、一同は声を併せて・・・ 「「「「「チョビ髭ざまぁっ!!!!」」」」」 1940年10月18日 独ソ国境付近 この日、ドイツが主導する欧州統合軍が遂にソ連へと侵攻を開始した。冬が近いこの時期をあえて選んだ理由、それは前年度より密かに準備を進め冬季装備が充実していた事と、これ以上時間をかけるとソ連がさらに強大になってしまうという焦りからであった。 「ソ連は腐ったボロ小屋である、一蹴りいれれば倒壊する。」 ヒトラーの命令と共にドイツ軍を中核とした欧州統合軍が一斉にソ連領内に雪崩れ込んだ。しかし・・・ 「目標・・ゲルマンスキーの戦車、攻撃開始。」 国境付近に隠匿重バンカーの対戦車砲及び車体を地面に埋めて隠れていた重戦車の砲が一斉に放たれ、次々に命中し、一撃でドイツ軍戦車を爆散させていく。 「くそうっ、イワンの連中の待ち伏せか・・・反撃せよ。」 不意打ち的な反撃により、多くの戦車を破壊されてしまったドイツ装甲師団の指揮官は部下に反撃を命じる。しかし陣地に籠った質量ともに勝るソ連軍戦車を 相手にする形になり、どんどんドイツ軍戦車はその数を減らしていく。そして更に不幸なことに 「突撃せよ、萌えを理解しないゲルマンスキーをぶっ潰せ・・・ウラーッ!!」 994: ライスイン :2020/10/21(水) 16 45 54 HOST g219-100-239-052.scn-net.ne.jp ソ連軍が編成した切り札の一つである第1親衛戦車軍団(※7)が突撃を開始するとドイツ軍は総崩れになり後退していく。ドイツ軍は反撃しようにも、攻撃は全戦線で行われており、おまけに同盟国軍は混乱と劣悪な装備(※8)で役に立たたず、その混乱に巻き込まれるようにドイツ軍も動きが鈍る。また空でも野戦飛行場に分散していたソ連軍が反撃に出て、圧倒的な物量とドイツ空軍機を上回る性能で制空権を奪還。それを機に黒死病と渾名されることになるIl-2などがドイツ軍地上部隊に襲い掛から。一連の戦闘で欧州統合軍はソ連国境から僅かに進撃しただけで叩き出され、逆にソ連軍の侵攻を許す羽目になっていた。 「何をやっているのだっ!!」 返り討ちにあった事に加えて逆侵攻を受けた事に激怒するヒトラー。然しこの後、ソ連空軍がペトリャコフ Pe-8爆撃機を使用した11月1日のプロイェシュティ油田爆撃、11月8日のソ連潜水艦による巡洋戦艦マッケンゼン(元フッド)の撃沈、オマケに伊58によるビスマルク撃沈により更にブチ切れるのだった。 ※1:対日戦を意識して編成・派遣された在中米軍の切り札。M3中戦車・M3軽戦車・M7自走砲などの最新装備で統一された優良部隊(これほどの部隊は他には本土の第1機甲師団のみ)。 ※2:ドゴールやジローなど指導層が疫病で死亡。他に率いる事の出来る有能な者がいなかった為。 ※3:対日戦に一隻でも多くの空母が必要とされた事から空母に再改装されていた。 ※4:中華英雄艦隊の全艦を撃沈。また漂流者も機銃掃射などで”処理”していた。 ※5:いわゆる薬物中毒兵。意図的に薬物を投与した上で、敵陣に突撃して生き残ればさらに上質の薬物を与えると煽って米軍陣地に突撃させた。武装は拳銃か刀剣類だが少々の被弾もものともせず突撃してくるため、阻止に大量の弾薬を消費し、一部では防衛線を食い破られて多大な損害を受けた。 ※6:本国・各植民地・英連邦各国への疫病拡大で統治機能が低下。特に植民地各地で今までの抑圧の反動や物資不足に軍の機能低下から反乱や暴動が相次いでいた。 その為、イギリスは日本に対して避難民の受け入れと武器を含む各種物資の売却を要請していた。但し代金は混乱を理由に後日支払うと主張した為、余計に日本側を激怒させていた。 ※7:所属する3個戦車師団がほぼ全てKV-1Bで構成される重戦車師団というソ連軍の切り札。また全ての車両(戦車だけではない)に痛ペイントがしてあるというある意味恐怖の軍団である。 ※8:イタリアやフランスを除いた国の装備は劣悪であった。例えば小銃や機関銃はWWIかそれ以前の物で、戦車も大半がルノーFTか良くてヴィッカース6tかドイツ供与の35・38t戦車。 対戦車火器も対戦車ライフルか25~37㎜砲で航空機に至っては仏伊やルーマニアを除いて大半が複葉機という有様だった。 いかがでしょうか?大分時間が空きましたがなんとか5話を仕上げました。 今回は主に英米の惨状と独仏戦の開始を書きました。構想では10話以内に終わらせる予定です。あとアメリカや旧連合国陣営と日ソが戦うかは今後の展開次第で現時点では決めていません。 あと描写はありませんが、ベルギーやルクセンブルクなどの亡命政府は崩壊こそしていませんが機能停止状態。またポーランド亡命政府は英米頼りにならずと一部領土割譲を前提に ソ連に対して密に協力を求めている状態です。 ~予告~ 遂に始った独ソ戦。ドイツ軍は勢いよく侵攻したものの、盛大に返り討ちにあった挙句に逆侵攻を受ける。 一方アジア方面では援軍を得た在中米軍だが損害を無視した中国側の波状攻撃に疲弊し、米本国では疫病対策の失敗で一部で無政府化が加速。 そんな中、遂に日本はドイツに再び宣戦を布告する。 次回”日本、対独宣戦” 掲載お願いします。